Mac OS @@@LINK=Mac+OS Mac+OS

Mac OS

米アップルコンピュータが開発した、自社のパソコンであるマッキントッシュ専用のOSのこと。もともとは完全に自社開発していたが、バージョン10にあたる現行のMac OS XシリーズはUNIXの一種であるMach(マーク)をベースに再開発されたものである。2007年現在の最新バージョンは10.5。名称はMac OS X Leopard(レパード)である。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

マックOS

マックOS

Mac OS」のページをご覧ください。

Linux

Linux

フィンランド人リーナス・トーバルズが大学在学中に開発したパソコン向けのUNIX互換OS。基礎部分を個人で開発し、その後ネットワークを利用して世界各地の開発者たちと共同開発を進め、開発者コミュニティーによってまとまったOSの形に仕上げられた。現在も改良が進む。様々なパソコンや情報機器向けのバージョンが作られているのも特徴である。無償で利用できるため、導入コストを抑えたい大企業や政府、公共団体などでの利用も多い。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

リナックス

リナックス

Linux」のページをご覧ください。

UNIX

UNIX

1970年代に当時の中型〜小型コンピューター用に開発されたOS。システムトラブルなどに強い堅牢な設計が特徴とされる。米国のAT&Tベル研究所が開発し、様々な大学や研究機関で独自の改良が行われた。2006年現在も機能強化や様々なコンピューターへの対応が行われており、企業や研究機関のサーバーや個人利用の高性能コンピューター(ワークステーション)のOSとして現役で利用されている。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

ユニックス

ユニックス

UNIX」のページをご覧ください。

インストール

インストール

ソフトウエアをパソコンに導入し、利用できるように環境設定等を行う作業。ハードディスクにソフトウエアを構成するファイルを配置し、OSへの登録、初期設定などを行うプログラムが付属するのが普通。セットアップは、周辺機器などのハードウエアをパソコンから利用可能にする作業のことも指す。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

セットアップ

セットアップ

インストール」のページをご覧ください。

フォーマット

フォーマット

使われ方によって3つの意味がある。1つ目は、ディスクの内容を消去し、OSファイルを読み書きできるように基本情報を書き込むこと。「初期化」ともいう。2つ目は、パソコンで作成する書類の「書式設定」のこと。3つ目は、ファイルの種類、つまり「ファイル形式」のこと。なお、本来の意味は「書式(化)」であり2つ目の意味に近い。どの意味で使われているかは文脈によって判断する。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

ファイル形式

ファイル形式

ファイル形式とは、ファイルの種類のこと。同じ画像や音楽でも、データとして表現する規格にはアプリケーションソフト固有のものや、国際規格に従ったものなどがある。ファイルの種類をファイル名から判別できるように、ファイル名末尾につける「txt」や「jpeg」などの表記が拡張子。通常は、ファイル名との間に「.」をつけて区切りとする。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

拡張子

拡張子

ファイル形式」のページをご覧ください。

圧縮

圧縮

データをより少ないデータ量に変換する作業が圧縮、圧縮されたデータをに戻す作業が解凍である。「解凍」という用語は、圧縮ファイルから元データを取り出すことを冷凍食品の解凍に見立てたもの。また音楽映像などを圧縮して記録するMP3MPEG2JPEGなどの規格では、圧縮前に人間の気がつきにくい部分を省略してデータを単純化して圧縮効率を上げている。このような方式を、解凍しても元データとまったく同じにはならないという意味で「不可逆圧縮」と呼ぶ。一方、解凍したデータが元データと完全に一致する方式を「可逆圧縮」という。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

解凍

解凍

圧縮」のページをご覧ください。

日本語入力ソフト

日本語入力ソフト

キーボードペンによる手書きなどを利用し、日本語を入力するためのソフト。一般の日本語入力ソフトは、OSの一部となって各アプリケーションソフトから同じ操作で日本語を入力できるようにしている。このような形式各国言語で文字入力を行うプログラムWindowsではInput Method Editor(IME)と呼んでいる。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

文字コード

文字コード

文字コードとは、コンピューターで文字を扱うために、それぞれの文字に対して識別番号を割り当てるルールを定めたもののこと。同じ日本語でも規格によってJISコードシフトJISコード、EUC、UNICODEなどの文字コードがあり、利用シーンによって使い分けられている。初期のパソコンでは、日本語の表示に英数字2文字分を使っていたため、日本語側を基準に「全角文字」と呼び、半分の幅の英数字を「半角文字」と呼んだ(全角幅の英数字も別途存在する)。現在はフォントや個々の文字によって文字幅が異なるが、全角/半角の呼称はそのまま利用されている。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

全角半角

全角半角

文字コード」のページをご覧ください。

ダウンロード

ダウンロード

ダウンロードは、通信相手のコンピューターから自分のパソコンにデータを受信して保存すること。アップロードは、自分のパソコンから相手のコンピューターにデータを送信し、保存させることである。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

アップロード

アップロード

ダウンロード」のページをご覧ください。

サスペンド

サスペンド

パソコン電力消費を抑える省電力機能の1つ。パソコン内の未使用部品への電力供給を止め、最低限必要な電力のみで動作を継続する待機状態のこと。完全に電源を切るわけではないので、ノートパソコンなどでは少しずつバッテリーを消耗する。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

スタンバイ

スタンバイ

サスペンド」のページをご覧ください。

修正プログラム

修正プログラム

ソフトウエアの欠陥修正や機能追加などを目的に、ソフトウエアの書き換えを行うプログラム。一般にインターネット経由で配布される。ソフトウエア全体を配布するより通信量をはるかに抑えることができる。セキュリティーホールの修正に利用されることも多い。パッチとは「つぎあて」の意味。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

パッチ

パッチ

修正プログラム」のページをご覧ください。

アプリケーション

アプリケーション

OSに対して、ワープロ、表計算、グラフィックス、電子メールなど、用途に応じて作られたソフトウエアを指す。「アプリ」と略すこともある。日本語では、「応用ソフト」などと訳される。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

アプリケーションソフト

アプリケーションソフト

アプリケーション」のページをご覧ください。

PDF

PDF

米アドビシステムズが開発したファイル形式。拡張子は「pdf」。印刷物と同じようにレイアウトされた書類を、パソコンだけでなく携帯電話や携帯情報端末といった情報機器でも元通り表示できるよう設計されている。ファイルを表示、印刷するだけであれば、同社が無償で配布しているAdobe Readerで行えることもあって広く普及した。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

メモリーカード

メモリーカード

電源を切っても情報が残るフラッシュメモリーという半導体を利用して作られたデータ保存用のカード。デジタルカメラや携帯電話で利用されている。PCカードをベースにしたコンパクトフラッシュ(CF)、ソニーが開発したメモリースティックとそれを小型にしたメモリースティックDuo、松下、東芝などの企業連合が開発したSDメモリーカードとそれを小型にしたminiSD、富士写真フイルムやオリンパスがデジタルカメラ向けに開発したxDピクチャーカードなどがある。USB接続のリーダー・ライターなどを利用し、パソコンでもデータの読み書きが可能。ノート型を中心に、専用スロットを内蔵するパソコンも多い。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

PCカード

PCカード

ノートパソコンに機能を追加するカードの標準規格PCMCIAに対応したカードのこと。名刺サイズのカード形状で、部品が露出しない。厚みによってタイプ1〜3のカテゴリーがある。パソコン側にある差し込み口を「PCカードスロット」という。現行のパソコンではほぼ同じ形状でデータ転送速度をアップしたCardBusという規格に対応しているのが普通である。今後、端子に互換性はないがはるかにデータ転送が速いExpressCardがPCカードに置き換わる見込み。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

ExpressCard

ExpressCard

データ転送速度をPCカードより高速化したカード型の周辺機器とその規格の名称。PCカードと同じく、ケースに収められたカードを使うが、互換性はない。PCカードとほぼ同じ名刺サイズのカード以外に、横幅が半分の細いタイプも規定されている。ノートパソコンの高級機を中心にスロットの搭載が進んでいる。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

USB

USB

パソコンの外部に周辺機器を接続するための接続規格。当初の規格ではデータ転送速度が最大12M(メガ)bpsだったが、2007年現在では最大480Mbpsに高速化された上位規格のUSB 2.0が広く普及している。非常に汎用性が高く、キーボード、マウス、プリンター、スキャナーといった入出力機器、メモリーカードのリーダー・ライター、ハードディスクやDVDマルチドライブ、など様々な機器が接続可能。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

NAS

NAS

パソコンにではなく、ネットワークに接続して利用するハードディスクのこと。ハードディスク自体にサーバー機能が内蔵されており、他のパソコンからデータの読み書きを行うことができる。複数のパソコンのバックアップを1台のハードディスクで済ませる、共用したいデータを保存するといった用途のために、パソコンを1台用意しなくても済む。個人用の外付けハードディスクベースにした比較的低価格の製品も増えているが、NASではないパソコンに直接接続するタイプのものより少々高額である。また、データの読み書きがパソコン直結タイプより遅い点には留意する必要がある。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

ファームウエア

ファームウエア

半導体を利用する電化製品に搭載されている製品の制御プログラムのこと。少なくとも、画面に何らかのメニュー表示を行う機能があるものはファームウエアを利用している。パソコンにとってのOS、デバイスドライバー、アプリケーションのすべてが一体になったものと理解してよい。ネットワークやメモリーカードを利用して、内容を更新できる製品もあり、単なる不具合修正だけでなく、通信機器やデジタルカメラ、ゲーム機などでは機能が追加されることもある。

(斎藤幾郎 ライター / 2007年)

