<1> ああ言えばこう言う 相手の言うことにすなおに従わず、一つ一つ 理屈をつけて逆らうこと。 補説相手に対するいらだちやあきらめの気 持ちを表すことが多い。 類義右と言えば左。西と言えば東と言う。 用例「鮪 まぐ ろ や鯨より、もっと大きなもの それをお前はそのお椀わんで掬すくって、そ の袋へ入れようと言うんだね」「そうだよ、 その通り」ああ言えばこう言う、少しも怯ひる まぬ少年。〈中里介山◆大菩薩峠〉 愛多き者は則ち法立たず あいい 愛出ずる者は愛反り、福往く あいかえ ふくゆ しんじょ 者は福来る 出新書 人を愛する者には愛が返ってくるし、人に幸 福をおくる者には幸福が返ってくるというこ と。▶反にもどる。往‖贈る。贈呈する。 あいえんきえん合縁奇縁 不思議な巡り合わせの縁。人と人とが気心が 合うかどうかは、不思議な力によるものだと いうこと。人と人との結びつきについていう が、特に男女の間柄についていう。「合愛奇 愛 あいあい きあい 」と同じで、「愛縁奇縁」「合縁機縁」 とも書く。 類義 縁は異なもの。 ああいえーあいして 出韓非子かんびし 民衆に対する慈愛の情も、度がすぎると人々 がつけ上がってしまい、法が守られなくなる ということ。 補説出典には「愛多き者は則ち法立たず、 威い寡 すく な き者は則ち下しも上かみを侵す(権威が弱 ければ、下の者が上の者を軽くみてばかにす る)とある。 愛多ければ則ち憎しみ至る 出亢倉子 人からかわいがられることが多ければ、それ だけ他の人から憎しみを受けるようになると いうこと。 補説出典には、この前に「恩甚 しければ 則ち怨うみ生じ(恩恵を受けることが多すぎ ると人から恨まれ)とある。 匕首に鍔を打ったよう 不釣り合いなもの、不調和なもののたとえ。 ∇ヒ首=鍔のない短刀。それに鍔をつけると 不釣り合いになる意から。 類義小刀に金鍔 きん つば を打ったよう。小刀に 鍔。木綿布子に紅絹もの裏。 あいごせいもく相碁井目 何事にも、実力の差はあるものだということ。 マ相碁=実力が同程度の者同士で打つ囲碁。 井目=碁盤の目にしるされた九つの点。力量 の差が大きい場合、実力の低い者があらかじ めこの点に石を置いて対戦する。「相碁」は 「相棋」、「井目」は「聖目」とも書く。 あいさつときうじがみ挨拶は時の氏神 争いことのとき仲裁してくれる人がいたら その仲裁に従うのがよいということ。▷挨拶 ‖仲裁すること。氏神‖祖先を祭った神。 └類義時の氏神。仲裁は時の氏神。仲人は時 にとっての氏神。 英語]Blessed are the peacemakers.神 の祝福を得るべき者、それは諍 いさ か いの調停者 用例両方ともそのお心には友の私を思って 下さる美しいものが溢あふれているのである。 そこで私は仲にはいって時の氏神をつとめた のである。〈上村松園◆棲霞軒雑記〉 愛して而も其悪を知り、憎み しかそのぜんし て而も其善を知る 出礼記 人を愛してもその欠点がわかり、憎んでも長 所は長所として認める。愛や憎しみのために 理性をくもらせることなく、物事の善悪を冷 静に判断すること。 補説出典には、この前に「賢者は狎なれて 而も之これを敬し、畏れて而も之を愛し(賢者 は、親しくなっても相手をうやまい、うやま いながらも愛し)」とある。 愛してその醜を忘る あぼた えぼ 25 しゅうわす 痘痕も醤 <2> あいそ かね お 愛想づかしも金から起きる 女が男に愛想をつかし冷たくなるのは、金銭 が原因の場合が多いということ。 類義金の切れ目が縁の切れ目。 あいそ 二そ つ は 愛想も小想も尽き果てる すっかりいやになってしまうこと。 補説「小想」は「愛想」を強め、口調をよくするためのもので、とくに意味はない。 用例そのうえ、かんじんの引越しそばをあ つらえるのは忘れてきたというに至っては、 われながら、愛想も小想も尽き果ててしまい ましたよ。〈正岡容◆初看板〉 相対の事はこちゃ知らぬ 当人同士が取り決めたことは、第三者には関 知できないということ。 補説相談を受けなかった事柄の結果につい て責任はないと、拒絶するときによく用いら れる。相鮎あゆ、対鯛たい、こち鯛という 三つの魚の名前をかけている。 開いた口が塞がらない 相手のことばや態度などに、あきれ返っても のも言えないようす。 用例若太夫「めでたいのう。ほんに藤十郎 どのじゃ。密夫 みそ かお の身のこなしが、とんとた まらぬと京女郎たちの噂話 うわさ ばなし じゃ」頭取「こ れでは、半左衛門 はんざ えもん 座の人々も、あいた口が、 閉ふさがらぬことでござりましょう。この評判 なら百日はおろか二百日でも、打ち続けるは 定じよ でござりまするのう」〈菊池寛◆藤十郎 の恋〉 あ くち と た ひと くち と 開いた口には戸は立たぬ 人の口に戸 た は立てられぬ 554 類義呆あきれが礼に来る。 あ 開いた口へ牡丹餅 ぼたもち 何の努力も苦労もしないのに、思いがけず幸 運がやって来ることのたとえ。 類義棚から牡丹餅。開いた口へ団子。鴨[かも] が葱[ねぎ]を背負[しょ]って来る。 対義 蒔[ま]かぬ種は生えぬ。 英語 He thinks that roasted larks will fall into his mouth. 中に落ちてくると(虫のいいことを)思っている 愛立てないは祖母育ち 祖母に甘やかされて育てられた子は、いつも 甘やかされているのでわがままになりやすい ということ。∇愛立てないニ「愛立ちなし」 の転。無遠慮、自分勝手の意。 類義祖母育ちは銭が安い。年寄り育ちは三百安い。年寄りの育てる子は三百文安くなる。 あいてか 相手変われど主変わらず 相手は次々と変わっても、こちらは変わらないということ。「相手変われど手前変わらぬ」相手変わって主変わらず一ともいう。 用例 降りみ降らずみの梅雨上りのこと。弘 化はこの年きりの六月の下旬すえだった。江戸 八丁堀を合点小路 海老床 に、今日も朝から陣取って、相手変 れど主変らず、いまにもざあっと来そうな空 模様を時折大通りの小間物問屋金座屋の物乾 もの しの上に三尺ほどの角に眺めながら、遠く は周の武帝近くは宗桂 いるのは、(中略)〈林不忘◆釘抜藤吉捕物覚 書〉 相手のさする功名 自分の実力ではなく、相手の力が劣っている ために立てた、思わぬ手柄。△さする∥して くれる、の意。「敵のさする功名」ともいう。 あいて 相手のない喧嘩はできぬ 相手がいなければけんかはできないのだか ら、争いの相手になるな、という戒め。 類義相手なければ訴訟なし。一人喧嘩はな らぬ。 英語 It takes two to make a quarter. 論するには二人の人間が必要だ 相手見てからの喧嘩声 空威張りのこと。相手を見て弱そうだとわか ると、大声をあげてけんかをする意から。 あいこだ 愛は小出しにせよ 激しい愛は長続きしない。少しずつ長く持続 するのがよいということ。 類義熱愛は冷めやすし。 英语 Love me little, love me long. <3> 愛して、長く愛して」 愛は憎しみの始めなり出管子 度が過ぎた愛は憎しみのもとになるというこ と。愛にも節度が必要であるという戒め。 補説出典では、このあとに「徳は怨うみの 本なり(恩恵も度が過ぎると、恨み合うもと になる)と続く。 愛別離苦 出法華経ほけきよう 愛する人と別れる苦しみ。この世の定めで、 仏教でいう八苦の一つ。「愛別離苦、会者定 離えしゃじ」と続けて言うこともある。↓会者定 離99 補説「八苦」とは、生・老・病・死の四苦 のほかに、愛別離苦・怨憎会苦 おんぞ うえく 憎い人と 会う苦しみ・求不得苦 [ぐふと くく] 求めても得られ ない苦しみ・五陰盛苦 [ごおんじ ようく] 体や心から盛ん に起こる苦しみの四苦を加えていう。 注意 区切り方は「あいべつ・りく」ではなく「あいべつり・く」である。 類義四苦八苦。 あもど逢い戻りは鴨の味 用例翁 はこどもを山の方に捧さげ、ひよ こひよこひよこと三つお叩頭じぎをして、置い て帰った。愛別離苦の悲しみと偉大なものに 生命を賭ける壮烈な想いとで翁の腸は一ね じり振ねじれた。〈岡本かの子◆富士 あいぼうぬぼかたぼおかぼ 相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ 異性を好きになるいろいろな形を面白おかし く並べた言葉。△相惚れ‖相思相愛。自惚れ ‖独りよがり。片惚れ‖片思い。岡惚れ‖ひ 一度切れた男女の仲が元に戻ると、その仲は 前にもましてむつまじくなるということ。 あいはにーあえてし あい あい あい あい しゅつらん ほま 藍より出でて藍より青し 出藍の誉 れ 312 あ 逢うは別れの始め 会えば必ず別れるときが来る。会うことは別 れることの始まりでもあること。「会うは別 れ」「会うは別れの基もと」ともいう。 類義会者定離えしゃじ。ようり 英語 The best of friends must part. ちばんの親友でも必ず別れのときが来る あ 合うも不思議、合わぬも不思議 ぎ 夢や占いは、当たっても当たらなくても不思議なものだということ。「合うも夢、合わぬも夢」ともいう。 類義当たるも八卦はっ、当たらぬも八卦。 力を合わせて一つの物事をするときの、互い の微妙な気持ちや調子。また、それがぴった りと合うこと。▷阿吽=「阿」は吐く息、「吽」 は吸う息、の意。「阿呟」とも書く。 阿吽の呼吸 補説「阿」はサンスクリット文字の字母の 最初の音、「吽」は最後の音で、二つ合わせ 用例この表現を高潮させるには、先ず自 分の性格、意志、感情なぞと同時に阿吽の呼 吸までも相手にわからぬようにソーッと殺し て終しまうので、この辺は自分の「鼻息を窺 うかつ」ているようにも見えます。〈夢野久作 が鼻の表現〉 て初めと終わりを意味する。 出 論語 ろんご あ おく あら うますす 敢えて後れたるに非ず、馬進 まざればなり 自分の手柄を誇らずに、へりくだることのた とえ。 故事中国、魯の国の大夫、孟之反 はん もうし が、 味方の軍隊が敗れて退却するとき、その最後 尾となって敵を防ぎ、功績があったが「自分 が進んで最後尾をつとめたのではない。馬が 疲れて進まなかっただけだ」と言って手柄を 誇らなかったという故事による。 あ しゅ きゃく 敢えて主とならずして客となる ろうし 出老子 中心になって行動せず、客のように慎重で控 え目であること。他人と争わない態度をとる のがよいという意。老子が人生の態度として 無為の道(人が自然のままに生きる道理)を述 べたもの。「客」は「かく」とも読む。 補説出典では、このあとに「敢えて寸を進 まずして尺を退く(無理をしてわずか一寸前 進しようとせず、大きく一尺後退したほうが よい)」と続く。 <4> 出老子ろうし 人の先頭に立たず、控えめな態度をとってい れば、身を安泰に保つことができるというこ と。老子が人生の態度として無為の道(人が 自然のままに生きる道理)を述べたもの。 補説出典では、このあとに「故[ゆえ]に能[よ]く 器長[きち]を成す(控えめな態度のために、かえっ て人の長となる)と続く。 逢えば五厘の損がいく 人と交際すると必ず何らかの費用がかかり、 損をするということ。∇五厘=一銭の半分。 あおつばはてんつば 仰いで唾を吐く◐天に唾す451 仰いで天に愧じず 伝いて天いぬしふ 常に正しい行いをしているので、天を仰いで も何ら恥じるところがないということ。「俯 仰よぎ天地に愧じず一ともいう。 て落ちる運命にあるということから。 類義五十歩百歩。目糞めく鼻糞を笑う。猿の 尻笑い。 補説出典では、このあとに「俯ふして人に 作じざるは二の楽しみなり(下のほうを見て 人々に恥じるところがないのが、第二の楽し みである)」と続く。 あおがきじゅくしとむら 青柿が熟柿弔う 弔う者も弔われる者も大差はないことのたと え。また、たいした差のない者が、他の者を あれこれ言うたとえ。熟柿が落ちてつぶれる のを見て気の毒だと思う青柿も、やがて熟し あおためしみずかげん 青田から飯になるまで水加減 生育にも調理にも、米には水の役割が大事だ ということ。青田の段階から、降雨や日照り など、水の量が収穫量を左右するし、収穫し た米を飯に炊くにも水加減が大事である。 あおたあかご 青田と赤子はほめられぬ できあがる前のものをほめても無駄である。 まだ実らないうちの稲田の稲と、子供のでき のよいのは、当てにならないということから。 ∇青田=まだ実らない稲田。 類義 子供と青田はほめられぬ。青田ほめら れ馬鹿ほめられ。 あおな青菜に塩 すっかり元気をなくしてしょげているよう す。青々とした菜っ葉に塩をふりかけると、 野菜の水分が外に出てしおれることから。 類義蛞蝓なめに塩。蛭ひるに塩。菜の花に塩を かけたよう。 用例「土方 [ひじ かた] めも青菜に塩の有様で立帰り、 近藤に話すと、近藤め、火のように怒り、今 朝未明に島田の道場へ押しかけたが、やがて 這々[ほうほう]の体で逃げ帰りおった「中里介山◆ 大菩薩峠) あおな おとこ み 青菜は男に見せな いうこと。炊事のことがわからない男は、ゆ でると青菜のかさが減ることを知らず、減ら したのではないかとあとで疑うことから。実 体を知らない者に疑われる可能性のあること は、なるべくそっとしておいたほうがよいと いうたとえに用いられる。∇見せな∥見せる なという意。 ゆでる前の青菜は男に見せないほうがよいと 類義つましい男に青菜見せな。 あおのり とうれい だいだいかぐら う 青海苔の答礼に太太神楽を打 つ わずかな物のお返しに、過大な返礼をすること。青海苔のお礼に、太々神楽の太鼓を聞かせることから。「青海苔貰[もろ]うた礼に太神楽を打つ」ともいう。∇太太神楽∥伊勢神宮に奉納する神楽。青海苔も伊勢名物だが、安価で太々神楽とは比較にならない。 あおあいいあいあおしゅつらん 青は藍より出でて藍より青し出藍 の誉れ312 あおば 青葉は目の葉 みずみずしい青葉の緑は、目の疲れを回復さ せる効き目があるということ。 あおびようしたた 青表紙を叩いた者にはかな わぬ きちんと学問をした者にはかなわないという こと。マ青表紙∥青い色の表紙をつけた、四 書し・五経 よう ごき など儒学の基本となる書物。 <5> 補説「四書」とは「大学」「中庸」「論語」「孟 子」の四冊、「五経」とは「易経 えきき よう 「詩経」 「書経」「礼記 らい き 「春秋 しゅん じゅう 」の五冊の経書 けい。 しょ あか しんによ こ はら 赤い信女が子を孕む 夫を亡くした女性が妊娠すること。∇信女∥ 「信士」の対語で、女子の戒名 かいみ よう の称号。 補説夫が死亡すると、亡き夫の戒名に並べ て妻の戒名を石塔に刻み、赤く塗っておく習 慣があったので、夫を亡くした女性のことを 「赤い信女」という。 赤犬が狐を追う 優劣・善悪などが区別しにくいたとえ。赤い 犬と狐は毛色や体形が似ていて、追うものと 追われるものの区別がつけにくいところか ら。 あかところおうほうくらかた 明き所には王法あり、暗き方 しんめい には神明あり 悪事は、明るい所では国法によって、暗い所では神知によって、必ず人に知られ、処罰されるということ。∇王法=仏教で、国王の法令のことをいう。神明=神。「暗き所には神明あり、明らかなる所には王法あり」「明るき所に王法あり、暗き所に神霊あり」ともいう。 あかご 赤子のうちは七国七里の者に 似る 赤ん坊が父親似だ母親似だと言って騒ぐ大人 あかいしーあかをあ たちを皮肉っていることば。赤ん坊のうち は、まだ顔の特徴がはっきりしていないから、 どこのだれにも似て見えるという意。▷七国 七里∥あらゆる所。 赤子の手をひねる 相手をたやすく負かしたり、ものごとを思い のままに行ったりすることのたとえ。自分と 相手の力の差がきわめて大きい場合に用いられる。「赤子の腕を捩ねじる」ともいう。 用例)その対局に坂田は敗れたのだ。相手の 木村八段にまるで赤子の手をねじるように あっけなく攻め倒されてしまったのである。 〈織田作之助◆勝負師〉 赤子は泣き泣き育つ 赤ん坊が泣くのは健康な証拠で、赤ん坊は泣 きながら成長してゆくものだということ。 「赤子は泣きながら育つ」ともいう。 類義泣く子は育つ。赤子の泣くのは親孝行。 赤子を裸にしたよう 上になると他人と変わらない。△上がって三 代Ⅱ父母・祖父母・曾祖父母。下がって三代 Ⅱ子・孫・曾孫 そう。 そん もともと弱い者を、さらに無力化したようす。 あかつきし よいまくら 暁 知らずの宵枕 宵は早くから床につき、朝は遅くまで寝ていること。「宵っぱりの朝寝坊」よりもいっそう怠け者のことをいう。 あさんだいささんだい 上がって三代、下がって三代 血筋のつながりや親類などで縁が深いのは前 にもあとにも三代までだということ。それ以 垢で死んだ者はない 風呂嫌いの者の弁解、風呂嫌いの者に対する 皮肉のことば。風呂に入らず垢がたまって も、そのために死んだ人はいないということ。 類義垢に食われても死にはせぬ。垢がた まっても死なない。 あ飽かぬは君の御誕 主君の命令であれば、どんな無理なことでも いやだとは思わないということ。∇御誕∥主 君の命令。 類義合わぬは君の仰せ。 あかみ 垢も身のうち 垢も体の一部だから、むやみに洗い落とすものではないということ。「腹も身の内」をもじったことば。長湯していつまでも体を洗っている人を冷やかすときに用いられる。 明るけりや月夜だと思う 世間知らずであること。物事を深く考えない こと。夜、外が明るければいつも月夜だと思 うことから。「明けりゃ盆」ともいう。 類義団子さえ食えば彼岸だと思う。 あかあら垢を洗って痕を求む 他人の小さな欠点を見つけ出すこと。垢で隠 れていた傷あとを、垢を洗ってまで探し出す <6> 意から。「洗って」は「洗あろうて」ともいう。 類義毛を吹いて疵きずを求む。 あきあ秋荒れ半作はんさく 類義 秋日和半作。 秋になって天候が荒れると、農作物の収穫が 半分になってしまうということ。 秋風が立つ 親密さ、特に男女間の愛情が冷えてきたよう すをいう。「秋」に「飽き」を掛けている。「秋 風が吹く」ともいう。 秋鯨は嫁に食わすな 秋のかますはおいしいから、嫁には食べさせ るなということ。 あきたかうまこ てんたかうまこ 秋高く馬肥ゆ 天高く馬肥ゆ 450 あごについた水滴は、近くにあるのに口に入 らないことから。∇顎∥あご。雫∥水滴。 類義頤 おと がい の雫。顎の滴 した り。 あきだるおとたか空樽は音が高い 類義 浅瀬に仇波 あだ。 なみ 痩せた犬は吠える。 対義 能ある鷹 たか は爪を隠す。深い川は静か に流れる。 中身のない軽薄な人間ほどよくしゃべるということ。空の樽は叩たくと高い音をたてることから。「空樽は音高し」ともいう。 英語 Empty vessels sound most. 空の容 器はいちばん大きな音を立てる 手近にありながら思うようにならないこと。 商い三年あきなさんねん 顎の悪、口に入らぬ 商売は始めて三年ぐらいたたないと利益が出 るようにはならない。何事もすぐに結果は出 ないから、しばらくは辛抱せよという教え。 類義石の上にも三年。顎あご振り三年。売り 出し三年。 英語Keep thy shop and thy shop will keep the.汝じの店を守れ、さすれば店は 汝を守ってくれる 商い上手の仕入れ下手 品物を売るのはうまくても、仕入れが下手で は利益が出ず、商売にならないということ。 類義話し上手の聞き下手。 商いは牛の涎 あきなうしよだれ 商売は気長に辛抱強く続けよということ。牛 のよだれが、細く長く垂れ続けることからい う。「商人あきは牛の涎」ともいう。 商いは数でこなせ 類義餅は餅屋。商売は道によりて賢し。 あきなもと 利益を少なくして品物を数多く売るのが、商 売のこつであるという、薄利多売の教え。 商いは門門 客をよく観察して、それぞれの客に応じた品 物を売るのが、商売のこつであるということ。 「商売は門門」ともいう。 商いは本にあり 商売が成功するかどうかは、資本の大小によるということ。 秋茄子嫁に食わすな 秋のなすはとくに味がよいから嫁には食べさ せるな、という姑 レゅう とめ の嫁いびりのことば。 △茄子ニ「なす」の別称。 補説秋の茄子は体を冷やすといけないか ら、あるいは種が少ないので子供ができない といけないから、嫁には食べさせるな、など、 嫁の身の上を案じることばとする説もある。 類義秋鮪 あきか は嫁に食わすな。秋鯖 あき さば 嫁に 食わすな。五月蕨 さつき わらび は嫁に食わすな。 対義秋茄子嫁に食わせよ。 あきあめふねこかおさん 秋の雨が降れば猫の顔が三 じゃく ここなら 尺になる 秋の雨の日は暖かなので、寒がりの猫が顔を 長くして喜ぶことをいう。また、秋の長雨に は猫でさえ退屈する意という説もある。△三 尺∥約九○センチメートル。 類義 冬の雨が三日降れば猫の顔が三尺伸び る。 秋の稲妻は千石増す 秋になってからの稲光は、一度光ると米千石 の増収をもたらすということ。「稲妻」は「稲 の夫」の意で、古代の農民の間では、稲妻 <7> には稲の実りをよくする霊的な力があると信 じられていた。△千石‖約一八万リットル。 秋の入り日と年寄りは、だん おちめはや だん落目が早くなる 秋が深まるほど日没が早くなり、老人も年を とると衰えが早くなるということ。 あき秋の扇 出文選もんぜん 男の愛情を失った女のたとえ。夏には重宝な 扇も、秋になると不要になるところから。役 に立たないもののたとえにも使われる。 故事中国前漢の成帝に愛された班婕妤 が、後に趙飛燕ちょうに帝の寵愛ちょうを奪われ、 わが身を不要になった秋の扇にたとえて歌っ たという故事による。 類義班女はんが扇。夏炉冬扇 あきしかふえよ 秋の鹿は笛に寄る 秋になると鹿は発情期のため雌雄互いに求め 合い、人間の鹿笛に誘われて近づき捕らえら れる。転じて、人が恋に身を滅ぼしたり、危 険な状態に自ら身を投じることのたとえ。 類義妻恋う鹿は笛に寄る。笛に寄る鹿は妻 を恋う。 変わりやすいことからいう。△七度半‖回数が多い意。 あきそらおとこごろななたびかおとこごろ 秋の空と男心は七度変わる♩男心と あきそら 秋の空114 秋の空は七度半変わる 心が変わりやすいことのたとえ。秋の天気は あきのいーあきらめ あきひむすめこ 秋の日と娘の子はくれぬよう でくれる 秋の日は暮れないようでいて、急に暮れてしまう。娘もなかなか嫁にくれないようでも、案外簡単にくれるということ。「くれる」に「暮れる」と、与える意の「呉れる」の二つの意味をかけたもの。 秋の日は釣瓶落とし 秋の日が急速に暮れるようす。秋の日は井戸 の中へつるべを落とすように一気に沈むこと から。∇釣瓶∥井戸の水をくむために竿さおを つけておろす桶おけ。 補説日の長い夏と違って、秋は日没後すぐ 暗くなる。それを釣瓶落としにたとえたもの。 類義秋の日の鉈落とし。 対義春の日は暮れそうで暮れぬ。 あき ゆうや かま あき あさ 秋の夕焼け鎌をとげ、秋の朝 でとなり 照り隣へ行くな 秋の夕焼けは好天の前ぶれだから野良仕事の 準備をせよ、秋の朝焼けは雨の前ぶれだから 外出をとりやめよ、ということ。「秋の夕焼 け鎌をとげ」のみで言うことも多い。 秋葉山から火事 あきばさん かじ 類義 秋の夕焼け鎌といで待て、五月の夕焼 け蓑みの着て待て。 人を戒める立場の者が、自分の戒めた過ちを 犯してしまうこと。防火の神である秋葉山か ら火事を出す意。「秋葉様の火事」ともいう。 ∇秋葉山=静岡県浜松市にある秋葉神社。防 火の神を祭る。 類義愛宕 あた から火を出す。火消しの家にも 火事。 あきびよりはんさく秋日和半作 秋の天候のよしあしが、その年の農作物の収 穫の半ばを決定するということ。 類義 秋場半作。 秋荒れ半作。 空家で声嗄らす むだな骨折りをすることのたとえ。人がいな い家で声をからすほど大声でどなっても、返 事がないことから。むだな骨折りをくり返し ている人に対する皮肉として用いられる。 類義 楽屋で声を嗄らす。空家で棒を振る。 あきや せっちん 空家の雪隠でこえなし 人の家を訪ねていくら呼んでも応答がない ときや、一座のだれ一人ものを言わない場合 に使うことば。使う人がいない空家の便所の 「肥こえなし」と、返事がない「声なし」とを かけたしゃれ。「空家の雪隠」ともいう。 諦めは心の養生 失敗や不運は、思い切ってあきらめるのが精 神的によいということ。 <8> 英語 For a lost thing care not. なヘした ものは気にするな あき れい く 呆れが礼に来る あきれ返って、その上おつりがくる。あきれ ることを誇張して言ったことば。 あきんどびようぶま 商人と屏風は曲がらねば立た ぬ 屏風は曲げておかないと立っていられないように、商人も自分の感情を抑えて腰を曲げて接客しないと、商売は成功しないということ。「商人と屏風は曲がらねば世に立たず」「屏風と商人は直すぐには立たぬ」ともいう。「商人は「しょうにん」とも読む。 商人に系図なし 商人は、代々の家柄ではなく、商売の手腕や 実力次第で成功するということ。「商人」は 「しようにん」とも読む。▷系図=祖先から 伝わる代々の系統をしるした図表。 あきんどうそかみゆる 商人の噓は神もお許し 商人が商売のかけひきでつくうそは、やむを えないもので、神様もお許しになるというこ と。「商人」は「しょうにん」とも読む。 あきんどこそろばんおとめ 商人の子は算盤の音で目をさ ます たとえ。商人の子供は金銭勘定や損得に敏感 になり、算盤の音がすると目をさます意から。 「商人」は「しょうにん」とも読む。 類義武士の子は轡くの音で目をさます。 あきんどそらせいもん 商人の空誓文 商人のことばには、うそやかけひきがあって、 信用しがたいということ。「商人」は「しょ うにん」とも読む。△空誓文=うその誓いを 書きしるしたもの。 あきんど 商人の空値 商人はかけひきで値段をつけるので、信用で きないということ。「商人」は「しょうにん」 とも読む。 類義 商人の元値。商人の泣き言。 商人の元値 あきんどもとね 商人はよく元値がきれる(原価が割れる)と言 うが、元値がわからず信用できないというこ と。「商人」は「しょうにん」とも読む。 類義商人の空値商人の泣き言。 あきんどこはにしきかざ 商人は木の葉も錦に飾る つまらない商品でも立派な物のように思わせ て売りつける、それが商人の腕だということ。 「商人」は「しょうにん」とも読む。 類義 商人は損と原価もとで暮らす。 あきんどそんくらた 商人は損していつか倉が建つ 商人は、損をしたと言いながら、いつの間に か倉が建つほどの金持ちになっているという こと。「商人」は「しょうにん」とも読む。 商人は損と原価で暮らす 商人は、いつも損をした、原価を割ると言 ながら、実はもうけているということ。「 人」は「しょうにん」とも読む。 類義商人は損していつか倉が建つ。 あきんどはらうきゃくしたは 商人は腹を売り客は下より這 う 商人は初めに高い値をつけ、しだいに下げて 売り、客は初めに安い値を言い、しだいに上 げて買うのが通例だということ。「商人」は 「しようにん」とも読む。 あくいあくしよくはものいま 悪衣悪食を恥ずる者は、未だ ともはかた 与に議るに足らず 出論語 自分の質素な服装や食事を恥ずかしく思うような者は、いっしょに道理や修養について語り合う資格がない。▷議る‖論じ合う。 惡因惡果 悪い行為が原因となって悪い結果や報いが生 じること。 用例これを輪廻 りん ね といい、流転 るて ん という。 悪より悪へとめぐることじゃ。継起して遂っ に竟おわることなしと云いうがそれじゃ。いつ までたっても終おわりにならぬ、どこどこまで も悪因悪果、悪果によって新あらに悪因をつく る。〈宮沢賢治◆二十六夜〉 <9> あくえんちぎ悪縁契り深し 悪い縁ほど結びつきが強く、断ち切りにくい ということ。▷悪縁‖別れようと思っても別 れられない関係。おもに男女の間柄にいう。 類義腐れ縁離れず。 灰汁が抜ける 人の物腰が洗練されること。あくどさや嫌味 なところがなくなることを、食物の灰汁がな くなることにたとえる。▷灰汁=食物から出 る渋みや苦みなどの不快な成分。 あくげん たまみが 悪言の玉は磨き難し 悪口は、言った人の徳をひどくそこない、そ の傷は簡単には取り去れないということ。 補説人の悪口を言うことは、ある面では快 い感じがするので「人の噂うわを言うは鴨かもの 味がする」ということわざもある。 あくげんくちいこうご悪言は口より出ださず、苟語 人を傷つけるようなことは決して言わず、一 時しのぎの不まじめな言葉は耳にとめない。 ▶苟語=一時しのぎのいいかげんな言葉。 あくさいひゃくねんふさく 悪妻は百年の不作 は耳に留めず 出鄧析子とうせきし 悪い妻を持つと、自分の一生だけでなく、子 や孫の代にまで悪い影響を及ぼすものだということ。百年間不作が続くのと同じくらい不幸だということから。「悪妻は一生の不作」 「女房の悪いは六十年の不作」ともいう。 補説家事や育児がすべて妻に任されていた 時代、それにふさわしい妻を男に選ばせるた めの教訓的なことわざ。 あくえんーあくじよ 類義一生の患うれいは性悪しようの妻。 英語An ill marriage is a spring of ill fortune.望ましくない縁組みは不幸の泉で ある あくじせんりはしこうじもんいあくじ 悪事千里を走る↳好事門を出でず悪事 千里を行く 234 あくじせんりゆこうじもんいあくじ 悪事千里を行く好事門を出でず悪事 悪事身に返る あくじみかえ 自分が犯した悪いことは、最後には自分に 返ってきて、自らが苦しむ結果になるという 戒め。「悪事身にとまる」ともいう。 類義身から出た錆さび。因果応報。自業自 得。 あくじゅう 悪獣もなおその類を思う 悪豊もなおその類を思う 他に危害を加える猛獣でも、仲間に対する愛 情を持っている。まして人間にその愛情がな いはずはないという意。 あくしょうもっこれな 悪、小なるを以て之を為すこ 悪いことは、どんなに小さなことでも、して はならないということ。 出三国志ー注 と勿れ 補説出典には「悪小なるを以て之を為す勿 れ。善小なるを以て之を為さざること勿れ (よいことはどんな小さなことでも実行しな くてはならない)」とある。 悪性の気よし 浮気や道楽などをする者には、概して気のよ い者が多いということ。 悪女の賢者ぶり 性格の悪い女が、表面的には賢い女や善良な 女のように振る舞うこと。 悪女の深情け 顔かたちの美しくない女性は、とかく愛情が 深く、嫉妬心しが強いものだということ。 転じて、男女の間に限らず、ありがた迷惑で あるという意にも用いる。 用例だが如水はただもう友愛の深みに 自らを投げこんで、悪女の深情けとはこのこ と、日夜の献策忠言、頼まれもせぬに長政 なが まさ を護衛につけたり、家康 いえ やす の伏見の上屋敷は 石田長束 なっ 増田 まし た らの邸宅に近く不意の襲撃 を受け易やすいと向島むこう じま の下屋敷へ引越させ たのも如水であった。坂口安吾・一流の人 あくじよかがみうと 悪女は覚を束ぶ 悪女は鏡を疎む 人間はだれでも、自分の欠点や弱点に触れる のを好まないというたとえ。顔かたちの美し くない女性は、鏡で自分の顔かたちを見るこ とを好まない意から。「悪女は鏡を恐る」と もいう。 <10> 悪銭身に付かず 不正な手段で得た金銭は浪費してしまい、た ちまちなくなってしまうという教え。 類義あぶく銭は身に付かぬ。 英語 Evil-gotten goods never prove well. 不当な手段で得た物はよい結果を生 まない 用例けれども、悪銭身につかぬ例えのとお り、酒はそれこそ、浴びるほど飲み、愛人を 十人ちかく養っているという噂うわ。太宰 治◆グッド・バイ 悪に従うは崩るるが如し 悪を行うのは、ものが崩れ落ちるようにたや すいということ。 補説出典には、この前に「善に従うは登る が如く(よいことを行うのは、山や坂を登る ように辛っらいことで)とある。 出国語ここ からこそ目立つという意味にも用いられる。 あくにん ともおお 悪に強ければ善にも強し あくつよ ぜんつよ 大悪を犯すのは強い性格の持ち主だから、 いったん改心すると、非常な善人になるということ。「悪に強きは善にも強し」ともいう。 類義善に強い者は悪にも強い。 あくにん ぜんにんあらわ 悪人あればこそ善人も顕れる 世の中には悪人がいるからこそ、善人が目立 つということ。一般に、対照するものがある 悪人には友多し 悪人は口がうまく、利益で人を誘いこむので、 友人や仲間が多いということ。 あくにんともすぜんにんかたき 悪人の友を捨てて善人の敵を まね 友人でも、悪人であれば自分に害を及ぼすか ら別れ、敵でも、善人であれば友とすべきだ という教え。「敵」は「てき」とも読む。 悪人は善人の仇 善人は敵がいないが、悪人だけは敵として許 さないということ。「仇」は「あだ」とも読む。 悪人は、我が造りしものに捕らえらる 悪人は、人をおとしいれようとたくらんだ悪 事がもとで、自らの身を滅ぼすということ。 あくうらぜん 悪 あく悪の裏は善 悪と善は裏と表で、悪いことの次には一転し てよいことが来る。悪いことばかりは続かな いということ。「善の裏は悪」ともいう。 あく 悪の易ぶるや火の原を燎くが 如し 出春秋左氏伝 燃え広がるようなもので、防ぎようがないと いうこと。△易ぶる∥広がりやすいこと。↓ 燎原の火685 悪事がはびこりやすいことは、野火が草原に 補説出典では、このあとに「嚮むかい邇ちかづ くべからず(向かい近づくこともできない)」 と続く。 あくむく悪の報いは針の先さき 悪いことを犯した報いは、針の先を一回りす るほどの速さでやってくるものだというこ と。悪いことをするなという戒め。 悪は一旦の事なり 不正は長続きせず、結局は正義には勝てない ということ。▷一旦∥一日の朝。短いことの たとえ。 出韓詩外伝 あくはつと握髪吐哺 立派な人物を求めるのに熱心なことのたと え。「吐哺握髪」ともいう。∇握髪∥洗って いる髪を握って洗うのをやめること。吐哺∥ 口の中の食べ物を吐き出すこと。 故事)中国古代、周公旦 しゅうこ うたん は、洗髪中に受 けた賢者の訪問には髪を手で握ったまま応対 し、食事中に受けた賢者の訪問には口の中の 食べ物を吐き出して応対し、優れた人材を逃 さないように求めたという故事による。 悪は延べよ 悪いことは実行を延期すれば、事情や考え方 <11> が変わって、実行しないですむこともあると いうこと。「悪は延ばせ」ともいう。 対義善は急げ。 あくびいっしょ みっかいと 欠伸を一緒にすれば三日従兄 弟 人のあくびにつられていっしょにあくびをす るのは、多少の縁があるという意。△三日従 兄弟∥軽い血縁関係。 類義欠伸隣にうつる。 あくまう まう 悪法もまた法なり 悪い法律であっても法は法であるから、通用 している間はそれを守らなければならないと いうこと。古代ギリシャの哲学者ソクラテス のことばと伝えられる。 悪木盗泉 たとえ困窮してもわずかな悪事にも近づかないようにすることのたとえ。悪事に染まるのを戒める語。悪い木の陰で休んだり、悪い泉の水を飲んだりしただけでも身が汚れるという意。∇悪木Ⅱ役に立たない木。人を傷つけたり悪臭のある木。盗泉Ⅱ孔子がそこを通ったとき、喉のどが渇いていたが、その名が悪いといって飲まなかったといわれる泉。 出陸機ー詩し 士は食わねど高楊枝 たかよ。 鷹たかは飢えても穂 を摘まず。 補説出典の詩の題名は『猛虎行』。これ に「渇すれども盗泉の水を飲まず、熱けれど も悪木の陰に息いこわず」とある。 類義瓜田李下 かでん。 りか 渇すれども盗泉の水を 飲まず。熱けれども悪木の陰に憩いこわず。武 あくびをーあげくの あぐら胡坐で川かわ あぐらをかいたまま川を渡るように、何の努 力や苦労もせずに物事が都合よく運ぶこと。 「胡坐」は「安坐」とも書く。 あ 挙ぐることは鴻毛の如く、取 しゅういごと ることは拾遺の如し 出漢書 軽い羽毛を持ち上げたり、落ちている物を拾い上げたりするように、たやすいということ。 ▶鴻毛=おおとりの羽毛。軽いもののたと え。拾遺=落ちている物を拾うこと。 補説出典には「秦しんを挙ぐること(攻めと ること)は鴻毛の如く、楚そを取ることは拾遺 の若ごとし」とある。 あくちょうあらたしたが 悪を長じて悛めずんば、従っ みずかおよ て自ら及ばん 出奪火左氏伝 悪心を増長させて改めないと、やがて災難が自 分の身に及ぶことになるだろうという意で、早 く悔い改めないと身が破滅するという戒め。 悪を悪むは、その始めを疾む 悪を為すも刑に近づく無し あやまって小さな悪事は犯しても、刑罰に処 されるような大きな悪事は犯さないように注 意しなければならない。 出荘子そうじ 出春秋穀梁伝 悪事を憎むのは、その悪の始めを憎むのであ り、悔い改めればいつまでも憎み続けること はしない。 悪を見ること、農夫の努めて 出春秋左氏伝 草を去るが如し 農民が精を出して雑草を取り去るように、人 は悪を根絶するように努力しなければならな いということ。 補説 出典では、為政者への戒めとなってい る。 揚げ足を取る 人の言葉尻やちょっとしたミスを取り上げ て、皮肉を言ったり責め立てたりすること。 相手の上げた足を取って倒すことから。 用例僕はこう問い詰められてちょっと文句 に困ったがすぐと「そんならなぜ先生は孟子 もう し を読みます」と揚げ足を取って見た。〈国 木田独歩◆初恋〉 あ挙げ句の果て 物事の最後。行きつく果て。∇挙げ句∥連歌 が・俳諧 はい かい で、最後の七・七の句をいう。「揚 げ句」とも書く。 用例すると、たちまち三百両、五百両、八 <12> 百両とめいめいがせり上げてまいりまして な、あげくの果てに、同じ両替屋商売のさる 次男坊が、とうとう三千両持参金にしようと このようなことを申してまいりましたゆえ、 内心喜んで、さっそくその者を養子に取り決 めてしもうたのでござります。〈佐々木味津 三◆右門捕物帖〉 あ ぜんす 上げ膳据え膳 ぜん 自分では何もせず、すべて他人にやってもら うこと。食事の膳を上げ下げしてもらう意か ら。「上げ膳に据え膳」ともいう。 用例「それに銀三ぎんさんのことだから、御 飯ごしらえから子供の守りまで、ひとりで立 ちまわってさ、割烹着 かっぽ うぎ なんかきて市場へ 買い出しに行ったりしてさ。お内儀かみさんは 上げ膳据え膳のおかいこぐるみで、年児 かり生んで……」〈矢田津世子◆疴女抄録〉 あ くや たまてばこ 開けて悔しき玉手箱 ぬ方が尊い、略〈松本文三郎◆印度の聖人 あけうばむらさきむらさきしゅうば 朱を奪う紫 紫の朱を奪う 634 結果が予想や期待と大きく違って失望することのたとえ。 補説浦島太郎が竜宮から故郷に帰って、乙 姫 おと ひめ からもらった玉手箱を開けたとたん、白 い煙が立ち上り、たちまち年寄りになったと いう伝説から出たことば。 類義開けて悔しき浦島の子。開けて見たれ ば鳥の糞ふん。 用例)兎とに角宗教や文学と云いうような方面 に於おいては左程結構なものも無いように考え られる、開けて悔しき玉手箱で、西藏は今や 既に半分以上も開けて居るのであるが、開け あこう阿衡の佐さ すぐれた部下による助け。賢者が政治を補佐 すること。また、その人。∇阿衡∥中国、殷 いんの時代の賢者伊尹いいが任命された官名。佐 ∥助けること。 出史記しき 顎が干上がる 収入がなくなり、生計が立たなくなる。食べ るものがなくて口の中が渇くことから。「口 が干上がる」ともいう。 類義顎を吊るす。 あこぎうら阿漕が浦に引く網 隠し事も、度重なると広く人に知られてしま うことのたとえ。マ阿漕が浦=三重県津市一 帯の海岸。 補説阿漕が浦は昔、伊勢神宮に奉納する魚 をとるために網を引いた場所で、禁漁区で あったが、阿漕の平治という漁師が老母の病 気を救うため、しばしば禁を犯し密漁をして 見つかり、捕らえられ、簀巻 すま き にされたという伝説がある。欲張りなことを「阿漕」という のも、これによる。 用例ところが、悪運が尽きたとでもいうの ですか、それとも、阿漕が浦で引く網も度重 なれば何とやらの譬えたとか、警察ではやっとの ことで、彼等の二つの住居の中の一つを嗅ぎ 出したのです。〈小酒井不木◆稀有の犯罪〉 あこ 顎で背中を掻く とうていできないこと、不可能なことのたと え。 尊大な態度で人をこき使うこと。自分では何 もせず、顎だけを動かして指図することから。 「顎で人を使う」「顎の先で使う」ともいう。 用例口オラが同じ「オカアサン」を言う時 にも、甘ったれるようなのや、少し不きげん なのや、またあごでこき使う調子を帯びたの や、さまざまな発音があると彼女はいうので す。〈佐藤春夫◆オカアサン〉 あごはえおおとがいはえお 顎で蠅を追う 顧で蠅を追う 114 あごふ顎振り三年 何事も身につけるには時間がかかるというこ と。尺八で、顎を振って調子をとるコツを覚 えるだけでも三年はかかるということから。 類義首振り三年ころ八年。石の上にも三 年。商い三年。櫂かいは三年櫓ろは三月 みつ。 き 朝雨に傘いらず 朝の雨はすぐやんでしまうから、雨具の用意 はいらないということ。 類義 朝雨は女の腕まくり。朝雨に鞍置 け。朝雨には蓑みのを巻け。 あさあめおんなうで 朝雨は女の腕まくり 朝の雨はすぐにやむので、女が腕まくりをし <13> て威張るのと同じように心配はないというこ と。「俄雨あめと女の腕まくり」ともいう。 類義朝雨に傘いらず。朝雨に鞍くら置け。朝 雨はその日のうちに晴れる。朝雨は日照りの もと。女の腕まくりと朝雨には驚くな。 あさかわふかわた浅い川も深く渡れ もたないでしぼんでしまうことから。 類義権花きん一日いちじつの栄。 ささいなことでも油断するなという戒め。浅 い川でも深い川と同じように注意をして渡れ という意から。 類義石橋を叩たいて渡る。念には念を入れ よ。用心は深くして川は浅く渡れ。 あさうたいびんぼうそう朝謡は貧乏の相 朝から仕事もせず道楽をしているようでは、 いまに貧しくなるという戒め。△謡〓謡曲。 能楽の詞章 しし ように従って問答をしたり節をつけ て歌ったりすること。 類義 朝寝朝酒は貧乏のもと。 あさお せんりよう よお ひゃくりよう 朝起き千両、 夜起き百両 朝早起きして働くほうが、夜遅くまで仕事を するよりも能率が上がり、得だということ。 頬義朝の一時ひとは晩の二時ふたに当たる。早 起きは三文の徳。 あさが朝駆けの駄賃だちん あさおさんもんとくはやおさんもんとく 朝起きは三文の徳早起きは三文の徳 535 物事の盛りの時期がきわめて短く、はかない ことのたとえ。朝顔の花が朝咲いて、昼まで 物事が簡単にできることのたとえ。朝がたは 馬が元気よく、少しぐらいの荷物は苦にしな いことから。「行きがけの駄賃」をもじった ことば。∇駄賃∥駄馬で荷物を届ける運賃。 類義朝飯前。朝飯前のお茶漬け。 あさがお朝顔の花一時 あさいかーあさだい 朝雷に川渡りすな 朝の雷は暴風雨の前ぶれだから、川を渡るような遠出はするなということ。 類義朝雷に戸開けず。朝雷に隣歩きすな。 朝雷には隣の歩きもできぬ。 りはすぐに晴れることから出たことば。 あさがらめはな 麻殻に目鼻をつけたよう やせて骨と皮ばかりになった男のようす。マ 麻殻‖皮をはいだ麻の茎。細くて長く、折れ やすい。 類義 箸に目鼻。 あさかんぬしゅうぼうず 朝神主夕坊主 朝神主に会い、夕方坊主に会うのは縁起がよ いということ。 あさぐも 朝曇りに驚く者は所帯持ちが 悪い 朝のうち曇っている夏の日は、日中になって ひどく暑くなるということ。 朝曇っているからと言って仕事に出るのをた めらう者は、怠け者で家計のやりくりも下手 だから金持ちにはなれないということ。朝曇 我朝曇り日照りのもと。 朝酒は門田を売っても飲め あきさけ カとた う の 朝酒は門田を売っても飲 と 朝酒はとくにうまいので、大切な田を売るよ うな無理をしても飲むべきだということ。朝 酒のうまさをほめたことば。ヘ門田‖屋敷の 入口にある、その家にとってもっともよい田。 類義朝酒は女房を質しちに置いても飲め。 あさせ浅瀬に仇波 思慮の浅い人ほどよくしゃべり、あれこれと うるさく騒ぎ立てるということ。川の浅瀬に は、いたずらにさざ波が立つところから。△ 仇波=むやみに立ち騒ぐ波。 補説 古今和歌集の底ひなき淵ふちやは 騒ぐ底知れない深い淵は波立って騒ぐだろ うかいや静かなものだ山川の浅き瀬にこ そあだ浪なみは立てから出たことば。 類義空樽 だる は音が高い。痩せ犬は吠える。 能なし犬の高吠え。弱い者のから威張り。 対義能ある鷹たかは爪を隠す。 英語 Empty vessels sound most. 空から 容器はいちばん大きな音を立てる 朝題目に宵念仏 定見 けん のないことのたとえ。朝は日蓮宗 しゅう の題目を唱え、夕方には浄土宗の念仏を唱え <14> るという意から。「朝題目に夕念仏」ともい う。∇題目∥日蓮宗で唱える「南無妙法蓮華 経 なむみようほう れんげきよう の七字。念仏∥浄土宗で阿弥陀 あみ だ 仏の名を唱えること。「南無阿弥陀仏 なむあみ だぶつ あさちゃしちりかえ 朝茶は七里帰っても飲め 朝茶はその日の災難よけだから、たとえ七里 の道を帰ってでも飲むべきだということ。 「朝茶は三里行っても飲め」ともいう。△七 里Ⅱ「里」は距離の単位で、一里は約三・九 キロメートル。 類義 朝茶はその日の祈禱 きと。 朝茶はその日 の難逃 なん のが れ。 あさってこうや こんばんかじゃ 明後日紺屋に今晩鍛冶屋 当てにならない約束のたとえ。紺屋と鍛冶屋 は注文した品物が約束の日に間に合わないこ とが多かったことから。「紺屋の明後日」「明 後日紺屋の今度鍛冶」ともいう。∇紺屋∥染 物屋。「こんや」とも読む。鍛冶屋∥金属を打 ち叩たたいて刀や農具などを作る職人。 類義医者の只今 ただ。 いま 問屋 とい や の只今。鍛冶屋 対義 鳶が朝から舞うは晴れ。 類義医者の只今 ただ。 いま 問屋 や の只今。 鍛冶屋 の明晩。坊さんのおっつけ。 あさとびみのきゆうとびかさ 朝鳶に蓑を着よ、夕鳶に笠を 鳶が朝鳴くのは雨が降る前ぶれで、夕方鳴く のは晴れる前ぶれだということ。 類義 朝鳶は雨、夕鳶は晴れ。朝鳶に川渡り すな。朝鳶鳴けば隣七軒戸出といでがならぬ。 朝虹は雨、夕虹は晴れ 虹が朝立つのは雨の前ぶれで、夕方立つのは 晴れの前ぶれだということ。 類義朝虹傘忘るな。朝虹に川越すな。晩の 虹は江戸へ行け、朝の虹は隣へ行くな。 対義朝虹蓑笠みのいらず。 あさ 麻につるる蓬 よもぎよもぎまちゅうしょう 蓮、麻中に生ずれば 朝寝朝酒は貧乏のもと 朝寝坊や朝酒をするような怠け者は、やがて 貧乏になるということ。「朝寝は貧乏の相」 「朝寝昼寝は貧乏のもと」ともいう。 朝寝好きの夜田打ち あさねずよたう 朝寝坊をするとその分仕事が遅れ、夜まで働 かなければならなくなるということ。 類義 朝さがりは夕さがり。 朝油断の夕かが み。 あさねはちこく 朝寝八石の損 もそれを感じ取る(減っていく) 朝寝坊は、損が大きいという戒め。△八石 「石」は尺貫法の容積を量る単位で、一石は 一〇斗、約一八〇リットル。 類義 朝寝朝酒は貧乏のもと。 朝寝は貧乏の 相。 英語 He that lies long in bed, his estate feels it. 寝てばかりいると、その人の財産 あさねぼうよいぱよいぱあさねぼう 朝寝坊の宵っ張り↓宵っ張りの朝寝坊 あさ朝の果物は金 果物は朝食べるのが健康によいということ。 果糖が寝起きの脳を活性化することから。 類義朝の林檎は金。 英語 Fruit is gold in the morning, silver at noon, and lead at night. [朝の果物は金、 昼の果物は銀、夜の果物は鉛] 朝の来ない夜はない 今苦境にあっても、いつか事態は好転する、 ということ。 類義明けない夜はない。 英語 After night comes the day. 夜の後には昼が来る あさなかよもぎよもぎまちゅうしょうたす 麻の中の蓬 蓮、麻中に生ずれば扶 なお サン直ノ4 けずして直し674 朝のぴっかり姑の笑い 信用できないことのたとえ。朝の晴天と姑の 笑顔は、変わりやすいことから。 類義朝日のちゃっかり姑のにつこり。 あさひとときはんふたときあ 朝の一時は晩の二時に当たる 朝は夜よりも仕事がずっとはかどるから、な るべく朝のうちにということ。△一時‖昔の 時間のはかり方で、今の約二時間。いっとき。 <15> 類義 朝起き千両、夜起き百両。早起きは三 文の徳。 あさばらちゃづ朝腹に茶漬け 物事が少しもこたえないこと、極めて容易な ことのたとえ。朝食前の空腹時のお茶漬は腹 のたしにならないことから。「朝腹の茶漬」 ともいう。朝腹は「あさっぱら」とも読む。 類義朝腹の茶粥 ちゃ。 がゆ 朝飯前の茶受け。 朝日が西から出る 絶対にあり得ないことのたとえ。「お天道さ んが西から出る」ともいう。 類義石に花咲く。石が流れて木の葉が沈む。 あさひなくびひ 朝比奈と首引き とてもかなわないというたとえ。怪力の朝比 奈と首引きする意から。▽朝比奈=朝比奈三 郎義秀よし。鎌倉時代の武将で、剛力無双とい われた。首引き=輪にしたひもを首に掛け、 二人で引っ張り合う遊び。 類義開いた口へ牡丹餅 棚から牡丹餅。 もち 悪の罠わなに狐きつ がかかる。 朝から風呂に入り、丹前を着て、長火鉢の前 でくつろぐこと。気楽な生活のたとえ。▷丹 前∥くつろいだときに着る、防寒用の和服。 広袖ひろそでで厚い綿入れの衣服。どてら。 あさぶろたんぜんながひばち 朝風呂丹前長火鉢 思いがけない幸運をつかむことのたとえ。水 の浅い所で泳いでいる鯉は、簡単に手づかみ できることから。 あさ浅みに鯉こい あさばらーあしきひ 器量のあまり良くない女性でも、年ごろにな ると魅力が出てくるということ。あまり美し くない薊の花でも、美しい時がある意から。 ▶薊‖山野に自生する多年草。葉のふちにと げがあり、春・秋に紅(紫)色の花を開く。 類義蕎麦の花も一盛り。南瓜かぼ女も一盛 り。鬼も十八番茶も出花。 朝飯前のお茶漬け 物事が簡単にできることのたとえ。朝飯の前 の空腹時に食べるお茶漬けは、さらさらと簡 単に食べられることから。 類義朝飯前の茶受け。朝駆けの駄賃。 用例俺ら若い時にや、忠次の兄いと一緒に、 信州から甲州へ旅人 たび にん で、賭場から賭場をか せぎ回ったもんだ。その頃にあ、日に十里や 二十里は朝飯前だったよ。〈菊池寛◆入れ札〉 あさやあめゆうやは 朝焼けは雨夕焼けは晴れ 朝焼けは、その日に雨が降る前ぶれで、夕焼 けは、翌日晴れる前ぶれだということ。「夕 焼けは晴れ、朝焼けは雨」「朝紅は雨、夕紅 は日和」ともいう。 類義 朝焼けしたら川向こうに行くな。夕焼 けに鎌を研げ。 怠ける者は、夕方になっても仕事が終わらず、 気力や体力を使い果たしてしまうということ から。△かがみ∥屈かがむこと。 あさゆだんゆう 朝油断のタかがみ 何事も初めが肝心だということ。朝油断して あさにな麻を荷って金を捨てる つまらない物を取り、大切な物を捨てるたと え。麻を手に入れた喜びのあまり、持ってい たお金が邪魔だと捨てる意から。 類義玉を還かえして匱ひつを留とどむ 足が地に着かない 喜び・緊張・心配事などで気持ちが落ち着か ないさま。また、考えや行動が浮ついている こと。「地に足が着かない」ともいう。 あしか海驢の番ばん 交替で眠ること、不寝番のたとえ。海驢は用 心深い海獣で、眠るときは必ず一頭は起きて 見張り番をする習性があるとされることか ら。△海驢‖オットセイに似た、やや小形の 肉食獣。 悪しき人に順って避けざれ ば、繋げる犬の柱を廻るが如 し 悪い人にくっついて同じことをやっている と、よくないことが我が身にふりかかってく る。それはあたかも、柱につながれた犬がぐ るぐる廻っているうちに、自分の首をしめる ようなものだということ。 <16> あしさむ 11112 やる あしさも ここそや子 足寒ければ心を傷る 出古詩源 足を冷やすと心臓を悪くするという意で、国 民の不満が高まると国家が危うくなることの たとえ。「足寒ければ心を傷む」「足寒くして 心しんを傷む」ともいう。 類義禍わざは下から。 あしたこうがん ゆうはっこつ 朝に紅顔ありて夕べに白骨と なる 人の生死の予測できないこと。世の無常なこと。朝、血色のよい顔をしていた若い人が、夕方には急に死んで白骨となってしまう意から。△紅顔年若い人の血色のよい顔。 補説「和漢朗詠集」にある藤原義孝の詩の 一節「朝に紅顔あつて世路(世間)に誇れども 暮ゆう に白骨となつて郊原(町はずれの野原)に 朽ちぬ」による。室町時代の僧侶・蓮如上人 れんによし ようにん がその著『白骨の御文 おふ み 』の中で引用し、 浄土真宗の葬式などで読まれたため、一般に も広まった。 類義昨日の淵ふちは今日の瀬昨日の花は今日の塵ちり。 あしたそことわす 朝に其の事を忘るれば、タベ に其の功を失う 出管子 のうちから心して取りかからないと、夕方なっても成し遂げることはできない。 あした ふじもんたたゆうべ 朝には富児の門を扣き、暮に ひばちりしたが は肥耨の塵に随う 出杜甫詩 常に、金持ちや権力者のご機嫌をとり、従う さま。朝は富貴の人の門をたたいてご機嫌を 伺い、夕方には肥えた馬に乗って外出する貴 人のお供をして土ぼこりを浴びる意から。マ 富児=身分が高く裕福な人。 補説出典の詩の題名は『韋左丞丈 いさじょうに贈 り奉 たて まつ る』。「朝には富児の門を扣き、暮には 肥馬の塵に随う。残杯と冷炙 れい しゃ と到 いた る処 とこ ろ 悲辛 ひし 潜ひそむ彼らの飲み残しの杯や冷えた あぶり肉の食べ残しで命を支えていると、至 る所に悲しいことや辛っちいことが待ちかまえ ている」とある。 あしたみちきゆうし 朝に道を聞かば、夕べに死す とも可なり 出論語ろんご 人の道を知ることの重要さを説いた、孔子の ことば。もしも朝、人の生きる道を聞くことができたなら、その夕方に死んでも心残りは ないということ。▶道∥物事の当然の道理。 人としての在り方。 対義 酔生夢死 すいせいむし 朝に夕べを謀らず 出春秋左氏伝 事態がさし迫っていて、先のことを考える余 裕のないことのたとえ。朝のうちから夕方の ことを考える余裕がないという意から。「朝 に夕べを慮 ばか らず」ともいう。 補説出典には「吾が儕ともは、儉食として (我々はろくな仕事もせずに、ただ給与を頂 いており)朝に夕べを謀らず。何ぞ其それ長き をせんや(どうして長い先のことを考えま しようか)とある。 類義 朝夕べに及ばず。 明日は明日の風が吹く あしたあしたかぜふ 先のことを心配してもしかたないので、成り 行きに任せよということ。明日は今日とは 違った風が吹くという意から。先行きを楽観 的にとらえた言葉として使われることが多い。 類義明日のことは明日案じよ。明日は明日 の神が守る。 対義明日の事を言えば鬼が笑う明日知ら ぬ世明日食う塩辛に今日から水を飲む。 英語 Let the morn come and the meat with it. 朝を迎えよう、それとともに食べ 物も 用例長雨で、飢えにひとしい生活をしていると云いう。花壺は入貯ためていた十四円の金を、お母さんが皆送ってくれと云うので為替にして急いで送った。明日は明日の風が吹くだろう。〈林芙美子◆放浪記〉 あしたゆう 朝夕べに及ばず 出春秋左氏伝 朝、夕方のことを考えることができないほど 事態がさし迫っていて、余裕がないこと。 類義朝に夕べを謀はからず。 足駄をはいて首ったけ 異性にほれこんで夢中になること。歯の高い <17> 下駄げたをはいても、首まで沈むほどの深みに はまる意から。△足駄‖歯の高い下駄。 類義竹馬に乗って首ったけ。梯子はしごをかけ て首ったけ。 あしだ 足駄をはく 物の売り買いや人に頼まれた買い物時に、実 際の値段よりも高い金額をつけて、その差額 をかせぐこと。ピンはね。「下駄げたをはく」 ともいう。△足駄=歯の高い下駄。 味無い物の煮え太り あじなものにぶと つまらない物に限って、たくさんあること。 味のよくない物に限って、煮ると量が多くな るという意から。「まずい物の煮え太り」と もいう。 類義 独活 うど の煮え太り。 阿呆 あほ う の煮え太 り。 味も素っ気もない 足の跡はつかぬが筆の跡は残る 足跡はすぐ消えるが、筆跡はいつまでも残る から、文字は気をつけて書かなければならな い、ということ。 足の裏の飯粒をこそげる 極端にけちなことのたとえ。足の裏についた 飯粒まで削り取って食べてしまうことから。 ▶こそげる‖物の表面を削り取ること。ま た、表面に付着した物をこすってはがすこと。 あしだをーあしをけ 何の面白味も味わいもないこと。無味乾燥な さま。マ素っ気=面白味。愛想。 用例「あ、蜘蛛くも!」不意に女が言って、 そして本を読むような味もそっけもない調子 で、「私蜘蛛、大きらいです」と、言った。〈織 田作之助◆秋深き〉 足下から鳥が立つ 身近な所で意外なことが起こるたとえ。また、思い立ったように急に物事を始めるさま。野鳥が草むらの中などに潜んでいて、人間が近づくと不意に足下から飛び立つので驚かされることから。「足下から雉子きじが立つ」ともいう。いろはがるた(京都)の一。 英語Many things happen unlooked for. 予期しなかったことがよく起こるものである 用例何しろ極ごく狭い田舎なので、それに 足下から鳥が飛立つ様な別れ方であったか ら、源助一人の立った後は、祭礼 か、男許ばかりの田植の様で、何としても物足 らぬ。〈石川啄木・天鵞絨〉 あしもとひつ 足下に火が付く だ足下が見える明るいうちに、という意から。 自分の身に危険が迫ること。「足下から火が付く」ともいう。 類義頭から火が付く。 足下の明るいうち 事態が悪化する前に行動せよということ。ま 足下の鳥は逃げる 手近なことに手抜かりがあることのたとえ。 足下の鳥だから自分のものだと思っていたの に、その鳥が逃げてしまうという意から。 足下を見る 相手の弱点を見つけて、つけ込むこと。昔、 街道筋や宿場などで、駕籠昇 かご きや馬方 うま かた などが、旅人の疲れている足下を見抜いて、高 い駕籠賃を要求したことから。 類義足下につけ入る。足下につけ込む。足 下を見てつけ上がる。 用例「そ、そげな、ばかなことが。あんま り人の足もとをみやがるな。三十銭でとっと いて、三十分とたたねえうちに倍の値でーー 〈新美南吉◆最後の胡弓弾き〉 あしかさためそばだ 足を重ねて立ち、目を広てて み 見る 出漢書 相手を非常に恐れ、不安で小さくなっている ようす。左右の足を重ね合わせて立ち、うつ むいて横目で見るという意から。∇目を仄て て見る∥伏し目になって直視できないこと。 あしけずくつてき 足を削りて履に適せしむ 物事の本末を取り違えて無理に物事を行うた 出淮南子えなんじ <18> とえ。また、目先のことにとらわれて、根本 を考えないたとえ。足を削って靴の大きさに 合わせようとする意から。「足を削りて」は 「足を刻こくして」とも、「履に適せしむ」は「靴 に入る」ともいう。「履」は「り」とも読む。 あし し くつ つく 足を知らずして履を為る 出孟子もうし 足を万里の流れに濯う あしばんりなが 人の本性はそれほど違いはない、また、同じ 種類のものは性質も似ていることのたとえ。 人の足の大きさは大体決まっているため、一 人一人の足をはからなくても靴を作ることが できる意から。▼履∥くつ。 ゆったりとして俗世を超越していることのた とえ。一万里もの長い川で汚れた足を洗う。 自然に帰って世俗の汚れを洗い落とす意。 補説詩の題名は『詠史』。この前に「衣を 千仞せんの崗おかに振るい衣服の塵ちりを千仞も ある高い山から振るい落とし」とある。 出左思ー詩 足を棒にする 長時間あちらこちらを歩き回ること。足が疲 れて棒のように硬くなるということから。 足を擂粉木 すり こぎ にする」ともいう。 浅草の方まで行った。毎日勇吉はヘトヘトに 労っかれて家に帰って来た。〈田山花袋◆トコ ヨゴヨミ〉 用例それでも百枚ほどは、足を棒のように して、彼方 かな た 此方 こな た の店に行って頼んで置い て貰もらった。本郷から小石川、牛込、下谷、 足を向けて寝られない 恩を受けた人への感謝の気持ちを表す言葉。 恩人に足を向けて寝ると失礼だということか ら。「足を向けては寝られない」「足を向けら れない」ともいう。 用例わしの今日あるは摩利支天 まりし てん のお恵 みもさる事ながら、第一は恩師鰐口 わに くち 様のお かげ、めったに鰐口様のほうへは足を向けて 寝られぬ、などと言う。〈太宰治◆新釈諸国噺〉 あす おもこころあだざくら 明日ありと思う心の仇桜 人の世の無常、はかなさをいうもの。明日も 桜は咲いているだろうと安心していると、夜 のうちに散ってしまうかもしれないという意 から。∇仇桜∥散りやすく、はかない桜花。 補説「親鸞上人絵詞伝 しんらんしょうに んえことばでん 」にある歌 で、「明日ありと思ふ心の仇桜」のあとに、 下しもの句として「夜半よわに嵐の吹かぬものか は(夜更けに花を散らす嵐が吹かないといえ ようか、そんなことはない)」と続く。 類義 諸行無常。世の中は三日見ぬ間の桜か な。 対義明日 あし は明日の風が吹く。明日のこと は明日案じよ。 あすかがわ 飛鳥川の淵瀬 ふちせ 世の中の変転がはげしいことのたとえ。飛鳥 川が氾濫しやすく、淵と瀬が絶えず移り変 わったことから。△飛鳥川=奈良県の中部 (明日香あす地方)を流れる小さな川。淵=川の 水が深く淀よどんでいる所。瀬=水が浅く、川 の流れが速い所。 補説「古今和歌集」に、よみ人知らずの作として「世の中は何か常なる飛鳥川きのふの淵ぞけふは瀬になる(この世は一体、何が永久不変であろうか、何もかもが移り変わってゆく。飛鳥川の昨日は淵であった所が、今日は瀬に変わっているように)」という和歌がある。また「徒然草つれづれぐさ」にも「飛鳥川の淵瀬常ならぬ世にしあれば」とある。 類義昨日の淵は今日の瀬。 あず預かり物は半分の主 人から預かった物は、半分は自分の物だと 思ってよいということ。「預かり半分」「預か り半分の主」「預かる物は半分の主」ともいう。 類義拾い主は半分。 英語 Possession is worth an ill charter. 占有は不完全な証文ほどの価値はある あずき 小豆の豆腐 あり得ないことのたとえ。豆腐は大豆 ずから 作るもので、小豆からはできないことから。 あすくしおからきようみず 明日食う塩辛に今日から水を 飲む 手まわしがよすぎて、無意味なことのたとえ。 塩辛を食べるとのどがかわくだろうと、前 もって水を飲んでおく意から。「塩辛食おう <19> とて水を飲むともいう。 対義明日 あし た は明日の風が吹く。明日のこと は明日案じよ。 明日知らぬ世 明日はどうなるのか、一寸 先もわからない この世。現世の無常をいう。 類義定めなき世明日の事を言えば鬼が笑 う。 あすあんあしたあした 明日のことは明日案じよ↓明日は明日 かぜふ の風が吹く16 あすこといおにわららいねんこと明日の事を言えば鬼が笑う♩来年の事 明日の百より今日の五十 類義明日 あし は明日の風が吹く。明日は明日 今日は今日。 類義来年の百両より今年の一両。後の百よ り今の五十。先の雁かりより手前の雀 すず。 死し ての千年より生きての一日。 少しでも今手に入るほうがよいということ。 明日手に入る百文の銭よりも、今日確実に手 に入る五十文のほうがありがたい意から。 英語 A bird in the hand is worth two in the bush. 手の中の一鳥は藪やの中の二鳥に値する[An egg today is better than a hen tomorrow. 今日の卵一個は明日の鶏一羽にまれる] 明日はまだ手つかず 明日はまだ手つかずに残っているのだから、 あわてることはないということ。 あすしらーあたって 明日は我が身 今日は人の上、明日は 我が身の上189 あずまおとこきょうおんな東男に京女 男は威勢がよくて粋いきな江戸っ子がよく、女は優美な京都の女がよいということ。「京女に江戸男」ともいう。 補説同類のものは各地に多数あり、比較的 近い土地の男女を組み合わせたものが多い。 類義越前 えち ぜん 男に加賀女。讃岐 き 男に阿波 あわ 女。京女に奈良男。南部男に津軽女。 あずり貧乏人宝 いくら働いても貧乏なままで、自分の稼ぎが 他人の利益になるだけであること。△あずり ∥忙しく働くこと。人宝∥他人の財産。 汗出でて背を沾す ひどく恥じ入ること。背中一面に冷や汗をか く意から。 類義 冷汗三斗 れいかん。 さんと あぜ ゆ た ゆ おな 畦から行くも田から行くも同 じ 手段や方法は違っても、結果は同じだということ。畦道を通って行っても田を踏んで行っても、行き着く所は同じという意から。「田から行くも畦から行くも同じ」「田歩くも畦 歩くも同じ「畦走るも田走るも同じこと」「田 を行くも畦を行くも同じ道」「尾から行くも 谷から行くも同じ事」ともいう。 顔義一早牛も定よど、屋牛も定。 類義 早牛も淀よど、 遅牛も淀。 遊びに師なし いろいろな遊び事は、だれに教えられなくて も、自然に覚えるものだということ。「遊ぶ に師なし」ともいう。 あだし野の露、鳥辺野の煙 人の世の無常、はかなさのたとえ。墓場の露 となり、火葬場の煙となって消えていく意か ら。∇あだし野=京都の嵯峨野 の奥にあつ た火葬場・墓地。「仇野」「徒野」とも書く。 鳥辺野=京都の東山のふもとにあった火葬 場。「鳥部野」とも書き「鳥辺山」とも呼ば れる。 あ 当たった者の、ふの悪さ たまたま当たった者が、運が悪かったという こと。同じ物を食べたのに、中毒を起こした 者と起こさない者が出た場合とか、大勢が違 反しているのに、一部の者だけが見つかって 罰せられる場合などに用いる。△ふニ運。 当たって砕けろ 失敗してもかまわないので、とにかく思い 切って決行せよということ。「当たって砕け よ」ともいう。 用例私もこうなればイマイマしい。その肚 <20> はら ならば、こっちもママヨ、当あたって砕けろ と、悪度胸をきめて、何食わぬ顔、衣子を訪 ねた。〈坂口安吾◆ジロリの女〉 あだへいかとうかてもたら 寇に兵を藉し、盗に糧を齎す 出史記しき 对義 一拳兩得。 一石二鳥。 敵に利益を与え、味方の損害を大きくすることのたとえ。敵に武器を貸し、盗賊に食糧を与える意から。「盗に糧を齎す」「盗人に糧を齎す」ともいう。マ寇∥外敵。兵∥武器。齎す∥与える。 故事秦しんが、他国出身の大臣を国外に追放 する法令を発令しようとしたとき、楚そ出身 の大臣の李斯りしが、それは有能な人材を敵国 に行かせ、結果として秦の国力を弱め、敵に 利益を与えることになると言って反対した。 類義敵に糧。 あだばな ひ花に実は成らぬ 見かけがよくても、内容がしっかりしていなくては、成果は上がらないということ。どんなに美しい花を咲かせても、実がならなければしかたがない意から。▶仇花‖咲くだけで、実のならない雄花。 あたまお 頭押さえりや尻上がる 両方うまくはいかないということ。頭を押さ えれば尻が持ち上がるように、一方がうまく いけば他方がうまくいかなくなる意から。 類義彼方 あち 立てれば此方 こち が立たぬ。右を 踏めば左が上がる。 頭が動けば尾も動く 上に立つ者が率先して行動すれば、下の者も それに従って行動するということ。「頭」は 「かしら」とも読む。 類義頭かしが動かねば尾が動かぬ。頭が回ら にや尾が回らぬ。 頭隠して尻隠さず 悪事や欠点などの一部だけを隠し、全体を隠 したつもりでいることのたとえ。雉きは追わ れると草むらの中に頭を突っ込むが、長い尾 が外へ突き出て丸見えになっていることか ら。いろはがるた(江戸)の一。 類義雉の隠れ。柿を盗んで核さねを隠さず。身を隠し陰を露あらす。頭かし隠して尾を出す。英語The foolish ostrich buries his head in the sand and thinks he is not seen. [愚かなだちょうは頭を砂の中に隠し、他から己れの姿を見られていないと思っている] You dance in a net and think nobody sees you. [網の中で踊っているのに、だれも見ていないと思っている] 頭から火が付く 危険や災難が身に迫っていることのたとえ。 「頭から火の付く」ともいう。 類義 足下に火が付く。 あたまそ と。頭を剃って姿だけ僧になるよりも、心の 中を清らかにして、仏道に精進せよという意 から。「頭」は「かしら」とも読む。 頭剃るより心を剃れ 外見より精神のほうが大事であるというこ 類義衣を染めんより心を染めよ。袈裟けさと 衣は心に着よ。 あたま 頭でっかち尻つぼみ 最初は威勢がいいが、最後にはだらしがなく なること。「頭でっかち尻すぼり」ともいう。 また、「頭でっかち」だけでも用いられる。 類義竜頭蛇尾。 対義始めは処女の如ごとく、後は脱兎だの如 し。 あたまうえ 頭の上の蠅を追え 他人のことの前に、自分自身のことをきちん とせよということ。おせっかいをする人に対 して、軽蔑する気持ちを表す。「人の蠅を追 うより我が蠅を追え」「人の頭の蠅を追うよ り我が頭の蠅を追え」ともいう。「頭の上」 は「己の頭」「自分の頭」「我が頭」ともいう。 類義高嶺たかの花を羨うらむより足下の豆を拾 え。人の事より足下の豆を拾え。めいめい自 分の洟はなをかめ。 英語 Let every man skin his own skunk. 各々自分のスカンクの皮をはぐがよい 頭の黒い鼠 家の物を盗む人のたとえ。頭髪の黒い人間を 鼠になぞらえていう。 用例そんな遠歩きする鼠の話はこの年にな るまで聞いたことがありませんよ。大方、頭 <21> の黒い鼠がひいたものだろうよ。〈坂口安 吾・鼠の文づかい〉 あたまぬ 頭の濡れぬ思案 先のことよりも、いま自分の身に及んでいる 問題を考えることが肝心だということ。いま 降っている雨に頭が濡れないような手立てを 考えることが必要だという意から。 頭禿げても浮気は止まぬ 人間は年をとっても浮気心や道楽の癖はおさ まらないということ。 類義雀 すず め 百まで踊り忘れず。 あだなさわみで 仇も情けも我が身より出る 人から憎まれたり愛されたりするのは、自分 の心がけ次第だということ。 類義身から出た錆さび。因果応報。 あたら たたみ たた 新しい畳でも叩けばごみが出 る どんなに立派なものでも、どこかに多少の手 落ちや欠陥はあるものだということ。 類義叩けば埃が出る。 あたら さけあたら かわぶくろも 新しき酒は新しき革袋に盛れ 新しい思想や内容を表現するには、新しい形 式や方法をとるべきだということ。 補説新約聖書マタイ伝第九章の一節。 新しき葡萄酒 ぶどう を古き革袋に入ることは 為せじ。もし然しかせば袋張り裂け、酒ほとば しり出いでて袋もまた廃すたらん。新しき葡萄 酒は新しき革袋に入れ、かくて両ふたつながら (両方とも)保つなり」による。この「新しき 葡萄酒」は、それまでのユダヤ教に代わるキ リスト教のこと。 あたまのーあちらた 類義 古き皮袋に新しい酒は盛られぬ。 対義 新しい酒を古い革袋に盛る。 いえどとお 中らずと雖も遠からず 出大学 ぴたりと当たってはいないが、大体予想した とおりであることのたとえ。射た弓がそれほ ど外れていない意から。「中らず」は「当た らず」とも書く。 補説出典には「心誠に之これを求むれば(君 主がまごころをもって一家を治める慈愛の徳 をしき及ぼすことを求めれば)中らずと雖も 遠からず」とある。 用例これによってこれをみれば、杜若 ばた をショウガ科のハナミヨウガに当てた貝原益 軒の意見は、それは当たらずといえども遠か らざる説ではあれど、しかし益軒の卓見がう かがい知られる。〈牧野富太郎◆カキツバタ 一家言〉 当たらぬ蜂には刺されぬ 自分から進んで危険に近づかなければ無事で あるたとえ。蜂の巣を突いたりしなければ、 蜂に刺されることはないという意から。 類義触らぬ神に崇たりなし。 ようとしても、神様は見のがさないという戒 め。▶薦‖わらで粗あらく織ったむしろ。 あ 当たる罰は薦着ても当たる 悪いことをすれば、薦をかぶって罰をのがれ 類義当たる罰は桶おけをかぶっても当たる。 天網恢恢てんもう かいかい 疎にして漏らさず。当たる罰は すり鉢。 あ はっけ 当たるも八卦、当たらぬも八卦 占いは、当たることもあれば当たらないこと もある。悪い卦が出たとき、気にするなという 意。また、試しにやってみよ、という意に も用いられる。△八卦占いのこと。 類義当たるも不思議、当たらぬも不思議。 合うも不思議、合わぬも不思議。合うも夢、 合わぬも夢。八卦のやつ当たり。 用例)毎朝会社のお出がけにお寄りになって、其その日其日の吉凶を見る方もあります。然しかしむかしから当あたるも八卦、当らぬも八卦という事がありますから、凶の卦に当ってもあまりお気におかけなさらん方がよいです。〈永井荷風◆つゆのあとさき〉 彼方立てれば此方が立たぬ 物事を両立するのはむずかしいということ。 一方を立てると、もう一方が立たない意から。 つづけて「双方立てれば身が立たぬ(両方に よくしようとすると、自分の身が保てなくな る)」ともいう。 類義彼方によければ此方の怨うらみ。頭押さ えりや尻上がる。出船によい風は入り船に悪 い。 <22> あつうん きょく 遏雲の曲 空を流れて行く雲を止めるほどの、すばらしい音楽。また、美しい歌声のこと。△遏=さえぎり止めること。 出列子れっし 故事 秦しんの薛譚 せっ たん という人が、秦青 しん せい とい う名人に歌を習っていたが、まだ全部教わっ ていないのに、薛譚は学びつくしたと思い込 んで故郷に帰ろうとした。秦青は引き止めず 町外れまで見送り、別離の悲しみを歌ったと ころ、その歌声は林の木々をゆるがし、その 響きは空を行く雲を止めるほどすばらしかっ た。これを聞いた薛譚は自分の浅はかさをわ びて、再び秦青のもとに戻って歌を習い、二 度と故郷に帰るとは言わなかった。 あっかりようかくちく 悪貨は良貨を駆逐する 同じ名目価格を持つ良貨と悪貨が同時に流通 する場合、良貨はしまい込まれて姿を消し、 悪貨だけが使われるようになる。転じて、悪 人がはびこる世の中では善人は住みにくいと いう意にも用いる。グレシャムの法則。 補説)グレシャムは一六世紀イギリスの財政 家・貿易商で、これはエリザベス一世に提出 した意見書中のことば。英語ではBad mon- ey drives out good. 詩文などでもっともすぐれた作。転じて、小 説や演劇、芸術作品などの中でもっともすぐ れている箇所。∇巻∥答案用紙。 故事 昔、中国で行われた科挙 かき よ 官吏登用 試験)で、もっともすぐれた答案を他の答案 の上に置き、他を圧したという故事による。 宋そうの范仲温はんちゅうおん「潜渓詩眼せんけい」に、前賢 がみな杜甫とほの詩を評価して巻首に置き、圧 巻とした、とある。 呆気に取られる 意外なことに驚きあきれて、言葉を失う。 呆気=驚きあきれてぼんやりした状態。 用例あまりの不思議さに、人々はあっけに とられました。次には夢中になって喝采しま した。〈豊島与志雄◆手品師〉 あっかん圧巻 熱けれども悪木の陰に憩わず 出陸機ー詩 どんなに困っても、悪い行いはしないという こと。また、高い志を持つ者は、悪人には近 づかないということ。いくら暑くても、悪い 木の下では休まないという意から。 補説出典の詩の題名は『猛虎行』。「渇 すれども盗泉 とう の水を飲まず(どんなに困っ ていても不正なものを欲しがらず)、熱けれ ども悪木の陰に息いこわず」とある。 類義悪木盗泉。 暑さ寒さも彼岸まで 夏の暑さも秋の彼岸ごろまで、冬の寒さも春 の彼岸ごろまでの意で、それ以後はしのぎや すい気候になるということ。「暑い寒いも彼 岸まで」「暑さ寒さも彼岸ぎり」「寒さの果て も彼岸まで」ともいう。 あつわすかげわす暑さ忘れて陰忘る 苦難が過ぎると、助けてくれた人の恩義を忘 れてしまうこと。暑さが過ぎ去ると、涼し かった物陰のありがたみを忘れる意から。 「暑さ忘れりゃ陰忘れる」ともいう。 類義 喉元 のど もと 過ぎれば熱さを忘れる。雨晴れ て笠かさ を忘る。病治りて医師忘る。 あったら口に風邪ひかす くち かぜ 親切で言ったことがむだになることのたと え。「あたら口に風を入る」「無用の口に風邪 ひかす」ともいう。▷あったら∥「あたら」 の転で、惜しいことにの意。口に風邪ひかす ∥言ったことがむだになる意。 あ じごく 有って地獄、無くて極楽 財産と子供は、あればそれ相応の苦労がある から、結局、ないほうが気楽だということ。 「無くて」は「無のうて」ともいう。 類義 有っても苦労、無くても苦労。 あ 有っての厭い、亡くての偬び いと な しの しの の厭い、亡くての偬び 31 あ くろう な くろう 有っても苦労、無くても苦労 財産と子供は、あればそれ相応の苦労がある し、なければないで苦労するということ。 熱火、子に払う あつびこはら 危急の場合には極端な利己心が現れることの たとえ。自分の身に飛んできた火の粉を、我 <23> が子のほうに払いのけて熱から逃れようとす る意から。「熱火、子にかく」ともいう。 類義跳ね火、子に払う。 あつものこ なますふ 羹に懲りて膾を吹く 出楚辞そじ 一羹に徳りて膾を吹く 矢敗に懲りて、必要以上に用心することのた とえ。熱い吸い物で口をやけどした者が、そ れに懲りて冷たいなますまでも吹いてさます 意から。∇羹∥野菜や魚肉などを入れて作る 熱い吸い物。膾∥なます。酢などで味つけを した冷たいあえ物。もとは、魚や獣の生肉を 細かく切ったもの。出典の原文では「羹」は 「熱羹」、「膾」は「蜷せい」(あえもの)の字を 用いている。 類義蛇に噛かまれて朽ち縄に怖じる。黒犬 に噛まれて灰汁あの垂れ滓かすに怖じる。 英語 The burnt child dreads the fire. 傷やけをした子供は火を怖がる He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope. 蛇に噛まれた者は縄を怖がる 用例 十人は十人の因果を持つ。羹に懲りて 膾を吹くは、株しゅを守って兎ぎを待つと、等 しく一様の大律に支配せらる。〈夏目漱石◆ 虞美人草〉 あごとえっちゅうふんどしむ 当て事と越中 褌は向こうか はず ら外れる こちらが勝手に当てにしている物事は、相手 の都合で外れることが多いということ。「越 中褌と当て事は向こうより外れる」「当て事 と褌は向こうから外れる」「当て事は向こう あつものーあとはの から外れる」ともいう。▷当て事‖当てにし ていること。越中褌‖長さ一メートルほどの 小幅布にひもを付けた褌。一端にはひもが付 いていないから、体の前のほう、つまり向こ うから外れやすい。 あとあしすな 後足で砂をかける 恩義を受けた人を裏切るだけでなく、去りぎ わに迷惑や損害を与えることのたとえ。犬や 馬などが、駆け出すときに後足で土砂をはね 上げるようすから。 類義恩を仇あだで返す。後は野となれ山とな れ。飼い犬に手を噛かまれる。 対義立つ鳥跡を濁さず。 跡追う子に引かれる ろのほうの雁が前に出るようすから。「雁」は「かり」とも読む。 親のあとを追う子への愛情に引かれること。 夫婦としての未練はないのに、子供への愛情 から離婚に踏み切れない、主として女性の心 情を表したことわざ。 あと 後から剝げる正月言葉 よそゆきのことばやうわべを飾ったお世辞 は、化けの皮がすぐはがれるということ。△ 正月言葉Ⅱ正月に用いる体裁のよいことば。 転じて上品ぶったことばや、お世辞のこと。 後から来た者が、先を行く者を追い越したり、 後輩が先輩を追い越して出世したりするこ と。また、年下の者が先に死んだりする場合 にもいう。雁が一列に並んで飛びながら、後 後の雁が先になる あとけんかさき 後の喧嘩先でする あとでもめごとが起こらないように、もめそ うな事柄について事前に十分議論を交わして おくこと。面倒な用件を切り出す場合の前置 きのことばとしても用いられる。 時期遅れのことや手遅れのこと。もう祭りが すんでしまった日、あるいは祭りの終わった あとの山車だしや祭事用具という意から。 補説一説に、死後の祭りと解して、死後ど んなに手厚く故人を祭っても仕方がない意に もいう。 類義六日の菖蒲 あや、 十日の菊。 証文の出し 遅れ。 後薬 あとぐ。 すり 英語 The bird is flown. 鳥は飛んで行っ てしまった 用例「とにかく医者に早く連れて行かな きゃ駄目だ。見ろよ、大ダイ一本も入れるか ら、俺が危いって云ったじゃないか」だが、 怪我けがをした以上は何もかも後の祭であっ た。〈葉山嘉樹◆万福追想〉 後は野となれ山となれ 後のことは自分の知ったことではない、という開き直りの気持ちを表すことば。「末は野となれ山となれ」「先は野となれ山となれ」ともいう。 類義旅の恥は掻き捨て。 <24> 対義立つ鳥跡を濁さず。 英語 After us the deluge. 私たちのあと には洪水(が来るなら来い) 用例京師 けい の地子銭 じし せん を免除したり相当政 治的なことをやった以上、信長を殺せば後は 野となれ山となれ的な棄鉢 すて ばち でやった事では ない。〈菊池寛◆山崎合戦〉 後腹が病める 物事が終わったあとも、関連した悩まされる ことがあること。出産したあとも、しばしば 腹に痛みがある意から。「後腹病む」ともい う。∇後腹∥出産後の腹。 あと あとひゃく いまごじゅうあすひゃくきよう 後百より今五十↓明日の百より今日の ごじゅう 五十 19 阿堵物 後へも先へも行かぬ 金銭。銭のこと。 補説「阿堵」は中国の六朝りくち・唐代の俗語 で、「これ・それ・この・このもの・そのもの」 などの意。晋しんの王衍おうが銭というものを 嫌って「このもの・そのもの」と呼んだため に、金銭の別名となった。 故事)中国晋の王衍は、日ごろから妻が金銭に貪欲なことを嫌い、「銭」という語を決して口にしなかった。妻はなんとしても言わせようと思い、下女に命じて夫の寝台の周りに銭を敷きつめて歩けないようにしておいた。翌朝起きてそれを見た王衍は、下女を呼んで「このものをすっかり片づけよ」と命じ、やはり「銭」という語は使わなかったという。 出世説新語 進退きわまって、どうにも動きがとれないよ うす。後ろへ下がることも、前に進むことも できない意から。 類義 進退これ谷 きわ まる。 あとめっ 迹を滅せんと欲して雪中を走 しようと思うことと、実際にすることが、相 反することのたとえ。足跡を隠そうとして雪 の中を逃走し、かえって足跡を残してしまう という意から。 出淮南子えなんじ 穴があったら入りたい 出賈誼新書 失敗などをして、穴があったら入って人目を 避けたいほど、恥ずかしくてたまらないよう す。「穴があれば入りたい」ともいう。 補説出典には「穴をして入るべからしめ よ(穴があったら入りたい)」とある。 に穴蔵に入って聞くのは臆病者 だという ことから。 用例 先日、私の甘い短篇 小説が、ラジオ で放送された時にも、私は誰にも知られない ように祈っていました。ことにも、君に聞か れては、それこそ穴あらば這入はいらなければ ならぬ気持でした。なかなか、あまい小説で した。〈太宰治◆ろまん灯籠〉 穴蔵で雷聞く 必要以上に用心深いことのたとえ。雷のとき 侮る葛に倒さる 相手を馬鹿にしてかかると、思いがけず痛い 目にあうということ。葛は弱いと思って油断 すると、その葛に足を引っかけて倒されると いう意から。∇葛∥つる草の総称。 類義卑いやしむ金木 かな ぎ で目を突く。山に躓ず かずして垤てに躓く。長芋で足を突く。 彼方を祝えば此方の怨み 一方の幸福は、他方の不幸となる。両方によ いようにするのはむずかしいということ。 類義彼方 あち 立てれば此方 こち が立たぬ。 穴の端を覗く 死期の近いたとえ。墓穴をのぞく意から。△ 穴=墓穴。 類義穴端に腰をかける穴端が近い。 あなむじなねだんとたぬきかわざんよう 穴の絡を値段する挿らぬ狸の皮算用 3 473 穴を掘って言い入る 他人に話せないことを、穴を掘ってその中に 思い切り叫んで埋めてしまうこと。 姉女房は身代の薬 夫より年上の女房は家計のやりくりがうま く、夫の扱いも上手なので、家庭が円満であ ること。「姉女房は世帯 しょ たい の薬」ともいう。 <25> 類義姉女房蔵が建つ。姉女房は子ほど可愛 かわがる。篦増へらしは果報持ち。 あねすげがさいもとひがさ 姉は菅笠、妹は日傘 嫁ぎ先次第で境遇に大きな差ができるという こと。農家に嫁いだ姉は菅笠をかぶって働き、 裕福な家に嫁いだ妹は日傘をさして優雅に暮 らすということから。▷菅笠ニスゲの葉で編 んだ笠。農作業の時などに、日よけに使う。 あの声で蜥蜴食らうか時目 物事は外見と違う場合が多いことのたとえ。 あの美しい声で鳴く時鳥が蜥蜴を捕らえて食 うのには驚かされるという意から。江戸時代 の俳人、榎本其角 きかく の句。 類義人は見かけによらぬもの。蛇食うと聞 けば恐ろし雉きじの声。 よせんにち あの世千日、この世一日 現世の応報としてあてにならない死後の世界 で千日楽しむより、一日でもこの世で楽しん だほうがよいということ。 類義死しての千年より生きての一日。 あばもっちょくなものにく 訐きて以て直と為す者を悪む て勇と為す者(傲慢 まん でいて勇者ぶる人)を悪 む」とある。 他人の秘密をあばき立てて、自分ではそれを 正しいことだと思っている人を憎むこと。 補説出典には、この前に「徼かすめて以て知 と為す者(他人の考えをかすめ取って自分が 知恵者だと思う人を悪む。不孫ふそにして以 出 論語 ろんご あねはすーあぶない あばた 痘痕も驕 えくぼ 好きになった相手のことは、どんな短所でも 長所に見えるということ。醜いあばたでもか わいいえくぼに見えるという意から。▷痘痕 ‖ 疱瘡 ほう そう の治ったあとに残る痕あと。「痘痕も 靨」の前に「好いた目からは」や「惚れた 欲目には」を付けて用いられることもある。 「類義」愛してその醜しを忘る。 英語 Love covers many infirmities. は多くの欠点をおおい隠す 用例ひよろ松というのは、むかしの弟子。 あるいは手下。菊石 あば た も笑靨 えく ぼ で、どこに惚 ほれ 込んだのか、こんなに成下っても、先生と か阿古十郎さんとか奉って、むずかしい事件 がもちあがるとかならず智慧ちえを借りに来 る。〈久生十蘭◆顎十郎捕物帳〉 が、鴨のような気位を持つという意から。「家 鴨も鴨の気位」ともいう。 阿鼻叫喚 非常に悲惨でむごたらしいさま。もとは阿鼻 地獄と叫喚地獄の意。マ阿鼻ニ「阿鼻地獄」 の略で、仏教の八大地獄の一つ。間断なく苦 しみを受け続ける地獄。叫喚ニ「叫喚地獄」 の略で、仏教の八大地獄の一つ。熱湯や猛火 の責め苦のために叫び声を上げる地獄。 あひる 家鴨の鴨の気位 きぐらい 大したこともない者が、プライドばかりが高いことのたとえ。かっこうのよくない家鴨 危ない事は怪我のうち 危険なことには怪我がつきものだから、最初 から近づかないほうがよいという教え。 類義君子危うきに近寄らず。 対義虎穴に入らずんば虎子を得ず。 危ない所に登らねば熟柿は食 ところのぼ じゅくしく えぬ 何事も危険をおかさなければ、多くの利益や 思いどおりの結果は得られないということ。 熟柿は木の上のほうに実るので、それを取る ためには高い所に登らなければならないこと から。∇熟柿Ⅱよく熟した甘い柿。 類義虎穴に入らずんば虎子を得ず。 対義君子危うきに近寄らず。 危ない橋も一度は渡れ いつも冒険を避けていては、成功できない。 一度はそれを承知の上で危険なこともしてみ よ、ということ。 類義危ない所に登らねば熟柿は食えぬ。 虎穴に入らずんば虎子を得ず。 危ない橋を渡る あぶはしわた 目的を達成するために、あえて危険な手段を 用いて物事を行うことのたとえ。いつ落ちる かわからない危険な橋を渡る意から。 対義石橋を叩たいて渡る。 <26> あぶはちーあまいこ 用例鼻たれ小僧の時から使われて、権右衛 門 おやっ さん のためには随分危 あぶ な い橋も渡って来た 春松なのだ。権右衛門のことを想 おも う念は一 番強いともいえる。〈織田作之助◆俗臭〉 あぶはちと 虻蜂取らず 欲張って、結局は何一つ得られないことのた とえ。虻と蜂を両方同時に捕らえようとし て、二つとも取り逃がしてしまう意から。 類義一も取らず二も取らず。花も折らず実 も取らず。二兎にとを追う者は一兎をも得ず。 対義一挙両得。一石二鳥。 英語 Between two stools the tail goes to ground. 二つのいすの間で尻もちをつく 用例 いくら直接生産に当たる仕事を讃美 してみたところで、身体 がいうことを利か ず、頭が働かなけりゃ仕方がない、結局虻蜂 とらずで惨めな思いをするばかりだと思うと やっぱり現状維持より方法はない。〈辻潤 ですぺら 蚣もたからず だれも寄りつかないことのたとえ。よく人に たかってくる虻さえも寄ってこないという意 から。「虻もたからぬ」ともいう。 虻も取らず蜂に刺される 何の得るところもなく、その上損害を受ける こと。「虻蜂取らず」よりもっと悪い状態。 あぶらがみみずそそ 油紙に水を注ぐよう ねつけることのたとえ。油紙に水を注ぐと、 はじいてしまうことから。「油に水を注ぐよ う」ともいう。 他人の言うことをいっさい聞こうとせず、は 油紙へ火の付いたよう 物の燃えやすいたとえ。また、ぺらぺらとよ くしゃべるさま。油紙に火が付いて、勢いよ く燃えるようすから。「油紙に火の付いたよ う」「油に火の付いたよう」ともいう。 類義油のきいた口車。 あぶらえがこおりちりば 脂に画き氷に鏤む ともいう。 苦労しても効果のないことのたとえ。骨折り 損。脂肪に絵を描き氷に彫刻しても、すぐに 消えてしまうところから。「氷に鏄め脂に画 く」ともいう。△鏄む∥彫刻すること。 出塩鉄論 補説出典には「内にその質無くして、外にその文を学ぶ。賢師良友有りと雖いえも、脂に画き冰りこおに鏄むが若ごとし。日を費やし功を損す(自分に素質がないのに、表面的に学問をする。これでは、賢い先生やよい友人がいたとしても、脂肪のかたまりに絵を描き、氷に彫刻するように、すぐにあとかたもなく消えてしまう。日数を費やしても成果があがらず、むだになってしまう」とある。類義氷に鏄め水に描く。水に絵を描く。行く水に数書く。流れ川を棒で打つ。 類義木に竹を接っぐ。 気が合わず仲が悪いことや、異質でとけ合わないもののたとえ。油と水はとけ合わないことから。「水に油」「油に水の混じる如ごとし」 あぶら油に水みず あぶら油を売る むだ話をして時間を過ごすこと。また、仕事 を怠けることのたとえ。 油を以て火を救う 事態をさらに悪化させることのたとえ。火を 消そうとして油を注げば、いっそう燃えさか る意から。 油を以て油煙を落とす あふらもーぬえんお 同じ種類・性質のものをうまく利用して、効 果を上げることのたとえ。油を燃やして出た すすを、油を使って落とすことから。 類義毒を以て毒を制す。 あほうつくすりばかつ 阿呆に付ける薬はない馬鹿に付ける くすり 薬はない518 阿呆の一徹 愚かな者が、つまらぬことにこだわって頑固 にそれを押し通そうとすること。 雨上がりの薬缶照り 雨がやんだ後、かんかん照りのよい天気にな ること。 甘い粉にもせる 好都合なことに出合って喜ぶあまり、失敗す <27> ること。甘い粉は人の心を喜ばせ油断させる ことから。 自分は苦労しないで、他人を利用して利益だ けを得ること。 類義旨うまい汁を吸う。 (用例)彼は食うものを作りながら、誰だれか に甘い汁を吸われているのだった。呉服屋 も、その甘い汁を吸っている者の一人である。 〈黒島伝治◆窃む女〉 甘い物に蟻がつく うまい話や利益のあるところに人が集まるこ とのたとえ。甘い物には蟻がたかることから。 類義蟻の甘きに付く如ごとし。窪くぼい所に水 溜たまる。 あまぐりひ雨栗日柿 雨の多い年には栗の実りがよく、日照りが続 いた年には柿の実りがよいということ。 あまだいしうが 雨垂れ石を穿つ 出枚乗ー上レ書諫二呉王ー 小さな力でも根気よく努力すれば、いつかは 成果が得られることのたとえ。雨垂れが長い 間同じ所に落ちていると、ついには石に穴を あける意から。「泰山の霊だれは石を穿つ」 「点滴石を穿つ」「水滴石を穿つ」「水滴 たりて石を穿つ」ともいう。 あまいしーあみどん たんき の統こうは幹 いげ を断つ(すり切れるまでに なった井戸の釣瓶べの縄も長い間井桁 いげ をこ すっているうちに、井桁をすり減らしてしま う)とある。 類義鉄杵 てっ しょ を磨く。斧 おの を研といで針にす る。思う念力岩をも徹とお す。塵ちりも積もれば 山となる。 英語Constant dipping wears the stone. 絶えず垂れ落ちる滴しずは石にさえ穴を開け る あまだ雨垂れは三途の川 家から一歩外へ出れば、どんな災難や危険が あるかわからない。雨垂れが落ちる軒下を、 この世とあの世を隔てる三途の川に見立てて いう。「雨垂れ落ちは三途の川」ともいう。 類義男子家を出ずれば七人の敵あり。 あまよ雨夜の月つき 想像するだけで、実現しないことのたとえ。 雨の降っている夜にも月はあるが、目には見 えないことから。あり得ないと思っていたこ とが、まれにあったときにも用いられる。「雨 夜の星」「雨の夜にも星」ともいう。 あまさむかぜい 余り寒さに風を入る 目先のことに気をとられ、後先を考えずに行 動し、今まで以上にひどい目にあうこと。 補説あまりの寒さに耐えかねて、軒や垣根 の木をこわして燃やして暖まった者が、今ま で以上に寒風に吹きさらされることになった という昔話から。 あまちゃふくのこものふく 余り茶に福あり♡残り物に福がある513 あままろ やす 余り円きはまろび易し 人柄があまり円満すぎるのも善し悪しで、少 しは角かどがあったほうがよいということ。 「あまり円いと転げやすい」ともいう。△ま ろぶ‖転がる、転ぶという意。 補説 円くとも一角 ひと かど あれや人心」に続け て言われる。 あまものふく 余り物にも福がある↕残り物に福があ る513 あみだひかりぜにしだいあみだぜにひか 阿弥陀の光も銭次第↓阿弥陀も銭で光 る27 阿弥陀も銭で光る あみた せに しか 金銭の威力が絶大であることのたとえ。阿弥 陀様のご利益ぐりやさえも、供えるお布施の多少 によって違うということから。「阿弥陀の光 も銭次第」「金の光は阿弥陀ほど」ともいう。 ▶阿弥陀‖極楽浄土に住み、念仏を唱えれば 極楽に往生できると説く仏。 類義地獄の沙汰さたも金次第。金さえあれば 飛ぶ鳥も落ちる。仏の光より金の光。 あみ どんしゅう うお も あみ とんしゅう も 綱、 呑舟の魚を漏らす 出 史記 法律の網が大まかなため、大悪人や大罪人を 取り逃がしてしまうことのたとえ。網の目が 粗くて、舟を呑のみ込むほどの大魚まで漏ら してしまう意から。∇呑舟の魚∥舟を呑み込 <28> むほどの大魚で、ここでは大悪人をさす。 類義綱にかかるは雑魚ざこばかり。 対義天に眼 天道様 てんと うさま は見通し。天罰 覿面 てんばつ。 てきめん 天網恢恢 てんもう かいかい 疎にして漏らさず。 あみな ふち 網無くて淵をのぞくな 出抱朴子ほうぼくし 十分な準備をしないで物事を行っても成功しないことのたとえ。また、努力もせずに他人の成功をうらやんではならないという戒め。網の用意もしないで、魚をとろうと淵をのぞいても、魚がとれるわけがないという意から。「網持たずの淵のぞき」「網無くて淵にのぞむな」「網を持たずに海をのぞくな」ともいう。補説出典には「夫それ学ばずして知を求むるは、猶なお魚を願いて網無きがごとし。心勤むと雖いも獲とること無し心は先走っても収穫はないものだ」とある。 あみ網にかかった魚うお どうすることもできない状態にあることのた とえ。「網の鳥」「網の魚」ともいう。 類義袋の鼠ねず。 あみ綱の目から手 “X0”11 希望する者が多いこと。引く手あまたである こと。網の目は数が多いことから。「網の目 より手」「網の目から手が出る」ともいう。 あみめかぜ 網にかかるは雑魚ばかり 悪いことをしても、捕らえられるのは小物ば かりで、大物は巧みに法の網をくぐりぬけ、 なかなかつかまらないこと。大金や強い権力 を持つ者が罪を逃れてしまうことを嘆く意味 で用いられることが多い。△網‖法の網。 類義網、吞舟の魚を漏らす。 網の目に風たまらず むだなことのたとえ。網で風を防ごうとして も吹き抜けてしまうことから。「網の目に風と まらず」ともいう。△たまらず∥とまらない。 類義籠かごで水汲くむ。笊ざるに水を入れる。 対義網の目に風とまる。 網の目に風とまる あり得ないこと、不可能なことのたとえ。風 は網を吹き抜けてしまうことから。あり得な いことが、まれにあったときにも用いられる。 「網の目に風たまる」ともいう。 類義雨夜 あま の月。雨の夜にも星。蚊帳かや 目に風たまる。 対義網の目に風たまらず。 あめいせんそう蛙鳴蟬噪 出蘇軾ー詩そしょくし 無駄な表現が多く、内容の乏しい議論や文章。 蛙 かえ や蟬せみが騒がしく鳴き立てるように、騒 がしいだけでなんの役にも立たないという意 から。△噪=騒がしく鳴く意。 れるという意から。「黄牛に腹突かる」「牝牛 に腹突かれる」ともいう。∇黄牛∥牝牛の別 名。飴あ色の毛の牛で、性質は温順。 黄牛に腹突かれる 軽く見ていた相手にやりこめられることのた とえ。角もなくおとなしい牝牛 しに腹を突か 雨が降ろうが槍が降ろうが どんな困難があろうと必ず実行するという決 意を表すことば。「雨が降ろうと槍が降ろう と」「雨が降っても槍が降っても」ともいう。 類義火が降っても槍が降っても。石に噛かじ りついても。 出塩鉄論 世の中が平穏無事であることのたとえ。雨が 静かに降り、土の形をこわさない意から。「塊 を破らず」は「塊を動かさず」「塊を犯さず」 ともいう。∇塊∥土のかたまり。土くれ。 補説出典には、このあとに風、条えだを鳴 らさず(木の枝を鳴らすほどの大風も吹かな い)」とある。 類義雨塊を潤す。吹く風枝を鳴らさず。五 風十雨。 あめ飴で餅もち 飴をつけて餅を食べるように、話がうますぎ ること。きわめて都合のよいこと。「飴で餅 を食う」ともいう。 あめ飴と鞭むち しつけなどをするときに、甘やかす面と厳しくする面との両方を備えていることのたとえ。また、おだてたり力でおどしたりして、人を支配することにもいう。 <29> あめかみあらかぜくしけずしっぷうもくう雨に沐い風に櫛る櫛風沐雨295 あめ ぬ つゆおそ 雨に濡れて露恐ろしからず 大きな災難に遭った者は、少しぐらいの難儀 では何とも思わないことのたとえ。いったん 雨にぬれたあとは、露にぬれるくらいは平気 だという意から。 類義 濡れぬ先こそ露をも厭いとえ。 あめふひてんきわる 雨の降る日は天気が悪い 当たり前のこと、わかりきったことのたとえ。 当然のことをもっともらしく言う人に対する 皮肉として用いる。 類義犬が西向きや尾は東。北に近けりゃ南 に遠い。雉のめんどりゃ女鳥。兄は弟より 年や上だ。親父は俺より年が上。 あめ雨の夜にも星ほし ふつうにはあり得ないと思われることが、ま れにはあることのたとえ。雨の降る夜はふつ う星が見えないが、まれに雲の切れ目から星 の見えるときがあることから。 のお陰で助かったのに、晴れると笠のありが たみを忘れてしまう意から。「忘る」は「忘 れる」ともいう。 類義雨夜あまの月。網の目に風とまる。 雨は花の父母 雨は花を育てる両親のようなものだというこ と。雨によって芽が育ち、花が開くことから。 あめは かさわす 雨晴れて笠を忘る 類義暑さ忘れて陰忘る。魚を得て筌せんを忘 る。喉元のど過ぎれば熱さを忘れる。 困難が過ぎてしまうと、そのときに受けた恩 を忘れてしまうということ。雨のときには笠 雨降って地固まる あめにかーあやうき いさかいやもめごとの後、よい結果や安定し た状態になること。雨が降ったあとは、ゆる んでいた土地が固く締まる意から。 類義雨の後は上天気。諍いさい果てての契ちぎり。破れりや固まる。 英語 After a storm comes a calm. 嵐の あとに風なきが来る A broken bone is the stronger when it is well set. つまづなが れば、折れた骨は以前よりも丈夫になる 用例吾々 は折角 出来かけた東洋平和の 基礎が、際どい処 で覆されたと思って失望 したのだが、併しかし雨降って地固るの喩 もある通り、外務省式の二階から目薬的な日 支親善の代かわりに、北支事件の結果成功しそ うに見えたものは、もっと手近ぢかの「北支 経済援助」だったのである。戸坂潤・世界 の一環としての日本 雨を冒して誰を剪る これ に食らわしむ」とある。杜甫とほの「衛八 はち 処士しょに贈る」詩にもある。 出郭林宗別伝 友人の来訪を喜んでもてなすこと。友情に厚 いことのたとえ。 補説出典には「林宗、友人有り。夜、雨を 冒して至る。韭にらを翦きりて炊餅 すい へい を作り之 故事中国後漢の郭太 かく たい 字 あざ な は林宗)が、夜 に友人が来訪したとき、雨にもかかわらず二 ラを摘み、ごちそうを作ってもてなした故事 から。 飴を紙らせて口をむしる 口先でうまいことを言って喜ばせ、相手の心 のうちを聞き出すこと。「飴をしゃぶらせる」 「飴を嘗なめさせる」「飴を食わす」ともいう。 ▶口をむしる‖巧みに誘いかけて、心のうち をしゃべらせるように仕向けること。 ちょうろこと 危うきこと朝露の如し 田史記 人の運命や生命が、きわめて危険な状態にあ ることのたとえ。「朝露」は「あさつゆ」と も読む。∇朝露∥日が出るとたちまち乾いて しまうので、はかないもののたとえ。 補説出典には「君の危うきこと朝露の若ごと し(あなたの命は、朝露がすぐ消え去るよう に危険な状態になっている)とある。 類義危うきこと累卵の如し。 危うきこと虎の尾を踏むが如し ◇虎の 474 尾を踏む 危うきこと累卵の如し 出韓非子・史記しかんびししき きわめて不安定で危険な状態であることのた とえ。これれやすい卵を積み重ねたように、 <30> あやうきーあやまつ きわめて不安定で危険であることから。「累 卵の危うき」「累卵の危」「累卵より危うし」 ともいう。▽累卵‖積み重ねた卵。 補説出典には「その君の危うきこと、猶な お累卵のごときなり」とある。 類義危うきこと朝露の如し。 あやみめいいた あや 危うきを見て命を致す 出論語 国家の危難に際しては、自分の命を投げ出し て忠義を尽くすこと。「命」は「いのち」と も読む。 補説出典には、子張 は危うきを見ては命を致し、得るを見ては義 を思う(士たる者は、国家の危難が迫るのを 見たら、自分の命を投げ出してこれを救い、 利益になることが目の前に現れたら、それを 手に入れることが道義にかなうかどうかよく 考える)とある。 あや 怪しきを見て怪しまざれば、 かえ やぶ 怪しみ却って破る 怪しく不思議なことを見ても、恐れて騒ぎ立 てたりしなければ、怪しいことは自然に消滅 してしまうものだ。 あやまあらたこれあやま 過ちて改めざる、是を過ちと い 謂う ろんご 論語 過ちがあったのに、それを改めようとしない のは、これこそ本当の過ちというべきものだ。 過ちと気づいたら即座に改めよという教え。 「過ちを改めざる、是を過ちと謂う」ともいう。 君子たるものの心得を述べた孔子のことば。 類義過ちては則すなち改むるに憚はばること勿 なかれ。 英語 He is doubly fond that justifies his fondness.〔自分の愚かさを正当化する者は、 二重に愚かである〕 あやま すなわあらた はばか 過ちては則ち改むるに憚るこ 出論語ろんご と勿れ 過失を犯したと気づいたら、体裁や体面を気 にすることなく、すぐに改めよ、という戒め。 「過ちては則ち」は「過ちて」「過って」とも いう。∇憚る∥遠慮する、ためらうこと。 類義過ちを知れば必ず改む。過てば則ち之 これを改む。 英語 It is never too late to mend. 行い を改めるのに遅すぎるということはない 用例あやまちを改むるにはばかる事なかれ だ。新しい男は、出直すのも早いんだ。洗面 所から出て、部屋へ帰る途中、炭部屋の前で マア坊と運よく逢あった。〈太宰治◆パンドラ の匣〉 あやま こうみようけがこうみよう 過ちの功名 ↓怪我の功名 220 あやまこのところ あら このとこへ えなんじ 過ちは好む所にあり 出淮南子 失敗は、自分の好きなことや得意なことをし ているときに起こりやすいという戒め。 補説出典には「夫それ善く游およぐ者は溺 れ、善く騎のる者は堕お。各々その好む所を 以もって反かえって自ら禍わざを為なす(水泳の得意 な者が溺れ、乗馬の得意な者が落馬することがある。人は自分が得意なことをしていると きに、かえって失敗を犯してしまうものだ」とある。 類義好きな事には騙だまされ易やすい。河童かっ の川流れ。弘法にも筆の誤り。猿も木から落 ちる。 あやま 過ちを文る 出 論語 ろんご 過失を改めようとせず、取りつくろってごま かすこと。▷文る‖飾る、取りつくろう意。 補説出典には「小人の過つや、必ず文る」 とある。 類義 過ちて改めざる、是これを過ちと謂いう。 あやまみここじんし 過ちを観て斯に仁を知る 出 ろんご 論語 過失の原因や動機を観察して見きわめれば、 その人の仁の程度がわかるということ。「過 ちを観て仁を知る」ともいう。 補説出典には、この前に「人の過ちや、各々 その党たぐに於おいてす(人の過失は、それぞ れ人の種類に応じておかすものである)と ある。 あやまひとさがゆるかみこころ 過つは人の性、許すは神の心 人は過ちを犯すものであり、それを許すのは 神である、ということ。「過つは人の常、許 すは神の業」ともいう。 補説イギリスの詩人アレキサンダー・ポー <31> プの『批評論』の言葉から。 英語 To er is human, to forgive divine. 過ちを犯すのは人、許すのは神の業 相手にこびへつらうこと。マ阿諛=相手の気 にいるようなことを言ったりしたりするこ と。追従=人のご機嫌を取ること。 類義阿諛迎合。胡麻ごまを擂する。 荒馬の轡は前から 困難には、真正面から対処するのがよいということ。暴れ馬には、思い切って正面から近寄って轡をとるのがよいことから。△轡‖馬の口に含ませ、手綱たづを付ける金具。あらしあとなぎ 嵐の後には風がくる 今は状況が悪くても、あせらずに待っていれ ば、いつかは幸運が訪れてくるということ。 ▶風∥風がまったく止ゃんで波が穏やかにな ること。 類義 待てば海路の日和あり。石の上にも三 年。果報は寝て待て。雨の後は上天気。 嵐の前の静けさ 大きな事件や騒動が起こる前に訪れる、静か な緊迫した状態。暴風雨が来る前、一時的に 雨や風がおさまってもの静かな状態になるこ とから。 英語 After a calm comes a storm. のあとに嵐がやって来る が湯にほてったからだを浴衣に包んで色めき たち、サリー、ジーン、セーラ、滝、シルバー なぞ名の張られた客間がずういとならび、嵐 の前の静けさである。〈小野佐世男◆ストリッ プ修学旅行〉 あゆついーありのあ あらそはちぎぎけんかす 争い果てての乳切り木輩喧嘩過ぎての ぼうちぎ 棒乳切り224 あら もの かなら かんむり 新たに沐する者は必ず冠を はじ 弾く 出楚辞 清廉潔白な人は、自分の身が汚される恐れの ある俗世間との交わりを嫌うものだというこ と。髪を洗ったばかりの者は、ほこりのつく のを恐れて冠を弾いて塵ちりを払い落とすこと から。∇沐する∥髪を洗うこと。 補説出典では、このあとに「新たに浴する 者は必ず衣を振るう(体を洗ったばかりの人 は、汚れが付くのを恐れて、着物を振るって 塵を落とす)」と続く。 蟻集まって樹を揺るがす 弱小なものでも、たくさん集まれば大きな力 になることのたとえ。また、身分にふさわし くない大きな望みを抱くことをもいう。 類義蟻の塔を組む如ごとし。 ありたいいもむしくじら蟻が鯛なら芋虫や鯨 「ありがたい」という言葉をしゃれたもの。 「ありがたい」を同音の「蟻が鯛」に掛けて、 蟻を鯛と言うなら芋虫は鯨だろうとまぜかえ したもの。続けて「蚯蚓 は鱧」や「百足 で 汽車なら蠅はいが鳥」などと言うこともある。 類義蟻が十なら芋虫や二十はた。蟻が鯛な ら蚯蚓は鰯いわ。蟻が十なら蚯蚓は二十蛇は二 十五で嫁に行く。蟻が十なら鯨は二十。 あ な かね な 有りそうで無いのが金、無さ あ しゃっきん そうで有るのが借金 人の貧富は外見から判断するのは難しいが、 裕福な人は意外に少なく、借金をしている人 は意外に多いようだということ。「有りそう で無いのが金」だけでも用いられる。また「有 りそうで無いのは銭金」ともいう。 類義有るは借銭 せん しゃく、 無いは金。 あ いと な しの 有りての厭い、亡くての偬び 人の生きている間は、悪い点が目についてう とましく思うが、亡くなってしまうと、よい 点ばかりが思い出されるということ。「有っ ての厭い、亡くての偬び」ともいう。 あり あな つつみ くず 一蟻の穴から堤も崩れる 出韓非子かんぴし 小さな欠陥やちょっとした油断がもとで、大 きな失敗や損害を引き起こすことのたとえ。 堅固に築いた堤も、蟻が作った小さな穴から 崩れる意から。「堤も崩れる」は「堤の崩れ」 ともいう。また「千丈 せんじ よう の堤も螻蟻 ろう ぎ の穴 を以もて潰ついゆ「千里の堤も蟻の穴から「蟻 の一穴 けっ、天下の破れ」「蟻、堤を潰 や つい す <32> ともいう。 補説出典には「千丈の堤は螻蟻の穴を以て 潰え、百尺の室は突隙 げき の烟 けむ り を以て焚やく (千丈の高さの堤も、おけらや蟻の作った小 さな穴から壊れ、百尺の高さの家も煙突の隙 間から入った煙で焼けてしまう」とある。 類義大山 たい ざん も蟻穴 ぎけ つ より崩る。大船も小穴 から沈む。油断大敵。 英語 For want of nail the shoe is lost, for want of a shoe the horse is lost, for want of a horse the rider is lost. 釘ヘぎ一本がな いために蹄鉄てぶがなくなり、蹄鉄がないため に馬が使えず、馬がだめになったために乗っ ていた人がだめになる ありおも蟻の思いも天に昇る 無力な者でも、一心に努力すれば、希望を達 成できるということ。地をはって歩く蟻のよ うな弱小な虫でも、努力すれば、その願いは 天に達するという意から。「蟻の思いも天に 届く」「蟻の吐っく息も天に届く」ともいう。 類義蚤のみの息さえ天に昇る。一念天に通 ず。思う念力岩をも徹とおす。精神一到何事か 成らざらん。 蟻の熊野まいり 大勢の人が行列を作って絶え間なく往いき来 しているようす。昔、紀伊国 くに (和歌山県) の熊野詣もうでが盛んで、参詣 さん けい する人々が、 蟻の行列のように続いていたことから。 補説「熊野」は和歌山県にある熊野三社(熊野本宮大社・熊野速玉 くまのは やたま 大社・熊野那智 くまの 大社)のことで、古来、多くの人々の信仰 が厚く、三社へ至る道は参詣人でにぎわった。 類義蟻の観音伊勢いせまいり。蟻の開帳まい り。蟻の堂まいり。蟻の門渡とわり。 ありとう蟻の塔を組む如し 弱小な者でも、努力を重ねていけば大事業を 成し遂げられることのたとえ。小さな蟻が落 ち葉や土を積み上げて、ついに高い蟻塚を築 くことから。△塔‖蟻が作った巣。蟻塚。 ありはですきな 蟻の這い出る隙も無い ほんのわずかの隙間もないこと。周囲を厳重に囲まれ、小さなアリが抜ける隙間もないほど警備が厳しいさま。「蟻の這い出る隙間も無い」「蟻の這い出る所も無い」ともいう。用例「抜け道なんぞ、あるかい。抜け道どころか、蟻の這いでる隙もないように念を入れて造ったものだ」〈坂口安吾◆明治開化安吾捕物〉 あた けあた 犠は蹴る能わず、針は呑む能 わず 小さいから、あるいは細いからといって、馬鹿にしてはいけないということ。 あり 蟻も軍勢 ぐんぜい つまらない者でも、たくさんいるほうがよい ということ。 類義 枯れ木も山の賑にぎわい。餓鬼がきも人数 にん。 歩く足には泥がつく 何かを行うと、わずらわしいことが生ずるこ とのたとえ。「歩く足には塵ちりがつく」「歩め ば土つく」ともいう。 類義 歩く足には棒あたる。犬も歩けば棒に あたる。河を渡らんとする狐は尾をぬらす。 あ 有る手からこぼれる 金持ちは金銭をたくさん持っているから、自然に金を使うことになる。また、金持ちは、自然に周囲の人々に恩恵を与えていることになるということ。「有る手からはもれる」「有ればこぼれる」ともいう。 とき ある時はありがあり、ない時 なし は梨もない 金は、ある時は十分にあるが、ない時はまっ たくないということ。梨のことを忌詞 いみこ とば で 「ありの実」ということから、金のあり、な しにかけて言ったもの。 類義ある所にありの実、ない所には梨の実。 ある時は米の飯 将来のことは考えず、余裕があるときに贅沢 ぜい たく をすること。余裕があるとつい浪費してし まうこと。「有る時の米の飯」ともいう。 類義 有れば有るだけ無い時ざんまい。 ある時払いの催促なし 借金の返済に、期限を定めず、金の都合がつ <33> いたときに返せばよく、催促はしないという、 借り手に好都合な条件。 類義出世払い。 用例わしは、お雅さんから利息をとるほど やぼじゃないつもりだ。遠慮なし、あるとき 払い、催促なしでいいんだよ。〈丹羽文雄◆ 庖丁〉 あ いや おも な 有るは厭なり、思うは成らず 希望と現実とが一致しないこと。目の前にい る相手は好きになれず、好きな相手は向こう が好きになってくれないという意から。「成 るは厭なり、思うは成らず」ともいう。 類義惜しきに離れ、思わぬに添う。 あるは借銭、無いは金 あ しゃくせん な かね う。 有金 有るのは借金ばかりで、現金を持たず、ひど く金に困っている状態をいう。「有るは借金、 無いは金」ともいう。 類義有りそうで無いのが金、無さそうで有 るのが借金。 淡きを食らい薄きを着る ぜいたくをせず、粗衣粗食に甘んじて暮らす こと。味の淡い食物を食べ、薄い衣類を着る という意から。 合せ物は離れ物 あわものはなもの 何かの縁で会った者や結ばれた者は、いつか は別れるときがくるということ。合わせて 作った物は、いつかは離れるときがくるという 意から。特に、男女や夫婦の仲についてい あるはいーあんえい 類義夫婦は合わせ物離れ物。逢うは別れの 始め。夫婦は他人の集まり。生き身は死に 身。離合集散は世の習い。 対義偕老同穴 かいろう。 どうけつ あわ 慌てる蟹は穴へ入れぬ 何事もあわてると失敗するというたとえ。 「慌てる蟹は穴の口で死ぬ」ともいう。 類義慌てる乞食は貰もらいが少ない。急ぐ 鼠ねずは穴に迷う。急せいては事を仕損じる。 あわ こじき もら すく 慌てる乞食は貰いが少ない むやみにあわててはいけないという戒め。少 しでも早く多く貰おうと欲張ってあわてる乞 食は、かえって貰い分が少なくなる意から。 類義急せいては事を仕損じる。慌てる蟹かに は穴へ入れぬ。 あわふかぜさぬきふ 阿波に吹く風は讃岐にも吹く 風俗・習慣や流行などが、一つの土地から他 の土地に伝わっていくたとえ。また、上の者 を下の者がまねるたとえ。∇阿波∥徳島県。 讃岐∥隣接する香川県。 好き。 あふたあふた 合わぬ蓋あれば合う蓋あり 人間にも物にも適材適所があることのたと え。また、男女間の相性で、探せば必ずぴっ たり合う相手が見つかるというたとえ。一つ の入れ物に合わない蓋もあれば、ぴったり合 う蓋もある意から。 類義破 れ鍋に綴 とじ蓋。 蓼 たで 食う虫も好き あわ きだお 阿波の着倒れ、伊予の食い倒だお 補説「京の着倒れ、大阪の食い倒れ」にな らって、「尾張の着倒れ、美濃みのの系図倒れ」 「紀州の着倒れ、水戸の飲み倒れ、尾張の食 い倒れ」「関東の着倒れ、奥州の食い倒れ」 など、各地に近国(近県)との対照的な違いを 指摘したことわざが見られる。 あわひとつぶあせひとつぶ粟一粒は汗一粒 農民の苦労をいうことば。粟一粒を作るには、 農民の汗一粒が流されているという意から。 類義粒粒辛苦。 あわび かたおも いそ あわび かたおも 鮑の片思い ↓ 磯の鮑の片思い 47 泡を食う 突然のことにうろたえる。ひどく慌てる。 用例ゆっくりと綱を伝って降りて来れば無 事だったろうに、泡を食って思わず手を離し たから忽 ち鞠まりになって落下し、気絶した 惨事を私は目撃したが、そんなことは珍めずら しくはないそうだ。〈牧野信一◆鱗雲〉 あんえい こきゅう 晏嬰の狐裘 出礼記らいき 倹約につとめて職務に励むことのたとえ。 <34> あんこうーあんしん 晏嬰ニ晏子。春秋時代の斉の名宰相 さいし。 よう 狐 裘二狐 きつ ね の脇の下の白い毛で作った高価なか わごろも。 類義晏嬰の節倹。一狐裘三十年 あんこうまぐ 故事)中国春秋時代、斉の名宰相晏嬰が質素 倹約につとめ、高価なものではあるが、たっ た一枚の狐裘を三十年間着続けて、国を治め ることに励んだという故事による。 類義)晏嬰の節倹。一狐裘三十年。 鮫鱇の待ち食い 努力もせずに利益を得ようとすることのたと え。鮫鱇は、向こうから小魚が近寄るのを 待って、大きな口でひとのみにすることから。 要領のよい者をからかうときなどに用いる。 ∇鮫鱇∥体は平たくて口が大きい深海魚。 類義鮫鱇の日和見。 あんころ餅で尻を叩かれる 思いがけず、うまい話や幸運が舞い込んでく ることのたとえ。 類義牡丹餅 もち で腰打たれる牡丹餅で頬 ぺたを叩かれる。 あんしつあざむ 暗室を欺かず 出梁書 人の見ていない所でも身を慎み、悪事をしな いことのたとえ。「暗室を侮 あな ど らず」「暗室に 欺かず」ともいう。 類義屋漏ろうに愧じず。 あんし晏子の御ぎよ え。「晏子の御者」ともいう。△晏子=中国 春秋時代の斉の宰相 晏嬰 あん えい の敬称。御 御者。 他人の権威に寄りかかっておごり、自分の低い地位に満足しているつまらない人物のたと 出史記しき 故事)中国春秋時代、斉の宰相晏嬰の御者が、 主人を乗せた馬車を操ることで意気揚々と得 意がっていたところ、それを見た妻が離縁を 迫って夫をたしなめたため、行いを改めたと いう故事による。 出漢書かんじょ 安車蒲輪 あんしゃほりん 老人をいたわって、手厚くもてなすこと。楽 に座れて揺れが少ない車という意から。マ安 車=古代中国で、座って乗るように仕立てら れた老人や婦人用の屋根つきの小車。蒲輪= 蒲がまの穂で車輪を包み、揺れを抑えて乗り心 地をよくしたもの。 暗礁に乗り上げる 思いがけない障害に遭って、物事が行きづま ること。船が暗礁に乗り上げると動きがとれ なくなることから。△暗礁=水面下に隠れて 見えない岩。 用例やっと話のいとぐちがついたと、十吉がほっとしたのも束っかの間で、次の瞬間にはたちまち暗礁に乗り上げてしまった。「少し」話せるはずだった十吉の語学が、耳も口もともに、さっぱり役に立たぬことが分ったのである。〈神西清◆灰色の眼の女〉 あんじょうひと あんかうま 鞍上人なく、鞍下馬なし 乗り手が馬を巧みに乗りこなすようす。鞍く の上の人と鞍の下の馬とが一体となっている ように見えるという意から。一般に巧みな操 作ぶりをたたえる場合にも用いられる。▷鞍 ∥馬の背に置いて、人や物をのせる道具。 案じるより団子汁 あれこれ心配しても、なるようにしかならないのだから、団子汁でも食べて気楽に待つのがよい。「案ずるより生むが易やすい」をもじってしゃれたことば。「案じる」に「餡汁を掛け、「団子汁」の「じる」と語呂ごろを合わせたもの。 類義案じるより芋汁。案じるより豆腐汁。 あん ねん 案じるより念じろ くよくよ心配しているだけでは助からないか ら、神仏に祈ってお願いせよ、ということ。 安心立命 信仰の力で心を安らかにして身を天命に任 せ、どんなときにも心を動かされないこと。 また、人力のすべてを尽くして身を天命に任 せ、どんなときにも動じないこと。「あんし んりゅうみよう」「あんしんりつめい」とも 読む。∇安心∥仏教語で、信仰によって達す る心の動かない境地のこと。「あんじん」と も読む。 用例この作者、元来、悲慘を愛する趣味家 であって、安心立命の境地を目して、すべて 崩壊の前提となし、ああ、あとの言葉は、諸 兄のうち、心ある者、つづけ給たまえ。〈太宰 治◆創作余談〉 <35> 案ずるより生むが易い 物事は実際にやってみると、心配していたよ りはたやすく実行できるものだ、ということ。 出産前には、あれこれ心配するものだが、産 んでみると、案外楽なことから。思うより 生むが易い」ともいう。「生む」は「産む」 とも書く。取り越し苦労を慰めることばとし て用いられる。∇案ずる∥考える、心配する 意。 類義 案じる子は生み易い。案じるより団子 汁。 用例「君と僕とで遠巻きに見張りをするんだね。ここの楽屋なら、万一のことがあっても、二人で何とか言えば胡麻化ごまかしもつく。案ずるより生むが易いかも知れない。君の妹思いには僕もだまってはいられない」〈永井荷風◆踊子〉 あんせきい そうせいいかん 安石出でずんば蒼生を如何せ ん 出世説新語 偉大な政治家の出馬を待望する場合などに用 いられることば。マ安石=晋しの政治家謝安 しゃあざ。 あんの字 な 蒼生=万民のこと。 補説出典には安石肯あえて出でずんば、将 まさに蒼生を如何せんとする」とある。 故事謝安が立派な徳と能力を持ちながら政 界に出ようとしなかったことを惜しみ、当時 の人々が「安石が出て政治をとらなければ、 天下の人民をどうして救うことができよう か」と言ったという故事による。 あんずるーあんやの あんたくせいろ安宅正路 仁と義のこと。仁は他人への思いやり、いつ くしみ。仁愛。義は人として踏み行うべき 道。正義。孟子が、仁義を捨てている人が多 いのを嘆き、仁義に返ることを説いたことば。 ▶安宅∥住み心地のよい家で、安らかで安全 な身の置き所の意から、仁のたとえ。正路∥ 正しい道で、人の踏み行うべき正しい道とい う意から、義のたとえ。 出孟子もうし 暗中的を射る あたらないこと、また、まったく見当のつか ないことのたとえ。暗闇でに矢を射る意か ら。 類義闇夜に鉄砲。闇夜の礫でつぶ。 暗中模索 出隋唐嘉話 手がかりのないまま、あれこれとやってみる こと。暗闇の中で、手さぐりをして求める意 から。「暗中に模索す」ともいう。「暗中摸索」 とも書く。∇模索∥手さぐりでさがす意。 用例進歩は実に遅く不確かなものです。や がて出しぬけに其それが啓ひらかれます。人は前 へ出ます。けれども暗中模索の幾年かの後の 事です。到着点を人間の忍耐力にとって余り 遠すぎると考えてはなりません。〈高村光太 郎◆オーギュスト・ロダン〉 あんいきおも あんいきおも 安に居て危を思う 出春秋左氏伝 平穏なときにも万一のことを思い、用心を怠 らないことが必要であるという戒めの語。 「安」は「安き」、「危」は「危うき」ともいう。 ∇安∥平和。平安。危∥危険。危難。 補説出典では、このあとに思えば則ち 備え有り危ういときを思えば、それに対す る備えができる。備え有れば患うれい無し」 と続く。 類義安きに危うきを忘れず。治に居て乱を 忘れず。文事ある者は必ず武備あり。 案に相違する 予想していたのとは違う結果になること。 用例井戸へ案内してここで足を洗うがよい という、足を洗うと店先で茶を一杯汲くんで そこへ膳を出す、そうして二階へ蚊帳かやが 釣ってあるから何時いっでも行って寝るがいい というのである、案に相違したが廿四銭 にじゅう よんせん の泊とまりだと思うと不平はない。〈長塚節 須磨明石〉 あんぽ もっくるまあ ぼんしょくもっにく 安歩して以て車に当つ ↳晩食以て肉 ああんぽもっくるまあ に当て、安歩して以て車に当つ 540 あんやともしびうしなやみよともしびうしな 暗夜に灯火を失う↳闇の夜に灯火を失 う 660 あんや暗夜の礫つぶて 不意打ち。不意打ちを食って防ぎようのない こと。また、当てのないこと。おぼつかない こと。闇夜に飛んでくる小石の意から。「暗 夜」は「闇夜」とも書く。「闇夜 やみ よ の礫」と もいう。∇礫∥投げつける小石。 類義闇夜に鉄砲。 <36> あんもっきずみ かんびし 闇を以て疵を見る 出韓非子 暗い所から明るい所を見れば、よく見えるよ うに、虚静な態度で自分の身を人から見えな いようにして人を見れば、自然と人の欠点が 見えてくるということ。 補説本来は、君主が臣下を観察する方法を説いたもので、常に本心を知られないようにして虚静に臣下を観察することをいう。出典には「道は見るべからざるに在り、用は知るべからざるに在り。虚静事とする無く、闇を以て疵を見る(道は人の目に見えないところにあり、そのはたらきは人のはかり知れないところにある。それと同じように、君主は常に自分の正体や本心を臣下に知られないようにして、虚静にして形は見えないようにして、暗い所から明るい所を見るように、臣下の欠点を見抜くのである)とある。 いあく帷幄の臣しん 陣営で作戦計画に参与する参謀。△帷幄‖陣 営に張られた幕。転じて作戦を立てる場所。 本陣。 出漢書かんじょ 威あって猛からず 出論語 威厳はあるけれども、荒々しくはないようす。 補説出典には「子しは温にして厲し(孔子 は優しくはあるが一方では厳しく、威あり て猛からず、恭 きょう にして安し(うやうやしく はあっても、堅苦しくない人であった)と ある。孔子の人格を弟子が評したことばで、 君子の理想的な人柄を言ったもの。 いい後は悪いあとわる よいことがあったあとは、悪いことが起こり やすいということ。「良い後は悪い」ともい う。「悪い後はいい」と続けて、吉凶・禍福 が循環しやすいことにもいう。 類義一の裏は六。禍福は糾 あざ な える縄の如 ごと し。大猟 たいり よう の明日。楽あれば苦あり。 対義悪い後は良い。憂えあれば喜びあり。 言い勝ち功名 よい意見よりも、ことば数の多い者が勝つ。 黙っていては、正論も通らないということ。 「言い勝ち高名」とも書く。△言い勝ち‖相 手に負けず盛んにしゃべること。 類義言い勝ち功名一揆 の寄り合い。言わ ぬ事は聞こえぬ。 雄弁は銀、沈黙は金。 対義言わぬは言うにまさる。言わぬが花。 いいきおに 異域の鬼となる 出文選 外国で死ぬこと。故郷を離れて死ぬこと。 「鬼」は「き」とも読む。∇異域∥故郷を離 れた地。外国。鬼∥死者の魂。 用例六十余年前に雲南地方へ出征した人 は、皆異域の鬼となって、一人も故郷の土を 踏んだものはない。〈桑原隠蔵◆支那人の文 弱と保守〉 補説出典に収録された李陵の「答蘇武書 そぶにこた うるしよ に、一生きては別世の人と為り、死 しては異域の鬼と為る」とある。 言いたいことは明日言え 言いたいことがあっても、十分に考えた上で 言えということ。思ったことをすぐ口に出す と、失言をしたり相手を傷つけたりしがちだ から、一晩冷静に考えて明日になってから言 えという意から。腹を立てたり感情的になっ たりしたときの注意のことば。 類義腹の立つことは明日言え。月日変われ ば気も変わる。 しゅんしょきぶん 意到りて筆随う 出春渚紀聞 詩や文章が思うままに、すらすらと書けるよ うす。書きたい意欲がわくと、筆が心の動き に応じてすらすらと進む意から。 い 言うた損より言わぬ損が少ない しゃべり過ぎを慎めということ。言い過ぎや 言い間違いなど、口数が多くて受ける損より も、黙っていたために受ける損のほうが少な い意から。 いなかこんにちまならい 謂う勿れ、今日学ばずして来 じつあ 日有りと 出朱熹勧学文 今日学ぼうとしないで、明日があるからなど <37> と言ってはならないということ。学問は毎日 の努力が大切であるという戒め。「今日学ば ずして」は「今日学ばずとも」ともいう。 補説宋の朱熹が若者に対して、今すぐ学 問をするように勧めた文の一節で、出典では、 このあとに「謂う勿れ、今年学ばずして来年 有りと」と続く。 いおかたおとお 言うに落ちず語るに落ちる♩問うに落 かたお 言うは易く行うは難し 出塩鉄論 口で言うのは簡単だが、それを実行するのは むずかしいということ。 類義家売らば縄の価。 類義言うは行うより易し。口では大阪の城 も建つ。猫の首に鈴。 英語Easier said than done.言うことは 行うことよりも易しい 用例アメリカでさえ総すべての物資は自給自 足をなし得ないのである最小限度の物資獲 得の名に於おいて我らの力の現状を無視してい たずらに外国との紛争を招く事は充分警戒を 要する。戦争は最大の浪費である。戦争とと もに長期建設と言うも、言うは易く実行は至 難である。〈石原莞爾◆戦争史大観〉 いえうくぎあたい 家売れば釘の価 大金をかけて手に入れた立派な家も、売りに 出すと、使った釘の値段ぐらいの安値になっ てしまうこと。 いうにおーいえにな いえがら 家柄より芋茎 家柄などよくなくても、裕福な暮らしのでき るほうがよいということ。家柄は芋茎ほどの 価値もない意から。「芋茎」は「芋幹」とも 書く。∇芋茎∥里芋の茎。 補説格式だけで実際にはあまり役に立たない家柄がよいといって威張る落ちぶれた武士や貴族を嘲 あざ ることば。「いえがら」と「いもがら」との語呂ごろ合わせのおかしみもある。類義家柄より食い柄。芋茎は食えるが家柄 英語 You are come of a blood and so is a pudding.君はよい血筋の出だが、ソーセージにも豚の血筋の善し悪あしがある いえそところたものせいじん 家其の所に足る者は、聖人に したが 従わず 出管子 家庭が満ち足りている者は、どんな権威にも 屈しないということ。不足なく満ち足りてい る暮らしをしていれば、すぐれた賢人の言葉 に従わないこと。 家に諫むる子あれば、其の家 必ず正し 出孝経 父親の道理にそむく行為を諫める子供がいれ ば、その家は安泰であるということ。 補説出典には父に争子有れば、則 ち身 不義に陥 ちず」とあり、『平家物語』には「国 に諫める臣あれば、其の国必ずやすくその 国は必ず平和で穏やかであり)、家に諫める 子あれば其の家必ず正しといへり」とある。 類義家に諫子なければ其の家必ず滅ぶ。 いえたんせき 出漢書かんじょ 貧しくて、家に少しのたくわえもないこと。 △儋石=「儋」は二石こく、「石」は一石で、 中国の量目の単位。わずかな分量のたとえ。 補説前漢の学者揚雄 ようにが、貧困の中で学問 に励んだという故事に基づく。出典には一家 産十金に過ぎず、乏しくて儋石の儲ちょ も、晏如 あん じょ たり(財産は家に十金しかなく、 食糧も貧しくて少しのたくわえもないが、安 らかで落ち着いていた)とある。 家に杖つくいえつえ 出礼記らいき 五十歳をいう。昔、中国では五十歳になると 家の中で杖をつくことが認められた。 補説出典には、このあとに「六十は郷きよ(村里)に杖つき、七十は国(国都)に杖つき、八十は朝に杖つく(朝廷で杖をつくことが許された)」とある。 家に無くてならぬものは上が り框と女房 家には必ず上がり框があるように、家庭には 主婦が必要であるということ。主婦の大切さ をいった言葉。▷上がり框‖家の上がり口の 床に渡した横木。 類義家に女房無きは火の無き炉の如し。 <38> 家に女房の無きは梁ぼりの無きと同じ。女房と 俎板まなは無ければならぬ。 家に鼠、国に盗人 いえねずみくにぬすびと 規模や程度の違いはあるが、どんな所にも必 ず悪いことをする者がいるということ。家に は鼠がいて食べ物を食い荒らし、国には泥棒 がいて国や人々の生活を害する意から。「家 に鼠、国に賊ぞく」ともいう。 家に弊帚有り、 これ せんきん みつも 之を千金に享 出曹不ー典論論文 うぬぼれの強いこと。また、人は自分の欠点 には気づかないことのたとえ。自分の家の破 れたほうきを、千金の価値があると思い込む 意から。∇弊帚=これれて役に立たない古い ほうき。享る=相当する意。 と。 補説出典には「俚語(民間のことわざ)に日 いわく、家に弊帚有り、之を千金に享る、と。 斯これ自らを見ざるの患うれいなり(これは自分 のことは自分ではよくわからないという欠点 を述べたものだ」とある。 家の高いより床の高いがよい 家柄がよいことよりも、金持ちであるほうが よいということ。 類義家柄より芋茎がら いえよわぬしつよ 家は弱かれ主は強かれ いきつ告りは貧弱であっても、 家は弱かれ主は強かれ 家屋の造りは貧弱であっても、その家の主人 は強くて頼もしくなければならないというこ 類義箸はしと主うとは太いのへかかれ いえまず 家貧しくして親老ゆれば禄を つか 択ばずして仕う 出孔子家語 苦しい境遇にあるときは、どんな仕事でもす るということ。家が貧乏で親が年老いている ときには、給料の額によらず就職して親を養 うという意から。「親老ゆれば」は「親老い れば」ともいう。マ禄=俸禄。給料。 類義 窮猿 きゅう えん 林に奔 はし る、豈あに 木を択ぶに 暇 いと あらんや。 こうしあらわ 家貧しくして孝子頭る 出宝鑑 逆境のときこそ、立派な人物が現れるものだ ということ。家が貧乏だと、親孝行な子が出 る意から。 補説出典では、このあとに世乱れて忠臣 を識しる」と続く。 類義国乱れて忠臣見る。 いえまず 家貧しくして親愛散じ、身病 こうゆうや む はくきよい 出白居易ー詩 みて交遊罷む 家が貧乏になると親しかった人が去って行 き、病気になると友人との交際も絶えてしま う。人間の情は浅く薄いということ。 補説出典の詩の題名は『冬夜』。白居易 が、人情のつれなさを歌った詩。 類義家貧しく親知 少なく、身賤いやしく故 人疎うとし。 いえまず家貧しくして良妻を思う 出史記しき 困難がおこると、助けてくれる人の現れることを望むたとえ。貧乏だと、それを切り抜けるためによい妻がほしいと思う意から。「家貧しくして」は「家貧しければ」ともいう。補説出典では、このあとに「国乱るれば則ち良相を思う(国が乱れると、すぐれた宰相がほしいと思うものだ)」と続く。 家を出ずれば七人の敵あり だんしいえ 男子家を 家を移して妻を忘る 出 説苑 ひどく忘れっぽいことや、大切な物事を忘れ る愚か者のたとえ。 補説出典には「徙うりて其その妻を忘れた り」とある。 故事魯の哀公あいが孔子に、「私はひどく忘 れっぽい人のことを聞いたことがある。その 人は家を引っ越ししたときに妻を忘れてし まったというがほんとうか」と聞いた。孔子 は、「それはまだ、もの忘れがひどいとはい えません。ほんとうにひどい人は、自分自身 を忘れてしまうものです」と言ったという。 類義宅を徙して其の妻を忘る。 いがぐりうちわ 毬栗も内から割れる 女性は年ごろになると、自然に色気づいてく るものだというたとえ。毬に包まれた栗も、 <39> 熟してくると自然にはじけて実が飛び出すこ とから。「内から」は「中から」とも書く。 類義 豌豆 えん どう は日陰でもはじける。芝栗 しば ぐり も 時節が来ればはじける。陰裏の桃の木も時が 来れば花咲く。 いかやてんびんぼう鋳掛け屋の天秤棒 出過ぎたことや、出しゃばる者のたとえ。銹 掛け屋の天秤棒はふつうのものより長く、荷 より先に突き出ていることから。▽鋳掛け屋 Ⅱなべ・かまの修理をする職人。天秤棒‖両 端に荷物を掛けて肩にかつぐ棒。ふつうの天 秤棒の長さは六尺(約一・八メートル)だが、 鋳掛け屋のは七尺五寸(約二・三メートル)。 いかこうとしこうかめこうとし 鳥賊の甲より年の劫♩亀の甲より年の 年の劫 ↓ 亀の甲より年の 155 いか 怒りには則ち理を思い、危う きには義を忘れず 出 説苑 ぜいえん 腹が立ったときには冷静に道理を考えるよう にし、危機に際しては節義を失わないように 行動せよという教え。「怒りには」は「怒る ときは」ともいう。 いか ぎゃくとく へいきようき 怒りは逆徳なり、兵は凶器な あらそ まっせつ り、争いは末節なり 出史記 いか怒りは敵と思えてきおも 怒ることは道理にそむいた行いであり、武器 は人を殺傷する邪悪な道具であり、争うこと はもっともつまらぬことである、ということ。 いかけやーいきがけ 怒りは慎むべきだという戒め。怒りは必ず相 手の怒りや恨みを招き、結局は自分の身を滅 ぼすことになるから。 補説 徳川家康の遺訓にあることば。 類義 怒りは愚かな者の胸に宿る。 怒りを遷さず 腹が立つことがあっても、その怒りを関係の ない人に向けるなということ。 補説出典には顔回なる者有り。学を好む。 怒りを遷さず、過ちを式 みた たび せず(同じ過ちを 二度と繰り返さなかった)。不幸短命にして 死す」とある。 出論語ろんご いか怒れる拳笑顔に当たらず 強い態度で向かってきた人には、優しい態度 で接するほうが効果があるということ。怒っ て振り上げた拳も、笑顔の相手には打ち下ろ せないという意から。「笑顔に当てる拳はな い」ともいう。 出五灯会元 類義 握れる拳笑める面 に当たらず。尾を 振る犬は叩たたかれず。袖の下に回る子は打た れぬ。柔能よく剛を制す。 いかんとう 衣冠の盗 かみしもき ぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜぜ いうまめぬ 生き馬の目を抜く 抜け目がなくて油断ができないことのたと え。生きている馬の目をさっと抜き取ってし まうほどすばやい意から。「生き牛の目を抜 く」「生き馬の目をくじる」ともいう。 用例)そのうちに、上方の遊びもどうも手ぬ るく思われて来て、生き馬の目を抜くとかい う東国の荒っぽい遊びを風聞してあこがれ、 或あるとし秋風に吹かれて江戸へ旅立ち、途 中、大笑いの急がぬ旅をつづけて、(略)太 宰治◆新釈諸国噺〉 いきおもっまじものいきお 勢いを以て交わる者は勢い かたむすなわた 傾けば即ち絶ゆ 出文中子 利害関係による結び付きは、断絶しやすいと いうこと。相手の勢力をあてにした交際は、 勢力が衰えてくると途絶えてしまう意から。 補説出典では、このあとに「利を以て交わ る者は、利窮すれば則 ち散ず(利益を目的 とした交際は、その利益がなくなると断絶す る。故に君子は与くみせざるなり(勢力や利益 をあてにした交際はしない)と続く。 息が掛かる 有力者の影響を受ける立場にあること。吐く 息が体にかかるほど近いということから。 行きがけの駄賃 ある仕事をするついでに他の仕事をして、利 益を得ること。馬子が問屋などへ荷物を受け 取りに行くとき、空馬 うま を利用して別の荷物 を運び、手間賃をかせいだことから。「行き」 は「ゆき」とも読む。△駄賃=駄馬で物を運 <40> ぶときの運賃。 類義帰りがけの駄賃。 息が長い 活動する期間や、価値や地位などを保ってい る期間が長いこと。また、文章で、一文が非 常に長いこと。吸った息を保つ時間が長い意 から。 はあの世での嘆きとなる意から。 いきけんこう意気軒昂 意気込んで奮い立つさま。元気や勢力が盛ん で威勢のいいようす。∇意気∥気持ち。心持 ち。軒昂∥高く上がるさま。 類義 意気昂然 意気揚揚。意気衝天。 意気消沈。意気阻喪。灰心喪気。垂頭 喪気。 憤りを発して食を忘る いきしょうちん意気消沈 元気をなくして沈み込むこと。しょげるこ と。「意気銷沈」とも書く。∇意気∥気持ち。 心持ち。消沈∥気力などが衰えること。 類義意気阻喪。 対義意気揚揚。意気軒昂 けん。 こう 意気衝天。 用例全く自ら筆を操とる事が出来なくなっ てからの口授作 くじゅ さく にも少しも意気消沈した 痕が見えないで相変らずの博引旁証 はくいんぼ うしょう を して気焰 きえ ん を揚げておる。内田魯庵・八犬 伝談余 生きての恨み死しての嘆き 非常に恨みに思うことや不名誉なこと。この 世に生きている間は恨みとなり、死んだあと 出 ろんご 論語 学問や仕事などに熱中して、食事をとるのも 忘れること。∇憤り∥発憤すること。学問な どに意欲を燃やすこと。 補説出典では、このあとに「楽しみて以もっ て憂いを忘れ、老いの将まに至らんとするを 知らざるのみ(真理を求めることを楽しんで は心配事も忘れ、老いの忍び寄ることにも気 がつかない」と続く。孔子の学問に対する 情熱が表れていることば。 生き二両に死に五両 い にりようしごりよう 出産には二両の費用が、葬式には五両の費用 がかかるということ。「産三両に死に五両」 「子三両」ともいう。両昔の通貨の単位。 一両は江戸時代には銀六〇匁めもん、または銅銭 か鉄銭の四貫文もん。 る。呼吸ができないようにして殺す意から。 ∇息の根∥呼吸のもと。 息の香の臭きは主知らず 自分の欠点は自分ではわからないことのたと え。自分の息の臭いのは、自分では気づかず にいる意から。 類義臭いもの身知らず。我が身の臭さ我知 らず。我が糞くそは臭くなし。豕いのを抱いて臭 きを知らず。 類義止とどめを刺す。 息の根を止める 相手に致命的な打撃を与えて再起不能にす 生き恥かくより死ぬがまし 生きながらえて恥をかくよりも、あっさり死 んだほうがよい。出処進退をわきまえるべき だという戒め。 いみ生き身に餌食えじき 人間は何とかして食っていけるものだという こと。「生き虫に餌がある」ともいう。 類義口あれば食い、肩あれば着る。 生き身は死に身 生きているものは、いつかは必ず死ぬという こと。「生き物は死に物」ともいう。 類義盛者必衰。生者必滅。 いきよう意気揚揚 出史記しき 得意げで威勢のよいさま。いかにも誇らしげ に振る舞うさま。∇意気=気持ち。心持ち。 揚揚=得意な様子。 故事 ↓ 晏子 あん し の御 ぎよ 34 類義 意気軒昂 けん。 意気昂然 こう。 意気衝天。 ぜん 意気消沈。意気阻喪。灰心喪気。垂頭 喪気。 息を呑む 呼吸を忘れるほどに驚いたり感動したりする さま。一瞬息が止まる意から。「息を飲む」 とも書く。 <41> 類義我を忘れる。 用例金色の仏具に反映する柔かな光芒 感激に息を呑む聴衆、一堂の場景は何か尊厳 な、旧ふるびたフィルムの様だった。〈山本勝 治十姉妹 衣錦の栄 出 おうようしゅうしょうしゅうちゅうきんどうき 欧陽脩相州昼錦堂記 立身出世して故郷に帰る栄誉のこと。△衣錦 錦を着ること。ここでは、裕福になり高価 な錦の衣服を着ること。 補説出典には「これ一介 かいの士(名門出身 でない人物)、志を当時に得て(志をその時世 に遂げて)、意気の盛んなる、昔人 せん じん これを 衣錦の栄に比する者なり」とある。 類義故郷に錦を飾る。 いくさみやは 戦を見て矢を矧ぐ 事が起こってから、あわてて準備をすること のたとえ。戦いが始まってから、あわてて矢 を作る意から。「敵を見て矢を矧ぐ」ともい う。∇矧ぐ∥竹に羽を付けて矢を作る意。 類義泥棒を捕らえて縄を綯なう。喧嘩 けん か 過 ぎての棒乳切 ぼう ちぎ り。諍 いさい 果てての乳切り 木。溺 おぼ るるに及んで船を呼ぶ。 異口同音 いくどうおん 多くの人がみな口をそろえて、同じことを言 うこと。また、みんなの意見が一致すること。 注意「口」を「句」と書き誤らない。 生簀の鯉 自由を束縛されている身のたとえ。また、死 いきんのーいさごち が待ちかまえていることのたとえ。生簀の鯉 は逃げることができず、やがて料理されてし まうことから。「生簀に躍る魚」「生簀の魚」 ともいう。▷生簀‖捕らえた魚を生かして 飼っておくところ。 類義 屠所よとしの羊。 いけんさんりよう かんにんごりよう 意見三両、 堪忍五両 他人の意見をよく聞き、じっと忍耐すべきだ ということ。他人から受ける意見や忠告には 三両の価値があり、自分自身がじっとがまん する態度には五両の価値がある意から。▶両 ∥昔の通貨の単位。 意見と餅はつくほど練れる 餅はつけばつくほど練れておいしい餅になる ように、人間も他人の意見に従えば従うほど 人格が練れて円満になるということ。「意見 と餅はつくがよい」ともいう。 補説「つく」は、餅を「搗く」と意見に「付 く(従う)」をかけたもの。なお、「練れる」 を「利益がある」「得をする」とする解釈も ある。 類義人の言い条と餅はつくほどよし。 いげんはいいおもっおのれゆる 章弦の佩卐章を佩びて以て己を緩くす 77 出春秋左氏伝 いこうつるこの懿公鶴を好む 大切にすべき者を軽視してつまらぬ者を大切 にし、身を滅ぼすことのたとえ。 故事 中国春秋時代、 衛 えい の君主懿公は臣下 や国民よりも鶴を愛し、爵位を与えたりして 大切にした。戦争が起きたとき、懿公が兵に 戦うように命じたが、「鶴に戦わせればいい」 と言って協力しなかったため、懿公は身を滅 ぼしたという故事から。 諍い果てての契り 誇し果てての契り けんかのあとで、仲よくなること。△諍い= 言いあらそい。口げんか。 類義喧嘩 けん か の後の兄弟名のり。雨降って地 固まる。雨の後は上天気。 いさかは 諍い果てての乳切り木 けんかす 噴嘩過ぎての 棒乳切り 224 いざ鎌倉かまくら 一大事で、すぐに行動を起こす必要がある場合に使うことば。「すわ鎌倉」ともいう。 補説謡曲『鉢木はちのき』の主人公・佐野源左衛 門尉常世さのげんざえもんが、家に泊めた旅の僧(北 条時頼ほうじょう)に語った「鎌倉に一大事が起 こったなら、一番乗りに馳はせ参ずる」という 覚悟のことばに由来する。 用例身分不相応な大熊手を買こうて見た処 とこ で、いざ鎌倉という時に宝船の中から鼠 ねず み の糞ふんは落ちようと金が湧わいて出る気遣 きづ かい は無しさ、まさか大仏の簪 かん ざしにもならぬもの を屑屋 くず や だって心よくは買うまい……正岡 子規◆熊手と提灯 いさごちょういわお 砂長じて厳となる 非常に長く生命を保つこと、また、長く栄え <42> いさぐにーいしにき ることのたとえ。また、小さな物事をおろそ かにしてはいけないという意味にも用いられ る。小さな砂が大きな岩に成長する意から。 類義塵ちりも積もれば山となる。 いさごこがね 砂に黄金、泥に蓮 つまらない物の中によい物が混じっているこ とのたとえ。砂に砂金が混じっていたり、泥 沼の中で蓮の花が咲いたりすることから。 いさごあつとうつ 砂を集めて塔を積む 非常に気の長いことのたとえ。また、いつまでやってもできるはずがないこと。 井渫えて食われず 出易経えきよう 才能のある人が、世の中に用いられないまま でいることのたとえ。せっかくきれいに澄ん だ井戸水があっても、汲くんで用いられない という意から。「渫えて」は「泄えて」とも 書く。「井渫えたれど食われず」ともいう。 補説出典では、このあとに「我が為ために心 惻いたましむ。用もって汲むべく(井戸さらえを した清い泉で汲んで飲むべきであり)、王明 ならば、並びに(あまねく)其その福を受けん」 と続く。 石白を箸に刺す 無理や難題を言うことのたとえ。だだをこね ること。石臼を箸で突き刺すことなど、不可 能なことから。 出新語しんご 一般大衆の無責任な言論が、道理に反して威 力をもつたとえ。水に沈むはずの石を浮か せ、水に浮くはずの木の葉を沈める意から。 「石が浮かんで木の葉が沈む」「石を浮かべ木 を沈む」ともいう。 類義 石臼を楊枝 によう にする。 石臼を針にす る。 石臼を田楽。豆腐を藁 わら でつなぐ。 補説出典には「夫それ衆口の毀誉きよはいっ たい、多くの人が言う悪口やほめことばは、 石を浮かべて木を沈ます」とある。 類義朝日が西から出る。悪人栄えて善人滅 びる。牛は嘶 いな き馬は哮 ほ ゆ。 用例石が流れりや木の葉が沈むと云いうが、 まあ、そんなお話ですよ。泥坊をつかまえる 岡っ引びきが泥坊に追っかけられたのだからお かしい。泥坊が追っかける、岡っ引が逃げま わる。どう考えても、物が逆さまでしょう。 〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 いしがに あな うみがに 石蟹の穴へ海蟹は入らず それぞれ自分の居場所が決まっていて、秩序 があることのたとえ。 いしぐるまの くちぐるまの 石車に乗っても口車に乗るな うまいことばでだまされるなという戒め。 石車=踏みつけた小石に足を取られること。 口車=口先のうまい言いまわし。 いじぞう石地蔵に蜂はち 蜂が刺しても、何も感じないことから。 類義 牛の角を蜂が刺す。鹿の角を蜂が刺 す。蛙 かえ の面つらに水。 痛くもかゆくもないことのたとえ。石地蔵を 石、玉をつつみて山輝く やまかがや 出陸機ー文賦 文の中にすぐれた語句があれば、それが周り とつり合わなくても文全体がすばらしくなる たとえ。また、学徳のある者は、それが自然 に輝きとなって外に現れるものだということ のたとえ。石の中に宝玉が隠れていれば、山 全体が美しく輝く意から。「玉」は「ぎょく」 とも読む。 補説出典には「石は玉を韞っんで山は輝き、 水は珠たまを懐いだきて川は媚こぶ(水中に真珠の ある川が、あでやかに美しく見える)」とある。 て 石で手を詰める 進退きわまって動きのとれないことのたと え。「石で手を挟む」ともいう。 補説囲碁から出たことばといわれる。 石に祎 堅苦しいことのたとえ。また、堅いだけが長 所の謹厳な人のこと。「石に祐を着せたよう」 ともいう。マ祐=主に江戸時代に用いられ た、武士の礼服。 類義石部金吉 いしべき 鉄兜 かなか○ んきち ぶと いし石に灸きゅう 何の効果や反応もないことのたとえ。石に灸 <43> をすえても焼けつかず、何の効果もないこと から。「石に針」ともいう。 類義 泥に灸 やい。 と 蛙 かえ の面 つら に水。 石に漱き流れに枕す いしくちすすながまくら 出晋書しんじょ 自分の失敗を認めず、屁理屈へりを並べて言い 逃れをすること。負け惜しみが強いこと。俗 世を離れ山中に隠れ住んで自由に暮らす意の 「石に枕し流れに漱ぐ」を誤ってできた言葉。 「流れに枕し石に漱ぐ」「漱石枕流」ともいう。 夏目漱石の雅号「漱石」の由来として有名。 故事)中国西晋 流れに漱ぐ」を「石に漱ぎ、流れに枕す」と 言って誤りを指摘されると「石に漱ぐのは歯 を磨くため、流れに枕するのは俗事を聞いて 汚けがれた耳を洗うためだ」とこじつけた。 いし石に錠じょう きわめて確かなこと。確かなものをさらに確 かにする意から。 類義石に判。石の証文岩の判。 石に立つ矢 出韓詩外伝・史記 必死になって物事を行えば、どんなことでも 必ずできるということのたとえ。 類義思う念力岩をも徹とおす。念力岩をも徹 す。一心岩をも透とおす。一念岩をも徹す。精 神一到何事か成らざらん。 故事昔、楚その国の熊渠子 ゆうき という勇将が、 夜間行軍をしたとき、横たわる石を見て、虎 がうずくまっていると思い込み、勢いよく矢 を放つと、矢は立つはずのない石に刺さった という(『韓詩外伝』)。これに類した故事が 『史記』李将軍りしょ(李広りこ)伝にある。『史記』 では「石に中あたりて鏃やじを没す」とある。 いしにくーいしべき 英語 Set hard heart against hard nap. 難には強い意志を持って立ち向かえ いしはなさ 石に花咲く 実際には起こり得ないことのたとえ。「石に 花」「石の上の花」「岩に花咲く」ともいう。 「類義」枯れ木に花。男猫が子を生む。朝日が 西から出る。川の石星となる。 いしふとんき 石に蒲団は着せられぬ はかふとんき 基に蒲団は着 せられず 518 石に耳あり 秘密の話などが漏れやすいことのたとえ。 石に耳」ともいう。 類義壁に耳あり障子に目あり。石の物言う 世の中。 いし 石の上にも三年 さんねん 辛らくても我慢して続ければ、いつかは報わ れるということ。忍耐の大切なことのたと え。冷たい石の上にも三年間すわり続けれ ば、自然に暖かくなるという意から。 類義辛抱する木に金がなる。茨の中にも三 年の辛抱。菰この上にも三年。待てば海路の 日和あり。 石の物言う世の中 秘密が漏れやすいことのたとえ。物を ずのない石でさえ物を言うほど、世の中では 秘密が漏れやすいという意から。「石の物言 う」ともいう。 補説もとは、民衆の中に為政者に対する不 満があるときに、物を言うはずのない石まで もが物を言うということ。 類義壁に耳あり障子に目あり。壁に耳、岩 に口。石に耳あり。 石橋を叩いて渡る 用心を重ねて慎重に物事を行うことのたと え。堅固な石の橋を叩いて、安全を確かめた 上で渡る意から。あまりにも臆病な人や、慎 重すぎて決断の遅い人に対する皮肉としても 用いられる。 類義 念には念を入れよ。浅い川も深く渡 れ。 対義危ない橋を渡る。虎穴に入らずんば虎 子を得ず。当たって砕けろ。伸のるか反そる か。 「用例」「去年の夏は、どうだったのですか?」 私の性格の中には、石橋をたたいて渡るケチ な用心深さも、たぶんに在るようだ。「あの あとで、お二人とも文治さん(長兄の名)に何 か言われはしなかったですか?北さん、ど うですか?」〈太宰治◆故郷〉 石部金吉鉄兜 堅すぎるくらいで、まじめ一方の人のこと。 堅い物の代表である石と金とを組み合わせた 名前の人が、さらに鉄製の兜をかぶっている ほどの堅物という意から。「石部金吉」だけ <44> でも用いられる。 補説まじめすぎて、極端に融通のきかない 人や、男女の情愛を理解できない人に対する 皮肉として用いられることが多い。 類義石に絆かみ。 いしゃと ぼうず 医者が取るか坊主が取るか 生死の境をさまよっている重病人のこと。病 人が、生きていて医者の世話になるか、死ん で坊さんの世話になるか、どちらともつかな いという意から。また、「取る」を「金を取る」 と解し、人の病気や死には、金がかかること をいう場合もある。 類義医者が取らなければ坊主が取る。 医者寒からず儒者寒し 医者は貧乏しないが、学者は貧乏するという こと。▷寒からず‖「寒い」は貧しい意。儒 者‖本来は、儒学を修めた学者のこと。ここ では単に学者の意。 類義 儒者貧乏医者福德。 医者上手にかかり下手 物事を上手に行うためには、相手を信用する ことが大事だというたとえ。どんな名医で も、患者が信用しなければ、病気を治すこと はできないという意から。 補説 徒然草 つれづ れぐさ には「よき友三つあり。 一つには物くるる(品物をくれる)友。二つに は医師 くす。 三つには智恵ちえある友」とある。 類義よき友は知者医者福者。 類義医を信ぜざれば、その病やま い 癒い えず。 いしゃちしゃふくしゃ 医者知者福者 友として有益な人。また、この世で大切にす べき人。 医者と味噌は古いほどよい 何事も年月を経ているものは貴重だというこ とのたとえ。医者は経験豊富な者のほうが上 手だし、味噌は年月を経たものほど味がよい ということから。 いしゃみそふる 類義医者と坊主は老人がよい。医者と南瓜 かぼ ちゃ は古いほどよい。新しい医者と新しい墓へ は行くな。 医者の薬も匙加減 何事も加減が大事だというたとえ。医者がく れる薬も、その調合の具合が適切でないと効 き目がないという意から。 いしゃじみゃくきめ 自分を客観的に見ることのむずかしさをいう たとえ。医者は自分の病気となるとうまく治 療ができない意から。 類義易者 えき 身の上知らず。 陰陽師 おんよ うじ 身の 上知らず。 医者の只今 ただいま こうや あさって 240 医者の不養生 立派なことを言いながら、実行が伴わないこ とのたとえ。医者は、患者には養生をすすめ ながら、自分は不養生なことから。 類義医者の若死に出家の地獄。紺屋の白 袴 しろば。 学者の不身持ち。儒者の不身持ち。 算術者の不身代 ふしん。 だい 髪結い髪結わず。 英語 Physician, heal thyself. 医師よ 汝 なん の病を治療せよ 用例馬琴は若い時、医を志したので多少は 医者の心得もあったらしい。医者の不養生と いうほどでもなかったろうが、平生 上に右眼 みぎ を失ってもさして不自由しなかっ たので、一つはその頃は碌々な町医者がな かったからであろう、碌な手当もしないで奪 すて置いたらしい。〈内田魯庵◆八犬伝談余〉 石破れ天驚く いしゃぶてんおどろ 出李賀ー詩 石砕才一 音楽・詩文・出来事などが、人を驚かすほど 奇抜で巧みなことの形容。石が割れ、天が驚 くほど巧妙であるという意から。 補説出典の詩の題名は『李憑りひ箜篌引 箜篌(ハープに似た弦楽器)の名手だった李憑 の演奏を歌った詩で、「女媧 石を錬ねりて天 を補う処 石破れて天驚き秋雨を逗まねく伝 説上の女帝の女媧が五色の石を練り合わせて 天の欠けたところをつくろったが、そのとた んに石が割れ、天が驚いて秋雨を招く」と ある。 いじゅこううん 渭樹江雲 出杜甫ー詩 互いに遠く隔たっているたとえ。また、遠く 離れている友人同士が、互いに相手を思い合 うたとえ。北方の渭水いすのほとりの樹木と、 南方の長江ちょうに漂う雲の意から。マ渭ニ渭 水。甘粛かんし省に発して陝西せい省を東流し、 <45> れいせつし 衣食足りて礼節を知る 黄河がに注く川江長江(揚子江こう) 補説出典の詩の題名は春日しゅん李白りはを 憶おもう。これに「渭北春天の樹、江東日暮 の雲。何いずれの時か一樽いつの酒、重ねて与とも に細かに文を論ぜん(渭水の北、春の空に立 つ木々の下で、私は君のことを思っているが、 君も江東にあって日暮れの雲を見ながら、私 を思っておられるのだろう。いつの日かまた 一樽ひとの酒をあけ、再びつぶさに文学を論じ 合いたいものです」とある。 出管子かんし 生活にゆとりができて初めて、人は礼儀や節 度をわきまえるようになるということ。「衣 食足りて栄辱えいじを知る」ともいう。▷衣食 ∥衣服と食物。礼節∥礼儀作法と節度。 補説出典には「倉廩 りん 実 み つれば(米倉に穀 物がいっぱい詰まっていれば)則 すな わ ち礼節を 知り、衣食足れば則ち栄辱(栄誉と恥辱)を知 る」とある。 類義 礼義は富足 ふそ に生ず。 恒産無き者は恒 心無し。 富貴にして善をなし易 やすく、 貧賤 ひん せん にして功をなし難し。 対義人はパンのみにて生くるものに非あら ず。 英語Meat and cloth makes the man.衣 食に申し分がなければ、立派な人物が生まれ るWell fed, well bred.よく養われた人 とは、育ちのよい人のことである いしょくーいずもの 多くそれを知ることが必要である。人間とは 何者であるか?衣食足れば礼節を知り、窮す れば罪の子となる。食に窮すれば、子は親に 隠れて食い、親は子の備蓄を盗む。これが人 間の姿である。〈坂口安吾◆帝銀事件を論ず〉 石を抱きて淵に入る 出韓詩外伝 自ら好んで大きな危険をおかしたり、命を 失ったりすることのたとえ。石を抱いて淵に 入れば、浮き上がれないことから。「抱きて」 は「抱いて」ともいう。△淵川などの深み。 類義薪 たき を負いて火に入いる。 いしんでんしん 以心伝心 出 禅源諸詮集都序 文字やことばを使わなくても、心と心で通じ 合うこと。「心を以もって心に伝う」ともいう。 補説もとは禅宗ぜんしで、ことばや文字で表 せない仏法の神髄を、師から弟子の心へ伝え ることを意味した。 類義 教外別伝。 拈華微笑 不立文字。維摩一默 怏いまの いちもく 用例私たちは七時の汽車に乗った。汽車に 乗る前に、北さんは五所川原 に電報を打った。「七ジタツ」キタそれだ けでもう中畑さんには、なんの事やら、ちゃ んとわかるのだそうである。以心伝心という やつだそうである。〈太宰治◆帰去来〉 い 衣、新を経ずんば何に由りて 故ならん 世説新語 せせつしんご どんなものでも最初は新しく、初めから古い ものはないということ。 故事桓沖 ゆう は新しい衣服を着るのが嫌い であった。ある入浴後、妻が準備させた新し い服を、怒って持ち去らせた。ところが妻は 再び新しい服を使いに持たせ、「新しい衣服 に手をとおさなければ、古着にはなりません」 と伝言させた。桓沖は笑ってこれを着た。 いすか 鶏の嘴はし 物事が食い違って、思うようにならないこと のたとえ。鶏のくちばしは上と下とが交差し ていることから。「鶏の嘴の食い違い」とも いう。∇鶏=雀すずより少し大きい渡り鳥。上 下のくちばしが左右に食い違い、先端で交差 していて、松かさの種などをついばむのに都 合よくできている。 用例令嬢がピアノを弾くのも両者を通じて 同じだ。医者の精神的堕落も同じである。た だ片恋の方向が、まず医者から令嬢へ、やが て令嬢から医者へと、イスカの嘴になってい るだけで、最後に病身になった令嬢が母と二 人で静養に出かけるところも同工異曲といえ る。〈神西清◆チェーホフ序説〉 居ずば出会え 卑怯 ひき よう 者の空威張りをあざけることば。人が いないことを確かめた上で、家の中から出て きて相手になれと叫ぶ意から。 出雲の神より恵比寿の紙 男女の仲も愛情よりは金が優先するというこ と。「神」と「紙」を掛けて言ったもの。 <46> いずるいーいそがば 出雲の神=男女の縁を結ぶと言われる神。恵 比寿の紙=裏面に恵比寿神の顔が描かれてい る明治時代の紙幣。 い いき い ま 出ずる息の入るをも待つべか らず 人の命のはかないことのたとえ。息をはいて から吸うまでの間にも、人の生死はどうなる かわからないということから。「出ずる息入 る息をも待たぬ」ともいう。 いずれ菖蒲か杜若 いずれもすぐれていて優劣がつけられず、選 択に迷うことのたとえ。菖蒲と杜若とは同類 のよく似た美しい花で、区別するのが難しい ことから。 い せ はまおぎ なにわ あし なにわ あし い 伊勢の浜荻、難波の葦 ↓難波の葦は伊 せ はまおぎ 勢の浜荻 486 信仰心のあついこと。また、信仰心がいくら 深くても、深すぎることはないということ。 このあと「愛宕あた様へは月参り」と続けても いう。「三度」は「さんど」とも読む。▷伊 勢∥三重県にある伊勢神宮。熊野∥和歌山県 にある熊野三社。 用例伊勢は七度よいところ、いざ御案内者 で客を招けば、おらあ熊野へも三度目じゃと、 いわれてお供に早がわり、いそがしかりける 世渡りなり。〈泉鏡花◆伊勢之巻〉 伊勢や日向の物語 いせひゅうがものがたり つじつまの合わない話のこと。見当はずれな ことにもいう。単に「伊勢や日向」ともいう。 ∇伊勢∥三重県北部。日向∥宮崎県。 補説伊勢物語知顕抄 ちけん しよう に、次のような 話がある。昔、伊勢の男と日向の男が同年同 時刻に生まれ、四十歳の同時刻に死んだ。閻 魔 えん の庁で、まだ寿命のある伊勢の男を生き 返らせようとしたが、この男は既に焼かれて しまっていたので、日向の男の体に伊勢の男 の魂を入れて生き返らせたところ、この男は 魂 たま が別なので、言うことがちぐはぐであっ たという。 葦巣の悔い 出荀子じゅんし 落ち着く場所のない不安や、頼る所のない心 細さのたとえ。頼るものがしっかりしていな いと、自分の身を守ることさえ難しいたとえ。 また、人生の浮き沈みのたとえにもいう。水 辺の草の中にすむ鳥が、巣が常に揺れて不安 であることから。 補説出典には「南方に鳥有り。名を蒙鳩 もうき ゆう と日いう。羽を以もって巣と為なし、之これを 編むに髪を以てし、之を葦苕 いち よう に繋かく。風 至りて苕折れ、卵破れて子死す。巣完 まっ た から ざるに非あざるなり。繋くる所の者然しかれば なりこれは、巣が完全でなかったからでは なく、かけたところが葦あしの穂であり、たよ りがなかったために、そのようになったの だ」とある。 類義 葦末 いま の巣。 鳴にお の浮き巣。 いそうろうお 居候置いて合わず居て合わず 居候を世話する側も厄介になる側も、苦労が 絶えず、割に合わないということ。∇居候∥ 他人の家に住み、金も払わず世話になる人。 補説「居候置いてもあはず居てあはず」と いう川柳がある。 類義 居候は居ても損置いても損。 いそうろうさんばいめ 居候の三杯目 居候は、食事の際にも遠慮し、三杯目のおか わりのときには茶碗ちゃをそっと差し出すということ。 マ居候∥他人の家に住み、金も払わ ず世話になる人。 補説 居候三杯目にはそっと出しという 川柳がある。 用例)どうも、私は、いまになって考えてみ るに、おまえほど口やかましい女は、世の中 に、そんなに無いような気がする。おまえは、 どうして私を、あんなにひどく叱ったのだろ う。私は、わが家にいながら、まるで居候の 気持だった。三杯目には、そっと出していた。 それは、たしかだ。〈太宰治◆愛と美について いそたかび 急がば高火 急いで物を煮るときは、火にあまり近づけな いほうがよいという教え。近火にすると火の 効率が悪く、煮炊きするのにかえって時間が かかることから。 類義急がば回れ。 <47> 急がば回れ いそまわ 急ぐときほど着実な手段をとったほうが得策 であるというたとえ。危険な近道を通るより も、遠回りでも安全な道を通るほうが、結局 は早く目的地に着くことから。「急げば回る」 「急ぐ道は回れ」ともいう。 類義急せいては事を仕損じる。急がば高火。 遠道は近道。回るは近道。走れば躓づまく。 対義巧遅は拙速に如しかず。 英語 Make haste slowly. ふつと急 ば] Slow and steady wins the race. 遅 くとも着実な者が競走に勝つ 急ぎの文は静かに書け 急ぎの手紙ほど大切な用件の場合が多いか ら、書き落としや誤りがないように、落ち着 いて慎重に書けという教え。「急ぐ文は練っ て書け」ともいう。 の片思いともいう。 いそぎわ 磯際で船を破る 物事が完成する直前で失敗に終わることのた とえ。船が港の近くまで来て難破してしまう 意から。「川口で船を破る」「港口で難船」と もいう。「破る」は「やぶる」とも読む。 類義草履 履き際で仕損じる。九仞 功を一簣 に虧かく。百日の説法尻へ一つ。 いそあわびかたおも 一磯の鮑の片思い 片思いをしゃれて言うことば。磯にいる鮑は 片貝であることから、「片貝」の「片」と、「片 思い」の「片」をかけて言ったもの。単に「鮑 補説古くからあることわざで、『万葉集』 には「伊勢いせの白水郎あまの朝な夕なにかづく てふ鰒あわの貝の独念かたおもいにして(伊勢の海人あま が朝夕ごとに水中にもぐり入って取るという、あわびの貝のように、わたしは片思いば かりしています」という和歌がある。 いそがばーいたくら いた痛い上の針 災難に災難が重なることのたとえ。痛いとこ ろに針が刺さって、もっと痛くなることから。 「痛む上の針」「痛い上の針立て」ともいう。 類義痛む上に塩を塗る。泣き面に蜂。弱り 目に崇たたり目。 衣帯を解かず 出漢書かんじょ あることに非常に専念すること。衣服を着替 えることもせず、不眠不休で仕事にあたるこ とから。▷衣帯‖着物と帯。 補説前漢 世人 末の政治家王莽 おうが伯父の病 かん もう 気を何か月も不眠不休で看病したという故事 に基づく。出典には「世父ふ大将軍鳳ほう病ぃ す。莽、疾しに侍じし親みずら薬を嘗なむ。乱首 垢面 こう、 めん 衣帯を解かざること連月なり大将 軍である伯父の王鳳 おう ほう の病気が重くなった。 王莽は病床につきっきりで、自分で薬の毒味 をして看病した。髪は乱れ、顔は垢あかにまみ れ、着物の帯を解かない不眠不休の状態が何 か月も続いた)とある。 いたかゆ 痛くも痒くもない 何の影響も受けないさま。刺激を受けても何 も感じない意から、妨害や中傷に動じないさ まをいう。 類義痛痒を感じない。 用例そこで私たちは大急ぎで銘々一つずつ パンフレットも作り自働車じどうなどまで雇っ てそれを撒まきちらしましたが実は、なあに、 一向あなた方が菜っ葉や何かばかりお上がり になろうと痛くもかゆくもないのです。〈宮 沢賢治・ビジテリアン大祭〉 痛くもない腹を探られる 身に覚えがないのに、疑いをかけられること。 腹痛でもないのに痛い箇所はどこかと腹をい じられることから。悪意に基づく推察や誤解 から疑いをかけられ、迷惑を受ける場合に用 いられる。 用例こんなことが評判になったらまた南 番所の組下が手を叩たいて笑いはやすであろ うそんな事はいいとしてもしひよっと して、賄賂をとって証拠湮滅 だろうなどと痛くもない腹をさぐられるよう なことにでもなったらそれこそのめめ と生きながらえているわけにはゆかぬまさ に皺腹ものである〈久生十蘭◆顎十郎捕 物帳〉 板倉殿の冷え炬燵 非の打ちどころのないこと。また、火の気の ないこたつをしゃれていう。板倉殿の政務に は非難される点がないことから、「非がない」 と「火がない」をかけていったもの。「板倉殿」 「板倉炬燵」ともいう。∇板倉殿∥江戸時代 <48> 初期の京都所司代(長官の代理)板倉重宗 裁決が明解なことで世間から称賛された。 板子一枚下は地獄 船乗りという仕事の、きわめて危険なことの たとえ。また、死につながる危険に直面する ことのたとえ。船の上げ板一枚下は、落ちれ ば死につながる海であることから。△板子= 船の底に敷いた上げ板。 類義一寸下は地獄。一寸の地獄。 用例真裸な実力と天運ばかりがすべての漁夫の頼みどころだ。その生活はほんとに悲壮だ。彼らがそれを意識せず、生きるということはすべてこうしたものだと諦めをつけて、疑いもせず、不平も言わず、自分のために、自分の養わなければならない親や妻や子のために、毎日毎日板子一枚の下は地獄のような境界に身を放げ出して、せっと骨身を惜しまず働く姿はほんとうに悲壮だ。〈有島武郎◆生まれ生づる悩み〉 いた痛し痒し 利害が混在して、どちらかを選ぶのに迷うこと。かけば痛いし、かかなければ痒いという意から。どちらを取っても自分に都合の悪い結果になるときに用いる。「痛し痒しの痘瘡そう」「痛し痒しも瘡かさにこそよれ」ともいう。類義彼方あち立てれば此方らが立たぬ。 用例王政維新の実を挙げ、朝廷の実力を発 揮するためには、幕府に一撃を与えて、実力 的に圧倒することが必要だと思っていたか ら、幕府からの大政奉還は、痛し痒しであっ たのである。〈菊池寛◆鳥羽伏見の戦〉 いただものなつこそでもらものなつこそで 戴く物は夏も小袖貰う物は夏も小袖 649 いたち 馳になり貂になり いろいろな方法でやってみること。△貂∥山林にすむ、イタチ科のけもの。 類義貂になり兎うさになり。 いたちさいご 馳の最後っ屍 窮地に追い込まれたときなどに非常手段に訴 え、危難を逃れようとすること。また、最後 に醜態を演じることのたとえ。馳は危険が迫 ると、悪臭を放って逃げることから。 類義馳のじょうの屁。 用例ことに著るしく吾輩 わが はい の注意を惹ひ たのは彼の元気の消沈とその体格の悪くなっ た事である。吾輩が例の茶園で彼に逢あった 最後の日、どうだと云いて尋ねたら「いた ちの最後尻と肴屋 さか なや の天秤棒 てんび んぼう には懲々 こり だ」といった。〈夏目漱石・吾輩は猫である〉 いたちなまてんほこ 馳の無き間の貂誇り 自分よりすぐれた者や力の強い者がいないと きだけ威張ることのたとえ。大敵である鼬の いない間だけ、貂が威張ることから。∇貂∥ 山林にすむ、イタチ科のけもの。 類義鳥なき里の蝙蝠 こう。 もり 蝕の道切り 交際や音信が絶えること。 馳は二度と同じ道 を通らないといわれ、馳が人の前を横切ると、 思う人との交際が途絶えたり、不吉なことが 起こったりするという俗信から。「馳の道」 「馳が道を切る」ともいう。 ♠ 韋駄天走り ものすごい速さで一気に走ること。韋駄天の ように走る意から。△韋駄天‖非常に足が速 いとされる仏教の守護神。 類義 韋駄天に帆をかけたよう。 用例其その様子を見ると確たしに実際の馬鹿馬鹿しい騒動を見届けて来たものらしいから僕も其男どもと後へ引返ひきえして来ました。此時この溜池ための方から一両の人車が韋駄天走りにやって来る、車上の人は警官、御用の提灯ちょうを膝の上にのせて居るのです。〈国木田独歩・夜の赤坂〉 板に付く 態度や服装などが、仕事や地位にぴったり 合っているさま。役者が経験を積んで芸が舞 台に調和し、ぎこちなさがなくなる意から。 ∇板∥舞台。 用例八イカラにかぎらず、これは何によら ず外来語が「日本語」に生うまれ代かわる場合に は、発音のつまることは言葉の経験するとこ ろで、modernにしても、モダーンと引張る うちはまだ半洋半和である。「モダン」とつ まるに及んで、日本語となり、同時にその世 相風俗も日本の板につく。〈木村荘八◆ハイ カラ考〉 <49> 痛む上に塩を塗る いたうえしおぬ ただでさえ苦しいものをいっそう苦しめるこ とのたとえ。傷口の上に塩を塗ると、しみて いっそう痛くなることから。 類義傷口に塩痛い上の針泣き面に蜂 弱り目に崇たり目踏んだり蹴ったり いちあくもっそぜんわす 一悪を以て其の善を忘れず 一悪を以て其の善を わずかな欠点や悪行を問題にして、多くの長 所や善行を忘れてはならないということ。人 の上に立つ者の人材活用の心得をいったも の。「忘れず」は「捨てず」ともいう。また、 「一悪を以て衆善 ぜん を忘れず」ともいう。 枕を高たこうしてはいられない。警戒の理由 は、充分にある。〈吉川英治◆平の将門〉 一衣帯水 出南史なんし 狭い川や海に隔てられているが、きわめて近 接していることのたとえ。一本の帯のように 細い川の意から。▷衣帯‖着物の帯で、細く 長いたとえ。水‖川や海などをいう。 注意 「一衣、帯水」ではなく「一、衣帯、水」 と区切れることば。 故事中国隋ずいの文帝が陳の国を討伐しよう としたとき、「わたしは人民の父母である。 どうして一本の帯のような川に隔てられてい るからといって、これを救わずにいられるだ ろうか」と長江ちょうこうを称していった言葉。 用例では、藤原玄明が、どういう密告をこ こに齎 もた ら したのかといえば、それはただ、右 馬允貞盛 うまのすけ さだもり が常陸 ひた ち に居るというだけの ことでしかない。然しかし、常陸との国境は、 一衣帯水だ。将門 まさ かど にすれば、それだけでも、 いたむうーいちかば いちうりざねにまるがお一瓜実に二丸顔 女性の顔立ちのよさをいう。鼻筋の通った瓜 実顔が一番で、次が愛嬌 あいき よう のある丸顔だと いうこと。▶瓜実∥瓜実顔。中高の細長い 顔。 補説類似の言い方がいくつもあり、三平 顔がおに四長顔五までさがった馬面づら顔」ある いは「三平顔に四長面なが」などと列挙し、十 まで続けることが多い。三以降は難点を並べ るものが多い。 いちうんにこしさんひようし一運二腰三拍子 相場でもうけるには、まず幸運、次はねばり 強さ、そしてチャンスを逃がさないことであ るということ。 種。 いちえいまなこ 一翳眼にあれば空華乱墜す 出景徳伝灯録 眼めの中に一点でも翳かげりがあれば、さまざまな幻影・幻覚が乱れ落ちてくる。一点の真理に対する執とわれから無数の迷いが生じるというたとえ。もと、唐の禅僧、帰宗智常きすちじょうの語。 いちえん 一淵には両鮫ならず 一つの集団には二人の強力な指導者は共存で きないということ。同じ淵に二匹の竜はすめ ないことから。△鮫‖想像上の動物で竜の一 類義両雄並び立たず。英雄並び立たず。 いちおにかねさんおとこ 一押し二金三男 女性の愛を得るには、第一に押しが強いこと で、金があることや男前であることは、あま り重要ではないということ。 類義 一暇 ひま 二金三男。 一押し二金三姿四程 五芸。 いちばち 二 か八か 結果はどうなるかわからないが、思い切って やってみること。 補説かるた賭博とばから出たことばで、「一 は「丁ちよ」の上の部分を、「八」は「半」の 上の部分をとったものといわれる。 類義丁か半か。伸るか反そるか。乾坤一擲 けんこん。 いってき 一擲乾坤を賭とす。当たって砕けろ。 鬼が出るか蛇じが出るか。 よ。 対義 石橋を叩 たた いて渡る。 念には念を入れ 用例)退院してからもう四年にもなるのだ が、それ以来は養生らしい養生も出来ず、身 体だからに自信が持てなかったため、つい、うか うかと青春を見送ってしまったのである。そ う云いうことを振返 かえ って考え込むと、彼は 心の底から一つの細力 りき が湧いて来て、蹣跚 よろ め きそうな身体を支えて呉くれそうな気がし た。実際、此頃このでは一か八か生命を犠牲に して、何か商売を始めようと考えてもいた。 叔父が古本屋の資本を貸して呉れたら、少し は愁眉が開けそうだった。〈原民喜◆閑人〉 <50> いちかみ 一髪、二化粧、三衣装 から十まで 始めから終わりまで、すべて。 類譲 ーから何まで。 用例母上は例の何事も後へは退かぬご気 性なるが上に孫かあいさのあまり平生はさま で信仰したまわぬ今の医師及び産婆の注意の 一から十まで真っ正直に受けたもうて、それ はそれは寝るから起きるから乳を飲ます時間 から何やかと用意周到のほど驚くばかりに 候。〈国木田独歩◆初孫〉 いちがんかめふぼくあもうきふぼく 一眼の亀浮木に逢う↓盲亀の浮木642 いちげいみちつう 一芸は道に通ずる 何かの芸の奥義をきわめた者は、別の方面で も物事の道理がわかってくるということ。 類義一芸に達する者は諸芸に達する。 一言居士 何事にも、一言 ひと こと 文句や意見を言わなければ 気がすまない人のこと。「一言抉つける」を人 名になぞらえたもの。∇居士にもとは在家で 仏教に帰依する男子の称。日本では男子が死 んだ後に戒名の下につける称号。 いちこいち会 ること。生涯に一回しかないと考えて、その ことに専念する意。▷一期‖一生。 補説安土桃山時代の茶人千利休 せんのり きゅう の弟子 山上宗二やまのうえのことば一期に一度の会 による。その日の茶会での出会いは一生にた だ一度だけのものと心得て、誠実な心で人と 交わるべきだという意。 用例風の具合が悪くてぶっつり切れれば、 虎の子の二両二分はそのまま不人情に風のま にまにどこかの屋根裏か路地へ一瞬にして消 えてしまうのだから、元々足場の悪い、屋根 で揚げる風たこは、切れたら最後と、いつも一 期一会の張り切った気組みだった。〈木村荘 八◆両国今昔〉 いちごうと 一合取っても武士は武士 どんなに貧しくても、武士には武士の誇りと 本分があるということ。禄高だが(給与)は一合 でも、武士であることに変わりはないという 意から。▷一合‖尺貫法の容積の単位で、一 升の十分の一。ここでは少量の意。 類義一輪咲いても花は花。 いちごんすで 一言既に出ずれば駟馬も追い難し も舌に及ばず 301 いちじ一事が万事ばんじ て全豹 ぜんぴ よう をトぼくす。一行失すれば百行共に 傾く。 一つのことを見れば、他のすべてのことが推 察できるということ。一般に、あまりよくな い一面を見て、他の面でも同様に悪いだろう と推察する場合に用いる。 類義 一事を以 もっ て万端を知る。一斑 いっ ぱん を見 英語 False with one can be false with two. 一つのことを偽る人は、二つのこと についても偽る 用例その病中、李は親切に世話をしてやったので、親父も大層よろこんで、死にぎわに自分のあとの事をいろいろ頼んだそうだ。頼まれて引取ったのがその娘の崔英だ十一か二の小娘であったのを、自分の手もとに置いて旅から旅を連れてあるいているというのだ。一事が万事、まずこういた風であるから、彼は一座の者から恨まれているような形跡はちっともなかった。〈岡本綺堂女俠伝〉 いちじせんきん一字千金 出史記しき 貴重で価値のある立派な文字や文章のたと え。また、師の恩などの厚いことをいう。一 字の価値が千金にも相当するほど、大きな価 値がある意から。∇千金∥千両・大金の意。 故事)中国秦しの呂不韋りが呂氏春秋 りよししゅんじゅうを著したとき、都の咸陽かんようの門に千 金をあわせて置いて、一字でも添削できる 者がいたら、千金を賞金として与えよう」と 言ったという故事による。 一日三秋 いちじつさんしゅう 出詩経しきよう 相手を思慕する情が非常に強いことのたと え。また、ある物事や人が早く来てほしいと 願う情が深いこと。たった一日でも会わない と、三年も会わないように思うという意から。 <51> 「一日」は「いちにち」とも読む。△三秋= 三年の意。三か月、あるいは九か月とする説 もある。 補説出典には「彼かしに蕭うを采とる(あそこ で河原よもぎを摘む人は)、一日見ざれば三 秋の如ごとし」とある。 類義一日千秋。一刻千秋。三秋の思い。 いちじつせんしゅう 一日千秋 類義一日三秋。一刻千秋。三秋の思い。 相手を思慕する情が非常に強いことのたと え。また、ある物事や人が早く来てほしいと 願う情が非常に強いこと。一日が千年のよう に長く感じられるという意から。「一日」は 「いちにち」とも読む。マ千秋=千年の意。 補説「一日三秋」から出たことば。 いちじつてきゆるすうせいうれ一日敵を縦せば数世の患い わずか一日でも敵を討つ手をゆるめると、数 世の後まで災いの原因となるということ。 「縦せば」は「縦さば」ともいう。△縦す∥ 見のがす、許容する意。 出春秋左氏伝 一日作さざれば一日食らわず 一日働かなければ、一日飯を食べないという こと。 出五灯会元 故事唐の禅僧百丈懐海 ひゃくじょ うえかい が高齢にもか かわらず仕事をやめないので、門弟たちがい たわりの気持ちから道具を隠したところ、百 丈はその日一日食事を摂らなかったという。 百丈は禅宗独自の規律「清規しを制定した とされる人で、農耕などの生産労働を仏道修 行の一環と位置づけたといわれる。 いちじつーいちじの 一日作さざれば百日食らわず 出史記しき 補説中国の戦国時代、趙ちょうの肃く侯が国内 巡遊に出かけようとしたとき、宰相の大戊午 たいぼが、今は農繁期だから耕作の邪魔になる と侯の馬をとどめて諫いさめたときのことばに よる。 農民が一日耕作を休めば、百日分の食糧を失 うことになるということ。 いちじっ 一日の長 出論語ろんご 少し年上であること。転じて、ほんの少し経 験があり、経験や力量が他よりわずかにま さっていることをいう。一日早く生まれた意 から。「一日」は「いちにち」とも読む。 補説出典には、孔子のことばとして「吾わ が一日爾なんより長ずるを以もって、吾われを以て すること無かれ(わたしが君たちより少し年 上だからといって、わたしに遠慮をしないで おくれ)とある。 類義亀の甲より年の劫こう。 用例つぎに、武者小路むしゃの 氏は、西洋の作 家は「言葉を活かす」ことに於おいて傑すぐれ、 日本の作家は「沈黙の価値」を識しることに 於て一日の長があると云いわれる。西洋の作 家の一例として、勿論 もち ルナアルが引合 ひきい あ に出されているわけである。〈岸田国士・武 者小路氏のルナアル観〉 一日再びは晨なり難し 出陶潜ー詩 一日に二度朝がくることはないということ。 時間を惜しんで努力せよという戒め。マ晨= 早朝の意。 補説出典の詩の題名は『雑詩ざっ』。「盛年重 ねては来きたらず(元気さかんな年代は二度と 来ない)、一日再びは晨なり難し、時に及ん で(その時を逃がさず)当まさに勉励すべし。歳 月は人を待たず」とある。 いちじけだいいっしょうけだい 一時の懈怠は一生の懈怠 わずかな時間のなまけ心が、一生をなまける もとになるということ。△懈怠=怠りなまけ る心。「けたい」とも読む。 補説徒然草つれづに「一時の懈怠、即すなわ 一生の懈怠となる。これを恐るべし」とある。 英語He that lives not well one year sorrows for it seven.「いい加減な暮らしを すると、七年悔やむことになる」 いちじ一字の師し 出五代史補 一つの文字について教えてくれた師。また、 詩や文章の誤りを添削してくれたり、適切な 用い方を指導してくれたりした人への敬称。 故事昔、詩人の鄭谷は、訪ねて来た僧侶 の斉己せいの示した『早梅』と題する詩に「数 <52> 枝開く(数本の梅の木の枝に花が開いた)と あったのを「一枝開く」と直した。斉己はそ れを聞いて思わず頭を下げ、鄭谷に「わたし の一字の師です」と言ったという故事による。 用例支那しな人は古来「一字の師」と言うこ とを言います。詩は一字の妥当を欠いても、 神韻を伝えることは出来ませんから、その一 字を安からしめる人を「一字の師」と称する のであります。〈芥川龍之介・文芸鑑賞講座〉 いちじゅかげいちがながたしょう 一樹の蔭一河の流れも他生の 縁 この世のあらゆる出来事は、すべて前世から の因縁 いん ねん によるので、おろそかにしてはなら ないということ。知らない者同士が同じ木陰 に雨宿りをしたり、同じ川の水を飲んだりす るのも、前世からの因縁によるということか ら。∇他生の縁=前世で結ばれた因縁の意。 注意「他生」を「多少」と書き誤らない。 類義袖振り合うも多生の縁。一樹の蔭も他 生の縁。 用例ここへはいったら、どうにかなると 思って竹垣の崩れた穴から、とある邸宅にも ぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの 竹垣が破れていなかったら、吾輩 はついに 路傍に餓死したかもしれんのである。一樹の 陰とはよく言ったものだ。〈夏目漱石◆吾輩 は猫である〉 いちじょうしゅんむ一場の春夢 うことのたとえ。ひとときだけの短い春の夜 に見る夢の意から。△一場∥その場限り。ほ んのわずかの短い間。 出侯鯖録こうせいろく 人生の栄華が、きわめてはかなく消えてしま いちぜんはいしゅうぜんおとろ一善を廃すれば衆善衰う 小さな善行一つでも、無視したり軽視したり してはいけないという教え。小さな善行をゆ るがせにすると、世の中のすべての善行が世 に行われなくなるという意から。 類義一行失すれば百行共に傾く。 いちだくせんきん一諾千金 絶対に信頼できる確かな承諾や約束。また、 約束を重んじなければならないことのたと え。一度承諾したことは、千金にも値する重 みがあることから。△一諾∥ひとたび承知し て引き受けること。千金∥大金の意。 出史記しき 故事中国秦し末、楚その将軍季布きふは信義 に厚い仁俠にんきとして知られ一度引き受け たことは確実に実行したので、楚の人々から、 黄金百斤を得るより季布の一度の承諾を得る ほうが価値がある、といわれた故事から。 類義季布の一諾。 用例子路が他の所ではあくまで人の下風に 立つを潔しとしない独立不羈ふきの男であり、 一諾千金の快男児であるだけに、碌々ろくたる 凡弟子然ばんていとして孔子の前に侍べはんっている 姿は、人々に確かに奇異な感じを与えた。〈中 島敦◆弟子〉 いちたねにこえさんつく一種二肥三作り を選ぶこと、次には適切な肥料を施すこと、 第三に手入れや管理をよくすることが大切だ ということ。 よい農作物を作るための心得。まずよい種子 類義 苗半作。 一度あることは一度ある あることが一度起こると、同じようなことが 続いて起こるということ。これに「二度ある ことは三度ある」と続けてもいう。よくない ことは続いて起こりやすいので注意せよという 戒めに使われることが多い。 類義一災おこれば一災おこる。朝にあることは晩にある。 対義いつも柳の下に泥鱠 は居らぬ。 英語No chance but comes again. 好機 は必ず二度来る 一と言うたら二と悟れ 一つ言われたら、次は何をすべきかと頭を働 かせよということ。 類義 鑑のみと言えば槌つち。 一度死ねば二度死なぬ 死は一度きりだということ。死の覚悟をきめ たり、やけを起こしたりしたときに用いられ る。 類義一度焼けた山は二度は焼けぬ。 いちど にど 一度はままよ一度はよし 一度目は良心がとがめた悪事も、二度目から は平気でするようになるということ。良心が 麻痺まひしやすいことをいう。∇ままよ∥なる <53> ようになれの意。 いちどや いちどみばかにどみばか 一度見ぬ馬鹿、二度見る馬鹿 一度は見ないと人におくれをとるが、二度も 見るほどの価値はないことのたとえ。「一度 見ぬ阿呆あほ、二度見る阿呆」ともいう。 やまにど 一度焼けた山は一度は焼けぬ 同じ災難は二度重ねてはこないということ。 災難に遭って悲観している人を慰めて言うこ とば。 いちな 一無かるべからず、二あるべ からず 出通俗編 一度はあってもよいが、二度あってはならな いということ。 いちなん 難去ってまた一難 次々と災難や困難なことがやってくること。 一つの災難を切り抜けて安心しているところ へ、また別の災難が降りかかってくること。 類義虎口を逃れて竜穴に入いる。前門に虎 を拒ふせぎ、後門に狼 かみ を進む。前門の虎、後 門の狼。火を避けて水に陥 おち い る。 英語 If the Bermudas let you pass, you must beware of Hatteras. [仮にバッューダ諸島(海難事故多発地帯)を通過できたとしても、次にはハッテラス岬(船の難所)に用心しなければならない] 用例イヤどうもとんでもないことになっ ちゃった。たった一つの眼も、恋にくらむ とは、えらいことになるもので。萩乃 の身にとっては、門之丞もんの じょうという一難去っ て、また一難。虎が躍りでて、狼をかみころ してくれたのはいいが、こんどはその虎が、 爪をみがいて飛びかかろうとしているような もの……。〈林不忘◆丹下左膳〉 いちどみーいちにほ いちかんびょうにくすり 一に看病二に薬 病気を治すのにもっとも効き目があるのは周 囲の人の看病で、薬はその次ということ。 類義一に養生二に介抱。薬より養生。 いちきごと 市に帰するが如し 出孟子もうし 市場に人が集まるように、徳のある人のもと には大勢の人々が寄り集まってくるというこ と。△帰する‖集まる。 補説出典には「邠人ひと日いわく、仁人なり、 失うべからず、と。これに従う者市に帰する が如し(邠県の人々は、大王はすぐれた徳の 持ち主だから、この王を失ってはならない、 と言った。大勢の人が先を争って市場に集ま るように、大王につき従った」とある。 いちにちいちじ まな さんびゃくろくじゅうじ 一日一字を学べば三百六十字 少しずつでも毎日怠らずに勉強すれば、積も り積もって大きな成果が上がるという教え。 いちにちこれあたたとおかこれひや 一日之を暴めて十日之を寒す すぐれた師がよい教えを授けても、周囲の多 くの者が悪いほうに導くなら、よくなりかけ 出孟子もうし た者もだめになってしまうたとえ。また、努 力するのはわずかで、怠けることのほうが多 いことのたとえ。また、一方では努力し、一 方ではそれを破ることのたとえ。一日だけ日 光にあてて暖め、十日間は冷やしてしまう意 から。一日暖めて十日冷やす」「一暴十寒 いちばく」ともいう。∇暴∥「曝」と同じ。日光 にあてて暖める意。 一日猿楽に鼻を欠く わずかな楽しみのために、大きな損をすること。猿楽を一日習ったために、大切な鼻にけがをするという意から。△猿楽=能楽の旧称。いちにちけいあさ 一日の計は朝にあり 一日の計画は朝のうちに立てよということ。 計画を立てて実行せよという教え。「朝」は 「あした」とも読み、「晨」とも書く。 類義一年の計は元旦にあり。一生の計は少 壮の時にあり。 いちとらさんにんとらな 市に虎ありゝ三人虎を成す280 いちほににくさん 一に褒められ二に憎まれ三に しかぜひ 惚れられ四に風邪引く くしゃみをした数による占い。くしゃみを一 回したら誰かがほめている、一回だったら誰 かに憎まれている、三回は惚れられている、 四回したら風邪を引いたのだ、ということ。 補説「一謗そしり一笑い三惚れ四風邪」「一に 褒められ二謗られ三笑われ四風邪」などいろ <54> いろな言い方がある。 いちようにかいほうに養生二に介抱 病気を治すには、まず患者自身が医師の指示 に従って治療を心がけることが大事で、次に 周囲の人々の世話が大切だということ。 類義一に看病二に薬。薬より養生。 いちわざわいか 市に禍を買う 出雑聲喩経 自分から進んで災いの種を求めること。 故事)昔、ある平和な国の安楽な王が、災い を探し求め、猪いの形をした禍母かもを買った。 禍母は一日に針一升を食べるので、国民に針 を供出させたが、国民は負担に堪え切れず逃 げ出した。家来は禍母を切り殺そうとしたが 鉄製のため切れず、焼き殺そうとしたところ、 火中から飛び出して当たるものすべてを焼き 尽くし、遂っいに国は滅亡した。 いちにんきょつた 一人虚を伝うれば万人実を伝う 一人が嘘うを言うと、これを聞いた多くの 人々が、事実としてそれを言いふらすこと。 「実を伝う」は「実と伝う」ともいう。 類義一犬影に吠ぼゆれば百犬声に吠ゆ。一 犬虚を吠ゆれば万犬実を伝う。 いちにんけん 一人倹を知れば一家富む 富裕になるということ。∇倹∥節約。倹約。 いちにんせいごしゅうそかまびす 出化書かしょ 一人の斉語、衆楚の咻しきに 出孟子もうし 耐えず 教育には、環境が何よりも大切であるという たとえ。「一人」は「ひとり」とも読み、「耐 えず」は「勝たず」ともいう。 補説孟子が宋そうの家臣戴不勝たいふに言った ことば。「一斉人これに傅ふたるも、衆楚人こ れに咻きゅうせば、日に撻むちちてその斉たらんこ とを求むと雖いえも、得うべからず(斉の人が楚 の国の子供に斉のことばを教えようとして も、楚の人々が騒がしく楚のことばを話して いたら、毎日鞭むちを打ってまで教え込もうと しても、覚えられるものではない」と出典 にある。 いちにんよ 一人善く射れば百夫決拾す 出国語こくご 一人の優秀な人物に多くの人々が刺激され、 奮起することのたとえ。一人が上手に矢を射 ると、それを見た他の人々も弓矢を引く気持 ちになり、準備することから。▷百夫‖大勢 の人々。決拾‖弓を射るときに手に付ける道 具。転じて、弓を射る気持ちになること。 いちねんいわとおいしたや 一念岩をも徹す◐石に立つ矢40 いちねんてん つう 一念天に通ず 何かを成し遂げようという固い決意で物事に 取り組めば、その意志は天に通じ、必ず成し 遂げられるということ。 類義蟻ありの思いも天に昇る。石に立つ矢。 精神一到何事か成らざらん。 いちねん 一年の計は元旦にあり 一年の計画は年の初めの元旦に立てよという こと。物事は計画を立てて実行せよという教 え。 類義一日の計は朝にあり。一生の計は少壮 の時にあり。 いちねんほっき 一念発起 出歎異抄 それまでの考えを改め、物事を成し遂げよう と決心して励むこと。「一心発起」ともいう。 ▶一念=一瞬の心のはたらき。具体的には、 仏道を目指す決心、一瞬の信心、一回の念仏 などを表す。 補説もと仏教語で、決定的な「一念」を起 こすこと。 用例七日七夜、椽 の下でお通夜して、今 日満願というその夜に、小 ちいい阿弥陀 だ 様が 犬の枕上 ちんじ よう に立たれて、一念発起の功徳に 汝 なん が願い叶かな え得さすべし、信心怠りなく 勤めよ、如是畜生発 によぜちく しょうほつ 菩提心、善哉 よき かな 善哉、 と仰せられると見て夢はさめた。〈正岡子規 犬 いちのうたがや 一農耕さざれば民或は之が為 に飢う たみあるいこれ 出管子 一人でも義務を怠ると、全体が迷惑すること <55> のたとえ。また、始まりは小さくても放置し ておくとやがては大きなことになるたとえ。 一人の農民でも怠ける者がいると、それに よって飢える人々が出てくることから。 補説出典では、このあとに「一女いち織らざれば、民或は之が為に寒ふゆ一人の織り子が機はたを織らないと、そのために寒さに震える人々が出てくる」と続く。 いち一の裏は六 悪いことのあとにはよいことがあることのた とえ。さいころの目の最小の一の裏は、最大 の六であることから。悪いことが起こって落 胆している人を励ますときなどに用いる。 類義悪の裏は善。 いちばくじっかん いちにちこれあたたとおかこれひや 一暴十寒一日之を暴めて十日之を寒 す53 いちばはしいちもううご一馬の奔る、一毛の動かざる 出庾信ー擬連珠 指導者が行動を起こすと、部下も一斉に行動 することのたとえ。一頭の馬が走ると全身の 毛が動く意から。「奔る」は「走る」とも書く。 補説出典では、このあとに「一舟 いっしゅうの覆 がえる、一物として沈まざるは無し(一そうの 舟がひっくり返れば、沈まないものはない) と続く。 一番風呂は馬鹿が入る 沸かしたての新しい湯は、きめが粗くて入り 心地が悪いし、健康にもよくないということ。 いちひにさいさんがくもん 一引き二才三学問 いちのうーいちもう 出世するには、上の人からの引き立てが大切 で、次が才能、三番めが学問の有無であると いうこと。「一つる二才三学問」ともいう。 類義一引き二運三器量。 一姫二太郎 子供は、最初に女、二番めに男という順序で さずかるのが理想的だということ。 注意子供の数は女一人、男二人が理想的だ という意味に用いられることもあるが、本来 の用法ではない。 用例結婚後に生うまた長男の求太郎はも う九歳にもなり、長女の雪子は十二次女の 園子は三ツ。「一姫二太郎」という順に、人 にも羨まれるような子持ちでもあった。 吉川英治◆大岡越前 一病息災 持病が一つぐらいあるほうが、健康な人より 健康に気を配るので、かえって長生きすると いうこと。「無病息災」からできたことば。 ∇息災∥健康であること。 いちふじにたかさんなすび 一富士二鷹三茄子 夢、特に初夢に見ると縁起がよいとされるも のを並べたことば。このあとに「四扇 五煙 草 ごた ばこ 六座頭 ろくざ とう と続けてもいう。 補説江戸時代から言い伝えられていること わざで、徳川家康が領有した駿河 が の国(静 岡県)の名物を並べたとする説、駿河の国で 高いもの(富士は高さが日本一、鷹は愛鷹山 あした かやま の通称、茄子は初茄子の値段)を並べたと する説、富士は「不死」に通じるので不老長 寿を、鷹は「高・貴たか」と訓が共通するので 出世栄達を、茄子は実がよくなるので子孫繁 栄を意味するとした説などがある。 一望千里 見晴らしのよいこと。一目で遠くまで広々と 見渡されること。また、広々とした美しい景 色。「一望千頃」ともいう。△一望広々 とした眺めを一目で見渡すこと。千里はる かかなた。 用例一望千里、波浪と岩礁のみの荒磯 あら いそ も、 その海底は千変万化で、海流に洗われて深く、 浅くさまざまな現象を持っている。〈佐藤惣 之助◆荒磯の興味〉 いちぼくたいかくずささあた 一木大廈の崩るるを支うる能わず 廈の将に顛れんとするは一木の支 ところあら うる所に非ず383 いちまい一枚の紙にも裏表 物事は表面と裏面の両方を見て判断する必要 があるということのたとえ。一枚の紙にも 表裏ひょうりあり」ともいう。 英語 Look on both sides of the shield. 盾 の両面を見よ」 いちもうだじん一網打尽 出東軒筆録 犯人など一味の者をひとまとめに捕らえるこ <56> いちもくーいちもん と。一度打った網で、あたりのすべての魚や 鳥獣を取り尽くす意から。△一網=ひと網。 打尽=取り尽くすこと。 補説出典には「劉りゅ、宰相さいしに見まみえて 日いわく、聊いさか相公の為ために(劉元瑜りゅうげんゆは、 大臣に面会して言った大臣のために)一網 打尽せり」とある。 いちもくお 用例こうして正雪一味の徒はほとんど一網 打尽の体ていで、一人残らず捕らえられたが、 その捕らえ方の迅速なるは洵 に電光石火と もいうべく真に目覚 しいものであって、こ れを指揮した松平伊豆守 は、諸人賞讃 いずのかみ の的となった。〈国枝史郎◆正雪の遺書〉 一日置く 自分よりすぐれた者に対して一歩譲って敬意 を払うこと。囲碁で、実力のない者が先に一 目または何目かの石を盤の上に置くことから 出たことば。マ一目=碁で、目や石の一つ。 用例将軍の御台所みだいも、薩摩さつの殿様で さえも一目置くくらいの権威があるのだか ら、ここへ出入りする武士どもを、子供扱い にするのは無理のないことだというような説 もなるほどと聞ける。〈中里介山◆大菩薩峠〉 いちもくあみもっとりう 目の網は以て鳥を得べから 出淮南子えなんじ 物事を達成するには、正しい手段・方法をと らなければならないことのたとえ。網の目が 一つだけでは鳥を捕らえることができないと いう意から。 補説出典には一目の羅あみは以て鳥を得べ からず、餌無きの釣っは以て魚を得べからず (餌のない釣りでは魚は釣れない)とある。 出朱子語類 一目瞭然 一目見ただけではっきりわかるさま。「一目 了然」とも書く。▷一目=ただ一目 ひと め 見るこ と。瞭然‖はっきりしているさま。 用例明治になって一層その傾向が強くなった。この事は芝居の大道具背景小道具等の変せんを見れば一目瞭然とするはずである。〈岸田劉生◆ばけものばなし〉 いちもつたかはな 逸物の鷹も放さねば捕らず どんなに能力のある者でも、実際に使わなけ れば何の役にも立たないということのたと え。すぐれた鷹も空へ放たなければ、鳥を捕 らえないという意から。▷逸物‖とくにすぐ れた存在。 一も取らず二も取らず あれもこれも取ろうと欲張って、結局どちら も取れないこと。 類義 蛇蜂 あぶ 取らず。二兎 にと を追う者は一兎 をも得ず。 いちに 一も二もなく 異議なく。無条件で。とやかく言わずに、即 座に同意するさま。 僻見 へき けん を有している、少時より一も二もなく、 尊い人と教え込まれて、公平に観察する力は なくなっている。〈正宗白鳥◆論語とバイブ ル〉 用例 吾人 ごじ は彼等 かれ 聖人に対して、非常に 文客みの百知らず 目先のわずかな金銭を惜しんで、後で大きな 損をする愚かさのたとえ。たった一文を出し 惜しんだために、あとで百文の損を招くという 意から。「百知らず」は「百損」「百失い」 ともいう。「吝み」は「惜しみ」とも書く。 類義一銭惜しみの百知らず。一文儲もうけの 百失い。一文拾いの百落とし。 金に賢く大金に愚か [英語] Penny-wise and pound-foolish. [小 用例私はいつも、けちけちしている癖に、 ざらざら使い崩すたちなので、どうしてもお 金が残りません。一文おしみの百失いとでも いうものなのでしょうか。〈太宰治◆ろまん 灯籠〉 いちもんせん 一文銭で生爪剝がす ひどいけちんぼうのたとえ。一文銭のために 生爪をはがすこともいとわないという意か ら。 類義 一文銭か生爪か。一文銭を割って使 う。 いちもんせん 二ばん はし一文銭も小判の端 わずかだからといって粗末にしてはならない という戒め。一文銭も積もれば小判の金額に なるという意から。 <57> 類義 塵 ちり も積もれば山となる。一文から一 貫目。 少しでも財産の多い者が尊ばれ、幅をきかせ る世の中をいう。 類義 商人 あき んど は一文高。商人は金に頭を下げ る。 一葉落ちて天下の秋を知る 出淮南子えなんじ いちようめ おお たいざん み 一葉目を蔽えば泰山を見ず わずかな前兆や現象から、事の大勢・本質・変化、また、物事の衰亡を察知すること。一枚の葉が枯れて落ちるのを見て、秋の訪れを知るという意から。 類義 霜を履ふんで堅氷至る。瓶中 ゆう の氷を 睹みて天下の寒きを知る。 英語 A straw shows which way the wind blows. 一本の麦藁 むぎ わら を見れば、 風向きが わかる 用例書き出しの一行が出来た途端に、頭の中では落ちが出来ていた。いや結末の落ちが泛うかばぬうちは、書き出そうとしなかった。落ちがあるということは、つまりその落ちで人生が割り切れるということであろう。一葉落ちて天下の秋を知るとは古人の言だが、一行の落ちに新吉は人生を圧縮出来ると思っていた。いや、己惚れていた。そして、迷いもしなかった。現実を見る眼と、それを書く手の間にはつねに矛盾はなかったのだ。〈織田作之助◆郷愁〉 いちもんーいちりん 出鶏冠子かつかんし 目先のわずかなことにとらわれると、物事の 道理がわからなくなり、正しい判断ができな くなることのたとえ。また、為政者の心得と して、耳目による判断ではなく、ふみ行うべ き道に従わねばならないことのたとえ。一枚 の木の葉でも目の前をおおうと、泰山(中国、 山東省の名山)のような大きな山も見えなく なるという意から。 補説出典では、このあとに両豆 りょう とう 耳を 塞ふざげば雷霆らいを聞かず二粒の豆が両耳を ふさぐと、雷鳴のような大きな音すら聞こえ なくなる)と続く。 類義微塵 みじ 眼 まな こ に入いれば大山 たい ざん も見えず。 一片の雲も日を蔽う。 陽來復 冬が終わり春が来ること。新年が来ること。 また、よくないことや不幸が続いたあとに、 よいことや幸運がめぐってくること。▷復∥ 陰暦十一月。また、冬至のこと。 出易経 補説易で、陰暦十月に陰気が極まり、十一月の冬至になって陽気が初めて生ずることから出たことば。落ち目の者が回復することや、回復の運がまわってくることにもいう。 用例私は元来働く小川さんだけを知っていたが、数日前長島を訪ねて、傷める小川さんを見た。仕事着を脱いでいる小川さんの姿は淋さびしかったが、療養余暇に此この好著がで き上っていると聞いて愉快にたえなかった。 早く小川さんを働かせたい。小川さんの健康 の一陽来復を切に祈って序にかえる〈高野六 郎◆小島の春序〉 出報恩経 いちりゅうまんばい一粒万倍 わずかなものから多くの利益を得るたとえ。 また、わずかなものでも粗末にしてはいけな いという戒め。一粒の種から一万倍もの収穫 を得られるという意から。一つの善行で多く のよい結果を得るたとえとしても用いる。 補説 出典には 世間利を求むるは、田を耕 す者より先なるはなし、一を種ぅえて万倍す」 とある。 いちりおこいちがいのぞ 一利を興すは一害を除くに如 かず 出元史 役に立つことを一つやり始めるよりも、以前 から害になっていたことを一つ取り除いたほ うがよいということ。 補説元の名臣、耶律楚材 やりつ そざい が常に言って いたということばで、出典にはこのあとに「一 事を生ずるは、一事を省くに如かず(一つの ことを始めるより、一つのことをやめるほう がよい)とある。 類義 一利一害。 一輪咲いても花は花 小さな目立たない存在であっても、本質的に は変わりがないことのたとえ。 類義一合取っても武士は武士。 <58> いちれんたくしょう一蓮托生 事の善悪にかかわらず、人と運命や行動をと もにすること。もと仏教語で、極楽浄土に生 まれ変わる際、ともに一つの蓮はすの上に生ま れるという意。「一蓮託生」とも書く。▶托 生この世に生を寄せるという意。 類義蓮の台 うて の半座を分かつ。 用例「親分の夜明かしは御苦労ですね。家 うちへ帰って誰か呼んで来ましょうか」と、勘 太は云った。「まあいいや。この頃は暑くな し、寒くなし、月はよし、まだ藪やぶツ蚊も出 ず、張り番も大して苦にやならねえ。おめえ と一蓮托生だ」兼松は笑いながら、勘太と共 に夜叉神堂やしゃしんどうのうしろに隠れた。〈岡本綺 堂◆半七捕物帳〉 いちきじゅうし 一を聞いて十を知る きわめて理解が早く、洞察力が鋭いことのた とえ。わずかなことを聞いて物事の全体を理 解する意から。「一を聞いて十を悟る」「一事 ひと こと を聞いて十事 とこ を知る」ともいう。 出論語ろんご 補説出典には「回(孔子の高弟の顔回のこ と)や、一を聞きて以もて十を知る」とある。 類義一を以て万ばんを知る。一を推して万。 目から鼻へ抜ける。 対義十を聞いて一を知る。一を知りて二を 知らず。 英語 Half a word is enough for a wise man. 賢明な人には、半分の単語で足りる 用例併しかし天は二物を与えず、四郎は利口 ではありませんでした。是これを講釈師に云い わせますと「四郎天成発明にして一を聞いて 十を悟り、世に所謂いわ麒麟児きりにして」と必 ず斯こうあるところですが、勘すくくも十五の 春の頃迄までは寧むしろ白痴に近かったようで す。〈国枝史郎・天草四郎の妖術〉 一を知りて二を知らず出荘子 知識や見識が狭く、応用力が弱いことのたと え。真には理解していないことのたとえ。事物 の一方だけを知って、他方を知らない意から。 補説出典には、孔子が弟子の子貢に言った ことばとして、「彼は仮に(表面的に)渾沌氏 んとの術(無為むい自然の道)を脩おさむる者なり。 その一を識しりてその二を知らず」とある。 類義井の中の蛙かわ大海を知らず。 対義一を聞いて十を知る。 いちもっばんし 一を以て万を知る 一をしてフ;! きわめて理解が早く、洞察力が鋭いことのた とえ。また、身近なことから理解して、深奥 をきわめること。わずかなことを聞いて物事 の全体を理解するという意から。「一を以て 万を察す」ともいう。 出荀子じゅんし 補説出典には近きを以て遠きを知り、一 を以て万を知り、微(かすかなもの)を以て明 はっきりしたものを知る」とある。 類義一を聞いて十を知る。一を推おして万。 目から鼻へ抜ける。 対義一を知りて二を知らず。 いっかくせんきん一攫千金 度にたやすく大きな利益を手に入れるこ と。一つかみで大金を得るという意から。 「一獲千金」とも書く。▷一攫∥一つかみ。 千金∥千両。大金。 類義濡ぬれ手で粟あわ。 用例予も亦 今年の五月の初め、漂然 ひよう ぜん として春まだ浅き北海の客となった一人であ る。年若く身は痩せて、心の儘まに風と来り 風と去る漂遊の児こであれば、もとより一攫 千金を夢みて来たのではない。予は唯 ただ 此この 北海の天地に充満する自由の空気を呼吸せん が為 ために、津軽の海を越えた。〈石川啄木 初めて見たる小樽〉 いっか ふうき せんか うら 一家の富貴は千家の怨み 出草木子そうもくし 一軒の家だけが豊かになると、世間の人々か らねたまれたり恨ぅられられたりするというこ と。「一家富貴なれば千家怨む」ともいう。 補説出典では、このあとに「半世の功名は 百世の愆けんなり(半世にわたって出世した立 場にいることは、百代の子孫のために過失を 犯したことになる」と続く。 いっかきちょ 一家を機杼す 工夫をこらして独自の文体や表現法を確立 し、一派をおこすこと。▷機杼‖杼ひ(はたの 横糸を通す道具)。転じて、はたを織るよう に工夫して、文章を作ること。 一巻の終わり それまで続いてきた物事がそこで終わるこ <59> と。特に死ぬこと。また、もはや手遅れであること。 補説昔、活動写真のフィルムを一巻映し終 わるごとに弁士が言った言葉から。 類義 万事休す。 いっきかせい一気呵成 出詩藪しそう ひと息に文章を完成すること。また、物事を 中断せずに仕上げること。▶呵‖大きく口を 開けて息を吹きかけること。呵成‖息を吹き かけるだけで完成する、また、凍った筆に息 を吹きかけ一気に書き上げる意。 用例じっさい尾崎先生がご自分の著書に毛 筆でサインしてくださるときの姿は、一気呵 成、凜々りたる気魄 きは で一瞬の渋滞もなく筆 を走らせねば文字にならぬ、といった概が あった。〈綱淵謙錠◆歴史と人生と 一騎当千 には、武帝も頷ずく所があった。〈中島敦李陵〉 群を抜いた強者のたとえ。また、人並みはず れた能力や経験のたとえ。たった一騎で千人 の敵に対抗できるほど強い意から。「当千」 は「千に当たる」で、千人を敵にできる、千 人に匹敵する意。「当千」は「とうぜん」と も読む。 類義一人にいち当千。一人当百。 用例年齢もようやく四十に近い血気盛り とあっては、輜重 ちよう の役は余りに情無かっ たに違いない。臣が辺境に養う所の兵は皆 荊楚 の一騎当千の勇士なれば、願わくは 彼等の一隊を率いて討って出で、側面から 匈奴 きょうど の軍を牽制 けん せい したいという陵の嘆願 いっきかーいっきを いっきとたびた一饋に十度立つ 一饋に十度立つ 出淮南子 熱心に賢者を迎えることのたとえ。一饋に 十起 す」ともいう。マ一饋ニ一回の食事。 故事 中国夏の禹王 が善政を行う補佐とな る賢者を熱心に求め、一度の食事中に十回も 席を立って訪ねてきた賢者に会い、一回髪を 洗う間に三回も髪を握ったまま訪問者に面会 したという故事による。 類義一饋に七度 なな たび 立つ。 握髪吐哺 あくは。 つとほ 出書経しょきよう 一簣の功 完成一歩手前の努力のたとえ。学問を修め徳 を積んでゆく姿を、もっこで土を運び山をつ くる人にたとえたもの。努力の積み重ねの大 切さをいう。∇簣=もっこ(土を運ぶ道具)。 功∥努力。成果。 補説出典には、孔子のことばとして「譬たと えば山を為つくるが如ごとし。未いまだ一簣を成さ ざるも、止やむは吾わが止むなり(最後のひと ふんばりをせず未完成に終わるのは、自分自 身でやめたからである)とある。 類義九仞 きゅう じん の功を一簣に虧かく。 一拳手一投足 出韓愈ー応二科目一時与レ人書 少しばかりの骨折り。わずかの努力。現在で は、細かい一つ一つの動作、ちょっとしたふ るまいの意で用いることが多い。 いっきよりようとく 東観漢記 一つの行動で、同時に二つの利益を得ること。 わずかな労力で多くの利益を得るたとえ。△ 一挙=一つの動作・行動。両得=二つの物を 得る意。 類義一拳両全。一拳両利。一石二鳥。一箭 双雕 いっせんそ。 うちよう 対義 蛇蜂 あぶ はち 取らず。二兎 にと を追う者は一兎 をも得ず。一挙両失。 用例校長は時々長男と、新しい果樹園を歩 きながら、「この通り立派に花見も出来る。 一挙両得ですね」と批評したりした。しかし 築山や池や四阿あずは、それだけに又以前より も、一層影が薄れ出した。云いわば自然の荒 廃の外に、人工の荒廃も加わったのだった。 〈芥川龍之介◆庭〉 いっきもっこうがささ 一簣を以て江河を障う 出後漢書ごかんじょ とうてい不可能なことのたとえ。また、非常 に小さな力で大きな事をなそうとすることの たとえ。もっこ一杯のわずかな土で大河の水 をせき止める意から。∇簣∥もっこ(土を運 ぶ道具)。江河∥長江ちょうこうや黄河こう。 補説出典には「武ぶ嘉か区区として、一簣を 以て江河を障え、用もってその身を没す(何武 かぶ や王嘉 おう は弱小な力で懸命になって、長江 や黄河のように押し寄せる混乱をせきとめよ うとしたが、ついに果たせず、自分の身を水 中に沈めてしまった」とある。 <60> 出春秋左氏伝 よいことは消えやすいが、悪いことはいつまでも残るということのたとえ。また、善人が落ちぶれて悪人が栄えることのたとえ。香りのよい草と悪臭を放つ草とを同じ所に置くと、よい香りは消えて悪臭だけが十年も残るという意から。∇薫∥香りのよい草。蕕∥悪臭を放つ草。 類義 薫蕕は器を同じくせず。悪貨は良貨を 駆逐くち する。 いっけいな一鶏鳴けば万鶏歌う 一人の意見につられて多くの者が軽々しく同 調し、その意見が世間に広まることのたとえ。 一羽の鶏が鳴くと、それにつられて他の鶏が みな鳴き出すことから。 類義一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ。一 匹の馬が狂えば千匹の馬が狂う。一人虚を伝 うれば万人実を伝う。 いっけんかげ ほ ひやつけんこえ 一犬影に吠ゆれば百犬声に吠 いっけつようぜん一結杳然 文章が終わった後に余韻が残るさま。△一結 文章をいったん締めくくる意。杳然=遠く はるかの意。 用例主人は一結杳然と云いうつもりで読み 終ったが、さすがの名文もあまり短か過ぎる のと、主意がどこにあるのか分りかねるので、 三人はまだあとがある事と思って待ってい る。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 出潜夫論せんぷろん 一人がいい加減なことを言い出すと、世間の 人がそれを本当だと思い、言い広めてしまう ことのたとえ。一匹の犬が物影に向かって吠 え出すと、その声につられて百匹の犬が盛ん に吠え出すという意から。「影」は「形」とも、 「百犬」は「千犬」「万犬」ともいう。 補説出典には「一犬形に吠ゆれば百犬声に 吠ゆ。世の疾やまこれ固もとより久しいかな(世 の中の騒ぎというものは、ずっとこのような もので、まことに困ったものだ」とある。 類義一犬虚を吠ゆれば万犬実を伝う。一人 虚を伝うれば万人実を伝う。一鶏けい鳴けば万 鶏歌う。一匹の馬が狂えば千匹の馬が狂う。 英語Like dogs, when one barks all bark. 二人が騒げば、犬が吠えるようにみな騒ぎ 出す 行失すれば百行共に傾く 一つの行いに悪いところがあると、それまで の多くの正しい行いが全部正しくないと思わ れてしまう。たった一つの悪行のせいで、多 くの善行がだめになってしまうということ。 類義一善を廃すれば衆善衰う。 前に言ったこととあとで言ったことが食い違 うこと。前に言ったことと違うことを平気で 言うこと。一つの口に舌が一枚ある意から。 いっこうりょうぜつ 一口両舌 類義二枚舌を使う。一口三舌。 いっこきゅうさんじゅうねんあんえいこきゅう 一狐裘三十年 ↓ 晏嬰の狐裘 33 出蘇軾ー詩 わずかな時間が千金にも値すること。時間の 貴重なことのたとえ。大切な時間や楽しい時 間がすぐに過ぎ去ってしまうことを惜しんで 言うことば。また、時間を無駄に過ごすのを 戒めることば。「千金一刻」ともいう。▶一 刻∥わずかな時間。千金∥千両。大金。非常 に値打ちがあること。 補説出典の詩の題名は『春夜 しゅん んや』。「春宵 しゅん 一刻直あた い 千金、花に清香 せい こう 有り月に陰あ り(春の夜は、わずかな時間も千金に値する ほどすばらしい。花の香りは清らかで、月は おぼろに霞かす んでいる」とある。 類義一寸の光陰軽かろんずべからず。光陰矢 の如ごとし。歳月人を待たず。時は金なり。 英語Time is money.「時は金なり」 用例あの何ものにも代えがたい、一刻千金 のいのちの感覚を、すべて夢だとされてはた まらなかった。〈横光利一◆旅愁〉 いっこせんきん一壺千金 出鶏冠子かつかんし それほど価値がない物でも、時と場合によっては非常に役に立つことのたとえ。ひさご一つでも難船のときは浮き袋の代わりになり、千金の価値があることから。▷壺‖ひようたん・ふくべ。取るに足らぬもののたとえ。千金‖きわめて大きな価値。 補説出典には「中河ちゅうがに船を失えば(河中 <61> で難破したときには)、一壺も千金なり。貴 賤きせは常無く、時、物をして然しからしむるな り(価値の高い低いは一定ではなく、時と場 合により異なるものだ)」とある。 類義中流に船を失えば一瓢も千金。 いっさいにさい 一災おこれば一災おこる 災難は一度起こると、往々にして再び起こる ものだということ。 いっしいっせいすなわこうじょうし 一死一生乃ち交情を知る 類義一度あることは二度ある。二度あることは三度ある。朝にあることは晩にある。 対義悪い後は良い。 出史記しき 不運なときや栄えているときなど、その時々 で人々の示す態度が異なり、人情というもの がよくわかるということ。「一生」は「いっ しよう」とも読む。 故事中国漢の武帝の時代、翟という人が 法務大臣だったころ、多くの人がやって来て 家はにぎわったが、失職すると訪問客も来な くなった。後に復職すると人のにぎわいがも どったので、翟は門のところに「一死一生乃 ち交情を知る」と書き出した。 類義一貧一富いっぴんいっぷ乃ち交態を知る。 いっしそうでん 一子相伝 学問や技芸などの秘伝や奥義を、相続者であ る一人の子供だけに伝え、他の者には秘密に すること。▷相伝‖代々伝えること。 類義 父子相伝。 いっさいーいっしょ 用例剣道の流派というものも、能楽も昔は 一子相伝的で、特に刀鍛冶など、急所である 湯加減を見ようと手など入れればその手を斬 きり落される程のものであったと云いわれてい る。〈宮本百合子・文学上の復古的提唱に対 して) いっしどうじん一視同仁 出韓愈ー原人 すべての人を平等に慈しみ差別しないこと。 えこひいきがなく、同じように人を遇すること。 また、身分・出身・敵味方などにかかわ らず、すべての人を平等に慈しみ、禽獣 にも区別なく接すること。▶一視∥同じよう に見ること。仁∥思いやり、愛情の意。 類義博愛主義。怨親 おん しん 平等。 一糸乱れず 全体の秩序が少しも乱れず整然としているさ ま。織物の糸目が整っているようすから。 用例互いに即くまい即くまいと努めなが ら、それでいて、要所要所は一糸乱れず呼吸 が合っていたので、秀吉ひでは期待した以上の 面白い能を見ることができて満足したという のである。〈野上豊一郎◆演出〉 出李白ー詩 一瀉千里 文章や弁舌が明快で、よどみなく出てくることのたとえ。また、物事が一気にはかどることのたとえ。水が一気に千里もの距離を流れる意から。△濵水が外に流れ出る意。 類義一濵百里。立て板に水。 用例不破から西は、一瀉千里の行軍だった。 この日すでに、足利軍五千は、湖畔の野洲やす の大原をえんえんと急いでいた。〈吉川英 治◆私本太平記〉 出曹松ー詩 上に立つ人の功名のかげには、下にいる無数 の人たちの犠牲があるということ。多くの無 名の犠牲者があるのを忘れ、その手柄を将軍 などの成功者のみに帰するのを非難する場合 にもいう。一人の将軍が手柄を立てるかげに は、一万人の兵士たちの死骸が骨と化して戦 場でさらされているという意から。縁の下の 力持ちになっている人を忘れるなという戒 め。「功成りて」は「功成って」ともいう。 補説詩の題名は己亥きがの歳とし。君に憑 たのむ、話かたる莫なかれ封侯ほうの事(君たちに頼 むよ、功績によって諸侯に取り立てられたい などと言わないでもらいたい)一将功成り て万骨枯る」とある。 類義小の虫を殺して大の虫を助ける。 用例 英仏人民に向かってはたしてさらにい くばくの愉快と幸福とを増加せしめたるか。 これを思えば、君に憑よって話すなかれ封侯 のこと。一将功成って万骨枯る、とシナ古代 の詩人が詠じたるもはなはだ道理あることを 覚うるなり。〈徳富蘇峰◆将来の日本〉 <62> いっしょうそ いこしょうそ 一生添うとは男の習い 一生離れないなどというのは、男が女をくどく際のきまり文句であるということ。 一升 徳利こけても二分 商売も元手が多ければ、少しぐらい損をしてもなくなることはないということのたとえ。また、金持ちは多少むだ使いをしても資産が残っているということのたとえ。一升も入る大きな徳利を倒して中身がこぼれても、三合ぐらいは残っているという意から。「一升徳利」は「いっしょうどっくり」とも読む。マーナー約一・ハリットル。 いっしょうどくりにしょうはい いっしょくそくはつ 一升徳利に二升は入らめ 人の能力や物の用途には、それぞれ限界があ るということのたとえ。「一升徳利」は「いっ しようどっくり」とも読む。マーヒー約一・ 八リットル。 類義一升入る壺つぼは一升。一升枡に二升 は入らぬ。一升入る柄杓ひしには一升しか入ら ぬ。一升入いる瓢ふくは海へ行っても一升。田 舎の一升は江戸でも一升。 いっしょうもちごしょうとりこ 一升の餅に五升の取粉 何かをするときに、主となる物より、それに 付随するほかの物のほうが多く必要であるこ とのたとえ。▷一升‖約一・八リットル。取 粉‖餅が物につかないようにまぶす粉。 類義 一升の餅に一升の取粉。一斗の餅に五 升の取粉。 一触即発 出李開先原性堂記 きわめて緊迫した状況。小さなきっかけで重 大な事態が起こりそうな危機に直面している こと。ちょっと触れただけですぐ爆発しそう な状態の意から。マ即ニすぐに。 類義危機一髪。 用例この夫婦は既に述べたとおり、手荒な ことはもちろん、口汚く罵り合った事さえな い頗なこるおとなしい一組ではあるが、しかし、 それだけまた一触即発の危険におののいてい るところもあった。〈太宰治◆桜桃〉 一所懸命 命がけで物事に当たること。本気で物事に打 ちこむこと。主君から賜った一箇所の領地を 命がけで守り、生きる頼みとしたことから。 ∇懸命∥命がけ。 補説 一生懸命」は後世になって「一所懸命」 が変化したもの。 須慶 全り受求。 類義 全力投球。 用例)飛球がある。私は一所懸命に走る。 球がグローブに触さわる。足が滑る。私の体が もんどり打って、原っぱから、田圃 たん の中へ 墜落する。私はどぶ鼠ねずみになる。〈堀辰雄◆ 麦藁帽子〉 いっしむく 相手の非難・攻撃に対して、反論や反撃を加 えて、少しでもやり返すこと。敵に矢を射返 す意から。 一矢を報いる 用例もし、今土佐兵に一矢を報いず、降参 などして、もし再び徳川家お盛んの世となら ば、わが高松藩は、お取り潰しになるほかは ないではないか。〈菊池寛◆仇討禁止令〉 いっしんいわとおいしたや 一心岩をも透す石に立つ矢43 いっすい 一炊の夢 ゆめ かんたん 郵郿の夢 164 いつすんさき一寸先は闇 これからどうなるのか、ほんの少し先のこと さえまったく予測できないことのたとえ。 「一寸先は闇の夜」ともいう。いろはがるた (京都)の一。▶一寸‖約三センチメートル。 類義面前に三尺の闇有り。無常の風は時を 選ばず。食えや飲めや、明日は死ぬ身だ。 用例太都夫 は、小室が云いうままに余儀 なく庭内に控えたものの、事件の発展がどう なることか、更に見当がつかない。一寸先は 闇の心地で、殆ほとんど夢路たどる思いである。 〈伊藤左千夫・古代之少女〉 いっすんした じごく いたごいちまいした じごく 一寸下は地獄 板子一枚下は地獄 48 一寸の光陰軽んずべからず わずかな時間でも、むだにしてはいけないと いう戒め。△光陰=時間。 出朱熹ー詩し 補説詩の題名は『偶成ぐう』。この前に「少 年老い易やすく学成り難し(時の経過は早く、 若者もすぐに年をとってしまい、学問は成就 し難い)」とある。朱熹の作とされてきたが、 <63> 日本の五山の僧の作ともされる。 類義光陰矢の如し。光陰流水の如し。光 陰人を待たず。 英語 If you lose your time you cannot get money. 時をむだにすれば、金を得られない 一寸延びれば尋延びる 当座の困難を何とか切り抜けることができれば、あとは楽になるということ。今一寸延ばすことができれば、将来は一尋延びることにつながる意から。「一寸延びれば尋」「一寸延びれば尺」ともいう。重態の病人や心配事のある人などを慰め励ます場合などに用いる。△一寸ニ約三センチメートル。尋ニ一尋。約一・八二メートル。 類義一日延ぶれば千日に向かう。寸延びて 尺となる。一寸延びれば広い世界。 いつすん ぶ たましい 一寸の虫にも五分の魂 小さい者や弱い者にも、それ相応の意地や根 性があるから、侮ってはいけないということ。 体長わずか一寸の虫にさえ、五分の魂がある 意から。「一寸の虫にさえ五分の魂」「五分の 魂」ともいう。▷一寸‖約三センチメートル。 五分‖一寸の半分。 類義小糠 こぬ にも根性。なめくじにも角。 英語The fly has her spleen and the has gall.〔蠅はえにも脾臓ひぞがあり、蟻ありにも 膀胱 こうがある 用例長いものには巻かれろ、という諺は わざ 徳川時代の平民の境遇から発生した意味ふか い言葉である。一寸の虫にも五分の魂、という言葉も、等しくこれらの描写をもたぬ市民の心から産まれている。〈宮本百合子◆パアル・バックの作風その他〉 いっすんーいったん 一石二鳥 一つのことをして、同時に二つの利益を得る ことのたとえ。一個の石を投げて二羽の鳥を 落とすという意から。 注意 「一石」を「いっこく」と読むのは誤り。 類義 一挙両得。一箭双雕 いっせんそ。 うちょう 対義二兎にとを追う者は一兎をも得ず。虻蜂 あぶ はち 取らず。 英語 kill two birds with one stone [ | つ の石で二羽の鳥を殺す] 用例野口は思惑をはたらかせて、土地ぐる み温泉を買った。ゆくゆく大旅館をたてて、 儲もうけながら温泉気分にひたろうというモク ロミであるから、当座のしのぎに小さな別荘 をつくった。留守番をおいて田畑をつくら せ、鶏を飼い、戦争中の栄養補給基地に用い るという一石二鳥の作戦でもあった。坂口 安吾・水鳥亭 いっせき とう 二石を投じる 新たな問題や意見を投げかけて反響を巻き起 こすこと。静かな水面に石を投げて波紋を起 こすことから。「一石を投ずる」ともいう。 類義波紋を投じる。波紋を呼ぶ。 一人を犠牲にすることによって、多くの人を 一殺多生 助けること。多くの人を救うためには一人を 殺すのもやむを得ないこと。仏教語で、一人 の悪人を殺して、多くの人間の生命を生かす という意から。「一殺」は「いっさつ」とも 読む。∇多生=たくさんの人を生かすこと。 注意「多生」を「他生」と書き誤らない。 また、「生」を「せい」と読み誤らない。 類義小の虫を殺して大の虫を助ける。 はっきりと区別をつける。境界線を引く意か ら。△画す=線を引く。区切る。 用例空は生活の澱 おり に沈んで、痛み悩む思 いとは、一線を画した、寛 ろいだ豊かな相貌 を湛たた えていた。〈鷹野つぎ◆窓〉 いっせんわらものいっせんな一銭を笑う者は一銭に泣く 金を わずかな金銭を粗末に扱う人は、いつかわず かな金銭のために泣く思いをすることがある ということ。どんなに少ない金額でも、粗末 に扱ってはならないという戒め。 類義一円を笑う者は一円に泣く。 いったんかんきゅう 出史記しき 一日緩急あれは ひとたび一大事が起こったとき。いざという とき。「あれば」は「あらば」ともいう。△ 一旦∥にわかに。緩急∥危急の場合。さし 迫ったこと。 用例 国家は国民全体の勤務に依よって支持 されて行くものです。国家は国民全体の協力 の中に生存し発達して行くものです。一旦緩 急あれば義勇を以もって公(即 すな わ ち国家)に奉ず <64> るのみならず、個人が日々の勤労は直接また は間接に国家のために計っているのです。 〈与謝野晶子◆婦人も参政権を要求す〉 一箪の食一瓢の飲 出 論語 ろんご きわめて貧しい食事のこと。また、清貧に甘 んずること。わりご一杯の飯と、ひさご一杯 の飲み物という意から。「簞食瓢飲 たんしひ よういん」と もいう。∇簞∥わりご。竹製の食器。瓢∥ひ さご。酒や水を入れる器。 補説出典には一簞の食、一瓢の飲、陋巷 ろうに在り。人その憂うれいに堪えず、回やその 楽しみを改めず(狭い路地裏に住んでいる。 ふつうの人ならそのつらさに堪えられない。 弟子の顔回はそのような境遇にあっても、儒 教の道を学ぶ楽しさを少しも忘れない」と ある。 故事孔子が、弟子の顔淵 がん えん 顔回は竹の器 一杯の食事、ひさご一杯の汁だけしか食べら れないほど貧しかったが、道を追究すること を楽しんだと言った言葉から。 一知半解 出滄浪詩話 ほんの少し知っているだけで、十分には理解 していないこと。なまかじりの知識や理解し かないこと。一つの知識があるが、その半分 しか理解していないという意から。 類義其その一を知りて其の二を知らず。半 知半解。半可通はんかつう 知る。 対義一を聞いて十を知る。一を聞いて二を 用例この手紙を書いた何処かの女は一知 半解のセンティメンタリストである。こう云 いう述懐をしているよりも、タイピストの学 校へはいる為ために駆落かけちを試みるに越した ことはない。わたしは大莫迦と云われた代 りに、勿論もち彼女を軽蔑したしかし又何か 同情に似た心もちを感じたのも事実である。 〈芥川龍之介◆文放古〉 いっちゅうゆ 出 喬宇ー遊 嵩山ー記 一籌を輸す わずかな差で負けることのたとえ。また、一 歩遅れること。やや劣ることのたとえ。▶籌 ∥勝負事などで数を計算するときに用いた細 長い竹の棒。輸す∥負ける。 補説出典には、明みんの喬宇が嵩山(河南 省にある名山に登り、帰ってから、登れな かった友人に対して笑いながら言ったことば として「若なん、我に一籌を輸せり」とある。 用例スタンダアルの諸作のうちにみなぎり わたった詩的精神はスタンダアルにして始め て得られるものである。フロオベエル以前の 唯一のラルティストだったメリメエさえスタ ンダアルに一籌を輸したのはこの問題に尽き ているであろう。僕が谷崎潤一郎氏に望みた いものは畢竟ひっきただこの問題だけである。 〈芥川龍之介◆文芸的な、余りに文芸的な〉 いーせよういー 一張一弛 出礼記らいき 人に厳しく接したり、やさしく接したりする こと。為政者や教育者などの心得で、時には 厳しく時には寛大に、ほどよく接するべきだ ということ。琴や弓などの弦っを強く張った りゆるめたりする意から。 補説出典には「張りて弛ゆるめざるは、文武 も能よくせざるなり(張りっぱなしで緩めない のは文王・武王のような聖人がしようとしな かったことだ)。弛めて張らざるは、文武も 為さざるなり(緩めたままで張らないのも、 文王・武王のやらないことだ)。一張一弛は 文武の道なり」とある。 類義 一弛一張。緩急自在。 出易経えききよう 一朝一夕 きわめてわずかな期間、非常に短い時間のた とえ。△一朝‖ひとあさ。一夕‖ひと晩。 補説下に打ち消しのことばを伴って「一朝 一夕には……できない」という形で用いられ ることが多い。 用例そこで今日は真の文化と云ぅうものを 大いに普及する必要があるのですが、これま た一朝一夕に容易になし得る事業ではありま せぬ。〈有島武郎◆農民文化といふこと〉 いっちょう 一朝の怒りに其の身を忘る 出 論語 ろんご 一時的な怒りのために自分の立場を忘れてしまうこと。そのような行動は自分の一生をだめにするばかりか、親・兄弟にまで災いを及ぼすという戒め。「一朝の怒りに一生を過つ」ともいう。△一朝‖わずかな時間の意。 補説出典には一朝の忿いかりに其の身を忘 れて以もって其の親しんに及ぼすは、惑いに非あら ずや一時的な怒りのために自分の立場を忘 れ、災いを近親にまで及ぼすのは、惑いでは <65> ないか」とある。 類義 短気は損気。 いっていじ 丁字を識らず 出旧唐書 たった一つの字も知らないこと。無学文盲 むがくも んもう の意。「一丁字もない」「目に一丁字なし」 ともいう。△一丁=一個。物を数えるときに 添える語「箇」の略字「个」が誤って「丁」 と書かれたもの。 類義いろはのいの字も知らぬ。 一擲乾坤を賭す 運を天に任せ、大勝負をすること。天下をか けてさいころを一回投げることから。「乾坤 一擲」ともいう。▷一擲∥ここでは、般さいを 一回投げること。乾∥天。坤∥地。 出韓愈ー詩しかんゆし 補説詩の題名は『鴻溝こうを過ぐ』。「誰たれか 君王に勧めて馬首を回めぐらし、真に一擲を成 して乾坤を賭とせんだれが劉邦 りゆう ほう に勧めて 馬を東に向かわせ、項羽 こう と戦わせようとし たのか。劉邦もそれを受け入れ、今こそ、 を投げるように、天と地を賭けて最後の一戦 に向かったのである」とある。 類義一か八ばちか。伸のるか反そるか。 いってきぜつじょうつう たいかい えん 一滴舌上に通じて、大海の塩 み 味を知る 物事の一部を知れば全体を推測できることの たとえ。海水の一滴を舌で味わえば、大海全 体の水の塩辛いことがわかることから。 類義一斑いっぱんを見て全豹ぜんぴをトぼくす。蛇首 だし を見て長短を知る いってきせんきん 一擲千金 いっていーいっぱい 一度に惜し気もなく大金を使うこと。思い 切って大胆なことをすること。豪快な振る舞 いや思い切りのよいたとえ。下に「渾すべて是 これ胆たん」を付けて用いることもある。△擲 ∥投げ出すこと。千金∥千両。大金。 補説詩の題名は少年行 しようね。 出典には 「一擲千金渾て是れ胆、家に四壁 しへ 無きも貧 を知らず(一度に大金をかけてしまうほどの 太っ腹で、家には四方の壁もないありさまだ が、貧乏など少しも気にしない)とある。 いってんばんじょうきみ一天万乗の君 天子。また、天皇。「一天万乗」「一天万乗の 天子」ともいう。▿一天‖大空。空全体。転 じて、全世界。一天下。万乗‖古代中国で、 乗(兵車)一万台を出すことのできる大国。 補説孟子 もう に基づく 万乗の君を強 めた言葉。 ↓ 万乗の君 539 用例いけません。わたしは一天万乗の君で も容赦しない使いかなのです。〳〵芥川龍之介◆ 二人小町 出宋史そうし いっとうち ぬ 一頭地を抜く 人よりも一歩抜きん出ていること。学問・技 芸などが多くの人より一段とすぐれているこ と。他の者より頭一つだけ抜け出ている意か ら。「一頭地を出いだす」「一頭地を擢ぬきず」と もいう。▶一頭地‖頭一つ分の高さの意。 「地」は助辞で特に意味はない。 用例憶らむらくは、要路にとってこれ渋 江抽斎の提起した国勝手の議)を用いる手腕 のある人がなかったために、弘前ひろはついに 東北諸藩の間において一頭地を抜いて起たつ ことができなかった。〈森鷗外◆渋江抽斎〉 出朱子語類 物事を思い切って処理するためとえ。また、た めらわずすみやかに決断するためとえ。一太刀 で真っ二つに切る意から。▷一刀‖ひとたび 太刀を振りおろす。 類義快刀乱麻を断つ。 用例本間さんは先方の悪く落着 おちいた態度 が忌々 いま しくなったのと、それから一刀両断 に早くこの喜劇の結末をつけたいのとで、大 人気ないと思いながら、こういう前置きをし て置いて、口早くちやに城山戦死説を弁じ出し た。〈芥川龍之介◆西郷隆盛〉 いっとくいっしっ 一得一失 出無門関むもんかん 一方で利益があり他方で損失があること。利益と損失がともにあるたとえ。また、物事にはよい面と悪い面があるたとえ。「一失一得」ともいう。 類義 一利一害。 一長一短。 敗地に塗る 出史記しき 再び立ち上がることができないほど大敗する こと。完敗すること。「一敗地に塗れる」と もいう。▽地に塗る‖泥まみれになる意。 「肝脳、地に塗る」の略で、戦死体の肝臓や 脳みそが泥にまみれ、踏みにじられるさま。 <66> いっぱいーいっぷか 注意 一敗、地に塗る」と区切る。「一敗地 に、塗る」と区切るのは誤り。 類義 肝脳、地に塗る。 用例その頃露伴が予に謂いうには、君は好 んで人と議論を闘わして、殆 ほと ん ど百戦百勝と いう有様であるが、善く泅 およぐものは水に溺 れ、善く騎のるものは馬より墜 おつる訳で、早 晩 いっ 一の大議論家が出て、君をして一敗地に 塗れしむるであろうと云いった。此言 この こと は ある意味より見れば、確 たし に当 あた った、否 当り過ぎた位だ。〈森鷗外◆鷗外漁史とは誰 ぞ いっぱいひとさけのにはいさけさけのさん 一杯は人酒を飲む二杯は酒酒を飲む三 ばいさけひとのひとさけのさけさけ 杯は酒人を飲む人酒を飲む酒酒 のさけひとの を飲む酒人を飲む551 いっぱつせんきんひ 一髪千鈞を引く 出韓愈ー与二孟尚書一書 きわめて危険なことのたとえ。一本の髪の毛 で千鈞の重さの物を引く意から。「一髪千鈞」 「千鈞一髪」ともいう。マ千鈞=中国古代の 重さの単位で、三万斤(一斤は約六〇〇ヶ ラム)。非常に重いことの形容。 類義危うきこと累卵の如し。蜘蛛の巣 で石を吊る。 いっぱんとくかならつぐながいさい一飯の徳も必ず償い、睡眠のうらかならむく怨みも必ず報ゆ出史記 人から受けた恩と恨みは、必ず返すこと。 度食事を与えられた程度の小さな恩にも必ず お返しをし、ちょっとにらまれた程度の恨み にも、必ず仕返しをする意から。「一飯の徳 も必ず償う」ともいう。∇睚眦=目を怒らせ てにらむこと。 いっぱんみ 一斑を見て全豹をトす 出世説新語 物事のごく一部を見て、全体を推察・判断することのたとえ。また、見識がきわめて狭いことのたとえ。狭い管から豹をのぞき、見えた一つのまだらから豹全体を推察する意から。「一斑を見て全豹を知る」「一斑を見て全豹を評す」ともいう。∇斑∥まだら。ぶち。全豹∥豹全体。転じて、物事の全容。 補説出典には「この郎(この坊や)も亦また管中より豹を窺がい(管の中から豹をのぞいて)、時に一斑を見るのみ」とある。 類義一を聞いて十を知る。一を以もって万ばんを知る。一事が万事。蛇首だしを見て長短を知る。豹の一斑。一滴舌上ぜつじに通じて、大海の塩味を知る。 いっぴきうまくるせんびきうま 一匹の馬が狂えば千匹の馬が くる 狂う 一人の奇抜な行動が群衆の行動に影響を与え やすいことのたとえ。群集心理によって付和 雷同ふわらしやすいことのたとえ。「一匹狂えば 千匹狂う」ともいう。 類義 一犬影に吠 ほゆれば百犬声に吠ゆ。 鶏 鳴けば万鶏歌う。雁が立てば鳩はとも立 つ。鴨かものとも立ち。 いっぴき 一匹の鯨に七浦賑わう 獲物が大きいと、その恩恵を受ける者が多い ことのたとえ。一頭の鯨がとれると、七つの 浦がうるおうという意から。∇七浦∥七つの 浜。多くの漁村の意。 類義鯨一本捕れば七里浮かぶ。鯨を突き当 つれば七郷浮かぶ。鯨一つ捕れば七浦潤う。 出荘子そうじ 度を越したほめ過ぎのことば。△溢度を越 すという意。 補説出典には「夫それ両喜りには必ず溢美 の言多く両悪には必ず溢悪いの言多し両 方が喜ぶことばには必ずほめ過ぎのことばが 多く両方が怒ることばには必ずけなし過ぎ のことばが多い」とある。 いっぷかんあ 一夫関に当たれば万夫も開く なし 出李白ー詩 要害堅固な場所のたとえ。たった一人が関所 を守れば、万人が攻めても打ち破ることはで きない、という意から。∇関∥ここでは蜀く の国の最大の難所といわれた剣閣 かくのこと。 補説詩の題名は『蜀道難 うなん』。「剣閣崢嶸 そう こうとして崔嵬 がいたり(剣閣山は高くそびえ立 ち、けわしく、岩や石が折り重なっている) 一夫関に当 く莫なし」とある。 一夫関に当たれば万夫も開く莫なし」とある 類義守るに易やすく攻むるに難し。 <67> いっぷたがや 一夫耕さざれば天下其の飢を 受く 出後漢書 一人一人の労働が大切であることのたとえ。 一人の農夫が耕作を怠ると、それによって国 民に飢饉 きき が及ぶことから。 類義 一農耕さざれば民或 ある は之これが為ために 飢う。 いっぺん 一片の雲も日を蔽う 小さな物でも、ときには侮 り難い存在にな ることのたとえ。一片の雲でも太陽を蔽って 日差しをさえぎることから。 類義一指もまた明めいを蔽う。一葉目を蔽え ば泰山を見ず。 いつぼうあらそぎよふり 鷸蚌の争い漁夫の利192 いつまでもあると思うな親と 金 人にたよる心を捨て、倹約を心がけよという 戒めのことば。親はいつまでも生きて面倒を 見てくれると思ってはならず、金も使えばな くなってしまうという意から。 英語 It is too late to grieve when the chance is past. 好機を逃してから悲しん でも遅すぎる いつも月夜に米の飯 飽きることのない気楽な生活のたとえ。毎晩 いっぷたーいどから が明るい月夜で、毎日米の飯が食べられる暮 らしであれば申し分ないということから。 補説昔の人にとって、月の光と米の飯は貴 重だったことから生まれたことわざ。した がって、世の中は甘くないものだという意味 で用いられることが多い。 類義いつも月夜に常う九月。負わず借らず に子三人。 いつも柳の下に泥鱒は居らぬ 一度うまいことがあったからといって、いつ も同じようなことがあるものではないという こと。柳の木の下で一度どじょうを捕らえた からといって、いつも柳の木の下にどじょう がいるとは限らないことから。「柳の下にい つも泥鱒は居らぬ」「柳の下の泥鱒」ともいう。 類義来るたびに買い餅。株を守りて兎 待つ。 対義一度あることは二度ある。二度あることは三度ある。 用例ある柳の下にいつでも泥鱠が居るとは 限らないが、ある柳の下に泥鱠の居りやすい ような環境や条件の具備している事もまたし ばしばある。そういう意味でいわゆる厄年と いうものが提供する環境や条件を考えてみた らどうだろう。〈寺田寅彦◆厄年とetc.〉 天子が読書すること。読書の大切さをいう 語。天子は昼間は政務に忙しく、午後十時ご ろようやく読書する時間がもてることから。 略して「乙覧ら」ともいう。△乙夜Ⅱ今の午 いつや乙夜の覧らん 出 杜陽雑編 後十時ごろ。「おつや」とも読む。 故事唐の文宗 ぶんが政務を終えたあとで書物 そう を読み、側近の者に対して「若もし甲夜(午後 八時ごろ)に事(政務)を見、乙夜に書を観みず んば、何を以もって人君(君主)と為なさんや」 と言ったという故事から。 佚を以て労を待つ 出孫子そんし 味方は動かず、十分に休養して英気を養って おき、遠方から攻めて来る敵の疲れを待って 戦うこと。孫子や呉子この説いた、戦争の必 勝法。「佚」は「逸」とも書く。▷佚∥ゆっ たりと休む意。労∥疲労。苦労。 補説出典には近きを以て遠きを待ち、佚 を以て労を待ち、飽ほうを以て飢きを待つ(味方 は戦場の近くにいて、遠くから来る敵を待ち 受け、味方は十分に休養して、疲れ果てた敵 を待ち受け、味方は腹一杯食べた状態で、腹 をすかした敵を迎え撃つ)とある。 居ても立っても居られない ひどく気がかりなことやうれしいことがあっ て心がそわそわし、落ち着かないさま。じっ としていられない。座っても立っても落ち着 かない意から。 用例私は作曲に感興が湧いて、自然の音に ひたりたいと思う時などは、いても立っても いられない程、懐しい思いがする。〈宮城道 雄・音の世界に生きる〉 井戸から火の出たよう めったにないこと、思いがけないことのたと <68> え。 類義灰吹きから蛇じゃが出る。 いとこどうし 従兄弟同士は鴨の味 従兄弟同士の夫婦はとても仲がよいことのた とえ。鴨の肉の味がよいように、夫婦仲がよ いということ。 類義 従兄弟同士は鴨の吸い物 井戸の端の童 類義居ない者は損をする。 危険な状態のたとえ。井戸のそばにいる子供 は、いつ井戸の中に落ちるかわからないこと から。「井筒づのそばの童」ともいう。 類義井戸の端の茶碗ちゃ。 火の端に児こを置 くが如ごとし。川の端に子を置くが如し。子供 川端火の用心。 くぞうし しき 孔叢子・史記 出 莫大ばくな財産。また、大金持ちの意。▷猗頓 Ⅱ中国春秋時代の大金持ちの名。 故事)中国春秋時代、もと越王句践 こう せん に仕え た范蠡 はん れい が名を陶朱 とう しゅ と変え、巨万の富を得 ていた。猗頓は陶朱に教えを受け、牛や羊を 十年飼ううちに財産は王公になぞらえるほど になり、金持ちとして名を馳せた故事から。 別に塩業で富を成したともいう。 いなかきょう い居ない者貧乏 その場に居合わせない者は、分け前がもらえ ず、言い分を述べることもできず、何かと損 をするということ。 田舎に京あり へんぴな田舎にも、にぎやかな所や優雅な所 があるということ。 類義田舎に名所あり。田舎に都あり。山の 奥にも都あり。鄙ひなに都あり。 対義京に田舎あり。 いなかいっしょうえどいっしょういっしょうどく 田舎の一升は江戸でも一升ゝ一升徳 りにしようはい …二升は入らぬ62 いなか がくもん きようひるね 田舎の学問より京の昼寝 田舎で学問をするよりも、都でのんびりして いるほうが見聞が広がり知識が身につくということ。「田舎の三年都の昼寝」ともいう。 類義田舎の利口より京の馬鹿。田舎の利口 は只ただの人。 いなりまえひるぬすびと 稲荷の前の昼盗人 神を恐れない不屈きな者のこと。稲荷神社の 前で、真っ昼間に人の物を盗む者の意から。 類義寺の隣にも鬼が棲すむ。仕置き場の中 着 きんち やく 切り。 いざ 井に坐して天を見る 視野や見識が狭いこと。井戸の中に座って天 を見上げると、視野がきわめて狭いことから。 補説出典には「井に坐して天を観みて、天 は小なりと日いう者は、天の小なるに非あらざ 出韓愈ー原道 るなり(井戸の中に座って天を仰ぎ見て、天 は小さいというのは、自分の視野が限られて いるからで、天が小さいのではない)」とある。 類義井の中の蛙かわ大海を知らず。井中せいちゅう に星を視みる。 古を以て今を制する者は事 いにしえもっいませいものこと 出戦国策 の変に達せず 時代の変化に応じて対処せよということ。昔 のやり方で今の世を治めようとすると、時代 の変化に対応することができない意から。 補説出典には、この前に「諺 ことわざに日いわく、 書を以て御ぎょを為なす者は、馬の情を尽くさ ず(書物によって得た知識だけで馬をあやつ ろうとする者は、馬の気持ちを十分に理解す ることはできない)とある。 いぬいちだいたぬきいっぴき 犬一代に狸一匹 めったにないよい機会にめぐりあうことのた とえ。犬が狸のような大きな獲物をとるのは 一生に一度くらいしかないという意から。 類義」鍛冶屋一代の剣。 いぬにしむ 犬が西向きや尾は東 当たり前のことを目新しく言ったもの。犬が 西を向けば、尾は当然東を向くことから。 類義雨の降る日は天気が悪い。北に近け りや南に遠い。 英語 When the crow flies her tail fol- lows. 鳥が飛べば尾が後ろからついてへ る <69> いぬさる犬と猿♩犬猿の仲223 いぬさかな犬に肴の番 不適当な者に番をさせることのたとえ。犬に 肴の番をさせると食べてしまうことから。過 ちを起こしやすい状況や、過ちを助長するこ とを言うときに用いる。▶肴‖酒を飲むとき に添えて食べるもの。主として魚。 ても、少しも通じないことから。 類義 猫に鰹節 かつお ぶし の番。 盗人に蔵の番。 盗 いぬ おおやいぬ 犬になるなら大家の犬になれ 同じ仕えるなら、頼りがいのある大物を選ぶ のがよいこと。犬として飼われるなら、金持 ちの家に飼われるのがよいという意から。 「犬になるとも大所 の犬になれ」ともいう。 類義犬になるなら庄屋 の犬。寄らば大樹 の陰。箸 と主 とは太いのへかかれ。 いぬねんぶつねこきようぶたねんぶつねこきよう 犬に念仏猫に経脈に念仏猫に経582 ても少しも通じないことがら 類義馬の耳に念仏牛に説法馬に銭犬 に念仏猫に経猫に小判豚に真珠 いぬ たな お 犬にも食わせず棚にも置かず けちな人のやり方のたとえ。気前よく犬に食 わせることもせず、大事に棚にも載せておか ず、自分だけの物にしてしまう意から。「犬 にもやらず棚にも置かず」「犬にもくれず棚 にも置かず」ともいう。 道理の通じない者には、何を言ってもむだで あることのたとえ。犬に『論語』を説いてみ いぬ犬に論語ろんご いぬ いちねん みっか 犬の一年は三日 いぬとさーいぬもあ 犬の一年は、人間の三日に相当するというこ と。 補説犬の成長が非常に早い意とする説と、 人間の三日は犬の一年に当たるので、それほ ど人間の一日は貴い意とする説とがある。 類義猫は三月を一年とする。 いぬお犬の尾を食うて回るまわ いくらあせっても、思うようにゆかないこと のたとえ。犬が自分のしっぽをくわえようと してぐるぐる回る意から。「犬の尾を食うて 回るがごとし」ともいう。 いぬ 犬の川端歩き 金もないのに店先をぶらつくことのたとえ。 犬が川のほとりで餌をあさってうろつくさま から。「犬川」ともいう。また、餌が流され たあとの川のほとりで、犬がいくら駆け回っ ても何も得られないように、いくら奔走して も得るものがないこと。「犬の子の徒ずら歩き」 ともいう。 る意から。 いぬとおぼまいぬとおぼ 犬の遠吠え負け犬の遠吠え609 いぬに犬の逃げ吠え 類義引かれ者の小唄。 喧嘩 けん や論争に負けて逃げながら、なお負け 惜しみを言うこと。弱い犬が逃げながら吠え いめひと ねこいえ 犬は人につき猫は家につく 飼い主が引っ越しをするとき、犬は飼い主に ついていくが、猫は住みついた家に残ってい るということ。 いぬみっかかさんねんおんわす 犬は三日飼えば三年恩を忘れ ぬ 人間は恩知らずであってはならないという戒 め。犬は三日間飼っただけでも、三年間その 恩を忘れないということから。「犬は三日養 えば三年恩を忘れぬ」ともいう。 類義犬はその主を知る。飼い養かう犬も主 を知る。恩を忘れる者は犬にも劣る。恩を知 らぬ者は畜生にも劣る。 対義猫は三年の恩を三日で忘れる。飼い犬 に手を噛かまれる。 いぬほねお 犬骨折って鷹の餌食 苦労して上げた成果を、横から他人に奪われ てしまうことのたとえ。鷹狩りで、犬が苦労 して草むらから追い出した獲物を、鷹にさら われることから。「犬骨折って鷹の餌になる」 「犬骨折って鷹に取られる」ともいう。 類義犬が追い出した鶉 うず を鷹が捕る。 大骨 折って鷹の餌になる。 いぬあるぼう 犬も歩けば棒にあたる でしゃばると思わぬ災難にあうという戒め。 <70> いぬもくーいのちな 犬もうろつき歩くから棒で打たれるという意 から。また、動き回っているうちに思いがけ ない幸運に出会うことのたとえにも使われ る。「犬も歩けば棒に会う」ともいう。いろ はがるた(江戸)の一。 補説「棒にあたる」は棒で殴られる意で、 本来の意味は前者だが、現在は後者の意味で 用いることが多い。 類義 歩く足には棒あたる。歩く犬が棒にあ たる。 英語 The dog that trots about finds a bone. 走り回る犬は骨を見つける 用例俺はただ一つ処にじっとしていない ために、犬も歩けば棒に当るというくらいな 気持で、ぶらりぶらり歩いたのだった。〈豊 島与志雄◆神棚〉 いぬ く ふうふげんか いぬ く 犬も食わない 夫婦喧嘩は犬も食わぬ 575 いぬほうばいたかほうばい犬も朋輩鷹も朋輩 同じ主人に仕える者は、地位や役目は違っていても、同僚であることに変わりはないということ。狩りのときに使われる犬と鷹は、役目は違っても、同じ主人に仕える仲間だという意から。「鷹も朋輩犬も朋輩」ともいう。∇朋輩∥仲間。同僚。「傍輩」とも書く。 用例お前さんは光井さんと心安いようでは あるし、犬も朋輩、鷹も朋輩、いわば朋輩同 士のことだから、なんとかわたしに手伝って、 そのお鷹を早く見つけ出す工夫をしてくれま せんか。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 いねみのうつむさむらい 稲は実るにつけて俯き、侍 しゅっせあおむ は出世につけて仰向く 人間は出世するほど頭が低く謙虚であることが望ましいということ。稲は実るほど穂を垂たれて頭を低くするが、侍は出世するに従って威張ってそり返る意から。 類義 実る稲田は頭垂る。実るほど頭の下が る稲穂かな。人間は実が入れば仰向く、菩薩 は実が入れば俯く。 豕を抱いて臭きを知らず 自分の欠点は、自分ではなかなか気づかないというたとえ。臭い豕をかかえている本人にはその臭さがわからないことから。「抱いて」は「いだいて」とも読む。「豕を抱いて臭きを忘る」ともいう。▷豕=猪いの古称。また、豚のこともいう。 類義息の香の臭きは主ぬし知らず。 いのしししちだいめいのこ 猪も七代目には豕になる 変わらないように見えても、長い年月の間に は成長・変化することのたとえ。猪も飼いな らされて七代たつうちには豚になることか ら。▶豕Ⅱ猪の古称。また、豚のこともいう。 命あっての物種 何事も命があってこそ初めてできる。だから、命にかかわる危険なことは避けよという戒め。「命あっての物種、畑あっての芋種」と続け、語呂を合わせた言い方もある。▷物 種物事のもととなるもの。根源。 類義死んで花実が咲くものか。命に過ぎた る宝なし。命は法の宝。身ありて奉公。 対義命は鴻毛 もうより軽し。命より名を惜し む。 英語 He that fights and runs away may ive to fight another day. [戦って逃げる者 は、生き延びて他日にまた戦う機会がある] 用例 戦争は、人民にとって直接生命の問題 である。命あっての物種、というその命をじ かに脅かされることであるから、生命保存の ために、人々の全努力が、瞬間の命を守るた たかいに集注される。〈宮本百合子◆戦争は わたしたちからすべてを奪う〉 いのち くらげほねあ 命あれば海月も骨に会う 長く生きていると、めったにない幸運にめぐりあうこともあることのたとえ。また、命を粗末にせず、長生きするように心がけよという意味にもいう。骨のないくらげも長生きしていると、骨に出会って骨のあるくらげになるかもしれないことから。「命あれば海月さえ骨に会う」ともいう。 類義命長ければ蓬萊 ほう らい に会う。命長ければ 巡り逢あう。 対義 命長ければ恥多し。 命長ければ恥多し 出荘子 長生きをすると、とかく恥をさらすことが多 いということ。 補説出典には男子多ければ則ち懼おそれ 多し。富めば則ち事多し。寿いのちければ則ち <71> 辱はじ多し(男の子が多いと、何かと心配事が 多い。金持ちになると面倒なことが多い。長 生きをすると恥をさらすことが多い」とあ る。 類義長生きは恥多し 対義命長ければ蓬萊に会う。 英語 Long life has long misery. [長生き をすると、みじめな思いをすることが多い いのちながほうらいあ 命長ければ蓬萊に会う 長生きをすると幸運に出会うこともあるか ら、長生きを心がけよという教え。「命長け れば蓬萊を見る」ともいう。∇蓬萊=中国の 伝説で不老不死の仙人が住んでいるといわれ る霊山。 類義 命長ければ巡り逢あう。 対義 命長ければ恥多し。 いのちすたから 命に過ぎたる宝なし 生命ほど大切な宝は、この世にないというこ と。「命に換える宝なし」ともいう。 類義 命は宝の宝。命は法の宝。命あっての 物種。 対義 命は鴻毛 もう より軽し。 命より名を惜しむ。 日ごろの苦労や束縛から解放されて、のびの びと気晴らしをすること。 類義命の土用干し。 こうなると、肩を凝らして飲んでいるので、 気が晴れない。やっぱり、ムダは、ムダほど、 気は休まり、命の洗濯となるのか。〈古川緑 波◆古川ロッパ昭和日記〉 命の洗濯 いのちせんたく いのちぎ 用例酒を飲むのもムダをしたくないと思 い、必ず有意義な会合にしているが、さて此 命は義によりて軽し 出後漢書 大切な命も、正義のためなら捨てても惜しく はないということ。「命」は「めい」とも読み、 「軽し」は「かろし」とも読む。 補説出典には「情は恩の為ために使われ、命 は義に縁よりて軽し(真心は恩に報いるために 使われるもので、義理を果たすためならば命 など軽いものだ」とある。 いのちなーいのちよ 類義 命は鴻毛 ようより軽し。 武士の命は義に よって軽し。 命は槿花の露の如し 人の命は、朝顔の花におりた露のように、は かないものだということ。△槿花‖朝顔の 花。朝開いて夕方にしぼむことから、はかな い物事のたとえ。 命は鴻毛より軽し の趨 おも く所異なればなり(人は必ず死ぬもの だが、その死は、ある場合には太山よりも重 く、ある場合には鴻毛よりも軽い。それは、 その死に方が違うからだ」とある。 出司馬遷報二任少卿一書 正義のためには、命を捨てても惜しくないと いうこと。「軽し」は「かろし」とも読む。「死 は鴻毛より軽し」ともいう。△鴻毛=おおと りの羽毛。きわめて軽いもののたとえ。 類義命は軽く義は重し。命は義によりて軽 し。死を鴻毛の軽かろきに比す。 補説出典には人固もとより一死有り或 ある は太山 さん より重く、 或は鴻毛より軽し。 用 命は宝の宝 命は何にもまして貴いものだということ。 類義命が宝命に過ぎたる宝なし。命は法 の宝命あっての物種。 対義 命は鴻毛 もう より軽し。 命は義によりて 軽し。 いのちふうぜんともしびごと 命は風前の灯の如し出俱舎論疏 人生のはかないことのたとえ。人の命は風に ゆらぐ灯のように、すぐに消えやすい意から。 「命は風中の灯の如し」ともいう。 補説出典の「寿命は猶なお風前の灯燭 とうし よく の 如し」による。 命は法の宝 ありがたい仏法を聞くことができるのも、命 があるからこそだということ。 類義命あっての物種命に過ぎたる宝な し。命は宝の宝。 対義 命は鴻毛 もう より軽し。 命は義によりて 軽し。 命より名を惜しむ 不名誉な恥をかくよりは命を捨てたほうがよ いということ。自分の生命よりも名誉を大切 <72> にする意から。 類義 命は義によりて軽し。命は鴻毛 もう より 対義命あっての物種命に過ぎたる宝な し。命は宝の宝。 い 井の中の蛙大海を知らず 出荘子そうじ 知識や見聞の狭いことのたとえ。また、自分 の狭い知識や見解にとらわれて、他に広い世 界があることを知らないたとえ。小さな井戸 の中にすむ蛙は、大きな海のあることを知ら ないという意から。世間知らず、一人よがり を戒めるときに用いられることが多い。略し て「井の中の蛙」「井蛙」ともいう。 ぬ井の中の蛙さんである。〈正木不如丘◆釣 十二ヶ月〉 補説出典には「井鼃 せい あ は以もって海を語るべ からずとは、虚に拘とめらるればなり(井戸 の中の蛙に海の話をしてもしかたないのは、 蛙が井戸という狭い居場所にとらわれている からだ)とある。 類義 葦 よし の髄から天井を覗 のぞ く。 夏の虫氷 を笑う。 英語 He that stays in the valley shall never get over the hill. [谷の中ござまる 者は決して丘を越えることはない] 用例本バヤ即ち学名うぐいはあかはら又 は赤魚の名で雌雄ともに腹が赤くなるが、主 として天竜に居て、諏訪湖この上流の方はう ぐいは稀まれでおいかわが主である。これは 諏訪湖の川にだけ居る特別のハヤです」と説 明して居る釣人があるが、これは大海を知ら いの祈るより稼げかせ 困難に出会ったとき、神仏にすがって祈るよ り自らの努力によって運命を切り開け、という教え。 いばしんえん意馬心猿 出敦煌変文集 煩悩 ほん のう や欲望のために、心が混乱して落ち着 かないたとえ。また、欲望や心の乱れを抑え ることができないたとえ。心が落ち着かない ことを、走り回る馬や騒ぎ立てる猿を抑えき れないことにたとえた語。「心猿意馬」とも いう。∇意∥心。 用例浮世の病やまい頭に上りては哲学の研究 も惑病同源の理を示さず。行脚雲水 みに心空になりては俗界の草根木皮、画えに かいた白雲青山ほどにきかぬもあさまし。腰 を屈かがめての辛苦艱難 も世を逃れての自 由気儘きまも固もとより同じ煩悩の意馬心猿と知 らぬが仏の御力を杖つえにたのみてよろよろと 病の足もと覚束おぼなく草鞋わらの緒も結びあえ でいそぎ都を立ちいでぬ。〈正岡子規◆かけ はしの記〉 医は仁術じんじゅつ 医術とはいつくしみの心で病人を治療する術 であり、損得にとらわれるものではないと いうこと。「医は仁の術」ともいう。医者と しての道の戒めを表したことば。▷仁術∥い つくしみの心をもって人を救う行為・方法の 意。 補説「医は仁術」を皮肉ったことばとして、 「医は算術」というのがある。 用例この合田氏という医師はこれまた一 種の変人であって、金持ちを嫌いという人、 貧乏人のためには薬代も取らぬというほどに 貧窮者に対して同情のあった人で、医は仁術 なりという言葉をそのまま実行されたような 珍しい人でありました。〈高村光雲◆幕末維 新懐古談 衣は新に如くはなく ひと人は故こ 出晏子春秋 に如くはなし 衣服は新調のほうがよく、友人は古くからの 友のほうがよい。古くからの友人の大切さを いったことば。△故=古いもの。ここでは旧 交のあるもの。 衣鉢を継ぐ 恩師や先人から、学問・技芸などの奥義や秘 伝を受け継ぐこと。△「衣鉢」は袈裟けさと応 量器(僧侶の食器)。もと禅宗で、師から 弟子への伝法の証拠として「衣」または「衣 鉢」が授けられたという伝承に基づく。 注意「衣鉢」は「えはつ」とも読むが、「い はち」と読むのは誤り。 類義衣鉢を伝う。 用例もともと養父金兵衛は木曽谷 限者 に数えられた馬籠 の桝田屋惣右衛 門 ますだやそ うえもん 父子の衣鉢を継いで、家では造り酒 屋の外に質屋を兼ね、馬も持ち、田も造り、 <73> 山林には木の苗を植え、時には米の売買にも たずさわって来た人である。〈島崎藤村◆夜 明け前〉 いはくかさ い たいどう 出 尹文子大道 衣は帛を重ねず 質素なこと。倹約すること。絹の着物を二枚 重ねて着ないという意から。帛絹の着 物。 補説出典には昔、晋しん国、奢しゃに苦しむ ぜいたくを続けたため生活が苦しくなっ た)。文公ぶん、倹を以もってこれを矯む(文公 は自分から進んで倹約し、これを矯正しよう とした)。乃すなち衣は帛を重ねず、食は肉を 兼ねず(一度の食事に二種類の肉料理を食べ なかった)とある。 類義 衣は采を重ねず。 いばらがきはだかみくぐ 茨垣を裸身で潜る 非常に苦痛なことのたとえ。茨の垣根を裸で くぐれば、全身傷だらけになることから。「裸 で茨を背負う」ともいう。 滑浜の器 茨に棘あり 美しいものには、恐ろしいものや害のあるものが隠れていることのたとえ。美しい茨の花には痛い棘があることから。 忍耐の大切なことのたとえ。辛っちくとも我慢 していれば、いつかは必ずむくわれるという ことから。「茨の中にも三年」ともいう。 類義石の上にも三年。 いばらなかさんねんしんぼう 茨の中にも三年の辛抱 出儲光羲ー詩 いははくーいまのあ 宰相 さいし よう や将軍となるような大人物。「渭浜の 漁父 ぎよ ほ 「渭浜の叟そう」ともいう。∇渭∥黄 河 こう の支流、渭水 が 浜∥ほとり。「渭浜」 は太公望呂尚 たいこうぼう りよしょう をさす。器∥りっぱな人 物。 補説出典の詩の題名は『哥舒大夫頌徳 かじよたいふ』。周の太公望呂尚は渭水のほとりで 釣り糸を垂らして賢人に出会うのを待ってい たが、後に周の文王に見いだされて宰相と なったという故事を歌ったもの。この故事は 『史記』斉世家せいせにある。 出史記しき いへんさんぜつ 韋編二絶 何度も繰り返し書物を熟読すること。また、 熱心に勉学に励むことのたとえ。「韋編三度 みた び 絶つ」と訓読する。∇韋編∥字を書いた木 札(木簡)や竹の札(竹簡)をなめし革の紐ひもで 編んで綴とじた古代中国の書物。三絶∥三度 断ち切れる意。また、何度も断ち切れる意。 故事孔子が晩年に『易経 えきき よう を愛読し、 繰り返して読んだため、綴じてあるなめし革 の紐が何度も切れたという故事から。 用例筮ぜいによる占いが古いとしても、易の 書は古いものではない。それが作られたのは 戦国末期、すなわち前三世紀に入ってからで、 それが漢初になって儒教に取り入れられたの である。このことが真であるならば、易を読 み韋編三たび絶つ、などとは司馬遷 の時代 の儒家の事であって、孔子の事ではなくなる。 〈和辻哲郎◆孔子〉 出史記しき 約束を間違いなく実行する信用のこと。また、為政者は法の権威と信用を人民に示すべきであるという戒めの語。「徙木くしの信」「木を移すの信」ともいう。 故事中国秦の商鞅 が新しい法令を出 すにあたって、国民が自分を信用しないのを 恐れ、国都の南門の大木を北門に移した者に は十金を与えると布告した。ところが木を移 す者はいなかったため、賞金を五十金に増や し、木を移した男に約束どおり五十金を与え て国民の信用を得たという。 居仏が立ち仏を使う すわっている者が、立っている者に用事を頼むこと。 類義立って居る者は親でも使え。 いまなからすわら 今泣いた鳥がもう笑う 今まで泣いていた者が、たちまち機嫌を直して笑うこと。主に子供の感情の変わりやすさに用いるが、一般にも、親しみと多少のひやかしの気持ちをこめて用いられる。 用例部屋のそとからこっそり事の始末を見てた悪者どもは姉がいなくなると同時にどやどやとはいってきて「今ないた烏がもう笑ったい」と言い言い私のまわりを踊りまわった。〈中勘助◆銀の匙〉 今の甘葛、後の鼻面 いま楽をしていると、あとになって苦痛を招 <74> いまのなーいやとい くようになることのたとえ。「甘葛」の「ずら」と「鼻面」の「づら」の語呂ごろを合わせている。∇甘葛∥あまちゃづる。ウリ科のつる草。つるを切って出る液を集めて濃縮し、甘味料を作った。ここでは、その甘味料をさす。鼻面∥鼻蔓はな。牛の鼻に通す輪。牛は鼻面のために自由を拘束され、いやでも働かされる。類義今の情けは後の仇あだ。楽あれば苦あり。 今の情けは後の仇 一時の安易な同情は、あとになってかえって 悪い結果になるということ。 類義今の甘葛あまずら後の鼻面はなO 今参り二十日 ▶芋頭∥里芋の球茎、親芋のこと。 類義芋でも頭になれ。寧むしろ鶏口となるも 牛後となる勿なかれ。 新入りの使用人は、来たばかりの二十日ほど はよく働くが、慣れてくると怠けるようにな るということ。「今参り百日」「今参り三日」 ともいう。▷今参り=新しく来た使用人。新 参者。 類義新調の箒 ほう き の良いのは三日間だけ いまわ ねんぶつだれ とな 今際の念仏誰も唱える 元気なときに信仰心の薄い人も、死にぎわに は念仏を唱えて仏にすがるものだというこ と。▶今際∥「今は限り」の意。 類義死にがけの念仏苦しい時の神頼み。 いもがしらかしらかしら 芋頭でも頭は頭 どんなに小さな集団の長でも、長と名がつけ ばそれなりの権威や責任はあるということ。 いもがらあし芋茎で足を突く 油断して思わぬ失敗をすること。また、大げ さなことのたとえ。∇芋茎∥里芋の茎。ま た、それを干したもの。 類義黄牛 あめ うし に腹突かれる豆腐で足を突 く。長芋で足を突く。 いもに 芋の煮えたもご存じない 世間知らずの人をあざけりからかっていうこ とば。芋が煮えたか煮えないかの区別もつか ないほどの、坊ちゃん育ち・お嬢さま育ちと いう意から。いろはがるた(江戸)の一。 芋虫でもつつけば動く 催促すれば、何ほどかの効果はあるというこ と。じっとしている芋虫でも、つつけば動き 出すことから。待っていては、いつまでも決 着がつかないときに用いることば。 芋を洗うよう 狭い所に人が大勢集まって、ひどく混雑して いるさま。里芋を洗うときは、水を入れた大 きな桶 おけ にいっぱい詰め込んで棒でかき回す ことから。「芋の子を洗うよう」ともいう。 帰宅を望み待つ意から。「望」は「のぞみ」 とも読む。「門に倚よりて望む」「倚間よりの情」 ともいう。△倚∥寄りかかること。 いもん倚門の望 子を思う親の愛情が切実なたとえ。特に母親 の愛情についていう。門に寄りかかって子の 出戦国策 故事中国春秋戦国時代、王孫賈 おうそ んか の母親 が、賈が朝早く出て夕暮れに帰るのを家の門 に寄りかかって待ち、夕方出かけて帰らない ときは、村里の門に寄りかかって帰宅を待ち 望んだという故事による。 いやいや三杯さんはい 口では遠慮するが、本心は違うことのたとえ。 他人に酒を勧められると、口では辞退しなが ら、実際には何杯も飲んでしまう意から。 類義いやいや三杯十三杯。いやいや三杯逃げ逃げ五杯。 卑しむ金木で目を突く いや かなぎ め つ あなどって油断をしたために、思わぬ失敗を することのたとえ。細いからとばかにしてい た小枝で目を突いてけがをする意から。「侮 ずる金木で目を突く」ともいう。△金木∥小 さい木の枝。 類義侮る葛かずに倒さる。 嫌というほど もうたくさんだというほど多く。また、思い 切り。ひどく。飽き飽きしてこれ以上はもう 嫌だ、という意から。 用例そうしたらあんなに弱いおばあさまが だまったままで、いやというほどぼくをはら いのけたのでぼくはふすまのところまでけし 飛ばされた。〈有島武郎◆火事とポチ〉 <75> いやかぶりたて顧と頭を縦に振る 表面的な態度と本心とが正反対のたとえ。口 では厭だと言いながら、頭を縦に振って、内 心では承諾している意から。年ごろの女性の 微妙な心理を巧みに表現したことば。 類義いやいや嬉うれしい。 いらぬお世話の蒲焼き 世わかはや 余計なおせっかいだということ。「世話を焼く」を「蒲焼き」に掛けて「いらぬお世話」を強調したしゃれ。 い 要らぬ物も三年たてば用に立 つ 今は不用な物でも、いつか役に立つこともあ る。今必要ないからといって、むやみに捨て るなという教え。 類義 禍 わざ わい も三年たてば用に立つ。焙烙 ろく の 割れも三年置けば役に立つ。 いらんはやしまじ しゃくせんだん 伊蘭の林に交われども赤栴檀 かう の香は失せず 劣悪な環境の中にあっても、人の心の中の清 らかなものは失われないことのたとえ。▷伊 蘭・栴檀Ⅱともに仏典に見えるインドの樹木。 「伊蘭」は煩悩のうの、「栴檀」は念仏の心のた とえ。 地中にひそんでいた「旃檀」が、中秋の名月 のもと、突如地中より突き出ると、そこがた ちまち一面の香気に変ずるという。 補説 観仏三昧海経 かんぶつざんま いかいきょう によれば、「伊 蘭」の林は一面の悪臭に満ちているが、その 入り日よければ明日天気 夕日が美しければ、翌日は天気がよいという こと。 いやとかーいろおと 入り船あれば出船あり てみね 港に入ってくる船があれば港を出て行く船も あるように、喜ぶ人もいれば悲しむ人もいて、 世の中はさまざまだということ。「入る船あ れば出る船あり」ともいう。 いふねかぜでふねわるでふね入り船によい風は出船に悪い出船にかぜいふねわるよい風は入り船に悪い445 炒り豆と小娘はそばにあると 手が出る 心が動きやすいことのたとえ。炒り豆はあと を引く食べ物で、そばにあるとつい手が出る し、小娘は若くて魅力があるので、そばにい ると、つい手を出してしまうことから。 類義炒り豆と小娘はそばに置かれぬ。 絶対にあり得ないことのたとえ。また、衰え たものが再び栄えることのたとえ。炒った豆 から芽が出て、花が咲くということから。「炒 り豆に花が咲く」「煮豆に花の咲く」ともいう。 類義石に花咲く。枯れ木に花。 い炒り豆に花はな 入るを量りて出ずるを為す 出礼記らいき 收入をよく計算してから、それに釣り合った 支出を決めること。収支のバランスをとるこ と。「入るを量りて出ずるを制す」ともいう。 補説国家の財政計画のあり方について述べ たことば。出典には「三十年の通っぅを以もって 国用を制し(三十年間の平均収入に基づいて 国の費用を定め)、入るを量りて以て出ずる を為す」とある。 英語 One ought to make the expense according to the income. 入は収入に応じ た支出をすべきである 入れ物と人はある物使え 道具でも人間でも、手近にあるものを使って 間に合わせよ、ということ。 類義入れ物小鉢は有り合い。立って居る者 は親でも使え。 色男金と力はなかりけり 女にもてる美男子には、財産や腕力・権力などはないものだという意の川柳。美男子をからかったもので、負け惜しみのことばとしても用いる。 用例「色男、金と力はなかりけりと、昔か ら相場は決まっているが、岡っ引ぴきの色男な んぞはどうもいけねえ。おれ達たちの商売は やっぱりかたき役に限るな」と、半七は笑っ た。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 <76> 色気と持の気の無い者はない 人の心はだれも皆、似たり寄ったりだという こと。色気と持の気味はだれもが持っている ことから。「痔の気」は「色気」に語呂ごろを 合わせたもの。「色気と盗人気 ない」ともいう。 色気よりも食い気 る意気がある。〈泉鏡花◆白い下地〉 色欲よりも食欲のほうが先だということ。転 じて、外見よりも中身を重んずるということ。 類義」恋するより徳をしろ。花より団子。詩 を作るより田を作れ。 用例それから暫く、眼を見合わせて遠慮をしている時間を除いて、やがて、甘いものに蟻ありがつき出すと、みるみる餅菓子の堤がくずれて、お薩さの川が流れ、無性によろこび頬ばる色消しは、色気より食い気ざかりで是非もないことです。〈中里介山◆大菩薩峠〉 色の白いは七難隠す 顔かたちに多少の欠点があっても、色が白い と欠点をカバーして美しく見えるというこ と。「色の白いは十難隠す」ともいう。△七 難∥多くの欠点。難点。 色は思案の外 いろしあんほか 類義 髪の長いは七難隠す。米の飯と女は白 いほど良い。 色恋は、理屈や常識では判断できないという こと。「恋は思案の外」「色は心の外」ともい う。 用例色の白いのは七難隠すと、昔の人も云 った。しかしながら、ただ色が白いという のみで意気の鈍い女の顔は、黄いろく見える ような感がする。悪くすると青黒くさえ見え 色を付ける 商売で、おまけをつけたり値引きしたりする こと。少しサービスをすること。 類義気は心。 色を作す 怒りをあらわにすること。顔色を変える意か ら。 類義血相を変える。 対義色を失う。 とある。 いろみあく 色を見て灰汁をさせ 時と場合に応じて適切な対応策をとれという 教え。染色の際に、色のぐあいを見ながら灰 汁を加えて濃淡を調節することから。 類義枝を見て花を折れ。人を見て法を説け。 出孟子もうし 曰く言い難し たやすくことばでは言い表せない簡単には 説明しにくいということ。 補説孟子が弟子の公孫丑 こうそん ちゅう から「浩然の 気とはどういうものですか」と問われたとき の答えのことば。出典には「敢あえて問う、 何をか浩然の気と謂いうと。日く、言い難し」 思いがけない収穫や幸運のたとえ。また、あ るはずがないことのたとえ。鰯を捕ろうとし て張った網で、思いがけず鯨が捕れたことか ら。「鰯網で鯨の大功」ともいう。 類義 鰯網へ鯛 たい がかかる。 雀 すず め 網で雁 がん。 兎 うさ の罠 わな に狐 きつ ね がかかる。 雁捕る罠に鶴。 いわし しょうじん お 鰯で精進落ち 長い間の忍耐が報われないことのたとえ。 せっかくの精進明けを鰯のようなつまらない 魚で祝うのは、がっかりする意から。また、 つまらないことで大切な戒めや誓いを破り、 それまでの努力がむだになることのたとえ。 鰯のような魚を食べて、魚肉を食べないという 精進を破ることから。∇精進落ち前者の 意では、魚肉類を食べずに菜食で身を慎む精 進期間が終わって、魚肉類を食べること。後 者の意では、精進の期間に禁戒を破ること。 鰯の頭も信心から つまらないものでも、信心の対象となれば、 尊くありがたいものになるということ。鰯の 頭のようなものでも、神棚にまつって信心す れば、ありがたくなることから。物事を頑固 に信じ込んでいる人をからかう場合にも使わ れる。「頭」は「あたま」とも読む。いろは がるた(京都)の一。 補説 節分の夜に、 鰯の頭を柊 の枝に刺し て門口に飾っておくと、 邪鬼を追い払うとい <77> う風習があったことからできたことわざ。 類義竹箒 たけぼ も五百羅漢 らか。 白紙 しら かみ も信心 次第。 用例東京化学会で私が「オリザニン」は脚気に効くだろうと述べたことを、当時医界の大立者おおだだだった某博士が伝え聞かれて「鈴木が脚気に糠ぬが効くといったそうだが、馬鹿げた話だ、鰯の頭も信心からだ、糠で脚気が癒なおるなら、小便を飲んでも癒る……」と、或ある新聞記者に話されたことがあった。〈鈴木梅太郎・ヴィタミン研究の回顧〉 いわしかしら 鰯の頭をせんより鯛の尾に 付け 小さくて弱い集団の頭になるよりも、大きく て強い集団に入って他の者のするとおりに動 いているほうが、安全で気が楽だということ。 類義寄らば大樹の陰。 対義寧むしろ鶏口となるも牛後となる勿なかれ。 言わぬが花はな 言わずに黙っているほうが趣や値打ちがある ということ。よけいなことは言わないほう が、差し障りがなくてよいという戒め。 類義言わぬは言うにまさる。雄弁は銀、沈 黙は金。 対義言わぬ事は聞こえぬ。言い勝ち功名。 言わぬ事は聞こえぬ ことはできない。あとで知らなかったと言わ れないように、念を押して言っておくべきで あるということ。 いわしのーいをもっ 対義言わぬは言うにまさる言わぬが花い 言わぬは言うにまさる 沈黙がことば以上に思いを伝えることがある という教え。また、多言を戒めることば。 類義言わぬが花。雄弁は銀、沈黙は金。多 言は一黙に如しかず。 対義言わぬ事は聞こえぬ。言い勝ち功名。 英語 No wisdom to silence. [沈黙にまとる知恵はない] Speech is silver, silence is golden. [雄弁は銀、沈黙は金] 用例つぶさに見れば詩の文字づかいにもそ れがよく現われて言わぬは言うにまさる沈痛 なところがある。〈佐藤春夫◆小説智恵子抄〉 い はら おもことい はら 言わねば腹ふくる思う事言わねば腹 ふくる120 い お もっ おのれ ゆる 韋を佩びて 以て己を緩くす 出韓非子かんびし 目分の欠点を自覚し、それを直すために努力 すること。∇韋=なめし革。柔軟なもののた とえ。佩びる=帯びる。身につけること。 故事中国の戦国時代、魏の西門豹 せいもん ひよう は、 短気な性格をゆったりさせるために、いつも 柔らかななめし革を腰に帯び、柔軟な性格に 変えようと努力したという故事による。 類義韋弦いげの佩はい。 支持してくれる人の存在で、自分の考えやや り方に自信を持つ。また、後ろ盾があって、 心強く思う。「意を強うする」ともいう。 用例納本制度は二年目の今年度になって、 ようやく月額一千冊を越えるにいたったの で、大いに意を強くしているのである。〈中 井正一・国会図書館の窓から〉 衣を解き食を推す 出史記しき 人に手厚く恩恵を施すこと。また、人を重用 すること。自分の着物を脱いで人に着せ、自 分の食べ物を人に与えて食べさせる意から。 補説出典には「漢王我に上将軍の印を授け、 我に数万の衆を予あたえ、衣を解きて我に衣き せ、食を推して我に食はましむ(漢王は、わた しを上将軍に任命し、数万の軍勢を与えてく れた。自分の衣服を脱いでわたしに着せてく れ、自分の食事をわたしに食べさせてくれ た」とある。 出後漢書 夷を以て夷を制す 他人の力を用いて、自分の利益を図ること。 外敵を使って外敵を制する戦略。外敵同士を 戦わせて勢力を抑え、自国の利益と安全を図 る意から。「以夷制夷いいせ」「夷を以て夷を攻 む」ともいう。∇夷∥未開の異民族で、ここ では外敵。 補説出典には「夷を以て夷を伐ぅつは、宜 よろしく禁護すべからず(異民族が異民族を伐 つのを守ってやるべきではない)」とある。 <78> いんがおうほう因果応報 よい行為をすればよい報いがあり、悪い行為 をすれば悪い報いがあるということ。もとは 仏教語。現在では、多くは悪いほうの意味で 使われる。 類義自業自得。身から出た錆さび。 悪因悪 果。善因善果。悪事身に返る。 英語 As a man lives, so shall he die, as a tree falls, so shall it lie. 人は生きてきたとおりに死なねばならず、それと同様に、木は倒れたらそのままに横たわっていなければならない 用例一家のうちでも、どうかすると、直接 の因果関係の考えられないようないろいろな 不幸が頻発することがある。すると人はきっ と何かしら神秘的な因果応報の作用を想像し て祈禱きとや厄払いの他力にすがろうとする。 国土に災禍の続起する場合にも同様である。 〈寺田寅彦◆天災と国防〉 から。▷因果‖仏教で、原因と結果。 いんが因果の小車 おぐるま 原因と結果、中でも悪い行為に対する悪い報 いが早くめぐってくるということ。因果のめ ぐり合わせを、回転の速い小さな車にたとえ たもの。悪を戒めたことば。「因果の車」「因 果はめぐる小車」ともいう。 類義因果は車の輪の如し。 いんが ふく 因果を含める 用例平岡の語る所は、ざっとこうであるが、 代助には彼が支店長から因果を含められて、 所決を促いそがされた様にも聞えた。〈夏目漱 石・それから〉 事情や状況を説明して、納得させ、あきらめ させること。原因と結果の道理を説明する意 般鑑遠からず 出詩経しきよう 身近にある失敗例を自分の戒めとせよという たとえ。また、自分の戒めとなるものは、ご く手近なところにあるというたとえ。△殷‖ 古代中国の王朝。鑑‖鏡。自分を照らして反 省する手本という意。 補説出典には、このあとに「夏后かこの世に 在り(夏の世に前例がある)」と続く。殷の前 代の夏の桀王が暴君だったため、殷に滅ぼ された。その殷も紂王が暴政を行ったた め、周に滅ぼされた。殷が戒めとすべき手本 は、すぐ前の暴政による夏の滅亡があるとい う意。 いんきようじゅうねん 韻鏡十年 簡単には理解できないこと。『韻鏡』は難解 で、理解するまでに十年かかるという意から。 ∇韻鏡∥唐末の漢字の音韻を図示した書物。 いんぎようくびつか 印形は首と釣り替え 印鑑、中でも実印は首と引き替えになるほど 大切なものだということ。「印形は首と引き 替え」ともいう。 寧で礼儀正しいが誠意がこもっておらず、内 心は尊大で無礼な態度をいう。 類義慇懃尾籠 口先の祿 かみ。 しも いんぎんぶれい 慇懃無礼 丁寧すぎて、かえって無礼なこと。また、丁 国を守るために重要な、地勢のけわしい土地。 要害の地。人間の咽喉のどと右臂みぎに相当する ほどの所という意から。 引導を渡す 相手の命が尽きたことを告げる。また、相手 に最終宣告をすること。▶引導=もと仏教語 で、死者を葬るとき、僧が死者の霊を悟りの 道へ導くために、経文や法語を唱えること。 陰徳あれば陽報あり出淮南子 人知れず善行をする者には、必ずよい報いが はっきりと現れるということ。△陰徳‖人に 知られない善行。陽報‖表面にはっきり現れ るよい報い。略して「陰徳陽報」ともいう。 補説出典には「陰徳有る者は、必ず陽報有 り。陰行有る者は、必ず昭名有り(人知れず 徳を積む者には、必ずはっきりとしたよい報 いがあり、人知れず善行をする者には、必ず 明らかな名誉が与えられるものだ」とある。 類義陰徳は果報の来る門口。隠れての信は 現れての徳。善因善果。 いんとく まつだいたから陰徳は末代の宝 人に知られずひそかによい行いをする者に は、その子孫にまでよい報いがあるというこ と。△陰徳∥人に知られない善行。 <79> 陰に籠る いんこも 意志や感情などを発散できないこと。特に不 平・不満が心の中にくすぶっていること。陰 気であること。内部に潜む意から。 類義 気が晴れない。 用例うまいことを言う。まったく、陰にこ もっている。してみれば、借金も同類項だろ う。借金は陰鬱なる病気也なり。坂口安吾 不良少年とキリスト ういてんぺん 有為転変の世の習い 常に激しく移り変わるのが、この世の常であるということ。「有為転変は世の習い」ともいう。▶有為‖仏教語で、因縁によって生じた現世のさまざまな現象のこと。 憂いも辛いも食うての上 苦しいとか辛いとかいう不平も、衣食に不自由がないから言えるのであり、衣食にこと欠くような生活のときには、そんな不平を言ってはいられないものだということ。 類義衣食足りて礼節を知る。飢えては食を 択えらばず。 う いぬ ぼう おそ 飢えたる犬は棒を怖れず 生活に困っている者は、危険を恐れない いんにこーうえをし うこと。飢えた犬は、人間が振るう棒をも恐 れずに、食べ物にありつこうとする意から。 類義瘦せ馬鞭むちを恐れず。疲馬ひばは鞭箠べん を畏おそれず。 飢えては食を択ばず 生活に困窮したときは、不平や不満などを 言ってはいられないということ。飢えたとき は、どんな食べ物でも選えり好みをせずに食 べる意から。「飢えたる時は食を択ばず」「飢 うる者は食を択ばず」ともいう。 類義飢えたる者は食を為なし易やすし。すき 腹にまずい物なし。 用例ともかく一旦社会の落伍者 として、着るに衣なく、喰くうに食なく、住 むに家なく、さりとて働こうにも仕事がなく、 またこれを世話すべき親類縁者や友人もない というような、行き詰まった境遇に落ちたと しますれば、彼らははたしてどうすればよい でありましょう。その多くはいわゆる「飢え たるものは食を撰えらばず」で、恥も外聞も顧 かえるに暇いとなく、まずもって活いきるの道に のみ向かって突進するに相違ありません。 〈喜田貞吉◆融和問題に関する歴史的考察〉 う のそ なえ う こと 飢えに臨みて苗を植うる如し 必要になってから準備をするのでは手遅れで あることのたとえ。食べる物がなくなってか ら苗を植えたのでは、今の飢えには間に合わ ない意から。 類義渇して井を穿うがつ。戦いくを見て矢を矧 はぐ。泥棒を捕らえて縄を綯なう。 対義転ばぬ先の杖つえ。 上には上がある 世の中には、これがいちばん上だと思っても、 さらにその上がある。物事には限度がないと いうこと。また、非常にすぐれたものに出 会ったとき、感嘆や驚きの気持ちを表すこと ばとしても用いられる。 類義上を見れば方図がない。 うえまじへつらしたまじおご上に交わりて諂わず、下に交わりて驕かみまじへつらしもらず上に交わりて諂わず、下に交わりて驕らず154 うえみ上見ぬ鷲わし 何者も恐れる必要がなく、思うままに振る舞 うようすのたとえ。鷲は強いので、上空から の攻撃を警戒する必要がないことから。権力 者の勝手気ままな振る舞いを批判するときに 用いることが多い。 上を下へかえす ごった返し、混乱しているようす。上の物を 下に、下の物を上にするような騒ぎのことか ら。略して「上を下へ」ともいう。 用例特命検閱というものがある。大将級の 検閱使が中央部から幕僚を大勢引連ひきれて各 師団の成績を検しらべに来るのである。その 時、検閱使は××宮殿下、首席幕僚が××少 将(今の大将)その次が××大佐(今の中将)と いう一行で、連隊は上を下への騒ぎ、隊長の 運命は此この検閱の成績で決まるというのだ <80> から仕方がない。〈岸田国士◆兵営と文学〉 うえんたまごこぼ しかのち 鳥鳶の卵毀たざれば而る後に ほうおうあつ 鳳凰集まる 出漢書かんじょ 仁に基づいた寛大な政治を行えば、それを 慕って優秀な人物が集まって来ることのたと え。烏 す や鳶とぴといった平凡な鳥の卵も壊さ ないようにしてやれば、鳥たちは安心して、 鳳凰のようなめでたい鳥まで集まってくると いう意から。∇鳳凰∥想像上のめでたい鳥。 魚心あれば水心 相手が好意を示せば、こちらも好意をもって 対応しようということ。魚が水に好意を持て ば、水のほうでもその魚に好意を持つものだ という意から。「水心あれば魚心」ともいう。 補説本来の「魚、心あれば、水、心あり」 を、魚心、水心とそれぞれ一語に誤ったもの。 類義網心あれば魚心。君心あれば民心あ り。落花流水の情。 うお魚と水みず 切っても切れない、きわめて親しい間柄のた とえ。「水と魚」ともいう。 英語[Claw me and I will claw you.]私を 掻かいてくれたら、私も君を掻いてあげよう] Love is the loadstone of love.愛は愛の磁 石である] 用例あの山の端にかかっているあなたの国 の月光が、なんと、私共の地上では、娘と男 のはるかな想おもいを結びあわせる糸ともなれ ば、恋の涙を真珠にかえる役目もします。魚 心あれば水心とは申しませぬ。五日の後に、 この笛は、きっとおてもとに返しましょう。 〈坂口安吾◆紫大納言〉 類義 水魚の交わり。君臣水魚。 対義 犬と猿。 魚に泳ぎ教える しゃかせっぽう 302 うお 魚の木に登るが如し 不可能なことをしようとするためとえ。また、 自分が本来いる場所を離れて手も足も出ない ことのたとえ。魚が水から出て木に登ろうと する意から。 類義魚の水を離れたよう。 うお ふちゅうあそ ごと 魚の釜中に遊ぶが如し 出後漢書ごかんじょ 目前に迫っている危険も知らずに、のんびり していることのたとえ。煮られてしまうこと も知らずに、魚が釜かまの中で泳いでいるという 意から。略して「釜中の魚」ともいう。 類義俎上そじの魚。釜底游魚ふていゆ。 魚の水を得たるが如し 親密な交際や間柄のたとえ。魚と水とは切っても切れない関係にあることから。また、ふさわしい条件や環境を得て能力を発揮するためとえ。魚が水中に放たれると、元気よく泳ぐ 出三国志さんごくし ことから。「魚の水を得たよう」ともいう。 補説出典には「孤この孔明 ある。 魚の水有るがごときなり(自分にとって孔明 がいるということは、ちょうど魚にとって水 があるように、欠くことができないものだ」 とある。 対義魚の水を離れたよう。 魚の水を離れたよう 唯一の頼みとするものを失って、能力を発揮 することができないようすのたとえ。「水を 離れた魚」ともいう。 類義鵜の水離れ。魚の木に登るが如ごとし。 陸おかに上がった河童かっ。木から落ちた猿。 対義魚の水を得たるが如し。 うおめみずみひとめ 魚の目に水見えず、人の目に そらみ 出埤雅ひが 空見えず あまりに身近にあるものは、そのものの存在 や価値がわからないということのたとえ。魚 の周囲にいつでもある水や、人間の周囲にい つもある空気が見えないという意から。 補説出典には「竜、石を見ず、人、風を見 ず、魚、水を見ず、鬼、地を見ず」とある。 類義魚は水中に在って其その水を知らず、 人は気中に在って其の気を知らず。 うおこうこあいわす 魚は江湖に相忘る 出荘子そうじ 俗事にわずらわされず、自然の境遇に身を置 き、自由に生きることのたとえ。魚が広々と した水中を、互いの存在も忘れ、ゆうゆうと <81> 泳ぎ回るという意から。 類義 魚は水に相忘れ、獣は林に相忘る。 うお魚は鯛だい 同類の中でもっともすぐれているもののたと え。魚類の中では鯛がいちばん上であること から。このあとに「人は侍さむ、木は檜ひのき」を つけても用いられる。 類義鯛は魚の王。 熱さを忘れる。暑さ忘れて陰忘る。 うおあらそものぬ魚を争う者は濡る 出列子れっし 利益を得るためには、苦労や困難が伴うこと のたとえ。また、どのような行為にも自然の 勢いとして波及する状態があることのたと え。人と争って魚を取り合おうとすると、体 や衣服が水に濡れることから。 補説出典には「魚を争う者は濡れ、獣を逐 おう者は趨はしる。これを楽しむに非あらざるな り(争って魚を取ろうとする者は必ず濡れる し、獣を捕らえようとする者は必ず走る。好 きでそうするのではないが、どうしてもその ようになるのだ」とある。 類義溺 でき を救う者は濡れ、逃ぐるを追う者 は趨る。 さんじゅう うおえせんわす 魚を得て筌を忘る 目的を達成してしまうと、それまでに役立ったものを忘れてしまうことのたとえ。魚を捕ってしまえばその道具の筌のことなど忘れてしまうという意。∇筌∥水中に沈めて魚を捕る竹製のかご。やな。「うえ」とも読む。類義雨晴れて笠かさを忘る。喉元のど過ぎれい 出荘子そうじ うおはたーうきよは うかうか三十きよろきよろ四 じゅう 十 月日のたつのは早く、またたく間に人生が過 ぎてしまうことのたとえ。三十代をうかうか して過ごし、四十代になってあわててきよろ きよろする意から。 類義少年老い易やすく学成り難し。 対義三十の尻括しりり。 羽翮肉を飛ばす 微力なものでも多く集まれば、大きな力にな ることのたとえ。鳥の羽は一つ一つは軽く微 力だが、集まれば重い鳥の体を飛ばせる意か ら。∇翮∥羽の軸、羽の根もと。「羽翮」で 鳥の羽の意。 出漢書かんじょ 補説出典には、この前に「叢軽 そう けい 軸を折り 軽いものも多く積めば車軸を折り」とある。 類義群軽 ぐん けい 軸を折る。積羽 せき う 舟を沈む。 出 蘇軾ー前赤壁賦 うかとうせん羽化登仙 酒などに酔って、快い気分になることのたと え。天にも昇る心地。羽が生え、仙人となっ て空を自由に翔かける意から。▷羽化‖羽が 生えて、空を自由に翔ける仙人になること。 登仙‖天に昇って仙人になる意。 類義浮き沈みは世の習い浮き沈みも一代 に七度。世は七下がり七上がり。 うしず浮き沈み七度ななたび 人間の一生は安定したものではなく、よい時 と悪い時の繰り返しだということ。 憂き身を窶す 度を越して夢中になること。特に、無益に見 える物事に熱中すること。苦労を重ねてやつ れる意から。「浮き身を窶す」とも書く。 用例ひとくちに言うと、先生は、道徳は進 歩するものか退歩するものかという、一見、 迂遠 うえ な学問に憂身を窶していられるのであ る。〈久生十蘭・犂氏の友情〉 浮世の苦楽は壁一重 この世の苦しみと楽しみは隣り合っていて、 変転きわまりないものだということ。悲観も 楽観も禁物だという教え。 類義楽あれば苦あり。 うきよいしょうしちぶ浮世は衣装七分 この世では、内容より外見が重視されるということ。衣装で七分通り評価される意から。 うきようし 浮世は牛の小車 この世は辛っちく苦しいことが、しきりに回ってくるものだということ。「牛」を「憂ぅ」に掛けたもの。略して「浮世は車」ともいう。 △小車Ⅱ小さな車で、回転が速い。 浮世は回り持ち この世の貧富、幸不幸、栄枯盛衰などは、絶 えず人から人へと移って行き、決して一つ所 <82> にとどまるものではないということ。この世 の定めないことを言ったもの。「世は回り持 ち」ともいう。 うきよ浮世は夢ゆめ 出李白ー文りはくぶん 人生は夢のようにはかないこと。「夢の浮世」ともいう。この世のはかないことを言ったことば。▶浮世‖はかない人生。 補説題名は『春夜 しゅ 桃李園 とうり に宴 えん する の序』。「浮生 ふせ い はかない人生は夢の若 ごと し」による。 類義人生は朝露ちょの如ごとし。 浮世渡らば豆腐で渡れ この世をうまく渡るには、外見はまじめで、 内面は柔和であれ、という教え。豆腐は形は 四角四面だが、中身は柔らかいことから。 うぐいすな 鶯鳴かせたこともある 年老いた女性が、若いころは男性にもてはや されたことを自慢するときのことば。「梅干 し婆 はしなびておれど、鶯鳴かせたことも ある」ということばの一部。△鶯=梅(若く 美しい女性)に言い寄る若者のたとえ。 うぐいすはやなとしほうねん 鶯の早く鳴く年は豊年 用例ははは、まったくだい。なあに、こい でもお春さんなんてえ女は、暫しぼく前まで社 長の第三号か、第五号の想い者だったんだ。 鶯鳴かせた春もあるという婆ばあさんだかん な、ははは。三好十郎◆樹氷 うぐいす なかほととぎすここ 鶯のかいごの中の時鳥弾子で子にな ほととぎす らぬ時鳥252 鶯がいつもより早く鳴くほど、春先が暖かく よい天候の年は、農作物の育ちがよく豊作に なるということ。∇鶯∥春先、梅の咲くころ から鳴く小鳥。 有卦に入る 幸運に巡り合い、すべての物事がうまくゆく こと。▶有卦‖陰陽道 おんよ うどう による占いで、人 の生まれ年を干支えとに割り当てた幸運の年回 りのこと。 用例京都の三条大橋の東に檀王法林寺 だんのうほ うりんじ というお寺がある。そこの境内から川 端へ抜けるところに赤門があり、夕方になる と閉とざされるが、いつ締まるのか誰もそれを 見かけたものがない。川向むこうの上木屋町あ たりで若い妓 おん な たちが、この門の締まるのを 見ると、有卦に入るといって、欄干 らん かん にもた れてじっとそれを待っているが、見ていると きには締まらないで、ちょっと眼めを外そっ方 ぼうに逸そらした時に、ちゃんと閉じられてい るということだ。〈薄田泣堇◆艸木虫魚〉 出後漢書ごかんじょ うごう しゅう 烏合の衆 統制も規律もなく、ただ寄り集まっているだ けの集団。秩序のない人々の集まりや軍勢に いう。鳥からの群れが無秩序でばらばらである ことから。 英語 The mob has many heads but no brains. 暴徒には頭がたくさんあるが、脳 類義瓦合がごの衆。 味噌のうみそはまったくない 用例軍には将がなければならず、武士には 主君がなければならぬ。行動の中心に正義と 報国を奉じ、個々の中心に、主君を持たない では、それは徒党の乱に終り、烏合の衆と化 してしまう。〈吉川英治◆三国志〉 右顧左眄 出文選もんぜん 周りの情勢や周囲の思惑、意見をうかがい、 なかなか決断できないでいること。右を見た り左を見たりする意から。「左顧右眄」とも いう。∇顧=かえりみる。眄=横目でちらり と見る意。 補説出典には「左顧右眄するや、謂えら く、人無きが若ごとし(あなたが左右を見回す さまは、悠然としていてあたりに人がいない かのようだ」とある。 用例自己の民族への奉仕をまっとうし、民 族芸術としての責務をはたしたうえ、さらに 余力をもって国境を越えて行くなら、それは よろこばしいことであるが、最初から他の民 族への迎合を考えて右顧左眄し始めたらそれ はすでに芸術の自殺である。〈伊丹万作◆映 画と民族性〉 うご雨後の筍たけのこ 同じような物事が、次から次へと現れたり起 こったりすることのたとえ。雨が降ったあ と、 綺が続々と出てくることから。 用例 段々帯岩一帯の奇岩が雨後の筍のよう に続々としてあらわれ出して来た。あるもの は簇むらがる雲の中から、或るものは連なる峰 <83> の上から、時には松をあしらい、時には檜 の木の林を靡なびかせつつーそして渓は幾曲 折しその間を流れて行った。〈田山花袋◆耶 馬渓の一夜〉 うさぎし きつね かな 一兎死すれば狐これを悲しむ 同類の不幸を、明日はわが身と悲しむことの たとえ。同じ山の兎が捕らえられると、自分 にも同じ運命が近づいたと思って狐が悲しむ 意から。「兎死して狐悲しむ」ともいう。 類義」狐死して兎泣く。 うさぎのぼ兎の上り坂ざか 得意分野で実力を発揮することのたとえ。また、物事が条件に恵まれて早く進むことのたとえ。兎は、上り坂を速くのぼることから。 鬼の罠に狐がかかる 意外な幸運や収穫を得ることのたとえ 類義鰯網 いわし あみ で鯨捕る。 見て犬を呼ぶ」ともいう。 うさきなぬか 兎も七日なぶれば噛み付く おとなしい人でも何度もいじめられると怒り 出すということ。∇なぶるいじめる。 類義仏の顔も三度。地蔵の顔も三度。 うさぎみいぬはな 兎を見て犬を放つ 出新序 手おくれだと思っても、あきらめてはいけな いことのたとえ。状況をよく見てから対策を 立てても間に合うということ。兎を見つけて から猟犬りようを放す意から。転じて、間に合 わないことのたとえにも用いられる。「兎を うさぎしーうしにた 補説出典には「羊を亡なくして牢ろうを固く するも未いまだ遅しと為なさず、兎を見て狗いぬ を呼ぶも未だ晩おそしと為さず」とある。 類義兎を見て鷹たかを放つ。兎を見て犬を顧 かえ みる。 牛売って牛にならず 見通しも立てずに買い換えると損をすること のたとえ。牛を売って代わりの牛を買おうと しても、金額が足りなくて買えない意から。 うしおうしお 牛追い牛に追わる 立場がさかさまになること。主客転倒のたと え。牛を追って歩かせるべき牛追いが、牛に 追い立てられる意から。 右次左次物言わず あれこれ文句を言わないこと。転じて、まっ たく口をきかないこと。 故事飲明 から二人の 天皇のとき、百済 僧が戒律 持って渡来したが、 排仏主義の 物部尾輿 は二人を播磨 兵庫県に流 し、還俗 出家した者を俗人にもどすこと させ、一人を右次郎、もう一人を左次郎と名 づけ、獄舎につないだ。しかし二人とも戒律 を破らなかったため、さらに厳しく取り扱っ た。そこで右次郎も左次郎も、今後は何も言 うまいと口を固く閉ざしてしまったという。 氏無くして玉の輿 女性は家柄や身分が低い家に生まれても、容 姿次第で地位や富のある人と結婚し、富や地 位を手にすることができるということ。「女 は氏無くて玉の輿に乗る」ともいう。▷氏= 名字 みよ。 うじ。 昔は名字は武士の特権で、一般庶民 は名字を名乗ることは許されなかった。 類義玉の輿に乗る。 用例まあまあクヨクヨ思いなさんな。娘が 孝行で何より幸い、縹緻 く、当世珍めずらしいあのお種、ナー二年期の 済まねえ中うちに落籍だされるのは知れたこ と。女氏無くして玉の輿、立身出世しようも しれぬ。そうなると差し詰めお前達たち夫婦 は、左団扇の楽隠居、百姓なんか止やめっ ちまってさっさと江戸へ出て来なさるがい い。〈国枝史郎◆村井長庵記名の傘〉 牛に経文 いくら言い聞かせても、何の効果もないこと のたとえ。牛にお経を読んで聞かせても、少 しもありがたいとも思わず、むだなことから。 類義牛に対して琴を弾ず。犬に論語。馬の 耳に念仏。馬耳東風。 牛に対して琴を弾ず うし たい こと だん 出牟融理惑論 何の効果もなく無駄なこと。愚かな者に立派 な理論を説き聞かせること。好意や努力が無 駄に終わること。牛の前で琴を弾ひいて聞か せる意から。 故事 中国魯の国の公明儀 が牛の前で名 曲を琴で弾いたが、牛は何の反応も示さずに <84> 草を食べていた。次に蚊や虻あぶの音や子牛の 鳴き声のような音を弾くと、牛は耳をそばだ て、尾を振って歩き出したという故事から。 類義牛に経文。馬の耳に念仏。犬に論語。 馬耳東風。 うしの 牛に乗って牛を尋ねる 尋ねるものが身近な所にあるのに気づかず、 わざわざ遠くまで行って尋ねるようなむだな 努力をすることのたとえ。 類義負うた子を三年探す うし 牛に引かれて善光寺参り 偶然、あるいは他人に誘われて、たまたまあ る場所へ行くこと。 補説昔、信濃(長野県)の善光寺の近くに 住みながらも信仰心の薄い老婆が、さらして いた布を、隣家の牛が角に引っ掛けて走るの を追いかけて行くうちに、善光寺に着き、そ れからたびたび善光寺に参詣 し、深く信仰 するようになったという話から。 走り出すことから。 牛の歩みも千里 怠らずに努力を続ければ、大きな成果があが るという教え。牛の遅い足取りでも、歩き続 ければ千里の遠くまで行けるという意から。 類義雨垂れ石を穿うがつ。 うし牛の一散いっさん だんは決断のにぶい人が、深い思慮もなく、 やみに行動することのたとえ。ふだんは動 ののろい牛が、何かのきっかけで一目散に 牛の小便と親の意見は長くて うししょうべんおやいけんなが も効かぬ 牛の小便は長いばかりで肥料としては効き目 が少なく、親の意見も長いばかりで効果が少 ないということ。 牛の鞦と諺とは外れそうでも外れぬ 年寄りの言う事と牛の鞦は外れ ない 469 牛の角を蜂が刺す 物事に対して何とも感じないことのたとえ。 また、何の効果もないことのたとえ。牛の角 を蜂がさしても、牛は痛くもかゆくもないこ とから。「牛の角に蜂」ともいう。 類義鹿の角を蜂が刺す。石地蔵に蜂。釣り 鐘を蜂が刺す。 うしうしづ 牛は牛連れ 同類は自然に集まるということ。また、人は ふさわしい相手と組んで物事を行えば、うま くゆくということ。「馬は馬連れ」「牛は牛連 れ、馬は馬連れ」ともいう。 J.N° 類義同類相求む。類は友を呼ぶ。 英語Every Jack has his Jill.「どのジャックにもみな似合いのジルがいる」 うじむし 蛆虫も一代 いちだい 類義なめくじも一代。蠅取蜘蛛 はえと りぐも も一生、 袋蜘蛛も一生。 どんな生き方をしても、一生は一生だという 牛も千里、馬も千里 うしせんりうませんり 遅いか速いか、上手か下手かの違いはあって も、行き着く所は同じだということ。千里も の長い道でも、歩みの遅い牛も、歩みの速い 馬も同じ目的地に着くことから。 類義早牛も淀よ、 遅牛も淀。早舟も淀、遅 舟も淀。 出淮南子えなんじ 烏鵲の智 遠い将来のことばかり心配して、近くに迫っ ている災難に気がつかないこと。かささぎは 強風の多い年には風を避けようとして巣を低 い枝にかけるが、そのために、ひなや卵を人 に取られることまでは、知恵がまわらないこ とから。△烏鵲=かささぎの別称。 出管子かんし 烏集の交わり 息集のズオレ うそが多く、心のこもっていない交際のこと。 カラスを疑い深い鳥として、己の利益のため だけに争うとしたことからきた言葉。▷鳥集 ∥カラスの集まり。 羽觴を飛ばす 出李白詩 宴会などで杯のやりとりを盛んに行うこと。 ▶羽觴‖翼を広げた雀 すず にかたどった杯のこ と。 補説詩の題名は『春夜 桃李園 とうり に宴 えん んや するの序』。詩の中の『瓊筵 を開きて以 もっ <85> て花に坐ざし、羽觴を飛ばして月に酔う(玉の ように美しい敷物を広げて花の下に座り、雀 が羽を広げた形の杯をやり取りしながら、月 を眺めて酔う)によることば。 氏より育ち 人間をつくる上では、血筋よりも環境のほう が影響が大きく、大切だということ。いろは がるた(京都)の一。 英語 Birth is much, but breeding is more. 生まれも大事だが、育ちはもっと大事である 類義 後ろ弁天前不動。後ろ別嬪前びっくり。 用例播州赤穗 ばんしゅ うあこう の山屋といえば大阪まで も響いていた立派な塩の製造業。そこの娘と あるからはなるほど行儀もよいはずじゃ。氏 より育ちとは云いうけれど、やはり氏がよく なければどことなく品が落ちるものじゃ。 〈国枝史郎◆赤格子九郎右衛門の娘〉 後ろ髪を引かれる 心があとに残って、きっぱりと思い切れない こと。未練が残ること。 対義 前十両に後ろ三両。 用例夢の後味というものは、なにかはかなく、しんみりとして、淋ざしいことが多い。山川草木、禽獣きんじ、幽鬼、火や水、自分自身の飛行や墜落、そういう類たぐのものは別として、人間の夢となれば、ちと、後ろ髪を引かる思いまです。〈豊島与志雄◆復讐〉 うしせんりようまえいちもん 後ろ千両前一文 後ろ姿は美しいが、前から見た容姿は美しく ないこと。略して「後ろ千両」ともいう。 うじよりーうすがみ 後ろに目無し 人には、気がつかないことが多いものだということ。後ろには目がないため、背後にあるものは見えないことから。 うし後ろの目、壁に耳みみ 悪いことは、自分が知らないうちにばれてし まい、隠しとおせるものではないということ。 類義壁に耳あり障子に目あり。 うし ほうず まえすみかずら 後ろ坊主の前角鬘 後ろ姿はよくないが、前から見ると美しいこ と。▷角鬘‖元服する前の少年の美しい髪 型。角前髪 すみま えがみ ともいう。 類義 前十両に後ろ三両。 対義 後ろ千両前一文。 後ろ指を指される 陰で悪口を言われること。後ろから他人に指 をされる意から。 用例後家という者はいつの世でもとかく人 に影口言われがちの、わりの悪いものだから、 勝ち気の祖母はこれが悔しくてたまらない。 それで、何の、女でこそあれ、と気を張る。 気を張って油断をしなかったから、一生人に 後ろ指を差されるような過失はなかった代わ り、あまり人に愛しもされずに年を取ってし まって、父の代となった。二葉亭四迷◆平凡 牛を馬に乗り換える 劣ったものを捨て、すぐれたものを取ること。 自分にとって有利なほうを取ること。足の遅 い牛を足の速い馬に乗り換える意から。 類義 牛を売って馬を買う。牛を馬にする。 対義 馬を牛に乗り換える。 用例やくざな軍人の政治家のような者が銅 像になる世の中に、牛を表彰しないという法 は無いというのだそうな。岡崎氏も人並外れ た牛好きだけに、喜んでその註文 を引受 けて製作にかかったが、件 の註文主は、牛 を馬に乗り替えたものか、その後頓 とんと音沙 汰 をしないので、岡崎氏は今では身銭を 切って、こつこつ仕揚 しあ げ に取りかかっている。 〈薄田泣堇◆茶話〉 牛を食らうの気 ↓食牛の気 324 牛を桃林の野に放つ うし や はな うま かざん みなみ 馬を華山の陽に 帰し、牛を桃林の野に放つ 93 薄紙を剥ぐよう 病気など悪い状態が、日ごとにわずかずつよ くなっていくようす。また、隠れていたもの が表面に現れること。表面の薄い紙を少しず つはぎ取っていくようだということから。闇 が少しずつ明るくなることにもいう。「薄紙 を剥がすよう」ともいう。 用例だがこう言う程度に記憶の薄れた方 が、愈いよ舞台に向うと、後から後から薄紙を 剥ぐように思い出されて来て、適当な用意を <86> うすからーうそもほ 持って芝居に臨んでいると謂った頃合いの 知識になっているだろうから、此これはきっと 楽しいぞ。〈折口信夫◆なよたけの解釈〉 うす白から杵きね 働きかけの方向がふつうとは逆であることの たとえ。とくに、女性のほうから男性に働き かけることをいう。∇白・杵=「白」は女性 を、「杵」は男性をさす隠語。 類義寺から里。 横光利一 微笑 失せたる針をば債らぬもの 貸した物をなくされたとき、無理に返還をせ まるのは災いのもとになるという戒め。▶債 る‖催促する意。 補説兄の火酢芹命 ほすせり のみこと が貸した釣り針をな くした弟の彦火火出見尊 ひこほほで みのみこと を強く責め、 これを取り返そうとして、後に災難をこう むったという、『日本書紀』にある「海幸山 幸 うみさち やまさち の神話から出たことば。 数は多いが、価値のない物や人のこと。ろく でもない連中のこと。もと仏教語で、この世 にある有形無形のすべてのものの意。マ象= 形の意。 うぞうむぞう有象無象 でまこと 噓から出た実 用例青葉に射さし込もっている光を見ながら、安らかに笑っている栖方せいの前で、梶かじは、もうこの青年に重要なことは何に一つ訊きけないのだと思った。有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。 うそのつもりで言ったことが、結果として本 当になってしまうこと。「うそより出た誠」 ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義根もない噓から芽が生える。虚は実を 引く。冗談から駒。瓢簞 ひよう たん から駒が出る。 一犬影に吠ゆれば万犬声に吠ゆ。 用例三好はかえす言葉もなく、平謝りに謝 りながら、楓かえ と連れ立って佐助もとめての 旅を続けねばならぬ羽目になったとは、まる で嘘から出た真 じゃと、身から出た錆さびを やがて嘆いた。〈織田作之助◆猿飛佐助〉 嘘つきは泥棒の始まり 平気でうそをつくようになると、盗みをする のも平気になるということ。うそをつくなと いう戒め。 類義噓は盗人 びとの始まり。噓は盗みの基。 英語Show me a liar and I'll show you a thief.「ある人のうそつき癖を指摘してごら んなさい、そうすれば私はその人の盗癖を指 摘してやろう」 うそ ぼうず あたま ゆ 噓と坊主の頭は結ったことが ない 今まで一度もうそを言ったことがないという こと。坊主の頭は髷まげが結えるわけがないこ とから。「言った」に「結った」を掛けたこ とば。 嘘にも種がいる 何事にも相応の元手や準備が必要であるということ。うそも本当らしく思わせるには、材料が必要であることから。 嘘は後から剥げる うそは、つくそばから、すぐにばれるという こと。「空言そら後から剥げる」ともいう。 類義噓は一時。噓は門口まで。 うそはっぴゃく噓八百 やたらにうそを言うこと。多くのうそ。△八 百=数が多いことを表すことば。 用例先ず第一に云いて置き度たい事は、 私の物語に現れて来る、快男子赤格子 九 郎右衛門 くろう えもん なる者は、従来の芝居や稗史 はい 小説で、嘘八百を語り伝えられて来たその人 物とはあらゆる点に於おいて、大いに相違があ るという事である。〈国枝史郎◆赤格子九郎 右衛門〉 噓は盗人の始まり噓つきは泥棒の始 まり86 うそ嘘も方便ほうべん うそはよくないが、時と場合によっては必要 なことがあるということ。∇方便∥仏教語。 相手の資質や条件に応じて用いられる、自在 な救済の手段。それ自体は真実ではないが、 衆生しゅじを迷いから救い出すのには有効な便 宜的な方法・手段。 <87> 類義噓も追従 ついし も世渡り。噓も誠も話の 手管 てく。 噓は世の宝。噓をつかねば仏になれ ぬ。 対義噛を言うと閻魔 ま 様に舌を抜かれ 噛つきは泥棒の始まり。正直は一生の宝。 英語 The end justifies the means.目的 は手段を正当化する」 He that cannot dis- semble knows not how to live.「偽ることができない人は生き方を知らない人である」 用例善悪の判断のあり来りの型だの、表通 りはそうでも、裏の小路はこうついていて、 そこの歩きかたはこうこうという要領や、人 間はあまりの真実はかえって嫌う臆病さを もっていること、噛も方便ということ、労少 くして功多きを賢しとするしきたり、それら をみんなわきまえていて、下品に流れず、さ りとて実際からそれず、生活の棹さをさして ゆく術すべを、ものわかりのよさ、というので ある。〈宮本百合子・ものわかりよさ〉 うそい えんまさましたぬ 噓を言うと閻魔様に舌を抜か けっしてうそをついてはいけないという戒 め。▽閻魔‖死んだ人の生前の行いをさばく という地獄の大王。うそをついた者は舌を抜 かれるという。 類義噓を言えば地獄へ行く。 うそいじごく 噓を言えば地獄へ行く うそをつくと地獄に落とされ閻魔 様に舌を 抜かれるから、うそをつくなという戒め。 類義噓を言うと閻魔様に舌を抜かれる。 対義噓も方便。噓も世渡り。噓をつかねば 仏になれぬ。噓も誠も話の手管 てく。 用例血の池や、針の山や、無間奈落 むけん ならく と いう白い煙のたちこめた底知れぬ深い穴や、 到いたるところで、蒼白 あお じろく 瘦せたひとたちが 口を小さくあけて泣き叫んでいた。嘘を吐っ けば地獄へ行ってこのように鬼のために舌を 抜かれるのだ、と聞かされたときには恐ろし くて泣き出した。〈太宰治◆津軽〉 うそないーうたれて 噛をつかねば仏になれぬ 時と場合によっては、うそをつくことも許さ れるということ。 補説仏は衆生 しゅじ よう を救って悟りの世界へ導 くために、便宜上うそをつくこともあるのだ から、必要なうそはついてもよいということ。 うそをつくときのこじつけのことば。 対義 噓を言えば地獄へ行く。噓つきは泥棒 の始まり。 類義 噓も方便。 梲が上がらぬ いつまでたっても立身出世ができないことの たとえ。また、逆境にあって幸せになれない ことのたとえ。△梲‖梁はりの上に立てて棟木 むな ぎ を支える短い柱。「うだち」ともいう。 補説語源には、椀によって上から頭を押さ えられていて頭が上がらない、つまり出世で きないという意と、梁の上に椀を上げられな いほどの粗末な家に住んでいる、つまり立派 な家を建てることのできない境遇にあるとい う意の両説がある。 用例伊東伴作は親代々の呉服商であった。学問で身を立てようとしたこともあったが、一向うだつがあがらないので、このごろは親代々の商人になりすましていた。〈坂口安吾・雨宮紅庵〉 打たぬ鐘は鳴らぬ 原因がなければ結果は生じないということ。 また、実行しなければ、何も得られないというたとえ。「打たねば鳴らぬ」ともいう。 類義蒔まかぬ種は生えぬ。 うたよ 歌は世につれ世は歌につれ 歌はその時代の世相を反映して変化し、世の 中もまた歌の影響を受けて変化するというこ と。 うた歌より囃子はやし 話をする人よりも、相槌 あい づち を打ったり話をま とめたりする人のほうが、役目が重いという ことのたとえ。歌の巧拙よりも囃子の巧拙の ほうが大事だということから。∇囃子∥演技 の拍子を取ったり、雰囲気を出したりするた めの伴奏の音楽。 打たれても親の杖 親に杖で打たれても、子を思う慈愛の心がこ もっているから、ありがたいものだというこ と。 類義打たるる杖もゆかしい。親の打つ拳 より他人の摩さするが痛い。 <88> うちえんまそとえびす内閣魔の外恵比須 家の中では威張って怖い顔をしているが、外 ではにこやかで愛想のよい人のこと。 類義内弁慶の外地蔵。家泣きの外笑い。内 広がりの外すぼり。 うちかぶとみす 内兜を見透かす 相手の内情や弱点を見抜くことのたとえ。 「内兜を見抜く」ともいう。∇内兜∥兜の内 側。転じて、他人に知られたくない事情。 うちそうじうまそとけふ 内で掃除せぬ馬は外で毛を振 る 家庭でのしつけの悪い子供は、外に出るとし つけの悪さがすぐにわかってしまうたとえ。 手入れの悪い馬は、外に出ると汚れを落とそ うとして毛を振るため、飼い主の手入れの悪 さがわかってしまうことから。 うちはまぐりそとしじみ内で蛤、外では蜆 家では大きな顔をしているが、外では小さく なってしまうことのたとえ。蛤のほうが蜆よ り大きいことから。「内に居る時の蛤貝、外 へ出た時の蜆貝」「内蛤外蜆」ともいう。 類義内弁慶の外地蔵。内広がりの外すぼ り。家うちの前の痩せ犬。 私には身分不相応の大名旅行で、そう いう事に馴なれない私は時に恐縮し、時に当 惑することもあった。内で蛤、外では蜆で、 こうなると小男の里見を正面にたてて、なる べくその背後で小さくなる算段をしていた。 〈志賀直哉◆万暦赤絵〉 内に省みて疚しからず出論語 自分の心の中を振り返ってみて、少しも良心 に恥じるところがないこと。公明正大なこ と。 うちかえりやま 補説孔子が門人に、君子のあるべき姿につ いて問われたときに語ったことば。出典には 「内に省みて疚しからずんば、夫それ何をか憂 うれえ何をか懼おそれん(いったい何を心配し、 何を恐れることがあろうか)とある。 そとあらわ 内に誠あれば外形る 出大学 心の中に誠意があれば、自然に言動などに現 れてくるものだということ。「内」は「中」 とも書く。 補説出典には此これを中うちに誠あれば、外 に形あらわると謂いう。故ゆえに君子は必ず其その 独りを慎む(故に君子は一人でいるときも言 行を慎む)と続く。 内の米の飯より隣の麦飯 他人のものは何でもよく見えることのたと え。自分の家で食べる米の飯よりも、隣の家 の麦飯のほうがおいしく思えるという意か ら。 うちなかぬすびとつか 類義内の飯より隣の雑炊 内の鯛たいより 隣の鰯いわ。 他人の飯は白い。 隣の糀籺味噌 じんだ。 みそ 対義隣の白飯より内の粟飯 あわ。 余所よそ の米 の飯より内の粥かゆ。 他人の飯には骨がある。 家の中の盗人は捕まらぬ 身近なことは案外わからないものだというこ と。自分の家の中では用心もしていないの で、家の中にいる盗人には気づかず、捕らえ られない意から。 類義 灯台下暗し。 うちまえ家の前の痩せ犬いぬ 臆病なくせに、人の力を借りて威張る者のた とえ。痩せた弱い犬でも飼い主の前では強そ うに吠ぼえることから。 類義我が門かどで吠えぬ犬なし。旅の犬が尾 をすぼめる。 内裸でも外錦 世渡りには、体裁をつくろうことも必要だと いうこと。そのような世渡りの方法。家の中 では裸同然の姿でも、外に出るときは立派な 服装をして世間体をつくろう意から。 頃義世間よ長り物。 内広がりの外すぼり 家の中では威張っているが、外へ出ると意気 地がなくなってしまうこと。▷すぼりニ縮ん で小さくなる意。「すぼまり」「すわり」「す ばり」ともいう。 類義内ふんばりの外ひっこみ内で蛤 外では蜆 内弁慶の外地蔵。 内弁慶の外地蔵 家の中では威張るが、外では意気地がなくな <89> る人のこと。「内弁慶」「陰弁慶」ともいう。 ▶弁慶=鎌倉時代、源義経に従った豪傑。こ こでは、強い者のたとえ。 類義内ふんばりの外ひっこみ内広がりの 外すぼり内で蛤はま外では蜆しじ 英語 Every dog is a lion at home. の犬も家の中ではライオンである 内股膏薬 あちらについたりこちらについたりして、節 操のないこと。しっかりした考えや方針がな くて、その時の気持ちで動くこと。八方美人。 内股にはった膏薬が、右の腿もについたり左 の腿についたりすることから。二股 ともいう。 また 膏薬一 有頂天になる 喜びで気分が舞い上がって我を忘れること。 また、物事に熱中して他を顧みないこと。 有頂天=仏教で三界の最上位の天。形あるもの のの世界の最高位。転じて、得意の絶頂。 類義無我夢中になる。 用例彼は有頂天になり出した。益々 ます その 詭弁 きべ が猛烈に口をついた。〈横光利一◆一 条の詭弁〉 烏鳥の私情 烏鳥の私情 出李密陳情表 親孝行したいという気持ちを謙遜して言うこ とば。カラスは、成長したのちに親鳥に口移し で餌を与える(これを反哺はんぽという)孝行心の あつい鳥とされることから。↓反哺の孝540 補説中国、晋しんの李密が皇帝に招かれたと うちまたーうとそう き、自分を養育してくれた老祖母をおいて赴 任することはできないと、任官を辞退するた めに奉った「陳情表」の中のことば。 うちょく迂直の計 すぐには効果が出ないが、実はもっとも有効 なやり方のこと。遠回りをして敵を油断さ せ、一気に攻め立てる戦法から。▶迂‖遠回 り。直‖まっすぐに行く。 うつく はな とげ ばら とげ 美しい花には棘がある 薔薇に刺あり 出孫子そんし 536 うつく かわひとえ かわひとえ 美しいも皮一重 皮一重160 うったなもったっとな 訴え無きを以て貴しと為す 人々が道義を守り、訴訟が起こらないような 政治が理想であるということ。 出論語集注 補説出典には民をして訟 え無からしむ るを以て貴しと為す」とある。 うつぼりちりうごりようじんうご 梁の塵を動かす梁塵を動かす687 うなおやおん 打つも撫でるも親の恩 子を叱って打つのも、ほめてなでるのも、み な親の愛情のあらわれだということ。 類義打たれても親の杖つえ。 あるということ。「移れば変わる習い」「移り変わるは浮世の習い」ともいう。 移れば変わる世の習い 時とともに世の中も移り変わるのが世の常で うつわなもっひとか 器と名とは以て人に仮すべか 出春秋左氏伝 身分を表す器(道具)と地位を表す名だけは、 かるがるしく臣下に与えてはならない。身分 にそぐわない称号・地位や器物を与えること は社会の秩序を乱すことをいう。「唯だ器きと 名めいとは以て人に仮すべからず」ともいう。 ∇器∥身分により使うものが定められている 道具類。名∥爵号。地位を示す称号。 らず 反応がきわめて早いたとえ。「打てば響く、 叩たたけば鳴る」と続けてもいう。 うとうしろ 鳥頭白くして馬角を生ず 出史記・索隠 あり得ないことのたとえ。また、あり得ない ことが実現することのたとえ。「烏頭白 ともいう。 故事中国の戦国時代に、秦しの人質になっ ていた燕えの太子丹たは、秦王から「鳥の 頭が白くなり、馬に角が生えたら国へ帰して やろう」と言われ、絶望して天を仰ぎ嘆いた ところ、あり得ないことが起こったという。 うとそうそう 烏鬼匆匆 歳月のあわただしく過ぎ去るたとえ。△烏兎 <90> うどのたーうぶやの ### 歳月。 匆匆‖速いさま。 補説太陽の中には三本足の烏 から 金烏 きん す が、月の中には兎 うさ ぎ 玉兎 ぎよ くと がすんでいると いう中国の伝説から。 何いかなる風の吹き廻まわしにや、友人の推輓ばん によってこの大学に来るようになった。来た 頃は留学中の或ある教授の留守居というので あったが、遂っいにここに留とどまることとなり、 烏兎忽々いつしか二十年近くの年月を過すに 至った。〈西田幾多郎◆或教授の退職の辞〉 独活の大木たいほく うなぎ うめぼし 体は大きいが、何の役にも立たない者のたと え。うどは丈こそ高くなるが、茎はやわらか くて弱く、用材としては役に立たないことか ら。「独活の大木柱にならぬ」ともいう。 類義大男総身に知恵が回りかね。 対義山椒 さんし よう は小粒でもぴりりと辛い。細 くても針は呑のめぬ。 英語 Great trees are good for nothing but shape. [大木が役に立つのは、日陰をつくることだけだ] 用例「鏡家の養子葉之助殿は十二歳だということであるが一見十八九に見えますな」家中の若侍達わかざむ寄るとさわると葉之助の噂をするのであった。「ノツソリとしてズングリとしてまるで独活の大木だ」などと悪口する者もある。〈国枝史郎◆八ヶ嶽の魔神〉 うどにぶとあじなものにぶと 独活の煮え太り味無い物の煮え太り 7 鰻に梅干 食い合わせの一つ。鰻と梅干をいっしょに食 べると、腹が痛むとして避ける風習があった。 補説「食い合わせ」とは、いっしょに食べ ると害があるとされる食物の組み合わせ。鰻 と梅干のほかには、西瓜 すい か と天ぷら、田螺 たに し と蕎麦そばなどが有名。 うなぎ鰻の寝床ねどこ 間口が狭くて奥行きの長い建物や細長い部屋 のたとえ。 用例区画整理のためにそこら一帯も様子を 変えて「小山珈琲」も場所をずらされた ついでに、無理に店を拡ひろげて、うなぎの寝 床みたいな細長い格好の店になった。〈山之 口猟◆池袋の店〉 うなぎすべ いちだいはぜと 鰻は滑っても一代糞は跳んで いちだい 人にはもって生まれた天分があり、どんなに 頑張ってもそれ以上のことはできないという こと。鰻がどうのた打ち回っても鯊がどんな に飛び跳ねてもその一生に変わりはないこと から。「跳んでも」は「飛んでも」とも書く。 類義一升徳利に二升は入らぬ。 も一代 自惚れと瘡気の無い者はない 人間はだれでも多少のうぬぼれを持っている ということ。▶瘡‖皮膚病の総称。あるいは 梅毒の俗称。ここでは皮膚病一般のこと。 類義色気と痔の気の無い者はない。 鬼の毛で突いたほど きわめて微細、あるいは微量であることのた とえ。兎の細い毛で突いた程度のほんの些細 ささ い な意から。▷兎の毛=うさぎの細い毛。 類義兎の毛の先ほど。 うまね鵜の真似する鳥 自分の能力や身のほどを知らず、人のまねを して失敗する者のたとえ。鵜のまねをして魚 を捕ろうとする烏は水に溺れることから。 「鵜の真似する烏水に溺れる」と続けても用 いる。「烏が鵜の真似」ともいう。 類義人真似すれば過ちする。身の程を知 る。鸚鵡 おう む の人真似。 う鵜の目鷹の目めたかめ 好奇心から大勢が探し出そうとするさま。鵜 や鷹が獲物をあさる目つきの意から。あら探 しをする場合に用いることが多い。 用例「その上、次々とアンナンからやって くる刺客しかは鵜の目鷹の目でおれの居どころ を探そうとあせっているんだからな、ー何時 いっお前と会えなくなるような時がくるかも知 れないよ」〈尾崎士郎◆空想部落〉 産屋の風邪は一生つく 幼いときについた癖くせは直りにくいというこ と。赤ん坊に風邪をひかせると、その子は一 生風邪をひきやすいということから。 類義産屋の癖は八十まで治らぬ。 <91> 出韓非子かんびし 孟方なれば水方なり 君主という器う次第で、人民はよくも悪くも なるということのたとえ。容器が四角形なら ば、中の水も四角形になることから。△孟 盆の一種。はち、わん。方∥四角形の意。 心があるから注意せよという戒め。 類義水は方円の器に随したう。 補説出典には、孔子のことばとして「人君 たる者は猶なお(ちょうど)盂のごとく、民は猶 水のごとし。盂方なれば水方に、盂圓えん円 形なれば水圓なり」とある。 旨い事は二度考えよ うまい話には、思わぬ落とし穴があるから、 よく検討し慎重に行動せよという戒め。 類義旨い物食わす人に油断すな。 馬逸足有りと雖も輿に閑わざ れば則ち良駿と為さず出中論 立派な素質を持っていても、道義を身につけ ていなければ、君子とは言えないということ のたとえ。足の速い馬でも、車を引く訓練を 積んでいなければ、よい馬とは言えないこと から。∇逸足∥足が速いこと。輿∥車。乗り 物。閑う∥習う。駿∥すぐれた馬。 旨い物は小人数 補説出典には、このあとに「人美質(よい 性質)有りと雖も、道を習わざれば、則ち君 子と為さず」と続く。 うまものくひとゆだん 旨い物食わす人に油断すな うまい話で人の歓心を買おうとする者には下 儲もうけ話は少ない人数でするほうが、利益の 分け前が多くてよいというたとえ。おいしい 物は少ない人数で食べるほうが、たくさん食 べられてよいということから。 うほうなーうまのみ 類義旨い物は一人で食え、まずい物は大勢 で食え。旨い物は小勢いこぜで食え、仕事は大勢 でせよ。 英語 The more reapers the less to reap. 刈り手が多ければ多いほど、収穫は少なく なる 旨い物は腹にたまる おいしい物はつい食べ過ぎて、腹にもたれる ということ。また、ごちそうは少量で満足す るということ。 類義旨い物には食傷する。口に甘いは腹に 毒。 旨い物は宵に食え よいことは早くやったほうがよいというたと え。おいしい物は、味が落ちないうちに早く 食べたほうがよいということから。このあと に「腹の立つことは明日言え」と続けていう こともある。 類義善は急げ。 馬から落ちて落馬する 重言(Ⅱ意味が重なっていることに気づかず に同じ意味の語を続けていう言い方をから かう言い方。落馬はそもそも馬から落ちる意味だから。 用例試みに馬から落ちて落馬したの口調に ならわば二つ寝てニツ起きた二日の後俊雄 とし お は割前の金届けんと〈斎藤緑雨◆かくれんぼ〉 うま の くちぐるま の 馬に乗るとも口車に乗るな うまい話には気をつけよという戒め。▽口車 ‖相手をだますための巧みな言い回し。 うま の 馬に乗るまでは牛に乗れ 最善の策が取れないときは、次善の策を取れ という教え。また、高い地位に就く前に、低 い地位に就いて力をつけておけという教え。 いきなり馬に乗るのはむずかしいので、牛で 乗り方に慣れておけ、という意から。 うまの 馬には乗ってみよ、人には添うてみよ ひとそうまの 人には添うてみよ、馬には乗っ てみよ553 馬の背を分ける 夕立などの、雨が局地的に降るようす。馬の 背の片側が降っているのに反対側が晴れてい るように、ごく近い場所で降り方に差のある さまをいう。「夕立は馬の背を分ける」「馬の 背を越す」ともいう。 補説「馬の背」を山の稜線 りよう せん の意として、 山の稜線を挟んで雨の地域と晴れの地域に分 かれる、とする説もある。 うまみみかぜばじとうふう 馬の耳に風↓馬耳東風523 <92> うまのみーうまをえ 馬の耳に念仏 意見や忠告をしても、少しも効果がないこと のたとえ。馬に念仏などを聞かせても、少し もありがたみを理解しないことから。 類義馬の耳に風。馬耳東風。犬に論語。蛙 かえ 面つらに水。どこ吹く風。 うまも 英語Auodisasepoodasawikotabiliphohorere.目の見えない馬に頷ずいても目へばせをしても、同じことだ 私の言うことなんか馬の耳に念仏で、そう やって大の字なりの高鼾 だ……よし! 今日は一つ、泰軒 先生に申しあげて、じっ くり意見をしてもらいましょう」と、たちあ がったお兼かね婆ばあさん、「いま、泰軒先生を 呼んでくるから、逃げかくれするんじゃない よ」〈林不忘◆丹下左膳〉 うまうまかた馬は馬方 どんな仕事でも専門家が最も有能ということ のたとえ。素人が扱うと思うように動かない 馬でも、馬方が扱えば意のままに動くことか ら。 馬持たずに馬貸すな 類義 餅は餅屋。海の事は漁師に問え。人は 道によって賢し。 うまうまづ 馬は馬連れ ♩牛は牛連れ 84 扱い方を知らない者には物を貸さないほうが よいということ。馬を持たない人は馬をうま く扱えず、愛情も薄いだろうから、馬を貸す と粗末に扱われるだろう、ということから。 ∇馬持たず∥馬を持っていない人。 類義子無しに子を呉くれるな。 うまかくらか 馬も買わずに鞍を買う 物事の順序が逆であることのたとえ。馬を買 う前に鞍を買うことから。 馬痩せて毛長し うまやけなが 五灯会元 馬は栄養が悪いと、やせて毛ばかり長く伸び、 人間は貧乏すると頭の働きが鈍くなるという こと。↓貧すれば鈍する571 補説出典には、この前に「人貧しければ智 ち短く(人は貧乏すると知恵の働きが鈍くな り」とある。また、『曽我物語 がたり」にも「馬 やせて毛長く、いばゆる(いななく)に力なし。 人貧にして智みじかく、ことばいやし(こと ばが粗末になる)」とある。 う生まれた後の早め薬 時機に遅れて役にたたないことのたとえ。産 後に出産を早める薬を飲んでも、役にたたな いことから。 るも沙弥を経る。 類義 火事あとの火の用心。葬礼帰りの医者 話。 生まれながらの長老なし 生まれつき人格や学問のすぐれた人はいな い。長年の修養や努力が必要であるという教 え。∇長老∥学識や人格の高い高齢の人。 う 生まれぬ先の襁褓定め 類義 沙弥 から長老にはなれぬ。 長老にな 物事の準備や手回しが早すぎることのたと え。赤ん坊が生まれないうちから、おむつを 準備する意から。△襁褓‖生まれたばかりの 赤ちゃんに着せる産着ぎやおむつのこと。 類義海も見えぬに舟用意。 馬を牛と言う 権威や圧力で自らの主張を無理やり押し通す ことのたとえ。また、人の心中を察すること のたとえ。 補説後者の意味の語源として、江戸時代の 随筆集『雑話集 孔子が弟子たちと道を歩いていると、垣根か ら馬が頭を出していた。それを見て孔子が 「牛だ」と言ったところ、弟子たちの中で顔 回がもっとも早く、十二支の午 うまの字が頭を 出すと牛の字になることを悟ったという。 馬を牛に乗り換える すぐれたほうを捨て、劣ったほうを取ること。 足の速い馬から足の遅い牛に乗り換える意か ら。「馬を牛に換える」ともいう。 対義 牛を馬に乗り換える。牛売って馬を買 う。 馬を得て鞭を失う 一方を得たかわりに一方を失うことのたと え。また、目的の物は手に入れたが、それを 活用する手段がなくなることのたとえ。 <93> 類義馬を得て鞍くらを失う。 うまかざんみなみきうしとう 馬を華山の陽に帰し、牛を桃 林の野に放つ 出書経しょきよう 戦争が終わり、平和になったこと。略して「牛 を桃林の野に放つ」ともいう。 horse to the water, but you cannot make him drink. 故事周 しゅ の武王 ぶお が殷いんを滅ぼし、天下を 平定した後、戦いに使用した馬を華山(陝西 省 せんせい しよう にある山の南に帰し、武器などを運 搬させていた牛を桃林(河南省霊宝県から陝 西省潼関県 とうか んけん に至る地に放って、再び戦争 に使わないことを人民に示した故事から。 うまか 馬を買わんと欲してまず牛を と 問う 高い買い物をするときには、身近な物の値段 からその店の掛け値を知れという教え。馬を 買おうとするときには、まず牛の値段を聞い てみよ、という意から。 うみうおはらかわうおせ 馬を鹿 しゅ しゅ さ うま な 鹿を指して馬と為す 284 馬を水辺につれていけても、 みずの 水を飲ませることはできない 環境を整えても、本人が気が進まなければ、 むだだということ。「馬を水辺に導くことは できるが、馬にその気がなければ水を飲ませ ることはできない」ともいう。 補説 英語のことわぞ You may take a うまをかーうむあい 海魚腹から川魚背から 魚を料理するとき、海の魚は腹から割き、川 の魚は背から割くのがよいということ。 海千山千 経験豊かで抜け目がなく、世の中の裏を知り 尽くして悪賢いこと。また、そのようなした たかな人間。海に千年、山に千年すんだ蛇じゃ は、竜になるという言い伝えから。「海に千 年山に千年」ともいう。 類義 海に千年河に千年。 用例若もし真に掘出しをする者が有れば、 それは無頼潑皮 はっぴの徒で無ければならぬ。 又其その掘出物を安く買って高く売り、其その 間に利を得る者があれば、それは即 ち営業 税を払っている商売人で無ければならぬ。商 売人は年期を入れ資本を入れ、海千山千の苦 労を積んでいるのである。〈幸田露伴◆骨董〉 うみせんねんかわせんねん 海に千年河に千年 長年にわたってさまざまな経験を積み、世間 の裏も表も知り尽くした人。悪賢く、一筋縄 ではいかない人。「海千河千」ともいう。 類義海に千年山に千年。 うみせんねんやませんねんうみせんやません 海に千年山に千年海千山千93 う生みの親より育ての親 生んだだけの実の親よりも、苦労して養育し てくれた養父母のほうに、愛情も恩義も感じ るということ。「生み」は「産み」とも書く。 うみことりようしと 海の事は漁師に問え 何事も本職に相談するのがもっともよいという教え。「海の事は舟子こふなに問え」ともいう。また、あとに「山の事は樵夫りきこに問え」を続けても用いる。 類義馬は馬方。餅は餅屋病 は医者、歌 は公家くげ。舟は船頭に任せよ。 海の物とも山の物ともつかぬ 将来どうなるか見当がつかず、何とも言えな いこと。もとは、氏素性がわからないものに いった。「海の物とも川の物ともつかぬ」と もいう。 類義海とも川ともつかぬ。 用例先生はその時に小説に師匠はいら ぬお前はお前のやりたいようにやって行け、 という意味のことをも云いわれたと思う。何 しろ十八や九の小娘が小説を書き出し中央公 論に発表されたと云っても、謂いわば芸術家 としてそれはまだ海のものとも山のものとも つかず、前途は茫漠ぼくとしている。〈宮本百 合子◆坪内先生について〉 有無相通寸 出管子かんし ある物とない物を交換し融通し合うこと。 「有無相通ずる」ともいう。 補説 斉の桓公 かん こう に、宰相 さいし よう の管仲が商人 について説明したことばに基づく。出典には 「多少を料はかり、貴賤 きせ ん を計り、その有する <94> 所を以もって、その無き所に易かえ、賤せんに買い貴に鬻ひぐ商品の量が多いか少ないか、値段が高いか安いかなどを考え、自分が持っている物を持っていない物と交換し、安く買って高く売るようにする)とある。 梅に鶯 うめのぞ 梅を望んで渇きを止む 取り合わせのよい物、調和して絵になるもの、 仲のよい間柄のたとえ。「梅に鶯」のあとに 「柳に燕つば」「紅葉もみに鹿」「牡丹ばたに唐獅子から 「竹に虎」などを続けていうこともある。 類義竹に雀すず。松に鶴。波に千鳥。 梅の林を思い出させて口につばを生じさせ、 のどの渇きをいやした故事。転じて、代わり の物でも一時しのぎの役に立つたとえとして 用いられることもある。「梅林ばい渇かつを止む」 「梅林止渇ばいりん」ともいう。 故事中国魏の曹操 そう が行軍中に道に迷い、 部下たちは皆のどの渇きを訴えた。そこで曹 操が「前方に大きな梅林があり、甘酸っぱい 実がいっぱいなっている。のどの渇きをいや せるぞ」と言うと、兵士たちの口の中につば きが出て渇きをしのげたという。 出世説新語 類義餅を描きて飢えに充あつ。 再び花が咲く意から。 類義枯れ木に花。 埋もれ木に花咲く 不遇な人に幸運がおとずれることのたとえ。 朽ちて土の中に埋もれていた木に芽が出て、 烏有に帰す 何もかもなくなること。とくに、火事で何も かも失うこと。「鳥有に属す」ともいう。△ 鳥有Ⅱ「鳥いずんぞ有らんや」と読む。「何か あるだろうか、いや、何もない」の意。 出史記しき 補説「烏有」は、漢かんの司馬相如しばしょが子 虚しきの賦ふを著し、子虚(うそ)、烏有先生(存 在しない先生)、無是公むぜこんな人はいない) という三人の架空の人物を創作したことによ ることば。なお、このことから「烏有の書」 といえば、小説などの創作を意味するように なった。 用例準備された沢山 さん の小間絵は不幸にし て戦災を受け悉ごとく鳥有に帰しました。その ため再び芹沢銈介 せりざわ けいすけ 君の手を煩 わず わして、 すべてを描き改めて貰もらわねばなりませんで した。〈柳宗悦◆手仕事の日本〉 うらうら 裏には裏がある 内情が複雑で、込み入った事情を含んでいて 計り知れないこと。これが真相だと思うとさ らに裏があってうかがい知れないことから。 ∇裏∥表に現れない隠された事情。 出史記しき 怨み骨髄に入る 心の底から激しく人を怨むこと。怨みが骨の 髄までしみ込んだという意から。「怨み骨髄 に徹す」「怨み骨髄に徹とおる」ともいう。 用例実は、私このどろぼうが他日、捕え られ、牢ろうへいれられ、二、三年のちに牢か ら出たとき、そのときのことを心配していた のである。あいつのために、おれは牢へいれ られたと、うらみ骨髄に徹して、牢から出た とき、草の根をわけても、と私を捜しまわり、 そうして私の陋屋ろうを、焼き払い、私たち一 家のみなごろしを企てるかもわからない。よ くあることだ。〈太宰治◆春の盗賊〉 怨みに報ゆるに徳を以てす 出老子ろうし 怨みたくなるようなひどい目にあっても、相 手に恩恵を施すこと。「徳を以て怨みに報ゆ」 「怨みに報ずるに徳を以てす」ともいう。 類義恩を以て怨みに報ず。仇あだを恩で報ず る。仇を徳で報ずる。仇を情けにひきかえ る。 対義 恩を仇で返す。 英語 For ill do well, then fear not hell. に報いるに善をもってせよ、そうして地獄を 恐れるな」 うら 怨みほど恩を思え おんおも 怨みと同じくらいに、恩を忘れないようにせ よ、という教え。人は、怨みは忘れないが、 受けた恩は忘れがちであることから。 裏目に出る よかれと思ってしたことが、逆に悪い結果となって現れること。∇裏目=さいころを振って出た目の裏側、反対側のこと。 <95> 売られた喧嘩は買わねばなら ぬ 自分の身に迫った危険は、積極的に防がなけ ればいけないということ。 類義降りかかる火の粉は払わねばならぬ。 うら 裏をかく 相手の予想しないことをして出し抜くこと。 刀や矢などが裏側まで突き抜けることから。 用例井村は、坑内で、自分等らが、どれだ け危険に身をさらしているか、それを検査官 に見せ付てやろうとしたことが、全く裏をか かれてしまったことを感じた。〈黒島伝治 土鼠と落盤〉 ういえからようかさんだいめ 売り家と唐様で書く三代目 金持ちの家も三代目になると財産を使い果た し、屋敷を売りに出すはめになるということ。 ∇唐様∥明みんの書風をまねた漢字の書体。 補説家業をおろそかにして家を売るはめに なった三代目が、「売り家」の札を道楽で覚 えた唐様の書体で書いていると皮肉った江戸 時代の川柳。 用例なれども御三代の当主と来てはいや はや何と言うか、売家と唐様で書く三代目ど ころの騒ぎではござりませぬわい。佐々木 味津三◆旗本退屈男〉 うられたーうりをと すこと。「売る言葉に買う言葉」ともいう。 用例双方が次第に云いい募って、角兵衛が 「貴様も小屋の代人で出て来たからは、どう して俺たちの顔を立てるか、その覚悟はある だろう」と云うと、岩蔵の方でも「知れたこ とだ、おれの首でもやる」と売り言葉に買い 言葉、根が乱暴な連中だから堪たまりません。 〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 う 売り出し三年 さんねん 開業から三年間しっかり商売すれば、基礎も 固まり信用もついて、あとは順調にいくもの だという教え。 類義商い三年。 瓜に爪あり爪に爪なし 字形が似ていて間違いやすい漢字の区別を教 えることばの一つ。「瓜」の字には「つめ(ご」 がついているが、「爪」の字にはそれがない。 「爪に爪なく瓜に爪あり」ともいう。 かき 瓜の皮は大名に剥かせよ、 二じき かわ うり だいみようむ の皮は乞食に剥かせよ 瓜は皮の近くが硬くてまずいので厚くむき、 柿は皮の近くが甘くて栄養もあるので薄くむ くのがよいということ。大名は万事に大ざっ ぱであり、乞食は少しの物でも惜しむところ から。上下を逆にして「柿の皮は乞食に剥か せ、瓜の皮は大名に剥かせよ」ともいう。 類義魚は上薦 じょう ろう に焼かせよ、餅は下種 げす に焼かせよ。 瓜の蔓に茄子はならぬ 瓜の蔓に茄子はなら 血筋は争えず、平凡な親から非凡な子は生ま れないことのたとえ。また、原因のないとこ ろに結果はないというたとえ。瓜のつるには 瓜しかならないことから。 類義 蛙 かえ の子は蛙。 鳶 とび の子は鷹 たか になら 対義 鳶が鷹を生む。 英語 Eagles do not breed doves. 鷲 は 鳩 はと を育てない 瓜二つ 顔もかたちもそっくりで、よく似ていること のたとえ。瓜を縦に二つに割ると、二つとも 同じ形をしていることから。「瓜を二つに 割ったよう」ともいう。 用例この婦人の顔を、どこかで見た事があ るように思ったのも、偶然ではない。あの眉 の濃い、元気のいい青年と、この婦人とは、 日本の俗諺ぞくが、瓜二つと形容するように、 驚く程、よく似ているのである。芥川龍之 介◆手巾 売り物には花を飾れ 売る品物は美しく飾り立てよう教え。 「代物」は花を飾れ」ともいう。 類義 売り物に紅べに をさせ。 売り物毛をむし れ。 うりとうたまう 瓜を投じて瓊を得 出詩経 少しばかりの物を贈って、多くの返礼をもら <96> うるしはーうんげい うことのたとえ。「瓜投おくりて瓊を得」とも いう。▷瓊‖美しい宝玉の意。 補説出典には「我に投ずるに木瓜ぼくぼけ。 小瓜のようなすっぱい実をつける)を以もって す、これに報ゆるに瓊琚 きよ を以てせん私に 木瓜ぼけを贈ってくれた。私はお礼に貴重な玉 を贈ろう」とある。 うるしは 患いを救い災いを分かつ 漆は剥げても生地は剥げぬ 持って生まれた素質は変わらないことのたと え。漆器の漆がはげると下の生地が現れる が、生地がはげることはないという意から。 ふくわざわわ 出春秋左氏伝 人の困っているのを救い、悩みや災難を共に 分け合う。人間としてあるべき心得を教える ことば。 うれみおよ のちうれ 憂え身に及びて後憂うるも及 出淮南子えなんじ △烏鷺 烏 加 と鷺 さぎ の羽の色から、黒と白。 転じて、 碁の黒石と白石の異名。 災難が起こってから心配をしても遅く、事前 に予防しなければだめだということ。 補説出典には「患 身に及びて、然しかる後 に之これを憂うるは、六驥 もて之を追うとも、 及ぶこと能あたわざるなり」とある。 類義後悔先に立たず。 ばず うろ 烏鷺の争い 浮気と乞食はやめられぬ 囲碁の勝負のこと。「烏鷺の戦い」ともいう。 一度身についた悪い習慣はなかなかやめられないということ。浮気と乞食は一度やって味をしめると、やめられないということから。補説「うわき」と「こじき」の語呂ごろを合わせたことば。重点は「浮気」にある。うわさかげ 噂をすれば影がさす 人のうわさをしていると、その人がやって来 るものだ。「噂をすれば影」「噂を言えば主が 来る」「人事ひと言えば影がさす」ともいう。 類義噂を言えば莚敷け。謗それば影さ す。謗り者門かどに立つ。虎とらを談ずれば虎至 り、人を談ずれば人至る。 英語Sooner named sooner come. [名前を呼ぶや否や現れぞ] Speak of the devil and he will appear. [悪魔の噂をすると悪魔が現れる] 上前を撥ねる 代金や品物の受け渡しを取り次いだ者が、その一部を自分のものにすること。特に、相手に無断でかすめ取ることをいう。「上前を取る」ともいう。∇上前=取り次ぐ代金などの一部。江戸時代の年貢米の通行税にあたる上米の変化した語。 をはねて憎まれるのも皆夫の為 ため を想 おも うか らだ、と堅く腹をくくっていたなればこそで はないか。〈織田作之助◆俗臭〉 類義ピンはねをする。 用例こういう政江 まさ え のやり方は、容易に実 行出来るものではない。夫の義弟達たちの上前 竽を好むに瑟を鼓す 人の好みに合わないことをするためとえ。相手は竿を好むのに、自分の好きな瑟を鳴らして聞かせることから。▶竿∥笙うに似た竹製の楽器。笛の一種。瑟∥大型の琴。鼓す∥かき鳴らす意。 出韓愈答二陳商一書 故事 斉の国に仕えようとした者が、竽が好 きな国王の門前で瑟をかき鳴らしたが、三年 たっても中へ入れてもらえなかったという故 事による。 雲雨の交わり ふざんゆめ 巫山の夢578 うんえんかがん雲煙過眼 物事に深く執着しないこと。物事に対して淡 泊 なことのたとえ。雲やかすみが目の前を 通り過ぎて行ってとどまらない意から。 雲霓の望み うんげいのぞ 出孟子もうし 切実な希望のたとえ。特に、名君の出現を待 望すること。日照りのときに、雲が出て雨が 降り虹にじが出るのを待ち望むことから。△雲 霓雲と虹で、雲は雨を呼び、虹は雨が降る と現れることから、雨を象徴している。 補説出典には「民之これを望むこと、大旱だい 大日照りの雲霓を望むが若ごとし」とある。 <97> うんこんどん運根鈍 成功するためには、運がよいこと、根気があ ること、ねばり強いことの三つが必要だということ。「運鈍根」ともいう。∇鈍=すばし こくはないが、図太くねばり強いこと。 類義事を成すは運根鈍。運天果報。 うんさんむしょう 雲散霧消 ら潰せ」ともいう。 雲や霧が風や日の光にあたって消え去るよう に、あとかたもなく消えてなくなること。「雲 消霧散」ともいう。 類義雲散鳥没うんさんち。ようぼつ 用例しばらく、口あいて八つが岳を見上げ ていて、そのうちに笠井さんも、どうやら 自身のだらけかげんに気がついた様子で、ひ とりで、くるしく笑い出した。がりがり後頭 部をかきながら、なんたることだ、日ごろの重 苦しさを、一挙に雲散霧消させたくて、何か悪 事を、死ぬほど強烈なロマンチシズムを、とあ えぎつつ、あこがれ求めて旅に出た。山を見 に来たのでは、あるまい。〈太宰治◆八十八夜 うこだこ 生んだ子より抱いた子 生んだだけで育てなかった実の子よりも、幼 いときから育てた他人の子のほうがかわいい ということ。「生んだ」は「産んだ」とも書く。 類義負うた子より抱いた子。生んだ子より 育ての子。 膿んだものは潰せ 災いは元から断ち切れということ。「膿んだ うんこんーうんぷて 蘊蓄を傾ける 学問や技芸などについて、日頃たくわえた深 い知識を惜しみなく述べること。▷蘊蓄‖物 をたくわえること。転じて、深く研究して身 につけた知識。「蘊」も「蓄」もたくわえる意。 「蘊蓄」とも書く。 注意「蘊蓄を注ぐ」とは言わない。 用例)その奮起と自覚を促し、専ら青年の国 家的使命と新しき世界観などについて、自己 の薀蓄を傾けているものがいくつかある。 〈岸田国士◆空地利用〉 高潔な人物のこと。雲の中の白い鶴の意か ら。空高い所にいる白い鶴を、俗世間を離れ た高尚な人物にたとえたもの。 類義雲間 うん かん の鶴。 雲中の白鶴 出魏志ぎし うんでい雲泥の差さ 出後漢書ごかんじょ 非常にかけ離れていることのたとえ。雲(天) と泥(地)ほどの隔たりの意から。「雲泥の違 い」ともいう。 用例この柔道か剣道の選手のような署長の 取調べは、実にあっさりしていて、あの深夜 の老巡査のひそかな、執拗しつきわまる好色の 「取調べ」とは、雲泥の差がありました。太 宰治◆人間失格 類義 雲泥万里。 雲泥万里 うんでいぼんり うんでい さ 雲泥の差 97 運は天に在り 人の運はすべて天が決めるもので、人間の力 ではどうすることもできないものだというこ と。また、結果がどうなるかは天が決めるこ とだから、運を天に任せ、やるだけのことは やってみようという決意。このあとに「鎧 は胸にあり」「吾われが刀は質屋に在り」「牡 丹餅 ほた もち は棚にあり」などとしゃれて続けても いう。 類義命 めい は天に在り。運を天に任せる。運 否天賦 うんぷ。 てんぷ 英語 No man can make his own hap. だ れも自分の運命は作れない うんねまかほうねま 運は寝て待て果報は寝て待て153 運否天賦 人の運不運は、すべて天が決めることだということ。転じて、運を天に任せること。運まかせ。▷運否∥好運と不運。天賦∥天が分かち与える物。 類義運は天に在り。運を天に任せる。命めい は天に在り。 「中島は水田をやっているうちに、北海道じゃ水が冷やっこいから、実のりが遅くって霜に傷められるとそこに気がついたのだ。そこで田に水を落とす前に溜たまりを作っておいて、天日で暖める工夫をしたものだが、それが図にあたって、それだけのことであんな一代分限なげんになり上がったのだ。人ってものは運否天賦で何が……」有島武郎 <98> 星座 うんようみよういっしんそん 運用の妙は一心に存す 出 宋史 そうし 法則を用いてすばらしい効果をあげられるか どうかは、それを使う人の心次第であり、臨 機応変に活用するところに価値があるという こと。「運用の妙は一心にあり」ともいう。 補説出典には宋の勇将岳飛がくのことばとし て「陣して後に戦うは兵法の常なるも、運用 の妙は一心に存す(戦陣を構えてから戦うの は兵法の常道だが、その常道を臨機応変に活 用し生かすのは人の心にかかっている」と ある。 うんてんまか運を天に任せる なりゆきは天の意志にゆだね、運命に従うと いう意。「運を天道に任せる」ともいう。 用例これは前の書生より一層乱暴な方で吾 輩 わが はい を見るや否やいきなり頸筋 くび すじ をつかんで 表へほうり出した。いやこれは駄目だと思っ たから眼ぬをねぶって運を天に任せていた。 しかしひもじいのと寒いのにはどうしても我 慢が出来ん。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 運を待つは死を待つに等し 何も努力せずに幸運の訪れるのを待つのは、 自滅するのを待っているようなものだ。運は 自分の努力によって切り開いていかなければ ならないという教え。 えいがあものかならしょうすい 栄華有る者は必ず憔悴あり 出淮南子えなんじ 類義 寝ていて牡丹餅 は食えぬ。 対義 果報は寝て待て。 待てば海路の日和あ り。 栄えているものは、必ず衰えるときがくると いうこと。栄枯盛衰 えいこせ いすい は世の常であること を言ったことば。△憔悴=やせ衰える。やつ れる。 補説出典には、このあとに「羅紈 は必ず麻蒯 い 有り(高級な絹の服を着ている 者にも、必ず粗末な麻の服を着なければなら ないときがやってくる)と続く。 類義 盛者必衰。 一栄一落。 栄枯盛衰。 えいじかいもっきょかいはか 嬰児の貝を以て巨海を測る とうていできないことのたとえ。幼児が貝で 大海の水量を測る(かい出す)意から。 類義大海を手で塞ふぐ。貝殻で海を量る。 蟬螂とうの斧おの。 出韓非子かんぴし えいしょえんせつ 郢書燕説 無理にこじつけて、もっともらしい解説をす ること。▽郢=中国古代の楚その国の都。書 ニ手紙。燕=中国古代の国の名。 故事)郢の人が、燕の宰相 さいし よう に送る手紙を 口述して書記に書かせていた夜、灯火が暗 かったので、「燭くを挙げよ(明かりを高くし てくれ)と言ったところ、書記は「挙燭」 の語を手紙に書き込んでしまった。それを受 け取った燕の宰相は、「これは賢人を登用せ よということだ」とこじつけて燕王に進言し た結果、国がよく治まったという。 穎水に耳を洗う 出高士伝 清く正しい行いを保つことのたとえ。また、 世俗の栄達をきびしく避けることのたとえ。 ∇穎水=中国の川の名。 故事 中国古代の伝説上の聖天子堯帝 ぎよう か ら天下を譲ろうと言われた許由 きよ ゆう が、その話 を聞いて自分の耳がけがれたと言って、頼水 に行って耳を洗い清めたという故事による。 えいせつ詠雪の才 出世説新語 女性の文才のすぐれていることのたとえ。文 才のある女性をほめていう語。「柳絮りゆうの 才」ともいう。 故事)中国晋しの王凝之 ようぎ の妻の謝道韞 (蘊) しゃど ううん が、にわかに降り出した雪をたとえ るのに、他の人が空から塩をまいたなどと無 風流なたとえをしたのに対して、「春の柳絮 (柳の種の綿毛のことで、晩春に綿のように 乱れ飛ぶ)が空を舞う」とたとえて、その文 才をたたえられた故事から。 頴脱して出ず 出史記しき すぐれた才能がはっきりと外に現れることの たとえ。袋に包んだ錐きりの先が、ひとりでに 袋を突き抜けることから。∇穎∥錐などのと がったものの先端部分。 類義嚢中のうちの錐。 <99> えいまん盈満の咎とが 類義満つれば欠く。 富や権力が絶頂に達すると、必ず衰退の兆し が現れること。物事が満ち足りているとき は、災いが生じやすいという意から。「盈満 の咎め」「盈満の災い」ともいう。△盈満= 満ち足りること。 出後漢書ごかんじょ えいゆういろこの英雄色を好む 英雄と呼ばれる人は、何事に対しても精力旺 盛で、女色を好む傾向が強いということ。 類義英雄色に迷う。英雄酒を好む。 えいゆうひとあざむ えしぽうこと あさむ りはんりようとうしせんじょ 英雄人を欺く 出李攀竜唐詩選序 才知にすぐれた英雄は、ふつうの人には考え つかない計略をしばしば用いるということ。 えがおあこぶしいかこぶしえがお 笑顔に当てる拳はないしぶし笑顔 に当たらず39 えがたときあがたとも 得難きは時、会い難きは友 よい機会はなかなかとらえにくく、よい友に はなかなか巡り会えないということ。 ふさわしくないからとして、無理に取り換え させて息を引きとったという故事による。 えきさく 易簀 学徳の高い人の死をいうことば。「簀を易か う」ともいう。▷易‖取り換える意。簀‖寝 床の下に敷く竹で編んだすのこ。 故事孔子の弟子の曽参 が臨終のとき、今 まで病床に敷いていた魯の大夫季孫 贈られた立派な寝台の敷物を、自分の身分に 出礼記らいき えいまんーえださき 益者三楽、損者三楽 出論語ろんご 有益な三つの楽しみと有害な三つの楽しみ。 補説有益な楽しみとは、礼楽を節度正しく 行うこと、人の善行をいうこと、すぐれた友 人を多く持つことであり、有害な楽しみとは、 欲望のままにおごり高ぶること、気ままに遊 び怠けること、酒色にふけることの三つのこ とである。『論語』にある孔子のことば。 益者三友、損者三友 益者三友、 出論語 交際してためになる三種類の友人と、交際し て損をする三種類の友人。人とつき合うに当 たって、友人をどう選ぶかを述べた語。前者 は正直な友、誠実な友、博学な友であり、後 者は不正直な友、不誠実な友、口先のうまい 友である。『論語』にある孔子のことば。 うこと。 ▷えぐい=あくが強くて、のどを刺 激する、いがらっぽい味。 えきしゃみうえし 易者身の上知らず 他人のことについてはあれこれ言えるが、自 分のこととなるとわからないことのたとえ。 他人の身の上を占う易者も、自分の運命はど うなるのか少しもわからないことから。「陰 陽師 おんよ うじ 身の上知らず」ともいう。 類義人相見の我が身知らず。紺屋この白袴 医者の不養生。坊主の不信心。儒者の 不身持ち。 類義熱さ冷たさ味のうち。 えぐい渋いも味のうち 味にはいろいろあって、味覚の幅は広いとい えくぼの愛らしい魅力は、他の多くの欠点を おおい隠すということ。 類義色の白いは七難隠す。 遺教経 人の世の無常であることのたとえ。この世で 出会った者は、必ず別れる運命にあるという、 仏教のことば。「生者必滅 ひつめつ (命ある者は 必ず死ぬ)会者定離」と続けて言われること が多い。∇定∥必ず。 類義 逢 うは別れの始め。合せ物は離れ物。 愛別離苦 あいべ。 つりく えせ侍の刀いじり 本当の勇気のない者ほど、人の前で虚勢をは ることのたとえ。臆病な侍に限って、人の前 でむやみに刀をいじったりしておどして見せ る意から。 えせ者の空笑い 軽薄な者や下心のある者が、おかしくもない のにお世辞笑いをすること。「曲者 い」ともいう。「えせ者」は「似非者」とも 書く。 えださき ゆ じゅくし く こけつ 枝先に行かねば熟柿は食えぬ ↓ 虎穴に 入らずんば虎子を得ず 245 <100> だもとだいかならひら 枝、本より大なれば必ず抜く 枝葉の部分がもとの部分より強すぎると危険 であることのたとえ。また、下位の者が上位 の者より強くなると危険であるというたと え。枝が幹より太いと、木は裂けてしまうと いう意から。△披く∥裂ける。 出史記しき え得たり賢し 自分の思うように事が運んで満足し、得意そうに言うことば。しめた、うまくいった、待ってました、などの意。「得たりや賢し」ともいう。あとに「と(ばかり)」を続けて用いられることが多い。 越鶏は鵠卵を伏する能わず えっけいこくらんふくあた 類義得たりやおう。 枝を伐って根を枯らす 大きなことを処理するには、手近なところか ら順次片づけていくのがよいというたとえ。 まず切りやすい枝から始末し、最後に根が枯 れるように処理する意から。「枝を伐り根を 枯らす」ともいう。 類義根を断って葉を枯らす。 えだたはなち 枝を矯めて花を散らす 小さな欠点を直そうとして、大事なものをだ めにしてしまうことのたとえ。枝ぶりをよく しようとして、花を散らしてしまう意から。 類義角を矯めて牛を殺す。枝を撓めんと して幹を枯らす。 出荘子そうじ 人の才能を超えた大きなことを求めても無理 だというたとえ。小型の越の鶏は白鳥の大き な卵を温めることは不可能なことから。▶越 昔、中国の東南にあった地方の古名。鵠‖ 白鳥。伏する‖卵を抱いてかえす意。 越俎の罪 出荘子そうじ 自分の職分や権限を越えて、他人の職分や権限を侵す罪。他人の仕事に口出しする越権行為。「越俎」は「おっそ」とも読む。▷俎‖祭りの肉を載せる台。転じて、まな板。 故事 中国古代の伝説上の天子、尭 ぎよ が許由 きよ ゆう に天下を譲ろうとしたときに、許由が「人 は分を守ることが大切であり、料理人が供え 物の料理をうまく作らない場合でも、神官が 料理人に代わって料理を作ることはすべきで ない」と辞退したという故事による。 類義俎を越えて庖 ほう に代わる。 えっちゅうふんどしあごとむはず 越中 褌と当て事は向こうより外れる あごとえっちゅうふんどしむ 当て事と越中褌は向こうから はず 外れる23 楚人は楚 越人は越に安んじ、 出荀子じゅんし 中国の東南にあった地方の古名。楚=中国の 西南にあった地方の古名。 人は皆、自分の故郷をよい所だと思って、満 足して暮らしているということ。▶越‖昔、 に安んず 類義 陸人は陸に居り、水人は水に居る。 自分の得意なことで気を許し、失敗するためと え。 類義過ちは好む所にあり。得手で手を焼 く。泳ぎ上手は川で死ぬ。好む道より破る。 えてほあ 一 専手こ凡と易づる 得手に帆を揚げる 自分の得意とすることを行う好機に恵まれ、 張り切って物事を行うこと。「得手に帆」と もいう。いろはがるた(江戸)の一。かるたで は「得手に帆を揚ぐ」。 類義順風満帆 渡りに船得手に棒 追風 に帆を上げる。 用例海岸の岩の上や、磯いその松の樹の根方 から、おおいおおい、と坂東声 ばんど うごえ で呼ばり 立って、とうとう五人がとこ押込みましたは、 以上七人になりました、よの。どれもどれも、 碌ろくでなしが、得手に帆じゃ。船は走る、口 はにすべる、風なぎはよし、大話しをし草臥 くた ぶれ、 嘉吉めは胴の間の横木を枕に、踏反ふん返って、 ぐうぐう高鼾 たかい びき になったげにござります。 〈泉鏡花◆草迷宮〉 えどじゅうしらかべみなだんな 江戸中の白壁は皆旦那 江戸中には、奉公先はいくらでもあるという こと。奉公人がふてくされて言うことば。 白壁=白壁造りの土蔵。大きな商家の意。旦 那=商家の主人。奉公人が主人を呼ぶときの <101> ここば。 類義世界中は白壁造り。 えどこゆだいみようかえこ 江戸っ子の往き大名帰り乞 じき 食 江戸っ子が旅をするときは、行きにすっかり 金を使い果たし、帰りはみじめな旅になるこ と。江戸っ子の気質を表したことば。 類義上り大名下り乞食。 えどこさつきこいふなが 江戸っ子は五月の鯉の吹き流 し 江戸っ子は、ことばは荒っぽいが、腹の中に はわだかまりがないことのたとえ。また、江 戸っ子は、口先ばかり威勢がよくて、底力が ないことのたとえ。「吹き流し」は、腹が空 洞で何もない鯉のぼりが風に吹かれて泳いで いるようすを言ったもの。このあとに「口先 ばかりではらわたはなし」と続けてもいう。 類義江戸っ子は五月の鯉で口ばかり。 えどこよいごぜにつか 江戸っ子は宵越しの銭は使わ ぬ 江戸っ子は、その日に稼いだ金をその日のうちに使ってしまい、翌日に持ち越すことはないということ。江戸っ子の金ばなれのよさを誇っていうことば。「江戸っ子は宵越しの銭は持たぬ」ともいう。 用例のちに、平凡社の大衆文学全集で、四 えどっこーえのない 千何百円かの印税がはいると、町の若い衆に、 揃そろいのユカタを作り、土俵を新しく築き直 して、盛大な素人角力 大会を催し、一生一 度の大収入を煙の如ごとく費つかい果してしまっ た。「宵越しの銭を持たぬ」と威張いばる江戸ッ 子は、幾人も知っているけれど、こんなに見 事に実行して見せた人は、ほかに知らない。 〈野村胡堂・胡堂百話〉 えどかたきながさきう 江戸の敵を長崎で討つ 意外な所で、あるいは筋違いのことで、以前 に受けた恨みを晴らすことのたとえ。江戸の 地で恨みを受けた相手を、遠く離れた長崎で 討ち果たすことから。 補説一説に、大阪の見世物師が江戸で江戸 の見世物師をしのぐ大成功をおさめた後、長 崎の見世物師が大阪でそれ以上の大成功をお さめたことを「江戸の敵を長崎が討つ」と言っ たことから出たことばという。 類義江戸の仇あだを駿河するで取る。 えどはっぴゃくやちょうおおさかはっ 江戸は八百八町、大阪は八 ぴゃくやばし 百 江戸や大阪の広いこと、盛んな賑にぎわいを 言ったことば。江戸には町の数が多く、大阪 には掘割ほりにかかった橋が多いということ。 ▶八百八‖末広がりの「八」を重ねたもので、 数が多いことのたとえ。 百八橋 えどきよう 江戸べらぼうに京どすえ 江戸と京都の代表的な方言を並べたもの。江 戸の乱暴な言い方と京のやさしい言い方の二つを並べて両地の気風の違いを示している。 ▶べらぼう‖ばか。愚か。どすえ‖「…です よ」の意の丁寧語。 類義長崎ばってん江戸べらぼう。大阪さか いに江戸べらぼう。 画に描いた餅 えかもち 実際の役に立たないこと、実現する見込みが ない計画などのたとえ。画に描いた餅は、見 るだけで食べられないことから。「画餅がべ」 ともいう。 類義 机上の空論。 畳の上の水練。 用例あなた方自身も自分の新しい今日、明日の新しい日本を創り出すために熱心に生きていらっしゃる。お互いつくって行く文学は実際的な内容です。ですから文学が一つの画に描いた餅のように腹のたしにならないようなものにはならない。腹の空いたとき腹がなぜ空くかということがわかるこの腹の空いた嫌な気分を何処どに持って行くかということがわかれば腹が空いたのも忘れて笑う。こういう生き方もまたわかるそういうようなものが私どもの文学です。〈宮本百合子◆婦人の創造力〉 柄の無い所に柄をすげる 無理に理屈をこじつけることのたとえ。また、無理な言いがかりをつけることのたとえ。必要のないところに柄を取りつける意から。略して「柄をすげる」ともいう。▷すげる‖取りつける意。 <102> えのみはーえんおう えみ 榎の実はならばなれ、木は椋 の木 強情で、人の意見を聞かないことのたとえ。 榎えの の木と椋の木はよく似ていて間違えやす いが、椋の木だと一度言い出したら、実がなっ て榎の木だったと気づいても、自分の間違い を正さないことから。 類義 榎の実が三俵なっても木は椋。椋は なっても木は榎。這はっても黒豆。 海老跳れども川を出でず ものにはそれぞれ天分が定まっていて、それ 以上のことはできないことのたとえ。川海老 はどんなに跳ねても、結局川から出られない 意から。「海老跳れども斗を出でず」ともい う。 海老で鯛を釣る わずかな労力や元手で、大きな利益や収穫を 得ることのたとえ。小海老の餌で鯛を釣り上 げることから。略して「海老で鯛」ともいう。 類義雑魚ざこで鯛を釣る。蝦蛄しで鯛を釣 る。麦飯で鯉こいを釣る。 英語 A small gift brings often a great reward. 小さな贈り物が大きなお返しをもたらすことがよくある] Venture a small fish to catch a great one. 大魚を釣るために小魚を賭けよ に化けても水際立って美しい筈はずじゃ。どこ でいつ十吉に見染められるかは存ぜぬが、こ の退屈男が毒殺されたと噂うわをきかば、今宵 になりとみめよき婦女子を浚さいに出かける は必定ゆえ、海老で鯛を釣ってやるのよ。 〈佐々木味津三・旗本退屈男〉 用例 おろかよ喃のう。 百化け十吉をおびきよ せる匕 になるのじゃ。 そちの姿顔なら女子 海老の鯛交じり 雑魚の魚交じり 271 笑みの中の刀↕笑中に刀あり320 えよう栄耀の餅の皮かわ 度を越したぜいたくのたとえ。むく必要のな い餅の皮までむいて食べる意から。「栄耀に 餅の皮を剥む」ともいう。▷栄耀‖ぜいた くの意。「えいよう」とも読む。 類義 栄華の上の餅の皮を剥く。豆腐の皮を 剥く。 用例我が生涯を芸術品として見んとする時 妻はその最も大切なる製作の一要件なるべ し。人はかかる言草ぐざを耳にせば直 ただ ち に栄耀 の餅の皮といい捨つべし。されど芸術を味 あじ わ い楽しむ心はもと貧富の別に関せず。深刻の 情致は何事によらずかえって富者の知らざる 処ろ とこ なり。〈永井荷風◆矢はずぐさ〉 えら 選んで粕を掴む えり好みをしすぎると、かえってくだらない 物を掴んでしまうという戒め。△粕‖酒粕。 転じて、つまらない物の意。 類義選よれば選り屑くず。選えり取り見取り、 選りに選って選り粕。 えん せんりへだ あ 縁あれば千里を隔てても会い やす 易し 縁があれば、遠く離れた所の人と夫婦になっ たり、深い交際を結ぶようになったりすると いうこと。「縁あれば千里」ともいう。 えんあんちんどく宴安は酔毒 出春秋左氏伝 享楽にふけることに対する戒め。いたずらに 遊び暮らすことは、毒薬を飲むようなもので、 身を滅ぼすもとである意から。マ宴安‖仕事 をせずに、遊び楽しむこと。酔毒‖鴆ちんという毒鳥の羽を浸した猛毒の酒。 補説出典には「宴安は酔毒なり、懐 おもうべ からざるなり(望んではいけない)」とある。 えんえんめっ えんえんいかん 元人元人 めっ 元人元人 いかん 焰焰に滅せずんば炎炎を若何 出孔子家語こうしけご せん 災いは小さいうちに処置せよという教え。火 は燃え始めのうちに消さないと、火勢が盛ん になってからでは、どうすることもできない 意から。△焰焰‖燃え始めの火力の弱いさ ま。炎炎‖火が盛んに燃えさかるさま。 えんおう 鴛鴦の契り 出詩経しきよう 永久に仲よく連れ添うという夫婦の約束。夫 婦仲のむつまじいことのたとえ。また、夫婦 のきずなのきわめて固いこと。「鴛鴦の偶ぐう」 ともいう。▷鴛鴦∥おしどり。いつも雄と雌 とが寄り添っていて離れないこと。 <103> えんか煙霞の痼疾こしっ 出旧唐書くとうじょ 自然を愛する心がきわめて強いこと。また、 隠居して自然と親しむこと。自然の風景を愛 する習性を、治りにくい病気にたとえて言っ たことば。「煙霞の癖へき」ともいう。△煙霞 にもやとかすみ。転じて、山水の美しい風景。 痼疾Ⅱ治りにくい持病。 故事世俗を避けて箕山 きざ に隠れ住んだ唐 とう の田遊巌 でんゆ うがん を高宗 こう そう が訪れて安否をたずね たとき、遊巌が答えたことば「臣はいわゆる 泉石 せん せき の膏肓 こう こう 煙霞の痼疾なり(私は泉や 石に取りつかれ、自然の美しさに心をひかれ た病人になっています)による。 転下の駒 えんかこま 出史記しき 無理なことを強いられて苦しむこと。また、 人から束縛されて自由にならないことのたと え。まだ力が弱いのに車につながれた若馬の 意から。∇轅∥牛馬に引かせるために、馬車 の左右両側から前に差し出た二本の棒。なが え。駒∥二歳の若い馬。 えんこうつきと 猿猴が月を取る 出身のほどを知らず、欲ばったまねをして身を 滅ぼすことのたとえ。「猿猴が月」「猿猴が月 に愛をなす」ともいう。∇猿猴∥猿。 故事猿たちが、水面に映った月影を取ろう として、互いに尾をつかんで数珠つなぎに なったところ、木の枝が折れ、みんな井戸に 落ちて溺おぼれ死んだという故事から。 類義猿猴捉月 そくげつ えんかのーえんすい 遠交近攻 出戦国策 遠くの国と友好関係を結び、近くの国に背後 から不安を与え、攻める策。「遠きに交わり て近きを攻む」と訓読する。 補説 中国の戦国時代、范雎 はん が秦 しん の昭襄 王 しょうじ ようおう に説いた天下征服の政策。 用例友人の一人が「遠交近攻の策」と評した一つの傾向。一生懸命になって巴里パリの地図をこしらえたりして頭の中では未知の巴里の地理に一かど精通しているくせに、もう二年も住んでいるこの港町の著名な競馬場へも、ひとりでは行けない。〈中島敦◆かめれおん日記〉 円鑑方柄 598 ほうぜいえんさく 方柄円鑑 燕雀安んぞ鴻鵠の志を知ら 出史記しき んや 大人物の遠大な志は小人物にはわからないと いうこと。燕めつばや雀すずなどに、どうして鴻鵠 の心を知ることができようか、という意から。 「鴻鵠の志」「燕雀何なんぞ大鵬たいの志を知らん や」ともいう。∇燕雀∥燕や雀などの小さな 鳥。転じて小人物のこと。鴻鵠∥おおとりや 白鳥などの大きな鳥。転じて大人物のこと。 類義猫は虎の心を知らず。 用例一冗談と言えば冗談だが、予言と言え ば予言かも知れない。真理に徹底しないもの は、とかく眼前の現象世界に束縛せられて泡 沫 ほう まつ の夢幻 むげ ん を永久の事実と認定したがるも のだから、少し飛び離れた事を言うと、すぐ 冗談にしてしまう」「燕雀焉いずんぞ大鵬の志 を知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、 独仙君はそうさと言わぬばかりの顔つきで話 を進める。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 燕雀鳳を生まず 出周易参同契 平凡な親からは賢い子は生まれないというこ とのたとえ。燕 つば め や雀 すず め から鳳凰 ほう おう は生まれ ない意から。 ∇ 燕雀 ∥ 燕や雀などの小さな 鳥。鳳∥鳳凰。想像上の瑞鳥 ずいち○ よう 類義 瓜うり の蔓つるに茄子 なす び はならぬ。 蛙 かえ の 子は蛙。 えんしゃ塩車の憾み 出戦国策 有能な人物が不遇な身の上を嘆くことのたと え。名馬が塩を積んだ荷馬車を引かされるの を嘆くということから。「塩車の憾かん」ともいう。 類義驥き塩車に服す。 えんしんきんりんし 遠親は近隣に如かず 明心宝鑑 遠くの親類よりも近所の他人のほうが頼りに なるということ。 補説出典には「遠水は近火を救い難く遠 い所にある水で近くの火事を消すことはでき ず、遠親は近隣に如かず」とある。 遠水近火を救わず 遠水近火を救わず 遠くにある物は急場の役には立たないという ことのたとえ。遠い所にある水で近くの火事 出韓非子かんびし <104> を消すことはできない意から。 類義遠水渴を救わず。遠親は近隣に如しか ず。遠くの親類より近くの他人。 英語 Water afar off quenches not fire. 遠くの水で火は消せぬ えんせきせんじんやまてん 円石を千仞の山に転ず出孫子 勢いがたいへん強くて、抑えようがないこと のたとえ。丸い石を高い山の上から落とす と、ものすごい勢いでころがり落ちることか ら。▶仞‖長さの単位。ひろ。両手を広げた 長さ。「千仞」は山などの非常に高い意。 補説出典には「木石 ぼく せき の性は、安ければ則 すな わち静まり、危 あや うければ則ち動き、方なれば 則ち止とまり、円なれば則ち行く。故に善く 人を戦わしむるの勢い、円石を千仞の山に転 ずるが如ごとくする者は勢なり(木や石の性質 は平地では静止しているが、傾斜地に置くと 動き、四角いものは静止しているが、円いも のは動く。そういうわけで、巧みに人を戦わ せる者の勢いは、丸い石を高い山から転がす ように仕向けるのが勢いというものなのだ」 とある。 元んそかわのまんぷくす 偃鼠河に飲むも満腹に過ぎず 人はそれぞれの分に応じて満足するものであ るたとえ。身のほどをしるがよいというこ と。もぐらが河の水を飲んでも、小さな腹を 満たすにすぎない意から。偃鼠=もぐら。 補説出典には、この前に「鶴鶴りようは深林 に巣くうも一枝に過ぎずみそさざいは深く 繁しげる林で巣を作るが、巣に必要なのはわず か一枝にすぎない」とある。 類義巣林一枝。一巣一枝の楽しみ。飲河満 腹。 出荘子そうじ えんちゅううおしものふしょう 淵中の魚を知る者は不祥なり 出韓非子かんびし 物事のすみずみまでを知り尽くすのはよくな いということ。また、政治を行うときは、要 所を押さえて行えばよいというたとえ。淵ふち にひそむ魚まで見通せる者は、それがあだと なって不運に見舞われるという意から。「淵 中の魚を察見さつするは不祥なり」ともいう。 えんてつ塩鉄の利り 出塩鉄論 塩と鉄を国家の専売として得る利益のこと。 補説)漢の武帝のとき、塩と鉄を専売制とし た結果、人民が非常に苦しんだ。この政策を めぐって行われた論争を記したのが『塩鉄論』 で、「塩鉄の利は百姓 ひゃく せい の急を佐たすけ、軍旅 の費を足し、蓄積を務めて以もって乏絶に備え る所以 ゆえ なり(塩と鉄の専売制による利益は、 国民の急場をしのぐためや、軍事費の補充に 使われ、また、国家の貯蓄を増やして不測の 事態に備えておくのである)一とある。 言動が角立たず臨機応変で、物事をすらすら とこなしていくさま。「円融滑脱」ともいう。 ∇円転∥角を立てずに滞りなく進むこと。滑 えんてんかつだつ円転滑脱 脱=なめらかに変化すること。 えん、のちつな 縁と命は繋がれぬ 死んだ人が生き返らないように、一度切れた 縁は再び結ぶことはできないということ。 類義縁の切れたのは結ばれぬ。覆水ふく盆に 返らず。 縁と浮世は末を待て 良縁と人生における好機は、あせらずにじっ くりと待つのがよいということ。 類義 縁と時節の末を待て。縁と月日の末を 待て。 英語 Marry in haste, and repent at leisure. あわてて結婚すると、あとで長いこと悔やむことになる 出後漢書 えんとう鉛刀の一割 凡庸な人でも力を発揮できるときがあるたと え。自分の微力を謙遜して言うことば。なま くらな刀でも一度は物を切ることができるこ とから。また、一度物を切ると二度と使えな くなることから、その一度を大切にする意と しても用いる。「鉛刀一割」ともいう。▷鉛 刀=なまくら刀。 えんどうひかげ 豌豆は日陰でもはじける ひかげまめ 日陰の豆も 時がくればはぜる542 えん 縁なき衆生は度し難し 仏法と縁のない者は、仏も救いようがないということ。はなから聞く耳をもたない者に <105> は、忠告も説得もしようがないというたとえ。 ▶衆生‖生きとし生けるもの。度す‖救うこと。 済度。 炎に付き寒に棄つ 人情の軽薄さのたとえ。人の勢力が盛んなと きには近寄ってへつらい、勢力が衰えると離 れてゆく意から。「炎にして付き、寒にして 棄つ」ともいう。 類義富貴なれば他人も合かない、貧賤ひんなれ ば親戚も離る。 えんつ 縁に連るれば唐の物を食う 縁に連るれは唐の物を食う 縁があれば、思いがけないつながりができる ということ。縁があれば、遠い国の食物を食 べることができるという意から。「縁に連る れば唐の物」「縁によって唐の物」ともいう。 ∇唐∥中国の古称。ここでは遠い国の意。 炎に趨り熱に付く 権力者にこびへつらって従うことのたとえ。 勢いよく燃えている炎に向かって走り、熱い ものにつく意。▷炎・熱‖ともに強大な権力 のたとえ。 出宋史そうし えんきめこつな 縁の切れ目は子で繋ぐ 夫婦が別れそうになっても、子供への愛情の ために別れずにいるということ。 類義子は鏡かす。 えんした縁の下の鍬使い とのたとえ。また、頭が上がらないことのた とえ。振り上げるとつかえてしまう意から。 類義縁の下の槍やり持ち。狭屋せばの長刀ながが。 二間の所で三間の槍を使う。雪隠せっちんで槍を使 う。 きゅうくつで、自由に働くことができないこ えんにつーえんまの えん縁の下の筍 うだつが上がらない人のたとえ。頭がつかえ ていて大きく伸びられない意から。 類義縁の下の赤小豆 あかあ。 ずき えんしたちからも 縁の下の力持ち 人目につかない所で、他人のために苦労した り努力したりすること。また、そういう人の たとえ。表舞台には出ないが、重要な役割を 果たしている人のこと。「縁の下の舞」とも いう。いろはがるた(京都)の一。 類義 縁の下の掃除番。闇やみの独り舞。 用例けれども私は、いちどだって、あ 用例)けわとも私はしたとたってあの貴 ったバラ模様の考案者については、思ってみた ことなかった。ずいぶん、うっかり者のよう でございますが、けれども、それは私だけで はなく、世間のひと皆、新聞の美しい広告を 見ても、その図案工を思い尋ねることなど無 いでしょう。図案工なんて、ほんとうに縁の 下の力持ちみたいなものですのね。〈太宰 治◆皮膚と心〉 見えにくいことのたとえ。霧がかかるとよく 見えないことから。 縁の下の舞 ↓ 縁の下の力持ち 105 縁の目には霧が降る 類義痘痕も驕えく。 縁あって結ばれる者の目には、相手の欠点が 縁は異なもの 男女の縁はどこでどう結ばれるかわからず、 まことに不思議なものだということ。「縁は 異なもの味なもの」ともいう。いろはがるた (江戸)の一。 類義合縁奇縁。縁は味なもの。 英語Marriage is a lottery. [結婚はヘンのようなもの] Marriages are made in heaven. [縁結びは天国でなれる] 用例)どうです。わたしも一人、あなたも一 人でしょう。縁は異なものッて云いう事もあ るじゃありませんか。あの朝一ッしょに炊出 しをたべたのが、不思議な縁だったという気 がしませんか。〈永井荷風◆にぎり飯〉 出資治通鑑しじっがん えんぼくけいちん 円木警枕 寝る時間も惜しんで、勉学に一生懸命励むこ とのたとえ。眠ってしまったらすぐ転んで目 が覚めるようにした丸木の枕の意から。▶円 木∥丸太。警枕∥熟睡を防ぐための枕。 故事熱心な読書家であった中国宋そうの司馬 光しば こうは、若いころ、眠ると転がって目が覚め るように丸太で枕を作り、読書に励んだとい う故事から。 えんま閻魔の色事 釣り合わないこと。不似合いなことのたと え。こわい閻魔大王と恋愛とは、まったく不 <106> 似合いであることから。 えんりよ きんゆう 遠慮なければ近憂あり 出論語 目先のことばかりにとらわれて、将来のこと を考えずに行動すると、必ず身近なところに 心配事が起こるということ。▶遠慮‖遠い将 来まで見通した深い考え。近憂‖身近な憂い 事。 えんりょ遠慮は無沙汰た 失礼がないようにと遠慮して訪問しないでい ると何の挨拶もしない無沙汰と同じになり、 かえって失礼になるので、ほどほどにせよと いう教え。∇無沙汰∥便りも出さず、訪問も しないこと。 遠慮ひだるし伊達寒し だてさむ みえを張ったり外見を飾ったりするのも、ほ どほどにせよという戒め。食べたいのに遠慮 をして食べないでいると、空腹をがまんしな ければならず、また、伊達を気取って薄着で いると、寒くて閉口する意から。△ひだるし ∥空腹であること。伊達∥いきな服装をする こと。 元人 きた そゆ 一轅を北にして楚に適く 出申鑒 目的と行動とが食い違っていることのたと え。車のながえを北方に向けて、南方の楚の 国へ行こうとする意から。∇轅∥車の両側か ら前に突き出た二本のかじ棒。ながえ。楚∥ 中国の南にある国の古名。 類義楚に至らんとして北行す。 おき老い木に花咲く いったん衰えたものが、勢いを盛り返すこと のたとえ。略して「老い木に花」ともいう。 類義埋もれ木に花咲く。枯れ木に花。 老い木は曲がらぬ 欠点は若いうちに直さないと、年を取ってか ら改めようとしてもできないということ。ま た、老人の頑固なことのたとえ。老木は弾力 性がなくなって曲がらないことから。 類義 矯 ためるなら若木のうち。鉄は熱いう ちに打て。 お うまみちわす ろうばち 老いたる馬は道を忘れず 老馬の智 695 老いたるを父とせよ 出礼記 年を取った人を父のように尊敬せよという教 え。 補説出典の「年長ずること以もって倍なれば すな ちこれに父事ふじし、十年以て長ずれば則 ちこれに兄事じいし、五年以て長ずれば則ちこ れに肩随けんす(年齢が自分より倍も上の者に 対しては父として仕え、十歳年上の者には兄 として仕え、五歳年上の者には肩を並べてい ても一歩退いて従う)によることば。 類義 老いたらんは親とせよ。老いたるを父 母。 おいてほあえてほあ 追風に帆を上げる↓得手に帆を揚げる 100 お 老いては子に従え 年を取ったら何事も子にまかせて、それに従 うのがよいということ。本来は「三従(幼時 は父に、結婚したら夫に、夫の死後は子に従 うことの教え」の一つで、女性に対する仏 教・儒教の教えからきたことばだが、現在は 老人のありかたを説いたものとして広く用い られる。いろはがるた(江戸)の一。 お 老いてはますます壮んなるべ し 出後漢書 年を取っても衰えることなく、ますます意気 盛んであるべきだということ。 補説出典には「丈夫 じょ うふ 志為たるや、窮 きゅ う し ては当まさに益々 ます 堅なるべく一人前の男子 が志を立てたなら、困難な目にあっても志を ますます堅固にしなければならないし、老 いては当に益々壮んなるべし」とある。 老いて再び稚児になる 年を取ると、理解力・判断力・記憶力などが 衰え、幼児のようになるということ。 類義本卦還 ほんけ がえ りの三つ子。七十の三つ子。 お老いの一徹いってっ 老人の頑固な気質。いったん思い込んだこと は、そのとおりに押し通そうとすること。 <107> 一徹=ひとすじに思い込むこと。 お 老いの学問 がくもん 年を取ってから学問を始めること。晩学。 「老いの手習い」ともいう。 お 老いの木登り としよ ひ みず 469 年寄りの冷や水 おうせついとま る 112 おいくさしゅうとかおじおいくさか 甥の草を舅が刈る↓伯父が甥の草を刈 112 おうこうしょうしょういずくしゅ 王侯将相寧んぞ種あらんや 出史記しき 人は努力次第で立身出世できるということ。 帝王や諸侯、将軍や宰相 なのは、家柄や血筋ではなく、その人の才能 と努力だということから。▶王侯‖帝王と諸 侯。将相‖将軍と宰相。種‖家系・血筋。 おうじびようぼう すべ ゆめ に 往事渺茫として都て夢に似 過ぎ去った昔のことがぼんやりかすんで明らかでないさま。∇往事∥過ぎ去った昔のこと。渺茫∥遠く果てしないさま。遠くかすかなさま。 出白居易ー詩 おうしゃいさ 往者は諫むべからず ゆものいさ 往く者は諫むべ きものなおお からず、来たる者は猶追うべし 665 おいのがーおうにこ 応接に暇あらず 世説新語 非常に多忙なことの形容。 応接=もてなす こと。来客に会うこと。 補説本来は、山や川などの美しい風景が 次々に展開し、目移りがして一つ一つの風景 をゆっくり味わっているひまがないという意 味。出典には「山川さん自ずから相あい映発えいし、 人をして応接に暇あらざらしむ(山や川が 次々と変化して、それを見ている人に、ゆっ くり観賞する暇を与えないほどだ」とある。 類義席暖まるに暇あらず。 お こ おし あさせ 負うた子に教えられて浅瀬を わた 渡る 自分より劣った者や年下の者から物事を教わ ることのたとえ。「負うた子に浅瀬」「負うた 子に教えられる」ともいう。いろはがるた(京 都)の一。 類義三つ子に習って浅瀬を渡る。 英語 The weak may stand the strong in stead. [弱者も、強者を助けることがある] 負うた子より抱いた子 離れている者よりも身近な者、他人よりも親 類縁者を大事に思うのが人の常だというたと え。背中におぶった子よりも、前に抱いてい る子を優先して面倒を見てしまうという意か ら。「負うた子より抱く子」「負ぶった子より 抱いた子」ともいう。 類義生んだ子より抱いた子。 負うた子を三年探す 身近にあることに気づかず、長い間あちこち を探しまわること。身近なものは見落としが ちであることのたとえ。「背せなの子を三年探 す」ともいう。 類義背中の子を三年探す。負うた子を人に 尋ねる。牛に乗って牛を尋ねる。馬に乗って 馬を探す。 会うた時に笠を脱げ 知人に会ったら、まず笠を脱いであいさつを せよということ。また、物事は機会を逃がさ ずに利用せよというたとえ。 おうちゃくもの せっくばたら なまものせっくばたら 横着者の節供働き忌け者の節供働 き487 おてふせからてまわ 追う手を防げば搦め手が回る 一つの災いを逃れても、次から次へと災難が 起こってくることのたとえ。表門を防ぐと、 裏門から敵が攻撃してくる意から。▷追う手 ‖城の正面。また、敵の正面を攻める主力部 隊。「大手」とも書く。搦め手‖城の裏門。 また、敵の背後を攻める軍勢。 類義一難去ってまた一難。前門に虎を拒ふせ ぎ、後門に狼を進む。 おうこ 奥に媚びんよりは寧ろ竈に媚 びよ 出 ろんご 論語 地位は高いが実権のない人の機嫌をとるよ <108> おうはじーおおかみ り、地位は低いが実権を握っている人の機嫌 をとるほうが有利であること。奥座敷にいる 偉い人にこびるより、実際に炊事をする人に こびるほうが得策であるという意から。∇奥 ∥家屋のいちばん奥まった所。祭祀 さい し を行う 場所。竈∥かまど。炊事の神を祭る所。 おうじゅうぜんかみくぜん 王は十善神は九善 天子の位は神よりも上だということ。前世に 十善の徳を積んだ者は、現世で天子となり「十 善」「十善の君」「十善の王」と呼ばれ、前世 で九善の徳を積んだ者は、現世で神になると いう意から。▶十善∥仏教で楽らくの果かをも たらす十の行為をいう。 「類義」神より君。 おうむよいひちようはな 鸚鵡能く言えども飛鳥を離れ 口先だけで礼を欠くのは鳥獣と同じだという ことのたとえ。おうむが人間のことばを話せ ても、やはり鳥でしかないという意から。 補説出典には、このあとに「猩猩じょう猿に 似た想像上の獣)能く言えども禽獣きんじゅう鳥や 獣)を離れず」とある。 出礼記らいき おうあき 往を彰らかにして来を察す 過去の事柄をよく検討してその由来を明らか にし、それをもとに将来の状況を予測するこ と。▶往‖過去。来‖未来。 類義往を観みて来を知る。温故知新 おうたちよくすまがた 一枉を矯めて直に過ぐ転れるを矯めて なおす 直きに過ぐ609 出易経 おう つ らい し ろんこ 往を告げて来を知る 出論語 推察・推理の力がすぐれていることのたとえ。 前のことを話すと、まだ話していない後のこ とまでわかる意から。「往を観みて来を知る」 ともいう。 負えば抱かれよう 何かをしてやると、図にのってさらに要求すること。せがまれてしかたなく背負ってやると、次は抱いてくれと言うことから。「負ぶえば抱かりよう」ともいう。 類義抱かされば負ぶさる。抱けば負んぶ。 おおうそつこうそつ 大嘘は吐くとも小嘘は吐くな 大きな嘘は人が信じないから害は少ないが、 ちょっとした嘘は人が信じやすく実害が大き いから、ついてはいけないということ。 おおおとこそうみちえまわ 大男総身に知恵が回りかね 体ばかり大きくて愚鈍な男をあざけっていっ た川柳。これに対して、「小男の総身の知恵 も知れたもの」という川柳もある。△総身Ⅱ からだ全体。 類義独活うどの大木。大男の殿しん。がり 対義山椒さんしは小粒でもぴりりと辛い。小 さくとも針は呑のまれぬ。細くても針は呑め ぬ。 英語 Seldom is a long man wise, or a low man lowly. 背の高い利口者や背の低い謙遜家はめったにいない 用例半之丞はんのは誰に聞いて見ても極ごく 人の好いい男だった上に腕も相当にあったと 言うことです。けれども半之丞に関する話は どれも多少可笑おかしい所を見ると、或はあ らゆる大男並に総身に智慧ちえが廻まり兼ねと 言う趣おもがあったのかも知れません。ぇ川 龍之介◆温泉だより おおおとこしんがり大男の殿 体ばかり大きくて、何事にも人におくれを取 る男をあざけって言うことば。△殿Ⅱ最後 尾。最下位。 類義 独活うどの大木。大男総身に知恵が回り かね。 対義山椒 さんし よう は小粒でもぴりりと辛い。小 さくとも針は呑のまれぬ。細くても針は呑め ぬ。 おおかぜふおけやよろこかぜふ 大風が吹けば桶屋が喜ぶ↓風が吹けば おけやもう おおかぜ 大風に灰を撒く はいま むだなことをするためとえ。大風の日に灰をま いても、飛び散ってしまうことから。 狼 に衣 凶悪な人間が、慈悲深い人間のように見せか けることのたとえ。また、衣服が体に不似合 いで、だらしのないようす。「狼が衣を着た <109> よう」ともいう。△衣‖僧の着る法衣。 類義虎にして冠する者。 英語 When the fox preaches, take care of the geese. 「狐き」が説教するときは、だ まされないように自分の鷲鳥 がち よう に気をつけ よ おおかわみずた ふるかわみずた 大川に水絶えず 古川に水絶えず 587 おおかわてせ 大河を手で堰く できるわけがないこと、人の力ではどうしようもないことのたとえ。 類義大海を手で塞ふさぐ。 おおきいっぽんたお 大木一本倒るれば小木千本の なげ 嘆き 強い勢力を持つものが倒れると、そのあおり で、多くの弱小なものが苦しむということ。 類義大木一本の弱みは小木千本の痛みとな る。 規模が大きければ、そこで行われる物事も大 がかりであるということ。 おお やかんわおそ 大きい薬缶は沸きが遅い すぐれた人物は、大成するのに時間がかか ことのたとえ。 類義 大器晚成。 対義 小鍋は直に熱くなる。 大きな家には大きな風 おおさかなちい 裕福な者には裕福なりの心配事や悩みがある ということ。家が大きければ、大きいなりに 風当たりも強いという意から。また、全体の 大きな魚が小さな魚を食う 権力のある者、勢力のある者が弱い者をしい たげること。大型の魚が小型の魚を餌にする ことから。 さかな く おおかわーおおどこ 類義 弱肉強食。 おお はなし ちい げんじつ 大きな話より小さな現実 あてにならない大きな話より、現実的な小さ な話のほうが確実だということ。 おおき大木に蟬せみ 大小の差が非常に大きいこと。「大木」は「た いぼく」とも読む。「大木へ蟬」「大木 ぼくに蟬 の取り付いたよう」ともいう。 類義月と鼈すっぽん提灯ちょうに釣り鐘。 大木の下に小木育たず 強い者の下では、大物にはなれないことのた とえ。大木の下は日当たりや風通しが悪く、 栄養分も吸い取られるので、小木が育たない ことから。 ゆけるということのたとえ。また、強い者を 頼って弱い者が自然と集まるということ。 「大木の下の小木」ともいう。 「類義」寄らば大樹の陰。 類義 大樹の下に美草なし。寧むしろ鶏口とな るも牛後となる勿なかれ。 大木の下に小木育つ おおき した おぎそだ 大木の下に小木育つ 弱い者は強い者の底護ひごを受けてこそ生きて 草なし。 大木の下に小木育たず。大樹の下に美 おおさか 元ど 大阪さかいに江戸べらぼう↓江戸べら きょう おおすくこさんにん多し少なし子三人 子供の数は三人ぐらいがちょうどよいという こと。▷多し少なし∥ほぼ適当だという意。 類義余らず過ぎず子三人。思うようなら子 と三人。 おおづか大遣いより小遣い まとまった多額の出費よりも、日常のこまご ました出費に気を付けよという教え。大きな 物を買う出費よりも小さな物を買う出費のほ うが、かえって大きな金額になりやすいこと から。「出遣いより小遣い」ともいう。 類義飲むに減らで吸うに減る。 おおづか こづか 大摑みより小摑み 大取りより小取り 110 大所の犬となるとも小所の犬 となるな 身を寄せるなら、頼りがいのある主人を選べ ということ。飼い犬になるなら、力があって <110> おおとりーおかめは 頼れる飼い主がよいということから。「大所 の犬となるとも小家えいの犬となるな」ともい う。▷大所‖勢力の大きいもの。小所‖勢力 のないもの。 類義犬になるなら大家 の犬になれ。寄ら ば大樹の陰。 おおとりと 大鳥取るとて小鳥も取り損な う 欲張って元も子も失うことのたとえ。欲張って大きな鳥をねらうと、確実に手に入れられる小鳥も取り損なうことから。 大取りより小取り 一度に大儲もうけしようとするよりも、少しず つ利益を重ねていくほうがよいということ。 「大取りするより小取りしろ」ともいう。 類義大欄おおみより小欄み。 おおぶね大船に乗る おおなか 大中の小中こなか 囲碁のことわざ。盤面中央の地は広いように 見えるが、実際の目数は少ないから、その争 奪にはこだわらないほうがよいということ。 おおなべそこなさんばい 規模の大きなものは、その一部分だけでもけ た違いに大きいということ。大きな鍋の底に 残った料理は、杓子しゃで撫でるようにすくっ ただけでも、椀わんに三杯分はあることから。 類義一升徳利こけても三分。古川に水絶え ず。腐っても鯛たい。 大鍋の底は撫でても三杯 安心して頼れるものにすべてを任せることの たとえ。難破する恐れのない大きな船に乗っ たようだという意から。「大船に乗ったよう」 ともいう。 用例 専門家もよほどの経験をもたれない と、ああは行きますまい。自信満々というと ころが、実に、こっちを大船に乗った気持に させますからなあ〈岸田国士◆記憶のいたづ ら 類義親船おやに乗った気。 おおぶね こあな しず あり あな つつみ 大船も小穴から沈む 蟻の穴から提も くず 崩れる 31 大風呂敷を広げる 実際にはできないような大きなほらを吹いた り、大げさなことを言ったりすること。 大水に飲み水なし 物はたくさんあっても、目的にかなうものが ないことのたとえ。洪水で水はたくさんある が、飲み水には使えない意から。「火事場に 煙草 たば この火なく大水に飲み水なし」ともいう。 おがくずいい 大鋸屑も言えば言う 理由をつけようと思えばどんなことにもつけ られるというたとえ。無用のおがくずでも、 有用なものだと理屈をつけられるということ から。「大鋸屑も言えば言わる」「鋸屑のこぎ りくずも 言えば言う」ともいう。 おがくず 大鋸屑も取柄 どんな物でも何かの役には立つということ。 無用のおがくずにも、何かの使い道がある意 から。 類義土器 かわ の欠けも用あり。腐り縄にも取 り所。茶殻 ちゃ がら も肥こえになる。曲がり木も用い 所がある。 おかあ陸に上がった河童 不得手な環境になったため、能力を十分に発 揮できない状態になることのたとえ。水中で は自在に泳ぎまわる河童も、陸に上がっては 何もできなくなることから。「陸へ上がった 河童」「陸へ上がった船頭」ともいう。 類義 水を離れた魚。木から落ちた猿。 お置かぬ棚を探す たなさが あるはずがないのに探すこと。求めてもかい のないものを求めること。置いてもいない棚 の上を探す意から。「置かぬ棚をまぶる」と もいう。 お 置かぬ棚をも探せ たなさが 念には念を入れて探せということ。置いた覚 えのない棚の上も探す意から。 おかめはちもく 傍目八目 物事は、当事者よりも第三者のほうが冷静に 観察でき、正確な判断ができるということ。 ▶傍目=他人がしていることをわきで見てい ること。「岡目」とも書く。 <111> 補説囲碁から出たことば。碁をわきで見て いる者は、対局者よりも勝負を冷静に見るこ とができるので、八目も先の手まで読めると いう意から。 類義他人の正目。 英語 Dry light is the best. [陰影のない光線がもっともよこ] Standers-by see more than gamesters. [ゲームに参加している人よりもそれを見ている人のほうが多くのことが見える] 用例)さあ引き渡されて見ると、存外そうは 問屋が卸さないよ。所謂いわゆる岡目八目で、他人 の打つ手は批評が出来るが、さて自分で打っ て見ると、なかなか傍はたで見て居た様には行 かないものさ。〈勝海舟・大勢順応〉 おきもの たにゆおなことあせ 一反ら行くも谷から行くも同じ事 ゆたゆおな から行くも田から行くも同じ 19 はたらかほうもの 起きて働く果報者 健康で働くことができる人は、何よりも幸せ 者だということ。 沖な物あて 起きて半畳寝て一畳 はんじょうねいちじょう 必要以上の富貴を望んでも、しかたがないということ。人間一人が占める広さは起きているときで半畳、寝ているときでも一畳であることから。このあとに「天下取っても二合半」と続けても用いる。「立って半畳寝て一畳」ともいう。 類義起きて三尺寝て六尺。千石万石も米五 合。千畳敷に寝ても一畳。 おからゆーおくびよ まだ手に入れていない物をあてにすることの たとえ。▶沖な物‖まだ捕まっていない沖の 獲物。 類義捕らぬ狸 たぬ き の皮算用。飛ぶ鳥の献立。 おき つ いそ つ 沖にも付かず磯にも付かず 頼るところがないことのたとえ。また、どっ ちつかずの状態でいるさま。「沖にも出いでず 磯にも付かず」沖にも磯にも寄り付かず」沖 にも付かず磯にも離る」ともいう。 おくう屋烏の愛あい 出孔叢子くぞうし 相手を深く愛すると、その人にかかわるすべ てのものが好ましく思えること。愛する人の 家の屋根にいる鳥 から までも可愛 いらしく見え るという意から。「愛、屋鳥に及ぶ」「屋を愛 して鳥に及ぶ」ともいう。 類義一豆良あばも醤えく。 「対義」坊主憎けりや袈裟けさまで憎い。 架するの愚を演ずるものにはあらざるか。 〈綱島梁川◆国民性と文学〉 おくかおくか 屋下に屋を架す 屋下に むだなことを繰り返すことのたとえ。屋根の 下に、もう一つ屋根をつくる意から。「屋下」 は「おっか」とも読む。「屋上屋を架す」「屋 上屋を重ねる」ともいう。 出顔氏家訓 類義床上しように床を施す。 用例過去の理想を描きたる作を見んと欲せ ば、馬琴に帰れ、春水に帰れ、種彦に帰れ、 もしくは又た巣林子 そうり、 んし 西鶴の作に帰れ。 之これを以もって今の作家に擬するは屋上屋を おくじょうおくかおくかおくか 屋上屋を架す屋下に屋を架す11 おくばきぬき おくばもの 奥歯に衣着せる 奥歯に物がはさまる 奥菌に物がはさまる 思っていることをはっきり言わず、すっきり しないさま。「奥歯に物が絡まる」ともいう。 類義 奥歯に衣きぬ着せる。 対義 歯に衣着せぬ。 曖気にも出さない 深く心に秘めて、言葉に出さない。胃の中の ガスを我慢して外に出さない意から。「嗳気 にも見せない」ともいう。∇嗳気∥げっぷ。 「嗳」とも書く。 類義素振りも見せない。 用例主人は平気な顔をして「君の忠告に 従って……さすがアンドレア・デル・サルト だ」と日記の事はおくびにも出さないで、ま たアンドレア・デル・サルトに感心する。〈夏 目漱石◆吾輩は猫である〉 臆病風に吹かれる おじけづいて、何かをする気力を失うこと。 「臆病風が吹く」「臆病風を引く」「臆病風が 立つ」ともいう。 類義臆病神がつく。臆病風が身にしむ。臆 病神にあおり立てられる。 <112> 奥山の杉のともずり 自分の行為がもとで、自分自身が苦しむこと のたとえ。自業自得。奥山の杉の枝と枝とが こすれ合って自然に発火し、木を焼いてしま う意から。▶ともずり∥木の葉などがこすれ 合うこと。 類義檜山の火は檜より出て檜を焼く。 お蔵に火がつく おけやなわこうやしろばかま 桶屋の縄たが↓紺屋の白袴240 危険がさし迫ってきたようすのたとえ。他人 の家の火事だと思って安心しているうちに、 自分の家の蔵に火が及んでくることから。 類義焦眉の急。眉に火がつく。 送る月日に関守なし 年月がまたく間に過ぎ去ることのたとえ。 月日の経過を止める関所の番人はいないということから。「月日に関守なし」ともいう。 類義光陰人を待たず。月日のたつのは早いもの。月日のたつは夢。 用例この国の諺 こと わざ にも、光陰に関守なしと 申す通り、とこうする程に、一年 ひと とせ あまりの 年月は、瞬 また た くひまに過ぎたと思召 おぼ しめ されい。 〈芥川龍之介・奉教人の死〉 螻蛄の水渡り 屋漏に愧じず たとえ人が見ていない所でも、恥ずかしい行 いをしないこと。∇屋漏∥室の西北の隅。家 のもっとも奥まった暗い所。転じて、人の見 ていない所の意。 類義暗室を欺あざかず。 出詩経しきよう 最初のうちは熱心にやるが、途中で止ゃめて しまうことのたとえ。おけらは土の中にいる 虫で、泳ぎがあまり長く続かないことから。 「螻蛄」は「けら」とも読む。 驕る平家は久しからず 思い上がって勝手な振る舞いをする者が長く 栄えることはなく滅びてしまうという戒め。 補説『平家物語』の「驕れる人も久しからず、 ただ春の夜の夢のごとし」から出たことば。 類義驕れる者久しからず。驕る平家に二代 なし。驕る平家は内より崩くずる。 英語 The morning sun never lasts a day. 朝日の輝きは一日は続かない 用例時は治承 じし の春、世は平家の盛、そも 天喜 てん、康平 こう の以来 この かた 九十年の春秋 はる、 あき 都 も鄙ひな も打靡なび きし源氏の白旗も、保元 ほう げん 平 治いの二度の戦 たた かい を都の名残に、脆もろくも武 門の哀れを東海の隅に止とめしより、六十余 州に到らぬ隅くま無き平家の権勢、驕る者久し からずとは驕れるもの如何いかで知るべき。 〈高山樗牛◆滝口入道〉 書化出 ます ころつね こころつね 者は心常に貧し 者は心が貧しいということ。 ぜいたくを好む者は、いつも不満を持ってい て心が貧しいということ。 補説出典には「奢る者は心常に貧しく、倹 なる者は心常に富む(つつましい生活をする 者は、心がいつも満ち足りている」とある。 ものひさ おこ ものとさ 驕れる者久しからず 出老子 思い上がった者は長く栄えることはなく、必 ず身を滅ぼすときがくるということ。 補説出典には「自ら伐こる者は功無く、自 ら矜ほこる者は長ひさしからず(自分の功を誇れ ばその功は台なしになり、うぬぼれる者は長 く栄えない」とある。 教うるは学ぶの半ば 出書経 教えることは半分は自分が学ぶことにもなる ということ。 補説出典には「斆おしうるは学ぶの半ばなり」とある。 類義 教学は相長ず。 英語 We learn by teaching. 人は教える ことによって学ぶ おし 教えの民を化するや命よりも 深し 出史記 人民を動かすには、命令で行うよりも教え導くほうが効果的だということ。 伯父が甥の草を刈る 不自然なことや、物事の順序が逆であること のたとえ。目上の伯父が目下の甥のために働 かされることから。「甥の草を伯父が刈る」 ともいう。 <113> 類義 甥の草を舅 しゅ うと が刈る お仕着せの長口上 決まりきった長い文句のたとえ。△お仕着せ ‖主人が奉公人に対して与える衣服。ここで は、型どおりであること。 類義お仕着せ台詞ぜり。 も淀 534 おそうしよどはやうしよどはやうしよどおそうし 遅牛も淀、早牛も淀早牛も淀、遅牛 よど 4 おそ 遅かりし由良之助 待ちかねたときや、時機に間に合わなかった ときなどの、残念な気持ちをしゃれていうこ とば。 補説歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵 かなでほんち ゅうしんぐら で、 大星由良之助(大石内蔵助 おおいしく らのすけ )に会いた がっていた塩谷判官 えんやは んがん (浅野内匠頭 あさのたく みのかみ ) が切腹した直後に、由良之助がやっと駆けつ ける場面から出たことばとされている。原作 のせりふは「やれ由良之助、待ちかねたわや い」。 用例「もう遅いぜ。内でこしらえた人は格 別、店で買おうという人は、みんな七つ起き をして押掛 かけているくらいだ。今から行っ たって間に合うめえ。お気の毒だがお熊くま ちゃん、遅かりし由良之助だぜ」〈岡本綺堂 廿九日の牡丹餅〉 恐れ入谷の鬼子母神 「恐れ入りました」をしゃれていったことば。 「入り」を「入谷」に掛け、そこに祭ってあ おしきせー おだわら る「鬼子母神」を続けていったもの。▷入谷 ‖東京都台東区の地名。鬼子母神‖仏教で、 夫婦円満・安産・保育の女神。「きしぼじん」 とも読む。 用例なんのお前様、唐人の化けの皮を一目 で引ん剥むいだ、御眼力、お若わけえが恐れ入 谷の鬼子母神……へっへっへっなんでごわ す?ま、そのお話てえのをザッと伺おうじゃ アげえせんか、あっしもこれで甲州無宿山椒 さんし よう の豆太郎ー山椒は小粒でもピリッとか らいや。〈林不忘◆丹下左膳〉 だたし 尾大なれば掉わず 出春秋左氏伝 上に立つ者の力が弱く、下の者を思うように 制御できないことのたとえ。獣の尾が大きす ぎて自由に振り動かせないという意から。 掉う振り動かす。 故事中国楚その王が賢臣の申無宇しんに、国内に大城(地方の大都市)があることの是非について尋ねた。申無宇は過去の内紛を例にあげて、大都市の存在は一国にとって有害であると言い「末大なれば必ず折れ(木は枝が大きすぎるとその本もとが折れ)、尾大なれば掉わざるは君の知る所なり」と答えたという。 類義末大なれば必ず折る。 煽てと番には乗るな あとでひどい目にあう恐れがあるから、甘い ことばには気をつけよという戒め。「煽てと 畚には乗りやすい」ともいう。△畚∥土砂や 農産物などを運ぶ道具。縄を網状にしたもの を棒で吊って肩に担かぐ。江戸時代には、 処刑者を刑場に運ぶのにも使われた。 類義 煽てと畚には馬鹿が乗る。馬に乗ると も口車に乗るな。 英語 It is an old rat that won't eat cheese. 古鼠ねずならチーズを食べようとし ないものだ 用例 赤剝 あか に剝いて言えば、世間に善意の 奖励ほどウソのものは無い。悪意の非難がウ ソなら、善意の奖励もウソである。真実は意 の無いところに在る。若崎は徹底してオダテ とモッコには乗りたくないと平常 いっ思ってい る。客のこの言葉を聞くとブルッとするほど 厭いやだった。ウソにいじりまわされている芸 術ほどケチなものは無いと思っているからで ある。〈幸田露伴◆鷲鳥〉 おたまじゃくしが蛙になる 当然変わるべきものに変わること。かわりば えのしないこと。「おたまじゃくし」は「御 玉杓子」「蝌蚪」とも書く。 おだわらひようじよう小田原評定 長引くばかりでなかなかまとまらない相談の たとえ。「小田原相談」「小田原評議」「小田 原談合」ともいう。△評定Ⅱ相談。 補説天正一八(一五九○)年、小田原城主の 北条氏直 ほうじょう うじなお が豊臣秀吉の軍勢に包囲され たとき、戦いを続けるか降伏するかの評議が 長引き、ついに決定しないまま滅ぼされたこ とからいう。 用例三時半に上井出を発する鉄道馬車に 乗って、四時四十分頃大宮町についた。蒸し <114> 暑い小さい車台の中でかんかん照りつける西 日を受けながら、例の小田原評定をまた始め た。結局、大宮には登山客が雑沓 ざっ とう するだろ うから泊とまらないということだけをきめて、 大宮から富士駅までの切符を買った。〈野上 豊一郎◆湖水めぐり〉 おちむしゃすすきほ 落武者は芒の穂にも怖ず おびえている者は、どんなものでも恐れることのたとえ。こわいと思えば、何でも恐ろしくなるということ。「芒」は「薄」とも書く。 ∇落武者∥戦いに負けて逃げる武士。 ちゃひ 類義落人 おち うど は草木にも心を置く。木にも萱 かやにも心を置く。疑心暗鬼を生ず。 おめたためよわめため 落ち目に祟り目弱り目に祟り目675 ちゃにご お茶を濁す お茶を挽く 適当なことを言ったり、いいかげんなことを したりして、その場をつくろってごまかすこ とのたとえ。 補説茶の作法を知らない者が、茶碗 ちゃ わん を適 当にかきまわしてそれらしく茶を濁らせ、そ の場をとりつくろうことから出たことばとい われる。 「用例」「人生を楽しいものにしよう」と、徒 ずたらに人生の「楽しさ」を誇張し、「苦しみ」 を覆い匿かくす仲間にもはいりたくない。まし て、人生、「苦しみ」の中にこそ「楽しさ」 があるなどと好い加減な当て推量をしてお 茶を濁すことはできない。〈岸田国士◆「明る い文学」について〉 芸者や遊女などに客がつかず、商売が暇であることのたとえ。 補説昔、客のつかない暇な遊女が、客に出 すお茶の葉を茶臼 ちゃ うす でひく仕事をさせられた ことから出たことばといわれる。 お落ちれば同じ谷川の水 出発点は違っていても、最後に行き着く所は 同じだということのたとえ。また、人間に身 分や貧富の差はあっても、死んでしまえば同 じ土になることのたとえ。「落つれば同じ谷 川の水」ともいう。 補説 雨霰 あめあ られ 雪や氷とへだつれど落つれば 同じ谷川の水」という一休禅師 いっきゅ うぜんじ の和歌の 下の句によることば。 類義同じ高嶺たかの月を見る。 つまつま 夫夫たり、婦婦たり 出易経 夫は夫として行うべき道を守り、妻は妻として ての道を守れば、家はよく治まるということ。 補説出典には「父父たり、子子こたり、兄 兄 あに たり、弟弟 おとうと たり、夫夫たり、婦婦た り、 而しか して家道 かど 正し」とある。 おっとこころかわせいちや 夫の心と川の瀬は一夜に変 わる 男の愛情の変わりやすいことのたとえ。「男 の心と川の瀬は一夜に変わる」ともいう。 類義男心と秋の空。 てんとう にし で あさひ にし お天道さんが西から出る 朝日が西か で ら出る 15 おとがいはえお頤で蠅を追う 病人が衰弱して、動作も思うようにならない ようす。体にとまる蠅を、手で追い払うことができず、下あごで追い払うことから。「顎 あごで蠅を追う」ともいう。△頤=下あご。 おとがいと頤を解く 出漢書かんじょ あごをはずすほど大笑いすること。△頤=下 あご。「頤を脱す」ともいう。 男心と秋の空 男の愛情の変わりやすいことのたとえ。 類義女心と秋の空。夫の心と川の瀬は一夜 に変わる。秋の空と男心は七度変わる。 用例いかに好よく晴れた日でも日和下駄げた に蝙蝠こう傘でなければ安心がならぬ。これは 年中湿気の多い東京の天気に対して全然信用 を置かぬからである。変かわりやすいは男心に 秋の空、それにお上の御政事とばかり極きまつ たものではない。〈永井荷風◆日和下駄〉 男伊達より小鍋だて つまらない意地を張るのは損だという教え。 男の面目にこだわるよりは、実生活を大事に せよということから。△小鍋だてニ鍋を煮立 てること。転じて、家庭生活の意。 類義 義理張るより頬張 れ。 見栄張るより 頬張れ。 <115> おとこねここう 男猫が子を生む とうていあり得ないことのたとえ。 類義石に花咲く。炒いり豆に花。雄鳥が 卵を生む。 おとこめ いとは 男の目には糸を張れ、女の目 すずは には鈴を張れ 男の目は、糸を引いたようにきりっとしたの がよく、女の目は、鈴のようにぱっちりと丸 く開いているのがよいということ。「女の目 には鈴を張れ」だけでも用いる。 おとこさんねんいちどわら 男は三年に一度笑う 男は軽々しく笑ったりせず、威厳を重んじよ という教え。 類義 男は三年に片頬 男は三日に一ぺん 笑えばよし。 おとこしきいまたしちにんてき 男は闘を跨げば七人の敵あり ↓男子 いえいしちにんてき 家を出ずれば七人の敵あり 412 おとこじぎあま 男は辞儀に余れ 男は遠慮しすぎるくらいでよい。常に謙虚な 気持ちを持てということ。「男は辞儀に余れ、 女は会釈えしに余れ」と続けてもいう。△辞儀 ∥遠慮すること。 類義男は礼に余れ、女は華飾かしに余れ。 おとこどきようおんなあいきよう 男は度胸、女は愛嬌 ということ。男女のあり方を「きょう」という語呂を合わせていったもの。「女は愛嬌、男は度胸」ともいう。あとに「坊主はお経」と続けていうこともある。 おとこねーおどりさ 男はたとえ無一物でも、体さえ丈夫なら、働 いて財産や地位を築くことができるというこ と。男は裸一貫でも銭百貫文の値打ちがある という意から。▶貫‖昔の金銭の単位で、一 貫は千文に当たる。 おとこはだかひゃっかん男は裸百貫 おとこまつおんなふじ 男は松、女は藤 女は頼りになる男によりそって生活するのが よいということ。男は風雪に耐えて大地に しっかりと根を張る松の木のようなもので、 女はその松にからみついて生きる藤のような ものだという意から。 おとこめ 女の おとこめ 男は妻から 布は緯から男は女から 505 おとこ うじ おんな 男やもめに蛆がわき、女やも はなさ めに花が咲く 一人暮らしの男性は無精で不潔であるのに対 して、一人暮らしの女性は身ぎれいで男たち にもてはやされるということ。「男世帯 じょ たい に 蛆がわき、女世帯に花が咲く」ともいう。 やもめ=本来は配偶者を失った者のことだ が、適齢期を過ぎても独身でいる者のことを いう場合もある。 が咲く。男やもめに雑魚ざこたかる。後家花咲かす。 類義 男後家にはぼろ下がり、女後家には花 用例皿小鉢が衣類や襦袢 と同居して、徳 利のそばには足袋がころがり、五郎八茶碗 ごろはち ちゃわん に火吹き竹が載っかっているかと思う と、はいふきに渋団扇 しぶう がささっている騒 ぎ。おまけにほこりで真っ白だ。男やもめに 蛆がわく。〈林不忘◆つづれ烏羽玉〉 落とし穴に落とし石を下す おあなおいしくだ 出韓愈ー柳子厚墓誌銘 苦しい立場にある人を、いっそう苦しめることのたとえ。 補説出典には「陷穽かんに落つるも、一たび も手を引きて救わず、反かえって之これを擠おとし て又また石を下す落とし穴に落ちても、一度 も手を引いて助けようとせず、反ってその人 を突き落とし、そのうえ石を投げ込む」と ある。 落とした物は拾い徳 おひろどく 落とし物は、拾い主のものにしてもかまわな いということ。「徳」は「得」とも書く。 類義 拾い主は半分。預かり物は半分の主。 大人は火の子 大人は寒がりであるということ。「子供は風 の子、大人は火の子」と続けることもある。 おどさんにんみてはちにん 踊り三人見手八人 <116> 多いことのたとえ。踊る人よりも見物人のほ うが多いことから。 おどろもも 驚き桃の木山椒の木 ぴっくりしたことをいう、語呂合わせのしゃ れ言葉。「驚き」の「き」に「木」を掛けた もの。 補説「その手は桑名の焼蛤やきはまぐり」「敵もさるもの引っ掻かくもの」などと同類の、古くから言い習わした語呂合わせ。 用例それがここでは三ルーブルです約三 円。驚木 おど ろき 桃の木山椒の木とは此事 この こと で しようか。思わず胸に何かこみあげて来るよ うな気がしました。〈林芙美子◆シベリヤの 三等列車〉 おなあなきつねおなあなむじな 同じ穴の狐↓同じ穴の絡116 おなあな同じ穴の絡むじな 持つ者同士は、自然に寄り集まるということ。 「同じ羽の鳥は集まる」ともいう。 一見別に見えても、同じ仲間であることのた とえ。多くは悪い仲間の場合に用いる。「一 つ穴の絡」ともいう。 用例無きに如しかざるの精神にとっては、 簡素なる茶室も日光の東照宮も、共に同一の 「有」の所産であり、詮せんずれば同じ穴の狢 なのである。この精神から眺ながれば、桂離宮 が単純、高尚であり、東照宮が俗悪だと いう区別はない。〈坂口安吾・日本文化私観〉 おなうもうとりあつ 同じ羽毛の鳥は集まる 類義同じ穴の狐 きつね 同じ穴の狸たぬ。 類義同気相求む。類は友を呼ぶ。類を以もっ て集まる。 性格や考え方などの似通った者、同じ趣味を 英語 Birds of a feather flock together. 回 じ羽を持つ鳥は群れをなす おなかまめしく同じ釜の飯を食う 他人ではあるが、一緒に生活して苦楽をとも にした親しい仲間のこと。「一つ釜の飯を食 う」ともいう。 用例)兎とに角そんな一つの見当だったかも 知れない。万 よろ ずはフユーザン会の同僚です。 フユーザン会の同僚では今小林徳三郎が春陽 会で同じ釜の飯を食っている唯一となりまし た。〈木村荘八◆私のこと〉 おにす 鬼が住むか蛇が住むか 世の中にはどんな恐ろしい人が住んでいるか わからないということ。また、人の心の底に はどんな考えがひそんでいるのか、予想がつ かないこと。 鬼が出るか蛇が出るか 次にどんな恐ろしい物事が待っているか、わ からないことのたとえ。前途の困難が予測し がたいときにいう。 類義鬼が出るか仏が出るか。 用例「お兄さまのお頼みって、何事でございましょう。何やらこわいような」「鬼が出るか蛇が出るか、さあ、飲んだり、飲んだり」〈外村繁◆筏〉 器量のよくない女性でも、化粧をすれば少し は美しく見えるようになるということ。▶鬼 瓦Ⅱ屋根の棟の両端に付ける、鬼の顔をかた どった魔除ょけの瓦。 類義 馬子にも衣装。 おに鬼に金棒かなぼう 強い上に、さらに強さを加えることのたとえ。 ただでさえ強い鬼に、鉄の棒を持たせる意か ら。いろはがるた(江戸)の一。 類義鬼に金もたす。鬼に金梃 てこ 鬼に鉄杖 てつじ。 よう 虎に翼。弁慶に薙刀 なぎ。 なた 獅子しに鰭ひれ。 竜に翼を得たる如 ごと し。 対義餓鬼がきに苧殻らおが。 用例人間が出来ておって物が出来る。当た りまえながら、それで一人前なのだ。なんに も出来なくても、人間さえ出来ておれば、立 派なものだ。いわんや人間が出来ておって物 が出来るとしたら鬼に金棒だ。すなわち一人 前の人間である。〈北大路魯山人◆世界の「料 理王逝く」ということから おにこぶと 鬼に瘤を取られる 損害を受けたように見えて、実は思わぬ利益 を受けることのたとえ。 補説 「宇治拾遺物語 うじしゅうい ものがたり 」などの説話集 にある「こぶ取り爺じいさん」の昔話にもとづ くことわざ。鬼に瘤をもぎ取られて損害を蒙 こう む たようだが、実際は体の邪魔なものを除 いてもらって得をしたという話から。 <117> おに鬼に衣ころも おに 不必要なもののたとえ。鬼はもともと裸で、 衣服を必要としないことから。また、表面は やさしそうに見えるが、心の中は恐ろしいこ とのたとえ。鬼が僧の衣を着ている意から。 類義鬼が仏の早変わり。狼 おお かみ に衣。 鬼にもなれば仏にもなる 相手の出方次第で、鬼のように恐ろしい人間 にもなるし、仏のようにやさしい人間にもな るということ。 鬼の居ぬ間に洗濯 おにいませんたく こわい人やうるさい人がいない間に、のびの びとくつろぐことのたとえ。「鬼の来ぬ間に 洗濯」「鬼の留守に洗濯」ともいう。▷洗濯 =命の洗濯の意で、気晴らしのたとえ。 類義鬼の留守に豆を炒いる。鬼の留守に豆ひろい。 英語 The mouse goes abroad where the cat is not lord. [猫が舐主でなる国では、臓みを出歩く] When the cat's away, the mice will play. [猫のこぬ間に臓が遊ぶ] ふだんはきわめて丈夫な人が、珍しく病気に かかることのたとえ。▼霍乱=漢方医学のこ とばで、日射病や食中毒のこと。 では腹が痛いように聞いたがそうじゃない頭 痛なのかい」と聞き直した。〈夏目漱石◆行人〉 おにくびと 鬼の首を取ったよう 用例 父は客の方を見ながら、「お重が心持 ちが悪いなんて、まるで鬼の霍乱だな」と云 いって、今度は自分に、「先刻綱(母の名)の話 おに鬼の霍乱 おににこーおにもつ それほどでもないことを、大きな手柄を立て たように得意になっているようすのこと。 鬼の空念仏 冷酷残忍な人が、情け深そうなことを言った り、表面だけ慈悲深そうに振る舞って見せた りすることのたとえ。鬼が心にもなく念仏を 唱えてみせる意から。また、柄にもなく殊勝 にふるまうことにもいう。「鬼の念仏」とも いう。 類義鬼の空涙。 おに 鬼の閉てたる石の戸も情けに あ 開く どんなにかたくなな人の心も、人の誠意に よって打ちとけてくるものだということ。 おに にようぼう きじん 鬼の女房に鬼神 鬼のような男には、鬼のような女が妻になる ということ。「鬼の女房には鬼神がなる」と もいう。 類義鬼の女房に夜叉やしがなる。 鬼の目にも涙なみだ どんなに冷酷で無慈悲な人も、ときには同情 や憐あわれみの心を起こすことのたとえ。冷酷 な鬼でも、涙を流すことがある意から。 用例「井上さん。お父さんがお亡くなりになって、淋さびしいわね。可哀かわそうね」と家内が云ったら、井上さんはそのグリグリした眼めに涙を溜ためて黙っていたと云う話を聞き、私は自分が鬼と云われたから、云うわけではないが、これこそ、小鬼の眼に涙だと思った。〈志賀直哉◆鬼〉 鬼の目にも見残し おに みのこ どんなに注意深くしても、落ち度や不注意が あることのたとえ。くまなく目が届く鬼の鋭 い目でも、見落とすことがある意から。 類義鷹たかの目にも見落とし。 鬼も十八番茶も出花 おにじゅうはちばんちゃでばな 器量の悪い女性でも、年ごろになれば、娘ら しい魅力や色気が出てくること。みにくい鬼 の娘でも、年ごろになれば色気も出て娘らし くなるし、粗末な番茶でも湯を注いだばかり の一番茶は、香りがよくておいしいという意 から。いろはがるた(京都)では「鬼も十八」。 類義鬼も十七山茶さんも煮端にば。薊あざの花も 一盛り。蕎麦そばの花も一盛り。 英語 Everything is good in its season. はすべて旬んがよい 鬼も頼めば人食わず頼めば鬼も人食 わず406 鬼も角折る 悪人が何かのきっかけで善人になることのた とえ。また、かたくなで意志の固い者が、考 <118> えや態度を一変させること。 類義鬼も発起 ほつ。 邪慳 じゃ けん の角を折る。 おにいっしゃの 鬼を一車に載す 非常に恐ろしく危険なことのたとえ。同じ車 に鬼を乗せる意から。 出易経えきよう 補説出典には「豕この塗どろを負っけ、鬼きを 載すること一車なるを見る(車を引く牛が泥 まみれの豚のように見え、車が幽霊を載せて いっぱいになっているように見えた)」とあ る。 おの斧の柄朽つ 何かに夢中になっているうちに、長い時間が たってしまうことのたとえ。長い時間がたっ て斧の柄が朽ちてしまう意から。↓爛柯 らん か 678 出述異記 おのれたっ 己達せんと欲して人を達す 自分が何事かを成し遂げようとするならば、 まず人の目的を遂げさせてやれということ。 仁者は、いつも自分を他人の立場に置いて考 えるということ。 出論語ろんご 補説出典には、この前に「夫それ仁者は、 己立たんと欲して人を立て(自分がある地位 に就ったいと思ったら、まず他人に就かせ てやり」とある。 己に克ち礼に復る 私情や私欲に打ち勝って、社会規範や礼にか なった行いをすること。「克己復礼 もいう。△克つ‖勝つ。「己に克ち」を「己 を克おさめて(わが身をつつしんで)」と読む説 もある。復る‖返る。 類義」ここ克つは二の本。 おのれし 己に如かざる者を友とするな かれ 自分が道を修め向上する助けにならないの で、自分よりも劣った者を友として交際して はいけないということ。 出 ろんご 論語 補説出典には孔子のことばとして「忠信を 主とし(誠実な心を第一として)己に如かざる 者を友とすること無かれ。過ちては則 ち改 むるに憚 はば ること勿なかれ(あやまちを犯した ら、体裁など気にせずにすぐ改めよ)とある。 おのれあたまはえおあたまうえはえお 己の頭の蠅を追え頭の上の蠅を追 え 20 出北斉書 おのれちょうほこ 己の長に伐らず 自分の長所を人に自慢するなという戒め。 補説出典には「人の短を説かず(他人の短 所を批判せず)、己の長に伐らず」とある。 類義己の長を説くなかれ。 いという戒め。 おのれほっところひとほどこなか 己の欲せざる所は人に施す勿 れ 自分がしてほしくないと思うことは、他人に とっても同じことだから、人にしてはならな 出 論語 ろんご 補説孔子が弟子の子貢うこからうけた何か 一言で一生守り行っていけるものはないで しようか」という質問に答えたことば。出典 には「其それ恕じょか(それは思いやりというも のだ)。己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」 とある。 類義己の欲する所を人に施せ 英語 Do as you would be done to. 人か らしてもらいたいとおりに、人に対してして やりなさい おのれす 己を舎てて人に従う 出書経 我執を去り、自分のよくない考えは捨て、人 のよい考えを取り入れること。 己を責めて人を責むるな 人の落ち度を責める前に、自分自身を反省せ よという教え。 補説 徳川家康の遺訓の中のことば。 己を虚しうす 出荘子そうじ 私情を捨てて、素直な気持ちになること。謙 虚な態度で、人の言うことを聞き入れること。 補説出典には「人能よく己を虚しくして以 もって世に遊べば、其それ孰たれか能く之これを害 せん(自己の内面から私情を捨てて謙虚にな り、人間社会を渡ってゆくならば、だれもそ の人に害を加えることはできない)」とある。 おのれもっひとはか 己を以て人を度る 出韓詩外伝 自分を基準にして人を惟し量ること。また、 <119> 人は自分をもとにして人の心や力量をあれこ れ判断しがちだということ。 おの かか ふち い 元なんじ 斧を掲げて淵に入る 出淮南子 物の使い道を誤ることのたとえ。また、適材 を適所に用いないことのたとえ。斧を持って 川の淵に入る意から。 補説出典には「譬たとえば荷はすを山上に樹う え、火を井中せいちに畜たくえ、釣ちょを操とりて山 に上り、斧を掲げて淵に入るが若ごとし、求む る所を得んと欲すれども難きなり(たとえて 言えば蓮はすを山の上に植え、火を井戸の中で 燃やし、釣り針を持って山に登り、斧を持っ て深淵しんに入ったりするようなもので、期す る所を得ようと思っても難しい)とある。 おのとはり 斧を研いで針にする 努力を続けていけば、どんなことでも成し遂 げられることのたとえ。「斧よきを針に磨とぐ」 ともいう。↓鉄杵てつしょを磨みがく42 ようか 尾羽打ち枯らす 落ちぶれて、みすぼらしい姿になること。鷹 たかの尾と羽がいたんだみすぼらしい姿から。 用例)庄吉は五十をすぎた立派な紳士で、高 価な洋服の胸に金の鎖をのぞかせ、頭髪は手 入れの届いたオールバックで、その髪の毛は 半白であったが、理智りちと決断力によって調 和よく刻みこまれた顔はまだ若々しく典雅 で、整然たる姿に飾り気のない威厳がこもっ ていた。その庄吉が尾羽打枯らした三文文士 の落合太平に近づくことも奇妙であったが、 おのをかーおぼれる 近づき方がいかにも傍若無人の率直さで、異 常と思われぬこともない。〈坂口安吾◆外套 と青空〉 おびみじかたすきなが 帯に短し襷に長し 中途半端で、役に立たないことのたとえ。物 の使い道や人間の能力を評価する場合などに 用いる。「帯に短しまわしに長し」ともいう。 類義褌ふんには短し手拭てぬには長し。次郎に も太郎にも足りぬ。 英語Too much for one, and not enough for two, like the Walsall man's goose. ウォールソル人の鷲鳥がちのように、一人で 食べるには多すぎるし、二人で食べるには足 りない 用例「お前とは年が違いすぎるが亭主を欲 しがってるということだから、話をしてみた ら円太郎 元んた ろう さんなんかと断られてしまった 面白そうに円朝 えんち よう は笑った。ヤレヤレ。あ のデクデクお松に断られりゃ世話アねえ。嘲 あざ け るような笑いがおのずと円太郎も口もとへ うかんできた。「それに新内のお舟。手踊り のお京。手品 てづ ま の春之助。いろいろ訊きいて みたけれど、帯に短し襷に長しでねエ」正 岡容◆円太郎馬車〉 おぼめ思し召しより米の飯 口先だけの好意より、実際に役立つ物を望む ことのたとえ。困っているときは、思いやり のことばよりも、腹を満たしてくれる御飯の ほうがありがたいという意から。「召し」と 「飯」を語呂合わせにしたことば。 類義情けより樽たの酒情けの酒より酒屋 の酒心持ちより搗った餅心中より饅頭 まんじ○ ゆう 対義 食うた餅より心持ち。搗いた餅より心 持ち。 おぼ 溺るに及んで船を呼ぶ 出魏志ぎし 災難が起こってから対策を立てても間に合わないことのたとえ。溺れてから船を呼んでも間に合わないことから。 類義 戦 いく さ を見て矢を矧ぐ。泥棒を捕らえ て縄を綯なう。喧嘩 けん か 過ぎての棒乳切 ぼう ちぎ り。 おぼ もの わら つか 溺れる者は藁をも掴む 困難に直面している者は、どんな物にでもす がりついて救いを求めようとすることのたと え。溺れて死にかけている者は、藁のように 頼りにならないものでも、掴んで助かろうと する意から。「溺れる者は藁にも縋すがる」と もいう。 類義せつない時は茨いばも掴む。叶かなわぬ時 の神頼み。苦しい時の神頼み。困った時の神 頼み。 用例「まあせっかく、殿にも御意がうごいたところ、今さら、御中止にもなれまいが、御病態を作って、藩のほうへも、延々のびにしておかれたがよろしゅうござるぞ。藩政御困窮の折ゆえ、溺れるもの藁をもつかむで、殿 <120> にも、僥倖 こう をのぞまれるのであろうが、 心ある老臣方は、たださえお手許 ても の不如意 なところへ、莫大 ばく だい な失費。そこもとが病態 を作られれば、重役方は、かえって眉をひら こうというものでござる」〈吉川英治◆鬼〉 まえついしょうものかならかげ お前追従する者は必ず陰にて そし 謗る 人の面前でこびへつらう者は、その人がいなくなると平気で悪口を言うということ。「前で追従する者は陰で謗る」ともいう。△追従 こびへつらうこと。 類義面まのあたりに人を誉むるを好む者は 亦背いて之これを毀そしるを好む。 ということ。「心内にあれば色外に現る」ともいう。 まえひゃく お前百までわしゃ九十九まで 夫婦が仲むつまじく、ともに長生きしようと いうこと。「お前百までわしゃ九十九まで、 ともに白髪の生えるまで」ともいう。 御神酒上がらぬ神はない 神様も酒を飲むのだから、自分も酒を飲むの だということ。酒飲みの自己弁護のことば。神 前に供える酒を召し上がらない神様はいない という意から。∇御神酒=神前に供える酒。 英語 The face is the index of the heart. 顔は心の指標 類義思う事は顔に出る。 おもうち いろそとあらわ 思い内にあれば色外に現る 心の内の思いは、自然に表情や動作に現れ おもお思い置きは腹の病 先のことでよけいな心配をするのは、健康に 悪いということ。∇思い置き∥先々のことを 考え過ぎ、取り越し苦労をすること。 おも 思い面瘡思われ面皰 にきび にきびは、人を恋しく思ったり人に思いを寄 せられていたりする証拠だということ。若い 男女を冷やかしていうことが多い。∇面瘡∥ にきび・そばかすなどのこと。 おも 思い立ったが吉日 何かをしようと思い立ったら、すぐに取りか かるのがよいという教え。思い立ったその日 を吉日と考えよという意から。「思い立つ日 が吉日」「思い立つ日を吉日」ともいう。マ 吉日=一般的には、暦で縁起がよいとされる 日だが、ここでは物事をするのによい日。「き ちにち」とも読む。 類義思い立つ日に人神 じん なし。善は急げ。 好機逸すべからず。今日できることを明日に 延ばすな。 英語 Procrastination is the thief of time. 遲延は時間泥棒である 用例これこれ。煽立てやんな落ちぶ れたなら声も落ちっろう。ただ小謡 こう たい よりも 節が勝手で気楽じゃまで……」「恐れ入りま する。それならば思い立ったが吉日とやら、 ただ今から直ぐにでも……」「おお。それよ。 善は急げじゃ」〈夢野久作◆名娼満月〉 出易経えきよう 思い半ばに過く 思い当たることが多く、おおよそのことは推 測できるということ。 補説出典には「知者その彖辞 たん じ を観みれば、 則 すな わ ち思い半ばに過ぎん(易をよく理解した 人は、卦かの最初にある説明を見ただけで、 占いの内容の大半を悟ることができるだろ う)とある。 出 論語 ろんご 思っていることに邪念 じゃ ねんも私心もないという こと。△邪=正しくないことの意。 補説出典には「子曰いわく、詩三百、一言以 もってこれを蔽おえば、日く、思い邪無し(孔 子が言った。『詩経』に収められた三百編の 詩を一言で言い表すならば、作者の思いに邪 念がなく、素直に書かれたものだということ だ」とある。 おもことい 思う事言わねば腹ふくる 他人に対して思っていることを、差し障さわりがあるからといって言わずに我慢していると、腹の中に物がつまっているようで気分が悪いものだということ。「言わねば腹ふくる」ともいう。 対義言わぬが花。物言えば唇寒し秋の風。 <121> おもことひと 力な てと 思う事一つ叶えばまた一つ 人間の欲望には、きりがないことのたとえ。 欲望が一つ実現すると、すぐもう一つの欲望 が起こってこれで満足だということがない意 から。 類義隴ろうを得て蜀くしょを望む。千石取れば万 石羨 や む。一つよければまた二つ。 おもこたび 思う子に旅させよ かわいこたび 可愛い子には旅を させよ159 おもなかかき したなかかき 思う仲には垣をせよ親しき仲に垣を せよ 291 おも わか おも そ 思うに別れて思わぬに添う 好きな相手と結婚できず、なんとも思わない 相手と結ばれる、男女の仲の思うようにいか ないこと、縁の不思議なことをいう。思う に添わで思わぬに添う「惜しきに離れ思わ ぬに添う」ともいう。 おも思えば思わるる 類義 思う人には遠ざかり思わぬ人のしげし げ。 おもねんりきいわとおいしたや 思う念力岩をも徹す石に立つ矢43 おもこさんにん 思うようなら子と三人 自分の思うようになるものなら、夫婦と子供 の親子三人の暮らしがいちばんいいというこ と。 類義死なぬものなら子一人、減らぬものな ら金百両。 おもうこーおやがお こちらで相手のことを思っていれば、相手も こちらを思ってくれるようになるというこ と。 類義情けは人の為ならず。 重き馬荷に上荷打つ 重い負担に、さらに負担を加えることのたと え。馬に乗せた重い荷物の上に、さらに荷物 を重ねることから。 補説万葉集 まんよう しゅう にある山上憶良 やまのうえ の 歌に「痛き瘡きずには鹹塩 から を灌そそくちふ が如ごとくますますも重き馬荷に表荷 打つといふことの如ごとひどく痛い傷に塩 水をふりかけるというように、また、たいそ う重い馬荷に上荷を重ねて載せるということ わざのように」とある。 類義重荷に小付け。弱り目に祟たり目。 おもおとおわた 重きを負い遠きを渉るときは ち 地を択ばずして休う 出孔子家語 地を択ばずして 語 苦しいときには、えり好みをしないことのた とえ。重い荷物を背負って遠くまで行く者 は、疲れたときにはどこででも休むことから。 補説子路しろ(孔子の弟子)のことば。出典に は、このあとに「家貧しく親老ゆるときは禄 ろく(給金)を択ばずして仕っかう」とある。 表木綿の裏甲斐絹 おもてもめんうらかいき うわべを地味にして、目に見えない所にぜい たくをすることのたとえ。木綿の表地ででき た着物の裏地に、甲斐絹をつけることから。 江戸っ子の好みをあらわしたことば。▷甲斐 絹∥甲斐(山梨県)で作られる平織りの絹布。 重い負担の上に、さらに新たな負担が加わる ことのたとえ。「大荷におに小付け」ともいう。 △小付け=大きい荷物の上に付け加える小さ な荷物。 類義重き馬荷に上荷 打つ。弱り目に崇たた り目。 おやおも しゅだお 親思いの主倒し 使用人などが主人の家の物を盗んで、自分の 親にみつぐこと。 おやおもこころ親思う心にまさる親心 子が親を思う心よりも、親が子を思う慈愛の 心のほうが深いものだということ。 補説 幕末の志士、吉田松陰 よしだしが処刑され るときに詠んだ辞世の歌の上の句。「けふの おとづれ何ときくらん」と続く。 おや 親が親なら子も子 親子はよく似るものだということ。多くは、 親がだめだと子もだめだというように、よく ない点が似る意で用いる。 類義この親にしてこの子あり。親も親なり 子も子なり。親に似ぬ子なし。蛙 の子は 蛙。瓜うりの蔓つるに茄子 なす はならぬ。 対義親は親、子は子。 <122> おやし親が死んでも食休み どんな場合でも、食後の休息は大切だという こと。健康上よくないから食後の休息をとら なければならないという教え。「食休み」は 「しょくやすみ」とも読む。 補説「食休み」を「職休み」ととらえ、仕 事の合間の休憩とする説もある。 類義親は死んでも子は食休み。伯母の家が 焼けても穀ごく休み。せがれ死んでも今一服。 隣が火事でも先まず一服。 英語 It is the pace that kills. 命取りにな るのは(行為の)速度である」 おやかたおも しゅだお 親方思いの主倒し 使用人が主人のためを思ってしたことが、逆 に主人にとって不利益な結果になるというこ と。また、主人のためと言いながら、主人に 不利益をはたらくこと。 補説 「親思いの主倒し」から転じたことわ ざ。 おやかたひ親方日の丸まる 国家や地方自治体には倒産の恐れがないこと から、経営がうまくいかなくても最後には国 が面倒を見てくれるという、官庁や公営企業 の態度を皮肉っていうことば。 おやくろう 親苦労する、その子楽する、 まごこじき 孫乞食する むだに使い果たし、孫の代になると乞食をす るほど落ちぶれてしまうということ。「親苦、 子楽、孫乞食」ともいう。 親は苦労して財産を作り、その子は楽をして 類義 親草鞋 わら、 子草履 ぞう、 孫裸足 はだ。 し 親は 木綿着る子は錦 にし き 着る。 おやこうこうひようじんはい 親孝行と火の用心は灰になら まえ ぬ前 親孝行は親の生きているうちに、火の用心は 火事になる前にしなければ意味がないという こと。親が死んで焼いた灰と、火事で焼けた あとの灰を重ねて使ったことば。 おやこなかきんせんたにん 親子の仲でも金銭は他人 親子の間でも、金銭に関しては他人と同じように、けじめをつけなければいけないという戒め。また、親子の間でも、金銭に関しては他人行儀になるということ。「親子の仲でも金かねは他人」ともいう。「仲」は「中」とも書く。 類義金に親子はない。金は親子も他人。銭 金は親子でも他人。金銭に親子なし。金銭 は親子も他人。貸し借りは他人。 おやこいっせふうふにせしゅ 親子は一世、夫婦は二世、主 じゅうさんぜ 従は三世 親と子の関係は現世のものであり、夫と妻の 関係は前世と現世または現世と来世の二世に わたり、主人となり従者となる関係は前世・ 現世・来世にまたがるほど深いということ。 主従はしゅうじゅうとも読む。 補説人は前世・現世・来世の三代を生きる という考えに基づくもので、封建社会におけ る主従関係の結び付きの深さを強調したこと わざ。 用例文学が、神或あるは馬琴流の善玉悪玉の 通念に対して、一般人間性を主張した時代は、 日本でも逍遥しょうの「小説神髄」以来のこと である。私たちのきょうの生活感情はそこか ら相当に遠く歩み出して来ている。「主従は 三世」と云いって、夫婦は二世、親子は一世 と当時の社会を支配したものの便宜のために 組立たてられていた親子の愛の限界は、既に、 どんな人間でも子の可愛かわくないものはない という一般常識にまで柵を破られて来ている のである。〈宮本百合子・夜叉のなげき〉 親父と南蛮は辛いほどいい 父親は子供に対して厳しければ厳しいほどよ いということ。▶南蛮‖唐辛子の別名。 親知らず子知らず 危険な山道や海沿いの絶壁の道など、地勢の 険しい所をいう。通るのが危険なため、親は 子を、子は親をかえりみる余裕もないほどの 難所という意から。「親知らず子知らず、犬 戻り、合子じっ投げ、左靭ひだり」ともいう。 補説「親知らず」は現在でも、新潟県や静岡県に地名として残っている。 親擦れより友擦れ 子供には、 親の影響よりも友達の影響のほう <123> が大きいということ。△親擦れ‖親を通じて 世の中のことを知ること。友擦れ‖友達を通 じて世の中のことを知ること。また、悪ずれ することもいう。 類義善悪は友による。 おや ことも 世にかね か 親と子供は銭金で買われぬ 子供には親ほど大事なものはなく、親には子 供ほど大事なものはないということ。また、 親子の間は利害をこえたものであるというこ と。 類義 子に過ぎたる宝なし。 親の掛替 が えは ない。 の子。 親に似ぬ子は芋いもの子。 おや さきだ 親に先立つは不孝 親に先立つは不孝 親よりも先に子が死ぬのは、親をいちばん悲 しませる不孝である。 注意「不孝」を「不幸」と書き誤らない。 おやにかえるこ 親に似た蛙の子 おや 親には一日に三度笑って見せ 子供が親に似てかわりばえせず、これといった長所もなく、どう見ても大成しそうにないということ。 おやに親に似ぬ子は鬼子 子供は親に似るものだから、親に似ていない 子は鬼の子に違いないということ。子供のこ とばや態度などが悪い場合にたしなめる意味 で用いられることが多い。「鬼子」は「おにっ こ」とも読む。 親孝行の方法の一つは、父母に対して常に笑 顔で接することだという教え。 よ おやめ 親に目なし おやめひいきめ 親の目は贔屓目124 おやとこーおやのお おやあまちゃどく 親の甘茶が毒となる 子供を甘やかして育てることは、その子のた めによくないということ。 類義親の甘いは子に毒薬。 おやいけんなすびはなせんひと 親の意見と茄子の花は千に一 あだ つも仇はない 親が子供に与える意見は、一つもむだがない から、よく聞くべきだという教え。「親の意 見と茄子の花は千に一つも無駄はない」とも いう。∇仇∥実を結ばない徒花 あだ ばな のこと。 英語 No advice to the father's.「親の教 えに勝る教えはない」 present.愛してくれる人の忠告は、今は気に入らなくても、書きとめておきなさい」 おやいけんひざけあとき 親の意見と冷や酒は後で効く 親の意見は、言われたときは何とも思わなく ても、あとになってから、なるほどと思い当 たる点が多くあるということ。 Write down the advice of him who loves you, though you like it not at 親の因果が子に報う 親が悪い行いをした結果、子供が罪もないの に災いに苦しむこと。▷因果=前世の行いの 報いが現世に現れるとする仏教の教え。 類義親の善悪は子に報う。親の罰ばちは子に 当たる。親の罪子に報う。因果はめぐる小 車。 対義親の光は七光。 おや うこぶし たにんさす 親の打つ拳より他人の摩るが いた 痛い 親の愛情が深いことをいう。親が戒めのため にわが子を打つ手には慈愛がこもっている が、他人がさすってくれる手には情がこもっ ていない意から。 類義打たれても親の杖つえ。 おや おくば か こ たにん まえ 親の奥歯で噛む子は他人が前 ばか 歯で噛む 親が子供を必要なときに叱らないと、他人か らひどく叱られることになることのたとえ。 奥歯より前歯でかむほうが痛いことから。 おやおんみずおんおく 親の恩と水の恩は送られぬ 親からうけた恩と水の恩恵とは、報いることができないくらい大きいということ。▶恩を送る‖恩返しをする。恩に報いる。 <124> おやのおーおやのも 補説水の恩恵は親の恩より大きいという意 の「親の恩は送っても水の恩は送られぬ」と いうことばもある。 おやおんこおく親の恩は子で送る 親から受けた恩は、わが子を立派に育てることで恩返しできるということ。▶送る∥恩返しをする。 類義親の恩は次第送り。 おやおん親の恩より義理の恩 親から受けた恩よりも、師や主人など世話に なった人や義理のある人から受けた恩のほう が重いということ。 類義親の恩より師匠の恩。 親の心子知らず 子を思う親の気持ちがわからずに、子は勝手 なことをするものだということ。また、親に ならなければ、親の気持ちは推しはかれるも のではないということ。 補説 親子の間柄だけでなく、師弟など親子 に似た間柄についてもいう。 類義親の思うほど子は思わぬ。子を持って 知る親の恩。 対義子の心親知らず。 英語 When the rain rains and the goose winks little wots the gosling what the goose thinks.「雨が降って親鵞鳥がちが眼めを閉じるとき、その子には親の考えていることがほとんどわからない」 は思わないで、おッ母さんを悪くいうとは、 ほんとうに親の心子知らずとはこの事だよ。 何だとえ、私は何もいわないと。言わないも のがナゼ人が知ってます。お前が何もいわな いに、誰がそんな事にまで、世話を焼くもの があるもんかネ。〈清水紫琴◆小むすめ〉 用例それやこれやのおツ母さんの気苦労 親の十七子は知らぬ 親の若いころの失敗や不名誉は、子供は知る よしもないということ。自分に都合のよい話 ばかりして、偉そうにしている親を皮肉って いうことば。 類義 親の十七見た者がない。 姑 しゅう とめ の十七 見た者がない。 親の脛をかじる 子供が経済的に自立できず、親に養っても らっていることのたとえ。 用例先祖は音に聞く鳥居強右衛門である が、しかし、名詮自称 みようせん、 じしょう 彼は親の脛を 噛かじり放題かじってついに遺産をつかいはた し、その腹癒はらせでもあるまいが、今は町の 歯医者となって片っぱしから患者の歯を抜い てくらしているのである。〈尾崎士郎◆人生 劇場〉 親の背でもただは掻かぬ 非常に欲の深いこと、実利に徹した欲張りの たとえ。 おやせみこそだ 二どもおやせ 親の背を見て子は育つ 子供は親の背 なかみそだ 中を見て育つ 254 おやひかりななひかり 親の光は七光 本人の実力ではなく、親の威光で、世間で重 んじられたり、恩恵を受けたりすること。「親 の七光」「男の光は七光」ともいう。 類義親の光は七とこ照らす 対義親の因果が子に報う。 英語 Happy is he whose friends were born before him. [年上の身内を持つ者は幸いである] 用例なに咎とがめりや私わしが名乗って聞かせ る、雀部 べ といえば一縮 ひとち ぢみ じゃ。貴様もジャ ムを連れて堂々闊歩 ぼ するではないか、親の 光は七光じゃよ。こうやって二人並んで歩け ばみんな途みちを除よけるわい。〈泉鏡花◆黒百 合 おや ひいきめ 親の目は贔屓目 親はわが子の才能や素質などを実際よりも高 く評価してしまいがちだということ。「親に 目なし」「親の欲目」ともいう。 類義親馬鹿。親の甘いは子に毒薬。 対義子を見ること親に如しかず。 英語 It is not as thy mother says but as thy neighbours say.汝は母親の申すと おりの人間にあらず、隣人の申すとおりの人 間なり の物もの おやものこのもの 親の物は子の物、子の物は親 もの 親子の間では、はっきりとした所有権の区別 <125> はないことのたとえ。「親の物は子の物」と もいう。 おやよくめおやめひいきめ 親の欲目◡親の目は贔屓目124 おやよくめたにんひがめ親の欲目と他人の僻目 親はわが子を実際よりもよく見てしまいがち だが、他人は実際よりも悪く見てしまいがち だということ。△僻目=見まちがい。見そこ ない。 おやおや親は親、子は子こ たとえ親子でも、才能や素質、考え方などは 別だということ。 類義形は生めども心は生まぬ。 類義形は生めどもふしんーーし 対義瓜うりの蔓つるに茄子なすはならぬ。親が親 なら子も子。 おやばかこばか親馬鹿子馬鹿 親は子を溺愛 に気づかず、子は親の愛情に甘えて愚かなこ とをするということ。 親はなくとも子は育つ 親がいなくても、子供は何とか成長していく ということ。また、世の中はそれほど心配し たものではないということ。「親はなけれど 子は育つ」ともいう。 ま兄さんに手伝ってもらって身につけている 物はみんな他人の手になったものーー。これ からは他人の愛情だけに包まれて生きてゆく のか?ーーもろもろの人の情にはぐくま れ、親はなくとも子は育とうが、しょせん血 のつながらぬ人の愛情……。〈永井隆◆この 子を残して〉 類義 藪 やぶ の外でも若竹育つ。渡る世間に鬼 はない。 用例この子の五体にまつわって、現に守っ ていた母の愛の名残はこれでなくなった。い おやのよーおよぎじ 親は木綿着る子は錦着る もめんき 二 にしきき 親は苦労して働き、節約して財産を築くが、 子はその苦労を知らずにぜいたくをして財産 を浪費してしまうことのたとえ。 類義 親苦労する、その子楽する、孫乞食 こじ する。 お山の大将俺一人 小さな集団や限られた世界の中で頭 とな り、得意になって威張っているようす。 る。 補説低い盛り土などの頂上に競争して登 り、「お山の大将俺一人」と言って、互いに 他の者を突き落とす子供の遊びから生まれた ことば。西条八十 さいじょ うやそ 作詞の童謡の一節に 「お山の大将俺一人、後から来る者突き落せ」 とある。 親見たけりゃ子を見ろ 子供の言動を見れば、その親がどういう人間 かわかるということ。子供の教育をおろそか にすると、親が恥をかくということ。家庭で のしつけが大切であることをいう。 親も親なり子も子なり 親も立派だが、その子も立派であるという意。 また、その反対の場合にもいう。悪い意味で いうときには、一般に「親が親なら子も子」 という形で用いられる。 類義 子は親を映す鏡。 子を見れば親がわか 類義この親にしてこの子あり おや いちばん おや 親より先に死ぬのは一番の親 ふこう 不孝 子供が死ぬことほど親を悲しませるものはな い。親より先に死ぬのが最大の親不孝だということ。 類義親に先立つは不孝。 親を睨むと鯡になる 親に反抗してはいけないという戒め。親をに らむと、罰が当たって来世は鯀になるという 意から。一説に鯀や鱗かれのように目が片寄る 意とも。「鯀」は「平目」とも書く。 類義親を睨むと鱗になる。 用例延享 二年大阪竹本座初演千柳 松洛 小出雲 合作夏祭浪花鑑 義平治殺しの場に三河屋義平治その婿団七 九郎兵衛 だんしち を罵の る詞 に、おのれは親を 睨ねめおるか、親を睨むと平目になるぞよ、 とある。〈南方熊楠◆十二支考〉 およじょうずかわしかわだかわは 泳ぎ上手は川で死ぬ川立ちは川で果 てる160 <126> およぼぬーおんせい およ 及ばぬ鯉の滝登り どんなに努力しても、とうてい不可能なこと のたとえ。「及ばぬ恋」と「鯉の滝登り」を 掛けたしゃれで、多くは、かなえられない恋 についていう。 類義花は折りたし梢こずは高し。 用例本来このような散財は自分でやってこ そ面白かろうが見ているだけでは一向感興が 乗って来ないものである。まして加十の身分 としてはこんな散財などはたとえどう望んだ とて及ばぬ鯉の滝登りだと思うから、いっそ 忌々いましさが先に立って、見ていればいる ほど、腹が立って来るばかり。〈久生十蘭 魔都〉 愚か者に福あり 愚か者は欲望や野心を抱かず平凡に暮らすの で、他人に恨まれたり憎まれたりもせず、平 穏無事な一生を送ることができるというこ と。 類義果報はたわけにつく。 おか二 負わず借らずに子三人 と。最後がよければ、途中の経過は問題にし ないということから。「終わりが大事」とも いう。 他人の世話にもならず、借金もなく、しかも 子供が三人いる家庭が理想的だということ。 類義余らず過ぎず子三人。足らず余らず子 三人。子三人子宝。負わず借らずの子三人、 女房十八我二十。 お 終わり良ければすべて良し 物事は結果がよければそれでよいというこ 英語 All is well that ends well. [終わり方 のよいのは結構なことである] The end crowns all. [終わりがすべての物事の冠となる] おとちゅうひ 尾を塗中に曳く 出荘子そうじ 高位高官に上って身の自由がうばわれるより は、低い身分でも自由に暮らすほうがよいと いうことのたとえ。「尾を泥中 ゆう に曳く」と もいう。△塗‖泥どろ。 故事)中国戦国時代、荘子 そうが楚王 そお う から仕 官を求められたとき「亀の身になってみれば、 亀は殺されて亀ト く (亀の甲を用いた占い)に 用いられて神聖視されるよりは、泥の中に尾 を引きずって歩いてでも、生きているほうを 望むだろう」と言って断ったという故事によ る。 おふいぬたた 尾を振る犬は叩かれず 従順な者は、ひどい扱いを受けることはない ことのたとえ。尾を振ってなついて来る犬は 人に叩かれないことから。「尾を振る犬は打 たれず」ともいう。 類義怒れる拳笑顔に当たらず。尾を振る 犬は打ち手なし。窮鳥懐に入いる。 尾を振る犬も噛むことあり ふだんおとなしい人でも、意外な反抗をする ことがあることのたとえ。 おんあだなさ 恩が仇 ↓情けが仇 483 おんこちしんふるたずあたら 温故知新 587 故きを温ねて新しきを知る おんざ 穏座の初物 盛りを過ぎるころの果物や野菜などは、初物 と同じように珍重されるということ。また、 物事の終わりがよいときや、晩年になって知 識や芸能などが大成することのたとえにも用 いられる。∇穏座∥朝廷などで正式の宴会が すんだあと、くつろいで行う略式の飲食や奏 楽。転じて、盛りを過ぎた物、とくに果物や 野菜についていう。 おんしゅうぶんめい 恩讐分明 出呂氏童蒙訓 出呂氏童蒙訓 恩と仇あだとをはっきり区別し、恩には恩で、 仇には仇で報いること。△讐=仇、かたき、 うらみの意。「讐」とも書く。分明=はっき りしているさま。また、はっきりさせること。 類義一飯の徳も必ず償つぐい、睚眦がいの怨うら みも必ず報ゆ。 出礼記らいき 温清定省 おんせいていせい 親孝行をすること。冬には暖かく夏には涼しく過ごせるように気を配り、夜には寝具を整えてやり、朝はご機嫌を伺うという意から。子が親に尽くすべき心がけを説いたもの。マ清涼しい意。定=寝具を整え安眠できるよう気を配ること。省=かえりみる。安否を問う。ご機嫌伺いをする。 <127> 補説出典には「凡 そ人の子たるの礼、冬 は温かにして夏は清 すず しくし、昏くれには定め て晨 あし に省 かえ り みる」とある。 おんどりたまごうおとこねここう 雄鳥が卵を生む男猫が子を生む115 女心と秋の空 女の愛情のさめやすいことのたとえ。女の心 と秋の空もようはどちらも変わりやすいこと から。 類義男心と秋の空。女の心は猫の眼 英語 A woman's mind is always mutable. 女の心は移り変わってばかりいる うしうそこ 女賢しくて牛売り損なう 賢くても視野が狭ければ、大局を見失って失 敗することのたとえ。女は利口そうに見えて も目先の利益にとらわれて出しゃばり、売れ るはずの牛を売り損なってしまうという意か ら。 類義女が口上使えば牛の値が下がる。女の 知恵は鼻の先。 女三界に家なし さんがい いえ 三界に家なし 275 おんなさんにん 女三人あれば身代が潰れる 娘三人 も しんだいつぶ 持てば身代潰す 632 おんなさんにんよかしま女三人寄れば姦しい 女性は一般的におしゃべりで、三人も寄り集 まると、たいへんやかましいということ。△ 姦しい=やかましい。 おんどりーおんなは 補説「女」という字を三つ合わせた「姦」という字を「かしまし」と読むところからできたことば。 類義女三人寄ると富士の山でも言い崩す 女三人寄れば囲炉裏いろの灰飛ぶ。 英語 Three women make a market. が三人いれば市ができる 用例これはいずれの女学校にやあらんい わぬはいうに増す鏡、くもらぬ影も小石川音 には立てぬひそめきも、三人寄れば姦しき女 の習い、いつしかに佳境に入りし話し声、思 わず窓の外に漏れて往来の人も耳引立つめ り。〈清水紫琴◆当世二人娘〉 女と坊主に余り物がない 僧侶が世間にとって必要とされるように、女 性も相手には困らないということ。 女の一念岩をも透す 女性の執念 深いことのたとえ。 「岩をも透 す女の一念」ともいう。 おんなうで あさあめ おどろ あさあめ 女の腕まくりと朝雨には驚くな 朝雨 おんなうで は女の腕まくり12 おんなかみけたいぞう 女の髪の毛には大象もつなが る 出五句章句経 女性の、男の心を引きつける魅力の強いこと のたとえ。 類義女の髪の毛一本千人の男繋つなぐ。 女性の心理は変わりやすく、気まぐれだということのたとえ。猫の瞳ひとみの形は光線によって変化することから。 類義女心と秋の空。 おんなめすずはおとこめいと女の目には鈴を張れ男の目には糸を 張れ、女の目には鈴を張れ115 おんなさんがいいえ女は二界に家なし 女性は、この広い世界で、どこにも安住できる場所を持たないということ。△三界‖仏教語で、欲界・色界・無色界からなる、衆生しゅじの世界。 補説仏教では「三界は安きこと無し」三 界に家無し」などといい、「三界」が衆生全 般にとって安住の場ではありえないことを説 いた。 類義女に定まる家なし。女は百まで家もた ず。女は三つに従うもの。 用例でその時代に危険のない生活を送ろう とする人人は、理も非もいわずに旧ふるい習慣 と旧い概念とに盲従し、徳川将軍は千秋万歳 日本の政権を握っているもの、武士は何時いっ でも主人のために腹を切るもの、儒学は永久 に聖堂の朱子学しゅしを標準とすべきもの、宗 教は仏教以外に信ずべからざる事、百姓町民 は万世にわたって武人の下風に立ち、生かす とも殺すとも御役人の自由に任すべきもの、 女は三界に家なく親と良人とと我子わがとに屈 従すべきもの、こういう考でいるより外はな <128> おんなやー かったのです。〈与謝野晶子◆女子の独立自 営〉 おんな 女やもめに花が咲く 男やもめに蛆が わき、女やもめに花が咲く 115 恩に着る 他人から受けた恩に感謝の気持ちを持つ。人 に頼みごとをする時に用いることが多い。 対義恩に着せる。 「三時……か。三時までマッチが手に 入らぬとは情けない。売ってないんでね」わ ざと困った顔をして、「町へ出て来るのは、 もっと早いんでしょう。その時ホテルの受付 へでも届けてやるという親切があなたにあれ ば、一生恩に着ますよ」〈織田作之助◆夜の 構図〉 おんはらきなさはら 恩の腹は切らねど情けの腹は き切る 恩に報いるために死ぬ人はいないが、義理・ 人情のために死ぬ人はいるということ。「恩 の死にはせねども情けの死にはする」ともい う。 おんはなはだ すなわうらしょう 恩甚しければ則ち怨み生ず 出 亢倉子 度を越えた恩義や恩恵は、人から怨みを受け るもとになるということ。「恩甚しくして怨 み生ず」ともいう。 補説出典では、このあとに「愛多ければ則 ち憎しみ至る(寵愛 ちよう あい を受けることが多けれ ば、必ず他人から憎しみを受けるようにな る」と続く。 類義愛多ければ則ち憎しみ至る。 乳母日傘 過保護に育てられること。幼いときには乳母 うばをつけられ、外出するときには日傘をさし てもらうほど大切に育てられる意から。▷乳 母‖母親に代わって乳を与え、育てる女性。 類義蝶ちょよ花よ。 一 おんようじみうえし えきしゃみうえし 陰陽師身の上知らず易者身の上知ら ず99 出論語ろんご おんりようきようけんじょう 温良恭倹譲 人柄が穏やかで、素直でうやうやしく控えめ であること。 補説孔子の弟子である子貢が、孔子が人に 接するときの態度を評したことば。出典には 「子貢日いわく、夫子ふう先生は、温良恭儉譲 以もって之これを得たり(自然に相談を持ちかけ られた)」とある。 恩人に対して害を加えるような行為をすること。「情けを仇で返す」「恩を仇でする」ともいい、略して「恩を仇」ともいう。 補説 許されないこととして強い非難をこめ て使われることが多い。 類義後足で砂をかける。陰に居て枝を折 る。飼い犬に手を噛かまれる。庇ひさを貸して 母家 おも や を取られる。 対義仇を恩で報ずる。怨うらみに報ゆるに徳 を以もってす。恩を以て怨みに報ず。 英語 The axe goes to the wood where it borrowed its heive. おのは柄を借りた森く行く I taught you to swim, and now you'd drown me. 私はあなたに泳ぎを教えた、そして今あなたが私を溺れさせようとしている 用例)帝もことの体ていたらくを始終残らず御 覧 ごろ ぜられ、「恩を讐あだで返すにっくいやつ め。匆々 そう 土の牢ろうへ投げ入れい」と、大い に逆鱗 げき りん あったによって、あわれや「れぷろ ぼす」はその夜の内に、見るもいぶせい地の 底の牢舎へ、禁獄せられる身の上となった。 〈芥川龍之介◆きりしとほろ上人伝〉 恩を以て怨みに報ず 怨みのある相手に対しても、広い心をもって 恩義で報いること。 類義 怨みに報ゆるに徳を以てす。徳を以て 怨みに報ゆ。仇あだを恩で報ずる。 対義恩を仇で返す。 <129> 桅安の夢 ゆめ なんか 南柯の夢 490 かいぬてて 飼い犬に手を噛まれる うーっ 世話をしていた者や信用していた者に、裏切 られたり害を加えられたりすること。「飼い 犬に手を食われる」「手飼てがいの犬に手を食 わる」ともいう。 類義愛犬に手を噛まれる。恩を仇あだで返 す。庇ひさを貸して母屋おもを取られる。後足で 砂をかける。 英語 Breed up a crow and she will peck out your eyes.〔鳥を育ててみよ、奴やは君 の目玉を突っ突き出すぞ〕The mad dog bites his master.〔狂犬は飼い主に噛みつく〕 〔用例〕それは全く災難として同情をしてあげ るほかはないが、それにしてもあれほどの奥 方が、あんまり失望落胆なさり方が強過ぎる、 それは、多年信用して召使った飼犬に手を噛 まれたのは、残念にも、業腹にも違いないが、 こちらに誰も命の怪我けがはないし、その悪い 奴は覿面に命を落してしまったし、それに 盗られたお金も無事で戻ったし、それでいい じゃないのー〈中里介山◆大菩薩峠〉 対義 犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ。 類義 犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ。 対義 飼い犬に手を噛かまれる。 飼い養う犬も主を知る 飼い犬でさえも飼い主の恩を知っているとい かいあんーがいしゅ かいがらうみはかれいもっうみはか 貝殻で海を量る 螽を以て海を測る 693 かいがらうみほ 貝殻で海を干す 不可能なことや、むだで効果がないこと。貝 殻で大海を空にしようとしても不可能なこと から。「貝を以て海を汲む」ともいう。 会稽の恥はじ 敗戦の屈辱。また、他人から受けたひどい恥 辱。積年の恨みや恥辱にもいう。△会稽‖中 国浙江 せっ こう 省紹興 しょう こう 市の東南にある会稽山。 出史記しき 故事)中国春秋時代、越王句践 が呉王夫差 ふさと戦って敗れ、会稽山に逃げ込み、屈辱的 な講和をしたという故事による。なお、その 恨みを晴らすことを「会稽の恥を雪すぐ」と いう。 用例 父の時国は夜討ちの為 ため に深い傷をう けて死に瀕ひんする時、勢至丸 せし まる に向むかって云 いうことには、お前はこのことから会稽の恥 をおもい敵人を怨うむようなことがあっては ならぬ。これというのも偏 ひと え に先きの世の宿 業 しゅく ごう である。若もし怨恨 えん こん を結ぶ時にはその あだというものは幾世かけて尽きるというこ とのないものだ。〈中里介山◆法然行伝〉 骸骨を乞う 官吏が辞職を願い出ること。臣下として主君 に捧げた体の骸骨だけでも返してほしいと頼 む意から。 出晏子春秋 かいげんてんぼういじ 解語の花 出開元天宝遺事 美人のたとえ。人のことばを理解する花の意 から。 故事中国唐の玄宗げん皇帝が楊貴妃ようを指し て「宮中の太液池の白蓮びゃくの花の美しさも、 このことばを解する花には及ばない」と、そ の美しさを賛たたえたという故事による。 類義物言う花。 出史記しき 睚眥の怨み ちょっとにらまれたという程度の小さなうら み。「睚眥の隙」ともいう。△睚まぶた。 眥まなじり。 補説出典には「一飯の徳(わずかな恩義)も 必ず償つぐい、睚眥の怨みも必ず報ゆ(報復す る)」とある。 出日本外史にほんがいし がいしゅういっしょく鎧袖一触 きわめてたやすく敵を負かしてしまうことの たとえ。鎧よろの袖でちょっとさわっただけ で、相手が倒れてしまう意から。 補説出典に源為朝 みなもとの ためとも の言葉として「清 盛 きよ もり 輩の如ごと きに至りては、臣が鎧袖一触、 皆自ら倒れんのみ(平清盛らの連中に至って は、私のよろいの袖がちょっと触れただけで 皆自然に倒れてしまうだけだ」とある。 用例人間の本性というものは或いはもと もと冷酷無残のものなのかも知れません。肉 体が疲れて意志を失ってしまったときには、 鎧袖一触、修辞も何もぬきにして、袈裟けさが <130> がいじゅーかいとく けに人を抜 打ちにしてしまう場合が多いよ うに思われます。〈太宰治◆女の決闘〉 外柔内剛 見かけは穏やかでもの柔らかそうに見える が、心の中はしんが強く、しっかりしている こと。外見は弱々しく見えるが、案外気が強 いことにもいう。「内剛外柔」ともいう。 対義内柔外剛。 出晋書しんじょ 害心ある者妨害あ 相手に害を加えようとする下心があると、相 手もそれを防ぐためにこちらをねらってくる ということ。 がいせい ちからやま ぬ き よ おお 蓋世の気 ↓ 力山を抜き気は世を蓋う 417 海賊が山賊の罪をあげる 同類の者が、自分の悪いことは棚に上げて、 他人の悪い点を非難すること。同じ盗賊なの に、海賊が山賊の罪を非難する意から。「山 賊の罪を海賊があげる」ともいう。 がいだたまな 咳唾珠を成す 出後漢書ごかんじょ 権勢が盛んで一語一語が尊ばれること。また、詩文の才能がきわめて豊かであること。なにげなく口から出ることばがみな、美しい名文句であるという意から。▷咳‖せき。「欬」とも書く。唾‖つば。転じて「咳唾」で、人のことばの敬称。 ましたが、一茶のは咳唾どころじゃありませ ん、呼吸がみな発句くになっているのです、 怒れば怒ったものが発句であり、泣けば泣い たのが発句となり……横のものを縦にすれ ば、それが発句となり、縦のものを横に寝か せば、それがまた発句です。〈中里介山◆大 菩薩峠〉 用例 古人は咳唾珠を成すということをいい 書いた物が物を言う しっかりと証文を取っておくことの大切さを いう。いざというときには書類にしたものが 動かぬ証拠として役に立つということ。 出 古文孝経 懐籠尸位い 主君の寵愛 ちょう あい を頼って、高い地位を占め続 けること。 ∇懐寵∥官職を退くべきことを知 りながら、退かないでいること。尸位∥何も しないで官職にしがみついていること。 補説出典には「諫いさむべきを見れども諫め ず(主君に忠告をすべきときに忠告しない)、 これを尸位と謂いう。退くべきを見れども退 かず(退任すべきときに退任しない)、これを 懐寵と謂う。懐寵尸位は国の姦人(国を乱 す悪臣)なり」とある。 かいどうねむいまた 海棠眠り未だ足らず 出冷斎夜話 美人が醉って眠ったあとの、まだ眠り足りな いなまめかしい姿の形容。▶海棠‖春に薄紅 色の花をつけるバラ科の花木。ここでは美人 のたとえ。 補説唐の玄宗 げん 皇帝が、楊貴妃 よう きひ の美しさ を評したことば。出典には、酒に酔い、うた た寝をしていた楊貴妃が、まだ眠そうな顔を してあらわれたのを見て「豈あに是これ妃子ひし の酔えるならんやこれは貴妃が酔っている のではなく、真に海棠睡ねむり未だ足らざ るのみ」と言ったとある。 こじれた物事を、あざやかに解決すること。 よく切れる刀で、もつれた麻糸を断ち切る意 から。「快刀乱麻」ともいう。∇快刀=切れ 味の良い刀。乱麻=もつれた麻糸。 類義一刀両断。 用例私たちも初めのうちは、まさかそんな ことが分わかるわけもなかろうと、ぼんやり言 い付けられた実験をやり始めたのであるが、 暫らくすると先生の快刀乱麻を断つような推 理の冴ぇに魅せられて、夢中になってその 実験に没入した。〈中谷宇吉郎◆寺田先生の 追憶〉 かいとくくるまやぶ快贛車を破る 出晋書しんじょ 元気すぎて乱暴な子どもは、将来大物になる 可能性があること。そうした子は将来有望で あるから成長が楽しみであること。元気のよ い子牛は車を壊すこともあるが、成長した後 が楽しみだという意から。また、そうした子 どもには自制させて無事に成長させるべき意 にも用いる。∇快犢Ⅱ元気のよい子牛。 補説出典には「快牛は犢子 とく 為たりし時、 多く能よく車を破る。汝 なん、 当まさに小すこ しく これを忍ぶべし(威勢のよい牛は、子牛だっ たときに、引いている車を壊すことがよくあ <131> るものだ。お前は、もうしばらく我慢せよ」とある。 かどり飼い鳥を刺す如し 失敗するおそれのない、たやすいことのたと え。籠かごの中の鳥を捕らえるように容易だと いうこと。 かいなほしよあ 甲斐無き星が夜を明かす 甲斐無き星が夜を明ナ・ 体の弱い人は健康に気をつけるので、頑健な 人よりもかえって長生きをするということ。 今にも消えてしまいそうな弱々しい光の星が 一晩中光り続けるという意から。 かいさんねんろみつき権は三年樽は三月 何事も身につけるには、それ相応の期間が必 要だということ。難しい権の使い方を身につ けるには三年かかり、割合やさしい権を操る のにも三か月かかることから。「棹さおは三年 櫓は三月」ともいう。 がいふうみなみ かきよくしんふ 凱風南よりして彼の棘心を吹 類義 首振り三年ころ八年。ぽつぽつ三年波 八年。顎あご振り三年。 物事の兆きざし・前兆などのたとえ。羽蟻はありの 群れなどが石臼うすを回すようにぐるぐる回っ て飛べば風が吹く前兆で、杵きねで臼をつくように上がったり下がったりして飛べば、雨が 降る前兆だということから。∇磑∥石臼を回 すこと。春∥杵で臼をつくこと。 類義蚊が臼つけば雨が降る。蚊の餅もち搗 くは雨降る兆し。 磴風春雨 出事物原始 出詩経しきよう かいどりーかいろく 母親が愛情をもって子供を暖かく見守り育て ることのたとえ。暖かい南風が吹いて、いば らの若い芽を育てる意から。∇凱風=万物を 成長発育させる暖かい南風で、母の慈愛を表 す。棘心=とげのあるいばらの木の芽生え で、手のかかる子を表す。 補説出典では、このあとに「棘心夭夭 り、母氏ぼし劬労くろす(元気な子はまだ幼く、 その養育のために母は苦労する)」と続く。 出戦国策 隠より始めよ 遠大な計画や事業も、手近なところから着手 せよということ。また、物事は、言い出した 者から実行すべきだということ。「まず隗よ り始めよ」ともいう。∇隗∥人名、郭隗かく。 故事)中国の戦国時代、燕えんの昭王から賢者 を招く方法を尋ねられた郭隗が、昔、死んだ 馬の骨を五百金で買った話をたとえにして、 「まずこの私、隗を優遇することから始めて ください。そうすれば、より優れた人材が 次々と集まってくるでしょう」と答えたとい う故事による。↓死馬の骨を買う299 用例「まず人間の方で先に反古ほごになる訳 だな。乞う隗より始めよか。人間の反古なら 催眠術を掛けなくてもたくさんいる。なぜこ う隗より始めたがるのかな」「なかなか隗よ り始めたがらないですよ。人間の反故が自分 で屑籠くずかごの中へ這入はいってくれると都合がい 壞 らす190 出論語ろんご かいりきらんしんかた 怪力乱神を語らず 君子は、理性で説明がつかない現象は口にしないということ。孔子の言行について弟子が言ったことば。転じて、怪しげなことは口にしないという意でも用いられる。「語らず」は「語っげず」ともいう。ヘヘ怪力乱神=「怪」は奇怪なこと。「力」は武勇や暴力のこと。「りよく」とも読む。「乱」は道理にそむいて世を乱すこと。「神」は鬼神。 かいろうどうけっ偕老同穴 出詩経しきよう 夫婦の契りが固く、仲むつまじいことのたと え。生きてはともに老い、死んでは同じ墓に 葬られるという意から。△偕∥ともに、いっ しょに。穴∥墓穴。 補説『詩経』に収められている二編の詩の 語句を、続けていったもの。「偕老」は「邶 風はい・撃鼓げきこの子し(妻)の手を執とりて子 と偕ともに老いん」から、「同穴」は「王風・ 大車」の「穀いきては則すなち室を異にするも、 死しては則ち穴を同じくせん」から。 頬義お前百までわしゃ九十九まで。 類義お前百までわしゃ九十九まで。 回禄の災い 出春秋左氏伝 火事にあうこと。マ回禄中国で、火をつか さどる神。転じて火事。 類義祝融 しゅく ゆう の災い。 <132> 加いすてんのぼ そじ 階を釈てて天に登る 出楚辞 不可能なことをしようとするためとえ。はしご を用いずに天に登ろうとすることから。△階 はしご。釈てる置き去りにする意。 補説出典には「熱羹ねっに懲こりて蜷せいを吹 く。何ぞ此この志を変ぜざるや。階を釈てて 天に登らんと欲す。猶なお曩さきの態たい有るや (熱いあつもので口を焼いた者は、これに懲 りて冷たいあえものでも口で吹いて食べる。 どうして最初の志を変えないのか。それは、 はしごを捨てて天に登ろうとするような、実 行不可能なことだ。それでもなおこれまでの 態度にこだわるのだ)とある。↓羹あつに懲 りて膾なますを吹く23 かいもっうみくかいがらうみほ 貝を以て海を汲む貝殻で海を干す129 かもらまさ 買うは貰うに勝る 他人からもらって恩を着せられるよりも、自 分で苦労して買うほうがよいということ。 類義ただより高いものは無い。 対義ただより安いものは無い。 かえぎ は ぎ 替着なしの晴れ着なし いつもよい服を着ているが、それ一着しかな く、着替えを持っていないということ。 類義着たきり雀すず。 もの たせということ。皇帝のものは皇帝に返せと いう意から。▷カエサル∥ローマの将軍、政 治家。「シーザー」「カイザル」ともいう。 カエサルの物はカエサルに すべての物は、あるべきところに戻せという こと。また、公民としての法律上の義務を果 補説『新約聖書』マタイ伝にあることば。 イエスを敵視するパリサイ人が、イエスを買 わなにかけようとして「皇帝(カエサル)に税金 を納めてもよいでしょうか」とたずねたとき、 イエスは貨幣にカエサルの肖像がついている ので「カエサルの物はカエサルに、神の物は 神に返しなさい」といったことから。英語で はRender unto Caesar the things which are Caesar's. かえりたいさゆうかえりたい 顧みて他を言う♩左右を顧みて他を言 う273 かえ にしききゆ 二きようにしきかざ 帰るには錦着て行く ⊥ 故郷へ錦を飾 る 243 蛙の願立て いいかげんな計画で行動して失敗すること。 「蛙の立願」ともいう。 補説立って歩きたいと祈願した蛙が歩ける ようになったが、目が後ろについたままだっ たので、身動きできずに死んでしまったという 寓話ぐうによる。 蛀の行列 向こう見ずなこと、またそのような人々の集 まり。蛙が後ろ足で立つと、目が後ろ向きの ため前が見えないことから。「かわずの行列」 ともいう。 子供の才能や性質は親に似るものだというこ とのたとえ。特に、凡人の子はやはり凡人で ある意に使う。おたまじゃくしが、成長すれ ば親と同じ蛙になることから。 類義 瓜うり の蔓つるに茄子 なす びはならぬ。 対義 鳶とびが鷹たか を生む。 英語 Like hen, like chicken. ひよこは親 鶏 おや どり に似る かえるつら蛙の面に水みず どんなことをされても、平気でいることのた とえ。蛙は水をかけられても、少しも驚かな いことから。「蛙の面に小便」ともいう。い ろはがるた(京都)の一。 類義 牛の角を蜂が刺す。石地蔵に蜂。馬の 耳に念仏。馬耳東風。牛に経文。牛に対して 琴を弾ず。 英語 Like water off a duck's back. あひ るの背から落ちる水のように かえる くち 蛙は口から呑まるる よけいなことを言って災いを招くことのたと え。蛙は鳴いたために蛇へびに居場所を知ら れ、呑まれてしまう意から。「蛙は口ゆえ呑 まるる」「蛙かは口から」ともいう。 顔色を窺う かおいろうかが 類義 雉 きじ も鳴かずば打たれまい。口は禍 わざ わい の門 もん。 相手の機嫌を気にすること。相手の心中を推 <133> し量るために表情や態度をうかがうこと。 「顔色を読む」「顔色を見る」ともいう。「顔色」 は「がんしょく」とも読む。 顔から火が出る 恥ずかしさで顔が真っ赤になるさま。 類義汗顔の至り。赤面の至り。 笑顔でいるが、内心は悲しさに耐えきれず、 ひそかに涙を流すこと。また、悲しみを顔に 出さず、笑顔で人に接すること。 顔に泥を塗る かおとだ 人の名誉を傷つけたり、面目をつぶしたりす ることのたとえ。 顔を立てる かお顔に似ぬ心こころ 外見と内心とが一致しないこと。優しい顔の 人が冷酷だったり、恐ろしそうな人が意外と 親切だったりするという意。 かおまつたけあじ 香り松茸味しめじ匂い松茸味しめじ 492 相手の名誉や体面を失わせないようにする。 ∇顔=ここでは、面目。体面。 顔を合わせる 対義顔に泥を塗る。顔を潰す。顔を汚す。 用例そんなに理窟づくばかり云いっていずに、 是非何か書いて下さい。わたしの顔を立てる と思って。ぇ芥川龍之介◆売文問答 かおあ 人と会うこと。向き合うこと。芝居などで共 演すること。また、試合などで対戦すること。 補説「顔を合わせられない」の形で、面目 ない、恥ずかしい意を表すことがある。 かかあでんか 媽天下に空っ風 上州(群馬県)の名物を並べたもの。▷嬢天下 ∥家庭で、夫より妻のほうが発言権が大きい こと。空っ風∥雨や風を伴わない乾燥した強 風。関東地方に多い。 かおからーかがみお 出史記しき かかいさいりゅうえら 河海は細流を択ばず 江海は綱流を払います 出史記 大人物は、どんな人物でも受け入れるという ことのたとえ。黄河 が や大海は、どんなに小 さな川の流れでもすべて受け入れるという意 から。「河海は細流を厭いとわず」「大海は細流 を択ばず」ともいう。∇河∥黄河をさす。 類義大海は芥 あく た を択ばず。太山 たい さん は土壤を 譲らず。清濁併 あわ せ吞のむ。 英語 The sea refuses no river. 海はどんな川をも拒まない 出論語ろんご 下学して上達す 手近で初步的なことから学び始め、やがて高度な学理に到達すること。また、身近なところから学び始めて、進歩向上していくこと。「下学上達」ともいう。「下学」手近なことを学ぶ意。上達と高度な段階に到達する意。 補説孔子が自らのあり方を述べたことば。 出典には、この前に「子曰いわく、天を怨うみ ず、人を尤とがめず(孔子が言うには、わたし は不運であっても天を怨まず、自分を理解し てくれる者がなくても人をとがめたりしな い」とある。 類義下学の功。 かかくあらそ かぎゅうかくじょうあらそ 蝸角の争い 蝸牛角上の争い 135 夏下々上 炭火をおこすときの心得。夏は炭の下に、冬 は炭の上に火種を置くとよく火がおこるということ。「夏下なつ うこと。「夏下した冬上ふゆうえの火種」ともいう。 踵で頭痛を病む 見当はずれのことや、自分に関係のないこと を心配することのたとえ。 類義 他人の疝気 せん き を頭痛に病む。 かがみあき すなわじんこうとど 鏡明らかなれば則ち塵垢止 まらず 出荘子そうじ 心の美しい人は、欲望に心を乱されることは ない。磨かれた鏡は、塵ちりや垢あかでも、曇る ことがないという意から。 補説出典では、このあとに「止まれば則ち 明らかならざるなり(汚れがつくと鏡はもは や明らかではなくなる)」と続く。 かがみ女に反り男 女性は前かがみでうつむき加減にしている姿 <134> かがみはー がよく、男性は胸を張って反り加減で堂々と している姿がよいということ。「こごみ女に 反り男」ともいう。 かがみ おんな たましい鏡は女の魂 鏡は女性にとって命と同じくらい大切なもの だということ。「刀は武士の魂」のあとに続けて用いることが多い。 類義大小は武士の魂。 掛かるも引くも折による 何事も進退には時機があるということ。敵を 攻めるのも退却するのも、時機を見てしなけ ればならないとの意から。「駆くるも引くも 折による」ともいう。∇掛かる∥攻め掛かる。 河漢の言 言説がおげさで現実離れしていること。言 葉が果てしなくとりとめのないこと。遠い空 にある天の川のように、漠然としてとらえど ころのないことばの意から。▶河漢‖天の 川。黄河と漢水とを指すともいわれる。 補説出典には「吾われ、その言猶なお河漢の ごとくにして極まり無きに驚怖せり(私には その話が天の川のように果てしなく続くよう に思われ、恐ろしくなった」とある。 ゆずが色づくと医者が青くなる」ともいう。 類義」橙だいが赤くなれば医者の顔が青くな る。 出荘子そうじ かきあか いしゃあお 柿が赤くなれば医者は青くな る 柿が赤く色づく時期は気候がよく、病人が少なくなるので、医者が困るということ。「柚 垣堅くして犬入らず 家庭がしっかりしていれば、それを乱すよう な者が外部から入ってくることはないという ことのたとえ。 何の頼りにもならないことのたとえ。やせ衰 えた餓鬼が、もろい苧殻を振り回す意から。 ∇餓鬼=仏教で、餓鬼道に落ち、飢えと渇き に苦しむ者。苧殻=麻の皮をはいだ茎。 対義鬼に金棒。 がき餓鬼に苧殻 かきみみ 牆に耳あり 出管子かんし 秘密にしている物事は世間に漏れやすいこと のたとえ。「牆に目あり」「牆に目口あり」と もいう。△牆=長い垣。家の周囲を囲んでい る塀。かき。 類義壁に耳あり障子に目あり。 かきね いさか 垣根と諍いは一人でならぬ 喧嘩 けん は一人ではできないということ。垣根 を結うときは両側に分かれて二人で結うこ とから。 類義公事くじと垣とは一人じゃ結えぬ。諍い と餅搗 もち きは一人ではならぬ。 かぎあな鍵の穴から天を覗く と。視野や見聞の狭いことのたとえ。 類義針の穴から天を覗く。管の穴から天を 覗く。葦よしの髄から天井を覗く。井いに坐し て天を見る。 狭い知識や考えで大きな問題を推し量るこ かきかわこじきむうりかわだい 柿の皮は乞食に剥かせ、瓜の皮は大 みようむうりかわだいみようむ 名に剥かせよ瓜の皮は大名に剥 かせよ、柿の皮は乞食に剥かせよ 95 がき餓鬼の断食だんじき うわべだけを取りつくろうことのたとえ。また、当然のことを言いつのること。食いたくても食えない餓鬼が、断食修行をしていると言い立てる意から。「餓鬼の断食悪女の賢者ぶり」ともいう。△餓鬼=仏教で、餓鬼道に落ち、飢えに苦しむ亡者。 類義乞食 こじ き の断食。 河童 かっ ぱ の寒稽古。 がき餓鬼の花争い 不必要なことに夢中になったり、争ったりすることのたとえ。餓鬼に必要なのは食べ物な のに、食べられない花のことで争う意から。 「餓鬼の花遊び」ともいう。△餓鬼=仏教で、 餓鬼道に落ち、飢えに苦しむ亡者。 餓鬼の目に水見えず 欲しがるあまりに見落としてしまうことのた とえ。また、物事に夢中になりすぎて、肝心 な物を見失いがちになることのたとえ。餓鬼 が喉の渇きに苦しんで水を欲しがるあまり、 <135> 近くに水があっても目に入らないという意か ら。△餓鬼‖仏教で、餓鬼道に落ち、飢えと 乾きに苦しむ亡者。 がき餓鬼も人数にんず つまらない人間でも、役に立つことがあると いうたとえ。また、弱く小さい者でも、人数 が集まれば侮りがたいことのたとえ。「人数」 は「にんじゅ」とも読む。∇餓鬼=ここでは 弱い者の意。 類義餓鬼も千人。餓鬼も軍勢。子供でも数 のうち。蟻ありも軍勢。枯れ木も山の賑にぎわ い。数は力なり。 対義下手な味方は無いがまし。 蝸牛角上の争い ささいなことで争うことのたとえ。かたつむ りの角の上での争いの意から。「蝸角 い」「蝸牛 かたつ むり の角争い」ともいう。∇蝸牛 かたつむり。「蝸」のみでも、かたつむりの意。 補説出典にある「蝸の左角に国する者有り、 触氏 しょ と日いう。蝸の右角に国する者有り、 蛮氏 ばん し と日う。時に相与 あい とも に地を争いて戦 い、伏尸 ふく 数万、北にぐるを逐おいて旬有五日 じゅんゆ うごじつ にして而しかる後に反かえる(蝸牛の左の角 には触氏という者の国があり、右の角の上に は蛮氏という者の国がある。あるとき、両者 が領土を争って戦い、数万人もの戦死者が出 て、逃げる者を十五日間も追い続け、その後 引き揚げた)」という寓話 ぐう による。 類義 蛮触 ばんし よく の争い。コップの中の嵐。蝸 牛の角の上に何事をか争う。 出荘子そうじ がきもにーかくすよ 用例世の中は蝸牛角上の争闘私は東京 に居る頃にはつくづくそれが厭いやになった ですよ。人の弱点を利用したり、朋党 ほう とう をつ くって人をおとしいれたり、一歩でも人の先 に出よう出ようとのみ齷齪あくしている。実に 浅ましく感じたですよ。〈田山花袋◆田舎教 師 かぎゅう 火牛の計けい 出史記しき 牛の角に刀剣をくくりつけ、尾には油を注い だ葦あしの束を結び、火をつけて敵陣に突入さ せ、そのあとから兵を進める戦術。「計」は「は かりごと」とも読む。 補説中国戦国時代、斉の田単が用いた計略。 日本では、源平の戦いで、木曽義仲 きそよ しなか が田 単の計略を真似し、牛の角にたいまつをつけ て敵陣に追いやり、平家の大軍を破った。 故事)中国戦国時代、斉の田単が敵の包囲を 打ち破るため、尾に結びつけた葦に火をつけ た千頭余りの牛を城壁の穴から放ち、大勝し たという故事による。 かき ぬす 柿を盗んで核を隠さず 証拠を隠しきれずに悪事が発覚してしまうこ とのたとえ。柿を盗み食いしながら、種を隠 さないでばれてしまうことから。「柿を盗ん で種を隠さず」ともいう。△核‖たね。 類義頭隠して尻隠さず。 がくしゃたいぼくにわか 一学者と大木は俄にできぬ 学問は、速成では修得することができないと いうこと。大木が何年もかけてようやく育つ ように、学者も、長い間研究を積み重ねては じめて大成することができる意から。 学者の取った天下なし 現実の政治は、学者が説くような理屈どおり にはいかないことのたとえ。学者は学問の上 では政治を論ずるが、理論を述べるだけで、 現実に対応することができないということ。 口先だけで実行が伴わないこと。学者は、口 先では理想を説くが、自分の行動は意外に不 道徳であることから。∇不身持ち∥品行方正 でないこと。 類義 儒者の不身持ち。学者の不行儀。坊主 の不信心。医者の不養生。 がくしゃびんぼう 学者貧乏 学者は学問に長じていても、金もうけは不得 意で、実生活は貧しい人が多いということ。 類義学者と役者は貧乏。軍者ひだるし儒者 寒し。肥えたる仙人富める道士あることな し。寺子屋に家持ち無し。学者と色男に富め るは少なし。 かく隠すより現る 隠し事は、隠せば隠すほど、かえって人に知 られるものだということ。「隠すことは現る」 「隠せばいよいよ現る」ともいう。 類義 隠れたるより見 あるはなし。思い内 にあれば色外に現る。 There is nothing so secret but it <136> かくせいーがくやか may be discovered. [ばれない秘密はない] かくせいていざ おか 客星帝座を犯す 身分の低い者が帝王の地位をねらうことのた とえ。▶客星∥ふだんは見えないで、一時的 に出現する星。彗星 せい などのこと。帝座∥帝 王の地位。 出後漢書 故事 中国後漢の厳光は、俗世間から遠ざ かっていたが、学友であった光武帝に発見さ れて会い、一緒に眠った。そのとき、厳光の 足が帝の腹の上に載ったため、翌日、史官が 「客星御座を犯すこと甚だ急なり(客星が帝位 を犯す兆」と奏上したが、光武帝は笑っ て「私は昔なじみの友と一緒に寝ただけだ」 と取り上げなかったという故事による。 下愚の性移るべからず 出論語 教育の可能性には、限界があることのたとえ。 生まれつきの愚か者は、いくら知識を深め修 行を積んでも、どうにもならないということ から。教育について言った孔子のことば。 補説出典には「唯ただ上知と下愚とは移らず (ただ、とびきりの知者と最下の愚者とは変 わらない」とある。 用例「刑事は刑事だ。探偵は探偵だ。せん だってはせんだってで今日は今日だ。自説が 変らないのは発達しない証拠だ。下愚は移ら ずと云いうのは君の事だ。……」〈夏目漱石◆ 吾輩は猫である〉 学の前に書来る 成し遂げようとする強い志があれば、道は自 然に開けるものだということ。学問の好きな 人の所には、自然に書物が集まるという意か ら。「学ぶ門かどに書ふみ来たる」ともいう。 類義鹿は射手いての前に来る。花好きの畑に 花が集まる。 "JL 学は及ばざるが如くす 出論語 学問は、常に前に行く者を追いかける気持ち で、怠ることなく続けなければならないということ。「学は及ばざるが如くせよ」ともい う。∇及ぶ∥追いつく意。 補説出典には「学は及ばざるが如くするも、 猶これを失わんことを恐る(それでもなお、 目標を見失いそうになることを心配する)」 とある。 格物致知 かくぶっちち 出大学だいがく 出典にある自らを修め人を治めるための八条目「格物、致知、誠意、正心、修身、斉家せい、治国ちこ、平天下へいてんか」の中の語句。その解釈については、大きく分けて二つの説がある。中国南宋そうの朱熹はこれを「知を致りたすは物に格いたるに在り」と読み、客観的事物に即してその道理をきわめることで自己の知識を最大に広めて自分の天賦の英智を悟ることができると解釈する。一方、明みの王守仁おうしゅじん(王陽明)は「知を致すは物を格ただすに在り」と読んで、先天的な良知を明らかにし天理を悟ることが、自己の意志が発現した日常の万事の善悪を正すことと解釈している。他にも諸説がある。 類義格物究理かくぶつ。きゅうり 学若し成らずんば死すとも帰らず 故郷を出て学問を志す者の覚悟を述べたこと ば。学問が成就しなければ、たとえ死んでも 故郷に帰らないということ。 補説江戸末期の詩僧釈月性 しゃくげ つしょう の作といわ れる詩『将まさに東遊せんとして壁へきに題す』 の一節「学若し成る無くんば復また還かえらず」 から。↓人間じん かん到る処ろとこ青山 せい さん 有り330 がくもんおうどう 学問に王道なし 学問を修めるのに、手軽で安易な方法はない ということ。∇王道∥王様専用の近道。安直 な手段のたとえ。 補説)ギリシャの数学者ユークリッドが、幾何学を学んでいたエジプト王トレミーの「もっと手軽に学ぶ方法はないのか」という質問に対して「幾何学に王道なし」と答えたという故事に基づく。英語ではThere is no royal road to learning. 類義)学問に近道なし。 学問に近道なし 学問は順序立てて着実に深めていかなければ ならないもので、手っ取り早く学べる方法は ないということ。 類義学問に王道なし 楽屋から火を出す 自分から災いを引き起こしたり、内部から騒 <137> 動を起こしたりすること。△楽屋=ここでは 内輪・内部の意。 楽屋で声を嗄らす むだな努力をすること。また、努力してもだ れにも認められないこと。役者が楽屋で練習 をしすぎて声を嗄らし、肝心の舞台で声が出 なくなることから。 類義 空家で声嗄らす。空家で棒を振る。簀 の子の下の舞。 かくりん獲麟 出春秋しゅんじゅう 絶筆。また、物事の終わり。転じて、臨終・ 辞世の意。△麟‖麒麟 きに現れるといわれる、想像上の動物。 補説)中国の史書『春秋』が哀公十四年の「春、 西に狩りして麟を獲えたり」という句で終わっ ているところから、絶筆、物事の終わりを意 味する。また『春秋』は孔子が著した最後の 書と伝えられることから、辞世、臨終をも意 味する。 隠れたるより見るるはなし りやすいものはない。だから君子は独りでい るときこそ、自分の言動を慎重にするのだ)」 と続く。 他人に知られたくない秘密ほど、顔色や行動 に現れて他人に知られやすいということ。隠 さなければならないような行いはするなという 戒め。 補説出典では、このあとに「微かなるよ り顕あきらかなるは莫なし。故に君子は其その独 りを慎むなり(かすかな細事ほど明らかにな 類義 隠す事千里。隠すより現る。 がくやでーかげにな 出中庸ちゅうよう しんあらわ とく 隠れての信は現れての徳 外に現さなくても心の中に秘めている信仰心 があれば、必ず報われるということ。 類義隠れたる信あらば頭 あら れたる験 しるo かけいいや やちあい 家鶏を賤しみて野雉を愛す 古いものを嫌い、珍しく新しいものを好むこと。また、身近なものや良いものを嫌い、遠くにあるものや悪いものを好むこと。家で飼っているにわとりを嫌って、野生のきじを珍重する意から。「野雉」は「野鶩やぼく野生のアヒル」ともいう。▼家鶏=身近なものや古いもののたとえ。野雉=野生のきじ。遠くにあるものや新しいもののたとえ。 出晋書しんじょ 里の灸うきゅ○ 補説 太平御覧に引く『晋書』にある語。 類義耳を貴たっぴ目を賤いやしむ。遠きは花の 香。家鶏野鶩かけい。 やぼく 駆け馬に鞭 勢いがついている者を、さらに勢いづけるこ とのたとえ。走っている馬に鞭打って、さら に速く走らせることから。「駆ける馬にも鞭」 「行く馬に鞭」「走り馬にも鞭」ともいう。 類義火に油を注ぐ。薪 たき ぎ に油をそえる。吠 ほ える犬にけしかける。鬼に金棒。飛脚に三 駆けつけ三杯さんばい 酒の席に遅れて来た者に、罰として続けざま に酒を三杯飲ませること。 類義 遅れ三杯。 今入り三杯。 陰で糸を引く 自分は表に出ないで、人を思う通りに動かす こと。人形遣いが後ろから糸を引いて人形を 操ることから。「裏で糸を引く」ともいう。 注意「陰」を「影」と書かない。 陰では殿の事も言う どんな人でも、陰で悪口を言われない人はい ないということ。殿様でさえ、裏に回れば悪 口を言われるという意から。「陰では王様の 事も言う」ともいう。 類義陰では御所内裏だいのことも言う。人 の口に戸は立てられぬ。 陰に居て枝を折る 恩を受けた人に、ひどい仕打ちをすること。 木陰で暑さを避けていた人が、その木の枝を 折ることから。恩人の見ていないところで、 その家の木の枝を折る意からともいう。 対義其その樹を陰とする者は其の枝を折ら ず。木陰に臥ふす者は枝を手折たおらず。 陰になり日向になり 絶えず人を支え助けること。人に知られない <138> かげのかーかごにの ような面からも、表立った面からも、という ことから。「陰日向になる」ともいう。 類義陰に陽に。陰にも日向にも。 用例この間妻はいやな顔一つせず、一言も 不平をいわず、自分は古いつぎだらけの着物 を着ながら、逆に私たちの面倒を、陰になり 日向になって見ていてくれ、貞淑に私に仕え ていたのです。〈牧野富太郎◆牧野富太郎自 叙伝〉 影の形に随うが如し 物には必ず影が付いてまわるように、いつも 離れないようすをいう。「形に影の添う如し」 ともいう。 類義形影相伴う。 かげべんけい うちべんけい そとじぞう 陰弁慶 ↓内弁慶の外地蔵 88 かげな いぬ 影も無いのに犬は吠えぬ 何の根拠もないのに噂うが立つことはないと いうこと。犬は何の気配もないのに吠えはし ないという意から。 類義火の無い所に煙は立たぬ。 かげろう 陽炎、 稲妻、 水の月 手に取ることのできないもののたとえ。また、身軽で動きの早いもののたとえ。いずれも手に取って見ることができないところから。 自分で勝手に苦悩を作り上げ、心の休まると 影を畏れ迹を悪む 出荘子 きがないことのたとえ。自分の影におびえ、 ついてくる自分の足跡をこわがる意から。 レ迹足跡。 故事自分の影におびえ、足跡から逃げ出そうと、足を素早く上下させる者がいた。日陰に入って休めば影は消え、動かなければ足跡もつかないという思慮がなかったために、力尽きて死んでしまったという故事による。 かこう 嘉肴ありと雖も食らわざれば 出礼記らいき その旨きを知らず 立派な聖人賢者の教えも、実際に学ばなければそのよさはわからないことのたとえ。実践することの必要性を説いたもの。どんなにうまい料理であっても、食べてみなければそのうまさはわからないという意から。また、才能のある人も実際に用いなければ、その本当のよさはわからないことのたとえにも用いる。「嘉肴有りと雖も食くせざればその味わいを知らず」ともいう。△嘉肴∥おいしい肴さか、うまい料理のこと。 補説出典では、このあとに「至道有りと雖 も、学ばざれば其の善きを知らざるなり(聖 人の立派な道も、それを実際に学んで身につ けなければ、その真価はわからない)」と続く。 がこうとうぎゅうおあやまぼくどう 画工闘牛の尾を誤って牧童に 100° 出 蘇軾ー書二戴嵩画牛一 無学な人でも自分の専門分野には詳しいか ら、その意見には耳を傾けるのがよいという 笑わる 故事闘牛は尾を股またの間にはさんで戦うの に、尾を立てているように描いてある絵を珍 しがって大事に所蔵していた人が、牧童に笑 われてその絵を燃やしたという故事から。 駕籠かき駕籠に乗らず 仕事でいつも使っている物を、自分のために は使わないことのたとえ。また、他人の面倒 ばかりをみて、自分までは手が回らないこと のたとえ。 類義餅屋餅食わず。医者の不養生。紺屋 こう や の白袴 しろば。 かま 髪結い髪結わず。鍛冶屋の竹火 箸。蓑みの作る人は笠を着る。坊主の不信心。 籠で水汲む いくらやっても効果がないことのたとえ。籠 で水を汲んでも、編み目から水が漏れてしま い、少しもたまらないことから。 類義綱の目に風たまらず。笊ざるに水を入れ る。味噌漉みそこしで水を掬すくう。 かごのひとかつひと 駕籠に乗る人、担ぐ人、その また草鞋を作る人 世の中には、いろいろな地位や境遇の人がい るというたとえ。また、さまざまな人々が互 いに助け合って、世の中が成り立っていると いうこと。駕籠に乗る身分の人もいるし、そ の駕籠を担ぐ人もいる。またその駕籠かきの 履はく草鞋を作る人もいる、という意から。 「駕籠に乗る人、担ぐ人」と略してもいう。 <139> 類義車に乗る人、乗せる人、そのまた草鞋 を作る人。 かごとりくもしたろうちょうくもこ 籠の鳥雲を慕う↓籠鳥雲を恋う695 風上にも置けない 同じ仲間として扱うわけにはいかないという こと。卑劣な者をののしる言葉。悪臭を放つ 物を風上に置いておくわけにいかないという ことから。「風上に置けない」ともいう。 類義 鼻持ちならない。 用例 たわけ者、狸 と姫と区別ができな いか、武士の風上にも置けない奴やっせいば いして姫の仇 を執ってやる」〈田中貢太郎 村の怪談〉 風見が風に吹かれて回転することから。▷風 見‖鳥や船などの形をした風向計。 風下に筧 かざしもざる 苦労しても何の役にも立たないことのたと え。風下に置いた笊で風を防ごうとしても効 果がないことから。 かさちょうちんもど 傘と提灯は戻らぬつもりで貸 せ 傘と提灯は、不必要になると忘れられるから、 戻ってこないつもりで貸せという戒め。 類義提灯と傘はやったつもりで貸せ。 お高くとまって威張っているようすのたと え。風見が高い所に備え付けてあることか ら。また、くるくるとよく回ることのたとえ。 火事あとの釘拾い かごのとーかしのへ 風見の烏 かざみからす 大きな損のあとで少し節約をしても、何の役 にも立たないことのたとえ。火事で家を焼失 したあとで焼け釘を拾っても、何にもならな いことから。「焼け跡の釘拾い」ともいう。 火事あとの火の用心 時機に遅れて間に合わないことのたとえ。火 事を出してしまってから火の用心をしても、 何にもならないことから。「焼けた後の火の 用心」ともいう。 類義 葬礼帰りの医者話。燃えついてからの 火祈禱 ひき。 とう 盗とられた後の戸締まり。生まれ た後の早め薬。 対義暮れぬ先の提灯ちょう。転ばぬ先の杖つえ。 英語Advice comes too late, when a thing is done.事が済んでから忠告されて も遅すぎる ないということ。 貨し借りは他人たにん 親子や兄弟の間柄でも、金銭の貸し借りをす ると、他人同様の冷たい関係になりがちだと いうこと。また、金銭の貸し借りは、親子や 兄弟の間柄でも、他人同様にきちんとすべき だということ。 類義水清ければ魚棲すまず。 類義親子の仲でも金銭は他人。 かしこひととも 賢い人には友がない 賢明すぎる人は近寄り難いので、 か 貨した物は忘れぬが借りた物 は忘れる 人間は自分に都合のよいように考えるものだ というたとえ。人に貸した物は覚えている が、人から借りた物は忘れやすいことから。 類義貸し物おぼえの借り物忘れ。 火事と喧嘩は江戸の花 かじけんかえどはな 大火事と派手な喧嘩は、江戸の二大名物だと いうこと。 補説江戸は人家が密集していたため、明暦 の大火(一六五七年)をはじめ、火事が多かった。また、江戸っ子は気が短く、派手な喧嘩 が多かったといわれる。 類義 火事は江戸の花。江戸の名物は火事、 喧嘩、犬の糞 用例)火事と喧嘩はまた江戸の名物だ、かれ らは携えゆいた二枚半をとばすや否いな、大 空を吾わがもの顔に振舞っておる他の絵風 に己おのが凧をからまし、ここに手練の限りを 尽くして彼これ凧糸の切りあいを試み、以もっ て互いにその優劣を争う、江戸ツ児この生存 競争は早く既に地上のみに行われつつあった のではなかった。〈柴田流星・残されたる江 戸〉 和氏の璧 中国古代の有名な宝玉の名。転じて、すばら 出韓非子 かんびし <140> かしまだーがしんし しい宝石。宝物。↓完璧 かん ペき 167 ∇璧∥宝石。 「たま」とも読む。 注意「壁」を「壁」と書くのは誤り。 故事)中国春秋時代に、楚その卞和 が山中で得た宝石の原石を楚の厲王 したところ、ただの石だと鑑定され、左足を 切られてしまった。次の武王の世になって再 びその原石を献上すると、同じ理由で今度は 右足を切られた。文王の世になって初めてそ の原石の価値が認められ、細工師に磨かせた ところ、すばらしい宝玉になったという故事 による。この璧は後に趙ちの恵文王の手に渡 り、秦しの昭王から十五の城と交換しようと 申し込まれたことから「連城の璧」とも呼ば れる。 鹿島立ち かしまだ 旅行に出発すること。旅立ち。 補説昔、辺境の地の防備に向かう防人 もり が、 鹿島神社(現在の茨城県にある)に参拝して道 中の安全を祈ったことから出たことばという 説、鹿島と香取 かと の二祭神が鹿島を立ち、葦 原中国 あしはらの なかつくに (日本)を平定したことから出た ことばという説がある。 かしやさか おもやたお ひさしか おも 貸家栄えて母屋倒れる↓庇を貸して母 屋を取られる 544 かじや たけひぼし かご かご の 鍛冶屋の竹火箸 駕籠かき駕籠に乗ら ず 138 かじやみようばんこうやあさって 鍛冶屋の明晩↓紺屋の明後日240 華胥の国に遊ぶ 出列子れっし いい気持ちで昼寝をすること。また、そこで 見る夢。▷華胥‖架空の国名。 故事)中国古代の天子黄帝こうが昼寝をしていて、夢の中で「華胥の国」という理想郷で遊んだという故事による。その国は平和で、人々は自然のままに生き、物欲や愛憎もなく、生死にも心をわずらわされず、自由でよく治まっていた。黄帝はこの夢で政治のあり方を悟り、よく国を治めたという。 類義華胥の夢。 かしょばんきんあた家書万金に抵る 出杜甫ー詩し 旅先で受け取る家族からの手紙は、万金の値 打ちがあるほど嬉うれしいものだということ。 ∇家書=家族からの手紙。万金=大金。 補説詩の題名は『春望』。戦乱によって 妻子と離れ離れになった杜甫が、家族からの 音信を待ち望む気持ちを歌った詩の一節で、 「烽火三月ぼつに連なり(戦争ののろし火は何 か月も続き)、家書万金に抵る」とある。 かしらうごおうごあたまうごお 頭が動けば尾も動く頭が動けば尾も うご 動く20 かしらかく おだあたまかくしりかく 頭隠して尾を出す頭隠して尻隠さ ず20 かしらかもさ 頭を懸け股を刺す 出漢書・戦国策 身を苦しめて勉学に励むことのたとえ。苦学 すること。頭を梁はり屋根を支えるために横 に渡した太くて長い材木)から下げた綱に懸 け、股に錐きりを刺して眠気を防ぐことから。 「股」は「また」とも読む。 故事)中国漢の学者孫敬が自分の頭を梁から 下げた綱に引っかけて勉学の途中で眠くなっ て頭が下がると、首が絞まって目が覚めるよ うにして勉学を続けた故事『太平御覧』に引 く『漢書』と、中国戦国時代の蘇秦 そしが、読 書をしていて眠くなると、錐を取り出して自 分の股を刺して眠らないようにしたという故 事(『戦国策』から。 類義 股を刺して書を読む。錐を引いて自ら を刺す。 がしんしょうたん臥薪嘗胆 出史記・十八史略 目的達成のために、長い間努力すること。も とは、仕返しのために、長い間苦労を重ねる こと。薪 たき ぎ の上に寝たり、にがい胆きもを嘗な めたりして、自分を奮い立たせる意から。↓ 会稽かい けい の恥129 ∇臥薪∥薪の上で寝ること。 嘗胆∥肝をなめること。 故事)中国春秋時代、呉王の夫差ふさは、越王 の句践 こう せん に敗れた父の仇あたを討つために、痛 い薪の上に寝て仇討ちの心をかき立て、長い 艱難の末に句践を会稽山かけで降伏させた。 敗れた句践は、復讐ふくしの念を忘れないため に、にがい胆を嘗めて会稽山での恥をそそぐ ことを思い起こし、十数年後、夫差を破った。 用例賛之丞さんのがもっと手強てこい相手だっ たら、当然、おれは躍起となる。うんと腕を みがきにかかる。文字どおりの臥薪嘗胆をや る。仇かたが手強ければ手強いほど、艱苦くが <141> 伴えば伴うほど、大望ということになり、復 讐の念は晴らされる。〈吉川英治◆八寒道中〉 かじんい 歌人は居ながらにして名所を 知る 歌人は、古歌や歌枕の研究によって、行った ことがない名所のことについてよく知ってい るということ。「歌人は行かずして名所を知 る」ともいう。 かじんはくめい 佳人薄命 にも用いる。 美人は、体が弱かったり、美しさゆえに運命 にもてあそばれたりして、不幸せなことが多 いということ。「美人薄命」ともいう。マ薄 命ニ不運。日本では短命の意にも用いられ る。 出蘇軾ー詩そしょくし 補説詩の題名は『薄命佳人』。 類義才子多病。 英語)The fairest flowers soonest fade. いちばん美しい花がいちばん先にしぼむ 用例それはまた天麗れの美質といってよい ほど美しいお方である。佳人薄命ということ ばはそのまま今のお市の方の身の上にあて はまる。〈吉川英治◆新書太閣記〉 かすみ 霞に千鳥ちどり 二つのことをどちらもうまくやろうと考える こと。鋤でつなぎ止めるように、二つのこと をどちらも得ようと考える意から。△鋤ニ二 本の材木をつなぐためのコの字型の釘くぎ。二 つのものをつなぎ止める役目をするものの意 かすがいじあん鋭思案 かじんはーかせぐに あり得ないことや、ふさわしくないことのた とえ。霞は春のもの、千鳥は冬のもので、霞 と千鳥の組み合わせはあり得ず、ふさわしく ないことから。 類義 石に花咲く。 かせいとらたけ 苛政は虎よりも猛し 出礼記 悪政は、虎に食い殺される恐ろしさよりも人 民を苦しめるということ。マ苛政‖租税をき びしく取り立てる苛酷な政治。悪政。 故事孔子が、泰山のふもとの墓で泣いている婦人にそのわけを尋ねると、家族が三人も虎に食い殺されたという。なぜこの地から出て行かないのかと尋ねたところ、この地ではきびしく税金を取り立てるむごい政治が行われていないからだと答えたという故事から。 出春秋左氏伝 河清を俟つ 望みのないものをずっと待つこと。いつまで 待っても無駄なこと。いつも黄土 いる黄河の水が澄むのを待つことから。「百 年河清を俟つ一ともいう。∇河∥黄河。 補説出典には「子駟し日いわく、周詩に之これ 有り、日く、河かの清むを俟つも、人寿幾何 ぱぐぞ(子駟が言った。周の詩にこうある。 濁った黄河が澄むのを待っていては、人の寿 命がいくらあっても足りないではないか」 とある。 類義 百年黄河の澄むを待つ。 出論衡ろんこう 風、条を鳴らさず 世の中が平和で落ちついていることのたと え。木の枝を鳴らすほどの大風も吹かないと いう意から。▷条=小さい枝。 補説出典には風、条を鳴らさず、雨、塊 つち くれ を破らず雨は静かに降って大地にしみこ み、土のかたまりをこわすこともなく」と ある。 風が吹けば桶屋が儲かる 思いがけない影響があるということ。また、 あてにならないことを期待するためとえにもい う。「大風が吹けば桶屋が喜ぶ」ともいう。 補説風が吹く…砂ぼこりが立つ…砂が目に 入り失明する人が増える…(失明した人は三 味線 しゃみ せんを習うから三味線を習う人が多くな る…三味線に張る猫の皮が大量に必要となる …猫が殺される…鼠 ねず み が増える…鼠が桶をか じる…桶屋が繁盛し、儲かるという因果関係 の昔話から出たことば。 英語 It is an ill wind that blows no man good. だれにも利益を吹き与えないような 風は悪い風である おんなくくおとこ様ぎ男に繰り女 外でよく働き金を稼ぐ男性と、家計をうまく やりくりする女性。典型的とされた夫婦の役 割を言ったもの。 かせ お つ びんぼう 稼ぐに追い付く貧乏なし 一生懸命に働けば、貧乏で苦労することはな <142> かせぐにーかたいい いという教え。勤勉の大切さを言ったこと ば。一生懸命に稼いでいれば、貧乏神に追い 付かれることはないという意から。 類義稼ぐに貧乏追い付かず。稼げば身立 つ。 対義稼ぐに追い抜く貧乏神。 英語 Diligence is the mother of good fortune.「勤勉は幸運の母である」 かせ 稼ぐに追い抜く貧乏神 一生懸命に働いても、貧乏から抜け出すことができないということ。稼ぐ速さよりも、追いかけて来る貧乏神のほうが速い意から。稼ぐに追い付く貧乏なし」をもじったもので、「稼ぐに追い付く貧乏神」ともいう。対義稼ぐに追い付く貧乏なし。 意から。 かぜくしけずあめかみあらしっぷうもくう 風に櫛り雨に沐う櫛風沐雨295 補説『新約聖書』マタイ伝などに見えることば。英語では A reed shaken with the wind. 勢いに乗って物事を行えば成功しやすいということのたとえ。風上から呼ぶと、声が遠くまで聞こえることから。 補説出典には風に順いて呼べば、声疾はや きを加うるに非ざるなり。而しかるに聞く者彰 あき かなり風に乗せて呼べば、声が強くなっ たわけではないが、聞く者にははっきりと聞 こえる)とある。 風にそよぐ葦あし 出荀子じゅんし 権力者の言うがままに行動する、定見のない 者のたとえ。風の吹くままに揺れている葦の 風に向かって唾吐く 天に唾す 風の吹き回し かぜふまわ 状況の変化や成り行き次第で、考え方や態度 などが予想外のものに変わること。物事のは ずみ。風の吹く方向がその時々で移り変わる ことから。 風の前の塵 かぜまえちり 物事のはかなくてもろいこと、また、危険が 迫っていることのたとえ。塵は風が吹けば飛 ばされてしまうことから。「風前ふうの塵」と もいう。 類義風の前の雲。風前の灯火 とも。 しび かぜみみすごと 風の耳を過ぐるが如し 5。 風が耳元を吹き抜けて行くように、何の興味 も示さないことのたとえ。無関心なようす。 類義馬耳東風。馬の耳に念仏。 出南齐書 補説詩の題名は『旅中りよち病やまに臥ふす』。 風は破窓を射て灯とう滅し易く、月は疏屋そお を穿うがちて夢成り難し(月の光があばら屋の 破れ目から差し込んで、夢を結びにくい) とある。 わび住まいのたとえ。窓が破れているために 風が吹き込み、灯火が消えやすいという意か 出 杜荀鶴ー詩 風は吹けども山は動ぜず まわりがいくら騒いでも少しも動揺せず、悠 然としているさま。「風は吹けども山は動か ず」ともいう。 風邪は万病の因 かぜまんびょうもと 風邪はあらゆる病気のもとになるというこ と。たかが風邪と軽視してはいけないという 戒め。「風邪は百病の本もと」ともいう。 類義風邪は百病の長 ちょ いぜ 風吹かぬ間の花 かぜふまはな つかの間の栄華のたとえ。また、強い者がい ない間に、おごり高ぶることのたとえ。 風吹けば木安からず 事件が起こると、その影響を受けて人の心も 落ち着かなくなるということ。 かた くち く かた 肩あれば着る 口あれば食い、肩あれ き ば貨る22 ば着る202 聖い石から火が出る ひで まじめでおとなしい人が、時として火の出る ように熱して、思い切った行動をとること。 <143> かた 堅い木は折れる ふだん強情な人が、いったんつまずくと意外 にもろいことや、日ごろ頑健な人が大病にか かって倒れることなどをいう。堅い木は丈夫 そうに見えるが、しなやかでないため、大風 が吹くと折れやすいことから。 類義 木強ければ則 すな わ ち折る。堅い物は破 れる。柳に雪折れなし。 かた 二おり しも ふ いた しも ふ 堅き氷は霜を踏むより至る ↓ 霜を履ん けんぴょういた で堅氷至る301 敵の家でも口を濡らせ どのような場合であっても、礼儀を守れということ。敵の家であっても、礼儀だから、出された食事には口をつけよという意から。「敵の家へ行っても口を濡らさずに帰るな」ともいう。▷口を濡らす‖飲んだり食べたりする意で、もとは酒について言ったことば。 かたきまえしゃつきんまえ 敵の前より借金の前 利益を得られること。 敵の前では平気でいられるが、借金をしてい る人の前では頭が上がらないということ。 類義敵の前は通れるが、借金の前は通れぬ。 さき う のち 難きを先にして獲るを後にす まず人のために困難なことを行い、自分の利 益になることはあと回しにするということ。 また、初めに困難なことを行えば、後でその 出論語ろんご 補説仁徳をそなえた人の生き方について、 孔子が弟子の樊遅はんの問いに答えたことば。 出典には「仁者は難きを先にして獲るを後に す。仁と謂いうべし仁者は骨の折れる仕事を 先に実行し、利益につながることをあと回し にする。これなら仁と言ってよい)とある。 かたくちき かたいきーかたぼう 片口聞いて公事を分くるな もめごとは、原告・被告両方の主張を聞いて から判定を下せという教え。片方の言い分だ けを聞いて訴訟の裁きをしてはならないとい うこと。マ片口=一方だけの言い分。公事 訴訟のこと。 類義 片口聞いて下知 げち をすな。片口聞いて は理が知れぬ。片口聞いて問答すな。両方聞 いて下知をなせ。 かたちうこころう 形は生めども心は生まぬ し。 三人寄れば文殊の知恵。 親と子の顔かたちは似ていても、性質は別で あるということ。 類義 親は親、子は子。子は生むも心までは 生まぬ。 対義 蛙 かえ る の子は蛙。子は親を映す鏡。 かたつむりつのあらそかぎゅうかくじようあらそ 蝸牛の角争い蝸牛角上の争い135 片手で錐は揉まれぬ 協力しなければ、物事を成功させることはできないというたとえ。錐を揉むのには片手ではできないことから。 類義 片手で柏手 かし わで は打てぬ。 孤掌鳴らし難 刀 折れ矢尽く 精魂尽き果てること。転じて、万策尽きるこ とのたとえ。激しい戦いに刀が折れ、矢も すっかりなくなる意から。 出後漢書 類義弓折れ矢尽きる かたなぶしたましい刀は武士の魂 武士にとって刀は、武士の精神が宿るもっとも大切なものだということ。「刀は武士の魂、鏡は女の魂」と続けて用いることが多い。 類義刀は男の魂。大小は武士の魂。 刀を売りて子牛を買う 出漢書 戦いをやめて平和に暮らすことのたとえ。戦 いに必要な刀を売り、農業に必要な子牛を買 う意から。 補説出典には「民の刀剣を帯持じする者(腰につけている者)有れば、剣を売りて牛を買い、刀を売りて犢とくを買わしむ(子牛を買わせた)」とある。 類義剣を売り牛を買う。 片棒を担ぐ 仕事の一部を受け持ち、協力すること。手を 貸すこと。悪いことをしようとする場合に用 いることが多い。 補説駕籠かごをかつぐ二人(先棒 ぼうと後棒あと のうちの一方を「片棒」といい、その片棒を かつぐことから出たことば。 類義 片端 かた はな 持つ。 後棒を担ぐ。 半肩担ぐ。 <144> 一役買う。 かたやか おもやと 片屋貸して母屋取らるる ↓庇を貸して おもやと 母屋を取られる 544 かたやまくも 片山曇れば片山日照る 世の中には、よいことがあれば悪いこともあ るということ。山の片方が曇れば、その反対 側は日が照っていることから。 かたべた話り下手の聞き上手 自分で話すのはあまりうまくないが、人から 話を聞き出すのは上手であるということ。 かた お と かた お 語るに落ちる ♩ 問うに落ちず語るに落 ちる459 かたわひとなごと ぼうじゃくぶじん 傍らに人無きが若し ゅつ かちゅう はな かんげ 花中の鶯舌は花ならずして 若し 周囲の環境がよいと、その中にいるものも自 然によくなることのたとえ。花の中で鳴く鶯 いすの声は、花がにおうように美しく感じられ るという意から。 類義」芝蘭しらの室に入いる如ごとし かちゅうくりひろ 火中の栗を拾う 補説猫が、ずるい猿におだてられて、囲炉 裏の中で焼けている栗を拾おうとして大や けどをし、猿はその栗をうまそうに食べてし まったという『イソップ物語』やラ・フォン テーヌの寓話ぐうから出たことば。 英語 Take the chestnuts out of the fire with the cat's paw. [卻の手で久の中の栗をかき出せ] 夏虫は以て氷を語るべからず せいあ 井蛙は 346 いて海を語るべからず 花鳥風月 自然の美しい景色。また、自然の風物を題材 とした詩歌や絵画などの風流。 類義雪月風花。風流韻事。 せんりそとけっ 勝ちを千里の外に決す 出史記 有能な人材を現場に派遣し、自分は本部で企 画して成果をあげることのたとえ。自分は戦 場から遠く離れた場所にいて作戦を指導し、 勝利を得させることから。 かっ 餓えて死ぬは一人、飲んで死 せんにん ぬは千人 飢え死にする者は少ないが、酒を飲み過ぎて 死ぬ者は非常に多いということ。酒飲みに対 する戒めのことわざ。 りるといっても、実際はもらう結果になると いうこと。 鰹飾と砥石の借入れはない 鰹飾も砥石も使えば減るものだから、人に借 かつおぶし といし かりい 類義 鰹節と巻紙の借入れはない。 はがゆくもどかしいこと。靴の上から痒い 所を掻かく意から。「隔靴掻癢」とも書く。「靴 を隔てて痒きを掻く」ともいう。 類義 掉棒打星 とうぼう。 だせい 一階から目薬。 用例私はいろいろ考えてね。あなたの胃腸 のわるい原因がやっぱり胃腸から吸収される ものによって癒いやされるしかないことを思 い、まことに隔靴掻痒の感です。鉄分とカル シウム分の減退は著しいのだから、どうかど うかその点を御注意下さい。〈宮本百合子 獄中への手紙〉 渇して井を穿つ かっ い うが 出素問そもん 必要に迫られてから慌てて準備しても間に合 わないことのたとえ。のどが渇いてから井戸 を掘るという意から。「渇に臨みて井を掘る」 ともいう。「井」は「せい」とも読む。 補説出典には「乱已すでに成りて(戦乱が起 こってから)後に之これを治めんとするは、譬 たとえば猶なお渇して井を穿ち、闘いて錐すいを鋳 いるが如ごとし(戦闘に臨んで矢の先を鋳造する ようなものだ)とある。 類義飢えに臨みて苗を植うる如ごとし泥棒 を捕らえて縄を綯なう。戦いぐを見て矢を矧ぐ。 合從連衡 その時の利害に従って、結びついたり離れた 出史記しき <145> りすること。また、時勢に応じて巧みに計略 をめぐらす政策、とくに外交政策をいう。「合 縦連衡」とも書く。∇合従Ⅱ縦に合わせる意 で、南北の同盟をいう。連衡Ⅱ横に連なる意 で、東西に連合すること。 補説もとは中国の戦国時代、蘇秦そしの合従 策と張儀ちよの連衡策のこと。「合従」は、西 方の強国である秦しんに対し、南北に並んだ趙 ちよ・魏・韓かん・燕えん・斉・楚その六か国が同 盟して対抗する策。「連衡」は、六か国が別々 に秦と同盟を結び、各国の存立を図る策。 類義合従連横がつしょう。 れんおう 渇すれども盗泉の水を飲まず 出陸機ー詩し どんなに苦しい境遇にあっても、決して不正 は行わないことのたとえ。△盗泉=中国山東 省にある泉。 補説出典の詩の題名は『猛虎行』。晋しの 陸機が、次の故事を「渇すれども盗泉の水を 飲まず、熱けれども悪木の陰に息いこわず(暑 くても悪木と呼ばれる木の陰では休まない) と詠んでいる。 故事孔子が「盗泉」という名の泉のそばを 通りかかったとき、非常にのどが渇いていた が、名前だけでも身が汚れるとして、その水 を飲まなかったという。 類義鷹 たかは飢えても穂を摘まず。虎は飢え ても死したる肉を食わず。武士は食わねど高 楊枝 たかよ。 うじ 悪木盜泉。 用例多くの人々が飢えを感じても食物が欠 かっすれーかっぱも 乏している時に、自ら犠牲となって食を控え ることは、日常にわれわれの実験するところ である。渇すれども盗泉の水を飲まずという 言葉もあり、飢えても信念は変えないという 人もある。多くの場合に自我は食物を取れと 命ずるであろう。〈河合栄治郎◆学生に与う〉 かじまんまこうかい 勝った自慢は負けての後悔 勝ったときに調子に乗って自慢しすぎると、 負けたときに人一倍恥ずかしい思いをするよ うになるということ。 勝って兜の緒を締めよ 物事が思いどおりに運んでも気を許さず、用 心して進めよという戒め。戦いに勝っても油 断せず、心を引き締めよということから。 類義敵に勝ちて愈々 いよ いよ 戒む。 かつ 渇に臨みて井を掘る渇して井を穿つ 144 かっぱ しお あつら 河童に塩を誂える 見当違いの注文をすることのたとえ。川にい る河童に塩を注文するのは、見当違いである ことから。「河童に塩を頼む」ともいう。 類義かわうそに塩を誂える。 類義 釈迦 しか に説法。 孔子に論語。 かっぱ河童に水練すいれん そのことを知り尽くしている人に教える愚か さのたとえ。泳ぎの上手な河童に泳ぎ方を教 えることから。「河童に水練教える」ともい う。∇水練∥水泳の練習。 英語 Teach your grandmother to suck eggs. 君のおばあさんに卵の吸い方を教え よ かっぱ河童の川流れ どんな名人でも、失敗することがあるという たとえ。泳ぎが達者な河童でも、ときには水 の勢いに流される意から。 類義泳ぎ上手は川で死ぬ。猿も木から落ち る。弘法にも筆の誤り。釈迦しにも経の読み 違い。上手の手から水が漏る。 河童の寒稽古 かっぱ かんけいこ つらそうに見えるが、苦しくも何ともないこ とのたとえ。一年中川にいる河童に寒稽古を させても、寒いとも苦しいとも感じないこと から。▽寒稽古‖寒中水泳の稽古。 類義尻への河童。餓鬼がきの断食。 かっぱ河童の屍へ 容易にできること、取るに足らないことのた とえ。「屁の河童」ともいう。 補説河童は水中で屁をするので、力強くな いことから出たことば。また「木端この火簡 単に火がつくが、すぐ燃え尽きる木の削りく ずを燃やした火」がなまってできたことば ともいう。 かっぱ いちど かわなが 河童も一度は川流れ 何事も最初から上手な人はおらず、下手から 始めるものだということ。泳ぎの上手な河童 <146> でも、初めのころ一度は溺 れることもある という意から。 類義端はなから和尚おしはない。 かつもくあいま 刮目して相待つべし 出三国志・注 先入観を捨てて、新しい目で相手を見直さな ければならないということ。∇刮目=目をこ すってよく見ること。 補説出典には「土別れて三日ならば、即 ち更に刮目して相待つ(士である者は別れて 三日たったならば必ず進歩しているから、目 をこすって見直さなければならない)」とあ る。↓吳下の阿蒙 あも う 242 かつもくこれみかつもくあいま 刮目して之を視る↓刮目して相待つべ し146 勝つも負けるも時の運 かまときうん 勝負は、その時々の運によって決まることが 多い。技量や日ごろの努力だけではどうにも ならないところがあるということ。「勝つも 負けるも運次第」「勝負は時の運」ともいう。 補説多くは、精一杯努力したが不運にして 負けた人への慰めのことばとして用いられ る。 えて気力を起こさせる。気絶した人の息を吹 き返させる意から。 類義勝つも負けるも軍の習い。 活を入れる 注意 「活」を「喝」と書くのは間違い。 類義 気合を入れる。発破をかける。 楬を被て玉を懐く かつきたまいだ 優れた才能や見識を備えていることのたと え。粗末な服を着ているが、ふところには美 しい宝玉を抱いている意から。△褐∥粗末な 衣服。 英語Underarragged coat lies wisdom. ぼろ服の下に知恵が横たわっている 出老子ろうし かんぐんまぞくぐん 勝てば官軍、負ければ賊軍 勝敗によって正邪善悪が決まるということ。 戦いに勝った者が正義となり、負けた者は不 正となる意から。略して「勝てば官軍」だけ で用いられることもある。 補説明治維新のときに生まれたことば。 類義力は正義なり。無理が通れば道理引っ 込む。泣く子と地頭には勝てぬ。小股 取っても勝つが本ほん。 英語Might is right. [力は正義である] Successful in passes for virtue. [罪も成功すると徳として通る] かてす糧を捨てて船を沈む 出史記しき 決死の覚悟で戦いにのぞむことのたとえ。 故事)楚その項羽こうが鉅鹿きよの戦いで、連敗 した部下を救援するために、最後の兵を率い て参戦したとき、黄河を渡り、「船を沈め釜 飯ふそを破り廬舎ろしを焼き三日の糧を持して以 もって士卒に必ず死して一も還かえる心なきを示 す(船をみな沈め、炊事道具を壊し、宿舎を 焼き払い、三日分の食糧だけを持たせて全軍 に誰一人生還を期せぬ覚悟を示し)、激戦の 末、秦しの軍を大破したという故事による。 類義川を渡り船を焼く。釜を破り船を沈む。背水の陣。 かててき糧を敵に借る 対立者を巧みに利用することのたとえ。敵の 食糧を奪って使うことから。 我田引水 自分に都合のいいように言ったり行動したり すること。自分に都合のいいように物事を取 りはからうこと。自分の田だけに水を引き入 れる意から。「己のが田へ水を引く」「我が田 へ水を引く」ともいう。 英語 Every miller draws water to his own mill. 粉屋はだれもが自分の粉ひき場 入水を引く 出古楽府こがふ 瓜田に履を納れず 瓜田に履を紈れず 古楽府 人に疑われるような行為は避けよという戒 め。瓜畑で靴が脱げても、瓜泥棒と疑われる 恐れがあるので、かがんで靴をはき直さない という意から。「瓜田に履を納 おさ めず」とも いう。 ∇履を納れず 足を靴に入れないとい う意。 補説題名は『君子行くんし』。出典には『君子は未然に防ぎ、嫌疑けんの間かんに処らず立派な人間は事件が起こる前に予防措置をとり、 <147> あらぬ疑いをかけられるような立場に身を置 かない)、瓜田に履を納れず、李下りに冠を 正さず(李 も の木の下では、冠が曲がったか らといって手を上げてかぶり直すことをしな い)」とある。 類義 李下に冠を正さず。 瓜田李下。 がとうかたわらあたにんかんすい 臥榻の側、豈に他人の鼾睡を 容れんや 出十八史略 自国以外の国の独立を許さないこと。あくまでも天下を統一する意図があることのたとえ。自分の寝台のそばで、高いびきをかいて眠っている他人を許すわけにはいかないという意から。宋そうの太祖の言葉。▷臥榻‖寝台。鼾睡‖いびきをかいて眠ること。 補説天下の統一を決意した宋の太祖が、江 南の使者の休戦申し入れに対して怒って答え たことば。出典には「上(太祖)怒り、剣を 按あんじて(剣の柄に手をかけながら)日いわく、 多言を須もちいず(つべこべ言う必要はない)、 江南亦また何の罪か有らん(江南の人には何の 罪もない)、但ただ(とにかく)天下は一家なり。 臥榻の側、豈あに他人の鼾睡を容れんや」とあ る。 河東の獅子吼 かとうししく 出蘇軾ー詩そしょくし 口やかましい妻が、夫に向かってがみがみ言 うのを皮肉ったことば。黄河の東岸でほえ立 てる獅子の鳴き声という意から。∇河東∥黄 河の東岸。獅子吼∥獅子のほえる声。転じ て、すべてを恐れさせる釈迦かの説法。 がとうのーかなえの 補説詩の題名は『呉徳仁 に寄せ兼 か ねて 陳季常 ちんき じょう に簡かんす』。蘇軾(蘇東坡 そと うば の友人 陳季常の妻は河東の出身で、口やかましくて 嫉妬深く、来客がせっかく楽しく談論してい る前でも、夫をどなりつけるくせがあった。 そこで蘇軾が、熱心な仏教徒の陳季常をから かって、仏典の語を使い、妻の声を獅子のほ えるのにたとえて作った詩。 かどまつめいどたびいちりづか 門松は冥途の旅の一里塚 門松はめでたいものだが、正月を迎えるごと に年をとって死に近づくことも意味するの で、死への旅の一里塚のようなものだという こと。∇冥途∥あの世。「冥土」とも書く。 一里塚∥昔、街道に一里(約四キロメートル) ごとに土を高く盛り、松や榎 えの き を植えて距離 の目じるしとした塚。 補説一休和尚 いっきゅう おしょう の狂歌だといわれ、あ とに「めでたくもありめでたくもなし」と続 く。 家内喧嘩は貧乏の種蒔き かないげんか びんぼう たねま 家庭の不和は、貧乏のもとであるということ。 類義夫婦喧嘩は貧乏の種蒔き。家内の不和 は貧乏神の定宿 じょう。 やど かなえあし お こう こながき くつがえ 鼎足を折り公の餗を覆す 実力のない者を大臣に登用すると、その任に 堪えず、国政を乱し、また王位を傾けること のたとえ。かなえの足が折れ、中に盛ったご 出易経えききよう ちそうをこぼすことから。▽鼎=古代中国で 食物を煮るのに用いた三本足の青銅器。宗廟 そうび ようにけにえを祭る礼器。公の餗=かなえ に盛った三公が食べる食物。こながき(かゆ の類)。天子が天地の神をまつり、賢人を供 応するごちそう。 一鼎の軽重を問う 出春秋左氏伝 統治者を軽んじてこれを滅ぼし、代わって天 下を取ろうとすること。また、人の能力を疑 うこと。「鼎の軽重が問われる」という形で 用いることが多い。∇鼎=古代中国で食物を 煮るのに用いた三本足の青銅器。帝王の位や 権威の象徴とされた。 故事)中国春秋時代、周が衰えた定王のときに、楚その荘王が天下を取ろうとする野心を抱き、定王を侮って無礼にも周の王室の宝物である九鼎きゅうていの軽重を問う(帝位のしるしである、かなえの大きさと重さを尋ね)て周王室の権威をないがしろにして暗に王権の委譲を迫ったという故事による。 用例もし、この二人が坂田に敗れるとすれば、折角せつ争い獲とった名人位も有名無実なものとなってしまうだろう。つまりは、坂田対両八段の対局は名人位の鼎の軽重を問うものであった。花田・木村としては負けるに負けられぬところであった。〈織田作之助◆聴雨〉 かんじょ 鼎の沸くが如し 出漢書 かなえの中で湯が沸騰するように、群衆が騒 ぎ立てるようす。また、議論がわき起こって <148> 世の中が混乱するさま。△鼎=古代中国で食 物を煮るのに用いた三本足の青銅器。 補説出典には「今群下(多くの群臣たちは) 鼎の沸くごとく、社稷 しゃし よく 将まさに傾かんとす (国家はまさに危機に瀕ひんしている)」とある。 かなえあ 鼎を扛ぐ 出史記しき 非常に力が強いことのたとえ。重い鼎を一人 の力で持ち上げることから。▽鼎=古代中国 で食物を煮るのに用いた三本足の青銅器。扛 ぐ=重い物を両手で持ち上げること。 類義彼方あち立てれば此方こちが立たぬ。 かな悲しい時は身一つ 苦境に陥ったときに頼りになるのは自分だけ だということ。「悲しい時は身一心いい」とも いう。 類義苦しい時は身一つ。悲しければ身一つ。 かな 悲しみは生別離より悲しきは 莫し 出楚辞 人生でもっとも悲しいのは人と生き別れにな ることだということ。∇生別離∥生き別れ。 補説出典には、このあとに「楽しみは新相 知 しんそ うち より楽しきは莫し(新たに互いに心を知 り合うより楽しいものはない)と続く。 かなた こなた 彼方によければ此方の恨み あちらの人によいと思ってしたことが、こち らの人には恨みのもとになる。どちらの人に もよくすることは難しいということ。 かなづち鉄槌の川流れ 下積みで頭が上がらないこと。また、頭角を 現すことがない人のたとえ。鉄槌は頭の部分 が重く、川の中では頭が下になることから。 「金槌の身投げ」ともいう。 類義金槌の川流れで浮かぶ瀬がない。金槌 の川流れで頭が上がらぬ。 かな とき おや だ 叶わぬ時には親を出世 言い訳などに困ったときには、親を引き合い に出して口実を作れということ。 類義苦しい時には親を出せ。 かな とき かみだの くる とき かみだの 叶わぬ時の神頼み 苦しい時の神頼み 209 かにこうとしこうかめこうとしこう 蟹の甲より年の劫♩亀の甲より年の劫 155 もある。 蟹が泡を吹いているように、いつも口の中で ぶつぶつとつぶやいているようすのたとえ。 かによこば 蟹の横這い かに蟹の念仏ねんぷっ 他人から見れば不自由そうに見えても、本人にはそれがもっとも都合がよく、楽であることのたとえ。蟹が横向きに歩く姿は、ぎこちなく見えるが、蟹にとってはそれが自然な歩き方であることから。「蟹の横這い」の前またはあとに「猿の木登り」をつけていうこと かにこうらにあなほ 蟹は甲羅に似せて穴を掘る 人は自分の身分や力量に応じた言動をするものだということのたとえ。蟹は自分の甲羅の大きさに合わせて穴を掘り、すんでいることから。小人物の言動を批判的にいうことが多い。「蟹は甲に似せて穴を掘る」ともいう。類義一升枡に二升は入らぬ。鳥は翼にしたがって巣を作る。 英語 Cut your coat according to your cloth.「布に応じて衣服を裁たて」 かみ科に盈ちて後進む 学問をする場合は、手抜きをせずに一歩一歩 進むべきだという教え。水の流れは、くぼみ があればまずそこを満たした後、先へ流れて 行くことから。∇科∥くぼみ。盈つ∥いっぱ いになる意。 補説出典には、孟子のことばとして「原泉 混混こんとして昼夜を舎かず(水は源泉からこ んこんと湧き出して昼も夜もやむことなく流 れ)、科に盈ちて後進み、四海に放いたる(四方 の海に達するのだ)とある。 かねい鐘銹るまでの土鋳型 目的を達成するまでの手段として用いる物。 また、成功するまでは粗末な物でがまんする こと。鐘ができてしまえば不要になる鋳型で も、鐘ができあがるまでは必要なものだとい うことから。「鐘鋳るまでの泥どろ鋳型」とも いう。 <149> かねう ひとう 金請けするとも人請けするな 借金の保証人にはなっても、身元保証人には なるなという教え。「金請けに立つとも人請 けに立つな」「借り受け人に立つとも人請け 人に立つな」ともいう。△金請け∥借金契約 の際の保証人。人請け∥奉公人・雇人 やとい にん な どの身元保証人。 金が言わせる旦那だんな 旦那、旦那と、ちやほやされるのは、その人 の人柄がよいからではなく、持っている金が 言わせているのだということ。 類義金さえあれば行く先で旦那金は威光 の元金が言わせる追従 ついし。 よう 金が敵 かね かたき 金でさまざまな苦労をし、身を滅ぼすことに もなるということ。また、敵をさがしてもめ ぐり合うのが難しいように、金は手に入りに くいということ。 金が金を儲ける 持っている金が元手になり、さらに金が増え ていくこと。「金が金を溜ためる」ともいう。 類義金が金を呼ぶ。金が子を生む。 二利子。 英語 Money begets money. [金が金を生む] 類義金が金を儲もうける。金が金を呼ぶ。 金が子を生む かねこう 金銭を預金したり人に貸したりすれば、次々 と利子がついて増えていくということ。∇子 かねうけーかねのき 金が物言う 金さえあれば、世の中のたいていのことは解 決できるということ。 類義地獄の沙汰 も金次第。金さえあれば 飛ぶ鳥も落ちる。金の光は七光。金の光は阿 弥陀 あみ ほど。成るも成らぬも金次第。 かねととりお かね ととりお 金さえあれば飛ぶ鳥も落ちる 世の中のことは、金さえあればどんなことで もできるということのたとえ。 類義成るも成らぬも金次第。金が物言う。 金宝より子宝 こだからこす たから 255 金で面を張る 金銭の力で相手を手なずけたり、服従させた りすること。△面=顔。張る=平手で打つ。 類義小判 こば ん で面張る。札さっで面張る。 英語 A dog will not cry if you strike him with a bone. 骨で打てば、犬は鳴かない 金と塵は積もるほど汚い金持ちと灰 吹きは溜まるほど汚い151 金と水とは世界の湧き物金は湧き物 150 金に糸目を付けぬ 惜しげもなく金をどんどん使うこと。金が飛 ぶように出ていくのを、糸目を付けない凧たこ が風にまかせて飛んで行くのにたとえたこと ば。▶糸目‖凧に付けて、上がり具合を調整 するための数本の糸。 類義金に飽あかす。 用例みすみす名の知れない金を百両出すの も業腹だという面かおをするものもありまし た。百両で若主人の身体だが釣替つりえになれ ば安いものだといって、望月もちの家では金に は糸目をつけないという色を見せました。 〈中里介山◆大菩薩峠〉 金に親子はない おやこ なか きんせん 親子の仲でも金銭は たにん 他人 122 金の貸し借り不和の基 かねかかふわもとかねかとも うしな 金を貸せば友 を失う151 金の切れ目が縁の切れ目 かねきめえんきめ 金のあるうちは親しくつき合うが、金がなく なると相手にしなくなるということ。特に男 女の間柄にいうことが多い。 類義愛想づかしも金から起きる。 英語 Love lasts as long as money endures. 恋愛は金が続く限づ続く So long as fortnines its at the table friends sit there. 富がテーブルについている限り、友 人もそこに座っている 用例腹が減っては恋愛も一向ふるわなくなる。パンと酒なければ恋また冷やかなりとローマのホラチウスは多分いった筈はずだが、金の切れ目が縁の切れ目なることはあにただ <150> かねのくーかねはわ に売女 ばいた のみに限ったものではない。 〈辻 潤◆ふもれすく〉 鉄の鎖も引けば切れる どんなに強い人でも、頼りにならないことが あるということ。また、どんなに意志が堅い 人でも、誘惑に負ける場合があることのたと え。どんなに困難なことでも、努力すればで きないことはないというたとえにも使われ る。「金鎖かなぐさりも引けば切れる」ともいう。 金の光は阿弥陀ほど 金のもつ威力は、阿弥陀さまのご利益と同 じくらいの力があるということ。金銭の力が 絶大であることのたとえ。マ阿弥陀ニ極楽浄 土ごくらくで、すべての人々を救おうと誓いを立 てているとされる仏。 類義金の光は七光。銭は阿弥陀ほど光る。 金は仏ほど光る。銭ある時は鬼をも使う。 かねひかりななひかり 金の光は七光 金銭の持つ威力が広く遠く及ぶこと。金のお かげで人から尊敬され、丁寧に扱われること をいう。▷七光‖主君や親などの威光が広く 及んでいて、家来や子がその恩恵を受けるこ と。 類義金が物言う。金さえあれば飛ぶ鳥も落 ちる。地獄の沙汰も金次第。 に冷たく非情に見える人にも、一度は助けを 求めてみるとよいということから。 金の棒にも縋ってみよ 類義 黄金刀 こがね がたな も乞うて見よ。 てみるとよいということ。金属製の棒のよう 鉄の草鞋で尋ねる 根気よく歩き回って探すことのたとえ。いく ら歩いてもすり減らない鉄製の草鞋をはいて 探し求める意から。「金の草鞋で捜さがす」金 の足駄あし だ で尋ねる」ともいう。 補説多くの場合、下に打ち消しの語を伴って、手に入れ難いという意味を表す。 類義鉄の下駄で尋ねる。 用例若勢を頼みたくても、男という男がみ んな田圃たんからひッこぬかれて行ってしまっ ているこのごろ、金の草鞋でさがし廻まわって もみつからなかった。それで、武三をこれま で通りに置いて呉くれるよう、父親の竹松に 再三再四拝まんばかりに頼んだが、竹松はど うしても首をタテに振らなかった。〜伊藤永 之介◆押しかけ女房 金は命の親、命の敵 対義金は片行き。 金のために命を助けられることもあるが、逆 に、金のために命を落とすこともあるという こと。 類義金が敵。 金は浮き物かねうもの 金は一人の所にとどまっていないで、人から 人へ渡るものだということ。 類義 金銀は回り持ち。金は天下の回り持ち。 金は片行き 金は、ある所にはたくさんあるのに、ない所 にはまったくないということ。▷片行き∥あ る一方向へだけ、かたよって行く意。 類義金と子供は片回り。 対義金は浮き物。金銀は回り持ち。金は天下の回り持ち。 金は三欠くに溜まる 義理と人情と交際の三つを欠くぐらいでなけ れば、金は溜まらないということ。 類義金は不浄に集まる。 金は天下の回り持ち かねてんかまわも 金は一人の持ち主の所にとどまっていない で、人から人へ渡っていくものだということ。 「金は天下の回り物」「金は世界の回り持ち」 「金は世界の回り物」ともいう。 類義 金銀は回り持ち。金は浮き物。宝は国 の渡り物。 対義金は片行き。 英国Money is a great traveller in the world.金は世界の偉大な旅人である 金は湧き物 金は、意外なときに思いがけない所から手に 入るものだから、金がなくても心配するなと いう励まし。「金は湧く物」ともいう。 類義金銀は湧き物。金と虱は湧き物。銭 金は湧き物。金と水とは世界の湧き物。宝は <151> 湧き物。金は天下の回り持ち。 対義金は片行き。金は三欠くに溜たまる。 しやまい 金儲けと死に病に易い事なし 金を儲けるのは、死病の苦しみと同様にたい へんなものだということ。 類義金はあぶない所にある。金を取る病と 命を取る病はこわい。 かね鐘も撞木の当たり柄 こちらの接し方によって相手の出方も違って くるということ。また、夫婦は、相手次第で 人生がよくも悪くもなるということ。鐘の音 の善し悪しは、それをたたく撞木の当たり具 合によるということから。▷撞木=鐘や鉦 をたたいて鳴らすための丁字型の棒。 金持ち金を使わず かねもかねつか 大事。金持ち舟に乗らず。 英語 Agree, for the law is costly. [折り合 え、訴訟は金がかかる] 金持ちは、とかくけちなものだということ。 また、金持ちはむだな金を使わないというこ と。このあとに「槍持もち槍を使わず」と続 けていう場合もある。 類義弁当持ち先に食わず。 英語Poor and liberal, rich and covet- ous.貧乏人は気前よく、金持ちは強欲 かねもけんか 喧嘩をすれば損をするばかりだから、金持ち は人と争わないものだということ。また、有 利な立場にいる者は、小さなことにはこだわ らないことのたとえ。 金持ち喧嘩せず 金持ちと灰吹きは溜まるほど きたな 汚い かねもうーかのもと 金持ちは財産が増えるほど、欲が出てけちになるというたとえ。灰吹きはたばこの吸いがらが溜まるほど汚くなり、金持ちも金が溜まるほど心が汚くなるということから。「吝しわん坊と灰吹きは溜まるほど汚い」ともいう。∇灰吹き∥たばこ盆についている吸いがら入れの筒。 類義金と塵ちりは積もるほど汚い。 英語 As the carl riches he wretches. は金がたまるとけちになる Muck and money go together. 「糞くそと金とは足並み が揃う」 金持ちの貧乏人、貧乏人の金 持ち 金持ちは欲が深くて、いつもまだ足りないと 思っているから、心の貧しい貧乏人であり、 貧乏人は少しの金でも満足しているから、心 は常に満ち足りて金持ちだということ。 鉦や太鼓で捜す かねたいこさが 大勢で大騒ぎして捜し回る。昔、迷子を鉦や 太鼓をたたいて捜し回ったことから。△鉦= 青銅などで作った円盤型の打楽器。 注意「鉦」を「鐘」と書き誤らない。 類義鉄かねの草鞋わらで尋ねる。草の根を分け ても捜す。 用例四郎のような抜けめのない利巧な人間 は世の中にはありあまって困るくらいだ。し かし、源太はいない。鉦や太鼓で探しても源 太は寥々りようとして虚むない。伊丹万作・余 裕のことなど 金を貸せば友を失うかね 金を貸すと、その金をめぐって友とも不和と なりやすくなるという戒め。 補説 英語では Lend your money and lose your friend. 類義金の貸し借り不和の基もと。貸し借りは 恨みの種蒔まき。 かねつかものひとみしかおもの 金を攫む者は人を見ず鹿を逐う者は やまみ 山を見ず 284 が 蛾の火に赴くが如し 蛾が火に吸い寄せられるように、自分から進 んで危険なことに関係することのたとえ。 類義飛んで火に入る夏の虫。飛蛾ひがの火に 赴くが如し。 出ず 貨の悖りて入る者は亦悖りて 出大学 だいがく 不正な手段で入手した財貨は、つまらないことのために使い捨てられてしまうものだということ。「貨」は「たから」とも読む。△悖 <152> かはしゅーかぶをま る‖道理や法則にそむくこと。 類義悪銭身に付かず。 寡は衆に敵せず 少数のものは多数のものに抵抗しても、かな わないということ。↓衆寡敵せず305 △寡∥ 少ないこと。衆∥多いこと。 補説出典には「寡は固もより以もって衆に敵 すべからず、弱は固より以て強に敵すべから ず(寡はもちろん衆にかなわず、弱い国はも ちろん強い国にかなわない)とある。 類義多勢に無勢。 対義 寡を以て衆を制す。 かろうのうし 稼は老農に如かず、圃は老圃 にし にし ルず に如かず 直接たずさわっている者が、そのことについてはもっともよく知っていることのたとえ。農業の仕事は老練な農夫に聞くのがいちばんよいという意から。マ稼=穀物を植えること。圃=畑。老圃=農事に老練な者。 出 論語 ろんご 補説出典には、孔子と弟子の樊遅 話で、樊遅が「稼を学ばん」と言うと、孔子 が「吾われは老農に如かず」と答え、「圃を為 るを学ばん」と言うと「吾は老圃に如かず」 と答えた、とある。 類義餅は餅屋。 ること。古くなった食物に徴が生えて食べら れなくなることから。 徴が生える かびは 古くなって使い物にならなくなること。また、使われないまま古くなって時代遅れにな 用例今日私にとっては、こんな問題はもは やカビが生えて古臭く、なんの興味もありゃ しない。〈牧野富太郎◆植物一日一題〉 類義苔こけが生える。 禍福己による 行いによるものだという教え。 栀わざ や幸福は、すべてその人自身の心がけや 類義 禍福は門なし唯 ただ 人の招く所なり。 あさな なわこと 一禍福は糾える縄の如し 出史記 人間の幸福と不幸、成功と失敗はより合わせ た一本の縄のように表裏をなしているものだ ということ。△禍福∥災いと幸福。糾う∥縄 などをより合わせる意。 補説出典には「禍に因よりて福と為なる。成 敗(成功と失敗・勝負)の転ずるは、譬たとうれ ば糾墨ぼく(より合わせた縄)の若ごとし」とあ る。 類義人間万事塞翁 が馬。沈む瀬あれば浮 かぶ瀬あり。吉凶は糾える纒なわの如し。禍は 福の倚よる所、福は禍の伏する所。 英語 Sadness and gladness succeed each other. 悲しみのあとには喜びが、喜 びのあとには悲しみがやってくる かふくもん ただひとまねところ 禍福は門なし唯人の招く所な 出春秋左氏伝 災いや幸福は定まった入り口から入るわけで はない。悪い行いをすれば災いが、よい行い をすれば福が来るので、幸不幸は結局その人 自らが招くものなのだということ。 類義禍福己 による。禍福門を同じくす。 福は己より発し、禍わざは己より生ず。禍の来 きたるや人自ら之これを生じ、福の来るや人自ら 之を成す。 降参すること。自分の力が相手に及ばないの を認めることのたとえ。昔、戦場で武士が戦 いに敗れて降参するときに兜を脱いだことか ら。 類義軍門に降くだる。 かぶり馬にも合い口人食い馬にも合 い口550 かぶまもうさぎま 一株を守りて兎を待つ出韓非子 古い習慣にこだわり、進歩がないことのたと え。また、偶然成功した経験に味をしめて、 もう一度同じ方法によって成功しようとする ことのたとえ。「株」は「くいぜ」または「しゅ」 とも読む。 故事昔、中国宋の国の農民が、兎が走って来て木の切り株に当たって死んだのを拾って以来、畑仕事をやめて毎日切り株を見張って兎を捕ろうとしていたという故事による。類義いつも柳の下に泥鱈は居らぬ。守株しゅ。能なしの能一つ。琴柱に膠にかす。舟に刻みて剣を求む。 用例 十人は十人の因果を持つ。 羹 あつ もの に懲こ <153> りて膾 なま す を吹くは、株しゅを守って兎を待つと、 等しく一様の大律たいに支配せらる。〈夏目漱 石・虞美人草〉 画餅に帰す 出三国志 計画が失敗して、だめになること。また、む だな骨折りに終わること。絵に描いた餅は食 べられないことから。「画餅に属す」ともい う。「画餅」は「がへい」とも読む。 故事)中国魏の文帝が官吏を登用する際に 「人を選び推挙するときは、世の中の評判に 左右されてはならない。世間の評判などとい うものは地面に描いた餅のようなもので、食 べることもできず、役に立たないからだ」と 言ったという故事による。 類義絵に描いた餅。 壁に馬を乗りかける 急に行動を起こし、それを無理に押し通そう とすることのたとえ。また、予期しない困難 に出会い、うろたえるようすのたとえ。 隠し事はとかく漏れやすいから、注意せよという戒め。こっそり話しているつもりでも、だれかが壁に耳をつけて聞いているかもしれないし、だれかが障子に穴をあけてのぞいているかもしれないという意から。「壁に耳」ともいう。 壁に耳あり障子に目あり 類義天に口あり地に耳あり。石に耳あり。 壁に耳垣に目口。昼には目あり夜には耳あ り。闇夜やみに目あり。 がべいにーかまをや 英語 Some hear and see him whom he hears and sees not. こちらでは聞きも見 もしていないのに、あちらでは聞いたり見た りしている者がいる 損失や失敗は、失敗と同じ分野のもので取り 戻すべきだということのたとえ。壁にあいた 穴は、同じ壁土で塞ぐのがもっともよい方法 だということから。「壁は壁で塞げ」ともい う。 かべあなかべふさ壁の穴は壁で塞げ 類義壁の繕つくいは土でなければできぬ。 かヘうか せいけいざっき 壁を穿ちて書を読む 出西京雑記 貧しさの中で学問に励むことのたとえ。貧し いので、壁に明かり取りの穴をあけて読書す ることから。 故事中国前漢の匡衡 こう は学問に励んでい たが、家が貧しく灯火がなかったので、壁に 穴をあけ、隣の家から洩れてくる光で読書を したという故事による。 類義 蛍雪 せつ の功を積む。 果報は寝て待て 幸運は自分の力で求めようとして得られるものではないから、あせらずに運が向いてくるのを待つのがよいということ。「運は寝て待て」「福は寝て待て」ともいう。 類義 待てば海路の日和あり。 対義 蒔まかぬ種は生えぬ。 英語 There is luck in leisure. 好運は暇 なときにある 用例新蔵はやはり泰はたさんの計画と云いう のが気になるので、もう一遍いい昨日のように、 一体何をどうする心算つもなんだ」と尋ねま すと、相手は例の如ごとく澄ましたもので、「も う一日辛抱し給たまえ。明日の今時分まで にや、きっと君にも知らせられるだろうと思 うから。ーまあ、そんなに急がないで、大 船に乗った気で待っているさ。果報は寝て待 てって云うじゃないか」と、冗談まじりに答 えました。〈芥川龍之介◆妖婆〉 かまどしょうぐん 竈将軍 家族に対してだけ威張る主人のこと。また、 家庭の中で権力をふるう横暴な妻にもいう。 ▷竈=なべやかまをのせて食物を煮たきする 設備。転じて、独立して生計を立てる一家、 世帯の意。 がまにちやなひとこれき 蝦蟆は日夜鳴けども人之を聴 かず 出墨子ぼくし おしゃべりな者は人に軽視されることのたと え。ひきがえるは日夜やかましく鳴くが、そ れを聞いて楽しむ人はいないという意から。 補説出典には「墨子日いわく、蝦蟆蛙黽あぼう や青がえる)、日夜恒つねに鳴き、口乾き舌擗 くるし(口が乾き舌が苦しくなっても)、而しかれ ども聴かず」(太平御覧」に引く「文子ぶん」) とある。 かまやぶふねしずふねしずかまやぶ 釜を破り船を沈む船を沈め釜を破る 584 <154> 噛み合う犬は呼び難し あいぬよがた 何かに夢中になっている者は、他人から何を 言われても耳に入らないということ。闘って いる犬は、いくら呼んでも耳に入らないという 意から。 類義 闘う雀 すず め 人を恐れず。 争う雀人を恐れ ず。 取りつくしてしまう」とある。 かみきよ 上清ければ下濁らず 上に立つ人が正しい行いをすれば、下の人々 も不正を行わないということ。 かみこきかわはい 紙子着て川へ入る 無謀なことをして、自ら破滅を招くことのた とえ。紙子を着て川へ入れば、紙子がだめに なるのはわかっているのに、そんな無分別な ことをすることから。「紙子着て川へはまる」 ともいう。△紙子=和紙で作った衣服。 類義紙子着て川立ち。土仏の水遊び。 かみ 上、 材を求むれば臣は木を残 う 神様にも祝詞 かみさま のりと 上に立つ者の不用意な言動が、下の者の度を こえた行動を引き起こし、ひどい弊害を生じ ることがあるというたとえ。君主が少しばか りの材木を求めると、臣下は気に入られよう として大木をむだに切り倒すという意から。 相手がわかっていることでも、口に出したほ うがよいということのたとえ。神様でも、お 祈りのことばを言わなければ、願いごとが通 じないという意から。 出淮南子えなんじ 類義神へも物は申しがら。 袢を着た盗人 かみしも おすひと 私腹を肥やす役人のこと。礼装を着て盗みを 働く者という意から。マ裃ニ江戸時代の武士 の礼装。 類義衣冠の盗とう。 かみすてばな 紙漉きの手鼻 人のためにばかり物を作り、自分ではそれを 使わず不自由することのたとえ。和紙を漉く 職人が、紙を使わないで手で鼻をかむことか ら。「紙漉き屋の手鼻」ともいう。 類義紺屋 こう や の白袴 しろば。 かま かみそり ほうこうにんつか 剃刀と奉公人は使いよう 使い方の上手下手で効果がはっきりと違うこ とのたとえ。剃刀は使い方によってよく切 れ、奉公人は使いようでよく働くことから。 類義奉公人と鋏はさは使いようで働く。 る「刀の刃を歩む」ともいう。 失敗したら大きな痛手を受けるような、非常 に危険な行動のたとえ。鋭利な剃刀の刃の上 を行く意から。「刀の刃渡り」「剃刀の刃を渡 かみそり剃刀の刃渡りはわた かみいおご上に居て驕らざれば高くして 出孝経こうきょう 上に立つ者が、おごり高ぶることがなければ、 その地位がどんなに高くても危険なことはな いということ。「居て」は「在りて」ともいう。 かみまじへつらしもまじ上に交わりて諂わず、下に交 出揚子法言 わりて騒らず 地位や身分の高い人に対しておべっかを使わ ず、低い人に対して威張らないこと。△諂う ‖相手に気に入られようとして、おべっかを 使うこと。驕る‖高ぶった態度をとること。 補説出典には「上に交わりて諂わず、下に 交わりて驕らざれば、則 すな わ ち以もって為なすこ と有ぁるべし(そういう人は将来、何か事を成 すことができる立派な人物だ」とある。 かみこのところしも 上の好む所、下これよりも甚 だし 出孟子もうし 下の者は上の者の人徳次第でどうにでもなる ということ。人の上に立つ者が好むことは、 下の者がそれ以上に好むことから。 補説出典には「上好む者有れば、下必ず焉 これより甚だしき者有り。君子の徳は風なり (風のようなものだ)。小人 しよう じん の徳は草なり (草のようなものだ)。草これに風を尚くわ うれ ば、必ず偃ふす(草‖小人は、風‖君子になび <155> いて伏し倒れ、どのようにでも感化される」とある。 神の神庫も梯のままに に「神は非礼を享ぅけず」とある。 類義仏神 しん 非礼を受け給わず。 出 日本書紀 にほんしょき 一見困難と思われることでも、適切な手段を 用いれば、実現できることのたとえ。高くて 近寄り難い神庫でも、はしごをかければ登れ るという意から。「天あめの神庫も梯のままに」 ともいう。∇神庫∥神宝を納めておく蔵。梯 ∥はしご。 故事垂仁 すい 天皇の皇子、五十瓊敷命 いにしき は のみこと 石上 いその かみ 神宮に奉仕していたが、老年のため、 妹の大中姫命 おおなかひ めのみこと に職を譲ろうとした。し かし、大中姫命は「自分はかよわい女だ。ど うして神の神庫に登ることができよう」と 言って辞退した。これに対して五十瓊敷命が 「神の神庫は高いというが、自分が神庫には しごをかけよう。どうして登れないことがあ ろうか」と重ねて言い、譲ろうとしたという 故事による。 かみみずかたすものたすてんみずかたす 神は自ら助くる者を助く↓天は自ら助 かみしょうじきこうべやどしょうじきこうべかみ 神は正直の頭に宿る↓正直の頭に神 やど 宿る316 神は非礼を受けず 出論語 神は、道理にはずれた願い事をしても、決し て受けないということ。 補説 「論語」の「嗚呼ああ、曾 ち泰山を林 放りんにも如しかずと謂 えるか(ああ、泰山が 林放にも及ばないと思っているのか)」の注 くる者を助く 453 かみのほーかめのと 神は見通し かみみとお 神は人々の行為をすべて見ているから、ごま かすことはできないということ。「神様はお 見通し」「天は見通し」ともいう。 類義天に眼 まな こ 天網恢恢 てんもう かいかい 疎にして漏ら 英語 God is still in heaven. 神はいつも 天におられる 神へも物は申しがら 何事にも工夫が大切であるというたとえ。神 様に願いごとをする場合でも、真心をこめる だけでなく、祈願のしかたの上手下手によっ てご利益ぐりゃに違いがあるという意から。 類義神様にも祝詞のり。 髪結い髪結わず 人のことばかりして、自分のことに手が回ら ないことのたとえ。他人の髪は結うが、自分 の髪は乱れたままであることから。「髪結い 類義 紺屋 こう や の白袴 しろば○ かま 駕籠 かご かき駕籠に 乗らず。紙漉 かみ きの手鼻。 が常だということ。「上に倣ならう下」ともい う。↓上の好む所、下これよりも甚だし154 類義上の好む所下必ず隨したう。 下の者は、上に立つ者のすることを真似るの かみまな上学ぶ下しも かうま 噛む馬はしまいまで噛む みご 三つ子の たましいひゃく 魂百まで623 かめ こう 亀の甲より年の劫 年長者の人生経験や知恵は尊重しなければな らないというたとえ。「亀の甲」と「年の劫」 の「こう」の語呂合わせで、おもしろく言っ たもの。△甲∥甲羅こう。劫∥きわめて長い時 間。「功」とも書く。 類義蟹かにの甲より年の劫。烏賊いかの甲より 年の劫。松かさよりも年かさ。老いたる馬は 道を忘れず。 英語 Age and experience teach wisdom. 年齡と経験が英知を教える 用例「亀の甲より年の功と云いうことがある だろう。こんな賤いやしい商売はしているが、 まあ年長者の云う事だから、参考に聞くがい い。青年は情じよの時代だ。おれも覚 る。情の時代には失敗するもんだ。(略)夏 目漱石◆坑夫 かめとしつるうらや 亀の年を鶴が羨む 欲望には際限がないことのたとえ。千年も生 きるといわれる鶴が、万年も生きるといわれ る亀を羨む意から。「鶴は千年亀は万年」と いうことばを踏まえたもの。 類義 龜も上上 うえ 千石取れば万石羡む。 隴 ろう を得て蜀 しょ く を望む。 <156> かもあつ 鴨集まって動ずれば雷となる 小さく弱いものでも数が多く集まると、軽視 できない勢力になることのたとえ。鴨のよう な弱い鳥でも、数多く集まって騒ぎ立てると、 雷鳴のような大きな音になることから。 類義聚蚊 しゅう ぶん 雷らい を成す。 鴨が葱を背負って来る うまいことが重なって、ますます都合がよく なること。鴨鍋 なんをするときに鴨が自分で葱 まで背負ってくれば好都合である意から。利 用しやすいお人好しのたとえとして用いる。 「鴨葱」ともいう。 類義開いた口へ牡丹餅 寝耳小判。寝 耳入水の果報。 対義 蒔まかぬ種は生えぬ。 賀茂川の水 思いどおりにならないことのたとえ。昔、賀 茂川の氾濫は、法皇の力をもってしてもどう にもならないと、法皇自身が嘆いたことから。 補説平家物語の「賀茂川の水、双六 の賽さい(さいころを使った賭博 とば)、山法師 やまぼ(比叡山 ひえい の僧兵)、これぞわが心にかな はぬ(自分の思うようにならない)と白河院 しらかわ のいん (白河法皇)も仰 おお せ なりけり」による。 可も無く不可も無し 出論語 言語や行動が中道・適切であること。また、 長所も欠点もなく、ごく平凡であること。 補説現在は後者の意味で用いることが多 い。前者は孔子が自分の処世のしかたについて言ったことば。出典には、孔子が伯夷はく・叔斉しゅくせいなど昔の高潔な隠者を認めた上で「我は則ち是これに異なり、可も無く不可も無し(自分はこれらの隠者とは違って、ごくふつうの道を行く者である)」と言ったとある。かもみずか 鴨の水掻き 人にはそれぞれ人知れぬ苦労や心配があるこ とのたとえ。鴨はのんびりと水に浮いている ように見えるが、水面下では絶えず足で水を 掻いていることから。 鴨を打って鴛鴦を驚かす 出梅堯臣ー詩 一人を罰して、他の罪のない人々をおびえさ せることのたとえ。鴨を打ったために、同じ 池のおしどりを驚かせる意から。△鴛鴦=お しどり。 補説詩の題名は『鴨を打つ莫なかれ』。「鴨を打つ莫れ、鴨を打てば鴛鴦を驚かす(鴨を打ってはならぬ。鴨を打てばおしどりをも驚かすことになる)」とある。 かもんは 下問を恥じず 出論語 年齢や地位が下の人に教えを乞うことを恥と しない。 補説出典には弟子の子貢が孔子に、衛 えいの大夫の孔文子にどうして文というお くり名をつけたのかと聞いた。孔子が答え て、『敏にして学を好み、下問を恥じず(彼は 頭がよく、学を好み、目下の者にものを尋ね ることを恥ずかしがらなかった』だから文 というのだ、と言った」とある。 瑕瑜相揜わず 出礼記らいき 長所と短所をともにありのままに示して、隠 さないことのたとえ。玉の傷は玉の美しい光 沢を隠さず、玉の美しい光沢は玉の傷を隠さ ないことから。△瑕‖玉の傷。瑜‖玉の美し い光沢。 補説孔子が、本当の真心は長所も欠点も隠 さず、ありのままに振る舞うことであると説 いたことばの一節。出典には「瑕は瑜を揜わ ず、瑜は瑕を揜わざるは忠なり(傷があって も玉の美しい光沢を損なうものではなく、美 しい光沢が玉の傷をおおい隠さないことは、 真心を示す忠ににている」とある。 痒い所に手が届く 細かい点にまで心配りが行き届いて、手落ち のないこと。 類義至れり尽くせり 対義 痒い所に手が届かぬ。隔靴掻痒 かつかそ。 うよう 粥腹も一時 急場の間に合わせのたとえ。粥でも腹に入れ ておけば、空腹の一時しのぎにはなるという ことから。 類義 茶腹も一時。 空馬に怪我なし 何も持っていない者は、損をすることがない <157> ということ。「裸馬はだかうまに怪我なし」ともいう。 類義裸馬鞍くらかえらぬ。 からすはんぽこうはとさんしれい 鳥に反哺の孝あり鳩に三枝の礼あ からすはんぽこう り、鳥に反哺の孝あり530 ありえないことのたとえ。烏の頭は、いつま でたっても白くなることはないことから。 類義駒こまに角の生ゆるまで。百年河清かせを 俟まつ。烏頭うと白くして馬角を生ず。 烏の行水 入浴時間がきわめて短いことのたとえ。また、よく洗いもせずに、入浴をすませてしまうこと。烏が短い時間に水浴びをすることから。 烏の雌雄 からすしゆう 出詩経しきよう 物事の是非・善悪が判断しにくいことのたと え。烏の雌と雄はともに色が黒く、外見では 区別しにくいことから。「誰たれか烏の雌雄を 知らんや」という形で使われることが多い。 という意から。 補説出典には具ともに予われを聖なりと曰い う。誰か烏の雌雄を知らん大臣たちはみな、 我こそは智の明らかな賢者だと言うが、賢も 愚もわからない小人ばかりなので烏の雌雄の 相似て見分けがたいようなものだ)とある。 烏羽の文字 そのままでは読めないこと、判別できないこ とのたとえ。烏の黒い羽根に墨で書いた文字 にほんしょき 日本書紀 からすにーかりゅう 故事敏達天皇の時代に高麗からから鳥の 羽根に墨で書かれた表(臣下が主君に差し出 す文書もん)が献上されたが、だれも読めなかっ た。そのとき、王辰爾という識者がその 羽根を蒸して絹に押し当てたところ、文字が 絹に写って読めたという故事による。 からすひゃくどあら さぎ 烏は百度洗っても鷺にはな 生まれつきのものを変えようとするのは無理 だというたとえ。黒い烏は、どれほど洗って も白い鷺にはならないという意から。 ぐぬ 類義 烏の黒いのは磨きがきかぬ。鷺は洗わ ねどもその色白し。 烏を鵜に使う 外見が似ているだけでは役に立たないという たとえ。鵜に似ている鳥を鵜飼いには使えな いことから。 からす さぎ 烏を鷺 間違いを強引に正当化することのたとえ。黒 い烏を白い鷺だと言いくるめることから。 「鷺を烏」ともいう。 類義 鹿を指して馬と為す。馬を鹿。 金をむだに使うこと、無益な投資をすること のたとえ。「唐への投げ金」ともいう。▷唐 ∥中国。投げ金∥投資。 から唐へ投げ金かね 補説江戸幕府が鎖国以前に行った朱印船貿 易への投資は危険性が高く、船が沈んだり海 賊にあったりすると、すべてなくしてしまう ことから出たことば。 舶来品を扱う貿易商は、一時に大もうけをす るということ。△唐物=中国からの舶来品。 千里一跳ね=一気に千里を跳ぶ意。 からものあきな 唐物商いは千里一跳ね かうにんたひとうにんた 借り受け人に立つとも人請け人に立つ かねうひとう な金請けするとも人請けするな 149 借り着より洗い着 他人に頼って見栄を張るよりも、貧しくても 自力で生活するほうがよいということのたと え。他人から借りたきれいな着物を着るより も、自分の着物を洗って着たほうがよいとい う意から。「借り着するより洗い着せよ」と もいう。 類義 人の物より自分の物。 か か どくか か ぞん 借りて借り得貸して貸し損 借りても返さないで済むこともあるから、借 りるのは得だが、貸しても返してもらえない こともあるから、貸すのは損だということ。 「借りれば借り得貸せば貸し損」ともいう。 狩人罠にかかる 他人を陥れようとして仕掛けた本人がその計 略にひっかかること。 <158> 類義自縄自縛。人捕る亀が人に捕られる。 狼を殺す犬は狼に殺される。 画竜点睛 がりようてんせい 物事を完成させるために、最後に加える大切 なところ。また、肝心なところに手を入れて、 全体を立派に引き立てることのたとえ。「竜」 は「りゅう」とも読む。 出歴代名画記 注意 「晴」を「晴」と書き誤らない。 故事中国六朝 りくち 時代、梁りよ の張僧繇ちょうそ というすぐれた画家が、金陵きんり (今の南京) の安楽寺の壁に竜を描いたが、晴ひとを描き入 れると飛び去ってしまうと言って描き入れな かった。世間の人はこれを嘘うそだと言って信 用しなかったので最後に睛を描き入れたとこ ろ、たちまち本物の竜となって昇天したとい う故事による。 類義点睛開眼てんせい。かいがん 画 竜 点睛 を 欠 く 最後の仕上げが不十分で肝心な点が欠けてい るために精彩がないこと。「点睛を欠く」と もいう。↓画竜点睛158 注意「晴」を「晴」と書き誤らない。 送別の意。人と別れること。また、親しい人 を見送るつらい別れのこと。人を見送って行 き、橋の上で別れることから。∇河梁∥川に 架かる橋。 河梁の別れ 出文選もんぜん 武そぶが許されて帰国するとき、「手を携えて 河梁に上る、遊子暮れに何いずくにか之ゆく手 を取り合って川の橋を上って行く、旅人は夕 暮れにどこへ行くのか)、…」という惜別の 詩を送った故事から。 故事 中国漢代、異民族の匈奴 きょ うど に捕らえら れていた李陵 りり よう が、同じく捕らわれていた蘇 か とき じぞうがお かえ とき 借りる時の地蔵顔、返す時の えんまがお 閻魔顔 金を借りるときには優しい顔をするが、返す ときには不機嫌な顔をすること。「借りる時 の地蔵顔、済なす(返済する)時の閻魔顔」と もいう。また、「済す時の閻魔顔」は、いろ はがるた(京都)の一。 類義借りる時の恵比須顔、返す時の閻魔顔。 借りる時の大黒顔 だいこ、 返す時の閻魔顔。 くがお 英語 A borrowed loan should come laughing home.貸した金は笑いながら戻ってくるべきである か借りる八合、済す一升 金や物を借りたら、返すときには感謝の気持 ちを表すために、少し多めに返すのがよいと いう教え。米を八合借りたら一升にして返せ という意から。マ済すニ返済する。 類義借りて七合、済す八合。 か枯れ木に花はな いったん衰えていたものが、再び栄えたり、 起こるはずのないことが起こることのたと え。また、望んでも実現できないことのたと え。「枯れ木に花咲く」ともいう。 類義炒り豆に花。埋もれ木に花咲く。老 い木に花咲く。 かきやまにぎ枯れ木も山の賑わい つまらないものでも、ないよりはましだということのたとえ。枯れ木でもいくらかは山に情趣を添える意から。「枯れ木も山の飾り」「歪ゆがみ木も山の賑わい」ともいう。 注意自分のことを謙遜して言うことば。したがって、「あなたも枯れ木も山の賑わいとして、ぜひご出席ください」のように、他人に対して使うのは誤り。 類義枯れ木も森の賑わかし。餓鬼がきも人 数。蟻ありも軍勢。 かれ いちじ これ いちじ もうし 彼も一時、此も一時 出孟子 状況に応じて、考え方ややりかたが変わると いうこと。また、世の中は時代とともに変化 し、すべてが一時限りのものであること。あ れはあのときのこと、これはこのときのこと という意から。 補説孟子が斉を去って鄒すに帰るとき、弟 子から「先生は浮かない顔をしていますが、 君子はどんなことがあっても天を恨んだり、 人をとがめたりしないものだとおっしゃった じゃないですか」と言われ、答えたことばか ら。 彼も人なり、予も人なり 出韓愈ー原毁 他人にできることは努力すれば自分にもでき <159> るはずだということ。多く、自分自身を励ま し発奮させようとして言うことば。あの人も 自分も同じ人間だという意から。▷予‖わ れ。自分。 補説出典には「己 れ を責めて日いわく、彼も 人なり。予も人なり。彼、是これを能よくす(彼 はこれができる)。而しかるに我は乃 ち是を 能くせず(それなのに自分はこれができな い)とある。 類義彼も丈夫じふなり、我も丈夫なり。 かれしおのれしひゃくせん 彼を知り己を知らば百戦して あや 殆うからず 出孫子そんし 敵の実情と味方の実情とを十分に知っていれ ば、何回戦っても決して負けることはないと いうこと。 補説出典にはこのあとに「彼を知らずして 己を知れば、一勝一負いっしょす(勝ったり負け たりする)。彼を知らず己を知らざれば、戦 う毎ごとに必ず殆うし(戦うたびに必ず負け る)とある。 がろうほうちゅうまもごと餓狼の庖厨を守る如し 大切な物をもっとも危険な人物に守らせるこ とのたとえ。飢ぅえた狼に台所を守らせると いう意から。△餓狼‖飢えた狼。庖厨‖台 所。 出後漢書 補説出典には餓狼をして庖厨を守らしめ、 飢虎をして牢豚 ろう とん を牧かわしむ飢えた虎に、 おりの中の豚を飼育させる」とある。 類義猫に鰹節かつお。 盗人に鍵を預ける。 かれをしーかわいさ 夏応冬扇 かろとうせん 出論衡ろんこう 時期はずれで役に立たない物のたとえ。また、時宜を得ず役に立たない才能や言論のたとえ。夏の火鉢や冬の扇子の意から。「冬扇夏炉」ともいう。▷炉‖火鉢。また、いろり。補説出典には「益無きの能を進め、補い無きの説を納いれ、夏を以もって鑢ろを進め、冬を以て扇を奏すお(何の役にも立たない才能をふりかざし、何の役にも立たない意見を君主に提出している。これは夏に火鉢をすすめ、冬に扇を差し出すようなものだ」とある。なお、芭蕉ばしの俳文「柴門さんの辞」に「予が風雅(私の俳諧)は夏炉冬扇のごとし」とある。頬義六日の菖蒲あや、十日の菊。寒に帷子かた、土用に布子ぬの。 夏炉は湿を炙り、冬扇は火を あお 襲ぐ 出論衡 ろんこう 役に立たないと思われる物でも、使い方に よっては役に立つというたとえ。夏の火鉢は 湿気を乾かすのに用いられ、冬の扇は火をあ おぐのに用いられるという意から。▷炉‖火 鉢。また、いろり。 補説出典には夏時の鑢ろは以もて湿を炙 り、冬時の扇は以て火を襲ぐ」とある。 かわしこ 可愛い子には旅をさせよ 可愛い子供には苦しいことを体験させたほう かわいこ がよいということ。「いとしき子には旅をさ せよ」「思う子に旅させよ」ともいう。昔は 交通機関が発達しておらず、旅は辛く苦しい ものであったことから言われたことわざ。 類義可愛い子は打って育てろ。可愛い子に は薄着をさせよ。可愛い子には灸 きゅ う をすえ よ。獅子しの子落とし。 英語 Spare the rod and spoil the child. 鞭むち を惜しむと子はだめになる 用例お富が言うことには、「そりゃ、まあ、 可愛い子には旅をさせろということもありま すがね、よくそれでもお民さんがあんなちい さなものを手離す気におなりなすった。なん ですか、わたしはオヤゲナイ(いたいたしい) ような気がする」囲炉裏ばたにはこんな話が 尽きない。〈島崎藤村◆夜明け前〉 可愛可愛は憎いの裏 心の中では憎いと思いながら、口先では可愛 がること。また、深い愛情が憎しみに変わり やすいこと。 類義 愛憎は紙一重。 対義憎い憎いは可愛の裏。 かわいあまにくひゃくばい 可愛さ余って憎さが百倍 日ごろ可愛いと思っていた者をひとたび憎い と思うようになると、可愛いと思っていた気 持ちが強いほどその憎しみは強くなるという こと。「可愛さ余って憎さが十倍」ともいう。 類義好いたほど厭あいた。 英語 The greatest hate proceeds from the greatest love. 最大の憎しみは最大の <160> 愛から生まれる 皮一枚剥げば美人も髑髏 皮一枝泉は美人も體 美人といっても、外面の美しさであって、皮 一枚むけば皆同じ骸骨がいにすぎないというこ と。美人に対する煩悩 のう を戒めた川柳。 類義皮一重。 乾き田に水 かわだみず 困りきっている者に、救いの手が差し延べら れることのたとえ。日照り続きで乾き切って いる田に、水が来ることから。 類義」干天の慈雨。 かわぐち 川口で船を破る 成功の一歩手前で失敗することのたとえ。航 海を終える寸前、川口の港の近くまで来て船 をこわす意から。また、物事の最初から失敗 することのたとえ。航海に出る直前に、川口 で早くも船をこわす意から。 類義川を前に控えて宿るな。今日できることを明日に延ばすな。 類義港口で難船。磯際 で船を破 かわこ やどと 川越して宿を取れ 先のことを考えて事前に対策を立てておけ、 また、するべきことはあと回しにしないよう にせよ、という教え。旅行中の宿は、渡れる うちに川を越してから取れという意から。 補説江戸時代までは、大きな川には橋がなく、旅行者は川越し人足に背負ってもらっていたため、雨で増水すると水かさが減るまで川越しを禁じられ、旅行者にはたいへん不便であった。 川立ちは川で果てる かわだ 得意なこととなると油断をしやすく、身を滅 ぼしやすいという戒め。川に慣れて泳ぎの上 手な者は、油断して川で死ぬことが多いという 意から。マ川立ち川のほとりで生まれ育 ち、泳ぎの上手な人の意。 川中には立てど人中には立た かわなかたひとなかた れず 世渡りの難しさのたとえ。急流の川の中に 立っていることはできるが、世間に立ってい ることはできないという意から。▷人中‖世 間。 かわに水運ぶ川 無益な行動や、むだな骨折りのたとえ。水が 十分ある川に水を運んでも、意味がないこと から。 類義屋下に屋を架す。高みに土盛る。雪上 霜を加う。 川の石星となる 絶対にあり得ないことのたとえ。 類義石に花咲く。炒り豆に花。枯れ木に 花。朝日が西から出る。 かわ いいもっ ゆえよとお 河は委蛇を以ての故に能く遠 し 出 説苑 ぜいえん 大きなことを成し遂げるには、あせって一直 線に進むのではなく、段階をふんでこそ達成 できるということのたとえ。川は曲がりく ねって流れるから、遠くまで流れることがで きるという意から。∇委蛇∥曲がりくねるさ ま。 補説出典にはこのあとに山は陵遅 だらかな丘陵になっている)を以ての故に能 く高し」とある。 皮引けば身が付く 密接な関係にあるものは、すぐに影響が及ぶ ことのたとえ。皮膚を引っぱると、その下の 肉も引っぱられることから。「皮引けば身が 痛い」「皮引けば身が上がる」ともいう。 皮一重かわひとえ 顔かたちの美醜も、皮一枚はがせば、何ら違 いはないということ。また、物事の違いがわ ずかであること。 類義美しいも皮一重。皮一枚剥げば美人 も髑髏 されこ。 うべ 紙一重。 川向かいの火事 かじ たいがん かじ 対岸の火事 383 川向かいの喧嘩 自分には少しも利害関係のない災害や事件の たとえ。川向かいの喧嘩は、こちら側にまで <161> 及んでくる恐れがないことから。川向こう の喧嘩」ともいう。 類義対岸の火事。 土器の欠けも用あり 不用だと思われる物でも、何かの役に立つこ とがあるというたとえ。用をなさないこわれ た土器でも、何かの役に立つことから。「土 器の割れにも用あり」ともいう。▷土器=素 焼きの陶器 とう。 類義大鋸屑 书が くず も取柄。茶殻 ちゃ がら も肥 こえ にな る。腐り縄にも取り所。 ば。 瓦は磨いても玉にならぬ 生まれつき劣っている者は、どれほど教育し ても、すぐれた人物にはならないということ。 対義瓦も磨けば玉となる。 かわらみが 瓦も磨けば玉となる 生まれつき劣っている者でも、一生懸命努力 すれば、すぐれた人物になるということ。 対義瓦は磨いても玉にならぬ。 皮を切らせて肉を切り、肉を 切らせて骨を切る 自分も傷つくことを覚悟して、相手により大 きな打撃を与えること。相手に自分の皮を切 らせ、自分は相手の骨を切る意から。「皮を 切らせて肉を切れ、肉を切らせて骨を切れ」 ともいう。 補説 本来は剣道で強敵を倒す極意のこと かわらけーかんがく 二万 うまう 一 蚊を殺すにはその馬を撃たず 手段を選ばず、目的に反するようなことをし てはいけないという戒め。馬にとまった蚊を 殺すために、その馬まで傷つけてはならない という意から。 やまお 蛟をして山を負わしむ 出 荘子 力のない者に大きな仕事をさせること。力不 足で任に堪えないことのたとえ。「蚊蚋 ぶん ぜい 山 を負う」ともいう。 補説出典には「猶なお荘子の言を観みんと欲 するは、是これ猶蚊をして山を負い、商駝 をして河を馳はせしむるがごとし荘子の説を わからせようとするのは、ちょうど蚊に山を 背負わせ、ムカデに黄河の流れを通じさせる ようなものだ」とある。 かみすすなんししりぞ 可を見て進み難を知りて退く 出春秋左氏伝 情勢に応じて弾力的に進退を決めること。よ いと判断したときは進み、困難だと判断した ときは退くことから。 出全唐詩話 かんうんやかく閑雲野鶴 世俗に縛られず、自由にのんびり暮らすこと のたとえ。また、そうした心境。大空にゆっ たり浮かぶ雲と野に遊ぶ鶴の意から。「閑雲 孤鶴」ともいう。「間雲野鶴」とも書く。△ 閑雲∥ゆったり浮かぶ雲。野鶴∥野に気まま に遊ぶ鶴。 類義 孤雲野鶴。 かんおけ かたあし 棺桶に片足を突っ込む 老いて死期が近いこと。「棺桶に片足突っ込む」ともいう。 用例 善良な亭主を尻にしいて、棺桶に片足 つッこんでからに早う死んだらええがな、と いうようなことをワザと人前で言いたてたが る女だ。〈坂口安吾◆安吾巷談〉 かんがいあいのぞ 冠蓋相望む 出戦国策 車や人の往来が絶え間ないこと。また、多く の使者が次々に送り出されるさまをいう。使 者の冠と車の覆いとが、前後に互いに見渡せ る意から。∇冠∥かんむり。蓋∥車の覆い。 類義冠蓋相属す。冠蓋絶えず。 考える葦 かんがあし 人間のたとえ。 補説一七世紀フランスの哲学者・数学者・ 物理学者であるパスカルの著書『パンセ』に あることば「人間は一本の葦であり、自然の うちでもっとも弱いものにすぎない。しか し、それは考える葦である」から。 かんがくいんすずめもうぎゅうさえず 勧学院の雀は蒙求を囀る 見慣れたり聞き慣れたりしていることは、自然に覚えるというたとえ。勧学院にいつもいる雀は、学生たちが朗読する『蒙求』を聞き覚えて、その文句をさえずるという意から。勧学院Ⅱ平安時代、藤原氏一族の子弟のた <162> めに京都三条に建てられた学校。蒙求‖唐代 の李瀚りが著した歴史教訓書。 類義門前の小僧、習わぬ経を読む。鄭家 の奴やは詩をうたう。 がんと 雁が飛べば石亀も地団駄 分をわきまえず、むやみに他人の真似をした がる愚かさのたとえ。雁が飛び立つのを見た 石亀が、自分も飛び立とうとするが、飛べず にくやしがる意から。「雁が飛べば石亀も足 摺ずり」「石亀も地団駄」ともいう。▷地団 駄‖地面を何度も強く踏みつけること。 類義雁が立てば鳩はとも立つ。蛙かえが跳べば 石亀も地団駄。鯉こいが躍れば泥鱠どじも躍る。 がんか頷下の珠たま 手に入れにくい宝物のこと。驪竜りという黒竜のあごの下にある珠玉を得るには、危険を冒さなければならないことから。珠は「しゅ」とも読む。△頷=あご。 出荘子そうじ 故事黄河のほとりに、家が貧しく、よもぎ を編んでもっこを作って売り、生計を立てて いる者がいた。その息子は淵ふちにもぐって千 金の珠を得た。すると父はその子に「千金の 珠は必ず九層もの深い淵にすむ驪竜のあごの 下にある。お前が珠を得たのは、竜が眠って いるときに出会ったからだ。もし竜が目を覚 ましていたら、お前は体のかけらも残らず食 べられてしまっただろう」と言ったという。 かんかんがくがく 一侃侃誇誇 遠慮せず、正しいと信じることをはっきりと 主張すること。議論の盛んなことの形容。また、はばかることなく直言するさま。「侃諤」ともいう。△侃侃=強くまっすぐであること。諤諤=遠慮せずに正しいことを言うこと。 注意多くの人が勝手にやかましく騒ぎ立て る「喧喧囂囂けんけん」と混同しないこと。また、 「喧喧諤諤けんけん」は「喧喧囂囂」と「侃侃諤諤」 が混交してできたことばでいろいろな意見 が出て、収拾がつかないほど騒がしい意。 関関たる雎鳩は河の洲に在り かんかん しょきゅうかわすあ 夫婦仲がよくむつまじいこと。また、仲のよ い夫婦のこと。川の州で、みさごが仲よく鳴 き交わしているという意から。▽関関‖鳥が 和らぎ鳴き交わす声の形容。雎鳩‖水鳥の 名。みさご。 出詩経しきよう 類義琴瑟しつ相和す。 補説出典には「その書たるや、処おれば則 すな ち棟宇 とう に充ち、出いずれば則ち牛馬に汗 す(その書物は、家の中に蔵すると棟までと どいていっぱいになり、外に出して牛馬に引 かせると牛馬も汗をかくほど多くある)と ある。 汗牛充棟 出柳宗元陸文通先生墓表 蔵書が非常に多いことのたとえ。牛車に積ん で動かすと牛が汗をかき、積み上げれば家の 棟木 むな に達する意から。「牛に汗し棟 むな に充み つ「棟むねに充ち牛に汗す」ともいう。 類義擁書万巻ようしょ。ばんかん 寒の入りから九日めに降る雨のこと。この雨 が降ると田植え時にも雨が降り、豊作の兆し として農民に喜ばれた。 類義寒雨 かん あめ が降ったら麦俵を作って置け。 寒九の雨に鎌も研げ。 かんげんみみ さか ちゅうげんみみ さか 諫言耳に逆らう 忠言耳に逆らう 423 がんこうしはいてっ 眼光紙背に徹す 読解力が鋭く、すぐれていることのたとえ。 書物の内容を、文字面だけでなく、深い意味 までも理解すること。目の光が紙の裏側まで 突き抜けるという意から。「眼光紙背に徹とお る」ともいう。 出史記しき かんこくかん 函谷関の鶏鳴 とっさの機転や言動によって、難を逃れたり 問題を解決したりすることのたとえ。▷函谷 関‖中国、戦国時代、秦しんが東方からの侵入 に備えた関所で、絶壁に囲まれた谷に築かれ、 箱の形に似ていることからこの名がつけられ た。 故事 斉 せい の孟嘗君 もうしょ が秦の昭王に招かれ た際、事実無根の悪口によって捕らえられた。 ようやく許された彼は、秦から脱出しようと して、夜半に国境の函谷関に着いたが、関所 の規則で一番鶏 いちば んどり が鳴くまでは開門しない ことになっていた。そこで鶏の鳴きまねの上 手な家臣に一声鳴きまねをさせてみたとこ <163> ろ、それにつられて付近の鶏が全部鳴き出し たので、門も開かれ、無事に脱出することが できたという故事による。 換骨奪胎 出冷斎夜話 古人の詩文の表現や発想などをもとにしなが ら、これに創意を加え、自分自身の作品とす ること。また表現や着想などをうまく取り入 れて自分のものを作り出すこと。 補説もと、「換骨」は、神仙術で凡骨を換 えて仙骨とする、「奪胎」は胎盤を奪い生ま れ変わらせる意で、修練をして根本から仙人 に生まれ変わることをいう道家の語。転じ て、詩文の創作法としての「換骨」は、古人 の詩文の意味を変えないで字句を変えるこ と、「奪胎」は、古人の詩文の内容・主意を取っ て作り替えること。今では、他人の作品の一 部を作り替えて、自分のもののように見せか ける意に用いられる。「奪胎換骨」ともいう。 用例正しくこの間の小勝このは、このまく らの単刀直入な換骨奪胎だったのである。 〈正岡容◆随筆寄席囃子〉 〈正岡容◆随筆寄席囃子〉 かんこどりな 閑古鳥が鳴く 人が集まらず、もの寂しいようす。とくに、 商売などがはやらないようすのたとえ。人気 ひとのない深い山で、かっこうが寂しげに鳴く ようすから。「閑古鳥が歌う」ともいう。マ 閑古鳥=かっこうの別名。 匕 かんこつーかんしん 儒冠は多く がんこがし純袴は餓死せず、みあやま身を誤る 立派な人でも、境遇に恵まれなければ生活に 苦労するということ。貴族の子弟は生活の心 配はないが、儒者や文学者は、往々にして生 活に苦労し破滅するという意から。△紈袴 中国で貴公子などが着用した白い練り絹の袴 はか。転じて、貴族の子弟の意。儒冠=儒者の かぶる冠。 出杜甫ー詩し 補説 詩の題名は 『韋左丞丈 いさじよ うじょう に贈り奉 まつ 癇癈持ちの事破り 感情をおさえ切れず、すぐに怒り出す癇癪持 ちは、物事をぶちこわしてしまいやすいということ。 類義短気は損気。短慮 たん りよ なけば事成らず。 対義堪忍 かん にん 五両。 がんしよ 雅書 出漢書かんじょ 手紙のこと。「雁札」がん 「雁信」がん 「雁かり の便り」 「雁の使い」「雁の文ふみ」「雁の玉章 たま ずさ」など ともいう。 故事 中国、漢の蘇武そぶが、匈奴きょに捕らえ られていたとき、漢の天子に自分の生存を知 らせるために、布に書いた手紙を雁の脚あしに 結び付けて送ったという故事による。 かんじょうぜにた 勘定あって銭足らず 理論と実際とが一致しないことのたとえ 簿上では収支の計算が合っているのに、手元 の現金が足りないことから。「勘定あって金 足らず」「算用あって銭足らず」ともいう。 出旧唐書くとうじょ 堅固な節操のたとえ。厳しい寒さの中でも松 は鮮やかな色を失わず、高い岩の上にそびえ 立っていることから。「松の操」ともいう。 ∇丈∥長さの単位。千丈は非常に長いこと。 補説出典には「穆秘監 かん の剛正にして奪 われざるは、寒松の巌 いわ に倚よりて千丈の勁 節 あるが如 し(秘書監である穆寧 ほく ねい の、 心が正しく意志堅固で、その志を奪うことが できないのは、あたかも松が厳しい寒さに堪 えて岩の上にそびえ立ち、強い操をもってい るかのようだ」とある。 干将莫邪 出呉越春秋 名剣のこと。もとは名剣の名。△干将‖春秋 時代、呉の刀鍛冶の名。莫邪‖干将の妻。「莫 耶」とも書く。 故事 呉の干将は、呉王の闔閻 りょ こう に刀を作る ように命じられ、最初はうまくいかなかった が、妻が頭髪と爪を切って炉に入れたところ、 地金がよく溶けなじんで、みごとな陰陽二本 の名剣ができあがり、陽剣に「干将」、陰剣 に「莫邪」と名づけて献上したという故事に よる。 かんしんじょうず おこな べた 感心上手の行い下手 他人の言動に感心するばかりで、自分では いっこうに実行しないこと。また、そのよう <164> な人。 韓信の股くぐり かんしんまた 大志を抱く者が小さな屈辱に耐えしのぶっ のたとえ。「韓信匍匐」ともいう。 出史記ぶことしき 故事 中国、漢の名将韓信が若い頃、町で乱 暴者から喧嘩けんを売られたが、大志を抱く身 でごろつきと争うのをさけ、言われるままに 恥を忍んで彼の股の下をくぐった。後に韓信 は大成し、漢の高祖を助け、天下統一のため に活躍したという故事による。 類義ならぬ堪忍するが堪忍。 かんせいさき 甘井先に竭く 才能のある者ほど、早くそれを使い切って衰 えることのたとえ。よい水の出る井戸は人が 多く使うので、最初に水が涸かれる意から。 ▶甘井‖よい水の出る井戸。竭く‖水がなく なること。 出荘子そうじ 補説出典には、この前に「直木ちょくは先に 伐きられ(まっすぐな木は最初に切り倒され)」 とある。 かんせいあ 坎井の蛙♡井蛙の見346 間然するところなし 出論語 非の打ちどころがないこと。欠点がないこ と。孔子が中国古代の聖王禹ぅを評して言っ たことば。▿間然‖欠点などを指摘して非難 すること。 かんぜん 類義完全無欠。完璧。 用例彼が肝胆 かん たん を砕いて錬り上げ、もはや 間然するところなしとまで考えて提出する意 見が、根本的にくつがえされて返される時な ど、自信の強かった太田は怫然ぜんとして忿懣 まんに近いものをすら感じた。〈島木健作◆癩 かんぜんちょうあく勧善懲悪 出春秋左氏伝 善良な人や善良な行いを奨励して、悪人や悪 い行いを懲らしめること。「善を勧め悪を懲 らす」と訓読する。「懲悪勧善」ともいう。 用例こういうことから考えてみると、この 絵巻物は、一方では勧善懲悪の教訓を含んで いると同時に、また一方ではおそらく昔の戦 乱時代の武将などに共通であったろうと思わ れる嗜虐的 しぎゃ くてき なアブノーマル・サイコロジー に対する適当な刺戟 しげ き として役立ったもので あろうと想像される。〈寺田寅彦◆山中常盤 双紙〉 肝胆相照らす 互いに心の底までわかり合って親しく交わる こと。心の底まで打ち明け深く理解し合って いること。∇肝胆∥肝臓と胆囊たんの転じて、 心の奥底の意。また、肝臓と胆囊が近くにあ ることから、密接な関係のたとえ。 用例「自然が人間を翻訳する前に、人間が 自然を翻訳するから、御手本はやっぱり人間 にあるのさ。瀬を下って壮快なのは、君の腹 にある壮快が第一義に活動して、自然に乗り 移るのだよ。それが第一義の翻訳で第一義の 解釈だ」「肝胆相照らすと云いうのは御互 がいに 第一義が活動するからだろう」「まずそんな ものに違ない」「君に肝胆相照らす場合があ るかい 〈夏目漱石◆虞美人草〉 自分の本来のものを忘れて、むやみに人の真 似をしていると、両方とも身につかなくなっ てしまうというたとえ。「邯鄲に歩を失う」 「邯鄲に歩を学ぶ」ともいう。∇邯鄲=中国、 戦国時代の趙ちょの都。 故事 邯鄲の人は歩き方が上手なので、燕 の国の寿陵 という青年が憧れて習いに 行ったが、邯鄲の人々のスマートな歩き方が 身につかず、その上、自分の国の歩き方も忘 れ、腹ばいで帰ったという故事による。 かんたん 郴鄲の夢 ゆめ 出枕中記ちんちゅうき 人の世の栄枯盛衰のはかないことのたとえ。 ∇邯鄲=中国、唐代の町の名。 故事中国唐代、盧生 という貧しい青年が、 邯鄲の町で、呂翁 という道士から不思議な 枕を借りて寝たところ、立身出世し富貴を極 めて一生を終わるという夢を見た。ところが 目が覚めると、茶店の主人が炊いていた黄粱 よう(粟あわ)がまだ煮えきらない、ごく短い時 間だったという故事から。 類義 一炊の夢。黄粱一炊の夢。盧生の夢。 英語 Pleasure and joy soon come and soon go.「喜びと楽しみはすぐに来てすぐ に去る」 肝胆も楚越なり 出荘子そうじ 非常に似たものでも、見方によって違って見 えるたとえ。また、近い関係にある者が遠い <165> 関係になるたとえ。密接な関係にありながら いがみ合うことのたとえ。肝臓と胆囊のように近くにあるものでも、楚と越の両国のように隔たって感じられることから。「肝胆も楚越」ともいう。∇肝胆∥肝臓と胆囊。 類義心合わざれば肝胆も楚越の如し。 かんたん肝胆を砕く ありったけの知恵をしぼり、一生懸命に物事 を行うことのたとえ。∇肝胆∥肝臓と胆囊 たん。 のう 転じて、心の奥底・真心の意。 に豹を窺うかうともいう。 用例市九郎は、上人の言葉を聴いて、又更 に懺悔 ざん かい の火に心を爛ただらせて、当座に出家 の志を定めた。彼は、上人の手に依よって得 度として、了海りようと法名を呼ばれ、只管ひた 仏道修行に肝胆を砕いたが、道心勇猛の為ため に、僅か半年に足らぬ修行に、行業ぎようは氷 霜ひようよりも皓きよく、朝には三密の行法を凝 し、夕には秘密念仏の安座を離れず、二行彬々 にぎよう ひんぴんとして豁然智度かつぜの心萌し、天晴れの 智識ちしとなり斉すました。菊池寛・恩讐の彼 方に 眼中の釘 かんたん肝胆を披く 心中を隠さず打ち明けることのたとえ。腹の 中まで開いて見せる意から。∇肝胆∥肝臓と 胆囊 たん。 のう 転じて、心の奥底・真心の意。 類義 肝胆を披露す。 出漢書かんじょ かんちゅうひようみ 世せつしんご 管中に豹を見る 世説新語 見識が極めて狭いこと。管の小さな穴を通し て豹を見る意から。「管中窺豹 かんちゅう きひよう 「管中 邪魔者、障害物のたとえ。身近な災いを起こ すものや、悪人などのたとえ。「眼中の刺とげ」 ともいう。 かんたんーがんとる 眼中人なし おごり高ぶって、勝手気ままに振る舞うよう す。眼の中に入る人がいない意から。 類義傍若無人 ぼうじゃ。 くぶじん かんてんきち 歓天喜地 大喜びすること。おどり上がって喜ぶさま。 天を仰いで歓よろび、地に向かって喜ぶ意から。 「天に歓び、地に喜ぶ」ともいう。 類義狂喜乱舞。欣喜雀躍きんきじ。 やくやく 出水滸伝すいこでん かんてん 千天の慈雨 じう 待ち望んでいたものが得られたことのたと え。また、困っているときの援助のたとえ。 日照り続きのときに降る恵みの雨の意から。 「日照りに雨」ともいう。∇千天∥日照り。 「早天」とも書く。 類義 大旱 たい かん の雲霓 げい を望むが若 ごと し。 旱魃 かん ばつ に水。 乾き田に水。 用例「うふふん。お前の知らせを待つまで もなく燻製くんをもってきたことは、ちゃんと 知っておるわい。それよりも、早く卓子プルの うえに皿やフォークを出して、すぐ喰たべら れるようにしてくれ。ぐずぐずしていると、 おれは気が変になりそうじゃからのう」博士 が燻製にあこがれること、実に、昇天が慈雨 を待つの想おもいであった。〈海野十三◆時限 爆弾奇譚〉 勘当に科なく赦免に忠なし 賞罰が当を得ていないこと。何の罪もないの にとがめを受け、忠義を尽くしたわけでもな いのに罪を許される意から。▷勘当‖品行が 悪いなどの理由で、親子・師弟・主従などの 縁を絶つこと。科‖人から責められるような 非行、あやまち。赦免‖罪を許すこと。忠‖ 忠義。 出詩経しきよう 人民が立派な為政者を心から慕う親愛の情を いう。▶甘棠∥カタナシ。コリンゴ。ひめか いどう。 故事)中国、周の召公が地方を巡行したとき、 甘棠の木の下で人民の訴えを聞き裁判を行っ た。人民は召公の徳を慕って、後々までもそ の甘棠の木を大切にしたという故事による。 かんとう だおかみがたきだお 関東の食い倒れ上方の着倒れ 関東の人は食べ物に金をかけ、京阪地方の人 は衣服に金をかける傾向があるということ。 同種の言い方は他にも数多くみられる。 類義京の着倒れ大阪の食い倒れ。関東の着 倒れ奥州の食い倒れ。甲州の着倒れ信州の食 い倒れ。 がんと雁捕る罠に鶴つる 思いがけない幸運を得ること。雁を捕ろうと <166> かんなきーかんのう して設けた罠で、思いがけず鶴が捕れたこと から。 類義 鰯網 いわし あみ で鯨捕る。鰯網へ鯛たいがかか る。 兎 うさ の罠に狐がかかる。雀 すず め 網で雁。 畜うべからず かんな もっほいぬ かんな 姦無きを以て吠えざるの狗を か 出 蘇軾上二神宗皇帝一書 誰が罪 天下太平の世の中でも、無能な人間を登用す べきではないということのたとえ。悪人がい ないからといって、吠えない犬を飼う必要は ないという意から。 類義鼠 ねず み 無きを以て捕らざるの猫を養う可 べからず。 かんなんなんじたま 艱難汝を玉にす 人間は困難や苦労を経験することで、初めて 立派な人物に成長するということ。地中から 掘り出された粗玉あらたが磨かれて美しい玉にな るという意から。▷艱難‖困難・苦労。 補説 Adversity makes a man wise, not rich. (逆境は人を賢明にするが金持ちにはしない)という西洋のことわざの意訳。 用例そうだ僕も人間だ、血あり肉ある身体 だだ。健康を害してはつまらんからな。だが 待てよ、無一物ではやっぱり食客だ、食客も つまらんなあ。どうしようかしらん。いやそ うじゃない、艱難汝を珠にすだ。そうだそう だ、これ程の艱難を下さるる僕は、よほど天 帝の寵児ちょであるに相違ない。清水紫琴◆ かん かたびら ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご 物事が反対で無意味なことのたとえ。また、 季節に合った衣服が着られないほど貧しいこ とのたとえ。「土用布子に寒帷子」ともいう。 ∇帷子∥夏に着る麻の単衣ひとの衣服。布子∥ 冬に着る綿入れの衣服。 補説「土用」は、広義では立夏・立秋・立冬・立春の前の各十八日間のことだが、狭義では夏の土用をさし、これだけが現代の生活の中に生きている。 類義 夏烀冬扇。 感に堪えない 言葉には言い表せないほどの深い感動を覚え ること。感動の大きさに堪えきれない意か ら。 用例 震災以来、諸方を流転して、おちつか ない日を送ること一年九ヵ月で、月並の文句 ではあるが光陰流水の感に堪えない。〈岡本 綺堂◆郊外生活の一年〉 堪忍五両 類義堪忍は万宝ばんにかえ難し。堪忍は一生 の宝。堪忍五両負けて三両。堪忍の忍の字が 百貫する。 堪忍の忍の字が百貫する うこと。じっと耐え忍ぶ「忍」の一字は百貫 の値打ちがあるという意から。▷百貫=銭百 貫の意。 じっと我慢することは大きな価値があるとい 類義 堪忍五両。堪忍は万宝 ばん ぽう にかえ難し。 忍の一字が一大事。 堪忍は一生の宝 腹が立っても我慢できる人は幸福な生涯を送 れるので、堪忍は一生を通じての財宝である ということ。「堪忍は身の宝」ともいう。 類義堪忍は無事長久の基もと○堪忍辛棒 立身の力綱。ならぬ堪忍するが堪忍。 堪忍袋の緒が切れる 怒りが我慢しきれず、爆発することのたとえ。 堪忍する気持ちを入れた袋がふくらんで、袋 の口をしばったひもが切れる意から。「堪忍 袋の緒を切らす」ともいう。 類義こらえ袋の緒を切る。堪忍庫 かんに んぐら の戸 が開あく。 用例池田屋に於おける幕府方の暴挙が、如 何いかに長州藩士をして激昂 けき こう せしめたか。八 月十八日の政変以来、隠忍に隠忍を重ねて来 た長藩も、遂に堪忍袋の緒を切ったのである。 〈菊池寛◆大衆維新史読本〉 かんのう 肝脳、地に塗る 出史記しき むごたらしい死に方や殺され方をすることの たとえ。また、忠誠を誓い、どんな犠牲も惜 しまないたとえ。頭を砕かれ腹を切られて、 肝臓や脳が泥まみれになる意から。「肝胆 地に塗る」ともいう。∇肝脳∥肝臓と脳髄。 <167> 塗る=まみれる。 早魷に飢饉なし 大雨より旱魃のほうが、まだましであるということ。雨の少ない年は不作が心配されるが、大雨や洪水のあった年とは違って、多少の収穫はあるということ。 類義日照りに不作なし。 かんぱつ早魷に水みず 切実に望むことのたとえ。乾ききっていると きに水を待ちこがれることから。また、待ち 望んでいたことが実現することのたとえ。日 照り続きのときに雨が降ることから。 類義」旱天の慈雨 間、髪を容れず 出大戴礼記 間をおかずに行動に出るようす。また、非常 に差し迫ったさま。一本の髪の毛を入れるほ どのすき間もないという意から。「間に髪を 容れず」ともいう。 注意「かん、はつをいれず」と切って読む。 「かんはつ」「かんぱつ」と続けて読むのは誤 り。 用例小説の妙訣 みよう けつ は、印象の正確を期す るところにあるというお言葉は、間髪をいれ ず、立派でございましたが、私の再度の訴え もそこから出発していた筈 はず であります。 〈太宰治◆風の便り〉 戦功を得るために馬を走らせて戦場を駆けめ ぐる苦労の意から。▷汗馬∥馬に汗をかかせ る意。 汗馬の労 仕事などで汗水流して奔走する苦労のこと。 韓非子 類義犬馬の労。 かんばつーかんぺき 獲物は多いのに、とるための手段が少なくて 困ること。また、多くの獲物のうちのどれを 取ろうかと迷うこと。転じて、迷いを振り 切って、やろうとすること。八百羽の雁がい るのに、矢は三本しかない意から。「雁は八 百、矢は三筋」「雁は八百、矢は一筋」とも いう。 がんはっぴゃく 雁は八百、矢は三本 わずかな元手で大もうけをすることのたと え。三文の矢で八百文もする雁を射落とす意 から。 がんはっぴゃく 雁は八百、矢は三文 類義 雁は八百、菜は三文。 看板に偽りあり 外見と中身とが違うことのたとえ。看板とし て掲げてある品物と、実際に売っている品物 とが異なっていることから。 類義 羊頭 よう を懸けて狗肉くに を売る。玉を衒 てら いて石を賈ぅる。牛首を懸けて馬肉を売る。 対義 看板に偽りなし。 あるとおりの物を売っていることから。 類義看板かくれなし。 看板に偽りなし 外見と中身とが一致していることのたとえ。 また、ふだん言っていることばと行動とが一 致していることのたとえ。看板として掲げて 対義看板に偽りあり。羊頭ようを懸けて狗肉 くに く を売る。牛首を懸けて馬肉を売る。 出世説新語 物の見方や考え方の狭いことのたとえ。管を 通して豹の毛皮を覗のぞき、その斑ふ(まだら模 様)の一部を見ることから。「管中豹を窺 う」ともいう。 補説出典には「管中豹を窺い、時に一斑を 見るのみ(管の中から豹をのぞき、たまたま 斑まだの一つを見つけただけだ)」とある。 がんぶつそうしひともてあそとくうしなもの 玩物喪志人を玩べば徳を喪い、物を もてあそこころざしうしな 玩べば志を喪う562 出新唐書しんとうじよ 完膚無し かんぷな 無傷のところがないほど徹底的にやりこめる こと。転じて「完膚なきまで」という形で「徹 底的に」の意で用いられる。▽完膚=傷のな い完全な皮膚。 故事)中国、唐の王朝に反乱を起こした蔣鎮 ちん は、同僚だった劉迺だいりゅうを味方にしようと 誘ったが、劉迺は口がきけないふりをよそ おって返答しなかった。蔣鎮は腹いせに劉迺 の全身に灸をすえて皮膚を焼き、全身やけど だらけにしたという故事による。 かんぺき完壁 出史記しき 少しの傷も欠点もないこと。完全無欠ですぐ れていること。傷のない完全な玉(宝石)の意 <168> から。また、他人から借りたものをそのまま 返却すること。璧たまを完まつとうする意から。↓ 和氏かしの璧へき139 △璧玉。 注意「壁」を「壁」と書き誤らない。 故事)中国、戦国時代、趙ちの国に和氏の壁という名玉があったのを秦しの昭王が欲しがり、十五の城と交換を求めた。趙の藺相如りは和氏の壁を持って使者となり、秦に行って約束の城を手に入れたら壁を置いて帰ろうとしたが、昭王は約束を守ろうとしないので、藺相如は命がけで壁を守り、趙へ無傷で持ち帰ったという故事による。 類義完全無欠。 の交わり。 かんぽう管鮑の交わり 互いによく理解し信頼し合っていて、利害を 超えた親密な交際のこと。非常に仲のよい友 人関係。▶管鮑‖中国春秋時代の斉の名宰相 の管仲と斉の政治家の鮑叔牙(鮑叔)ほうしゅくがのこ と。 出史記しき 故事二人は若いときから仲がよく、共同で 商売をしたとき、管仲は利益を余分に取った が、鮑叔牙は管仲が貧しいことを知っていた ので一言も非難せず、管仲が事業に失敗して 鮑叔牙を困窮させたときも時には利と不利が あるとして愚か者と言わなかった。のちに管 仲を斉の宰相に推薦したのも鮑叔牙であっ た。管仲は「我を生みし者は父母、我を知る 者は鮑叔なり」と鮑叔牙を称賛し、二人の親 交は終生変わることがなかったという故事に よる。 類義 水魚の交わり。 断金の交わり。 刎頸けいん かんむりふる くっ は 冠 古けれども沓に履かず 出韓非子かんびし 物の貴賤 きせ ん 上下の区別を乱してはならないと いうたとえ。また、よい物は、いたんでも値 打ちがあること。冠は頭に載せる尊い物だか ら、古くなっても、足に履く靴にすることは しないという意から。「古」は「旧」とも書く。 補説出典には「冠は穿弊 せんすと雖いえも必ず 頭にのせ、靴は五色で飾ってあっても地にふ みつける」とある。 類義冠敝やぶると雖も必ず首に加う。履新し と雖も冠となさず。腐っても鯛たい。 かんむりやぶ いえどかならくびくわ 敝ると雖も必ず首に加う 出史記しき 物の使い場所、上下の別を乱してはならない ことのたとえ。冠は破れても、頭上に載せる ものであることから。「首」は「こうべ」と も読む。 類義冠古けれども沓くっに履かず。 がんめい ころう頑迷固陋 頑固で見識が狭く、自分の考えに固執して正 しい判断ができないさま。▷頑迷=頑固で道 理がわからないこと。固陋=頑固で見識が狭 いこと。古いものに固執すること。 用例それは頑迷固陋に似てややそれとも 違うもっと爽やかなものさえ含んでいる異 常な手強さ、鋭さであった。〈岸田国士 荒天吉日〉 がんはとく 雁も鳩も食わねば知れぬ 経験しなければ、物事の本当の意味や価値は 理解できないことのたとえ。食べてみなけれ ば雁の肉か鳩の肉かはわからないということ から。「雁も鳩も食うた者が知る」ともいう。 類義食わざればその味を知らず。食わず嫌 い。 かんらくきわ あいじょうおお 歓楽極まりて哀情多し 出漢武帝ー秋風辞 喜びや楽しみの感情が頂点に達すると、その あとにはかえって悲しみの気持ちが心に生じ てくること。 補説出典では、このあとに「少壮幾時 老 おい を奈何 いか ん せん(若いときはいつまで続く のか、そのうちやってくる老いを一体どうし たらよいのか)と続く。 類義楽しみ尽きて悲しみ来きたる。 英語 No joy without annoy. 喜びはない かんりとうえき冠履倒易 出東観漢記 人の地位や物事の価値などが上下逆になり、 秩序が乱れていること。頭にかぶる冠を足に はき、足にはく履くを頭にかぶるという意か ら。∇倒易∥あべこべになる意。 <169> 類義 本末転倒。 がんりちりさんがいすに 眼裏に塵あって三界窄し 心に少しでも迷いがあると、物事を正確に判 断することができないというたとえ。小さな ごみでも目の中に入ると、視界がぼやけてし まう意から。∇三界∥仏教語で、全世界の意。 窄しⅡすぼんで細い。 かんりおな 出説苑 冠履は同じく蔵めず 説苑 賢人と愚者とは、区別して扱わなければなら ないということのたとえ。冠と履くは同じ所 に入れないという意から。 補説出典では、このあとに「賢不肖は位を 同じくせず(賢人と愚者が同じ地位にいるこ とはない」と続く。 かんりたっととうそくわす 冠履を貴んで頭足を忘る 物事の根本を軽んじて、些細 なことを重ん じるたとえ。冠や履くっぱかり大切にして、頭 や足のことを忘れるという意から。 かんろはけんとお 韓盧を馳せて蹇兎を逐う 出淮南子えなんじ 出戦国策 強い者が弱い者を討ぅつことのたとえ。名犬 を使って足の悪い兎ぎを追わせる意から。 「韓盧を馳せて蹇兎を討つ」ともいう。△韓 盧Ⅱ中国、古代にいたという一日に五百里を 走る犬。蹇兎Ⅱ足の悪い兎。 がんりにーきいんせ 補説出典にはこの前に「秦卒 しん その の勇、車騎 しゃ き の多きを以もって、以て諸侯に当たらば(秦 の国の軍隊の勇敢さと戦車の多さとでもって 諸侯に対戦することは」とある。 それはさておき。話題がそれたのを本筋に戻 すときにいう言葉。▽閑話=暇にまかせた無 駄話。休=やめること。題=話題にするこ と。 出水済伝すいこでん 用例閑話休題、朝晩に見る愛鷹 あし たか を越えて の富士の山の眺めは、これは一つ愛鷹のてっ ぺんに登って其処そから富士に対して立った ならばどんなにか壮観であろうという空想を 生むに至った。〈若山牧水◆樹木とその葉〉 かんおおことさだ 棺を蓋いて事定まる 出杜甫詩 とほし 人間の評価は死後に定まるものだというこ と。生きているうちは、人に対して公正な判 断ができないことをいう。「人事じんは棺を蓋 いて定まる」ともいう。△棺=ひつぎ。蓋う ヒふたをする意。 補説 詩の題名は 君不見 くんふ、 蕲徯 そけ に簡 す。 英語 The evening praises the day. 夕暮 れがその日を評価する 出荘子そうじ 視野・見聞が狭いことのたとえ。管の小さな 穴を通して天をのぞいても、狭い範囲しか見 えないことから。略して「管窺」ともいい、 「管くだを以て天を窺う」「管の穴から天を覗のぞ かんもってんうかが 管を以て天を窺う くともいう。 補説出典には「是これ直だ管を用もって天を 闚がい錐きりを用て地を指はかるなり。亦また 小ならずやこれは、まるで細い管で広大な 天をのぞき、錐の先で大地の深さを測るよう なものだ。あまりに狭い見識ではないか」 とある。 類義 葦 よし の髄から天井を覗く。葦の管 くだか ら天を見る。管豹 かんぴ よう の一斑 いっ。 ばん 聞いた百より見た一つ ひゃく ひと ひゃくぶん いっけん 百聞は一見 に如かず 聞いて極楽見て地獄 人から聞いた話と実際に体験するのとでは、 まったく違うことのたとえ。話に聞いていた ところでは極楽のようなことが、実際に見て みたら地獄のようだったということから。い ろはがるた(江戸)の一。 類義見ての極楽住んでの地獄。聞くと見る とは大違い。聞いて千金見て一毛。 気韻生動 出輟耕録 絵画や書など、芸術作品の風格や気品が生き 生きとしていて、情趣にあふれていること。 ∇気韻=書画などの作品にある気高い風雅な 趣。生動=生き生きしていること。 <170> きえんしー 補説 中国六朝 時代、中国南斉の画家謝 赫 が、画の六法の第一に挙げたのにはじま るとされる。 き えんしゃ ふく 塩車に服す 出戦国策 すぐれた人物が世に認められないでつまらない仕事をさせられることのたとえ。名馬が塩を運ぶ車を引くのに使われる意から。▷驥‖一日に千里を走るという名馬。塩車‖塩を運ぶ車。 補説出典には「夫それ驥の歯い至れり。塩 車に服して太行たいに上る。蹄ひづは申び膝ひざ は折くじけ、尾は湛しずみ腑ふは潰みだれ、漉汗 地に灑ぎ、白汗交流れ、中阪ちゅうに遷 延し、負轅ふえして上ること能あたわずかの 一日に千里を走る名馬の年齢が最盛期に達し たというので、塩を積んだ車を引かせて太行 山に登らせた。ひづめは伸び、膝は曲がり、 尾は垂れ、汗はふき出し、したたる汗は地に 注ぎ、白い玉のような汗は紋様をつくって流 れ、坂の途中であとずさりし、車のかじ棒を つけたまま、上ろうにも上れない)とある。 類義塩車の憾うらみ。 とは、とがめてもどうしようもない)」とある。 英語」Let by gones be by gones.「過ぎ去っ たことは過ぎ去ったことにしよう」 既往は咎めず 過去はとがめないこと。過ぎ去った出来事を 非難するよりは、将来の言動を慎むことが大 切だということ。∇既往∥過ぎ去ったこと。 補説出典には「成事は説かず、遂事 いさめず、既往は咎めず(できてしまったこと をあれこれ言うことはできないし、してし まったことは諫めようがない。過ぎ去ったこ 出論語ろんご 出韓非子かんびし 厳しすぎる刑罰のたとえ。道に灰を捨てた者 を処罰する苛酷くな刑の意から。中国古代に 行われた刑罰の一つ。 補説出典には「殷いん(中国古代の王朝)の法、 灰を公道に弁すつる(捨てる)者は其その手を断 つ(その手を切り落とした)」とある。 奇貨居くべし 出史記しき 機会はうまくとらえて利用するべきだという たとえ。珍しい品物は将来値上がりが予想さ れるから、いま仕入れておけということから。 ∇奇貨=珍しい品物。掘り出し物。居く=手 元にとどめておく、買い入れておくという意。 (故事)中国戦国時代末、豪商の呂不韋りが秦 の子楚しそが趙ちの人質となって不遇な生活を しているのを見て、「奇貨居くべし(これは掘 り出し物だ。仕入れておこう)」と援助した。 子楚はのちに秦の荘襄そうじ王(始皇帝の父)と なり、呂不韋はその大臣となったという故事 による。 類義好機逸すべからず。好機到来。 用例この卒は数年前に、陳が払暁 よぅに咸 宜観 かんぎ から出るのを認めたことがある。そ こで奇貨措おくべしとなして、玄機を脅 おび やか して金を獲えようとしたが、玄機は笑って顧み なかった。卒はそれから玄機を怨うらんでい た。〈森鷗外◆魚玄機〉 気が置けない 遠慮したり気を遣ったりする必要がなく、心 から打ちとけて親しくつき合えるようす。 注意「油断ができない」「信用がおけない」 の意で用いるのは誤り。 対義気が置ける。 ききすまぬ 気が利き過ぎて間が抜ける 気がきいているようで、意外なところに落ち 度がある。あれこれ気を回しすぎると、か えって大切なところに手落ちが出るというこ と。「気が利いて間が抜ける」ともいう。 気が気でない 気がかりなことがあって、じっとしていられないこと。 用例久野と窪田 くほ た らは気が気でない。出来 るだけうまく漕こいで自分らにも自信をつけ、 敵へのデモンストレーションをしようと思う からである。〈久米正雄◆競漕〉 きかくこころざし 葵藿の志 出曹植ー求レ通二親親一表 徳の高い人を慕い、心を寄せること。また、 君主に対する忠誠心のたとえ。アオイの花が 日に向かって伸び、回ることから。∇葵藿∥ アオイの花。一説に、藿は豆の葉。君主や長 上の徳を尊び忠誠をつくすたとえ。 補説 中国、三国時代に魏の曹植 が、兄 の文帝 ぶん に送った上奏文の中で、自分の君主 <171> に対する忠誠心を太陽に向かう葵藿にたとえ た故事。 類義 葵藿陽に傾く。葵心 きし。 木株にも物着せよ 木の切り株のような見栄えのしない物でも、 飾ればなんとか見られるようになるものだと いうこと。 類義馬子にも衣装。枯れ木も衣装。鬼瓦 おにが わらにも化粧。 木から落ちた猿 木から落ちた 頼りにするものを失って途方に暮れている人 や、そのような状態のたとえ。猿は木の上で は自由に振る舞えるが、地上では勝手が違っ てどうにもならないことから。「木より落ち た猿」「木を離れたる猿」ともいう。 出説苑ぜいえん 補説出典には「猿猴 えん こうも木を失えば狐貉 く (きつねとむじな)に禽 とら えらるる(捕らえら れる)は、其その処 とこ に非あらざればなり(それ はまったく勝手が違う場所だからだ)」とあ る。 類義水を離れた魚。陸 に上がった河童 日向ひなの土竜もぐ。 ぱ 対義得手に帆を上げる。水を得た魚うお。 きわめて危険な状態に追い込まれているこ と。危ない瀬戸際。髪の毛一本ほどの近くま で危機が迫っている意から。また、きわめて 危険なことのたとえ。一本の髪の毛で千鈞 の重さの物を釣り上げる意から。 危機一髮 注意 危機一発」と書き誤らない。 類義一髪千鈞を引く。 きかぶにーききのき 用例すなわち私はあの鬼ヶ島の鬼という ものに或ぁる種の憎むべき性格を附与して やろうと思っていたどうしてもあれは征 伐せずには置けぬ醜怪極悪無類の人間とし て、描写するつもりであったそれに依よっ て桃太郎の鬼征伐も大いに読者諸君の共鳴を 呼び起し、而してその戦闘も読む者の手に 汗を握らせるほどの真に危機一髪のものたら しめようとたくらんでいた〈太宰治◆お伽 草紙〉 出古事記こじき きぎし雉子の頓使い 行ったきり帰って来ない使者。また、一説に は、従者をつけずに単独で使者を出すことを 忌いんでいうことば。∇雉子∥雉きじの古称。 補訪 天照大神 おおみかみ は日本国土を平定する ために、豊葦原 とよあ しはら の中つ国にいる大国主命 おおくにぬ に天稚彦 あめわ かひこ を使者としてさし向けた が、天稚彦は大国主命の娘の下照姫 したて るひめ と結 婚し、天上へ戻って来なかった。天照大神は ようすを見るために使者として雉を遣わした ところ、天稚彦はこの雉を射殺してしまった という神話から出たことば。 類義 鉄砲玉の使い。返し矢忌むべし。 聞き上手の話下手 人の話を上手に聞くことのできる人は、か えって自分で話すことは下手なことがあると いうこと。 対義話し上手は聞き上手。 人から聞いたことを自分が考えた説のように 発表すること。仏の教えを正式に学ばない で、耳学問で覚えたものの意から。「聞き取 り傍聞ほうもん」ともいう。△法問仏法について の問答。 出三国志 忌諱に 「匡志 目上の人が嫌がることを言ったりしたりし て、機嫌をそこなうこと。△忌諱=「忌」も 「諱」も、忌いみ嫌う意。「きい」とも読む。 きききよくちょく どばあんぽ 騙騙の跼躅するは駑馬の安歩 し に如かず 出史記 どんなにすぐれた人間でも怠けていれば、平 凡だが努力し続ける人間にはかなわないとい うたとえ。すぐれて足の速い馬でも、ぐずぐ ずしていれば、ゆっくりと歩き続ける駄馬に 及ばないという意から。∇騃騨=一日に千里 を走るという名馬。跼躅=ぐずぐずして進ま ないこと。駑馬=足ののろい馬。安歩=静か にゆっくりと歩くこと。 補説出典では、このあとに「孟賁の狐疑 こぎするは、庸夫の必ず至るに如しかざるな り(戦国時代の代表的な勇者である孟賁も、 疑いためらっているようでは、必ずかけつけ る凡夫に及ばない」と続く。 類義猛虎 もう の猶予 ゆう よ するは蜂薑 ほう たい の螫 せき を <172> 致すに若しかず。 ききお 騏驥も老いては駑馬に劣る 出戦国策 刑の前 すぐれた人物でも、年老いると能力が衰え、 ぶつうの人にさえ負けてしまうことのたと え。一日に千里を走る名馬でも、老いれば、 足ののろい駄馬にさえ劣ってしまうという意 から。「騃驥」は「騃驎」ともいう。また、 「劣る」は「及ばず」ともいう。△騃驥〓一 日に千里を走るという駿馬 転じて、俊才 の意。駑馬‖足ののろい馬。転じて、凡人・ 愚か者の意。 補説出典には「語に日いわく、騏驥の衰うる や、駑馬もこれに先 だ ち、孟賁 ほん の倦つかる や、女子もこれに勝つ、と(ことわざに、足 の早い駿馬でも老い衰えると駄馬に追い越さ れ、孟賁のような力持ちの勇士も、疲労する と、か弱い女子に負けてしまうと言ってい る)とある。 類義昔千里も今一里昔の剣今の菜刀 なが たな 対義腐っても鯛たい。 亀の甲より年の劫こう。 用例故に、道徳・知識のようなものにいたっ ては、ずいぶん高齢にいたるまで、すすんで やまぬのを見るのも多いが、元気・精力を要 する事業にいたっては、この「働きざかり」 をすぎてはほとんどダメで、いかなる強弩 (強力な石矢)もその末は魯縞ろこ(うすい布)を うがちえず、壮時の麒麟も、老いてはたいて い駑馬にも劣るようになる。〈幸徳秋水◆死 ききゅうそんぼうとき 危急存亡の秋 出諸葛亮前出師表 危険が迫り、生き残れるか滅びるかの岐路に 立たされているとき。組織や集団の重大な局 面についていうことが多い。∇秋∥穀物を収 穫する大事なときから、重大な時機の意。 箕裘の業 出礼記らいき 父祖の業を受け継ぐこと。また、親をまねて 自然に家業を習得していくこと。弓職人の子 は、親が弓を作るのを見て、まず柔らかい柳 の枝を曲げて箕みを作ることから始め、鍛冶 屋の子は、親が金属を加工するのを見て、ま ず動物の皮をなめして裘を作ることから始め て業を受け継ぐということから。▷箕‖穀物 をふるう道具。裘‖皮ごろも。 枳棘は鸞鳳の棲む所に非ず 賢人は低い地位に甘んじるのではなく、居る 所を選ぶというたとえ。高貴な霊鳥は、から たちやいばらの茂みをすみかとしないことか ら。∇枳棘∥「枳」はからたち、「棘」はい ばら。ともにとげのある木。「しきよく」とも 読む。鸞鳳∥神鳥の名。中国の高貴で神聖な 想像上の鳥。めでたいしるしとして現れる。 補説出典にはこのあとに「百里豈あに大賢の 路ならんや(百里四方程度の狭い地域は、あ なたのような立派な統治者が治めるほどの値 打ちがある所ではない)とある。 出後漢書 出孟子もうし 物事や行為の標準・基準になるもののこと。 模範。マ規ニコンパス。矩ニさしがね。準ニ 水平度をはかる道具。水準器。縄ニ直線を引 く道具。墨縄 すみ なわ 聞くと見るとは大違い 聞くと見るとは大違い 聞いたことと、実際に目で見て確かめたこと とは大きな違いがあるということ。 類義」聞いて極楽見て地獄。 いっ 聞くは一時の恥、聞かぬは一 生の恥 知らないことは積極的に質問したほうがよい という教え。知らないことを聞くのは、その ときは恥ずかしいが、聞かずに知らないまま でいれば、一生恥ずかしい思いをして過ごす ことになるということ。「聞くは一旦の恥、 聞かぬは末代の恥」ともいう。 類義問うは一旦の恥、問わぬは末代の恥。 知らずば人に問え。 き どく み め どく 聞くは気の毒、見るは目の毒 知らずにいれば済むことを、なまじ見たり聞 いたりすると、迷いのもとになるということ。 「聞けば気の毒、見れば目の毒」ともいう。 類義」聞けば聞き腹。 聞くは法楽 ほうらく 聞くのは無料だから聞いてゆけと、人にすす <173> めることば。∇法楽∥法会 ほう のとき、仏前で 音楽を演奏したり経を読んだりして供養くよ ること。勧進かんのために人に見せたことから 無料の意となった。また、なぐさみ、たのし みの意にも用いる。 類義 見るは法楽。聞くも法楽見るも法楽。 聞けば聞き腹 聞かなければ知らないで済むことを、なまじ 聞いたために腹が立つということ。「聞けば 聞き損」ともいう。 類義 聞くは気の毒、見るは目の毒。 旗鼓相当たる 出後漢書 両者の勢力が互角であること。戦場で敵味方 の軍が相対する意から。「鼓旗相当たる」と もいう。∇旗鼓∥戦場で指揮や合図のために 用いる旗と太鼓。転じて軍隊の意。 補説光武帝が隗囂 かい に宛てた手紙の中のこ とば。出典には「如もし子陽 しよ をして漢中三 輔 さん に到らしめば、願わくは将軍の兵馬に因 ぼ よりて、旗鼓相当たらん(もし公孫述が漢中や 都の周辺に侵入してきたら、どうかあなたの 軍隊の力によって対戦して下さい」とある。 類義旗鼓の間に相見 あい まみ ゆ。 鬼哭啾啾 鬼気迫るものすごい気配のあるさま。不遇に 死んだ浮かばれない亡霊が恨めし気に泣く声 が響くようすから。∇鬼哭∥浮かばれない霊 魂が声をあげて泣くこと。啾啾∥しくしくと 泣く声の形容。 出杜甫ー詩し きけばきーきしせん 補説中国唐の詩人杜甫の詩兵車行 の一節「君見ずや青海の頭 の収むる無く、新鬼は煩冤 天陰くもり雨湿 見聞きしなかったか、あの青海あたりでは、 昔から白骨を片付ける人も無く、死んで間も ない亡霊はもだえ恨み古い死者の霊魂は泣き 叫び、空が曇り雨に湿る時は亡霊の泣く声が 悲しげに響いているのを」から。 用例ことに世の中が変動する前には、安政 の大疑獄以来、幾多有為の士を、再び天日の 下にかえさず吞のんでしまった牢屋の所在地 だ。鬼哭啾々、人の心は、そこの土を踏むだ けで傷みに顫ふるえる。〈長谷川時雨◆牢屋の 原〉 きこいきお騎虎の勢い はずみがついて勢いよく進むこと。また事の 成り行きで途中でやめられないことのたと え。虎に乗って走り出すと、途中で下りたら 食い殺されてしまうので、走り続けなければ ならない意から。∇騎虎∥獰猛 どう もう な虎に乗る こと。 出晋書しんじょ 類義虎に騎のる者は勢下るを得ず。 用例 武田の本軍、鳶ケ巣 がす 以下の落城を 知ったが、敵軍を前にして今更 いま きら 騎虎の勢、 退軍は出来ない。天正三年五月二十一日の暁 時 (丁度五時頃)武田の全軍は行動を開始し た。〈菊池寛◆長篠合戦〉 箕山の節 ぎざんせつ 俗世間から逃れて、自分の節操を守ること。 出漢書かんじょ 「箕山の志」ともいう。∇箕山=中国にある山の名。節=節操。 故事 中国古伝説上の高潔の士、許由 と巣 父 の二人が、尭帝 が天下を譲ろうといっ たのを断り、節操を守ろうと箕山に隠遁 いん し て、ついに政治に関与しなかったという故事 による。 類義 穎水すいに耳を洗う。 起死回生 きしかいせい 出太平広記 絶望的な状態を立て直し、勢いを盛り返すこ と。死にかかっている病人を生き返らせる意 から。「回」は「廻」とも書く。∇起死∥死 人を生き返らせる意。「回生」も「起死」と 同じ意。 補説『太平広記』に引く『女仙伝 じょせ んでん』の語。 用例それから、日本人は、真珠か何かの力 で、起死回生の法を、心得ているそうである が、それもマルコ・ポオロの嘘うそらしい。嘘 なら、方々の井戸へ唾を吐いて、悪い病さえ 流行はやらせれば、大抵の人間は、苦しまぎれ に当来の波羅葦僧 はらい ぞう なぞは、忘れてしまう。 〈芥川龍之介◆煙草と悪魔〉 きしず 樹静かならんと欲すれども風止まず ふうじゅ たん 風樹の嘆 574 旗幟鮮明 きしせんめい 態度や立場、主義・主張などがはっきりして いるたとえ。旗色が鮮やかだという意から。 「旗幟を鮮明にする」「旗幟を明らかにする」 ともいう。∇旗幟=旗じるし。のぼり。主 <174> きしちたーきじょう 義・主張や態度などのたとえ。 注意「旗幟」を「きしょく」と読み誤らない。 用例)Karpokratesは基督教界 キリストき ようかい におけ るほとんど唯一の旗幟鮮明なる共産主義者 で、その思想は共産的無政府主義を以もって目 すべきである。しかしこの人は此の如ごとき思 想を有すると同時に、基督教の圏外に逸出し て、破戒無慙 むざ の人として教界の歯 せざる 所となった。〈森鷗外・古い手帳から〉 きしちたけはちへいじゅうろう 木七竹八塀十郎 木は七月に、竹は八月に剪定 せん ているのがよく、 土塀は乾燥した十月に塗るのがよいという生 活の知恵を、人名になぞらえて言ったことば。 「木六竹八塀十郎」ともいう。 類義竹八月に木六月。 きじ雉の隠れ 全体を隠したつもりでも、一部分が見えてい ることをあざけることば。雉が草むらなどに 逃げ隠れるとき、頭だけ隠して尾が外にはみ 出して見えていることから。「雉の草隠れ」 ともいう。 類義頭隠して尻隠さず。雉の浅知恵。身を 蔵かくして影を露わあらにす。 きじみつ 幾事密ならざれば則ち害成る はっきりしない事柄。密=細やかな点まで行 き届くこと。 補説出典にはこの前に「君密ならざれば則 ち臣を失い、臣密ならざれば則ち身を失い(君 主が慎重な言葉遣いをしないと臣下に背か れ、臣下が慎重な言葉遣いをしないと身を滅 ぼす)とある。 小さな事柄にも細心の注意を払わないと害を 受けるということ。用心深く事をせよという たとえ。∇幾事∥微妙な事柄。微妙でまだ 出易経えきよう 出戦国策 疑事無功 ぎじむこう 疑いためらいながら行うようでは成果は期待できないということ。自信のないままにしたことは成功しないということ。「疑事功無し」と訓読する。 きじな 雉も鳴かずば打たれまい 無用な発言をして災難を招くたとえ。雉も鳴 かなければ所在に気づかれず、撃たれること もなかったろうにという意から。「鳴かずば 雉も打たれまい」「鳥も鳴かずば打たれまい」 ともいう。 類義口は禍わざの門もん。鳴く虫は捕らえられる。手を出して火傷やけする。 英語 Quietness is the best, as the fox said when he bit the cock's head off. [雄鳥おんの頭をかみ切った狐が言うには、静かにしているのがいちばんよい] 用例きゃッと、のけぞってぶっ倒れる刑事。 そのとき貫一は、はっきり見たー彼の放っ た一弾は、刑事の右腕に命中し、そして二の 腕あたりからもぎとって、すっとばしてし まったことを。「ざまあ見やがれ。雉も鳴か ずば撃たれめえ。腕を一本放しちまえば、あ とは出血多量で極楽へ急行だよ。じゃあ刑事 さん、あばよ」〈海野十三◆奇賊悲願〉 貴珠は賤蚌より出ず 出抱朴子 すぐれた人物が貧賤な境遇から生まれ出るこ とのたとえ。貴重な真珠が汚いドブ貝の中か らとれるという意から。∇貴珠∥真珠。蚌∥ ドブ貝。からす貝の一種。 起承転結 文章や話などで全体を秩序立ててまとめる構 成の意。さらに広く物事の順序、組み立て・ 構想の意にも用いられる。「起承転合」とも いう。 補説もとは漢詩、特に絶句の作法。第一句 で主題を言い起こし、第二句で一句の内容を 受けて展開し、第三句で詩意を一転させ、第 四句で詩全体の意味をまとめ結末をつける構 成法。 用例時には人から勧められる事もあり、た まには自ら進む事もあって、ふと十七字を並 べて見たりまたは起承転結の四句ぐらい組み 合せないとも限らないけれどもいつもどこか に間隙すきがあるような心持がして、隈くまも残 さず心を引き包くんで、詩と句の中に放り込 む事ができない。〈夏目漱石◆思い出す事な ど 机上の空論 頭の中で考えただけの、実際には役に立たな い議論や計画。机の上だけで立てた、空しい 理論という意から。 <175> 類義 絵に描いた餅。 畳の上の水練。 きじくさんねんふるきずで 雉を食えば三年の古傷も出る 雉の肉は脂肪分が多いので、三年前の古い傷 もうみをもつほどの作用がある。雉の肉は精 がつくということからいう。 疑心暗鬼を生ず 出師友雑志 心に疑いがあると、何でもないことまで恐ろ しく思えたり、疑わしく思えたりするという こと。疑いの心があると、暗闇の中にいるは ずもない鬼の姿が見えるという意から。「疑 心暗鬼を作る」ともいう。∇鬼∥幽霊。 類義杯中の蛇影だえ。 疑いは暗中の人影。 霊の正体見たり枯れ尾花。 用例かの道なき所に道あるように覚え、水 ある所に水なきように思い、狐 れて進退するなどは、狐を恐るより疑心暗 鬼を生ずるに至り、一時の幻覚、妄境を現ず るのである。そのくわしき説明は、心理学を 研究せねばならぬ。〈井上円了◆迷信解〉 きじんうれきゆう 杞人の憂い専杞憂183 鬼神は敬して遠ざく とお けい とお 敬して遠ざける 217 道に外れたことはしないという意。 補説 徒然草 つれづ れぐさ に 王土に居 らん虫(天 皇が治めている国土にすむ蛇)、皇居を建て られんに、何のたたりをかなすべき。鬼神は 邪無し。とがむべからず(少しも気にかける ことはない)とある。 類義神明に横道無し。 鬼神は邪無し 神は道理に外れたことや不正なことはしない ということ。「鬼神に横道どう無し」ともいう。 ∇鬼神∥天地万物の霊魂、神霊。邪無し∥正 きじなくーきそくを 帰心矢の如し 故郷や我が家へ、一刻も早く帰りたいという 気持ちが強いことのたとえ。 きずぐち傷口に塩しお 困った状態の上に、悪いことが重なることの たとえ。傷口に塩を塗れば、しみていっそう 痛むことから。「痛む上に塩を塗る」ともい う。 類義切り身に塩泣き面に蜂弱り目に崇 たた り目。 きず瑕に玉たま 悪いことや欠点が多い中に、わずかによい点 があるということ。 対義玉に瑕。 傷持つ足の下り坂 後ろめたいことややましいことがある者は、 ただでさえびくびくして逃げ腰なのに、状況 が悪くなると逃げ出してしまうということ。 きせきい とから。∇鬼籍∥過去帳。本来の意味は、閻 魔 えん が持っている帳面で、そこには死者の氏 名や死亡年月日が書き記してあるという。 鬼籍に入る 死亡すること。 過去帳に記入されるというこ 用例鈴木徳子はいつの間にやら舞台から消 えて沢村宗之助 の女房になっていること も知った。そうしてその宗之助や栄三郎が早 く鬼籍に入った事も知った。その宗之助と徳 子の間に出来た新しい宗之助の子方もはや 屢々 見た。〈高浜虚子◆丸の内〉 機先を制する 相手が行動を起こす前に手を打って、自分に 有利に展開すること。∇機先∥相手が事を始 めようとする矢先。 類義 先んずれば人を制す。先手を取る。先 手は万手。先手必勝。 対義急せいては事を仕損じる。 用例「何でも、十二三度その人がちがった 役をするのを見たんです。顔の長い、痩せた、 髯ひげのある人でした。大抵黒い、あなたの着 ていらっしゃるような服を着ていましたっ け」──僕は、モオニングだったんだ。さっ きで懲こりているから、機先を制して、「似て いやしないか」って云うと、すまして、「もっ といい男」さ。「もっといい男」はきびしい じゃないか。〈芥川龍之介◆片恋〉 騒足を展ぶ 出十八史略 驥足を展 すぐれた才能のある者が、持てる才能をさら に発揮することのたとえ。名馬が全力を出し て走る意から。「驥足を展ばす」ともいう。 ∇驥Ⅱ一日に千里を走るといわれる駿馬 しゅ。 んめ <176> きたなくーきっきよ 驥足=駿馬のすぐれた脚力の意。転じて、す ぐれた才能のこと。 きよく 補説出典には「魯粛ろし、備に書を遺おくりて 日いわく、士元は百里の才に非あらず。治中別駕 ちちゅう べつが たらしめば、乃すなち其その驥足を展ぶる を得んのみ、と(魯粛は劉備りゅに手紙を送っ て「龐統ほうは百里四方程度の小さな県の長官 には適さない。州の長官の副官の職につけた ら、そのすぐれた才能を十分に発揮すること ができるだろう」と言った」とある。 汚く稼いで清く暮らせ 汚く移して 世間からは低く見られる仕事でも、気にせず に働いて、心は清らかに暮らせということ。 また、あくどい方法で金を稼いでも、使うと きはいさぎよく使えということ。「汚く過ぎ て清く食え」ともいう。 類義 汚く集めてきれいに使う。 対義 きれいな商売をして汚く暮らす。 対義 きれいな商売をして汚く暮らす。 きた ちか みなみ とお 北に近けりゃ南に遠い 当り前のこと、わかりきったことのたとえ。 類義犬が西向きや尾は東。雨の降る日は天 気が悪い。 類義 北枕に寝るのは死んだ人ばかり。北枕 すれば毒が入る。 北枕に寝るな 北の方角に頭を向けて寝てはいけないという こと。「北枕はせぬもの」ともいう。 補説 釈迦 しか が死んだとき、北方に頭を向け て寝かせたことから、死者を北枕にするよう になったため、生きている人が頭を北に向け て寝ることを忌いむようになった。 来る者は拒むこと勿れ、去る 者は追うこと勿れ 出春秋公羊伝 去来を自由意志に任せること。自らやって来 る者を拒んではならず、自ら去って行く者は 引き止めてはならないということから。 類義 往ゆく者は追わず、来たる者は拒まず。 きたものひびした 面識のない者でも、自分のもとに来るように なれば、だんだん親密になるということ。 対義去る者は日日に疎うとし。 来る者は日日に親し きちく騎竹の年 幼年期。竹馬に乗って遊ぶ年ごろという意か ら。△騎竹∥竹馬に乗ること。 類義竹馬 ちく ば の年。 きちくまじ 騎竹の交わり ちくばとも 竹馬の友 418 吉事門を出でず よい行いは、世間に知れわたることが少ない ということ。 類義好事にう門を出でず悪事千里を行く。 きちこうあかならきちはい 機知の巧有れば必ず機知の敗 あ 有り 出 説苑 いうこと。機械を利用する知恵のある者は、 その能率のよさにおぼれて努力を忘れ、失敗 するということから。 故事)中国、周の鄧析 とうが衛の国を訪れたと き、五人の男が井戸から水をくんで畑にまい ていた。鄧析が、機械を作って効率よく水を まくことを教えたところ、「われわれの先生 の教えに、機械の巧みさを知れば必ず機械に よって失敗する、とある。われわれは機械の 作り方を知らないのではない。あえて使おう としないのだ」と、逆にさとされたという。 才知ある者は、そのオにおぼれて失敗すると きちょうきゅうりんこちぎよこえん 羈鳥旧林を恋い池魚故淵を おも 思う とうせんし 出陶潜詩 故郷を恋しく思うことのたとえ。旅をする鳥 は、古巣のある林を恋しがり、池で飼われて いる魚は、以前すんでいた淵ふちをなつかしく 思うという意から。▼羈鳥=旅をする鳥。一 説に、かごの鳥の意。 補説詩の題名は園田元んの居きょに帰る。 誤って塵網 じん もう の中に落ち、一たび去りてよ り三十年(誤って役人になり俗世間で暮らす こと三十年になる。羈鳥旧林を恋い、池魚 故淵を思う」とある。 類義 胡馬 北風に依より、越鳥南枝に巣く う。 きっきょうあざななわごと吉凶は糾える纏の如し よいことと悪いことは、より合わせた縄のよ 出孫楚ー詩 <177> うに交互にやって来るものだということ。 「吉凶はまつわれる縄の如し」ともいう。△ 糾うニ縄などをより合わせる意。 補説詩の題名は『征西 せい の官属 かん ぞく が陟陽 ちょく の侯に送られしとき作れる』。「吉凶は糾 よう える縄の如し、憂喜 ゆう は相紛 まじ り擾 みだ る(喜 びと憂 うれ いとが互いに相まつわり、もつれて いる」とある。 類義人間万事塞翁が馬。禍福は糾える縄 の如し。沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり。楽は苦 の種、苦は楽の種。 きっきょうひと 吉凶は人によりて日にようず 縁起や運の善し悪しは、人間の行動によるも ので、暦 こと。 の日時によるものではないという 補説兼好法師 が、陰陽五行説 おんようご ぎょうせつ が 誤って広まっているのに対し、『徒然草 つれづ れぐさ の中で批判を加えたもの。この前に「吉日に 悪をなすに必ず凶なり。悪日に善を行ふに必 ず吉なりといへり(古来、よい日に悪いこと をすれば結果は必ず凶である。悪い日によい ことをすれば結果は必ず吉であるといってい る」とある。 類義鬼門金神我より崇たたる。 きっちゅうらく橘中の楽 囲碁・将棋の楽しみ。「橘中の仙せん」ともいう。 故事昔、中国巴邛はきよう(今の四川省)の人が庭 のみかんの大きな実を割ってみると、二人の 老人が向かい合って象戯し(中国式の将棋)を 楽しんでいたという故事による。 出幽怪録ゆうかいろく きっきょーきつねと きつきこたまごうなず 啄木鳥の子は卵から頷く 生まれながらにして、将来を思わせる素質が 備わっていることのたとえ。 き 類義栴檀は双葉より芳ばし。 きつねへた 狐が下手の射る矢を恐る 素人は何をするかわからず、相手にしにくい ということのたとえ。下手な者が射る矢はど こへ飛んで行くかわからず、すばしこい狐も 逃げ場に困るという意から。 類義下手の鉄砲烏 から す が怖 じる。下手の射 る矢。 きつねこれうずきつねこれあば 狐之を埋めて狐之を揺く 疑い深いために、自分の手で物事をぶちこわ してしまうこと。狐は疑い深く、自分で土の 中に埋めた食べ物を掘り出して確かめること から。∇揺く∥掘る。発掘する。 きつねし 出国語 狐死して鬼泣く 仲間の苦しみを悲しみ、同情すること。また、 同類の死を見て、その災いが自分の身に近づ いているのを憂えるたとえ。同じ山にすむ狐 が殺されると、兎が同じ運命になるかと思っ て悲しみ泣くことから。「狐死して兎悲しむ」 ともいう。 出宋史そうし 補説出典には「将軍は山東の帰附きふに非あら ずや。狐死して兎泣き、李氏りし滅びて夏氏かし 寧いずんぞ独り存せんや。願わくは将軍、盼はん を垂れんことを(夏全将軍と山東の李氏は共 に心を寄せ合ってきた仲ではないか。同じ山 にすむ狐と兎は、狐が死ねば兎は身に危険が 近づいたのを知り悲しむ。同様に、李氏が滅 亡すれば夏氏一族も滅亡することになる。ど うか李氏一族をお忘れなく)」とある。 狐死して丘に首す 出礼記らいき 故郷を思うことのたとえ。また、根本を忘れ ないことのたとえ。狐は死ぬときは必ずすん でいた丘の方向に首を向けて死ぬという意か ら。「丘」は「おか」とも読み、「首す」は「か しらす」とも読む。 狐其の尾を濡らす 出易経・戦国策 始めは容易であっても、終わりは困難である ことのたとえ。また、懸命に物事を行うが、 最後に軽率な行為をして失敗することのたと え。力の弱い小狐が川を渡るとき、最初は尾 をぬらさないように上げているが、最後には 力尽きてぬらしてしまうことから。 補説「易経」には「小狐 しょ うこ 汔 ほと ん ど済 わた らん として、其の尾を濡らす」とあり、『戦国策』 には「易えきに日いわく、狐其の尾を濡らすと。 此これ始めの易やすく、終わりの難き(始めは容 易であっても、終わりは困難である)を言う なり」とある。 きつね 狐と狸 曲者 くせ 同士のこと。 狐も狸も化かし合いをす <178> ることから。「狸と狐」ともいう。 類義狸と炤むじ。な 狐、虎の威を借る とら いか 虎の威を借る狐 474 狐七化け狸は八化け 狐は七種類に化けることができるが、狸は八 種類に化けることができる。狸のほうが狐よ りも化けるのが上手であるということ。 「狐の七化け狸の八化け」「狐七化けむじな一 化け」ともいう。 きつねあずきめしねこかつおぶし 狐に小豆飯↓猫に鰹節506 狐につままれる どうしてそうなったのか、原因や経緯がわか らず、呆然ぜんとしているようす。狐に化かさ れたときのように、ぽかんとしていることか ら。▶つままれる∥化かされる。 用例ところが、かんじんの本人は一向病気 だとも思っていない様子で、まるで狐にでも つままれるような顔をしながら医師の診察を 受けたということが知れ渡ると、村のものが 騒ぎ出した。〈島崎藤村◆夜明け前〉 きつねこつらじろ 狐の子は面白 子は親に似るということのたとえ。親が白い 顔の子狐はやはり顔が白いことから。▷面白 ‖顔の白いこと。 狐の嫁入り 類義瓜うりの蔓るに茄子はならぬ。親に似 ぬ子なし。蛙かえの子は蛙。 対義鳶とびが鷹たかを生む。 夜中に、遠くの山野で狐火 が並んでいるようすを、狐の嫁入り行列の提 灯ちょうに見立てて言ったもの。また、日が照っ ているのに、雨がぱらぱら降っている状態。 日照り雨。 用例陽光ひがさしていて薄い雨が降ると、 狐の嫁入りだ、狐の嫁入りだと、なんのわけ か知らないが、子供たちは地べたに腹んばい になって、地上を透として見ようとした。長 谷川時雨・春宵戯語〉 狐を馬に乗せたよう 動揺して落ちつかないようす。また、言うこ とが一貫せず、信用できないことのたとえ。 きつよ すなわ お 木強ければ則ち折る 出列子・淮南子 強気一本で押し通そうとする人は、柔軟性が なく挫くじけやすいことのたとえ。しなやかさ のない堅い木は折れやすいことから。「木強 ければ折れ易し」ともいう。 補説列子には、老子のことばとして兵 彊っよければ則ち滅び(武力が強すぎると、か えって滅亡し)、木彊ければ則ち折る。柔弱 なる者は生の徒、堅彊 なる者は死の徒な り(柔らかなものは生を得る仲間であり、堅 固なものは死を招く仲間である)とあり、『淮 南子』には「兵強ければ則ち滅び、木強けれ ば則ち折れ、革固ければ則ち裂く」とある。 類義金剛ごうなれば則ち折る。 木で鼻をくくる 相手に対して、無愛想で冷淡な態度をとること。「木で鼻をかむ」「木で鼻をこくる」ともいう。▷くくる=「こくる」の誤用が慣用化されたもので、こするの意。 類義杵きねで鼻こする。木っ葉で鼻かむ。立 木へ鼻こする。拍子木 ひよう しぎ で鼻かむ。 用例巷 ちま た では、行逢 ゆき あ う人から、木で鼻を 括くくるような扱いを受けた。殺気立った中 に、何ともいえぬ間の抜けたものも感じられ る、奇怪な世界であった。〈原民喜◆壊滅の 序曲〉 来て見れば、さほどでもなし 富士の山 実際に見てみると、話に聞いていたほどではなくてがっかりするというたとえ。富士山は日本一のすばらしい山だと言われて来てみると、それほどではなかったという意から。 補説江戸時代に「来て見れば聞くより低し 富士の山、釈迦も孔子もかくやあるらん(同 様であったのだろう)という狂歌がある。 木、縄に従えば則ち正し 出書経しょきよう 他人の忠告を素直に聞き入れて従えば、正し く立派な人間になるということ。曲がった木 も墨縄をあてて削れば、まっすぐになるとい <179> う意から。▷縄=墨縄のこと。木材などに直 線を引くのに使う大工道具。 補説出典には「説えっ王に復して日いわく、惟 これ木縄に従えば則ち正しく、后きみ諫めに従え ば則ち聖なり(説は王に答えて言った。木は 墨縄に従えばまっすぐになり、君主は臣下の 諫めに従えば聖徳をもつようになるのだ)」 とある。 きこくれんなぼくしいとな 岐に哭し練に泣く墨子糸に泣く601 きたけつ 木に竹を接ぐ 調和やつり合いがとれないこと、前後のつじ つまが合わないことのたとえ。木に竹を接ぎ 木しようとしてもうまくいかないことから。 略して「木に竹」ともいう。 類義竹に接ぎ木。 用例出来たてのうちはまだいいが、追い追 い年数が経って、板や柱に木目の味が出て来 た時分、タイルばかりが白くつるつるに光っ ていたら、それこそ木に竹を接いだようであ る。谷崎潤一郎◆陰翳礼讚〉 木に餠がなる 話がうますぎることのたとえ。また、困難な ことを簡単そうに言うことのたとえ。木に餅 がなることなどありえないことから。 きようおもと 木に縁りて魚を求む 出孟子 手段を誤ると、苦労しても成果が得られず、 目的が達成できないこと。木によじ登って魚 を探すという意から。 きにこくーきのうの 補説孟子が、武力で天下を統一しようという野望を持つ斉の宣王に、武力だけで天下を平定するのは不可能であると諫いさめたことばの一節。出典には「土地を辟ひらき秦楚しんを朝せしめ、中国に荘のぞんで四夷しいを撫ぶせんと欲するなり。若かくのき為なす所を以もて若き欲する所を求むるは(領土を広げ秦や楚を従属させて、中国の皇帝として四方の異民族を支配するという欲をもつのは)、猶なお木に縁りて魚を求むるがごときなり」とある。 き 類義 天を指して魚を射る。氷を叩 たた いて火 を求む。水中に火を求む。百年河清 かせ い を俟 ま つ。畑に蛤 はま ぐり 英語 go the wrong way to the wood へ行くのに誤った道を行く You ask an elm tree for pears. 検れの木に梨を求め る 用例この根柢こんを除去せずして、単に形骸 をのみ改め、以もって同胞融和の実を挙げうべ しとするは、所謂いわ木に縁りて魚を求むる類 に候う。〈喜田貞吉・「特殊部落研究号」発刊 の辞〉 機に因りて法を説け 類義 杵に当たらにや棒に当たる。杵に当た り臼うに当たる。 相手の素質や能力などに応じて、適切な説法 をせよということ。転じて、何事も臨機応変 に対処せよということ。▶機‖機根 教え を聞いて修行しうる素質・能力。 類義人を見て法を説け。 きねあしゃくしあ 杵で当たり杓子で当たる 何にでも八つ当たりすること。 昨日の檻褸今日の錦 つづれきようにしき 浮き沈みがはげしいことのたとえ。昨日まで はぼろを着ていた者が、今日は錦の衣服を着 ていることから。「昨日の錦、今日の襤褸」 ともいう。△襤褸=つぎはぎの粗末な衣服。 錦=美しい衣服。 類義昨日の大尽だい、今日の乞食。昨日の花 は今日の塵ちり。昨日の淵は今日の瀬。 昨日の敵は今日の味方 人の心は変わりやすく、当てにならないこと のたとえ。昨日までの敵が、今日は味方にな ることから。「昨日の敵は今日の友」「昨日の 仇あだは今日の味方」ともいう。 類義昨日の友は今日の仇。 用例日本の戦争は武士道の戦争だなどと考 えると大きな間違いで、日本の戦史は権謀術 数の戦史である。同盟だの神明に誓った血判 などと紙の上の約束が三文の値打もなく踏み にじられ、昨日の味方は今日の敵、そうかと 思うと昨日の敵は今日の味方で、共通する利 害をめぐってただ無限の如ごとく離合する。 〈坂口安吾◆家康〉 昨日の友は今日の仇 きのうともきようあだ 人の心は変わりやすく、当てにならないこと のたとえ。昨日まで親しくつき合ってきた友 人が、急に今日は敵となるという意から。「昨 日の友は今日の敵」ともいう。 <180> きのうのーきはいち 類義 今日の情けは明日の仇。昨日の敵は今 日の味方。 きのうふちきようせあすかがわふちせ 昨日の淵は今日の瀬飛鳥川の淵瀬18 きのうきのうきようきよう 昨日は昨日、今日は今日 昨日と今日とは違う日だということ。日ごと に情勢が変化することを相手に警告する場合 や、前例を否定したり、自分の変わり身を弁 護したりするときに用いる。 類義昔は昔今は今。 昨日は今日の昔 わずか一日前のことでも、昨日はもはや過去 であるということ。月日の経過の早いことを いう。「昨日は今日の昔、今日は明日の昔」 ともいう。 昨日は人の身、今日は我が身 人の運命は予想し難く、災難はいつ自分に降 りかかってくるかわからないということ。昨 日は他人のことだと思っていた災難が、今日 は自分の身に降りかかるという意から。「昨 日は人の上、今日は我が上ともいう。 類義今日は人の上、明日は我が身の上。浮 世は回り持ち。人の上に吹く風は我が身にあ たる。人の事は我の事。 昨日は嫁、今日は姑 時の経過が早いこと、人の境遇の変化が激し いことのたとえ。「昨日はやもめ今日は姑」 ともいう。 気の利いた化け物は引っ込む 時分 長居をしたり、地位に長く居座ったりしている者に対して、そろそろ引き下がるべきだと促す場合に用いる言葉。たとえ化け物でも、気を利かせて引っ込む時分だということから。「気の利いた化け物は引っ込む頃」ともいう。 きのこと やまわす 一葺採った山は忘れられない 一度味をしめると、いつまでもそのことを忘 れられないということ。「葺」は「菌」とも 書く。 木の長きを求むる者は必ず其 この根本を固くす 出旧唐書 大きな発展のためには、基礎をしっかり固め なければならないということ。木が大きく育 つのを望む者は、その根もとをしっかり固め るという意から。 補説出典には、このあとに「流れの遠きを 欲する者は必ず其の泉源を浚さらう(流れを遠 くまで及ぼしたいと思う者は、必ずその水源 の底を深くする)。国の安き(安泰)を思う者 は、必ず其の徳義(人として実行すべき道義) を積む」とある。 木登りは木で果てる 得意なことでも油断をすると、身を滅ぼした り災いを招いたりしやすいという戒め。木登 りの上手な者は、油断して木から落ちて死ぬ という意から。 類義川立ちは川で果てる。泳ぎ上手は川で 死ぬ。山師山で果てる。善く游およぐ者は溺 れ、善く騎のる者は堕おつ。 木の股から生まれる 人情を理解しない者、とくに男女間の情愛が わからない者のたとえ。 類義 木仏 金仏 かな 石仏 いしぼ 石部金吉 いしべき んきち 鉄兜 かなか ぶと 木の実は木の本 物事はそのもとに帰るものだということのた とえ。木になった実は、その木の根もとに落 ちることから。「木の実は本へ落ちる」とも いう。 類義木の根は本。 いちじつ せんり 騒は一日にして千里なるも、 どばじゅうがすなわまたこれ 駑馬も十駕すれば則ち亦之に およ 及ぶ 出荀子 凡人でも努力を続ければ、すぐれた人物と肩 を並べることができるということ。駑馬でも 十日走り続ければ、名馬が一日で行くのと同 じ所に到達できることから。∇驥Ⅱ一日に千 里を走るという名馬。駑馬Ⅱ足ののろい馬。 駕Ⅱ馬に車をつけて走ること。 <181> 類義 駑馬十駕。 機は得難くして失い易し 絶好の機会というものはそう簡単にめぐりあ えるものではなく、手に入れたと思ってもす ぐに逃がしてしまいがちだということ。「機 会は得難く失い易し」ともいう。 ききき 木は木、金は金かね 物事の区別をはっきりつけること。ごまかさ ないこと。木と金を混同しないという意か ら。「木を木、金を金」ともいう。 類義石は石、金は金。木は木、竹は竹。 ききよなおひとひと 木は規に依って直く人は人に よかしこ 依って賢し 曲がった木は差し金をあてて削ることでまっ すぐになり、人間はいろいろな人と交わるこ とで賢くなるということ。∇規=定規。差し 金。 類義木、縄に従えば則ち正し。 きようき 貴は驕と期せずして驕自ずか きた ら来る 出 説苑 気は心 人は尊い身分になると、自然におごりたかぶ るようになるということ。△驕‖おごりたか ぶること。 補説出典には、このあとに驕は亡と期せ ずして亡自ずから至る(おごりたかぶりは、 自然と滅亡をまねく)と続く。 わずかなものであっても、本人の真心の一端 を表すものであるということ。また、少しで も人のために尽くしたと思えば気がすむということ。 贈答の際などに用いる。 きはえがーきふのい 英語 A gift is valued by the mind of the giver. 贈り物は贈り主の心によって評価され る ぎたいざんおもいのちこうもう 義は泰山より重く、命は鴻毛 かる より軽し 正義のために命を捨てることは惜しくないということ。「軽し」は「かろし」とも読む。 マ泰山=中国、山東省にある名山。きわめて重いもののたとえ。鴻毛=おおとりの羽毛。 きわめて軽いもののたとえ。略して「命は鴻毛より軽し」ともいう。 類義 命は義によりて軽し。 木は檜、人は武士花は桜木、人は武 532 不治の病のたとえ。また、事態が深刻でどう にもならないことのたとえ。耆婆や扁鵲という名医をもってしても治らないという意から。マ耆婆=古代インドの名医。扁鵲=古代中国の名医。 耆婆、扁鵲でもいかぬ 気は世を蓋う ちからやまぬきよ 力山を抜き気は世を 蓋う 417 出史記しき 凡人も、賢者につき従っていれば、自分の能力以上のことが成し遂げられるというたとえ。遠くまでは飛べない蠅はえでも、名馬の尻にくついて行けば、千里のかなたまでも行くことができるという意から。「驥尾に付く」ともいう。一般に、自分の行動をへりくだって言うことば。∇驥Ⅱ一日に千里も走るという名馬。 補説出典には顔淵 がん は篤学 とく なりと雖 いえ えん も、驥尾に付して行い益 ます 顕 あら わ る顔淵はよ く学問に励んだが、孔子というすぐれた師に 従って学問をしたことによって、その行いが ますます世に知られるようになった」とあ る。 木仏金仏石仏 堅すぎて融通がきかない人、とくに、男女の 情愛の機微きびを解さない人のたとえ。 類義石部金吉 いしべき 鉄兜 かなか。 ぶと 木の股またから 生まれる。 季布の一諾 いちだく 出史記しき 絶対に信頼できる固い約束・承諾のこと。「季 布に二諾なし」ともいう。▷季布=中国秦しん 末、楚その将軍。一諾=承知した、と引き受 けること。 補説 季布は信義に厚い任俠 にんき よう で知られ、 <182> きほうにーきみにつ 一度承知し引き受けたことは確実に実行した ので、楚の人々から、季布の一諾を得るのは 黄金百斤を得るよりも価値があるといわれた 故事から。 類義 一諾千金。 危邦に入らず乱邦に居らず 出 論語 ろんご 情勢が危険な国には入らず、政治や風俗が乱れてしまった国には留まらないということ。 補説孔子が道を学ぶ者の身の処し方を説いたことば。出典には「篤あっく信じて学を好み、死を守りて道を善よくす(深く信じて学問を好み、命の限り道を全うする)。危邦に入らず、乱邦に居らず。天下道有れば則ち見あらわれ、道無ければ則ち隠る(世の中に道義が行われているときは進んで身を現して働き、道義が行われていないときは隠れて表には出ない)とある。 きほ 跂歩して休まざれば跛鼈も千 里 出淮南子 えなんじ 休まずに努力すれば、思わぬ成果を得ることができるというたとえ。片足がうまく動かないすっぽんでも、休まずに歩き続ければ、いつかは千里のかなたまで行くことができるという意から。▽跬歩=一足。一歩一歩。跛鼈 ることをやめなければ、小さな山を成すことができる)とある。 補説出典には、このあとに続けて「累積して輟やまざれば、丘阜きゅうふを成すべし(積み重ね 類義愚公、山を移す。塵ちりも積もれば山となる。 すなわ しんけっ 君射れば則ち臣決す 囲荀子 上に立つ者の好むことを、下の者も真似する というたとえ。主君が弓術を好めば、家臣は 弓懸ゆがけをはめることから。▷決‖弓の弦を 引くときに親指にはめる革製のもの。弓懸 け。 補説出典には、このあとに「楚その荘王細 腰を好む。故ゆえに朝ちょに餓人有り(楚の荘王 が腰の細い美人を好んだので、後宮の婦人は みな食を減らし、朝廷内には餓死する者が出 た」とある。 類義上かみを学ぶ下しも。 君飾らざれば臣敬わず きみかざ しんうやま 人から尊敬されるには、衣服や言動などを整 えなれけばならないということ。主君が粗末 な衣服を着たり粗野な言動をしていては、臣 下は尊敬しないということから。 類義公卿にも褴褸れつづ。 君君たらずと雖も臣以て臣た いえどしんもっしん 君主が君主としての道理をわきまえず、徳が なくても、臣下は臣下としての道理をわきま え、忠義を尽くさなければいけないという教 え。 出 古文孝経 らざるべからず 補説 儒教 じゅき よう の教義の一つで、出典には「君 君たらずと雖も臣以て臣たらざるべからず。 父父たらずと雖も子以て子たらざるべからず (父親が父親としてのつとめを果たさなくて も、子は子としてのつとめを果たさなければ ならない)」とある。 出 論語 ろんご 君主が君主としての道を行えば、臣下も臣下 としての道を守る。君主も臣下も、それぞれ の本分を尽くすことが、秩序を保ち、国を安 定させる根本であるということ。 補説 斉の景公が政治のことを孔子に尋ねた ときに答えたことば。出典には「君君たり、 臣臣たり、父父たり、子子たり(君主は君主 らしく、臣下は臣下らしく、父は父らしく、 子は子らしくあれということです)」とある。 きみ しん えら あら しん 君、臣を択ぶのみに非ず、臣 出後漢書 も亦君を択ぶ 君主が人材を選んで家臣に登用するだけでなく、臣下もまた君主を選んで仕える。したがって、君主も道を修めるように心がけなければならないということ。 きみつかしばしばここはずかし 君に事えて数すれば斯に辱め らる 出論語ろんご 主君に仕えて、あまりにしつこくすると、う るさがられて辱めを受けることになる。△数 する∥しつこくする意。過失をたびたび諫いさ <183> める意とする説もある。 補説出典には、続けて「朋友ほうに数すれば 斯に疏うとんぜらる友人にあまりしつこくす ると遠ざけられる」とある。 君辱めらるれば臣死す 出国語こくご 臣下は君主と生死や苦楽を共にすべきだということ。君主が人から辱めを受けたら、臣下は命を捨ててもその恥をすすがなければならないということから。 補説中国、戦国時代の越の忠臣范蠡はんのこ とば。出典には「人臣たる者は、君憂うれば 臣労し(君主に憂い事があれば臣下もともに 苦労し)、君辱めらるれば臣死す」とある。 気脈を通じる く。 共通の目的を達成するために、ひそかに連絡 を取り合って意思を通じ合うこと。▷気脈‖ 血管。血液の流れる道筋。転じて、意思の疎 通。 用例ただ自分の平生へい文学上に抱いている 意見と、教授の哲学について主張するところ の考かんとが、親しい気脈を通じて彼此相倚 ひしあるような心持がしたのを愉快に思ったの である。〈夏目漱石◆思い出す事など〉 鬼面、人を嚇す きめんひとおど 見せかけの威勢で人をおどすこと。鬼の面をつけて人をおどす意から。「鬼面人を驚かす」ともいう。「嚇す」は「脅す」「威す」とも書 きみはずーきゅう 用例そういう私は何どうかというに、努めて加工的の警句を製し、会話や作の中へ織り込んで、鬼面人を嚇そうとして、いつも反対に嚇されている、慨嘆すべき道化者なので、尚更なおら巧まない氏の警句には、身に滲しむ節が多いのである。〈国枝史郎◆小酒井不太氏スケッチ〉 もうとかく亀毛兔角 あり得ないもの、実在するはずのない物事の たとえ。亀の甲に毛が生え、兎うさに角が生え る意から。「兎角亀毛」「兎の角、亀の毛」と もいう。 出首楞厳経 木もと竹うら たけ 物事には、やりやすい方法や順序があること のたとえ。木は根もとのほうから、竹は先の ほうから割ると、うまく割れるという意から。 ▶うら‖末のことで、先端の部分の意。 類義竹は末らから木は元から。 鬼門金神我より崇る 災いは鬼門や金神の祟りによって起こるので はなく、すべて自分の不謹慎が招くものであ るということ。∇鬼門∥陰陽道 おんよ うどう で悪鬼が 出入りする門の意。方角では艮うし(東北)をさ す。金神∥陰陽道で祭る方位の神。戦乱・大 水をつかさどるといわれ、この神の方角に向 かって工事や移転・嫁取りなどをすると、ひ どい祟りがあるという。 類義吉凶は人によりて日によらず。 客と白鷺は立ったが見事 きゃくしらさぎたみごと 人の家を訪問したときは、ほどよいころに帰るべきだということ。客が席を立つのと、立った姿が見事な白鷺が立つのとを掛けて言ったことば。「客と剃刀かみは立つが良い」ともいう。 泊まり客が主人より早く起き出すのは、迷惑であるということ。また、物事の順序が逆になって処置に困ること。客が泊まった場合、翌朝は主人が早く起きて準備をするのに、客のほうが早く起きるということから。「客の朝起き宿の迷惑」ともいう。 類義 客の朝起きと昼の行灯 置き場に困 る。 杞憂きゆう 出列子 無用の心配をすること。取り越し苦労。△杞 II現在の河南省にあった小国の名。 補説中国周の時代杞の国に天が落ち 地が崩れて身の置き所がなくなるのではない かと心配し、夜も寝られず、食事もろくに食 べられない者がいたという寓話による。 類義杞人の憂い。 用例五人目に現れたのは、大島左太夫 あた。彼は今日の忠直卿 したとも、思われるふるまいについて、かす かながら杞憂をいだく一人であった。むろ ん、彼は自分の主君が、自分たちの昨夜の立 ち話を立ち聞きした当の本人であろうとは、 <184> 夢にも思っていなかった。〈菊池寛◆忠直卿 行状記〉 牛飲馬食鯨飲馬食215 きゅうかつじょ 久闊を叙する 久しぶりに会った知人と無沙汰をわびる挨拶 をすること。久しぶりに会って話す。▷久闊 ∥久しく便りをしないこと。 類義旧交を温める。 用例袁傪 えん さん は恐怖を忘れ、馬から下りて叢 くさ むら に近づき、懐かしげに久闊を叙した。そし て、何故なぜ叢から出て来ないのかと問うた。 〈中島敦◆山月記〉 きゅうぎゅう いちもう 九牛の一毛 多くの中のきわめてわずかな部分のこと。取 るに足りない小さなことのたとえ。多数の牛 に生えている無数の毛の中の一本の毛という 意から。△九牛=たくさんの牛。「九」は、 一けたの数で最大のものであるところから、 多数の意。 出 司馬遷報 二 任少卿一書 補説出典には「仮令たと僕法に伏して誅ちゅを 受くるも、九牛の一毛を亡うしうが若ごとし。螻 蟻ろうと何を以もってか異ならん(たとえ私が法 により死刑に処せられたとしても、それは九 牛の一毛を失うようなもので、虫けらが死ん だのと同じことでしょう」とある。 類義滄海そうの一粟いち。大海の一滴。 用例それにつけて思うのは、もっと都会の 人々に、野菜を食べさせたいことだ。だから といって、私の百坪前後の野菜を根こそぎ昇 かっぎだしたところで、九牛の一毛にも値せぬ。 〈佐藤垢石◆食べもの〉 きゅうこう ぜんぼな 急行に善歩無し 出論衡ろんこう 急いでした仕事は、出来がよくないことのた とえ。急いで歩くと歩行が乱れ、しっかりし た歩き方ができないことから。 補説出典では、このあとに「促柱 そくち ゅう に和 声少なし(弦げんの調子が早いときには、調和 した音声は少ない)と続く。 類義急せいては事を仕損じる。 きゅうこうお 出孫子そんし 窮寇は追うこと勿れ 窮地に立った敵は、必死になって抵抗するため、思わぬ損害を受けるので、深追いするなということ。「窮寇には迫ること勿れ」ともいう。∇寇∥敵。 補説出典には「帰師きしは遏とどむること勿れ、 師を囲みては必ず闕かき(故郷へ逃げ帰ろうと している軍隊を引きとめてはいけない。敵を 囲むときは必ず一方を開けておき)、窮寇は 追ること勿れ」とある。 類義窮鼠きゅうそ猫を噛かむ。 きゅうさくりくばぎよごと 朽索の六馬を馭するが若し 六頭の馬。「ろくば」とも読む。 非常に困難で危険なことのたとえ。くさった 綱で六頭の馬を操るようだという意から。△ 朽索=くさった綱。六馬=天子の馬車を引く 出書経しよきよう 類義朽くち縄に取り付く如し。蜘蛛くもの 家に馬を繋つなぐ。腐り縄に馬を繋ぐ。 きゅうさんひくつたか 丘山は卑きを積みて高きな な 為す 出荘子そうじ 小さなものでもたくさん積み重ねれば、やがて大きなものになることのたとえ。丘や山は、土が積み重なって高くなったものであることから。 補説出典には、このあとに「江河は水を合 わせて大を為す」とある。 類義塵ちりも積もれば山となる。 きゅうしいっしょうえ 九死に一生を得る 助かるとは思えない状態から、奇跡的に助か り生き延びること。助かる見込みが十分の一 という命を、かろうじて得る意から。「万死 ばんに一生を得る」「九死一生」ともいう。 類義十死一生。死中に活を求む。 だからしゅ 牛首を懸けて馬肉を売る 出晏子春秋 言うことと行うことが一致していないことの たとえ。また、見かけは立派だが、内容が伴 わないことのたとえ。牛の頭を店先にかかげ て、実際は馬の肉を売るという意から。「牛 頭ぎゅうとうを懸けて馬肉を売る」ともいう。「懸け て」は「懸かかげて」ともいう。 故事 斉 せい の霊公が、宮廷内の女性に男装さ <185> せることを好んだ。