Windows Vista @@@LINK=Windows+Vista Windows+Vista

Windows Vista

マイクロソフト社が2006年11月に発売した最新バージョンのパソコン用OS(基本ソフト)。店頭発売は07年1月。搭載する機能の違いで以下の「エディション(版)」が存在する。最小限の機能を搭載した「Home Basic」、家庭向け機能の大半を搭載した日本では主流の「Home Premium」、ビジネス用途向けで家庭向けの機能を省いた「Business」、企業での大量導入を前提とした「Enterprise」、すべての機能を搭載した「Ultimate」、途上国向けの低価格版「Starter」(日本未発売)。従来の「XP」と比較し、セキュリティー機能の強化、ファイル管理機能の改良、デスクトップ検索機能の内蔵といった各種の改良が施されている。パソコン内蔵の画面描画機能(ビデオチップ)への依存度を高めて画面描画に関するCPUの負担を軽減する「Aero」という新機能もあるが、Home Basicには非搭載。08年前半には、Vista発売以降に配布された不具合や脆弱(ぜいじゃく)性を修正するプログラムを集積し、安定度、互換性、処理速度を向上させる「サービスパック1(SP1)」が配布される予定。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

2007 Microsoft Office System @@@LINK=2007+Microsoft+Office+system 2007+Microsoft+Office+system

2007 Microsoft Office System

WordExcelなどのビジネスアプリケーション、ビジネスをサポートするサーバーソフトウエアなどからなるマイクロソフト社のソフトウエア群「Microsoft Office」の最新バージョン。一般に「オフィス」と呼ばれるビジネスアプリケーションのセットパッケージは「Office 2007」となり、含まれるソフトの違いで複数の製品が存在する。最小構成の「Office Personal 2007」にはワードプロセッサーの「Word 2007」(日本語入力ソフト「Office IME 2007」を含む)、表計算ソフトの「Excel 2007」、電子メール機能を搭載した個人情報管理ソフト「Outlook 2007」が含まれる。このPersonal 2007にプレゼンテーションソフト「PowerPoint 2007」が加わった「Office Standard 2007」、さらにデータベースソフト「Access 2007」と配付資料等の作成ソフト「Publisher 2007」を含む「Office Professional 2007」などがある。また、「Visio 2007」など「オフィス」に含まれず単体で販売されているアプリケーションソフトもある。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

AIR

AIR

アドビシステムズ社が開発中の、アプリケーションソフトの実行環境。Adobe Integrated Runtimeの。事前に「ランタイム」と呼ばれるソフトをインストールしておくことで、同社が開発したFlashFlexをはじめ、HTML、JavaScript、AJAXといったウェブで標準的な技術を利用して開発したアプリケーションソフトを実行することができる。ウェブ開発の技術を生かして、ウェブブラウザを使用せずに単独で動作するアプリケーションソフトが開発できるのが特徴である。AIRランタイムは、2007年12月現在、Windows版とMac OS版のベータ版が提供されており、OS(基本ソフト)を問わず共通のプログラムを動作させられる。OSを問わずに共通のプログラムが動作する点はコンピューター言語Javaと同様だが、AIRでは独自のコンピューター言語を学ぶ必要がない。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

Silverlight

Silverlight

マイクロソフト社が開発した、ウェブブラウザ上で高度なグラフィック表現を利用するための追加機能。HTMLAJAXといった標準的な技術では実現不可能な、高画質な映像再生や複雑な動きをする操作画面(ユーザーインターフェース)の構築が可能となる。ウェブのサービスをアプリケーションソフトのような操作感で利用可能にすることを目的に開発された。同社製のウェブブラウザであるInternet Explorerだけでなく、FirefoxとSafari用のプログラムも配布されており、幅広いプラットホームで利用できるのも特徴。アドビシステムズ社のFlashに対抗するテクノロジーとも言える。なお、現在公開されている「1.0」は映像・音声のコピー防止技術をサポートしておらず、本来ならSilverlightの利用に適しているはずの映像配信サービスで著作権保護が不要な場面でしか利用できないのが欠点となっている。マイクロソフト社は当初、この機能を近日公開の次版「1.1」に搭載するとしてきたが、2007年11月末に計画を変更。「1.1」は「2.0」として08年中に公開すると発表し、事実上、計画を延期している。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

ピンチ

ピンチ

アップル社の携帯電話iPhoneや携帯音楽プレーヤーiPod touchで採用された操作時の動作の1つ。上記の製品はいずれも画面を直接指でタッチして操作するが、他社製の大半の製品が利用者の触れている場所を1度に1カ所しか検知できないのに対して、一度に複数の場所に触れていることを感知可能な「マルチタッチ」を採用している。「ピンチ」はこれを利用した操作で、閉じていた2本の指を広げることでその場所を拡大表示(ピンチアウト)、広げていた指を閉じてその場所を縮小表示(ピンチイン)する。「ピンチ」は「つまむ」「挟む」などを意味する動詞pinch」で、2本の指の動きを示したもの。日本人が考える「危機的状況」のような意味はない。「ピンチ」という語はアップル社がはじめて使用したものだが、今後マルチタッチ対応の入力が可能な機器では基本的な操作の1つとして採用されることが予想される。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

無料オフィス

無料オフィス

ワードプロセッサー、表計算、プレゼンテーションといったビジネスソフトを1つのパッケージにまとめ、無償で配布されているもの。その多くは、マイクロソフト社のWord、Excel、PowerPointなどとデータの互換性を持つ「互換オフィス」としての性格を併せ持つ。オープンソースで開発された「OpenOffice.org」、IBM社が開発中の「IBM Lotus Symphony(英語版)」などがある。マイクロソフト社製品が存在しないLinuxにおける代替ソフトウエアとしてはもちろん、Windows環境でもマイクロソフト社製品の機能や価格に不満を持つユーザーが使用している。上記のソフトはいずれも独立したアプリケーションソフトだが、近年ではウェブブラウザ上で利用でき無料オフィスサービスの開発も進んでいる。例えば、低価格ソフトの販売元であるソースネクスト社が米シンクフリー社の「ThinkFree」の日本語版である「ThinkFreeてがるオフィス」を、グーグル社が「Googleドキュメント」を、それぞれ提供している(2007年12月現在、いずれもベータ版)。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

SSD

SSD

ハードディスクの代わりに使用可能な、数十GB(ギガバイト)に達する大容量のフラッシュメモリーを利用したディスクドライブ。特に、パソコンに内蔵するタイプを指すことが多い。原理的に、ハードディスクを利用するより消費電力が少なく軽量であり、ディスクの回転やヘッドの移動といったハードディスクのような動作時の機械的な動作がないため振動にも強い。こうした特徴から、小型軽量のモバイルパソコンでの導入が始まっている。アクセス時に音がしないのもメリットである。その一方で、現状ではハードディスクより割高で、製品化されている最大の容量も2007年段階で64GBとハードディスクに劣る。また、使用する半導体の種類によって差はあるが、同じブロックの書き換え可能回数に数万回という制限がある点も懸念材料となっている。SSDメーカーは、SSDのコントローラーでメモリー全体を均等に書き換えるよう処理するなどの工夫をして対応している。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

スピンドル

スピンドル

パソコンに内蔵されたディスクドライブの数を示す際に使う言葉。ハードディスクフロッピーディスク、CDやDVDといった、パソコンに内蔵されるドライブはいずれも「(スピンドル)」を中心に円盤が回転するものであるから、これらのドライブが合計何台内蔵されているかを「2(ツー)スピンドル」(ハードディスクとDVD-ROMドライブを内蔵する場合など)、「3(スリー)スピンドル」(フロッピーディスク、ハードディスク、DVD-ROMドライブを内蔵する場合など)などと呼ぶ。現状ではOS(基本ソフト)やアプリケーションソフトの起動とデータ保存に利用するハードディスク1台を内蔵する「1スピンドル」が最小構成となるが、ハードディスクを大容量フラッシュメモリーを利用したSSDに置き換えると「回転するディスク」が皆無となるため「ゼロスピンドル」になる。既に一部のメーカーが、携帯性に優れたモバイルパソコンの特別モデルとして「ゼロスピンドル・パソコン」を発売している。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

ゼロスピンドル

ゼロスピンドル

スピンドル」のページをご覧ください。

UMPC

UMPC

ウルトラモバイルPC」の略称。ノートパソコンを小型化した「モバイルパソコン」より小型軽量な「超小型モバイルパソコン」を指す。厳密にはOS(基本ソフト)にWindows XP Tablet PC Edition 2005もしくはWindows Vista Home Premiumを採用した小型軽量かつ低価格なタブレットPCの規格で、モバイルパソコンと携帯情報端末(PDA)の中間を埋める製品としてマイクロソフト社が考案した。画面を直接指やペン(スタイラス)でタッチして文字入力を含むすべての操作を行うことができる。数社からこの規格の製品が発売されているが、画面解像度や全体的な性能の低さからあまり大きな市場にはなっていない。なお、マイクロソフト社の規格と無関係に超小型パソコンの呼び名としてUMPCが用いられることも多い。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

FeliCaポート

FeliCaポート

パソコンに搭載された、FeliCa対応のICカードや携帯電話の情報を読み書きする装置。当初はFeliCaを開発したソニー製のパソコンのみに搭載されていたが、現在はNEC富士通なども搭載機種を発売している。主に、ノートパソコンのキーボード手前のパームレスト部のようにカードや携帯電話が置けるスペースに搭載される。付属のソフトを使い、カード内の情報を読み書きする。カードの利用履歴の確認、FeliCaを使う電子マネー「Edy」によるオンラインショッピングの支払いやクレジットカード払いによるチャージなどが行えるほか、登録したICカードや携帯電話をパソコンログインや会員制ウェブサービスなどのユーザー認証に使うなどの利用法がある。このセキュリティー機能を目的としてFeliCaポートを搭載するビジネス市場向けノートパソコンもある。なお、FeliCaポートを搭載していない機種でも利用可能なUSB接続型のカードリーダー「FeliCaポート/パソリ」という製品も発売されている。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

安倍首相退陣

安倍首相退陣

2006年秋に、党内の圧倒的支持で首相となった安倍晋三だが、当初より、気心の知れた仲間を重用する「お友だち内閣」体質が批判され、07年になってから、そのお友だち閣僚の失言スキャンダルが噴出した。まず1月に柳沢伯夫厚生労働大臣が、少子化問題に関連して「女性は産む機械」と発言し、党内の女性議員からも批判が続出した。6月に長崎県選出の久間章生防衛大臣が「戦争終結のために原爆投下はしょうがなかった」と発言し、後に辞任した。3月には松岡利勝農林水産大臣が、自身の議員会館内事務所の光熱費問題に関連して05年に年間500万円余を計上していた件で、高価な「ナントカ還元水」を使っていたとの答弁で顰蹙(ひんしゅく)をかい、それもあってか5月に自殺した。その後任の赤城徳彦大臣も、同じく事務所経費問題で疑惑を持たれ、また、その渦中に大きな絆創膏(ばんそうこう)を顔に貼って記者会見に臨んだ際に、記者から絆創膏の理由を問われるもあいまいに返答したことで、その「隠蔽(いんぺい)姿勢」に不信感を持たれ、こちらも2カ月足らずで辞任に追い込まれた。こうした閣僚の相次ぐ不祥事・失言もあって、自民党は7月の参院選で歴史的大敗となり、民主党に参院第1党の座を譲った。 それでも安倍首相は退陣せず、続投の意向を示したが、9月の所信表明演説直後に体調不良を理由に辞任し、福田康夫・元官房長官が後任の首相に選出された。この福田内閣は「背水の陣内閣」と呼ばれ、組閣の際には、金銭がらみも含めたスキャンダルの有無などを綿密にチェックする「身体検査」なる言葉も登場した。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

東国原(ひがしこくばる)知事誕生

東国原(ひがしこくばる)知事誕生

東国原英夫は1957年宮崎県生まれ。タレント時代は「そのまんま東」としてたけし軍団の一員として活躍していたが、一方で、女優かとうかず子との結婚(後に離婚)や「フライデー編集部襲撃事件」「淫行(いんこう)事件」などのスキャンダルでも有名と、お騒がせな部分も目立っていた。2000年に早稲田大学に入学した頃から政治を志す言動が目立ち始め、出身地である宮崎県の知事に立候補するのではと噂された。そして、07年1月に前知事が官製談合事件で逮捕されたため、急きょ、知事選挙が行われた際に立候補した。 当初は準備不足もあり、泡沫(ほうまつ)候補扱いであったが、保守分裂という状況にも助けられ、またタレントの応援を頼まず、「宮崎をどげんかせんといかん」という宮崎弁の演説で有権者の心をとらえ当選した。タレント候補ではあったが、それなりにしっかりしたマニフェストを用意し、「しがらみのなさ」を強調する政治姿勢と、自らのスキャンダルや離婚も積極的に話題にしていく情報開示の精神が支持されたのである。当選後は「宮崎のセールスマン」を自称し、積極的にテレビなどのメディアに露出し、地鶏やマンゴーなどの宮崎ブランドの宣伝に努め、圧倒的な経済効果をもたらした。支持率は一時90%を超えるほどで、その人気は年間を通して維持され、同じお笑い界出身とはいえ、横山ノック大阪府知事とは違う新しい無党派旋風を巻き起こし、自民党だけではなく、野党からも「政党離れ」を加速する「そのまんまショック」と恐れられている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

手のひら返し現象

手のひら返し現象

亀田興毅、大毅、知毅の3兄弟は父史郎によって幼少期よりプロボクサーを目指して特訓を受け、3兄弟そろっての世界チャンピオンを目指していた。この「巨人の星」ばりのスポ根物語を持ち上げた一部メディアの後押しもあって、2006年、長男興毅はWBA世界ライトフライ級王座決定戦で40%を超える驚異的視聴率を記録し、チャンピオンになった。ただ、判定に疑惑がもたれ、また、一家の品位のない言動に反感が高まっていった。 そして、兄に続いて次男大毅が07年10月にWBC世界フライ級王座に挑んだが、チャンピオン内藤大助選手に完敗し、しかも敗色濃厚の試合後半でセコンドにいた父親や興毅選手にあおられた形で反則に及んだため、試合終了後から一家に対する批判が集中した。直後の謝罪会見での「反則指示はなかった」とする父史郎の発言はさらなる非難を呼び、興毅選手の記者会見となった。ただ、ここでは、いつもの亀田節を封印した真摯(しんし)な対応に、拍子抜けしたワイドショー関係者の挑発的インタビュー姿勢が、逆に視聴者の反感を買ったりした。たしかに亀田一家は、低迷するボクシング界や視聴率が欲しいテレビ業界に甘やかされてきたことは間違いないが、不祥事があると、急にはしごを外して「手のひら返し」してしまうメディアのスタンスも問題視されている。自身の主演映画の試写会で、露骨に不快そうな態度を示した沢尻エリカも、ある程度までは生意気さが個性だったのだが、この時ばかりは、「エリカ様」なる言葉で揶揄(やゆ)されるくらいに強烈なバッシングを受けた。これも、ある意味での「手のひら返し」現象といえる。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

偽装

偽装

毎年末に京都・清水寺で発表される「2007年の漢字」に「偽」が選ばれるなど、2007年は食品偽装問題が相次いだ年だった。ちなみに「偽」は、投票総数9万816票のうち1万6550票を集め、2位の「食」の7倍近い数字であった。 07年1月に洋菓子の不二家埼玉工場で消費期限切れの牛乳を使ってシュークリームを製造していたことが内部告発され、洋菓子の販売中止に追い込まれた。8月に北海道の人気土産品「白い恋人」(石屋製菓製造)で賞味期限改ざんが発覚し、こちらも販売を中止した。 また10月に、同じ北海道の食肉加工販売会社ミートホープが、長年にわたって、鶏肉や内臓などを混入した牛ミンチを製造したり、外国産を国産と偽るなどの不正を続けており、それが田中社長自らの指示によるということで、不正競争防止法違反(虚偽表示)で逮捕された。さらに、偽装問題は歴史ある老舗にも及んでおり、10月に伊勢名物の「赤福」で消費期限改ざんが発覚した。余分に製造した商品や売れ残りの商品を冷凍保存し、解凍して出荷する際に、その出荷日を製造年月日にするという「まき直し」が偽装表示と見なされ、販売中止となった。また、10月末に有名料亭「吉兆」グループの「船場吉兆」(大阪、福岡)で、商品の原材料である九州産牛肉を「三田牛」や「但馬牛」というブランド牛と偽るなどの食品表示偽装問題が発覚し、営業を自粛し、経営陣を一部改変した。いずれも、企業のコンプライアンス(法令順守)の精神が問われた事件であった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

そんなの関係ねえ

そんなの関係ねえ

2000年以降、お笑いブームが終わる気配もなく続行している。特に『エンタの神様』(日本テレビ)、『レッドカーペット』(フジテレビ)などのネタ見せ番組の影響は強く、奇をてらったコンセプトとキャッチーな「決めネタ」があるとすぐに話題となる。 07年に最もブレークした芸人は小島よしおだが、海パン一丁という一度見たら忘れられない格好で「そんなの関係ねえ」「オッパッピー」を繰り出し、あっという間に人気者となった。ポイントは瞬間的な「インパクト」である。全体の構成で笑いを取るのではなく、たとえ一つ一つの話題がつまらなくても、まさに「そんなの関係ねえ」で十分なのである。視聴者も、その一言を待っているわけで、実際、『エンタの神様』では、従来のお笑い番組と違い、演者の芸をすべて見せるのではなく、多くの場合、ここぞという「ネタ」部分しか放送しない。だらだらした前置きは不要という割り切りである。 小島以外に07年に話題になった芸人といえば、SMファッションで「この、豚野郎」と女王様キャラを売りにした、にしおかすみこ、「右から来たものを左に受け流すの歌」など、ムード歌謡調のシュールな歌をアカペラで歌うムーディ勝山、女子高生やアパレルショップの店員の人物模写ネタが秀逸な「かわいいデブ」キャラの柳原可奈子、体育会系コントで「ラララライ体操」がブレイクした藤崎マーケット、07年M-1グランプリで敗者復活戦から優勝した苦労人コンビのサンドウィッチマンなどがいる。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ネットカフェ難民

ネットカフェ難民

主に経済的理由で家やアパートなどに住むことができず、安ければ1000円ほどで一晩中過ごせるインターネットカフェで寝泊まりする人たちを指す。若者が多いが、を失った中高年世代もいる。住居を持たないという意味ではホームレスの一歩手前であり、多くは日払いのアルバイト生計を立てているため恒常的なアルバイトにさえつけず、この生活から抜け出せない。2007年8月の厚生労働省調査ではネットカフェ難民が全国で5400人という数字が報告されている。もっとも、こうしたライフスタイルを積極的に選ぶ若者たちもいるわけで、ネットカフェで過ごすことを一律に「難民」視することに異論もある。また近年、非正規雇用の増加で、働いても十分に収入を得られない労働者を「ワーキングプア」と呼ぶが、ネットカフェはこうしたワーキングプアの緊急避難場所になっているのである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

格差婚(紀香・陣内)

格差婚(紀香・陣内)

いわゆる「逆玉の輿(こし)結婚」と言われる、お笑いタレントの陣内智則と女優の藤原紀香の結婚披露宴で陣内自らが発した言葉で、収入や容姿などで大きな格差があるカップル同士の結婚を指す。昨今の「格差」論争逆手にとった言葉である。この陣内・紀香の結婚式はテレビ中継され、関東では視聴率24.7%だったのに対し、関西では40.0%と驚異的数字を記録した。作家の若一光司は「関西の地元ナショナリズム」と評し、関西から全国に発信された一大イベントが関西人の心をつかんだと分析した。ちなみに、陣内と紀香のケースのようなお笑いタレントと美人女優のカップルは増加しており、木村祐一と辺見えみり、スピードワゴンの井戸田潤と安達祐実などがあげられ、お笑いタレントのステータスが高くなってきたことがうかがわれる。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