国民が真似をすると、王 は男装禁止令を出したが、いっこうにききめ がないので、宰相 さいし よう の晏子 あん し に意見を求め た。晏子は答えて「王が朝廷の中では女性に 男装させ、一般国民に対しては禁止するとい うのは、猶 なお 牛首を門に懸かけて馬肉を内に 売るがごとし(牛首を懸けて馬肉を売るよう なものです)」と言ったという故事による。 「類義」羊頭 よう とう を懸けて狗肉 くに を売る。看板に 偽りあり。 対義看板に偽りなし。 ぎゅうじと 牛耳を執る 出春秋左氏伝 団体や党派などの主導権を握ることのたと え。「牛耳を握る」ともいう。 故事)中国、春秋戦国時代に諸侯が同盟を結 ぶ儀式を行う際、中心的人物の盟主が、いけ にえとした牛の耳を裂き、順番にその血をす すり合って結束を誓い合ったという故事によ る。「牛耳る」ということばも、ここから出た。 用例)そう云いう次第だから創作上の話にな るとーと云うより文壇に関係した話になる と、勢何時いっも我々の中では、久米が牛耳を 執る形があった。〈芥川龍之介◆あの頃の自 分の事〉 きゅうじんこういっきか 九仞の功を一簣に虧く 長年の努力が、最後のわずかな気のゆるみで 台なしになることのたとえ。高い山を築くの に、最後のもっこ一杯の土を欠けば完成しな 出書経しよきよう ぎゅうじーきゅうち いという意から。△九仞‖非常に高いこと。 「仞」は両手を広げた長さ。簣‖土を運ぶ籠 かご。 もつこ。虧く‖そこなう意。 補説出典には「細行 こうを矜っしまずんば、 終ついに大徳に累るいせん(些細 なことにおい ても慎重さを欠いては、大きな徳をも損なう であろう)。山を為っくること九仞、功一簣に 虧く」とある。 類義百日の説法屁ヘ一つ。磯際 いそ ぎわ で船を破 る。草履 ぞう り 履き際で仕損じる。 行きづまってどうにもならない状態にまで追い込まれると、案外解決の道が開かれて何とかなるものだということ。「窮しては通ず」ともいう。 出易経えきよう 窮すれば通ず 英語 A hungry man smells meat afar off. [空腹の人には遠くの食べ物も匂う] Necessity is a hard weapon. [必要は頑丈な武器である] 銷すれば濫す しようじんきゅう 小人窮すればここに 濫す 318 大きな事柄も、ごく小さな事柄の積み重ねで あることのたとえ。九階建ての高殿も、わず かな土を積み上げることから始まるという意 から。▶台∥高殿。見晴らし台。累土∥土を 積み重ねること。 出老子ろうし 補説出典には、このあとに「千里の行こう(道 のり)も足下 か より始まる」とある。 類義丘山 ざん は卑ひくきを積みて高きを為な す。 出塩鉄論 窮鼠猫を噛む 弱い者でも窮地に追いつめられると、強い者 に反撃することがあるというたとえ。追いつ められた鼠 み が、必死で猫にかみつくという 意から。「窮鼠反かえって猫を噛む」「窮鼠狸り を噛む」ともいう。 類義窮寇きゅうこうは追うこと勿なかれ。 英語 Despair makes cowards courageous. 絶望すると臆病者も度胸がすわる A baited cat may grow as fierce as a lion. 犬にけしかけられれば、猫もライオンのよ うに獰猛 もうとなる 用例婆の足許あしに鍵を投げ遣やっておいて 戸の中へ入ると、猫に追い詰められた鼠のよ うに隅の方に蹙すんでいるはかの顔の持主で ある、もはや詮方せんない所と断念したのか、 立ち上がって余に向い「貴方は余り邪慳 す乱暴です、人の許しも得ずにこの室へ這入 はいって来て」と余を叱るように云いうは、正 しく窮鼠の猫を噛む有様である、この窮鼠を 誰とする、読者は大概推量し得たであろう、 消失してさらに成行の知れなんだ浦原お浦で ある。〈黒岩涙香◆幽霊塔〉 窮鳥懷に入る 出顔氏家訓 追いつめられて困窮した者が救いを求めてく ること。追いつめられた人が助けを求めた <186> きゅうちーきゅうを ら、どんな理由があろうと助けてやるのが人 情だという場面で使われることが多い。逃げ 場を失った鳥が、自分のふところに飛び込ん でくる意から。「窮鳥懐に入れば猟師も殺さ ず」ともいう。 補説出典には「窮鳥の懐に入るは仁人 じん の 憫 あわ れむ所なり。況 いわ ん や死士、我に帰す、当 まさ にこれを棄すつべけんや(逃げ場を失った鳥 が懐に飛び込んで来たら、哀れみ深い人は助 け守る。まして困窮し死を覚悟している兵士 が助けを求めて来たら、どうして見捨てるこ とができようか)とある。 類義飛ぶ鳥懐に入る時は狩人 も助く。 尾を振る犬は叩たかれず。袖の下に回る子は 打たれぬ。 英語 The lion spares the supplant. イオンも嘆願する者は助命する 用例黙らっしゃい。要らぬ匿かばい立てとは 何を申すか!よしんば当院に逃げ込んだがま ことであろうと、窮鳥ふところに入る時は猟 夫りよもこれを殺さずと申す位じゃ。ましてや ここは諸縁断絶、罪ある者とてもひとたびあ れなる総門より寺内に入らばいかなる俗法、 いかなる俗界の掟てを以もってしても、再び追 うことならぬ慈悲の精舎じゃじゃ。佐々木味 津三・旗本退屈男 きゅうちょうふところいりょうしころ 窮鳥懐に入れば猟師も殺さず鶏 ちょうふところい 鳥懐に入る185 牛鼎の意 はじめは相手の意に添い、認められてから自 出史記から自しき 分の考えを説くこと。∇鼎=かなえ。三本の 足と両耳がついた大きな釜。 故事昔、殷いの伊尹いは湯王に近づくため に、鼎 え を背負って料理人になり、春秋時代 には秦しの百里奚ひやくが牛に餌をやる仕事を していて繆ぼく公に才知を認められ、ともに名 相となったという故事による。 牛 蹟の 涔には 尺の 鯉無し ぎゅうてい しん せき こいな 出淮南子えなんじ 狭苦しい所では、大人物は手腕をふるうことができないというたとえ。牛の足跡にできた水たまりに、一尺もある鯉はいないという意から。「蹄」は「蹏」とも書く。▷牛蹄‖牛の足跡。涔‖水たまり。 類義 牛蹄の涔には大魚を生ずる能 あた わず。 大魚は小池に棲すまず。 旧套墨守 古いしきたりや方法などを固く守ること。また、旧習にとらわれて融通の利かないこと。 マ旧套=古いしきたりや形式。また、ありふれたやり方。墨守=固く守ること。中国戦国時代の墨子 用例しかし、旧套墨守のそうしたアカデミックな風潮に対抗して、当時徐々に新気運は動きつつあった。〈高村光太郎◆ヒウザン会とパンの会〉 牛刀を以て鶏を割く鶏を割くに焉 んぞ牛刀を用いん500 きゅうぼくえ 朽木は雕るべからず 出論語 ろんご 精神の腐った者には教えようがないことのた とえ。朽ちた木には彫刻できないという意か ら。「朽木は雕るべからず、糞土 ふん の牆 しょ は 朽ぬるべからず」と続けてもいう。また、そ れを略して「朽木糞牆 きゅうぼく ふんしょう」ともいう。 補説孔子が、弟子の宰予が怠けて昼寝を しているのを非難して言ったことば。出典に は「宰予、昼寝ぬ。子曰いわく、朽木は雕る べからず、糞土の牆は朽るべからず。予よに 於おいてか何ぞ誅せめん。腐ってぼろぼろに なった土塀には、上塗りをすることはできな い。宰予に対して説教してもしかたがない」 とある。 笹ゆう お笹を負う 出抱朴子ほうぼくし 勉学のため、郷里を出て遠い土地に出かける こと。遊学すること。また、読書量の多いこ との形容。本を入れた箱を背負う意から。 ∇ 笈∥背に負うように作った本箱。 用例三津ヶ浜というのは松山藩時代の唯一 の乗船場で、私達が初めて笈を負うて京都に 遊学した頃はまだ此この三津ヶ浜から乗船した ものであった。〈高浜虚子◆漱石氏と私〉 きゅうかえたきぎお 表を反して薪を負う 出塩鉄論 浅知恵や、おろかな考えのたとえ。皮ごろも の毛がすり切れるのを惜しんで、裏返しに着 て薪を背負い、皮をすり切らしてだめにして しまう意から。「薪」は「しん」とも読む。 ∇裘∥毛皮で作った防寒用の服。皮ごろも。 <187> 今日あって明日ない身 あすみ 人の命のはかないことのたとえ。また、死期 が迫っていること。今日は生きていても、明 日はもうこの世にいないかもしれないこの身 という意から。 きょうおんなえどおとこあずまおとこきょうおんな 京女に江戸男♩東男に京女19 きょうきんひら 胸襟を開く 隠し立てをしないで心中を打ち明けること。 「胸臆を開く」ともいう。△胸襟=胸と襟えり。 転じて、心の意。 用例幾度も前に繰り返したように単に気が合うというのみでは到底真の友とはいえぬ、謂いわば水面の低いローレベルのヴァルチューである。男子などには殊にこの交りが多い。互に胸襟を開くなどいって一杯飲み合うことなどがある。〈新渡戸稲造◆イエスキリストの友誼〉 きょうげんとく郷原は徳の賊 うわべだけ善良を装うような偽善者は、真の 道徳を損なうものだということ。▽郷原‖村 で君子らしく振る舞う偽善者。 出 論語 ろんご 英語 A friend to all is a friend to none. 万人の友人はだれの友人でもない ぎょうこうせいうおの 徴幸は性を伐つの斧なり 出韓詩外伝 努力によるものではなく、思いがけず得た幸 きょうあーきょうそ 運は、人の心を乱し、ひいては命を落としか ねないものだということ。偶然の幸運は、人 の徳性を断ち切る斧のようなものだという意 から。△徴幸∥思いがけない偶然の幸運。 補説出典では、このあとに「嗜欲くは禍か を逐うの馬なり度を越えてむさぼり欲する ことは、わざわいを追い求める馬のようなも のだ」と続く。 堯 鼓舜木 為政者は、人民の諫いさめの言葉をよく聞き入 れなければならないということ。また、広く 人の善言をよく聞き入れるべきだというこ と。▶堯・舜‖ともに中国古代の伝説上の理 想的な帝王。 出旧唐書くとうじょ 故事)堯帝は、朝廷に太鼓を置いて、諫言 をする者にこれを打たせ、舜帝は、人民に諫 めのことばを書かせるために、朝廷に木札を 立て、両者ともに諫言をよく聞き入れて善政 をしたという故事による。 ぎょうじゅうざが 行 住 坐 臥 日常の立ち居振る舞いのこと。転じて、日常、 ふだんの意。もと仏教語。マ行=行くこと。 歩くこと。住=とどまること。坐=すわること。 臥=横になること。 頃僕常主坐。 用例それが唯意識せられざる満足として、 彼の活動の背景に暖い心もちをひろげていた 中うちは、元より彼も行住坐臥に、何等 なん ら のこ だわりを感じなかったらしい。芥川龍之 介・枯野抄 類義 常住坐臥。 手をこまぬいているだけで何もせず、そばで ただ見ていること。「拱手」は「こうしゅ」 とも読む。∇拱手=中国古代の礼式で、両手 を胸の前に重ねる動作。転じて何もしないこ と。徬観=何もしないでそばで見ているこ と。 類義高みの見物。 用例和田勢の逆賊たることが決定せられて しまって居りましたから、それまで去就に 迷って拱手傍観していました諸将も続々と北 条勢 ほうじょ うぜい に来り投じ、ついに和田氏御一族全 滅のむざんな結末と相成りました。〈太宰 治◆右大臣実朝〉 きようしょうもとじゃくへい ゆうしょうもとじゃく 強将の下に弱兵なし 勇将の下に弱 ぞつ 卒なし 662 共存共栄 二つ以上のものが争うことなく助け合って生 存し、ともに栄えること。「共存」は「きょ うぞん」とも読む。∇共存∥二つ以上のもの が衝突することなく存在すること。共栄∥と もに栄えること。 対義弱肉強食。 用例吾々 われ は地主と小作人との利益を調和 し共存共栄の策を樹立しようと研究して居た のに有島 あり が私共地主の地位を考えないで突 然に彼あの様に土地を投げ出したので私達 たち の立場は非常に困難になった。〈有島武郎 狩太農場の開放〉 <188> 兄弟牆に闘げども、外その務りを禦 ぐ兄弟牆に闘げども、外その務 ふせ りを禦ぐ218 兄弟は他人の始まり 仲よく育った兄弟も、それぞれ成長し、自分 の家庭をもつようになると、疎遠になって他 人同士のようになっていくということ。「兄 弟は他人の始め」ともいう。 類義兄弟は他人の別れ。 対義血は水よりも濃い。 兄弟は両の手 兄弟は左右の手のように、互いに助け合わな ければならないという教え。「兄弟は左右の 手の如ごとし」ともいう。 類義兄弟は手足たり。 驚天動地 世間を大いに驚かせること。天を驚かし地を 動かす意から。 出白居易ー詩はくきよいし 補説詩の題名は『李白りはの墓』。「憐あれむ べし荒壟こう窮泉きゅうせんの骨、曽かって驚天動地の 文有りああ、今はこの荒れた塚の下に眠っ ているが、昔は天地も驚かす名詩名文を作っ たのだ」と李白をたたえている。 類義撼天かん動地。震天動地。 動地の大変化を生ずるであろう。空中への飛 躍は人類数千年のあこがれであった。石原 莞爾◆最終戦争論〉 用例今日までの戦争は主として地上、水上 の戦いであった。障害の多い地上戦争の発達 が急速に行かないことは常識で考えられる か、それが空中に飛躍するときは、真に驚天 強 弩の極魯縞を穿つ能わず きょうど すえろこう うが あた 出史記しき 強いものも、やがては衰えて力が尽き、何もできなくなることのたとえ。強国や英雄の末路についていう。強い弓から発した矢も、末は力が尽き、薄絹さえも貫くことができないという意から。「強弩の末魯縞に入る能わず」ともいう。「強」は「彊」とも書く。△強弩引き金仕掛けの強い石弓。極果て。末。魯縞巻の国で生産される薄手の絹。 補説出典には、この後に「衝風 しよう ふう の末、 力は鴻毛 こう もう を漂わす能わず(暴風も衰えて力 が弱まると、軽い羽毛さえもただよわすこと ができなくなる」とある。 きよう すなわかんとお 恭なれば則ち患に遠ざかる 出孔子家語こうしけご 誰に対しても礼儀正しく、慎み深い心を持っ ていれば、災いや心配事は起こらないという こと。 補説出典では、このあとに「敬なれば則ち 人之これを愛し、忠なれば則ち衆に和し、信な れば則ち人之に任ず(つつましくしていれば 人は愛してくれるし、真心を尽くせば人にと けこむことができるし、信用があれば人は任 用してくれる)」と続く。 京に田舎あり にぎやかな都会の中にも、田舎めいた場所や 風俗が残っているということ。このあとに 「田舎に京あり」と続けてもいう。 類義都にも田舎あり。 対義田舎に京あり。山に里あり。 京都の人は衣服に金をかけ、大阪の人は飲食 に金をかける気風があるということ。 補説このことわざにならって「阿波あわの着 倒れ、伊予いよの食い倒れ」「尾張おわの着倒れ、 美濃みのの系図倒れ」「関東の食い倒れ、上方 かみ がた の着倒れ」「甲州の着倒れ、信州の食い倒れ」 など、各地に近国(近県)との対照的な違いを 指摘したことわざが見られる。 ぎょうこぎょう 尭の子尭ならず 親は立派な人物でも、その子が立派な人物になるとは限らないことのたとえ。賢帝であった堯の子が必ずしも父親のように賢くはなかったという意から。▶堯‖中国古代の伝説上の理想的な帝王。 類義 堯舜 ぎよう しゅん の子に聖人なし。賢が子賢な らず。大家 たい 後のち 無し。 今日の情けは明日の仇 人の心はその時々の利害や感情などによって 変わりやすいものだということのたとえ。今 日は好意的な態度をとっている人も、明日は 敵となるかもしれないという意から。 <189> 類義昨日の友は今日の仇。今日の味方は明日の敵。 今日の後に今日はなし 今日という日は二度とやって来ないのだか ら、一日一日を大切にして過ごせという教え。 類義歳月人を待たず。盛年重ねて来らず。 今日の手後れは明日へついて回る。 対義明日は明日の風が吹く。 今日の一針、明日の十針 少しでも手を抜くと、あとでよけいな苦労が 増えるということのたとえ。今日なら一針縫 えばすむほころびも、明日になれば十針も縫 わなければならないという意から。 補説アメリカの政治家フランクリンの有名 なことば、A stitch in time saves nine. (適 時の一針は九針の手間を省く)に基づく。 類義今日の手後れは明日へついて回る。 きようゆめおおさかゆめ 京の夢大阪の夢 京で寝ているのに大阪の夢を見たり、夢の中 では京都のことが大阪のことに変わったりす ることから、夢は不思議なものであるという こと。また、夢の中なら京都も大阪も見物で きることから、夢ではさまざまな願望が実現 できるというたとえ。京都の人と大阪の人の 見る夢は違うということから、人の願望は千 差万別であるというたとえにも用いられる。 いろはがるた(江戸)の一。 補説夢の話、あるいは夢のような話をする 前に唱えることばともいわれる。 きょうのーきょうぼ 業は勤むるに精しく嬉しむに 荒む 出韓愈ー進学解 だれの かんゆしんがくかい き すべての業は努力すればするほど精通し上達 するが、怠けて遊び半分にやっているとだめ になってしまうということ。∇業∥わざ。つ とめ。広く技芸。特に学問についていう。 補説中国、唐の国子に博士(大学の教官)に なった韓愈が、学問や行動の心構えを学生に 説いたことば。出典には、このあとに「行い は思うに成り、随がうに毀やぶる(行動は真剣 に考えた上で行えば成功するが、思いつきの ままでいい加減に行うと失敗する)」とある。 きようひとうえあすわみ 今日は人の上、明日は我が身 うえ 災難はいつ自分の身に降りかかってくるかわ からないということ。今日は他人のことだと 思っていた災難も、明日は自分のことになる かもしれないという意から。「今日は人の身、 明日は我が身」ともいう。 類義昨日は人の身、今日は我が身。 英語 I to-day, you to-tomorrow. [今日は我、明日はあなた] Laugh before break-fast, you'll cry before supper. [朝食前に笑う者は、夕食前に涙するであろう] 器用貧乏人宝 いろいろなことが器用にできるために、他人 には重宝がられるが、当人は一つのことに徹 し切れず、結局は大成しないということ。 類義細工貧乏人宝。巧者貧乏人宝。職人貧 乏人宝。 英語 Good workmen are seldom rich. のいい職人で裕福な人は稀 まれ である 狂夫の言も聖人之を択る 出史記しき 愚かな者でも、たまにはよいことを言うことがあるということ。狂人のことばでも、聖人は捨てないで選び取るという意から。 補説出典には「賢者も千慮に必ず一失有り、 愚者も千慮に必ず一得有り(知恵のある者が 考えることでも、千に一つの考え違いがあり、 愚かな者でも千に一つは取りえがあるもの だ)と。故ゆえに日いわく、狂夫の言も聖人焉これ を択る」とある。 類義 愚者も一得。 きようふ たの ちしゃ かな 狂夫の楽しみは智者の哀し み せんごくさく 出戦国策 立場の違いや知識の差などにより、同じ事柄 に対する考えも違うということ。狂人の楽し みは智者には悲しいものだという意から。 補説出典には「狂夫の楽しみは智者焉これを 哀しみ、愚者の笑いは賢者焉を戚うれう(悲し む)とある。 きようぼくかぜおこうぼくかぜお 喬木は風に折らる↓高木は風に折ら る239 <190> きょうもーきょくて きようよ ふせと 経も読まずに布施を取る やるべきこともしないで、報酬だけを欲しが ることのたとえ。僧侶がお経も読まずに、お 布施を取るという意から。 狂瀾を既倒に廻らす 出韓愈ー進学解 傾いた形勢を再び元の状態に戻すことのたと え。荒れ狂って砕ける大波を支えて元の方向 に押し戻すという意から。∇狂瀾∥荒れ狂う 大波。既倒∥くずれ倒れてしまったあと。廻 らす∥元どおりにすること。 類義回瀾を既倒に反かえす。 用例「藩論が定まった今、狂瀾を既倒に覆 かえすは、非常手段に出る外はござらぬ。明日 の出兵を、差し止める道は、今夜中に、成田 頼母を倒すより外、道はないと存ずるが、方々 の御意見は?」〈菊池寛◆仇討禁止令〉 きょうれいちかちじょくとお 恭、礼に近づけば恥辱に遠ざ かる ろんご 論語 ぜて相手の腹を探り合うこと。△虚‖備えに すきのある所。実‖備えの堅い所。 うやうやしい態度も度が過ぎると人にあなど られるが、礼にかなうように心がければ、人 からはずかしめを受けることはないというこ と。 互いに、策略や手段を尽くして戦うこと。ま た、交渉ごとなどで、うそとまことを取りま 虚虚実実 きょくがくあせい 出史記しき 曲 学 阿 世 学問の真理を曲げて、世間の人々に気に入られるような説を唱え、時勢や権力に迎合すること。「阿世曲学」ともいう。△曲学‖真理をねじ曲げた学問。阿世‖世におもねる。こびへつらうこと。 補説中国漢の武帝に召された学者の轅固 生元んこが、同僚の若い学者の公孫子に言った ことば。出典には「公孫子、正学を務めて以 もって言え。曲学以て世に阿 おも ね る無かれ(公孫 子よ、正しい学問に務めて自分が正しいと思 うことを直言せよ。学問をねじ曲げて世間の 人にこびへつらってはならない)とある。 用例しかし僕は手段を定めた後も半ばは生 に執着していた。従って死に飛び入る為ため スプリング・ボオドを必要とした。(僕は紅 毛人たちの信ずるように自殺することを罪悪 とは思っていない。仏陀は現に阿含経 あごん きょう の中に彼の弟子の自殺を肯定している。曲学 阿世の徒はこの肯定にも「やむを得ない」場 合の外はなどと言うであろう。…)〈芥川 龍之介◆或旧友へ送る手記〉 曲水流觴 出王羲之蘭亭集序 折れ曲がった小川に杯を浮かべ、その杯が自 分の前に流れて来るまでに詩を作り、杯を取 り上げて飲むという風流な遊びのこと。「流 觴曲水」「曲水の宴」ともいう。∇曲水∥小 川などの折れ曲がった流れ。觴∥杯の意。 補説 中国晋 の書家王羲之が会稽 かい けい の蘭亭 らん に文人を集めて行ったものが有名。 出抱朴子ほうぼくし すぐれたものとつまらないものが区別なく入 りまじっていることのたとえ。宝玉と石ころ とが入りまじっている意から。∇混淆∥「混」 も「淆」も入りまじる意。「混交」とも書く。 類義玉石同架 どう。 か 玉石同匱 どう。 き 魚目 きよ もく 珠に 混ず。 英語 Some fish some frogs. 魚もいれば 蛙 かえ もいる 用例その結果はどうかというと必ず選択 が玉石混淆に陥るのです。立派なものの傍 からに見るに堪えない品が列ならんでいる例は余 りにも多いのです。見方が本質的なものを欠 くからだと思います。こういう意味で真に統 一のある美術館は稀の稀なのです。〈柳宗 悦◆日本民芸館について〉 ぎょくせきとも 玉石俱に焚く 書経 よいものも悪いものも、ともに滅びるという こと。宝玉も石ころもともに焼き尽くす意か ら。「玉石俱に焦こがる」ともいう。 補説出典には「火、崑岡こんに炎ゆれば、 玉石俱に焚く。天吏の逸徳は、猛火より烈はげ し崑崙山こんろが火事になれば、美しい宝玉も 石ころも同じように焼けてしまう。だが、天 命を受けて行う者が徳を誤ると、その被害の 度合いは猛火よりも甚大だ」とある。 跼天蹐地天に跼り地に蹐す451 <191> 玉絆を乞う 詩や文章の添削を人に頼むことのたとえ。添 削を斧おので削ることにたとえたことば。△玉 ∥美称。 魚豕の惑い ぎょしまど 魚豕の豆し 文字の書き違いや写し違いをすること。「魯 ろ」の字を「魚」と誤ったり、「亥がい」の字を、 「豕」と誤ったりすることから。 類義魯魚亥豕 ろぎよ。 がいし 魯魚の誤り。 出十八史略・序 虛舟舟に触るとも人怒らず 心を無にして行ったことは、人の感情を害す ることがないということのたとえ。人の乗っ ていない舟が流れて来て自分の舟に衝突して も、だれも怒る人はいないという意から。マ 虚舟II人が乗っていない舟。 出荘子そうじ 補説出典には舟を方うかべて河を済わたるに、 虚船の来りて、船に触るる有るも偏心 の人と雖いえも怒いからざらん(船が河を渡ると き、無人の船が流れてきてこちらの船に接触 したとしても、気の短い人でさえいからない でしょう」とある。 だかまりのないこと。平静な心境。 類義明鏡止水。 虚心坦懐 心にわだかまりがなく、気持ちがさっぱりし ていること。また、そうした心境で平静に事 に臨むこと。△虚心=こだわりがなく、あり のままを受け入れる心の状態。坦懐=心にわ ぎょくふーぎょく 対義 疑心暗鬼を生ず。 用例こうした落着いた会席ではあるもの の、世故を離れた虚心坦懐な気持で、冗談の 一つや二つ飛ぶのは当りまえである。飯田 蛇笏・薄暮の貌〉 曲肱の楽しみ 清貧に甘んじて道を求め楽しむこと。また、 その楽しみ。貧しい暮らしの中にも楽しみが あることにもいう。△曲肱‖肱ひじを曲げて枕 にして眠ること。貧しい生活のたとえ。 補説孔子のことばで、出典には「疏食そし粗 末な食事)を飯くらい、水を飲み、肱を曲げて これを枕とす。楽しみ亦またその中うちに在り」 とある。 出 論語 ろんご きょ 虚にして往き実にして帰る 出荘子そうじ 知識や徳行のない者が師のもとに行き、とく に教えも聞かないのに、自然に学徳を得て帰 るということ。師のそばにいるだけで、自然 に感化を受けることをいう。「虚にして往き 実みちて帰る」ともいう。 虛に拠り影を搏たしむ 出管子 敵の目をごまかして攻撃を直接受けないよう にかわし、損害を出さないようにすること。 補説出典には、戦術の上手な者の兵の用い 方として「善なる者の兵を為なすや(戦術の上 手な者の兵の使い方は)、敵をして虚に拠る が若ごとく、景かげ(影)を搏つが若くならしむ」 とある。 出孟子もうし 居は気を移す 地位や立場、環境などは、その人の性格や考 え方を変えるということ。居場所は人の気持 ちを変化させるという意から。▷居∥地位・ 環境の意。 補説出典には「居は気を移し、養は体を移 す。大なるかな居や(地位や環境は人の気持 ちを変え、食べ物は肉体を変える。なんと地 位や環境の影響は絶大なものか」とある。 用例古語に居は気を移すとあるが、居所に 依よって気分の異なるは事実である。読書も 境に依って其その味が異なるのは主として気分 が違うからで、白昼多忙の際に読むのと、深 夜人定まる後に読むのとに相違があり、黄塵 万丈 こうじんば んじょう の間に読むのと、林泉幽邃 りんせん ゆうすい の 地に読むのとではおのずから異なる味があ る。〈市島春城◆読書八境〉 出楚辞そじ 魚腹に葬らる 海や川などで水死すること。魚の餌となって 食われるという意から。「魚腹に葬せらる」 ともいう。 補説出典には「寧むしろ湘流 しよう りゅう に赴きて、 江魚 こう ぎよ の腹中に葬らるとも、安 いず んぞ皓皓 こう の白きを以もってして世俗の塵埃 じん あい を蒙 こう む らん やむしろ湘水の流れに身を流して川魚のえ さになっても、どうして真っ白い体で世俗の 塵がかぶられよう」とある。 <192> ぎょふのーきらほし ぎよふり 漁夫の利 出戦国策 他人が争っているすきにつけこんで、第三者 が苦労もなく利益を横取りすること。「漁父 ぎよ ほ の利」ともいう。 補説出典には、中国の戦国時代、外交家の 蘇代 がこの故事を用い、「今、趙 ちょ と燕 えん が長く争っていると、強国の秦しんが両国に攻 め入って、漁夫の利を占めることになるで しよう」と言って、趙の恵文王に燕を征伐す るのをやめさせたとある。 故事鷸しぎが蚌どぶがいからす貝の肉を食べよう としたが、蚌にくちばしをはさまれてしまっ た。鷸は蚌に「今日も明日も雨が降らなけれ ば、水が切れて死んだ蚌になってしまうぞ」 と言ったが、蚌も「今日も明日もくちばしを ここから出せずにいたら、飢えて死んだ鷸に なってしまうぞ」と言って、どちらも譲らな かった。そこへ漁師が来て、両方とも捕らえ てしまったという故事による。 類義鷸蚌 の争い。犬兎 の争い。田父 の功。両虎食を争う時は狐 其その虚に乗る。 両虎与ともに相闘 あいた たか わば駑犬 どけ も其の弊へいを 受く。 南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。〈宮本百合子◆便乗の図絵〉 対義二兎にとを追う者は一兎をも得ず。 英語 Two dogs fight for a bone, and the third runs away with it. 二匹の犬が骨を めぐって争っていると、第三の犬がその骨を くわえて逃げる 用例この次の機会にこそ、日本は漁夫の利 をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前 にありついて、前回でものにしそこねた北や ほめたりけなしたりすること。また、そうした世間の評判。△毀誉褒貶=「毀」も「貶」もそしること。「誉」も「褒」もほめること。類義の語を重ねて意味を強めている。 毀誉褒貶 用例私の文学は、目下毀誉褒貶の渦中にあ る。ほめられれば一応うれしいし、けなされ れば一応面白くない。しかし一応である。 〈織田作之助◆私の文学〉 きよみず おたい と 清水の舞台から飛び下りる 思い切って決断することのたとえ。また、必 死の覚悟で物事を実行することのたとえ。 清水の舞台=京都東山にある清水寺の高い崖 に張り出して作られた舞台。 補説昔、願かけをして高い所から飛び下り る風習があり、実際に清水寺の舞台から飛び 下りる人もいたという。 類義清水の舞台から後ろ飛び。 用例「…今も内心いっそひと思いに文子さ んと結婚しようかと思う心はあったのです が、それはつまり、ひと思いに清水の舞台か ら飛び降りる気持というあの自殺的な自棄やけ 気味だけのことなのですね」〈坂口安吾◆吹 雪物語〉 長くは続かないということ。 虚名久しく立たず 賞賛でも中傷でも、事実に基づかない評判は 魚目燕石 老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老老 本物と紛らわしい偽物。また、本物と偽物が 紛らわしいこと。魚の目玉も燕山の石も何の 価値もないが、ともに宝石に似ていることか ら。▶燕石‖燕山からとれる石。 出高士伝こうしでん 行いが清廉で潔いことのたとえ。また、立身 出世や高位を嫌うことのたとえ。△許由巣父 Ⅱ「許由」も「巣父」も、中国古代の伝説上 の高潔な人物。 故事聖天子と仰がれた尭帝ぎようが、許由に 天下を譲ろうと言ったところ、汚れたことを 聞いたと言って頴川 元い せん で耳を洗い、箕山 きざ に 隠れてしまった。そこにやって来た巣父は、 許由が耳を洗っている理由を聞いて、そのよ うな汚れた水は引いて来た牛に飲ませること はできないと言って、上流に行ってきれいな 水を飲ませたという故事から。「許由」の故 事は『荘子』にある。 類義流れに耳を洗う。許由耳を洗えば巣父 牛を引いて帰る。 嫌いは知らぬの唐名 「知らない」と言うのが恥ずかしいので「嫌 いだ」と言ってごまかしているということ。 負け惜しみ。▷唐名‖別名。あだ名。 きら綺羅、星の如し 立派な人物が一堂に会して、ずらりと並んで <193> いるようす。△綺羅=あや絹とうす絹。転じ て、華やかで美しいこと。 補説「綺羅、星の如し」と切って読むのが 正しいが、現在では「綺羅星 の如し」と一 語のように読まれることが多い。 類義星の如くに列つらなる。 切り株にも衣装 きかぶいしょう つまらないものでも、外見次第で見栄えがす るということ。「木の株にも衣装」ともいう。 類義馬子にも衣装。 義理と褌欠かされぬ いつも身につけている褌のように、義理はこ の世で欠くことのできない大事なものだということ。いろはがるた(京都)の一。 類義 欠かれぬものは義理と褌。義理と法と は立てるもの。 対義義理張るより頬張れ。 きりのうちゅうおごとのうちゅうきり 錐の囊中に処るが如し囗囊中の錐512 ぎりばほおば 義理を欠くまいとして無理なつきあいをする よりも、自分の利益や生活を優先させたほう がよいということ。 類義見栄張るより頬張れ。男伊達 だて 小鍋 だて。心中より饅頭 まんじ。 ゆう 対義 義理と褌 ふん どし 欠かされぬ。 のたとえ。また、物事の衰退するきざしのた とえ。青桐は、他の木よりも早く秋の気配を 感じて落葉するため、青桐の落葉によって秋 の到来を知る意から。「桐の一葉」ともいう。 類義一葉 いち よう 落ちて天下の秋を知る。 きりふくろとお のうちゅうきり 錐、囊を通す ◇ 囊中の錐 512 物事の一端から、全体の動きを察知すること きまえ きりかぶーきをこい 器量より気前 顔立ちの美しさよりも、気立てのよさのほうが大事だということ。 類義 男前より気前。人は眉目 みめ よりただ 心。 きりひとは桐一葉 きりたちりっすいち 錐を立つる地なし↓立錐の地なし682 出杜甫ー詩し 蝕麟児きりんじ ずばぬけた才能を持つ、将来有望な青少年の こと。∇麒麟∥聖人が世に出るときに現れる という中国古代の想像上の動物で、体は鹿、 尾は牛、ひづめは馬に似ていて頭上に肉に包 まれた一角がある。一説に雄を「麒」、雌を 「麟」という。「麒麟児」は、その子という意。 補説詩の題名は『徐卿 じょ けい の二子にしの歌」。 徐卿の二人の子を、たぐいまれな天才とほめ たたえ、「天上の麒麟児」と言っている。 類義寧馨児 ねいけ。 いじ 賊驎の躓き きりんつまず すぐれた人物にも失敗や間違いがあるという ことのたとえ。一日に千里を走る名馬でも、 つまずくことがあるという意から。「騏驥 の躓き」ともいう。△騏驎Ⅱ一日に千里を走 るという駿馬 転じて、俊才の意。 類義竜馬 の躓き。猿も木から落ちる。弘 法にも筆の誤り。河童 の川流れ。 きておそ切る手遅かれ 決断は慎重にせよという教え。処刑で首を切 ることを急ぐなという意から。 きれいはなやまさ綺麗な花は山に咲く 本当によいものや価値のあるものは、かえって人の気づかないところにあるということ。 きろくたけはちへいじゅうろう きしちたけはちへいじゅうろう 木六竹八塀十郎 木七竹八塀十郎 174 岐路亡羊 たきぼうよう 多岐亡羊 397 出北史ほくし 軌を一にす やり方や行き方が同じであることのたとえ。 同じ道、同じわだちをたどって進むという意 から。また、国家がよく統一されていること のたとえ。国内各地の車輪の幅を同じにする という意から。∇軌=前者では車輪の跡。わ だちの意。後者では車の輪と輪との間隔の 意。 きこいねがうままたきじよう 驥を睟うの馬も亦驥の乗なり 出揚子法言 志があるだけで、その仲間といえることのた とえ。駿馬 と願う馬は、それだけで駿馬の仲間と言える <194> きをしてーきんかぎ という意から。∇驥Ⅱ一日に千里を走るという名馬。睎うⅡ願い慕う意。乗Ⅱ仲間の意。 補説出典では、このあとに「顔がんを睜うの 人も亦また顔の徒なり顔回「孔子がもっとも 期待していた弟子」を敬慕する人物は、それ だけで顔回の仲間と言える」と続く。 類義 驥を学ぶは驥の類 たぐ。 学を好むは知に 近し。 仏学べばすぐ仏。 ねずみと 驥をして鼠を捕らしむ 物にはふさわしい使い道があるということの たとえ。また、有能な人物につまらない仕事 をさせることのたとえ。駿馬 に鼠を捕らせ ることから。∇驥Ⅱ一日に千里を走るという 名馬。 補説出典には「騏驥驊騮 ききか りゅう は一日にして 千里を馳はするも、鼠を捕らうること狸狌 りせ い に如しかず。技を殊ことにするを言うなり(騏驥 驊騮といった駿馬は一日に千里を走るけれど も、鼠を捕らえるのは狸 たぬ き やいたちに及ばな い。それは、得意とする技能が異なっている からである」とある。 ぎみ 義を見てせざるは勇無きなり 人として行うべき正しいことと知りながら実 行しないのは、その人に本当の勇気がないか らだということ。 出 ろんご 論語 用例 ゴルドン、安心してくれたまえ、ぼくは父からきいたが、日本のことわざに、義 対義触らぬ神に崇たたりなし。 を見てなさざるは勇なきなり』というのがあ るそうだ」富士男は綱をくるくるとからだに まきつけた。「よしッ、いってくれ」〈佐藤紅 緑◆少年連盟〉 木を見て森を見ず 物事の細部にとらわれて、全体を見失うこと のたとえ。一本一本の木に注意を奪われて、 森全体を見ようとしないことから。 類義木を数えて林を忘れる。 英語 You cannot see the wood for the trees. 木々だけを見ているために、森を見ることができない You cannot see the city for the houses. 家屋にばかり目がいっているために町が見えない きんいぎょくしょく 錦衣玉食 ぜいたくな生活をするたとえ。また、高貴な 身分のたとえ。美しい着物を身につけ、上等 な食物を食べる意から。△錦衣=美しい着 物。玉食=立派な食事。 出魏書ぎしょ 金烏玉兔 日と月。また歳月。△金烏価伝説で、太陽に すむという三本足のカラス。転じて太陽。玉兎 伝説で、月にすむというウサギ。転じて月。 黄金で作ったかめ。国家や天子の位にたと えられる。 出南史なんし 物事が完全で欠点がないこと。とくに、一度 も外国の侵略を受けたことがない強固な国家 や天子の位のたとえ。少しも欠け損じたとこ ろのない黄金製のかめという意から。△金甌 金甌無欠 補説出典には、梁りの武帝のことばとして 「我が国家は猶なお金甌の一傷欠 いちしょうけつ 無きが若 ごとし(我が国家は黄金のかめに一つの傷もな いのと同じである)」とある。 槿花一日の栄 出白居易詩 人の世の栄華のはかないことのたとえ。ま た、しばしの栄華のたとえ。むくげは朝美し い花を開くが、夕方には散ってしまうことか ら。「槿花一晨いの栄え」ともいう。△槿花 Ⅱむくげの花。夏から秋にかけて咲く。ま た、「朝顔」の古称。 補説詩の題名は放言げんぼう。 類義朝顏の花一時 ひと○ とき 槿花一朝 いっち よう の夢。 花一時、人一盛り。 出文選もんぜん 金科玉条 人間として絶対に守るべき法律や規則のこと。金や玉のように立派な法律という意から。現在では、「金科玉条のごとく守る」のように融通のきかないたとえとして用いることもある。▷金・玉‖貴重、重要の意。科・条‖法律の条文の意。 補説出典にある揚雄 よう ゆう の詩『劇秦美新 げきしん びしん から。前漢の末に王莽 おう もう が新王朝をおこした とき、揚雄が秦しんを非難し、新の国をほめた たえたことばの一節。 用例既に貞操が婦人の生活の中枢生命であ るとせられた時代は過ぎた。そして如何いかに 質朴な民衆の上に神権主義の道徳が圧力を <195> 持っていた時代でも、実際に全婦人をその貞 操倫理の金科玉条で司配いすることは出来な かった。二夫に見まみえた女は地上到る処るの 帝王の家にもあった。〈与謝野晶子◆鏡心灯 語抄〉 きんかく巾幗の贈ぞう 出晋書しんじょ 意気地のないことをあざけること。女性用の 髪飾りを男性に贈る意から。∇巾幗=女性の 髪飾り。一説に、女性が喪中にかぶる冠。 故事中国三国時代に蜀の大将諸葛亮 しょかつが魏の大将司馬懿しば(仲達ちゅう)を幾度と りよう なく攻めたが、司馬懿は城にこもったまま戦 わなかった。そこで諸葛亮は、司馬懿をはず かしめるために、女性の装身具を贈ったという 故事から。 欣喜雀躍 小躍りするほど大喜びすること。△欣喜=喜 ぶこと。「欣」も「喜」も喜ぶ意。雀躍=ス ズメが跳びはねるように喜ぶ意。類義の語を 重ねて意味を強めている。 金言耳に逆らう ちゅうげんみみ さか 忠言耳に逆らう 423 用例馬鹿な弟子どもは、あの人を神の御子 みこだと信じていて、そうして神の国の福音と かいうものを、あの人から伝え聞いては、浅 間あさ ましくも、欣喜雀躍している。〈太宰治◆ 駈込み訴え〉 類義有頂天になる。歓天喜地。狂喜乱舞。 手の舞い足の踏む所を知らず。 金銀は回り持ち かねてんかまわも 金は天下の回り持ち 150 きんかくーきんじょ 金剛なれば則ち折る木強ければ則ち 折る178 金谷の酒数しゅすう 出李白ー文りはくぶん 中国、晋しの石崇 せき そう が洛陽 らく よう の西北の渓谷、 金谷に別荘の金谷園を設けて詩宴を催し、詩 の作れない者には罰として三斗の酒を飲ませ たという故事。 補説出典の文はこの故事によるもので、題 名は『春夜しゅ桃李りの園に宴えんするの序』。 「如もし詩成らずんば、罰は金谷の酒数に依よ らん(もしも詩ができなかったら、金谷園の 故事にならい、罰として酒を三斗飲ませるこ とにしよう」とある。 出詩経しきよう 琴瑟相和寸 夫婦の仲がきわめてむつまじいことのたと え。また、兄弟や友人の仲のよいことにもい う。琴と瑟の音がよく調和している意から。 ∇琴Ⅱ中国の代表的な弦楽器。筝そうの琴に似 ているが琴柱にとがない。七弦琴。瑟Ⅱ中国に 古くからある二十五弦など大型の弦楽器。 類義和すること琴瑟の如ごとし。琴瑟調 う。琴瑟の鼓こするが如し。 対義琴瑟調わず。 用例しかし、孔明とその新妻とは、実にぴったりしていた。相性というか、琴瑟相和してという文字どおり仲がよい。〈吉川英治◆三国志〉 出漢書かんじょ 夫婦や兄弟の仲が悪いことのたとえ。琴と瑟 の調子が狂って、音が調和しない意から。 対義琴瑟相和す。 出徐績ー詩じょせきし 金城鉄壁 非常に守りの堅いことのたとえ。また、非常 に堅固で、つけこむすきがないことのたとえ。 金で築いた城と、鉄で作った城壁の意から。 補説詩の題名は『倪げい復に和す』。 類義 金城湯池 鉄壁の陣。難攻不落。 きんじょうとうち 出漢書かんじょ 金城湯池 きわめて守りが堅くて侵略されにくいことの たとえ。また、容易には入りこめない勢力範 囲のたとえ。金で築いた城と、熱湯をたたえ た堀の意から。 補説出典には「必ず将まさに城を嬰めぐらして 固く守らんとす。皆、金城湯池と為り、攻 む可べからざるなり(攻めることができない) とある。 類義 金城鐵壁。 難攻不落。 用例七百万石の力を以て築き成された六十万石の金鱗亀尾蓬左柳 きんりんきび ほうさりゅう の尾張 おわ 名古 屋の城が、たかが二人の浪士づれに睨にられたとて、どうなるものか。その辺は深く心配するには足りないが、おりから早暁そうぎ、あたりに人の通行の無きに乗じ、城を横目に睨み上げて、南条、五十嵐いがの両名が、高声私語する節々ふしを聞いていると、金城湯池をくつがえすような気焰きえだけはすさまじい。 <196> きんじょーきんとき 〈中里介山◆大菩薩峠〉 錦上花を添う 出 おうあんせき 王安石ー 詩 美しく立派なものに、さらに美しく立派なものを加えること。よいことやめでたいことが重なるたとえ。美しい錦の布の上に、さらに美しい花を飾る意から。「錦上に花を添う」ともいう。 が孔子の人格を賛美した言葉。 補説詩の題名は「即事」。「嘉招 かし よう 覆ふく さん と欲す盃中の淥ろく、麗唱 れいし よう 仍なお 錦上に花を 添う(すばらしい宴にお招きいただいて、私 は盃中の酒を何杯も重ねたいと思う。また、 美しい歌声は、錦の上に美しい花を添えたよ うに、宴会を引き立たせてくれる)と歌っ ている。 近所合壁 隣近所。壁を接するように立つ近隣の家々の 意から。△合壁‖壁一枚を隔てた隣。 類義近郷近在。向こう三軒両隣。 きんせき まじ 金声玉振 才知や人徳が、よく調和して備わっていること。鐘を鳴らして音楽を始め、磬けを打って音楽を収束する意から。△金鐘。声ここでは鳴らす意。玉磬。玉石で作った「へ」の字型の打楽器。振磬を打って鳴らし、音楽をまとめ収めること。一説に、調える。補説古代中国で、音楽を奏するのにまず鐘を鳴らして始め、次に糸・竹の楽器を奏でて、磬を打って締めくった。ここから、始まりと終わりの整っていることをいう。もと孟子 金石の交わり 出孟子もうし 友情のきわめて堅いこと。いつまでも変わらない交際のたとえ。「金石の契ちぎり」ともいう。 補説出典には「今足下 か そっ 自ら以為 おも らくは 漢王と金石の交わりを為なすと雖 いえ ど も、然しか れども終ついに漢王の禽 とり とする所と為らん (今あなたは、漢王と堅固な信頼関係を結ん でいると思っておられるが、いずれは漢王に とらえられてしまうだろう」とある。項羽 の部下の武渉 ぶし よう が韓信 かん に言ったことば。 類義管鮑 かん ぼう の交わり。 別頸 ふん けい の交わり。金 蘭 きん らん の契り。断金の交わり。 琴線に触れる 人の心をゆさぶり、大きな感動や共鳴を与え ること。感動する心を、鳴り響く弦にたとえ ていう。マ琴線=琴の弦。 用例冗談じゃないね。この事件に、心理分 析も検証もくそもあるもんか。あのトリエス テに始まった、大伝奇の琴線に触れることだ よ。〈小栗虫太郎◆潜航艇〉 金銭は親子も他人 おやこ たにん おやこ なか きんせ 親子の仲でも金銭 は他人122 禁断の木の実 固く禁じられている、魅惑 みわ に富んだ快楽や 行動のこと。△禁断=固く禁じること。 補説エデンの園で幸福に暮らしていたアダ ムとイブが、神によって食べることを禁じられていた「知恵の木の実」を、蛇の誘惑に負けて食べたため、エデンの園から追放されてしまったという「旧約聖書」にある物語から。 きんちょうももかぞいえどいっかく 禽鳥、百を数うると雖も一鶴 つまらない者が大勢集まってあれこれ言う意 見も、すぐれた人の一言にかなわない。△禽 鳥‖鳥類の総称。 に如かず 類義雀の千声鶴の一声。 金湯の固きも粟に非ざれば守 きんとうかたぞくあらまも 出魏書ぎしょ らず どんなに守りの固い城でも、食糧がなければ 守りきれるものではないということ。△金湯 ニ「金城湯池」の略。きわめて防備の堅固な 城。粟∥食糧の意。 補説出典では、このあとに「韓白 は漢の名将韓信 かん、 「白」は秦しんの名将白起 の勇あるも、糧かてに非ざれば戦わず」とある。 きんときかじみま 金時の火事見舞い 酒を飲んで顔が真っ赤になるさまのたとえ。 赤ら顔の金時が火事見舞いに行けば、炎の熱 気で顔がいっそう赤くなることから。 補説「金時」は源頼光 みなもとの よりみつ の四天王の一人、 坂田金時 さかたの きんとき のこと。幼名は金太郎。おとぎ 話にある金太郎のことで、全身が赤かったと いう。 <197> 類義金時が酒に酔ったよう。金時の棒ねじ り。猿の火事見舞い。 きんたまごうがちょうころ 金の卵を生む鶯鳥を殺すな 目先の利益のために、大局的な見通しを失っ てはならないという戒め。 補説「イソップ物語」にある、毎日一個ずつ金の卵を生む鵞鳥を飼っている欲の深い男が、鵞鳥の腹の中には大量の金があると思い込み、その金を一度に手に入れようとして鵞鳥の腹を裂いて殺してしまい、すべてを失ってしまったという話から。英語では Don't Kill the goose that lays the golden eggs. 金の茶釜の七つもあるよう 自分の家は大金持ちだと、大ぼらを吹くことのたとえ。「家うちには金の茶釜が七つ」ともいう。∇茶釜∥茶の湯で、湯をわかす釜。ふつうは鉄製。 類義家には金の茶釜が七つ。 勤勉は成功の母 きんべんせいこうはは 成功を収めるには、勤勉であることが大切で あるということ。 類義 勤勉は幸福の母。勤勉は幸福の基。 英語 Diligence is the mother of good fortune. 勤勉は幸運の母である きんっん ちぎ 金蘭の契り 固く親密な友情のたとえ。親友が心を合わせ れば、友情の固さは金をも断ち切るほど強く、 その美しさは香りの高い蘭のようだという意 出易経 きんのたーくいもの から。「金蘭の交わり」ともいう。△金=固 いことのたとえ。蘭=よい香りのたとえ。 補説出典にある「二人心を同じくすれば、 その利ときこと金を断ち、心を同じくするの 言は、其の臭かお蘭の如し二人が心を合わせ れば、その鋭さは金をも断ち切るほどであり、 心を一つにした友情のことばは、香りのよい 蘭のようである」によることば。 類義 刎頸 ふん けい の交わり。 断金の交わり。 金石 の交わり。 管鮑 かん ぼう の交わり。 出駱賓王ー詩 金を炊ぎ玉を饌す 豪華でぜいたくな食事。歓待されたことに感 謝の気持ちを述べるときにも用いる。黄金を 炊いて食物とし、玉を取りそろえて膳に並べ るという意から。∇饌す∥食べる。また、並 べる。 補説詩の題名は『帝京篇 ていきょ うへん これに平 台戚里 へいだい せきり 崇墉 すう よう を帯び、金を炊ぎ玉を饌し て鳴鐘を待つ(皇族の御殿や親戚の屋敷が連 なっていて高い塀がめぐらされており、そこ に出される食膳には、黄金をかしぎ宝玉を食 物とするといわれるぜいたくな料理が並び、 食事時を知らせる鐘が鳴るのを待っている) とある。 きんつかものひとみ 金を攫む者は人を見ず 一つのことに熱中している者は、ほかのこと がまったく目に入らないことのたとえ。 る前でどうして金をつかんだのか」と尋ねた ところ、男は「金を取るときは人が見えず、 金しか見えなかった」と答えたという。 故事昔、斉の国で、金を売る店から金をわ しづかみにして持ち帰った者がいた。それを 見ていた役人が捕らえ、「大勢の人が見てい 類義鹿を逐おう者は山を見ず鹿を逐う者 は兎ぎを顧みず。盗人錦ある事を見て人ある 事を見ず。欲に目見えず。 苦あれば楽あり 人生の苦楽は一方には偏 うこと。苦しいことがあれば、楽しいことが あるということ。「楽あれば苦あり、苦あれ ば楽あり」ともいう。↓楽あれば苦あり676 類義楽は苦の種、苦は楽の種。 くいぜまもうさぎまかぶまもうさぎ 株を守りて兎を待つゝ株を守りて兎を ま 待つ152 食いつく犬は吠えつかぬ 本当に自信のある者や実力のある者は、むや みに騒ぎ立てないものだということ。強い犬 はやたらに吠えつかない意から。 類義空樽あきだるは音が高い。 食い物と念仏は一口ずつ 念仏を皆で口々に唱えるように、食べ物も分 け合って一口ずつでも皆の口に入るようにせ よという教え。「食べ物と念仏は一口ずつ」 <198> ともいう。 類義 念仏と食い物は一口が大事。 食い物のあるのに鉄砲汁 物好きな変わり者や、いかもの食いをする者 への皮肉のことば。ほかに食べ物がいろいろ あるのに、わざわざ危険な鉄砲汁を食べるこ とから。▽鉄砲汁=河豚汁 ふぐ じる のこと。鉄砲は 当たれば死ぬことから、この名がある。 空谷の琵音 出荘子そうじ 思いがけない喜びのたとえ。また、非常に珍しいことのたとえ。懐かしい人が訪ねて来たり、うれしい便りが届いたりすること。孤立しているときに賛同者を得た場合にも用いる。人気のないさびしい谷に聞こえる人の足音という意から。「空谷の足音そくおん」ともいう。△空谷∥人のいないさびしい谷。登音∥足音。 食うことは今日食い、言うこ あすい ニトーン 食べ物は早いうちに食べたほうがよいが、も のを言うのは先に延ばして、よく考えてから 言ったほうが賢明だという教え。 とは明日言え 空前絶後 出宣和画譜 非常にまれであること。これまでに例がなく これからもあり得ないという意から。△空前 Ⅱ今までにないこと。絶後Ⅱ今後もあり得な いこと。 故事中国宋の徽宗が東晋の顧愷之 このの絵はそれまでの最高であり、梁りよの張僧 繇ちょうそのの絵は彼以後比べるものがいないと言 われるが、唐の呉道子は彼らの才を兼ね備え た偉大な画人である、と評したという。 用例従ってこの道成寺は前後百年を通 じて又見られない筈のものであるむしろ 空前絶後と言いたいくらいに考えていた筆者 であった。〈夢野久作・道成寺不見記〉 類義 冠前絕後。未曾有。 食うた餅より心持ち 物をもらったことよりも相手の気持ちがあり がたいということ。「餅」と「持ち」を掛け たことば。 類義 搗った餅より心持ち。米の飯より思 おぼ し召し。 対義思おぼし召しより米の飯。 出宋之問ー詩 空中 楼閣 根拠のない空想や現実からかけ離れたありえ ない物事。もとは、蜃気楼 しんき ろう のこと。空中 に見える高い建物という意から。「空中の楼 閣」ともいう。∇楼閣∥高い建物。 食うべき折に食わざるは粮な き者となる 英語 build castles in Spain スペインに 城を築く たお や たお 食うに倒れず病むに倒れる 食費がかさんで破産することはないが、医薬 代で財産を失うことは多い。病気には勝てな いということ。 好機を逃がしてはいけないということ。食べ られるときに食べておかないと、あとで苦し む意から。△粮=食糧。 食おうとて痩せる 食費を稼ぐために、痩せるほどの苦労をする こと。食べる苦労のために痩せるという矛盾 を皮肉ったもの。 苦髪楽爪 苦労しているときは髪の毛が早く伸び、楽を しているときには爪が早く伸びるというこ と。「苦髪」は、苦労すれば頭髪が薄くなる 意とする説もある。↓苦爪楽髪205 類義苦髭楽爪。 釘の裏を返す 念には念を入れて行うたとえ。打った釘の先 が裏側に出たのを打ち曲げて、抜けないよう にすることから。 くぎま 釘の曲がりは鉄槌で直せ 悪いくせや習慣は、厳しい方法で直せという こと。鉄釘の曲がりは、鉄槌でたたかなけれ ば直せないことから。 へぬ れ 釘を刺す あとになって問題が起こらないように、あら <199> かじめ念を押したり注意したりしておくこと のたとえ。釘を打ちつけて固定する意から。 「釘を打つ」ともいう。 補説日本の木造建築は、昔は釘を使わずに 木材に切り込みを入れて組み合わせる工法で あったが、江戸時代の中ごろから、念のため に釘を刺して木材を止めるようになった。そ こから生まれたことば。 類義楔ぴを刺す。 くげ公卿にも檻褄つづれ 服装によって地位や人品が判断されることの たとえ。身分の高い人も、着る物が粗末であ れば、いやしい者に見えることから。あとに 「馬子まごにも衣装」と続けていうこともある。 ∇複複∥つぎはぎの衣服。ぼろ。 類義君飾らざれば臣敬うやまわず。 公卿の位倒れ 身分は高くても経済的に苦しいため、地位に 応じた権威が保てないこと。 苦言は薬なり、甘言は疾なり 耳が痛く聞きづらいことばは薬になり、へつ らいのことばは害毒になるということ。「疾」 は「病」とも書く。 出史記しき 類義薬の灸は身に熱く毒な酒は甘い。 ぐこうやまうつ 愚公、山を移す 出列子 辛抱強く努力を続けていれば、難しい事業で くげにもーくさって も、いつかは成し遂げることができるという たとえ。 故事昔、愚公という九十歳になる老人は、 自分の家の前にある二つの大きな山が行き来 の妨げになるので、長い間苦しんでいた。そ こで、よそへ移そうと決心し、「自分が死ん でも子や孫、またその子や孫へと引き継いで ゆけば、いつかは必ずできる」と実際にやり 始めたところ、天帝が愚公の心意気に感心し て、二つの山を神に背負わせて、他に移させ たという。 臭い物に蠅たかる 悪人は悪人同士で集まることのたとえ。臭い ものに不潔な蠅がたかる意から。いろはがる た(京都)の一。 類義腐った物に虫が湧わく。臭肉 しゅう にく 蠅を集 臭い物に蓋をする 都合の悪いことや、人に知られたくないこと を、一時しのぎの間に合わせの方法で隠すこ とのたとえ。容器の蓋を閉めて、悪臭が外に 漏れないようにする意から。いろはがるた (江戸)の一。 用例世人がもし真に、その差別の起った理由をよく承知してくれさえすれば、容易になるほど」と、得心の行きうべきはずのものを、わざわざおし隠して、しいて曖昧なものにして、奥歯に物の挟まったような感じを永く残さしめることは、かえって融和上不利益ではありますまいか、臭い物に蓋をするというこ とも、時として必要な場合はありますが、この問題に対しては、私はむしろ一般世間の人々に、過去の間違った差別待遇の事実を知らしめ、一方その由ょって起ったところを明らかにしてもらうことが、その反省を促す上に必要だと思うのであります。〈喜田貞吉◆融和問題に関する歴史的考察〉 臭い者身知らず 自分の欠点は、自分では気がつかないことの たとえ。自分の身から出る悪臭に自分では気 がつかない意から。 類義息の香の臭きは主ぬし知らず横臥虫 おうが むし 我が身の臭きを知らず。 草木も眠る丑三つ時 気味が悪いほど静まりかえった真夜中のこと。草木までも眠っている真夜中という意から。▷丑三つ時‖昔の時刻で、丑の刻を四つに分けた三番目の時刻のこと。今の午前二時から二時半ごろ。化け物や幽霊が出る時刻とされている。「丑満時」とも書く。 くさ腐っても鯛たい 価値があるものは、どんな状態になっても本 来の価値を失わないというたとえ。腐ったと しても鯛は魚の王者に変わりはない意から。 類義檻樓ぼろでも八丈。破れても小袖 ざれても錦。沈丁花 じんち ようげ は枯れても芳 かん ぱ 里も今一里。 対義騏驥きも老いては駑馬に劣る。昔千 A good horse becomes never a <200> くさのねーくしのは 「輟馬は決して駄馬にはならない」 用例ある日河岸へ行ってみると、あゆのつ いた弁当が十五銭でできるという話をしてい る者があった。腐っても鯛という諺 が、いかになんでもあゆである。安くても三 十銭や五十銭はするであろうのに、あゆをつ けて一つの弁当にしたのが十五銭とは何事だ と、これには私もいささか驚いた。〈北大路 魯山人◆インチキ鮎〉 草の根を分けても捜す あらゆる手段を尽くして、あらゆる所を徹底的に捜すこと。「草の根を分けて捜す」「草を分けて捜す」ともいう。 くさなわうまつな腐り縄に馬を繋ぐ 類義 鉄 かね の草鞋 わら で尋ねる。鉦かねや太鼓で 捜す。 用例あいつのために、おれは牢ふいれら れたと、うらみ骨髄に徹して、牢から出たと き、草の根をわけても、と私を捜しまわり、 そうして私の陋屋ろうを、焼き払い、私たち一 家のみなごろしを企てるかもわからない。 〈太宰治・春の盗賊〉 楔を以て楔を抜く 害悪を取り除くのに害悪を用いることのたと え。一度打った楔を抜くには、別の楔を打っ てゆるめて抜くことから。∇楔=木や金属を V字形にしたもので、木や石の割れ目に打ち 込んで割ったり、物を押し上げたりするのに 使う道具。 まったく頼みにならないことのたとえ。腐っ た縄で馬をつないでもすぐ切れてしまうこと から。 類義毒を以て毒を制す。盗人 の番には盗 人を使え。 類義蜘蛛 の家に馬を繋ぐ。朽くち縄に取 り付く如ごとし。朽索 きゅう さく の六馬 ぼく を馭ぎよ する が若ごとし。 くさなわ腐り縄にも取り所 捨てるしかないようなものでも、使いようで 役に立つことがあるものだということ。「腐 り縄も用に立つ」ともいう。 草、図圏に満つ 出隋書ずいしょ 政治がよく行われていて、犯罪がないことの たとえ。牢獄ろうに罪人がいないために、中に 雑草が生い茂るという意から。∇図圀∥牢 獄。「れいぎよ」とも読む。 補説出典には「職に在ること七年、風教大 いに洽 あま ね し。獄中に繋囚 けいし ゅう 無く、争訟 そうし よう 絶 息し、囹圄尽 ことく皆草を生じ、庭羅あみを張る べし七年の間に地方長官の考えがすみずみ にまで広がり、獄中につながれている犯罪人 がいなくなり、訴訟もなく、獄舎には雑草が 生い茂り、庭では鳥を捕らえる網を張ること ができる」とある。 類義倉稟実みちて図圓空し鵠 大理の 庭に巣くう。 くさ 腐れ縁は離れず いうこと。△腐れ縁‖男女関係をはじめ、広 く好ましくない関係を指す。一説に「鎖縁 くさり えん 」で、断ち難い縁のことともいう。 類義悪縁契ちぎり深し。 悪縁は、なかなか断ち切ることができないと くさぎはしらな 腐れ木は柱と成らず 出漢書 能力のない者はその地位を保つことができな いというたとえ。腐った木は柱には使えない ことから。「朽くち木は柱と成らず」ともいう。 ↓腐木ふぼは以もって柱と為すべからず、卑人 ひじは以て主と為すべからず585 草を打って蛇を驚かす よけいなことをしたために、つまらない災難 を受けたり、相手に警戒心を起こさせたりす ることのたとえ。「草を打って蛇に驚く」と もいう。 くじ孔子の倒れ どんなに立派な人にも、失敗はあることのた とえ。孔子のような聖人君子も、つまずき倒 れることもあるという意から。「孔子倒れ」 ともいう。△孔子=「くじ」は呉音読み。孔 子のこと。 類義弘法にも筆の誤り。文殊も知恵のこ ばれ。河童がの川流れ。釈迦しにも経の読み 違い。猿も木から落ちる。千慮の一失。上手 の手から水が漏る。 櫛の歯を挽く 同じような物事が次から次へと絶え間なく行 われること。また、人の往来などが絶えない <201> こと。櫛の歯を作るとき、次々に挽くように 削っていくことから。▷挽く=のこぎりでひ いて作る。 用例そこへさらに続いて櫛の歯をひくように総理大臣の出動を催促する使者が次々にくる。〈佐藤垢石・春宵因縁談〉 九尺二間に戸が一枚 間口九尺、奥行が二間で、入口の戸が一枚だ けしかないような、狭く粗末な家のたとえ。 △九尺ニ約二・七メートル。二間ニ約三・六 メートル。 くじゃくはねひとと 孔雀は羽ゆえ人に捕らる なまじ長所があるために、かえって不幸にな ることのたとえ。孔雀は羽が美しいので人に 捕らえられることから。下に「麝香 より身を滅ぼす」を続けていうこともある。 類義象は歯有りて以もって其その身を焚やか る。甘井かん先に竭っく。薫くんは香を以て自ら 焼く。翠すいは羽を以て自ら残そこう。 たとえ。また、邪魔にされてもどこまでもつ いていくことのたとえ。 ぐしゃひゃっこうちしゃいねむ 愚者の百行より知者の居眠り 愚か者の多くの行いは、賢い人の居眠りにも 及ばないということ。 類義 雀 すず め の千声鶴の一声。千人の諾諾 だく は 一士の諤諤 がく がく に如しかず。 愚者も一得 いっとく せんりょ いっとく 369 くじら しゃちほこ 鯨に鯢 どこまでもつきまとって、害を与えることの 鯨も魚、白魚も魚 くしゃくーくすりの 形の大小によって軽んじたり差別してはいけ ないというたとえ。鯨も白魚も、大きさは 違っても同じ魚であるということから。 補説鯨は哺乳類だが、水中生活をすること から、昔は魚と見られていた。 医師は人を殺せど薬人を殺さず薬 人を殺さず、医師人を殺す202 くす 楠の木分限、 梅の木分限 地道に手堅く財産を築き上げた金持ちと、成 り上がりのにわか成金のこと。生長は遅いが 着実に伸びて大木に育つ楠の木を堅実な金持 ちに、生長は早いが大木には育たない梅の木 を成金にたとえた言葉。「分限」は「ぶんげん」 とも読む。∇分限∥金持ち。財産家。 くすり 薬あればとて毒を好むべから ず 仏の慈愛や救いを頼みにして、悪行を続けて はならないということのたとえ。毒消しの薬 があるから安心だといって、毒を好んで飲ん ではいけないという意から。 薬九層倍くすりくそうばい 暴利をむさぼるたとえ。薬は売り値が非常に高く、原価の九倍もするという意から。△九 層倍Ⅱ「九倍」を強めた言い方。 補説「薬」の「く」と「九層倍」の「く」を掛けた 語呂ごろ合わせ。同じ形で、「ご」を合わせた「呉 服五層倍」、「百」を合わせた「百姓百層倍」 などがある。 用例馴れぬ手つきで揉もみだした手製の丸 薬ではあったが、まさか歯磨粉を胃腸薬に化 けさせたほどのイカサマ薬でもなく、ちゃん と処方箋を参考にして作ったもの故ゆえ、どう かすると、効目があったという者も出て来た。 市内新聞の隅っこに三行広告も見うけられ、 だんだんに売れだした。売れてみると、薬九 層倍以上だ。〈織田作之助◆勧善懲悪〉 薬にしたくも無い 望んでも、それらしい要素は少しも認められないこと。少量を服用する薬がその少量でさえないということから。「薬にしたくても無い」「薬にしようと言っても無い」ともいう。用例しかし僕の架上の書籍は集まった書籍である証拠に、頗な糅然だ。紛然としている。脈絡などと云いうものは薬にしたくもない。「芥川龍之介・蒐書」 くすりきゅうみあつどくさけ 薬の灸は身に熱く、毒な酒 あま は甘い ためになる小言ここや忠言は厳しく感じられる が、甘言や誘惑は快く感じられるというたと え。体によい灸は熱いが、毒になる酒はうま いことから。「灸」は「やいと」とも読む。 類義良薬は口に苦し。忠言耳に逆らう。苦 <202> くすりひーくちあれ 言は薬なり、甘言は疾 やま なり。 くすりひと ころ 薬人を殺さず、医師人を殺 す 罪は物にあるのでなく、それを運用する人に あるということ。薬そのものが人を殺すので はなく、医師が薬の調合や飲み方の指示など を誤ると、人を殺すことがあるという意から。 「医師は人を殺せど薬人を殺さず」ともいう。 くすりすどく 薬も過ぎれば毒となる どんなによいことでも、度を過ごせば害にな るというたとえ。いくら効く薬でも、適量以 上飲めば、かえって害をもたらす意から。 類義過ぎたるは猶なお及ばざるが如ごとし。 薬より養生 病気になってから薬を飲むよりも、日ごろか ら養生につとめて病気にならないようにすべ きであるという教え。また、病人には薬より も、養生が必要だという意にも用いる。 類義一に看病二に薬。一に養生二に介抱 かい。 予防は治療に勝る。 英語 Better wait on the cooks than the mediciners.医者よりも料理人に仕えるほ うがまし」Kitchen physic is the best physic.台所の薬(滋養のある食物)が最良 の薬である くせ 癖ある馬に乗りあり て使えるということ。癖のある馬も、乗り手 の扱い方一つで役に立つということから。 類義蹴る馬も乗り手次第。人食い馬にも合 い口。名馬に癖あり。癖なき馬は行かず。 一癖ある人も、うまく扱えば、個性を生かし 出史記しき 虞芮の訴え 互いに自己の利益を主張して訴えること。また、他人の行いを見て自分たちの非をさとり、訴えを取り下げること。△虞芮=「虞」も「芮」も中国古代の国名。 故事)虞と芮の二つの国が境界線を争って解 決しないので、仁者といわれた周の文王の決 裁を仰ぐために周の国へ出かけたが、周では、 耕す人は畔あぜを譲り、歩行者は道を譲り合う のを見て、自分たちの行為を恥じて帰り、争 いをやめたという。 癖なき馬は行かず 一癖ある者のほうが、いざというときに役に 立つということ。気性が荒くて扱いにくいく らいの馬でないと遠くまでよく走らないということから。 曲者の空笑い 一癖ある人の、油断のできないつくり笑い。 腹黒い人のおせじ笑い。「えせ者の空笑い」 ともいう。 管の穴から天を覗く かんもってんうかが 管を以て天を窺 う169 くそみそいっしょみそくそいっしょ 糞も味噌も一緒味噌も糞も一緒621 くだものなつこそでもらものなつ 下さる物なら夏も小袖貰う物は夏も こそで 小袖649 くだざかこし下り坂に腰を押す 落ち目にあるものに、さらに衰えさせるよう なことをするためとえ。落ち目の者に対して腰 を突き押す意から。 管を巻く 酒に酔って、とりとめもないことをくどくど と言い続けること。「酔えいては管巻く」とも いう。∇管∥紡績に使う糸を巻きつける小さ な軸。 補説糸繰り車を回すと、ぶんぶんと音を立 てるが、その単調な音を、酔っぱらいの繰り 言にたとえたことば。 くだもってんうかがかんもってんうかが 管を以て天を窺う♩管を以て天を窺う 169 口あれば京へ上る やろうという気になれば、できないことはないというたとえ。口さえあれば、道を尋ねながら都にたどり着くことができるということから。「目あれば京へ上る」ともいう。 口あれば食い、肩あれば着る 人間は食べたり着たりして何とか生活してい けるもので、さほど心配することはないという たとえ。「口あれば食って通る、肩あれば 着て通る」ともいう。 <203> 類義生き身に餌食えじ。 口が動けば手が止む おしゃべりに夢中になると、仕事をする手が 止まってしまう。むだ口をきかずに仕事に集 中せよということ。 口から出れば世間くちでせけん いったん秘密を話してしまえば、広く世間に 発表したのと同じだから、口を慎めという戒 め。「口より出せば世間」ともいう。 類義人の口に戸は立てられぬ。駟しも舌に 及ばず。 朽ち木は柱と成らず くさぎはしらな らず200 口先の裃 ことばづかいは礼儀正しく丁重だが、真心が こもっていないこと。マ袢ニ江戸時代の武士 の礼服。 英語 A long tongue is a sign of a short hand. 口がよく動くというのは、手があまり動かないしるしである くちじまんしごとべたくちたたてた 口自慢の仕事下手◡口叩きの手足らず 203 口は達者だが、仕事のほうはさっぱりできないこと。口ほどには手が動かないこと。△口たたき‖多弁な人。おしゃべり。 口叩きの手足らず 類義 口上手の商い下手。口自慢の仕事下 手。 対義物言わずの早細工。 くちがうーくちにの 口では悪く言っているが、心の中では愛情を 持って見守っていること。 口でけなして心で褒める 口では大阪の城も建つ 口先だけなら、どんな大きなことでも言える ことのたとえ。 類義口自慢の仕事下手。口叩たきの手足ら ず。能なしの口叩き。 口と財布は締めるが得 口も財布も締めておいたほうが得だというこ と。おしゃべりと浪費を戒めたことば。 類義口と財布は閉ずるに利あり。 口に栄耀、身に奢り くちゃ くちなわの口裂け 欲が深すぎて身を滅ぼすことのたとえ。強欲 な蛇が、自分の口が裂けても大きなえさを吞 のみこもうとすることから。▷くちなわ‖蛇。 類義くちなわは口の裂くるのを知らず。欲 の熊鷹 たか 股また 裂ける。 くちあま 口に甘いは腹に毒 食物や衣服にぜいたくをすること。▷栄耀 ぜいたく。おごり。奢り∥ぜいたく。奢侈 しゃ。 甘言につい気を許し、計略に乗せられること のたとえ。甘い物はつい食べ過ぎて、腹をこ わしやすい意から。 類義旨 い物は腹にたまる。口に甘きは腹 に害あり。 口に風邪をひかす ひかす 22 口に地代は出ない 言いたい放題を言うことのたとえ。どんなに 大きなことを言っても、言うだけなら地代が かからないという意から。 類義 口に税はかからぬ。口に年貢ぐは要ら ぬ。 口に使われる 食べていくために、あくせく働くこと。生活 のために苦労することをいう。 類義口ゆえに使われる。食おうとて痩せ る。口に孝行する。 くちとた 口に戸は立てられぬ ひとくちとた 人の口に戸は立 てられぬ 554 出春秋左氏伝 口に糊す 何とか貧しい生計を立てることのたとえ。か ゆをすする意から。「口を糊する」「糊口 ともいう。やっとのことで食べ、何とか暮ら していくことを「糊口をしのぐ」という。 △ 糊する‖かゆをすする。転じて、やっと暮ら しを立てること。 <204> くち 口には関所がない 何を言ってもさしつかえないこと。人の口に は、ことばの出入りを調べる関所などないと いう意から。 類義口に地代は出ない。口に年貢ねんは要ら ぬ。 口に蜜あり腹に剣あり 出資治通鑑 口当たりのよいことを言いながら、内心は陰 険で悪意を抱いていること。 補説出典には、中国、唐の玄宗 げん 皇帝の宰 相李林甫 りり の人柄を評した「表面上は、さも 親しそうにしてうまいことを言うが、陰では 人々を陥れた。世間では李林甫のことを“口 に蜜有り、腹に剣あり”と言った」という記 述がある。 けって言う。鳥の雛ひなは嘴が黄色いことか ら。 英語 He has honey in his mouth and the razor at his girdle. 口に蜜を、腰带には剃刀 を持っている 類義尻が青い。 口で言うことと心の中で思っていること が、まったく違っていること。 領機口と心ま表。 類義 口と心は裏表。 対義言葉は心の使い。言葉は身の文あや。 くちばしきいろ 嘴を容れる 嘴が黄色い 年が若くて経験が浅いこと。未熟な者をあざ 他人の話に関係もないのに割り込んで意見な どを言うこと。また、他人のすることに干渉 すること。「嘴を挟む」「嘴を差し挟む」とも いう。「容れる」は「入れる」とも書く。 類義口を出す。口を挟む。 用例だから画えの事に関して噛を容れる権 利は無論ないのですが、門外漢の云いう事も 時には御参考になるだろうし、こうして諸君 に御目にかかる機会も滅多にありませず、 かつ文芸全体に通じての議論ですから、大胆 なところを述べてしまいます。〈夏目漱石 文芸の哲学的基礎〉 くちちょうほう口は重宝 口先では何とでも言えるということ。ことば と実際とが違うときに、相手を非難する気持 ちをこめて用いることが多い。 くちと 口は閉じておけ、目は開けて 余計なことは言わず、しっかりものを見よ、 ということ。 くちとらしたつるぎ口は虎、舌は剣 おけ 類義 口は禍 わざ わい の門 もん。 物言えば唇寒し秋の 風。 言い方次第で、人を傷つけたり自分の身を滅 ぼしたりすることになるから、注意せよという 戒め。 英語 Keep your mouth shut and your eyes open. [口を閉じて目を開け] 出事文類聚 口は禍の門 不用意に言ったことがもとで、災難を招くことが多いので、言葉は慎むべきだという戒め。「口は禍の元」ともいう。「門」は「かど」とも読む。 補説出典には口は是これ禍の門、舌は是身 を斬るの刀なり」とある。 類義舌は禍の根多言は身を害す三寸の 舌に五尺の身を亡ぼす駟しも舌に及ばず。 英語「Out of the mouth comes the evil. 「わざわいは口から生じる」More have repeated speech than silence.「黙っていた ことよりもしゃべったことを後悔する人のほ うが多い」 用例やれやれ飛んでもないことになり ましたのう。お詫びの種にもなろうかと、 那須なすの殿様のことをうかうか申上げたら、 却かえって御腹立ちは募るばかり。口はわざわ いの門ということを今知って、悔んでもあと の祭じゃ。〈岡本綺堂◆平家蟹〉 唇亡びて歯寒し出春秋左氏伝 互いに助け合っている者の一方が滅びると、 他の一方も危うくなることのたとえ。唇がな くなると、歯がむき出しになって寒くなる意 から。「唇竭きて歯寒し」ともいう。 <205> 類義唇歯輔車ほしゃしんし。 くちべんけい口弁慶 言うことは達者で勇ましいが、実際の行動が それに伴わない人のたとえ。口先だけは弁慶 のように勇ましく、頼もしいことから。マ弁 慶=武蔵坊 むさし ぼう 弁慶。源義経 みなもとの よしつね の家来で勇 ましい僧であったことから、強い者のたとえ として言われる。 口も八丁手も八丁 言うこともすることも、きわめて達者である こと。「口八丁、手八丁」「手八丁、口八丁」 ともいう。▷八丁∥八つの道具を使えるほど 達者であるという意。「八挺」とも書く。 補説ほめる場合よりも、言うことやするこ とに信頼のおけない点をけなす場合に用いる ことが多い。 類義 口も口、手も手。 用例大抵の人は気象が目へ出るという。祖 母がやっぱりそれだった。全く眼色 のよう な気象で、勝ち気で、鋭くて、よく何かに気 の付く、口も八丁手も八丁という、一口に言 えば男まさり……まあ、そういった質たちの人 だったそうな、ーーわたしは子供の事で一向 夢中だったが。二葉亭四迷◆平凡 狗 犬。 猪 豚。 狗猪も其の余を食わず出漢書 道にはずれた行いをする人の食べ残した物 は、犬や豚でさえも食べないということ。人 道にはずれた者をさげすんでいうことば。 「狗猪もその余りを食らわず」ともいう。 くちべんーくどうを 故事前漢の君主の位を奪い取った王莽の 意を受けて、漢の印璽じん(天子の印鑑)を譲り 受けようと来た使者に対して、王莽の伯母で ある大后は、「あなたの仲間や父子一族は、 漢家のおかげで高い地位や財産を得られたの に、その恩を忘れて国を乗っ取ろうとしてい る」とののしって、「人間もこうまでになれば、 その食べ残しは犬や豚でさえも食わないだろ う」と言ったという。 口より出せば世間 せけん 口から出れば世間 履新しと雖も冠となさず 203 人には相応の分があり、勝手にその分を越えてはならないということのたとえ。靴は新しくても足に履く物で、冠としては使えない意から。「履新しと雖も首に加えず」ともいう。補説出典には「冠は敝やぶれたりと雖も必ず首に加え(冠はたとえ破れていようとも必ず頭上にいただく物であり)、履は新たなりと雖も必ず足に関あずかる。何となれば上下の分なればなり(なぜかというと、それが上下のけじめというものだからである)とある。類義冠敝やぶると雖も必ず首に加う。冠古けれども沓くに履かず。 出史記しき くっ あり かんむり きら 沓の蟻、冠を嫌う 自己の狭い見識にとらわれて、そこから脱却 しようとしないこと。知識・見識の狭いこと のたとえ。いつも沓の中にすんでいる蟻は、 冠にすむことを嫌う意から。 類義井の中の蛙大海を知らず。 苦瓜楽髪 苦労の多いときは爪が早く伸び、楽をしているときは髪の毛が早く伸びるということ。「楽髪苦爪」ともいう。↓苦髪楽爪198 轡の音にも目をさます ちょっとしたことにも敏感に反応するよう す。転じて、職業がら身についた感覚や習性 のたとえ。武士が常に油断せず、轡の小さな 音でも目をさましたことから。△轡∥馬の口 にくわえさせ、手綱を付ける鉄の輪。 類義侍 の子は轡の音で目をさまし、商人 の子は算盤 ばん の音で目をさまし、乞食 こじ き の子 は茶碗 ちゃ わん の音で目をさます。 靴を度りて足を削る することがさかさまであること、物事の順序 が逆であることのたとえ。足の大きさに靴を 合わせるのでなく、靴の大きさに合わせて足 を削る意から。 靴を隔てて痒きを掻く かゆ か かっかそうよう 144 いろいろなことに手を出す者は、結局大成し ないということ。本道からはずれて脇道を進 む者は、目的地に着くことができない意から。 <206> ▷衢道∥四方に通じる道。枝道。 補説出典には、このあとに両君に事つかえ んとする者は容いれられず二人の君主に仕え ようとする者は、どちらの君主からも爪つまは じきにされてしまう)と続く。 苦肉の策 悩み抜いた末に考え出した、苦しまぎれの計 略・手段。もとは自分を犠牲にしてまでも、 敵をあざむくはかりごとの意。「苦肉の謀 はかりごと」「苦肉の計」ともいう。∇苦肉∥自分の 身を傷つけ苦しめる意。 補説 本来は、敵をあざむくために、わざと 自分の肉体を傷つけて敵前に逃亡し、敵を油 断させようとする計画をいう。 国大なりと雖も戦いを好めば 必ず亡ぶ 出司馬法 強大な国でも、平和を求めず戦争ばかりしていると、いつかは滅亡するということ。 補説出典には「国大なりと雖も、戦いを好 めば必ず亡び、天下安しと雖も、戦いを忘る れば必ず危うし(天下太平であっても、戦い を忘れ、軍備をおろそかにすれば必ず侵略を 受けて危険である」とある。 国に入ってはまず禁を問え はまずその法を聞くともいう。 補説出典には「臣始めて境に至るや、国の 大禁 だい きん を問い、然しかる後に敢あえて入れり(わ たしが初めて斉の国境に来たときには、この 国のもっとも厳重な禁止令を確かめてから入 国した」とある。 出孟子もうし 類義郷に入りては郷に従う くにぬすびといえねずみ 国に盗人、家に鼠 どんな所にも、害を及ぼす者が必ずひそんで いることのたとえ。国には国の利益をかすめ 取る盗人、家には食べ物を食い荒らす鼠がい て害をもたらすという意から。 くにみだ ちゅうしんあらわ 国乱れて忠臣見る 出史記しき 国が乱れて危機に直面すると、真の忠臣が はっきりするということ。また、国家の危機 には、その危機を救う忠臣が現れるという意 味でも用いる。 補説出典には「国家昏乱 ち 見る」とある。『老子』の「国家昏乱して忠 臣有り」に基づく語。 類義世乱れて忠臣を識しる。 さんが 国破れて山河あり 出杜甫詩 戦乱で国は荒廃してしまったが、山や川の自 然は昔のままの姿で存在しているというこ と。 にとらわれた中にあって作った詩といわれ る。 補説詩の題名は『春望』。「国破れて山 河あり、城しろ春にして草木 がおとずれ、草木が青々と茂っている……」 と続く。杜甫が安禄山 あんろ の乱にあい、賊軍 私は日本が戦争に負けるまで、自分がこれほど日本を愛しているということを知らなかった。国やぶれて山河あり、とはまさしく私の感慨でもあったが、八月十五日に敗戦を確認したとき、それが四年前の十二月八日の日から確信していた当然の帰結であったにも拘かず、「日本が本当によい国になるのは、これからだ」という溢あれたつ希望と共に、祖国によせる思いもよらなかった愛情がこみあげてきて、こまった。坂口安吾風流 苦杯を嘗める 思いどおりにことが運ばず、つらい経験をす ることのたとえ。「苦杯を喫する」ともいう。 ▶苦杯∥にがい酒を入れたさかずき。転じ て、苦しいできごと、つらい経験の意。 用例そこで孫資 その方針が採りあげられ、 長安の守備には郭淮 かく、 張郃 ちょう こう をとどめ、 そのほか要路の固めも万全を尽して、帝は洛 陽へ還幸した。ときに孔明は漢中にあり、彼 としてはかつて覚えなき敗軍の苦杯をなめ、 総崩れの後始末をととのえていた。〈吉川英 治◆三国志〉 九は病、五七は雨に四つ旱、 六つ八つならば風と知るべし 地震が起きた時刻によって、それが何の前ぶ れであるか占えるという俗説を詠んだ歌。地 震が九つ(午前・午後の十二時ごろ)に起きた <207> ら病気がはやり、五つ(同八時ごろ)と七つ(同 四時ごろ)なら雨、四つ(同十時ごろ)なら日 照り続き、六つ(同六時ごろ)と八つ(同二時 ごろ)なら強風が吹く前ぶれであるという。 676 苦は楽の種 楽は苦の種、苦は楽の種 出資治通鑑 どんなに差し迫ったことであっても、実行す るまでには多少の余裕があるべきだというこ と。 故事唐の太宗 たいが張蘊古 ちょう という者を町 で首切りの刑にしたが、すぐに後悔した。そ こで、「今より死罪有れば、即決せしむと雖 いえも仍なお三たび覆奏 ふく そうして乃 すな ち刑を行え (今後は、死罪があれば即決したとしても決 定後に三度奏上させて考慮の余地をおき、そ れから刑を執行せよ」と命じたという故事 による。 首縊りの足を引く 血も涙もない、ひどい仕打ちをすることのた とえ。首をつって死のうとする者を助けるど ころか、足を引っぱって死に追いやる意から。 類義溺おぼれる者の足を引く。 用例所詮、君たちは、なまけもので、そう して狡猾 こう かっ にごまかしているだけなのであ る。だから、生命がけでものを書く作家の悪 口を言い、それこそ、首くくりの足を引くよ くはらくーくもとな うなことをやらかすのである。いつでもそう であるが、私を無意味に苦しめているのは、 君たちだけなのである。〈太宰治◆如是我聞〉 狗尾統貂 つまらない人物がすぐれた人物のあとに続く ことのたとえ。また、他人がやり残した仕事 を引き継ぐことを謙遜していうことば。▶狗 尾‖犬のしっぽ。貂‖貂てんの尾で飾った冠。 高位高官の職にあった者がつけた。 出晋書しんじょ 故事中国晋の趙王 ちょう おう 司馬倫 しば りん の一族が 勢力を得てみな高位・高官を授かったつ まらぬ人間が冠に飾りの貂蟬 ちょう ぜん (貂の尾と蟬 せみ の羽で飾りつけた冠をつけているのを世 人が見て「いまに冠に飾る貂の尾が足りなく なって、犬のしっぽで飾った者が続くように なるだろう」とあざけったという故事による。 首振り三年ころ八年 尺八の修業年数をいったことば。首を振り振り何とか音が出せるのに三年かかり、ころころという微妙な味わいのある音が出せるのに八年かかるということ。転じて、何事でも修業には長い年月がかかることのたとえ。 類義権かいは三年櫓ろは三月みつ。ぽつぽつ三年波八年。顎あご振り三年。 くひゃくくじゅうくひきはなかざる 九百九十九匹の鼻欠け猿、 まんぞくいっぴきさるわら 満足な一匹の猿を笑う 正しいことも、大勢の愚者には押し切られる というたとえ。また、仲間が多ければ、自分 たちの欠点に気がつかないということのたと え。 補説古代インドの舎衛 元い 国の大木に千匹の 猿がいて、帝釈天 たいしゃ くてん を供養していたが、一 匹だけ五体満足で、あとの九百九十九匹は鼻 がなかった。この鼻欠け猿たちが、一匹の猿 を鼻があると言って笑ったという『今昔物語 こんじゃく ものがたり にある話による。 くびのかかとあ 出荘子そうじ 頸を延べ踵を挙く 人や事の到来を心待ちにすること。また、す ぐれた人物の出現を待ち望むこと。首を長く のばし、つま先立って待ちこがれる意から。 「頸を延ばし踵を挙ぐ」ともいう。△頸〓く び。踵〓かかと。 くぼところみずた 窪い所に水溜まる 集まるべきところには、自然に人や物が集 まってくることのたとえ。また、身分や地位 の低い者には苦難が集まることのたとえにも 使われる。土地のくぼんで低い所に水が自然 に溜まる意から。「低き所に水溜まる」とも いう。 類義 窪い所に芥 あく。 雲となり雨となる 男女の情交のこまやかであること。「雲雨巫山」「朝雲暮雨」ともいう。また、人情が軽薄で変わりやすいことや、変化の激しいことにもいう。 類義巫山 ふざ の夢。手を翻 ひる がえ せば雲と作 なり 手を覆 くつ がえ せば雨となる。 <208> 雲に梯 とてもかなえられそうもない高望みのたと え。雲にはしごを架けるのは、とても無理な ことから。特に恋についていうことが多い。 「雲に梯、霞かすに千鳥」と続けてもいう。 梯Ⅱはしご。「架け橋」とも書く。 雲に汁くもしる 物事がうまく運びそうな気配のたとえ。雲が しだいに雨気をおびてくるという意から。 くもいえうまつな 蜘蛛の家に馬を繋ぐ きわめて危険で、頼りにならないことのたと え。 類義腐り縄に馬を繋ぐ。朽索 きゅう さく の六馬 ぱく を馭ぎよ するが若ごとし。 の音、散ばった生徒の騒ぐ音が校内に満ち 渡った。〈田山花袋◆田舎教師〉 蜘蛛の子を散らすよう 大勢の者が四方八方に散って逃げるようすの たとえ。蜘蛛の子の入っている袋が破れる と、中から多数の蜘蛛の子が出て来て、四方 八方に散るようすから。 用例教員室には掛図や大きな算盤 や植物標本やいろいろなものが散ちばって乱 れていた。女教員が一人隅の方で何かせっせ と調物 をしていたが、始め一寸 たぎりで、言葉も懸けてくれなかった。やが てベルが鳴る、長い廊下を生徒はぞろぞろと 整列して来て、「別れ」を遣やるとそのまま、 蜘蛛の子を散したように広場に散った。今ま での静謐 ひつ とは打って変って、瑤音 あし、 おと 号令 蜘蛛の巣で石を吊る とうていできないこと、また、きわめて危険 なことのたとえ。 類義危うきこと累卵の如し。一髪千鈞 を引く。 くもおおかぜふまえす 蜘蛛は大風の吹く前に巣をた たむ 災いを未然に防ぐことのたとえ。蜘蛛は本能的に天候の変化を予知し、災難を未然に防ぐということから。「蜘蛛は大風の吹く前に巣をたたみ、狐きつねは雨の降る前に穴を塞ふさぐ」と続けてもいう。 類義 鵲巣 じゃく そう 風の起こる所を知る。熊深山 を出れば大雪降る。 くもりゅうしたがかぜとらしたが 雲は竜に従い風は虎に従う 出易経えきよう 名君が賢臣を得ること。立派な君主のもとで は、民衆はその徳に感じて従うというたとえ。 また、物事はそれぞれにふさわしいものと一 緒になって、うまくゆくことのたとえ。 一日散 いちも くさん に逃げて、姿をくらますこと。 補説もとは「雲霞 くもか すみ と逃げ去る」のよう に「雲霞」といったが、「雲」の語尾の音「も」 雲を霞かすみ が格助詞「を」を伴っているように聞こえ、「雲を霞」というようになったものといわれる。また、「を」を間投助詞とする説もある。 用例白い馬を酒場の窓際にたたせておいてから酒の瓶をもちだしてちびりちびりと飲みだした馬を窓際につないでおいたのは、もし街の兵隊が捕まえにきたなら、ひらりと得意の馬術で窓から馬の背にとびのって雲を霞と逃げ失せるつもりであったのです。〈小熊秀雄・土の中の馬賊の歌〉 くも雲を掴むつか 漠然としていて、とらえどころがないこと。 「雪を掴むよう」ともいう。 用例罹災以来私と一緒に次兄の許もとで 厄介になっていた妹は、既にその頃、他所よそ へ立退たちいてしまったが、それと入れ替って、 次兄の息子たちが、学童疎開から戻って来た。 いつまでも私が、ここでぶらぶらしているこ とは、もう許されないのであった。だが、一 たいどうしたらいいのか、私にはまるで雲を 掴むような気持であった。原民喜・小さな 村 雲を掴んで鼻をかむ とても無理なこと、できないことのたとえ。 供養より施行 死者に対する供養よりも、生きている人に恵 みを施すことのほうが大切だということ。信 心深いのはよいが、現実離れしてはいけない という戒め。 <209> ず 出大学だいがく 精神を集中しないと身につかないことのたと え。ほかのことに気を取られていては、食べ 物の本当の味はわからないという意から。 「食えどもその味を知らず」ともいう。 ともいう。 補説)出典には「心焉こに在らざれば視みれ ども見えず、聴けども聞こえず、食くらえども 其その味を知らず」とある。 類義心焉に在らざれば視れども見えず。 鞍掛け馬の稽古 実際には役に立たない、むだな修業のたとえ。 木馬で乗馬の訓練をすることから。▽鞍掛け 馬=木馬。「鞍掛け」ともいう。 これ 暗がりの渋面 じゅうめん 物事の区別がはっきりしないことのたとえ。暗い所に黒い牛がいてもわかりにくいことから。また、動作が鈍いことのたとえ。暗がりにいる牛を引き出そうとすると、ただでさえ動きの鈍い牛がいっそうぐずぐずすることから。「暗がりの牛」「闇から牛を引き出す」「暗闇から牛を引き出す」ともいう。 暗がりから牛 くらおにつな 暗がりに鬼を繋ぐ やってみても何の効果もないことのたとえ。 暗闇でしかめっ面っちをしても、相手は気づか ないことから。 何が出てくるかわからず、気味が悪いことの たとえ。「暗隅くらに鬼を繋ぐ」「暗がりの鬼」 くらえどーくるしい 暗がりの恥を明るみへ出す 隠しておけば知られずにすむ不名誉なこと を、わざわざ世間に知らせること。「暗闇の 恥を明るみへ出す」ともいう。 類義日陰ひかの恥を日向ひな入出す。 苦楽は生涯の道連れ 人には一生苦しみと楽しみがついて回るということ。人生に苦労はつきものであるというたとえ。 くらげ 水母の風向かい 抵抗してもむだなことのたとえ。くらげが風 上に進もうとしてもできないことから。 くらげ水母の行列 きちんと並んでいないようすのたとえ。くら げが勝手気ままに浮いているようすから。 くらげ水母の骨ほね ありえない物や、非常に珍しいことのたとえ。 くらげには骨がないことから。 水母骨に会う命あれば海月も骨に会 う70 くらうちざいく 蔵の内の財は朽つることあ り、身の財は朽つることなし 貯たくえた財産はなくなることがあるが、身に つけた学問や知識は、一生なくなることはな いということ。「蔵の内の財は朽ちれども 身の財は朽ちず」ともいう。 暗闇の鉄砲 やみよ てっぽう 闇夜に鉄砲 660 くらやみ暗闇の独り舞まい 人が見ていない所で、思い切りやることのた とえ。 類義野中の独り謡いうた。 くらやみ ほおかぶ 暗闇の頬被り 不必要な用心をすることのたとえ。暗闇の中 で顔を隠しても、意味がないことから。「暗 がりの頬被り」ともいう。 苦しい時には親を出せ くるときおやだ 言い訳に困ったときには、親を引き合いに出 して口実を作れという教え。 類義 叶 かな わぬ時には親を出せ。せつない時 は親。 苦しい時の神頼み 自分が困ったときにだけ、他人に頼ろうとす ること。ふだんは神や仏をおがんだことのな い者が、苦しいときにだけ、神仏に祈って助 けを求めることから。 <210> 類義 叶かな わぬ時の神頼み。叶わぬ時の神叩 だた き。せつない時の神叩き。困った時の神頼 み。 [英語] The danger past and God forgot- ten. [危険が過ぎ去ると神は忘れられる] In prosperity no altars smoke. [幸運のと きにはどの聖壇からも香の煙が立ち上らな い] 用例そんなことをいったって、東京へ戻りや、なあに、また同じことだよ。そうなんだ。それでいいんだ。苦しい時あ神頼みで、神に頼んで、それが過ぎて、やって行けるとなりゃ、こんだまた、この、悪魔に頼むんだ。この世に生きている人間の慾よくが、乾ひる時なんかあるもんか。三好十郎◆胎内 苦しい時は鼻をも削ぐときようはな を欠け 464 車の両輪くるまりようりん どちらも欠かすことができない密接な関係の たとえ。車の両輪は、二つ揃そろっていなけれ ば役に立たないことから。 くるまうみ 車は海へ舟は山 ふねやま ずがさかさまであることのたとえ。 くるまさんずんくさびもっせんりか 車は三寸の楔を以て千里を駆 くる 出淮南子えなんじ きるたとえ。車は小さな楔がなければ遠くまで走れないことから。∇楔∥物と物とのつなぎ目が離れないようにするもの。ここでは、車輪が車軸から外れないようにとめてあるもの。 小さいものでも重要な役目を果たすことがで 補説出典には「車の能よく千里に転ずる所 以ゆえは、其その要よう、三寸の轄かつに在るを以 もってなり(車が千里の道を回転することがで きるのは、その要かなの部分にわずか三寸のく さびがあるからだ」とある。 車を馬の前に置く することがさかさまであることのたとえ。馬 に引かせる車を馬の前に置いたのでは、馬は 引くことができないことから。 くるまかものこれはころも 車を借る者は之を馳せ、衣を かものこれき 借る者は之を被る 世んごくさく 戦国策 とかく人に借りた物は、取り扱いが乱暴にな ることのたとえ。人に車を借りた者はむやみ に走らせ、人の着物を借りた者はむやみに着 る意から。▶馳す‖惜し気もなく走り回らせ る意。被る‖着ること。 暮れぬ先の提灯 紅は園生に植えても隠れなし すぐれた人は、どこにいてもひときわ目立つ ことのたとえ。紅花は、どんな花園に植えて も人目を引くという意から。∇紅∥紅花。キ ク科の草で、赤黄色の花を咲かせる。 手まわしがよすぎて、間が抜けていることの たとえ。提灯に、明るいうちから灯をともす ことから。 類義 小舟の宵ごしらえ。 塩辛を食おうとて 水を飲む。 対義泥棒を捕らえて縄を綯なう。火事あと の火の用心。 くろいぬ あく た かす 黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓 に怖じる 一度こわい目にあうと、似ているものを全部 こわがるようになることのたとえ。黒犬に噛 まれた人は、灰汁の滓がまいてあるのを見て も、黒い犬かと思ってこわがる意から。▷灰 汁‖灰を水にひたしたときの上澄み。怖じる ‖こわがる意。 類義蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる。羹あつに 懲りて膾なまを吹く。 食わず嫌い 物事をやりもしないで、嫌いとかできないと 断定してしまうこと。食べもしないで、嫌い だと決めつけてしまうことから。「食べず嫌 い」ともいう。 食わず貧楽高枕 利益や名誉などを求めず、清貧に甘んじる境 地のこと。「食わず貧楽」だけでも用いる。 類義貧しくして楽しむ。 <211> 食わせておいて扱と言い ごちそうを食べさせて、断れない状態にして おいてから、「さてお願いだが…」と頼みご とを切り出すこと。 類義旨うまい物食わす人に油断すな。 食わぬ飯が髭に付く 無実の罪を着せられることのたとえ。食べも しなかった飯粒が髭について、盗み食 いしたと疑われることから。 類義濡ぬれ衣ぎぬを着る。 食わぬ犬をけしかける 気のすすまない者をそそのかすことのたと え。かみつく気のない犬をけしかけて、かみ つかせる意から。∇食う∥かみつく意。 愚を守る 食わぬ殺生 食べるわけでもないのに、むやみに生きもの を殺すこと。また、いたずらに金を使って、 無意味なことをすること。 くわ かた 鍬を担げた乞食は来ない 働いていれば貧乏することはないということ のたとえ。鍬で畑を耕す人が乞食になること はないという意から。▷担げる‖かつぐ。 類義稼ぐに追い付く貧乏なし。 対義稼ぐに追い抜く貧乏神。 出荀子じゅんし 句を作るより田を作れ たっく 田を作れ 329 才能を隠して、愚かなふりをしていること。 また、自分の知識や能力をひけらかさないこと。 くわせてーくんしあ 補説出典にある孔子のことば「人は、才能 をひけらかし、自分を賢く見せたがるものだ が、才能を隠して愚かなふりをしていることが、 最善の処世術である」による。 群蟻腥羶に付く 人々が私利私欲のために利益のあるところに 群がり集まることのたとえ。たくさんの蟻あり が羊の肉に集まることから。「群蟻羶に付く」 ともいう。∇群蟻∥群がった蟻。腥羶∥なま ぐさいもの。羊の肉。 出荘子そうじ 補説出典には「羊肉は蟻を慕わざるも、蟻 は羊肉を慕う。羊肉の羶なまければなり。舜 に羶行せんこう有りて、百姓ひゃくこれを悦よろぶ(羊の 肉は蟻を好まないが、蟻は羊の肉を好む。そ れは、羊の肉がなまぐさいからである。舜に は仁義というなまぐさい行為があるので、蟻 がなまぐささを慕うように人に慕われ、人民 は喜んで集まった」とある。 類義甘い物に蟻がつく。 ぐんけいじくお 群軽軸を折る 小さなものや微力なものでも、多く集まれば 大きな力となるたとえ。軽いものでもたくさ ん積めば、車の軸を折るに至ることから。 出戦国策 補説出典には積羽舟を沈め軽い羽根で もたくさん積めば舟が沈み、群軽軸を折り、 衆口 金を鑠とかす(大勢の人が口を揃 そろ えて そしれば、金属をも溶かしてしまう)」とある。 類義 羽翮 肉を飛ばす。 群犬怪しむ所に吠ゆ 出楚辞 俗人が、賢者の言行が自分たちと異なるのを 怪しんで、けなすことのたとえ。群がる犬が、 見慣れない人を怪しんで吠えることから。 補説出典には「邑犬 けんの羣むらがり吠ゆるは、 怪しむ所を吠ゆるなり、俊を非そしり傑を疑う は固もとより庸ようの態なり(村里の犬が群がり 吠えるのは、見慣れない者を怪しんで吠える のである。すぐれた人物を悪く言ったり疑っ たりするのは、いうまでもなく凡人のするこ とである)とある。 君子危うきに近寄らず 徳の高い立派な人は、自分の行動を慎み、危 険なところには近づかないということ。 類義 賢人は危うきを見ず。命めいを知る者は 巌牆 がんし よう の下もと に立たず。 所に登らねば熟柿 尻穴に入らずんば虎子を得ず。危ない は食えぬ。 英語 He that will sail without danger must never come upon the main sea. 無難に航海しようと思う者は大海に出てはならない It is best to be on the safe side. [安全な側にいるのが最良の策] 用例「いずれ人はいるだろうさ。これほど 大きな屋敷の中に、人のいないはずはない。 が、おれは大丈夫だ。五人十人かかって来た ところで、粟田口あわたがものをいう。斬きって <212> くんしお 捨てるに手間ひまはいらぬ」「それはマアそうでございましょうがね。君子は危うきに近寄らず、いっそそれより本邸の方から、さがしてみようじゃございませんか」〈国枝史郎◆名人地獄〉 くんしおこなもっいしょうじんした 君子行いを以て言い、小人舌 もっい た以て言う 君子は行動で徳を示すが、小人は口先で言う ばかりで、実行が伴わない。 くんしおも 君子重からざれば則ち威あら 出 論語 ろんご 君子は重々しく威厳がないと人から侮られる。威厳をそこなう軽々しい振る舞いをしてはならないという戒め。 群して党せず 人々と親しく交わるが、利益のために党派を 作ったり、徒党を組んだりしないということ。 補説孔子が君子の態度について述べたこと ば。出典には「君子は矜うきょにして争わず(君 子は厳正な態度をとるが、むやみに人と争う ことはしない)、群して党せず」とある。 出 ろんご 論語 くんしとうとう しようじんせきせき 君子蕩蕩として小人戚戚たり 出 論語 ろんご よくよと思い悩んでいるということ。△蕩蕩 ‖おだやかで心がゆったりとしていること。 戚戚‖心配してくよくよすること。 補説出典にある「君子は坦たいらかに心が 広くおだやかで蕩蕩たり。小人は長しなえ に(永久に)戚戚たり」からのことば。 くんしさんかい 君子に二戒あり 出論語ろんご 君子が一生の各段階で、戒めなければならない三つのこと。青年期における色欲、壮年期における人との争い、老年期における欲心をいう。「君子に三つの戒めあり」ともいう。 君子に三楽あり 出孟子もうし 君子が楽しみとする三つのこと。父母と兄弟が健在なこと、世の中のだれに対しても恥じることのないこと、天下の英才を教育することの三つをいう。「君子の三楽」ともいう。 君子に一言なし 君子は軽々しく口に出さないが、一度言った ことは固く守るということ。「二言」は「に げん」とも読む。 類義武士に二言なし。 君子の交わりは淡きこと水の 若し 出荘子 君子の交際は水のように淡白であるが、その 友情は永久に変わらないということ。「君子 の接まじわりは水の如し」ともいう。 補説出典には「君子の交わりは、淡きこと 水の若く、小人の交わりは甘きこと醴れいの若 し。君子は淡たん以もって親しみ、小人は甘かん以 て絶つ。彼かの故ゆえ無くして以て合う者は、 則ち故無くして以て離る(君子の交際は淡白 であるためにいつまでも親しみ続けるが、小 人の交際は甘いためにすぐにとだえてしま う。理由なしに結ばれたものは、理由なしに 離れるものである」とある。 類義醴水れいの交わり。 君子は憂えず懼れず 出論語 君子は行いが正しく、心にやましいところが ないから、心配することも恐れることもない ということ。孔子が、弟子の司馬牛に「君子 とはどういう人物か」と聞かれて答えたこと ば。 君子は屋漏に恥じず 出詩経 君子は人の見ていない所でも、良心に恥じる ようなことはしないということ。▼屋漏=部 屋の西北の隅で、暗い所。古代、ここに土地 の神を祭った。 補説出典には「爾なんの室に在るを相みるに 尚 こいね がわ くは屋漏に愧じざれ室の最も奥の暗 い所にいても願わくば少しも恥ずることがな いようにせねばならない」とある。 類義君子は独りを慎む。 君子は下問を恥じず 出論語 君子は、自分より年齢や地位が低い人に教え を乞うことを恥ずかしがらないということ。 ▶下問=自分よりも年齢や地位が下の人に質 <213> 問して教えを乞うこと。 くんしき 補説出典には「子貢(孔子の弟子)問いて 日いわく、孔文子は何を以もってかこれを文と謂 いうや(孔文子は、どうして文というおくり名 がつけられたのか)。子曰く、敏にして(彼は 鋭敏な能力を持ちながら)学を好み、下問を 恥じず。是こを以て(だから)これを文と謂う なり」とある。 君子は器ならず 君子は一技・一芸にかたよらず、広く何事にも通じる人格を養うことが大切であるということ。▶器=ある一定の用途にだけ役に立つものの意。「うつわもの」とも読む。 出論語ろんご くんしぎさとしょうじんりさと 君子は義に喩り小人は利に喩 出 論語 ろんご 君子は正しいかどうかを、小人は利益になる かどうかを基準として考えるということ。 くんしげんとっこうびん君子は言に訥にして行に敏な ほっ らんと欲す 出論語 君子は、口は重く、行動は機敏でありたいと 願うものだ。ことばよりも実践することを重 んじるということ。 くんしこれおのれもとしょうじん 君子は諸を己に求め、小人は これひともと 諸を人に求む ろんご 論語 君子は、何事も自分の責任として厳しく自己 くんしはーくんしは を見つめて反省するが、小人は、すべて他人 のせいにして責任を押しつけるということ。 くんしさんたんさ 君子は三端を避く 出韓詩外伝 君子は人と争うのを好まないから、特に文章 や武器や弁舌での争いを避けるようにすると いうこと。△三端‖文士の筆端ひつ筆の先と 武士の鋒端ほうたん刀の先と弁士の舌端ぜっ 先。君子が避けるべき三つのものとされる。 君子は死するに衣冠を脱がず 出史記しき 君子は常に服装や態度を厳正にしていること を言ったもの。君子は死ぬときでも衣服や冠 をぬがないことから。 補説出典にある「子路曰いわく、君子は死するに冠免ぬがずと。遂ついに纓えい(冠のひも)を結びて死す」からのことば。 くんしひとつつし 君子は独りを慎む 出大学だいがく 君子は人が見ていないところでも行いを慎ん で、良心に恥じるようなことはしないという こと。単に「独りを慎む」ともいう。 補説出典には「君子は必ず其その独りを慎むなり」とある。 類義君子は屋漏に恥じず。 君子は豹変す 出易経えききよう 君子は、時代の変化に応じて自己を変えること。また、あやまちと知ったらすぐに改めるということ。現在では自分につごうが悪くな ると、考え方や態度を一変させる意で用いられることが多い。▷豹変‖豹の毛が季節によって抜け変わり、黄と黒の斑紋はんが美しく目立つこと。転じて、人が行動や態度をがらりと変えること。 補説出典には「君子は豹のごとく変じ、小 人は面 おも て を革 あら た む(小人は表面的に態度を改 める)とある。 類義大人は虎変す。 英語 A wise man changes his mind, a fool never. [賢者は考えを変えるが、愚者 は決して変えない] 用例君子豹変は嘉すべきであるが併しか し『紀行』と『修正』との間には、ジードに とってどんな出来事が起きたというのだろ う。なるほどソヴェートに於おいては肅党運動 にからんだ色々の刺激的な事件が起きた。だ が、それが急にジードをソヴェートの敵とす るには足りなかったことは、『修正』を読ん でも明らかである。〈戸坂潤◆読書法〉 くんしほうちゅうとお 君子は庖廚を遠さく 出孟子 君子は生きものの死をあわれんで、それらが 料理される台所には近寄らないということ。 「君子庖廚に遠ざかる」ともいう。▷庖廚 台所の意。 くんしまじたあくせい 君子は交わり絶ゆとも悪声を 出ださず 出史記 君子は人と絶交することになっても、決して 相手の悪口は言わないということ。∇悪声∥ <214> 悪口。 補説出典には「臣聞く、古いの君子は交わり絶ゆとも悪声を出ださず、忠臣は国を去るも、其その名を絜ぎよくせず(忠臣は仕えていた国にいられなくなり立ち去っても、自分の身の潔白を言い訳したりしない)」とある。 くんしわどうしょうじん 君子は和して同ぜず、小人は どうわ 同じて和せず ろんご 論語 君子は人と調和するが、主体性を失うことはない。小人は付和雷同するが、人と調和することはないということ。略して「和して同ぜず」ともいう。 しゅう 英語 One must draw the line some- where. どこかに一線を引かなければなら ない 軍者ひだるし儒者寒し 兵学者や儒学者は、立派な理論や学説を説く けれども、金もうけが下手で、衣食にも事欠 くことを皮肉ったことば。∇軍者∥用兵戦術 を研究する人。ひだるし∥ひもじい。空腹で ある意。儒者∥儒教を研究する人。 くんしゅさんもんいゆる 葷酒山門に入るを許さず においの強い野菜と酒は、修行の妨げになる ので、寺の中へ持ち込んではならないという こと。▷葷∥においの強い葱ねぎや菲にら・にん にくなどの野菜のこと。 軍は和にあって衆にあらず 戦いに勝つには兵の数の多さではなく、全軍 の心が一つになっていることが大切だという こと。∇和∥人の和わ。 補説孟子にある「天の時(日時・方角 などの吉凶や天候などの自然現象)は地の利 (地勢が有利なこと)に如しかず、地の利は人 の和(民心の和)に如かず」をふまえたことば。 くんこうもっみずかや 薫は香を以て自ら焼く 出漢書 すぐれた才能のある人が、その才能のために 身を滅ぼすことのたとえ。香りのよい草は、 そのよい香りのために焼かれてしまうことか ら。∇薫∥香草。 補説出典では、このあとに「膏こうは明を以 て自ら銷きゆ油は燃えると明るいために灯 し尽くされる」とある。 類義膏は明を以て焚かる。鐸たくは声を以 て自ら毁やぶる。孔雀くじは羽ゆえ人に捕らる。 くんめいうところ 君命に受けざる所あり 出孫子 主君の命令でも従わないときもある。とくに 戦場では、臨機応変に対応する必要があるの で、主君の命令に従わないときがあってもや むを得ないということ。 群盲象を評す 出六度経 凡人は、一面にとらわれて、全体的な判断は できないことのたとえ。大勢の盲人が一頭の 象をなでて、自分の触れたところだけの印象 から、象の全体の形についてさまざまな意見 を言ったということによる。「群盲象を撫なで る」「衆盲象を模もす」ともいう。 用例早い話が堀川のお邸 やし き の御規模を拝見 致しましても、壮大と申しましょうか、豪放 と申しましょうか、到底私どもの凡慮には及 ばない、思い切った所があるようでございま す。中にはまた、そこを色々とあげつらって 大殿様の御性行を始皇帝や煬帝 ように だい に比べるも のもございますが、それは諺 こと わざ に云いう群盲 の象を撫でるようなものでもございましょう か。あの方の御思召 おんおぼ しめし は、決してそのよう に御自分ばかり、栄耀栄華 えよう えいが をなさろうと 申すのではございません。〈芥川龍之介◆地 獄変 ぐんもん軍門に降る 戦争に負けて、敵軍に降服すること。現在で は、試合や勝負事に負けて相手に屈服するこ との意で用いることが多い。 ぐんゆうかつきよ群雄割拠 ある分野で、数多くの実力者が対抗して勢力を競い合うこと。もと、多くの英雄たちが各地に立ててこもり、互いに勢力を競い合って対立すること。中国や日本の戦国時代などの状況をいった。∇群雄∥たくさんの英雄・実力者。割拠∥それぞれが土地を分かち取り、そこを本拠として勢力を張ること。 用例ともあれ、京都はそれ以降、ややおち ついた。といっても、北朝に本来の御威光は なく、幕府のうちの内訌も後を絶つふうで ない。たしかに、武力は強力になった。けれ <215> ど諸国の武族は各各みなその郷国での地盤を かため、自信を蓄え、それが次に来る群雄割 拠の萌芽を地表にあらわし始めていた。〈吉 川英治・私本太平記〉 薫蕕は器を同じくせず 出孔子家語こうしけご 善人と悪人、また、君子と小人物とは、同じ 場所にいることができないことのたとえ。香 草と臭草とを同じ器に入れないという意か ら。▷薫‖よい香りのする草。善人または君 子のたとえ。蕕‖悪臭を放つ草。悪人または 小人のたとえ。 補説出典には「薫蕕は器を同じくして蔵せ す、堯 ぎよ う ・桀けっは国を共にして治めず。其 の類の異なるを以もってなり(よい香りのする 草と悪臭を放つ草を同じ容器に入れてしまっ ておくことはしないものだし、聖王の尭と暴 君の桀とは一緒に国を治めたりはしない。そ れは互いに根本的な違いがあるからだ」と ある。 類義冠履かん蔵を同じくせず。 ぐんようかもうこせ 群羊を駆って猛虎を攻む 弱小国を連合させて、強国に対抗させること。 また、勝ち目がないことのたとえにもいう。 多くの羊を追い立てて虎に立ち向かわせることから。「群羊を駆りて虎狼うに向かう」ともいう。 出戦国策 くんゆうーげいがみ 鯨飲馬食 一度に多量の飲食をすること。また、その勢 いがはげしいことのたとえ。鯨が水を呑のむ ようにたくさんの酒を飲み、馬が餌を食うよ うにたくさんの食物を食べるという意から。 類義 牛飲馬食。 形影相同じ 出史記しき 心の善し悪しがその行動に表れるたとえ。影 が体から離れないように、関係が親密なこと をいう。「形影相随」ともいう。 出列子れっし 補説出典には「形枉まがれば則 ち影曲が り、形直なおければ則ち影正し(物の形体が曲 がっていると影も曲がって映るし、物の形体 がまっすぐな場合には影も正しく本来の姿に 映る」とある。 形影相弔う そうしょくみをせむみことのりにおうずのしをたてまつるひよう 出曹植上二責レ躬応レ詔詩一表 孤独で寂しいさま。訪れる人もなく寂しいよ うす。自分の体とその影とが慰め合う意か ら。「形影相弔ちょす」「形影相哀れむ」ともい う。 形影相伴う 形と影とがいつも離れずについているよう に、夫婦や友人などが仲よく、常に一緒にい るようす。また、心の善し悪しがその行動に 表れるたとえ。 類義影の形に随うが如し。 敬遠 敬して遠ざける けいえん けい とお 217 けいがいこ傾蓋故の如し 出史記しき ちょっと会っただけで、まるで昔からの友人 のように親しくなること。「傾蓋旧の如し」 「傾蓋知己ちき」ともいう。△傾蓋=車の蓋かさ を傾けて親しく話し合う意。 補説出典には「諺ことわざに日いわく」として、「白頭新の如く、傾蓋故の如き有り(白髪がしらになるまで長く交際していても、初対面のようにしらじらしいつき合いもあり、道ばたで車の蓋を傾けて語り合っただけで昔からの友人のように親しくなれることもある)」とある。 謦咳に接する 尊敬する人物に直接会うこと。また、その人 の話を聞くことを敬っていう。間近で直接せ きばらいを聞く意から。△驚咳∥せきばら い。「驚欬」とも書く。 注意「警咳」を「せいがい」と読むのは誤り。 ふしあわ 芸が身を助けるほどの不仕合 せ 落ちぶれて不幸になること。自分が裕福なこ ろに道楽として習い覚えた芸事を売りものに して、みじめな生活を送る意から。 <216> 微力な者が、できもしない大きなことをしようとするためとえ。小さな弱い蛍の火で須弥山のような大きな山を焼こうとする意から。 レゅみせん ∇須弥Ⅱ須弥山。仏教の世界観で、宇宙の中 心にそびえるという高い山。 出円覚経 けいかん挂冠 出後漢書ごかんじょ 官職をやめること。辞職すること。冠 むり いで柱に掛ける意から。「冠 むり を挂かく」「挂 冕けい」ともいう。「かいかん」とも読む。 ▶ 挂掛ける意。 注意「桂冠」と書くのは誤り。 故事中国後漢の逢萌は王莽 もうが自分 の子を殺したことを知り、仕えるのを嫌って、 役人としてかぶっていた冠を洛陽 の都の城 門に掛けて、一族とともに遼東 へ去った という故事による。 たき は香木の桂の木よりも高い」と言ったという故事による。↓玉たまを食らい桂けいを炊かし ぐ409 物価高による生活苦のたとえ。物価の高い土 地に来て、生活難に悩みながら暮らすこと。 高価な桂がより高いたきぎと、珠玉より高い 食べ物に苦しむ意から。△艱悩み。苦し み。 桂玉の艱 けいぎよくかん 出戦国策 故事)中国、戦国時代の遊説家蘇秦 そしが、楚 その威王に面会するのに三か月も待たされ、 その間物価高に悩まされたので、威王に向 かって「楚国の食べ物は宝玉よりも高く、薪 苦難に満ちた人生行路のたとえ。「茨いばの道」ともいう。 ー 何も考えず軽はずみに行動すること。△軽挙 ‖軽々しく行動すること。妄動‖分別なく、 むやみに行動すること。 用例「決して生命 ち いの を惜しむのではありま せんが、これだけはかたく奉じて戴いた きたい。 ゆめ、軽々しく、動かないことです。時いた らぬうちに軽挙妄動するの愚を戒めあうこと です」〈吉川英治◆三国志〉 對義 隱忍自重。 熟慮断行。 出世説新語 鶏群の一鶴 平凡な人の中に、一人だけすぐれた人物がま じっていることのたとえ。鶏の群れに一羽だ け鶴つるがまじっている意から。「野鶴やか鶏群 に在あり」「鶴の鶏群に立つが如ごとし」「群鶏 の一鶴」ともいう。 類義掃はき溜だめに鶴。 中。「甕裡」とも書く。 てん 艦鶏甕裏の天 世間知らずで見識の狭い人のたとえ。甕かめの 底にすむ小虫が、甕の中だけを天地と考えて 外界を知らないことから。△醯鶏=酢や酒の 甕などにすむ小虫。かつおむし。甕裏=甕の 出荘子そうじ 故事孔子が老子に会った後、自分の視野の 狭さを反省して、弟子の顔回に、老子に比べ れば自分は甕の中にすむ醯鶏のような小さな 存在だと語ったという。 類義井の中の蛙か大海を知らず。 出老子ろうし 鶏犬相聞こゆ チーンオー 村里が家続きになっているようすのたとえ。 鶏や犬の鳴き声が、あちらこちらから聞こえ てくる意から。 補説出典には「隣国相望み、鶏犬の声相聞 こゆるも、民たみ老死に至るまで相あい往来せず (隣の国がお互いにすぐ見える所にあり、鶏 や犬の鳴き声がお互いに聞こえるほど接近し ていても、人民たちは年老いて死ぬまで隣国 と行き来することもしない)とある。「小国 寡民(土地が小さく国民が少ない村落的 な国家)」を国のあり方の理想とした老子の 考えを述べたことば。 けいけんくもほ 鶏犬雲に吠ゆる 出神仙伝しんせんでん つまらない者が、思いがけず非常な栄誉を受 けることのたとえ。「獣もの雲に吠ゆる」とも いう。 故事 中国、漢の時代に、淮南 わい なん 王の劉安 りゅう あん が、仙人になる薬を調合して飲んで昇天 したが、庭に置いてあった残りの薬を鶏や犬 がなめたため、同じく天に昇ったという。 経験は学問にまさる↓習うより慣れよ <217> けいこく傾国 絶世の美女のこと。君主がその美しさに夢中 になって国政をないがしろにし、国を傾ける (国を危うくする)意から。↓傾城 けい せい 217 出漢書かんじょ けいこしゅんじゅうし 蟪蛄春秋を知らず 短命のたとえ。また、世間知らずのたとえ。 夏の蟬せみは短命であり、春と秋とを知らない 意から。∇蟪蛄=寒蟬。 けいこじんぺん 稽古に神変あり 出荘子そうじ 熱心に修練を続けていれば、能力以上の高み に到達するということ。∇神変∥人知では測 り得ない変化。 剤妻けいさい 自分の妻のことをへりくだっていう語。愚 妻。後漢の梁鴻 りよう こう の妻の孟光 もう こう は質素で、 いつも荆釵 けい さい いばらのかんざし)と布裙 ふく ん (木綿の裳裾 もす そ )を着用していたという故事か ら。 敬して遠ざける 敬っているが、むやみに親しくしないこと。 転じて、うわべは尊敬するようなふりをして、 内心では疎ぅとんじること。鬼神を敬って、 軽々しく近づかない意から。「敬遠」ともい う。 類義鬼神は敬して遠ざく。 人より小さい声で、ゆっくり物を言う。それ 用例いつでも木村は何か考えながら、外の けいこくーけいせい に犬塚に対する時丈だけは誰よりも詞遣 が丁寧である。それを又犬塚は木村が自分を 敬して遠ざけるように感じて、木村という男 を余り好よくは思っていない。〈森鷗外◆食堂〉 経師は遇い易く人師は遇い難 けいしあやすじんしあがた 出資治通鑑しじつがん 経書の字句の解釈を教えてくれる師に出会う 機会は多いが、人としての道を教えてくれる 師には、なかなか出会えないということ。 経師=儒教の経典の経書を講釈する師匠。 類義 経師を得るは易く心の師を得るは難 し。 けいしゃどうあちょうしゃりよあ 慶者堂に在り弔者閻に在り 出荀子じゅんし めでたいことと不幸なことがとなり合わせて 来るということ。祝い客が家の中にいるうち に、弔い客が村の入口まで来ている意から。 ∇堂∥家。閻∥村里の門の意。 類義弔者門に在り、賀者がし や 閻に在り。 けいしゃじゅくろ つ ごと 軽車の熟路に付くが若し 出 韓愈ー送二石処士一序 為なすが若ことし四頭立ての馬車に軽い車をつ け、慣れた道を行き、昔の名御者王良・造父 がその御者や後乗となり駆けるように軽快 だ」とある。 物事に熟練していてたやすく行うことができ るたとえ。軽快に走る車で、通り慣れた道を 行くようだという意から。 補説出典には馳馬しばの軽車に駕がして熟 路に就きて、王良・造父ぞうの之これが先後を 芸術は長く人生は短し げいじゅつながじんせいみじか 人間の一生は短いが、芸術作品を完成させる には長い時間がかかるということ。また、す ぐれた芸術作品は作者の生涯をこえて長く残 るということ。 補説古代ギリシャの医者ヒポクラテスのこ とば。医術の修業を志す人に「医術を究きわめ るには長い年月がかかるが、人の一生は短い」 と、勉強を怠らないように励ましたことばか ら転じたもの。現在では技術の意は抜け落ち て、芸術の意で使われる。英語ではArt is long, life is short. 出漢書かんじょ けいせい傾城 絶世の美女のこと。君主がその美しさに迷って、城を傾けてしまう(城を滅ぼす)意から。日本では「遊女」の意にも用いた。「傾国」ともいう。 補説出典にある「北方に佳人有り、絶世に して独り立つ。一顧すれば人の城を傾け、再 顧すれば人の国を傾く。寧いずんぞ傾城と傾国 とを知らざらんや。佳人再び得難し(北の地 方に美人がいて、それは世にも稀まれな美女で ある。一度振り向けば城を滅ぼし、また振り 向けば国を滅ぼす。城と国を滅ぼすことが重 大であることを知らないわけではないが、こ れほどの美人は二度とは得られない」から <218> のことば。 けいせいか 傾城買いの糠味噌汁 むだな金を使う者が、必要な費用を出し惜し むたとえ。また、豪遊したあとで、最低限必 要な金も残っていないことのたとえ。▶傾城 Ⅱ遊女の意。 蛍雪 出 しんじょ 晋書・初学記 貧困に耐え、苦労して学問に励むこと。苦学 すること。「蛍雪の功」ともいう。 故事)中国、晋しの車胤は、家が貧しくて 灯油が買えないため、蛍をたくさん集めて薄 い練り絹の袋に入れ、その明かりで書を読ん だ(『晋書』)。また、孫康も貧しくて油が買え ず、窓辺から入る雪明かりで書を読んだ(『初 学記』に引く『宋斉語』という二つの故 事からのことば。「蛍の光、窓の雪……」の 歌詞も、この故事をふまえたものである。『蒙 求もうぎ』にもある。 英語 It smells of the lamp. 灯火の匂におい がする 僅雪の功を積む 苦労して勉学を続けること。また、その成果。 単に「蛍雪の功」ともいう。∇功=年功を積 んで得た成果。 軽諾は必ず信寡し 出老子 軽々しく物事を引き受ける人は、信用できな いということ。「軽く諾するものは必ず信寡 し」ともいう。 出世説新語 両者ともすぐれていて、優劣をつけ難いこと のたとえ。 故事)中国、漢かんの時代、陳紀ちんの子の群と、 弟の陳諶ちんの子の忠は、自分の父親のどちら が偉いかを論争して決着がつかなかったの で、祖父の陳寔ちんしに尋ねたところ、寔は「紀 はその兄たり難く、紀はその弟たり難し(紀 を兄とすることも難しく、紀を弟とすること も難しい)と答えたという。 類義 伯仲の間 かん。 いずれ菖蒲 あや か杜若 かきつ。 ばた けいちようふはく 軽佻浮薄 行動や考え方などが軽はずみで、浮ついていること。△軽佻=落ち着きがなく、軽はずみなさま。浮薄=浮ついて軽はずみなさま。 用例その二は軽佻浮薄也なり。軽佻浮薄とは 功利の外に美なるものを愛するを言う。 芥川龍之介・大導寺信輔の半生 けいていかき せめ そと あなど 兄弟牆に 闘げども、 外その務 兄弟は、家の中でけんかしていても、外から 侮辱を受ければ、力を合わせてそれを防ぐも のであるということ。「兄弟」は「きょうだい」 とも読む。▷牆‖垣根。家などの外側の仕切 り。闐ぐ‖争い合う。咎とがめて争う。務り‖ 侮り。 出詩経しきよう りを禦ぐ 補説出典には、このあとに「毎つねに良朋 りよう ほう 有れど、烝ひさしくして戎たすくる無しこん なとき、どんなによい友人でも長続きするも のではなく、長い目で見れば助けてくれる者 はない」とある。 用例尤もも軍部と政党乃至官僚とがいが み合っているからといって、その対立をあま り正直に取ってはならない。鷸蚌の争いは 漁夫の利ということもないではないが、兄弟 牆にせめげども外その侮りを受けずという真 理も忘れてはならぬ。戸坂潤・現代日本の 思想対立 兄弟は手足なり 出宋史そうし 兄弟は人間の手足のように大事なものであ り、互いに助け合うべきだということ。「兄 弟は左右の手なり」「兄弟は両の手」ともいう。 敬天愛人 出 なかむらまさなおけいてんあいじんせつ 中村正直ー敬天愛人説 天を敬い人を愛すること。 ∇敬天Ⅱ天を畏れ 敬うこと。愛人∥人をいつくしみ愛するこ と。 補説西郷隆盛 さいごう たかもり (号は南洲 なんし ゆう )の座右の 銘として有名。「南洲翁遺訓」に「講学の道 は敬天愛人を目的とし、身を修するに克己を 以もってすべし」とある。 芸人に年なし 役者に年なし 651 涇は渭を以て濁る 涇は渭を以て濁る 美人がそばにいると、不美人のみにくさが いっそう目立つことのたとえ。また、善悪が 出詩経しきよう <219> はっきりすることのたとえにも用いる。澄ん でいる川と濁っている川とが別々に流れてい る間は、清濁の違いがよくわからないが、合 流すると差がはっきりしてくることから。△ 涇・渭∥涇水と渭水。ともに中国の陝西省 せんせい しょう を流れる川で、いつも涇水は濁り、渭水 は澄んでいる。 いと かる 刑は軽きを厭わず 出新語 刑罰は、重いよりはむしろ軽すぎるくらいの ほうがよいということ。 しょきよう 出書経 刑は刑無きを期す 刑罰を施すのは、それにより刑罰をなくすよ うにするのを目的としているということ。 げいみち かしこ 芸は道によって賢し 専門家は、その分野のことはよく知っている ということ。「芸は道によって精くわし」とも いう。 類義 海の事は漁師に問え。商売は道により て賢し。餅は餅屋。 助けになるということ。「芸が身を助ける」 ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 対義芸は身の仇あだ。 習い覚えた芸事に深入りすると、肝心の本業 がおろそかになり、身を誤ることになるという 戒め。 類義芸は身を破る。粋すいが身を食う。 対義芸は身を助ける。 げい 芸は身の仇 みあだ 英語 An occupation is as good as land. 職業は土地に匹敵する げいみたす 芸は身を助ける 身についた技芸があれば、ときには暮らしの 桂馬の高上がり 実力が伴わず身分不相応の出世などをする と、失敗するということ。桂馬はむやみに進 みすぎると、自分より弱い歩に取られてしま うことから。「桂馬の高飛び」ともいう。ま た、あとに「歩の餌食」と続けていうことも ある。∇桂馬∥将棋の駒この一つ。一ます飛 び越して斜め前に進むことができるが、真正 面にも横や後ろにも進めないため、進みすぎ ると動きがとれなくなることがある。 出史記しき けいめいくとう鶏鳴狗盗 くだらない才能の持ち主をいう。また、つま らない技能でも役に立つことがあるというた とえ。鶏の鳴き真似をして人をだましたり、 犬のように人の物を盗んだりする意から。マ 鶏鳴=鶏の鳴きまねをすること。狗盗=犬の ようにこそこそと、わずかばかりの物を盗む こと。 故事中国戦国時代、斉の孟嘗君 が秦 しん うくん に捕らえられたとき、犬の真似をして盗みを するのが得意な家臣に白狐 の皮ごろもを 盗ませて秦王の愛妾 あいし よう に献上し、その口添 えで釈放された。夜中に国境の函谷関 かんこ くかん まで来たが、関所の門は一番鶏どりが鳴くまで開 けないことになっていたので、今度は鶏の鳴 き真似のうまい家臣に一声鳴かせると、それ につられて本物の鶏まで鳴き出したので、門 が開かれ脱出に成功したという。 用例不破ふわの関守氏はこの新たに得た鶏 鳴狗盗を引きつれて早朝に宿を出たが、どこ をどううろついて来たか、午後になって立戻 ると早々、また風呂へ飛び込んで、こんどは 水入らずにこの男に流させもし、同浴もしな がら、主従仲のいい問答をはじめました。〈中 里介山◆大菩薩峠〉 出詩経しきよう 内助の功(夫の働きを助ける妻の功績)のこ と。「鶏鳴の助け」ともいう。 補説昔の賢夫人は、夜明けになると君主に 「鶏既すでに鳴けり、朝ちよ 既に盈みたん(鶏はす でに鳴き、夜が明けました)」と言って早起 きさせ、政治を怠らないようにしたという。 いっし 桂林の一枝、崑山の片玉 出晋書しんじょ 少しばかりの出世のたとえ。出世したことを 謙遜していう語。また、科挙かき官吏の登用 試験に合格したことを謙遜して言うことば。 転じて、容易に得がたい人物や物事。また、 高潔で世俗を抜け出ている人物のたとえ。 桂林=桂は木犀もなど香りのよい木の総称。 芳香樹の林。崑山=中国の想像上の山で崑崙 山こんろ。 宝玉の産地とされる。 故事官吏の登用試験に優秀な成績で及第 し、のち雍州ようしゅうの長官に任ぜられた晋しの <220> けいろくーけさとこ 鶏助けいろく 卻詵 げき が、武帝にどんな気持ちかと尋ねられ たとき、謙遜して「私の役職は、桂林の中の 一本の枝、崑崙山の一つの玉のようなもので す。多くの官職の末席を得たにすぎません」 と答えたという故事から。 出後漢書ごかんじょ たいして役には立たないが、捨ててしまうに は惜しいもののたとえ。鶏のあばら骨には、 食べるほどの肉はないが、多少肉がついてい るので捨てるには惜しいということから。 故事)中国、魏の曹操 そう は漢中を制圧し、 さらに蜀 く の劉備 りゅ うび と戦ったが、攻めるのも 退くのも困難な状態となり、一言「鶏肋のみ」 と言った。部下のうち楊修 ようし ゅう だけはその意 をさとり、「鶏肋は食べるほどの肉はないが 捨てるには惜しい気がする。この土地もそれ と同じだ」と言って、結局攻撃をやめ、引き 上げることを決めたという。 怪我と弁当は自分持ち 仕事場に持ち込む弁当が自前であるように、 仕事でけがをしても本人自身の責任であると いうこと。 補説 鳶とび や大工など、職人の間で言い継が れてきた言葉。 ち。功名=手柄を立て名を上げること。古く は「高名」と書いた。 ー 失敗・過失が意図しなかったよい結果をもた らすことのたとえ。あやまちが思いがけなく 生んだ手柄という意から。「過 ちの功名」 ともいう。ヘ怪我ここでは、過失。あやま 用例広大な松林の中を一直線に切開いた道 路は実に愉快なちょっと日本ばなれのした車 路で、これは怪我の功名意外の拾い物であっ た。〈寺田寅彦◆異質触媒作用〉 類義 怪我のひり当たり。怪我勝ち。 撃壌の歌 こふくげきじょう 鼓腹撃壌 257 逆鱗に触れる 出韓非子かんびし 目上の人を激しく怒らせることのたとえ。人 が逆鱗に触れると、竜が怒ってその人を殺し てしまうという伝説から。▷逆鱗=竜のあご の下に、逆さに生えたうろこ。 補説出典には「その喉下 かに逆鱗徑尺 なる有り、若もし人これに嬰ふる者有らば、 則 すな わ ち必ず人を殺さん。人主も亦また逆鱗有 り、説く者は能よく人主の逆鱗に嬰るること 無くんば、則ち幾ちからん竜ののどの下に 直径一尺ほどの逆さに生えたうろこがあり、 もし人がこれに触れたら必ず殺されてしま う。同様に天子にも逆鱗があって、天子に意 見を申し上げる人は、天子の逆鱗に触れない ようにすることが大切である」とある。 げきすこまはっくげきすごと 隙を過ぐる駒白駒の隙を過ぐるが如 し528 酒の飲めない人が、膳の上の料理を片端から 食い荒らすこと。▶下戸∥酒が飲めない者。 げこさかなあ下戸の肴荒らし 下戸の建てた蔵はない 酒を飲まないからといって、その分を貯蓄し て蔵を建てたという話は聞かない。酒は適度 に飲んで楽しんだほうがよいということ。 下戸の建てたる蔵もなし」ともいう。△下 戸酒が飲めない者。 補説上戸(酒飲み)が下戸を馬鹿にして言 うことば。これに対して下戸の言うことばは 「上戸のつぶした蔵はある」。 類義下戸の建てた蔵はなく、御神酒 おみ き 上が らぬ神はない。酒蔵あれども餅蔵なし。酒と 煙草 たば は飲んで通る。 げこ下戸の手剛てごわ 酒が飲めない人は、酒で誘ってものってこないから、交渉をするときなどには厄介やで苦労するということ。「手剛」は「手強」とも書く。▷下戸‖酒が飲めない者。 対義上戸の手弱てよ。 げこじょうご 下戸は上戸の被官 酒宴の席では、下戸は上戸の世話や介抱をす る家来のようなものだということ。▷下戸= 酒が飲めない者。上戸=酒が飲める者。被官 =人に仕える者。 類義下戸は上戸の草履取り。 けさころもこころき 袈裟と衣は心に着よ 袈裟や衣を身につけただけでは信仰している とはいえず、それらを心につけることで、初 めて真の仏道信仰になるのだということ。 <221> 類義衣ばかりで和尚 よし はできぬ。頭剃そる より心を剃れ。 げす 下種と鷹とに餌を飼え えか 心の卑いやしい者は、鷹狩りの鷹に餌を与える ように、金品を与えて手なずけるのがよいと いうこと。「餌」は「えさ」とも読む。▷下 種Ⅱ品性が劣っていたり、能力が不十分で あったりする者。「下衆」とも書く。飼えⅡ 与えよの意。 類義憎い者には餌を与えよ。鷹を養う如 し。悪い鷹に餌を飼え。 げすあとぢえ下種の後知恵 考えの浅い者は、必要なときにはよい考えが 浮かばず、物事が終わってからよい考えが浮 かぶものだということ。「下種の後思案 あとじ あん 「下種の知恵は後から」ともいう。▷下種 品性が劣っていたり、能力が不十分であった りする者。「下衆」とも書く。 英語)An afterwit is everybody's wit. 知恵ならだれでも思いつく)It is easy to be wise after the event.事後に悟るのは 容易である げすいっすん 下種の一寸、のろまの三寸、 ばかあ 馬鹿の開けっ放し 戸や障子の閉め方一つで、その人の品性がわ かるということ。戸や障子を閉めるときに、 品性の卑しい者は一寸ぐらい閉め残し、のろ まは三寸ぐらい閉め残し、馬鹿は開け放しに することから。▷下種‖品性が劣っていた り、能力が不十分であったりする者。「下衆」 とも書く。一寸‖約三センチメートル。 類義下種の一寸戸 いつす。 んど 下種の三寸あけ。 のろまの一寸、馬鹿の三寸。 ずすかんぐ 下種の勘繰り 品性の卑しい者は、何かにつけて邪推するものだということ。▷下種‖品性が劣っていたり、能力が不十分であったりする者。「下衆」とも書く。 下種の口に戸は立てられぬ 品性の卑しい者は、自分が聞いて知っている ことは、どんなことでも言いふらしてしまう ということ。▶下種‖品性が劣っていたり、 能力が不十分であったりする者。「下衆」と も書く。 類義下郎げろは口さがないもの。人の口に戸 は立てられぬ。開いた口には戸は立たぬ。 ずすさかうら 下種の逆恨み 品性の卑しい者は、好意で忠告してくれたことでも悪口だと思い、逆に忠告してくれた人を恨んだりするということ。▶下種‖品性が劣っていたり、能力が不十分であったりする者。「下衆」とも書く。 類義心無しの人怨うらみ。 人たちは私のために悪ぁしかれと願っているげすそしぐ下種の謗り食い 英語 My gossips wish me ill because I tell them truth. 私が真実を語るので、友 品性の卑しい者は、物を食べるとき、まずい まずいと文句を言いながら、人より多く食べ ること。▷下種‖品性が劣っていたり、能力 が不十分であったりする者。「下衆」とも書 く。 類義七皿食うて鮫臭い。 げすちえあとげすあとぢえ 下種の知恵は後から↓下種の後知恵221 げすはなしくそおさ げすはなしくそ下種の話は糞で収まる 下賤 げせ の者同士の会話は、最後は下品な話題 に落ちて終わるということ。▷下種‖品性が 劣っていたり、能力が不十分であったりする 者。「下衆」とも書く。 げだいがくもん外題学問 うわべだけの学問をあざけっていうことば。 書物の名前ばかり知っていて、内容は何も知 らないこと。▷外題=書物の表紙に書いてあ る題名のこと。 類義本屋学問。耳学問。聞き取り学問 げたあみだおなきき 下駄も阿弥陀も同じ木の切れ 初めは同じでも、最後には大きな差が出てく ることのたとえ。また、身分や職業は違って いても、人間としての根本は同じであるとい う教え。下駄も仏像も、元は同じ木からでき たものだという意から。「仏も下駄も同じ木 の切れ」ともいう。 <222> けだものーげほうの 訣 雲に吠ゆる 鶏犬雲に吠ゆる 216 下駄を預ける 物事の処理を相手に一任する。自分の下駄を 相手に預けると、当人はどこへも行けなくな ることから。 けちん坊の柿の種 ゕき たね しわ ぼう かき たね 329 月下水人 出 続幽怪録・晋書 縁結びの神。転じて男女の縁をとりもつ人。 媒酌人 ばいしゃ。 くにん 仲人 なこ。 うど 出典にある「月下老」 と「氷上人」の二つの故事から合成されてで きたことば。 故事『統幽怪録』には、唐の韋固いこが宋城 そうじ よう に旅したとき、月明かりの下で大きな袋 にもたれて読書をしている老人と出会った。 その老人は袋の中の赤い縄で男女の縁を結ぶ という人で、数年後、韋固は老人の予言どお りに良縁があり、結婚したとある。また、『晋 書』には、晋しんの令狐策れいこが、氷上に立ち、 氷の下の人と話をした夢を見たため、占いの 名人といわれる索紈さくに夢判断をしてもらっ たところ、それは君が結婚の取り持ちをする 前兆だと占われ、そのとおりになったとある。 用例時雄は芳子の師として、此この恋の証 人として一面月下氷人の役目を余儀よぎなくさ れたのであった。〈田山花袋◆蒲団〉 血気盛りに神祟らず 活力が充実しているときには、少しぐらい道 にはずれたことをしても、神は崇ったりはしないということ。 類義人盛んにして神崇らず。人盛んなると きは天に勝つ。 けっこうけ 結構毛だらけ猫灰だらけ たいへん結構だ、ということを茶化し気味に 調子よくいうことば。「結構毛だらけ」「結構 毛だらけ灰だらけ」ともいう。 結構は阿呆の唐名 何を言われても「結構」としか言わないお人 好しは、愚か者と変わりはないということ。 人に同調してばかりいるお人好しをあざけっ ていうことば。「結構は阿呆の内うち」ともい う。∇唐名∥別名。 類義 律義は阿呆の唐名。結構すぎて馬鹿に 近い。結構人は馬鹿の内。 出後漢書ごかんじょ 月旦評 人物を批評すること。「月旦」ともいう。△ 月旦=毎月の一日。 故事中国後漢の時代汝南 じょ なん に住む許劭 きよし が従兄弟 いと の許靖 きよ せい と二人で毎月一日 に題を変えて郷里の人々の批評をして楽し んだという故事による。 けつ 筿の犬尭に吠ゆ 出 鄒陽ー獄 中 上 書 自 明 人間は、自分の主人から目をかけられ、恩義を受けると、主人のためにはどんなことでも するようになるというたとえ。暴君の桀王に 飼われている犬は、主人の命令があれば聖人 の尭帝にも吠えつくということから。「桀の 犬をして尭に吠えしむ」ともいう。▷桀‖中 国古代夏か王朝の暴君。尭‖中国古代の伝説 上の帝王。理想的な君主。 類義 跖せき の狗いぬ 堯に吠ゆ。 蹠しよ の狗、堯に 吠ゆ。 け 褻にも晴れにも歌一首 うたいっしゅ 芸の少ないこと。無能無芸の者をあざけっていうことば。ふだんでも晴れの席でも同じ歌一首しか詠めないことから。∇褻∥日常。ふだん。晴れ∥晴れがましいこと。改まった場合。 類義馬鹿の一つ覚え。 外法成就の者は子孫に伝わ らず 不正な方法で得た富は、長続きしないという こと。妖術などの外法のおかげで手に入れた 富は、子孫まで伝わらないという意から。マ 外法=仏教語で、正規の仏法以外の教法。妖 術・呪術など。 げほう 外法の下り坂 くだざか 人を欺いたり不正な手段を用いて得た財産や 権力などは、一度崩れ出すと歯止めがきかず、 完全に崩れ去ること。また、一度失敗すると 取り返しがつかなくなること。外法は、いっ たんその効力がなくなると、すべてが崩壊し <223> てしまうことから。 △外法∥仏教語で、 正規 の仏法以外の教法。 妖術・呪術など。 煙る座敷には居られるが、 む座敷には居られぬ けむたい所にいることはできても、姑しゅうに 意地悪く監視されている所にはいられないと いうこと。「煙る家には居られるが、睨む家 には居られぬ」ともいう。 類義煙の座敷には居れてもいびりの座 敷には居れん。 対義 憎まれる所には居られても、煙い所に は居られぬ。 げめんによぼさつないしんによやしゃ 外面如菩薩内心如夜叉 顔は菩薩のように優しそうだが、心の中は夜 ヌのように意地悪く恐ろしいということ。多 く女性にいう。「外面似じ菩薩内心如夜ヌ」と もいう。△菩薩‖仏の慈悲の心で衆生 しゅじ よう を 導く者。夜ヌ‖人を害する鬼神。 類義顔に似ぬ心。 用例ピストルでもあったなら、躊躇 ちゅう せ ずドカンドカンと射殺してしまいたい気持で あった。犬は、私にそのような、外面如菩薩、 内心如夜叉的の奸佞 かん ねい の害心があるとも知ら ず、どこまでもついて来る。〈太宰治◆畜犬談〉 けらざい いろいろな芸を持っているが、どれも未熟で、 ものになっていないことのたとえ。螻蛄はい ろいろな能力を持っているが、どれもうまく 蠛蛄才 ないことから。「螻蛄芸」ともいう。△螻蛄 ‖土の中にいる虫で、飛ぶ、よじのぼる、泳 ぐ、走る、穴を掘る、の五つの能力を持って いる。 けむるざ けんえん 類義石臼 いし うす 芸。 多芸は無芸。 螻蛄の水渡り螻蛄の水渡り12 けらはらた 幃蛄腹立てれば賴喜ぶ 一方が怒るようなことが他方の喜びとなるような、利害が対立することのたとえ。つぐみのえさとしてつながれている螻蛄が怒っているのを見て、つぐみが喜んで寄ってくるという意から。△螻蛄‖土の中にいるケラ科の昆虫で、つぐみをとるときのえさとして使われる。 蹴る馬も乗り手次第けてしだい 扱いにくい者でも、うまく扱う方法はそれな りにあるということ。暴れる馬でも、乗り手 によってはおとなしくなるという意から。 類義人食い馬にも合い口。かぶり馬にも合 い口。癖ある馬に乗りあり。 大きな部分に目が行かない)とある。 けっしかったちうしな 出淮南子えなんじ 毛を謹みて貌を失う 小さなことにこだわって、根本を忘れること のたとえ。一本一本の毛髪をていねいに描き すぎて、容貌が似なくなってしまう意から。 「毛を謹んで貌を失う」ともいう。 補説出典には画えがく者は毛を謹みて貌を 失い、射る者は小を儀ぎして大を遺わする弓を 射る者は、的まとの小さな点ばかりをねらって、 毛を吹いて疵を求む 出韓非子 他人のあらさがしをすること。また、他人の 欠点を探し出そうとして、かえって自分の欠 点をさらけ出す結果になること。毛を吹き分 けて、小さな傷を探し求める意から。 補説出典には「毛を吹きて小疵うしを求めず、 垢あかを洗いて知り難きを察せず(ことさら毛 を吹き分けて隠れた小さい傷を見つけるよう なことをせず、垢を洗い落として表に見えな かった色を知るようなことはしない」とあ る。 類義藪やぶをつついて蛇を出す。 英語 Search not too curiously lest you find trouble.「難儀に遭わないように、あま り根掘り葉掘り捜すな」 出塩鉄論 毛を見て馬を相す 塩鉄論 表面だけを見て人や物事の価値を判断するこ とのたとえ。毛なみだけでその馬の値打ちを 判断する意から。「毛を以もって馬を相す」と もいう。△相す‖鑑定すること。 けんえん犬猿の仲なか 非常に仲の悪い間柄のたとえ。犬と猿は仲が 悪いとされていることから。 類義犬と猿犬猿もただならず犬と猫 英語They agree like cats and dogs.猫 と犬のように和合(の逆を)する 用例酒飲みで遊び好きの三馬は、またよく 人と争い、人を罵のって、当時の有名な京伝、 <224> けんかぎーけんけん 馬琴などの文壇人とも交際がなかった。こと に曲亭とは犬猿の仲であった。〈林不忘◆仇 討たれ戯作〉 蒹葭玉樹に倚る けんかぎよくじゅよ 田寅彥◆空想日錄 一蒹葭玉樹に倚る 出世説新語 身分の低い人物が、身分の高い親戚の勢いを 借りること。また、権威のある親戚のおかげ で栄えるのをあざけること。荻と葦あしが美 しい木に寄りかかって生存している意から。 ▶蒹‖まだ穂の出ていない荻。葭‖生えたば かりの葦。ともに、つまらない草の意。身分 の低い者のたとえ。 喧嘩過ぎての空威張り 喧嘩のときはびくびくしていたのに、喧嘩が 終わってから虚勢を張って強がること。 類義喧嘩過ぎての向こう鉢巻き。盗人 ぴと逃げての向こう鉢巻き。 喧嘩過ぎての棒乳切り 時機を失して何の役にも立たないことのたと え。喧嘩が終わってから棒を持ち出しても、 手遅れであることから。「棒乳切り」は「棒 千切り」とも書く。「喧嘩果てての乳切り木」 「争い果てての棒乳切り」「諍いさい果てての乳 切り木」ともいう。△棒乳切り∥両端を太く、 中央をやや細くした棒。物を担ったり振った りするためのもの。 類義 火事あとの火の用心。六日の菖蒲 あや、 十日の菊。葬礼帰りの医者話。 用例なるほど学者の仕事はとかく喧嘩過ぎ ての棒ちぎりになる場合が普通である。〈寺 喧嘩にかぶる笠はない いつ仕掛けられるかわからない喧嘩は災難と 同じで、防ぐ方法はないということ。 類義喧嘩は降り物。 厳家には悍虜無し 出韓非子 世の中が治まるのは、徳よりも厳しい威勢の 力であるということ。厳格な家には、乱暴で 反抗的な召使いはいないという意から。悼 虜ニ反抗的な召使い。 補説出典には「夫それ厳家には悍虜無く、 慈母には敗子あり(やさしすぎる母親のもと には、家をつぶすような不良の子が出る)」 とある。 けんが懸河の弁べん 出世説新語 よどみなく奔放な弁舌や文章。能弁なこと。 ▶懸河‖傾斜が急で激しく流れる川。急流。 補説出典の「郭子玄 かくし げん の語義は懸河の水 を寫そぐが如ごとく、注ぐも竭きず(郭象 かくし よう の議論は、滔々とうたる大河の水を切って落と したように注いでも尽きることがない)に よる。 用例是非一度大学を見にお出いでなさい。 わたしのこの前参観した時には鼻眼鏡をかけ た教授が一人、瓶の中のアルコールに漬けた 露西亜アの古胡瓜ゆうりを見せながら、「サッサ ンラップ島の胡瓜を見給みたえ。悉ごとく青い色 をしている。しかし偉大なる露西亜の胡瓜は そう云いう浅薄な色ではない。この通り人生 そのものに似た、捕捉すべからざる色をして いる。ああ、偉大なる露西亜の胡瓜は……」 と懸河の弁を振ふるっていました。〈芥川龍之 介◆不思議な島〉 けんか喧嘩は降り物もの 喧嘩は雨や雪などと同様に、いつどこで身に 降りかかってくるかわからないということ。 類義口論喧嘩は時の降り物。喧嘩にかぶる 笠かさはない。 けんかりょうせいばい喧嘩両成敗 喧嘩をした者は理非を問わず、両方とも同じ ように罰すること。▷成敗∥処罰の意。 出朱子語類 けんきょうふかい 牽強付会 自分に都合のよいように、強引に理屈をこじ つけること。「付会」は「附会」とも書く。 用例現状をはなれて抽象的に考えてみると 連句的ジャーナリズムやジャーナリズム的連 句といったようなものの可能性も全然ないと は考えられない。例えばロシア映画の或ぁる ものは前者の類型であり、アメリカ映画の或 るものは後者の仲間であると云いてもそう 甚だしい牽強附会ではあるまいと思われる。 〈寺田寅彦◆俳諧瑣談〉 けんけんごうごう喧喧囂囂 多くの人が口やかましく騒ぐさま。やかまし く騒いで収拾がつかないさま。△喧喧〓騒が しい。囂囂‖人声などがやかましい。類義の 語を重ねて意味を強めている。 <225> 補説「喧々諤々がく」は「喧々囂々」と「侃々 かん諤々(=遠慮なしに主張する)とが混同さ れてできた語。 用例 往来は異論の申し立てようもないが、 我が発行所の門の所に四五人は愚か十人余り も佇 たた ず んでいて、それが喧々囂々として騒ぎ 立てて居る。〈高浜虚子◆発行所の庭木〉 げんけん原憲の貧ひん 出荘子そうじ 高潔で無欲なために貧しい暮らしをしている こと。▶原憲‖孔子の弟子で、魯ふの人。清 貧に甘んじた高潔な人として知られる。 故事原憲は、狭く粗末な住居に住み、清貧 に甘んじていた。ぜいたくな身なりで訪ねて 来た同門の子貢が、原憲の姿を見て「先生 はご病気ですか」と尋ねたとき、原憲は「貧 とは財のないのをいい、病とは学んでも実行 できないのをいうと聞いている。今、私は貧 であるが病ではない」と答えたので、子貢は 恥じたという。 けんけんふくよう拳拳服膺 人のことばや教えなどを心にしっかりと刻み つけて忘れないこと。両手で物を捧さげ持 ち、胸につける意から。∇拳拳∥両手でうや うやしく捧げ持つこと。服膺∥胸につけるこ と。心にとめる意。 出中庸ちゅうよう 汁んけんふさ ついこうが 涓涓壅がざれば終に江河とな る 出孔子家語 災いは、小さなうちに断ち切らなければ、大 事にいたることのたとえ。小さな流れのうち にせきとめないと、しまいには大きな川とな るということから。マ涓涓=小川などの水が 細く流れるさま。江河=長江ちょうこうと黄河こう。 大河の意。 げんけんーけんしょ 類義 涓流 けんり ゆう 寡 すく な しと雖 いえ ど も浸 よう や く江河を 成す。小事を軽んずる勿なかれ。 出韓愈ー詩しかんゆし けんこんいってき乾坤一擲 運を天にまかせ、のるかそるかの大勝負をす ること。天下をかけて一回さいころを投げる 意から。「一擲乾坤を賭とす」ともいう。△乾 坤=「乾」は天、「坤」は地の意。一擲=さ いころを一回投げる。 補説詩の題名は『鴻溝こうを過すぐ』。真 に一擲を成して乾坤を賭す」とある。 現在の甘露は未来の鉄丸 現在の快楽が将来の苦痛のもとになるという ことのたとえ。今甘い汁を吸っている者は、 将来鉄の玉を呑のむことになる意から。△鉄 丸∥鉄の玉。 恰好 ぶかっ こう になるのを嫌い、寒いときでも無理 して薄着でいること。 類義楽あれば苦あり。 類義遠慮ひだるし伊達寒し。軍者ひだるし 儒者寒し。 賢者ひだるし伊達寒し 世間並みのことをしない者は、つらい目にあ うというたとえ。また、やせ我慢の愚かさを 笑うことば。賢者は金銭的な利益を求めない から貧乏しがちであり、粋いきを好む者は見栄 みえのために薄着をして寒い思いをする意か ら。∇ひだるし∥ひもじい。空腹である意。 伊達∥「伊達の薄着」の略で、着ぶくれで不 けんじゅつじゅうねん やりさんねん 剣術十年、槍三年 何を習うにしても、身につくまでには、長い 年月を要することのたとえ。剣術を修得する には少なくとも十年かかり、槍術 そうじ を修得 するには三年かかるという意から。 けんしょうじかく見性自覚 自分の本性を悟ること。自己に本来そなわっ ている心の本性を自覚すること。∇見性∥仏 教語。人に本来そなわっている根源的な本性 を見ること。 注意「見性」を「けんせい」と読むのは誤り。 用例気の多い主人の事だから見ているうち にいろいろになると見える。それどころでは ない。もし善意をもって蒟蒻 こんに やく 問答的に解 釈してやれば主人は見性自覚の方便 ほう べん として かように鏡を相手にいろいろな仕草 しぐ を演じ ているのかも知れない。すべて人間の研究と 云いうものは自己を研究するのである。〈夏目 漱石◆吾輩は猫である〉 見性成仏 禅宗ぜんしの語。本来自分にそなわっている、 本性や仏心を見きわめ、悟ること。∇見性∥ 仏教語。修行によって自己の本性(仏性)を見 きわめること。 注意 「見性」を「けんせい」と読むのは誤り。 <226> 類義見性悟道ごど。 用例「それは僕が大分だい考えた事だ。僕の 解釈によると当世人の探偵的傾向は全く個人 の自覚心の強過ぎるのが原因になっている。 僕の自覚心と名づけるのは独仙君の方で云い う、見性成仏とか、自己は天地と同一体だと か云う悟道の類だぐではない。……〈夏目漱 石◆吾輩は猫である〉 賢人は危うきを見ず すぐれた人物は、危ない所に近づくような愚 かなことをしないから、危ない目にはあわな いということ。 類義君子危うきに近寄らず。 けんぜん せいしんけんぜんしんたい 健全なる精神は健全なる身体 やど に宿る 身体が健康であれば、精神もまた健康である ということ。 補説ローマの詩人工ベナリスの『風刺詩』 から出たことば。英語ではA sound mind in a sound body. 淵滴岩を穿つ 雨垂れ石を穿つ けんてきいわうがあまだいしうが けんどちょうらい 捲土重来 出杜牧ー詩 で、勢いのはげしいことのたとえ。重来再 びやって来ること。 一度負けたり失敗したりした者が、態勢を立て直して巻き返すことのたとえ。巻き起こった土煙が再びやって来る意から。「捲土」は「巻土」とも書き、「重来」は「じゅうらい」とも読む。△捲土‖土煙が巻き上がること 補説詩の題名は『烏江亭に題す』。楚 の項羽が漢の劉邦と戦って敗れ、自害 したのを惜しんで、生きて故郷に帰り、そこ で力をたくわえて捲土重来をはかればよかっ たのにと嘆いた詩。 用例もし項羽に英雄の器があれば、垢あかを 含んでも烏江を渡るです。そうして捲土重来 するです。面目なぞをかまっている場合じゃ ありません。〈芥川龍之介◆英雄の器〉 けんと犬兎の争い 出戦国策 利益を争っているうちに、第三者に利益を横 取りされてしまうこと。無益な争いのたと え。 故事足の速い犬が、兎を追いかけて山をかけまわっているうちに、犬も兎も疲れて息が絶えてしまい、結局、農夫が獲物として手に入れたという故事による。 出史記しき 類義漁夫の利。鷸蚌ばうの争い。田父の功。 出蘇軾一龜錯論 どんなことにも心を動かさず、じっと堪え忍 ぶこと。△堅忍‖意志が強く我慢強いこと。 不抜‖固くて抜けない意から、意志が強く、 くじけないこと。 けんにんふばっ堅忍不抜 用例タバコの専売でも同じだが、「いやな らおよしなされ」くらいやるせないものはな いしかし日本の国民性はこの点にかけては 堅忍不抜で、多勢とともにならずいぶんいい 辛抱をする。〈柳田国男◆雪国の春〉 剣術は一人を相手とする技能だから、学ぶに 足るほどのものではない。大きな望みを抱く 者は、多くの敵に勝つことのできる兵法を学 ぶほうがよいということ。 げんかんたっと言は簡を尊ぶ 話は簡潔にまとめることが大切であるという こと。 英語 Brevity is the soul of wit. 簡潔は機 知の神髄。シェークスピア 「ハムレット」よ り」 けんぱくどういべん堅白同異の弁 出史記しき こじつけや詭弁 きべ のたとえ。「堅白同意」と もいう。 補説中国、戦国時代に趙の公孫竜が唱え た説。石を目で見たとき、白いことはわかる が堅いことはわからない。また、石を手でさ わったとき、堅いことはわかるが色はわから ない。だから「堅い石」と「白い石」という 概念は、それぞれ成立するが、両者は別のも ので、「堅くて白い石」の存在は同時には説 明できないという論法。 犬馬の心こころ 出史記しき 主君に対する忠義の心を謙遜していうこと ば。犬や馬が飼い主に対して表す服従の気持 <227> ちという意から。 類義狗馬くばの心。 けんばやしな 犬馬の養い 親をただ養うだけで、うやまう気持ちがない ことのたとえ。 出論語ろんご 補説出典には、弟子の子游の問いに対する孔子のことばとして「今の孝は、是これ能よく養うを謂いう。犬馬に至るまで、皆能く養うあり。敬せずんば何を以もて別わたんや(現在の孝行とは、衣服や食物など生活に必要なものを親に与えておくことをいうようだ。しかし、これでは、犬や馬を飼うのと同じである。親をうやまう気持ちが欠けていては、どこに人と動物との養い方の違いがあるのか」とある。 けんぼ犬馬の歯よわい 自分の年齢をへりくだっていうことば。犬や 馬のように、これといった働きもなく、ただ 重ねただけの年齢という意から。「犬馬の年」 とも、略して「馬歯」ともいう。∇歯∥「齢」 と同じ。 出漢書かんじょ 注意 他人の年齢に対して使ってはいけな い。 けんば犬馬の労ろう 主人や目上の人のために、自分の全力を尽く して働くことをへりくだって言うことば。犬 や馬の働きという意から。 注意 他人の行為に対して使ってはいけな い。 用例下克上 じょうは当時の自然で、保身、利得、 立身のために同盟を裏切ることは天下公認の 合理であったが、家康の同盟二十年、全く裏 切ることがなく、専ら利得の香しからぬ奔 命めいに終始して、信長の長大をはかるために 犬馬の労を致したのである。〈坂口安吾◆二 流の人 けんばのーけんろの げんみあやことばみあや 言は身の文 言葉は身の文 253 けんぼうじゅっすう権謀術数 権詰付数 出朱熹大学章句序 巧みに人を欺く策略。「権謀術策」ともいう。 △権謀∥その場に応じた策略。術数∥はかり ごと。 用例 権謀術数にかけては人に譲らぬ如水の ことで、策の分らぬ男ではない。〈坂口安吾◆ 二流の人 出戦国策 けんまこくげき 肩摩轂撃 車や人の往来が激しく、混雑しているようす。 都会の雑踏ざつのたとえ。人の肩と肩が触れ合 い、車の轂こと轂がぶつかり合う意から。マ 肩摩‖肩と肩が触れ合うこと。轂‖こしき。 車輪の中央部分で、車軸を通して回転すると ころ。車自体をもさす。 ということ。∇倹∥倹約。廉∥心が清らかで 私利私欲のないさま。 用例ことに六時の神戸急行は乗客が多く、 二等室も時の間に肩摩轂撃の光景となった。 〈田山花袋◆蒲団〉 けんもつ れん たす そうし 俟以て廉を助くべし 出宋史 私利私欲にとらわれず、行いを正しく保つた めには、倹約して質素な生活をするのがよい げんもと 言悖りて出ずる者は亦悖りて 出大学だいがく 道理にはずれたことを言うと、相手からも道 理にはずれたことを言われるということ。△ 悖る‖そむく、さからうの意。 補説出典には、このあとに「貨か悖りて入 る者は亦悖りて出ず(道理にそむいて手に入 れたお金や財宝は、人に奪われたりして出て いくものだ」とある。 僕より奢に入るは易く奢より 僕に入るは難し 出小学 質素な生活からぜいたくな生活に移るのは容 易だが、ぜいたくな生活から質素な生活に入 るのは難しいということ。 けんろ騎の技 出柳宗元ー三戒 下手な腕前を自覚せずに披露して恥をかくこ と。また、見かけだおしの下手な腕前・技量。 ∇黔驢Ⅱ黔州 けんし ゅう (中国貴州省)の驢馬 ろば のこ と。 故事 黔州には驢馬がいなかった。ある人が 連れて行って驢馬を放したところ、驢馬の形 が大きいのに驚いた虎は、初めは恐れたもの の、しだいに近づいて馴なれ馴れしくし始め たので、怒った驢馬が虎を蹴飛ばした。しか し虎は驢馬が大した力のないことを知り、大 <228> けんろをーこいのた 喜びで飛びかかって食い殺してしまったという故事から。 けんろさまた賢路を妨ぐ 能力のない者が重要な官職にとどまっている ため、賢者の昇進がじゃまされること。「賢 人の路みちを妨ぐ」「賢路を塞ふさぐ」ともいう。 けんううしかかたなうこうし 剣を売り牛を買う刀を売りて子牛を 出漢書かんじよ けんお ふねきざふねきざけん 剣を落として舟に刻む♩舟に刻みて剣 もと を求む583 けんこうもえいと 堅を被り鋭を執る 出戦国策 武装することのたとえ。堅固なよろいを身に まとい、鋭利な武器を持つ意から。∇堅∥よ ろいかぶと。鋭∥するどい武器。 けんつかものけんし 剣を使う者は剣で死ぬ 剣を手にする者は、剣を用いて相手を倒すこ とも多いが、相手から剣で斬られる宿命にも あるということ。 類義兵強ければ則 ち滅ぶ。人を呪わば穴 二つ。 補説出典では、このあとに「不賢を見ては 内に自ら省かえみるつまらない人を見たとき は、自分はどうであろうかと反省する」と 続く。 けんみひと 賢を見ては斉しからんことを おも 思う ろんご 論語 すぐれた人物に出会い、自分も努力してその ような立派な人になろうと思うこと。▷賢∥ 賢者。すぐれた人の意。 こいえ 小家から火を出す 取るに足りない者が大きなことをしかすこ とのたとえ。小さい家から火を出し大火事に なる意から。「小家から火をおこす」「小屋か ら火を出す」ともいう。 類義禍は下から。 鯉が躍れば泥鱠も躍る がんと 雁が飛べば石 鳥も地団駄 162 あるということ。 御意見五両、堪忍十両 人の忠告をよく聞いて辛抱することが大切 であるということ。人から受ける助言や忠告 には五両の価値があり、堪え忍ぶ態度には十 両の価値があることから。「意見三両、堪忍 五両一ともいう。 類義堪忍五両、思案 十両。堪忍の忍の字 が百貫する。 濃い茶目の毒気の薬 恋に師匠なし 濃い茶を飲むと興奮して睡眠の妨げになる が、その反面、意識をはっきりさせる効果も 恋の道には師匠などなく、年ごろになればだ れでも自然に覚えるものだということ。 類義色に師匠なし。遊びに師なし。 恋に上下の隔てなし 恋には身分や貧富、年齢の上下による区別は ないということ。「恋に上下の差別なし」「色 に上下の隔てなし」ともいう。 類義色に貴賤 きせ の隔てなし。高いも低いも 色の道。 英語 Love has no respect of persons. 恋人間のことを考慮しない 用例ところが、ここに一つ困ったことは、その奥さまの腹に生まれた嫡子の若殿さまというのが素晴らしい美男だ。どこでもいい男には女難がある。奥さまにお付きの女中がその若殿さまに惚れてしまった。昔から云いう通り、恋に上下の隔てはねえ。女は夢中になって若殿さまにこすり付いて、とうとう出来合ってしまったという訳だ。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 鯉の滝登り たきのぼ 出後漢書·注 立身出世することのたとえ。中国の黄河上流 にある竜門という滝を泳ぎ登ることができた 鯉は、竜になって天に登ったという伝説から。 ↓登竜門 うもん 461 類義 竜門の滝登り。 用例 だけど御正月早々御前さんも随分 ぶん <229> 好い面つらの皮さね「好い面の皮鯉の滝登り か」先刻さっから傍そばに胡坐あぐをかいて新聞を 見ていた比田は、この時始めて口を利いた。 〈夏目漱石◆道草〉 こい鯉の一跳ね あきらめのよいこと、死にぎわがいさぎよい ことのたとえ。捕らえられた鯉は、一度だけ 跳ねるが、あとは抵抗しないことから。 恋の山には孔子の倒れ 恋は理性を失わせるということのたとえ。恋 のことになると、孔子のような聖人といえど も分別を失い、過失を犯す意から。「孔子も 倒るる恋の山」ともいう。△孔子=「くじ」 は「こうし」の呉音。 類義 恋は曲者 くせ○ もの 恋は思案の外 ほか○ 恋は盲 目。恋は闇。惚 ほ れた病に薬なし。 恋は曲者 こいくせもの 分別のある人でも、恋のために理性を失い、 とんでもないことを引き起こすということ。 類義恋は思案の外ほか。恋は闇。惚れた病 に薬なし。恋は盲目。 恋は思案の外 こいしあんほか 恋は人の理性を失わせるもので、常識で説明 できるものではないということ。「色は思案 の外」ともいう。 英語 Affection blinds reason. [愛情は理性を盲目にする] Love is without reason. [恋に理性はない] 用例色恋というものは、思案のほかのもの だ。肉体というものは、まことに悲しいもの なのである。〈坂口安吾◆ジロリの女〉 類義 恋は闇。 恋は盲目。 恋は曲者 くせ。 もの 恋の 山には孔子くじ の倒れ。 恋は人の外。 こいのひーこううん 恋は相手の事情などを考えたり、競争相手に 遠慮したりせず、自分から積極的にどんどん 仕掛けたほうがうまくゆくということ。 恋は仕勝ち 類義 恋は面面 めん ぬん 稼 かせ ぎ。 色事は銘銘 めい ぎ。 出後漢書ごかんじょ 五噫を歌う 世間に認められないことを嘆くこと。△噫 「ああ」と嘆息する声。 故事後漢時代の梁鴻りようが世を嘆いて、各 句の終わりに「噫」の字を置いた詩「五噫之 歌」を作ったという故事による。 紅一点 万绿叢中紅一点 541 光陰に関守なし こういんせきもり 出韋荘ー詩いそうし 月日がとどまることなく過ぎ去って行くこと のたとえ。月日が過ぎて行くのをとどめる番 人はいないという意から。∇光陰∥「光」は 日、「陰」は月の意で、月日のこと。 頬義月日に関守なし。歳月人を待たず。光 陰矢の如ごとし。光陰流水の如し。 光陰人を待たず 歳月人を待たず 264 こういんや光陰矢の如し 月日の経たつのがきわめて早いことのたとえ。 月日は矢のようにあっという間に過ぎ去って しまう意から。「矢」は「箭」とも書く。△ 光陰Ⅱ「光」は日、「陰」は月の意で、「光陰」 は月日のこと。 補説 詩の題名は 関河道中 かんかど うちゅう 英語 Time flees away without delay. [世は猶予せずに過ぎ去る] Time flies. [世は飛び去って行く] 用例今月ももうおしまいになった。早い。 去年の一日と、今年の一日とはまるで、半分 ほどの違いがある。陳腐な言葉ではあるが、 光陰矢の如しと云いうのは、ほんとうだ。〈宮 本百合子◆日記〉 行雲流水 行雲波 出蘇軾答謝民師書 空を行く雲や流れる水のように、物事にこだ わらず、自然の成り行きに任せて行動するた とえ。また、定まった形がなく、自然に移り 変わっていくことのたとえ。 補説北宋 ほく そう の文豪蘇軾が、文章の作り方に ついて述べたことば。出典には「大略は行雲 流水の如ごとく、初めより定質 に当まさに行くべき所に行き、常に止とまらざ るべからざる所に止まる(おおよそ空を行く 雲や流れる水のようなもので、初めから決 まったものはない。ただ、雲や水の流れがそ うであるように、動くときは動き、止まらざ るをえない所にはきちんと止まるだけだ) とある。 <230> こうかいーごうきぼ 用例もう一口説明しますと西洋の開化は 行雲流水のごとく自然に働いているが、御維 新後外国と交渉をつけた以後の日本の開化は 大分勝手が違います。〈夏目漱石◆現代日本 の開化〉 後悔先に立たず すんでしまったことをあとでいくら悔やんで も、取り返しがつかないということ。 類義後悔と槍持ちは先に立たず。後悔先 に立たず、提灯ちょうちん持ち後に立たず。転ばぬ 先の杖つえ。 英語 A bird cries too late when it is taken.〔鳥は捕らえられてから泣きわめいても遅すぎる〕Things past cannot be re-called.〔過ぎたことは取り返すことができない〕 口角泡を飛ばす 激しい調子で議論するようす。唇の両端から 唾っぱを飛ばしてしゃべる意から。 溝壑に塡まる 出史記 のたれ死にすること。溝や谷間にうずまる意 から。マ溝壑ニ溝と谷。谷間。 類義溝壑に倒れ伏す。 ら。 高閣高書棚。東如=たばねる意。 故事東晋とうの時代、杜乂とがと殷浩は、一 長い間使用しないで放っておくこと。人を長 い間任用せずに置いておくこと。また、書物 などを積んでおくだけで読まないこと。高い 棚に束ねた書物を載せたまま放置する意か こうかく高閣に束ぬ 人とも英才の評判が高かったが、庾翼ゆよだけ はこの二人を重んじないで「この者たちは高 い棚の上に束ねて置いておき、天下が泰平に なってからその任用について話しあうべき だ」と言ったという故事による。 出晋書しんじょ 江河の溢は三日に過ぎず 出説苑ぜいえん 一時的に力を得たものは長続きしないという ことのたとえ。大河の洪水も、三日たてば水 が引くという意から。▶江∥長江ちょうのこう河∥ 黄河こう。ともに大河。溢∥あふれること。 合歓の木は槙の木 同じものでも呼び名が違うことのたとえ。 補説昔は、合歓の木と槐の木とは同じもの だと考えられていた。「合歓の木」はねむの 木、「槐の木」はえんじゅの木で、ともにマ メ科であるが、異種の植物。 類義南瓜 かぼ ちゃ は唐茄子 とう。 なす 《太宰治◆猿面冠者》 おごりたかぶって人を見下すさま。△傲岸 威張っているさま。不遜‖思い上がっている こと。類義の語を重ねて意味を強めている。 用例どんな小説を読ませても、はじめの二 三行をはしり読みしたばかりで、もうその小 説の楽屋裏を見抜いてしまったかのように、 鼻で笑って巻を閉じる傲岸不遜の男がいた。 ごうがんふそん傲岸不遜 厚かましくて恥知らずなさま。訓読すると 「顔を厚くし恥ずる無し」となる。他人の迷 惑など気にせず、自分の都合や思惑だけで行 動すること。▽厚顔‖厚かましい。面の皮が 厚いこと。無恥‖恥知らず。 出文選もんぜん 補説出典に収められた孔稚珪 こうち の北山 移文 ほくざん いぶん にある語。 頬義面の皮が厚い。面の皮の千枚張り。鉄 面皮。 好機逸すべからず よい機会を逃してはならないということ。 類義機失うべからず。物には時節。思い 立ったが吉日。奇貨居くべし。善は急げ。 鉄は熱いうちに打て。 英語 It is too late to grieve when the chance is past. [好機を逃してから悲しん でも遅すぎる] Now or never. [やるなら 今、さもないと一度と機会はない 用例今や、信玄の周辺人なく好機逸すべか らずとみてとった謙信は馬廻 りの剛兵十二 騎をしたがえて義信 の隊を突破し、信玄め がけて殺到して来た。禅定 のいたすとこ ろか、その徹底した猛撃は正に鬼神の如ごとく である。〈菊池寛◆川中島合戦〉 剛毅木訥仁に近し 意志が強くて物事に動ぜず、素朴で無口な人 は理想である仁に近いということ。△剛毅∥ 出 論語 ろんご <231> 意志がしっかりしていて、困難にひるまない こと。木訥‖飾り気がなくて口数が少ないこ と。仁‖儒教で人間の理想とする道徳観念。 対義巧言令色鮮 すく な し仁。 こうきゃくさんねんみせかこうてん 好客三年店を変えず、好店 さんねんきゃくか 三年客を変えず よい客は、買う店を信頼して長年変えず、よ い店は客に信頼されているから、同じ客が長 年変わらない。商売には信頼関係が重要だと いうこと。 孔丘盗跖俱に塵埃 世杜甫詩 聖人も悪人も、死んでしまえば皆同じように、 ちりやほこりになってしまうということ。△ 孔丘‖孔子。「丘」は名。盗跖‖孔子と同じ 春秋時代の、大泥棒の名。 補説詩の題名は「酔時歌のうた」 孝経で親の頭を打つ こうきょうおやあたまう 言うこととすることが違っていること。言行 不一致のたとえ。親孝行を説く『孝経』で親 をたたく意から。「孝経で親の面 ともいう。∇孝経∥中国の経書 子が門人の曽参 そう と孝道について行った問答 を、弟子が記録したものといわれる。 類義論語で親の面を打つ。 肯綮に中るこうけいあた 物事の要点を押さえること。急所を突くこ と。「中る」は「当たる」とも書く。△肯緊 出元史げんし こうきゃーこうこう 「肯」は骨についた肉。「緊」は筋と肉と がつながっているところ。ともに、牛を料理 する際、もっとも切り離しにくい所とされる。 転じて、要所、急所の意。『荘子』にある語。 用例かの写生文を標榜 する人々といえ ども単にわが特色を冥々裡 に識別すると 云いうまでで、明 かに指摘したものは今日 に至るまで見当たらぬようである。虚子、四 方太 の諸君は折々この点に向って肯綮にあ たる議論をされるようであるが、余の見ると ころではやはり物足らぬ心持がする。〈夏目 漱石◆写生文〉 敵を攻撃することは、結果的に最も効果的な 防御になる。攻撃できるという時点で相手よ り優位になり、また、守る必要もなくなると いうこと。 攻撃は最大の防御 膏血を絞る 人民に重い税金を課し、厳しく取り立てること。また、心血を注ぐこと。人民が苦労して得た利益や財産を絞り取る意から。「膏血を浚さらう」ともいう。広膏血肉のあぶらと血の意から、苦労して得た利益や財産のこと。 こうげんこうごとかおこれあつ 巧言簧の如し、顔之厚し 出詩経しきよう 言葉巧みに飾って言うのは、笙ぅの舌が鼓動 して上下左右に動いて声を出すようなもの で、ごまかして言っても恥ずることがなく、 面の皮が厚いことであるということ。「巧言 簧の如きは顔の厚きなり」ともいう。▶巧言 ∥口だけがうまく、実のないことば。簧∥笛 の舌。吹いて振動させて音を出す所。 好言は口よりし、 誘言も口よ こうげんくち 出詩経しきよう よいことばは口から出るが、悪いことばもまた、口から出るということ。マ好言=よいことば。莠言=人を惑わす有害なことば。「莠」は水田に生える有害な雑草。 りす こうげんれいしょくすくなじん 巧言令色鮮し仁 出 論語 ろんご ことばを巧みに操り、人から気に入られよう と愛想をよくしている者には、誠実な人間は 少ないということ。∇巧言∥巧みなことばづ かい。令色∥他人の気に入るように顔色をと りつくろうこと。仁∥人間としての徳望。 対義剛毅木訥 ごうきぼ くとつ 仁に近し。 英語 Full of courtesy, full of craft. [礼儀たっぷり企みたっぷり] じぶんおや 孝行のしたい時分に親はなし 親が死んだあとで、生きているうちに孝行を しておくべきだったと悔やむこと。また、親 の存命中に孝行をせよという教え。親のあり がたさがわかるような年ごろになって、親孝 行をしたいと思っても、親はこの世にいない ことから。 類義樹静かならんと欲すれども風止まず。 子養わんと欲すれども親待たず。風樹の嘆。 <232> 石に蒲団 ふと は着せられぬ。 鴻鵠一挙千里、 たのところりっかく 恃む所は六翮 のみ 出韓詩外伝 君主のもとで国政を補佐するのに必要なのは 数名の賢人だけで、他の多くの凡人は何の役 にも立たないということのたとえ。大きな鳥 は一飛びで千里も飛ぶが、飛ぶために頼りに しているのは六枚の強い羽だけで、他の多く の羽は飛ぶのには役に立っていないという意 から。「鴻鵠一挙にして千里なれども恃む所 は六翮のみ」ともいう。△鴻鵠=大きな鳥。 六翮=六枚の強い羽。 故事)中国、春秋時代に晋しんの平公が川遊び をしているとき、船頭に「どうしたら、すぐ れた兵士を集めて一緒に川遊びを楽しめるだ ろうか」と尋ねた。船頭の盍胥 が来ないのは、主君に士を好む気持ちがない からです」と答えると、平公は「いや、わた しの家の門の前には、食べ物を与えている食 客が大勢いる。どうしてわたしが士を好まな いなどと言えるだろうか」と言った。それに 対して盍胥が答えたことばである。 こうこ後顧の憂い 後に残る気がかり。後に心配なことが残るこ と。▷後顧‖後ろを顧みる意から、後に残る 思いのこと。憂い‖不安。心配。 出魏志 いなく研究の最後の仕上げに没頭することが できた。妻はいよいよ深い愛情をもって私を いたわってくれた。〈永井隆◆ロザリオの鎖〉 こうざいあいなか 用例この妻ならわが亡きあと、子供をりっ ぱに養育して、私と同じく放射線の研究に従 う学究にしてくれるであろう。私は後顧の憂 同じくらいの功績と罪過があり、善悪どちら とも言いかねること。「功罪半ばす」ともい う。 功罪相半ばす こうさいつね せっぷ ともの ねむ 巧妻常に拙夫に伴うて眠る 類義功罪相償う。 利口でしっかりした妻は、たいてい愚かで頼 りにならない夫に連れ添っている。男女の結 び付きや、世の中のめぐり合わせの皮肉なこ とのたとえ。 出五雑俎ござっそ 巧詐は拙誠に如かず 出韓非子 巧みにいつわりごまかす言動は、つたなくて も誠意がこもっている言動には及ばないということ。「巧偽こうは拙誠に如かず」ともいう。 ∇巧詐∥巧みにいつわること。 こうさんなものこうしんな 恒産無き者は恒心無し 出孟子 生活の安定なしには、正しい心は持てないと いうこと。一定の職業や財産を持たない者 は、変わらぬ正しい心や見識を持つことはで きないということから。∇恒産∥一定の職業 や財産。恒心∥正しさを失わない心。人が持 つべき安定したよい心。 用例 恒産のないものに恒心のなかったのは 二千年ばかり昔のことである。今日 こん にち では恒 産のあるものはむしろ恒心のないものらし い。 (芥川龍之介・侏儒の言葉) こうざんいただきびぼくな 高山の巔には美术無し 出 世いえん 説苑 地位が高い人は他人から妬 また まれることが多 く、名声を長く保つことができないというた とえ。高山の頂上に生えている木は、絶えず 激しい日射や風雨をあびるので、美しい形を 保てない意から。 類義大樹の下に美草なし。 高山流水 出列子れっし すぐれた音楽、巧みな演奏のこと。また、自 分をよく理解してくれる友人のたとえ。高い 山と流れる水の意から、清らかな自然の意に も用いられる。「流水高山」ともいう。 故事)中国春秋時代、琴の名手伯牙が、高い山を思い浮かべて琴を弾くと、友人の鍾子期は「素晴らしい、まるであの高い泰山だ」と評し、川の流れを思いながら弾くと「まるで長江や黄河の滔々とうとした流れが目前にあるようだ」と評した。鍾子期が死ぬと、伯牙は琴を打ち割って、生涯琴を弾かなかったという。この故事から「断琴だんの交わり」「知音」「伯牙、琴を破る」などの成語も生まれた。 二うし 嚆矢 出荘子そうじ 物事の始まりのこと。物事の先ぶれ。昔、中 国で合戦の始まりの合図として「嚆矢」という矢を射交わしたことから。嚆矢は、中を空 <233> 洞にして、射たときに風を切って大きくうな る仕掛けになっているかぶら矢。 こうじしすん口耳四寸の学がく 底の浅い、受け売りの学問。聞いたばかりの 知識を、よく考えもせずにそのまま耳から四 寸しか離れていない口から出すという意か ら。「口耳の学」ともいう。 出荀子じゅんし 補説出典には「小人 じん の学は、耳より入 りて口より出いず。口耳の間は則 すな わ ち四寸の み。曷 いず んぞ以もて七尺 しち せき の軀くを美よしとす るに足らんやこれではどうして七尺の体の 人間を立派なものにすることができようか」 とある。 類義耳学問耳から口道聴塗説 どうちょ○ 聞 き取り学問。 こうしそうにく行尸走肉 無学・無能で何の役にも立たない人のたとえ。 歩くしかばねと走る魂のない肉体の意から。 マ行尸ニ「尸」は「屍」に同じ。しかばね。 歩く死体の意。 補説出典には「夫それ人は学(学問)を好め ば、死すと雖いえも存する(その名前が残る)が 若ことし。学ばざる者は存す(生きている)と雖 も、之これを行尸走肉と謂いうのみ」とある。 出拾遺記しゅういき 膠漆の交わり 髪詩外伝 きわめて親密で堅い交わりのたとえ。にかわ とうるしで固めたような堅く強い交わりの意 から。「膠漆の心」ともいう。▷膠‖魚など の骨や皮を石灰水に浸してから煮て濃縮し、 出韓詩外伝 冷やして固めたもの。接着剤として用いる。 類義金石の交わり。 刎頸 ふん けい の交わり。 こうじしーこうじも 孔子に論語 専門家によけいな意見や教えを説くことのた とえ。また、不必要なことを教える愚かさの たとえ。孔子に向かって『論語』を説くこと から。「孔子に学問」「孔子に悟道ぶど」ともい う。△孔子‖春秋時代の魯の人。儒教の始 祖。論語‖書名。四書の一つで、儒家の聖典 とされる。 類義 釈迦 しゃ に経。 釈迦に説法。 河童 かっ に水 練。 こうじ がく こうじしすん がく 口耳の学 ↓ 口耳四寸の学 233 香餌の下必ず死魚あり出三略 利益や欲望のために身を滅ぼすことがあると いうたとえ。また、利益のかげには必ず危険 がひそんでいるということ。よい香りのする 餌のそばには、いつも鉤かぎにかかって死んだ 魚がいる意から。∇香餌∥よいにおいのする 餌。 補説出典には「軍讖ぐん(兵法の書)に日いわく、 香餌の下必ず死魚あり、重賞の下必ず勇夫有 り(褒美をたくさん与えれば、必ず勇敢な兵 士は出てくるものだ)」とある。 日義高飛の鳥も美食に死す。魚の懸かる 甘餌による。 好事魔多し 出西廂記 よいことやうまくいきそうなことには、とか く邪魔が入りやすいものだということ。 注意「好事魔、多し」ではなく、「好事、魔 多し」と読む。 類義 月に叢雲 むら、 くも 花に風。 用例「きまらない話をして、向うが迷惑だ よ」「きまったらの話でございますよ」と、 ちか子は押しかえして、「好事魔多しですか ら、文子さんも、きまるまでは、お聞きにな らないことになさっといて」〈川端康成◆千 羽鶴〉 出荀子じゅんし 孔一 A に会っぷ どんなに立派で才能がある人でも、時機に恵 まれなければ才能が開花しないこともあると いうたとえ。「会わず」は「遇わず」とも書く。 ▶孔子=春秋時代の魯の人。儒教の始祖。 補説出典には、孔子のことばとして「君子は博学深謀はくがくなるも、時に遇わざる者多し。是これに由よりて之これを観みれば、世に遇わざる者衆おおし、何ぞ独り丘きゅのみならんや(君子でその学が博ひろく思慮深い人であっても、時世にめぐり合わなかった者は多い。これらのことから考えてみると、時世に合わない者は多く、何もわたしだけのことではない」とある。 類義聖ひじも時に遇わず。孔子も道行われ ず。 好事も無きには如かず 出厳棲幽事 人生は何事もなく平穏であるのがもっともよ <234> こうじもーこうせき いということ。よいことでもあるとわずらわ しく、悪いことだとなおさらである意から。 こうじもんいあくじせんりゆ 好事門を出でず悪事千里を行 出北夢瑣言 よい評判はなかなか世に伝わらないものだ が、悪い評判はたちまち遠方まで知れわたる ということ。「好事門を出でず悪事千里を走 る」ともいう。また、「好事門を出でず」「悪 事千里を行く」だけでも用いられる。 英語 Ten good turns lie dead and one ill deep report abroad does spread. [十の善 行は忘れられ、一の悪行は世に知れ渡る] こうしゃいましぜんしゃくつがえこうしゃいまし 後車の誠め前車の覆るは後車の誠め 362 こうしゃあまあせっしゃた 巧者は余り有り拙者は足らず 仕事の器用な者はもうけて金持ちになるが、 下手な者は損をして貧乏になる。そこから貧 富の差は自然に生じるということ。 △膏燭=ともしび。鑠す=溶けること。 二膚燭は明を以て自ら鑠す 出史記しき 出淮南子えなんじ 才能や長所のために災いを招き、身を滅ぼしてしまうことのたとえ。ろうそくは、点ともすと明るいために溶けて尽きてしまうことから。「膏燭は明を以て自ら消ゆ」ともいう。 補説出典には、この前に「呉鐸 て自ら毀やり(呉の国で産出する大型の鈴は、 音を出すために自らこわれ)」とある。 類義膏は明を以て焚たかる。 こうじおこなぜんていとなか 好事を行いて前程を問う勿れ 報酬を求めて善行をするのでは、意味がない ということ。善行をしたからといって、将来 いいことがあると期待してはいけないという ことから。∇前程∥将来。前途。 項斯を説く 出唐詩紀事 先輩が後輩を引き立て、その人柄や才能を 人々に吹聴ふいちすること。▶項斯∥唐とうの時 代の詩人の名。 故事詩人の楊敬之が、当時無名であった項斯の詩を見て感心し、実際に会ってからは、彼の人格にいっそう敬服した。以来、楊敬之は項斯をたたえる詩を作り、至る所で項斯のことを人に吹聴したので、項斯の名は長安の宮中にまで知れわたったという。 こうじんしばしばぎよう 数業を変うればその功 うしな 出韓非子かんびし 技術者は、仕事をいろいろ変えるようでは、 名人にはなれないということ。 補説出典では、このあとに「作者数揺従 すれば、則 すな ち其その功を亡 うし な う(物を作る者 は、しばしばその計画を変えると成功しな い」と続く。 を失う 荒神の火傷 こうじんやけど 他人の世話に熱中するあまり、自分の身を守 ることがおろそかになること。また、意外な 失敗のたとえ。かまどを守り、火を防ぐ神が 火傷を負う意から。▷荒神∥かまどの神。 類義秋葉山から火事。 出晋書しんじょ 後塵を拝する 人におくれをとることのたとえ。また、権力 者にこびへつらうことのたとえ。車馬が通り 過ぎたあとに立つ土ぼこりを浴びて見送る意 から。 故事中国西晋 せん の石崇 せき が、 権力者の車 が砂ぼこりを立てて通って行くのを後ろから 拝んだ故事から。 出 論語 ろんご 後生畏るべし 若者は、将来大きな可能性を秘めているので、 侮ってはならず、おそれ敬うべきだというこ と。▶後生∥あとから生まれた者。後輩。 補説出典には、孔子のことばとして「後生 畏るべし。焉いずんぞ来者らいの今に如しかざる を知らんや(無限の可能性を秘めた若者の存 在は、恐ろしいものだ。将来、現在のわれわ れの水準に及ばないなどと、どうして言えよ うか)とある。 こうせきあたた ぼくとつくろ 孔席暖まらず墨突黔まず 出班固ー答二賓戯ー 人のために各地を飛びまわり、家に落ち着く <235> ことがないたとえ。孔子と墨子は、道を説く ためにあちこちを駆かけまわっていて、ほと んど家にいなかったため、孔子の席は暖まる ことがなく、墨子の家の煙突は黒くすすける ことがなかったということから。「孔席暁 かならず墨突は黔くろからず」ともいう。∇孔 席∥孔子の席。孔子は中国、春秋時代の魯 の人。儒教の始祖。墨突∥墨子の家の煙突。 墨子も中国、春秋時代の魯の人。思想家。 兼愛説と非戦論を唱えた。 こうぜん浩然の気 出孟子もうし 何物にも束縛されない豊かでのびのびとした 心。天地の間にみなぎっている、生命や活力 のみなもととなる気の意から。「浩然の気を 養う」という言い方で用いる。∇浩然∥水が 豊かに流れるようす。また、心などが広く ゆったりとしているようす。 用例私は禁酒をしようと思っている。この ごろの酒は、ひどく人間を卑屈にするようで ある。昔は、これに依よって所謂いわゆる浩然之気 を養ったものだそうであるが、今は、ただ精 神をあさはかにするばかりである。〈太宰 治◆禁酒の心〉 黄泉の客 こうせんきゃく 死んだ人。あの世へ行った人。「黄泉の旅人」 ともいう。∇黄泉∥地下の泉の意。転じて、 死者の行く所。あの世。 こうぜん滺漸の翼 鴻漸の翼 出漢書 高位高官にのぼってゆくだけの才能があるこ こうぜんーこうとう とのたとえ。また、大事業を成し遂げる器量 があることのたとえ。大きな鳥がゆったりと した翼の動きでしだいに上昇して、ついには 他の小鳥の及ばない高い所に至ることから。 ∇鴻∥白鳥のような大形の水鳥。漸∥進む。 こうせんろじょうろうしょうな 黄泉の路上老少無し 死は年齢に関係なく訪れるということ。冥土 どへの道を行く者に、老若の区別はないとい う意から。▷黄泉∥地下の泉の意。転じて、 死者の行く所。あの世。 朞打ちに時無し 類義黄泉の路上老いは勘すくし。 暮を打つ者は、打ち始めると勝負に夢中に なって、時間のたつのも忘れてしまうという こと。 こうち せっそく 巧遅は拙速に如かず 出手だが遅いというよりは、下手でも速いほ うがよいということ。▶巧遅‖巧みではある が遅い意。 補説もと兵法の語。出典には「兵は拙速を 聞くも、未いまだ巧久 ゆう を睹みざるなり(部隊 を動かすのは、戦術がまずくても迅速に決行 したほうがよい。巧みな戦術を用いて長期間 戦い続けたのを見たことがない)」とある。 類義拙速を貴ぶ。 用例 然しか るに新聞紙の材料は巧遅なるより は拙速を重んじ、堂々たる大論文よりは新鮮 なる零細の記事、深く考慮すべき含蓄ある説 明よりは手取早く呑込 のみ む事の出来る記実、 噛占 かみ めて益々味の出るものよりは舌の先き で嘗なめて直すぐ賞翫 がん されるものが読者に 受ける。〈内田魯庵◆二葉亭四迷の一生〉 出晋書しんじょ 意見の誤りや不適当な部分を訂正すること。 口の中に雌黄を含む意から。▽雌黄=硫黄いお と砒素ひそから成る黄色の結晶体で、粉末にし て絵の具などに用いた。中国の昔の書物は黄 色い紙を使い、字を塗り消すのに雌黄を使用 した。転じて、詩文を添削すること。 こうてんしんな ただとくこれたす 皇天親無く惟徳を是輔く 出書経しよきよう 天は公平で、特定の人に親しむことはなく、 徳行のある者を助けるということ。▷皇天Ⅱ 天の敬称。 補説出典では、このあとに「民心常無く、 惟恵けいに之これ懐なく人民の心は決まって従 うものはなく、ただ恵み深いものになついて 従うものだ」と続く。 口頭の交わり 出孟郊ー詩もうこうし 口先だけの、誠実さのない交際のこと。 補説詩の題名は友を択ぶ。これに面 おもには(表面的には)結ぶ口頭の交わり、肚裏 とりには荆棘 けいき よく を生ず(腹の中には、いばらの とげを生やしている)とある。 こうとうむけい荒唐無稽 言うことや考えがでたらめで、 出 荘子・書経 またく根拠 <236> がないこと。一無稽荒唐」ともいう。△ によりどころがなく、とりとめのないこと 無稽‖根拠がなく、でたらめであること。 補説「荒唐之言」と「無稽の言」とが一緒 になってできたことば。『荘子』には「謬悠 ぴゅう ゆう の説、荒唐の言、端崖 たん がい 無きの辞を以もって、 時に恋縦 しし ようにして儻とうせず(実情の伴わない 広遠な説、判断できない広大な説、糸口が捉 えられないことばを使って折に触れて気がね せず思うままに展開した)」とあり、『書経』 には「無稽の言は聴くこと勿なかれ(よりどこ ろのない話には耳を傾けてはならない)」と ある。 用例 観衆たるの資格。第一に無邪気でなけ ればいけない。荒唐無稽を信じなければいけ ない。大河内伝次郎 おおこうち でんじろう は、必ず試合に勝 たなければいけない。〈太宰治◆弱者の糧〉 掘ってさし上げたいが、どうでしょうか」とある。 狡兔二窟 難を逃れるのに巧みなことのたとえ。また、 用心深く身を隠すことのたとえ。すばしこい 兎は三つの隠れ穴を持っていて、危険から身 を守る意から。▶狡兎‖すばしこい兎の意。 三窟‖三つの隠れ穴の意。 出戦国策 補説出典には「狡兎は三窟有りて、僅わずか にその死を免 まめ か るるを得るのみ。今、君は 一窟有るのみ、未だ枕を高うして臥ふするを 得ず。請う君の為ために復また二窟を鑿うがたん (すばしこい兎には隠れ穴が三つあるので、 死なずにいるのです。今、主君には隠れ穴が 一つしかないので、安心して眠ることができ ません。わたしは主君に、あと二つの穴を 狡鬼死して走狗烹らる ひちょうつ 良弓蔵され、狡鬼死して走狗烹 こうな なと みしりぞ てん 功成り名遂げて身退くは天の みち 道なり ろうし 出老子 功績を立て名声を上げた後には、引退するの が自然の道にかなった身の処し方であるということ。 補説出典には、この前に「金玉 さんぎ、 よく 堂に 満つれば、 これ を能よく守る莫なし。富貴にし て驕おごれば、自ら其その咎とがを遺のこす(黄金や 宝玉が座敷に満ちあふれるほどになっても、 それらを守り続けることはできない。富を持 ち高貴な地位にあって傲慢 ごう まん さを増すなら ば、自分から災いを招くことになる)」とある。 類義功成って居らず。成功の下もと久しく処 るべからず。大名 たい めい の下は以もって久しく居 り難し。満つれば欠く。 こうななと 功成り名を遂げる 出老子 大きな業績を上げて名声を得ること。「功成 り名遂げる」ともいう。 補説 老子の功成り名遂げて身退くは 天の道なりより出た言葉。 用例ただ、残念なことに、ここのうち、功 成り、名とげて、近いうちに商売をやめると いううわさがある。久保田万太郎◆浅草の 喰べもの こうなんたちばなこうほくう 江南の橘、江北に植えれば からたち 枳となる 出韓詩外伝 人はその境遇によって性格が変わることのた とえ。「江南の橘化して枳と為なる」「淮南 の橘淮北わいに移されて枳となる」ともいう。 ▶江南・江北長江ちょうの南岸と北岸。橘 みかん。柑橘かんきつ類の総称。枳生け垣などに する落葉低木。とげが多く、春に白い花を開 く。実は薬用。 故事)中国春秋時代、楚その国へ使節として 来た斉出身の晏子 し をはずかしめようと、楚 王が一人の男を斉の国のにせ盗人に仕立て て、「斉の国にはこんな盗人がいるのか」と 問いつめた。そこで晏子はこのことわざを出 し、「彼は斉にいるときは立派な人物だった。 それが楚に来たら盗みを働いたのは、この国 の土地柄がよくないせいだ」と楚王を逆にや りこめたという故事による。ほかにも「晏子 春秋 あんししゅ んじゅう 」「淮南子 えな んじ 」など、多くの書物に この故事がみえる。 郷に入りては郷に従う 出童子教 他の土地へ行ったら、その土地の風俗や習慣 に従って生活するのがよいということ。ま た、ある集団に属したなら、その集団の規律 に従うべきだということ。「郷に入っては郷 に従う」「郷に入りては郷に従え」ともいう。 <237> △郷田舎・地方の意。「従う」は「随う」とも書く。 類義国に入ってはまず禁を問え。所の法に 矢は立ため。里に入りては里に従う。門に入 らば笠かさを脱げ。 英語Every country has its law.ふの国にもそれぞれの習わしがある[When you are at Rome, do as they do at Rome.ローマの人たちがするようにせよ 用例すると自治委員の言うのには、寮では 寮生のすべては丸刈りたるべしという規則が ある。郷に入れば郷に従えという諺 知らぬのか。では、郷を去るまでだ、俺は俺 の頭を守ると、私は気障きざな言い方をして、 寮を去り下宿住いをした。〈織田作之助◆髪 効能書きの読めぬ所に効能あり↓能書 書きの読めぬ所に効能あり ところ きの読めぬ所に効き目あり 512 甲の薬は乙の毒 ある人には有益でも、別の人には有害なことがある、ということ。ある人に効き目のある薬も他の人には有害になるということから。 類義人を見て法を説け。 英語 One man's meat is another man's poison. [ある人の食事は他の人の毒] 剛の者に矢が立たぬ とから。「剛の者に矢が立たず」ともいう。 こうさいしおとろ 孝は妻子に衰う 出説 強い者には敵も避けて通るということ。また、強い者に挑戦して簡単にやられてしまうたとえ。勇猛な者には矢さえも当たらないこ こうのうーこうはん 妻子を持つと、それに対する愛情が先になり、 親に対する孝行の心が薄れるということ。い つまでも親孝行を忘れないようにせよという 教え。 補説出典には、曾子のことばとして「官 は宦かんの成るに怠おこり、病は少しく愈ゆる に加わり、禍わざは懈怠けだに生じ(出世してゆ くと気がゆるみ、病気は少し良くなると油断 するから悪化し、災いは怠け心から起こり、 孝は妻子に衰う」とある。 孝は百行の本 出白虎通徳論 親孝行は、あらゆる行いの基本となるものだ ということ。「孝は百行の基もと」ともいう。 百行川すべての行いの意。 類義 孝は万善の本。孝悌 こう は仁を為 な すの 本。 用例支那人は孝を百行の本として、最大の 善行と認める。忠孝と併称する中にも、支那 では孝が国家なり社会なりの基礎となって居 る。歴代の政府は、何どれも孝行を奨励する。 〈桑原隲蔵◆支那人の文弱と保守〉 公は明を生ず 心が公平だと判断も正確で、物事の道理を見 通す力を持つに至るということ。 出荀子じゅんし 補説荀子が君子の慎じむべきものを六項目 挙げたうちの最初の項目で、出典では、この あとに「偏は闇あんを生じ、端慤 たん かく は通を生じ、 詐偽さいは塞そくを生じ、誠信は神を生じ、夸誕 かた は惑を生ず(狭く偏 かた よ っていると闇愚 あん が 生じ、正直であると物事がとどこおりなく通 じ、いつわりの行為は行きづまりが生じ、誠 の心で物事に当たると知恵が生じ、みだりに 大声を吐いて人をだませば疑惑が生じる」 と続く。 膏は明を以て焚かる 出漢書 かんじよ 才能のある者が、その才能のために災いを招 くことのたとえ。油は燃えるとまわりを明る くするので燃やされてしまうことから。彎 動物から採った油。 補説出典には「膏は明を以て自ら銷とかす」 とある。『荘子』には「膏火こうは自ら煎ず るなり」、「淮南子えな」には「膏燭こうしは明を 以て自ら鑠とかす」などの類句がある。 類義膏燭 こうし よく は明を以て自ら鑠とかす。 鐸たく は声を以て自ら毀やぶる。 こうば 甲張り強くして家押し倒す 甲張り強くして家押ーイ・ 助けになるものが強すぎると、かえって事態 を悪くしてしまうことのたとえ。家を支える ための棒が強過ぎると、家を押し倒してしま う意から。▷甲張り‖家などが傾くのを支え る木の突っかえ棒。「勾張り」とも書く。 類義 弱き家に強き甲張り。 贔屓 ひい き の引き倒 し。 こうはんこそんおよ 觥飯も壺飧に及ばず 出国語 急ぎのときには、不完全でも手早いほうがよ いことのたとえ。空腹のときには、時間をか <238> こうひのーこうぼう けて作られる立派なご馳走よりも、粗末でも すぐに食べられる食事のほうがよいことか ら。「餓飯は壺飧に及ばず」ともいう。▷餓 飯=立派なご馳走。壺飧=食器に盛った粗末 な汁かけ飯。 補説出典には「王、范蠡はんを召して焉これに 問いて日いわく、諺ことにこれ有り、日く、觥 飯は壺飧に及ばずと。今歳とし暮れぬ。子し将 まさに奈何せんとする王が范蠡を呼んで聞 いた。ことわざにご馳走を待っているより は、一杯のご飯のほうがましだ、という。今 年も暮れてしまう。あなたはどうするか」 とある。 類義 巧遅は拙速に如しかず。 高飛の鳥も美食に死す 出 呉越春秋 立派な人物も、欲のために身を誤ることがあ るというたとえ。高い空を飛ぶ鳥も、うまそ うな餌につられて地上に舞い降りて捕らえら れる意から。 補説出典には「大夫種 高飛の鳥も美食に死し、深泉の魚も芳餌 死す(深い水中にすむ魚も、うまい餌につら れて水面に現れて捕らえられて死んでしま う)とある。 類義香餌この下もと必ず死魚あり。 光風霽月 心が清らかでわだかまりがなく、さっぱりしていてさわやかなことの形容。日の光の中を 出黄庭堅ー詩こうていけんし さわやかに吹き渡る風と、雨上がりの澄み きった空に出る月の意から。また、世の中が よく治まっていることの形容に用いることも ある。∇光風=雨上がりの明るいさわやかな 風。霧月=雨上がりの空の澄んだ月。「霧」 は晴れる意。 補説出典は『濂渓詩れんけ』序の語。 用例生憎 あい にく この約束は内閣の公約した政策 と全然反対のものであった。とはいえ、そこ は大人物の内閣で、右から左へ曲るぐらいに こだわる量見はないのですから、光風霧月と 申しますか、水従方円器と申しますか、明鏡 止水 めいきよ うしすい の心境です。〈坂口安吾◆露の答〉 好きな物は食べ過ぎても、体に害はないもの だということ。 好物に祟りなし 類義得食えじに毒なし。 対義節制は最良の薬。 こうぼう 弘法にも筆の誤り 名人や達人と呼ばれる人にも、失敗はあることのたとえ。弘法大師のような書の名人でも、書き損じをすることがあるという意から。「弘法も筆の誤り」ともいう。 補説弘法大師は平安時代初期の僧空海の諡 おく。 りな 日本の真言宗の開祖。書にすぐれ、嵯峨 さが 天皇、橘逸勢 たちばなの はやなり とともに三筆の一人に 数えられる。 水が漏る。孔子の倒れ。 類義 釈迦 しゃ にも経の読み違い。智者 ちし も千 慮に必ず一失あり。騏驎 きり の躓 つま き。猿も木 から落ちる。河童 かっ の川流れ。上手の手から 英語Often a full dexterous smith forges a very weak knife.刀鍛冶かたなの巨匠も、 しばしばなまくら刀を作る]Homer sometimes nods.偉大な詩人ホーマーで さえも、ときには居眠りする] 用例ほんによ、だからおれは始 から、何 でもこの人は一いっぱしの大泥坊になると云 いっていたわな。ほんによ。今夜は弘法にも 筆の誤り、上手の手からも水が漏るす。漏っ たが、これが漏ら無ねえで見ねえ。二階中の 客は裸にされるぜ。〈芥川龍之介◆鼠小僧次 郎吉〉 合抱の木も毫末に生ず 出老子 どんなに強く大きいものでも、はじめは弱く 小さいものだということ。一かかえもある大 木も、最初は小さい芽ばえから大きくなった ものだという意から。∇合抱=両手を広げて かかえるほどの大きさ。毫末=毛の先。きわ めて小さいもの。 補説出典には「合抱の木も、毫末より生じ、 九層の台うて(高い建物)も、累土(土を重ねる ことより起こり、千里の行(行程)も足下(足 もとより始まる」とある。 こうぼうふでえら 弘法筆を択ばず 名人や達人と呼ばれる人は、道具や材料の善 し悪しなどは問題にしない。弘法大師は、筆 の善し悪しなど問題にせず、どんな筆でも常 に立派な文字を書いたという意から。「弘法 は筆を選ばず」ともいう。 <239> 補説弘法大師は平安時代初期の僧空海の諡 おく。 りな 日本の真言宗の開祖。書にすぐれ、嵯峨 さが 天皇、橘逸勢 たちばなの はやなり とともに三筆の一人に 数えられる。 類義 名筆は筆を択ばず。能書は筆を択ば ず。善書は紙筆を選ばず。良工は材を択ば ず。 対義下手の道具調べ。 英語 He is an ill mason that refuses any stone.「どんな石であれ、それを拒むのは未 熟な石工である」 ごうほうらいらく 豪放磊落 度量が大きく細かいことにこだわらないさ ま。∇豪放∥小さいことにこだわらず思い 切ったことをするさま。磊落∥快活で細かい ことにこだわらないこと。類義の語を重ねて 意味を強めている。 類義 天空海闊 かい。 類義 天空海闊 かい 対義 小心翼翼。 用例)その娘の父は独力相当の地位と富を築 きあげた実業家でありました。外見は豪放磊 落にみえるが実際は至って気の小さな善人 だったのです。〈坂口安吾◆淫者山へ乗りこ む〉 高木に縁りて四方を望む 実力もないのに高い地位に就いたり、働きも しないで大金を手にしたりすることは、身を 誤るもとになるというたとえ。高い木に登っ 出淮南子えなんじ ごうほうーこうみよ て四方を見渡すことは楽しいが、いったん大 風が吹けばきわめて危険であることから。 補説出典には「功無くして大利ある者は、 後に将まさに害を為ならんとす(功績もないのに 大利のある者は、あとで害を受けることにな るだろう)。譬たとえば猶なお高木に縁りて四方 を望むがごとし。愉楽ゆらなりと雖いえも(愉快 ではあっても)、然しかれども疾風至らば、未 いまだ嘗かって恐れずんばあらず(恐れないわけ にはいかない)」とある。 世俗を離れ、自ら楽しむ静かな心。俗世間か ら離れ、自分の楽しみの境地に生きるたとえ。 「濠濮間の想い」ともいう。マ濠ニ濠梁 の意)。一説に濠水(安徽省 あんき しょう を流れる川)。 濮ニ濮水(山東省を流れる川)。 濠濮の間の想い 出世説新語 故事 荘子が、濠梁のほとりで友人の恵子と 魚の泳ぎ回るのを見て楽しみ、また濮水で魚 釣りをして楽しみ、楚王 う から召されたのを 断ったという故事による。 高木は風に折らる 地位や名声の高い者は、他人から妬たまれて、 困難や災厄に出会うことが多いということ。 高い木は風当たりが強く、折れやすいことか ら。「喬木きょうは風に折らる」「大木たいは風に 折らる」ともいう。 類義高木は風に嫉 ねた まる。高木は風に憎ま る。出る杭くは打たれる。 高木は風に嫉まる高木は風に折らる 239 英語 Envy can abide to no excellence. 娣妬しっはいかなる優越にも耐えられない 出後漢書 一度失ったものが再び戻ってくることのたと え。また、善政を敷くことのたとえ。「合浦 の珠」「珠合浦に還る」ともいう。▷合浦‖ 中国の地名。今の広東かんとん省あたりにあった。 珠‖真珠。 故事昔、合浦の太守が貪欲であったため、 海の真珠が他所へ移ってしまったが、孟嘗 ようが太守になってよい政治を行ったので、 再び真珠がもどり採れるようになったという 故事による。 小馬の朝駆け 二まあさばし 駒の朝走り 258 高慢は出世の行き止まり 地位にうぬぼれて人を侮 あな ど るようになると、 それ以上出世もできないという戒め。 類義自慢高慢馬鹿のうち。 こうみまことせきどく 厚味寔に腊毒 出国語 地位の高いことや俸禄の多いことは、災いのもとになることのたとえ。味が濃く美味な物は、かえって毒になることから。「厚味は寔に腊毒」ともいう。∇厚味∥味の濃厚な食物。転じて、ごちそう。ここでは俸禄のたとえ。腊毒∥猛毒。 功名を竹帛に垂る なちくはくた 490 <240> 毫毛斧柯 出逸周書 こうやあさって 災いは小さいうちに取り除くべきだというた とえ。芽生えたばかりの小さなうちに抜き取 らないと、やがて斧おので倒さなければならな いような大木になってしまうという意から。 ∇毫毛∥非常に細い毛。斧柯∥斧の柄。ま た、斧。 補説出典には「綿綿たるを絶たずんば、蔓 蔓 またるを若何 いか せん(細々としているうち に絶たないと、はびこってからでは手のつけ ようがない)、豪末 まつ にして掇とらずんば、将 まさ に斧柯を成さんとす(小さな苗のうちに抜 き取らないと、斧を使わなければ切り倒せな いほどに大きくなってしまう)とある。 鴻毛を以て炉炭の上に燎く きわめて簡単に物事が片づくことのたとえ。 おおとりの毛は炉の炭の上ですぐに燃えてし まうことから。△鴻毛=おおとりの毛。 紺屋の明後日 出史記しき 蝙蝠も鳥のうち つまらない者でも、同じ仲間には違いないことのたとえ。また、つまらない人物が、すぐれた人々の中で、仲間のような顔をしていることのたとえ。蝙蝠は哺乳動物であり鳥ではないが、翼があり空を飛ぶという点からすれば鳥の仲間だという意から。 当てにならない約束のたとえ。染物屋は「明 後日にはできる」と仕事を請け合うが、天候 に左右されるので、約束どおりにできないの がふつうであったことから。▽紺屋‖染物 屋。「こんや」とも読む。 類義 蝙蝠も人数。目高 めだ か も魚 とと のうち。 田 作りも魚 うお のうち。 類義医者の只今 ただ。 いま 紺屋の明後日七十五 日。鍛冶屋の明晚。坊さんのおっつけ。問屋 とい や の只今 ただ。 いま 挟腦〇One of these days is none of these days.「やのふふふふふふ」ふふ 紺屋の白袴 他人のためにばかり働いて、自分自身のことには手が回らないことのたとえ。染め物を仕事とする紺屋が、染めてない白い袴を着けているということから。△紺屋‖染物屋。「こんや」とも読む。白袴‖染めてない袴。「しらばかま」ともいう。 補説白い袴は、仕事中に袴を汚さないという職人の誇りを表すという説もある。 類義紺屋の白足袋。医者の不養生。大工の 掘立て。左官の荒壁。髪結いの乱れ髪。髪 結い髪結わず。鍛冶屋の竹火箸。紙漉 手鼻。駕籠かごかき駕籠に乗らず。椀わん 作りの 欠け椀。 甲羅を経る 年功を積んで、老練になること。また、世間 ずれし、厚かましくなること。「甲羅」の「甲」 は功・劫こうに掛けて言ったもので、年の劫の 意。「羅」は接尾語。 類義劫を経る。 用例池から二間の距離のところに高い石塀 がある。この石塀には甲羅をへて化けそうな 蔓ったが入りみだれて絡みついている。〈坂口 安吾◆明日は天気になれ〉 毫釐の差は千里の謬り 出礼記 ごく小さな原因が、きわめて大きな結果をも たらすことのたとえ。初めはわずかな違い が、やがては途方もない違いになるというこ と。∇毫釐∥わずか。少し。 補説出典には「差たがうこと豪釐ならば、 縁 あや るに千里を以もってせんもし初めに一厘 でも狂っていると、後には千里の誤りとな る」とある。 黄粱一炊の夢 ゆめ かんたん ゆめ 164 蛟竜雲雨を得 出二国志さんこくし 蝕音雲雨を得 雌伏していた英雄や豪傑などが、時運に乗り、 才能や実力を発揮すること。みずちや竜が、 雲や雨を得て天に上る意から。▷蛟‖みず ち。水中に潜んでいて、雲や雨を得れば昇天 して竜になるという想像上の動物。転じて、 時運に恵まれず、志を得ない英雄や豪傑。 故事中国後漢の時代に呉の孫権 そん けん と対立 していた蜀の先王劉備が、荆州を奪 い返して勢力を広げた。これを心配した孫権 の部下が上申して「劉備には、関羽・張飛と いう、熊と虎にたとえられる武将がいる。こ <241> れらの人物は、みずちが雲や雨を得れば天に 上るように猛威を奮うようになるだろう」と 言ったという故事による。 亢竜悔いあり 富や地位を極めた者は、慎重に身を処さない と過ちを生じて後悔することがあること。ま た、それを戒める語。天に昇りつめた竜には、 下るしかないという悔いがあるという意か ら。▶亢竜‖天高く昇りつめた竜。転じて、 富貴や栄達を極めた者の意。「亢」は高きを 極める意。「こうりゅう」とも読む。 出易経 補説出典には「亢竜悔いありとは、盈みつ るは久しかるべからざるなり満ちたものは、 この状態を保つことはできないという意だ)」 とある。 類義満つれば欠く。 紅炉上一点の雪 出繞近思録 心の迷いや邪念などが、すっかり溶けて消え 去ることのたとえ。火が真っ赤におこってい る囲炉裏いに一点の雪をおけば、たちまちに 溶け去ることから。 補説出典には「顔子(孔門の十哲の一人、 顔回のこと)は己 れ に克かつ、紅炉上一点の雪 の如し」とある。なお『碧巌録 へきが んろく にも同 様の記述が載っており、禅宗 ぜんし ゆう では、烈火 のような仏心や仏性をもって煩悩 ほん のう や妄想を 払いのけることをいう。 こうろんおつばく甲論乙駿 さまざまな意見が出て、議論がまとまらない こと。あることを甲が論じると、乙がそれに 反対する意から。 こうりょーごえつど 類義議論百出ひゃく。 用例彼は先ず小野家の系図から調べにか かった。あの有名な遣唐使篁朝臣 たかむら あそん の子の 良真 よし の女として小町が記入されているのも あり、無いのもある。次に典拠になる考証を 調べた。古来、名だたる学者たちが甲論乙駁 して主張は数説に岐わかれている。だが主流に なる説は二説であった。〈岡本かの子◆小町 の芍薬〉 行を省みる者は其の過ちを引 こうかえりものそあやまひ 出 晏子春秋 かず 自分の行いを常に反省する者は、同じ過失を 二度と繰り返さないということ。 補説出典には「嬰えいこれを聞く、行を省み る者は其の過ちを引かず、実を察する者は其 その辞を譏そしらず(物事の真相を見抜いている 者は、言い損ないがあっても、とがめ立てを しない)」とある。 こうぬすものちゅう鉤を窃む者は誅せられ、 窃む者は諸侯となる 道理に合わないことのたとえ。小さな物を盗 むこそ泥は死刑に処せられ、国を奪う大泥棒 は領主となるということから。△鉤‖帯留 め。諸侯‖封建時代の領主。 類義米食った犬が叩かれずに糠ぬか食った犬 が叩かれる。皿嘗なめた猫が科とがを負う。 出荘子そうじ こうもっしめっ 出書経しょきょう 公を以て私を滅す 一経 公平な立場で私心をなくして政治を行うこ と。また、自分のことはかえりみず、公のた めに尽くすこと。 補説出典には「公を以て私を滅すれば、民 たみ其それ允いとして懐なっかん(人民は信じて 慕ってくるだろう)」とある。周の成王が、 官職にある者に対して訓戒として述べたこと ば。 ごえつどうしゅう 呉越同舟 出孫子そんし 敵味方や仲の悪い者同士が、同じ場所や境遇 にいること。本来は、仲の悪い者同士でも、 共通の困難や利害のために、協力したり助け 合ったりすることのたとえ。「楚越同舟 ともいう。△呉・越‖ともに中国春秋時代の 国名。 補説出典には「越人と呉人の相悪にくむも、 其その舟を同じくして済わたるに当たりては、 其の相救うこと、左右の手の如ごとし(越と呉 は宿敵同士だが、その憎み合っている両国の 者が同じ舟に乗って川を渡っているときに大 風が吹いて舟が転覆しそうになれば、ふだん の恨みも忘れて互いに助けあうだろう」と ある。 英語 While the thunder lasted, two bad men were friends. [雷が鳴っている間は、二人の悪人どもは友人であった] Woes unite foes. [災いは敵同士を団結させる] 用例 いよいよカイロ行の一団は、千鶴子ちずこの組も真紀子まきこの組も呉越同舟で三台の自動 <242> こえなきーこぎしゅ 車に分乗した。〈横光利一◆旅愁〉 こえ きかたち 声なきに聴き形なきに視る 出礼記らいき 子は、親がことばや行動に表す前に気持ちを 汲み取り、親に仕えなければいけないという こと。子の親に仕える道を説いたことば。 こえひとよ 声なくして人を呼ぶ 徳のある人の所には、自然と人が集まってく るものだということ。「声なくして人を呼び 寄す」ともいう。 句に対して言い返した句。 類義桃李と言いわざれども下自ずから蹊けいを成す。 こえりようじんうご 声梁塵を動かす りようじんうご 梁塵を動かす 687 こおとこうでた 小男の腕立て 力のない者が腕力で争いたがること。また、 抵抗しても、非力でまったく問題にならない ことのたとえ。∇腕立て∥腕力を自慢するこ と。また、腕力を頼みとして人と争うこと。 類義蟷螂とうが斧おのを以もって隆車に向かう。 蟷螂の斧。 小男の総身の知恵も知れたも の 右は文して言い込した 対義小人 こび と に鈍なし。山椒 さんし よう は小粒でも ぴりりと辛い。 小男では、全身が知恵であったとしても、そ の実は大したものではないということ。 補説「大男総身に知恵が回りかね」という 水に鏤め脂に画く あぶらえが 二おりちりばあぶらえが 脂に画き氷に鏤 水は水より出でて水より寒し こおりみずいみずさむ む 26 弟子が師よりすぐれた者になることのたと え。水からできた氷が、もとの水よりも冷た くなることから。 出荀子じゅんし 補説出典の「青は之これを藍あいより取りて藍 より青し、氷は水之を為なして水より寒し による。 二おり だた 氷を叩いて火を求む できるはずのないことを望むことのたとえ。 また、誤った方法では、物事を成し遂げられ ないことのたとえ。 類義 木に縁よりて魚を求む。氷を鑽きりて火 を求め、砂を圧して油を求む。 木陰に臥す者は枝を手折らず其の樹 こがたなつばあいくちつばう小刀に鍔ゝヒ首に鍔を打ったよう1ごがつわらびよめく 五月蔵は嫁に食わせるな いうこと。昔の家族制度の中での嫁の立場、 嫁いびりを示すことば。 類義秋茄子 あきな すび 嫁に食わすな。秋鯽 あきか ます は嫁 に食わすな。秋蕗 あき ふき 嫁に食わすな。 ごか 吳下の阿蒙 あもう 出三国志·注 いつまでたっても、全く進歩のない人。学問 のない人物のたとえ。「呉下の旧阿蒙」とも いう。△呉下‖呉の国内の意。阿蒙‖「阿」 は人名につけて親しみを表す語。「蒙さん」 「蒙くん」の意。 故事三国時代無学だった呉の将軍呂蒙 は君主の孫権から学問にも力を入れるよう にと言われ勉学に打ち込んだその後大 臣の魯粛が呂蒙に再会したとき呂蒙の学 問の上達の早さに驚き「吾謂えらく大 弟但だ武略有のみと今に至りては 学識英博復また呉下の阿蒙に非ず君は武 略だけの人間だと思っていたが今はもう学 識ともにすぐれ以前の呉にいたころの蒙さ んではない」と賞賛したという故事による 古稀 七十歳のこと。「古希」とも書く。↓人生七 十古来稀まれなり332 二ぎしゅんじゅん 狐疑逡巡 疑いためらってなかなか決心がつかないこと。優柔不断なさま。△狐疑‖疑い深い狐のように疑うこと。逡巡‖後ずさりすること。ためらうこと。 類義二の足を踏む。 <243> 御器も持たぬ乞食 まったくの無一物であることのたとえ。乞食 にとって椀わんは食べ物をもらうためのものだ が、それさえも持たないことから。▷御器‖ 修行僧や乞食が食べ物を乞うために持つ椀。 類義箸はしも持たぬ乞食。 こちからこうしまう 狐裘して羔袖す 全体としてはよいのに、一か所だけ欠点があ ることのたとえ。また、部分的に悪いところ はあるが、全体から見れば立派であるという こと。高価な狐の皮ごろもに小羊の皮の袖そで をつける意から。∇狐裘∥狐の腋わきの下の白 い毛皮で作った立派な皮ごろも。羔袖∥小羊 の皮で作った粗末な袖。 出春秋左氏伝 ごぎゅうつきあえ 呉牛月に喘ぐ 出世説新語 過度におびえることのたとえ。また、疑いの 心があると、何でもないものにまで恐れてし まうたとえ。非常に暑い呉地方にすむ水牛は 日照りを常に恐れ、月を見ても太陽ではない かと思い、ひどくおびえてしまうということ から。∇呉牛∥水牛のこと。中国の南方、呉 地方に多かったことから。喘ぐ∥苦しそう に、せわしく息をする。苦しむ。 類義杯中の蛇影だえ。 羹あつ に懲りて膾なま す を吹 く。杞憂きゆ○ 拡丘の誠め こきゅういまし 立身出世しても他人から恨まれないようにせ よという戒め。△孤丘=昔の中国の村の名。 出列子れっし ごきももーこぎよか 故事)中国、春秋時代、孤丘という村の長老が、楚その国の家老孫叔敖のところに来て「人は位が高くなることによって、まわりから三つの恨みをもたれることになる。官位が高くなれば人々がこれをねたみ、役職の領域が広く立派になれば君主がこれを憎み、俸禄が多くなれば他人のそれねみ・恨みを買う。だから身を慎まなければいけない」という戒めのことばを述べた。これに対し孫叔敖は「わたしは位が高くなればなるほど慎み深く、役職の領域が広く立派になればなるほど謙虚に心配りし、俸禄が多くなればなるほど人々への恵みを広く施すよう心がけます」と答えたという故事から。 類義人に三怨えん有り。 狐裘蒙戎 身分の高い人が礼儀・作法を忘れ、国政が乱 れるたとえ。高貴の人が着る狐の皮ごろもの 毛が乱れる意から。△狐裘Ⅱ狐の腋わきの下の 白い毛皮で作った高価な皮ごろも。蒙戎=や ぶれ乱れるさま。 出詩経しきよう ごろも。 黄狗=黄色い犬。 類義 狐裘蒙茸 こきゅうも○ うじょう 狐裘弊ると雖も補うに黄狗 こきゅうやぶ いえど おぎな こうく の皮を以てすべからず 出史記 君子と小人を同等に用いてはならないという ことのたとえ。立派な狐の皮ごろもは、古く なって破れても、つまらない犬の毛皮でつく ろうわけにはいかないという意から。△狐裘 =狐の腋わきの下の白い毛皮で作った高価な皮 故事中国の戦国時代、斉の威王に仕えてい た淳于髠じゅんが宰相さいしの騶忌子すうに進言した ことば。忌子はすぐその意を悟り「任用する に当たっては、君子を選んで用い、小人をそ の中にまじえないようにしよう」と答えたと いう故事から。 類義 狐白 く を以て犬羊を補い身其その炭 たん に塗まみる。 故鄉八錦を飾る 立身出世をし、晴れがましい姿で帰郷すること。「故郷に錦を飾る」ともいう。 類義故郷へ花を飾る。故郷へは錦を着る。 故郷へ錦を着て帰る。錦を衣きて郷に還る。帰 るには錦着て行く。故郷には錦の袴 ま を着て 帰れ。 用例あの帽子は東京で一番高価たかいゼイタ クなものだったので、大得意で故郷に錦を飾 るつもりで冠かぶって来たものです。染得 り西湖柳色の衣いというところですよ。夢野 久作◆父杉山茂丸を語る) こきょうぼう故郷忘じ難し 故郷は懐かしく、いつまでも忘れ難いもので あるということ。 こきよかわすな 枯魚河を過ぎて泣く 出古詩源 人は出処進退を慎重にしなければ後悔すると いう戒め。魚の干物が、もとすんでいた川を 通り過ぎるとき、人に捕らえられてしまった 軽率さを後悔して泣くということから。△枯 <244> 魚∥魚の干物。 豊 故事)中国晋しんの張翰ちょうが、親友であった 顧栄にえの死を悲しみ、霊前にあった栄の愛し た琴をひき、大声をあげてなげき、悲しみの あまりついに喪主の手もとらずに去ったという 故事から。当時、弔問に来た人は帰るとき、 喪主の手をとって慰めるのが礼儀とされてい た。 類義伯牙 が 琴を破る。子期しき死して伯牙 復 琴をかなでず。絃げんを絶つ。琴の緒絶ゆ。 こくぎゅうはくとくう ! 千白犢を生む 出列子 黒牛白 出列子 吉凶禍福はどう変わるかわからないというた とえ。黒い牛が白い子牛を生むということ。 △白犢白い子牛。 故事)中国、宋そうの国に三代にわたり徳行のあつい人がいた。その家の黒い牛が白い子牛を生んだ。そこで孔子に話したら「めでたい」と言ったので、この子牛を天帝に奉ったが、一年後その家の主人は理由もなく失明してしまった。それからまた黒牛が白い子牛を生んだので、気の進まない息子の反対を押し切り、主人は再び孔子に相談した。すると孔子はまた「めでたい」と言ったので子牛を天帝に奉った。一年後、今度は息子が失明してしまった。その後、楚が宋を攻めて町を囲み、健康な者は戦に駆り出されほとんど死んだが、この親子は目が見えなかったので戦争に加わらず にすみ、生き残った。楚の軍隊が引きあげる と、この親子は目が見えるようになっていた という。 類義塞翁が馬。 告朔の餼羊 こくさくきよう 出 論語 ろんご 虚礼でもその根本を忘れない拠より所となる から、古くからの習慣や年中行事は、残して おくほうがよいということ。また、形式だけ の虚礼のたとえ。∇告朔∥古代中国で、諸侯 が毎年十二月に天子から翌年の暦を受けて祖 廟(先祖の霊をまつった所)におさめ、毎月 一日に羊をいけにえにして祖先をまつり、そ の暦を領民に発布した儀式。餼羊∥告朔に供 えるいけにえの羊。 故事)中国春秋時代、魯の国では告朔の礼 が行われず、羊を供える形式だけが残ってい たので、子貢が餼羊をやめるべきだと言ったのに対し、師の孔子が、「子貢よ、おまえは、 いけにえに使う羊が惜しいのだろう。私は、 羊を節約するためになくなる礼のほうが惜しいと思うのだ」と言ったという故事による。 黑甜鄉裡 昼寝のこと。また、熟睡。昼寝のまどろみの 世界の中の意。▽黒甜=昼寝。また、熟睡。 郷=さと。場所。裡=中の意。 補説北宋の詩人蘇軾そしの詩に三杯の軟飽 ぽう酒を飲むこと)後、一枕いの黒甜余のこる酒 を飲んだあとの睡眠は、まことに気持ちがよ い。それはうとうととまどろみの世界に遊ぶ ような心地である)がある。 注意語構成は黒甜郷+裡。裡を 里と書き誤らない。 用例……いつの間にか眠くなって、つい黒 甜郷裡に遊んだ。おやと思って眼が醒ざめた ら、二叉の黒甜郷裡から庭の敷石の上へどた りと落ちていた。〈夏目漱石◆吾輩は猫であ る 出荘子そうじ 本性のよい者は、うわべを飾らなくても自然にその性質のよさが現れるというたとえ。また、生まれつきの容姿や性質は、変えられるものではないということ。白鳥は毎日水浴びしなくてもいつも白いという意から。△鵠‖白鳥。 補説出典には「鵠は日ひびに浴せざるも白く、 烏 は日に黔けんせざるも黒し(烏は毎日から だを黒く染めなくても黒い)とある。 類義鷺さぎは洗わずして其その色白く染めず して烏は黒し。 黑白を弁ぜず 物事の是非や善悪の見分けがつかないこと。 ∇黑白=「是と非」「正と邪」。 類義黑白を弁 わき えず。 菽麦 しゅく ぱく を弁ぜず。 ごくらくねが じごくつく 極楽願わんより地獄 幸福になることを願うよりも、不幸になる原 因を作らないように心がけよということ。死 後、極楽往生 おうじ よう することを願うよりは、地 獄に落ちるような悪業をしないことだという 意から。 <245> 極楽の入口で念仏を売る 知り尽くしている人に、不必要なことを教え ることのたとえ。極楽往生のために念仏を唱 えていた人に極楽のそばで念仏を売っても、 買う人はいないということから。∇極楽=極 楽浄土。 ぼくるい 類義 釈迦 加 に説法。聖人の門前で孝経を売 る。林中に薪 ぎ を送り湖上に魚を鬻ひさぐ。 釈 迦に経。河童 ぱ に水練。 鵠を刻して鶩に類す 出後漢書 ごかんじょ 謹厳実直の人を見ならって努力すれば、同じ ようにはなれなくても、似かよった善人には なれるということ。白鳥を彫刻してうまくで きなくても、あひるぐらいには見えるという 意から。「鶩」は「あひる」とも読み、「家鴨 あひ とも書く。△鵠‖白鳥。鶩‖あひる。 補説出典には「伯高はく(後漢の武将馬援ばえ に重んじられた清廉・謹厳な人物)に効ならい て得ざるも、猶なお謹勅きんちの士とならん。所 謂いわ鵠を刻して成らざるも、なお鶩に類する 者なり」とある。 類義虎を画えがいて狗いぬに類す。竜を画いて 狗に類す。 虎渓三笑 こけいさんしょう 熱中するあまり、他をすべて忘れてしまうこ とのたとえ。∇虎渓∥中国、江西省廬山 東林寺の前にあった谷の名。三笑∥三人で笑 うこと。 出廬山記ろざんき 故事 中国東晋 とう の高僧慧遠 えお は、 修行のた ごくらくーこけんに め三十余年東林寺の前の虎渓を渡って外出す まいと誓っていたが、あるとき詩人の陶潜と 道士の陸修静の訪問を受けた。二人の帰るの を送って行く道すがら、ますます話ははずみ、 虎渓を通り過ぎたのも気づかなかったが、虎 の吠ほえるのを聞いてやっとそれに気づき、 三人で大笑いしたという故事による。水墨画 の画題で有名。 うえふ こけた上を踏まれる 不幸なことが重なって起こること。転んだと ころをさらに踏みつけられることから。 類義泣き面に蜂。踏んだり蹴ったり。 こけつ 虎穴に入らずんば虎子を得ず 出後漢書ごかんじょ 危険を冒さなければ、大きな利益を得られな いというたとえ。虎の子を得るためには危険 な虎のすむほら穴に入らなければならないと いう意から。「虎子」は「こし」とも読み、「虎 児」とも書く。 類義危ない橋も一度は渡れ。危ない所に登 らねば熟柿は食えぬ。高い所に上がらねば 熟柿は食えぬ。枝先に行かねば熟柿は食え ぬ。 我のうち。命あっての物種。 対義君子危うきに近寄らず。危ない事は怪 英語 The more danger the more honour. 危険が大きければ大きいほど、名誉も大きくなる 用例 古 より、 虎穴に入らずんば虎児を 得ずといわれている。身を捨ててこそ、手柄 も高名もあがる。息ついてはならぬ。者ども 進めッ」と、みずから真ッ先に立って鼓舞し た。〈吉川英治◆三国志〉 こけ虚仮の一心 愚か者が、一つのことだけに心をかたむけて やり遂げようとすること。また、愚か者でも、 ただ一つのことを心にかけて一生懸命やれ ば、立派なことができるということ。「虚仮 も一心」「虚仮の一念」ともいう。∇虚仮 思慮・分別が浅いこと。愚か者。 ごけふば 後家の踏ん張り 夫に先立たれた女性が、一家を支えるために 奮闘すること。「後家の頑張り」ともいう。 ∇後家=夫に先立たれた女性。 ごけばなさ 後家花咲かす 夫に死別した女が、夫の生前より小ぎれいに なり、男たちからもてはやされること。「後 家花はなを咲かす」ともいう。 類義女やもめに花が咲く。後家の家には花 が咲き、やもめ暮らしには蛆ぅがわく。男や もめに蛆がわき、女やもめに花が咲く。 沾券に関わる 面目 めん ぼく や信用にさしさわりがあるというこ と。値打ちを下げる、体面を傷つける意で使 われる。△沽券ニ不動産の売買を証明する文 書。転じて、人間の価値や信用・面子の意。 類義沾券が下がる。 <246> 用例いくら猫でも一旦甕かめへ落ちて往生した以上は、そう安っぽく復活が出来る訳のものではない。頁パーが足らんからと云いうて、おいそれと甕から這はい上る様では猫の沾券にも関わる事だから是丈だけは御免蒙ごめんこうむることに致した。〈夏目漱石◆吾輩は猫である」下篇自序 二こう股肱の臣しん 出書経しょきよう 主君の手足となって働く、もっとも信頼でき る部下のこと。腹心。側近。懐刀 がたな 腕。∇股肱∥ももとひじ、手足の意。転じて、 主君の手足となる家臣のたとえ。 補説出典には「帝曰いわく、臣は朕ちの股肱 耳目 じも く と作なる。予われ有民ゆう みん を左右せんと欲 ほっ す。汝 なん 翼たすけよ(帝が申された。臣は私 の手となり足となり耳となり目となって働く ものだ。私はすべての人民を助けて生活を豊 かにしてやりたい。どうか私を助けてくれ) とある。 類義股掌この臣。 用例たとえば、天皇は帰順した弟猾 おとう かし の 献策を用いさせ給うばかりでなく、股肱の臣 たる椎根津彦しいねと一しよに、香具山かぐ やまに潜 行して、その土を取ると云いう大役を命じ給 うて居ちれるのである。菊池寛神武天皇 の御創業 後光より台座が高くつく 高い費用がかかることから。∇後光=仏像の 背後に添えた放射状の飾り。光背。台座=仏 像をのせる台。蓮華れん座・須弥座・岩座・ 禽獸きんじ座などがある。 一役光り台座が高く一く 物事は、目立たない基礎となる部分にお金が かかるものだというたとえ。仏像はきらびや かな光背よりも、目立たない台座を作るのに ここう糊口を凌ぐ どうにか暮らしを立てていくこと。貧しくて も粥かゆをすすってなんとか生活していけると いうこと。△糊口ニ「糊」は粥のこと。粥を すする。転じて暮らしをたてる意。 類義口を糊のりする。口に糊する。 用例村の老いた者も若き者も、または男も 女も子供さえも、共に携わった仕事である。 それも家族の糊口を凌ぐ汗多き働きである。 一人の作ではなく、一家の者たちは挙げて皆 この仕事に当る。晨あしたも夕べも、暑き折も寒 き折も、忙しい仕事に日は暮れる。柳宗悦 民芸四十年〉 虎口を脱す 危険な場所や状態から逃れることのたとえ。 ▶虎口‖恐ろしい虎の口。転じて、危険な場 所や状態のたとえ。 類義虎口を逃れる。 ここう 虎口を逃れて竜穴に入る 次々に災難に遭遇することのたとえ。虎に食 われる危険から逃げたと思ったら、今度は竜 のすむほら穴に入り込んでしまう意から。▶ 虎口‖恐ろしい虎の口。転じて、危険な場所 や状態のたとえ。 類義 一難去ってまた一難。前門の虎、後門 の狼。虎口の難。前門に虎を拒ふせぎ後門に狼 を進む。火を避けて水に陥る。 寒えたる者は裾褐を利とす 出史記しき 本当に困っている者は、ぜいたくを言わない ということ。寒さにふるえる者は、粗末な衣 服でも喜んで着るということから。∇袒褐 織り目があらく、丈たけの短い粗末な着物。 補説出典には「夫それ寒えたる者は袒褐を 利とし、而しこして饑ぅえたる者は糟糠そうを甘 しとす(飢えている者は、酒かすや米ぬかの ような粗末な食べ物でもうまいと思うもの だ」とある。 類義飢えては食を択えらばずひもじい時に まずい物なし。飢えたる者は食を為なし易やす し。 ここばかりに日は照らぬ どこにでも働く場所はあるということ。ま た、ここだけによいことがあるわけではない、 どこでも同じだということ。 補説昔、奉公人がうまくいかなくなって他 へ移るときなどに、雇い主に捨てぜりふとし て用いたもの。 類義米の飯と天道様はどこへ行っても付い て回る。江戸中の白壁は皆旦那 だん。 な 粉米も噛めば甘くなる つまらない物事でも、じっくり吟味すれば、よいところやおもしろいところが見つかるこ <247> とのたとえ。砕けた米でもよく噛みしめて食 べればおいしいという意から。▷粉米‖精米 するときに砕けた米。 類義小糠こぬも噛めば甘くなる。 心内にあれば色外に現る思い内に あれば色外に現る120 心焉に在らざれば視れども 見えず 出大学だいがく 何事にも精神を集中することが必要であるという教え。心が他のことにとらわれていると、じっと見つめても何も見えない意から。 補説出典では、このあとに「聴けども聞こえず、食らえどもその味を知らず(耳をすましても何も聞こえず、食事をしても味がわからないように、物事の正しい判断ができなくなってしまうのだ」と続く。 英語 Who so blind as he that will not see? 見ようとする気のない者くらい物の 見分けのつかない者はいない 志ある者は事竟に成る 固い決意をもって進む人は、最後には事を成 し遂げることができるということ。 類義精神一到何事か成らざらん。石にさ 矢。思う念力岩をも徹とおす。 出後漢書ごかんじょ 英語 He finds that seeks. 探し求める者 は見出す 志は木の葉に包む こころうーこころは たとえ木の葉に包むほどのささやかな物で あっても、贈る人の真心がこもっていれば、 立派な贈り物であるということ。「志は松の 葉に包む」「志は笹ささの葉に包む」ともいう。 類義誠は茝にらの葉に包め。志は髪の筋。 こころざしみ 出礼記らいき 志は満たすべからず 志を実現させるのに完璧を望んではいけな い。ほどほどで満足しておいたほうがよいと いうこと。 補説出典には「教おごりは長ずべからず(得意げな気持ちを増長させてはならない)。欲は従まいにすべからず(欲望を思いのまま満たしてはならない)。志は満たすべからず。楽しみは極むべからず(快楽は極め尽くしてはならない)とある。 心に笠着て暮らせ 高望みをせず分相応に暮らせということ。笠 をかぶると上が見えないところから。 心に連る姿 心はそのまま外見に現れる。品性の善し悪し は、外見と一致するということ。 類義心に連れて身は賤いやし。 ものは、自分の心の中にある煩悩 いう意。 対義 外面如菩薩 げめんに よぼさつ 内心如夜叉 ないしんに。 よやしゃ 自分の心を害するものは、自分の心の中にあ る迷いの心であるということ。悟りを妨げる 心の仇は心 心の鬼が身を責める 良心にとがめられて苦しむこと。「心の鬼が 己を責める」ともいう。△心の鬼∥良心の呵 責かし やく の意。 類義心の鬼が物を言う。脛すねに傷持てば笹 原ささ はら走る。 心の駒に手綱ゆるすな 常に心を引き締めよという戒め。逸はやり狂う 馬のように欲望に動かされやすい心を、油断 することなく制御せよという意。古歌「引か れなば悪あしき道にも入りぬべし」の下句。 △心の駒Ⅱ煩悩を奔馬にたとえたもの。 心の欲する所に従えども矩を踰えず 七十にして心の欲する所に従えど も矩を踰えず 292 心は面の如し人心の同じからざる は其の面の如し332 心は小ならんことを欲し 志は大ならんことを欲す 出淮南子えなんじ 心は緻密ですみずみにまで行きとどくことが 望ましく、一方、志は高く雄大でありたいも のだということ。 <248> 類義 胆大心小。 心は二つ身は一つ あれもこれもと心は一つのことを望むが、体 は一つで思うようにはいかないということ。 「心二つに身は一つ」ともいう。 類義二兎にとを追う者は一兎をも得ず。東家 とうに食して西家せいに息こわん。 こころひろたいゆたか 心広く体胖なり 出大学だいがく 心が広くのびやかで、体がすこやかなこと。 心がのびやかで広く、体もゆったりとして落 ちついていること。もとは徳が身についてい る人の心身のあり方をいう語。「心広く体胖 おおいなり」とも読む。 心程の世を経る 一心程の世を絶る 人は心の持ち方ひとつで、それにふさわしい 一生を送るということ。 類義心柄の世を経る。 心持ちより搗いた餅思し召しより 米の飯119 心安いは不和の基 の毒だと思いながら、相手のためを考えて、 しいて非情に振る舞うこと。∇鬼∥無慈悲な 人のたとえ。 あまり親しすぎると遠慮がなくなり、かえっ て仲たがいのもとになるということ。 用例それでも、ときどき、なんだか、ふび んに伺うことがある。お医者は、その都度、 心を鬼にして、奥さまもうすこしのご辛棒で すよ、と言外に意味をふくめて叱咤 だそうである。〈太宰治◆満願〉 類義 思う仲には垣をせよ。 親しき仲に礼儀 あり。 親しき仲に垣をせよ。 心を以て心に伝う♩以心伝心45 乞食に朱椀 心を鬼にする 身分不相応な物を持つことのたとえ。乞食が 立派な朱塗りの椀を持っているということか ら。 こころおに 同情しながら、あえて冷淡な態度を取る。気 類義乞食に赤椀乞食に膳椀 乞食に箔 椀 はく わん 持たせる。駄賃馬 だちん うま に唐鞍 から くら こじきびんぼう 乞食に貧乏なし 乞食にまで落ちぶれれば、もうそれ以上貧乏 になることはないということ。 英語 A beggar can never be bankrupt. 乞食に破産の心配はない 乞食にも三つの理屈 言い分のない者はいないということ。落ちぶ れて乞食になったのも、いくつかの理屈があ るのだということから。 乞食にも門出 何事にもそれ相応の儀式や作法があるという たとえ。旅に出るときや、新しいことをする とき、だれでも前途を祈って祝うものだということ。乞食でさえ旅立つときには、それな りの祝い事をするという意から。 類義盗人ぬすぴとにも三分の理。 類義乞食にも袋祝い。乞食も身祝い。紙子 かみ にも襟祝 えり いわ 山伏 やま ぶし にも門出。 乞食の朝謡 乞食は、ふつうの人より気楽だということ。 忙しい朝に、乞食が仕事もせずに謡をうたう 意から。 類義乞食の朝歌。朝謡は歌わぬもの。朝謡 は貧乏の相。 乞食の大連れ 競合する者が多くて、あまりもうけにならないことのたとえ。乞食が大勢で物もらいをすれば、一人当たりの分け前が少なくなることから。また、つまらないものでも多数集まると壮観だが、個々で見ると取るに足りないということ。「乞食も大勢すれば体でいがよい」ともいう。 乞食の系図話 言ってもどうにもならない愚痴ぐちをこぼした り、見栄を張ったりすることのたとえ。乞食 が、落ちぶれる以前の自分の家系の自慢話を することから。 類義乞食の由緒立て。乞食の世にあり話。 こじきこさんねんみっ 乞食の子も三年たてば三つになる ねんみっ 年たてば三つになる280 <249> 乞食の断食 やむを得ずしていることを、ことさらにとり つくろうことのたとえ。食べる物に事欠く乞 食が断食していると言い張ることから。「乞 食の断食、悪女の賢者振り」と続けてもいう。 類義餓鬼がきの断食。 こじき乞食も場所ばしょ 何事をするにも、場所を選ぶことが大切であ るというたとえ。乞食をする場所によって稼 ぎが違うことから。 こじきみっかわす 乞食を三日すれば忘れられぬ 悪い習慣が身につくと、抜け出すのが容易で ないというたとえ。乞食の暮らしは働かなく てもすむので気楽だから、そのような生活を 三日も経験すると抜け出せなくなるというこ とから。「乞食を三日すればやめられぬ」「乞 食を三日すれば三年忘れぬ」ともいう。 類義三年乞食すれば生涯忘られぬ。 こしたんたん虎視眈眈 機会をねらって形勢をうかがっているさま。 虎とらが獲物をねらって、すきがあれば飛びか かろうとしているようすの意から。△眈眈‖ 見おろすさま。ねらい見るさま。 用例よく列車などで、向い合せに坐すった 女性と「ひょんな事」から恋愛関係におちいった など、ばからしい話を聞くが、「ひょんな事」 も「ふとした事」もありやしない。はじめか ら、そのつもりで両方が虎視眈々、何か「きっ 出易経えききよう こじきのーごじゅう かけ」を作ろうとしてあがきもがいた揚句 の果はての、ぎごちないぶざまな小細工に違い ないのだ。〈太宰治◆チャンス〉 出孟子もうし 五十步百步 差はあるが、本質的には同じであること。似 たりよったりであること。 故事)中国、戦国時代に、梁りよの恵王が、「自分は、凶作の地の人民を豊作の地に移すなど、人民に対していつも心を配っている。これほど他国よりも善政を行っているのに、人民は自分を慕って各地から集まってこないのはどうしてだろう」と孟子もうに尋ねたとき、孟子は戦争をたとえにして「鎧よろ、兜かぶや武器を捨てて逃げ出す者がいて、ある者は五十歩退却し、ある者は百歩退却して止まったとします。このとき五十歩逃げた者が百歩逃げた者を、自分よりも臆病おくびだと言って笑ったらどうでしょうか」と言った。王は「それは間違いだ。五十歩しか逃げなかったからといって、逃げ出したことには変わりがない」と言うと、孟子は「王がその道理をおわかりであれば、人民の数が隣国よりも多くなることを望みなどしないことです。(人民が苦しむのを凶作のせいにするようでは、他国の政治と大差はありません)と答えたという故事による。 類義五十歩をもって百歩を笑う。目糞 糞を笑う。団栗 どん の背競くらべ。一寸法師の背 競べ。大同小異。 英語 As good twenty as nineteen. [I] + も十九も似たようなもの A miss is as good as a mile.小さな失敗も大きな失敗 も、失敗であることに変わりはない」 こじゅうとひとりおにせんびきむ 小姑一人は鬼千匹に向かう 嫁の身にとって小姑は、鬼千匹にあたるほど 厄介やっていやなものであるというたとえ。 「小姑一人は鬼千匹に当たる」「小姑は鬼千匹」 ともいう。△小姑‖配偶者の兄弟姉妹。 類義嫁に小姑鬼千匹。姉姑 あねじ ゆうと は鬼千匹。 小姑は狐千匹。 ごじゅう 五十にして四十九年の非を 知る 出淮南子えなんじ 人生は失敗の連続で、後悔することが多いと いうこと。五十歳になって、今までの四十九 年間の生活を振り返ると、誤りだらけであっ たと気づくという意から。 補説出典には「遽伯玉 きよはく ぎよく 年五十、而しかし て四十九年の非を知る」とある。 類義五十年暮らして四十九年の非を知る。 ごじゅうてんめいし 五十にして天命を知る 出論語 五十歳になって、天が与えた自分の使命がわ かるようになるということ。▷天命‖天に よって定められた人の使命。 補説 七十四歳まで生きた孔子の晩年の境 地。このことから、五十歳を「知命」ともい う。↓志学 しが 283 ごじゅうのとうした 五重塔も下から組む 物事は基礎から順々に積み上げてこそ、完成 <250> ごしょうーこじんの するものであるということのたとえ。見上げ るような高い塔も、土台から積み重ねていか なければ完成しないことから。 類義千里の行こうも足下そっより始まる。 後生大事 物を非常に大切にすること。もとは仏教の語 で、この世でよい行いをして、あの世での安 楽を願うことをいった。∇後生=来世 仏 教で、死後生まれ変わる世界。 味は持たない。 注意「後生が大事」という場合、前者の意 類義 後生が大事。後世を大事。 対義 後生より今生 こんじ よう が大事。 孤掌鳴らし難し 何事をなすにも、一人だけでは、どうしよう もないこと。片方の掌 ての ひら だけでは手を打ち鳴 らすことはできないという意から。「孤掌鳴 り難し」とも読む。∇孤掌=一つの掌、片方 の掌。 出韓非子かんびし 類義 孤掌は鳴りがたし。独掌みだりに鳴ら ず。 片手で錐きりは揉もまれぬ。単糸線を成さ ず。 二じょううおひさりんちゅうたきぎう 湖上に魚を鬻がず♩林中に薪を売ら こじょううおひさ ず、湖上に魚を鬻がず690 ごしようねが 後生願いの六性悪 表面は信心深そうにしていて、内心は悪意が あることのたとえ。来世の極楽往生を願う人 は、善行を積むべきなのに、実際には心がけ の悪い者がいるという意から。「六性悪」は 「ろくしょうわる」とも読む。∇後生∥来世。 仏教で、死後生まれ変わる世界。六性∥喜・ 怒・哀・楽・愛・悪の六情。 類義後生願いの悪根性。 後生は徳の余り 現世で徳を積むと、おのずと来世の極楽往生 も得られるということ。また、来世の安楽を 願うのも、生活に余裕があってこそできると いうこと。▷後生∥仏教で、死後生まれ変わ る世界。 類義 信心は徳の余り。後生願いも富の余り。 胡椒丸呑み 物事は、よく吟味しなければ真偽はわからないというたとえ。胡椒を丸呑みにしても味はわからず、かみくだいて初めて辛味がわかるという意から。「胡椒の丸呑み」ともいう。 類義 甘草 かん ぞう の丸呑み。 ごしょう こんじょう だいじ 後生より今生が大事 先のことより、現在のことが大事であるということ。おぼつかない来世のことを考えるより、今をいかに生きるかが重要だという意。▶後生∥来世。仏教で、死後生まれ変わる世界。今生∥現世。 類義明日の百より今日の五十 す。援軍もなく孤立した城が、沈みゆく夕日 を浴びている情景を詠じた詩句から。 こじようらくじっ 孤城落日 出王維ー詩 勢いが衰え、助けもなく、非常に心細いよう 補説詩の題名は『韋評事』を送る』。 こしょくながい 小食は長生きのしるし 大食いを慎み、節制すれば長生きできるということ。暴飲暴食を戒めることば。「小食いは長生きのしるし」ともいう。 類義 大食短命。大食は病のもと。腹八分 目。腹八分に医者いらず。 御所内裏の事も陰では言う どんなことでも陰では噂 うわ になるというこ と。表向きは口にすることもはばかられる宮 中のことも、陰ではとやかく口にされるということから。 △御所・内裏ともに天皇の住む御殿。 類義陰では殿の事も言う。陰は御門みかの 上。陰では王様の事も言う。 ごしょおな この御所の御成りはすわすわ半時 実現しそうでなかなか実現しないことのたと え。身分の高い人のお成りは、いまおいでに なると言われてから一時間はかかるというこ とから。∇御所∥宮中。御成り∥高貴の人の 外出、または到着の意の尊敬語。すわ∥突然 のできごとに驚いて発する声。さあ。半時∥ 一時 いっ とき の半分。今の一時間。 こじん 古人の糟粕 そうはく ことばや書物からは、聖人や賢人の真髄は伝 えられないということのたとえ。ほんとうの 出荘子そうじ <251> 精神や真髄はことばで伝えられるものではないので、ことばや書物は残りかすにすぎないという意から。△糟粕∥酒のしぼりかす。 類義糟粕を嘗なめる。 (故事)中国、斉の国の桓公 かんが読書をしてい ると、車輪作りをしていた男が、「殿様がお 読みになっているのは、どんな本ですか」と 尋ねた。桓公は「聖人のことばが書かれた本 だ」と答えた。すると男がまた「その聖人は 今生きておられますか」と尋ねたので「いや、 もう亡くなられた人だ」と答えると「それで は殿様がお読みになっているのは、昔の人が 残したかすのようなものですね」と言ったと いう故事による。 梧前灯下 書斎で読書するさま。桐の机の前、灯の下 の意から。△梧前∥桐の机の前。手紙の宛名 あて の脇付 わき づけ の意にも用いる。 注意「灯下」を「灯火」と書き誤らない。 用例人のお蔭かげで自己が分るくらいなら、 自分の代理に牛肉を喰くわして、堅いか柔か いか判断の出来る訳だ。朝あしたに法を聴き、タ ゆうに道を聴き、梧前灯下に書巻を手にするの は皆この自証じしを挑撥ちょうはつするの方便ほう に過ぎぬ。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 ごそごぎ 鼪鼠五技にして窮す 五臓六腑に沁みわたる 腹の底まで沁みとおること。△五臓=漢方で いう心臓・腎臓・肺臓・肝臓・脾臓ひぞの五つ の内臓。六腑Ⅱ大腸・小腸・胃・胆たん・膀胱 ぼう こう・三焦 さんし よう の六つのはらわた。 ごぜんとーこちょう 出荀子じゅんし 器用で技能は多いが、どれも中途半端な能力 で役に立たないこと。むささびは、空中を飛 べるが屋根には届かず、木には登るが頂上ま では届かず、泳げるが谷川を渡りきれず、穴 は掘れるが身を隠すほど深く掘れず、走れる が人に先んじることはできない。どれも中途 半端なため、結局敵に追いつめられてしまう 意から。∇颳鼠=むささび。五技=飛ぶ・木 に登る・泳ぐ・掘る・走るの五つの技。 類義 鼯鼠の技。 鼯鼠五能一技を成さず。 こぞ 去年の暦 時期が過ぎて役に立たないもののたとえ。去 年の暦は今年は使い物にならないことから。 こぞかつすぐ 子宝脛が細る 子は宝であるが、育てるのに親は身が細るほ どの苦労をするというたとえ。∇脛が細る∥ 身が細る、苦労する。 持つ河豚汁を食べることから。 類義子は三界の首枷くび。 こたつすいれん炬燵水練 実際には役に立たない研究や議論のたとえ。 炬燵にあたりながら泳ぎの練習をしても、上 達するわけがないことから。 類義 炬燵兵法 びよう○ ほう 畳の上の水練。 炬燵で河豚汁 こたつふぐじる やることが矛盾していることのたとえ。炬燵 に当たって体をいたわりながら、一方で毒を 炬燵弁慶こたつべんけい 家の中では威張っているが、外に出ると意気 地のない人のたとえ。また、冬に老人が炬燵 に入ったきりになってしまうこと。▷弁慶‖ 源義経 みなもとの よしつね の家来で伝説的な豪傑僧。怪力 無双といわれた。 徳 こちゅう 壺中の天 出後漢書ごかんじょ 仙境。俗世を離れた別天地のこと。また、酒 を飲んで俗世間のことを忘れる楽しみ。 故事昔、壺公うという薬屋の老人が、一日 の商いを終え、店先の壺の中に飛び込むのを 見た費長房ひちょうぼうは、老人に頼み込み壺の中に 連れて行ってもらうと、そこには美しい宮殿 があり、酒や肴さかもいっぱいあったので、と もに飲んで楽しんだという故事による。 類義壺中の仙。壺中の天地。 出荘子そうじ こちょう胡蝶の夢 万物一体の境地。我と物とが一体の境。また、夢と現実とがさだかでないたとえ。また、はかない人生のたとえとしても使われる。「花周の夢」ともいう。△胡蝶‖蝶々の異称。故事中国、戦国時代の思想家荘周(荘子は尊称)が、胡蝶になって遊んだ夢を見て、いったい自分は、夢の中で蝶となったのか、蝶が夢の中で自分になったのか、自分と蝶との見定めがつかなくなったという故事から。 <252> こっきふーことじに 類義 荘周の夢。 南柯 なん の夢。 克己復礼 私情や私欲を抑えて、社会の規範や礼儀にか なった行いをすること。▷克己‖自分の欲望 や私情に打ち勝つこと。復礼‖礼の道に立ち 返ること。 出 ろんご 論語 補説出典には顔淵 仁を問う、子曰 いわく、 己に克かちて礼に復かえるを仁と為なす」とある。 孔子の語はまた「己を克せめて礼に復る」と もいう。 こ 凝っては思案に能わず 静な判断ができなくなるということ。 あまり熱中しすぎるとゆとりがなくなり、冷 類義凝っては思案に余る。餓鬼の目に水 見えず。 死しては則ち相哀かなしむ。此これをこれ骨肉 の親というとある。 対義凝れば妙あり。 骨肉相食む 親子や兄弟など、肉親同士が激しく争うこと。 △骨肉=親子や兄弟など、近い血縁関係にあ る者。「骨肉相争う」ともいう。 類義骨肉の争い。兄弟けい牆かきに闘せめぐ。 用例見よ、父は子を憎み、子は父に背いて、 骨肉相食むの畜生道は眼まのあたりじゃ。岡 本綺堂◆小坂部姫 ご か もの しょうぎ ま 一 暮で勝つ者は将棋で負ける 親子・兄弟など、血のつながりの深いものの こと。また、親族の間の愛情の深いこと。 出呂氏春秋 骨肉の親 こつにくしん 補説 出典には 生きては則 すな わ ち相歓 よろ こ び、 木っ端を拾うて材木を流す 小事にかかわっていて、大事に失敗すること のたとえ。▶木っ端‖木の切れはし。 類義 小鳥を捕らえて大鳥を逃がす。雀 すず 脅 おど して鶴つる 失う。 コップの中の嵐なかあらし 大局には影響のない、局地的な騒動のたとえ。 補説 英語のことわざ A storm in a teacup. の訳語。 一方で得るところがあれば、他方で失うところがあるということ。また、ある一面で長所を持つ者は、他の面で短所があるということ。 ここ ほととぎす 子で子にならゆます どんなに大切に育てても、養子は結局は自分 の子でないということ。ほととぎすは、うぐ いすの巣の中に卵を産む習性があるが、そこ で育った子も結局はほととぎすであるという ことから。「時鳥」は「杜鵑」とも書く。 類義鶯 いす のかいごの中の時鳥。子で子にあ らぬ時鳥。杜鵑 ぎす ほとと は鶯の養い子。 のことで取り返せという教え。 こてつふなてつぷきゅう 涸轍の鮒轍鮒の急443 ごましょうぎ 二 ま しようきか 暮で負けたら将棋で勝て 一つのことで失敗しても、くよくよせずに別 ふだんは信仰心のない者も、危急の際は仏の 足下にひれ伏して助けを求めるものであると いうこと。 事ある時は仏の足を戴く 類義急なれば則ち仏脚 を抱く。苦しい 時の神頼み。叶かなわぬときの神叩だたき。 事が延びれば尾鰭が付く 物事は、長引くと面倒なことが起きてくると いうたとえ。∇尾鰭=おまけのこと。 ことごとしょしんすなわしょ 尽く書を信ずれば則ち書なし 出孟子もうし きに如かず どんな書物も完全ではない、批判の目が必要 であることのたとえ。書物に書かれているこ とを全部丸呑のみするなら、かえって読まな いほうがよいという意から。 補説原義では「書」とは『書経 したが、現在では一般の書物の意味で用いられる。 琴柱に膠す ことじにかわ 出史記しき 規則にこだわって融通がきかないこと、臨機 応変に対応できないことのたとえ。琴柱を膠 で固定すると調律ができないことから。マ琴 柱=弦げんを支えるため琴の胴に立て、位置を 変えて調律する道具。膠=魚などの骨や皮を 石灰水に浸ひたしてから煮て濃縮し、冷やして 固めたもの。接着剤として用いる。 <253> 補説 淮南子 えな んじ に 柱 こと に 膠して 琴を 調 うるがごとし」とある。 故事)中国、戦国時代、趙王 ちょう が、名将廉 頗 れん ばに替えて趙括 ちょう かつ を用いようとしたとき、 藺相如 りんしょ うじょ が、「王が、評判だけを聞いて趙 括を使うのは、「柱に膠して瑟しっを鼓するが 若ごとし(琴柱を動かないように固定して琴を 弾くようなものです)。趙括は彼の父が書い たものを読んでいるだけで、変化に対応する ことなどできません」と言ったという故事に よる。 言伝は荷にならぬ 伝言を取り次ぐのはたやすいことだというこ と。伝言は荷物になるわけでもなく、たいし て負担にならないことから。言伝を頼んだり 頼まれたりするときなどに言う。 こと。おしゃべりを戒めていうことば。 類義事は多けれど品は少なし。雄弁は銀、 沈黙は金。 事なきを得る 危ういところで大事に至らずにすむ。懸念さ れた事故や災害にいたらず無事にすむこと。 ∇事Ⅱここでは大事、事件の意。 ことびんげんつつし 事に敏にして言に慎む出論語 ことばより実行を重んじること。実行すべき ことはすみやかに実行し、ことばは控えめに するということ。 琴の緒絶ゆ おた はくが こと やぶ 伯牙、 琴を破る 519 言葉多き者は品少なし 言葉に物はいらぬ 口数の多い者は、軽々しく品位がないという ござますーー 口先だけの親切、お世辞を非難していうこと ば。言うだけなら、何を言っても費用はかか らないということから。 類義言葉に銭金いらず。言葉にや銭金はか からん。言葉に税金はかからぬ。口は重宝。 口に物はいらぬ。 言葉の下に骨を消す 出史記 讒言 ざん げん の恐るべきことのたとえ。他人の中傷 や讒言のために命を失うということから。 言葉 ここでは他人の中傷や讒言のこと。 補説 出典には「衆口金を鑠とかし、積毀 世っ き 骨を鎖けす(多くの人のことばは金属のように 硬い心の人さえも動かし、人々の毀そしりも重 なると硬い骨をもとかす)とある。 言葉は国の手形 ことばのなまりを聞けば、その人の出身地が わかるということ。どこへ行っても、ことば で里が知れるという意。「訛なまりは国の手形」 ともいう。▶国∥出身地、故郷。手形∥出身 地を証明するもの。 言葉は心の使い 心の中で思っていることは、自然とことばに なって表れるということ。 類義 口は心の門 もん。 思う事は口に出る。言 葉は身の文あや。 心につる姿。 東は其の文 対義口は口、心は心。口と腹とは砥石 といの 裏表。口には関所がない。口と心は裏表。口 と腹とは違う。 英語 Of the abundance of the heart the mouth speaks. 心からあふれることを口が 語るものである 言葉は身の文あや ことばは、その人の人柄や品位を表すという こと。「言は身の文」ともいう。▷文‖綾あや と同じで、物の表面に現れたさまざまな形や 模様。 英語 A fol cannot speak unlike himself. 馬鹿は馬鹿でないような話し方では話せない ことみつもっなごせつ 事は密を以て成り、語は泄を もっやぶ 以て敗る 出韓非子 物事は秘密のうちに運べば成功し、相談事は 外部にもれることで失敗するということ。△ 泄にもれる。 類義幾事密ならざれば則 ち害成る。事 の漏るるは禍 わざ の媒 なか だち 五斗米のために腰を折る ごとべい こしお 出宋書そうじょ わずかな俸禄 ほう ろく 給料)を得るために人の機嫌 をとることのたとえ。「五斗米に腰を折る」 ともいう。△五斗米年に五斗(現在の約五 <254> こどもかーこにおう 升の扶持米 ふち。 まい わずかな俸給。 故事東晋 とう の詩人陶潜 とうが、彭沢 ほう たく の県令 に任じられたとき、巡察の上官を迎えるため に礼服を着るよう属官が勧めた。陶潜は、「わ たしは五斗米のために腰を折ってへつらうこ となどできない」といって、さっさと辞任し て郷里に帰ったという故事による。このと き、陶潜は有名な詩『帰去来辞 ききよら いのじ を作っ た。 子供川端火の用心 子供を危険なところにおくなということ。子 供には、水遊びや火遊びなど、危ない遊びは させないように注意せよという戒め。 子供叱るな来た道じゃ、老人 笑うな行く道じゃ 大人が介在することは子供のためにならないということ。 子供のいたずらはいちいち叱ってはいけない、老人をばかにしてはいけないということ。自分もいたずら盛りの子供の時期を過ごしてきたし、これから年を取っていずれ老人になるのだから、ということから。 子供好きは子供が知る 子供が好きでかわいがる人は、自然に子供に 伝わってなつかれるものだということ。 こどもけんかおやかま 子供の喧嘩親構わず 子供同士の喧嘩に親たちが口出しするのはよ くないということ。子供同士のいさかいはよ くあることで、成長していく過程でもある。 子供の喧嘩に親が出る こどもけんかおやで つまらないことによけいな口を出すこと、お となげないことのたとえ。子供同士の他愛の ない喧嘩に親が干渉することから。 知らず。 対義子供の喧嘩親構わず。童 諍 いさ い大人 子供は教え殺せ、馬は飼い殺 せ 子供は徹底的に教育し、馬には十分すぎるほ ど飼料を与えるのが、うまく育てるこつだと いうこと。また、子供の教育と馬の調教は徹 底的にせよという意。「馬は飼い殺せ、子供 は教え殺せ」ともいう。 類義 馬は飼い殺せ、乗り殺せ。 子供は親の背中を見て育つ 子供は親をまねて成長するものだというこ と。子供は周囲の人や物に触れたりまねたり しながら育っていくもので、とりわけ一番身 近な存在である親の言動は大きな影響を持つ ということ。「子は親の背中を見て育つ」「親 の背中を見て子は育つ」ともいう。 子供は風の子こ 子供は元気なので、冷たい風の中でも平気で 戸外で遊ぶということ。また、子供は寒さに 強いのだから、寒い日でも戸外に出るのがよ いという意。「童は風の子」ともいい、「子供 は風の子、大人は火の子」と続けてもいう。 ことりあみつるいわしあみくじらと 小鳥網で鶴をせしめる鰯網で鯨捕 る る76 小鳥を捕らえて大鳥を逃がす 小事にばかりかかわって大事を仕損じること のたとえ。小鳥をつかまえているうちに、大 鳥に逃げられるという意から。 類義木っ端を拾うて材木を流す。雀 して鶴つる失う。 子無しに子を呉れるな 子無しに子を呉れるナ 自分の子を持った経験のない人は、子を育て るための本当の愛情を知らないから、子供を 養子にやってはいけないということ。 類義 子持たずに子見せるな。馬持たずに馬 貸すな。 こなべじきあつ小鍋は直に熱くなる 器量の小さい者は、すぐに限界に達してしま うということ。また、ちょっとした人物には すぐなれるということ。小さな鍋は火にかけ るとすぐに熱くなることから。 類義小さな湯沸かしは直すぐ熱くなる。 子に黄金満籤を遺すは一経に 如かず 出漢書 子供には財産を残すよりは、高い教養を身に <255> つけさせるべきだということ。大きな籠いっ ぱいの黄金を子に遺すよりも、一冊の経書を 残して与えるほうがよいということから。 籠=竹製の大きな籠かご。一経=一冊の儒教 じゅき よう の経典。 二 寸 たから 子に過ぎたる宝なし どんな宝も子供には及ばない、子供は最上の 宝であるということ。 類義子に勝る宝なし。千の倉より子は宝。 金かね 宝より子宝。 子にすることを親にせよ わが子に対する慈愛と同じような心をもっ て、親につくせということ。義理の親子関係 の場合にいうことが多い。 類義子ほどに親を思え。 子に引かる親心 わが子かわいさのあまり、冷静な判断ができ なかったり、思い切った行動ができなかった りすること。子への愛情のために、親の心は 鈍るという意。「子に引かさるる親心」とも いう。 類義子に迷う親心。子故ゆえの闇。 小糠三合あるならば入り婿す な よくよくのことがない限り、養子入り婿すべきではないということ。わずかでも蓄えがあったら、婿養子には行かずに一家を構える こにすぎーこはある 用例昔から小糠三合もったら養子に行くな というくらいだから、御覧のとおり何一つな いうちへ来てくれとは決して云いわない。た だ、生うまれた子に後をつがせて貰もらえれば満 足だ。〈宮本百合子・聟〉 べきだという意。「小糠三合あったら婿に行 くな」ともいう。▽小糠=精米するときにで きる粉。入り婿に「来ぬか」と掛けている。 類義来ぬか来ぬかと三度言われても婿と養 子には行くな。粟あわ三合あれば婿に行くな。 小糠三合蒔まく所があれば養子に行くな。 おや この親にしてこの子あり 子に対する親の影響の大きさをいう言葉。親 が立派ならその子も立派になり、悪い親に育 てられれば子も悪く育つということ。 類義この父にしてこの子あり。子は親に似 る。子は親を映す鏡。 子の心親知らず 親はわが子の本心を案外わからないものだと いうこと。いつまでも幼いと思っていると、 成長している子どもの気持ちを理解できない ということ。 補説「親の心子知らず」ということわざを 切り返したもの。 対義親の心子知らず。 こ ちちあ ここここあ 此の父有りて斯に此の子有り 出孔叢子 賢明な父親からは立派な子が育つ。子どもが すぐれているのは父親が立派だからであると いうこと。また、子は親の資質を受け継ぐも のだということ。 故事)中国の戦国時代、斉の尹文子 いんぶ んし が孔 子の孫の子思しに「自分の子が愚かなのは妻 のせいだから追い出すのだ」と言った。そこ で子思が「此の父有りて斯に此の子有るは人 道の常なり(立派な父から立派な子ができる のは道理だが、立派な父に愚かな子ができる のも天道の自然で、妻のせいではない」と 言って離別を思いとどまらせたという故事に よる。 類義この親にしてこの子あり。此の母に非 あらずんば此の子を生む能あたわず。 対義鳶とびが鷹たかを生む。 英語 Like father, like son. 父が父なら息 子も息子 この人にして斯の疾あり 出論語ろんご 立派な人が悪質の病気にかかること。転じ て、立派な人なのに色欲など身の修まらない 欠点があることのたとえ。 補説孔子が、愛する弟子の冉耕 ぜん 字 あざ は 伯牛 はくぎ ゆう が死病に冒されてしまったのを嘆き 悲しんだことばから。 こあなげななげ 子は有るも嘆き、無きも嘆き 親にとって、子はあれば心配事の種になるし、 なければ子のない寂しさを嘆く種になるということ。 <256> こはいっーごふうじ 子は一世、夫婦は二世、主 じゅうさんぜたにんごせ 従は三世、他人は五世 他人との関係を大切にせよという教え。親子 の関係はこの世限りであり、夫婦の関係はこ の世からあの世まで続く。主従の関係は過 去・現在・未来と三世まで続く。他人との関 係はそれよりさらに深いものであるというこ と。 補説人は前世・現世・後世と三つの世界に わたって生きるとする考え方で、親子・夫婦 より主従を重視した封建社会の観念からさら に発展し、ふつうは縁がないと思われる他人 は、それ以上五世にもわたる深い縁があるの だという仏教の教えに立つもの。 類義 親は一世の睦むぴ。親子は一世、師は 三世。師は三世の契り。師弟は三世。 子は生むも心までは生まぬ 子の体は親に似るかもしれないが、その心が 親に似ないのはしかたがないということ。子 の性格の悪いのを嘆く親の愚痴ぐち。 こおやうつかがみ 子は親を映す鏡 こかすがい子は鋭 子供の振る舞いを見れば、どんな親かがわか るということ。また、子供の考え方や行動に は親の価値観が反映されるということ。 類義子は親に似る。 子は夫婦の仲をつなぎ止める役割をするということ。子に対する愛情のおかげで、仲が悪くなった夫婦の縁がつながり保たれること。「子は夫婦の鋤」ともいう。△鋤=木材と木材とをつなぐコの字型の大釘。 英語 As the old cock crows, so crows the young.「親鶏おやが時を告げるのと同じように、若鶏も時を告げる」 琥珀は腐芥を取らず こはくふかいと 出三国志・注 どのようなときにも身の潔白を保ち、信念を 曲げないことのたとえ。琥珀は塵ちりを吸いつ ける性質があるが、汚けがれたごみまでは吸い つけないという意から。∇琥珀∥地質時代の 樹脂類が地中に埋没して化石となったもの。 美玉。宝石。静電気を起こしやすく、物を吸 いつける。腐芥∥腐ったごみ。 補説出典には虎珀は腐芥を取らず、磁石 は曲鍼 きよく しん を受けず磁石は針を引きつける が、曲がった針は引きつけない」とある。 類義琥珀塵を吸うも穢れを吸わず、磁石 針を吸うも曲を吸わず。 子は三界の首枷 親にとって子は一生気にかかる存在であるこ とのたとえ。「子は三界の首っ枷」「親子は三 界の首枷」ともいう。いろはがるた(江戸)の 一。△三界‖過去・現在・未来の三世。首枷 ‖罪人の首にはめて自由を束縛する刑具。 類義 子宝脛 が細る。 対義 千の倉より子は宝。子に過ぎたる宝な し。 こばほくふうよ えつちようなんし 胡馬北風に依り、越鳥南枝 す に巣くう 出文選 故郷をなつかしく思い慕うこと。望郷の念に かられることのたとえ。中国北方の胡この国 から来た馬は、北風が吹くと故郷を思い出し ていななき、南方の越えの国の鳥は、北国で も南向きの枝に巣をかけるという意から。 類義鶡鳥 きち よう 旧林を恋い池魚故淵 こえ を思う。 故郷忘 ぼう じ難し。 こばん小判で面張る 金の力で無理やり相手を服従させたり手なず けたりすること。「金で面張る」ともいう。 類義小判ずくめ。 こひようあにけんようあざむう 虎豹豈犬羊の欺きを受けん や 出故事成語考 こじせいごこう 徳のある者は小人にあなどられることはない ということ。虎や豹は犬や羊などにはだまさ れないという意から。 三 尨豹の駒は食牛の気あり 食牛の気 324 ごふうじゅうう五風十雨 出論衡ろんこう 世の中が平穏無事であることのたとえ。五日 <257> ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降るという 意から。気候が順調で、農作に好都合とされ る。 類義 十日の雨土くれを動かさず、五日の風 枝を鳴らさず。吹く風枝を鳴らさず。五日 一風 十日 一雨 いち。 ぷう 用例今年は雨も風も、五風十雨の譬 たと え の通 りに順調だった。そうして溜池には水は豊富 であった。〈島木健作◆生活の探求〉 鼓腹撃壌 出十八史略 太平の世の形容。天下泰平を喜び楽しむこと。善政が行われ、人々が平和な生活を送るさま。満腹で腹つづみを打ち、足で地面を叩たたいて拍子をとる意から。△鼓腹‖腹つづみを打つこと。撃壌‖地面を踏みならして拍子をとること。 故事)中国古代伝説上の聖天子である堯 が、世の中が治まっているかを確かめるため、 ひそかに市井に出たとき、老人が腹つづみを 打ち、地面を叩いてリズムをとりながら、「日 出でて作し、日入りて息いこう。井を鑿うがちて (井戸を掘って)飲み、田を畊たがして食らう。 帝の力何ぞ我に有らんや(帝のおかげなどこ うむっていない)と、太平の世を謳歌 る歌を歌っていたという故事から。 類義一撃襄の歌。 わせたもの。 ごふくごそうばい 呉服五層倍 暴利を得ていることのたとえ。呉服の売値は 原価の何倍もあり、高く売っているという意。 「五層倍」は「呉服」の「ご」と、語呂を合 類義 薬九層倍 くすりく。 そうばい 百姓百層倍。花八層 倍。坊主丸儲け。 こふくげーこぼすか 小袋と小娘は思ったよりいり が多い 予想外の金がかかることのたとえ。小袋は見 かけは小さくても案外たくさん物が入るよう に、女の子を育てるには意外に費用が多くか かるものだという意から。「いりが多い」は 「入る」と「要る」を掛けている。 類義 娘の子と小袋は思うたよりいりが強 い。 小舟の宵ごしらえ 手まわしがよすぎること。大げさすぎること のたとえ。すぐに船出のできる小さな舟が、 前の晩から船出の用意をするという意から。 類義暮れぬ先の提灯ちょう。 なめくじの宵か ら出し。塩辛を食おうとて水を飲む。 対義火事あとの火の用心。葬礼帰りの医者 話。 こぶうえは癌の上の腫れ物もの 災難の上に、災難が重なることのたとえ。 類義泣き面に蜂。病み足に腫れ足。痛む上 に塩を塗る。転ころべば糞ふんの上。痛み足に腫 れ足。 こぼうずひとりてんぐはちにん 小坊主一人に天狗八人 太刀打ちできないことのたとえ。たった一人 の弱い者に、強い者が大勢で立ち向かうこと。 「小坊主に天狗八人」ともいう。 枯木栄を発す 出曹植七啓 衰えたものや逆境にあった者が再び世に出 て、華々しく活躍すること。起死回生をいう。 枯れた木に花が咲く意から。 類義枯れ木に花。枯木死灰花開く。死灰復 また 燃ゆ。 枯木死灰花開く 枯木死月才月 出三国志 社会的に不遇であった人や老人が、再び世間 の脚光を浴びるようになること。また、あり そうもないことや思いもよらない幸福に遭う ことのたとえ。枯れた木に花が咲く、冷たく なった灰から煙が立ちのぼる意から。 補説出典には「烟えんを寒灰の上に起こし、 華を已枯いこの木に生ぜしむ」とある。「枯木 死灰(槁木死灰)」の語は『荘子」』に見 え、煩悩や妄念などがなく無心のたとえ。ま た、情熱や活気のないたとえ。 類義 枯れ木に花開く。 枯れ木に花。 枯木栄 を発す。 こぼす 古墓犂かれて田と為り、松柏 くだ たきぎな 擺かれて薪と為る 出文選 世の中の変わり方がはげしいことのたとえ。 古い墓は開墾されて農地になり、植えてあっ た松や柏かしなどは切り倒されて薪にされてし まうという意から。 補説 詩の題名は『古詩十九首』。 <258> こほどよーこむすめ 類義 桑田 そう でん 変じて滄海 そう かい となる。 子ほど喜ばせにくいものはな く、親ほど喜ばせやすいもの はない 子供は親の愛情をあまりありがたく感じない が、親は子供のわずかな愛情に大喜びすると いうこと。「子ほど喜ばしにくきものなく、 親ほど喜ばしやすきものなし」ともいう。 こほほこもっぎゅうしさ 一狐父の戈を以て牛矢を鐲す 類義五本の指は切られぬ。 出荀子じゅんし 物の真の価値がわからないことのたとえ。また、高貴な人が身分不相応な卑しいことをす るたとえ。狐父産の立派な戈で汚い牛糞ふんを 刺すという意から。△狐父Ⅱよい戈を産出す る土地の名。牛矢Ⅱ牛の糞。鑛すⅡ刺す。 こぼんのうこ 一子煩悩に子なし 子供の好きな人にかぎって、自分の子がない 場合が多いという意。「子供好きに子なし」 ともいう。 ごほんゆびき 五本の指で切るにも切られぬ っうぞくへん 出通俗編 肉親に悪者がいても、縁は切りにくいという こと。五本の指には、それぞれ長短はあるが、 切ってよい指はないという意から。 小股取っても勝つが本 小股取っても勝一カオ 勝つためには、正面からではなく、多少卑怯 ひき ようなやり方を使ってもやむを得ないというこ と。「小股取っても勝つが得」ともいう。△小 股取る‖股にすばやく手をかけて倒すこと。 類義小股潜くりも勝つが本。勝てば官軍。 こまあさばし 駒の朝走り 初めに張り切りすぎると、終わりまで続かな いということのたとえ。馬が朝のうち元気に 走る意から。「駒の朝勇いさみ」「駒の朝はやり」 ともいう。 類義小馬の朝勇み。小馬の朝駆け。狐其 の尾を濡ぬらす。 こま 独楽の舞い倒れ だお むだ働きに終わってしまうことのたとえ。自 分一人だけ張り切って働いた末に、結局は何 もできずに力が尽きて倒れてしまうこと。独 楽がくるくる回って、回転が遅くなると転 がってしまうことから。 士は武士。 類義 独り相撲。世話の焼き死に。 鱓でも尾頭つき 小さくても、一応体裁の整っているものは立 派であるということのたとえ。鱓は小魚では あるが、ちゃんと尾も頭もついて形が整って いるということ。▽鱓‖片口鰯かたくちを干した もの。正月料理などに使う。 実力のない者が、いたずらにいらだったりく やしがったりすること。また、力量のない者 は、いくら力んでみてもむだであることのた とえ。▶鯽‖片口鰯かたくちいわしを干したもの。 類義 一輪咲いても花は花。一合取っても武 類義石亀の地団駄 じだ。 んだ 蟬螂 とう ろう の斧 おの。 胡麻を擂る 自分の利益を図るために、人に取り入りお べっかを使うこと。胡麻を擂るとき、つぶれ た胡麻が擂り鉢の内側にくっついて離れなく なるように、人にべったりくっつくことから。 注意「護摩を擂る」と書くのは間違い。 用例一度新技巧派と云いう名が出来ると、 その名をどこまでも人に押しかぶせて、それ で胡麻をする時は胡麻をするし、退治する時 は退治しようとするんですからな。ふ芥川龍 之介・饒舌 芥溜めに鶴掃き溜めに鶴519 ごみたつるはだつる こもすめこぶくろゆたん 小娘と小袋は油断がならぬ ほころびやすくて、目が離せないということ。 小さい袋は物を入れすぎるとほころびやすい ように、若い娘も傷がつきやすいので、親は 常に注意していなくてはいけないという意。 「小袋と小娘は油断がならぬ」ともいう。 類義糠袋 ぬかぶ と小娘は油断がならぬ。五反 の豆畑に垣かきはできても十六娘の垣はでき ぬ。 <259> 虚無僧に尺八 必ず付いている物、あるべき物のたとえ。 虚無僧有髪の托鉢僧。深編み笠がさをかぶ り、首に袈裟けさをかけ、尺八を吹いて諸国を 回り修行した。 類義 坊主に袈裟。 こむら山村の犬は人を噛む 世間慣れしていない者は、ひがみがちである ということのたとえ。「小村の犬は吠ぼえる」 ともいう。 類義 蜀犬 しょっ けん 日に吠ゆ。小村根性。 米食った犬が叩かれずに糠 食った犬が叩かれる 大きな悪事を働いた者が罪を逃れ、ちょっと した罪を犯した者が罰を受けることのたと え。また、主犯は逃れて、末端の共犯者が罰 をくうということのたとえ。 類義皿嘗なめた猫が科とがを負う。笊ざるなめ た犬が科かぶる。鉤こうを窃ぬすむ者は誅ちゅせら れ、国を窃む者は諸侯しとなる。吞舟どんしゅうの 魚を逸いす。雑魚ざこばかり網にかかる。 米の飯と天道様は何処へ行っ ても付いて回る どんな所にも日の光がさすように、どこへ 行っても暮らしていくことくらいはできると いうこと。楽天的に生きなさいということ。 こむそうーこやしな 失敗した者が、すてぜりふ気味にいう場合が 多い。「天道様と米の飯は何処へも付いて回 る」ともいう。 類義ここばかりに日は照らぬ。江戸中の白 壁は皆旦那 だん。 人間 じん かん 到 いた る処 とこ ろ 青山 せい ざん 有 類義餅の中の粉もみ。旨うまい物に砂。白まま に骨がある。笑中に刀とうあり。笑いの内に刀 を礪とぐ。口に蜜あり腹に剣あり。 この米の飯に骨ほね うわべは親切そうであっても、裏に悪意があ ることのたとえ。おいしい米の飯に、味を損 なう異物がまじっているということから。 米の飯より思し召し搗いた餅より心 も 持ち431 米屋は三度日にかえよ 米屋は最初のうちはよい米を売るが、慣れて くると悪い米を売りつけるようになりがちだ から気をつけよということ。 類義粟ぞくを量はかりて春っく。 補説昔のことわざ。昔は、米屋は庶民から 恨まれていたものらしく、「米屋と質屋は三 代続かぬ」などともいわれた。 つまらないことに手数をかけることのたと え。些細さなことにとらわれては大事をなす ことはできないという戒め。また、物惜しみ することのたとえ。米粒を数えて飯を炊く意 から。 米を数えて炊ぐ こめかぞかし 出荘子そうじ 子持ち二人扶持 こもににんぶち 乳飲み子のいる母親や妊婦は、二人分食べる ということ。また、子供の発育のためにも、 たくさん食べなければならないということ。 マ扶持Ⅱ昔、武士が俸禄 ほう ろく として与えられた 米。 類義 子持ちの腹に宿無しが居る。子持ちの 盗み食い。 子持ちの腹に宿無しが居る 妊婦や乳飲み子を持つ母親は、たくさん食べ ることのたとえ。∇宿無し∥居候 いそう、 食客。 類義子持ち二人扶持 ににん。 子持ちの盗み食 い。子持ちの腹には古畳 ふるだ。 子持ちの腹は たみ 藁わらをこめ。子持ちの腹へ馬の沓くつ。子持ち の腹へは古靴も入る。 子養わんと欲すれども親待た こやしな ほっ おやま かんしがいでん 出韓詩外伝 親が元気なうちに孝行せよということ。親の 面倒をみる年齢になって親孝行しようと思っ ても、親はそれを待ってはくれず、この世を 去ってしまうことから。 補説出典には、この前に「樹き静かならん と欲すれど風止まず(木が静かになろうとし ても、風が止まないうちはどうにもならな い)とある。↓風樹の嘆574 類義 孝行のしたい時分に親はなし。子孝せ んと思えども親待たず。 <260> この元子故の闇やみ 親はわが子かわいさのあまり、闇に迷いこん だように理性を失い分別がつかなくなるとい うことのたとえ。「子故の闇に迷う」「子に迷 う闇」「子を思う心の闇」ともいう。 補説 後撰和歌集』の藤原兼輔 かねすけ の歌人 の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑まど ひぬるかな」から生れたことば。 類義子に引かる親心。親の目は贔屓 目。親に目なし。親の欲目。子故に迷う親 心。 ごりょうおびこ ごりむちゅう五里霧中 出後漢書ごかんじょ 物事のようすや手がかりがつかめず、方針や 見込みが立たずに困ること。また、事情など がはっきりしない中、手探りで何かをする意 にも用いる。五里四方にたちこめる深い霧の 中にいるという意から。 注意語構成は「五里霧」+「中」で「五里」 +「霧中」ではない。また、「霧」を「夢」 と書き誤らない。 故事 中国、後漢 の張楷 は道術(仙術) を好み、五里四方にもわたる霧を起こし姿を くらますことができたという故事から。 類義暗中模索 あんちゅ○ うもさく さんりよう 用例 ふっと気がついたら、そのような五里 霧中の、山なのか、野原なのか、街頭なのか、 それさえ何もわからない、ただ身のまわりに 不愉快な殺気だけがひしひしと感じられ、と にかく、これは進まなければならぬ。〈太宰 治◆八十八夜〉 五両で帯買うて三両でくける 本来の目的より、それに付随することに思わ ぬ費用がかかるたとえ。「五両の帯に三両の くけ代」ともいう。▷くける‖紡ける。表か ら縫い目が見えないように縫うこと。 補説「五両で帯買うて三両でくけて、くけ 目くけ目に口紅付けて、折り目折り目に七房 下げて」という手まり歌の文句による。 類義一升の餅もちに五升の取粉。 これひ た 惟日も足らず 出書経しょきよう 物事に熱中して一日が短いことをいう。一日 中やってもまだ十分ではないという意。 補説出典には「吉人 きつ じん 善を為なすは、惟日 も足らず(心がけのよい人が善行をするのに、 一日中かかってもまだ足りないほどである)。 凶人 きよう じん 不善を為すは、亦また惟日も足らず(悪 人が悪行をするのも、一日中かかってもまだ 足りないほどである)とある。 此もまた人の子なり どんな境遇にある者でも、同じ人間なのだか ら、大切にしなくてはいけないという戒めの ことば。 出 蕭統ー陶淵明伝 補説中国東晋 とう 末の詩人、陶淵明(陶潜 せん が彭沢 ほう たく の県令として単身赴任したとき、郷 里にいるわが子の世話をさせるための下男を 一人送った。そのときに添えた手紙の中のこ とば。 これ いものつみな これ き 之を言う者罪無く、 之を聞く ものもっ いまし た 者以て戒むるに足る 出詩経・大序 詩は比喩などを使い直接的な表現を避けるので、作者は、言ったことで罪になることはなく、聞く者は、それとなく表現された意味を読み取って戒めとできるということ。 補説)中国最古の詩集『詩経』は風ふう(諸国 の民謡)、雅が(朝廷の楽歌)、頌 しょ(宗廟 そうび よう の 楽歌)の三つのジャンルからなるが、ここは 「風」について述べたもの。古注系では、「風」 は為政者を風刺したものと解釈している。 二九 うざ ま っ かなら これうば 之を奪わんと将欲すれば、必 ず固く之を与う 出老子 何かを奪おうと思うならば、しばらく与えて おくにかぎる。あとで取るために、しばらく 譲っておくということ。 これ ほうち とう しか のち そん 之を亡地に投じて 然る後に存 す 出孫子 人は、せっぱつまった状態に追い込まれると、 死に物狂いの力で切り抜けるものであるということ。 △亡地=きわめて危険な場所。 補説 出典では、このあとに 「之を死地に陥 れて然る後に生いく」とある。 類義 之を死地に陥れて然る後に生く。 <261> これもち すなわとらもち 之を用うれば則ち虎となり用 いざれば則ち鼠となる 出東方朔ー答客難ー 人が才能を発揮するかどうかは、重く用いる か否いなかによることをいう。人は重要な地位 を与えられれば、虎のように勢いづいて活躍 するが、用いられなければ鼠のようにこそこ そと逃げかくれしてしまうという意から。 類義時に遇えば鼠も虎になる。 ころいしこけは 転がる石には苔が生えぬ 仕事や住居を転転としている人は、仕事も成 功せず金もたまらないということ。また、進 んで活躍の場を変える人は、いつも清新でい られることのたとえ。「転がる石に苔つかず」 「転石苔を生ぜず」「転石苔むさず」ともいう。 補説 A rolling stone gathers no moss.の 訳語。 類義使っている鍬くわは光る。人通りに草生 えず。度々植えかえる木は根が張らない。流 水腐らず、戸枢 こす う 螻ろう せず。 ころさんがつ 頃は三月、夜は九月 一年中で気候のよいのは、花が咲いて暖かい 旧暦の三月ごろと、涼しい夜長の風情の感じ られる旧暦の九月ごろであるということ。 しておくことのたとえ。「倒れぬ先の杖」「こ けぬ先に杖」ともいう。 転ばぬ先の杖ころ 失敗しないように、あらかじめ十分な準備を これをもーころんで 類義濡ぬれぬ先の傘。用心は前にあり。良 いうちから養生。降らぬ先の傘。予防は治療 に勝る。備えあれば憂い無し。石橋を叩た 渡る。念には念を入れよ。用心に怪我なし。 対義火事あとの火の用心。塡はまった後あとで 井戸の蓋ふたをする。泥棒を捕らえて縄を綯な う。 英語 Prevention is better than cure. 防は治療に勝る Good watch prevents misfortune.十分な用心は不運を防ぐ 転べば糞の上 不運にあった上に、また不運が重なるたとえ。 類義 泣き面に蜂。 衣の袖から鎧が見える うわべは取り繕ってはいるものの、本音がち らついて見えることのたとえ。また、表向き は穏やかな態度をとっているが、陰では武力 で押さえつけるような動きをちらつかせるこ と。僧衣の袖口から下に着けている鎧の端が のぞいて見えることから。 ころもあたら 衣は新しきに若くは莫く、 ひとふるしな 人は故きに若くは莫し 出晏子春秋 人は気心の知れた昔なじみがよいというたと え。衣服は新しいものほどよいが、人は古い 知り合いほど、お互いの気持ちがよく理解し 合えてよいということ。「人は故きに如しか ず、衣は新しきに如かず」ともいう。 衣ばかりで和尚はできぬ うわべだけ繕っても、中身が伴わなければ何 の役にもたたないということ。また、人は外 観では判断できないということのたとえ。僧 衣をまとっても、仏心を持たなければ僧侶と はいえない意から。「衣だけでは和尚になれ ぬ」ともいう。∇衣∥僧衣。 類義数珠ばかりでは和尚ができぬ。袈裟けさ と衣は心に着よ。衣は僧をつくらず。 対義馬子にも衣装。 英語 The feather makes not the bird. があるからすなわち鳥であるというわけでは ない The hood makes not the monk. 僧 帽をかぶっただけでは僧にはなれない 衣を染めんより心を染めよ 外形ばかりで精神が伴わないことへの戒め。 墨染めの僧衣を身につけていても、仏道修行 に精進じんしなければ真の僧とはいえないと いうことから。▿衣‖僧衣。 類義頭剃そるより心を剃れ。 転んでもただは起きぬ 自分に不利な状況になっても、必ず何か得になることを見つけ出す、欲が深くしたたかな者のたとえ。転んでも、そこで何かを拾ってから起きる意から。「転んでもただでは起きぬ」ともいう。 <262> 補説最近では、物事に機敏に対処できる人 や、失敗してもくじけない人などのたとえに 用いることもある。 類義こけても砂。こけた所で火打ち石。倒 るる所に土を掴つかむ。受領ずりようは倒るる所に土 を掴め。こけても馬の糞ふん。 英語 All is fish that comes to the net. にかかるものは皆魚である 用例悪魔は、牛商人の肉体と霊魂とを、自 分のものにする事は出来なかったが、その代 かわに、煙草は、洽く日本全国に、普及させ る事が出来た。して見ると牛商人の救援 が、一面堕落を伴っているように、悪魔の失 敗も、一面成功を伴っていはしないだろうか。 悪魔は、ころんでも、ただは起きない。誘惑 に勝ったと思う時にも、人間は存外、負けて いる事がありはしないだろうか。ぇ川龍之 介・煙草と悪魔 木・墓地の殺人 とは容易なことではありません。〈小酒井不 コロンブスの卵 簡単に思えることも、最初に思いついたり やったりすることは難しいということ。 補説イタリアの探検家コロンブスが、新大 陸発見など誰にでもできると言われて、では 卵を立てることができるかと問いかけ、誰も 答えられないでいると、卵の尻を潰して立て て見せ、西へ航海すれば誰でもアメリカ大陸 へたどり着くが、最初にやることが大事だと 言ったという話から。 用例けれども、皆さんもご承知の「コロン ブスの卵」と同じことで、解決のあとで考え れば至極簡単なことでも、解決前に考えるこ 暮を打つより田を打て つまらぬことで時間をつぶすより、仕事に精 を出すほうが有益だということ。囲碁をする 暇があったら、農業に精を出せという意から。 ∇田を打て∥田をすき返せ。 子を思う夜の鶴 つる 52 や の きぎす よる 焼け野の雉子、 夜の 子を知ること父に若くは莫し 出管子かんし 子の性格や長所・短所などを、だれよりもよく知っているのは父親であるということ。 補説出典では、このあとに「臣を知ること君に若くは莫し(臣下のことをいちばんよく知っているのは主君である)」と続く。 類義子を見るは父に如しかず。子を知るも のは親。子を見ること親に如かず。子を択えら ぶこと父に如くは莫し。 子を捨てる藪はあれど親を捨 てる藪なし 親には孝養を尽くすことが大切であるという 教え。貧乏でどうにもならなくなり、わが子 を捨てることはあっても、親を捨てることは できないという意から。 子を見ること親に如かず 子の性格や長所・短所などを誰よりもよく 知っているのは親であるということ。 類義 子を知るものは親。子を知ること父に 若しくは莫なし。千人の目より親の一目 ひと○ め 対義親の欲目。親の目なし。自分の子には 目口が明かぬ。 用例改めて太子をたてる段となり、右大臣 豊成と藤原永手 は塩飽王を推した。文 室珍努 と大伴古麿 は池田王を推した。 押勝のみは敢 てその人を名指さず、臣を知 る者は君に如かず、子を知る者は親に如かず、 天皇の選ぶところを奉ずるのがよかろう、と 言う。〈坂口安吾・道鏡〉 子を持って知る親の恩 自分が親になり、子育ての苦労を知って、は じめて親の愛情の深さやありがたさがわかる ということ。「親の恩は子を持って知る」と もいう。 類義子を育てて知る親の恩。子を養いて方 まさに父母の恩を知る。子を持たねば親の恩を 知らず。子を養いて方に父の慈を知る。子持 てば親心。 子を持てば七十五度泣く 親は子のために、苦労や心配事が絶えないと いうこと。 類義子を持って泣かぬ親はない。 用例 ギャッと産れてから是までにするに ア仇あだや疎 おろ かな事じゃア有りません。子を <263> 持てば七十五度泣くというけれども、此娘この の事では是れまで何百度泣たか知れやアしな い、……」二葉亭四迷◆浮雲〉 ごんごどうだん言語道断 出維摩経ゆいまぎよう ことばに表せないほどあまりにひどいこと。 とんでもないこと。もってのほか。もと仏教 語で、仏教の真理や究極の境地はことばでは 言い表せない意から。また、「言語の道が断 たれる」意ともいう。∇道∥口で言うこと。 注意「道断」を「同断」と書き誤らない。 類義沙汰さたの限りに非あらず。言語げんに絶する。 崑山玉を出だし麗水金を生ず こんざんぎよくいれいすいきんしょう すぐれた家系から立派な人物が出ることのた とえ。また、立派な親によい子ができるとい うたとえ。崑山は名玉を産し、麗水は砂金を 出すということから。∇崑山=中国西方の伝 説上の崑崙山こんろ。美玉の産地として有名。 麗水=湖北省にある川の名。砂金を出すこと で有名。 出湘山野録 崑山の下、玉を以て鳥を抵つ こんざんもとぎよくもっからすう 貴重なものでも、多すぎると価値がなくなる というたとえ。名玉を産する崑山のふもとで は烏をうち落とすのにも玉を投げているとい う意から。∇崑山=中国西方の伝説上の崑崙 山こんろ。 んざん 美玉の産地として有名。 ごんごどーこんりん 出劉子新論 権者にも失念 どんなに立派な人でも失敗することがあると いうたとえ。仏のような偉い人でも、うっか り忘れることもある意から。△権者亀仏や菩 薩が衆生 しゅじ よう を救うため、仮の姿でこの世 に現れたもの。 類義弘法にも筆の誤り。孔子くじの倒れ。河 童かの川流れ。釈迦しゃにも経の読み違い。猿 も木から落ちる。念者の不念。 根性に似せて家を作る 人は、自分の力量に応じた生活をするという たとえ。「根性に似せて家を住まう」ともい う。∇根性∥ものの考え方や行動のしかたな どを支える根本にある、持って生まれた性質。 類義蟹かには甲羅こうに似せて穴を掘る。鳥は 翼にしたがって巣を作る。 こんどばものみ 今度と化け物見たことない 「今度」という約束はあてにならないという こと。言い逃ればかりして実行しない者に対 して言う。「今度と化け物には行き会ったこ とがない」ともいう。 こんにゃくいしがききず 蒟蒻で石垣を築く ううううう とうてい実現できるはずのないことのたと え。 類義 蒟蒻で岩かく。 擂粉木 すり こぎ で腹を切る。 二んこやくがくやいなかよ 蒟蒻と学者は田舎が良い こんにゃく ゆうれい 蒟蒻の幽霊 ぶるぶる震えているようすのたとえ。 人が骨を折ってしたことを、他の者があとか らぶちこわしていくこと。また、むだな労力 をはらうことのたとえ。農夫が種をまくとす ぐ烏がほじくり出すという意から。「権兵衛 が種蒔きゃ鳶とんがほじくる」ともいう。 補説俗謡の一節で、このあとに「三度に一度は追わずばなるまい」と続く。 英語 cut the grass whereof another meant to make hay [他の人が干し草を作 るつもりだった草を刈る 二んやあさってこうやあさって 紺屋の明後日↓紺屋の明後日240 こんや しろばかま こうや しろばかま 紺屋の白袴 ↓紺屋の白袴 240 金輪際の玉も拾えば尽きる 努力すれば、どのような難事でも成し遂げられるというたとえ。大地の底の底にあるような玉でも努力して一つ一つ拾っていけば、いつかは拾い尽くすことができるという意から。金輪際=仏教の世界観で、地下で大地を支えているという金輪の最下底の所。転じて底の底。物事の窮まる所。世界の果て。 類義愚公、山を移す。 <264> 出蘇軾ー賈誼論そしょくかぎろん 才気はあり過ぎるほどであるが、見識が不足 しているということ。才気と見識との調和が 必要であることを言ったことば。▶識‖物事 の道理を正しく見分けて知ること。 補説北宋 ほく そう の詩人蘇軾が、前漢の学者・政 治家の賈誼かぎを批評したことばで、出典には 「志大にして量小なり。才余り有ありて識足ら ざるなり(志は大きいが度量が小さい。才能 は十分あるが見識に欠けている」とある。 さいいおやたの 綵衣親を娯しましむ 親孝行のたとえ。子供が着る色模様の衣服を 着て親を喜ばせるという意。∇綵衣=五色の 美しい模様のある衣服。 補説芸文類聚所引の劉向 りゆう きよう 列女伝 にある次の故事から。 出芸文類聚 故事周代の老萊子はたいへん親孝行な 人であった。七十歳になっても小児用の五色 の着物を着て、子どもの遊びをして老父母を 喜ばせたという故事による。 災害は忘れた頃にやってくる てんさい 天災は 忘れた頃にやってくる 449 塞翁が馬 うま にんげんばんじさいおう 501 人間万事塞翁が馬 さいかいもくよく斎戒沐浴 神仏に祈ったり神聖な仕事に従事したりする 前に、飲食や行動を慎み水を浴びて心身を清 めること。▷斎‖心を清める。戒‖行いを慎 む。沐‖髪を洗う。浴‖体を洗う。 出孟子もうし 用例秀次はその要求に素直であった。直ち に斎戒沐浴し白衣を着け神下しをして異心の 存せざる旨誓紙を書いた。〈坂口安吾◆二流 の人 出法華経ほけきよう 採菓汲水 きびしい仏道修行をすること。仏に供えるために木の実を採り花をつみ、水を汲くむ意から。▶採菓‖木の実を採ること。汲水‖水を汲むこと。「きっすい」「ぎっすい」とも読む。補説(稲訛)稲訛(稲訛)稲訛(稲訛)が過去世(前世)において王であったとき、深山に入り仙人に仕えて、木の実をとったり水くみをしたり、薪(ぎ)を拾ったり食事の用意をしたりして働き、難行苦行の仏道修行をしたと「法華経」に説かれている。 さいかくはなち 才覚の花散り 人間、落ち目になると才知も働かなくなる。 有能で、よく機転がきいていた人でも、運が 下り坂になってくると、才知や分別も働かな くなってしまうということ。「花」はそのよ うに気がきくことをたとえたもの。「才覚の 花も散る」ともいう。∇才覚∥すばやい頭の 働きのこと。機転・工面 対義 才覚の花を飾る。 嵗寒の松柏 出 ろんご 論語 逆境にあっても節操や志を変えないたとえ。 常緑樹の松や柏かしが冬になっても緑の色を変 えないことから。△歳寒冬の厳しく寒い季 節。転じて、乱世や逆境のたとえ。松柏松 とこのてがしわ。↓歳とし寒くして、然しかる後 に松柏の彫しぼむに後おくるることを知る468 類義松柏の操みさ。疾風に勁草を知る。道 遠くして驥きを知る。 ごろう 細工は流流仕上げを御覧じ ろ やり方はいろいろあるので、出来上がりを見てから批評してほしいということ。「細工は流流」「細工は流流仕上げを見よ」ともいう。 ∇流流=それぞれの流派・流儀。 類義細工は流流仕上げが肝心。 用例まあ、心配しなさんな。こう見えても 江戸っ子の神田っ子だ。自棄やけのやん八で度 胸を据えた日にやあ、相手が大岡様でもなん でも構わねえ、云いうだけのことは皆みんなべ らべら云ってやらあ。細工は流々、仕上げを 御覽じろだ。〈岡本綺堂◆権三と助十〉 さいくびんぼうひとだからきようびんぼうひとだから 細工貧乏人宝器用貧乏人宝189 歳月人を待たず 出 陶潜 年月は人の都合にかかわりなく、刻々と過ぎ <265> 去って瞬時もとどまることがないというこ と。一刻を大切にして、やるべきことに努力 せよという教え。 補説詩の題名は『雑詩』。出典には盛 年 世い ねん 重ねては来たらず、一日 じっ 再びは晨 あし た な り難し、時に及んで当まさに勉励 べん れい すべし、歳 月人を待たず(若いときはもう再び来ない、 一日に朝は二度とはない、時をのがさず、現 在の一瞬一瞬を大切にして、やるべきことを 行ってしまうのだから」とある。この詩には、楽しめるときに大いに楽しんでおけという内容も含まれているが、日本では時間を惜しんで努力せよと理解されている。 類義光陰人を待たず。光陰矢の如ごとし。光 陰に関守なし。歳月流るる如し。今日の後に 今日はなし。 英国Time and tide wait for no man. は人を待たない 用例私が植物の分類の分野に立って断たえ ず植物種類の研究に没頭してそれから離れな いのは、こうした経緯いきから来たものです。 鳥兎匆々うとそ歳月人を待たずで私は今年七十 二歳ですが、斯かく植物が好きなもんですか ら毎年よく諸方へ旅行しまして、実地の研究 を積んで敢あえて別に飽きる事を知りません。 〈牧野富太郎◆牧野富太郎自叙伝〉 細行を矜まざれば、終に大徳 後にはその人の大きな徳を損なうような結果 になるということ。▽細行=小さな行い。 ちょっとした行いでも慎重にしなければ、最 を累わす 出書経しよきよう 補説周の宰相 ざいし よう 召公が武王に言ったこと ば。出典には、このあとに「山を為くること 九仞 きゅう、 功こう 一簣 いっ に虧かく(山を造って九 仞もの高さにしても、最後のもっこ一杯の土 を運ぶのをやめてしまったら、山は完成しな い)と続く。 さいこうーさいずる 才子才に倒れる 才能にすぐれた人は、自分の才能を過信して、 かえって失敗するものだということ。 類義策士策に溺れる。才知は身の仇あだ。 人才に躓つまく。河童かの川流れ。善く游およぐ 者は溺れ、善く騎のる者は堕おつ。 才子多病 すぐれた才能のある人は、とかくからだが弱 く病気がちであるということ。「才士多病」 とも書く。 補説男性についていうことば女性の場合 は「佳人薄命」という。 類義 佳人薄命。 美人薄命。 英語 Soon todd soon with God. 早く歯 の生える子は早く神のもとへ召される さいしょう 宰相とならずんば則ち良医 出宋史そうし となれ 大臣となって政治を行い世を救うことができ ないならば、よい医者となって人の命を救え ということ。 すぐれた才能と美しい容姿の両方を持ってい ること。多く女性についていう。▷オ色∥才 知と容色。 用例玉蕉 きょく しよう 女史ーとは何者?それは才 色兼備の婦人で、ことに漢詩をよくし、書を よくし、画えを見ることを知り、客を愛し、 旅を好む。ことに漢詩を作ることに於おいて最 も優れている。〈中里介山◆大菩薩峠〉 采薪の憂い さいしんうれ 出孟子もうし 自分の病気をへりくだっていう語。病気で薪 をとりに行けない意から。また、薪をとりに 行った疲れとする説もある。▷采薪=「采」 は「採」に同じ。薪をとること。 補説出典には昔者 むか 王命有りしも、采薪 の憂有りて、朝ちょに造いたること能あたわざりき (昨日、王からお召しがありましたときは、 折り悪しく病気のため参内さんできませんでし た)とある。 類義負薪の憂い。 財少なければ悲しみ少なし 金持ちでなくても、気楽であるほうがよいこ とをいう。財産が多いといろいろな問題や心 配事が起きるが、財産が少なければ、そのよ うなことにわずらわされることがないから。 対義財布が軽いと心が重い。 彩ずる仏の鼻を欠く 念を入れすぎて、かえって大事な部分をだめ <266> ざいだいーさいもふ にしてしまうたとえ。仏像を彩色して作り上 げるのに、手を入れすぎて大事な鼻を欠いて しまう意から。△彩ずる∥色彩を施す。 材大なれば用を為し難し 類義せいずく仏の鼻を欠く。仏を直すとて 鼻を欠く。下手仏師の地蔵直し。念の過ぐる は無念。過ぎたるは猶なお及ばざるが如ごとし。 ざいだいようながた 出杜甫ー詩 立派すぎる人物は、世に受け入れられにくい ということのたとえ。材木が大きすぎると加 工しにくく、使用しにくいことから。 補説詩の題名は『古柏行こはく』。「志士幽人 ししゅ うじん 怨嗟 えん さ する莫なかれ(高い志をもっている 人や、世に受け入れられずにいる人は、恨み 嘆くことなどまったくない)、古来(昔から) 材大なれば用を為し難し」とある。 オ槌で庭掃く槌で庭掃く433 災難なら畳の上でも死ぬ 人間は、いつどこで災難に遭うかわからな いということ。畳の上のような安全な場所に いても、けがや火事などの災難に遭って死ぬ こともある意。 財に臨みては荷くも得んとす ること母れ 出礼記 金や物を欲しいあまり、不正な手段を用いた りしてはならないということ。 補説出典には、このあとに「難に臨みては 苟くも免 まぬ れんとすること母れ(困難にぶつ かったときには逃れようとしてはならない) 很 いには勝たんことを求むること母れ(争 いには勝つことだけを求めてはならない) ……」などと続く。 類義財に臨んでは食を忘れ、生に臨んでは 死を忘るれば以もって罪に遠ざかるべし。 賓の河原かわら 際限のないむだな努力のたとえ。また、せっ かくの努力がむだに終わることのたとえ。 補説)賽の河原は、冥土に至る途中にあると 信じられている三途 さん ず の川のほとりにある河 原。親に先立って死んだ子供が、この河原で 父母の供養のために小石を積んで塔を作ろう とするが、鬼が来て壊してしまう。これがく り返されるが、そこへ地蔵菩薩 じぞう ぼさつ が現れて 子供を救うという仏教説話がある。 采配を振る 指揮をする。先頭に立って指図する。「采配 を取る」ともいう。▷采配‖昔、武将が兵を 指揮するのに使った道具。 さいな 賽は投げられた 補説古代ローマ時代、ポンペイウスと対立 したカエサル(シーザー)が、ルビコン川を 渡ってローマへ進撃するときに言ったこと 事は始められたのだから、最後まで行うほか はないということ。勝負を決めるさいころは 振られたという意から。∇賽=さいころ。 ば。ルビコン川を武装して渡ることは法で禁 じられていた。英語では The die is cast. (賽はすでに投げられた) さいふそこころそこひとみ財布の底と心の底は人に見せ 財産に関することは他人には隠しておくべき であり、自分の本心も、やたらに人に明かし てはいけないということ。 心にかけよ 財布の紐を首に掛けるよりは こころ 財布を盗まれないように用心するより、心に かけたつもりになって、むだ使いしないよう に心がけることが大切であるという戒め。 財宝は地獄の家苞 この世で蓄えた金や宝は、罪の報いで地獄へ 行くときのみやげとなるにすぎないというこ と。また、金や宝を持てば、死ぬときもそれに 心が残って、往生のさまたげになるというこ と。▶家苞‖わが家に持ち帰るみやげもの。 ふさい またおのおのそこ オも不オも、 亦各其の子と 言う ろんご 論語 我が子がかわいいと思う親心はみな同じだと いうこと。子どもに才能があってもなくて も、自分の子を中心に物を考えるのが親の情 というものだということ。 <267> いずく こり 豺狼路に当たる、安んぞ狐狸 と を問わん 出後漢書ごかんじょ 大悪人が重要な地位にいて権力をふるってい るときは、小悪人よりも、まずその大悪人を 除かなければならないというたとえ。山犬や 狼 おお かみ が行く手にいるときは、狐 きっ ね や狸 たぬ き のこ となど問題にしていられないという意から。 ▶豺狼‖山犬と狼。ここでは中央にいる大悪 人。狐狸‖狐と狸。ここでは地方の小悪人。 故事中国、後漢の時代に、地方巡察を命じ られた張綱が、地方よりもまず中央の大将軍 梁冀 りよ うき 兄弟の専横を除くことのほうが先だと いう弾劾文を皇帝に奉ったときのことば。 さいわいまなじりみ 福は皆に盈たず、禍は世に あふ 溢る 出班司 くんのたわむれしにこたう 賢戯一 たれてしまう。礼の大切さを説く孔子のこと ば。「利す」は「利むさる」ともいう。 出班固ー答二賓戯ー 補説出典では、このことばの前に「朝 あし た に は栄華を為なし、夕ゆうには願頼 しょう すい を為す(朝 には栄え、夕方にはもう衰える)」とある。 幸福は見落としてしまうほどわずかしかない が、災難は世の中にあふれるほど多いという こと。△皆‖目じり。 財を先にして礼を後にすれば 民利す 出礼記 人の上に立つ者が財産を築くことを優先し て、礼節や道徳をあと回しにすると、人民も まねをして利益追求だけをはかり、道義はす さいろうーさかなは ざいつせんまん 財を積む千万なるも薄伎身に 財貨より身についた技芸のほうがまさってい るということ。巨額の財産を築いても失うお それがあるが、身につけた技能は、たとえど んなにつまらないものであっても、なくなる ことがないということ。∇薄伎∥ちょっとし た技能。 出顔氏家訓がんしかくん 竿竹で星を打つ 出無門関むもんかん 竿竹で星を打つ 関 できるはずのないことをしようとする愚かさ のたとえ。また、なかなか思うようにいかな いもどかしさのたとえ。「竿で星打つ」「竿の 先で星を打つ」ともいう。 類義竿でせるよう。竿の先で星を突く。 描粉木すり こぎ で腹を切る。杓子しで腹を切る。蒟 蒻こんに ゃく で石垣を築く。 竽の先の鈴 さぉ すず やかましいこと。よくしゃべることのたと え。竿の先につけた鈴は、よく揺れて鳴る意 から。「竿の先に鈴」ともいう。いろはがる た(京都)の一。 類義笹さの葉に鈴。雲雀ひばの口に鳴子 さおさんねんろみつき 棹は三年櫓は三月 同じように見えても、物事には難易があることのたとえ。舟を操るのに、棹の使い方はむ ずかしく一人前になるのに三年かかるが、櫓 の漕ぎ方は三月で覚えられるという意から。 「櫂かいは三年櫓は三月」ともいう。 類義櫓三年に櫂一時櫓三年に棹八年ぽ つぽつ三年波八年。首振り三年ころ八年。 ぎかい 竟に入りては禁を問う 出礼記 よその国や土地は、それぞれ法も風俗も違う のだから注意せよということ。よその国へ 入ったら、まずその国で禁止されている事柄 を聞いて、それを犯さないよう気をつけよと いう意から。∇竟Ⅱ国境。禁Ⅱ禁令。 補説出典は続けて「国に入りては俗を問い、 門に入りては諱きを問う(その国の都に入った ときは、その土地の風俗習慣をたずねてそれ に従うようにし、人の家に入ったときは、そ の家の先祖の忌いみ名をたずねる」とある。 類義郷に入りては郷に従う。国に入っては まず禁を問え。 さかなじょうろうやもち 魚は上藹に焼かせよ、餅は げすや 下種に焼かせよ 魚や餅の上手な焼き方をいったもの。また、 仕事によって人には適不適があるから、ふさ わしい人をえらべということ。魚はおっとり した人がゆっくり焼いたほうが身がくずれな いのでよいが、餅はがつがつした人が何度も ひっくり返したほうがこげすぎないのでよい という意から。「魚は殿様に焼かせよ、餅は 乞食 こじ に焼かせよ」ともいう。∇上藹∥身分 の高い婦人。下種∥身分の卑しい者。「下衆」 <268> とも書く。 類義瓜の皮は大名に剥むかせよ、柿の皮は 乞食に剥かせよ。金持ちの子には魚を焼かせ ろ、貧乏人の子には餅を焼かせろ。 さか坂に車くるま 気を緩めると、あと戻りしてしまうこと。また、勢いづくと止まらないことのたとえ。車を引いて坂道を登り降りする意から。 補説一奉公は車を坂におす如ごとく油断をす ればあとへしりぞく手習いは坂に車を押 す如し油断をすればあとにもどるぞ」など、 この語を使った教訓歌がある。 さかよず 酒外れはせぬもの 酒の席では、飲めないなどと言って酒の仲間 から外れずに、少しでもいいから飲んでみせ るものだということ。「酒外れ」は、「さけは ずれ」とも読む。 類義食外れはするとも酒外れはせぬもの。 さかやさんりとうふやにり 酒屋へ三里、豆腐屋へ二里 人里離れた不便な土地のたとえ。酒屋へ三 里、豆腐屋へ二里も距離があるという意から。 ▶一里‖約四キロメートル。 補説江戸後期の狂歌師頭光 ひかる の狂歌一時 鳥 ほとと ぎす 自由自在に聞く里は酒屋へ三里豆腐屋 へ二里」の下の句から。風情のある土地は不 便であるということを詠んだもの。 え。壁ぬりが専門の左官が、畑違いの垣根づ くりをしても、うまくできないことから。△ 左官‖壁をぬる職人。宮中の修理に、木工寮 の属さん(官位の一つ)として出入りを認められ たことからいう。左官はあて字。 対義餅は餅屋。 専門違いの仕事はうまくいかないことのたと さかん左官の垣根かきね 先勝ちは糞勝ち 勝負事で最初の勝ちはあてにならない。最後 にならないとわからないということ。「始め の勝ちは糞勝ち」ともいう。 類義初手勝ちは糞勝ち。先の勝ちは貧乏勝 ち。先勝ちは馬鹿勝ち。初拳 しょけんは拳し こぶに非あら ず。 英語 At the game's end we shall see who gains.勝負事は終わってみなければ勝者は わからない 先立つ物は金 何をするにも、まず必要なものは金であると いうこと。また、資金がなければ、どんな仕 事も始められないということ。 類義人間万事金の世の中。 さぎ 鷺と鳥からす 正反対の関係にあることのたとえ。鷺は真っ 白で烏は真っ黒であるところからいう。 類義 雪と墨。 水と油。 補説「烏鷺うろ」は囲碁の別称。烏を黒石に、 鷺を白石に見立てたもの。「烏鷺の争い」「烏 鷺を戦わす」などという。 注意「鷺を烏」は、「まちがっていることを 押し通す」意で、まったく異なることわざ。 先の雁より手前の雀 あてにならないよい物より、いくぶん劣って いても、今すぐ手に入れられる物のほうがよ いというたとえ。∇雁∥ここでは、手に入れ にくい上等な物のたとえ。雀∥ここでは、 劣ってはいるが、簡単に手に入れることがで きる物のたとえ。 類義明日の百より今日の五十。後百より今 五十。 先は野となれ山となれ後は野となれ 山となれ23 さぎ 鷺を烏からす 正しくないことを正しいと、また、正しいこ とを正しくないと主張すること。白い鷺を黒 い烏だと言い張る意から。「鷺を烏と言いく ろむ」「烏を鷺」ともいう。 類義馬鹿鹿を馬雪を墨白を黒柄 の無い所に柄をすげる鹿を指して馬と為な す。這っても黒豆。 先んずれば人を制す 出史記 人より先に事を行えば、有利な立場に立つこ とができるということ。 補説出典では、このあとに「後るれば則ち 人の制する所と為なる(後手にまわれば相手に おさえられる)」と続く。 類義機先を制する。早いが勝ち。先手は万 手。先手必勝。 <269> 対義急せいては事を仕損じる。 文豪急しでは事を任拠し、 英語 First come, first served. [最初に来 た者が最初にもてなされる] The fore- most dog catches the hare. [先頭の犬が兎 を捕らえる] 用例礼之進の方でも、酒井へ出入りの車夫 まず捜りを入れた程だから、その分は随分 手が廻まわって、従って、先生が主税ちに対す る信用の点も、情愛のほども、子の如ことく、 弟の如きものであることさえ分ったので、先 んずれば人を制すで、ぴたりとその口を圧おさ えたのであろう。泉鏡花婦系図 策士策に溺れる 術策をめぐらすことの好きな人間は、策を弄 ろうしすぎて、失敗してしまうことがあるということ。「策士策に倒る」ともいう。▷策士 ∥策略に富んだ人。 桜三月、菖蒲は五月 英語 The deceitful man falls off into the suares of deceit. 策略家はしばしば策略の 罠わなにかかる 類義策士策に倒れ才子才に破る。才子才に 倒れる。河童かの川流れ。 さくらきばかうめきばか 桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿 庭木の剪定法せんてをいったことば。桜は枝を 切るとそこから病気になりやすいので切って はいけないが、梅は切らないとむだな枝が伸 びて翌年よい花や実がつかない。「切る」は 「伐る」とも書く。 類義梅は伐きれ桜は伐るな。桃を切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿。桜折る馬鹿柿折らぬ馬鹿。 時季の花をいったことば。桜の見ごろは三月 で、菖蒲の見ごろは五月であるということ。 補説三月と五月はともに旧暦。 さくしさーさけなく 桜は花に顕る さくらはなあらわ ふだんは目立たぬ存在だった者が、何か事が あったとき、すぐれた才能を世に現すことの たとえ。ほかの木にまじってわからなかった のが、美しい開花ではじめて桜であったことが が知られるという意から。 補説 「詞花しか 和歌集」にある源頼政 みなもとの よりまさ の 歌「深山木 みや まぎ のその梢 こず え とも見えざりし桜は 花に現れにけり」に基づく。 類義紅 くれ は園生 その に植えても隠れなし。 さくか えきさく 簀を易う易簀99 酒入れば舌出ず 出説苑 酒を飲むと口数が多くなり、失言も出る。そのため身を誤ることにもなるから、酒は慎むべきであるという戒め。 補説出典には「酒入れば舌出ず、舌出ずる 者は言失われ、言失わるる者は身棄てらる」 とある。 酒が酒を飲む ひとさけ の 人酒を飲む 酒人を飲む の さけひと 51 英語 What is in the heart of the sober man is in the tongue of the drunkard. いるのときに心にあるものは、転ったときにはその人の話にある 酒買って尻切られる さけか しりき 好意を示した相手から、逆に害を受けること のたとえ。恩を仇あだで返されるということ。 酒を買ってきてもてなしたのに、尻を切られ るような目にあう意から。「酒盛って尻切ら れる」ともいう。 類義酒買こうて臂ひじ切らるる。酒盛って尻踏まれる。 酒極まって乱となる 出史記 儀礼的に始まった節度ある酒宴も、飲めるだ け飲むと、けんかになったりして乱れたもの になるということ。 補説出典の酒極まれば則 ち乱れ、楽し み極まれば則ち悲しむから。 さけあさねびんぼうちかみち 酒と朝寝は貧乏の近道 節度なく酒を飲んだり、朝寝をして仕事を怠 けていれば、たちまち貧乏になるということ。 さけさんこのもの 酒と産には懲りた者がない 酒を飲み過ぎたつらさと出産の苦しみは、あ とになると忘れてしまい、もうこりごりだと いう者はいないということ。 さけなんおのれさくら 酒なくて何の己が桜かな 花見に酒はつきものであり、酒を飲まずに花 <270> 見をしてもつまらないということを五・七・五の俳句調にいったことば。 類義花より団子。 酒に別腸あり 出通俗編つうぞくへん 人には酒専用の腸が別にあるということ。また、酒を飲む量は体の大小とは無関係なことのたとえ。酒好きの人が口実として言う。また、他人が大酒飲みを驚嘆して言うことば。 酒の徳孤ならず必ず隣あり 酒好きは孤独ではなく、必ず飲み友達ができ るということ。『論語』「里仁」の中の「徳孤 ならず必ず隣あり」という孔子のことばをも じって、酒の徳をいったもの。△孤=孤独。 さけなかまこと 酒の中に真あり 酒に酔うと人間はその本性をさらけ出すということ。 補説工ラスムスの『格言集』の中のことば。 英語では In wine there is truth. 類義酒は本心をあらわす。 酒飲み本性違わず 酒飲みの人は、どんなに酒に酔ったからと いってその人の本来の性質が変わるわけでは ない、ということ。「生酔い本性違わず」「上 戸うご本性違わず」「酒の酔い本性違わず」と もいう。 出蘇軾ー詩そしよくし さけよほんしようたが なまよほんしょうたが 酒の酔い本性違わず ↓生酔い本性違 わず488 酒に酔えば、どんな辛いことも忘れることが できるということ。酒は心配事や悩み事を払 い去ってくれる美しいほうきであるという意 から。∇玉箒『玉』は美称の接頭語。美し いほうき。 補説詩の題名は洞庭春色 とうていし。 ゆんしょく酒につ いて応まさに呼ぶべし詩を釣る鉤こう(釣り針) と、亦また号す(名づける)愁いを掃う帚ははきと 類義亡憂の物。酒は憂うれいの玉箒。 さけかんさかなさしみしゃくたぼ 酒は爛、肴は刺身、酌は鬢 酒はほどよく爛をして、肴は刺身で、酌は若 い女性にしてもらう。酒飲みの理想の境地を いう。マ髪日本髪で、襟足 えりにそって背中 の方に張り出した部分。転じて、若い女性を さす俗な言い方。 類義 肴は気取り、酌は髪。 酒は古酒、女は年増 二献・三献と膳を三度変え、そのたびに大・ 中・小の杯で一杯ずつ飲み、九杯の酒をすす めるもの。 酒は、新酒よりも古酒のほうがこくがあって よく、また女性は、若い娘よりも年のいった 女性のほうが情が深くてよいということ。 さけさんこんかぎ 酒は三献に限る 酒は度を越すと酒席が乱れやすくなるので、 三献を限度としてやめるのがよいという戒 め。△三献=中世以降の酒宴の礼法。一献・ 酒は、世の中のさまざまな悪事の原因になっ ているということ。 類義酒に三十五の失有り。酒に三十六種の 罪あり。酒は百毒の長。 対義 酒に十の徳あり。 酒は百薬の長。 出漢書かんじょ 酒は天の美禄 ぴろく 酒をほめていうことば。酒は天からのすばらしい贈り物であるということ。∇美禄∥厚い俸給の意。「禄」は役人の俸給のことで、上から下に賜るものの意。転じて、酒の異称。 補説出典には、これに続き「帝王の天下を頤養うし(帝王が天下の人民を養い)、祀りまつに享すめ福を祈り(神に供えて福を祈り)、衰すいを扶たすけ疾しつを養う(衰弱を助け、病気をなおす)所以ゆえなり。百礼の会も酒に非ざれば行われず(多くの礼会も酒がなくてはできない)とある。 出南史なんし 酒は猶兵のごとし 酒は武器と同じで、飲み方をまちがえると、 自分の身を害することになるということ。△ 兵Ⅱここでは武器の意。 補説出典はこのあとに「兵は千日として用 いざるべきも、一日として備えざるべからず (武器は長期間使わないこともあるが、常に 備えておかなければならない)、酒は千日と <271> して飲まざるべきも、一飲として酔わざるべ からず(酒も長期間飲まないことはありうる が、いったん飲めば酔わないわけにはいかな い)」と続く。 酒は飲むとも飲まるな 酒は適量を飲むのはよいが、理性を失うほど 飲み過ぎてはいけないという戒め。 類義酒は飲むべし飲むべからず。人酒を飲む酒酒を飲む酒人を飲む。 酒は飲むべし飲むべからず 酒は、理性を失ったり健康を害したりするほ ど飲みすぎてはいけないという戒め。 類義酒は飲むとも飲まるるな。 類義酒は天の美禄。 酒は百毒の長 酒は体によい点は一つもなく、万病のもとで あるという戒め。 類義酒は諸悪の基。 対義酒は百薬の長。 酒を賛美したことば。酒は適度に飲むなら ば、どんな良薬よりも効果があるということ。 補説)中国、新しんの皇帝王莽 もうが下した、塩・酒・鉄を専売とする詔 みこと の中で述べていることばで「夫それ塩は食肴 しょく こう (食べ物・煮物)の将、酒は百薬の長、嘉会 かか の好(めでたい宴会に必要なもの)、鉄は田農の本(農耕具の 大事なもの)とある。昔、酒は薬の一種で あった。 酒は百薬の長 さけはのーざしてく 対義酒は百毒の長。酒は諸悪の基。 英語 There are more old drunkards than old physicians.「老いた医師よりも老いた 大酒飲みのほうが多い」 出漢書かんじょ 酒は本心をあらわす 酒に酔うと人間は本性がむき出しになるということ。 類義酒の中に真あり。酔いて本性顕あらす。 英語A full heart lied never.酔っぱらい が嘘をついたためしはない さけ 酒はやめても酔いざめの水は やめられぬ 酒を飲むのはやめられても、酔いざめの水を 飲むのはやめられないということ。酒飲み が、酒を飲む口実とすることば。 類義 酔い醒 ざめの水下戸 げこ 知らず。 酔い醒 めの水は甘露 かん ろ の味。 さけたしななかきようやくか 酒を嗜む勿れ、狂薬にして佳 みあら 味に非ず 出小学 ること。また、身分や能力の釣り合わない者 が交じっていることのたとえ。小魚が大きな 魚の中に交じっているという意から。 酒を飲むなという戒めのことば。酒は人を狂 わせるものであって、決しておいしいもので はないということ。∇狂薬=飲めば気の狂う 薬の意。酒の異名。 ざことま 雑魚の魚交じり 力の弱い者が、力の強い者の中に交じってい 類義 鱓 ごま の魚交じり。ちりめんじゃこも魚 交じり。いさざも魚交じり。海老雑魚 えび ざこ の魚 交じり。海老 えび の鯛 たい 交じり。 さこ雑魚も魚鰭うおひれ 大小の違いはあっても、持つべきものを持っていることのたとえ。小魚でもひれを持っている意から。 笹の葉に鈴 よくしゃべる人のこと。また、落ち着きがな いこと。「笹の先へ鈴」ともいう。笹の葉に 鈴をつけると、揺れてよく鳴ることから。 類義笹葉に火の付いたよう。竿の先の 鈴。雲雀ひばの口に鳴子。 出淮南子えなんじ ささや せんり囁き千里 秘密のもれやすいことのたとえ。内緒話が、す ぐに千里も離れた所に伝わるという意から。 補説出典には「耳に附ふすの言(耳に口寄せ たひそひそ話は、千里に聞こゆ」とある。 類義囁き八町。こそこそ三里。口より出せ ば世間。壁に耳あり障子に目あり。内緒話は 江戸まで聞こえる。 坐して食らえば山も空し 出京本通俗小説 働かないで遊んで暮らせば、どんなに大きな <272> さしでるーさつきの 財産も、遂には一銭も残らなくなるというた とえ。怠け者を責めるときに使われること ば。ただ座って、何もしないで食っていたら、 山ほどあるものでもなくなってしまう意か ら。「居て食らえば山も空し」「座食すれば山 も空し」「居食いすれば山も空し」ともいう。 類義」遊んで食らえば山も尽きる。 れる446 差し出る杭は打たれる出る杭は打た さじ くち さき 匙の先より口の先 患者のきげんとりは上手だが、腕は悪い医者 を皮肉ったことば。薬を調合するさじ加減は 下手なのに、患者へのお世辞ばかり上手であ る意から。 砂上の楼閣 一見立派だが、基礎がしっかりしていないために長く維持できないもののたとえ。また、実現が不可能なことのたとえ。崩れやすい砂の上に建てられた高い建物の意から。▷楼閣‖高くてりっぱな建物。 類義 空中樓閣。 匙を投げる 成功する見込みがなく、あきらめること。医 者が病人の治療をあきらめ、薬を調合する匙 を投げ出すという意から。 用例一面のレコードは僅わずかに三分そこそ こで終りました。鈴子夫人始め佐瀬弁護士も 森川森之助も、四五人の近親者達たちも、たが いに顔を見合わせるばかり。「これはどうしたことでしょう。一句も一言もわかりませんが」佐瀬弁護士が真っ先に匙を投げてしまいました。〈野村胡堂◆奇談クラブ〉 させん左遷 出史記しき 前よりも低い地位や官職にうつすこと。また、中央から地方へ転任させること。「左降」ともいう。昔、中国では右を上位、左を下位としたことから。▶左‖官位を下げる。下位。遷‖うつす意。 補説日本では、昔、右より左を尊んだ(右大臣より左大臣が上)。 故事秦しんが滅ぼされたとき、項王(項羽)は 将軍たちを中央近くの土地に王として封じた が、劉邦りゅう(後の漢の高祖)だけは警戒して 遠方の地に封じられた。側近の韓信(漢の武 将)が「項王、諸将を近地に王として、王(劉 邦)独り遠く此こに居る。これ左遷なり」と 言ったことばから。 座禅組むより肥やし汲め 農民は座禅を組んで修行するより、本業の農 作業に精を出すべきであるということ。「組 む」と「汲む」とを組み合わせて調子を整え ている。 類義詩を作るより田を作れ。 類義 沙汰にも及ばぬ。 沙汰の外 ほか。 沙汰の限りに非ず さたかぎあら 常識外れで、道理に合うかどうかを論ずる範 囲を越えているということ。論外、話になら ない、もってのほかの意。 出史記しき 味方すること。賛成すること。∇袒∥衣服の 袖をぬいで肩を出す意。 故事)中国漢の高祖(劉邦 りゅう ほう )の死後、皇后 呂りょ 氏の一族が天下を奪おうとしたとき、劉 氏を守ろうとした太尉の周勃 しゅう ぼつ が全軍に向 かい「呂氏に味方するものは右袒せよ、劉氏 に味方するものは左袒せよ」と呼びかけたと ころ、全軍が左袒し、劉氏についたという故 事による。 沙中の偶語 出史記しき 臣下がひそかに謀反 の相談をすること。人 のいない砂地の上に座り込んで話し合う意か ら。「沙丘さきの謀」ともいう。△沙中=砂 の上。偶語=向かい合って話をすること。 故事中国漢の高祖(劉邦 りゆう)が天下を平定 した後、大功のある者だけを侯に取り立て、 他には及ぼさなかったとき、高祖は御殿の回 廊からたびたび砂の上に座り込んで語り合っ ている諸将を見た。留侯 りゆう こう の張良に尋ねた ところ、「陛下はご存じないのですか。あれ は謀反の相談をしているのです」と答えた。 高祖は憂慮し、自分がもっとも嫌っていた雍 菌しを侯に取り立てて、諸将の心を落ち着か せたという。 五月の鯉で口ばかり 口は悪いが、気性はさっぱりしていることの たとえ。五月の鯉のぼりは口は大きいが、腹 <273> はからっぽであることから。とくに、江戸っ 子の気性についていう。 類義五月の鯉の吹き流し。 さつまのかみ薩摩守 無賃乗車のこと。平忠度 たいらの だのり が薩摩守だった ことから、「忠度」と「ただ乗り」をかけたしゃ れ。 補説「薩摩守をきめこむ」といえば、無賃乗車をすること。 さとばらなぬか里腹七日 実家に帰ると気がねなしに腹いっぱい食べる ので、七日間もおなかがすかないということ。 「里腹三日」ともいう。∇里腹=嫁や奉公人 が、実家に帰って腹いっぱい食べること。 「類義」親腹三日。親腹七日。法事腹七日。 さば鯖の生き腐り 鯖はいたみやすく、新鮮に見えても腐ってい るものがあり、食べると当たる場合がある。 また、新鮮なものでも食当たりする人がある から注意せよということ。「鯖の生き腐れ」 ともいう。 鯖 さば など二枚重ねを一連として数えることか らなど各種あって定説はない。 自分の都合のいいように数をごまかすこと。 ∇読む∥数える。 補説語源は、鯖はいたみやすいので急いで 飛ばしてかぞえ、実数をごまかすことが多い ことからとか、五十集ぱ(魚市場)で小魚ぱを 早口でかぞえてごまかしたことからとか、刺 さば鯖を読むよ さつまのーさるがう 様に様を付ける うやまう上にもうやまうこと。丁寧な上にも 丁寧な言い方をすること。敬称の「様」を二 つ重ねて付けることから。 寒いときはやたらと小便がしたくなり、空腹 になるとしきりにあくびがでるということ。 「ひだるさ欠伸寒さ小便」ともいう。△ひだ るい∥ひもじい。空腹で元気がない。 類義空腹生欠伸なまあ寒さ小便。 寒さ小便ひだるさ欠伸 寒さの果ても彼岸まで曇さ寒さも彼 がん 岸まで22 きゃばし 鞄走りより口走り 刀の鞘走りよりも、口がすべって失言するほ うが危険であるという戒め。△鞘走り=鞘が ゆるくて、刀身が自然に鞘から抜け出ること。 さゆうかえりたい 左右を顧みて他を言う 出孟子 自分に都合の悪い話をそらしてごまかすこ と。お茶をにごすこと。返答に困って、側近 とまったく関係のない話をしてごまかしてし まう意から。「顧みて他を言う」ともいう。 ∇左右ここでは、側そば近く仕える者。 故事 中国戦国時代、孟子が斉の宣王に次々 と問いかけ、最後に「四境の内治まらずんば 則 すな わ ち如何にすべき(一国の君主として国内 がよく治まらないときはどうなさいますか」と言ったところ、王ははたと返事に困り、聞こえないふりをして、そばの家来と別な話をしてごまかしてしまったという故事による。 皿嘗めた猫が科を負う 大悪人や主犯はつかまらずに、下っ端だけが つかまって罰を受けることのたとえ。魚を食 べた猫は逃げてしまい、あとから行って皿を なめた猫が罰を受けるという意から。 類義米食った犬が叩かれずに糠ぬか食った犬 が叩かれる鉤こうを窃ぬすむ者は誅ちゅせられ、 国を窃む者は諸侯しとなる。笊ざるなめた犬が 科かぶる。網にかかるは雑魚ざこばかり。 皿に桃を盛る 皿に桃を盛ったように、尻のすわらない不安 定なさまのたとえ。「皿に桃を盛ったよう」 「皿に桃」ともいう。 さあと 去り跡へは往くとも死に跡へ は行くな 先妻と離婚したあとへ後妻に行くのはよい が、死別したあとへは行くなということ。亡 くなった先妻にはよい思い出が残っており、 常に比較されてやりにくいことから。 類義去られ跡へは往くとも死に跡へ往く な。往いに跡へ行くとも死に跡へ行くな。 猿が魚釣る 人まねをして失敗することのたとえ。猿が <274> さるがほーさるもの しっぽで魚を釣る意から。 類義猿の釣り。 さ 猿が仏を笑う 浅知恵しかない者が、深い知恵のある者の真 の偉大さがわからずに嘲笑すること。大智 は、小智の者にははかり知ることができない というたとえ。 猿知恵 利口なようで、間の抜けた知恵。猿が持って いる程度の知恵の意から。 補説「猿知恵牛根性」は、利口なようで間 が抜けている猿の知恵と、鈍重だがこつこつ と努力する牛の性質ということで、両者が まったく正反対であることをいうことば。 類義猿かしこ。猿利口。 對義 牛根性。 猿に烏帽子 えぼし 柄にもない、ふさわしくないことをするためと え。また、外見だけよそおって、実質が伴わ ないことのたとえ。猿に人間のかぶる烏帽子 をかぶせる意から。△烏帽子=昔、元服した 男子の用いた冠物 かぶり。 もの 類義 沐猴 もっ こう にして冠す。猿の冠着たよう。 猿に冠。 猿に絵馬 さるえま 取り合わせのよいもののたとえ。猿と馬を取 り合わせた図柄が多いことから。 補説猿を馬小屋の守護とする信仰があっ て、農家では申さると書いた紙を馬小屋に貼った。また猿が馬を引くところを描いた絵馬や神札が、正月のうまや祭りに用いられた。類義梅に鶯うぐいす牡丹んに唐獅子から竹に虎。さるきのぼ猿に木登り むだなことをするたとえ。木登りのうまい猿 に木登りを教えるように、知り尽くして教え る必要のない者に教える意から。 之 猿の尻笑い 自分の欠点に気づかずに、他人の欠点をあざ 笑う愚かさのたとえ。猿が自分の尻の赤いの がわからず、他の猿の尻の赤いことを笑うと いう意から。「猿の面っち笑い」ともいう。 類義猿の柿かき笑い。目糞めく鼻糞を笑う。不 身持ふみちの儒者じゅが医者の不養生をそしる。 腐れ柿が熟柿じゅを笑う。障子しよの破れ目から 隣の障子の破れ目を笑う。盥たら半切りを笑 う。鍋が釜を黒いと言う。 猿の水練、魚の木登り さるすいれんうおきのぼ 見当ちがいのことをしたり、まったく反対の ことをするためとえ。猿が木に登り、魚が水中 を泳ぐのは自然だが、まったく逆のことをす る意から。▷水練‖水泳。 類義木に縁よりて魚を求む。 には何もしていないことのたとえ。猿はしら みを取るようなかっこうをしているが、実際 は取ってはいないという意から。 猿の空蝨 仕事や用事をしているふりをしながら、実際 考えなしに表面だけ他人のすることをまねる こと。また、そうした人をあざけって言うこ とば。「猿が人真似」ともいう。 類義猿が髭ひげ揉む。 猿は人間にもが三筋足らぬ さんにんげんけみすじた 猿は人間にもが三筋足ら 猿は人間によく似ているが、人間より毛が三 本少ないので、それだけ知恵は浅いという俗 説。「猿は人間にもが三本足らぬ」ともいう。 さるきお 猿も木から落ちる その道に秀でて名人や達人と言われる人でも 失敗することがあるというたとえ。木登りが 上手な猿でも、木から落ちることもあるという 意から。 注意目上の人に使うと、相手を猿に見立て てしまうことになるのでよくない。 類義上手の猿が手を焼く。騏驎 きり の躓 ま き。千里の馬も蹴躓 けつ まず く。河童 かっ の川流れ。 上手の手から水が漏る。弘法にも筆の誤り。 英語Homer sometimes nods.偉大な詩 人ホーマーでさえも、ときには居眠りする The best cart may overthrow.最上の馬 車でも転覆することがある 去る者は追わず 往く者は追わず、来 たる者は拒まず665 <275> さものひびうと 去る者は日日に疎し 出文選 死んだ者は、月日がたつにつれてだんだんと 忘れられていくし、親しかった者でも遠く離 れると、しだいに疎遠になっていくというこ と。マ去る者∥死者。 補説出典の「古詩」には、「去る者は日ひびに疎まれ、生ける者は日に以もって親しまる(生きている者は日増しに親しまれる)」とある。類義遠ざかるもの日日に疎し。遠くなれば薄くなる。遠ざかるは縁の切れ目。 英語 Long absent soon forgotten. 長く 不在にすれば、たちまち忘れられる」Out of sight, out of mind. (目に見えぬものは忘 れ去られる) 用例鷲見柳之助は其の妻を亡 な 七日 ふたな ぬか になる。去る者は日に疎しであるが、 彼は此この十四日をば未まだ昨日のように想 おも っている。〈尾崎紅葉◆多情多恨〉 さるこうちゅうおすなわぶたおな 猿を柙中に置けば則ち豚と同 じからしむ 出韓非子 有能な者も、その能力を発揮できるような条 件を与えなければ、無能な者と変わりがない というたとえ。猿を狭い檻おりの中に入れてお けば、本来の敏捷ぴんしさが発揮できずに鈍重 な豚と同じだということから。△柙∥檻。 かみたた 触らぬ神に祟りなし かかわり合いを持たなければ、災いを受ける ことはないから、よけいな手出しはするなと いう教え。神様とかかわり合わなければ、神 様の崇りを受けることはない意から。「触ら ぬ神に罰あたらぬ」「知らぬ神に崇りなし」 ともいう。 さるものーさんがい 類義当たらぬ蜂はちには刺されぬ。参らぬ仏 に罰は当たらぬ。瘡かさも触らねば移らぬ。七 日なぬ通る漆うるも手に取らねばかぶれぬ。無用 の神たたき。 対義」義を見てせざるは勇なきなり。 英語)Far from Jupiter, far from thunder. (ローマ神話の天空の神)ジュピターから離 れていれば、雷に打たれることはない 用例自分のように人間をおそれ、避け、ご まかしているのは、れいの俗諺ぞくの「さわら ぬ神にたたりなし」とかいう怜悧れい狡猾こう 処生訓を遵奉しているのと、同じ形だ、という う事になるのでしょうか。〈太宰治◆人間失 格〉 さわ 触り三百 少し関わりを持ったため、迷惑を被ることの たとえ。ほんの少し触っただけなのに三百文 の損をする意から。「触り三百目」ともいう。 △三百∥三百文。 く見てからにせよという意から。∇ねぶれ∥なめよ。 類義 触らぬ神に崇たりなし。歩く足には泥 がつく。がったり三両。 ざみさら その場の雰囲気や他人の意見を見きわめてか ら、自分の出方や意見を決めるべきだという たとえ。上品な人ばかりが集まっている席で 皿をなめれば育ちが知れるので、まわりをよ 座を見て皿をねぶれ 座を見て法を説け その場のようすや雰囲気に応じた行為をとら なければいけないということ。 類義人を見て法を説け。機に因よりて法を 説け。 さんうきた 山雨来らんと欲して風楼に満 つ 出許渾ー詩 きよこんし 何かよからぬことが起ころうとする前の、不 穏な気配がただようさま。山の雨が降ろうと するとき、前触れの風が高楼いっぱいに吹き こんでくる意から。∇楼∥高い建物。高殿。 補説詩の題名は「咸陽城東楼かんようじょ」。「渓 雲初めて起こりて日閣かくに沈み(谷間から雲 がわき起ころうとするとき、日は建物の陰に 沈み)、山雨来らんと欲して風楼に満つ」と ある。 三益友益者三友損者三友 99 三界に家なし 世界中のどこにも安住の場がないこと。△三 界Ⅱ欲界・色界・無色界からなる、衆生の世 界。仏教では、「三界は安きこと無し」「三界 に家無し」などといい、「三界」が衆生全般に とって安住の場でありえないことを説いた。 補説「女は三界に家なし」という形で使わ れ、安住の場がない意味が転じて、女性の不 <276> さんがいーさんこく 安定な地位を表すようになった。 類義女に定まる家なし。 三界の火宅さんがいかたく さ 苦悩にみちた人間世界のこと。迷いの世界の 中にいることは燃えさかる家の中にいること と同じだというたとえ。△三界‖欲界・色 界・無色界からなる、衆生の世界。迷いの世 界。火宅‖火に包まれて燃えさかる家。 出法華経ほけきよう 補説法華七喩 ほっけ しちゅ のうち「比喩品 ひゆ ほん に説 かれる喩で、三界は安きこと無く、猶なお 宅の如ことしとある経文にもとづく。 さんかい三桅を植う 三桡を析 出蘇軾三桡堂銘 子孫に高位高官にのぼる者の出るのを期待す ることのたとえ。∇三桡∥「槐」はえんじゅ の木。中国周代、朝廷の庭に三本のえんじゅ の木を植え、三公(太師たい・太傅たい・太保たい) がこの木の方に向かって座って執務したこと から、三公を三槐、その位を槐位といった。 故事宋そうの王祐おうはすぐれた人物であった が重用されなかった。そこで子孫の中から高 位高官にのぼるような人物の出ることを期待 して庭に三本のえんじゅの木を植えた。果た して、子の王旦おうは宰相さいしようになり、その子 孫も代々高位高官にのぼったという。 さんか ほうかねさんかた 三欠くの法金は三欠くに溜まる150 さんかんしおん 三寒四温 冬季の気象状態のこと。冬から春先にかけて、寒い日が三日ほど続いたあと暖かい日が 四日ほど続いて少しずつ暖かくなる気候のこ とをいう。 用例この気温の不順不同は、所謂三寒四 温どころのものでなく、ヒステリックである。 この季節、気温に敏感な人々は、ヒステリー の妻と一緒に暮してる思いがするだろう。 〈豊島与志雄◆台湾の姿態〉 さんぐん すい うば 三軍も帥を奪うべきなり、匹 ぷこころざしうば 夫も志を奪うべからざるな り 出 ろんご 論語 人の志は尊重すべきであるということ。たと え大軍に守られていてもまとまっていなけれ ば総大将を討つことはできるが、身分が低く ても志が堅ければ、その意志を変えることは できないということから。△三軍=大国の軍 隊。中国周代の制では、一万二千五百人で一 軍。大国はそれを三軍備えていた。帥=大 将。匹夫=身分の低い男。 さんこ二顧 しょかつりようせんすいしのひよう 出諸葛亮前出師表 地位ある人や目上の人が、礼を尽くして頼み 込むこと。