モンスターペアレンツ

モンスターペアレンツ

学校現場において、教師や学校の教育方針に何かとクレームをつける保護者のことを指す和製英語である。特徴は、教育全体に文句を言うのではなく、自分の子どもを特別扱いしてほしいという自己チュー感覚で、1990年代以降に増大しているという。いわば、学園紛争、校内暴力を体験した世代になり、学校や教師にあまり敬意を持たなくなり、自分勝手な要求をするようになったことと、親自身も子育てや親としての自覚を学ばないままに孤立しているのでは、と指摘されている。また、直接関係はないが、公立学校半数で起こっている給食費未納問題も、もちろん経済的困窮によるケースもあるが、払えるはずなのに払わない身勝手な親が増えており、規範意識弱体化が確実に進行している。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

はしか騒動

はしか騒動

2007年の5月から6月にかけて首都圏を中心にはしか流行し、10〜20代の若者の間に感染者が広がった。東京六大学をはじめ大学や高校で休校措置がとられるなど、教育現場で大きな影響が出た。感染者が十数人を超えたことで休校となったのだが、それだけはしかの感染力が強いのである。ちなみに今回の流行に関しては、今の若者たちが必ずしも予防接種を受けていないことや、受けていても、近年、はしかが流行ってなかったので抵抗力が弱まってしまったからだという説明がなされている。これはある意味、皮肉なことである。実際、自分の生活空間を過度に清潔にしすぎたりすると、かえって体の抵抗力が弱まって、ちょっとした雑菌体調を崩してしまう可能性が高まる、ということを意味している。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

KY

KY

K=「空気」、Y=「読めない」で、「空気が読めない」という意味である。あるいは、直接「KY」と忠告すると、「空気を読め」という意味になる。2006年ころから女子高生言葉として使われ、07年夏の参院選で大敗したのにすぐに辞めなかった安倍内閣を「KY内閣」と評したことで一般的流行語となった。現代においては「場の空気」を瞬時に読み取る状況判断能力が重要視されることを物語っているが、過度になると「主体性を喪失し周囲に迎合する」こととなり、これも問題である。ある意味、集団同調圧力が強い日本社会ならではの問題かもしれない。ちなみに、1977年に評論家の山本七平が著した『「空気」の研究』は、日本人論として、上述の意味の「空気」を分析した書である。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ビリーズブートキャンプ

ビリーズブートキャンプ

1955年生まれのビリー・ブランクスが考案したダイエットのためのエクササイズビデオであり、全世界で1000万セット以上が売れたといわれている。「ブートキャンプ」は軍隊の新兵訓練プログラムを意味するが、まさにビリー隊長に叱咤(しった)激励されるハードな訓練であり、「簡単にやせられる」方法を目指してきたダイエット界では、かえって新鮮であったのかもしれない。軍隊の訓練という物語性がミッションをクリアしていくゲーム感覚であり、今の若者世代にもうまくアピールできた。日本では深夜のテレビショッピング番組から人気が高まり、本国以上の大ヒットとなった。2007年1月の『発掘!あるある大事典II』(関西テレビ)における「納豆ダイエット」捏造(ねつぞう)問題以来、「食べ物によるダイエット」がタブー視されたこともヒットの隠れた要因である。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

東京六大学野球人気復活

東京六大学野球人気復活

2006年夏の甲子園で優勝投手となった早稲田実業高校の斎藤佑樹選手はプロ野球界には進まず、東京六大学の早稲田大学に進学した。07年春のシーズンから投手として登場するや、開幕初戦の東大戦で早くも勝利を挙げるなど春と秋の早稲田大学のリーグ優勝に貢献し、1年生としては異例のベストナインに選出され、日米大学野球代表選手にも選ばれるなど大活躍した。選手成績だけではなく、斎藤選手見たさに観客も増え、早大戦については倍増近い数字となった。ちなみに、甲子園の決勝死闘を繰り広げた駒大苫小牧高校の田中将大投手は、07年春に楽天イーグルズに入団し、1年目で11勝を挙げ、球団史上初のパ・リーグ新人王に輝いた。数年後に予想されるライバル対決は誰もが楽しみである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

クライマックスシリーズで中日53年ぶり日本一

クライマックスシリーズで中日53年ぶり日本一

人気低迷のプロ野球において、観客動員対策として2007年度から導入されたのがクライマックスシリーズ制で、セ・リーグ、パ・リーグともに、シーズン上位3チームによるトーナメントを勝ち抜いたチームが日本シリーズに出場できるという制度である。06年度までのパ・リーグのプレーオフとの違いは、あくまでレギュラーシーズン順位を尊重して優勝チームを決めた後に、日本シリーズへの進出別物としたのである。07年は、パ・リーグはシーズン優勝の日本ハムがそのまま日本シリーズに進出したが、セ・リーグではシーズン優勝の巨人が2位の中日に負け、結局、日本シリーズで勝ったのは中日で、なんと53年ぶりの日本一であった。こうしたねじれは生じたが、興行的には、シーズン終盤までファンの関心をつなぎ止めることに成功し、観客動員に結びつけた。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ハニカミ王子

ハニカミ王子

アマチュアゴルフ界の新星として鮮烈に登場した石川遼愛称である。彼は1991年9月17日生まれ。父親の影響で小さい頃からゴルフを続けてきたが、2007年5月のマンシングウェアオープンKSBカップで15歳8カ月(高校1年生)で史上最年少優勝を果たし一躍注目された。「ハニカミ王子」は、その優勝インタビューの際に中継アナウンサーが何げなく言った言葉で、「ハンカチ王子」(斎藤佑樹)からの流れもあり定着した。切れ長の目と端正な顔立ちで、ファンの中心は「ヨン様」などの韓流ブームを支えた中高年女性で、「息子にしたい」感覚である。後輩の「ぽっちゃり王子」(古田幸希)とのコンビも注目されている。ちなみに、石川は08年1月にプロに転向し、ここでも史上最年少のツアープロとなった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

「無責任男」植木等逝く

「無責任男」植木等逝く

クレージーキャッツのメンバーとして活躍すると同時に、映画の「無責任男」シリーズなどで人気のあった植木等が2007年3月27日に亡くなった。底抜けの明るさと要領の良さで世の中をスイスイ渡っていく植木等演ずる主人公は強烈であった。1960年代は、戦前軍国主義から一変して経済成長に突き進んでいたが、「国民が一丸となってまじめに努力する」という精神主義では戦前と共通するものがあった。ただ、時として「まじめ」の精神は、目的のためにがむしゃらに突き進むことで自己を絶対化し、周りが見えなくなる危険性を有している。戦前の日本はその悪しき例である。そんな時代状況において、植木等が体現していた「無責任」や「いい加減さ」は、硬直した「まじめ」を相対化し、多様な生き方や価値観が存在することを提示していたのであり、それこそが植木等の隠れたメッセージであった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

『千の風になって』

『千の風になって』

クラシックのテノール歌手である秋川雅史が歌う曲で、2006年末の紅白歌合戦で歌われたことで広く知られるようになり、直後にオリコンチャートにランクインし、結局、07年のシングル曲のうち唯一100万枚を超えたミリオンセラーヒットとなった。クラシック畑の歌手のミリオンセラーシングルは過去に例がない。そもそもは作者不詳の英語の歌詞シンガー・ソングライターの新井満が訳し曲をつけたもので、自身の歌でもCD化されている。「私のお墓の前で泣かないでください」で始まる歌詞の世界は、私は風になって世界中に存在するのだという、万物に霊が宿るというアニミズムの考え方に基づくもので、この曲の中心的ファン層である中高年の心の琴線に触れたのがヒットの要因であるといわれている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

『知恵蔵』『イミダス』電子化

『知恵蔵』『イミダス』電子化

毎年11月始めに、『現代用語の基礎知識』『イミダス』『知恵蔵』という現代用語年鑑の最新版が書店に並べられるのが年中行事であったが、3誌のうち『イミダス』『知恵蔵』は休刊となり、『現代用語の基礎知識』だけが12月に発売された。背景には、電話帳のような厚い年鑑を買うより、ネット検索で、簡単に「最新語」や「専門用語」を調べられるようになった事情が大きい。実際、ユーザーの書き込みで成立しているネット百科事典「ウィキペディア」は、記述内容の正確さに問題があるとはいえ、いつでも追加・更新が可能なために、年に1回しか刊行されない年鑑よりも「情報のスピード」が速く、最新語の検索では力を発揮する。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

イケメンドラマ隆盛

イケメンドラマ隆盛

2007年のテレビドラマで『花ざかりの君たちへ〜イケメンパラダイス』(フジテレビ)、『花より男子2(リターンズ)』(TBS)、『有閑倶楽部』(日本テレビ)といった、「イケメン」を売りにした学園ドラマが目立ち、実際、視聴率も高かった。従来、「男は顔じゃなく中身だ」といわれてきた背景には「男性優位の社会」があり、「勉強」なり「仕事」なりで努力していけば、それなりに報われる社会だったのである。それが昨今年功序列が崩れ、能力主義が言われるようになり、かつてほど、スタート時点からの性差はなくなってきた。つまり、「男は中身だ」という言説を支えていた社会構造が変容してきたことで、男性が、「中身」だけではなく「外見」を気にするようになってきたのである。そして、それに反比例して自信をつけてきた女性たちが、「イケメン」を観賞し楽しむ時代がやってきたということである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

スピンオフドラマ戦略

スピンオフドラマ戦略

2007年4月から6月に放送された『プロポーズ大作戦』(フジテレビ)はドラマ放映と同時期に、携帯電話で『プロポーズ小作戦』というミニドラマを動画配信していた。物語は、本編ドラマの主人公カップルの友人であった尚とエリのラブストーリーで、メーンストーリーの裏の「もう1つの物語」であった。近年、人気映画・ドラマの脇役をフューチャーしたスピンオフストーリーが流行しており、ハリウッドでは『バットマン』から『キャットウーマン』、日本では『踊る大捜査線』から『交渉人真下正義』『容疑者室井慎次』などが生まれている。もっとも、『プロポーズ小作戦』はテレビドラマから携帯配信への展開であり、ワンセグ放送が本格化する中で、より新機軸のメディアミックス戦略といえる。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

おバカ回答者人気

おバカ回答者人気

わが国においては、「知識がない」ことはであり、「頭がいい」ことが美徳とされてきた。だからクイズ番組では、「頭の良さ」や「知識量」を競ってきたわけである。ところが近年、「頭の悪さ」を売りにするタレント脚光を浴びている。それが『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ)で活躍中の里田まいスザンヌ、つるの剛士らである。この番組の人気コーナーは、チーム対抗で、事前テストの成績順に回答者となり、正答ならば抜けていき、最も早くチーム全員が抜けられれば勝ちという「リレークイズ」である。ここでは、最初の頃に登場する成績優秀者はあっさり正答していくので注目されず、終盤に登場する成績下位者たちがなかなか正答できずに「珍回答」を連発していく様が面白く、人気も高い。まさに、「バカ」さえも立派な個性であることを証明しているのである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

闇サイト

闇サイト

犯罪を助長したり、犯罪仲間を募ろうとするインターネット上のサイトの総称である。2007年8月に名古屋で帰宅途中の女性を殺害した3人組は、ケータイの「闇の職業安定所」というサイトで知り合って、当初は強盗目的であったのに、顔を見られたからと簡単に殺人にまでエスカレートした。これも、お互いに素性を知らないがゆえのゲーム感覚の犯行との見方がされている。他にも、「自殺サイト」「復讐(ふくしゅう)サイト」「いじめサイト」などの反社会的サイトが多く存在し、警視庁も「インターネットホットラインセンター」を開設するなど対策を講じているが、「表現の自由」や「通信の秘密」との兼ね合いもあって完全な規制が困難であるがゆえに、ネット社会の「闇」を拡大させている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

セカンドライフ

セカンドライフ

流行語的文脈でいっても、この言葉には異なる2つの意味がある。1つは、団塊世代の大量定年を背景に、会社から解放された、定年後の「第二の人生」という意味であるが、ここでは、もう1つの意味に注目する。それは、コンピューターネットワーク上の仮想空間で体験できる「もう1つの人生」のことである。 セカンドライフは、米国のリンデンラボ社が2003年からサービスを開始しており、現在、全世界で1000万人以上が体験しているといわれている。07年からは日本語版も立ち上がっている。参加者は、オンラインでセカンドライフにアクセスし、アバターと呼ばれる「分身」を与えられ、この世界で自由に生活できる。オンラインゲームと構造は似ているが、敵を倒したり、レベルをあげたり、ミッションをクリアするといった具体的目標はなく、まさに、この空間で普通に生活をするのである。他の参加者と会話を楽しんだり、それが恋愛に発展したり、商売を始めたりと自由に活動できる。もちろん、暴力や殺人などの行為はプログラム上できない構造になっているが、リンデンドルという通貨があって、これが現実の通貨に交換できるため、バーチャルな空間でリアルなビジネスが可能である。実際、トヨタ、東芝、フジテレビなどの企業がセカンドライフに進出してビジネスチャンスを狙っているほどである。技術的課題は多いが、可視化されたバーチャルコミュニティーがリアルな社会にどう影響を与えていくのか、今後の展開が興味深い。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

セカンドライフ

米国リンデンラボ社が運営しているメタバース(仮想世界)サービス。2007年7月から、日本語版の試験サービスが始まった。メタバースとは、利用者が作成した自分の分身であるアバターを自由に行動させられる「世界」のこと。インターネットを利用して多くの利用者が同一の「世界」でコミュニケートできる。ポリゴンによる立体的な映像を利用しており、オンラインゲームのようにも見えるが、セカンドライフには制作者が提示するストーリーや目的は存在しない。倒すべきモンスター(怪物)や敵役などもなく、会員同士のコミュニケーションがすべてである。ただし、利用者が参加可能な各種のゲームが実施されている。セカンドライフには世界内で流通する通貨(リンデンドル)が存在し、自ら作成したアイテムの売買や、世界内に土地や家屋を所有することができる。リンデンドルはクレジットカード引き落としなどでリンデンラボ社から購入するほか、セカンドライフ内でのアイテム売買等を通じて増減する。リンデンドルはリンデンラボ社を通じて現実の貨幣に「現金化」できるため、コンテンツクリエーターにとっては仮想世界が作品の販売所にもなる。現実の企業や政府機関が土地を所有して公式の「出張所」を開設し、広報宣伝に利用するといった活動も行われている。セカンドライフ内での活動による成果と、セカンドライフに進出したこと自体が報道されて話題となり、企業や機関の宣伝につながる効果の両面を期待したものである。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

消えた年金

消えた年金

2007年5月に国民年金など公的年金保険料の納付記録漏れ問題が発覚し、5000万件という数字とともに国民の大きな怒りを買った。そもそもは、1997年に公的年金加入者に「基礎年金番号」を割り当てて加入記録を一元管理しようと試みた際に、結婚して名前が変わったケースや単純な入力ミスなどで、記録から消えた年金が生まれたのである。政府も年金事務の当事者である社会保険庁の怠慢批判したが、監督責任もあって7月の参院選における与党大敗の最大の原因となった。さらには、現行年金制度への不信をさらに増大させた。国会での追及急先鋒だった民主党の長妻衆議院議員は「ミスター年金」とも呼ばれたが、年末に発表された「流行語大賞2007」に「消えた年金」が選ばれた際、受賞者が舛添厚生労働相だったことで、「年金を消した」当事者が受賞するのはおかしいとの批判が続出した。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

大連立

大連立

2007年11月、福田康夫首相と小沢一郎民主党代表が党首会談を行い、小沢代表は大連立へ意欲的な姿勢を示した。しかし、党執行部から強い反対にあい、小沢は代表の座から退くといったんは表明した。その後、党を挙げての慰留により、小沢は翻意し、代表にとどまることとなった。しかし、大連立をめぐる混乱により、民主党の政権獲得に向けた戦略は大きく頓挫した。 衆参ねじれ国会においては、自民党、民主党のいずれの主張も法律という形で実現することは難しい。そこで、大連立を組むことで国政の停滞を打開すべきという意見も出てくる。今回は、中曽根康弘元首相、渡辺恒雄読売新聞グループ会長・主筆が、両党首に大連立を呼びかけたといわれている。 しかし、大連立は民主政治の筋道に逆行するものという声が強い。参議院選挙では、民主党は政権交代を訴えて大きな支持を集めた。大連立はそうした民意を裏切るものともいえる。 そもそも福田政権は、安倍首相の政権投げ出しという大失態の後始末をするためにできたものであり、民主的正統性を欠いている。にもかかわらずこの政権と政策協議を行うということは、福田政権を本格政権と認知することを意味する。そのような二大政党の話し合いで重要政策を決めることは、国民の負託の裏付けを持たない、文字通りの談合である。 このように、大連立には大義名分はないが、民主党の政権戦略が固まらなければ、大連立というささやきは、ねじれ国会に幽霊のように取りつくであろう。

(山口二郎 北海道大学教授 / 2008年)

大連立

2007年11月の党首協議において、国会運営に苦労する自民党の福田康夫総裁から民主党の小沢一郎代表に、政策レベルの「大連立」構想が示され、政界再編をもくろむ小沢代表は前向きに受けとったが、「大政翼賛会になってしまう」との民主党内の猛反発にあい、提案は実現しなかった。小沢代表は、一時は責任をとって辞意を表明したが、党内の慰留で代表にとどまった。仕掛け人として読売新聞社の渡辺恒雄会長や中曽根康弘元首相の名前があがり、誰が言い出したかで関係者の相互批判が相次いだ。これで衆院解散が遠のいたという憶測が生まれるなど、その後の政局に大きな影を落としている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

がばい現象

がばい現象

「がばい」とは佐賀弁で「非常に」の意味で、島田洋七が書いた自伝小説『佐賀のがばいばあちゃん』で有名になった言葉である。ちなみに、この小説は、洋七が祖母と過ごした少年時代の思い出をもとに書かれており、特に「超貧乏生活」を明るく生き抜く祖母のたくましさが多くの読者の共感を集め、400万部を超えるベストセラーになった。当初は1993年に3000部が自費出版されただけだったが、2004年に徳間書店から刊行されたことで全国的に注目され、映画やテレビドラマにもなった。また佐賀といえば、07年夏の甲子園に出場した県立佐賀北高校が、決勝戦において満塁本塁打で逆転するという奇跡を起こして初優勝し、普通科公立高校としては23年ぶりの優勝で話題となった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

万能細胞

万能細胞

京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授を中心とする研究グループが作り出した、心臓胃腸など、どんな器官にもなりうる分化多能性を持った細胞のことを指す。ヒトなどの高等生物では細胞の機能分化が速く、原則として受精卵以外に万能細胞は存在しないのだが、山中教授は、ありふれた皮膚細胞に遺伝子を入れて万能細胞を人工的に作り出した。これまでは、受精卵から万能細胞(正確にはES細胞)を作ることはできたが、これだと生命の可能性を壊すことになり、生命倫理的に問題視されてきた。今回の成功は、その壁をクリアしたわけで、ノーベル賞級の偉業といわれている。完全な実用化にはまだ問題が山積しているが、日本政府も、国家プロジェクトとして支援する構想を打ち出している。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