また、目上の人がある人物を特別 に信任し、優遇すること。「三顧の礼」とも いう。 故事 中国蜀 の劉備 が諸葛孔明 を軍 師として迎えるために、礼を厚くしてその廬 いお を三度も訪ねたという故事による。 用例藤吉郎が、その竹中半兵衛重治 たけなかはん べえしげはる ひとりを麾下きかに迎えるため、かつては栗原 山の山中に七日も通って行き、慇懃ぎん三顧の 礼をとって、ようやく彼に出廬しゅつろの決心をさ せた、あの熱意を思い合わせればーさもあ ろうかと、家臣たちは、むしろ彼があわてる 様をたのもしくさえ見るのであった。〈吉川 英治◆新書太閣記〉 山高水長 出范仲淹厳先生祠堂記 高潔な人の功績や徳望の崇高さの形容。山が 高くそびえ、川が長く流れることから。人の 品性が高大で高潔なことの形容に用いられる こともある。「山高く水長し」と訓読する。 △山高山が高くそびえること。功績や徳望 を仰ぎ見られることのたとえ。水長川の水 が絶えることなく流れること。長く尽きない ことのたとえ。 三国 世界中で一番であること。天下第一。△三国 Ⅱ日本・唐から(中国)・天竺じん(インド)の三つ の国。昔の人はこの三国を全世界としてい た。 補説「三国一」は富士山の異称。また、昔 から結婚式で花嫁・花婿をほめることばとし て使われる。 用例仁羽はそこがえらいのよ。あたしが何 を言ったって、平気の平左よ。そりゃもう、 あんなありがたい御亭主さんって、まあ三国 一の花婿さんね。〈横光利一◆寝園〉 山谷処を易う 出漢書 世の中が大きく変わってしまうこと。丘陵が <277> 渓谷となり、渓谷が丘陵になり、両者が入れ かわるという意から。「陵谷遷貿」「陵谷変遷」 「陵谷処を易う」「陵谷の変」ともいう。 補説 詩経の「高岸 谷と為り、深谷 険と為る高い岸は陥没して谷となり、深い 谷は埋もれて岡となる」に基づく語。 類義滄海 変じて桑田 となる。 さんご じゅうはち三五の十八 勘定が合わないこと。予想と違った結果にな ること。見込み違いのたとえ。三と五をかけ ると十五が正しいことから。 さんこ三顧の礼♡三顧276 さんさいおきなひゃくさいどうじ 三歳の翁、百歳の童子 人間の賢さは、年齢には関係がないものだと いうたとえ。若くても知恵も分別も備えてい る者もいれば、年をとっていても思慮分別の ない者もいるという意から。 類義百歳の童七歳の翁十歳の翁百 歳の童八歳の翁百歳の童 さんしすいめ山紫水明 風景の清浄で美しいさまのこと。山は紫に映 え、川は澄み切っている意から。 さんじつこうがん こころはか 三日向顔せざればその心測り がた 難し 三日間会わないうちに、人の心はどう変化するかわからないという意から。▷向顔‖顔を合わせること。 人の心は変わりやすいものだというたとえ。 さんごのーさんじゅ さんじつしょよ 三日書を読まざれば語言味無 出世世つしんごほ世説新語補 三日間でも読書しないでいると、使うことば にも味わいがなくなってくるということ。読 書の大切さを言ったことば。 さんし三矢の教え 兄弟が力を合わせることの大切さを説いた教 え。弓の矢が一本では簡単に折れるが、三本 では折れにくいことから。 補説)戦国時代の武将毛利元就 となり が、三人 の息子に一本では折れやすい矢も三本合わせ ると折れにくいことを示して、兄弟力を合わ せるように諭したという逸話からとされる。 ただし、この逸話は元就の残した「三子教訓 状」に基づく後世の創作で、これに類した逸 話は世界各地にみられる。 さんしれいはとさんしれいからすはん三枝の礼鳩に三枝の礼あり、鳥に反 嘯の孝あり530 さんじゃくさ 三尺下がって師の影を踏まず ないようにせよということ。「下がって」は 「去って」ともいう。△三尺=約九一センチ メートル。 弟子は師をうやまい、常に礼儀を失わないよ うにせよという教え。師につき従って歩くと きは三尺離れて歩き、尊敬する師の影を踏ま 類義 七尺去って師の影を踏まず。師弟と なって七足 あし 去る。七足隔へだつ師弟の礼。 三舎を渡 出春秋左氏伝 相手を恐れはばかって自分から退くこと。一 目置く。人に屈服する。また、譲歩して互い に争わないこと。相手から三舎(九十里)立ち 退き敬意を表する意から。△三舎「舎」は 軍隊の一日の行程。古代中国の軍隊は、一日 三十里進軍して宿営する定めであったことか ら、三十里を一舎という。「三舎」は三日分 の行程。 さんじゅう 三十にして立つ 出 論語 ろんご 三十歳になり、自分のしっかりとした立場を もって自立すること。三十歳で学識が確立 し、世に立つ自信を得ること。∇立つ∥身 分・学問の基礎が確立する。人生観ができあ がる。 補説 七十四歳まで生きた孔子の晩年の境 地。このことから、三十歳のことを「而立」 という。↓志学 しが 283 三十の尻括り 三十歳にもなると、思慮分別もしっかりして きて、堅実な生活を営むようになるというこ と。▷尻括り∥あと始末すべき物事などをき ちんとまとめる意。 類義三十は男の花。 <278> さんじゅうふりそでしじゅうしまだ 三十振袖四十島田 類義四十新造五十島田。 女性が年不相応な若づくりをすること。年輩 の女性が振袖を着たり、島田を結う意で、若 ごしらえをあざけっていうことば。∇振袖∥ 若い女性が着る、袖丈 たけ その長い和服の晴れ着。 島田∥未婚の女性が結う日本髪の髪形。結婚 すると丸髷 まげ まる を結う。 三十六計逃げるに如かず 出南齐書 いざというときには、逃げるのが最良の策で あるということ。はかりごとやかけひきはい ろいろあるが、逃げるべきときには逃げて身 の安全を守り、後日の再挙を図るのがよいと いう意から。「三十六策走にぐるを上計と為な す」「三十六計走ぐるを上計となす」「三十六 計」ともいう。∇三十六計=中国古代の兵法 にある三十六種の計略。 故事会稽かいの長官であった王敬則は、反乱 を起こして斉の都に攻めのぼったが、皇帝父 子が逃げ出そうとしているという情報が入っ た。これを聞いた敬則は、「檀公だんの三十六 策、走にぐるは是これ上計。汝なんが父子、ただ 応まさに急ぎ走ぐべきのみ(檀将軍の三十六計 のうちでも、逃亡するのが最上の策だったそ うだ。おまえたち父子は、さっさと逃げるが よい)と言ったという。 類義逃げるが勝ち。逃ぐるが一の手。逃ぐるが奥の手。負けるが勝ち。 英語 It is better to have wings than horns.「角を持つより羽を持つほうがよい」 用例詮吉の仲間の男で、それは下宿してい た家の娘に信用され、直接結婚を申し込まれ たという話があった。その男は、個人的な関 係から大事が壊れるといけない、三十六計逃 げるにしかずと、忽々そうに引越してしまった。 〈宮本百合子◆聟〉 算術者の不身代 職業と実生活は一致しないことのたとえ。算 術の先生は計算がうまいはずなのに貧乏して いるという意から。▷不身代‖財産をもたな いこと。 類義医者の不養生。占い者身の上知らず。 学者の不身持ち。 さんしょうこつぶ 山椒は小粒でもぴりりと辛い 体は小さくても、気力が鋭く才能や力量がす ぐれていて、侮れないことのたとえ。山椒の 実はとても小さいが、非常に辛いことから。 「山椒」は「さんしょ」とも読む。 類義山椒は小粒でも実は辛い。小さくとも 針は呑のまれぬ。細くても針は呑めぬ。小人 とに鈍なし。小敵と見て侮る勿なかれ。 英語Little head great wit.小頭の大知恵 者Little heads may contain much learning.小さな頭にも多くの知恵が入る 用例ま、そのお話てえのをザッと伺おう じゃアげえせんか、あっしもこれで甲州無宿 山椒さんしの豆太郎山椒は小粒でもピリッ とからいやねえ、事の仔細を聞いたうえ でサ、案外乗り気に一肩入れるかも知れませ んぜ」〈林不忘◆丹下左膳〉 さんしょうめ どくはらぐすり 山椒目の毒腹薬 山椒は食べると興奮するので目には悪いが、 胃腸の働きを助けたり、回虫を駆除したりす るので腹の薬としては効果があるということ。 類義山椒は血の毒目の薬。 譲臣国を乱し妬婦家を破る ざんしんくにみだとふいえやぶ 偽って主君に告げ口をする臣下がいれば国は 乱れるし、嫉妬深い女は家の平和を壊すもと になるということ。∇讒臣∥事実を曲げ偽っ て他人の悪口を主君に告げる臣下。妬∥やき もちをやくこと。 さんずん くさび三寸の轄 出淮南子えなんじ 物事の要、欠くことのできないもののたとえ。 車輪がはずれないように車軸にさしてある短 いくさびは、小さいけれども、これがないと 車は走らないところから。「轄」は「楔」と も書く。∇轄∥車輪が車軸から抜けるのを防 ぐ留め金。 さんずんしたごしゃくみほろ 三寸の舌に五尺の身を亡ぼす 不用意な失言や多言のために災いを招き、身 を滅ぼすことが多いので、口を慎めという戒 め。三寸しかない舌が五尺ある体を滅ぼして しまう意から。▶三寸‖約九センチメート ル。三寸の舌‖口先の弁舌。五尺‖約一五〇 センチメートル。 類義 舌三寸の囀 ざえ づ りに五尺の身を果たす。 <279> 口は禍わざの門もん。 舌は禍の根。一寸の舌で五 尺の身を損ず。 さんずん したふる三寸の舌を揹う 雄弁をふるうこと。舌を自由自在に使う意か ら。△三寸の舌∥口先の弁舌。 出史記しき 補説出典には三寸の舌を以もって、百万の 師よりも彊っよし」とある。 類義三寸の舌を以もって百万の師よりも強し。 さんずんみなお三寸の見直し 多少の誤差や欠陥はありがちなものだという こと。物の長さを測り直せば三寸くらいの違 いはあるという意から。人の多少の欠点や容 姿の醜さも、見慣れているうちに何でもなく なるというたとえにもいう。△三寸‖約九セ ンチメートル。ここでは、ほんのわずかの意。 類義三寸は見直し。 さんずんまないたみぬ三寸俎板を見抜く ものを見抜く力のすぐれていることのたと え。三寸もある厚い俎板の裏まで見通す意か ら。「三寸見抜く」ともいう。△三寸=約九 センチメートル。 類義 八寸板を見抜く。 さんぞんゆう えきしゃさんゆう そんしゃさんゆう 三損友益者三友損者三友 三代続けば末代続く 家業は三代続けば末永く続くものであるということ。創業者は苦労して築き上げ、二代目 はそれを見ているので堅実にやるが、三代目 になると苦労も知らず、結局家運を傾かせる ことが多いことから。 さんずんーさんにん さんちゅうぞくやぶやすしん山中の賊を破るは易く、心ちゅうぞくやぶかた中の賊を破るは難し 邪心や私心をおさえ、自らを律することの困難さのたとえ。山の中の賊を打ち破るのはたやすいが、心の中の賊(邪念)を打ち破るのは難しいという意から。 出 王陽明ー与二楊仕徳薛尚謙一書 類義自ら勝つ者は強し。 さんちゅうれきじつ 山中暦日なし 出太上隠者詩 俗世間を離れ、山の中でのんびり暮らしてい ると、時のたつのを忘れてしまうということ。 俗世をのがれた隠遁いん生活の趣をいう。山の 中の生活には暦もないという意から。 補説詩の題名は「人に答う」。 類義野人 やじ ん 暦日無し。 さんどかじいちどごけ 三度の火事より一度の後家 夫に死なれる不幸のたとえ。三度火事にあっ て家を失うよりも、たった一度でも夫に先立 たれたほうが不幸であるということ。 度飢餓に遇っても、戦争の惨禍に比べればま しだから戦争を避けよという意から。 さんど きがあ いちど 三度の飢餓に遇うとも一度の いくさあ 戦に遇うな 戦争は飢餓よりも悲惨であるということ。何 類義七度の餓死に遇うとも一度の戦いに遇 うな。七年の餓死に遇うとも乱に遇うな。十 年の餓死に遇うも一年の戦争に遇うな。 三度の飯も強し柔らかし 世の中は、なかなか思うとおりにはならない ものだというたとえ。毎日三度炊いている飯 でさえ、固かったり柔らかすぎたりして思う ようにはいかないという意から。 三度目の正直 物事は、一度目や二度目はうまくいかなくて も、三度目にはうまくいくということ。 類義三度目は定じよの目。三度目が大事。 英語 All things thrive at thrice. [物事はみな三度目に首尾よくいく] The third time days for all. [三度目がすべての埋め合わせをする] 三人行えば必ず我が師あり 出論語ろんご 手本となる人は必ずいるという教え。わずか 三人でも何か一緒に行えば、その中に必ず自 分の手本となる人がいるはずである。常に教 わろうとする謙虚な態度の大切さをいう。 補説孔子のことば。出典には三人行えば 必ず我が師を得う。其その善よき者を択えらびて 之これに従い、其の善からざる者にして之を改 <280> む二人の言動のうちのよいものを選びとっ て自分の手本とし、よくないことがあれば、 自分を反省して改める」とある。 さんにんこも 三人子持ちは笑うて暮らす 子供の数は三人くらいがちょうどよく、いち ばん幸せな暮らしができるということ。 類義子供持つなら三人持て。負わず借らず に子三人。足らず余らず子三人。 320 三人知れば世界中 三人が知っていれば秘密は保てないというこ と。人が三人いるところで話せば、世界中が 知ることと同じだということから。 類義三人寄れば公界いが。三人寄れば人中 ひと。 なか 三人あれば公界。 三人で一つのことをすると、その中の一人は損をしたり、仲間外れにされがちであるということ。 類義三人旅すれば一人患 う。三人寄れば 取り除のけ講こう。三人博打 の一人乞食。一 人旅するとも三人旅するな。 さんにんとらな 三人虎を成す 出戦国策 事実でなくても、多くの人が言えば、事実と 思われるようになることのたとえ。一人が 「虎が出た」と言っても信じられないが、三 人がつぎつぎにそう言うと、信じられてくる ことから。三人市虎を成す」ともいう。 類義市いちに虎あり。市虎三伝。三人寄れば 金かねをも溶かす。衆口 金きんを鑠とかす。 さんにんよかねと 三人寄れば金をも溶かす 大勢の人が同じことを言えば、それが事実無 根でも、本当のことと思われて、否定しても 通らなくなってしまうということ。多くの人 の言葉が集まると、硬い金属を溶かしてしま うほどになる意から。 類義衆口 金 を鑠とかす。三人虎を成す。 三人寄れば公界 人が三人集まった所での言動は、秘密ではなくなるということ。人が三人集まれば、そこは公的な場所となる意から。三人あれば公界」ともいう。マ公界ニ公の場所。 類義 三人寄れば人中 ひと なか 三人知れば世界 三人寄れば文殊の知恵 凡人でも三人で集まって相談をすれば、文殊 菩薩 もんじゅ ほさつ のようなよい知恵が出るものだとい うこと。▷文殊‖知恵をつかさどる菩薩。 類義一人 いち にん の好士じうより三人の愚者。一人 の文殊より三人のたくらだ。衆力 しゅう りき 功あり。 三人寄れば師匠の出来。 対義三人寄っても下種げすは下種。 英語 Two eyes can see more than one. 二つの目は一つの目より多くを見ることができる 用例三人寄れば文殊の知ちというが、それ は少なくとも一と一とが寄った場合のこと で、零と零との会合は百人集まっても零に過 ぎない。〈吉川英治◆黒田如水〉 三年園を窺わず 出漢書かんじょ 少しも休まず、一心不乱に勉強することのな とえ。△園=庭園。窺う=出向くこと。 故事中国漢の学者董仲舒 三年間、宿舍の庭に降りることもせず、もっ ぱら学問に打ちこみ、景帝のとき博士となっ たという。 三年たてば三つになる どんな人でも物でも、時がたてばそれに応じ て成長し、変化するということ。生まれた子 も、三年たてば三歳になる意から。 類義乞食 の子も三年経てば三つになる。 侍の子は三年すれば三つになる。馬鹿ばかの 子も三年養えば三つになる。 三年父の道を改むること無き はこういろんこ は孝と謂うべし 出 論語ろんご 父親の死後三年間は、生前の父親のやり方を 変えずに守るのが孝というものだというこ と。 さんねんつと 三年勤め学ばんよりは三年師 えら を選ぶべし よい師を探して学ぶことがいちばん大切であるということ。「三年学ばんより三年師を選 <281> べともいう 類義 千日の勧学より一日の学匠。 三年輩ばず鳴かず 将来、大いに活躍しようとしてじっと機会を 待っているさまをいう。また、何もしないで 過ごすこともいう。△蜚ぶ∥飛ぶ。 故事による。 故事)中国、戦国時代、斉の威王が政治を怠っ ているとき、淳于髡 じゅんが「わが国には大き な鳥がおりまして、大王様の庭に降りており ますが、三年間、飛びもしなければ鳴きもし ません。この鳥は一体何か、ごぞんじでしょ うか」と謎をかけた。王は「その鳥は、一度 飛び立てば天に昇ろう。一度鳴けば世を驚か そう」と答えて、以後、国政に身を入れたと いう。また、『呂氏春秋 りよししゅ んじゅう 』には、同じ話 が、楚その荘王と臣の伍挙 ごき よ の話として記さ れている。 類義 鳴かず飛ばず。 三年鳴かず飛ばず。 さんぷ三釜の養よう わずかな給料もいとわず、貧しい中で親に孝 養をつくすこと。また、その喜び。△三釜∥ 約三十七リットルの米。転じて、薄給のこと。 一釜は中国戦国時代の容量単位で、約十二・ 四リットル。 出荘子そうじ 故事孔子の門人の曽子が「親の存命中に 仕官したときは、わずか三釜の給料でも親に 孝養をつくすことができたが、二度目の仕官 のときは、三千鍾(一鍾は十釜)もの給料を もらったのに、親がもう亡くなっていたので、 孝養ができずに悲しかった」と話したという さんねんーさんよう さんべんまわ 三遍回って煙草にしよ 念には念を入れて、仕事に手落ちのないように気をつけよという戒め。夜回りをするとき、三度見回って安全を確かめてから一服しようという意から。「三遍回って煙草にしよう」「三遍回って煙草にしよう」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 さんぽあるわす 三歩歩くと忘れる わす 鶏は三歩歩くと 忘れる 500 秋刀魚が出ると按摩が引っ込む さんまであんまひこ さんまの出回る秋になると、涼しくなり食欲もでてきて健康をとりもどし、按摩にかかる人がなくなるということ。「さんま」と「あんま」の語呂合わせのしゃれ。 類義 蜜柑 みか が黄色くなると医者が青くな る。 さんみいったい三位一体 キリスト教で父(神)と子(キリスト)と聖霊は 一体で、唯一の神が別の姿で現れたものとい う考え方。転じて、三つのものが一つのもの の三つの側面である、三つのものが緊密に結 びつく、三者が心を合わせて事にあたる、な どの意でも用いられる。 用例文明と、物質的進歩と、デモクラシー と、アメリカを構成するこの三位一体をポー はひっくりかえした。〈平林初之輔◆ポウの 本質〉 三面六臂さんめんろっぴ 一人で何人分もの働きをすること。また、多 方面で活躍すること。三つの顔と六本の腕が ある仏像から転じたことば。▷臂‖腕。 類義八面六臂。 さんもん 山門から喧嘩見る 目分は安全な立場に身を置いて、他人の騒ぎ を興味本位に眺めること。△山門=寺が山中 に建てられたことから、寺の門の意。 類義高みの見物。高みで見物。対岸の火 事。 さんよ三余 出魏志・注ちゅう 勉学に最適な三つの余暇。人間の生活の中に は冬(年の余り)、夜(日の余り)、雨(時の余り) の三つの余暇があり、勉学するにはこの余暇 を使えば十分であるということ。 補説魏の董遇という学者が、学問をす る暇がないという弟子に教えたことばで、出 典には「……まさに三余をもってすべし。 ……冬は歳としの余り、夜は日の余り、陰雨 いん う (長雨)は時の余りなり」とある。 さんよう 算用あって銭足らず かんじょう 勘定あって銭足 らず163 さんようじゅうはち てろくじゅう 算用十八、手六十 そろばんは若いうちに上達するが、書道は年 <282> をとるまでなかなか上達しないということ。 類義 算用十六、謡うた い十年、手六十。 さんみだ 算を乱す 算木を乱したように、列がばらばらになること。「算を散らす」ともいう。∇算∥算木。数を数えるのに使う木製の棒。 じちちえきこあい 慈ある父も益なき子は愛せず 出墨子ぼくし 情け深い父親も、世の役に立たない放蕩 子を愛することはできないということ。 補説出典にある「賢君有りと雖いえも、無功 (功のない)の臣を愛せず、慈父有りと雖も、 無益の子を愛せず」から。 しあんあんじひやっかん 思案の案の字が百貫する 物事は、よくよく考えて実行することが大切 であるということ。∇百貫∥昔の金銭の単 位。一貫は千文。ここでは、多くの金銭、価 値あるものの意。 類義堪忍の忍の字が百貫する。分別の分が 百貫する。分別の別の字が百貫する。 しいそさん尸位素餐 出漢書かんじょ 高い地位にふさわしい仕事もせず、無駄に多 額の給料をもらっていること。また、その人。 ▽尸位‖人が形代かたしろになって神のまつられる 所に就く意で、地位にあって動かない、位に ありながら何の責務も果たさないことをい う。素餐‖仕事もせずに食べること。 類義 尸禄素餐。 尸素。 尸禄。 じう時雨の化か 草木がちょうどよい時期に降る雨で成長する ように、君主の仁政で人民が教化されること のたとえ。また、師の恩にもいう。∇時雨∥ ちょうどよいときに降る雨。 出孟子もうし 補説孟子が君子が人を教育する方法としてあげた五つの中の一つで「君子の教うる所以ゆえの者、五あり。時雨の之これを化するが如ごとき者有あり(君子が人を教育する方法には五つある。その一つは、ほどよい時期に降る雨が草木を成長させるような方法である)に基づく。 塩辛を食おうとて水を飲む 手まわしがよすぎて、かえって間が抜けてい たり、何の役にもたたないことのたとえ。塩 辛を食べればのどが渴くからと、食べる前に 水を飲む意から。「塩辛食うとて水の飲み置 きする」「明日食う塩辛に今日から水を飲む」 「無用の水の飲み置き」ともいう。 類義夕立のせぬ先に下駄 げた はいて歩く。小 舟の宵ごしらえ。暮れぬ先の提灯 ちょう。 ちん 仕置き場の巾着切り 悪人はどんな所にもいること。また、救いよ うのない極悪人のことにもいう。刑場でもす りを働く者がいる意から。▷仕置き場‖悪人 を処刑する場所。巾着切り‖すり。 類義稻荷いなの前の昼盗人ぬす。びと しお塩にて淵を埋む如し やってもむだなこと、不可能なことのたとえ。 また、次々と消えてしまい、たまらないよう すのたとえ。深い水たまりを塩で埋めようと する意から。「淵に塩」ともいう。 類義淵に雨雪を担うて井いを埋む。 塩を売れば手が辛くなる 職業上の特徴や習慣は、いつしか身について、 生まれつきのようになるというたとえ。 四海兄弟 出 論語 ろんご 真心と礼儀を尽くして他者に交われば、世の 中の人々が、みな兄弟のように仲よくなるこ と。また、そうすべきであるということ。「し かいきょうだい」とも読む。▷四海∥四方に 広がっている海。転じて、天下の意。 補説出典には「君子は敬して失なく、人と 恭 うや うや しくして礼あらば、四海の内 うち は皆兄弟 たり(君子たる者は慎重にして失敗のないよ うにし、人に対してうやうやしい態度で接し、 礼をつくしていれば、世界中の人と兄弟にな れる」とある。 四海波静か 天下がよく治まって平和であることのたと <283> え。四方の海が波立たずにおだやかである意 から。▽四海∥四方に広がっている海。転じ て、天下の意。 類義 海波を揚げず。 しかいまたも 死灰復燃ゆ 勢いを失ったものが再び盛んになることのた とえ。また、いったんおさまったことが再び 問題になることのたとえ。燃えつきてしまっ た灰が、再び燃えだす意から。∇死灰∥火の 気のなくなった灰。 出史記しき 故事)中国、漢の時代、韓安国が、法を犯し たかどで処罰されたとき、蒙もう県の牢役人が 安国を侮辱した。安国が「死灰独り復また然も えざらんや(冷たくなった灰だって、もう一 度燃え出さないとは限らないぞ)」と言うと、 牢役人は「然ゆれば即ち之これに溺せん(燃 え出せば、すぐさま小便をかけてやるさ)」と、 さらに辱はずかしめたという。 四海を家とす 漢書 天子は天下を家とし、民を自分の家族と見な すということ。また、天下のどこにでも家が ある意から、住所の定まらないことのたとえ。 ▶四海∥四方に広がっている海。転じて、天 下の意。 しがく しかおりようしやまみしかおもの 鹿逐う猟師は山を見ず↓鹿を逐う者は やまみ 山を見ず 284 出漢書かんじょ 地が傾いて舞が舞われぬ ちかたむ まいま まいま 舞が舞われぬ 417 しかいまーしがにも 出 論語 ろんご 十五歳のこと。孔子が学問に志した年齢。孔 子が晩年に自分の生涯をふり返って言ったこ とばから。 補説出典には子曰いわく、吾われ十有五 にして学に志す(わたしは十五歳のときから 学問を志した)。三十にして立つ(三十歳で学 問の基礎ができて自立した)。四十にして惑 まどわず(四十歳になり迷うことがなくなっ た)。五十にして天命を知る(五十歳で天から 与えられた使命を知った)。六十にして耳順 がう(六十歳になって人のことばを素直に聞 けるようになった)。七十にして心の欲する 所に従えども、矩のりを踰こえず(七十歳では、 思うままに行動しても人の道からはずれるこ とはなくなった)とある。 四角な座敷を丸く掃く 細かいところまで注意をくばらず、いいかげ んな仕事をすることのたとえ。四隅を残し て、四角い座敷の真ん中だけ丸く掃くという 意から。「四角な所を丸く掃く」ともいう。 類義擂粉木すりで重箱洗う。重箱で味噌をす る。重箱の隅を杓子しゃで払う。 自画自賛 自分で自分をほめること。自分の描いた絵に 自分で詩文を書き添える意から。「自画自讃」 とも書く。∇賛∥絵画に書き入れる詩文のこ と。ふつう絵を描いた人とは別の人が書く。 類義手前味噌 てまえ。 みそ 手加減の独り舌打ち。 用例しかしそれにしても僕のようなもの へ、白羽の矢を立てて召そうとは、勘 僕にとっては以外だったよ。と云いって何も 僕という人間が、醜男 ぶお とこ だったからと云うの ではない。自画自賛で恐縮だが、僕という人 間は君も知っている通り、かなりの好男子で あるはずだからね。〈国枝史郎◆鴉片を喫む 美少年〉 出禅林類聚 じかどうちゃく 自家撞着 同じ人の言動や文章などが、前後で矛盾して いること。自分で自分の言行に反することを すること。∇自家∥自分自身のこと。撞着∥ 突き当たること。矛盾すること。「撞着」は 「どうじゃく」「とうちゃく」とも読む。「着」 は「著」とも書く。 類義 自己撞着。 自己矛盾。 用例少なくも、自分の場合には、いつもた だその時に思ったことをその通りに書いてゆ くだけであるから、色々間違ったことを書い たり、また前に書いたことと自家撞着するよ うに見えることを平気で書いたりしている場 合がずいぶん多いことであろうと思われる。 〈寺田寅彦◆随筆難〉 歯牙にもかけない 無視すること。取り上げて言うほどの値打ち がないということ。↓歯牙の間かんに置くに足 らず284 △歯牙∥歯と牙。転じてことばの 端、議論の意。 用例だから患者の数もごくすくないのです が老医は、「なんだ。町内の連中におれの腕 <284> しがのかーじきあり が判るものか」と歯牙にもかけない。〈梅崎 春生◆凡人凡語〉 しが歯牙の間に置くに足らず 取り上げて言うほどの値打ちがないということ。「歯牙に掛くるに足らず」ともいう。△歯牙=歯と牙。転じてことばの端、議論の意。補説出典には「此これ特ただ羣盗ぐんとう・鼠窃そせつ・狗盗くとなるのみ、何ぞこれを歯牙の間に置くに足らん(あれはただの群盗で、ねずみや犬のようなこそ泥にすぎません。問題として取り上げるに足りません)」とある。 出史記しき 鹿の角を蜂が刺す 84 つのはちさうしつのはちさ 牛の角を蜂が刺す しかばねむちう ししむちう 屍に鞭打つ♩死屍に鞭打つ288 鹿待っところの狸 期待に反して、つまらないものが手に入るこ とのたとえ。また、つまらぬものでも、獲物 がないよりはましであるということ。鹿を 待っているところに狸が出て来たので、それ を捕らえるということから。 補説 源平盛衰記に思ふ敵 かた にはあら ずして、岡部弥次郎 おかべや じろう なり。あな無慚 むざ や、 鹿待つところの狸とはこの事にや」とある。 しかみやは 鹿見て矢を矧ぐ 日ごろの準備を怠っていて、その場になって あわてて用意をすること。 マ矧ぐ=竹に羽を つけて矢を作ること。 類義 戦 いく さ を見て矢を矧ぐ。泥棒を捕らえて 縄を綯なう。 いつでも自分の思うままに利用できるもの。 また、身につけた知識や技術のたとえ。自分 の薬箱に入れた薬品のように、いつでも思う とおりに使えるということから。古くは「必 要な人物」の意にもいった。「薬籠中の物」 ともいう。∇薬籠∥薬箱。 じかやくろうちゅうもの 自家薬籠中の物 出旧唐書くとうじょ しゕうましかさうまな 鹿を馬↕鹿を指して馬と為す284 しかおものうさぎかえり 鹿を逐う者は兎を顧みず 出淮南子えなんじ 大事を成そうとする者は、小事にとらわれな いことのたとえ。大きな利益を得ようとする 者は、小さな利益を問題にしないということ。 対義雀 すず め を脅して鶴つるを失う。小鳥を捕ら えて大鳥を逃がす。木っ端を拾うて材木を流 す。 鹿を逐う者は山を見ず しかおものやまみ 一つのことに熱中すると、他のことをかえりみる余裕がなくなること。また、目先の利益を追っている者は、それ以外のものが見えなくなるというたとえ。鹿を捕らえようと追い 出淮南子えなんじ 回している者は、獲物に気をとられて山全体 のことが目に入らないという意から。「鹿逐 う猟師は山を見ず」ともいう。 補説 出典には 獣 じゅ を逐う者は目に太山を 見ず」とある。 出史記しき 鹿を指して馬と為す 間違ったことを、権力でむりやりに押し通す ことのたとえ。「鹿を馬」「馬を鹿」ともいう。 故事中国秦しんの宦官がん趙高ちょうが、始皇 帝の没後、幼少の二世皇帝に、鹿を馬といっ て献上した。二世皇帝は笑ってまわりの者に 「鹿であろう」と言ったが、群臣は趙高の権 力を恐れて黙ってしまったり、「馬です」と 相槌 あい ずち をうったりした。「鹿です」と言った 者は、趙高によりあとでひそかに処刑された。 類義鷺さぎを烏から。 しかんた只管打坐 只管打 出正法眼蔵随聞記 余念を交えず、ただひたすら座禅すること。 仏教、とくに禅宗の語。「只」は「祇」とも 書く。∇只管∥ひたすら、一つのことに専念 すること。打坐∥座禅すること。 鎡基有りと雖も時を待つに如 じきあいえどときまし かず 出孟子もうし 才能があっても、時機が来なければそれを生 かすことはできないということ。農具がそ ろっていても、耕作に適した時候が来なけれ ば、それを待つしかないという意から。∇鎡 基=くわやすきなどの農具。 <285> 迷惑をかけたり不義理をしたりして、その人 の家に行きづらい状態のこと。 しきいまたしちにんてきだんしいえい 闘を跨げば七人の敵あり♩男子家を出 色即是空、空即是色 出般若心経 色は空にほかならず、空は色にほかならない。 現実世界はそのまま空であり、しかし、空が そのまま現実世界として現れているのだとい うこと。∇色∥因縁によって生じた事物・現 象。空∥実体がなく空無であること。 注意色即是空空即是色ではなく 色即是空空即是色で区切れる ことば。 用例色即是空、空即是色、いいかえると、 現象と実在とが不即不離になって、私の身心 其物そのとして表現せられる境地、その境地に 没入することが私の志である。〈種田山頭 火◆旅日記〉 児戯に類す 子供の遊び事と同じで、取るに足らないこと。 あさはかで価値のないこと。「児戯に等しい」 ともいう。 故事 中国、前漢の文帝が長安にある三か所 の軍営を視察したとき、将軍周亜夫 あふ の軍 営では文帝の行動をも厳しく規制した。文帝 はこれを軍規に忠実であると感心し、周の軍 営に比べれば他の二つの軍営など「児戯の若 ごときのみ」と評した。 しきいがーしげんは 出史記しき しきしゃくま 至貴は爵を待たず 真の貴さは爵位などによるものではない。こ の上なく貴い地位の人には爵位など必要ない ということ。▶爵‖官位を示す位。 ~きふふゆうしょうちゃく 出淮南子えなんじ 死棋腹中に勝着あり 窮地に、かえって形勢を逆転させる好機が隠 れていること。囲碁で、負けそうな形勢だが、 頭の中には勝利に通じる石の打ちどころがあ るという意から。∇死棋∥囲碁で負けそうな 状態。勝着∥勝ちにつながる石の打ち方。 「勝著」とも書く。 類義死中に活あり。 じ きょう や 自彊息まず 出易経 ひたすら努め励んで怠らないこと。「彊」は 「強」とも書く。▿自彊∥自らつとめはげむ こと。 惜しみにもいう。 色欲は命を削る斧 色欲におぼれると、命を縮める者もあるというたとえ。∇色欲∥性的な欲望。 類義色情は性を断つの斧おの。女色は骨を削 る小刀。 類義失敗は成功の基。 しくじるは稽古のため 上達するためには、失敗を積み重ねなければ ならないということ。失敗をしたときの負け 四苦八苦 非常に苦労すること。たいへんな苦しみ。 補説もとは仏教語で、人間のあらゆる苦し みの意。「四苦」は生う・老・病・死の四つ の苦しみ。「八苦」は「四苦」に愛別離苦 あいべ つりく (愛する者と別れる苦しみ)、怨憎会苦 おんぞ うえく (恨 み憎む者に会う苦しみ)、求不得苦 ぐふと くく (求め ているものが得られない苦しみ)、五蘊盛苦 ごうんじ ようく (心身を形成する五つの要素から生じる 苦しみ)を加えたもの。 類義 七難八苦。 用例流達聡明 りゅうたつ そうめい な先生の完成された老 境というようなものと、私の女としての四苦 八苦のばたばた暮しとは、我ながらいかにも かけちがった感じだった。〈宮本百合子◆時 代と人々 出荘子そうじ 至言は言を去る 最高のことばは、無言の中にある。いかに巧みなことばでも、口に出して言っているうちは、最高のことばとはいえない。徳の高い人物は無言・無為で人を感化することをいう。補説出典には「至言は言を去り、至為しは為いを去る(最高の行為とは、人為を超越した無為自然の行為である)」とある。多言は一黙に如しかず。 至言は耳に忤う 出韓非子かんびし 道理にかなったことばは、人々の耳には痛い <286> しこうがーじごくは ものであるということ。∇至言=きわめて もっともなことば。 類義良薬は口に苦し。金言耳に逆らう。忠 言耳に逆らう。 如かず しこうたげんがんしいちもく 子貢が多言も顔子の一黙には んかず 寡黙で徳を養うことがもっともよいというこ と。才人として知られる子貢の弁舌も、顔子 (顔回)の沈黙に比べると、徳の高さにおいて はとうてい及ばないことから。 補説子貢も顔回も孔子門下の十哲十人の 高弟の一人で、子貢は能弁で、顔回は高徳 で知られた。 じごうじとく自業自得 自分の行いの報いを、自分が受けること。一 般には悪い報いを受ける場合に用いる。▷業 Ⅱ行為。 そらしたのである。表紙の色は、朱のつもりな のであったが、赤になってしまった。自業自 得である。〈山之口貘◆装幀の悩み〉 補説自みずら悪業を作なし、自ら悪報を得(自 分で悪いことをして、自分でその報いを受け る)という仏教語から出たことば。 出正法念処経 類義自繩自縛。自業自縛。身から出た錆 自作自受 じさじ○ 因果応報。 英語 He that makes his bed ill lies there. ベッドメーキングが下手な者はそのベッド で寝ることになる 用例自分で責任を負うことにして、たとえ 失敗しても自業自得ですませたく、人のせい にはしなくともすむように自分の考えで装幀 地獄極楽は心にあり 心の持ちようで、この世は地獄にもなり極楽 にもなるということ。 類義地獄極楽はこの世にあり。地獄も極楽 も目の前にある。 地獄で仏に会ったよう 苦難や危機に直面しているときに、思いがけ ない助けにあった喜びのたとえ。「地獄で仏」 ともいう。 類義地獄で地蔵に会う。闇夜の灯火 用例この時に自分はふとこの祖母が謡い好 きであった事を思い出して、たちまち胸中に 湧き出した野心が半天に漲 切って独逸流に「お祖母様。私は東京 に行って謡いを稽古して来ました。お退屈な ら伯父が帰るまでに一ツ謡って見ましょう かと切り出した。その時の祖母の喜びよう と来たら全く地獄で仏に会ったようであった が、自分もまたご同様で全くこの祖母を拝み たい位に思ったのである。〈夢野久作◆謡曲 黑白談〉 じごく地獄にも知る人 じごく 地獄の一丁目 破滅に向かう第一歩のたとえ。▷一丁目∥入り口の意。 どんなに遠い土地へ行っても、知り合いとめ ぐりあうものだということ。また、どこに住 んでも知人はできるということ。 類義冥土にも知る人。 きわめて危険な行為のたとえ。「地獄の一足 飛び」ともいう。 じごく地獄の釜の蓋が開く 正月の十六日と盆の十六日は、だれも仕事を 休めという意。この日には地獄の鬼も亡者の 呵責かしを休み、罪人を煮る釜の蓋も開けっぱ なしになることから。 補説かつてはこの日を「藪やぶ入り」といい、 商家では商売を休み、使用人にも暇を与えた。 類義元日と十六日には餓鬼の頸くも許され る。 じごく地獄の沙汰も金次第 この世は、金さえあればなんとかなるという たとえ。地獄でも、金を出せば裁きを有利に することができるということから。いろはが るた(京都)の一。△沙汰‖裁き。裁判。 英語 No penny, no pardon. 金がなければ免罪もない じごく地獄は壁一重 地獄はすぐ隣にあるということ。正しい道と 悪の道とは壁一枚であるから油断してはなら <287> ないという戒め。 じごくみみ地獄耳 一度聞いたことは決して忘れないこと。また、他人の秘密などを、いち早く聞きこむ人を指していう。人間の悪業を裁く地獄は、人間界のあらゆる情報をすばやく聞き取るという意から。 類義 地獄覚え。 じごく地獄も住家すみか 住みなれると、どんなところでも住みよいものとなるということ。「住家」は「住み処か」とも書く。 類義住めば都。 しこさんでんさんにんとらな 市虎三伝 三人虎を成す 280 しごとたぜいうまものこぜい 仕事は多勢旨い物は小勢 仕事をするには大勢でするほうが能率がよく はかどる一方旨い物を食べる時は一人分が 多くなる小人数が得であるということ。「仕 事は大勢でしろ、食い物は小勢で食え」とも いう。 しし獅子吼く 百獣を畏怖させるライオンの咆哮 もと仏 教で、仏陀の説法のたとえ。転じて、力強い 雄弁・熱弁のたとえ。▷吼‖吠える。 出法華経ほけきよう しし食った報い 禁を犯したために、当然受ける報い。また、 じごくみーししての 自分だけよい思いをした埋め合わせに受けな ければならない苦しみ。△しし=猪いの・鹿。 その肉。 補説伊勢神宮では猪や鹿は忌いまれていた。 また、鹿は宇佐・賀茂・春日の神の使いとし て神聖視され、食べると神罰を受けるとされ ていた。 獅子屈中に異獣なし すぐれた師のもとには優秀な弟子が集まると いうたとえ。また、立派な人物の周囲には立 派な人物が集まってくるものだというたと え。獅子の住む洞穴には、獅子以外の動物は いないという意から。 しししんちゅうむし 出 蓮華面経 獅子身中の口 塩華面経 集団の内部にあって集団に害をなす者のたと え。もと、仏教集団に属しながら仏教に害を なす者のたとえ(『梵網経 ぽんもう きょう 』『仁王般若経 におうはん にゃきょう 』)。獅子の体内に寄生しながら、獅子 の肉体を蝕 むし ば む虫の意から。このあとに「獅 子を食らう」と続けてもいう。 類義底ひさを貸して母屋を取られる。 英語 Better an open enemy than a false friend. 偽りの友よりも公然たる敵のほうがよい じじつしょうせつ 用例幕臣の中過激な者は、その安房守 かみ の遣り口を、手ぬるいと攻撃するばかりで なく、徳川を売って官軍に従く獅子身中の 虫だと云って、暗殺しようとさえ企てた。 それを避けなければならなかった。〈国枝史 郎◆大捕物仙人壺〉 事実は小説よりも奇なり 実際に起こる出来事の中には、架空の物語よ りも不思議で、波乱に富んだものがあるということ。 補説イギリスの詩人バイロンの『ドン・ジュ アン』にあることば、Truth is stranger than fiction.による。 死して義ならざるは勇に非ざ るなり 出春秋左氏伝 道義にはずれたことで死ぬのは、真の勇気と はいえないということ。 死しての千年より生きての一 日 死後の千年よりも、生きている今の一日のほ うが価値があるということ。 類義明日の百より今日の五十。 死して後已む 出論語ろんご 命がある限り、努力すること。死んではじめ てやめる意から。 補説出典にある曽子 て弘毅 し。仁以て己が任と為なす。亦また重からずや。 死して後已む。亦遠からずや(志を抱く男子 は、堅固な意志を持たねばならない。その任 務は重く、目的までの道のりは遠い。仁徳の 完成を自己の任務とするのだから、何と重い <288> してのーししふん ことではないか。死ぬまで努力するのだか ら、何と遠い道のりではないか」から。 類義 斃 たお れて后 のち 已む。 死しての長者より生きての貧 人 どんなに金持ちであっても死んでは何にもな らない。たとえ貧乏であっても生きていたほ うがよいということ。 獅子に鰭 ひれ とら つぼさ 虎に翼 473 しし獅子に牡丹ぼたん めよ とりあわせのよいたとえ。勇猛な獅子、豪華 な牡丹のとりあわせが、絵柄として調和して いることから。 類義梅に鶯うぐいす紅葉に鹿。 死屍に鞭打つ 死者を非難したり、悪口を言ったりすること。 「死者に鞭打つ」「屍ばねに鞭打つ」ともいう。 (故事)中国春秋時代、楚その平王に父と兄を 殺された伍子胥ごしは、呉に逃れた。後年、呉 が楚に攻め入ったとき、伍子胥は平王の子で ある昭王を探したが見つからなかった。そこ で伍子胥はすでに亡くなっていた平王の墓を 掘り起こし、「その尸しを出いだしてこれを鞭 つこと三百、然しかる後に已やむその屍を引き 出し三百回鞭で打って、心のうちを晴らし た)という故事から。 出史記しき 英語 Speak well of the dead. 死者は褒ほ 獅子の子落とし 自分の子に苦難の道を歩ませて器量を試し、 一人前に育てることのたとえ。獅子は生んだ 子を千仞せんの谷に落とし、はい上がってくる 強い子供だけを育てるという俗説から。「獅 子の子育て」ともいう。 類義 獅子の子を谷へ落としてその勢を見 る。可愛 かわ い子には旅をさせよ。 四時の序、功を成す者は去る しじじよこうなものさ 出史記しき 人も功名を成しとげたら、後進に道をゆずる べきであるということ。季節がそれぞれの役 割を終えて次の季節と交代する意から。 類義功成り名遂とげて身退ぞくは天の道な り。 しじはしが 榻の端書き 恋を成就させる難しさのたとえ。また、男の 恋の熱烈さのたとえ。△榻∥牛車から牛をは ずしたとき、轅ながの軛くびを置く台。乗り降り の踏み台にもなる。 補説昔、恋をした男が相手の女に、百夜通っ て牛車の榻で寝たら会ってもよいと言われ た。男は毎晩通い続け、その証拠を榻の端に 書き記していった。そしてとうとう九十九夜 まで通ったが、百夜めに支障があって行くこ とができず、思いをとげることができなかっ たという伝説から。また、『千載せんざい和歌集』 には思ひきや榻の端書きかきつめて百夜 も同じまろねせむとは(藤原俊成)とある。 死児の齢を数う死んだ子の年を数え る 333 ししうさぎうぜんりょくもちしし 獅子は兎を撃つに全力を用う♩獅子は しょうちゅうくいきお 小虫を食わんとてもまず勢いを なす 288 しししょうちゅうく 獅子は小虫を食わんとてもま いきお 簡単なことでも細心の注意をはらい、全力を 尽くすことのたとえ。獅子は、弱い獲物をと らえるにも、全力で向かうということから。 類義獅子は兎を撃つに全力を用う。獅子は 狐を捕るに虎を捕るの勢いをなす。 ししふんじん獅子奮迅 出大般若経 人の勢いがさかんなようす。獅子が奮い立って動き回るような激しい勢い。また、そのような勢いで奮闘すること。 補説もとは仏教で奮い立って事に当たるさ まをいった。 用例満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻 き引きずる流れを、なんのこれしきとかきわ けかきわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の 子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐 愍ぴんをたれてくれた。押し流されつつも、み ごと、対岸の樹木の幹に、すがりつく事がで きたのである。〈太宰治◆走れメロス〉 <289> しじみがいうみはか蜆貝で海を量る とうていできないことのたとえ。蜆の貝殻で 大海の水の量をはかることから。 類義蜆貝にて大海を換え干す。蜆貝で井戸 替え。貝殻で海を量る。大海を手で塞ふさぐ。 しじみせんほらがいひと 蜆千より法螺貝一つ 役に立たないものがたくさんあるより、役に 立つものが一つあるほうがよいということ。 蜆の殻を多く集めてみても、法螺貝のように 音は出ないということから。 類義雀 すず め の千声鶴の一声。 ししかしらつか 一獅子も頭の使いがら 指導者の働きが重要であることのたとえ。獅 子舞いは、頭を振る人の上手下手によって善 し悪しが決まるということから。▷頭‖獅子 頭。 磁石鉄を吸うとも石を吸わ ず 清廉な人は不正を受け入れないことのたと え。不正な金品には手を触れないというこ と。 類義琥珀は腐芥を取らず磁石は曲が れる鍼はりを受けず磁石能よく針を吸うと雖 いえも曲がれる針を吸わず。 磁石に針はり くっついて離れないもののたとえ。特に、男 しじみがーししょう 女の仲の近づきやすいことのたとえ。 死者に鞭打つ ししむちう ししむちう 死屍に鞭打つ 288 四 十 過ぎての道楽と七つ下 がって降る雨は止みそうで止 まぬ 夕方から降り出した雨がなかなかやまないの と同じように、中年になってからおぼえた道 楽はやめることができないということ。△七 つ下がり=午後四時を過ぎたころ。 類義四十男の浮気と七つ下がりの雨はやま ぬ。 四十にして惑わず 出論語 四十歳になって、道理も明らかになり、人生 上のさまざまな問題に惑うことがなくなるこ と。 補説 七十四歳まで生きた孔子が生涯を振り 返って述べた語。このことから四十歳のこと を「不惑ふわ」という。↓志学 283 出孟子もうし 私淑しゅく 直接には教えを受けないが、ひそかにその人 を師とあおぎ、尊敬の念を抱いて学ぶこと。 ∇私∥ひそかに。淑∥よい。よくする。 注意「私淑する」を「直接教えを受ける」 の意で使うのは誤り。 耳順 みみしたが みみじゅう 六十にして耳順う 696 自分の言動が自分をしばり、自由な動きができなくて苦しむこと。単に「自縛」ともいう。 ∇自縄=自分で綯なった縄。自縛=自分で縛 しばる。 類義自業自得。因果応報。我が刀で首切 る。 用例「そんな枝葉の問題じゃない大体、 おまえの肚はら性根根本の考えかたが 間違っているから、一つ二つさむらいらしい 真似をしても、何もならんのみか、却かえって 正義だなどと、力めば力むほど、身をやぶり、 人に迷惑をかけ、その通り自縄自縛というも のに落ちるのだよ。……どうだ武蔵、見晴ら しがよかろう」〈吉川英治◆宮本武蔵〉 じじようこころれいたん 辞譲の心は礼の端なり 出孟子 遠慮して人に譲る心は礼のめばえであるということ。 △辞譲=遠慮する、辞退する。礼の 端∥礼のはじめ。 補説出典には「惻隠そくの心(憐あわれみいた ましく思う心)は仁の端なり。羞悪しゅの心(悪 を恥じて憎む心)は義の端なり。辞譲の心は 礼の端なり。是非の心(善し悪しを見分ける 心)は智の端なり」とある。 支証の出し遅れ ししょうだおく しようもんだおく 証文の出し遅れ 323 師匠は鐘の如し ししょうかねごと 出礼記らいき 鐘は、大きくつけば大きく、小さくつけば小 さく鳴るように、師匠の指導や応答の程度が <290> じじょのーじそんお 弟子の質問や態度で違うということ。 補説出典には「善よく問いを待つ者は、鐘 を撞っくが如し。之これを叩たたくに、小なる者 を以もってすれば則 ち小さく鳴り、之を叩く に、大なる者を以てすれば則ち大きく鳴る とある。 じじょ爾汝の交わり 互いに呼びすてにするほど親密な間柄のこ と。△爾汝∥呼びすてにすること。「爾」「汝」 ともに「なんじ」と読む。 四時を貫きて柯を改め葉を易 しじつらぬえだあらたはか えず 節操を固く守りとおすことのたとえ。四季を 通して、木の枝が枯れたり葉の色が変わった りすることがないという意から。△四時=春 夏秋冬。柯=枝。 出礼記らいき 地震雷火事親父 世の中で、とくに怖いと思われるものを順に 並べたことば。 地震の時は竹藪へ逃げろ じしんときたけやぶに 地震が起きたときには竹藪に避難するのが安 全だということ。竹は根の張りがよく、竹藪 は、地震のときも地割れがないので、逃げこ むに最適であるということから。 沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり 人生には浮き沈みがあるということ。悪いこ とだけが続くのではないということ。「沈め ば浮かぶ」ともいう。 類義 禍福は糾 あざ な える縄の如 ごと し。 人間万事 塞翁 さい おう が馬。 しせい死生、命あり 出論語ろんご 人の生死は天命で定められたもので、人の力 ではどうすることもできないということ。△ 命Ⅱ天命・天の定め。 補説出典にある子夏のことば「死生命あり、 富貴天に在り(死ぬか生きるか、富貴かそう でないかは、すべて天の定めによって決まる ものだ」から。 ごく近い所のこともわからないこと。すぐ近 くでも視界がきかないという意。▷咫尺=中国、周の長さの単位。咫は八寸で、女子の指 十本の幅。尺は十寸で、男子の指十本の幅。ともに短い距離のたとえ。 し世き 咫只を弁せず じせつばいかしゅんぷうま 時節の梅花春風を待たず 自然の流れは、人間の力ではどうすることも できないということ。梅の花は、暖かい春の 風が吹くのを待ったりしないで、開花の時期 がくれば自然に咲く意から。 死せる孔明、生ける仲達を走 こうめい ちゅうたつ はし すぐれた人物は、死後も生きている者を恐れ させるということ。「死せる諸葛 しょ、 生ける 出二国志・注 らす 仲達を走らす」ともいう。△孔明=蜀 師諸葛亮 しょかつ りよう 字 あざ な が孔明)。仲達=魏 の将 軍司馬仲達。 故事 中国三国時代、蜀と魏の両軍が五丈原 ごじょ うげん で対陣中、諸葛孔明は病死した。司馬仲 達は孔明の死を知り、追撃を始めたが、孔明 の遺言にしたがった蜀軍が反撃のようすを見 せたので「孔明が死んだというのは謀略では ないか」と恐れ、追撃をやめて退却した。 じぞう かお さんど ほとけ かお さんど 一也成 頃 二度 公 頃 二度 4 地蔵の顔も三度仏の顔も三度604 地蔵は言わぬがわれ言うな うっかり秘密をもらすことが多いから、口に は気をつけよという戒め。秘密を打ちあける とき、「人に言うな」と口止めした自分があ ちこちにもらすことが多いことから。「俺 おれ は言わぬがわれ言うな」ともいう。 しぞくしょうほう士族の商法 商売に不向きな人が商売を始め、失敗するこ とのたとえ。明治維新後、士族となった武士 は様々な商売を始めたが、慣れないことなの で失敗が多かったことから。 類義武士の商法。 じそんおの 児孫自ずから児孫の計あり 出 宋詩紀事 子や孫は、それぞれに生活の計画があり、考え があるのだから、親があれこれ心配すること はないということ。∇児孫∥子と孫。子孫。 <291> じそん びでんか 一児孫のために美田を買わず 子孫のために財産を残すと、甘やかすことに なってかえってよくないので、財産を残さな いということ。 補説西郷隆盛が大久保利通 おおくほ に寄せた詩 としみち 偶成ぐう の中の一節。一家の遺事(わが家 の遺訓)人知るや否いなや、児孫の為ために美田 を買わずから。 した 下いびりの上諂い 弱い者にはつらく当たるのに、強い者にはこ びて従うこと。目下をいじめて目上にこびへ つらう意から。「下」は「しも」とも読む。 一舌先二寸 心や中身の伴わない、口先だけの巧みな弁舌。 「舌三寸」ともいう。 出史記しき 補説三寸=ここでは短い意で、心がこもら ず軽いことのたとえ。 したさんずんむねさんずん 舌三寸に胸三寸 ちょっとした物言いや考えにも注意しなけれ ばならないということ。些細なことが物事を 決定する場合もあるから、口と心とは慎まな ければならないということ。 したさんずんさえずごしゃくみはさん 舌三寸の囀りに五尺の身を果たす づんしたごしゃくみほろ 寸の舌に五尺の身を亡ぼす278 しだ 親しき仲に垣をせよ ならないということ。親しいからといって礼 儀を忘れると、不和になることが多いという こと。「思う仲には垣をせよ」「近しき仲にも 垣を結え」「睦まじき仲に垣をせよ」「良い仲 には垣をせよ」ともいう。「仲」は「中」と も書く。 じそんのーしたのっ 類義 親しき仲に礼儀あり。親しき仲は遠く なる。良い仲も笠を脱げ。 英語 A hedge between keeps friendship green.友人との間に垣根があると友情は 枯れない したなかれいぎ 親しき仲に礼儀あり どんなに親しい間柄でも、礼儀は守らなければならないということ。親しみが過ぎて礼を失すると、不和となりやすいということ。「仲」は「中」とも書く。「親しき仲にも礼儀あり」「近しき仲に礼儀あり」ともいう。 類義 親しき仲に垣をせよ。親しき仲は遠く なる。良い仲も笠を脱げ。 用例姉や妹のそんな乱暴な犠牲を求めてま で兄や弟は何を成功しようとするのでしょ う。「親しき仲にも礼儀あり」ということは、 兄弟の中に特に必要だと思います。〈岡本か の子◆仏教人生読本〉 親しき仲は遠くなる 親しいからといって遠慮がなくなってくる と、仲違 たが いも起こり、疎遠になってしまう ということ。「仲」は「中」とも書く。 類義親しき仲に垣をせよ。親しき仲に礼儀 あり。 下地は好きなり御意はよし 好条件が重なって、非常に都合のよいこと。 もともと好きなことをするのに、相手からも 好意的にすすめられ、なんともうれしいということ。 酒好きが酒をすすめられたときなど に使うことば。「下地は好き」「芸は好きなり 御意はよし」ともいう。 ぎょい 滴り積もりて淵となる 少しのものでも集まれば大きなものになると いうたとえ。一滴の水もたまれば小流とな り、川となり、淵となるという意から。 類義塵ちりも積もれば山となる。 英語 Little brooks make great rivers. 川はやがて大河となる 下にも置かない 客などを非常に丁寧にもてなすさま。下座に つかせたりしないことから。「下へも置かな い」ともいう。∇下∥下座。 注意「しもにもおかない」とは読まない。 用例万事思切って歯の浮くような事をする 男であるが、相応に金をつかうので女給連は 寄ってたかって下にも置かないようにしてい る。〈永井荷風◆つゆのあとさき〉 舌の剣は命を断つ 不用意な発言が自分の命取りになる場合があ るということ。また、悪意のある発言は、人 を傷つけ滅ぼすことさえあるということ。 類義口は禍わざの門もん。 <292> 舌の根の乾かぬうち 言い終わるか終わらないうちに。言い終わってすぐ。多くは言い終わってすぐ前言をひるがえした場合に使われる。 類義舌も乾かぬ間。舌の根も引かぬうち。 用例よくよくのあいきよう者です。正月だ から笑わなくちゃいけねえとやったその舌の 根のかわかぬうちにもうがんがんとお株を 始めてどなりだしました。伝々木味津三 右門捕物帖 じたばたしても鶏は跣足 何を言ったところで、事実は事実であるということ。 類義じたばたなさるな鴿 したわざわいねくちわざわいもん 舌は禍の根♡口は禍の門204 したにまいつかにまいじたつか 舌を二枚使う♡二枚舌を使う したま いするほどおそろしく、(略)太宰治◆葉桜 と魔笛〉 相手に言いこめられたり威圧されたりして沈 黙するさま。また、非常に驚いたり感心した りして声も出ないこと。 用例きっとそのM・Tという人は用心深く、妹からお友達の名前をたくさん聞いて置いて、つぎつぎとその数ある名前を用いて手紙を寄こしていたのでございましょう。私は、それにきめてしまって、若い人たちの大胆さに、ひそかに舌を巻き、あの厳格な父に知れたら、どんなことになるだろう、と身震 地団駄を踏む じだんだ 子 身もだえするほど悔しがったり怒ったりする さま。怒りや悔しさのあまり、地面を何度も 激しく踏み鳴らすことから。「地団太を踏む」 とも書く。 用例彼は地団駄を踏む思いで、天とは何だ と考える。天は何を見ているのだ。〈中島 敦◆弟子〉 四知 てんし ちし われし し し 449 七擒七縦 七縦七擒 292 七細工八貧乏 器用な人は貧乏だということ。あれもこれも できる器用な人にかぎって、一つも成功せず、 結局中途半端な形で貧乏するということ。多 芸多能の人についての戒め。 類義八細工七貧乏。八細工貧のもと。器用 貧乏人宝。多芸は無芸。 七尺去って師の影を踏まずふ三尺下がって師の影を踏まず277 うこと。「七十にして矩を踰えず」ともいう。 ∇矩∥定規のこと。道徳の規範の意。 しちじゅう 七十にして心の欲する所に 従えども矩を踰えず 出論語 七十歳になると、心のままに行動しても人と して守るべき道からはずれることはないとい 補説 七十四歳まで生きた孔子の晩年の境 地。このことから、七十歳を「従心 じゅう しん という。↓志学 しが 283 用例大体に於おいては若い時から外部の矩を 能よく守った人と思わるにかかわらず、七 十にして始めて矩を踰えないところに達した と断言せるを見れば、この矩は必ず内部の矩 であったろうと思われる。〈新渡戸稲造◆自 由の真髄〉 七十の三つ子 はちじゅうみご 八十の三つ子 七縦七擒 出二国志 敵を捕らえたり放したりを繰り返して、心服 させること。「七擒七縦」ともいう。△縦 逃がす。解き放す意。擒ニ捕らえる。捕虜 とする意。 故事)中国三国時代、蜀 しょ の諸葛亮 しょかつ りょう (孔 明 こう めい)が、敵将の孟獲 もう かく を捕虜にし、こちら の陣形を教えて降伏をすすめたところ、「こ れがわかっていれば負けなかった」と言うの で、「ならばもう一度戦ってみよう」と言っ て孟獲を放免し、改めて戦ったが孔明の勝利 となった。このことを七回繰り返し、遂に孟 獲も心服したという。 七転八倒 出朱子語類・五灯会元 激しい苦痛にのたうち転げまわること。また、混乱がはなはだしいことの形容。何度も転がり倒れる意から。「しってんばっとう」 <293> しちてんはっとうともいう。 用例そんなわけで私は今どんな断定的な態 度をもとることは出来ない。私は此この新生 児を抱いて、七転八倒してみるだけのことで ある。〈中原中也◆新短歌に就いて〉 七度探して人を疑え七度尋ねて人を うたが 疑之 485 七人の子はなすとも女に心 許すな 破滅や裏切りは身内から起こるということ。 長年連れ添い、七人も子供を生んだような妻 であっても、心を許してはならないという意 から。「七の子はなすとも女に心許すな」「七 人の子を産むとも女に心許すな」ともいう。 補説『詩経』の「凱風がい」詩の序に「七子 有るの母と雖いえも猶なお其その室に安ずる能あた わず(七人の子がある未亡人もなおその家に 落ち着くことができない)とあるのをふま えたもの。この詩は再婚したい母に七子がよ く孝養を尽くしたので母は思いとどまったの を賛美した歌。 類義子仲なしても女に心許すな。二つ子を なすとも女に心許すな。 しちねんやまいさんねんもぐさもと 七年の病に三年の艾を求む 急場になってからではどんなによい対策でも 効果はない、平生からの心がまえが大切であ 出孟子もうし しちどさーしちょう るということのたとえ。七年間も寝ているよ うな重病に、よいもぐさを三年かけて乾かし ても間に合わない意から。 補説出典では「七年の病」を虐政にたとえ、 三年の艾」を君主の仁政にたとえて、為政 者の心構えを説いている。 至知は幾ならず 出呂氏春秋 最高の知恵というものは、目立たないもので あるべきで、機知や作為が目につくうちは、 たいしたことはないということ。∇幾∥物事 の察しの早いこと。機知。 類義至智しちは智を棄て、至仁しは仁を忘 れ、至徳は徳ならず。 出世説新語 しちほ七歩の才さい 詩文を作る才能がきわめてすぐれていること。また、すぐれた詩文を作るのが早いこと。 故事)中国、三国時代の魏の曹植 の文帝 ぶん がら 「七歩あるく間に詩を作れなけ れば死刑にする」と言われたが、直ちに文帝 の冷酷と兄弟の仲の悪さを嘆いた一詩を作っ た。文帝は深く恥じ入ったという。↓豆を煮 るに萁 まめ がら を燃たく 614 しちゃ 七夜のうちの風邪は一生つく 生まれてから七日の間に風邪をひかせると、 一生風邪をひきやすくなるということ。 類義産屋の風邪は一生つく。 死中に活を求む 出後漢書 せっぱつまった状況を打開するため、必死で 危険に飛び込んでいくこと。助かる望みのほ とんどない絶望的な状況にあって、なお生き る道を探し求めることから。「死中に生を求 む」ともいう。 類義 九死に一生を得る。身を捨ててこそ浮 かぶ瀬もあれ。 用例この生活苦と、仁義、公儀の八釜 い憂世 うき を三分五厘に洒落 しゃ れ 飛ばし、上 かみ は 国政の不満から、下しもは閨中 けいち ゆう の悶々事 もんも んじ に到るまで、他愛もなく笑い散らして死中に 活あり、活中に死あり、枯木に花を咲かせ、 死馬に放屁 ほう ひ せしむる底ていの活策略の縦横無 礙むげなものがなくては、博多仁輪加 はかた にわか の軽 妙さが生きて来ないのである。夢野久作 近世快人伝 出孔子家語こうしけご 親子の悲しい別れ。「四鳥別離」ともいう。 故事)中国、桓山の鳥が四羽の子を生んだ が、四羽が成長して巣立つとき、母鳥は鳴き 悲しんで見送ったという。孔子がある朝悲鳴 のような泣き声を聞いて弟子の顔回に尋ねた とき、顔回はこの母鳥の例をあげて「その母 鳥と同じ、子供と別れる母親の泣く声でしょ う」と答えたが、はたして、父親が死んでわ が子を売らなければならなくなった母親の泣 き叫ぶ声であったという。 しちょうひゃくかさ 鷲鳥百を累ぬるも一鶚に如 かんじょ 日漢書 かず 無能な者が大勢いても、たった一人の有能な <294> じつげつーしってと 人物のすることには及ばないというたとえ。 ▶鷲鳥‖ツバメの別称。ここでは、無能な人 物のたとえ。鶚‖みさご。魚を捕食するのが 巧みな大鳥。ここでは、有能な人物のたとえ。 じつげつ ししょうな 日月に私照無し 恩恵を公平に施すたとえ。太陽や月はすべて を平等に照らすという意から。「日月は私照 無し」ともいう。 出礼記らいき 補説出典には、孔子のことばとして「天に 私覆しふ無く、地に私載しふ無く(天は偏って不 公平に物を覆おおうことをしない、地は偏って 不公平に物をのせない)、日月に私照無し」 とある。 日月は地に墜ちず 道義がまだ残っているさま。人間が守るべき 真理や正義が、まだすたれないで残っている ということ。△日月=ここでは、真理や正義 のたとえ。 類義 天道地に墜ちず。 対義 道義地に墜つ。 日月逝けり、歳我と与ならず 出 論語 ろんご 月日はどんどん過ぎ去って行く、歳月は人々 を待ってはくれないものだということ。「日 月逝けり、歳我と与にせず」ともいう。 補説)中国春秋時代の魯の大夫陽貨が、孔 子を召し抱えようと説得したときのことば。 類義)歳月人を待たず。 出西京雑記 疾行には善迹無し 急いでやったことには、よい結果が得られな いことをいう。急いで行くときれいな跡が残 らない意から。▷疾行∥急いで行くこと。善 迹∥きれいな跡。 補説出典には「枚皐ばい(漢の文人)は文章を 作るのが早く、長卿ちょう(前漢の詩人司馬相如 しばしよ うじよ の字あざは遅くてなかなかできなかった が、ともに文名をうたわれた。けれども長卿 の作った文は、一貫して美しくおだやかであ り、枚皐の文は重複した字句が多かった。そ こで、急いで歩くと足跡は乱れてよい跡が残 らないということがわかる」とある。 類義急せいては事を仕損じる。快行には好 歩なし。急行に善歩無し。 漆膠の契り 強く結び合って離れ難い関係のたとえ。また、男女・夫婦が添い遂げることを言い交わすこと。「膠漆」の契り」ともいう。△漆膠 IIうるしとにかわ。どちらもきわめて粘着力が強い。 ここ。 十歳の翁、百歳の童ゝ三歳の翁、百 歳の童子277 飾り気がなく、心身ともに強くたくましいさ ま。「剛健質実」ともいう。∇質実=飾り気 がなく、まじめなこと。「質」は質朴、「実」 は誠実の意。剛健=心や体が強くたくましい しつじつごうけん 質実剛健 十指に余る 数えていくとかなりの数になるということ。 十本の指では数えきれないほどであることか ら。「十指」は「じゅっし」とも読む。 しっちんまんぽう ずいいちひといのちひと 七珍万宝の随一は人の命と人 まこと の誠 あらゆる宝物の中で最も大切なものは、人の 命と真心であるということ。▷七珍万宝∥あ りとあらゆる種類の宝物。 しつてきはきゅうしいた 質的張りて弓矢至る 目的をもって物事を始めると、それに関連す る物が自然に集まってくるということ。ま た、ある事が起こると、それに関係すること が続いて起こるたとえ。弓のまとが置かれる と、そこに弓矢が集まる意から。∇質=弓の まと。的=まとの中央の黒い星。 知って知らざれ 出老子ろうし よく知っていてもそれをひけらかさないのが 奥ゆかしい態度であるという教え。 補説出典には「知りて知らずとするは上」 とある。 類義知って知らぬ顔が真の物知り。能ある 鷹たかは爪を隠す。 知って問うは礼なり 知っていることでも、一つ一つたずねて慎重 <295> に行うのが礼儀であるということ。 室に怒りて市に色す 故事孔子が役人としてはじめて君主の霊廟 れいび ように詣でたとき、儀礼について一つ一つ心 得を係の者に尋ねた。それをある人が「孔子 はこれでも礼の学者と言えるのか」と言った。 これを聞いて孔子は「一つ一つたずねる、そ のように慎重にすることがすなわち礼なの だ」と言ったという。 出春秋左氏伝 自分の家の中での怒りを外にもち出して、他 人に八つ当たりすること。怒りのおさまり難 いことをいう語。△色す=怒りを顔に表す。 類義室に怒る者は市に色す。 しっいほこと 室に入りて矛を操る 出後漢書 相手の主張を逆用して相手を攻撃すること。 また、師から教えられた学問で逆に師を攻撃 するたとえ。他人の部屋に入って、その人の 矛を取って乱暴を働くという意から。 ▶矛∥ 両刃の剣に長い柄をつけた武器。 故事中国後漢の学者の何休かきが『春秋』 の研究書を著したとき、後輩の鄭玄 その本に反駁はんを加えた書物を著したので、 何休は「吾が室に入り吾が矛を操り、以もって 我を伐ぅつか」と嘆いたという。 失敗は成功の基 失敗してもその原因を究明し、やり方を改善 していくことで成功に近づくことができると しつにいーじっぺん いうこと。「失敗は成功の母」「失敗は成功を 教える」ともいう。 類義七転び八起き。しくじるは稽古のた め。禍わざを転じて福となす。 英語Failure teaches success.「失敗が成功を教える」He that never did one thing ill can never do it well.「一度も失敗をした経験のない者は成功できない」 実は嘘の奥にあり 一見嘘と思われることの奥底に、真実や真心 がひそんでいることがあるということ。 十把一からげ よい悪いの区別なく、いろいろな種類のもの をひとまとめにして同じ扱いをすること。ま た、数は多いが値打ちの少ないこと。十の束 に分類すべきものを一つに束ねる意から。マ 十把十の束。「じゅっぱ」とも読む。 類義二束三文。一山いくら。 「徒党」というものは、はたから見ると、 いわゆる「友情」によってつながり、十把一 からげ、と言っては悪いが、応援団の拍手の ごとく、まことに小気味よく歩調だか口調だ かそろっているようだが、じつは、最も憎悪 しているものは、その同じ「徒党」の中にい る人間なのである。〈太宰治◆徒党について〉 出礼記らいき すばやく、激しいさま。∇疾風∥はやく激し く吹く風。はやて。迅雷∥激しく鳴る雷。 類義疾風怒濤 しっぷう。 どとう 疾風迅雷 用例この度の事変は、政治的にもある例外 的な宣言を必要とした。同時に、戦略的にも、 戦術的にも、これを一般の前例に当てはめる ことはできない、まったく、風変りな戦であ る。われわれは、日本軍の奇略縦横、疾風迅 雷のファインプレイに拍手を送るものである が、敵の執拗なゲリラ戦術とやらには業を煮 やさざるを得ぬ。〈岸田国士・私の従軍報告〉 しっぷうけいそうし 疾風に勁草を知る 困難や試練に遭遇してはじめて、その人の意 志や節操の堅固さがわかるというたとえ。強 い風が吹いてはじめて、風にも負けぬ強い草 を見分けることができる意から。∇疾風∥は やく激しく吹く風。はやて。勁草∥強い草。 節操の固い人のたとえ。 補説中国、後漢の光武帝がはじめて義兵を 挙げたとき、帝に従っていた者は、旗色が悪 くなってくると次々に逃亡し、最後まで帝を 助けて戦ったのは王覇 は だけであった。そこ で帝が感動して王覇に言ったことば。 出荘子そうじ しっぷうもくう櫛風沐雨 世の中のさまざまな辛苦にさらされることの たとえ。風雨にさらされながら苦労を重ねる さまから。∇櫛風∥風で髪をとかす。沐雨∥ 雨で髪を洗う。 類義風に櫛くり雨に沐かみあらう。雨に沐い風に 櫛る。 じっぺんさがひとうたがななたびたずひと 十遍探して人を疑え七度尋ねて人を うたが 疑え485 <296> じっぺんよ 十遍読むより一遍写せ じゅうどくいっしゃ 十読は一写 に如かず308 尻尾を出す 隠し事や悪事などが何かの拍子に露見するこ と。化けていた狐 きつ ね や狸 たぬ き が尻尾を出して正 体が見破られることから。 類義 尻が割れる。底が割れる。馬脚を露 あら わ す。化けの皮が剥がれる。 尻尾を巻く 勝ち目がないとみて、負けを認める態度を取 ること。降参する。けんかに負けた犬が尻尾 を巻いておとなしくなることから。 類義 兜 かぶ と を脱ぐ。シャツポを脱ぐ。 用例だってそう思うよりほかにしかた がねえじゃござんせんか。秀ひでの浦の死骸 のそばに江戸錦の持ち物の印籠がおっこちて いたっていやあ、だれだってもうしっぽを巻 くよりほかにしかたがねえんだからねえ 〈佐々木味津三◆右門捕物帖〉 ぶるいとまもない」とある。 しつらいみみおおおよ 疾雷耳を掩うに及ばず 出六韜 相手の行動が素早く、防ぐいとまのないこと のたとえ。急に鳴り出した雷に、耳をふさぐ 間もないということから。「疾雷耳を掩うに 暇いとあらず」ともいう。「疾雷」は「迅雷」 ともいう。∇疾雷∥急な雷鳴。及ばず∥間に 合わない。 補説出典には、これに続いて「迅電目を瞑 めいするに及ばず(急に稲妻が光ると、目をつ 類義迅雷耳を掩うに暇 あらず。疾風迅 雷。 してんにてん四天二天 似たりよったりで優劣がないさま。持国天 じこく・広目天 こうも てんくてん・多聞天 たもん てん・増長天 ぞうじょ うてんの 四天王のうち、持国天と多聞天の二天が互い によく似ていることから。また、一説に「四 天の舞い」と「二天の舞い」という二つの舞 いがよく似ていて見分けがつかないことから ともいう。 地頭に法なし 権力者が横暴であることのたとえ。地頭がど んなに横暴なことをしても、それをとがめる 法律はないということから。∇地頭∥平安末 期、鎌倉・室町幕府のころ、荘園の管理・徴 税権・警察権・裁判権を有し、領域内の住民 を支配した役職名。 類義泣く子と地頭には勝てぬ。 出史記しき しどうまじ 市道の交わり 利害・損得で結びついた交際のたとえ。市場 への道での商売上のつきあいの意から。 補説出典には「夫それ天下は市道を以もって 交わる。君勢い有れば我則 ち君に従い、君 勢い無ければ則ち去る。 とこれ固もとより其その 理なり(そもそも人々はみな己の損得で交わ るものである。主君に勢力があれば従い、勢 力がなくなれば離れる。これが道理である」 とある。 しとく祇犢の愛あい 出後漢書 親が子を溺愛 てかわいがることから。「老牛犢を舐ねぶるの 愛」ともいう。△舐=なめる。犢=子牛。 故事)中国、魏の曹操そうは、楊脩の非礼を怒り、脩を殺した。のちに曹操は脩の父楊彪ようひに会ったとき「あなたはなぜそんなにやせてしまったのか」と尋ねると、彪は「お恥ずかしいことに、私には前漢の金日磾きんじつていが天子のためにならないからといって自分の子を殺したような先見の明もなく、老いた牛が子牛をなめてかわいがるような溺愛の情だけを持っているのです」と答えた。曹操はそのことばを聞いて、思わず居住まいを正した。用例世間体が悪いなどと思って私に内緒で金をやったりなどしてはならん。祇犢の愛という言葉があるが、それはお前のようなのを言うのだ。何かにつけて親牛が無暗かと仔牛を祇めて可愛がる。佐藤春夫都会の憂鬱 至徳を論ずる者は俗に和せず 出商君書 最高の徳を論じる者は、世俗の意見などには 妥協しないということ。 補説出典には、この後に「大功を成す者は 衆に謀はからず(大きな功績をあげる者はだれ にも相談しない」と続く。 しとはっと四斗八斗 少しのことを大きく言ったり、大げさに考え <297> たりすること。四斗を八斗と言う意から。マ 斗二尺貫法の容積の単位。一升の十倍。約十 八リットル。 類義針を棒針小棒大輪に輪をかける。 しほうおな 子と袍を同じくせん 出詩経 友人同士が親しみ、困難をともにしようということ。一枚の綿入れの着物を共同で使う意から。▶袍‖綿入れの着物。ぬのこ。 補説出典には豈あに衣無しと曰いわんや、 子と袍を同じうせん(あなたに衣がないわけ ではないが、あなたと袍を一緒にしよう) とある。 しながわのりいずいそもち品川海苔は伊豆の磯餅 同じ物でも、場所によって呼び名が変わるこ と。品川海苔のことを、伊豆では磯餅という ことから。△品川海苔‖浅草海苔の異名。 類義難波なにの葦あしは伊勢の浜荻はま○ おぎ所変わ れば品変わる。 死なぬ子三人皆孝行 三人もの子が、みな親に先立つことなく育ってくれれば、それだけでみな孝行者であるということ。 類義死なぬものなら子一人、減らぬものな ら金百両。 死なぬものなら子一人、減ら ぬものなら金百両 しとほうーしにべっ 減らないならば、金は百両あれば十分である という庶民の願望を言ったことば。 類義死なぬ子一人。使って減らぬ金百両。 じゆえよゆう 慈なるが故に能く勇なり いつくしみの心があるからこそ大きな勇気が 生まれてくる。やさしい慈愛の心から生まれ た勇気こそ真の勇気であるということ。 出老子ろうし 補説出典には「慈なるが故に能く勇なり。 倹なるが故に能く広なり。敢えて天下の先と 為ならず、故に能く器きの長ちを成す(倹約す るからいくらでも施しができ、あえて天下の 人の先に立たないから、あらゆる官の長かし なれるのである)とある。 しいっていろん 土に一定の論あr 出淮南子 立派な男子たる者は、定まった見識や主義主 張をもっていなければならないということ。 補説出典では、このあとに「女に不易の行 いあり立派な女子は、しっかりした操 みさ を もたなければならない」と続く。 死に牛に芥かける 死んだ者に悪名や罪をかぶせることのたと え。死んだ牛の上に、さらにごみをかける意 から。∇芥Ⅱごみ。 類義伏せる牛に芥。寝た牛に芥かくる。 しうまへ 死に馬が尻をこく 死に馬が尻をこく 絶対にありえないことのたとえ。また、あき らめていた物事が思いがけなく好転すること のたとえ。「死に馬が屁を放ひる」ともいう。 類義死人が物言う。すっぽんが時をつく る。 し死に馬に鍼 何の効果もないことのたとえ。また、絶望的 な状況の中で、かすかな期待をこめて最後の 手段をとることのたとえ。生き返るかもしれ ないと死に馬に鍼を打ってみるということか ら。 死にがけの念仏 ねんぶっ 元気なときに仏を信心する者は少ないが、死 が近くなるとだれでも念仏を唱えるようにな るということ。 類義今際の念仏誰も唱える。 死に花を咲かせる 立派な死に方をして、死後に名誉を残すこと。 「死に花が咲く」という形でも使われる。 用例日本人は死に花を咲かせることを尊 ぶ。さすがあの人よ、名に負う武士らしい潔 い最期だった、華々しい末期だった、りっぱ な死に際であったと評判されたいと、日ごろ から望んでいるものだ。〈永井隆・この子を 残して〉 詩に別すあり 滄浪詩話 詩は、天賦の才能によって作られるもので あって、学問の深さや教養の高さによるもの <298> しにみずーしのげき ではないということ。「詩は別オ」ともいう。また、「オ」は「材」とも書く。 死に水を取る 身近にいて死ぬまで世話をすること。また、 最期を看取みとること。臨終の際唇を水で湿し てやることから。△死に水=末期の水。人が 死ぬときに口に含ませる水。 しわか死に別れより生き別れ 死に別れもつらいが、生き別れはもっとつらい。相手が死んでしまえば、あきらめるより仕方がないが、どこかで生きていると思うと、あきらめきれないということ。 死人に口なし 死んでしまった人は証言も弁明もできないと いうこと。証人が死んでしまって残念なとき や、死んだ人に無実の罪を着せるような場合 にいう。 英語 Dead men tell no tales. 死人はどん な話もしない 類義 死人に妄語。 を負わせること。死人に無実の罪を着せるこ と。△妄語∥うそをつくこと。 類義死人に口なし。 用例「では、みね子も遠山に関係があった んですか」「なにぶんにも死人に口無しで、 二人の関係がどの程度まで進んでいたかと云 いうことははっきり判わりませんが、兎とにか くみね子が遠山に恋していたのは事実です。 (略)「岡本綺堂◆山椒魚」 死人に妄語しにんもうご 生きている人がうそをついて、死人にその罪 死ぬ死ぬと言う者に死んだ例 しし ためし なし 死ぬ死ぬと口癖のように言う人に、本当に自 殺する者はいないということ。 類義死にたいと麦飯食いたいほど大きな嘘 うそはない。 死ぬほど楽はない 生きることは、わずらわしいことが多くつら いことであり、死んでしまったほうがよほど 楽であるということ。 補説「世の中に死ぬほど楽はなきものをど この阿呆あほが生きて働く」という狂歌もある。 類義一番楽は棺かんの中。 死ぬ者貧乏 ものびんぼう 死んでしまった者がいちばん損であるという こと。生きていれば、どんないい目に会うか もわからないのに、死んでしまったらどうに もならないということ。 類義死ぬ者は損死ぬ者が貧乏くじ死ん で花実が咲くものか死ねば死に損生くれ ば生き得。 死ぬる子は眉目よし 早死にした者を惜しむ気持ちをいう。早く死 ぬような子にかぎって器量がよいという意か ら。「死ぬる子顔よし」ともいう。∇眉目∥顔立ち。容貌。 類義死にし子顔よかりき。 死ねば死に損、生くれば生き 得 人間、生きてさえいればどうにかなるという こと。死んでしまったらそれで終わりだが、 生きてさえいればまたよいこともあり、それ だけで得であるということから。 類義死んで花実が咲くものか。死ぬ者貧 乏。死ぬ者が貧乏くじ。 しのぎけず 鎬を削る 激しく競い合うことのたとえ。鎬が削りとら れるほど刀と刀をぶつけ合って斬きり合う意 から。∇鎬=刀の刃と峰との境の少し盛り上 がった部分。 類義火花を散らす。 用例英米の世界一流の学者が集まって、金 に飽あかし鎬を削って研究している方面へT 君が一人ではいって行って、その向うが張れ るはずはない。〈中谷宇吉郎◆原子爆弾雑話〉 しずきすこと 馳の隣を過ぐるが若し 出礼記 月日の過ぎるのが非常に速いことのたとえ。 疾走する馬車が戸のすき間の向こうを一瞬の うちに走り過ぎるようだという意から。△馳 =四頭だての馬車。隙=すき間。 類義白駒 はっ の隙を過ぐるが如し。隙を過ぐ る駒隙ひま 行く駒。 <299> 死は或いは泰山より重く或い こうもう かろ は鴻毛より軽し 出司馬遷報二任少卿一書 人の命は、時と場合によって軽重があるということ。大切な命も、義のためには、いさぎよく捨てる心がけが必要であるということ。「泰山」は「太山」とも書く。マ泰山=中国山東省にある名山。鴻毛=おおとりの羽毛。非常に軽いもののたとえ。 補説出典には「人固もより一死有り。或い は太山より重く、或いは鴻毛より軽し。用の 趨 おも く所異なればなり(人は必ず死ぬもので、 その死はある場合は泰山より重く、ある場合 はおおとりの羽毛より軽い。それはその死に 方が違うからだ)」とある。 類義死は鴻毛より軽し。死を鴻毛の軽きに 比す。 くすということ。 しばい むひつ はやがくもん 芝居は無筆の早学問 学のない者でも、芝居を見れば歴史やものの 道理などを手っ取り早く学ぶことができると いうこと。 類義 芝居は一日の早学問。 しおのれしものためし 士は己を知る者の為に死す 立派な男子は、自分の真価を理解してくれる 人のためには一命を捨てるのもいとわずに尽 出史記しき しはあるーしぶがき 補説中国春秋時代に、晋しの予譲が、自 分の理解者であった主君の智伯 のために仇 あだ 討ちをしようとしたときに言ったことば。 出典には「士は己を知る者の為に死し、女は 己を説よぶ者の為に容ちづくる女子は自分 を愛してくれる人のために美しくよそおう」 とある。 しばしばたかすなわたみつかしばしば 驟戦えば則ち民罷れ、驟 勝てば則ち主驕る出呂氏春秋 何度も戦争を行えば人民は疲れ、戦争に勝ち 続けると君主はいよいよおごりたかぶるとい うこと。戦勝国がしばしば滅亡する理由は、 戦争に勝っておごった君主が疲れ切った人民 を使って戦いをくり返すからであるという戒 め。 出戦国策 死馬の骨を買う 世単巨象 すぐれたものを集めるために、つまらないも のを優遇することのたとえ。また、熱心に人 材を求めることのたとえ。 故事昔、中国で千金を持って名馬を買いに 行った家来が、死んだ名馬の骨を五百金で 買って帰って来た。王が怒ると家来は「死馬 の骨にさえ五百金払ったというわさが広ま れば、必ず生きた名馬を売りこみに来るで しよう」と答えた。はたして一年もたたない うちに、王の望む名馬が三頭も手に入ったと いう。↓隗かいより始めよ131 類義駿馬の骨を市かう。 しばぶねよい 二ぶねよい 柴舟の宵ごしらえ小舟の宵ごしらえ 257 しばおあたししたおよ 馳馬も追う能わず馳も舌に及ばず301 しひゃくしびようほか 四百四病の外 恋わずらいのこと。仏説によれば、人間の体 は地・水・火・風の四つが調和してできてお り、その調和が乱れると、四つのそれぞれに 百一の病がおこる。合わせて四百四病が人間 がかかるすべての病気だが、恋の病は四百四 病のうちに入らないとされることから。 四百四病より貧の苦しみ 四百四病より負の 人間がかかるどんな病気よりも、貧乏のほう がもっとつらいということ。△四百四病両仏 教で、人間がかかるあらゆる病気。人間の体 は地・水・火・風の四つの元素からできてい て、これらの調和が乱れるとそれぞれ百一の 病が生じるとされる。 類義貧は病やまより苦し。 痺れを切らす 長く待って、それ以上我慢できなくなること。 待ちくたびれる。長い時間座っていると足が しびれて感覚がなくなることから。「痺れが 切れる」ともいう。 渋柿が熟柿に成り上がる どんな物でも時とともに変化することのたと え。また、未熟な者がだんだんと上達するこ <300> しぶがきーじまんこ とのたとえ。 類義嫁が姑 しゅう とめ になる。息子が親爺 おや じ にな 渋柿の長持ち 取り柄のない人や悪人が長生きすることのた とえ。渋柿はそのまま食べられないので、人 に取られることもなく、熟してもくずれにく いので長く枝にのこることから。 類義まずい物の煮え太り。憎まれ子世に憚 はば か る。 呪のろうに死なず。 自分で蒔いた種は自分で刈ら ねばならぬ 目分がしたことの結果には、自分が責任をも たなければならないということ。 類義 蒔いた種は刈らねばならぬ。 じぶんあたまはえおあたまうえはえお 自分の頭の蠅を追え頭の上の蠅を追 え20 じみんこ めくちあ 自分の子には目口が明かぬ 親というものは、わが子かわいさのあまり、 自分の子の欠点や誤ちは見えず、悪く言うよ うなこともないということ。 類義親の欲目。親に目なし。 じぶんぼんくぼみ 自分の盆の窪は見えず の窪=首の後ろ、うなじの中央のくぼんだところ。 自分で自分のことはわからないということ。 人の欠点や落ち度は見えても、自分のそれに は気づかないものであるというたとえ。▷盆 しふん もくけん 耳聞は目見に如かず 出魏書 耳で聞いて得た知識よりも、目で見たり、体 験して得た知識のほうが確実であるというこ と。 類義百聞は一見に如かず。耳の之これを聞く は、目の之を見るに如かず。 出孟子もうし 白暴白棄 失望などのために投げやりな行動をして、自 分を駄目にすること。またそのさま。 用例けれども私にはそんな批評がましい こと一切がいとわしく無礼なもののように 思われてなりませぬあのお方の御環境から 推測して、厭世だの自暴自棄だの或あるいは 深い諦観だのとしたり顔して囁きさないていたひ ともございましたが私の眼にはあのお 方はいつもゆったりして居られてのんき そうに見えました。太宰治◆右大臣実朝 慈母に敗子あり 慈母に貶すごり 出韓非子 子供を甘やかしてはいけないという戒め。母 親が子供を溺愛 すれば、子供をだめにし、 家を乱すような子供になる意から。▷敗子 家を滅ぼす子。道楽息子。 しまあ いえどかんかいす 糸麻有りと雖も菅蒯を棄つる な こと無かし 出春火 出春秋左氏伝 上質のものばかり重んじて、つまらないもの を軽んじてはいけないという戒め。絹糸や麻 糸は有用だが、茅かやのような粗末な草でも、 それなりの用途があるから捨ててはいけない という意から。∇糸麻∥絹糸や麻糸。菅・蒯 ∥ともに茅の一種。縄などに用いる粗末な 草。編んで履き物を作る。 しまおくそく揣摩憶測 根拠もないのに、物事の状態や他人の心中などを推測すること。「憶」は「臆」とも書く。 △揣摩∥他人の気持ちなどを推測すること。 当て推量。 用例「さ。それは幕府内に、殿を視みる眼め の揣摩臆測がさまざまにあるからでしょう。 しかし昨今の事態は、そんなためらいなど、 はやゆるしてはおけません。このたびこそ は、相違なく、幕命がくだる。そして殿には 即日、ご軍勢をととのえて、ここの海道を馳 はせのぼられる事でしょう」〈吉川英治◆私本 太平記〉 自慢高慢馬鹿のうち うぬぼれて自慢する者、高慢な者は、愚か者 と同類であるということ。自慢することへの 戒め、また、自慢する者をあざけっていうこ とば。「自慢高慢馬鹿の行き止まり」ともい う。 類義自慢は知恵の行き止まり。高慢は出世 の行き止まり。自分で自分を誉めるのは一いち のだら。 The first degree of folly is to hold oneself wise, the second to profess it, the <301> third to despise counsel.「愚の第一級は自 分を利口だと思うこと、第二級はそれを公言 すること、第三級は助言を馬鹿にすることで ある」 自慢の糞は犬も食わぬ 自慢ばかりする者は嫌われることのたとえ。 自慢ばかりする者をあざけっていうことば。 「自慢こきの糞は犬も食わぬ」ともいう。 自慢は知恵の行き止まり 自慢は自己満足の証拠だから、自慢するよう になると向上心がなくなり、その人の知恵の 進歩は止まってしまうということ。 類義自慢高慢馬鹿のうち。高慢は出世の行 き止まり。 相手の急所をおさえて、生死の運命を一手に 握ること。 出史記しき 類義生殺与奪の権。 用例「ああ楽しいかな、男児の業。眸 四遠の地景をほしいままにし、胸には天空の 月影を汲くむ。俯ふして杯をとれば、滾々 わくところの吟釀 ぎんじ よう あり、起たって剣を放て ば、すなわち呉の死命を制す……じゃ。……」 〈吉川英治◆三国志〉 しかんそか四面楚歌 周囲が敵や反対者ばかりで、味方や助けが一 人もいないこと。敵の中に孤立して助けのな いこと。 出史記しき じまんのーしゃえん 故事 中国漢初、楚その項羽 こうが垓下 がい か で漢 の劉邦 りゅう ほう (高祖)の軍に包囲されたとき、夜 になると四方の漢軍の中から、項羽の故郷で ある楚の国の歌が聞こえてきた。それを聞い た項羽は、頼みとしてきた楚の人々もすでに 降伏したのかと驚き、今はこれまでとあきら めて、詩(『垓下の歌』)を作り、歌ったという。 ↓力山を抜き気は世を蓋おおう47 しも下いびりの上諂い 自分より下の者にはつらくあたり、上の者に はこびへつらうこと。下したいびりの上うえ諂 い」ともいう。 対義弱きを助け強きを挫くじく。 駟も舌に及ばず 出論語ろんご 失言は取り返しがつかないから、ことばは慎 まなければならないということ。一度口に出 したことばは、四頭立ての馬車で追いかけて も追いつかないという意から。△駟=四頭立 ての馬車で、速いものにたとえる。 類義馳馬しばも追う能あたわず。一言いち既に出 ずれば馳馬も追い難し。 戒め。 用例 霜を履んで堅氷至る。ああわが邦くに 危機かくのごとし。わが人民たる者あにその 眼孔を東洋の全局面に注がずして可ならん や。〈徳富蘇峰◆将来の日本〉 しもふけんびよういた 霜を履んで堅氷至る出易経 物事が起こるには前兆があることのたとえ。 また、前兆が見えたらそのための用心や対策 を怠るなという戒め。霜を踏む季節となる と、やがて堅い氷の張る厳冬がやってくると いうことから。「霜を履みて堅氷至る」「霜を 見て氷を知る」ともいう。 類義堅き氷は霜を踏むより至る。履霜の 出金剛川老註 麝あぃぞー 才能や徳のある者は、自然に世に認められる というたとえ。麝香じゃのある所には、自然に 高い香気がただよっているという意から。 麝麝香。麝香鹿の雄の下腹部の腺せんを乾燥 して作る香料。 類義紅くれは園生そのに植えても隠れなし。 出礼記らいき 社未だ屋せず まだ、国が滅びるまでにはいたらないという こと。古代中国では、その国が滅びると、社 やしに屋根をかけて日光があたらないようにし た。その社にまだ屋根がかけられてないとい う意から。∇社∥国土の神を祭る所。 補説出典には天子の大社は必ず霜露風雨 を受く、以もって天地の気を達するなり天子 の大社は社殿に屋根を設けず霜露風雨がふり かかるようにして、天と地の気がよく通じる ようにしてある)、是この故ゆえに喪国 そう こく の社は 之これを屋して天の陽ひを受けず」とある。 社燕秋鴻 出蘇軾ー詩そしょくし 会ったかと思うと、すぐに別れるたとえ。燕 とガンは、春と秋にすれ違い、ほんの一時 会うことから。▶社燕‖社は社日(春分・秋 分から第五番の戊の日)で、春の社日のこ <302> じゃがでーじゃくに じゃ で ろに来て秋の社日のころに帰る燕のこと。秋 鴻‖秋に来て春に帰る大きな渡り鳥、ガン。 補説詩の題名は『陳睦ちんの譚州たんしに知ちた るを送る』。 で 蛇が出そうで蚊も出ぬ 何か大きなことが起こりそうで、実際は何 つ起こらないことのたとえ。 しゃかきようしゃかせっぽう 釈迦に経♩釈迦に説法302 しゃかしゅうし 釈迦に宗旨なし 釈迦は仏道の本尊であるから何宗何派という 宗派などはない。宗派同士の争いは意味がな いということ。 類義宗旨の争い釈迦の恥。宗論はどちらが 負けても釈迦の恥。 人◆素人製陶本窯を築くべからず 私迎に説法しゃかせっぽう 釈迦に仏法を説くように、その道のことを熟 知している人に、それを教えることの愚かさ のたとえ。「釈迦に経」「お釈迦に経を聞かせ る」「釈迦に説法、孔子に悟道」ともいう。 類義極楽の入口で念仏を売る。孔子に論 語。孔子に学問。河童に水練。猿に木登 り。仏の前の経を言う。 英語 The scholar teaches his master. 弟子が師匠に教える 用例勝ち必ずしも名誉とはかぎらない。負け必ずしも不面目とはかぎらない。や、これはこれは失礼、うかうか、釈迦に説法……脱線の儀は平に平に謝し奉る。〈北大路魯山 しゃか きようよちが こうぼう ふで 釈迦にも経の読み違い ↓弘法にも筆の あやま 誤り238 しゃくしうましゅうつかある 物は使い方、使い手しだいだというたとえ 駄馬でも主人が使えばそれなりに歩くという 意から。∇杓子馬∥駄馬の意。 類義馬鹿と鋏はさは使いよう。 しゃくしじょうぎ 杓子定規 一つの基準にすべてを当てはめようとすること。また、そのために融通のきかないこと。 杓子の曲がった柄を定規代わりにする意から。「杓子を定規にする」ともいう。▷杓子 ∥飯や汁などをすくうしゃもじ。 用例文法家に名文家なく、歌の規則などを 研究する人に歌人が乏しいとはよく人のいう ところですが、もしそうするとせっかく拵 えた文法に妙に融通の利かない杓子定規のと ころができたり、また苦心して纏まとめた歌の 法則も時には好よい歌を殺す道具になるよう に、実地の生活の波濤 はと う をもぐって来ない学 者の概括は中味の性質に頓着 とんじ やく なくただ形 式的に纏めたような弱点が出てくるのもやむ をえない訳であります。〈夏目漱石◆中味と 形式〉 しゃくし 杓子で腹を切る じのこと。 不可能なこと。また、形式だけのことのたと え。「杓子腹ばら」ともいう。∇杓子∥しゃも 類義擂粉木 すり こぎ で腹を切る。連木 れん ぎ で腹を切 る。切匙 せっ かい で腹を切る。杵 きね で頭を剃 そ る。 竿竹 さお だけ で星を打つ。擂粉木で芋を盛る。 杓子は耳掻きにならず 木二 大きい物が小さい物の代用になるとは限らないことのたとえ。「杓子は耳掻きの代わりにならず」「しゃもじは耳掻きの用をなさず」ともいう。 対義大は小を兼ねる。 英語 A great shoe will not fit a little foot. 大きな靴は小さい足に合わない しゃくしじょうぎ しゃくしじょうぎ 杓子を定規にする ↓ 杓子定規 302 鵲 巣風の起こる所を知る 出淮南子えなんじ 動物の行動を見ていろいろなことを予知・予 測することができるということ。かささぎ は、その年の風の状態を予知して巣を作るこ とから。△鵲=かささぎ。 類義蜘蛛くもは大風が吹く前に巣を畳たみ、 狐は雨の降る前に穴を塞ふさぐ。鵜の巣が高 ければ洪水あり。 弱肉強食 出韓愈ー送二浮屠文暢師一序 なること。強者が 弱い者が強い者のえじきになること。強者が <303> 弱者を意のままに滅ぼし、繁栄すること。 類義優勝劣敗。 英語 The great fish eat the small. 大きな魚は小さな魚を食べる 用例)戦争と暴力の否定が現代ぐらい真剣に 考えられねばならぬ時期はないだろう。血み どろな理想は決して理想ではないし、強い 人々だけが生き残るための戦争ならなお更さら 回避されねばならない。なぜなら、(生存競 争弱肉強食の法則を是正し、人類文化遺産の 継承を行うのが、人間の根本倫理)だからと 語る、(略)〈原民喜・「狂気について」など しゃくきかならせつもくすん 尺の木も必ず節目あり、すり しゃくきかならせつもく 尺の木も必ず節目あり、すの たまかなっかてき 玉も必ず瑕璚あり 出呂氏春秋 王もり・・ 完全無欠のものなどないことのたとえ。一尺 しかない木にも必ず節目はあるし、一寸の小 さな玉にも必ずきずはあるという意から。マ 瑕璫=きず。 しゃくみじかところ すんなが 尺も短き所あり、すも長き ところ 所あり 出楚辞 物には一長一短があり、時と場合によって何 が役に立つかわからないということ。智者も 愚者に劣ることをする場合もあり、愚者も智 者よりすぐれている場合があるというたと え。一尺でも短くて足りないこともあり、そ の十分の一の一寸でも長すぎて余る場合もあ るという意から。「尺も短く寸も長し」とも いう。「尺」は「せき」とも読む。 しゃくのーしゃっか しゃくやさか おもやたお ひさしか 借家栄えて母屋倒れる↓庇を貸して おもやと な屋を取られる544 尺を枉げて尋を直くす 大事のために小事を犠牲にすること。小さな 犠牲をはらって大きな利益をのばすこと。一 尺を曲げても八尺をまっすぐにできればよい ということから。「尺を枉げて尋ひろを直のぶ」 ともいう。▶尋∥両手を左右に広げたとき の、指先から指先までの距離。中国、周代で は八尺の長さを言った。 類義 小の虫を殺して大の虫を助ける。寸を 詘かが めて尺を伸ぶ。 じゃこうへそゆえいのち 麝香は臍故命をとらるる 長所がかえって災難を招くもとになるという たとえ。麝香鹿は下腹部によい香りの香料を 製する腺せんを持っているために、人にねらわ れて殺されるという意から。 類義孔雀 は羽ゆえ人に捕らる。象は歯有 りて以もって其その身を焚やかる。翠すいは羽を以 て自ら残 そう。鳴く虫は捕らえられる。鐸たく は声を以て自ら毀やぶる。 じゃこの魚交じり ととま ざこととま 雑魚の魚交じり 271 しゃじく なが 車軸を流す 雨が激しく降るさま。雨脚が太くて車の心棒 のようだとの意。「車軸の如ごとし」「車軸を下 くだす」「雨、車軸の如し」ともいう。 用例 新郎新婦の神々への宣誓が済んだこ ろ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り 出し、やがて車軸を流すような大雨となった。 〈太宰治◆走れメロス〉 出 論語 ろんご 国家の重臣のこと。▽社稷‖社は土地の神、 稷は穀物の神で、古代中国では天子や諸侯が 守護神として祭った。転じて国家の意。 しゃそ社鼠の患い 出晏氏春秋 主君のそばで横暴をきわめている奸臣 かん しん を除 けなくて胸を痛めること。神社で暴れ回る鼠 ねず み を除けずに心配することから。∇社鼠∥神 社に巣くう鼠。 類義鼠は社やしに憑よりて貴し。城狐じょ社鼠。 しゃちほこだげい 鯨鉾立ちも芸のうち 逆立ちも芸の一つであるということ。余興の 隠し芸をするときに、芸のない人が逆立ちを してその場をしのぐのをからかっていうこと ば。∇鯨鉾立ち∥逆立ち。 対義 鯨鉾立ちは芸にあらず。 尺蠖の屈するは伸びんがため の屈するは伸びんがため せっかく 尺蠖 しゃっかび いえどついよ 燗火微なりと雖も卒に能く のや 野を燎く 出後漢書 わずかなことでもおろそかにしてはならない という戒め。かがり火くらいの小さな火も、 燃え広がって広い野原を焼くことがあるとい <304> うことから。 △ 燗火 ∥ かがり火。 補説出典には、この前に「夫それ涓流 すく な しと雖いえも、浸よく江河を成す(小さな流 れも少しずつ集まってやがて大河となる) とある。 じゃつかん弱冠 出礼記らいき 男子の二十歳のこと。転じて、一般に二十歳 前後の若い人のことをいう。古代中国では、 男子が二十歳で元服(成人の儀式)して冠をつ けたことから。 補説出典には「人生まれて十年を幼と曰い い、学ぶ。二十を弱と日い、冠かんす。三十を 壮と日い、室有り(妻を迎える)。四十を強と 日い、仕う(仕官する)」とある。 注意「若冠」と書き誤らない。 しゃっきんしんしょうくすり借金は身上の薬 借金のある人は、それを返そうと努力するために生活に油断がなく、節約もするので、かえって家産を増やすもとになるということ。 斜に構える 物事に対して改まって十分に身構える。また、物事に正面から向き合わず、皮肉やからかい半分の態度で臨む。剣道で、刀を敵に対して斜めに構える意から。 蛇の道は蛇 同類の者のことは、よくわかるということ。 その道の専門家は、その道に詳しいことのた とえ。大蛇の通った道は、他の蛇にもよくわ かる意から。△蛇じゃ=大きなへび。蛇へび=小さいへび。 類義餅は餅屋蛇の道は朽縄くちが知る商 売は道によりて賢し悪魔は悪魔を知る。 英語 The wolf knows what the ill beast thinks. 狼 おお かみ は、 他の悪い獣の考えている ことをよく知っている 用例然しかし三成をかくまい、翌朝は護衛までつけて佐和山へ送ってやった家康の肚はは三成を生かしておけばやがて反乱のあげく三成党を一挙に亡しうるという、家康がその肚であるばかりでなく、三成がその肚を見抜きここへ逃げれば必ず助けられると見越して逃げこんだのだという。両々ゆずらず、神謀鬼策、蛇の道は蛇、火花をちらす両雄の腹芸というところだが、話が出来すぎているようだ。〈坂口安吾・家康〉 しゃじんみち しゃせいおのれ 射は仁の道なり、射は正を己 出礼記らいき に求む 弓射は仁を行う道を示している弓射はまず 正しさを射手の身に求めるということ。 じゃすんひとの 蛇はすにして人を呑む 偉大な人物は、幼少のころからすぐれた素質や気概を持っているということのたとえ。大蛇はまだ一寸(約三センチメートル)ぐらいの大きさのころから、人間を呑もうとする気概を持っている意から。「蛇は一寸にして人を呑む」「蛇は一寸にしてその気を得る」「蛇は一寸にしてその気あり」ともいう。「蛇」 は「へび」とも読む。 類義 栴檀 せん だん は双葉より芳 かん ば し。 竜は一寸に して昇天の気あり。 出醒睡笑 しよう 笑 知っている人に知らないふりをすること。 「娑婆で見た弥三郎」ともいう。「弥次郎」は 「弥二郎」とも書く。また、「弥三郎」ともい う。∇娑婆∥この世。 補説ある僧が、佐渡で土中に埋められて往 生 おうじ すると言っておきながら、抜け穴から 逃げ出して越後に渡っていたところ、以前奉 公人として使っていた弥次郎という男に偶然 出会って声をかけられた。しかし自分は死ん だことになっているので初めのうちは知らぬ 顔をしていたが、最後まで知らぬふりを押し 通すこともできなくなって「娑婆で見た弥次 郎か」と言ったという話から出たことば。 しゃべる者に知る者なし おしゃべりな者は、実際にはよく知らないで しゃべっていることが多いということ。 類義知る者は言わず言う者は知らず。 しゃべる者は半人足 仕事中におしゃべりをする者は、半人前しか 仕事ができないということ。 しゃみちょうろう 沙弥から長老 一気に出世することのたとえ。△沙弥=仏門 に入ったばかりの未熟な僧。長老=長年修行 した徳の高い僧。 <305> 類義 納所 なっ しょ から和尚 おし。 よう 対義 沙弥から長老にはなれぬ。 沙弥から長老にはなれぬ 物事には段階があって、一足とびには上に進 めないことのたとえ。新入りの未熟な僧が一 気に長老のような高僧にはなれない意から。 マ沙弥=仏門に入ったばかりの未熟な僧。長 老=長年修行した徳の高い僧。 対義 沙弥から長老。 三味線もひき方 かた もの い かど 物も言いようで角が 立つ 648 じゃ きん じゃもっ 邪を禁ずるに邪を以てす 邪悪なものをおさえるのに邪悪なものを用い ること。 類義毒を以て毒を制す。油を以て油煙を落 とす。盗人の番には盗人を使え。 対義火で火は消えぬ。 しゃどうへんつくさんねん 舎を道辺に作れば三年にして 成らず 出後漢書 人々の意見をいちいち聞いていたら何もできないというたとえ。家を道ばたに建てようとして、往来の人に相談していたら、めいめいが勝手な意見を述べるから、いつまでたっても完成しないという意から。▶舎家。 しゃみかーしゅうか 補説出典には、中国後漢の肃宗 を制定しようとして班固はんに相談したとき、 班固が学者を集めて議論した上で制定するこ とを進言したのに対し、肃宗がこのことわざ を引用して反対したとある。 世世説新語 出 炙を欲する色 もの欲しそうなようす。「炙を欲するの色」 ともいう。▿炙‖火であぶった肉。色‖顔つ き。ようす。 故事)中国、晋しの顧栄が宴会に出席したと き、あぶり肉を運んできた給仕人が欲しそう な顔をしたので、顧栄は一日中肉を扱いな がらその味を知らないのは気の毒だ」と肉を 分け与えてやった。後日、騒乱が起こり、顧 栄が危難に遭遇した際、つねに身近にいて助 けてくれる者がいた。それは以前あぶり肉を 分け与えてやった給仕人であった。 しゅういあ 出礼記らいき 醜夷に在りて争わず「 兄弟や仲間と争って父母に心配をかけるよう なことはしないということ。人の子としての 親に対する礼を述べたもの。∇醜夷=「醜」 は「衆」。自分と同等の仲間の意。 補説出典には「凡そ人の子たるの礼、冬 は温かにして夏は清すずしくし、昏くれに定めて 晨に省みる。醜夷に在りて争わず(およそ 人の子たる者の礼として、父母に対し、冬は 温かく、夏は涼しく過ごせるように配慮し、 また毎晩寝具のせわをし、毎朝ご機嫌を伺う。 そして兄弟・朋友と争って父母に心配をかけ るようなことはしない」とある。 災いは小さいうちなら容易に絶やせるが、大 きくなってからでは手に負えなくなるという たとえ。十かかえもある大木でも、新芽のう ちは足でかいて簡単に根絶やしできるという ことから。∇藥=切り株から出た新芽。 出枚乗ー上レ書諫二呉王一 類義 涓涓 けん 壅 ふさ がざれば終ついに江河とな る。 十月の投げ木じゅうがつなき 陰暦十月のころは、木をほうり投げておいて も根付くくらい、樹木の移植に最も適しているということ。「十月の投げ付き」ともいう。 しゅうかてき 出魏志ぎし 衆寡敵せず 小人数が多人数に立ち向かってもかなわない ということ。「寡は衆に敵せず」ともいう。 補説出典の「然しからば則ち小は固もとより 以もて大に敵す可べからず。寡は固より以て 衆に敵す可からず。弱は固より以て強に敵す 可からずそれならば小はもちろん大にかな わず、寡はもちろん衆にかなわず、弱はもち ろん強にかなわないというわけである」か ら出たことば。類句として『孟子』に「寡 は固より以て衆に敵すべからず」とある。 類義多勢に無勢。小を以て大に敵せず。 対義寡をもって衆を制す。 <306> しゅうかーしゅうし 英語 Hercules himself cannot deal with two. 「入ラクレスでさえも二人を相手にす ることはできない」 用例たとい世間がどう云いおうと、余一人 は矢張 昔の通り是公是公と呼び棄ずてにし たかったんだが、衆寡敵せず、已やむを得ず、 折角の友達を、他人扱いにして五十日間通し て来たのは遺憾である。〈夏目漱石◆満韓と ころどころ しゅうかんしせんこと 習慣は自然の若し 出孔子家語 習慣は、身にしみつくと、生まれつき持って いる天性のようになるということ。 類義習い性と成る。習慣は第二の天性なり。 しゅうかんだいにてんせい 習慣は第二の天性なり 身についた習慣は、生まれつき持っている天 性のようになるということ。 補説古代ギリシャの哲学者ディオゲネスの ことばの訳語。英語では Custom is a sec- ond nature. 類義習慣は自然の若ごとし習慣は常と為な る習い性と成る。 十行俱に下る 出梁書 読書のはやいことのたとえ。一度に十行ずつ 読み下すということから。 の正しい者は受け入れられないということ。 大勢を得たものが勢力の小さいものを駆逐し てしまうことをいったもの。△曲=曲がって いること。ここでは邪悪の意。 類義一目 十行。一目五行俱に下る。数行 並び下る。 じゅうきわすなわか 獣窮まれば則ち噛む しぬえきよく 出 元なんじ 衆曲は直を容れず 淮南子 多くの悪人が勢力を得ている社会では、少数 出韓詩外伝 しゅうきょくちょくい けものは追いつめられると死にもの狂いで抵 抗してかみつくということ。「噛」は「齧」 とも書く。 補説出典には続けて「鳥窮まれば則ち啄ばい み、人窮まれば則ち詐いつる鳥も追いつめら れれば必死でつつき、人も窮境に追いこまれ ると何とか逃れようと嘘をついてしまったり する)とある。 類義 窮鼠 きゅ うそ 猫を噛む。 しゅうぐがくがくいっけん 衆愚の諤諤たるは一賢の唯 い 唯には如かず 大勢の愚か者がやかましく述べ立てる意見 は、一人の賢人の「そのとおりです」という 返事の説得力には遠く及ばないということ。 ∇諤諤∥やかましく議論する意。唯唯∥はい はい。そのとおり。 しゅうこうきんと 補説このことばは、『史記』の「商君伝」 の中の、「千人の諾諾だくは、一士の諤諤に如 かず(何でもはいはいと従うものが千人いる よりも、たとえ一人でも直言してくれる人物 がいるほうがよい)ということばを逆にし たもので、『太平記』に使われている。 衆口金を鑠かす 人の噂うわや中傷の恐ろしさのたとえ。多くの 人の噂、悪口などが集まると、ついには堅い 金属をも溶かすほどになるという意から。 鑠かす‖溶かす。 出国語こくご 類義積羽 せき 舟を沈む。三人寄れば金かねをも 溶かす。 しゅうこう かふく もん 衆口は禍福の門 出国語 人々の言うことにはよく注意しなければならないということ。世間の人々の噂うわ、評判などによって、不幸を招いたり、幸せになったりするという意から。 しゅうこれにく かならさっ 衆之を悪むも必ず察す 出 論語 ろんご 世間の評判だけで評価・判断してはならない という孔子の教え。多くの人が悪く言っても 軽々しく信用せず、自分の見識によって正し い判断を下すということから。 じゅうしちはちやぶぢから 十七八は藪力 十七、八の年ごろは、根のしっかり張った竹 をも引き抜くくらいのとてつもない力が出る ということ。 宗旨の争い釈迦の恥 仏教のどの宗派もすべて釈迦の教えから出た ものだから、宗旨争いは結局は釈迦の恥とな るということ。宗旨争いをあざけったこと <307> ば。 類義 釈迦に宗旨なし。宗論はどちらが負け ても釈迦の恥。 しゅうじゅうさんぜ主従は三世 主人と家来の関係は前世(過去)・現世(現在)・来世(未来)にもわたる深い因縁があるということ。主従は「しゅじゅう」とも読む。↓親子は一世、夫婦は二世、主従は三世122類義三世の機縁。師弟は三世。 しゅうしょうおお 出漢書 少ししかないものでも、たくさん集めれば大 量になるということ。「衆少多たを成す」とも いう。 類義塵ちりも積もれば山となる しゅうしょうろうばい 周章狼狽 慌てふためき、うろたえること。∇周章∥慌 てること。狼狽∥うろたえ、さわぐこと。 補説一説に、「狼」「狽」はともに伝説上の 獣で、狼は前足が長くて後足が極端に短く、 狽は前足が極端に短くて後足が長い。狽が狼 の後ろに乗るようにして二頭は常に一緒に行 動するとされ、離れると動けず倒れてしまう ことから、うまくいかない意、慌てふためく 意に用いる。 育 乏から来るのであろう。〈寺田寅彦◆火事教 注意「狼狽」を「狼敗」と書くのは誤り。 用例しかしこのできるはずのことがなかな か容易にできないのは多くの場合に群集が周 章狼狽するためであって、その周章狼狽は畢 竟ひっきよう火災の伝播でんに関する科学的知識の欠 しゅうじーしゅうそ 従心七十七にして心の欲する所に従 えども矩を踰えず292 衆心城を成す 多くの人が心を合わせて協力すれば、城のように堅固になり破られるものではないということ。「衆志城を成す」ともいう。 補説出典には、続いて「衆口 金を鑠か す(多くの人々の言は金をも溶かす恐ろしい 力となる」とある。 出大学だいがく しゅうしんせいかちこくへいてんか 修 身斉家治国平天下 天下を治める基本は、自分の行いをよく修め ることであるということ。自分の行いを正し くすることで家庭は平和になり、ひいては国 家も治まり、天下に平和をもたらすというこ と。儒教 じゅき よう の基本的な政治観。「修」は「脩」 とも書く。 類義 天下の本もとは国にあり、国の本は家に あり、家の本は身にあり。 用例 牢屋 ちう は、 これ は避けなければいけな い。けれども、ときどき思うのであるが、修 身、斉家、治国、平天下、の順序には、固く こだわる必要はない。身いまだ修 おさ らず、一 家もとより斉 とと わざるに、治国、平天下を考 えなければならぬ場合も有るのである。むし ろ順序を、逆にしてみると、爽快 そう かい である。 平天下、治国、斉家、修身。いい気持だ。太 宰治◆懶惰の歌留多 しゅうしんぜんないちげんすなわこれ 終身善を為し一言則ち之を やぶ 敗る 出孔子家語こうしけご 言行はよくよく慎まなければならないという 戒め。一生かかって善行を積み重ねてきたの に、たった一言の不注意な発言のために、す べてを台無しにしてしまうことから。 類義百日の説法屁へ一つ。 しゅうしんみちゆずひやっぽま 終身路を譲るも百歩を枉げ ず しんとうじよ 出新唐書 一生涯人に道を譲りつづけたとしても、その ために余分に歩いた合計は百歩にもならな い。常にへりくだって人に譲る心がけで世に 処すれば、失うところより得るところが多い という教え。謙譲の徳をいったもの。「終身 畔あぜを譲るも一段たんを失わず」ともいう。 衆 草と伍す 出琴操きんそう 賢人・君子が凡人と交わっていることのたと え。△衆草=多くの草。雑草。伍す=仲間に なる。交わる。 補説孔子がどこの国にも仕官できず生国の 魯々に帰る途中、谷間の雑草に交じって蘭が 芳香を漂わせて咲いているのを見て作った歌 『猗蘭操いらん』から。「夫それ蘭はまさに王者の 香たるべきも、今乃すなち独り茂りて衆草と伍 を為なす。譬たとえば猶なお賢者の時に逢わず、 鄙夫ひふ(俗人)と倫りん(仲間)を為すがごとし」 とある。 <308> 秋霜烈日 刑罰・志操・権威などが厳しく、また厳かな ことのたとえ。秋の霜と真夏の太陽は、どち らも草木を枯らすほど厳しいことから。 舟中も敵国 出史記しき 味方でも敵になることがあるというたとえ。 また、味方の中にも敵がいるたとえとして用 いられることもある。同じ舟に乗っていて利 害が共通する者が敵となるという意から。 補説出典には「若もし君徳を修めずんば、 舟中の人尽ごとく敵国と為ならん(君がもし徳を 修めなければ、舟中の人は皆敵国のように なってしまう」とある。 しゅうどおかがた 衆怒犯し難し 出春秋左氏伝 多くの人々の怒りに立ち向かうことは難し い。人々が嫌うことを強行すれば災いを起こ すことになるということ。「衆怒犯すべから ず」ともいう。 補説出典には、このあとに「専欲は成り難し(自分ひとりの欲望を満たすようなことは成功しにくい)」とあり、身勝手なふるまいは慎み、大勢の意見に従わなければならないと戒めている。 十読は一写に如かず 書物は、十回読むよりも、一回丁寧に書き写 したほうがよく理解できるということ。 出鶴林玉露 補説出典には「読むこと十遍ペんなるは写す こと一遍なるに如かず」とある。 類義十遍読むより一遍写せ。読むより写 せ。 衆と好みを同じくすれば成ら 出三略さんりゃく ざるなし 多くの人の好みと一致した行動をとれば、何 事でもできるということ。 補説出典には、このあとに「衆と悪くしみ を同じくすれば傾けざるなし(多くの人々と 嫌うことが一致すれば、心を寄せない者はい なくなる」とある。 類義衆を得うれば国を得。 単の物で相嬌もてなす 自分のふところは痛めずに、他人の物で自分の義理を果たす行為のたとえ。配偶者の父に招待された婿同士が、そこに出された料理や酒を勧め合って義理を果たすという意から。「舅の酒で相婿もてなす」ともいう。△相婿 二姉妹の夫同士の意。 類義人の褌ふんで相撲を取る。人の牛蒡 法事する。 しゅうとめ かたき よめ う 姑の仇を嫁が討つ 姑にいびられたかたきを、あとになって自分 の息子の嫁をいびることで晴らすこと。 しゅうとめじゅうしちみもの 姑の自慢話はあてにならないことのたとえ の十七見た者がない 姑は自分の若いときのことを引き合いにし て、自慢したり嫁に小言を言ったりするが、 そのころを見た者はいないのだから、真偽の ほどはわからないということ。 類義親の十七子は知らぬ。 姑の三日誉め 姑が嫁をほめることなど、めったにあるもの ではない。たまにほめても、三日もすればす ぐ不機嫌になるということ。 「類義」姑の朝笑い後が怖い。 しゅうやまい 主と病には勝たれず 主人の無理難題と病気の痛みには屈するほか ないということ。 類義気取りの難しいは主と病。主と病に勝 つことなし。お主と持病には勝たれぬ。 ごめぐ また 柔なるも亦茹わず剛なるも亦 土かず 出詩経しきよう 相手が弱くても侮あならず、強くても恐れない ことのたとえ。食べ物が柔らかいからといっ てやたらに食べたり、固いからといって吐き 出したりしないという意から。∇茹う∥食べ る。主に野菜を食べる意。 十 人 十 色 人の考え方や好みなどは、みなそれぞれに 違っているということ。「十人寄れば十色」 ともいう。 類義 人の心は面 おも て の如 ごと し。 心は面の如 <309> し。心同じからざること面めんの如し。人心じん の同じからざるは其その面の如し。十人十 腹とは。 英語So many men, so many minds. の心はそれぞれ違う 用例よそ目には一列一体、平等無差別、ど の猫も自家固有の特色などはないようである が、猫の社会に這入はいって見るとなかなか複 雑なもので十人十色という人間界の語ばはそ のままここにも応用が出来るのである。夏 目漱石・吾輩は猫である 十年一日 何年たっても変わらないこと。長い間少しの 進歩や成長もないこと。また、同じやり方や 状態を長く続けること。十年もずっと同じ一 日を繰り返すようだという意から。「十年一 日の如ごとし」ともいう。 用例製作の経験も何もない野次馬たちが、 どうもあの作家には飛躍が無い、十年一日の 如しだね、なんて生意気な事を言っています が、その十年一日が、どれだけの修業に依よっ て持ち堪こたえられているものかまるでご存じ がないのです。〈太宰治◆炎天汗談〉 十年一剣を磨く 出賈島詩 長い間、武術の修練を積むこと。また、武術 の修練を積み、力を発揮できる機会を待つこ と。転じて、復讐ふくしの機会をうかがう意に も用いられる。一振りの剣を、十年もの長い 間磨き続けるという意から。 補説詩の題名よ 補説 詩の題名は 剣客 かく 十年一剣を磨 じゅうねーじゅうば き、霜刃 そう じん 未だ嘗かって試さず。今日把とりて 君に似る、誰たれか不平の事あらん(十年も の間、私は一振りの剣を磨いてきた。霜のよ うに光る刃の切れ味は、まだ試したことがな い。今日この剣を君に捧げよう。そうすれば 不平の事もなくなるであろう」とある。ま た、日本では頼山陽らいさんようの不識庵ふしきの機山 きざを撃つの図に題す』という詩の中で使われ、 広く知られている。↓長蛇ちょを逸いす426 じゅうねんけいきう 十年の計は樹を植えるにあ 出管子かんし 十年で利益を得るためには、樹を植えるのが いいということ。 補説)中国春秋時代の斉の宰相管仲 菓。人材育成の大切さを説いた一節で、出典 には一年の計は穀を樹うるに如しくは莫 く(一年の計は穀物を植えるのに勝るものは なく)、十年の計は木を樹うるに如くは莫く、 終身の計は人を樹うるに如くは莫し(終身の 計は人を植えるのに勝るものはない)とあ り、穀物は一を植えて一の収穫があるもの、 木は一を植えて十の収穫があるもの、そして 人は一を植えて百の収穫があるものと説いて いる。 十年一昔 世の中の移り変わりが激しいことのたとえ。 十年もたつとまるで昔のことのようになって しまうということ。「十年たてば一昔」とも いう。 用例人生の大きな峠を、また一つ自分はう しろにした。十年一昔だという。すると自分 の生れたことはもうむかしのむかしの、む かしの、そのまた昔の事である。〈山村暮鳥◆ 雲〉 重箱で味噌をする 細かいところにはこだわらないで大目に見る ことのたとえ。また、外見は立派だが本来の 用途に使われなければ役に立たないことのた とえにもいう。 類義重箱の隅を杓子しゃで払う。擂粉木すりで 重箱洗う。四角な座敷を丸く掃く。 対義重箱の隅を楊枝じでほじくる。 重箱に鍋蓋 じゅうばこなべぶた つり合いがとれず、しっくりしないことのた とえ。四角い重箱に丸い鍋蓋では合わないこ とから。 類義円鑑方柄えんさく。ほうぜい 重箱に煮染め 外見は立派なのに中身が粗末なこと。また、 内容と外見が一致しないことのたとえ。立派 な重箱の中に醤油 うゆ で煮しめた粗末な料理が 入っていることから。 類義錦の袋に糞ふんを包む。 重箱の隅を楊枝でほじくる 非常に細かいことまで問題にして、口うるさ く言うことのたとえ。重箱の隅に残ったもの を楊枝でほじくり出すようにして食べるとい <310> うことから。「重箱の隅を楊枝でつつく」「楊 枝で重箱の隅をほじくる」ともいう。 対義 擂粉木 こぎ 重箱洗う。重箱で味噌をす る。重箱の隅を杓子 くし で払う。 じゅうはちごけた しじゅうご 十八の後家は立つが四十後 けた 家は立たぬ 十八歳くらいで未亡人になった女性は、結婚 生活の経験も浅いので、そのまま操 みさ お を立て て世を送ることができるが、中年になってか ら未亡人になった女性は、操を立てとおすの がむずかしいということ。 類義二十 ち 後家は立つが三十後家は立た ぬ。若後家は立つれど年寄り後家は立て難 し。 秋波を送る しゅうはおく 女性が、男性の関心をひこうとして色目を使 うこと。また、男女を問わずこびを売ること。 ▶秋波‖秋の澄んだ波。転じて、美人の涼し い目もと。また、女性のこびを含んだ目つき。 補説詩の題名は『菩薩蛮ばん』。 用例散歩の人出の中には、恁こう云いう人達 の心を引こうとて、さまざまな化粧をした女 が、秋波を送りながら徘徊 して居る。〈永 井荷風◆ふらんす物語〉 出李煜ー詩 しゅうびひら 愁眉を開く 補説詩の題名は『春遊』 頬義眉を開く。眉を伸ぶ。 悲しみや心配がなくなって安心すること。心 配してひそめていた眉を安心して開く意か ら。▶愁眉‖うれいを含んだ眉。 出劉兼ー詩 対義眉を顰ひそめる。 用例私は九州に去ることに依よって愁眉を 開きうる筈はずでなければなりません。然しかし ながら妻に対する煩悶は私の心を更に掻か き乱しました。〈長塚節◆教師〉 じゅうぶん 十分はこぼれる あまり欲ばらず、何事もほどほどにするのが よいということ。容器のふちまで入れた水 は、あとはこぼれるばかりだという意から。 類義満は損を招く。八分は足らず十分はこ ぼれる。月満つれば則 すな わ ち虧かく。 重宝を抱く者は以て夜行せ 出戦国策 じゅうほう いだものもっやこう ず 大任のある者は、軽率な行動はしないという たとえ。重要な宝物を持っている者は、夜道 を歩く危険を冒さない意から。 しゅうもうぞうもぐんもうぞうひょう 衆盲象を模す団群盲象を評す214 じゅうもくみところじっしゅゆび 十目の視る所、十手の指さ 出大学だいがく 人の言動は多くの人が注視しており、人の目 を欺くことができないので慎まなければなら ないということ。また、多くの人の意見や判 断が一致しているものは、間違いがなく正し いものだということ。十人の人の目が見、十 す所ところ 人の人が指さす所の意から。 類義千人の指す所は違たがわず。十指の指さ す所。 じゅうもんあぶらごもん 十文が油をとぼして五文の よ 夜なべせよ 十文もする油を使って五文しか得られない夜 なべ仕事でも、精を出して励めということ。 目先の計算上では損にみえても、無形の利に なり身のためになるという教え。 じゅうよごうせい 出三略さんりゃく 柔 能 く剛 を 制 す 弱い者が強い者に勝つこと。柔軟性のあるものが、そのしなやかさで剛強なものを押さえつける意から。「弱能く強を制す」ともいう。補説出典には「軍譲ぐんに日いわく、柔は能く剛を制し、弱は能く強を制す兵法の書にいう、柔軟な者がかえって剛強なものを押さえつける、弱い者がかえって強い者を押さえつける」とある。 類義柔は剛に勝ち弱は強に勝つ。柔を守る を強という。強大は下におり柔弱は上にお る。柳に雪折れなし。 衆力功あり 大勢の力を合わせれば、物事は成功させやす いということ。 英語 One man is no man. 人間は一人で はどんな人間でもない Two heads are better than one. 二人は一人に勝る <311> 出晋書しんじょ 男子の誕生を祝うことば。生まれた子供が出 世して、それを祝う人たちで村の入口の門が いっぱいになるという意から。∇充∥満ち る。間∥村の入口の門。慶∥よろこぶ。祝う。 故事中国、晋しんの賈逹かきは、晩年になって はじめて男の子が生まれたのを喜び、この子 は立身出世して名士となり、「後当まさに充間 の慶あるべし(のちに賓客が村の入口に満ち 満ちる喜びがあるだろう)と言って、名を充、 字あざを公閣りと命名した。果たして賈充は西 晋の武帝のとき、宰相 ぜられた。 よろ となり魯公 ろこ うに封 じゅうえひとうしな 軟を得て人を失う 出国語 代償の高すぎることをいう。 軟を捕らえた代 わりに人命を失うということから。 類義一文吝おしみの百知らず。 じゅうおものめたいざんみしかお 獣を逐う者は目に太山を見ず♩鹿を逐 ものやまみ う者は山を見ず284 戦って勝負をはっきりつけること。どちらが 雌でどちらが雄かをはっきり決める意から。 故事秦しんが滅ぼされ、天下の覇権を争って いた漢楚かん(漢王劉邦りゅうほうと楚王そお項羽こう)の 両軍は疲れきっていた。楚王は使いをやって 漢王に「天下の動乱が長く続いているのは、 ただ我ら両人がいるせいである。願わくは漢 王と二人、単身で戦い、どちらか雌雄を決し 出史記しき じゅうりーしゅくゆ て、いたずらに天下の民を苦しめたくない」と言った。漢王は笑って「わたしは、いっそ知恵を闘わそうと思う。腕力を闘わすのはごめんだ」とことわったという。 用例趙雲 ちょう うん は、討って出て、前面の敵と 雌雄を決すべきだと、悲壮な覚悟をもって云 いったが、「いや、それは捨て身だ。軽々しく 死ぬときではない」と、玄徳は自重して、ひ とまず穣山 じょう ざん へ退却しようと決めた。〈吉川 英治◆三国志〉 湿を悪みて下きに居る 出孟子 人に悪く言われるのをきらいながら、行いを 改めないことのたとえ。また、現在の境遇に 対して不満を持ちながら脱出することができ ないでいることのたとえ。湿気をいやがりな がら、湿気の多い低い所にいるという意から。 「湿」は、慣用音で「しつ」とも読む。 補説出典には「仁なれば則 なれば則ち辱 はず か しめられる。今辱しめらるる を悪にくみて不仁に居るは、是これ猶 なお 湿を悪 みて下きに居るがごとし仁徳を修めてさえ おれば必ず栄えるし、悪いことばかりしてお れば必ず他から屈辱を受けるものだ。しかる に今の君主は屈辱をきらいながら、その原因 である悪政をつづけているのは、ちょうど濡 ぬれたくないと思いながらわざわざ水溜 みず たま り につかっているようなもので、矛盾も甚だし い」とある。 い評判のこと。万載‖長い年月。 対義芳を後世に流す。 しゅうばんざいのこ 臭を万載に遺す 世世説新語 悪名を後世にまで残すこと。∇臭∥悪臭。悪 しゅくすい菽水の歓かん 出礼記らいき 貧しい生活をしながらも、親に孝養を尽くし て喜ばせること。豆を食べ水をすすっても親 孝行して喜ばせるという意から。「菽水の歓 よろび」ともいう。∇菽∥まめ。雑穀。「菽水」 は豆と水で、貧しい生活の意。 補説出典には、孔子のことばとして「菽まめ を啜すらせ水を飲ませ、其その歓を尽くさし む、斯これを之これ孝と謂いう豆を食べ水を飲 むような貧しい暮らしの中で親を喜ばせるこ とこそ、本当の孝行である」とある。分に 応じ、財に応じて孝養を尽くすべきで、財が 多くなってから孝行をするというのは本当の 孝行ではないと説いている。 しゅくばくべん 菽麦を弁せず 出春秋左氏伝 この上なく愚かな者のたとえ。豆と麦は区別 しやすいのに、それができない意から。▷菽 麦∥豆と麦。弁ずる∥区別する。 補説出典には「周子、兄有れども無慧 り、菽麦を弁ずる能あたわず、故に立つべから ず(周子には兄があったが愚か者で、豆と麦 とを見分けることができなかった。そのため 主君として立てることができなかった」と ある。 類義 菽麦を分かたず。 しゅくゆうわざわ 祝融の災い 出淮南子 火事による災難のこと。 祝融=中国古代神 <312> じゅしのーしゅにま 話上の帝王。赤帝とも。また、火の神。転じ て、火事の意。 豎子の名を成す くだらない者に名声をあげさせること。つま らない相手に負けたことを悔やんで言うこと ば。△豎子=未熟者をばかにして言うこと ば。青二才。 出史記しき 故事魏の軍師龐涓が敵の斉の軍師 孫臏(龐涓に才能を恐れられて両足を切ら れたが、斉に迎えられて軍師となっていた) との戦いに敗れて、自分から首をはねて死ん だ。その死に臨んで「遂っに豎子の名を為な さしむ(ついに青二才に手柄をたてさせてし まった)と言ったという故事から。 じゅしゃふみもがくしゃふみも 儒者の不身持ち♡学者の不身持ち135 しゅしゅかぶまもうさぎま 守株♡株を守りて鬼を待つ152 しゅしょうほうつとえいゆうこころ 主将の法は務めて英雄の心を と 攬る さんりゃく 出三略 総大将として全軍を統率する最良の方法は、 努力して部下の中の英雄(すぐれた者)を手な ずけ、心服させることである。▶主将‖全軍 の総大将。法‖方法。攬る‖にぎる。 手足処を異にす 手と足をばらばらに切り離されること。腰斬 ざん(罪人の腰部を切断する刑)に処されるこ と。 出史記しき 故事)中国春秋時代、魯の定公と斉の景公 が会見したとき、斉の役人の指示で道化役な どがおどけた身振りをして出てきた。それを 見た孔子が、諸侯をまどわす者だとして彼ら を処刑するよう役人に言ったので、法に従い、 彼らは手と足をばらばらに切り離されてし まったという。 類義 頭足処を異にす。 出論語ろんご 手足を措く所なし 安心して生活できる場所がないということ。 手足の置き場がない意から。∇措く∥置く。 出史記しき 首鼠両端しゅそりようたん 決断できずに迷っているたとえ。日和見 穴から首を出したねずみが、外をうかがって 両側を見回しているようすから。∇首鼠∥穴 から首を出したり引っこめたりしているねず み。一説に、「躊躇ちゅう」の音が変化し、さら に「首施し」と表記されたものと同じで、躊 躇する意ともいう。 用例順慶は、光秀の世話になって居り、無 二の親友である。だから順慶自身は、光秀の 勧誘に、心うごいたが、(中略)とにかく、後 世からはその首鼠両端の態度を嘲笑 ているが、しかし当時は明智の無二の親友で ありながら、家を全うすることが出来たのは、 杉倉、島両家老の処置宜よろしきを得たためで あると云われていた。〈菊池寛◆山崎合戦〉 しゅちにくりん酒池肉林 ぜいたくを極めた酒宴。また、みだらな宴会 のたとえ。酒を池に満たし、肉を林に掛ける 意から。 出史記しき 補説出典には、殷いんの紂王 おう の宴会につ いて、「酒を以もって池と為なし、肉を縣かけて 林と為し、男女をして倮はだにして其その間に 相逐おわしめ、長夜の飲を為す」とある。 しゅっけねんぶつぎら 出家の念仏嫌い いちばん大事なことがきらいだったり、もっとも重要なことができなかったりすることの たとえ。出家して僧侶になった者が、念仏を きらう意から。 類義酒屋の下戸げこ。 しゅつらん ほま 出藍の誉れ 出荀子じゅんし 弟子が師よりもまさるようになることのたと え。 補説出典にある「青は之これを藍あいより取りて藍よりも青し(藍からとった青色が、かえってもとの藍より青い)」から出たことば。 類義青は藍より出でて藍より青し。藍より青し。氷は水より出でて水より寒し。 英語 The scholar may be better than the master.弟子が師匠に勝ることがある しゅまじあか 朱に交われば赤くなる 人は、交際する仲間や環境によって、よくも 悪くもなるというたとえ。 類義墨に近づけば必ず緇くろく、朱に近づけ ば必ず赤し。善悪は友による。血に交じれば 赤くなる。蝨 しら み は頭 かし ら に処おりて黒し。丹の 蔵する所の者は赤し。水は方円の器に随 した が <313> う。 英語 Evil communications corrupt good manners. 下劣な会話はよい行儀作法を害 する Who keeps company with the wolf will learn to how. 狼と交わる者は 吠えるようになる しゅばいしんごじゅうふうき 用例すると、私の父も母も急に兄をば悪い ものだとは云いわなくなり、何かの話が出る とあれは皆よく家へも遊びに来たあの山座と いう悪友があったためだ…朱に交われば赤く なるという諺ことがほとんど両親の口癖になっ てしまったくらいである。〈永井荷風◆悪友〉 朱買臣五十富貴 大器晚成のたとえ。 ∇朱買臣=前漢の政治 家。武帝の臣。 出漢書かんじょ 故事朱買臣は貧乏で、薪を売って生計を立てながら読書にはげんでいた。妻が離縁を迫ったとき、「自分は五十歳になったら富貴になるだろう」と言い、果たしてそのとおり、後に富貴になったという故事から出たことば。 須弥山と丈競べ しゅみせんたけくら 比較にならないことのたとえ。∇須弥山=仏 説で、世界の中心にそびえるという高い山。 山上に帝釈天たいしゃの宮殿があるという。 じゅんきようともつくぎやつきようとも 順境は友を作り、逆境は友 ため を試す 生活が順調なときは、多くの友人ができ、生 しゅばいーしゅんし 活が苦しいときにはその友人が真の友人かどうかがわかる。逆境のときでも変わりなくつきあう友が、真の友人であるということ。 出晋書しんじょ 故郷を懐かしく思う心のたとえ。ふるさとの 味。▿蓴羹∥じゅんさいの吸い物。鱸膾∥す ずきのなます。 故事中国晋しの張翰ちょうが、故郷の名産 である尊羹と鱸膾が恋しくなり、どうしても それを味わいたくて、官職を投げうって帰郷 したという故事による。 春日遲遲 春の日が長く、暮れるのが遅いさま。また、 春の日のうららかでのどかなさま。∇遅遅∥ 春ののどかでうららかなさま。 出詩経しきよう 春秋高し 年をとっていること。高齢であること。△春 秋Ⅱ一年間。転じて、歳月や年齢をいう。 類義春秋長ず。 出戦国策 出史記しき 春秋に富む 年が若いこと。将来性が豊かであることのた とえ。△春秋=一年間。転じて、歳月や年齢 をいう。 用例 が、それにしても、此方 ほう の申した ことは、多年の体験と感得からつかみ得た単 純な道理にすぎない。まだ、その理法を明ら かにし、それを基本として一流の兵法を構成 類義先がある。 するまでには至っていない。それがしはすで に老年の事、あなたはなお春秋に富む身、ど うかそれを研鑽けんし、完成して、あなた独自 の一流を興として下さい。……〈吉川英治◆ 剣の四君子〉 春秋の筆法 ちょっとした言葉遣いの中に、賞賛・批判や 深い真意を暗に含めた表現方法。また、公正 で厳しい批判の態度。間接的な原因を大事に 結びつく直接の原因として述べる表現形式。 マ春秋=中国、春秋時代の歴史書。五経 一。魯の史官の遺した記録に孔子が加筆し、 厳しい歴史批判を託したといわれる。 用例また、太平記的な、春秋の筆法では、 この合戦中にも、いろんな奇瑞や天変があっ たとしている。たとえば八幡大明神 はちまんだい みようじん の 加護が見えたとか、奇鳥の群れがお座所の上 をめぐったとか、事毎こと、奇を謳うたツている のであるが、じつは人心が幕府を見かぎり出 した兆きざ以外なものではない。〈吉川英治 私本太平記〉 春宵一刻直千金 出蘇軾ー詩そしょくし 春の夜のひとときはなんとも言えない趣があ り、千金にも値するほどであるということ。 ▶一刻∥中国の『隋書ずい』天文志の漏刻 は、一日を百分してその一つを一刻としたの で、今の十四分二十四秒ぐらいに当たる。わ ずかな時間。 補説詩の題名は『春夜 しゅ んや』。 「春宵一刻直千 金、花に清香 せい こう 有り月に陰 かげ 有り、歌管楼台 <314> しゅんそーしゅんら かかんろ うだい 声細細、鞦韆院落 しゅうせん いんらく 夜沈沈(春の夜の ひとときは、千金の値がある。花は清らかな 香気を放ち、月はおぼろにかすんでいる。夜 がふけると、今まで高殿で歌や音楽に興じて いた人々の声もだんだん静まり、中庭のぶら んこは、いまはたわむれる人もなく垂れて、 夜がしんしんとふけてゆく)とある。 用例「いよいよ、春になったね。燕も来た」 言わなくたっていい事である。お婆さんも息 子も、黙っている。「春宵一刻、価千金、か」 と、また、言わなくてもいい事を呟つぶいてみ る。〈太宰治◆お伽草紙〉 しゅんそくちょうはんおも 駿足長阪を思う 自信のある者が、手腕の発揮できる困難を求 め、力を試そうと思うこと。足の早い馬は、 自分の力を示すために長い坂があればよいと 思う意から。▽駿足∥足の早いすぐれた馬。 駿馬 しゅ。 長阪∥長い坂。 春氷を渉るが若し 出書経 非常に危険なことをするたとえ。とけて割れ やすい春の氷の上をわたるということから。 類義深淵 しんに臨んで薄氷を履ふむが如 し。 しゅんぷうたいとう 春風駘蕩 春の風がのどかに吹くようす。春景色のど かなさま。転じて、人柄や性格がのんびりし ていて温和なたとえ。∇駘蕩∥のびのびとし ている意。 は違いないが、私はやはり祖先のかなしい血 に、出来るだけ見事な花を咲かせるように努 力するより他には仕方がないようだ。〈太宰 治◆津軽〉 用例 春風駘蕩の美德もうらやましいものに 対義 秋霜烈日。 春風の中に座するが如し しゅんぷうなかざこと 出近思録 春風が万物を成長させるように、師のあたた かい指導によって学問の修行が助けられるさ まをいう。 順風満帆 物事がすべて順調に進むことのたとえ。船が 帆に追い風をいっぱいに受けて快く進む意か ら。∇順風∥進む方向に吹く風。追い風。 注意「じゅんぷうまんぽ」と読むのは誤り。 類義順風に帆を上げる。得手えてに帆を揚げ る。追風 おい て に帆を上げる。 春眠暁を覚えず 出孟浩然詩 春の夜の眠りは心地がよく、夜明けも知らず に眠りこんでしまうということ。春の朝の容 易に目がさめないようすをいう。 補説詩の題名は『春暁 えず、処処 しよ 啼鳥 ていち よう を聞く、夜来風雨の声、 花落つること知る多少(春の眠りはこころよ くて、夜明けも知らずうつらうつらしている と、あちこちで鳥のさえずる声が聞こえる。 昨夜ははげしい雨風の音がしたが、おそらく 花がたくさん散ってしまったことだろう とある。 用例春眠暁を覚えずとか何とかいう言葉が あるが、まったく春の朝寝のぬくぬくとした 寝床の温気 うん は、実はこうしていられないの だと思いながらも這はい出すことが容易でな いのと同じように、大阪地方の温気に馴なれ た純粋の大阪人にとっては、何かの必要上こ の土地を抜け出すことには随分未練が伴うよ うである。〈小出檜重・春眠雑談〉 しゅんめちかんの 駿馬痴漢を乗せて走る 出五雑俎 世の中は思うようにいかないことのたとえ。 また、つりあった相手にめぐりあえないこと、 とくに、美人がつまらない男と結婚すること のたとえ。名馬が、くだらない男を乗せて走 るということから。▽駿馬=すぐれた馬、名 馬。痴漢=おろかな男。 補説出典には「駿馬毎つねに痴漢を駄のせて 走り、巧妻こう(できのいい妻)常に拙夫せっつ まらない夫に伴のうて眠る」とある。 春蘭秋菊俱に廃すべからず 出旧唐書くとうじょ どちらもすぐれていて、優劣がつけにくいこ とのたとえ。春の蘭も秋の菊もともに趣があ り、美しいので、どちらがよいと決めにくい ことから。 補説ある人から三人の人物の優劣を聞かれ た雍州 ようし の長官陳崇業 ちんすう ぎよう が答えたことば。 類義兄けいたり難く弟たり難し。いずれ菖 <315> 蒲あやか杜若ばたかきつ。 しよういかんしょく 宵衣旰食 出徐陵陳文皇帝哀冊文 為政者が朝早くから夜遅くまで政務に精励す ること。「旰食宵衣」「宵旰」ともいう。∇宵 衣∥夜が明けきらないうちから起きて着物を 着ること。旰食∥夜おそくなってから食事を とること。 上医は国を医す 出国語こくご すぐれた医者は、人の病を治すことにとどま らず、戦乱や悪風などの国家の病気を治すも のであるということ。 しよういすだいどう 小異を捨てて大同につく 意見の多少の違いにはこだわらないで、基本 的なことが一致していればよしとするという こと。「小異を捨てて大同を取る」ともいう。 ∇大同∥だいたい同じであること。 じょうか城下の盟めい 城 出春秋左氏伝 敵軍に包囲されて降伏し、城壁の下で結ぶ もっとも屈辱的な講和条約。また、敵の城下 に攻め込み講和の盟約を結ぶこと。△城下 城壁の下。盟約束。誓い。「ちかい」とも 読む。 類義傷弓の鳥は虚発 きよ はつ に落つ。 じようぎ はぎ しようきゅう とり傷弓の鳥 過去の経験にこりて恐怖心にとらわれ、ひど く警戒心の強い人のたとえ。一度矢で傷を受 けた鳥の意から。↓羹あつものに懲こりて膾なますを吹 く23 しょういーじょうご 出戦国策 常着よしの晴れ着なし けじめのないおしゃれを戒めたことば。いつ も上等の衣服を着ているので、いざというと きに着る晴れ着がないという意。 類義常常じょう綺羅きらの晴れ着なし。 葉公の竜 うわべはもっともらしく見えるが、実際はそ うではないこと。また、似て非なるもののた とえにもいう。∇葉公=中国、春秋時代の楚 その国の葉うという県の領主。字あざを子高と いった。 出新序しんじょ 故事子高は竜を好むと称し、竜の絵を部屋 に飾っていたが、これを聞いた本物の天の竜 が子高の館を訪れると、竜が好きなはずの子 高が腰をぬかして逃げたという。 じょうこうへつらかこうおご 上交諂わず下交騒らず 出揚子法言 身分によって差別せず、だれに対してもふつ うの態度で接すること。身分の高い人と交 わってもへつらわず、低い人と交わってもお ごりたかぶらないという意から。 類義上交諂わず下交瀆なれず。 出晋書しんじょ じょうこしゃ 城狐社鼠 君主や権力者のかげに隠れて、悪事をはたら く者のたとえ。城や社という安全なところに 巣くって悪さをするキツネやネズミの意か ら。社鼠の患うれい303 補説出典には、王敦おうから「君側の悪人劉 隗りゅうを除こうと思う」と言われた謝鯤しゃが 「隗は誠に禍わざを始む、然れども城狐社鼠な り(劉隗はまことにわざわいの根源である。 しかし、彼は城狐社鼠で、手出しができない) と答えたとある。 類義 櫻蜂 は攻めず、社鼠は薫くんぜず。 社の鼠 ねず。 しょう事なしの米の飯 麦のほうが安くあがるが、麦を買うお金がないので、しかたなく手持ちの米を食べること。貧しいために、かえって不経済な生活をしなければならないことのたとえ。また、ほかに得意なことがないので、一つのことだけを自慢することのたとえにも用いられる。 類義 無のうて絹着る。しょう事なしの麦の 飯。 じょうご 上戸に餅、下戸に酒 げこ さけ 見当ちがいでありがた迷惑なことのたとえ。 ▶上戸∥酒の好きな人。下戸∥酒が飲めない 人。 しようこだおくしょうもんだおく 証拠の出し遅れ証文の出し遅れ323 じようごてよわ 上戸の手弱 酒飲みは、ふだんはまじめで融通がきかない 人でも、酒を飲ませると、とたんに物わかり がよくなったりして、扱いやすいということ。 ▶上戸‖酒の好きな人。 <316> 対義下戸げこの手剛てごわ 上戸は毒を知らず、下戸は じょうご げこ 薬を知らず 酒飲みは酒が毒になることを知らずに飲み、 下戸は酒が薬になることを知らないで飲まず にいる。酒は毒にも薬にもなることをいう。 ▶上戸‖酒の好きな人。下戸‖酒を飲めない 人。 じょうざん 山の舌 出新唐書 過酷な目にあっても屈せず、主君や国家に忠 誠を尽くすたとえ。▶常山=中国の地名。 故事唐の顔杲卿がんこは常山の太守(常山郡の 長官)だったが、安禄山あんろの反乱軍と戦い、 捕らえられた。捕らえられても安禄山をのの しり続けたため、その舌を切り取られたが、 なおもわめき続け、やがて息絶えたという。 常山の蛇勢 先陣と後陣、左翼と右翼が互いに連携して戦い、敵に乗じるすきを与えないような陣法。また、文章の構成が首尾一貫していて前後に破綻はたのないことをいう。常山にいる「卒然そっ」という名の両頭の蛇は首・胴・尾が助け合って、どこにもすきがなかったということから。∇常山Ⅱ中国五岳の一つで河北省曲陽県の北西にある山。 出孫子そんし 正直の頭に神宿る 正直な人には、必ず神の加護があるという意 で、正直が大切だという教え。「神は正直の 頭に宿る」「正直者に神宿る」ともいう。 類義正直は一生の宝。正直は最善の策。 対義正直者が馬鹿を見る。正直は阿呆 異名。 英語 Fortune waits on honest toil and earnest endeavour. [幸運は正直な勤労と 真面目な努力にかしずく] Honesty is the best policy. [正直こそは最良の策] しょうじき もう み 正直の儲けは身につく まじめに骨折ってかせいだお金は、むだに使 わないので身から離れないということ。 対義悪銭身に付かず。 正直は阿呆の異名 正直は大事だが、まったく融通のきかない正 直さは、愚か者と同じだということ。世渡り のへたな正直者への皮肉のことば。 類義正直は馬鹿の本もと○正直も馬鹿のう ち。正直貧乏横着栄耀えよ○結構は阿呆の唐名 から○ 対義正直は一生の宝正直の頭ベうに神宿 る。 しょうじき 正直は一生の宝 正直は、一生大切に守るべき宝であり、また 一生誇れる財産であるということ。 類義正直の頭べうに神宿る。正直は最善の 策。 英语 Plain dealing is a jewel. [正直过街石] 異名。 對義正直者が馬鹿を見る。正直は阿呆あほの 正直貧乏横着栄耀 正直者は、正直さゆえに貧乏をし、押しが強くてずる賢い者が、大いに栄えているということ。世の中の矛盾をいったことば。「栄耀」は「えいよう」とも読む。△横着=わがままでずうずうしいこと。ずるいこと。 類義 正直者が馬鹿を見る。正直は阿呆 異名。 宝。 「対義」正直の頭べうに神宿る。正直は一生の 正直者が馬鹿を見る ずる賢い人はうまく立ち回って得をすることが多いのに対して、正直な人は規則や法律などをよく守るためにかえって不自由な目にあったり、損をしたりすることが多い。世の中には矛盾が多いものだということ。 類義 正直者が損をする。正直貧乏横着栄耀 えよ。 う 対義正直の頭ベうに神宿る。正直は一旦の 依怙えこにあらざれどもついに日月げつの憐れみ を被こう る。 英語Honesty is ill for thriving.正直は繁栄にとっては不都合である 小 事に 拘 わ り て 大事を忘る な 小事にこだわって、本来の目的を忘れてはい <317> けないという戒め。 類義小に因よって大を失う。大事の前の小 事。小を捨てて大に就っく。 対義小事は大事小事を軽んずる勿なかれ。 小忍びざれば則ち大謀を乱 駒など勝負をきそう娯楽用具。 小さなことをがまんできないようでは、大き なことを成しとげることはできないという教 え。▶大謀‖大きなはかりごと。遠大な計 画。 出論語ろんご 類義小を忍ばざれば大事成らず 小事は大事だいじ じょうしゃひっすい ささいな事から大事が起こるので、小事をお ろそかにしてはいけないという戒め。 類義小事を軽んずる勿なかれ。蟻ありの穴から 堤も崩れる。 対義小事に拘かわりて大事を忘るな 英語 A little fire burns up a great deal of corn.小さな火でも大量の穀物を燃やして しまう 盛 者必衰 勝者の用うる所は敗者の棋 同じものであっても、それを使う人の腕によって、うまくいったり失敗したりするということ。将棋や囲碁で、勝者も敗者も同じ棋を用いて勝負し、棋の使い方によって勝敗が決まるということから。▶棋‖碁石や将棋の 出新五代史 この世は無常であり、勢いの盛んな者も必ず 衰え滅びるときがあるということ。「盛者」 は「しょうじゃ」「しょうしゃ」「せいじゃ」 とも読む。 しょうしーしょうじ 補説仏教語。「六度集教 にんのうはん にやきよう などに「盛者必衰、実者必虚(盛ん なものはやがて衰え、満ちているものはやが てからっぽになる)」とある。「平家物語」の 冒頭の「祇園精舎 譽きあり、沙羅双樹 の理 類義 生者必滅。生ある者は死あり。驕 平家は久しからず。有為転変 物盛んなれば則 すな ち衰う。羅紈 い ず麻蒯 まか い 有り。 ろくどじ つきよう 「仁王般若経 しようじゃひつめつ生者必滅 生命のあるものは必ず死ぬものであるという こと。仏教語で、人生の無常をいう。「会者 定離えしゃじ」と対で用いられることが多い。「生 者」は「せいじゃ」とも読む。 あるまいかと考え出した。〈夏目漱石◆吾輩 は猫である〉 類義盛者必衰。生き身は死に身。生ある者 は死あり。逢うは別れの始め。 英語 The first breath is the beginning of death. 産声は死の始まり 用例)万一の事を考えると今の内に有為転変 ういて んやん の理 こと、 わり 生者必滅の道を説き聞かして、 もしもの変が起った時取り乱さないくらいの 覚悟をさせるのも、夫の妻に対する義務では じょうじゅうざが 常住坐臥行住坐臥187 じょうじょうきらはぎ 常綺羅の晴れ着なし↓常着よし の晴れ着なし315 しょうじょうめぐ 出孟子もうし 掌上に運ぐこ 思いどおりに行うこと。手の上で自由自在に あやつる意から。△掌上=手のひらの上。 補説出典には「人に忍びざるの心を以もって、 人に忍びざるの政まつりを行わば思いやりのあ る心でよい政治を行えば、天下を治むるこ と、 これ を掌上に運らすべし」とある。 しょうしょううれ 蕭牆の恵い 書 出韓非子 国内や家庭内のもめごと。内輪もめ。「蕭牆 の患かん」ともいう。マ蕭牆∥垣根。転じて、 内部の意。 しようじょう さ 霄 壌の差 天と地の差。非常に大きな違い。「霄壌の違 い」ともいう。▷霄‖天、空。壌‖地、土。 類義雲泥の差。月と鼈すっ。 ぼん しようじようちおさいつの 猩猩は血を惜しむ、犀は角 を惜しむ どんな者にも、守り通すべき大切なものがあ るというたとえ。∇猩猩=中国古代の伝説上 の動物で猿の一種とされる。その血をとって <318> 染色に用いるといわれた。犀=実在の犀で、 角は漢方薬の解熱剤に使われる。 しようじょうよい きんじゅうはな 猩 猩能く言えども禽獣を離 れず 出礼記らいき 鳥や獣と人間との違いは礼儀を知っているか どうかであり、礼儀を知らない人間は、どん なにうまく話ができても鳥や獣と同じだとい うたとえ。猩猩は人間のことばを上手に話す といっても、結局は獣にすぎないという意か ら。∇猩猩=古代中国の想像上の怪獣で、人 に似て酒を好み、人語を理解するという。禽 獣=鳥や獣。 しょうじかろなか 小事を軽んずる勿れ出関尹子 小さなことでも、おろそかにしてはいけない。 小さなことを侮ると、それがもとになって大 きな失敗をするということ。 小人閑居して不善を為す しょうじんかんきよ ふぜんな 小人物は、人目にたたずひとりでいるときは、 よからぬことをするということ。△小人‖徳 のないつまらない人。閑居‖人目にたたずひ とりでいること。「閑」は、人にかくれてこっ そりの意。 出大学だいがく 補説出典には「小人間居して不善を為せば、 至らざる所なし(とめどがない)」とある。 英語By doing nothing we learn to do ill. 何もしないでいると悪事をはたらくように なる」 The devil tempts all, but the idle man tempts the devil.「悪魔はすべての人 を誘惑するが、ひまな人間は悪魔を誘惑する」 用例ある識者は雇人に休暇を与うることを 全く認めずして曰く、小人閑居して不善を為 すという譬えの如く、休みを与えらるのは 彼ら飢えた狼に肉を見せびらかすと同じこ とである。すべての悪所に突進して、日頃の 鬱うを散ずることであろう。「相馬愛蔵・私 の小売商道〉 小人窮すればここに濫す 出論語ろんご 小人物は、ゆきづまった状態になると、とり 乱して悪いことでも何でもやってしまうとい うこと。「窮すれば濫す」ともいう。△小人 ‖徳のないつまらない人。濫‖とり乱す意。 ⑦故事孔子と弟子たちが陳の国で誤解されて 捕らえられ、食糧の補給もとだえ、弟子たち は飢えと疲れで起き上がることもできなかっ た。弟子の子路が孔子に「君子でも困り果て ることがあるのでしょうか」とつめ寄ると、 孔子は「君子でもむろん窮することはある。 しかし、小人が窮すると、とり乱して何でも したい放題のことをしてしまうものだ」と、 君子と小人のちがいを言ったという。 ⑦類義逃ぐる者道を択えらばず。鼠ねず窮して猫 を噛かみ、人貧しうして盗す。 精進潔斎 しょうじんけっさい 肉食をせず飲食を慎み、行いを慎んで心身を 清浄な状態に置くこと。△精進‖肉食をやめ 菜食をして信仰に励むこと。潔斎‖飲酒や性 行為などを避け身を清浄に保つこと。 小人の過つや必ず文る 出論語ろんご 小人物は過ちをおかすと、行いを改めようと はせず、その場をとりつくろってごまかそう とするということ。△小人‖徳のないつまら ない人。文る‖うわべをかざる。表面上とり つくろってごまかす。 補説孔子の弟子の子夏のことば。孔子のこ とばの「過ちては則 わ ち改むるに憚 はば か ること 勿なかれ」「過ちて改めざる、是これを過ちと謂い う」に対応する。君子は過ちを認めこれを改 める。小人は過ちを認めず、隠そうとすると いうこと。 小人の腹は満ち易し しょうじんはらみやす 出 俚言集覧 小人物は目先の利得のことにとらわれやす く、その腹の中もすぐに利得のことでいっぱ いになってしまう。小人物は少しの利益で簡 単につられてしまうということ。△小人‖徳 のないつまらない人。 <319> 類義小人の腹は肥こえ易し。 小人の交わりは甘きこと禮 の若し 出荘子そうじ 小人物の交わりは甘くとっつきやすいが、長 続きしないということ。甘酒のようにべたべ たとなれ合っているが、利益が失われると、 すぐにとだえてしまう。∇小人∥徳のないつ まらない人。醴∥甘酒。 補説出典には、この前に「君子の交わりは 淡きこと水の若ごとくりっぱな人物同士の交 際は、水のように淡々としているが、いつま でも続いて変わることがない」とある。 しょうじん小人の勇 血気にはやった前後の見さかいのない勇気の こと。△小人‖徳のないつまらない人。 類義匹夫の勇。 出荀子じゅんし しようじんはじあお 小人は始め有りて終わり無し し 出晋書 つまらぬ人間は、事を起こすことはできても、 成果を挙げて事を終結させることはできな い。また、小人物の交わりは、初めは情義が あるがそれが続かないことにもいう。▶小人 ∥徳のないつまらない人。 小心翼翼 気が小さく、びくびくしているさま。本来は、 慎み深くうやうやしいさまをいう。△小心 しょうじーじょうず 出詩経本来は、小心∥ 注意深くする意。また、気が小さいこと。翼 翼Ⅱ慎み深いさま。うやうやしいさま。 類義細心翼翼。 対義 大胆不敵。 用例この頑丈の鉄仮面をかぶり、ふくみ声 で所謂いわ創作の苦心談をはじめたならば、案 外荘重な響きも出て来て、そんなに嘲笑され ずにすむかも知れぬ、などと小心翼翼々、臆病 無類の愚作者は、ひとり淋さびしくうなずいた。 〈太宰治◆鉄面皮〉 小水石を穿つ 出 遺教経 たゆまず努力すれば、どんな困難なことでも やりとげられるというたとえ。少しの水でも 絶えず流れ続ければ、ついには石にも穴をあ ける意から。△小水∥少しばかりの水。 補説出典の「譬たとえば小水の常に流るれば、 則すな ち能よく石を穿つが如ごとし(小さな流れで も、流れ続ければやがては堅い石にも穴をあ けるようになる」から。 出出曜経 しょうすい小水の魚うお わずかな水たまりにすんでいる魚。転じて、 生命が限界づけられていることのたとえ。 補説仏教では、人間は常に死と向かい合い、 いつ死ぬかわからないことを説く。その中 のいろいろな例の一つがこの小水の魚であ り、小さな水たまりの中で泳ぐ魚はいつまで も生きられると思って楽しんでいるが、その 水がすぐになくなることを知らないのであ る。『出曜経』無常品むじよや『法句経きょう』無 常品むじようぼんに見える偈げに基づく。「是この日已すで に過ぐれば命は則 ち随 した いて滅す少水の 魚の如 ごと し 斯 これ に何の楽しみか有らん」とあ る。 しょうすうもっこれつらぬ 出荀子じゅんし 何度も何度もくり返し読むことによって、書 物の内容がしだいに理解できるようになると いうこと。△誦‖読む。 補説出典には、続けて「思索して以て之を 通ず(よく考えることによって、さらに理解 を深めることができる)」とある。 類義読書百遍義自ずから見る。 じょうずうそへたじつい上手な嘘より下手な実意 うわべばかり飾って心がこもらないことよ り、手際が悪く下手でも、真心をこめてした ことのほうが尊いということ。「上手な偽り より下手な誠」ともいう。 類義巧詐は拙誠に如しかず。 じようず こと 上手の小糸 下手の長糸上手の小糸 593 じようずたかつめかくのうたかつめかく 上手の鷹が爪隠す↳能ある鷹は爪を隠 す511 上手の手から水が漏る 名人でも、思わぬ失敗をすることがあるというたとえ。名人、上手といわれる人がたまたま失敗したときにいうことば。「巧者の手から水が漏る」ともいう。 類義 弘法にも筆の誤り。猿も木から落ち る。河童かの川流れ。釈迦しも経の読み違 <320> い。天狗での飛び損ぞこない。 用例先生の危急は危急としてそれに赴く ためにはまずこの駄々ッ子から処分してか からねばならぬ。賢くも米友はこうも感づ いたのですがそこは上手の手からも水が漏 れるので米友が道庵 あん の声に驚いて立ち 上った瞬間の隙を覘ねらって右の駄々ッ子が 素早く陸へ飛び上ったかと見ると通りか かった子供が三人、火のつくように泣き叫び ました〈中里介山◆大菩薩峠〉 じようずねこつめかくのうたかつめ 上手の猫が爪を隠す↳能ある鷹は爪を 隠す511 上手はあれど名人はなし 一技一芸に達することは困難なことのたと え。ある程度上手な人は大勢いるが、格別に すぐれた名人はなかなかいない意から。 補説江戸時代、囲碁・将棋の段位の別称と して、七段を上手、八段を半名人、九段を名 人といった。 じょうず 上手は下手の手本、下手は じょうず 上手の手本 芸の精進のきびしさ、真摯しんさをいう。上手 な者が下手な者の手本になるのは当然だが、 上手な者にとっても下手な者のすることは、 反省や参考となることが多いということ。 じょうずむかしじょうず 上手昔より上手ならず 労と努力を重ねた結果であるということ。努 力の大切さをいったことば。 類義 沙弥 かち長老にはなれぬ。端 かち 和尚 おし よう はない。遠きに行くに必ず邇 ちか きより す。 上手な者も始めから上手なわけではなく、苦 しようせつはかものえいめいな 小節を規る者は栄名を成す あた 能わず 出史記 小さな礼節など、小事にこだわる者は、大き な名声を得るような大事を成しとげることは できない。△小節=こまかな礼節。 類義小節を効いたす者は大威たいを行うこと能 わず。大行は細謹さんを顧みず。 少壮にして努力せずんば老 だいすなわしょうひ 大にして乃ち傷悲せん出文選 若く元気なときに努め励んでおかなければ、 老いてから悔やんで嘆き悲しむことになる。 △少壮=若くて血気盛んな年ごろ。老大=老 人。年寄り。 補説詩の題名は『長歌行』。 類義少年老い易やすく学成り難し。少年に学 ばざれば老後に知らず。 じょうだんこまうそでまこと 冗談から駒驢から出た実86 上知と下愚とは移らず か者は、のちの環境や教育によって変わるものではない。 生まれながらの聡明な人と、生まれつきの愚 類義無患子むくは三年磨いても黒い。 出新唐書しんとうじょ 出論語ろんご 笑中に刀あり 表面はにこにこして温和であるが、心中に悪 意をひそませていること。▷笑中‖顔に笑み をたたえているの意。 補説出典には、唐の李義府 たことばとして「李義府は、顔つきは温和で、 人と話をするときはたいへん嬉しそうなよう すで微笑すら浮かべていた。しかし、内心は 鋭い刀のように陰険で、ねたみ深い人であっ た。自分に迎合ぱしない人に対しては、あり もしない悪口を言って陥れることを考えてい た。当時人々は義府のことを“笑中の刀”と 呼んでいた」とある。 類義笑いの内に刀を礪とぐ。笑みの中の刀。 笑裏刀を磨く。口に蜜あり腹に剣あり。真綿 まわ た に針を包む。 しようちゅう たま掌 中の珠 出傅玄ー詩ふげんし もっとも大切にしているもの。また、最愛の 子や妻のたとえ。いつも手のひらの中にもっ ている珠の意から。特に父母にかわいがられ る娘のたとえとして用いられることが多い。 補説詩の題名は『短歌行』。これに「昔、君、 我を視みること掌中の珠の如し、何の意か一 朝にして我を溝渠 きょに棄すつるや昔は自分を 子供のように考えてくれたのに、今となって、 珠をみぞに捨てるように、どうして見放すの か」とある。 <321> 類義手中の珠。 私たちがどうしてあの優しき、善き父 に不平を抱くことが出来よう。父が私たちを 労苦に鍛えることの出来なかったのはそのあ ふるる溺愛 あい のためであった。世間の塵ちりに しませなかったのはみすみす掌中の玉が汚す に忍びなかったからだ。倉田百三◆光り合 ういのち 出呂氏春秋 小忠は大忠の賊 主君に対して、目先のことだけを考えてつま らぬ忠義立てをすることは、結果的には不忠 になるということ。「小忠を行うは則 ち大 忠の賊なり」ともいう。 故事)中国、春秋戦国時代に楚そと晋しが戦ったとき、楚の子反がのどが渇き水を求めたところ、召使は酒好きの子反に気をきかせて水のかわりに酒を差し出した。子反は酔っぱらってしまい、王の命令にそむいて戦おうとしなかったため、王は頼みとする将軍がこの有様ではこれ以上戦えないと思い、子反を斬って兵を引いた。召使の目先のことにこだわった忠義立てが、かえって大不忠となってしまったのである。 小恥を悪む者は大功を立つ る能わず 出史記 小さな恥をかくことをも恐れるような人は、 大きな功名をあげることができないというこ と。△小恥‖ちょっとした恥。「小恥を悪む 者は栄名を立つる能わず」ともいう。 しょうちーじょうの 補説出典にある「小節を規はかる者は栄名を 成す能わず(小さな礼節にこだわっている者 は、大きな名声を得るような大事を成しとげ ることはできない)に続く一連のことば。 小敵と見て侮る勿れ 出春秋左氏伝 小人数の敵だからといって見くびってはいけない。相手を見下すと心に油断が生じ、大きな被害をこうむることになるという戒め。 補説出典の「国は小と無く易 あな るべからず。 備えなくんば衆おおしと雖いえも恃たのむべからず (たとえ小国でも侮ってはいけない。また、 防備を怠ればたとえ多勢であってもたのみに はならない)から出たことば。 類義 小敵欺くべからず。大敵と見て恐れ ず、小敵と見て侮らず。 しようねんお やす がくな がた 少年老い易く学成り難し 出朱熹ー詩し 若いときは、先が長いと思っているが、月日 の過ぎ去るのは早くてすぐに年をとってしま う。しかし学問はなかなか成就しないもので ある。だから、若いうちから寸暇を惜しんで 学問に励まなければいけないということ。 補説詩の題名は『偶成ぐう』。少年老い易く 学成り難し、一寸の光陰軽かろんずべからず、 未だ覚めず池塘ちと春草の夢、階前の梧葉 すでに秋声(わずかな時間もむだに過ごしては ならない。池の土手の若草が夢心地から覚め きらないうちに、早くも夏は過ぎ、庭先の青 桐 あお ぎり にはもう秋風が吹いている」とある。 宋の朱熹の作とされてきたが、実は日本の五 山の僧の作といわれる。 類義少壮にして努力せずんば老大にして乃 すな わ ち傷悲せん。少年に学ばざれば老後に知ら ず。 英語 Art is long, life is short. [芸術は長く、 人生は短し] The day is short, and work is much. [一日は短く仕事は多い] しょうねんまなろうご 少年に学ばざれば老後に知 らず 若いうちにきちんと勉強しておかないと、年 をとってから物を知らないために苦労するこ とが多いという戒め。 類義少年老い易やすく学成り難し。少壮にし て努力せずんば老大にして乃 ち傷悲せん。 つようなし いぞ 少年よ大志を抱け 若者は将来に対する雄大な抱負を持って飛躍 せよという励ましのことば。 補説札幌農学校の教頭であったアメリカ人 クラークが、学校を去るときに学生に残した ことば。Boys, be ambitious. 上の上は下の下を知る、下 の下は上の上を知らず 非常にすぐれた者は全体のことを知り尽く し、末端のことまでわかる。それに対して、 <322> しょうのーしょうぼ 最下位の者には、最上位の者を知る能力がな いということ。 小の虫を殺して大の虫を助け る しようあつ 賞は厚くし罰は薄くすべし 小さなものを犠牲にして、大きなものを生か す。一部分を犠牲にして全体を生かすことの たとえ。「小の虫を殺して大の虫を生かす」 「大の虫を生かして小の虫を殺す」ともいう。 類義小を捨てて大に就く。一殺多生 大事の前の小事。 出説苑ぜいえん 善行や功労は小さくても大いにほめてほうび を与え、罰はできるだけ軽くせよということ。 補説出典の「明君の制は、賞は重きに従い、 罰は軽きに従う(賢明な君主は、賞するとき は大いに重くし、罰するときはできるだけ軽 くするのである)から。政治において人民 を導く方法を説いたことば。 類義刑は軽きを厭いとわず。罪の重きをば軽くし、功の浅きをば重くせよ。刑の疑わしきは軽くせよ、功の疑わしきは重くせよ。 渡りはさまざま。 商売は草の種 商売の種類は、草の種類の種類ほどたくさんあ り、尽きることがないということ。「商いは 草の種」ともいう。 類義生業は草の種。商う物は草の種。世 しょうばいみち 商売は道によりて賢し 専門家は、自分の専門の分野には通じている ものだということ。商売人は、自分の商売に 関することはよく知っている意から。 類義芸は道によって賢し。性は道によって 賢し。弱くても相撲取り。餅は餅屋。 松柏摧かれて薪と為る て田と為り、松柏摧かれて薪と為 たきぎな こぼす 古墓犂かれ たきぎな る257 じょうば情張りは棒の下 素直なほうが得であるということ。強情を張 ると、最後は棒で打たれるという意から。 しようひ焦眉の急 出五灯会元 さし迫っている危険や急務。情勢が切迫していること。眉毛げを焦こがすほど火が近づいているという意から。 補説禅問答から出たことば。出典には、僧 が蔣山 しよう ざん の仏慧 ぶつ え に「どんな事態が切迫な のか」と問うたのに対し、仏慧が「火、眉毛 びも う を焼く(火が眉を焼くときだ)と答えたと ある。 類義 焼眉 しょ うび の急。眉に火がつく。尻に火が つく。 轍鮒 てっ ぷ の急。 用例マチスやユトリロの名画は、日ごろは 特定の個人に秘蔵されていて、盗まれ横領に あった騒ぎではじめてわれわれ人民の耳目に ふれて来る。旧所有者たる貴族、華族の経済 的崩壊にともなって「国宝」の人民的保管の 必要は焦眉の急である。〈宮本百合子◆国宝〉 勝負は運・不運によって左右されるもので、 実力どおりとは限らない。勝っておごること も、負けて落胆することもないということ。 敗者への慰めのことばとして用いられる。勝 者にとっては自戒のことばになる。「勝敗は 時の運」「勝つも負けるも時の運」ともいう。 類義勝負は兵家の常。 英語 The chance of war is uncertain. 戦 いに勝利する見込みは不確かなもの じょうふ もう 城府を設けず 出宋史そうし 人に分けへだてなく打ちとけて接することの たとえ。▷城府‖城壁と役所の蔵。他者を踏 み込ませないことをいう。 類義城郭を設けず。 小弁は義を害す 出孔子家語 小ざかしい分別はかえって道理を損なうということ。△小弁∥つまらぬ分別。 補説出典には小弁は義を害し、小言は道 を破る(些細さなことをあれこれ言うような、 つまらぬことばは道理をこわすものだ)と ある。 正法に不思議なし 正しい宗教には、不思議なことはなにもない。 不思議な利益ぐりやがあるとすれば、むしろ邪教 であるということ。「正法に奇特 きど くなし」と <323> もいう。△正法=正しい教え、すなわち仏法。 しょうほくつし 章甫履に薦く 出賈誼一弔二屈原一文 上下・善悪が逆になり、区別のないこと。ま た、有能な人物をつまらない仕事に使うこと。 頭にかぶるものを靴にしてはく意から。▷章 甫‖殷いん代の冠の名。履‖靴のこと。 しょうほし 補説出典には、この前に「驥きは両耳を垂 れて、塩車に服がう(一日に千里も駆けると いう駿馬が両耳を垂らして塩を積んだ車を 引いている)とある。前漢ぜんの文人賈誼が、 屈原くつ(戦国時代の楚その詩人)のような心の 清い人物が虐待される世を、本末顛倒 てんとうの世 だと嘆いたことば。 章甫を資して越に適く 道理や目的にはずれた行為や見当違いなこと をするためとえ。また、ある所では必要なもの でも、所によっては不必要とされるたとえ。 場違いなことのたとえ。程度の低い者には高 尚なことは理解できないことのたとえにもい う。章甫の冠を売ろうとして、冠などかぶら ない越の国へ行く意から。∇章甫∥殷いん代の 冠の名。資す∥売る。 出荘子そうじ 補説出典には「宋人 ひと 章甫を資として諸越 つ おえ に適く。越人 ひと は断髪 だん ぱつ 文身 ぶん しん にして之を 用うる所なし(越の人はみな頭髪を短くして おり、身体には入れ墨をし、原始的な風俗で あって冠などまったく必要なかった」とあ る。 しょうほーしょうを しょうもんかならしょう 将門に必ず将あり、相門に かならしょう 必ず相あり 出史記 立派な家柄からは、ふさわしい名士が出るということ。将軍の家からは必ず将来将軍となる人が出るし、大臣の家からは必ず将来大臣となるべき人物が出る意から。マ将ニ将軍。門ニ家柄。相ニ宰相。大臣。 証文の出し遅れ 手遅れで効力がないことのたとえ。出す時機 を失した証文は役に立たない意から。「支証 の出し遅れ」「証拠の出し遅れ」ともいう。 類義六日の菖蒲あや十日の菊。 小利大損 わずかな利益のためにあくせくして、大きな 損をしてしまうこと。また、わずかな利益に こだわって、より大きな利益を逃すこと。 類義小利大害。 小利は大利の残い 少しばかりの利益は、大きな利益を得る妨げ になるということ。目先の小さな利益に目が くらんではならないという戒め。 しょうりょうしんりんすいっし 鶴鶴深林に巣くうも一枝に す 過ぎず そうじ 出荘子 人はその身分・力量に応じ、境遇に満足する のがよいというたとえ。みそさざいは、深い 林の中で巣をつくるが、必要なのは一枝だけ であるという意から。△鶴鶴=みそさざい。 類義巣林一枝。偃鼠河に飲むも満腹に過 ぎず。食前方丈一飽ぼうに過ぎず。千畳敷に寝 ても一畳。千石万石も米五合。 出列子れっし 人生の損得は、夢のようにはかないものだと いうこと。また、あきらめのよいたとえにも いう。∇蕉∥芭蕉ばし。一説に薪たきの意。 故事昔、鄭の国の人が鹿を捕らえて堀に 隠し芭蕉の葉で覆った。そのうち隠した場所 を忘れてしまい、あれは夢だったとしてあき らめたという故事から。 類義 胡蝶 こち よう の夢。 荘周の夢。 世に処 お は 大夢 たい む の若 ごと し。 しぶこ い ま うま い ひと い 将を射んとせば先ず馬を射よ 人を射 ま うま い んとせば先ず馬を射よ 560 鐘を聞いて日と為す 出 蘇軾ー日喩 人から教えられたことを、はき違えておぼえることのたとえ。目の見えない人が、太陽は金だらいのようなものだと聞かされ、それを叩いて音をおぼえ、後日、鐘の音を聞いたとき、太陽だと思ったという話から。 小を捨てて大に就く 大切でないものは捨てて、重要なものを取る <324> しょうをーしょくな 面に力をそそぐこと。 こと。小さな利害にこだわらず、より重要な 類義小の虫を殺して大の虫を助ける。小を 専もっ らとして大を失うこと莫なかれ。小事に拘 かか わりて大事を忘るな。大事の前の小事。 用例ひよっとしたら、道誉は、こんどの 警衛の途中で、討死の厄にあうかもしれぬ。 よし万死に一生をえても、彼の一大厄難はま ぬがれ得まい。「惜しい!あれ程な男を、む ざと見殺しにするのは」と、俄にわに彼は、目 さきの小を捨てて、未来の大をつかみにか かっていたものだった。〈吉川英治◆私本太 平記〉 しょうもっこくはか 升を以て石を量る 升を以て石を量る 出淮南子 小人には賢者の胸中を推しはかれないことの たとえ。小さなものを基準として大きなもの をはかれば誤差が生じるということ。一升ま すで、その百倍もの一石の量をはかることか ら。△升∥一升ます。漢時代の一升は約○・ 二リットル。石∥一石は一升の百倍。 類義小人の心を以て君子を量る。小人の腹 類義小人の心を以て君子を量る小人の腹 を以て君子の心を為なす。 しょきゅう まじ 杵臼の交わり 貧富や貴賤を問題にしない交友。主従の関係 を越えた交友のこと。「杵臼の交」ともい う。△杵臼=きねとうす。もみ米をつくのに 用いる。 出後漢書こかんじょ 吳祐は公沙穆と話してその学識にすっかり感 服し、主従を越えた交際を結んだという。 故事中国後漢の公沙穆は学資がなく、 金持ちの呉祐の家にやとわれ、米つきの仕 事をしながら勉学にはげんでいた。あるとき 出涅槃経 諸行無常 この世のいっさいのものは常に変化し、恒 常・不滅なものは何ひとつないということ。 人生のはかなさをいうことば。 補説 仏法の大綱 である 三法印 さんぼ ういん の 一つ。一般的には、世の移り変わりの激しさ や人の死を嘆く場合に使われる。↓盛者必衰 じようしゃ ひっすい 317 注意「無常」を「無情」と書くのは誤り。 類義朝あしに紅顔ありて夕ぺに白骨となる。 万物流転飛花落葉明日ありと思う心の仇 桜あだざ。世の中は三日見ぬ間の桜かな。 英語Paul's will not always stand.「セン トポール寺院も永遠に存在するわけではな い 用例けれど有難くないの何のと贅沢 ぜい たく を いって見たところで、諸行無常老少不定 ろうしょう ふじよう というので鬼が火の車引いて迎えに来 りや今夜にも是非とも死ななければならない ヨ。〈正岡子規◆墓〉 出尸子し しょくぎゅうき 大人物は幼少のときから志気盛んで、常人と は違ったところがあることのたとえ。虎や豹 の子が、幼いうちから自分より大きい牛を 食うほどの気性をもっていることから。「牛 を食らうの気」「吞牛の気」ともいう。 類義蛇は寸にして人を吞のむ。栴檀 は 双葉より芳ばかんし。 食牛の気 しよくご いっすいまんびようえん 食後の一睡万病円 食後のひと眠りは、健康のためにとてもよい ということ。「食後の一睡万病丸」ともいう。 ▶万病円‖江戸時代にあった、万病に効果が あるという丸薬。 類義親が死んでも食じき休み。 しょくしうご 食指が動く 出春秋左氏伝 食欲が起こること。転じて、物を欲しいと思 い始めたり、何かをやる気になったりするこ と。マ食指人さし指。 故事)中国春秋時代、鄭ていの霊公に面会しようとしていた子公と子家が宮殿に入ろうとすると、子公の人さし指がぴくぴくと動き出した。子公はそれを子家に見せて「こういうときは珍しいごちそうにありつける」と言った。果たして、宮殿では楚ぞから献上された大すっぽんの料理にかかっていたという。 食前方丈一飽に過ぎず 欲もほどほどにしたほうがよいというたと え。ごちそうを一丈四方いっぱいに並べて も、その一部分で満腹してしまい、それ以上 は食べられないことから。▷方丈=一丈四方 のこと。一丈は約三メートル。 類義偃鼠 元ん 河に飲むも満腹に過ぎず。鵜鶉 しよう りよう 深林に巣くうも一枝に過ぎず。 しょくものしょくえら 食なき者は職を選ばず 三度の食事にも困っている者は、職業の善し 悪しを言っている余裕はなく、どんな職業に <325> もつくものだということ。 職人貧乏人宝 職人は仕事が上手で重宝がられるが、世渡り が下手だったり、金もうけを考えないことが 多いので、貧乏しがちであるということ。 類義細工貧乏人宝。器用貧乏人宝。 燭を乗りて夜遊ぶ 出文選もんぜん 夜まで楽しく遊ぶこと。人生は短いのだか ら、夜も明かりをつけて楽しめということ。 ▶燭‖灯火。明かり。秉る‖手に持つ意。 補説詩の題は「古詩十九首」。出典には「生 年百に満たざるに、常に千歳 せん ざい の憂いを懐いだ く。昼は短きに夜の長きに苦しむ、何ぞ燭を 乗りて遊ばざる(人の命は百年にも達しない ものなのに、人々はいつも千年先のことまで 考えて悩みをいだく。昼が短いわりに夜の長 いのに苦しむなら、なぜ灯火を手にして夜も 遊ばないのか)とある。 女子と小人は養い難し 女子と小人は扱いが難しいということ。 人Ⅱ道理に通じないつまらない人。 補説出典には「唯た女子と小人とは養い難 しと為なす。之これを近づくれば則 ち不孫 (不遜)之を遠ざくれば則ち怨うむ近づ けて親しくすれば無遠慮になるし、遠ざけて 冷たくすれば恨むからである」とある。 初心忘るべからず 何事も最初の謙虚な気持ちや真剣な決意を忘 れてはならないということ。習い始めたころ の芸の未熟さや、最初の経験を忘れてはなら ないという戒め。 しょくにーしょをこ 補説世阿弥 ぜあ み が能楽の修業について言った ことば。 類義 初心改めず。 出孟子もうし 力を添えて成長・発展を助けること。また、 ある傾向をさらにいちじるしくさせること。 本来は、不要な助力をして、かえって害を与 えてしまうこと。 故事昔、宋の国の百姓が、苗の成長がお くれているのを心配して、一本一本引っぱっ てやった。疲れ切って家に帰り「今日は疲れ た、苗をみんな引きのばしてやったものだか ら」と言った。息子が急いで田んぼへかけつ けて見ると、苗はすっかり枯れていた。 しょっけんひ 蜀犬日に吠ゆ出岑参招北客文 見識のない小人物が無用の疑いをいだいて非 難することのたとえ。蜀の地方は高い山に囲 まれ、雲や霧が濃いために日のさす時間が少 なく、犬はたまに太陽が見えると怪しんで吠 えるという意から。「蜀犬」は「しょくけん」 とも読む。∇蜀∥中国四川 しせん 省の別称。 類義小村 の犬は人を噛かむ。 しょげんつげんい 書は言を尽くさず、言は意を 尽くさず えききよう 出易経 文字では言いたいことは書き尽くせないし、 ことばでは心に思っていることは言い尽くせない。 しょみたびうつ ぎよ ろ ろぎよあやま 書三度写せば魚も魯となる ↓魯魚の誤 り 696 出詩経しきよう しより 黍離の嘆 たん 亡国の嘆き。旧都や故郷の荒れはてたようす を見て嘆くこと。「黍離」は『詩経』の詩篇 んの名で、東周の太夫たいが作った詩とされる。 西周が滅びて都を東の洛陽らくに移した後、旧 臣がかつての都を通ったとき、城跡は耕され て黍畑になっていたのを見て嘆いたという ことから。∇黍離きびが実って穂が垂れ下 がっているさま。 類義麦秀ぼくしゅうの嘆。 書を校するは塵を払うが如し 出夢渓筆談 校正の難しさをたとえたことば。書物の校正・校閲の仕事は、塵が払い尽くせないのと同じで、何度やってもなお誤りがあって、完全なものにするのは難しいということ。▶校∥くらべて調べる意。校正、校閲。 補説出典には、中国、北宋 ほく そう の宋宣献 そうせ んけん という、博学で書物を多く蔵し、これらを自 ら好んで校正した学者のことばとして引かれ ている。「書を校するは塵を掃 はら うが如し。 一面掃えば一面生ず。故ゆえに一書有れば、毎 つね に三四校するも、猶なお脱縁だつび ゆう 有り(書物の 校正は塵を払うようなもので、一面の塵を <326> しょをもーしらぬが 払ってもまたすぐ別の一面に塵が生じるよう に際限がない。だから一つの書物に三、四回 校正を行ってもなお脱字や誤字がある」と ある。 しょもつぎよなものうまじよう 書を以て御を為す者は馬の情 を尽くさず 出戦国策 机上の理論だけでは、実際の役に立たないと いうこと。書物から得た知識だけで馬に乗る 者は、馬の気持ちまで十分に理解できない意 から。▽御する∥馬をあやつる意。 補説出典はこのあとに「古いを以て今を制 する者は、事の変に達せず昔の方法で今の 世を治めようとする者は、事の変化を十分理 解できない」と続く。 英語 Experience without learning is better than learning without experience. 「学識を伴わない経験は、経験を伴わない学識にまれる」 しらかわよふね 白河夜船 よく眠っていて何も気づかないこと。また、 知ったかぶりをすること。「白川夜舟」とも 書く。∇白河∥京都の地名。 故事京見物をしてきたとうそをついた者 が、白河のことを聞かれて、川の名だと思い、 夜、船で通ったから眠っていて知らないと答 え、うそがばれてしまったという故事から。 用例大工上がりの万朝 まんち よう はおよそしまら ない男で、朝は師匠の円朝 えんち よう より遅く起き た。夜は円朝が席からかえってくるともう枕 を外してグーグー高いびきの白河夜船だっ た。〈正岡容◆小説 円朝〉 しら精げの中の粉もみ よりすぐった中に悪いものが混じっているこ とのたとえ。精白した米の中に混じったもみ ごめの意から。マ精げニ精白した米。粉ニ脱 穀する前の外皮に包まれたままの米。 類義 餅の中の籾。粟ぞくの秕ひ有るが若ごとし。 対義砂の中の黄金。 し 知らざるを知らずと為せ、 知るなり 出 出論語ろんご 是これ 知っていることと知らないことをはっきりさせることが、本当の知である。知っていることと知らないこと・知ることができないことの区別があいまいで、思わぬ過ちを犯すのを戒めた語。 補説孔子が愛弟子 まな でしの子路に言ったこと ば。「子路よ、おまえに知るとは何か教えて やろう。自分の知っていることは知っている と他人に言ってもかまわない。自分の知らな いことは、他人に知らないと答えなければな らない。これがほんとうの知るということな のだ」と出典にある。 知らしむべからず、由らしむべし らしむべし、知らしむべからず ひとと 知らずば人に問え 知らないことがあったら、人にたずねて教え てもらうのがよいということ。「知らぬ事は 人に問え」ともいう。 類義 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。 知らぬことは人にならえ。 し知らずば人真似ひとまね やり方を知らないときは、人がすることをま ねるのが無難であるということ。 し知らぬ顔の半兵衛 知っているのに、とぼけて知らないふりをす ること。また、そうする人。 類義半兵衛をきめる。知らぬかんぴよう猫 の糞くそ。 し知らぬが秘密ひみつ ほんとうのことを知らないでいるほうが、秘 密めいておもしろみがある。なまじ知るよ り、知らないでいるほうがよいということ。 し知らぬが仏ほとけ 真実を知れば、心配したり、悲しんだり、腹を立てたりして穏やかではいられないが、知らずにいれば仏のような平静な心でいられるということ。また、当人だけが知らないで平気でいることをあざけったり冷やかしたりするときにもいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義聞かぬが仏。見ぬが仏。知らぬが仏、 見ぬが秘事ひじ。無いが極楽知らぬが仏。聞け ば聞き腹。知らぬは仏、見ぬが神。知らぬは 仏、見ぬが極楽。見ぬが仏、聞かぬが花。見 ぬが極楽。見ぬ物清し。 <327> 英語 He that knows nothing doubts nothing.何も知らない者は何も疑わない 用例そんな陰謀があるとは、知らぬが仏の 奈良の都へ、一足飛びに飛んだ佐助は、その 夜は大仏殿の大毘盧遮那仏 だいびるし やなぶつ の掌 ひら の上 で夜を明かした。〈織田作之助◆猿飛佐助〉 し 知らぬが仏、見ぬが秘事 ほとけみひじ 真実は知らないでいるほうが、心がおだやか でいられるし、隠し事や秘伝というものも、 知ってしまえば案外つまらなくてがっかりす るので、見ないでおくほうがよいということ。 類義知らぬが秘密。見ぬが仏、聞かぬが花。 知らぬが仏。知らぬは仏、見ぬが神。 知らぬ神より馴染みの鬼 知らぬ仏よ り馴染みの鬼 327 ぬ米商売より知った小糠商い。 し 知らぬ京物語 見たこともないことを、さも見たかのように、 ほらをふくこと。行ったこともない都の話 を、いかにも見てきたように話す意から。 類義見ぬ京物語。似ぬ京物語。箱根知らず の江戸話。上り知らずの下り土産。 し 知らぬ呉服商売より知った こぬかあきな く食司 慣れない大口の商売に手を出すより、利益は 少なくても、慣れた小口の商売をするほうが 安全で確実だということ。 類義慣れぬ米商いより慣れた糠商い。知ら しらぬがーしらんの し 知らぬ他国にも鬼はない わたせけん 渡る世間に 鬼はない702 知らぬは亭主ばかりなり 当事者だけが知らないことをあざけってい う。女房が浮気していることを近所の者はみ んな知っていてうわさをしているが、当の亭 主だけは気づかずにいるという意から。 補説川柳集『柳多留 やなぎ だる の「店中 たなじ ゅう で知 らぬは亭主一人なり」の句を改作した「町内 で知らぬは亭主ばかりなり」の一部。 英語The goodman is the last who knows what's amiss at home.「亭主には家 庭内の不始末がなかなかわからない」 し 知らぬ仏より馴染みの鬼 出諺苑げんえん よい人でも疎遠な人よりは、欠点はあっても 懇意な身近な人のほうがよいということ。 「知らぬ神より馴染みの鬼」ともいう。 みちぜにおし 知らぬ道も銭が教える 金さえ出せば知らないことでも教えてもらえ るということ。 白羽の矢が立つ 多くの中から特に選び出されること。よい場合にも悪い場合にも用いられる。 補説もとは、多くの中から犠牲者として選 び出される意。人身御供ひとみを求める神が、 その望む少女の家の屋根に、しるしの白羽の 矢を立てるという俗説から出たことば。 用例妹は姉さんよりも遥はるかに美しかった ので校長が大へん力を入れて、お聟むさんを 捜し、遂っいに某青年に白羽の矢が立って、い よいよ見あいする迄までに事が進んだのだ。 〈小酒井不木◆段梯子の恐怖〉 虱の皮を槍で剥ぐ 小さなことを処理するのに、大げさな方法を とること。また、理屈に合わないことのたと えにも用いる。「虱の皮を鉈」で剥ぐ」とも いう。 類義 鶏を割くに焉 いず んぞ牛刀を用いん。 蝨は頭に処りて黒し 出嵇康ー養生論 人も環境や周囲の感化によって変わるという たとえ。白いしらみも頭髪の中にいれば黒く なる意から。 類義 朱に交われば赤くなる。麻につるる蓬 よもo ぎ しちんしついこと 芝蘭の室に入る如し 出孔子家語 芝蘭のような香り高い草がある部屋に長くい ると、いつの間にか芳香が身にしみつくよう に、徳の高い人と長くつき合っていると、知 らないうちによい影響を受けて感化されると いうこと。また、善人のたとえ。▷芝蘭‖霊 <328> しりうまーしること 芝 れい と蘭(ふじばかま)。ともによい香りを放 つ草。転じて、すぐれた人や物のたとえ。 補説出典には「善人と居るは、芝蘭の室 に入るが如し。(中略)不善の人と居るは、鮑 魚 ほう の肆しに入るが如し(つまらない人といる のは、塩漬けの魚を売る店の悪臭の中にいる ようなものだ)とある。 類義 芝蘭の化か。 しりうまの 尻馬に乗る 他人の言動に同調して、軽はずみなことをしたり、調子にのって人のまねをすることのたとえ。他人が乗っている馬の尻に乗るという意から。「尻馬に付く」ともいう。△尻馬‖人が乗っている馬の後部。 用例近ごろはやるベルグソンでもオイケン でも、みんな向こうの人がとやかく言うので、 日本人もその尻馬に乗ってさわぐのです。 〈夏目漱石◆私の個人主義〉 尻から抜ける 見聞きしたことをすぐに忘れてしまうこと。 頭から入ったことが、そのまま尻から抜ける ように、習うそばから忘れる意から。「尻抜 け」ともいう。 類義ざる耳。かご耳。 尻が割れる 用例「悔みあ後だ。え、こう、御新さん、 久松留守の尻が割れたぜ。おっ、なんとか言 いねえな」〈林不忘◆釘抜藤吉捕物覚書〉 隠していた悪事などが明るみに出る。△割れ る=ここでは明るみに出る意。 類義 尻尾を出す。底が割れる。馬脚を露 す。化けの皮が剥がれる。 物事が中途で切れて、完結しないこと。また、 何をやっても長続きしない人に対する皮肉の ことば。 しりき 尻切れ蜻蛉 とんぼ 類義尻切れ鳶とん。 しりげ ぬ 尻毛を抜く 人を油断させて、ひどい仕打ちをすること。 また、人をばかにしてだますことのたとえ。 「尻の毛を抜く」ともいう。 類義鼻毛を抜く。 じりつ さんじゅう 而立 ↓ 三十にして立つ 277 知りて知らざれ よく知っていても、むやみに知ったふりをし ないほうが奥ゆかしい。知っていることをひ けらかすのはよくないということ。 出老子ろうし 類義眉に火がつく。 補説出典には「知りて知らずとするは上 なり(知っていても十分には知っていないと 自ら考えることが最上である)。知らずして 知れりとするは病ぐなり(知らないのに知っ たかぶりをするのは憂うべき欠点である)」 とある。 尻に帆かける 戻に火がつく 事態が差し迫り、落ち着いていられない状態 のこと。 あわてて逃げ出すようすのたとえ。追い風に 帆をかけたように、一目散に退散することか ら。 支離滅裂 ばらばらでまとまりがなく、筋道が立っていないこと。▷支離‖分かれ離れること。ばらばらになること。滅裂‖離ればなれ。 用例自分の生活が支離滅裂だと批難 ひな ん をさ れる時でも、大望を円心にして輪を描いて見 ると、自分の生活は何時いっでもその輪の外に 出ている事はなかった。そう云いう事に気が つくと急に勇ましくなって、喜んで彼かれは 孤独を迎えた。〈有島武郎◆幻想〉 しり尻も結ばぬ糸 することが次々に失敗して、きりのないこと。 また、すぐにばれてしまうようなでたらめ。 端を結ばない縫い糸は、縫うそばからほころ びていって、きりがないところから。 類義 銭差しの尻結ばず。尻のほどけた銭差し。 し 知ることの艱きに非ず、行う これかた こと惟艱し 出書経 頭の中で理解するだけなら、それほど難しい ことではないが、それを実行するのは容易な ことではないということ。 <329> 類義言うは易く行うは難し。知って行わざ れば知らぬも同然。 しひとなわなわ知る人に縄を掛ける したくないことをしなければならなくて気の 進まないこと、心苦しいことのたとえ。「知 る人に縄打ったよう」ともいう。 類義伯母様に縄をかけたよう。 し 知る者は言わず言う者は知ら ず 出老子 物事をよく知っている人は、軽々しくしゃべ らない。よくしゃべる人は、ほんとうはよく 物事を知らないものであるということ。 類義言う者は知らず、知る者は黙す。 しる すす汁を啜って同罪 分け前の多少にかかわらず、共犯の罪は同罪 というたとえ。「汁を吸うても同罪」ともい う。中身の肉は食べなくても、汁をすすった だけでその料理を口にしたのと同じである意 から。 じろう たろう 次郎にも太郎にも足りぬ どっちつかずで、中途半端なこと。あてはま るところがないこと。 類義 帯に短し襷 たす に長し。 褌 ふん どし には短し手 拭 てぬ ぐ いには長し。 しろ いと そ かな 白き糸の染まんことを悲しむ 同じ人間として生まれながら、その境遇や行 いによってよくも悪くもなることを嘆くたと え。白い練り糸が、染料によってどのような 色にも染まることを悲しむ意から。 しるひとーしんえん 類義墨子 し 米に泣く。楊子 し 岐きに泣く。 しろもの はなかざ うもの はなかざ 代物には花を飾れ 売り物には花を飾 れ95 しわぼうはいふたきたなかね 吝ん坊と灰吹きは溜まるほど汚い金 持ちと灰吹きは溜まるほど汚い151 しわ ぼう かき 客ん坊の柿の種 たね 極端なけちん坊をのしったことば。けちな 人は、役に立たない柿の種さえ捨てない意か ら。「吝ん坊の柿の実さね」けちん坊の柿の種」 ともいう。いろはがるた(京都)の一。▷吝ん 坊∥けちん坊。 出春秋公羊伝 官職をやめること。退官。「致仕」ともいう。 ▶仕‖役所につとめる。つかえる。致‖もと に返す意。 仕を致す 死を鴻毛の軽きに比す命は鴻毛より 軽し71 詩を作るより田を作れ 実生活に直接関係のないことより、実利的な ことに精を出せというたとえ。「詩を作るよ り田を作れ、某がしよりも金貸かねし(自分のこ とを何某などと誇る貧乏な者より、金貸しと 軽蔑ぺれされても裕福な者のほうがよい」と もいう。 複複 対義人はパンのみにて生くるものに非あらず。 用例詩を作るより田を作れという。詩人に して産を成したものは古今を傾けて幾人もな い。ことに文明の民は詩人の歌よりも詩人の おこないを愛する。〈夏日漱石◆虞美人草〉 しんえんのぞ はくひようふごと 深淵に臨んで薄氷を履むが如 し しきよう 出詩経 危険な状態で、慎重に事に臨むことのたとえ。 うすい氷の上に乗って、深い淵をのぞいて見 るようだということから。 補説出典は政治を批判したもので「敢あえて 暴虎 ぼう せず、敢て馮河 ひよ うが せず。人其その一を 知りて其の他を知る莫なし。戦戦兢兢 せんせんき ようきよう として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如し (虎を手打ちにしたり、黄河を徒歩で渡るよ うな無謀なことはしない。人はこのような生 命の危険は知っているが、政治の危険は知ら ない。深い淵をのぞき、薄い氷を踏むような 不安がある)とある。 類義 深淵に臨むが如し。薄氷を踏む。深き に臨み薄きを履む。 <330> 人間到る処青山有り どこで死んでも骨を埋める場所は必ずあるか ら、大望を成し遂げるためには、故郷を出て 大いに活躍するべきだということ。「人間」 は「にんげん」とも読む。▷人間‖人の住む 世界、世の中の意。青山‖墳墓の地。 補説江戸末期の詩僧釈月性の作とされ る詩「将まに東遊ゆうせんとして壁へきに題す」 の一節。詩の全文は「男児志を立てて郷関(故 郷)を出いず、学若もし成る無くんば死すとも 還かえらず(学業がもし成就しなかったら死ん でも戻らないつもりだ)、骨を埋むる豈あに惟 たに墳墓の地のみならんや(わが骨を埋める 地が先祖の墓のある地だと決める必要がある だろうか)、人間到る処青山有り」とある。 二句目について「学若し成る無くんば復また 違らず」三句目について「骨を埋むる何ぞ期 せん墳墓の地」とするテキストもある。なお、 この詩の作者は村松文三であり、月性が酔っ た際に文三の詩を壁に記したのが、誤って月 性の作として伝えられたという説もある。 きをするに及ばない」から。 真金は鍍せず 真に才能のある人は、肩書きなどで飾りたて たりする必要はないということ。純粋の金 は、めっきする必要がないという意から。マ 鍍す=めっきする。 補説詩の題名は『章孝標 金は方まさに真金を用もって鍍す、若し 真金なれば金を鍍せず(にせものは黄金で めっきをする。もし本物の黄金ならば、めっ しんげんび 信言は美ならず、美言は信な 出老子ろうし らず まごころのこもったことばには飾り気がなく 信用できるが、耳に快いことばにはまことが なく、信用できないということ。∇信言=真 実味のあることば。美言=みせかけだけの りっぱなことば。 じんこうかいしゃ 人口に膾炙す 出林嵩周朴詩集序 詩文や名文句などが広く世間の人々に知れわ たり、もてはやされること。世間の話題にな ること。なますとあぶり肉はおいしいごちそ うで、だれにも賞味されることから。▶膾‖ 細かく切った生の肉。なます。炙‖あぶった 肉。 用例)秦の始皇が不老の薬を求めた話はもう あまりに人口に膾炙しているが、この不老と は単に長生きをすると云いう意味でなしに、 老いてなお色欲の享楽に堪え得る旺盛な体力 を求めるのが根本である事は云うまでもある まい。〈南部修太郎◆阿片の味〉 沈香も焚かず屁もひらず 目立った長所も欠点もない、役にも立たない が害にもならない、可もなく不可もなく平凡 であることのたとえ。沈香のようなよい香り もないが、おならのような悪臭もないという ことから。 類義 綠香も焚かず屁もひらず。伽羅きやも焚 かず屁もこかず。毒にも薬にもならぬ。 出李白ー詩 他人におくれをとる、先を越される、ひけを とること。「人後に落ちない(人に劣らない)」 の形で用いることが多い。 補説詩の題名は夜郎 流され辛判官 がんに贈る。「気岸 きが ん 遥かに凌しのぐ豪士の前、 風流肯あえて落ちんや他人の後 しり え に(盛んな心 意気は豪傑をはるかにしのぎ、風流なことで は人後に落ちなかった」から。 用例自分は彼のヨーロッパ紀行に楽しい望 みをかける点において、人後に落つるもので ない。〈和辻哲郎◆享楽人〉 しんしほしゃ唇歯輔車 一方がだめになると他方もだめになるような 密接な関係のたとえ。唇と歯、ほお骨と下顎 あこの骨は、持ちつ持たれつ、密接な関係にあ ることから。∇唇歯∥唇と歯。輔車∥ほお骨 と下顎の骨。一説に、「輔」は車輪をはさむ 添え木で、添え木と車輪のように密接な関係 のたとえとする。 故事中国春秋時代、晋人が虢かくを攻めよう として虞ぐを通ろうとした。宮之奇 きゅう しき が「虢 は虞の日影をはかる日時計の立木のようなも の。虢が亡びれば(影に当たる)この虞は消え てしまいます。晋の野心に道を開き、兵を甘 く見てはいけません。諺ことに“輔車は相依 り、唇亡ぶれば歯寒しというのは虞と虢 の関係を言ったものです」と虞公を諫めたが 聴き入れず、晋を通してしまい、晋は虢を滅 <331> ぼし、ついでに虞も急襲して滅ぼしてしまった。 類義輔車相依る。輔は車に依り車も亦また輔 に依る。唇亡びて歯寒し。車の両輪。鳥の両 翼。持ちつ持たれつ。 じんしゃうれ 仁者は憂えず 出論語ろんご 徳を備えた人は人の守り行うべき正しい道を 行くので、何一つとして憂うることがないと いうこと。 補説出典には「知者は惑まわず(知恵のあ る人は迷わない)、仁者は憂えず、勇者は懼 おそれず(勇気ある人はこわがらない)」とある。 じんしゃせいすいもっせつあらた 仁者は盛衰を以て節を改めず 徳を備えた人は、相手の境遇の盛衰によって 節操を変えることはない。 補説出典には、このあとに「義ある者は存亡を以て心を易かえず(正しい道に従う人は、その仕える者が存続しようが滅亡しようが心を変えたりはしない)」とある。 出小学しようがく 仁者は敵なし 徳を備えた人は、思いやりの心で人に接する から憎まれることがない。また、仁政を施す 為政者には、人民がその徳を慕したい従うので、 敵となり逆らう者などいないということ。 「仁者に敵なし」ともいう。 出孟子もうし 故事 中国の戦国時代に、孟子 が梁りの恵 王に言ったことわざ。王が仁政を行って人 じんしゃーしんしょ 民の心を安んじていれば、いざというときに は、いかなる敵国も手向かうことができない。 「仁者は敵なし」とはこういうことであると 説いている。 類義仁を好めば天下に敵なし。情けに刃向 はむ かう刃 やい ば なし。 英語 Love overcomes all. 愛はすべてを 征服する 仁者は山を楽しむ 出 論語 ろんご 仁者は山を浄しむ 語 徳を備えた人は、安らかで心が落ち着いてい るから、静かで動かない山を愛し楽しむ。名 声や利益に心を動かされることのない心境を たたえたことば。 補説出典には「知者は水を楽しみ、仁者は 山を楽しむ。知者は動き、仁者は静かなり。 知者は楽しみ、仁者は寿 し(知者は水が絶 えず流れてゆくように巧みに才知をめぐらせ ている。故に水を愛する。仁者は山が毅然 として不動なように、心静かで動じない。故 に山を愛する。知の人は動的であり、仁の人 は静的である。知の人は楽しく生き、仁の人 は長命である)とある。 類義山は仁を以もって静なり、水は知を以て 流る。 しんじゅう まんじゅう おぼ め こめ めし 心中より饅頭 思し召しより米の飯 119 しんしゅつきぼつ 神出鬼没 出淮南子えなんじ 鬼神のように自在に出没し、居場所がつかめ ないこと。本来は戦闘の作戦について用いた 語。 注意 神出」を「進出」と書くのは誤り。 類義 神出鬼行 きこ。 神変出没。 用例みな、茨右近の神出鬼没ぶりに感心す るだけで、喬之助という影武者のいることに は気が付かずに過ぎたのだった。〈林不忘◆ 魔像〉 出 論語 ろんご 浸潤の譜り しんじゅん そし じわじわと水がしみ込むように、徐々に非難 や悪口が人々に信じられていくこと。また、 そうした巧みな讒言ぜんのこと。マ浸潤ニ水が じわじわしみ込むこと。譜りニ中傷。悪口。 告げ口。 (故事)孔子の弟子の子張が「聡明」とはどう いうことかと尋ねたとき、孔子が「浸潤の譜 り、膚受ふじの愬うえ、行われざる、明と謂い うべきのみ(じわじわとしみ込んでくるよう な他人の中傷と、皮膚にじかに感じさせる無 実の罪の訴え、冷静に受け止めてよく見分け、 それらが通用しないようなら聡明といってよ い)と答えたことばによる。 出韓非子かんびし しんしょうひつばつ信賞必罰 賞罰を厳格に行うこと。賞すべき功績のある 者には必ず賞を与え、罪を犯し、罰すべき者 は必ず罰すること。 用例一国の有様をもって論ずるもまたかく の如ごとし。譬たとえば爰ここに一政府あらん。賢 良方正の士を挙げて政まつりを任し、民の苦楽 を察して適宜の処置を施し、信賞必罰、恩威 行われざるところなく、万民腹を鼓して太平 を謡うが如きは、誠に誇るべきに似たり。福 <332> しんしょーじんせい 沢諭吉◆学問のすすめ 針小棒大 物事をおげさに言うこと。針ほどの小さな ことを棒ほどに大きく言う意から。 類義針を棒に取りなす。 じんじつ 人事を尽くして天命を待つ 出読史管見 もほどほどにせよという戒め。 人間ができる限りのことをし、あとは静かに 天命にまかせること。事の成否は人知を越え たことであり、結果がどう出ても悔いはない という心境のたとえ。 補説中国の南北朝時代、淝水ひずの戦いで前 秦ぜんの苻堅ふけの大軍を打ち破ったという知ら せを受けた、東晋とうの宰相さいし謝安の心境を 描写した文の中に見えることば。 類義人事を尽くして天命に聴いて可なり。 我が事畢わる。天は自ら助くる者を助く。 英語Do the likeliest, and God will do the best.「もっとも適切なことをすれば、 神は最善を施してくださる」 用例人事をつくして天命を待つ、とむかし の人が申したように、何事も、やれるところ まで努めつくしてみた上で、さてそれ以上は、 大いなる神や仏のお力に待つよりほかはあり ません。〈上村松園◆無題抄〉 しんじんす ごくらくとおこ 信心過ぎて極楽を通り越す 信心も、度が過ぎると迷信や邪道に陥り、人 を地獄へ行かせるような害をもたらす。信心 人心の同じからざるは其の面 出春秋左氏伝 の如し 人間の心は、顔がそれぞれ違うように同じで ないということ。 類義心同じからざること面めんの如し。心は 面の如し。十人十色。 じんしんさんせん 人心は山川より険し 人の心は油断のならないものだということ。 補説出典には、孔子のことばとして「凡 そ人心は山川より険し。天を知るより難し (天よりもわかりにくい)とある。 出荘子そうじ しんじんとくあま信心は徳の余り 信心も、生活にゆとりがあってはじめてでき るということ。また、信心は人の真心の現れ だということ。「信心も徳の余り」「後生 は 徳の余り」ともいう。 類義信心は誠の現れ。 対義信心も欲から。 しんじんよく信心も欲から 信心も、よいご利益りゃを得たいという欲望か らにすぎないということ。 類義信心も欲の中うち。 対義信心は徳の余り。 薪水の労 出昭明太子—陶淵明伝 炊事など日常の雑事。転じて、骨身を惜しま ず人に仕えて働くこと。薪を採り、水を汲く む労働の意から。 補説陶淵明が県令として単身赴任したと き、郷里にいる子に下男一人を送り、それに 添えた手紙の中のことば。「今、この力りきを 遣わし汝の薪水の労を助く。此れも亦また人 の子なり。善く之これを遇すべし(今、このし もべをやってお前の薪を採ったり、水を汲む 仕事を助けさせよう。しかし、このしもべも 人の子である。いたわってあげなければなら ない)とある。 類義薪を採り水を汲む。 人生意気に感す 出魏徴詩 人間は相手の心意気に感激して行動するもの で、名誉や金銭などのためにするのではない ということ。 補説詩の題名は『述懐』。「人生意気に感ず、 功名誰たれか復また論ぜん(功名のことなど、だ れが問題にするものか)」と続き、自分を厚 遇してくれた皇帝のために敵地に乗りこもう という強い意志と悲壮な気持ちを述べてい る。 じんせいしちじゅうこらいまれ 人生七十古来稀なり 出杜甫詩 七十歳まで生きる人は、昔からめったにいな いということ。ここから、七十歳を「古稀」 という。 補説詩の題名は『曲江』。朝廷の勤めに挫 折感を抱き、退庁後毎日のように曲江(都長 安ちょう の近くにある行楽地)で酒を飲んで、う さを晴らしていた。「酒債 は尋常行く処 <333> に有り、人生七十古来稀なり(酒代の借りは 当たり前のことで行く先々にあるが、古来七 十まで生きる人はめったにいない)とあり、 どうせ短い人生なのだから生きている間は酒 でも飲もうではないか、と投げやりになって、 酒に酔いしれる心境を述べている。 人生字を識るは憂患の始め じんせいじしゆうかんはじ 出蘇軾ー詩 人間は字を覚え、学問をすると、いろいろ心 配ごとが多くなる。無学で何も知らないほう が、かえって気楽であるということ。▷憂患 II憂え悩むこと。心配ごと。 補説詩の題名は『石蒼舒 せきそ うじよ の醉墨堂 すいぼ くどう 「人生字を識るは憂患の始め、姓名粗 ほぼ 記す れば以て休ゃむべし(自分の姓名をおおかた書 けたら、ほかはいらないことではあるまい か」とある。 人生は朝露の如し 人の一生は、朝日が出ればすぐ消えてしまう 露のように、短くはかないものだということ。 補説出典にはこのあとに「何ぞ久しく自ら 苦しむこと此かくの如ごとき(どうしていつまで も自分から苦しむ必要があろうか)とある。 前漢時代に、匈奴 きょ うど に捕らえられていた蘇武 そぶ に、匈奴に敗れて投降した漢の武将李陵 りり が、節を曲げることを勧めて言ったことば。 類義命は槿花 きん か の露の如し。人生夢の如 し。浮生 ふせ は夢の如し。浮世 うき よ は夢。 英語 Life is a span. 人生は束の間 出漢書かんじょ じんせいーしんだこ 人生夢の如し浮世は夢82 じんせいわず ごじゅうねん にんげんわず ごじゅうねん 人生僅か五十年 人間僅か五十年 501 人跡繁ければ山も凹む わずかなものでも積み重なれば、大きな力を 及ぼすことのたとえ。人がひんぱんに登る と、山もくぼんでくるという意から。 類義塵ちりも積もれば山となる。雨垂れ石を 穿うがつ。 きわ 進退これ谷まる 出詩経 前進も後退もできないような困難な状態に陥 ること。「進退窮きわまる」ともいう。マ谷ま るニ窮まる。 用例ほんとうをいうと彼は始めからこの建 物がそれにちがいないと思っていたが、はい るのがいやなばかりに知らんふりをして通り ぬけてしまったのだ。もう進退谷きわまった。 彼れは道の向こう側の立樹たちの幹に馬を繋つな いで、燕麦えんと雑草とを切りこんだ亜麻袋を 鞍輪くらからほどいて馬の口にあてがった。 〈有島武郎◆カインの末裔〉 身体髪膚之を父母に受く 人のからだは、髪の毛も皮膚もすべて父母か らもらったものだから、大切にしなければい けないということ。∇髪膚∥髪の毛や皮膚。 補説孔子のことばで、このあとに「敢あえ 出孝経こうきょう て毀傷 さし よう せざるは、孝の始めなり(こわした り傷つけたりしないのが孝行の始めである) という。さらに続いて「身を立て道を行い、 名を後世に揚げ、以て父母を顕 あら わ すは、孝の 終わりなり(立身出世して正しい道を実践し、 後世に名を残し、父母の名も世に示すのは、 孝行の完成である)とある。 用例土葬は窮屈であるけれど自分の死骸は 土の下にチャーンと完全に残っている、火葬 のように白骨になってしまっては自分がなく なるような感じがして甚だ面白くない。何も 身体髪膚これを父母に受くなどと堅くるしい 理屈をいうのではないが、死しんで後も体は完 全にして置きたいような気がする。〈正岡子 規◆死後〉 死んだ子の年を数える 言ってもしかたのない過去のことを悔やむこ とのたとえ。死んでしまった子が、生きてい たらいくつになったと年を数えることから。 「死児」の齢は数う」ともいう。 類義死んだ子の年勘定。死んだ子の年数え で役には立たない。割った茶碗ちゃを接ぐ。 用例あたしの子の忠太郎は、九ツの時は やり病で死んでしまったと聞いている。死ん だ子の年を数える親心で、生きていたらあの 子も今年三十二、いや一だったと、ゆうべも 夜中に眼がさめて思い出していたくらいだ。 〈長谷川伸◆瞼の母〉 死んだ子は賢い 過去のものは美点だけが思い出として残るこ <334> しんだもーしんなき とのたとえ。なくなった子はその長所ばかり が思い出されて、その子の賢さが親の記憶に 残るという意から。 類義死んだ子に阿呆 はない。死んだ子に 馬鹿はない。死ぬる子は眉目みめよし。逃がし た魚は大きい。 死んだ者の因果 しものいんが 死んでしまった者がいちばん割が悪い。死ん でしまったらおしまいだということ。 類義死ぬ者貧乏。 心胆を寒からしめる 心から恐れおののかせること。ふるえ上がら せること。△心胆=こころ。きもったま。 用例(態度のわざとらしさから察すると、 こういう調子にわめきちらして対手あいの心胆 を寒からしめることを商売としている男らし い〈尾崎士郎◆人生劇場〉 人中の騃騃 出南史 人々の中にあって、ずばぬけてすぐれた人の たとえ。▿騃騃Ⅱ一日に千里走るという俊馬 しゅ。 んめ 類義人中の獅子人中の竜。 じんちょうげかんげ 沈丁花は枯れても芳し すぐれているものは、最後まで本質的な価値 を失わないということ。沈丁花は枯れても、 よい香りを漂わせることから。「沈丁花」は 「ちんちょうげ」とも読む。 類義腐っても鯛たい。 死んでからの医者話 終わってからとやかく詮索すること。また、 取り返しのつかないことを後悔してもしよう がないこと。死んだあとでかかった医者の善 し悪しを論じてもむだなことから。 類義後悔先に立たず。葬式すんで医者話。 葬礼帰りの医者話。 死んで花実が咲くものか 死んでしまったらすべておしまいで、生きて いればまたよい事もあるということ。死を望 む者に対してむだに命を捨てるなと言い聞か せることば。枯れた木には花も咲かず実もな らない意から。「死んで花実は咲かぬ」「死ん で花実がなるものか」ともいう。 類義死ぬ者貧乏。死ねば死に損、生くれば 生き得。死んでは一文にもならぬ。死んだ者 の因果。命あっての物種。命に過ぎたる宝な し。死ぬ者貧乏。死んで骨は光るまい。人の 命は万宝の第一。 対義 命は鴻毛 もう より軽し。 命より名を惜しむ。 英語 Death is the end of all. 死はすべて の終わりである しんとう 心頭を滅却すれば火もまた涼 すず 出 社荀鶴ー詩 心の持ち方ひとつで、どのような苦難もしの げるという教え。心の中から雑念を消し去っ て、無念無想の境地に到れば、火さえも涼し く感じられるということから。単に「心頭滅 却」ともいう。△心頭‖心。心中。滅却‖消 し去ることの意。 補説詩の題名は夏日悟空上人 院に題す』。「安禅必ずしも山水を須もちい ず、心中を滅し得れば火も自ら涼し安ら かに座禅をするには、必ずしも山水を必要と しない。心の中にある雑念を取り払ってしま えば、火のように熱くても自然と涼しくな る」とある。また、甲斐かい山梨県の恵林 寺えりが織田信長の軍勢に囲まれ、寺の僧は残 らず山門に追い上げられて火をかけられたと き、快川禅師は法衣を着て正座し、この 句を唱えながら焼死したという話がある。 用例御承知でもござろうが、甲斐の恵林寺 は、武田信玄以来の名刹 があの寺を攻めてやきうちを試みた時、寺の 主快川国師は楼門の上に登り、火に包まれな がら、心頭を滅却すれば火もおのずから涼し といって、従容 しよう よう として死に就いた豪 えら い 出家である。〈中里介山◆大菩薩峠〉 信、豚魚に及ぶ 出易経 えききよう 誠実な心がつまらぬ者にも通じること。信義 の道が広く人々に徹底することのたとえ。祭 る人の誠意が供え物の豚や魚にまで及んで神 を感じさせるとの意から。「豚魚の信」とも いう。 信なき亀は甲を破る 約束を破ると災いを受けることのたとえ。 補説鶴つると亀が池のほとりで仲よく暮らし <335> ていたが、日照りで水がなくなり別の水のあ る池まで行くことにした。木片の一方を亀が くわえ、一方を鶴がくわえて、飛んでいる間 は絶対に口を利かないという約束をして、鶴 は飛んだ。しかし、ぶら下がった亀は下界の 景色のすばらしさに思わず声を出し、そのと たん下へ落ちて、甲羅 ち を割って死んでし まったという、『今昔物語 ものがたり』にある説話 から。似た話も多くある。 「頃奪」下言り息は甲を皮る。 類義不信の亀は甲を破る。 じん なれば則ち栄え不仁なれば すなわはずかし 則ち辱めらる 出孟子 仁政を行わなければいけないという戒め。政 治に仁があれば国は栄えるし、仁にそむいた 政治を行えば国は衰亡し、国民は屈辱をうけ る意から。↓湿しゅを悪にくみて下ひくきに居おる 311 真の闇より無闇が怖い しんやみむやみこわ 暗闇には何がひそんでいるか、何が出てくる かわからないので怖いには怖いが、道理をわ きまえない言動をする者や後先を考えない無 鉄砲な者は、何をしでかすかわからないので もっと怖いということ。 類義馬鹿と闇夜ほど怖いものはない。 目あてに集まってくるという意から。「親の 泣き寄り他人の食い寄り」ともいう。 類義他人は食い寄り。 しんなよたにんくよ 親は泣き寄り他人は食い寄り 他人はうわべだけの同情しかみせないという たとえ。不幸があると、身内の者は心から悲 しんで集まってくれるが、他人はごちそうを じんなれーじんらい 対義遠い親戚より近くの他人。 しんぷく心腹の疾 容易に征服できない、除きがたい災いや大きな障害・敵のこと。人体の重要な部分である胸と腹を冒される致命的な病気の意から。 出春秋左氏伝 神仏混淆火事掛合い 何もかもいっしょくたなことのたとえ。神 事、仏事、火事見舞い、人との交渉すべてに 同じ服装で出かけることから。▷混淆‖入り まじること。掛合い‖話合い。談判。 深謀遠慮しんぼうえんりよ 出賈誼ー過秦論 かぎかしんろん 深く考えをめぐらし、遠い将来のことまで見 通した計画を立てること。また、その計画。 「遠謀深慮」「深慮遠謀」ともいう。▽深謀‖ 深く考えて立てたはかりごと。遠慮‖遠い将 来まで見通した考え。 用例信幸も幸村も、既に三十を越して居 り、深謀遠慮の良将であるから、そんな激論 をするわけはない。まして、父と同意見の弟 に斬きりかけようとするわけはない。〈菊池 寛◆真田幸村〉 なる」ともいう。 辛抱する木に金がなる 辛抱強く働けば、やがて財産もできるという こと。「木」と「気」をかけて、我慢するこ との大切さをいったもの。「辛抱の木に金が 類義辛抱は金、挽白 ひき は石。牡丹餅 ほた もち は米、 辛抱は金。辛抱の棒が大事。辛抱が大事。石 臼でも心棒は金。 しんぼう かね 辛抱は金、 ひきうす 挽白は石 辛抱して働いていれば、金持ちになれるということ。石臼いしの心棒は鉄かねでできているところから、「鉄」と「金」をかけていったもの。類義辛抱する木に金がなる。牡丹餅は米、辛抱は金。石臼でも心棒は金。辛抱の棒が大事。辛抱が大事。 出史記しき 人面獣心 冷酷で、恩義や人情をわきまえず、恥などを 知らない無慈悲な人のこと。顔は人間である が、心は獣のように野蛮で冷酷である意。「人 面」は「にんめん」とも読む。 類義 外面如菩薩 内心如夜叉 ないしんに。 よやしゃ 対義 鬼面仏心。 用例中にはあの男を罵って、画えのため には親子の情愛も忘れてしまう、人面獣心の 曲者 くだなどと申すものもございました。 〈芥川龍之介◆地獄変〉 じんらいみみ おお いとま 迅雷耳を掩うに暇あらず 出晋書しんじょ 事態の変化が急で、対処する間がないことの たとえ。突然の激しい雷に、耳をふさぐ余裕 のない意から。∇迅雷∥激しく鳴る雷。 補説出典には「迅雷耳を掩うに及ばず」と <336> ある。 類義疾風迅雷。疾雷耳を掩うに及ばず。 しんらばんしょう 森羅万象 出法句経 天地間に存在するすべてのものや事象。「万 象」は「ばんぞう」「まんぞう」とも読む。 ∇森羅∥樹木が茂り連なる意から、無数に並 び連なること。象∥形あるものの意。 類義有象無象 うぞう。 むぞう 用例既に水も艸木 も、虫も土も空も太陽 も、皆我々蛙 かえ の為 ため にある。森羅万象が悉 こと く我々の為にあると云いう事実は、最早何 等 なん の疑 うた がい をも容いれる余地がない。〈芥川龍 之介・蛙〉 薪燎を積むが若し 薪燎を積むが若し 後輩が先輩を越えて出世することのたとえ。 あとから積んだ薪が先に用いられることにた とえていったことば。▷薪燎=かがり火。ま た、かがり火にたく薪。 出文子ぶんし 類義薪を積むが如く後に来る者上に在り。 しんるしたがものいばくな 針縷に順う者は帷幕を成す 小さなものも集まればやがて大きな結果をも たらすことのたとえ。針仕事をする者は、一 針ずつ積み重ねて大きな幕を作りあげるとい うことから。∇針縷∥針と糸。転じて裁縫の こと。帷幕∥垂れ幕と引き幕。ここでは大き な布の意で、帳りとばや幕。 出説苑ぜいえん 類義千里の行こうも足下そっより始まる。 すい 粋が川へはまる 粹人が粋の度が過ぎて身を誤ること。巧者や 事情に通じた者が失敗することのたとえ。 「粋、淵ふちにはまる」「粋がはまる」ともいう。 ∇粋∥世情や人情に通じ、ものわかりがよく、 さばけていること。また、そうした人。 類義河童 加 の川流れ。猿も木から落ちる。 上手の手から水が漏る。弘法にも筆の誤り。 天狗 てん の飛び損ぞこない。釈迦 しゃ にも経の読み 違い。 水火の争い 出韓愈石鼎聯句詩 水と火のように、相容れない、きわめて仲の 悪い者同士の争いのこと。 もいう。 粹が身を食う 遊里や芸人社会などの事情に通じ、もてはや されている人は、やがて身を滅ぼしてしまう という戒め。「粋は身を食う」ともいう。い ろはがるた(江戸)の一。 類義 鳴く虫は捕らえられる。芸は身の仇 対義 芸は身を助ける。 類義たとえ火の中水の底。 水火を辞せず 水におぼれ、火に焼かれるほどの苦痛をもい とわずに事をやり抜くこと。また、そうした 決意。「水火も辞せず」「水火も辞さない」と すいかじ 水火を通ぜず 隣近所と交際せず、往来のないこと。日常生活に欠かせない水や火さえも、隣近所と融通し合わないということから。「水火交わる無し」ともいう。 補説出典には門を杜ぎて水火を通ぜず 門を閉ざして水や火も近所と融通し合わな い)とある。 すいか ふ 出列子れっし 水火を踏む 大河の水を踏み渡ったり、大火を踏み越えた りするような非常な危険をおかすこと。ま た、危険な立場におちいることのたとえ。 類義たとえ火の中水の底。 出酉陽雑俎 妻の死の知らせ。妻に先立たれることのたと え。 故事昔、中国で張瞻 ちょう せん という商人が、旅 先から家へ帰ろうとする夜、 日うす で飯を炊い た夢を見た。占い師に占ってもらったところ 「日で飯を炊くのは釜ふ(婦ふ)がないからで、 奥さんはきっと死んでしまっているだろう」 と言った。帰ってみると、はたして妻は数か 月前に亡くなっていたという。 すいきょうてんかおさ 両 <337> 周の武王の治世を言ったことばで、古代中国 の政治の理想的な状態。▷垂拱‖衣裳の袖を 垂れ、手をこまぬいて何もしないこと。 補説出典には、この前に「信を惇あっくし義 を明らかにし、徳を崇たっび功に報ゆ」とあり、 政治の根本さえよければ何もせず手をこまぬ いていても天下は治まる。そのような無為の 政治がよいのだと武王は言ったとある。 水鏡私無し 出三国志・注 水鏡 私 し 公明正大、公平であることのたとえ。水や鏡 が、ありのままに物の姿を映しだすように、 人間も感情を交えず、公平無私でなければな らないということ。 補説出典には「鏡は至明にして醜なる者も 怒ること無し。水鏡の能よく物を窮きわめて怨 うらみ無き所以ゆえの者は、其その私無きを以もっ てなり(醜い者もありのままの自分の姿を鏡 に見て怒ることはない。水も鏡も常に公平無 私に、真実の姿を映し出すからである」と ある。 水魚の交わり 出二国志 離れることのできないきわめて親しい間柄の こと。水と魚のように切っても切れない関係 をいう。もとは君臣の関係についていった が、今では夫婦・友人など一般に用いる。 故事三国時代の蜀くの王劉備が諸葛孔明 しょうめいを重く用いるので、もとからの武将が不 満をもらしたときに、劉備が「孤こ(自分。君 主の自称)の孔明あるは、猶なお魚の水あるが ごときなり。願わくは諸君復また言う勿なかれ すいきょーずいしゅ 私が孔明を得たことは、魚が水を得たよう なものだ。二度と不平を言ってくれるな)」 と言ってなだめた故事による。 すいきんせんぎよくきんかしぎよくせん 炊金饌玉金を炊ぎ玉を饌す197 すいこう推敲 出唐詩紀事 詩や文章の字句や表現を、何度も苦心して練り直すこと。△推∥おす。敲∥たたく。 故事唐の詩人賈島が驢馬に乗っている ときに「鳥は宿る池中ちの樹じゅ、僧は敲たく 月下の門」の詩の着想を得、「敲く」か「推 す」のどちらがよいか迷っているうちに、大 尹(都の長官)の韓愈の行列にぶつかって しまった。賈島がわけを話したところ、韓愈 は「敲く」にしたほうがよいと教えてくれ、 二人はそのまま馬を並べて詩について語りあ いながら行ったという。 用例此この観察点は、元来作者の側にあるものではなくて、読者としての立ち場から出るものであるが、作者といえども、其その作物を、完全なるものたらしめん為ためには、出来るだけ自分の作物を客観の位置において、推敲を重ねなければならぬ。〈折口信夫◆和歌批判の範疇〉 水行して蛟竜を避けざるは漁 夫の勇なり 出荘子 どんな困難に直面しても自分の天命を受け入 れ、それを恐れないのが聖人の勇気であると いうこと。また、どんな職業にもそれなりの 危険があり、勇気を必要とするということ。 ふつうの人は恐れて逃げる蛟竜がいても、漁 師は平気で水上を進んで行く勇気がある意か ら。▶蛟竜‖想像上の動物。水中にひそみ、 雷雨にあえば天に昇って竜になるという。 すいさくしげもちとおいた 筆策繁く用うるは遠きを致す 出淮南子えなんじ 国の恒久的な繁栄を考えるなら、法律や刑罰 を厳しくして国民を従わせることは、よい方 法とはいえないということ。馬を遠くまで走 らせるために激しくむちをくれるのは賢明な 方法ではない意から。「御」は「術」ともいう。 ∇筆策=むち。 補説出典には、この前に「峭法 刻誅 こくち ゆう は覇王の業に非ず(厳しい法律や苛酷 かこ な刑 罰で国民を従わせることは、王者のすること ではない」とある。 出淮南子えなんじ ずいしゅかへき 隋珠和璧 きわめて貴重なもののたとえ。△隋珠∥中国 春秋時代、隋侯ずいが命を助けた礼として大蛇 から贈られたという天下の名玉。「隋侯の珠 たま」ともいう。和璧∥楚その卡和 べんが山中で 見つけた、宝玉の原石。↓和氏かしの璧へき 139 注意「璧」を「壁」と書き誤らない。 隋珠を以て雀を弾く 出荘子 貴重なものをつまらぬことに使うたとえ。ま た、失うところが多く得るところが少ないた とえ。貴重な宝珠を使って雀を打ち落とす意 <338> すいしょーずいとく から。「弾く」は「弾うつ」ともいう。△隋珠 Ⅱ中国春秋時代、隋侯ずいが命を助けた礼として大蛇から贈られたという天下の名玉。 類義小判で鴨かもを打つ。 水晶の削り屑 すいしょうけずくず もとは富貴であったのに、今は零落してし まった人のたとえ。また、もとは価値があっ たが、今は価値がなくなったもののたとえ。 水晶は貴重なものだが、その削り屑は何の価 値もないことから。 水品は塵を受けず 清廉潔白な人は、少しの不正も拒み退けるも のであるというたとえ。水晶は、けがれとな る一点の塵をも受けつけない意から。 水晶を灰汁で磨いたよう きわめて清廉潔白であることのたとえ。澄ん でいる水晶を灰汁で磨いてさらに清らかにす る意から。 醉生夢死 出程頤明道先生行状 価値あることを何もせず、むなしく一生を過 ごしてしまうこと。酒に酔ったり、夢を見て いるような気持ちで死んでいく意から。 補説出典には「高才明智と雖いえも、見聞に 膠こうせられ、醉生夢死して自ら覚さとらざるな り(すぐれた才能や知恵をもった人でも、見 聞した知識にまどわされ、酒に酔ったり、夢 を見ているような心地で、無為に一生を過ご し、それに気づかないのである」とある。 用例彼は木の根に腰を下して、てのひらに 顔を掩ちうた。死ぬことは、悲しくなかった。 短い一生ではあった。醉生夢死。ただそれだ けのことだった。然し、そのことに、悔いは なかった。〈坂口安吾◆紫大納言〉 すいぜん垂涎 ある物を手に入れたいと強く思うこと。食べ 物をほしがってよだれをたらすことから。 注意「すいえん」と読むのは誤り。 出賈誼新書 用例その絵図と絵図との間に走って居る、 模様のような阿蘭陀 オラ の文字は、一字も半字 も読めなかったけれども、彼の心は烈 はげ しい 好奇と感激とに充たされずには居なかった。 彼は、心の底からそれに垂涎した。〈菊池寛 蘭学事始 好いた同士は泣いても連れる 好きで一緒になった男女は、どんな苦労にも 耐えて、最後まで連れそうものだということ。 類義好き連れは泣き連れ。 すめあぼたえくぼあぼたえくぼ 好いた目からは痘痕も靨↓痘痕も靨25 すいちゅうひもと 水中に火を求む 絶対に手に入らないものを無理に求めること のたとえ。ないものねだり。 類義木に縁よりて魚を求む。山に蛤 ぐり を求 む。 畑に蛤。 水滴石を穿つ あまだいしうが 雨垂れ石を穿つ 出頼山陽ー詩らいさんようし はるか遠くで海と空とが接していて、どこま でが水でどこまでが空かが、はっきり見分け られないさま。「水天彷彿」とも書く。▶水 天∥海と空。髣髴∥ぼんやりしてはっきりし ないさま。 補説江戸時代後期の儒学者で歴史家・漢詩 人の頼山陽の詩『天草洋に泊す』の一節。 水道の水で産湯を使う 江戸っ子が自分の生まれを自慢していう言 葉。莫大だいな金と手間をかけて造った自慢の 水道の水で産湯を使ったということから。△ 水道‖神田上水と玉川上水。 補説二つの上水は、徳川幕府が巨額の資金 と労力をつぎ込んで開発したもので、規模の 大きさから江戸っ子の自慢の種であった。こ れに類する地元自慢は、世界各地にある。 錐刀を以て太山を堕つ 微弱な力で強大なものに立ち向かうことのた とえ。小さな刃物で大きな山を切り崩そうと する意から。▷錐刀∥先のとがった小さな 刀。太山∥中国第一の名山。泰山たい。堕つ∥ こわす。切りくずす。 随徳寺をきめる 一目散に逃げ出すこと。跡をずいとくらま す、などの「ずいと」を寺の名前めかしてしゃ れた言葉。「一目散」を山号に見立てて「一 目山随徳寺」ともいう。 <339> 用例 借金で首が廻まわらないところから 出先で随徳寺をきめてしまったンじゃあない か吉川英治鳴門秘帖 すいはねもっみずかそこな 郷は羽を以て自ら残う 出劉子新論 長所やすぐれた才能が、かえって災いを招く もとになるというたとえ。かわせみはその美 しい羽のために捕らえられて殺される意か ら。▽翠=かわせみ。羽の色が青緑色の美し い水辺の鳥。 補説出典には、続けて「亀は智を以て自ら 害 そう亀は知恵があるため、占いに使われ 甲を焼かれてしまう」とある。 類義孔雀は羽ゆえ人に捕らる。麝香 臍 故命をとらるる。 すいばん推輓 人を引き立て推薦すること。車を押したり引 いたりする意から。「輓」は「挽」とも書く。 △推‖後ろからおす意。輓‖前から引く意。 補説出典には「相知 ちの気力有りて位を得 し者の推挽 ばんする無し(自分をよく知ってく れている人で俠気 うきがあり地位もある友人が 引き挙げてくれることがなかった)とある。 すいほうき 二水泡こ寻一 る。元も子も失う。 水泡に帰す それまでの努力がすべてが無駄になること。 水に浮かぶ泡のようにあっけなく消えてしま うことから。「水の泡になる」ともいう。 類義烏有 うに帰す。棒に振る。無に帰す すいははーすえおも 対義 功を奏する。 実を結ぶ。 用例もし兵衛 ひよ うえ が病死したら、勿論 もち ろん いく ら打ちたくとも、敵 かた き の打てる筈はずはなかっ た。と云いて兵衛が生きたにせよ、彼自身 が命を墜おとしたら、やはり永年の艱難 かん なん は水 泡に帰すのも同然であった。ぞ川龍之介 或敵打の話 酸いも甘いも噛み分ける 人生経験を積んで、人情のこまやかさや世間 の複雑な事情によく通じていること。酸っぱ い味と甘い味を味わい分け、そのよい所も悪 い所も知っているという意味から。「酸いも 甘いも知っている」「酸いも甘いも知り抜く」 ともいう。 類義酸いも辛からいも御存じ。 類義 酸いも辛 しも存じ 用例 しぶいさびの中に、長唄や清元にきく 事の出来ないつやをかくした一中 いっち ゆう の唄うた と絃いとは、幾年となく此この世にすみふるし て、すいもあまいも、かみ分けた心の底にも、 時ならない情けの波を立てさせずには置かな いのであろう。〈芥川龍之介◆老年 出史記しき 騒逝かず どうにもならない苦境におちいり、命運のき わまった状態。頼りにしている愛馬の騒も、 一歩も進まなくなったという意から。▷騒∥ 楚その項羽こうの愛した名馬の名。逝かず∥進 まない。 補説 項羽が漢かんの劉邦 ほう によって垓下 がい に追いつめられたときに、天運尽きた自らを 思い作った詩『垓下の歌』の中の一句。↓力 山を抜き気は世を蓋おおう47 出旧唐書くとうじょ 幼少の天子に代わって、皇太后(天子の母)、 あるいは太皇太后(天子の祖母)が政治をとる こと。古代中国では、男女の別がきびしかったため、皇太后などが群臣とは直接顔を合わせず、御簾みすを隔てて政務を聞いたことから。「垂簾聴政」ともいう。∇垂簾Ⅱすだれを垂れること。 出史記しき すう数奇 めぐり合わせが悪いこと。不運・不幸せ。また、運命のめまぐるしく変わるさま。△数=運命。奇=くい違う意。 補説出典には「李広りこ老いて数奇なり、単 于ぜんに当たらしむること母なかれ、恐らくは欲 する所を得ざらん(何度も匈奴きょを討ち、恐 れられていた将軍李広は、年をとっていて不 遇である。匈奴の単于と対決させてはならな い。たぶん思うようにはならないであろう」 とある。 出梁書 数行並び下る 非常に読解力がすぐれていることのたとえ。 書物を読むのに、一度に数行を読み下すという意から。「読書数行並び下る」ともいう。 類義十行俱ともに下る。 すえおもものかならおすえだいかなら 末重き物は必ず折る♡末大なれば必ず お 折る340 <340> すえしじゅう いまさんじゅう 末始終より今の三十 将来多くの利益を得るかもしれない話より、 たとえ少しでも、今確実に手に入るほうがよ いということ。▷末始終‖行く末長い間。 「始終」を「四十」に掛けている。 類義明日の百より今日の五十。末の百両より今の五十両。来年の百両より今年の一両。後百より今五十。 す 据え膳食わぬは男の恥 女のほうから言い寄ってくるのを受けないの は男として恥だということ。すぐ食べられる よう食膳をととのえて出された料理に手をつ けないのは、男の恥だということから。「据 え膳食わぬは男の内ではない」ともいう。 類義」据え膳と河豚汁 ふぐ じる を食わぬは男の内で はない。 英語 It is time to set in when the oven comes to the dough. [かまどが生パンのところに来たときは、パンを中に入れるべきときである] すえつゆ末の露、本の栄 まえだい 末大なれば必ず折る 人の命のはかないことのたとえ。草木の葉末 の露も根本の雫も、早い遅いの違いはあって も、いずれは消えてしまうことから。 権力の所在をはっきりさせないと組織はなり たたないことのたとえ。下位の者の勢力が大 きくなると上位の統率がきかなくなるという こと。枝葉が大きくなり過ぎると、肝心の幹 が折れる意から。「末重き物は必ず折る」と もいう。↓尾大なれば掉ふるわず113 出春秋左氏伝 末は野となれ山となれ後は野となれ 姿は俗性を現す 山となれ 23 人は身なりや立ち居振る舞いで、その品格が わかるということ。△俗性=家柄。素性。 英語)The wine savours of the cask.「ぶ どう酒には樽たるの風味がつくものだ」 すがたつく姿は作り物もの 人の容姿は、化粧や着る物でどのようにもなるということ。 類義 馬子にも衣装。 好かぬは得せぬの唐名 元からな 好きでないということは、実はできないということを体裁よく言ったにすぎないということ。▶唐名‖別名。あだ名。 好きこそ物の上手なれ 好きなことは熱心に努力するので、上達も早 いということ。「好きこそ物の上手」「好きこ そ上手」ともいう。 類義嫌いは知らぬの唐名。 類義好きは上手の元。道は好む所によって 安し。 英語 A cool mouth and warm feet live long. 口を冷やし足を温めるのが長生きの 秘訣 頭寒足熱 頭部を冷やし、足部を温かくすること。こう すると健康によいとされる。 対義下手の横好き。 英語 Who likes not his business, his business likes not him. [自分の商売を愛やない者は、商売からも愛されない] 過ぎたるは猶及ばざるが如し なおおよ ごと 出 論語 ろんご 物事には程度というものがあり、度が過ぎる ことは足りないことと同じようによくないと いうこと。 補説一方にかたよらず、調和がとれている ことの大切さを説いた孔子のことば。弟子の 子張と子夏のどちらがすぐれているかを尋ね られ、孔子は「子張はゆき過ぎているし、子 夏は足りない」と答えた。子貢が「では子張 のほうがすぐれているのですか」と聞くと「過 ぎたるは猶及ばざるが如し(ゆき過ぎは足り ないのと同じようなものだ)」と、どちらが すぐれているとは言えないと答えたという。 類義及ばぬは猶過ぎたるに勝れり。薬も過 ぎれば毒となる。彩ずる仏の鼻を欠く。名の 木も鼻につく。念の過ぐるは無念。分別過ぎ れば愚に返る。礼も過ぎれば無礼になる。 More than enough is too much. [+ <341> 分以上は多すぎる too hard squeezed yields a bitter juice. [本 レンジを強く搾しほりすぎると掛くなる] 用例)どうも飲みすぎる食べすぎる、禁酒絶 食はとても出来ないが、せめて節酒節食した い、しなければならない。いかなる場合でも いかなる事物でも、過ぎたるは及ばざるに如 しかず、好物に対して殊ことに然しかり。〈種田山 頭火◆行乞記〉 好きには身をやつす いという意から。 好きなことのためには、体がやせ細るほどの 苦労もいとわないということ。「好きには身 を砕く」ともいう。∇やつす=やせるほど夢 中になる。熱中する。 類義好きの道には薦こも被かぶる。好きの道に 辛労しん ろう 無し。 類義内は火が降る内証 ないし よう は火の車。 おお 空き腹にまずい物なし とき ひだるい時に まずい物なし 547 すきまかぜつめ隙間風は冷たい 親しい男女や友人などの間に心のへだたりが できると、それまで親密だっただけいっそう 冷たく感じられるというたとえ。戸のすき間 から吹き込む風は、戸外であたる風より冷た く感じられるという意から。 ぎきんみ 頭巾と見せて頬冠り 見かけの体裁はととのえていても、内情は苦しいことのたとえ。頭巾をかぶっているつもりでも、実際は顔を隠す頬冠りにしか見えな ずくなしの大だくみ すきにはーすすむを 身のほどを知らないことのたとえ。ろくに仕 事もできない者が、自分の能力を忘れて大き なことをたくらむことから。▷ずくなしⅡ役 立たずな人。なまけ者。臆病者。 ずくひ 木菟引きが木菟に引かれる 相手をやっつけようとした者が、逆に相手の 術中にはまってやられてしまうことのたと え。みみずくをからかいにきた鳥が、みみず くをおとりにして待っていた猟師に捕らえら れるという意から。▷木菟‖みみずく。木菟 引き‖昼間は目が見えず動けないみみずく を、鳥がつつくこと。また、その鳥。 補説「木菟引き」は「木菟おとし」ともいい、 みみずくをおとりにして鳥を捕まえるもちざ おの仕掛けのことにもいう。 類義人捕る亀が人に捕られる木乃伊取 りが木乃伊になる。 すみち好く道より破る 人は得意な分野だと、調子に乗りすぎてか えって失敗するということ。 つものである。何事もほどほどがよいという こと。とくに容色について用い、美しすぎる 者は、その美しさゆえに不吉であるとされた ことをいう。 類義好きな事には騙だまされ易い。過ちは好 む所にあり。川立ちは川で果てる。木登りは 木で果てる。 すぐよものすぐあ 優れて良き物は優れて悪し よすぎるということは、悪い部分も数多くも およ たいは 少しきを救わざれば大破に及 ぶ 小さなことを甘く見ると大きな損害をこうむ ることになるという戒め。小さな破損を修理 しないでおくと、損害が広がって手がつけら れなくなることから。 類義小事を軽んずる勿なかれ。蟻ありの穴から 堤も崩れる。 出野客叢書 ずさん杜撰 詩文や文章に誤りが多いこと。転じて、仕事 のやり方などに手落ちが多く、いい加減であ ること。「ずざん」とも読む。▷杜‖中国北 宋ほくの詩人杜黙とのこと。撰‖詩文をつくる こと。 補説出典には「杜黙詩を為くるに、多く律 に合わず。故に事の格に合わざるものを言い て杜撰ずさと為なす(杜黙の作った詩は、定型詩 の規則に合わないものが多かった。そこで、 物事の法式に合わないのを杜撰というように なった)とある。 進むを知りて退くを知らず 出易経 臨機応変に対応できないこと。前に進むこと <342> すずめあーすてごは だけ知っていて、退くことも必要であること を知らないという意から。 補説出典には、このあとに「存するを知り て亡ぶるを知らず、得るを知りて喪うし うを知らず(生きることだけを知って死ぬことを知 らない。手に入れることだけは知って失うこ とを知らない)とある。 省綱で雁 がん いわしあみくじらと 鰯網で鯨捕る 76 省海に入りて蛤となる 出国語こくご 物事が大きく変化することのたとえ。季秋の 月(九月)に雀が海の中へ入って蛤に変化する という古代中国の俗信から。 補説出典には「雀海に入りて蛤と為なり 雉きじ淮わい(淮河わい)に入りて蜃しん(大はまぐり) と為る。……」とある。また「礼記ちい」に 「爵(雀)大水に入りて蛤と為る」とある。 類義蕪かぶは鶉うずとなり山芋は鰻うなとなる。 すずめおどつるうしな 雀脅して鶴失う 細部にこだわって全体をだめにしてしまうこ とのたとえ。雀を追い払おうと脅かして鶴を 逃がしてしまうという意から。 た、下の者には強く上の者には弱いというこ と。 類義 小鳥を捕らえて大鳥を逃がす。木っ端 を拾うて材木を流す。 対義鹿を逐う者は兎うさを顧みず。 すずめうえたかねこしたねずみ 雀の上の鷹猫の下の鼠 すずめ せんこえつる ひとこえ 雀の千声鶴の一声 険が間近に迫っていることのたとえ。ま つまらない者があれこれ言うより、すぐれた 者の一言のほうが価値があるというたとえ。 また、なかなか決まらなかったことが、実力 者の一言で決まることのたとえ。たくさんの 雀の鳴き声より、一羽の鶴のひと声のほうが よく響きわたるという意から。単に、「鶴の 一声」ともいう。 類義愚者の百行より知者の居眠り。禽鳥 きんち、百ももを数うると雖いえも一鶴に如しかず。 数星相連つらると雖も一月げつに如かず。百星 ひゃくの明は一月の光に如かず。衆愚しの諤諤 がくたるは一賢いの唯唯いには如かず。 すずめ雀の角つの 弱いものが武装しても、恐れる必要がないと いうこと。また、恐れるに足りない武器のた とえ。雀が角を生やしても、少しもこわくな いことから。 ずめなみだ雀の涙 ごくわずかなもののたとえ。小さな雀が流す 涙ほどの意から。多く金銭について用いる。 類義蚤のみの小便、蚊の涙。 用例東京へ帰るにしても五人の頭へ四人分 の路金 ろぎ しかない。しかたがないのでたまた ま足利 あし かが の芝居へ昔なじみの常磐津 とき わず の鎌太 夫 かまた ゆう が来ていたのを幸い、皆には先へ帰っ てもらい、私だけその座に七日つかっても らって、やっとほんの雀の涙ほどのお宝をい ただいて後からみんなを追い駆けました。 〈正岡容◆初看板〉 雀原八礫 騒がしかったのが、急に静かになることのた とえ。雀が群れ騒いでいる野原に石を投げる と、一度に鳴きやむ意から。 類義蛙原かわずへ石。 省百まで踊り忘れず 幼い頃に身につけた習慣は、年をとっても変 わらないというたとえ。雀は踊るようにはね る習性を死ぬまで持ち続けることから。いろ はがるた(京都)の一。 類義三つ子の魂百まで。産屋の癖は八十 まで治らぬ。頭禿はげても浮気はやまぬ。 持った病やまは治らぬ。跳はねる馬は死んでも 跳ねる。 英語 What is learned in the cradle is carried to the tomb. [ゆりがごの中で覚えたことは、墓場まで持っていく] すっぽんとき 鼈が時をつくる 絶対にありえないことのたとえ。鶏 とり ではな く、すっぽんが夜明けを告げる意から。 類義死に馬が屁へをこく。日が西から出る。 捨て子は世に出る 捨て子のように見捨てられた子は、厳しい環 境の中でたくましく育ち、かえって世に出て 成功するものであるということ。 <343> 捨て子も村のはごくみ 見捨てられても必ず助けてくれる人がいるか ら、世の中はなんとかなるというたとえ。捨 て子があっても、村のだれかが育ててくれる ということから。∇はごくみ∥育てること。 かみひろかみ 捨てる神あれば拾う神あり 世の中には、見捨てる人もいるが、その一方 で助けてくれる人もいる。たとえ不運なこと があっても悲観することはないということ。 捨てる神あれば助ける神あり」ともいう。 類義倒す神あれば起こす神あり。寝せる神 あれば起こす神あり。渡る世間に鬼はない。 月夜も十五日、闇夜やみも十五日。仏千人神千 人。 用例「それでも何が仕合せになるか知れね え、捨てる神があれば拾う神もあるもので、 このおれに飛んだ拾い物を授けて下すったと いうのは、あの駒井能登守 とのかみが牢ろう破りを 引張り込んで知らん面でかくまった一件を、 すっかり見届けてしまったんだ、こいつをひ とつ神尾様あたりへ売り込んでみろ、安い代 物じゃあねえ」〈中里介山◆大菩薩峠〉 捨てる子も軒の下 もの、すぐれたものが出てくることのたとえ。 類義砂の中の黄金。珠玉の瓦礫 がれ き に在る如 ごと し。 親が子を思う愛情の深いことのたとえ。親は 子を捨てるときでさえ、せめて雨露だけはし のげるようにと軒下を選ぶという意から。 砂の底から玉が出る ありふれたつまらないものの中から、貴重な すてごもーすびきの 砂原は三里行けば二里戻る 砂地の歩きにくくてはかどらないことをい う。砂原は、三里も歩いたつもりなのに実際 には一里しか進んでおらず、まるで二里戻っ たような気がするという意から。 類義砂道歩ありくごとし。 砂を噛むよう 何の情趣もなく、つまらないようす。砂を噛 んでもざらざらするばかりで味がないことか ら。 類義 味も素っ気もない。無味乾燥。 用例聽やがて自分の才能や感覚に判然 見極めがついて何の特異さも認め難い時がく るとこれくらい興ざめた、落莫らくとした人生 も類たぐい稀まれなようである。一いつぺんに周 囲の気配が青ざめて、舌触りまで砂を噛むよ うにザラッぽいものだ。〈坂口安吾・蟬〉 すねいっぽんうでいっぽん 脛一本腕一本 自分の身一つのほかに、頼りにするものがな いことのたとえ。 類義 裸一貫。 すね 脛に傷持つ 心にやましいことや後ろ暗いことがあるこ と。他人には見えない向こう脛に傷がある意 から。多く「脛に傷持つ身」の形で使う。 類義傷持つ足。足に傷。 用例私は誰よりも奴やに対して脛に傷持つ 身と覚えているので怕る怕る近づくと、ま るで猛獣に餌でも与えるかのような臆病な物 腰で、さっと奴の口のあたりにパンの棒を投 げ出すと同時に外へ飛び退のいた。〈牧野信 一・夜見の巻〉 すね 脛に傷持てば笹原走る 後ろ暗い人間が、落ち着いて世渡りできない ことのたとえ。脛を怪我している者は、葉が 傷に触れて痛いので急いで走り抜ける意か ら。また、心にやましいところのある者は、 笹の葉ずれの音にもおびえて笹原を走り抜け て行くこと。 類義 脛に傷持てば笹原走れぬ。心の鬼が身 を責める。落武者は芒 すす き の穂にも怖ず。 拗者の苦笑い すねものにがわら 変わり者にも上には上があるというたとえ。ひねくれ者がさらに上手がいることを知って 苦笑いすることから。∇拗者∥ひねくれた態 度で生きている者。世を皮肉な目で見る偏屈 な者。 すびせいびょう 素引きの精兵 理論には詳しいが、実戦には役に立たない人 のこと。素引きのときだけ、強そうな弓の射 手に見える人の意から。「精兵」は「せいへい」 とも読む。マ素引き=矢をつがえずに、弓を 射る形で弦つるだけを引くこと。 類義 畳の上の水練。木馬の達人。 <344> すべての道はローマに通ず 目的を達成するための手段・方法は何通りも あるということ。また、一つの真理はあらゆ ることに適用されるというたとえ。ローマ帝 国の全盛時代、世界各地からの道が首都ロー マに通じていたことから。 補説十七世紀フランスの詩人ラ・フォン テーヌの『寓話ぐう』の中にあることば。英語 ではAll roads lead to Rome. すべ みち きょう はや 滑り道とお経は早いほうがよ い ぬかるんで滑りやすい道は、人より先のほう が歩きやすいし、退屈なお経は早く終わって くれるほうがよいということ。転じて、手早 くやるほうがよいことのたとえ。「滑り道と 観音経 かんのん ぎょう は早いほうがよい」ともいう。 対義 雪道と魚の子汁は後ほどよい。 ずばりと言い当てること。相手の急所、特に 人の思惑などが想像したとおりであること。 「星を指す」ともいう。多く「図星を指される」 の形で使う。∇図星=弓の的の中心にある黒 点。 図星を指す 用例老看守はその男の言うことなぞは碌々く に聞かずに、自分の言うだけのことを続けて 行く。その男も、もうもみ手はよして、図星 を指されたかのように黙っていた。大杉 栄◆獄中記〉 すまじきものは宮仕え 人に仕え、使われるということは、いろいろ と苦労が多いから、しないにこしたことはな いということ。▶宮仕え=古くは宮中や貴族 の邸宅に仕えること。転じて、役所や会社な どの組織に勤める意。 類義さすまいものは宮仕え。 住まば都 同じ住むならば都のほうがよいということ。 注意「住めば都」とは意味が異なる。↓住 めば都344 すなわ 速やかならんと欲すれば則ち 達せず 出論語 物事を早く成し遂げようとして急ぎすぎる と、かえってうまくいかないという教え。 補説孔子が、魯の国の莒父の町で長官 になった弟子の子夏に、自分の理想とする政 治を性急に実現させようとせず、着実に推し 進めるべきだと説いたことば。出典には、こ のあとに「小利を見れば則ち大事成らず(目 先の小さな利益に心を奪われていると、大切 な大きい仕事をやり遂げることはできない) とある。 住むばかりの名所 る場所にすぎないということ。 よそから見るほどよくはないことのたとえ。 名所も、住んでいる人にとっては生活してい どんな不便な所でも、長く住み慣れると都と 同じように住み心地がよく、離れにくいもの だということ。 注意 住まば都とは意味が異なる。↓住 まば都344 類義住めば田舎も名所。住めば都の風が吹 く。住めば都で花が咲く。地獄も住家 すみ○ か 英語 They that be in hell think there is no other heaven. [地獄に住む者はそこ以外の天国はないと思っている] To every bird his own nest is best. [どの鳥にとっても自分の巣がいちばんよい] 用例蠶豆売 そのま めうり の来る頃は既に過ぎ去り、 青梅を売りに来るにもやや遅く、すずしい朝 顔の呼声を聞きつけるにはまだすこし早く て、今は青い唐辛 とうが らし の荷をかついだ男が来 はじめる頃だ。住めば都とやら。山家 やま が 生れ の私なぞには、そうでもない。むしろ住めば 田舎という気がして来る。〈島崎藤村◆短夜 の頃 相撲に勝って勝負に負ける よい経過をたどりながら、結果的には失敗す ることのたとえ。相撲の内容は相手を圧倒し ていながら、最後には負けてしまう意から。 類義 碁に勝って勝負に負ける。 相撲に負けて妻の面張る すもうまつまつらは <345> めて、うっぷんを晴らすことのたとえ。相撲 に負けた腹いせに、家に帰って妻に八つ当た りをする意から。 類義喧嘩けんに負けて妻の面を張る。 擂粉木で芋を盛る 不可能なことをしようとすることのたとえ。 △擂粉木=すり鉢で物をすりつぶすのに使う 棒。あたり木。 類義 擂粉木で腹を切る。 杓子 しゃ くし で腹を切 る。 大ざっぱで雑なことをするためとえ。すみずみ まで行き届かないことのたとえ。△擂粉木= すり鉢で物をすりつぶすのに使う棒。あたり 木。 類義重箱で味噌をする。重箱の隅を杓子しゃ で払う。 対義重箱の隅を楊枝でほじくる。 擂粉木で腹を切る 不可能なことをしようとするためとえ。いろは がるた(京都)の一。かるたでは「連木で腹を 切る」。△擂粉木=すり鉢で物をすりつぶす のに使う棒。あたり木。 類義 插粉木で芋を盛る。杓子 しゃ くし で腹を切 る。竿竹 さお だけ で星を打つ。杵 きね で頭を剃 そ る。 酸河の富士と一里塚 差がありすぎて比べものにならないことのた とえ。日本一の富士山と街道の一里塚とで すりこぎーすんてっ は、形は似ているがまったく比較にならない ことから。△一里塚‖江戸時代、街道に一里 (約四キロメートル)ごとに土を高く盛り、里 程標とした塚。 類義提灯 ちょう ちん に釣り鐘。月と鼈 すっ ぽん 瓢簞 ひよう たん に釣り鐘。雲泥の差。霄壌 しょう じょう の差。 するは一時名は末代 するべきことは、苦痛でもしなければならな いという教え。物事をする苦しさは一時的だ が、するべきことをしなかったために生じた 不名誉は末代まで残るということから。 類義するは一時なさぬは末代。聞くは一時 の恥、聞かぬは一生の恥。 寸陰を惜しむ 出晋書しんじょ ごくわずかな時間も惜しんで大切にすること。「寸陰を重んず」ともいう。△陰‖光陰のこと。時間・年月の意。「寸陰」は「一寸の光陰」の略で、ごくわずかな時間のこと。補説出典には「大禹たいは聖者なるに、乃すなわち寸陰を惜しむ。衆人に至りては当まさに分陰ふんを惜しむべし(中国古代、夏かの禹王うおは聖人であるのに、ごくわずかな時間も惜しんで努力した。まして平凡な一般の人民は、なおさら寸暇を惜しんで精進しなければならない」とある。 随筆 新平家 類義一寸の光陰軽かろんずべからず。 用例なにしろ、心ぼそい時間のなさだ。寸 陰も惜しまれてくる。暮れ迫るままに深まる 物のあいろは、陰翳いの美を見るにはよく、 現実を見るには都合がわるい。〈吉川英治◆ すんこうこうがだくちあた す膠は黄河の濁を治する能わ ず 出抱朴子 小さな力では大事を成し遂げることはできないというたとえ。少量のにかわでは、広い黄河の流れの濁りをすべて澄ませることはできないという意から。▶膠∥にかわ。水の濁りを止めるはたらきがあるとされる。 補説出典には、このあとに尺水 しゃく すい は蕭 丘 しよう きゅう の熱を卻 しり ぞ く能 あた わず(わずかな水で は、絶えず火の燃えているという伝説の島の 熱をさますことはできない)とある。 寸進尺退 出韓愈上二兵部李侍郎一書 得るところが少なく、失うところが多いこと のたとえ。一寸だけ進んで一尺も退くという 意から。「尺退」は「せきたい」とも読む。 マすニ一寸。尺ニ一尺、一寸の十倍。 補説出典には「寸を進むれば尺せきを退き、 卒っに成す所無し(成功しない)」とある。 すんぜんしゃくま 寸善尺魔 世の中にはよいことは少なく、悪いことばかりが多いということ。また、よいことにはとかく妨げが多いということ。一寸の善と一尺の魔の意から。「すんぜんせきま」とも読む。類義好事魔多し。月に叢雲むら、花に風。 すんてつひところ 一寸鉄人を殺す 出鶴林玉露 短く鋭いことばで相手の痛いところをつくこ <346> と。小さい刃物で人を刺し殺すという意か ら。「寸鉄人を刺す」ともいう。マす鉄=ご く短い小さい刃物。転じて、人の胸を突く警 句、風刺。 英語Words hurt more than swords. とばは剣以上に人を傷つける 用例又著書に於おいても飄逸ひよう 奇突を極め て居るのは三醉人経綸問答さんすいじんけ いりんもんどうの一 篇いっである。此この書や先生の人物、思想、本 領を併せ得て十二分に活躍せしめて居るのみ ならず、寸鉄人を殺すの警句、冷罵れい、骨を 刺すの妙語、紙上に相踵あいぎ、殆んほとど応接に 遑いとまあらぬのである。幸徳秋水・文士と しての兆民先生 すんどすんきんつちいっしょうかねいっしょう 寸土寸金♩土一升に金一升433 すん これはかじよういた すにして之を度れば丈に至り かならたが て必ず差う 出淮南子 物を測るには、それにふさわしい尺度がある ということ。大きなものを一寸ずつ測ってい くと誤差がたまり、一丈になったときには大 きな差が出るということから。▷す=一寸。 丈=寸の百倍。 補説出典には、このあとに「銚しゅ(重さの 単位。一銚)にして之を称はかれば、石せき(重さ の単位。一石=一銚の四万六千八十倍)に至 りて必ず過あやまつ」とある。 のたとえ。短い鉄を切るのは、長い鉄を切る より難しいことから。マすニ一寸。 すの金を切ることなし 小さい物だからといって、あなどれないこと すん 力が しゃく の 元なんじ すを詘めて尺を伸ぶ 出 淮南子 小さな利益を犠牲にして、大きな利益を得る ことのたとえ。一寸の小さなものを曲げ縮 め、一尺もの大きなものをいっそう長く伸ば す意から。マすニ一寸。尺ニ一尺(一寸の十 倍)。 補説出典には「寸を詘めて尺を伸ぶれば聖 人之これを為なし、小すこしく枉まげて大いに直なお ければ君子之を行う(一寸縮めることで一尺 伸ばせるなら聖人もそうするし、少し曲げる ことで大部分がまっすぐになるなら君子はそ のようにする)とある。 類義 尺を枉げて尋じんを直なおくす。大の虫を 生かして小の虫を殺す。 すんすすしゃくしりぞ すを進まずして尺を退く 出老子ろうし こちらから挑戦して災いを招くようなことは しないということ。一寸前進するよりも、一 尺後退して衝突を避けるのが賢明であるということから。「尺」は「せき」とも読む。マ すニ一寸。尺ニ一尺。一寸の十倍。 補説出典には兵を用うるもの言える有り、 吾われ敢あえて主と為ならずして客かくと為る兵家 のことばには次のようにある。こちらのほう から攻撃をしかけるようなことはせず、受け る側にまわる。敢て寸を進まずして尺を退 くとある。 性相近し習い相遠し 出論語 人間の素質には大差はないが、その後の環境 によって大きな差がでるということ。教育の 重要性について孔子が述べたことば。∇性∥ 生まれつき。先天的な素質。習い∥生活を通 じて身につく習慣や教育など、後天的なもの。 井蛙の見 出荘子そうじ 狭い見識のたとえ。井戸の中にいる蛙 かえ は外 の広い世界を知らず、狭い物の見方しかでき ない意から。▷井蛙‖井戸の中にすむ蛙。転 じて、世間知らず、見識の狭い人の意。 類義井蛙は以もって海を語るべからず。井の中の蛙ず大海を知らず。 せいあもつうみかた 井蛙は以て海を語るべからず 出荘子そうじ 見識の狭い者には大きな道理は理解できない ことのたとえ。井戸の中しか知らない蛙 海の話をしてもわからないことから。▷井蛙 ‖井戸の中にすむ蛙。転じて、世間知らず、 見識の狭い人の意。 補説出典には井竈は以て海を語るべか らずとは、虚きよに拘とめらるればなり。夏虫 は以て氷を語るべからずとは、時に篤くめら るればなり。曲士は以て道を語るべからずと <347> は、教えに束っかねらるればなり(井戸の中に いる蛙に海のことを話してもむだなのは、そ の蛙が狭い自分の住みかにとらわれているか らである。夏の虫に氷のことを話してもむだ なのは、その虫が暑い夏しか知らずわずかな 時間に制約されているからである。見識の低 い人に大きな道理を話してもしかたないの は、その人が世俗の教えに縛りつけられてい るからである)とある。 類義夏虫は以て氷を語るべからず。井魚 は与ともに大を語るべからず。井の中の蛙 大海を知らず。井蛙の見。鍵の穴から天を覗 く。 生ある者は死あり 出揚子法言 生きている者は、いつかは必ず死ぬときがく る。生命は永遠のものではないということ。 「生ある者は必ず滅す」ともいう。 補説出典には「生有る者は必ず死有り、始 め有れば必ず終わり有るは、自然の道なり(生 命のある者は死を免れられない。始めのある ものは必ず終わりがある。これこそ自然の理 法である)」とある。 類義盛者必衰。生者必滅。 青雲の志 出王勃滕王閣序 徳を磨いて、立派な人物になろうとする心。 また、功名を立て立身出世をしようとする心。 マ青雲雲の上の高く晴れた空。高位高官の たとえ。 補説出典には「窮 しては且 に益 ます 堅か らんとして、青雲の志を墜 おと さず(貧乏して せいあるーせいこう いるときは、ますます意志を堅くし、高位高 官に栄進しようとする志をいつまでも捨てな いようにする」とある。 用例この雑誌の読者は、すべてこれから文 学を試み、天下に名を成そうという謂いわば 青雲の志を持って居ちれる。いささかの卑 屈もない。肩を張って蒼穹 を仰いでいる。 傷一つ受けていない。無染である。〈太宰 治◆困惑の弁〉 青雲の交わり 青雲の交わ 出書言故事 立身出世の志をいだいた者同士の交わり。高 い地位をめざして同時に仕官した者の交際。 補説出典には「江淹 えん いわく、袁叔明 えんしゅ くめい と余われと青雲の交わり有り。直たに杯酒を銜 ふくむのみに非ず(ただ酒を飲むだけの友人で はない)とある。 精衛海を塡む せいえいうみ うず 出山海経せんがいきょう 実現不可能なことを企てて、結局は徒労に終 わること。また、いつまでも悔やみ続けるこ と。∇精衛∥古代中国の想像上の小鳥の名。 故事)中国古代の伝説上の皇帝である炎帝の 娘の女娃 じょ あ が東海で溺れて死んだ。女娃はそ の恨みを晴らそうと精衛という鳥に姿を化 し、西山の木や石をくわえては東海に投げこ んで海を埋めてしまおうとしたが、果たすこ とはできなかったという伝説から。 西王母が桃 出班固漢武帝内伝 たいへん珍しく、手に入りにくいもののたと え。また、長寿のたとえ。 補説西王母(中国古代神話中の神女)が漢の 武帝に献じた桃は、三千年に一度花が咲き実 がなるという伝説から。また、西王母の庭の 桃を食べると不老不死になるといわれたこと から。 せいかたんでん 臍下丹田 へその下三寸のところにある体のつぼのこ と。漢方医学ではここに意識を集中して力を 集めると、健康を保ち勇気がわいてくるとさ れる。多く「臍下丹田に力を入れる」の形で 用いられ、物事に動じない、どっしりと落ち 着くという意。 せいが青眼 出晋書しんじょ 親しい人に対する親愛の情を表した目つき。 訪れた人を歓迎する気持ちを表す目もと。 青∥黒の意。 故事 晋 の阮籍 げん せき 竹林の七賢の一人は、 人と会うとき、自分の好ましい人には青い目 で、世俗的な礼節を尊ぶ人には上目使いに見 る白い目つきで会ったという。↓白眼視 はくが んし 520 せいけいとうりものいしたおの 成蹊↓桃李言わざれども下自ずから蹊 な を成す460 出蘇軾ー詩 自然の景色が雨天のときも晴天のときも、それぞれ趣があって美しくすばらしいこと。「雨奇晴好」ともいう。▷奇=ふつうと違ってすぐれていること。 <348> 補説詩の題名は湖上に飲む初め晴れ後雨 ふる』。詩の中の「水光瀲灩 として晴れ方 に好く、山色空濛 もうとして雨も亦 また 奇なり 広々と水をたたえた湖の景色は晴れわたっ ているのもすばらしく、山が雨にけむるのも、 またふつうと違って趣が深い)から出たこ とば。 せいこううどく晴耕雨読 田園で世間のわずらわしさを離れて心穏やか に暮らすこと。悠々自適の暮らしをいう。晴 れた日は畑を耕し、雨の日には家にこもって 読書をする意から。 せいこうもとひさおたいめい 成功の下久しく処るべからず大名の もともつひさおがた 下は以て久しく居り難し392 せいこくいせいこくうしな 正鵠を射る正鵠を失わず348 正鵠を失わず 的の中心を外さないこと。物事の要点や急所 を正確にとらえること。▽正鵠=弓の的の中 央にある黒い点。転じて、急所、ねらいどこ ろの意。「せいこう」とも読む。 類義正鵠を射る。正鵠を得る。的を射る。 ぜいさくあいい 出礼記らいき 林鑿桂容れず 出史記 物事がくい違ってかみ合わないことのたと え。四角いほぞは、まるい穴にはうまく納ま らない意から。△柄木を組み合わせるとき に、一方の材木の端に作る突起物。ほぞ。鑿 ‖ほぞを入れる穴。 補説出典には「方柄 ほう ぜい を持ちて円鑿 えん さく に内 いれんと欲するも、其れ能よく入らんや(四角 いほぞをまるいほぞ穴に入れようとしても入 らない)」とある。 類義 円鑿方柄。円孔方木 丸い器に角 の蓋ふた。 方円相蓋 あい おお わず曲直相入らず。 生殺与奪 生かしたり殺したり、与えたり奪ったりする こと。他人をどうしようと自分の思いのまま であること。絶対的な権力を手中にしている ことをいう。 類義 活殺自在。 出蘇軾ー詩そしょくし 青山骨を埋む 草木が青々と茂る山は、自分の骨を埋めるに ふさわしい所であるということ。男子たるも の、どの青山に骨を埋めてもよいという意。 マ青山草木が青々と茂る山。転じて、墓地。 補説詩の題名は『予事を以もって御史台 の獄に繋つながる、獄吏稍や侵され自ら度はかる に堪うること能あたわず、獄中に死し子由 一別するを得ざらんと、故ゆえに二詩を作り獄 卒梁成 が投獄され、最悪の事態を覚悟したときに、 弟の子由に心境を伝えた詩。 類義人間到る処青山有り。 西施江を愛し娯母鏡を棄つ せいしえあいぼぼかがみす 出梅園叢書 自分の長所にはうぬぼれ、短所には目をふさ ぐのが人の常であるというたとえ。美女は自 分の美しい姿を映せる水辺を好み、醜女は 自分の顔を見るのもいやだと鏡を投げ捨てる 意から。∇西施∥春秋時代の越えの美人。美 女の代表とされる。娯母∥中国古代の伝説上 の醜女で黄帝こうの妃とされる。 西施にも醜なる所有り せいししゅうところあ 出淮南子えなんじ 完全無欠な人間などいないというたとえ。反 対に、まったく取り柄のない人もいないということ。有名な美人の西施でも、どこかに欠 点があるということから。∇西施∥春秋時代 の越えの美人。美女の代表とされる。 補説出典には「桀けにも得事有り、堯ぎよに も遺道有り。嫫母ほにも美なる所有り(暴君 の桀にも少しはとるべき点があり、古代の聖 王である尭にも問題とされる点がある。醜女 の代表とされる嫫母にも美しいところがある はずだし)、西施にも醜なる所有り」とある。 せいしひそならひそなら 西施の顰みに倣う顰みに倣う546 成事は説かず 出論語 すんでしまったことについては、とやかく言 わないということ。▶成事‖すでに起きてし まったこと。過去のこと。↓既往 きおは咎とがめ ず170 文夫な足のこと。健脚。景勝の地をめぐり歩 濟勝の具 世説新語 せせつしんこ <349> くための道具という意から。△済勝=景色の よい所を渡り歩くこと。 補説出典には「許掾 あしこ して体は登陟 とうち よく に便なり。時人云いう、 許は徒ただに勝情有るのみに非あらず、実に済勝 の具あり、と(許掾は山や川に遊ぶのを好ん だ。それは高い山に登れるような敏捷 強い体があるからだ。人々は、許はただ風景 を愛し風流を好む気持ちのほかに、その丈夫 な足があるからだ、と言った)とある。 精神一到何事か成らざらん 出朱子語類 精神を集中して努力すれば、どんなに難しい ことでも成し遂げられるということ。精神力 の大切さをいったことば。 補説出典には「陽気の発する処金石も 亦 た 透とおる(陽の気が発動するところでは、 金や石も突き通してしまう)、精神一到何事 か成らざらん」とある。 類義石に立つ矢。一念岩をも徹とおす。思う 念力岩をも徹す。志ある者は事竟ついに成る。 英語It is dogged that does it.不屈の努 力をすれば事は成る」Nothing is impossi- ble to a willing heart.意欲的な心の持ち 主に不可能はない」 用例)その母はもと富家に出たが今、三月も 米代を支払えない貧困に処して少しも騒がず 常に精神一到何事力成ラザランという意気、 とより、むしろ猪突の勇の甚だ壮さんな婦人 であったという。〈佐藤春夫◆晶子曼陀羅〉 せいしんーせいちゅ せいじん 聖人に夢無し 聖人は心身ともに安らかであるから、常に安 眠して、つまらない夢など見ることはないと いうこと。「至人」に夢無し」ともいう。 出荘子そうじ 英語 A quiet conscience sleeps in thurn- der.心にやましいことのない者は、雷が鳴っ ているときでも眠れる」 せいじんかつきたまいだかつきたま 聖人は褐を被て玉を懐く掲を被て玉 いだ を懐く 146 せんじん せきへきとうと すんいん 聖人は尺壁を貴ばずして寸陰 出淮南子えなんじ を重んず 時間の大切さをいったことば。聖人は大きく て立派な宝玉よりも、わずかな時間を大切に するという意。「聖人は尺の璧たまを貴ばずし て寸の陰を重んず」ともいう。∇尺璧∥直径 一尺もある宝玉。寸陰∥ほんのわずかな時 間。 補説出典には「聖人は尺の壁を貴ばずして 寸の陰を重んず。時の得難くして失い易やすけ ればなり(時間は手に入れるのが難しく、失 いやすいからだ)」とある。 清水に魚棲まず みずきよ うおす 水清ければ魚棲まず 618 度量の大きいことのたとえ。善人も悪人も差別しないで来るがままに受け入れること。大 清濁併せ呑む 海は清流も濁流も同じように迎え入れる意か ら。マ清濁=清流と濁流。清流を善人に、濁 流を悪人にたとえて言ったもの。 英語 Take the rough with the smooth. すべすべした(良い)物と一緒にざらざらし た(悪い)物も受け入れよ 用例キリスト教国でもない日本人がクリス マスを祝うのはケシカランなぞとヤボなこと はいわない方がよい。すべて興隆する民族は 清濁合せのむものであり、また清濁合せのみ つつある時に興隆しているものである。坂 口安吾◆明日は天気になれ) 成竹を胸中に得 出 蘇軾文与可画簣簀谷偃竹記 あらかじめ心の中に計画を立て、十分な成算 をもっていることのたとえ。「胸に成竹あり」 ともいう。また、単に「成竹」ともいう。△ 成竹=完全な竹の姿。転じて、かねてからの 考え。成算。 補説出典には「竹を画くには必ず先まず成 竹を胸中に得て、筆を執とりて熟視す(竹の絵 を描くときは、まず心の中に完全な竹の姿を とらえ、筆を手にそれを熟視しなければなら ない」とある。 せいちゅうほしみみ 井中星を視れば視るところ すうせいす 数星に過ぎず 出尸子 狭い見識では、全容を正しく判断することができないというたとえ。井戸の中から星を見 <350> せいていーせいねん れば、多くの星の中の数個しか見えないということから。 類義井に坐ざして天を見る。井に入って天 を望めば円蓋 えん がい に過ぎず。 せいていかわずいなかかわずたいかいし 井底の蛙◡井の中の蛙大海を知らず72 せことしそん 急いては事を仕損じる 物事はあせるとやり方が雑になったり注意力 が散漫になったりして失敗しやすいというこ と。気がはやるときほど落ち着いて考えて行 動すべきであるという戒め。「急いては事を 過あや まつ」ともいう。 類義急がば回れ。走れば躓づまく。近道は遠 道。待てば海路の日和あり。早まる烏 子一つ。 に合わぬ。善は急げ。 対義 先んずれば人を制す。急かねば事が間 英語 Haste makes waste. [性急はむだを生む] The more haste the less speed. [急げば急ぐほど遅くなる] 用例「まて、まて、せくでない、せくでない、せいては事をしそんじる。とかく、こういうときは、あれだ、あれだ、右門のだんなをまねるわけじゃねえが、あごをなでると奇妙に知恵がわくものなんだ。大船に乗った気でいろ。いまにぱんぱんと眼がんをつけてやるからなー」〈佐々木味津三◆右門捕物帖〉 昔天の霹靂 予期しない突発的な大事件、人を驚かす大変 動のたとえ。晴れた青空に急に起こった雷鳴 出陸游ー詩し の意から。「晴天の霹靂」とも書く。▽霹靂 =激しい雷鳴。もとは、筆勢ののびやかで動 きのあることを形容して言った。 補説詩の題名は九月四日鶏未だ鳴か す起きて作る」。「放翁 を過ごし、忽 たち ち起たちで酔墨 を作す。正 に久蟄 きゅう の竜の如く、青天に霹靂を飛ばす (陸放翁は病気になり秋を過ごしたが、急に 起き上がり、酔った勢いで筆をふるった。そ れはちようど長い間地中にひそんでいた竜の ように、青空に雷鳴をとどろかせる勢いで あった」とある。 青天白日 出韓愈ー与二崔羣一書 よく晴れわたった青空と日の光。転じて、後 ろめたいところがまったくないこと。潔白な こと。また、無実であることがわかること。 マ青天=晴れた青空。白日=輝いて白い太 陽。 注意「青天」を「晴天」と書くのは誤り。 用例捜査の手がゆるんだといっても、落ち 武者の身で青天白日のもとを往来するわけに はゆかない。なんとか姿を変える必要がある。 岡本綺堂夢のお七 盛世の土は乱世に疏んぜらる 乱世では道徳観念も乱れてしまうので、徳の ある立派な人物はかえって遠ざけられてしま うということ。△盛徳∥すぐれて立派な徳。 補説出典には「夫それ美女は醜婦 しゅ うふ の仇あだ 出説苑ぜいえん なり(美しい女性は醜い女性から目の仇 かた き に される)。盛徳の士は乱世に疏んぜられ、正 直 せいち よく の行いは邪枉 じゃ おう に憎まる(正しく道理に かなった行いは、よこしまで心がねじけてい る者に憎まれるのである)とある。 性に率う、 これ みち い を道と謂う 出中庸ちゅうよう 天から与えられた性質にしたがって行動する ことを、道というのだということ。 補説出典には「天の命ぜる之を性と謂い(天 の命令により与えられた人間が拠よりどころ とすべき生まれつきのものを性といい)、性 に率う之を道と謂い、道を脩おさむる之を教 と謂う(道を修めるのが教えである)」とある。 せいねんかさきた 出陶潜ー詩 盛年重ねて来らず 若く元気のよいときは二度と来ないから、今 をむだにすることなく、勉学に励まなければ いけないという教え。もとは、二度と来ない 若いときを思い切り楽しんでおくべきだという 意。 補説詩の題名は『雑詩 に一日 いち じつ 再び晨 あし た なり難し、時に及んで当 まさ に勉励すべし、歳月人を待たず」と続く。 詩の全体は「人の命は風に舞い上がる路上の 塵ちりのようなもので、あちこち吹き飛ばされ ていつ終わりを迎えるかわからない。そんな 世に生まれたわれわれは皆兄弟のようなもの である。喜びたいときには近所の人を集め酒 を飲んで楽しもう。一日に二度朝がないよう <351> に、若いときも二度ないのだから、機会ある ごとに楽しむべきだ。年月は過ぎていくだけ で待ってはくれない」という意。 英語Time lost cannot be recalled.失わ れた時は取り戻せないYou shall never be younger.若返ることは決してできない せいねんひゃくみつねせん 生年百に満たざるに、常に千 ざいうれいだ 歳の憂いを懐く 出文選 よけいなことまで心配するのは愚かであると いうこと。人間は百歳までも生きられないの に、いつも千年後のことまで心配している意 から。 補説詩の題名は「古詩十九首」。出典では、 このあとに「昼は短きに夜の長きに苦しむ、 何ぞ燭くを乗りて遊ばざる。楽しみを為なす は当まさに時に及ぶべし、何ぞ能よく来兹らいを 待たん(昼が短いわりに夜の長いのに苦しむ なら、灯火を手にして夜も遊んだらよいでは ないか。楽しみを求めるなら時を失わないよ うにするべきだ。どうして来年などというあ てにならない時を待っておられようか」と 続く。 生は難く死は易しせいかたしやす 苦しさに耐えて生きることは難しく、苦しさ から逃れるために死を選ぶのは簡単であると いうこと。自分の命を絶つことによって事態 の解決をはかろうとする態度を戒め、生命の 尊さを教えることば。 生は寄なり死は帰なり せいねんーせいりつ 出淮南子えなんじ 生きているということは、仮にこの世に身を寄せているにすぎず、死ぬことは、本来いるべきところに帰ることであるということ。 補説)中国古代の伝説上の聖王禹帝いが長江を渡ろうとしたときに、竜が舟の下にもぐり、舟をくつがえそうとしたのに対して言ったことば、「我命めいを天に受け、力を竭っくして万民に労わる(私は天帝の命を受けて万民のために力を尽くしてきた)。生は寄なり死は帰なり。何ぞ以て和を滑みだるに足らん(どうして心の和を乱すに足りようぞ)から。 清白を子孫に遺す 出後漢書 清廉潔白の美風を子孫に伝えること。 マ清白 行いがけがれなく清らかなこと。 故事後漢の楊震は官職にあっても常に 清廉潔白でありご機嫌伺いに来る人も断り、 車にも乗らず、常に質素であった。子供たち にもぜいたくをさせず、食事も粗末でつつま しい暮らしをしていた。知人が見かねて諫いさ めると、楊震は「後世をして称して清白吏の 子孫と為なさしめん。此これを以もってこれに遺 のさば亦また厚からずや(後世に清白な役人の 子孫であると呼ばれることこそ、子孫への手 厚い遺産である」と言ったという。 せいなおたんすい 性は猶湍水のごとし 出孟子 人の本性は善にも悪にもなり得るというこ と。人間の生まれながらの性質は、渦を巻いて流れる水のようなものであるという意。△湍水ニ渦巻きながら流れる水。 補説孟子の「性善説」や荀子の「性悪説」に対抗して「性は善もなく不善もなし」という立場をとる告子に「渦巻いている水は方向が決まっていないから、これを東に切って落とせば東に流れ、西に切って落とせば西に流れていく。人間の本性もこれと同じで、初めから善悪の区別があるわけではない。人為でどのようにもなるものだ」というもの。 りて賢し322 清風故人来る 清 出杜牧詩 秋になって涼しい風が吹いてくるのは、旧友 が訪ねてくれたように気持ちがよいというこ と。秋の到来をいうことば。▶故人‖旧友。 補説詩の題名は『早秋』。「大熱酷吏り 去り(猛暑が無慈悲な役人のように通り過 ぎ)、清風故人来る」とある。 青蠅白を染む せいようはくそ 青 出丁儀 小人が潔白な君子を中傷しけがすたとえ。青 ばえが白い物にたかって黒く汚す意から。 青蠅素そに点ず」ともいう。 成立の難きは天に升るが如し せいりつかたてんのぼごと 出新唐書 物事を成功させるのは、天に昇るように難し <352> いことだということ。 補説出典には、このあとに「覆墜ふくの易やす きは、毛を燎ゃくが如し(失敗するのは毛を焼 くように容易なことである)」とある。唐の 柳玭りゅうが家訓として、名門を維持すること の難しさについて子弟を戒めて述べたこと ば。 声涙俱に下る 出晋書しんじょ 感情がきわまって、涙ながらに語るようす。 せいえそわす 精を得て麤を忘る 出列子 物事の真髄をつかんで、本質的ではないこと は忘れてしまうこと。本質だけをとらえ、外 形などにとらわれないことのたとえ。一番す ぐれた点をつかまえて、できの悪さは心にか けない意から。∇麤=「粗」と同じで、粗末 なもの。 補説出典には「其その精を得て其の麤を忘 れ、其の内を在さっして其の外を忘る(その内 面的な出来を明らかにし、外面的な形などは 問題としない」とある。 故事)中国、秦しんの穆公 ほくが、馬の名人伯楽 の推薦する九方皐 きゅうほ うこう に馬を買いに行かせ た。三か月して帰って来た皐は名馬を手に入 れたと報告し、「牝めすの黄色い馬です」と答 えた。穆公が馬を見ると牡おすの黒い馬だった ので、伯楽に文句を言ったところ、伯楽が「皐 は精を得て麤を忘れるほど馬の鑑定に熟達し ているので、名馬としての先天的本質だけを 見て、毛の色とか牡牝などといった末梢的な ことには目をつけていないのです」と答えた。 果たして、引き出された馬は天下の名馬で あった。 せいおも 生を重んずれば則ち利を軽んず 出呂氏春秋 生命を大事に考えるならば、生命を害しやす い利欲はあとまわしにするということ。 せい生を偸む 出李陵答蘇武書 命を惜しみ恥をしのび、ただいたずらに生き ていること。かりそめに生きながらえる。ま た、からくも生きながらえる。 補説出典には「子卿い、陵を視みるに、豈あ に生を偸むの土にして死を惜しむの人ならん や(あなたから見て、私が生きることに執着 して死を恐れる人に思えるでしょうか」と ある。 せいみ しごと 生を視ること死の如し 出列子 生死を超越して、心を苦しめないこと。生死 にこだわらない聖人の境地をいったもの。 補説出典では、このあとに「富めるを見る こと貧しきが如く、人を視ること豕しの如く、 吾われを見ること人の如し貧富の別、人と家 畜の別、自分と他人の別などは立てなかっ た」とある。 積悪の家には必ず余殃あり せきあくいえかならよおう 出易経 悪事を積み重ねた者の家には、その報いで必 ず子孫にまで災いが及ぶという戒め。「積悪 の余殃」ともいう。△殃∥災い。「余殃」は、 子孫にまで及ぶ災い。 補説出典には「積善の家には必ず余慶あり (善行を積み重ねてきた者の家では、その報 いとして、必ず子孫にまで及ぶ幸福がある)、 積不善の家には必ず余殃あり」とある。 類義 善には善の報い、悪には悪の報い。悪 因悪果。 席暖まるに暇あらず 出韓愈ー争臣論 一か所に腰を落ち着けている暇もないほど、 非常に忙しいこと。座った席が暖まる間もな く、また立って行くことから。「席暖かなる に暇あらず」ともいう。 補説出典には「禹ぅは家門を過ぎて入らず、 孔こう席暖まるに暇あらずして、墨突黔くふむを 得ず(治水の仕事で全国を走り回った中国古 代の聖王禹は、家の門前を通り過ぎても中に 入らず、孔子は諸国を遊説するのに忙しくて 座席が暖まるほどの時間もなく、また思想家 の墨子は家にいないため煙突が黒くなること もないほど多忙であった)とある。この語 は班固はんの「賓の戯れしに答う」にある「孔 席は暁たかならず、墨突は黔くふからず」に基 づく。 類義孔席暖まらず墨突黔くろまず。 用例ほとほと半蔵には席の暖まるいとまも ない。彼は店座敷たなざの障子のわきにある自 分の旧ふるい桐きりの机の前に坐すわって見る間も <353> なく、またその座を立って、宗太へ譲るべき 帳面の類たぐなぞ取り纏まとめにかかった。〈島 崎藤村◆夜明け前〉 せきいんつつみうがよいちゆうただよ 尺蚓堤を穿てば能く一邑を漂 わす 出劉子新論 わずかな油断から大事を引き起こすことのた とえ。小さなみみずが堤防に穴をあけただけ でも、そこから堤防が切れて一つの村全体が 水びたしになる意から。△蚓=みみず。「尺 蚓」はここでは小さなみみず。邑=村。 類義蟻ありの穴から堤も崩れる。千丈の堤も 蟻の一穴けっから。 外◆細木香以 せきうふね しず積羽舟を沈む 小事も積み重なれば大事を引き起こすという たとえ。羽のように軽いものでも、たくさん 積めば舟を沈めるほどになるということか ら。 出戦国策 補説出典には、このあとに「羣軽 ぐん けい 軸を折 る(軽い荷物でもたくさん積み重ねると車の 軸を折ってしまう」とある。 類義塵ちりも積もれば山となる。 赤手を以て江河を障う せきしゅもっこうがささ 広く深い学識を持つ大学者のこと。△碩学∥ 大学者。「碩」は大きい意。大儒∥すぐれた 儒者、大学者。 せきがくたいじゅ 碩学大儒 用例 碩学大儒の哲学者王たるべきが如 く、批評家王たるべきものもあろう。〈森鷗 出庾信ー擬連珠ゆしんぎれんじゅ せきいんーせきしん 独力で大事業を行うたとえ。また、不可能な ことのたとえ。素手で大河の流れをせき止め るという意から。△赤手=素手。江河=大き な川。長江と黄河。 補説出典には「大廈 たい か 既に焚やくれば之これ に灑そぐに涙を以もってすべからず、長河一た び決すれば之を障ささうるに手を以てすべから ず(大きな建物が燃えていれば涙で消すこと はできず、大きな川がひとたび決壊すれば手 でせきとめることはできない)」とある。表 出の語は『日本外史』にある。 類義一簣いっきを以て江河を障う。 せきじょう赤縄 夫婦の縁を結ぶという赤い縄。転じて、夫婦 の縁のこと。「赤縄の因を結ぶ」の形で使わ れることが多い。 補説唐との青年韋固いこが旅で会った老人か ら赤い縄を渡され、これで男女の足を結べば 夫婦となることができると予言されたという 話から出たことば。故事は『続玄怪録 ぞくげん かいろく にある。 類義 月下氷人。 生えない意から。 五穀=主要な穀物の総 称。 世きじようここくしょう 石上に五穀を生ぜず 出淮南子 物事が生ずるには、それにふさわしい条件が 必要であることのたとえ。石の上には穀物は 補説出典には、このあとに「禿山 ざんに麋鹿 びろ 遊ばず、陰蔽ぐいする所無ければなりはげ 山には大鹿や小鹿は走り回らない、身を隠せ る場所がない所では生き物は生きられないか らである」とあり、為政者の目が厳しすぎ ると、民衆は萎縮してしまうことを警告して いる。 出春秋左氏伝 析薪を食。 父祖の事業を子孫が継いで立派にやっていく ことのたとえ。父が薪を割り、子がそれを背 負う意から。△析薪=薪を割ること。 補説出典には「古人言える有り、日いわく、 其その父薪を析さき、其の子負荷する克あたわず 昔のことばに、父は薪を切ってかせいで家 を興したのに、子は無気力で、それを背負っ て維持していくことができない)」とある。 赤心を推して人の腹中に置く 出後漢書ごかんじょ 真心をもって人に接し、相手を信じて少しも 疑わないこと。自分の真心を外に出して相手 の腹の中に置く意から。△赤心=真心。誠 意。 補説出典には「蕭王 しよう おう (光武帝)赤心を推 して人の腹中に置く、安いずんぞ死に投ぜざる を得んや(蕭王は、自分が真心をもっている ことから推測して、他人も同じことだと思っ て疑わない。どうして死を覚悟して尽くさな <354> せきすいふちなせきどやまな 積水淵を成す 積土山を成す 354 せきぜんいえかならよけい 積善の家には必ず余慶あり 出易経 善行を積み重ねてきた者の家には、その報い として必ず子孫にまで及ぶ幸福があるという こと。「積善の余慶」ともいう。△余慶=先 祖の善行のおかげで子孫が受ける幸福。 なる。 補説出典には、このあとに「積不善の家に は必ず余殃 あり(不善の行いを積み重ねた 者の家では、必ずその報いとして、子孫にま で災いが及ぶ)とある。 類義 善には善の報い、悪には悪の報い。 せきそごのういちぎな 石鼠五能一技を成さず 多芸だがどれも未熟で、一つも秀でたものを もたないこと。昆虫の「けら」は、飛ぶ、よ じ登る、泳ぐ、穴を掘る、走るという五つの 能力をもっているが、どれ一つとして特別う まいわけではないことから。△石鼠=螻蛄 の異名。 類義多芸は無芸。螻蛄才。 積土山を成す 学問や道徳は、小さいことを積み重ねていっ て立派なものになるというたとえ。少しの土 でも、積み上げれば高い山になるということ から。 出荀子じゅんし 席の暖まる暇もない 類義積水淵ふちを成す。塵ちりも積もれば山と 忙しくてゆっくり席についていられないほど であるようす。席に座る時間がないので席が 冷たいままであることから。「暇」は「いとま」 とも読む。「暖まる」は「温まる」とも書く。 「席暖まるに暇いとあらず」ともいう。 類義孔席暖まらず墨突黔まず猫の手も 借りたい。盆と正月が一緒に来たよう。 対義閑古鳥が鳴く。 用例都を二十四日に脱出された天皇には、 途上の難行のうえ、着御 ちゃく ぎよ のあとも、ほと んど、席のあたたまる暇はなかったことにな る。〈吉川英治◆私本太平記〉 出戦国策 せきいぬぎよう 跖の狗堯に吠ゆ 主人のために忠義を尽くすのは、必ずしも主 人の理非善悪を判断した上でのことではない というたとえ。盗賊の跖に飼われている犬 は、主人である跖には吠えないが、他人であ れば聖天子の尭にでも吠えつくということか ら。△跖∥中国春秋時代、秦しの大盗賊。盗 跖せき尭∥中国古代の伝説上の聖天子。 補説出典には「跖の狗堯に吠ゆるは、跖を 貴んで堯を賤いやしむるに非あらざるなり。狗は 固もとより其その主に非ざるに吠ゆるなり(盗跖 の飼い犬が、堯を見て吠えるのは、跖を貴び 堯を卑しんでそうするのではない。犬はもと もと、自分の主人でないものには吠える習性 をもっているからだ」とある。 類義桀けの犬堯に吠ゆ。 咳払いも男の法 わざとらしい咳払いをして人の注意を引いた り威厳を示したりするのも、男の世渡りに必 要な身のこなしの一つであるということ。 せんてつそうだん 赤貧洗うが如し 出先哲叢談 洗い流したように何一つ持ち物がなく、ひど く貧しいこと。△赤=裸で、何もない。 補説出典には「初め居きょを芝街しがにトぼくす。 時に赤貧洗うが如く、舌耕ぜっ殆ほとど衣食を給 せず(住居を芝の町に選んで定めた。きわめ て貧しく、書物の講義の謝礼ぐらいでは、ほ とんど衣食をまかなうことはできなかった」 とある。 類義貧、骨に到いたる。 用例あなたはびんぼうの本当の味を知らないからそんな夢を見ているのですよ赤貧洗うが如しというその赤貧の本当のびんぼう加減を知っていますか?米もなしおさいもなし味噌もなし炭もなしむろん一枚の紙幣もなし竹の子に出す一枚の着物もなし電灯料が払えないから夜は真暗で寝るし夏になっても蚊帳がなし病気になっても薬が買えないとない物づくしの生活を赤貧というのです。片山広子赤とピンクの世界 せんれいげんあけいていなんきゅう 鶴鴿原に在り、兄弟難を急に 出詩経しきよう 兄弟の間に急な困難があれば、なんとしても 互いに助け合わなければならないという教 <355> え。鶴鴿は水鳥であるが、所を失って原にい て鳴いていることで兄弟が相随 あいし たがっ て艱難を 共にすることを言いおこしたもの。△鶴鴿 水辺にすむ小鳥。「脊令」とも書く。 補説出典では、このあとに「毎つねに朋友ほう有 るも況まず永く歎なぼくつねには良き友がいて も危急のときは親身になってくれず、ただ同 情の言葉をかけて嘆息するばかり」とある。 類義鴿原れいげんの情。 せけんし 世間知らずの高枕 世の中の動きを知らないで、平気でのんびり と暮らしていること。世情にうとく、世間の ことを知ろうともせず暮らす者への皮肉のこ とば。▶高枕‖枕を高くして眠ること。何の 心配もなく安眠する意。 類義知らぬが仏。 せけんくちとたひとくち 世間の口に戸は立てられぬ♩人の口に とた 戸は立てられぬ554 せけん世間は張物 世間を渡るには、ある程度の見栄を張るのも 必要だということ。また、人はみな見栄を 張って生きているので、外見にだまされては いけないという戒め。「世は張物」ともいう。 ▶張物=芝居の大道具で、木材を骨にして紙 や布などを張ったもの。 類義 内裸でも外錦。世間は飾り物。 世けんひろ せま 世間は広いようで狭い 思いがけない所で知人に会ったり、だれもい ないと思ってした行為を知人に見られていた りするように、世の中は広いようで、意外に 狭いものであるということ。「世の中は広い ようで狭い」ともいう。 せけんしーせっかく せん交わりを結ぶに黄金を須 う 出張謂ー詩 世間の人は、人と交際するのに金銭の力を基 準にするということ。金銭の多少で交際の深 さが決まる、欲得ずくで軽薄な人情を嘆いた ことば。 補説詩の題名は長安壁主人に題す。 せすじ 背筋が寒くなる 恐ろしさや気味悪さのあまりぞっとする。恐 怖にかられると背中がぞくぞくするような感 覚に襲われることから。∇背筋∥背中の中心 線。 類義鳥肌が立つ。肌に粟あわを生ず。歯の根 が合わない。身の毛がよだつ。 用例三人のものが天井へ上って蠟燭 ひによってながめた光景は実に戦慄すべきも のであった。その三人のものは、今でも、あ の時のことを思うと背筋が寒くなるといって 居る。〈小酒井不木◆血の盃〉 出荀子じゅんし 是是非非 客観的に公平無私な立場で善悪を判断すること。正しいことは正しいとして認めて、悪いことは悪いと反対すること。△是∥正しいこと。よいこと。非∥悪いこと。道理にあわな ここへ。 補説出典には「是を是とし、非を非とする、 之これを智ちと謂いう。是を非とし、非を是とす る、之を愚と謂う」とある。 注意自分の考えをもたず、他人が是とした ものを是とし、非としたものを非とする日和 見主義の意味で使うのは誤りである。 類義 墨は墨、雪は雪 世たいぶっぽうはらねんぶつ 世帯仏法腹念仏 信仰も結局は現世の生活のためのものである ということ。僧が仏法を説くのも念仏を唱え るのも、世帯を維持し腹を満たすためのもの であるということ。「腹念仏」は「はらねぶつ」 とも読む。 類義 仏法も腹念仏。鼻の下くう殿建立 でんこん。 りゅう 切匙で腹を切る できるはずのないことのたとえ。木でできた 切匙で切腹する意から。マ切匙ニすり鉢の内 側についた味噌などをかき落とすのに使う、 しやもじを縦半分に切ったような形の道具。 類義杓子しで腹を切る。連木れんぎで腹を切 る。擂粉木すりこぎで腹を切る。竿竹さおだけで星を打 つ。杵きねで頭を剃そる。 せっかく折角 出漢書・後漢書 高慢な人をやりこめること。また、意味のな いことをわざわざするためとえ。 故事 中国、漢の朱雲が当時易学者としてひ とり権勢のあった五鹿充宗 ごろくじ ゆうそう と易を論じ、 <356> しばしばやりこめたので、その当時の人々が、 朱雲が五鹿の角つのを折ったとしゃれて言った (漢書)という故事から前者の意、後漢の郭太 かくが外出中に雨にあい、頭巾ずきの一角が折れ てくぼんでしまったところ、彼を尊敬し親し んでいた当時の人々がこれをまねて、わざわ ざ頭巾の角を折ってかぶることが流行した (後漢書)という故事から後者の意がそれぞれ 生じた。 尺蠖の屈するは伸びんがため 出易経 将来大きく飛躍するためには、しばらくがま んして時機を待つことも必要であるというこ と。尺取り虫が体を縮めるのは、次に体を伸 ばして前進するためであるという意から。マ 尺蠖‖尺取り虫。「しゃっかく」とも読む。 せっかこうちゅうこみよ 石火光中此の身を寄す 出白居易ー詩 人の寿命の短くはかないことをいう。火打ち 石を打って飛ぶ火花ほどの短い時間だけこの 世に身を置いているという意から。 補説詩の題名は酒に対す。 類義人の短生猶なお石火のごとし。 せっかん 折檻 出漢書 君主を強く諫いさめること。転じて、きびしく 意見して責めること。とくに、体罰を加えて こらしめること。もとは、欄干が折れる意。 檻 欄干。 故事)中国、漢の成帝のとき、張禹ちは天子を教導する役で権勢をふるっていたが、主君の非を正さずこびへつらっていたため、剛直の士の朱雲が張禹を斬るよう成帝を強く諫めた。すると、帝は張禹を侮辱したとして激怒し、役人たちに朱雲を捕らえさせようとした。朱雲はなおも諫めつづけ宮殿内の欄干にしがみついたため折れてしまった。のち、帝はその折れた所を取り替えさせず朱雲の直言を後世に示せと言った。 節季の風邪は買ってもひけ 盆暮れの忙しい時期でも、病気であれば公然 と休めるから、金を出して買ってでも風邪を ひいたほうが得だということ。∇節季∥盆や 年末の決算期。 積毀骨を錐す 出史記 大勢の人が口をそろえて言うそしりは、強い 信念をもつ人をも、最後にはそう思わせるほ ど恐ろしいものだということ。度重なる讒言 ざんは堅い骨さえ溶かしてしまう意から。▷毀 げん ∥そしり。讒言。銷す∥とかす。消す。 補説出典には、この前に「衆口は金を鑠と かし」とある。多くの人のことばは金属でさ えも溶かしてしまう意で、ともに、陰口・そ しり・うわさなどが重なると大きな威力とな り、恐るべきものであることをたとえたもの。 せっくだおやくれい 節供倒しは薬礼になる みんなが仕事を休むときは、休むのがよいと いうこと。人が休む節供の日に働いても、健 康を害して医者にかかり、稼ぎは薬代に消え てしまうのが関の山であるということから。 ▶節供倒し‖村全体の休日である節供に一人 だけ忙しそうに働くこと。薬礼‖医者への支 払い。薬代。 類義怠け者の節供働き。 出戦国策 せっけん席巻 他国の領土を片っぱしから攻め取ること。転 じて、激しい勢いで勢力を伸ばすこと。また、 一物も余さず持ち去ることにもいう。ござや むしろを巻き取るように、土地を攻略する意 から。「席捲」とも書く。∇席∥ござ。むし ろ。 用例いつかまだ吉本が今日のように東京興 行界を席巻しない以前、早くもそこへ身売り して行った芸人に芸人魂のあるのはいないと 放言したことがある。金語楼 きんご、 小文治 こぶ、 んじ 山陽、三亀松 みき、 こうならべただけで、心あ る人はうなずくだろう。〈武田麟太郎◆落語 家たち〉 出詩経しきよう せっさたく切磋琢磨 学問・人徳や技芸などをみがき上げること。 また、仲間同士が互いに励まし合い、競い合つ て共に向上すること。∇切∥獣骨や角を加工 するとき、まず刀斧ふで切り刻むこと。磋∥ やすりやかんなで骨角を磨くこと。琢∥玉石 を槌つちとのみで刻むこと。磨∥それを沙石で 磨くこと。他にも諸説ある。 補説つねに自分を戒め切磋琢磨した君子、 <357> 衛えい(周う代の諸王国の一)の武公を讃えた詩 の中のことば。出典には「匪ひたる君子有り、 切するが如く磋するが如く、琢するが如く磨 するが如し(教養に富み、うるわしいわが君 子は、骨や象牙をきざむように、玉や石をみ がき上げるように人格をみがかれ、おごそか に心広く、かがやくばかりに立派で堂々とし ています)」とある。 用例 おれは詩によって名を成そうと思いな がら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交 わって切磋琢磨に努めたりすることをしな かった。〈中島敦◆山月記〉 切歯扼腕 出史記・戦国策せんごくさく 非常にくやしがったり、怒ったりすることの 形容。△切歯=歯ぎしりをすること。扼腕= 腕をにぎりしめること。 用例このアフガニスタンでのヘンダスンの 劇的活躍こそは、ドイツ特務機関をして切菌 扼腕させたもので、この事件があってから、 ヘンダスンの身辺はたびたび危険を伝えられ た。〈牧逸馬◆戦雲を駆る女怪〉 を配るのに勝る健康法はないということ。 補説 英語のことわざ Temperature is the best physic.の訳語。 雪一策力 災いなど悪いことが重なるたとえ。余計なお せっかいにもいう。雪の白の上に霜の白を加 える意から。 雪上霜を加う 類義雪の上に霜。土上に泥を加う。屋下に 屋を架す。 出景徳伝灯録 類義腹八分に医者いらず。 対義好物に崇たりなし。 せっせい さいりようくすり 節制は最良の薬 日ごろから体に悪いことを慎んで、健康に気 せっしゃーせっちん ぜったいぜつめい 絶体絶命 進退きわまった、どうしようもない状態。追いつめられて切羽詰まったさまをいう。△「絶体」も「絶命」も、九星きゅう占いでいう破滅を招く凶星の名前。 注意「絶体」を「絶対」と書くのは誤り。 用例愛は尤も真面目なる遊戯である。 遊戯なるが故に絶体絶命の時には必ず姿を隠 す愛に戯たわるる余裕ある人は至幸である。 〈夏目漱石◆野分〉 雪駄の裏に灸 雪駄の裏に灸をすえると、長居する客が早く 帰るというまじない。△雪駄=竹皮草履の裏 に革をはった履物 はきo もの 類義 草履に灸。 箒 ほう き を逆さに立てる。 雪駄の土用干し そっくり返って威張っているものをからかう 言葉。雪駄は日に干すとそり返ることから。 ∇雪駄=裏に革をはった竹の皮の草履。土用 干し=夏の土用の日に行う虫干し。「土用」 は立春・立夏・立秋・立冬の前の十八日間。 雪中の松柏 出謝枋得詩 志や節操・主義を堅く守ること。また、人の 値打ちは困難に出あってはじめてわかるたと え。松や柏は雪の中でも葉の色を変えないこ とから、時代の流れが変化しても節操を変え ない人にたとえた。∇柏∥このてがしわ。 補説詩の題名は初めて建寧に到りて賦 ふするの詩』。「雪中の松柏愈いよ青青たり(松や 柏は雪の中でも色を変えず、ますます葉の色 が青々としている」とある。 類義 歳寒くして、 然る後に松柏の彫 しぼ むに 後 おく るることを知る。 雪中の筍 あり得ないこと、得がたいもののたとえ。ま た、きわめて孝心が深いたとえ。 故事)中国三国時代、呉の孟宗 もう (二十四孝 の一人)が母の好物のたけのこを求めて冬の 竹林に入ったところ、天がその孝心に感じて たけのこを生やし、得ることができたという 故事による。 雪隠で饅頭 人にかくれて自分だけがよい思いをすること。食欲を満たすのに場所を選ばないたとえにもいう。便所でこっそり饅頭を食う意から。また、汚い所でうまい物を食べても気持ちが悪いことから、正しくない金品は受け取らない意。△雪隠∥便所。 類義雪隠で米を噛かむ。 雪隠の錠前 咳せばらいをすること。昔、便所の中で咳ば らいをして、あとから来た人に使用中である <358> せっでいーぜになし ことを知らせたことから。△雪隠∥便所。 せつでいこうそう 雪泥の鴻爪 出蘇軾ー詩そしよくし 人の行いや事業などがはかないものであるた とえ。人生のはかないさまのたとえ。おおと りが雪どけのぬかるみに残した爪跡はすぐに も、どの方向に飛び去ったのかわからない意 から。△雪泥=雪どけのぬかるみ。鴻=おお とり。 補説詩の題名は子由の澠池 あん に旧を懐 ち おも う和わす。 せつない時の神叩き かみたた くる とき かみだの み209 せつない時は茨も掴む湯れる者は藁 つか をも掴む119 せつない時は親 苦しくなったとき、頼りにするのはやはり親 であるということ。また、苦境に立ったとき、 親を口実に使って逃れること。 類義苦しい時には親を出せ。 窃鉄の疑い 何の証拠もなく人を疑うこと。疑い出すとき りがないことのたとえ。△窃=盗む。鉄=斧 おの。まさかり。 出列子れっし 故事 斧をなくした人が、盗まれたと思いこ み、隣の子に疑いをかけた。すると、歩くよ うす、顔色、ことばづかい、一挙手一投足ま で怪しく見えた。ところが間もなく斧が出て きて疑う気持ちが晴れ、隣の子を見ると、こ んどはどこからその子を見ても疑わしい点は 一つもなかったという故事から。 類義疑心暗鬼を生ず。 せつ節を折る 自分の主義や主張を変えて、人の意見・考え に従う。また、人の下にいてがまんする。「節 を屈する」「節を曲げる」ともいう。▷節‖ 節操。 出戦国策 対義 節を全 まっ と うする。 せっ まも 拙を守る 出陶潜ー詩とうせんし 世渡りが下手な自分の生き方を自覚し、利を 追求することをよしとせず、自分自身の生き 方をつらぬくこと。 補説詩の題名は『田園の居きょに帰る』。役 人生活を嫌って故郷に帰り、田園生活に戻っ た心境をうたったもの。「荒こうを開く南野 の際きわ、拙を守りて田園に帰る(これからは 野原の南の果ての荒れ地を開拓して生活しよ う。不器用な生き方を守り通そうと、官職を 捨てて田園に帰ってきたのだ)とある。 せなか め 背中に眼はない 他人が隠れてやる悪事までは気がつかないと いうたとえ。後ろのほうは見えないという意 から。 背中の子を三年探す ゝ負うた子を三年 探す 銭ある時は鬼をも使う 出魯褒ー銭神論 金があれば、鬼でも思うままに使うことがで きる。金の力の大きいことをいったもの。 補説 出典にある「銭有れば鬼をも使うべし」 から出たことば。 類義金が言わせる旦那 だん。 地獄の沙汰 きた 金次第。 ぜに 銭あれば木仏も面を返す 金の力の前には、だれでもなびくということ のたとえ。木仏のように冷ややかな人でも、 金持ちに対しては顔を振り向ける意から 「銭あれば木仏も面 て を和らぐ」ともいう。 類義 銭ある時は石仏も頭 を返す。金が言 わせる旦那 だん。 阿弥陀 あみ だ も銭で光る。金さえ あれば行く先で旦那。地獄の沙汰 も金次 第。 ぜにかね おやこ たにん おやこ なか きん 銭金は親子でも他人 ↳親子の仲でも金 せん たにん 銭は他人 122 ぜになおとこほなふねこと 銭無き男は帆の無き舟の如し 財力がない男は、帆を失った舟が流れに漂う ように、思ったとおりに行動することができ ないということ。 いちだ 銭無しの市立ち 出論衡ろんこう 何の手段も持たないで物事を行ってもだめだ ということ。また、権利もないのに要求しよ <359> うとする身のほど知らずのたとえ。金を持た ずに市場に行っても、立っているだけで何も 手に入れることができない意から。 類義 銭持たずの市立ち。銭持たずの団子選 えり。財 たか 無くして町に臨むな。元手無しの 唐とう 走り。 ぜにあしな銭は足無くして走る 出魯褒ー銭神論 金銭には足はないのに、足がついているかの ように人から人へと渡り歩くということ。 補説出典には「翼無くして飛び、足無くし て走り、厳殺 げん き の顔を解き、発ひらき難き口を 開く(銭は、翼などないのに飛び、足などな いのに走り、いかめしい顔をにこりとさせ、 かたい口を開かせる)とある。 英語 Money is round and rolls away. 金 は丸いので、たちまちのうちに転がり去る ぜに あみだ ひか かね ひかり あみだ 銭は阿弥陀ほど光る 金の光は阿弥陀 ほど150 銭は馬鹿かくし 金の力さえあれば、どんな愚か者であっても 世間に通用するということ。 類義金あれば馬鹿も旦那 金あれば馬鹿 も利口。金が言わせる旦那。 せはら 背に腹はかえられぬ 大事のためには、小事を犠牲にするのもやむ を得ないというたとえ。背中を大事な内臓の 入っている腹の代わりにはできない意から。 「背中に腹はかえられぬ」ともいう。いろは がるた(江戸)の一。 類義背より腹。負うた子より抱いた子。苦 しい時は鼻をも削そぐ。 ぜにはあーせみゆき 対義渇すれども盗泉の水を飲まず。 英語 Better the purse starve than the body. 胃が空になるよりも、財布が空にな るほうがよい しやまいあだ 金儲けと不治の病に対処することは、なみた いていの苦労ではないということ。「銭儲け と死に病は徒でない」ともいう。▷徒∥いい かげんなこと。 類義 身過ぎと死病に徒な事はない。 ぜにも だんごえ 銭持たずの団子選り 方法と手段がなくては何もできないことのた とえ。また、資格もないのにあれこれ口出し する身のほど知らずのたとえ。空しい望みの たとえにもいう。金を持っていない者が、店 頭で団子をあれこれ選ぶという意から。 類義」銭無しの市立ち。 せうず 瀬のわきは渦 順調なときに陥りがちな油断を戒めること ば。川の流れの急な所の近くには渦があると いう意から。 狭家の長刀 せばやなががたな 制約が多く、実力を発揮しきれないたとえ。 また、貧乏で家計のやりくりがつかないこと のたとえ。狭い家の中では、長刀は思うよう に振り回せないことから。「長刀」は、「なぎ なた」とも読む。 類義 雪隠 せっ ちん で槍を使う。縁の下の鍬くわ い。 是非は道によって賢し 物事の判断は、それぞれの専門の者が最も的確に下せるということ。 類義 商売は道によりて賢し。餅は餅屋。 狭き門より入れ 事をなすのに楽な方法を取るよりは、むずかしい苦しい方法を取るのが自分を鍛えるのによいということ。もとはキリスト教で、天国への道は細く門は狭いが、神の救いを受けるためには、努力してその小さな門から入らなければならないという意。 補説『新約聖書』マタイ伝第七章にある「狭 き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路 は広く、これより入る者多し。いのちに至る 門は狭く、その路は細く、これを見出だす者 少なし」から。英語ではEnter by the nar- row gate. せんなぬかじゅみよう 蟬は七日の寿命 生命が非常に短くはかないことのたとえ。蟬 の成虫の地上での命が七日と短いことから。 蟬雪を知らず 出塩鉄論 見聞の狭いことのたとえ。夏の間しか生きて <360> せよりはーせんきん いない蟬は、冬に降る雪のことなど知らない という意から。 補説出典にある「睹みざる所を以もって人を 信ぜざるは、蟬の雪を知らざるが若ごとし(自 分が見たことも聞いたこともないからといっ て人の言うことを信じないのは、蟬が夏の間 しか生きていないので雪を知らないために、 雪の存在を信じないのと同じだ)に基づく ことば。 世 背より腹 ↓背に腹はかえられぬ 359 よ ふち 瀬を踏んで淵を知る 前もって試してみて、危険を知ることのたと え。「瀬踏み」ともいう。川の浅瀬を渡りな がら水の深さを測り、深い淵の場所を知る意 から。 ぜんあくとも ぜんあくむくかげかたちしたが 善悪の報いは影の形に随うが ごと 若し 出旧唐書 善行や悪行に対する報いは、影が物にいつも ついて現れるように、確実に現れるものだと いうこと。 善悪は水波の如し 善と悪とはかけ離れたものではなく、わずか の差しかないということ。水と波は呼び名は 違っても実際は同じものであるが、善と悪の 関係はこの水と波のようなものだということ から。 善悪は友による 類義善の裏は悪。 人は友人によって、よくも悪くもなる。友人 の感化は大きいという教え。「人は善悪の友 による」ともいう。 類義朱に交われば赤くなる水は方円の器 に随 う。親擦ずれより友擦れ。丹の蔵する 所の者は赤し。 せんあくともみ 善悪は友を見よ その人が善人か悪人かを知るには、友人の行 状を見ればよくわかるということ。 類義其の子を知らざればその友を視みよ。 ぜんいんあっかまね 善因惡果を招く よいことがあれば、その次には悪いことが起 こりやすいということ。 類義 善の裏は悪。 禍福は糾 あざ な える縄の如 ごと さんぐつこれ 出荀子じゅんし 善政の行われるところには自然に民衆が集まり、徳の高い君主のもとには有能な人材が集まるというたとえ。川の水の深いところには自然に魚が集まり、山の木が茂れば鳥やけものがそこに寄り合う意から。∇魚鼈∥魚とすっぽん。転じて、広く魚類の意。 補説出典には、これに続いて「刑政せい平ら かにして百姓ひゃく 子之に帰す(公平な政治が行われるならば民 衆はその下に集まり、礼儀が重んじられてい るので徳のある有能な人材が集まる」とあ る。 せんがん 千貫のかたに編笠一蓋 多額の貸し金に対して、担保がわずかである こと。取り引きの損益の差があまりにも大き くて、引きあわないことのたとえ。千貫もの 金を貸した抵当が、編笠一つである意から。 「千両のかたに編笠一蓋」「百両のかたに編笠 一蓋」ともいう。△蓋∥笠などを数える語。 「類義」百貫のかたに猿一匹。千貫目のかたに 竹の皮笠。 せんがんたかはな ひゃっかん 千貫の鷹も放さねば知れず ↓ 百貫の 鷹も放さねば知れぬ 567 せんきん おも ちようらん うえ た 千鈞の重きを鳥卵の上に垂る 強い力を加えて、一気に押しつぶすことのた とえ。たいへん重い物を鳥の卵の上に置く意 から。▷釣=中国古代の重量の単位。千鈞で 非常に重い意。 出史記しき 類義泰山 たい ぞん 卵を圧す。 せんきんきゅういっこえきあら 千金の裘は一狐の腋に非ず 国を治めるには、すぐれた人材を多く集め、 出史記しき <361> 知恵を結集しなければならないというたと え。千金の価値のある高価な皮の衣は、一匹 の狐のわきの下の白い毛だけではできないと いう意から。∇裘∥皮の衣。腋∥わきの下。 狐のわきの下のわずかな白い毛だけを集めて 作った裘は、中国古代の貴人が朝廷に出仕す るときに着る服として珍重され、たいへん高 価なものであった。 千金の子は市に死せず 出史記 金持ちの子は、罪を犯しても金の力で刑罰を 免れることができるので、市中の刑場で死ぬ ことはないということ。世間は金でどうにで もなるというたとえ。△千金の子=金持ちの 子。 類義千金の子は盗賊に死せず。 せんきんこざどうすい 千金の子は坐して堂に垂せず 金持ちの子は、自分を大切にし、軽率な行動 をしないということ。金持ちの子は、落ちて けがをする恐れのある堂の端近くには座らな い意から。△千金の子∥金持ちの子。堂∥大 きな建物。垂∥端。縁ふち。 類義家に千金を累かぬれば、座するに堂に 垂せず。金持ち喧嘩せず。 出史記しき せんきん 千鈞の弩は鼷鼠の為に機を発 けいそ ため き はな 大志を抱いている者は、小さなことには心を たず 出二国志さんごくし せんきんーせんげん 動かさないというたとえ。非常に重く強い石 弓は、小さなはつかねずみを射るためには使 わない意から。△弩=石弓。はじき弓。鼷鼠 =はつかねずみ。機=石弓の発射装置。 補説個人的感情から許攸 きよ ゆう を討とうとした 魏 の曹操 そう を、臣下の杜襲 とし ゆう が諫 いさ めたと きのことば。出典には、このあとに「万石 ばん せき の鍾 しょ は 莛てい を以て撞っけども音を起こさず 非常に重い鐘は草の茎でついても音が出な い)とある。 せんきん ど もっ よう つぶ 千鈞の弩を以て癰を潰す 出戦国策 超大国が強力な力で弱小国を破るたとえ。非 常に重く強い石弓で、はれものをつぶす意か ら。△弩=石弓。はじき弓。 補説出典には「そもそも斉の国は疲弊ひし きっている。それを天下の諸侯が力を合わせ て攻撃するというのは、まるで千鈞の弩を以 て癰を潰すようにたやすいことだ」とある。 類義強弩 きよ うど を以て癰疽 よう そ を潰つぶ すが若 ごと し。千鈞の重きを鳥卵 ちょう らん の上に垂たる。 せんきん しひやっきんけい 千金は死せず百金は刑せられ 金の力で裁判はどのようにでもなること。裁 判官に賄賂を千金贈れば死刑を免れ、百金贈 れば懲役刑をのがれることができる意から。 類義地獄の沙汰も金次第。銭ある者は生 き、銭なき者は死す。 出尉繚子 せんさん 千鈞も船を得ば則ち浮かぶ 出韓非子かんびし 勢力・地位があれば、愚人でも天下を制する ことができるというたとえ。千鈞の重さのも のでも、船があれば水に浮かぶということが ら。∇鈞=中国古代の重量の単位。千鈞で非 常に重い意。 せんきんかいちいちもんじ 千金を買う市あれど一文字を かみせ 買う店なし 買う店なし 文字は自ら努力して学ぶ以外にはないという こと。市場ではどんな高価なものでも金さえ 出せば買えるが、文字を売っている店だけは ない意から。 類義 学問に王道なし。 せんぐんえやすいっしょうもとがたばんそっ 千軍は得易く一将は求め難しふ万卒は えやすいっしょうえがた 得易く一将は得難し540 せんぐんばんば千軍万馬 多くの兵士と多くの軍馬。また、多くの戦闘 に参加して戦歴が豊かなこと。転じて、社会 経験が豊富で、したたかなことのたとえ。 七人はん 千軒あれば共過ぎ 家が千軒あれば、その中で商売が成り立ち、 たがいに生計を立てていけるということ。 「千軒あれば共暮らし」ともいう。▶共過ぎ ∥大勢が、たがいに需要供給の関係を保ちな <362> がら生活していくこと。 補説昔は、千軒を自立する一つの社会単位 と考えたらしく、「関千軒」など、繁華な土 地をいうたとえに千軒と称した例が各地に あった。 あたた 善言は布帛よりも暖かし 出荀子じゅんし ことばには、人の心をあたためる大きな力が あることのたとえ。よいことばは、身につけ る衣類よりも暖かい意から。▼布帛=もめん と絹。織物。 補説出典には「人に善言を与うれば布帛よ りも煖 た かく、人を傷つくるの言は矛戟 げき よ りも深し(人を傷つけるようなことばは、ほ こで刺すよりも深く人を傷つける)とある。 せんこう た じんこう た 線香も焚かず民もひらず 沈香も焚か ず尻もひらず330 せんごくと 千石取れば万石羨む 人間の欲望には際限がないことのたとえ。千 石の禄々をもらえるようになると、万石の禄 をもらう者をうらやむ意から。 類義 隴 ろう を得て蜀 く しょ を望む。 亀の年を鶴 つる が羨む。 千石万石も米五合 どれほど裕福であっても、本当に必要なものには限りがあるということ。千石・万石の俸禄 ほう ろく をとる者でも、一日に食べる米の量は五 合で、ふつうの人と同じ意から。「千石万石 も飯一杯」ともいう。 類義起きて半畳寝て一畳。千畳にも一畳。 千畳敷に寝ても一畳。 せんこふえき千古不易 永遠に変化しないこと。価値などが長年にわ たり変化しないこと。「千古不変」「万古ばん不 易」ともいう。△千古‖大昔。遠い昔。また、 遠い昔から現在までの長い時間。不易‖変化 しないこと。 せんざいいちぐう 千載一遇 出王褒ー四子講徳論 またとない絶好の機会にめぐり合うこと。千 年に一度出会う機会という意から。△千載 千年。長い年月。一遇=一度会うこと。 詮索物、目の前にあり せんじゃくばんきゅうようあだな 千雀万鳩鶴と仇を為す さがし物は、すぐ目の前にあるのに見つから ずに、あちらこちら尋ねまわる場合が多いと いうこと。 類義負うた子を三年探す。灯台下暗し。七 度探して人を疑え。 前事の忘れざるは後事の師な ぜんじわすこうじし 前にあったことを忘れないで心に留めておけ ば、その経験は、今後事にあたるときのよい 戒めや手本になるということ。▶師=手本の 意。 出史記しき 出易林えきりん 弱い者がたくさんいても、強い者にはかなわない。力のない者が数多く集まっても、役に立たないことのたとえ。雀すずや鳩はとにとって鶴は敵だが、いくらたくさんいてもかなわないことから。△千雀万鳩∥多数の雀と鳩。鶴∥鷹の一種。はいたか。 類義 千羊 せん は独虎 どっ を捍ふせぐ能あた わず。万 雀 ばんじ やく は一鷹 いち よう に抵あた る能わず。 前車の覆るは後車の誠め 出漢書かんじょ 先人の失敗を後人の戒めとすること。前を走 る車が転覆したら、後方を走る車は、それを 見て注意することができることから。 類義後車の誠め。前車の轍てつを踏む。殷鑑 いん遠からず。覆轍ふくを踏む。 英語Better learn from your neighbour's scatthe than your own.〔自分の損害よりも 隣人の損害によって賢くなれ」 前車の轍を踏む 前の人の失敗を、あとの人が同じように繰り返すこと。「前轍ぜんてつを踏む」ともいう。転倒した前の車のわだちの後をたどって行って、同じようにひっくり返る意から。△轍=車輪の跡。わだち。 類義前車の覆るは後車の誠め。 <363> 善者は弁ならず、弁者は善な ぜんしゃべんべんしゃぜん らず 善人はあまりしゃべらずによい行いをし、弁 舌の巧みな人は、実は善行をしていない者で ある。多弁を戒めたことば。 類義多弁能なし。 出老子ろうし せんじょうじき ね いちじょう 千畳敷に寝ても一畳 いたずらに欲を出さずに、分相応に暮らせと いうこと。千畳もある広い部屋に寝たところ で、人が一人寝るのは一畳分の広さにすぎな い意から。「千畳敷に寝ても畳一枚」ともい う。 類義起きて半畳寝て一畳。千石万石も飯一 杯。千石万石も米五合。天下取っても二合半。 せんじょうつつみろうぎあなもつついあり 千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ蟻 あなつつみくず の穴から堤も崩れる31 ぜんじようほうぼつ 禅譲放伐 古代中国の政権交代の二つの方法をいう。マ 禅護=君主が子孫以外の徳の高い人物に平和 裏に帝位を譲ること。尭ぎょうが舜しゅに、舜が禹 うに帝位を譲ったことなどがこれにあたる。 放伐=帝位にふさわしくない君主を武力に よって追放し、その位を臣下が奪うこと。 出孟子もうし 手な人。 善書は紙筆を選ばず 出後山談叢 字を書くことの上手な人は、筆や紙など用具 のよしあしは問題にしない。 善書=字の上 ぜんしゃーせんせん 補説出典には、このあとに「妙 みょうは心手 しん に在りて、物に在らざるなり(巧みさという のは心とわざなのであって、物にあるのでは ない」とある。 類義弘法筆を択えばず。能書は筆を択ばず。 せんしょばんたんいろう 千緒万端、遺漏あることなし たくさんの事柄すべてにわたって手抜かりの ないこと。△千緒万端‖物事が雑多でさまざ まあること。「千」も「万」も数の多いこと。 「端緒」が千も万もある意。遺漏‖漏れるこ と。手抜かり。 出晋書しんじょ 前人樹を植えて後人涼を得 昔の人の努力のおかげで、今の人が楽をする ことができるということ。昔の人が植えた木 が大きくなって、後世の人がその木の下で涼 むことができるということから。▷前人‖昔 の人。後人‖後世の人。 出趙礼譲肥 千辛万苦 さまざまな苦労や困難に遭うこと。辛苦が千 も万もあるということから。 類義 艱難 かん なん 辛苦。 用例西洋の親鸞 上人はよくこの旨を体 し、野に臥ふし、石を枕にし、千辛万苦、生 涯の力を尽くしてついにその国の宗教を改革 し、今日に至りては全国人民の大半を教化 したり。〈福沢諭吉◆学問のすすめ〉 せんせい 先生と言われるほどの馬鹿で なし 「先生」と呼ばれて得意になっている者をあ ざけっていうことば。また、むやみに人のこ とを先生呼ばわりする風潮を皮肉っていうこ とば。「先生」と呼ばれても、必ずしも敬意 が込められているとは限らず、かえって馬鹿 にされていることもあることから。「先生と 呼ばれるほどの馬鹿でなし」ともいう。 出旧唐書くとうじょ せんせきえんかやまい 泉石煙霞の病 自然を愛し、その中で暮らすことにとりつか れ、それを病気にかかったようだと表現した もの。∇泉石∥泉水と庭石。煙霞∥もやとか すみ。また、もややかすみでぼんやりかすん で見える風景。「烟霞」とも書く。 故事)中国、唐の田游巌 でんゆ うがん は嵩山 すう ざん に隠棲 して、皇帝の高宗 こう そうからいくら召されても出 仕しなかった。高宗が嵩山に行幸したとき、 游巌を訪れ、「このごろ体の具合はどうか」 と尋ねると、「私はいわゆる泉石の膏肓 こう 泉 や石を愛する重病)、烟霞の痼疾 こし (もやとか すみのかかった風景を好む持病)にかかって おります」と答えたという故事による。 類義 煙霞の痼疾。煙霞の癖 泉石の膏 盲。 せんせんきようきよう戦戦兢兢 出詩経しきよう おそれてびくびくしているさま。何かに恐れ 慎むさま。「戦戦恐恐」とも書く。∇戦戦∥ <364> おそれおののくさま。兢兢身を慎むこと。 補説出典には「戦戦兢兢として、深淵 臨むが如ごとく、薄氷を履ふむが如し(いつも恐 れ慎んでいることが、まるで深い淵ふちのそば に立ったり、薄い氷の上を歩くときのようで ある)とある。 用例米国の未開地の中央などに行くと、野 生の牛がいるという。その群を見るに毎時いっ も戦々兢々としている。無神経と称せらるる 牛でありながら僅わずの声にも戦おのいている。 〈新渡戸稲造・デモクラシーの要素〉 せんせんりつりつひいちじつつつし 戦戦慄慄日に一日を慎め 出淮南子えなんじ おごりたかぶらず、注意深く反省しながら毎 日を慎み深く送れということ。∇戦戦∥おそ れてびくびくするさま。慄慄∥ふるえおそれ るさま。 補説出典には、このあとに「人は山に蹟づま く莫なくして、垤てっに蹟く(人は大きな山につ まずいて倒れることはないが、注意を怠ると 小さな蟻塚づかのようなものにつまずいて倒れ ることがある)とある。 川沢汙を納れ山藪疾を蔵す せんたくおいさんそうしつかく 出春秋左氏伝 人の上に立つ者は、恥や屈辱を受けることが あっても、それを我慢する度量がなくてはな らず、そうした恥や屈辱は少しも徳を損なう ことにはならないというたとえ。川や沢は流 れ込んでくる汚れた水も受け入れ、山ややぶ は毒草や毒虫も隠し持っているという意か ら。▶汙∥汚れた水。山藪∥山の林ややぶ。 疾∥害をなすものの意。 せんだんはやしいものそ 栴檀の林に入る者は染めざる いおの かんば に衣自ずから芳し よい環境の中にいると、その感化を受けて、 よい性質が自然に身につくことのたとえ。白 檀びやくの木は芳香が強く、その林の中に入る と、香をたかなくても衣服によい香りがしみ こむことから。↓朱に交われば赤くなる312 ∇栴檀∥ここでは白檀のこと。 類義芝蘭しらの室に入いる如ごとし。 せんだん 栃檀は みたば 双葉より かんば 芳し 大成する人物は、子供のときから人並みはず れてすぐれたところがあることのたとえ。梅 檀は発芽してすぐの双葉のころから芳香を放 つ意から。「双葉」は「二葉」とも書く。「梅 檀は双葉より薫くんじ梅花は荅つぼめるに香かあ り」ともいう。いろはがるた(京都)の一。マ 梅檀ここでは白檀 びゃく だん のこと。 類義「実の生なる木は花から知れる。梅花は 荅つぼめるに香あり。啄木鳥きつの子は卵から頷 す うなく。虎子こし地に落ちて牛を食らうの気あ り。蛇じゃは寸にして人を呑のむ。竜は一寸に して昇天の気あり。食牛の気。 対義 大器晚成。十で神童十五で才子二十過 ぎれば只 ただ の人。氏うじより育ち。 It early pricks that will be a thorn. 「茨になる木は若木のうちから刺す」 「茨になる木は若木のころら刺す」 用例)栴檀は双葉より香ばしいといいます が、ほんとに公高 きみ たか は輝いていて、生れなが らにして人の長となる品格を備えています。 彼のおかげで平民の娘の価値も上り、危く見 えた私の地位も段々ゆるがぬものになって行 きました。〈大倉燁子◆魂の喘ぎ〉 出東観漢記 親孝行すること。親のために、夏は枕元をあ おいで涼しくし、冬は自分の体で布団を温め ることから。「扇枕温衾せんちん」ともいう。 屍枕‖枕元をあおいで涼しくする。温被‖掛 け布団を温める。 補説出典には「暑ければ即ち床枕に扇あお ぎ、寒ければ即ち身を以もって席を温む(暑け れば枕元に扇であおぎ、寒ければ自分の体で 敷物を温める)とある。 類義三枝の礼反哺 ばん の孝鳩 はと に三枝の 礼あり、鳥 から に反哺の孝あり。 前轍を踏む ぜんてつふ 前車の轍を踏む 362 せんて 先手は万手 ひと せん 先んずれば人を制す 268 せんどうおお 船頭多くして船山へ登る 指図する者が多くて統一がとれず、物事がう まく運ばないことのたとえ。一艘そうの船に船 頭が何人もいると、船が山に登って行くよう なことになる意から。「船頭多くて船山に登 る」「船頭多ければ船山に登る」ともいう。 類義」船頭多くして船岩に乗る。役人多くし <365> て事絶えず。 英語 Many dressers put the bride's dress out of order.「着付け係が大勢いると、花嫁の衣装が乱れてしまう」 せんどう 船頭のそら急ぎ むやみと人をせき立てて、急ぐふりをするこ とのたとえ。船頭が船を出すと言って客を乗 り込ませながら、実際にはなかなか出さない 意から。▷そら急ぎ‖急いでいるように見せ かけること。 せんにちか 千日に刈った薈一日に亡ぼす 長い間苦労して積みあげてきたことを、一度 にだめにすることのたとえ。千日もかけて刈 り集めたかやを、たった一日で燃やしてしま うという意から。「千日に刈った薈一時 亡ぼす」「千日に刈った薈も一夜に亡ぶ」「千 日の薈を一日」などともいう。 「類義」千日の功名一時じちに亡ぶ。百日ぎ 切り一日に焼く。 せんにち かんばつ いちにち こうずい 千日の旱魃に一日の洪水 水害の恐ろしさをいったもの。一日でいっさ いを押し流してしまう洪水は、千日も続く日 照りと同じ程度の被害をもたらす意から。 せんにちぎょういちどやぶひゃくにちせっぽう 千日の行を一度に破る↓百日の説法 へひと 屍一つ565 せんにち さんがく いちじ めいしょう 千日の勤学より一時の名匠 独学で時間をかけるより、短時間でもよい指 導者につくほうが効果があがるということ。 一人で千日もの間勉強するよりも、一時でも よい先生につくほうが効果的である意から。 ▶勤学∥学問にはげむこと。名匠∥すぐれた 先生。 せんどうーぜんにん 善に強い者は悪にも強い ぜんつよものあくつよ 極端から極端にかわる性格のたとえ。善を行 うことに熱心な者は、いったん悪に染まると、 悪にも熱中する意から。「善に強ければ悪に も強い」ともいう。 類義悪に強ければ善にも強し。 あく あく 善には善の報い、悪には悪の 報い たとえこの世で報いがなくても、来世で善行 には必ずよい報いがあり、悪行には必ず天罰 が下されるということ。 類義善悪の報いは影の形に随 うが若 し。積悪の家には必ず余殃 よお 有り。積善の家 には必ず余慶 よけ い 有り。因果応報。 せんにゅうしゅ 出漢書かんじょ 先入主となる 先に聞いたり学んだりしたことが固定観念と なり、他の考えを受け入れず、自由な思考が できなくなること。先入(他のことより先に 頭に入ったことが主となり、あとから入っ たことは従となる意から。このことばから 「先入主」「先入観」という語ができた。 補説出典には「先入の語を以もって主と為な す無かれ(最初に入った語や観念を主にして はいけない」とある。 せんにんころおな 千人心を同じうすれば則ち千 出淮南子えなんじ 一致団結こそ有効な力を生むものだというこ と。千人が心をつにして行動すれば、千人 分の力があますところなく発揮できるという 意から。 補説出典には、このあとに「万人心を異こと にすれば、則ち一人の用無し(一万人いて も心がばらばらで一つでなければ、一人分の 働きにもならない」とある。 いわ 善人なおもて往生を遂ぐ、況 あくにん んや悪人をや 出歎異抄 善人でさえも極楽に往いけるのだから、まし て悪人はなおさらだ。自分を善人と思って善 を行う人間よりも、自分の悪を自覚してすべ てを阿弥陀仏あみだにゆだねる者のほうが極楽 往生に近いという考え(悪人正機説あくにんし)。 補説浄土真宗 じょうどし んしゅう の開祖、親鸞上人 しんらんし ようにん の悪人正機説として有名なことば。出典には 「善人なおもて往生を遂ぐ、いわんや悪人を や。然しかるを、世の人つねにいわく、悪人な お往生す、いかにいわんや善人をや、と。こ の条、一旦そのいわれあるににたれども、本 願他力の意趣にそむけり」とある。悪人が極 楽往生できるのだから善人はなおさらのこと だという考えは、仏の意志に反すると教えて いる。 <366> せんにんーぜんばの 長短の差はあるが、どちらも一生であるということ。また、同じ一生でも、長短の差が大きいことのたとえ。△蜻蛉∥カゲロウ目の昆虫の総称。成虫は寿命が数時間から数日と短いため、はかないもののたとえにされる。「蜉蝣」とも書く。 せんにん だくだく いっし がくがく し 千人の諾諾は一土の諤諤に如 かず 出 しき 出史記しき 人の言うとおりに従う千人より、勇気を持って直言してくれる一人のほうがよいということ。△諾諾∥人のことばに逆らわずに従うさま。諤諤∥正しいと思うことを率直に主張すること。 補説横暴をきわめていた商鞅 しょう おう 戦国中期 の秦しの政治家。国政改革を進め、秦の天下 統一の基礎をつくったに、もっと謙虚にな るよう忠告した趙良ちょうのことば。 せんにん 千人の指さす所病無くして 死す 出漢書 多くの人の怒りを買うようなことをしてはい けないという戒め。千人もの人たちにうしろ 指をされるようになると、病気がないのに 人々の恨みで死ぬことになる意から。 よいことのあとには悪いことがめぐってく 善の裏は悪 る。また、善を裏返せば悪となるということ。 「悪の裏は善」ともいう。 類義 善悪は水波の如 ごと し。 禍福は糾 あざ な える 千の倉より子は宝 子どもは何物にもかえ難い宝であるというこ と。千の倉に積まれた財宝よりも、子どもは 大切な宝であるという意から。「万の倉より 子は宝」ともいう。 類義子に過ぎたる宝なし。子に勝る宝な し。金宝より子宝。子宝石両。 対義子は三界の首枷 くび。 かせ 子宝脛 すねが細る。 英語Children are poor men's riches. 子 供は貧乏人の宝 ぜんぱいおのれよ 善敗己に由る 出春秋左氏伝 成功も失敗も自分自身の行動によるもので、 他人のせいではない。∇善敗∥成功と失敗。 補説出典には「随が攻めこまれたのは、己 の力量を考えなかったからだ。己の力量を考 えて行動すれば、失敗は少なくてすむ。善敗 己に由る。而しかして人に由らんや(成功と失 敗の分かれ目は自分自身にあり、他人のせい ではない)とある。 善は急げ よいと思ったことは、ためらわずすぐに実行 に移せという教え。「善は急げ、悪は延のべよ」 と続けてもいう。 類義 思い立ったが吉日。旨うまい物は宵よいに 食え。 対義急いては事を仕損じる 英語 It is good to make hay while the sun shines.太陽が照っているうちに干し 草を作るのがよい あくちょう悪は長ず 出春秋左氏伝 よいことをする機会を失ってはいけない。悪 いことは心に浮かんでもすぐ消し去って、大 きくさせてはならない。 せんともしんはかた 浅は与に深を測るに足らず 出荀子じゅんし 浅薄な知識しか持っていない者とは、一緒に 奥深い道理を究明するようなことはできな い。 補説出典には、このあとに「愚ぐは与に知 を謀はかるに足らず、坎井かんの龕あは与に東海 の楽しみを語るべからず(愚か者とは、とも に計画をねることはできないし、古井戸にす む蛙かえとは、ともに広々とした大海の楽しさ を語ることはできない」とある。 ぜんば にく く さけ の 善馬の肉を食らいて酒を飲ま ひとそこな りよししゅんじゅうしき ざれば人を傷う 出呂氏春秋・史記 肉に酒は付きものであるということ。よい馬 の肉を食べて酒を飲まないのは体によくない ということから。また、左記の故事から、罪 人に情けをかければ、その恩義に報いること <367> をいう。 ▷善馬∥良馬。 傷う∥健康を害す る。 故事中国秦しの繆公 こうが飼っていた良馬が 逃げたのを、農民たちが殺して食べた。役人 がその農民を処罰しようとしたが、繆公は彼 らの気持ちを察して「肉を食べたら酒を飲ま ぬと体に悪い」と言って農民たちに酒を飲ま せて放免した。後に、繆公が晋しとの戦いで 苦戦したとき、この農民たちがかけつけて 救ってくれたという。 せん ぐびに 鱣は蛇に似たり、 蚕は蝸に似 たり さん しょく 出 韋非子 かんびし 人は、自分の利益のためには、恐ろしいこと でも平気でやってしまうというたとえ。人の 恐れる蛇に似ている鱧はもも漁師は平気でつか むし、人の嫌う芋虫に似ている蚤も、養蚤を やっている女性は気味悪がることなく扱うと いう意から。△鱧=鱧。あるいは海蛇をい う。蠋=芋虫。 ぜんぶそろ 膳部揃うて箸を取れ あわただしい食事を戒めたことば。また、物 事は用意が全部ととのってから取りかかるの がよいという教え。料理が全部出そろってか ら箸を取りなさいという意から。「膳部」は 膳にのせた料理のことで、「全部」と掛けた ことば。 せんぶん いっけん ひゃくぶん いっけん 千聞は一見に如かず 百聞は一見に し 如かず 566 せんはへーぜんもつ せんぺいえやすいっしょうもとがたばんそつえ 千兵得易く一将求め難しふ万卒は得 やすいっしょうえがた 易く一将は得難し540 せんぺんいちりつ千篇一律 出詩品しひん 物事が一様で変わりばえせず、おもしろみに 欠けること。多くの詩文がみな同じ調子で作 られ、変化にとぼしい意から。△千篇∥多く の詩文。一律∥同じ調子の意。 用例「じゃここに来て油を売るのも勘定ず くなのか」「馬鹿あいえ。俺だって貴様、俺 だって貴様……とにかく貴様みたいな偽善者 は千篇一律だからだめだよ……なあ西山」牡 蠣かきのような片目が特別に光って西山の方に 飛んで来た。不思議だった。西山は涙を感じ た。〈有島武郎◆星座〉 先鞭をつける 出晋書しんじょ 他人より先に物事に着手すること。人より先 に馬に鞭むちをあてて走らせ、手柄を立てる意 から。 故事中国晋しの劉琨は友人の祖逖 そて きといつも張り合っていた。親しい人にあて た手紙の中に、自分が常に恐れているのは、 祖逖が自分より先に馬に鞭打って戦場に行 き、先がけの功名を立てはしないかというこ とだと述べたという故事から。 せんまんにんいえとわれゆ 千万人と雖も吾往かん出孟子 いかなる困難があろうとも、信念を貫き通そ うとする心意気を示すことば。自ら省みて正 しいと思ったら、たとえ反対する者が千万人 いたとしても、恐れずに進んで行くということ。 補説出典には「自ら反かえりみて縮なおからず んば、褐寛博かつかと雖も吾惴れざらんや。 自ら反りみて縮なおくんば(自ら反省して正し いと思えないときは、だぶだぶの粗末な服を 着た賤いやしい男に対してさえ、恐れを感じな いわけにはいかない。自ら反省して自分が正 しいと信じたならば、千万人と雖も吾往か ん」とある。 英語 Innocence is bold. 潔白な人は大胆 である 用例古人が「千万人といえども我れ行かん」 といいました通り、自ら発し、自ら批判し、 自ら確信する要求には、世界の大勢にも楯 つき、わざと険を冒おかして辞せず、命をも賭 けるほど熱情と真摯しと沈勇とがあります。 〈与謝野晶子◆婦人も参政権を要求す〉 せんみ千三つ 千のうちわずか三つくらいしか本当のことを 言わないという意から、うそつき、ほらふき のこと。また、取引の成立するのは、千件に 三件ほどであるという意から、土地・家屋の 売買や貸し金の周旋を職業とする人のこと。 「千三つ屋」ともいう。 「類義」百一。百三つ。 に足らず 善も積まざれば以て名を成す 出易経 元ききよう どんな善行も、少しばかりしただけでは何に <368> ぜんもんーせんりの もならない。善行を積み重ねてこそ、名誉を 得ることができるということ。 補説出典には、このあとに「悪も積まざれ ば以て身を滅すに足らず(悪事も積み重ねな ければ身をほろぼすには至らない)と続く。 ぜんもんとらこうもんおおかみ 前門の虎、後門の狼 出趙雪航ー評史 災難が次々とふりかかってくること。表門か らの虎の侵入を防いだと思ったら、もう裏門 から狼が侵入してきたという意から。 補説出典にある「前門に虎を拒ふせいで後門 に狼を進む」からのことば。 類義一難去ってまた一難。前門に虎を拒 ぎ、後門に狼を進む。虎口を逃れて竜穴に入 いる。火を避けて水に陥 おち い る。 英語 Between the hammer and the anvil.「槌」と鉄敷かなの間で せんゆうこうらくてんかうれさきうれ 先憂後楽天下の憂いに先だちて憂 い、天下の楽しみに後れて楽しむ 447 せんようかわいっこえきし 千羊の皮は一狐の腋に如かず 出史記しき 凡人がどんなに多くいても、一人のすぐれた 人間には及ばないというたとえ。千匹の羊か らとった千枚の毛皮も、一匹の狐のわきの下 の白い毛皮に及ばない意から。▷腋=わきの 下。狐のわきの下のわずかな白い毛は、集め て狐裘 (貴人が朝廷に出仕するときに着る 服)を作るための貴重なものとされた。 補説出典には、このあとに「諸大夫 しょた の 朝する、徒だに唯唯いを聞くのみ。周舎の 鄂鄂がくを聞かざるなり(多くの大夫たちが出 仕しても、ただ、はいはいということばを聞 くだけで、周舎のような直言することばを聞 くことがない」とある。 千里駕を命ず 出晋書しんじょ 遠方の友をはるばる訪ねることのたとえ。また、遠方からおいでになること。遠くにいる友人を訪ねるために、乗り物の用意を命じることから。∇駕を命ず∥乗り物の用意をさせる。 補説出典には、東平(中国の地名)の呂安 は嵆康(三国時代の魏の文人)に敬服して おり、会いたいという気持ちがおきると、は るか遠いことなど思わずにすぐに乗り物の用 意をさせた、とある。 出北史ほくし せんりが千里眼 目に見えないことや将来のこと、人の心の中 まで見通すことのできる能力。また、その能 力を持つ人をいう。千里も先のことまで見え る能力を持った目という意から。 故事中国北魏 の楊逸 が光州 今の 河南省)の地方長官になったとき、密告者を 各所に配して情報網を張りめぐらし、部下の 善行・悪行をことごとくつかみ、不正者を取 りしまっていた。このため部下は辺地に出張 するときも弁当を持参し、もてなしなどは いっさい受けなかった。部下や人々は「楊長 官は千里も遠くまで見通す目をもっている」 と驚き、欺くことはできないと言ったという。 せんりこうとど エイを留めず 出荘子 天下に敵する者がないということ。千里もの 長い道を進む間に、だれ一人として邪魔する 者がいないという意から。 出論衡ろんこう せんりどうふう千里同風 世の中がよく治まり、太平であること。逆に、 世の中全体が混乱していることをいう場合も ある。千里もの遠くまで同じ風が吹いている という意から。∇同風=同じ風が国土の隅々 まで行き渡っている意。「風」は風俗・教化 の意。 補説出典にある「夫それ千里風を同じくせ ず、百里雷らいを共にせず(太平でない世は、 そもそも千里にわたって同じ風は吹かず、百 里にわたって同じ雷は鳴らない)からのこ とば。 せんりうまつねあはくらく 千里の馬は常に有れども伯楽 つねあ は常には有らず 出韓愈ー雑説 有能な人材はいつの世にもいるが、その人物 を見出して十分に腕を発揮させることのでき る名君や為政者は少ないということ。一日に 千里を走る名馬はいつの時代にもいるが、そ の真価を認めて能力を発揮させる伯楽のよう な人はめったにいない意から。「千里の馬は 有れども一人の伯楽は無し」ともいう。▷伯 <369> 楽Ⅱ中国春秋時代、周の孫陽 鑑定の名人で、天馬を司 があだ名のようになった。 つか さど る星の名「伯楽」 補説出典には、この前に「世に伯楽有りて、 然しかる後に千里の馬有り(この世の中では、 伯楽がいて初めて千里を走る名馬が現れるの である)とある。 せんりうまけつまず千里の馬も蹴躓く どんなに有能な人でも、失敗することがある ということのたとえ。名馬でもつまずくこと があるという意から。△千里の馬∥一日に千 里を走るという名馬。 類義 竜馬 りゅ うめ の躓き。 弘法にも筆の誤り。 猿 せんりこうそっかはじ 千里の行も足下より始まる どんな大きな事業も、手近なところから始まり、着実に努力を重ねていけば必ず成功するという教え。千里もの遠い旅も、足もとの第一歩から始まるという意から。「千里の行も一歩より始まる」ともいう。 出老子ろうし 補説出典には、この前に「合抱の木も毫 末ごうより生じ、九層の台 も、累土るいより起 こり(両手でかかえるほどの大木も、もとは 毛の先ほどの小さい芽生えから成長し、九階 にも及ぶ高台も小さな土をかさねるところか ら起こるものであり)とある。 類義千里の道も一歩より起こる。遠きに行 くに必ず邇ちかきよりす。道は邇ちかしと雖いえも せんりのーそいそし 行かざれば至らず。始めの一歩、末の千里。 高きに登るに卑ひくきよりす。 英語 He who would climb the ladder must begin at the bottom. [梯子はここに上の たいのなら、一段目から上らなければならな い せんりつつみありあなありあなつつみ 千里の堤も蟻の穴から蟻の穴から堤 くず も崩れる31 せんり とらはな とらのはな 千里の野に虎を放つ 虎を野に放つ せんりみちいっぽおせんりこう 千里の道も一歩より起こる↓千里の行 そっかはじ も足下より始まる369 千里一跳ね せんりひとは 遠距離を短時間で行くこと。物事をひといき にやること。また、たちまち大成功すること のたとえ。大きな鳥が一気に千里も飛ぶという 意から。「千里一足」「一里一跳ね」ともい う。 せんり いちり ほ かよ せんり いちり 千里も一里 偬れて通えば千里も一里 606 出史記しき 千慮の一失 賢者でも、多くの考えの中には、一つぐらい 誤りはあるということ。「賢者も千慮の一失」 「知者も千慮に一失あり」「知者の一失」など ともいう。 補説出典には「広武君日いわく、臣聞く、智 者ちしも千慮に必ず一失有り、愚者も千慮に必 ず一得有り(広武君が言った。私は聞いてお ります、知恵者でも必ず千に一つの考え損な いはあり、愚か者でも必ず千に一つのうまい 知恵が出ます)」とある。また、『晏子春秋 あんししゅ んじゅう にも同様の語がある。 類義弘法にも筆の誤り。猿も木から落ち る。釈迦しゃにも経の読み違い。念者の不念。 河童かの川流れ。 対義愚者も一得。千慮の一得。 千慮の一得 出史記しき 愚者にも、いろいろと考えていることの中に は、一つぐらいよい考えがあるということ。 「千慮の一失」に対していう。 類義 愚者も一得。愚者も千慮に必ず一得あ り。 対義千慮の一失。 ぜんせ 善を責むるは朋友の道なり 出孟子もうし 互いに善を行うようにすめ合うのは、友と して当然なすべき道である。△責むる=求め る。要求する。 粗衣粗食 そいそしょく 貧しく質素な暮らしの形容。△粗衣∥粗末な <370> そういいーそうけい 衣服。粗は粗末。粗食貧しい食事。 対義暖衣飽食。 そういいまい 用例立身出世をする人物は子供の時分から 粗衣粗食に甘んじて常に楽しく励む者であ るという風なことをいつも祖母から教えら れていた。〈牧野信一◆鞭撻〉 創痍未だ瘳えず 出史記しき 戦争による傷手でから十分に立ち直っていな いこと。戦場で受けた傷あとがまだ治ってい ない意から。▷創痍‖刀で受けたきず。 補説出典には今に于おいて創痍未だ瘳え す、噌かい又また面諛めんし天下を揺動せんと欲 す(今、戦後まだ日が浅く、戦乱の傷口が治っ ていないのに、樊噌はんはまた主君の前でへつ らい、天下を動揺させようとしている」と ある。呂太后りよたを侮辱した匈奴きよを攻めよ うと主張する将軍たちに反対して、皇帝に直 言した季布きふのことば。 滄海の遺珠 そうかいいしゅ 才能がありながら取り立てられず、埋もれて いる人のたとえ。世間に知られていない賢者 のたとえ。大海に取り残された珠たまの意か ら。△滄海果てしなく広がる青海原。 出新唐書 滄海の一粟 出蘇軾前赤壁賦 大きなものの中にあってとりわけ小さいもの のたとえ。また、広大な天地の間にある人間 の生のはかない意にも用いられる。大海に浮 かんでいる一粒の粟あわの意から。△滄海果 てしなく広がる青海原。一粟二一粒の粟。 補説出典には「蜉蝣ふゆを天地に寄す。渺ぴ たる滄海の一粟なり(われわれはかげろうの ようにはかない生命を、この広大永遠な土地 に寄寓きぐさせている。はるか果てしない青海 原に浮かんでいる一粒の粟のようなちっぽけ な存在である」とある。 類義大海の一粟。大海の一滴。九牛の一 毛。 滄海変じて桑田となる 出神仙伝しんせんでん 世の中が大きく変わるたとえ。世の中の移り変わりの激しいことのたとえ。青々とした大海原が、桑畑に変わる意から。△滄海‖青海原。桑田‖桑畑。 類義 桑田変じて滄海となる。滄桑 そう の変。 桑田碧海 そうでん。 へきかい 桑海の変。 出史記しき そうか喪家の狗いぬ やせ衰えて元気がない人のたとえ。落胆して 志を得ない人のたとえ。葬式のあった家の人 は、悲しみのあまり飼い犬にえさをやること も忘れるので、犬はやせ衰えるということか ら。また、「喪家」を「家を失う」意として、 宿なし犬、野良犬とする説もある。 故事孔子が弟子たちと諸国をまわって、鄭 ていの国へ行ったとき、弟子たちとはぐれてし まい、城門のところでさまよっている姿を見 た人が弟子の子貢に「東の門の外に一人の人 がいます。やせ衰えたようすは、まるでだれ からも世話してもらえない喪家の犬のようで したと言ったという故事から。 類義忌中きちゅうの家の犬のよう。 用例その日一日中、小平太はどこをどう歩 いていたのか、人も知らず、恐らく自分でも 分らなかったに相違ない。兎とに角、江戸の 市中を、喰ぐうものも喰わず、喪家の狗のよ うに、雪溶けの泥濘ないを蹴立ててうろつき廻 まわっていた。〈森田草平◆四十八人目〉 宗祇の蚊帳 そうぎかや 連歌師が旅先で宗祇と同宿し、同じ蚊帳の中 で寝たと自慢すること。転じて、風流なこと などで見栄を張ることのたとえ。▶宗祇‖室 町時代後期の代表的連歌師。 創業は易く守成は難し そうぎようやすしゅせいかた 出貞観政要 新たな事業を起こすよりも、事業を維持発展 させるほうが難しいということ。▷創業‖新 しく事業を始めること。守成‖先達の築き上 げたものを受け継いで守っていくこと。 補説 中国、唐の太宗 たい が、 功臣たちに「帝 王の事業は創業と守成とどちらが難しいだろ うか」と問うたのに対し、魏徴 ぎち が答えたこ とば。 叢軽軸を折る 出漢書かんじょ 小さなものでも、たくさん集まれば大きな力を発揮するということ。軽いものもたくさん集まると、その重みで車軸が折れてしまう意から。「群軽く軸を折る」ともいう。▷叢軽 <371> 二多くの軽いものの意。 補説出典には、このあとに「羽翮く肉を飛 ばす(鳥の軽い羽がその鳥の重い肉体を飛び 上がらせる」とある。 類義積羽せき舟を沈む。 象牙の塔とう 俗世間を離れて、芸術や学問に専念する境地 や場所。現実から遊離した研究者の学究生活 や、それを行う大学・研究施設などを指す。 補説十九世紀のフランスの文芸批評家サン ト・ブーブの言葉から。フランス語では、 「tour-ル d'ivoire」。 英語 ivory tower 象牙の塔 そうこう ものりようにく 糟糠にだに飽かざる者は梁肉 つと を務めず 出韓非子 切迫した問題があるのに、高望みをする者は いないということ。貧しくて酒かすやぬかの ような粗末な食べ物さえ十分に食べられない 者は、上等な米や肉を食べようとは思わない という意から。∇糟糠∥酒かすとぬか。粗末 な食べ物の意。粱肉∥上等な米や肉。 補説出典には、このあとに「短褐 たん かつ すら完 まっ た からざる者は、文繍 ふんし ゆう を待たず(丈 たけ の短 い粗末な着物すら満足に着られない者は、美 しい模様やししゅうのある立派な着物を求め たりはしない」とある。 そうこう糟糠の妻つま 貧しいときから苦労を共にしてきた妻。↓糟 ぞうげのーそうちゅ 糠の妻は堂より下さず371△糟糠=酒かすと ぬか。粗末な食べ物の意。 用例この度の大任こそ、男の死にどころ。 さむらいたる自分が、進んでまた歓 よろ こんで、 糟糠の妻や幼いものを後にのこして死所 よしに 就いたという心もちは、さむらいの妻だ、お まえはよく分ってくれるだろう。〈吉川英 治◆新書太閤記〉 糟糠の妻は堂より下さず 出後漢書ごかんじょ 貧しい時代から連れ添って苦労をともにして きた妻は、自分が立身出世したのちも、家か ら追い出すわけにはいかないということ。△ 糟糠‖酒かすとぬか、粗末な食べ物の意。堂 ‖おもて座敷。また、すまいの意。 故事)中国後漢の光武帝が、未亡人となった 姉を、腹心の大将軍宋弘 して、「人は身分が高くなれば交際相手をか え、富裕になれば妻をかえるものだとことわ ざにもあるが」とすすめたとき、宋弘は「貧 乏時代の友人は忘れてはいけない、貧しいと き苦労をともにした妻は堂から下さず大切に しなければいけないと聞いております」と 言って断った故事から。 いしゃ 葬礼帰りの医者 いしゃばなし ぼなし 4 4 話 374 宋襄の仁 出春秋左氏伝 無用の情のたとえ。不必要な情をかけてひど い目にあうこと。宋襄の思いやりの意から。 故事)中国春秋時代、宋そうの襄公 じょうが楚そと 戦ったとき、敵の布陣が整わないうちに先制 攻撃をかけるようにという進言に対して、襄 公は「君子は人の難儀につけ込まないもので ある」といって聞き入れなかった。結局、敵 に十分準備をさせてから、正々堂々と戦った が、楚に敗れてしまった。世間の人は、これ を宋襄の仁と言って笑ったという故事から。 出戦国策 曾参人を殺す うそでも何度も言われると、ついには人がそ れを信じるようになるということのたとえ。 故事)中国春秋時代、曾参(孔子の弟子で親 孝行で有名)と同姓同名の者が殺人を犯した とき、ある人が「曾参が人を殺した」と曾参 の母に告げたが、信じなかった。二度目も信 じなかったが、三度目に告げられるに及んで、 さすがの母も、織りかけの機はたを捨て、垣根 を越えてかけつけたという故事から。 類義三人之これを疑わしむれば、則 ち慈母 じぼ も信ずる能わず。三人虎を成す。市いちに虎 あり。 潄石枕流石に漱ぎ流れに枕す43 滄桑の変滄海変じて桑田となる370 飯中塵を生ず 出後漢書ごかんじょ 食事にも事欠くほど非常に貧しいこと。食べ る物がなく、こしきを長い間使わないので、 中に塵がたまるという意から。△飯=こし <372> き。 穀物を蒸むす道具。せいろ。 故事 中国、後漢の范冉は、貧しくて食べ る米もないありさまであったために、こしき に塵がつもってしまったという故事から。 類義 釜中 ふち ゅう 魚 うお を生ず。 飯塵釜魚 そうじん。 ふぎよ 桑中の喜び 男女の不義の楽しみのこと。男女が桑中であ いびきすることを歌った『詩経』の中の「桑 中」詩が、淫らな詩だと解されたことから。 ∇桑中=古代中国衛えいの地名。また、桑畑の 中。 出詩経しきよう 桑田変じて滄海となる 出劉廷芝ー詩 世の中が大きく変わるたとえ。世の中の移り変わりの激しいたとえ。桑畑が青々とした大海原に変わる意から。「桑田変じて海となる」ともいう。∇桑田∥桑畑。滄海∥青海原。補説詩の題名は『白頭を悲しむ翁なに代わる』。「已すでに見る松柏はくの摧くだかれて薪きと為なるを、更に聞く桑田の変じて海と成るを(墓地に植えられた松や柏かしも切り倒されて薪にされてしまい、桑田は海となってしまう」とある。 類義 桑滄 そう の変。滄海変じて桑田となる。 ぞう きば み すなわ そ うし 象の牙を見て乃ち其の牛より だい し 大なるを知る 出 元なんじ 淮南子 部分を見れば全体がわかるというたとえ。象 の牙を見て、その大きさから、象が牛より大 きいことを知る意から。 補説出典には、このあとに「虎の尾を見て、 乃ち其の狸ねこより大なるを知る。一節を見 れて百節知るなり(虎の尾を見れば、その全 体が猫より大きいことがわかる。一部が現れ ただけで全体が知られるからだ」とある。 類義一斑 ぱん を見て全豹 ぜんぴ よう をトぼく す。 そうは問屋が卸さぬ そうやすやすとは相手の注文には応じられない。また、そう簡単に思いどおりにはさせないということ。いくら客から安く売れと言われても、そんな安値では問屋は卸し売りしない意から。 用例ところが左様そうは問屋で卸さぬ。碌ろく な見料も置いていかずに面白い芸当を見よう とするのは取も直さず泥棒根性。眼保養の遣 ちずぶったくりだ。〈国枝史郎・天草四郎の 妖術〉 象は歯有りて あ もっ そ み や 其の身を焚 出春秋左氏伝 すぐれたものを持っているために、それがか えって災いを招くもとになるというたとえ。 象は象牙ぞうという貴重なものがあるために人 に殺されるということから。「焚やかる」は「焚 たおす」ともいう。 かる 類義孔雀 は羽ゆえ人に捕らる。甘井 先 に竭っく。鳴く虫は捕らえられる。膏燭 よく は 明を以て自ら鑠とかす。 出北史ほくし 優劣をつけられない二つのすぐれたものや人 のこと。一対の宝玉の意から。 注意「壁」を「壁」と書き誤らない。 注意「壁」 故事中国、北魏 ほく の陸凱 りく がい の子の暐いと弟 の恭之 きょ うし とは、二人とも秀才としての名声が 高かった。洛陽 らく よう 県の長官の賈禎 かて はこの兄 弟に会い、感嘆して、「私は長生きしたので、 一対の立派な宝玉を見た」と言ったという故 事から。 出礼記らいき 柔蓬の志 男子が天下に雄飛しようとする志をいう。 昔、中国で男子が生まれたとき、桑の木の弓 とよもぎの矢で天地四方の六方向を射て、将 来の雄飛を祈ったことから。∇桑蓬∥桑弧蓬 矢そうこの略。桑の木で作った弓と、よもぎの 茎で作った矢。 出杜甫ー詩し 柔麻の交こう 田園の気楽な交際。政治や役所などのわずら わしい話をせず、桑や麻の作柄などを話しあ うつきあい。「桑麻の交わり」ともいう。 補説詩の題名は『薛三郎中璩 せつさんろう ちゅうきょ に寄 す』。「藹藹あいたり桑麻の交、公侯も等倫 とう りん と 為なる(おだやかでゆったりした田園のつきあ いは、身分の上下もなく同じ仲間でのんびり となごやかである」とうたっている。 草莽の臣 そうもうしん 官に仕えず、民間にいる人。在野の人。また、 出孟子もうし <373> 臣下が自分をへりくだっていう語。▷草莽∥ 草むらの意。転じて、民間・在野の意。 補説出典の国に在るを市井しせの臣と日い野を在るを草莽の臣と日う皆庶人を 謂いう君に仕えないで町に住む者を市井の臣 といい田舎に住む者を草莽の臣というが、 臣とはいってもどちらも庶民のことである) からのことば。 草木皆兵 出晋書しんじょ 敵を恐れるあまり、何でもないものまで自分 の敵であると錯覚すること。山野の草木がす べて敵兵に見える意から。また、軍隊の勢い の強大なさまにもいう。 故事五胡ご十六国の前秦ぜんの王苻堅ふけが東 晋とうを攻めるため南下したとき、東晋の陣容 は整然としており、遠くから見ると、陣のあ る山はその草木まで皆人の姿に見え、威圧さ れるほどの布陣であった。これでどうして兵 が少ないなどというのかと驚き、心中に恐れ をなしたという。 類義 疑心暗鬼を生ず。 落武者は芒 の穂に も怖ず。 蒼蠅驥尾に付して千里を致す そうようきびふせんりいた 凡人でも賢人について事を行えば、名をあげ ることができるたとえ。青ばえは、自分では 遠くまで飛べないが、名馬のしっぽにとまっ ていれば千里もの遠くまで行けるという意か ら。「驥尾に付ふす」「驥尾に付っく」ともいう。 出史記・注ちゅうしき そうもくーそうりん ∇蒼蠅∥青ばえ。驥尾∥一日に千里を走ると いう名馬のしっぽ。 補説出典には「蒼蠅驥尾に付して千里を致 すとは、以もって顔回の孔子に因よりて名彰 かなるに譬たとう(青ばえが名馬の尾にくつ いて千里も遠くに行くことができたとは、顔 回が師の孔子のおかげで世に名を知られるよ うになったことをたとえたのである」とあ る。 草履履き際で仕損じる 最後の最後に失敗して、いままでの成功をだ めにしてしまうこと。仕事を無事に終えて、 帰ろうとして草履をはくときに失敗する意か ら。 類義 磯際 いそ ぎわ で船を破わる。港口で難船。九 例 きゅう じん の功を一簣 いっ き に虧かく。 そうりようじゅうごびんぼうよざか 総領の十五は貧乏の世盛り 長男が一人前に稼げるようになる前までが、 家計のもっとも苦しい時期であるというこ と。∇総領∥家の跡目を継ぐ者。長男・長女 を指すが、一般に長男をいう。 類義総領子の十五の時は囲炉裏の灰 も溜まらぬ総領の十五は屋根棟下ろし 対義乙子の十五は家蔵建てる 長男や長女は大事に育てられるので、弟妹に 比べるとおっとりしていて、お人好しで世間 知らずの者が多いということ。いろはがるた (江戸)の一。△総領∥家の跡目を継ぐ者。長 総領の甚六 男・長女を指すが、一般に長男をいう。甚六 Ⅱ「ろくでなし」を人名めかしていったもの。 また、「順禄じゅんろく」のなまりで、武家の長男が 父の世禄せろを継ぐ意という説もある。 英語 The younger brother has the more wit. 弟のほうが賢い 用例曹不 そう ひは親の目から見ても、篤厚 こうに して恭謙、多少、俗にいう総領の甚六的なと ころもあるが、まず輔弼 ほひ の任に良臣さえ得 れば、曹家の将来は隆々たるものがあろうと、 重臣たちにもその旨は遺言されてあった。 〈吉川英治◆三国志〉 巣林一枝 出荘子そうじ 分に安んじて満足すること。不必要に他の物 まで求めようとせず、分相応を守るたとえ。 小鳥が巣をかけるには、一本の枝があれば十 分であるという意から。∇巣林∥林の中に巣 をつくること。 類義鷦鶉 しょう 深林に巣くうも一枝に過ぎず。 偃鼠 えん 河に飲むも満腹に過ぎず。 倉廩実ちて図圏空し 出管子かんし 食べ物が豊かにあり安定した生活ができれば、人は罪など犯さず、世の中が平和であるということ。米倉がいっぱいになれば、牢屋はからっぽになる意から。∇倉廩=米倉。図圃=牢屋。正しくは「れいぎよ」と読む。 補説出典には、このあとに「賢人進みて奸 民かん 返く(賢人が世に出て、不正を行う者た ちはひっこんでしまう)とある。 類義衣食足れば則 ち栄辱 えいじ よく を知る。 <374> そうりんみ れいせつ し 倉廩実ちて礼節を知る 出史記 しき 人間は経済的に豊かになり生活が安定して、 はじめて礼儀や節度をわきまえるものだとい うこと。「倉廩実つれば則 すな わ ち礼節を知り、 衣食足れば則ち栄辱を知る」ともいう。↓衣 食足りて礼節を知る45 ∇倉廩∥米倉。 補説出典には、このあとに「衣食足りて栄 辱を知る(衣食がととのって満足すれば、人 は栄誉や恥辱の何たるかを知る)」とある。 「管子」にも同様の句が見える。 葬礼帰りの医者話 手遅れになってからする後悔のたとえ。葬式 の帰り道に、亡くなた人の医者の話をする ことから。「葬式すんで医者話」「葬礼過ぎて 医者話」「死んだ後の医者話」などともいう。 類義火事あとの火の用心。生まれた後の早 め薬。喧嘩けん過ぎての棒乳切り。諍い いての乳切ちぎり木。戦いを見て矢を矧はぐ。 燃えついてからの火祈禱ひき とう 英語After death the doctor.死後に医者 When a thing is done advice comes too late.事後の忠告では遅すぎる そうろう みずす もっ わ えい 滄浪の水清まば以て吾が纓を あら べ 濯う可し 出楚辞 世の中が平穏なときには、中央に出て仕える ということ。また、世の中の移り変わりに応 じて柔軟に行動するためとえ。滄浪の水の流れ が澄んだときは、冠のひもを洗って出て行き 君に仕えようという意から。△滄浪=川の 名。揚子江の支流漢水の下流。纓=冠のひ も。 補説出典には、このあとに「滄浪の水濁ら ば以もって吾が足を濯あらう可べし(世の中が乱れ たら、足を洗って隠遁いんしよう)とある。 飯を落として顧みず 出後漢書 あきらめの早いことのたとえ。こしきを落と して割れても平然としていることから。△飯 こしき。穀物を蒸す道具。せいろ。 故事)中国、後漢の孟敏もうがこしきをかつい で行く途中、地上に落とし割れてしまったが、 振り返りもしないで行ってしまった(荷飯 地に憧つるも顧かえずして去る)。郭太 宗りん、当時の大学者がそれを見て、どうい うつもりなのかと尋ねたところ「こしきは、 もう落として壊れてしまったのです。いまさ ら振り返って見ても、何の益がありましょう」 と言った。郭太はこれを聞いて孟敏が凡人で ないことを見抜き、孟敏を遊学させた。十年 後、孟敏の名は世の中に大いに知られるよう になった。 よう 歳を慢するには盗を誨え、容 いんおし を治るは淫を誨う えききよう ふぎ 出易経えききよう 蔵の戸締まりがいいかげんなのは、人に盗ん でくれと言うようなものであり、なまめかし い容姿を見せるのは、人がみだらな心を起こ すようにそそのかしているようなものである ということ。△慢する∥怠けること。容を治 る∥容姿をなまめかしく化粧すること。 そおうさいようこのきゅうちゅうがじんあ 楚王細腰を好み宮中に餓人有 出後漢書 上の好むものに下の者が迎合するたとえ。また、そのために弊害が生じやすいということ。中国春秋時代に、楚王が腰の細い美女を好んだので、宮女たちはやせようとして食事をとらなくなり、餓死する者が多く出たという話から。「楚王細腰を好みて朝ちに餓死多し」ともいう。なお、楚王については、荘王とする説と霊王 類義楚王小腰 しょう を好み、美人食を省く。 ぞくあ くう 粟有れども食わざれば饑えに えきな 益無し 出塩鉄論 有用なものでも、使わなければ何の役にも立 たないというたとえ。食べ物があってもそれ を食べなければ、飢えをしのぐ効果がないと いうことから。∇粟∥穀物。 補説出典には、このあとに「賢を睹みて用 いざれば削さくに益無し(賢人をよく見分けて 用いなければ、国が衰えるのを防ぐことがで きない)とある。 そくいんこころじんたん 惻隠の心は仁の端なり出孟子 人の不幸をあわれみ痛ましく思う心は、やが て仁をなすいとぐちであるということ。▶惻 隠‖同情し、あわれむこと。端‖はじめ。い とぐち。 <375> 補説孟子が性善説の根拠としたことばで、 出典には「惻隠の心は仁の端なり、羞悪 心は義の端なり、辞譲 是非の心は智の端なり(あわれみの心は仁 の芽生えであり、悪を恥じ憎む心は義の芽生 えであり、譲り合う心は礼の芽生えであり、 善し悪しを見分ける心は智の芽生えである) とある。人間にはこの四つ(仁義礼智)の芽生 えが生まれながらにそなわっており、した がって人間の本性は善であると説く。 そくいん惻隠の情じょう 出孟子もうし 人をあわれんだり、思いやったりする気持ち。 「惻隠の心」ともいう。△惻隠=同情し、あ われむこと。 補説出典にある「惻隠の心は仁の端なり」 から。↓惻隠の心は仁の端なり374 用例そんな光景を立ち去らずにあくまで見 て胸を痛めているのは、彼には近頃自虐めい た習慣になっていた。惻隠の情もじかに胸に 落ちこむのだ。〈織田作之助◆馬地獄〉 類義明日の百より今日の五十。明日の親鳥 より今日の卵。 そくじいっぱい 即時一杯の酒 一木 あとであるいいことより、たとえ少しでも今 の得のほうがよいということ。今すぐ飲める 一杯の酒が大事だということから。 そくいんーぞくをき 出世説新語 故事)中国、晋しんの張翰ちょうは勝手気ままな振る舞いが多かった。ある人が、「後世に名を残したくはないのか」と言ったところ、「我をして身後の名有らしむるは即時一杯の酒に如しかず(死後の名誉などより、今のこの一杯の酒の方が大事だ)」と答えたという。 そくてんきょし 則天去私 私心を捨て、身を天地自然にゆだねて生きる こと。夏目漱石 なつめそ うせき が晩年理想としたこと ば。▶則天∥天地自然の法則に従うこと。去 私∥私心を捨てること。 用例このことでもわたしはお礼を申しとう ございます。その気持の湧くところおわかり 下さるでしょう?作家としての確信や自信と いうものが、「私」の枠からぬけ出るという こと、漱石は則天去私と云ったが、そのもっ と客観的なそして合理的な飛躍は何と爽快で しよう。〈宮本百合子◆獄中への手紙〉 賊に兵を借す 敵に便宜をはかり、自分が損害を受けるたと え。盗賊に武器を貸す意から。△兵=武器。 借す‖貸す。 出荀子じゅんし れ。 補説出典の「其その人に非あらずして之これを 教うるは、盗に糧かてを齎もたらし賊に兵を借すな り(教えるのにふさわしくない人間に教育を 施すのは、盗人に食物を与え盗賊に武器を貸 すようなものだ」によることば。 類義寇あだに兵を藉かし、盗に糧を齎す。盗 人に糧。敵に糧。 賊の後の棒乳切り木 ぞくあとぼうちぎき 時機を失って何の役にも立たないこと。盗賊 が荒らして去ったあとに棒切れを持ち出す意 から。△棒乳切り木∥けんかなどに使う棒切 類義六日の菖蒲あや十日の菊。 栗の秕有るが若し ぞくひあごと 出書経しよきよう よい物の中に悪い物が混じっているたとえ。 実の入っているもみの中に、実の入っていな いしいなが混じっているようなものだという 意から。∇粟∥米・きび・あわなど、穀物の 総称。ここでは、もみ(米の外皮のついた実) のままの穀物の意。秕∥からばかりで実の 入っていないもみ。しいな。 補説出典には苗びの莠ゆうあるが若く(稻 の苗の中に雑草のはぐさが混じっているよう に粟の秕ひ有るが若し」とある。 ぞくきゅう おお うまや 粟を給すること多くして馬瘦 出世説新語補 口約束だけで実行しないこと。 故事)中国、宋そうの太祖たいが張思光に司徒長史を与えると約束しておきながら勅を下さなかったので、あるとき、思光は痩せ馬に乗って太祖の所へ行った。痩せ馬を見た太祖は「餌をどれほどやっているのか」と尋ねたので、思光は「一日に粟あわ一石を与えております」と答えると、太祖は「それだけ与えていてなぜこんなに痩せているのか」と言われたので、すかさず「馬には一日一石を与えると約束はしたのですが、ただ実際には与えていないだけです」と答えた。太祖はさっそく翌日約束どおり思光を司徒長史に任官したという。 <376> 粟を量りて春く 出淮南子 つまらないことに心を用いることのたとえ。 また、物借しみするたとえにもいう。あわつ ぶを一つ一つ数えながら日うすでつくことか ら。△春くニうすでつく。「うすづく」とも 読む。 補説出典には「粟を量りて舂き、米を数えて炊かしぐ、以もって家を治むべきも、以て国を治むべからず(粟の分量を量ってから臼でつき、米つぶを数えてから炊くようでは、家を治めることはできても国家を治めることはできない)」とある。細心でありすぎると国家のような大きなものは治めることができないという戒めのことば。 気穴を治めて里閣を壊る そけつおさりりよやぶ 小さな害を除こうとして大切なものをだいな しにしてしまうたとえ。鼠ねずを退治しようと して村の門をこわしてしまうという意から。 「鼠を治めて里間を破る」ともいう。▷里間 ∥村の入口の門。 らない事情があること。物事のほんとうの姿 は、底の下にさらに底があるかのように、複 雑な事情が隠されていることが多いというこ とから。 補説出典には、このあとに「小皰 して痙疽ざしを発す(にきびをつぶして、かえっ て大きなはれものをつくってしまう)」とあ る。 出淮南子えなんじ 底に底あり そこそこ ふみ入っていて、ひととおりのことではわか 底もあり蓋もあり 物事にはいろいろ複雑な事情があって、簡単 にはいかないということ。「底」は「其処そこ に掛けたことば。また、「蓋」は「底」に対 応したことば。 底を突く 出し尽くして、ほとんど蓄えがなくなった状 態。また、相場が下がりきって底値になるこ と。後者は「底を打つ」ともいう。∇底∥こ こでは、最低の状態。 類義地を掃はらう。 そしゅうそ かんもりえい ぶんてんしょう 楚囚其の冠を纓す 出文天祥詩 祖国を忘れず、その誇りを持ち続けること。 楚の人は、捕虜となってもなお故国の冠をつ けているという意から。∇楚囚∥捕虜となっ た楚の国の人。纓す∥冠のひもをあごの下で 結ぶ。 補説詩の題は『正気 せい の歌』。宋そうの文天 祥が獄中で憂国の情をうたったもので、「春 秋時代に楚の鍾儀 しよ が晋 しん に捕らわれている 間も楚の国の冠をかぶり、祖国の礼を守った という『春秋左氏伝 しゅんじゅ うさしでん』の故事をふまえ た詩。 乇じょううお俎上の魚♩俎板の鯉612 乚上の魚江海に移る 危険な運命を逃れて、安全なところに移るた とえ。また、追いつめられた状況を切り抜け るたとえ。まな板の上で切られるところだっ た魚が大きな川や海に移るという意から。 類義刀下とうかの鳥林藪りに交わる。 そじょうこい 俎上の鯉♩俎板の鯉612 そしとどみおさ 謗りを止むるは身を修むるに しな 如くは莫し ちゅうろん 出中論 他人から非難されないためには、自分自身が 正しい行いをすることがいちばん大事である という教え。 補説出典には「寒を救うは裘きゅを重ぬるに 如くは莫く(寒さを防ぐには皮ごろもを重ね て着るのがいちばんよく)、謗りを止むるは 身を修むるに如くは莫く、暑さを療いやすに は冰こおに親しむに如くは莫し(暑さをしのぐ には氷のように冷たいものがいちばんよい) とある。 誘れば影さす 噂をすれば影がさす 粗相が御意に叶う 目下の者の軽率な失敗や無作法が、目上の者 にはほほえましく思えて、気に入られる場合 もあるということ。△粗相∥不注意や軽率な あやまち。 類義粗相も時の一興いっきO <377> ぞっせんすいはん率先垂範 人の先に立って物事を行い、模範を示すこと。 ▶率先‖人の先頭に立って物事を行うこと。 垂範‖模範を示すこと。 率土の浜 ふてんもと 率土の浜 582 そっと申せばぎゃっと申す 相手の言うことに大げさに反応したり非難し たりすることのたとえ。また、言いつけられ たことを大げさにしすぎること。小声で言っ たのに、とんでもない大声で返事をする意か ら。「そっと申せばがっと申す」「ちっと申せ ばがっと申す」ともいう。 袖から火事 そで かじ 小さなことから大事がひき起こされることの たとえ。 補説明暦 如い 三年(一六五七)、江戸の町の大 半を焼失した「明暦の大火」は、本郷丸山の 本妙寺 ほんみ ようじ で施餓鬼 せが き 餓鬼の世界におちて苦 しむ亡者 もう じゃ をとむらう法会 ほう え )に焼いた一枚 の振り袖が空に舞い上がったのが原因で引き 起こされたもので、「振り袖火事」とも呼ば れる。この事件から生まれたことば。 そで て だ きら 袖から手を出すも嫌い はなはだしいけちのたとえ。金を出すのはも ちろん、袖から手を出すことさえ嫌いである の意から。 類義出すことは舌を出すのも嫌い。 そっせんーそとぼり そであたしょうえんそでふあ 袖すり合うも多生の縁↓袖振り合うも たしょうえん 多生の縁377 袖の上の玉の砕けたよう 最愛の子供を失うことのたとえ。袖の上にの せて大切に持っていた玉が落ちて砕けてし まったようだという意から。 袖の下に回る子は打たれぬ しかられて逃げ出す子は追いかけていってで も打ちたくなるが、すがりついてくる子はか わいくて打てないということ。わが子をしか る親の気持ちをいう。「袖の下に回る子は可 愛かわい」ともいう。 類義杖の下に回る犬は打たれぬ。尾を振る犬は叩たたかれず。這はって来る犬は打てぬ。怒れる拳笑顔に当たらず。 そでながての 袖は長くとも手は伸ばされぬ 見つかる心配がなくても、盗みはしてはなら ないという戒め。袖が長くできていて人から 見えなくても、他人の物に手を伸ばしてはい けないという意から。 そでひたばこおっちゃ 袖引き煙草に押し付け茶 帰ろうとする客にたばこや茶を出してむりに 引きとめ、相手の都合も考えないでもてなす こと。また、ありがた迷惑なことのたとえ。 ▶袖引き煙草=遊女などが客を招く手段とし て、火をつけたたばこを客に差し出して誘う そ ここ 袖振り合うも多生の縁 人はみな限りない輪回 る。この世でのちょっとした出会いも、一見 偶然のようでいて、実はながい輪回のなかで 何かしらの縁があってのことなのだ、という こと。仏教的な考え方。「袖すり合うも多生 の縁」「袖の振り合わせも多生の縁」ともいう。 いろはがるた(京都)の一。∇多生∥輪回のな かでの今生以外の生。「他生」とも書く。 注意「多生」を「多少」と書くのは誤り。 注意「多生」を「多少」と書く 類義袖の振り合わせも五百生 ごひゃく しょう の機縁。 躓つまく石も縁の端。一樹の蔭かげ一河 いち が の流れ も他生の縁。一河の流れを汲くむも他生の縁。 行きずりの宿世 すく。 せ 一村雨の雨宿り。 用例思えば、津賀閑山 つがか んざん の店からこの家 へ来るまで、なんというめまぐるしい運命の 手にもてあそばれたことであろう。が、ここ が当座のねぐらという気がする。袖すりあう も他生の縁、この人とならば膝ひざをつき合わ していても安心だ。〈林不忘◆つづれ烏羽玉〉 そとあいきよううち 外愛嬌の内そんぶり 外で他人に会うときは愛想がいいが、家の中 ではいつもふきげんでむっつりしているこ と。外づらがよくて内づらの悪い人をいう。 「愛嬌」は「愛敬」とも書く。▷そんぶり∥ 無愛想。 そとほり外堀を埋める 目的を達成するため、まず周辺の障害となる <378> そとぼろーそのぎを ものを取り除くこと。城を攻略するためにま ず外堀を埋める意から。▷外堀‖城の外回り に掘った堀。「外濠」とも書く。 補説一六一四年大阪冬の陣で、徳川家康 とくがわ いえやす は大阪城にいる豊臣秀頼 ひでより を攻めたが 落とせず、外堀を埋めることを条件に休戦し た。その後家康は外堀ばかりか内堀まで埋め て、翌年夏の陣で大阪城を陷落させた。 類義人を射んとせば先ず馬を射よ。 射んとせば先ず馬を射よ。 外檻複の内錦 外見は飾らないが、内実はすぐれていること。 また、貧しい生活をしていても、心が豊かな ことのたとえ。外見は粗末な衣服だが、下に は豪華な絹織物を身に着けている意から。 類義藁苞わらに黄金こが。 そなうれな 備えあれば患い無し 出書経 ふだんから準備を十分にしていれば、いざと いうときにも心配ないということ。 補説中国殷いんの宰相 さいし よう 傳説ふえ のことば。 出典には「惟これ事を事とする(なすべきこと をしっかりする)、乃 すな わ ち其それ備え有り、備 えあれば患い無し」とある。 英語 Lay up for a rainy day. [雨の日に備えて蓄えよ] そな 備わらんことを一人に求むる なかれ 完全無欠な人などいないのだから、人の上に 出 論語ろんご 立つ人間は、一人に過大なことを求めず、それぞれの長所を生かすようにすべきだということ。一人の人間に才能や人格・知識などすべてを兼ね備えるように要求してもむりであるという意から。 補説)中国古代、周公旦が息子の伯禽はくに君 主たる者の心構えとして与えた訓戒の一節。 「身内の者を粗末にしてはならない。信任し てもらえないという不満を大臣に抱かせるよ うではいけない。古くからの臣下は、とくに 重大な過失がない限り見捨ててはならない。 一人の人に才能や道徳をすべて兼ね備えるこ とを要求してはならない」と出典にある。 そいちしそにしいち その一を知りて其の二を知らず一を そ きみはつ この そ しんけっ 其の君発を好めば其の臣抉 しゅう せんこくさく 拾す 出戦国策 上の者が好むことは、下の者もまねをするものであるということ。主君が弓術が好きだと、臣下も弓を射る道具を身につけて弓をやろうとする意から。∇発∥弓を射ること。抉∥弓を引くときに右手指にはめるもの。弾ゆが。拾∥弓を射るときに左ひじにつけて弦つるの当たるのを防ぐもの。弓籠手ゆこ。 補説出典には昔者先君霊王小要 ち、式よって能く起たてり。食の欲す可べきも 忍んで入れず、死の悪にくむべきも就いて避 けず。章之これを聞く、其の君発を好めば其の 臣抉拾す、と昔、楚の霊王は細い腰の男性を好んだので、臣たちは食べる物も控えて痩せようとしたため、立つのも寄りかかってやっと立ち、起きるのもつかまって起き、食事もがまんして口に入れず、死に到るようになってしまった。章「子華の名」はこれを聞いて、主君が弓術が好きだと、臣下も弓を射る道具を身につけて弓をやろうとすると言った」とある。 類義君射れば則 すな ち臣決す。楚王細腰 さい よう を 好み宮中 きゅう ちゅう に餓人 がじ ん 有り。 その樹を陰とする者は其の枝 を折らず 出韓詩外伝 恩を受けた人には、不利になるようなことは しないものだというたとえ。涼しい木陰で休 息する者は、決してその木の枝を折ったりは しないという意から。 補説出典には、この前に「其の食くを食は む者は其の器わを毁こぼたず飯を食べる者は、 飯を盛った器をこわしたりしない」とある。 対義 陰に居て枝を折る。 恩を仇 あだ で返す。 その誼を正し其の利を謀らず 物事をするにあたっては、筋道を通して正しく行うように務め、利益を得ようという考えは持たないということ。△誼=義。正しい道。 出漢書かんじょ <379> その国に入れば其の俗に従う郷に入 りては郷に従う236 其の子を知らざれば其の友を 視よ 出荀子じゅんし その人がどのような人間かわからないとき は、その人の友人を見れば推察できるという こと。「其の人を知らざれば其の友を視よ」 ともいう。 補説出典には、続いて「其の君を知らざれば其の左右(側近)を視よ」とある。 類義其の子を知らずんば其の父を視よ。善悪は友を見よ。 とある。 其の進むこと鋭き者は其の退 くこと速やかなり 出孟子 物事には適当な速度があって、学業も一歩ず つ着実に進んで行くべきであるという戒め。 進み方が著しく速い者は、途中で気力が衰え て退くのも速い意から。 補説出典には、この前に「孟子曰いわく、已 やむ可べからざるに於おいて已むる者は、已め ざる所無し。厚くすべき所の者に於いて薄く するものは、薄くせざる所無し(孟子が言わ れた。道理上やめてはならぬことを平気でや めてしまう者は、どんな重要なことでも成し 遂げずにやめてしまうものだ。十分に手厚く すべきことを平気で手を抜く者は、どんなこ とでもやはりまた手を抜いてしまうものだ) そのくにーそのみち 其の地に非ざれば之を樹うれ ども生ぜず 学ぶ意志のない者には、いくら教えても成果 はあがらないというたとえ。植物は、生育に 適した土地でなければ芽を出さない意から。 類義糞土の牆かきは朽ぬるべからず。 出史記しき その罪を憎んで人を憎まず ひとにく 435 つみにく 罪を憎ん で人を憎まず その手は桑名の焼蛉 「その手は食わない」の「食わない」を「桑名」に掛け、それに桑名の名物の焼蛤を続けて調子よく言ったことば。桑名は三重県の地名。桑名の次の宿場が四日市であることから、「その手は桑名の四日市」ともいう。 用例もうろくはしても、小娘の手玉にとら れる他巳吉 様と他巳吉様が違っているぞ。 おかど違いというものでげしょう。他巳吉は 見事な見得を切るのであった。その手は大き に桑名の焼蛤というものだ。そこで再び大き な舌をべろりとだして憎たらしげに鼻をひく ひくさせるのだった。坂口安吾◆吹雪物語 其の疾きこと風の如く、其の徐かなる この林の如く、侵掠すること火の 如く、動かざること山の如し風 林火山576 その右に出ずる者なし♩右に出る者が ない617 そみただ 其の身正しければ令せずして 行わる 出論語 為政者の行いが正しければ、人々は自然に心 服して、命令しなくてもよい政治が行われる ということ。 補説出典には、このあとに「其の身正しか らざれば、令すと雖いえも従わず(為政者が自 ら正しいことをしなければ、いくら命令を下 しても守られはしない」とある。 類義 其の身正しければ影曲がらず。 そみちあらすなわいったん 其の道に非ざれば則ち一簞の しひとう 食も人に受くべからず出孟子 どんなわずかなものでも、道理に合わないも のはもらってはならないということ。正当な 理由がなければ、たとえ一杯の飯でも受け 取ってはならない意から。▷一簞の食=一個 の竹製の器に入れた飯。 補説孟子が門人の彭更 に言ったことば で、出典には「其の道に非ざれば則ち一簞の 食も人に受くべからず、其の道の如くせば、 則ち舜 堯 ぎよ の天下を受くるも、以もって泰 と為さず(道理にかなっているなら、舜のよ うに尭の天下をそのままもらい受けたからと いって、分に過ぎたおごりとはいえない) とある。 <380> そのもとーそわぬう その本を揺らずして其の末を 斉しゅうす 出孟子 物事を比較するには、同じ基準が必要だということ。根本をよく調べないで先のほうばかりそろえ、目に見える部分だけで判断する意から。 補説出典には「其の本を揣らずして其の末を斉しゅうせば、方寸の木も岑楼ろうより高からしむ可べし。金は羽より重しとは、豈あに一鉤の金と一輿の羽との謂いを謂いわんや(物を比較するのに、その根本のほうを計らないで先端のほうだけ比べたら、一寸四方の小さな木でも高い丘より高くすることができる。金属は羽根より重いが、それは小さな帯止め一つと車一台に山と積んだ羽根とを比べていうのではない。すべて比較は基準が同じでなければならぬ)とある。 側杖を食う とばっちりを受けるたとえ。また、自分とは 無関係な事件のまきぞえを食うこと。杖でな ぐり合って喧嘩けんしている人たちの近くにい たために、誤って杖で打たれる意から。「側 杖を受ける」ともいう。「側杖」は「傍杖」 とも書く。 類義とばっちりが掛かる。池魚の殃わざ。 用例いえもうこれぎりで店をしまおうと 火を落してしめえましたので。なんしろ、御 聞きの通りのエジャナイカ騒ぎで本宿辺 は散々にぶちこわしが始まっていると申しま すし、それに何でも噂 うわ さ では百姓一揆 ひゃくしょ ういっき が此処こを通るんだとかで、あれやこれや、 ボンヤリ店を開いていて傍杖でも喰くうた日 にはたまりましねしね……。三好十郎◆天 狗外伝 そばはなひとさかあざみはなひとさか 蕎麦の花も一盛り齒の花も一盛り15 そひとゆみわすそひとこれう 楚人弓を遺れて楚人之を得 出説苑ぜいえん 度量の大きなことのたとえ。自分は損をした けれども、そのために他にいい思いをする者 がいるからと、大目にみること。 故事)中国春秋時代、楚の共王が猟に出か けて弓を失い、側近が探そうとしたが、共王 は、楚の人間が弓をなくしたが、同じ楚の国 の人間が拾うだけのことだから、探さなくて もよいと言ったという故事から。 楚人好〈楚語を説〉 自分の知っていることについては、得意に なって多くのことを語るたとえ。楚の人は、 楚のことばについてはくわしく、好んで説明 するということから。 とってつけたような行為は、長続きしないこ とのたとえ。信仰心もないのに念仏を唱えて も、三度ぐらいでやめてしまう意から。△空 ニうそ・いつわりの意。合ニ回数を数える語。 類義付け焼き刃はなまり易い。 空念仏も三合どまり お互いの気心が合わないこと。刀の反りが鞘 さやに合わないことから。▷反り∥刀の刀身の 曲がり具合。 類義油に水。水と油。 対義馬が合う。 用例女房運が悪くって、最初のには逃げられるし、二度目はそりが合わなくて別れるし、三度目のにはつい先達だって死なれてしまったと、眼ゅをうるませ、おろおろ話した。〈矢田津世子・鴻ノ巣女房〉 そろそろ行けば田も濁る 物事はさっさと早めにすますほうがよいというたとえ。水田の中をゆっくりと歩いて行っても、泥がわき上がって水は濁るし、仕事もはかどらない意から。「そろそろ行っても田は濁る」ともいう。 そろばんじょうあ算盤で錠が開く 計算を確実に行っていくと、難しい問題でも 解決できるということ。数字をもとにして説 明すれば、話が通じるということのたとえ。 ∇算盤Ⅱ計算の意。 添わぬうちが花 結婚して生活してみれば、お互いの欠点が目 について幻滅することもある。結婚する前の 恋をしている時期がいちばん楽しい時期であ るということ。 類義 待つ間が花。 成らぬうちが楽しみ。 <381> 損して得取れ そんとくと 一時的には損をしても、それが将来大きな利益になって返ってくるようにせよということ。「損して得取る」ともいう。 類義損をして利を見よ。損せぬ人に儲もうけ なし。損をすれば得をする。一文吝おしみの百 知らず。 用例一個八十錢の西瓜 か で十錢の切身何個 と胸算用して、柳吉がハラハラすると、種吉 は「切身で釣って、丸口で儲けるんや。損し て得とれや」と言った。そして「ああ、西瓜 や、西瓜や、うまい西瓜の大安売りや!」と 派手な呼び声を出した。〈織田作之助◆夫婦 善哉〉 損して恥かく 損をしたうえに、さらに恥までかいてさんざ んひどい目にあうことをいう。「損の上に恥」 ともいう。 類義損の上塗り。泣き面に蜂。 損者三友益者三友損者三友 そんしゃさんゆう えきしゃさんゆう そんしゃさんゆう 99 元人し あくちよえ な かいきゃくろく 蹲鴟を悪鳥と為す 出 諸噱録 無学な者が見当違いなことをいうたとえ。 蹲うずくまる。鴟〓ふくろう。夜、小動物 を捕らえて食うので悪鳥とされる。蹲鴟〓芋 の別名。形がうずくまったふくろうに似てい そんしてーそんとも るところから、親芋(または八頭やつが)のこと をいう。 故事)中国、唐の詩人張九齡 ちょうきが、無学な ゆうれい 友人をからかって芋を送り、手紙で「蹲鴟を 差し上げる」と書いた。友人は蹲鴟を芋のこ とと思わず、うずくまったふくろうと思い、 お礼の手紙に「芋はいただいたが、蹲鴟は届 いていない。しかし、そんな悪鳥は見たくも ない」と書いてきた。九齢はその手紙を客に 見せ、大笑いしたという故事から。 蹲鴟を羊と為す 出顔氏家訓 無学な者が早のみこみをしてまちがえること のたとえ。△蹲鴟=芋の別名。 故事)中国の南北朝時代、北斉のある貴人が 「文選もん」にある左思さしの「蜀都賦」の「注」 に「蹲鴟、芋なり(蹲鴟とは芋のことである)」 と書いてある「芋」を「羊」と読み誤って覚 えてしまい、あるとき人から羊の肉を送られ たとき、その礼状に「蹲鴟をありがとう」と 礼状を書いたという故事から。 損せぬ人に儲けなし 商売では、ある程度の損は覚悟しておかない と、もうけることはできない。損することを 恐れている人に大もうけすることはできない ということ。 英語 You must take the fat with the lean. 脂身あぶを赤身肉と一緒に受け取らなければ ならない 出晏子春秋 機外折復 出夢寸春秋 酒席でなごやかに交渉し、話を有利に進める こと。「尊俎折衝」とも書く。また、「樽俎に 折衝す」ともいう。樽俎酒樽 理をのせる台。転じて、宴席のごちそう。酒 宴の席。折衝=敵のほこ先をかわすこと。転 じて、かけひき。 注意「折衝」を「接衝」と書くのは誤り。 故事中国春秋時代、晋しんの平公が斉を攻め ようとして、范昭はんしに敵状をさぐりに行か せた。斉の景公は名臣晏嬰の策に従って范 昭を宴会の席にもてなした。晏嬰に腹の中を 見すかされた范昭は、帰って平公に、斉は討 つべきではないと報告した。孔子はこれを評 して「酒宴の席だけで、千里も遠い所のこと を知るというのは晏嬰のことである。敵の攻 撃をくじいたと言ってよい」と言ったという。 そんもとねくらた 損と元値で戯を建て 商人の言うことは当てにならないというたと え。商人は、この値では損をするとか元値を 割るとか言いながら、いつの間にか蔵を建て るほど金持ちになっているという意から。 類義商人 あき んど は損していつか倉が建つ。商人 は損と原価もと で暮らす。商人の元値。 用例またこれもやはり時代のせいであろう か、昔風のいわゆるカケヒキ「損と元値で蔵 を建て」式なインチキな販売法は今は流行はや らない。相当の知識を持った紳士的商売術 で、別に奇術を弄さずとも相当のところまで 行けるであろう。〈相馬愛蔵◆私の小売商道〉 <382> た たあるあぜあるおなあぜゆ 田歩くも唯歩くも同じ↓哇から行くも 田から行くも同じ19 大隠は朝市に隠る 出王康琚詩 真の隠者は、山野に隠れることもなく、俗世 間で暮らしながら、俗事に心を乱されることがないということ。「大隠は市いちに隠る」と もいう。大隠悟り切った隠者。朝市‖役 所や市場。ここでは「町なか」の意。 補説詩の題名は反招隠 はんしょ。小隠は陵 ういん 數 りょう そう に隠れ(ふつうのつまらない隠者は、俗 世間のわずらわしさから逃れて山野にひきこ もって住むが)、大隠は朝市に隠る」とある。 大禹は寸陰を惜しむ すんいん お すんいん お 寸陰を惜しむ 345 たいえん 大怨を和するも必ず余怨有り いったん人に大きな恨みを与えると、たとえ その後、和解して和らげたとしても、恨みが まったく消えてしまうことはなく、必ずしこ りが残るものであるということ。▷大怨‖深 い恨み。余怨‖大怨のしこり。 出老子ろうし だいおん 大恩は報ぜず 類義大徳は酬むいず。大恩は忘る。提灯 ちょう ちん を借りた恩は知れど天道 てん とう の恩は忘れる。 たいかいし いかわず なかかわずたいかい 大海知らぬ井の蛙♩井の中の蛙大海を るものだが、あまりにも大きな恩にはかえっ て気がつかなかったり、気づいてもそのまま になってしまいがちであるということ。 知らず72 たいかい 大海の一粟 いちぞく そうかい いちぞく 滄海の一粟 370 大海の一滴 たいかいいってき きわめて小さなことのたとえ。海の中の一滴 の水のようなものということ。また、非常に 大きなものの中のごく小さな一部分、ごくわ ずかであることをいう。 類義大海の一粟 いち。 滄海 そう かい の一粟。九牛の 一毛。 たいかいあくたえら 大海は芥を択ばず 大人物は、どんな相手にも心を開き、分けへ だてなく人を受け入れること。大海は川から ごみが流れ込んでも気にすることなく、受け 入れるという意から。「大海は塵ちりを択ばず」 ともいう。▷芥∥ごみ。 類義 河海 かか は細流を択ばず。太山 たい さん は土壌 を譲らず。 たいかいて 大海を手で塞ぐ できるはずがないこと。とうてい不可能なことをしようとすることなどをいう。大海の水を手でせき止めようとするという意から。 「大海を手で塞く」ともいう。 類義大水を手で防ぐ。柄杓ひしで海を換え る。一箕いつを以もって江河がを障ささう。貝殻で 海を干す。貝殻で海を量る。蜆貝しじみがいで海を 量る。蛤はまぐりで海をかえる。嬰児えいの貝を以て 巨海を測る。 たいかいみみか大海を耳掻きで測る 自分の狭い考えだけで、大きな問題をおしは かることのたとえ。海水の量を耳掻きの先で 何杯あるかはかろうとする意から。 類義貝殻で海を量る。 たいかな 大廈成りて燕雀相賀す 出淮南子えなんじ 物事の影響が思いがけないところにまで及ぶ ことのたとえ。また、価値観は人ごとに違う ことのたとえ。大きな家ができると、小鳥た ちは高くて安全な場所に巣を作れるので祝い 合うということから。▷大廈‖大きな建物。 燕雀‖ツバメとスズメ。転じて、小鳥。 補説出典には、この前に「湯沐具そなわり て蟣虱きし相弔とむい湯あみの設備ができると 人の体がきれいになるので、しらみはいる場 所がなくなって悲しみ合い)とある。 たいかざいいつきゅうきあら 大廈の材は一丘の木に非ず 出王褒ー四子講徳論 大事業は一人だけの力ではできないということ。大きな建物を建てるには一つの山の木だ <383> けでは足りず、他の山の木も必要とするということから。▷大廈=大きな建物。 はては足りす他のドの うことから。大廈=大き 補説出典には千金の裘きは一狐いの腋えき に非ず千金の皮ごろもは一匹の狐きのわき の下の毛皮では作れない、大夏の材は一丘 の木に非ず、太平の功は一人の略に非ざるな り(天下を泰平にする功績も一人の力ではな く、陰かげに多くの協力者である群臣がいるか らである)とある。 たいかのちな 大家後無し 大家の子孫が、その道で同じように大家にな るとは限らない。大家、名人は血統ではなく、 本人の努力によってなるものだということ。 ▶大家‖その道にとくに秀でた人。 類義 堯 ぎよ の子堯ならず。賢の子賢ならず。 名人の子に名人なし。 たいかまさたお 大廈の将に顛れんとするは一 ぼくささところあら 木の支うる所に非ず 出文中子中説 国家が滅びそうになったときには、一人の力 ではどうすることもできないということ。大 きな家が倒れそうになったときには、とても 一本の突っかい棒で支えられるものではない という意から。▷大廈‖大きな建物。 類義一木 大廈の崩るを支うる能 あた わ ず。大樹 たい じゅ の将 まさ に倒れんとするは一縄 いちじ よう の繋なぐ所に非ず。 り一柱一木のよく支うるところにあらざるな り。老大国の前途、絶望の観なきあたわず。 〈井上円了◆西航日録〉 たいかのーたいぎし たいかん 大寒にして後衣裘を索む 事が起こってからあわてて騒ぐこと。寒さが きびしくなってから皮ごろもを探し求める意 から。▷裘‖毛皮でつくった衣服。皮ごろ も。 出法言ほうげん 類義泥棒を捕らえて縄を綯なう。戦 いく さ を見 て矢を矧はぐ。 たいかんうんげいのぞごと 大旱の雲霓を望むが若し 出孟子もうし あることの到来を切に待ち望むことのたと え。ひどい日照りのときに、雨の前兆である 雲や虹を待ち望むという意から。▷大旱=甚 だしい旱魃かん。ひどい日照り。雲霓=雲と 虹。 たいがん対岸の火事かじ 自分には直接利害関係がなく、影響を受けな いこと。当事者は大変でも自分には痛くもか ゆくもないことのたとえ。向こう岸の火事 は、こちらの岸までは燃え移る心配がないと いうことから。「川向かいの火事」「対岸の火 災」「向こう河岸がしの火事」ともいう。 類義高みの見物。山門から喧嘩見る。 用例祖母は向島むこうの小さい穏かな住居で、 維新の革命も彰義隊の戦争も、凡すべて対岸の 火事として安穏あんに過して来ました。〈菊池 寛◆ある恋の話〉 出宋史そうし は忠に似たり 人の表面だけを見て判断してはいけないということ。大悪人はうまく表面をつくろって、なかなかしっぽを出さないため、かえって忠義の臣のように見えることから。▷大姦‖人道にはずれた大悪人。 補説中国、北宋 ほく そう の宰相であった王安石 おうあ んせき を弾効した呂誨 りよ かい のことば。出典には、 このあとに「大佞 たい ねい は信に似たり(言葉巧み にへつらう者は、一見するとかえって信義の ある者のように見えるものである)とある。 出後漢書ごかんじょ 大器小用 適材適所でないたとえ。大人物につまらない 仕事をさせること。大きな器を小さなことに 用いる意から。有能な人物を低い地位に置い て、その能力を十分に生かさないこと。「大 材小用」ともいう。∇大器=すぐれた才能・ 度量。また、その持ち主。 類義 鶏を割くに焉 いず んぞ牛刀を用いん。牛 刀を以 もって 鶏を割く。驥き、 塩車 えん しゃ に服す。 大根を正宗 まさ むね で切る。 大義親を滅す 出春秋左氏伝 大義のためには肉親の情も捨てるというこ と。国家や君主に対する大義を全うするため には、親子兄弟の情愛も犠牲にしてかえりみ ないという意。 <384> だいきちーたいぐん 用例「では承 うけ たま わる」「貴殿、 大義親を滅すという言葉を御存じか 「美濃国 ふのの くに 郡上 ぐじ、 越前国 えちぜん のくに 大野、三万八千石の百姓 ひゃく しょう 何万人を、地獄 の苦しみから救う為 ために、見事金森家を取潰 とり つぶす気になられぬか「父上御一人は兎とも角、 金森の家中何百人を路頭に迷わせても?」出 雲守 いずも のかみ 頼門 より かど の考 かん がえ は常識的で、そして保 守的でした。「野村胡堂・奇談クラブ」 大吉は凶に還る 幸運もほどほどがよいということ。また、よいことばかりは続かないということ。易の卦けから出たことばで、吉が過ぎれば凶にかえることから。「大吉は小凶に近い」ともいう。類義満は損を招く。陽極まって陰生ず。月満つれば則すなち虧かく。過ぎたるは猶なお及ばざるが如ことし。身に過ぎた果報は禍わざの元。たいぎたいごもとい大疑は大悟の基 疑いのないところに悟りはないということ。 大いなる疑いこそが大いなる悟りのもとだと いう意から。「大疑の下もと、必ず大悟有り」 という禅のことばに基づく(『大慧普説だいえ」)。 類義迷わぬ者に悟りなし。疑わぬ者に悟り なし。 た、その持ち主。 たいきばんせい 大器晩成 偉大な人物は、大成するのに時間がかかると いうこと。大きな器は、完成するのに時間が かかるという意から。「大器は晩おそく成る」 ともいう。∇大器∥すぐれた才能・度量。ま 出老子ろうし 補説出典には「大器は晩成し、大音 たい おん は声 希なく、大象 たいし よう は形無し(真に偉大な人物は 大成するのがおそく、この上なく大きな音は、 かえってほとんど聞こえず、この上なく大き な形をもつものは、かえって姿が見えない」 とある。 用例)源次も竜一も不合格だった。竜一は、 だれに向かっても、「全甲の次郎ちゃんでさ えうからなかったんだから、僕がうからない のはあたりまえだい」と言った。源次は、二 度目なので、さすがに少々てれてはいたが、 二三日すると、どこで覚えて来たのか、「大 器晩成だよ」などと言って、けろりとしてい た。〈下村湖人◆次郎物語〉 大義名分 人間として、国家や君主に対して守るべき道 理や節義。また、行動の根拠とする正当な理 由。自分の行動を正当化するための理由づけ の意で用いることが多い。▷大義‖人間とし て行うべき道理。臣下として君主につくすべ き道の意。名分‖守るべき本分。 「注意」「名分」を「明分」と書くのは誤り。 用例孔明の一短を挙げたついでに、蜀軍 しょくが遂に魏ぎに勝って勝ち抜き得なかった敗 因がどこにあったかを考えて見たい。私は、 それの一因として、劉玄徳りゅうげんとく以来、蜀軍の 戦争目標として唱えて来た所の「漢朝復興」 という旗幟きしが、果たして適当であったかど うか。また、中国全土の億民に、いわゆる大 義名分として、受け容いれられるに足るもの であったか否いなかを疑わざるを得ない。〈吉川英治◆三国志〉 大魚は小池に棲まず 大人物はつまらない仕事や地位に甘んじて働くようなことはしない。また、大人物はその能力にふさわしくないところにはいないということのたとえ。「大魚は小水に棲まず」ともいう。大きな魚は狭い池にはすまないという意から。 類義大魚は支流に泳がず。流れ川に大魚無 し。 呑舟 どんし ゅう の魚 うお は枝流に游あそばず。鶴つる は枯れ木に巣をくわず。大象 たい ぞう は兎径 とけ い に遊 ばず。牛蹄 ぎゅう の涔しんには尺せきの鯉こい無し。 対義掃はき溜だめに鶴。 英語 A great ship asks deep waters. [大きい船は深い水域を必要とする] 大工の掘っ立て 他人のことばかりに忙しくて、自分のことに は手がまわらないこと。また、人にはもっと もらしいことを言っても自分では実行しない 者のたとえ。他人の家は立派に建てる大工 が、自分は掘っ立て小屋のような家に住んで いるという意から。 類義紺屋 こう の白袴 しかま 医者の不養生。足 袋屋の素足。餅屋餅食わず。駕籠かごかき駕籠 に乗らず。 大軍に関所なし 大軍勢を相手にしては、いくら地の利を得て いる関所でも、防ぎようがないということ。 <385> 「大軍に切所 せっ しょ なし」ともいう。 類義多勢に無勢。大廈 たい の将 まさ に顚 たお れん とするは一木 いち ぼく の支うる所に非 あらず。 たいぐんのちかならきょうねん 大軍の後には必ず凶年あり 出老子ろうし 大戦争のあとは必ず凶作になる。大きな戦争 が起こると、人民は兵士としてかり出され、 耕地は戦場となって荒らされたり、食料が乱 費されたりするということ。「軍旅 は必ず凶年あり」ともいう。∇大軍∥大きな 戦争。 補説出典には、この前に「師の処る所に は荆棘生ず軍隊のたむろした所には、い ばらやとげの木が生える」とある。 たいげんきゅうしょうげんた 大弦急なれば小弦絶ゆ 国を治めるには寛容の心が大切で、政治が厳 しすぎると、民を疲れさせ、国を滅ぼすこと になるということ。琴などの太い弦を強く張 りすぎると、細い弦は切れてしまうことから。 ▶大弦‖琴などの太い弦。急‖弦を強く張る こと。小弦‖細い弦。 出後漢書ごかんじょ 類義筆策 すい さく 繁しげく用うるは遠きを致すの御 に非あらず。小弦急なりと雖いえも大弦必ず緩ゆる し。 たいけんぐごとたいちぐごと 大賢は愚なるが如し大智は愚の如し 391 たいぐんーたいこう だいこうい そうせい いかん 乃公出でずんば蒼生を如何せ ん この自分が出てやらなければ、世の人民はど うなるであろうか。これから世に出ようとす る者の気負いと自信を示すことば。「乃公出 でずんば」だけで用いることが多い。△乃公 ‖わが輩はい。おれさま。男子が自分を尊大に いうときの一人称。もとは「汝なんの君主」の 意。蒼生‖人民の意。 大巧は巧術無し 出菜根譚 大巧は巧術無 根譚 巧みな手腕をもつ者は、その巧妙な技術を用 いているようには感じさせないということ。 補説出典には、続いて「術を用うる者は乃 ち拙せっと為なす所以ゆえなり(技術を巧みにあ やつろうとする者は、まだ未熟でつたないこ としかできない人である」とある。 たいこう 大行は細謹を顧みず 出史記しき 大事を成し遂げようとする者は、小さなことにこだわったり、つまらない失敗を気にかけたりしないものだということ。△細謹=こまかいことに気を配ること。俗に「細瑾」と書き、わずかな欠点やあやまちの意で用いる。補説出典には、続いて「大礼は小譲を辞せず(大きな礼節が守られていれば、小さな謙遜など問題ではない)」とある。 故事 中国漢の沛公 はい こう 劉邦 りゅう 後の高祖 が楚その項羽 こう と鴻門 こう もん で会ったとき、宴会 の途中で自分の命がねらわれているのを知っ た。便所に立った沛公に、側近の樊噲はがそのまま逃げるように勧めたが、別れの挨拶をしていないとためらう沛公に樊噲が言った。大事を行う場合に小さな礼など問題にしない。いま、相手は刀とまな板で、こちらは魚肉である。どうして別れの挨拶などする必要がありますか」と。沛公は馬を駆って逃げ、九死に一生を得たという。 たいこうしゅうしんふぼした 大孝は終身父母を慕う 真に親孝行な人は、一生の間どんなときでも 父母を深く思って忘れないということ。 補説出典には、このあとに「五十にして慕 う者は、予われ大舜たいしに於おいて之これを見る(五 十になってもなお父母を慕い続けた実例は、 私は偉大な聖天子舜においてはじめて見た) とある。 たいこう せつ こと 大巧は拙なるが若し 出老子 ほんとうにすぐれたものは、一見つたないよ うに見えるということ。 補説出典には「大直 は屈するが若く、 大巧は拙なるが若く、大弁 たいは訥となるが若 し(真にまっすぐなものは一見曲がっている ように見え、真に巧みなものは一見下手なよ うに見え、真に雄弁なものは一見訥弁 うに見える)とある。 類義大巧は巧術無し。大弁は訥なるが若 し。大孝は孝ならず。 太公望 たいこうぼう 出史記しき 魚釣りをする人。釣り好きな人。「太公が望 <386> たいこうーたいこを 呂尚 りよし よう の通称。 んだ人」の意で、もと中国古代の周の政治家、 故事周の文王が渭水い川の名のほとりで 釣りをしていた呂尚に会い、話してみると立 派な人物だったので「この人物こそ、亡き太 公(父君)が待ち望んでいた聖人である」と喜 び、呂尚を太公望と号した。呂尚は軍師とな り、文王の子の武王を助けて殷いんを滅ぼした。 たいこうてんかたものかなら 大功を天下に建つる者は必ず まけいもんうちおさ 先ず閨門の内を修む 出新語 大きなことを成し遂げるためには、まず身近 なところをきちんとおさめることが大切である。天下に大功をたてようとする者は、まず 家庭内をうまくおさめるものだという意。▶ 閨門=家庭の意。 たいこうなものしゅうはか大功を成す者は衆に謀らず 大事業を成し遂げる者は、多くの人に相談せ ず、自分の決断で事を進める。大勢の意見を 聞いていたのでは議論がまとまらないから、 自分の判断力で断行しなければならないとい うこと。▶大功∥大きな事業。 出戦国策 たいこう ろん ものしょうか ろく 大功を論ずる者は小過を録せ ず 出漢書 ないということ。 △録す∥とりあげる。 大きな功績をたたえるときには、そのかげに 小さな過失があっても、大目に見て問題にし 補説出典には、続いて「大美ひを挙ぐる者は細瑕さいを疵きずとせず(大きな美点をほめる場合には多少の欠点は見のがす)」とある。類義大功を成す者は小苛せず。大行は細謹さんを顧みず。 だいこくばしらうでお 大黒柱と腕押し いくら努力をしても、とうてい力の及ばない ことのたとえ。家の大黒柱と腕相撲をするの 意から。∇腕押し∥腕相撲。 類義大黒柱を蟻ありがせせる。 大黒柱を蟻がせせる びくともしないことのたとえ。また、無力な 者が不相応な大仕事に取り組むたとえ。大黒 柱を蟻がかむという意から。∇せせる∥虫な どが刺す。かむ。 類義大黒柱と腕押し。大仏を蟻が曳ひく。 藁わらしべを以もて泰山を上げる。富士の山 を蟻がせせる。富士の山と丈比べ。大仏の柱 を蟻がせせる。大仏様をむぐらもち。 たいこくおさしょうせんに 大国を治むるは小鮮を烹るが ごと 若くす 出老子 大国を治めるには、人民にあまり干渉せずに、 自由にしておくべきだということ。無為自然 の政治を説いたことば。小魚は形がくずれや すいので、箸でかきまわしたりせずに煮ると ころから。△小鮮∥小魚。 類義魚うおを烹るに煩わしければ砕く。 絶対に確実だと保証すること。太鼓のように 大きな判を押す意から。「押す」は「捺す」 とも書く。▷太鼓判=大型の印鑑。太鼓のよ うに大きな判。 類義折り紙を付ける。 醍醐味 出涅槃経 最上の美味。仏教における最高の教え。転 じて、物事のなかの最も味わいのあるとこ ろ。牛乳の精製によって得られる味を「五 味」に位置づけ、「醍醐味」はその最高の段 階。 補説出典には「醍醐は最上なり、若もし服 するあれば衆病皆除かる(醍醐は最上の味が あり、これを飲むとどんな病気でもなおる)」 とある。 用例 静寂といおうか、閑雅といおうか、釣 つり の醍醐味をしみじみと堪能するに、寒鮒 かん ぶな 釣を措おいて他に釣趣 ちょう しゅ を求め得られないで あろう。〈佐藤垢石◆寒鮒〉 太鼓も撥の当たりよう 相手の反応は、こちらの出方次第で違ってく ることのたとえ。太鼓は、ばちで大きくたた けば大きく響き、小さくたたけば小さく響く ことから。∇撥∥太鼓などの楽器を打ち鳴ら す棒。「桴」とも書く。 太鼓を打てば鉦が外れる 同時に多くのことはできないということ。太 <387> 鼓を打つことに気を取られると、もう一方の 鉦をたたく手がおろそかになるという意か ら。∇鉦=たたいて鳴らす小形の楽器。 類義田の事すれば畑が荒れる。念仏申せば 鉦が外れる。鉦叩たたきや念仏外れる。櫓を 押して櫂かいは持たれぬ。 だいこんおろ 大根卸しに医者いらず 大根は体にいいので、大根おろしを食べてい れば病気にならず、医者にかかることもない ということ。民間療法の一つ。 だいこん まさむね き 大根を正宗で切る 大げさなことをするためとえ。また、才能のあ る人につまらない仕事をさせるたとえ。たか が大根を切るのに、正宗のような名刀を使う 意から。∇正宗∥鎌倉時代の名高い刀工岡崎 正宗が鍛えた刀。 類義正宗で薪割る。牛刀を以もて鶏を割 大器小用。瘦せ虱じらを鎚やりで剥はぐ。 たいざんくずりようぼくやぶ 泰山頹れ梁木壊る 出礼記 一世の指導者と尊敬されている人が死ぬこと。人々が仰ぎ尊ぶ泰山がくずれ、屋根を支える最も重要なはりが折れてしまう意から。孔子が自分の死を予感して歌ったということば。マ泰山中国の山東省にある名山。五岳の一。秦の代から天子が即位のときに天地の神を祭る儀式を行う山として尊ばれた。「太山」とも書く。梁木屋根を支えるため横に渡した太い材木。はり。 補説 出典には 「朝早く起きた孔子が杖 つえ を だいこんーたいざん 片手に門のあたりを歩き回り、『泰山其それ頹 れんか、梁木其れ壊れんか、哲人其れ萎やま んか(泰山はくずれるのか、梁木は折れるの か、賢者が衰えて死のうとするのか)』と歌っ た」とあり、「重病で寝ること七日で孔子は 没した」とある。 たいざんたまごあっ 泰山卵を圧す 出後漢書 物事が簡単にできてしまうことのたとえ。また、強大なものからは逃れ難いことのたとえ。大きな泰山が小さな卵を押しつぶすという意から。マ泰山=中国山東省にある名山。五岳の一。「太山」とも書く。 類義千鈞 せん の重きを鳥卵ちょう の上に垂たる たいざんのぼてんかしょう 太山に登りて天下を小とす 出孟子もうし 広い視野と高い見識を持って、物事を論ずる こと。また、観点が高く大きくなると、凡俗 の意見など取るに足りないものになるという こと。大きい泰山に登って下界を見れば、す べてが小さく見えることから。▶太山=泰 山。中国山東省にある名山。五岳の一。 たいざんあまだれいしうがあまだいしうが 泰山の霧は石を穿つ↓雨垂れ石を穿つ たいざん たか いっせき あら 太山の高きは一石に非ず 出晏子春秋 物事は、多くの人の意志と力が結集してはじ めて定まるというたとえ。石一つだけでは高 い山はできず、小さな石がたくさん積み重 なってはじめて大きな山になるという意か ら。 補説出典には、この後に「卑ひくきを累かさね て然しかる後に高し(小さな石をいくつも重ね て高い山になる)とある。 たいざんどじょうゆず 出史記しき 太山は土壌を譲らず 大人物は、多くの人の意見に耳を傾けること によって、ますます見識を高めていくという たとえ。泰山が大きな山となったのは、ど んな小さな石や土くれでも退けずに受け入れ たからであるという意から。マ太山=泰山。 中国山東省にある名山。一般に、高く大きい 山の意味でも使われる。 補説出典には、続いて「故に能よく其その大 を成す。河海かは細流を択えばず、故に能く 其の深しを就なす(だからあのような大きな山 になったのだ。黄河や海も、どんな小さな流 れもより好みせずに受け入れたからこそ、あ のように深くなったのである」とある。他 国の者を秦しから追放する令が出されたと き、李斯りしが差し出した「逐客上書ちくかくじ」 の中のことば。 類義大海は芥 あく た を択えらばず。 河海かは細流 を択ばず。 たいざんほくと 泰山北斗 出新唐書しんとうじょ 第一人者。権威。その分野で最高と仰がれ、 尊敬される人物のこと。泰山も北斗七星も、 どちらも人々に仰ぎ見られているところか <388> ら。「泰斗」ともいう。マ泰山=中国山東 省にある名山。五岳の一。北斗=北斗七星。 補説出典には「愈ゆ没してより、其その言大 いに行われ、学者の之これを仰ぐこと泰山北斗 の如ことしという(韓愈かんの死後、その学問は 盛んに行われ、学問を学んでいる人々は、韓 愈を尊敬して泰山北斗のように仰いだ」と ある。 たいざんまえくず 泰山前に崩るとも色変ぜず 出権書けんしょ 物事に動じないことのたとえ。大きな泰山が 目の前で崩れてきても、顔色一つ変えないと いう意から。マ泰山=中国山東省にある名 山。五岳の一。 補説出典には「将たるの道は、当まに先ま ず心を治むべし。泰山前に崩るるとも色変ぜ ず、麋鹿びろ(大きな鹿)左に興るも出てき ても目瞬またかず」とある。 たいざんめいどう 大山鳴動して鼠一匹 前ぶれや騒ぎが大きいわりには、実際の結果 は小さいことのたとえ。大きい山が音を響か せ揺れ動くので、大噴火でも起こるのかと見 守っていると、小さな鼠がたった一匹出てき たにすぎなかったという意から。古代ローマ の詩人ホラティウスの言葉にもとづく西洋の ことわざによる。「大山」は「泰山」とも書く。 「大山鳴動して一鼠いっ出ず」ともいう。 類義蛇じゃが出そうで蚊かも出ぬ。 The mountains have brought forth a mouse. 山々が鼠を一匹生んだ」 Much bruit little fruit. [騒ぎばかりが大きく、収 穫はほとんどない」 たいざんわきばさもっほっかいこ 太山を挟みて以て北海を超ゆ 出孟子もうし 不可能なこと、人間の力ではとうていできな いことのたとえ。泰山を小脇にかかえて北海 をとびこえるという意から。▷太山=泰山に 同じ。北海=渤海湾 ほっか いわん のこと。 補説中国の戦国時代、斉の宣王が孟子に、 できないことと、しないことの違いをたずね たときの孟子の答え。「泰山を小脇にかかえ て北海をとびこえることができないと言うの は、ほんとうにできないことなのです。目上 の人に腰をまげておじぎをすることができな いと言うのは、できないのではなくて、しな いのです」と答え、「王様が仁政を施しいて王 者とならないのは、できないのではなくて、 しないからです」と言って諭さとしたという。 だいじしょうかしょうじむか 大事小に化し小事無に化す 出明心宝鑑 物事を気にかけないこと。また、思ったより 簡単にいくこと。大きな問題も小さなことと してすませ、小さな問題は、なかったことに してしまう意から。 仏教で、広大無辺な仏の慈悲。大慈悲。「だ だいじだいひ大慈大悲 いずだいひ」とも読む。「大悲大慈」ともいう。 ▶大慈‖仏が衆生に楽を与えること。大悲‖ 衆生の苦しみを救うこと。 出法華義疏人慈悲。だ 大事の中に小事なし 大事を成す場合には、小さいことを顧みる余 裕がないから、小事を犠牲にしてもやむをえ ないということ。 類義大事の前に小事なし。大行 たい こう は細謹 さい きん を顧みず。 だいじ 大事の前の小事 大きなことを成し遂げようとする者は、小さ なことは犠牲にしてもやむをえないというこ と。また、大事を成し遂げようとする者は、 小事を軽んじてはいけない。ちょっとした油 断が失敗をまねくことになるということ。↓ 小の虫を殺して大の虫を助ける322 類義大事の前に小事なし。大行は細謹 を顧みず。大事は小事より顕 たい こう る。 だいじしょうじあらわ 大事は小事より顕る 秘密にするような大事も、ちょっとした油断 から発覚してしまうということ。また、小さ なことだからとそのままにしておくと、思わ ぬ大事に発展してしまうということ。「大事 は小事より過 あや ま つ」ともいう。 いりここ、そこ、そこ、そこ、 類義大事は小事より破る。大事の前の小 事。 だいじしょうじおてんかだいじ大事は小事より起こる天下の大事は かならさいおこ 必ず細より作る448 <389> たいじゅしょうぐん 大樹将軍 功績を自慢しない指導者。また、立派な将軍 の異称。転じて、征夷大将軍 せいいたい。 しょうぐん 出後漢書こかんじょ 故事中国後漢の馮異ふうは兵法に通じ、光武 帝に仕えて戦功をたてたが、謙虚な人柄で決 して誇らなかった。諸将が手柄話をしている ときは、一人その場を離れ樹の下に座ってい た。軍中では「大樹将軍」とあだ名して、兵士 は皆馮異の部下になりたいと願ったという。 たいじゅもとびそうな 大樹の下に美草無し 出 説苑 傑出した人物の下では、人材が育ちにくいこ と。大木の下は日が当たらないので、美しい 草が育たないという意から。人材登用の道が 閉ざされているところには、有能な人物が集 まらないことにもいう。 補説出典には高山の巔 だきには美木無し、 多陽に傷そこなわるればなり。大樹の下には美 草無し、多陰に傷なわるればなり(高い山の 頂上に立派な木がないのは日当たりや風当た りが強いからである。大きな木の下に美しい 草がないのは日陰で湿り気が強いからであ る)とある。 たいしょうか 大匠に代わりて斲る者は其の てきずつあまれ 手を傷けざる有ること希なり 権力に頼って政治を行うと、必ず失敗すると いうたとえ。素人が熟練した大工の真似をし たいじゅーだいじょ 出老子ろうし て木を切ると、けがをするという意から。△ 大匠‖腕のいい大工。斲る‖切る。「けずる」 とも読む。 大匠は斲らず 出淮南子 名人は軽々しく物事に手を出したりしない。 また、名人はつまらない小細工をしない。上 手な大工は、むやみに木を切ったり削ったり せず、自然のままをうまく使うという意から。 「斲らず」は「けずらず」とも読む。 補説出典には続けて、「大庖は豆さかず。 大勇は闘わず(すぐれた料理人は自分で材料 を処理したりはしない。真に勇気のある人は むやみに争わないで心服させる)とある。 英語The best carpenter makes the fewest chips.すぐれた大工ほどわずかの 削りくずしか出さない」 たいしょうせっこうためじょうぼくかいはい 大匠は拙工の為に縄墨を改廃 出孟子もうし せず 学ぶ者がついていけないからといって、程度 を下げることはしないという教育の要点をい うたとえ。大工の棟梁は、未熟な大工の ために、すみなわを引く方法を変えたり、引 くのをやめたりすることはないという意か ら。∇縄墨∥すみなわ。大工が木材などに線 を引くのに使う道具。 故事孟子の弟子の公孫丑 こうそん ちゅう が弱音をはい て「先生の説く道は高尚であり偉大すぎて、 天に登るようです。とても我々はついて行け そうにありません。どうか程度を下げて手加 減してもらえませんか」と言ったのに対し、 孟子が答えたことば。出典には「大工の棟梁 は、下手な大工のためにすみなわの使い方を 変えないし、弓の名人は、下手な射手のため に弓の引き方を変えはしない」とある。 大上は徳を立つる有り 出春秋左氏伝 人生で最上の行いは、自分の身を修めて立派 な徳を立てることである。▷大上=一番、最 高の意。 補説「不朽」とはどういう意味かと問われ た魯ろの穆叔ゆくが「三不朽」として挙げたこ とばの一。出典には、このあとに「其その次 は功を立つる有り。其の次は言を立つる有り (その次には、功業をなしとげることである。 その次には、後世まで伝わるような立派なこ とばを残すことである)とある。 だいじようふ 大丈夫の一言は駟馬も走ら ず 男子は、自分が口に出したことはどんなことがあっても、それをひるがえすことはできない。発言は慎重にしなければならないというたとえ。立派な男子の一言は、いったん口から出たら、四頭立ての馬車で追いかけても取り消すことができないという意から。「大丈夫の一言は駟馬も追い難し」ともいう。大丈夫=立派な男子。「だいじょうぶ」とも読む。駟馬=四頭立ての馬車。 <390> たいしょーだいたい 類義男子の一言金鉄の如し。 大食短命 食べすぎは体によくないということ。大食す ると命を縮めるという意から。大食は胃や腸 に負担がかかり、栄養過多にもなる。さまざ まな病気の誘因になるということ。 類義大食は命の取り越し。 対義腹八分に医者いらず。 大人は大耳 たいじん おおみみ わざる者なりとある。 徳の高い立派な人は、つまらない細かいこと を耳にしても、いちいち気にしないというこ と。▶大人‖徳の高い人。大耳‖ものを聞く 態度がおおらかなこと。 類義大名は大耳。 大人は虎変す すぐれた人物の統治によって、古い制度や文 物が一新されて立派になること。また、徳の 高い人格者が時の変化によって日々進むこ と。▶大人‖徳の高い人。虎変‖虎の毛が夏 から秋にかけて抜け変わり、模様があざやか になること。 たいせいまもがた 大人は赤子の心を失わず 出易経えきよう 徳の高い大人物は、赤ん坊のように純真でい つわりのない心をいつまでも持っているもの だということ。▷大人∥徳の高い人。 補説出典には「大人は其その赤子の心を失 太盛は守り難し 出孟子もうし 非常にすぐれた才能や長所を持つ者は、それ が原因となって身を滅ぼしやすいというたと え。また、大きな勢力をもった者は、それを 維持するのが難しいこと。あまりに盛んな状 態は長続きしない意から。 補説出典には「般いんの忠臣比干 ひか が殺され たのは紂王 ちゅう おう を諫いさめたからであり、古代 伝説上の勇士孟賁 もう ほん が殺されたのもあまりに 強かったからであり、春秋時代に呉王の愛妃 であった西施 せい が沈められたのはあまりに美 人であったためである。また、戦国時代の兵 法家呉起こきが無惨な殺され方をしたのは政事 にはげんだからである。これらの人は皆、人 よりすぐれたところが災いして身を滅ぼした のである」とあり、「故に日いわく、太盛は守 り難し」と続いている。 出荘子そうじ 大声里耳に入らず 大声里耳にノi 高尚な議論は、一般の人には理解されにくい ということ。高雅な音楽は世間の人の耳には 受け入れられないということから。▷大声‖ 高尚な音楽。里耳‖俗人の耳。世間の人の 耳。「俚耳」とも書く。 補説出典には「大声は里耳に入らず。折楊 せつ よう 皇荂 こう か には則 すな わ ち嗑然 こう ぜん として笑う(きわ めて高雅な音楽は俗人の耳に受け入れられな いものであるが、折楊や皇荂という俗曲にな るとだれにでもわかるから、歌曲を聞くと俗 人は大きな口をあけて笑う)とある。 類義 陽春の曲、和する者寡 すく な し。 用例しかし一歩退いて考えて見ると、かく までに彼等かれが吾輩わがを軽蔑べつするのも、あ ながち無理ではない。大声は俚耳りに入ら ず、陽春白雪の詩には和するもの少なしのた とえも古い昔からある事だ。〈夏目漱石◆吾 輩は猫である〉 泰然自若 落ち着いていて何があっても動じないさま。 マ泰然=落ち着いて物事に動じないさま。自 若=何に対しても慌てず騒がないさま。類義 の語を重ねて意味を強めている。 類義冷靜沈着。 対義周章狼狽しゅうしょのうろうばい だいたいしたがものたいじんな大体に従う者は大人と為る 出孟子もうし 良心の命ずるところに従って道を求める者 は、徳のある大人物となる。▷大体∥心の意。 「小体(目や耳などの感覚を意味する)」に対 する語。大人∥徳の高い人。 補説弟子の公都子こうが、同じ人間なのに、偉大な人物となったり、つまらない人間になったりするのはどうしてかと尋ねたのに答えた孟子のことば。出典には「其その大体に従えば大人と為り、其の小体に従えば小人と為る(人間の身体には大体と小体があって、大体すなわち良心に従っていけば偉大な人物となり、小体すなわち耳や目の欲望のままに従っていけばつまらぬ人間になる)」とある。 <391> 絶対に失敗しないことのたとえ。大地を槌で 打てば、どこを打っても打ち損じないことか ら。 類義槌で大地を叩たく。地を打つ槌。 たいちぐごと 大智は愚の如し 出 蘇軾ー賀二欧陽少師致仕一啓 本当に知恵のある人は、自分の知恵をひけら かすことをしないから、一見愚かな者のよう に見えるということ。「大智は愚なるが如し」 ともいう。 補説出典には、この前に「大勇は怯 きよ の若 ごとく(本当に勇気のある者は、一見臆病に見 える)」とある。 類義大賢 たい けん は愚なるが如し。大才 たい さい は愚の 如し。大巧は拙なるが若し。大巧は巧術無 し。大知は知ならず。 英語Extreme meet.両極端は一致する だいちんじゅ 大椿の寿 出荘子 人の長寿を祝うことば。▷大椿=中国古代に あったという伝説上の木の名。八千年を春と し、八千年を秋とし、三万二千年が人間の一 年に相当するという非常に長生きの木。 たいてきみおそしょうてきみ 大敵と見て恐れず、小敵と見 て侮らず 敵の勢力が強大だからといって、むやみにひ だいちにーだいのむ るんではいけないし、小勢で弱そうだからと いって、油断してはいけないという戒め。「大 敵と見て懼おそるべからず、小敵と見て侮らず」 ともいう。 類義大敵を見ては欺き、小敵を見ては畏れ よ。小敵欺くべからず。 たいと 泰斗 たいざんほくと 泰山北斗 387 大同小異 出荘子そうじ 細かい部分でわずかな違いはあるが、全体と してだいたい同じであること。似たりよった り。▶大同∥だいたい同じ。 類義五十歩百歩。 用例細君が帰ってから幾日いく目か経たった 後、彼女の母は始めて健三を訪ずれた。用事 は細君が健三に頼んだのと大同小異で、もう 一遍彼らを引取ってくれという主意を畳の上 で布衍ふえしたに過ぎなかった。〈夏目漱石 道草〉 出老子ろうし 大道廃れて仁義あり 大いなる道がすたれてしまったために、仁や 義といった徳の必要なことが説かれるように なったということ。「儒教の仁義の教えは天 地自然の大道ではない」とする老子のことば。 ▶大道‖無為自然の真理。道家 補説出典には、このあとに「智慧ちえ出いで て大偽だい有り。六親りく和せずして孝慈有り。 国家昏乱こんして忠臣有り(人が知恵を持つよ うになってから、世の中にひどいいつわりが 行われるようになった。父子・兄弟・夫婦の 間が不和となったときに孝行な子供が現れ、 国が乱れてから忠臣が現れた)」とある。 大徳は小怨を滅ぼす 出春秋左氏伝 大きな徳は小さなうらみを消してしまう。大 きな恩恵を受ければ、わずかな怨恨は自然に 消えてしまうということ。 たい鯛なくば狗母魚 よいものがなければ、それに代わるものでが まんするよりほかないというたとえ。かまぼ こを作るのに、鯛がなければ、それより劣っ ていても狗母魚を使わざるをえないというこ とから。もともとは「狗母魚なくば鯛」だっ たのが、転倒して「鯛なくば狗母魚」になっ たという。∇狗母魚∥上等なかまぼこの材料 になる魚。 たいおいわしかしら鯛の尾より鰯の頭 大きな集団の一員となって他人のあとについ ていくより、小さな集団であっても、その先 頭に立つ指導者で活躍するほうがよいという こと。 類義寧むしろ鶏口となるも牛後となる勿なか れ。芋頭いもが しら でも頭かしは頭。大鳥おおの尾より 小鳥ことの頭。 対義寄らば大樹の陰。 だいむしいしょうむしころしょう 大の虫を生かして小の虫を殺す小の 虫を殺して大の虫を助ける322 <392> だいぼえつ 代馬越を思わず 出李白ー詩 生まれ故郷や住みなれた土地がいちばんよい と思うこと。北方の代に生まれた馬は、南方 の越の地を恋しがったりはしないという意か ら。▶代馬‖代の地方に産する名馬。代は、 中国の北方、山西省・河北省の北部からモン ゴルにかけた地方で、名馬の産地。越‖浙江 省 せっこう しょう 南部の地。 補説詩の題名は『古風う』。続けて「越禽 えっ きん 燕えんを恋わず、情性習う所有り、土風どふ う 固 もと より其それ然しかり(南方の越の鳥は北方の燕 を恋しく思わない。感情や性質は、それぞれ の土地の環境や習慣によって培われるもので ある)とある。 大は小を兼ねる 秋繁露 大きなものは小さなものの代わりになる。小 さいものより大きいもののほうが幅広く役に 立つということ。「大は小を叶かなえる」とも いう。 出 春秋繁露 対義 杓子 しゃ は耳掻 みみ きにならず。 英語 Store is no sore. 豊富に物があるこ とが害になることはない」 たいぴようくすり 太平象無し 物事がひどく悪い状態になったときは、手の ほどこしょうがないということ。病気があま りに重くなると、治す薬がないという意から。 だいぶつはしらあり だいこくぼしらあり 大仏の柱を蟻がせせる大黒柱を蟻が 大病に薬なし せせる386 何事もないのが太平のしるしであるというこ と。世の中がよく治まって平穏であるときに は、別にこれといった特別の兆候は現れない 意から。マ象=きざし。現象。 出唐書とうじょ たいへいひゃっこくせんじょうせんごく 太平の百石は戦場の千石 武士は、太平の世の中では手柄を立てる機会 が少ないということ。世の中が平和なときに 百石の禄るを得ることは、乱世に千石の禄を 得るに等しい意から。 大弁は訥なるが若し 本当に雄弁べゆうな人は、むだなことを言わない から、むしろ口べたのように見える。△訥 口べたなこと。 補説出典には、この前に「大直 たいち よく は屈す るが若ごとく、大巧は拙なるが若く(本当にまっ すぐなものは一見曲がっているように見え、 真に巧みなものは一見下手なように見え) とある。 たいぼくしたしょうぼくそだおおきしたおぎ 大木の下に小木育っ♡大木の下に小木 育つ109 たいぼくかぜおこうぼくかぜお 大木は風に折らる↓高木は風に折らる 239 たいぼくたおち 大木は倒れても地に付かず 勢力のある者は、失敗しても見苦しい倒れ方 はしないし、周囲の人々に助けられて決定的 な打撃は受けにくいということ。また、すぐ れた人は落ちぶれても、どこかに品位を保っ ていることにもいう。大木は倒れても枝葉が 茂っているため、幹が地面につかないという 意から。「大木は転ころべども地に付かず」と もいう。 出史記しき 大名の下は以て久しく居り難し 名誉ある地位に長くとどまっていると、他人 からねたみを受けやすく、災難を招くことに なりやすいから、時機を見て早く退くのが賢 明であるということ。∇大名=大きな名声。 名誉。 故事中国春秋時代越王句踐 せん を助けて 呉ごを滅ぼし、会稽かいの恥をそそいだ范蠡はん れい は、上将軍として帰還したが、覇者となった 王のこうした大名声のもとでは、長居ができ ないことを悟り、このことばを残して国外に 去った。 鯛も一人はうまからず 食事は大勢でするのがよいということ。魚の 中でいちばん美味といわれる鯛でも、一人で 食べたのではおいしくないという意から。 鯛も鮪も食うた者が知る 実際に経験したことがない者には、物事の核 心や細かい違いはわからない。鯛の味も餠の 味も、それを食べた者だけが知っているとい うことから。 <393> 出 蘇軾ー賀二欧陽少師致仕一啓 真に勇気のある人は、むやみに人と争わない から、ふだんは臆病者と同じように見える。 ∇怯=おじける意。 補説出典には、続いて「大智 ちは愚の如し (すぐれた知恵のある人は才を表面に現さず 愚者のように見える)とあり、真に勇気や 才能のある人は、謙虚であることをいってい る。 大勇は勇ならず 真の勇者は、やたらに威張ったり、人と争っ たりしないから、一見勇気がないように見え る。 出六韜りくとう 補説)出典には「大智は智ならず、大謀は謀ならず、大勇は勇ならず、大利は利ならず(大智のある人はこざかしい知恵を働かすことがないので知者のようにも見えず、大きなはかりごとをする人は小細工を用いないから凡人は気がつかない。大勇のある人は、むやみに命をかけたりしないので勇気があるように見えず、大利を得ようとする者は、目先の小利にとらわれないので、利を図っているようには見えない)とある。 大欲は無欲に似たり 大欲は無欲に似たり 大きな望みを持つ者は、小さな望みや利益に たいゆうーだうん はこだわらないので、一見すると、欲のない 人のように見えるということ。また、欲が深 すぎる者は、欲に目がくらんで、損をしがち であり、結局、無欲の者と同じ結果になると いうこと。 類義二兎にとを追う者は一兎をも得ず。虻蜂 取らず。大利は利ならず。 英語 All covet all lose. すべてを欲しが れば、すべてを失うことになる 用例欲の深き事、常軌 うきを逸したるところ あり。玩具 ちゃ 屋の前に立ちて、あれもいや、 これもいや、それでは何がいいのだと問われ て、空のお月様を指差す子供と相通うところ あり。大欲は無欲にさも似たり。〈太宰治 花吹雪〉 内裏様も食わにゃ立たぬ 内裏様も食わにや立 人はだれでも、まず食べなければ何もできな いということ。天皇や公卿くげのような位の高 い人たちでも、食べなくては生きていけない ことから。▶内裏様‖天皇や、皇居に住む人。 類義下衆げすも三食さん上藹じょうも三食。 大猟の明日 よいことがあったあとは、悪いことがあるも のだということ。獲物が多かった翌日は、獲 物が少ないことから。 類義いい後は悪い。一の裏は六。禍福は糾 あざ な える縄の如ごとし。 たいろうじみ 太牢の滋味 出王褒聖主得二賢臣一頌 豪華なすばらしいごちそう。また、その味。 マ太牢=古代中国で、天子・諸侯が行う社稷 よく(土地の神と五穀の神)の祭りのときに供 える物。牛・豚・羊の三種。転じて、ごちそ う。「大牢」とも書く。 補説出典には「藜あかを羹あつにし糗ほしを嗚くら う者は、与ともに太牢の滋味を論ずるに足らず (藜の葉の吸い物で、乾飯ほしを食するような 粗末な食しか知らない者は、ともに、すばら しいごちそうの美味を語り合う資格はない」 とある。 大惑なる者は終身解らず 出荘子そうじ 自分の迷いを認識できない凡人は、生涯真理 を知らないで終わってしまう。また、大きな 疑問はなかなか解けない。「大惑は終身解け ず」ともいう。∇大惑∥大きな迷い。迷って 悟れないこと。『荘子』では、自分が惑って いることを知らない者としている。 補説出典には「自分の愚かさがわかってい るものは大愚ではなく、自分の惑いがわかっ ているものは大惑ではない。大惑のものは死 ぬまで悟るときがなく、大愚のものは死ぬま で知恵がひらけない(賢くはなれない)」とあ る。 だうん栄雲 出新唐書 お手紙。他人の手紙の敬称。△朶雲=垂れ下 がった五色の雲。 故事 中国唐の韋陟 は、手紙はいつも五色 の書簡箋を用い、本文は侍妾 じし に書かせ、署 <394> たおるるーたかのな 名だけ自分で行い、その署名を「五朶雲の如 ことし(五色の垂れ雲のようだ)」と言ったという 故事から。 たおところつちつか 倒る所に土を掴む どんな場合でも、何かを手に入れようとする 貪欲さのたとえ。転んで土の上に倒れれば、 倒れたところの土を掴み取る意から。「倒れ ても土を掴む」ともいう。 類義転んでもただは起きぬ。 斃れて后已む 生きている限り最大限の努力をし続ける。倒 れて死ぬまでやり通すという意から。「后」 は「後」とも書く。△斃れる∥倒れて死ぬ。 已む∥終わる。 出礼記らいき 補説出典には「俛焉 べん えん として日に挙挙した るあり、斃れて后已む(努力して毎日休まず に励み、死ぬまでやり通す)」とある。 たお さき つえ ころ さき つえ 倒れぬ先の杖転ばぬ先の杖261 高い木には風があたる高木は風に折 らる239 たかふねかやすこざかなつ 高い舟借りて安い小魚釣る 好きなことならば損得を考えずにするという こと。借り賃の高い舟を借りて、安い小魚ば かり釣るという意から。 高が知れる 大したことにならないということ。程度がわ かっている意から。▽高Ⅱ量。程度。限度。 用例勿論もち、ひどくやられると夜も昼も あったものではない。そうなると重病室へ這 入はいって静養するのであるが、私の神経痛な どまだたかが知れていた。〈北条民雄◆烙印 をおされて〉 高きに登るに卑きよりす 出中庸ちゅうよう 物事を行うには、手近なところから順序をふ んで確実に進むべきであるということ。高い ところに登るには、必ず低いところから登り 始めるという意から。 補説出典には「君子の道は、辟たとえば遠きに行くに必ず邇ちきよりするが如ごとく立派な人の処世法は、たとえていうと、遠方に行くのには必ず近いところから始めるように)、辟えば高きに登るに必ず卑きよりするが如しとある。 類義千里の行こうも足下より始まる。 だ 抱かされば負ぶさる 好意になれて付け上がること。抱いてやれ ば、今度はおんぶを求めることから。 類義一負えば抱かれよう。 将軍、大名に仕えて鷹を飼育し、鷹狩りに従っ た者。 鷹匠の子は鳩を馴らす 子供は親の仕事を見よう見まねで自然に覚え ていくというたとえ。鷹匠の子は、親が鷹を 飼育するのを見て、まずは鳩から自分の手で 飼いならすということから。△鷹匠‖朝廷や 類義 鷹匠の子はよく鷹を馴らす。 高値一日、底百日天井一日、底 たかね高嶺の花はな 望むばかりで手にすることのできないものの たとえ。高い山の嶺みねに咲く花のように、見 るだけで手に取ることができないもの。美し い人、高価なものなどをいう。「高嶺」は「高 根」とも書く。 類義及ばぬ鯉この滝登り。 用例はじめっから、手のとどかねえ高根の 花だ。大の男でねえかよ、思いきりよく嫁取 りする気になってくれと、附きに附いて言 うが、へえ駄目だあ、あんまり言うと怒り出 す始末でね。三好十郎◆樹氷〉 たかね 高嶺の花を羨むより足下の豆 ひろ を拾え 望んでも手に入れることができないものを欲 しがるより、身近にあるものを確実に手に入 れよということ。また、実現できないことを 夢想しているより、さしあたってしなければ ならないことをかたづけよということ。 類義大取りより小取り。 たか 鷹のない国では雀が鷹をする 強い者がいないと、たいして力がない者が威 <395> 張るということ。鷹の羽音におびえる雀で も、鷹がいない所では鷹のように威張る意か ら。 類義 鳥なき里の蝙蝠 こう。 もり 貂 てん なき森の颱 いた。 ち たかまえ 鷹の前の雀 すずめ からだがすくんで手も足も出ないようすのた とえ。鷹ににらまれて身動きもできずにふる えている雀のようだということ。 類義蛇に睨にられた蛙かえ。 たか 鷹は飢えても穂を摘まず 高潔な人は、どんなに困窮しても、不正をし て生きのびようとはしないというたとえ。鷹 はどんなに飢えても、稲の穂をついばんだり しないという意から。「鷹は死すとも穂は摘 まず」「鷹は死ぬれど穂を摘まぬ」ともいう。 「類義」渇すれども盗泉の水を飲まず。虎は飢 えても死したる肉を食わず。 たかはねお 鷹は羽を惜しみ、士は名を惜 しむ 武士は、何よりも名誉を重んじるということ。 鷹にとって羽はもっとも大事なもので、羽が 落ちると残念がるが、武士は自分の名が汚さ れることをいちばん残念に思うという意か ら。 類義虎は死して皮を留とめ、人は死して名 を残す。唐土との虎は毛を惜しみ、日本の武 士は名を惜しむ。 たかのまーたからの たかみずいげいなうずら 鷹は水に入れて芸無し、鶉は やまのうな 山にありて能無し すぐれた能力の持ち主でも、能力を発揮でき る環境になければ何もできないということ。 鷹は水の中では何もできず、鶉は山の中にい ては役に立たないということから。▷鶉‖食 用にする小鳥。肉も卵も食用になるが、人里 から離れると役に立たない。 高飛車 相手を有無を言わせず押さえつけるようす。 高圧的な態度。将棋で、飛車を前に出して攻 勢に出る戦法から。 用例葉子はぽんと高飛車に出た。そしてに やりとしながらがっくりと顔を上向きにはね て、床の間の一蝶 いっち よう のひどい偽まがい物を見 やっていた。〈有島武郎◆或る女〉 とをいう。「高みで見物」ともいう。△高み 高いところ。 たかほねお 鷹骨折って旦那の餌食 下で働く者が苦労して得た成果も主人の手柄 になって、報われることが少ないということ。 鷹狩りで、鷹が苦労して捕った獲物は、すべ て飼い主に取り上げられて、鷹の口には入ら ないということから。 類義犬骨折って鷹の餌食。 たか高みの見物 利害に関係しない立場にいて傍観すること。 他人が騒いでいるのを高い所から眺めている ように、安全な立場で興味本位に見ているこ 類義山門から喧嘩けんか見る。対岸の火事。 たかほうばいいぬほうばいいぬほうばいたかほうばい 鷹も朋輩犬も朋輩尢犬も朋輩鷹も朋輩 たからおお みまも 財多ければ身を守るにまど し 財産を多く持っていると、それを守ることば かりに心を使って、自分自身の安全を保つこ とがおろそかになる。∇まどし=不十分である。 おろそかだ。 類義宝は身の仇あだ。 対義宝は身の差し合わせ。 宝の持ち腐れ 役に立つものを持っていながら、利用しない こと。すぐれた才能があるのにそれを活用し ないこと。せっかくの宝を手に持ったまま腐 らせてしまう意から。 英語 Between treasure buried under the ground and wisdom kept hidden in the heart there is no difference. [地中に埋められた宝物と、胸中に秘められた英知の間には、何の差異もない] 用例天性の麗質も、それを更にいろいろな 方法で磨かなければ、ほんとうの意味で人間 としての魅力にはならないので、もしそれだ けで満足するようなことがあれば、天性の麗 質は宝の持ち腐れとなるばかりでなく、そう <396> たからのーーたきぎを いう俳優の末路は、むしろ一段と不幸なので す。〈岸田国士・俳優論理〉 たからやまい 宝の山に入りながら空しく帰 出正法念経 大きな利益を得る機会に恵まれながら、何も 得ることなく好機を逃してしまうたとえ。 補説出典の「汝なん、人身を得て(人の身に 生まれて)道を修(修得)せざるは、宝の山に 入りて、手を空しくして帰るが如ごとし」から のことば。 宝は身の差し合わせ 万一のときの助けになる。財宝は、困ったと きに金やほかの物と替えて急場の用にあてる ことができるということ。△差し合わせ‖急 場を救うものの意。 類義 宝は身のあり合わせ。金の光は阿弥陀 あみ だほど。 対義 宝は身の仇 あだ。 財宝は身の敵 かた。 き 財 たか ら あぜ 田から行くも 畦から行くも 畦か ら行くも田から行くも同じ 19 子はし ごを二三段上って見ると、上では誰か火を とぼして、しかもその火をそこここと動かし ているらしい。〈芥川龍之介◆羅生門〉 高を括る 大したことはあるまいと見くびること。物事 の行き着くところをその程度だろうと安易に 予測すること。▶高‖量。程度。限度。 用例下人は、始めから、この上にいる者は、 死人ばかりだと高を括っていた。それが、梯 出二国志 鷹を養う如し 癖のある人物を使うのは難しいというたと え。わがままな人間を使うのは鷹を飼うのと 同じで、その欲望を満たしてやらなければ不 平を言って従わないし、満足すると図にのっ て増長するので扱いが難しいということ。鷹 は、空腹なときは鷹狩りでよく働くが、食に 満足すると飛び去ってしまって用をなさない ことから。 類義下種げすと鷹には餌えを飼え。憎き鷹へ は餌を飼え。 補説出典には「譬たとえば鷹を養うが如し、 饑ううれば則 すな わ ち用を為なし、飽くれば則ち揚 がり去る」とある。 たきぎあぶら たきぎあらら ひあぶらそそ 薪に油をそえる 火に油を注ぐ 562 ひすく 薪を抱きて火を救う 害を除こうとして、かえってその害を大きく するたとえ。燃えさかる火を消そうとして薪 を抱えて持って行き、かえって火勢を強くす る意から。「薪を負いて火を救う」ともいう。 補説出典には「地を以もって秦しんに事つかうる (土地を差し出して秦に仕える)は、臂たとえば 猶薪を抱きて火を救うがごときなり。薪尽 きずんば則すなち火止やまず。今、王の地は尽 くる有りて、而しかも秦の求めは窮まりなし(薪 が燃え尽きなければ火は消えません。今、王 の土地には限りがありますが、秦の欲求には 限りがありません」とある。秦との戦いに 敗れ、土地を与えて和を結ぼうとする魏ぎ王 を諫いさめた孫臣そんのことば。 類義萇みのを被きて火を救う。溺できを拯すくう に石を錘りおもにす。 たきぎつごとのちきたものうえ 薪を積むが如く後に来る者上 に在り 出史記 あとから来た薪を次々と上に積み重ねていく ように、仕えて間もない者が、以前からいた 者を飛び越えて上位に重用されること。「薪 燎しんりを積むが如し」ともいう。 補説出典には「薪を積むが如きのみ、後に 来る者上に居る」とある。 故事中国漢の武帝のとき、清廉の士汲黯 きゅう あん が、以前小役人だった者たちが出世し、 自分と同列かそれ以上の地位に重用されるの を見て、武帝にそのような人事を皮肉って諫 言 かん げん したときのことばである。 たきぎひと 薪を均しくして火を施せば火 そう は燥に就く 出荀子 同類のものは引きつけ合い、集まるというこ と。薪を高低なく並べて火をつけると、火は 必ず乾燥しているほうに燃えつくという意か ら。△燥‖乾燥の意。 補説出典には、このあとに「地を平らかに して水を注げば水は湿に流る。夫それ類の相 従うや此かくの如こときの著しきなり(地面を平 <397> らにして水を注げば、水は湿った方へと流れ る。すべて同類はこのように呼び合うもので ある)」とある。 類義 火は乾けるに就き、水は湿りに流る。 同気相求む。 たきぼうよう多岐亡羊 出列子れっし 学問の道が細分化しすぎると、真理が見失わ れがちになるたとえ。また、方針がいろいろ あってどうしてよいか迷うこと。逃げた羊を 追う者が、枝道が多くてついに見失ってし まったという故事から。 故事楊朱 楊子中国戰国時代の思想家 の隣人の羊が一匹逃げた。家の者を引き連 れ、さらに楊子の下僕を頼み、大勢で追いか けたが、結局逃がしてしまった。どうして逃 がしたか尋ねると、枝道の中にまた枝道が あってどちらへ逃げたかわからないと答えた という故事から。 類義亡羊の嘆。岐路亡羊。 類事亡羊の噂此品1 英語 In too much dispute truth is lost. じすぎると真理が見失われる たきゅうひ 他弓挽く莫れ 他人のことに干渉するなということ。他人の ことに気を取られることなく、自己の充実に 努めよということ。他人の弓は引くなという 意から。∇他弓∥他人の弓。 沢庵の重しに茶袋 補説出典には、このあとに「他馬騎のる莫れ、 他非弁ずる莫れ、他事知る莫れ(他人の馬に 乗るな、他人の欠点をあげつらうな、他人の ことに立ち入るな」とある。 たきぼうーたくをぼ 効き目がないことのたとえ。たくあん漬けの 重しに軽い茶袋を使っても、少しも効かない ことから。▷茶袋‖お茶の葉を入れる袋。 類義糠ぬかに釘くぎ。 だくしゅちゃ 濁酒も茶よりは勝る ないよりはましということ。お茶では酔わないが、安い酒でもどぶろくを飲めば酔い、酒を飲んだ気にもなるということから。△濁酒 にごり酒。どぶろく。 鐸は声を以て自ら毀る 出淮南子えなんじ 才能や長所のために災難にあうことがあると いうこと。鐸はよい音を出すので何度も使わ れ、ついには壊れてしまうという意から。△ 鐸Ⅱ大型の鈴。古代中国で命令を発するとき に振って鳴らした。 補説出典には「呉鐸(呉の大鈴)は声を以 て自ら毁り、膏燭 よくは明めいを以て自ら鑠とか す(ろうそくは明るいので、燃えてとけるま でともされる)」とある。 類義膏こうは明を以て焚たかる。薫くんは香を 以て自ら焼く。 たくらだ猫の隣歩き よその手伝いはするが、自分の家の用はしないことのたとえ。まぬけな猫が、隣近所を遊び歩いてよそのねずみは捕まえるのに、自分 の家のねずみは捕まえない意から。▷たくら だ‖麝香鹿じゃこに似た獣で、麝香鹿狩りのと き、関係ないのに飛び出して来て殺されると いわれる。ここでは、愚か者、まぬけの意。 類義無精者の隣働き。からやき隣の御器ごき 洗う。 たくうつそつまわすいえうつ 宅を従して其の妻を忘る└└家を移して つまわす 妻を忘る38 沢を竭くし藪を焚く 出呂氏春秋 目先の利益だけを考えて物事を行うと、一度 は成功してもあとが続かず、大きな損失を招 くというたとえ。魚をとるために沢の水を汲 くみ尽くし、獣を捕らえるために藪やぶを焼き 払えば、そのときは一匹残らずとれるが、翌 年からは何もとれなくなることから。 補説出典には「沢を竭くして漁せば、豈あ に獲得せざらんや、而しかれども明年魚無から ん。藪を焚いて田かりせば、豈に獲得せざらん や、而れども明年獣無からん」とある。 宅をトせず隣をトす 出春秋左氏伝 家を決めるには、家相よりも、隣家の善し悪 あしを見ることのほうが大切であるというこ と。「宅をトするに非あらず隣を是これトす」と もいう。△トす∥占う。 補説出典には「諺わざことに日いわく、宅を是これ <398> たげいはーたざんの トするに非ず、唯だ鄰りんを是れトす、とこ とわざにいう、家のよしあしを占うのではな く、ただ隣近所のよしあしを占う」とある。 類義 百万宅を買い千万隣を買う。 たげい多芸は無芸むげい 多くの学問や技芸に通じると、一つのことを 奥深くきわめることがなく、どれも中途半端 で、結局は無芸と同じだということ。 類義何でも来いに名人なし。百芸は一芸の 精くわしきに如しかず。器用貧乏人宝。多弁能 なし。 英語Jack of all trades, and master of none.「あらゆる仕事ができるが、どれも抜 きん出ることのできない男」 ため、たちまち親竹と同じくらいの高さにな ることから。 竹に雀 たけすずめ 取り合わせがよい一対のもののたとえ。日本 画の図柄として、竹と雀がよい取り合わせと されることから。 類義 梅に鶯 うぐ。 松に鶴。牡丹 ばた ん に唐獅子 から、 じし 竹に虎。波に千鳥。 竹に花咲けば凶年 竹に花が咲く年は天候が不順で、凶年である ということ。日本各地に伝わる俗信。 類義竹の実なれば凶年。 怒って、大声で言いたい放題にぽんぽんと文 句を言ったり、しかりとばすことのたとえ。 竹が燃えると、節ごとにはじけてぽんぽん大 きな音を立てることから、竹屋が火事になっ たときの騒がしさにたとえたもの。 類義竹藪たけやかの火事。 子供が親よりもすぐれていることのたとえ。また、子供の成長が早くて、すぐに親をしのぐようになるというたとえ。 簡は成長が早い 筒の親勝り 竹屋の火事 たけやかじ 竹槍は切られても矢張り元の たけ 竹 不死身なもののたとえ。竹槍は、竹の先を尖 とがらせたもので、先を切り落とされても、そ のまま槍として使える。切っても切っても竹 槍ということから。 竹を割ったよう 物事にこだわらず、さっぱりしている気性の たとえ。竹は、縦にまっすぐ割れることから。 ただぞん があるということ。 たげんしばしばきゅう 出老子ろうし 多言なれば数窮す 多言なれば 口数が多いと、よけいなことを言ったり、言 葉に詰まったりすることが多いということ。 また、口数が多いと、その言葉は力を失うと いうこと。「多言は数窮す」ともいう。 類義多言は身を害す。 類義言わぬは言うにまさる。雄弁は銀、沈 黙は金。 多言は一黙に如かず 多弁よりも沈黙のほうが、説得力を持つ場合 多言は身を害す 口数が多い者は、よけいなことを言って、他 人に迷惑をかけたり、自分に災難を招くこと が多いという戒め。 類義多言なれば数 しば しば 窮す。 は禍 わざ わい の門 もん。 増に骨なし海月に目なし わかりきったことのたとえ。蛸に骨がなく、 くらげに目がないのは、だれでも知っている 当たり前のことであることから。 類義豆腐とうに目なし。 蛸は身を食う 資本や財産を食いつぶしていくことのたと え。蛸は、空腹でえさがないときは自分の足 を食うという俗説から。 補説 「蛸配当 たこは いとう」 ということばも、ここか ら出たもの。 他山の石とする 出詩経しきよう 他人の誤った言行でも、自分の人格を磨く材 料とすることができるというたとえ。よその 山から出た粗末な石も、宝石を磨くのに使え るという意から。「他山の石」ともいう。 補説出典には「他山の石、以もて玉を攻おさ む可ぺし(他国の山から出た石も、それで自分 の持っている玉を磨いて立派にすることがで <399> きる」とある。 注意目上の人の言動を「他山の石とする」 と言ったり、自分の手本にする意味で使うの は誤り。また、自分とは関係ないという意味 で使うのも誤り。 類義 人の振り見て我が振り直せ。人こそ人 の鏡。 多士済済 たしせいせい 出詩経しきよう すぐれた人物が、多く集まっているさま。△ 多士∥多くの優秀な人物。済済∥数多くそ ろって盛んなさま。「さいさい」とも読む。 補説出典には、古代中国周の文王の政治に ついて「済済たる多士、文王以もって寧やすらか なり(たくさんのすぐれた人材がいたので、 文王はその助けによってよい政治を行った) とある。 だ しただ きら 出すことは舌を出すのも嫌い 非常にけちなことのたとえ。何でも物惜しみ するさまをいう。「出すものは舌を出すのも 嫌」ともいう。 たぜいたのむらがらす多勢を頼む群鴉 類義 袖 そで から手を出すも嫌い。けちん坊の 柿の種。 多勢に無勢 大人数に小人数で向かっても、とてもかなわ ないということ。「多勢に無勢、雉きじと鷹」 と続けてもいう。 類義衆寡 しゅ うか 敵せず。寡は衆に敵せず。大軍 に関所なし。 たしせいーたたかれ 多数を頼みにして、つまらない者が、はばを きかしてのさばることのたとえ。烏合ぅの衆 (規律も統一もなく、数ばかり多い群衆)をの のしることば。 だそく蛇足 出戦国策 よけいなつけ足し。なくてもよいむだなもの のこと。また、しなくてもよいことをすること。「蛇を画えがきて足を添う」「蛇足をなす」ともいう。 故事昔、中国楚その国で、祠の司祭者が召使たちに大杯に盛った酒を振る舞った。召使たちは、皆で飲むには足りないので、地面に蛇の絵を描き、早く描き上げた者が飲むことにして同時に描き始めた。最初に描いた者が酒をひき寄せながら、自分の早さを自慢して「足まで描けるぞ」と描いているうちにもう一人の者が描き上げて杯を奪い取り「蛇に足はない、したがって酒を飲む権利はわたしにある」と言ってその酒を飲んでしまった。用例玄米は白米とは別な意味で非常にうまい。玄米のごはんにご馳走ちをつけて出すのは蛇足である。漬けものでもあれば充分である。北大路魯山人・お米の話 たたかかしょうおごそつおこたもの 戦い勝ちて将驕り卒惰る者は やぶ 敗る 出史記 戦いに勝ったからといって、将軍が慢心して 敵をあなどり、兵卒は気がゆるんで怠けてい ると、次の戦いには必ず負けるという戒め。 故事)中国、戦国時代、楚その項梁(頃羽 の叔父)が秦しん軍を破った。項梁は秦軍を軽 んじ、驕おごる気配があったので、宋義(も との楚の宰相)が諫いさめて「戦いに勝って将 が驕り、兵が怠ければ失敗する。いま兵卒が たるんできているのに秦の兵は日ごとに増し ている」と言ったが項梁は聞き入れなかった。 はたして、秦は増兵して楚軍を攻め項梁は戦 死した。 たたか やす まも 戦いて勝つは易く勝ちを守る は難し 出呉子 戦って勝利を得るのは容易であるが、その勝 ちを守り抜くのは難しいということ。 たたかすずめひとおそ 闘う雀人を恐れず 弱小の者でも、決死のときは強者を恐れない というたとえ。また、物事に集中すると、思 いもかけない強さを発揮することのたとえ。 雀のような弱い小鳥でも、けんかに集中して いるときは、人が近づいても逃げようとしな い意から。「闘雀とうじ人を恐れず」「争う雀人 を恐れず」ともいう。 たた 叩かれた夜は寝やすい 加害者になるよりも被害者になったほうが気 が楽であるということ。人を叩いて(害を加 えて)後悔する夜は眠れないが、叩かれたほ うは安らかでいられるということ。 対義人を叩いた夜は寝られぬ。 <400> たたきやーただより たた 叩き止めば食い止む 働くのをやめれば生活できなくなる。その日 暮らしのこと。鍛冶屋など、物を叩いて生計 を立てる人が叩くのをやめると、食うに困る という意から。 類義手が空あけば口が開あく。 た たたひとあんまと叩く人の按摩を取る 仇あだを恩で報いる。また、人がよすぎるにも ほどがあることのたとえ。自分を叩いた人の ために、按摩をしてやるという意から。 たた 叩けば埃が出る 表面を取りつくろっていても、細かく調べれば悪事や不正が見つかるものだということ。また、どんなものでも詮索していけば、欠点や弱点があるものだということ。目に見えなかった埃が叩くことによって見えてくるという意から。「叩けば埃が立つ」ともいう。 類義垢あは擦こするほど出る、粗あは探すほど出る。新しい畳たたみでも叩けばごみが出る。 英語Every man has his weak side.だれにでも欠点はある]Many without punishment,none without fault.「多くの人が罰を受けずにいるが、罪のない人は一人もいない」 用例妻のほうはとにかく、夫のほうは、たたけばたたくほど、いくらでもホコリの出そうな男なのである。〈太宰治◆桜桃〉 叩けよさらば開かれん 何事もじっと待つのではなく、積極的に行動 することを勧める教え。ひたすら待ち続けて も神の国の門は開かれないが、こちらから進 んで叩けばきっと開かれるという意から。 補説『新約聖書』マタイ伝にある「求めよ、 さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出 ん。門を叩け、さらば開かれん」から出たこ とば。英語ではKnock, and it shall be opened unto you. ただこうしゅしょう 惟好鬚を称するのみ 出新唐書 口ひげだけが立派で、ほかにとりえのない男 であるということ。マ好鬚=立派な口ひげ。 称する∥ほめる。 故事)中国、唐の太宗が、李緯りという役人 を取り立てようとして、臣下に、房玄齢 政治家、功臣)がどう言ったかを尋ねると、「口 ひげをほめただけで、他には何も言わなかっ た」と答えた。帝はすぐこの任用を改めたと いう。 たたますますべん 多多益弁ず 出漢書かんじょ 多ければ多いほどうまく処理できるということ。手腕や能力にゆとりがあり、仕事が多ければ多いほど都合がよいさまをいう。また、数は多ければ多いほどよいということ。「多多益善よし」ともいう。▶弁ず‖処理する意。故事中国、漢の高祖(劉邦)が、臣下で最強の将軍である韓信かんに「私はどれほどの兵数の軍の将となれるか」と聞くと韓信は「十万の兵の将くらいでしょう」と答えた。「では君自身はどうか」と聞くと「多多益弁ず(多ければ多いほど、うまくやれます)」と答えた。 「それではなぜ、私の下にいるのか」と尋ね ると、韓信は「私は兵の上に立つことができ るが、陛下は将の上に立つことができます」 と答えたという。 たたみうえ 畳の上の怪我けが 災難は、いつどこであうかわからないという こと。また、起こるはずがないことのたとえ。 畳の上のように安全な場所で怪我をする意か ら。 たたみうえ 畳の上の水練 理論や方法を知っているだけで、実地の練習 をしておらず、実際の役に立たないことのた とえ。畳の上で水泳の練習をする意から。 「畳水練」ともいう。 類義畳の上の陣立て。畑の水泳ぎ。畑で水 練を習う。畑水練。鞍掛 け馬の稽古 けい。 炬 燵水練 こたつす。 いれん 素引すびきの精兵 せいび。 座敷兵法 ざしきひ。 ようほう 机上の空論。 用例雪が尽つきると白根葵 あおい の咲いている 黒土の斜面を少し登って大岩の根方に取り付 く。目で練習した岩登りは足でやる段になる と、畳の上の水練よりも役に立たない、目測 では二、三尺にしか見えなかった階段の高さ も五、六尺はあるようだ。〈木暮理太郎◆黒 部川奥の山旅〉 ただより高いものは無い ただで物をもらうと、お返しに金がかかった り、無理な頼み事も断われなくなったりして、 かえって高くつくということ。 <401> 類義買うは貰もらうに勝る。物を貰うはただより高い。 対義ただより安いものは無い。 英語 Nothing costs so much as what is given us. [貰い物くらい高くつくものはなっ] ただより安いものは無い ただで手に入れた物がいちばん安いというこ と。「ただより高いものは無い」に対してい う。もらうことに負い目を感じなければ、こ んなうまいことはないということ。 対義ただより高いものは無い。買うは貰もら うに勝る。 英語 Nothing freer than a gift. 貰物以 上に無料の物はない たうすめ立ち白で目を突く だちんうまからくら 駄賃馬に唐鞍 ありえないことのたとえ。また、失敗するは ずのないことで失敗するためとえ。▷立ち白‖ 地上にすえて餅などをつく白。たてうす。 たちばなからたちこうなんたちばなこうほくう 橘が枳となる♡江南の橘、江北に植 からたち えれば枳となる236 た ぼとけ いぼとけ つか 立ち仏が居仏を使う 自分でできることを、面倒がって人にさせる ことのたとえ。立っている者が、座っている 者をわざわざ立たせて使うという意から。 たよおおきかげよたいじゅかげ 立ち寄らば大樹の陰↓寄らば大樹の陰 675 似あわないことのたとえ。つまらないものが 立派すぎる飾りをつけること。▽駄賃馬‖運 賃をとって荷物を運ぶ馬。唐鞍‖儀式用の馬 具で、唐風のきらびやかな飾りのついた鞍。 御禊ごけ(天皇が行うみそぎの儀式)などに従う 公卿くげ、賀茂祭かもの勅使などが使用した。「か らぐら」とも読む。 ただよりーだっとの 類義乞食こじに朱椀しゅ○わん 田作りも魚のうち 弱小で無力な者でも、仲間の数のうちに入る ということ。ごまめのような小さな魚でも、 魚に変わりはないということから。▷田作り Ⅱごまめの別称。片口鰯いわを干したもの。 類義 蠅蝸 こう も鳥のうち。目高 めだ か も魚とのう ち。二十日鼠 はつか ねずみ も獣のうち。 田作る道は農に問えたつくみちのうと 何事も、その道の専門家に教えを請うのが最 善の道であるというたとえ。稲を作る方法は 農夫に聞くのがいちばんよいという意から。 類義その道によって賢し。田返しは奴 やっ に 問うべし。戦の事は武士に問え。商売は道に よりて賢し。海の事は漁師に問え。船は船頭 に任せよ。芸は道によって賢し。餅は餅屋。 たっしゃまんがんめ 類義 達者百貫目。 達者万貫日 健康が、何よりも価値があるということ。 達者=からだが丈夫で健康なさま。貫目=昔 の貨幣の単位。一貫は千文 せん。 もん たつじん たいかん 達人は大観す 出鶏冠子かつかんし 道理をきわめた人は、高い見地から全体を公 平に見通すので、判断に誤りのないこと。△ 達人=広く道理をきわめた人。大観=大局か ら観察すること。 た 立って居る者は親でも使え 立って居る者は親でも使 急ぎの用事のときは、親であろうと目上の人 であろうと遠慮せず、近くにいる立っている 人のだれに頼んでもかまわないということ。 座っている人が身近に立っている人に用事を 頼むときに、言い訳として使うことば。 類義居仏が立ち仏を使う。立って居れば仏 でも使う。入れ物と人はある物使え。 対義立ち仏が居仏を使う。 た はんじょうね いちじょう 立って半畳寝て一畳起きて半畳寝 いちじょう て一畳11 尊い寺は門から 価値のあるもの、徳をそなえた人物などは外 見でわかるというたとえ。また、外見が大事 だということのたとえ。人々の信仰を集めて いる由緒ある寺は門構えからありがたみを感 じさせるという意から。「尊とうい寺は門から 見ゆる「尊たっい寺は門から知れる」ともいう。 類義はやる稲荷は鳥居から知れる。 脱鬼の如し 出孫子そんし 非常にすばやいことのたとえ。逃げ出す兎 うさ ぎ <402> たつとりーたてのり のように足が速いという意。↓始めは処女の 如く、後は脱兎の如し524 類義脱兎の勢い。 用例二ンゲルは一向にひるむ色もなく、交 番に連行される途中手にしていた重いハン ド・バッグを警官の両足の間に押し込んで、 警官をつまずかせて、よろめく隙をねらい、 脱兎の如く逃げ出そうとした。〈坂口安吾◆ 能筆ジム た 立つ鳥跡を濁さず 立ち去る者は、あとを見苦しくないようきれいにしておくべきであるという戒め。また、引き際が潔くきれいであることのたとえ。水鳥が飛び立ったあとの水辺は、濁ることなく澄んでいるという意から。「飛ぶ鳥跡を濁さず」ともいう。 類義鷺さぎは立ちての跡を濁さず。鳥は立て ども跡を濁さず。 対義 後は野となれ山となれ。旅の恥は掻 き捨て。 立つより返事へんじ 人から名を呼ばれたら、立ち上がる前にまず 返事をするべきだということ。 たでく 蓼食う虫も好き好き 弁舌が達者で流れるようにしゃべること。た て続けにものを言うことのたとえ。立てかけ た板に水を流すようであるという意から。い ろはがるた(京都)の一。 た 立て板に水みず 類義戸板に豆。竹に油。懸河がけんの弁。 人の好みはさまざまであるということ。より によって、辛い蓼の葉を好んで食べる虫がい るという意から。他人の悪趣味について言う ことが多い。 類義蓼食う虫も好き不好き。蓼の虫苦きを 知らず。面面の楊貴妃 破れ鍋に綴とじ 蓋。蓼の虫葵 あお に移らず。人の好き好き笑う 者馬鹿。 英語Every man as he loves. 気に召すままに Tastes differ. 人の趣味 はそれぞれ異なる 用例ところがこの博労 ばく ろう 町の金米糖 こんぺ いとう 屋の娘は余程馬鹿な娘で、相手もあろうにお 前のものになってしまった。それも蓼食う虫 が好いて、ひよんなまちがいからお前に惚 れたとか言うのなら、まだしも、れいの美人 投票で、あんたを一等にしてやるからという お前の甘言に、うかうか乗ってしまったのだ ……と、判わった時は、おれは随分口惜くやし かった。情けなかった。〈織田作之助◆勧善 懲悪〉 盾に取る 自分を正当化したり、相手を非難するための 口実にする。相手の攻撃をかわす盾とする意 から。▶盾=刀ややりなどの攻撃を防ぐ武 具。 用例 法規を盾にとって理屈を言う技術と法 律学とは別物である。末広厳太郎◆役人学 三則 伊達の薄着 着ぶくれて格好が悪くなるのを嫌い、寒いと きでもやせがまんをして薄着をすること。△ 伊達‖派手なこと。人目につく意の「立つ」 からかという。俗に、伊達政宗 だてま さむね が派手な 服装であったからともいう。 類義伊達の素足。伊達の素袷すあ。わせ 用例われわれ若いときは寒中でも素裕と いって、下ヘシャツだの股引 ひき なんというも のは着なかった。伊達の薄着というが、それ で鮫肌 さめ はだ を立てていた。〈三遊亭金馬◆咄家 の着物〉 だてすあしなお 伊達の素足も無いから起こる やむを得ずがまんすることのたとえないか ら仕方がないということ。寒中に素足でいる のも粋がっているのではなく、金がなくて足 袋が買えないからだという意から。「あれば 天鵞絨びろの足袋も履く」と続けてもいう。 類義伊達の素足も貧から起こる。婀娜あだな 素足も貧から起こる。痩せ我慢は貧から起こ る。寒に帷子かた、土用に布子ぬの。 縦の物を横にもしない めんどうくさがりやのたとえ。縦になってい る物をちょっと横にするくらいのことさえし ないという意から。「縦な事を横にもしない」 「横の物を縦にもしない」ともいう。 たてりようめん 楯の両面を見よ 物事には表と裏があるから、一面からだけ見 <403> るのではなく、表と裏の両面をじっくり観察 した上で正しい判断をせよという教え。 類義楯の半面。 補説道で出会った二人の騎士が、木にかけ てある楯の片面をそれぞれ見て「これは金の 楯だ」「いや、銀の楯だ」と言い争い、あわ や決闘になろうとしたところへ、別の騎士が 通りかかり「この楯は一面が金でもう一面は 銀ではないか」と言ったという西洋の昔話か ら。 たあゆおやごろはたた 立てば歩めの親心♩這えば立て立てば あゆ おやごろ 歩めの親心517 類義水火を辞せず。 立てば芍薬座れば牡丹 美人の容姿や立ち居振る舞いの形容。「歩く 姿は百合ゆりの花」と続けてもいう。また「立 てば芍薬居ととすりゃ牡丹歩く姿は百合の花」 ともいう。 たと うそ ぼうずけ 警えに噛なし坊主にもなし ことわざなど、物事のたとえにいわれること ばは、どれも人生の真理を表していて、うそ はないということ。 たと喩えを引きて義を失う 類義譬えと豆腐汁は捨てるところがない。 譬えに漏れたる事はなし。 たとえ火の中水の底 どんなつらい目にあおうともかまわないというたとえ。男女の愛情や相手に誠意を示すときに用いる。また、固い決意のたとえ。「たとえ火の中水の中」ともいう。 たてばあーたなごここ 出諸葛亮ー前出師表 誤った前例を引き、それにこだわって根本の 道理を見失う。つまらない比喻を弄ろうして、 真理を見失うこと。 補説出典には「宜よろしく妄みだりに自ら菲薄 ひは くし(愚劣な者になりさがり)、喩えを引きて 義を失い、以もって忠諫 ちゅう かん の路みちを塞ふざぐべ からず(真心からの諫言 かん げん を聞く機会を閉ざ してはならない)とある。 歳団に目鼻 たどんめはな 色黒で目鼻だちがはっきりしない、醜い顔の たとえ。∇炭団∥炭の粉を丸く固めた燃料。 類義南瓜かぼちゃに目鼻。 対義卵こ目鼻。 対義卵に目鼻。 たな 槻から落ちた達磨 今まで栄えて絶頂にいた人が、おちぶれたよ うすのたとえ。 類義 鍾馗 うき 大臣が棚から落ちたよう。 棚から牡丹餅 思いがけない幸運が転がりこんでくること。 労せずに幸運を得ることのたとえ。棚の下で 寝ていたら、牡丹餅が落ちてきて開いた口に はいるという意から。「棚ぼた」ともいう。 類義開いた口へ牡丹餅。天然礫つぶのまぐれ 当たり。寝ていて餅。鰯網へ鯛たいがかか る。 鰯網で鯨捕る。 対義棚から牡丹餅は落ちて来ない。棚の牡丹餅も取らねば食えぬ。 用例「これで一日に二千万円近くの金が、 外国銀行へ電話一本で逃げ出し始めたそうだ からね。儲もうける国は棚からぼた餅でほくほ くものだろう。為替管理がどうのこうのと云 いったところで、何ともならぬらしい」〈横光 利一◆旅愁〉 出漢書かんじよ 手のひらを裏返すように、苦もなく簡単にできることのたとえ。また、心や態度ががらりと変わること。「掌を返す」とも書く。「手のひらを返す」ともいう。▷掌‖手のひら。 類義手の裏を返す。 用例彼女を奪とったものこそ負かされたの だ。何を好んで自分の敗北に罪の深さまです りつけて苦しむ奴やがあるだろう。するとそ のときから私の心は掌を返すがように明るく なった。私は先まず何より一切の過去の記憶 から絶縁しなければならぬ。過去の生活を振 り捨てねばならぬ。〈横光利一◆鳥〉 出 論語 ろんご 掌を指す きわめて明白であることのたとえ。また、非 常に容易なことのたとえ。手のひらにあるも のを指さす意。「掌を指ゆびさ」とも読む。△ 掌∥手のひら。 山 前々から聞いていたことだが、錦屏 の岩窟 山 きんびよ うざん あな にひとりの道士がいるそう な。紫虚上人 しきよし ようにん といわれ、よく占卜 せん ぼく を修 <404> たにせまーたにんの 鉛陝き者は速やかに涸る たにせまものすみか め、吉凶禍福の未来を問うに、掌をさすよう によくあたるという。いま玄徳に向って成都 の大軍をうごかすにあたり、勝か敗かひとつ トうらわせてみるのも無駄ではあるまい。易に よって、また大利を得るかもしれん。どうだ ろう諸公」〈吉川英治◆三国志〉 出墨子ぼくし 君主に、広く民衆に行き届く徳がなければ、 国家は保持できないというたとえ。また、規 模が小さく、ゆとりのないものは長続きしな いことのたとえ。狭い谷川の水は、雨が降ら ないとすぐ涸れてしまう意から。 補説出典には、このあとに「逝ながれ浅き者 は速やかに竭き、塊埆こうなる者は其その地育 いくせず(浅い流れはすぐに尽き、やせた土地 では耕作しても育たない)とある。 谷の枯れ木は高けれど峰の小 松に影ささず 身分が高くても勢力の衰えている者は、弱小 の人に恩恵を与えることさえできないという たとえ。いくら高くても、谷間の枯れ木では、 峰の小松に影を落とすことさえできないとい う意から。「谷の枯れ木は高しと雖いえも峰の 小松に影ささず」ともいう。 他人の疝気を頭痛に病む ひとせんき 頭痛に病む 555 たにん他人の空似 血のつながりがないのに、姿かたちが偶然上 く似ていること。「他人の猿似」ともいう。 用例もしや妾わたの眼めの迷いではあるまい かと思いましたが、併しかし眼の迷いでも何で もありませんでした。顔色は常よりも紅べにを さして、姿も男の着物こそ着ておれ、あの紫 に渦巻いた髪の毛。あの屹きっと王様を見詰め ている眼付。キリリと結んだ口もと。どうし ても美紅みにそっくり……これはどうした事 であろう。他人の空似にしてはあまりよく似 過ぎていると、呆あきれて穴の開く程その横顔 を見ておりました。〈夢野久作◆白髪小僧〉 たにんねんぶつごくらくまい 他人の念仏で極楽詣り 他人の労力を利用して自分の利益をはかるた とえ。他人の唱えた念仏で自分が極楽往生し ようとする意から。 類義人の牛蒡ごぼで法事する。人の褌ふんで相 撲を取る。他人の賽銭ざいで鰐口ぐち叩たたく。人 の提灯ちょうで明かりを取る。舅しゅの物で相婿 あいもてなす。人の太刀で功名する。 他人の褌で相撲を取る ひとふんどしすもう を取る556 他人の正目 たにんまさめ 当事者よりも、利害関係がない他人の見方の ほうが公平で正確であるということ。 類義傍目八目 おかめは○ ちもく 陰陽師 おんよ うじ 身の上知ら ず。医者の自脈効き目なし。 他人の飯には骨がある 他人の家に世話になるのは気苦労が多いということ。また、他人の好意には裏があり、素直に甘えてはいられないというたとえ。他人の家で食う飯は、のどに刺さる骨があるようで食べにくいという意から。「他人の飯には刺とげがある」ともいう。 類義 隣の白飯より内の粟飯 あわ。 めし 余所よその米 の飯より内の粥かゆ。 対義 他人の飯は白い。内の米の飯より隣の 麦飯。隣の糧籃味噌 じんだ。 みそ 他人の飯は白い たにんめししろ 他人のものは何でもよく見えるものだという こと。他人の食べる飯は自分のものより白く 見えるということから。 類義 隣の糧粋味噌 じんだ。 みそ 隣の芝生は青い。 隣の花は赤い。 他人の飯を食う 親元を離れ、他人の間でもまれながら、実社 会のさまざまな経験を積んでいくこと。 用例「てめえみたいな、御苦労なしの坊ン ちこそ、貧乏して、困ってみて、他人の家の 飯をちっと喰べてみるといいんだ」〈吉川英 治◆新書太閣記〉 たにんめしくおやおん 他人の飯を食わねば親の恩は し 知れぬ 親元を離れ、他人の間で生活して苦労をしな <405> いと、親のありがたさがわからないということ。 たにんくよしんなよたにん 他人は食い寄り親は泣き寄り他人は くよ 食い寄り335 他人は時の花 たにんときはな 季節の花は時が過ぎれば散ってしまうように、他人の好意も長続きするものではなく、いつまでも頼りにできないという教え。 たぬきひとば 狸が人に化かされる 相手を甘くみて、逆にしてやられることのた とえ。だまそうとした者が、逆に相手にだま される意。 類義誑たらしが誑しに誑される。盗人が盗人に盗まれる。 たぬき 狸から上前 きわめてずる賢いこと。人を化かす狸から上 前をはねて取るということから。△上前‖取 り次ぐ代金などの一部。江戸時代、年貢米の 通行税にあたる「上米 まい」の変化した語。 たことはたけあ 田の事すれば畑が荒れる 一方のことに気をとられていると、もう一方 がおろそかになる。両方を一度にすることは できないというたとえ。田で働く間は畑仕事 に手が回らず、畑のほうは荒れてしまうとい う意から。 類義太鼓を打てば鉦かが外れる。念仏申せ ば鉦が外れる。櫓ろを押して櫂かいは持たれぬ。 出陳鴻長恨歌伝 楽しみは長く続くものではないということ。 楽しい気持ちが頂点に達したあとには、悲哀 の情がわいてくるものだということ。 たにんはーたのむと 類義 歓楽極まりて哀情多し。楽しみ極まり て哀かなしみ生ず。楽極まれば則 ち悲しむ。 楽しみ尽きて憂え来る。楽しみの後へは苦し み来る。 楽しみて淫せず 出 論語 ろんご 十分に楽しんでも度は越さない。∇淫∥度を 越えて深入りする。みだれる。ふみはずす。 補説孔子が『詩経』の冒頭の詩「関雎 を評したことば。「関雎は、楽しみて淫せず、 哀かなしみて傷やぶらず(関雎の詩は、恋の楽し みを歌っているがみだらでなく、悲しみを 歌っているが心をかきむしるほどではない」 から。 ていると、必ずそのあとには心配事がくるものだということ。 たの 楽しみて後憂え有る者は聖人 は為さず 出管子 聖人はあとで心配事が起こるような一時的な 楽しみ方はしないものだということ。 たの 楽しみに沈む者は憂えに反る 出呂氏春秋 楽しみだけに夢中になって大事なことを忘れ たの 頼み難きは人心 人の心は変わりやすく、頼りにならないもの だということ。 類義知らぬは人の心。人心じんは測り難し。 たのきもとあめも 頼む木の下に雨漏る 頼みにしていた当てが外れることのたとえ。 木陰で雨宿りをしようと思うと、そこにも雨 が漏ってくるということから。「頼む木陰に 雨が漏る」「頼む木のもとに雨もたまらぬ」 ともいう。 類義 頼みも綱も切れる。泣き面に蜂。 類義頼みも綱も切れる。 用例その家なるものはバンデーシャと言 い、屋敷が一町四面ほどあってなかなか立派 なものです。行って尋ねますと、頼む木陰に 雨が漏るとでも言うのですか、その私の尋ね る公子は居らないと言う。どこへ行ったか と言いますと、彼は気狂 いだからどこへ 行ったか分らないという答えなんです。河 口慧海◆チベット旅行記〉 たの 頼むと頼まれては犬も木へ上 る 是非にと頼まれれば、無理な頼みもきいてや ろうという気持ちになるものだというたと え。木登りのできない犬でも、どうしてもと 頼まれると登る気になるという意から。 頬義頼めば越後 えち から米搗きにも来る。 <406> 頼めば鬼も人食わず。 たの 賴めば越後から米搗きにも来 る 頼み方次第で、どんな困難なこともやってく れる人がいるものであるというたとえ。真心 を尽くして頼めば、遠く越後(新潟)から江戸 までわざわざ米をつきに来てくれるという意 から。 類義 頼めば信州から米搗きにも来る。頼む と頼まれては犬も木へ上る。頼めば鬼も人食 わず。 対義頼めば乞食が馬に乗らぬ たのおにひとく 頼めば鬼も人食わず たとえ好きなことでも、こちらから頼むと もったいぶってしようとしないこと。また、 心から頭を下げて頼めば、どんな人でも悪い ようにはしないものであるということ。「鬼 も頼めば人食わず」ともいう。 類義鬼の目にも涙。頼めば越後 から米搗 きにも来る。頼むと頼まれては犬も木へ上 る。 多少遠回りでも、安全で確実な方法をとるほ うが、結局は得であるというたとえ。近道だ からといって田をつっきれば泥に足をとられ たり着物が汚れたりするが、あぜ道を行けば 安全で確実であるということ。 類義急がば回れ。 旅の犬が尾をすぼめる たはし田走るより畔走れ 家の中など威張れる所では威勢がよいが、外へ出るとまるでいくじのない人をひやかしていう。犬は自分の家の近所では吠えたてるが、見知らぬ土地では小さくなっているということから。 類義 我が門かど で吠えぬ犬なし。家うち の前の 痩せ犬。 旅の恥は掻き捨て 旅先では知っている人もおらず、その場限り で済んでしまうので、ふだんならしないよう な恥ずかしい行為も平気でやってしまうということ。 類義旅の恥は弁慶状。 用例人間は輪廻 りん ね の道を辿たどって果しな き旅路を急いで居る。自ら落着くべき故郷も 無く息いこうべき宿も無く、徒ずらに我欲の 姿に憧憬 あこ が れて、あえぎ疲れて居る。旅の恥 はかき棄てと唱えて、些 いさ さ かも省みる処 とこ な く、平気で不義、破廉恥 はれ んち を行う。今の世の 総すべての人は、悉 こと ごと く異郷の旅人である。石 川三四郎・土民生活 足袋は姉を履け雪駄は妹を履 け 物を買うときには、見通しを立てて買うのが よいという教え。足袋は洗うと縮むから姉の 足にあう大きめのものを買い、雪駄は履いて いるうちに鼻緒がゆるんでくるから妹の足に あう小さめのものを買えということ。また、 足袋は足の大きい姉から、雪駄は足の小さい 妹から順に履けば、大勢で履けるということ。 ▶雪駄‖草履の一種。 類義足袋は親の足袋を履け。 旅は憂いもの辛いもの 旅先では頼りとする人もなく、その土地の事 情にも暗いことから、心配事や辛いことが多 いということ。昔の旅は不便で苦難が多かっ たことから。「旅は憂いもの」ともいう。 旅は道連れ世は情け 旅行するときは道連れのあるほうが楽しく頼もしい。同様に、世の中を渡るのもお互いに思いやりをもって仲よくすることが大切であるという教え。単に「旅は道連れ」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義 旅は情け人は心。旅は心世は情け。旅 は人の情け。 英語 When shared, joy is doubled and sorrow halved. [分かち合えば、喜びは倍増し、悲しみは半減する] 足袋屋の看板 たびやかんばん 自分だけの独り合点で、相手は納得していないこと。足袋の形に作った足袋屋の看板は、片方だけで両方そろっていないことから。また、地位が危うくなること。職を失うこと。京阪地方で、奉公人などが解雇されることを「足があがる」といったことから、高いところにつるされた足袋形の看板とかけたもの。 <407> 「足袋屋の看板で足揚がる」ともいう。 足袋屋の素足」紺屋の白袴240 食べてすぐ寝ると牛になる 牛は食べたあと横になって反芻 あることから、食べたあとすぐ横になる行儀 の悪さを、牛になると戒めたことば。「飯を 食ってすぐに寝ると牛になる」ともいう。 多弁能なし 口数の多い者に限って実際の役には立たない ものだということ。 た、不可能なことのたとえ。 対義大船に乗る。 類義口叩たたきの手足らず。善者は弁なら ず、弁者は善ならず。口自慢の仕事下手。 玉ある淵は岸破れず 賢者や勇者のそろっている国は、滅ぼされる ことがないというたとえ。宝玉の沈んでいる 淵の岸は崩れないということから。 たまご 卵に目鼻 めはな 色白でうりざね顔の、かわいらしい顔だち。 卵に目や鼻をつけたようだということから。 対義炭団 たど に目鼻。南瓜 かぼ ちゃ に目鼻。 用例頭の禿げている人は、たいてい端正 な顔をしているものだが、田島先生も、卵に 目鼻というような典雅な容貌の持主である。 〈太宰治◆パンドラの匣〉 たまこから卵の殻で海を渡る 非常に危険な行為をすることのたとえ。ま たまごぬすものうしぬす卵を盗む者は牛も盗む たびやのーたまとな 小さな悪事を放っておくと、やがて大きな悪 事をはたらくようになるということ。初めは 卵を盗んだものが、味をしめてやがて牛を盗 むようになるということから。 補説西洋のことわざから。 類義嘘うそつきは泥棒の始まり。 英語 He that will steal an egg will steal an ox. 卵を盗む者は雄牛を盗む 卵を見て時夜を求む 出荘子そうじ 卵を見て せっかちすぎること。また、結果を急いで期 待をかけすぎることのたとえ。卵のうちから 成長して時を告げることを期待する意から。 ∇時夜∥鶏が明け方に時を告げて鳴くこと。 補説聖人の道がどういうことかわかったと いう瞿鵲子くじゃを、賢者の長梧子ちょうがたしな めたときのことば。出典には「且かつ女じも 亦また太はだ早計なり。卵を見て時夜を求め、 弾たまを見て鶏炙きようを求む(おまえは気が早す ぎる。まだ鶏にもならない卵を見て暁を告げ させようとし、鳥をうつ弾を見て、すぐに焼 き鳥をほしがるとは)一とある。 類義 飛ぶ鳥の献立。捕らぬ狸 たぬ き の皮算用。 卵を以て石に投ず 弱い者が、いたずらに強い者に立ち向かうこと。はじめから勝負にならないことのたとえ。また、損するばかりで、何の得もないこ 出荀子じゅんし とのたとえ。卵を石に投げつけても卵が割れ るだけで、石は何の損傷も受けないことから。 類義卵で石を打つが如ごとし。指を以て沸わ けるを撓みだす。 だまだまだまたらたら 騙す騙すで騙される誑しが誑しに誑 される410 騙すに手なし 相手がだます目的で巧みにあざむけば、いく ら用心しても防ぎようがないこと。また、だ ます以外によい方法や手段がないこと。 類義騙すに敵なし。 たまたま事をすれば雄猿が孕 おざるはら ふだんはやらないことを、人がやろうとして いるときに、冷やかしていうことば。 たまだれ 玉簾と薦垂れ 貴賤 きせ ん 富貴の生活の差が甚だしいというたと え。上流の人は飾りのついたすだれを掛ける のに、下層の人はこもをつるすことから。 玉簾=玉の飾りのついた美しいすだれ。薦垂 れ=戸障子の代わりに、出入り口に垂れ下げ たこも。 たま玉となって砕くとも瓦となっ て全からじ 出北斉書 貴重な玉として砕かれても、価値のない瓦と <408> たまにきーだまりむ して安全に世を過ごしていこうとは思わない。名誉のために死ぬのはいさぎよしとするが、いたずらに生き長らえたくはないものだということ。 補説出典には「大丈夫だいじふ寧むしろ玉砕ぎよくすべくも、何いずんぞ瓦全がぜんする能あたわずむしろ玉となっていさぎよく砕けるべきで、瓦となって命を全まっうすべきでない」とある。類義玉砕瓦全ぎよくさいがぜん たま玉に瑕きず 出論衡ろんこう ほとんど完全なものに、ほんの少しの欠点が あることのたとえ。「玉のきず」ともいう。 類義白璧はくの微瑕びか。 対義瑕に玉。 たまに出る子は風に会う たまに出る子は風に会こ ふだんはしないことをすると、失敗したり不 運に出あったりするというたとえ。家にひき こもってばかりいる子供が、たまに外に出る とその日に限って大風が吹くという意から。 類義たまに事をすれば雨が降る。たまに出 れば雨にあう。たまたま事は油断がならぬ。 たまこしの 玉の輿に乗る 普通の女性が、地位や財産のある者と結婚す ること。結婚して富貴の身になること。▷玉 の輿‖貴人の乗り物。 類義 氏無くして玉の輿。 たまさかすきそこ 玉の杯底なきが如し 出韓非子 見かけはよいが、実際の用をなさないこと。 また、美しく立派だが肝心なところに欠点が あること。立派な美しい杯も、底がなくては 杯としての用をなさないということから。 補説出典には「人主 じん しゅ と為なりて其その群臣 の語を漏もらすは、是これ猶なお当そこ無きの玉 巵 ぎよ くし のごときなり(君主になって、家来の言っ たことを漏らすのは、美しい玉の杯に底がな いのと同じようなものだ」とある。 類義玉巵底なし。 たまもっかんふせべ 壁は以て寒を禦ぐ可からず 出劉子新論 人間にとっては、衣食住の問題がもっとも大 事であるということ。璧玉は高価な宝物 であるが、それで寒さを防ぐことはできない という意から。「璧」は「へき」とも読む。 ∇璧∥璧玉。環状の美しい玉。 補説出典では、このあとに「珠たまは未いまだ 以て飢えに充つべからず(宝石で空腹をみた すことなどできない)」と続く。 玉琢かざれば器と成らず 出礼記らいき 才能に恵まれていても、自己を練磨しなけれ ば大成しないというたとえ。どんなによい玉 も、磨いて加工してはじめて立派な器物とな ることから。▷器‖うつわ。道具。立派な人 物にたとえる。 補説出典では、このあとに「人学ばざれば 道(人としての正しい道)を知らず」と続く。 類義玉磨かざれば光なし。玉磨かざれば宝 とならず。瑠璃るりの光も磨きがら。 英語 No man proves famous but by labour.「労を惜します精励することによる 以外に、人は名を成せない」 玉磨かざれば光なし 生まれつきすぐれた才能や素質を持っていて も、学問や修養を積まなければ、それらを活 いかすことができないというたとえ。美しい 玉も磨かなければ光を放たないという意か ら。 類義玉琢みがかざれば器きと成らず。瑠璃るり の光も磨きがら。 玉山に あ そうもくうるお 草木潤う 出淮南子えなんじ 君子や賢人のいる所はその影響を受けて、周 りの人々の心も潤い豊かになるものだという たとえ。すばらしい玉が山にあれば、草木ま でよく潤い茂るものだという意から。 補説出典では、このあとに「淵ふち珠たまを生 じて岸枯れず(美しい真珠がでる淵は、その 岸辺の草木は枯れない)」と続く。 だまむしかべとお 黙り虫壁を通す 黙々と努力する者は、人の知らないうちに大 事業を成し遂げるというたとえ。また、おと なしく目立たない者が、とてつもないことを するというたとえ。鳴きもせず、だれも注目 しないような小さな虫が、いつの間にか壁を <409> 食い破って穴をあけるという意から。「黙り 虫壁を掘る」「黙り虫壁を破る」ともいう。 類義黙り猫が鼠ねずを捕る。黙っている者に 油断するな。深い川は静かに流れる。 たまいだそつみひっぷつみ 璧を懐けば其れ罪あり♩匹夫罪なし、 たまいだそつみ 壁を懐けば其れ罪あり548 玉を攻むるに石を以てす 出潜夫論せんぷろん つまらないものでも、それを使って立派なものを作り上げることができるというたとえ。また、物にはそれぞれの役割があって、一つとして必要でないものはないということのたとえ。玉を磨きあげるのには、ふつうの石を砥石しに使うことから。 玉を食らい桂を炊ぐ 非常に物価の高いことのたとえ。 もくせい。 香木。 出戦国策 せんごくさく 補説出典には「楚国の食物は玉よりも高く、薪は桂よりも高い」とある。 故事)中国、戦国時代の遊説家蘇秦 そしが楚の 国へ行き、三か月待ってようやく威王に謁見 でき、会談が終わり帰ろうとしたところ、威 王が「私は先生の評判を古 の賢人のうわさ を聞くような気持ちで聞いていました。千里 の道も遠しとせずお出いで下さったのにとど まれないのはなぜですか」と尋ねた。蘇秦は 「楚国の食物は玉よりも高く、薪は桂 ちより も高価なようです。それに、取次の役人とは たまをいーたみをつ 会いにくいし、王と会うのも難しい。こんな 国にはとても長くとどまることができませ ん」と言ったという故事による。 玉を衒いて石を賈る 出新唐書 しんとうじよ 外見だけ立派に見せても、中身は何の値打ち もないもののたとえ。美しい玉を見せておい て、実際には石を売りつけるという意から。 ▶衒う‖見せびらかす。見せかける。賈る‖ 「売る」と同じ。 類義 羊頭 よう を懸けて狗肉くに を売る。牛首を 懸けて馬肉を売る。看板に偽りあり。 対義看板に偽りなし。 民の口を防ぐは川を防ぐより 出国語こくご も甚だし 言論の抑圧は国にとって危険だということ。 人民の言論の自由を奪うことは、川の氾濫を 防ぐよりも難しく、人民の憤りが爆発すると、 堤防が決壊して洪水になるどころの騒ぎでは ないということ。△防ぐ=ふさぐ意。 民の声は神の声 為政者は民衆の声に耳を傾けなければならな いということ。民衆の声は神の声に等しいと いう意から。 補説西ロマ皇帝カール大帝に仕えた神学 者アルクイヌスの言葉から。 類義天に口なし、人を以もて言わしむ。 英語The voice of the people is the voice of God.民の声は神の声である これ 之を 出論語ろんご 人民を従わせることはできるが、すべての人 民に政治の道理を理解させることは難しいと いうこと。人民には教える必要はなく、一方 的に従わせておけばよいという意味でも使わ れるが、本来の意味ではない。「由らしむべ し、知らしむべからず」ともいう。▶之∥為 政者の政策。政治の道理。由る∥従う。 出国語こくご 民は三に生ず 人は父母によって生まれ、師によって教えられ、君主によって養われて生きているのだから、この三者には同じように仕えて、その恩に報いなければならないということ。△三二父・師・君をさす。 類義在二さんの義。 たみたっと 民を貴しと為す 国家の根本は人民にあり、人民こそ最重要で あるということ。 補説孟子のことば。民を貴しと為し、社 稷 しゃし よく 之これ に次ぎ、君を軽かろしと為す(産土神 うぶす ながみ と穀物の神がその次であり、君主は三番 めである)とある。 類義民人有り、社稷あり。 民を使うに時を以てす 出論語 人民を国家の労役に使う場合は、農耕の妨げ にならないように時期を考慮に入れるべきで <410> ためるなーたりきほ あるということ。君主が国を治めるときの心 得を述べたもの。▷使う‖土木工事などに徴 用する。時‖農耕などにさしつかえない時 期。農閑期。 補説孔子のことば。「千乗の国を導くには、 事を敬して信に、用を節して人を愛し、民を 使うに時を以てす(戦車千台を戦闘に出すく らいの大国を治める心がけは、まず、慎重で しかも信頼を失わぬこと。次に、政府の費用 はできるだけ節約し、人民の身になって考え てやること。最後に、農民を夫役ぶやにかり出 すには、農繁期をさけて適当な時を選ぶこと である」から。 矯めるなら若木のうち 悪い癖や欠点などを矯正するのは、柔軟性の ある若いうちがよいということ。木の枝ぶり を直すには、やわらかい若木のうちがよいと いう意から。 類義 鉄は熱いうちに打て。老い木は曲がら ぬ。二十過ぎての子の意見と彼岸過ぎての肥 こえは効かぬ。 英語 Best to bend while it is a twig. 小 枝のうちに曲げるのがいちばんよい」 He is young enough to amend. [彼には心を入 れかえられるだけの若さがある] だめお 駄日を押す 間違いないとわかっていることを、念のため にもう一度確かめること。また、スポーツの 試合などで、勝利が確実になった後でさらに 得点して勝利を決定的なものにする。囲碁 で、自分の地じをはっきりさせるために、駄目に石を詰めることから。「駄目押しをする」ともいう。△駄目∥囲碁で、双方の地の境にあるどちらの地にもならない所。駄目を詰めても勝敗にはかかわりがない。 類義念を押す。 用例医者をと思って姉の家を出た鶴吉は、 直すぐ近所の病院にかけつけた。薬局と受附 とは今眼ぬをさましたばかりだった。直ぐ来 るようにと再三駄目を押して帰って待ったけ れども、四十分も待つのに来てくれそうには なかった。〈有島武郎◆お末の死〉 田もやろ畔もやろ 溺愛するあまり、むやみに物を与えること。 田だけでなく畔までも与えるということか ら。「田もやろう畔もやろう」「田にもやろう 畔にもやろう」ともいう。▽畔=田と田の境 に土を盛り上げた所。田だけでなく何でもと いうことを強調するとともに、口調をととの えるために付け加えたものか。 類義田にも畔にも腥物 なまぐ さもの つけて。 たよ かよ 便りのないのは良い便り 何も便りがないのは、知らせるような変わったことがないからで、相手が無事に過ごしている証拠であるということ。音信がしばらくないからといって、それほど心配することはないということ。 類義無沙汰は無事の便り。 英語 No news is good news. 知らせがないのはよい知らせである つまらない者が、自分と大差のない相手を馬鹿にして笑うことのたとえ。たらいが半切りの底の浅いのを馬鹿にして笑う意から。△半切り‖底の浅いたらい形の桶 類義猿の尻笑い。目糞 鼻糞を笑う。樽 ぬき渋柿を笑う。五十歩百歩。 誑しが誑しに誑される 人をだましてばかりいる者が、だまそうとす る者にだまされてしまうこと。∇誑し∥こと ばたくみにうまくだますこと。また、その人。 類義取ろう取ろうで取られる。騙だます騙す で騙される。化かす化かすが化かされる。物 して物される。盗人が盗人に盗まれる。狸 たぬき が人に化かされる。 足らず余らず子三人 収入は少なすぎず多すぎず、子を三人持つと いう生活が一番よいということ。また、子の 数は三人ぐらいが理想的であるということ。 類義余らず過ぎず子三人。余らず過ぎず負 わず借らずに子三人。三人子持ちは笑うて暮 らす。負わず借らずに子三人。子三人子宝。 他力本願 たりきほんがん 阿弥陀如来 あみだに よらい の根本的な誓願から生まれ る、衆生救済の力。一般には、無責任な他人 頼みのことをいう。∇他力∥仏や菩薩 くに阿弥陀如来からもたらされる衆生救済の 力。本願∥阿弥陀仏の衆生救済の誓願から生 <411> まれる力で、「他力」と同義。 足ることを知る 目分はこれで十分だと満足すること。分相応 に満足する気持ちをもつことが、常にも満 ち足りた豊かさを生むということ。「足るを 知る」ともいう。 補説出典には「禍わざは足るを知らざるより 大なるは莫なく、咎とがは得んことを欲するよ り大は莫し。故に足ることを知るの足るは、 常に足れり(満足することを知らないことほ ど大きな災いはなく、他人の物を欲しがるこ とほど大きな不幸はない。かろうじて、足り ていると思うことで満足できるものは、いつ でも心が満ち足りているということである) とある。 用例だが、足るを知ることかくのごとき男 でも、やはり、病が酷ひどいよりも軽い方がい いし、真昼の太陽の直射の下でこき使われる よりも木蔭こかで午睡ひるをした方が快い。〈中 島敦幸福〉 足るを知る者は富む 出老子 満足することを知っている者は、たとえ貧し くても精神的には豊かであるということ。 補説出典には「足るを知る者は富み、強っと めて行う者は志有り満足することを知って いる者は富者であるといえるし、努力して道 を行おうとする者は志ある者といえる」と ある。 英語 Content is the philosopher's stone, that turns all it touches into gold. 満足は 触れるものすべてを金に変える「賢者の石」 である 類義足るを知るは第一の富なり。富は足る を知るにあり。 たることーだんがん 足るを知れば辱められず 出老子ろうし 分相応で満足することを知っている者は、余 分な欲望をもたないから、恥辱を受けたり身 を誤ったりすることなどないということ。 補説出典には、このあとに「止とどまること を知れば殆あやうからず。以もって長久なる可べ し(どこでとどまるべきかを知れば危険に出 あわない。そうすればいつまでも長くもちこ たえられる)とある。 たれからすしゆうし たれ 力らす 誰か烏の雌雄を知らん 出詩経 是非・善悪の判断しにくいことのたとえ。烏 の雌と雄とはどちらも黒くて同じような形 で、区別がつきにくいという意から。 補説出典では、この前に「具ともに予われを聖 と日いうも(人は皆自分は賢人だと自称する が)」とあり、賢人と自称する人の言うこと は当てにならない意を寓している。 用例だが凡およそ宗教についてそのインチキ と非インチキとをどこで区別してよいか、無 論当局の誰にも判わかるはずはない。誰か烏の 雌雄を知らんや焉これである。そこで宗教の代 りに、宗教団体の方を標準にしてこれを決定 しようというわけなのである。戸坂潤◆思 想と風俗 たつく田を作るより畦を作れ よい田を作るには、周りの畦塗りを丁寧にせ よということ。畦の善し悪ぁしが田の収穫量 を左右するということ。 類義 畦付け半分。田は畦を作れ畑はくろを 作れ。 たゆあぜゆおなみちあぜ 田を行くも畦を行くも同じ道↓畦から ゆたゆおな 行くも田から行くも同じ19 だんいほうしょく 暖衣飽食 出孟子もうし 物質的に満ち足りた生活のこと。暖かい衣服 を着て、腹いっぱい食べる意から。「暖」は 「煖」とも書く。「飽食暖衣」ともいう。 類義錦衣玉食 きんいぎよ。 くしよく 私は政治家が、政治家的ルートによって暖衣飽食していることをとがめたいとは思わぬ。〈坂口安吾◆帝銀事件を論ず〉 出北史ほくし だんがい弾劾 不正や罪過をあばいて責めること。特に、官 吏の罪状を調べて責めること。 だんがんこくし 弾丸黒子の地 出十八史略・庾信ー哀江南賦 ごく狭い小さい土地のたとえ。はじき玉やほ くろほどの小さな狭い土地という意から。△ 弾丸=昔、中国で鳥などを捕るために用いた はじき弓の玉。黒子=ほくろ。 補説 十八史略には彼の弾丸黒子の地、 <412> 将 はた 何の逃る所あらん(逃れる所がどこに あろうか)」とあり、庾信の『哀江南賦』に は「地はこれ黒子、城はなお弾丸の如ごとし」 とある。 類義 尺寸 しゃく すん の地。 猫の額ひた。 断機の戒め だんきいまし 出列女伝 物事は中途でやめてはなんにもならないという戒め。「孟母ぼ断機の教え」「孟母機」はた断つ」ともいう。 故事孟子が学業半ばで家に戻ってきたと き、母は織っていた機の織物を断ち切った。 孟子が驚いてそのわけを聞くと母は、学問を 途中で止めるのはこの織物を途中で断ち切る のと同じで、完成しなければ役に立たないの だと言って戒めた故事から。 談義の場の嫁謗り 矛盾する言動のたとえ。慈悲や善行を説く説 法の場に集まった老婆たちが、その場で嫁の 悪口を互いに言い合う意から。 類義仕置き場の巾着 きんち 切り。茶所 ちゃ じよ は嫁 譏そし り所。 なる counsel. 怒りと焦りはよい助言の邪魔に たんき 短気は損気 そんき 短気を起こすと、人との交わりがこわれたり 仕事もうまくいかなかったりして、結果的に 自分の損になるということ。 類義短慮功を成さず。癇癪 持ちの事破 り。短気は身を亡ほろぼす腹切り刀。腹は立て 損、喧嘩けんは仕損。急せいては事を仕損じる。 英語Anger and haste hinder good だんきん断金の交わり 出易経えきよう きわめて堅い友情のたとえ。金属をも切断す るほどに強固に結ばれた友情の意から。「断 金の契り」ともいう。 補説出典には二人心を同じくすれば、其 その利ときこと金を断つ二人が心を合わせれ ば、その鋭利さは金をも断ち切ることができ る」とある。 類義金蘭 の交わり。水魚の交わり。莫逆 の交わり。断琴 断琴の交わり はくが ことやぶ 519 だんきんまじ 伯牙、琴を破る 端倪すべからず 出韓愈ー送二高閑上人一序 物事の規模や人物が、はかり知れないほど大 きいこと。また、物事の成り行きを見通すこ とができないこと。事の始めも終わりも見通 すことができないという意から。▶端‖物事 の始め。倪‖物事の終わり。 補説出典には「旭 きよ く 張旭 ちよう。 きよく 草書の名人 の書は、変動猶なお鬼神のごとく端倪すべから ず」とある。また、これは『荘子』の「大 宗師編」で、生死の区別を超越して生きたと いう子桑戸 しそ うこ の人物を形容して「端倪を知ら ず」と言ったのに基づくとされる。後に、そ の人物や技量の大きさがどれほどのものか測 り知ることができないという意味で用いられ るようになった。 用例だいたいにおいて、極点の華麗 は妙な悲しみがつきまとうものだが、秀吉 の足跡にもそのようなものがあり、しかも端 倪すべからざるところがある。〈坂口安吾 ◆ 堕落論〉 短縄は以て深井の泉を汲むべ 出荀子じゅんし からず 知識の浅い者は、深い道理を知ることができないというたとえ。また、聖人の言行は、深い思慮の結果であり、浅い考えからはうかがい知れないということ。つるべ縄が短いと、深い井戸の水を汲むことができないという意から。∇継∥井戸の中を汲み上げるためにつるべにつける縄。 だんごかく 団子隠そうより跡隠せ 隠し事は、当人が気づかない意外なところか ら知られてしまうものであるということ。 こっそり団子を食べたときは、残った団子だ け隠しても、食べたあとをきれいに始末して おかないとばれてしまうことから。 類義頭隠して尻隠さず。 だんしいえ い しちにん てき 男子家を出ずれば七人の敵あ り 男が社会に出て働く上では、多くの敵があり、 いろいろと苦労があることのたとえ。 類義家を出ずれば七人の敵あり。男は闘しき <413> を跨またげば七人の敵あり。 単糸線を成さず たんしせんな 出水滸伝すいこでん 単糸縞を成さず 人間は一人では何もできないというたとえ。 蚕が出した一本の糸は、何本かより合わせ なければ使える糸にならず、何もできないこ とから。「単糸線と成らず」ともいう。∇単 糸∥より合わせる前の一本の糸。線∥より合 わせた糸。 補説出典には、このあとに「孤掌豈あに よく鳴らんや(片方の手のひらだけでは音が出 ない)とある。 丹漆文らず 出孔子家語こうしけご もともと美しいものは、とくに飾る必要がないこと。▷丹漆‖赤いうるし。文る‖模様などを描いてかざる意。 補説出典には、このあとに「白玉琱ぼらず、 と、何ぞや。質余り有りて飾を受けざるが故 なり(白玉に彫刻しないのは、それ自体が余 りに美しくて手を加える必要がないからであ る)とある。 だん おこな きしんこれさ 断じて行えば鬼神も之を避く 断固たる決意で行動すれば、何ものも妨げる ことはできないということ。堅く決意して迷 わず決行すれば、鬼神でさえその激しい勢い に押されて道を避けるという意から。 出史記しき 補説 中国、秦しんの宦官 がん の超高 ちょう こう が陰謀 を画策し、それを実行したときのことば。出 たんしせーーたんせい 典には「狐疑こぎ猶予すれば後に必ず悔い有り。 断じて敢行すれば鬼神も之を避け、後に成功 有り(疑いためらってぐずぐずしていれば、 あとで必ず後悔する。決断して行えば鬼神も それを避けて事は成功する)とある。 だんしいちごんきんてつごと 二月子の一言金失り加し 男子の一言金鉄の如し 男がいったん口にしたことばや約束は、金や 鉄のように堅く確かなものであり、絶対に守 らなければならないということ。「一言」は 「いちげん」ともいう。 類義大丈夫だいじようの一言は駟馬しばも走らず。 武士に二言なし。 たんしひよういん 一箪食瓢飲 一箪の食一瓢の飲 64 にんじょいかおな 男女権枷を同じくせず 出礼記 男女の区別は厳しくすべきであるというこ と。男と女は同じ衣紡うに着物を掛けないこ とから。△権枷‖衣紡。着物掛け。 補説出典には「男女雑坐ざっせず、権枷を同じくせず、巾櫛しつを同じくせず(男女は席を同じくしない、同じ衣術に着物を掛けない、手ぬぐいやくしは同じ物を使わない)」とある。 類義男女席を同じくせず。 だんじょこうかあいよぎよう 男女功を貿え相資りて業をな 男と女は、それぞれ仕事を分担し合って助け 合い、生業 なり わい をたてていくものであるという す こと。 ▷功‖仕事。 貿う‖交換する。 出亢倉子 補説出典には、この前に「男子は織らずして衣き、婦人は耕さずして食らう」とある。 出礼記らいき 男女のけじめは幼時でも厳しくしてみだりに 親しむべきではないという儒教の教え。七歳 ともなれば、男女は同じござの上に一緒に 座ってはいけないということから。▷席‖ご ざ、むしろ。 補説 出典には 七年にして男女席を同じく せず、食を共にせず」とある。 だんじょ いんらく たが しゅうがい いだ 男女の淫楽は互いに臭骸を抱 出蘇軾ー九相 男女のみだらな楽しみは、臭いむくろを抱き 合っているにすぎないということ。色欲を戒 めたことば。 たんすいまじくんしまじあわ 淡水の交わり♩君子の交わりは淡きこ みずこと と水の若し212 丹誠を込める 物を作ったり植物を育てたりすることに、手 抜きをせず一心に努力を傾けること。「丹誠」 は「丹精」とも書く。「丹誠を凝らす」「丹誠 を尽くす」ともいう。∇丹誠∥真心。心を込 めて物事をすること。 類義誠心誠意。 <414> たんせき たくわ 儋石の儲え 儋石の儲え 出漢書 わずかなたくわえ。 儋二人でかつげる 量。 たんだいしんしょうたんだい 胆大心小♩胆は大ならんことを欲し、 こころしょうほっ 心は小ならんことを欲す45 だんちょう断腸 出世説新語 きわめて悲しいこと。はらわたがちぎれるほ どの深い悲しみのこと。「断腸の思い」の形 でよく使われる。 故事)中国、晋しの武将桓温 かんが蜀 しに行こ おん うとして舟で三峡(長江中流の大渓谷、古来 航行の難所)を通ったとき、従者が猿の子を 捕らえて舟に乗せた。母猿は悲しい泣き声を 立てながら、岸に沿ってどこまでも追いかけ、 百里以上もついてきたがあきらめようとせ ず、ついに舟に飛び移ってきたが、とたんに 息が絶えた。その腹をさいて見ると、悲しさ のあまり腸がずたずたにちぎれていたという 故事による。 で行く意から。 用例)そうして、ある朝、ふと目を覚まして、 たけを呼んだが、たけは来ない。はっと思っ た。何か、直感で察したのだ。私は大声あげ て泣いた。たけいない、たけいない、と断腸 の思いで泣いて、それから二、三日、私はしゃ くり上げてばかりいた。〈太宰治◆津軽〉 一単刀直入 出景徳伝灯録 前置きをはぶいて、ずばりと本論に入ること。 一本の刀を持ち、ただ一人で敵陣に切り込ん 注意 単を短と書き誤らない。 用例少し訊たずねたいことが有りますので、と僅わずかに口を切るや、父は早くも様子を見て取ったか「何じゃ」と厳そかに膝ひざを進めました。「父様とう、私は真実ほんに父様の児こなのでしょうか」と兼かねて思い定めて置いた通り、単刀直入に問いました。〈国木田独歩◆運命論者〉 たんと胆斗の如し 出二国志 きもったまが太くて少しも動じないことのた とえ。きもが非常に大きく、その大きさは一 斗の升ますほどであるという意から。「胆きもの 大なること斗の如し」「斗胆とたん」ともいう。 ∇斗∥一斗(十升)入りの升ます。 故事中国三国時代蜀 の剛将姜維 きよ うい が魏を攻めたが敗れて魏の兵に殺された。 兵が胸をさいたところその胆は一斗升ほど も大きかったという故事による。 類義胆 たん 甕かめ の如し。 旦那の喧嘩は槍持ちから 大きな争いも、ささいなことが原因で起こる ということ。使用人どうしのつまらない衝突 がもとで、主人どうしの争いが生じることに なるという意から。△槍持ち=武家で主人の 槍を持って供をした従者。 類義子供の喧嘩に親が出る。 だんな す あかえぼし ていしゅ す 旦那の好きな赤烏帽子 ↓ 亭主の好きな あかえぼし 赤烏帽子 39 赤烏帽子 439 たん 単なれば折れ易く、衆なれば すなわくだがた 則ち擢け難し 出北史 一人ではできないことも大勢の者で協力しあ えば可能になるということ。矢は一本ならば 折れやすいが、たくさん合わさっていれば簡 単には折れないことから。 補説出典には「阿豺あさが母弟の慕利延ほりに一本の矢を折らせ、簡単に折ったところ、次に十九本の矢を一緒にして折るように言ったが折ることができない。そこで皆が力を合わせ心を合わせて一つにならなければ国家を守ることができないということを諭した」という話がある。日本の戦国時代の武将毛利元就もうりもとなりが三人の息子に矢を折らせ、兄弟力を合わせることの大切さを説いた話も有名。 類義一筋の矢は折るべし、十筋の矢は折 り難し。五指更 ごも 弾はじくは捲手の一揺に 若しかず。 たんぞうところものあか丹の蔵する所の者は赤し 出孔子家語こうしけご 人は交わる友によって善にも悪にもなるというたとえ。赤土の中にあるものは赤くなるという意から。▷丹‖赤土、丹砂 たん。 しゃ 補説出典には、このあとに「漆しの蔵する 所の者は黒し(うるしの中に入れられたもの は黒くなる)とある。 類義 朱に交われば赤くなる。水は方円の器 に随 した が う。 <415> たんぱく し かなら のうえん もの うたが 澹泊の士は必ず濃艶の者の疑 う所となる 欲のない淡白な人は、欲の深いしつこい人か ら何かあるのではないかと必ず疑われるということ。△澹泊∥淡白。濃艶∥こってりしている。ここでは、しつこい。 出菜根譚 補説出典には、このあとに「検飭 は多く放肆なる者の忌いむ所となる(厳格す ぎる人は、だらしない者にきらわれることが 多い)とある。 たんだい 胆は大ならんことを欲し、心 は小ならんことを欲す 大胆で勇気があると同時に、綿密で繊細な心 の持ち主でありたいものだということ。「胆 大心小」ともいう。 補説出典には、このあとに「智ちは円なら んことを欲し、行いは方ならんことを欲す(智 恵は円満で融通がきくほうがよく、行動は品 行方正で厳格なほうがよい)」とある。 出旧唐書くとうじょ はできるが、その赤い色をなくすことはできない意から。▷丹‖赤色の土。 たんみがべあかうば 丹は磨く可くして赤きを奪う 外形は変えられるが本質は変えられないということ。また、志ある者は死んでも屈しないことのたとえ。赤土は磨いて形を変えること 出呂氏春秋 たんぱくーちいさく 補説出典には、この前に「石は破る可くし て堅きを奪う可からず(石は割ることはでき るが、その堅さを奪い取ることはできない)」 とある。 たんぺいきゅう 短兵急 だしぬけ。にわか。突然で無遠慮な行動や表 現のこと。刀剣を持って敵に迫り、急に激し く襲いかかるという意から。「短兵急接」と もいう。▷短兵‖刀剣などの短い武器。 用例今まで嫂 あに よめ にちびちび、無心を吹き掛 けた事は何度もあるが、こう短兵急に痛め付 けるのは始めてである。然しかし梅子は自分の 自由になる資産をいくらか持っているから、 或いは出来ないとも限らない。〈夏目漱石 それから 出俱舎論ぐしゃろん だんまつ断末魔ま 死にぎわの苦痛のこと。また単に、死にぎ わ・臨終の意。「魔」は「摩」とも書く。△ 末魔‖梵語ぼんの音写。身体内にある急所で、 何かがこれに触れると激痛を起こして必ず死 ぬといわれる。 知を捨て長を取る 出漢書 短所や欠点を捨てて、よいところだけを選び 伸ばすこと。 補説出典には若もし能よく六芸げの術を修 めて、この九家の言を観み、短を舎す長を取 らば、則 すな わ ち以もって万方 ばん ぽう の略に通ずべしか りに儒学の六芸を修得し、この諸子九家の思 想を読み、短所を捨てて長所を取ったならば、 あらゆる方面の大略に通じることができる)」 とある。 だんととりまね 弾を執りて鳥を招く出淮南子 方法を間違えて、目的と反対の結果を招くこと。はじき弓を手に持って鳥を呼びよせようとしても、鳥は危険を感じて寄ってくるはずがないという意から。▷弾はじき弓。小さい丸い弾を飛ばして鳥をとる道具。 補説出典には、このあとに「梲だつを揮ふるつ て狗いぬを呼ぶ、之これを致さんと欲するも、顧 反かえて走にぐ杖をふりまわして犬を呼んで も、犬は打たれるのかと恐れ、かえって逃げ 去ってしまう」とある。 類義 杖を挙げて犬を呼ぶ。 小さく生んで大きく育てろ 小さく生んで大きく育て 子供は、出産しやすいように小さい子を生み 大きく成長させるのがよいということ。ま た、物事は小さく始めて、発展させていくの が着実でよいということ。 小さくとも針は呑まれぬ 小さいからといって、侮れないというたとえ。 針は小さくても呑まれぬ」ともいう。 <416> ちいはひーちえはば 類義山椒 さんし よう は小粒でもぴりりと辛い。細 くても針は呑めぬ。小敵と見て侮る勿なかれ。 対義小男の総身の知恵も知れたもの。 ちいひとつく 地位は人を作る その地位に就けば、自然にその地位にふさわしい人格が備わるようになる、ということ。職業や地位が、それにふさわしい人物に成長させる、という意から。「地位が人を作る」ともいう。 ちいん知音 出列子れっし 心の通じ合った友。自分の心をよく知ってく れる友。親友・知己のこと。また、音楽に精 通する人。 故事)中国、春秋時代、琴の名手伯牙 友鍾子期 しようは、必ず伯牙がひく琴の音から 伯牙の心境を読み取った。伯牙が「まるで私 の心の中とそっくりだ、もはや私の琴の音は 君の耳から逃れるところなどない」と言った ほどよく理解していたという故事による。ま た、「呂氏春秋りよししゅ」には、その後鍾子期が 死んだとき、伯牙はもう琴の音を知る者がい ないと嘆いて、二度と琴をひかなかったとあ る。↓伯牙、琴を破る519 ちえあ いえどいきおじょう 智慧有りと雖も勢いに乗ずる し に如かず 出孟子 どんなに知識のある人でも、時の勢いを利用 した力には及ばないということ。 補説孟子が斉の古いことわざを引用したも の。出典には、このあとに「鎡基じき有りと雖 も時を待つに如かず(農具がそろっていても、 耕作に適した季節でなければ、その到来を待 つしかない」とある。 知恵出で大偽あり 出老子 人間が知恵というものを持つようになってか ら、噛うそや偽りというものが現れたのだとい うこと。大昔、人間が素朴であったころは平 和であったが、人間の知恵が発達してから、 噛をついたりだましたりということが起こ り、法律や規則が必要になったのだという意。 「知恵」は「智恵」「智慧」とも書く。また、 「慧智 出でて大偽有り」ともいう。大偽 大きな偽り。人為。 補説出典には「大道廃すたれて仁義有り。智 慧ちえ出でて大偽有り。六親りく和せずして孝慈 有り。国家昏乱こんして忠臣有り」とある。↓ 大道廃れて仁義あり391 ちえおお 知恵多ければ憤り多し 知恵や知識を多く身につけてくると、人は世 の中の矛盾や不合理に気づくようになり、憤 慨することが多くなるということ。 補説「旧約聖書」の「伝道の書」にあることば、In much wisdom in much vexation.から。 ちえちからおもに 知恵と力は重荷にならぬ 知恵と力は、どんなに多く持っていても負担 になることはない。あればあるほどよいもの であるということ。 類義知恵と力は出すほど利なり。 知恵ない神に知恵つける 気がつかないでいる者によけいな入れ知恵を して、物事を面倒にすることのたとえ。「知 恵のない子に知恵つける」ともいう。△神 ここでは邪気のない純粋な者の意。 類義 寝た子を起こす。日向 ひな た で埃 ほこ り を立て る。平地に波瀾 はら ん を起こす。 知恵は小出しにせよ 一度にすべての知恵を出しきってしまうと、 あとが続かず苦境に立ったときに打つ手がな くなって困るから、必要に応じて少しずつ出 せということ。「知恵の小出し」ともいう。 ちえしんじゅまさ 知恵は真珠に優れり 知恵はどんな宝よりもまさっているというこ と。「知恵は真珠よりも尊し」ともいう。 補説 旧約聖書の「箴言」にあることば、 Wisdom is better than rubies. (知恵は宝 石に優れり)から。 知恵は万代の宝 すぐれた知恵は、その持ち主一人の宝にとど まらず、後世の人にも尊重され長く役立つ宝 であるということ。「智は万代の宝」「富は一 生の宝、知恵は万代の宝」ともいう。 類義 持つは知るより来る。知は金銀にまさ る。 対義 学者貧乏。軍者ひだるし儒者寒し。 英語 Wisdom is better than riches. <417> 恵は富にまさる 地が傾いて舞が舞われぬ 言い訳ばかりして実行しないこと。また、 もったいをつけて体裁をとりつくろうこと。 舞が舞えないのを、地面の傾きのせいにする 意から。「地」は「じ」とも読む。 類義堂が歪ゆがんで経が読めぬ。 ちか 近きを釈てて遠きを謀る者は ろう 労して功無し 出三略 身近なところから手をつけていくべきだということ。身近な問題をおろそかにして、遠大な計画に熱中するのは、むだな骨折りが多くて効果があがらないということ。 補説出典には、このあとに「遠きを釈てて 近きを謀る者は、佚いって終わり有り(遠い 所のことには手をつけず、身近な問題を考え て対処していくものは、安楽に成果をあげら れる)とある。 ちか もっとお 近きを以て遠きを知る 出荀子 身近な事柄をよく調べて、そこから全体のこ とや将来のことを理解すること。 補説出典には、このあとに「一を以て万ばん を知る、微を以て明を知る」とある。 類義一を以て万を知る。一を聞いて十を知 る。一事ひとを聞いては十事とこを知る。 ちかなかかきゆしたなかかき 近しき仲にも垣を結え親しき仲に垣 をせよ291 ちか近くて見えぬは睫ゝ智は目の如し、百歩の外を見て睫を見る能わず421 ちか 近しき仲に礼儀あり した 親しき仲に礼儀 あり91 ちがかたーちぎしゅ よけいなことに関係したために、いわれのな い災難をうけること。関わり合いを持たずに 過ごせることには、手出ししないほうがよい ということ。「近寄る神に罰当たる」ともい う。 近づく神に罰当たる 類義 触らぬ神に崇たりなし。触り三百。七 日 なぬ か 通る漆し も手に取らねばかぶれぬ。 近火で手をあぶる 手近にあるものを、とりあえず利用すること。 また、目先の小さな利を図ることのたとえ。 暖かい所に移動する手間を惜しみ、とりあえず近くにある火で、手をあぶり暖めるという 意から。 類義近い所の手あぶり。 ちかぼはやあ 近惚れの早飽き ほれっぽくてすぐに飽きる性質。また、そう いう人。△近惚れ‖ほれやすいこと。 類義 早好きの早飽き。熱し易いものは冷め 易い。三日坊主。 英語 A hasty meeting, a hasty parting. 早縁組みの早別れLight love will change.軽薄な恋は長続きしない 物事は急ぐからといって途中を手抜きする と、失敗したりはかどらなかったりするもの だということ。危険がある近道を通るより、 回り道でも安全な道を通ったほうが結局は早 く着く意から。 ちかみち 近道は遠道 類義急せいては事を仕損じる。急がば回れ。 ちからやま ぬ き よ おお 出史記しき きわめて意気盛んなこと。並外れた力と意気 のあるさま。山を引き抜こうかというほどの 力と、世をおおい尽くさんばかりの気力の意 から。「抜山蓋世ばつざんがいせい」ともいう。 補説 垓下がいの戦いで漢軍に囲まれた楚その 項羽が詠んだ辞世の詩『垓下の歌』の一節。 出典には「力は山を抜き、気は世を蓋う。時 に利あらず、騒すい逝かず。騒の逝かざる奈何 いかすべき。虞ぐ項羽の愛した女性。虞美人 じん)や虞や、若なんを奈何せん(我が軍の力は山 をも引き抜き、我が心意気は世を圧する。だ が時の運は味方せず、愛馬の騒も疲れて走れ ない。騒が走れなければどうしたらよいの か。虞よ、虞よ、お前をどうすればいいのか) とある。↓四面楚歌 そか 301 遲疑逡巡 ぐずぐずとして、いつまでも疑い、決断しな いこと。ぐずぐずとためらうこと。「遅疑遂 循」とも書く。∇遅疑∥いつまでも疑って決 <418> ちぎょのーちこうご 心できないこと。 ぐずすること。 逡巡=ためらうこと。ぐず 類義 右顧左眄 首鼠両端 知者は惑わず勇者は懼 おそ れず 用例いまにして、 荆州 けいし ゆう も取り給 たま わず 遅疑逡巡、曹操 そう の来攻を、拱手 きよう しゅ してこ こに見ているおつもりですか」〈吉川英治 ◆ 三国志〉 池魚の殃 呂氏春秋 巻きぞえで災難にあうこと。また、その災難。 とくに火事で類焼にあうことにいう。「池魚 の憂い」「殃池魚に及ぶ」ともいう。「殃」は 「禍」「災い」とも書く。 補説出典には「中国春秋時代、宋そうの国の 桓魋 かん たい は宝玉を持っていたが、罪を犯して逃 げていた。王は人に宝玉のことを調べさせる と、池に捨てたという者があったので、池を さらったが見つからず、魚はその災いをこう むって死んでしまった」という話がある。ま た、「楚その国の城門が火災を出したので、そ の消火のために池の水を汲くみ干し、魚は死 んでしまった」という話(杜弼とひ「檄梁文 りようをげき するのぶん )がある。 編獺=かわうそ。 ちぎよやしなものかならへんだつさ 池魚を畜う者は必ず徧獺を去 る 事を行うには、妨げとなるものをあらかじめ 取り除いて安全な状態にしなければならない というたとえ。池で魚を飼う者は、魚を食う かわうそを追い払うものだという意から。 出淮南子えなんじ 補説出典には、このあとに「禽獣きんじを養 う者は必ず豺狼ざいを去る(鳥獣を飼う者は山 犬と狼 おお かみ を近づけたりしない」とある。 ちぎれても錦 ↓腐っても鯛 199 竹頭木屑 出世説新語 役に立たないもの、また、細かなもののたと え。転じて、わずかなつまらないものでも粗 末にしないことのたとえ。竹の切れはしや木 の削りくずのようなつまらない物でも使い道 があるということ。∇竹頭∥竹の切れはし。 木屑∥木の削りくず。 故事中国東晋の政治家陶侃が船を 造ったときに出た竹の切れはしや木の削りく ずをとっておいて、後に、元旦の朝賀のとき 木の削りくずを道にまき、雪で道がぬかるむ のを防いだ。また、竹の切れはしで釘を作り、 船の修繕に役立てた。 竹帛の功 名を竹帛に垂る 490 竹馬の友とも 出晋書しんじょ 幼友達のこと。幼いころ竹馬 に乗って一緒 に遊んだ友達の意。 故事中国、晋の桓温 かん は殷浩 いん と並び称 おん これることが不満で、少年のときに自分が乗 り捨てた竹馬を殷浩が拾っていたのだから、 自分が上に立つべきだと主張したという故事 から。 類義騎竹の交わり。竹馬の好よし。 用例メロスには竹馬の友があった。セリヌ ンティウスである。今はこのシラクスの市 で、石工をしている。その友を、これから訪 ねてみるつもりなのだ。〈太宰治◆走れメロ ス〉 出世説新語 竹林の七賢 七人の隠者 いん じゃ のこと。中国、魏ぎの末から晋 しんにかけて、俗世間を避けて竹林に集まり、 酒を酌み交わし、風流を楽しみ清談 せい だん を交わ したという七人の賢者。阮籍 げん せき 嵇康 けい こう 山 濤 さん とう ・向秀 しょう しゅう ・劉伶 りゅう れい ・阮咸 げん かん ・王戎 ゆう おうじ のこと。転じて、風流を語る人。また、隠者 のたとえ。 ちくろく ちゅうげんしかお 逐鹿 中原に鹿を逐う 422 知行合一 出伝習録 知識と行為とは一体であり、真の知識は実践 を伴うものだということ。明みんの学者王陽明 おうよが唱えた学説。朱子学の先知後行説 うめいこうせつ (まず理論を知り、その後実践する)に対する 行動理論を説いたものとされている。△知 知識・認識。行‖行為・実践。 補説出典には「知は行の始め、行は知の成 れるなり。聖学は只だ一箇の功夫くふ。知行 は分かって両事と作なす可べからず(知ること は行うことの始めであり、行うことは知るこ との完成であって、それらは同じ一つの事で ある。聖人の学問にあっては修行はただ一つ あるのみで、知ることと行うことを分けて二 つの事とすることはできないのである」と <419> ある。 ちごころごと 稚児殺す如し 大切なものを、自分の手でだめにすること。 また、手向かいできない弱い相手をいじめる こと。「稚児殺すよう」ともいう。 類義赤子の手をひねる。 知者の一失 いっしつ せんりょ いっしつ 369 ちしゃほとりわらべならきようよ 知者の辺の童は習わぬ経を読む すぐれた人の近くにいると、自然にその人の 感化を受けることのたとえ。高僧のそばにい ると、子供でも習わずして経文を覚えてしま うという意から。「寺の辺の童は習わぬ経を 読む」ともいう。 類義門前の小僧習わぬ経を読む勧学院 かんが くいん の雀 すず は蒙求 もうぎ ゆう を囀 さえ ず る。 ちしゃひろ 知者は博からず 物事をほんとうに深く知っている人は博識者 ではないということ。逆に何でも知っている 人はどれ一つ真によく知っていないというこ と。 補説出典には、この前に「真実なことばは 美しくない。美しいことばには真実がない。 善人は多弁を弄しない。多弁を弄する人は善 行をしていない」とあり、このあとに「聖人 は物をたくわえない。すべて他人のために出 し尽くして、自分はさらに豊かである。天の 出老子ろうし ちごころーちそうお 道は、万物に利益を与えて害を加えない。聖 人の道はすべての人々のためにし、功名を争 わない」と、『老子』の最終章を結んでいる。 ちしゃまどゆうしゃおそ 知者は惑わず勇者は懼れず 出論語ろんご 真に物事を知っている者は、道理に通じてい るから事に当たっても迷い乱れることがな く、また、真に勇気のある者は、信念に従っ て行動するから何も恐れることがないという こと。 補説孔子のことば。「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」とある。 ちしゃみずたの 出論語ろんご 知者は水を楽しむ 知恵の豊かな者は、水が流れるようによどみ なく才知を働かせるので、水を好んで楽しむ ということ。知者の風格をいう言葉。 補説孔子のことば。「知者は水を楽しみ、 仁者は山を楽しむ。知者は動き、仁者は静か なり。知者は楽しみ、仁者は寿 いのち なが し」とある。 ちしゃせんりょかならいっしつあ 智者も千慮に必ず一失有り、 ぐしゃせんりょかならいっとくあ 愚者も千慮に必ず一得有り 出史記しき ▷千慮=多くの考え。↓千慮の一失369 どんな知恵者でも、千に一つくらいは考えに 誤りがあり、いくら愚かな者であっても、千 に一つくらいはよい考えを出すものだという こと。「智者の一失、愚者の一得」ともいう。 知小にして謀大なり出易経 思慮は浅いのに計画ばかりが大きいこと。身 の程知らずのさま。 補説出典には「徳薄くして位尊く、知小に して謀大に、力小にして任重きは、及ばざる こと鮮すくし(徳が薄いのに位が高く、知恵は ないのに計画ばかり大きく、力がないのに責 任が重ければ、災いに及ばないですむことは あり得ない」とある。 ちじんあ 治人有れど治法無し 出荀子じゅんし この人がいるから国が治まるという人はいる が、この法があるから国が治まるという法は ない。国がよく治まるのは人の力によるもの であって、法の力によるものではないという こと。 補説出典には「乱君有りて乱国無く(国が 乱れるのは国を乱す君主がいるからであっ て、ひとりでに乱れる国などなく)、治人有 れど治法無し」とある。 ちじんまえゆめと れいさいやわ 癒人の前に夢を説く出冷斎夜話 ばかばかしいこと、無益なことをすることの たとえ。愚かな者に夢の話を聞かせることか ら。「痴人に対して夢を説く」ともいう。 馳走終わらば油断すな 人がもてなしてくれる裏には、何か求めることがあってのことだから、もてなされたあとは十分に気をつけろということ。 <420> ちちおごーちにいて 類義旨 うまい 物食わす人に油断すな。食わせ ておいて扱さてと言い。 ちちおごそここう 父厳かに子孝あり 父が折り目正しい言動をし、威厳をもって生 きていれば、子も父に対して礼儀正しく孝行 を尽くすようになるということ。 ちちちち 父父たらずと雖も子は以て子 たらざるべからず 出古文孝経 たとえ父親が父親としてのつとめを果たさな かったとしても、子供は子供としてのつとめ を果たさなければいけないという教え。↓君 きみ 君たらずと雖も臣しん以て臣たらざるべから ず182 類義 親は親でも子は子たれ。 父父たり子子たり 出論語 父が父としての道を行えば、子も子としての 道を尽くす。家族がそれぞれになすべきこと をすれば、一家は安泰であるということ。↓ 君きみ君たり臣しん臣たり182 ちちおんやまたかははおん 父の恩は山よりも高く母の恩 うみふか は海よりも深し 出童子教 父母から受けた恩のありがたさを、大きく高 い山と広く深い海にたとえたことば。「父母 の恩は山よりも高く海よりも深し」ともいう。 類義 父は天、母は地。 ちちこためかくこちち 父は子の為に隠し、子は父の ためかく 為に隠す ろんこ 論語 父と子は、どちらか一方が悪いことをしても、 互いにかばい合うのが人情であるというこ と。 故事葉の領主が孔子に「私の村に躬と いう正直者がいます。彼の父が羊を盗んだと ころ、自分の父を訴えたほどです」と話した。 孔子は「私の村の正直者は違っています。父 は息子の罪を隠し、息子は父の罪を隠します。 不正直のように見えますが、そういう見かけ の不正直の中に、本当の正直がこもっている のです」と答えたという。 対義直躬 ちよく きゅう 父を証す。父の羊を盗みたる を訴う馬鹿律義 ばかり。 ちぎ ちちゅうあみはほうおうま 蜘蛛が網を張りて鳳凰を待つ 力の弱いものが強大なものに対抗しても問題 にならないことのたとえ。△蜘蛛=くも。 「ちちゅ」「ちしゅ」とも読む。鳳凰=古代中 国でめでたいとされた想像上の大鳥。 類義蟬蟬とうが斧おのを以もって隆車に向かう。 ちちあら 血で血を洗う 暴力に暴力で対抗すること。また、肉親同士 が流血の争いをすること。↓血を以もって血を 洗う430 ちにく 血となり肉となる 来意義のある仕事をするための根源的な力と なる。栄養がよく吸収されて身になることか ら。 習得した知識や技能が十分に身について、将 用例科学者が自分の体験によって獲得した 深い知識を、かみ砕きかみ締め、味わい尽く してほんとうにその人の血となり肉となった ものを、なんの飾りもなく最も平易な順序に 最も平凡な言葉で記述すれば、それでこそ、 読者は、むつかしいことをやさしく、ある程 度までは正しく理解すると同時に無限の興趣 と示唆とを受けるであろうと思われる。〈寺 田寅彦・科学と文学〉 ち ここう 痴ならず聾ならざれば姑公と 成らず そうじょ 出宋書 嫁に対しては、何事につけても愚かな人間の ように振る舞い、聞こえても聞こえないふり をするところまで悟りきらないと、よい姑 しゅうにはなれないということ。嫁の欠点は細 かく言わないほうがよいということ。△姑公 II 姑。 出易経えきょう 治に居て乱を忘れず いつでも万一のときの用意を忘れないこと。 世の中が平和なときでも、世が乱れたときの 用意を忘れないということ。「治にして乱を 忘れず」ともいう。▶治∥よい政治が行われ、 世の中がよく治まっていること。 補説出典には「是この故ゆえに君子は安けれ ども(平安なときでも)危うきを忘れず、存す れども(存在していても)亡ぼろぶるを忘れず、 <421> 治すれども乱るるを忘れず」とある。 類義太平にも乱を忘るべからず。 英語 Clothe thee in war: arm thee in peace.〔戦時に平服を着、平時に武装せよ〕 用例治にいて乱を忘れず、閑にあってなお その職分を忘れず、かくてこそわがむっつり 右門が名人なるゆえんです。〈佐々木味津 三◆右門捕物帖〉 地に倒るる者は地によりて立 ちたおものち 出入大乗論 失敗や過ちを犯しても、そのことを反省し、 それを踏み台とすることで進歩が生まれると いうたとえ。地面で転んだ者は、その地面を 足がかりにして起き上がるという意から。 ちはたらかどた 知に働けば角が立つ 理性のみで行動すると、人との関係に角が 立って穏やかに暮らせなくなるということ。 補説夏目漱石なつめその小説『草枕』の冒頭に あることば。このあとに「情に棹させば流 される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の 世は住みにくい」と続く。 血の筋は七代ちだい 先祖からの遺伝の影響は、七代あとの子孫に まで残るということ。 ちりひとわしてんときち 地の利は人の和に如かず りしちりひとわ の利に如かず、地の利は人の和に し 如かず 453 ちにたおーちはめの ちうたが 智は疑わしきを闕くより大な るは莫し 出説苑 知識にとってもっとも重要なことは、疑わし く不確かなことを思い切って捨て去ることだ ということ。△闕く=取り去る。 補説出典には、このあとに「行いは悔いる こと無きより大なるは莫し」とある。また、 『荀子じゅにも「知は疑わしきを棄つるより 大なるは莫く、行こうは過ち無きより大なるは 莫く、事は悔い無きより大なるは莫し」とあ る。 ちえん 智は員ならんことを欲し、行 ほう ほっ は方ならんことを欲す 出淮南子えなんじ 知恵は円満で自由に働くようにしたい、行い は厳格で礼儀正しくありたいということ。マ 員=円に同じで、まるくなめらかの意。円満。 方=四角で整う意。方正。 補説出典には、この前に「心は小ならんことを欲し、志は大ならんことを欲す(心遣いは細心でありたく、志は高く大きくありたいものだ)」とある。 ちぐせ 智は愚を責めず 本当に知恵のある者は、人の愚行を責めたり しない。愚者を非難・批判するのは知者のす るべきことではないということ。 出孔子家語こうしけご 物事を知り分けることの中で、相手がどのような人物であるか見極めることほど難しいことはないということ。 補説孔子の門弟の中で、だれが賢者かと尋 ねられた子貢(孔子の弟子)が、答えに引用し たことわざ。 血は水よりも濃い 他人よりも血のつながった身内のほうが絆 が強く、頼りになるということ。また、血縁 は断ち切れないこと。血筋は争えないという 意でも使われる。 類義血の寄るものは親子。他人は時の花。 兄弟は両の手。血は争えぬ。 対義兄弟は他人の始まり。遠い親戚より近 くの他人。 英語 One crow never pulls out another's eyes. 烏 同士は相手の目をそべるような ことはしない ちめごとひやっぽそとみ 智は目の如し、百歩の外を見 まつげみあた て睫を見る能わず 出韓非子 人の知恵は他人のことはよく判断できるが、 自分自身のことを知るのは難しいというこ と。人間の目が遠くを見ることはできても、 いちばん身近な自分のまつ毛を見ることがで きないようなものだということから。 <422> ちはもっーちゅうげ 補説出典には「智の目の如きを患うれうるな り。能よく百歩の外ほかを見るも、而しかも自ら 其その睫を見ること能わず」とある。 類義近くて見えぬは睫。目は毫毛 もその睫を見ず。 ちもっひかざた 智は以て非を飾るに足る 出説苑ぜいえん 知恵は、その使い方によっては悪事やあやま ちをとりつくろって善のように見せかけるこ ともできるということ。 知命 ちめい ごじゅう てんめい し 五十にして天命を知る 249 補説出典には、このあとに「弁は以て説を 行うに足る(巧みな弁舌は、自分のための言 い分を通して実行させてしまう)」とある。 類義智は以て諫かんを距ふせぐに足り、言は以 て非を飾るに足る。 血道を上げる 物事に過剰なまでに熱中すること。特に異性 や趣味にのめりこむこと。のぼせあがる。△ 血道‖血の通う道。 用例自分に血道をあげて来た男の初々しさ をきんは幾度も経験していた。きんは、そう した男の初々しさに惹ひかれていたし、高尚 なものにも思っていた。〈林芙美子◆晩菊〉 血も涙も無い 人に害を加える化け物の総称。また、私欲の ために悪だくみをする者のたとえ。▷魑魅‖ 山林や沼沢の気から生じる化け物。魍魎‖山 水・木石の精気から生じる化け物。 ちみもうりょう 翹魅翹 出春秋左氏伝 冷酷きわまりなく、人間的な思いやりが少し もないこと。 類義 人面獸心。 私の父親は世間から狂人扱いにされて いた。それは仕事にかかったが最後、昼夜 ブッ通しに、血も涙もない鋼鉄色の瞳をギラ ギラさせる、無学な、醜怪な老職工だからで あった。〈夢野久作◆怪夢〉 茶殻も肥になる 茶殻のような廃物でも肥料になるように、世 の中にまったく役に立たないものはないということのたとえ。 類義大鋸屑 おが も取柄。土器 かわ らけ の欠けも用あ り。曲がり木も用い所がある。 茶茶を入れる ちゃちゃい 脇から冗談や冷やかしを言って、人の話を邪 魔する。▷茶茶‖邪魔。冷やかし。 類義半畳を入れる。水を差す。 用例「そうか。そうだって、細君もそう云 いっていたよ。苦沙弥くしさんに、よく伺おう と思って上ったら、生憎 あい にく 迷亭が来ていて 茶々を入れて何が何だか分らなくしてしまっ たって〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 なるということ。お茶を飲んだだけでも一時 の空腹をまぎらすことができるという意か ら。 ちゃばらいっとき茶腹も一時 少しばかりのものでも、一時しのぎの助けに 類義湯腹も一時。湯腹も一時、松の木柱も 三年。粥加腹も一時。 英語 Kail spares bread. 野菜汁があれば パンがなくても済む 茶屋の餅も強いねば食えぬ 商売のこつはすすめ方にあるということ。ま た、自分で金を出して食べる物でも、よそで 出された物は、どうぞとすすめられないと食 べにくいものであるということ。∇茶屋=旅 人や通行人に茶や菓子などを供して、一休み させる店。茶店。 類義宿屋の飯も強いねば食えぬ。 茶碗を投げば綿で抱えよ 相手が強く出てきたら、やわらかく受けとめ たほうがいい結果を呼ぶというたとえ。相手 が怒って茶わんを投げつけたら、綿で受けと めて割らないようにせよという意から。「茶 碗を投げれば綿にて受けよ」ともいう。 類義茶碗をば綿で受くる。柔能よく剛を制 す。悪に敵すること勿なかれ。怒れる拳 笑顔 に当たらず。 中原に鹿を逐う 出魏徴ー詩 中原に鹿心込 天子の位を得ようと戦い争うこと。また、あ る地位や目的の物を得ようと互いに争うこと のたとえ。鹿は天子の位のたとえ。「逐鹿ちく」 ともいう。∇中原∥古代中国の中央部。黄河 <423> 中流をはさんで南北に広がった地域で中国文 明の発祥地。 補説詩の題名は「述懐 じゅつ かい 」「中原還また鹿 を逐う、筆を投じて戎軒 じゅう けん を事とす(天下は またも大いに乱れ、群雄並び起こって帝位を 奪い取ろうとして互いに争っている。私もま た大志をいだき、筆を捨てて戦いに従う身と なった」とある。また「史記」には「秦しん、 其その鹿を失い、天下共に之これを逐う」とある。 ちゅうげんみみさか 忠言耳に逆らう 出孔子家語 真心を尽くして諫いさめることばや忠告は、素 直に聞き入れられにくいということ。「忠言」 は「金言」「諫言かん」ともいう。 補説出典には「良薬は口に苦けれども病に 利あり。忠言は耳に逆らえども行いに利あり (よい薬は口には苦いけれども、病気にはよ く効く。忠告のことばは、とかく耳に痛いも のであるが、行いにはためになるのである)一 とある。 類義良薬は口に苦し。忠は憎みのもと。至 言しげは耳に忤らう。苦言は薬なり、甘言は疾 やま なり。 英語 Truth finds foes, where it makes none. 真実は、自らは敵を作らないのに敵 ができる ちゅうこうりょうぜん 忠孝両全 出李商隠ー為ニ濮陽公陳許一上表 忠義と孝行とをともに全うすること。忠と孝 とを両立させることだが、両者が一致する意 ちゅうげーちゅうり とする説もある。「忠孝双全」ともいう。 補説出典には「忠孝の両全を貴べば、則 ち忠は孝に移るべし、文武の二道を正せば、 則ち武は文を輔たすくべし」とある。 ちゅうさいときうじがみあいさつときうじがみ 仲裁は時の氏神♡挨拶は時の氏神1 ちゅうしんうたがものそじわか 中心疑う者は其の辞枝る 出易経えきよう 心の中に疑いを抱いている者は、そのことば が一貫しない。疑念を持つ人のことばは、木 の枝が分かれているように支離滅裂であると いうこと。 ちゅうしんくにさそな 忠臣は国を去るも其の名を いさぎよ 潔くせず 出史記 忠臣は、主君から追放されて国を去っても、 自分の名誉を守るための弁解をしたり、旧主 を非難するようなことはしないということ。 ちゅうしんにくんつか 忠臣は二君に事えず 出史記 真心こめて仕える臣下は、その生涯でただ一 人の主君にしか仕えないということ。「賢臣 は二君に仕えず」ともいう。 補説出典には、このあとに「貞女は二夫を 更あらめず(貞節を堅く守る女性は二人の夫に つかえるようなことはしない」とある。 中道にして廃す 出論語 持てる力を出しきらないうちに、途中でやめ てしまうこと。 補説出典には「力足らざる者は中道にして 廃す、今女は画かぎれりいま、君は自分の 限界を自分で決めてしまっている」とある。 弟子の冉求ぜんきが弱音をはいたとき孔子が戒 めた言葉。 ちゅう 忠ならんとすれば孝ならず、 こう 孝ならんとすれば忠ならず 大切な二つのものの板ばさみになって苦しむ ことのたとえ。主君に忠義を尽くそうとすれ ば、親に背くことになって不孝となり、親の 意に従おうとすれば主君への忠義を全うでき なくなるという進退きわまった状態のこと。 補説平家物語にある、平重盛 たいらの が、 しげもり 父の清盛 きよ もの の暴挙を諫いさめたときのことばか ら。「悲しき哉かな、君の御為ために奉公の忠を 致さんとすれば、迷盧めい(世界の中心、大海 にそびえる高山八万の頂よりも猶なお高き父 の恩忽たちに忘れんとす。痛ましき哉、不孝 の罪を遁のがれんとすれば、君の御為には已すで に不忠の逆臣とも成りぬべし。進退是これ窮ま れり。是非いかにも弁 わき ま え難し」とある。 ちゅうりゅうふねうしないっぴようせんきんいっこ 中流に船を失えば一瓢も千金 せんきん 千金 60 ちゅうりゅう 中流の砥柱 出晏子春秋 困難や誘惑がある中でもびくともせず、節義 を守る者のたとえ。乱世にあっても節を持し て屈しないことのたとえ。砥柱が激流の中に <424> ちょうあーちょうじ 毅然 きぜ として立っている意から。△砥柱∥中 国河南省の北東、黄河の流れの中にそびえ 立っている砥石といのように平らな岩石。 類義中流の底柱。 ちょうあいこう 寵愛昂じて尼になす 度を越したかわいがりようは、かえって当人 を悲しませる結果になるということのたと え。親が娘をかわいがるあまり、手放すこと をためらって嫁にやる機会を失い、ついには 尼にしてしまうという意から。 類義 贔屓 ひい き の引き倒し。過ぎたるは猶 なお 及 ばざるが如 ごと し。 ちょううんぼ朝雲暮雨 朝 男女の深い契りのこと。昔、中国、楚その懐 王が夢の中で巫山 いう故事から。↓巫山の夢578 ちょうか 朝霞には門を出でず暮霞に は千里を行く はんせいだい 出范成大ー詩 雨の前兆である朝焼けの日は外出を見合わ せ、晴天の前兆である夕焼けの翌日には遠出 をするということ。晴雨に関する俗信を詩に 引用したもの。△朝霞‖朝焼け。暮霞‖夕焼 け。 鋏長い剣。 ちょうきようかえ 長鋏帰らんか、食に魚無し せんごくさく 出戦国策 地位や待遇について不平をいうことば。▶長 故事)中国、戦国時代、斉の孟嘗君 もうしょ うくん は来 る者は身分を問わずに厚遇したので、食客は 三千人にも達したという。あるとき、馮諉 ふう けん という男が来た。彼を伝舎(食客の宿舎で 上・中・下とあるうちの下)に住まわせ十日 たち、伝舎の頭に聞くと「長鋏帰らんか、 食うに魚無し(長剣よ帰ろうか、飯に魚もつ いていない)と歌っています」と答えた。孟 嘗君は彼を幸舎(中位の宿舎)に代えた。する とまた長剣をたたいて「出かける輿かごもない」 と歌い、代舎(上位の宿舎)に代わらせるとま た剣をたたいて「長剣よ帰ろうか、家族と暮 らせない」と歌ったので、孟嘗君は馮諉の老 母の食費まで面倒をみてやった。後に馮諉は 孟嘗君のために大いに働いたという。 ちようきん かいさく 朝菌は晦朔を知らず 出荘子 そうじ はかなく短い命のたとえ。朝生えて夕方に枯 れるきのこは、ついたちもみそかも知らない という意から。▶朝菌‖朝生えて日に当たる と枯れるきのこの一種。晦‖みそか。朔‖つ いたち。 補説出典には、このあとに「蟪蛄は春秋 を知らず(蟬せみはひと夏の命なので春や秋を 知らない」とある。 長鯨の百川を吸えるが如し 出杜甫ー詩 巨大な鯨が多くの川の水を片っ端から吸い込 んでしまうように、がぶがぶと酒を飲むさま のたとえ。 補説詩の題名は飲中八仙歌 はっせんか 八人 の酒のみを歌ったものでこの節は三番目の 李適子 りて きし のこと。 目先の違いにばかりこだわっていて、結果が 同じであるのに気がつかないたとえ。また、 ことば巧みに人をだますことのたとえ。 故事)中国、春秋時代、宋そうの狙公(二猿回し)が猿をたくさん飼っていた。よく猿の意を理解し、猿も狙公の気持ちをよく理解していた。ところが急に貧しくなり猿の餌を減らしたいと思ったが、猿が自分になつかなくなることを心配して、猿をなんとかだまそうと思い「お前たちに与えるとちの実を、朝三つ夕方四つにしたいと思うがどうか」と言った。猿たちはみな立ち上がって怒った。そこですぐ「では朝に四つ夕方三つではどうだ」と言い直すと、猿たちは喜んで納得した。 ちょうさんりし 張二李四 張三李四 出景徳伝灯録 ありふれた平凡な人のたとえ。張家の三男、 李家の四男という意。「張」も「李」も、中 国ではありふれた姓であることから。 ちようじゃくえだふかあつ 雀枝の深きに聚まる 出杜甫ー詩 徳の高い人のところには、自然と人が集まってくること。雀すずなどの小鳥は、枝が豊かに茂ったところにおのずと集まるという意か <425> ら。 補説詩の題名は『暝めい』。この前に「牛羊 径みちの険なるに帰り(牛や羊は道のけわしい 所に出ると行くのをやめて戻ってくる」と ある。 類義林深ければ則 ち鳥棲み、水広けれ ば則ち魚うお游あそぶ。桃李り言いわざれども下 自おのずから蹊けいを成す。水積もりて魚聚あま る。 ちょうじゃくちうじゃくち 鳥鵲の智鳥鵲の智84 ちょうじゃさんだい長者三代 金持ちの家は三代しか続かないということ。 初代が築いた財を、二代目はその苦労を知っ ているので保持するが、三代目になるとぜい たくに慣れて浪費するようになり、財産をな くしてしまう者が多いということ。 類義三代続く分限なし。長者に二代な し。長者に三代なし。長者末代続かず。名家 三代続かず。売り家と唐様からで書く三代目。 三代続けば末代続く。 長者富に飽かず 人の欲には際限がないということ。金持ちは 金がたまるともっと欲しがり、それで満足す ることがなく、きりがないということ。 類義 灰吹きと金持ちは溜たまるほど汚い。 掃き溜めと金持ちは溜まるほど汚い。 ようじゃこ 長者に子無し 世の中は思うようにならないということ。貧 ちょうじーちょうし 乏人には困るほど大勢の子供がいるのに、金 持ちにかぎって、せっかく財産があるのに跡 取りの子がいないものだということ。 ちょうじゃにだい 長者に二代なし 金持ちの子は、ぜいたくに慣れてろくな人間 にならないことが多いので、たいていその代 のときに富を失ってしまうということ。「福 者二代なし」ともいう。 類義長者三代名主の跡は芋畑売り家 と唐様からで書く三代目名家三代続かず長 者末代続かず。 長者の万灯より貧者の一灯 出 阿闍世王受決経 金持ちの儀礼的なたくさんの寄進よりも、貧しい者の真心のこもったわずかな寄進のほうが尊いということ。物の多少よりも誠意のあるなしが大切だという教え。「貧者の一灯」「長者の万灯より貧女によの一灯」「長者の千灯より貧者の一灯」ともいう。 故事阿闍世王が釈迦 を招待したとき、説 法を終えて宮殿から祇園精舎 へ帰る道を 大量の灯火でともした。それを見た老婆が、 自分も灯火をあげようと貧しい中から工面し てやっと一灯だけともした。王の灯火は油が 尽きて消えてしまったが、老婆の一灯は朝に なっても消えず、目蓮 尊者が三度消そうと したが、ますます明るさを増したという。 類義長者の万貫貧者の一文。貧女の一銭。 用例現在の社会組織において、経済的生産 の実力を全く欠き、父兄や、良人 とに寄生し て、それらの男子の財力に縋すがって養われて いる婦人が、その保護者から恵まれた(むし ろ偷ぬすみ取った)金銭の大部分を衣服や装飾 品の物質的欲望の満足に消費し、纔わずかにそ の一部の小額を割さいて虚栄心の満足のため に慈善家ぶって寄附することは、決して称揚 すべき行為でなく、またその小額の喜捨が ーーたとい貧者の一灯という、美くしい讃辞 があるにせよー現代においては、最早 やもは何 ほどの社会的効果をも挙げ得ないものである と考えているのでした。〈与謝野晶子・食糧 騒動について〉 ちょうしゅう ま たせん か 長袖よく舞い多銭よく賈う 出韓非子かんびし 何事も、条件がよいほど有利で成功しやすい ということ。同じ舞を舞うにも、長い袖の舞 い衣で舞ったほうが優美に見え、資金を多く 持つ者は商売がしやすいしもうけも多い。 補説出典には、このあとに「此これ多資の 工を為なし易やすき(元手が多ければ事を成しや すい)を言うなり」とある。 長所は短所 長所も当てにしすぎると、かえってそれに よって失敗することもあるということ。長所 も見方を変えると短所にもなるということ。 類義過ちは好む所にあり。水の達者が水で 死ぬ。得手に鼻突く。川立ちは川で果てる。 河童かっの川流れ。善く游およぐ者は溺おばれ、善 <426> く騎のる者は堕つ。 朝秦暮楚出晁補之北渚亭賦 居所が定まらないことのたとえ。朝には西方 の秦の国にいて、夕方には南方の楚の国へ行 くという意から。また、朝には秦国に頼り、 夜には楚国に頼るという、主義・主張が定ま らない意に使われることもある。 補説出典には「生理を四方に託たくし生活 のために住居をいたる所に移転し)、固もとよ り朝は秦にして暮は楚なり」とある。 彫心鏤骨 非常に苦労すること。特に、詩や文章などを 苦心して作り上げること。心に彫り込み、骨 に刻み込むという意から。「鏤骨」は「ろう こつ」とも読む。 類義苦心慘憺粒粒辛苦粉骨碎身 用例われらはこの後に来る者のためには 彫心鏤骨の苦しみも厭いとい申さぬ覚悟でご ざる。杉田氏も、お志をお捨てなされない で、お始めなされい。菊池寛蘭学事始 ちょうぜつさんずん 長 舌三寸 人前では調子のよいことを言っておきなが ら、陰では舌を出して人をあざ笑うこと。△ 長舌=お世辞。また、おしゃべり。 類義追従する者陰にて誹そしる。 ちょうだ 長蛇を逸す 出頼山陽ー詩らいさんようし 惜しいところで目指す大敵を取り逃がすこと。また、せっかくの機会を惜しくも取り逃 がしてしまうこと。▶長蛇=大きく長い蛇。 転じて、大きな獲物、またとない機会の意。 補説江戸後期の儒学者・史家頼山陽 詩『不識庵 あしき の機山 きざ ん を撃つの図に題す』 にあることば。上杉謙信 うえすぎ けんしん と武田信玄 たけだし んげん の川中島の合戦をうたった詩で「鞭声 べん せい 粛粛 しゅく しゅく 夜河を過わたる、暁に見る千兵の大牙 たい が を 擁するを、遺恨なり十年一剣を磨き、流星光 底長蛇を逸す(謙信は、夜陰に乗じてむち音 もひそめて千曲川 ちくま がわ を渡った。夜明けに謙 信の部隊が目の前まで来ているのを見て、信 玄は驚いた。謙信は信玄めがけて刀を振りお ろしたが、十年の苦心も空しく、信玄を討ち そこなってしまった)の中の一節。 頃義「大魚を免す。 類義 大魚を逸す。 彫虫篆刻 出揚子法言 周 詩文などで細かい技巧にこだわること。また、その技巧による内容のない文章。転じて、取るに足りない技芸や小細工のこと。虫の彫刻をしたり、小さな字を彫ったりする細かい細工の意から。彫虫=小さな虫を彫ること。篆刻=木や石の材料に字を彫ること。多く篆書 てん しょ で彫るのでいう。 故事中国漢かんの揚雄が若いころは技 巧ばかりこらして美辞麗句を並べた賦ふを 作っていたが、やがてそれは小刀細工で虫や 飾り物を彫るような程度の低いものであるこ とに気づき、賦を作るのをやめたという。 提灯に釣り鐘 まったくつり合わないものや比較にならない もののたとえ。縁談などでつり合いのとれな いときなどにいう。提灯と釣り鐘は形は似て いるが大きさも重さもまったく違うことか ら。また、片方が重いことから、片思い片 重いのしゃれ。 類義 灯心に釣り鐘。瓢簟 ひよう に釣り鐘。雪 と墨。月と鼈 すっ。 箸に虹梁 こうり。 駿河 する の富 士と一里塚。雲泥の差。 ちょうちん 提 灯ほどの火が降る ひどく生活が苦しいさま、非常に貧乏である さまのたとえ。∇火が降る∥生計が苦しいこ とのたとえ。 ちょうちんも 提灯持ち 夜道を提灯を持って先頭に立ち、足もとを照 らして行く役目の人。転じて、人の手先と なって使われたり宣伝をしたりする人。 提灯持ち足下暗し 自分の身近な事情に気づかないでいることの たとえ。提灯を持つ者は、まわりを明るく照 らすので、自分の足下は暗いことから。 類義灯台下暗し。 提灯持ち川へはまる 他人を導くつもりが、失敗することのたとえ。 提灯を持つ者は人の先頭に立って足下を照ら すが、自分の足下が暗いために、川に落ちた りすることから。 類義 提灯持ちがぬかるみに入る。 提灯持ち が堀へはまる。 <427> さきた 提灯持ちは先に立て 指導者や案内人は、常に先頭に立って模範を 示すべきである。自ら率先して行動すべきで あるということ。 町人の刀好み ちょうはん 不似合いなことを好んですることのたとえ。 身にそぐわないということ。刀は武士が持つ もので、それを町人が欲しいと思うのは、分 不相応なことであるという意から。 類義町人の侍話。町人の馬乗り。 長範があて飲み 人の懐をあてにして、ただで酒を飲もうとし て失敗することのたとえ。「長範」は平安末 期の伝説的な大泥棒、熊坂くま長範のことで、 美濃国みの赤坂の宿で金売り吉次よの通行を 待ち伏せ、吉次の財宝をあてにして大酒盛り をしたが、結局失敗したということから。 挿尾の勇を奮う 最後の勇気を出し、力を振りしぼってがんば ること。▽掉尾‖尾を振る意。一説に、捕 まった魚が最後の力を出して尾を振ること。 転じて、結末に至り勢いが加わること。「と うび」とも読む。 長輓馬腹に及ばず いくら強大な力があっても、それだけではど 出春秋左氏伝それだけではど ちょうちーちょうれ うにもならないことがあるというたとえ。ま た、大きすぎて役に立たないことのたとえ。 長いむちでも馬の腹までは届かないという意 から。 故事)中国、春秋時代、楚そは強大な勢力を もち宋そうを攻めた。宋は晋しんに急を告げ援助 を求めた。晋侯が救援しようとすると、大夫 たい の伯宗はくが「いけません。古人の言に、い かにむちが長くても馬の腹には届かない、と あります。いま天運は楚についており、これ と争うのは無理です。いくら我が晋が強くて も天には背けません」と言った。そこで晋侯 は出兵を取り止めたという。 類義 鞭 長しと雖いえも馬腹に及ぼさず。独 活うどの大木。 ちょうもん頂門の一針 出鶴林玉露 急所を突いたきびしい訓戒。頭のてっぺんに 針を打つ治療法はよく効くといわれていたこ とから。「一針」は「一鍼」とも書く。▷頂 門‖頭のてっぺん。針‖病気を治療するとき 体に刺す鍼はり。 類義頂門須 すべ から く更に金槌 きん つい を下すべし。頂 門の金椎 きん。 つい 頂針 ちょう。 しん 英語 The sting of a reproach is the truth of it. 非難されて心が痛いのは、その非難 が当たっているからである」 ともいう。▷長夜=夜通し。飲=酒盛り。 出韓非子かんびし ちょうや 長夜の飲いん 夜通しの宴会。夜が明けても戸を締めたまま 灯火をつけて酒宴を続けること。中国、殷いん の紂王ちゅうが催したという宴会。「長夜の宴」 出韓愈ー雑詩 小人物のはびこるたとえ。朝のはえと夕方の 蚊はともにうるさいが、打つことも追い払う こともできないので、はびこるにまかせてし まうということから。 補説出典には「朝蠅は駆かるを須もちいず、 暮蚊は拍うつべからず、蠅蚊よう八区に満つ、 尽ことく与ともに相格あいすべけんや(うるさい朝 のはえと夕方の蚊は追うことも打つこともで きず天下にはびこり満ちている、打ち合って ほろぼし尽くすことはできない)とある。 蝶よ花よ 親が子供、とくに娘をかわいがって大切に育 てるさまをいう。「蝶や花や」ともいう。 類義月よ花よ。 頂礼昂じて尼になる 信仰に凝りすぎて、尼にならなければ気がす まないところまで進むこと。▷頂礼=頭を相 手の足につけて拝む作法、仏や尊者に対する 最高の敬意を表す礼とされる。 補説 「寵愛 ちょう あい 昂じて尼になす」をもじった ことばといわれる。 出漢書かんじょ 朝 令暮改 命令や法律が次々と変わって定まらないこ と。朝に出した命令を夕方には改めるという 意から。「朝改暮変ちょうか」ともいう。 補説出典には賦斂ふれ時ならず、朝あしたに令 <428> ちょうろーちょっと して暮れに改む(税金を取り立てるのに時期 を守らず、朝命令を出して夕方にはそれを改 める)」とある。 類義 天下法度三日法度。 桜脇 Evening words are not like to morning. [絶のうんばは朝のうんばと回」 じさなこ] The law is not the same at morning and night. [法律は朝と晩とでは回じでなこ] ちょうろう 長老になるも沙弥を経る 長老はなるも汚強 物事には段階があって、順序を踏まなければ 目的に達することはできないことのたとえ。 長老といわれる高僧も、沙弥として修行を始 め、長い年月を経ているということ。△長老 ∥深い知徳をそなえた高僧。沙弥∥仏門には いったばかりの修行の未熟な僧。 類義 仏に成るも沙弥を経る。始めから長老 にはなれぬ。始めよりの和尚 おし よう なし。遠きに 行くに必ず邇ちかきよりす。 直躬父を証す 度の過ぎた正直さをいう。直躬という正直者 が、自分の父が羊を盗んだことを正直に申し 出て、証人になったという故事から。↓父は 子の為に隠し、子は父の為に隠す420 類義直躬の信は信無きに若しかず。父羊を 攘ぬすむ子之これを証す愚昧ぐま。 出 論語 ろんご 直 情 径 行 他人の思惑や周囲の事情など考えずに、自分 の思ったままに行動すること。△直情=あり 出礼記らいき のままの感情。 径行=ただちに行う。 補説出典には「礼は情を微そぐ者有り。故 ことを以もって物を興おこす者有り。情を直なおくし て径ただちに行う者有り、戎狄 じゅう てき の道なり(礼 には感情をおさえて表現するものもあり、時 と場合に応じて感情を引き立たせるものもあ る。しかし感情のおもむくままに事を行うも のもあるが、それは野蛮なやり方である) とある。 用例)万葉集は、この歌集の出来た時代に日本の社会全体がその生産方法とともにどんなに原始的であったかということをそのまま反映している。人々は直情径行で、美しいことは美しく、泣きたい時に泣き、愛すれば心も身もその愛にうちこむ日本人の感情が現われている。〈宮本百合子◆女性の歴史〉 ちょく 直なること弦の如きは道辺に 死し、曲れること鉤の如きは 反て侯に封ぜらる 出後漢書 正直者が馬鹿を見て、悪賢い人間がうまいこ とをしている世の中の矛盾をいったもの。ぴ んと張った弓のつるのようにまっすぐな善人 は、世に受け入れられずに道ばたで野たれ死 にし、鉤かぎのように曲がった悪人が出世して 諸侯に取り立てられるということ。 「類義」直きこと矢の如き者は死す。 直は曲を輔けず 行いの正しい人は、悪人のすることに手助け はしない。△直=正しい。行いが正しい。曲 まがる。悪人の意。 出国語ここ 補説出典には、このあとに「明は闇あんを規 たださず、楹木は危たかきに生ぜず、松柏はく は埤ひくきに生ぜず(賢者は愚者を正さない。 大木は険しい崖などには生えないし、立派な 松や柏は低い湿地に生えない」とあり、 賢人は政治の乱れた国には仕えないことをい う。 直木まず伐らる 出荘子そうじ 能力や才能があり、なまじ役に立つ者はか えって災いをこうむるということのたとえ。 まっすぐな木は、柱などが取れ、材木として の使い道が広いので、最初に切り倒されてし まう。 補説出典には、このあとに「甘井先ず 竭っく(よい水の出る井戸は多く汲くまれるの で、まっ先に枯れてしまう」とある。 ちょっと来いに油断すな 「ちょっと来てくれ」と言って呼び出された り、頼まれたりすることには、ろくなことが ない場合が多い。十分警戒して、気安く行か ないほうがよいということ。 類義ちょっと来いに良い事なし。 ちょっと嘗めたが身の詰まり ほんの軽い気持ちでしたことが、一身上の大 きな問題に発展することがあるということの たとえ。∇嘗める∥舌の先で物に触れるほど の軽い気持ちでの行い。 <429> ちょっともうしん猪突猛進 一つのことに向かって、がむしゃらに突き進 むこと。猪いのように一直線に目標に突き進 む意から。∇猪突∥猪のように向う見ずに突 進すること。 塵も積もれば山となる わずかな物でも、積もり積もれば山のように大変な量になるということ。小事だからといっておろそかにしてはいけないという戒め。また、小さな努力も継続すれば大きな成果を得られるということ。「塵積もりて山となる」「土積もりて山となる」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義砂ご長じて厳 いわ お となる。小さな流れも 大河となる。土を積みて山を成す。微塵 みじ 積 もって山となる。 英語Little and often fills the purse.小 金でも頻繁 に入れれば財布を満たす Many drops make a shower.多~の水滴 は雨となる 用例一度は利根川とねへ舟を浮べて釣るのを 見物した。小一時間つきあって、三人合計し て一匹しか釣らなかった筈はずである。それで も釣り終えて帰る時には、各自四五匹ずつは 釣っていたようであった。塵もつもれば山と なる、というのが釣りの心境かも知れない。 〈坂口安吾◆釣り師の心境〉 ちり 塵も箔屋の塵ちり 同じ物でも出どころによって善し悪あしがあ るというたとえ。また同じ物なら、出どころ のよいほうがましだというたとえ。同じ塵で も、箔押し職人の家から出る塵は、金箔や銀 箔のかすが混じっているので価値があるという ことから。 ちょとつーちをなす ちりむすこころざし塵を結んでも志 ほんの少しの贈り物でも、誠意を表すことが できるということのたとえ。「塵を結んでも 印し」ともいう。▽塵を結ぶ=ささやかな贈 り物をすること。 類義志は髪の筋。志は木この葉に包む。 ちわにくおど 血湧き肉躍る 感情が高ぶり、全身に活力がみなぎる。戦い や試合などを前にして、また、命がけの戦い などを見て興奮する。興奮に血が沸き立ち肉 体が躍動する意から。 用例暗い場面に明るい音楽を持ってきた り、のどかな場面に血わき肉おどるような音 楽を持ってこられたんではどうにもしようが ないではないか。〈伊丹万作◆映画と音楽〉 ちわげんかいぬくふうふげんかいぬ 一痴話喧嘩は犬も食わぬ夫婦喧嘩は犬 も食わぬ 575 治を未だ乱れざるに制す 世の中が乱れないうちに、国を平和に治める 方法を定めておくこと。世の乱れのもとにな るようなものをなくしておくこと。 出書経しよきよう 補説出典には、このあとに「邦くにを未だ危 うからざるに保つ(危機に至る以前に国を安 んずるようにする」とある。 地を易うれば皆然り 出孟子 人の意見や行為は、それぞれの立場・地位・ 境遇によって違うが、立場が変われば、みな 同じような行動をするということ。▶地‖立 場・地位・身分。易う‖交換する。 補説出典では、古いにの禹王うは溺れる者の ために尽力し、周の始祖后稷こうしは飢える者 のために尽力したが、互いにその立場を変え れば同じ行動をしただろうとある。 ちつかゆうつかどんつかぐ 智を使い勇を使い貪を使い愚 出三略さんりゃく を使う 大事業を成す者は、あらゆる人を使いこなせ る統率力が必要だということ。才知や勇気の ある者ばかりでなく、欲深い者や愚か者まで、 それぞれの能力や特質に合わせてうまく使い こなさなければならないことを説いたこと ば。 ちなたげんあ 治を為すは多言に在らず 出史記しき 政治を行うのに多弁は必要ないということ。 国を治めるということは、口先であれこれ言 うのではなく、いかに善政を実行するかにあ るということ。 補説 儒者の申公 こう が漢の武帝に述べたこと <430> ちをはらーついしょ ば。出典には、続けて「力行 何如 いか ん を顧 みるのみ(つとめて実行しているかどうか、 たえず考えることである)」とある。 地を掃う 出漢書かんじょ ほうきで地上をはいたように、物がすべてなくなること。また、すっかりさびれること。 補説出典には「秦しん、六国りっを滅ぼし、上古の遺烈地を掃いて尽く(秦が、韓かん・魏ぎ・趙ちょ・楚そ・斉せい・燕えんの六国を滅ぼしてしまい、古代からの人が残した功績があとかたもなくなってしまった」とある。 ちまものかな ち 智を増す者は悲しみを増す 知識が増すほど、世の中の悲しみや苦しみが 見えるようになり、悲しむことが多くなると いうこと。 補説『旧約聖書』伝道の書にあることば The more a man knows, the more he has to suffer.から。 血を以て血を洗う おじの突董らを殺した。わしがまたお前を殺 せば、まるで血をもって血を洗うのと同じく、 ますます汚れてしまう」とある。 肉親同士が流血の争いをすること。また、暴 力に対して暴力、悪事に対して悪事をもって 対抗することのたとえ。血を洗うために血を 用いれば、ますます汚れるばかりであるとい う意から。「血で血を洗う」ともいう。 出旧唐書くとうじょ 補説出典には可汗 かか 休に謂いわしめて日 いわく…汝なんが国已すでに突董とつ等を殺す。吾 われまた汝を殺さば、猶なお血を以て血を洗うが ごとく、汙益ます甚だしきのみ回紇グルの王は 源休に伝えた。…お前の国では、すでに私の (映器) Blood will have blood. (自は自を来 める) 沈魚落雁 出荘子そうじ 絶世の美女の形容。美人の前では、魚は深い 淵に沈んで隠れ、雁は見とれて列を乱して落 ちてしまうという意。美人のうるわしいこと の最大級の形容。 補説出典にある意味は、人間の基準でいう 美人を見ても、魚や鳥は水底に沈んだり高く 飛んで逃げたりするだけだという、価値観の 違いを言ったもの。 ちんじゅ 鎖守の沼にも蛇は棲む ぬま ぐす 悪人は、どこにでもいるものだということ。 人が拝みにくる神聖な場所にも、邪悪なもの がすみついている意から。 出史記しき 陳陳相因る 陳腐で新味のないことのたとえ。豊作が続 き、倉庫に余った古い米が積み残されるという意から。▷陳‖陳穀。古い米のこと。 故事)中国、漢の建国以来七十年余り、国家 は何の災いもなく豊作が続いたので、食料倉 庫には食料があふれて外に野積みにされ、つ いには腐ってしまって食べられなくなったと いう故事による。 沈黙は金 ゆうべん ぎん ちんもく きん 雄弁は銀、沈黙は金 663 ちんしものかならだくすいめいしゅ 珍を識る者は必ず濁水の明珠 ひろ を拾う 出抱朴子 物を見る能力をもった者は、どんな条件でも その力を発揮するということ。珍しい宝を識 別する能力をもつ人は、どんな濁水の中から でも、間違いなく美しい珠たまを拾い出すことができるということから。 補説出典には、このあとに「気を賞する者 は必ず穢藪わいの芳蕙ほうを採る(よい香りをか ぎ分ける者は、どんな雑草の中からでもよい 香りのする草を採集する)とある。 ちんの鴆を飲みて渇を止む 鳩を飲みて渇を止む 出後漢書 一時的には解決しても、将来に大きな災いを 招くたとえ。また、目先の困難を回避するこ とだけを考え、あとからくる大きな困難を考 えないことのたとえ。猛毒の鴆酒 ちん しゅ を飲んで 当座の渇きをいやすという意から。「飲鴆止 渇 いんちん しかつ 」ともいう。△鳩∥毒鳥の一。その羽 を浸した酒は、人を殺す猛毒があるという。 ついしょう よわた 追従も世渡り お世辞を言って人にへつらうのも、世の中に 生きていくための一つの方便であるというこ と。 <431> 朔日毎に餅は食えぬ いつもよいことがあるとは限らないというこ と。ついたちに餅が食べられるのは正月だけ で、毎月のついたちに食べられるわけではな いということから。 搗いた餅より心持ち 類義米の飯より思し召し。 品物より心尽くしがありがたいということ。 搗いた餅をもらうのは嬉しいが、その心尽く しはさらにありがたいということから。「食 べた餅より心持ち」ともいう。 ないという戒め。 対義 思し召しより米の飯。お情けより樽 の酒。 痛処に針錐を下す 人の弱点を鋭く指摘して戒めること。痛いと ころに、針や錐きりを突き立てることから。 つえはしらたの 杖とも柱とも頼む 人柄や能力を信じて、非常に頼みに思うこと。 杖や柱のように支えとなってくれることを期 待する意から。 用例こういっちゃあ可笑おかしいけれども、 ただ僕を頼たよにしている。僕はまた実際杖と も柱とも頼まれてやる気だもんだから、今目 が見えなくなったといっちゃあ、どんなに力 を落すだろう。泉鏡花◆黒百合 杖に泣く はくゆつえ 伯兪杖に泣く 522 つえすが 杖に縋るとも人に縋るな みだりに人の好意や助けをあてこ みだりに人の好意や助けをあてにしてはいけ ついたちーつきとす つえした まわこかわいつえした 杖の下からも回る子が可愛い♩杖の下 に回る犬は打たれぬ 431 杖の下に回る犬は打たれぬ なついてくる者やすがってくる者には、情が わいて、残酷な仕打ちはできないということ。 打とうとして振り上げた杖の下にまといつく 犬は、いとおしくなって打てないという意か ら。「杖の下に回る犬は打てぬ」ともいう。 類義窮鳥懐に入る。袖の下に回る子は打 たれぬ。尾を振る犬は叩たたかれず。 杖を挙げて犬を呼ぶ 敵意を持っていると、いくら親しげに振る 舞っても、相手はなついてこないということ のたとえ。犬を呼ぶのに、杖を振り上げなが ら呼んでも寄ってこないという意から。 類義弾を執りて鳥を招く。 使う者は使われる いつも使っている鋏は、さびずに光っている ことから。 人を使うには、いろいろな気苦労があり、結 局、人に使われているようなものであるということ。「使うは使われる」「人を使うは使わ るる」ともいう。 使っている鍬は光る つかくわひか たえず努力をして活動している者は、生き生 きとして立派に見えるということのたとえ。 類義転石 昔 生ぜず人通りに草生え ず。繁盛の地に草生えず。 出史記しき 冢に剣を掛く 友情を忘れず、信義を重んじることのたとえ。 ▶家‖塚。墓の意。 故事)中国、春秋時代、呉ごの王子季札 使節として北方の徐じょを訪れ、厚遇を受けた。 そのとき、季札は徐の君主が自分の剣を欲し がっているのに気づいたが、これからまだ行 かなければならない国があるので、帰りに献 上しようと思い、そのまま立ち去った。帰途、 徐を訪れると君主はすでに死んでいた。そこ で季札は、剣を墓のそばの木に掛け、自分の 心の約束を果たしたという。 うすちゃづ 搗き白で茶漬け 大は小を兼ねないことのたとえ。茶漬けを食 べるような小さなことに餅などをつく臼のよ うな大きすぎる物は使えない意から。 類義長持枕にならず。杓子は耳掻きに ならず。材大なれば用を為し難し。 対義大は小を兼ねる。 つきすっぽん 形は似ているが、実質は比較にならないほど かけ離れていることのたとえ。多くの場合、 優劣の差についていう。月とすっぽんは、ど ちらも丸いという点では共通しているが、 まったく違ったものであることから。 <432> つきにいーつきよに 類義雲泥の差。鍋蓋 なべ と鼈。提灯 ちょう ちん に釣 り鐘。駿河 する の富士と一里塚。箸に虹梁 こうり。 よう 雪と墨。 用例「どこへお出かけでございます?…… 存じております!戌亥いぬの方。麴町 ございましょう?えええ、あのお嬢さんはあな たにとってお主筋 に当たる方、それにお 生れがお生れですから女芸万般 ねえ、何 ひとつおできにならないということはなし、 そりゃアあたしとは雪と墨、月とすっぽんほ ども違いましょうともさ。せいぜいお大事に なすっておあげなさいましよ〈林不忘◆丹 下左膳〉 つきいっけいぬすもっらいねんま 月に一鶏を攘み以て来年を待 つ 出孟子 よくないことと知りながら、すぐにはやめず、 何かと理由をつけて先に延ばそうとすること のたとえ。悪いと知ったらすぐやめるべきだ という戒めにいう。 補説隣の家の鶏を毎日盗んでいる者をとが めると、「ではこれからは月に一羽ずつ盗ん で、来年になったらすっかりやめます」と答 えたという、出典にあるたとえ話から出たこ とば。 月に叢雲、花に風 よいことには、とかく邪魔が入りやすいこと のたとえ。名月の夜には雲が多く出て月を隠 したり、桜が満開になると風が吹いて花を散 らしたりする意から。 類義 花に嵐。花発ひらいて風雨多し。好事魔 多し。寸善尺魔。 出僧祇律 月の影取る猿 身のほどをわきまえず、欲望に迷って身を滅 ぼすことのたとえ。また、愚かで無謀なこと のたとえ。 故事猿たちが木の下にある井戸に月影がう つっているのを見て、どうかしてそれを取り たいと思った。頭の猿がいい方法があると いって、自分は木の枝につかまり、その尾に 次々と猿が足と尾をからませて井戸の中に降 りていったが、なかなか届かず、たくさんの 猿たちの重みで枝が折れて、みんないっしょ に溺れ死んでしまった。 類義猿猴こうが月を取る。 つきまえともしび月の前の灯火 立派なものと比較されて、ひどく見劣りがす ることのたとえ。また、不必要なことのたと えにもいう。明るい月の光のもとでは、灯火 もあまり役に立たないことから。「月の前の 星」「月夜の蛍」ともいう。 英語 The moon is not seen where the sun shines. 太陽が輝いている所では月は 見えない つきおいさくらち 月は惜しまれて入り桜は散る をめでたしとす 人は惜しまれるうちに、潔く身を引くほうが よいということ。月は惜しまれながら沈んで 行き、桜は満開になったと思うとぱっと散ってしまうところがすばらしいという意から。 類義散る時には散るが花。 月日変われば気も変わる 人の心は月日とともに自然に変わっていくもので、多くのことは時間が解決してくれるということ。 つきひ せきもり おくつきひせきもり 月日に関守なし送る月日に関守なし 112 つきみ 月満つれば則ち虧く 出易経 物事は盛りに達すると、必ず衰え始めるということ。月は満月になると、やがて欠け始め、細くなっていくことから。「盈みつれば虧く」ともいう。△虧く‖欠くに同じ。 補説出典には一日ひ中 すれば則ち昃 き (太陽が中天に昇ればやがてかたむき)、月盈 みつれば則ち食かく」とある。 つきゆきはないちどなが月雪花は一度に眺められず よいことを、全部一度に手に入れることはできないということのたとえ。秋の名月、冬の雪、春の花は、それぞれ季節が違うので、一度に眺めることはできない意から。 月夜に釜を抜かれる 不注意きわまりないことのたとえ。明るい月 夜だから盗まれる心配はないと思っていた ら、釜を盗まれてしまったという意から。い ろはがるた(江戸・京都)の一。∇抜かれる∥ <433> 盗まれる意。 月夜に米の飯 つきよ めし つきよ こめ めし 67 月夜に背中炙る 方法が間違っていること。また、まわりくど くて効果のないことのたとえ。月の光で背中 を温めようと思ってもできないことから。 類義灯明で尻を焙る。遠火で手を炙る。 つきよちょうちん 月夜に提灯 月夜は明るいので提灯はいらないことから。 「月夜に提灯夏火鉢」と続けてもいう。 月夜に提灯も外聞 不必要なことであっても、世間への見栄みえや 体裁のためにはしなくてはならない場合があ るということ。明るい月夜に提灯をともして 歩くようなむだなことも、外聞のためにはや むをえないということから。 う神あり。 つきよ月夜の蟹かに 頭のからっぽな人、中身のない人のたとえ。 月夜にとれる蟹は身が少ないとされていることから。「月夜の蟹は身が薄い」ともいう。 つきよじゅうごにちやみよじゅうごにち 月夜も十五日、闇夜も十五日 世の中には、よいときもあれば悪いときもあ るというたとえ。悪いからといって落ち込んだりすることはないという励まし。 類義月夜 類義 月夜半分闇夜半分。捨てる神あれば拾 つきよにーつちにき つき さ ゆひ みと りようこんきよう 月を指せば指を認む 出楞厳経 道理を説明しても、文字や言葉にこだわって その本質を理解しようとしないということ。 仏教語。月を指でさすと、教えられた人は月 を見ないで指ばかり見るという意から。 つぐみよろこ 暢喜べば螻蛄腹立てる螻蛄腹立て れば鶫喜ぶ223 付け焼き刃はなまり易い その場しのぎで身につけた知識や芸、態度な どは、すぐにぼろが出てしまうということ。 ▶付け焼き刃=刀の刃の部分だけに鋼の焼き 刃をつけた粗悪なもの。すぐ切れ味が悪くな る。転じて、にわか仕込みの知識などをいう。 類義付け焼き刃は剥はげ易い。付け焼き刃 は早くなまる。鍍金めっは剥げる。 辻褄を合わせる 話の前後をもっともらしく合わせて、筋道が 通るようにすること。∇辻棲∥着物の合わせ 目。転じて、物事の道理。「辻」は道が合う所。 また、裁縫で縫い目が十文字に合う所の意。 「褄」は着物の裾の左右が合う所。 用例この色の青いやせ男が、その人の情と いうものが全く欠けているほどの、世にもま れな悪人であろうか。どうもそうは思われな い。ひょっと気でも狂っているのではあるま いか。いやいや。それにしてはなにひとつつ じつまの合わぬ言葉や挙動がない。〈森鷗 外◆高瀬舟 つたなおこな たく い まさ 拙く行うは巧みに言うに勝 る やり方は下手でも、とにかく実行するほうが、 口先だけうまいことを言って実際は何もしな いよりずっとすぐれているということ。 類義巧詐は拙誠に如しかず。 土一升に金一升 土地の値段がきわめて高いことのたとえ。わ ずか一升の土の値段が、金一升分に相当する という意から。「金一升に土一升」ともいう。 類義寸土寸金 すんどす。 んきん 土積もりて山となる 塵も積もれば山 となる429 槌で大地を叩く だいち たた だいち つち つち 大地に槌 391 槌で庭掃く 急な来客で、慌てふためきながら手厚くもて なすことのたとえ。持っていた槌で庭を掃こ うとするほど、大慌てで準備をするというこ とから。「オ槌づちで庭掃く」「横槌づちで庭掃く」 「槌で庭」ともいう。 類義 杓子 しゃ くし で芋を盛る。連木で門 かど 掃く。 つち きゅう 土に灸 いくらやっても効き目がなく、むだなことの たとえ。土に灸をすえても、まったく効き目 <434> がないことから。 類義石に灸。 擂鉢 すり ばち へ灸すえる。 糠 ぬか に釘 くぎ。 つちふとんき 土に布団は着せられぬ はかふとんき 基に蒲団は着 せられず 518 つちあなほいことも 土の穴を掘りて言う事だに漏 る どんなに用心しても、秘密は外に漏れるということ。土に穴を掘り、その中に向かって言ったことでさえ漏れてしまうという意から。 つちぼとけみずあそ土仏の水遊び 無謀なことをして、自分から災難を招くこと のたとえ。土で作った仏が水遊びをしたら、 崩れてしまうことから。 類義 土人形の水遊び。 雪仏 ゆきぼ とけ の水遊び。 土仏の水なぶり。 突っ掛け者の人もたれ 自分では何もせず人をあてにしてばかりいる 者。▷突っ掛け者∥人任せで事をいいかげん にする者。人もたれ∥人をあてにして寄りか かること。 鼓を鳴らして攻む つづみな 出 論語 ろんご 二鼓を鳴らして攻 人の罪を大きく言い立てて攻撃すること。 故事春秋時代、魯の家老季氏は税をごま かし、国君である周公よりも富裕であった。 それなのに孔子の門人の冉求 ぜんきゅう 季氏の執 事は、季氏のために人民から重く税金を取 り立てて、季氏の富を増やすことをはかった。 孔子は言った。「吾が徒に非あらざるあり。小 子、鼓を鳴らしてこれを攻めて可なり(彼は われわれの同志ではない。若い弟子たちよ、 鼓を鳴らして「公然と声を大にして」彼を非 難してよろしい」と。 夙に興き夜に寝ぬ 朝から晩まで仕事に励むこと。朝早く起き、 夜半寝るという意から。∇夙に=朝早く。早 朝に。夜=夜半。 出詩経しきよう つなうまむちう繋ぎ馬に鞭を打つ してもむだであること。させようとしても無 理なことのたとえ。つないだ馬にむちをあて ても、走れるはずがないことから。 つなわた よわた 綱渡りより世渡り 網渡りの芸は難しいが、世の中を上手に渡っ ていくのは、さらに難しいということ。 は難しいことのたとえ。武器になる角があっ て、さらに牙もある獣はないことから。△上 歯∥牙の意。「うわば」とも読む。 常が大事だいじ 人は、あらぬ疑いをかけられたりしないよう に、ふだんの行いを正しくしておかなければ ならないということ。 角ある者には上歯なし 補説出典では、このあとに「果実繁しぱき者 は木必ず庳ひくし(果実のたわわになった木は 必ず低い)」とある。 類義 角あるものは牙なく牙あるものは角な し。 すぐれたものを一人でいくつも兼ね備えるの 出呂氏春秋 角突き合わせる 仲が悪くて、いつも対立したりけんかしたり していること。互いの角を突き出してぶつか り合う意から。 類義犬猿の仲。反りが合わない。 つの お 角を折る 強情や意地を捨てて、人の言うことに素直に 従うこと。人に突きかかる感情を角にたと え、それを折るということから。 つの だ 角を出す 女性がやきもちをやくことのたとえ。「角を 生やす」ともいう。 補説能楽で、女性が嫉妬のあまり角のある 鬼になることから出たことば。 角を矯めて牛を殺す 欠点を無理に直そうとして、かえって全体を だめにしてしまうことのたとえ。曲がってい る角をまっすぐにしようとして、牛を殺して しまうという意から。「角を直して牛を殺す」 ともいう。△矯める‖矯正する。曲がってい <435> るものをまっすぐにする意。 類義枝を矯めて花を散らす。葉をかいて根 を断つ。仏を直すとて鼻を欠く。枉まがれるを 矯めて直なおきに過ぐ。 つばきやは 唾で矢を矧ぐ いいかげんな仕事をすること。また、壊れや すく、もろいことのたとえ。矢を作るのに、 にかわの代わりにつばでくっつけてごまかし ておく意から。 燕の幕上に巣くうがごとし 出春秋左氏伝 非常に不安定で危険なようす。燕が幕の上に 巣を作っているように、いつ落ちてくるかわ からない危険な状態である意から。「燕、幕 に巣くう」ともいう。 つぼ 壺の中では火は燃えぬ ふさわしくない環境では何もできないこと。 壺の中では、いくら燃やそうとしても酸素不 足ですぐ火は消えてしまうことから。 つまこしかふえよあきしかふえよ 妻恋う鹿は笛に寄る♡秋の鹿は笛に寄 る7 おとこあおなみあおなおとこ つましい男に青菜見せな青菜は男に み 見せな4 つまずいしえんはし 一躓く石も縁の端 どんなに小さなこと、つまらない関係でも つばきでーつむじを 大切にしなければならないということ。道を 歩いていてつまずいた小石でも、何かの因縁 で自分とつながっているという意から。 類義 袖振り合うも多生 たし よう の縁。 一樹の蔭かげ 一河 いち が の流れも他生の縁。 つまいむやまうご 妻の言うに向こう山も動く 夫や家庭にとっては、妻の意見が大きな力を もっているということ。動くはずのない向か いにある山でさえも、妻が言えば動いてしま うという意から。 はいしょつきみ 罪無くして配所の月を見る 罪を得て辺地に流されるのではなく、罪のな い身でそのような静かな所で月を眺めるの は、風流の趣があってよいだろうということ。 「もののあわれ」の一つの理想を表したこと ば。マ配所=流罪によって流された場所。転 じて、片田舎。辺地。 注意無実の罪で辺地に流され、そこで悲嘆 にくれているの意でよく用いられるが、誤り。 つみうたがこかる 罪の疑わしきは惟れ軽くし、 こううたがこおも 功の疑わしきは惟れ重くす 出書経しょきよう 罪はなるべく軽減し、賞は手厚くするという こと。罪状の疑わしい者は罰を軽くし、功績 を定めにくい者は賞を厚くする意から。 補説出典には、このあとに「其その不辜ふこ を殺すよりは、寧むしろ不経に失せんとす(罪 のない人を死刑にするよりは、むしろ法に反 しても許すほうをとられる」とある。皋陶 ようが舜帝 しゅん の政治をたたえた語。 類義刑の疑わしきは罰せず。賞の疑わしき は与よに従い、罰の疑わしきは去きょに従う。 罪を憎んで人を憎まず 出孔叢子くぞうし 犯した罪は憎むべきであるが、罪を犯した人 そのものを憎んではいけないという教え。 「其その罪を憎んで其の人を憎まず」ともいう。 「憎む」は「悪にくむ」とも書く。 補説孔子のことば「古 いに しえ の訟 しょ を聴 きく 者 は、其の意を悪めども其の人を悪まず昔の 訴訟を裁いた人は、罪を犯した人の心情は憎 んだが、犯人その人を憎むことはしなかっ た)から。 用例保険会社の方は兎とに角聖書会社は博 愛主義の基督教 キリスト きよう の宝典たる聖書の販売元 だから、罪を憎んで人を憎まずと、損害賠償 の私訴などを起して、今更 いま さら 支倉 はせ くら を苦しめ なくても好よさそうなものだが、矢張やはりそ うは行かぬと見えて、忽 たち ま ち訴訟を起した。 〈甲賀三郎◆支倉事件〉 旋毛を曲げる 気分を害して意固地になり、わざと人に逆ら うこと。▷旋毛=頭頂部の毛が渦のように巻 いているところ。 類義 臍へそを曲げる。 用例それは或あるは僕の中にある都会人の仕 <436> つめでひーつりして 業だったかも知れない。同時に又ルノアルを 軽蔑する当時の愛好者の傾向につむじを曲げ たこともない訣わけではなかった。〈芥川龍之 介・文芸的な、余りに文芸的な 爪で拾って簍でこぼす 少しずつ長い間苦労してためたものを、一度 に使い果たしてしまうこと。また、収入が少 ないのに支出が非常に多いことのたとえ。爪 の先で一つ一つ拾い上げるようにして集め蓄 えたものを、箕でふるって全部こぼしてしま うということから。「爪で拾って箕であける」 ともいう。∇箕=穀物をふるってごみや殻から を除く、竹で編んだ農具。 類義 箒 ほう で集めて箕で捨てる。升で量はかつ て箕でこぼす。耳掻みみかきで集めて熊手で掻か き出す。 「英語」Narrow gathered, widely spent. ちけち貯ためて湯水のように使い尽くす つめつめうりつめうりつめつめ 爪に爪なく瓜に爪あり瓜に爪あり爪 に爪なし95 つめ 爪に火を灯す 非常にけちなことのたとえ。また、貧しくて 倹約したつましい生活をすることのたとえ。 ろうそくの代わりに自分の爪の先に火をつけ て明かりにするということから。 頬義 爪から火が出る。 類義 爪から火が出る。 つめ爪の垢ほど と。爪の先にたまった垢ほどにわずかである 意から。 極めて少量であること。取るに足りないこ 類義雀 すず め の涙。蚤のみの小便、蚊の涙 用例勝治は父に似ず、からだも大きく、容 貌も鈍重な感じで、そうしてやたらに怒りっ ぽく、芸術家の天分とでもいうようなものは、 それこそ爪の垢ほども無く、幼い頃から、ひ どく犬が好きで、中学校の頃には、闘犬を二 匹も養っていた事があった。〈太宰治◆花火〉 つめあかせんの 爪の垢 爪の垢を煎じて飲む すぐれた人にあやかろうとすることのたと え。すぐれた人のものなら、爪の垢であって も、もらって煎じて飲むという意から。 用例「見るも、けがれだっ。おのれのような柔弱にゅうじゃく武士に、赤穂あこの衆の爪でも煎じてのませたら、少しは、人間らしい魂にもなろうか。ちっとは、世間で、あの衆の噂うわもその耳に聞くであろうに、呆あきれかえった大馬鹿。いやいや、もう何もいうまい、即刻熊本へ帰れ」〈吉川英治・べんがら炬燵〉 つらかわあつ 面の皮が厚い 恥知らずで、ずうずうしいこと。顔の皮膚が 享くて恥を惑じないということから。 頬義厚顏無恥。面の皮の千枚張り。鉄面 皮。 用例先祖代々が命より大事にして固守し 来った山林田畑を自分等らの代になって売 払って、そして「旧家」を誇るというは少々 面の皮が厚過ぎはしないだろうか。〈若山牧 水◆古い村〉 厚かましくて恥知らずな人のたとえ。顔の皮 膚が千枚も厚く張ってあるように、ずうずう しいということ。 類義鉄面皮。厚顏無恥。面の皮が厚い。 用例まかり間違うと、鼻持ちならぬキザな 虚栄の詠歎 えい たん に似るおそれもあり、または、 呆 あき れるばかりに図々しい面の皮千枚張りの 詭弁 きべ ん (中略)または、ほら吹き山師の救国政 治談にさえ堕する危険無しとしない。〈太宰 治◆父 面の皮を剥ぐ 面皮を剥ぐ 641 つあ 釣り合わぬは不縁の基 家柄や財産、生活環境などが違いすぎる男女 の結婚は、離別することが多いということ。 「不釣り合いは不縁の基」ともいう。 英語)Marry your equal. [釣り合いのとれる者と結婚せよ] Perfect friendship can- not be without equality. [完全な友情は同等の間柄でないとあり得ない] つお さかなおお に さかな 釣り落とした魚は大きい逃がした魚 おお は大きい492 つがねはちさうしつのはちさ 釣り鐘を蜂が刺す ↓牛の角を蜂が刺す 84 釣りして綱せず 出論語 むやみに殺生しないことのたとえ。魚を一匹 <437> ずつ釣っても、はえなわで一度に全部の魚を 根こそぎとってしまうようなことはしない意 から。孔子の例をひいて、仁者のとるべき態 度をいったもの。「釣りすれども綱せず」「釣 りして網せず」ともいう。△綱す=流れを横 断して縄をはり、それにいくつも釣り糸をつ けて魚をとること。日本のはえなわに似てい る。 つるぎはわた 剣の刃を渡る 補説出典には、このあとに「弐よくして宿しゅ を射ず(矢に糸をつけ、当たるとからみつく ようにした射ぐるみで鳥はとったが、ねぐら の鳥を射ることはしなかった」とある。 ぶことができない意から。 危険この上ないことをするためとえ。「剣の上 を渡る」ともいう。 類義危ない橋を渡る。 鶴九皐に鳴き声天に聞こゆ すぐれた人物は、どんな所に身を隠して住ん でいても、必ず名声が世の中に知れわたると いうたとえ。鶴は、人里離れた奥深い沢で鳴 いても、その声は天にまで聞こえるというこ とから。「鶴九皐に鳴けば声天に聞こゆ」と もいう。△九皐∥奥深い沢。 出詩経しきよう 鶴に騎りて揚州に上る つるなゆみはぬどり 弦無き弓に羽抜け鳥 どうしようもないこと。また、まったく役に 立たないことのたとえ。弦を張ってない弓で は射ることもできないし、羽の抜けた鳥は飛 つるぎのーつるはせ 出殷芸小説 多くの欲望・快楽を独占しようとすることの たとえ。また、実行できない妄想のたとえ。 「揚州の鶴」ともいう。∇揚州=中国、揚子 江(長江)の北岸にある都市。唐代には天下第 一の都市と称せられた。 故事)昔、人が集まってそれぞれ自分の望んでいるところを語り合った。第一の男は、もっとも繁栄している揚州で、刺史し(長官)になりたいと言い、二番目の男は大金持ちになりたいと言い、三番目の男は鶴に乗って天に上りたいと言った。これを聞いた四番目の男は、自分は腰に十万貫の銭を結びつけて、鶴に乗って空を飛び、揚州に行きたい(つまり、みんなの欲望全部を得たい)と言った。 つるあわ蟻の塔 鶴がくちばしの先で粟の実を一粒ずついば み、蟻が砂を一粒ずつ運んで蟻塚を築くよう に、少しずつ積み重ね、たくわえること。 鶴の脛も切るべからず 出荘子 物にはそれぞれ特有の性質があり、無理に変 えてはいけないというたとえ。鶴の脛は他の 鳥に比べて長いが、必要だからであって、切 るわけにはいかないという意から。「脛」は 「すね」とも読む。 補説出典の「鳧ふ野鴨のがの脛は短しと雖 いえ も、 之これ を続っがば則 わ ち憂え、鶴の脛は 長しと雖も、 之を断たば則ち悲しまん(鴨の 足は短いが、 つぎ足して長くしようとすれば いやがるだろうし、鶴の足が長いからといっ て切れば嘆き悲しむだろう)から出たこと ば。 つる鶴の一声ひとこえ まとまらない議論をおさめ、大勢を従わせる、 権威や権力のある者の一言。鶴は周囲を圧す るように響く高い声で鳴くことから。 類義雀 すず の千声鶴の一声。禽鳥 きんち、 百 もも を数うると雖いえも一鶴 いっ かく に如しかず。百星 ひゃく せい の明は一月 いち げつ の光に如かず。 英語 The king's word is more than another man's oath. [王のことばには他の 人の誓言以上の重みがある] 用例果して味方の選手たちは萎縮した。敵 の選手は墨につきつつ部署から何やら英語で しきりに野次った。バッター・ウィークと 言ったようなことを。すると先生が一喝し た。「選手は黙っていろ」鶴の一声と言った ように選手は沈黙した。〈倉田百三◆光り合 ういのち 長命や縁起を祝うときに用いることば。鶴と 鶴は枯れ木に巣をくわず 心ある者は、自分にふさわしくない、つま ぬところには身を寄せないということ。 こまり、まっこ棲すまず。 類義大魚は小池に棲すまず つるせんねんかめまんねん 鶴は千年、亀は万年 <438> つるべなーていしゅ 亀はともに寿命が長く、めでたいものとされ ているところから。 用例しかし、お祝言の時などの島台の、れ いの蓬萊山ほうら、尉姥じょうの身辺に鶴と一緒に 侍はべって、鶴は千年、亀は万年とか言われて 目出度めでがられているのは、どうやらこの石 亀のようで、すっぽん、たいまいなどのいる 島台はあまり見かけられない。〈太宰治◆お 伽草紙〉 つるべなわいげた釣瓶縄井桁を断つ 小さなことでも根気よく続ければ必ず成功するという教え。井戸のつるべを長い年月使っていれば、井桁が縄でこすられてすり減ってしまうということから。▶井桁‖井戸のふちを木で井の形に組んだもの。 類義雨垂れ石を穿うがつ。 連れがあれば三里回らん 旅は同行者がいたほうが楽しいものだという こと。道連れがあれば三里もの回り道も苦に ならないということから。「連れがな三里回 らん」ともいう。 ていがく棣鄂の情じょう 兄弟の美しい情愛のこと。兄弟愛。にわざくらの花のがくが、花のもとを支えて美しく咲 出詩経しきよう くのを、兄弟が仲よくかたまっているようす にたとえたもの。マ様=にわざくら。鄂=花 のがく。 補説出典には「常棣 じょう てい の華はな、 鄂として 韓韓いたらざらんや、凡およそ今の人、兄弟に 如しくは莫なし(にわざくらの花はしっかり くっつきあっていて、輝くように美しい。兄 弟ほど頼りになるものはない」とあり、兄 弟の情愛のむつまじいことを花にたとえて いったもの。 鄭家の奴は詩をうたう 出事文類聚 いつも見聞きしていると、知らず知らずのう ちにものを覚えるものだというたとえ。学者 鄭玄 じよう げん の家の召使は、習わないのに『詩経』 の句を覚えて、ふだんの会話の中に使ってい たということから。∇鄭∥中国、後漢の学者 鄭玄。奴∥召使。詩∥『詩経』。 類義門前の小僧、習わぬ経を読む。勧学院 かんが くいん の雀 すず め は蒙求 もうぎ ゅう を囀 ざえ ず る。 出論語ろんご 庭訓ていきん 家庭の教訓。家庭の教育。孔子が、庭を通り 過ぎようとした長男を呼び止めて、詩や礼を 学ぶべきことを教えたという故事から。 読むのをやめてしまう意から。∇庭訓『庭訓往来』。室町時代にできた一年各月の書簡文例集。寺子屋などの教材に使われた。四書『大学』・『中庸』・『論語』・『孟子』の総称。 学問にすぐあきてしまい、長続きしないこと のたとえ。『庭訓往来 おうらい』は三月ぐらいの ところで、四書は最初の『大学』であきて、 庭訓三月四書大学 亭主関白 夫が妻に対して威張って、支配者のように振 る舞うこと。▽関白=天皇を補佐する最高位 の官職。転じて、強い者、威張ってわがまま な者。 対義 媽天下 かかあ。 でんか 用例医師 せん は亭主関白といった足取、深更 に及んでも、夜中でも、その段は一切頓着 とんじ なく、どしどしと廊下を踏んで、(略)泉 鏡花・沼夫人 亭主元気で留守がいい 夫は健康に働いてくれればいいしかも家を 留守にしているほうが気楽でいいというこ と。妻の願望を表した言葉。「亭主は元気で 留守がいい」ともいう。 補説一九八六年に医療用防虫剤のテレビコ マーシャルで使われた言葉。夫の留守に元気 はつらつな妻がこの言葉を叫んで話題とな り、その年の流行語となった。 亭主三杯客一杯 客をもてなすとき、遠慮させないために主人 が客よりも多く飲むこと。また、客をだしに して、いつもより多く飲む意味でも使う。 類義 亭主八杯客三杯。 <439> 亭主の好きな赤烏帽子 亭主の好きな赤烏帽 主人の好むものなら、どんなに奇妙でも、家 族はそれに調子を合わせなければならないと いうたとえ。烏帽子はふつう黒ぬりのものだ が、亭主が赤い烏帽子が好きだと言えば、そ れに従わなければならないという意から。 「亭主の好きな赤鰯」「旦那の好きな赤烏 帽子」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 ∇烏帽子=昔、成人の男子が用いたかぶりも の。 亭主の好きを客へ出す 自分の好きなものは他人も好きだろうと思い がちなことのたとえ。客をもてなすとき、亭 主の好きな物は客も好きだろうと思って出す 意から。 類義我が好きを人に振る舞う ていじょりようふまみ 貞女は両夫に見えず 出史記 貞節な女性は夫と死別や離別しても、再婚は しないということ。「貞女は二夫に見えず」 「貞女は二夫を更 あら た めず」「貞女は二夫を並べ ず」ともいう。 補説出典の「忠臣は二君に事っかえず、貞女 は二夫を更かえず(忠臣は二人の君主には仕え ない。貞女は夫の死後に再婚して他の男を夫 とすることはしない)から出たことば。 用例 道德の方からは、「貞女両夫に見えず」 なぞと睨にらみ付けられているし、習慣の方か らは世間の口端と言う奴やが女にあれが あってはねえ」と冷たい眼で見詰められて おりますので、女性の良心はこの点では、直 すぐに行き詰づまらせられるのであります。 〈夢野久作◆鼻の表現〉 ていしゅーていはも でいすい泥酔 出李白ー詩し 正体がなくなるほど、酒に酔うこと。△泥∥ 南海にすむという伝説上の骨のない虫。水が あるときは活動するが、水がなくなると酔っ て泥のかたまりのようになるという。 補説詩の題名は『襄陽歌 じょう。 ようか。 「傍人 じん 借 問 しゃ もん す、何事をか笑う、と。笑殺す山翁醉い て泥に似たるを(そばにいる人が、何を笑っ ているのかと尋ねてみたところ、山翁老人が 酒に酔って、泥のように正体がないのがおか しくて笑っているのである」とある。 鼎足して居る 出史記しき かなえの足のように、三つの勢力がそれぞれ 均衡を保って対立することのたとえ。△鼎= かなえ。昔、飲食物を煮るのに用いた金属製 の器。多くは三脚。 補説出典には両ながら利ありて俱ともに 之これを存し、天下を三分して、鼎足して居る に若しくは莫なし両方を利用し、どちらも存 立させ、天下を三つに分けて鼎の足のごとく 三者併立されるのがよいでしょう」とある。 斉王となった韓信かんに、斉・漢・楚その三国 が均衡を保って併立することの利を説いた蒯 通かいとうのことば。 泥中の蓮 出維摩経 周囲の悪い環境に染まらずに、心の清らかさ を保っている人のたとえ。汚い泥沼の中で も、蓮は清らかな花を咲かせることから。「泥 の中の蓮」ともいう。また、「蓮」は「はす」 とも読む。 類義涅ですれども緇くろまず。蓮華れんの水に 在るが如ごとし。濁りに染まぬ蓮。蓮は濁りに 染まず。 対義朱に交われば赤くなる。 用例しかしながら現代の作家を別として、 要するにガラス絵なるものは署名のないとこ ろの職人芸術であり農民美術であったにすぎ ない。だから非常に偶然にも宝玉を発見し、 またほとんど多くが俗悪なガラス玉にすぎな いが、しかしその宝玉もまた、本物の玉でな くガラス玉であるところの卑近なる宝玉であ り、泥中の蓮でもある。〈小出楢重・ガラス 絵雑考〉 丁寧も時による 丁寧にするのも、時と場合によるということ。 急ぐときには念を入れすぎず、肝心な点だけ おさえ、間に合わせることが大事であるということ。 でいもつおくじ 筵は以て屋を持すべからず 出淮南子えなんじ 適材を適所に用いなければならないというた とえ。小さなかんざしで屋根を支えることは できないが、かんざしにはかんざしの用途が あるという意から。「筵」は「筐」ともいう。 ∇筵=小さなかんざし。 <440> ていほうーてきにし 補説出典にはこの前に「柱は以て歯を摘す べからず(柱で歯をほじくることはできな い)」とある。 でいほうれんれん締袍恋恋 出史記しき 空くに掛けた語。 厚い友情の変わらないことのたとえ。▽綿袍 ‖厚い絹の綿入れ。恋恋‖情の厚いこと。 故事)中国の戦国時代、魏の范雎は、須 賈このためにあらぬ疑いをかけられ、秦しんに 逃げて後に宰相になった。須賈が魏の使者と して秦に来たとき、范雎は最初身分を隠し、 わざとぼろの着物を着て会った。須賈は「こ んなに貧乏しているのか」と同情して厚い絹 の綿入れを与えた。翌日宮廷で宰相と会って みると、范雎だったので、須賈は大いに驚き、 昔のことを謝罪した。范雎は、昔なじみのみ すぼらしい姿に同情し、綿入れを恵んでくれ た心に免じて許してやったという。 紙羊藩に触る 類義叩たたき止やめば食い止む。 勇気にまかせてむやみに突進すると、ぬきさ しならぬ羽目に陥ることのたとえ。雄の羊が 生け垣に頭を突っ込み、角をひっかける意か ら。∇羝羊=雄の羊。藩=竹や柴などの目の 粗い生け垣。 出易経えきょう 手が空けば口が開く その日暮らしのたとえ。仕事がなくなると、 とたんに暮らしが成り立たなくなる意。ま た、仕事が暇になると、おしゃべりが多くな る意にも用いる。▶口が開く∥ひもじくな る、おしゃべりをするの両方の意で、「手が てが 手飼いの犬に手を食わる 飼い犬に手 を噛まれる 129 てか 手書きあれども文書きなし 出 俚言集覽・諺苑 文字を上手に書く人は多いが、文章のうまい 人は少ないということ。▷手書き‖字の上手 な人。文字のきれいな人。文書き‖すぐれた 文章を書く人。 てかげん手加減の独り舌打ち 自画自賛のこと。自分で料理し、味加減した 料理を、おいしいと舌鼓づみを打って食べる こと。他人の好みなど気にせず、自分だけお いしいと思っていること。 類義手前味噌 てまえ○ みそ てきこくがいかんな もの くにつね ほろ 敵国外患無き者は国恒に亡ぶ 出孟子もうし 国家や人民が安楽に慣れてしまうことを戒め ることば。対抗する国や、外国から攻められ る心配のない国は、緊張を欠き、ついには滅 亡するものであるということ。 敵国破れて謀臣滅ぶ 敵国破れて謀日 目的が達せられると、それまで大切にされて いたものが不要となって捨てられるたとえ。 出史記しき 敵国が滅びると、それまで戦略をめぐらして きた忠臣が不要になって殺されるということ から。 故事)中国の漢の時代、建国の功労者であった韓信 かんがもと項羽の将軍であった鍾離昧 りまつをかくまったとして謀反の密告をするものがあった。韓信は鍾の首をもって高祖に拝謁したが、その場で捕らえられてしまった。そのとき韓信は「やはりことわざのとおりだ。狡兎死して走狗く烹られ、高鳥尽きて良弓蔵おさめられ、敵国破れて謀臣滅ぶすばしこい兎がとり尽くされてしまうと、必要なくなった良い猟犬は煮て食われ、空飛ぶ鳥がとり尽くされると立派な弓はしまい込まれる。敵国が破滅したあと謀臣は殺される。天下が平定された今、私が殺されるのも当然だ」と言ったという。 類義飛鳥 ひち 尽きて良弓蔵され、狡兎死して 走狗烹らる。 てきじいっしんきゅうしんてまはぶとき 適時の一針は九針の手間を省く時を えいっしんきゅうしんてまはぶ 得た一針は九針の手間を省く464 てき 敵に 糧 かて 敵に食糧を与えてしまう意で、相手に都合の よいように計って自分を不利にすることのた とえ。 類義 盜人に糧を齎 もた す。 寇 あだ に兵を藉かし、 盗に糧を齎す。 てきしお敵に塩を送る 争っている相手が、争っているのとは別の分 <441> 野で困っているとき、援助を与えることのた とえ。 故事)戦国時代、甲斐かい(山梨県)の武田信玄 たけだし んげん が遠江 とおと うみ (静岡県)の今川と相模 さが み (神奈 川県)の北条 ほうじ よう 両氏から経済封鎖をされて 困っていたとき、戦場では長年敵対する仲で あった越後 えち ご (新潟県)の上杉謙信 うえすぎ けんしん が、信 玄に塩を送って助けたという話に基づく。 用例)われわれの東洋には、戦うときでも敵 に塩をやって決戦した、礼儀や仁徳をモット オとした英雄の日月があったのであります。 (横光利一◆旅愁) てきみかたみかたてき 敵に味方あり、味方に敵あり 対立する立場の人の中にも、自分をよく理解 したり、同情したりしてくれる者がいるかも しれない反面、味方だと思っている者たちの 中にも、すきをうかがっている油断のできな い者がいるかもしれないということ。 英語 It is better to have an open foe than a dissembling friend.偽りの友を持 つよりも、あからさまな敵を持つほうがよい てきかべときうしなべ 敵は仮す可からず時は失う可 敵に情けをかけたりしてはいけない。また、 攻撃の時機を的確につかむべきであるという こと。∇仮す∥ゆるめる。見逃す意。 てきまんのうじ 出史記しき 本当の目的は別のところにあるということ。 敵は本能寺にあり てきにみーてこでも 本当の目的を隠し、人々の目をあざむくこと のたとえ。 補説安土桃山時代、明智光秀 あけちみが、備中 つひで ゆっち (岡山県)の毛利勢を攻めると称して出陣 した行軍の途中で、急に方向を変え「わが敵 は本能寺にあり」と言って、京都の本能寺に いた主君、織田信長 おだの ぶなが を急襲したことから 出たことば。このようなやり方を「敵本主義」 という。「敵本」は「敵は本能寺にあり」の略。 敵もさるもの引っ掻くもの 相手もさすがによくやるものだと、実力を認 めることば。競り合っている相手や見くびっ ていた相手の実力を認めるときなどにいう。 「さるもの」は「然さる者(さすがな者)」のこ とで、これと引っ掻く猿を掛けたしやれ。 類義恐れ入谷の鬼子母神 きしも○ じん てきしおのれしひゃくせんあや 敵を知り己を知れば百戦殆うからず かれしおのれしひゃくせんあや 彼を知り己を知らば百戦して殆う からず159 湯を拯うに石を錘にす 出鄧析子とうせきし 間違った処置を施して、かえって災いを大きくすることのたとえ。溺れている人を救い出すのに石のおもりをつけるということから。 補説出典には「其その本を治めずして其の末を務むるは(根本をきちんとせずに末節のことだけに力を入れてやるのは)、驚たとえば溺を拯うに之これに錘すいするに石を以もてし、 火を救うに之に投ずるに薪を以てするが如こと し」とあり、災いの根本を取り除かなければ、 ますます悪い方向へといってしまうと戒めて いる。 類義薪を抱きて火を救う。 敵を見て旗を巻く 出世話尽 勢いにのまれて、戦意をなくすこと。また、 戦わないうちから逃げ出すこと。∇旗を巻く ∥戦陣に揚げてある旗をおろして巻く意で、 降参する、途中で手を引く意。 ふ や は いくさ み や は 敵を見て矢を矧ぐ ↓ 戦を見て矢を矧ぐ 41 手ぐすね引く 十分に用意を整えて待つこと。くすねを弓の 弦にぬり、戦いの準備をしたことから。△ぐ すね=くすね。弓の弦を強くする葉。松やに を油で煮て練ったもの。 てこう手功より目功 手先の技術だけを磨くより、経験を積んで広い視野から物を見る力を養うほうがよいということ。 梃子でも動かぬ どんな方法を使っても、その場から動かない こと。意志や信念が固いことのたとえ。梃子 を使えば重いものでも動かせるはずなのに、 それでも動かないという意から。 用例しかし、名人がいったんこうしてごろ <442> てしおにーてっちゅ りと横になりながら、ひとたびその手があご のあたりを散歩しはじめたとなったら、もう 挺子ででも動くものではない。〈佐々木味津 三・右門捕物帖〉 手塩にかける 目分で色々と面倒を見て、大切に育てること。 ▶手塩=自分で好みの味つけができるように 食卓に置いてある塩。 用例「柳橋から来ていた大きいのは縁附づ きました。も一人の女の子は十二の時に、桂 二郎 かつら じろう さんに引とられこの間それも縁附き ました。その子は幼少 ちい いうちから手塩にか けたので、わたしを何処どこまでも母だと思っ ているのです。二郎さんのところへ訪ねて いったら、あたしの事を、あちらの御夫婦へ 大層気兼 きが ね するので、気が痛んで来て、それ から行かないようにしましたの。あれを手離 した時のさびしさといったら……〈長谷川 時雨◆一世お鯉〉 弟子はその師にまさらず。 手品するにも種がいる 何をするにしても、材料や工夫がなければう まくできないということのたとえ。 類義品玉 取るにも種がなければならぬ。 でし ししょうはんげん 弟子は師匠の半減 對義青は藍あいより出いでて藍より青し。出 藍 しゅつ らん の誉ほまれ。 弟子が師匠以上になることは非常に難しいと いうこと。弟子の学力や技術がどんなにすぐ れていても師匠の半分ぐらいであるという意 から。「弟子は師匠の半分」ともいう。 類義弟子賢 かし ことも師の半学に如しかず。 手酌五合、鬢一升 酒は、独りで手酌で飲むと五合しか飲めない が、女性が酌をしてくれると一升でも飲んで しまうということ。「五合」は「ごんごう」 とも読む。▶手酌‖自分で自分の杯に酒を注 ぐこと。髪‖日本髪の後方に張り出た部分。 転じて、若い女性。 てせんりょう手千両 手先が器用だったり、腕に技術を持っていた りすることは、千両もの価値があるというこ と。また、字が上手であるのは一生の宝である という意でも用いる。 類義手は宝。 てだ手出し十層倍 喧嘩 けん か のとき、先に手を出したほうの罪は、 相手より十倍も重いということ。また、相手 が先になぐってきたら、その十倍ぐらいなぐ り返してもよいということ。 でづか 出遣いより小遣い おおづか こづか 大遣いより小遣い 109 出方奥勝覧 鐵杵を磨く 根気よく一つの仕事に励むことのたとえ。鉄 のきねを磨きへらして細い針に仕上げるということから。「杵きねを磨いて針となす」とも いう。 ◀杵‖きね。 故事)中国、唐の詩人李白りはが少年のとき、 学問がまだ成就しないのに投げ出して帰ろう とした。その途中で一人の老婆が鉄のきねを 磨いているのに出あった。李白が何をしてい るのかと尋ねると老婆は「磨いて針を作ろう と思う」と言った。李白はその言葉に感動し、 引き返して改めて学問に励んだという。 類義斧おのを研といで針にする。 鉄心石腸 出蘇軾与李公抧書 きわめて意志が固いこと。精神力が非常に強 く、動揺しないたとえ。鉄のように堅固な心 と石のように堅いはらわたの意から。 類義鉄石心腸。 浄すれども緇まず 出論語 悪い環境の中にあっても、それに影響されな いたとえ。黒く染めようとしても、黒くなら ないという意から。▶涅す‖黒い土で黒色に 染めること。緇む‖黒く染まる意。 鉄中の錚錚 出後漢書 凡人の中では少しすぐれた人のたとえ。転じて、すぐれた、立派な、の意にも用いる。∇錚錚=金属や楽器が澄んだよい音を出すさま。 故事後漢の光武帝が赤眉 び の賊(農民の反 乱軍)を平定したとき、賊軍の徐宣の態度が 恭順であったのを「おまえは鉄中の錚錚(凡 人の中では少しましな者)だ」と褒めたこと ばによる。 <443> 徹頭徹尾 出河南程氏遺書 最初から最後まで。どこまでも。あくまで も。頭から尾まで突き通す意から。徹貫 く。 用例それはとにかくソクラテスの偉大な るところは、徹頭徹尾、思い切って所信を披 瀝 ひれ き した、その無遠慮な点に存する事を否いな み難い。〈新渡戸稲造◆ソクラテス〉 鉄桶水を漏らさず 鉄製の桶 おけ が水を漏らさないように、堅固で つけ入るすきがないことのたとえ。 てつ あつ う 鉄は熱いうちに打て 鉄は真っ赤に焼けている柔らかいうち、人間 も純粋な精神を失わない若いうちに十分に鍛 えることが大切であるということ。また、何 事にも時機を逃してはならないという教え。 補説 英語のことわざ Strike while the iron is hot.の訳語。 類義 矯 ためるなら若木のうち。 轍鮒の急 危難が目前に迫っているたとえ。車の轍 ちに できた水たまりにいる鮒ふなが、今にも水がな くなって死にそうなことから。「轍に息付く 鮒」ともいう。∇轍∥車輪が通った跡。 出荘子そうじ 故事貧しかった荘子が、友人の監河侯 かんか こう (地方の君主であった)のところに穀物を借り に行ったら「近く年貢を取り立てるからその 中から貸そう」と言われた。荘子は「来る途 中、車の轍の水たまりにいる鮒から助けを求 められたので、近いうちに旅行するので西江 の水をたくさん持ってきてやると言ったら、 鮒が怒って、自分は今わずかの水があれば助 かるのだ。そんなのんきなことを言うのな ら、乾物屋でひものになった私をさがすがい いと言った」という話をして、「今の私の状 況はこの鮒と同じだ」と言ったという。 類義焦眉の急。遠水近火を救わず。 てっとうーてならい 出虚堂録 恥知らずで厚かましいこと。また、ずうずう しい人。面っちの皮がまるで鉄でできているよ うだということから。 類義面の皮の千枚張り。 「実はそれで御援助を願いに上ったの です。甚だ鉄面皮で恐縮ですが、旅費を恵ん で戴いたけますまいか?」「承知しました。出 来る丈だけのことはしましょう」〈佐々木邦◆ 朝起の人達〉 鉄物は敵の末にも貸せ 鉄器は使わないでいるとすぐにさびつくか ら、だれにでも貸して使わせるのがよいとい うこと。 する。改めてよいものにする意。 補説もとは『景徳伝灯録 けいとくで んとうろく にある霊 昭禅師の語。 鉄を点じて金と成す 人の作った平凡な文章などに手を加え、すぐ れた詩文を作り上げること。鉄を貴重な黄金 に変化させるという意から。∇点ずる∥修正 出黄庭堅ー答二洪駒父一書 轍を踏む 前車の轍を踏む 362 手でする事を足でする 正しい手段・方法をとらず、いいかげんにやってしまうこと。 でむしひより 蝸牛が日和を知る 身分不相応な振る舞いのたとえ。自分の領分 でもないのに口を出したり、よくわかってい ないのに意見を言うこと。晴れのときは殻に 閉じこもり、雨になってもはい回るぐらいの ことしかできないかたつむりが、天気を予測 するということから。△蝸牛=かたつむり。 手鍋提げても 好きな男性と一緒になれるのなら、どんな苦 労をしてもかまわないということ。自分で煮 炊きするような貧乏暮らしに甘んじてもとい うことから。 用例君と共に住めば手鍋さげてもと、青春 の恋にうかる都の若き男女に、かかるさま 見せてやりたし。〈大町桂月◆常盤の山水〉 てならさかくるまおごと 手習いは坂に車を押す如し 学問には不断の努力が必要であるという教 え。学問をするというのは、上り坂で車を押 すようなもので、少しでも油断してなまけて いると、すぐもとへ戻ってしまうということ。 <444> 手に汗を握る 危険なことや緊迫したことに遭遇して、はら はらしているようす。非常に緊張したり、興 奮したりするさまをいう。 出投甕雑筆 (故事)元の皇帝憲宗から「どのようにすれば 天下がよく治まるか」と問われた功臣趙壁 ちょう は「皇帝の側近からよこしまな人間を除 べき くべきである」と直言した。これを聞いてい た、憲宗の弟フビライ(元の初代皇帝世祖 せい は、趙壁に「汝 なん 渾身 こん 是これ 胆たん なるか。吾 われ も亦 また 汝の為 ため に両手の汗を握るなり(あ なたは実に大胆な人だ。私もあのことばを聞 いて、思わず両手に汗がにじんだ)と言っ たという。 てす たが そ 手に据えた鷹を逸らしたよう 大事なものを失って、ひどくがっかりするこ と。また、思いどおりにいかなくて落胆する ことのたとえ。鷹狩りに飼いならした鷹を手 に据え、放したところ、そのまま逃げてしまっ たという意から。 手に取るなやはり野に置け蓮華草 のおれんげそう はり野に置け蓮華草 656 てまんきんさしかのちた 手に万鈞を提げて而る後に多 りよくあらわ 力見る 出劉子新論 重さのものを持つことができて、はじめてそ の人が力持ちであることがわかるという意か ら。▶鈞‖重さの単位。一鈞は三十斤。「万 鈞」は非常に重いことを表す。 困難なことを処理することができて、はじめ てその人の実力や真価がわかる。一万鈞もの 補説出典には、このあとに難に処し患を 践ふみて、而しかる後に貞勇出いず(難事をみご とに処理することができて、はじめてその人 の本当の勇気や貞節がわかる」とあり、人 の能力は、実際に行ったことによって評価さ れるべきことを述べている。 手の裏を返す 急にがらりと態度を変えること。また、ほん の短い間のたとえ。今まで手の甲を見せてい たのに、さっとひっくり返して手の裏を見せ る意から。▷手の裏‖手のひら。 類義手を返す。手のひらを返す。掌 反かえす。 用例雪之丞ゆきのが、手の裏を返すように、 折れて出たのを見ると、三郎兵衛は、二ヤリ と猫族に似た白い歯を現して、「そうじゃ、 そうじゃ、そのように物わかりがよう無のう ては、芸人はなかなか出世がなりませぬ。 ……」三上於菟吉◆雪之丞変化 手のひらを返す たなごろ かえ 掌を反す 手の舞い足の踏む所を知らず う。 うれしさのあまり、小おどりして喜ぶようす。 非常に喜んで、有頂天になっているさまをい 出礼記らいき 補説出典にある「之これを嗟歎 して足らず、 故に手の之に舞い、足の之を踏むを知らず(そ のことをいくらほめても、ほめ足りない。だ から、手が舞っているのも足を踏み鳴らして いるのも気づかず、小おどりして喜んでい る)によることば。 類義欣喜雀躍きんきじ。やくやく 手の奴足の乗り物 他人の力を借りずに、自分の力で物事をする ことのたとえ。召使のかわりに自分の手を使 い、乗り物に乗るかわりに自分の足で歩くと いう意から。▷奴=召使。武家の使用人。 てはっちょうくちはっちょう くちはっちょうてはっちょう 手八丁口八丁口も八丁手も八丁 205 出日拝む者はあっても、入り ひおがもの 日拝む者なし 勢いのある者のところに出入りする者はたく さんあるが、落ち目になった者のところには、 だれも寄りつかないことのたとえ。昇ってい く朝日を拝む人は多いが、沈んでいく夕日を 拝む人はいないという意から。 手ぶっちょうの口八丁口叩きの手足 らず203 出船あれば入船あり 出るものもあれば入るものもある、世の中は さまざまだということ。港を出ていく船もあ <445> れば入ってくる船もある、ということから。 金銭の出入りなどにもいう。「入船あれば出 船あり」ともいう。 でふね せんどうま 出船に船頭待たず 好機がきたら、周りの事情などかまわず、すぐに事を始めなければいけないというたとえ。風待ちをしている帆船は、追い風が吹いたときは、そのとき船頭がいなくても待ってなどいられないという意から。 でふね かぜいふねわる 出船によい風は入り船に悪い 一方によいことは、他方には悪い。両方に都 合のよいことは、なかなかないものだという たとえ。出港する船にとって都合のよい追い 風(順風)は、入港する船にとっては都合の悪 い向かい風(逆風)となることから。 類義彼方 あち 立てれば此方 ら が立ため。彼方 あな を祝えば此方 た の怨うらみ。頭押さえりゃ尻 上がる。 てまえみそ 手前味噌 目分のことを大げさに自慢すること。自分の 家で作った味噌の味を自慢することから。 類義自画自賛。 用例すると彼の癇癪 かんし やく が細君の耳に空威 張をする人の言葉のように響いた。細君は 「手前味噌」の四字を「大風呂敷」の四字に 訂正するに過ぎなかった。〈夏目漱石◆道草〉 てまえみそ しお から 手前味噌で塩が辛い 自分のしたことは何でもよいと思うことのた とえ。転じて、自慢話ばかりするので聞き苦しいことのたとえ。自分の作った味噌は、どんなに塩辛くてもおいしいと思うことから。類義手加減の独り舌打ち。 でふねにーてらにか 自分でお金を出して、人のために懸命に働く こと。また、何の得にもならないのに、他人 の世話を焼くこと。弁当を自分で用意してき て、人のために力仕事をしてやるという意か ら。▶手飯‖手弁当。 手飯で力持ち 手も足も出ない 自分の能力を超えていてどうすることもでき ない。なすべき手段や方法がなく困り果てて いる状態。 類義手に余る。 用例俺に限らず、浮き沈みは男一代につ いて廻まわることなんだ、そこで沈むときは一 ひと溜たまりもなくぶくぶくと、金槌流 かなづち りゅう に 音も立てずに沈んでしまうから、今の俺のよ うに手も足も出なくなる。〈長谷川伸・奇術 考案業〉 出物腫れ物所嫌わず おならと腫れ物は、場所や場合を選ばず、出 たいときに出る。うっかりおならをしてし まったときの言い訳のことば。また、いつど こで産気づくかわからないという意でも用い る。「出物腫れ物時知らず」ともいう。∇出 物∥おなら。便やはな、涙などを意味するこ ともある。腫れ物=おでき・にきびなど。 英語Need has no law.必要を律する法 律はない 南国太平記 叩たたく、微かすかな音がした。〈直木三十五〉 いった時、遥はるかに、広縁で、とんとん板を ん、ってんだ。あっ、はっくしょいっと、 出物、はれ物ってことがあらあ。済みませ きの侍の声が、後方でした。「へいへい、 みをすると同時に「静かにせんか」と、さっ 用例「は、はっくしょっ」小藤次が、くしゃ てら寺から里さと 物事があべこべであることのたとえ。檀家だんかから寺へ金や物を寄進するのがふつうなのに、寺から檀家へ贈り物をするという意から。「山から里」ともいう。いろはがるた(京都)の一。∇里∥寺に対して檀家のこと。類義一白うすから杵きね。 てら 寺から出れば坊主 物事を大ざっぱに分類したり、早とちりの判 断をしたりすることのたとえ。また、そのよ うに判断されてもしかたがないという意味で も用いる。寺から出てきた人は、すべて僧侶 とみなしてしまうという意から。 てらつつきの子は卵から頷く啄木鳥の子は卵から頷く17 てら 寺に勝った太鼓 <446> てらにもーてをこま のたとえ。また、その人に不相応な高級すぎ る持ち物のたとえ。貧しげな寺に不似合いな 立派な太鼓があるということから。「家に 勝った太鼓」ともいう。 てら寺にも葬式 人の世話をする者が、逆に世話になるのが、 人の世のならいだということ。また、冠婚葬 祭のない家はないというたとえ。人の葬式を 取り扱う寺でも、寺の人が死ねば葬式をしな ければならないということから。 寺の隣にも鬼が棲む 善人と悪人がまじり合っているのが世の中だ ということ。情深い人のそばにも残酷な人が いることがあるということ。仏の慈悲を施す 寺のそばに、冷酷な鬼のすみかがあるという 意から。「寺の門前に鬼が棲む」ともいう。 類義鎭守ちんの沼にも蛇は棲む。仏の前に鬼 が棲む。 てらほとりわらべならきょうよちしゃ 寺の辺の童は習わぬ経を読む知者の 辺の童は習わぬ経を読む419 出る息入る息を待たず 人の生命は、一呼吸する間にもどう変わるか わからないほど、はかないというたとえ。「出 ずる息の入るを待つべからず」ともいう。 で すぐれて頭角を現す人は、人にねたまれたり 憎まれたりしやすいことのたとえ。また、出 すぎると、非難されるということ。一本だけ 高い杭は、ほかの杭にそろうよう打ち込まれ るということから。「差し出る杭は打たれる」 「出る釘くぎは打たれる」ともいう。 類義出る杭は波に打たれる。高木は風に 折らる。高木は風に嫉ねたまる。出る足人に引 かるる。誉ほまれは毀そしりの基。 英語 Envy is the companion of honour. 娯妬 は名声につきまとう友である」 出る船の纜を引く 未練がましい振る舞いをすることのたとえ。 出航して行く船のともづなを引っぱって止め ようとする意から。▷纜‖船尾についている 綱で、船を岸につなぐためのもの。 てれんてくだ 手練手管 人をだましたりうまくあしらったりする、あ の手この手の方法。思うままに人をあやつ る、さまざまな技術。「手練」も「手管」も、 人をだます手段の意で、同義語を重ねて意味 を強めたもの。 赤猪口兵衛 用例「……ところが今から考えますると、 これが毒蛇よりも恐ろしい継母 ははお艶つやの手 練手管で、実情 せい かく を申しますと何の可愛 かわ が る処 どこ ろ か、自分の手に付けて遊ばせる振りを しては花札の手配りや、賽さいの目の数え方を 仕込んだのがソモソモで、さような事には何 の気もない、あどけないお熊が、物心付く頃 には、もはや立派なカラクリ博奕 ばく ち の名人、 壺振 つぼ りの見透しと言う恐ろしい腕前に仕上 げたもので御座います。……」〈夢野久作◆ 手六十 手習いは六十歳までは練習次第で上達すると いうこと。また、六十歳になって手習いを始 めること。 てかしなか 手を替え品を替え 次から次へと、いろいろな方法を試みるよう す。やり方を替え道具を替えるなどさまざま な方法でということ。▷手=方法。やり方。 品Ⅱ種類。 類義あの手この手で。 用例それより手を替え品を替え種々 さま ざま て仕官の口を探すが、さて探すとなると無い もので、心ならずも小半年ばかり燻ぶ ッてい る。二葉亭四迷・浮雲 出孟子もうし 手を返す 手のひらを返すように、きわめてたやすいことのたとえ。また、急に態度を変えることのたとえにも用いる。「返す」は「反す」とも書く。 類義手の裏を返す。 手を拱く 出礼記らいき 腕を組んだまま、何もしないで傍観している こと。また、思案にくれること。本来は、両 手を胸の前で重ね合わせて敬礼すること。 「腕を拱く」ともいう。∇拱く=両手を胸の 前で重ね合わせる。腕を組む。「こまねく」 <447> とも読む。 補説礼記・曲礼 遣えば趨はりて進み、正立して手を拱く(先 生に道で出会ったならば、走って前に行き、 正しく立って両手を胸の前で重ね合わせて礼 をする)とある。また『戦国策』秦策 は「大王手を拱いて以もって須またば、天下編 隨ぐんして伏し、伯王 の名成るべかりしなり (大王は手をこまぬいて待ってさえいれば、 天下の諸侯は続々と降伏し、霸王の名を成し ていたでしょう)とある。 類義手を束つかねる。手を袖にする 用例私には物足らない都会生活が始まっ た。そして眼めにあまる不幸のつぎつぎに足 許もとからまくし上げるのを手を拱いてじっと 眺めねばならなかった。〈有島武郎◆生まれ 出ずる悩み〉 手を出して火傷する よけいなことに手を出して、ひどい目にあう こと。他人のことには、なるべく介入しない ほうが賢明であるというたとえ。 類義復た子を起こす。藪やぶをつついて蛇を 出す。 手を翻せば雲と作り手を覆せ ば雨となる 出杜甫詩 人情の変わりやすいことのたとえ。手のひら を上に向ければ雲ができ、下に向ければ雨に なるように変わりやすいということから。 補説詩の題名は『貧交行ひんこ』。杜甫が、世 てをだしーてんかの の中の人情が軽薄になっているのを嘆き、「厚 い友情で結ばれていた昔の管仲 かんち ゅう と鮑叔 ほうし ゆく との交わりを見習うがよい」と歌った詩。出 典には「手を翻せば雲と作り、手を覆せば雨、 紛紛たる軽薄何いずぞ数うるを須もちいん(今の 世にうろうろしている軽薄な人間をいちいち 数える必要があろうか」とある。 てんいむほう天衣無縫 出太平広記 文章・詩歌などが、技巧をこらした跡がなく、 自然で巧みなこと。転じて、人の性格・態度 などに飾り気やわざとらしさがないこと。天 女の衣服には縫い目などの技巧を加えた跡が ないということから。▶天衣‖天人の着る 衣。縫‖縫い目。 補説 太平広記に引く霊怪集 れいかい しゅう に ある語。 故事ある夏、郭翰かくという青年が庭で寝ていると、空から天女が降りて来た。それから一年、その着ている衣に縫い目がないので不思議に思って尋ねると、「天人の着物には、針や糸は使わない」と言ったという。 用例もともと、小説にそんな固着した方程式などはない。ないから私小説も生じ、創作ともよばれるのであろう。殊ことに古典の大作は天衣無縫でなんらの規矩きに囚とわれているふうがない。中華の雄大な古典など特にそうだとおもう。〈吉川英治◆随筆新平家〉 天淵の差 出詩経 物事の隔たりが非常に大きいことのたとえ。 高い天と深い淵ふちほどの大きな差の意から。 類義雲泥の差。 天の果てのような遠い地に離れていても、心 は隣に住んでいるのと同じように、いつも通 い合っているということ。▷天涯‖空の果 て。きわめて遠い所のたとえ。比隣‖隣近 所。 補説詩の題名は『杜少府 としょ うふ 任に蜀州 しょく しゅう に 之ゆくを送る』。「君と離別するの意、同じく 是これ宦遊かん ゆう の人。海内 かい だい 知己存すれば、天 涯も比隣の若し(君と別れるのはこの上なく つらいが、互いに同じ官に仕える身である以 上、任地に赴く君と別れるのもやむを得まい。 天下に君という知己がいると思えば、遠く離 れていても心は隣にいるのと同じである) とうたっている。 てんかうれさきうれ 天下の憂いに先だちて憂い、 てんかたのおくたの 天下の楽しみに後れて楽しむ 出 范仲淹ー岳陽樓記 為政者は、世の人々に先立って天下国家のことを考え、人々が政治の結果を喜び楽しむのを見とどけた後に楽しむ。自身のことはあと回しにして、常に天下国家のことを優先して考えなければならないということ。「先憂後楽」ともいう。 補説 中国、北宋 ほく その の名臣范仲淹 はんちゅ うえん が、為 政者の心がまえを言ったことば。なお、東京 <448> てんかのーでんこう と岡山にある「後楽園」は、このことばから 名づけられたものである。 天下の大事は必ず細より作る 出老子ろうし どんな重大なことも、最初はごく小さなことが原因で起こるものである。大事のきっかけは、常に些細なことであるということ。「大事は小事より起こる」ともいう。 補説出典には、この前に「天下の難事は必 ず易やすきより作り(天下の困難なことも、 はじめは容易なことだったのであり)」とあ る。 天下の難事は必ず易きより作 出老子ろうし 天下の困難な大事というものも、もとを正せ ば些細なことが原因となって起こる。小さ なことでもいいかげんにすると、大きな災難 になるということ。 補説出典では、このあとに「天下の大事は 必ず細なるより作る(大きい仕事は小さなこ との中に始めがある)」とある。 伝家の宝刀 でんかほうとう とっておきの切り札のこと。いざという場合 に用いる奥の手。先祖代々家宝として伝わっ てきた名刀の意から。 にするであろうと待っていたのじゃ。よいよ い、霊地を荒し霊地を汚す鼠賊そぞめを、信徒 を預り霊地を預る院代が匿かもうて、五万石 の寺格が立つと申さるならば、久方ぶりに 篠崎流しのざきの軍学大出し致して遣わそうぞ」 〈佐々木味津三・旗本退屈男〉 用例 申したか!ウッフフ、とうとう伝家 の宝刀、抜きおったな!今に五万石を小出し 天下法度三日法度朝令暮改427 天下は回り持ち てんかまわも 天下を治める者はある一族に限られているわ けでなく、次々に変わるものである。転じて、 幸運はすべての人にめぐってくるものである というたとえ。だれでも、金持ちや権力者に なれる機会があるということ。 類義世は回り持ち。 天から横に降る雨はない 人間は生まれつきまっすぐな素直な心を持っ ているもので、本性は善だということ。雨は まっすぐに降ってくるもので、横に降る雨な どないのと同じようなものだということか ら。 天機泄らすべからず 重大な秘密は絶対に漏らしてはならないという戒め。また、大事な秘密だから、話すわけにはいかないという意でも用いる。▷天機∥天の秘密。転じて、重大な秘密。 てんくうかいかつ 天空海闊 出湯恢ー詩とうかいし 度量が広いこと。明朗快活でおおらかな気性 のたとえ。空や海がきわまりなく広がっている意から。「海闊天空」ともいう。▷天空‖空が晴れあがってどこまでも広いこと。海闊‖大海が広々としていること。 天狗の飛び損ない 日ごろ自慢している者が、油断してやり損な うことのたとえ。自由自在に空を飛びまわる 天狗も、ときには飛び損なうこともあるという 意から。 類義猿も木から落ちる。 てんこうせんむな 天句踐を空しゅうすること莫 ときはんれいなあら れ、時に范蠡無きにしも非ず 出太平記 天よ、句践を見放すようなことをしてはなら い。時が来れば范蠡のような忠臣が現れて助 けてくれるかもしれないのだから。▷句践‖ 中国春秋時代の越の王。范蠡‖句践の忠臣。 補説)呉に敗れた越王句践が、范蠡の助けを 借りて越の国を再興し、呉を破った故事を踏 まえ、南北朝時代の武将児島高徳 が、隠 岐へ流される途中の後醍醐ごだ天皇に、自分 の心中を伝えて励ますために、宿所の桜の幹 にひそかに書き記したという詩句。 電光朝露 きわめて短い時間のたとえ。また、人の命の はかないことのたとえ。稲妻は一瞬の光で、 朝露は太陽が出ればすぐ消えてしまうことか <449> ら。 ▷電光‖稲妻。朝露‖葉に宿る朝の露。 てんこうけん えききよ 天行は健なり 出易経えききよう 自然の変化、天体の運行は、一刻も休息する ことがないということ。また、君子はそれに ならって、たゆまず精励しなければならない ということ。 補説出典には「天行は健なり。君子以もって 自強して息やまず(天体の運行はすこやかでや むことがない。君子はこれを手本として、み ずからつとめ励む努力を怠ってはならない」 とある。 てんこうひばてんたかうまこ 天高肥馬 ↓天高く馬肥ゆ 450 てんさいわす 天災は忘れた頃にやってくる 天災は、その災害の恐ろしさを忘れたころに、 また起こるものである。日ごろの用心を怠っ てはいけないという戒め。物理学者・文学者 の寺田寅彦とのことばとされる。 類義災害は忘れた頃にやってくる。 てんさだ またよひとやぶ 天定まって亦能く人を破る 乱世では、邪悪で非道な人間が一時的に栄え ることがあっても、天運が正常の姿に戻れば、 悪人は天の制裁を受けて滅び、正しい善が栄 えるようになる。人の力は天に及ばないこと をいう。「天定まって人に勝つ」ともいう。 補説出典には「人衆おければ天に勝ち、天 定まって亦能く人を破る(人が多く集まって 勢いがあるときは悪徳の人が一時的に栄える が、天道が定まるようになると、悪徳の人を 打ち破るものだ」とある。 てんこうーてんすい 出史記しき 天子に戯言無し てんしぎげんな 天子は決して冗談や偽りを言わないものである。天子がいったん口に出したことばは、大きな意味をもつということ。 類義綸言げん汗の如ごとし。 てんじょういちにち そこひゃくにち 天井一日、底百日 相場は、高値の期間は非常に短いが、値が下 がっている期間は長いということ。「高値一 日、底百日」ともいう。 てんじょうめぐすりにかいめぐすり 天井から目薬二階から目薬492 てんじようてんけゆいがとくそん ちようあこんきょう 天上天下唯我独尊 出長阿含経 この世の中で、自分より尊い者はいないということ。人間性の尊厳を言い表したことば。転じて、ひとりよがり。「天下」は「てんが」とも読む。「唯我独尊」だけでも用いる。 補説 釈迦 しゃ が誕生したときに七歩歩き、一 方の手で天を、一方の手で地をさして、四方 を見回してこのことばを唱えたという話に基 づく。 天知る地知る我知る子知る だれも知らないと思っても、天と地と自分と 相手の四者が知っているから、悪事や不正は 出後漢書 必ず発覚するものだという戒め。「四知」ともいう。 故事)中国、後漢の学者楊震 人になった王密が、ある夜楊震を訪れ、金十 斤を贈ろうとして受け取らない楊震に「暮夜 知る者無し(うす暗がりの中ではだれもわ からない)と言ったのに対し、楊震が答え たことばである。王密はそのことばを聞き、 心に恥じて帰ったという。 英語 The day has eyes, the night has ears. 昼に目あり、夜に耳あり てんしんらんまん天真爛漫 出宝真斎法書賛 無邪気で明るいようす。純真な心で、自然の ままの姿があふれ出ているさま。▷天真‖生 まれたままの純粋な性格。爛漫‖ありのまま に輝き現れるさま。 てんすいおけ天水桶に竜 ありえないこと。また、つまらないところに すぐれた人材がいることのたとえ。▷天水桶 ∥防火用に雨水をためておく大きな桶。 類義掃き溜だめに鶴。 天水桶の子子 世間知らずのたとえ。天水桶にいるぼうふら は、その中が全世界だと思っているという意 から。▷天水桶‖防火用に雨水をためておく 大きな桶。 類義井の中の蛙 大海を知らず。井蛙 せい あ は 以もって海を語るべからず。夏の虫氷を笑う。 葦よしの髄から天井を覗のぞく。夜郎自大。 <450> てんせきーてんどう 転石苔を生ぜず転がる石には苔が生 てんせきこけしょうころいしこけは えぬ 261 てんだい椽大の筆ふで 出普書しんじょ 堂々とした立派な文章をたたえていうこと ば。垂木 たる のような大きな筆という意から。 「筆」は「ひつ」とも読む。マ像ニ垂木。家 の棟から軒に掛け渡して屋根を支える木。 故事)中国、西晋 せい しん の王珣 おうじ ゆん が、垂木のよ うに大きな筆を与えられた夢を見た。目が覚 めて、人に「これはきっと大いに筆をふるう ことがあるきざしだろう」と言った。はたし て、急に武帝が亡くなり、徳をたたえた韻文 の弔辞はすべて王珣が書くことになった。 天高く馬肥ゆ てんだか こまこ 秋の快適な気候のこと。秋は大気も澄みわ たって天も高く感じられ、牧草も実って馬が 肥えてたくましくなるという意。「秋高く馬 肥ゆ」ともいう。昔、中国では、北方の騎馬 民族の匈奴が、収穫の秋になると大挙して 略奪にやってきたので、もとは今年もその季 節がきた、という警戒のことばであった。 類義天高肥馬。天高くして気清し。 天地は万物の逆旅 てんちばんぶつげきりよ 出漢書かんじょ 出李白春夜宴桃李園一序 天地は万物が仮に宿る宿屋のようなものであるということ。人生の、短くはかなく憂いの多いことを嘆いたことば。▷逆旅=宿屋。旅 人を迎える所。 補説春の夜に、桃や李 も の花咲く園で宴を 催し、皆の作った詩をまとめてその序文とし て書いた文章で、「天地は万物の逆旅にして、 光陰は百代 はく たい の過客 かか なり。 而しかして浮世 ふせ い は夢の若ごとし、 歓を為なすこと幾何ぱぐぞ(天地 は万物を宿す宿屋のようなものであり、時は 永遠に流れ続ける旅人のようなものである。 はかない人生は夢のようなものであり、よろ こび楽しむ歳月はわずかしかない」と詠ん だもの。 てんちょうちきゅう 天長地久 天地が永遠に変わらないように、物事がいつ までも変わることなく続くこと。「天は長く 地は久し」ともいう。 出老子ろうし 補説「天」「地」がともに「長」であり「久」 であるという互文(双方補い合って意味を完 成する表現法)。 天地を動かし鬼神を感ぜしむ 出詩経しきよう 詩歌というものは、天地を動かし、鬼神さえ も感動させるほどの力を持つということ。 鬼神Ⅱ目に見えず超人的な力を持つ存在。霊 的存在。 補説出典には「得失を正し天地を動かし鬼 神を感ぜしむるは、詩より近きは莫なし」と ある。「古今和歌集」はこの言葉を踏まえ、 仮名序に「力をも入れずして天地 あめ つち をうごか し、目に見えぬ鬼神 がみ をも、あわれと思わせ、 男女 おとこ おんな のなかをも和らげ、猛 たけ き武士 もの の 心をも慰むるは歌なり」と書いている。 点滴石を穿つ あまだいしうが 雨垂れ石を穿つ 輾転反側 出詩経しきよう 思い悩んで眠れず、何度も寝返りを打つこと。 ∇輾転=「輾」も「転」も寝返りを打つ意。 「輾」は「展」とも書く。反側=裏返しになる。 注意「輾転」を「転転」と書くのは誤り。 天道畏るべし 出読書録 大の定めた道理は畏れ敬うべきであり、逆ら つと身を滅ぼすことになるという戒め。 てんとうさま ごめ めし どこ つ まわ 天道様と米の飯は何処へも付いて回る こめ めし てんとうさま どこ い 米の飯と天道様は何処へ行って まわ も付いて回る259 てんとうさまみとおかみみとお 天道様は見通し神は見通し155 てんどうぜひ 天道是か非か 出史記しき 人生の幸不幸、運命に対する不満、怒りのこ とば。不運を嘆くときや、物事の判断がつけ にくいときなどに用いる。 補説清廉に生きた伯夷はく・叔斉しゅくが餓死 する一方で、大盗賊の盗跖とうが天寿を全うす るなど、正しい人が不幸な境遇で一生を終え たり、大悪人が一生安楽なまま過ごしたりす ることが多いので、人の運命をつかさどる天 は果たして正しい存在なのかと憤った中国漢 の歴史家司馬遷しばせんのことば。 <451> 対義 天道は親 しん 無し。 天に眼 まな。 こ 用例「あんな奸物かんのやることは、なんでも証拠のあがらないように、あがらないようにと工夫するんだから、反駁はんするのはむずかしいね」「厄介だな。それじゃ濡衣ぎぬを着るんだね。おもしろくもない。天道是か非かだ」〈夏目漱石◆坊っちゃん〉 天道は親無し 天の道は公平であり、えこひいきなどしない ということ。△親=個人的な親疎の感情。え こひいき。 出老子ろうし 補説出典には、このあとに「常に善人に与 くみす(いつも善人に味方をしている)」とある。 対義天道是ぜか非か。 てんどう ぜんさいわいいんわざわい 天道は善に福し淫に禍す 出書経しよきよう 天は善人には幸せを与え、悪人には災いを下 すということ。△淫‖邪悪の意。 補説古代中国、殷いんの湯王が、暴虐の政 治を行った夏かの桀王けつを滅ぼして政権を 握ったときのことば。 天道人を殺さず 天は慈悲深く、決して人を見捨てるようなこ とはしないということ。「天道人を殺し給たま わず」ともいう。 英語 God tempers the wind to the shorn lamp.神は毛を刈り取られた子羊には風を 和らげる 用例「向うも身分があらっしゃるから、うっ かり言葉をかけて失敗じくっちゃあ詰らねえ、 いったい、どこの店へお入りなさるんだか、 心静かに見届けておいての上……ああ、天道 人を殺さずとはよく言ったものだ、金助がこ うして詰らなく泳いでいるのを、天が哀れと 思召 せばこそ、ああしていい殿様を授けて 下さる」〈中里介山◆大菩薩峠〉 てんどうーてんにつ てん 貂なき森の馳 強者やすぐれた人物がいない所では、つまらない者がいばることのたとえ。貂がいない森では、いたちがいばって活動するということから。 類義鷹たかのない国では雀すずが鷹をする。鳥なき里の蝙蝠こう。貂なき山に兎うさ誇る。馳の無き間の貂誇り。 天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理 ひよくれんり えだ の枝♩比翼連理 569 天に口あり地に耳あり 秘密や悪事は、隠しているつもりでも、人に 知れ渡ってしまうものだというたとえ。 類義天に口。天に眼 まな こ 天に口あり壁に耳 あり。壁に耳あり障子に目あり。壁に耳、岩 に口。昼には目あり夜には耳あり。 てんくち ひともっい 天に口なし、人を以て言わし む は口がないから何も言わないが、その意志は 人の口を通じて世に伝わるという意。世評は 多く真実を伝えるものだということ。「人」 は「にん」とも読む。 民衆の声は天の意志であるということ。天に 英語 The voice of the people is the voice of God. [民の声は神の声] てんしたがものそんてんさか 天に順う者は存し、天に逆ら 出孟子もうし う者は滅ぶ 自然の道理に従う者は存続していけるが、これに逆らう者は滅亡してしまう。性善説に基づく王道政治を説いた孟子のことば。 出詩経しきよう てんせぐくまちぬきあし 天に跼り地に蹐す 恐れおののいてびくびくすること。ひどく恐 れて身のおきどころのないこと。また、世の 中を恐れ、隠れるようにして生きているさま。 天は高いのに頭がつかえはせぬかと身をかが め、地面は堅いのに突き抜けはしないかと心 配してそっと歩くという意から。「跼天蹐地 きよくて んせきち」ともいう。△跼る‖身をかがめる。蹐 す‖抜き足差し足で歩く。 てん天に唾す 出四十二章経 人に害を与えようとすると、かえって、自分 がひどい目にあうこと。空を仰いで唾を吐い ても天を汚すことはできず、自分の顔にふり かかってくることから。「唾」は「つばき」 とも読む。「天に向かって唾を吐く」「天を仰 いで唾する」「仰いで唾を吐く」ともいう。 類義お天道様に石泥を打てば面っちへ <452> 挟器 The stone you throw will fall on your own head. [投げた石は自らの頭上に落ちる] てん 用例「人間?お互いに人間であることに、 変りはない。X大使よ、君は人間の悪口をい うが、それは天に唾をするようなものではな いか。つまり自分の悪口をいっているわけだ からねえ」〈海野十三◆地球要塞〉 貂になり鬼になり 強くなったり優しくなったり、あの手この手 と手段を尽くすことのたとえ。▷貂∥いたち より大きい哺乳動物。 類義 鼬 いた になり貂になり。 天に二日無く土に二王無し てん にじつな ど におうな ばいけないということ。 天に二つの太陽がないように、国にも二人の 王がいてはならないということ。 補説出典では、このあとに「嘗禘郊社 じょうてい こうしゃ に、尊、二上にじ よう 無し(嘗・禘・郊・社な どの祭りで、みんながあがめまつるものは二 つあってはならない)」と続く。孔子が弟子 の曽子そうに対して、祭礼で二つのものを祀まっ ることを戒めたことば。 出礼記らいき にいけないといえこと 類義天に不時の風雲あり、人に旦暮たんの禍 福かふあり。 てんふうう天に風雨、人に疾病 災難はまぬがれ難いというたとえ。天候に大 風や大雨があるように、人も思いがけない病 気にかかることがあるから、気をつけなけれ 天、二物を与えずにぶつあた 人はそれぞれ長所と短所を持っており、よい ところばかり揃そろった完璧な人などいない ものだというたとえ。天は一人の人間に、他 よりすぐれたものをいくつも授けないという ことから。「天は二物を与えず」ともいう。 用例天草騒動の張本人天草四郎時貞 名を小四郎と云いました。九州天草大矢野 郷 越野浦 の郷士であり曽かっては小西行 長の右筆 まで為なした増田甚兵衛 の第三 子でありましたが何より人を驚かせたのは其 その 珠たまのような容貌で、倫を絶した美貌のた め男色流行の寛永年間として諸人に渇仰 されたことは沙汰の限りでありました。併 天は二物を与えず、四郎は利口ではありませ んでした。〈国枝史郎・天草四郎の妖術〉 出蔡琰ー胡茄十八拍 てんまなこ天に眼 天には目があって、人の行いの善悪すべてを 見逃さない。人の隠れた行為をも見通す目が あるので悪いことはできないということ。 「天の眼一「天に眼めあり一ころいう。 類義天網恢恢 てんもう かいかい 疎にして漏らさず。神は 見通し。天道様 てんと うさま は見通し。 天に三日の晴れなし 出明詩線 晴天が三日と続かないように、人生もよいこ とばかりが続くものではないということ。 補説出典には、続けて「地に三尺 さん せき の平無 し(地上に平地など三尺と続かない)」とある。 てんみみないえどこれき 天に耳無しと雖ものを聞くに ひともっ 人を以てす 秘密は必ずだれかの耳にはいり、自然に世間 に知れてしまうものであるということ。天に は耳はないが、人の耳を通してすべて知って いるということから。 てんむつぼはてんつぼ 天に向かって唾を吐く♩天に唾す451 てんあたとかえ 天の与うるに取らざれば反っ とがう てその咎を受く 出史記 天が与えてくれた好機を逃すと、逆に災いを 身に受けることになるということ。 補説出典では、このあとに「時の至れるに 行わざれば反って其その殃わざを受く(時機が到 来したのに行わなければ、かえって災いを受 ける」とある。 故事天下統一を前に楚その項羽と漢の劉邦 りゅうが対立しているとき、遊説家の蒯通 かい とうが 天下の均衡は漢の武将韓信 かん しんにかかっている と言って、「これを利用して天下を三つに分 け、鼎 かな え の足のように三者併立するのがよい。 天の与うるを取らざれば反ってその咎めを受 け、時至って行わざれば反ってその災いを受 ける」と、謀反を起こす絶好の時機であるこ とを説いたが、韓信はこれを退けた。やがて 劉邦により天下統一が成ったあと、韓信は謀 <453> 反の疑いをかけられて殺されてしまった。 てんささところやぶべ 天の支うる所は壊る可からず 出国語ここ 天命には逆らい得ないというたとえ。天の支 持するものは、人力で破壊することはできな いという意から。 ずだけでも用いる。 補説出典には、このあとに「其その壊る所 も亦また支う可からず(天が破壊しようとする ものを人力で支えることも、また不可能であ る」とある。 天の時は地の利に如かず、地 の利は人の和に如かず 出孟子 事を成すには人の和がもっとも大切であると いうこと。天候や時日がよくとも、地の利が なければうまくいかない。しかし、どんなに 地理的条件が有利であっても、一致団結した 人の和にはかなわないということ。「地の利 は人の和に如かず」だけでも用いる。 てんなわざわいなおさ 天の作せる擘は猶違くべき みずかなわざわいのが も、自ら作せる擘は逭るべか らず しょきよう 出書経 天の配剤はいざい 天が起こした天災地変の災難は、どうにか避 けることもできるであろうが、自分で引き起 こした災難は、どうにも逃れることはできな いということ。「自ら作せる擘は逭るべから てんのさーでんぷの 天はよい行いにはよい報いを、悪い行いには 必ず罰を下すということ。転じて、偶然の、 また人為的なものとは思えないほど、取り合 わせがうまくいっていること。∇配剤=薬を 調合すること。 用例つまり花は蜜の御馳走 で虫を誘惑し その花に取ってとても大事な事をして貰もら ているのは、アノ虫も殺さないような優しい スミレの花も中々狡猾 が、しかしまた一方から考えるとこれぞいわ ゆる共栄共存の自然の配剤であるとも首肯 かれる。〈牧野富太郎・植物記〉 てん天の美禄びろく 出漢書かんじょ 酒の別称。天の神から賜ったうまいものという意から。∇美禄=よい賜り物。厚い俸禄。てんぼくうい 天馬空を行く 出劉子鐘ー詩 天上界にすむという天馬が、天空を思うがま まに駆けめぐるように、考えや行動などが自 由奔放で勢いのよいことのたとえ。また、文 章や書の勢いがあってすぐれていること。 補説詩の題名は『薩天錫 さつて んせき てんばってきめん 天罰覿面 悪事の報いがすぐに現れること。悪いことを すると、その報いとしてすぐさま天が罰を下 す意から。∇覿面∥結果や報いがすぐ現れる 意。 類義 天罰は当たり次第。罰ばちは目の前。 てんひとうえひとつく 天は人の上に人を造らず、人 人間は生まれたときからすべて平等で、身分 の上下などなく、貧富・家柄・職業などによって 差別されるべきではないということ。 の下に人を造らず 補説 福沢諭吉の 『学問のすすめ』にあるこ とば。 類義彼も人なり、予われも人なり。 用例落ち目になったからといって、先生を 見捨てるわけではないが、本来、基本的人権 というものがそういう関係を許さないのだ。 天は人の上に人をつくらず、さ。〈獅子文六◆ てんやわんや〉 天は自ら助くる者を助く 他人を当てにせず自分自身で努力する者に は、自然に幸福がやってくるということ。 輔説 英語 ∅ Heaven helps those who help themselves. 説。 てんみとおかみみとお 天は見通し神は見通し155 でんぷ田父の功こう 出戦国策 争っている者が共倒れし、第三者が獲物や成 果を手に入れることのたとえ。▷田父‖農 夫。 故事 中国の戦国時代、魏を討とうとした 育王を淳于髡じゅんが諫いさめて「足の速い犬が、 やはり足の速い利口な兎ぎを追いかけ、山を <454> てんぺんーどあにし 三度もめぐり、頂上へ五度も登って追いかけ たがつかまらず、犬も兎もともに力が尽きて 死んでしまった。そこに農夫が通りかかっ て、労せずして二匹とも手に入れてしまった。 いま、我が斉が魏と争えば、互いに兵力や国 力が疲弊し、強大な秦しんや楚そにすぐねらわ れ、彼らが『田父の功』を収めるにちがいあ りません」と言ったという話から。 類義犬兎の争い。漁夫の利。鷸蚌の争 てんぺんち 天変地異 天地の間に起こる、自然の災害や、変わった 出来事。▿天変‖天空に起こる変動。異常気 象やそれに伴う災害。日食・隕石 せき 彗星 せい 暴風雨などをいう。地異‖地上の異変。地 震・津波・火山の噴火などをいう。 類義 天災地変。 用例どんな天変地異のときでも、生き運の ある人は助かるのであろうか。〈原民喜◆星 のまたたき〉 天網恢恢疎にして漏らさず 天罰を逃れることはできないということのた とえ。天が張りめぐらした網の目は粗いが、 悪人は一人も漏らすことなく処罰する。天道 は厳正であって、悪いことをすればいつかは 必ず報いがあるという意。「天網恢恢疎にし て失わず」ともいう。∇恢恢∥広く大きいさ ま。疎∥目が粗いこと。 出老子ろうし 類義 天の網。天道様 てんと うさま は見通し。眼 まな こ は 天を走る。 英語God stays long but strikes at last. 神は長い間じっと待っておられるが最後に はむちを打たれる」 用例一見よ、悪業あくの天罰てんぱつを」と富士男 ふじはいった。一同はいまさらながら、天網恢々 疎にして漏らさずという古言を味わった。こ れで悪漢は全部ほろんだので、一同は安堵あん ど の思いをなした。〈佐藤紅緑◆少年連盟〉 てんゆうしんじょ天佑神助 天や神のご加護。また、偶然に恵まれて助か ること。「天祐神助」とも書く。∇天佑∥天 の助け。神助∥神の助け。「佑」「助」ともに 助けの意で、類義の語を重ねて意味を強めて いる。 用例しかし、これを天祐神助、祖神の導き、 と云いうのかも知れんな。旧正月に来なくて 幸せでした。妙な偶然があるものだ。〈坂口 安吾◆安吾の新日本地理〉 天を仰いで唾する♩天に唾す451 てんうらひととが ろんご 天を恨みず人を咎めず 出論語 どんな不運に遭っても運命を恨まず、社会や 他人をとがめず、安らかにわが身を修め心を 養うべきであるということ。「天を怨うみず 人を尤とがめず」とも書く。 補説出典には、このあとに「下学かがして上 達す。我を知る者は其それ天か(身近な生活の 中で着実に学んで、高遠な真理に到達しよう。 私を理解してくれるのは、人ではなく天であ ろうか」とある。 天を指して魚を射る 出 説苑 手段・方法を誤ると、目的を達成することは できないというたとえ。また、見当違いの努 力をしているために、すべてむだに終わるこ と。天の方向に矢を射て魚をとろうとすると いうことから。 補説出典には「其その人に非あらずして功有 らんと欲するは、鬢たとえば其れ夏至の日にし て夜の長きを欲し、魚を射るに天を指して之 これを発して当てんと欲するが若こときなり(そ の任務にふさわしくない人物なのに、功績を あげることを期待するのは、夏至の日に夜が 長くなることを望んだり、魚を得ようとして、 天に向かって矢を放つようなものだ」とあ る。 類義木に縁よりて魚を求む。 怒蛙に式す 勇士を尊敬して、士気を奮い立たせるたとえ。 また、ほめるだけで、その人の生命を捨てさ せることができるというたとえ。「越王 おう 怒 蛙に式す」ともいう。▷怒蛙‖敵を見て腹を ふくらませている蛙 かえ。 式す‖車の前の横木 に手をかけて礼をする。 出韓非子かんびし <455> 補説出典には出いでて怒鼃どあ(Ⅱ怒蛙)を 見て、乃 すな ち之これが為ために式す」とある。 故事)中国、春秋時代、越王句践は宿敵の 呉を討うとうとして、人びとが勇んで命を投 げ出してくれることを期待していた。ある日 外出したとき、路上で怒って向かってくる蛙 を見て車の上から敬礼した。家来がわけを聞 くと、「あれには勇気があるからだ」と王は 言った。これを耳にした家来たちの中から、 自分の首を王に献上したいと願い出た者が、 その年だけで十余人あったという故事によ る。 こえ とこえ 問い声よければいらえ声よい こちらの出方次第で相手の態度や気持ちはど うにでも変わるということ。問いかける声が よければ、相手の答え方も自然によくなると いう意から。 といた戸板に豆まめ 早口でよどみなくよくしゃべることのたと え。物事が順調に進展することのたとえ。戸 板の上の豆は、ちょっと傾けるとよく転がる ことから。また、戸板の上の豆は転がって扱 いにくいことから、思うようにいかないこと のたとえ。 類義立て板に水。竹に油。 というや 問屋の只今 届けてこないことから。∇問屋=「とんや」 の古い言い方。 口先だけで実行が伴わないことのたとえ。問 屋は注文すると口ぐせで「ただいまお届けし ます」と調子のよい返事をするが、なかなか といごえーとうかの 類義紺屋この明後日あさOって鍛冶屋の明晩。 東海を踏みて死す 世の中のことを憤慨して死ぬこと。 △東海 渤海湾 ばっか、 または東シナ海。 故事)中国の戦国時代、高節の人として知ら れた斉の魯仲連ろちゅが、無道の世を憤って言ったことば。「秦しは礼儀も知らず、敵兵の首 の数を尊び、民を捕虜同様に扱う。そういう 非道の王が自分勝手に天子となり、政まつり 誤って行うならば、私にはとても耐えられない。東海を踏みて死するあるのみ(東海には いって死んだほうがましだ)と。 頭角を見す 出韓愈柳子厚墓誌銘 多くの人の中で、すぐれた才能や学識が目 立ってくること。「見す」は「現す」とも書く。 ∇頭角∥頭の先。 類義頭を現す。頭を擡もたげる。 用例曹操 そう そう 以来、久しく一文官として侍側 するに止とまっていた仲達が、嶄然ぜん、その 頭角をあらわして来たことなども、まさに時 代の一新を物語っているものであろう。吉 川英治◆三国志 出韓愈ー詩しかんゆし 灯火親しむべし 読書に適したよい時節。秋になると涼しくな り、夜も長くなるので、灯火の下で読書する のに最適であることをいう。 補説 詩の題名は『符書を城南に読む』。「時 秋にして積雨霽はれ、新涼郊墟こうに入いる。灯 火稍やや親しむべく、簡編かん巻舒かんじょすべし(今 や時候は秋で、長い雨がはれて、新涼の気が 城外の村に入り込み、灯火にもようやく親し めるようになったので、書物をひもとくこと ができる)とある。韓愈が、長安の城南に いる息子の符に与えた長い詩の一節。 出太平御覧 欲の深い人が、なるべく多くの利益を得よう とすることのたとえ。二つのよいことを一時 に得ようとすることから、虫がよすぎること のたとえ。「東家に食らい西家に宿らん」「東 家に食らい西家に眠らん」ともいう。 故事 中国、春秋戰国時代、斉の国のある美 女が二つの家から同時に結婚を申し込まれ た。東家は富裕であるが醜男 ぶお とこ であり、西家 は貧乏だが美男であった。家の者が娘にどち らに嫁ぎたいのかたずねると、昼は東家の富 豪に寄食して夜は西家の美男の所にいたいと 答えたという故事による。『太平御覧』に引 かれた『風俗通義』の話。 とうか東家の丘きゅう 出二国志さんごくし 身近にいる者の真価は、なかなか知ることができないというたとえ。人を見る目のないことのたとえ。孔子の西隣に住んでいた人が、孔子が聖人であるのを知らずに、いつも「東家の丘」と呼んでいたという故事による。 <456> とうがのーとうざい 東家=東隣の家。丘=孔子の名。 冬瓜の花の百一つ 数ばかり多くて、実際の役に立つものが少ないことのたとえ。また、たくさんあるが本物はほとんどないこと。冬瓜の花はむだ花が多く、実を結ぶのはその中のごくわずかであることから。「冬瓜の花の百一」「冬瓜の花で百一つ」ともいう。△冬瓜=とうがん。つる性の野菜。 堂が歪んで経が読めぬ ある。 自分の怠慢や失敗、落ち度などを他のことに かこつけて言い訳するためとえ。また、もった いばかりつけて実行が伴わないたとえ。上手 に経が読めないのは、仏堂が傾いて落ち着い て座っていられないからだと言い訳する意か ら。 類義 寺が曲がってお経が読めぬ。地が傾い て舞まいが舞われぬ。 同気相求む 同じような性質をもつ者は、互いに求め合って自然に集まるものだということ。 出易経えききよう 補説出典には「同声相応じ、同気相求む。 水は湿 うる お えるに流れ、火は燥かわけるに就く。 雲は竜に従い、風は虎に従う(同じ音に調律 した弦は互いに共鳴し、気を同じくするもの は、互いに感応し引き合うものである。水は 地面の湿った部分へ早く流れてゆき、火は乾 燥したものにまず燃えつく。竜がうなれば雲 がわき起こり、虎がほえれば風が吹く」と 類義同気相和す。類は友を以もって集まる。 類は友を呼ぶ。 英語Like to like.「類は類へと寄っていく」 どうぐやめきしょうばい 道具屋は目が利いては商売に ならぬ 道具屋は、なまじ目が利いていては、いいか げんなことが言えないのでうまいもうけもで きない。値打ちがよくわからずに安く買い、 ほかへ高値で売るので利益があがるというこ と。見込み違いをしたときの言い訳や、買い 値を安くするときの口実にいうことば。▶道 具屋=古道具や骨董 とうを扱う商人。 とうげん 桃源 武陵桃源 586 とうけんが陶犬瓦鶏けい 出金楼子 形ばかりで役に立たないことのたとえ。また、無用なもののたとえ。陶製の犬は夜の番をする守りにはならないし、素焼きの鶏は夜明けを告げる役目を果たすことができないということから。 出韓愈ー進学解 どうこういきょく同工異曲 音楽や詩文などで、その技量が同じでも、味 わいや趣はさまざまであること。転じて、見 た目は異なるが、内容は似たりよったりであ ること。「異曲同工」ともいう。∇工∥巧み さ。技量。 注意 工を巧と書き誤らない。 類義 大同小異。 用例この物語からわれわれは容易に「イ オーヌイチ」(一八九八)という晩年に近い作 品を思い出すだろう。これも令嬢と田舎医者 の物語である。令嬢がピアノを弾くのも両者 を通じて同じだ。医者の精神的堕落も同じで ある。ただ片恋の方向が、まず医者から令嬢 へ、やがて令嬢から医者へと、イスカの嘴はし になっているだけで、最後に病身になった令 嬢が母と二人で静養に出かけるところも同工 異曲といえる。〈神西清◆チェーホフ序説〉 とうこ董狐の筆ふで 出春秋左氏伝 権勢を恐れず真実の歴史を書くこと。▷董狐 中国、春秋時代、晋しんの史官。 故事 晋の霊公は、暴君であった。諫言 げん した大臣の趙盾 ちょう じゅん を殺そうとした。趙盾が国 境まで逃げたとき、趙穿 ちょう せん が霊公を殺した という知らせがあり引き返した。史官の董狐 はこれを「趙盾、其その君を弑しす(殺した)」 と記録した。趙盾が事の相違をとがめると董 狐は大臣の地位にありながら亡命をはかり、 もどっても賊臣となる趙穿を討たない。責任 は大臣にある」と答えた。 東西南北の人 出礼記らいき 住居が定まらず諸国をさすらい歩く人。また 各地から集まってきた人のこと。国家のため に東奔西走する人のたとえにもいう。孔子が 自分自身を指して言ったことば。 東西を弁ぜず 西も東も分からぬ 495 <457> 唐紙唐紙仮名で書け とうしからかみかなか どうじっろん 漢字で書いたとき、その読み方で意味が違ってくるものは、誤解を招かないよう仮名で書いたほうがよい。「唐紙」と書いたのでは、「とうし」なのか「からかみ」なのかわからないことから。△唐紙とう∥中国から輸入した紙。書画用や表装に使われる。唐紙かみ∥唐紙とうを模造した国産紙。また、その紙を張った襖ふす(紙ぶすま)をいう。 同日の論にあらず 対義 和して同ぜず。 出史記 差が大きすぎて比較にならないこと。あまり に差がありすぎるものを、同じ日に論じるこ とはできないという意。昔、中国では論功行 賞などを行うとき、相手の身分の差・内容の 程度の差などにより、日をかえて行っていた ことから。「日を同じくして論ぜず」「同日の 談にあらず」ともいう。 補説出典には「日を同じくして論ぜず」と 出史記しき 補説 出典には 日を同じくして論ぜず ある。 同じて和せず すぐに他人の意見に同調するが、心から親しむことはない。つまらない人たちの交際をいう。「同ずれども和せず」ともいう。▷同じる‖見境なく他に同調する。和‖和合、調和。補説出典には「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず(君子は人と調和するが主体性を失うことはない。小人は付和雷同するが人と協力し合うようなことはない)」とある。君子と小人の差異をいった孔子のことば。 とうしかーとうしん 出 ろんご 論語 とうじふぼなかふぼはじ 冬至冬中冬初め 冬至は、暦の上では冬の真ん中にあたるが、 実際には寒さの厳しい冬の始まりであるということ。 とうじゃくひとおそ たたかすずめひとおそ 闘雀人を恐れず闘う雀人を恐れず 399 出史記しき とうしゅいとんとみ 陶朱猗頓の富 巨万の富のたとえ。また、大富豪のたとえ。 「猗頓の富」ともいう。△陶朱・猗頓∥とも に有名な財産家の名。 故事)中国、春秋時代の越王句践 はんは、王を助けて呉を滅ぼした後、職を辞 して斉の国へ行き、大金持ちになり、宰相の 位に上った。そこでも職を辞し、財産をすべ て人々に施し、陶の地に行き陶朱公 のり、大金持ちになった。魯の猗頓が訪れ て財をなす法を尋ねると、牛や馬や羊を飼う ことなどを教えられ、猗氏いしの地で飼育する と、十年で王公に並ぶような富をもつように なったという。 出孫子そんし 同舟相救う 利害を同じくする者は、危急の場合にのぞむ と、ふだんは敵同士や見ず知らずの間柄でも、 互いに助け合うものだということ。同じ舟に 乗り合わせていれば、危険が迫ったときは互 いに力を合わせて助け合うということから。 ↓ 呉越同舟 ごえつど うしゅう 241 同じ立場にありながら、目標や考えが違うこ とのたとえ。一つの寝床に共に寝ていても、 別々の夢を見ているという意から。「同床各 おの夢む」ともいう。 出陳亮ー乙巳春答二朱元晦秘書一書 英語 One thing thinks the bear, and another he that leads him. [熊の思って熊を引く者の思いは別である] 灯心で鐘を撞く 絶対にできないことのたとえ。細くやわらか い灯心で鐘をつこうとする意から。▷灯心∥ ランプなどに火をつけるための芯しん。 類義 灯心で竹の根を掘る。灯心で首をくく る。灯心で須弥山 しゅみ せん を引き寄せる。 灯心で須弥山を引き寄せる 不可能なことのたとえ。とうてい力が及ばな いことのたとえ。「灯心で磐石 ばんじ」ともいう。 ▶灯心ニランプなどに火をつけるための芯 しん。 須弥山仏教で、世界の中心にあるとい う高山の名。 類義 灯心で鐘を撞っく。灯心で竹の根を掘る。灯心で首をくくる。 灯心で竹の根を掘るとうしんたけねほ 一生懸命やっても、とてもできないこと。苦 労しても効果が上がらないことのたとえ。や わらかい灯心で、土の中に張った固い竹の根 <458> とうしんーとうどう を掘るということから。「灯心で根笹 ねざ さ を掘 る」「灯心で楠くすの根を掘る」ともいう。 灯心ニランプなどに火をつけるための芯 しん。 類義灯心で鐘を撞っく。灯心で須弥山 しゅみ せん を 引き寄せる。灯心で首をくくる。 とうしん 灯心に釣り鐘がね 比較にならないことのたとえ。また、とても 釣り合わないたとえ。∇灯心ニランプなどに 火をつけるための芯し。 類義提灯ちょうに釣り鐘。 とうじん唐人の寝言 さっぱりわけのわからないことばのたとえ。 また、筋の通らないことをくどくど言うこと。 ただでさえわかりにくい中国語が、寝言では いっそうわからないということ。▶唐人‖ 昔、中国人を指した語。 ようしんすくあぶらおお 灯心を少なくして油を多くせ よ 物事は根本が大切であるというたとえ。明る さを持続させるには灯心を長くしてもだめ で、大事なのは油をつぎ足していくことだと いうことから。▷灯心‖ランプなどに火をつ けるための芯しん。 すると風俗や習慣を異にするようになるという意から。教育や環境の重要性をいう語。△俗Ⅱ風習・習慣。 人の性質は本来同じものであるが、環境や教 育の違いによって変わるということ。赤子の ときの泣き声はだれでも変わりないが、成長 注意「声」を「性」と書き誤らない。 どうせいいぞく同声異俗 出荀子じゅんし 同じ姓の者とは結婚しないということ。中国 の昔の習慣。「同姓不婚」ともいう。 補説出典には「妻を取めとるに同姓を取らず」 とある。 同姓娶らず 出礼記らいき とうせんかろ 冬扇夏炉 かろとうせん 夏炉冬扇 159 とうぞくさんぶりぬすびとさんぶり 盗賊にも三分の理 盗人にも三分の理 盗賊にも仁義 じんぎ ぬすびと じんぎ 盗人にも仁義 504 灯台下暗し 手近なことはかえってわからず、気がつかないものであるということ。燭台しょくは周囲を明るく照らすが、その真下は影となって暗いことから。▶灯台‖油の入った皿に芯しを浸して火をともす昔の燭台。 類義近くて見えぬは睫 まつ。 提灯 ちょう ちん 持ち足 下暗し。 英語 You must go into the country to hear what news at London. [田舎に行かないとロンドンの新しいニュースを耳にすることはできない] 用例そこで、大奥では人手を分けて江戸中 を探し求めた。ところが、灯台下暗しで、鍋 島肥前守 ひぜん のかみ 斉正 なり さだ の夫人盛姫つまり将軍家 定の叔母が、七面鳥を飼っているのを、家来 の誰かが聞き知って言上した。〈佐藤垢石◆ 「七面鳥」と「忘れ褌」 出論語ろんご 学問や知識の理解がしっかりと自分のものになっていないこと。また、いいかげんな受け売り話をすること。道で聞きかじったことを、すぐにまた同じ道で別の人に話し伝えるという意から。△塗‖道。道路のこと。 