東京再開発

東京再開発

汐留シオサイト、丸の内六本木ヒルズ表参道ヒルズと、21世紀に入ってから東京の再開発が加速しているが、2007年3月にオープンして話題になったのが東京ミッドタウンである。これは、六本木の旧防衛庁跡地を中心に展開されたものであるが、赤坂から移転してきた「サントリー美術館」が、近隣の「国立新美術館」「森美術館」と六本木アート・トライアングルを形成し、上野に匹敵するアートの殿堂地域となっている。ミッドタウン・タワーには名門のリッツ・カールトン東京が入っている。近年、グランド・ハイアット・ホテル、コンラッド・ホテル、マンダリン・オリエンタル・ホテル、ペニンシュラ・ホテルなどの世界の超高級ホテルが相次いで東京に進出し、東京ホテル戦争が繰り広げられてている。また、10月にオープンした有楽町駅前の有楽町イトシアも、銀座2丁目に9月にできたマロニエゲートとともに銀座の新しい人の流れを作ったといわれている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

デザインエコバッグ

デザインエコバッグ

スーパー、コンビニや商店での買い物の際に使い捨てのレジ袋はもらわず、マイバッグを持参しようという運動が広がっているが、その流れを受けて、デザイナーズブランドが手がけたエコバッグが人気を集めている。中でも、セレブに人気のイギリス人デザイナー、アニヤ・ハインドマーチがデザインした「I'm NOT A Plastic bag」と書かれたエコバッグは注目を集めた。アニヤのバッグは通常10万円以上するが、このエコバッグは2100円ときわめて安い。もちろん布製で限定販売ということもあるが、「エコ」というメッセージを尊重してあえて安価にしたのである。日本発売時には早朝から行列ができ、入手したバッグがネットオークション高値で転売されるなど、本来の意図とは違うところで話題になった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

クロックス

クロックス

アウトドアスポーツ、ウオータースポーツなどで人気のサンダル。その名は地上でも水中でもタフなワニの「クロコダイル」から名付けられた。「クロスライト」と呼ばれる特殊樹脂が使われ、履き心地はとても軽く柔らかい。可動するストラップが付いているため、スリッパ感覚で履いたり、かかとを固定して履くこともでき、サンダルの内側には余裕がありながらもフィット感がある。色やサイズも豊富なため、より自分に合った一足が探せる。また、サンダルの穴を飾るジビッツ(アクセサリー)を付けることで、オリジナリティーを出せ、ファッション性も高い。現在では、アウトドアシーンにかかわらず、街履きや室内履きにも使われ、社会現象になるほどその知名度が上がり、類似商品も多数販売されている。

(松倉一夫 アウトドアライター / 2008年)

クロックス

アメリカで大ヒットした個性的なをしたカラフルなサンダルで、2005年に日本に上陸してから売り上げを伸ばし、07年には200万足を売ったといわれている。価格はノーマルモデルが3980円とリーズナブルであり、何より、カラーバリエーションの多さと「ジビッツ」というアクセサリーで自分好みにカスタマイズできることが人気の秘密である。つまり、「みんなと同じ」連帯感と「みんなと違う」個性を同時に実現できるアイテムである。販売戦略として日本上陸当初は口コミを重視し、値下げ競争になる量販店には置かず、セレクトショップなどで販売する戦略をとったのも、「安いわりにおしゃれ」イメージを醸成するのに役立った。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

揺れる大相撲

揺れる大相撲

横綱の朝青龍が、2007年夏場所優勝後に、けが治療を理由に夏巡業に参加せずモンゴルに帰国した。ところが、現地でサッカーに興じている姿が伝わってきたことで仮病疑惑が噴出し、2場所出場停止などの重い処分が下された。その騒動の影響と、モンゴルにいる朝青龍が「解離性障害」で来日もままならぬということもあって、日本国内でのバッシングは日に日に強まった。九州場所後に帰国し謝罪会見の後、08年初場所から復帰した。結果、千秋楽に1敗同士の白鵬と対決し敗れたが、初場所自体は観客も大幅に増え、朝青龍は「悪役(ヒール)」としての存在感を示した。一方、07年6月に、時津風部屋の序ノ口力士がけいこ中に死亡した事件で、しごき(傷害致死)の疑いで前親方や兄弟子が逮捕された。これらを通して、関係者ばかりではなく、北の湖日本相撲協会理事長や相撲界の古い体質を糾弾する声は強い。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

マイナースポーツのアイドルアスリート

マイナースポーツのアイドルアスリート

バレーボールテニスなど、そもそも競技自体に人気があると、そこからアイドル化した選手が生まれることはよくあるが、近年、アイドル化した選手がマイナーな競技の人気を高めてしまうというのケースが見受けられる。その代表がビーチバレーの浅尾美和選手である。ビーチバレーという競技自体、水着のようなユニホームを着て2人制バレーを行うことから、きわめてセクシー的要素が強いのだが、浅尾選手は、健康的な容姿と笑顔で、写真集やビデオがグラビアアイドル並みに売れるという人気である。他には、三洋電機バトミントン部所属の「オグシオ」こと小椋久美子潮田玲子ペアや、派手なファッションで卓球の地味なイメージを払拭(ふっしょく)した四元奈生美らがいる。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

「どんだけ〜」

「どんだけ〜」

数年前から新宿2丁目のゲイの間で流行していた言葉で、「どれだけなの」というツッコミ言葉である。テレビのバラエティー番組などでお笑いタレントが面白がって使っていたが、やはり、ヘアメイクアーティストのIKKOが、指を振る独自の仕草で使うようになってから一般化し、2007年の流行語大賞を受賞した。ちなみに、IKKOはゲイをカミングアウトしているが、自らゲイを公言している芸人などを集めた『おネエ★MANS』(日本テレビ)がゴールデンタイムに放送されるなど、ゲイもすっかり市民権を得ている。彼らは、怖いもの知らずの「歯に衣を着せぬ」毒舌や、こだわりを持った美的センスが売りで、むしろ女性からの支持が高い。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

『おしりかじり虫』

『おしりかじり虫』

NHKの番組『みんなのうた』から生まれたヒット曲で、番組の中ではアニメのおしりかじり虫が歌っている。作詞・作曲はアニメの原案・作画監督でもある、うるまでるびで、歌も彼らが担当している。ちなみに、うるまは、『ウゴウゴルーガ』(フジテレビ)などにもかかわったことがある「スーパークリエーター」(経済産業省認定)で業界では有名人である。歌詞の内容は、妖精のおしりかじり虫がひたすら人の尻にかじりついて笑顔にしていくというファンタジーで、2007年6月に放送されるや、子どもたちから火がついて、『みんなのうた』携帯着信メロディダウンロードで新記録を樹立するなどして後にCD化され、オリコンチャートで最高6位にまでなった。2007年末でおよそ18万枚を売り上げている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ベストセラー2007

ベストセラー2007

『女性の品格』(坂東眞理子)は、『国家の品格』(藤原正彦)以来の「品格」ブームにのって、古き良き「女性らしさ」の重要性を強調した保守層向けの本である。『鈍感力』(渡辺淳一)は、ある意味「KY」の逆で、周りの風評や意見などに惑わされない生き方を提示した本で、小泉元首相が「目先の支持率に一喜一憂するな」と自民党関係者に推奨したことで話題になった。『ホームレス中学生』(田村裕)は、お笑いコンビ麒麟田村の貧乏自叙伝で、タイトルはせつないが、中身はネタでしゃべってきただけに貧乏を明るく笑い飛ばしている。『いつまでもデブと思うなよ』(岡田斗司夫)は新しいタイプのダイエット本で、「自分の食べた物を克明に記録し続ける」ことで117kgの体重が67kgにやせたという内容である。いわば、無駄に頑張るより、自分をクールに観察することがダイエットに効果的ということである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ケータイ小説

ケータイ小説

携帯電話サイトで閲覧できる小説、およびそれを書籍化したもの。NTTドコモのiモードサービスを活用した音楽・映像の制作会社を2000年に起業したYoshiが自社携帯サイトの利用者を増やそうと自らが初めての小説『Deep Love』を執筆し無料配信、それを単行本にしたのがケータイ小説の始まり。読者対象を口コミ効果の高い女子高校生に置き、iモードの特性を活かしたメール会話調で軽薄短小表現の『Deep Love』は、アクセス数が1000万件を超えた2002年に自費出版し、通販で10万部を販売。これを02年末に引き継いだスターツ出版がわずか半年間で4部作で累計100万部を売った。この大ヒットを機に中学生から20代の女性向けに同世代の書き手が発表するケータイ小説分野が活況を呈する。「魔法のiらんど」「Goccoブックス」「おりおん☆」などの専用サイトが開設され、それぞれがケータイ小説大賞を設けて広く投稿を募り、出版社を通して書籍化し大ヒットを作り出している。最大手「魔法のiらんど」の投稿・閲覧サイトに掲載された作品数は100万タイトル以上。トーハンの07年単行本文芸部門ベスト10の半数がケータイ小説。1位は映画化された美嘉『恋空』上下巻(スターツ出版)累計200万部、2位はメイ『赤い糸』上下巻(ゴマブックス)累計100万部、以下3位が美嘉『君空』(スターツ出版)、5位が凛『もしも君が』(ゴマブックス)、7位が稲森遙香『純愛』(スターツ出版)。これら非文学と酷評される作品は初刷り5万〜10万部でプロ作家のおよそ10倍。

(村上信明 出版流通ライター / 2008年)

ケータイ小説

2007年の出版取り次ぎ大手トーハンと日販の文芸書売り上げのベスト3は、『赤い糸』『恋空』など単行本化されたケータイ小説が独占した。そもそもケータイ小説とは、「魔法のiらんど」などの投稿サイトに携帯を通して送られてくる小説のことで、文字数の制約から、情景描写が少なく会話が多いのが特徴で、「病気で死ぬ」などの定型的展開が多いのだが、等身大のストレートな心情が込められており、同世代の若者たちに人気である。自らの体験をつづったケースが多く、売れてもプロになる気はないという素人感覚ながら、例えば「魔法のiランド」には100万を超える小説が掲載されており、その中から、ヒット作が生まれてくるのである。その意味で、今までの出版社主導の作家育成システムとは違うビジネスモデルであり、メディアミックスの展開も含め出版界の新しい波である。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