補説孔子のことば「道に聴きて塗みちに説く は、徳を之これ棄すつるなり(道ばたで聞いたこ とを、またすぐ道ばたで人にしゃべる、すな わち自分の言動に責任を持たないことは、身 につけるべきはずの徳を捨てるようなもので ある」から。 尊い寺は門から見ゆる 尊い寺は門か ら 401 東道の主 出春秋左氏伝 道案内をする者。また、主人となって来客を 案内し、世話する人。「東道の主人」ともいう。 東方に行ったときの道案内役の意。 故事春秋時代鄭いの国が秦しと晋しとの 両国に包囲されたとき、鄭の老臣燭之武しよく が、秦の王を滅亡寸前の鄭を滅ぼして、晋の 勢力を強めるよりも、残して、秦が東方へ行 くときの「東道の主」として案内や物資の調 達などの世話をさせたほうが、秦にとって得 策だろうと説得した。秦は納得して軍を引き <459> あげた。 堂に入る 出論語ろんご 学問や技芸などが非常にすぐれている。すっ かり身についていることのたとえ。『論語』 にある「堂に升のほりて室に入らず」から出 たことば。↓堂に升りて室に入らず459 用例その声は、もし、下北半島の廃港の町、 大湊 おおみ なと の喜楽町を歩いた男だったら、ふっ と、立ち止って思いだした声かもしれない。 いや、それほど、八重のキャッチのよびこみ は堂に入っていたといえる。〈水上勉◆飢餓 海峡〉 問うに落ちず語るに落ちる 人から聞かれたときは、用心して秘密を漏ら さないが、自分から話をしているときは、つ いうっかり話してしまうものだということ。 「問うには落ちいで語るに落つる」「言うに落 ちず語るに落ちる」「語るに落ちる」ともいう。 ∇落ちる∥自白する。 英語 The tongue is ever turning to the aching tooth. 舌は常に痛む歯の所に行く 用例 それ、見ろ。馬鹿野郎」と、半七は 叱るように云った。「問うに落ちず、語るに 落ちるとはそのことだぞ」「なぜでございま す」と、藤次郎は不思議そうに相手の顔を見 あげた。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 とうかてもたらあだへいかとうかて 盗に糧を齎す♡寇に兵を藉し、盗に糧 もたら を齎す20 を薦す20 どうにいーとうひと 堂に升りて室に入らず 学問・技量が相当高い水準に達してはいるが、 奥義をきわめるまでには至っていない。表座 敷には入っているが、まだ奥の間には入って いないという意から。∇堂∥表座敷。室∥奥 の間。「堂に升る」は上達して一定の水準に 達することのたとえ。また、「室に入る」は さらに進んでより深い境地まで達することの たとえ。 故事孔子が、弟子の由ゆう(子路しろ)が瑟しっ(大型の琴)を爪弾くようすを見て「どうも子路の弾く瑟は私の門下で奏でるようなものではない」と言ったので、それを聞いた門人たちは子路を敬わなくなった。そこで孔子は「由や堂に升れり、未いまだ室に入らざるなり(子路の技量は十分にすぐれている。表座敷には上がれたが、奥の間にはまだ入ることができないというだけのこと」と評して子路をかばい、門人たちの不見識に注意をうながした。 といったんはじとまつだいはじ 問うは一旦の恥、問わぬは末代の恥 転転くは一時の恥、聞かぬは一生の はじ 172 動は敬に若くは莫し 出国語 行動・振る舞いは、丁寧で慎み深いのがもっ ともよいということ。▶動∥起居・動作・行 動。 塔は下から組め 物事はまず基礎・土台をしっかり固めてから すべきであるというたとえ。高い塔を建てる には、強い土台が必要であるように、何事も 基礎が大切であるという教え。 盗は主人を憎む 出春秋左氏伝 自分の悪いことは棚に上げて、逆恨みするこ とのたとえ。盗人は、自分が忍び込もうとす る家の戸締りがあまり厳重だと、その家の主 人を憎むという意から。 補説出典にはこのあとに民は其その上 かみを悪にくむ民衆は自分たちを縛り付けよう とする上の人間、役人たちをきらう」とある。 類義泥棒が縄を恨む。盗人の逆さか恨み。 どうびあいねたどうぎようあいあだ 同美相妒み同業相仇す 出通俗編つうぞくへん 自分が美しいと思っている者は、同程度の美 しさの人に対してはねたみ合うものである。 また、同業者は互いに意識し合い、排斥し合 うものであるということ。 とうひっ刀筆の吏り 出戦国策 文書を書くだけの小役人。書記。▷刀=紙が 普及する前の簡かん(竹や木の札)の誤字を削る のに用いた小刀。 とひとけいずものがたり 問う人もなき系図物語 何の役にも立たないことのたとえ。聞く人も いないのに、家柄の自慢を一人でしているこ と。▶系図=家系を記したもの。ここでは家 柄。 <460> 類義乞食の系図話。 どうびようあいあわれ 同病相憐む 同じ悩みや苦しみを持つ者どうしは、なぐさ め合い助け合うものだということ。同じ病気 で苦しんでいる者どうしは、その苦痛が理解 できるので互いに同情し合うということか ら。 出呉越春秋 剝く。 用例そして悪い事をしていなくても、人か ら悪い事をしていると思われはしないかと思 うと同時に、実際悪い事をしていると同じ心 持ちになるというたちの男かもしれないと 思った。そして同病相哀れむ心から私は急い でそこを通り過ぎねばならなかった。〈寺田 寅彦◆写生紀行〉 とうふ 豆腐で歯を痛める あるはずがないことのたとえ とうふかすがい 豆腐に鋭 手ごたえがなく、少しも効き目がないこと。豆腐に鋤を打ち込んでも何の手ごたえもないことから。いろはがるた(京都)の一。▷鋤‖材木と材木をつなぎとめるコの字形の大きな釘くき。 豆腐も煮れば締まる 類義糠ぬかに釘。暖簾のれに腕押し。石に灸 きゅう しまりのないぼうっとした人でも、苦労を重 ねるとしっかりしてくるというたとえ。 豆腐の皮を剥く ぜいたくになれた者が、さらにぜいたくをす るたとえ。 類義 栄耀 えよ の餅の皮。 栄華の上の餅の皮を やり方が間違っているため、さっぱり効果が 上がらないことのたとえ。弱い灯明の火でい くら尻をあぶっても暖まることはできないこ とから。「灯明の火で尻を焙る」ともいう。 ∇灯明∥神仙に供えるともしび。 灯明で尻を焙る 類義月夜に背中炙あぶる。遠火で手を炙る。 とうめっひかりま 灯滅せんとして光を増す 出 仏説法滅尽経 病人が死の直前に少し容態がよくなること。 また、滅びる直前、一時的に勢いが盛んにな ることのたとえ。ともしびが燃えつきる前 に、一瞬明るさが増すことから。「灯火まさ に滅せんとしてさらに光る」ともいう。 盗も五女の門に過らず とのたとえ。道楽息子には親が意見しても聞 かないのだから、妹の意見など聞くはずがな いということから。 盗人も、女子が五人もいる家はねらわない。 女子が多いと、嫁に行くまでに多くの費用が かかり、その家が貧しくなるということ。 出後漢書ごかんじょ どうらくむすこいもうといけん 道楽息子に妹の意見 まったく効果のないこと、手ごたえのないこ どうり むりとおむりとお 道理そこのけ無理が通る無理が通れ どうりひ 道理に向かう刃なし どんな無法者も正しい道理には勝てないこと のたとえ。「道理に向かう太刀尖 たち さき なし」と もいう。 類義道理には当てる刃 の刃金も鈍なまる 道理の前に非理はなし。 対義 無理が通れば道理引っ込む。道理そこ のけ無理が通る。 英語 Reason rules all things. [道理は万 事を支配する] どうりひゃっぺん 道理百遍、義理一遍 人の心を動かすには、物の道理を百回説いて 聞かせるよりも、一度でも義理を尽くして相 手を感動させるほうがよいということ。 道理道を行く 正しいことは、結局は勝つということ。一時 的に悪が栄えるように見えても、最後には正 しい道理が世の中に通ってゆくということ。 とうりものい 桃李言わざれども下自ずから けいな 蹊を成す 出史記 人格者の周りには、自分が招かなくても自然 <461> と人が集まることのたとえ。桃や李 すも も の木の 下には、美しい花やおいしい実にひかれて人 が集まり、自然に小道ができるという意から。 「蹊」は「みち」「こみち」とも読む。「桃李 言いわず、下自ずから蹊を成す」「桃李言いわざ れども下自ずから蹊を成す」「成蹊」ともいう。 英語 Good wine needs no bush.「よい酒 は(自ずと売れるので)看板を必要としない」 桃李門に満つ 松子門レン 門下生に秀才・俊才が多くいるたとえ。△桃 李Ⅱ桃と李 のこと。秀逸な人材のたとえ。 出資治通鑑 登竜門 楽聖物語 出後漢書ごかんじょ 立身出世への難しい関門。大切な試験や審査 などの関門。▷竜門‖黄河の上流にある急 流。鯉こいがこの急流を登ることができると、 化して竜になるという伝説がある。 補説出典には「李膺りは自身で見識を高く 持ち、世間から高い評判を得ていた。当時の 人士の中で、李膺に近づくことを許された者 は「竜門を登った」といわれた」とある。 注意「竜門に登る(出世の糸口をつかむ)」 という意味であって、「登竜の門」と解する のは誤り。 用例しかし、若いフランクはその両親の望 みを裏切って作曲に没頭し、作曲界の登竜門 とも言うべき、ローマ大賞を狙って努力を続 けたために、父親の激しい反対を受けて、作 曲も学業も断念し、故郷のベルギーに帰らな ければならなかった。それは、彼が二十歳の 年、一八四二年のことである。〈野村胡堂◆ とうりもーとおきお 同類相求む 似かよった性質をもつものは、互いに求め 合って集まるということ。「同類相従う」「同 類相集まる」ともいう。 出史記しき 補説出典には「同明相照らし(同じ種類の 光明は互いに照らし合い)、同類相求む。雲 は竜に従い、風は虎に従う(竜がうなれば雲 がわき起こり、虎が吠ほえれば風が吹く)。聖 人作おこりて万物観あらる(あきらかになる)と ある。 類義類は友を以て集まる。 用例同類相求むとは昔むかしからある語だ そうだがその通り、餅屋は餅屋、猫は猫で、 猫の事ならやはり猫でなくては分らぬ。いく ら人間が発達したってこればかりは駄目であ る。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 とうろうせみと 蟻蟬を取らんと欲して黄 じゃくそかたわあし 雀の其の傍らに在るを知らず 出説苑 目先の利に心を奪われて自分の身に危険が 迫っていることに気づかないこと。また、人 をねらう身は、また人からねらわれる身でも あるというたとえ。蟬を取ろうとしているか まきりは、自分が雀 すず め にねらわれていること に気づいていないということから。「蟬螂蟬 を博うつ」「蟬螂蟬を窺 うか う」ともいう。△蟬 螂しかまきり。 韓詩外伝かんしがいでん 自分の力の弱さを顧みずに、強敵に立ち向か うことのたとえ。かまきりが、どんな相手に も斧のような前足をふりあげて立ち向かって いくようすから。「蟷螂が斧を以もって隆車 に向かう」ともいう。△蟷螂∥かまきり。 故事)中国、斉の荘公が狩りに出かけたとき、 かまきりが斧のような前足をあげて、車の輪 を打とうとした。御者に虫の名を尋ねると、 御者は「これは蟷螂という虫で、進むことだ け知っており退くことを知りません。自分の 力のほどもわきまえず、どんな相手にでも向 かっていきます」と答えた。荘公は「もし人 間であったなら、必ず天下の勇者になっただ ろうに」と言って車を遠回りさせ、かまきり をよけて進ませた。『荘子じう』にも同様の話 がある。 類義小男の腕立て泥鱠 どじ の地団駄 じだ。 鱓 どじ んだ ごま め の歯軋 はぎ り。 とお しんせき ちか たにん とお しんるい 遠い親戚より近くの他人 遠くの親類 ちか たにん より近くの他人 462 とおか きく むいか あやめ むいか あやめ 十日の菊、六日の菖蒲 とおか きく 六日の菖蒲、 十日の菊 628 とおおもんばかなものかならちかうれ 遠き慮り無き者は、必ず近き憂いあ えんりよ きんゆう り♩遠慮なければ近憂あり106 とおおやこちかとなりとおしんるい 遠き親子より近き隣遠くの親類より ちかたにん 近くの他人462 <462> とおきにーとおでし とお 遠きに行くに必ず邇きよりす 出中庸ちゅうよう 物事を行うには、手近なところから順序をふ んで、着実に進めなければならないという教 え。遠くに行くにも、まず一歩から踏み出し て歩き始めるということから。 類義沙弥 から長老にはなれぬ。千里の行 も足下 より始まる。高きに登るに卑ひくき よりす。 とお遠きは花の香 遠くにあるものはすばらしく感じられるが、 身近なものは軽視してしまいがちだというこ と。遠くから漂ってくるにおいは、花の香の ようによく思われるということから。 類義遠きは花の香、近きは糞くその香。遠く の坊さん有り難い。所の神様有難からず。耳 を貴たっぴ目を賤いやしむ。家鶏を賤しみて野雉 やちを愛す。 遠きを知りて近きを知らず 行いながら、自分は腸 わた を裂かれて死んだ。 ともに、遠大なこと(国家の将来)は知り得た が、近くのこと(自分の身の危険)は知ること ができなかったと出典にある。 他人のことはよくわかるが、自分のこととな るとわからないということ。また、遠大なこ とについてはすぐれた意見をもっているが、 身近なことはわからないということ。 出淮南子えなんじ 補説 中国の春秋時代、越の大夫種 句践 せん を助けて強国にしたが、讒言 げん によって死んだ。周の重臣の萇弘 ちょう こう もよい政治を とおききもとちかとうりん 遠く騏驥を求めて近く東隣に あし 在るを知らず 出晋書しんじょ 補説 晋 の南宮 なんき ゆう の長官成藻 せい そう が、強引 に面会を求めてきた馮素弗 ひよう そふつ と数日語り 合ってみてはじめて豪快な人物であることを 知り、喜んで言ったことば。 すぐれた人物がごく身近にいるのに気づかな いことのたとえ。遠くまで出かけて行って名 馬を探し求め、すぐ近くにいることに気がつ かないということから。∇騏驥=一日に千里 走る名馬。東隣=東どなり。すぐとなり。 遠くて近きは男女の中 とお だんじょ なか 男と女は、遠く離れているように見えても、 意外と結びつきやすいものであるというこ と。「遠くて近きは男女の間」ともいう。「中」 は「仲」とも書く。 南国太平記 類義遠くて近きは恋の道、近くて遠きは田 舎の道。 用例「愚ぐ按あんずるに諺ことに日いわく、遠くて 近きは男女の仲、近くて遠いは、嫁舅よめしの仲、 遠くて遠いが唐、天竺てん、近うて近いが、目、 鼻、口」南玉が真面目な顔をして、大声に、 妙なことをいい出したので、部屋の中は、忍 び笑いでいっぱいになった。二三人の侍女 は、脇腹を押えて苦しがった。〈直木三十五◆ とお 遠くなれば薄くなる 去る者は日日に うと 275 疎し とお 遠くの火事より背中の灸 遠くで起こった大きな出来事より、身近で起 こった小さな出来事のほうが切迫して感じら れるというたとえ。遠くに見える火事よりも 背中にすえられる灸のほうが熱いということ から。 とお しんるい ちか た 遠くの親類より近くの他 離れた所に住んでいてつき合いのない親戚よ りも、近くに住んでいて日常つき合っている 他人のほうが頼りになるということ。「遠い 親戚より近くの他人」「遠い一家がより近い 他人」ともいう。 類義遠き親子より近き隣。遠水近火を救わ ず。手遠い者はまさかの用にたため。遠水渴 かつを救わず。 とお しんどうじゅうご さいしはたちす 十で神童十五で才子二十過 ただひと ぎれば只の人 幼いころは並外れて見えた子も、成長するにつれてごくふつうの人間になってしまうということ。十歳のころは神童といわれた人が十五歳になると才子程度になり、二十歳を過ぎると平凡な人になってしまうという意から。「十で神童十五で才子二十過ぎては只の人」ともいう。 <463> 類義 六歳の神童十六歳の才子二十歳 はた ち の凡 英語 A man at five may be a fool at fifteen.五歳で大人並みの子は十五では馬 鹿ということもあり得る 用例)ヴォルテエルが子供の時は神童だった。処るとこが、或ぁる人が、「十で神童、十五で才子、二十過ぎれば並の人、ということもあるから、子供の時に悧巧りでも大人になって馬鹿にならないとは限らない。だから神童と云いわれるのも考えものだ」と云った。すると、それを聞いたヴォルテエルが、その人の顔を眺めながら、「おじさんは子供の時に、さぞ悧巧だったでしょうね」と云ったということがある。〈芥川龍之介◆オー巧亦不二〉とおこととおい とおめやまごかさうちよめとおめかさうち 遠目山越し笠の内夜目遠目笠の内674 十の事は十に言え 物事は、正確に、順序立てて、過不足なく話 さなければ伝わらないという教え。十のこと を話すときには、十のことを落ちなく正確に 話せということ。 十榛の九つ空 物事の当たり外れは、外れのほうが圧倒的に 多いというたとえ。榛の実は十のうち九つは 空であるということから。マ榛山野に自生 するカバノキ科の落葉低木。実は食べられ る。 遠火で手を炙る月夜に背中炙る 433 遠道は近道急がば回れ47 とかく浮世は色と酒 とおのこーとぎちん この世に楽しいことはいろいろあるが、なん といっても色恋と酒に尽きるということ。 とかく近所に事なかれ ともかく、自分の住む近辺は平穏無事である ことが望ましいということ。 研がずに鍛冶を恨むな 何もしないで不遇を嘆くなということ。切れ ない刃物を研いでみることもしないで、作っ た鍛冶屋を恨んではいけないということか ら。 とかこれなら しかんじゅうさしでん 出春秋左氏伝 人の過失や罪を非難しながら、自分も同じ 過ちを犯すこと。▿効うまねる。 故事)中国の春秋時代、晋しの文侯ぶんが亡命から帰国して君主になり、今まで随従していた者たちに褒賞を与えた。臣たちは当然のように恩賞を受けたが、一緒に供をした介之推かいしは申し立てもせず何も受けなかった。そして「わが君が君主になれたのは、人の力ではない。天がその地位につけたのだ。彼らは天の功労を奪って己の力だと考えている。君も臣下の過ちに気づかず褒賞を与えている」と言った。母が「お前も恩賞を願い出ればよいのに」と言うと、「尤めて之に効う、罪又甚だし(誤りと知りつつそれに倣ならえば、罪 はさらに重くなります)」と言い、母を伴い 山に隠れ住んだ。 もう そん どか儲けすればどか損する 大儲けしたあとは、とかく大損することがあ るものだということ。 類義 俄 にわ か 長者は俄乞食 こじ。 怒気ある者も飄瓦は咎めず どきものひようがとが 怒気ある者も飄下 天災に対しては文句が言えないということ。 すぐに腹をたてる怒りっぽい人でも、風に吹 き飛ばされて落ちてきた瓦に腹を立てるわけ にはいかないという意から。▷飄瓦‖風に吹 き飛ばされた屋根瓦。 ときこと 時異なれば事異なり 出東方朔ー答客難ー 時がたち、世のありさまも変わってくれば、 それに対処する方法も違ってくるというこ と。 ときし 時知らぬ山伏は夜も頭巾 時と場合の判断もつかない、融通の利かない 者のたとえ。修行一筋に明け暮れる山伏は、 夜も頭巾をかぶったままでいることから。 類義時知らぬ山伏は寝ていて貝吹く。 とちんみなが研ぎ賃に身を流す 本末転倒のたとえ。刀の研ぎ賃に金をかけす ぎて、その支払いのために肝心の刀身を手離 すという意から。 <464> ときにあーときをえ 類義人参飲んで首くくる。 時に遇えば鼠も虎になる 才能のないつまらぬ者も、時流に乗れば、地 位を得て権勢を振るうようになることのたと え。 類義人盛んなるときは天に勝つ。用うれば 虎となり用いざれば鼠となる。時至れば蚯蚓 みみも竜となる。 ときしたがものなおひすくぼうじん 時に従う者は猶火を救い亡人 を追うがごとし 出国語 好機は失いやすいというたとえ。時機に乗ず るのは、あたかも火事を消しに走ったり、逃 げる者を追いかけたりするようなもので、一 刻を争うということから。∇亡人∥逃げて行 く者。 とき 斎にも非時にも外れる 何も得ることができないというたとえ。午前 の食事も午後の食事も食べ損なうという意か ら。▶斎∥寺の午前中の食事。非時∥午後に とる食事。 類義 時の将軍に従え。時の花を挿頭 かざ し にせ よ。 類義 虻蜂あぶはち取らず。 ときうじがみあいさつときうじがみ時の氏神♩挨拶は時の氏神1 とき だいかんひ 時の代官日の奉行 そのときそのときの権力者に従って身を処し ていくのが世渡りの上手な方法だというたと え。「時の大将日の奉行」ともいう。 時の花を挿頭にせよ 人は時流に逆らわず、そのときの権力者に 従って生きるのが無難だというたとえ。季節 季節に咲き誇る花を挿頭にせよという意か ら。△挿頭‖髪や冠などに挿す飾り。 類義 時の花をかざす。時の代官日の奉行。 ときようはなか 時の用には鼻を欠け 危急のときは手段など選んでいられないということ。緊急事態には、鼻を削ぎ落とすような手段をとってもよいということ。「時の用には鼻」「時の用には鼻を削ぐ」ともいう。 類義苦しい時は鼻をも削ぐ。 とき えがた 時は得難くして失い易し 出史記しき 好機はなかなか巡ってこないし、失いやすい ものであるから心せよという戒め。また、時 間というものは、二度とめぐってこないもの だから大事にしなければならないというこ と。 補説出典には、この前に「功は成し難くし て敗れ易く(功業は成し遂げにくく、失敗し やすい)」とある。 があるという意。 時は金なり 時間はかけがえのないものだから、無駄に過 ごすなということ。時間は金銭と同様の価値 補説英語のTime is money.から。 用例勤労人民にとって、時間の内容が、ど う詰められているか、ということは、ほんと うに深刻重大なことである。働くものにとっ て「時間は人間成長の箱である」けれども、 働かせるものにとっては「時は金なり」とい う矛盾した勤労の関係が存在していること が、今日のわたしたちの悲劇なのである。〈宮 本百合子◆いのちの使われかた〉 ときひとま 時人を待たず 歳月人を待たず 264 ときよじ世時節 そのときそのときのめぐり合わせ。その時代 その時代の世の中の風潮。▽時世=時勢・時 代。時節=時機・折・世の情勢。 ときよときよ え ところしたが え 時世時世の絵をかく ↓ 所に従う絵を かく 468 とき え いっしんきゅうしんてま 時を得た一針は九針の手間を はぶ 省く 事が起きた時にすぐ適切な処置をしておけ ば、あとあと大きな手間をかけずにすむということ。ほころびたとき、すぐに一針縫って おけば後で九針も縫う必要はなくなるということから。「適時の一針は九針の手間を省く」 ともいう。 補説西洋のことわざから。 類義今日の一針明日の十針とは。 <465> 英語 A stitch in time save nine. [その時の一針が九針を省く] ときえものさか時を得た者は昌んに、 う者は亡ぶ とき うしな時を失 出列子れっし 時の流れを巧みにとらえて、これに乗る者は 成功し、これを見過ごして乗りそこなう者は 失敗する。事の成否は、時世を敏感にとらえ 得るかどうかによって決まるということ。 どくがんりゅう 故事魯の施氏しに二人の息子があった。 学問好きの子は斉に仕官し、兵法好きの子は 楚に仕官してそれぞれ出世した。隣人の孟 氏もうにも同じく二人の息子があった。孟氏に 出世のこつを尋ねられた施氏はありのままを 答えた。そこで孟氏の息子の一人は秦しへ行 き学問で仕官することを願い出たが、仁義道 徳では滅亡するとして追放された。もう一人 の子は衛えいの国へ行き兵法で仕官したいと願 い出た。衛の侯は「わが国は弱小であり武力 に頼ったら滅亡する」として足切りの刑に処 して追放した。怒った孟氏の親子が施氏に抗 議すると、施氏は「時を得る者は栄え、時を 失う者は亡ぶ。やり方は同じであってもそれ は時世にあわなかったからだ」と答えた。 独眼竜 徳有る者は必ず言有り 徳のある人は、そのことばも必ず立派である ということ。 補説出典には、このあとに「言げん有る者は 必ずしも徳有らず(立派なことを口にする人 に、必ずしも徳があるとは限らない」とある。 ときをえーどくしょ 出五代史ごだいし 片目の英雄。また、片目で徳の高い人。中国 では、五代後唐 このよう の太祖李克用 りこく よう のこと。 日本では伊達政宗 だてま さむね の異名。 毒食わば皿まで 66 どくく く 毒を食らわば皿まで 466 どくしょさんとう読書二到 出 朱熹訓学斎規 読書に必要な、目でよく見(眼到)、口に出し て読み(口到)、心を集中して読む(心到)、の 三つの心得。△到=極限までいくこと。 補説出典には、このあとに「三到の中うち、 心到最も急なり(なかでも、心で理解するこ とがもっとも大切である)」とある。 注意 到を倒と書き誤らない。 どくしょさんよ読書二余 出三国志 勉強に適した三つの余暇のこと。一年のうち では冬(一年の余り)、一日のうちでは夜(一 日の余り)、そして雨降り(時の余り)。 故事)中国、魏の董遇というという学者に弟子 人りを申し込んだ者がいた。董遇は「必ず当 まさに先ず百遍読むべし、読書百遍にして義 自のずから見わる(一冊の本を百遍読み返し なさい。ひとりでに内容も理解できるように なる)と言った。その人が「そんなに何度 も読み返す時間などありません」と言ったの に対し董遇は「当に三余を以もってすべし三 余を利用しなさい)。三余とは、冬は歳とし 余り、夜は日の余り、陰雨(雨降り)は時の余 りなり」と答えた。 どくしょしょうゆう 出孟子もうし 書物を読んで、その中に書いてある事柄を通 して、昔の賢人を友人とすること。▷尚∥過 去にさかのぼる意。 補説出典には「天下のすぐれた人物を友達としても、なお満足できなければ、さらに昔にさかのぼって、古いの聖人や賢人を論じて友達とするものだ。古人の作った詩を吟じ書物を読んで、さらに古人の活動した時代をよく批判し研究していく、これがつまり尚友である」とある。 どくしょひゃっぺんぎおの あらわ 読書百遍義自ずから見る 出三国志さんごくし どんなに難しい書物も、繰り返し繰り返し読 んでいれば、意味は自然とわかるようになる。 「読書百遍意自ずから通ず」ともいう。中国 魏の学者董遇とうのことば。読書三余465 類義誦数 しよう すう 以 て之これ を貫く。 どくしょぼうよう読書亡羊 出荘子そうじ ほかのことに熱中していて、肝心な仕事を怠り失敗することのたとえ。読書に夢中になって、羊に逃げられたという次の故事から。 故事二人の召使が一緒に羊の番をしていて 羊を逃がしてしまった。問いただすと、一人 は読書をしていたといい、もう一人はばくち をしていたという。二人のしていたことに善 悪の違いはあるが、羊を逃がしたという点で <466> は同じ罪であったという故事から。 どくしよまんがんやぶ 読書万巻を破る 出杜甫詩 万巻もの書物を読み尽くすという意で、読書 の量が非常に多いことをいう。 補説詩の題名は『韋左丞丈いさじように贈おくり奉 たてる二十二韻』。杜甫が自分の少年時代を回 想した詩の一節で、「読書万巻を破り、筆を 下せば神しん有るが如ごとし文章を書けば、神 が手助けをしたようなすばらしい出来ばえ だった」とある。 とくあけんあ とくあけんおしき 徳に在りて険に在らず出史記 国家を安泰に保つのは君主の徳によって人民 を心から従わせることであり、地形の険しい 要害によるものではない。 故事)中国、魏の武侯 が西河(黄河の支流) を船で下る途中、兵法家の呉起ごきに向かって 「美なるかな、山河の固め、これ魏国の宝な り(見事なものだ、この険しい地形は強固な 要害になっている。これは魏の宝である)」 と言った。これに対して呉起が「徳に在りて 険に在らず」と答えたという。 とくしたがものさかとくさか 徳に順う者は昌え、徳に逆ら ものほろ う者は亡ぶ 出漢書 道徳に従って行動する者は必ず栄え、道徳に 逆らって行動する者は必ず滅びる。 どくくすり 毒にも薬にもならぬ あってもなくてもどうでもいいもの、いても いなくてもどうでもよい人のたとえ。飲んで 毒になるわけでもなく、さりとて薬としての 効き目もないということから。「毒にもなら ず薬にもならず」ともいう。 用例いろいろなものを読んで忘れ、また、 読んで忘れ、しょっちゅう、それを繰りかえ して、自分の身についたものは、その中の、 何十分の一にしかあたらない。僕はそんな気 がしている。がそれは当然らしい。中には、 毒になるものがあるし、また、毒にも薬にも ならない、なんにも、役立たないものもある。 〈黒島伝治◆愛読した本と作家から〉 類義沈香も焚たかず屁へもひらず。 徳は孤ならず必ず隣あり 出論語ろんご 徳のある人は、その徳を慕って集まってくる 人々がいるので、孤立することはない。孤高 の道を行く道徳者であるが、ほうぼうでよき 理解者を得た孔子のことば。単に「徳孤なら ず」ともいう。 毒薬変じて薬となる 害をなすものが一変して役立つものに変わる こと。有害なものも使い方によっては有益な ものに変わる意。「毒薬変じて甘露かんとなる」 ともいう。 類義 毒薬変じてよい薬。 とくりくちなべみみかべみみ 徳利に口あり鍋に耳あり↕壁に耳あり しようじめ 障子に目あり153 とくかたまかえ 櫝を買いて珠を還す出韓非子 外見の立派さだけに心をひかれ、中身の真価 に気がつかないたとえ。また、形式だけを取 り入れて、内容を捨て去ること。取捨選択が 適切でないこと。∇櫝∥ふた付きの箱。珠∥ 珠玉。宝石。 故事昔、中国、楚の人が、木蘭 もく ちん で作っ た箱を美しく飾り、中に宝石を入れて売って いた。その箱があまりにも美しかったので、 鄭いの人は箱だけを買って、中の宝石は返し たという。 類義 箱を得て珠を還す。 毒を食らわば皿まで 悪事に手を染めたからには、最後まで悪に徹 しようということ。また、始めたからには最 後までやり通そうという意でも用いる。毒を 食べてしまった以上は、同じ死ぬならその毒 を盛った皿までもなめてしまおうということ から。「毒食わば皿まで」「毒を食わば皿を舐 ねぶれ」ともいう。 類義 尾を踏まば頭まで。濡ぬれぬ先こそ露 をも厭いとえ。 英語 Steal the horse, and carry home the bridle.馬を盗んだら、手綱たつも持ち帰れ とくとそん 得を取るより損するな もうけることを考えるよりも、損をしないよ うに心掛けよという教え。商売の心得を説い たもの。 類義取り勘定より遣い勘定。 <467> とくと 得を取るより名を取れ 金をもうけるという実利よりも、名誉を得る ことを重んぜよという教え。「利を取るより 名を取れ」ともいう。 類義名を得て実じっを失う。 対義名を棄てて実を取る。 とくねぶ 犢を舐る♩舐犢の愛296 とくもっうらむくうらむく 徳を以て怨みに報ゆ♩怨みに報ゆるに とくもっ 徳を以てす94 毒をいて毒を制す どくもっどくせい 悪を除くために、別の悪を利用するたとえ。 毒に当たった病人の治療に、解毒のための他 の毒薬を用いるということから。 類義油を以て油煙を落とす。夷いを以て夷 を制す。邪を禁ずるに邪を以てす。火は火で 治まる。盗人 ぬす びと の番には盗人を使え。 英語 Like cures like. 類は類を治療する 用例 南支の広州に、三蛇会料理と言うのが ある。これは蝮 まむ、 はぶ、こぶらの三毒蛇を 生きながら皮を剥ぎとり、肉をそぎ身にして 細かく叩 たた き、鼎 かな え にかけた鍋のなかへ投ず る。鍋のなかには予 あら かじ め羹 あつ もの が沸 にえ たぎ つてい て、三蛇は互いに毒を以て毒を制し、その甘 膩 かん、 じ その肥爛 ひら ん まことに喩 たと うべからずと 言うのである。 佐藤垢石 ◆ ためき汁 と おな たにがわ みず お おな 解ければ同じ谷川の水 落ちれば同じ たにがわ みず 谷川の水 14 谷川の水114 とくをとーところか 都会であろうと片田舎であろうと、どこで暮 らしたところで人の一生に変わりはない。た だ一度の人生なら、自分の気に入った所に住 みたいものだということ。 類義蝦夷元で暮らすも一生、江戸で暮らす も一生。どこも日が照る雨が降る。 うま ほね どこの馬の骨かわからぬ 素性の知れない者をあざけっていうことば。 用例「それにあの迷亭とか、へべれけとか 云いう奴やは、まあ何てえ、頓狂 とんき よう な跳返 はねっ かえ りなんでしょう、伯父の牧山男爵だなん て、あんな顔に男爵の伯父なんざ、有るはず がないと思ったんですもの」「御前がどこの 馬の骨だか分らんものの言う事を真まに受け るのも悪い」「悪いって、あんまり人を馬鹿 にし過ぎるじゃありませんか」と大変残念そ うである。〈夏目漱石◆吾輩は猫である〉 どこの烏も黒い どこへ行ってみても、そんなに目新しいこと はないというたとえ。また、人間の本性はど この国でもたいして違わないというたとえ。 「どこの鳥も黒さは変わらぬ」ともいう。 類義どこの鶏も裸足はだ。 床の間の置き物とこまおもの 地位は高く偉そうに見えるが、実権をほとんど持たない人のたとえ。 どこ吹く風かぜ 他人の言葉や行動を、自分には無関係なもの と全く気にかけないようす。またそういうふ りをするようす。吹いてくる風が当たりもし ないようだということから。 類義知らぬ顔の半兵衛べえ 用例私はある底意をこめた眼でじーっと 真正面から見てやったが、彼はどこ吹く風と いったふうであった。〈島木健作◆黒猫〉 どこへ行っても甘草の流れる 川はない どこへ行っても、そうそううまい話などある わけはないというたとえ。▷甘草=ハギに似 た草で、根に甘味があり漢方薬に使われる。 ところか しなか 所変われば品変わる その土地土地により、風俗・習慣・言語など が違う。また、同じ物でも土地が違うと名称 や用途も変わるということ。 類義難波 なに の葦あしは伊勢の浜荻 はま○ おぎ 品川海 苔 しなが は伊豆の磯餅 いそ。 わのり もち 所変われば水変わる。 対義どこの烏 から す も黒い。 英語 Coats change with countries. 服は国とともに変わる So many countries, so many customs. 国の数だけ習慣がある ところか 所変われば水変わる 土地が違うと飲料水の質が違うから、他の土 <468> ところでーとしよう 地へ行ったら腹などこわさぬよう気をつけよ という教え。また、その土地により、それぞ れ風俗・習慣・言語などが違うということ。 類義所変われば品変わる。所変われば木の 葉も変わる。 所で吠えぬ犬はいない 内気で弱い者も自分の家の中では威張ってい るというたとえ。弱い犬でも飼われている家 のまわりでは吠えたてているところから。 「我わが門かどで吠えぬ犬なし」ともいう。 所に従う絵をかく その場その場に適した手段・方法をとること。 その場所に即応した絵をかくということか ら。「所に似せて絵をかく」ともいう。 類義時世とき時世の絵をかく。 土佐船の錨とさぶねいかり 所の神様有難からず 身近でよく知っているものの価値はわかりに くく、軽く見てしまうものだというたとえ。 近所の神様は遠くの神様よりご利益が少なく 思えて、ありがたみが薄いという意から。 類義遠くの坊さん有難い。遠きは花の香、 近きは糞くその香。 ところ ほう や た 所の法に矢は立たぬ その土地の取り決めなどには、不合理な面が あっても従わなければならないということ。 類義郷に入りては郷に従う。里に入りて は里に従う。国に入ってはまず禁を問え。門 に入らば笠かさを脱げ。 どんなによい物でも、必要な時・場所になけ れば何の役にも立たないというたとえ。 補説昔、土佐(高知県)の回船は道具が粗末 だったため、他国の港へ入ったとき体裁が悪 いので、よい錨はうちへ置いてきたと言い訳 をして表面をつくろったということから出た ことば。 類義土佐船の加賀麻 あさかが。 年が薬 年を取るのに従って、思慮分別が身について くること。年齢を重ねるということは、若気 の至りを治す薬のようなものだという意。 「年は薬」「年こそ薬なれ」ともいう。 「類義」年が意見。年取れば利口になる。亀の 甲より年の劫こう。 としさむ しがのちしょうはく 歳寒くして、 然る後に松柏の しぼ おく 彫むに後ることを知る 道遠くして驥を知る。 困難に出あってはじめて、人の節操や価値が わかるというたとえ。冬になるとどの木もし ぼんで緑の色を失うが、その時期になっては じめて松や柏かしは緑のままで変わらないのが わかるという意から。志操堅固な人を松柏に たとえて言ったことば。△松柏∥松とこのて がしわ。ともに常緑樹。 類義 歳寒 かん の松柏。 疾風に勁草 そう を知る。 出論語ろんご 年間わんより世を問え 年齢がいくつかを問題にするよりも、その人 がどのような経験を積んできたか、どのよう な人生観を持っているかに関心を持つことが 大切であるという教え。 年には勝てぬ 年をとれば、元気なようでも体力が衰え、自 分の思うようには動けないということ。 類義年は争えない。 用例 六十八さ。もう駄目だよ。ついこの 間まで六貫や七貫平気で背負えたんだがね。 年にゃ勝てない」〈永井荷風◆買出し〉 としよころよ 年は寄れども心は寄らぬ 年をとって体は衰えてきたが、まだ気持ちま では衰えていないということ。 泥鱠の地団駄 自分の力の弱さを考えずに強い者に立ち向か うことのたとえ。はかない抵抗のたとえ。 類義蟬蟬の斧の鱓めの歯軋り。小男 の腕立て。 斗筲の人と 出論語ろんご 器量の小さい、取るに足りない人物のたとえ。 升ではかれるほどの器量の意から。▽斗筲= 小さな器。「とそう」とも読む。「斗」は一斗 (一升の十倍)入りの升。「筲」は一斗二升入 りの竹製の器。 <469> 故事孔子の弟子の子貢が、最近の為政者の 中に士といえるような人物がいるでしょう か、と尋ねたとき、孔子は「噫あ、斗筲の人、 何ぞ算かぞうるに足らんや(取り立てて問題に するほどの値打ちもない)と答えた。 類義斗筲の器うつ。斗筲の材ざい。斗筲の子し。 としょ ひつじ 屠所の羊 死が目前に迫って、がっくりとうちひしがれ ている人のたとえ。屠殺場 とさつ じょう へ引かれて行 く羊の意から。 出涅槃経 としよ かんぶくろ い た 年寄りと紙袋は入れねば立た ぬ 何事をするにも、まず腹ごしらえをしてから やろうということ。紙袋は中に物を入れない と立たない、年寄りも食べ物を腹に入れない と元気が出ないということから。 し 年寄りと釘頭は引っ込むがよ くぎがしらひこ ないのはわかっているが、両方とも遠ざけた いときもあり、扱いに困るということ。 類義持仏堂どうと姑しゅうは置き所なし。 老人は出しゃばらずに、控え目にしているほ うがよいということ。釘の頭が出っ張ってい ては邪魔になるように、年寄りが表面に出る と若い者の邪魔になるということから。 類義年寄りと金釘引っ込む程よい。 としよ 年寄りと仏壇は置き所がない 年老いた親も仏壇も大切に守らなければなら としょのーどだいよ としよ あらゆ どく 年寄りに新湯は毒 わかしたばかりでまだだれも入ってない風呂 は、老人の体には刺激が強くてよくないということ。 としよ 年寄りの言う事と牛の鞦は外 れない 多くの経験を積んできた老人の意見はまちが いがないから、傾聴すべきだという教え。△ 鞦‖牛馬の尻にかけて車の轅ながや馬の鞍くらを 固定させるひも。 類義 年寄りの言うことは聞くもの。 としよ 年寄りの達者春の雪 老人の生命力のはかなさのたとえ。春の雪が 消えやすいように、元気な老人も、いつどう なるかわからないということ。 用例「老人。それは無茶だ」張南は極力な だめた。それこそ年寄りの冷や水といわない ばかりに。〈吉川英治◆三国志〉 としょ年寄りの冷や水 老人が自分の年も考えずに激しい運動をした り、元気そうに振る舞って無理をしたりする ことを、冷やかしたりたしなめたりするとき にいうことば。年寄りが、強がって冷たい水 を浴びたり、がぶがぶ飲んだりするという意 から。いろはがるた(江戸)の一。 類義年寄りの力自慢。老いの木登り。年寄 りの夜歩き。 としよ 年寄りの物忘れ若い者の無分 べっ 老人は物忘れをしがちであるし、若い人は経 験が浅いため、向こう見ずで思慮に欠けた振 る舞いをしがちであるということ。 としょ年寄りは家の宝 老人は、経験豊かでいろいろなことを知っているので、一家の宝として大切にしなければならないということ。 類義 年寄りのある家には落ち度がない。 英語 An old man in a house is a good sign in a house. 家に年寄りがいるのは、 一家が幸せなしるしである」 としよぐかえ 年寄れば愚に返る 年をとると、子供のような愚かさに戻るということ。 類義年寄りは二度目の子供。 とせいはっぴゃくやしな 渡世は八百八品 職業は多種多様である。世の中で暮らしてい く方法は、数多くあるということ。 類義商売は草の種 どだい にだいだいじ 土台より二代大事 事業を起こすより、それを引き継いで盛り立 <470> とたんのーとなりの てていくほうが難しく大事であるというこ と。二代目の苦労をいう言葉。土台を作るより 引き継いで守ることが大事だということから。 とたんくる 塗炭の苦しみ 出書経しよきよう 耐え難いほどの苦しみ。泥にまみれ、火に焼 かれる苦しみの意から。▽塗‖泥にまみれる 意。炭‖火にあぶられる意。 補説出典には「有夏ゆう に墜おつ(夏かの桀王けつは不徳の暴君で、人民 は泥にまみれ火で焼かれるような苦しみに 陥った」とある。 類義水火の苦しみ。塗炭に墜つ。 用例「して、出入の口はここ一個所か」と、 きいた。敵に、逃げられてはならぬと思っ たからである。「それは知れたことじゃ。向 こうへ口をあけるために、了海様は塗炭の苦 しみをなさっているのじゃ」〈菊池寛◆恩讐 の彼方に えなんじ 出淮南子 蠹啄みて梁柱を剖く 災いは小さいうちに取り除くべきだというた とえ。小さな木食い虫が少しずつ木を食っ て、そのうちついに梁はりや柱まで食い破って しまうという意から。図図木食い虫。 突を曲げて薪を徙す 出漢書 災いを未然に防ぐたとえ。△突ニ煙突の意。 徙すニ移す。 るよう忠告した。忠告に耳をかさなかった めやがて火事になり、そのとき消火に協力し てくれた人々には厚く礼をしたが、先に忠告 してくれた客には一言もなかった。 故事昔、ある家で、かまどにまっすぐ煙突 が立ち、そばに薪が積んであるのを見た客が、 煙突を曲げ、薪も遠くに移して火事を予防す 途轍もない 普通では考えられない、常識はずれのようす。 程度の甚だしいこと。∇途轍∥筋道。道理。 「途」は道、「轍」はわだちの意。 「類義」途方もない。 用例何八景彼かに八景、しまいには吉原 よし 八 わら 景、辰巳 たっ み 八景とまで用いられて、ふけて逢 あう夜は寝てからさきのなぞと、イヤハヤ途 轍も無い辺にまで利用されるに至ったほどで あるが、(略)〈幸田露伴◆華厳滝〉 とどのつまり いろいろな経過をたどった末に、行き着く最 後のところ。結局。多く、思わしくない結果 になる場合にいう。魚のボラが成長するにつ れて名前が変わり、最後はトドと呼ばれるこ とから。 類義挙げ句の果て。 用例僕には本能的な生の衝動が極めて微弱 であるから、悔恨の情さえ起り得ない。とど のつまり永遠に堕ちてゆく先は無為の陷穽 かん せい である。〈蒲原有明◆虚妄と真実〉 隣の火事に騒がぬ者なし 危険や利害関係が身近に迫ってくれば、じっ となどしていられず、真剣に対処しようとす る。遠い火事は平然と見ていられるが、隣家 の火事では大慌てするということから。 となりしろめしうちあわめし 隣の白飯より内の粟飯 他人の世話や恩を受けることの気苦労をいう たとえ。隣の家でおいしい白米のご飯を食べ させてもらうより、たとえ粟入りの粗末なご 飯でも自分の家で何の遠慮もなく食べるほう がよいということ。 対義 隣の糧籐味噌 内の米の飯より隣 の麦飯。隣の花は赤い。 隣の糧籃味噌 他人のものは何でもよく見えることのたと え。あまりうまくない糧籐味噌も、隣のもの はうまそうに見えるということから。「隣の 糠味噌 みそ」ともいう。△糧籐味噌=こうじと 糠と塩を混ぜてならしたもの。酢や酒を加え て食べる。また、糠味噌のこと。 類義 隣の花は赤い。 他人の飯は白い。 内の 米の飯より隣の麦飯。 対義隣の白飯より内の粟飯 あわ。 余所よその米 の飯より内の粥かゆ。 となりせんきずつうやひとせんきず 隣の疝気を頭痛に病む人の疝気を頭 隣の宝を数える 目分にはまったく関係のないこと、何の役に も立たないことをするためとえ。隣の財産や宝 を数えてみても何の得にもならないことか <471> ら。「人の宝を数える」ともいう。 となりはなあか 隣の花は赤い 他人の物は何でもよく見えて羨 うら や ましく思う たとえ。また、他人の持つ物をすぐ欲しがる ことのたとえ。隣の家に咲いている赤い花 は、自分の家に咲いている赤い花よりさらに 美しく見えるということから。 類義内の米の飯より隣の麦飯。隣の糧籃味 噌 じんだ。 みそ 隣の芝生は青い。 うーっ 対義隣の白飯より内の粟飯あわ。めし 英語 Our neighbour's ground yields better corn than our own. [隣人の土地は 自分の土地よりすぐれた穀物を産する] 隣の貧乏は鴨の味 類義親が死んでも食じき休み。 隣の家が貧乏なのは、うまい鴨を食べている ようにいい気分だということ。人間は隣のこ とを何かにつけてねたむものだというたと え。「隣の貧乏雁がんの味」ともいう。 類義 人の過ち我が幸せ。人の不幸は蜜の 味。 隣の餅も食って見よ 世の中のことは、いろいろと経験してみたほ うがよいというたとえ。おいしそうに見える 隣の餅も、実際に食べてみなければ味はわか らないという意から。 類義 他人の飯も食ってみよ。 となりかじ 隣は火事でも先ず一服 となん斗南の一人いちにん どんなに火急の場合でも、休息は必要だとい となりのーとびがた 天下第一の人。北斗七星より南で並ぶ者のな いただ一人の人という意から。マヰ南=北斗 七星以南。転じて、天下。 出新唐書 補説出典にある「狄公てき(二狄仁傑てきじ。 んけつ 中国、唐の宰相の賢は、北斗以南一人あるのみ」 による。 図南の翼となんつぼさ 大事業を企て、それを成し遂げようとするこ とのたとえ。「図南の鵬翼」ともいう。△ 図南Ⅱ「図」は企てる意で、南の果ての海へ 飛び立とうと企てる意。 出荘子そうじ 補説出典にある「北の果ての海に鯤こんという魚がいて、ある日、鵬ほうという大鳥に変わり、大きな翼をはばたいて空高く舞い上がって、南の果ての海へと飛び去った」という話から出たことば。 くち 戸にも口がある いくら秘密にしようとしても、どこからか漏 れてしまうことのたとえ。 類義壁に耳あり障子に目あり。 殿の犬には食われ損 とのいぬくぞん 出荀子じゅんし 権力のある者には、何をされても手向かいで きず、泣き寝入りするほかはないというたと え。殿様の飼い犬では、かまれても抗議はで きず、あきらめるしかないという意から。 才能の乏しい者でも、努力を続けるならば、 やがては才能のある者に並ぶことができると いうたとえ。足の遅い馬でも十日間休まず 走って行けば、一日に千里を走る名馬に追い つくことができるという意から。△駑馬‖足 の遅い馬。駕‖馬に車をつけて走ること。 出史記しき ものすごい剣幕で怒るようす。怒りのため逆 立った髪の毛が、かぶっている冠を衝き上げ るという意から。「怒髪天を衝く」ともいう。 どばむちう 駑馬に鞭打つ 能力以上のことをさせようとすることのたと え。足ののろい馬におち打って、無理に速く 走らせようとするという意から。自分が精一 杯努力することを、へりくだって言うときに 用いることが多い。△駑馬足の遅い馬。 類義繋なぎ馬に鞭を打つ。 駑馬は伯楽に会わず 実力のない者は、世に出ることはできないと いうたとえ。千里を行く駿馬は、伯楽に会 えばすぐ能力を見いだされ、実力を発揮でき るだろうが、駑馬は伯楽に見いだされること はないということから。△駑馬∥足の遅い 馬。伯楽∥馬の良否を見分ける名人。 とびたか鷹を生む 平凡な両親からすぐれた子供が生まれること <472> とびにあーとみこう のたとえ。「鳶が孔雀 を生む」ともいう。 「鳶」は「とんび」とも読む。 類義百舌もずが鷹を生む。 対義 蔦の子は鷹にならず。瓜うりの蔓つるに茄 子 なす び はならぬ。蛙 かえ る の子は蛙。 用例一用のあるは、何時いつも娘ばかりさね。 鳶が鷹を生んだおかげには」猪熊いのの婆ばは、 厭味いやらしく、唇を反らせながら、にやつい た。{芥川龍之介}}儉盗} 蔦に油揚げを攫われる 不意に横合いから大切なものを奪い取られる たとえ。当然自分のものになると思っていた 物を、突然横取りされて呆然 まをいう。「蔦に掛けられる」ともいう。「蔦」 は「とんび」とも読む。 から。「薦」は「とんび」とも読む。 とびものみま 薦の子は鷹にならず 平凡な親から生まれた子は、結局は非凡な人 間にはなれないというたとえ。鳶の子をどの ように育てても、鷹にはならないということ から。「鳶の子鷹に似ず」ともいう。「鳶」は 「とんび」とも読む。 類義 瓜うり の蔓つるに茄子 なす び はならぬ。 蛙 かえ の 子は蛙。 鳶も物を見ねば舞わぬ 対義 鳶が鷹を生む。 だれでも自分の利益にならないことに対して は動こうとしないというたとえ。鳶は高い空 を目的もなく飛んでいるように見えるが、そ れは獲物を探しているのだという意から。 「鳶」は「とんび」とも読む。 とびいずたかみ 鳶も居住まいから鷹に見える 身分の低い者でも、起居・動作が正しくきち んとしていれば、威厳のある立派な人間に見 えるというたとえ。見ばえのよくない鳶で も、振る舞いによっては鷹に見えるという意 ととりあとにごたとりあとにご 飛ぶ鳥跡を濁さず立つ鳥跡を濁さず 402 早まった行動をしたり、当てにならないこと を期待することのたとえ。飛んでいる鳥を見 て、まだ捕まえてもいないのに、その料理の しかたを考える意から。「野鳥のどの献立」と もいう。 類義捕らぬ狸 たぬ き の皮算用。穴の狢 むじ な を値段 する。山の芋を蒲焼 かば や きにする。 飛ぶ鳥も跡を見よ 人は去りぎわを潔くするのが大切だというこ と。立ち去るときはだれに見られても恥ずか しくないように、跡をきちんと始末しておく ようにという戒め。 鳥も落ちる」ともいう。 類義立つ鳥跡を濁さず。 ととりお 飛ぶ鳥を落とす 類義草木もなびく。 権力や威勢が非常に盛んなようすのたとえ。 空を飛んでいる鳥でさえも圧倒されて地に落 ちてしまうほどの勢いという意から。「飛ぶ 用例)なんでも森おじさんは、内地にいた頃 とは違って、たいへん成功し、この島の中で は飛ぶ鳥落とす勢力があり、何でもおじさん の思うとおりになるそうだ。〈海野十三◆鍵 から抜け出した女〉 吐哺握髮 とほあくはつ あくはつとほ 握髮吐哺 10 どほうがかい土崩瓦解 出史記しき 物事が根底から崩れて、手のほどこしょうの ないことのたとえ。土が崩れ、瓦が砕け散る という意から。▷瓦解‖瓦が砕けるようにば らばらに分散すること。 途方に暮れる どうしていいか方法が見つからず思い迷うこと。 と。 ▶途方=方向。転じて、手段。手立て。 用例わたくしは途方に暮れたような心持になって、只ただ弟の顔ばかり見ております。こんな時は、不思議なもので、目が物を言います。 ◇森鷗外高瀬舟 とみけいぎような 富経業無し 出史記しき 富は才能のある者のところに自然に集まるも ので、決まった職業によるものではないということ。 マ経業ニ決まった仕事・職業。 左見右見 あちこち見ること。また、方々に気を配ること。 ▶「と見かく見」が変化したもの。「と」 <473> 「こう(=かく)」は副詞で、そのように、このようにの意。また、「み」を異なる二つの事柄を並べるときに添える接尾語とする説もある。 とみ いっしょうたから 富は一生の財、知は万代の たから 財 出実語教 財産はその人一代限りの宝にしか過ぎない が、知恵というものは死後も残り、後世の人 のために永久に役立つ宝であるということ。 とみおくうるおとくみうるお 富は屋を潤すも徳は身を潤す 財産があれば家屋が立派になり、徳行を積め ば人間性が豊かになるということ。 出大学だいがく 補説出典には、これに続いて「心広くして 体胖ゆたかなり(心持ちは広くゆったりとし、 体もすこやかになる)とある。 とみなじんじんな 富を為せば仁ならず、仁を為 せば富まヂ 富を得ようとすると仁の道からはずれてしま うし、仁の道を守っていると富を得られない。 孟子が国を治める道を尋ねられ、税法の運用 についてたとえたことば。 出孟子もうし ともあ えんぽう きた 朋有り遠方より来る 志を同じくする友人が遠くからやって来て語 り合える喜びをいう。「朋の遠方より来たる 出 論語 ろんご とみはいーとらぬた 有り」ともいう。∇朋∥学友。同門の仲間。 補説出典の冒頭の章の一節。「学びて時に 之これを習う、亦また説よろばしからずや(学んだ ことをその時々に繰り返し復習し、自分のも のとする。なんと喜ばしいことではないか)。 朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」とあ る。 英語 It is merry when friends meet. 友に会うのは至福のとき 用例)その日のSさんの接待こそ、津軽人の 愛情の表現なのである。しかも、生粋 軽人のそれである。(中略)友あり遠方より来 た場合には、どうしたらいいかわからなく なってしまうのである。(太宰治◆津軽) 友と酒は古いほどよい 友人は付き合いが長いほど信頼できるし、酒も長く貯蔵したもののほうが味わい深くおいしいということ。 補説西洋のことわざから 類義 古い友達と古い葡萄酒 ぶどう しゅ に勝るもの なし。 英語Old friends and old wine are best. 友人とワインは古いほどいい ともてんいただ 俳に天を戴かず 不俱戴天 577 土用布子に寒帷子♩寒に帷子、土用に 布子66 と 虎がほえると東風が起こるということから。 「虎嘯けば風生ず」ともいう。△嘯く∥ほえ る。谷風∥万物を成長させる東風。 補説出典には、これに続いて「竜挙あがりて 景雲けい属あつまる(竜が天に向かって昇り、太 平のきざしのめでたい雲が集まる)」とある。 とらおおかみひとくちおそ 虎狼より人の口恐ろし 虎や狼からは逃げることができるが、人のう わさや悪口から逃げたりしたら、やっぱり本 当だったのかと言われかねない。陰口や中傷 から身を守ることの難しさをいう。 と取らずの大関 実力を示したこともないのに、高位にいて偉 そうにしている者のたとえ。実際に相撲を 取って実力を見せたことのない大関の意か ら。 類義 抜かぬ太刀たちの高名こうみ。よう とら虎に翼つぼさ 出韓非子かんびし もともと勢力の強い者に、さらに威力を加え ることのたとえ。虎のように強い者に、さら に空を飛べる翼をつけるということから。 補説出典には「虎の為ために翼を傅くるこ と母なかれ、将まさに飛びて邑ゆう(村)に入り、 人を択とりて之これを食くらわんとす」とある。 類義鬼に金棒。駆け馬に鞭むち。竜に翼を得 たる如ごとし。 と 捕らぬ狸の皮算用 不確実な事柄に期待をかけ、 <474> とらのいーとらはせ ていろいろと計画を立てることのたとえ。ま だ狸を捕まえないうちから皮を売ってもうけ る計算をするという意から。 類義儲もうけぬ前の胸算用。飛ぶ鳥の献立。 穴の炤むじを値段する。野鳥のどの献立。山の芋 を蒲焼かぼきにする。沖な物あて。 英語 Sell not the bear's skin before you have caught him. 熊を捕らえる前に熊の 皮を売るな You count your chickens before they be hatched. ひよしがかえら ぬうちにその数を数える 用例)柿も今年はいつになく豊年だったけれど、釘くぎが手にはいらないので箱がつくれないし、運輸が思うようにゆかないので、柿も二束三文に売った話をしていた。百円も貯ためて一生涯に一度位は父母を驚かしたいものだと、常次はとらぬ狸の皮算用ばかりしている。〈林芙美子◆玄関の手帖〉 皮を羽織ったろば 虎の威を借る狐 力の弱い者が、強い者の権力をかさに着て威 張ることのたとえ。また、そのような振る舞 いをする者。「狐、虎の威を借る」ともいう。 補説虎に捕らえられた狐が「自分は天帝の 使いだから、食うと天帝の命にそむくことに なる。うそだと思ったら私のあとについて来 てごらんなさい。みんな私を見て逃げるか ら」と言った。虎が狐について行くと、獣た ちはみんな逃げて行った。獣たちは虎を見て 逃げたのに、虎は気づかず、狐を見て逃げた と思ったという寓話ぐうによる。 出戦国策 英語 An ass in a lion's skin. [トマホンの 用例薩長土 さっちがなんじゃ皆幼帝を挟 ようど さん はさんで己これ天下の権を取りあわよくば は 徳川に代ろうと云いう腹ではないか虎の威 を借りて私欲を擅 ほしい まま にしようと云う狐ど もじゃ。菊池寛仇討禁止令 とら 虎の尾を踏む 出易経 きわめて危険なことのたとえ。強調して「竜 の鬚ひげを撫で虎の尾を踏む」ともいう。「踏 む」は「履む」とも書く。 類義虎の口へ手を入れる。 とら虎の子こ 大切にして自分の手元から離さないもの。虎 が子供を非常にだいじにするということか ら。秘蔵の物。 用例 虎の子全部貢いでるんだから惚れて るにきまってらアな」〈坂口安吾◆都会の中 の孤島〉 物事の秘訣 ひけ などを記してあるもの。講義な どの種本。また、教科書の内容を解説した参 考書。あんちょこ。兵法の秘伝書の名から。 補説 中国古代の代表的な兵法書『六韜りくとう』 の「虎韜う」を虎の巻と呼んだことから。 とら虎の巻まき 人の思惑に少しもたよっていないらし いという、画法のプリミチヴな虎の巻を、竹 一から、さずけられて、れいの女の来客たち には隠して、少しずつ、自画像の制作に取り かかってみました。〈太宰治◆人間失格〉 とら う 虎は飢えても死したる肉を食 わず 高潔な人は、どんなに困っても不正なものは 受け取らないというたとえ。虎はどんなに飢 えていても、死んだ動物の肉を食べることは しないという意から。 類義鷹 たか は飢えても穂を摘まず。渇すれど も盗泉の水を飲まず。 とら 虎は死して皮を留め、人は死 して名を残す 虎が死んだあとに立派な毛皮を残すように、 人も、死後に立派な名を残すような生き方を しなければならないという教え。「虎は死し て皮を残し、人は死して名を残す」「人は死 して名を留め、虎は死して皮を留む」ともい う。 類義豹 ひよ は死して皮を留め、人は死して名 を留む。 英語 Live well and live forever. [よい生 き方をすれば、永遠に生きることができる] 用例生田春月の遺書は、鎗やりは錆ざび ても名は錆びぬ。虎は死して皮を残し、詩人 は死して名を残すというのであった。〈萩原 朔太郎・絶望の逃走〉 とら せんりい せんりかえ 虎は千里行って千里帰る 親の子に対する情愛の深いことのたとえ。ま た、行動力や勢いが盛んなこと。虎は一日に <475> 千里もの距離を走って行くが、子供のことを 思ってまた千里の道を走って帰ってくる意か ら。「虎は千里行って千里戻る」ともいう。 虎は千里の藪に棲む すぐれた人物は、その才能を発揮できるよう な広々とした環境にいるものであるというこ と。虎は自由に走り回れるような広々とした 藪の中にすむという意から。 とらふ 虎伏す野辺、鯨寄る浦 遠い辺境の地のこと。虎がすんでいる原野 や、鯨が泳いで来る海辺の意から。「鯨 な 寄 る浦、虎こ伏す野辺」ともいう。 とら えが いぬ るい 虎を画いて狗に類す 出後漢書 ごかんじょ 素質のない者がすぐれた人の真似をして失敗 するたとえ。また、あまり高遠なものを望ん だために失敗するためとえ。虎を描こうとし て、犬のような絵になってしまったという意 から。「虎を画いて猫に類す」ともいう。 補説出典には「所謂 いわ ゆる 虎を画いて成らず、 反かえって狗に類する者(いわゆる虎を描こう としてうまく描けず、かえって犬に似てしま う者)」とある。 類義竜を画いて狗に類す。 とら 虎を野に放つ 危険なものを野放しにしておくたとえ。また、将来災いのもとになるものを除かないで残しておくことのたとえ。「虎を千里の野に放つ」「千里の野に虎を放つ」ともいう。 とらはせーとりとら とらやしなうれのこ 虎を養いて患いを遺す出史記 災いの起きる原因を断たなかったために、後 に大きな害が生じることのたとえ。虎の子を 殺さずに育てたために、成長して凶暴な虎と なり、身の危険を心配しなければならないと いう意から。「養虎ようの患い」ともいう。 補説中国前漢の初め、劉邦 ほう りゅう (漢の高祖) か楚その項羽を許して西へ帰ろうとした。そ こで、張良ちょうと陳平ちんが反対して言ったこ とば。出典には「今、釈すてて撃たずんば、 これ所謂いわ虎を養いて自ら患いを遺すなり (今、楚を許して撃たないのは、虎をそのま ま生かしておいて、後に心配の種を残すよう なものです)とある。 取らんとする者は先ず与う 出老子ろうし ある物を手に入れようと思ったら、まずそれ を人に与えておくのがよいということ。ま た、利益を得ようと思うならば、まず相手に 利益を与えなければならないということ。 補説出典には「将まさに之これを奪わんと欲す れば、必ず固く之に与う」とある。 取り勘定より遣い勘定 收入を増やすことばかり考えるより、むだな 支出に気を配ったほうが結果的にはよいとい うこと。 類義得を取るより損するな。入るを量りて 出いずるを為なす。 鳥窮すれば則ち啄む 出荀子 人は窮地に陥ると何をするかわからないというたとえ。鳥も追いつめられると、必死になってくちばしでつつくという意から。 補説孔子の弟子の顔淵 がん えん のことば。出典に は、このあとに「獣窮すれば則ち攫つかみ、人 窮すれば則ち詐いつる(獣は窮地に陥ると、つ かみかかってくる。人は窮地に陥るとうそを つく)とある。 鳥疲れて枝を選ばず 生活のためには仕事を選んではいられないと いうこと。鳥は飛び疲れると、どんな枝にで も止まるという意から。 取り付く島もない 相手が冷淡でそっけなく、何か頼んだり相談 したりしたいと思っても、そのきっかけがつ かめないようす。すがるところが何もなく、 どうしようもないこと。 とりとら 鳥囚われて飛ぶことを忘れず 出 蘇軾 秀 州 僧本瑩静照堂 だれでも自由を求めているということのたと え。鳥はかごに入れられても、いつも広い空 を自由に飛びたいと思っているということか ら。 補説出典には、このあとに「馬繋つながれて 常に馳はせん(走り回る)ことを念ず」とある。 類義籠鳥ろうち雲を恋う。 <476> とりさとこうもり鳥なき里の蝙蝠 すぐれた人のいない所で、つまらない者が幅 をきかせているたとえ。鳥がいない村里で は、こうもりが我が物顔で威張って飛び回る という意から。「鳥なき島の蝙蝠」ともいう。 類義鷹たかのない国では雀 すず が鷹をする。鷹 がいないと雀が王する。馳 いた ち の無き間の貂 てん 誇り。貂なき森の馳。 用例しかし年がいかないので、はじめはあ まり習いに来る人もなかった。しかし一生懸 命に教えている中うちに、半年程経たつと、人 が学校の下の少年先生と言うようになった。 お弟子も大分来てくれるようになり、私は昼 間は箏そうを教えて、夜は鳥なき里のこうもり とでも言おうか、私の下手な尺八をおじさん 達たちに教えていた。〈宮城道雄・私の若い頃〉 とりなねおな 鳥の鳴く音はいずくも同じ どこへ行っても人情には変わりがないという こと。同じ種類の鳥は、どこの土地へ行って も鳴き声は同じであるという意から。「鳥の 鳴く音はいずこも同じこと」ともいう。 類義どこの鶏の声も同じこと。 とりまさし 鳥の将に死なんとするや、そ なかな の鳴くこと哀し ろんご 論語 鳥の鳴き声はいつも楽しく聞こえるが、死に ぎわの鳴き声は人の心をえぐるような悲しさ がこもっている。 なんとするや、其その言うこと善よし人が死 にぎわに残すことばはすばらしい」とある。 とりきえらきとりえら 鳥は木を択べども木は鳥を択 補説出典には、このあとに人の将まさに死 出春秋左氏伝 ばず 臣には仕えるべき君主を選ぶ自由があるが、 君主には臣を選ぶ自由はないというたとえ。 また、人は住む土地を選ぶことができるが、 土地は住む人を選ぶことができないことのた とえにも用いる。鳥はどの木に止まろうかと 選ぶ自由があるが、木には止まらせたい鳥を 選ぶ自由はないという意から。 補説孔子が衛の国主の孔文子 去るときに言ったことば。鳥は孔子、木は孔 文子のたとえで、「木は鳥を選んで止まらせ ることはできない」と言って立ち去った。出 典には「鳥は則 すな わ ち木を択ぶ。木豈あに能よく 鳥を択ばんや(木がどうして鳥を選びましょ う)とある。 鳥は食うとも、どり食うな 鳥肉は食べても、鳥の肺臓は食べないほうが よいということ。▶どり∥鳥類などの肺臓 で、古くは有毒とされていた。 とりたかともっそうよくがい 鳥は高く飛びて以て矰弐の害 を避く 出荘子 どんな者でも、身に迫る危害から自分を守る 方法を知っているということ。鳥は高い所を 飛んで、いぐるみの矢に射られないよう避け ているということから。△矰弐∥いぐるみ。 矢にひもをつけて鳥を射る道具。 補説出典には、このあとに「鼷鼠そは深く 神丘 しんき の下に穴ほりて以て薫鑿くんの患うれい を避く(はつかねずみは神社の壇の下に深く 穴を掘って、人からいぶし出されたり、掘り 出されたりする危険を避けている)とある。 とりふるすかえはなねかえとり 鳥は古巣に帰る花は根に帰る、鳥は 古巣に帰る532 取り道あれば抜け道あり 税を厳しく取り立てようとすれば、取られる ほうはごまかす方法を考える。規律や法律を 厳しくすれば、抜け道を考えるのも巧妙にな るということ。獲物をとるのによい道がある 一方、獲物にも逃げる抜け道があるというこ とから。 とり 鳥もちで馬を刺す 方法が間違っていること。やってもむだで、 できるはずがないことのたとえ。鳥をつかま える鳥もちで大きな馬をつかまえることなど できないことから。 屠竜の技 出荘子そうじ 苦労して身につけても実際には役に立たない 技術のこと。長い間かかって竜を殺す技術を 身につけたが、現実には竜はいないので、何 の役にも立たないことから。「屠竜の術」と もいう。∇屠竜∥竜を殺すこと。「とりゅう」 とも読む。 <477> とものと取る物も取り敢えず 急を要する事態に大急ぎで、また慌てて行動 するさま。突然のことで、取るべきものも取 ることができないという意から。 用例取る物もとりあえず、樺太からからの引 揚民の中に雑まじって、地獄絵のような場面を 見続けながら、三日がかりで東京へ出た。〈中 谷宇吉郎・ガラスを破る者〉 取るよりかばえ に誑される。盗人が盗人に盗まれる。 利益を上げることを考えるより、今あるもの を失わないような心がけが大事であるという 教え。 類義得を取るより損するな取り勘定より 遣い勘定。 泥縄 ↓泥棒を捕らえて縄を綯う どろなわ と 477 と すなわ そん す 操れば則ち存し舎つれば則ち うしな もうし 亡う 出孟子 しっかり守っていれば存在するが、放ってお くとすぐになくなってしまう。孔子が人間の 良心について言ったことば。「亡う」は「亡 ぼうす」ともいう。∇操る∥しっかりと守る。 舎つる∥捨ててかえりみない。 取ろう取ろうで取られる 他人から取ってやろうと思ってやっているう ちに、自分が取られてしまうこと。勝負事な どで、勝ちたいという欲のために分別を失い、 結局負けてしまうたとえ。 類義 騙 だま す騙すで騙される。 誑 たら しが誑し 泥に酔った鮒 とるものーどろをう いまにも息が絶えそうに、あえいでいるよう すのたとえ。泥水の中で苦しんでいる鮒のよ うすから。 類義 鮒のごみに酔うたよう。 泥の中の蓮 どろ なか はす でいちゅう はちす 泥中の蓮 439 泥棒が縄を恨む どろぼうなわうら 自分の悪いことは棚に上げて、人を逆恨 さか うら み することのたとえ。泥棒が自分を捕まえて縄 をかけた人を恨むという意から。 類義 盗人の逆恨 さか うら み。 盗とうは主人を憎む。 どろぼう うじがみ 泥棒せぬは氏神ばかり 人間はだれでも、多少は盗み心を持っている。 盗みをしないのは神様だけであるというこ と。「盗人せぬは氏神ばかり」ともいう。 どろぼう泥棒に追銭 損をした上に、さらに損を重ねることのたと え。盗みに入った泥棒に、さらに金をくれて やる意から。「盗人に追銭」ともいう。 泥棒にも三分の理 どろぼうさんぶりぬすびとさんぶり 盗人にも三分の理 504 泥棒の袖控え↓盗人の袖ひかえ504 何事でも一人前になるには、長い間の修練が 必要であるというたとえ。泥棒でも、十年や らないと一人前になれないという意から。 類義首振り三年ころ八年。 泥棒を捕らえて縄を綱う 事が起こってから慌てて準備をすること。泥 棒をつかまえてから、しばるための縄をなう という意から。「泥棒を見て縄を綯う」「盗人 捕らえて縄綯う」「盗人を見て縄を綯う」と もいう。略して「泥縄」ともいう。 類義 戦 を見て矢を矧はぐ。敵を見て矢を 矧ぐ。鹿見て矢を矧ぐ。大寒にして後衣裘 を索もとむ。はまった後で井戸の蓋ふたをする。 難に臨んで遽にわかに兵を鋳る。 対義転ばぬ先の杖つえ。 英語 Have not thy cloak to make when it begins to rain. 雨が降り始めてからレインコートを作らせるな 用例それから先きは臨機応変其時 とき は其時 として、平常の心掛け次第のもの、普段 の 修行を懈 おこ た りにして、一旦緩急あった場合に さアどう云いう処置を取ろうなぞと周章 あわ て るのは泥棒を見て縄をなう如 こと きものだ。 〈長与善郎◆竹沢先生と云う人〉 泥を打ては面へはねー 人を非難したり、害したりすれば、やがてそ の報いが自分に返ってくることのたとえ。泥 水を棒でたたけば、その泥が自分の顔へはね <478> かかってくるという意から。 類義人を呪わば穴二つ。天に唾っぱす。 団栗の背競べ どんぐりせいくら どれもこれも平凡で、抜きん出たものがない こと。どんぐりは形も大きさもほとんど同じ で、背競べしても差がないことから。「背競 べ」は「背比べ」とも書く。 類義一寸法師の背競べ。 たと後悔するということから。 用例一番最初に完全に近いトーキー設備を 完了したものが一番もうけるにきまっている のであるが、だれもそれをしない。だからご らんのとおりいつまでたってもどんぐりのせ いくらべである。〈伊丹万作◆雑文的雑文〉 豚肩、豆を掩わず 非常に倹約をすること。また、きわめてけち であることのたとえ。質素な生活のたとえに もいう。∇豚肩∥豚の肩の肉。豆∥高い脚が ついた食物を盛る木製の祭器。高坏 たか○ つき 出礼記らいき 補説中国、春秋時代に、斉の宰相晏嬰 先祖を祭るときに供えた豚肩が小さすぎて、 高坏がいっぱいにならなかったという故事か ら。出典では、この前に「一狐裘 枚の狐 の毛皮を三十年間着る」とある。 どんこう うお う しの 噂く 一呑鉤の魚は飢えを忍ばざるを なげ 呑舟の魚 事が起きてから後悔しても間に合わないたと え。餌にひかれて釣り針をのんでしまった魚 は、もう少し空腹をがまんしていればよかっ 大人物、大物のこと。善人にも悪人にもいう。 舟を丸呑 まる みにするほどの大きな魚の意か ら。 出荘子そうじ どんしゅううおしりゅうあそ 呑舟の魚は枝流に游ばず 出列子れっし 大人物は高遠な志を持っているので、小事に はこだわらないというたとえ。また、大人物 は小人物とはつきあわないというたとえ。舟 を丸呑のまるみにするほどの大きな魚は、小さな 川では泳がないという意から。 おお水を失えば、則 夢蟻に制せらる どんしゅう 呑舟の魚も ろうぎ せい すなわ則ち 出荘子そうじ 大人物も、その能力にふさわしい場を与えられなければ、十分に力をふるうことができないということ。舟を呑のみ込むほどの大きな魚も、水のない陸へ上がると、小さな虫にも動きを押さえられてしまう意から。△螻蟻=けらとあり。ここでは、つまらない小人物のたとえ。 補説出典には「吞舟の魚も碭として(水勢 で岸にうち上げられ)水を失えば、則 すな ち蟻 あり能よく之これを苦しむ」とある。 類義大魚も陸おかに出れば蟻にせめらる。 ひんひんどん 鈍すりや貧する貧すれば鈍する571 進んで危険に身を投じ、災難を招くたとえ。 灯火に集まってくる虫が焼け死ぬことから。 類義飛蛾ひがの火に赴くが如し。 用例 琵音 あし おと 稀 まれ なる山奥に春を歌う鶯 うぐ の 声を聞いて、誰か自然の歌の温かさを感じな いで居られよう。然しかるに世の多くの人々 が、此この美しい野をも山をも棄てて、宛さなが ら「飛んで火に入る夏の虫」の如く、喧騒 雑踏、我欲、争乱の都会に走り来たるのは何 故なぜであろうか。石川三四郎・吾等の使命 どんこかわいばかこかわい 鈍な子は可愛い馬鹿な子ほど可愛い 518 とんびたかうとびたかう 鳶が鷹を生む 鳶が鷹を生む とんびあぶらあ さら 応に油揚げを攫われる 応に油揚げ さら を攫われる 472 とんびこたか 鳶の子は鷹にならず とびこたか 鳶の子は鷹にな らず472 とんびいずたかみとびい 鳶も居住まいから鷹に見える鳥も居 たかみ 住まいから鷹に見える472 とんびものみまとびものみ 鳶も物を見ねば舞わぬ鳶も物を見ね ま ざ鮮つね72 ば舞わぬ472 <479> 評判と実際とが違っていること。名前はよく 知られているが、実質が伴わない意。 類義有名無実。 出国語こくご 無いが意見の総じまい 何度意見してもやめない放蕩 とう や遊興も、財 産を使い果たして遊ぶ金がなくなれば自然に やみ、意見の必要もなくなるということ。 無いが極楽知らぬが仏 貧しい者のほうが気が楽で、かえって幸せな 場合もあるというたとえ。貧乏人は、金や財 産があるために生じるさまざまな気苦労を知 らないし、ぜいたくの味なども知らないので、 欲望に心を悩ませることもなく、安楽な生活 を送ることができるということ。 なこ 無い子では泣かで有る子に泣 く 無い子では泣かれぬ 子供のための苦労の大きいことをいう。子が なければ親は子のために泣くことはないが、 子を持つ親は、自分の子の不始末や親不孝で 泣かされることが多い意から。「無い子に泣 かないが有る子に泣く」ともいう。 対義無い子では泣かれぬ。 なありてーないてそ 無し二つは流れわれ 子のために苦労して流す涙も、子が無くては 味わえない。どんなに苦労をさせられよう と、子はあったほうがよいということ。 対義無い子では泣かで有る子に泣く。 内面は弱いのに外見は強く見えること。また、気が弱いのに外では強気な態度を見せること。内はやわらかく、外はつよい意から。補説出典には「内は柔にして外は剛なり、内は小人にして外は君子なり」とある。対義外柔内剛。 出易経 内証は火の車 外見は裕福そうに見えるが、内部の財政状態 は非常に苦しいこと。 類義内は火が降る。 内助の功こう 内部からの援助。とくに、夫が外で十分に活躍できるように、妻が家庭を守って夫を助けること。 ないせいがいだく 内清外濁 心の中では高潔を保ちながら、うわべは世俗 と妥協して汚れたふりをすること。乱世を生 き抜く処世術の一つ。 なそでふ 無い袖は振れぬ と。袖のない着物では、振りたくても振れないという意から。金銭的な援助をしたいができないといった場合に使う。「無い袖は振られぬ」「有る袖は振れど無い袖は振られぬ」ともいう。 実際にないものはどうしようもないというこ 英語 A man cannot give what he hasn't got. 持っていない物を人に与えることはできない 用例昔から、無い袖は振れないとか、いか に巧みな手品師でも種がなくてはどうにもな らぬ。と、いう諺ことがあるけれど、戦争となっ てみれば、無い袖も振らねばならないし、種 がなくても、生活を続けねばならぬ。不平、 不満はもってのほかじゃ。佐藤垢石◆食べ もの なからすわらいまなからす泣いた鳥がもう笑う今泣いた鳥がもう笑う73 泣いて暮らすも一生笑って 暮らすも一生 泣いて暮らそうと笑って暮らそうと、人の一 生に変わりはない。同じ一生なら辛っぱくても くよくよせず前向きに生きて、楽しく暮らす ほうがよいということ。「笑って暮らすも一 生、泣いて暮らすも一生」ともいう。 だ 泣いて育てて笑ってかかれ 泣くような苦労をしても、子供は立派に育て あげ、老後はその子供の世話を受けてゆった りと余生を送れということ。 <480> ばしょくき 泣いて馬謖を斬る 全体の規律を守るためには、私情を捨てて、 愛する部下でも厳正に処分するということ。 故事)中国、三国時代、蜀くの諸葛孔明 が魏ぎと戦った時、最も信頼していた部下の 馬謖が、命令にそむいて大敗した。孔明は軍 法にしたがい、涙を流しながら馬謖を斬罪の 刑に処した。 用例 われわれの揺籃 よう らん の歌は「戦いの花」 に満ちており「泣いて馬謖を斬る」ことは、 支那しな ではともかく、日本では朝飯前である。 〈岸田国士◆空地利用〉 なときしんぼうあときけんやく 無い時の辛抱、有る時の倹約 金がない時は不自由な生活もがまんし、金が ある時は浪費せず倹約に心がける。これで家 計を健全に保てるということ。 なよ 無い名は呼ばれず り、いるといわれていても実はいないのが化 け物であるということ。 名前のないものは呼びようがないというこ と。また、事実のない所には、うわさは立た ないということ。 類義火の無い所に煙は立たぬ。 無い物食おうが人の癖 ひとくせ 無い物食おうが人の癖 手に入りにくい物を欲しがるのが人の常だと いうこと。「無い物食おう」ともいう。 類義無い物ねだり。 なものかねばもの無い物は金と化け物 内憂外患 出管子かんし 内にも外にも心配事が多いこと。△内憂=国内の心配事・災い。外患=外国・外敵によってもたらされる不安・心配。 あるように見えても実際にないのが金であ 苗の莠有るが若し なえゆうあこと 出書経しょきよう 善人の中に悪人が交じっていることのたと え。水田の稲の中に、はぐさが交じっている ようなものだという意から。▷莠∥はぐさ。 穀物の苗に似た雑草で、苗の成長を妨げる。 直きに曲がれる枝 なお ま えだ どんなに正しい人にも、欠点や弱点があるも のだということ。また、清廉潔白な親から品 行の悪い子が生まれることもあるというこ と。まっすぐな木にも曲がった枝はついてい る意から。「直き木に曲がる枝」ともいう。 一長生きは恥多し命長ければ恥多し 長芋で足を突く いもがらあしっ 芋茎で足を突く 74 ま なが もの 長い物には巻かれろ 権力のある者や目上の人には逆らわないで、 おとなしく相手の言うなりに従っているほう が無難であり、得策だということ。 類義大きな物には呑のまれる。太きには呑 まれよ。 英語 It is on meddling with our betters. 目上の人たちと争うことはできない 用例けれどもなんといっても相手は江戸一番の落語家長い物には巻かれろと円朝えんちはじっと歯を食いしばっていたのであるが今宵ははしくも惚れたお絲と花火見物の船のなかでその大敵の柳枝りゅと水を隔てる真ッ正面に対面してしまった。正岡容◆円朝花火 ながこうじょうあくびたね 長口上は欠伸の種 長たらしい話は、聞き手を飽きさせるもとで ある。挨拶や話は簡潔にせよということ。 鳴かず飛ばず 長いこと目立った活躍をしていないこと。また、将来の活躍に備え、時期が来るまでじっとしていること。 補説 『史記』の故事に基づく 三年蜚とばず 鳴かず」が変化した語。故事に基づけば後者 の意だが、前者の意で用いられることが多い。 ↓三年蜚ばず鳴かず 281 類義三年輩ばず鳴かず。 仲立ちより逆立ち 物事の仲立ちをするのはたいへん苦労の多い もので、逆立ちをするほうがまだ楽だという こと。「仲立ちするより逆立ちせよ」ともい う。「逆立ち」は「仲立ち」のごろ合わせ。 鳴かぬ蛍が身を焦がす 口に出して言わない者のほうが、かえって心 <481> の中での思いは切実であるというたとえ。鳴 くことのできない蛍が、激しい思いのために 身を焦がさんばかりに光っているという意か ら。「鳴く蟬せみよりも、鳴かぬ蛍が身を焦が す」ともいう。 なか仲のよいで喧嘩する 仲がよいと互いに遠慮がないので、かえって 喧嘩になることが多いということ。 類義良い仲の小誝さかい。 長持枕にならず 類義 行く水に数書く。水に絵を描く。 大は小を兼ねるとは限らないということ。大 きな長持を枕にすることはできないことか ら。▷長持=衣類などを入れる長方形の大き な木の箱。 類義 杓子 しゃ くし は耳掻 みみ か きにならず。搗っき白 うす で茶漬け。 流れ川に大魚なし なが がわ たいぎよ 大人物がその才能を発揮するには、それ相応 の場が必要であるということ。大魚は深い淵 ふちにすみ、波を立てて流れるような小さな川 にはいないという意から。 類義 大魚は小池に棲すまず。 流れ川を棒で打っ やりがいがないことのたとえ。意味がないこ とのたとえ。流れている川の水面を棒で打っ ても、跡形も残さず、川は流れ続けることか ら。 流れに棹さす なかのよーなくこと 好都合なことが重なり、順調に物事が運ぶこ と。流れに乗って下る舟に、棹をさしてさら に勢いをつけるという意から。誤って流れに 逆らう意にも用いる。 類義得手えてに帆を揚げる。追風 に帆を上 げる。帆掛け船に櫓ろを押す。 流れに枕し石に漱ぐ石に漱ぎ流れに まくら 枕す43 なが みみ あら 流れに耳を洗う 出高士伝 清廉で潔いことのたとえ。単に「耳を洗う」 ともいう。 流れる水は腐らず↓流水腐らず、柩螻せず683 流れを汲みて源を知る なが みなもと し 出摩訶止観まかしかん 行いを見て、その人の性格や気持ちを読み取 ること。また、末端を見て、その本もとを知る こと。流れている水を汲んで、その水源のよ うすを推察する意から。 補説出典には流れを挹くみて源を尋ね、 香を聞きて根を討たずぬ(水の流れを汲み取っ て水源のようすを考え、香りをかいではその 草の根をきわめる」とある。 泣き面に蜂 なつらはち 不幸や不運の上にさらに不幸なことが重なっ て起こることのたとえ。泣いてむくんでいる 顔をさらに蜂が刺すということから。「泣 きっ面に蜂」「泣きっ面を蜂が刺す」ともいう。 いろはがるた(江戸)の一。 類義痛む上に塩を塗る。弱り目に崇たり 目。痛この上の腫はれ物。踏んだり蹴ったり。 痛い上の針。 用例過日の台風によって本年は稲が遅い開 花期をやられて不作確実となり、朝鮮、台湾、 満州を失ったのに加えて泣き面に蜂のていで ある。〈海野十三◆海野十三敗戦日記〉 泣く子と地頭には勝てぬ 道理のわからない者には何を言っても通じないというたとえ。泣いてだだをこねる子供と、権力をもっている横暴な地頭には、道理を言っても聞き入れてもらえないということから。「泣く子と地頭には勝たれぬ」ともいう。∇地頭∥中世に荘園 しよう えん を管理し税を取り立てた役人。 類義童わらべと公方人くぼうにんには勝たれぬ。 英語 We must fall down before a fox in season. 発情期の危険で手に負えない)狐 きつ ね の前にはひれ伏さなければならない 用例 権力ある者は、その子供の罪まで警官 が見逃すという、日本人は昔から泣く子と地 頭に勝たれぬ、権力崇拝家であり、さればこ <482> なくこにーなこうど そ権力には盲目的に屈服し、したがって又、 自らが権力を握れば、これをフリ廻まわして怪 しまない。〈坂口安吾◆現代の詐術〉 泣く子に乳 すぐに効き目が現れるたとえ。泣いている赤 ん坊に乳を与えれば、すぐに泣きやむことか ら。 泣く子は育つ なこそだ 大声で泣く赤ん坊は元気な証拠であり、丈夫 でよく育つということ。 類義赤子は泣き泣き育つ。 泣く子も目を見る 思慮分別のなさそうな者でも、多少は周囲の ことを考えて振る舞うものだというたとえ。 だだをこねて泣いている子も、ときどきは目 を開けて周りのようすを見ているということ から。「泣く子も目を開ぁく」ともいう。 なせみ 鳴く蟬よりも、鳴かぬ蛍が身を焦がす なほたるみこ 鳴かぬ蛍が身を焦がす480 れでも欠点がある な無くて七癖ななくせ 人はだれでも癖を持っているもので、癖がな さそうに見える人でも七つくらいは癖がある ということ。「無くて七癖、有って四十八癖」 「難無くして七癖」ともいう。▶「七」は「無 く」の「な」に音を合わせたもの。 類義人に一癖。人に七癖我が身に八癖。 英語Everyman has his faults.人にはだ 用例無くて七癖というように誰だれでも癖は持っているものだが、水島の癖は又一風変っていた。それは貴方あなたにお話ししてもおそらくは信じてくれないだろうと思うがその癖は「息を止める」ということなのである。〈蘭郁二郎◆息を止める男〉 泣く時は泣いて渡れ その時その時の状況や環境に応じて世間を 渡って行けという教え。 泣く泣くも、よいほうを取る 形見分け 人間は、どんなときでも欲得を忘れないというたとえ。親が死んで形見分けをするときになると、みんな悲しみながらも、よいほうを取りたがるものだということ。江戸川柳「なきなきもよい方をとるかたみわけ」から。 鳴く猫は鼠を捕らぬ 口数の多い者は口先だけで実行力がないということ。よく鳴く猫は、あまり鼠を捕らないということから。 類義食いつく犬は吠えつかぬ。吠える犬 は噛かみつかぬ。 な鳴くまで待とう時鳥 無理をせずに、好機が到来するまで忍耐強く 待つことをいう。時鳥が鳴かないなら、鳴く まで気長に待っていようという意から。 補説織田信長 おだの ななが は「鳴かぬなら殺してし まえ時鳥」、豊臣秀吉 とよとみ ひでよし は「鳴かぬなら鳴 かしてみしょう時鳥」、徳川家康 とくがわ いえやす は「鳴 かぬなら鳴くまで待とう時鳥」と言ったと伝 えられ、戦国時代の三人の武将の性格を端的 に示すことばとして知られる。 鳴く虫は捕らえられる 何か芸があるために、かえって身を誤ることがあるというたとえ。虫は鳴くと居場所を教えるようなもので、捕らえられてしまうということから。「鳴く虫は捕らる」ともいう。 なけなしの無駄遣い 金のない者に限ってむだ遣いをするというこ と。わずかしかない金銭を浪費すること。 …金を使わず。 対義 金持ち金を使わず。 なこととくな 仲人口は半分に聞け 仲人は縁談をまとめるために、よい所ばかり 誇張して話しがちなので、半分くらいが本当 だと思って聞けばちょうどよいということ。 なーうどななうそ 仲人七噓 仲人は縁談をまとめるために、よい面ばかり 誇張するので、とかくうそがまじり、あてに ならないということ。 類義 仲人の嘘八百。 仲人の空言 そらO こと なこうどよい仲人は宵の口 仲人の務めは結婚式がすめば終わるのだか ら、長居せずに宵の口に帰ったほうがよいと <483> いうこと。引き揚げ時を見計らうことが大切 であるということ。「仲人は宵のうち」「仲人 は宵の程」ともいう。 なこうどわらじせんぞく仲人は草鞋千足 仲人は、縁談をまとめるために両方の家へ何 度も足を運んで、わらじを千足も履きつぶす ほどの苦労をするということ。 類義仲人の履物切らし。 なさ情けが仇あだ 相手に対する好意や同情心からしてやったこ とが、かえって悪い結果を招くということ。 類義恩が仇。情けの罪科。始めの情け今の 仇。 はむやいば 情けに刃向かう刃なし 情けや慈悲をかけてくれる人に対しては、だ れも反抗できないというたとえ。 類義仁者じんは敵なし。 情けの酒より酒屋の酒 なさ さけ さかや さけ 口だけの同情より、実際に役に立つ物をもら うほうがありがたいということ。同情のこと ばより、酒屋の酒をもらったほうがよいとい う意から。「情け」の「さけ」に「酒」を掛 けた語呂合わせ。 類義思 し召しより米の飯。心持ちより搗 ついた餅。情けは質に置かれず。 なさ しち お 情けは質に置かれず 同情の気持ちは何の足しにもならない。情け なこうどーなしのっ をかけてもらっても、その情けが質草 ぐさ るわけではなく、助けにはならないというこ と。「情けは質に置かれぬ」ともいう。 類義情けの酒より酒屋の酒。 なさじょうげ 情けは上下によるべからず 身分・貧富などに関係なく、人にはだれでも 情けをかけるべきだという教え。また、男女 間の情愛は、身分の上下、貧富の差などに左 右されないという意にも用いる。 なさひとため 情けは人の為ならず 善行は結局自分にも返ってくるものだから、 人には親切にせよという教え。人に情けをか けると、その人のためになるだけでなく、い つかめぐりめぐって自分にもよい報いが返っ てくるものだということ。 注意情けはその人のためにならないので、 かけないほうがよいと解釈するのは誤り。 英語He shall find mercy that merciful is. 慈悲を与える者は必ずや慈悲を受ける He that pities another remembers him- self.他人を哀れむ者とは自分のことを思う 人のことである て相手の迷惑になるという戒め。 用例情は人の為ならず今夜一杯飲まして置 いたら後日何かの為にもなろうと思直して瀬 川は何ともつかず、「電車も遠いと乗りくた びれますね、どこかで休みましょう」〈永井 荷風◆腕くらべ〉 なさすあた 情けも過ぐれば仇となる 親切や同情も、あまり度が過ぎると、かえっ なさあだかえおんあだかえ 情けを仇で返す♩恩を仇で返す128 な あた 為さざるなり、 能わざるに非 ず 出孟子もうし 物事を実現できないのは、不可能だからでは なく、やろうとしないからである。能力は あっても実行力や意志が足りないことを言っ たもの。∇能う∥できるという意。 なし かわ こじき む うり 梨の皮は乞食に剥かせ、瓜の かわ だいみよう む 皮は大名に剥かせ 梨の皮は薄くむいたほうがよいので、大事に 丁寧にむく乞食にむかせ、厚くむいたほうが よい瓜の皮は、惜しむことなど知らない大名 にむかせるということ。「梨の皮は姑 しかせ、柿の皮は嫁に剥かせよ」ともいう。 類義 餅は乞食に焼かせろ、魚は殿様に焼か せろ。 なし梨の礫つぶて 連絡をしても、まったく返事がないこと。投 げた小石は行ったまま返ってこないことか ら。▶礫‖投げつけた小石。「梨」は「無し」 に掛けたことば。 類義梨も礫もせぬ。 用例あるいはまた、浦本氏が亡くなって、 すべては御破算ということなのか。何にして もあれぎり梨のつぶてだから、一切不明だ。 <484> なすときーなつのは 〈尾崎一雄◆まぼろしの記〉 なときえんまがおかときじぞうがお 済す時の閻魔顔 かえときえんまがお 返す時の閻魔顔 158 なすびはなおやいけんせんひとあだ 茄子の花と親の意見は千に一つも仇は おやいけんなすびはなせん ない親の意見と茄子の花は千に つも仇はない123 なものつねなおこなもの 為す者は常に成り、行う者は つねいた 常に至る 出晏子春秋 怠けないでやり続ければ必ず成し遂げられる し、目的を持って進み続ければ必ずそこに到 達できる。中国春秋時代の斉の政治家晏嬰 のことば。 類義 為せば成る。 な 為せば成る その気になってやれば、どんなことでもできないことはないということ。 補説江戸時代後期の米沢 よね ざわ 藩主上杉鷹山 うえすぎ ようざん が家臣に示した歌「為せば成る、為さね ば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけ り」は有名。 類義為す者は常に成り、行う者は常に至る。 用例天の啓示とでも申しましょうか、人事 の最後まで努力すれば、必ずそのうしろには 神仏の啓示があって道は忽然ぜんと拓ひらけてま いるものだと、わたくしは、画道五十年の経 験から、しみじみとそう思わずにはいられま せん。なせば成るなさねば成らぬ何事もな らぬは人のなさぬなりけり……の歌は、この あたりのことをうたったものであろうと存じ ます。〈上村松園◆無題抄〉 名高の骨高 なだかほねだか 有名なものなのに、実はたいしたものでない ことのたとえ。▷名高‖名が知れわたる。骨 高‖骨ばってごつごつしていること。 類義名ありて実なし。聞くと見るとは大違 い。聞いて極楽見て地獄。 なたね 菜種から油まで 物事の初めから終わりまでということ。菜種 の状態から、しぼられて油になるまでという 意から。 鈍を貸して山を伐られる 鉈を貸して山を伐らわ・ 好意でしてやったことのために、かえって自 分が損害をこうむることのたとえ。鉈を貸し てやったら、その鉈で自分の山の木を伐られ てしまったということから。 類義」盗人に鍵を預ける。恩を仇あだで返す。 夏歌う者は冬泣く 働けるときに働かないでいると、あとで生活に困るということ。体を動かしやすい夏に歌など歌って遊んでいると、寒い冬に食べるものもなく、泣くことになるという意から。 と。「夏座敷と鰈とは縁端 ばしがよい」ともい う。マ縁側座敷の外側の板敷。また、魚の ひれの付け根の骨の周辺の肉。ここはその両 者をかけている。 夏座敷と鰈は縁側がよい 夏は暑いので部屋の中より縁側が過ごしやす く、鰈もひれに近い縁側が味がいいというこ 納所から和尚 いっぺんに出世することのたとえ。反対に、 いっぺんに出世することはできず、物事は順 序を踏まなければならないというたとえにも いう。∇納所∥納所坊主。寺の下級の僧。 納豆も豆なら豆腐も豆 もとは同じものでも、条件によってまったく 違ったものになることのたとえ。 類義雪や氷も元は水。 夏布子の寒帷子 かんかたびら かん かたびら どよう ぬの 土用に布 子 166 夏の風邪は犬も食わぬ 夏に風邪をひくくらいつまらないことはない ということ。「夏の風邪は犬もひかぬ」とも いう。 類義夏の風邪は猿でもひかぬ。 夏の小袖 季節はずれで役に立たないもののたとえ。△ 小袖=袖の短い綿入れの冬着。 類義夏炉冬扇。六日の菖蒲 あや、 十日の菊。 なつはまぐりいぬく 夏の蛤は犬も食わぬ 夏の蛤は犬でも食べないほどまずいというこ <485> と。蛤の産卵期が夏なので、この時期は味が 落ちることから。 夏の火は嫁に焚かせよ 暑い夏に火をたくようなつらい仕事は嫁にさ せよということ。いわゆる嫁いびりのことば の一つ。 補説夏の火は娘に焚かせろ、冬の火は嫁 に焚かせろ」のように、娘には厳しくしつけ、 嫁は大切にしなければいけないということば もある。 夏の牡丹餅犬も食わぬ 類義 冬は日陰、夏は日面 ひお。 もて 夏のぼたもちは犬も食べないほどまずいということ。また、腐りやすいので早く食べてしまえということ。「夏の餅は犬も食わぬ」ともいう。 無知なこと。見識の狭い者が威張った態度を とること。夏の虫は、氷を知らないので、氷 を笑いものにするという意から。 「負傷」キノコノ圭かわこぼン・ロ・コ・ 夏は日向を行け、冬は日陰を 行け 七重の膝を八重に折る 自分を鍛えるためには、夏に暑い日向を歩き、 冬に寒い日陰を歩くように、進んでつらい方 法をとれということ。また、人の行きたがる 夏の日陰や冬の日向は人に譲って、出過ぎた ことはしないようにという教え。 なつのひーななつな これ以上ないほど丁寧な態度で、謝ったり嘆 願したりするようす。二重にしか折れない膝 を七重に折り、さらに八重にも折りたいほど 腰を低くするという意から。「七重の襞ひだを 八重に折る」ともいう。 類義七重の膝を十重と元も折る。 用例「ざっくばらんに申しますが、あなた とわたくしとは以前から仲違 たがいの間柄。そ の、あなたの身内の手にかかって惨めな殺さ れようをさせたくねえのでございます。この 通り、七重の膝を八重に折って、お情におす がり申しやす。なにとぞ、おきき入れになっ て。……一生恩に着やす」〈久生十蘭◆魔都〉 ななころやお 七転び八起き 何回失敗してもあきらめずにがんばることの たとえ。また、人生の浮き沈みが激しいこと のたとえ。七回転んでも八回起きるというこ とから。「七転八起」「七度な転びて八度 やた起きよ」ともいう。 持っているといわねばならぬ。〈相馬愛蔵◆ 私の小売商道〉 用例七転び八起きということは、実に彼等 かれ ら 小僧上りの商人の常態である。無論小僧上 り必ずしも成功するものと限っているのでは ないが、少なくとも苦労を知らぬ学校出や、 気まぐれに面白半分に実業熱にうかされる素 人とのとうてい我慢の出来ないところを平気 で切り抜け、また客に対してきわめて腰の低 いのは、確かに成功に欠くべからざる要素を 類義失敗は成功の基。 ななさ ななあ よななさ ななあ 七下がり七上がり♩世は七下がり七上 がり673 七皿食うて鮫臭い さんざん食べたあとで、料理がまずいと文句 をいうこと。七皿も食べておいて鮫の肉が臭 いとけちをつけるということから。 類義下種げすの謗そしり食い。 七度尋ねて人を疑え 物がなくなったときは、自分で何度もよく探 してみるべきで、探しもしないで軽率に人を 疑ってはならないという戒め。「七度探して 人を疑え」ともいう。 類義十遍探して人を疑え。 対義人を見たら泥棒と思え。 なな 七つ下がりの雨と四十過ぎての道楽 は止まぬ 七つ下がって降る雨は止みそうで 止まぬ 289 なな七つ泣き別れ 七つ違いの夫婦は、うまくいかず別れるもの だという俗信。 ななななさとにく七つ七里に憎まれる 七歳ぐらいの男の子はいたずら盛りで、近隣 <486> ななつまーなはじつ に迷惑をかけ、憎まれることが多いというこ と。△七里∥多くの村里。 類義七つ八つは憎まれ盛り。 七つ前は神の子 七歳未満の子供は神に属する存在であり、わ がままや非礼もとがめられないということ。 「七つまでは神のうち」ともいう。七歳未満 の男の子は神様に守られているという古くか らの民間信仰による。 ななひろ しま やひろ ふね かく 七尋の島に八尋の船を隠 効果のないことをするためとえ。また、頼るも のがない場合は、頼りにならなくてもそこへ 行って頼むというたとえ。小さな島に、それ より大きな船を隠す意から。▷尋‖長さの単 位。一尋は約一・八メートル。 何某より金貸し 名よりも実のほうがよいというたとえ。何の なにがしと言われるほどに家柄や格式は高い が貧乏であるよりも、金貸しといわれて軽蔑 されても富裕なほうがよいということ。 類義某 それ がし より食うがし。 るというたとえ。難波(大阪府)で葦と呼ばれ ている植物は、伊勢(三重県)では浜荻と呼ば れていることから。 なにこと何事も縁えん 世の中のことはすべて縁によって成り立って いる。縁によって人間関係が生まれ、そこか らいろいろなことが生じてくるということ。 なにわあしいせはまおぎ 難波の葦は伊勢の浜荻 物の名前や風俗・習慣は、土地によって異な 類義所変われば品変わる。 七日通る漆も手に取らねばか なぬかとおうるしてと ぶれぬ かかわりを持たなければ害を受けることはな いというたとえ。漆の木のそばをいつも通っ ていても、手に触れなければかぶれることは ないという意から。 類義触らぬ神に崇たたりなし。 なぬかせっぽうへひとひゃくにちせっぽうへひと 七日の説法屁一つ↓百日の説法屁一 りら つ 565 名主の跡は芋畑 名主の家は何代も続かないというたとえ。名 主の家が没落して、その跡が芋畑になってい るという意から。▷名主‖江戸時代の村の代 表者。今の村長にあたる。「名主を三代すれ ば屋敷に草が生える」と言われるように、名 主は公務が忙しく、出費も多く、三代続けて 務めると家財を失うという。 対義名実相伴う。 類義長者に二代なし。名家三代続かず。名 主の三代草だらけ。 名の勝つは恥なり 出通書 評判が、実際の力量より高いというのは、そ の人にとって恥ずべきことである。「名声実 に過ぐ」ともいう。 はじ 名の木も鼻につく 何事もほどほどがよいということ。名の知れ た香木のよいかおりでも、かぎ続けていると 飽きがくるということから。 類義過ぎたるは猶なお及ばざるが如ごとし。 なほしよいで 名のない星は宵から出る 最初のほうに出てくるものにはよいものがないというたとえ。また、待ち望んでいる人は来なくて、どうでもいい人が早くからやって来ることにもいう。 類義用のない星は宵からござる。よい花は あとから。 なはしお 菜の葉に塩をかけたよう青菜に塩4 なのあ 名乗りを上げる 世間に対し名前を告げて自分の存在を知らせ る。また、競技や選挙などに参加を表明する。 立候補する。昔、戦場で武士が敵に対して、 戦う前に自分の名前や身分などを大声で告げ たことから。∇名乗り=自分の名前を告げる こと。 用例その頃黒田さんなどが新しい西洋画を 描く機運をつくり、白馬会が名乗りをあげた り、一方では太平洋画会などが人気があった。 〈高村光太郎◆美術学校時代〉 なじつ名は実の寳ひん 出荘子そうじ 形式よりも内容が大切であるということ。ま <487> た、徳を伴わない名声は無意味であるという こと。名は、実質という主人に連れ添う賓客 であるという意から。∇名∥名称。実∥内 容・実質。賓∥賓客。 名は体を表す 故事)中国古代の聖天子堯 が、許由 きよ ゆう を賢 人と見込んで帝位を譲ろうとしたとき、許由 は「あなたが天下を治めてすでによく治まっ ている。それなのに私が代わって位につくの は、ただ天子という名だけを得るのでしょう か。名は実の賓であり、名だけを得るのでは、 私は主人のいない客になってしまうでしょ う」と言って辞退したという。 類義目糞めく鼻糞を笑う。 人や物の名は、そのものの実体や性質などを 的確に言い表していることが多いというこ と。 類義名詮自性みようせん。じしょう 英語 Names and natures do often agree. 名前と性質とはしばしば一致する 用例女房はお早といって、名は体をあらわ すとか、似たもの夫婦というとおり、これま た大のせっかちでございます。〈駒田信二一 せっかち〉 うさぎくうさぎなぬか なぶれば兎も食いつく兎も七日なぶ かつ れば噛み付く83 なべ いか 鍋の鋳掛けが釣鐘を請け合っ なべかまくろ鍋が釜を黒いと言う 自分のことを棚に上げて、他をあざ笑うこと のたとえ。鍋が自分が黒いにもかかわらず釜 のことを黒いと言って笑うことから。 なはたいーなまごろ 能力以上のことを引き受けて、大騒ぎすること。鍋の修繕をする鋳掛け屋が釣鐘の鋳造を引き受けてしまったという意から。「鍋鋳掛けが釣鐘の請合い」ともいう。 たよう なべ鍋の三つ足あし 世間知らずのたとえ。ふだん台所仕事ばかり していて、鍋の足が三本あることは知ってい るが、世の中のことは何も知らないこと。 なべぶたねずみお 鍋蓋で鼠を押さえたよう 優柔不断な態度や中途半端な状況のたとえ。 鍋の蓋で鼠を押さえた場合、強く押さえて鼠 を殺せば蓋が汚れるし、かといってゆるく押 さえたのでは逃がしてしまうことから。 =地面に生えている木。また、切ったばかり の木。 なべぶたすつぼん鍋蓋と鼈 比較するには違いすぎることのたとえ。鍋の 蓋も鼈も形が丸いという点は共通するが、両 者はまったく異なったものであることから。 類義月と鼈。 生壁の釘 くぎ ぬか くぎ 糠に釘 502 怠け者の足から鳥が立つ 生木を裂く ふだん怠けている者は、いざというときの心 構えができていないので、何か事が起こると、 まごついて騒ぎ立てるということ。 相思相愛の男女を無理に別れさせること。割 れにくい生木を無理に割ることから。▷生木 怠け者の食い急ぎ 怠け者は、食事のときだけ威勢がよくなり、 人より早く食べるものだということ。「怠け 者の食じき急ぎ」ともいう。 類義居候の食い急ぎ。能なしの食巧 だく 懈怠 けだ 者の食 く 急ぎ。 怠け者の節供働き ふだん怠けている者に限って、節供など世間 の人が仕事を休むときになると、忙しそうに 働くものだということ。∇節供∥節句とも書 き、人日じん(一月七日)・上巳じん(三月三日)・ 端午ごん(五月五日)・七夕(七月七日)・重陽 ちょう(九月九日)などの式日をいう。昔の村の 生活では、式日や小正月(一月十四日~十六 日)などには一斉に休むことが習わしであっ た。 類義横着者の節供働き。野良の節供働き。 怠け者の宵働き。不精者の一時働き。 生殺しの蛇に噛まれる 災いの根源を完全に取り除いておかなかった ために、身に害が及ぶこと。蛇の息の根を完 全に止めておかなかったために噛まれてし <488> なまびよーなめくじ まったということから。 類義蛇の生殺しは人を噛む。 なまびようほう おおけが 生兵法は大怪我のもと 中途半端な知識や技術は、かえって大きな間 違いを起こす原因になるということ。少しば かり兵法を知っていると、それに頼ってし まって大怪我をすることになることから。 「生兵法は大疵 きず のもと」ともいう。∇生兵 法=ちょっと聞きかじった兵学や武術。 類義 生物識 なまも り川へはまる。生物識り地 獄に落ちる。生悟 なま さと り堀に落ちる。 英語 A little learning is a dangerous thing.少しばかりの学問は危険である 生物識り地獄に落ちる 用例ある知人の小児科医がかつて私に云 った。「近頃は生意気なお母さんがふえて、 診みてもらう子供の病名を先に云うのがいる。 今これこれの手当をしているなどと得意に なってまくしたてるのがいるよ。困ったもん だね。まるでお母さんが自分の医学知識に折 紙をつけさせようと思ってわれわれの処 やって来るみたいだよ。そういうのは、得て 誤診と相場がきまっている。生兵法大怪我の もとっていうのは医術の場合にもあてはまる んだ」〈岸田国士◆母親の心理学〉 なまものしかわ 生物識り川へはまる なまじ知識のある者は、とかく仏法の悪口を 言ったりするので、死んでから地獄に落ちて 苦しむことになるということ。 未熟な知識で軽々しく振る舞っていると、そ のうち大きな失敗をすることになるというこ と。「生物識り堀へはまる」「生物識り川に流 るる」ともいう。 類義生兵法なまびようほうは大怪我のもと。 生酔い本性違わず 少しぐらい酒に酔っても、その人の本来の性 質は失われないということ。また、酔うと、 本当の性質が出るものであるということ。 類義酒飲み本性違わず。 用例面目なげに、大蔵はあたまを掻かいた。 それも指の先で横びんを掻くようなのでな く、大きく腕であたまを抱え込んで見せ。「何 か先生へたんかを切ったんでございましよ う」「きさま、なかなか油断はならん。生酔 い本性たがわずだ」〈吉川英治◆私本太平記〉 なまくにてがた 訛りは国の手形 ことばの訛りで出身地が知れること。訛りは その人の出身地がわかる手形のようなものだ ということ。▷手形‖往来手形。江戸時代の 旅行許可証兼身分証明書。 類義方言は国の手形。言葉は国の手形。 なまりもっとうなべ 鉛は以て刀と為す可からず 出淮南子えなんじ 物にはそれぞれ使い道があるというたとえ。 また、愚か者は使い道がないというたとえ。 鉛のようにやわらかい金属では刀を作ることができないことから。 補説出典には、このあとに銅は以て弩 と為す可からず、鉄は以て舟と為す可からず、 木は以て釜と為す可からず」とあり、それぞ れ適材を適所に用いるべきことを述べてい る。 涙ほど早く乾くものはなし 悲しみなど一時の激情は、すぐに忘れてしま うもので、涙など当てにならないということ。 涙はその場の一時の感情で流れるものですぐ に乾いてしまうということから。 補説古代ローマの政治家キケロの言葉。 波に千鳥 絵になるような調和のよい組み合わせの例。 類義梅に鶯うぐ。紅葉に鹿。牡丹に唐獅子 から、竹に虎。牡丹に蝶ちょ。竹に雀すず。松に鶴。 柳に燕つば。 波にも磯にも着かず どっちつかずで落ち着かないさま。中途半端 なさま。「波にも着かず磯にも着かず」とも いう。 なめくじ 蛞蝓に塩しお すっかり元気をなくすことのたとえ。また、 苦手なものの前で萎縮してしまうこと。なめ くじに塩をかけると縮むことから。 類義青菜に塩。蛭ひるに塩。 蛞蝓の江戸行き なめくじ えどゆ 物事が遅々として進まないことのたとえ。の <489> ろのろとしか進まないなめくじが、遠い江戸 まで行くという意から。 類義 蛞蝓の京詣 まいり。 名よき島に木寄る なしまもくよ 同じことなら、名前や体裁のよいものを人は 好むものだというたとえ。流木が流れ寄るの は名前のよい島であるという意から。 な名よりも実 類義名を棄てて実を取る。名を取るより得 を取れ。花より団子。論に負けても実に勝 て。 対義得を取るより名を取れ。 用例だが、師直 もろ なお は容いれず、師泰 もろ やす もまた、 一笑に附して言った。「公義 きん、 よし 名よりは実 だよ、当世ではな。向うに二重の腹があるな ら、こっちも三重腹になって、幾変化でもし て見せるわさ。生き抜いた方がさいごの勝ち というものだ」〈吉川英治◆私本太平記〉 を厲行 これ こう する趣が見える。習い性となる、で、 件 くだ の犬も、持斎 じさ すべく育てられたのであ ろう。〈南方熊楠◆十二支考〉 習い性と成る ならいっしょう 習慣は、身についてしまうと、ついには生ま れながらの性質のようになるということ。 類義習慣は第二の天性なり。習慣は自然の 若ごとし。 習うは一生 英語Once a use and ever a custom. 度癖になると習慣になる 用例 タヴェルニエー等の紀行に、回教徒の 厳峻 げんし ゆん な輩 やか は、馬にさえ宗制通りの断食 出書経しょきょう 人間はいくつになっても学ばねばならない。 死ぬまで勉強の連続であるということ。 なよきしーなれての 人から学ぶよりも、実際に経験を積むほうが、 しっかりと身につくということ。 英語 Custom makes all things easy. [慣 れれば万事容易になる] Practice makes perfect. [練習を積むと完全になる] かんにん ならぬ堪忍するが堪忍 類義なる堪忍は誰もする。堪忍は一生の 宝。堪忍は万宝ばんにかえ難し。 英語 Patience is a flower that grows not in every garden. 育つ花ではない きょうよ 習わぬ経は読めぬ 知識や経験のないことは、やれと言われても できるものではないというたとえ。 に数多く、いたる所にあるものだということ。 ∇生業∥生活していく上での仕事。職業。 類義世渡りは草の種。 対義門前の小僧、習わぬ経を読む。 生業は草の種 なりわいくさたね な 成るか成らぬか目元で知れる 相手の目の表情で、承知か不承知かは推察で きるものであるということ。 生計を立てるための仕事は草の種の種類ほど 鳴る神も桑原に恐る 強い者にも苦手があるということのたとえ。 雷は桑畑には落ちないとか、「桑原、桑原」 と唱えれば雷が落ちないとかいう俗信に基づ くことわざ。△鳴る神∥雷のこと。 なきはなちがみなきはな 生る木は花から違う♩実の生る木は花 し から田しる25 から知れる625 成るは厭なり、思うは成らず 世の中は思うようにならないものだというこ と。簡単に実現したことは気に入らず、望む ことはなかなか実現しないということから。 類義 有るは厭なり、思うは成らず。思うに 別れて思わぬに添そう。 成るも成らぬも金次第なかねしだい 物事がうまく運ぶかどうかは金の有無によって決まるということ。 類義 地獄の沙汰 も金次第。 熱れて後は薄塩 人との交際は、互いに馴なれてからは適当な <490> なれぬこーなんざん 距離をおいたほうがうまくいくというたと え。漬物は、まず濃い塩で漬けておいて、よ く漬かってから薄塩で漬けなおすのがよいこ とから。人とつき合うときは、最初から甘い 顔を見せないほうがよい意とする説もある。 な こめあきな な ぬか 慣れぬ米商いより慣れた糠 商い 慣れない大きな商売に手を出すより、利益は 少なくても慣れた小規模の商いのほうが安全 で確実だということ。 類義知らぬ呉服商売より知った小糠商い。 なすじっと 名を棄てて実を取る 実利のない名誉・名声より、実利を得るほう を選ぶのが賢明だということ。 類義名を取るより得を取れ。名よりも実。 花より団子。論に負けても実に勝て。 名を取れ。 対義得を取るより名を取れ。利を取るより 英語 More profit and less honour. [利益が大きくて栄誉が少ない] 用例名をすてて実をとる、というのが家康 やすの持って生れた根性で、ドングリ共が名誉 だ意地だと騒いでいるとき、土百姓の精神で 悠々実質をかせいでいた。坂口安吾◆黒田 如水 の布。紙がなかった時代には竹帛に字を書い たところから、書物、とくに歴史書のことを いう。 名を竹帛に垂る 歴史に名が残るような功績を立てること。 竹帛の功ともいう。 竹帛=竹の札と絹 名を取るより得を取れ名を棄てて実 を取る190 名を成す 有名になる。業績をあげて名声を得ること。 なぬすかぬすし 名を盗むは貨を盗むに如かず 出荀子じゅんし 実質を伴わずに名声を得ようとするのは、財 貨を盗むよりも劣っているということ。 出唐詩紀事 南華の悔い 上司の怒りを買う発言をしたために、才能が あるのに出世の道が断たれること。また、そ の悔い。∇南華∥「南華真経 なんかし んきよう」の略で『荘 子』の別名。 故事)中国、唐の詩人温庭筠 が宰相の令 いいん 狐綯 れいこ とう の質問に、そのことは『南華真経』 という書物に出ていますから、ご自分でお調 べください、と答えて怒りを買い、才能があっ たにもかかわらず、科挙(中国の官吏登用試 験)に合格できなかったという。 なんか南柯の夢ゆめ 夢のこと。また、はかないことのたとえ。「南 柯の一夢」ともいう。▶南柯∥南に伸びた枝。 故事唐の淳于棼 じゅん うふん が酒に酔って庭の槐 えん じゅ の木の下で眠って夢を見た。夢の中で、淳于 棼は大槐安 だいか いあん 国に行き、南柯郡の長官に任 ぜられ、国王の娘と結婚し、やがて、敵国の 侵略や愛妻の死に遭うなど、栄枯盛衰を経て 帰国したところで夢から覚めた。槐の木の下 を見ると、二つの穴があり、一つには大蟻 が王として住み、もう一つは南柯郡を思わせ るように、南に向かって伸びた枝に通じてい た。『太平広記』に引く『異聞録』にある話で、 唐の李公佐 りこ うさ 『南柯太守伝 なんかたい しゅでん 』に基づく。 類義 槐安の夢。邯鄲 かん たん の夢。盧生 ろせ の夢。 なんぎようくぎよう ぎよう なんぎようくぎよう 難行苦行こけの行 さまざまな苦難に耐えて修行するのは、愚か なことだということ。∇こけ∥愚か者。 難産色に懲りず 苦しい目にあっても、すぐにそれを忘れて同 じような行為を繰り返すことのたとえ。難産 で死ぬような苦しみを経験したにもかかわら ず、それを忘れて色欲に動かされること。 類義喉元のど過ぎれば熱さを忘れる。 なんざんくもお 南山雲起これば北山雨下る 出 碧厳録 南の山に雲が出ると、北の方の山に雨が降る。 ある兆候が現れると、すぐにそれが現実のこ とになるというたとえ。 なんざん南山の寿じゅ 人の長寿を祝うことば。また、事業などが長 出詩経しきよう <491> く続くこと。▿南山‖中国陝西省 せんせい しよう 西安 せい あん 市の南にある終南山。昔から堅固で崩れるこ とのない物事にたとえられ、名勝・古寺が多 い。 補説出典には南山の寿の如ごとく、騫かけ ず崩れず(終南山が永遠であるように、欠け ることも崩れることもなく)」とある。 類義彭祖 ほう の寿。 汝自身を知れ 得。仇あだも情けも我が身より出る。 自分が無知であることを自覚し、その自覚の 上に立って真の知識を得よということ。自分 自身を知ることがだいじだということから。 「汝自らを知れ」ともいう。 補説古代ギリシアのデルフォイのアポロン 神殿の入口に刻まれていたといわれる銘文。 ソクラテスが座右の銘としていた。自分の分 限をわきまえよと解されることもある。 用例しかしながら、高山のみならず多くの 青年は、彼等かれの稟質ひんと才能とについての 自覚を欠いたものばかりであったであろう か?「汝自身を知れ」との訓言の前に、た だ頭を垂れなければならぬ者たちばかりで あったであろうか?〈島木健作◆第一義の道 なんじいなんじかえ 爾に出ずるものは爾に反る 南枝の悲しみ なんしかな 出孟子もうし 自分のしたことの報いはすべて自分に返って くるということ。幸も不幸もすべては自分が 招いた結果であるという教え。 出何遜ー詩しかそんし 故郷から遠く離れて暮らす悲しみのこと。 補説詩の題名は『韋司馬ばしを送りて別る』。 越えっ(中国南部の地)の鳥は、どんなに故郷を はなれても、少しでも故郷に近い南の枝に巣 を作るということをふまえた詩。↓胡馬こば北 風に依より、越鳥えつち南枝に巣くう26 類義 身から出た錆 さび。 因果応報。 自業自 なんじじーなんにの 汝の敵を愛せよ 目分に悪意を抱いたり害を加えたりする者に 対しても、慈愛の心をもって接せよという教 え。 補説『新約聖書』のマタイ伝にあることば、 Love your enemies.の訳語。敵は憎むもの という世間の常識に対して、キリストが戒め たもの。 なんじなんじわれわれ 爾は爾たり我は我たり出孟子 他人がどうであろうと、そんなことは意に介 せずに、自分の信ずるところに従って行動せ よということ。 出 淮南子 えなんじ 南人駝を夢見ず北人象を夢見 ず 知らないものについては、空想することもな いというたとえ。南国の人はらくだの夢を見 ないし、北国の人は象の夢を見ないというこ とから。∇駝らくだ。 広く各地を旅すること。また、忙しく各地を 駆け回ること。 補説出典には「胡人こひ(中国北方の異民族) は馬に便に、越人えつひと(中国南部、越の人)は舟 に便なり」とある。中国の南部は川が多いの で船を、北部は山や平原が多いので馬を交通 手段に用いることが多かった。 類義東奔西走。 何でも来いに名人なし 何でもできるという人には、名人といわれる ような人はいないということ。 類義多芸は無芸。何でも来いの何でも下 手。 なんな ななくせ な ななくせ 難無くして七癖 無くて七癖 482 なんのぞ難に臨んで遽かに兵を鋳る 出晏子春秋 事が起こってから対策を講じても間に合わないこと。戦争が始まってから武器を作ること。「難に臨んで兵を鋳る」ともいう。△兵 武器、兵器。 補説出典には、このあとに「噎むせびての どが苦しくなって)遽にわに井せいを掘る。速し と雖いえも亦また及ぶこと無きのみ」とある。 類義 盜人を捕らえて縄を綯なう。泥棒を捕 らえて縄を綯う。戦 いく さ を見て矢を矧はぐ。渇 かつ して井いを穿うがつ。 <492> 南風競わず 南方の国の勢力がふるわないこと。南方の歌 謡の声調が北方の歌謡に比べて弱いことか ら。日本では、南北朝時代の南朝(吉野朝)の 勢力が北朝に押されて衰えたことをいう。 南風=中国南方の楚その国の歌。 出春秋左氏伝 故事)中国、春秋時代、楚の軍が出動したと の報に際して、晋しんの音楽師曠こうが「わたし は北方の歌も南方の歌もうたったが、南方の 曲は調子が弱々しくて活気が感じられない。 南国である楚の国の勢いは、当分ふるわない だろう」と言った。 なんめん てんかき 南面して天下を聴く 出易経 天子や王公の位について、天下を治めること。 昔、中国では天子は北を背にして、南を向い て臣下と対面したことから。 似合い似合いの釜の蓋破れ鍋に綴じ にあにあかまふたわなべと ぶた 蓋704 似合う夫婦の鍋の蓋 夫婦の関係が、鍋と蓋のようによく釣り合っ ていること。また、似た者同士の夫婦。 類義似合い似合いの釜の蓋。破れ鍋に綴と じ蓋。似た者夫婦。 似合わぬ僧の腕立てにそううでだ 不似合いでおかしなもののたとえ。また、似 合わないことをすること。仏に仕える僧が腕 力に訴えるのは不似合いなことから。「いら ざる僧の腕立て」ともいう。∇腕立て∥腕力 にものをいわせて争うこと。 類義 法師の軍話 いくさ。 ばなし 坊主の公事くだくみ。 町人の刀好み。 に ゆ の 煮え湯を飲まされる 信用して気を許している人に裏切られて、ひ どい目にあうこと。 用例「わしはな」と客は物憂そうに、「五年 以前あの賊のために、ひどく煮え湯を吞のま せられましてな。……いまだに怨らみは忘れ られませんて」〈国枝史郎◆名人地獄〉 包い松茸味しめじ きのこの中で、もっとも香りのよいのは松茸 で、味のよいのはしめじであるということ。 「香り松茸味しめじ」ともいう。 鳴の浮き巣 世の中の不安定なことのたとえ。かいつぶり の巣は水辺の葦あしの間などに作られていて、 水面に浮き沈みして不安定なことから。△鳩 ∥かいつぶり。 こと。二階から階下の人に目薬をさそうとしても思うようにいかないことから。いろはがるた(京都)の一。 類義葦巣の悔い。 にかい二階から目薬めぐすり 類義 天井から目薬。遠火で手を炙 あぶ る。 二 階から尻炙る。月夜に背中炙る。 もどかしいこと。また、効果がおぼつかない 逃がした魚は大きい 一度手に入れかけて失ったものは、実際より もすばらしく思われるものだというたとえ。 「逃げた魚は大きい」「釣り落とした魚は大き い」ともいう。 にがつ二月の瓜うり 二月の瓜 出王建詩 季節はずれの珍しい食物。ぜいたくな食べ物 をいう。 補説詩の題名は「宮前 の早春」。中国唐 の玄宗げん皇帝が寵姫ちよ 楊貴妃 をもてなすの に、時季には早い瓜をすすめたとある。 二月は逃げて走る 二月という月は、まるで逃げるように早く過ぎ去るものだということ。二月は実際に日数が少ないこともあり、正月が終わってほっとしている間に三月を迎える感じをいう。二月」と「逃げる」の「に」の音を掛けて表現したもの。二月は逃げて去る」ともいう。 類義二月は逃げ月。一月いぬる二月逃げる 三月去る。二月ひと月は小糠 三合で暮ら す。 苦瓢にも取り柄あり どんなものにも必ず長所があるものだという <493> ことのたとえ。ひょうたんは苦くて食べられないが、水や酒の入れ物やひしゃくなどの用途があることから。∇瓢∥ひようたん。 苦虫を噛みつぶしたよう ひどく苦々しい顔つき。この上もなく不機嫌 な表情のこと。「苦虫を食いつぶしたよう」 ともいう。▶苦虫‖噛んだら非常に苦いとさ れる想像上の虫。 用例一金貸かねの支配人ですもの、世間の人はゲジゲジ見たいにいうし、叔父さんもまた、金の借り手に甘い顔なんか見せられないから、何時いっでも苦虫を噛みつぶしたような顔をしていました、その上ーー」〈野村胡堂・銭形平次捕物控〉 にぎこぶしすもど握り拳の素戻り 働きに出かけたが稼ぎにならず、手ぶらで帰 ること。また、借金に出かけたが貸してもら えず、そのまま戻ること。△握り拳=金を 持っていないこと。からて。 いごとも避けられるということ。 物事は、気持ちや状況しだいで変わるという こと。同じ手でも、握れば人を殴る拳となり、 開けば人をなでる手のひらとなるということ から。 にぎ 握れば拳開けば掌 おもてあ にきころしふふふ いことも過にわるということ 類義怒れる拳笑顔に当たらず。尾を振る犬 は叩たかれず。笑う顔に矢立たず。笑顔に当 てる拳はない。 にぎこぶしえ にがむしーにぐるを にくにく 憎い憎いは可愛の裏 憎い憎いというのは、裏を返せば愛している 証拠であるということ。男女間の感情の機微 をいったもの。 対義可愛可愛は憎いの裏。 にくたか 憎き鷹へは餌を飼え 逆らうものには、利益を与えて手なずけるの が得策であるということ。「憎い鷹には餌を 飼え」ともいう。 類義憎い者には餌を与えよ。 にくくさむししょううおか 肉は腐れば虫を生じ、魚は枯 としょう るれば蠹を生ず 肉や魚が傷めば虫を生ずるように、人も怠惰 な生活を送っていると必ず災いが生じてくる こと。根本が壊れると、災いがふりかかって くること。また、悪いことが生じると、それ に伴ってさらによくないことが起こってくる こと。△蠹‖木食い虫。 出荀子じゅんし Ⅱ威張る。幅をきかす。 類義憎まれ者世に憚る。渋柿の長持ち。雑 草は早く伸びる。 憎まれ子世に憚る 人から憎まれるような者が、かえって世の中 で幅をきかすものであるということ。「憎ま れっ子世に憚る」「憎まれ子世にはびこる」 ともいう。いろはがるた(江戸)の一。△憚る 英語 III weeds grow fast. [雜草は成長が早い] The more knave, the better luck. [悪党ほど運がよい] 逃ぐるが一の手にいちて 困難に直面したときには、ひとまず逃げて身 の安全を保つのが得策である。面倒なことは 避けるのが一番よい方法だということ。「逃 ぐるが奥の手」ともいう。 類義逃げるが勝ち。三十六計逃げるに如し かず。 逃ぐるも一手 戦うばかりが戦術ではなく、逃げることも戦 法の一つであるということ。 逃ぐる者道を選ばず 追いつめられた者は手段を選ばず、どんなこ とでもすることのたとえ。敵に追われて逃げ る者は、道の良し悪ぁしなど気にかけてはい られないという意から。 類義 窮すれば濫らんす。 逃ぐるをば剛の者にごうもの 戦ってむだな犠牲を出すより、ひとまず相手 に勝ちを譲って逃げる者が本当に強い者であ るということ。 類義 逃げるが勝ち。負けて勝つ。逃ぐるが 一の手。 <494> にくきほねきかわき 肉を切らせて骨を切る 皮を切らせて 肉を切り、肉を切らせて骨を切る ほねき 61 肉を以て蟻を去る 出韓非子 手段や方法を誤ると、逆効果を招くこと。蟻 の好きな肉で蟻を追い払おうとしても、逆に 蟻が集まってくることから。 補説出典には「肉を以て蟻を去らば蟻愈いよ 多く、魚うおを以て蠅はえを駆らば蠅愈至らん肉 を使って蟻を追い払えば、かえって多くの蟻 が集まってくる。魚を使って蠅を追い払え ば、かえって多くの蠅が集まってくる」と ある。 にくもっ 肉を以て餓虎に委す 出史記 むだに死ぬこと。犬死にすること。自分の体 を飢えた虎の食うに任せる意から。 いう意でも用いる。 故事中国の戦国時代、魏の張耳は秦し との戦いで城を包囲された。張耳は、親友で ありかつて生死をともにする約束を交わした 陳余ちんに援軍を求めたが、陳余はこれを無謀 と見て「今必ず俱ともに死するは、肉を以て餓 虎に委すが如ごとし、何ぞ益あらん(今、援軍 を出すのは兵士の肉を飢えた虎に与えるよう なもので、何の役にも立たない」と言った。 類義 逃ぐるが一の手。逃ぐるをば剛の者。 負けるが勝ち。 逃げるが勝ち 戦いから逃げるのは、卑怯 よう なようでも、大 局的には勝利や利益をおさめることになるこ とをいう。愚かな争いはしないほうがよいと 二間の所で三間の槍使う にけんところさんげんやりつか 窮屈で思うように動けないことのたとえ。狭い場所で大きな武器を使って自由がきかない意から。▷間=長さの単位で、一間は約一・八二メートル。 類義雪隠 ちん で槍を使う。縁の下の鍬くわ使 い。 狭屋 せば の長刀 ながが。 たな にご そ はちす でいちゅう はちす 濁りに染まぬ蓮 ↓泥中の蓮 439 西風と夫婦喧嘩は夕限り 西風も夫婦喧嘩も夕方までで、夜になると自 然に収まってしまうものだということ。 類義夫婦喧嘩と北風は夜凪 がする。 西から日が出る 絶対にありえないことのたとえ。 にしきまさ錦に勝る麻の細布 きらびやかな着物より、日常の仕事に役立つ 丈夫な着物のほうが望ましいということ。△ 細布Ⅱ幅の狭い布。またはそれで作った衣。 にしきふくろふんつつ 錦の袋に糞を包む 外観が立派なのに、内容がそれに対して非常 に劣っていることのたとえ。「錦の袋に糞を 入れる」ともいう。 自分の行為や主張などを権威づけ、正当化す るもののたとえ。大義名分。 類義重箱に煮染にしめ。 補説錦の御旗は、錦の赤地の布に日月を金 銀の色糸で刺繍した布で、鎌倉時代から明 治維新にかけて、朝廷が敵を討伐する際に官 軍の標章として用いたもの。 用例一藩は、色を失った。薩長 さっち よう の大軍 が、錦の御旗を押し立てて今にも東海道を 下って来ると云いったような風聞が、頻 ひっ き り なしに人心を動かした。〈菊池寛◆乱世〉 錦は雑巾にならぬ よい物であれば何の役にでも立つとは限らないということ。ふつうの布は古くなったら雑巾として使うことができるが、高級な糸で織った錦は雑巾としては使えないことから。 にしきかざにしきききょうかえ 錦を飾る錦を衣て郷に還る494 錦を衣て郷に還る にしきききようかえ 出南史なんし 立身出世して生まれ故郷に帰ること。錦を 着て故郷へ帰る」ともいう。 補説中国南北朝時代、南朝梁の劉之遴 りゅう が南郡の太守(地方長官)に昇進したとき に、武帝が言ったことばに基づく。出典には 「卿の母、年徳並びに高し。故に卿をして 錦を衣て郷に還り、栄養の理を尽くさしめん (そなたの母は年齢、人徳ともに高く立派で ある。そこで、そなたに錦の着物を着て故郷 に帰り、親孝行を十分にさせてやろう」と <495> ある。 類義錦を飾る。 錦を衣て昼行く にしき き ひるゆ 立身出世して故郷に帰り、栄誉を人々に知ら しめることのたとえ。きらびやかな錦の着物 を着て昼間町を行くと人目を引くことから。 「繍」を衣て昼行く」ともいう。 出二国志 錦を衣て夜行くが如し 出史記 錦の着物を着ても夜道ではだれの目にもとま らないように、立身出世しても、故郷に帰っ て人々に知られなければそのかいがないとい うこと。「繍しゅを衣て夜行くが如し」ともい う。 補説出典には、楚その項羽が故郷をつか しく思い、帰りたい気持ちから言ったことば として「富貴にして故郷に帰らざるは繍を衣 て夜行くが如し」とある。 対義錦を衣て昼行く。 にし い ひがし さと 西と言うたら東と悟れ 人のことばには表と裏があるから、ことばの 裏にある本音を読み取らなければならないと いうこと。 西と言えば東と言う ことごとく人の言うことに反対する、ひねく れた態度のこと。 類義ああ言えばこう言う。 用例何かにつけて師匠が右といえば左とい い、西といえば東というという工合ぐあで、ど うも師弟の仲が好よくないのでありました。 〈高村光雲◆幕末維新懐古談〉 にしきをーにたもの 西も東も分からぬ 土地の事情がよくわからないこと。新しい環 境になれていないこと。また、物事の道理を わきまえていないこと。「東西を弁 ま 「東西を弁ぜず」ともいう。 二 豎 病気・病魔のこと。病気の化身である二人の 童子のことから。△豎∥子供。 故事 病やま 膏肓こうに入いる657 二千里外故人の心 出白居易詩 遠い地にいる親友をしのぶこと。二千里の 外そと故人の心」ともいう。▷故人∥昔なじみ。 旧友。 補説詩の題名は『八月十五日の夜』禁中に 独り直とのし月に対して元九げんきを憶もう。白 居易が親友の元九(元稹げん)のことを思って詠 んだ七言律詩で、この詩の中に「三五夜中 新月の色、二千里外故人の心(折から八 月十五夜、出たばかりの中秋の名月に対して、 はるか二千里のかなたの旧友、君のことがし のばれる」とある。 にそくさんもん 二束三文 非常に安いこと。投げ売りの値段。 単位で百を表し、二百がたったの三文である という説、また、江戸時代に金剛草履(藁わら などで作った丈夫な草履)が一足で三文だっ たことからという説などがある。 補説 語源については、二束 まとめても三 文にしかならないという説と、「束」が数の 用例兄はそれから道具屋を呼んで来て、先 祖代々の瓦落多がらを二束三文に売った。家屋 敷はある人の周旋しゅう である金満家に譲った。 この方は大分金になったようだが、詳しい事 は一向知らぬ。〈夏日漱石◆坊っちゃん〉 二足の草鞋を履く 両立しないような二種類の仕事を、一人です ること。 補説江戸時代、ばくち打ちが十手を預かり、 同じ博徒を取り締まる捕吏を兼ねていたこと から出たことば。 用例一(略)私も以前は二足の草鞋を穿はきました馬鹿者で、ヘイ……この六十年の間には色々と珍しい世間も見聞きして参りましたが、それほどに御念の入りました狐ね狸たぬは、まだこの街道を通りませぬようで……」夢野久作◆斬られたさに にそふじ二鼠藤を噛む 二鼠藤を噛む 出翻訳名義集 この世に生きている人間には、死が刻々と近 づいているというたとえ。黑白二匹の鼠 が 藤をかみ切ろうとしているという意で、黑白 の鼠は日月を表し、藤は命を表す。 似たものは烏にからす よく似通っていること。また、世の中にはよ く似たものがいくらもあること。烏が皆同じ <496> にたものーにどある ように見えて区別がつけにくいことから。 類義どこの鳥も黒い。 似た者夫婦 夫婦になる男女は、性格や好みが似ていると いうこと。また、夫婦は一緒に暮らしている うちに似てくるということ。「似た者は夫婦」 「似た者が夫婦みよになる」ともいう。 類義夫婦は従兄弟 いと ほど似る。 似合い似合 いの釜の蓋。破れ鍋に綴とじ蓋。 似合う夫婦 の鍋の蓋。牛は牛連れ。 にちじょうさはんじ 日常茶飯事 ごくありふれた物事。「日常茶飯」ともいう。 用例私は古い記憶から、彼の代表的な和歌 を思い出した。それらの和歌は、床の間の藤 の花が、畳に二寸足らずで下っているとか、 枕元にある茶碗が、底に少し茶を残している とかいう風の、思い切って平凡退屈な日常茶 飯事を、何等なんの感激もない平淡無味の語で 歌ったものであった。〈萩原朔太郎◆病床生 活からの一発見〉 にちにちこれこうじつ日日是好日 毎日が平和なよい日であること。毎日を大切 に生きることを教えたことば。「日日」は「ひ び」、「好日」は「こうにち」とも読む。 にっけいた さいけいあまあ 一日計足らずして歳計余り有り 出碧厳録へきがんろく 目先の利益はなくとも長期にわたれば利益が 出文子ぶんし 出てくる。日々の勘定では利益がないようだ が、一年間の勘定では利益があるということ。 「類義」日勘定では足らぬが月勘定では余る。 日に計れば算無く歳に計れば余り有り。 にっこうみ 日光を見ないうちは結構と言 日光東照宮の建築美をほめたたえたことば。 日光東照宮を見ずに「結構」というほめこと ばを使うなということで、「にっこう」と「けっ こう」を語呂合わせにした表現。「日光を見 ずして結構と言うな」とも言う。 うな 英語 See Naples and then die. ナポリを 見てから死ね にっちもさっちも行かない いきづまって身動きがとれず、困り果てるよ うす。特に、金銭のやりくりがつかないこと。 補説「にっちもさっちも」は、そろばんの 割り算の九九から出たことばで、二進も三 進も」と書く。 類義 後へも先へも行かぬ。 二八の涙月 二月と八月は商売がふるわず、苦しい月であるということ。二月と八月は、いずれも正月と盆に出費がかさんだ影響で、商売がふるわないことを言ったもの。 にひもの もの、まがいもののことをいう。 似て非なる者 補説孔子のことば。似て非なる者を悪にく む。莠ゆうを悪むは其その苗を乱るを恐るれば なり(田に生える雑草の莠はぐさをにくむのは、 穀物の苗にまぎらわしいためである)とあ る。 外見は似ているが、本質は異なるもの。にせ 出孟子もうし 用例ここに一人の怠け者があって、それが 口を上手にして縋すがって来たとする。その口 上手に乗ぜられ、ものをやったとする。それ は慈悲に似て非なるものであります。おだて に乗った、うかつものの愚 な所行です。〈岡 本かの子◆慈悲〉 煮ても焼いても食えぬ とても手におえず、もてあますさま。「煮て も焼いても噛かまれぬ」ともいう。 二度あることは三度ある 物事は繰り返し起こる傾向があるから注意せ よという戒め。同じようなことが一度も起こ るときは、さらにもう一度繰り返される可能 性があるということ。 類義一度あることは二度ある。 対義三度目の正直。 用例 雫は一ぱいにたまって全く今にも落 ちそうには見えましたしおまけに二度あるこ とは三度あるとも云いうのでしたから少し立 ちどまって考えて見ましたけれどもまさか三 度が三度とも丁度下を通るときそれが落ちて 来るということはないと思って少しびくびく しながらその下を急いで通って行きました。 〈宮沢賢治◆風野又三郎〉 <497> 二桃三士を殺す 出晏子春秋 意表をついた奇抜なはかりごとによって、人 を自滅させることのたとえ。二個の桃で三人 の勇士を殺すという意から。 故事)中国、春秋時代、斉の景公のもとに公 孫接 こうそ んせつ 田開彊 でんかい きょう 古冶子 この三人の勇 士がいて、三人とも戦いの手柄を誇ってわが ままだった。そこで景公は宰相晏子 により、三人に二個の桃を与え、戦功の大き い者が食べるように言った。公孫接と田開彊 が戦功を言って桃を取ったが、古冶子の戦功 を聞いて、とても及ばないと、二人とも桃を 返して自殺した。古冶子も、一人だけ生きの びるのは友情に背くと桃を返し、自殺した。 にどおし いちどしか 二度教えて一度叱れ catch neither.S 临船° 過失には頭から叱りつけないで、繰り返し教 えて納得させることが大切であるというこ と。子供に対する教育の心得をいったもの。 にどきいちどものい 二度聞いて一度物言え 人の言うことはよく耳を傾けて聞き、自分は 口数少なく、よけいなことは言わないほうが よいということ。 二一兎を追う者は一兎をも得ず 欲を出して同時に二つのことをやろうとして も、どちらも成功しないこと。二羽の兎 同時につかまえようとする者は、結局一羽も つかまえられないという意から。 類義 虻蜂 あぶ はち 取らず。花も折らず実も取ら ず。右手 ゆう しゅ に円を描き、左手 さし に方 ほう を描く。 対義 一石二鳥。 If you run after two hares, you will にとうさーにのまい ににんぐちす 二人口は過ぎるが一人口は過 ごせない 独身者はむだな出費があり生活できないが、 結婚して世帯を持つと、 むだな出費が減って 生活できるということ。 二人口 ふたり ぐち は過ごせ るが一人口は過ごせぬ」ともいう。 類義 一人口は食えぬが二人口は食える。 二人心を同じくすれば其の利 きこと金を断つ 出易経 非常に親密な交わりのたとえ。親友二人が心 を同じくすれば、その友情のかたさは硬い金 属をも断ち切るほどであるという意から。 補説孔子のことば。二人心を同じくすれば、其の利きこと金を断つ。心を同じくするの言は、其の臭り蘭らんの如ごとし二人が心を合わせれば、その鋭さは硬い金属をも断ち切るほどである。また、心を同じくする者のことばは、蘭の花の香りのように芳しい」とある。ここから、きわめてかたい友情をたたえた「断金の交わり」「金蘭の契り」などのことばが生まれた。 似ぬ京物語 実際には行ったことがない者が京の話をする ので、話が実際とはまったく違うこと。 類義見ぬ京物語。 に 二の足を踏む 決心がつかずためらうこと。尻込みすること。一歩目は歩き出したが、二歩目はためらって足踏みする意から。△一の足=歩き始めたときの二歩目。 用例話に実が入って夜は十一時になった。 便所はときくと、この小屋の渓に向った方 に板がある。その上からという。「蠟ろうマッ チ」をてらして辛うじて板の上へ出たが、絶 壁にも比すべきところに、突き出された二本 の丸太、その上に無造作に置かれた一枚の薄 板、尾瀬沼のそれにも増した奇抜な便所に、 私は二の足を踏まざるを得なかった。〈大下 藤次郎◆白峰の麓〉 二の句が継げぬ 驚いたりあきれたりして、何も言えなくなる こと。二の句が継げない」ともいう。△二 の句‖次に言い出すことば。 用例先生の顔には深い一種の表情がありあ りと刻まれた。私にはそれが失望だか、不平 だか、悲哀だか、解わからなかったけれども、 何しろ二の句の継げないほどに強いものだっ たので、私はそれぎり何もいう勇気が出な かった。〈夏目漱石◆こころ〉 二の舞を演じる 前の人と同じ失敗をすること。「二の舞」「二 の舞を踏む」ともいう。△二の舞‖舞楽で、 <498> 「安摩」という舞の次に演じられる舞。「安 摩」の舞のまねをするが失敗するというこっ けいな舞。 用例ペリイはこの使命を果すために堅き決 心をかため、弘化こう年度に江戸湾に来て開港 の要求を拒絶されたビッドル提督の二の舞を 演ずまいとした。〈島崎藤村◆夜明け前〉 二の矢が継げぬ もう一度やってみる力や方法がないこと。△ 二の矢Ⅱ二番目に射る矢。二度目に打つ手。 二八余りは人の瀬越し 十六、七歳のころは一生を左右する重大な時 期で、そこを越えてはじめて一人前になれる ということ。∇二八Ⅱ二と八をかけると十六 になることから、十六歳のこと。瀬越し川 の早瀬を越すこと。転じて、困難を乗り越え ること。 二八月に思う子船に乗するな 二月と八月は天候が変わりやすく、海が荒れ て危険なので、大切な子を船に乗せないほう がよいということ。△二八月‖旧暦の二月と 八月のこと。二月は冬の季節風が強く、八月 は台風があって、ともに海が荒れる時期。 二八月は船頭のあぐみ時 二月と八月は海がしけて危険なので、船頭が てこずる時期であるということ。△二八月 旧暦の二月と八月のこと。あぐむ‖物事がで きなくて困る。もてあます。 二匹目の泥鱒を狙う 偶然成功した方法と同じようなことをして、 同じ結果を期待すること。 補説「いつも柳の下に泥鱠は居ちぬ」ということわざからできた言葉。 類義株を守りて兎を待つ。 対義いつも柳の下に泥鱠は居らぬ。 二百十日の走り穂 九月ごろには、稲の穂が出始めるということ。 △二百十日=立春から数えて二百十日目。九 月一日ごろ。走り穂=他よりも早く出る穂。 にひゃくはつかあ 二百二十日の荒れじっ 九月半ばごろには、台風の心配もなくなって くるということ。△二百二十日=立春から数 えて二百二十日目の日。九月十一日ごろ。 にべ 鮑膠もない そっけなくて、人情味がないこと。冷淡なようす。∇鮑膠∥にべという魚の浮き袋から作るにかわで、粘着力が強い。 用例ようやく、返事があった。「御無用と 存じます」甲斐守かいのはキッとして、「無用と は、何故なにゆえの?」それは、明日、見分いた します」しかし、今も申した通り……」「御 無用に願います」と、にべもない。〈久生十 蘭◆顎十郎捕物帳〉 二枚舌を使う 前に言ったことと食い違うことを言うこと、 うそをつくこと。一枚の舌を持っているよう に、一つのことを二通りに言い分けるという 意から。「二枚の舌を使う」「舌を二枚使う」 ともいう。 用例「そうか、じゃが今夜の頼母木 たの もぎ の推 薦演説をやめるちゅうことはでけん。やむを 得んから、貴公も今夜共に推薦することにし よう」「ありがたい。うそではありませんな」 「わしは、二枚舌は使わん」〈佐藤垢石◆春宵 因縁談〉 煮豆花の咲く炒り豆花75 にゅうくとらうふくけいやまねこ 乳狗は虎を搏ち、伏鶏は狸 う を搏つ 出列女伝 か弱い者が、子への愛情によって強くなるた とえ。乳を飲む子犬を育てている親犬は、虎 に対してもとびかかり、卵を抱き雛ひなをかえ す鶏は、狸にも恐れずに向かっていく意から。 「乳狗人を搏ち、伏鶏狸を搏つ」ともいう。 補説)中国の戦国時代、秦しんが魏ぎを滅ぼし たとき、魏王の子を乳母が身をもってかばい、 数十本の矢を受けて王子とともに死んだ。こ の乳母の節を守る行為を評したことばの一 節。 類義焼け野の雉子夜の鶴。 入木道 出書断しょだん 書道のこと。また、筆勢が力強いことのたと え。「入木」「入木三分」ともいう。「入木」 は木(板)に墨が染み込むことで、「じゅぼく」 <499> とも読む。 補説「入木三分」は、書道で筆勢が強いことのたとえ。「三分」は長さで、今の約七ミリメートル。一説に厚みの十分の三。 故事中国晋の王羲之が木の板に書いた文字は筆勢が強く、後にその板を削ってみると、墨が深くまで染み込んでいたという故事による。 女房去ったは銭百落とした 心持ちがする 気に入らない妻でも、離婚したあとは何か損 をしたような気持ちになるものだというこ と。「女房往いなした後は銭百貫文 ひゃっか んもん 落とし たほど力がないもの」ともいう。 女房鉄砲仏法 女の力によって殺伐な雰囲気がやわらぎ、鉄 砲の威力によって治安が保たれ、仏法の力に よって人心が教化され、世の中の安泰が保た れるということ。 女房と米の飯には飽かぬ 女房と米の飯は、毎日の生活の中にとけこん で特別に目立たないが、いつまでも飽きるこ とがないということ。 女房と畳は新しいほうがよい のたとえ。男性本位の封建時代のことわざ。 類義女房と菅笠は新しいほうがよい。女 房と茄子は若いがよい。 何でも新しいものは気持ちがよいということ にようぼーにようぼ 対義女房と鍋釜 なべ は古いほどよい。女房と 米の飯には飽かぬ。女房と味噌みそは古いほど よい。 英語 Everything new is fine. 新しい物は すべて美しい 女房と鍋釜は古いほどよい 鍋や釜は使いなれた古いもののほうがよいよ うに、長年連れ添った女房は家計のやりくり などがうまくなり、重宝だということ。 類義女房と味噌みそは古いほどよい。 対義女房と畳は新しいほうがよい。 にようぼうみそふる 女房と味噌は古いほどよい 何でも古いものほど味わいがあってよいということ。味噌は時がたつほど熟成されて味わいが増すように、女房も長年連れ添うと理解が深まってよいものだということ。 類義女房と鍋盆は古いほどよい。 対義女房と畳は新しいほうがよい。 女房の妬くほど亭主もても 女房は亭主に対してとかくやきもちをやく が、女房が気をもむほど亭主はよその女性に もてはしないということ。江戸時代の川柳。 用例これでも妻君が内に待ってるだろうッ ちゅうので折詰を持って帰るなどは大ていな 事じゃないよ。嘑 あ 大明神尤 もっ とも 少々焼いて見 るなぞは有難 あり がた いな。女房の焼く程亭主持て もせず、ハハハハハ。これでも今夜帰ると、 ゲー、嘑大明神屹度 きっ と 焼くよ。〈正岡子規◆ 煩悶〉 せず 女房の悪いは六十年の不作悪妻は 百年の不作9 女房は家の大黒柱 女房は一家の中心となる大切な存在であると いうこと。「女房は家の固め」「女房は家の宝」 ともいう。▷大黒柱‖家の中央部に立って家 を支えるもっとも太い柱。 類義女房は半身上はんしん。しょう にようぼうか 女房は変えるほど悪くなる 選り好みをして取りかえるたびに、よくないも のをつかまされることのたとえ。前よりもよい 女房を持つことはむずかしいという意から。 女房は貸すとも擂粉木は貸 すな すな すりこぎのように、使うと減るものは人に貸 してはならないということ。「女房は貸して も砥石は貸すな」ともいう。 女房は質に置いても朝酒は にようぼうしちおあさざけ やめられぬ 朝飲む酒は格別にうまくて、やめられないも <500> にようぼーにわとり のだということ。女房を質草 ぐさ にして金を借 りてまで、朝酒を飲むという意から。 類義朝酒は門田 た を売っても飲め。 にようぼう だいどころ もら 女房は台所から貰え 女房をもらうときは、台所から出入りするような、自分の家より格式の低い家からもらうのがよいということ。家の格式を重視した昔の結婚観をいったことば。 類義嫁は下から婿はここ 女房は半身上 家が栄えるか衰えるかは、半分は妻次第だと いうこと。女房は家の財産の半分の値打ちが あるという意から。▷身上‖身代・財産の意。 類義女房は家の大黒柱。 英語 A good wife and health is a man's best wealth. [良妻と健康は男の最大の富である] 国を守ることのできる勇士を採用しないのは 恥ずかしくて隣国に聞かせられないことだと 諭したという。 二卵を以て干城の将を棄つ にらんもっかんじょうしょうす わずかな過失や欠点を問題にして、有能な人 物を用いないことのたとえ。△干城‖盾と城 壁の意。転じて、国を守る武将のこと。 出孔叢子くぞうし 故事中国の春秋時代、孔子の孫の子思が勇 士を求める衛の君主に苟変という人物を推 薦したところ、君主は「苟変は役人のころに 人民から卵を二個取り上げて食べたことがあ る」として採用に同意しなかった。そこで子 思は、かつて人民の卵を取ったことを理由に、 似るを友とも 性質や好み、生い立ちや境遇などが互いに似 通った者同士が親友になるということ。「似 たるを友」ともいう。 類義類は友を呼ぶ。類を以もって集まる。同 気相求む。牛は牛連れ。 英語 Likeness causes liking. 類似は愛好 心を生む にわかあめおんなうで あさあめおんなうで 俄雨と女の腕まくり朝雨は女の腕 まくり12 にわかちょうじゃにわかこじき 俄長者は俄乞食 急に大金持ちになった者は、むちゃな浪費などをしてもとの貧乏人にもどるのも早いということ。 類義どか儲けすればどか損する。 庭作るより田を作れ詩を作るより田 を作れ329 鶏寒うして樹に登り、鴨寒 出禅林類聚 同じ条件のもとでも、それぞれの特性によって違った行動をとること。寒くなると、鶏は地面よりも暖かい木の上に登り、鴨は地上よりも暖かい水の中に入るという意から。 にわとりくちばし 鶏の嘴となるとも牛の尾となること むしけいこうぎゅうご なかれ寧ろ鶏口となるも牛後と なる勿れ632 鶏は三歩歩くと忘れる すぐに物忘れをすること。よく忘れる人を茶 化した言葉。「三歩歩くと忘れる」ともいう。 にわとりさいずくぎゆうとうもち 鶏を割くに焉んぞ牛刀を用 ろんご 日価五 出論語ろんご いん 小さなことを処理するのに、大げさな手段や 方法をとる必要はないということ。適用のし かたが間違っていることのたとえ。鶏を料理 するのに、牛を切るような大きな包丁は必要 ないという意から。∇牛刀∥牛を解体すると きに用いる大きな包丁。 故事孔子が弟子の子游が治める町をたず ねたとき、町中に音楽の響きが聞こえるので、 孔子はにっこりと笑い、天下を治める上で必 要な礼楽(儀礼と音楽)の教えを小さな町に適 用していたことに対して「鶏を割くに焉んぞ 牛刀を用いん」と冗談を言ったという。また 一説には、子游は一国の宰相となる器であっ て小さな町の長であるのは惜しいという感慨 の意を込めて言ったとされる。 類義 牛刀を以もって鶏を割く。大根を正宗 まさ むね で切る。正宗で薪 割る。瘦やせ虱 じら み を鎧 やり で剥はぐ。大器小用。 英語 He builds cages for oxen to bring up birds in. 小鳥を飼うというのに、牛が <501> 入るような籠かごを作る にわとり よるつかさど 鶏をして夜を司らしめ、 狸 ねずみと をして鼠を執らしむ 出韓非子 それぞれの才能を生かして人を使うことのた とえ。鶏に夜明けの時を告げさせ、猫に鼠を 捕らせるということから。∇狸∥猫のこと。 任重くして道遠し 出 論語 ろんご と二万日しかないということ。 重大な任務を実行するのは容易ではなく、長い年月がかかるということ。責務の重さを言ったことば。「任たる重く道たる遠し」ともいう。∇任∥背に負った荷物。また、任務。 補説出典には、孔子の弟子の曽子のことばとして「士は以もって弘毅ならざるべからず。任重くして道遠し。仁以て己が任と為なす。亦また重からずや。死して後已やむ。亦遠からずや(学問を志す者は心が広く意志が強くなければならない。背に負った荷物は重く、道は遠いのだ。仁を荷物とするのだから、何と重いことではないか。死ぬまで続けるのだから、何と遠いことではないか」とある。 人形にも衣装 衣装によって人は上品にも下品にも見えると いうたとえ。同じ人形でも、衣装を着せかえ ると違った感じになることから。 類義馬子にも衣装。 にんげんいっしょうにまんにち 人間一生二万日 人生五十年といわれることから、日数にする 人間盛りに神祟りなし ひとさか 人盛んにして にわとりーにんげん 神崇らず551 にんげんみいあおむ 人間は実が入れば仰向く、 苦 薩は実が入れば俯く 謙虛な気持ちを忘れないでいるのが好ましい という教え。人は出世すると威張って高慢に なりがちだが、稲は実るほど穂をたれて頭を 低くするということ。単に「菩薩は実が入れ ば俯く」ともいう。△菩薩=米のこと。 類義稲は実るにつけて俯き、侍さむは出世につけて仰向く。米は実が入れば俯く、人間は実が入れば仰向く。 人間は病の器 人間は、いろいろな病気にかかりやすいということ。人間の体は病気の入れ物のようだという意から。「人は病の器」ともいう。 にんげんばんじかねよなか 人間万事金の世の中 人は金のために働き、何事も金の力で解決が つくように、世の中は金の力によって左右さ れるということ。 類義地獄の沙汰も金次第。成るも成らぬ も金次第。先立つ物は金。金の光は阿弥陀 だあみ ほど。仏の光より金の光。 にんげんばんじさいおううま 人間万事塞翁が馬 出淮南子 幸不幸が変転して定まりないことのたとえ。 また、それに一喜一憂するにはあたらないと いうこと。「人間」は「じんかん」とも読む。 単に「塞翁が馬」ともいう。▽塞翁=昔、中 国北方の塞での近くに住んでいた老人。 (故事)昔、中国北方の塞の近くに住む老人の馬が塞の外に逃げた。人々がなくさめると、老人は「そのうちに福がくる」と答えた。やがて、逃げた馬はすばらしい馬を連れて帰ってきた。人々が祝うと、今度は「これは災いのもとになる」と言った。老人の息子がその馬に乗ったところ、落馬して足を折ってしまった。人々が見舞うと、老人は「これが幸いのもとになるだろう」と答えた。一年後に戦争となり、若者たちはほとんど戦死したが、老人の子だけは足が不自由だったために兵役をまぬがれ、死なずにすんだという。 用例なあに、困るときはお互いさまですよ。 人間万事塞翁が馬、あなただって今に成功し ますよ。私も落ちぶれることがないともかぎ らない。まあ助けられたり、助けたり、これ が浮き世の人情です。〈永井隆◆ロザリオの 鎖〉 人間一人は世の宝 どんな人間でも世の中のために大切である。 人命は尊重しなければならないという教え。 人間僅か五十年 人間の寿命は、わずか五十年くらいでしかな い。人の一生は短いということ。「人生僅か 五十年」ともいう。 補説 幸若舞 こうわ かまい 室町時代に流行した舞曲 <502> にんさんーぬかぬた の『敦盛あつに「人間五十年、下天げて(人間界) の内をくらぶれば、夢幻ゆめまのごとくなり。 ひとたび生を得て滅せぬ者のあるべきか」と あり、人生は夢や幻のようなものだから、ぼ んやりしていないで必死で行動せよといって いる。戦国時代の武将織田信長おだのが愛誦 したことばとして名高い。 にんさんばけしち人三化七 人間が三分で、化け物が七分ということ。み にくい容貌をからかった悪口。 にんじんぎょうずい 人参で行水 最高の医薬を用い、あらゆる手を尽くして治 療することのたとえ。高価な朝鮮人参を浴び るほどたくさん飲むという意から。 にんじんのくび 人参飲んで首くくる 無計画なことや身分不相応なことをすると、 身を滅ぼすというたとえ。高価な朝鮮人参を 買って飲み、病気は治ったが、代金の返済に 苦しんで、首をくくって自殺する意から。 類義人参用いて後難儀。 人参よく人を活かし、よく人 ころ を殺す にんそうみ わ みし えきしゃみ うえし 人相見の我が身知らず 易者身の上知 らず 99 物事はやり方や使い方によってよくも悪くも なるということのたとえ。朝鮮人参は病気に よくきいて命を救うが、高価なため、手に入 れるのに借金をしたが返せず、自ら命を絶つ こともあるということから。 にん いちじ しゅうみよう もん 忍の一字は衆妙の門 出呂本中ー舎人官箴 忍耐することこそ、あらゆることを成し遂げ る上での出発点であり、成功のもとであると いうこと。単に「忍の一字」ともいう。▷衆 妙の門にもと老子の語で、造化の微妙な働き の出口、万物を生み出す根元の意。ここでは、 さまざまな成功を生む根元。 補説)中国、北宋 の学者の呂本中が役人を 戒めたことば。出典には、このあとに「若 し能よく清・慎・勤の外、更に一の忍を行えば、 何事か弁ぜざらん(心が清く、慎み深く、勤 勉であることのほかに、忍耐することを実行 すれば、何事でも解決できる)」とある。 「類義」忍は一字千金の法則。堪忍の忍の字が 百貫する。ならぬ堪忍するが堪忍。 人を見て法を説け ひと み ほう と 561 ぬえ鵠のよう 正体がはっきりしないさま。正体不明の人物 や、あいまいな態度をとることのたとえ。△ 鵠=頭が猿、胴は狸たぬ、尾は蛇、手足は虎の 姿をした想像上の動物。 手ごたえのないこと。ぬかに釘を打ちこんで も、なんの手ごたえもないことから。いくら 注意しても、さっぱり効き目がない場合など にいう。いろはがるた(京都)の一。 類義豆腐に銭かす。 生壁の釘。沼に杭くい。 簾のれ に腕押し。沢庵 たく あん の重しに茶袋。 英語 All is lost that is given to a fool. かな人に与えられるものはみなむだになる 用例二人の息子たちが、こんなふうに怠け 者でありましたから、父親はほんとうに困っ てしまいました。行く末のことなどが案じら れて、どうかして、いい子供になってくれぬ ものかと、そればかり心に念じていました。 いくら、二人に向かって、「仕事をせよ」といっ たり、また、「働けよ」といっても、ぬかに 釘でありました。〈小川未明◆星と柱を数え たら〉 抜かぬ太刀の高名 たちこうみよう 実際に力量を示さないで名声を得ることのた とえ。また、争うよりも、我慢をして耐える ほうがすぐれているということ。刀を抜いて 戦ったわけではないのに、実戦で勝ったのと 同様の手柄を得ることから。口先だけ立派な ことを言って実際には腕前を見せたことがな い人をあざけるときにも用いる。 「類義」相手のさする功名。取らずの大関。 <503> なかこめつぶさが 糠の中で米粒探す ほとんど可能性のないこと。また、容易に見 つからないことのたとえ。 糖の中にも粉米 なかこごめ つまらないものの中にも、ときには役立つものがまじっていることがあるということ。また、悪いものの中にもよいものがあるということ。△粉米‖精米するときに砕けた米。 このかぶくろこむすめゆだんこむすめこ 糠袋と小娘は油断がならぬ小娘と小 袋は油断がならぬ258 ぬ さ ぬかぶね糠舟にも船頭せんどう どんなことにも、それなりの専門家の力が必 要だということ。小舟にも、船頭が必要だと いう意から。「糞舟ぶねにも船頭」ともいう。 マ糠舟ニ糠を運ぶ小舟。 ぬかねぶこめおよ 糠を砥りて米に及ぶ出史記 害がしだいに広がってくることのたとえ。また、領土を次々に削られて滅亡に至るたとえ。 害虫が、米の外側のぬかをなめ尽くすと、次は米を食うようになるという意から。△糠‖米ぬか。砥る‖なめる。 抜き差しならない 抜き足すれば道付く 隠そうとする行為が、かえって人に見つかる もとになるということのたとえ。つまさき 立って歩けば、かえってそれとわかる足跡が つくという意から。 ぬかのなーぬすびと 対処の方法もなく、どうにも動きようがない こと。刀を抜くことも鞘さやに収めることもで きないということから。▷抜き差し∥抜き出 すことと差しこむこと。 類義 後へも先へも行かぬ。進退これ谷 ま 用例 然しかしまだ曽かってなかった新しい人物 の創造は抜き差しならぬ心の複雑さの故ゆえに 苦しんでいる人々、その人固有の挙止を失わ ないで持っている人々にのみ、自然な欲求と なるのである。〈中原中也◆アンドレ・ジイ ド管見〉 抜け駆けの功名 こうみよう 他人を出し抜いて手柄や利益を得ること。△ 抜け駆け=戦いで、ひそかに陣営を抜け出し、 他に先がけて敵中に攻め入ること。 用例 ×が一等、やられる者が多いぞ。 もはや、戦死が九人。ー連さんが抜けがけ の功名をあげるとてあせっているからだ」新 しく柿本の傍そばのベッドへやってきた担架卒 は、太い低声ここで、運んできた負傷者に喋べしゃ ていた。柿本はうすうすきいていた。〈黒島 伝治◆武装せる市街〉 盗人猛猛しい 悪事をはたらいておきながら平然としてい て、とがめられると居直ったり食ってかかっ たりすること。「盗人」は「ぬすびと」とも 読む。 用例「中央の兵馬は、即ち、朝廷の兵馬。 求めて、乱賊の名を受けたいか」「盗人猛々 しいとは、その方のこと。上かみを犯すの罪。 天人俱ともにゆるさざる所。あまつさえ、罪も なきわが父を害す。誰か、馬超の旗を不義の 乱といおうぞ」〈吉川英治◆三国志〉 盗人が盗人に盗まれる 上には上があるということのたとえ。人の物 を盗もうとした者が、他の盗人に自分の物を 盗まれるという意から。 類義誑たらしが誑しに誑される。盗人の上前 うわ まえ を取る。 盗人と智者の相は同じ ぬすびとちしゃそうおな 顔つきだけで善人か悪人かの判断はできない というたとえ。盗人も高僧も、人相からは区 別がつかないという意から。∇智者∥徳を積 んだ高僧のこと。 盗人捕らえて縄綯う↓泥棒を捕らえてなわな 縄を綢う477 盗人に追銭↓泥棒に追銭477 盗人に鍵を預ける 知らないうちに悪いことをしやすいように便 宜を与えること。気づかずに災難のもとにな るものを助長すること。盗人に、盗難を防ぐ ための鍵を預ける意から。単に「盗人に鍵」 ともいう。 類義 盗人に蔵の番。 盗人の提灯 ちょう ちん 持ち。 <504> ぬすびとー 猫に鰹節かつお。 盗人に糧かてを齎もたす。 盗人に糧を贊す あだへいかとう 寇に兵を藉し、盗に 糧を齎す 20 盗人に蔵の番 ゆすびとくらばんぬすびとかぎあず 盗人には網を張れ ぬすびとあみは 網を張るような簡単な予防法でも、盗難を防 ぐにはかなりの効果があるということ。 盗人にも三分の理 どんなに筋が通らないことでも、もっともらしい理屈をつけようと思えばつけられるものだということ。泥棒の側にも、盗みをするそれなりの理由や言い分があるということから。「泥棒にも三分の理」「盗賊にも三分の理」「盗人にも五分の理」ともいう。 類義乞食 こじ き にも三つの理屈。 類義 巾着 きんち 切りから上前。 盗人が盗人に 盗まれる。 ぬすびとじんぎ 盗人にも仁義 盗人のような悪人の世界でも、仲間同士で守 るべき仁義があるということ。「盗賊にも仁 義」ともいう。マ仁義=義理や礼儀。 類義盗賊にも道あり。 盗人の上前を取る ぬすびとうわまえと 悪者にも、上には上があるということのたと え。盗人が盗んできたものの一部をかすめ取 る意から。▶上前‖仕事や売買の仲立ちをし た者が取る代金・賃金の一部。「上米 まい」と もいう。 盗人の逆恨み 自分の非を反省しないで、人を非難すること のたとえ。盗人が、自分のした悪事を棚に上 げて、被害者や自分を捕まえた人を責めたり 恨んだりすること。「泥棒の逆恨み」ともい う。 類義盗とうは主人を憎む。泥棒が縄を恨む。 ぬすびとそで 盗人の袖ひかえ かなえられるはずがない、むだな嘆願のたと え。盗人が捕まったときに、袖にすがって助 けを乞うこと。「泥棒の袖ひかえ」ともいう。 ぬすびとちょうちんも 盗人の提灯持ち 悪事の手助けをしたり、悪人をかばったりす ることのたとえ。盗人のために提灯を持って 道案内をしてやるということから。 盗人の取り残しはあれど火の取り残しはなし 盗難よりも火災の被害のほうが甚だしいということ。盗難は、どんなにひどくてもすべての物を持っていかれることはないが、火事となると家財一切が焼失してしまって何も残らないことから。 ぬすびと盗人の寝言 のだというたとえ。盗人がいくら悪事を隠そうとしても、寝言に出てしまうことは防ぎようがないということ。 悪いことは、何かの拍子に発覚してしまうも 盗人の番には盗人を使え 何事にも、経験者を使うのがよいということ。 盗難を防ぐには、盗みの経験のある者を番人 に使うと、盗みの手口を心得ているので効果 的だということ。 類義毒を以もて毒を制す。蛇の道は蛇。 ぬすびとひままもて 盗人の隙はあれども守り手の ひま 隙なし 盗難を防ぐのは困難であることのたとえ。盗 人は自分の都合のよいときに盗みに入るのだ から時間の余裕があるが、番人のほうは、少 しの油断もできず気の抜けるときがない意か ら。「守り手の隙はなけれど盗人の隙あり」 ともいう。 盗人の昼寝も当てがある 何事をするにもそれ相当の思惑があるものだ ということ。何の理由もなさそうに見える盗 人の昼寝も、実は夜の盗みに備えてのもので あるということから。いろはがるた(江戸)の 一。かるたでは「盗人の昼寝」。 盗人も戸締まり 人には害を与えても自分は被害を受けたくな いと思う気持ちのたとえ。 類義 盗人も我が家の用心。 <505> 盗人を捕らえて見れば我が子 なり 思いもよらなかったことに直面し、処置に困 ることのたとえ。また、ごく身近な者であっ ても心を許せないこと。 補説新撰犬筑波集 しんせんいぬ つくばしゅう にある「きり たくもありきりたくもなし」という前句 まえ く に つけられた三つの付け句の中の一つ。 盗人を見て縄を綯う↓泥棒を捕らえて なわな 電を綯う77 縄を綢う477 なわか 盗みする子は憎からで縄掛く る人が恨めしい 親の身びいきな情愛のたとえ。親というもの は、盗みをした自分の子を憎まず、自分の子 を捕らえて縄をかけた人を憎むものだという こと。「盗みする子は憎からで縄付くる人が 恨めしい」ともいう。 あの おとこ め 布は緯から男は女から 布の善し悪あしがそれを織る横糸によって決 まるように、男の善し悪しは妻の心がけに よって決まるということ。∇緯∥織物の横糸。 類義布は縦から男は女から。男は妻から。 英語A good wife makes a good hus- band.「よき妻はよき夫を作る」 ぬまぬかぐぎ 沼に杭↳糠に釘502 ぬすびとーねいけい 物事のやりにくいことのたとえ。つるつると 滑って、はさめないことから。 類義塗り箸で素麺 そう。 めん 塗り箸で鰻 うな ぎ をはさ む。塗り箸で海鼠 なま こ をおさえる。 濡衣を着る 無実の罪を受けること。また、根も葉もない 悪いうわさを立てられること。 ぬて濡れ手で粟あわ 何の苦労もしないで多くの利益を得ること。 濡れた手で粟をつかむと、つかんだ量以上に 粟粒がくっついてくることから。 類義漁夫の利。 用例「おい権九、いやさ権九郎、何と俺様 は智恵者ちえであろうがな。産れながら蒲柳 ほりゅう の質たちで力業には向き兼ねる。そこでお前を 利用してよ、途方もねえ獲物を盗み出したと ころで、相棒のお前を殺してしまえば濡れ手 で粟の欄つかみ取り、一粒だって他へはやらね え。……」〈国枝史郎◆八ヶ嶽の魔神〉 濡れぬ先こそ露をも厭え 濡れぬ先こそ露をも願 あやまちも、一度犯してしまうと、それ以上 にひどいあやまちでも平気でするようになっ てしまうということのたとえ。体が乾いてい るうちは、少しの露がかかるのも嫌うが、いっ たん濡れてしまえば、いくら濡れても気にし なくなることから。 濡れぬうちこそ露をもいとえで、男は知れた となると開き直る者だということを私は知り ませんでした。……〈大倉燁子◆あの顔〉 ぬ濡れぬ先の傘かさ 失敗しないように前もって用意をしておくこ とのたとえ。「降らぬ先の傘」ともいう。 類義転ばぬ先の杖つえ。 ねあさ すなわすえみじかもとやぶ 根浅ければ則ち末短く、本傷 すなわえだか るれば則ち枝枯る 出淮南子 物事は基盤がしっかりしていなければ発展できず、よい成果も得られないということ。樹木の根が浅いと枝葉の成長も不十分で、幹が傷つくと枝も枯れてしまうことから。 出晋書しんじょ すぐれた少年。神童。「このような子」の意 で、もとは善悪両様の意で用いたが、後世で は幼いがすぐれた者を指していう。△寧馨∥ 中国六朝よう時代の口語で、「このような」「あ のような」の意。 補説 中国、晋しんの時代、竹林の七賢人の一 人である山濤さんが少年であった王衍 おう えん の聡明 そう なことに感嘆して言ったことば「何物の老 嫗ろう、寧馨児を生めるや(いったいどんな母 <506> ねいげんーねこにこ 親が、このような子を産んだのだろう」から。 類義麒麟児 きり。 んじ 仮言は忠に似たり へつらいのことばはいかにも忠義めいて聞こ えるから、注意して聞かなければならないと いうこと。∇佞言∥おもねりへつらうこと ば。 出宋史そうし 補説出典には価言は忠に似て、姦言 信に似たり(よこしまなことばは、もっとも らしく聞こえる)とある。 類義大姦 たい は忠に似たり。 対義忠言耳に逆らう。 ねいしゃけんじゃに 佞者は賢者に似る 切る。 心のよこしまな人は、うわべをとりつくろう のがうまいから、賢者とみまちがうことがあ るということ。∇佞者∥口先が上手で心がよ こしまな人。 対義大賢は愚なるが如し 願ったり叶ったり 希望通りのことが実現すること。願った通り のことが実現して満足するさま。 用例)どうして役不足どころではない。それ こそ半蔵にとっては、願ったりかなったりの 話のように聞こえた。〈島崎藤村◆夜明け前〉 ねくびか 相手のすきをついてだましたり、おとしいれ たりすることのたとえ。眠っていて無防備な 者の首を切る意から。△掻く=刃物を引いて 類義寝鳥を刺す。 寝首を掻く 用例さよう、互いにその一事へは、決して触れようとはしなかったが、陣十郎は自分の油断に澄江が早晩つけ込んで、寝首を掻くというような、卑劣な態度に出るということなど、澄江その人の性質から、有り得べからざることであると知り、それだけは安心することが出来、同時に澄江が義父の敵の自分に助けられたということから、義理と人情の板ばさみとなり、苦しい心的境遇に在る、そういうことを思いやり、憐愍れん同情の心持に、とらわれざるを得なかった。〈国枝史郎◆剣俠〉ねここかつおぶしや猫が肥えれば鰹節が痩せる 一方が得をするともう一方は損をする一方 がよければ他方は悪くなること。鰹節を食っ た猫が太っていく一方で、猫に食われた鰹節 は細くなっていくことから。 類義彼方 あな た を祝えば此方 こな た の怨うらみ。入り 船によい風は出船に悪い。 猫と庄屋に取らぬはない 賄賂に手を出す役人を皮肉っていうことば。 猫は目の前の鼠ねずや魚を必ずつかまえ、庄屋 は機会あれば必ず賄賂を取る意から。▷庄屋 ‖江戸時代、年貢の取り立てや村の行政事務 を取り扱った者。名主。 ねこかつおぶし猫に鰹節 あやまちが起こりやすい状況、危険な状況に あることのたとえ。猫のそばに好物の鰹節を 置いたのでは、油断がならないことから。 類義猫に鰹節の番。猫に魚の番。盗人に鍵 を預ける。盗人に蔵の番。 英語 He sets the fox to keep the geese. 狐きつ ねに鷲鳥がち ようの番をさせる 用例これ見よがしに、金銀をブチまけるの も気障きだが、人の金銀を涎 れを垂らして眺 めている奴やもいいかげんの物好きでなけ ればならぬその物好きは、お絹という女で すこれは猫に小判ではないたしかに猫に 鰹節ですがこの猫は牙を鳴らして飛びか かりはしないが猫撫なで声をして「七兵衛 しちさん、眩まぶしくってたまらないから、蠟燭 そくを一挺ちょにしたらどうです「中里介山 大菩薩峠) ねこ猫に小判こばん 貴重なものを持っていても、価値を知らない と何の役にも立たないことのたとえ。「猫の 前に小判」ともいう。いろはがるた(京都)の 一。 類義猫に石仏いしぼ。豚に真珠。 英語 A barleycorn is better than a diamond to a cock. 雄鳥おんにとっては、一粒の大麦のほうがダイヤモンドよりも価値がある 用例山川さんは「そういう制度が作られていない現代においては、個人の自覚と努力だけで貧困を免れることは出来ない」といわれましたが、制度は個人の多数が意識的に作るのです。制度が先にあっても宜よろしいが、個人が多数に目覚めて、その制度を我物として <507> 活いかすのでなくては、制度も猫に小判です から、私は先まず個人の自覚と努力とを特に それの乏しい婦人の側に促しているのです。 〈与謝野晶子◆平塚・山川・山田三女史に答う〉 ねこ猫に木天蓼またび 大好物のたとえ。また、効果が著しいこと。 「猫に木天蓼お女郎に小判」「猫に木天蓼泣く 子に乳房」ともいう。∇木天蓼=つる性落葉 低木。果実は猫の大好物だといわれる。 が一匹もいなかったという伊曽保物語 にある寓話ぐうによる。 猫にもなれば虎にもなる 時と場合によって、また、相手の態度によって、おとなしくもなれば猛々しくもなること。 類義鬼にもなれば仏にもなる。 ねこ猫の魚辞退 類義言うは易く行うは難し。 本心では欲しくてたまらないのに遠慮すること。また、当座だけのことで長続きしないこと。「魚」は「さかな」とも読む。 類義 猫の精進 猫のうるめ斟酌 猫 の魚食わぬふり。 猫の手も借りたい いい考えだと思われても、成功が見込めず実 行することが難しいことのたとえ。「猫の首 に鈴を付ける」ともいう。 補説猫に襲われないようにと鼠たちが話し合った結果、猫が近寄ってくるのがわかるように猫の首に鈴を付けようということになった。それではだれが鈴を付けにいくかという話になると、自分が付けにいくという者 ねこ猫の首に鈴すず 非常に忙しいようす。何の役にも立たない猫 の手でもいいから手伝いが欲しいという意か ら。 ねこにまーねこもし 類義犬の手も人の手にしたい。 用例ちょうどまもなく田植がはじまるという猫の手も借りたいいそがしいときで、どこの家でも、家族一同田圃に出払っていた。 伊藤永之介◆押しかけ女房 ねこひたいものねずみうかが猫の額の物を鼠が窺う 危険をものともせず、無謀な行動に出ること のたとえ。また、大それた望みを抱くことの たとえ。「猫の鼻先の物を鼠が狙う」「鼠が猫 の物を狙う」ともいう。 類義 竜の髭ひげを撫なで、虎の尾を踏む。鷲 の巣を鼠が狙う。 ねこ猫の前の鼠ねずみ 恐怖で身がすくんで身動きができなくなるよ うす。「猫に会った鼠」ともいう。 類義蛇に睨にられた蛙かえ。 ねこまえねずみひるね猫の前の鼠の昼寝 ねこさんねんおんみっかわす 猫は三年の恩を二日で忘れる 猫は三年間飼ってもその恩をわずか三日で忘 れる。猫が人の恩をすぐ忘れることをいう。 危険が迫っているのに気づかず、のんきに構 えていること。猫がいるのを知らずに、鼠が その前で昼寝をしているという意から。 類義魚うおの釜中ふちに遊ぶが如ごとし。 猫は虎の心を知らず つまらない人間には大人物の考えは分からないということのたとえ。姿かたちは似ているが、小さな猫には大きな虎の心は理解できないという意から。 類義 燕雀 えんじ やく 安 いず んぞ鴻鵠こう の志を知らん 猫糞をきめこむ 悪事を隠し、そ知らぬ顔をしていること。また、落とし物などを拾ってそのまま自分のものにしてしまうこと。猫が糞ふんをしたあと、足で土をかけて隠すことから。「猫糞する」「猫糞」ともいう。 類義猫が糞を踏む。 猫も杓子も どれもこれも。だれも彼も。 補説語源には、日常生活で目につきやすい ものを例示したもの、「女子めこ」「弱子じゃが 変化したもの、「禰宜ねぎも釈子しゃも」(神主も 僧侶もの変化したものなど諸説ある。 用例猫も杓子も自然主義的作品をさえ書い ていれば認められると云いう風で、「平家にあ らざれば人にあらず」と云う如ごとく、「自然 主義者にあらざれば作家にあらず」の感が あった。谷崎潤一郎◆青春物語) <508> 猫を追うより魚をのけよ 問題が生じたときには、根本を正すことが大 切であるということ。猫から魚を守るには、 猫を追うよりも魚をどこかへ移すことが先決 だという意から。「猫を追うより皿を引け」 「猫を追うより鰹節がつおを隠せ」ともいう。 ねこ 猫をかぶる ね 本性を隠し、おとなしそうに見せかけること。 また、知っていても知らないふりをしてとぼ けることのたとえ。「猫かぶり」ともいう。 用例)銀子はちょっと逢あった処 りでは、 ウエーブをかけた髪や顔の化粧が、芸者らし くなく、態度や言葉遣いもお上品らしく、い くらか猫を被っていた。〈徳田秋声◆縮図〉 たきぎますほのお ねじれた薪も真っ直ぐな炎を た 立てる 類義塵ちりも積もれば山となる。 やり方はどうであれ結果はよいこと。また、 目的を達するためには手段は問わないという こと。薪の形にかかわりなく炎は真っ直ぐに 立ち上がることから。 ねずみしおひ 鼠が塩を引く 些細 ささ なことでも何度も繰り返せば大事に至 ることのたとえ。鼠が塩を取っていくのはご く少量ずつだが、度重なると大量になること から。また、鼠が塩を取っていくようすから、 こそこそと物事を行うことのたとえ。「鼠が 塩をなめる」ともいう。 ねずみきゅう ねこかひとまず 鼠窮して猫を噛み、人貧し うして盗す 追い詰められた鼠が猫にかみつくように、人 も貧しさに切羽詰まると盗みをはたらくよう になるということ。 類義小人 じん 窮すればここに濫らんす。 ねずみと かある 鼠捕らずが駆け歩く ろくな働きをしない者が忙しそうに走り回る こと。また、役に立たない者にかぎって何か をするときに大騒ぎをすること。▶鼠捕らず ∥鼠を捕らない猫の意。転じて、役立たず。 鼠捕る猫は爪を隠す すぐれた才能や力量のある者は、むやみにそ れをひけらかしたりはしないものだというこ とのたとえ。 ねずみな 鼠無きを以て捕らざるの猫 出鶴林玉露 出漢書かんじょ 無能な者、役に立たない者は養っておけない ということ。鼠がいないからといっても、鼠 を捕ろうとしない猫を飼っておくわけにはい かないという意から。 を養う可からず を以て吠えざるの犬を蓄う可からず」とある。 ねずみなほっうつわい 鼠に投げんと欲して器を忌む 補説出典には猫を養いて以て鼠を捕らう。 鼠無きを以て捕らざるの猫を養う可からず。 犬を蓄 やし いて以て姦かん 盗賊を防ぐ。姦無き そばに仕える悪臣を排除しようと思っても、 主君に害が及ぶことを心配してできないこと のたとえ。鼠を退治するのに物を投げつけよ うとしても、そばにある器まで壊す恐れが あってできないという意から。 類義鼠は社やしに憑よりて貴し。社鼠の患 うれい。 ねずみよめい鼠の嫁入り あれこれと条件をつけてより好みしても、結 局は落ち着くところに落ち着くということ。 補説 鼠の夫婦が娘に天下一の婿をとろうと して、太陽に申し出た。すると太陽は雲に出 会うと照らせなくなるから雲が上だという。 そこで雲に申し出ると、雲は風に吹きとばさ れるから風が上だという。だが、風はいくら 吹いてもびくともしない壁の方が上だとい う。そして壁は、自分に穴をあける鼠の方が 偉いという。結局、鼠が一番だと知って、鼠 に嫁入りさせたという、『沙石集 しゃせき しゅう 』など に収められている昔話から。 類義 鼠の婿取り。 ねずみかべわすかべねずみわす 鼠は壁を忘るとも壁は鼠を忘 れず 加害者は害を加えたことを忘れるが、被害者 出越絶書 <509> はいつまでも覚えていて恨み続けるというこ と。鼠は以前にかじった壁のことなど忘れて いるが、壁についた跡は消えないことから。 鼠は大黒天の使い 鼠は福の神の使いだという俗信。▷大黒天∥ 福徳の神。七福神の一人。 ねずみやしろよ 鼠は社に憑りて貴し 出文選 もんせん 側近である悪臣を排除しようとしても、主君 に害が及ぶことを恐れてできずにいることの たとえ。社にすむ鼠を退治しようとしても、 社までそこなう心配があるために手がつけら れず、鼠はますます横行するという意から。 類義鼠に投げんと欲して器を忌いむ。社鼠 しゃ の患うれい。 ねずみ ころくじゅう鼠も小六十 つまらない人間でも、年をとって経験を積め ば、それ相応のはたらきができるようになる ということ。 大切にすること。 類義 亀の甲より年の劫こう。 ねずみ とら ぐと鼠も虎の如し 勢いに乗じて進むときは、弱い者でも相手を 圧倒する激しさがあること。小さな鼠も命が けで飛び出すときは、虎のようにすさまじい 勢いがあるということ。 ねずみもったま せんごくさく 嵐を以て璞となす 出戦国策 名前や世間の評価を信じるあまり、実物を見 誤ること。また、つまらない物を宝物として 故事昔の中国の周の国では乾いて固まっていない鼠の死体を朴はくと言い、鄭ていの国では掘り出したまま磨いてない玉を璞はくと言った。鄭の商人が璞を買おうと申し出たところ周の商人が朴を出したという笑い話。 ねずみはーねていて ねうしあくた 寝た牛に芥かくる 死に牛に芥かける 297 寝た子を起こす せっかく落ちついている問題を、よけいなことをしてむし返したり、ごたごたを起こしたりすることのたとえ。「寝ている子を起こす」「寝る子を起こす」ともいう。 類義泣かぬ子を泣かす。數やぶをつついて蛇を出す。手を出して火傷やけする。 英語rip up old sores「古傷をかきむしる」 Wake not a sleeping lion.「寝ているライオンを起こすな」 ねまほとけ寝た間は仏 眠っている間はだれもが無心になり仏のよう だということ。また、眠っている間は現実の 苦労や心配も忘れ、まるで極楽にいるようで あるということ。 類義人を呪わば穴二つ。 類竅 人を明れに片二一 英語 An envious man grows lean. 姝妬 と 深い者は痩せる 類義 寝る間が極楽。 ねた 妬みはその身の仇 みあだ 人を妬んで悪く言ったりすると、それが巡り 巡って自分の身に災いを招くことになるということ。 出詩経しきよう 熱を執りて瀬わず 異状がわかっていながら、適切な処置をしな いこと。乱世を治めるために賢人を登用する べきであるのに、それをしないことをいった。 熱いものに手がふれたときは水で冷やせばよ いのに、それをしないことから。 補説出典には「誰か能よく熱を執りて、逝 ここに以もって濯わざらん(熱いものを手にとれ ば、冷たい水で洗い冷やさない者があろう か」とある。 ね寝ていて転んだ例なし 何もしないでいれば、失敗することもないと いうこと。 類義触らぬ神に崇たたりなし。 寝ていて人を起こすなかれ 人を働かせるには、まず自分が率先して働け ということ。自分は何もしないで他人を働か せようとしてはならないということ。「寝て いて人を起こすな」ともいう。 ね 寝ていて餅食えば目に粉が入る 横着をして世渡りをしようとすれば、何かし ら悪い報いを受けるということ。世の中は、 楽をして生きてはいけないということ。 <510> ねてはくーねんぐの ねはつぼみてんつぼ 寝て吐く唾は身にかかる↓天に唾す451 寝ても覚めても いつもそのことを意識しているということ。 眠っている間も夢の中で、起きているときも ということから。四六時中。絶えず。 類義明けても暮れても。 に水が入ってきた、などの諸説がある。 用例けれどもイドリスは、王さまからさわ いでいただけばいただくほど、よけいに命が ちぢまるような気がして、寝てもさめても苦 痛でたまりませんでした。〈鈴木三重吉◆ダ マスカスの賢者〉 寝鳥を刺す 無抵抗の者を、容赦なく襲うようす。また、 相手を安心させておいて危害を加えること。 類義 寝首を掻かく。 ねみみ 寝耳へ水の果報かほう ねふとら寅に起きる 夜遅く寝て、朝早く起きる。勤勉でよく働く ことのたとえ。▷子‖現在の午前零時頃。寅 ‖現在の午前四時頃。 類義星に起き月に臥ふす。 思いがけない幸運。降って湧いたような幸い のこと。 不意の知らせやできごとに驚くこと。「寝耳 に水の入いる如ごとし」「寝耳に擂粉木 すり こぎ」とも いう。 補説語源には、寝ているときに大水が出て、 その水の音に驚いた、寝ている耳に洪水を知 らせる叫び声が聞こえた、実際に寝ている耳 類義 寝耳小判。開いた口へ牡丹餅 棚 もち から牡丹餅。 寝耳に水 ねむ眠い煙い寒い 我慢できないもののたとえ。耐えがたい苦痛 を、三語並べて表したもの。 根もない噓から芽が生える うそ まこと うそ 噓から出 た実 86 根も葉もない 根拠のないこと。まったく信頼できないこと。根も葉もなければ、植物が育つはずがないことから。「根もない」ともいう。 ないということ。 用例「あんな伝説なんかみんな迷信ですよ。 あの鼓の初めの持ち主の名が綾姫 あやひめといった もんですから謡曲の『綾の鼓』だの能仮面の 『あやかしの面』などと一緒にして捏でっち上 げた碌ろくでもない伝説なんです。根も葉もな いことです」〈夢野久作◆あやかしの鼓〉 寝る子は育つ よく眠る子は健康で丈夫に育つということ。 類義 寝る子は息災 そく。 さい ね寝る間が極楽 寝る程楽はない 寝ている間は現実のことを何もかも忘れて、 まるで極楽にいるようだということ。△極楽 Ⅱ極楽浄土の略。阿弥陀 あみ だ 仏のいる、一切の 苦しみを離れた、安楽の世界。 類義寝た間は仏。 何が楽だといっても、寝るくらい楽なことは ねいちじょうおはんじょこ 一寝れば一畳起きれば半畳 むやみに富貴を望むのは意味がないというこ と。どんなに裕福でも、一人で占めることが できる広さは、寝ていれば一畳、起きていれ ば半畳だけであるということから。「起きて 半畳寝て一畳」ともいう。 類義 千疊敷に寝ても一畳。 根を断って葉を枯らす 災いをもとから取り除くこと。枝葉の成長を 止めようとするなら、根を切る必要があるこ とから。 根を深くし 柢を固くす 出老子 基礎や土台をしっかりと固めることがいつ までも生きながらえる道であるということ。 木の根が固く地面にはって動かないことか ら。 ∇根∥木の根。細根で養分を吸収する 根。 柢∥木の根。直根。幹を立たせる根。い ずれも根本のたとえ。別説もある。 ねんぐ年貢の納め時 <511> すること。また、続けてきたことに見切りをつけること。滞納していた年貢を清算するときだという意から。 ねんげみしょう 拈華微笑 用例俺おれの威光はこんなものさ。鶴の一声 利目があるなあ。だが貴様には不思議だろ う。俺の素性が解わかるめえ。……貴様も年貢 の納め時、首を切られて地獄へ行き、閻魔 えん ま の庁へ出た時に、誰に手あてになったかと聞 かれて返辞へんが出来なかったら、悪党冥利 みよ うり 面白くあるめえ。よし、それでは知らせてや ろう!〈国枝史郎◆天守閣の音〉 は不注意や不用意なことがあること。 類義弘法にも筆の誤り。 出五灯会元 心伝心。△拈華=花をひねること。 ことばを用いず、心から心に伝えること。以 故事 釈迦 しかが弟子たちに説法したとき、花 をひねって見せたが、弟子たちはその意味を 理解できず沈黙していた。ただ一人迦葉 いう弟子だけがにっこりと笑ったので、釈迦 は、迦葉がことばでは表すことのできない仏 教の奥義を理解できる者として、仏法のすべ てを彼に授けたという。 類義破顔微笑。 ねんごう 年劫の兎 普通の手段ではたちうちできないもの、一筋 縄ではいかないもののたとえ。長年生き延び て悪賢くなった兎の意から。 類義古狸 ふるだ○ 古狐 ふるぎ○ つね ねんじゃ 念者の不念 念を入れて慎重に物事を行う人でも、ときに ねんげみーのうある 念には念を入れよ よく注意し確かめたうえに、さらに注意せよ。 手抜かりのないように細心の注意を行えということ。いろはがるた(江戸)の一。 類義 石橋を叩たいて渡る。分別の上の分別。 英語Look before you leap.跳ぶ前に見 よ 用例「待て待て。お前はこのごろふわふわ していて、よく間違いをやらかすから、あて にならんよ。それに間違っていれば、すぐ取 替とりえて来てもらわないと、折角せっここまで 急いだ仕事が、また後おくれるよ。急がば廻まわ れ。念には念を入れということがある」海 野十三◆もくねじ ねんねんさいさいはなあいに 年年歳歳花相似たり、 ねんひとおな 歳歳年 出劉希夷ー詩 年人同じからず になる意から。 自然は変わらないのに、人の世は変わりやす いということ。人の世のはかなさをいうこと ば。毎年、花は同じように咲くが、それを見 る人は年ごとに違っているの意から。 補説 詩の題名は 白頭を悲しむ翁 おき な に代わ る。 ねんす念の過ぐるは無念むねん 類義 過ぎたるは猶なお及ばざるが如ごとし。 ねんりきいわとおいしたや 念力岩をも徹す石に立つ矢43 何事も程度をすぎると足りないのと同じよう になりがちだということ。あまり考えすぎる と、かえって何も考えなかったのと同じよう 能ある鷹は爪を隠す の 類義 猟する鷹は爪を隠す。鼠 捕る猫は爪 を隠す。猟ある猫は爪を隠す。上手の鷹が爪 隠す。 対義 能なし犬は昼吠 える。 能なしの口叩 たた き。 英語 Tell not all you know, all you have, or all you can do. 知っていること、持っている物、なし得ることを何もかも口外する ことはやめよ 用例滝野の傍そばに坐すわっている大変に美しい芸妓げいが、「こちら、どうなすったの!」と云いてポンと彼の肩を叩くと、その次に居並んでいる稍や年取った妓が、「能ある鷹は爪をかくすってね」と軽く笑い、するとまた、向い側の赤ッ面が、その言葉の追句らしいキタナイ洒落れを続けて、「さては滝野君、誰かに思おぼし召しがあるらしいぞ」などと大きな口を開いて笑った。一同はやんやと叫んで手を打った。〈牧野信一◆蝉〉 <512> のうが ちゃぼ とき あ 能書きと矮鶏の時は当てにな ぐぬ 自己宣伝の文句は信用できないということ。 薬の効能書きと矮鶏が鳴いて時を知らせるの はどちらも当てにならないことから。▶矮鶏 ∥鶏の一品種。 のうが 能書きの読めぬ所に効き目あ り 難解なものが尊ばれがちなこと。また、効能 書きは読んでも理解できないものが多いこと への皮肉。効能書きが難解であることが、そ の薬に効き目があるように思わせる意から。 田国士◆劇作を志す若い人々に やるべきことはすべてやり終えたというこ と。「能事足る」ともいう。∇能事=できる こと。やらなければならないこと。 能事畢る 補説出典には引きて之これを伸べ、類に触 れて之を長ずれば天下の能事畢る(八卦はっ 引き伸ばして六十四卦としたり、同じ種類の 物事に関係づけて広げていけば、世の中の成 すべきことのすべてがこの易の中に成し終え られる)とある。八卦は、易で自然・人間 のあらゆる現象を判断する基礎となる八つの 形。 出易経 用例)劇作家は、人生を舞台の中に入れることを以もって能事終れりとせず、舞台を人生の中に持ち出せと云うのが私の主張です。 能書は筆を択ばず 能書は筆を払い 私唐書 書にすぐれた人は、筆の善し悪あしは問題に しないということ。下手な者が材料や道具に ついてやかましくいうのを戒めたことば。 「能書は筆墨を択ばず」「善書は紙筆を択ばず」 などともいう。 補説出典には(欧陽)詢 じゅん は紙筆を択ば ずとある。 故事)中国初唐を代表する書家に、欧陽詢、 虞世南 ぐせい、 なん 褚遂良 ちょすい りよう がいた。あるとき、 最年少の褚が虞に、自分の書と欧の書との優 劣を尋ねた。すると虞は「欧は紙や筆の善し 悪しに関係なく思うとおりに書けるそうだ。 紙筆にこだわる君はとても及ばないね」と答 えたという。この三人は「初唐の三大家」と 呼ばれる能書家として知られる。 類義 弘法筆を択ばず。 名筆は筆を択ばず。 良工は材を択ばず。 出史記しき のうちゅう きり裏中の錐 すぐれた人物は、多くの人の中にあってもそ の才能によって目立って見えるということ。 袋の中に入れた錐の先端は、おのずと布を突 き抜けて外に出ることから。「錐、囊ふくを通 す」「錐の囊中に処るが如ごとし」ともいう。 のうちゅうものさぐこと 囊中の物を探るが如し 意から。「囊を探るが如し」ともいう。 出新五代史 たやすくできること。袋の中の物を手で探る 補説中国後周の大臣李穀のことば「中国 吾われを用いて相う(宰相)と為さば、江南を 取ること囊中の物を探るが如きのみ」から。 類義袋の物を探るが如し。棚の物を取って くるよう。猫が鼠ねずみを捕るようなもの。 のう能なし犬の高吠え 役に立たない者に限って、必要のないときに 騒ぎ立てたり、大きなことを言ったりするも のだということ。 類義 能なし犬は昼吠える。 能なしの口叩 き。鳴く猫は鼠 ねず み を捕らぬ。 対義 能ある鷹たかは爪を隠す。 能なしの口叩き 能力や実力のない者に限って、よけいなこと をぺらぺらしゃべるということ。口先だけで 実力のない者をいう。 類義 能なし犬は昼吠 元る。 能なし犬の高 吠え。 対義 能ある鷹 たか は爪を隠す。 能なしの能一つのうひと 何の能力もなさそうに見える者でも、一つぐ らいは取り柄があるものだということ。 類義千慮の一得。馬鹿にも一芸。 のうまつりごともと 農は政の本 出 王融永明九年第二秀才一文 農業は国の政治の基本であるということ。 <513> 補説出典には「食は民の天為り(食は人々 の生活にとっては天であり)、農は政の本為 り」とある。 のきかおもやとひさしか 軒を貸して母屋を取られる尻を貸し おもやと て母屋を取られる544 の退けば他人たにん 夫婦はもともと他人の寄り合いなので、どん なに仲むつまじくても、一度別れてしまえば 赤の他人に戻ってしまうということ。 類義他人の別れ棒の端。合せ物は離れ物。 のちようじゃふたり 退けば長者が二人 不仲な者や貧乏な者同士が一緒にいるより は、別々に行動したほうがそれぞれの長所が 生きて成功するものだということ。仕事仲間 や夫婦の関係が悪くなった場合に用いる。 のこぎりくずいいおがくずい 鋸 厝も言えば言う 大鋸屑も言えば 言う 110 残り物に福がある 人が取り残したものや余ったものには、意外 によいものがあるということ。無理に争わな くても思わぬ幸運を拾うことがあるというこ と。「残り物に福あり」「余り物に福あり」と もいう。 類義余り茶に福あり。 のちな たい な もうし 後無きを大と為す 出孟子 跡継ぎの子供をつくらないのは、最も大きな 不孝であるということ。 補説孟子があげた三つの不孝(親を不義に おとしいれること。家が貧しく親も年老いて 働けないのに、収入を得ようとしないこと。 妻をめとらないので跡継ぎの子もなく、先祖 の霊を祭ることができないことの一つ。中 でも三つめが最大の不孝だと言っている。 のきをかーのべてっ 後の千金せんきん せっかくの大きな援助も、時機がずれれば何 の役にも立たないことのたとえ。 のちひゃくいまごじゅうあすひゃく 後の百より今の五十↓明日の百より 今日の五十19 咲から手が出る のど 非常にほしくてたまらないようすのたとえ。 のどもとす あつ わす 喉元過ぎれば熱さを忘れる 苦しいことも過ぎてしまえば簡単に忘れてし まうこと。また、苦しいときに受けた恩を、 楽になったときに簡単に忘れること。「喉元 通れば熱さを忘れる」ともいう。いろはがる た(江戸)の一。 類義病治りて医師忘る。 英語 The danger past and God forgot- ten.危険が過ぎ去ると、人は神を忘れる Vows made in storms are forgotten in calms.嵐のときの誓言は、風なきになると 忘れ去られる 用例 荷物を一緒に持って来て居れば、此 処ここから小窓を踰こえて剣沢 つるぎ さわ の岩屋へ出る のが道も楽で近く、二時間半もあれば行かれ るであろう、惜しいことをしたものだなぞと、 身一つを辛くも此処まで運んで来ながら、喉 元過ぎて熱さを忘れた私達たちは早はやそんな 贅沢ぜいなことを考えていた。〈木暮理太郎◆ 黒部川奥の山旅〉 しめつける意。拊つ=打つ。たたく。 意。▷肌∥のど。「喉」とも書く。揄する∥ わせること。のどを押さえつけ、背中を打つ 急所を押さえて死命を制し、敵の反抗心を失 脫を搤して背を拊つ 出史記 の ふくぜい とき きがんれつ みだ 野に伏勢ある時は帰雁列を乱 る 出孫子 野原に軍勢が隠れているときは、空を渡る雁が列を乱すということ。 補説出典には「鳥起たつは伏ふくなり。獣駭 くは覆ふうなり鳥が突然飛び立つときは、 その下に伏兵が隠れており、獣が急に騒ぎ出 すのは、近くに奇襲部隊が隠れているから だ」とある。また、後三年の役で、源義家 が清原家衡 きよはらの いえひら を攻めたとき、空を飛 ぶ雁の列が乱れたのを見て潜伏兵を察知し、 難を逃れたという話がある。 述べて作らず 出 論語 ろんご 先人の思想や言行を述べて伝えはするが、自 分の意見はさしはさまないということ。 補説孔子が自分の学問に対する立場を述べ たもの。出典には「述べて作らず、信じて古 <514> のぼりいーのむうつ を好む」とある。 のぼ いちにちくだ いっとき 上り一日下り一時 物事の創造には長く大変な苦労が必要となる が、壊れるときはあっけないということ。坂 は上るのに一日かかっても、下るときはあっ という間だという意から。 上のぼざか 上り坂あれば下り坂あり 一生のうちには、栄えるときもあれば衰退す るときもあるということ。 類義楽あれば苦あり。七下がり七上がり。 のぼざかくだざか 上り坂より下り坂 容易と思われるときに気を許すと失敗する、 逆境のときよりも、順境のときこそ気を引き 締めよということ。坂は苦しい上り坂より も、楽な下り坂のほうが足を踏み外しやすい ことから。 知りもしないのに知っているようなふりをし て話すことのたとえ。京の都に上ったことも ない者が、まるで京に行ってきたかのように 土産話をすること。 類義見ぬ京物語。 のぼし上り知らずの下り土産くだみやげ 何か原因がなければ、このような結果にはな らないということのたとえ。 のぼ だいみようくだ こじき えど 二 ゆ 上り大名下り乞食 江戸っ子の往き だいみようかえ こじき 大名帰り乞食 101 のぼ 登れない木は仰ぎ見るな 分不相応なことを望むなということ。 類義火の無い所に煙は立たぬ。 対義 根がなくとも花は咲く。飲まぬ酒に酔 う。 のさけよ 飲まぬ酒に酔う 身に覚えがない原因で、不本意な結果になる ことのたとえ。 対義飲まぬ酒には酔わぬ。火の無い所に煙 は立たぬ。 のみ い 盤と言えば槌 万事によく気がきくことのたとえ。鑿を取ってほしいとたのむと、それと一緒に使う槌まで用意してくれる意から。「鑿と言わば槌」ともいう。いろはがるた(京都)の一。△鑿=柄を槌でたたいて木や石を彫る道具。 のみかんなはたらな 鑑に鉋の働きは無し どんなにすぐれた道具であっても、物にはそ れぞれの機能があるので、本来の用途以外に は役に立たないということ。 のみ いき てん のぼ あり おも てん 蚤の息さえ天に昇る 蟻の思いも天に 昇る32 が大きすぎて仕事に適さないこと。 類義 牛刀を以もって鶏を割く。鶏を割くに焉 いず く んぞ牛刀を用いん。 蚤の頭を斧で割る のみしょうべん 蚤の小便、蚊の涙 のみかしらよきわ 方法が大げさで不適当なことのたとえ。道具 極めて少量であること。蚤の流す小便、蚊の 流す涙ほどの量だということから。 類義雀 すず め の涙。爪の垢あかほど。 のみ蚤の夫婦 妻の方が夫よりも体の大きい夫婦のこと。蚤 の雌は雄よりも大きいことから。「蚤の女夫 めお と ともいう。 のみまなこかまつげ蚤の眼に蚊の睫 非常に小さいもののたとえ。 飲む打つ買う 大酒を飲み、博打 ち を打ち、女遊びをするこ と。男の道楽の代表的なものを並べたもの。 「飲む打つ買うの三拍子そろう」ともいう。 用例人間てえものは腕がすこし出来て参りますと……どうも……そのへへへ、ちっとばか慢心致しまして、世話講釈の文句通りに飲む、打つ、買うの三道楽で、日本にいられなくなりましたので、一つ上海ハイへ渡って、チャンチャンと毛唐の料理を習って一旗上げて遣ちろうてんで、日清戦争のチョット前ぐらいで御座いましたか。上海へ渡る積りで船へ乗りましたのが、間違って香港ホンへ着いてしまいましたので……へエ。〈夢野久作◆S岬西洋婦人絞殺事件〉 <515> の飲むに減らで吸うに減る 食も流して収減し 小さな出費が積もり積もって大きな額になる ことのたとえ。たまに飲む酒代では財産はそ れほど減らないが、始終吸うたばこ銭では 減っていくということ。 の飲む者は飲んで通る 酒飲みは酒代がかさむので生計が立たなくな るのではないかと思われるが、それでもなん とか暮らしていくものであるということ。 類義酒と煙草は飲んで通る下戸の建て た蔵はない。 野良猫の隣歩き 怠け者が仕事もしないで遊び歩くこと。猫が 鼠 ねず み も取らないで近所を歩き回ることから。 ▽野良猫=飼い主のいない猫。ここは怠け者 の猫。 類義 たくらだ猫の隣歩き。無精者の隣働 き。 のらせっくばたらなまものせっくばたら 野良の節供働き忌け者の節供働き487 の 乗りかかった船 物事を始めたり、かかわりを持った以上、途中で事情がどう変わろうともやめることはできないということ。船が一度出港したら、目的地に着くまで下船できないことから。「乗りかけた船」「乗りかかった馬」「乗り出した船」ともいう。 用例 へへへへへ実はこの老爺 おや じ も乗 りかかった船でございますから、まあ、止よ せばいいんでございますがね、持った病でご ざいましてなー人の見られないものを見た い、人の持てないものを持ってみたいなんぞ と、ガラにない山っ気がございますものです から、まこと仙台様の御宝蔵のうちに、国主 大名将軍様でさえも拝見のできない品とやら がございますならば、ひとつ何とかして、 ちょっとの間でも、それを……何とかして ……」〈中里介山◆大菩薩峠〉 のむにへーのろまの のり糊ついでに帽子 事のついでにいろいろな仕事を片付けるこ と。衣服を洗って糊を使ったついでに、帽子 にも糊をする意から。 伸るか反るか いちばち か八か49 暖簾に腕押し のれんうでお 相手の反応がまったくなくて、張り合いがな いこと。のれんを押しても、なんの手応えも ないことから。「暖簾と相撲」ともいう。 類義糠ぬかに釘くぎ。豆腐に鎚かす。生壁の釘。 用例わたしとしては、田島さんとのことば かりでなく、すべての縁談を、中ぶらりんに しておきたかったのだ。どうせ、一つを拒絶 すれば、次のが現われるにきまっている。煩 わずわしいだけだ。柳に風、暖簾に腕押し、そ ういうのが、いちばん巧妙な作戦らしい。ど うせソロバンの中に坐すわらせられてるからに は、じたばたすれば怪我けがするにきまってい る。〈豊島与志雄◆自由人〉 暖簾にもたれるよう まったく頼りにならないこと、張り合いのな いことのたとえ。のれんにもたれても支えに ならないことから。 のれんわ 暖簾を分ける 商店や飲食店などで、長く務めた店員を同じ 屋号を名乗ることを許したり、顧客を分け与 えたりして独立させること。▷暖簾‖店の屋 号を染め抜いて店先に掲げる布。 用例手代の千代松と嫁合 せ暖簾を分ける 筈だったが、近頃大黒屋は恐ろしい左前で、 盆までに二三千両纏まとらなきや主人の常右衛 門じょう えもん 首でも縊くらなきやならねえ。野村胡 堂・銭形平次捕物控 呪うことも口から呪う ことばは慎まなければいけないということ。 人を呪うときには口に出して呪うし、呪いを 受ける場合も、口にしたことばが原因である ことが多いことから。 類義口は禍わざの門もん。口故ゆえに身を果たす。 のろし 呪うに死なず 人に呪われるような者は、かえって容易には 死なないものであるということ。 類義憎まれ子世に憚かる。 いっすんばかさんずんげすいっ のろまの一寸、馬鹿の三寸↓下種の一 さんずんばかあ す、のろまの三寸、馬鹿の開けっ ばな 放し221 <516> 奪い合う物は中から取る 二者が夢中で争っている間に、中に入った筆 三者が利益を横取りしてしまうこと。奪い 合うニ「うばいあうーが変化した語。 類義 争う物は中から取れ。漁夫の利。 ばいか つぼ か 梅花は蒼めるに香あり すぐれた人物は、幼少のうちからその素質が 見られるということ。梅の花はつぼみのうち からよい香りがすることから。 類義栴檀せんは双葉より芳ばし。 はいかん肺肝を摧く 非常に苦慮することのたとえ。心を砕くほど 考える意から。「肺肝を尽くす」「肺肝を苦し む」ともいう。∇肺肝∥肺臓と肝臓。転じて 心の意。 出杜甫ー詩し 補説詩の題名は『垂老 ろう の別れ』。「蓬室 しつ の居を棄絶 きぜ つ し、場然 ぜん として肺肝を摧く(粗 末な住まいを捨て去り、ぐったりとして考え 込む)」とある。 敗軍の将は兵を語らず 出呉越春秋 失敗した者は、そのことについて発言する資 格はないということ。戦いに敗れた将軍は、 その経緯などについて語る立場ではないという意から。「敗軍の将は以もって勇を言うべからず」「敗軍の将は謀はからず」ともいう。 補説出典には亡国の臣は敢えて政を語 らず、敗軍の将は敢えて勇を語らず」とある。 用例酒宴をもうけて、二人はなお愉快そう に談じていた。孫策は、彼に向って、「これ から戦いの駆引きについてもいろいろ君の意 見を訊きくから、良計があったら、教えても らいたい」といったが、太史慈は、「敗軍 の将は兵を語らずです」と、謙遜した。吉 川英治◆三国志 梅妻鶴子 出 しわそうき 詩話総亀 気ままで風流な生活のたとえ。また、世を避けて風流に暮らす人の形容。 故事中国宋そうの林逋りんは世を避けて西湖せい に住んでいた。妻子なく、ただ梅を植え、鶴 を飼って楽しみ、客があると鶴を放して歓迎 したので、人々は「梅妻鶴子(梅を妻とし鶴 を子とす)と呼んだという。 ばいさんかつやすうめのぞかわとど 梅酸渴を休む♩梅を望んで渴きを止む 94 出史記しき 杯杓に勝えず 酒を飲みすぎて、もうこれ以上は飲めないと いうこと。▷杯杓=さかずきとひしゃく。酒 をくむ器。転じて、酒を飲む意。 こと。川・湖・海などを背にして陣を構え、 決死の覚悟で戦う意から。 はいしゃくた 故事中国漢の韓信 かんが趙 ちょ と戦ったとき、 わざと川を背にした不利な陣をしいた。兵た ちは引くに引かれず、死にものぐるいで戦い、 大勝利を収めたという。 背水の陣 はいすい じん 一歩も引けない絶体絶命の状況で事に当たる 出史記しき 類義 糧 加て を捨てて船を沈む。船を沈め釜を 破る。川を渡り船を焼く。 吐いた唾は呑めぬ 一度言ったことは、あとになって取り消せないということ。軽率な発言を戒めたことば。 類義口から出れば世間。 対義吐いた唾を呑む。 杯中の蛇影 はいちゅうだえい 出風俗通義 疑ってかかると、何でもないことまで不安に なり、心を悩ます種になるというたとえ。「蛇 影」は「じゃえい」とも読む。 故事 中国漢の杜宣 とせ んが友人の部屋で酒を飲 んだとき、自分の杯に映った弓の影を蛇と見 誤り、酒と一緒に蛇を飲み込んだと思って病 気になってしまった。その後、それが弓の影 だとわかると、たちまち病気が治ったという。 類義疑心暗鬼を生ず。 掃いて捨てるほど あり余るほどたくさんあるさま。多すぎて珍 しくなく、価値が感じられないこと。 類義浜の真砂まさ〇枚挙に暇いとがない。 用例嫁にしてもらいたいって、学問のでき る美しい方が掃いて捨てるほど集まってきて <517> よきっと。〈有島武郎◆ドモ又の死〉 杯盤狼藉はいばんろうぜき 出史記しき 酒宴の席の乱れたようす。また、酒宴のあと、 杯や皿・鉢などが席上に散乱しているさま。 ▶杯盤‖杯と皿。狼藉‖狼 おお かみ はしいて寝た草 を踏み荒らして寝た痕跡を消す習性があるこ とから、物が散乱したさま。 用例けれども二人ならんで廊下を歩きなが ら「持って来たか」と小声で言われて、す ぐに、れいの紙幣を手渡した。「一枚か」兇 暴 きよう ほう な表情に変った。「ええ」声を出して泣 きたくなった。「仕様がねえ」太い溜息 ため いき をついて、「ま、なんとかしよう。節子、きよ うはゆっくりして行けよ。泊って行ってもい いぜ。淋さびしいんだ」勝治の部屋は、それこ そ杯盤狼藉だった。隅に男がひとりいた。節 子は立ちすくんだ。〈太宰治◆花火〉 はいふ じゃで 灰吹きから蛇が出る ありえないことのたとえ。意外なところから 思いがけないものが出ること。また、わずか なことから、とんでもない大事が生じるたと え。「蛇」は「ヘび」とも読む。「灰吹きから 大蛇が出る」ともいう。∇灰吹き=たばこ盆 の中にある竹の筒。たばこの灰や吸いがらを 入れる。 類義 灰吹きから竜が上る。 瓢簞 ひよう たん から駒 が出る。 肺腑を衝く はいふ かねも た きたな かね 灰吹きと金持ちは溜まるほど汚い も はいふ た きたな 持ちと灰吹きは溜まるほど汚い 151 はいばんーばかすば 人の心に深い感銘や衝撃を与えること。強く 感動させること。▷肺腑‖肺。心の奥底。 灰を飲み胃を洗う 心を改めて善人となるたとえ。灰を飲んで、 汚れた胃の中を洗い清めるという意から。 補説出典には「若もし某ぼうに自ら新たにす るを許さば(もし私に過失を改めることを許 してくださるならば)、必ず刀を呑のみ腸を刮 えぐり、灰を飲み胃を洗わん」とある。 出南史なんし ふ 無理な望み、自分に都合のよい勝手な望みの たとえ。灰を吹いておきながら、自分の目に 灰が入らないように願うことから。∇眛∥目 にごみが入って見えないこと。 補説出典には「夫それ灰を吹いて睬する無 からんと欲し、水を渉わたりて濡ぬるる無から んと欲するも、得ぐからざるなり」とある。 ばいふく 枚を銜む たとえ。また、むやみに他の者に同調するた とえ。 声を出さずに、息をこらしていること。▶枚 ‖昔、夜討ちなどのときに、声を出さないよ うに人や馬の口にくわえさせた箸のような形 の木片。 はえと蠅が飛べば虹も飛ぶ 似たもの同士は、互いに真似をすることの 類義雁がんが立てば鳩はとも立つ。 心 は た あゆ おや 這えば立て立てば歩めの親 ごころ 子供の成長を楽しみに待ちかねる親心を言う ことば。子供が這うようになると、早く立つ ようにならないかと思い、立つようになると、 早く歩くようにならないかと思う。「這えば 立て立てば歩め」「立てば歩めの親心」とも いう。 馬革を以て屍を裏む 出後漢書 兵士が戦場で討ち死にすること。また、戦死 は勇士の本望ということ。馬の革で戦死した 遺体を包むという意から。「馬革に屍を裏む」 ともいう。 故事中国後漢の光武帝のとき、馬援ばえが何 奴の討伐を願い出た際に「男子要かなず当まさ に辺野に死し、馬革を以て屍を裹み、還かえり て葬らるべきのみ(男子たる者、ひとたび出 征すれば辺境の地で戦死し、馬革に屍を包ま れて帰還し葬られればそれでよい)どうして 寝台の上で女子供に見取られて死ねようか」 と言ったという。 化かす化かすが化かされる 人をだまそうとして、反対にだまそうとした 相手にだまされること。マ化かすニだます。 類義騙だます騙すで騙される。誑たらしが誑し <518> ばかとけーはかりご に誑される。 馬鹿と煙は高いところへ上る 煙が上へ上るように、愚か者は素直で、おだ てに乗りやすいということ。 馬鹿と鋏は使いよう 人を使うときは、その人の能力に応じてうまく使うべきであるという教え。愚かな者や切れない鋏も使い方によっては役に立つ意から。 類義剃刀 かみ と奉公人は使いよう。阿呆 あほ と 鋏は使いようで切れる。鋏と嫁は使いよう。 鋏と奴 やっ は使いがら。 英語Sticking goes not by strength, but boy guiding of the gully.つまく突き刺すつ つは、力ではなく包丁さばきである ばかこかわい 馬鹿な子ほど可愛い 親は愚かな子ほどかばってやりたい気持ちが強く、かわいがるものである。 類義鈍な子は可愛い。外れっこほど可愛い。 はか 墓に蒲団は着せられず 馬鹿に付ける薬はない 愚か者は、どうやっても救いようがないということ。「阿呆あほうに付ける薬はない」ともいう。 類義下愚かの性移るべからず。馬鹿は死な なきゃ治らない。 英語 Fools will still be fools. 愚か者は常 に愚か者である 親の生きているうちに孝行をせよという教 え。親が死んでしまってから、寒いだろうと 墓に蒲団を掛けても何にもならない意から。 類義石に蒲団は着せられぬ。孝行のしたい 時分に親はなし。風樹の嘆。 刃金が棟へ回る 知恵や能力が衰えていくこと。刀の鋼がすり 減って峰で切るようになり、切れ味が悪くな る意から。「刃金が裏に回る」ともいう。 棟Ⅱ刃物の背に当たる部分。峰。 類義焼きが回る。 馬鹿の一つ覚え 何かというと同じ話を繰り返すということ。 いつも同じことを言う者をあざけって言うこ とば。「阿呆 あほ う の一つ覚え」ともいう。 用例私一個人にとっては、ひどくもの珍しい日記ではあっても、世の読書人には、ああ、あれか、と軽く一首肯を以もってあしらわれる普遍の書物であるのかも知れない。そこは、馬鹿の一つ覚えでおくめんも無く押し切って、世の中に我のみ知るという顔で、これから、仔細しさらしく物語ろうというわけである。太宰治◆盲人独笑 者は愚か者であるということ。 ばかまねりこうものりこう 馬鹿の真似する利口者、利口 まねばかもの の真似する馬鹿者 利口ぶらない者が本当の利口者で、利口ぶる 類義利口ぶるのは馬鹿のしるし。 類義 馬鹿に付ける薬はない。 阿呆 あほ う に付け る薬はない。 測り難きは人心 出史記しき 心の内を推量するのは難しく、また、人の心 は変わりやすくて頼りにならない。人に裏切 られた者が、その変心を嘆くときなどに言う ことば。 はかりごとさだ 謀定まりて後戦う出新唐書 何事も事前に十分な準備をしてから事を行え ば失敗がないということ。戦闘の計略を十分 に練りあげてから戦うということから。 謀は密なるを貴ぶ 出三略 計略は、秘密のうちに進めなければ効果がな いということ。「謀は密なるを良しとす」と もいう。 補説出典には「将の謀は密ならんと欲し、 士衆は一ならんことを欲す」とある。 はかりごといあくうちめぐ 籌を帷幄の中に運らし、勝 ちを千里の外に決す 出史記 本陣で戦略を立て、遠く離れた戦場で勝利を <519> おさめること。戦略の巧みさをいう。△籌 作戦。帷幄‖垂れ幕と引き幕を張ったとこ ろ。本陣。本営。 補説出典には「籌策ちゅうを帷帳いちの中に運 らし、勝ちを千里の外に決するは、吾われ、子 房(張良ちょう)に如しかず」とある。 故事)中国漢の高祖(劉邦 りゅう ほう が天下を統一 して皇帝になり、酒宴の席で、張良・蕭何 しょ うか 韓信 かん しん の三人の英傑をほめ、自分はこれらの 者のすぐれた能力には及ばないが、この三人 を使いこなしたことが天下を得た理由だと述 べた。その際、軍師の張良を評したことばで ある。 謀を以て謀を討う 敵の計略を逆手にとって、その裏をかくこと。 敵の計略をうまく利用して戦うという兵法の 教え。 破顔微笑 ねんげみしょう 拈華微笑 511 はきだかねもたきたなかね 掃溜めと金持ちは溜まるほど汚い金 持ちと灰吹きは溜まるほど汚い151 掃き溜めに鶴 はだつる みすぼらしい所に、すぐれた人物や美しいものがまじっていることのたとえ。汚いごみ捨て場に美しい鶴が舞い下りたという意から。「芥ごみ溜めに鶴」「鶴が掃き溜めに下りたよう」ともいう。 類義 鶏群 けい の一鶴 いつ。 野鶴 やか 鶏群に在り。 対義 団栗 どん ぐり の背競 せい くら べ。 はかりごーはくがこ 用例近所の者や御用聞きは、みな「様」をつけて呼んでいた。この本所ほんの裏町では、彼女の高貴めいた身装みなだの端麗な目鼻立ちが、掃溜はきの鶴と見えるらしく、妙な尊敬を持つのだった。吉川英治魚紋 ばきゃくあらわ 馬脚を露す 出元曲げんきょく 億していた本性や悪事がおもてに現れること。化けの皮がはがれること。芝居で馬の脚の役を演じている役者が、うっかり自分の姿を現してしまう意から。▷馬脚=芝居で馬の脚をつとめる役者のこと。 用例)とんだところで魚勘の若い者は、あだ 名どおりのぬけ作たる馬脚を現わしてしまい ましたが、右門はもはや第一段の尋問を了し ましたので、ずかずかと棺のそばに歩みよる と、ぶきみさにもひるまずに、そのうわぶた をはねあげて、死者の白衣をはだけながら、 第二の死体点検にとりかかりました。佐々 木味津三◆右門捕物帖〉 出神異経 破鏡はきょう 離婚すること。夫婦の離別。 補説 太平御覧 ぎよらん に引く 神異経 に ある語。 故事昔、やむをえず別居することになった 夫婦が、鏡を二つに割って半分ずつを持って 別れた。後に妻が別の男と通じたため、妻の 持っていた鏡はかささぎになって夫の所へ飛 んで行き、不倫が知れて妻は離縁になったと いう。 類義破鏡の嘆き。 破鏡重ねて照らさず、落花 枝に上り難し 出景徳伝灯録 一度損なわれたものは再びもとどおりにならないこと。特に、別れた夫婦は、再び復縁することはないということ。割れてしまった鏡は二度と物を映すことはないし、散った花は再びもとの枝に戻って咲くことはないという意から。 類義落花枝に還かえらず、破鏡再び照らさず。 覆水盆に返らず。破鏡再び照らさず。 はくいしゅくせい 伯夷叔斉 出史記しき 清廉潔白な人物のたとえ。 故事伯夷と叔育は、中国古代の賢人兄弟。 父が弟の叔育を跡継ぎにしようとしたが、兄 弟互いに譲り合い、共に国を去った。二人は、 周の武王が殷いの紂王 ちゅう を討とうとしたの を諫いさめたが聞き入れられなかったので、周 の粟ぞく(穀物)を食べることをいさぎよしとせ ず、山中に入り餓死した。 はくが 伯牙、琴を破る 出呂氏春秋 伯牙、琴を破る 自分をよく理解してくれる親友を失った悲し みのたとえ。「伯牙、絃げんを断つ」ともいう。 故事)中国春秋時代、琴の名手伯牙は、自分 の演奏をよく聞き分けてくれた親友の鍾子期 ししょうが死んだとき、これでもう自分の琴の音 をわかってくれる人はいなくなったと嘆き悲 しんで、愛用の琴をこわし、以来二度と琴を 手にしなかったという。この故事から、深い <520> はくがんーはくじん 友情で結ばれた親しい交わりを「断琴の交わり」という。知音ちい416 類義子期 しき 死して伯牙復 また 琴をかなでず。 鼓琴の悲しみ。琴の緒絶ゆ。 はくがんし白眼視 出普書しんじょ 人を冷たい目で見ること。冷淡な態度をとる こと。白目がちに見る目つきの意から。△白 眼‖眼球の白い部分。 故事)中国、魏の阮籍 中心的人物)は、青眼(黒眼)と白眼を使い分 けることができた。自分の気に入った人と会 うときは青眼で迎え、気に入らない人には白 眼で対した。「白い目で見る」ということば は、ここから出たものである。 ばくぎゃくとも莫逆の友 非常に親しい友人。無二の親友。∇莫逆 「逆らうこと莫なし」と読み、心がぴったり合 う意。「ばくげき」とも読む。 出荘子そうじ 補説出典にある四人相視みて笑い、心に 逆らうこと莫し。遂ついに相与ともに友と為なれ り四人は互いに見て笑い、意気投合して逆 らうことのない親友になった」からのこと ば。 類義 刎頸 ふん けい の交わり。 管鮑 かん ぽう の交わり。 はくぎよくろうちゅうひと 白玉 楼中の人となる 出李商隠ー李長吉小伝 くという天上の白玉造りの楼閣。 文人が死ぬことのたとえ。「白玉楼中の人と 化す」ともいう。▷白玉楼∥文人が死後に行 故事)中国唐の詩人李賀りが(長吉)が死ぬまぎ わに天帝の使いが来て、「天帝が白玉楼を完 成させ、あなたを召して楼の記を書かせるこ とになった。天上は地上よりも楽しく、苦し いこともない」と言ったという。 はくさ 白砂は泥中に在りて之と皆黒 し 出史記 悪い環境におかれると悪くなること。白い砂 も泥にまじれば黒く汚れてしまう意から。 補説出典には「蓬 麻中 まち ゅう に生ずれば扶 たす けずして自 おの ずから直く(曲がって生えるよ もぎも、まっすぐにのびる麻の中に生えると、 支えなくても自然にまっすぐのびる)、白砂 は泥中に在りて之と皆黒し」とあり、人は環 境により変わることを言っている。 類義朱に交われば赤くなる。 はくしゃせいしょう白砂青松 海岸の美しい景観の形容。白い砂浜と青々と した松林が続く海岸の意から。「はくさせい しよう」とも読む。 用例 鎮守府の佐世保(北松浦にあり)、石炭 の唐津、しかも後者は白砂青松、おおくえや すからざる遊覧地なるをや、(略)〈蒲原有明◆ 松浦あがた〉 拍車を掛ける 刺激や力を加えて、物事の進行をいっそう速 くすること。馬の腹に拍車を当てて速く走ら せる意から。▷拍車‖靴のかかとに付け、馬 の腹に押しつけて速度を出させる金具。 ばくしゅう 麦秀の嘆 出史記しき 母国の滅亡を嘆き悲しむこと。亡国の嘆き。 ∇麦秀∥麦の穂。また、穂がのびているさま。 故事)中国古代、殷いんの紂王 ちゅう おう の叔父であっ た箕子きしが、国が滅びた後に旧都の跡を通っ たとき、そこが麦畑になっているのを見て悲 しんで作った麦秀の詩「麦秀ひいでて漸漸 ぜん ぜん た り、禾黍 かし 油油 ゆう たり(麦の穂はすくすくと のび、稲やきびは色つやもよく茂っている) による。 類義 黍離りしょの嘆。 出詩経しきよう はくしゅう みさお柏舟の操 夫を失った妻が夫に操を立てること。中国春 秋戦国時代、衛えいの太子共伯の妻が、共伯の 死後も父母のすすめる再婚をことわり、柏舟 の詩を詠んで節操を守ったという故事によ る。∇柏舟∥柏わの木で作った舟。柏の木は かたいことから、節操のかたいことのたとえ にされる。また、『詩経』の篇へん名。 白刃前に交われば流矢を顧み 出宋書 そうじょ 大きな困難の前には、小さな問題にかかわる 余裕はないということ。刀を抜いて敵と切り 合っているときには、流れ矢を打ち払う余裕 はないという意から。「白刃胸を扞おかせば流 矢を見ず」ともいう。 <521> 補説 出典には白刃前に交われば流矢を救 わず」とある。 ばくちそうば 博打と相場は死ぬまで止まぬ 博打も相場も、いったんのめりこんだら一生 止められなくなるということ。「博打と相場 は死んでも止まぬ」ともいう。∇博打∥賭け 事。賭博。「博奕」とも書く。相場∥商品や 株式・通貨などの取引所での価格。ここはそ の変動による利益を目指して行う取引。 ばくちいろさんぶこ ぼくちには底知れない魅力があるので、なか なかやめられないということのたとえ。ぼく ちは女遊びよりおもしろいという意から。 はくちゅう 伯仲の間 出典論てんろん 優劣がつけにくいこと。互角であること。△ 伯仲‖長男と次男。昔、中国では兄弟の順序 を上から「伯・仲・叔くしゅ・季」と呼んだ。 長兄の伯と次兄の仲とは年齢も近くて、それ ほど差はないということから。 類義兄けいたり難く弟たり難しいずれ菖 蒲あやか杜若かきつ。ばた はくちょう白鳥の歌うた ある人の最後に作った詩歌や歌曲をたたえて いう。白鳥は死ぬ前に一度だけ美しい声で鳴 くというヨーロッパの伝説から。 はくとうしん白頭新の如し 交際の深さは、年月によらず、相手の心を知 出史記しき るかどうかによるということ。互いの気持ち が合わなければ、少年時代から白髪になるま でつき合っても、知り合ったばかりと変わら ないということから。↓傾蓋がい故この如し215 ばくちとーはくへき 出李白ー詩 白髮二千丈 長年の憂いのために、長く伸びてしまった白 髪の形容。ひどく誇張した表現のたとえにも 用いる。▷丈=長さの単位。中国唐代の一丈 は約三・一メートル。 補説詩の題名は『秋浦歌 しゅうほ』。 白髪三千 丈、愁いに縁よりて箇かくの似ごとく長し。知ら ず明鏡の裏うち、何いずれの処ろにか秋霜を得た る私の白髪はなんと三千丈。愁いのために こんなに長くなってしまった。澄んだ鏡の中 に見える秋の霜のような白い髪はどこから やってきたのだろうか」とある。 白馬は馬に非ず はくはうまあら 出公孫竜子 詭弁 きべ こじつけのたとえ。 補説)中国の戦国時代に、趙ちよの公孫竜が唱 えた論法。「馬」とは形を表す概念であり「白 馬」は毛色を表す概念である。したがって 「馬」と「白馬」は別のものであるというもの。 類義堅白同異の弁。 出二国志 はくび白眉 多くの中でとくに目立ってすぐれている人や 物のたとえ。▷白眉‖白い眉毛。 故事 中国三国時代、蜀くの馬氏の兄弟五人 は秀才ぞろいで、みな字あざに常の字を用いて いたので「馬氏の五常」と呼ばれていた。中 でも長男の馬良はひときわすぐれており、 眉の中に白い毛が生えていたので、人々は「馬 氏の五常、白眉最も良し」と言ったという。 用例それからまだ面白い話がある。せん だって或ある文学者のいる席でハリソンの歴 史小説セオファーノの話しが出たから僕はあ れは歴史小説の中うちで白眉である。ことに女 主人公が死ぬところは鬼気人を襲うようだと 評したら、僕の向こうにすわっている知らん と言った事のない先生が、そうそうあすこは 実に名文だといった。〈夏目漱石◆吾輩は猫 である〉 しきよう 薄氷を履むが如し 出詩経 非常に危険な状況のたとえ。薄く割れやすい 氷の上を踏むように危険である意から。「薄 氷を履む」だけでも用いる。↓深淵 しん えん に臨ん で薄氷を履むが如し 329 補説出典では「氷」を「冰」とする。 英語walk on eggs〔卵の上を歩く〕 用例「師父しふに対する尊敬と、孫行者 うじゃ への畏怖いふとがなかったら、俺はとっくにこ んな辛っらい旅なんか止やめてしまっていたろ う」などと口では言っている癖に、実際はそ の享楽家的な外貌がいの下に戦々兢々せんせんき ようきようと して薄氷を履むような思いの潜んでいること を、俺は確かに見抜いたのだ。〈中島敦◆悟 浄歎異〉 白璧の微瑕 出蕭統一陶淵明集序 立派な人やものに、わずかな欠点があること。 また、それがあって惜しまれること。白く美 <522> しい玉に、小さなきずがあるという意から。 △白璧=白い宝石。瑕=きず。 補説中国南北朝時代の梁りよの昭明太子蕭 統しょうのことば。陶淵明とうえんめいの文を愛し、校 訂・分類して、「白璧の微瑕、惟ただ閑情かんじ 一賦ぶいに在るのみいずれもすぐれた作品ば かりであるが、わずかな欠点といえば閑情 の賦』という作品だけである」と述べている。 注意「璧」を「壁」と書き誤らない。 類義玉に暇きず。 白面の書生 はくめんしょせい 出宋書そうじよ 年が若く経験の乏しい者。また、読書人。「白 面の書郎 」ともいう。∇白面∥顔が色白な こと。年が若く未熟な者のたとえ。書生∥学 問をする人。 補説中国宋の文帝が北魏 を討とうとし たとき、将軍の沈慶之が反対した。文帝 はその場にいた書生に慶之をなじらせた。そ のときに慶之は「陛下は他国を討とうとして 戦争の経験に乏しい白面の書生と相談してお られる。こんなことで、どうして他国と戦う ことができましょうか」と言ったという。 ばくや にぶ な えんとう するど 莫邪を鈍しと為し鉛刀を銛し 人の賢愚についての世間の評価が当てになら ないことのたとえ。いいかげんな評価のたと え。名刀莫邪を鈍刀と言い、鉛の刀をよく切 れるという意から。∇莫邪∥名剣の名。銛し ∥鋭利なこと。 出賈誼ー弔二屈原一文 はくゆつえ 伯兪杖に泣く 孝行な子が親を思う心の厚いことのたとえ。 親が年老いたことに気づいた子が、嘆き悲し むことから。単に「杖に泣く」ともいう。△ 杖∥むちの意。 出説苑ぜいえん 故事)中国漢の伯飲は親孝行で、過ちを犯し て母に打たれても泣いたことがなかったが、 ある日珍しいことに泣くので、母がその理由 を尋ねると、打たれても痛くないのは母が年 をとり力が衰えたためであろうと思い、悲し くてたまらないのだと答えたという。 はくらく いっこ 伯楽の一顧 出戦国策 才能を認められ、重用されることのたとえ。 また、世にうもれていた人物が、能力を認め てくれる有力者に見出されて実力を発揮する たとえ。∇伯楽=中国春秋時代の馬の鑑定の 名人。 故事ある男が駿馬 しゅ んめ を市に出したが、三日 たっても買い手がつかなかった。そこで伯楽 に頼んで、馬の前を通るときに一度振り返っ てもらったところ、馬の値が一挙に十倍に なって売れたという。 博覽強記 知識が非常に豊富なこと。広く書物を読み、 多くのことを知って、よく覚えている意から。 類義博聞強記。 用例鷗外 おう がい の博覧強記は誰も知らぬものは ないが、学術書だろうが、通俗書だろうが、 手当り任せに極めて多方面に渉わたって集めも し読みもした。或ある時尋ねると、極ごく細い 真書 きで精々 せっ と写し物をしているので、 何を写しているかと訊きくと、その頃地学雑 誌に連掲中の「鉱物字彙」であった。内田 魯庵・鷗外博士の追憶〉 はぐるまかあ 歯車が噛み合わない お互いの考え方や気持ちがうまく合わず、物 事が円滑に進まないこと。歯車の歯と歯がう まく合わず歯車が回らないことから。 はくろじんどけがきん 白鷺は塵土の穢れを禁ぜず 清廉潔白な人物は、どんなに悪い環境にあっても正しい生き方をまげることはないというたとえ。しらさぎは、汚い土の上にいても汚れることはないという意から。 はげさんねんめ 禿が三年目につかぬ 好きになった人のはげ頭は、三年の間気にな らないということ。 化けの皮が剥がれる 隠していた素性や真相が見破られる。正体を 隠して外見を飾っていたものが取り払われる 意から。マ化けの皮ニうわべを包み飾って正 体を隠した姿。 類義 尻尾を出す。 尻が割れる。 底が割れ る。 馬脚を露 あら わ す。 用例また有名な三人一両損の裁判でも これを西鶴さに扱わせるとその不自然な作り 事の化けの皮が剥がれるから愉快である。 <523> 〈寺田寅彦◆西鶴と科学〉 ゆうれい 化け物も引っ込む時分気の利いた化 け物は引っ込む時分180 はご 擁にかかれる鳥とり 逃げようとしても逃げられないことのたと え。撥にかかった鳥は、どのようにもがいて も逃げられないことから。∇撥∥鳥を捕らえ る仕掛け。細い木や竹に鳥もちを塗り、おと りのそばに立てておくもの。 箱根知らずの江戸話 箱根知らずの江戸詣 知ったかぶりして話すことのたとえ。関西の 人が、箱根の山を越えたこともないのに、江 戸の話を見てきたように話すことから。 類義知らぬ京物語。 ば渡りがないともいう。 はしころ としごろ 箸が転んでもおかしい年頃 箸が転がるような、日常の何でもないことで もおかしがって笑う年頃のこと。特に十代後 半の女の子をいう。「箸の転んだもおかしい 年頃」ともいう。 類義港無のうして舟着かず。 橋がなければ渡られぬ 間に立って仲立ちをしてくれる人がいない と、物事はうまく運ばないものだということ。 また、目的を達するためにはいろいろな手 段・方法が必要だということ。「橋がなけれ はじあたましだい ばけものーはじのう 恥と頭はがき次第 恥をかくことなど気にしないで、不名誉な行 為を重ねること。 出李白ー詩りはくし 馬耳東風 人の意見や批評などを、まったく気にしない で聞き流してしまうこと。暖かい春風が吹く と人は喜ぶが、馬は何の反応も示さないこと から。∇東風=東から吹く風。春風。 補説詩の題名は『王十二 かんやど くしゃく 懐 おも う有るに答う』。李白が王十二とい う人から贈られた詩に答えたもので、「世人 此これ を聞きて皆頭べうを掉ふる、東風の馬耳 を射るが如ごとき有り(世間の人々はわれわれ の詩賦を聞くと、みな頭を振って聞き入れな い。それはちょうど春風が馬の耳に吹きつけ ているようなものだ」と言っている。 類義馬の耳に念仏。 用例 弥次馬の追う隙もなさそうな、全く疾 風迅雷の早業で、誰しも事の次第を見届けた 者もあるまいが、それにしても群集の気配が 余りにも馬耳東風なのがむしろ私は奇態だっ た。〈牧野信一◆鬼涙村〉 箸と主とは太いのへかかれ 箸は太くて折れないのがよいように、人に仕 えるなら頼りがいのあるしっかりした人物が よい。「箸と舅 うと は太いのへかかれ」「箸と主 とは太いがよい」ともいう。 はししゅう 類義 箸と味方は強いほどいい。亭主と箸は 強いがよい。寄らば大樹の陰。 は 箸に当たり棒に当たる 自分の怒りを関係ないものにまでぶつけて、 当たり散らすこと。八つ当たり。 箸に虹梁 二つのものが大きくかけはなれていることの たとえ。細く短い箸と太く長い虹梁では比較 にならないほどの差があることから。△虹梁 ‖屋根の重みを支える梁はりの一種で、虹の形 のようにやや上向きに反りをもたせたもの。 箸に目鼻をつけても男は男 やせても枯れても、男は男として尊敬されな ければいけないということ。∇箸に目鼻=や せた人のたとえ。 類義 藁 わら で束ねても男は男。 箸にも棒にもかからぬ どうにも手がつけられないこと。また、何も 取り柄のない者のたとえ。小さな箸にも大き な棒にもひっかからない意から。 用例峻 しゅ はその箸にも棒にもかからないよ うな笑い方を印度人がする度に、何故 なぜ あの 男は何とかしないのだろうと思っていた。そ して彼自身かなり不愉快になっていた。 梶 井基次郎◆城のある町にて はじ 恥の上塗り 恥をかいたうえに重ねて恥をかくこと。不名 <524> 誉なことをしたうえに、さらに不名誉なこと を重ねること。「恥の上書き」ともいう。 始めあるものは必ず終わりあ り 出法言 何事にも必ずはじめと終わりがある。生ある ものは必ず死に、栄えるものも必ず滅びると いうこと。「始めあれば終わりあり」ともい う。 補説出典にある生有る者は必ず死有り、 始め有る者は必ず終わり有るは自然の道な り」から。 始めが大事だいじ 出易経 何事も最初が大切であるということ。最初に とった方法や態度が最後まで影響するので、 物事を始めるときにはよく考えてから取りか からなければならないという教え。 補説出典には「君子以もて事を作なすに始めを謀る」とある。 類義始めよければ終わりよし。始め半分。 英語An ill beginning has an ill ending. 始まりが悪いと終わりも悪い 始めきらめき奈良刀 最初のうちだけ立派に見えること。めっきが はげやすいことのたとえ。なまくらな奈良刀 は、最初のうちは光っていて切れそうだが、 すぐに使いものにならなくなることから。 奈良刀=室町時代以降に奈良付近で大量に作 られた粗悪な刀で、鈍刀の代名詞となった。 はじ 始めちょろちょろ中ぱっぱ、 あかごな ふたと 赤子泣くとも蓋取るな かまどで上手に飯を炊くこつを、口調よく 言ったことば。始めは弱火で、中ごろには強 火で炊き、何があっても途中で蓋を取っては いけないということ。「始めちょろちょろ中 かっか、親は死ぬとも蓋取るな」ともいう。 始めて俑を作る者は其れ後な からんか 最初に人道に反するような悪例を作った者 は、必ず不幸になるということ。初めて俑を 作って死者とともに埋めることを考えた者 は、天罰を受けてその子孫が絶えるであろう という意から。∇俑∥死者を葬るときに一緒 に埋める木で作った人形。これが後の殉死の 悪習を生んだとされる。 出孟子もうし 補説孔子のことば。孔子は、俑が人間に似 過ぎているため、これを葬式のときに墓に入 れるのは生きている人を埋めるようで、道に そむくものだと憎んだ。 はじ 始めに二度なし 物事ははじめが肝心だが、それは一度だけで やり直しがきかないということ。 類義始めが大事。 はじささやのち はじ か くそが さきが くそが 始めの勝ちは糞勝ち 先勝ちは糞勝ち 始めの囁き後のどよみ 268 秘密も、だれかに知られればいずれ世間に知 れわたるということ。最初は二、三人がささ やき合っているだけだったのが、後には世間 中に知れわたって評判になること。 始めは処女の如く、後は脱兎 の如し 出孫子 そんし 兵法で、はじめは弱々しく見せかけて敵を油断させ、あとで一気に攻撃すること。また、はじめはたいしたことはないが、あとになって力を発揮すること。最初は処女のようにもの静かに振る舞い、あとで逃げる兎ぎのように素早く行動する意から。「始めは処女の如く終わりは脱兎の如し」ともいう。▷脱兎‖逃げて行く兎。非常に速いもののたとえ。 補説出典には始めは処女の如く敵人戸 を開くや、後は脱兎の如くにして、敵は拒ふせ ぐに及ばず」とある。 始め半分 物事の成否は、最初のやり方で決まるから、 慎重にとりかかれということ。物事ははじめ がうまくいけば、半分はできたようなものだ という意から。また、あれこれと考え込むよ りも、まず実行すべきだということ。 類義始めが大事。始めよければ終わりよし。 英語 Well begun is half done. [滑り出しが好調ならば、事は半分終わったようなもの <525> だ 始めよければ終わりよし 何事を行うにも最初が大事である。物事は、 はじめが順調にいけば最後まで調子よく進行 するものだということ。 類義始めが大事。始め半分。 始めよし後悪し はじめが順調なときは、用心しないとあとで 悪い結果を招くことがあるということ。ま た、最初に力を出しすぎると、あとにさしつ かえるというたとえ。 はじ い すえき 始めを言わねば末が聞こえぬ 最初から順序立てて説明しなければ、なぜそ うなったのかわからないということ。 類義話は本もとから。 始めを原ねて終わりに反る 物事のはじめにさかのぼって探究し、そこか ら終わりまで筋道を立ててきわめる。はじめ から終わりまでを究明することによってその 全体を知りつくすということ。「始めを原ね 終わりを要もとむ」ともいう。 出易経 始めを慎みて終わりを敬む ることが大切だということ。 出春秋左氏伝 何事を行うにも、はじめと終わりを慎重にす はじめよーはじをし 補説出典には「書(書経)に日いわく、始めを 慎みて終わりを敬すれば、終わりに以もって困 くるします」とある。現存の『書経』では「厥 その初めを慎み厥の終わりを惟えば、終つい に以て困します」となっている。 箸も持たぬ乞食 まったくの無一物のたとえ。箸ひとつ持っていない乞食の意から。 類義 御器 ごき も持たぬ乞食。 馬上に居て之を得 出史記 馬に乗って戦い、武力で天下を取ること。「馬 上に居りて之を得」ともいう。 故事 中国漢の高祖は、臣の陸賈 から 『詩 経』などの話ばかり聞かされて、「自分が天 下を取ったのは馬上であって、書物を勉強し て取ったわけではない」と言った。すると陸 賈が「馬上で天下を取れるかもしれませんが、 馬上で天下を治められるでしょうか」と言っ たので、返すことばがなかったという。 箸より重い物を持たない 富裕な家庭で大事に育てられ、労働の経験が ないことのたとえ。箸を持つ以上の力仕事を した経験がない意から。 く働く者は心身ともに健全であるというこ と。動かない柱には虫がつくが、いつも使っ ている鋤の柄は虫に食われないという意か ら。 はしらむしいすきえむし 柱には虫入るも鋤の柄には虫 入らず 類義使っている鍬くわは光る。 走り馬にも鞭駆け馬に鞭137 うま むち か うま むち 走り馬の草を食うよう ぎくしゃくしてぎこちないことのたとえ。 走っている馬が立ち止まっては草を食い、ま た走っては草を食うように、調子が一定しな いということ。 走れば躓く つまず 急ぐときこそ落ち着きが大切であるという教 え。速く走ろうとすると気があせってつまず きやすいように、物事をあわててやると失敗 することが多いということ。 類義急せいては事を仕損じる。急がば回れ。 対義善は急げ。 はじ 転を言わねば理が聞こえぬ 転になることもすべて打ち明けて話さなけれ ば、自分の立場を理解してもらえないという こと。「転を言わねば理が立たぬ」ともいう。 恥を知らねば恥かず 何が恥なのかわからないことが本当の恥である。何が恥なのか知らない者は、恥を恥と思わないということ。「恥を知らねば恥をかいたことがない」ともいう。 <526> はじしゆうちか 転を知るは勇に近し 出中庸 名誉を重んじ恥を知る人は、勇気のある人と 言える。また、自分の誤りを率直に認めるの は、勇気が必要だということ。 補説出典には「学を好むは知に近く、力っと めて行うは仁に近く、恥を知るは勇に近し(学 問を好む者は知の徳を身につけたのに近く、 常に努力してはげむ者は仁の徳を身につけた のに近く、人に及ばないことを恥としてつと める者は勇の徳を身につけたのに近い)」と ある。身を修める方法について言った孔子の ことば。 はすうてなはんざわ 蓮の台の半座を分かつ 強く結ばれた仲のたとえ。死後も、極楽浄土 で一枚の蓮華れの台座を半分ずつ分かち合っ て仲良く座るという意から。「半座を分かつ」 ともいう。∇蓮の台∥仏や菩薩ぼさ、極楽浄土 に生まれ変わった人が座る蓮華の台座。 類義一蓮托生いちれんた。 くしょう はぜはり 鯊の鉤で、はたやは釣れぬ わずかな利益では、人は動かせないことのた とえ。はぜを釣る小さな釣針で大きな鯛たい 釣れない意から。∇はたや∥鯛。 対義海老えびで鯛を釣る。 はぜといちだいうなぎ 鯊は飛んでも一代、鰻はの いちだい めっても一代 も、どんな生活でも一代で終わるものだと達 観して生きるべきであるということ。はぜも うなぎも、習性や境遇は異なっているが、一 代で終わる生という点では変わりがないこと から。 現在の境遇から脱却しようとして苦しむより はだえ あわ しよう肌に粟を生ず 寒さや恐ろしさ、気味の悪さなどで、思わず 身ぶるいするさまのたとえ。鳥肌が立つさ ま。皮膚が収縮し、肌に粟つぶのようなもの が出ることから。 はだかいっかん裸一貫 自分の体以外には頼りになるものが何もない ことのたとえ。無一物の状態。体だけが一貫 ほどの財産で、体以外には何の資本や財産も ないということから。▶一貫∥一文銭千枚。 一千文。 はだかうまけが 加らうまけが 裸馬に怪我なし空馬に怪我なし156 はだかうますむち 裸馬の捨て鞭 無一物になり、やけになってむちゃをすることのたとえ。▽裸馬=鞍くらの置いていない馬。無一物の者のたとえ。捨て鞭=馬を速く走らせるために、馬のしりをむち打つこと。はだかどうちゅう 裸で道中はならぬ 何をするにも、それ相応の準備が必要である こと。無一文では旅行することができないと いう意から。 財産など何も持っていない者は、損をすると いうことがなく、気楽なものであるというこ と。何も持っていなければ、物を落とすということがない意から。「裸で物を落とした例 なし」ともいう。 類義空馬からうまに怪我けがなし。 英語 They that have nothing need fear to lose nothing.何も持っていない者は何 も失う心配をする必要はない はだかゆずきのぼゆずきはだか 裸で柚子の木に登る♩柚子の木に裸で 登る665 はだかひゃっかん裸百貫 財産が何もなくても、男は銭百貫文の値打ち があるということ。「裸の花婿百貫」ともい う。▷百貫=一貫文の百倍で、一文銭十万枚。 はたけ いもだね 日うつ・つぎ種 ぬだけ 畑あっての芋種 母親がよくなければよい子は生まれないというたとえ。畑がなければ、どんなによい芋種があっても芋はできないということから。「命あっての物種」をもじったことば。▷芋種‖種芋のこと。 畑水練はたけすいれん 実際の役に立たないことのたとえ。畑で水泳 の練習をするという意から。「畑で水練を習 う」ともいう。 類義畳の上の水練。 <527> はたけはまぐり畑に蛤 見当違いなことをするためとえ。また、あり得 ないこと、不可能なことを望むたとえ。畑を 掘って、はまぐりを採ろうとする意から。「山 に蛤を求む」ともいう。 類義 木に縁よりて魚を求む。水中に火を求む。 はたちごけ 二十後家は立つが三十後家 は立たぬ 若くして夫に死に別れた女性は、一生再婚し ないでいられるが、長く結婚生活を味わった 三十代の女性は、我慢できないで再婚するこ とが多いということ。略して「三十後家は立 たぬ」ともいう。▷後家‖夫に死別して再婚 せずにいる女性。未亡人。 類義 十八の後家は立つが四十後家は立た ぬ。 二十過ぎての子に意見 ひがんす 彼岸過ぎての おとこい 麦の肥料、三十過ぎての男に意 見543 はたら働かざる者食うべからず 働こうともしない怠け者は食べることも許されないということ。怠惰を戒める言葉。 補説『新約聖書』の「テサロニケの信徒への手紙二にある「働こうとしない者は食べ 出新約聖書 はたけにーはちじゅ ることもしてはならない」という言葉から。 英語 He who does not work, neither shall he eat.「働かないものは食べてはいけ ない」 用例あなたは何にもしなくても構やしません。働かざる者は食うべからずと、そんな野暮なことを私は言いはしません。〈豊島与志雄◆未亡人〉 はたら働けば回る 働けば働くほど、それにつれて金回りもよく なるということ。▶回る∥利益を生む意。 出晋書しんじょ 破竹の勢い 勢いが盛んで押さえがたいこと。猛烈な勢い のたとえ。竹を割るとき、初めのひと節が割 れると、あとは次々と裂けていくことから。 故事)中国晋の将軍杜預とが呉と戦う作戦会 議を開いたとき、一人が「今は雨期で疫病が 発生しやすい。冬まで待機したほうがよい」と主張したのに対して、「今我が軍の士気は大いに上がっている。たとえば、竹を割るようなもので、節をいくつか割ってしまえば、あとは力を入れなくても先方から自然に裂けてくる」と言って一気に進撃した。呉軍は戦うことなくして降伏し、やがて晋の天下統一がなったという。 用例太宰府 だざ いふ へ向う途上、諸所において、 少式 しょ うに 一族の抵抗はみたが、穴川口の戦い、 太田清水 おおた しみず の一戦、水木の渡し、菊池勢は 行くところ破竹の勢いでそれらに勝った。 〈吉川英治◆私本太平記〉 はちざいくしちびんぼう八細工七貧乏 あれもこれもできるという多芸多能な人が、 結局どれも中途半端で、貧乏することが多い ということ。また、そのような人。「七細工 八貧乏」ともいう。 類義 器用貧乏人宝。 八十の手習い 年をとってから学問や習いごとを始めること。晩学のたとえ。「六十の手習い」「七十の手習い」ともいう。また、「八十の手習い九十の間に合う」ともいいものを学び始めるのに遅すぎることはないという意。△手習い 習字。学問。稽古。 英語 Never too old to learn. 年をとりす ぎて学べないということはない 八十の三つ子 人は年をとると、子供のように無邪気になる ということ。八十歳は三歳の幼児と同じという 意から。「六十の三つ子」「七十の三つ子」 ともいう。 英語Old men are twice children. [年寄りは子供にかえる] はちじゅうはちや わかじも 八十八夜の別れ霜 八十八夜のころに降りる霜のこと。また、そのころから天候が暖かく安定して霜が降りなくなり、種まきによい時期になることをいう。「八十八夜の名残の霜」「八十八夜の忘れ霜」ともいう。∇八十八夜=立春から数えて八十 <528> 八日目の日。五月一日ころ。 蜂の巣をつついたよう 多くの人が大騒ぎして手がつけられないよう す。巣をつつかれて飛び出してきた蜂が飛び 回るようすから。 類義蜂の巣に鎌。 用例大将格の宇喜多秀家 うきたひ 自体がこの動 でいえ 揺に襲われてしまったから、軍議は蜂の巣を つついた如ごとく湧きかえって、結局、行長の 前進を認めてしまった。〈坂口安吾◆二流の 人 ばち 訂は目の前 まえ 悪い行いには、必ずすぐにその報いがあるこ と。因果応報が早く巡ってくることをいう。 類義天罰覿面てんばつ。てきめん はちぶ まにぶのこ 八分されても未だ二分残る 仲間外れにされても、へこたれないというこ と。八分になっても、まだ二分残っていると いうことから。△八分‖仲間外れ。 はちぶたじゅうぶん はちみたじゅうみん 一八分は足らず十分はこぼれる 世の中のことは、ほどほどで満足してあまり 欲ばらないのがよいということ。八分目では 足りないように思うが、そうかといって、いっ ぱいになればあとはこぼれるだけだというこ とから。 と。また、一人で何人分もの働きをすること。 八つの顔と六本の腕を持つ仏像の姿から生ま れたことば。「三面六臂」ともいう。 多方面にわたって、めざましい活躍をするこ 八面六臂はちめんろっぴ 用例昨日差配人が談判に来た内の女連は バツが悪いから留守を使って追い返した。こ の玄関払の使命を完 まっ と うしたのがペンであ る。〈夏目漱石◆倫敦消息〉 ばつが悪い 間が抜けたことや体裁の悪いことなどをし て、気まずい思いをすること。きまりが悪い。 「バツが悪い」とも書く。▷ばつ∥その場の 調子や具合。「場都合」の略ともいわれる。 はっくげきす白駒の隙を過ぐるが如し 月日のたつのが非常に早いことのたとえ。白馬が細いすきまの向こう側をさっと通りすぎるようだとの意から。「人生は白駒の隙を過ぐるが如し」ともいう。△白駒=白い馬。隙=すきま。 出荘子そうじ 補説出典には「人の天地の間に生くるは、 白駒の郤げきを過ぐるが若ごとく、忽然ぜんたるの み」とある。 類義隙を過ぐる駒。光陰矢の如し。 て、占い。易。 はっけうらがえ八卦裏返り 占いは反対に出ることが多いということ。また、凶と出ても気にすることはないということ。△八卦=易で、陰と陽を示す三個の算木を組み合わせてできる八種のかたち。転じ 類義夢は逆夢さか。 はっこうひつらぬ 白虹日を貫く 白い虹が太陽の面を貫くようにかかる現象の こと。白い虹は武器・兵、太陽は君主の象徴 で、この現象は戦乱で君主に害が及ぶ不吉な きざしとされた。また、天下に非常な変事が 起こる兆候。 出戦国策 八歳の翁、百歳の童ゝ三歳の翁、百 歳の童子277 417 抜山蓋世 ちからやま ぬ き よ おお 力山を抜き気は世を蓋う 出呂氏春秋 ばっせい伐性の斧 人の心身を傷つけるもののたとえ。また、女 色におぼれたり、身のほど知らずの幸運を求 めたりすることのたとえ。人の本性を断ち切 る斧の意から。「性を伐きる斧」ともいう。 補説出典には「靡曼皎歯 びまん、 鄭衛 てい の音 おん、 こうし 務めて以もって自ら楽しむ。 之これ を命 なづけて 伐性の斧と日いう(肌がきめこまやかで美し く、歯が白い美女や、鄭・衛の国のみだらな 音楽を好んで楽しむ。これを名づけて命を縮 める斧という」とある。 は 這っても黒豆 明らかに間違っているのに、自分の説を曲げ ないで強情を張ること。また、そのような人 のことをいう。 <529> 補説ある人が黒い小さな物を見て黒豆だと 言った。ところが、それが実は虫で、這って 動きだした。それでもその人は、黒豆だと言 い張ったという話から出たことば。 類義 榎えの実はならばなれ、木は椋むの木。 はっぱか 発破を掛ける 強い調子の言葉をかけて励ます。鉱山などで 岩などを火薬で爆破することから。∇発破∥ 鉱山や土木工事で火薬を使って岩などを破砕 すること。またそれに用いる火薬。 類義活を入れる。気合を入れる。 はっぽうびじん八方美人 誰に対しても如才なく振る舞うこと。また、 そういう人。どこから見ても欠点の見えない 美人の意から。多く、悪い意味で用いる。「八 面美人」ともいう。∇八方∥あらゆる方向。 はっぽうふさ 八方塾がり 八方塞がり どの方面にも障害があって手の打ちようがな いさま。陰陽道 おんよ うどう の占いで、どの方角も不 吉で何事もできないことから。 用例旦那様は五黄 の金かね、その年の運気 は吉、それに引換え奥様は八方塞 はっぽう、 ふさがり 唯 ただ じっとして運勢の開けるのを待てと、菓子屋 の隣の悟道先生が占いました。〈島崎藤村 ◆ 旧主人 抜本塞源 しゅんじゅうさしでん 出春秋左氏伝 災いのもとを徹底的に取り除くこと。物事を 根本にさかのぼって処理すること。木の根元 はっぱをーはとがま を引き抜き、水源をふさぎ止める意から。「本 もとを抜き源を塞ぐ」と訓読する。▷本=木の 根の意。源=水源の意。 用例幸いにして此この機を利用して、抜本 塞源の英断を行うもの国軍の中より出現する に非あらずんば、更に《幾度か此の不祥事を繰 り返すに止とま》るであろう。〈河合栄治郎◆ 二・二六事件に就て〉 初物七十五日 初物を珍重することば。初物を食べると寿命 が七十五日延びるということ。▷初物=その 季節に初めてとれた穀物・野菜・果実・魚類 など。 初雪は目の薬 はつゆきめくすり 初雪の美しさをほめたたえたことば。真っ白 な美しい初雪は、目の疲れや汚れをきれいに 洗い流してくれるということ。 はつらんはんせい撥乱反正 出春秋公羊伝 乱れた世の中を治めて、もとの正しい状態に 返すこと。「乱を撥おさめ正に反かえす」と訓読 する。∇撥∥治める意。反∥返す、戻す意。 補説出典には「乱世を撥め、これを正に反 すは、春秋より近きもの莫なし」とあり、乱 世を治めて正しい世に戻すには、孔子が編集 した「春秋」の教えによるのがいちばんの近 道だと説いている。 髪を簡して櫛る 出荘子 不必要なことを念入りにすること。細かいこ とにこだわりすぎること。髪の毛を一本一本 選んでとかすという意から。∇簡する∥選び 出す意。 補説出典には「髪を簡えらびて櫛り、米を数 えて炊かしぎて、窈窈乎せつせなり。又何ぞ以も て世を済すくうに足らんや(米を一粒一粒数え てから飯をたく。こんなつまらないことに気 を取られていては、どうして民衆を救うことが できようか)とある。 類義米を数えて炊ぐ。 破天荒はてんこう 出北夢瑣言 今までだれもできなかったことを成し遂げる こと。また、型破りなこと。∇破∥突き破る 意。天荒∥天地がまだ分かれず混沌 とし さま。未開の地の意。また、凶作。不毛の地。 故事)中国唐の時代、荊州 けいし ゆう からは官吏登 用試験に合格者が一人も出なかったので、世 間では荊州を天荒と呼んでいたが、劉蛻 りゅう ぜい がはじめて合格したとき、人々は驚いて「破 天荒(天荒を破った)」と言ったという。 用例実際彼のような破天荒の仕事は、「夢」 を見ない種類の人には思い付きそうに思われ ない。しかしただ夢を見るだけでは物になら ない。夢の国に論理の橋を架けたのが彼の仕 事であった。〈寺田寅彦◆アインシュタイン〉 鳩が豆鉄砲を食ったよう 思いがけないことにびっくりして、きょとん としているようす。鳩が豆鉄砲で撃たれて驚 いているようすの意から。「鳩に豆鉄砲」「豆 鉄砲を食った鳩のよう」ともいう。∇豆鉄砲 <530> はとにさーはなしじ 豆を弾丸にして撃つおもちゃの鉄砲。 用例大江山課長は、佐々がどんな返事をす るかと、目をすえて待っている。佐々は、課 長が、家出か殺されたのかと急な問いをかけ たので、鳩が豆鉄砲をくらったように、目を まるくして、しばらくは口がきけなかったが、 やがて、ごくりと唾をのんだ。〈海野十三 火星兵団〉 はとさんしれいからすはんぽ 鳩に三枝の礼あり、烏に反哺 こう の孝あり 人間は、礼儀と孝行を重んじなければならないという教え。鳩は親がとまっている枝より三枝下にとまり、烏は自分がひなのときに養われた恩返しに、年とった親の口にえさを含ませてやるということから。▷反哺‖食物を口移しに食べさせること。 鳩の豆使い まめつか 使いの途中で道草を食い、戻ってこないこと のたとえ。鳩が好物の豆を見ると、他のこと を忘れて食うのに夢中になることから。 花一時、人一盛り 鳩を憎み豆を作らぬ つまらないことにこだわって、大事なことを しないために、自分にも世間にも損害を与え ること。畑にまいた豆を鳩がついばむのを憎 むあまり、大事な豆づくりをやめてしまう意 から。 栄華のはかなさのたとえ。花の盛りはわずか 数日に過ぎず、人間の盛りもほんの少しの間 である。「花も一時」ともいう。 類義 槿花 きん 一日 いち じつ の栄。 朝顔の花一時 ひと○ とき 花多ければ実少なし うわべを飾る人は、とかく誠実さに欠けること。花がたくさん咲く木には実が少ないことから。 類義 巧言令色鮮 すく し仁。 鼻欠け猿が満足な猿を笑う 十九匹の鼻欠け猿、満足な一匹 の猿を笑う207 花が見たくば吉野へござれ 何事も本場へ行って本物にふれることが大切 であるということ。桜の花が見たければ、桜 の本場の吉野においでなさいという意から。 ∇吉野=奈良県吉野地方のこと。桜の名所。 はなおしょう 物事には順序があって、一足とびには進めな いこと。はじめから和尚になった者はいない ことから。 類義沙弥から長老にはなれぬ。 鼻糞が目糞を笑う 目糞鼻糞を笑う 638 鼻糞丸めて万金丹 鼻糞で鯛を釣る 海老で鯛を釣る 102 薬の原料には案外つまらないものが多いこと や、薬の効き目がないことのたとえ。また、 子供が鼻糞をほじくって丸めたりするのをは やしていうことば。ヘ万金丹=気つけや解毒 などに効くという丸薬。 はなげ ぬ 鼻毛を抜く 相手を迷わしたり、だましたりすること。手 玉にとること。 補説女性が、自分にうつつをぬかす男性を いいようにあしらう場合にいうことが多い。 「鼻毛を抜かれる」という形でも用いる。 類義鼻毛を読む。 鼻毛を読む 女性が、自分にほれている男性の弱みにつけ こんで、いいようにあしらうこと。 用例 血眼になって、大の男二人が騒ぎ廻まわ るのが笑止千万、実はまかれたのだ、とうか らきゃつにすっかり鼻毛を読まれていたの だ。地団駄ふんでも追っつかない、女と侮っ たーあちらが役者が一枚上だ。〈中里介 山◆大菩薩峠〉 話し上手の聞き下手 話の上手な人は、自分が話すことに夢中に なって、他人の話をよく聞かないものだとい うこと。また、話は上手だが相手の話を聞く のは下手なことが多いということ。 <531> 対義話し上手は聞き上手。 話し上手の口下手 雄弁ではないが、相手がよく理解できるよう に、ことばの意味をはっきり伝えることので きる人をいう。 話し上手の仕事下手 言うことだけは立派で、実際の仕事となると ろくにできない者をあざけっていう。 類義口叩たたきの手足らず。口自慢の仕事下 手。手不調てぶっちょうに口八丁。 話し上手は聞き上手 話の名人は嘘の名人 本当に話の上手な人は、他人の話を聞くのも 上手で、相手の話にもよく耳を傾けるという こと。 対義話し上手の聞き下手。 話では腹は張らぬ 話術の巧みな人は、おもしろくするために嘘 や誇張した表現などを含めることがあるの で、気をつけて聞かねばならないということ。 口先だけで実行が伴わなければ、何の利益も 得られないということ。話に聞くだけで実際 に食べなければ、おなかがいっぱいにはなら ないことから。 英語)The belly is not filled with fair words.美辞麗句では腹は満たされない 話の蓋は取らぬが秘密 秘密は、うかつに人に言うものではないということ。蓋をしたままだからこそ秘密なのであり、話してしまえば秘密ではなくなって、問題も生じやすいということ。 はなしじーはなぬす 話は下で果てる たいていの話は、話題が下半身に関する下品 なものになると、そろそろおしまいになると いうこと。 類義話が下へ回ると仕舞になる。 あしこした 話は立っても足腰立たぬ 口先だけで実行が伴わないこと。口ではうま いことを言うが、少しも実行しないこと。 はなしはんぶん 話 半分 おもしろい話にはうそや誇張が含まれている から、半分ぐらいに割り引いて聞いておけば ちょうどよいということ。 集まってくること。花が好きな人の畑には、 人々が花を持って来てくれるので多くの種類 の花が集まるということから。 類義 話半分嘘 うそ 半分。 話半分腹八合。 英語 Believe half of what you hear of money and health and good faith. [金と 健康と誠意についての話は半分だけ信じろ はなし え か 類義 学の前に書来る。 物は常に好む所に聚 あつ まる。 話を絵に描いたよう 「絵」は「画」とも書く。 話で、かえって信用しにくいさまをいう。 されいな絵のように、うまくまとまりすぎた 洟垂れ小僧も次第送り こぞう しだいおく 花好きの畑に花が集まる 好きな人のところには、自然と好きなもの 鼻汁を垂らしているような幼い子供も、順々 に成長して大人になっていくということ。 「洟垂れも次第送り」ともいう。▷次第送り ∥物事が順番に進んでいくこと。順送り。 花七日はなぬか 盛りの時期の短くはかないことのたとえ。桜 の花の盛りは、七日しかないという意から。 花になに嵐 よいことには、とかく邪魔が入りやすいということのたとえ。桜の花がきれいに咲くと、激しい風が吹いて散らしてしまうという意から。「花に風」ともいう。 類義 月に叢雲 花に風。花発ひらいて風雨 多し。好事魔多し。 花に三春の約あり 前もって約束していたかのように、花は春になると必ず咲くということ。△三春初春・仲春・晩春の総称。春の三か月。陰暦の一月・二月・三月にあたる。 花盗人は風流のうち 桜の花の美しさにひかれて、つい一枝折って <532> はなのかーはなもみ 盗むのは風流心によるものだから、盗みとし てとがめるほどのことでもないということ。 花の傍らの深山木 立派なもののそばにあって、見劣りがするもののたとえ。美しく咲き誇っている花のそばでは、深い山に生えている木は、さえなくて見劣りするということから。「花の傍らの常磐木」「花の側」の深山木」ともいう。 はな 鼻の先の疣疣 邪魔だが、取ってしまうこともできないもの のたとえ。 類義目の上の瘤こぶ。 花の下より鼻の下 風流よりも暮らしを立てることのほうが大事 であるということ。桜の花の下で目を楽しま せるより、鼻の下の口に食べさせることのほ うが先であるということから。「花」と「鼻」 の語呂を合わせたしゃれ。 類義花より団子。 花は折りたし梢は高し 思うようにならないことのたとえ。欲しいけ れど手に入れる方法がないこと。花の咲いて いる枝を折りたいのだが、梢が高くて手が届 かないという意から。 類義高嶺たかの花。 はなさくらぎ 花は桜木、人は武士 花の中では桜がもっともすぐれており、人の 用例しかのみならず先に言う如ごとく士は今日階級としてはない、昔の如く「花は桜木、人は武士」と謳ったった時代は過ぎ去って、武士を理想あるいは標準とする道徳もこれまた時世後じせいれであろう。〈新渡戸稲造◆平民道〉 中では、いつでもいさぎよく死ぬ覚悟のでき ている武士がもっともすぐれているというこ と。「人は武士、花は桜」ともいう。 類義木は檜ひの、人は武士。 花は根に帰る、鳥は古菓に帰る はなねかえとりふるすかえ 物事はすべて、もとに帰るというたとえ。咲 いている花は根元に散って肥料となり、空を 飛んでいる鳥もやがては自分の巣に帰るということから。「花は根に鳥は古巣に」「鳥は古 巣に帰る」ともいう。 はなはんかい 花は半開、酒はほろ酔いよ 出菜根譚 物事はすべてほどほどがよく、完全でないと ころに、かえって味わいがあるということ。 桜の花は五分咲きが美しく、酒はほろ酔いか げんに飲むのがちょうどよいという意から。 補説出典にある「花は半開(五分咲き)を看 み酒は微酔(ほろ酔い)に飲む。此この中に大 いに佳趣(よい味わい)有り」による。 花は山人は里はなやまひとさと ものには、それぞれにふさわしい場所がある ということ。桜の花は、山奥の自然の中に咲 いているのがいちばん美しく眺められ、人間 は人里に行ってこそ、経験豊かで有能な人物 にめぐり合うことができるということ。 はなひら 花発いて風雨多し 出于武陵詩 物事は、大事なときに邪魔が入りやすく、思 うようにいかないということ。花の咲くころ には風や雨になることが多いということ。 補説詩の題名は『酒を勧む』。「君に勧む金屈后きんく、満酌辞するを須もちいず。花発いて風雨多し、人生別離足る(君に勧めよう、黄金の杯を。なみなみとついだ酒を辞退しないでくれ。花が開くと、とかく風雨が多いが、それと同様に人の世に別離の悲哀は多いものだ」と詠まれている。 鼻へ食うと長者になる 灯火もともさず、口と鼻を間違えるほどの暗 がりで食事をするような倹約家は、金持ちに なるということ。 花も折らず実も取らず 両方を取ろうとねらって、一つも取れないことのたとえ。 類義二兎にとを追う者は一兎をも得ず。虻蜂 あぶ 取らず。 對義 一石二鳥。 一拳兩得。 花も実もある 見かけだけでなく、内容も充実していること。 <533> 名実ともにすぐれていること。また、道理も 人情もわきまえた処理のしかたのたとえ。美 しい花も咲き、実もなるという意から。 類義色も香かもある。 対義花多ければ実少なし。 花より団子だんご 風流よりも実益、外観よりも内容を大切にす ること。また、風流を解さないことのたとえ にも用いる。見て美しい桜の花よりも、腹の 足しになるおいしい団子のほうがよいという 意から。いろはがるた(江戸)の一。 類義花の下より鼻の下。色気よりも食い 気。見栄みえ張るより頬張れ。理詰めより重詰 め。 英語Better have meat than fine clothes. 美しい衣服よりも食べ物があるほうがよい 用例身もふたもない言いかた。そんな言い かたを体得して、弱いしどろもどろの人を切 りまくって快しとしている人が、日本にも、 ずいぶんたくさん在る。いや、日本人は、そ んな哲学で育てられて来た。い、犬も歩けば 棒に当る。ろ、論より証拠。は、花よりだん ご。それが日本人のお得意の哲学である。 〈太宰治◆ラロシフコー〉 はな 鼻をかめと言えば血の出るほ どかむ 花を賞するに慎みて離披に至 つつし りひ いた 人から言われたことに対して、度を超したや り方でこたえること。鼻をかめと注意する と、鼻血が出るほど強くかむということから。 はなよりーははかた る勿れ 出 邵雍ー安楽窩中吟 花は満開にならないうちに観賞するのがよい ということ。物事は絶頂に達すると、あとは 衰退するだけだから、絶頂に至る前をよしと すべきであるということ。△離披Ⅱ花びらが 離れて花が完全に開くこと。満開。 補説出典には、この前に「酒を飲むに酩酊 めいを成さしむる莫なかれ(酒を飲む場合は、ふ らふらになるほど酔っぱらってはならない) とあり、絶頂の前で止めておけば心配するこ とはないと戒めている。 は きぬき 歯に衣着せぬ 率直に思ったことを言う。言葉を飾ったり遠 慮したりしないこと。 対義奥歯に物がはさまる。 「用例」「聞けば貴公は、まだ九歳の頃、十五歳の兄紀一郎殿を、一撃に突き負かしたというではないか。そうした勇猛心のある貴公が、近頃は何たる女々めしさだ。これしきの悲嘆、これしきの逆境に負けてどう召さる。門人に対してだって見っともない」義の兄弟となると、鉄舟は猶更なお、歯に衣着せずずけずけ云った。〈吉川英治◆剣の四君子〉 跳ね火、子に払う♩熱火、子に払う22 跳ねる癖のある馬は、死んでも跳ねるという 意から。 跳ねる馬は死んでも跳ねる 悪い癖は、どうしても直らないということ。 類義三つ子の魂百まで。噛かむ馬はしまい まで噛む。雀 すず め 百まで踊り忘れず。 歯の根が合わない 寒さや恐ろしさでぶるぶる震えるさま。上下 の歯が噛かみ合わず、がたがた鳴るようすから。 類義鳥肌が立つ。肌はだえに粟あわを生ず。 用例「御前 先さツきは少し歯の根が合わないようだった ぜ〈夏目漱石◆琴のそら音〉 はは いっしさむははささん 母ありて一子寒く母去りて三 しさむ 子寒し もうぎゅう 出蒙求 継母 まま はは のために寒い思いをするのは継子 まま こ 一 人だが、継母が家を出ていけば、継母の子二 人を加えて三人の子供が寒い思いをすること になるということ。 故事孔子の弟子の閔子騫は、継母に二人の子が生まれると、冬でも単衣ひとを着せられるなど虐待された。しかし、父がそのことを知って怒り、継母を家から追い出そうとしたとき、「母在いませば一子寒こざえ、母去れば三子単えならん」と言っていさめたので、父は思いとどまり、母もそのことばに感動して以後は三人の子を平等に扱うようになったという。 母方より食い方 親類のことを心配するよりも、自分自身の生 <534> 計を立てることを考えるほうが大切であると いうこと。 ばばそださんびゃくやす祖母育ちは三百安い は 祖母に育てられた子供は、甘やかされて育ったために、ほかの子供と比べるとしっかりしたところがなく、劣って見えるということ。「祖母育ちは銭が安い」ともいう。△三百二三百文のこと。 類義愛立てないは祖母育ち。 母の折檻より隣の人の扱いが 痛い 親の愛情の深さをいうたとえ。親に叱られて たたかれるよりも、その仲裁に他人が入るほ うが、子供にとっては恐ろしく感じられると いうこと。母親が子供を叱るのは愛情からだ が、その仲裁に入る隣人は、どんなにやさし く見えても母親のような愛情はないことか ら。∇扱い∥仲裁の意。 類義親の打つ拳 こぶ より他人の摩 さす るが痛 い。 はほろしたそん歯亡び舌存す 菌亡ひ舌存す 説苑 硬いものより、柔らかいもののほうが長く残 るということ。硬い歯が先に抜け落ち、柔ら かい舌はいつまでも残って働いているという 意から。 出説苑 故事老子が友人の常擬 じょう を見舞ったとき、 彼の歯は抜け落ちてなくなっていたが、舌は 残っていた。老子が「舌が残っているのは柔 らかなためで、歯がなくなったのは硬いため である」と言うと、常擬は感動して「そのと おりだ。天下のことはそのことばに言い尽く されている」と言ったという。 類義 柔能よく剛を制す。柳に雪折れなし。 はまぐりうみ 蛤で海をかえる とてもできないこと、努力してもむだなこと のたとえ。また、わずかな知識をもって難問 に立ち向かうたとえにもいう。蛤の貝がらで 海水を汲み、新しい水と入れかえる意から。 類義柄杓ひしで海を換える。貝殻で海を量 る。大海を手で塞ぐ。 あといどふた はまった後で井戸の蓋をする 事故が起こってから用心すること。だれかが 井戸に落ちてから慌てて蓋をする意から。 類義泥棒を捕らえて縄を綯なう。 浜の真砂まさご 無数・無限であることのたとえ。数が多くて 数えきれないことから。∇真砂∥細かい砂。 補説浄瑠璃石川五右衛門いしかわにある石 川や浜の真砂は尽くるとも世にぬす人のたね は尽きまじ」が有名。 羽目を外す 調子にのって、度をすごすこと。 補説「羽目」は「馬銜はみ(巻くつの、馬の口に くわえさせる部分)」の転で、これを外して 馬を自由にする「はみを外す」が変化して「は めを外す」となり「羽目」の字をあてるよう になったといわれる。「破目」とも書く。 用例たとい品行方正であるとしても、自分 自身を持ち崩せば、不良なんだ。その代り、 どんな不埒ちなことをして、どんなに羽目を 外しても、自分自身を持ち崩さなければ、善 良というものさ。〈豊島与志雄◆自由人〉 はもいちご 鱧も一期、海老も一期 えびいちご 境遇に違いがあっても、人の一生はだいたい 似通ったものであるということ。海老を餌に する鱧も、餌にされる海老も、一生を生きる ことに変わりはないということから。△鱧 ハモ科の海魚。食用。 類義 猶は 飛んでも一代、鰻 うな はのめって も一代。 はやうませんりうしせんりはやうし 早い馬も千里、のろい牛も千里早牛 よどおそうしよど い浜遅牛も淀534 早いが勝ち先んずれば人を制す268 早い者に上手なし 仕事の早い者は、できあがりがよくないことがあるということ。拙速を戒めていう。「早手に上手なし」ともいう。 類義 早かろう悪かろう。早いばかりが能で はない。 英語 Fool's haste is no speed. 馬鹿が急 いでやっても速いことにならない どうやっても結果は同じなのだから、あわて <535> る必要はないということ。牛の歩みに速い遅いの差はあっても、行き着く所は同じ淀であるということから。「遅牛も淀、早牛も淀」ともいう。▶淀=京都市伏見区の地名。淀川に面した河港で、集荷場として栄えた。 類義 早い馬も千里、のろい牛も千里。早舟 も淀、遅舟も淀。 はやおさんりようけんやくごりよう 早起き三両倹約五両 早起きと倹約は、どちらも大きな利益をもた らすということ。朝寝や浪費を戒めたこと ば。 ひろりひろ 類義 朝起き三両始末五両。早起きは三文の 徳。早起き千両。 類義早い者に上手なし。 はやお 早起きは三文の徳 早起きは、何かと得をすることがあるという こと。△三文Ⅱごくわずかの金のこと。徳Ⅱ 得に同じ。「得」とも書く。「朝起きは三文の 徳」ともいう。 英語) The cow that's first up, gets the first of the dew. [最初に起きた牛は最初の朝露を吸う] The early bird catches the worm. [早起きの鳥は虫を捕まえる] はやがてんはやわす早合点の早忘れ 早のみ込みをする人は、人の言うことをよく 聞かず、理解してもいないので、忘れてしま うのも早く、あてにならないということ。 英語 Good and quickly seldom meet. 「よい」と「速い」が両立することはめった にない 早からう悪かろう 仕事は早いが、できあがったものはよくない はやおきーはやめし 疾きこと風の如し風林火山576 早きは宜しゅうて失あり、遅きは悪しゅうて失なし 仕事が早いのはよいことではあるが、思わぬ 失敗がありがちである。いっぽう、遅いのは 困りものではあるが、大きな失敗はないということ。 早くて間に合わぬ鍛冶屋の向 こう槌 自分だけが早すぎて、全体の調子を乱すこと。 協同で仕事をするには相手に調子を合わせる ことが必要だということ。鍛冶屋が槌を打ち 合うときに、一方だけが早すぎては調子が合 わず、仕事にならないことから。▶向こう槌 Ⅱ鍛冶で、弟子が師匠に合わせて打つ槌。 はやわるだいじおそ 早くて悪し大事なし、遅くて 悪し猶悪し 仕上がりが悪くても仕事が早ければ大目に見 ることができるが、仕事が遅いのに仕上がり が粗雑ではどうしようもないということ。 はやしふか 林深ければ則ち鳥棲み、水 すなわうおあそ 徳を磨き、民衆を思いやる仁政を行えば、天 下の人々は自然につき従ってくるということ のたとえ。林が深ければ多くの鳥がすみ、川 が広ければ多くの魚が泳ぐという意から。 補説中国唐の太宗 たい そう のことば。 出典では、 このあとに「仁義積めば則ち物自 おの ずから之 これ に帰す仁義の徳を積めば、人はおのずと ついてくる」と続く。 類義林茂りて鳥宿り、淵ふち深ふこうして魚うお 集まる。 早好きの早飽き すぐ何かを好きになる者は、飽きるのもまた 早いということ。 類義近惚れの早飽き。 英語 Soon ripe, soon rotten. 早く熟れる と早く腐る 早寝早起き病知らず 夜ふかしをせず、早寝早起きの規則正しい生 活をすれば、いつも健康で病気になることは ないということ。 はやふね よど おそふね よど はやうし よど おそうし 早舟も淀、 遅舟も淀 ↓早牛も淀、 遅牛 よど 34 も淀 534 はやめしはやぐそはやざんよう 早飯早糞早算用 食事・用便・計算が早くできるということは、 <536> はやめしーはらのか 人に使われる者にとって大切な技能であると いうこと。昔の奉公人や職人の心得。 類義 早飯早糞芸のうち。早飯早糞早走り。 早飯も芸のうち 飯を早く食べることも芸のうちに数えてよい ということ。 はやり事は六十日 流行は長続きしないもので、二か月もすれば忘れられ、すたれてしまうということ。類義はやり物は廃り物。 はやり目なら病み目でもよい むやみに流行を追う者をあざけっていうこと ば。「はやり」と名がつくものならば、眼病 であってもかかってみたいという意から。 はやり物は廃り物もの てみればすぐにわかるものだということ。 類義尊い寺は門から。 流行は長続きせず、今はやっているものも、 いずれはすたれて消えていくということ。 類義はやり事は六十日。 はやる芝居は外題から 題名が大切であるということ。はやっている 芝居は、出し物の題名からして人をひきつけ る魅力があるということ。▶外題=書物の表 紙に書いてある表題。歌舞伎・浄瑠璃の題名。 芸題。 生ゆる山は山口から見ゆる 樹木の生育のよい山は、その山の入り口に来 腹がすいてもひもじゅうない 出 浄瑠璃ー伽羅先代萩 たとえ空腹でも、ひもじいなどと弱音は吐か ないということ。武士の痩せ我慢を表す言 葉。「腹が減ってもひもじゅうない」ともい う。 補説伊達だて騒動(江戸時代前期の仙台藩 のお家騒動)をモデルにした歌舞伎「伽羅先 代萩』を浄瑠璃化したものに出てくる子役の せりふから。 類義 武士は食わねど高楊子 たかよ。 うじ はらた おやおもだ 腹が立つなら親を思い出せ 腹が立ったときには、いま事件を起こしたら 親がどんなに嘆くかを思って我慢しなさいと いうこと。「腹が立つなら親を思い出すが薬」 ともいう。 腹が減っては戦ができぬ 腹が減っていては、よい働きはできないということ。 英語]An army marches on its stomach. 軍隊の進軍は腹次第]The mill stands that wants water. [水の足りない水車は動 かない] 用例「お互いのざまをみろ。それじゃ戦場 へ出られんぞ。さあ、きちんと身支度をして 玄関前へ集まろう。お弁当を忘れるな。腹が 減っては戦はできぬぞ 永井隆長崎の鐘 はらた ぎりた 腹立てるより義理立てよ 腹を立てても何にもならない。同じ立てるな ら義理を立てたほうが身のためである。そう すれば、ことを荒立てずにすむということ。 腹に 一物 口には出さないが、心の中に何かたくらみを いだいていること。 類義胸に一物。 英語I say little but I think more.ほとん ど口には出さないが、それだけに心に秘めた ことはもっといっぱいある 用例俺は先程からの池部の様子で、彼が 何か腹に一物あることを気付ていた。それが 今の言葉で愈々いよはっきりしてきた。考えて みれば、笹木さのことを一言も云いわないの が不思議だった。〈豊島与志雄◆神棚〉 薔薇に刺あり 美しいばらに刺があるように、見かけが美しいものは、人を傷つけるものを隠し持っているので用心せよということ。 類義美しい花には刺がある。 腹の皮が張れば目の皮がたる 腹がいっぱいになると眠くなるということ。 人間は、生活が豊かになると怠惰になる意に も用いられる。 <537> はらたあすいい 腹の立つことは明日言え♩言いたいこ あすい とは明日言え36 はらた いえくらた 腹の立つように家倉建たぬ 人はよく腹を立てるが、家や倉を建てるのは 金がかかるので、腹を立てるようには簡単に 建てられないということ。 腹の虫がおさまらない ひどく腹が立って、どうにも我慢できないようす。「腹の虫が承知しない」ともいう。△腹の虫‖体内の寄生虫。人の感情のたとえ。用例毒舌でも吐かなければ、腹の虫がおさまらなかったのだ。ほんとうは、なにかしら悲しく苦しかった。〈豊島与志雄◆ヘヤーピン一本〉 はら腹は借り物もの 子を宿す母親の腹は一時の借り物で、生まれ る子の身分は父親の身分によって決まるとい うこと。現代では通用しない、父系の血筋を 重視した封建時代の考え方。 はらたぞんけんか喧嘩は仕損しぞん 腹は立てただけ自分の損になり、けんかはし ても得にはならない。怒りをおさえて我慢す ることが大切であるという教え。 類義短気は損気。 腹八分に医者いらず 腹いっぱいになるまで食べずに、八分目程度 に控えていれば、いつも健康で医者にかかる ことがないということ。「腹八分目に医者い らず」「腹八合に医者いらず」ともいう。 はらのたーはりとる 類義腹八分に病なし。節制は尋 英語Allowthybellywhatthou shouldst,notwhatthounmayest.[胃袋に は与えうるものでなく、与えねばならぬもの を与えよ]Feedbymeasureanddefythe physician.[食べる量をほどほどにして医者 にかからないようにせよ] 腹も身のうち 腹もからだの大切な一部なのだから、大食し て腹をこわしたりしないようにせよというこ と。暴飲暴食の戒め。 はらさたまおさ 腹を剖きて珠を蔵む出貞観政要 財貨を手に入れるために無理をして、身を滅 ぼすことのたとえ。腹を切り開いて、その中 に宝玉をしまい込む意から。官吏が財貨をむ さぼることによって身を滅ぼすことを戒めた 中国唐の太宗たいのことばによる。 補説出典には西胡せい西域のえびす珠を 愛し、若もし好珠を得うれば身を劈さきて之これ を蔵ぞうす」とある。 張り子の虎ことら 弱いくせに強そうに威張っている者のたと え。名前は虎だが紙のおもちゃであることか ら。張り子で作った虎のおもちゃは、よく首 を振る仕掛けになっていることから、主体性 がなく、人の言うことにただうなずく人や首 を振り動かす癖のある人にもいう。 用例火の気を消してしまった火鉢の上に手 をかざし、張子の虎のように抜衣紋 白い首をぬっと突き出し、じじむさい恰好 で坐すわっているところを、豹一 れ、人力車に乗せられた。〈織田作之助・青 春の逆説〉 ばりぞうごん 罵詈雑言 口汚くののしり、悪口を言ってけなすこと。 また、そのことば。▽罵詈=相手に悪口をあ びせること。雑言=いろいろな悪口。 類義 罵詈讒謗 ばりざ んぼう 悪口雑言 あっこう。 ぞうごん 用例囚人が歌を歌う。看守がそれを叱る。 と云いうような事がもとで唾の引っかけ合い、 罵詈雑言のあびせ合いから、遂に看守が抜刀 する。〈大杉栄◆統獄中記〉 は ゆみ ゆる 張りつめた弓はいつか弛む 緊張はいつまでも続くものではない。いつも 気を張っている者も、いつか気がゆるんで失 敗することがあるというたとえ。 針で掘って鋏で埋める 努力して少しずつ蓄えてきたものを、いっぺ んになくしてしまうこと。針で少しずつ掘っ てきた穴を鍬で一気に埋めてしまう意から。 類義爪で拾って箕みでこぼす。 針とる者車をとる 小さな悪事を見逃していると、やがては大きな悪事を犯すようになるということ。針を盗 <538> はりのあーばれいを むという小さな悪に味をしめた者は、やがて 車を盗んでも平気でいるようになるという意 から。 針の穴から天を覗く 自分の小さな狭い見識を基準にして、広い世 間の大きな物事を判断しようとすることのた とえ。いろはがるた(京都)の一。 類義 葦 よし の髄から天井を覗く。 管 かん を以 もっ て天を窺 うか が はり針の筵むしろ 出晋書しんじょ どうにも居たたまれない、つらい境遇。また、 一時も心の休まることがない立場。針を植え たむしろの上には、じっと座っていられない ことから。「針の筵に座る」ともいう。 用例「いや、どうも。酒、と聞くとひやっ とするよ。針の筵だ」と実感をそのままに 言った。〈太宰治◆津軽〉 けり針を倉に積む 針は小さくても呑まれぬ 針は呑まれぬ 針は小さくとも 針は呑まれぬ 針は呑まれぬ 針は呑まれぬ 針は呑まれぬ けぼどの穴から棒ほどの風がくる 開け放った窓からの風よりも、すきまから吹 き込む風のほうが、身にしみて寒く感じられ るということ。 はり 針ほどのことを棒ほどに言う針を棒 に取りなす538 長年にわたって小金をせっせとため込むこと のたとえ。小さな針を倉に積んでもなかなか いっぱいにならないことから。「針を倉に積 んでもたまらぬ」「針を倉に積んでも足らぬ」 などの形で用いる。 針を棒に取りなす 小さなことを大げさに言うこと。「針ほどの ことを棒ほどに言う」「針を棒に言いなす」 ともいう。 類義 針小棒大。 針を棒。 はりもっちさ 針を以て地を刺す 狭い知識で高い見識に勝手な解釈を加え、見 当違いな判断を下すこと。また、むだなこと、 不可能なことを計画することのたとえ。 類義管かんを以て天を窺がうかう。貝殻で海を量 る。 春植えざれば秋実らず 努力しなければ成果は得られないということ のたとえ。 春小雨夏夕立に秋日照り 春には小雨が降り、夏は夕立があり、秋は日 照りが続く年は豊作になるということ。 れの日が三日と続かない、ということから。 はるばんめしあとさんり 春の晩飯後三里 春は日が長いので、夕食後からでも三里ぐら いは歩いて行けるということ。「春の夕飯 食って三里」ともいう。▷一里‖約三・九三 キロメートル。 春に三日の晴なし 春はよく雨の降る季節だということ。春は晴 春の日と継母はくれそうでく れない 春の日の長さをいう言葉。 補説日が「暮れない」と物を「呉くれない」をかけた「春の日はくれそうでくれない」に継母をからめておもしろおかしくしたもの。 春の雪と叔母の杖は怖くない 春の雪はすぐ解けて積もることはないし、叔 母のたたく杖は力が弱くて痛くないから、ど ちらも恐れることはないということ。 類義春の雪と歯抜け狼かは怖くない。 春の雪と歯抜け狼は怖くない 春の雪は降ってもすぐ解けてしまうし、歯の 抜けた狼ではかみつかれることもないから、 どちらも恐れることはないということ。 類義春の雪と叔母の杖つえは怖くない。 馬齢を重ねる 大したこともせず、いたずらに年を取ること。 年齢を重ねることを謙遜した言い方。「馬齡 を加える」ともいう。∇馬齡=馬の年齡。転 <539> じて、自分の年齢の謙遜した言い方。 類義犬馬の齡よわ。 は 权 た こまかいことにこだわって、全体をだめにし てしまうことのたとえ。余分な枝葉を除こう として、大切な根までだめにして木を枯らし てしまう意から。 類義 角を矯めて牛を殺す はんがんびいき 判官贔屓 ほうがんびいき 判官贔屓 596 反旗を翻す はんきひるがえ 権力や勢力のあるものに反抗して行動を起こ すこと。謀反を起こす意から。∇反旗∥謀反 を起こすものが立てる旗。「叛旗」とも書く。 類義盾を突く。弓を引く。 用例混食をしているのが人類には一番自然 である。そう出来てるのだから仕方ない。そ れをどう斯こう云いうのは恩恵深き自然に対し て正しく叛旗をひるがえすものである。〈宮 沢賢治・ビジテリアン大祭〉 物事が複雑に入り組んで、解決が難しいこと。 また、ある勢力がはびこって、取り除きがた いこと。△盤根Ⅱ地下にわだかまった木の 根。「盤」は「槃」とも書く。錯節Ⅱ入り組 んだ節ふし。 ばんこんさくせつ盤根錯節 出後漢書ごかんじょ 故事後漢の虞詡ぐは治安の悪い朝歌県の長 官に任命されたとき、気の毒がる友人に対し て、「槃根錯節に遇あわざれば、何を以もて利 はをかいーばんしょ 器を別わかたんや(切りにくい木を切らないで、 どうして切れる刃物の区別ができようか) と言い、人も刃物も困難な事態に直面しては じめて、その真価が発揮されるのだとして、 新しい任地に向かったという。 ばんしいっしょうかえり 一万死一生を顧みず 出史記 生きのびることなど考えず、必死の覚悟を固 めること。「一生」は「いっせい」とも読む。 ばんじきゅう 万事休す 出白居易詩 すべてのことは終わったということ。もう手 の施しようがないことをいう。 補説詩の題名は『老熱』。「一飽すれば百情足り、一酣かれば万事休す、何人か衰老せざる、我老いて心に憂え無し(ひとたび酒に酔えば、心が満ち足りて欲望もなくなり、すべての物事が休止したように感じられる。人は誰でも老いてゆくが、自分は老いることに何の憂いもない」とある。 用例私は皆まで聞かずに、呆気にとられ た医師を残して飛び出してしまった。万事休 す。私の血管にはまがいもなく犬の血がめ ぐって居るのだ。〈小酒井不木◆犬神〉 万死に一生を得る 九死に一生を得 る184 には甲兵(武装した兵)三人、歩卒七十二人、 輜重(荷物を運ぶ者)二十五人の合計百人が ついたとされ、「万乗」では兵車一万台、百 万人の兵力となる。 出孟子もうし 天子。君主。一万台の兵車を出すことができ る君の意から。∇万乗=一万台の兵車。「乗」 は兵車を数える単位。周代の制では兵車一乗 ぼんじょう きみ万乗の君 繁盛の地に草生えず にぎわい栄えている土地は、人の往来が激し く草の生える暇がないということ。「繁盛」 は「繁昌」とも書く。 類義 人通りに草生えず。 使っている鍬くわは 光る。 半畳を入れる 人の言動をやじったり、茶化したりすること。 見物人が役者の芸に不満なときに半畳を舞台 に投げ入れたことから。「半畳を打つ」とも いう。▽半畳‖芝居小屋で見物人に貸し出し た座ぶとんがわりのござ。 類義茶茶を入れる。 用例まだ中年の、豪快な顔つきをしたその 紳士は、「引っ込め」とか「止ゃめろ」とか云 いったり、でかんしょを怒鳴ったり、いろん な半畳を入れてはひどく無邪気な眼ぁつきを して笑う。谷崎潤一郎◆青春物語 出旧唐書くとうじょ 伴食宰相 実権・実力のない、無能な大臣のたとえ。会 食をするだけの大臣の意から。「伴食大臣」 ともいう。∇伴食∥正客のお伴ともをしてごち そうになること。お相伴。 故事 中国唐の盧懷慎 ろかい はまじめで質素だ が政務処理能力に欠け、もっぱら敏腕の姚崇 <540> ばんしょーはんめん ように頼っていた。そこで人々は懐慎のことを 「伴食宰相」とあざけった。 蚤触の争い かぎゆうかくじょうあらそ 蝸牛角上の争い 135 洩んしょくもっ あんぽ 晩食以て肉に当て、安歩し 出戦国策 清貧に甘んじて安楽に暮らすことのたとえ。 食事時間を遅らせて空腹になってから食事を すると、粗食でもおいしい肉を食べているよ うに感じ、ゆっくりと歩けば車に乗っている ように快適で疲れないということから。 補説出典では、このあとに「無罪以て貴に 当て、清浄貞正以て自ら虞たのしまん卑しい 身でも罪を犯さなければ貴人と同じとして満 足し、身を清く正しく保って楽しく暮らそ う」と続く。 万死を出でて一生に遇う 出貞観政要 ほとんど助かる見込みのない危険な状態か ら、かろうじて命が助かること。「一生」は 「いっせい」とも読む。 類義 万死に一生を得る。 九死に一生を得る。 万人心を異にすれば則ち一人 ような の用無し 出淮南子えなんじ いくら多くの人々がいても、それぞれの心が ばらばらでまとまっていなければ、一人分の 働きもできないということ。 補説出典には「千人心を同じくすれば則ち 千人の力を得(千人もの人々が同じ考えを 持って行動すれば千人分の力が十分に発揮で き)、万人心を異にすれば則ち一人の用なし」 とある。 万卒は得易く一将は得難し すぐれた人物は少ないものだということ。多 数の兵士を集めることはやさしいが、優秀な 将軍は一人でも求めることは難しいという意 から。「万卒は求め易く一将は求め難し」と もいう。 ぼんちゃ でぼな おにじゅうはちぼんちゃ でぼな 番茶も出花 鬼も十八番茶も出花 117 はん お 判で押したよう いつも同じことの繰り返しで、少しも変化が 見られないこと。判は何度押しても同じ印影 を写すことから。「判子で押したよう」とも いう。∇判∥判子。印鑑。 用例)婿さんの新吉さんは五ツちがいの今年 二十八で申分のない温厚な銀行員。毎日の帰 宅が判で押したように五時きっかりなの。 〈矢田津世子◆神楽坂〉 ばんぶつるてん 万物流軾 この世のありとあらゆるものは、常に移り変 わるということ。 類義諸行無常。朝 あし た に紅顔ありて夕 ゆう べ に白 骨となる。 用例私達たちは全地球が一個の点であり、人 生が妄想であり煙りでありとして永遠の神性 を信じながら「山上の館」で万物流転の法則 を研究するよりも、一杯の「ファティアの夢」 に酔って、健康な己を感じる唯物至上派でご ざいます。〈牧野信一◆山彦の街〉 はんぶんじょくれい繁文縟礼 規則や礼儀作法、手続きなどがこまごまして わずらわしいこと。▷繁文‖規則が多くめん どうなこと。縛礼‖込み入った礼儀作法。 用例もっと政治は明るくして新鮮な空気を 注ぎ入れなければ駄目だとの多数の声に聞い て、京都の方へ返すべき慣例はどしどし廃さ れる、幕府から任命していた皇居九門の警衛 は撤去されるという風に、多くの繁文縟礼が 改められた時、幕府が大改革の眼目として惜 し気もなく投げ出したのも参覲交代 さんきん こうたい の旧 ふるい慣例だ。〈島崎藤村◆夜明け前〉 はんぽ反哺の孝こう 反哺の 本草綱目 親の恩に報い、孝行することのたとえ。烏 の子は成長後、親鳥の口にえさを与えて養育 の恩に報いるといわれていることから。マ反 哺‖食物を口うつしに食べさせること。 類義 鳩 はと に三枝の礼あり、 鳥に反哺の孝あ り。 はんめん半面の識しき 出後漢書 以前にほんのわずか会っただけの人の顔を、 いつまでも覚えていること。また、ちょっと した知り合い。「半面識」「一面識」ともいう。 <541> ∇半面=顔の半分。識=見分ける。 故事 中国後漢の応奉が二十歳のころに、戸 の隙間から顔を半分出している人を見た。数 十年後、路上でその人を見かけて声をかけた という。 万里一条の鉄 出人天眼目 世の中の現象は時々刻々に変化するが、その 真実の姿は変わることなく過去・現在・未来 にわたって一本の線のように連なっていると いう仏教の教え。転じて、物事がとぎれるこ となく続くことのたとえ。万里にわたって続 く一本の鉄の意から。 ばんりどうふう万里同風 天下が統一されて泰平であること。広い範囲 にわたって同じ風俗である意から。万里風 ふうを同じうす」ともいう。▷同風∥同じ風俗 になることで、天下が統一される意。 類義千里同風。 出漢書かんじょ はんか 万緑叢中紅一点 出王安石詩 多くのものの中に、一つだけすぐれたものが あることのたとえ。また、男性ばかりの中に、 一人だけ女性がいることのたとえ。見渡す限 り緑の草の中に、ただ一つ紅の花が咲いてい るという意から。「紅一点」ともいう。 補説詩の題名は『柘榴ざくを詠ず』。『万緑叢中紅一点、人を動かすに春色多きを須もちいず(人の心を動かす春の景色に、多くのものはいらない。その一輪の赤い花だけで十分だ)」とある。 ばんりいーひうちば 判を貸すとも人請けするな 借金の保証人として判を押すのはやむをえな いとしても、人物の保証人になることはやめ たほうがよいという戒め。 ひとう 類義金請けするとも人請けするな。 ひ ひいきひだお 贔屓の引き倒し ひいきが度を超えて、かえってその人に迷惑、 不利を及ぼすこと。「贔屓の引き倒れ」とも いう。「倒し」は「たおし」とも読む。 類義甲張 ば り強くして家押し倒す。寵愛 ちょう あい 昂こうじて尼になす。 ひいさく 日出でて作し、日入りて息う 出荘子そうじ 日が出ると畑に出て働き、日が沈めば仕事を やめて体を休める。自然のままの農夫の平和 な生活をいう。 補説中国古代、聖天子尭 ぎよ のときの太平の 世をたたえた農民の歌『鼓腹撃壌歌 じょふくげき の一節でもある。 ↓ 鼓腹撃壌257 せっかく穂が出たのに実を結ばない意から。 ▶秀でる‖植物の穂が出ること。 出 論語 ろんご 秀でて実らず 学問を途中でやめたり早死にしたりして、成 果を見ないで終わることのたとえ。植物が、 補説孔子の語。出典には「苗にして秀でざ る者有り。秀でて実らざる者有り(同じ苗で も穂の出ないものもあり、穂は出ても実を結 ばないものもあるのだ)」とある。 出孟子もうし 人に教えるときに、勉強の方法のみを教えて、 あとは自身で習得するようにさせること。弓 を教える者が、弓を十分に引いてみせて矢を 放たないでいるということから。君子が道を 教えるときの態度を示したもの。 ビードロを逆さまに吊るす 美女の形容。「ビードロを逆さに釣ったよう」 「ビードロを逆さまにする」ともいう。▷ビー ドロ‖ポルトガル語でガラス。また、ガラス 製の首の長いフラスコ状の玩具。 さか 火打ち石、据え石にならぬ 小さい物では大きい役には立たないたとえ。 火打ち石は火をつけるには役立つが、家の土 台の石にはならないことから。「火打ち石」 は「燧石」とも書く。 ひうばこえんしょういひるね 火打ち箱に煙硝入れて昼寝 する たいへん危険なことのたとえ。火打ち箱の中 に火薬を入れたままで昼寝をするという意か ら。∇火打ち箱∥火打ち道具を入れる箱。煙 <542> ひがくしーひがんが 硝=火薬のこと。 非学者論に負けず 無学な者に道理を説いてもむだというこ と。無学な者は、筋道の立った議論で攻撃さ れても、屁理屈ぐりをこねて屈しないという意 から。「非学者論議に負けず」ともいう。 類義非理の前に道理なし。 ひかげ日陰の梨なし 形は立派であるが、内容の悪いもののたとえ。 日の当たらない所で実った梨は、形はよくて も味が悪いことから。 ひかけまめとき 日陰の豆も時がくればはぜる 少し成長が遅れていても、一定の年齢になれ ば一人前になるものだということ。日陰で 育った豆でも、時期がくればさやが割れては じけ出ることから。 類義 豌豆 えん どう は日陰でもはじける。陰裏の豆 もはじけ時。陰裏の桃の木も時が来れば花咲 く。 ひがさあまがさつきがさひがさ 日暈雨傘月暈日傘 太陽に暈がかかると雨になり、月が暈をかぶ ると晴れるということ。日暈に雨傘、月暈に 日傘と語呂を合わせた言い方。▷日暈‖太陽 の周りに見える光の輪。月暈‖月の周りに見 える光の輪。 と。また、二つの物事を同時によくするのは 難しいということ。片方に近づけば、もう一 方からは遠くなってしまうという意から。 東に近ければ西に遠い ひがしちか にしとお 中立の立場をとるのは困難であるというこ 類義彼方立てれば此方が立たぬ。 英語 The longer east, the shorter west. 東が長ければ長いほど西はそれだけ短くなる 東は東、西は西 東洋と西洋では、物の見方や考え方が根本か ら異なっているということ。転じて、立場の 違う両者が交わることはない、という意味に も用いられる。 補説イギリスの詩人キプリングの詩の一 節、East is East, and West is West, and never the twain shall meet.(東は東、西は 西、両者相見 あい まみ えることなし)」から。 夏の虫。 どうにもならないことのたとえ。干潟に残さ れた鰯の意から。 ひがた 千潟の鰯いわし 日が西から出る ひひ火が火を喚ぶよ 絶対にありえないことのたとえ。また、物事 があべこべであることのたとえ。 同じようなものが寄り集まることのたとえ。 また、物事がますます盛んになるさま。 飛蛾の火に赴くが如し 出梁書 自分から進んで危険や災いの中に身を投ずる ことのたとえ。蛾が火に誘われてそこに飛び こんでいくようであるということから。「飛 蛾の火に入るが如し」ともいう。 ひがひおもむ 類義 飛んで火に入る夏の虫。我と火に入る ひふやりふあざふ 火が降っても槍が降っても↓雨が降ろ やりふ うが槍が降ろうが28 ひかり 光あるものは光あるものを友 とす 知恵のある者は知恵のある者を選んで友とす るということ。また、同じ性質のものは自然 と寄り集まるということ。 類義類は友を呼ぶ。 光るほど鳴らぬ 口やかましい人に限って、根はやさしく穏やかであるということのたとえ。また、腕前が口ほどでないこと。稲光が激しいわりには雷鳴がひどくないという意から。 ひものこうた 引かれ者の小唄 絶望的な状況に陥った者が、負け惜しみや強 がりを言うことのたとえ。引かれ者が平気を よそおって、小唄をうたっているということ から。▷引かれ者‖刑場に引かれる罪人。 彼岸が来れば団子を思う 大事なことはそっちのけで、気楽なことばかり考えていることのたとえ。彼岸が来ると、 <543> 先祖の供養のことよりも、彼岸につきものの 団子のことを考えているという意から。 ひかんじょう た つきかんじょう 日勘定では足らぬが月勘定で 類義走り馬にも鞭むち。火に油を注ぐ。 は余る 目先の損得を考えると利益がないようでも、 長い目で見れば利益があるということ。一日 ごとの決算では損が出ていても、一月単位で 計算すれば得をしているということから。 補説出典には「日に之これを計れば而ち足 らざるも、歳に之を計れば而ち余り有り」と ある。 出荘子そうじ 類義日計足らずして歳計余り有り ひがんす 彼岸過ぎての麦の肥料、三 じゅうす おとこいけん 十過ぎての男に意見 ひきんよろこ しゅうえん つと 比近説ばざれば修遠を務むる 時機を失して効果がないことのたとえ。彼岸 を過ぎてから麦に肥料をやっても効果はない し、三十過ぎの男にいくら意見しても効き目 がないという意から。 類義二十過ぎての子に意見。人の意見は四 十まで。 飛脚に三里の灸 勢いのあるものに、さらに勢いをつけること のたとえ。足の速い飛脚に三里の灸をすえれ ば、さらに速くなることから。∇飛脚∥江戸 時代に手紙や書類などを運んだ人。三里∥ひ ざがしらの下のくぼんだ所。ここに灸をすえ ると足を丈夫にし、万病に効くという。 出説苑 ひかんじーひぐれの 無かれ 身近なものを大事にしなければならないということ。近隣の者が喜ばないようであれば、遠方の者と交際しないほうがよいということから。▽比近〓隣近所。修遠〓遠方の人と交際すること。 補説出典には、このあとに「是こを以もって 本もとに反かえり邇ちかきを修むるは君子の道なり (根本に返って身近なものを大事にすることが君子の道である)とある。 低き所に水溜まる 低地に水が流れ込んで溜まるように、物事は 条件の整ったところに集中するということ。 転じて、利益のあるところには人が集まって くるということ。また、環境のよくないとこ ろには悪い者が集まることのたとえにもい う。「窪くぼい所に水溜まる」ともいう。 類義百川ひゃくせん海に朝ちょうす。 ひてあまた 引く手数多 目分の仲間に引き入れようと、誘いかけてく る人が多いこと。多くの人が袖を引いて誘う ということから。 用例引く手あまたの人気役者が、こんな不 意気な女なぞを、しんからかれこれ思ってく れるとは、ほんとうとは思われませぬもの ー三上於菟吉◆雪之永変化) 必要がないこと、不似合いなことのたとえ。 髪をおろした尼僧に笄は不要であることか ら。▶比丘尼‖出家して仏門に入った女性。 笄‖髪をかき上げるのに使う道具。女性の髪 飾りの一種。 類義比丘尼の鍵誂 あつ え。比丘尼の晴れ小 袖。尼御前 あま ごぜ の紅。 比丘尼に髭出せ 無理な注文をすることのたとえ。△比丘尼 出家して仏門に入った女性。 類義比丘尼の髪を結う。 出呉子 日暮れて道遠し 年をとったのに人生の目的が達せられないこと。また、やりたい仕事が多くあるのに、時間が足りないこと。日が暮れたのに、目的地までの道のりがかなりあって気持ちがあせるということから。「道遠く日暮る」ともいう。「道」は「途」「塗」とも書く。 日暮れて道を急ぐ 残り時間が少なくなってから仕事を急ぎだす ことのたとえ。また、年をとってから人生の 目的を果たそうとしてあせること。日が暮れ かけて、慌てて歩き出すという意から。 日暮れの山入り ふつうの人のしないことをすること。また、 怠け者が食べられなくなってから慌てて働き <544> ひけしのーひざまく 出すことのたとえ。日が暮れてから山に入っ て仕事をするという意から。 類義怠け者の節供働き。 火消しの家にも火事 ひけいえかじ 類義 秋葉山から火事。 人を戒める立場にある者が、他を戒めたのと 同じあやまちを犯してしまうことのたとえ。 火事を消すのが役目である火消しの家から火 事を出すということから。 鬚の塵を払う 出宋史そうし 目上の人にこびへつらうこと。他人のひげに ついたごみを取ってやる意から。「鬚の塵を 取る」ともいう。∇鬚∥あごひげ。 故事中国宋の参政副宰相丁謂がある 会食の席上宰相寇準のひげについた汚 れをふき取ったところ、寇準は笑いながら参 政は一国の大臣、上役のひげを払わないでも よかろう」と言った。丁謂はいたく恥じたと いう故事による。 類義胡麻ごまを擂する。 卑下も自慢のうち 必要以上にへりくだるのは、自慢しているの と同じであるということ。表面は謙遜したよ うでも、実は自慢しているということ。 多くの人が次々に続くさま。肩を並べ、かか とを接して続くという意から。「比肩接踵 せっし ように 「比肩継踵 よう 」ともいう。 ∇踵∥かかと。 出韓非子かんびし 比肩随踵 補説出典には「且かつ夫それ尭ぎよ・舜しゅ・桀 けつ・紂ちゅ、千世にして一たび出いずるも、是 これ比肩随踵して生うまるるなり(その上、尭や 舜のような聖人、桀や紂のような暴君は、千 年に一人出ただけでも、次々に出現したと いっていいほどである」とある。 美言は信ならず ↓信言は美ならず、美 言は信ならず330 ひざいくこがたなへ非細工の小刀減らし やってもむだなこと、手間ばかりかけて成果 のあがらないことのたとえ。下手な人が細工 をしても、小刀が減るだけで、何にもならな いという意から。∇非細工∥細工の下手なこ と。また、その人。 ひざがしら えど 膝頭で江戸へ行く 苦労のわりに遅々としてはかどらないことの たとえ。膝を地面につけて遠方へ行くという 意から。「膝で京へ上る」「膝頭で箱根を越す」 ともいう。 ひさご わらう 瓢で藁打っ 無理なこと、方法が間違っていることのたと え。▷瓢‖瓢簞ひょうの果実。また、その実の 中をくりぬいて乾燥させた、酒や水などを入 れる容器。ふくべ。 類義蜂の巣に鎌。藪やぶに馬鍬まぐ。 え。水に浮く瓢に浮きをつけることから。 瓢=瓢簞 ひよう たん の果実。また、その実の中を乾 燥させて作った容器。ふくべ。 ひねりう 瓢に浮き 念が入りすぎて間が抜けていることのたと ひさしか 庇を貸して母屋を取られる 一部分を貸しただけなのに、つけこまれて結 局は全部を取られてしまうこと。また、恩を 仇あだで返されることのたとえ。「軒を貸して 母屋を取られる」ともいう。 類義 借家栄えて母屋倒れる。片屋 貸して 母屋取らる。貸家栄えて母屋倒れる。飼い 犬に手を噛かまれる。 ひざ こ めぐすり 膝っ子に目薬 してもむだなこと、見当違いもはなはだしい ことのたとえ。膝に目薬をさしても何の効き 目もないことから。 類義尻に目薬。 ひざ膝とも談合だんごう どんな相手にでも、意見を求めてみればそれ なりの成果があるものだということ。考えが まとまらずに困ったとき、膝を抱えて考える が、それが自分の膝と相談しているようだと いうことから。∇談合∥話し合うこと。相 談。 ひざまくらほおづえ膝枕に頬杖 美人の膝を枕に寝るのと、所在なしに頬杖をついてぼんやりしているのとでは、たいへんな違いであるということ。また、気楽なことのたとえにもいう。 <545> 飛耳長目ひじちょうもく 物事の観察に鋭敏で、広く情報を収集し精通 していること。遠方で起こったことをよく聞 く耳と、よく見る目の意から。「長目飛耳」 ともいう。 ひしごなひじょいえな 罷士は伍無く罷女は家無し 出管子かんし 出管子かんし 疲れた兵士たちは隊列を組むことができない し、道徳にそむく女は家庭を持つことができ ないということ。▽罷士=疲れた兵士。伍= 隊伍。縦横にきちんと並んだ隊列の組。罷女 =道徳にそむく女。 ひじ秘事は睫まつげ 秘事・秘伝は意外に身近な所にあるが、気づ かないだけだというたとえ。目のそばにある のに見えないまつげのようなものだというこ と。「秘事は睫の如こと」ともいう。 ひしゃくうみか 柄杓で海を換える とうてい不可能なこと、苦労ばかり多くて成 果があがらないことのたとえ。ひしゃくで海 水をくんで海を移そうとするという意から。 類義蛤 はま ぐり で海をかえる。貝殻で海を干す。 ひじようひとあひじようことあ 非常の人有りて非常の事有り 出史記しき 非凡な才能を持った人が現れてこそ、世の常 ひじちょーびじんの ならぬ大事業が成されるのだということ。 補説出典には「世に必ず非常の人有りて、 然しかる後に非常の事有り。非常の事有りて、 然る後に非常の功有り(非凡の事業が成され てはじめて、ふだんとは違った大きな功績を あげることができる)」とある。 美女舌を破る 出戦国策 美女のために忠臣の言が遠ざけられ、政治が 乱されることのたとえ。△舌=ここでは諫臣 かん しん の舌。 故事中国晋人の献公が郭くを討とうとした が、郭には舟之僑しゅうしという忠臣がいて邪魔 であった。そのとき、荀息じゅんという者が「周 書」に『美女舌を破る』ということばがあり ます」と言って、郭に歌姫を送りこみ、政治 を乱したという。 美女は醜婦の仇 劣っている者がすぐれた者をねたんで逆恨み することのたとえ。美女は、みにくい女性に とってかたきであるということ。「美女は悪 女の敵 かた き 」ともいう。 出説苑ぜいえん て健康を害し、寿命を縮めて身を滅ぼすもと になるということ。↓伐性の斧528 補説出典には、このあとに「盛徳の士は乱 世の疏うとんずる所なり。正直せいちの行いは邪 枉じゃの憎む所なり(徳の高い人物は乱世に あっては嫌われる。正しい行いは、よこしま な心の者に憎まれる」とある。賢臣が悪臣 にねたまれることをたとえたもの。 美女は生を断つ斧 ひじょせいたおの 美人の色香におぼれることは、不摂生を招い 聖も時に遇わず 聖人といわれる人でも、世に受け入れられず 不遇に終わることもあるということ。△聖∥ 徳を積んだ高僧。 類義 孔子も時に会わず。 臂を齧む 出史記しき かたく誓うこと。決意を表明すること。「齧 臂 の盟」ともいう。 故事中国衛えいの呉起ごきが、自分を馬鹿にし た者を殺し、逃亡を図った。母と別れる際、 自分のひじをかんで、宰相となるまでは再び 国にもどらないと誓ったという。 美人に年なし 美人は、いくつになっても若く美しく見える ということ。 対義美人の終わりは猿になる。 美人の終わりは猿になる 美人は、年をとるとかえってふつうの人より みに いのだということ。 みにくく見えるものだということ。 補説中国唐の孫恪 そん かく という男が美人と結婚 して二児を得た。その後、役人となり長安に 行く途中、妻の希望により峽山寺 きよう ざんじ という 寺に立ち寄ったところ、たくさんの猿が妻の まわりに寄り集まってきた。実は、妻は昔こ の寺の僧が飼っていた猿であった。妻は夫へ の別れの詩を壁に記すと、老猿と化して猿の <546> びじんはーひだりは 群れに帰ってしまったという逸話による。こ の話の原話は、宋そうの李昉りほらの編による『太 平広記たいへいにあるとされる。 対義美人に年なし。 びじんい 美人は言わねど隠れなし 美人は、自分から言いふらさなくても自然と 世の中に知られるものだということ。 類義紅くれは園生そのに植えても隠れなし。 びじんはくめいかじんはくめい 美人薄命住人薄命141 ひすいはねもっみずかそこな 翡翠は羽を以て自ら害わる 長所が、かえって害を招くもとになることの たとえ。かわせみは美しい羽のために、人に 捕らえられるという意から。▼翡翠=かわせ み。水辺にすみ、背や尾が青く美しい小鳥。 類義孔雀くじは羽ゆえ人に捕らる。麝香 じゃこうは 臍へそ故命をとらるる。 日西山に薄る 出李密陳情表 年老いて、死がせまっていることのたとえ。 太陽が西の山の端に沈もうとしているという ことから。 補説出典には一日西山に薄りて、気息奄奄 えん たり(日が西の山に沈みかけているように、 息も絶え絶えになっている)とある。幼く して両親を失った自分を引きとって育ててく れた祖母の病状を述べたことば。 げせい 尾生の信しん どんなことがあっても、約束を固く守ること。 出荘子そうじ また、融通のきかない馬鹿正直のたとえ。 故事)中国春秋時代、尾生という男が女性と 橋の下で会う約束をした。なかなかやって来 ない女性を待ち続け、そのうちに大雨が降っ て水が増えても去らず、橋脚にしがみついて 女性を待ちながら溺れ死んだという。 ひそうけんひふけん 皮相の見皮膚の見564 いさ おおやけ ひそかに諫めて公にほめよ 人に注意するときは、人が見たり聞いたりし ていないところで注意し、ほめるときは人前 でほめるようにするのがよいということ。 鼻息を仰ぐ 出後漢書ごかんじょ 相手の機嫌をうかがうこと。他人の意向を知 ろうとしてびくびくしているさま。他人の鼻 息のようすを見上げるという意から。 類義鼻息はなを窺がうか。顔色を窺う。 出荘子そうじ ひそ顰みに倣う むやみに人の真似まねをすること。また、相手にならって同じことをするときに、あなたのなさるとおりにやりましょうと謙遜して言うことば。西施せいの顰みに倣うともいう。 故事 中国春秋時代、西施という美女が胸を 病んで郷里で療養中、苦痛のため眉をひそめ た。村のみにくい女がこれを見て美しいと思 い、自分もそのようにすれば美しく見えるだ ろうと眉をひそめてみたところ、村中の人に 気味悪がられたという。 用例シナの諺 わざことに、西施の顰みに 做う ということあり。美人の顰はその顰の間に自 ずから趣きありしが故にこれに倣いしことな れば未いまだ深く咎とがむるに足らずと雖いえも、 学者の朝寝になんの趣きあるや。〈福沢諭 吉・学問のすすめ〉 ひたいやた せやた 額に箭は立つとも背に箭は立 たず 勇敢に戦う武人の心がけを述べたことば。敵 の放った矢を額に受けることがあっても、敵 から逃げて背中に受けるようなことはしない ということ。「背」は「そびら」とも読む。 左団扇で暮らす 何の苦労もなく、仕事もせずにのんびり暮ら すこと。左手にうちわを持ってあおぎなが ら、毎日をのんびりと過ごせる身分の意から。 「左団扇を使う」ともいう。 左思いに右謗り 左の耳がかゆければ、人から思われているし るしであり、右の耳がかゆければ、人から悪 口を言われているしるしであるということ。 ひだりづまと 左褄を取る 芸者になることのたとえ。江戸時代に、芸者 が左手で着物の褄を持って歩いたことから。 マ褄=着物の裾の左右両端の部分。 ひだりかってみぎえて 左は勝手右は得手 どちらでも都合がよいこと。また、どんなこ <547> とでもうまくこなすことのたとえ。 ひだりひらめみぎかれい 左鯡右鰈 体の左側に両目がついているのがひらめであ り、右側に両目がついているのがかれいであ るということ。ひらめとかれいの見分け方。 補説必ずしもこのとおりとはいいきれず、 口の大きいのがひらめで小さいのがかれいと 見分けるのがよいともいわれる。 左前になる 物事が順調にいかなくなること。経営などが 不振になること。「左向きになる」ともいう。 ▶左前‖和服の正面から見て左内側を上にし て着ること。ふつうと反対の着方。 ひだるい時にまずい物 空腹のときには、どんな食べ物でもおいしく 感じられるものだということ。食欲に限ら ず、性的な欲望などの場合にも用いる。「空す き腹にまずい物なし」「ひもじい時にまずい 物なし」ともいう。 最高のソースである」 英語)Hunger is the best sauce. ひだるさ欠伸寒さ小便♩寒さ小便ひだ あくび るさ欠伸273 ひちゅう すなわかたむつきみ 日中すれば則ち昃き、月盈つ すなわか れば則ち食く えききよう 出易経 何事も繁栄をきわめると、あとは衰えていく ひだりひーひちょを ものだということ。栄枯盛衰は世のならいだ ということのたとえ。太陽は中天まで上る と、あとはしだいに西に傾いていき、月は満 月になると、あとはだんだん欠けていくこと から。∇昃く∥傾く。盈つる∥満つる。食く ∥日や月が欠けること。 美中に刺あり 美しい花にはとげがあるものだということ。 美しいもの、魅力的なものに油断してはなら ないという戒め。 ひちようつ りようきゅうぞう 飛鳥尽きて良弓蔵され、 狡 とし そうくに 兎死して走狗烹らる 出史記 必要なときには重用されるが、用がなくなる と簡単に捨てられることのたとえ。敵国が滅 びると、戦いで手柄を立てた功臣も不要に なって殺されるということ。鳥がいなくなれ ばよい弓もかたづけられ、兎 うさ が死ねば猟犬 がいらなくなり、煮て食われてしまうという 意から。 補説中国春秋時代、越王句践 を助けて呉 王夫差ふさを破った范蠡はんが、句践の人柄を頼 むに足りないと見抜き、野に下ったとき、同 僚だった種に手紙を送り、君も越にいては 危険だから、早く去ったほうがよいとすすめ たときのことば。出典では「飛鳥」を「蜚鳥」 とする。「飛鳥尽きて良弓蔵さる」「狡兎死し て走狗烹らる」と、分けてもいう。 類義敵国破れて謀臣滅ぶ。 出淮南子えなんじ 強者は、ふだんは穏やかに見せておいて、い ざというときには激しく襲いかかるというこ とのたとえ。また、才能のある者は、平生は その才能を見せないということ。鳥が空から 獲物を襲うときは、まず首を伏せてからとび かかるということから。∇摯つ∥捕らえる 意。 補説出典では、このあとに猛獣の擢つかむ や其の爪を匿かくす(猛獣が獲物をつかまえる ときは、自分の爪をかくす)と続く。 ひちようひとよおのれん 飛鳥人に依れば自ずから憐 あいくわ 愛を加う 出旧唐書 飛ぶ鳥も人になついて寄ってくれば、人のほ うでも自然にその鳥をあわれみ愛するように なるもので、人間同士の場合でも同じである ということ。 類義 窮鳥懐に入いる。 袖の下に回る子は打 たれぬ。 ひちょうしなヒ箸を失う 出二国志 レ。 故事 中国三国時代、蜀 の劉備 うび が魏 の 曹操 そう と食事をしたとき、曹操が「天下の英 雄はあなたと私だけだ」と言った。これを聞 いた劉備は、曹操が自分を好敵手として評価 <548> びちんはーひっぷつ しているのを知って驚き、思わず、さじとは しを落としたという。 美疾は悪石に如かず 一時的な愛情よりも正しい訓戒のほうが有益であることのたとえ。甘やかさないで、厳しくきたえなければいけないということ。おいしい物は体をこわすので、苦い薬には及ばないという意から。▶美疢‖美味ではあるがかえって毒になるもの。悪石‖苦い薬。 出春秋左氏伝 筆硯を新たにする 文章や詩の構想・構成などを全面的に変更し て書き改めること。∇筆硯∥筆とすずり。転 じて、文章。また、文章を書くこと。 ひっこうけんでん筆耕硯田 文筆で生計を立てること。硯 見立てて、筆で硯の田を耕す意から。 ひつじとらか 外面ばかり立派で実態が伴わないこと。見か けだおし。また、他人の権力をかさに着るこ とのたとえ。 羊の番に狼 羊虎を仮る 類義 羊質虎皮 ようし つこひ 虎の威を借る狐 きつ ね 刻々と死が近づいていることのたとえ。食肉 処理場に引かれて行く羊のような、力のない 歩みという意から。また、歳月。時。 きわめて危険なこと。間違いを起こしやすい 状態のたとえ。また、非常に残酷なこと。羊 を食べる狼に羊の番をさせる意から。 類義猫に鰹節 かつお。 ぶし 狐 きつ ね に小豆飯。 盗人に 鍵を預ける。 盗人に蔵の番。 羊の歩み ろうおぎな 羊を亡いて牢を補う 出戦国策 あやまちを悔い改めることのたとえ。また、 手遅れになってからするたとえ。羊に逃げら れてから檻おりの修理をする意から。 補説出典には「兎 うさ を見て犬を顧 かえ りみ るも、 未 いま だ晩 おそ しと為な さず。羊を亡いて牢を補 うも、未だ遅しと為さず(兎を見つけてから 猟犬を用意しても、まだ遅いわけではない。 羊に逃げられてから小屋を修理しても、まだ 遅いわけではない)」とある。 おおかみしょう 羊をして狼に将たらしむ 出史記しき 力の弱い者を、強兵を率いる大将とすること のたとえ。 故事)中国漢の高祖のとき、謀反を鎮圧する ため、病気中の高祖は太子を自分のかわりに 出撃させようとした。そのとき、四皓(四 人の老賢人)が諫いきめて、「今、太子をして之 これに将たらしむるは、此これ羊をして狼に将た らしむるに異なるなし(今太子にかれらを率 いさせるのは、弱い羊に強い狼の指揮をとら せるようなものである)」と言ったという。 羊を以て牛に易う 出孟子もうし 小さなものを大きなものの代用にすること。また、本質的に違いはなくても、よりよいものにしようと工夫することのたとえ。いけにえの牛をあわれんで羊にかえることから。 故事)中国、梁りの恵王が、あるとき儀式の いけにえにする牛を引いている者を見た。王 が「牛が恐れおののいているようすは見るに 忍びない」と言うと、「では儀式はおやめに なりますか」とその者が尋ねた。王は「いや、 やめることはできない。羊を牛の代用としな さい」と答えた。 ひつぜつ 筆舌に尽くし難い 程度が甚だしくて、文章や言葉では表現でき ないほどであること。「筆紙に尽くし難い」 ともいう。▷筆舌‖文章に書くことと口で話 すこと。 ひっぷつみ 匹夫罪なし、 たま いだ そ 璧を懐けば其れ 罪あり 出春秋左氏伝 身分不相応なものを持つと思わぬ災いを招く ということ。もともとは罪のない凡人も、自 分に不似合いな財宝を持ったばかりに罪に陷 るようになるということから。「璧を懐けば 其れ罪あり」だけでも使う。∇匹夫∥身分の 低い男。教養のない男。 補説中国春秋時代、美しい玉を持っていた 虞叔ぐしが、それをしきりに欲しがる兄の虞公 ぐこに譲ったときのことば。出典には「周の諺 <549> ことにこれ有り。匹夫罪なし、璧を懐けば其 れ罪ありと。吾われ焉いずくんぞか此これを用い ん。其れ以もって害を賈かうなり私にとって玉 は何の役にも立たない。災難を受けるもとで ある)とある。 類義小人 罪なし、玉を懐いて罪あり。 英語 The ant had wings to do her hurt 「蟻ありは羽を得たために我が身を傷つけた」 ひっぷゆう 匹夫の勇 出孟子もうし 思慮もなく、血気にはやるばかりの小さな勇 気のこと。△匹夫‖身分の低い男。教養のな い男。 補説出典には「王請こう小勇を好むこと無 かれ。夫それ剣を撫ぶし疾視しして日いわく、彼 悪いずくんぞ敢あえて我に当たらんや、と。此こ れ匹夫の勇、一人にんに敵する者なり王は小 勇を好んではいけません。剣を撫でてにら みつけ、むやみにいきまくのは匹夫の勇で、 たった一人を相手にするだけのことです)」 とある。孟子が斉せいの宣王に言ったことば。 用例けだし聖人君子高僧等より見れば、普 通にわれわれの賞賛する武勇は猛獣の勇気に 類したもので、孟子のいうところの匹夫の勇 に過ぎぬ。わが武士道においてもかくのごと き勇気をもって猪勇ちょと称し、深く尊敬しな かったものである。〈新渡戸稲造◆自警録〉 匹夫も志を奪う可からず 圧力をかけても変えさせることはできないと いうこと。△匹夫‖身分の低い男。教養のな い男。 平凡であっても志のある者の意志はどんなに ひっぷのーひといず 出論語ろんご 補説出典には、この前に三軍も帥す うべきなりどんな大軍でもその総大将を奪 い取ることはできる」とある。 英語 A man may lead a horse to the water but he cannot make him drink. を水辺へつれていくことはできても、無理に 水を飲ませることはできない ひつようはつめい必要は発明の母 発明は必要に迫られることから生まれるということ。 補説 英語のことわざ Necessity is the mother of invention.の訳。 類義 窮すれば通ず。 英語)Drought never brought dearth. 照りが飢饉をもたらしたためしはない ひ ひ き ひ 火で火は消えぬ 力に対して力で張り合っていては、争いは激 しくなるばかりで治まらないということ。強 く出るばかりが解決法ではないということ。 対義火は火で治まる。毒を以もって毒を制 す。 ひであめかんてんじう 日照りに雨↓千天の慈雨165 日照りに不作なし 日照りの続く年には、一部には干害があるか もしれないが、全体からみれば豊作で米の収 穫は多いということ。 類義旱魃かんに飢饉なし。 不似合いなことのたとえ。晴れた日に歯の高 い雨天用の下駄げたをはくことから。▷木履‖ 厚い木の台の底をくりぬいて作った少女用の 下駄。ぽっくり。 他人から奪い取ったものは、結局は自分の手 から離れてしまうということ。他人のあかで 汚れた湯に入っても、自分の身には付かない ということから。 類義悪銭身に付かず。 ひとあとしげ 人跡繁ければ山も窪む じんせきしげ 人跡繁ければ やま くぼ 山も凹む 333 ひと 人ある中に人なし 世の中には大勢の人がいるが、真にすぐれた 人物はなかなかいないということ。 英語 A crowd is not company. 人が集 まったというだけでは仲間とはいえない 人焉んぞ廋さんや 出 論語 ろんご 人は自分の本性や心の中の考えを隠そうとしても、最後まで隠し通すことはできない。人の真の姿は必ず外に現れるものだということ。 補説出典にある孔子のことば。「其その以な す所を視み、其の由よる所を観み、其の安んず <550> ひといたーひとこそ る所を察すれば(その行為、動機、落ちつく ところを調べれば)人焉んぞ廋さんや、人焉 んぞ廋さんや」とある。 ひといた人至って賢ければ友無し 出孔子家語こうしけご 人はあまりに賢明すぎると、他人から敬遠さ れて仲間ができないということ。 補説出典には「水至って清ければ即ち魚 うお 無く(水が清らかすぎると魚がすみつかな くなり)、人至って察さっ(賢明)ならば則ち 徒と(仲間)無し」とある。 類義人盛んにして神崇たらず。人定まりて 天に勝つ。 類義水清ければ魚棲すまず。 ひとうらちがななうらちが ひとうらちが一浦違えば七浦違う 一浦違えば七浦違う 一つの漁村の漁の善し悪ぁしが、その付近の 漁村にも大きな影響を及ぼすこと。 ひとおお てんか 人衆ければ天に勝つ 人衆ければ天に勝つ 出史記 しき 人数が多く勢力が強いときは、天が示す道理 に逆らっても一時的にはそれが通るというこ と。「人盛んなるときは天に勝つ」ともいう。 ∇衆い∥多い。 人各能あり不能あり 補説)中国春秋時代、楚その平王に父や兄を 殺された伍子胥 しは、平王の死後にその墓を あばいて屍 しか ばね を三百回むちで打ち、恨みを晴 らした。そのむごさを、楚の申包胥 しんほ うしよ が非 難したことばの一節。出典には、続けて「天 定まれば、必ず亦また能よく人を破る(天の道 理が定まれば、必ずまた人の悪徳を打ち負か すものだ)」とある。 出春秋左氏伝 人にはそれぞれ長所と短所、得意と不得意が あるということ。 ひとかならみずかあなどしかのち 人必ず自ら侮りて然る後に ひとこれあなど 人之を侮る 出孟子 自分で自分を軽んじ侮れば、他人もその人を 侮るようになる。災いを受けるのは、自らに 原因があるということ。「自ら侮りて後人之 を侮る」ともいう。 補説出典では、このあとに「家必ず自ら毀 やぶりて而しかる後に人之を毀る。国必ず自ら伐 ちて而る後に人之を伐つ(自分の家庭を壊す ようなことをすると他人がつけ込んで崩壊さ せる。自国の政治を乱していると他国に討ち 破られる)」と続く。 ひとくうまあくち人食い馬にも合い口 どんな乱暴者にも、頭のあがらぬ人や気の合 う人がいるということ。かみつく癖のある馬 でも、相性のいい人にかかれば従順で暴れな いという意から。「人噛かみ馬にも合い口」「噛 む馬にも合い口」「人食らい馬にも合い口」 ともいう。 類義 蹴る馬も乗り手次第。癖ある馬に乗り あり。 ひとくすなわくすあま人屑と縄屑は余らぬ 縄の切れ端も何かの役に立つように、人も取り柄がないようでも何かの役に立つものであるということ。 類義野老屑ところと人屑は余らない。女と塩 肴 しおざ かな は余らない。 一口物に頬を焼く 小さなことに手を出して、思わぬ失敗をする ことのたとえ。ほんの一口で食べられるくら いの小さな食物で、口の中をやけどするとい うこと。 類義一口物の頬破り ひとこ 人肥えたるが故に貴からず 出実語教 外見が立派だからといって、すぐれた人物と はかぎらない。人の価値は、外見ではなく見 識や徳など内面的なものによって決まるということ。 補説出典には「人肥えたるが故に貴からず、 智ち有るを以もって貴しと為なす」とある。 類義山高きが故に貴からず。 ひと人こそ人の鏡 出書経しょきよう 鏡を見て姿を正すように、他人の言動は自分 の身を正すのによい手本となるということ。 補説出典には「人は水に監かんみる無く、当 まさに民に于おいて監みるべし(水鏡に自分を映 して見ることをせず、人民の声によって我が <551> 身を反省するのがよい」とある。 類義人の振り見て我が振り直せ。人を以もっ て鏡と為なす。 ひとごといかげうわさかげ 人事言えば影がさす噂をすれば影が さす96 ひとさか 人盛んなるときは天に勝つ ひとおお 人衆けれ てんか ば天に勝つ 550 ひとさか人盛んにして神祟らず 人間の運勢が盛んで強いときは、たとえ神仏 といえどもそれを妨げることはできないということ。「人盛んなれば神崇らず」ともいう。 類義凡夫盛んに神崇りなし。神力勇者に 勝たず。仏力 りき ぶつ も強力 りき ごう に勝たず。人衆 おお け れば天に勝つ。 ひとさけのさけさけのさけひと 人酒を飲む酒酒を飲む酒人を の 飲む はじめは人は楽しんで酒を飲んでいるが、そ のうちに酔った勢いで酒を飲むようになり、 さらに酒に飲まれて悪酔いをしてしまうということ。 一杯は人酒を飲む二杯は酒酒を飲む三杯は酒人を飲む ともいう。 一筋縄でいかぬ ふつうのやり方では、思うようにならないと いうこと。一癖ある人物や、非常にやっかい な問題を扱うときに用いる。「一筋縄ではい かない」ともいう。 ひとごとーひとい 私は乳癌にゆうがんを癌のうちでは最も治療の容易なものと見くびっていたが、長畑さんの話をきいてみると、なかなかもって一筋縄では行かないシロモノであるらしい。坂口安吾・わが精神の周囲〉 ひとすじ 一筋の矢は折るべし、十筋の 矢は折り難し 単独では小さな力でも、団結すれば大きな力 になるということ。「一筋の矢は折るべし、 十筋の矢は折るべからず」ともいう。 類義 単なれば折れ易 やす く、 衆なれば則 すな ち 摧 くだ け難し。 英語 In union is strength. [団結すると強くなる] 人その子の悪を知ることなし 出大学だいがく 補説出典には「人其その子の悪くきを知る 莫なく、其の苗の碩いなるを知る莫し(他人 をうらやむあまり自分の苗が大きく生長して いることを知らない」とある。 ひとたびな一度鳴けば人を驚かす ると人をあっと驚かすような大きなことをす るということ。↓三年蜚ばず鳴かず281 ふだんは何もしないが、いったん何かを始め 補説出典には「是この鳥は飛ぶこと無しと 雖いえも、飛べば将まさに天に沖いたらんとす。鳴 くこと無しと雖も、鳴けば将に人を駭 おど ろ かさ んとす」とある。同様の話が『史記』にも見 える。 出呂氏春秋 ひとあなむじなおなあなむじな 一つ穴の絡 ↓同じ穴の絡 116 ひと あね こ も 一つ姉は買うて持て 一つ年上の姉さん女房は所帯のやりくりが上 手なので、買ってでも妻にするとよいという こと。「一つまさりの女房は金かねの草鞋わらで 探しても持て」ともいう。 ひとなべものくおなかまめしく 一つ鍋の物を食う♩同じ釜の飯を食う 116 ひと一つよければまた二つ 人の欲には限度がないということ。一つ願い がかなうと、また新たに願いが生まれるという 意から。 類義思うこと一つ叶かなえばまた一つ。 人と入れ物は有り合わせ 人も入れ物も、多ければ多いで便利であるし、 少なくてもそれなりに用が足りるものであ る。ありあわせのものをうまく利用するのが よいということ。「人と入れ物とは有り合い」 「人と器は有り合わせ」ともいう。 「類義」有れば有り物使い。 <552> くそは 人通りに草生えず 人の往来の多い所には草が生えないというこ と。ふだんよく使っている道具は、さびつく ことがないという意にも用いる。 類義 繁盛の地に草生えず。 使っている鍬くわ は光る。 ひとときちが一時違えば三里の遅れ 少しの間でもぐずぐずしていると大きな遅れ ができてしまうということ。出発が一時遅れ ると、道中に三里の遅れを生じるという意か ら。「一時三里ひとときさんり」ともいう。△一時ニ約 二時間。三里ニ約十二キロメートル。 ひと たばこ よ あ けむり 人と煙草の善し悪しは煙と よ で なって世に出る 煙草の善し悪しは煙になって初めてわかるよ うに、人の真価は焼かれて煙になった死後に わかるということ。 類義棺かんを蓋おおいて事定まる。 ひとびょうぶす 人と屏風は直ぐには立たず 屏風は曲げなければ立たないように、人もと きには妥協しなければ世の中を渡ってはいけ ないということ。 類義商人 あき と屏風は曲がらねば立たぬ。屏 風と商人は直ぐには立たぬ。 ひととかめひとと人捕る亀が人に捕られる ことのたとえ。人を捕って食おうとした大亀 が人につかまってしまうという意から。「鼈 べっ人を食わんとして却かえって人に食わる」(鼈 ∥亀)ともいう。 人を害すれば、自分も人から害されるという 類義人を食う狼 かりゅ 人を謀れば人に謀らる。 賈わな にかかる。 は人に捕らる。 狩人 ひとうものひとおそ人に受くる者は人を畏れ、 に予うる者は人に驕る 出 説苑 他人から恩恵を受けると卑屈になり、反対に 他人に恩恵を施すとおごり高ぶることにな る。恩恵の授受は軽率に行ってはならないと いう戒め。 ひとかほつものかなら 人に勝たんと欲する者は、必 まみずかか ず先ず自ら勝つ 出呂氏春秋 他人に勝とうとすれば、まず自分の心にうち 勝たなくてはならないということ。 補説出典では、このあとに「人を論ぜんと 欲する(批判しようとする)者は、必ず先ず自 ら論じ、人を知らんと欲する者は、必ず先ず 自ら知る」と続く。 ひと 人に三怨有り 出列子 他人から怨うみや妬みをかう原因となるもの が三つあるということ。地位が高いこと、職 権が大きいこと、給与が多いことの三つがそ れである。↓孤丘 この誠いま め243 ひと 人にして古今に通ぜずんば馬 ぎゅう 牛にして襟裾するなり 出韓愈ー詩しかんゆし 学問を身につけてはじめて人間として価値が あるということ。人は、無学で古今の道理も 心得ていなければ、馬や牛が着物を着ている のと同じであるという意から。△襟裾〓着物 の襟と裾。転じて、衣服を着るという意。 補説 詩の題名は 符ふ書を城南に読む。 ひと ぜんげんあた ふはく 人に善言を与うるは布帛より 出荀子じゅんし も煖かなり 人を思いやり、ためになることばをかけること とは、着物を与えるよりも暖かみのあること である。▷布帛‖木綿と絹。織物の総称。 補説出典では、このあとに「人を傷つくる の言は、矛戟 げき よりも深し(矛で突き刺すよ りも深く心を傷つける)と続く。 ひとせんにちこうなはなひゃくにち 人に千日の好無く、花に百日 こうな の紅無し 出通俗編 人の好運や幸福はずっと続くことはないこと。人が千日も長く幸福ということはなく、花が百日も長く赤く咲いていることはない意から。また、人との親しい交際も長くは続かないものだということ。「人に千日の好み」 <553> ひとつかしものしか人に事うるを知る者にして然る後に以て人を使うべし 人に仕える苦労を知る者こそが、人をうまく 使うことができるということ。 出孔子家語こうしけご ひと ななくせわ 人に七癖我が身に八癖 だということ。 だれにでも七つぐらいは癖があり、人を見る と癖が多いように見えるが、自分にはもっと 多くの癖があると思うべきだということ。 類義人に七癖我が身に十癖。無くて七癖。 ひとあやまいあ 人には飽かぬが病に飽く その人自体に飽きるわけではないが、その人 の病気に飽きるということ。長患いが周囲の 者を圧迫することをいう。 ひと そ 人には添うてみよ、馬には の 乗ってみよ 何事も経験してみなければ、そのよさはわか らないというたとえ。人の本質は親しくして みなければわからないし、馬の善し悪ぁしも 乗ってみなければわからないということ。 「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」「人 と馬には乗ってみよ添うてみよ」ともいう。 ひとひとくせ 人に一癖 出白居易詩 人にはだれにでも一つぐらいは癖があるもの ひとにつーひとのい 補説詩の題名は山中の独吟 どく。 人各 おの 一癖 いっ いき 有り、我が癖は章句(詩文を作ること) に在り」とある。 類義 無くて七癖。 ひとほどこつつしおも人に施しては慎みて念うこと 出 崔瑗座右銘 人に与えた恩恵は、恩着せがましいので早く 忘れるように心がけよという戒め。 補説「座右銘」はかたわらに置いて自分の 戒めとする格言の意。出典には「人の短を道 いうこと無かれ、己の長を説くこと無かれ。 人に施しては慎みて念うこと勿れ、施しを受 けては慎みて忘るること勿れ(人の短所を非 難してはいけない。自分の長所を自慢しては いけない。人に与えた恩は早く忘れなければ ならない。人から受けた恩は決して忘れては ならない」とある。 ひとよことな 人に因りて事を成す 出史記 他人の力に頼って事を行うこと。自立心のな いこと。 味。 ひとあたまはえお わあたまはえお 人の頭の蠅を追うより我が頭の蠅を追 あたまうえはえお え頭の上の蠅を追え20 ひとあやまわしあわ 人の過ち我が幸せ 他人の失敗が、自分にとっては気分のいいものであることをいう。 類義隣の貧乏は鴨かもの味。人の不幸は蜜の ひといけんしじゅう 人の意見は四十まで 意見して効き目のあるのは四十歳までである ということ。また、その年輩になったら本人 の分別に任せるのがよいということ。 ひと いた さんねん しんぼう 人の痛いのは三年でも辛抱す る 自分と無関係のことは平気でいられる。他人 の苦痛はいくらでも傍観できるということ。 類義人の痛いのは百年でも堪える。 対義人の疝気せんきを頭痛に病む。 ひと いっしょう おもに お とお 人の一生は重荷を負うて遠き みちゆ ごと 道を行くが如し 人の一生は苦しく長いもので、生きていくに はたゆまぬ努力と忍耐が必要だということ。 補説『徳川家康遺訓 とくがわいえ やすいくん』とされるもの の冒頭の一節。『論語』の「任重くして道遠し」 をもとにしたことば。 英語 The life of man is a winter's day and a winter's way. [入の一生は冬の日のように短く、また冬の道(のように泥だらけ)である] 人の一寸我が一尺 他人の欠点は小さくても目につくが、自分の 欠点はどんなに大きくても気がつきにくいと いうこと。「人の一寸は見ゆれど我が一尺は <554> ひとのいーひとのこ 見えず」ともいう。△一寸=約三センチメー トル。一尺は一寸の十倍。 類義人の七難より我が十難。我が身の一尺 は見えぬ。 ひといのちばんぽうだいいち人の命は万宝の第一 人の命は、この世にたくさんある宝の中でも もっとも大切なものであるということ。 類義 命に過ぎたる宝なし。命は宝の宝。 ふかぜわみ 人の上に吹く風は我が身にあ たる 人の身の上に起こったことは、いつか自分の 身の上にも起こるかもしれないので、他人事 ひとと思ってはいけないということ。 類義昨日は人の身、今日は我が身。人の事 は我の事。 ひとうえみわみおもひとふみ 人の上見て我が身を思え人の振り見 わふなお て我が振り直せ556 ひとうそわうそひとそらごとわ 人の嘘は我が嘘となる♩人の空言は我 そらごと が空言555 ひとうわさしちじゅうごにち 人の噂も七十五日 ひとうれこのひとしな 人の患いは好みて人の師と為 るに在り 出孟子 人のとかく陥りがちな悪い癖は、それほどの 学識や技量もないのに、人の師になりたがる ことである。むやみに人の師となり、慢心し て努力を怠ることに対する戒め。 世間で人があれこれうわさをするのも一時的 なもので、しばらくすると自然に消えてしま うということ。 類義善きも悪あしきも七十五日。世の取り 沙汰も七十五日。人の上は百日。 英語 A wonder lasts but nine days. 不 思議に思うのも九日だけ 人の噂を言うは鴨の味がする 人のうわさ話をするのは実に楽しく、おいし い鴨の肉を味わうようであるということ。 類義人を謗そしるは雁がんの味。 ひとおどときおど人の踊る時は踊れ みんなが何かをするときには、自分も一緒に なってするのがよいということ。 類義郷に入りては郷に従う。 ひとおのれし 人の己を知らざることを患え ひとしうれ ず、人を知らざることを患う 出 論語 ろんご 人が自分を認めてくれないことよりも、自分 が人の価値を知らないことを心配すべきだと いうこと。 人の口に戸は立てられぬ ることはできないという意から。「世間の口 に戸は立てられぬ」ともいう。 用例こうして一旦は納まったものの、お節 の入水じも久兵衛きゅうの変死も近所ではみな 知っているのであるから、人の口に戸は立て られぬという譬たとの通りで、その噂うはそれ からそれへと伝わって、神田の吉五郎の耳に もはいった。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 ひと くらく かべひとえ 人の苦楽は壁一重 壁一重のへだてによって隣家のようすがわか らないように、他人の苦しみや楽しみは、そ れがどんなに切実でも、しょせん他人事 しか感じられないということ。 ひところさんせん けわ じんしんさんせん 人の心山川より険し ↓人心は山川より けわ 険し332 ひところおもてごとじんしんおな 人の心は面の如し人心の同じからざ そおもてごと るは其の面の如し332 ひとこころくぶじゅうぶ人の心は九分十分 人の考えることは皆似たりよったりで、大き な違いはないということ。「人の心は九合十 合ゆうごう」「人の目は九分十分」ともいう。 人の事は我の事 他人事ことだと思っていることも、いつ自分の ことになるかわからないということ。 類義昨日は人の身、今日は我が身。人の上 に吹く風は我が身にあたる。 <555> ひと 人の事より我が事 人の世話を焼くよりも、まず自分のことに気 を配れということ。また、人に同情するより も、自分の利益を第一に考えよということ。 類義頭の上の蠅はえを追え。 人の子の死んだより我が子の転けた 人は自分の利害得失を第一に考えるというこ と。人の子が死んだことより、自分の子が転 んだことのほうが一大事だという意から。 類義人の十難より我が一難。 ひと人の牛蒡で法事する 人の物を使って自分の義務を果たすこと。 類義人の褌ふんで相撲を取る。他人の念仏で 極楽詣まいり。 ひと人の七難より我が十難 人の欠点はよく目につくが、自分の欠点は容易には気がつかないものだということ。他人の欠点を責めるよりも、それ以上にある自分の欠点を反省せよという意から。「人の七難より我が八難」ともいう。∇難=ここでは、欠点の意。 ひと じゅうなん 人の十難より我が一難 大問題のように感じるものだということ。 類義人の子の死んだより我が子の転こけた。 人にふりかかる災難は何とも感じないが、自 分の身にふりかかる災難はわずかなものでも ひとのこーひとのた 出菜根譚 他人の些細なあやまちを責めると、その人 の恨みを買い、災いを招くことになるという 戒め。小過小さなあやまち。 補説出典には「人の小過を責めず。人の陰 私いんを発あばかず。人の旧悪を念おもわず。三 者、以もって徳を養うべく、亦また以て害に遠ざ かるべし(人の小さな過失を責めない。人の 隠し事をあばかない。人の過去に犯した罪を いつまでも心にとめない。この三つを守れば 自分の徳を養うことができ、人の恨みによる 災いを避けることができる)とある。 ひと せなか 人の背中は見ゆれど我が背中 み は見えぬ 人のことはよくわかるが、自分自身のことに なると気がつかないものだということ。 ひと ぜんあく はり ふくろ い 人の善悪は針を袋に入れたる ごと が旧し 針を袋に入れると針の先が袋を突き通して外 に出るように、人の善悪は隠しとおせるもの ではなく、自然と外に現れるものだというこ と。「人の善悪は錐きり囊ふくを通す」ともいう。 ひとせんきずつうや 人の疝気を頭痛に病む が如し 気を心配して頭痛になるという意から。「他 人の疝気を頭痛に病む」ともいう。▷疝気= 漢方で、下腹部から腰部にかけての病気。 類義隣の疝気を頭痛に病む。 他人のことでいらぬ心配をすること。人の疝 対義人の痛いのは三年でも辛抱する。人の 痛いのは百年でも堪える。 人がついたうそでも、それを受け売りしてほ かの人に話せば、自分がうそをついたことに なる。他人の言ったことをよく吟味しないで 人前で話すものではないということ。 類義人の嘘うそは我が嘘となる。 ひとたからかぞ 人の宝を数える↓隣の宝を数える470 ひと人の太刀で功名する 他人の物を利用して、手柄を立てたり利益を 得たりすることのたとえ。 類義人の牛蒡ごぼで法事する。人の褌ふんで相 撲を取る。人の提灯ちよう ちん で明かりを取る。 ひとたのきょうよ 人の頼まぬ経を読む 人から頼まれもしないのに差し出がましいこ とをすることのたとえ。 ひとたんい 人の短を道うこと無かれ、己 ちょうとな の長を説くこと無かれ 出 崔瑗ー座右銘 人の短所を非難してはいけない、自分の長所 <556> ひとのなーひとのみ を自慢してはいけないということ。↓人に施 しては慎みて念おもうこと勿なかれ553 ひとなさみあだひとつら 人の情けは身の仇、人の辛き みたから は身の宝 人から情けをかけてもらうと、それに甘えて かえって自分のためにならず、人からの無情 な仕打ちは、そのときはむごいと思っても、 将来自分のためになるということ。 ひとなさとき人の情けは世にある時 人が好意を寄せてくれるのは、こちらが世間 でもてはやされているときだけで、ひとたび 落ち目になると顧みられなくなるものだということ。「人の情けは世にある程ほど」ともい う。 ひとにようぼうかきえだ 一人の女房と枯れ木の枝ぶり よかろうが悪かろうが、とやかく言うべき事 柄ではないことのたとえ。他人の女房のこと をあれこれ言ってもつまらぬことだし、枯れ 木の枝ぶりをとやかく言っても直しようがな いという意から。 ひとはえおわはえおあたま 人の蠅を追うより我が蠅を追え↓頭の うえはえお 上の蠅を追え20 不幸なのは、蜜の味のように心地よいものだ ということから。「他人の不幸は蜜の味」と もいう。 ひと ふこう みつ あじ 人の不幸は蜜の味 他人の不幸を脇で見ているのは、気持ちのい いものだ。人は内心では何かにつけて人の幸 福をねたんでいるものだということ。他人が 類義 隣の貧乏は鴨かもの味。人の過ち我が幸 せ。 人の振り見て我が振り直せ 人の姿や行動を見てよいところを見習い、悪い ところは自分の姿や行動を改めよということ。 類義人の上見て我が身を思え。 英語 It is good to beware by other men's harms.「他人の受けた災いによって警戒心 を強くするのはよいことである」Learn wisdom by the follies of others.「他人の愚 行によって英知を学べ」 用例全く同じ方向を意図し、甲乙の無い努 力を以もて進みながらも或ある者は成功し、 或る者は失敗する。けれども、成功者すなわ ち世の手本と仰がれるように、失敗者もまた、 われらの亀鑑 きか とするに足ると言ったら叱ら れるであろうか。人の振り見てわが振り直 せ、とかいう諺 こと さえあるようではないか。 この世に無用の長物は見当らぬ。〈太宰治 花吹雪〉 人の褌で相撲を取る 人の物を利用して自分の目的に役立てること。 て、製品を運ぶ船が、毎月通っている点である。その船の冷蔵庫に入れさせてもらえれば、そのまま東京まできてしまう。もっとも、これは他人ひとの褌で相撲をとる計画ではあるが。〈中谷宇吉郎◆アラスカの氷河〉 類義人の牛蒡 ごぼ で法事する。人の太刀で功 名する。他人の念仏で極楽詣 まいり。 用例それはアラスカ・パルプ会社が、ジュノウの近くの島のシトカに工場をもってい 出 論語 ろんご 人の将に死なんとするや、そいよ 人の死にぎわのことばは、純粋で真実がこ もっているということ。 補説孔子の弟子曽子が臨終のきわに言ったことば「鳥の将に死なんとするや、其その鳴くこと哀かなし。人の将に死なんとするや、其の言うこと善し」から。 英語]Dying men speak true. [死に瀕ひんし た人は真実を語る] We are usually the best men when in the worst health. [最悪 の健康状態のときに、人は最高の精神の持ち 主になる] ひと 人の耳は壁につき眼は天に懸 かる 出童子教 陰で言っていることや隠し事も、どこかでだ れかが見聞きしているもので、すぐに世間に 知れ渡るものだということ。人の耳は壁につ いていて絶えず聞いており、人の目は天に あって常に見ているという意から。 補説出典には「人の耳は壁に付く、密ひそか にして讒言ぜんすること勿なかれ。人の眼は天 に懸かる、隠して犯し用いること勿れ」とあ <557> る。 類義壁に耳あり障子に目あり。 人の物より自分の物 人の持ち物はどんなによくても自分の自由に はならないから、つまらない物でも自分の物 のほうがよいということ。 類義借り着より洗い着。 ひと 人の行方と水の流れ ♩水の流れと人の すえ 末 619 わわろ 人の悪きは我が悪きなり 自分に対する人の態度がよくないのは、自分 のその人に対する態度がよくないからである ということ。 は末代」「家は一代名は末代」ともいう。 類義骨は朽ちても名は朽ちぬ。 ひといしがきひとしろ 人は石垣、人は城 甲陽軍鑑 国を守る根本は人であるということ。人は国 を守る城や、城を守る石垣にも匹敵するほど だいじであるという意から。 補説)戦国時代の武将武田信玄 たけだし んげん の軍事・ 政治の哲学を表現した歌「人は城、人は石垣、 人は堀、情けは味方、仇あだは敵なり」から。 出典に信玄の作として紹介されるが、さだか ではない。 ひといちだいなまつだい人は一代名は末代 われい 人の身は一代で滅びてしまうが、その名は永久に残るということ。名声が後世に残るような生き方をせよという教え、あるいは、恥になることをするなという戒め。「身は一代名 ひとのもーひとはだ 人は言わぬが我言うな 秘密は、人がもらさなくても、自分からつい うっかりもらしてしまうことがあるので用心 せよという戒め。 ひとおめだいじ 人は落ち目が大事 人は落ち目になったときこそ、援助したり情 けをかけてやらなければならないというこ と。また、自分が落ち目になったときには、 行動に注意して早く立ち直れるように努力し なくてはならないということ。 類義人は落ち目の志。 ひとかげ人は陰が大事だいじ 眉目みめよりただ心。 人が見ていない所でも、行いを慎むことが大 切だということ。「人は陰が本もと」ともいう。 類義君子は独りを慎む。影に慚じず。 ひとこきようはなたっと 人は故郷を離れて貴し 生まれ故郷では、家柄や生い立ちなどを知ら れているので、傑出した人でも貴ばれないも のだということ。 類義予言者郷里に容いれられず。 ひとこころひゃっかんめ 人は心が百貫目 人は、姿形よりも心の美しいほうが値打ちがあるということ。∇貫=銭を数える単位。一文銭千枚が一貫。 ひとしなとどとらしかわ 人は死して名を留め、虎は死して皮を とどとらしかわとどひと 留む虎は死して皮を留め、人は しなのこ 死して名を残す474 ひとじっさいきいちじょう人は十歳木は一丈 人は十歳、木は一丈ぐらいになると、将来ど うなるのか予測がつくということ。▷一丈∥ 約三メートル。 人は知れぬもの 人は、見かけだけではその本性がわからない ものだということ。また、人の運命は予測が できないということ。 ひとぜんあくとも 人は善悪の友による ぜんあくとも 善悪は友による 360 旗揚げる 事業を起こすなど、新しく運命を切り開いて 成功すること。▶一∥ちょっとした、の意。 用例旦那だんが一旗揚げると言って、この地 方から東京に出て家を持ったのは、あれは旦 那が二十代に当時流行はやの猟虎らの毛皮の帽 子を冠かぶった頃だ。〈島崎藤村・ある女の生 涯〉 一肌脱ぐ 人を援助するために力を尽くすこと。肌脱ぎ になって仕事をすることから。▶一=ちょっ <558> とした、の意。 ひと人は足るを知らざるに苦し 出後漢書ごかんじょ ひとはなさ 人の欲望にはきりがないということ。人は、 これで満足だということがなく、限りない欲 望が生じることに苦しむ意から。↓隴ろうを得 て蜀くを望む695 一花咲かせる 成功して、人目を引くような活躍をする。一 時いっ華やかな時期を送ること。△一花=一時 の栄華。「二」はちょっとした、の意。 人は情の下で立つ 人は、互いに思いやって生きてゆくものである。人の世は人情で保たれているということ。「人は情の下に住む」ともいう。 ひと ぬすびとひじょうもう 人は盗人火は焼亡 人を見たら泥棒と思い、火を見たら火事と 思って用心せよということ。「焼亡」は「しょ うぼう」とも読む。 類義人を見たら泥棒と思え。ひと 人はパンのみにて生くるもの 補説『新約聖書』マタイ伝にあることば、 Man shall not live by bread alone, but by every word that proceedeth out of the month of God. (入の生くるはパンのみによ るにあらず、神の口より出ぐずるすべてのこ とばによる)から。 人間は食物などの物質的なものだけで生きる ものではなく、精神的な生活を充実させるこ とが大切であるということ。 に非ず ひとばんぶつ人は万物の霊 出書経しょきよう 人間は、あらゆる生物の中でもっともすぐれ ているということ。▷霊‖はかり知れない力 のあるもの。 補説出典には「惟これ天地は万物の父母に して(天地はあらゆるものの父母たる存在で あり)、惟れ人は万物の霊なり」とある。 ひとひとなか 人は人中、田は田中 たなか 人は大勢の中でもまれ鍛えられるのがよく、 田はほかの田に囲まれた田が収穫が多くてよ いということ。 ひとぶしはなさくらはなさくらぎひとぶ 人は武士、花は桜花は桜木、人は武 土32 人は故きに如かず、衣は新しきに如か 似ぬもの。人は知れぬもの。あの声で蜥蜴 食らうか時鳥 ほとと○ ぎす 人は故きに若くは莫し261 英語 Appearances are deceitful. 外見は 当てにならない 人は見かけによらぬもの ひとみち 人は道によって賢し ぱいみち 芸は道によって 人の能力や性格などは、外見だけでは判断できない。人は外見に似ず、意外な一面を持っているものだということ。 類義人は上辺によらぬもの。人は見かけに 賢し219 人は眉目よりただ心 人は外見の美しさよりも、心の美しさのほうが大切であるということ。「見目より心」ともいう。∇眉目∥見た目。とくに顔だち。類義人は心が百貫目。人は心が目抜き。 英語Beauty without goodness is worth nothing.顔がきれいでも心が醜ければ何 の価値もない ひとみようがだいじ人は冥加が大事 人は神仙の恩恵を自覚して身を慎まなければ ならないということ。▷冥加=気づかぬうち に受けている神仙の加護・恩恵。また、それ に対するお礼。 ひとやまいうつわにんげんやまいうつわ 人は病の器人間は病の器501 ひとわろわれよ 人は悪かれ我善かれ 他人は不幸な目にあっても自分さえ幸せなら それでよいということ。利己的な態度や考え をあざけって言うことば。 人盛り 人の一生で盛んな時期は短いということ。 <559> ひとひと 人一たびにして之を能くすれ おのれこれひゃく ば、己之を百たびす 出中庸ちゅうよう 人が一回でうまくできることなら、自分は百回繰り返してでもうまくできるようにする。どんなことでも、人より努力して繰り返し行うことが大切であるということ。 補説出典では、このあとに「人十たびにし て之を能くすれば、己之を千たびす。果たし て此この道を能くすれば、愚と雖いも必ず明 めい、柔と雖も必ず強きよなりこの努力を続け ていけば、愚かな者も必ず明知の人となり、 柔弱な者も必ず強者となる」と続く。 ひとぼくせきあらぼくせきあら 人木石に非ず木石に非ず602 くりして食べていけるということ ひとまず 人貧しければ智短し うまや 馬瘦せて毛長し 92 ひとむらさめあま一村雨の雨やどり 村雨を避けようとして、知らない人と一緒に 雨宿りをするのも、深い因縁に結ばれている からだということ。マ村雨=局地的に降って すぐやむ雨。にわか雨。 類義 袖振り合うも多生 たし よう の縁。 類義 二人口 ぐち は過ぎるが一人口は過ごせ ない。 ひとりぐち 一人口は食えぬが二人口は食 える 独身者はむだな出費があり生活できないが、 結婚して夫婦二人になれば家計をうまくやり 一人喧嘩はならぬ ひとひとーひとりよ 争いの相手になるような愚かな真似まねはする なという戒め。相手がいなければけんかはで きないことから。 類義相手のない喧嘩はできぬ。 ひとりごくにはか 一人子は国に憚る 一人っ子は親が甘やかすためわがままな性格 に育つので、とかく世間のきらわれ者になる ことが多いということ。「一人子世に憚る」 ともいう。△国‖郷里。地域。世間。 独り自慢の誉め手なし 自分で自慢しているだけで、自分以外の人は だれもほめてくれないこと。 類義 独り善がりの人笑わせ。 ひとりたび 一人旅するとも三人旅するな ひとりこじき さんにんたび さんにんたび 三人旅 の一人乞食280 ひとにんくにろうかおお 独り任ずるの国は労して禍多 し 出管子 一人の裁量にすべてを任せる政治は、その人 がどんなに力を尽くしても骨が折れるだけ で、かえって災いが多いということ。すべて のことを一人で処理しようとしても、よい結 果が得られないということのたとえ。 補説出典には「独任の国は労して禍多し」 とある。「独任」を「独王」とする説もある。 ひとりせいごしゅうそかまびすた 一人の斉語、衆楚の咻しきに耐えず ひとりもんじゅさんにん一人の文殊より三人のたくら だ 一人の賢者の知恵よりも、たとえ愚者でも三 人集まって考え出したことのほうがよいとい うこと。「一人の文殊より三人」「一人の文殊 より十人のたくらだ」ともいう。「一人」は「い ちにん」とも読む。∇文殊∥文殊菩薩 ばさ つ のこ と。知恵をつかさどる。たくらだ∥麝香鹿 じゃこ うじか に似た獣。間抜けな性質で、愚か者のた とえにされる。 類義三人寄れば文殊の知恵。 ひとりむすめはるひ 一人娘と春の日はくれそうで くれぬ 一人娘は親がなかなか嫁に出さないことのた とえ。春の日がなかなか暮れないことから 「暮れぬ」と、嫁に「くれぬ」を掛けたもの。 ひとりむすめむこはちにんむすめひとりむこはちにん 一人娘に婿八人ゝ娘一人に婿八人632 独り善がりの人笑わせ 自分はよいと思っていても、他の人には馬鹿げて感じられることが多いということ。▷人 <560> ひとりをーひとをに 笑わせ∥他人の失笑を買うような行為や姿。 類義 独り自慢の誉め手なし。 ひとつつしくんしひとつつし 独りを慎む♩君子は独りを慎む213 ひとわれ つら 人我に辛ければ、 我また人に つら 辛し 相手が自分に対してひどいことをすれば、自 分もそれに応じた態度に出るということ。世 の中は相対的なものであるということ。 類義怨うらみに報ゆるに怨みを以もってす。目 には目、歯には歯。 ひと 人を射んとせば先ず馬を射よ 出杜甫ー詩し 相手を屈服させるには、まず相手が頼みとし ているものを攻め落とすのがよいというこ と。馬上の者を射とめるには、まずその馬を 射るのがよいということから。「将を射んと せば先ず馬を射よ」ともいう。 たん信用して用いた以上は、その者を疑って はならないということ。 補説詩の題名は『前出塞ぜんしゅ』。弓を挽ひ かんとせば当まさに強きを挽くべし、箭せん矢 を用いんとせば当に長きを用うべし、人を射 んとせば先ず馬を射よ、敵を擒とりにせんとせ ば先ず王を擒にせよ」とある。 ひとうたがつかなかひと人を疑いては使う勿れ、人をつかうたがなか使いては疑う勿れ出金史 信用できない者を用いてはならないし、いっ 人を怨むより身を怨め 出淮南子えなんじ 相手の冷たい仕打ちを怨むより前に、まず自 分に不徳な点がなかったかどうかを反省せよ ということ。 補説出典には人を怨むは自ら怨むに如し かず、諸これを人に求むるは諸を己に求めて得 うるに如かず」とある。 ひとしものちみずかし 人を知る者は智なり、自ら知 もの 出老子ろうし る者は明なり 人の賢愚を見分けることのできる者は知者で あり、自分自身を知り、正しく評価できる者 は、知者よりすぐれた明者であるということ。 ∇明∥聡明 そう めい の意。 補説出典では、このあとに「人に勝つ者は 力有り、自らに勝つ者は強し(人にうち勝つ ことのできる者は力があるといえるが、自分 自身に勝ち欲望を克服できる者こそ真の強者 といえる)」と続く。 ひとそしがんあじひとうわさいかも 人を謗るは雁の味人の噂を言うは鴨 あじ の味がする554 ひとたたよ 人を叩いた夜は寝られぬ 加害者は良心の呵責かしによって被害者よりも 苦しい思いをするということ。人をたたいた 日の夜は、心の痛みで安らかな気持ちでは眠 れないことから。「人を叩けば夜が寝られぬ」 ともいう。 類義人を踏んでは夜が寝られぬ。 人を恃むは自ら恃むに如かず 出韓非子かんびし 人を頼りにするよりも、自分で努力をして自 分自身を頼ったほうがよいということ。 ひとつか人を使うことは工の木を用う 出孔叢子くぞうし るが如くせよ 人を使うときは、大工が用途に応じた木材を 選んで使うように、その人物の能力や特性に 応じて、ふさわしい地位・仕事につけるのが よいということ。 補説出典には「夫それ聖人の人を官する(登 用する)は、猶なお大匠(大工)の木を用うる がごとし。其その長ずる所を取り、其の短な る所を棄すつ」とある。 ひとつかつかつかものつか 人を使うは使わるる↳使う者は使われ る431 人を憎むは身を憎む 人に対して憎しみをもてば、それがめぐりめぐって、いつか自分が人から憎まれることになるということ。 類義人を呪えば身を呪う。人を呪わば穴二 つ。我人に辛っちければ人また我に辛し。 <561> 人を愛する者は人恒つねに之これを愛す。 ひとのろあなふた 人を呪わば穴二つ 人に害を与えれば、やがて自分も害を受ける ようになるということ。人を呪い殺せば、そ の報いで自分も殺されることになり、墓穴が 二つ必要になるという意から。 類義人を祈らば穴二つ。人を呪えば身を呪 う。人を憎むは身を憎む。人を傷やる者は己 を傷る。 英語 Curses return upon the heads of those that curse. 返っくる[Harm watch harm catch.] に目を向けてると災いにあう 用例どこを咬かまれたのか知りませんが 忽 ちに毒がまわって死んだという訳です 人を呪わば穴二つとか云いうのは、まったく この事でしょう。〈岡本綺堂◆半七捕物帳〉 ひとはかひとはか 人を謀れば人に謀らる 出春秋左氏伝 人を陥れようとして計略をめぐらす者は、自 分もまた人のはかりごとによって、陥れられ ることになるということ。 補説出典には人を謀れば人も亦己を謀るとある。 ひと 人を見たら泥棒と思え 他人を軽々しく信用してはいけない、まず用心してかかれということ。 亡 じよう。 もう 明日は雨他人は泥棒。火を見たら火 事と思え。 類義 人を見たら鬼と思え。人は盗人火は焼 対義渡る世間に鬼はない。 英語 Give not your right hand to every man. だれかれにもやみに(握手をする)右手を出すな Man is a wolf to man. 人間は人間にとって狼 おお かみ である ひとをのーひとをも 用例人を見たら泥棒と思えというのが王朝 の農村精神であり、事実群盗横行し、地頭は ころんだときでも何か擱っかんで起き上るという 達人であるから、他への不信、排他精神と いうものは農村の魂であった。坂口安吾 統堕落論 ひとみほうと人を見て法を説け 人を説得したり諭したりするときは、相手の 性格・個性などを見極めて、その人にふさわ しい言い方をすることが必要であるというこ と。「人」は「にん」とも読む。 補説 釈迦 しゃ が仏法を説くにあたり、それぞ れの人の知識や性格の違いに応じたやり方で 行ったという説話から出たことば。 類義座を見て法を説け。機に因よりて法を 説け。 英語 All meat pleases not all mouths. らゆる肉があらゆる口を満足させるとは限ら ない[Beware what and to whom you speak. [話の内容と話しかける相手に注意 せよ] 用例すると、右門がうるさいといわんばかりに、ずばりと答えました。「人を見て法を説けというやつだよ。かりそめにも、に組の 鳶頭 とびが しら っていや、侍にしたら城持ち大名ほ どの格式じゃねえか。高飛びすりゃしたで顔 がきいているからすぐにわかるし、また江 戸っ子のちゃきちゃきが、そんなぶざまなま ねもしめえじゃねえか。大船に乗った気で、 晩のおかずの心配でもしなよ〈佐々木味津 三◆右門捕物帖〉 ひとも一 カカろな 人を以て鏡と為す 出貞観政要 人の言動を手本として、自分の行動を正す判 断基準とすること。他人の振る舞いの中にこ そ自分を導く手本があるということ。 補説)中国唐の太宗が侍臣たちに語ったこと ばから。出典には「夫それ銅を以て鏡と為せ ば、以て衣冠を正す可べし。古いにを以て鏡と 為せば、以て興替たいを知る可し(そもそも銅 を鏡とすれば、姿をうつし服装を正すことが できる。歴史を鏡とすれば、世の興亡盛衰を 知ることができる)。人を以て鏡と為せば、 以て得失を明らかにす可し(長所や欠点を明 らかにすることができる)とある。 類義 人の振り見て我が振り直せ。人こそ人 の鏡。 出 論語 ろんご 人を以て言を廃せず どんな人の意見でも、その内容が立派であれ ば、捨てずにそれを聞き入れる。人柄が悪い からといって、その人の意見まで無視するよ うなことはしないという意から。「人を以て 言を捨てず」ともいう。 補説孔子のことば。「君子は言を以て人を 挙げずことばだけで人を信用したり、推挙 <562> ひとをもーひのきゃ したりはしない。人を以て言を廃せず」と ある。 狽義狂夫の言も聖人之これを択とる。 英語 If the counsel be good, no matter who gave it. [助言がよいものなら、だれが それを言おうと問題ではない」 ひともてあそとくうしな人を玩べば徳を喪い、 もてあそこころざしうしな 玩べば志を喪う 物を 出書経しよきよう 人を軽く見てあなどると、自分の徳を失うこ とになり、物を過度に愛好すると、道を求め る志まで失うことになるということ。 類義 玩物喪志 がんぶつ。 そうし ひとやぶものおのれやぶ人を傷る者は己を傷る 他人に害を加える者は、自分もまた害を受け るということ。 類義人を呪わば穴二つ。 鄙に都あり に油をそえる。燃える火に薪を添う。吠える 犬にけしかける。駆け馬に鞭むち。飛脚に三里 の灸きゅ。帆掛け船に櫓を押す。 田舎にも都会のようににぎやかな所、優美な 点があるということ。▽鄙=都から遠く離れ た所。田舎。 類義田舎に京あり。山の奥にも都あり。 英語 Bring oil to the fire. 火のある所へ 油を持ってくる ひあぶらそそ 火に油を注ぐ 勢いのあるものをいっそう勢いづかせること。燃えている火に油を注ぐと火勢がさらに強くなることから。「燃える火に油を注ぐ」「火上油を加う」「油を注ぐ」ともいう。 類義 油を掛ける。 油を以 て火を救う。 薪 ぴいさいうが微に入り細を穿つ 調査・研究や報告などが、非常に細かい点まで及んでいるさま。「微に入り細に入る」「微に入り細にわたる」ともいう。△穿つ=穴をあける。転じて、捉える意。 何なんだ、かんだと微に入り細を穿っている。規律、それは大切だ。多くの人が学校という一つの団体をなして、すすもうとするのには秩序というものが大事だ。〈平山千代子◆転校〉 出三国志・注 実力を発揮する機会がなく、むなしく時を過 ごすことを嘆くたとえ。▽髀肉=内股の肉。 ももの肉。 ひにく髀肉の嘆たん 故事中国三国時代、蜀の劉備が、馬に またがって戦場を駆け回ることが長い間な かったため、ももに肉がついてしまったと嘆 いたという。 ひちかよかわやすみず 火に近寄れば渴き易く、水に ちかづうるおやす 近付けば潤い易し 人は近づくものに影響を受けるものであるということ。火に近寄っていけば火の影響を受けるし、水に近づけば水の影響を受けるとい う意から。 類義 朱に交われば赤くなる。丹の蔵する所 の者は赤し。 しきよう 日に就り月に将む 出詩経 物事が日ごとにでき上がり、月ごとに進歩し ていくということ。本来は、学業の着実な進 歩をいう。「将」は「おこなう」とも読む。 類義日進月歩。 ひみわみかえりみわ 日に三たび吾が身を省みる みかえり ふ身を省みる2 が身を省みる622 非の打ち所が無い 完璧で欠点が少しもないこと。取り上げて非難するような欠点が一つもないことから。△非=欠点。きず。打つ=印をつけること。 用例外から見れば一点の非の打ちどころの ない生活にも、内に省みるとき虚偽が潜んで いることが自覚せられる。三木清親鸞 ひ 火の消えた回り灯籠 どうにもしようがないということ。また、寂 しくじっとしていることのたとえ。回るはず のものが回らないことから。 ひのきやまひひのきいひのき 檜山の火は檜より出でて檜 や を焼く 自分の行為が原因で、自分自身が苦しむこと のたとえ。檜の生い茂った山では、檜の枝と 枝とがこすれ合って発火し、檜を焼いてしま <563> 類義 奥山の杉のともずり。自業自得。 火の車 経済状態が非常に苦しく、危機的な状況にあ ること。 補説もとは仏教語「火車」を訓読みしたもの。生前悪行をはたらいた者を地獄へ運ぶ、火の燃えさかる車。 用例)数寄屋町の芸者を連れて、池の端をぶ ら附っいて、書生さんを羨ましがらせて、好い い気になっていなさるが、内証は火の車だ。 学者が聞いてあきれらあ。〈森鷗外◆雁〉 火の無い所に煙は立たぬ 根拠のないところにうわさは立たない。うわ さが立つのは、何かしらそれなりの根拠・理 由があるからだということ。 類義無い名は呼ばれず。影も無いのに犬は 吠えぬ。涸かれ池の堤は切れぬ。煙あれば火 あり。飲まぬ酒には酔わぬ。 対義飲まぬ酒に酔う。 ひばしもてや 英語 Make no fire, raise no smoke. [火を焚ったかなければ、煙は立たない] There is no smoke without fire. [火の無い所に煙は立たない] 用例「無論我輩 だってそんなことを信じ ないさ。しかし、君、考えて見給 え。万更 火の気の無いところに煙の揚 る筈はずも無 かろうじゃないか」〈島崎藤村◆破戒〉 ひなかさんねんいしうえさんねん 火の中にも三年石の上にも三年43 ひのくるーひふたい 火箸を持つも手を焼かぬため 物事には、それぞれの目的にふさわしい手段 があるということのたとえ。また、道具には それを用いる相応の理由があるということ。 ひばべんすいおそ 疲馬は鞭箠を畏れず 塩鉄論 疲弊の極みに達すれば、もはや刑罰など効き 目がないということ。疲れた馬はむちに打た れることを恐れず、命令に従わないことから。 ∇鞭箠∥皮のむちと竹のむち。 補説出典には「罷馬ひばは鞭箠を畏れず、罷民貧苦にあえぐ人民は刑法を畏れず」とある。 類義 痩せ馬鞭むち を恐れず。飢えたる犬は棒 を怖 おそ れず。 ひひおさ 火は火で治まる 悪人や悪事には、他の悪人や悪事をもって対 処するのがよいということのたとえ。燃える 野火を消し止めるには、周りを焼き払ってし まえば火は治まるということから。 類義毒を以もて毒を制す。油を以て油煙を 落とす。楔ぴを以て楔を抜く。 対義火で火は消えぬ。 ひひもとさわだ 火は火元から騒ぎ出す 最初に騒ぎ立てた者がその事件を起こした張 本人であることが多いということ。火事が出 た場合は、火元がまず騒ぎ立てるものだという 意から。「火は火元からできる」ともいう。 類義尻へと火事は元から騒ぐ。 出淮南子えなんじ 似た働きをするものでも、一方がもう一方を 兼ねるわけにはいかないということ。太陽も 月も地上を照らすが、太陽は夜のことを知ら ず、月は昼のことを知らないという意から。 補説出典では、このあとに「日月じつ明めい 為なせども、兼ぬること能あたわず(太陽も月も 明るく光るものだが、どちらも他を兼ねるこ とはできない)」と続く。 ひばりくちなるこ雲雀の口に鳴子 よくしゃべるたとえ。雲雀に鳴子をくわえさ せたようだということから。△鳴子∥田畑を 荒らす鳥を追い払うために、小さな竹筒をい くつも下げて音を出すようにしたもの。 ひびこれこうじつ にちにちこれこうじつ 日日是好日 ↓日日是好日 496 火吹竹の根は藪にあり 物事のおおもとは意外なところにあるものだ ということ。また、中心人物が思いがけない ところにいるたとえ。日頃使っている火吹き 竹も、もとをたどれば藪に生えていた竹であ るということから。▷火吹竹‖竹筒の先に小 さな穴をあけた、火を吹きおこす道具。 ひふたいじゅうご 自分の実力や身のほどをわきまえず、大それ 蚍蜉大樹を撼かす 韓愈ー詩 <564> ひふのけーひゃくし たことを行うこと。大きな蟻ありが大樹を揺り 動かす意から。△蚍蜉=大きな蟻。 補説詩の題名は『張籍 ちょう せき を調 あざ る』。これ に「蚍蜉大樹を撼かす。笑うべし自ら量らざ るを(自分をわきまえないのは笑うべきであ る)とある。 類義 大仏の柱を蟻がせせる。蟻螂 とう ろう の斧 皮膚の見 ひふけん 物事の表面だけを見て、その本質を見ようと しないこと。あさはかな見解のたとえ。皮 肉の見」「皮相の見」ともいう。 火水の争い ひみずあらそ すいかあらそ 水火の争い びみ のどさんずん 美味も喉三寸 いくらおいしい食べ物でも、うまいと感じる のはのどを通るわずかな間にすぎない。歓楽 のはかなさ、無意味さをたとえていう。 夫婦仲のよいことのたとえ。仲むつまじく離 れないことのたとえ。鰈ちょ(Ⅱ想像上の魚。 比目魚)は、目が一つしかないために、二匹 で並んではじめて泳ぐことができるという伝 説から。「比目周行」ともいう。▶比目Ⅱ目 を並べていっしょに行くこと。 類義比翼の鳥。 ひもく比目の魚うお 紐と命は長いがよい 出戦国策 ひもじい時にまずい物なし ひだるい 時にまずい物なし 547 紐は長いほうが役に立つように、人間の寿命も短いより長いほうがよいということ。 類義命と細引きは長いほどよい。 弊害ばかり多くて、よいことは何一つないこと。 用例安南の皇帝が日本に来遊されているこ とすら既に厄介な問題なのに、今その皇帝を 殺人犯人として摘発するめんどうさは誰しも 想像し得ることが出来る。のみならずそれを 敢あえてすることは百害あって一利ないのだか ら、済むものなら浪風なみかぜを立てずに済ました いところである。〈久生十蘭◆魔都〉 百芸達して一心足らず 多くの技芸に精通していながら、その道に対 する心構えに欠けていて大成しないこと。 類義 器用貧乏人宝。多芸は無芸。百芸は一 芸の精くわしきに如しかず。 ひゃくげい いちげい くわ 百芸は一芸の精しきに如か ず 何でも器用にこなす人よりも、一つの道に精 通している人のほうが役に立つということ。 類義多芸は無芸。 ひゃくしゃくかんとう 百 尺竿頭に いっぽ すす 歩を進む 出景徳伝灯録 ひゃくさいわらべしちさいおきなさんさいおきなひゃく 百歳の童、七歳の翁ふ三歳の翁、百 歳の童子277 頂点に到達しても、そこにとどまることなく、 さらに向上しようと努力すること。また、工 夫を尽くした上に、さらに工夫を加えること。 百尺もある高いさおの先で、さらにもう一歩 踏み出す意から。「百尺」は「ひゃくせき」 とも読む。「百尺竿頭一歩を進む」ともいう。 ∇百尺=約三〇メートル。竿頭=さおの先。 ひゃくしょうあぶらしぼで 百姓と油は絞るほど出る 農民から年貢を取り立てるのは油を絞るのと 同じように、絞れば絞るほどいくらでも取る ことができるということ。江戸時代の為政者 の考え方を示すことば。 類義茶と百姓は絞るほど出る。手拭てぬと百 姓は絞るほど出る。 ひゃくじょうきのぼいちじょうえだ 百丈の木に登って一丈の枝 より落つる 安心して気がゆるんだときにあやまちを起こ しやすいので用心せよという戒め。木登り で、高いところにいるうちは用心するが、低 いところで気がゆるんで落ちることから。 補説『徒然草つれづれぐさ』の百九段に「高名こうみようの 木のぼり」という同じ趣旨の話がある。 ひゃくしょうこぞものがたり 百姓の去年物語 農民は、去年に比べて今年の作柄はよくない <565> と言って、年貢の取り立てを少しでも軽くし てもらおうとするものだということ。 類義百姓の泣き言と医者の手柄話。 ひゃくしょうつくだお百姓の作り倒れ 農民は、作物を多量に作り過ぎると値下がり をまねいて、かえって損をするということ。 百姓の万能 農民は自給自足の暮らしをしているので、た いていのことは自分で器用にやってしまう技 能を持っているということ。 ひゃくしょうふさくばなししょうにんそん 百姓の不作話と商人の損 ばなし 話 農民はいつの年も不作だと言ってこぼし、商 人はいつも損をしたと言うものである。当て にならない話のたとえ。 るさを集めても、一つの月の光には及ばない ことから。 類義百姓の去年こそ物語。 ひゃくしょうひゃくそうぱい 百姓百層倍 農民の仕事は、まいた種が百倍もの収穫にな るということ。元手に対して利益の多いこと のたとえ。「百」の語呂を合わせたもの。 類義 薬九層倍。 吳服五層倍。 看 三層倍。 ひゃくせい めい いちげつ ひかり し 百星の明は一月の光に如か ず 出 淮南子 えなんじ 凡人が何人集まっても、一人の賢人にはとう てい及ばないということ。たくさんの星の明 類義雀の千声鶴の一声。 ひゃくしーひゃくに 利益のある所には自然に人が集まってくると いうこと。あらゆる川の水が、海に流れ込む 意から。△朝す‖諸侯が天子に貢ぎ物を献上 することから、集まる意。 類義低き所に水溜たまる。 百川海に朝す 出書経しょきよう ひゃくせんうみ まな うみ いた 百川海に学んで海に至る 出揚子法言 あらゆる川は海を目標として流れ、やがて海 に至る。人間も、すぐれた人を目標に修養を 積んでいけば、ついには立派な人格を完成す ることができるということのたとえ。 補説出典には、このあとに「丘陵山を学び ても山に至らず(小さな丘は動かないから、 山になろうとしても山にはなれない)」とあ る。目標を高く持ち、それに向かって進んで いく努力が大切であるということをいったこ とば。 ひゃくせんひゃくしょうぜんぜんもの 百戦百勝は善の善なる者に あら 非ず 出孫子 百回戦って百回勝つというのは悪いことでは ないが、最上ではない。戦わずに敵を屈服さ せることこそ最上の策であるということ。 補説出典には、これに続き「戦わずして人 の兵を屈する(戦わずに相手の軍を屈服させ る)は善の善なる者なり」とある。 百足の虫は死して倒れず 助けの多い者や勢力の大きい者は、簡単には滅びないということ。むかでは足がたくさんあるので、死んでもひっくり返ることがないということから。「倒」は「僵」とも書く。百足の虫=むかで。 出曹岡ー六代論 類義 百足 むか で は死に至れども倒れず。 百で買った馬のよう 寝てばかりいて働かない者、何の役にも立た ない怠け者のたとえ。百文という安値で買っ た馬のようだという意から。 ひゃく かやいちにちほろ 百日に刈りたる茅を一日に亡ぼす せんにちかかやいちにちほろ 千日に刈った萱一日に亡ぼす365 ひゃくにちひやっぱいもいちにち 百日に百杯は盛れど一日に も は盛られず 毎日少しずつやれば大きなこともやり遂げられるが、一日で一気にやろうとしてもできない。偉大な事業には、それだけの時間と絶え間ない努力の積み重ねが必要であるということのたとえ。 ひゃくにち 世っぽうへひと 百日の説法屁一つ 長い間の苦労が、わずかな失敗でまったく <566> ひゃくにーひゃくり だになってしまうことのたとえ。百日間にわ たる坊さんのありがたい説法も、坊さんのお なら一つで台無しになってしまうことから。 「七日」の説法屁一つ」ともいう。 類義千日の行 ぎよ う 屁一つ。終身善を為なし 言げん いち すな わ ち之これ を敗る。 ひゃくにち ろういちにち らく こうしけご 百日の労一日の楽 出孔子家語 百日もの長い間苦労をして働いたあとは、一 日くらい休養して楽しむのがよい。働いてば かりでなく、ときにはゆっくりと休息をとれ ということ。 百人殺さねば良医になれぬ 医者は、多くの患者の命と引きかえに腕を磨 かなければ、良医にはなれないということ。 医術を修めることの難しさをいったことば。 ひゃくねんかせいまかせいま 百年河清を俟つ↓河清を俟つ141 百年論定まる 人や芸術作品などに対する評価は、長い年月 がたったあとでようやく定まるものだという こと。 ひゃくふん いっけん し 百聞は一見に如かず 出漢書 百回繰り返して聞くよりも、たった一度でも 自分の目で見るほうが確かであるというこ と。「千聞は一見に如かず」「耳聞 じぶ は目見 もく けん に如かず」ともいう。 故事 中国漢の宣帝が、反乱を鎮圧するため に、老将趙充国ちょうじゅうこくに戦略をたずねた。充国 は「百聞は一見に如かず」と答え、「戦略は 遠く離れた地にいては立てにくいので、私が 現地に行って、その実際を地図に描いて方策 を申し上げましょうか」と言った。 類義鯛たいも鮣ひらも食うた者が知る。論より 証拠。聞いた百より見た一つ。聞いて千金見 て一毛。 英語Better have it than hear of it. [話を聞くより体験するほうがよい] Seeing is believing. [見ることは信じることである] 用例大島の測候所で私は言われました。 「とにかく、見なければ分りません。百聞は 一見に如かずですよ」科学者が説明ぬきでこ う言うのだから面白い。まさしくその通りで あった。〈坂口安吾◆安吾の新日本地理〉 ひゃくしょうち 百も承知、二百も合点 言われるまでもなく十分わかっているという こと。∇合点∥わかった。「承知」と同義。 補説「百も承知」だけで十分わかっている の意味があり、「二百も合点」と続けてさら に強調している。 用例拙作「花の富籤とみ」を発表したとき、 職人風情で何十両の貸借は大業すぎると、あ る批評家さんにやっつけられた。大業は百も 承知、二百も合点である。〈正岡容◆我が円 朝研究〉 ひゃくやくちょうさけひゃくやくちょう百薬の長酒は百薬の長271 ひゃくようし 百様を知って一様を知らず いろいろなことを知ってはいるが、どれ一つ として深く知っているものがないということ。浅く広い知識をいう。また、肝心のことを知らないこと。 ひゃくりきみちひゃくりかえ 百里来た道は百里帰る 犯した罪は、それ相応に償わなければならないというたとえ。百里来た道を戻るには、必ず百里歩かなければならないという意から。 レ百里∥一里は約三・九キロメートル。遠く離れた距離のこと。 ひゃくりけいぐおぐ 百里奚は、虞に居りて虞は しんあしんは 亡びしに、秦に在りて秦は覇 たり 出史記 どんな賢人であっても、その人の才能を生か して用いなければ、何の価値もないというこ とのたとえ。▶百里奚=中国春秋時代の政治 家。 故事虞に仕えていた百里奚は、虞の滅亡後、 楚そに捕らえられた。やがて百里奚の賢を聞 いた秦の繆公こうに救われ、用いられて宰相と なった。百里奚はこれにこたえ、秦はそれか ら七年で天下の覇者となった。 ひゃくりうみいっぷの 百里の海も一夫に飲ましむ あた る能わず 出尉繚子 豊富にあっても、役に立たないことがあると いうことのたとえ。海の水は飲み水として使 えないから、一人ののどの渇きをいやすこと <567> もできないという意から。 補説出典には、このあとに三尺 さんじ やく の泉 も以もって三軍の渇きを止とむるに足る(たっ た三尺ほどの泉でも、大軍の人間ののどをう るおすことができる)とあり、大きなもの も小さいものに及ばないことがあることを いっている。 ひゃくりみちひとあしせんりこうそっ 百里の道も一足から↓千里の行も足 かはじ 下より始まる369 ひゃくりゆものきゅうじゅうなか 百里を行く者は九十を半ば とす 出戦国策 何事も、完成間近で失敗することも多いから、 最後まで気をゆるめてはならないという教 え。百里の道を行くときは、九十里来たとこ ろでようやく半分と思うべきであるというこ と。「百里を行く者は九十に半ばす」「百里の 道は九十里が半ば」ともいう。 ひゃくれい かい さけ あら おこな 百礼の会、酒に非ざれば行 われず 出漢書 かんじょ 会合には酒がつきものだということ。どんな 儀礼の会も、酒がないとうまく行われない。 ひざけおやいけんあとくすりおやいけん 冷や酒と親の意見は後の薬親の意見 ひざけあとき と冷や酒は後で効く123 ひゃっかん うま 百貫の馬にも鷲 すぐれた人にも欠点があることのたとえ。ま ひゃくりーひょうこ た、外見と内容が同じとは限らないというた とえ。大金で買った名馬でも、驚という病気 を持っていることがあるという意から。▶百 貫Ⅱ大金をいう。「貫」は貨幣の単位。驚Ⅱ 馬の脚が曲がって歩行困難になる病気。 ひゃっかん 百貫のかたに編笠一蓋 せんがん 千貫のかた に編笠一蓋360 ひやつかん たが はな 一百貫の鷹も放さねば知れぬ 物や人の価値は使ってみてはじめてわかるも のだということ。百貫もの大金で買った鷹 も、実際に獲物を捕らせてみなければ、本当 の価値はわからないという意から。▷百貫‖ 大金をいう。「貫」は貨幣の単位。 百鬼夜行 悪人が集団でわがもの顔に振る舞うこと。い ろいろな妖怪が、夜中に列をなして歩きまわ ることから。「夜行」は「やぎよう」とも読む。 用例あの方の御思召 めしは、決してそのよ うに御自分ばかり、栄耀栄華 えよう えいが をなさろう と申すのではございません。それよりはもっ と下々の事まで御考えになる、云いわば天下 と共に楽しむとでも申しそうな、大腹中 だいふく ちゅう の御器量がございました。それでございます から、二条大宮の百鬼夜行に御遇あいになっ ても、格別御障 わ りがなかったのでございま しょう。〈芥川龍之介◆地獄変〉 ひゃっぱつひゃくちゅう 百発百中 予想やねらいなどが、すべて当たること。矢 を百回射れば百回とも命中する意から。 出戦国策 故事中国楚その養由基 ようゆ うき は弓の名人だっ た。百歩離れたところから柳の葉を射たとこ ろ、百本射て百本すべてを命中させたという。 用例己の師と頼むべき人物を物色するに、 当今弓矢をとっては、名手・飛衛 ひえ い に及ぶ者 があろうとは思われぬ。百歩を隔てて柳葉 りゅう よう を射るに百発百中するという達人だそう である。紀昌 きし よう は遥々 はる ぱる 飛衛をたずねてその 門に入った。〈中島敦◆名人伝〉 冷や水で手を焼く 絶対にあるはずがないこと。また、予想外の 原因で、手こずったり失敗したりすること。 冷や飯から湯気が立つ ありえないことのたとえ。 冷や飯を食う 冷遇されること。また、居候をすること。冷 たいご飯を食べる意から。 類義不遇を託かこつ。 用例 青木先生の食客となって一生冷や飯 を食うのもいいさ)などと磊落らいに思うこと もあった。〈国枝史郎◆生死卍巴〉 ひょうこ 氷壺の心 水 出鮑照誌 清く澄みきった心。清廉潔白な心をいう。 水壺=氷の入った玉 きよ の壺つぼ。 補説詩の題名は『代白頭吟だいはく』この詩 の冒頭にある「直きこと朱糸しの縄ひもの如ごと く、清きこと玉壺ぎょの冰りこの如し正直な心 <568> ひょうざーひょうは はぴんと張った琴の赤い弦のようであり、潔 白な心は白玉で作ったつぼに入れた氷のよう である)によることば。 ひょうざんいっかく ひぬっ 水山の一角 表に現れているのは一部分で、背後に大きな 問題が隠れていること。氷山は海面にはおよ そ七分の一が出ているに過ぎないことから。 ひょうそくあ 平仄が合わない 話のつじつまが合わないこと。漢詩が、平仄 の法則に合っていないという意から。△平仄 Ⅱ漢詩を作る際に重んじられる韻の区別。低 く平らな声調(平)とそれ以外の声調(仄)。平 仄が規則的な配置になっていない詩は、調子 外れでよくないとされる。 用例年頃の息子に嫁を持たせたいと云いう のは親の情としてさもあるべき事だが、死ん だ子に娶よを迎えて置かなかったのをも残念 がるのは少々平仄が合わない。人情はこんな ものか知らん。〈夏目漱石◆趣味の遺伝〉 性質のまったく違うものが互いに助け合うこ とのたとえ。氷が炭火を消すことで炭が燃え てなくなるのを防ぎ、炭火は氷を解かすこと で元の水に返すことから。また、起こり得な いことのたとえとして用いることがある。 出淮南子えなんじ 水炭相容れず 出韓非子 性質が正反対で、どうしても合わないこと。 氷は炭火を消し、炭火は氷を解かすという反 対の性質の両者は、互いに受け入れられない という意から。「氷炭相並ばず」ともいう。 補説出典には「冰炭 ひよう たん は器を同じくして 久しからず(氷と炭は一つの器の中で長くは もたない)とある。 瓢簞から駒が出る 思いも寄らないことや、あり得ないことが実 現すること。また、冗談半分で言ったことが 事実になってしまうこと。瓢簞の小さな口か ら馬が飛び出すという意から。略して「瓢簞 から駒」ともいう。いろはがるた(京都)の一。 類義冗談から駒。灰吹きから蛇じが出る。 虚うそから出こ実まこ。 英語「Movs may come to earnest. [に談が本当になることがある」 用例「大清」は三年前に女房を亡したが、 忙しいに紛れて不自由なことも忘れていた が、おもんの言葉で味な気になりとうとう瓢 簞から駒が出ておもんを後添のちにしてしまっ た。〈久生十蘭◆顎十郎捕物帳〉 ひょうたんこまい 瓢簞から駒も出です 現実には、そう突拍子もないことが起こるは ずはなく、平凡であるということ。「瓢簞か ら駒が出る」を受けて言ったことば。 ひようたんなまずお ひようたんなまず 瓢簞で鯰を押さえる ひようたんなまず 瓢簞鯰568 ひようたんなまず瓢箪鯰 ぬらりくらりとして、とらえどころのないさ ま。言動があいまいで、要領を得ないことの たとえ。丸くて表面がなめらかな瓢簞で、ぬ るぬるしたなまずを押さえようとしてもでき ないことから。「瓢簞で鯰を押さえる」「鯰で 瓢簞を押さえる」「瓢簞で鯰」ともいう。 ひようたん 瓢簞に釣り鐘 がね まったく比べものにならないこと、釣り合い がとれないことのたとえ。瓢簞も釣り鐘もぶ ら下がっているものだが、重さも大きさも まったく違うことから。 類義 提灯 ちよう ちん に釣り鐘。駿河 する が の富士と一 里塚。月と鼈 すっ。 ぼん ひようたん 瓢簞の川流れ 浮かれていて落ち着きのないようすのたと え。瓢簞が川の上をふわふわと躍るように流 れていくようすから。 ひようたん い れいねっ しつ 氷炭は言わずして冷熱の質 おの あき 自ずから明らかなり 出 晋書 実力のある者、内容のあるものは、自然に世 間に知られるものだということのたとえ。氷 も炭も何も言わないが、氷は冷たく炭は熱い ことをだれでも知っているということから。 ひようしかわとどひとし 豹は死して皮を留め、人は死 なとど して名を留む 出 欧陽脩ー王彦章画像記 人は後世に名声が残るように心がけるべきで <569> あるということ。豹は死後美しい毛皮となっ て珍重されるように、人は死後に伝わる立派 な功績を残すべきだということから。 類義虎は死して皮を留め、人は死して名を 残す。人は一代名は末代。 ひようふうちようおしゅうう 飄風は朝を終えず、驟雨は ひお 日を終えず 出老子ろうし 自然の変化が長続きしないように、不自然な ことや生き方などは長続きしないというこ と。つむじ風も朝の間中吹き続けることはな く、はげしいにわか雨も一日中降り続けるこ とはないということから。∇飄風∥つむじ 風。暴風。驟雨∥にわか雨。はげしい雨。 びようぶあきんどすたあきんど 風と商人は直ぐには立たぬ と屏風は曲がらねば立たぬ 豹変 ひようへん くんしひようへん 君子は豹変す 213 ついて木目が一つになった木。 ひよくとりひよくれんり 比翼の鳥 比翼連理 569 ひよくれんり比翼連理 男女の情愛の深いことのたとえ。また、夫婦が仲むつまじいことのたとえ。「比翼連理の契り」「連理比翼」ともいう。また、「比翼の鳥」「連理の枝」の形でも使う。「天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理の枝」ともいう。∇比翼∥比翼の鳥。雌雄各一目一翼で、二羽が一体となって飛ぶという想像上の鳥。連理∥連理の枝。根元は別々だが枝が途中でくっ 出白居易ー詩 ひょうふーひろくし 補説詩の題名は『長恨歌ちょう。中国唐の玄宗皇帝と楊貴妃との恋愛を歌った長編叙事詩で、その中に、「天に在りては願わくは比翼の鳥と作ならん、地に在りては願わくは連理の枝と為ならん(天上では二羽一体で飛ぶ比翼の鳥になろう、地上では二本の木の枝がくっついた連理の枝になろう)」とある。 ひりきじゅうばいよくりきごばい 非力十倍欲力五倍 力のない者でも、いざというときはふだんの 十倍もの力を出し、欲のためには五倍もの力 を出すことがあるということ。 非理の前に道理なし ものの道理がわからない人に対しては、どん なに正しい道理を説いて聞かせても通じない から、話してもむだだということ。 類義非学者論に負けず。 北朝時代の武将楠木正成 名なことば。 くすのき まさしげ の旗印として有 皮裏の陽秋 出世説新語・賞誉 心の中で是非・善悪を厳しく批判しているこ と。「皮裏の春秋」ともいう。▷皮裏‖皮膚 の内側。転じて、心の中の意。陽秋‖「春秋」 のこと。五経の一つで、孔子が厳しく歴史批 判をしているとされる。 天道に従って行動するのが最善の道であると いうこと。「非」は「理」に勝たず、「理」は 「法」に勝たず、「法」は「権」に勝たず、「権」 は「天」に勝つことができないという意。南 ひりほうけんてん 非理法権天 出韓非子かんびし 飛竜雲に乗る 賢者や英雄が、時機を得てその才能や実力を 十二分に発揮すること。また、得意の心境に あることのたとえ。 補説)中国、戦国時代の学者慎子しが「政治 の第一要件は権勢である」と主張した文によ ることば。出典には「飛竜雲に乗じ、騰蛇 は霧に遊ぶ。雲罷やみ霧霧はれては、竜蛇 りよ うだ も 螾螘ぎいんと同じ。則すなわち其その乗ずる所を失え ばなり(竜は雲に乗って空を飛び、天空をか ける竜のようになった蛇は、霧に乗って遊ぶ。 しかし、雲がなくなり霧が晴れると、竜も騰 蛇も、みみずや蟻ありと同じだ。それは、乗る べきものを失ったからである)」とある。 ひるめよるみみ 昼には目あり夜には耳あり とかく秘密はもれやすいということ。昼間は 人の目が光っているし、夜は耳をそばだてて 聞いている人がいるという意から。 類義壁に耳あり障子に目あり。 ひろしゅうあいじんした 汎く衆を愛して仁に親しむ 出 論語 ろんご 分けへだてなく広く人を愛しいつくしみ、仁 徳を身につけた人に親しんで、その感化を受 けて修養することが大切であるということ。 補説孔子が、若い人たちに徳を修める方法 を示したことば。出典では、このあとに「行 <570> ひろくまーひをみる いて余力有らば、則 ち以もって文を学べ(人 間としてなすべきことをして、なお余裕があ るなら、学問に励むべきだ)と続く。 ひろまなあつこころざせつと 博く学びて篤く志し切に問い て近く思う 出論語ろんご 幅広く何でも学び、自分の志を堅固にし、疑 問があれば切実に問い質ただして十分理解を深 め、身近な実際の問題にあてはめて考えるこ とが大切であるということ。 補説孔子の門人の子夏しかが、学問をする者 の心がまえを述べたことば。博学、篤志、切 問 せつ、 もん 近思 きん の四つを心がけて学問にいそし めば、最高の徳である仁は自然に体得できる と説いたのに基づく。 ぴわきいろいしゃいそが 枇杷が黄色くなると医者が忙 しくなる 夏は病人が多く出るということ。びわが色づ くころになると、医者が忙しくなる意から。 「枇杷黄にして医者忙せわしく、橘たちばな黄にして 医者蔵かくる(みかんが色づく秋から冬にかけ ては病人が減って医者は暇になる)」と、対 照する句を重ねていうこともある。 火を抱いて薪に措く 火を抱いて薪に搾く 出漢書 危険な状態にあるのに、危険が表面化しない うちは大丈夫だと一時の安楽をむさぼるこ と。また、姑息にそな手段で目先をごまかすこ とのたとえ。薪の下に火を置いて、まだ燃え ていないからとその薪の上に寝ることから。 補説出典には「火を抱いて之これを積薪 下に厝おきて其その上に寝いぬ。火未いまだ燃ゆ るに及ばずして因よりて之を安しと謂いう。方 今の勢(今の状況)、何を以もって此これに異ことな らんや」とある。 ひおな ろん どうじつろん 日を同じくして論ぜず ↓同日の論にあ らず457 ひこ 火を乞うは燧を取るに若かず 出淮南子えなんじ 人をあてにするよりも、自分で努力してやったほうが確実であるということ。人に火種をくれと頼むよりも、自分で火打ち石を使って火をおこしたほうがよいということから。▶燧‖火打ちの道具。 補説出典では、このあとに「汲きゅを寄する は井せいを鑿うがつに若かず(人に水をくれと頼 むよりも、自分で井戸を掘ったほうがよい) と続く。 ひさみずおちい 火を避けて水に陥る 一つの災難から逃れたと思ったら、すぐにまた別の災難にあうというたとえ。火から逃れようとして、水に溺れるという意から。 類義一難去ってまた一難。前門の虎、後門の狼 おお。 かみ 火を失して池を鑿る 出淮南子 前もって予防の手を打っておかないで、大事 になってから慌てること。火事になってから 慌てて池を掘る意から。 類義泥棒を捕らえて縄を綯なう。戦 いく さ を見 て矢を矧はぐ。 火を吹く力もない はなはだしく貧困で、暮らしを立てることができないこと。また、衰弱し切っている状態。火吹き竹でかまどの火を吹きおこす力もないという意から。 火を水に言いなす 詭弁 きべ ん を弄して相手を言いくるめることのた とえ。火と水のように、まったく違っている ものを同じだと言い張る意から。 類義鷺 さぎ を烏 から す ひ 火を見たら火事と思え 何事も、警戒しすぎるぐらい用心したほうが よいということ。火を見たら、どんな小さな 火でも火事になると思えという意から。「火 を見れば火事と思え」ともいう。 類義 人を見たら泥棒と思え。人は盗人火は 焼亡 じょう もう 火を見るよりも明らか 出書経 極めて明白で疑う余地のないこと。燃えてい る火よりもはっきり見えるという意から。 用例またしても兄や、姉たちに笑われるの は火を見るよりも明らかである。末弟は、ひ そかに苦慮した。もう、日が暮れて来た。太 <571> 宰治◆ろまん灯籠 火を以て火を救う 害を取り除こうとして、かえってその害を大 きくしてしまうこと。火を消すのに水でなく 火を使うという意から。 出荘子そうじ 補説弟子の顔回がんが衛の君主の暴政を諫いさ めようとしたのを、思いとどまるよう説得し た孔子のことばで、出典には「是これ火を以て 火を救い、水を以て水を救う。之これを名づけ て益多えきと日いうこれは火で火を消そうと し、水で水を防ごうとするもので、こういう のを、ますます激しくするというのだ」と ある。 類義火を救うに薪を投ず。 貧家には故人疎し 貧乏になった家には、旧友も寄りつかない。 人間は勢いのあるところには寄ってくるが、 貧しい者とは付き合おうとしないというこ と。「貧しき家には故人疎し」ともいう。 故人∥旧友。 類義貧家には親知 少なく、 賤いやしきには 故人疎し。貧賤 ひん せん 友少なし。 英語 The poor have few friends. 貧しい 人には友人が少ない ピンからキリまで 最高のものから最低のものまで。また、始め から終わりまで。ヘピン=カルタ、サイコロ などの目の一の意から、最上等の。ポルトガ ル語のpinta(Ⅱ点)の変化とされる。キリⅡ 終わり。また、いちばん下。ポルトガル語の cruz(=十字架)からとも。 ひをもっーひんすれ 補説ポルトガルから伝わっためくりカルタ で一をピン、十二をキリといい、花札で正月 をピン、十二月をキリ(桐)としたところから という。 用例ただ、芝居という芝居はピンからキリ まで観みて歩いたらしいことは、二人が会っ て話をするためにだんだんわかってきた。 〈岸田国士◆岩田豊雄と私〉 頻伽羅は卵の中にありて声 衆鳥に勝る 将来大成する人物は、幼いときから人よりすぐれたところがあるものだということ。頻伽羅は卵の中にいるときから、他の鳥よりもはるかに美しい声をしているということから。 マ頻伽羅=仏教で極楽浄土にいるとされる想像上の鳥。迦陵頻伽 ともいい、たいへん美しい声で鳴くという。 類義 栴檀 せん だん は双葉より芳し。 出書経しょきよう 牝鶏晨寸 女性が勢力をふるうことのたとえ。朝の時を 告げて鳴くのはおんどりなのに、それをさし おいて、めんどりが先に時を告げるというこ とから。「晨す」は「ときす」とも読む。△ 牝鶏=めんどり。晨=朝の時を告げる意。 補説昔はめんどりが時を告げるのは不吉な 前兆とされ、女性が勢力をふるうと家や国が 滅びると考えられた。出典には「古人言有り、 日いわく、牝鶏は晨する無し。牝鶏之もし晨せ ば惟これ家を索つくす(家が滅びる)なり」とある。 これは、寵愛ちょう あいする妲己だの言いなりになっ ていた中国古代の殷いんの紂王ちゅうを討伐する ために周の武王が連合軍を起こしたときに発 した宣言の一節である。 類義雌鶏めんどりうたえば家亡ほろぶ。 賢糸茶烟の感 びんしさえんかん 出杜牧ー詩し 鬢糸茶烟の 若いときに遊びにふけっていた者が、年老い て閑静な生活を送りながら青春の日々をしの んでいる心境をいう。△鬢糸=老人の白髪。 老境のたとえ。茶烟=茶を焙ほうじるときに出 る煙。 補説詩の題名は『禅院に題す』。「今日 糸禅榻 ぜん とう の畔 ほと、 茶烟軽く颺あがる落花の風(年 とって髪も白くなった今、座禅を組む椅子の そばで若いころを思い出していると、茶を焙 じる煙が花を散らす風にあおられて上ってい く)と詠んでいる。 ひんじゃせいすい 貧者に盛衰なし 金持ちは落ちぶれることもあるが、貧乏人は もともと貧乏だからそんな心配もなく、気楽 であるということ。 ひんじゃ いっとう ちょうじゃ まんとう ひんじゃ 貧者の一灯 長者の万灯より貧者の いっとう 灯 425 貧すれば鈍する 貧乏すると、頭のはたらきや判断力が鈍って くるということ。また、貧乏になると心まで <572> さもしくなるということ。「貧すりゃ鈍する」 「鈍すりゃ貧する」ともいう。 類義窮すれば濫す。 英語 He that loses his goods loses his sense.〔財産をなくす者は分別をなくす〕 It is a hard task to be poor and leal.〔貧乏 していてなおかつ誠実でいるのは困難な課題 である〕 用例浮世の辛酸をなめ、民衆としての苦労 をした人々を、所謂 ゆる 貧すれば鈍する的事情 から立たしめて、その辛酸と労苦との社会的 意義を自覚させたのは何の力であったろう か。〈宮本百合子・文学の大衆化論について〉 ひんせんせきせき 貧賤に戚戚たらず、富貴に忻 きん 忻たらず れつじょでん 列女伝 貧賤や富貴に心をとらわれない。貧しく身分 が低くてもくよくよせず、財産や高い地位が あってもうかれたりしないということ。「貧 賤に戚戚たらず、富貴に汲汲 るさま)たらず」ともいう。∇戚戚∥うれい 悲しむさま。忻忻∥喜び楽しむさま。 貧賤の交わり忘るべからず ひんせんうつあたふうきいんあた 貧賤も移す能わず富貴も淫する能わ ひんせんうつあた ず、貧賤も移す能わず574 貧しく地位が低いときに交際していた友人 は、地位が上がり裕福になってからも決して 忘れず、大切にしなくてはならないというこ と。「貧賤の友忘るべからず」ともいう。↓ 糟糠そうの妻は堂より下くださず371 出後漢書ごかんじょ ひんそう 貧僧の重ね斎 飢えた者が一度に多くの食べ物を手にすること。また、たまによいことがあると、きまって重なってしまうことのたとえ。貧しい僧が二軒の家から同時に食事に招かれる意から。∇斎∥僧の食事。「重ね斎」は、二軒の家から同時に法事に招かれ、食事が重なること。ひん こいうた ひんぬす 貧の盗みに恋の歌 こいうた 人間は、必要にせまられればどんなことでも するということのたとえ。貧乏に苦しむあま り盗みをするようになり、恋に悩めば胸のう ちを伝える歌をつくるという意から。 貧の花好き ひんはなず 身分不相応なことをするたとえ。貧乏なの に、生活にゆとりがある人のする花づくりを するという意から。「貧乏花好き」ともいう。 類義浪人浄瑠璃。 をするにも貧乏が障害になるということか ら。▶諸道‖種々の芸能。種々の方面。 貧の楽は寝楽 貧乏人にとっては、寝ることが最高の楽しみ であるということ。また、貧乏人には取られ て困るものもないので、安心して眠れるということ。「貧の楽しみは寝楽」ともいう。 ひんしょどうさまた 貧は諸道の妨げ 貧乏では何も自由にできないということ。何 貧乏柿の核沢山 貧乏な人には、とかく子供が多いことのたと え。貧乏柿は実が小さいのに種が多いことか ら。∇貧乏柿=小さい渋柿のこと。核=種。 類義貧乏人の子沢山。 びんぼうこわ 貧乏怖いものなし 貧乏人は失うものを持っていないので、何も 怖いものがないということ。 金持ちは財産の管理や人とのつきあいなど気 苦労が多いが、貧乏すればするほどそういう ことが少なくなるので、かえって気楽である ということ。 対義貧ほど悲しきことはなし。 貧乏難儀は時の回り 貧乏も難儀も、自分のせいではなく時のめぐ り合わせであるから、悲観することはないと いうこと。 びんぼう はなさ 貧乏に花咲く いつまでも貧乏のままではなく、そのうちに 豊かになって栄えるときがくるということ。 類義枯れ木に花。 貧乏人の子沢山 子供を養育する余裕のない貧乏人に限って、 <573> 子供が多いものだということ。「貧乏子沢山」ともいう。 類義貧乏柿の核沢山。律儀者の子沢山。 用例年猶なお若い君が妻などに頓着なく、五 十に近い僕が妻に執着するというのは余程お かしい話である。併しかしここがお互に解しが たい処ことであるらしい。貧乏人の子沢山とい う様な事も、僕の今の心理状態と似に寄った 理由で解釈されるのかも知れない。〜伊藤左 千夫◆去年 びんぼうにんさんねんおようた 貧乏人も三年置けば用に立つ どんなにつまらないものでも、いつかは役に 立つときがくる。何の役にも立ちそうにない 貧乏人でも、時がたてば、そのうち役に立つ ことがあるということ。 類義焙烙 ほう ろく の割れも三年置けば役に立つ。 禍 わざ わい も三年たてば用に立つ。破れ鍋も三年 置けば用に立つ。 貧乏は達者の基 貧乏していると、よく働き、食事もぜいたく しないので、健康でいられるということ。 類義貧乏は壮健の母。 貧乏花好き ひんはなず 貧の花好き 572 貧乏すると、生活に追われて働き通しになる ので、ほかのことをする余裕がないというこ と。多忙の言い訳や謙遜のことばとしてもよ く用いられる。いろはがるた(江戸)の一。 貧乏暇なし 用例「何処どこへでも旅行すれば好いじゃな いか。君なぞは独身なんだし」「所が貧乏暇 なしでね」私はこの旧友の前に、聊 いさ さ か私の 結城 ゆう き の着物を恥じたいような心もちになっ た。〈芥川龍之介◆塵労〉 びんぼうーふううん 貧ほど辛いものはなし 貧乏することほど辛く堪えがたいものはない ということ。 類義貧ほど悲しきことはなし。貧ほど辛き 病なし。 出杜甫ー詩し きわめて貧しいこと。貧乏が骨までしみと おっている意から。 補説詩の題名は『又また呉郎 甫が隣家の貧しい女性を「已すでに訴う徴求 せられて貧骨に到るを、正まさに戎馬 思いて涙巾に盈みつ(租税をしぼり取られて 貧しさが骨の髄までしみ込んでいると言って いる。これも戦争によるものだと思うと涙が こぼれてならない)と詠んだ一節による。 類義赤貧洗うが如ごとし。 衣=庶民が着る麻や綿の粗末な衣服。転じ て、無位無冠の人。庶民。 布衣の交わり ふいまじ 身分や地位、貧富の差などにこだわらない交際。また、庶民同士の付き合いのこと。 出戦国策 風雲急を告げる 今にも社会に大きな異変が起こりそうな、緊迫した情勢になること。嵐の起きそうな気配の意から。∇風雲∥風と雲の意から、自然。また、竜が風雲に乗じて天に昇るように、英雄豪傑が世の中に頭角を現す時機。転じて、大きな社会変動が起こりそうな情勢。 補説竜が風と雲に乗って天に昇るといわれ たことから、風雲には英雄豪傑が現れる好機 の意があり、転じて、世の中が激動する情勢 を意味する。 出易経 ふううん風雲の会かい すぐれた人が時勢にあって力を発揮するこ と。また、賢人や英雄がすぐれた君主と出 会って、重用されること。 補説出典にある「雲は竜に従い、風は虎に 従う。聖人作おこりて万物観みる(竜が現れると 雲が出て、虎がほえると風が起こる。聖人が 出るとすべての人が仰ぎ見る)による。聖 人の出現を竜や虎が風雲とともに勢いを得る さまにたとえたことば。 出晋書しんじょ 類義飛竜ひりよう雲に乗る。 風雲の志 時運に乗じて功名を立てようとする気持ち。 「風雲の望み」ともいう。▷風雲=竜が風雲 に乗じて天に昇るように、英雄が機会を得て 世に出るたとえ。 <574> 富貴天にあり 富や地位は天命によって与えられるもので、 人の力ではどうすることもできないというこ と。 出 論語 ろんご 補説出典には、この前に「死生」しせ命めいあり (人の生死は天命で定められている)とあり、 どれも人の力で自由になるものではないと説 いている。 類義運は天に在り。 ふうき 富貴なる者は人を送るに財を じんじんひとおくげん 以てし、仁人は人を送るに言 を以てす 出史記 富貴の者が人と別れるときは、餞別 べつとして 金品を贈るが、仁徳のある者は、その人のた めになるよいことばを贈る。 補説老子を訪ねた孔子が帰るときに、老子 が言ったことば。 類義君子は人に贈るに言を以てし、庶人 は人に贈るに財を以てす。 ふうき たにんかなひんせん 富貴なれば他人も合い、貧賤 しんせきはな なれば親戚も離る そうちょし 出曹攄ー詩 には他人集まり、貧賤には親戚も離る」とも いう。 人間は利害損得で動くというたとえ。人情の 薄くて変わりやすいことにもいう。財産や地 位のある人のところには、縁のない他人まで 集まってくるが、貧しくなると血のつながっ た親戚までが離れていくということ。「富貴 補説詩の題名は『感旧』。軽薄な人情の世 の中で、故郷の人だけがあたたかい友情を 保っていることを歌った詩の中のことば。 類義炎えんに付き寒かんに棄すつ。 ふうきふうんごと 富貴は浮雲の如し 出 論語 ろんご 富や地位を得ることは、空に浮かんだ雲のようにはかなく、じきに消えてしまうものである。また、富貴は自分とは関係ないものだというたとえ。 補説出典には「不義にして富み且つ貴き は、我に於おいて浮雲の如し不正によって得 た富貴は浮雲のようにすぐなくなる、また、 私には関係ないものだ」とある。 ふうき いん あた ひんせん 富貴も淫する能わず、貧賤も うつあた 移す能わず 出孟子もうし 志操堅固な人物のたとえ。富貴の快楽によってもその心を乱すことができず、貧賤の苦しみによってもその節操を変えさせることができないということ。単に「貧賤も移す能わず」ともいう。 補説出典では、このあとに「威武も屈する 能わず(権威や武力を用いても屈従させるこ とができない)。此これを之これ大丈夫(立派な 男子)と謂いう」と続く。 風樹の嘆 出韓詩外伝 親孝行をしようと思ったときには、すでに親 は死んでしまっていてできないという嘆き。 木は静かにしていたいと思っても、風が吹き やまないのでどうすることもできないという 意から。「嘆」は「歎」とも書く。「風木ぼくの 嘆」ともいう。 補説出典にある「樹き静かならんと欲すれ ども風止ゃまず。子養わんと欲すれども親待 たず。往ゆきて見るを得べからざる者は親な り(あの世に行ってしまえば二度と会えない ものは親である)によることば。 類義 孝行のしたい時分に親はなし。樹静か ならんと欲すれども風止まず。 ふうばぎゅうあいおよふうばぎゅう 風する馬牛も相及ばず↳風馬牛575 出晋書しんじょ ふうせいかくれい 風声鶴唳 おじけづいて、 ことのたとえ。 鳴く声。 おじけづいて、少しのことにもびくびくする ことのたとえ。∇風声=風の音。鶴唳=鶴の 鳴く声。 故事)中国東晋時代、前秦 ぜん の苻堅 ふけ は百万 の大軍で東晋を攻めたが、東晋の精鋭軍の襲 撃にあって総くずれとなり、逃げ出した。そ れ以後は、風の音や鶴の鳴き声を聞くだけで 東晋軍に追いつかれたのではないかとびくび くし、一年後都にたどり着いたのは十数人 だったという。なお『平家物語』に、富士川 に布陣した平維盛 たいらの これもり が水鳥の羽音を源氏の 急襲と思って敗走したという話がある。 類義 落武者は芒 すす き の穂にも怖ず。木にも 萱かやにも心を置く。 ふうぜんちり風前の塵↓風の前の塵142 <575> ふうぜんともしび風前の灯火 危険にさらされていることのたとえ。また、 物事のはかないこと、心もとないことのたと え。風に吹かれて今にも消えてしまいそうな 灯火の意から。 類義風の前の塵ちり。 用例人間と云いう二足の獣は何と云う情け ない動物であろう。我我は文明を失ったが最 後、それこそ風前の灯火のように覚束 おほ つか ない 命を守らなければならぬ。〈芥川龍之介◆侏 儒の言葉〉 ふうばぎゅう風馬牛 出春秋左氏伝 互いに遠く離れていることのたとえ。さかり のついた馬や牛が、雌雄互いに呼び合っても、 遠く離れていて会えない意から。転じて、自 分とは何の関係もないこと。また、無関心な 態度をとることのたとえ。「風する馬牛も相 及ばず」ともいう。∇風∥獣のさかりがつき、 相手を求めて駆け回ること。 補説)中国春秋時代、斉の桓公 かん こう に攻められ た楚その成王が言ったことば「君(桓公)は北 海におり、私は南海にいて、相手を求める馬 や牛も行けないほど遠く離れているのに、君 が私の領土に攻め入るとはどういうことか」 による。 ふうふげんか きたかぜ よなぎ 夫婦喧嘩と北風は夜風がする 夜になると風がやんで海がおだやかになるよ うに、夫婦喧嘩も夜にはおさまるものだということ。 ふうぜんーふうふべ 類義夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まる。 秋風と夫婦喧嘩は日が入りや止ゃむ。夫婦喧 嘩と南風は夜に入って治まる。夫婦喧嘩と昼 の風は暮れに止む。夫婦喧嘩は寝て直る。 ふうふげんかいぬく 夫婦喧嘩は犬も食わぬ 夫婦喧嘩は、つまらないことで起こり、すぐ に仲よくなるものだから、他人が心配したり 仲裁したりするのは無用だということ。何で も食べる犬でさえ、夫婦喧嘩には見向きもし ないという意から。「夫婦喧嘩と夏の餅は犬 も食わぬ」ともいう。 類義 痴話喧嘩は犬も食わぬ。 用例事の起りは、お家騒動に絡まっている ということは、あなたも御承知の筈はず。…… 夫婦喧嘩は犬も喰くわないというが、お家騒 動となると、こいつア一層手がつけられない。 久生十蘭◆顎十郎捕物帳 のだから、別れることがあってもしかたがないということ。 ふうふげんか びんぼう たねま 夫婦喧嘩は貧乏の種蒔き 夫婦の間が不和であると、夫が道楽をしたり 妻が浪費をしたりして出費が増えるので、貧 乏の原因になるということ。「夫婦喧嘩は貧 乏の元」ともいう。 ふうふげんか 類義 夫婦は他人の集まり。合せ物は離れ 物。 夫婦喧嘩も無いから起こる 夫婦喧嘩も、金がなくて生活が苦しいから起 こる。生活にゆとりがあればしなくてもすむ ものだということ。 夫婦は合わせ物離れ物 あ ものはなもの 夫婦はもともと他人どうしが一緒になったも 対義夫婦は一心同体。 夫婦は従兄弟ほど似る 長い間夫婦として暮らしていると、血縁関係 にある者のように、性格や行動が似てくると いうこと。「夫婦」は「めおと」とも読む。 類義似た者夫婦。 夫婦は他人の集まり 夫婦は、もとは他人だった者が一緒になった ものだから、仲が悪くなったり離婚したりす ることもあるということ。 類義夫婦は合わせ物離れ物。 対義夫婦は一心同体。 夫婦は二世 夫婦の縁は、この世だけでなく来世まで二世 にわたって続くものであるということ。「夫 婦は二世の契り」ともいう。↓親子は一世、 夫婦は二世、主従は三世122 夫婦別有り 出孟子もうし 親しい夫婦の間であっても、遠慮や礼儀など があるべきだということ。 補説出典には「父子ふし親しん(親愛)有り、君 臣義(義理)有り、夫婦別(礼儀)有り、長幼(年 上と年下)序(順序)有り、朋友 ほう ゆう 信(信義)有 り」と、それぞれの間の道徳が述べられてい <576> る。 ふうぼくたんふうじゅたん風木の嘆ふ風樹の嘆574 風流は寒いもの 風流心のない者にとっては、雪見とか梅見と いった風流は、ただ寒いだけだということ。 「風流」を皮肉っていったことば。また、風 流に寒さはつきものだということ。 ふうりんかざん風林火山 出孫子そんし not dance. 風のように速く進み、林のように静かに構え、 火のように激しく攻め、山のようにどっしり と守る。『孫子』にある戦いの四つの心構え 「其その疾はやきこと風の如ごとく、其の徐しずかな ること林の如く、侵掠しんりすること火の如く、 動かざること山の如し」を略したことば。 補説戦国時代の武将武田信玄たけだしが、この ことばを軍旗に書いて戦いにのぞんだとされ る。 ふえよしかつまこあきしかふえ 笛に寄る鹿は妻を恋う↳秋の鹿は笛に よ 寄る7 笛吹けども踊らず 人に何かをさせようといろいろとはたらきか けても、相手がそれに応じないことのたとえ。 踊らせようとして笛を吹いても、だれも踊り 出さないという意から。「笛ふけど踊らず」 ともいう。 用例その証拠には、立て札に足を止める往来の人々も、一応は面白半分に見ているが、 笛吹けど踊らずで、苦笑しながら通ってしま う。—何か力んで、落首に同感をあらわし ながら、庶民を焚たきつけている者があれば、 それはきまって、三好党 みよし とう 臭い牢人者 ろうに んもの か、 さもなければ、一向宗 いっこう しゅう の法師だった。〈吉 川英治◆新書太閣記〉 補説『新約聖書』マタイ伝にあることば。 英語では、We piped to you, and you did ふかかわしず深い川は静かに流れる 分別のある人や真に力量のある人は、沈着で やたらに騒がないということ。深い川は、浅 い川のように水音を立てず、静かに流れると いうことから。「静かに流れる川は深い」と もいう。 類義能ある鷹たかは爪を隠す。 ふかと深く取って浅く渡る 帰り、九月八日迄まで弟の傍そばにいた。中原 中也・亡弟〉 慎重に計画を立て、思い切りよく実行することのたとえ。川を渡る前には水深が深いと予想して慎重に準備し、実際に渡るときには浅い川を渡るつもりで一気に渡るということから。 不帰の客となる 人が死ぬこと。一度とこの世に帰らない旅に 出た人の意から。▷不帰の客‖死者。「不帰」 は帰らないこと。「客」は旅人の意。 用例そしてその年の十月二十三日には、不 帰の客となったのだったが、私は八月初めに 不義は御家の御法度 男女の密通は厳禁であるということ。▽不義 ‖道義にもとること。特に、男女の密通。近 世、特に武家で戒めとされた。御家‖大名な ど武士の家。 用例ところが、日本の武士道では、不義は お家の御法度で、色恋というと、すぐ不義と くる。〈坂口安吾◆恋愛論〉 ふぎようてんちはあおてんは 俯仰天地に愧じず↓仰いで天に愧じ ず4 福因福果 よい行いをしていると、その結果として幸福 がくるということ。 類義 善因 福重ねて至らず、禍必ず重 ねて来る者なり 出 説苑 ぜいえん 幸運は二度重なってやってくることはない が、災難は必ず重なって起こるものである。 幸運にめぐりあっても浮かれずにその運を生 かし、災難にあったら真剣に後日の備えをし なければならないという戒め。 類義禍独り行かず。 ふかぜえだなかぜえだな 吹く風枝を鳴らさず↓風、条を鳴らさ ず 141 <577> ふぐくばかくばかふぐく 河豚食う馬鹿、食わぬ馬鹿↓河豚食う むふんべつ むふんべつ 無分別、食わぬ無分別577 ふぐく むふんべつ 河豚食う無分別、 食わぬ無分 別 ふぐがうまいからといってむやみに食べて命 を落とすのは愚かだが、食べ方によっては安 全なのだから、毒を恐れてまったく食べない というのも愚かなことであるということ。 類義河豚食う馬鹿、食わぬ馬鹿。 福者二代なし ちょうじゃ 長者に二代なし 425 ふくしゃいまし ぜんしゃくつがえこうしゃいまし 覆車の誠め前車の覆るは後車の誠め 362 ふぐじるたい むふんべつ 河豚汁や鯛もあるのに無分別 鯛のようなおいしい魚もあるのに、中毒する かもしれないふぐ汁を食べるのは無分別だと いうこと。ふぐの味の抑えがたい魅力をいっ たもの。芭蕉ばしの句とされる。 腹心を布く 出春秋左氏伝 思っていることを包み隠さず打ち明ける。い つわりのない本心を述べること。 類義腹心を披ひらく。 ふくすいぼんかえ 覆水盆に返らず 一度してしまった失敗は、とり返しがつかないこと。いったん別れた夫婦の仲は、もとに 出拾遺記しゅういき ふぐくうーふぐにも は戻らないというたとえ。一度こぼれた水 は、二度ともとの盆に戻らないということか ら。∇覆水∥こぼれた水。 故事周の呂尚 よう (太公望)は、若いころ貧 乏なのに読書ばかりして働かないので、妻は 愛想をつかして去ってしまった。後に呂尚が 斉王に出世すると、妻は復縁を求めてきた。 そのとき呂尚は盆の水をこぼして「この水を もとどおり盆に戻せたら願いに応じよう」と 言ったが、妻は、ただ泥をかき取っただけで あった。また、漢の朱買臣 しゅば いしん にも同じよう な説話がある。 類義破鏡重ねて照らさず、落花枝に上り難し。 英語 It is no use crying over spilt milk. こぼれたミルクのことを嘆いてもむだである Things done cannot be undone. 福過ぎて禍生ず 出宋書そうじょ 身に過ぎた大きな幸福は、かえって災いのも ととなることがあるということ。 類義身に過ぎた果報は禍わざの元。 ふくそうもとまたかんらんあ 覆巣の下、復完卵有らんや 出世説新語 もとが破壊されると、末も破壊されることの たとえ。ひっくり返した巣の下に、割れてい ない卵があるはずがないということから。 補説出典には「豈あに覆巣の下に復完卵有 るを見んや」とある。 出礼記らいき 故事中国後漢の孔融 き、使者に「罪を自分だけにとどめ、息子た ちに及ばないようにしてほしい」と懇願した。 そのとき進み出た九歳と八歳の息子が言った ことば。まもなく、二人の子も捕らえられた。 恨みや憎しみの深いこと。「俱ともに天を戴だ かず」と読み、一緒にこの世に生きてはいら れないという意から。本来は、父が殺された らその子は必ず仇 き を討つべきであることを いった。 補説出典には「父の讎あだは与共ともに天を戴 かず、兄弟ていの讎は兵に反かえらず兄弟の仇 には、見つけたときに武器を取りに帰らない でその場で闘えるように常に備えておく、 交遊の讎は国を同じくせず友人の仇とは、 同じ国に住んだりしない」とある。 用例諸将が東西に分れた所以 のものは、 射利の目的と云いうよりは寧むしろ武士の義で ある。故に必死の死闘を試みる相手でなく、不 俱戴天の仇敵 きゅう でもない。和議を結んで各領 国に帰ってその封土を守り、権力平均を保て ば足りるのである。〈菊池寛◆応仁の乱〉 ふくてつふ ぜんしゃくつがえこうしゃいまし 覆轍を踏む前車の覆るは後車の誠め 362 ふぐあたたいあた 河豚にも中れば鯛にも中る 運が悪いと、思わぬ災難に遭うことがあるこ と。毒のあるふぐばかりでなく、毒のない鯛 でも中毒することがあるということから。 <578> ふぐ く 河豚は食いたし命は惜しし 快楽は味わいたいが、危険が伴うのでためら うことのたとえ。ふぐ料理を食べたいが、毒 にあたって死ぬのがこわいという意から。 英語 Honey is sweet but the bee stings. 蜜は甘いが蜂が刺す 福は無為に生ず 福は無祟し 出淮南子 幸福は、手に入れようと追い求めたりせず、 無欲に生きている人のところにやってくると いうこと。 補説出典には、このことばに続いて「患わざ は多欲に生じ、害は備えざるに生じ、穢あいは 耨ぎらざるに生ず(災いは欲望が深いところ に生じ、損害は備えがないために生じ、雑草 は除草しないために生じる」とある。 夜が明けても実行できない意から。 類義夜鷹 よた か の食じきだくみ。 ふくりようほうすう伏竜鳳雛 才能がありながら機会に恵まれず、まだ世間 に知られていない大人物のたとえ。また、将 来有望な若者のたとえ。隠れ伏している竜と 鳳凰 ほう おう のひなの意から。「臥竜鳳雛 がりよう ほうすう と もいう。 出三国志・注 補説中国三国時代に、司馬徽 が蜀 しば く の劉 備りゅ うびに、時勢をよく知っている人物として、 諸葛亮 しょかつ りよう を伏竜、龐統 ほう とう を鳳雛にたとえて 推挙したという話に基づく。 ふくろうよい 袋汚して黄金を棄つるこ こがねす できもしないことをたくらむこと。計画だけ で実行できないことのたとえ。夜計画して、 鼻の宵だくみ となかれ 外見だけで内容を判断してはならないという ことのたとえ。入れ物が悪くても、中身がよ ければ値打ちがあるということ。 福禄寿の市立ち 金持ちが市にくること。商売繁盛のたとえ。 七福神の一人の福禄寿が市に立つ意から。 補説七福神とは、七人の福徳の神のことで、 恵比須えび、大黒天、毘沙門天びしゃも、弁財天、 布袋ほて、福禄寿、寿老人をいう。 袋の鼠 追い詰められて逃げようのない、絶体絶命の 状態。袋に詰め込まれた鼠の意から。「袋の 中の鼠」ともいう。 類義 進退これ谷 まる。 絶体絶命。 なるようなこと。 用例片方は大河で遮られているから、この 一方口へ逃れるほかには逃げ道はなく、まる で袋の鼠といった形……振り返れば、諏訪すわ 町、黒船町は火の海となっており、並木の通 りを荷物の山を越えて逃げ雷門へ来て見れ ば、広小路も早真赤になって火焰かえが渦を巻 いている。〈高村光雲◆幕末維新懐古談〉 不幸中の幸い 不幸な出来事の中にあっていくぶん慰めと 用例じっさいそれは不幸中のさいわいで あった、船は暗礁の上にすわったので、外部 には少しぐらいの損傷があったが、浸水する ほどの損害はなかった、だが動かなくなった 船をどうするか。〈佐藤紅緑◆少年連盟〉 ぶさた無沙汰は無事の便り 何も便りがないのは、相手が無事でいる証拠 だから心配には及ばないということ。△無沙 汰‖長い間文通や訪問をしないこと。 類義便りのないのはよい便り。 ふざん巫山の夢ゆめ 出宋玉ー高唐賦 男女の情交のこと。また、男女の密会をいう。 「巫山の雲雨」「朝雲暮雨」ともいう。 ▶巫山=中国四川省と湖北省の境にある山。 長江(揚子江)が作った深い峡谷の巫峡がある 名勝地として知られる。 故事)中国の戦国時代、楚その懐王が高唐(巫山にある高殿の名)に遊んだとき、昼寝の夢の中で巫山の神女と契りを結んだ。神女は去るときに「朝は雲になり夕方には雨となって参りましょう」と言った。翌朝、王が巫山を見ると神女の言ったとおり雲がかかっていたという。 ぶじ無事これ貴人 出臨済録りんざいろく 無事これ貴人 何事も考えず、何事もしないという無心の境 地に入って仏の道に生きることのできる人こ そ、仏の教えを体得できる貴ぶべき人である ということ。▿無事‖無為。 <579> ふじさんかさ 富士山が笠をかぶれば雨 富士山の上に笠のような雲がかかると雨が降 るということ。「富士山が笠をかぶれば近い うちに雨」ともいう。 補説笠のような雲(笠雲)は、低気圧や前線 の接近で暖かい湿った空気が入り込んででき るもので、これによって雨が降りやすくなる。 朝◆松の操美人の生理 臥して東海を治む 出史記しき 政治を簡素にして、よく国を治めること。 東海=中国江蘇 こう 省北部の県。 故事中国漢の時代、東海県の太守汲黯 は病気で寝ていることが多かったが、大まか な方針を示すだけで政治を簡素化し、小事に こだわらず善政をしいたので、東海県はよく 治まったという。 附耳の言千里に聞こゆ 武士に二言なし 武士は、一度言ったことは必ず守りぬいて、 取り消したりはしない。武士は信義と面目を 重んじるということ。 類義武士の一言金鉄の如し。 英語 A bargain is a bargain. [約束は約束] An honest man's word is as good as his bond. [正直者のことばは誓約どおりである] 用例「勘弁相成らん、其それだから前に其方 その ほう のとは違うと云いうのだ、然しかるを強いて 強情を申張り、殊に命より荷物が大切だ、切 れても構わんというから改めさしたのだ、サ ア最もう許さんから行け武士に二言は無い、 番頭手前も怪けしからん奴やだ」三遊亭円 出淮南子えなんじ ふじさんーぶしはく 秘密はもれやすく、たちまち広がってしまう こと。耳に口をつけてする内緒話が、千里も 離れた遠くまで伝わるという意から。「耳に 附っくの言は千里に聞こゆ」ともいう。 類義囁ささき千里。 武士の三忘ぶしさんぼう 出史記しき 武士が戦場に行くときに忘れなければならな い三つのこと。命令を受けたら家を忘れ、戦 場に臨んでは親や妻子を忘れ、戦いが始まっ たら我が身を忘れるということ。 補説出典には「将う命を受くるの日には則 すな わ ち其その家を忘れ、軍に臨んで約束すれば 則ち其の親を忘れ、枹鼓ふこを援とることの急 なれば則ちその身を忘る(将たる者は命令が 下ればその家を忘れ、軍に臨んで軍令を定め ればその親を忘れ、進撃の太鼓をはげしく打 ち鳴らすときは我が身を忘れる)」とある。 故事中国春秋時代、斉の穣苴が一兵卒 から将軍に抜擢 は無名なので、公が信頼する高官を軍の総大 将に置いてほしい」と願った。任命された荘 賈と出陣の時刻を約束して、穣苴は軍門で 待っていたが、荘賈は親戚たちとの送別の宴 に出席していて定刻に大きく遅れた。そこで 穣苴は信条とする「三忘」を述べ、荘賈を処 刑した。 ぶししょうほう しぞくしょうほう 武士の商法 ↓士族の商法 290 富士の山と擂鉢ほど違う 違いが甚だしいこと。富士山と擂鉢は形がよ く似ているが、大きさが比べものにならない ということから。 ふじやまねがありづかかな 富士の山ほど願って蟻塚ほど叶うゝ棒 ほど願って針ほど叶う600 富士の山を蟻がせせる 実力のない者が大きなことを企てることのた とえ。また、びくともしないことのたとえ。 ∇せせる∥つつき散らす。つついて掘る。 類義大黒柱を蟻がせせる。大仏の柱を蟻がせせる。 武士は相身互い あいみたが 同じ境遇の者は互いに助け合うべきであると いうこと。武士同士は同じ立場にあるのだか ら、互いに助け合い、協力し合わなければな らないということから。∇相身互い∥「相身 互い身」の略。同じ立場の者同士が助け合う こと。また、そうした間柄。「相見互い」と も書く。 武士は食わねど高楊子 貧しくても、気位を高く持って生きるべきで あるということ。また、やせ我慢のたとえ。 <580> ぶしはせーふせいは 武士は貧しくて食事ができずに腹をすかせて いるときでも、食べたふりをして楊子を使う ことから。いろはがるた(京都)の一。 英語 Better go to bed supperless than to rise in debt. 夕食抜きで寝るほうが借金を背負って起きるよりましである」 用例私は自身古くさい人間のせいか、武士は食わねど高楊枝などという、ちょっとやけくそにも似たあの馬鹿々々しい痩せ我慢の姿を滑稽に思いながらも愛しているのである。〈太宰治◆津軽〉 武士は戦略坊主は方便 ぶしせんりゃくぼうずほうべん 人の言うことにはうそが多いことを皮肉った ことば。同じうそでも、武士は戦略であると 言い、坊主は方便(人を真の教えに導くため の便宜的な教え)と言うように、使う人と場 合によって言い方が違うということ。 ぶしわた 武士は渡りもの 武士は仕える主人を求めて、諸国を渡り歩く 奉公人にすぎないということ。生きるために は「二君に仕えず」などと堅苦しく考える必 要はないという意。「侍は渡り者」ともいう。 ふしゃくしんみよう 不惜身命 出法華経 命を捨てることもいとわない覚悟をいう。も と、仏教語で、仏法のために命も惜しまない という意。▷身命‖生命のこと。 夫が言い出し、妻がそれに従うという意から。 「夫唱えて妻随がう」ともいう。「夫倡婦随」 とも書く。 出関尹子かんいんし ふしょうふずい夫唱婦随 か夫を立てて逆らわず、夫婦仲がよいこと。 用例この傾向に対してこれではいかぬと いうことに気づき、早く云いえば、夫唱婦随 の真精神をつとに実行に遷うそうと努力した のは彼女であった。〈岸田国士◆妻の日記〉 ぶしょうものいっときばたら 無精者の一時働き ふだん怠けている者が、思い立って働き出し ても、一時的なもので長続きしないというこ と。急に大騒ぎして何かをし始める者をあざ けっていうことば。 無精者の隣働き 自分の家の仕事はしない怠け者が、隣の家の 仕事となると精を出して働くこと。 類義たくらだ猫の隣歩き。 英語 Fools will be meddling. 愚か者は おせっかいである ふじもっにしきつ 藤を以て錦に続ぐ 粗悪なものをよいものにつけ添えることのた とえ。藤で作った粗末な布を、立派な錦に縫 いつなげるという意から。 出礼記らいき 能あたわざれば則ち辞するに疾やまを以もって す。言いて日いわく、某ほう、負薪の憂い有り、 と(君主が士に弓を射ることを命じたとき、 もしできなければ、病気を理由に辞退してこ う言うのだ。私には負薪の憂いがあります、 と)によることば。 類義」采薪の憂い。 負薪の憂い 自分の病気を謙遜していうことば。薪を背 負った疲れによる病気、また、病気で薪を背 負うことができないという意から。「負薪の 病」ともいう。 補説出典にある君、士をして射いしむるに、 不信の亀は甲を破る しん かめ こう 信なき亀は甲を 破る334 ふじん婦人の仁 出史記しき 目先のことだけにとらわれた、了見の狭い人 の情けのこと。小さいことには同情したり慈 悲をほどこしたりするが、肝心なところでは 真の思いやりに欠けることのたとえ。 補説中国秦し代末、楚その項羽に不信を抱 き、逃亡して漢の王劉邦 に仕えた韓信 が、項羽を評して「人と会うときは礼儀正し く、ことばつきも丁寧で、病人を見ると涙を 流して自分の食物を分けてやる。しかし、手 柄を立てた者にほうびを与えるときは、惜し んでなかなか与えようとしない。これが世に いう婦人の仁というものである」と言ったこ とばによる。 浮生は夢の如し 出李白春夜宴桃李園一序 人生は夢のようにはかないものであるという こと。▶浮生‖はかない人生。 補説出典には夫それ天地は万物の逆旅 げき りよ <581> にして、光陰は百代 たい の過客なり。 しこ して 浮生は夢の如し、 歓を為 な すこと幾何 ぱぐぞ 天 地は万物を宿す宿屋であり、月日は永遠に通 りすぎていく旅人である。はかない人生は夢 のようなもので、楽しい時を過ごすのは一瞬 にすぎないのだ」とある。 類義人生は朝露ちよの如し浮世 よ は夢。 ふせ きようよ 布施だけの経を読む もらった金に見合うだけの仕事をすることの たとえ。僧が、与えられた布施に相当するだ けの長さの経を読むという意から。▷布施‖ 僧に施し与える金銭や品物。 類義 仏事供養も布施次第。布施ない経に袈 裟 けさ を落とす。 ふせつかつ 符節を合するが如し 出孟子 双方がまったく一致すること。割り符がぴた りと合うように、ぴったり合うこと。「符節 を合わすが如し」ともいう。∇符節∥割り符。 木や竹などの札に文字を書いて二つに割った もの。当事者双方が一片ずつ持ち、後日必要 なときに二つを合わせて証拠としたもの。 ふせきようけさお 布施ない経に袈裟を落とす 人間は、報酬が少ないと仕事もいいかげんに なるということのたとえ。布施がないと、僧 は経を読むときに袈裟もつけないという意か ら。▶布施‖僧に与える金銭や物品。 類義布施だけの経を読む。 伏せる牛に芥↓死に牛に芥かける297 ふぜんひとおほうぎよし 不善の人と居るは鮑魚の肆に 入るが如し 出孔子家語 ふせだけーぶたにし 悪人と一緒にいると、いつの間にか悪に染ま るということ。塩漬けや干物の魚を売る店に 入ると、はじめは臭く感じるが、そのうちに 何とも感じなくなるということから。単に 「鮑魚の肆に入るが如し」ともいう。↓芝蘭 しらの室に入る如し327 △鮑魚Ⅱ塩漬けや干物 の魚。肆‖店。 類義 朱に交われば赤くなる。善悪は友によ る。丹の蔵する所の者は赤し。 出礼記らいき ふそうほたる 腐草蛍となる あり得ないことが起こることのたとえ。腐った草が変じて蛍になるという中国古代の俗説から。「腐草化して蛍となる」ともいう。類義山の芋鰻ぎになる。雀すずめ海に入りて蛤はまぐりとなる。 出円覚経 ふそくふり 不即不離 二つのものの関係が、深すぎもせず離れすぎ てもいず、ちょうどよい関係にあること。△ 即∥つく。くつつく。 用例天下大乱の兆、漸 くきざし、山名細 川両氏の軋轢 あつ れき 甚しく、両氏は互いに義政 よし まさ を利用しようとして居る。ところが彼は巧み に両氏の間を泳いで不即不離の態度をとって 居る。だから両軍から別に憎怨 ぞう おん せられず、 戦乱に超越して風流を楽 たの し んで居られたので ある。〈菊池寛◆応仁の乱〉 ふそくぼうこうそうほうそん不足奉公は双方の損 主人に不平不満を持ちながら奉公するのは、 仕事にも熱が入らないから、主人にとっても 奉公人にとっても損であるということ。「不 足奉公は両方の損」ともいう。 「類義」述懐奉公身を持たず。 ふたたみの き ねかならそこな 再び実るの木は根必ず傷わ る えなんじ 出淮南子 非常な利益や名誉を得ると、災いを招くこと になる。栄華をきわめると滅びやすいという こと。一年に二度も実のなる木は、必ず根が 損なわれるという意から。 二つよいことはない 世の中のことは、一方がうまくいくと他方は とかくだめになるもので、両方ともよいとい うのはあまりないということ。「よいことは 二つない」ともいう。 ぶた豚に真珠しんじゅ どんなに価値のあるものでも、その価値がわ からない者には、何の役にも立たず、無意味 であることのたとえ。真珠を豚に与えても、 豚はその価値がわからないので何の役にも立 たないということから。 補説『新約聖書』マタイ伝にあることば。 英語では Cast not pearls before swine. (豚 の面前に真珠を投げ与えるべからず) 類義猫に小判。 <582> おたにねーふてんの ぶたねんぶつねこきよう 豚に念仏猫に経 どんなにすばらしい教えも、それを理解できない者には無意味であるということ。豚に念仏を、猫にお経を聞かせても、ありがたみがわからず、聞かせがいがないということから。単に「豚に念仏」ともいう。 類義馬の耳に念仏。犬に論語。犬に念仏猫 に経。 ぶた豚の軽業かるわざ ぶかっこうで、危なっかしいことのたとえ。 太って体の重い豚が曲芸をするという意か ら。「豚の木登り」ともいう。△軽業=曲芸。 た おのもち いた 二葉にして絶たざれば斧を用うるに至る両葉去らずんば斧柯を用う るに至る688 二股膏薬 うちまたごうやく 内股膏薬 89 豚もおだてりゃ木に登る ぶた のぼ 二脳もまたてりや木に登 おだてられて気分をよくすれば、能力以上の 働きをすること。豚もおだてられれば木に登 るようなあり得ないことをする意から。 ふたりぐちす 二人口は過ごせるが一人口は過ごせぬ ににんぐちすひとりぐちす 二人口は過ぎるが一人口は過ご ぶたぬす 豚を盗んで骨を施す せない497 な善行をして善人らしく振る舞うことのたと え。豚を盗んでまるごと食べておきながら、 盗まれて困っている人に骨を与えて助けたふ りをすることから。 大きな悪事をはたらいておいて、あとで小さ ふだんせっ 不断節季 いつも節季のつもりで、借金をしないように 着実に毎日を締めくくっていけば、決算期に なっても困らないということ。▷不断‖日 常。平生。節季‖勘定の締めくくりの時期。 商店の決算期。ふつう、盆と暮れの年二回。 ふちあめ かわりばえがしないこと、たいして効果がな いことのたとえ。また、むだな努力をするこ とのたとえ。深い淵に雨が降っても、あまり 変化がないことから。 淵に雨 類義 淵に塩。 ふちのぞうおうらやしりぞ 淵に臨みて魚を羨むは退いて あみむすし 網を結ぶに如かず 出漢書 他人の幸福をうらやむよりも、自分で幸福を 得る工夫をすべきであるという教え。川の淵 の前で魚をほしがって見ているよりも、家に 帰って魚を捕らえる網を作ったほうがよいと いう意から。 なっているということから。「淵変じて瀬と なる」ともいう。↓飛鳥川あすかの淵瀬18 類義昨日の淵は今日の瀬。 ふち せ 淵は瀬となる 世の中の移り変わりや人の浮き沈みの激しい ことのたとえ。昨日までは水が深くよどんで 淵だったところが、今日は流れの速い浅瀬に 釜中魚を生ず 出後漢書 非常に貧しい生活のたとえ。長い間飯をたか なかったので、釜の中に魚がわき出てしまっ たということから。 故事 中国後漢の范冉は、才能があるのに 役人になるのをきらい、放浪の生活をして久 しく炊事もしなかった。そのため、釜の中に 魚がわき出たという。 類義 甑中 そうちゅう 塵ちりを生ず。 ふちゅううおうおふちゅうあそこと 釜中の魚魚の釜中に遊ぶが如し80 仏法あれば世法あり 物事には必ず対応するものがあるということ。仏の教えがある一方で、それに対する人間的な世間での法則もあることから。△仏法 仏の説いた教え。世法価価の法則。仏 法に対する語。 類義 煩悩あれば菩提 あり。 仏あれば衆生 あり。 ぶっぽうはらねんぶつせたいぶっぽうはらねんぶつ 仏法も腹念仏ヒ世帯仏法腹念仏355 ふてんもとそつどひん 普天の下、率土の浜 出詩経 天下すべて。世界中のこと。「普天率土」と もいう。∇普天∥大地をあまねく覆っている 天。「溥天」「敷天」とも書く。率土∥人の従 い行く所。土地から土地と続く所。「そっと」 <583> とも読む。「率土の浜」は、土地から土地と 続く所では海ぎわまで。 補説出典には「溥天 の下、王土に非あらざ るは莫なく、率土の浜、王臣に非ざるは莫し(広 くすべてをおおっている天の下は、王の土地 でないところはなく、陸地のはてまで、そこ に住む人で王の臣下でない者はいない」と ある。 ろ480 太きには呑まれよ♩長い物には巻かれ ふなすがたさんり ほすがたくり 船姿三里、帆姿九里 船の姿は港から三里沖まで見え、帆は九里沖 まで見えるということ。「船姿一里、帆姿三 里」「船形三里、帆形七里」などともいう。 ふなぬすびとかちお 船盗人を徒歩で追う やり方が適切でないために、むだな骨折りに しかならないことのたとえ。船を盗み、漕こ いで逃げていく者を、陸上を徒歩で追いかけ る意から。「船盗人を陸で追う」ともいう。 よ 鮒のごみに酔うたよう 息もたえだえで、今にも死にそうなようす。 泥水の中で、酔ったようにもがいているふな のようだという意から。 類義泥に酔った鮒。 ふななかま鮒の仲間には鮒が王 つまらない者の集団では、やはりつまらない 者が長となるということ。また、小人 しよう じん 中には賢者はいないというたとえ。つまらない者たちの仲間にもそれ相応の長はいるという意味でも使う。鮒の仲間の王となるのは、同じ鮒であるということから。「鮒の中では鮒が王」ともいう。 ふときにーふねには 腑に落ちない 納得したという気になれないこと。合点がい かない。心に落ちない、ということから。 腑Ⅱはらわた。内臓。転じて、心の意。 用例それがひよいと一瞬間解わかったよう なしかしまだ何となく腑に落ちないような 気もちに僕をさせる工合も、それもまたな かなか愉たのしいのである〈堀辰雄◆鎮魂曲〉 ふねくつがえすなわよおよみ 舟覆りて乃ち善く游ぐを見 る 元なんじ 出淮南子 人の本当の才能や実力は、何か事が起きては じめてはっきりわかるものだということ。舟 がひっくり返ってはじめて、その人が泳ぎが 上手かどうかがわかるという意から。 補説出典には、このあとに「馬奔はりて乃ち良く御するを見る(馬が走り出してはじめて、その人が馬を上手に扱えるかどうかがわかる)」とある。平時には人の才能はわかりにくいことを言ったことば。 舟に刻みて剣を求む ふねきざけんもと 慣やしきたりを固く守っている愚かさのたと え。 世の中の移り変わりに気づかず、昔からの習 出呂氏春秋 故事昔、中国の楚その国で川を渡っていた 男が、剣を川の中に落としてしまった。男は あわてて舟べりの落としたところに小刀で印 をつけ、舟が向こう岸に着いてからその印の 下の川の中を探したが、舟は動いているので、 見つかるはずはなかった。 類義 剣を落として舟に刻む。 舟に懲りて輿を忌む 一度失敗したために、必要以上に用心深くな ること。舟に乗って舟酔いなどでこりた者 が、同じ揺れる乗り物の輿に乗るのも嫌うと いう意から。▷輿‖人を乗せた屋形の下に二 本の棒をつけ、それをかついだり手でささえ たりして運ぶ昔の乗り物。 類義 羹 あつ もの に懲りて膾 なま す を吹く。黒犬に噛か まれて灰汁あくの垂れ滓かすに怖じる。 舟に荷の過ぎたる如し 能力以上のことをしなければならないこと。 また、実力以上のことをして苦しむことのた とえ。舟に荷物を積みすぎてしまったようだ という意から。「小舟に荷の過ぎたる如し」 「小舟に荷が勝ったよう」ともいう。 船には水より火を恐る おそ 思いがけないところに恐ろしいものがあると いうこと。また、外よりも内から起こる災難 や事故のほうがこわいということ。船にとっ <584> ふねにろーふねをり ては、浸水して沈没するよりも船火事を起こ すほうが恐ろしいということから。 ふねろかい 舟に艙櫂のないよう いちばん大事なものがなくて、どうしようも ないこと。また、まったく自由のきかないさ まのたとえにもいう。舟をこぐのに必要な艙 や櫂がなくなってしまったという意から。 ふねせんどうまか 何事も、専門家にまかせるのが間違いがない ということ。 類義餅は餅屋。海の事は漁師に問え。 船は帆でもつ帆は船でもつ 世の中は持ちつ持たれつの関係で、互いに助 け合ってはじめてうまくいくということのた とえ。帆掛け船は帆によって動くことができ るし、帆は船がなくては用をなさないことか ら。 船は帆まかせ帆は風まかせ あれこれ思い悩まず、すべてを成り行きにま かせて身をゆだねることのたとえ。帆掛け船 の進むのは帆にまかせ、その帆の働きはすべ て風まかせで、自分の意志や努力ではどうに もならないということから。 舟は水に非ざれば行かず、水 舟に入れば則ち没す 舟は水がなければ浮いて進むことができない が、その水が舟の中に入ると沈んでしまう。 君臣の関係も舟と水のように、人民がいなけ れば君主は成り立ちえないが、人民が君主の 地位をおかすと国は滅びるというたとえ。 補説孔子が、君主は人民によって立つもの であるが、また人民によって滅ぼされるもの であることを説いたときのことば。出典で は、このあとに「君は民たみに非ざれば治まら ず、民上かみを犯おかせば則ち傾く(君主は人民 がいなければ国を治めようがないが、人民が 君主に反抗すれば国はあぶなくなる)」と続 く。 船を漕ぐ 居眠りをすること。座ったまま寝ると、船を 漕いでいるかのように体が前後に揺れること から。 おぼ この 船を好む者は溺れ、騎を好む 者は堕つ 出越絶書 人は好きな道や得意なことではとかく油断 し、失敗しやすいから警戒せよという教え。 船が好きな者は船に乗ることも多いから水難 にあうことも多く、乗馬の好きな者は馬に乗 ることが多いから落馬することも多いという ことから。 類義 過ちは好む所にあり。川立ちは川で果 てる。 船を沈め釜を破る 出史記 必死の覚悟で事にあたることのたとえ。生き て帰らない決意を示すこと。「釜を破り船を 沈む」ともいう。 故事中国秦の末、楚の項羽が兵を率 いて黄河を渡ったとき、船を沈め、釜をこわ し、宿舎を焼いて生還の意志のないことを全 軍に示して士気を鼓舞し、決戦のすえ、秦の 大軍を破ったという。 類義 糧 加て を捨てて船を沈む。船を焼く。背 水の陣。 船を焼く 必死の覚悟で事にあたること。あとに引けないように、自分から逃げ道を断って臨むことのたとえ。古代ローマの将軍ジュリアス・シーザーが、退却用の船を全部焼いて後退できないようにし、兵士の士気をふるい立たせて戦いに臨んだという故事による。 補説 英語ではburn one's boatsという。 類義 船を沈め釜を破る。背水の陣。 出荘子そうじ 舟を陸に推す 無理を押し通そうとすること。また、骨が折 れるばかりで効果のないことのたとえ。舟を 陸上でこぎ進めようとする意から。 補説出典には「夫それ水行は舟を用うるに 如しくは莫なくして、陸行は車を用うるに如く は莫し。舟の水に行やる可べきを以もってして、 而しかも之これを陸に推さんことを求むれば、則 すな わ ち世を没するまで尋常も行らず一体、水 を進むには舟にこしたことはなく、陸を行く には車にこしたことはない。舟が水を進むの に便利なのに陸に推し進めようとするなら <585> ば、死ぬまでかかっても少しも進められはし ない)」とある。 ふへんふとう不偏不党 特定の主義や党派に加わらないこと。どちら にも偏らず、公正・中立の立場をとること。 ▶不偏‖偏らないこと。不党‖仲間に入らないこと。 出墨子ぼくし 補説出典には「周詩に日いわく、王道蕩蕩とう たり。偏せず党せず、王道平平たり。党せず 偏せずと(周詩によれば、王道は坦々 たん とし て平らかである。公正・中立で偏ることがな ければ、王道は平々として平らかである) とある。また、『書経』には「偏無く党無く、 王道蕩蕩たり。党無く偏無く、王道平平たり」 とある。 類義偏なく党なし。 用例元来ブルジョア学者の学問が公平無私 で「客観的」であることを以もって、即すなわち不 偏不党の中立主義であることを以て、「科学 的」だと称されているのは、世間周知の通り であるが、併しかしその結果、それだけにブル ジョア学者そのものの人柄に就いて云いえば、 主観的で分派主義的で、即ち非科学的な人物 が少くない。〈戸坂潤◆社会時評〉 ふぼいまとおあそ 父母在せば遠く遊ばず出論語 親は子供のことをいつも心配しているものだ から、親が生きているうちは、子供は遠くへ 旅行などしないようにするのが、孝行を尽く す道であるということ。 補説孔子が、子の親に孝養を尽くす心構え ふへんふーふめばく を述べたことばの一節で、出典では、このあ とに「遊べば必ず方ほう有り(やむをえず遠く へ出かけるときは、必ず行く先をはっきりさ せておくべきである)」と続く。 はしらな 腐木は以て柱と為すべから ひじんもっしゅな ず、卑人は以て主と為すべか らず 出漢書 かんじょ 能力のない者を重用してはならないということ。腐った木は柱として使ってはならないし、品性のいやしい者を主人にしてはならない。愚かな者はいつどんな災いを起こすかわからないということ。 補説中国漢の成帝が趙倢伃ちょうしを皇后に迎 えようと思い、その前に倢伃の父趙臨ちょう 列侯(大名)にとりたてようとしたときに、劉 輔りゅがこれを諫いさめた文の中で用いたことわ ざ。 ふぼおんやまたかうみふか 父母の恩は山よりも高く海よりも深し ちちおんやまたかははおん ♡父の恩は山よりも高く母の恩は うみふか 海よりも深し420 父母は唯其の疾を之憂う 父母は、子供の病気のことをいちばん心配す る。だから体を大切にして健康であることが、何よりの親孝行であるということ。孔子が、「孝とは何か」という孟武伯はくの問いに 出論語ろんご 答えたことば。 補説この解釈のほかに、「父母には唯其の 疾を之憂えよ」と読んで、年とった父母が病 気にかからないように、常に注意しなければ いけない、とする説、「父母をして唯其の疾 をのみ之憂えしむ」と読んで、病気のことで 父母に心配をかけるのはしかたがないが、そ の他のことでは心配させないようにしなけれ ばならない、とする説がある。 踏まれた草にも花が咲く 逆境にある者でも、時運が巡ってくれば、栄 えることがあるということ。 ふみ かても 文はやりたし書く手は持たず 恋文を書きたいけれども、文字が書けず、人 に代筆を頼むのも恥ずかしいと気をもむよう す。いろはがるた(江戸)の一。 ふみもじゅしゃいしゃふよう 不身持ちの儒者が医者の不養 じょう 生をそしる 目分を棚に上げて、他人の欠点を非難することのたとえ。品行の悪い儒学者が、不損生をしている医者を非難するという意から。 類義猿の尻笑い。目糞 鼻糞を笑う。障子 の破れ目から隣の障子の破れ目を笑う。 踏めば窪む 行動すれば、多少の差はあっても、何らかの 反応や影響があるということのたとえ。ま た、結果がわかりきっていることのたとえ。 <586> ふゆあみーふるいに 土を踏めば窪んで跡が残るということから。 ふゆあみがさなつずきん 冬編笠に夏頭巾 物事がさかさまであること。冬は暖かい頭巾 をかぶり、夏は風通しがよくて涼しい編笠を かぶるのが普通なのに、反対のことをしてい るということから。 類義寒に帷子 かた、 土用に布子 ぬの○ 土用布子 こ に寒帷子。 ふゆう 蜉蝣の一期 いちご 人の一生が短くてはかないことのたとえ。か げろうは朝生まれて夕方には死んでしまう が、人生も同じだということから。▽蜉蝣= かげろう。一期Ⅱ一生。 冬来たりなば春遠からじ いまは不幸でつらくても、それを耐えれば、 やがて幸せがやってくるということ。寒く厳 しい冬のあとにはやがて暖かく明るい春がく るという意から。 補説イギリスの詩人シェリーの『西風に寄せる歌』の一節で、If winter comes, can spring be far behind?の訳語。 冬の雨は三日降らず だれも買わないということ。「冬の氷売り」ともいう。 冬降る雨は長く続かないということ。冬に晴 天の日が多い東日本の太平洋側の気候をいっ たもの。 ふゆ 冬の雪売り 身近にたくさんあるものを売ろうとしても、 冬は日陰、夏は日面 出すぎたことをしないようにすることのたと え。快適な場所は人に譲って、自分は冬は寒 い日陰に、夏は暑い日なたにいるということ から。「日面」は「日表」とも書く。 類義夏は日向 ひな た を行け、冬は日陰を行け。 ふてあぶらこぼ 降らず照らさず油零さず すべてが好調であるさま。水害になるような 長雨も降らず、水がかれるような日照り続き もなく、田の害虫を駆除する必要もなく、豊 作であるということ。∇油零す∥稲につく害 虫を駆除するために、田に油を流すこと。 ふさきかさ 降らぬ先の傘 何事も先を考えて、しっかりと準備したり用 心をしておくこと。雨がまだ降っていないの に、傘を持って出かけるという意から。 類義転ばぬ先の杖つえ。濡ぬれぬ先の傘。 振られて帰る果報者 かえかほうもの 遊女に冷淡にあしらわれて帰る者は、かえって幸運である。深入りして財産を使い果たすこともないと、慰めや負け惜しみにいう。 ふ 降りかかる火の粉は払わねば ならぬ でもその危険を防がなければならないという こと。降りかかる火の粉を払いのけなければ やけどをしてしまう意から。 類義 売られた喧嘩 けん か は買わねばならぬ。 類義 売られた喧嘩 用例もういやです。米友としてもこんなと ころでまたしても武勇伝は現わしたくはない のですが、実際、身に降りかかる火の粉は払 わなければならない。払って置いて相当の弁 明が聞かれなければ、もうそれまでーそう いう覚悟をきめることには未練のない男で す。〈中里介山◆大菩薩峠〉 ぶりようとうげん武陵桃源 とうせんとうかげんのき 出陶潜桃花源記 俗世間からかけ離れた別天地。理想郷のこ と。「桃源郷」、また単に「桃源」ともいう。 ∇武陵∥地名。中国湖南省にある。 故事中国晋の太元 年間(四世紀後半) 武陵の漁師が谷川をさかのぼっているうちに 広い桃の林が見えた。さらに進んで水源まで 行くと洞穴があり、そこを通り抜けた所に、 秦しの乱世を逃れて住んだという人々が、世 の変遷も知らずに平和に暮らしている美しい 村があったという。 類義桃源の夢。 古い友達と古い葡萄酒に勝るものなし 友と酒は古いほどよい473 篩に掛ける 多くの中から、基準を設けて選別し、基準に 合わないものを除くこと。篩を使って粒など の大小をより分けることから。∇篩∥粒状の <587> ものを振り動かしてより分ける、網を張った 道具。 ふるかわみずた 古川に水絶えず いわれのある旧家は、没落してもなお財産や 宝物などが残っていて昔の面影をとどめてい るものだということ。また、基盤がしっかり していれば、衰えてもたやすく滅びることは ないというたとえ。古い川は、水がかれたよ うに見えても、絶えることなく少しずつ水が 流れているという意から。「古川には水涸かれ ず」ともいう。 類義 大川に水絶えず。大鍋の底は撫なでて も三杯。 古き革袋に新しい酒は盛られぬ 新 さけあたらかわぶくろも しき酒は新しき革袋に盛れ 21 ふるきずいたやす 古傷は痛み易い 過去のあやまちやいやな体験は、たびたび思 い出されて胸が痛むということ。また、あと あとまで何かにつけてたたるものだというた とえ。古い傷あとは、治ったようでも天気の 悪い日や季節の変わり目などには痛むことか ら。 英語Oldsinbreedsnewshame. は新しい恥を生む ふるきて わかぎ 古木に手をかくるな、 若木に こしか 腰掛くるな 将来性のないものを頼りにしてはならない、 ふるかわーふんけい また、将来性のあるものは抑えつけたり軽ん じたりしてはならないということ。古い木は 折れやすくて危険だから、手をかけてはなら ない。また、若い木は生長の妨げになるから、 腰をかけてはならないということから。 故きを温ねて新しきを知る 出論語ろんご 前に学んだことや昔の事柄をよく調べ研究し て、そこから新しい知識や道理を発見するこ と。「温故知新」を読み下したもの。「温ねて」 は「温あためて」とも読む。 類義 来らい を知らんと欲する者は往 おう を察 す。 用例私は、所謂 いわ ゆる 下町物の中でも、最も純 粹な泉鏡花氏の『日本橋』を作るに至った気 持は、其処そこにあるのである。昨日の美をし て、明日の美をなし得るならば、望みは之これ に越したことはない、古きを温ねて新しきを 知ると云いう諺 こと わざ である。〈溝口健二◆日本趣 味映画〉 古屋の造作 古い家屋を改築したり増築したりすると、直 さなければならないところが多く、予想以上 に費用や手間がかかるということ。また、費用 や手間をかけたわりに見ばえがしないこと。 ふ どしゃぶ 降れば土沙降り う意から。 悪いことは重なって起こるものだということ。雨が降るときは必ず土砂降りになるとい 補説)英語のことわざ「It never rains but it pours.(降るときは土砂降り)」から。 類義泣き面に蜂。踏んだり蹴ったり。弱り 目に祟たり目。 客は、宴席などで求められたら、立って舞う などの芸をするのがよい。また、長居をしな いで、早めに席を立って帰るのがよいという こと。「風呂を立てる(わかす)」の「立つ」 と「客が立つ」の「立つ」とを掛けた言い方。 不惑 しじゅう まど 四十にして惑わず 289 ふわらいどう付和雷同 自分にしっかりとした考えがなく、軽々しく 他人の意見に同調すること。単に「雷同」と もいう。▷付和=わけもなく他人のことばに 賛成すること。「附和」とも書く。雷同=雷 が鳴ると万物がそれに応じて響く意から、む やみに他人の言動に同調すること。 類義尻馬に乗る。同じて和せず。 用例群集心理にのみかられて、付和雷同する場合にはとんでもない「価値の転倒」が行われる惧れがあるが、情実や交友関係に左右された幇間ほう的批評よりも、厳正を失うおそれは少ないと言えよう。〈平林初之輔◆日本の近代的探偵小説〉 ふんけい まじ 刎頸の交わり 出史記 きわめて親密な交わりのたとえ。その友人の <588> ためなら、自分の首を切られても悔いはない というくらい深い友情で結ばれているという 意から。▷刎頸‖首をはねる。首を切る。 故事 中国の戦国時代、趙 ちょ の将軍廉頗 れん ば は、 蘭相如 りんしょ うじょ が自分より上位になったのを恨ん だが、相如は二人が争って共倒れになるのを 恐れ、国のために争いを避けようとしている ということを聞いた。それを聞いた廉頗は、 深く恥じ、悔いて相如のところに出かけ、わ びて刎頸の交わりを結んだという。↓両虎相 闘えば勢い俱ともには生きず685 類義管鮑かんの交わり。水魚の交わり。金蘭 きん ちん の契り。断金の交わり。断琴の交わり。莫 逆 ばくぎ やく の友。膠漆こうの交わり。 失語 A friend in need is a friend indeed. 危急の際の友こそが本当の友である」 用例もともと馬謖はしは、夷族の役えに戦 死した馬良ばりの幼弟だった。馬良と孔明と は、刎頸の交わりがあったので、その遺族は みな引き取って懇ねんろに世話していたが、と りわけ馬謖の才器を彼はいたく鍾愛あいして いた。〈吉川英治◆三国志〉 である。〈西田幾多郎◆愚禿親鸞〉 力の限り努力すること。また、一生懸命働く こと。骨を粉にし、身を砕くほど力を尽くす 意から。 出 霍小玉伝 文事ある者は必ず武備あり 類義彫心鏤骨 身を粉にする。 用例例の放蕩息子 ほうとう を迎えた父のよう にいかなる愚人いかなる罪人に対しても 弥陀みだはただ汝なんの為ために我は粉骨碎身せり といってこれを迎えられるのが真宗の本旨 出史記しき 文と武は、どちらか一方に偏ることなく、両 方をかね備えていなければならないという教 え。文事に通じている者は、必ず武事の備え もあるという意から。∇文事∥学問・芸術な どに関する事柄。武備∥武事(武芸や戦いに 関する事柄)の備え。 補説出典には文事有る者は必ず武備有り、 武事有る者は必ず文備有り」とある。 類義文武は車の両輪。 文章は経国の大業不朽の盛 事 出典論 てんろん 文学が永遠不滅であること。文学は国を治め ることと同じくらいの大事業で、永久に残る 盛大な事業であるということ。▷文章‖詩文 を中心とする文学全般の総称。経国‖国を治 めること。 出史記しき 学問・思想・言論への弾圧政策をいう。書物 を焼き、儒者を穴に埋めて殺したということ から。∇焚∥焼く意。坑∥穴埋めにする意。 故事)中国秦しの始皇帝の三四年(前二一三 年)、宰相さいしの李斯りしが、医学、占い、農業 以外の書を焼き、儒者を処刑することを進言。 始皇帝は、これを採用して書物を焼き、四百 ふんしょこうじゅ焚書坑儒 六十余人の儒者らを穴埋めにして殺した。 用例「いや、改名主 あらため なぬし はいなくなっても、 改名主のような人間は、何時いつの世にも絶え た事はありません。焚書坑儒が昔だけあった と思うと、大きに違います」〈芥川龍之介◆ 戯作三昧〉 文人相軽んず 文人といわれる人は、自尊心が強く、互いに 自分を高く評価し、相手を軽視することが多 いということ。▷文人∥知識人や芸術家。 お 文臣銭を愛せず、武臣死を惜 てんかたいへい しまざれば天下太平なり 出宋史そうし 文官は潔白で金銭をむさぼることなく、武将は国のために命を惜しまずに、おのおのその職分を守れば、天下は太平になるということ。 補説 中国南宋の忠臣岳飛がくが「天下は何いずれの時にか太平ならんどうすれば天下は太平となるのか」という問いに答えたことばの一節。 ぶんぜいやまおかやまお 蚊蚋山を負う♩蚊をして山を負わしむ 161 文籍腹に満つと雖も一囊の銭 に如かず 出後漢書 学問は、実際の場で生かさなければ、何の価 <589> 値もないということのたとえ。どんなに本を 多く読み、学問にすぐれていても、それを実 行に移さなければ、わずか一袋の銭ほどの値 うちもないという意から。∇文籍∥書物。書 籍。一囊の銭∥財布の中の少しの金の意。 分相応に風が吹く 人には、それぞれの身分や境遇に応じた暮ら し方があり、家の規模や出費の大小も、それ に釣り合ったものになるということのたと え。「分相応の風が吹く」ともいう。 分分 風は吹く。大きな家には大き 風。 踏んだり蹴ったり 何度もひどい目にあうことのたとえ。 類義泣き面に蜂。弱り目に崇たたり目。転んだ上を突き飛ばす。 用例私の心の中で、彼を踏んだり蹴ったり の目に会わせて居たことをすまなく思い、二 人が一生、大きく仕事で光栄ある生活を営め ることを祈る。〈宮本百合子◆日記〉 糞土の牆は杇るべからず 怠け者には、何を教えてもむだであるという ことのたとえ。腐ってぼろぼろになった土で 造った塀は、もとがしっかりしていないので、 こてで上塗りすることができないという意か ら。∇糞土∥腐ってぼろぼろになった土。牆 ∥土塀。 出 論語 ろんご ぶんそうーぶんをも 補説出典には、この前に「朽木は雕るべ からず(腐った木には彫刻することができな い)」とある。孔子が、怠けている弟子の宰 予 を非難して言ったことばの一節。↓朽木 は雕るべからず186 いい考えが浮かばないということ。「分別」 の「分」を「糞」に置き換えたしゃれ。 文は人なり 文章は、それを書いた人の人柄や思想などが 表現されているものだから、文章を見ればそ れを書いた人物が判断できるということ。 補説十八世紀のフランスの博物学者ビュ フォンが、アカデミーフランセーズの新会員 になったときの入会演説「文体について」の 中で言ったことば。英語では The style is the man.(文体はその人の人となりを表す) 分分に風は吹く分相応に風が吹く589 分別過ぎれば愚に返る からないから、注意しなければならないということ。 あまり考えすぎると、迷って考えがまとまら なくなり、かえって失敗するということ。「分 別過ぐれば愚に返る」ともいう。 類義過ぎたるは猶なお及ばざるが如ごとし。薬も過ぎれば毒となる。念の過ぐるは無念。対義念には念を入れよ。 類義虚仮こけほど恐ろしい者はない。 分別なき者に怖じよ ふんべつ 物事の道理がわからない者は、何をするかわ 分別の分が百貫する 慎重に考えて判断し、軽々しく行動しないこ とが大切であるということ。分別の「分」の 字が銭百貫に相当するという意から。 類義思案の案の字が百貫する。 ぶんぼうぎゅうようはし 出説苑ぜいえん 蚊虻牛羊を走らす 小さなものでも、あなどれないということの たとえ。また、小さなことが原因で大きな事 件や災難を引き起こすことのたとえ。蚊や虻 あぶのような小さな虫が、刺されるのをいやが る大きな牛や羊を逃げ走らせるという意か ら。「虻」は「蝨」とも書く。 補説出典にはこの前に「蠹蝝 とえ 柱梁 ちゅう りよう を仆 たお し(木食い虫やいなごの子は柱や屋根 を支える梁はりを食い荒らして倒し)とある。 ぶんまう とけ や ぶんぼうたけおかやまお 蚊虻に獄を負わす収をして山を負わ しむ161 おんもっともかい 文を以て友を会す 学問を志す者を友として集めること。何の目 的もなく集まるのでなく、学問することを目 的として会合し、自分を高めること。君子の 交友について述べた曽子のことば。 補説出典では、このあとに「友を以て仁を 輔 たす く(その友達によって仁徳の成長を助け る)」と続く。 <590> 平気の平左へいざ 何があっても気にせず、少しも動じないこと。 「平気の平左衛門 へいざ えもん」 の略。「平」を重ねて 人名めかした語呂合わせ。 用例長野の師範校時代からこの飯山 いい やま に 奉職の身となったまでよくまあ自分は平気 の平左で普通の人と同じような量見で危 いとも恐しいとも思わずに通り越して来たも のだ〈島崎藤村◆破戒〉 閉月羞花 る人のたとえ。 出楊果ー詩 絶世の美女の形容。美人の前では、月は雲の 中に姿を隠し、花は恥じらってしぼんでしま うという意。美人のうるわしいことの最大級 の形容。 補説出典の詩の題名は『采蓮女曲 さいれんじ よきよく へいけ ほろ へいけ 平家を滅ぼすは平家 自分をだめにするのは、自分自身であるということ。平家が源氏に滅ぼされたのは、だれのせいでもなく、平家自身のおごりと悪業のためであるという意から。 類義自業自得。六国りを滅ぼす者は六国な り。身から出た錆さび。 門戶先生 出蒙求 戸を閉めきって家にとじこもり、読書にふけ 故事)中国三国時代の楚その孫敬は、来客の わずらわしさを避けて常に戸を閉じて読書に ふけり、眠くなると首に縄をつなぎ、これを 梁はりにかけて眠らないようにした。あると き、町に出ると人々が珍しがって「閉戸先生 が来た」と言ったという。 領義一を閉じて書を流ら。 類義戸を閉じて書を読む。 平二が瓜を作れば源太座して これ 之を食らう 自分は何もしないで、他人の働きを利用して うまいことをするためとえ。また、他人の努力 の結果を横取りすることのたとえ。平二が苦 労して瓜を作ると、源太は何もしないでいて その瓜を食べてしまうという意から。 出賈島ー詩かとうし ヘいしゅう じよう弁州の情 やむをえず住んでいた土地も、いざ離れると なると、生まれ故郷のように思われるという こと。また、転じて、第二の故郷をなつかし く思う心情をいう。▷幷州‖中国山西省太原 げん市の古い名称。 補説詩の題名は『桑乾 に客舎 かく しゃ すること已すでに十霜 じっ、 そう 帰心日夜咸 陽 かん よう を憶 おも う、端無 はし な くも更に渡る桑乾の水、 卻 かえ って幷州を望めば是これ故郷(幷州での旅 暮らしも十年になる。都に帰りたくて、日夜 咸陽のことを思い続けてきた。思いがけなく 桑乾河を渡りさらに北へ行くことになった 今、幷州の方角をふり返ると、仮住まいの地 と思っていた町が生まれ故郷のように思われ る」とある。 ヘいし 補説孟子の弟子の桃応 とうが孟子にもし舜 おう しゅ 帝(中国古代伝説上の聖王)の父親が殺人を 犯したら、舜帝はどうするでしょうか」と質 問したのに対し、孟子が答えたことばの中の 一節。「舜天下を棄つるを視みること、猶なお 蹴を棄つるがごとし。窃ひそかに負うて逃れ、 海浜に遵がいて処り、終身訢然 きん ぜん として楽 しみて天下を忘る(舜は天子の位を捨てるこ とは破れぞうりを捨てるくらいにしか考えて いない。だから、ひそかに父親を背負って逃 げ、海浜にかくれ住んで楽しみ、天下のこと など忘れてしまうだろう」と、孝道を重視 した答えをしている。 へいすいあいあ萍水相逢う 出 おうぼっとうおうかくのじょ 王勃ー滕王閣序 旅行中などに、偶然出会って知り合いになる ことのたとえ。浮き草と水が出会うという意 から。一説に、水に漂う浮き草同士が出会う 意からとも。∇萍∥浮き草。 へいぜいせつきなり 平生節季也、 不断晦日也 商人は、毎日が決算期であり、支払い日であるという心がまえで仕事に取り組まなければならないということ。∇節季=勘定の締めくくりの時期。決算期。ふつう、盆と年末の二 <591> 回。晦日二月の末日。金銭の支払いを月末に するのを「晦日払い」という。 出劉禹錫ー竹枝詞 思いがけず起こる出来事・事件のたとえ。また、平穏無事におさまっているところに、わざわざもめごとや争いごとを起こすことのたとえ。「平地に風波を起こす」「平地の風波」ともいう。△波瀾=さわぎ。もめごと。 類義 寝た子を起こす。 へいちゅうこおりみてんかさむ 瓶中の氷を睹て天下の寒き し を知る 出淮南子 をすすめたことばの一節に基づいている。↓ 歯亡ほろび舌存す534 部分的な小さいことから全体の状態や動きを 知ること。かめの中の水が凍っているのを見 て、冬がやってきたことを知る意から。 類義一葉 いち よう 落ちて天下の秋を知る。 へいつよ すなわ ほろ 元なんじ 兵強ければ則ち滅ぶ 出淮南子 堅くて強いものは、かえってもろく壊れやす いということ。兵力が強大であると自然にお ごりや油断が生じ、かえって敗れる結果にな るということから。∇兵∥兵力。武器。 補説出典では、このあとに「木強ければ則 ち折れ、革固ければ則ち裂く。歯は舌より堅 けれども、之これに先だちて敝やぶる(木が堅す ぎればかえって折れ、革が固すぎればかえっ て裂ける。歯は舌より堅いが舌よりも先に欠 け落ちる)」とある。老子が堅強を戒め柔弱 へいちにーへいはな 丙丁に付す 出王陽明復二童克剛一書 焼き捨てること。火にくべること。とくに、 秘密書類や人に見られたくない手紙などを焼 くことをいう。∇丙丁∥「丙」は十干かんの「ひ のえ」、「丁」は「ひのと」で、どちらも五行 ざぎの「木火土金水」の「火」にあたるので、 火の意に用いる。 出孫子そんし 兵に常勢だ 戦いには、こうすれば必ず勝つというきまっ たやり方はないということ。敵情をよく見 て、臨機応変に戦うべきであるということ。 「常勢」は「成勢」とも書く。∇兵∥戦略。 戦術。 補説出典には「水は地に因よりて行を制し、 兵は敵に因りて勝ちを制す。兵に成勢无なく、 恒形無し。能よく敵に与がいて化するは、之 これを神しんと謂いう(水は地形によって流れが決 まり、戦いは敵情により勝負が決まる。だか ら戦いに必勝のやり方などはなく、一定の形 はないのである。うまく敵情の変化に応じて 勝利を得ることが、最上の策である)」とある。 へいしんそくたっと 兵は神速を貴ぶ 出三国志さんごくし 戦争では一瞬の遅れが運命を決するから、軍 隊を動かすには、迅速果敢にすることが何よ りも大切であるということ。△兵=戦略。戦 術。神速=非常に速やかなこと。 類義兵は拙速を聞く。 出十八史略 軍隊は精鋭な兵士を養成することが大切で、 兵の数を多くすることばかりに力を入れては いけないということ。▷兵‖兵士。軍隊。 出孫子そんし 兵は拙速を聞く 戦いは長びくと何かと不利なことが生じるので、作戦に多少まずいところがあっても、速攻で一気に勝利をおさめることが大切であるということ。「兵は拙速を尚たっぷ」ともいう。 △兵Ⅱ戦略。戦術。 補説孫子は「戦いが長びけば兵力を弱め、 士気をにぶらせ、軍事費も増える」と長期戦 の不利を説き、「兵は拙速を聞くも、未いまだ 巧久を睹ぬざるなり(戦術は多少まずいが迅速 に動いたという話は聞くけれども、上手なや り方で長期間戦い続けたという話は聞いたこ とがない」といった。 へいなおひ 兵は猶火のごとし 出春秋左氏伝 武力は火と同じで、使い方がまずいと自分自 身を害するということ。武力を用いたとき は、早く収拾しないと自らを滅ぼすことにな るという戒め。 補説出典には「兵は猶火のごとし。戢おさめ ずんば将まさに自ら焚やけんとす(武力は火のよ うに危険なものである。うまく結末をつけな いと、自分の身を焼くようなことになる」 とある。 <592> へいはい 出説苑ぜいえん 兵は廃すべからず 軍備は廃止してはならない。廃止すれば、敵 の侵略を招くことになるから、軍備は必要で あるということ。 一朝=ひとたび。いったん。 補説出典には「兵は玩 あそ ぶべからず、 玩べ ば則 すな わ ち威い無し。兵は廃すべからず、廃す れば則ち寇こうを召まねく(軍事力はむだに使っ てはならない。むだに使うと威力がなくな る。しかし軍事力をなくしてしまってはなら ない。なくしてしまえば敵の侵略をまねくこ とになる」とある。 弊履を棄つるが如し 出孟子 借しげもなく捨てること。使い物にならない 履物を捨てるようだということから。「棄つ ること弊履の如し」「弊履の如く捨てる」と もいう。∇弊履∥破れて使い物にならない履 物。値打ちのないもののたとえ。 補説出典には「舜 (二中国古代の聖天子) 天下を棄つるを視みること、猶なお 敝蹤へいを棄つ るがごとし(舜が天下を棄てるのを見ると、ま るで破れ草履を棄てるようだ)とある。 兵を養うこと千日、用は一 朝に在り せんにちよういっ すいこでん 出水滸伝 長期間にわたって軍隊を養っておくのは、ひ とたび事が起こったときのためである。ふだ んは無用なように見えても、国家の非常時の ために備えを怠ってはならないということ。 「一朝」は「一時」ともいう。△兵=軍隊。 溺れ死んだ人。▿汨羅=中国湖南省北東部を 西流し、湘江 こう に注ぐ川。鬼=霊魂。 補説汨羅が湘江と合するところを汨羅の淵 ふちという。戦国時代に楚その詩人屈原が、自 分の忠誠が認められず、讒言 ざん げん のために王の 怒りを買い、石を抱いてここに投身自殺した 故事に基づく。 ヘ かずらはなざか 尻くそ葛も花盛り 美しくない娘でも、年ごろになるとそれなり に魅力的になるものだというたとえ。屁くそ 葛のような植物にも、何とか見られる花盛り の時期があるという意から。∇屁くそ葛∥つ る性の多年草。夏に、外側が白色、内側が赤 紫色の花をつける。全体に悪臭がある。 類義鬼も十八番茶も出花。 ハそちゃわ 臍が茶を沸かす あまりにおかしくて、笑わずにいられないこと。また、馬鹿馬鹿しくてしかたがないことのたとえ。「臍で茶を沸かす」「臍茶」ともいう。あざけって言うことが多い。 類義 臍が宿替えする。 臍が縒よれる。 臍を曲げる 機嫌を悪くして意固地になり、人の言うこと を聞かなくなること。腹の中心にあるはずの 臍が、中心からずれているということから。 類義旋毛つむを曲げる。 下手があるので上手が知れる 物事は比べるものがあってはじめて上手・下手がわかる。下手な人がいるからこそ、上手な人の存在が目立つということ。下手な人の自己弁護や、下手な人をかばうのに用いる。下手があるので上手がわかる「下手ありて上手わかる」ともいう。 類義下手は上手の飾り物。 下手が却って上手 自分が下手だと思っている人は、よい仕事を しようとして念を入れるので、上手な者より かえって仕上げが巧みなことがある。また、 下手だと、無理をせず危険をおかさないので、 身の安全を保つことがあるということ。 へたかじやいちどめいけん 下手な鍛冶屋も一度は名剣 たとえまぐれでも、根気よく続けていれば、 よい結果が得られることがあるということ。 腕のよくない鍛冶屋でも、多くの刀を作って いるうちに、一度くらいは名剣を作ることが あるという意から。 類義下手な鉄砲も数撃てば当たる。 下手な大工でのみ一丁 酒を飲む以外に芸がないことのたとえ。大工 道具の「のみ」と酒を飲む意の「飲み」とを 掛けたしゃれ。 下手な大工でのみつぶし 仕事もせずに大酒を飲んで財産を失うことの <593> しゃれ。使い方が下手で大工道具ののみをだ めにする「のみつぶし」と、酒を飲んで財産 をなくす「飲みつぶし」を掛けたもの。 へたてっぽうかずう 下手な鉄砲も数撃てば当たる 何度もやっていれば、成功することもあると いうこと。下手な鉄砲撃ちでも、数多く撃っ ているうちには、まぐれで命中することもあ るという意から。まぐれあたりをひやかした り、自分の成功を謙遜するときなどに用いる。 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」ともいう。 類義下手な鍛冶屋かじも一度は名剣。 英語 He that shoots off at last shall hit the mark. 何度も射る者はついには的を射 あてる 下手の射る矢へ 弓の下手な者が射る矢は、どこに飛んでくる かわからないので、上手な人の射る矢より避 けるのがむずかしく、かえって恐ろしいとい うこと。 類義 狐 きつ が下手の射る矢を恐る。下手の鉄 砲烏 から が怖 じる。 下手の大連れ へたおおづ 役にも立たない者が、大勢で連れ立って歩く のをあざけっていうことば。また、人数が多 すぎると、じゃまになる者が出てきて、かえっ て仕事がはかどらないこと。 下手の考え休むに似たり よい考えが浮かばないのに、いつまでも考え ているのは、何も考えずに休んでいるのと同 じだということ。囲碁や将棋で、相手が長考 しているのをからかっていうことば。 英語)Mickle fails that fools think.「馬鹿 の考えていることはたいていものにならない」 用例「下手の考え休むに似たりとか云いいま すから、思い立ったらすぐに取りかかって、 なんとか早く埒ちをあけてしまいましょう よ。ぐずぐずしていると色々の面倒が起りま すからね」〈岡本綺堂◆勘平の死〉 へたなてーへたのま 下手の金的へたきんてき う。下手の道具立て」ともいう。 まぐれあたりのたとえ。下手な者が射た矢で も、時には金的に当たるという意から。また、 下手な者に限って立派な道具を使いたがる意 にも用いる。△金的Ⅱ金紙をはった的。「き んまと」ともいう。一寸(約三センチメート ル)四方で、中心に直径三分(約一センチメー トル)の円が描いてある。この円に矢を当て るのは、かなりむずかしいとされる。 へたしあんあとつ 下手の思案は後に付く 下手な者は、何事も終わったあとになって、 いい考えを思いつくものだということ。時期 おくれで役に立たない知恵をあざけっていう ことば。 類義下種げすの後知恵。 類義下手の伊達だて道具。藪医者やぶいの薬味 簞笥 やくみ。 だんす 下手の道具調べ 腕の悪い者に限って、あれこれと道具を選び たがるものだということ。また、下手な者ほ ど、準備を大げさにすることのたとえにもい 対義弘法筆を択えらばず。 英語 A bad workman always blames his tools.下手な職人ほど道具に難癖をつける ものである 下手の長糸上手の小糸 何事も上手な人は無駄が少ないということ。 裁縫の下手な人は、必要以上に長い糸を針に 通して仕事をやりにくくするが、上手な人は 必要なだけの短い糸で仕上げるということか ら。「小糸」は「手糸」「一寸」ともいう。 △小糸∥短い糸。 下手の長談義 話の下手な人に限って、だらだらとつまらない話をするものだということ。下手の長口上ながこう」ともいう。いろはがるた(京都)の一。長談義長たらしい話の意。 英語 Brevity is the soul of wit. [簡潔は分別の精髓であぁ] Many speak much who cannot speak well. [うまく話せないのに多弁な人が多い] 下手の真ん中上手の縁矢 物事は、そのときのはずみで、意外な結果になることがあるということ。弓の下手な者が射た矢が的の真ん中に当たることもあり、上手な者の射た矢が的の縁に当たることもあるという意から。 <594> 下手の横好き へたよこず 下手なくせに、そのことが好きで熱心である こと。多く、自分の趣味などを謙遜する場合 に用いる。「下手の物好き」ともいう。∇横 好き∥上手でもないのに、むやみに好きなこ と。 類義下手の悪好き。下手の馬鹿好き。 対義好きこそ物の上手なれ。 用例ことに近ごろ、下手の横好きで創作を 始めたら、尚更なお読む暇がないのに困ってし まった。だから、新らしい作家に関しては自 分の知識は甚だ乏しいのである。〈小酒井不 木・ポオとルヴェル〉 糸瓜の皮とも思わず 下手の横槍よこやり 当事者よりも劣る第三者が、つまらない差し 出口をすること。△横槍‖戦っている人の横 から槍をくり出すこと。転じて、横から口を さしはさむこと。 下手は上手の飾り物へたじょうずかざもの 下手な者がいるから、上手な者がきわだって 見えるということ。下手は上手をひき立てる 飾り物の意から。 類義下手があるので上手が知れる。 下手は上手の基 初めから上手な者はなく、だれでも練習を積 み重ねて上手になっていくのであるから、下 手は上手になるもとだと思えばよいというこ と。 何とも思わないこと。全然関心を示さないこと。△糸瓜=ウリの一種。実はたわしなどに使う。「糸瓜の皮」は何の役にも立たないもの、つまらぬもののたとえ。 へっついより女房 一家をかまえる資力がなく、生活力もないの に結婚しようとすること。∇へっつい∥かま ど。転じて、生計。また、独立した一家の意。 類義竈かまより先に女房。 へっついより女房 人を食わんとして却って人に食わる ↓人捕る亀が人に捕られる552 尻と火事は元から騒ぐ 最初に騒ぎ出すのは、そのことをした本人で あるということ。臭いと言い出すのは放屁 の本人であり、火事だと気づいて騒ぎ出すの も火元の人間であることが多いということ。 類義放り出しの嗅がぎ出し。火は火元から 騒ぎ出す。 問題にならないさま。蛇が蚊を飲み込んでも 何とも感じない意から。「蛇」は「じゃ」と も読む。 尻の河童 かっぱ かっぱ 河童の尻 145 蛇が蛙を呑んだよう 蛇が蛀を呑んだよう 細長い物の途中が、ぷっくりと不格好にふく らんでいるさまをいう。 蛇が蚊を呑んだよう 長続きしない稽古事のたとえ。蛇が冬眠から さめて土から出てくる春に始め、再び穴にこ もる秋の末にはやめてしまうこと。 類義三日坊主。 尻一つは薬千服に向かう おならをするのは健康によいということ。また、おならを我慢するのは体によくないということ。おならを一つするのは、薬を千服飲むほどの効果があるという意から。 ふぴか くなわお 蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる 度の過ぎた用心をするたとえ。蛇にかまれた のに懲りて、朽ち縄(腐った縄)を見ても蛇で はないかとおじけづく意から。 類義 羹 あつ もの に懲りて膾 なま す を吹く。舟に懲りて 輿 を忌む。黒犬に噛まれて灰汁 あく の垂れ滓 かす に怖じる。 英語Birds once snared fear all bushes. 一度罠わなにかかったことのある鳥は、すべ ての茂みを怖がる 姫に睨まれた蛙 へびにらかえる 恐ろしいものや非常に苦手なものの前で、体 がすくんで身動きできないようすのたとえ。 蛙は蛇ににらまれると、恐ろしさのため体が 動かなくなるといわれることから。「蛇に見 <595> 込まれた蛙ともいう。 類義猫の前の鼠ねずの鷹たかの前の雀すず。 蛇の足より人の足へびあしひとあし 無関係なことより、身近なことについて考え るほうが大切だ。蛇に足があるかを論じるよ り、自分の足元のことを考えよということ。 「蛇の足より人の足見よ」ともいう。 蛇の生殺し かほうも 痛めつけて半死半生のまま放っておくこと。 転じて、物事に決着をつけず、あいまいなま まにしておくこと。蛇を殺しもせず生かしも しない状態にしておくことから。 補説中途半端は災いの種になるという意味 で「蛇の生殺しは人を噛かむ」ともいう。 篦増しは果報持ち 姫の生殺しは人を噛む生殺しの蛇に 噛まれる487 蛇は竹の筒に入れても真っすぐにならぬ ぐたけつついま 生まれつき根性の曲がっている者は、まっすぐに直すのが難しいということのたとえ。 類義蛇の曲がり根性。 蛇を画きて足を添う だそく 蛇足 399 減らぬものなら金百両、死なぬもの なら子は一人♩死なぬものなら子 一人、減らぬものなら金百両297 妻が年上の男性は幸福だということ。年上の 妻はやりくりもうまく思いやりも深いという ことから。∇篦増しⅡ年上の妻。「篦」はしゃ もじの意で、主婦のたとえ。果報∥幸せ。 「類義」姉女房は身代の薬。一つ姉は買こうて 持て。 へびのあーべんとう 尻をひって尻窄める 失敗をしたあとで取りつくろうこと。人前で おならをしてしまってから、おならが出ない ように尻を縮める意から。「屁をこいて尻を 窄める」「屁ひって後の尻窄め」ともいう。 いろはがるた(江戸)の一。 弁慶の立ち往生 進退きわまって、どうすることもできないこ とのたとえ。▶弁慶‖源義経 みなもとの よしつね の家来の 武蔵坊 むさし ぼう 弁慶のこと。 補説 衣川 がわ の合戦で、弁慶が義経をかば うために、大なぎなたを杖っぇにして橋の中央 に立ち、全身に敵の矢を受けて立ったまま死 んだという伝説によることば。 用例「どうせ家うちを出る時に、水盃 みずさ かずき は済 まして来たんだから、覚悟はとうからきめて るようなものの、いざとなって見ると、こん な所で弁慶の立往生は御免蒙 りたいから ね。(後略)「〈夏目漱石◆明暗〉 弁慶の泣き所 向こうずね。転じて、強い者の唯一、最大の 弱点。弁慶ほどの豪傑でも、蹴られると痛 がって泣く急所という意から。∇弁慶∥源義 経 みなもとの よしつね の家来の武蔵坊 むさし ぼう 弁慶のこと。 片言獄を決するなかれ 一方の言い分だけを聞いて判決を下してはな らない。裁判は、両方の主張や証言を十分に 聞いて、公平に判断すべきであるということ。 類義片口聞いて公事くじを分くるな。両方聞 いて下知をなせ。 偏聴姦を生ず 出史記しき 一方の言い分だけ聞いて判断すると不公平を 生じ、災いを引き起こすということ。△姦= 道理に外れた悪いこと。 補説中国前漢の時代、梁りよの孝王に仕えた 鄒陽 が、同僚の讒言ざんぱんで投獄され、獄中か ら無実を訴えた書簡の中のことば。出典には 「偏聴姦を生じ、独任乱を成す(一人だけに任 せると乱を引き起こす)」とある。 弁当持ち先に食わず 物を持っている人は、かえってそれを使わないということ。とくに、金持ちが金を使わないことのたとえ。弁当を持ち運ぶ役目の人は、他の人が食べないうちは自分が食べないことから。「弁当持ち先へ食わず」ともいう。 類義金持ち金を使わず。 弁当忘れても傘忘れるな 弁当を忘れることがあっても、出かける時は 忘れずに傘を持てということ。雨の多い地方 <596> の外出の心構え。 補説 北陸から山陰にかけての日本海側で言 い習わされている言葉。 偏なく党なし 不偏不党 585 ペンは剣よりも強し 言論の力は、武力よりも強大である。 補説イギリスの政治家・小説家ジョージ・リットンの戯曲『リシュリユー』の中のことば。The pen is mighter than the sword.の訳語。 へんぷくしゅうしょく 辺幅を修飾する うわべや外見を立派に飾り立て、みえをはる こと。中心的な部分でないところを飾る意か ら。「辺幅を飾る」ともいう。▶辺幅=布や 織物のへりの部分のこと。 出後漢書ごかんじょ 方角の吉凶にこだわりすぎると、身動きができなくなり、やがては家をつぶしてしまうということ。▽方位家=方角の善し悪あしを占うことに凝る人。 布衣に靴の沓 ほういかくっ 不似合いなさま。つり合いのとれていないよ うすのたとえ。平服を着て儀式用の履物を履 くという意から。∇布衣∥無官の者が着た布 製の狩衣 かり。 ぎぬ 平服、ふだん着の意。靴の沓∥ 礼式のときに履く牛革製の履物。 ぼううん望雲の情 出旧唐書くとうじょ 遠く離れて故郷の父母を思うこと。また、そ の心情。∇望雲∥遠くの雲を望み見ること。 転じて、はるか遠くにいる人を思うたとえ。 故事)中国唐の狄仁傑てきじが、両親と別れて 任地に赴く途中、太行山たいこに登り、白雲が 飛ぶのを見て、遠く離れた父母をなつかしみ、 しばらくそこにたたずんでいたという故事に よる。 ほうおうどあけいぼくしょうぶ 鳳凰笯に在り鶏鶩翔舞す 出楚辞そじ すぐれた人物が自由に能力を発揮することが できず、取るに足りない人間がわが者顔に振 る舞うことのたとえ。鳳凰がかごに入れられ て自由に飛べず、鶏やあひるのようなつまら ぬ鳥が自由に飛びまわっているという意か ら。∇鳳凰∥中国古代伝説上の瑞鳥 ずいち。 よう ∥鳥かご。鶏∥あひる。 ほうがんびいき 不遇な者や弱い者に同情し、肩を持つことの たとえ。∇判官∥「はんがん」とも読み、検 非違使けびの尉じよのこと。ここでは、その職に あった源義経みなもとのよしつねをさす。 判官巔廈 補説 平家討伐に大功のあった義経は、兄頼 朝 より とも に憎まれ、奥州平泉 ずみ に追われて自刃 した。人々がこの薄幸の武将に寄せた同情か ら生まれたことば。 ふ つめひろ 等で集めて箕で捨てる 瓜で拾って箕 でこぼす 436 ほうぎよしいごとふぜんひとお 鮑魚の肆に入るが如し不善の人と居 ほうぎよしいごと るは鮑魚の肆に入るが如し581 尊敬の気持ちをもって人を迎えること。「箒」は「箒」とも書く。 故事中国漢の高祖が父の太公を訪ねたと き、太公は、高祖は自分の子であるが天子で あるということを重んじ、ほうきで門前をは き清め、門に迎えて後ずさりして敬意を表し た。 忘形の交わり 出新唐書 忘形の交わし 出新唐書 相手の地位や外見にとらわれない、きわめて 親しい交わり。「亡形の契り」ともいう。 忘形∥人の外見や地位・身分などにとらわれ ないこと。忘形の交わりを結ぶ親友を「忘形 の友一という。 類義忘年の交わり。 ゆう 出抱朴子ほうぼくし わめきたてたり、ほえたりして強そうにいばり散らしている者は、必ずしも本当の勇者と <597> はいえないということ。△咆哮=たけり叫ぶ こと。猛獣などがほえること。 補説出典では、このあとに「淳淡 じゅん なる たん 者(おとなしい人)は必ずしも怯 きよ いくじな しならず」と続く。 ほうこうにん おうし つか 奉公人と牡牛は使いようで動 く 奉公人と牡牛は、使い方次第でよく働いたり 怠けたりするということ。 類義奉公人と鋏は使いようで働く。鋏と 奴やは使いがら。馬鹿と鋏は使いよう。 ほうこうにんつか 奉公人に使われる 奉公人を使うのはいろいろと気苦労が多く、 まるで奉公人に使われているようなものだと いうこと。 ゆう 暴虎馮河の勇 向こう見ずで無謀な行動をすることのたと え。虎を素手で打ち、大河を歩いて渡る意か ら。マ暴虎∥虎を素手で打つ。馮河∥黄河を 歩いて渡る意。 補説孔子の弟子の子路が、「先生が大軍を 指揮なさるとしたら、だれと一緒になさいま すか」と尋ねたのに対して孔子が答えたこと ばの一節。「暴虎馮河して、死して悔いなき 者は、吾われ与ともにせざるなり(向こう見ずで 命知らずの者とは行動をともにしない)」と ある。 出論語ろんご 法二章 ほうこうーほうしよ 出史記しき 三か条だけの簡易な法律。きわめて簡略な法 律のたとえ。 故事 中国漢の高祖が秦しん軍を破って関中を 平らげたとき、秦の苛酷な法令を改めて、殺 人は死罪、傷害と盗賊は罪の軽重に応じて処 罰するだけにしようと、住民に約束した。 ぼうしき さいてんけず 茅茨剪らず采椽斲らず 出韓非子かんびし 住居が質素であること、質素な生活のたとえ。 屋根をふいた茅かやや茨の端を切りそろえず、 屋根を支える垂木は削らない丸太のままであ るという意から。中国古代の伝説上の聖王尭 ぎよ の宮殿が質素であったことをいった言葉。 ▶茅茨‖屋根を茅と茨でふいた質素な家。采 椽‖山から切り出したままの垂木。粗末な家 のたとえ。 封豕長蛇 出春秋左氏伝 貪欲で残酷なもののたとえ。むさぼり食う巨 大ないのししと、物を丸のみにする長い蛇の 意から。マ封ニ大きい意。豕ニいのしし。 補説中国春秋時代に、楚その大夫たいの申包 胥 が秦しに援軍を頼んだときのことば。 楚を侵略する呉を「封豕長蛇のような国」と 言った。 僧侶が語る戦争の話という意から。 類義法師の公事くだくみ。似合わぬ僧の腕立て。 法師の戦話 似合わないことのたとえ。仏道を修め広める 法師の公事だくみ 似合わないことをするためとえ。利欲とは無縁 のはずの僧侶が、訴訟をたくらむという意か ら。「坊主の公事だくみ」ともいう。マ公事 だくみ=利益を得ようとして訴訟をおこすこ と。一説に「櫛工くしだくみ」のもじりとも。 類義法師の戦話いくさばなし 出史記しき 儁若無人 人前をはばからず、自分の思うままに振る舞 うこと。他人を無視して、勝手気ままな言動 をすることのたとえ。まわりに人がいないか のように振る舞う意から。「傍かたに人無きが 若ごとし」と訓読する。「傍」は「旁」とも書く。 補説中国、戦国時代の衛の刺客荊軻が酒 に酔ったときのようすを述べた中の語で、出 典には「高漸離こうぜ筑ちくを撃ち、荊軻和して 市中に歌い、相楽しむ。已すでにして相泣き、 旁かたに人無き者の若し友人の高漸離が筑と いう楽器を打ち鳴らし、荊軻がそれに合わせ て市中を歌い歩いて楽しんだ。やがてお互い に泣き出し、まるでまわりに人がいないかの ような振る舞いであった)とある。 用例行長の意見は傍若無人、軍略の提案で はなく自分一個の独立行動の宣言にすぎない のだった。〈坂口安吾◆二流の人〉 ほうしょくだんい 飽食暖衣 だんいほうしょく 暖衣飽食 41 <598> 望蜀の嘆 ろう え しょく のぞ 隴を得て蜀を望む 695 坊主憎けりや袈裟まで憎い ある人のことが憎くなると、その人にかかわりのあるものがすべて憎らしく感じられること。坊さんが憎いと思うと、その坊さんが着ている袈裟まで憎く思われるという意から。「法師が憎ければ袈裟まで憎し」ともいう。∇袈裟∥僧が衣の上に左肩から右腋わき下にかける長方形の布。 類義 親が憎ければ子まで憎い。 対義 屋鳥 おく う の愛。 英語 Love me, love my dog. 私を愛する なら、 わが愛犬をも愛せよ 用例いよいよ寂しい顔をして、「吉原も、 魚河岸も、このお江戸の豪儀ざうなところはみ んな坊主が憎けりゃ袈裟までだって、片っ端 から薩摩さつのお侍が、焼き、焼き棄すてし まいましたとさ」さも口惜くやしそうに目を湿 うるませた。〈正岡容◆小説円朝〉 ていても役に立たないことから。△花簪‖造 花などで飾りつけたかんざし。 類義猫に小判。 聞いて知っているというしゃれ。坊さんの鉢 巻きは、すべり落ちて耳で受け止めるという ことから。また、しまりがないこと、できな いことのたとえ。すべってしっかりしめられ ないことから。 坊主の鉢巻き 持っていても何の役にも立たないもののたと え。髪の毛のない坊さんが花かんざしを持っ 坊主の花簪 元手なしで思わぬ大きなもうけをすることの たとえ。僧侶は経費をかけずに、お経をあげ るだけでお布施がもらえるいい商売だという ことから。 坊主丸儲け ほうすんちむなほとんせいじん 方寸の地虚し、幾ど聖人なり 出列子れっし 心の中がからっぽで雑念がないのは、ほとんど聖人に近いということ。▷方寸=一寸四方。心臓は胸の中で一寸四方を占めているというところから、「方寸の地」は心の中、胸のうちの意。 出楚辞そじ ほうぜいえんさく方柄円鑑 物事がうまくかみ合わないことのたとえ。四 角なほぞを円い穴に入れる意から。「円鑿方 柄」ともいう。∇柄∥ほぞ。建築などで木と 木を組み合わせるとき、一方の先につけ他方 の穴にはめ込む突起の部分。鑿∥ほぞを入れ る穴の部分。 類義方底円蓋。柄鑿ぜい相容あいれず。丸い器 に角の蓋。 出荘子そうじ あっけにとられたり、あきれ果てたりして、 我を忘れること。驚きのあまり、気が抜けて ぼうぜんじしっ茫然自失 ぼんやりしてしまうこと。△茫然∥あっけに とられるさま。ぼんやりするさま。自失∥我 を忘れてぼんやりすること。 用例無数の傑作をながめておれは茫然自失 した。やがて自分にいいきかせたね。これだ け優れた絵がたくさんあるのに、まだ自分の 出場があると思うか……おれはその日から絵 筆を折った。〈久生十蘭◆黒い手帳〉 ほうそう みめさだ はしかいのちさだ 疱瘡は見目定め、 麻疹は命定 め 疱瘡もはしかも、どちらも一生の一大事であるということ。天然痘にかかると、治っても顔にあとが残ってみにくくなるし、はしかは命にかかわる病気であるということから。「疱瘡は見目定め、へないも(水疱瘡)は命定め」ともいう。 出列子れっし ほうそ彭祖の寿じゅ 長寿のたとえ。△彭祖=中国古代の伝説上の 人で、長寿者の代表とされる。 補説出典には「彭祖の智ちは、堯 ぎょ う ・舜 しゅ の上かみに出いでずして、寿じゅ八百なり(彭祖の 知力は、聖王の尭や舜にまさるほどではな かったが、八百歳も長生きした)」とある。 忙中閑あり 忙しい中にも、ちょっと一息つける時間はあ るものだということ。「忙中自おのずから閑あ り」ともいう。 類義忙裏閑を儉ぬすむ。 <599> 庖丁牛を解く 出荘子 妙技をほめることば。転じて、無理をしない で自然にまかせること。▷庖丁=中国古代の 料理の名人。「庖」は料理人、「丁」はその人 名。 補説庖丁が牛を解体する技術を見て、魏ぎ の恵王がその見事な技量に感嘆したという話 から。なお、今日、料理に使う「包丁」は、 この「庖丁」に由来する。 ほうていえんがい方底円蓋 出顔氏家訓がんしかくん くいちがって合わないことのたとえ。四角い 底の器に円い蓋の意。 補説出典には「疎薄 の人をして親厚 恩を節量せしむるは、猶なお 方底にして円蓋の ごとし、必ず合わず(薄情な人に親の恩を理 解させようとするのは、四角い底の器に円い 蓋をするようなもので、うまくいくはずがな い)とある。 類義方柄円鑿 ほうぜい。 えんさく 柄鑿 ぜい さく 相容 あい れず。 丸 い器に角の蓋。 ほうていばんり 鵬程万里 道のりの遠いことのたとえ。また、果てしなく広がる大海の形容。おおとりが、北の海から南の海まで、非常に遠い道のりを飛ぶという意から。前途洋々たる形容に用いられることもある。万里鵬程」ともいう。∇鵬∥おおとり。古代中国の想像上の巨鳥。程∥道のり。 出荘子そうじ 補説出典には「鵬の南冥に従うるや、水に 撃つこと三千里、扶揺 九万里、去りて六月げつを以もって息いきする者な り(おおとりが南の海に移るときは、水面を 滑走すること三千里、つむじ風に羽ばたいて 上昇すること九万里、六か月飛び続けて南の 海に着き、休む」とある。 ほうていーほうはた ほうとうこうめん 蓬頭垢面 出魏書ぎしょ 身だしなみに気を遣わず、むさくるしいこと。 また、疲れきった貧しいようす。乱れた頭髪 とあかまみれの顔の意から。「蓬髪垢面」と もいう。∇蓬頭∥よもぎのような、もじゃも じゃの頭髪。垢面∥あかにまみれた顔。「く めん」とも読む。 用例観音様の周りの雑沓の中を、文字も 通り蓬頭垢面、ボロを引き摺ずった男が、何 か分らぬことを口の中でモヅモヅ呟きなが ら、ノロノロと歩き廻まわっている。添田啞 蟬坊◆浅草底流記 棒に振る それまでの努力や苦心をむだにすることのた とえ。 類義 水泡に帰する。水の泡。 用例しかし初恋というものは、漸進的のものである。心の中では燃えていても、形へ現わすには時間ときが必要いる。そうして多くはその間に、邪魔が入るものである。そうして消えてしまうものである。しかし往々邪魔が入り、しかも恋心が消えない時には、一生を棒に振るような、悲劇の主人公となるものである。〈国枝史郎◆柳営秘録かつえ蔵〉 豊作で農作物がとれすぎたために値段が下が り、農民の生活がかえって苦しくなること。 出後漢書 年齢の差を超えた、親しい交際のこと。「忘 年の友」ともいう。 補説 中国後漢の禰衡 と孔融 は、年齢の 差がかなりあったが、年の差を忘れて尊敬し 交際したという故事に基づく。 類義忘形の交わり。 ほうねん 豊年は飢饉の基 豊年のあとには凶作の年が来るということ。 豊年による気のゆるみに対する戒め。 類義豊年は二度続かず 徬輩の笑み敵 同僚同士は、表面は仲良く見えても、内心は ねたみ合っているものだということ。▽傍輩 ∥同じ主君や師などに仕えたりついたりする 仲間。友達。「朋輩」とも書く。 ほうたっとおもねじようきよく 法は貴きに阿らず、縄は曲に たわ 撓まず 出韓非子 法は公平に適用されなければならないという こと。法律は、身分の高い人だからといって おもねって曲げて用いることはない。それ は、すみなわが、曲がった木に対して縄を曲 げないのと同じであるということから。∇縄 <600> 二すみなわ。木材などに線を引く道具。 ほうふくぜっとう 捧腹絶倒 腹をかかえて大笑いすること。▽捧腹‖腹を かかえる。腹をかかえて笑うこと。「抱腹」 とも書く。絶倒‖笑いころげること。 用例かえりみれば、私の一生は実にもう貧 乏また貧乏の連続で、その貧乏たるや、抱腹 絶倒ものであったのである。〈坂口安吾◆世 に出るまで〉 ほう 棒ほど願って針ほど叶う 世の中は願いどおりにはいかないものである ということのたとえ。棒ほどの大きな願いを 持っても、実際には針ほどの小さな願いしか かなえられないという意から。 類義富士の山ほど願って蟻塚ありほど叶う。 英語 A man must ask excessively to get a little.人は僅かな物を得るためにも過大 に求めなければならない を忘れようとする私の気持ちはいっそう深ま る)一とうたっている。 ほうほんはんしもとむくはじかえ 報本反始本に報い始めに反る645 酒の異称。飲むと憂いを忘れさせてくれるこ とから。「忘憂」ともいう。 忘憂の物 類義酒は憂いを掃う玉箒たまはoはき 出陶潜ー詩とうせんし 補説詩の題名は『飲酒』。「秋菊 佳色 かし よく 有り、露に裏まとえる其その英 はな ぶさ を掇ひろう、こ の憂いを忘るる物に汎うかべて、我が世を遺わす るるの情を遠くす(秋の菊は美しい色をして いる。露にぬれたその花びらをつみ、忘憂の 物といわれる酒の上に浮かべて飲むと、俗世 朋友は六親にかなう 友人は肉親と同じくらい大切だということ。 △六親∥父・母・兄・弟・妻・子の総称。ま たは、父・子・兄・弟・夫・妻の総称。 亡羊の嘆 たん たきぼうよう 多岐亡羊 397 ぼうよう望洋の嘆たん 出荘子そうじ あまりに広々として、とりとめのないさまを 嘆くこと。また、偉大な人物や深遠な学問な どに対して、自分の才能のないことを嘆くこ と。▽望洋‖広々として果てしないようす。 また、遠くを眺めること。 故事黄河の水量は天下随一だと誇っていた 黄河の水神が、流れに従って北海(渤海)ま で来て東方に目をやると、そこは果てしない 大海原であった。黄河の水神はあたりを見ま わし、見当もつかずぼんやりとして、北海の 水神に対して、思い上がっていた自分の浅は かさを恥じたという。 出戦国策 ぼうようほろう亡羊補牢 あやまちを犯してから、慌てて悔い改めることのたとえ。また、失敗したあとですぐに改めれば、災いを大きくしないですむというたとえ。羊に逃げられたあとで、囲いの補修をするという意から。「羊を亡」うしいて牢を補う」と訓読する。 蓮萊弱水の隔たり 出太平広記 非常に遠く隔たっていること。 レ蓬萊中国 のはるか東の海上にあり、仙人が住むという 伝説上の島。弱水中国のはるか西方にある という伝説上の川。蓬萊と弱水との間隔は、 三十万里という。 ぼうりかん 忙裏閑を偸む 忙裏叚をイ 出江湖長翁集 忙しい中から暇を見つけて楽しむこと。▷裏 中の意。閑‖暇の意。 故事 中国南宋 なん そう の陳造 ちん ぞう が陳宰 ちん さい 黄簿 こう ぼ とともに霊山に遊んだとき、陳宰が「吾輩 わが、 はい 忙裏に閑を偸み、苦中に楽しみを作なすと謂い うべし(われわれは、多忙の中に暇を見つけ、 苦しみの中に楽しみを求めるものといえるだ ろう)と言った。それをうけて、陳造が「忙・ 裏・偸・閑・苦・中・作・楽」の八字を句末 におく八首の詩を作ったという。 顔義 亡中自 おのずから閑あり。 焙烙千に槌一つ つまらぬ者がいくら集まっても、一人のすぐ れた者にはかなわないということ。焙烙はど んなにたくさんあっても、槌一つで全部割ら れてしまうという意から。▷焙烙=素焼きの 平たい土鍋。食品を煎るのに用いる。 焔焓の割れも三年置けば役に 立つ どんなにつまらないものでも、いつかは役に <601> 立つことがある。まったく無用なものはない というたとえ。△焙烙=素焼きの平たい土 鍋。食品を煎るのに用いる。 類義貧乏人も三年置けば用に立つ。破れ 鍋も三年置けば用に立つ。 ほうこうせいなが 芳を後世に流す 立派な仕事を成し遂げて後世に名を残すこ と。「芳を百世に流す」ともいう。▷芳∥か んばしい名前。名声。 出晋書しんじょ ぼうみそんししもみこおり 亡を見て存を知り霜を見て氷 を知る 現在の状況から将来を予知し、適切な対策を 講じなければならないということ。滅亡の跡 を参考にして、どうしたら自分たちは存続し ていけるかを知り、霜が降りるのを見て氷の 季節の到来を予知するということから。▶亡 ∥滅亡。存∥存続。 出説苑ぜいえん 暴を以て暴に易う 相手の暴力に対して暴力で対抗すること。 故事)中国古代周の武王が殷いの暴虐な紂王 ちゅう おう を征伐に出るとき、伯夷はくと叔斉しゅくが「臣 せい 下が主君を殺すのは仁ではない」と諫いさめた が聞き入れられなかった。武王は紂王を討っ て周の天子になったが、そのまま周に仕えて 俸禄ほうを受けるのを恥じた伯夷と叔斉は、西 山に入り餓死した。二人の辞世の詩の中に 「暴を以て暴に易う、其その非を知らず(武王 ほうをこーぼくしゅ は臣下でありながら武力という乱暴な手段で 暴君を討ったが、自分の非道に気づいていな い)とある。 出史記しき ほ いぬ 吠える犬にけしかける 勢いづいている者をけしかけて、いっそう勢 いをつけることのたとえ。 類義火に油を注ぐ 吠える犬は打たれる むやみに人に食ってかかったり、言いたい放 題のことばかり言っていると、人から憎まれ、 災難を招くことになるというたとえ。 吠える犬は噛みつかぬ むやみに大きなことを言ったり、いばったり する者に限って、実力はないというたとえ。 類義鳴く猫は鼠ねずを捕らぬ。食いつく犬は 吠えつかぬ。 英語 Great barkers are no biters. く吠える犬はかみつかないものだ ほおずきむすめいそづむしっ 酸漿と娘は色付くと虫が付く 酸漿が赤く色づくと害虫が寄ってくるよう に、娘が年頃になると言い寄る男が出てくる ということ。 ほお頬を顔かお 呼び方は違っても、実質は同じだということ。 頬は顔の一部であることから。「頬は面っち」 「頬を面」ともいう。 類義南瓜 かぼ ちゃ は唐茄子 とう。 なす いをつけるたとえ。 力や勢いのあるものに、さらに力を加えて勢 類義駆け馬に鞭むち。 流れに棹さす。 出淮南子えなんじ 墨子系に泣く 人間は環境や教育によって、善人にも悪人に もなるということ。墨子が白い絹糸を見て、 どんな色にも染まることを見て泣いた故事か ら。マ墨子=中国の戦国時代の思想家。 故事 墨子が、白い糸が染め方で何色にでも なるのを見て、人間も環境で善人にも悪人に もなることを嘆いて泣いたという。 類義楊子岐きに泣く岐に哭こくし練れんに 泣く。白き糸の染まんことを悲しむ。 ぼくじつしげものそえださ 木実繁き者は其の枝を披く 出史記しき 臣下の力が強すぎると、君主の地位が危うく なるたとえ。木の実がたくさんなりすぎる と、その重みで枝が裂けてしまうことから。 黒守ほくしゅ 出墨子ぼくし 目説や旧習などを固く守って変えないこと。 頑固で融通のきかないことのたとえ。△墨= 中国、戦国時代の思想家、墨子のこと。 故事 中国の戦国時代、楚の公輸盤 この公輸盤 こうし が雲 梯 (城を攻略するための大はしご)を作って 宋 そう を攻めようと考えていた。非戦論者の墨 子は、楚王を思いとどまらせようと、自分の <602> 帯を解いて机上に城を作り、木札の兵器を 使って雲梯の模型と模擬戦を行い、九回戦っ て九回とも墨子が守り通した。これによって、楚王は宋への攻略を断念したという。 北辰其所に居て衆星之に共 う 出論語 ろんご 徳をもって政治を行えば、すべての人がこれ に従うというたとえ。北極星が不動の位置を 占め、他の多くの星がこれを中心に大空を 巡っているという意から。∇北辰∥北極星。 共う∥向かう。 類義岩木いわに非ず。 補説出典には「政まつりを為なすに徳を以もって すれば、譬たとえば北辰其の所に居て衆星之に 共うが如ことし」とある。徳による政治を主張 する孔子のことば。 ぼくせきあら 木石に非ず出司馬遷報二任少卿一書 人間には喜怒哀楽の感情があるということ。 人は木や石でできているのではなく、血の 通った生き物であるという意から。「人ひと木 石に非ず」ともいう。 補説 中国漢の時代、匈奴 きょ うど の軍に敗れた李 陵りりを弁護して武帝の怒りにふれ、投獄され た司馬遷が、友人の任少卿にあてた書簡の中 の一節。出典には「身は木石に非ざるに、独 り法吏と伍ごを為なし、深く囹圄れいの中うちに幽 せらる(自分の身は木や石のように感情のな いものではないのに、だれも弁明してくれず、 獄吏に連行されて牢獄ろうの奥深く押し込めら れてしまった」とある。 ぼくたく木鐸 世の中の人を目覚めさせ、教え導く人。指導 者。昔、中国で法令などを人民にふれ歩くと きに振り鳴らした、木製の舌(振り子)のある 大鈴の意から。 出 論語 ろんご 故事数人の弟子と流浪の旅に出た孔子が、 関所で役人と会った。面会を終えた役人は、 弟子たちに向かって、「先生が位を失って流 浪の旅をされているのを心配なさることはあ りません」と言い、「天下の道無きや久し。 天将まに夫子を以もて木鐸と為さんとす (天下に道徳が失われて久しい。しかし、天 はやがて先生を世の指導者にされるでしょ う)と言ったという。 ぼくとつ こうきぼくとつじんちか 朴訥剛毅木訥仁に近し230 ぼくぼう北邙の塵ちり 出劉廷芝ー詩 死んで土にかえること。また、墓地のこと。 単に「北邙」ともいう。∇北邙∥洛陽ちく中 国河南かな省)の北にある山の名。邙山ともい う。漢以来、王侯貴族の墓地が多く作られた。 補説詩の題名は「公子行こうし」。「百年同とも に謝せん西山の日、千秋万古北邙の塵(百年 の寿命が尽きたら、あの西山に沈む夕日のよ うに、一緒にこの世に別れをつげよう。そし て、永久に邙山の塵土どんとなろう)とある。 ぼくもん北門の嘆たん 出世説新語 ず、悲嘆にくれること。「北門」は『詩経』 邶風の中の詩題で、衛国の賢臣が暗君に仕 えてその志を得ず、不遇にあることを嘆いた ものと解されているところから。「北門」は 陰気に向かう門で、悪い事柄を暗示する。 故事中国晋しんの李弘度は仕官できず、不 遇をかこっていた。友人の殷揚州が「君 は県令でも満足できるか」と尋ねると、弘度 は「私の『北門の嘆』は以前から申し上げて います。追いつめられた猿が林を逃げまわる のに、どうして木を選ぶ余裕がありましょう か」と言った。 墓穴を掘る 自分を破滅に導く原因を自分の手で作るこ と。自分が入る墓穴 を自分で掘る意から。 類義自業自得。 ほこや 戈を止むるを武と為す 出春秋左氏伝 武力は戦争をなくすためにあるということ。 「武」という字は、「戈」と「止」を組み合わせてできた字で、「武器を使わないようにする」という意味であるということから。 樂を横たえて詩を賦す 出蘇軾ー前赤壁賦 武人が文学にもたしなみの深いことをいう。 戦場で戦いの合間に詩歌を作るという意か ら。△槊∥柄の長い矛。 <603> 故事 中国三国時代、魏の曹操 攻めたとき、長江を下る船中で、矛を一時横 たえて武装のまま詩を作ったという。 苦薩は実が入れば俯く うつむ にんげん み 人間は実が入 あおむ ばさつ み い うつむ れば仰向く、 菩薩は実が入れば俯 < 501 出春秋左氏伝 輔車椎体 互いに助け合うことで成り立つ、切り離すこ とのできない密接な関係にあること。頬骨と 下あごの骨とは、互いに助け合って動くこと から。▷輔車‖「輔」は頬骨、「車」は下あ ごの骨のこと。一説に「車の添え木」と「車」 ともいう。↓唇歯輔車 しんし ほしゃ 330 類義唇歯輔車。 ほしいただ 星を戴いて出で星を戴いて帰 る 出呂氏春秋 朝早くから夜遅くまで仕事に励むこと。早 朝、星がまだ見えるころに家を出て、夜星が 出てから家に帰るということから。「星を以 もって出で星を以て入る」ともいう。 補説出典には「巫馬期 ふば き (人名)星を以て出 で星を以て入り、日夜居らず、身を以て之 これ を親 みず か らし而 しこ う して単父 ぜん ほ (地名)亦 また 治ま る(昼も夜も家でゆっくりせず、何事もみず から行い、単父をよく治めた)」とある。 ほそなが たいが 田 流し 細き涼づく大河となる 小さな努力も、積み重ねていけば大きな成果 ほさつはーぽつぽつ を得ることができるということ。細い川で も、多く集まれば大河となるという意から。 類義鳥は少しずつ巣を作る。学者と大木は 俄にわにできぬ。 細くても針は呑めぬ小さくとも針は 呑まれぬ415 細くも樫の木 見かけは貧弱でも、実際はしっかりして丈夫 なことのたとえ。たとえ細くても、樫の木は 堅くて丈夫であることから。「細くても樫の 木」ともいう。 ほぞ 臍を噛む 出春秋左氏伝 後悔する。どうにもならないことを悔やむた とえ。自分のへそをかもうとしても、口がと どかなくていらいらすることから。∇臍〓へ そ。 故事)中国春秋時代、楚その文王が申しんを討 つ途中に鄧とうを通ったとき、鄧の祁侯きこが引 きとめてもてなした。祁侯の三人の臣が「鄧 を滅ぼすのは文王である。ここで文王を殺し ておかないと、後に斉ほぞを嗌かまん(あとで臍 をかむことになる)と進言したが、祁侯は 聞き入れなかった。文王は申を討ってから、 十年後に鄧を攻めて滅ぼした。 用例 酔うために飲む酒だから、酔後の行状 が言語道断は申すまでもなく、さめれば鬱々 うとして悔恨の臍をかむこと、これはあらゆ る酒飲みの通弊で、思うに、酔っ払った悦楽 の時間よりも醒さめて苦痛の時間の方がたし かに長いのであるが、それは人生自体と同じ ことで、なぜ酒をのむかと云いえば、なぜ生 きながらえるかと同じことであるらしい。 〈坂口安吾◆酒のあとさき〉 牡丹餅は棚から落ちて来ず 何もしないで幸運は得られないというたと え。棚からぼたもちが落ちてくるようなうま いことは、実際にはそうは起こらないものだ という意から。 類義棚の牡丹餅も取らねば食えぬ。 牡丹に唐獅子、竹に虎 絵にするのに取り合わせのよいもののたと え。∇唐獅子ニライオンに似た、中国の想像 上の動物。 類義 梅に鶯 竹に雀 紅葉に鹿。松に 鶴。波に千鳥。柳に燕 つば。 墨痕淋漓 筆で書いたものが、生き生きとしてみずみずしいこと。▽墨痕‖墨のあと。淋漓‖水や血・汗などがしたり落ちるさま。また、筆の勢いが盛んなさま。 用例 墨痕淋漓として乾かざれども、波静か にして水に哀れの痕も残らず。〈高山樗牛◆ 滝口入道〉 ぽつぽつ三年波八年 日本画で、ぽつぽつと点で描く昔こけがうまく 描けるようになるまでには三年かかり、波を 描けるようになるまでには八年もかかるとい <604> ほとけあーほとけも うこと。「ほちほち三年」ともいう。 ほとけしゅじょう 仏あれば衆生あり この世には、悟りを開いた仏がある一方、煩 悩から脱し切れない凡人もいるというよう に、それぞれに対応するものが存在するということ。 類義 仏法あれば世法 せほ う あり。 煩悩あれば菩 提 ほだ い あり。 伝とけせんにんかみせんにん 仏千人神千人 世の中には悪人ばかりでなく、仏や神のよう な善人もたくさんいるものだということ。 類義渡る世間に鬼はない。 対義人を見たら泥棒と思え。 かく、ここでやめちゃ仏作って魂入れずと一 般ですから、もう少し話します」〈夏目漱石◆ 吾輩は猫である 仏頼んで地獄へ堕ちる 願っていたことと反対の結果になること。極 楽に行けるように仏様に頼んでいたのに、地 獄におちたという意から。「坊主頼んで地獄」 ともいう。 仏作って魂入れず もっとも重要なものが抜け落ちていること。 仏像を作っても、魂が入っていなければ、た だの石や木と同じということから。「仏作っ て眼 まな こ を入れず」ともいう。 類義 画竜点睛 がりよう てんせい を欠く。 用例これからが聞きどころですよ。今ま では単に序幕です」「まだあるのかい。こい つは容易な事じゃない。たいていのものは君 に逢あっちゃ根気負けをするね」「根気はとに 伝とけな 仏に成るも沙弥を経る ↓沙弥から長老 ほとけ かお さんど 仏の顔も三度 どんなに温厚な人でも、何度も無礼なことを されれば怒るというたとえ。仏といえども、 一日に顔を三回もなでつけられれば腹を立て るという意から。「仏の顔も三度撫ずれば腹 立つ」ともいう。いろはがるた(京都)の一。 類義地蔵の顔も三度。無理は三度。 ほとけさたそうし 仏の沙汰は僧が知る 何事も、その道を専門としている者にまかせ るのがよいということ。仏のことは、僧が もっともよく知っているという意から。 頃後丼は丼屋。 類義 餅は餅屋 伝とけ さた 仏の沙汰も銭ぜに この世のことは、何事も金で解決されるというたとえ。仏が救ってくれるかどうかは、その者の出した金銭で決まるという意から。類義地獄の沙汰も金次第。冥土の道も金次第。人間万事金の世の中。 仏の光より金の光 ほとけはくは 仏の箔を剥がす 欲にからんで非道なことをするためとえ。 仏像 の金箔をはがして盗むという意から。 類義仏の眼を抜く。 人間は、何よりも金の力に引かれるものだと いうこと。また、金ほどありがたいものはな いということ。仏のありがたさも、金銭の力 には及ばないということから。「阿弥陀 光より金の光」ともいう。 仏の前の経を言う よく知り尽くしている人に向かって、その道 について教えてやる愚かさのたとえ。仏を前 にして経を説くという意から。 類義 釈迦 しゃ か に説法。 釈迦に経。 ほとけみとお かみみとお 仏は見通し神は見通し155 ほとけかみかま 仏ほっとけ神構うな 何もかも仏や神をあてにするなということ。 信心はほどほどにという教え。語呂合わせの ことば。 ほとけげたおなききげたあみ 仏も下駄も同じ木の切れ下駄も阿弥 だおなきき 陀も同じ木の切れ221 仏も無き堂へ参る むだな努力をするためとえ。本尊のいない寺に 祈るという意から。 仏も昔は凡夫なり だれでも修行を積めば仏になることができる ということ。釈迦かも昔は煩悩をかかえた凡 人だったが、修行の末に悟りを開いたという <605> ことから。「仏も本もとは凡夫なり」ともいう。 類義凡夫も悟れば仏。迷えば凡夫悟れば 仏。仏ももとはただありの人。 はなか 仏を直すとて鼻を欠く 小さな欠点を直そうとして、かえって全体を だめにしてしまうことのたとえ。仏像を直そ うとして、その鼻を欠いてしまうという意か ら。 類義 角を矯めて牛を殺す。枝を矯めて花を 散らす。 骨折り損の草臥れ儲け 苦労するばかりで何の利益もなく、疲労だけ が残るということ。いろはがるた(江戸)の 一。 類義労して功なし。 英語 Great pains but all in vain. 大変な 骨折りをしても、すべては空むない He that washes an ass's head loses both his soap and labour. ろばの頭を洗う者は石 鹸 せっ けん と労力の両方をむだにする 用例「おい、誰か僕と一緒に、骨折り損の くたびれもうけにでかける物ずきはないか。 タマス・ケリー君、ヘンリー・マンガー君、 どうだ散歩のつもりで来たまえ」〈牧逸馬◆ 双面獣〉 ほね骨に刻む 深く記憶して、決して忘れないこと。自分の 骨にしっかりと刻みとどめる意から。「刻む」 は「鏤む」とも書く。 出後漢書ごかんじょ 出白居易ー詩 ほとけをーほらとら 名は後世まで残すということ。死んで骨は土に埋められても、名誉や功績まで一緒に埋められて消えることはないということから。 補説詩の題名は故元少尹集げんしょうの後のちに題す。白居易が友人の詩文集のあとに題した詩で、詩文をほめたたえ、「竜門原上げんじょうの土、骨を埋むるも名を埋めず(死んで竜門の地に葬られたが、骨はそこに埋められても、文名は永遠に残るであろう)」と歌っている。 墓木已に拱す 出春秋左氏伝 長生きしている相手をののしることば。また、死んでから長い年月が過ぎていることのたとえ。墓に植えた木がひとかかえもあるほどに大きくなっているという意から。∇墓木 ∥墓に植えた木。拱す∥両手でかかえる意。 ⑳補説出典には「爾なん何をか知らん。中寿ならば、爾の墓の木は拱ならん(老いぼれのお前に何がわかろうか。お前が中寿で死んでいれば、お前の墓の木は両手でかかえるほどになっていただろう)」とある。中寿は七十歳頃をいう。 ほま誉れは毁りの基もと 名誉を得るということは、半面、人からねた まれたり反感を買ったりして悪口を言われる 原因にもなるということ。 英語 Mickle power makes many enemies. 大きな権力は多くの敵を作る 訾め手千人悪口万人 世間には、ほめる人が千人いれば、悪口を言 う人は一万人はいるものだということ。ほめ る人よりも、けなす人のほうがはるかに多い ということ。 訾める人に買った例なし 品物をよくほめる客は、実際には買う気のな い客であるということ。また、お世辞ばかり 言う人は信用できないということ。 ほらとうげきこ 洞が峠を決め込む 有利なほうにつこうとして態度をはっきりさ せず、成り行きをうかがうこと。日和見する たとえ。 補説天正 十年(一五八二年)に、明智光 秀 あけちみ と羽柴秀吉 が京都の山崎で戦った とき、筒井順慶つついじが京都と大阪の境にある 洞が峠に軍をとどめたまま、有利なほうに味 方しようと両軍の形勢を見ていたという話に よる。 類義両端を持じす。 法螺と喇叭は大きく吹け どうせでたらめを言うなら、思い切り大きな でたらめを言えということ。「法螺貝」も「喇 叭」も、吹くという点で共通しているので、 両方を並べて調子よくいったことば。▶法螺 ∥法螺貝のこと。ここでは大げさででたらめ <606> な話。喇叭=金管楽器の一つ。「喇叭を吹く」 で大言壮語すること。ほらを吹くこと。 ほりゅうしっ 蒲柳の質 出世説新語 生まれつき体が弱くて病気になりやすい体質 のたとえ。蒲柳の葉が秋早く落葉することか ら。「蒲柳の姿」ともいう。△蒲柳∥かわや なぎの異称。その葉が早く落ちることから、 虚弱な体質をいう。 故事中国東晋 とう の簡文帝に仕えた顧悦 こえ は、帝と同年齢であったが白髪だった。ある とき、簡文帝が「君の髪はどうして私より先 に白くなったのか」と聞いたところ、顧悦は 「蒲柳の姿は秋を望んで落ち、松柏 しよう はく の質は 霜を経て弥いよ茂る(蒲柳は秋を前にして葉を 落としますが、松柏は冬の霜にあってますま す葉を茂らせるものです)と答えたという。 用例新一郎が、突然喀血 かっ けっ したのは、それ から間もなくであった。蒲柳の質である彼 は、いつの間にか肺を犯されていたのである。 〈菊池寛◆仇討禁止令〉 治す薬もなく、どうしようもないということ。 「恋の病に薬なし」ともいう。 類義四百四病 しひゃく しびよう の外 ほか。 は とうざ 惚れた腫れたは当座のうち ほれたとかほれられたとか言っているのは、 夫婦になりたてのうちだけで、やがて実生活 のきびしさに直面して所帯じみてくるという こと。また、恋愛感情は一時的なもので、じ きに熱がさめてしまうということ。「腫れた」 は「惚れた」と語呂をあわせたもの。 惚れた病に薬なし 惚れた欲目 恋わずらいは病気のようなものだが、これを 好きになった相手のことを、何でもひいき目 に見てしまうこと。欠点までも長所のように よく見えてしまうということ。 類義 痘痕 あば た も醤 えくo 面面の楊貴妃 ようo きひ ほよくめあばたえくぼあばたえくぼ 惚れた欲目には痘痕も靨↓痘痕も靨25 ほかよせんりいちり 惚れて通えば千里も一里 ほれた相手に会うためならば、千里の道も一 里にしか感じられないくらい、どんなに遠く ても苦にならないということ。 補説俗謡の詞で、このあとに「逢あわずに 戻ればまた千里」と続く。 檻褸でも八丈 古くてぼろになっても、上等なものは値打ち があるということ。▷八丈∥八丈絹。八丈島 で生産される平織りの絹布。 類義腐っても鯛たい。ちぎれても錦。 檻樓を着ても心は錦 外見はみすぼらしくても、心は豊かであると いうこと。中身が立派であれば、見かけはど うでもいいということ。 に生える。 ほ あ 蒲を編む苦学することの 苦学することのたとえ。 △蒲‖がま。 池や沼 故事中国前漢の路温舒 は、少年時代に 羊の番をしながら、沼に生えているがまを 切って札を作り、それをつづり合わせてノー トにして字を書き、勉強したという。 出漢書かんじょ ほんけがえ本卦還りの三つ子 年をとって、欲望や邪気がなくなり、まるで 三歳児のように無邪気な心になるというこ と。▷本卦還り‖自分が生まれた年の干支 がめぐってくること。数え年で六十一歳にな ること。還暦。 類義七十の三つ子。八十の三つ子。老いて 再び稚児になる。 ほんしゃうえちゅうじなふくしゅう 奔車の上に仲尼無く、覆舟の したはくいな 下に伯夷無し 出韓非子 乱れて危険な国からは、聖人も賢人も逃げ出 していなくなるというたとえ。また、国の方 針や号令が国民にとって危険であれば、助か ろうと争いを起こすものであるということ。 暴走する車の上では、孔子でも行儀よく乗っ ていられないし、ひっくり返った船の下では、 伯夷もじっとしていられずさわぐという意か ら。∇仲尼∥孔子の字あざ。伯夷∥中国古代、 周の初めの賢人。潔白なことで有名。 ほんしょすいじん 貴諸錐刃を懐けども天下勇と な 為す 実力があれば、自然に世に知れわたるという 出戦国策 <607> たとえ。孟賁 ほん や専諸 せん のような勇士は、小 さな刀を持っているだけでも、天下の人が勇 者とみとめるという意から。∇賁諸∥孟賁と 専諸。ともに中国古代の勇士。錐刃∥錐きりの ように先のとがった小さな刀。 盆過ぎての鯖商い ぼんす さぱあきな 時機を失うことのたとえ。昔は鯖を盆の贈答 品とする風習があり、盆の前には高値で売れ たが、盆を過ぎると安く売ってもあまり買い 手がつかなかったことから。 ほんしょうがついっしょき 盆と正月が一緒に来たよう 非常に忙しいことのたとえ。また、うれしい ことや楽しいことが重なることのたとえ。 「盆と正月が一度に来たよう」「盆と正月が一 時 ときに来たよう」ともいう。 ほんどもといたかなあた 畚土の基は高きを成す能わず 基礎がしっかりしていなければ、大きなことはできないと思います。また、物にはそれぞれ限度があるというたとえ。もっこ一杯ほどの土の基礎の上には、高い建物を建てることはできないということから。△番にもっこ。縄を網のように編み、土や石を運ぶ道具。 出塩鉄論 ず、もっこ一杯の土の基礎の上には、どんな 良工でも高い建物を造ることはできない)」 とある。 補説出典には「弧刺この鑿のみ、公輸子と 雖いえも其その柄ほぞを善くする能わず、畚土の 基は良工と雖も其の高きを成す能わず(弓な りに曲がったのみでは、名工の公輸子でも材 木を組むためのほぞをうまく作ることはでき ぼんすぎーぼんをい 煩悩なければ菩提なし 煩悟ないわは菩提 迷いが無ければ、悟りも無い。迷いがあるか らこそ、悟りがある。「煩悩即菩提」(『大乗 荘厳経論だいじょうそうほか)という大乗仏教の考 えが俗諺そくに転用されたもの。諺ことではもっ ぱら凡情を肯定する意味で使われる。 煩悩の犬は追えども去らず 煩悩は、ちょうど人につきまとう犬のように、 払っても払っても心から離れないものである ということ。「煩悩の犬は打てども去らず」 「煩悩の犬」ともいう。∇煩悩=仏教で、人 の心身を悩ませ苦しめる精神のはたらき。 ばんぷさか かみたた ひとさか 凡夫盛んに神祟りなし 人盛んにして 大盛んに神崇りなし ひとさか 人盛んにして らず 55 ほんまる 本丸から火を出す 内部からくずれること。自滅すること。本丸 から出火して火事になる意から。▷本丸‖城 の中心をなす城郭。 ほんめいつか 奔イレガン 出春秋左氏伝 あちらこちらを忙しく奔走して疲れ果てるこ と。「疲る」は「罷つかる」とも書く。∇奔命 ∥主君の命に従って忙しく走り回ること。 故事中国春秋時代、楚その荘王に仕える子 重 と子反 は、高官の巫臣 を恨んでいた。 ほんめい弁命に疲る 荘王が死んで共王が即位すると、子重・子反が実権を握り、巫臣の一族を殺してその財産を没収した。晋しんに逃げた巫臣は、二人に手紙を送りつけ、「余よ必ず爾なんをして奔命に罷れて以もって死せしめん(私は必ずお前たちを君命によって奔走させ、疲れきって死ぬようにしてやろう)」と言った。やがて、巫臣は呉こと組んで、一年に七回も楚の各地に侵攻したので、二人はその防戦に転々として疲れ果て、楚の属国はすべて呉に取られてしまった。 ほんらいむいちもつ本来無一物 出六祖壇経 もともと一物も存在しない。すべては空く で、迷いも悟りも実在しないということ。 補説中国禅宗の第六祖慧能の偈(う た)の中の一句。 用例 学問は悉皆 海に流れて心身に付した るものとてはなに一物もあることなく、いわ ゆる本来無一物にて、その愚はまさしく前日 に異なることなかりしという話あり。〈福沢 諭吉・学問のすすめ〉 盆を戴きて天を望む 出司馬遷報二任少卿一書 一度に二つのことを行うことはできないということ。また、よいことを二つ同時に兼ね備えることはできないということ。盆を頭の上にのせることはできるが、天を見ようとして上を向けば、頭の上の盆は落ちてしまうということから。 <608> 枚挙に暇がない 非常に数の多いこと。多すぎていちいち数え ていられないほどだということから。「枚挙 に遑がない」とも書く。∇枚挙=一つ一つ数 え上げること。 類義掃いて捨てるほど。 類義揃して捨てるほと 用例友人や知人や恋人、敵や味方、崇高な 者や惨めな者、自分の半身と思わる者や不 可解な者…。ハムレットやドン・キホーテな どの典型的なものから始めて、咄嗟 浮ぶものだけでも、枚挙に遑 島与志雄・長篇小説私見 まいにねんたいこさんねんふえごねんつづみはち 舞二年太鼓三年笛五年鼓八 ねんうたいはちねん 年謡八年 能で演じられる芸をひととおり身につけるの に必要なおおよその修業期間を、語調をとと のえていったことば。どんな芸事でも、一人 前にできるようになるには、それなりの苦労 があるということ。 参らぬ仏に罰は当たらぬ 参ははは当た 何事も、かかわり合わなければ、災いをこう むることもないということ。参ってもいない 寺の仏の罰は、当たるわけがないということ から。 類義 触らぬ神に崇たりなし。 まえじゅうりよううしさんりよう 前十両に後ろ三両 前から見た顔や姿は美人だが、うしろ姿は目 劣りがする人のたとえ。 類義後ろ坊主の前角髪すみか。ずら 対義後ろ千両前一文。 まえついしょうものかげそしまえつい前で追従する者は陰で謗る♩お前追 しようものかならかげそし 従する者は必ず陰にて謗る120 まえふうしつまず 前を跛み後ろに憲く出詩経 進退きわまること。前にも後ろにも進み難い 意から。△跂む‖踏む。憲く‖つまずき倒れ る。 補説老いた狼 かお が、前に進もうとすると「其 その胡(あごの下の垂れた肉)を跋み」、後ろ に退こうとすると「其の尾に疐く」と、どう することもできなくて困ったという寓話に基 づくことば。 ま かま ま こしき 曲がった釜には曲がった甑 どんなものにも、必ずそれに合うものがある ということ。また、夫婦は、似かよった者同 士がよいということ。ゆがんだ釜には、それ に合うゆがんだ甑があるという意から。▶甑 ∥釜にのせて、米などを蒸す道具。 類義破われ鍋に綴とじ蓋。 ま 蒔かぬ種は生えぬ 原因のないところに結果はないということ。 また、何もしないでよい結果を期待しても、 得られないという戒め。種をまかなければ何 も生えてこないという意から。いろはがるた (京都)の一。 類義打たぬ鐘は鳴らぬ。物が無ければ影さ さず。春植えざれば秋実らず。 英語Harvest follows seedtime.「収穫は 種まきのあとに来る」Pluck not where you never planted.「(果実を)植えなかっ た場所で摘むな」 曲がらねば世が渡られぬ 正義や道理一点張りでは、世の中をうまく 渡っていけない。時には、自分を抑えて相手 に同調することも必要だということ。「曲が らねば世に立たぬ」ともいう。 類義商人 あき んど と屏風 びよ うぶ は曲がらねば立たぬ。 人と屏風は直すぐには立たず。人の踊る時は 踊れ。水清ければ魚棲すまず。 曲がるは折れるに勝る 同じ失敗でも、やり直しができるものならま だよいが、やり直しのきかない失敗はだめだ ということ。曲がったものはあとでまっすぐ に直せるので、折れて直しようがないものよ りはよいということから。 ま 曲がれる枝には曲がれる影あ り 悪い原因があると、当然悪い結果が生じること。曲がった枝の影は、やはり曲がってうつるということから。 <609> 出越絶書 物事を正そうとしても、度が過ぎると、かえって前より悪くなること。また、わずかな欠点を直そうとして、全体をだめにしてしまうこと。曲がっているものを直そうとして、まっすぐになりすぎて使いものにならないという意から。△枉がる∥曲がる。矯める∥曲がっているものをまっすぐにする意。 類義角を矯めて牛を殺す。 まきえじゅうばこうしふんも 蒔絵の重箱に牛の糞盛る 形式だけは整っているが、内容がそれにとも なわないこと。立派な入れ物につまらない物 を入れるという意から。「糞」は「くそ」と も読む。 類義錦の袋に糞を包む。 まくらあおしとねあたた 枕を扇ぎ衾を温む 出東観漢記 親に孝養を尽くすことのたとえ。 故事中国後漢の時代、黄香は幼くして母を失ったが、よく父に仕えて孝養を尽くした。夏の暑いときには、うちわで父の枕もとをあおいで涼しくし、寒い冬には、自分の体温で父の寝床を温めたという。 枕を高くして寝る 出戦国策 まったく心配のない状態のたとえ。気にかか ることがなく、安心してゆっくり眠ることを いう。「枕を高くして臥ふす」ともいう。 補説中国の戦国時代に、秦しんと同盟を結ばせるために魏王を説得した遊説家張儀のことば。出典には「大王の為ために計るに、秦に事つかうるに如しくは莫なし。秦に事へば則ち楚そ韓かん必ず敢あえて動かざらん。楚韓の患い無くんば則ち大王枕を高くして臥し、国必ずや患い無からん(大王のために考えますのに、秦にお仕えになるのがよいと思います。秦にお仕えになれば、楚や韓はお国を侵略しようと動くことはないでしょう。楚と韓の両国から攻撃を受ける心配がなくなれば、大王も枕を高くして安心して眠ることができ、国家も安定して何の心配もなくなりましょう」とある。 まがれるーまけるも まいぬとおほ負け犬の遠吠え 臆病な者が、陰でからいばりすること。けん かに弱い犬は、相手から遠く離れたところか ら吠えたてるということから。単に「犬の遠 吠え」ともいう。 用例信秀のぶが負け犬の遠吠えのように美濃 の城下を遠まきに野荒しをやって逃げたのも 笑止であるが、腹が立たないわけではない。 〈坂口安吾◆梟雄〉 じられないことのたとえ。相撲に負けた力士 が、虚勢を張って四股をふんでも、貧弱でさ まにならないという意から。 負け惜しみの減らず口 負けた者が、悔しまぎれに相手の悪口を言ったり、負けをすなおに認めないで憎まれ口をたたいたりすること。 まずもう負け相撲の痩せ四股 負けたあとで強がっても、さっぱり威力が感 当面は相手に勝ちをゆずっても、最終的には 自分が勝ちを得るようにもっていく。表面で は負けたように見せておいて、実質上は有利 な立場に立つようにすること。また、無意味 な争いは避けるべきだということ。 類義逃げるが勝ち。 負けに不思議の負けなし 出常静子剣談 負けるには負けるだけの理由があるということ。武道やスポーツで努力の大切さを教え、運を負けた言い訳にすることを戒めた言葉。補説剣客として知られた江戸中期の平戸藩主松浦静山まつらせの剣術書「常静子剣談」にある言葉。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とある。 負けるが勝ち 時には相手に勝ちをゆずって、徹底的に勝負 を争わないことが、かえって有利な結果とな り、勝ちに結びつくということ。いろはがる た(江戸)の一。 類義逃げるが勝ち。 ま かときうんかま 負けるも勝つも時の運 勝つも負ける ときうん も時の運 146 <610> まごか 孫飼わんより犬の子飼え 孫をかわいがっても、孫が孝養をつくしてく れる望みは少ないし、孫が恩を返せるように なるまで自分が生きているかどうかもわから ない。それなら、三日飼ったら一生恩を忘れ ないという犬の子を飼うほうがましだという こと。「孫飼わんより犬子 えの 飼え」ともいう。 まこそうよう麻姑掻痒 出神仙伝しんせんでん 物事が思いどおりになることのたとえ。もと は、かゆいところに手が届くこと。『麻姑を 倩やとうて痒かゆきを掻かく』ともいう。▽麻姑 Ⅱ中国伝説上の仙女の名。その手の爪は鳥の 爪のように長く、かゆいところをかくのに適 しているといわれた。背中をかく「孫の手」 は「麻姑の手」に由来するという。掻痒=か ゆいところをかくこと。 故事中国後漢の蔡経 という人家に仙人 が天降 り、仙女の麻姑を招いた。蔡経は麻 姑の長い爪を見て、あの爪で背中をかかせた ら、さぞかし気持ちがいいだろうと思ったと いう故事による。 対義 隔靴 かっ 掻痒。 馬子にも衣装 対義衣ばかりで和尚おしはできぬ。 英語Apparel makes the man.衣服が人 を作る] Fair feathers make fair fowls.美 しい羽は鳥を美しくする 身なりを整えれば、どんな人間でも立派に見 えるというたとえ。「馬子にも衣装髪かたち」 と続けてもいう。▷馬子‖昔、馬に人や荷物 を乗せて運ぶことを職業とした人。 用例ここではまあ、食器をお料理のきもの と言っておきましょう。馬子にも衣裳いと言 いますが、お料理も衣裳次第で、美味ぅまくも 不味まずくもなります。〈北大路魯山人・料理 する心〉 類義人形にも衣装。切り株にも衣装。鬼瓦 おにが わらにも化粧。 孫は子より可愛い 孫は、苦労して育てた子よりもかわいいもの だということ。祖父母が孫をかわいがること をいう。「子より孫が可愛い」ともいう。 ときともしんとも まさかの時の友こそ真の友 苦難に陥った時力になってくれる友達こそが 本当の友達だということ。▶まさかの時‖予 期しない事態が起こった時。万一の場合。 補説 英語のことわざ 「A friend in need is a friend indeed.(まさかの時の友はまこと の友)」から。 まさむね まきわ だいこん まさむね き 正宗で薪割る 大根を正宗で切る 387 まさむね や お くぎ あたい 類義昔の剣 今の菜刀 騏驥 も老いて は駑馬 どば に劣る。 正宗も焼き落つれば釘の価 どんなにすぐれたものでも、衰えてしまうと、 かつてのような力がなくなるということ。正 宗のような名刀でも、火事で焼けてしまえば、 釘ほどの値打ちしかないという意から。正 宗Ⅱ鎌倉時代末期の名刀工。また、その鍛え た刀。 間尺に合わない 割に合わないこと。損になることのたとえ。 ▶間尺‖尺貫法の長さの単位の間けんと尺くしゃ で、家屋や建具の寸法。転じて、割合、損得 計算の意。 用例時には良人 も役所で饂飩 をとって 我れと我が身に奢 ってやったが、二杯も 食われちゃ間尺に合わない」と饁飩好きな自 分の口に厭味 いや を言って、やっぱり塩鮭 しゃ 入 りの弁当を持参した。〈矢田津世子・茶粥の 記〉 交わり絶ちても悪声を出ださず は交わり絶ゆとも悪声を出ださず 213 まずい物の煮え太り味無い物の煮え 太り17 まず隗より始めよ 隗より始めよ 131 まず いえ こじんうと ひんか こじん 貧しき家には故人疎し 貧家には故人 うと 疎し571 貧しきは諂う 人間は貧乏になると卑屈になって、人にへつ らうようになるということ。 出 論語 ろんこ 補説出典には、孔子の弟子の子貢が「貧しくして諂うこと無く、富みて驕おごること無き <611> 類義貧ひんは諂う。 は何如 ん 貧乏でもへつらわず、金持ちでも おごり高ぶらない人物はどうでしょうか と質問したところ、孔子は「可なり。未いまだ 貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好む者に は若しかざるなり(いいだろう。だが、貧乏で も道義を楽しみ、金持ちでも礼を好む者には 及ばない)と、もう一段上にある者の態度 を示したとある。 まず 貧しくして怨むこと無きは難 し 出論語 ろんご 貧しくても人や世間を恨まないでいるという ことは、非常に難しいものだということ。 補説出典では、このあとに「富みて驕おごる こと無きは易やすし(裕福になっておごり高ぶ らないようにするのはやさしい)」と続く。 貧しくして楽しむ 出論語 貧乏でも、楽しみを持って心豊かに生活する という君子の心境をいう。 補説孔子の弟子の子貢が「貧乏でもへつら わず、金持ちでもおごり高ぶらない人物はど うでしょうか」と聞いたとき、孔子が「可な り。未いまだ貧しくして楽しみ、富みて礼を好 む者に若しかざるなり(いいだろう。だが、貧 乏でも道義を楽しみ、金持ちでも礼を好む者 には及ばない)と答えたことばの一節。 ます はか み 升で量って箕でこぼす 苦労してこつこっとためたものを、むだに使 まずしくーまつまが いはたしてしまうたとえ。また、収入が少ないのに支出が多いたとえ。升できちんと量ってためたものを、箕で一度にどっとこぼしてしまうという意から。∇箕∥穀物をふるって、からやごみを取り除く農具。 類義爪で拾って箕でこぼす。 待たぬ月日は経ちゃすい 月日は、何かを期待して待っているときはな かなかやってこないように感じるが、気にせ ずにいると、あっという間に過ぎ去ってしま うものだということ。 おそ まだ早いが遅くなる 油断は禁物だということ。まだ早いと思って のんびり構えて時を過ごしていると、気がつ いたときは、もう手遅れになっている意。 ま 類義 亀の甲より年の劫 こう。 烏賊 いか の甲より 年の劫。 待たるとも待つ身になるな 人を待っていらいらするのは何ともいやなも のだから、人を待たせても、自分が待つよう な立場にはなるなということ。 類義待つ身より待たるる身。 まちゅうよもぎよもぎまちゅうしょうたす 麻中の蓬 蓮、麻中に生ずれば扶け なお ずして直し 674 松かさよりも年かさ 年をとった人の長年の経験や知恵は、役に立 つことが多いから、尊ぶべきだということ。 「松かさ」と「年かさ」の語呂を合わせたこ とば。 松の木柱も三年 どんなものでも、一時しのぎの役には立つと いうたとえ。腐りやすい松の柱でも、三年ぐ らいはもつという意から。「松の木も三年」 「松の柱も三年」「湯腹も一時、松の木柱も三 年」ともいう。 類義 茶腹も一時。 まつみばうす 松の実生えの白になるまで 遠い将来までというたとえ。種子から芽を出 した松の木が成長し、臼が作れるような大木 になるまでの意から。∇実生え∥接ぎ木や挿 し木などによらず、種子から発芽した植物。 まつふたばとうりようおも 松は二葉より棟梁の思いあり 将来大人物になるような人は、幼いときから すぐれたところがあるということ。松は発芽 したばかりの二葉のころから、屋根の棟むねや 梁はりになる素質をもっているという意から。 「松は寸にして棟梁の機あり」ともいう。 類義 栴檀 せん だん は双葉より芳 ぱ かん し。 蛇 じゃ は寸に して人を呑のむ。 ま 待つ間が花 まはな あれこれ想像しながら待っている間がいちば ん楽しいもので、現実になってみるとそれほ どでもないことが多いということ。「待つが 花」「待つうちが花」ともいう。 類義見ぬが花。 <612> まみ 待つ身より待たる身 人を待つのはつらいものだが、待たれるほう も、待っている相手のことが気になって、そ れ以上につらいものであるということ。 類義 待たるとも待つ身になるな。 対義 待たれる身より待つ身。 まつす祭り過ぎての橡麺棒 時機に遅れて慌てること。また、時機を失し て役に立たないこと。祭りがすんでから慌て る意から。マ像麺棒とちの実の粉で作る麺 をのばすのに用いる棒。棒の使い方がおそい と像麺がよくのびないことから、慌てる意。 類義喧嘩けん過ぎての棒乳切ぼうちぎり。 祭りの渡った後のよう にぎやかだったのが、急にひっそりと静かに なったようす。祭りのにぎやかな行列が通り 過ぎて行ったあとのようだという意から。 まつ ほうねん おご きようねん 祭りは豊年にも奢らず凶年に けん も倹せず 出礼記 な気持ちで祭らなければならないというこ と。 祭礼は、世情に関係なく、一定のしきたりに 従って行うべきだということ。豊作の年だか らといって盛大にせず、凶作の年だからと いって控え目にしたりしない意。「祭りは豊 年にも増ぞうせず凶年にも減げんぜず」ともいう。 まつ いまごと 祭ること在すが如くす 出論語 祖先を祭るときには、祖先がそこにいるよう 補説出典には、このあとに「神を祭るには 神在すが如くす(神々を祭るときには、神々 がそこにいるような気持ちで祭らなければな らない)。子曰いわく、吾われ祭りに与あずらざれ ば祭らざるが如し(自分は祭礼に出席せず代 理などですませるというのは、祭らないのと 同じである)と続く。祭礼に対する孔子の 態度を示したことば。 ま 待てば海路の日和あり 今は状況が思わしくなくても、あせらずに 待っていれば、必ず幸運が訪れてくるという こと。海が荒れていても、待っていれば必ず 航海に適した日が来るということから。 補説「待てば甘露かんの日和あり」を変えて 言ったもので、同じ意に用いる。 類義果報は寝て待て。運は寝て待て。雨の 後は上天気。 との前兆として降らせるという甘い露。 類義果報は寝て待て。運は寝て待て。待て ば海路の日和あり。 英語 Everything comes to him who waits.待つ者はすべてを得るHe that can stay obtains.待つことのできる者は 欲しい物を手にする かんろひより あせらずに待っていれば、必ずよい機会がく るということ。落ち着いて待ち続ければ、 きっと甘露の降る日がやってくるという意か ら。「待てば甘露」「待たば甘露の日和を見る」 ともいう。▶甘露∥中国の伝説で、王が仁政 を行い天下が太平になると、天がめでたいこ 待てば甘露の日和あり まど窓から槍やり 突然なこと。想像もしていなかったことのた とえ。 類義 藪やぶから棒。寝耳に水。 まないた俎板の鯉こい 自分の力ではどうすることもできず、相手に されるがままになるほかない状態。また、覚 悟を決めて開き直ること。まないたの上の鯉 は、料理されるのを待つしかないことから。 「俎板の魚」「俎上」「魚」ともいう。 (用例)笑っていらっしゃいますね。実は、真面目に聞いて頂きたいことがございますのよ。申し上げようかどうしようかと、迷っていましたけれど、今日はよい機会ですから、思い切って申しましょう。ただ黙って、なんの弁解もせずに、聞いて下さいよ」「御意のままにします。俎上の鯉となりましょう」(豊島与志雄◆無法者) 出書経しよきよう 学ばざれば牆に面す 学問をしなければ、世の中のことが何も見え ず、真理はわからないということ。学問をし ない者は、垣根に面と向かって立っているよ うなもので、向こう側のものは見えず、前に 進むこともできないという意から。中国周の 成王が、官職にある者に対して、常に人につ いて学ぶことが大切であると訓戒した中で述 <613> べたことば。 △牆=垣根。 出 論語 ろんご 自分が学ぶことにも、人に教育することにも 熱心であるということ。いくら学んでもあき ることがなく、人に教えてもいやになること がないという意から。 補説出典には子曰く、黙して之これを識 し黙って覚えておき、学びて厭わず、人 を誨えて倦まず。何か我に有らんや私に とって何でもない」とある。 学びて思わざれば則ち罔し 出 論語 ろんご いくら教えを受けても、自分で考え、研究し なければ、本当の知識として身につかないと いうこと。▶罔‖暗くてはっきりしない意。 補説出典には、続けて思いて学ばざれば 則ち殆あやし(自分で考えるだけで人の教えを 受けなければ、独断におちいって危ない) とある。学ぶことと考えることのバランスが 大切であることを述べたもの。 学びて然る後に足らざるを知る しかのちたし 出礼記 学問をしてはじめて、自分の知識や学力が不 足していることに気づくということ。 補説出典では、この句と対の形で「教えて 然る後に困くるしむを知る(教えてみてはじめ て、学問の難しさがわかる)」とある。教え ることと学ぶこととは、たがいに助け合うも のであるということを言っている。 まなびてーまのあた 学びて時に之を習う、亦説ば 出 論語 ろんご しからずや 学んだことを繰り返し復習すると、理解が深 まり、自分の身についていくことがわかる。 これが学問の喜びではないだろうか。 補説論語の冒頭の一文。これに続いて「朋 とも友有り遠方より来たる、亦楽しからずや」 とある。 学ぶ門に書来る 何事も熱心に取り組めば、自然に道が開けて くるものであるということ。熱心に学んでい る人のところには、自然に書物が集まるもの であるという意から。 いとま いとま いとま いえど またまな あた 眼ありと雖も亦学ぶ能わず その気になれば、時間は自然にみつかるもの だということ。時間がないから勉強すること ができないというような人は、たとえ時間が あっても勉強しないものであるということ。 暇がないのを口実にして学ばない者を戒めた ことば。 出淮南子えなんじ 学ぶ者は牛毛の如く、成る者 出北史ほくし 学問を志す者は牛の毛のように多いが、学問 を成就する者は麒麟 きり ん の角のようにまれだと いうこと。△麟角∥麒麟の角。麒麟は、中国 古代の想像上の動物。体は鹿に似、全身うろ こに覆われ、尾は牛、ひづめは馬、頭上に肉 に包まれた一本の角がある。聖人が出てよい 政治が行われるときに現れるとされる。 学べば則ち固ならず 出論語 学問をすれば視野も広くなり、考え方も柔軟 になって、一つの考えにとらわれることもな くなる。△固=頑固でひとりよがりなこと。 補説孔子が、君子の心構えを述べたことば の一節。出典には「君子重からざれば則ち威 あらず。学べば則ち固ならず。忠信を主と し、己に如しかざる者を友とすること無かれ。 過ちては則ち改むるに憚 はば か ること勿なかれ君 子は重々しく威厳があり、学問をして偏見を なくし、忠信を第一とし、自分より劣る者を 友とせず、過ちは直ちに改めなければならな い)とある。 面のあたりに人を誉むるを好 む者は亦背いて之を毀るを好 出荘子 ひとほこの 面と向かって人をほめる者は、陰ではその人 <614> の悪口を言いたがるものだということ。 故事孔子は大盗賊の盗跖 とう せき が生涯盗賊とい われるのを残念に思い「あなたは体格が立派 で容貌・知能にすぐれ、勇気と統率力がある。 諸侯の一人にしたい」と言った。盗跖は「面 のあたりに人を誉むるを好む者は亦背いて之 を毀るを好む」と聞く。あなたの言うことな んか聞く必要はない」と言ったという。 類義お前追従する者は必ず陰にて謗そし る。 まむしこ蝮の子は蝮 親が悪人だと、その子も同じように悪人にな るということ。 類義蛙の子は蛙。 まめでっぽうくはとはとまめでっぽう 豆鉄砲を食った鳩のよう鳩が豆鉄砲 を食ったよう529 豆を植えて稗を得る 期待はずれに終わることのたとえ。豆を植え たのに豆がとれず、ほしくもない稗がとれた という意から。 対義 鰯網 あみ いわし で鯨捕る。 まぬ に まぬから た 世せつしんこ 豆を煮るに其を燃く 出世説新語 兄弟や仲間同士が互いに傷つけ合って争うこ とのたとえ。豆を煮るのに、同じ根から生じ た豆がらを燃料として使うということから。 故事中国三国時代、魏の曹植 そうし よく は兄の文 帝曹不 そう ひ からその才を憎まれ、七歩歩く間 に詩を一編作ることを命じられ、できなけれ ば殺すと言われた。曹植はたちどころに詩を作り、その詩の中で「豆を煮て以もて羹あと作なし、豉しを漉こして汁と為なす。其は釜下ふかに在って燃え、豆は釜中に在って泣く、本もと同根より生じたるに相煎いること何ぞ太はだ急なる(豆「曹植のたとえ」を煮て吸い物をつくり、みそをこして汁をつくる。豆がら「文帝のたとえ」は釜の下で燃やされ、豆は釜の中で泣いている。もとは同じ根から生まれたのに、どうしてこんなにひどく豆を煮たてるのか」と嘆いた。文帝はこの詩を読んで、深く恥じ入ったという。七歩の才293 り手の隙はなけれど盗人の隙あり 盗人の隙はあれども守り手の隙な 眉に唾をつける だまされないように用心すること。 狐 きっ ね や狸 たぬ き にだまされないようにするには、眉につば をつければよいという俗信から出たことば。 「眉毛に唾をつける」「眉に唾をする」「眉に 唾を塗る」「眉唾」ともいう。 迫って慌てふためくさま。火が迫って眉が焼 けそうだという意から。「眉毛に火がつく」 ともいう。 用例ましてすでに結婚後の壮年期に達した るものの恋愛論は、もはや恋愛とは呼べない 情事的、享楽的漁色的材料から帰納されたも のが多いのであって、青年学生の恋愛観に とっては眉に唾すべきものである。〈倉田百 三◆学生と生活〉 眉に火がつく 危険が身に迫っていること。また、危険が 類義焦眉の急。轍鮒ての急。尻に火がつく。 まゆの 眉を伸ぶ 出漢書 安心すること。心配ごとがなくなり、しかめ ていた眉を伸ばすという意から。「伸ぶ」は 「信ぶ」「舒ぶ」とも書く。「眉を伸ばす」「眉 を伸べる」「眉を開く」ともいう。 類義愁眉 対義眉を顰ひそめる。 眉を読む 顔色を見て、その人の心中を推し量ること。 また、人の力量や価値を評価すること。相手 の眉毛の本数を数える意から。「眉毛を読む」 ともいう。 迷う者は路を問わず 出荀子 愚かな者に限って、賢者に教えを受けようと しないというたとえ。独善を戒めることば。 道に迷う者は、人に道を尋ねないからである という意から。「迷者は路を問わず」ともい う。 補説出典には、このあとに「溺るる者は遂 すい を問わず(溺れるのは、浅瀬がどこにある か尋ねないからである)と続く。 まよ 迷えば凡夫悟れば仏 仏も衆生 しゅじ よう も本質は同じものだということ。 一瞬の心のありかたで、凡夫にもなれば、仏 <615> にもなる。「前念迷えば即ち凡夫、後念悟れ ば即ち仏」(六祖壇経ろくそだ)による。 類義仏も昔は凡夫なり。 もの さと 迷わぬ者に悟りなし 迷いがあるからこそ悟りがある。迷いのない 者には、悟りもないということ。 類義大疑 たい は大悟 たい の基 もと。 い まよ 迷わんよりは問え 自分一人であれこれ思い悩んで迷っているよ りも、わからないことは人に尋ねて明らかに したほうがよいということ。 ままの素朴の真似もできるのだ。〈太宰治 もの思う葦〉 丸い器に角の蓋 うまく合わない、ぴったり一致しないこと。 丸い器に四角な蓋では合わないことから。 「丸い麻小笥 おご に角の蓋」ともいう。 類義方底円蓋 ほうてい。 えんがい 方柄円鑑 ほうぜい。 えんさく まるたまごきしかく 丸い卵も切りようで四角 まるたまごきしかく 同じことでも、話し方やり方によって、円 満におさまったり角が立ったりすること。丸 い形をした卵でも切り方によっては四角にな ることから。「丸い卵も切りようで四角、物 も言いようで角が立つ」と続けてもいう。 英語 A good tale ill told is a bad one. よい話も話し方がまずいと損なわれる 用例 感想なんて!まるい卵もきり様ひとつ で立派な四角形になるじゃないか。伏目がち の、おちょぼ口を装うこともできるし、たっ たいまたかまが原からやって来た原始人その ひとかど ひとごころ 丸くとも一角あれや人心 性格が円満であるのはよいが、時と場合に よっては自分の意地を通すような一面がある ほうがよいということ。 まよわぬーまんをじ 真綿で首を締める 遠回しなやり方で、じわじわと責めたり痛め つけたりすること。「真綿で喉のどを締める」 「粘綿ねばわたで首を締める」ともいう。「締める」 は「絞める」とも書く。△真綿=くず繭を煮 て引き伸ばして作った綿。細くて柔らかいが 切れにくい。 真綿に針を包む 表向きはやさしい態度で人に接しておきなが ら、内には底意地の悪さを隠し持っているこ とのたとえ。柔らかい真綿にとがった針を包 み隠す意から。「綿に針を包む」ともいう。 類義笑中に刀とうあり。口に蜜あり腹に剣あ り。 蔓草猶除くべからず 出春秋左氏伝 些細 い なことでも放っておくと、いずれ増長 し、取り返しがつかなくなるというたとえ。 つる草も、生えはびこってしまうと取り除く のが難しくなるということから。▷蔓草‖つ る草。また、草が伸びること。 故事中国春秋時代鄭の国の君主である 荘公の弟が、母親の寵愛 をよいことにわ がままの限りを尽くしていた。それを憂えた 大夫の祭仲が、荘公に忠告して「滋蔓 しむること無なかれ、蔓せば図り難きなり(草 が茂るように増長させてはなりません。そう なればあとで処理できなくなります)。蔓草 すら猶除く可べからず、況や君の寵弟 や(つる草でもはびこってしまうと取り除く のが難しくなります。ましてご自分の弟君と なるとなおさらのことです)と言った。 まんのうたいっしんた 万能足りて一心足らず あらゆる技芸に熟達していても、肝心の真心 が欠けていてはなんにもならないというこ と。 類義万能一心まんのう。いっしん まんのうた 万能足りて堂の隅 諸芸に熟達しているのに、世間に認められないでいること。 まんそんまね満は損を招く 出書経しょきょう 物事は頂点に達してしまうと、やがて衰えて いくものであるということ。 類義月満つれば則 すな わ ち虧かく。十分はこぼ れる。物盛んなれば則ち衰う。 満を持す 準備を十分に整えて、好機の到来を待つこと。 弓を引きしぼったまま矢を放たず、発する機 出史記しき <616> 会を待つという意から。 補説出典には「漢の矢且まに尽きんとす。 広乃すなち士をして満を持して発する母なから しむ(漢軍の矢はなくなりそうになった。李 広りは兵士たちに、弓を十分に引きしぼった まま待機させた」とある。 御明かしあって灯心なし 御明かしあって灯心なし 財産が十分にあるのに信仰心のないこと。灯 明の油はあるが、灯心がなくて火がともせな いことから。△御明かし∥神仙に供える灯 火。灯心∥灯油にひたして火をつけるのに用 いる細い紐ひも。 み身ありて奉公 自分の身が健在であってこそ、主君や世の中 に尽くすことができるということ。 類義命あっての物種。 みいみいら 木乃伊取りが木乃伊になる 人を連れ戻しに出かけた者が、自分もそこに とどまって帰ってこないことのたとえ。ま た、他人を説得しようとして、逆に相手に説 得されてしまうこと。ミイラを取りに行った 人が、目的を果たせずに自分がミイラになっ てしまうことから。∇木乃伊取りⅡ薬に用い るためにミイラを取りに行く者。「ミイラ」 はポルトガル語で、「木乃伊」はあて字 補説ミイラは、防腐剤として用いられた油 のことで、人間や動物の死骸が腐らずに乾燥 したミイラからとれるとされていた。この油 をとりに行き、砂漠などで倒れて自分もミイ ラになってしまうということから出たことば。 英語Many go out for wool and come home shorn.「羊毛を刈りに出かけながら、 毛を刈られて帰る者が多い」 見栄張るより頬張れ 世間体を気にして損をするより、自分の利益 を優先させたほうがよいということ。体裁を つくろって食べたい物を我慢するより、思う ように食べてうまさを味わえという意から。 「義理張るより頬張れ」ともいう。 類義花より団子。 merry that dances. [踊る者は必ずしも陽気ではない] みおさ のちいえととの 身修まりて後家育う 出大学 わが身の行いを正しく修めてこそ、家庭をう まく治めることができる。↓修身しゅう 育家せい が 治国ちこ 平天下へいて んか 307 補説出典には「身脩おさまりて后のち家斉う。 家斉いて后国治まる。国治まりて后天下平ら かなり」とある。 み見かけばかりの空大名 見た目は立派で豪勢に見えるが、中身は貧弱 であること。△空大名=名前だけで実力のな い大名の意。 みかたせんにんてきせんにん 味方千人敵千人 味方が千人いれば敵も千人いる。世の中に は、味方になる人も多いが、敵になる人も同 じくらい多いということ。 みかたみぐる 味方見苦し 味方ばかり身びいきするのは、公正・中立を 欠いていて、見ていていやなものであるということ。 身から出た錆 自分自身の行いや過失のために、あとで災い を受けて苦しむこと。刀身から生じた錆が刀 身を腐らせてしまう意から。「身から出した 錆」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義自業自得。爾なんに出いずるものは爾に 反かえる。刃やいの錆は刃より出でて刃を腐らす。 英語An ill life, an ill end.「悪い生き方を すれば悪い死に方をする」 用例思えば俺もあの頃は毎日お邸へ参上 し、親しくご薫陶を受けたものを思わぬこと からご機嫌を損じ、宇都宮の旅館から不 意に追われたその時以来、幾年となくお眼め にかからぬ。身から出た錆でこのありさま。 思えば恥しいことではある。〈国枝史郎◆北 斎と幽霊〉 右と言えば左 人の言うことに対して、いちいち反対するこ <617> と。一人が右と言えば、別の者が左と言うことから。 類義ああ言えばこう言う。 右に出ずる者なし 617 みぎ いもの みぎ でもの 右に出る者がない 右に出る者がない 最もすぐれていること。勝るものがない。中国、漢の時代、左に対して右を上位としていたことから、それより上の者がないこと。「右に出る者がいない」「その右に出いずる者なし」「右に出ずる者なし」ともいう。 右の耳から左の耳 類義彼方 あち ら 立てれば此方 こち ら が立たぬ。頭押 さえりや尻上がる。 何を聞いても聞いたはしから忘れてしまうこ と。また、人の意見を心にとめず、軽く聞き 流すこと。人の言ったことが、右の耳から 入ってそのまま左の耳へ抜けていく意から。 類義目から入って耳から抜ける。 みぎ きょうみちひだりい せみち 右は京道左は伊勢道 最初は小さな違いだったのが、最後には大きな違いとなること。江戸から上方がた(関西)へ向かうと、関せきの追分(三重県鈴鹿すず市)で、右は京都へ行く東海道、左は伊勢神宮への参宮道に分かれる。どちらに行くかによって、終着地点に大きな違いが出ることから。 右を踏めば左が上がる みこしあ 一方をよくしようとすると他方が悪くなる。 両方を一度によいようにはできないたとえ。 みぎにいーみじんま 御輿を上げる 座り込んでいた者が立ち上がること。また、 なかなか手をつけなかった人が、ようやく本 気になって物事に取りかかることのたとえ。 御輿の「輿」と「腰」を掛けている。 対義御輿を据すえる。 御輿を担ぐ ある人を担ぎ出して、おだてたり、ちゃほや したりすること。まつり上げること。 御輿を据える どっかりと座り込んで動かないこと。腰を据 える。御輿の「輿」と「腰」を掛けている。 対義御輿を上げる。 用例)壁に寄せて古い甕かめのいくつか並べて あるは、地酒が溢れて居るのであろう。今は 農家の忙しい時季で、長く御輿を座すえるも のも無い。〈島崎藤村◆破戒〉 のは仕方のないことであるということ。 !みきい 巫女の虚言 巫女の言ううそ。巫女は神のお告げと称して でたらめなことを言うことがあるというこ と。▶巫女‖神に仕え、神託を告げたり、口 寄せなどをしたりする女性。 身さえ心に任せぬ 自分のことさえ思うようにならないのだか ら、他人や世間のことが思うようにならない 見ざる聞かざる言わざる 自分にとって都合の悪いことや人の短所、過 ちは、見ない、聞かない、言わないほうがい いということ。 補説「ざる」は、打消の助動詞「ず(ざり)」 の連体形で、これと「猿」を掛けて、三匹の 猿がそれぞれ目・耳・口をふさいでいる姿に かたどったものを「三猿 さん」という。 用例今日民主主義とかいろいろなことが 申されておりますけれども、私共は何しろお 互い様にこの五ヵ月ほど前には、見ざる、言 わざる、聞かざるででくの坊になって暮して いたのです。〈宮本百合子◆幸福の建設〉 短きものを端切る 困っているうえに、さらに困るようなことが 起こること。もともと短いものの端を切って さらに短くする意から。 類義足らぬものの端を切る。 身知らずの口叩き 身の程もわきまえずに大きなことを言うこと。また、その立場にないのに、あれこれと口出しすること。 みじんつ やまちりつ 微塵積もって山となる塵も積もれば やま 山となる429 みじんまなこい みしんざづい 微塵眼に入れば大山も見えず 小さいものでも軽視してはならないというこ <618> みずいたーみずきよ と。小さなごみでも目に入れば、大きな山さ え見えなくなることから。 みずいた水到りて渠成る 出蘇軾ー答二秦太虚一書 学問を積めば自然に徳がそなわるというこ と。転じて、物事は時機がくれば自然にでき あがるということ。水が流れると自然にみぞ ができることから。∇渠∥みぞ。掘割。 みずかあなどのちひとこれあなどひとかならみずか自ら侮りて後人之を侮る人必ず自 ら侮りて然る後に人之を侮る 550 みずかあらわものあき 自ら見す者は明らかならず 真に能力のある人は、それをひけらかしたり しないということ。才能を誇示する者は、か えって人に認められないということから。 出老子ろうし 補説出典には「跂つまつ者は立たずつま先で立つ者は長く立っていられず)、跨またぐ者は行かず(大股で歩く者は遠くまで行けない)。自ら見す者は明らかならず、自ら是ぜとする者は彰あられず(自分を正しいとする者はその正しさが世に認められない)とある。 自ら勝つ者は強し 勝つ者は力があるだけだ、自ら勝つ者は強 しとある。 自分の欲望を抑えることのできる者こそ、真 の強者であるということ。「自らに勝つ者は 強し」ともいう。 出老子ろうし 補説 出典には 人に勝つ者は力有り人に 類義山中の賊を破るは易やすく、心中の賊を 破るは難かたし。 みずかしものひとうら自ら知る者は人を怨まず 出荀子じゅんし 自分自身の価値をよく自覚している者は、自 分の至らなさを知っているので、人を怨むこ とがないということ。 補説出典には、このあとに「命めい(天命)を 知る者は天を怨まず。人を怨む者は窮まり、 天を怨む者は志し(見識)無し」とある。 みずかたのひとたの自ら恃みて人を恃むこと無か 出韓非子かんびし れ 自分の力を信頼して事に当たり、他人の力を あてにするなということ。 みずか つと 自ら彊めて息まず じきょうや 自彊息まず 285 みずか なわざわい のが 自ら作せる擘は違るべからず天の作 せる擘は猶違くべきも、自ら作せ る擘は違るべからず453 自ら卑うすれば尚し 出史記しき 自ら卑うすれば尚し 謙虚で高ぶらない人は、かえって人から尊敬 されるということ。 みずかみこれめいい自ら見る之を明と謂う 出韓非子かんぴし 補説 虞舜 ぐし ゅん 中国古代の伝説上の聖天子)の ことば。 他人を知るのではなく、自分を見つめ、自分 を知ることが真の明知であるということ。自 分を知ることが難しいことをいう。 補説出典では、この前に「知の難かたきは人 を見るに在あらずして、自ら見るに在り。故 に日いわく」とある。 みす身過ぎは草の種たね 生計の手段は草の種のように多く、さまざまな種類があるということ。「身過ぎ世過ぎは草の種」ともいう。∇身過ぎ∥生活していくこと。また、そのための手段。 類義商売は草の種。生業 は草の種。身過 ぎは八百八品 はっぴゃ。 くやしな 水清ければ魚棲まず 出大戴礼記 あまり清廉すぎると、人に親しまれず孤立し てしまうということ。あまりに水が澄んで透 き通った所には魚もすみつかないことから。 補説出典には「水至って清ければ則ち魚 無く、人至って察らかなれば則ち徒無し人 が明察すぎると仲間がいなくなる」とある。 類義水至って清ければ則ち魚無し。水清け れば大魚なし。清水せいに魚棲まず。人至って 賢ければ友無し。 用例 然しかしあまり完全過ると物事は却かえつ て不可いかんよ。水清くして魚住まずと云いう 事があるからね。〈永井荷風◆あめりか物語〉 <619> 水清ければ月宿る 心の正しい人には神仏の加護があるというた とえ。水が清く澄んでいると月がきれいにう つるという意から。 みずげんかあめなお 水喧嘩は雨で直る 日照りに苦しむ農民の水をめぐる争いは、雨 が降れば自然に解消するということ。転じ て、喧嘩は原因がなくなれば治まるというこ と。 みずごろ うおごろ うおごろ みずごろ 水心あれば魚心魚心あれば水心80 水滴りて石を穿つ あまだいしうが 雨垂れ石を穿つ 水積もりて魚聚まる 出淮南子 水が豊富なところに魚が集まるように、利益 のあるところに人が集まるということ。 補説出典には「魚を致いたさんと欲する者は 先ず水を通し、鳥を致さんと欲する者は先ず 木を樹ぅう。水積もりて魚聚まり、木茂りて 鳥集まる(魚を呼び寄せようと思う人は、ま ず水利を通じさせ、鳥を呼び寄せようと思う 人は、まず木を植える。水が豊富になれば魚 が集まり、木が茂れば鳥が集まる)」とある。 う意から。 水積もりて川と成る 小さなものでも集まると大きなものになると いうこと。小さな積み重ねで大きな成果が生 まれることのたとえ。「水積もりて川を成す」 ともいう。水も大量に集まれば川となるとい 出説苑ぜいえん みずきよーみずはさ 補説出典には「水積もりて川と成れば則 ち蛟竜生ず。土積もりて山と成れば則ち 予樟生ず(水が集まって川となればみずち や竜が生じ、土が積み重なって山となればく すの木が生える)とある。 類義塵ちりも積もれば山となる細き流れも 大河となる。 英語 Little brooks make great rivers. 川はやがて大河となる 水と油 性質が異質で融和しないこと。「水に油」「油 に水」ともいう。 みず水と魚うお 離れがたい親密な関係のたとえ。「魚と水」ともいう。 類義水魚の交わり。 対義油に水。水と油。水と火。 対義油に水。水と油。水と火。 水に絵を描く あとに何も残らないこと。苦労しても得ると ころのないこと。水面に絵を描いても流され てしまうことから。 水濁れば則ち尾を掉うの魚無 政治が苛酷だと、人々は自由に楽しく暮らす 出鄧析子とうせきし ことができなくなるということ。水が濁る と、尾を盛んに動かして楽しそうに泳ぎ回る 魚はいなくなるということから。 補説出典には、このあとに「政まつり苛なれ ば則ち逸楽らくの士無し(政治が厳しすぎると、 安楽に暮らす人はいなくなる」とある。 水の恩ばかりは報われぬ 水の恩恵ははかり知れないほど大きく、恩返 しなどできないほどであるということ。「水 の恩は送られぬ」「親の恩と水の恩は送られ ぬ」ともいう。 類義 親の恩は送っても水の恩は送られぬ。 みずなが水の流れと人の末 人生の定めがたいこと、前途のわからないことのたとえ。水の流れていく先と人の将来は、どちらもはかり知ることができないということ。「水の流れと人の行く末」「水の流れと人の身」「水の流れと身の行方」「人の行方と水の流れ」ともいう。 水の低きに就く如し 自然に物事が運ぶこと。また、自然の勢いは、 人の力では止められないこと。水が低い方に 向かって流れるようなものであるということ から。「低き」は「下き」とも書く。 類義水は低きに流る。 みずさか 水は逆さまに流れず 物事には順序があるということ。また、何事 も自然のなりゆきに任せるのがよいというこ <620> みずはさーみずをも と。水は低い所から高いほうへ流れたりしな いということから。 類義日は西から出ぬ。 水は三尺流るれば清くなる まずいことがあっても、じきに解消されると いうこと。川の水はたとえ濁っていても、三 尺流れれば澄んできれいになるということか ら。▶三尺‖約九十センチメートル。 類義川下三尺。 みず 水は舟を載せ亦舟を覆す 出荀子じゅんし 同じものが役にも立てば害にもなること。水 は舟を浮かべもするし沈めもすることから。 また、水を人民、舟を君主にたとえて、君主 の盛衰は人民の動向で決まるということ。 補説出典には庶人政 まつり に安んじて、然 る後に君子位に安んず(庶民が政治に安心し てはじめて、君主はその地位に安んずること ができる)。伝に日いわく「君なる者は舟なり。 庶人なる者は水なり。水は則 すな ち舟を載せ、 水は則ち舟を覆す』とは、此これを之これ謂いう なり(このことを言ったものである)」とある。 類義君きみは舟、臣しんは水。 みずほうえんうつわしたが 水は方円の器に随う出韓非子 人は環境や交友しだいで善にも悪にもなると いうこと。水は容器の形によって四角にも円 形にもなるという意から。▷方∥四角。 補説 孔子のことばで、人民の善悪は、君主 の善悪に左右されるというたとえ。出典には 「人君 じん くん 為た る者は猶 なお 盂 う のごときなり。民 は猶水のごときなり。盂方なれば水方に、盂 圜 えん なれば水圜なり(君主たる者は水を入れ る鉢のようなもので、人民はその中の水のよ うなものである。鉢が四角ならば水も四角 に、鉢が円形ならば水も円形になる」とある。 類義 朱に交われば赤くなる。善悪は友によ る。 水広ければ魚大なり 出淮南子 えなんじ 人はその背景や働く場所がよければ大事を成 すことができるということ。また、すぐれた 人のところには立派な人物が集まるというこ と。水がたくさんある所にすむ魚は大きいと いう意から。「水広ければ魚遊ぶ」ともいう。 なずえうお 水を得た魚 目分に適した環境や活躍の場を得て、生き生 きとして活躍するようす。「水を得た魚のよ う」ともいう。 類義 水に放たれた魚のよう。 魚の水を得た るが如ごとし。 河童 魚の水を離れたよう。陸 おか に上がった 用例名古屋から帰って来た弟が、報告に来 る。法要には江州から僧が招かれ、母は水を 得た魚のようであった、という。〈外村繁◆ 日を愛しむ〉 みずこ水を乞いて酒を得る 望んでいた以上のものを手に入れること。水 を求めていて酒を手に入れる意から。 類義 漿 しょ う を乞いて酒を得る。 みず水を差す 物事がうまくいっているときに、横から邪魔 をすること。特に、仲のよい間柄に割って入 り、人間関係を気まずくさせること。濃いも のや熱いものに水を加えて、薄めたりぬるく したりする意から。 用例こんなことを言うと、折角 せっ の縁談に 水をさすようにも聞こえるので、いっそ黙っ ていようかと思ったが、知っていながら素知 らぬ顔をしているのもよくないと思い直し て、ともかくもこれだけのことをお耳に入れ て置くのであるから、かならず悪く思って下 さるなと、三之助は言い訳をして帰った。〈岡 本綺堂◆経帷子の秘密〉 水を知る者は水に溺れる 人は、得意な分野で、かえって油断して失敗 することがあるということ。 類義泳ぎ上手は川で死ぬ。川立ちは川で果 てる。木登りは木で果てる。山立ちは山で果 てる。漁師は川で果てる。 水を以て石に投ず 出文選もんぜん 人に言ったことが受け入れられず何の効果も ないこと。石に水をかけても周りにこぼれる だけで、石には何の影響も及ぼさないことか ら。「水をもて石に投ぐる」ともいう。 補説出典には「其その言や水を以て石に投 ずるが如ことく、之これを受くるは莫なし」とある。 <621> また、これを受けて聖徳太子の「憲法十七条」 には「財あるものの訴えは石をもて水に投ぐ るごとし。乏しき者の訴えは水をもて石に投 ぐるに似たり」とある。 対義石を以て水に投ず。 身銭を切る 自分自身の金で支払う。本来自分で負担する 必要のない場合にいう。「自腹を切る」とも いう。∇身銭∥自分の金。 用例少し金が溜たまるとそれを持って、おん つあんに会いに札幌まで出かけて来た。身銭 を切る嬉うれしさ、おんつあんと、六つになる おんつあんの娘とをおごってやる嬉しさで夢 中だった。〈有島武郎◆骨〉 未曾有 かつて一度もなかったほどきわめて珍しいこ と。今までに一度もなかったという意から。 「みぞうう」とも読む。「未いまだ曽かって有らず」 と訓読する。 注意「みぞうゆう」と読むのは間違い。 類義空前絶後。 類義籠かごで水汲くむ。網の目に風たまらず。 笊ざるに水を入れる。 用例荒川放水路は明治四十三年の八月、都 下に未曾有の水害があったため、初めて計画 せられたものであろう。〈永井荷風◆放水路〉 みそこみずすく 味噌漉しで水を掬う 努力しても徒労に終わること。味噌漉しで水 をすくおうとしても、水がこぼれてすくえな いことから。∇味噌漉し∥味噌のかすを取り 除くための小型のざる。 みぜにをーみたびお みそさざいすうめ 鶴鶴の巣を梅が枝にかける いつになるかわからないこと、あり得ないこ と、実現が難しいことのたとえ。みそさざい は木の枝に巣をつくらないことから。▷鶴鶴 ‖体長十センチメートルくらいの小形の鳥。 山地の沢沿いにすみ、鳴き声が美しい。 味噌汁拵えて初産する 手抜かりなく用意周到に準備することのたと え。出産後の貧血防止に効果があるという味 噌汁をあらかじめ作っておいて、初めてのお 産をするということから。 みそい 味噌に入れた塩はよそへは行 かぬ 他人のために尽くしたことは、そのときはむ だなように思えても、やがては自分のために なるということ。味噌を作るときに入れた塩 は、やがて見分けられなくなるが、味噌の中 にあってその味を支える役を果たしていると いうことから。 味噌の味噌臭きは食われず 職業や技能に精通していることを露骨に見せ たり、専門家ぶったりする者は、真にその道 を究めた者ではないということ。また、そう いう者は敬遠されるということ。 類義味噌の味噌臭きは上味噌にあらず。 何もかもまぜこぜにすること。価値や性質の 違いを無視して、すべてを一まとめに扱うこ と。「糞も味噌も一緒」ともいう。 類義玉石混淆ぎょくせき0こんこう 味噌をつける 苦しいことから。 失敗して恥をかくこと。 味噌が器に付いて見 用例あなたの前だが落とし噺 で二時間 なんてのはありませんよ強いて延ばしてや るとすればアーアーと途中であくびをくっ て味噌をつけるくらいが関の山でさあ。正 岡容初看板 みことみす見た事は見捨て 目にしたことは、深く追求せずに放っておく のがよいということ。 類義見たら見流し聞いたら聞き流し。 な おおちが 見たと嘗めたは大違い 外見と内容が非常に違うこと。ただ見ただけ と、実際に味わってみたのとでは、大きな違 いがあるということから。 類義聞くと見るとは大違い。 み 三たび思いて而る後に行う 出 論語 ろんご 十分に考えてから行動すること。また、慎重 すぎて優柔不断なことにもいう。 <622> みたびそーみちはち 故事中国春秋時代、魯の大夫李文子 は、いつも三回思案してから実行した。これ を聞いた孔子は「再びせば斯これ可かなり二 度思案すれば十分だ」と言ったという。 三たびその門を過ぎて入らず 出孟子もうし 私事を顧みず、世のために尽くすこと。 故事)中国古代、夏かの禹王うは、黄河の洪 水を治めるために一身を忘れて務め、自分の 家の門前を三度も通りながら、中に入らな かったという。 み ひじおりようい 三たび肱を折って良医となる 苦労や経験を積んではじめて、円熟した人間 になることができるということ。自分の肱を 何度も折り、痛みを経験しながら治療をして、 はじめて名医になれるという意から。また、 一説には、他人の肱を何度も折って、はじめ て名医となれる意から。 出春秋左氏伝 み 三たび吾が身を省みる 出論語 一日に何度も自分の言動を反省すること。 「日に三たび吾が身を省みる」、また、「三省 ともいう。 補説孔子の弟子の曽子 そう のことば。出典に は「吾われ日に三たび吾が身を省みる。人の為 ため に謀りて忠ならざるか(人の世話をしたと き、真心が足りないことがなかったか)。朋 友 ほう ゆう と交わりて信ならざるか(友達づき合い で信義に欠けることはなかったか)。習わざ るを伝えしか(先生に教わったことで、十分 に自分のものになっていないことを人に教え たことはなかったか)とある。 みながき 見たら見流し聞いたら聞き流し 見たり聞いたりしたことは、軽々しく他人に しゃべらないほうがよいということ。 類義見た事は見捨て。 みちちか いえどゆ いた 道邇しと雖も行かざれば至ら ず 出荀子じゅんし どんなことでも、まず実行することが大切で あるということ。近い所でも、行かなければ そこへ到達しないことから。 補説出典では、このあとに「事こと小なりと 雖も為なさざれば成らず」と続く。 道遠くして驥を知る 出曹植ー矯志詩 すぐれた人物の真価は、乱世や逆境になって はじめてわかるということ。遠い道のりを 行って、はじめて駿馬 の能力がわかるということから。 ∇驥=一日に千里を走るという 駿馬。 じめて、だれが賢人であるかがわかる」と ある。 類義疾風に勁草を知る。 道に遺ちたるを拾わず 出韓非子かんびし 理想的な政治が行われ、人々の生活が豊かで 安定していること。また、厳しい刑罰を恐れ、 法を犯す者がいないこと。自分の物にするために に路上の落とし物を拾わない意から。遺 遺失物。 故事)中国春秋時代、鄭ていの宰相の子産が政 務に精励した結果、盗賊がいなくなり、路上 の落とし物を無断で拾得する者もいなくなっ た。桃や棗 なつ が街路にかぶさるほど実っても 取る者がなく、錐きりを道端に落としても三日 後には見つかり、天候不順が三年続いても人 民は飢えなかった。 みち 道によって賢し 芸は道によって賢し 219 道は好む所によって安し どんな技芸であっても、その人の好むもので あれば必ず上達するものだということ。 類義好きこそ物の上手なれ。 みちちかあしかこれ 道は邇きに在り、 而るに諸を とおもと 遠きに求む 出孟子 人が行うべき道は身近なところにあるのに、 <623> わざわざ高遠なところに求めようとするこ と。いたずらに難しい理論をもてあそぶのを 戒めたことば。 みちうれまずうれ道を憂えて貧しきを憂えず 補説孟子のことばで、儒教の家庭道徳を述 べたもの。このあとに「事は易やすきに在り、 而るに諸を難かたきに求む。人人其その親しんを 親とし、その長を長とせば、天下平らかなり (人がなすべきことは容易なところにあるの に、それをわざわざ困難なところに求めよう とする。人々が日常の中で身内を親しみ、年 長者を敬えば、天下は平和である)と続く。 類義遠きを知りて近きを知らず。 なれる。人間は、三日先のこともわからない ということ。 出 論語 ろんご 人としての正しい道から外れることを心配し ても、貧乏などは気にしないということ。 補説出典には「学べば禄ろく其その中うちに在 り(学んでいれば俸禄は自ずから得られる)。 君子は道を憂えて貧しきを憂えず」とある。 君子の心がまえを述べたことば。 みちきひゃくおのれし 道を聞くこと百にして己に若 ものな く者莫しと為す 出荘子 道理を少しばかり聞き知っただけで、自分ほ ど偉い者はないと思い上がること。また、見 識の狭いこと。 三日先知れば長者 少しでも他人より先見の明があれば金持ちに みっかてんか三日天下 みちをうーみっつし ごく短い間の権力や地位のたとえ。「天下」 は「でんか」とも読む。△三日=ごく短い期 間のこと。 補説明智光秀 あけちみ つひで が本能寺で織田信長 おだの ぶなが を倒して天下をとったが、わずか十数日後に、 羽柴秀吉 はしばひ でよし (後の豊臣 とよ とみ 秀吉)に敗れ、敗走 中に殺されたことから。 用例すると美代子のチンピラまでが私にジ ロリと一べつをくれて、「社長と社員でなかったら、おそばへ寄りつくこともできないはず ね。ヤミ屋の御時世よ。インフレの終わると ともに、誰かさんの三日天下も終わりを告げ ます(後略)」〈坂口安吾◆ジロリの女〉 あきやすくて何をやっても長続きしないこ と。また、そのような人のたとえ。 みっかぼうず三日坊主 補説「坊主」は他の語につけて、からかい の気持ちをこめてそのような人を表す。一説 に、出家して僧になっても、修行が厳しいた めに三日しかもたず、還俗ぞく(一度僧籍に入っ た者が、元の俗人にもどることしてしまう ことからともいう。 類義蛇稽古へびげ。 用例 いったい煩悶 と云う言葉は近頃だ いぶはやるようだが、大抵は当座のもので、 いわゆる三日坊主のものが多い。(後略)夏 目漱石・野分) 世の中の移り変わりの激しいこと、はかない ことのたとえ。桜の花は散りやすく、三日も 見ないと大きくようすが変わっていることか ら。三日見ぬ間に桜」ともいう。 幼いときの性格は、一生変わらないというこ と。「三つ子の魂八十まで」「三つ子の心百ま で」「三つ子の知恵百まで」ともいう。△三 つ子∥三歳の子供。 英語)The fox may grow grey but never good.狡猾こうな狐は年を取って白髪になっても善良にはならぬ)What youth is used to, age remembers.若者がよくやることを年寄りは覚えてい(て再びや)る 用例最初は怪しい小説家、それから英文学 の教師、それから中学校の倫理担当、それか ら演劇改良、脚本作家。それから、日本の新 楽劇振興案。つまり、種は十歳以前に蒔まか れてしまったのである。運命が定きまってし まったのである。三つ子の魂百までだと思う とあさましい。〈坪内逍遥◆十歳以前に読ん だ本〉 みっしかいつほななおし三つ叱って五つ褒め七つ教えこそだて子は育つ 子供を育てるには、 叱るより褒めることをだ <624> みつめるーみぬもの いじにし、しっかり教えてやることが大切だ ということ。子育てのコツをリズムをつけて いったもの。 見つめる鍋は煮立たない じっと待っていると時間が長く感じられると いうこと。他のことをしているとすぐ沸くの に、火にかけた鍋をじっと見ていてもなかな か沸かないように感じられることから。 英語 A watched pot never boils. 鍋を見 つめていると煮立たない み か つきみ すなわか 盈つれば虧く月満つれば則ち虧く432 みごくらくすじごく 見ての極楽住んでの地獄 外から見た印象と実際に自分で経験したのと では大きな違いがあるということ。「見ては 極楽住んでは地獄」ともいう。 類義聞いて極楽見て地獄。 身で身を食う 自分で自分の身を滅ぼすこと。「身で身をつ める」ともいう。 身長ければ則ち影長し 出列子 その人が立派であれば、世間の評価も高いと いうこと。身長の高い人の影はそれに応じて 長いということから。∇身∥身長。また、行 い・ふるまいの意とする説もある。 補説老子の弟子の関尹が列子に言ったこ とざっしく、「……人れば(吉がさ」 ば)則 すな ち響き美にして、言悪あしければ則ち 響き悪し。身長ければ則ち影長く、身短けれ ば則ち影短し。名なる者は響きなり(世間の 名声は、いわば声における響きのようなもの である)。身なる者は影なり(人から評価され る人柄は、形における影のようなものであ る)とある。 補説老子の弟子の関尹が列子に言ったこ とば。出典には「言美なれば(声が美しけれ みなかみす 水上澄まざれば河流に依って つきやど 月宿らず 根本が正しくないと、末端まで正しくなく なってしまうということ。水源が濁っていて は流れは濁ったままであり、月が影を宿すこ ともできないという意から。 類義水上濁って流れ清からず。源清ければ 流れ清し。 みなとぐち港口で難船 孫の枯る端。 あと一歩で完成というところで失敗するこ と。港の入口で船が難破することから。 類義 磯際 いそ ぎわ で船を破わる。 清ければ流れ清し出荀子 根本が正しければ末端も正しくなるというこ と。水源が清く澄んでいれば、下流も自然に 清くなる意から。「源」は「原」とも書く。 身に過ぎた果報は禍の元 身にあまる幸せは、将来災難を招くもとであるということ。 類義 福過ぎて禍生ず。身に応ぜぬ幸いは子 身に勝る宝なし 我が身より大切なものはないということ。また、人は何より我が身を大切に思うものだということ。「身に勝る物なし」ともいう。 類義身ほど可愛かいものはない。 見ぬ商いはならぬ 何事も自分の目で確かめなければ判断の下し ようがないということ。品物を見ないで売買 することはできないという意から。「見ぬ商 いはできぬ」ともいう。 見ぬが心にくし 物事は、実物を見るまでの間にあれこれ想像 しているうちが楽しいということ。△心にく し∥奥ゆかしい。 見ぬが花↓待つ間が花611 みきようものがたりしきようものがたり 見ぬ京物語 知らぬ京物語 32 見ぬは極楽知らぬは仏 知らないほうがいいこともあるということ。 見れば腹が立つことでも、知らなければ心安 らかでいられることから。 み 見ぬ物清し 何事も、知らないうちはよく見えるというこ <625> と。実際に見れば汚い物でも、見ないうちは 気にもならず、平気でいられるということか ら。「見ぬこと清し」ともいう。 類義 見ぬほど綺麗 きれ な物はなし。 知らぬが 仏。 身の内の財は朽つることなし 身にそなわった知識や技能は決してなくなら ない財産であり、生涯役に立つということ。 「身の内の宝は朽ちることなし」ともいう。 みのかさ 蓑笠はてんで持ち 自分のことは自分でするものだということ。 自分が使う蓑や笠は、各自が負担すべきであるという意から。▶蓑∥わらなどを編んで作った雨具。笠∥雨や日差しなどをしのぐためにかぶるもの。 蓑着て火事場に入る 自分から危険を招くこと。∇蓑=わらなどを 編んで作った雨具。火がつきやすい。 みのつくひとかさき 蓑作る人は笠を着る 自分が作った物を自分で用いず、他人が作った物を用いるということ。また、人の生活は、互いにもちつもたれつの関係にあるということ。蓑を作る人は、作った蓑を全部売り、自分は他人が作った笠をかぶるという意から。マ蓑=わらなどを編んで作った雨具。笠=雨や日差しなどをしのぐためにかぶるもの。類義紺屋この白袴しろばかま駕籠かごかき駕籠に乗らず。 みのうちーみはみで みなきはなし 実の生る木は花から知れる 大成する人物は、幼少のころから凡人とは違 うということ。実のよくなる木は、花が咲い たときから他の木とは違っていて、それとわ かることから。「実を結ぶ木は花から知れる」 「実の生る木は花から違う」「生る木は花から 違う」ともいう。 類義 梅檀 せん だん は双葉より芳 ぱ し。 蛇 じゃ は寸に して人を呑のむ。 何かとかばうこと。蓑となって雨を防いだ り、笠となって日よけになったりする意から。 ▶蓑=わらなどを編んで作った雨具。笠=雨 や日差しなどをしのぐためにかぶるもの。 蓑になり笠になり みの 蓑のそばへ笠が寄る 頬を以て集まる 690 身の程を知る 自分の地位・能力などをわきまえて、自分に ふさわしいかどうか判断すること。 用例喧嘩 けん だ、刃物だと言って、身の程も 知らぬ奴に限って鼻息の荒いこと。〈坂口安 吾・二流の人〉 みの こうべ さ いなほ 実るほど頭の下がる稲穂かな 人は学問や徳が深まるにつれ、かえって謙虚 になるものだということ。稲は実が熟すにつ れて穂が垂れ下がることから。 類義 実る稲田は頭垂る。実の入る稲は穂を 垂る。人間は実が入れば仰向く、菩薩ぼさは実 が入れば俯うつく。 英語 The boughs that bear most hang lowest. [いちばん実のなっている枝がいちばん低く垂れ下がる] The more noble, the more humble. [偉い人ほど高ぶらない] 蓑を披て火を救い、漬を毁り 出淮南子えなんじ て水を止む 災いをしずめようとして、かえって大きくす るたとえ。蓑を着て火を消そうとしたり、溝 を壊して水を止めようとすることから。▶蓑 ∥わらなどを編んで作った雨具。火がつきや すい。濱∥溝。小さな堀。 補説出典には「詐を以もって詐に応じ、譎けっ を以て譎に応ずるはいつわりをもっていつ わりに応じるのは、蓑を披て火を救い、瀆 を毀りて水を止むるが若ごとく、乃すなち愈いよ益 ます多しかえってますます悪くなる」とある。 みいちだいなまつだいひといちだいなまつだい 身は一代名は末代人は一代名は末代 557 身は習わし 人間は境遇や習慣などによって考え方や生き 方が変わるものだということ。「身は習わし もの」ともいう。 みみとおはだかぼうず 身は身で通る裸坊主 人間は、からだ一つあれば、なんとか世渡り <626> みみかきーみみをあ できるということ。いろはがるた(京都)の 一。かるたでは「身は身で通る裸ん坊」。 みみか あつ くまで か だ 耳掻きで集めて熊手で掻き出 す 少しずつ蓄えてきたものを一度に使ってしま うこと。また、少ししか収入がないのに支出 が多いこと。 類義爪で拾って箕みでこぼす。 みみがくもん耳学問 みみず蚯蚓の木登り 自分で読書・研究などをして修得したのではなく、人から聞きかじった知識のこと。 用例彼の大多数の知識は主として耳から這 入はいった耳学問と、そうして、彼自身の眼 からはいった観察のノートに拠よるものと思 われる。〈寺田寅彦◆西鶴と科学〉 蚯蚓が土を食い尽くす やれるはずのないこと。また、よけいな心配 をすることのたとえ。 不可能なことをやろうとするためとえ。「蚯蚓 の木登り蛙かえの鯨 ほこしゃち 立ち」「蚯蚓の木登り鼈 すっ ぼん の居合い抜き」ともいう。 類義 蚯蚓の木登り。 みみずかあつうすひとせ 躬自ら厚くして薄く人を責む すなわうらとお れば、則ち怨みに遠ざかる 類義 蚯蚓が土を食い尽くす。 自分に厳しく、他人に寛大であれば、人から 反感をかうことはないということ。▷躬‖自 分自身。厚く‖きびしく。 出 論語 ろんご 耳取って鼻かむ とうてい考えられない、突拍子もないことを するたとえ。自分の耳をもぎ取り、鼻をかむ という意から。 耳に入り心に著く 出荀子じゅんし 耳で聞いて得た学問・知識が、よく身につい て実践に生かされること。 補説君子の学問の修得法をいったもの。出 典には「君子の学や耳に入りて心に著き、四 体に布しきて動静に形わる(体の隅々に行き 渡って、自然に行動に現れる)とある。 耳に入りて口に出ず 耳にたこができる 出荀子じゅんし 耳にノイーレロす 荀子 耳で聞いて学んだことが、すぐに口から出て いってしまうということ。学問・知識が身に つかないこと。↓口耳四寸 こうじ しずん の学233 補説君子の学問を「耳に入り心に著く」 と述べたのに対し、小人の学問について言っ たことば。 同じことを何度も繰り返し聞かされて、うん ざりすること。単に「耳たこ」、また、「耳に たこが入いる」ともいう。∇たこ∥手や足の 裏などにできる、皮膚がこすれて堅く厚く なったもの。 相手の弱点や急所をつくこと。また、念のた めに警告をしておくこと。 みみ耳に釘くぎ 類義耳に針。 耳の楽しむ時は慎むべし 人に甘言を言われたり快い音楽を聞いたりし て気分のよいときは、それによって判断を誤 ることがあるから、行いを慎むべきであると いうこと。 みみきやく 耳は聞き役、目は見役 物事にはそれぞれの役割、持ち場があるということ。また、よけいなおせっかいをするなということ。 みみだいくちしょう 耳は大なるべく口は小なるべ し 知識や情報はできるだけ広い範囲から得るの がよいが、それを人にしゃべるのは控え目に せよということ。 英語 From hearing comes wisdom; from speaking, repentance. [聞くことは知恵のもと、語ることは悔このもと] Keep your mouth shut and your eyes open. [口は閉じておけ、目は開けておけ] みみあらながみみあら 耳を洗う↓流れに耳を洗う481 <627> 出呂氏春秋 うまく悪事を隠したつもりでも、世間にすっ かり知れ渡っていること。また、自分で自分 を欺くたとえ。良心に反することと知りなが らも、しいてそれを考えないようにして行う こと。自分の耳をふさいで鐘を盗む意から。 「耳を掩いて鈴を盗む」ともいう。 故事ある男が鐘を盗もうとしたが大きすぎて運べないので、割ってから持ち去ろうと鐘を槌っちで打った。すると大きな音が響いたので、男はだれかがその音を聞いて駆けつけてくるのを恐れ、あわてて自分の耳を押さえて鐘の音が聞こえないようにした。 類義目を掩いて雀を捕らう。 耳を貴び目を賤しむ みめ こころひとみめ 二二ろ 一見目より心 人は眉目よりただ心 558 遠くのこと、昔のことばかりを尊重して、身 近なこと、現在のことを軽んじること。耳に 聞くことは尊重するが、目に見えることは大 切に思わないことから。 出張衡ー東京賦 類義耳を信じて目を疑う。近きを賤しみ遠 きを貴ぶ。家鶏を賤しみて野雉やちを愛す。 顔かたちが美しいのは、幸運を招くもとにな るということ。「見目は果報の下地じ」とも いう。∇見目∥顔かたちのこと。容貌。 みめかほうもとい見目は果報の基 みみをおーみをかく 身も蓋もない あまりにあからさまで風情がないこと。また、率直すぎて話の続けようがないこと。入れ物の中身もなく、蓋もされていないという意から。「実も蓋もない」とも書く。 用例三成をここで殺しては身も蓋もない。 ただ一粒の三成を殺すだけ。生かしておけば 多くの実を結び、天下二分の争いとなり、厭 いやでも天下がふところにころがりこもうという 算段だ。〈坂口安吾◆二流の人〉 都にも田舎あり きょういなか 188 みやこめは いなかくちは 都は目恥ずかし田舎は口恥ず かし 都の人は目が肥えているので、自分のことを どう見ているのかと恥ずかしくなり、田舎の 人は何かと口うるさいので、自分について何 と言っているのだろうかと気が引けるという こと。 深山木の中の楊梅 多くの中でとくにすぐれていることのたと え。△楊梅∥やまもも。 類義鶏群の一鶴。掃き溜だめに鶴。 みようせんじしょう 名詮自性 表すということ。名称と実質が相伴っている こと。「名詮自称」とも書く。△詮=説きあ かす意。自性=その物の性質。本性。 注意 「名」を「めい」、「性」を「せい」と読み 誤らない。 出成唯識論 名前は、おのずとそのもの自体の性質をよく 類義名は体を表す。名実めい一体。 み 見ると聞くとは大違い 聞くと見ると は大違い172 見る所少なければ怪しむ所多 みところすくあやところおお しぼうし出牟子 見聞が狭い者は、何でもないことまで怪しむ ということ。ふだんあまり見かけないもの は、わからないことが多いという意から。 み見るは法楽ほうらく いろいろなものを見るのは、楽しいことであるということ。また、見て楽しむだけなら無料であるということ。∇法楽∥神仏に手向ける読経・歌舞・音楽。転じて、慰み・楽しみの意。 類義 聞くも法楽見るも法楽。 みめどくききどくみ 見るは目の毒♩聞くは気の毒、見るは めどく 目の毒172 身を蔵して影を露す 出碧厳録 一部分の欠点は隠すことができても、すべて は隠すことができないこと。体を隠したつも りなのに、影が見えていることから。 <628> 類義頭隠して尻隠さず。 身を粉にする 労苦をいとわず、精いっぱい努力すること。 身を砕くほどに努力する意から。 注意「粉」を「こな」と読み誤らない。 類義粉骨砕身。 用例私だけが家で毎日ぼんやりしているの が大変わるい事のような気がして来て、何だ か不安で、ちっとも落ちつかなくなりました。 身を粉にして働いて、直接に、お役に立ちた い気持なのです。〈太宰治◆待つ〉 身を殺して仁を成す 自分の生命を犠牲にしても、仁徳を成し遂げ ること。マ仁=他者に対する思いやり。いつ くしみ。儒教における最高の徳で、人道の根 本の意。 捨つる藪ともいう。 出 ろんご 論語 補説孔子のことば。出典には「志士仁人 は(志のある人や人道の根本をそなえた人 は)、生を求めて以もって仁を害すること無し。 身を殺して以て仁を成すこと有り」とある。 みすうかせ 身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ 自分の命を捨てる覚悟で思い切って取り組め ば、危機を脱し、活路を開くことができると いうこと。 英語 Fortune favours the bold. [運命の 女神は勇者に味方する] みす身を捨てる藪 みた 身を立つるは孝悌を以て基と 死に場所。命を捨てる場所の意から。「身を 出新唐書しんとうじょ 立身出世するには、父母に孝養を尽くし、年 長者によく仕えることが根本だということ。 補説出典には「己を立つるは孝悌を以て基 と為し、恭黙(慎み深く控え目)を本と為し、 畏怯(おそれおびえる)を務と為し、勤儉(勤 勉と倹約)を法と為す」とある。 みたみちおこな 身を立て道を行う 出孝経 人格を完成させ、人間としてみ行うべき道 を行うということ。 補説出典には「身を立て道を行い、名を後 世に揚げ(名声を後世にまで伝え)、以もって父 母を顕あらす(父母の名を世に知らせる)は孝の 終わりなり」とあり、父母に尽くすべき孝の 最終目標を言っている。 身をつめりて人の痛さを知れ 我が身 を抓って人の痛さを知れ 700 実を見て木を知れ 早合点せず、じっくりと考えて確実な判断を したほうがよいということ。なった実を見て から、その木の価値や特質を判断せよという 意から。 英語 A bell is known by the sound. の善し悪しは音でわかる A tree is known by its fruit. 木は実によって知られる 身を以て利に殉ず 自分の命を投げ出してまでも、一時のわずか な利益を求めること。△殉ず∥身を犠牲にし て尽くす意。 補説出典には「小人は則 ち身を以て利に 殉じ、士は則ち身を以て名に殉じ、大夫 たい ふは 則ち身を以て家に殉じ、聖人は則ち身を以て 天下に殉ず(小人は身を滅ぼしてまで利益を 求め、士人は名誉のために命を捨て、大夫は 身を犠牲にして主家を守り、聖人は身を投げ 出して国を守っている」とある。 六日の菖蒲、十日の菊 あやめとおかきく 時期に遅れて役に立たないことのたとえ。五月六日の菖蒲では五月五日の端午ごの節句に間に合わないし、九月十日の菊では九月九日の重陽ちょうようの節句に間に合わず、役に立たないという意から。「六日の菖蒲」「十日の菊」「十日の菊、六日の菖蒲」「六菖十菊ろくしょうじっきく」ともいう。また「菖蒲」は「しょうぶ」とも読む。 類義喧嘩 けん か 過ぎての棒乳切 ぼう ちぎ り。 後の祭 り。 夏炉冬扇。夏の小袖。 無為にして治まる 出論語 為政者が人徳のある人物であれば、ことさら <629> 策を講じなくても、自然に世の中が平和に治 まるということ。「無為の治」ともいう。 むしかやた 補説)中国古代の聖王舜 の治世を称えた孔 子のことば。出典には「無為にして治まる者 は、それ舜か(舜であろう)。夫それ何をか為な さんや。己を恭うやしくして、正しく南面する のみ(舜は一体何をしたか。身を慎んで天子 の座についただけである)とある。 向かう鹿には矢が立たず 従順な相手は攻撃できないということ。こち らを向いている鹿には矢を射るようなひどい ことはできないという意から。▶向かう=こ ちらに顔を向けている意。 昔千里も今一里 むかしせんりいまいちり すぐれた能力を持つ人物でも、年を取ると人 並み以下に劣ってしまうこと。昔は千里を駆 けることができた馬も、今となっては一里し か行くことができないという意から。 類義 騏驥 きき も老いては駑馬 どば に劣る。 対義 腐っても鯛 たい。 むかし昔とった杵柄 若いころ鍛えた技能や腕前のこと。また、そ れが年を取っても衰えないこと。いろはがる た(京都)の一。 対義昔千里も今一里。騏驥きも老いては駑 馬どばに劣る。 に、梅が洗い掛けて置いた茶碗や皿を洗い始 めた。こんな為事とは昔取った杵柄で、梅 なんぞが企て及ばぬ程迅速に、しかも周密に 出来る筈のお玉が、きょうは子供がおも ちゃを持って遊ぶより手ぬるい洗いようをし ている。取り上げた皿一枚が五分間も手を離 れない。〈森鷗外◆雁〉 用例梅をせき立てて出して置いて、お玉は 甲斐甲斐かいしく襷たすきを掛け褄つまを端折はしって 台所に出た。そしてさも面白い事をするよう むかうしーむかゆう 昔の事を言えば鬼が笑う 過ぎ去ったことをいくら言ってみても、いま さらどうしようもないということ。 対義来年の事を言えば鬼が笑う。 昔の剣今の菜刀 すぐれていた人も年をとって物の役に立たなくなっているというたとえ。昔、剣として用いられていたものも、今はせいぜい菜切り包丁の役にしか立たないことから。また、つまらないものでも、今、即座に役立つもののほうがよいということ。「昔の長刀なき今の菜刀」ともいう。 昔の何某、今の金貸し 昔は「なんのなにがし」という名門の出であった者が、今は卑しい金貸しに成り下がってしまっているということ。「何某」と「金貸し」の語呂合わせ。 むかしかたかぜきいまある 昔は肩で風を切り今は歩くに いきき 息を切る 昔は今の鏡 昔を知ることが、現在を理解する役に立つと いうこと。▷鏡‖手本。 対義昔は昔今は今。 世の中の浮き沈み、栄枯盛衰の激しいことを いうたとえ。昔は肩で風を切って歩き威勢が よかったが、今は体力が衰え、歩くと息が切 れるほどであるという意。 類義 昔は長者今は貧者。 昔は昔今は今 過去がどうであったとしても、現在には現在 の価値観があるということ。昔はそうであっ たからといって、今もそうでなければならな いとはいえないということ。 対義昔は今の鏡。 むかでわらじは 百足に草鞋を履かすよう 面倒で、非常に手数のかかることのたとえ。 かかで 二ろ 百足のあだ転び 大丈夫だと思って安心しきっていると失敗す ることがあるというたとえ。足が多くて死ん でも倒れないといわれるむかででも、誤って 転ぶことがあるということから。 類義猿も木から落ちる。河童の川流れ。 むかで 百足は死に至れども倒れず ひゃくそく 百足の 虫は死して倒れず もかゆう無何有の郷さと 出荘子そうじ 何の作為もない自然のままの楽土、理想郷の <630> おぎとしーおこうの こと。何もない、果てしなく広々した所の意 から。「むかうのきよう」とも読む。 補説人為を超越して、虚無の世界で自由を 楽しむことを説く荘子そうの理想の世界。 ふ 麦と姑は踏むがよい 麦は冬に霜で根が浮かないように踏み込む が、同じように姑に対しても、ときには抵抗 することも必要であるということ。一説に、 「姑」がフキノトウの異名であることから、 フキノトウも麦と同様踏み込むとよい意。ま た、姑をたびたび訪ねよの意とも。「麦と姑 は踏む程ほどよい」ともいう。 麦飯で鯉を釣る わずかな元手で多くの利益を得ること。また、得ようとすること。「麦飯」は「むぎいい」とも読む。 類義海老えびで鯛たいを釣る。 むぎ 麦を流すなが に立派な学者になったという。 類義流麦りゅう0ばく 勉強や読書に没頭して、ほかのことが目に入 らなくなることのたとえ。「麦を漂わす」と もいう。 故事 中国後漢の高鳳 こう ほう の家は農業を営んで いたが、鳳は若いころからの勉強家で、日夜 読書に専念していた。あるとき妻が田に出か けるので、鳳に庭に干しておいた麦の番を頼 んだ。おりしも雨が激しく降り出したが、鳳 は書を読むことに没頭していて、麦が流され るのに気づかなかった。帰宅した妻がとがめ ると、鳳はやっとそれに気がついた。鳳は後 むく 椋はなっても木は榎♡榎の実はならば なれ、木は椀の木102 報ゆる者は倦み、施す者は未 ものうほどこものいま 出春秋左氏伝 だ厭かず 恩返しをする人は、もう十分に恩を返したつ もりでも、恩を施した人は、まだまだ十分で はないと思うものであるということ。「厭」 は「慶」とも書く。∇倦む∥あきる。いつか はあきて報いなくなる意。 むくろじさんねんみが 無患子は三年磨いても黒い 無恵子は三年磨いても黒い 生まれつきの特性は変えられないこと。ま た、努力を続けても効果のないこと。「無恵 子は百年磨いても白くならぬ」ともいう。マ 無恵子=ムクロジ科の落葉高木。固く黒い種 子は羽根突きの羽根の球などに使われる。 類義 鳥 から す の黒いのは磨きがきかぬ。上知 じょ うち と下愚かぐとは移らず。 むげいたいしょく 無芸大食 大飯を食う以外に、何の芸も取り柄もないこと。もとは人を非難することばだったが、現在では自分のことを謙遜の意をこめて言うときにも用いる。 らないということ。△無稽∥根拠がないこと。 補説)中国古代の聖天子の舜 が、禹う(夏か 王朝の始祖)に帝としての心得を説いたとき のことばの一節。出典には「稽 かん うる無きの 言は聴くこと勿れ、詢とわざるの謀 はかり は庸もち うること忽れ(多くの人の意見を聞いていな い計画は用いてはならない)」とある。 無稽の言は聴く勿れ 出書経 根拠のないでたらめな話には耳を傾けてはな 出金剛般若経 人生や世の中の物事は、夢や幻、水泡や物の 影のように実体がなく、はかないものである ということ。「夢幻泡沫むげんほうまつ」ともいう。 注意「幻」を「限」、「泡」を「抱」と書き 誤らない。 向こう河岸の火事 たいがん かじ 対岸の火事 383 向こう三軒両隣 自分の家の向かい側にある三軒の家と、左右 二軒の隣家。近隣の日頃親しく行き来する範 囲をいう。 類義 近所合壁。 用例人の世を作ったものは神でもなければ 鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらち らするための人である。ただの人が作った人 の世が住みにくいからとて、越す国はあるま い。〈夏目漱石◆草枕〉 無功の師は君子は行らず むだと思うことはやらないほうがよいという 出塩鉄論 <631> こと。戦ってもむだと思われる場合には、君 子は軍隊を出すことはしないという意から。 ∇師∥軍隊の意。 補説出典には、このあとに「無用の地は聖 王は貪 むさ ぼ らず(欲しがらない)」とある。 媽取り三代後家三代 てんじょう 婚養子を迎えることが三代続いたり、後家世 帯が三代続くと、貧乏になるということ。 類義婚取り三代身上。後家三代貧乏。 婿取り天井なし 婿養子は、どんなに高い家柄から迎えても高 すぎることはないということ。 である 類義 後家天井なし。 婿は座敷から貰もら え嫁 は庭から貰え。 むこ 婿の一稼ぎ ひとかせ 婿が、働き者だと思われるように、初めのう ちだけまじめに働くこと。 むこ ざしき もら よめ にわ 婿は座敷から貰え嫁は庭から もら 貰え 婿は、家柄・財産・地位などの高い家から迎 えるのがよく、嫁はそれらの低い家から迎え るのが、家のためによいということ。 むごんしょうだく無言は承諾 類義 婿は大名から嫁は灰小屋から。嫁は下 から婿は上から。嫁は台所から貰え婿は玄関 から貰え。嫁は木尻から、婿は横座から貰え。 英語 A great dowry is a bed full of brabbles.「多額の持参金は口論の多い床とこ むことりーむじょう 異議があっても何も言わないでいるのは、承 諾したのと同じであるということ。 貪らざるを以て宝と為す 出春秋左氏伝 無欲こそ最高の宝だということ。むやみに欲 しがらない心を宝だと思うという意から。 故事)中国宋そうの宰相子罕が、人から宝玉 を献上されたとき、「私は欲張らないことを 宝としており、そなたは玉を宝としている。 もし、そなたが私に玉を受け取らせれば、二 人とも宝を失うことになるではないか」と 言って辞退したという。 むじなたぬき もしな 絡と狸 人をだます悪賢い者同士が対立しているこ と。∇狢∥あなぐまの異名。毛色が似ている ことから混同して、狸のことをもいう。 類義狐きつと狸。狐と狸の化かし合い。 絡の穴で狸を捕る 同類のものは似たような場所にすんでいると いうたとえ。∇絡∥あなぐまの異名。狸の毛 色があなぐまに似ているところから混同し て、狸のことをもいう。 ような状態にあること。∇虫∥人の体内に あって、さまざまな感情を引き起こすもとに なると考えられていたもの。 虫の居所が悪い 機嫌が悪く、ちょっとしたことで腹を立てる 用例 ふだんは苦笑するだけだが、虫の居所 が悪いと、おれはむかついてくる。その男の 頭に、また千代の顔に、皿や小鉢を打ぶつ けてやりたくなることもある。〈豊島与志 雄◆花ふぶき〉 出韓非子かんぴし 話の前後や言動のつじつまが合わないこと。 論理が一貫しないこと。「盾」は「楯」とも 書く。▷矛∥やり・ほこ。盾∥たて。刀や矢 などから身を守る武具。 故事)中国、戦国時代、楚その国の人が矛と盾を売っていた。その商人はまず盾を自慢して「わたしの盾はとても堅く、どんなものでも突き通すことはできない」と言い、次に矛を自慢して「わたしの矛はとても鋭く、どんなものでも突き通すことができる」と言った。そこである人が「それでは君の矛で君の盾を突いたら、どうなるのか」と聞くと、商人は答えることができなかった。 無常の鬼が身を責むる いつ死ぬときがくるかわからないこの世の無 常に対する不安を、鬼の責めてくる恐ろしさ にたとえていったもの。「無常の虎が身を責 むる」ともいう。 無常の風は時を選ばず 風が花を散らすように、人はいつ死ぬ時がく <632> るかわからないということ。「無常の風は時 を嫌わず」ともいう。 むしろうこもね 筵打ち薦に寝る 人のために働くばかりで、自分のことには手がまわらないこと。むしろを編むことを職業とする人が、自分ではそれを使わず、粗く織っただけのこもを使って寝ていることから。▶筵‖藺い・がま・竹などを編んで作った敷物。薦‖わらで粗く織ったむしろ。 類義 紺屋 こう の白袴 しろば○ かま 駕籠 かご かき駕籠に 乗らず。 むしけいこうぎゅうご寧ろ鶏口となるも牛後となるなか勿れ 大きな集団や組織の末端にいるよりも、小さ くても頭かしとなるほうがよいということ。略 して「鶏口牛後」ともいう。△鶏口=鶏の口。 ここでは、小さな団体の長のこと。牛後=牛 の尻。ここでは、大きな団体につき従って使 われる者のこと。 (映観) Better to be first in a village than second at Rome. [ローマの | はんつも村の一位につくほうがよこ] 故事中国、戦国時代の遊説家蘇秦 をまわって、小国とはいえ一国の王として権 威を保つのがよく、強大な秦しんに屈して臣下 に成り下がってはならないと説き、六国(韓・ 魏・趙ちょう・燕えん・楚そ・斉)が合従すべきだ と主張した故事から。後に、蘇秦は同盟の長 となった。 出史記 類義 大鳥 とり の尾より小鳥 こと の頭 かし。 鯛 たい の 尾より鰯 いわ の頭。 対義 寄らば大樹の陰。 むしろもっかねつ 筵を以て鐘を撞く 方法を誤ることがはなはだしいこと。筵で鐘 を撞いても鳴るはずがないことから。▷筵‖ 蘭い・がま・竹などを編んで作った敷物。 類義提灯ちょうちんで鐘。 むじんぞう無尽蔵 いくら取り出してもなくならないこと。もと は仏教語で、仏法の無限の功徳をたとえたこ とば。取り出しても尽きることのない蔵という 意から。 補説蘇軾 そし よく の『前赤壁賦 ぜんせき へきのふ に「惟た 江上の清風と山間の明月とのみは、耳之これを 得て声を為なし、目之に遇あいて色を成す。之 を取れども禁ずる無く、之を用うれども竭っ きず。是これ造物者の無尽蔵なり(ただこの長 江に吹き渡る清らかな風と山間の明月とは、 耳に入れば音楽となり、目にうつれば絵とな る。いくら見聞きしてもだれもとがめず、な くなることもない。これこそ、万物の創造主 が与えてくれた、尽きることのない蔵であ る」とあるのは有名。 娘三人は一身代 対義 娘三人持てば身代潰す。 娘が三人いれば、養蚕を手広くやれるので、 一財産つくることができるということ。養蚕 の盛んだった信州のことわざ。 類義娘三人持てば左団扇 うち。 むすめさんにんも しんだいつぶ 娘三人持てば身代潰す 娘が三人もあれば、育てて嫁に出すまでに莫 大な費用がかかり、財産がなくなってしまう ということ。「女三人あれば身代が潰れる」 ともいう。 類義 盗とう も五女の門に過よぎらず。女の子が 三人あれば囲炉裏の灰もなくなる。娘の子は 強盗八人。 対義娘三人は一身代ひとし。んだい 英語 Building and marrying of children are great wasters.家を建てたり子供を結 婚させたりするのはたいへんな散財である」 むすめしゅっせおやびんぼう 娘出世に親貧乏 娘のよい縁組のために、婚礼の仕度や付き合 いに費用をつぎ込んだ結果、娘は裕福になっ ても、親は貧乏になるということ。 娘の子は強盗八人 娘を育てて嫁入りさせるまでに莫大な費用が かかることのたとえ。その出費は八回も強盗 に入られたようなものだということ。 類義娘三人持てば身代潰す。 むすめひとりむこはちにん娘一人に婿八人 一つの物事に対して希望者が非常に多いこと。一人の娘に対して、婿になりたいと希望する者が何人もいることから。「八人」は、「三人」「十人」ともいう。 類義 一人娘に婿八人。女一人に婿八人。 <633> 娘を見るより母を見よ 娘を見るより長を見よ 娘の人柄を知ろうと思ったら、その母親を見 ればわかるということ。「娘見るより母親を 見ろ」ともいう。 類義嫁を取るなら親を見よ 噎ぶによりて食を廃す 出呂氏春秋 わずかな障害のために、大事なことまで廃止 すること。ごくまれな事例を、一般的なこと にまで広く及ぼすこと。食べたものがのどに つかえて死んだ者がいたので、すべての人の 食事をやめさせるという意から。 補説出典には「饒むぶを以もって死する者有 りて、天下の食を禁ぜんと欲するは悖もとれり (間違っている)」とある。 むだほうべん無駄方便 何の役にも立たないと思えるものでも、時に は役に立つということ。▷方便‖目的のため に利用する便宜的な手段。 類義無用の用。 夢中に夢を占う 人生自体が夢のようにはかないものであるの に、人はその中で夢を追って生きるというこ と。夢の中で、それが夢とも知らずに夢占い をする意から。 出荘子そうじ 補説 出典には 夢の中にて又其 その夢を占 う。覚めて而しかる後其の夢なるを知る。且 つ大覚たい かく 有りて而る後此この大夢たい なるを知 るならん(夢が夢であることに気がつくには 大きな目覚めが必要だ。この大きな目覚めを 体得し、真実を悟った者こそ、この人生が大 いなる夢であったと気がつくのだ」とある。 むつなかかきしたなかかき 睦まじき仲に垣をせよ親しき仲に垣 むすめをーむぼうの むつ なかかき したなかかき 睦まじき仲に垣をせよ親しき仲に垣 をせよ291 むねお たるきくず 棟折れて垂木崩る 上に立つ者が落ちぶれると、その部下もそ ろってだめになること。棟木が折れるとその 下の垂木も崩れる意から。∇棟∥屋根のもっ とも高い所に渡してある木。垂木∥棟木から 軒まで渡してある屋根板を支える木。 むねさんずん おさ 胸三寸に納める 心の中に秘めておいて顔色や言動に出さない こと。「胸三寸に畳む」ともいう。△胸三寸 =胸の中。考えの意。 類義胸に納める。胸に畳む。 むね胸に一物 心の中にわだかまりがあること。また、心の 中にひそかにたくらみをいだいていること。 このあとに「背に荷物」「手に荷物」などと 続けてもいう。 れて心を痛めること。弱点や欠点を指摘され て心を痛めること。「胸に釘を打つ」「胸に釘 を刺される」などの形で使われる。 類義胸に焼きがね。 類義腹に一物。 むね胸に釘くぎ 胸に釘を打たれたように、痛烈なことを言わ むねんむそう無念無想 一切の邪念を離れて無我の境地に到達した状 態。仏教語。また、何も考えていない状態。 ▶無念=雑念を捨てて無我の境地に至るこ と。また、余計なことを考えないこと。無想 ∥俗事などを思う心のないこと。 用例私はアブに気がついたほど、まだ余裕 があったが、アブの方では、人間などに傍目 わき も触れず、無念無想に花の蜜の甘美に酔っ ている。〈小島烏水◆不尽の高根〉 無病息災 病気をせず、健康で元気なこと。▷無病‖病 気にかからないこと。息災‖健康で元気なこ と。もと仏教語で災いを除く意。 南の扇 この辺じゃ未いまだにこれを食えば、無病息災 になると思っているんだ」〈芥川龍之介◆湖 むぼう 母望の禍 出史記しき 予期せぬ災難。△母望=望んでいない、思い がけない意。「母」は「無」に同じ。 故事中国の戦国時代、楚その宰相の春申君 しゅんし んくん に向かって「自分を任官させれば、やが てあなたの命をねらうはずの李園りえを母望の 人となって殺し、不意のわざわいを福に転じ <634> むようのーめあれば てさしあげます」と、朱英しゅが進言した。しかし、春申君はこれを断り、やがて李園に殺されたという。 むようちょうぶつ無用の長物 その場の役に立たず、かえってじゃまになる もののこと。▷長物∥場所をとるばかりで用 をなさないもの。 「森の女」の前には開会の当日から人 がいっぱいたかった。せっかくの腰掛けは無 用の長物となった。ただ疲れた者が、絵を見 ないために休んでいた。それでも休みながら 「森の女」の評をしていた者がある。〈夏目漱 石◆三四郎〉 むよう無用の用よう 何の役にも立たないと思われているものが、 実は大事な役割を果たしているということ。 役に立たないことがかえって有用であるこ と。∇無用Ⅱ役に立たないこと。 補説出典には「埴くを埏せんして以もて器を 為つくる。其その無に当たりて器の用有り粘土 で器を作る。器は中の空間があるからこそ、 物を入れるという使い道がある)。戸牖 の用有り戸や窓をあけて部屋を作る。広い 空間があるからこそ、部屋としての使い道が ある)。故ゆえに有の以て利を為なすは、無の以 て用を為せばなり(有形のものが役立つのは、 何もない空虚な部分がそれを支える役割を 担っているからである)とある。 類義不用の用。無駄方便。 出老子ろうし むらくも もらくも 襲雲をあてにして物をかくす あてにならないものをあてにすること。 狐きつ が流れる雲を目印にして獲物を隠しておくこ とから。「叢雲」は「群雲」とも書く。 類義烏 から す の雲だめ。烏の埋め食い。 むらさきしゅうば 紫の朱を奪う 出 論語 ろんご 不当なものが正当なものにとって代わること。にせ物が本物に勝つことのたとえ。中間色の紫が正色の赤を圧倒する意から。△紫‖青と赤の中間色。朱‖濃い赤。古代中国では、青・黄・赤・白・黒の五色を正色(純粋な色)として尊んだ。 補説孔子が由緒や伝統のあるものが滅びそうになっている状況を嘆いたことば。出典には「紫の朱を奪うを悪くむなり。鄭声せいの雅楽を乱るを悪むなり。利口の邦家を覆すを悪む(紫が朱を圧倒しているのが憎い。鄭の国のみだらな音楽が雅楽を乱すのが憎い。口の達者な者が国家を覆すのが憎い)」とある。 むらむらしゅうとめい 村には村姑が居る どんな所にも、他人のすることに干渉する口 うるさい者がいるものだということ。家に口 うるさい姑がいるように、村には村で隣近所 のことを口うるさく言う者がいる意から。 無理が通れば道理引っ込む 道理に反することが平気でまかり通る世の中 では、道理にかなったことは行われなくなる ということ。また、道理が聞き入れられそう にないときは、身の安全のために引っ込んで いるほうがよいということ。「無理が通れば 道理そこのけ」「道理そこのけ無理が通る」 ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義無理も通れば道理になる。非理の前に 道理なし。理に勝って非に落ちる。 対義道理に向かう刃 やい ば なし。 用例「お金というやつは、悪いやつが出て 来ると、いいのが追ッ払われてしまうんです から、無理が通らば道理引っ込むといったよ うなわけです、時代が悪くなると、いい人間 と、いい金銀が隠れて、碌ろくでもなしが蔓 ります」〈中里介山◆大菩薩峠〉 無理も通れば道理になる 道理に合わないことでも、実際に行われて世 の中で通用するようになれば、それが正しい ことになってしまうということ。 類義無理が通れば道理引っ込む。非理の前 に道理なし。理に勝って非に落ちる。 対義道理に向かう刃なし。 め 目あれば京へ上る やる意志さえあれば、できないことはないと いうこと。目さえ見えれば、だれでも京の都 へ行けるという意から。「口あれば京へ上る」 ともいう。 <635> 命あれば食い、肩あれば着る♩口あれ ば食い、肩あれば着る202 めいおう いちにん ため 明王は一人の為に其の法を枉 げず 出 古文孝経 すぐれた王は、特定の人物を有利にするため に法をゆがめたりはしないということ。 鳴鶴陰に在り其の子之に和す 補説出典には、この前に「日月げつは一物の 為に其の明を晦くらくせず(太陽や月は一つの 物のために光をかげらせることがない)」と ある。 出易経えきよう 親子の情愛は自然に現れるものであるという こと。誠のある者は、離れていても自然と心 が通い合うものであるというたとえ。また、 徳のある者は隠れていても世間に知られると いうこと。鶴の親が暗い物陰で鳴けば、その 子もこれに合わせて鳴くことから。 名家三代続かず 名家と評判の家も、三代目まで続けてすぐれ た人物が出ることはないということ。 類義長者に二代なし。長者三代。三代続く 分限 ぶげ なし。 名下に虚土なし 世評の高い者は、それだけの実力を備えてい めいあれーめいしゃ るものであるということ。△名下=名声のあ るところ。世評の高い者。虚士=名だけで実 の伴わない者。評判倒れの人。 故事中国沛はいの国の劉臻りゅうが姚察ようの宿 を訪ねて『漢書』の中の疑問点を十ほど質問 をした。姚察は経典を根拠として、そのすべ てに解説をつけた。劉臻はこれを親しい者に 話し「名下に定めて虚士無し(名声のある人 物に、評判倒れの者は決していない」と言っ た。 類義名の下もと虚むなしからず。 名歌名句も聞く人の気気に よって変わる 物事の感じ方、考え方は人によって違うもの だということ。名歌も名句も、耳にした人の 心によって解釈や感動が異なることから。 冥頑不霊めいがんふれい 加んゆがくぎよのぶん 出韓愈鱷魚文 頑なで道理に暗く、頭の働きが鈍いこと。頭 が古く頑ななさま。「冥」は「迷」とも書く。 ▶冥頑‖頑なで道理に暗いこと。不霊‖聡明 そう めい でないこと。頭の働きが鈍いこと。 類義頑迷固陋 がんめい。 ころう 出荘子そうじ 明鏡止水めいきようしすい 邪念がなく、静かに澄みきった心境。曇りの ない鏡も澄んだ水面も、物を正しくうつすと いう意から。「めいけいしすい」とも読む。 ∇明鏡=曇りのない鏡。止水=流れずに静止 して澄んだ水面。 用例生憎 あい にく この約束は内閣の公約した政策 と全然反対のものであった。とはいえ、そこ は大人物の内閣で、右から左へ曲るぐらいに こだわる量見はないのですから、光風霧月 せいげつと申しますか、水従方円器と申しますか、 明鏡止水の心境です。〈坂口安吾◆露の答〉 めいきよううらて 明鏡も裏を照らさず 知者・賢者と言われる人にも目の届かない部 分があるということ。どんなに曇りのない鏡 も、物の裏まではうつさないという意から。 類義賢者も千慮の一失。明も見ざる所有 り。鬼の目にも見残し。 めいげつち お はくじつどうしな 明月地に墜ちず、白日度を失 わず 運命にさからうことはできないということ。 天体の運行は人の力で変えることはできない ということから。 めいしゃとおみぼうみちしゃ 明者は遠く未萌に見、智者は きむけいさ 危を無形に避く 出司馬相如ー上書諫し猟 先見の明のある者は、事が起こる前にそれを 察し、知者は危険を事前に察して避けるということ。 マ未萌=事件が起こる前。 めいしゃみちと まよものみちと 迷者は路を問わず↳迷う者は路を問わ ず614 <636> 出新唐書 何台もの馬車に積んだ美しい玉も、真心を込 めて言う諫いさめのことばの尊さには及ばない ということ。∇兼乗∥何台もの馬車。 補説中国唐の名臣薛収 が王に上書して 狩猟をやめるように諫めたとき、王はこのこ とばを述べて喜び、黄金の延べ板四十枚をほ うびとして与えたと出典にある。 めいしゅいっぴんいっしょうお 明主は一噸一笑を愛しむ 名所と評判の所にかぎって、これといって見 る価値のある所はないということから。 類義名物に旨うまい物なし。 すぐれた君主は軽々しく感情を顔に表さない ということ。賢明な君主は、心情を臣下に察 せられないように努めて、むやみに顔をしか めたり笑ったりはしないことから。△噸=眉 をしかめること。 出韓非子かんぴし めいしゅ あやま き つと 明主はその過ちを聞くを務め ぜんきほっ て、その善を聞くを欲せず 賢明な君主は、自分の過ちについて聞くこと には努めるが、自分をほめることばは聞きた がらないものだということ。 出戦国策 名所に見所なし めいしょみどころ 名声は必ずしも実質を伴わないということ。 名人は人を謗らず 一道にひいでた名人ともなれば、他人の短所 を批判するようなことはしない。「名人人を 謗らず」ともいう。 類義 名人は人を叱しからず。 めいそうじょうき 明窓浄机 出欧陽修ー試筆 明るく清潔で、落ちついて勉強ができる書斎 の形容。明るい窓と清らかな机の意から。 「机」は「几」とも書く。 補説中国宋そうの高官であった蘇子美が 常々口にしていたことば。出典には「明窓浄 几、筆硯ひつ紙墨くしば、皆精良を極むるは、亦ま た自ずから是これ人生の一楽なり(明るく清ら かな書斎に、つぶよりの筆、すずり、紙、墨 をとりそろえるのは人生の楽しみの一つであ る)とある。 用例明窓浄机。これが私の趣味であろう。 閑適を愛するのである。小さくなって懐手 ふとこ ろで して暮したい。明るいのが良い。暖かい のが良い。〈夏目漱石◆文士の生活〉 鳴鐸は声を以て自ら毀る 鈴。命令を発するときに鳴らす。 才能のある者が、その才能のために身を滅ぼ すことのたとえ。鈴は音を出すため身を傷つ けるという意から。△鐸∥青銅製の大きな 出文子ぶんし 類義膏燭 こうし よく は明を以て自ら鑠とかす。善よく 游およぐ者は溺おぼれ、善く騎のる者は堕おつ。 出詩経しきよう 聰明 そう めい で物事の道理に通じている人は、危険 を避けて自分の身を安全に保つということ。 また、自分の身の安全だけを考えて、要領よ く生きるという意でも用いる。「明哲身を保 つ」ともいう。∇明哲∥賢くて物事の道理に 明るいこと。 補説周王朝中興の祖といわれる宣王の宰 相、仲山甫ちゅうさんばの徳をたたえた詩の一節。出 典には「既すでに明且かつ哲、以もって其その身を 保つ(明らかにしてまた賢く、理に従ってそ の身を保つ)」とある。 類義明哲防身めいてつ。ぼうしん 用例その一方、どこかしら明哲保身を最上 智と考える傾向が、時々師の言説の中に感じ られる。〈中島敦◆弟子〉 妻いとしの子いとし 妻子への愛に溺れて親不孝をしたり、近親を おろそかにすることをあざけっていうこと ば。「妻いとおしの子いとおし」ともいう。 冥土の道には王なし 死後の世界には上下の差別がなく一切平等で あるということ。また、だれもが死を免れる ことはできないということ。「冥土の道には 王もなし」ともいう。 It will be all one a hundred years <637> 行く hence.〔百年後には(どんな人も)皆同じに なる〕Poormen go to heaven as soon as rich.〔貧乏人も金持ちと同じ速さで天国へ こ めいどみちかねしだいじごくさたかねし 冥土の道も金次第地獄の沙汰も金次 だい 第286 命は義によりて軽し命は義によりて かる 軽し71 命は天に在り 出史記しき 人間の寿命や運命は天の定めるものであり、 人の力でこれをどうすることもできないということ。「運は天にあり」ともいう。 補説 中国漢の高祖劉邦 りゅう が黥布 げい と戦っ たとき、流れ矢に当たり負傷した。このとき 劉邦が医者の手当てを退けて言ったことば。 出典には「命は乃 すな ち天に在り、扁鵲 へんじ やく と 雖いえ も何ぞ益あらん昔の名医扁鵲ですら運 命はどうすることもできないのだ」とある。 類義運否天賦 うんぷ てんぷ 運を天に任せる。 めいぼくせ 名馬に癖あり すぐれた才能を持つ者には、普通の人にはな い癖を持つ者が多いこと。また、おとなしく て個性がないようでは、非凡な働きはできな いということ。名馬といわれる優秀な馬に は、何かしら癖があるということから。「名 馬に難あり」ともいう。 類義 癖ある馬に乗りあり。癖なき馬は行か ず。 めいどのーめいをし 名筆は筆を択ばず うま もの 名物に旨い物なし こうぼうふで えら 238 世の中には評判倒れのものが多いというこ と。名物として知られている物は、食べてみ るとうまいものがないということから。 類義 名物は聞くに名高く食うに味なし。名 所に見所なし。 用例池のほとりに立っていたら、チャボリ と小さい音がした。(中略)とたんに私は、あ の、芭蕉翁ばしょうの古池の句を理解できた。私 には、あの句がわからなかった。どこがいい のか、さっぱり見当もつかなかった。名物に うまいものなし、と断じていたが、それは私 の受けた教育が悪かったせいであった。太 宰治・津軽 めいぼうこうし 明眸皓齒 出杜甫ー詩 美人の形容。美しく澄んだ目もとと、白く 整った歯の意から。「皓」は「皎」とも書く。 ▽眸=瞳 ひと○ み 皓=白くてきれいなこと。 補説詩の題名は『哀江頭あいこ』。中国唐の玄 宗げんと楊貴妃ようの悲運を嘆いた詩で、「明眸 皓齒」はこの中にある楊貴妃の美貌を形容し た語。 用例振り向いて見ると、月光を浴びて明眸 皓歯、二十ばかりの麗人がにっこり笑ってい る。〈太宰治◆竹青〉 真にすぐれたものは、みだりにその才能を外 銘木の伽羅におと無きが如し 面に表さないということ。銘木として珍重さ れる伽羅には、あからさまな香りがないこと から。△銘木Ⅱ形・木目・材質などに趣があ る木材。伽羅=香木の名。おと=香り。 明も見ざる所有り しきまっくーゆり 完全ということは難しいということ。目のよ く見える人でも見落としや見損ないがあると いう意から。 補説出典には、このあとに「聴も聞かざる 所有り(耳のよく聞こえる人でも聞きもらす ことがある)」とある。 めい 命を知る者は巌牆の下に立た ず 出孟子 もうし 天命を知っている者は、自ら危険な所に身を置くようなことはしないということ。△巌牆 ∥崩れかかった石垣や土塀。危険な地。 補説出典には、このあとに「其その道を尽 くして死する者は正命なり(自分の尽くすべ き道を尽くして死ぬのが、正しい天命という ものである)。桎梏して(罪を犯して足かせ や手かせをはめられ)死する者は正命に非 あら ざるなり」とある。 類義君子危うきに近寄らず。 命を知る者は天を怨まず 出説苑ぜいえん 命が天によって定められていることを知っている者は、おのれのなすべきことをわきまえ <638> めいをしーめしのう ているので、悲運を怨むようなことはしないということ。 補説出典には、このあとに「己を知る者は 人を怨まず」とある。 あいしものまど 命を知る者は惑わず 出 説苑 天命を知る者は物事に動じて思い迷ったりし ないということ。 牝牛に腹突かれる 油断していて、思わぬことでひどい目にあう たとえ。ふだんおとなしくて人を傷つけない 性質の牝牛に、思いがけなく腹を突かれる意 から。「黄牛あめうしに腹突かれる」「女牛に腹突か る」ともいう。 あおとはちりょうおやごりよう 夫婦八両親五両 夫婦間の愛情は、親に対する愛情よりもしだ いに深まっていくものだということ。 目から鱗が落ちる 何かがきっかけとなって、それまでわからな かったことがはっきり理解できるようになる こと。鱗で目をふさがれたような感じでよく 見えない状態だったのが、その鱗が落ちて急 によく見えるようになったということから。 補説「新約聖書」使徒行伝にあることばか ら。英語では The scales fall from one's eyes. 用例本当に偉い人は、ただ微笑してこちら の失敗を見ているものだ。けれどもその微笑 は、実に深く澄んでいるので、何も言われず とも、こちらの胸にぐっと来るのだ。ハッと 思う、とたんに目から鱗が落ちるのだ。本当 に、改心も出来るのだ。〈太宰治◆正義と微笑〉 はいみみぬ 目から入って耳から抜ける 見たものを理解できず、身につかないこと。 目で見たものが耳から外へ抜けてしまって頭 の中に残らない意から。 目から鼻へ抜ける 利発で物事の判断がすばやく抜け目のないさ ま。 類義目から入って鼻へ出る。一を聞いて十 を知る。一を以て万ばんを知る。 対義一を知りて二を知らず。 用例 双鶴館 そうか くかん の女将 おか み は本当に目から鼻 に抜けるように落度なく、葉子の影身 かげ み に なって葉子の為めに尽してくれた。〈有島武 郎◆或る女〉 目くじらを立てる 他人のささいな欠点を取り立ててとがめること。目をつり上げてあら捜しをすることから。「目角を立てる」「目に角を立てる」ともいう。∇目くじら∥目の端。目じり。 花◆第二莨蒻本 注意 「目くじら」を「目鯨」と書くのは間 違い。 用例はじめの事は知ってるから私の年が年 ですからね。主人の方じゃ目くじらを立てて いますもの、ー顔を見られてしまってさ ……しょびたれていましたよ、はあ。〈泉鏡 目分の欠点に気づかずに他人の似たような欠 点を笑うこと。「目糞が鼻糞を笑う」「鼻糞が 目糞を笑う」ともいう。 類義猿の尻笑い。腐れ柿が熟柿 蟻蝸 こうが燕つぼを笑う。鍋が釜を黒いと言う。 英語The pot calls the kettle black.「鍋 が(自分も黒いのに)やかんを黒いと言う」 There are those who despise pride with a greater pride.「高慢さをよりいっそうの高 慢さで軽蔑する人がいる」 めくらへび お 盲蛇に怖じず 何も知らないと物怖じすることがなく、無鉄 砲なことをするということ。目が見えないと 蛇が現れても怖がらないということから。 用例特に親鸞 研究に没頭する準備もなく 社命ぜひなく社の文庫や図書館通いをあてに 始めたのですからまことに盲へビにおじざる ものです。〈吉川英治◆親鸞の水脈〉 飯粒で鯛を釣る わずかな元手や労力で多くの利益を得ること のたとえ。 類義 海老 えび で鯛を釣る。 麦飯で鯉 こい を釣 る。 めし飯の上の蠅はえ いくら追い払っても、次から次へとうるさく 集まってくるもののたとえ。 <639> めじろお日白押し 大勢が詰めかけてぎっしりと並ぶこと。次か ら次へと押しかけること。鳥の目白が木の枝 にぎっしりと押し合いながらとまることか ら。また、目白のように大勢で押し合う子供 の遊びから。 用例やっと隧道ずいを出たと思うーその時 その蕭索 さく とした踏切りの柵の向うに、私 は頬の赤い三人の男の子が、目白押しに並ん で立っているのを見た。〈芥川龍之介◆蜜柑〉 めだかとと 目高も魚のうち 取るに足らない存在であっても、仲間にはち がいないということ。めだかのように小さな 魚でも魚にはちがいないという意から。 めい 類義 雑魚 の魚交じり。 蝙蝠 も鳥のう ち。 二十日鼠 はつか ねずみ も獣の内。 目で殺すは殺生の外 殺すといっても、美人が色っぽい目つきで男 性を悩殺するのは、殺生ではなく、悪いもの ではないということ。 目に入れても痛くない 目で目は見えぬ 自分の欠点や短所は自分ではよくわからない ものだということ。自分の目で自分の目を見 ることはできないということから。「目で目 は見えぬ、指で指はさせぬ」ともいう。 類義目は毫毛 ごう もう を見るもその睫まつを見ず。 めいっていじいっていじし 目に一丁字なし→一丁字を識らず65 かわいくてたまらないさま。子や孫を溺愛す るさま。「目に入れてもえずくない」「目の中 に入れても痛くない」ともいう。 めじろおーめのよる 目に秋毫の末を察すれば耳に らいていこえき 出淮南子えなんじ 雷霆の声を聞かず 小さいことに気を取られていると、重大なことに気がつかないということ。秋になって抜け替わった獣の毛先を目をこらして見ていると、そちらに気を奪われて、雷の鳴る大きな音も耳に入らないという意から。∇秋毫∥秋になって先が細くなった獣の毛。雷霆∥はげしいかみなり。 補説出典には「目に秋豪の末を察すれば、 耳に雷霆の声を聞かず。耳に玉石の声を調う れば、目に太山の高きを見ず(耳が音楽の音 の良し悪しを調節しているときは、太山の高 きも目に入らない)とある。 目には目、歯には歯は 自分が受けた害と同じことをして仕返しする こと。目を傷つけられたら相手の目を傷つ け、歯を折られたら相手の歯を折る意から。 「目には目を、歯には歯を」ともいう。 補説古代バビロニアのハンムラビ王が残した「ハンムラビ法典」にあることば。『新約聖書』のマタイ伝で、キリストが引用してこれを否定したことで有名。英語では、An eye for an eye, and a tooth for a tooth. 目のあるだけ不覚 自分の不注意や不勉強を認めざるを得ないと いうこと。失敗などの言い訳ができないこ と。見ている以上、知らなかったなどという 言い逃れはできないことから。 めうえこの痼目の上の癌 自分よりも地位や能力が上で、何かと目ざわ りで邪魔になる存在のたとえ。目の上にこぶ があると気になることから。「目の上のたん 癪」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義鼻の先の疣疣 用例それから中一年置いて、家康が多年 目の上のこぶのように思った小山の城が落ち たが、それはもう勝頼 の滅びる悲壮劇 びそう げき の序幕であった。〈森鷗外◆佐橋甚五郎〉 目の正月 美しい物、喜ばしい物などを見て楽しむこと。 正月はいちばん楽しい時期であることから。 「目正月」「目に正月さす」ともいう。 「類義」目の保養。目の薬。耳の正月。 めなかいいためい 目の中に入れても痛くない卻目に入れいた いないf めよところたまたよ目の寄る所へ玉が寄る 似た者同士は自然に集まるということ。また、同じような事件が続いて起こること。目玉が動くと、それに伴って瞳も動くという意から。「目の寄る所へは玉も寄る」ともいう。 <640> 類義類は友を呼ぶ。同気相求む。 めくちものい 目は口ほどに物を言う とする。 情を込めた目つきは口で言うのと同じくらい 相手に気持ちを伝えるということ。また、う そをついても、目を見れば真偽のほどがわ かってしまうということ。「目も口ほどに物 を言う」ともいう。 類義目は心の鏡。目は心の窓。目が物を言 。目は人の眼まな。 類義目で目は見えぬ。 城輩 The eyes have one language everywhere. [四は万国共通のことばを持つ] 用例ごく親しい仲のよい友だちが久しぶり で偶然出逢います。そんな時にはいろんな、 めんどうな御無沙汰のおわびや、時候の挨拶 などはありません。「ヤア」「ヤア」といいな がら、互いに堅く手を握り合う。それでよい のです。眼が口ほどに、いや口以上にもの をいうのです。その「ヤア」という一言で、 平素の御無沙汰やら、時候の挨拶は、みんな スッカリ解消してしまっているのです。〈高 神覚昇◆般若心経講義〉 めこころかがみ めごうもうみまつげみ 目は毫毛を見るもその睫を見 ず出史記 人のことは小さな欠点までよく見えるが、自 分自身のことはわからないものだというたと え。細い毛まで見ることができても、自分の まつげを見ることができないという意から。 ∇毫毛=ごく細い毛。出典では「毫」は「豪」 出孟子もうし 目を見ればその人の心の正邪がわかるということ。 補説出典には「人に存する者は眸子 良きは莫なし(人に備わっているものは人の善 悪を見分けるのに瞳よりよいものはない)。 眸子は其その悪を掩おうこと能あたわず。胸中 正しければ、則すなち眸子瞭あきかなり。胸中正 しからざれば則ち眸子眊くらし。其の言を聴き て其の眸子を観みれば、人焉いずくんぞ庾かくさ んや」とある。 類義目は心の窓。目は口ほどに物を言う。 目は人の眼まな。 The eye is the window of the heart. 用例眉目秀麗にしてとか、眉ひいでたる若 わこうどとか、怒りの柳眉を逆だててとか、三 日月のような愁いの眉をひそめてとか、 ほっと愁眉をひらいてとか……古人は目を 心の窓といったと同時に眉を感情の警報旗に たとえて、眉についていろいろのいいかたを してきたものである。〈上村松園◆眉の記〉 目八分に見る 傲慢な態度で相手に接すること。相手を見下 すこと。 めひと目は人の眼 類義目は面の飾り。目は心の鏡。 日引き袖引き 目くばせしたり、袖を引いたりして、ことば にせずに仲間に意を知らせること。 類義目引き鼻引き。 用例多くは手織の麻か盲目地 じ股引 もも ひき を穿はいたそれ等の服装 教えているS村の子供とさしたる違いはな かったた。それでも「汽車に遠い村の子供」 という感じは何処どとなく現れていた。生徒 の方でも目引き袖引きして此この名も知らぬ 若い教師を眺ながめた。〈石川啄木◆道〉 めぼそ くちぼそ 目細あれども口細なし 見たいという欲望の少ない人はいるが、飲食 の欲望の少ない人はいないということ。ま た、世間には目のきく人は少ないが、口先の 達者な人は多くいるということ。 めもとせんりようくちもとまんりよう 目元千両口元万両 美人の形容。目元は千両に値するほど、口元 は万両に値するほど愛らしくて美しいという こと。 類義 えくぼ万両。 目元涼しく鼻筋通り。 めやおんなかぜひおとこ 目病み女に風邪引き男 目を患っている女は、目がうるんでいて色っ ぽく、風邪を引いている男は、のどに巻いた 布が粋に見えるということ。江戸時代の美意 識を言ったことば。 <641> 愚かな策、小手先だけの策を弄しても、他人 を欺くことはできないこと。また、自分を欺 かずに誠実に物事を行うべきという戒め。自 分の姿を見て雀が逃げることを恐れて、自分 の目を隠して雀に近づく意から。 類義耳を掩いて鐘を盗む。 めむ 出後漢書ごかんじょ 目を剥くより口を向けよ 目を衆く「」 目を見開いて怒るよりも、口で言って聞かせ るほうが効果があるということ。▷目を剥く ∥怒りや驚きで目を大きく見開くこと。 面従後言めんじゅうこうげん 出書経しよきよう その人の面前では服従するが、陰では悪口を 言うこと。▷面従‖人の前でだけ服従するこ と。後言‖陰で非難すること。 補説中国古代の伝説上の聖天子舜 の禹うに言ったことば。出典には「予われ違たが わば汝なん弼たすけよ。汝面従し退きて後言有る こと無かれ私が道にそむいたら、お前はそ れを正して私を助けてくれ。私の前では服従 し、陰で私を非難するようなことがあっては ならない」とある。 類義面從背毀 面從背否 面從腹背。 面從腹誹 ふく。 ひ あんじゅうふくはい面従腹背 うわべだけは服従しているように見せかけ めをおおーめんめん て、内心では従わずに反抗していること。 類義面従後言。面従背毀 面従腹誹 用例彼等 かれ のすべてが押勝 おし かつ の腹心だっ た。押勝に媚こび、すすんで忠勤をはげみ、 その報酬に官位の昇進を受けていた。彼等は 面従腹背を人の当然の行為であると信じてい た。彼等はむしろ押勝よりも悪辣 あく らつ であり老 猶 ろう かい であり露骨であった。百川 もも かわ は道鏡をし りぞけてのち、自分の好む天皇をたてる陰謀 に成功した。〈坂口安吾◆道鏡〉 雌鶏うたえば家亡ぶ 妻が夫をさしおいて権威をふるうようになる と、家運が衰えて破滅するということ。 補説雌鳥が雄鳥 おん より先に時を告げるのは 不吉の兆しであるということから。 類義牝鶏 ひん けい 晨 あし た す。 めんどりすす 雌鶏勧めて雄鶏時を作る 夫が妻の意見に左右されること。雄鶏は自分 で時を告げなければならないのに、雌鶏に言 われてやっと時を告げるという意から。「雌 鶏につつかれて時をうたう」ともいう。 類義 牝鶏 ひん けい 晨 あし た す。 れの策略にかかって、すっかり面皮を剥がれ てしまったと、仲間をどっと笑わすことだろ う。〈有島武郎◆星座〉 面皮を剥ぐ 西京雑記 悪人の正体を暴き、厚かましい者をこらしめ ること。「面の皮を剥ぐ」ともいう。 用例しかも話の合う仲間の処に行って、 三文にもならないような道徳面をして、女を 見てもこれが女かといったような無頓着さを 装っている柿江の野郎が、一も二もなく俺 長い間、忍耐強く一つのことに打ちこんで努 力すること。「九年面壁」ともいう。 故事中国の南北朝時代、禅宗の開祖達磨大 師だるまは、嵩山 だいしさんの少林寺にこもり、壁に向 かって九年間、一言も物を言わずに座禅を組 み、悟りを開いたという。 面面の蜂を払う めんめんはちはら 人のことを批判する前に、まず自分の欠点を 反省しなければいけないということ。人のこ とをあれこれ世話するより、自分のことをき ちんとせよということ。 類義頭の上の蠅はえを追え。己の頭の蠅を追え。 面面の楊貴妃 めんめんようきひ 男は自分の妻や恋人のことを楊貴妃のように 美しいと思っているものだということ。ま た、いったん好きになるとすべてが美しく見 えるということ。△楊貴妃‖中国、唐の玄宗 げん皇帝の愛人。絶世の美女として知られた。 類義痘痕あばも靨えく。惚ほれた欲目。 めんめん た まんまん いかん 綿綿を絶たずんば縵縵を如何 出戦国策 せん 災いのもとになりそうなことは、小さいうち <642> もうおそーもうじゅ に処理しておかないと、あとで取り返しのつ かないことになること。物事の処理は最初が 大切であるということ。つる草は、細いうち に刈り取らないと、はびこってしまってから では手がつけられないという意から。「如何」 は「奈何」「若何」とも書く。△綿綿‖細く 長いさま。縵縵‖はびこり広がるさま。「蔓 蔓」とも書く。 補説)中国の戦国時代、遊説家の蘇秦 魏の襄 王に対して、強国秦しんに仕えるの を思いとどまらせようと説得したときに引用 した『周書』のことば。秦と和親を結ぼうと 考えているような家臣は、早いうちに追放し なければならないと説いた。 もう遅蒔きの唐辛子 間の抜けたもののたとえ。また、時機を逃が してしまったときに言うしゃれのことば。時 期おくれにまいた唐辛子は、辛くもなんとも なく、気が抜けた味であることから。「遅蒔 きの唐辛子」ともいう。 類義遅蒔きの西瓜すい。 もうかりようげんはなはだ 猛火燎原より甚し 大火事が激しく燃えさかって、手がつけられ ないようす。転じて、悪事がたちまち世の中 に広まってしまうことのたとえ。∇燎原∥火 が激しい勢いで野原を焼き払うこと。 もうき盲亀の浮木ふぼく 出会うことが非常に難しいこと、また、めっ たにない幸運にめぐり会うことのたとえ。 補説大海の底に住んで、百年に一度だけ水 面に浮かび上がる目の見えない亀が海面に浮 かんでいる一本の木に出会って、その木にあ いている穴に入ろうとするが、容易にできな かったという仏教の説話による。本来の意 は、輪廻りんする間に人として生まれ、仏また は仏の教えにめぐり会うのはきわめて難しい ということ。 類義一眼の亀浮木に逢う。 もうまえむなざんようとためきかわざんよう 儲けぬ前の胸算用挿らぬ狸の皮算用 473 もうこかごいおふしょく 猛虎籠に入って尾を振って食 をやむ 出司馬遷報二任少卿一書 どんなにすぐれた人物や英雄豪傑も、自由を 奪われるとおとなしくなることのたとえ。た けだけしい虎も、檻おりに入れられてしまうと 尾を振って餌にありつこうとする意から。 て恐れるが、檻や落とし穴に捕らえられると、 尾を振って食物を求めるようになる)」とあ る。 補説司馬遷が獄中にいる友人の任少卿 じんしょ うけい にあてた書簡の中のことばに基づく。出典に は「猛虎深山に在れば百獣震恐す。檻穽 かん せい の中に在るに及んでは尾を揺 うご かして食を求む 強暴な虎は深山にいれば、百獣は震えあがっ もうこ ゆうよ ほうたい せき 猛虎の猶予するは蜂蠆の螫を いた し 致すに若かず 出史記 力のある者でも決断力がなく、断行することができなければ、つまらない者にも劣ること。また、無力の者でも、行動すれば効果をあげることができること。どんなにたけだけしい虎でも、行動を起こすのをためらっていては、蜂やさそりが刺すほどの力にも及ばないという意から。△蜂薑‖蜂とさそり。螯‖毒虫が針で刺すこと。 補説出典には、このあとに「騏驥きの跼躅 きよく ちょく するは駑馬どばの安歩に如しかず(駿馬 しゅ んめ も ぐずぐずしていたら、駄馬のゆっくりした歩 みにも及ばない)。孟賁 もう ほん の狐疑するは庸夫 よう の必ず至るに如かざるなり(勇者の孟賁も ためらい決断できなければ、必ずかけつける 凡夫に及ばない)」とある。 類義猛獸の狐疑するは蜂蠆の毒を致すに 如かず。 もうじゅうまさう 猛獣の将に搏たんとすれば耳 たふふく を弭れ俯伏す 出六韜 事を成そうとするときには、かえってそれら しい素振りを見せないほうがよいというこ と。才能のある者は、むやみにその才能を見 せるようなことはしないものであるというこ <643> と。また、攻撃をしかける前に兵力を誇示す るのは不利であるということ。猛獣が獲物に 襲いかかろうとするときは、耳をたれて姿勢 を低くし、弱そうにしてその気のないようす を見せるということから。 補説出典には、このあとに「聖人の将に動 かんとすれば必ず愚色有り(聖人が行動を起 こそうとするときは、必ず愚か者のようによ そおう)」とある。 もうはまだなり、まだはもう なり たので、ここがふさわしいと安心してその地 に落ち着いたという。 株式や米の相場で、値動きは思惑通りにはい かないものだということ。上がり下がりの値 動きがもう限界かと思うとまだ先があり、ま だまだあがり続ける、あるいは下がり続ける と思うともうそこで限度に達しているという ことから。 もうほさんせん おし 一孟母三遷の教え 出列女伝 れつじょでん 子供は周囲の影響を受けやすいので、子供の 教育には、よい環境を選ぶことが大切だとい う教え。「孟母の三遷」「三遷の教え」ともい う。 故事)中国春秋時代、孟子の家族は初め墓地の近くに住んでいたが、孟子が葬式ごっこをして遊ぶので、母親は子供の教育上よくないと思い引っ越した。今度は近くに市場があり、孟子が物売りのまねをして遊ぶようになったので、さらに学校の近くに移り住んだ。すると、礼儀作法をまねして遊ぶようになっ もうぼだんきおしだんきいまし 孟母断機の教え」断機の戒め412 もうはまーもちくっ 燃えついてからの火祈禱 手遅れになること、間に合わないことのたと え。火事になってから、火災が起きないよう 神仏に祈る意から。 類義 火事あとの火の用心。喧嘩 けん が 過ぎての 棒乳切 ぼう ちぎり。 諍 いさ か い 果てての乳切り木。葬礼 帰りの医者話。 燃える火に薪を添う 勢いのあるものに、さらに勢いが増すように しむけること。燃えている火に薪を入れれ ば、火の勢いがよりいっそう盛んになること から。 類義 火に油を注ぐ。駆け馬に鞭むち。 飛脚に 三里の灸 きゅう あく かげんな かくかじな 黙に過言無く慤に過事無し 出説苑ぜいえん 一日に千里も走るが、いつもむちでたたかれ る」とある。 何事もひかえめにすべきであるということ。 沈黙を守っていれば言いすぎることもない し、行動を慎んでいれば出すぎたこともしな くなるという意から。∇愍∥慎むこと。 補説出典には、このあとに「木馬行く能あた わざるも、亦また食を費やさず、騃騨きは日に 千里を馳はするも、鞭箠べん其その背を去らず(木 馬は走らないかわりに飯も食べない。名馬は 出書経しょきよう 若し薬瞑眩せずんば厥の疾瘳 忠言や忠告は、相手が激しい反応を示すよう なものでなければ、効果がないということ。 薬を飲んでも、目まいがするほどの作用がな ければその病気は治らないという意から。△ 瞑眩Ⅱ目がくらむこと。目まい。「めんけん」 「めんげん」とも読む。厥Ⅱ其。その。 えず もずかんじょう百舌勘定 勘定をするとき、人にばかり金を出させて、 自分は何も出さないようにすること。 補説鳩はと、鴨しぎ、百舌が一緒に合計十五文 の食べ物を買ったが、鳩は「は」がつくので 八文、鴨は「し」がつくので七文だと言って それぞれに金を出させて、悪賢い百舌は一文 も出さなかったという昔話から。 用いる時は鼠も虎となる ば則ち虎となり用いざれば則ち鼠 ときねずみとらこれもち すなわとらもちすなわねずみ となる61 となる261 餅食ってから火にあたる 物事の順序が逆であること。また、仕事の手 順が食い違っていること。餅を焼かないで食 べたあとで腹を火であぶるという意から。 「餅食って火にあたる」ともいう。 類義水飲んで尻あぶる。 <644> もちつもーもっこう 持ちつ持たれつ 互いに助けたり助けられたりしてともに存続 すること。相互扶助。 類義共存共栄。 用例学者と云いうと、何だか世の中を去り、山 の中にでも隠れて、仙人のようになってしま うのであるが、之これは大なる間違である。蓋けだ し相持ちにして持ちつ持たれつするが人間最 上の天職である。〈新渡戸稲造・教育の目的〉 もちなかやねいし 餅の中から屋根石 現実にはあり得ないことのたとえ。餅の中か ら屋根石が出てくるということから。▼屋根 石=強風で板ぶきの屋根が飛ばされないよう に、おさえとして上にのせておく石。 もちこじきや 餅は乞食に焼かせろ、魚は殿 様に焼かせろ 餅は早く食べたい一心でいる乞食に焼かせ て、たびたび裏返して焼くのがよく、魚は万 事ゆったりとかまえている殿様に焼かせて、 ゆっくり火を通して焼くのがよいというこ と。「餅は乞食に焼かせろ、魚は大名に焼か せろ」ともいう。 類義魚は上藹 じょう ろう に焼かせよ、餅は下種 げす に焼かせよ。梨なしの皮は乞食に剥むかせ、瓜 うり の皮は大名に剥かせ。 段・方法をとるのがよいということ。餅をき れいに延ばすには、取り粉を使えばうまくい くということから。△粉∥つきたての餅をの すときに使う米などの粉。取り粉。 もち 餅は粉で取れ 目的を達するためには、それにふさわしい手 何事も、その道の専門家に任せればまちがい がないということ。また、素人がいくら上手 だといっても、専門家にはかなわないという こと。餅は、なんといっても餅屋のついたの がいちばんうまいということから。いろはが るた(京都)の一。 もちもち餅は餅屋 類義舟は船頭に任せよ。田作る道は農に問 え。仏の沙汰さたは僧が知る。芸は道によって 賢し。蛇じの道は蛇へび。 対義左官の垣根。 英語 Every man a little beyond himself is a fool. [自分の領域を少しでも超えた者は だれもがみな愚者である] He that makes the shoe cannot tan the leather. [靴を作 る者は皮をなめすことはできない] で、持ち物を見ると、その人の人柄がわかる ということ。 用例腸が悪いんだら、悪いように、そんな 拝み屋などに頼んじゃおさいせんを巻き上げ られてる暇に、その金で、チョックラ小諸 か甲府にでも出かけて、立派なお医者の先生 さまに見て貰もろうて、薬を貰うて来るなり、 養生のしかたを教わって来るなりしろ。餅は 餅屋だ。お医者さまは病気にかけちゃ玄人 だ。三好十郎◆おりき 持ち物は主に似る 持ち物には持ち主の好みや性格が現れるの 思いがけなくやってきた幸運。「物怪」は「勿 怪」とも書く。▷物怪∥思いがけないこと。 意外なこと。 用例その南島定住者の後のちなる沖縄諸島の 人々の間の、現在亡ぼろびかけている民間伝承 によって、わが万葉人 まんよ うびと あるいはそれ以前 の生活を窺がうことのできるのは、実際もっ けの幸とも言うべき、日本の学者にのみ与え られた恩賚おんである。〈折口信夫◆最古日本 の女性生活の根柢〉 もっこう 沐猴にして冠す 出史記しき 沐猴にして冠す 愚かな人間が外見だけ立派に飾っているこ と。また、小人物が、それにふさわしくない 地位にあること。猿が人間の衣冠を着けて気 取っているという意から。△沐猴Ⅱ猿。 故事中国秦末楚の項羽が秦の都咸 陽かんを攻め落とした後、故郷に錦を飾ろうと した。そのとき、側近の一人が「ここに都を おけば天下をとれます」と説いたが、故郷に 帰りたい項羽は聞き入れなかった。そこで側 近の者は「楚人は沐猴にして冠するのみと世 間で言うが、まったくそのとおりだ」と悪口 を言ったので、項羽はこの男を捕らえて釜ゆ での刑に処した。 類義猿に烏帽子山猿の冠 かん、 狼の衣。 用例社会を遍歴しない安っぽいただの自己 にとっては、モラルなどは沐猴にして冠する <645> ものだろう。モラルは客観的な歴史的社会を 遍歴して自己に還かえるモーラリティーのこと 以外にはないので、この気取ったフランス語 に誤られてはならぬ。〈戸坂潤◆思想として の文学〉 もっこう木梗の患い 旅先で事故に遭い、無事に故郷に帰れないの ではないかという心配。▷木梗‖木製の人 形。 出説苑ぜいえん 故事)中国の戦国時代、孟嘗君 もうしょ うくん が秦しんに 行こうとしたとき、ある人がそれをとめて、 木の人形が土の人形に「おまえは土でできて いるから大雨が降れば必ず溶けてこわれるだ ろう」と言うと、土の人形は「自分はこわれ ても自然の土にもどるのだからいいが、おま えは木でできているのだから、大水が出れば どこへ流されて行くかわからないではない か」と答えたという寓話を話し、今あなたが 秦へ入れば、この木の人形と同じ災いがふり かかる心配があると言った。孟嘗君はこれを 聞いて、秦に行くのをやめたという。 持ったが病やまし なまじ持ったばかりに苦労や悩みが生じると いうこと。子供や金のことについていう。ま た、持って生まれた病気や良くない性格など は、治しようがないということ。「持ったが 因果」ともいう。 持った棒で打たれる 自分のしたことが原因で、自分が損害をこう もっこうーもとのい むるたとえ。自分の持つ棒を相手に与えて、 その棒で打たれることから。「持った棒で叩 かれる」「持った棒で食らわされる」ともいう。 持った前にはつくばう 金を持っている者の前では、頭を下げるのが この世のならいであるということ。▷つくば う∥平伏する。うずくまる。 類義金が言わせる旦那 だん。 な 持てば殿様。 持った病は治らめ 生まれつきの性格や癖などは、なかなか変わるものではないということ。 類義三つ子の魂百まで。噛かむ馬はしまい まで噛む。跳はねる馬は死んでも跳ねる。 以て六尺の孤を託すべし 出論語ろんご 誠実で信頼できる人物のたとえ。みなしごの 幼君を、安心して預けられる人物という意か ら。「六尺の孤を託すべし」ともいう。△六 尺∥十五歳以下の男子。六尺は当時の尺度で 約一三八センチメートル、当時の十五歳前後 の身長に相当する。孤∥みなしご。「六尺の 孤」はここではみなしごの幼君をいう。 持つべきものは子 のはないということ。 ほかの何物にも代えることができないほど価 値のあるものは、わが子であるということ。 他人ではやってくれないようなことでも、喜 んで尽くしてくれるわが子ほどありがたいも 本木に勝る末木なし 何回取り替えてみても、結局は最初のものが いちばんよいということ。幹よりもすぐれた 枝はないという意から。多く夫婦関係につい て言う。▷本木‖木の幹。また、根もとの部 分。末木‖樹木の先端の部分。こずえ。枝。 類義女房は変えるほど悪くなる。 用例一まァ、この人は、物事を悪い方にばっ かり考えるんだよ。男ってものは新色が出来 ると其の当座は誰しも夢中になって逆上のぼせ るものだとさ。だけれども元木にまさる裏木 はないやね、じっと辛棒さえしていればいつ か実意が通るからさ。(後略)〈永井荷風 腕くらべ もとでな 元手無しの唐走り 身のほどを知らないこと。また、無意味なこ と。商品を買いつける元手の金もないのに、 中国まで仕入れに行くという意から。 類義銭無しの市立だち。 もとむくはじかえ 本に報い始めに反る 出礼記 人間がこの世に存在する根本となっている天 地や祖先に感謝し、その恩に報い、その発生 のはじまりに思いを致すべきであること。も とは、祭礼の大切さを説く語。「報本反始 ほうほん はんし 」ともいう。 もと いちぶ すえ いちじょう 本の一分は末の一丈 何事も、最初が大切であるということ。はじ <646> もとのさーものいわ あはわずかの差であったものが、後には大差 となって現れるということから。 もと さや おさ 元の鞘へ収まる 離縁した夫婦や仲たがいした者が、再び以前 と同じような関係に戻ること。鞘から抜かれ た刀が再び元の鞘に収まるという意から。 用例閑院かん氏の手記やその後の一問一答を 見れば分るけれども、彼の真意はなんとかし て妹を元のサヤへ戻したいのである。けれど も、華頂氏の決意は断乎だんたるものであるし、 妹の態度はアイマイで、いまだに目がさめな い。〈坂口安吾◆安吾人生案内〉 元の妻に仲人なし 元の妻と復縁する場合は、改めて仲人を立て る必要はない、復縁に儀式は不要であるということ。「元の女房に仲人なし」ともいう。 元の木阿弥 もともくあみ いったんよくなったものが、再びもとの悪い 状態にもどってしまうことのたとえ。 補説語源には、戦国時代の武将筒井順慶 つついじの父順昭じゅんが病死したとき、順慶が幼 ゅんけい かったので遺言により死を隠し、顔や声のよ く似た木阿弥という盲人を招いて身代りとし た。そして順慶が成長した後、城主順昭の死 を公表し、木阿弥はもとどおりの身分に戻さ れたという話から出たという説、また、妻を 離縁して出家した男が木食もく(穀物を食べず 木の実だけを食べる)の修行をして、木食上 人、木阿弥と呼ばれて尊ばれたが、年老いて 心身が弱り、修行も怠りがちになって、元の 妻のもとに戻ったので、世人があざけって「元 の木阿弥」と呼んだという話から出たという 説がある。他にも異説がある。 類義元の木庵 もく。 あん 元の木椀 もく。 わん 用例玄徳は、別れを告げた。かくて彼は、 関羽、張飛のふたりにも、事態をつげて、平 原をさして行った。洛陽らくには入ったが、つ いに、何物も得るところはなくーーである。 従兵馬装、依然として貧しき元の木阿弥だっ た。〈吉川英治◆三国志〉 あた 求めよ、さらば与えられん 自分から進んで努力すれば、必ずよい結果が 得られるという教え。 補説『新約聖書』マタイ伝にあることばで、 Ask, and it shall be given you.の訳語。も とは、ひたすら神に祈れば、神から正しい信 仰心を与えられるであろうという意で、聖書 では、このあとに「尋ねよ、さらば見いださ ん。叩たけよ、さらば開かれん」と続く。 元も子も失う すべて失ってしまうこと。元金も利子も全部 なくしてしまうという意から。「元子もとを失 う」ともいう。△元∥元金。子∥利子。 用例え?その種あかしですか?そればッかりはカンベンして下さい。それを知られてしまえば元も子もなくなるのでしてな。ま、私は私なりに発明した手法などがありましてな。他の業者にもそれを知られてしまえばこんな不都合はありませんでな。坂口安吾◆ 心靈殺人事件 もとすすえおさ 本を舎てて末を治む 出六韜 物事の根本となることを捨てて、本筋からは なれたどうでもよいことを問題にすること。 ∇舎てる∥捨てる。 物言えば唇寒し秋の風 無用のことを言うと災いを招くということ。 人の短所をけなしたり、自分の長所を自慢し たあとは、不快な気分になるということから。 「物言えば唇寒し」だけでも用いる。 補説松尾芭蕉ばしの座右の銘にある句で、 この句の前に「人の短をいふ事なかれ、己が 長をとく事なかれ(人の欠点をそしったり、 自分の長所を自慢したりしてはならない)」 とある。 類義口は禍わざの門もん。 対義思う事言わねば腹ふくる。 