『あるある大事典II』データ捏造(ねつぞう)問題

『あるある大事典II』データ捏造(ねつぞう)問題

発掘!あるある大事典II』(関西テレビ制作)2007年1月7日放送ので、納豆を食べるだけでダイエット効果があると放送したところ、スーパーなどの店頭から納豆がなくなってしまうほどの反響であった。ところが、番組で紹介された実験は実際には行われておらず、データが「捏造」されたものであることが発覚し、しかも、その後の内部調査で過去にも同番組において同様のデータ捏造が行われていたことが判明し、番組は打ち切りになり、関西テレビは民放連から除名処分となった。背景には、下請け制作会社の過酷な労働条件と視聴率プレッシャーがあったとされ、テレビ業界の構造的問題も指摘されたが、とりあえず他局も含め、こうしたエセ科学情報番組は激減することになった。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

ニコニコ動画

ニコニコ動画

ニワンゴ社が運営する会員制動画共有サイト。2006年に開設、2007年からベータ版のサービスが開始された。動画共有サイトでは投稿された映像に対して視聴者がコメントを付けることができるのが一般的だが、ニコニコ動画ではこのコメントを映像上に重ねて表示できるのが大きな特徴。コメントごとに、冒頭から何分何秒の位置で追加されたかという情報が記録されており、映像中のシーン特定してコメントを付けることができるため、疑似的に視聴者同士が感想を話し合いながら映像を視聴する感覚が楽しめる。コメントが一定数を超えると古いものから削除されるほか、特定の発言者のコメントを非表示にしたり、すべてのコメントを非表示にしたりして映像を楽しむことも可能。対戦格闘ゲームの挿入歌を映像化した「レッツゴー! 陰陽師」、ユーザーの入力した歌詞音声合成で歌わせることができる音楽ソフトから生まれたバーチャルアイドル初音ミク」、土鍋の中で丸まる猫をめでる「ねこ鍋」など、ニコニコ動画からブレークしたコンテンツも登場している。

(斎藤幾郎 ライター / 2008年)

ニコニコ動画

2006年にニワンゴ社が開設したネット上の動画閲覧サイトで、2ちゃんねるの創始者である西村博之も開発に加わっている。先行するYouTubeとの違いは、動画上にコメントをつけられる点で、人気の動画だとコメントで埋め尽くされたりもする。その意味で、YouTubeは映像を楽しむユーザー、ニコニコ動画は映像をネタにコミュニケーションしたいユーザーと、すみ分けがなされている。ニコニコ動画が火をつけたブームとしては「ねこ鍋」があげられる。これは、猫を飼っているユーザーが、土鍋にすっぽり入って気持ち良さそうに寝ている猫の画像をアップロードしたところ、1日に最大20万アクセスという驚異的人気を獲得し、その後、写真集やDVDも発売された。ニコニコ動画は、ケータイ小説と同じように、素人による自己表現発表の場としても機能しているのである。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

Wii新時代ゲーム機戦争に圧勝

Wii新時代ゲーム機戦争に圧勝

2006年末に発売された次世代ゲーム機のプレイステーション3(SCE)とWii(任天堂)は、それぞれ「高性能で映画並みの高画質」と「誰もが手軽に楽しめる」ことを目標に置いており、コンセプトの異なるハードが激突したわけだが、結果は、ゲーム機の新しい遊び方を提案したWiiの圧勝に終わった。08年初頭でWiiは500万台を突破し、プレイステーション3の180万台に大きな差をつけている。任天堂は、WiiだけではなくニンテンドーDSも好調であり、高機能を追求せず、『脳トレ』に代表されるように、ゲームに興味がないユーザーをも取り込むソフト戦略がを奏した。これによって株価も上昇し、一時、時価総額でトヨタ、三菱UFJについで国内上場企業で3位になるという快挙を成し遂げた。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

プロフ

プロフ

携帯電話の自己紹介サイトで、「プロフィールをのせたサイト」の略。Q&A方式で氏名、誕生日、趣味などを登録しておくと、無料で簡単にプロフィールサイトが作られ、アドレスを教えた相手に自分のプロフィールを知ってもらえるということで、中高生の間で人気となった。名刺代わりにプロフのアドレスを交換することも多いという。楽天が運営する最大手の「前略」の登録者は2007年末で500万人に迫る勢いであり、拡大を続けている。ちなみに、このうちの半数未成年であるがゆえに、個人情報が流出してトラブルに巻き込まれたり、「出会い系」的な使われ方をしてしまうなどの問題も起きており、家庭や学校などの指導の必要性が問われている。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

初音ミク

初音ミク

擬人(ぎじん)化されたボーカル音源で、2007年8月から札幌のクリプトン・フューチャー・メディアが販売している。音階歌詞を入力すると、ボーカルパートとバックコーラスを作成できる、歌声合成ソフトである。そのままだと、単に音声上のバーチャルシンガーなのだが、キャラクターにリアリティーを持たせるため、イラストレーターKEIが作成した画像が用意され、年齢=16歳、身長=158cm、名前=初音ミクなどの具体的プロフィールが与えられている。まさにユーザーが思い通りに使いこなせるバーチャルアイドルなのである。ユーザーは初音ミクが歌ったカバー曲やオリジナル曲を動画サイトに投稿するなど、二次制作の素材として活用しているが、次第にキャラクター自身が一人歩きを始め、人気を博している。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

日本郵政株式会社

日本郵政株式会社

郵政民営化で設立された持ち株会社。2006年1月に設立され、資本金は1500億円。初代社長は西川善文・三井住友銀行元頭取。傘下には、07年10月に発足した郵便事業会社、郵便局会社、郵便貯金銀行(「ゆうちょ銀行」)、郵便保険会社(「かんぽ生命保険」)の4社を置く。これらの業務を担当した日本郵政公社の事業は、それぞれの新会社が継承し同時に同公社は解散。07年から17年までを移行期間として銀行と保険の2社の株式処分を進め、それ以降を郵政完全民営化と位置付けている。かつて郵政省が管轄した郵便、郵便貯金(郵貯)、簡易生命保険(簡保)の郵政3事業は、01年の省庁再編に伴い郵政省から郵政事業庁に移管され、さらに03年4月、郵政民営化の第一歩として設立された日本郵政公社に引き継がれた。小泉首相の公約で改革の「本丸」とされた「郵政民営化」は、その退陣を前に、一応の道筋がつけられた形となった。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

GDPギャップ

GDPギャップ

経済の供給力と現実の需要との間の乖離(かいり)のこと。需給ギャップともいう。総需要が総供給を下回るとき、すなわちデフレ・ギャップ(逆の場合はインフレ・ギャップ)が存在する状態で使われることが多い。この場合の総需要は現実の国内総生産(GDP)、総供給は完全雇用等の状況で可能となる生産量が使われる。完全雇用等を前提にして算出される総供給は潜在GDPやポテンシャルGDPとも呼ばれる。なおGDPギャップ(需給ギャップ)は(現実のGDP-ポテンシャルGDP)÷ポテンシャルGDP×100で計算され、不況の度合いの目安として使われる。符号がプラスの時は好況または景気過熱、マイナスの時は景気停滞または不況と判断される。2006年1〜3月期のGDPギャップ率の試算値は、計測機関によって0〜数%まで幅があるが、内閣府は「GDPギャップの水準は、潜在GDPの計算方法によって大きく異なるため、絶対水準ではなく、時系列変化を見ることに意味がある」としている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

所得格差

所得格差

地域間、産業間、世代間、男女間などで生じている所得格差のこと。バブル期には土地や株式などの資産を「持てる者」と「持たざる者」の所得格差が話題になった。日本は戦後復興から高度成長期を経て、国民が「一億総中流」意識を持つようになり、諸外国に比べ比較的平等な社会が形成されてきたとされるが、自由経済社会を掲げる限り常に所得格差は存在する。近年、議論の対象とされ出した背景には、規制緩和が促され、さらに自由競争社会へと進むなか、「勝ち組・負け組」現象が現れるなど所得格差が拡大しているのではという問題意識が表面化したことがある。「機会は平等に与えられており、格差は能力や努力の結果であり仕方がない」「富裕層が一層富めば“富の再分配機能"を通じ貧困層の生活も底上げされる」などの格差拡大を容認する意見がある一方、「親の所得が学歴に影響し、学歴で雇用機会に差が生じる。機会平等社会ではない」「若年層での所得格差(フリーター・ニートと正社員など)は将来の社会秩序破壊を招く」と問題を重視したり、規制緩和・市場原理主義を推し進めた小泉路線が不平等社会(=所得格差拡大)を助長した、という政策批判もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

所得格差

所得や資産が平等に配分されていれば格差は小さく、偏りがあれば格差は大きい。格差を示す尺度として用いられるジニ係数は、分布の集中度、あるいは不平等度を表し、0に近づくほど平等、1に近づくほど不平等となる。世帯主の年齢階級別にジニ係数を見ると、年齢が高くなるにつれて上昇する傾向がある。

(上村協子 東京家政学院大学教授 / 2007年)

規制緩和

規制緩和

政府が関与し、民間の活動を阻害する要因(規制)を取り除くこと。民間の自由な経済活動を促進し、経済の活性化を目的とする。戦後の日本は産業の保護・育成のために種々の規制(制度)を実施した。しかし、当時は有効に機能した制度も経済発展と共に必要性を失い、むしろ発展の阻害要因になった。日本の場合、政府関与の規制や行政当局の介入が諸外国に比べ根強かったため、海外からの批判も多かった。こうした背景のもと、第2次臨調(第2次臨時行政調査会、1981年3月〜83年3月)では「許認可等の整理・合理化」などが答申された。以降、規制緩和は継続的・断続的に進められたが、特に小泉政権下での進度は急速・急激だった。その進展度合いには高い評価がある一方、「市場原理主義をもたらした」「格差社会の原因」との批判もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