英語Your lips hang in your light. [あなたの唇はあなたの明かりより先に出ている (あなたの口があなたの利益を減らしている) 用例実を云いえば、それどころの話ではない。もうすでに私は、「なにかをしようとする」自分のうちに、底しれぬ別の淋さびしさを発見する。もの云えば唇寒しの、あの心懐とややちかいしかし、それともいくぶんちがった、一種の空虚感である。〈岸田国士・日本人とは?〉 物言わずの早細工 無口で目立たない者が、仕事をさせると意外 <647> に早く上手にやってのけるということ。また、能力のある人は、むだ口をたたかず仕事も早いということ。 対義口叩たたきの手足らず。 はら 腹ふくる120 物数言えば屑が出る 口数が多いと、ついつまらないことを言って、 自分の欠点や弱点をさらけ出してしまうということ。多言を戒めることば。 ものな 類義月満つれば則ち虧く。 物が無ければ影ささず 何事も、原因がなければ結果は起こらないと いうこと。物体がなければ影ができないという意から。 類義 蒔 ま かぬ種は生えぬ。打たぬ鐘は鳴ら ぬ。火の無い所に煙は立たぬ。 物盛んなれば則ち衰う 物事は盛んになると、やがて必ず衰え始める のが自然の道理である。いつまでも盛んなも のはないということ。「物盛りなるときは衰 う」ともいう。 補説出典には一日中すれば則ち移り、月満 つれば虧かく太陽が南中すると傾きはじめ、 月は満月になると欠けはじめる。物盛んな れば則ち衰うるは天の常数(天の定め)なり」 とある。 出戦国策 ものいわーものはい 物種は盗まれず 血筋は争えないもので、子は親に似てしまう ということ。∇物種∥血筋・血統の意。 類義子供と芋種は隠されぬ。 ものだね 物種は盗めるが人種は盗めず 植物の種は盗むことができるけれども、人間 の子種は盗むことができない、ということ。 また、血は争えないということ。∇物種∥こ こでは、植物の種。人種∥血筋・血統の意。 もの 物には時節 物事にはそれをするのに適した時機があると いうこと。時機を考えずに、何でもやればよ いというものではないという戒め。「物は時 節」「事は時節」ともいう。▶時節‖時機。 好機。 ものひっしあことこぜんあ 物に必至有り事に固然有り 出史記しき 物にはすべて、必ずそうなるという到達点が あり、事には本来そうあるべき道理があると いうこと。▽必至∥必ずそうなること。固然 ∥本来そうであること。 補説出典では、孟嘗君 もうしょ うくん (中国、戦国時 代の斉の王族)に対し、馮驩 ふう かん という食客が、 このことばについて「生きる者必ず死有るは 物の必至なり。富貴士多く、貧賤 ひん せん 友寡 すく な き は事の固然なり(生きている者は必ず死ぬと 決まっている。また、人は富貴になれば集 まってくる者が多くなり、貧賤になれば友が 少なくなるのは当然の理である)」と説明し ている。 もの ほんまつあことしゅうしあ 物に本末有り事に終始有り 出大学だいがく 何事も順序をわきまえるのが大切であるということ。どんなものにも、根本的なものと末梢まっし よう的なものがあり、どんなことにも、始めと終わりがあるということ。△本末‖「本」は基本的なこと。もと。「末」はささいなこと。終始‖始めと終わり。 補説出典には、このことばに続いて「先後 せん こうする所を知れば、 則 すな わ ち道に近し(本末や 順序をわきまえて重要なことから処理すれ ば、その道に達することができる)」とある。 ものいことき 物は言いなし事は聞きなし 同じことでも、言い方次第で相手によく受け 取られたり悪く取られたりする。また、同じ ことばでも、聞き方によって気分がよくなっ たり不快になったりするものだということ。 単に「物は言いなし」ともいう。△言いなし 言い方。聞きなし聞き方。 類義物も言いようで角が立つ。丸い卵も切 りようで四角。 もの い のこ さい く のこ 物は言い残せ菜は食い残せ ことばと食事は、ひかえめなのがよいという こと。思ったことを全部言ってしまわないほ <648> ものはいーももくり うが慎みがあってよく、また、出された料理 は少し残したほうが品がよい。 物は祝いがら 物事は何でも、祝っておけばよくなるもので あるということ。縁起が悪いとされているこ とでも、うまく言い直したり祝い直したりす れば、そのとおりにめでたくなるということ。 もの おお もっ いや な 物は多きを以て賤しと為す 出白居易ー詩 物は多くあると値段が安くなるということ。 補説)詩の題名は『筓 たけ のこ を食す』。「此この州 は乃 すな わ ち竹の郷さと、 春筓 しゅん しゅん 山谷 さん こく に満つ。 山夫 さん ぷ 折りて抱ほうに盈みち、抱え来りて早市 そう し に鬻ひさぐ。物は多きを以て賤しと為し、双 銭 そう せん 一束いいに易かう(ここは竹の産地で、山に は春のたけのこがいっぱいある。山の男がそ れを折ってたくさんかかえ、朝市で売ってい る。たくさんあると値段が安くなるもので、 銭二枚で一たば買える)」と歌っている。 もの物は相談そうだん 一人で考えこんでいないで、だれかに相談し てみると、案外うまくいく場合があるという こと。また、相手に話を持ちかけたり知恵を 借りたいときの前置きのことば。 類義物は談合。 もの物は試し どんなことでも、やってみないと結果はわか らないものだから、とにかくまず試してみる べきであるということ。 用例ところで、今度ここを立退 たちくについて、家屋はむろん取毀 とりこれるのであるから、 この機会に床下その他を検 あら めてもらいた い。あるいは人間の髑髏 どく か、金銀を入れた 瓶かめのようなものでも現れるかも知れない と、その主人がいうのだ。成程そんなことは 昔話にもよくあるから、物は試しにその床下 を発掘してみようということになると、果し て店の梯子ごの下あたりと思われるところ、 その土の底から五つの小さい髑髏が現れた。 但しそれは人間の骨ではない、いずれも獣の 頭であることが判わかった。〈岡本綺堂◆月の 夜がたり 物は宜しき所あり材は施うる ところ 所あり 出韓非子 人を用いるときは、適材を適所に配することが大切であるということ。物にはそれぞれに適した使い道があり、人材もそれにふさわしい地位や職があるという意から。 補説出典には、これに続いて「各 おの 其その 宜しきに処る、故ゆえに上下 しょ うか 為な す無し君 主が臣下のそれぞれに適した任務や地位を与 えれば、上下の間に何のいざこざも起こらな い」とある。 もの 物も言いようで角が立つ 同じことでも、言い方によって相手に不快な 感じを与えることがあるから、ことば遣いに は気をつけなければならないということ。 「丸い卵も切りようで四角、物も言いようで 角が立つ」と続けてもいう。 類義物は言いなし事は聞きなし。 物用いられざる所無し 出淮南子えなんじ 世の中に役に立たないものは一つもない。ど んなものでも何かの役に立つということ。 補説出典には「物は用いられざる所莫なし。 天雄てん烏喙うかは薬の凶毒なるものなるも、良 医は以もって人を活いかす(天雄や烏喙は猛毒の 薬だが、よい医者はこれを使って人を生かす ことができる)」とある。 紅葉の中の常磐木 どんな場合でも、周囲の状況に染まらず、節 操を守ることのたとえ。秋になって他の木々 が紅葉しても、常緑樹はいつも緑の葉の色を 変えないという意から。 もめんぬのこもみうら 木綿布子に紅絹の裏 つり合いがとれないことのたとえ。また、外 見よりも中身のほうがすぐれていること。粗 末な木綿の綿入れに、ぜいたくな紅染めの絹 の裏地をつけるという意から。▷布子‖木綿 の綿入れ。紅絹‖紅色に染めた薄い絹布。 類義匕首あいちに鍔つばを打ったよう。 ももくりさんねんかきはちねん 桃栗三年柿八年 芽が出てから実がなるまでに、桃と栗は三年、 <649> 柿は八年かかるということ。何事も成就する までには、相応の年数が必要だということ。 補説同様な言い方が各地にいろいろとあ り、このあとに「柚ゆずは九年(でなりかかる)」 「枇杷びわは九年でなりかねる」「柚は遅くて十 三年」「梅は酸すいとて十三年」「柚の大馬鹿 十八年」などの句がつけられる。 股を割いて腹に啖わす 出貞観政要 目先の欲望を満たそうとしてかえって身を滅 ぼすこと。自分のもの肉を切り取って空腹 を満たしても、自分の身は滅びるということ から。「脛はぎ(足の肉)を割きて腹に啖わす」 「股を割いて腹に充みたす」ともいう。 補説)中国唐の太宗 たいが君主としての心得を 説いたことばの一節。出典には「若もし百姓 ひゃく せい を損じて以もって其その身に奉ぜば、猶なお を割きて以て腹に啖くらわすがごとし。腹飽 きて身斃たおる(もし人民を犠牲にして君主に 奉仕させたとしたら、それは自分の足の肉を 切り取って空腹を満たそうとするようなもの である。腹はいっぱいになっても、その身は 死んでしまう」とある。 流れて踵かかに至るとある。 もも しよ せんごくさく 股を刺して書を読む 出戦国策 一生懸命に学問にはげむことのたとえ。自分 のももを傷つけ、その痛みで眠気を払って書 物を読む意から。 補説出典には「書を読みて睡ねむらんと欲す れば、錐きりを引きて自ら其その股を刺し、血 故事)蘇秦 (中国、戰国時代の遊説家。全 盛時には六か国の宰相を兼ねた)がまだ無名 だったころ、夜に本を読んでいて眠くなると、 きりで自分のももを刺し、傷の痛みで眠気を 払い、読書を続けたという。 ももをさーもんこを 類義頭らを懸かけ股を刺す。 貰い物で義理すます よそからもらった品物を別の人のところに回 して、つきあいの義理を果たすこと。 類義人の物で義理をする。人の牛蒡ごぼで法 事する。 もらときじぞうがお貰う時の地蔵顔 人から物をもらうときは、にこやかで機嫌の よい表情になるということのたとえ。 類義借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔 顔。 もらものなつこそで 貰う物は夏も小袖 い苗は育たない」とある。 欲が深いことのたとえ。ただでもらえる物な ら、たとえ夏に絹の綿入れ(冬に着るもの)で あっても、喜んでもらうという意から。「戴 だく物は夏も小袖」「下さる物なら夏も小袖」 ともいう。△小袖ニ絹の綿入れ。 貰うた物は根が続かぬ 茂林の下に豊草無し 茂林の下に豊草無し 出塩鉄論 上の者の力が大きすぎると、下にいる者が伸 びないということ。樹木がよく茂った林の中 では、草は豊かに育たないという意から。 出塩鉄論 人からもらったものは、それを手に入れるた めの苦労をしていないために大切にしないか ら、長い間身につかないということ。△根が 続かぬ‖長続きしない。 補説出典には、このあとに「大塊の間に 美苗びび無し(大きな土のかたまりの間ではよ 類義貰い物は能持じが無い。 有用な物でも使い方しだいで自分に危険が及 ぶということ。両側に刃のついている剣は、 人も切るが、使い方を誤ると自分も傷つける ことがあるということから。▷両刃=刀剣な どで、身の両面に刃のあるもの。「りょうば」 とも読む。「諸刃」とも書く。 用例神が宇宙に隠しておいた原子力という 宝剣を嗅ぎつけ、捜し出し、ついに手に入れ た人類が、この両刃の剣を振っていかなる舞 を舞わんとするか?〈永井隆◆長崎の鐘〉 もんがいかん門外漢 直接関係のない人。また、その分野の専門家 でない人のこと。まだ門の中に入っていない 人という意から。∇漢∥男の意。 もんがいじゃくらもう もんぜんじゃくらは 門外雀羅を設くべし 門前雀羅を張 る50 る 650 もんこ門戸を成す 出梁書りようしょ 学問や政治などで一派を立てること。また、 一家を興すこと。「門戸を張る」「門戸を構え <650> るともいう。 もんじゅちえ どんなにすぐれた人も、時には失敗することがあるということ。知恵をつかさどる文殊菩薩でさえも、誤りがあるということから。類義弘法にも筆の誤り。孔子の倒れ。猿も木から落ちる。 門前市を成す 出漢書かんじょ 人が多く押し寄せること。地位や名声を慕って集まってくる人が多いこと。また、商売が繁盛して、大勢の客でにぎわっていること。まるで門の前に市が立ったように、多くの人が集まっているという意から。 類義門前市の如ごとし。門庭市の若ごとし。 対義門前雀羅じゃを張る。 もんぜんじゃくらは 門前雀羅を張る だれも訪れる者がなく、ひっそりとしてさび れていること。訪れる人がいないため、門の 前には雀 が群がり遊んでいて、網を張って 捕らえることができるという意から。「門前 雀羅を設くべし」「門外雀羅を設くべし」と もいう。また、単に「門前雀羅」ともいう。 ∇雀羅∥雀を捕らえる網。 類義閑古鳥が鳴く。 對義 門前市を成す。 もんぜんこぞうならきようよ 門前の小僧習わぬ経を読む 見聞きしていると、教わらなくても自然に覚 えてしまうものであるということ。人は、自 分の置かれている環境に強く影響されるというたとえ。寺の門前に住んでいる子供は、いつも僧の読経を聞いているので、習わなくても自然にお経を読めるようになるという意から。いろはがるた(江戸)の一。 類義寺の辺の童は習わぬ経を読む。知者 の辺の童は習わぬ経を読む。勧学院かんが の雀 すず は蒙求 ゆう もうぎ を囀 さえ ず る。鄭家 てい か の奴 やっ こ は詩を うたう。 対義習わぬ経は読めぬ。 英語 A good candleholder proves a good gamester.立派な(人の手元を照らす)蠟燭ろう持ちは立派な賭け事師になる 門に入らば笠を脱げ どんな場合でも、礼儀を心掛けよということ。 また、挨拶は機会をのがさないようにしなけ ればならないということ。他人の家を訪れて 門を入ったら、笠を脱ぐのが礼儀であるということから。 類義会うた時に笠を脱げ。 もんよのぞいもんぼう 門に倚りて望む↓倚門の望74 し、弟の孫権が兄の死を哭〜〜死者をとむら う礼として大声をあげて泣き叫ぶ葬儀)して いたとき、孫策の副官だった張昭が、「今や 天下には残酷な者どもがあふれて力を競い 合っている。こんなときに兄の死を悲しんで 哭しているのは、門を開いて盗賊を迎え入れ るようなものである」と忠告したという。 もんひら 門を開きて盗みに揖す 自分から進んで災難を招くこと。わざわざ門 を開けて、うやうやしく盗人を迎え入れる意 から。▶揖す∥会釈する。また、会釈して招 き入れること。 出二国志 故事 中国三国時代、 呉の国主の孫策が死亡 やいば で さび と といし 刃から出た錆は研ぐに砥石が よい ない 自分の過ちによってこうむる被害は、あきら めるほかないということ。 類義身から出た錆。 やいぼき ちょうほう 刃は切れるが重宝 道具は、その本来の用途にすぐれていることが肝心で、装飾などはどうでもよいということ。刃物は切れるのがよいということから。 やおちょう 八百長 勝負事で、事前に勝ち負けを打ち合わせてお いて、うわべだけの勝負をすること。 補説江戸時代末期、八百屋の長兵衛 いう男が、相撲会所筆頭(現在の相撲協会理 事にあたる人)とよく碁を打ち、実力は自分 のほうが上でありながら、勝ちを譲ってご機 <651> 嫌をとったという話から出たことばといわれ る。 野鶴鶏群に在り鶏群の一鶴216 652 やかんしんじん薬缶信心 やかんの中のお湯のように、熱しやすくさめ やすい信心のこと。長続きしない信心をひや かしていうことば。「薬缶道心」ともいう。 やかんゆたこ 薬缶で茹でた蛸 手も足も出ないことのたとえ。また、中に閉じこもったまま動かないことのたとえ。 焼きが回る 年をとったりして、思考力が衰えたり腕がに ぶったりすること。刃物を鍛えるとき、火が 回りすぎるとかえって切れ味が悪くなること から。 用例「少し変ですねえ」健三にはどう考えても変としか思われなかった。「変だよ」兄も同じ意見を言葉にあらわした。「どうせ変にや違ない、何しろ六十以上になって、少しやきが廻まわってるからね」〈夏目漱石◆道草〉やとりへお 堯き鳥に攣 類義 刃金はがねが棟むねへ回る。 というたとえ。逃げるはずのない焼き鳥に足 ひもをつける意から。「焼き鳥にも攣をつけ よ」ともいう。△攣=鷹が逃げないように、 足に結びつけるひも。 用心しすぎるくらいに用心するためとえ。また、いくら用心しても、しすぎることはないやかくけーやくせき 類義 石橋を叩 たた いて渡る。 念には念を入れ よ。 焼餅は膨れながら熱くなる 餅を焼くと熱くなるにつれて膨れるように、 嫉妬も高じてくるにつれて、どうにもならな くなるということ。∇焼餅=火であぶった 餅。また、嫉妬。ここでは両方を掛けている。 やもちやてや あっ 焼き餅焼くとて手を焼くな やきもちも度が過ぎると、災難を招きかねないので、ほどほどにしなければならないということ。焼き餅を焼いてもあとの処置に困るような焼き方をするなという意で、「焼き餅」を「嫉妬やき」に、「手を焼く」を「処置に困る、もてあます」に言い掛けたもの。 焼きを入れる だらけた気分やゆるんだ規律を引き締めるために制裁を加えること。刃物に焼き入れをする意から。リンチや拷問の意で用いられることもある。▶焼き‖焼き入れ。金属に熱を加えて高温になったものを急に冷やす作業。これによって堅さが増す。 たちが関係者として名を連ねること。歌舞伎 などの俳優が勢ぞろいすることから。▷役者 俳優。転じて、弁舌・才知などの優れた人。 やくしゃとし やくしゃ役者が揃う 何かをするのに必要な人が全部集まること。 また、才能やユニークな個性などをもった人 役者に年なし 役者は、どんな年齢の役でもうまくこなして 演じることができるということ。また、役者 は年齢とともに芸に磨きがかかり、いつまで も若々しいことをいう。「芸人に年なし」と もいう。 類義役者は年知らず。 葉石効なし 出唐宣宗命二皇太子即位冊文 あらゆる薬や治療を施してもききめがないこ と。人が病気で死ぬことをいう。∇薬石=薬 と石鍼いし。転じて、薬剤の総称。 補説中国唐の宣宗 せんが、自分の病気が重い ことを皇太子に告げたときのことばの一節 で、出典には「惟これ天てん譴けんを示して、疚 きゅ う を躬みに降くだす。薬石功無く、弥留びり に迫れり(天は、私が徳のある政治を十分に 行わなかったとがめを、病として私に与えた。 あらゆる薬による治療もききめがなく、病は 重くなった」とある。 やくせき葉石の言げん 薬石の言 出身のためになる戒めのことば。忠言。病気を 治す薬や治療器具のように役に立つことばと いう意から。▷薬石‖薬と石鍼いし。転じて、 薬剤の総称。中国古代の治療器具。 <652> ちゅうい 薬せざるを中医という へたな治療をして病気をこじらせるよりも、 何もしないでいたほうが、ふつうの腕前の医 者にかかったのと同じくらいの効果があると いうこと。うっかりやぶ医者にかかると、か えって病状が悪化するという皮肉のことば。 類義病有りて治めざるは常に中医を得。 やくこんおお 役人多くして事絶えず 役目を持っている人が多すぎると、物事の処 理が煩雑になり、まとまりがつかなくなると いうこと。∇役人∥役を受け持つ人。 類義船頭せんどう多くして船山へ登る。 疫病神で敵をとる 自分から手を下さなくても、意外な好機が訪 れて、自然に目的を達すること。敵に疫病神 が取りついて命を奪ってくれるので、こちら は何もしなくても敵討ちができるという意か ら。「疫病神で讐あだをとる」ともいう。 やくろうちゅうものじかやくろうちゅうもの 薬籠中の物 ↓自家薬籠中の物 284 焼け跡の釘拾い 大金をむだ使いしたあとで倹約すること。火 事で家が焼けたあとで、焼け釘を拾っても、 何の埋め合わせにもならない意から。「火事 あとの釘拾い」「焼け庭の釘拾い」ともいう。 やいしみず 一焼け石に水 焼けて熱くなった石に多少の水をかけても、 石をさますことはできないことから。 類義焼け石に雀 すず め の涙。 援助や努力がわずかで、何の効果もないこと。 英語 What is a pound of butter among a kernel of hounds? 猟犬の群れに1ポンドのバターを与えても何になろうか 用例そして伝平は、雀が餌を運ぶように して、三十銭五十銭と持って帰るのであった が、その端金はしたはまるで焼け石へじゅうじゅ うと水を滴たらすようなものであった。佐左 木俊郎◆馬 焼けた後の火の用心 時期に遅れて間に合わないこと。火事を起こ したあとで火事の用心をする意から。「焼け た後の火の回り」ともいう。 類義火事あとの火の用心。生まれた後の早 め薬。 や 焼けたあとは立つが死んだあ とは立たぬ 家が焼けても立て直せるが、人が死んでし まっては取り返しがつかないということ。 焼け面火に懲りず 失敗に懲りずに同じことを繰り返すこと。顔 にやけどをしても懲りずに、また火にあたる 意から。「火傷やけど火に懲りず」ともいう。 焼け野の雉子、夜の鶴 子を思う親の愛情の深いことのたとえ。雉 は巣のある野原が焼かれると、わが身の危険 を忘れて火の中に戻って子を救おうとし、巣 ごもる鶴は霜の降りる寒い夜に、自分の翼で 巣の中の子を守るということから。「夜鶴 子を思う」ともいう。また、単に「焼け野の 雉子」「夜の鶴」ともいう。「雉子」は「雉」 とも書く。 対義 跳ね火、子に払う。熱火、子に払う。 やぼっくいひやす 焼け木杭には火がつき易い 過去に関係のあった者同士は、一度縁が切れ ても、また元の関係にもどりやすいものであ るということ。焼けこげた燃えさしの杭くに は火がつきやすいという意から。特に男女関 係についていう。「焼け木杭に火がつく」「燃 え杭には火がつき易い」ともいう。 英語MOOMNHHHH 矢弦上に在り、発せざるべか らず 出 陳琳一為二袁紹一檄二予州一・注 物事はいったん着手したからには、中止する わけにはいかないということ。矢を弦るにつ がえたからには、射ないわけにはいかないと いう意から。 故事中国後漢の末期、曹操 そうが袁紹 えんし と 戦ったとき、名文家の陳琳 ちん りん が袁紹のために 曹操弾劾の檄(決起の通告文)を書いて諸将 に発した。袁紹の敗死後、曹操は陳琳の才能 を認めて臣下に加え、「君はあの檄文の中で、 私の罪だけを責めればいいものを、なぜわが <653> 父祖まで責めたのか」と尋ねた。そこで陳琳 は「あのときは、矢が弦につがえられていて、 射ないわけにはいかなかったのです」と答え て謝った。曹操はその文才を愛して、それ以 上とがめなかったという。 やしなおやおよものみそなん 養い親に及ぶ者は身其の難に かわ 更る 出説苑 自分の親まで養ってくれた人が苦しんでいる ときは、自分が身代わりになってその恩に報 いるということ。 故事中国春秋時代、斉の宰相晏子 し が、主 君の景公から疑いをかけられて国外に去ろう とした。このとき、かつて晏子の情けで母を 養うための食糧を得たことのある北郭騒 ほっか くそう という男が、景公にこのことわざを引いて晏 子の無実を説いた後、自殺した。景公は驚い て晏子を呼びもどしたという。 やしなところもっそやしなところ 養う所を以て其の養う所を がい 害せず 出列子 やしな あい これ しこう 養って愛せざるは之を豕交 手段のために目的を見失わないということ。 衣食や財産などは人間を養うために必要だ が、それを守るために、養う本体である生命 を害するようなことはしないという意から。 補説 牛欠 ぎゅう けつ という学者が追いはぎにあい、 衣服や乗り物まで全部取られたが、少しも 困ったようすがなかったので、盗賊たちが不 思議に思って理由を尋ねたとき、牛欠が答え たことば。 やしないーやすもの 出孟子もうし 人を養うのに、食べさせるだけで愛情をもって接しないのは、人を遇する道とはいえないということ。▷豕交=「豕」は豚。「豕交」は豚扱いすること。 補説出典には「食やしいて愛せざるは之を豕 交するなり。愛して敬せざるは之を獣畜 するなり(愛するだけで敬う心がないのは、 犬や馬のような獣として飼っているようなも のだ)」とある。賢者を遇するには、禄ろだ けでなく、愛情と恭敬の心がなければならな いとする孟子のことば。 夜食過ぎての牡丹餅 時機が過ぎて、値うちがなくなることのたと え。夜の食事がすんで満腹の状態で、ぼたも ちをもらうということから。 社の鼠 社鼠の患い 303 が当然だということ。 やすもの 安い物は高い物もの 安い物は得のようだが、品質も落ちるので、 じきに修理したり買い替えたりする必要が生 じて、結局は高い買い物をしたことになると いうこと。「安物やは高物たか」ともいう。 類義」安物買いの銭失い。 安かろう悪かろう 値段の安いものは、安いなりに品質も悪いの やす たいざんこと 安きこと泰山の如し 出漢書 どっしりと落ち着いて動かないようす。マ泰 山=中国山東省にある名山。「太山」とも書 く。 補説出典には「天下の安きこと、猶なお泰山 にして之これを四維しいするがごとし(天下が安 らかに治まっているさまは、泰山のように どっしりと落ち着いており、さらにこれを四 本の綱でつなぎ止めているようなものであ る)とある。 やすあやわすちいらん 安きに危うきを忘れず♩治に居て乱を 忘れず420 やす安きを儉む 目先の安楽をむさぼり、将来のことを考えな いこと。一時しのぎ。「偸安」ともいう。 ぜにうしな 安物買いの銭失い 値段の安い物は、それなりに品質が悪くて使 い物にならなかったり、すぐに壊れたりして、 かえって損になるということ。いろはがるた (江戸)の一。 類義安い物は高い物。 英語 Light cheap, lither yield. [安物は割高につく] 用例「わたしはあれを買った万さんを識しっ ているが、安物買いの銭うしないで、とんだ 食わせものを背負しょい込んだと、しきりに滾 こぼしぬいていましたよ。はははははは」(岡 <654> やすりとーやっこに 本綺堂◆半七捕物帳 ちが鑢と薬の飲み違い ちょっと聞いただけでは似ているが、実際は 大違いであるということ。また、早合点や早 とちりをすること。「や(八)すり」と「く(九) すり」で、数は一つしか違わないのに全然違 う物であることをおもしろく言ったもの。 痩せ牛も数たかれ 力の弱い者でも、集まって力を合わせれば大 きな力を発揮できること。痩せて力の弱い牛 でも、数多く集まれば、重い荷物を引くことが ができるということから。∇たかれ=「たか る(集まる)」の命令形。 また、非常に痛々しいようす。「痩せ馬に針立てる」ともいう。 やうで痩せ腕にも骨ほね 非力な者でも、それ相応の意地や誇りを持っているということ。弱いからといって見くびってはならないということ。痩せて力のなさそうな腕にも、堅い骨が通っているという意から。 類義一寸の虫にも五分の魂。 瘦世馬に重荷 実力不相応の大きな仕事や重い責任を負わせ ることのたとえ。痩せて力のない馬に重い荷 物を背負わせる意から。「痩せ馬に十駄」 ともいう。 やうまこえおど 痩せ馬の声嚇し 実力のない者が口先だけ威勢のよいことを言 うことのたとえ。痩せて貧弱な馬が、体に似 合わず大きい声でいなないて人を驚かすこと から。 弱いものに、さらにひどい仕打ちをすること。 やうま痩せ馬に鞭 類義 痩せ子の大声。 痩せ子の声高 こえ。 だか 痩せ馬の道急ぎ 実力や才能のない者にかぎって、早く功を立 てようとあせることのたとえ。痩せた力のな い馬にかぎって、せわしげに道を急ぐという ことから。「弱馬よわ道を急ぐ」ともいう。 や うまむち おそ ひば べんすい おそ 痩せ馬鞭を恐れず ↓疲馬は鞭箠を畏れ ず 63 痩せ我慢は貧から起こる ず 563 不自由な生活を平気な顔でしのいでいる痩せ 我慢も、好きこのんでやっているわけではな く、貧乏でどうにもならないからであるということ。「痩せ我慢は貧乏から」ともいう。 類義伊達だての素足も無いから起こる。 どんな者にも保護者はいるということ。痩せ た弱い子にも、守ってくれる産土神はついて いる意。「痩せ子にも産神 がみ」ともいう。 産土=産土神。その人の生まれた土地の守り 神。 やご痩せ子にも産土 小さなことを処理するために、大げさな手段 を用いることのたとえ。 類義 大根を正宗 まさ むね で切る。 痩せても枯れても どんなに落ちぶれても意地や誇りを失ってい ないということ。どんなにやせ衰え、老いさ らばえて見えてもという意から。 類義腐っても鯛たい。 褴褸ぼろでも八丈。 対義尾羽打ち枯らす。 や おおぐ 痩せの大食い 痩せている人は、体に似合わず案外大食いで あるということ。 や 痩せ法師の酢好み 人間は、自分にふさわしくない物や、体に悪 いものを好むものだということ。痩せ細って いる僧が、飲むと痩せるといわれる酢を好む 意から。「痩せの酢好み」ともいう。 や 痩せ山の雑木 つまらないもの、取るに足りないもののたと え。痩せ山にわずかに生えている材質の悪い 木という意から。∇痩せ山∥地味が痩せてい て木などが育たない山。雑木∥材木として使 えない粗末な木。 やっこひげ 奴に髭がないよう そこにあるべきものがなくて、間が抜けてい <655> ることのたとえ。奴はふつう鎌髭 ひげ 鼻の下 から左右の頬へはね上げたひげ)を生やして いるのに、そのひげがないという意から。 奴‖江戸時代に、武家に仕えた奉公人。 や ハっ子も癇癪 八歳ぐらいの子供でも、言い分があるときに は泣きわめいたりして主張するということ。 ▶癇癪=ちょっとしたことにでもすぐに激怒 しやすい性質。また、その発作。 類義一寸の虫にも五分の魂。 や 二 矢でも鉄砲でも持って来い どんな手を使ってもいいから攻めてこい。弓 矢であろうが鉄砲であろうがどんな武器でも 受けて立つという意から。堅い決意を示すと きや自暴自棄になったときなどにいう。 用例中には矢でも鉄砲でも持ってこいなぞ と身体 だ をはる威勢のいい撃退組もあるが、 ハタから見ればこれも悲痛で感心できないも のがある。雅致がない。〈坂口安吾・文化祭〉 やとうちょうちん 柳風にしなう 悪人の手先となる者のこと。夜盗のために、 提灯に火をつけて足もとを照らしてやる意か ら。「盗人の提灯持ち」ともいう。 夜盗の提灯とぼし 宿取らば一に方角二に雪隠三 に戸締り四には火の元 昔、旅先で宿をとったときに、確かめるべき 注意事項を並べたことば。△雪隠∥便所。 従順で人に逆らわない者は、人から傷つけられることがないというたとえ。柳は風に吹かれるままになびくので、枝をいためることがないということから。 やつこもーやにいけ 柳で暮らせ 柳が風に逆らわずに枝をなびかせるように、 我がを張らず、時の流れに従って気楽に暮ら すのがよいということ。「世は柳で暮らせ」 ともいう。 やなぎ柳に風かぜ 柳の枝が風になびくように、相手に逆らわな いこと。また、相手が強い調子できても、さ らりとかわして巧みにあしらうことのたと え。「柳に風と受け流す」ともいう。 英語NORPLPISBST.PPLPASTPLPIST.PPLPASTPLPIST.PPLPAS 用例相手から、あまりしつこく口論を吹っ かけられた場合には、屹きつとなって相手の 顔を見つめ、やがて静かに、君も淋さびしい男 だね、とこう言え。いかな論客でも、ぐにや ぐにゃになる。けれども、なるべくならば 笑って柳に風と受け流すが上乗。〈太宰治 新ハムレット〉 やなぎかぜお やなぎゆきお 柳に風折れなし 柳に雪折れなし 655 柳に雪折れなし 柔軟なものは、剛直なものよりも丈夫で長持 ちすること。堅い木の枝は雪の重みで折れる ことがあるが、しなやかな柳の枝は曲がるだ けで折れないということから。「柳に風折れ なし」「柳の枝に雪折れなし」ともいう。 類義 柔能よく剛を制す。歯亡び舌存す。堅 い木は折れる。 英語 Cracked pots last longest. [ひびの 入った壺っぽがもっとも長持ちする] Threatened folks live long. [死に脅かされ ている者は長生きする] 私の健康法として何でも無理をしては いかん。私なんか風邪を引くとほとんど治る まで幾日でも凝乎家の中にこもっている。 柳に雪折れなしと言おうか、将棋でも無理筋 を指すと、王様が頓死する様なことがあるか らネ。〈関根金次郎◆本因坊と私〉 柳の下にいつも泥鰌は居らぬ 柳の下に泥鰌は居らぬ 67 柳は緑花は紅 出金剛経川老註 自然はいつも、理にかなったあるがままの姿 をしているということ。転じて、ごく当たり 前のことのたとえ。また、春の美しい景色の 形容にも用いる。 類義雨の降る日は天気が悪い。松は緑に藤 は紫。 野に遺賢なし 出書経しょきょう すぐれた人物はすべて認められて官吏に登用 され、政治がよく行われて国家が安定してい ることをいう。▽野∥民間。遺賢∥政府に認 <656> められず民間に残されている有能な人物。 補説)禹(中国古代の伝説上の聖王。やはり 伝説上の聖王の舜 主が君主たることの難しさを自覚し、臣が臣 たることの難しさを理解すれば、政治はよく 治まり、庶民は徳の養成に努めるでしょう」 と言うと、舜帝が「そのとおり。ほんとうに そうなれば、嘉言伏する攸 見が捨てられることもなく)、野に遺賢無く 万邦咸みな寧やすし(万国はみな安定するだろ う)と言ったという話による。 やはり野に置け蓮華草のれんげそう うことば。また、外見ばかり飾り立てること。 下手な医者ほど、患者を信用させようとして 玄関を立派にするということから。 すべてのものは、それぞれにふさわしい環境の中にあってこそ、真価を発揮できるものだということ。蓮華草のような野の花は、野原で自然の中に咲いているからこそ美しいので、摘んで家の中に飾っても周りと調和せず、美しく感じられないということから。 類義山師やまの玄関 補説「続俳歌奇人談 ぞくはいか によると、播磨 きじんだん はり 兵庫県の瓢水 ひよう という俳人が、遊女を すい 身うけしようとした友人を戒めて「手に取る なやはり野に置け蓮華草」と詠んだという。 やぶいしゃしちみちょうごう 一藪医者が七味調合するよう 時間ばかりかかって、らちが明かないさま。 たいしたことでもないのに、手間どってうま く進まないこと。藪医者が薬を調合する加減 がわからず、何度もやり直すという意から。 やぶいしゃげんかん 一藪医者の玄関 家とは不似合いに立派な玄関をあざけってい 藪医者の手柄話 実力のない者に限って、自分をよく見せよう として自慢話をしたがるものだということ。 やぶいしゃびようにんえら 藪医者の病人選び 実力のない者ほど、仕事をえり好みするもの だということ。未熟な医者は治療に自信がな いので、失敗しないよう患者をえり好みする という意から。「医者」は「薬師」ともいう。 やぶいしゃやくみだんす 藪医者の薬味箪笥 腕の悪い者ほど、道具にこだわるというたと え。藪医者ほど、立派な薬箱を備えていると いうことから。 類義下手の道具調べ。 藪から棒 せつなく、泣きたくなります。〈太宰治◆皮 膚と心〉 突然起こること。出し抜けであること。藪の 中から突然棒を突き出すということから。 類義復耳に水。窓から槍やり。青天の霹靂 へき。 れき 用例あの人にも、また、私の自信のなさが、 よくおわかりの様で、ときどき、やぶから棒 に、私の顔、また、着物の柄など、とても不 器用にほめることがあって、私には、あの人 のいたわりがわかっているので、ちっとも嬉 うれしいことはなく、胸が、一ぱいになって、 やぶ 藪に功の者 軽く見ていた者の中にも、案外すぐれた者が いるということ。草深い所にも立派な人物が いるという意から。「野夫やぶに剛の者」とも 書く。また、「藪」を藪医者の意として、藪 医者だといわれている者の中にも、名医がい るものだという意にも用いる。 やぶ 藪に黄金 こがね つまらない所に、思いがけず立派なものがあるということ。 やぶ 藪に馬鍬まぐわ できそうもないことを、無理やりすること。 藪の中で、馬鍬を使って土を掘り起こす意か ら。∇馬鍬∥牛や馬にひかせて田畑を耕す農 具。「まんが」「うまぐわ」とも読む。 類義木に縁よりて魚を求む。 藪に目くばせ よそ見をすること。また、そのことが秘密で あることを目で示す動作のこと。藪の方に向 かって目で合図するという意から。 藪の外でも若竹育つ 保護する者がいなくても、子供はなんとか自 分の力で育っていくということ。▷若竹=そ の年に生え出た竹。 類義 親はなくとも子は育つ。 <657> やぶ 藪の中の荊 なかいばら 出童子教 人間は、悪い仲間とつき合っていると、自然 に影響を受けて、よい人間にはなれないという たとえ。藪の中に生えるいばらは、周りの 雑草にからまってまっすぐには育たないこと から。▶荊いばら。とげのある低木。「う ばら」とも読む。 補説出典には「悪しき友に親近すれば、藪 の中の荊の曲まがるが如ごとし」とある。 類義朱に交われば赤くなる。 藪蛇藪をつついて蛇を出す657 類義雨降って地固まる。 破るる布も二重は久し 一人では力の弱い者でも、大勢集まれば強い 力になるということ。一枚では破れやすい布 も、二枚重ねれば長持ちするという意から。 類義単なれば折れ易やすく、衆なれば則 すなわち 摧くだけ難し。 破れても小袖こそで 本当に質のよいものは、いたんでも、本来の 値打ちを失わないということ。小袖は、たと え破れても絹のよさを失わないという意か ら。△小袖ニ絹の綿入れ。 類義腐っても鯛たい。 やぶ破れりや固まる 藪をつついて蛇を出す 失敗することで、かえって土台がかたまると いうこと。はれ物やでき物は、破れてうみが 出ると固まって治るということから。 やぶのなーやまいな よけいなことをして、かえって悪い結果を招 くこと。「藪蛇」「藪を突いて蛇を出す」「藪 を叩たたいて蛇を出す」ともいう。 類義 寝た子を起こす。手を出して火傷 やけ ど す 「英語」It is ill to waken sleeping dogs. 「眠っている犬を起こすのは間違いである」 「用例」お藤はソッと与吉のひじをついて、「ソ レ、ごらん、おまえさん。だから言わないこっ ちゃアない。藪をつついて蛇を出したじゃあ ないか」侍は威猛高だが、ツカツカと寄っ てきて、「コラッ!栗のいががいかがいたし たと?」〈林不忘◆丹下左膳〉 やまいあ おさ つねちゅう 病有りて治めざるは常に中 医を得 かんじょ 出漢書 へたな医者にかかって悪化させるよりも、何 もしないほうがましだということ。病気を治 療しないでほうっておくのは、平凡な医者に かかっているのと同じようなものであるという 意から。 類義薬やくせざるを中医という。 病膏肓に入る 病 春秋左氏伝 不治の病気にかかること。病気が重くなって 治療のしようがないこと。転じて、趣味や道 楽などに熱中して、手のつけようがないこと。 弊害などが手のつけられないほどになるたと え。病気が、治療の困難なところに入りこん だという意から。マ膏盲=「膏」は心臓の下 の部分。「盲」は横隔膜の上の隠れた部分。 ともに、治療できないところとされた。 注意「膏肓」の「肓」の字が「盲」と似て いるため、「膏盲」と書き誤ったり、「こうも う」と読み誤りやすい。 故事)中国春秋時代、晋しの景公が病気にな り、秦しから名医を呼んだ。医者が着く前に 景公は夢の中で、病気の精が二人の童子と なって「名医が来るから、針も届かず薬も効 かない盲の上と膏の下に隠れよう」と話して いるのを聞いた。医者が到着して診察し、「病 気が盲の上、膏の下にあるので治療の方法が ありません」と言ったので、景公は名医とし て厚くもてなしたという。まもなく景公は没 した。 病上手に死に下手 よく病気にかかるような人は、かえって長生 きするものだということ。 類義 病み上手に治り下手。 病と命は別物 病気になることと死ぬこととは別である。重 い病人だからといって健康な人より必ず早く 死ぬとは言えないし、健康な人が病人より長 生きするとも限らないということ。 病治りて医師忘る 人は苦しさから抜け出して楽になると、苦しいときに受けた恩をすぐに忘れてしまうもの <658> やまいなーやましの やまいな だということ。病気が治ると、治療してくれた医者のありがたさをすっかり忘れてしまうことから。「医師」は「薬師くす」ともいう。 類義喉元のと過ぎれば熱さを忘れる。暑さ忘れて陰忘る。 みずかきゅう 病無くして自ら灸す 出荘子 よけいなことをして、災いを招くこと。病気 でもないのに自分で灸をすえる意から。 補説孔子が大盗賊の盗跖 に道徳を守るよ に説いて盗跖を怒らせ、危うく殺されそう になった。逃れてきた孔子はげっそりして、 「丘(孔子の名)は所謂病無くして自ら灸 するなり。疾走して虎頭を料なで、虎須 編つ、幾ほとど虎口を免れざりしかな(のこの こと出かけて虎の頭をなで、ひげの所をなで るという無謀なことまでしてしまった。あや うくかみつかれるところだった」と言った という寓話から。 病に主なし 病気は、だれにでも取りつく。絶対に病気に かからない人はいないということ。 治るひまもないほど、いつも病気にかかっている人のことをいう。 病の紙袋 やまいまさし 病の将に死せんとするや良医 でも手の施しようがないということ。また、 滅びかかっている国は、どんな方法を用いて も立て直すことはできないということ。 を為すべからず 補説このあとに「国の将に亡ぴんとする や計謀 ぼうを為すべからず(国家が滅亡すると きには、どんな方法も無益である)と続く。 やまいいおこた 出説苑ぜいえん 病気で死にかかっている人間は、どんな名医 病は癒ゆるに怠る 病気は、治りかけるとつい油断して治療を怠 り、ぶり返したりすることが多い。治りぎわ にはとくに注意せよということ。 病は気から 病気は、気の持ちようで重くもなり軽くもな るということ。「病は気より」「百病は気から 起こる」ともいう。 英語 Fancy may kill or cure. 空想は人を 殺しも生かしもする 病は口より入り禍は口より出 出太平御覧 病気は口から入る飲食物が原因で、災いは口 から出ることばが原因で起こることが多い。 食物とことばには注意せよという戒め。 なかなか治らないということ。 補説 中国晋 の武帝に仕えた傅玄 ふげ のこと ば。 類義 禍は口から。口は禍の門もん。 禍は口よ り出で病は口より入る。 病は治るが癖は治らぬ やまいなおくせなお 病気は治すことができるが、身についた癖は、 病を知れば癒ゆるに近し 自分の欠点や弱点に気がつけば、それを改め るのも難しくないということ。何の病気であ り、原因が何であるかがわかれば、治療しや すく、治るのも早いということから。 英語 A disease known is half cured. 気を知れば半ば治ったようなものだ 出通書つうしょ 病を譲りて医を忌む 自分に欠点や過失があるのに、人の忠告を聞 こうとしないこと。病気があるのに医者にみ てもらうのをいやがる意から。 補説出典には「今人 じん 過ち有ありて人の規 ただ すを喜ばず(今の人は自分に過ちがあって も、人がそれを正してくれるのを喜ばない)。 疾 やま い を護りて医を忌むが如ごとし」とある。 山家に木なし 物は、たくさんあると思われる所にかえって ないものであるということ。山の中の家には 木がたくさんありそうなものだが、そういう 所にはかえって木がないということから。 山猿の冠、狼の衣↓沐猴にして冠す やまし山師の玄関げんかん 実質がないのに外観だけを立派に飾り立てる こと。山師は人の信用を得るために、玄関の 構えを立派にするということから。△山師 <659> 山林の売買や鉱産物の採掘などを行う人。転 じて、投機的な事業をする人や詐欺師。 類義 藪医者 やぶい しゃ の玄関。 やましやまはやまだやまは 山師山で果てる山立ちは山で果てる 659 山高きが故に貴からず 出実語教 外見が立派でも、内容が伴わなければ貴いと はいえない。外観よりも実質が大切であると いうこと。 補説出典には「山高きが故に貴からず、樹 き有るを以もて貴しと為なす。人肥こえたるが 故に貴からず、智ち有るを以て貴しと為す(山 は高いから貴いのではなく、木が茂っている から貴い。人も体格が立派だから貴いのでは なく、すぐれた知恵があるから貴いのだ」 とある。 山立ちは山で果てる 鳴くという意から。 得意な能力を持つ者も、油断すると、その能 力がもとで身を滅ぼすことがあるというこ と。山に慣れている猟師は、油断したために 山で死ぬことが多いということから。「山師 山で果てる」ともいう。∇山立ち∥猟師。 類義川立ちは川で果てる。 やまどりかがみむ 山鳥鏡に向かいて鳴く 出異苑 友を恋い慕う気持ちの強いこと。山鳥が鏡に うつる自分の姿を見て仲間だと思い、慕って やましゃーやまのこ 補説出典には、三年間も鳴かなかった鸞鳥 ちんち よう (中国の想像上の美しい鳥)に鏡を見せた ところ、仲間だと思って鳴いたという伝説が ある。これに基づくことば。 山に千年海に千年 うみせんやません 93 やまつまず山に躓かずして垤に躓く 出韓非子かんびし 大きなことには用心して慎重に対処するから 失敗しないが、小さいことは軽く見て油断す るので失敗しやすいということ。大きな山に はつまずかないのに、小さな蟻塚づかにつまず くということから。▶垤‖蟻塚。 類義 侮 あな ず る葛 かず ら に倒さる。 山に蛤を求む はまぐりもと はたけはまぐり 527 畑に蛤 やまもうじゅうありんぼくこれため 山に猛獣有れば林木之が為 やまいもうなぎ 山の芋鰻とならず 国に賢臣・忠臣がいれば、悪人がはびこるこ ともなく、他国から攻めこまれるすきもない というたとえ。山に猛獣がいれば、人々が恐 れて山に入らないので、林の木も切られない という意から。 補説出典には、このあとに園に螯虫 せきち ゆう 有れば藜藿れい かく これ が為ために采とられず(菜園に 毒虫がいると、あかざや豆の葉をとられるこ とがない」とある。 に斬られず 出淮南子えなんじ 世の中には、考え及ばないような変化は起こ らないものだということ。「山の芋鰻になる」 に対していう。 山の芋鰻になる あり得ないことが時には起こるというたと え。また、身分の低い者が急に出世すること。 「山の芋鰻に化ける」ともいう。 類義雀 海に入りて蛤ぐりとなる。腐草 となる。田鼠でん化して鶉らとなる。 対義山の芋鰻とならず。 やまいもかばや 山の芋を蒲焼きにする 早まった軽率な考えのたとえ。早計であること。山の芋が鰻になるというのなら、いっそのこと鰻になる前の山芋を蒲焼きにしてしまおうという意から。 やまおくみやこ山の奥にも都あり 人里離れた山の奥でも、住みよい場所はある もので、どんな田舎でも、暮らしてみればそ れなりのよさがあるということ。 類義田舎に京あり。鄙ひなに都あり。 山の事は樵に聞け 何事もその道の専門家に聞くのがいちばん確 かだということ。「山のことは樵に問え」「山 のことは猟師に聞け」ともいう。 類義 海の事は漁師に問え。芸は道によって 賢し。蛇じゃ の道は蛇へび。 船は船頭に任せよ。 <660> やまはたーやみように 仏の沙汰 さた は僧が知る。 餅は餅屋。 やまたか 山は高きを厭わず、海は深き を厭わず 出曹操ー短歌行 德はいくら積んでもこれで十分ということがないということ。山は高いほどよく、海は深いほどよい意から。土石をいとわない山がいよいよ高く、水の流入を避けない海がいよいよ深い意。 補説 中国、魏の曹操が、天下の人材を求 める願望をこめて作った詩の中のことば。 ともいう。 山桃の選り食い 遅かれ早かれ、結果的には同じところに行き 着くというたとえ。山桃を食べるとき、最初 はよさそうなものを選ぶが、少なくなってく ると選り好みしなくなり、結局は全部食べて しまうことから。 類義煎り豆の選り食い。 山より大きな猪は出ぬ 話が大げさすぎるのを皮肉って言うことば。 誇張するのもほどほどにせよということ。ま た、入れ物より大きな物が入っていることは ないということ。 やまい山を鋳、海を煮る 国内の産物が豊かであることのたとえ。また、財貨をたくさんたくわえること。山から銅を採掘して銭を鋳造し、海水を煮つめて塩をつくるということから。「鋳山煮海ちゅうざん」 出史記しき 山を学びて山に至らず ものを学ぶには、一か所に止とまっていない で、常に目標に向かって動いていく努力を続 けなければならないという教え。川は最後に は海に到達するが、小さな丘が山になること をめざしても、山にはなれない。それは、動 かないからであるということから。↓百川 ひゃく せん 海に学んで海に至る55 補説出典には「百川海に学んで海に至る。 丘陵山を学んでも山に至らず」とある。 やあし病み足に腫れ足あし 不幸の上に不幸が重なることのたとえ。「病 み目に突き目」ともいう。 類義痛む上に塩を塗る。泣き面に蜂。弱り 目に崇たたり目。 やみ うし ひ だ くら うし 闇から牛を引き出す ↓暗がりから牛 209 やみちようちんくも かさ 闇に 111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 聞に提灯曇りに笠 用心が大切であることのたとえ。闇夜に出か けるときには提灯を忘れず、曇っている日に は笠を持って出かける意から。 また、むだに骨を折るばかりで、人に知られ ないこと。「闇の一人舞」とも書く。 類義縁の下の力持ち。 やみつぶてやみよつぶて闇に礫♩闇夜の礫661 やみてっぽうやみよてっぽう闇に鉄砲闇夜に鉄砲660 やみ闇の独り舞まい やみよともしびうしな闇の夜に灯火を失う 不安な状況の中で、頼りにしているものを失い、途方に暮れること。闇夜の中で灯火をなくしてしまい、何も見えずに困るということから。「暗夜あんやに灯火を失う」ともいう。 やみよからす闇夜に鳥、雪に鷺 周囲のものとはっきり区別がつかないこと。 暗闇にいる黒い烏や雪の中にいる白い鷺は、 周囲と見分けがつかないことから。単に「闇 夜に烏」ともいう。 類義 闇に烏。闇の夜の烏、月の夜の白鷺。 対義 闇の白鷺。 やみよ闇夜に鉄砲 目標が定められず、当てずっぽうに物事を行 うこと。また、やっても意味のないことや、 まぐれ当たりのたとえにもいう。まっ暗闇に 向かって、目標もわからずに鉄砲を撃つ意か ら。「闇に鉄砲」「闇夜の鉄砲」ともいう。い ろはがるた(京都)の一。 類義闇夜の礫つぶ。 類義壁に耳あり障子に目あり。天に眼 闇夜に目あり 人に知られないように悪事をはたらいたつも りでいても、必ず人に知られてしまうという こと。 <661> やみよちょうちん闇夜の提灯 困りはてているときに、頼りになるものに出 合うこと。また、待ち望んでいたものに巡り 会うこと。「闇夜に提灯」ともいう。 類義闇夜の灯火 とも。 しび 闇の夜道の松明 たい。 まつ 日 照りに雨。干天の慈雨。渡りに船。地獄で仏 に会ったよう。 やみよ闇夜の礫つぶて 当たるか当たらないか、見当がつかないこと のたとえ。暗闇に向かって小石を投げる意か ら。また、どこから飛んでくるかわからない 意から、不意討ちをくらうこと。「闇に礫」 ともいう。 類義 闇夜に鉄砲。暗中 あんち ゆう 的を射る。 闇夜の錦 役に立たないむだなこと、張り合いのないこ とのたとえ。暗闇で美しい錦を着ても、だれ も気づいてはくれないことから。「闇夜に錦」 「夜の錦」「闇の錦」ともいう。 類義闇に錦の上着。 病む身より見る目 病気をしている当人よりも、そばにいて世話 をしている者のほうがつらいということ。 「病む目より見る目」ともいう。 やたて 矢も楯もたまらず 自分を抑えられずにじっとしていられないよ うす。矢で攻めても楯で防いでも勢いをとめ やみよのーゆうけい られない意から。「矢も楯もない」ともいう。 用例新しい人間が生れつつある、それを 見るのはたのしいことだ東京の友人、長光 太からそんな便りをもらうと、矢も楯もたま らず無理矢理に私は東京へ出てまいりまし た。〈原民喜◆ある手紙〉 槍玉に上げる 大勢の中から、特に選び出して非難や攻撃を 加える的にすること。△槍玉=槍を手玉のよ うに自由自在に扱うこと。 用例今度の訴状の如ごとき、その用意の周到 さ。御家を傷つけずと、老生のみを槍玉に挙 げようとする策略。家老、家老格が十人よっ ても、出る智恵ちえではござりませぬ。〈直木 三十五◆南国太平記〉 やろうじだい 出史記しき 夜郎自大 自分の力量をわきまえずに、威張る者のこと。 思い上がりのはげしいことのたとえ。▷夜郎 =中国漢代に中国西南の地にあった未開の部 族の小国の名。自大=自ら威張って尊大な態 度をとること。 注意「野郎自大」と書き誤らない。 糸口が見つけられないことのたとえ。 故事昔、中国の夜郎という部族が、地方の 部族の中で最強であったため、漢の強大なこ とを知らないで、その使者に向かって自国と 漢の大小を問うたという。 補説昔、千葉県市川市八幡に、迷い込んだ ら出られないとか、崇たりがあるといって恐 れられた藪があり、人々がそれを「八幡の藪 知らず」と呼んだことに由来する。 八幡の藪知らず 迷って出口がわからないこと、 迷って解決の 唯我独尊 ↓天上天下唯我独尊 449 ゆうあ ぎな らんな 勇有って義無ければ乱を為す 出 ろんご 論語 上に立つ者が、勇気にはやるだけで正義の心 がないと、世を乱すようになるということ。 ゆうかんしょうあんらくし 憂患に生じて安楽に死す 出孟子もうし 人は苦境にあるときには、それをはね返そう と必死になって努力するが、安楽にひたって いると、油断して心がゆるみ、死を招くこと になるということ。 雄鶏自ら其の尾を断つ 出春秋左氏伝 才能のある者が災難にあうのをさけ、無能な ふりをすること。立派な尾を持つ雄鶏 おん どり は祭 <662> りのいけにえにされるので、その難を逃れる ために自分の尾を食い切る意から。 故事)中国春秋時代、周の寶孟ひんが郊外に出 かけたとき、雄鶏が自分の尾を食いちぎって いるのを見かけ、侍者にその理由を尋ねたと ころ、「自ら其の犠ぎたるを憚るるなり(祭 りのいけにえになるのを恐れて自分で尾をむ しっているのです)」と答えたという。 ゆうけんぐんぼい邑犬群吠 出楚辞そじ 小人 じん が集まり、人のうわさや悪口を言い 合うことのたとえ。また、小人が賢人を非難 すること。村里の犬が群がって吠ぼえるという 意から。「吠」は「べい」とも読む。「邑犬 群がり吠ゆ」ともいう。▷邑‖村里。 ゆうこく い きょうぼく うつ 幽谷より出でて喬木に遷る 学徳や地位が高まり進むこと。また、人が出 世して高い官職にのぼること。春になって、 鳥たちが低く深い谷から出て高い木に飛び移 る意から。「幽谷を出でて喬木に遷る」とも いう。 出詩経しきよう 勇士は諂える如し 勇士は主君に対する態度が礼儀正しく丁重な ので、一見こびへつらっているかのように見 えるということ。 勇者は懼れず 世論語 勇気のある者は、どんなことをも恐れず、正 面から立ち向かっていくということ。 補説出典には、この前に「知者は惑わず、 仁者は憂えず(知者は道理に明るいから迷う ことなく、仁者は欲がないから憂えることが ない)」とある。 ゆうしゅう び かざ 有終の美を飾る 物事を最後までやり通し、立派な成果をあげ ること。△有終∥終わりを全うすること。 えが 右手に円を描き、左手に方を 描く 出韓非子 一度に二つのことをやろうとしても、どちら もうまくはできないというたとえ。また、君 臣は一心一体でなければならないというこ と。右手で円形を描き、同時に左手で四角形 を描くという意から。 補説出典には「右手に円を画えがき、左手に 方を画くは、両ふたつながら成す能あたわず(そ の両方を描き上げることはできない)」とあ る。 類義二兎にとを追う者は一兎をも得ず ゆうしょうもとじゃくそつ 勇将の下に弱卒なし 出 蘇軾ー題二連公壁一 上に立つ者の力量が部下の力を左右するということ。勇気ある強い将軍の配下には、弱々しい兵士はいないことから。 補説 出典の 強将の下に弱兵無し に基づ くことば。 英語 Such captain, such reintune. [J] 隊長にしてこの従者あり 英語 Such captain, suc. 隊長にしてこの従者あり」 用例此手このの大将馬場信房は、一旦退 いたものの直たちに引返して、手勢わずか八 十をもって三の柵際に来り、前田利家まえだと、 野々村三十郎ののむらさん等の鉄砲組の備を追散ら して居た。勇将の下弱卒なしである。が、敵 は近寄らずに、鉄砲で打ちすくめようとする のである。〈菊池寛◆日本合戦譚〉 優勝劣敗 生存競争で、強いものが生き残って栄え、弱 いものが滅びること。すぐれた者が勝ち、 劣っている者が負けるということから。 類義弱肉強食。自然淘汰 しぜん。 とうた 用例)蟹の猿を殺したのは私憤 しふ の結果に外 ならない。しかもその私憤たるや、己 おの れ の無 知と軽卒 けい とから猿に利益を占められたのを 忌忌 いま しがっただけではないか?優勝劣敗 の世の中にこういう私憤を洩もらすとすれば、 愚者にあらずんば狂者である。ーという非 難が多かったらしい。〈芥川龍之介・猿蟹合 戦〉 遊刃余地有り 出荘子そうじ すぐれた手腕・技能で、余裕をもって事を処理することのたとえ。▶遊刃=刃物を自由に動かすこと。余地=余裕の意。 故事中国戦国時代魏の料理人庖丁 が主君文恵君の前で牛を解体した。文恵君は その見事な刀さばきに感嘆し、技をほめると、 庖丁は「彼の節には間有りて、刀刃 じんとうには <663> 厚さ無し。厚さ無きを以もて間有るに入るれ ば、恢恢かい乎ことして其それ刃やいを遊ばすに於 おいて余地有り(牛の骨の関節にはすき間があ り、刀の刃には厚みがありません。刀をすき 間に入れると、広々として余裕があり、刃を自 由に動かすことができるのです)と言って、 牛の料理法を教えた。↓庖丁牛を解く599 融通無碍 行動や思考が何物にもとらわれず、自由で伸 び伸びとしていること。「碍」は「礙」とも 書く。▷融通∥滞りなく通ること。無碍∥妨 げのないこと。 類義 自由奔放。 融通自在。 用例そこへ行くと「ル・ミリオン」「幽霊 西へ行く」の二作は、彼が彼の本領に即して 融通無碍に仕事をしているし、形式と内容が ぴったりと合致して寸分のすきもない。完璧 なる作品という語に近い。〈伊丹万作◆ルネ・ クレール私見〉 は濡らさなかったりすることから。 類義夏の雨は馬の背を分ける。 ゆうせいこえひゃくりす 有声の声は百里に過ぎず、無 せいこえしかいほどこ 声の声は四海に施す 出淮南子 大きな声でどなってみても百里先までは届か ないが、徳による感化は声なき声となって広 く遠方にまで及ぶということ。△四海∥四方 の海。また、世界・天下のこと。 夕立は馬の背を分ける タ立は、局地的な降り方をするということ。 馬の背の片側を濡ぬらしても、もう一方の側 ゆうちむちさんじゅうり 有知無知三十里 ゆうずうーゆうもう 出世説新語 知恵のある者とない者には、大きな差があるということ。互いの才能に隔たりがあること。「有知無知校くらぶれば三十里」ともいう。 (故事)曹操そう(後の魏ぎの武帝)が名高い曹娥がの碑のそばを通ったとき、碑の後ろに刻された隠語を読んだが意味がわからなかった。 に行する楊脩ように尋ねると、一読してすぐにその意味を理解したので、曹操は、自分が考えつくまで答えるなと言って道中考えたあげく、三十里行った所でやっと解読できた。その答えが、楊脩が即座に解読したことと同じであったので、曹操は「自分のオはお前にとても及ばない。そこに三十里の隔たりがある」と言って嘆いた。 夕虹百日の日照り 夕方に虹が出たら、晴天が続く前兆であるということ。 こるだろう」とある。 類義 夕虹ふかば馬に鞍くらおけ。夕虹立てば 鎌倉へ傘持つな。 尤物人を移す 大物ノン利て 出着秒左氏位 すぐれてよいものは人の心を奪うというこ と。とくに美人についていう。 補説出典には「尤物の以もって人を移すに足 る有り。荀もしも徳義に非あらざれば則 すな わ ち必 ず禍 わざ わい 有り(美人は人の心を惑わすことがで きるので、心を引きしめないと必ず災いが起 ゆうべん 雄弁は銀、沈黙は金 雄弁であることも大切だが、沈黙すべきとき に沈黙を守ることはもっと大切であるという こと。「沈黙は金、雄弁は銀」「沈黙は金」と もいう。 補説イギリスの思想家・歴史家のトーマス・カーライルのことば。英語ではSpeech is silver, silence is golden. 類義言葉多き者は品少なし。口は禍わざの門もん。 死んであの世とこの世とに別れ別れになる。 死に別れること。△幽明=暗い所と明るい 所。転じて、幽界と顕界 げん。 かい 冥土と現世。 類義幽明処 とこ を隔つ。 有名無実 出国語ここ 名前ばかりが立派で、実質が伴わないこと。 「名あって実なし」ともいう。 類義名高なだの骨高。 用例も早はやここに来れば、通俗小説とか、 純文学とか、これらの馬鹿馬鹿しい有名無実 の議論は、万事何事でもない。〈横光利一◆ 純粋小説論〉 出史記しき 優孟の衣冠 外形をまねること。他人の模倣をする人。ま た、演技をする人のたとえ。見た目はそっく りでも、実体は異なっていること。∇優孟∥ <664> 中国春秋時代の楚その芸人。 故事楚の宰相孫叔敖 そんしゅ の死後その子孫 は貧困に苦しんでいたそこでかつて孫叔敖 の世話になった芸人の優孟が孫叔敖になりす まして王に会い孫叔敖の業績と子孫の不遇 を訴えた王は子孫に領地を与えたという。 夕焼けに鎌を研げ 夕焼けの翌日は晴天になることが多いので、 今から鎌をといで畑仕事の準備をしておけと いうこと。「秋の夕焼け鎌を研げ」ともいう。 類義秋の夕焼けは鎌を研いで待て。 ゆうや あさやあめあさや 夕焼けは晴れ、朝焼けは雨↘朝焼けは あめゆうやは 雨、夕焼けは晴れ15 ゆうれいしょうたいみかおばな 幽霊の正体見たり枯れ尾花 恐怖心があると、何でもないものまでが恐ろ しい物に見えるということ。また、こわかっ たものも、正体が知れると何でもなくなるこ と。幽霊だと思ったものは、よく見たら枯れ すすきであったという意から。「化け物の正 体見たり枯れ尾花」ともいう。∇尾花∥すす き。 類義疑心暗鬼を生ず。杯中の蛇影だえ。 ゆうれいはまかぜあ ゆがきやまにぎ かきやまにぎ 歪み木も山の賑わい 枯れ木も山の賑 わい158 幽霊の浜風に逢ったよう ぐったりとして元気がないさま。迫力が感じ られないさま。幽霊が海岸の風に吹かれて、 あおられているようだという意から。「幽霊 の浜風」ともいう。いろはがるた(京都)の一。 類義青菜に塩。 行きがけの駄賃 だちん い 行きがけの駄賃 だちん 39 行き大名の帰り乞食 無計画に金を使い、あとで身動きがとれなく なることのたとえ。旅行などで、行きに大名 のように豪勢に金を使い、帰りには金を使い はたしてみじめな思いをするという意から。 ゆき とし 住きて来たらざるものは年な り 出孔子家語こうしけご 歳月は過ぎ去ってしまうと一度と戻って来ない。その時その時を大切にせよという教え。 補説出典では、このあとに「再び見る可ぐからざる者は親なり」とある。 ゆき雪と黒すみ 二つの物事が正反対であること。また、二つ の物事がひどく違っていることのたとえ。 類義月と鼈 すっ。 ぼん 雪の明日は裸虫の洗濯 ゆきあしたはだかむしせんたく 雪が降った翌日は、晴天の暖かい日が多いと いうこと。雪の翌日は、衣類を多く持たない 者でも安心して洗濯をするということから。 「雪の明日は裸子」ともいう。△裸 虫∥貧しくて衣類をあまり持っていない者。 類義雪の明日は孫子 まご この洗濯。 雪の上に霜↓雪上霜を加う35 雪は豊年の瑞 雪がたくさん降った年は、豊作になるという こと。「雪は豊年の例」「雪は豊年の貢物 みつぎ」ともいう。 類義雪は五穀ごこの精。大雪に飢渴 かえこわ 行きは順調にゆくだろうが、帰りは何かよく ないことが起こり、恐ろしい目にあうぞという警告。 補説「通りゃんせ」という子供の遊びの歌 から出たことば。 雪仏の水遊び 気づかずに自分で災いを招き、わが身を滅ぼ すこと。雪で作った仏像が水遊びをする意か ら。 類義 土仏の水遊び。雪仏の日向 遊び。雪 仏の湯好 ゆご み。 雪や氷も元は水 元は同じものでも、条件や環境などによって 異なったものになるということ。 行く馬に鞭 うまむち かうまむち 駆け馬に鞭 137 行くに径に由らず 公明正大で、堂々としていること。小道や裏 道を通らずに、大通りを通って行くという意 出論語ろんご <665> から。▿径‖小道・近道・裏道などの意。 補説孔子の弟子の子游が武城の長官になったとき、孔子が子游を訪ね、頼りになる 立派な人物が得られたかと尋ねたのに対して 子游が言ったことばで、澹台滅明 たんだい めつめい という 人物について述べたもの。 行く水に数書く 水に絵を描く 619 往く者は諫むべからず、来た る者は猶追うべし 出論語 過ぎ去ったことは取りもどすことができない が、これから先は、同じ失敗を繰り返さない ように十分注意を払わなければならないということ。「往者 おう しゃ は諫むべからず、来者 ちい しゃ は 猶追うべし」「来者は追うべし」ともいう。 補説 楚その接輿 せっ よ が狂人になりすまし、孔 子に近づいて歌ったことば。 ゆものか 往く者は追わず、来たる者は 拒まず 出孟子 去って行く者は無理に引き止めず、来る者は 拒まないでだれでも受け入れるということ。 「去る者は追わず」「去る者は追わず、来る者 は拒まず」ともいう。「来たる」は「来る」 ともいう。 補説孟子の門人に対する態度を述べた語。 英語 Who can hold that will away? 立 ち去りたがっている者をだれが引き留められ るだろうか ゆくみずーゆびきた 出論語ろんご 逝く者は斯くの如きか 人の世のうつろいやすさ、人生のはかなさを 嘆いたことば。過ぎゆくものはこの川の水の ように流れ去る意から。 補説孔子が川のほとりに立って言ったこと ば。出典には「逝く者は斯くの如きか。昼夜 を舎めず(昼も夜も休むことなく)」とある。 「舎めず」は「舎かず」とも読む。 柚子の木に裸で登る 非常に困難なことのたとえ。また、むちゃを すること、自分から災いを招くこと。とげの ある柚子の木に裸で登る意から。「裸で柚子 の木に登る」ともいう。 類義 柚子の木裸。 裸で茨 いば 背負う。 油断大敵 注意を怠ると思わぬ失敗を招くので、十分に 気をつけよという戒め。油断は大きな失敗の 原因となるので、恐るべき敵と同じだという 意から。いろはがるた(江戸)の一。 類義 油断は不覚のもとい。油断は怪我 けが の 英語 Security is the greatest enemy. 断は最大の敵である 用例日本には、ゆだん大敵という言葉が あって、いつも人間を寒く小さくしている。 芸術の腕まえにおいて、あるレヴェルにまで 漕ぎついたなら、もう決して上りもせず、 また格別、落ちもしないようだ。〈太宰治◆ もの思う葦〉 湯に入りて湯に入らざれ 何事も度を越さないのが肝心だということ。 湯に入るのは健康によいが、度を過ごすとか えって害になるという意から。 湯の辞儀は水になる 遠慮もしすぎると、かえって失礼になるということ。入浴を遠慮して譲り合っていると、せっかく沸かした湯が水になってしまうことから。∇辞儀∥遠慮。「時宜」とも書く。 類義風呂の容赦ようは水になる。 湯の山の道連れ ゆやまみちづ まともな者がいないことのたとえ。また、旅 には、つまらない者でも道連れがいるほうが いいということ。昔は山中の温泉に行くのは 病人や年寄りばかりで、ものの役に立ちそう な者がいなかったことから。 類義有馬 あり ま の道連れ。 湯は水より出でて水ならず 家柄や血筋は平凡であっても、努力や修業を 積むことによってすぐれた人物になることが できるということ。 湯腹も一時、松の木柱も三年ゝ松の木 主ゝ三年11 柱も三年611 指汚しとて切られもせず 身内に悪人がいても、簡単に見捨てるわけに はいかないということ。指は汚いからといっ <666> ゆびをおーよあけま て切り捨てるわけにはいかないという意か ら。「指むさいとて切られもせず」ともいう。 ゆび 指を惜しんで掌を失う 小さなことにこだわって大きなことに失敗す る。わずかな物を惜しんで大きな損害を招く ことのたとえ。 類義一文 と蚤甲 の如 かわ はか 指を以て河を測る 出荀子 じゅんし 事を行うに方法を誤ること。その愚かさをい う。不適当な尺度で物事をはかる愚かさをい う。指で黄河の深さや幅などを測るという意 から。マ河ニ黄河。 補説出典には「礼憲に道よらずして詩書を 以もって之これを為なすは(礼法によらず詩や書物 のみで事を行おうとするのは)、之を醤たとう れば猶なお指を以て河を測り、戈ほこを以て黍きび を春っき、錐きりを以て壺っぽに飡くらう(錐を箸 の代わりに使い壺の中の食物を食べる)がご ときなり」とある。 類義 刀折れ矢尽く。 指を以て沸けるを撓す 出荀子 損害があっても利益のないことのたとえ。沸 騰した湯を指でかきまわす意から。 類義卵を以て石に投ず。 ゆみおやつ 弓折れ矢尽きる 戦いに負けて、ひどいありさまになること。 また、力も手段も尽きてどうすることもでき ないこと。 ねとり 弓すれども寝鳥を射ず出論語 心ある者は、卑怯なこと、無慈悲なことは しないものだということ。狩りで、飛んでい る鳥は射ても、寝ている鳥を射ることはしない という意から。 補説出典には「釣」して綱こうせず、ぜくし て宿を射ず(釣りをしても、たくさんの釣り 針をつけたはえなわで大量に採ったりせず、 糸のついた矢「いぐるみ」は使うが、ねぐら の鳥を射ることはなかった」とある。 類義 弋よく して宿 しゅ く を射ず。釣りして網せ ず。 ゆみ 弓と弦つる 曲がっているものと真っすぐなもののたと え。回り道と近道の違いをいう。 類義弓と弦との違い。 夢に牡丹餅 ゆめぼたもち 夢ではないかと思うほどの、思いがけない幸 せにあうこと。「夢に餅食う」ともいう。 つつ 夢は五臓の煩い 夢を見るのは、五臓の疲れが原因であるということ。「夢は五臓の疲れ」「夢は心しんの疲れ」「夢は心の煩い」などともいう。△五臓‖肝臓・心臓・脾臓ひぞ・肺臓・腎臓。 ものであるということ。悪い夢を見たときの 縁起直しにいう。「夢は逆実 ともいう。 英語 Dreams are lies.「夢はうそ」 ゆかごはかば 夢は、美際に起 夢は逆夢 ゆめ さかゆめ 夢は、実際に起こることとは逆の形で現れる 揺り籠から墓場まで 生まれてから死ぬまで。揺り籠に入った乳児 の時から死んで墓に葬られるまでという意か ら。 補説第二次大戦後、イギリスの労働党が社 会保障政策の充実をうたって掲げたスローガ ン。 英語 From the cradle to the grave. 籠から墓まで 揺るぐ杙は抜ける 心に迷いがあるようでは大事の達成は難しい ということ。ぐらついている杭くは簡単に抜 けることから。 湯を沸かして水にする せっかくの苦労をむだにすること。せっかく 沸かした湯を何にも使わないまま水にしてし まうの意から。「湯を沸かして水に入る」と もいう。 よあまえいちばんくら 夜明け前が一番暗い 苦難や雌伏のときを過ぎると先に明るい未来 <667> があるということ。夜が明ける前の時間が夜 は一番暗いということから。 英語 It is always darkest just before the dawn. 夜明け前がこつも一番暗ご[The darkest hour is just before the dawn. 明け前に一番暗い時間がある[ 良いうちから養生 体がじようぶなうちからいたわるのが、健康 の秘訣だということ。ふだんから用心して おけば、よい結果が得られるということ。 類義転ばぬ先の杖つえ。 よいえびす おおあめ 宵戎に大雨 大事なときに邪魔が入ることのたとえ。年に 一度の祭の日に大雨が降って、だいなしにな ることから。▷宵戎Ⅱ十日戎の前夜、正月九 日に戎神社に参ること。 よいご 宵越しの金は使わぬ 江戸っ子は宵越 しの銭は使わぬ01 よいことは一つない ふた ふた 一つよいことは ない 581 酒の酔いが醒めたときに飲む水のうまさは、 酒を飲めない人にはわからないということ。 ∇下戸=酒を飲めない人。 よざ酔い醒めの水は甘露の味 い。まるで甘露のようだということ。▽甘露 Ⅱ中国の伝説で太平の時に天が降らせる甘い 露。また、古代インドで、苦悩を除き長寿を 保つという飲み物。仏教では天人の飲み物と される。 酒の酔いが醒めたときに飲む水は格別にうま よいうちーよいんり よい宵っ張りの朝寝坊 夜ふかしをして、翌朝は遅くまで寝ていること。また、それが習慣になっている人。「朝寝坊の宵っ張り」ともいう。 酔いどれ怪我せず 無心の者は、かえって大きな失敗をしないと いうこと。酔っぱらいは足取りがおぼつかな いのに、それほど大きなけがをしないという 意から。 類義酒の酔い、落ちても怪我せず。 よなかかき 良い仲には垣をせよ↳親しき仲に垣を せよ291 よなか良い仲の小靜い 仲がよすぎると互いに遠慮がなくなって、か えって小さな争いが起こりやすくなるという こと。「思う仲の小諍い」「思う仲のつづり諍 い」ともいう。 よいねあさおちょうじゃもと 宵寝朝起き長者の基 早寝早起きは、金持ちになるための基本であるということ。 よ 酔いに十の損あり 醉って得することは何一つないということ。 △十二全部。 対義酒に十の徳あり。 補説昔は灯火の油を倹約するために、早寝 をすすめた。 類義貧の宵張り長者の早起き。早起きは三 文の徳。 良い花は後から よ はなあと 立派で充実したものは、あとから現れるもの だということ。早くから咲き始める花より、 あとから咲く花のほうが美しい意から。 類義大器晚成。名のない星は宵から出る。 よふんべつせっちんで 良い分別は雪隠で出る 一人で静かに考えるといい考えが浮かぶもの だということ。便所は一人になれて気が静ま り、考えるにいい場所だということから。マ 分別=ここでは、考え。思い付き。雪隠=便 所。 余音梁欖を繞りて三日絶え よいんりようれいめぐみっかた 出列子れっし 歌が非常に上手なことをたたえることば。美しい歌の響きが梁から棟のあたりにまとわりついて、三日の間なくならない意から。「三日」は「さんじつ」とも読む。△梁欖=「梁」は柱の上に渡す横木。うつばり。「欖」はむなぎ。 故事 昔、中国に韓娥 かん という歌の名手がい <668> て、この者が歌うと天井のはりのまわりに声 が響いて三日後まで消えなかったという。 類義 梁塵 りよう じん を動かす。 ようときじぞうがおようとき 用ある時の地蔵顔、用なき時 えんまがお の閻魔顔 人に何かを頼むときは地蔵のようにほほえ み、用のないときは無愛想な顔をすること。 「用ある時の地蔵顔、用なき時の悪魔顔」と もいう。 類義借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔 ようきはつ ところ きんせきまたとお 陽気発する処、金石も亦透る 出朱子語類 どんな困難なことでも精神を集中して行えば 成し遂げられるということ。万物が生じ動こ うとする陽の気が起こると、金属や石でも貫 き通すという意から。▽陽気=万物の発生・ 活動を助ける気。 補説出典では、このあとに「精神一到、何 事か成らざらん」と続く。 鷹鳩変ぜず そのものが持つ本性は、隠しようがないということ。春には鷹たかも鳩はとのように温和になるというが、その眼は鋭くて、鳩にはなりきれないということから。 出世説新語 れると、鷹が化して鳩になるという。しかし、 わかっている者はその眼が憎いのです」と ある。 補説出典には「陽和気を布しき、鷹化して 鳩と為ると雖いえも、識者に至りては猶其そ の眼まなを憎むのどかな春の気が一面にあふ ようこうれとらやしなうれのこ 養虎の患い児を養いて患いを遺す475 羊質虎皮 外観だけが立派で、実質がそれに伴っていな いことのたとえ。中身は羊なのに、虎の皮を かぶっている意から。「羊質にして虎皮す」 ともいう。 出法言ほうげん 類義羊ひつ虎を仮かる。 楊枝で重箱の隅をほじくる重箱の 隅を楊枝でほじくる309 ようしゃみ 用捨身の害五分の損 人を許したり、手加減をして寛大にすること は、お互いのためにならないということ。 類義情けが仇あだ。 ようしゅうつるつるのようしゅうのぼ 揚州の鶴鶴に騎りて揚州に上る437 出杜牧ー詩し 揚州の夢 今は昔の豪勢な遊び、過ぎし日の歓楽のこと。 ∇揚州=中国江蘇 こう そ 省の町。 補説詩の題名は『懐おもいを遣やる』。杜牧が 揚州の遊里で歓楽を尽くしたころを思い出し て作った詩で、「十年一たび覚さむ揚州の夢、 贏ち得たり青楼せい薄倖はつの名(揚州の歓楽の 夢が覚めて十年が過ぎ、残ったのは妓楼ぎろに 流した放蕩者ほうとうものという浮き名だけ)とある。 陽春白雪、和する者必ず寡 出宋玉ー対二楚王問ー すぐれた人物の言行は、凡人には理解されに くいということ。低俗な曲はだれでも一緒に 歌えるが、高尚な歌曲になると合唱できる者 が少ないという意から。マ陽春白雪=古代中 国で高尚とされた歌曲の名。 補説出典には「其その陽春白雪を為なすや国 中属して和する者は数十人に過ぎず」とある。 類義陽春の曲、和する者寡し。大声里耳りじ に入らず。 養生に身が痩せる 健康に気を使いすぎたり、病気を治す費用を 心配したりして、かえって痩せ細るというこ と。 用心には網を張れ 用心の上にも用心を重ねよということ。「用 心には縄を張れ」ともいう。 類義用心は臆病にせよ。 ようじんおくびよう 用心は臆病にせよ 用心はどれだけしてもしすぎることはない。 臆病なくらいにすべきであるということ。 類義用心には網を張れ。 ようじんまえ 用心は前にあり 失敗をして後悔しないように、前もって用心 しておくべきであるということ。 <669> 類義転ばぬ先の杖つえ良いうちから養生。 ようせんこころざし 鷹鶴の志 鷹たか や隼 はや が小鳥を襲うように、弱い者を威 圧し、害そうとする気持ち。△鷹隼。 類義鷹鶴の鳥雀ちようを逐おうが如ごとし。 出後漢書 羊頭を懸けて狗肉を売る ようとうくにくようとうかくにくう 羊頭狗肉 羊頭を懸けて狗肉を売る 669 出晏子春秋 見かけは立派でも、実質がそれに伴わないこと。羊の頭を看板に出しておき、実際には犬の肉を売るという意から。「羊頭を掲かげて狗肉を売る」「羊頭狗肉」ともいう。▷狗‖犬。補説出典には「猶牛首を門に懸かげて馬肉を内に売るがごとく」とある。類義看板に偽りあり。牛首を懸けて馬肉を売る。玉を衒てらいて石を賈る。対義看板に偽りなし。 英語 He cries wine and sells vinegar. 葡萄酒 売りますと叫びながら、酢を売る よう かな たから 用に叶えば宝なり つまらない物でも、必要なときに役に立てば、 宝物のように貴重であるということ。 ようよころえが 様に依りて葫蘆を画く 出東軒筆録 形式や先例をまねるだけで、新しさや独創性 ようせんーようりゅ がないこと。以前の様式をまねて、形だけ 整ったひょうたんの絵を描くという意から。 マ様=様式。葫蘆=ひょうたん。ふくべ。 補説中国宋の太祖趙匡胤 ちようき が、書記役 よういん の陶穀 とう こく が起草した詔書について、先例に 従って書き換えただけで新鮮さがないとそ しったのに対して陶穀が自嘲したことば。 類義様に依りて餅を画く。形に似せて絵を 画く。 よう ほしよい 用のない星は宵からござる名のない ほしよい 星は宵から出る486 出史記しき 妖は徳に勝たず 邪悪なものは正しい徳に勝つことはできない ということ。▷妖∥化け物。邪悪なもの。 もの。 (故事)中国古代、殷いんの時代に、宮廷に桑の木と楮ぞこの木が合体して生えた。帝太戊がこの怪異に驚き、大臣の伊陟いちに尋ねると「妖は徳に勝たず(邪悪なものも徳には勝てい)と聞いたことがあります。このようなことが起こるのは、帝の政治に何か欠けたものがあるのかもしれません。帝には身を正しくして徳を修められますように」と言った。太戊がこの進言に従って修徳につとめたところ、奇怪な木は枯れてなくなった。 出晋書しんじょ 妖は人に由りて興る 邪悪な災いは、人の心にすきができると起こるものだということ。▷妖∥化け物。邪悪な ようや 漸く佳境に入る 出春秋左氏伝 話や文章、状況などが、だんだんおもしろい ところに入っていく。しだいに興味が深まる こと。 故事)中国晋しの画家顧愷之が大好きな砂 糖きびを食べるのに、いつもまずい先の方か ら食べるので不思議に思って理由を聞くと、 「漸く佳境に入る(だんだんおいしい部分に 入っていく)からだ」と言ったという。 ようやろんご 雍也論語 勉学が長続きしないことのたとえ。『論語』 を勉強する者が、「雍也」の章まで進んだと ころで飽きてしまい、学ぶのをやめてしまう ことから。△雍也=『論語』の第六章。 補説「雍也」の前の章「公冶長 ちょう をとっ て「公冶長論語」ということもある。 類義三月さんが庭訓 てい。 さん 須磨すま 源氏。 養由に弓を言う 無意味なこと、間が抜けていることのたとえ。 弓の名人に向かって弓の講釈をする意から。 マ養由=春秋時代の弓の名人。 ようりゅうかぜふごと 楊柳の風に吹かるが如し 柳が風の吹くままになびいているように、 また、うまく受け流すさま。△楊柳∥やなぎ。「楊」は、か わやなぎ。「柳」は、しだれやなぎ。 <670> ようりょーよくした 類義柳に風。柳に風と受け流す。 ようりょう 要領がいい うまく立ち回って自分を有利にするすべを心 得ていること。物事をうまく処理する能力が あることから。「要領がよい」ともいう。 ようりょうえ 要領を得ず 出史記しき 要点がはっきりしないこと。「要領を得ない」ともいう。∇要領∥腰と首。また、衣服の腰と襟えりの部分で、重要な部分の意。「要領がいい」のように、「物事を処理する方法」の意味でも用いられる。 ようたすものなとうたす 饒を佐くる者は嘗め、闘を佐 ものきず くる者は傷つく よいことに関係すればその恩恵を受けるが、 悪いことにかかわると、とんだ害をこうむる ということ。料理を手伝う者は食べ物を得る ことができるが、けんかの味方をする者はけ がをするということから。▽雛=料理を作る 役人。「雛」とも書く。闘=けんか。争い。 出国語 俑を作る よくないことをし始める、悪い前例をつくる ことのたとえ。▷俑‖死者を葬るときに一緒 に埋める、木で作った人形。↓始めて俑を作 る者は其それ後なからんか524 出孟子もうし 良き仏師も斧の躓きあり どんな名人にも失敗することがあるというこ と。腕のいい仏像彫刻師でも、斧を扱う手も とがくるうことがあるという意から。 類義弘法にも筆の誤り。猿も木から落ち る。河童かの川流れ。上手の手から水が漏る。 良き分別は老人に問え 考えに行きづまったら経験豊富な老人の知恵 を借りるのがよいということ。△分別=ここ では、考え。思い付き。 よきはりとおのとはり 斧を針に磨ぐ♩斧を研いで針にする119 よおこものかなら 善く作す者は必ずしも善く成 さぎ 出戦国策 新しいことを始めるのに巧みな者が、最後まで成し遂げられるとは限らないということ。 補説出典には、このあとに続いて「始めを善くする者は必ずしも終わりを善くせず(始めがうまくいったからといって、必ずしも終わりがうまくいくとは限らない)」とある。 よおよもの 善く游ぐ者は溺れ、善く騎る 出淮南子えなんじ 人は自信のあることに限って油断をして、思 わぬ失敗をすることがある。自信過剰を戒め る言葉。水泳の得意な者が溺れ、乗馬の得意 な者が落馬することがあるという意から。単 に「善く游ぐ者は溺る」ともいう。 者は堕つ 補説出典には、このあとに「各 おの おの 其その好 む所を以もって、反かえって自ら禍わざ を為なす(そ れぞれの好む技によって、かえって自ら災難 を招くのである)」と続く。 類義よく走る者は躓づまく。川立ちは川で果 てる。才子才に倒れる。策士策に溺れる。河 童かの川流れ。 よけいなものないこう 善く計を為す者はその内行を しめ 見さず せんごくさく 出戦国策 巧みな計略を立てる者は、味方の内情を敵に 知られるようなことはしないということ。 能く之を言う者は未だ必ずし 出史記しき も能く行わず 能弁な者が必ずしも実行力があるとは限らな いということ。↓能く之を行う者は未だ必ず しも能く言わず670 能く之を行う者は未だ必ずし これおこなものいまかなら も能く言わず 出史記しき 実行力のある者が、必ずしも弁舌が達者であるとは限らないということ。 補説出典では、このあとに「能く之を言う 者は未だ必ずしも能く行わず」と続く。 はしものぶ 善く士たる者は武ならず 出老子ろうし 武勇にすぐれた軍人は、かえって猛々しいと ころがなく、優しいものだということ。 <671> 補説出典では、このあとに「善く戦う者は 怒らず(戦闘の巧みな者は怒りを表さない)、 善く敵に勝つ者は与くみせず(よく敵に勝つ者 は敵を相手にしない)と続く。 やして宿を射ず 出論語ろんご 生き物をとる場合にも、慈悲の心を失うようなことはしないということ。何事にも程度をわきまえた人物の振る舞いのたとえ。いぐるみを使って鳥をとることはしても、眠っている鳥を射ることはしないという意から。「弋すれども宿を射ず」ともいう。▷弋いぐるみ。矢に糸や網をつけて、鳥に当たるとからまるようにしたもの。宿∥ねぐらで眠っている鳥。 類義釣りして綱こうせず。弓すれども寝鳥を 射ず。 よく かなら こうかい 浴するには必ずしも江海なら これあかさよう ず、 之が垢を去るを要す 出史記しき 物事は、必要な条件さえ満たしていればそれ でよいということ。水浴には長江や海のよう な大量の水は必要ではなく、垢を落とすだけ の水があればよいという意から。 補説中国漢の学者褚少孫ちょしよのことば。出 典にはこれに続いて「馬は必ずしも騃驥きき ならず、之が善く走るを要す(馬は千里を走 る駿馬しゅである必要はなく、ただよく走れば よい。士は必ずしも世に賢ならず、之が道 よくしてーよごえは を知るを要す(男子は必ずしも世に賢明な人 でなくても、道をわきまえた人であればよ い)。女は必ずしも貴種ならず、之が貞好な るを要す(女子は必ずしも名門の出でなくて も、貞節であればよい)とある。 よせいとうとものきふいえど 能く生を尊ぶ者は貴富と雖も やしなもっみきず 養いを以て身を傷つけず 出荘子そうじ 体を大事にする人は、たとえ富貴の身であっても、ぜいたくをしすぎて自分の体をそこなうようなことはしないということ。 補説出典には、このあとに「貧賤ひんと雖も 利を以て形を累わずわさず(身分が低く貧しく ても、利益の追求にあくせくして体をそこな うようなことはしない」とある。 よく欲と二人連れ 欲にかられて行動すること。欲と連れ立って 生きているという意から。「欲と道連れ」と もいう。 よくくまたかまたさ 欲に頂なし 人間の欲望には限度がないということ。「欲 に限りなし」「欲心に頂なし」ともいう。 よくめみ 欲に目見えず 欲のために理性を失って、正しい判断ができなくなること。 類義欲に目が眩くらむ。欲に目がない。 欲が深すぎるために、自分の身に災いをまね くことのたとえ。「欲の熊鷹股から裂ける」 ともいう。 補説くまたかが、二頭並んでいる猪いのを見 つけてその両方につかみかかったところ、猪 が左右に分かれて逃げ出したが、それでも獲 物をはなさなかったために、股が裂けて死ん でしまったという昔話による。 類義欲深き鷹は爪の裂くるを知らず。くち なわは口の裂くるのを知らず。 よく欲の世の中なか 世の中はすべて欲得で動いているというこ と。「欲の世の中、利の世界」「欲の娑婆ぱ」 ともいう。 予言者郷里に容れられず すぐれた人物も、身近な人々には理解されず、 尊ばれないということ。神の啓示を受けた者 も、子供のころからその人を見てきた人々の 住む故郷では認められないという意から。 「予言者故郷に容れられず」ともいう。 補説『新約聖書』の「ルカ伝」にあるキリストのことばから。No prophet is recog- nized in his own country.の訳語。 夜声八町 夜はあたりが静かなので、小声で話しても遠 くまで聞こえるということ。▷八町‖約八七 ○メートル。 <672> 類義こそこそ三里。ささやき千里。よこがみやぶ横紙破り 物事を自分の思うとおりに無理に押し通すこ と。また、そのような人。横には裂けにくい 和紙を、あえて横に破ることから。「横紙を 裂く」ともいう。 類義 横車を押す。 用例)赤ん坊のことを思うと、急に小銭がほ しくなって、彼がこう言い出すと、帳場はあ きれたように彼の顔を見つめた、ー—こいつ はばかな面をしているくせに油断のならない 横紙破りだと思いながら。〈有島武郎◆カイ ンの末裔〉 類義横矢を入れる。 横車を押す 道理に合わないことを強引に押し通すこと。 車輪の回転方向とは逆の横の方向に、むりや り車を押すことから。「横に車を押す」「横に 車」ともいう。 横槌で庭掃く槌で庭掃く433 横の物を縦にもしない と縦の物を横に もしない402 横槍を入れる 人のすることや話すことに、第三者がわきか ら口を出したり文句をつけたりすること。戦 場で戦っている双方の横から、別の者が槍で 襲いかかるという意から。 葦の髄から天井を覗く 狭い見識で、大きな問題を論じたり、勝手な 判断をすること。葦の茎の管のように細い穴 を通して天をのぞき、天のすべてを見たと思 い込むという意から。「葦の髄から天井を見 る」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義鍵の穴から天を覗く。針の穴から天を 覗く。管かんを以もって天を窺うかう。 出説苑ぜいえん よしょ予且の患い 高貴な身分の者が、身分の低い者に危害を受 ける危険。△予且=漁師の名。 故事)中国春秋時代、呉王夫差が身分を隠して人民と酒を飲もうと言いだしたときに、臣下の伍子胥ごしがそれを諫いさめるために用いたたとえ話で、「あるとき漁師の予且が魚の目を射た。その魚は天帝の使いである白竜の化身であった。目を射られた白竜は天帝に訴えたが、天帝は、人間が魚の姿をしたお前を射たのはもっともなことだと言って、予且をとがめなかった」という話に由来する。 類義白竜魚服はくりよう。 よじんよな 興人輿を成して、 すなわひとふう 則ち人の富 きほっ は、貴人が用いた乗物の「こし」のこと。 補説出典には、このあとに「匠人 しよう じん 棺 かん を成して、則ち人の夭死 せんことを欲す(大 工は棺桶を作るたびに、人々の若死にを願 う」とある。 出韓非子かんびし 人はみな自分の利益のために、勝手なことを 願うものだということ。車職人は自分の商売 が繁盛するために、人々が富豪になることを 望むという意から。▷輿人‖車職人。「輿」 余勢を駆るよせいか 何事かをやり遂げたその勢いに乗じて別のこ とをやり遂げようとすること。△余勢∥物事 を成し遂げた後もまだ衰えない勢い。 夜鷹の食だくみ できもしない不相応なことを計画すること。 大きな計画を立てても実現できないこと。 「夜鷹の宵だくみ」ともいう。▷夜鷹‖鷹に 似た夜行性の鳥。蚊などを捕食する。 補説夜鷹が夜に飛び回っても、蚊のような 餌にしかありつけないので、今後は夜は寝て、 昼に大きな獲物をとろうと決心したが、さし あたって空腹なので、夜に蚊を求めて飛び回 り、昼は疲れきって寝てしまった。結局毎日 がそのくり返しで、一生蚊を食べて空腹をい やしたという寓話から出たことば。 類義梟の宵だくみ。 よとう余桃の罪つみ 出韓非子かんびし 主君の寵愛 あい が気まぐれで頼みがたいこと のたとえ。 故事昔、中国衛元の国で主君の寵愛を受け ていた弥子瑕びという美少年がいた。あると き、母親が病気になり、お許しを得たと偽っ て主君の馬車で出かけたが、罰を恐れぬ孝行 <673> 者とほめられた。また、あるときは、食べ残 しの桃を主君に食べさせたが、美味なものを 惜し気もなく譲ったとたたえられた。ところ が、容色が衰えると主君の寵愛も薄れ「これ 固もとより嘗かって矯いりて吾が車に駕がし、又 また嘗て我に噛くらわすに余桃を以もってすこの 者は以前、偽って私の馬車に乗り、また、食 べ残しの桃を食わせた」とののしられた。 よどみずごみた 定 淀む水には芥溜まる 物事がとどこおると、人心の腐敗が生じやす いこと。水が流れず同じ場所にたまると、ご みがたまるという意から。 類義流れる水は腐らず 夜長ければ夢見る 物事があまり長びくと、おだやかなままでは すまなくなることが多いということ。夜が長 く睡眠時間が長くなると、夢を見てうなされ ることが多くなるという意から。 よなかことな 世の中の事は成るようにはか 成らぬ と さ た ひと い 世の取り沙汰は人に言わせよ 世間の人はとかくうわさをしたがるもので、 止めようとして止まるものではないから、う わさをしたい者には勝手にさせておくのがよ いということ。 よとざたひとい 類義人の口に戸は立てられぬ。 英語 Let the world wag. 世間を進み行か しめよ よとざたしちじゅうごにちひとうわさ 世の取り沙汰も七十五日人の噂も しちじゅうごにち 七十五日554 よどむみーよぼうは 世の中のことは、いくらあがいたところで人 の力ではどうすることもできず、自然の成り 行きにまかせるしかないということ。▶はか ∥「ほか」の変化で「しか」と同意。 世の中は九分が十分 世の中は思いどおりにはならないもので、 思ったことの九分でも実現すれば、それで満 足すべきだということ。 よなかみっかみまさくら 世の中は三日見ぬ間の桜かな 世の中の移り変わりの激しいこと。桜の花は 三日見ない間に散ってしまう意から。「世の 中は三日見ぬ間に桜かな」ともいう。 補説江戸時代の俳人、大島蓼太 りよ うた の俳句。 よあいも 世の中は互いに助け合って成り立っていると いうこと。「世の中は相持ち」ともいう。 類義人は相持ち。 くてくるものであるということ。 類義天下は回り持ち。 世は相持ち 世は七下がり七上がり 世は七下がり七上がり 人生は浮き沈みが激しく、よいときと悪いと きの繰り返しであるということ。 類義浮き沈み七度なな。 たび せは元偲び よまわも 世は回り持ち よばかものあしろう 輿馬を仮る者は足労せざれど 出淮南子えなんじ 金銭や運不運は、だれにでもかわるがわるめ も千里を致す 他の力をうまく利用すれば、容易に事を成し 遂げることができるということ。車や馬に 乗って行く者は、足を使うことなく千里もの 遠い道のりを行くことができるという意か ら。∇輿馬∥車や馬。 補説出典には、このあとに舟楫しゅう舟と かじに乗る者は游およぐこと能あたわざれども 江海こうを絶わたるとある。 呼ぶより謗れ 人の悪口を言うと必ずその人が姿を見せるの で、用事があるときは、呼びにやるよりも悪 口を言ったほうが早いということ。 類義噂うわさをすれば影がさす。 予防は治療に勝る 事が起こってから対処を考えるより、ふだん から事が起こらないように心がけておくほう が大切だというたとえ。 類義転ばぬ先の杖つえ。 英語 Prevention is better than cure. 防は治療に勝る <674> よみかきーよらしむ よかさんようよわたさんげい 読み書き算用は世渡りの三芸 読むこと、書くこと、計算することの三つは、 世の中で生活していくうえでぜひとも必要な ものであるということ。 世短く意長し 出陶潜ー詩とうせんし 人の一生は短く、それに対して思い悩むこと は非常に多いということ。「世短く意多し」 ともいう。 補説詩の題は「九日閑居 きゅうじつ かんきょ 」。 出典には 「世短くして意常に多し、 斯これ人久生(長命) を楽しむ」とある。 しんとうじょ 世乱れて忠臣を識る 出新唐書 世の中が乱れてはじめて、真に忠義な臣がだ れであるかがわかるということ。また、非常 のときに人間の真価がわかることのたとえ。 類義国乱れて忠臣見 あら わ る。 嫁が姑になる 夜道に日は暮れぬ もう夜になってしまったのだから、日が暮れ るのを心配して慌てて帰ることはないという こと。遅くなったときなどに、いまさら慌て てもしかたがないという意味で使う。 類義 夜道に遅い暗いはない。 夜道に急ぎは ない。 月日の経つのが早いこと。また、境遇の変化 が早いこと。つい先ごろ嫁に来たと思ってい たのに、もうその家の姑になっているという 意から。「嫁が姑」ともいう。 読むより写せ ものを覚えるには、ただ文字を読むより、 字一句を書き写したほうがよいということ。 類義十読じゅうは一写に如しかず。 よめとおめかさうち 夜目遠目笠の内 類義 遠目山越し笠の内。 夜目には牛の毛も 白い。 女性の容姿は、夜見たり、遠くから見たり、 かぶっている笠のすきまから顔の一部をのぞ き見ると、実際よりも美しく見えるものだと いうこと。いろはがるた(京都)の一。 英語 Choose neither a woman nor linen by candle-light.女性もリンネル製品も、 蠟燭ろうの光の下では選ぶな]Hills are green far away.遠くの山は(美しく)青い よめしゅうとめいぬさる 嫁と姑、犬と猿 帰るときは、長いこと実家にいて、夕方になってからしぶしぶ帰っていくということ。 嫁と姑とは、犬と猿のように、仲の悪いもの であるということ。 よめしゅうとめしちじゅうごにち 嫁と姑も七十五日 嫁と姑の仲も、嫁入りしてきた当座はうまく いくということ。また、はじめはぎこちない 関係でも、日が経てば慣れるということ。 よめあさだむすめゆうだ 嫁の朝立ち娘の夕立ち 嫁の腹から孫が出る 嫁と姑 しゅう とめ は仲の悪いものというが、その憎 い嫁がかわいい孫を生むということ。 よめ みっかぎ 嫁の三日誉め どんなに意地の悪い姑 かりのときはほめるが、それはほんの短い期 間だけだということ。 よもぎまちゅうしょうたす 蓬、麻中に生ずれば扶けず なお しゃ直し 出荀子じゅんし よい環境にいると、自然に感化されて善人に なるということ。人は環境に左右されるということ。真っすぐに伸びる麻の中に生えた蓬 は、支柱を立てなくても真っすぐに伸びるという意から。「麻に連るる蓬」「麻の中の蓬」 「麻中の蓬」ともいう。 類義 朱に交われば赤くなる。水は方円の器 に随 した が う。 由らしむべし、知らしむべか らず 出 ろんご 論語 人民に為政者の意図を理解させることは難しいということ。人民を為政者の定めた方針に従わせることはできるが、人民すべてにその理由を理解させることは難しい意から。知らしむべからず、由らしむべし」ともいう。 <675> 補説出典には子曰いわく、民は之これに由ら しむべし、之を知らしむべからず」とある。 よ こいごゅかず 寄らば大樹の陰 頼りにするなら、勢力のある者を頼るほうが 安心できて利益も多いということ。雨宿りや 日差しを避けるのには、小さい木よりも大き な木の下がよいという意から。「立ち寄らば 樹木 おお き (Ⅱ大木)の陰」ともいう。 類義選んで粕かすを擴つかむ。 類義犬になるなら大家 や の犬になれ。 箸と 主しゅ とは太いのへかかれ。 英語 A good tree is a good shelter. な木はよい避難所である It is good shelter terring under an old hedge. [年を経た生け 垣の下で雨宿りをするのはよいことである よ さわ 寄ると触ると 寄る年波には勝てぬ 年とともに気力や体力が衰えてくるのは、防 ぎようがないということ。 頬競弱るは老いの習い。 喜んで尻餅をつく 物事がうまくいき、得意になりすぎて失敗す ることのたとえ。 よるつるやのきぎすよるつる 夜の鶴巻け野の雉子、夜の鶴652 夜の錦 やみよ にしき 闇夜の錦 661 よ 選れば選り屑 慎重に選びすぎると、かえってくだらない物 をつかんでしまうということ。 よらばたーらいしょ 菌を没す 死ぬこと。命を終えること。また、一生涯。 独身。△歯=年齢の意。 補説出典には「歯を没するまで怨言 (死ぬまで怨うらみ言を言わない)」とある。 出 論語 ろんご 弱馬道を急ぐ や よわうまみち いそ や うま みちいそ 654 おき家に強き甲張り コよ こうば 甲張り強くして たお 家押し倒す 弱くても相撲取り 専門家であれば、その道では評価の低い人で も、素人よりはすぐれているということ。弱 い相撲取りでも、普通の人に比べれば格段に 強いということから。 類義芸は道によって賢し。餅は餅屋。 よわた せっしょうしゃかゆる 世渡りの殺生は釈迦も許す 仕事や生活に必要なことなら、多少の無慈悲 や過失はやむをえないということ。 よわめため 英語 One misfortune comes on the neck of another. 不幸は踵 きび を接してやって来 る 弱り目に祟り目 用例「ところが人間万事塞翁 の馬、七転 び八起き、弱り目に祟り目で、ついこの秘密 が露見に及んでついに御上 の御法度 破ったと云いうところで、重き御仕置に仰せ つけられそうになりました〈夏目漱石◆吾 輩は猫である〉 不運な状況にあるときに重ねて災難にあうこ と。「落ち目に祟り目」ともいう。 類義泣き面に蜂。病み足に腫はれ足。 よす 世を捨つれども身を捨てず 人は命を惜しむものだということ。隠遁いんや 出家をしても、生命を捨てはしない意から。 よひつ 出孟子もうし 昼夜の区別なく、休まずに物事を行うこと。 補説出典には「仰いで之これを思い、夜以もっ て日に継ぐ」とある。 類義夜よるを昼になす。昼夜兼行ちゅうや。けんこう らいしょうこうだいうてんまったな 雷声浩大雨点全く無し 前ぶればかりで、何も起こらないことのたと え。雷鳴がとどろくだけで雨が一粒も降らな いという意から。▶浩大‖広く大きいこと。 雨点‖雨粒。 出碧厳録へきがんろく <676> らいどうーらくはく 類義大山鳴動めいして鼠ねず一匹。雷同付和雷同587 と欲する者は今を察す」とある。 らいねんこといおにわら 来年の事を言えば鬼が笑う 将来のことは前もってわからないのだから、 あれこれ言っても仕方がないということ。将 来を予測することの困難さのたとえ。わかる はずのない来年のことを言うと、鬼でさえお かしがって笑うという意から。「明日あすの事 を言えば鬼が笑う」三年先の事を言えば鬼 が笑う」ともいう。いろはがるた(京都)の一。 類義明日の事を言えば天井で鼠が笑う。 来年の事を言えば烏が笑う。 対義昔の事を言えば鬼が笑う。 用例「そうだ、お前だ。お前今何とか言ったね。五年たちゃ海道一の親分が出来るって。笑わせやがらァ。来年の話をすると鬼が笑うって言うじゃねえか。五年も先の話をしやがって、鬼が笑いように困ってらァ」〈山中貞雄・森の石松〉 らがんあものかならまかいあ 羅純有る者は必ず麻薊有り 来年の百両より今年の一両↓明日の百 より今日の五十19 らい 来を知らんと欲する者は往を 察す 出鶡冠子 将来のことを知ろうとする者は、過去の事実 を調べてそれを基礎にして判断するというこ と。▶来‖未来。将来。往‖過去。 補説 出典には、このあとに「古 しえを知らん 出淮南子えなんじ 栄えるものも、必ず衰えるときがくるという こと。上等な着物を着る者も、いつかは粗末 な着物を着るときがくるという意から。∇羅 純=ちぢみ絹とねり絹。薄絹の上等で美しい 服。麻蒯=麻あさと茅かや。粗末な着物の意。 補説出典には、この前に「栄華有る者は必 ず憔悴 しよう(瘦せ衰えること)有り」とある。 らきせんばこいちだんす 羅綺千箱、一暖に過ぎず 美しい衣服がたくさんあっても、暖まるため に必要なのは一着である。むだなぜいたくは 必要ないということ。▽羅綺=「羅」は、う すぎぬ。「綺」は、あやぎぬ。美しい衣服の意。 類義起きて半畳寝て一畳。千畳敷に寝ても 一畳。 楽あれば苦あり 楽髪苦爪 苦爪楽髪 205 楽をしたあとには必ず苦しいことがある。よ いことばかりは続かないということ。また、 怠けた生活をしていると、あとになって苦労 するという戒め。「楽あれば苦あり苦あれば 楽あり」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義楽は苦の種、苦は楽の種。いい後は悪 い。上り坂あれば下り坂あり。 英語 No honey without gall.苦味のない蜜はない No rose without a thorn. 刺とげのないばらはない 身分不相応な楽を得ると、かえって害がある ということ。 落月屋梁の想い 出杜甫ー詩 遠く離れた地にいる友を思いやる心のこと。 補説詩の題名は『李白りはを夢む』。中国唐 の杜甫が、江南に流された李白の身の上を案 じて詠んだ詩で、「落月屋梁に満ち、猶顔 色を照らすかと疑う(西に傾く月が屋根の梁 はりをくまなく照らし、月光は今夢に見た李白 の顔をありありと照らしているかのように思 われる)とある。 楽人楽を知らず 何の苦労もなく気楽に生きている人には、安 楽のありがたさがわからない。苦労をしては じめて、安楽の尊さがわかるということ。 楽は一日苦は一年 楽しいことはすぐに終わってしまうが、苦しいことは長く続くということ。また、一日怠けて楽をすると、その後一年は苦労しなければならないということ。 らく 楽は苦の種、苦は楽の種 たね くらく たね 楽をするとあとで苦労することになり、苦を 忍べばあとで楽ができる。今の苦労は将来の 楽につながるものだから耐え忍ばなければな <677> らないという教え。楽は苦を生むもとにな り、苦は楽を生むもとになるという意から。 類義楽あれば苦あり。いい後は悪い。上り 坂あれば下り坂あり。 英語 He that will have the pleasure must endure the pain.喜びを得たいのなら、苦 しみに耐えなければならない 洛陽の紙価を高める 洛陽の細佈をアレ・・・ 著書の評判が高く、売れゆきが非常によいこ と。「洛陽の紙価を貴たかむ」「洛陽の紙価貴し」 「紙価を高める」ともいう。△洛陽=中国河 南省の都市。多くの王朝の都となった。 故事 晋の左思が『三都賦 さんと 』を著したとき、 世間の評判が高く、洛陽の人々が争ってこれ を書き写したために紙の需要が増し、洛陽で は紙の値段が高くなったという。 ふくようふかく 洛陽負郭の田 都の近郊にあって交通の便もよい肥沃 ひよ な農 地のこと。△洛陽‖中国河南省の都市。多く の王朝の都となった。「洛」は「雒」とも書く。 負郭‖城壁を背にすること。土地が城郭に近 いこと。田‖ここは、よく肥えた農地。 故事)中国、戦国時代の蘇秦 は、南北六か 国が連合して強国秦しんに対抗する「合従 がっし よう の策を説いて六国りの宰相となった。若いこ ろは貧しく、肉親にもばかにされていたが、 出世した後に故郷に立ち寄ると、親族の者は みな恐縮して蘇秦をまともに見ることができ なかった。蘇秦は「私は昔も今も同じなのに、 肉親でさえも身分が高くなると畏れ敬い、貧 出史記しき らくようーらもうの しいと軽蔑する。それが他人ならなおのこと だ。私が出世したのも馬鹿にされて発奮した からだ。もし私に都の近くの肥沃な土地が二 頃けい(一頃は一八二アール)ほどあったなら、 六国の宰相となることはなかっただろう」と 言って嘆いたという。 落落として晨星の相望むが如 しんせいあいのぞごと 出劉禹錫ー詩・引いん 同年代の仲間が死んだりして残り少なくな り、寂しくなること。明け方の空にまばらに 残った星を、遠くから眺めるようだというこ とから。▷落落∥まばらで寂しいようす。晨 星∥明け方の星。 補説詩の題名は『張盥ちょう かん の挙に赴くを送 る詩』の引いん。「今来いま落落として曙星 せい の 相望むが如ごとし。 落花枝に還らず、破鏡再び照らさず はきようかさて 破鏡重ねて照らさず、落花枝 に上り難し519 を辞し、流水情無く自 ずか ち池に入る」から。 対義落花流水の情。 落花情あれども流水意なし 出白居易ー詩 恋しい気持ちが相手に通じないこと。散る花 には流れとともに流れる気持ちがあるのに、 川は知らぬ顔で流れていくという意から。 補説白居易の詩「元家げんの履信りしの宅に過 よぎる」の一節「落花語らずして空むなしく樹 落花流水の情 男女が互いに慕い合う気持ちのあること。落 花には流水に従って流れて行きたい気持ちが あり、流水には落花を浮かべて流れて行きた い気持ちがあるという意から。 出高騈ー詩こうべんし 補説詩の題名は『隠者を訪ねて遇わず』。 注意花を下と書き誤らない。 類義 魚心あれば水心。誘う水あればいなん とぞ思う。 対義 落花情あれども流水意なし。 落花狼藉 らっかろうぜき 出和漢朗詠集 物が散乱しているさま。また、花を女性に見 立てて、女性に乱暴を働くこと。「狼藉」と もいう。∇狼藉∥狼が寝た痕跡を消すため に、藉しいて寝た下草を踏み荒らして立ち去 る習性があるとされたところから、乱雑に散 らかったさま。 注意 花を下と書き誤らない。 羅網の鳥は高く飛ばざるを恨 み、 呑鉤の魚は飢えを忍ばざ るを歎く 災いをこうむってから後悔しても、取り返し がつかないということ。網にかかった鳥は、 高く飛ばなかったことを後悔し、釣り針にか かった魚は、空腹をがまんしなかったことを <678> 後悔する意から。 レ羅網=鳥を捕らえる網。 とりあみ。 吞鉤=釣り針を飲み込むこと。 類義 後悔先に立たず。 うんか爛柯 出述異記 のたとえに用いられる。 囲碁の別名。また、囲碁や遊びに夢中になり 時の経つのを忘れること。△爛=腐る。ただ れる。柯=木の枝。斧の柄え。 故事)中国晋しの王質というきこりが、森で 童子に会い、童子たちが碁を打つのを見てい て時を忘れ、気がつくとそばに置いた斧の柄 が腐っていた。帰ってみると見知った人がだ れ一人いなかったという。 らんくんあらんこくな 乱君有りて乱国無し 出荀子 国を乱す君主はいるが、国がひとりでに乱れ ることはないということ。 類義蘭擺くじけ玉たま折る。 補説出典では、このあとに「治人有りて治法無し(国をよく治める人はいるが、ひとりでに国がよく治まる法などない)」と続く。 らんさいぎよくせつなしょうふがいえい 蘭摧玉折を為すも蕭敷艾栄 な せせつしんご をは作さじ 世説新語 つまらぬ人間として生き長らえるより潔く死 ぬほうが本望であるということ。蘭が折れ、 玉が砕けるように立派な人物として死のうと も、生い茂るよもぎのようにつまらぬ者とし て栄えたくはないという意から。▼蘭摧=蘭 が折れること。玉折=玉が砕けること。蕭敷 艾栄=よもぎが繁茂すること。 補説 蘭摧玉折で、賢人や美人の若死に らんしゅうひた 蘭芷滫に漸す 悪人に交われば善人も悪に染まるということ。香りのよい草の根でも、汚水につけておけば悪臭に染まるという意から。▷蘭芷‖香草の根。滫‖小便、汚水。漸す‖浸す。「ぜんす」とも読む。 出荀子じゅんし 補説出典には「蘭槐の根、是これを芷と為 なす。其それ之これを滫に漸せば、君子は近づけ ず、庶人は昭せず(蘭槐の根は芷という香草 である。これを汚水にひたすと君子は近づけ るところとならず、庶人はありがたがらな い)とある。 らんじゃしついものおの 蘭麝の室に入る者は自ずから こうば 香し 環境や交際する友人がよいと、自然に感化されて、自分の行動も正しくなるということ。蘭の花や麝香のある部屋に入る者は、自然によい香りが身につくことから。∇蘭麝∥蘭の花と麝香 じゃ こう 強い芳香をもつ香料。 類義 朱に交われば赤くなる。芝蘭 の室に 入いる如ごとし。 流れの源。物事の始まり、起源のこと。△濫 〓浮かべる。また、あふれる。觴〓さかずき。 補説孔子が弟子の子路に諭して言ったこと ば昔者むか、江(長江)は岷山ぴんより出いで、 出荀子じゅんし らんしょう濫觴 其その始めて出ずるや、其の源は以もって觴を 濫うかぶべし昔、長江は岷山より流れ出た。 その水源は、さかずきを浮かべるぐらいのわ ずかな水量にすぎない」から。 出孟子もうし 人の道にそむいた悪人のこと。国を乱す臣下 や、親を害するような子供の意から。△乱臣 Ⅱ国を乱す臣。賊子Ⅱ親を傷つけ害するよう な不孝者。 出韓非子かんびし らんすい濫吹 無能な者が有能を装うこと。実力や才能がな いのにあるように装って、その地位にいるこ と。△濫吹∥みだりに吹く。 故事)中国戦国時代、斉の宣王が竽(竹製の、 笙うに似た楽器)を好み、合奏団を結成した とき、吹けもしないのに楽士の一員に紛れ込 んでいた男がいた。宣王の没後、即位した湣 王びんが、楽士ひとりひとりに吹かせようとし たところ、その男は逃げ出したという。 類義 南郭濫吹 なんかく。 らんすい 尸位素餐 しいそ。 さん 禄盗人 ろくぬ。 すびと 濫竽 らん。 らんせい 乱世の英雄 出後漢書 乱れた世にあって力をふるい、天下統一など の偉業を成し遂げる英雄のこと。 補説中国後漢の末、人物批評家として有名 であった許劭 きよし が、まだ身分の低かった曹 操そう(後の魏の武帝)を評して「治世の能臣、 乱世の英雄」と言ったという。許劭の人物評 は、「月旦評 げったん ひよう」と呼ばれ、人々の注目を <679> 浴びた。なお、『魏志』では「治世の能臣、 乱世の姦雄 かん ゆう (乱世で名を挙げる悪知恵にた けた人」と言ったとある。↓月旦評22 類義風雲児 ふうう。 んじ らんていじゅんそう 蘭亭殉葬 出何延子ー蘭亭記 書画や骨董 強いことのたとえ。 蘭渚 の名士が集まり「曲水流觴」の雅会をも よおし、詩を作った場所として知られる。王 羲之が書いたその詩集の序文を「蘭亭集序」 という。殉葬‖死者とともにその持ち物など を埋めること。↓曲水流觴190 故事唐の太宗は書を好み、多くの書家の 名筆を持っていたが、中でも王羲之の「蘭亭 集序」を愛し、永久に自分の手元に置きたい と思って、遺言によりこれを副葬品として陵 墓りように納めさせたという。 らんでんぎよくしょう さんごくしちゅう 藍田玉を生ず 出三国志・注 名門の家から優秀な子弟が出ること。「玉」 は「たま」とも読む。△藍田=中国陝西 せんせい にある山の名。美しい宝玉の産地として有 名。 補説三国時代、呉の皇帝孫権が諸葛恪 の才能をほめて、その父に言ったことばから。 乱暴の取り残し 暴力によってさんざん荒らされたあとにも、 被害をまぬがれたものが少しは残っているも のであるということ。 らんていーりかいっ 鶯鳳は卵の内より其の声衆 ちょうまさ 鳥に勝る すぐれた人物は、幼いときから人よりも秀で たものをもっているということ。鸞鳥や鳳凰 は、卵の中にいるときから他の鳥とは違っ た美しい声で鳴くという意から。△鸞鳳 「鸞」も「鳳(鳳凰)」も中国の想像上の鳥。「ら んほう」とも読む。 類義栴檀は双葉より芳ばし。 鶯鳳は荊棘に棲まず♩枳棘は鸞鳳の棲 ところあら む所に非ず172 らんもんす 乱門を過ぐること無かれ 出春秋左氏伝 自分に災いが及びそうなことは、避けたほう がよいということ。乱れている家庭の門前は 通らないほうがよいという意から。「乱門を 過よぎること無かれ」「乱人の門を過ぎるなか れ」ともいう。 類義危邦きほうに入らず乱邦らんぼうに居らず。 乱を以て治を攻むる者は亡ぶ 政治が乱れている国が、よく治まっている国 を攻めれば、攻めた国が滅亡するということ。 補説出典には「世に三亡 ぼうあり(世には三 つの滅亡への道がある)として、このこと 出韓非子かんびし ばのあとに「邪を以て正を攻むる者は亡び、 逆を以て順を攻むる者は亡ぶ(よこしまな考 えによって正しい国を攻める者は亡び、道理 に反していながら道理に従う国を攻める者は 亡びる)」とある。 りえん梨園 り 出新唐書 演劇界。特に歌舞伎俳優の社会のこと。 故事 中国唐の玄宗 げん 皇帝は音楽を愛し、ま た、音楽に精通していた。宮中音楽隊の殿上 で演奏する組の子弟三百人を選び、梨の木の 植えてある庭園で、自ら音楽を教えて養成し た。また、宮女数百人もここで養成した。こ れらの人々は「皇帝の梨園の弟子」と呼ばれ た。 梨花一枝春雨を帯ぶ りかいっしはるあめお 出白居易!詩 美人が涙にむせび、悲しむ姿のたとえ。 補説詩の題名は『長恨歌ちょう』。楊貴妃 国唐の玄宗げん皇帝の妃きさが、死後の世界で 玄宗のことを思い慕うさまを歌ったもの。 玉容ぎよく寂寞せきぱくとして涙闌干ちん、梨花一枝春 雨を帯ぶ玉のように美しい顔はさびしそう で、はらはらと涙が落ち、ひと枝の白い梨なし の花が春の雨にぬれているようだ」とある。 <680> りがい理外の理り 常識では考えられない不思議な道理。理屈で は説明しきれない道理をいう。 李下に冠を正さず 出古楽府こがふ 人から疑われるようなまぎらわしい行動は、すべきではないという戒め。李の木の下では、手を上げて冠の曲がりを直そうとすると李を取るのではないかと疑われるおそれがあるから、曲がっていても冠を直さないという意から。「李下の冠」ともいう。 補説題名は『君子行くんし』。出典には「瓜田 かでに履くっを納いれず(瓜畑でかがんで履物をは き直すと、瓜を盗んでいると疑われるのでこ うした行為は慎む)、李下に冠を正さず」と ある。 類義瓜田に履を納れず。 英語 He that will none ill do must do nothing that belongs thereto. [悪事をする まいと思う者は悪事に属することをしてはい けない」 李下に蹊径無し 立派な役人のもとでは、不正なことが行われ る余地はないということのたとえ。すももの 木の下に隠れた小道はない意から。△李‖木 の「李」と人の名前の「李」とをかけたも の。蹊径‖小道。通り道。 に権力者に頼みこむこと)行われず。時人語 りて日ぅ、李下に蹊径無し(李乂のもとには 小道もできないと」とある。 出新唐書しんとうじょ 補説中国唐の時代に、無欲で潔白だった役 人の李乂のもとには、賄賂を持って近づく 者などいなかった。出典には「請謁 せい えつ 不正 理が非になる 道理に合っていることが、正しくないとされ てしまうこと。正しいことなのに、不十分な 説明や相手の受け取り方などによって、誤り とされるということ。 鞶牛の尾を愛するが如し 出法華経ほけきよう 人が自らの欲望にとらわれるさまは、 が自分の尾に愛着して何も見えなくなるのと 同じであるということ。 △ 櫽牛 ∥ 尾の長い 牛。 出 論語 ろんご 釜牛の喩えりぎゅうたと 名門の家に生まれなくても、才能・能力があ れば、必ず認められ、登用されることをいう。 ▶犂牛‖まだら牛。農耕用の役牛で、祭りの いけにえに供する赤毛の牛より劣るとされ る。 補説孔子が、父の不徳を嘆く弟子の仲弓 ちゅう きゅう に言ったことば。身分の低かった仲弓の 父を犂牛にたとえ、「犂牛の子、騂あかくして 且つ角あらば、用うることなからんと欲す と雖いえも、山川其それ諸これを舎すてんや(犂牛 の子でも、赤毛で角のの形が立派なら、祭り のいけにえに供すまいとしても、山川の神々 が捨てておくはずがない)と言ったことに よる。父を嘆くより自分を立派に磨けば必ず 認められるという孔子の考えを述べたもの。 うでひょうしぬ 力んだ腕の拍子抜け せっかく張り切って待ちかまえていたのに、 何事もなくて腕のふるいようがないこと。ま た、そういうときの間の悪さをいう。 利食い千人力 株などの相場では、利食いによって実際に利 益を確定することがだいじだということ。△ 利食い=相場の変動によって計算上利益と なった株や商品を、売ったり買い戻したりし て利益を手に入れること。 りくが 蓼莪 親が死んでしまって、孝行をしたいと思って もできない悲しみのこと。 補説 『詩経』小雅 うが の蓼莪の詩編にある、 親孝行な子が公務のために家を離れ、親に孝 養を尽くせなかったことを悲しんだ詩から。 類義風樹の嘆。孝行のしたい時分に親はな し。 りくじんりくおすいじんみず 陸人は陸に居り、水人は水に 居る 出国語 住む所によって風俗が違うものであること。 また、人は住みなれた所からなかなか他に移 り住もうとはしないものだということ。陸上 に住む人は陸上に家があり、水上に生活する 人は水上に浮かぶ舟を住居とする意から。 <681> 類義 越人 えつ ひと は越に安んじ、楚人 そひ と は楚に安 んず。 りくつじようずおこなべた 理屈上手の行い下手 口先ばかりで、実行が伴わないこと。また、 そのような人。理屈を言うのはうまいが、実 際にやらせてみるとさっぱりだめである意。 類義口叩たきの手足らず。 対義口も八丁手も八丁。 理屈と膏薬はどこへでもつく 膏薬が体のどこにでもつくように、どんなこ とにもそれらしい理屈をつけられるものだと いうこと。 理屈を言えは腹が立つ 理屈にこだわらずに妥協したり、別の解決を はかるほうがうまくいくということ。理屈か らいえば自分のほうが正しいが、それを主張 していても腹が立つだけだということから。 つくとうさんりゃく 六韜三略 兵法・軍略などの奥義。奥の手。中国古代の 名高い兵法書の名から。△六韜∥周の太公望 呂尚りよしの著とされる兵法書。文・武・竜・ 虎こ・豹ひよ・犬の六巻からなり、ここから「虎 とらの巻」の語が生まれた。「韜」は弓袋の意。 三略∥前漢の功臣張良の師黄石公 これる兵法書。上略・中略・下略の三巻から なる。「略」ははかりごとの意。「六韜」「三略」 ともに後世の偽作という説がある。 りくつじーりしゅが 六馬和せざれば則ち造父も以 て遠きを致す能わず 出荀子 何事も、人々が心をつにして協力しなければ成し遂げることはできないということ。車を引く六頭の馬の気持ちがそろっていなければ、名御者の造父でも、遠くまで馬車を走らせることはできないということから。△六馬ニ天子が乗る六頭立ての馬車を引く馬。造父周の穆王に仕えた名御者。 補説)中国、戦国時代の思想家荀子が、「用 兵の要は民衆を統一することにある」と説い た中のことば。「弓矢調わざれば則ち羿げいも 以て微に中あつる能わず(弓矢がうまく調整さ れていなければ、羿のような弓の名人でも小 さな的にあてることはできない)、六馬和せ ざれば則ち造父も以て遠きを致す能わず」と 言っている。 利口がこぶらへ回る 気をきかせたつもりが、逆に失敗につながる こと。利口ぶってめぐらした策が裏目に出る 意から。△こぶら‖腓こむ。ふくらはぎ。 利口の猿が手を焼く 利口だと過信している者が、手をつけた仕事 の難しさに持て余すことのたとえ。 類義利口な猿は木から落ちる。 出して失敗し、財産を失うことも多いが、能 力がないと無理をしないので、堅実な生活を 保つことができるということ。 りこうびんぼうばかよも 利口貧乏、馬鹿の世持ち なまじ能力があると、いろいろなことに手な 利口に生まれついて小才がきくと、かえって 失敗を招くことがある。小利口な者は、愚か であるのと同じになることもあるというこ と。マ利根‖生まれつき賢いこと。 利根却って愚痴になる 利して利とすること勿れ 出呂氏春秋 政治を行う者は、人民の利益になることを考 えるべきであり、自分の利益を図ってはいけ ないということ。 補説 中国周の時代の政治家周公が、子の伯 禽 に魯るを治める方法を尋ねられたときに 答えたことば。 りしゅ あた 離朱が明も睫上の塵を視る能 わず 世の中には、どんなにすぐれた人にもわからないことがあるということ。また、自分のことはわからないものだというたとえ。すぐれた視力を持つ離朱でも、自分のまつげの上の塵は見ることができないという意から。△離朱Ⅱ中国古代の伝説上の人物。視力がすぐれ、百歩離れた所からでも毛の先がよく見えたという。「離婁りろ」ともいう。睫Ⅱまつげ。補説平安時代の漢文集『本朝文粋』ほんちょうもんずい <682> にあることば。『淮南子 元な んじ』にある「離朱の 明は箴末 しん まつ を百歩の外に察すれども、淵中 えんち ゅう の魚を見る能わず(離朱のすぐれた視力 は、百歩離れた所からでも針の先がわかるほ どだが、淵ふちに潜っている魚を見ることはで きない)に基づくとされる。 類義魚うおの目に水見えず、人の目に空見え ず。目は毫毛 もう を見るもその睫 まっ げ を見ず。鬼 の目にも見残し。 履霜の戒め りそういまし 出易経えきよう 小さな前兆を見て大きな災難に備える戒めと すること。 補説「霜を履ふみて堅氷 ちょう 至る(霜をふんで 歩く時期になると、まもなく氷の張る真冬が やってくる)に基づくことば。 せいではないということから。 律儀者の子沢山 義理がたく実直な者は、品行方正で夫婦仲も よいので、自然と子供が多くできるというこ と。いろはがるた(江戸)の一。 六国を滅ぼす者は六国なり 出 杜牧ー阿房宮賦 国家が滅亡するのは、外部の力よりも内乱や 政治の腐敗などが原因であることが多いということ。また、悪い結果になる原因は自分自身にあることが多いというたとえ。中国の戦 国時代に、六国(燕えん・韓かん・魏ぎ・斉せい・楚そ・ 趙ちょ)は秦しんに滅ぼされたが、そのおもな原 因は六国同士の争いによるもので、秦だけの 補説出典には「六国を滅ぼす者は六国なり。 秦に非あらざるなり。秦を族する者は秦なり。 天下に非ざるなり(秦の一族を滅ぼしたのも 秦である。天下の人々ではない)」とある。 類義平家を滅ぼすは平家。自業自得。 出呂氏春秋 一鉢の ぎっしりとつまっていて、少しのすきまもな いこと。錐きりの先を立てるほどのわずかな余 地もないという意から。「錐を立つる地なし」 「立錐の余地もない」ともいう。 りっすいよちりっすいち 立錐の余地もない↓立錐の地なし682 理詰めより重詰め 理屈でやりこめるより、それとなく上手にわ からせるほうがよいということ。同じ「詰め」 なら、理詰めよりも重箱詰めのほうがよいと、 「理詰め」と「重詰め」を掛けて言ったもの。 ∇理詰め∥物事をどこまでも理屈で押しすす めること。重詰め∥ごちそうをつめた重箱。 りかひお 理に勝って非に落ちる 正論が勝つとは限らないということ。正しい 道理を主張して理屈では勝っても、そのため に損をしたり不利な立場になったりして、負 けたのと同じ結果になるということから。 「理に勝って非に負ける」ともいう。 りまひか 一里こ負けて非こ券て 取るべきだということ。 あること。 非不利な立場に 理に負けて非に勝て 類義論に負けても実に勝て。 理屈では負けてもよいから、正論より実利を 利によりて行えば怨み多し 出 ろんご 論語 自分の利益に結びつくことばかり考えて事を 行うと、人から怨みを受けるということ。 利の在る所皆貰諸たり 出韓非子かんびし 利益になることには、人はだれでも勇敢になるものだということ。人間は利益を前にすると、賁や諸のような勇者となって利益を得ようとする意から。∇賁諸Ⅱ「賁」は孟賁ほん(秦しの力士)で「諸」は専諸(呉王を討った勇士)のこと。代表的な勇者。 補説出典には「鱣せん(うなぎ)は蛇に似、蚕 さんは蝸くしょ(毛虫)に似る。人は蛇を見れば則 すな わ ち驚駭 きよう がい し(驚き)、蝸を見れば則ち毛起たつ (身の毛がよだつ)。漁者は鱣を持ち、婦人は 蚕を拾う。利の在る所、則ち其その悪にくむ所 を忘れ(ふだんは嫌っているのも忘れて)、皆 賁諸と為なる」とある。 理の高じたるは非の一倍 理屈に偏りすぎたものは、理屈に合わないも のよりも始末が悪いということ。「理も高ず れば非の一倍」ともいう。△一倍=古い言い 方で、二倍の意。 <683> 理は万民の悦び、非はまた諸 人の嘆き 道理に合った正しい政治が行われればすべて の人々が喜び、非道な政治が行われると人々 は悲嘆にくれるということ。 りほどこものふくむくうらゆ 利施す者は福報い、怨み往く 者は禍来る 出説苑ぜいえん 他人の利益になることをする者は、その善行 の報いとして福を得ることができるが、人の 怨みを買うようなことをすれば、その報いと してわざわいがふりかかるということ。 溜飲∥胃の具合が悪くて、口にすっぱい液が 出ること。また、その液。 柳暗花明 りゅうあんかめい 春の景色の美しいさま。転じて、花柳界・遊 郭のこと。柳が茂ってほの暗く、花が咲いて 明るい色があふれているという意から。 出王維ー詩 補説出典の詩の題名は「早朝」。中国南宋 なん そう の陸游 りく ゆう の 『山西 さん せい の村に遊ぶ』詩にある 「山重水複 さんちよう すいふく 路 みち 無なきかと疑えば、柳暗 花明又また一村 いっ そん (山が重なり川が幾筋にも分 かれて、道がそこでなくなるかと思うと、柳 がほの暗く茂る中に花が明るく咲いていて、 また一つの村が現れる)の句は有名。 溜飲が下がる 不平不満が解消して、気分がすっきりすること。溜飲がなくなって、すっきりする意から。「溜飲を下げる」という形でも使われる。 りはばんーりゅうと 竜吟ずれば雲起こる 英雄が行動を起こすと、多くの同志が集まっ てくること。竜が鳴けば雨雲がわき起こると いう意から。 類義虎嘯 うそ ぶ いて谷風 こく ふう 至る。雲は竜に従い 風は虎に従う。 りゅうげんちしゃ 流言は知者に止まる出荀子 根も葉もないうわさは、愚かな者の間では 次々に広まっていくが、知者はそんな話には 興味を示さず人にも話さないから、そこで止 まってそれ以上広まらないということ。 流 言蜚語 無責任な、根拠のないうわさ。▼蜚語=無責 任なうわさ。デマ。「飛語」とも書く。 補説流言は『詩経』、蜚語は『史記』と出 典を異にするが、同意であることから合わせ て用いられるようになった。 りゅうこあいう 竜虎相搏つ すぐれた実力を持ち、優劣をつけがたい者同 士が勝敗を争うこと。「竜虎」は「りょうこ」 とも読む。 類義竜虎の争い。 流觴曲水↓曲水流觴 柳絮の才詠雪の才98 出呂氏春秋 常に動いているものは、沈滞したり腐敗したりしないということ。流れる水は腐らず、いつも開閉する戸の柩くるには虫がつかないという意から。「流れる水は腐らず」ともいう。∇枢∥開き戸を開閉するための軸となる装置。螻∥けら。ここでは広く虫のこと。 足る 水は以て壺檣に溢らすに 出淮南子 た りゅうすいもっここうあふ えなんじ わずかなものでも、積もれば大量になるということ。雨だれの水でも、瓶や樽たるを満たすことができる意から。▼霧水=雨だれ。壺榼=瓶と樽。「榼」は「かつ」とも読む。 補説出典には「霤水も以て壺榼を溢らすに は足れども、而しかれども江河は漏巵ろうを実み たす能あたわずしかし、長江と黄河の大量の 水をもってしても、底の割れている杯を満た すことはできない」とある。漏れ失うとこ ろがあれば、いくら努力しても報われないと いうことを言ったことば。 りゅうせいこうていちょうだいっちょうだいっ 流星光底長蛇を逸す長蛇を逸す 426 初めは勢いが盛んだが、終わりになると衰え 竜頭蛇尾 出景徳伝灯録 <684> りゅうとーりょうい て振るわないこと。頭は竜のように立派だ が、尾は蛇のように細いという意から。「竜 頭」は「りょうとう」とも読む。 頃義」頃でっかち兄つぎみ。 類義頭でっかち尻つぼみ。 竜と心得た蛙子 親の欲目からくる見込み違いのこと。竜にな ると期待していた我が子が成長するにつれ、 やはり蛙の子にすぎないとわかることから。 りゅうつばさえごと 竜に翼を得たる如し 強いものに、さらに力を加えることのたとえ。 雲を起こし風を呼んで天に昇る竜が、翼を得 てさらにその力を増したようだという意か ら。「竜に翼」ともいう。 類義 竜の水を得たるが如し。駆け馬に鞭 虎に翼。鬼に金棒。 竜の頷の珠を取る 目的を達成するために、非常な危険をおかす こと。竜のあごの下にある宝玉を取るという 意から。△領‖顎あご。 類義虎穴に入らずんば虎子を得ず。虎の尾 を踏む。猫の額の物を鼠ねずが窺うかう。 りゅう ひげありねら 竜の鬚を蟻が狙う 自分の力が弱いことをかえりみず、強い相手 に立ち向かおうとすること。 類義蟬蟬の斧 ゆうひげなとらおふとらお 竜の鬚を撫で虎の尾を踏む尨の尾を 踏む474 りゆういっすんしょうてんき 竜は一寸にして昇天の気あり すぐれた人物には、幼いころから非凡なとこ ろがあるということ。竜の子は一寸ほどのこ ろから天に昇る気迫を示すという意から。 類義蛇じは一寸にしてその気を得る。虎豹 ようの駒は食牛の気あり。蛇は寸にして人を吞 りゅうびさかだ 柳眉を逆立てる 美人が怒って眉をつり上げたさま。「柳眉を 蹴立てる」「柳眉を釣り上げる」ともいう。 △柳眉=柳の葉のように細くて美しい眉。 りゅうめつまず 竜馬の躓き 名人も失敗することがあるということ。名馬 もつまずくことがあるという意から。▷竜馬 =名馬。「りゅうば」「りようば」とも読む。 類義猿も木から落ちる。河童の川流れ。 弘法にも筆の誤り。釈迦にも経の読み違 い。孔子の倒れ。 竜門の滝登り たきのぼ こい たきのぼ 鯉の滝登り 228 出李紳ー詩 粒粒辛苦 盤中の飧そん、粒粒皆辛苦なるを夕食の皿に 盛られた米の一粒一粒が苦労の結晶であるこ とを、だれがわかってくれるというのか」 とある。 こつこつと努力を積み重ねて、非常な苦労を すること。穀物の一粒一粒は、農民の努力と 苦労の結晶であるという意から。 補説詩の題名は『農を憫 あわ れ む』。「禾かを鋤す きて日は午ごに当たる。汗は滴る禾下かの土 (稻田を耕していると太陽が昼を告げ、滴る 汗は稻の根もとへ落ちる。誰たれか知らん、 類義粟あわ一粒は汗一粒。 流連荒亡 出孟子もうし 遊興や酒色にふけって家庭をかえりみず、無 為な暮らしを送ること。∇流連∥遊びほうけ て家に帰らない意。荒亡∥狩猟や酒色などの 遊興にふける意。 補説)斉の宣王の尋ねに孟子が答えた「飲食 流るるが若ごとく、流連荒亡は、諸侯の憂いと 為なる(自分たちの飲食は欲望のままに行い、 遊興や酒色にふけっていることは、諸侯の憂 いのもととなっている」ということばから。 りゅうえがいぬるいとらえがいぬ 一竜を画いて狗に類す尨を画いて狗に を画いて狗に類す 虎を画いて狗に 475 類す475 りゅうえがひとみてんがりようてんせい 竜を画いて睛を点せず↓画竜点睛を か 欠く158 りようねこつめかくのうたかつめ 一猟ある猫は爪を隠す↳能ある鷹は爪を かく 隠す511 良医の門に病人多し 出荀子 よい医者のところには病人が多く集まるということ。また、よい師匠のところには弟子が多く集まること。 補説出典には、このあとに「櫽括の側 に枉木多し(木の曲がりを直す道具のそば <685> には、曲がった木が集まる」とある。 りょううんこころざし 凌雲の志 俗世間を超越した高い志。また、立身出世を しようとする志。△凌雲=雲をしのぐほど高 いこと。「陵雲」とも書く。 出漢書かんじょ りようきあしほだせ 良驥の足を絆して責むるに せんりにんもつ 千里の任を以てす 出呉質ー答二東阿王一書 すぐれた能力があっても、それを自由に発揮 できる状態になければ、力を出せないという こと。名馬の足をしばって、千里を走れと責 めたてる意から。∇驥∥駿馬 一日に千里 を走る馬。∇絆す∥つなぎとめる。 良弓張り難し 才能のある者を使いこなすのは難しいが、う まく使えば大きな成果が上げられるというこ と。強くてよい弓は弦つるを張るのが難しい が、張ってしまうと威力を発揮する意から。 良玉尺を度れば十仞の土有 りと雖も其の光を掩う能わず 出墨子ぼくし すぐれたものは必ず世に知れ渡るというこ と。よい宝玉は小さくてもよく輝くから、十 仞もの高さの土でおおっても光を隠すことは 出韓詩外伝 りょううーりょうこ できないという意から。「度れば」は「度わた れば」とも読む。∇仞∥長さの単位の「ひろ」。 良玉は彫らず、美言は文ら ず 出法言 すぐれたものは、それ自体が美しいものだと いうこと。よい玉は彫刻しなくても美く、よ いことばは飾らなくても美しい意から。 りょうきんきえら 良禽は木を択ぶ 出春秋左氏伝 賢者はよい主君を選んで仕えるということ。 賢い鳥は、木のある場所や枝ぶりなどを選ん で巣をつくるという意から。「良禽は木を択 んで棲む」ともいう。 出晋書しんじょ ゆうすうくほうすう竜駒鳳雛 非常に素質のすぐれた少年。将来大人物にな ることが予見される子供。すぐれた子馬と鳳 凰ほうのひなの意から。マ竜駒=すぐれた子 馬。「りゅうく」とも読む。鳳雛=鳳凰ほう(中 国の伝説上の霊鳥)のひな。 補説中国晋の詩人陸雲は、幼いころからす ぐれた才能を持っていて、神童の誉れが高 かった。呉の大臣閔鴻 びん こう がこの少年を見て 言ったということばによる。 出書経しょきよう 勢いよく広がることのたとえ。とくに、悪事 や騒乱などがすさまじい勢いではびこること のたとえ。野原に火がつくと、勢いよく燃え 広がって手がつけられなくなることから。 りょうげん燎原の火ひ 補説出典の「火の原に燎もえ、郷邇 きよ うじ す可べ からず、撲滅す可からざるが若ごときは、則 すな わ ち惟これ爾衆 なんじ しゅう 自ら弗靖 ふっ せい を作なせるなり火 が野原に燃え広がると、近づくこともできず、 消し止めることもできないように、それはあ なたたちが勝手に不善をしたからだ」によ ることば。 良剣は断ずるを期して莫邪 出呂氏春秋 を期せず 名よりも実質が重要であるというたとえ。剣 はよく切れればよいので、莫邪のような名剣 である必要はない意から。∇莫邪=中国古代 の名剣の名。「莫耶」「鎭鎔」とも書く。 補説出典には、このあとに「良馬は千里を 期して驥驚きこを期せず(良い馬は一日に千里 を走る能力があればよいのであって、驥驚の ような名馬である必要はない)とある。↓ 干将莫邪かんしょうばくや163 りようこあいたたかいきおともい 両虎相闘えば勢い俱には生 出史記しき きず 強豪同士が戦えば、必ずどちらか一方、また は双方が倒れるということ。二頭の虎が闘え ば、両方とも生き残ることはなく、必ずどち らか一方が死ぬことになる意から。 故事中国の戦国時代、趙 ちょ の将軍廉頗 れん ば は、 弁舌のみによる外交戦略で功績を上げて恵文 王の信頼の厚かった藺相如 りんしょ うじよ を恨んでいた が、藺相如はひたすら廉頗を避けた。人に理 <686> りょうこーりょうじ 由を聞かれて、藺相如は「秦が趙を攻めない のは私と廉頗将軍がいるからで、今両虎共に 闘わば其その勢い俱ともには生きず(今両虎が 闘えば両者とも生き残ることはない)。自分 は国家を思い、個人的な恨みごとを避けてい るのだ」と答えた。これを伝え聞いた廉頗将 軍は藺相如に謝罪し、それからはきわめて親 しい交際をしたという。↓完璧 かん ペき 167・刎頸 ふん けい の交わり587 類義両雄並び立たず。 りょうこうかさ 両高は重ねべからず 世いえん 説苑 力の強い者同士は両立しがたいということ。 高いものの上に、高いものを重ねて積むこと はできないという意から。 補説出典には、このあとに両大は容る べからず、両勢は同じうすべからず、両貴は 双ならぶべからず(大きいものを両方とも器に 入れることはできず、勢いの強いものを一緒 にすることはできず、貴いものを並べておく ことはできない)」とある。 類義両雄並び立たず。 良工は材を択ばず すぐれた技術を持つ職人は、材料の善し悪 しなど問題にしないということ。 類義弘法筆を択ばず。能書は筆を択ばず。 良工は人に示すに朴を以て せず 出後漢書 ば人に見せない。名工は、未完成の物を人に 見せて、名を汚すようなことは避けるという こと。△朴‖手を加えていない素材。 すぐれた技術を持つ職人は、完成品でなけれ りようこしょくあらそとききつねそきよ 両虎食を争う時は狐其の虚 に乗る 二者の争いに乗じて、第三者が利益を得るこ と。二頭の虎が餌を争っていると、そのすき に狐がそれを横取りするという意から。 類義漁夫の利。両虎与ともに相闘あいたたかわば駑 犬どけも其の弊へいを受く。 りようこともあいたたかどけんそ両虎与に相闘わば駑犬も其の弊を受く出史記 強豪同士が戦っているすきに、弱小の者が労 せずして利益を得ること。二頭の虎が闘え ば、その疲れに乗じて駄犬がうまい汁を吸う 意から。▷駑犬‖駄犬。弊‖疲れること。 類義漁夫の利。両虎食を争う時は狐 其の 虚に乗る。 良賈は深く蔵して虚しきが 若し 出史記 賢明な人は、自分の才能や学徳をひけらかし たりはしないということ。すぐれた商人は、 商品をやたらに店頭に並べず店の奥にしまい 込んでいるため、見かけは商品が乏しいよう に見えるという意から。∇良賈=すぐれた商 人。 補説孔子が老子を訪ねて「礼」について質 問したときに、老子が言ったことば。出典に は、このあとに「君子は盛徳ありて容貌愚な るが若ことし(君子はすぐれた徳があっても、 それを外に出さないから、外見は愚者のよう に見える)」とある。 出水滸伝すいこでん 豪傑や英雄を気取った野心家などが集まる場 所。もと、中国山東省西部の梁山のふもとに あった沼の名。 補説『水滸伝』は、十二世紀初めに宋江 らの盗賊が梁山泊に立てこもって起こした反 乱をもとにした小説。百八人の豪傑が活躍す る舞台が梁山泊であることから、豪傑や野心 家の集まる場所を指すようになった。 りようしやまみ しかおものやまみ 猟師山を見ず↳鹿を逐う者は山を見 ず284 出晋書しんじょ りょうしゅう 領袖 集団の長となる人物。また、重要な地位にい る人。「領」は襟えり、「袖」は袖その意で、衣 服の襟と袖はとくに目につきやすい重要な部 分であることから。 補説出典には、中国晋の文帝は魏舒 能を評価して、「魏舒は堂堂として人の領袖 なり(魏舒は風格が堂々としていて、人の上 に立つ者である)と言っていたとある。 梁上の君子 盗賊、泥棒のたとえ。また、ねずみの別名。 出後漢書 <687> △梁∥家の棟を支える横木。 故事中国後漢の陳寔ちんしが、梁はりの上にひそんでいる盗人に気づき、子供や孫を集めて「人間は努力しなければならない。悪人も生まれつき悪人ではなく、悪い習慣からそうなったのだ。いま、梁の上にいる君子もそうだ」と言って聞かせた。盗人はこれを聞いて驚き、自分から降りてきて謝罪したという。 良匠は材を棄つることなく めいしゅしす 明主は士を棄つることなし 出帝範ていはん 立派な大工が悪い材料でも捨てないように、 すぐれた君主は適材を適所に用いて人材を捨 てることがないということ。∇匠∥大工。 良将は戦わずして勝つ 武力によらず、知謀を用いて戦わずに敵を屈 服させるのが良将の戦法だということ。 補説出典には「戦わずして人の兵を屈する は善の善なる者なり」とある。 出孫子そんし 良匠も金を斲る能わず、巧 治も木を鑠かす能わず 物の本質は変えられないということ。どんな 出淮南子えなんじ りょうしーりょうと 名工も金を削れないし、どんなに腕のいい鋳 物師も木をとかせない意から。▷良匠‖名 工。巧冶‖腕のいい鋳物師。 りょうじんうご 梁塵を動かす 歌声の美しいことのたとえ。また、音楽にす ぐれていることのたとえ。「梁うつの塵ちりを動 かす」ともいう。△梁塵‖梁はり屋根を支え る木材)の上の塵。 出文選・注ちゅう 補説文選にある成公綏せいこ「嘯賦しの 注に「劉向別録りゅうきよを引き、「漢興おこりて 以来、雅歌を善くする者は魯人ろじ虞公ぐこなり。 声を発して清哀、遠く梁塵を動かす」とある。 故事漢の時代、魯の国に虞公という人がお り、たいへんな美声の持ち主で、歌うと梁の 上の塵まで動いたという。 りょうたんじ 出史記しき 両端を持す どっちつかずのあいまいな態度をとること。 有利なほうにつこうとして、両方のようすを うかがっている意。 補説出典には「晋しん、楚その鄭ていを伐ぅつを 聞き、兵を発して鄭を救う。其その来たるや、 両端を持す。故ゆえに遅かりしや(晋は楚が鄭 を伐ったと聞き、兵を出して鄭を救った。そ の来援について進んで救うべきという説と退 いて手を引こうとする両端の説があったので 遅れました」とある。 類義洞ほらが峠を決め込む。首鼠両端 ようたん 夢 虫辛を忘る 出左思魏都賦 ふつうの人にはいやがられるものでも、平気 な人もいて、人間の好みはさまざまだという こと。蓼たでを好んで食べている虫は、あの辛 くて苦い味をなんとも思わないという意か ら。「蓼虫苦きを知らず」ともいう。 補説出典には「蓼虫の辛を忘れたるに習い、 進退の惟これ谷きわまるに翫ならう(蓼を好んで食 べる虫が辛いのを忘れてそれに親しみ、進退 窮まる危険な状況にもかかわらずそれに慣れ ているようなものだ」とある。 類義蓼食う虫も好き好き。 良知良能 出孟子もうし 人が生まれながらにして持っている知恵と能 力。教育や経験によらなくても知り得る知力 と実行できる能力のこと。 補説出典には孟子のことばとして、「人の 学ばずして能よくする所の者は其その良能な り。慮 おもん ばか らずして(思いめぐらさなくとも) 知る所の者は其の良知なり」とある。 仮ようて両手に花はな よいものを二つ同時に手に入れることのたと え。とくに、二人の女性を独占しているとき などにいう。 類義 梅と桜を両手に持つ。両手に旨 うまい 物。 遼東の豕りようにいのこ 出後漢書 見聞が狭いために、世の中では当たり前とさ れていることを、自分だけが知っていると 思って得意になっていることのたとえ。ひと りよがり。∇遼東∥遼河の東の地。現在の中 <688> 国遼寧 りよう ない 省南部一帯の地。 豕‖豚。 故事昔、遼東で頭の毛が白い豚の子が生ま れた。珍しいので王に献上しようと、河東(現 在の山西省)まで行って豚の群れを見たら、 そこの豚はみな頭の毛が白かった。遼東の人 たちは恥ずかしく思い引き返したという。 良農は水旱の為に耕さずん ばあらず 出荀子じゅんし 君子は貧困に苦しんでも正しい道の実践に励むことをやめないというたとえ。よい農民は、洪水や日照りの害に苦しんでも、耕作することをやめないということから。▷水旱‖洪水と日照り。 ヘん獄を決するなかれ。 りょうとりおし 猟は鳥が教える 物事は、くり返しやっているうちにこつを覚 え、身につくものであるということ。狩猟の 方法は、鳥を追っているうちに自然に覚える もので、鳥が教えてくれるようなものだとい う意から。「猟は鳥がなす」ともいう。 りようばつるぎもろはつるぎ 両刃の剣両刃の剣649 両方聞いて下知をなせ 争いごとを裁くには、一方の言い分だけでは 不公平になるから、両方の言い分をよく聞い た上で判断しなければならないということ。 「両を聞きて下知をなせ」ともいう。▷下知 =命令。判決。指図。「げじ」とも読む。 類義片口 くち聞いて公事くじを分くるな。片言 両方立てれば身が立たぬ すべての人とうまくやっていくのは難しいと いうこと。利害が対立する両者で、一方の言 い分を通すと他方が不満に思うし、かといっ て両方の言い分どおりにしては、自分の立場 がなくなるという意から。 類義彼方あち立てれば此方こちが立たぬ。 両方よいのは頬冠り 世の中のことは、一方がよければ他方が悪く、 両方ともよいことなどあり得ない。あるとす れば、ほおかむりくらいのものだということ。 出孔子家語こうしけご 良薬は口に苦し 自分のためになる忠告は聞き入れにくいということ。よく効く薬は、苦くて飲みにくい意から。いろはがるた(江戸)の一。 補説孔子のことば。出典には「良薬は口に 苦けれども病に利あり。忠言は耳に逆らえど も行いに利あり(良い薬は苦いけれども病気 にはよく効く。忠告は耳に聞きづらいけれど も、行動のためになる)とある。 英語 Good medicine is bitter in the mouth. [良薬は口に苦く] Men take bit-ter potions for sweet health. [人は快に健康のために苦い薬を飲む] 両雄並び立たず 二人の英雄が両立することはできないという こと。同じくらいの力を持つ英雄が二人現れ 出史記しき れば、必ず争いになり、どちらか一方が倒れ ることになる意。 補説 出典には 両雄俱 とも には立たず とあ 類義両虎相闘えば勢い俱には生きず。両 高りようは重ぬべからず。 英語)He that has a wife has a master.女 房持ちは主人持ち) If two ride upon a horse one must sit behind.「一頭の馬に二 人で乗ろうとするなら、一人は後ろに乗らな ければならない」 りようようさ 両葉去らずんば斧柯を用う いた るに至る 出六韜 災いの芽は、小さなうちに取り除いておかないと、あとで面倒なことになるということ。二葉のうちに摘み取っておかないと、大木になって斧おので倒さなければならなくなるという意から。二葉にして絶たざれば斧を用うるに至る」ともいう。両葉∥芽が出たばかりの二葉。斧柯∥斧の柄。斧のこと。 補説出典には両葉にして去らざれば、将 まさに斧柯を用いんとす」とある。 類義 涓涓 けん 壅 ふさ がざれば終 つい に江河とな る。 綿綿 めん めん を絶たずんば縵縵 まん を如何 いか せん。 力田も年に逢うには如かず 出史記しき 人間の力は、とても自然の力には及ばないと <689> いうこと。どんなに耕作に励んでも、豊作の 年の収穫には及ばないという意から。▷力田 ∥農業に励むこと。年∥豊作の年の意。 りょくひんまさしんかまさ 力は貧に勝り慎は禍に勝る 努力すれば貧乏を克服でき、言行を慎めば災いを防ぐことができるということ。「力」は「りき」「ちから」とも読み、「勝る」は「勝つ」ともいう。 出論衡ろんこう 補説類句として説苑ぜいえんには力は貧に 勝ち、謹は禍に勝ち、慎は害に勝ち、戒は災 に勝つ」とある。 という意から。 △ 蚤甲=爪。 小さなもののた とえ。 緑林りょくりん 出漢書かんじょ 盗賊の異称。「緑林」は中国湖北省にある山 の名。 故事新の王莽 もう の時代に飢饉 きき がおこり、 生活に苦しむ人々が緑林山に立てこもり、近 くの集落に攻め入っては緑林山中に隠れる盗 賊行為をくり返した。その数は数か月のうち に七、八千人に達したという。 驪竜頷下の珠 たま がんか たま 頷下の珠 162 りあらそそうこうごと 利を争うこと蚤甲の如くにし そたなごころうしな て其のゆまぇ失う出荀子 類義指を惜しんで掌てのを失う。 小さな利益に目を奪われて大きな利益を失う ことのたとえ。爪のような小さな利益にこだ わって、手のひらのような大きな利益を失う りょくはーりんじん 利を営む者は患い多く、 かろ もの しんすくな だく諾を もうけることばかり考えている者はいつも悩 み事が絶えず、何でも軽々しく引き受ける者 はあまり信用されないということ。 出説苑ぜいえん 林間に酒を煖めて紅葉を焼く りんかんさけあたたこうようた 出白居易ー詩 林の中で紅葉を集めて火をたき、酒をあたた めて飲む。秋の風情を味わう楽しさをいう。 補説詩の題名は『王十八の山に帰るを送り 仙遊寺 せんゆ うじ に寄題きだす』かつて仙遊寺でよく 遊んだことを思い出して歌った詩で、「林間 に酒を煖めて紅葉を焼き、石上に詩を題して 緑苔りよくを掃う(林の中で紅葉の落ち葉をた いて酒をあたためたり、石の上の緑の苔こけを はらい落として詩を書きつけたりした」と ある。日本でも『和漢朗詠集』や『平家物語』 で引用されており、風流な趣を表すものとし て有名である。 出南史なんし りんきおうへん臨機応変 状況や情勢の変化に応じて、適切な行動をと ること。「機に臨み変に応ず」ともいう。 補説中国の南北朝時代、梁りの総司令官蕭 明 が将軍たちの発言に対して苦言を呈し たことば「吾われ自ら機に臨みて変を制す。多 言する勿なかれ私は自分自身で情勢の変化に 応じてうまくおさえられるのだ。よけいなこ とは言わないでくれ」から。 りんきしっとおんなつね 恪気嫉妬は女の常 やきもちをやくのは女の生まれつきの性質の ようなものだということ。「恪気嫉妬は女の 役」ともいう。∇恪気=やきもちをやくこと。 りんきおんなななどうぐ 恪気は女の七つ道具 やきもちは女性の武器で、男性をあやつる絶 好の手段になるということ。∇恪気=やきも ちをやくこと。 出漢書かんじょ りんげんあせ 綸言汗の如し 君主のことばは、出た汗を体内に戻すことができないように、一度口から出たら訂正したり取り消したりすることはできないということ。いろはがるた(京都)の一。∇綸言∥君主のことば。みことのり。 補説出典には「号令は汗の如し。汗は出 でて反かえらざる者なり(命令を出すのは汗と 同じである。汗が一度出たら元に戻せないの と同じように、一度出した命令は取り消せな い)」とある。 りんじん隣人の父を疑う 出韓非子かんぴし 同じことばでも、身内が言うと善意に解釈し、 他人が言うと悪意に解することがあるという こと。また、知恵は働かせ方によって、よく も悪くもとられるということ。∇父∥おじさ <690> ん、おやじさんの意。「ほ」とも読む。 りんち臨池 故事昔、宋の国で金持ちの家の垣根が大 雨で崩れた。その家の子供が「直さないと泥 棒に入られる」と言い、隣家の主人も同じこ とを言った。はたしてその晩、泥棒が入った。 金持ちの家では、自分の子供は賢いことを 言ったとほめ、隣家の主人のことを泥棒では ないかと疑ったという。 書道、習字のこと。 出王羲之ー与人書 補説中国後漢の名書家張芝ちは池に臨ん で書を練習しそのため池の水が墨で真っ黒 になったという。出典には「張芝池に臨みて 書を学び、池水ちす 尽ことく黒しとある。 類義墨池学 のがく りんちゅうしっぷうおお 林中に疾風多し 出塩鉄論 林の中にいると強い風に吹きさらされることが多いが、これは耳に逆らう忠言が多いのに似ている。地位が高く富貴になると、へつらう者に囲まれがちなので、外に出て直言に耳を傾けるようにすべきだということ。 補説出典には、このあとに「富貴に諛言 多し(富貴な人の周りには、おべっかを使う 者が多い)」とある。 りんちゅうたきぎうこじよう 林中に薪を売らず、湖上に うおひさ 魚を鬻がず 出淮南子 類義良薬は口に苦し。 物が豊富であれば、もめごとは起こらないと いうたとえ。薪がたくさんとれる林の中では 薪を売らないし、魚のたくさんとれる湖のほ とりでは魚を売らない。物が豊富な所では、 だれもそれを欲しがらないということから。 補説出典では、このあとに「余り有る所なれ ばなり。故に物豊かなれば則 ち欲省かれ、 求め澹たれば則ち争い止む(それは薪や魚があ り余っているからである。だから、物が豊富 にあれば人々の欲望は少なくなり、欲望が満 たされれば争いごともなくなる)と続く。 類義冬の雪売り。 類は友を呼ぶ 性格の似た者、同じ趣味を持った者同士は自 然に寄り集まるということ。「類は友を以もっ て集まる」「類は友」ともいう。 類義同気相求む。類を以て集まる。似るを 友。牛は牛連れ。馬は馬連れ。目の寄る所へ 玉が寄る。 英語 The like, I say, sits with the jay. 類がかけすと一緒にとまっている 用例 当時朝から晩まで代るに訪ずれる のは類は友の変物奇物ばかりで、共に画ぇを 描き骨董 こっ とう を品して遊んでばかりいた。大河 内 おおこ うち 子爵の先代や下岡蓮杖 しもおかれ んじょう や仮名垣魯 文 かながき ろぶん はその頃の重なる常連であった。内 田魯庵◆淡島椿岳〉 異卵の危うき 非常に不安定で危険なことの形容。卵を積み 上げたように壊れやすいという意から。危 うきこと累卵の如ごとし」ともいう。▷累‖積 み重ねる。 墨を摩す 出春秋左氏伝 技能や地位などが、相手とほとんど同じ程度 に達すること。敵のとりでのすぐ近くまで攻 め寄せる意から。▷墨‖城墨。とりで。摩す ‖こする。迫る。 出易経えきよう 類を以て集まる 似た者同士は自然に寄り集まるということ。い ろはがるた(京都)の一。「集」は「聚」とも書く。 類義類は友を呼ぶ。同気相求む。牛は牛連 れ。馬は馬連れ。目の寄る所へ玉が寄る。蓑 みの のそばへ笠かさが寄る。 対義 氷炭 ひよう たん 相容 あい れず。 英語 Birds of a featherlock together. じ羽を持つ鳥は群をなす るいもっるいはか 類を以て類を度る 出荀子じゅんし あることについて考える場合に、同じ種類の 物事を参考にして推測すること。類を同じく するものは、根本的には変わることがないか ら、たとえば、今の人情で昔の人情を理解す ることができるということ。 るすみま まどお 留守見舞いは間遠にせよ 主人の留守宅へあまりたびたび見舞うと、つ <691> まらぬ誤解を受ける原因になりかねないか ら、ときたま訪れる程度にせよということ。 ルビコン川を渡る 重大な決断を下すことのたとえ。↓賽さいは投げられた266 るりひかりみが 瑠璃の光も磨きがら 才能があっても、それを磨く努力をしなければ、大成しないということ。瑠璃が美しく輝いているのは、よく磨かれているからであるという意から。▷瑠璃‖紺色の美しい宝石。「琉璃」とも書く。 類義玉磨かざれば光なし。 瑠璃は脆し 出白居易詩 我 美しいものやよいものは、傷つきやすく壊れ やすいということ。△瑠璃=紺色の美しい宝 石。「琉璃」とも書く。 補説詩の題名は「簡簡吟かんか。結婚直前に 他界した美少女簡簡を歌った詩で、簡簡はお そらく人の世に降りてきた天女であろうと言 い、「大都およ、好物は堅牢ならず、彩雲は散 じ易やすく、琉璃るりは脆もろし(およそ、すぐれ た美しい物は頑丈ではなく、美しい五色の雲 は流れ去りやすく、貴重な宝玉はもろくてこ われやすいものだ」と歌っている。 類義佳人薄命。美人薄命。 るりはりて ひか 一瑠璃も玻璃も照らせば光る すぐれた素質を持つ者は、機会を与えられれ ばその真価を発揮するということ。また、才 るびこんーれいぎさ 能のある者は、どこにいてもよく目立つというたとえにもいう。瑠璃も玻璃も、光を当てれば美しく輝くということから。いろはがるた(江戸)の一。▷瑠璃‖紺色の美しい宝石。「琉璃」とも書く。玻璃‖水晶。 例外のない規則はない どんな規則にも、それにあてはまらない例外 が必ずあるものだということ。また、物事は 理屈だけでは進まないということ。 補説 英語のことわぞ There is no general rule without some exceptions.の説。 れいがくけいせい きよくこつ 礼楽刑政その極は一なり 出礼記 礼儀も音楽も刑罰も政治も、人心を和合して 天下を太平にするという目的においては、同 一であるということ。∇礼∥礼節。社会秩序 を定めるもの。楽∥音楽。人心を和らげるも の。刑∥刑罰。悪を防ぐ法と罰。政∥政治。 命令や統治のための機関。 補説礼・楽・刑・政の四者は、中国古代に おいて国を成り立たせる基本と考えられた。 支配者がこの四者を有効に用いれば、人々が 幸福に暮らせる太平の世の中を実現できると いう政治理念を表す。 出礼記らいき 礼楽は斯須も身を去るべから ず 人の行いを正しく導く礼儀と、心を和らげる 音楽とは、少しの間も忘れたりおろそかにし てはならないということ。 出礼記らいき 礼勝てば則ち離る 礼儀も行き過ぎると人間関係が円滑でなくな り、互いの心が離れていくということ。 補説出典には「楽がく勝てば則ち流れ音楽 の及ぼす影響が強すぎると人々は安易に流れ て無秩序になり)、礼勝てば則ち離る」とある。 礼と楽の均衡の大切さを言ったことば。 令苛なれば則ち聴かれず、禁 多ければ則ち行われず 出呂氏春秋 命令が厳しすぎると人民に聞き入れられず、 禁令が多すぎると守られない。人が守れない ような法令による政治は、うまくいかないと いうこと。∇苛∥苛酷。禁∥禁令。 礼儀三百威儀三千 ネ信二下11二千 礼儀・作法が整然と整っていること。礼につ いての三百箇条とその細目である作法三千と いうことで、中国周代の礼法が完備されてい たことをたたえたことば。後世、礼の形式に こだわって細かくわずらわしすぎるたとえに <692> れいぎはーれいはか もいう。△礼儀‖社会秩序を保つための規 範。礼の大綱。威儀‖礼儀の細則。社会生活 の中で人が行うべき作法の規範。 れいぎふそくしょう 礼義は富足に生ず 出潜夫論 人間は生活にゆとりができると、自然に礼儀 を重んじるようになるものだということ。△ 富足=富んで生活が満ち足りること。 補説出典には、このあとに「盗窃は貧窮より起こる(人は飢えて寒ければ盗みをするようになる)」とある。 れいげん鴿原の情じょう 兄弟姉妹の深い情愛。 霊犀の角に走る白い線のように、お互いの心 は通じ合っている」とある。 出詩経しきよう 補説出典には「鶴鴿 世き れい 原げんに在り、兄弟 けい 難を急にす(水鳥のセキレイが水辺を離れて 高原にあり、兄弟が救いに急ぐ)とある。 セキレイは兄弟仲のよい鳥とされ、飛ぶとき は鳴き、歩くときはせわしく尾を振って、兄 弟が互いに心配し合っているように見えると いう。「鴿原」はセキレイが鳴く高原の意で、 危急の場合にあることを表す。 心と心が互いに通じ合うこと。霊犀の角には 根元から先端まで白い筋が通じているといわ れることから。「一点霊犀通ず」ともいう。 ∇霊犀=霊力を持っているとされる犀。 出李商隠ー詩 補説詩の題名は『無題』。「身に綵鳳 の翼無きも、心に霊犀一点の通ずる有り私 の身には鳳凰 のような美しい翼はないが、 靈犀一点通寸 れいしゅもう 醴酒設けず 出漢書かんじょ 師を敬う気持ちが薄くなることのたとえ。また、人をもてなす礼儀が粗略になること。甘酒を出さないという意から。△醴酒‖甘酒。故事)中国漢の時代、楚その元王は、穆生白生はくせい・申公こうの三人について学んだ。その一人穆生は酒が飲めなかったので、宴会のときは甘酒を出していた。ところが、元王の孫の戊の代になると、甘酒を出さなくなったので、穆生は楚を去ったという。 礼過ぐれば諂いとなる 度を過ぎた礼儀は、相手のごきげん取りにな るということ。 類義 礼も過ぎれば無礼になる。 麗沢の契り 出易経えききよう 連なった二つの沼沢が互いにうるおし合うよ うに、友人同士が互いに助け合い励まし合い ながら学ぶこと。「麗沢」は「りたく」とも 読む。∇麗∥連なる。並ぶ意。 冷暖自ら知る 自分のことは、自分がよく知っているという こと。水が冷たいか暖かいかは、飲んだ者が いちばんよくわかるということから。 礼に始まり乱に終わる がて礼儀も何もなくなり、乱れきって終わる ということ。 酒宴の席は、最初は礼儀正しく始まるが、や 類義 人酒を飲む酒酒を飲む酒人を飲む。 れい しげ じっしんおとろ 礼の繁きは実心衰うるなり 出韓非子かんびし 表面を飾る者は、真実の心があまりないということ。形式的な礼儀の多い者は、まごころが薄いということから。△実心∥まごころ。 礼は急げ 返礼はできるだけ早くしたほうがよいという こと。時間がたつと、感謝の気持ちが薄れた りきっかけを失ったりするし、また気持ちも 伝わらなくなるので、早くせよという教え。 出礼記らいき 礼は往来を尚ぶ 礼は、訪ねて来られたらこちらからも訪ねて 行くというように、受けたら返すことが大切 であるということ。 補説出典には、このあとに「往ゆきて来た らざるは礼に非あらざるなり。来たりて往かざ るも亦また礼に非ざるなりこちらが礼儀を尽 くしたのに相手が返礼しないのは礼に反す る。また、相手が礼儀を尽くしているのにこ ちらが答礼しないのも礼に反する」とある。 れいかえぶれいさた 礼は却って無礼の沙汰 礼儀と思って遠慮しすぎると、先方の好意を 無にすることになり、かえって失礼になると いうこと。 <693> 礼は未然の前に禁じ、法は已 然の後に施す 出史記 礼は、事が起こる前にそれを防ぐためのもの であり、法は事が起こってしまったあとでそ の対策として適用されるものである。△未然 Ⅱまだ、そうならないこと。已然Ⅱすでにそ うなってしまったこと。 礼も過ぎれば無礼になる 礼儀正しいことは大切だが、度を越して丁寧 すぎるのは相手に失礼になるということ。 類義礼過ぐれば諂いとなる。慇懃 れいわずら すなわみだ 礼煩わしければ則ち乱る 礼はできるだけ簡素なほうがよいということ。儀礼が煩雑になってくると、かえって混乱して守られなくなる意から。 れいもっうみはか 螽を以て海を測る 出書経しよきよう 出東方朔ー答客難一 狭い見識だけで、大きな問題を議論すること。 ひさごで海水を汲み、大海の量をはかること から。また、不可能なことにもいう。△螽 ひさご。一説に、ほら貝。 んで海の大きさを測り、くだいた竹で鐘をた たく)とある。 補説出典には「筦かんを以もって天を窺がい、 蠡れいを以て海を測り、筵ていを以て鐘を撞っく (管の穴から天をのぞき、ひさごで海水を汲 れいはみーれんしは 類義大海を耳掻かきで測る。蛤 ぐり で海をか える。蜆貝 しじみ がい で海を量る。貝殻で海を量る。 かえ 歴史は繰り返す 過去に起こったことは、同じような経過で何 度も繰り返し起こるものだということ。 補説古代ローマの歴史家クルティウス・ル フスのことば。History repeats itself.の訳 語。 れっし 烈士は名に徇う 出史記しき 節義を守る者は、自分の名誉のためには命を すてることも辞さないものであるというこ と。∇烈士∥正義の念が強く、節操の堅い人。 補説出典には「貪夫 たん ぷは財に徇い貪欲な 者は財貨のために命をすて)、烈士は名に徇 い、夸者 こしは権に死し、衆庶は生を馮 むさ ぼ る(権 勢を誇る者は権力のために死し、庶民は生活 をむさぼる)とある。 れっぷう こよう はら 出後漢書ごかんじょ 烈風枯葉を掃う 強力な軍勢が、たちまちのうちに敵の軍を打 ち破ってしまうことのたとえ。 補説出典には「膠固こうの衆を以もって、解合 かい の埶せい(勢)に当たるは、猶なお烈風を以て彼 かの枯葉を掃うがごとし(膠にかのように結束の 堅い軍勢で、結束のない寄せ集めの軍に当た るのは、烈風が枯れ葉を吹き飛ばすようなも のだ)とある。 類義 疾風枯葉を巻く。 連木で門掃く つち にわは 槌で庭掃く 433 れんぎじゅうぼこあらすりこぎじゅうぼこあら 連木で重箱洗う揺粉木で重箱洗う345 れんぎはらきすりこぎはらき 連木で腹を切る揺粉木で腹を切る345 れんけいともせいのぼあた 連鶏俱に棲に上る能わず 出戦国策 英雄や強国は、同時に並び立つことはできないということ。縄でつながれている闘鶏が、ともに一つのねぐらには入らないという意から。マ棲=鳥のねぐら。とまり木。 蓮華の水に在るが如し れんげみずあごと 出法華経ほけきよう 蓮はすの花が泥水の中にありながら美しく咲いているように、世間の汚れに染まらず清らかな心を保ち続けることのたとえ。 類義泥中 でいち ゅう の蓮 はち。 す 濁りに染まぬ蓮。 蓮 は濁りに染まず。 輦 つんし 廉士は人を恥じしめず 出 説苑 心が清らかで私欲のない人は、自分の手柄を <694> れんじょーろうしょ 自慢して人に恥じ入らせるようなことはしな いものであるということ。 補説中国春秋時代、反乱をしずめるのにい ちばん功労のあった晋しんの田基が、報賞を辞 退したときに引用した古人のことば。 連城の壁 かしへき 和氏の壁 139 連理の枝 ひよくれんり 比翼連理 569 ろう 労あって功なし労して功なし694 ろうおうほうしょうふそそ 漏甕を奉じて焦釜に沃ぐ 使ってでも焼けこげている釜に水をかけるほ どに、何をおいてもやらなければならないこ となのです」とある。 一刻を争う危急の場合には手段を選んではい られないということ。一刻を争うことのたと え。水がもれるかめまで使って、こげている 釜に水をかける意から。 出史記しき 補説中国の戦国時代、秦しんが趙ちを攻め、 趙は斉に助けを求めたとき、要請をことわっ た斉王を諫いさめた家臣のことば。出典には 「今日趙を滅ぼさば、明日患わざ斉楚せいに及ば ん。且つ趙を救うの務めは、宜よろしく漏甕 を奉じて焦釜に沃ぐが若ごとなるべし(今日 秦が趙を滅ぼせば、明日は災難が斉や楚に及 ぶでしょう。趙を救うのは、水のもるかめを 労多くして功少なし労して功なし 弄瓦の喜び ろうがよろこ 出詩経しきよう 女子誕生の喜び。中国では、昔は女子が生ま れると、瓦が(素焼きの土器の糸巻き)をおも ちゃとして与え、手芸が巧みになることを 願ったことから。↓弄璋ろうしの喜び694 ろうぎゅうとくねぶあいしとくあい 老牛犢を舐るの愛↓舐犢の愛296 ろうきれき こころざしせんり 老驥櫪に伏すとも志千里に 在り 出曹操詩 そうそうし 英雄・豪傑は、年老いてもなお大志を持ち続けること。名馬は老いてうまやにつながれていても、千里を走ろうとする志を捨てずにいるという意から。「老驥千里を思う」「老驥千里の志」ともいう。また、「老驥」は「驥老」ともいう。△驥Ⅱ一日に千里を走るという名馬。櫪‖馬小屋。 補説詩の題名は『歩出夏門行 あとに「烈士暮年 が強く信念のある人物は、年老いても勇壮な 気持ちを持ち続ける」と歌っている。 老骨に鞭打っ 年をとって衰えた体を自ら励まして、何かの ために努力をするということ。高齢者が自分 のことをへりくだって言う言い方。 補説他人に対していうのは失礼になる。 出荘子そうじ 苦労するばかりで得るところがないこと。 「労あって功なし」「労多くして功少なし」と もいう。 補説出典には「是これ猶な舟を陸に推すが ごときなり(陸地で舟を動かすようなもの だ)。労して功なく、身に必ず殃わい有らん(わ が身に必ず災いがかぶってくる)とある。 類義骨折り損の草臥れ儲もうけ。 ろうし 狼子野心 やしん 出春秋左氏伝 性質が凶暴な者は教化しがたいということ。 また、凶暴な人間が野心を抱くこと。狼の子 は人に飼われても野性の心を失わず、いつま でも凶暴で人になつこうとしない意から。 野心∥野獣の本性。 出詩経しきよう 弄璋の喜び 男子誕生の喜び。中国では、昔は男子が生ま れると、璋(半分の玉)をおもちゃに与え、 その玉の徳にあやかって修養を重ねて立派な 人間になることを願ったことから。↓弄瓦 の喜び694 老少不定 出観心略要集 人の生死は予測できないということ。人生の 無常をいう仏教語。老人が若者より先に死ぬ とは限らないということ。▷不定‖一定しな いこと。決まった法則や規則がないこと。 <695> ろうぜき ちっかろうぜき 狼藉 落花狼藉 677 す 他人のために、自分を犠牲にすることのたと え。ろうそくが、自分を燃やして溶かし、小 さくなりながら周囲を明るく照らす意から。 ろうだん壟断 出孟子もうし 利益をひとりじめにすること。「竜断」とも書く。∇壟=小高い丘。断=切り立った崖がけ。故事市がたつといつも切り立った丘の上に立ち、市場の形勢を見渡して、もっとも取り引きがうまくいきそうな所を見つけては利益を独占する男がいたという。 ろうちゅう とり籠中の鳥 自由を奪われているもののたとえ。籠の中で 飼われている鳥の意から。「籠の鳥」ともい う。 出鶏冠子かつかんし 龍鳥雲を恋う 出鶡冠子 自由を束縛されているものが、自由な境遇を うらやむこと。籠の中の鳥が自由にさまよう 空の雲を恋い慕うという意から。「籠の鳥雲 を慕う」「籠鳥雲を望む」ともいう。 類義籠禽 ろう きん 帰翼 きよ を羨 うら や む。 をとった女性がやたらに気をつかうことか ら。自分の親切をへりくだって言うことば。 「老婆親切」「老婆心切」ともいう。 ろうぼしん老婆心 必要以上に世話をやくこと。おせっかい。年 ろうぜきーろーまは ろうばち 一老馬の智 出韓非子かんびし 経験が豊富な者は、判断が適切であるという たとえ。また、ものにはそれぞれ学ぶべきも のがあること。老いた馬は道をよく知ってい て迷うことがないという意から。 故事)中国斉の管仲らが桓公かんに従って孤竹という国を討った。行きは春であったが、帰りは冬で、桓公の軍は道に迷った。そのとき管仲が「老馬の智は役に立つ」と言い、老馬を放ってそのあとについていくと、やがて進むべき道が見つかったという。 老兵は死なず、消え去るのみ 役目を終えた者は第一線から静かに消えてい くだけだということ。「老兵は死なず、ただ 消え去るのみ」ともいう。 補説第二次世界大戦中のアメリカ軍司令官 で、戦後日本に駐留した連合国軍総司令官ダ グラス・マッカーサー元帥げんが、解任された 後の上院での演説の中の一節。士官学校時代 の兵舎で流行していた歌の一節という。 英語Old soldiers never die, they just fade away. [老兵は死なない。ただ消えて ゆくだけだ] 老蚌珠を生ず 出孔融与二韋休甫一書 すぐれた子がいるのをほめることば。父子と もに評判がよいことにもいう。また、年を 取ってから子供ができること。年老いたドブ 貝が立派な真珠を生んだという意から。「老 蚌珠を生む」ともいう。△蚌Ⅱドブ貝。 補説出典には「意おもわず双珠近ごろ老蚌 に出いずるを。甚だ之これを珍貴とす」とある。 類義鳶とびが鷹たかを生む。 出後漢書ごかんじょ ろうえしょくのぞ 隴を得て蜀を望む 人間の欲望には限りがないこと。望みが一つ かなうと、さらにその上の望みを持つように なるということ。△隴=今の中国甘肅省 くしょう の地域。蜀=今の中国四川省の地域。 補説 中国後漢の光武帝が隴の地を手に入れたうえ、さらに蜀の地を攻め取ろうと、部下の岑彭しんに与えた手紙の中で、限りなく大きくなっていく自分の野望を嘆いて言ったことば。出典には「人、足るを知らざるに苦しむ。既に隴を平らげて復また蜀を望む(人間は満足することを知らないから困る。自分はすでに隴を手に入れたのに、さらに蜀がほしくなった」とある。 類義望蜀ばうしよくの願い。望蜀の嘆たん。 蠟を噛むが如し 出首楞厳経 料理や詩文などに味わいのないことの形容。 味のないろうをかむように、うま味がまった くない意から。 類義砂を噛むよう。 いちにち ローマは一日にして成らず 大きな事業は、長い間の努力なしには成しと <696> ろかいのーろしゅう げることはできないというたとえ。偉大な ローマ帝国は、短期間で築き上げられたもの ではないという意から。 Rome was not built in a day. 櫓櫂の立たぬ海もなし どんなに困難な状況でも、必ずなんらかの方 策があるということ。櫓も櫂も役に立たない ような海はないという意から。 ろぎよあやま 魯魚の誤り 六十四の三つ子 はちじゅうみご 八十四の三つ子 527 字形がよく似ている字の書き誤りや筆写の誤 り。「誤り」は「謬り」とも書く。「魯魚帝虎 てい の誤り」「魯魚烏焉 うえ ん の誤り」「魯魚亥豕 がい し の誤り」「魯魚章草の誤り」ともいう。 出抱朴子ほうぼくし 補説出典には「書に三たび写せば(書物は 三度書き写されると)、魚は魯と成り、虚は 虎と成る」とある。 陸地に舟漕ぐ ろくじ ふねこ 類義舟を陸に推す。木に縁よりて魚を求む。 ろくじゅう みみしたが 六十にして耳順う 出論語 六十歳になって、他人の言うことを素直に聞 くことができる境地に達するということ。 補説七十四歳まで生きた孔子の晩年の境 地。このことから、六十歳を「耳順」という。 志学 六十四の筵破り 六十四手習い はちじゅうてなら 八十四手習い 527 年をとってから女狂いをすること。老人の好 色なことのたとえ。 ろくしょうじっきくむいかあやめとおかきく 六菖十菊 六日の菖蒲、十日の菊 628 ろくしんふわさんぼうかごな 六親不和にして三宝の加護無 しにんのうきよ 肉親同士が仲が悪いようでは、神仏も守って はくれないということ。△六親∥肉親、親族。 「りくしん」とも読む。三宝∥仏・法・僧。 出仁王経 出詩経しきよう 鹿鳴の宴 ろくめい えん 賓客をもてなす酒宴。中国唐代、官吏登用試 験に合格して都に上るときに催した酒宴。 補説出典の『小雅 うが」にある「鹿鳴」の詩 を歌い前途を祝ったことから。出典の詩で は、鹿が口をすぼめて長く鳴いて仲間を呼び 集め野草を食べていることから歌い起こし、 君主が賓客を招いて酒宴を催し琴瑟 きん しつ をひい てもてなすことを歌う。鹿はよい草を見つけ ると独りで食べず、仲間を呼んでともに食べ るという。明治初期、東京に造られた「鹿鳴 館」はこの語に由来する。 櫓三年に棹八年 ろさんねんさおはちねん 櫓を一人前に使うようになるには三年かかり、棹を使いこなせるようになるには八年か かる。 棹のほうが櫓より難しいということ。 類義 棹は三年櫓は三月。 ろざんしんめんもく廬山の真面目 出蘇軾ー詩そしょくし 複雑な物事の真相や人物の本来の姿のたと え。∇廬山∥中国江西省 にある山。多く の峰があり、見る時や場所などでさまざまに 姿を変えるといわれる。真面目∥本当の姿。 補説詩の題名は『西林 の壁へきに題す』。 「廬山は見る位置によってすべてその姿を変 える。廬山の真面目がわからないのは、私自 身がこの山の中にいるためである」と歌った ことに基づく。 類義 廬山の中に居る者は廬山の全形を見 ず。 ろじいまさ ばじとうらい 驢事未だ去らざるに馬事到来 す 出五灯会元 やりかけたことがまだ終わらないうちに、別 のことが起こること。▽驢事=ろばに関する こと。馬事=馬に関すること。 ろしゅうす 鲁酒薄くして邯鄲囲まる 出荘子そうじ まったく関係のないことが原因となって、思 わぬ結果を生むこと。また、他人のために、 思いがけない災いを受けること。 故事 中国の戦国時代、楚その国王が諸国の 王を招いたとき、魯王は酒を贈ったが、その 酒が薄かったので、楚王はその無礼を怒って <697> ろせいゆめ 廬生の夢♩邯鄲の夢164 魯を討伐した。ところが、かねてから趙 ちょ う を 討ちたいと思いながら、楚から背後を突かれ るのを恐れて攻撃できずにいた魏ぎが、この 間を利用して趙の国都邯鄲を包囲したという 「釈文 しゃく もん 」による)。また一説には、趙に賄 賂を求めて断られた楚の役人が、魯の贈った 薄い酒を、趙が贈った酒とすりかえたため、 楚王は趙を無礼であるとして邯鄲を包囲した ともいわれる。(淮南子 えな んじ 注による) 六根清浄 欲や迷いを断ち切り、心身が清らかになること。「六根浄」ともいう。仏教語。日本では、修行者が山に登るとき、この語を唱える慣わしがある。△六根目・耳・鼻・舌・身・意の六つの感覚器官。 驢に騎りて驢を覚む 出蘇軾詩 求めているものが身近にあるのに、遠くに求 める愚かさのたとえ。ろばに乗っていなが ら、ろばを探し求める意から。△驢=ろば。 補説詩の題名は「黄竜 清老に和する三 首」。 類義 牛に乗って牛を尋ねる。背中の子を探 す。 ろめいけんぼい驢鳴犬吠 取るに足りない文章や、聞くほどの価値もな い話のたとえ。ろばの鳴き声と犬の吠ぼえる 声という意から。∇驢=ろば。 出世説新語 ろせいのーろんより 故事 中国、南北朝時代、南朝の梁りの詩人 庾信 が北方へ使者として赴いた。戻って 「北方の文士の力量はいかがなものですか」 と尋ねられた庾信は「ただ韓陵山 の文章が評価できるだけだ。そのほかは、ろ ばの鳴き声や犬の吠える声のように、うるさ いだけで何の魅力もない」と言った。 櫓も櫂も立たぬ 施す方法がまったくないこと。どうしようも ないこと。櫓も櫂も役に立たないという意か ら。「櫓でも櫂でも行きにくい」ともいう。 ろよう 魯陽の戈 ほこ 出淮南子えなんじ 勢いが盛んなさまのたとえ。衰えたものを盛 り返すこと。「魯陽の威」「魯陽が日を返す勢 い」ともいう。▽魯陽=楚その県名。戈=長 い柄の先にかぎ形の両刃のついたほこ。 故事中国の戦国時代、楚その魯陽公が韓かん と戦ったとき、日暮れを迎え、まさに沈もう とする夕日を手に持った戈で招き返したとこ ろ、夕日は三十度もとに戻ったという。 いくるめる意から。 ∇驢=ろば。 類義 烏 から を鷺さぎ。 雪を墨。鹿を指して馬と 為なす。白を黒。 櫓を押して櫓は持たれぬ 同時に二つのことをしようとしてもできない ということ。櫓を押しながら櫂を持って船を こぐことは不可能だという意から。 類義太鼓を打てば鉦かねが外れる。田の事す れば畑が荒れる。 出傅幹ー文ふん 驢を呼んで馬となす ことば巧みに人をだますこと。ろばを馬と言 ろんこうこうしょう論功行賞 功績の有無や程度を調べ、それにふさわしい 賞を与えること。△論功=手柄の大小を調べ ること。行賞=賞を与えること。 補説 中国後漢末の政治家傅幹の文『曹公(Ⅱ 曹操 そう 後の魏の武帝)の南征を諫いさむに よる。 論語読みの論語知らず 書物を読んでも、表面的に理解するだけで、 真髄を理解していないこと。また、理屈は 知っていても、実行できない者のたとえ。『論 語』を学んでも、内容が身についていないと いう意から。いろはがるた(京都)の一。△論 語Ⅱ孔子の言行などを集めた儒教の経典。 論に負けても実に勝て 議論では負けても、 実利の面で勝てばよいと いうこと。 類義理に負けて非に勝て。 論に負けても理に勝つ 議論のうえでの勝敗と道理とは別であるということ。議論では負けても、道理においては自分のほうが正しい意から。 ろんしょうこ 論より証拠 議論を重ねるよりも、証拠を出したほうが確 <698> わいしのーわがここ かであるということ。「論をせんより証拠を 出せ」ともいう。いろはがるた(江戸)の一。 類義論は後、証拠は先。 英語 The proof of the pudding is in the eating. プティングの品定めは食べてみることである わいし矮子の看戯かんぎ 出朱子語類 見識のないこと。また、他人の意見に簡単に 同調するためとえ。背が低く、前の人の背で舞 台が見えないのに、周りの人の芝居批評を聞 いて、同じように批評することから。マ緩子 =背の低い人。戯=芝居。 類義矮人わいの観場かんじ。 よう 矮子戯を看みる如ごと わあたまはえおあたまうえはえお 我が頭の蠅を追え頭の上の蠅を追え 20 わいえほとけとうとわほとけとうと 我が家の仏尊し ♩我が仏尊し 699 わかときくろうー わ いえらく かまだらい 我が家楽の釜盥 釜をたらいの代わりに使うような貧しい生活 をしていても、我が家ほど気楽でよい所はな いということ。「我が家楽の金盥かなだ」「我が 栄楽の金盥」ともいう。 類義 我が家に勝る所無し。 若い時の苦労は買うてもせよ 若いうちにする苦労は、将来必ず役に立つか ら、進んで経験するのがよいということ。「苦 労」は、「辛労」「難儀」「辛抱」ともいい、「買 うて」は「買って」ともいう。 類義可愛 かわい子には旅をさせよ。 艱難 なん なん を玉にす。 若い時は二度ない 青年時代は二度と来ないのだから、何でも思 い切ってやるのがよいということ。 わうえましみ 我が上の星は見えぬ だれも自分の運命を知ることはできないということ。他人の星を占う易者も、自分の運勢は占えないことから。 類義 我が上の星は細かい。我が上知らずの 破れ笠 がさ。 我が刀で首切る 自分のやったことで自ら苦しむこと。「我が 刀で我が道切る」ともいう。 類義我が手で首を絞める。自分で自分の首 を絞める。我が脛すねに鎌。自縄自縛。 我が門で吠えぬ犬なし 弱い者も自分の家では威張るということ。弱 い犬でも自分の家の前でならよく吠えるということから。 若木に腰掛けな 若い者はまだ力がついていないので頼りにしてはいけないということ。若い木は折れやすいので腰をかけてはいけないということから。未熟な若者に無理をさせてはいけない意で使われることもある。▶若木‖生えてまだ年を経ていない木。若者のたとえ。 類義 所で吠えぬ犬はいない。家うちの前の瘦 せ犬。旅の犬が尾をすぼめる。 若木の下で笠を脱げ わかぎしたかさぬ 小さな若い木が大木に成長するように、若い 人は将来どれだけ伸びるかわからないから、 敬意をもって接するべきであるということ。 類義後生畏るべし。 わくちうま わ 我が口に甘ければ人の口にも うま 甘し 自分が望むことは人も望むということ。よい と思うことは人にも施せということ。 類義己の欲する所を人に施せ。 わこころいしあらてん 我が心石に匪ず、転ずべから ず しきよう 出詩経 志が堅く、ゆるがないこと。自分の心は石と 違って、簡単に転がすことはできないという 意から。 補説出典には、このあとに「我が心席 匪ず、巻くべからず。威儀は棣棣ていとして、 選かぞうべからず(自分の心はむしろと違って 巻きとることはできない。立ち居振る舞いは <699> 礼儀正しく堂々として、あれこれと数えたて るようなそしりを受けないようにする」と ある。 私はかりこと 吾が心秤の如し 出北堂書鈔 自分の心は、はかりのように公平で私情を交 えないということ。 補説出典には諸葛亮 しょかつ りよう の言葉として「吾 が心秤の如く、人の為ために軽重を作なす能あた わず」とある。 わこじまんおやつね 我が子自慢は親の常 とかく親というものは誰でも自分の子を自慢 したがるものだということ。 押しつけること。 わことくだざかはしもの 我が事と下り坂に走らぬ者な し 類義亭主の好きを客へ出す。 自分に関係したことになると、他人から言わ れるまでもなく進んで解決のために奔走する ものだということ。「我が事と下り坂に走ら ぬ者はない」ともいう。 わこあくじみ 我が子の悪事は見えぬ 手一の果等は 親は、我が子かわいさのあまり、子の間違い には気づかないものだということ。 類義親の欲目。親に目なし。親の目は贔屓 ひい き 目。自分の子には目口が明かぬ。 わすひとふま 我が好きを人に振る舞う 自分の好きな物を人に振る舞うこと。また、 相手の好き嫌いを気にかけず、自分の好みを わがここーわがみの わすねかま我が脛に鎌 自分で自分を傷つけることのたとえ。 類義我が刀で首切る。我が手で首を絞め る。自分で自分の首を絞める。自縄自縛。 わた 我が田への水も八分目 欲もほどほどにすべきだということ。他人の 田のことも配慮して、自分の田に引く水を少 しおさえるべきだということから。 わたみずひがでんいんすい 我が田へ水を引く♩我田引水146 和歌に師匠なし 和歌の修行には古歌を学ぶことが大切で、師 匠について学ぶことは不要だということ。 補説藤原定家ふじわらの「和歌に師匠なし、た だ旧歌を以もって師とす」(『詠歌大概えいがの』)に よる。 わふねじゅんぷうひとふねぎゃくふう 我が船の順風は人の船の逆風 同じことに対して、立場によって利害が相反 すること。自分の船に都合のよい順風が、反 対の方向に進む船には逆風であることから。 類義出船によい風は入り船に悪い。入り船 の逆らうは出船の順風。 が家いえの仏尊し「我が寺の仏尊し」ともいう。 「尊し」は「たっとし」とも読む。 わほとけとうと我が仏尊し 自分のものがいちばんよいと思うこと。自分 の寺の仏をいちばん尊いと思う意から。「我 英語 He thinks his penny good silver. 自 分のペニー貨は立派な銀貨だと思い込む 出後漢書 優秀な弟子が師のもとを去ること。また、自 分の教えが、すぐれた弟子によって他の地に 広まること。「我」は「吾」とも書く。 故事 中国後漢の儒学者馬融 が、すぐれた 門下生の鄭玄 が自分のもとを去ったとき、 「鄭生 今去る、吾が道東す」と言った。 類義 我が道南す。 わみいつわものひとまこと 我が身に偽りある者が人の誠 うたが を疑う を疑う 自分の心にやましいところがある者は、人の 誠意まで疑いの目で見るものだということ。 ーー我が身の一尺は見えぬ ひといっすんわ いっしゃく 一尺553 わみくさわれし 我が身の臭さ我知らず 自分の欠点には気がつかないものだということ。 類義我が糞くそは臭くなし。息の香の臭きは主ぬし知らず。 我が身の事は人に問え 自分の短所や過失は自分ではわからないもの だから、人に尋ねて改めよということ。また、 <700> わがみをーわざわい 自分のことは判断に迷うものだから、人の意 見を求めるのがよいということ。 類義我が身の上は見えぬ。 わみた 我が身を立てんとせばまず人 を立てよ 出 論語 ろんご 自分の望みを叶えようと思ったら、まず人を 立てるようにせよということ。 補説出典には仁者は己れ立たんと欲して人を立て、己れ達せんと欲して人を達すとある。 類義我が子可愛かわくば人の子を可愛がれ。 わみつねひといた 我が身を抓って人の痛さを知 れ 何事も自分の身に引き比べて、人を思いやれ ということ。自分の体をつねると人がつねら れたときの痛みがわかるという意から。 類義身をつめりて人の痛さを知れ。 英語) If strokes be good to give, they are good to get.人を打つのがよいことなら、 人から打たれるのもよいことのはずだ」 わものくかまどしょうぐん 我が物食えば竈将軍 自分で働いて生活していれば、だれはばかる こともない一家の主人だということ。▷竈将 軍‖家の中で思うままに権力をふるう人。 わものおもかろかさゆき 我が物と思えば軽し笠の雪 苦しいことでも、それが自分のためになるこ とだと思えば、気にならないものだというこ と。笠に降り積もった雪も、自分の物だと思 えば軽く感じられるという意から。 補説江戸時代の俳人、宝井其角 たからい きかく の句「我 雪わが ゆき とおもへば軽し笠の上から。 分からぬは夏の日和と人心 夏の天気と人の心は変わりやすく予測しがた いということ。 類義 男心と秋の空。測り難きは人心。 沸きが早いは冷め易い 熱中しやすい人は飽きやすいということ。ま た、安うけあいする者には信義がないという こと。「大器晩成」の反対の意でも用いる。 わきめふ 脇目も振らず 他のことに心を移さず、一心に一つのことに 集中すること。よそ見もしないということか ら。△脇目‖脇見。よそ見。他のことに気を 取られること。 類義復食を忘れる。余念がない 用例それゆえ私は少年の時と今日老年に なった時とその学問のぐあいは少しも違っ ていなく、ただ一直線に学問の道を脇目もふ らず通ってきたのである。〈牧野富太郎◆若 き日の思い出〉 姿を隠し変えて人間社会に現れることをい う。▶和光∥才知の光を和らげて隠すこと。 塵∥ちり。転じて、俗世間の意。 出老子ろうし わ こうどうじん 和光同塵 目分の才能や徳を隠して、世俗の中に交じっ て目立たないように生活すること。仏教で は、仏や菩薩が衆生を救うために、本来の 補説出典には「其その光を和らげ、其の塵 ちりに同どうず(自分の光り輝く才知を隠し、世 の中の塵にまみれる」とある。 日本古来の精神を失わずに、中国伝来の学問 を身につけ、活用すべきであるということ。 ▶和魂=日本固有の精神。漢オ=中国の学 問・知識。 補説 菅原道真 すがわらの みちざね の 「菅家遺誡 かんけ いかい から といわれる。このことばをもじって「土魂商 オ」の語が生まれ、明治以降使われた「和魂 洋才」もこのことばから派生したもの。 わざくれも三年 すてばちな言動もほどほどにしないと、三年もたたないうちにだれからも相手にされなくなるということ。また、よくないことも、そのうちによいことの種になる場合もあるということ。▶わざくれ‖自暴自棄。やけ。 わざわいちぎょおよちぎょわざわい 殃池魚に及ぶ↓池魚の殃418 わざわい きた ひとみずか これ しょう 栀の来るや人自ら之を生じ、 ふく きた ひとみずか これ な 福の来るや人自ら之を成す 出淮南子えなんじ 禍福は、人がその言動によって自ら招くもの <701> であり、禍福のほうからやってくるものではないということ。 補説出典には、このあとに「禍と福と門を 同じゆうし、利と害と隣りんを為なす神聖の人 に非あらざれば之これを能よく分つ莫なし(とはい え、禍福は門を同じくし、利害は互いにとな り合っているので、神聖の人でないと、これ を見分けるのは難しい)」とある。 わざわい かいだ しょう 禍は懈惰に生ず 何事にも真剣に対処しなければならないという戒め。災厄は、用心をしないでいいかげんに取り組むために起こるものであるということから。△懈惰=おこたること。怠慢。 出説苑ぜいえん 禍は口から 教え。△繊繊=ごく小さい意。 不注意なことばが災難を引き起こすことが多 いので、慎重にものを言えという戒め。 類義口は禍の門もん。病やまは口より入り禍 は口より出いず。 やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい い やまい 災難がかえって幸福のもとになることがある ということ。 禍は福 類義 禍も福の端となる。 わざわいせんせんしょう 禍は繊繊より生ず わざわいた 禍は足るを知らざるより大 大きな災難も、ごく小さな原因から起こると いうこと。ささいなことにも用心せよという 出荀子じゅんし わざわいーわざわい なるは莫し 出老子ろうし ほどほどで満足することを知らないことほ ど、大きな災難はないということ。 栀は敵を軽んずるより大な 出老子ろうし るは莫し 敵の力を侮って油断することほど、大きな災 難を招くものはないということ。「軽んずる」 は「侮る」ともいう。 補説出典では、このあとに敵を軽んずれ ば幾ほとんど吾わが宝を喪うしわん敵を侮ること は、慈しみの心という宝を失うに等しい)」 と続く。 わざわいふくよところふくわざわい 禍は福の倚る所、福は禍の ふくところ 伏する所 出老子 災難だと思っている所に幸福がよりそい、幸 福だと思っている所に災難がかくれている。 禍福は互いに因果関係にあるということ。単 に「禍は福の倚る所」ともいう。 類義禍福は糾あざえる縄の如ごとし。 禍福は、それぞれ来るべき原因や理由があってやってくるものであるということから。 わざわいみだいた 禍は妄りに至らず、福は徒 禍福は人が自ら招くものであるということ。 出史記しき に来らず 類義 福重ねて至らず、禍必ず重ねて来たる 者なり。 わざわいこの 禍も好まざれば禍を為すこ あた と能わず 出国語こくご 災いが好きでなければ、災いを受けることはない。自分から災難がふりかかるようなことをしなければ、天も一方的に災難を下すことはないということ。 おざわいさんねん 禍も三年たてば用に立つ 今は災難と思われていることもいつかは自 分のためになることもあるということ。辛抱 することの大切さをいう。また、世の中には無 用なものはないということ。「禍も三年置けば 用に立つ」「禍も三年置けば福の種」ともいう。 類義要らぬ物も三年たてば用に立つ。 わざわいてん ふ 補説出典には聖人の事を制するや聖人 の物事のさばき方は、禍を転じて福と為し、 敗はいに因よりて功を為す(失敗をもとにして成 <702> わしてどーわらしべ 功を収める」とある。 類義失敗は成功の基。 類義失敗は成功の基。 和して同ぜず 人と協和はするが、むやみに同調はしないこと。「君子は和して同ぜず」を略したもの。 補説君子の心得をいう孔子の言葉。出典には続けて、「小人は同じて和せず」とある。 出論語ろんご とても勝負にならないことのたとえ。△脛押 し両者が互いに脛と脛とをからみ合わせ、 押し合って勝負を決める遊び。 忘れたと知らぬには手が付かぬ 忘れたという者や知らないという者には、何 を言ったところでむだであるということ。 わだちいきづふなてっぷきゅう 轍に息付く鮒轍鮒の急43 わたはりつつまわたはりつつ 綿に針を包む 真綿に針を包む 615 出法華経ほけきよう わた渡りに船ふね 何かをするときに、好都合なことが起こること。川を渡ろうとしているとき、都合よくそこに船があるという意から。「渡りに船を得る」「流しに船」「渡りの船」ともいう。 類義 闇夜の提灯 ちょう ちん 地獄で仏に会ったよ う。日照りに雨。 う。そろそろ荷物の整理をし始めるよう私は 妻に頼んだ。このような渡りに船のことを、 むかしは仏が来たと人人は思ったものだが、 そう思えば、明日この人に会うのが私には楽 しみだ。私もこの地のようにだんだん鎌倉時 代に戻っているのであろう。〈横光利一◆夜 の靴〉 用例よし、会おう。明日もう一度来るとい 渡る世間に鬼はない 世の中には鬼のように無情な人ばかりでなく、親切で人情に厚い人もいるということ。 類義 仏千人神千人。地獄にも鬼ばかりはいない。捨てる神あれば拾う神あり。浮き世に鬼はない。 対義寺の隣にも鬼が棲む。人を見た 棒と思え。 割った茶碗を接ぐ 今さらとりかえしがつかないと知りながら、 なお未練を残すことのたとえ。 類義死んだ子の年を数える。 わら うちかたなと 笑いの内に刀を礪ぐ 笑中に刀あり 320 わら笑いは人の薬くすり 適度に笑うことは、心身の健康にとって薬と 同様に役立つものだということ。 類義向かう笑顔に矢立たず。怒れる拳笑 顔に当たらず。笑う顔は打たれぬ。尾を振る 犬は叩たたかれず。握れる拳笑める面 らず。 笑う顔に矢立たず 笑顔で接してくる人に対しては、抱いていた 憎しみも消えてしまうということ。 笑う門には福来たる いつも笑い声に満ちあふれた家には、自然に 幸福がやって来るということ。また、苦しみ や悲しみにあっても希望を失わずにいれば、 幸せはやってくるということ。「笑う家に福 来たる」「笑う所へ福来たる」ともいう。い ろはがるた(京都)の一。∇門=家の意。 類義 祝う門に福来たる。 和気財を生ず。 類義祝う門に福来たる。 英語Laugh and be fat.笑えば肥える 用例笑うのも毒だからな。無暗むやに笑う と死ぬ事があるぜ」「冗談云いっちゃいけない。 笑う門には福来るさ」〈夏目漱石◆吾輩は猫 である〉 笑う者は測るべからず 出新唐書 いつも笑顔でいる者は本心がつかめず、か えって怖いものだということ。 補説出典には「怒る者は常の情にして(怒 る者は普通の感情の持ち主で危険ではない が)、笑う者は測るべからず」とある。 類義笑中に刀とうあり。笑いの内に刀を礪と ぐ。 藁しべを以て泰山を上げる 不可能なこと、無謀な企てをすること。藁し <703> べを使って泰山を持ち上げようとするという 意から。∇藁しベⅡ稲の穂の芯。泰山Ⅱ中国 山東省にある山。 類義 大黒柱を蟻 あり がせせる。 蟴螂 とう ろう の斧 はしら わらせんほん 藁千本あっても柱にはならぬ 役に立たない者がどれだけ多く集まっても、 何の力にもならないことのたとえ。 そんもの 笑って損した者なし いつもにこやかに笑顔を絶やさない人は、敵 を作ることがない。笑って得をすることは あっても損をすることはないということか ら。「笑って損した者はない」ともいう。 類義一笑う顔に矢立たず。笑う門には福来た る。 わらづと藁苞に国傾く 賄賂が横行して、国が乱れること。「草苞に 国傾く」ともいう。∇藁苞=藁で編んだ入れ 物。ここではそれに包んだ賄賂の意。 わらづと藁苞に黄金 外見は粗末でも、中身は価値がある。物事の 価値は外見では決められないということ。ま た、悪い環境の中にすぐれた人物がいること。 ∇藁苞=藁で編んだ入れ物。 類義外檻褄ぼろの内錦にし 藁で束ねても男は男 どんな男にも、それなりの値打ちがあるとい わらせんーわれおも うこと。髪を藁で束ねるような貧しい暮らし をしていても、男には男の誇りがあるという 意から。「藁で束ねても男一匹」「藁で束ねて も亭主は亭主」ともいう。 補説昔、身分の低い者や貧しい者が髪の髻 髪を頭の頂に束ねたところ)を結うのに、 藁を使っていたことから。 類義 藁で作っても男は男。 箸に目鼻をつけ ても男は男。 わら おぼ ものわら つか 藁にもすがる潺れる者は藁をも掴む 119 童誇い大人知らず 童 誚し大人知らす 子供同士のけんかには、大人が口出しをする ものではないということ。 類義子供の喧嘩 か 親構わず。 対義 子供の喧嘩に親が出る。子供喧嘩が親 喧嘩。 童と公方人には勝たれぬ ま。幼い子供に美しい花を持たせると、すぐ に花をむしり取ってだめにしてしまう意か ら。 道理のわからない者のわがままには何を言ってもむだで、あきらめるしかないということ。幼い子供と公方人の横暴には手がつけられないという意から。マ公方人=室町時代、幕府の営中に勤めた武士。 類義泣く子と地頭には勝てぬ。 童に花持たせる如し 価値のわからない者に貴重な物を与えても何 の役にも立たないということ。また、大切な 物を不適当な人物に預けて安心できないさ わらつかおぼものわらつか 藁をも掴む涼れる者は藁をも掴む119 わりく 割を食う 損な立場に立たされること。人よりも不利な 割合を振り分けられたということから。▶割 ∥比べた時の損得の割合。 悪い鷹に餌を飼え 下種と鷹とに餌を 飼え 221 悪い友と辻風には出逢うな つむじ風の被害を避けるには出遭わないにか ぎるように、悪い友人とは初めからつき合わ ないにかぎるということ。▶辻風∥つむじ 風。竜巻。 類義悪い友と辻風には出会わぬが手柄。陰 陽師 おんよ うじ と旋風 つじ かぜ には会わぬが秘密。 われおも 我思う、 故に我あり あらゆる物が虚偽であると考えても、そう考 えている自分の存在は確かなものであり、疑 うことはできないということ。考える自分を すべての確実性の根本とした。 補説フランスの哲学者デカルトが方法的懐 疑をすすめた結果到達した根本原理で、方 法序説』にあることば。もとのラテン語その ままに「コギトエルゴスム(Cogito,ergo sum)」の形でも使われる。 <704> われおもーわんより われおもしろ ひとこま 我面白の人困らせ 自分さえおもしろければ、人の迷惑もかまわ ないということ。身勝手なことをいう。 類義我面白の人かしまし。我面白し人かま びすし。 わなべと破れ鍋に綴じ蓋 どんな人にも、それ相応の配偶者がいるということ。また、何事も似た者同士のほうがうまくいくということ。割れた鍋には、ふさわしい修繕した蓋がある意から。いろはがるた(江戸)の一。△綴じ蓋=修繕した蓋。 類義破れ鍋に欠け蓋。似た者夫婦。似合い似合いの釜の蓋。 [英語] A bad Jack may have as bad a fill. [悪人のジャックには、相応の悪女ジルがい [There is no pot so ugly that a cover cannot be found for it. どんなに醜い鍋で も、それに合う蓋はあるものである 破れ鍋二度の役に立たず 一度壊れたものは、二度と同じ役には立たな いということ。 対義破れ鍋も三年置けば用に立つ。土器 の欠けも用あり。 類義焙烙 ほう ろく の割れも三年置けば役に立つ。 貧乏人も三年置けば用に立つ。 禍 わざ わい も三年た てば用に立つ。 わなべさんねんおようた 破れ鍋も三年置けば用に立つ どんなものでもまったく役に立たないものは ないということ。割れた鍋でも三年もとって おけば、その間には何かの役に立つことがあ るという意から。 対義破れ鍋二度の役に立たず。 我はして人のぼらけを嫌う 自分の行為は棚に上げて、人が同じようなこ とをすると非難する身勝手さのこと。 補説連歌の師匠が、自分で「朝ぼらけ」と いうことばを使っていながら、弟子がそれに ならって「夕ぼらけ」「昼ぼらけ」と使った ところ、それはよくないと批評したので、弟 子たちが文句を言ったという笑い話から。 われひとつら ひとわれつら 我人に辛ければ人また我に辛 自分が人に冷たく当たると、相手もまた自分 に冷たく当たるものであるということ。 類義 我人のために辛ければ必ず身にも報 う。人を憎むは身を憎む。 対義人を愛する者は人恒つねに之これを愛す。 われひと 我もよかれ人もよかれ みんなが幸せであるように念じること。自分 にも人にも幸せがあるようにという意から。 出宋史そうし 我より古を作す 古いしきたりや習慣にとらわれずに、自ら新しい物事や規範を作り出して、後々の先例となるようにするということ。「我より故を作す」ともいう。 われこれえわれこれす 我より之を得て我より之を捐 つ 出史記 自分で手に入れたものを自分の意志で捨てる こと。自分で築いた地位を捨て去るのに何の 未練もないことをいう。 われ ひ あたものわ 我を非として当る者は吾が師 出荀子じゅんし 自分の欠点を批判しながらつき合ってくれる 人は、すべて自分の先生と思えという教え。 ∇当る∥しっかりと相手に向かうこと。 和を以て貴しとなす 人々がお互いに仲良くやっていくことがもっとも大切なことである。何事も調和が大事であるということ。 補説聖徳太子 しようと くたいし の定めた十七条憲法の第 一条に出てくることば。また『礼記らい』には 「礼は之これ和を用もって貴しと為なす」とある。 わんつく かわん 椀作りの欠け椀 人のためにばかり力を使い、自分のことはな おざりになるたとえ。椀を作る職人が、自分 は欠けた椀を使っているという意から。 類義 紺屋 こう や の白袴 しろば。 かま 髪結い髪結わず。 椀より正味 外観よりも内容で評価すべきであるというこ と。器よりも中身が大事だという意から。 <705> 東西いろはがるた一覧……709 主要出典解説……709 英語のことわざ……739 <706> 喫酒で心を冷やす一緒 冷やすの災がないのは、 冷やすの災がないのは、 冷やすの災がないのは、 冷やすの災がないのは、 江 戸 いぬあるぼう犬も歩けば棒にあたる ろんしようこ 論より証拠 はなだんご 花より団子 ごよはばか 憚る にく 憎まれ子世に憚る 骨折り損の草臥れ儲け 屁をひって尻窄める 年寄りの冷や水 塵も積もれば山となる 律義者の子沢山 【京都】 盗人の昼寝ひるね 瑠璃も玻璃も照らせば光る を お 老いては子に従え わなべと破れ鍋に綴じ蓋 いつすんさき 一寸先は闇 か 癩の瘡うらみ 論語読みの論語知らず かったい かさ 針の穴から天を覗く にかい 二階から目葉 ほとけかおさんど 仏の顔も三度 下手の長談義 豆腐に銑 大 阪 名古屋 地獄の沙汰も金次第 じごく さた かねしだい 鈴言汗の如し いちきじゅうし 一を聞いて十を知る 六十の三つ子 ぬか糠に釘くぎ は花より団子だんご 類を以て集まる おに じゅうはち鬼も十八 わ 笑う門には福来たる かえるつらみず か蛙の面に水 にく 憎まれっ子神直し ほ 惚れたが因果いんが 下手の長談義 遠い一家より近い隣 地獄の沙汰も金次第 りんげんあせごと の如し りんげんあせ 綸言汗の如し 盗人の昼寝 類を以て集まる 鬼の女房に鬼神 若い時は二度ない かげうらまめ 陰裏の豆もはじけ時 <707> よしずいてんじょうのぞ 葦の髄から天井を覗く 旅は道連れ世は情け 良薬は口に苦し そうりょうじんろく総領の甚六 月夜に釜を抜かれる ねん 念には念を入れよ 泣き面に蜂 つらはち 楽あれば苦あり よめとおめかさうち 夜目遠目笠の内 むりとおどうりひこ 無理が通れば道理引っ込む うそでまこと 噛い出た実 うそ 嘘から出た実 いもにぞん 芋の煮えたもご存じない の 喉元過ぎれば熱さを忘れる お 鬼に金棒 立て板に水 ふた 臭いものに蓋をする やすものか ぜにうしな や 安物買いの銭失い ま 負けるが勝ち げいみたす け 芸は身を助ける れんぎはらき連木で腹を切る 【付録】東西いろはがるた一覧 そでふあたしょうえん 袖の振り合わせも他生の縁 つきよかまぬ 月夜に釜を抜かれる 猫に小判こぼん なときえんまがお 済す時の閻魔顔 ら 来年の事を言えば鬼が笑う むかし きねづか 昔とった杵柄 う 氏より育ち うじ そだ いわしあたましんじん 鰯の頭も信心から 横槌で庭はく よこつちにわ の のみ い 鑑と言えば槌 大食上戸の餅食い れ れんぎ 連木で腹を切る お 負うた子に教えられて浅瀬を 袖の振り合わせも他生の縁 つ 爪に火を灯す 渡る ね 寝耳に水 くさ臭いものに蠅たかる やみよてっぽう闇夜に鉄砲 ま ま 蒔かぬ種は生えぬ げたやみそ け 下駄と焼き味噌 なら習わぬ経は読めぬ ら楽して楽知らず む 無芸大食 牛を馬にする 炒豆に花が咲く 野良の節供働き のらせっくばたら おんようじみ 陰陽師身の上知らず 果報は寝て待て ま 待てば甘露の日和あり げこたくら げ下戸の建てた蔵はない <708> 【付録】東西いろはがるた一覧 ふ 文はやりたし書く手は持たず こ さんがいくびかせ こ 子は三界の首枷 え 得手に帆を揚ぐ ていしゅすあかえぼし 亭主の好きな赤烏帽子 あたまかくしりかく 頭隠して尻隠さず さ三遍回って煙草にしよ き聞いて極楽見て地獄 ゆだんたいてき 由所文女 油断大敵 目の上の瘤身から出た雑しほとけみ し知らぬが仏 縁は異なもの味なもの 貧乏暇なし 武士は食わねど高楊子 もんせんこぞうならきょうよ門前の小僧習わぬ経を読む 背に腹はかえられぬ すいみく 料は身を食う す 粋は身を食う 京 きよう ゆめおおさか ゆめ 京の夢大阪の夢 これに懲りよ道才坊 寺から里てらさと 足下から鳥が立つ 竿の先の鈴 義理と褌欠かされぬ ゆうれいはまかぜ 幽霊の浜風 あくらかきのぞ盲の垣覗き えんま閻魔の色事 みみとおはだかぼうず 身は身で通る裸坊主 しわぼうかきたね 吝ん坊の柿の種 えんしたま 縁の下の舞い てんどうひところ 天道人を殺さず 触らぬ神に祟りなし ひようたん ひ 瓢簞から駒が出る もちもちや も餅は餅屋 義理と禅 ぎりふんどし せんだんふたばかんば 栃檀は双葉より芳し すずめひゃくおどわす 省百まで踊り忘れず きよういなか 京に田舎あり 油断大敵 目の上の瘤 うえこぶ 尻食らえ観音 かんのん えんしたちからも 縁の下の力持ち 貧僧の重ね食い 桃栗三年柿八年 背戸の馬も相口 京なし 墨に染まれば黒くなる <709> あんししゅんじゅう 八編(內編六編、外 編二編) 春秋時代の斉の宰相 話をまとめたもの。著者・成立年代ともに不 明であるが、戦国時代から漢代にかけて成立 したとされる。晏嬰が仕えた霊公・荘公・景 公の三君をいさめ、治世に努力した言行が記 されている。 易経 えききよう 周代の占いの書。儒教の五経の一つ。経文と その解説書の「十翼じゅうよく」を合わせて十二編 より成る。経の部分は陰と陽を組み合わせて 八卦はっ、これを重ねた六十四卦によって、自 然と人間の変化の法則を説いた書で、中国の 哲学思想のもとになった。作者として、周の 文王、周公、孔子があげられるが、確かでは ない。 内編二十一卷 淮南子 えなんじ 紀元前二世紀、前漢の武帝の初期に成立した 雑家(儒家・法家・道家など各種の学説を統 合した学派)の哲学書。編著者は、前漢の高 祖劉邦 りゅう ほう の孫である淮南王 わいな んおう 劉安 りゅう○ あん 無 【付録】主要出典解説 為自然の道家思想を中心とし、政治・軍事・天文・地理などにわたって諸学派の説を収めている。内編二十一巻・外編三十三巻があったとされるが、現存するのは内編二十一巻。 塩鉄論 十卷六十編 前漢時代の経済政策の書。前漢の儒者桓寛 かん の編著。武帝が財政難を打開するために行っ た塩・鉄・酒などの専売制度を存続させるか どうかについて、昭帝のときに諸国から集め られた学識者と官僚たちが討論したことをま とめたもの。当時の政治・社会・経済などを 知るための重要な文献。 管子かんし 二十四卷七十六編 中国古代の政治論文集。春秋時代の斉の宰相 さいし 管仲 かんち の作と伝えられるが、管仲の死後 に関する記述もあり、複数の人の手によって 戦国時代から漢代にかけての経済政策や富国 強兵策などについての論文をまとめたもの。 政治・経済・軍事・教育の術を論じ、法家的 思想もあるが、内容的には雑家的である。原 本は八十六編といわれるが、現存するのは七 十六編、二十四巻。 十卷 『詩経』の解説書。先秦 時代の故事・古 語と『詩経』の詩句を関連づけて解説した書。 前漢の韓嬰かんの著。『内伝』と『外伝』があっ たが、現存するのは『外伝』十巻だけ。「か んしげでん」とも読む。前漢の詩経学を伝え る書として、また当時伝承されていた寓言を 知るうえで貴重な価値がある。 顔氏家訓 がんしかくん 七卷二十編 家訓の書。南北朝時代、北斉の貴族の顔之推 がんし すい の著。子孫のために、家訓としての教訓 を書き残したもので、学問・道徳・教養から 処世・風俗など広く生活全般にわたり、訓戒 を述べている。中国人の生活態度の規範とし て後世長く尊ばれた。また、乱世を生き抜く 貴族の処世術を知る貴重な資料でもある。二 巻本もある。 かんじょ漢書 百二十卷 中国の正史の一つ。『史記』に次いで一番目 に成立した正史で、高祖そうから平帝ていまでの 前漢二三一年間の史実を記した歴史書。後漢 <710> 【付録】主要出典解説 の班固はんが、父班彪はんひの着手した修史を引 き継いで完成し、班固の死後、妹の班昭はんし が表十巻と「天文志」を補った。「史記」が 上古から漢代までの通史であるのに対し、「漢 書」は前漢一代だけの断代史だんだであり、以 降の正史の典型となった。 韓非子 かんぴし 二十卷五十五編 中国、戦国時代の法家思想の書。韓非の編 とされるが、一人の手によるものなのかは不 明。富国強兵のためには君主の権力を強化す べきであるとし、政治の根本は法と賞罰に よって支配することであるとして、法治主義 に基づく思想を展開。韓非とその学派の著作 を集めたもの。 魏書 百十四卷 中国の正史の一つ。北斉の魏収ぎしが勅令を受 けて五五四年に完成。南北朝時代の北魏 ぎ (三八六~五三四年)の歴史を記した史書。正 史の一つに数えられているが、事実をまげた 記述が多く、穢史わい不正確な史書と非難さ れた。「三国志」の「魏書」と区別して「後 魏書 こうぎ しよ 北魏書 ほくぎ しょ ともいう。 旧唐書 くとうじょ 二百卷 中国の正史の一つ。唐一代の史実を記した歴 史書。五代ごだ後晋こうの劉昫りゅらが勅命を受け て編纂へんし、九四五年に完成した。宋そう代に なって、欧陽脩 らが記事を改修して 唐書』を編集したため、これと区別して 旧 唐書』という。 景徳伝灯録 三十卷 中国の仏書。宋そうの道原どうの編で、一〇〇四年に完成。過去七仏かこし(釈迦牟尼仏しやかむとそれ以前にいたとされる六仏)以来のインド・中国歴代の諸師の伝記を集録したもの。禅宗ゆうの法体系を明らかにし、すぐれた法語・詩文なども収められている。中国禅宗史研究の重要な資料である。 孝 経 儒学の教典で、十三経の一つ。孔子が門人の 曾参 そう しん に問答形式で孝道について述べたの を、曾参の門人が記録したものといわれる。 また、孔子の自作ともいわれるが、編者は不 詳。孝を徳の根本であるとし、天子・諸侯・ 大夫・士・庶民それぞれの孝について説く。 十卷四十四編 孔子家語 孔子の言行や門人たちとの問答・議論などを 集録した書。『漢書』芸文志 二十七巻」とあるが、著者名がなく、書も現 存しない。現存するのは三国時代の魏の王 肅 おうし の偽作 ぎさ く で、『左伝』『国語』『孟子』 もう 荀子 じゅ んし 『礼記 ちい き 』『史記』などの古書から 孔子に関する記事を集めたものとされる。 呉越春秋 春秋時代の呉・越両国の興亡を記した書。後 漢の趙曄 ちょう よう の撰 せん。 呉は太伯 たい はく から夫差 ふさ まで、越は無余むよから勾践 こう せん までの間のこと が記されている。十巻本と六巻本がある。 後漢書 百二十卷 中国の正史の一つ。南朝、宋そうの范曄はんと西 晋の司馬彪しばひの撰せん。後漢一代の歴史を 記したもので、本紀ほん(帝王の伝記)・列伝(臣 下などの伝記)は范曄の撰に唐の李賢りけが注 を加え、志(社会・文化など)の部分は梁りよの 劉昭りゅうが司馬彪の『続漢書』から取ったも ので注も加えている。志の「東夷伝」とういに は日本についての記述がある。 五灯会元 二十卷 』 古列女伝 七卷 中国古代の女性の伝記。撰者 きよう 古代から漢代までの烈女 く、気性のはげしい女性を母儀 (母の模範)・賢明・仁智・貞順・節義など七目に分 <711> 類し、各十五人ずつの伝記を記したもの。列 女伝』ともいう。 菜根譚 さい こん たん 二卷 三国志さんごくし 中国の処世哲学書。明み期末期の儒者洪応明 こうお うめい 字 あざ な は自誠じせ い 著。儒教思想を中心に、 仏教・道教思想も加味した警句的な短文約三 百六十から成る語録で、処世法を説く。前集 では人と交わり仕事を処理する道を説き、後 集では世を退いてからの閑居の楽しみを説い ている。中国よりも日本で愛読された。 六十五卷 中国第四番目の正史。西晋 世い しん の陳寿 ちん じゅ の撰 せん。「魏志ぎし」「蜀志しょ」「呉志ごし」から成り、 魏・蜀・呉の三国時代の歴史を記述した史書。 魏を正統としているため、「魏志」のみ本紀 がある。後年蜀を正統とする説が優勢となり 非難されたが、歴史書としては、史実を客観 的に扱い、三国のどの王朝にもかたよらずに 三国時代をまとめている。「魏志」の中にあ る「倭人伝わじん」は、日本に関する最古の文 献として知られる。魏志三十巻、蜀志十五巻、 呉志二十巻の全六十五巻。 三略さんりゃく 三卷 中国古代の兵法書。周の太公望 たいこ うぼう の著とも、 また、前漢の張良ちょうが土橋の上で黄石公 こうせ きこう から授けられたとも伝えられるが、後世の偽 【付録】主要出典解説 作 ぎさ く といわれる。上略・中略・下略の三巻か ら成り、老荘思想を基調とした治国平天下の 大道から政略・戦略の道を論じている。同じ 兵法書の『六韜りとづ』と併称され『六韜三略』 ともいう。 史記 百三十卷 中国古代の史書。二十四史の一つで、最初の 正史。前漢の司馬遷しば 世の著。古代伝説上の帝 王黄帝こうから五帝、夏か・殷いん・周・秦しんの 各王朝を経て前漢の武帝までの約二千数百年 の歴史を総合的に記した通史。本紀ぼん帝王 の伝記)と列伝れつ(臣下などの伝記)を主体と する本書の歴史記述は「紀伝体きでん」と呼ばれ、 以後の正史の規範となった。本紀十二巻、表 十巻、書八巻、世家せい三十巻、列伝七十巻の 百三十巻。 しき 詩経よう 中国最古の詩集。五経の一つ。孔子が約三千 の古詩の中から選んで成立したといわれるが 未詳。紀元前十世紀から前六世紀ごろまでの 詩三百十一編(うち六編は題名のみ)を収録。 風ふう(国風ともいう。民謡)・雅が(宮廷の祝宴 歌)・頌(祖先を祭る歌)の三部構成。 二百九十四卷 中国の史書。北宋 時代の初め(紀元前四○三年)から、五代末 資治通鑑 (九五九年)まで一三六二年間の史実を、膨大 な資料を駆使して編年体(年代順に記述する 方式)に編纂へんした通史で、一〇八四年完成。 書名は「皇帝の政治に資する鑑かがみとなる書」 の意で、神宗皇帝から賜わったもの。 じ 事文類聚 古今の事実と詩文を集め、項目別に分類した 書。前集六十巻・後集五十巻・続集二十八巻・ 別集三十二巻は南宋 なん そう の祝穆 しゅく ぼく の撰せん。 新 集三十六巻・外集十五巻は元の富大用 ふだい よう の 撰。 遺集十五巻は元の祝淵 しゅく えん の撰。 十八史略 七卷 中国の史書。撰者 訳『漢書』『三国志』など十七の正史に宋 の史料を加えて十八史とし、太古から南宋の 滅亡に至る約四千年間の歴史を、編年史的に 要約したもの。室町時代後期に日本にも伝え られ、初学者用の中国史入門書として広く読 まれた。原書は二巻。現行本は明みんの陳殷 が注釈をつけて七巻にしたもの。 朱子語類 百四十卷 南宋 なん そう の思想家朱子(朱熹 しゅ き の尊称)の語録。 一二七○年、南宋の黎靖徳 れいせ いとく が、朱子とそ の門人たちとの問答を、三十五項目に分類し て集録したもの。朱子と朱子学派の思想を研 究する重要な資料。日本には、鎌倉時代末期 <712> 【付録】主要出典解説 に伝来した。 荀子 二十卷三十二編 中国、戦国時代の思想書。趙ちの思想家荀況 きょう(荀子は尊称)の著。孟子の性善説に対 して性悪説を唱え、人間の性は本来悪である から、礼によってこれを改め、善に導いて社 会秩序を維持すべきだと主張した。 春秋公羊伝 十一卷 中国古代の史書で五経の一つ『春秋』の注釈 書。戦国時代に、斉の公羊高 くようが述べたこ とを、玄孫げん(孫の孫)の寿じゅや弟子の胡母子 都しらが記録したもの。略して『公羊伝』と もいう。『春秋左氏伝』『春秋穀梁伝 と合わせて『春秋三伝』という。 三十卷 春秋左氏伝 中国古代の史書で五経の一つ『春秋』の注釈 書。左丘明 の作と伝えられるが異説も多 い。前漢末に劉歆 が編集し直したといわ れる。『公羊伝 『穀梁伝 』とともに『春 秋三伝』といわれるが、本書がもっとも文章 にすぐれ、史実も豊富で詳しい。略して『左 氏伝』『左伝』ともいう。 小学 六卷 宋そうの時代に作られた初学者のための修身 礼儀の書。朱子(朱熹)の門人劉子澄りゅうし が朱子の指導により編集したもの。一一八七 年に完成。内編(立教・明倫めい・敬身・稽古) には古典の教訓や古人の事跡など、外編(嘉 言かげ・善行)には賢人の言行を集める。儒教 社会や家庭における理想的な人間を養成しよ うとするもので、日本でも、江戸時代に初学 者の教科書として大いに用いられた。 貞観政要 十卷 唐の太宗 たい そうとその臣下の政治論議や事績を分 類・集録した書。唐の呉兢 ごき よう の撰せん。太宗は 唐王朝の基礎を固めた名君で、臣下の諫言 げん をよく聞き入れた政治は「貞観の治ち」と呼 ばれた。太宗と群臣との問答を四十門に分類 編集した本書は、為政者の手本として歴代の 皇帝や政治家の必読書とされた。 しょきょう書経 五経の一つ。太古の伝説上の帝王尭 ぎょ・舜 七十四卷 新五代史 中国の正史の一つ。唐の滅亡(九〇七年)から 宋そうの成立(九六〇年)までの五代の歴史を記 したもので、新旧二種ある『五代史』のうち 『旧五代史』(百五十巻)に対する通称。正式 書名は『五代史記』。宋の欧陽脩 おうよう しゅう が、旧 史に手を加えて作成したもの。 しんじょ 亜書 百三十卷 中国の正史の一つ。唐の太宗 玄齢 成。西晋 せい しん 四代(二六五~三一六年)と東晋 十一代(三一七~四二〇年)の歴史を、陸機 など十八史家の晋史を参考に、『世説新語 などの説話集からも記事を引用して編集して いる。 ずいしょ 隋書 八十五卷 中国の正史の一つ。唐の太宗たいの命により魏 徴 きち よう らが編纂 へん。 さん 隋の事跡を扱った史書で、 暴君煬帝 よう だい の記事の中で不都合なものを省い たりしているが、簡潔な文章で歴史を記述し、 「良史」と評価されている。本書の「経籍志 けいせ きし 」は、書籍についての重要な文献として 名高い。 中国の故事説話集。前漢の劉向 きよう の撰 せん。 <713> 君主の訓戒とするための先賢・先哲の故事・ 伝説類を集め、君道・臣術・建本・立節・貴 徳・復恩・政理など二十に分類したもの。各 巻頭に趣旨を述べ、例話を配列している。 世 三卷 せんごく戦国策 中国、六朝 りくち 時代の逸話集。南朝宋そうの劉 義慶りゅう の撰せん。 後漢から東晋 とう しん までの貴族 や知識人の逸話を集め、徳行・言語・故事・ 文学など三十六門に分類して簡潔な文体で記 したもの。六朝時代の貴族・知識人の風潮を 知るのに便利であり、また、言語資料として も貴重である。現在伝わるものは、梁りよ の劉 孝標りゅうこ うひようが注を加えたものである。 三十三編 中国の雑史。前漢の劉向 に諸国を遊説ゆう た戦略を、国別に集めて三十三編にまとめた 書。いくつかの書にのっているものを校訂・ 編集したもので、当時の政治・外交・軍事な どを知るための貴重な資料。現在伝わるもの は、北宋 の曾鞏 が欠けた部分を補って 編纂 したものに姚宏 の十巻本の二系統がある。 宋史 四百九十六卷 中国の正史の一つ。元の托克托とらが勅命を 受けて編纂へんさんし、一三四五年に完成。宋代に 【付録】主要出典解説 あった多くの国史をもとに、他の史料も取り 入れて編集した宋の歴史書で、宋代のことを 知るための必読書である。正史の中で最大の 四百九十六巻。 荘子 三十三編 「老子」と並ぶ道家思想の書。戦国時代の 思想家荘子(荘周)の著とされる。荘子 とその門人たちの言行や学説を記録した論説 集で、寓話と比喩を巧みに用いて文明批評を 行い、何ものにもとらわれない無為自然の生 き方を説く。現行の三十三編は西晋 が整理編集したもの。唐の玄宗 に南華真人 の号を贈ったため、「南華真 経 とも呼ばれる。 宋書 百卷 中国の正史の一つ。南朝梁りの沈約しんが斉の 武帝の勅命を受け、それまでにあった宋の歴 史書に改訂を加え、約一年で四四八年に完成 したもの。短期間に作り上げたため、内容や 記述が十分に練られておらず、あまりすぐれ た歴史書とはいえないが、ほかに宋代全体の まとまった歴史書がないので、宋代研究に とってもっとも重要な資料となっている。 十七卷 中国戦国時代末期の楚の歌謡を基盤とし、愛 国詩人屈原ぱっとその門人たちの作品、および 楚辞 漢代の人の模倣作を集めた書。前漢の劉向 りゅう きよう が編集した十六巻に、後漢の王逸 おう いつ が自 分の作品を加えて十七巻としたものが現存す る。長編叙事詩が多く、屈原の「離騷りそ 」は その代表作。 孫子 一卷 古代中国の兵法書。著者は、春秋時代の呉の 孫武 「兵勢」「軍争」「行軍」「地形」など十三編か ら成る。単なる戦争技術の書でなく、国政・ 人事についても触れ、人間の本性に対して鋭 い見解を示している。「呉子ご」とともに、 兵法の古典として広く読まれた。 だいがく 大学一巻 儒教の教典。『論語』『孟子』『中庸』とと もに四書の一つ。もと五経の一つ『礼記』 の一編で、教育の理想と課程を示したものを、 南宋 なん そう の朱熹 しゅ き (朱子 しゅ)が整理し、三綱領 さんこう りよう 八条目 はちじよ うもく の体系を立てて、身を修める ことから治国平天下の教えを説いたもの。 太平御覧 たいぎよらん 千卷 宋そう代の類書(内容を事項別に分類編集した 書物)。宋の太宗たいの命を受けて李昉りぼらが 編集し、九八三年完成。天・時序・地・皇王 など五十五部門に分類され、それぞれの部門 に古来有名な書物約千七百種から選び出した <714> 【付録】主要出典解説 関係項目を収録したもので、百科事典的な性格をもつ。 ちゅうよう 中庸 一巻 儒教の教典。『論語』『孟子』『大学』とと もに四書の一つ。孔子の孫の子思しの著と伝 えられるが、異説も多い。もとは五経の一つ 『礼記』の一編だったが、宋そう代にそれを 一書に独立させた。天と人とを結ぶ奥深い原 理を説いたものとして、儒学入門の必読書と なった。 つうぞくへん通俗編 三十八卷 中国のことばの解説書。清しんの翟影 てき こう の撰 せん。 ふだんよく使うことばを集めて天文・地 理・政治・文学など三十八類に分類し、意味 や由来を説明したもの。 とうしき詩紀事 八十一卷 南宋 なん そう の計有功 けいゆ うこう の編で、唐の詩人千百五 十人について、主要な作品とそれに関する記 事や品評、作者の伝記や逸話などを収めた書。 正史にない詩人の伝記や、散逸した作品を知 るための貴重な書である。 とうじょ 唐書 二百二十五卷 中国の正史の一つ。唐代の歴史を記した旧 唐書 と 「新唐書」の総称。とくに「新 唐書』を指す。九四五年に完成した『旧唐書』 (二百巻)を、宋そうの欧陽脩 おうよう しゅう ・宋祁 そう き らが 補正して編纂 へん さん し、一〇六〇年に完成したの が『新唐書』である。 南史 八十卷 中国の正史の一つ。唐の李延寿 の撰せん。 南朝の宋そう・斉・梁りよ・陳ちんの四国の正史を 改修し簡明にまとめ、南朝四代百七十年間の 事跡を記した通史。同じ作者による『北史 と対をなす。 十卷百編 碧巌録へきがんろく 古典的な禅の問答考案集。宋そうの雪竇重題 せっちょうが『景徳伝灯録けいとくで』から選んだ禅の じゅうけん 問答百則に、圜悟克勤 えんごこ が批評や注釈を加 えたもの。『仏果圜悟禅師 ぶっかえん ごぜんし 碧巌録』『碧 巌集』ともいう。 抱朴子 中国の道教の書。著者は東晋 とう の葛洪 かつ。 こう 三 一七年ごろに完成。道家思想に基づく不老長 生術や薬の処方などを述べた内編二十編と、 儒教的な立場から道徳・政治・社会を論じた 外編五十二編から成る。 北史百巻 六五九年完成。北朝 ほくち よう の魏・斉・周・隋 ずい の四代の歴史を記した書。南史 なん し と対を なす。 中国の正史の一つ。唐の李延寿 りえん じゅ の撰 せん で、 墨子 十五卷五十三編 中国、戦国時代の思想家墨翟 ほく てき (墨子 ほく)とそ の学派の学说を記した書。墨翟の撰せんとされ るが、大部分は門人の撰と考えられている。 無差別の愛である「兼愛」や、「非攻」(非戦 論)などを説く。もと七十一編あったが、現 存するのは五十三編。 北斉書 五十卷 中国の正史の一つ。唐の太宗 たい そう の命により李 百薬りひゃが六三六年に完成。南北朝時代の北 斉一代の歴史を記した書。 無門関 一卷 宋そう代の禅ぜんの書。臨済宗りんざいの僧無門慧開 むもん えかい の著。完成は一二二八年。悟りの話題四 十八を集め、評釈を加えたもの。『碧巌録 『臨済録りんざいろく』とともに、禅宗ぜんしゅうで重んじら れる書。 蒙求 三卷 唐代の児童・初学者用の教科書。編者は李瀚 りか。 古代から南北朝までの有名な人物の故事 や言行五百六十九事項を、記憶しやすいよう <715> 孟子 に標題を四字句の韻語ごんで表し、類似の事項 二つを一組にしたもの。有名な故事が多く含 まれており、中国古典を学ぶ者の入門書とし て尊ばれている。日本には平安時代にすでに 伝えられており、古くから愛読された。出典 は別にあっても、『蒙求』によって広く知ら れた説話や熟語も多い。 七編 文選 もんぜん 中国、戦国時代中期の思想書。孟子の言行を 門人が編纂 庸』とともに四書の一つ。性善説に基づく道 徳論を説き、覇道 して王道(仁徳による政治)を提唱している。 三十卷 中国の詩文集。梁りよの昭明太子 が編纂 古代の周から南北朝の梁までの約 千年間の作家百三十余人による八百首近いす ぐれた作品が、文体別・時代順に編集されて いる。奈良時代に日本に伝来し、『白氏文集 はくしも んじゅう』とともに、日本の文学に大きな影響を 与えた。 ようし揚子法言 ほうげん 十三卷 らっね 前漢の揚雄 よう ゆう 撰せん の思想書。『論語』の体裁 にならって、問答体の形をとりながら学問や 修身・孝行などの道を論じている。『法言』 ともいう。 【付録】主要出典解説 礼記 四十九編 儒教の経典。五経の一つ。前漢の戴徳 たいが集 とく 録した『大戴礼 だたい れい』を甥おいの戴聖 たい せい が編集 しなおして『小戴礼 しょうた いれい』とし、これが現在 の『礼記』となった。周末から秦しん・漢時代 にかけての礼に関する諸説を集めたもので、 日常の礼儀作法、冠婚葬祭の儀礼から生活の あらゆる面に及ぶ礼の記述があり、当時の制 度・習俗を知る貴重な資料である。四書の『大 学』『中庸』は、もと『礼記』の一篇である。 六韜りくとう 六卷 中国の兵法書。周の太公望 たいこ うぼう の著と伝えら れるが、現存するものは魏晋 ぎし 時代に成立し たとみられる。文韜・武韜・竜韜・虎韜・ 豹ひよ う 韜・犬けん 韜の六巻から成る。戦国時代か ら漢代の兵法を集成したもの。同じ兵法書の 『三略 さんり 』と合わせて『六韜三略』と称され る。 二十六卷 呂氏春秋 中国の雑家書。道家・儒家・墨家 法家など、先秦 の。秦の宰相 に集録させたものと伝えられる。儒家を主と して諸子百家の学説のほか、天文・地理など の学説や伝説も収めてあり、先秦時代の学 説・説話を知る貴重な資料である。「呂覧 ともいう。 列子 八卷 中国、道家の思想書。戦国時代の思想家列禦 寇 れつぎ よこう (列子)の撰せんとされるが、異説も多い。 道家思想に基づいた心虚 しん きよ 思想(心をむなし くして欲にとらわれないこと)を説く。寓話 が多い。 ろう老子二巻 中国、道家思想の代表的な書。春秋時代の思 想家老聃 ろう たん (老子)の作と伝えられるが、実際 には、道家に属する人々の思想を漢の初めに 集成したものと見られる。儒教の説く仁・ 義・礼などの人為的なものを捨て、無為自然 であることを説く。『老子道德経 ろうしどう とくきよう 略し て『道德経』ともいう。 ろん論語 二十編 儒教の経典 けい。 てん 大学 『中庸』『孟子 もう し と ともに四書の一つ。孔子の言行や門人たちと の問答を記録した書で、孔子の死後に門人た ちが編集したものといわれる。孔子は諸国を 回って仁の徳による政治を説いたが、本書は 孔子の人物や思想を知るうえできわめて重要 な資料である。 <716> (女の心は移り変わってばかりいる) ➡ 女心と秋の空 127 A wonder lasts but nine days. (不思議に思うのも九日だけ) ➡人の噂も七十五日 554 Wood half-burned is easily kindled. (半焼けの木には火がつきやすい) ➡焼け木杭ぼつには火がつき易やすい 652 Words hurt more than swords. (ことばは剣以上に人を傷つける) ➡す鉄人を殺す 345 Write down the advice of him who loves you, though you like it not at present. (愛してくれる人の忠告は、今は気に入らなくても、書きとめておきなさい) ➡親の意見と冷や酒は後で効きく 123 Y You are come of a blood and so is a pudding. (君はよい血筋の出だが、ソーセージにも豚の血筋の善し悪しがある) ➜家柄より芋茎いもがら37 You ask an elm tree for pears. (楡にの木に梨を求める) ➔木に縁よりて魚を求む 179 You cannot see the city for the houses. (家屋にばかり目がいっているために町が見えない) ➡木を見て森を見ず 194 You cannot see the wood for the trees. (木々だけを見ているために、森を見ることができない) ➡木を見て森を見ず 194 You count your chickens before they be hatched. (ひよこがかえらぬうちにその数を数える) ➡捕らぬ狸の皮算用 473 You dance in a net and think nobody sees you. (網の中で踊っているのに、だれも見ていないと思っている) ➡頭隠して尻隠さず 20 You may take a horse to the water, but you cannot make him drink. (馬を水辺につれていけても、無理に水を飲ませることはできない) ➔馬を水辺につれていけても、水を飲ませることはできない 93 You must go into the country to hear what news at London. (田舎なに行かないとロンドンの新しいニュースを耳にすることはできない) ➡灯台下も暗し 458 You must take the fat with the lean. (脂身あぶを赤身肉と一緒に受け取らなければならない) ➡損せぬ人に儲もうけなし 381 You shall never be younger. (若返ることは決してできない) ➔盛世重ねて来らず 350 The younger brother has the more wit. (弟のほうが賢い) ➡総領そうりの甚六じんろく373 Your lips hang in your light. (あなたの唇ぐちはあなたの明かりより先に出ている[あなたの口があなたの利益を減らしている]) ➝物言えば唇寒し秋の風 646 <717> 衣食足りて礼節を知る 45 What is a pound of butter among a kennel of hounds? (猟犬の群れに1 ポンドのバターを与えても何になろう か) ➡ 焼け石に水 652 What is in the heart of the sober man is in the tongue of the drunk-ard. (しらふのときに心にあるものは、酔ったときにはその人の舌にある) ➔ 酒入れば舌出ず 269 What is learned in the cradle is carried to the tomb. (ゆりかごの中で覚えたことは、墓場まで持っていく) →雀ず百まで踊り忘れず342 What youth is used to, age remembers. (若者がよくやることを年寄りは覚えてい[て再びや]る) ➡三つ子の魂百まで 623 When a thing is done advice comes too late. (事後の忠告では遅すぎる) →葬礼帰りの医者話 374 When shared, joy is doubled and sorrow halved. (分かち合えば喜びは倍増し、悲しみは半減する) ➡旅は道連れ世は情け 406 When the cat's away, the mice will play. (猫のいぬ間に鼠が遊ぶ) ➡鬼の居ぬ間に洗濯 117 When the crow flies her tail follows. (烏が飛べば尾が後ろからついてくる) ↔犬が西向きや尾は東 68 When the fox preaches, take care of the geese. (狐が説教するときは、〔だまされないように〕自分の鷲鳥がちに気をつけよ) ➞狼に衣 108 When the rain rains and the goose winks little wots the gosling what the goose thinks. (雨が降って親鷲鳥が眼を閉じるとき、その子には親の考えていることがほとんどわからない) →親の心子知らず 124 When you are at Rome, do as they do at Rome. (ローマにいるときは、ローマの人たちがするようにせよ) ➔ 郷に入りては郷に従う 236 While the thunder lasted, two bad men were friends. (雷が鳴っている間は、二人の悪人どもは友人であった) →呉越同舟 ごえつど 241 Who can hold that will away? (立ち去りたがっている者をだれが引き留められるだろうか) ➡往ゆく者は追わず、来たる者は拒ぼまず 665 Who keeps company with the wolf will learn to howl. (狼と交わりをする者は吠えるようになる) ➡朱に交われば赤くなる 312 Who likes not his business, his business likes not him. (自分の商売を愛さない者は、商売からも愛されない) →好きこそ物の上手なれ 340 Who perishes in needless danger is the devil's martyr. (無意味な死を遂げるのは、悪魔のために死ぬのも同然である) ➡飛んで火に入る夏の虫 478 Who so blind as he that will not see? (見ようとする気のない者くらい物の見分けのつかない者はいない) ➡心焉に 在らざれば視ぬれども見えず 247 The wine savours of the cask. (ぶどう酒には樽の風味がつくものだ) ➡姿は俗性ぞくしを現す 340 Wisdom is better than riches. (知恵は富にまさる) ➞知恵は万代の宝 416 Wisdom is better than rubies. (知恵は宝石に優れり) ➡知恵は真珠に優れり 416 A wise man changes his mind, a fool never. (賢者は考えを変えるが、愚者は決して変えない) ➔君子は豹変ひょうす 213 Woes unite foes. (わざわいは敵同士を 団結させる) ➡呉越同舟 ごえつど 241 The wolf knows what the ill beast thinks. (狼は、他の悪い獣の考えていることをよく知っている) ➡蛇ぉの道は蛇ふ 304 A woman's mind is always mutable. <718> (どの鳥にとっても自分の巣がいちばんよい) ➔住めば都 344 The tongue is ever turning to the aching tooth.(舌は常に痛む歯の所に行く)→問うに落ちず語るに落ちる459 Too much for one, and not enough for two, like the Walsall man's goose. (ウォールソル人の鷲鳥がちのように、一人で食べるには多すぎるし、二人で食べるには足りない) ▶帯に短し襷たすに長し119 A tree is known by its fruit. (木は実によって知られる) ➡実を見て木を知れ 628 Truth finds foes where it makes none. (真実は、自らは敵を作らないの に敵ができる) ➜忠言ちゅう耳に逆らう 423 Two dogs fight for a bone, and the third runs away with it. (二匹の犬が骨をめぐって争っていると、第三の犬がその骨をくわえて逃げる) ➡漁夫ぎよの利 192 Two eyes can see more than one. (二つの目は一つの目より多くを見ることができる) ➜三人寄れば文殊もんの知恵 280 Two heads are better than one. (二人は一人に勝る) ➞衆力しゅうりき功あり310 Under a ragged coat lies wisdom. (ぼろ服の下に知恵が横たわっている) →褐を被きて玉を懐くだく146 An unhappy man's cart is easy to tumble. (不幸者の馬車は転倒しやす い) ➡泣き面に蜂はち 481 Venture a small fish to catch a great one. (大魚を釣るために小魚を賭けよ) →海老ぶで鯛たを釣る 102 The voice of the people is the voice of God. (民の声は神の声) ➡民の声は神の声 409・天に口なし、人を以もて言わしむ 451 Vows made in storms are forgotten in calms. (嵐のときの誓言は凪なになると忘れ去られる) ➡喉元のど過ぎれば熱さを忘れる 513 W Wake not a sleeping lion. (寝ている ライオンを起こすな) ➔寝た子を起こ す 509 walk on eggs(卵の上を歩く)→薄氷 はくひ ようを履ふむが如し521 Water afar off quenches not fire. (遠くの水で火は消せぬ) ➔遠水ふん近火を救わず 103 We are usually the best men when in the worst health.(最悪の健康状態のときに、人は最高の精神の持ち主になる)→人の将まに死なんとするや、その言うこと善し556 We learn by teaching. (人は教えることによって学ぶ) ➡教うるは学ぶの半ば 112 We must fall down before a fox in season. (発情期の〔危険で手に負えない〕狐の前にはひれ伏さなければならない) ➞泣く子と地頭には勝てぬ 481 We piped to you, and you did not dance. (笛吹けども踊らず) ➡笛吹けども踊らず 576 The weak may stand the strong in stead.(弱者も強者を助けることがあ る)→負うた子に教えられて浅瀬を渡 る 107 Well begun is half done. (滑り出しが好調ならば、事は半分終わったようなものだ) ➡始め半分 524 Well fed, well bred. (よく養われた人とは、育ちのよい人のことである) <719> の栗をかき出せ) ↔火中の栗を拾う 144 Take the rough with the smooth. (すべすべした[良い]物と一緒にざらざらした[悪い]物も受け入れよ) ➔清濁せいせい 併あわせ吞む 349 Tastes differ. (人の趣味はそれぞれ異なる) ➔蓼た食う虫も好き好き 402 Teach your grandmother to suck eggs. (君のおばあさんに卵の吸い方を教えよ) ➔河童がつに水練 145 Tell not all you know, all you have, or all you can do. (知っていること、 持っている物、なし得ることを何もかも 口外することはやめよ) ➡能ある鷹は 爪を隠す 511 Temperance is the best physic.(節制は最良の薬)→節制は最良の薬 357 Ten good turns lie dead and one ill deed report abroad does spread. (十の善行は忘れられ、一の悪行は世に知れ渡る) ➜好事門を出でず悪事千里を行く 234 There are more old drunkards than old physicians. (老いた医師よりも老いた大酒飲みのほうが多い) ➡酒は百薬の長 271 There are those who despise pride with a greater pride. (高慢さをよりいっそうの高慢さで軽蔑する人がいる) →目糞鼻糞を笑う 638 There is luck in leisure. (好運は暇びなときにある) ➡果報は寝て待て 153 There is no general rule without some exceptions. (例外のない通則はない) ➞例外のない規則はない 691 There is no pot so ugly that a cover cannot be found for it. (どんなに醜みにくい鍋でも、それに合う蓋はあるものである) ➡破れ鍋に綴とじ蓋 704 There is no royal road to learning. (学問に王道はない) ➡学問に王道な し 136 There is no smoke without fire. (火の無い所に煙は立たない) ➡火の無い所に煙は立たぬ 563 There is nothing so secret but it may be discovered. (ばれない秘密はない) →隠すより現る 135 They agree like cats and dogs. (猫と犬のように和合〔の逆を〕する) ➡犬猿の仲 223 They that be in hell think there is no other heaven. (地獄に住む者はそこ以外の天国はないと思っている) ➡住めば都 344 They that have nothing need fear to lose nothing. (何も持っていない者は何も失う心配をする必要はない) ➡裸で物を落とす例しなし 526 Things done cannot be undone. (一度なされたことは元に戻せない) ➡覆水盆に返らず 577 Things past cannot be recalled. (過ぎたことは取り返すことができない) ▶後悔先に立たず 230 The third time pays for all. (三度目がすべての埋め合わせをする) ↔三度目の正直 279 Threatened folks live long. (死に脅おびやかされている者は長生きする) ➡柳に雪折れなし 655 Three women make a market. (女が 三人いれば市ができる) ➔女三人寄れ ば姦かししい127 Time and tide wait for no man. (時は人を待たない) ➡ 歳月人を待たず 264 Time flees away without delay. (時は猶予ゆうせずに過ぎ去る) ➡光陰矢の如ぎし 229 Time flies. (時は飛び去って行く) ➡光 陰矢の如ぎし 229 Time is money. (時は金なり) ➡→刻 千金いっこくせんきん 60・時は金なり 464 Time lost cannot be recalled. (失われた時は取り戻せない) ➞盛世重ねて来らず350 To every bird his own nest is best. <720> friends sit there. (富がテーブルについている限り、友人もそこに座っている) →金の切れ目が縁の切れ目 149 So many countries, so many customs.(国の数だけ習慣がある)→所変われば品変わる 467 So many men, so many minds. (人の心はそれぞれ違う) ➡ 十人十色じゅうにんといろ308 Some fish some frogs. (魚もいれば蛙もいる) ➡玉石混淆ぎょくせき 190 Some hear and see him whom he hears and sees not. (こちらでは聞きも見もしていないのに、あちらでは聞いたり見たりしている者がいる) ➡壁に耳あり障子に目あり 153 Sometimes the best gain is to lose. (最上の利益は損をすることであることがときどきある) ➡損して得取れ 381 Soon ripe, soon rotten. (早く熟うれると早く腐る) ➔早好きの早飽あき 535 Soon todd soon with God. (早く歯の生える子は早く神のもとへ召される) →才子多病 265 Sooner named sooner come. (名前を呼ぶや否なや現れる) ➔噂をすれば影がさす 96 A sound mind in a sound body. (健全なる精神は健全なる身体に宿る) ➡健全なる精神は健全なる身体に宿る 226 Spare the rod and spoil the child.(鞭 むちを惜しむと子はだめになる)▶可愛い 子には旅をさせよ 159 Speak of the devil and he will appear. (悪魔の噂をすると悪魔が現れる) ➔噂をすれば影がさす 96 Speak well of the dead. (死者は褒め よ) ➔死屍しに鞭打つ 288 Speech is silver, silence is golden. (雄弁ぬうは銀、沈黙は金) ➔言わぬは言 うにまさる 77・雄弁は銀、沈黙は金 663 Standers-by see more than game- sters. (ゲームに参加している人よりも それを見ている人のほうが多くのことが 見える) ➡傍目八目 おかめは ちもく 110 Steal the horse, and carry home the bridle. (馬を盗んだら、手綱なぴも持ち 帰れ) ➔毒を食らわば皿まで 466 Sticking goes not by strength, but by guiding of the gully. (うまく突き刺すこつは、力ではなく包丁さばきである) →馬鹿と鋏はさは使いよう518 The sting of a reproach is the truth of it. (非難されて心が痛いのは、その非難が当たっているからである) ➡頂門ちょうの一針い427 A stitch in time saves nine. (適時の一針は九針の手間を省ぶく) ➡今日の一針、明日の十針とは 189 The stone you throw will fall on your own head. (投げた石は自らの頭上に落ちる) ➡天に唾ぶす 451 Store is no sore. (豊富に物があることが害になることはない) ➔大は小を兼ねる 392 A storm in a teacup. (コップの中の嵐) ➡コップの中の嵐 252 A straw shows which way the wind blows. (一本の麦藁むぎを見れば、風向きがわかる) ➡ー葉いちよう落ちて天下の秋を知る 57 Strike while the iron is hot. (鉄は熱いうちに打て) ➔鉄は熱いうちに打て 443 The style is the man. (文体はその人の人となりを表す) ➡文は人なり 589 Successful sin passes for virtue. (罪も成功すると徳として通る) ➡勝てば官軍、負ければ賊軍 146 Such captain, such retinue. (この隊長にしてこの従者あり) ➡勇将ゆうしの下に弱卒じゃくなし 662 T Take the chestnuts out of the fire with the cat's paw. (猫の手で火の中 <721> Q A quiet conscience sleeps in thunder. (心にやましいことのない者は雷が鳴っているときでも眠れる) ➡聖人に夢無し 349 Quietness is the best, as the fox said when he bit the cock's head off. (雄鳥の頭をかみ切った狐が言うには、静かにしているのがいちばんよい) ➝ 雉きも鳴かずば打たれまい 174 R Reason rules all things. (道理は万事を支配する) ➔道理に向かう刃なし 460 A reed shaken with the wind. (風に そよぐ葦あ) ➔風にそよぐ葦 142 Render unto Caesar the things which are Caesar's. (カエサルの物はカエサルに返せ) ➔カエサルの物はカエサルに132 rip up old sores(古傷をかきむしる) →寝た子を起こす 509 A rolling stone gathers no moss. (転がる石には苔が生えぬ) ➔転がる石には苔が生えぬ 261 Rome was not built in a day. (ローマは一日にして成らず) ➡ローマは一日にして成らず 695 S Sadness and gladness succeed each other. (悲しみのあとには喜びが、喜びのあとには悲しみがやってくる) → 禍福くかふは糾あざなえる縄の如し152 The scales fall from one's eyes. (目から鱗ころが落ちる) ➡目から鱗が落ちる 638 The scholar may be better than the master. (弟子が師匠に勝ることがある) ➡出藍しゅつの誉はまれ 312 The scholar teaches his master. (弟子が師匠に教える) ➡ 釈迦しゃに説法 302 The sea refuses no river. (海はどんな川をも拒ばまない) ➞河海がは細流さいりゅうを択ぇばず133 Search not too curiously lest you find trouble. (難儀に遭あわないように、あまり根掘り葉掘り捜すな) ➡毛を吹いて疵を求む 223 Security is the greatest enemy. (油断は最大の敵である) ➞油断大敵ゆだんたいてき 665 See Naples and then die. (ナポリを見てから死ね) ➜日光を見ないうちは結構と言うな 496 Seeing is believing. (見ることは信じることである) ➡百聞は一見に如しかず566 Seldom is a long man wise, or a low man lowly. (背の高い利口者や背の低い謙遜けん家はめったにいない) ➡大男総身そうに知恵が回りかね 108 Sell not the bear's skin before you have caught him. (熊を捕らえる前に熊の皮を売るな) ➡捕らぬ狸の皮算用 473 Set hard heart against hard hap. (苦難には強い意志を持って立ち向かえ) →石に立つ矢 43 Show me a liar and I'll show you a thief. (ある人のうそつき癖ぐせを指摘してごらんなさい、そうすれば私はその人の盗癖ぐきを指摘してやろう) ➡嘘つきは泥棒の始まり 86 Slow and steady wins the race. (遅くとも着実な者が競走に勝つ) ➡急がば 回れ 47 A small gift brings often a great reward. (小さな贈り物が大きなお返しをもたらすことがよくある) ➡海老ぇで鯛を釣る 102 So long as fortune sits at the table <722> of another.(不幸は踵きびを接してやって来る)→弱り目に崇たり目 675 One must draw the line somewhere. (どこかに一線を引かなければならない) →君子は和して同ぢぜず、小人は同じて 和せず 214 One of these days is none of these days. (「そのうちいつかは」はいつの日でもない) ➞紺屋こうの明後日あさって263 One ought to make the expense according to the income. (人は収入に応じた支出をすべきである) ➡入るを量りて出ずるを為なす 75 One thing thinks the bear, and another he that leads him. (熊の思いと熊を引く者の思いは別である) 同床異夢どうしよういむ 457 The orange that is too hard squeezed yields a bitter juice. (オレンジを強く搾りすぎると苦くなる) ➡過ぎたるは猶なお及ばざるが如し340 Our neighbour's ground yields better corn than our own. (隣人の土地は自分の土地よりすぐれた穀物を産する) ➡隣の花は赤い 471 Out of sight, out of mind. (目に見えぬものは忘れ去られる) ➡去る者は日日に疎し 275 Out of the mouth comes the evil. (わざわいは口から生じる) ➡口は禍わざの門ど 204 P Patience is a flower that grows not in every garden. (忍耐は、どこの菜園にも育つ花ではない) ➔ならぬ堪忍するが堪忍 489 Paul's will not always stand. (セントポール寺院も永遠に存在するわけではない) ➔諸行無常しょぎょうむじょう 324 Penny-wise and pound-foolish. (小金に賢く大金に愚か) ➔一文いちもん吝おみの百知らず 56 The pen is mightier than the sword. (ペンは剣よりも強し) ➔ペンは剣よりも強し 596 Perfect friendship cannot be without equality. (完全な友情は同等の間柄でないとあり得ない) ➔釣り合わぬは不縁の基 436 Physician, heal thyself. (医師よ、汝なんの病を治療せよ) ➡医者の不養生 44 Plain dealing is a jewel. (正直は宝石) →正直は一生の宝 316 Pleasure and joy soon come and soon go. (喜びと楽しみはすぐに来て すぐに去る) → 邯鄲かんたんの夢 164 Pluck not where you never planted. (果実を植えなかった場所で摘むな) 蒔まかぬ種は生えぬ608 Poor and liberal, rich and covetous. (貧乏人は気前よく、金持ちは強欲) 金持ち金を使わず 151 The poor have few friends. (貧しい人には友人が少ない) ➔貧家には故人疎し 571 Poor men go to heaven as soon as rich. (貧乏人も金持ちと同じ速さで天国へ行く) ➡ 冥土めいの道には王なし636 Possession is worth an ill charter. (占有は不完全な証文ほどの価値はある) →預かり物は半分の主 18 The pot calls the kettle black. (鍋が〔自分も黒いのに〕やかんを黒いと言う) →目糞鼻糞を笑う 638 Practice makes perfect. (練習を積むと完全になる) ➡習うより慣れよ 489 Prevention is better than cure. (予防は治療に勝る) ➔転ばぬ先の杖 261・予防は治療に勝る 673 Procrastination is the thief of time. (遅延は時間泥棒である) ➔思い立った が吉日 120 The proof of the pudding is in the eating.(プディングの品定めは食べてみることである)→論より証拠 697 <723> の花は千に一つも仇あだはない123 No chance but comes again. (好機は必ず二度来る) ➡一度あることは二度ある 52 No honey without gall. (苦味のない蜜はない) ➡楽あれば苦あり 676 No joy without annoy. (悩みなしの喜びはない) ➔ 歓楽極まりて哀情多し 168 No man can make his own hap. (だれも自分の運命は作れない) ➔運は天に在り 97 No man proves famous but by labour. (労を惜しまず精励することによる以外に、人は名を成せない) ➔玉琢みがかざれば器きと成らず 408 No news is good news. (知らせがないのはよい知らせである) ➔便りのないのは良い便り 410 No penny, no pardon. (金がなければ免罪もない) →地獄の沙汰も金次第286 No prophet is recognized in his own country.(予言者は郷里では容られられず)→予言者郷里に容れられず 671 No reply is best. (応答をしないのがい ちばんよい) ➔柳に風 655 No rose without a thorn. (刺ゆのないばらはない) ➡楽あれば苦あり 676 No wisdom to silence. (沈黙にまさる知恵はない) ➔言わぬは言うにまさる77 A nod is as good as a wink to a blind horse.(目の見えない馬に頷ずないても目くばせをしても、同じことだ)→馬の耳に念仏 92 Nothing costs so much as what is given us. (貰もい物くらい高くつくものはない) ➡ただより高いものは無い400 Nothing freer than a gift. (貰もい物以上に無料の物はない) ➔ただより安いものは無い 401 Nothing is impossible to a willing heart. (意欲的な心の持ち主に不可能はない) ➡精神一到とう何事か成らざらん 349 Now or never. (やるなら今、さもないと二度と機会はない) ➡好機逸らすべからず 230 O An occupation is as good as land. (職業は土地に匹敵する) ➡芸は身を助ける 219 Of the abundance of the heart the mouth speaks. (心からあふれることを口が語るものである) ➡言葉は心の使い 253 Often a full dexterous smith forges a very weak knife.(刀鍛冶かたなの巨匠も、しばしばなまくら刀を作る)→弘法にも筆の誤り238 An old man in a house is a good sign in a house. (家に年寄りがいるのは、一家が幸せなしるしである) ➡年寄りは家の宝 469 Old men are twice children. (年寄り) は子供にかえる) ➡八十の三つ子 527 Old sin breeds new shame. (古い罪は新しい恥を生む) ➔古傷は痛み易い587 Old soldiers never die, they just fade away. (老兵は死なない、ただ消えてゆくだけだ) ➡老兵は死なず、消え去るのみ 695 Once a use and ever a custom. (一度癖になると習慣になる) ➡習い性と成る 489 One crow never pulls out another's eyes. (烏同士は相手の目をえぐるよう なことはしない) ➡血は水よりも濃い 421 One man is no man. (人間は一人ではどんな人間でもない) ➡衆力しゅうりき功あり310 One misfortune comes on the neck <724> 脳味噌はまったくない) ➡烏合うごの衆 82 Money begets money. (金が金を生む) →金が金を儲もける 149 Money is a great traveller in the world. (金は世界の偉大な旅人である) →金は天下の回り持ち 150 Money is round and rolls away. (金は丸いので、たちまちのうちに転がり去る) ➻銭は足無くして走る 359 The moon is not seen where the sun shines. (太陽が輝いている所では月は見えない) ➡月の前の灯火432 The more a man knows, the more he has to suffer. (智を増す者は悲しみを増す) ➔智を増す者は悲しみを増す 430 The more danger, the more honour. (危険が大きければ大きいほど、名誉も大きくなる) ➡虎穴こけに入らずんば虎子を得ず 245 The more haste the less speed. (急げば急ぐほど遅くなる) ➡急せいては事を仕損じる 350 More have repented speech than silence. (黙っていたことよりもしゃべったことを後悔する人のほうが多い) →口は禍わざの門 204 The more knave, the better luck. (悪党ほど運がよい) ➡憎まれ子世に憚はばる 493 The more noble, the more humble. (偉い人ほど高ぶらない) ➡実るほど頭 こうの下がる稲穂かな 625 More profit and less honour. (利益が大きくて栄誉が少ない) ➡名を棄てて実を取る 490 The more reapers the less to reap. (刈り手が多ければ多いほど、収穫は少なくなる) →旨い物は小人数 91 More than enough is too much.(十分以上は多すぎる)→過ぎたるは猶なお及ばざるが如し340 The morning sun never lasts a day. (朝日の輝きは一日は続かない) ➡ 驕む る平家は久しからず 112 The mountains have brought forth a mouse. (山々が鼠ねずを一匹生んだ) →大山鳴動して鼠一匹388 The mouse goes abroad where the cat is not lord. (猫が領主でない国では、鼠ねずも出歩く) ➡鬼の居ぬ間に洗濯 117 Mows may come to earnest. (冗談が 本当になることがある) ➡ 瓢簟ひょうたんから 駒が出る 568 Much bruit little fruit. (騒ぎばかりが大きく、収穫はほとんどない) ➝大山鳴動して鼠ねずみ一匹 388 Muck and money go together. (糞と金とは足並みが揃う) ➞金持ちと灰吹きは溜たまるほど汚い 151 My gossips wish me ill because I tell them truth. (私が真実を語るので、友人たちは私のために悪しかれと願っている) ➡下種げの逆恨さからみ221 Names and natures do often agree. (名前と性質とはしばしば一致する) ↔ 名は体を表す 487 Narrow gathered, widely spent. (けちけち貯めて湯水のように使い尽くす) →爪で拾って箕みでこぼす 436 Necessity is a hard weapon. (必要は頑丈な武器である) ➔窮きすれば通ず 185 Necessity is the mother of invention. (必要は発明の母) ➡必要は発明の母 549 Need has no law. (必要を律する法律はない) ➔出物でも腫れ物所嫌わず 445 Never too old to learn. (年を取りすぎて学べないということはない) ↔八十の手習い 527 No advice to the father's. (親の教えに 勝る教えはない) ➞親の意見と茄子なす <725> は飼い主に噛かみつく)→飼い犬に手を噛まれる129 Make haste slowly. (ゆっくりと急げ) →急がば回れ 47 Make no fire, raise no smoke. (火を焚かなければ、煙は立たない) ➡火の無い所に煙は立たぬ 563 A man at five may be a fool at fifteen.(五歳で大人並みの子は十五では馬鹿ということもあり得る)→十で神童十五で才子二十過ぎれば只だの人462 A man cannot give what he hasn't got. (持っていない物を人に与えることはできない) ➔無い袖をは振れぬ 479 Man is a wolf to man. (人間は人間にとって狼である) ➡人を見たら泥棒と思え 561 A man may lead a horse to the water but he cannot make him drink. (馬を水辺へつれていくことはできても、無理に水を飲ませることはできない) ➡匹夫ぴったも志を奪う可べからず 549 A man must ask excessively to get a little. (人は僅な物を得るためにも過大に求めなければならない) ➡棒ほど願って針ほど叶なう 600 Man shall not live by bread alone, but by every word that proceedeth out of the mouth of God. (人の生くるはパンのみによるにあらず、神の口より出ずるすべてのことばによる) ↔人はパンのみにて生くるものに非ぎず 558 Many dressers put the bride's dress out of order. (着付け係が大勢いると、花嫁の衣装が乱れてしまう) ➡船頭多くして船山へ登る 364 Many drops make a shower. (多くの水滴は雨となる) ➡塵も積もれば山となる 429 Many go out for wool and come home shorn. (羊毛を刈りに出かけながら、毛を刈られて帰る者が多い) ➡ 木乃伊ぅ取りが木乃伊になる 616 Many speak much who cannot speak well. (うまく話せないのに多弁な人が多い) ➡ 下手の長談義 593 Many things happen unlooked for. (予期しなかったことがよく起こるものである) ➡足下から鳥が立つ 17 Many without punishment, none without fault. (多くの人が罰を受けずにいるが、罪のない人は一人もいない) →叩けば埃ほこが出る 400 Marriage is a lottery. (結婚はくじのようなもの) ➔縁は異なもの 105 Marriages are made in heaven. (縁結びは天国でなされる) ➡縁は異なもの 105 Marry in haste, and repent at leisure. (あわてて結婚すると、あとで長いこと悔やむことになる) ➡縁と浮世は末を待て 104 Marry your equal. (釣り合いのとれる者と結婚せよ) ➡釣り合わぬは不縁の基 436 Meat and cloth makes the man. (衣食に申し分がなければ、立派な人物が生まれる) ➡衣食足りて礼節を知る 45 Men take bitter potions for sweet health.(人は快い健康のために苦い薬を飲む)→良薬は口に苦し 688 Mickle fails that fools think. (馬鹿の 考えていることはたいていものにならない) ↔下手の考え休むに似たり 593 Mickle power makes many enemies. (大きな権力は多くの敵を作る) ↔誉 れば毀しりの基 605 Might is right. (力は正義である) ➡勝 てば官軍、負ければ賊軍 146 The mill stands that wants water. (水の足りない水車は動かない) ➡腹が減っては戦ができぬ 536 A miss is as good as a mile. (小さな失敗も大きな失敗も、失敗であることに変わりはない) ➡五十歩百歩 249 The mob has many heads but no brains. (暴徒には頭がたくさんあるが <726> 騒ぎ出す) ➡ー犬影に吠ゆれば百犬声 に吠ゆ 60 Like father, like son. (父が父なら息子も息子) ➡此この父有りて斯に此の子有り 255 Like hen, like chicken. (ひよこは親鶏 おやに似る) ➡蛙るの子は蛙 132 The like, I say, sits with jay. (同類がかけすと一緒にとまっている) ➡類は友を呼ぶ 690 Like to like. (類は類へと寄っていく) →同気相求む 456 Like water off a duck's back. (あひるの背から落ちる水のように) ➡蛙るの面に水132 Likeness causes liking. (類似は愛好心を生む) ➡似るを友 500 The lion spares the suppliant. (ライオンも嘆願する者は助命する) ➡ 窮鳥 きゅうう ちょう 懐ふと ころ に入る 185 Little and often fills the purse. (小金でも頻繁ひんに入れれば財布を満たす) →塵ちも積もれば山となる 429 Little brooks make great rivers. (小川はやがて大河となる) ➡滴したり積もりて淵となる 291・水積もりて川と成る 619 A little fire burns up a great deal of corn. (小さな火でも大量の穀物を燃やしてしまう) ➡小事は大事 317 Little head great wit. (小頭の大知恵者) ➔山椒さんは小粒でもぴりりと辛い 278 Little heads may contain much learning. (小さな頭にも多くの知恵が入る) ➔山椒さんは小粒でもぴりりと辛い 278 A little learning is a dangerous thing. (少しばかりの学問は危険である) ➡生兵法なまびょうほうは大怪我のもと 488 Live well and live forever. (よい生き方をすれば、永遠に生きることができる) →虎は死して皮を留め、人は死して名を残す 474 Long absent soon forgotten. (長く不在にすれば、たちまち忘れられる) 去る者は日日に疎し 275 Long life has long misery. (長生きをすると、みじめな思いをすることが多い) ⇒命長ければ恥多し 70 A long tongue is a sign of a short hand. (口がよく動くというのは、手があまり動かないしるしである) ➡口叩きの手足らず 203 The longer east, the shorter west. (東が長ければ長いほど西はそれだけ短くなる) ➡東に近ければ西に遠い542 Look before you leap. (跳ぶ前に見よ) →念には念を入れよ 511 Look on both sides of the shield.(盾をの両面を見よ)→一枚の紙にも裏表55 Love covers many infirmities. (恋は多くの欠点をおおい隠す) ➝痘痕あばも 靨えぼ 25 Love has no respect of persons. (愛は人間のことを考慮しない) ↔恋に上下の隔ヘだてなし 228 Love is the loadstone of love. (愛は愛の磁石である) ➡魚心あれば水心 80 Love is without reason. (恋に理性はない) ➔恋は思案の外ほか 229 Love lasts as long as money endures. (恋愛は金が続く限り続く) ➡金の切れ 目が縁の切れ目 149 Love me little, love me long. (少し愛して、長く愛して) ➔愛は小出しにせよ 2 Love me, love my dog. (私を愛するなら、わが愛犬をも愛せよ) ➡坊主憎けりや袈裟まで憎い598 Love overcomes all. (愛はすべてを征服する) ➡仁者は敵なし 331 Love your enemies. (汝をんの敵を愛せよ) ➡汝の敵を愛せよ 491 The mad dog bites his master. (狂犬 <727> る)→蛍雪けいせつ218 It takes two to make a quarrel.(口論するには二人の人間が必要だ)→相手のない喧嘩けんはできぬ2 It will be all one a hundred years hence.(百年後には〔どんな人も〕皆同 じになる)→冥土めいの道には王なし 636 J Jack of all trades and master of none. (あらゆる仕事ができるが、どれ も抜きん出ることのできない男) ➡多 芸は無芸 398 K Kail spares bread. (野菜汁があればパンがなくても済む) ➔茶腹も一時いっき422 Keep thy shop and thy shop will keep thee. (汝をの店を守れ、さすれば店は汝を守ってくれる) ➔商あきい三年6 Keep your mouth shut and your eyes open.(口は閉じておけ、目は開けておけ)→耳は大なるべく口は小なるべし626 kill two birds with one stone(一つの石で二羽の鳥を殺す)→一石二鳥 63 The king's word is more than another man's oath. (王のことばには他人の誓言以上の重みがある) ➡鶴の一声 437 Kitchen physic is the best physic. (台所の薬〔滋養のある食物〕が最良の薬である) →薬より養生 202 Knock, and it shall be opened unto you. (叩たけよさらば開かれん) ➡叩けよさらば開かれん 400 Laugh and be fat. (笑えば肥える) ➡笑う門なには福来たる 702 Laugh before breakfast, you'll cry before supper. (朝食前に笑う者は、夕食前に涙するであろう) ➡今日は人の上、明日は我が身の上 189 The law is not the same at morning and night. (法律は朝と晩とでは同じでない) 朝令暮改ちょうれいばかい 427 Lay up for a rainy day. (雨の日に備えて蓄えよ) ➡備えあれば恵い無し 378 Learn wisdom by the follies of others.(他人の愚行によって英知を学べ)→人の振り見て我が振り直せ 556 Lend your money and lose your friend.(金を貸せば友を失う)→金を貸せば友を失う 151 Let bygones be bygones. (過ぎ去ったことは過ぎ去ったことにしよう) ➡既往きおは咎とがめず 170 Let every man skin his own skunk. (各々自分のスカンクの皮をはぐがよい) →頭の上の蠅を追え 20 Let the morn come and the meat with it. (朝を迎えよう、それとともに食べ物も) ➡明日は明日の風が吹く 16 Let the world wag. (世間を進み行かしめよ) ➡世の取り沙汰ざは人に言わせよ 673 Life is a span. (人生は束ぶの間) ➡人生は朝露ちょの如どし 333 The life of man is a winter's day and a winter's way. (人の一生は冬の日[のように短い]、また冬の道[のように泥だらけ]である) ➡人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如ぎし 553 Light cheap lither yield. (安物は割高につく) ➔安物買いの銭だ失い 653 Light love will change. (軽薄な恋は長続きしない) ➞近惚ちかればれの早飽き 417 Like cures like. (類は類を治療する) →毒を以もて毒を制す 467 Like dogs, when one barks all bark. (一人が騒げば、犬が吠ぼえるようにみな <728> 上らない) ↔苦しい時の神頼み 209 In too much dispute truth is lost. (論じすぎると真理が見失われる) ➡多岐亡羊たきほうよう397 In union is strength. (団結すると強くなる) ➡ー筋の矢は折るべし、十筋の矢は折り難だし 551 In wine there is truth. (酒の中に真実がある) ➡酒の中に真あり 270 Innocence is bold. (潔白な人は大胆である) ➔千万人と雖いえも吾往ゆかん 367 It early pricks that will be a thorn. (茨になる木は若木のうちから刺す) ➖ 栴檀せんは双葉より芳ばかんし364 It is a hard task to be poor and leal. (貧乏していてなおかつ誠実でいるのは困難な課題である) ➡貧すれば鈍する571 It is an ill wind that blows no man good. (だれにも利益を吹き与えないような風は悪い風である) ➡風が吹けば桶屋おけが儲もうかる141 It is an old rat that won't eat cheese. (古鼠ふるねならチーズを食べようとしないものだ) ➔煽てと審もっには乗るな 113 It is best to be on the safe side. (安全な側にいるのが最良の策) ↔君子危うきに近寄らず 211 It is better to have an open foe than a dissembling friend. (偽りの友を持つよりも、あからさまな敵を持つほうがよい) ➡敵に味方あり、味方に敵あり441 It is better to have wings than horns. (角を持つより羽を持つほうがよい) 三十六計逃げるに如しかず 278 It is dogged that does it. (不屈の努力をすれば事は成る) ➔精神一到とう何事か成らざらん 349 It is easy to be wise after the event. (事後に悟るのは容易である) ↔下種げす の後知恵 221 It is good sheltering under an old hedge. (年を経た生け垣の下で雨宿り をするのはよいことである) ↔寄らば 大樹の陰 675 It is good to beware by other men's harms. (他人の受けた災いによって警戒心を強くするのはよいことである) →人の振り見て我が振り直せ 556 It is good to make hay while the sun shines. (太陽が照っているうちに干し草を作るのがよい) ➡善は急げ 366 It is ill to waken sleeping dogs. (眠っている犬を起こすのは間違いである) →藪をつついて蛇を出す 657 It is merry when friends meet. (親友に会うのは至福のとき) ➡朋とも有り遠方より来きたる 473 It is never too late to mend. (行いを改めるのに遅すぎるということはない) →過ちては則すなわち改むるに憚はばること勿なかれ30 It is no meddling with our betters. (目上の人たちと争うことはできない) →長い物には巻かれろ 480 It is no use crying over spilt milk. (こぼれたミルクのことを嘆いてもむだ である) ➡覆水盆に返らず 577 It is not as thy mother says but as thy neighbours say. (汝をんは母親の 申すとおりの人間にあらず、隣人の申す とおりの人間なり) ➡親の目は贔屓目 124 It is the pace that kills. (命取りになるのは〔行為の〕速度である) ➡親が死んでも食じ休み 122 It is time to set in when the oven comes to the dough. (かまどが生パンのところに来たときは、パンを中に入れるべきときである) ➔据すえ膳だ食わぬは男の恥340 It is too late to grieve when the chance is past. (好機を逃してから悲しんでも遅すぎる) ➡いつまでもあると思うな親と金67・好機逸らすべからず230 It smells of the lamp. (灯火の匂いがす <729> 674 History repeats itself. (歴史は繰り返す) ➡歴史は繰り返す 693 Homer sometimes nods.(偉大な詩人ホーマーでさえも、ときには居眠りする)→猿も木から落ちる 274・弘法にも筆の誤り 238 An honest man's word is as good as his bond. (正直者のことばは誓約どおりである) ➡武士に二言なし 579 Honesty is ill for thriving. (正直は繁栄にとっては不都合である) ➡正直者が馬鹿を見る 316 The hood makes not the monk. (僧帽をかぶっただけでは僧にはなれない) →衣ばかりで和尚おしはできぬ261 Honesty is the best policy. (正直こそは最良の策) ➡正直の頭ぷに神宿る316 Honey is sweet but the bee stings. (蜜みは甘いが蜂はが刺す) ➡河豚は食 いたし命は惜しし 578 Hunger is the best sauce. (空すき腹は最高のソースである) ➔ひだるい時にまずい物なし 547 A hungry man smells meat afar off. (空腹の人には遠くの食べ物も匂う) 窮きゅすれば通ず 185 I I say little but I think more. (ほとんど口には出さないが、それだけに心に秘めたことはもっといっぱいある) ➡腹に一物いちもつ536 I taught you to swim, and now you'd drown me. (私はあなたに泳ぎを教えた、そして今あなたが私を溺れさせようとしている) ➡恩を仇だで返す 128 I to-day, you to-tomorrow. (今日は我、明日はあなた) ➡今日は人の上、明日は我が身の上 189 If strokes be good to give, they are good to get. (人を打つのがよいことなら、人から打たれるのもよいことのはずだ) ➔我が身を抓ねて人の痛さを知れ 700 If the Bermudas let you pass, you must beware of Hatteras. (仮にバミューダ諸島〔海難事故多発地帯〕を通過できたとしても、次にはハッテラス岬〔海の難所〕に用心しなければならない) 一難去ってまた一難 53 If the counsel be good, no matter who gave it. (助言がよいものなら、だれがそれを言おうと問題ではない) →人を以ちて言を廃せず 561 If two ride upon a horse one must sit behind. (一頭の馬に二人で乗ろうとするなら、一人は後ろに乗らなければならない) ▶両雄並び立たず 688 If you lose your time you cannot get money. (時をむだにすれば、金を得られない) ➡ー寸の光陰にう軽んずべからず 62 If winter comes, can spring be behind? (冬来きりなば春遠からじ) →冬来たりなば春遠からじ 586 If you run after two hares, you will catch neither. (二兎を追いかけると一兎も捕まらない) ➡二兎を追う者は一兎をも得ず 497 An ill beginning has an ill ending. (始まりが悪いと終わりも悪い) ➡始めが大事 524 An ill life, an ill end. (悪い生き方をすれば悪い死に方をする) ➡身から出た錆き616 An ill marriage is a spring of ill fortune. (望ましくない縁組みは不幸の泉である) ➡悪妻は百年の不作 9 Ill weeds grow fast. (雑草は成長が早い) ➔憎まれ子世に憚がる 493 In much wisdom in much vexation. (知恵多ければ憤いきりも多くなる) ➡知恵多ければ憤り多し 416 In prosperity no altars smoke. (幸運のときにはどの聖壇からも香の煙が立ち <730> 会がある) ↔命あっての物種だねもの70 He that has a wife has a master. (女房持ちは主人持ち) ➡両雄並び立たず688 He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope.(蛇に噛かまれた者は縄を怖がる)→羹あつに懲こりて膾なまを吹く23 He that knows nothing doubts nothing. (何も知らない者は何も疑わない) →知らぬが仏 326 He that lies long in bed, his estate feels it. (寝てばかりいると、その人の財産もそれを感じとる〔減っていく〕) →朝寝八石はちの損14 He that lives not well one year sorrows for it seven. (いい加減な暮らしを一年すると、七年悔やむことになる) ➡→一時の懈怠はだは一生の懈怠 51 He that loses his goods loses his sense. (財産をなくす者は分別をなくす) ➔貧すれば鈍する 571 He that makes his bed ill lies there. (ベッドメーキングが下手な者はその ベッドで寝ることになる) ➡自業じご自 得 286 He that makes the shoe cannot tan the leather.(靴を作る者は皮をなめすことはできない)→餅は餅屋 644 He that never did one thing ill can never do it well. (一度も失敗をした経験のない者は成功できない) ➡失敗は成功の基 295 He that pities another remembers himself.(他人を哀れむ者とは自分のことを思う人のことである)→情けは人の為ならず 483 He that shoots oft at last shall hit the mark. (何度も射る者はついには的を 射あてる) ➔下手な鉄砲も数撃てば当 たる 593 He that stays in the valley shall never get over the hill. (谷の中にとどまる者は決して丘を越えることはない) ➡井の中の蛙が大海を知らず 72 He that washes an ass's head loses both his soap and labour.(ろばの頭を洗う者は石鹸と労力の両方をむだにする)→骨折り損の草臥くたれ儲ぅけ605 He that will have the pleasure must endure the pain. (喜びを得たいのなら、苦しみに耐えなければならない) →楽は苦の種、苦は楽の種 676 He that will none ill do must do nothing that belongs thereto. (悪 事をするまいと思う者は悪事に属するこ とをしてはいけない) ➔李下りに冠むんを 正さず 680 He that will sail without danger must never come upon the main sea. (無難に航海しようと思う者は大海に出てはならない) ➔君子危うきに近寄らず211 He thinks his penny good silver. (自分のペニー貨は立派な銀貨だと思い込む) ➡我が仏尊し 699 He thinks that roasted larks will fall into his mouth. (ひばりのあぶり肉が口の中に落ちてくると〔虫のいいことを〕思っている) ➡開あいた口へ牡丹餅2 He who would climb the ladder must begin at the bottom. (梯子ぼしに上りたいのなら一段目から上らなければならない) ➔千里の行も足下ぞっとり始まる369 Heaven helps those who help themselves. (天は自ら助くる者を助く) ➡️ 天は自ら助くる者を助く 453 A hedge between keeps friendship green. (友人との間に垣根があると友情は枯れない) ➡親しき仲に垣をせよ 291 Hercules himself cannot deal with two. (ヘラクレスでさえも二人を相手 にすることはできない) ➔衆寡しゅうか敵せ ず 305 Hills are green far away. (遠くの山は 〔美しく〕青い) ↔夜目よぬ遠目とお笠の内 <731> A great dowry is a bed full of brabbles. (多額の持参金は口論の多い床である) ➡婿は座敷から貰もえ嫁は庭から貰え 631 The great fish eat the small. (大きな魚は小さな魚を食べる) ➡弱肉強食 302 Great pains but all in vain. (大変な骨折りをしても、すべては空しい) ➡骨折り損の草臥くたれ儲うけ 605 A great ship asks deep waters. (大きい船は深い水域を必要とする) ➡大魚たいは小池うちに棲すまず 384 A great shoe will not fit a little foot. (大きな靴は小さい足に合わない) ➡杓子しゃは耳掻みみきにならず 302 Great trees are good for nothing but shade. (大木が役に立つのは、日陰をつくることだけだ) ➡独活の大木 90 The greatest hate proceeds from the greatest love. (最大の憎しみは最大の愛から生まれる) ➡可愛かわさ余って憎さが百倍 159 H Half a word is enough for a wise man.(賢明な人には、半分の単語で足りる)→一を聞いて十を知る58 Happy is he whose friends were born before him. (年上の身内を持つ 者は幸いである) ➡親の光は七光 124 Harm watch harm catch. (わざわいに 目を向けているとわざわいにあう) ➔ 人を呪のわば穴二つ 561 Harvest follows seedtime.(収穫は種まきのあとに来る)→蒔まかぬ種は生えぬ608 Haste makes waste. (性急はむだを生む) ➔急ぜいては事を仕損じる 350 A hasty meeting, a hasty parting. (早縁組みの早別れ) ➡近惚ちかれの早飽き 417 Have not thy cloak to make when it begins to rain. (雨が降り始めてからレインコートを作らせるな) ➡泥棒を捕らえて縄を絢なう 477 He builds cages for oxen to bring up birds in.(小鳥を飼うというのに、牛が入るような籠ざを作る)→鶏にわとりを割さくに焉いずんぞ牛刀ぎゅうを用いん500 He cries wine and sells vinegar.(葡萄酒)→羊頭ようを懸かけて狗肉くにを売る669 He finds that seeks. (探し求める者は見出す) ➡志ある者は事竟に成る 247 He has honey in his mouth and the razor at his girdle. (口に蜜ぢを、腰帯には剃刀を持っている) ➜口に蜜ぢあり腹に剣あり 204 He is an ill mason that refuses any stone.(どんな石であれ、それを拒む のは未熟な石工である)→弘法にう筆を 択ばず 238 He is doubly fond that justifies his fondness.(自分の愚かさを正当化する者は二重に愚かである)→過ちて改めざる、是これを過ちと謂いう30 He is young enough to amend. (彼には心を入れかえられるだけの若さがある) ➔矯めるなら若木のうち 410 He sets the fox to keep the geese. (狐に鷲鳥がちょうの番をさせる) ➡猫に鰹節 かつお 506 He shall find mercy that merciful is. (慈悲を与える者は必ずや慈悲を受ける) →情けは人の為ならず 483 He that can stay obtains. (待つことのできる者は欲しい物を手にする) ➡待てば海路の日和ひよあり 612 He that cannot dissemble knows not how to live. (偽ることができない人は生き方を知らない人である) ➡嘘も方便 86 He that fights and runs away may live to fight another day. (戦って逃げる者は、生き延びて他日にまた戦う機 <732> Fortune waits on honest toil and earnest endeavour. (幸運は正直な勤労と真面目な努力にかしずく) ➡正直の頭に神宿る 316 The fox may grow grey but never good. ([狡猾な]狐は年を取って白髪になっても善良にはならぬ) ➡三つ子の魂百まで 623 A friend in need is a friend indeed. (危急の際の友こそが本当の友である) →刎頸ふんの交わり 587 A friend to all is a friend to none. (万人の友人はだれの友人でもない) ➡ 郷原ぎょうは徳の賊ぞ 187 From hearing comes wisdom; from speaking, repentance. (聞くことは知恵のもと、語ることは悔いのもと) ↔耳は大なるべく口は小なるべし 626 A full heart lied never. (酔っぱらいが 嘘をついたためしはない) ➡酒は本心 をあらわす 271 Full of courtesy, full of craft. (礼儀 たっぷり企みたっぷり) ↔巧言令色 こうげんれいしょく鮮なすくし仁231 G A gift is valued by the mind of the giver.(贈り物は贈り主の心によって評 価される)→気は心 181 Give not your right hand to every man.(だれかれにむやみに〔握手をする〕右手を出すな)→人を見たら泥棒と思え 561 go the wrong way to the wood(森へ行くのに誤った道を行く)→木に縁よりて魚うを求む179 God is still in heaven. (神はいつも天におられる) ➡神は見通し 155 God stays long but strikes at last. (神は長い間じっと待っておられるが、 最後にはむちを打たれる) ↔天網恢恢 てんもう かいかい 疎そにして漏もらさず 454 lamb.(神は毛を刈り取られた子羊には 風を和らげる)↔天道人を殺さず 451 God tempers the wind to the shorn Good and quickly seldom meet. (「よい」と「速い」が両立することはめったにない) ➡早かろう悪かろう 535 A good candleholder proves a good gamester.(立派な〔人の手元を照らす〕蠟燭を持ちは立派な賭け事師になる) →門前の小僧、習わぬ経を読む 650 A good horse becomes never a jade. (駿馬は決して駄馬だにはならない) →腐っても鯛た199 Good medicine is bitter in the mouth. (良薬は口に苦い) ➔良薬は口に苦し 688 A good tale ill told is a bad one. (よい話も話し方がまずいと損なわれる) ➞丸い卵も切りようで四角 615 A good tree is a good shelter. (立派な木はよい避難所である) ➔寄らば大樹の陰 675 Good watch prevents misfortune. (十分な用心は不運を防ぐ) ➔転ばぬ先 の杖 261 A good wife and health is a man's best wealth. (良妻と健康は男の最大の富である) ➡女房は半身上はんしん 500 A good wife makes a good husband. (よき妻はよき夫を作る) ➡布は緯ぬきか ら男は女ぁから505 Good wine needs no bush. (よい酒は 〔自ずと売れるので〕看板を必要としない) ➔桃李とう言いものわざれども下自ずから蹊けを成す 460 Good workmen are seldom rich. (腕のいい職人で裕福な人は稀である) ➝ 器用貧乏人宝 189 The goodman is the last who knows what's amiss at home. (亭主には家庭内の不始末がなかなかわからない) →知らぬは亭主ばかりなり 327 Great barkers are no biters. (激しく 吠える犬はかみつかないものだ) ➡吠 える犬は噛みつかぬ 601 <733> F The face is the index of the heart. (顔は心の指標) ➡思い内にあれば色外に現る 120 Fact is stranger than fiction. (事実は小説よりも奇なり) ➔事実は小説よりも奇なり 287 Failure teaches success. (失敗が成功を教える) ➡失敗は成功の基 295 Fair feathers make fair fowls. (美しい羽は鳥を美しくする) ➡馬子きにも衣装 610 The fairest flowers soonest fade. (いちばん美しい花がいちばん先にしぼむ) →佳人薄命かじんはくめい 141 False with one can be false with two. (一つのことを偽る人は、二つのことについても偽る) ➔一事が万事 50 Fancy may kill or cure. (空想は人を殺しも生かしもする) ➡病は気から658 Far from Jupiter, far from thunder. (〔ローマ神話の天空の神〕ジュピターから離れていれば、雷に打たれることはない) ➡触らぬ神に崇たりなし 275 The feather makes not the bird. (羽があるからすなわち鳥であるというわけではない) ➔衣ころばかりで和尚おしはできぬ261 Feed by measure and defy the physician. (食べる量をほどほどにして医者にかからないようにせよ) ➡腹八分に医者いらず 537 The first breath is the beginning of death. (産声ござは死の始まり) ➡生者必滅しようじゃ 317 First come, first served. (最初に来た者が最初にもてなされる) ➡先んずれば人を制す 268 The first degree of folly is to hold oneself wise, the second to profess it, the third to despise counsel. (愚の第一級は自分を利口だと思うこと、第二級はそれを公言すること、第三級は助言を馬鹿にすることである) ➡自慢高慢馬鹿のうち 300 The fly has her spleen and the ant has gall.(蠅にも脾臓ひぞがあり、蟻あにも膀胱ぼうがある)→一寸の虫にも五分の魂たま63 A fool cannot speak unlike himself. (馬鹿は馬鹿でないような話し方では話せない) →言葉は身の文あや253 The foolish ostrich buries his head in the sand and thinks he is not seen. (愚かなだちょうは頭を砂の中に隠し、他から己れの姿を見られていないと思っている) 頭隠して尻隠さず20 Fool's haste is no speed. (馬鹿が急いでやっても速いことにならない) ➡早い者に上手なし 534 Fools will be meddling. (愚か者はおせっかいである) ➡無精者ぶしよの隣働き 580 Fools will still be fools. (愚か者は常に愚か者である) ➔馬鹿に付ける薬はない 518 For a lost thing care not. (なくしたものは気にするな) ➔諦あきめは心の養生 7 For ill do well, then fear not hell. (悪に報いるに善をもってせよ、そうして地獄を恐れるな) ➡怨うみに報ゆるに徳を以もてす 94 For want of a nail the shoe is lost, for want of a shoe the horse is lost, for want of a horse the rider is lost. (釘一本がないために蹄鉄ぞらがなくなり、蹄鉄がないために馬が使えず、馬がだめになったために乗っていた人がだめになる) 蟻の穴から堤も崩れる 31 The foremost dog catches the hare. (先頭の犬が兎を捕らえる) ➡先んずれば人を制す 268 Fortune favours the bold. (運命の女神は勇者に味方する) ➡身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ 628 <734> An egg today is better than a hen tomorrow. (今日の卵一個は明日の鶏にわとり一羽にまさる) ➡明日の百より今日の五十 19 Empty vessels sound most. (空からの容器はいちばん大きな音を立てる) ➡空 樽だるあきは音が高い6・浅瀬あさに仇波あだみ13 The end crowns all. (終わりがすべての物事の冠となる) ➡終わり良ければすべて良し 126 Enter by the narrow gate. (狭き門より入れ) ➡ 狭き門より入れ 359 The end justifies the means. (目的は手段を正当化する) ➡嘘も方便ぺん 86 An envious man grows lean.(嫉妬とっ 深い者は痩やせる)→妬ねみはその身の 仇だ 509 Envy can abide to no excellence. (嫉妬とっはいかなる優越にも耐えられない) →高木は風に折らる 239 Envy is the companion of honour. (嫉妬とっは名声につきまとう友である) →出る杭ぶは打たれる 446 The evening praises the day. (夕暮れがその日を評価する) ➡棺を蓋いて事定まる 169 Evening words are not like to morning. (晩のことばは朝のことばと同一ではない) →朝令暮改ちょうれいばかい 427 Every country has its law. (どの国にもそれぞれの習わしがある) ➡郷に入りては郷に従う 236 Every dog is a lion at home. (どこの犬も家の中ではライオンである) ➡内弁慶の外地蔵 88 Every Jack has his Jill. (どのジャックにもみな似合いのジルがいる) ➔牛は牛連れ 84 Every man a little beyond himself is a fool.(自分の領域を少しでも超えた者はだれもがみな愚者である)→餅は餅屋644 Every man as he loves. (めいめいお気に召すままに) ➞蓼を食う虫も好き好き 402 Every man has his faults. (人にはだれ にでも欠点がある) ➡無くて七癖なせ 482 Every man has his weak side. (だれにでも欠点はある) ➜叩たけば埃ほこが出る 400 Every miller draws water to his own mill.(粉屋はだれもが自分の粉ひき場 へ水を引く)→我田引水がでんい146 Everyone is not merry that dances. (踊る者は必ずしも陽気ではない) ➡見 かけばかりの空が大名 616 Everything comes to him who waits. (待つ者はすべてを得る) ➡待てば海路 の日和ひよあり 612 Everything is good in its season. (物はすべて旬んがよい) ➡鬼も十八番茶も出花 117 Everything new is fine. (新しい物はすべて美しい) →女房と畳たみは新しいほうがよい499 Evil communications corrupt good manners. (下劣な会話はよい行儀作法を害する) ➔朱に交われば赤くなる 312 Evil-gotten goods never prove well. (不当な手段で得た物はよい結果を生まない) ➔悪銭身に付かず 10 Experience without learning is better than learning without experience. (学識を伴わない経験は、経験を伴わない学識にまさる). ➔書を以ちて御ぎを為なす者は馬の情を尽くさず 326 Extremes meet. (両極端は一致する) →大智たいは愚の如し391 An eye for an eye, and a tooth for a tooth. (目には目、歯には歯) ➡目には目、歯には歯 639 The eye is the window of the heart. (目は心の窓) ➡目は心の鏡 640 The eyes have one language everywhere. (目は万国共通のことばを持つ) ➡目は口ほどに物を言う 640 <735> to make hay(他の人が干し草を作る つもりだった草を刈る)→権兵衛ごんが 種蒔まきや鳥がほじくる263 Cut your coat according to your cloth.(布に応じて衣服を裁たて)→蟹 かには甲羅こうに似せて穴を掘る 148 D The danger past and God forgotten. (危険が過ぎ去ると、人は神を忘れる) →喉元のど過ぎれば熱さを忘れる 513・苦しい時の神頼み 209 The day has eyes, the night has ears. (昼に目あり、夜に耳あり) ➡天知る地 知る我知る子し知る 449 The day is short, and work is much. (一日は短く仕事は多い) ➡少年老い易 やすく学成り難がたし321 Dead men tell no tales. (死人はどんな話もしない) ➡死人に口なし 298 Death is the end of all. (死はすべての終わりである) ➡死んで花実が咲くものか 334 The deceitful man falls oft into the snares of deceit. (策略家はしばしば策略の罠わになにかかる) ➔策士策に溺おぼれる 269 Despair makes cowards courageous. (絶望すると臆病者も度胸がすわる) 窮鼠きゅうそ猫を噛む185 The devil tempts all, but the idle man tempts the devil. (悪魔はすべての人を誘惑するが、ひまな人間は悪魔を誘惑する) ➡小人閑居かんきよして不善を為なす318 The die is cast. (賽ぎはすでに投げられた) ➔賽は投げられた 266 Diligence is the mother of good fortune. (勤勉は幸運の母である) ➔ 稼ぐに追い付く貧乏なし 141 A disease known is half cured. (病気を知れば半ば治ったようなものだ) 病を知れば癒いゆるに近し 658 Do as you would be done to. (人からしてもらいたいとおりに、人に対してしてやりなさい) 人に施す勿れ 118 Do the likeliest, and God will do the best. (最も適切なことをすれば、神は最善を施ぎとしてくださる) ➡人事を尽くして天命を待つ 332 The dog that trots about finds a bone. (走り回る犬は骨を見つける) →犬も歩けば棒にあたる 69 A dog will not cry if you strike him with a bone. (骨で打てば、犬は鳴かない) ➔金が面づを張る 149 Don't kill the goose that lays the golden eggs. (金の卵を生む鷲鳥がちを殺すな) ➡金の卵を生む鷲鳥を殺すな 197 Dreams are lies. (夢はうそ) ➔夢は逆 夢さかゆめ 666 Drought never brought dearth. (日照りが飢饉きをもたらしたためしはない) →日照りに不作なし 549 A drowning man will catch at a straw.(溺れる者は藁でも掴みもうとする)→溺れる者は藁をも掴む119 Dry light is the best. (陰影いんのない光線がもっともよい) ➡傍目八目おかめはちもく 110 Dying men speak true. (死に瀕ひした人は真実を語る) ➡人の将きに死なんとするや、その言うこと善し 556 E Eagles do not breed doves. (驚わは鳩を育てない) ➻瓜の蔓に茄子はならぬ 95 The early bird catches the worm. (早起きの鳥は虫を捕まえる) ➡️早起き は三文の徳 535 Easier said than done. (言うことは行うことよりも易しい) ➡言うは易く行うは難かたし 37 <736> 頭こうの下がる稲穂かな625 Boys, be ambitious. (少年よ大志を抱け) ➡少年よ大志を抱け 321 Breed up a crow and she will peck out your eyes. (烏ずらを育ててみよ、奴は君の目玉を突っ突き出すぞ) ➡飼い犬に手を噛かまれる 129 Brevity is the soul of wit. (簡潔がんけっは分別の精髓ぎいである) ↔下手の長談義 593 Bring oil to the fire. (火のある所へ油を持ってくる) ➡火に油を注ぐ 562 A broken bone is the stronger when it is well set. (うまくつながれば、折れた骨は以前よりも丈夫になる) ➡雨降って地固まる 29 build castles in Spain(スペインに城を築く)→空中楼閣くうちゅうろうかく 198 Building and marrying of children are great wasters. (家を建てたり子供を結婚させたりするのはたいへんな散財である) ➔娘三人持てば身代潰るす632 burn one's boats(船を焼く)→船を焼く 584 The burnt child dreads the fire. (火傷どをした子供は火を怖がる) ➡ 蘘あつものに懲こりて膾なまを吹く23 By doing nothing we learn to do ill. (何もしないでいると悪事をはたらくようになる) ➡小人閑居かんきよして不善を為なす 318 C Cast not pearls before swine. (豚の面前に真珠を投げ与えるべからず) ↔豚に真珠 581 The chance of war is uncertain. (戦いに勝利する見込みは不確かなもの) →勝負は時の運 322 Children are poor men's riches. (子供は貧乏人の宝) ➡千の倉より子は宝366 Choose neither a woman nor linen by candle-light. (女性もリンネル製品も、蠟燭ろうの光の下では選ぶな) ➡夜目よ遠目とお笠の内674 Claw me and I will claw you. (私を掻 かいてくれたら、私も君を掻いてあげよう) ➡魚心あれば水心 80 Clothe thee in war : arm thee in peace. (戦時に平服を着、平時に武装せよ) ➔治に居て乱を忘れず 420 Coats change with countries. (衣服は国とともに変わる) ➡所変われば品変わる 467 Constant dripping wears the stone. (絶えず垂れ落ちる滴ぐは石にさえ穴を開ける) ➡雨垂れ石を穿づつ 27 Content is the philosopher's stone, that turns all it touches into gold. (満足は、触れるものすべてを金に変える「賢者の石」である) ➡足るを知る者は富む 411 A cool mouth and warm feet live long.(口を冷やし足を温めるのが長生きの秘訣)→頭寒足熱ずかんそくねつ 340 The cow that's first up, gets the first of the dew.(最初に起きた牛は最初の朝露を吸う)→早起きは三文の徳 535 Cracked pots last longest. (ひびの 入った壺がもっとも長持ちする) ➡柳 に雪折れなし 655 A crowd is not company. (人が集まったというだけでは仲間とはいえない) →人ある中に人なし 549 Curses return upon the heads of those that curse. (呪のいは呪う人の頭上に帰ってくる) ➡人を呪わば穴二つ 561 Custom is a second nature. (習慣は第二の天性なり) ➔習慣は第二の天性なり 306 Custom makes all things easy. (慣れれば万事容易になる) ➔習うより慣れよ 489 cut the grass whereof another meant <737> れない) ↔話では腹は張らぬ 531 The best carpenter makes the fewest chips. (すぐれた大工ほどわずかの削りくずしか出さない) ➔大匠たいしは斲きらず389 The best cart may overthrow. (最上の馬車でも転覆てんすることがある) ➝ 猿も木から落ちる 274 The best of friends must part. (いちばんの親友でも必ず別れのときが来る) →逢うは別れの始め 3 Best to bend while it is a twig. (小枝のうちに曲げるのがいちばんよい) ➝ 矯めるなら若木のうち 410 Better an open enemy than a false friend. (偽りの友よりも公然たる敵のほうがよい) ➡獅子と身中の虫 287 Better go to bed supperless than to rise in debt. (夕食抜きで寝るほうが借金を背負って起きるよりましである) →武士は食わねど高楊子たかよ579 Better have it than hear of it. (話を聞くより体験するほうがよい) ➡百聞は一見に如しかず566 Better have meat than fine clothes. (美しい衣服よりも食べ物があるほうが よい) ➡花より団子だん 533 Better learn from your neighbour's scathe than your own.(自分の損害 よりも隣人の損害によって賢くなれ) →前車の覆がつるは後車の誠いまめ362 Better the purse starve than the body. (胃が空になるよりも、財布が空になるほうがよい) ➡背に腹はかえられぬ 359 Better to be first in a village than second at Rome. (ローマの二位よりも村の一位につくほうがよい) ➡寧むろ鶏口こうとなるも牛後ぎゅとなる勿なれ 632 Better wait on the cooks than the mediciners.(医者よりも料理人に仕 えるほうがまし)→薬より養生 202 Between the hammer and the anvil. (槌っと鉄敷かなの間で) ➡前門の虎、後 門の狼 368 Between treasure buried under the ground and wisdom kept hidden in the heart there is no difference. (地中に埋められた宝物と、胸中に秘められた英知の間には、何の差異もない) →宝の持ち腐ぐれ 395 Between two stools the tail goes to ground.(二つのいすの間で尻もちをつく)→虻ぶ蜂は取らず26 Beware what and to whom you speak. (話の内容と話しかける相手に注意せよ) ➡人を見て法を説け 561 A bird cries too late when it is taken. (鳥は捕らえられてから泣きわめいても遅すぎる) ➡後悔先に立たず 230 A bird in the hand is worth two in the bush. (手の中の一鳥は藪の中の二鳥に値する) ➡明日の百より今日の五十 19 The bird is flown. (鳥は飛んで行ってしまった) ➡後の祭り 23 Birds of a feather flock together. (同じ羽を持つ鳥は群をなす) ➡類を以ちて集まる 690 Birds once snared fear all bushes. (一度罠わにかかったことのある鳥は、すべての茂みを怖がる) ➡蛇に噛かまれて 朽くち縄に怖じる594 Birth is much, but breeding is more. (生まれも大事だが、育ちはもっと大事である) ➡氏より育ち 85 Blessed are the peacemakers. (神の 祝福を得るべき者、それは諍いさいの調停 者) ➡ 挨拶あいさつは時の氏神 1 Blood will have blood. (血は血を求める) ➡血を以もて血を洗う 430 A borrowed loan should come laughing home. (貸した金は笑いながら戻ってくるべきである) ➡借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔がおえんま158 The boughs that bear most hang lowest. (いちばん実のなっている枝がいちばん低く垂れ下がる) ➡実るほど <738> えうるものでなく、与えねばならぬもの を与えよ)→腹八分に医者いらず537 Anger and haste hinder good coun- sel. (怒りと焦りはよい助言の邪魔にな る) ➡短気は損気 412 The ant had wings to do her hurt. (蟻りは羽を得たために我が身を傷つけた) ➔匹夫ひつ罪なし、璧たまを懐けば其それ罪あり548 Apparel makes the man. (衣服が人を作る) ➔馬子きにも衣装 610 Appearances are deceitful. (外見は当てにならない) ➡人は見かけによらぬもの 558 An army marches on its stomach. (軍隊の進軍は腹次第) ➡腹が減っては 戦ができぬ 536 Art is long, life is short. (芸術は長く人生は短し) ➡芸術は長く人生は短し 217・少年老い易やすく学成り難し 321 As a man lives, so shall he die, as a tree falls, so shall it lie. (人は生きてきたとおりに死なねばならず、それと同様に、木は倒れたらそのままに横たわっていなければならない) ➡因果応報 いんがお うほう 78 As good twenty as nineteen. (二十も 十九も似たようなもの) ➡五十歩百歩 ごじっぽひゃっぽ 249 As the carl riches he wretches. (人は金がたまるとけちになる) ➔金持ちと灰吹きは溜たまるほど汚い 151 As the old cock crows, so crows the young. (親鶏をかが時を告げるのと同じように、若鶏も時を告げる) ➡子は親を映うす鏡 256 Ask, and it shall be given you. (求め よ、さらば与えられん) ➔求めよ、さ らば与えられん 646 An ass in a lion's skin. (ライオンの皮を羽織ったろば) ➔虎の威いを借かる狐 474 At the game's end we shall see who gains. (勝負事は終わってみなければ勝者はわからない) ➡先勝ちは糞勝ち 268 The axe goes to the wood where it borrowed its helve. (斧おは柄えを借り た森へ行く) ➔恩を仇だで返す 128 B A bad Jack may have as bad a Jill. (悪人のジャックには、相応の悪女ジル がいる) ➔破われ鍋に綴とじ蓋 704 Bad money drives out good. (悪貨は良貨を駆逐くちする) ➡悪貨は良貨を駆逐する 22 A bad workman always blames his tools. (下手な職人ほど道具に難癖なんをつけるものである) ➡下手の道具調べ593 A baited cat may grow as fierce as a lion. (犬にけしかけられれば、猫もライオンのように獰猛もうとなる) ➡ 窮鼠 きゅうそ猫を噛む185 A bargain is a bargain. (約束は約束) →武士に二言なし 579 A barleycorn is better than a diamond to a cock. (雄鳥をかにとっては、一粒の大麦のほうがダイヤモンドよりも価値がある) ➡猫に小判 506 Beauty without goodness is worth nothing. (顔がきれいでも心が醜ければ何の価値もない) ➡人は眉目ぬよりただ心 558 A beggar can never be bankrupt. (乞食こじに破産の心配はない) ➡乞食に貧乏なし 248 Believe half of what you hear of money and health and good faith. (金と健康と誠意についての話は半分だけ信じろ) ➡話半分 531 A bell is known by the sound. (鐘の善し悪しは音でわかる) ➡実みを見て木を知れ 628 The belly is not filled with fair words. (美辞麗句びじんでは腹は満たさ <739> A Adversity makes a man wise, not rich. (逆境は人を賢明にするが金持ちにはしない) ➞ 艱難なんなん 汝なんじを玉にす 166 Advice comes too late, when a thing is done. (事が済んでから忠告されても遅すぎる) ➡火事あとの火の用心 139 Affection blinds reason. (愛情は理性を盲目にする) ➞恋は思案の外ほか 229 After a calm comes a storm. (凪なあとに嵐がやって来る) ➡嵐の前の静けさ 31 After a storm comes a calm. (嵐のあとに凪なぎが来る) ➡雨降って地固まる 29 After death the doctor. (死後に医者) →葬礼帰りの医者話 374 After us the deluge. (私たちのあとには洪水[が来るなら来い]) ➡後は野となれ山となれ 23 An afterwit is everybody's wit. (後知恵ならだれでも思いつく) ➔下種げの後知恵 221 Age and experience teach wisdom. (年齢と経験が英知を教える) ➔亀の甲 より年の劫ぅ155 Agree, for the law is costly. (折り合 え、訴訟は金がかかる) ➔金持ち喧嘩 けん かせず151 All covet all lose. (すべてを欲しがれば、すべてを失うことになる) ➡大欲は無欲に似たり 393 All is fish that comes to the net. (網にかかるものは皆魚である) ➔転んでもただは起きぬ 261 All is lost that is given to a fool. (愚かな人に与えられるものはみなむだになる) ➡ 糠なに釘 502 All is well that ends well. (終わり方のよいのは結構なことである) ➡終わり良ければすべて良し 126 All meat pleases not all mouths. (あらゆる肉があらゆる口を満足させるとは限らない) ➡人を見て法を説け 561 All roads lead to Rome. (すべての道はローマに通ず) ➔すべての道はローマに通ず 344 All that glisters is not gold. (輝く物がすべて金とは限らない) ➡見かけばかりの空が大名 616 All things thrive at thrice. (物事はみな三度目に首尾よくいく) ➡三度目の正直 279 Allow thy belly what thou shouldst, not what thou mayest. (胃袋には与