規制緩和

戦後の経済発展は、官民一体となって進められてきた。官庁は各種の許認可権限によって市場への参入、製品や価格などを規制してきた。経済的規制の緩和が1980年代以降、諸外国から厳しく求められている。規制緩和の方法は、許認可権限の削減にとどまらない。慣行となっている官庁と業界との協議のルール化や政府融資の斡旋(あっせん)の透明化まで、幅広い。それだけに、政府の規制緩和政策の進捗状況が問題視されている。

(新藤宗幸 千葉大学法経学部教授 / 2007年)

産業空洞化

産業空洞化

国内企業の生産拠点が海外に移転することにより、当該国内産業が衰退していく現象。1995年版「経済白書」によれば、(1)円高による輸出の減少、(2)輸入による国内生産の代替、(3)直接投資(=海外生産)の増大による国内投資(=国内生産)の代替、の3つのルートから製造業が縮小することにより産業空洞化が生じる、としている。日本では80年代半ばから議論され出したが、85年のプラザ合意の後、急激な円高により価格競争力を失った輸出企業が海外現地生産を本格化させた一方、4匹の竜(Four Dragons)といわれた東南アジアのNIES諸国の台頭が背景にあった。更にバブル経済崩壊後の90年代には、圧倒的に安価な労働力を武器に、世界の生産基地としての地位を急速に高めてきた中国の台頭がある。90年代後半には、中国への生産拠点の移動が、従来の繊維や食料品のような産業から、電気や機械、ソフト開発のようなハイテク部門にまで及ぶに至り、問題は一層顕在化した。空洞化がもたらす問題点には、(1)産業の衰退が地域経済の衰退や経済成長率の低下につながること、(2)企業の海外移転で国内の雇用機会が減少すること、などがある。雁行型発展論などの産業発展論の立場からは、産業空洞化は当然の流れともとらえられるが、デフレに悩む日本では深刻な問題になった。解決策は、グローバル経済の中で、日本が新たな産業構造に転換すること、すなわち、より産業の高度化(高付加価値化)を進めることである。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

リストラ

リストラ

経済環境の変化に応じ、企業が成長を維持し、収益力を高めるために行う事業の再構築のこと。具体的には成長部門への資源の再配分、不採算部門からの撤退組織の簡化、バランスシートの改善などを通して実施される。長期的な視野に立ったリストラが成功すれば、企業部門の成長がマクロ経済の成長にもつながる。しかし不況期のリストラは固定費の削減主体となることが多く、企業部門の回復とマクロ経済の回復にズレが出てくることもある。固定費の主要素である人件費の削減は、コストを減らし、企業収益の改善にはなるが、残業時間や雇用者を減らすことにより行われるために、雇用情勢は悪化する。このため家計の消費活動が鈍り、マクロ経済の回復を遅らせることになる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

リストラ

リストラクチャリング」のページをご覧ください。

事業再構築

事業再構築

リストラ」のページをご覧ください。

事業再構築

リストラクチャリング」のページをご覧ください。

3つの過剰

3つの過剰

1999年版「経済白書」で分析された、雇用、設備、債務の3つの過剰。97年秋以降の不況深化と共に、日本企業では経営困難が増幅され、リストラ圧力が高まったが、その背景にあるとされた長期的な要因。3つの過剰は相互に関連があり、「過剰設備の維持費の大部分はそこで働く人の人件費であり、雇用が別の方向で活用されれば、設備の処理は進む。逆に設備の売却などのリストラに伴う障壁を低下させれば、雇用の有効活用につながる可能性がある。また債務の中には、過剰設備への支払いとなっている部分がある。債務担が軽減すればリストラを進めやすくなる可能性がある」としている。なお、2005年版「経済財政白書」では、バブル崩壊後10年超にわたり抱えた“負の遺産"である3つの過剰はほぼ解消したとされた。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

IT革命

IT革命

情報化社会(information society)を象徴する言葉。情報化社会とは、情報が物質やエネルギーと同等あるいはそれ以上の重要な資源となり、その価値を中心に社会・経済が発展していく社会をいう。日本の情報化は、1970年代から進められてきたが、その背景には集積回路や光ファイバーなどの基本技術開発に支えられたエレクトロニクス技術・通信技術の急速な発展(高度情報化現象)があった。さらに90年代になるとPC(パーソナル・コンピューター)の機能が高度化し、LANのようなネットワーク接続により、より複雑で高度な作業に使われるようになった。米国で軍需用に研究・開発されたインターネットが民間に開放されたことで情報化は加速。特に90年代半ばからはインターネットが急速に全世界に広がり、瞬時に双方向での大量の情報交換が可能となった。しかも携帯電話の発達・浸透で、情報交換はいかなる場所でも行えるようになった。2000年以降は、ブロードバンドが浸透し利便性が向上、電子商取引も急拡大が続いている。これらの情報技術の進歩は情報伝達に劇的な変化をもたらし、産業界を始め地球規模での社会を大きく変えつつあることから、18世紀の産業革命にならい、IT(情報技術)革命と呼ぶ。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

情報技術革命

情報技術革命

IT革命」のページをご覧ください。

セーフティーネット

セーフティーネット

社会的セーフティーネット。病気・事故や失業などで困窮した場合に、憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する制度のこと。同条第2項には、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあり、具体的には、健康保険、年金、失業保険、生活保護などの社会保障制度を指す。しかし、セーフティーネットという概念が広まったのは、金子勝『セーフティーネットの政治経済学』(1999年、ちくま新書)からである。金子によれば、市場社会が機能するためには、市場社会の外にセーフティーネットが張られている必要がある。サーカスの綱渡りでは、安全ネットを張ることでプレーヤーが安心して演技ができ、落下しても大事故にならないのと同様、資本主義市場社会においては、経営者や労働者などのプレーヤーが安心して市場競争に参加し、失敗しても再度復帰できるように、市場競争の領域の外にセーフティーネットが存在している必要がある。それは、「労働・土地・貨幣」の商品化に歯止めがかかっているということである。本来市場化になじまない「労働・土地・貨幣」が商品化されることで、資本主義的市場経済は機能するが、限度を超えた商品化が資本主義経済に深刻な影響を与えるケースが相次いでいる。たとえば、1)労働については、労働基準法、最低賃金保障法、労働組合法などによって、労働者が単なる労働力商品になることが阻止されていた。ところが、派遣労働が規制緩和されて不安定雇用労働者が増大した結果、日本社会そのものが不安定化してきている。2)土地については、都市計画規制や借地借家法などで所有権の行使に歯止めがかけられていたが、80年代後半に不動産を投機の対象とする「土地ころがし」でバブルが発生し、バブル崩壊後10年余りの長期不況が続いた。3)貨幣については、各国の貨幣が商品のように売買され、金融デリバティブ(金融派生商品)が生まれ、国際間で実体経済の数百倍の金融取引がなされるようになった結果、アメリカの住宅バブル崩壊後に世界資本主義システムの危機を招いている。以上のように資本主義は、自らに限界を設けないと資本主義そのものの存立が危うくなるシステムであり、資本主義市場社会の中のプレーヤーのためのセーフティーネットは、資本主義市場社会自体のセーフティーネットでもあると言える。

(高橋誠  ライター / 2008年)

セーフティーネット

安全網と訳される。事故や災害などの予期せぬ不幸な出来事に遭遇した場合や、定年退職のようにあらかじめ予想される事柄に備え、用された制度などをいう。セーフティーネット整備の目的は、被害を回避したり、被害を最小限に抑えることである。その概念は強制加入の社会保険制度や個人の責任で加入する各種生命保険や損害保険、公的・私的年金制度、雇用保険制度など広範囲にわたり適用される。例えば、金融危機が懸念された1990年代後半には危機回避の対応手段として、金融再生法、早期健全化法が整備された。いずれも2001年3月までの時限措置だったが、これにより金融危機は回避され、景気回復の一因となった。安定かつ安全な国民生活をおくるにはセーフティーネットの整備が重要だが、半面、デメリットも生じる。制度を悪用する、いわゆるモラルハザード(倫理欠如)で、保険金詐欺や保険金殺人などの犯罪などがその一例。モラルハザード防止のために「小さな制度」を目指すべき、という意見もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

社会資本

社会資本

教育施設・道路・公園といった公共的便益を生産する資本ストックを、社会資本あるいは社会的間接資本と呼ぶ。これらの資本ストックは、生産物が公共財としての性格を持つため、公共財と同じく市場機構による適切な価格形成と蓄積を期待できない。このため、社会資本の蓄積と維持は政府の果たすべき重要な課題である。後発資本主義国である日本の場合、社会資本はもっぱら港湾・道路といった生産的なものに集中してきた。ただ、高度成長期には不足がちだった生産的な社会資本も、経済成長とともに充実し、安定成長期以降はむしろ、不要な道路や空港などの構築、自然破壊につながる社会資本整備に多くの非難が出ている。日本は高齢社会に突入しており、老人ホーム、社会教育設備や緑地公園といった生活関連社会資本の充実が望まれる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

担保不動産流動化

担保不動産流動化

地価下落売買が減少した土地などの担保不動産取引が、活発化すること。1997年3月に「担保不動産等関係連絡協議会」は担保不動産の流動化を図り、不良債権問題の処理を促進し、市場を活性化し、日本経済の活力を維持することを目的に総合対策をまとめた。その概要は、(1)担保土地の権利関係の整理や虫食い・不整形状態の担保土地の有効利用で担保不動産収益性の向上を図る、(2)担保土地の証券化、(3)担保不動産の情報化の推進、(4)民間の取り組みへの一層の努力要請、(5)情報交換の場の設置。さらに98年4月、特定目的会社(SPC)などを活用した不動産の証券化とABS(資産担保証券)市場の整備などが盛り込まれた「土地・債権流動化トータルプラン」が自民党でまとめられた。2000年11月には投資信託法の改正で、不動産投資信託(REIT)が解禁、01年には東京証券取引所に新市場が開設された。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

貸し渋り

貸し渋り

金融機関が自己の経営安定を優先し、企業に対する新規ならびに追加の融資を控えること。金利の上積みや返済期限の短縮を求め、融資を半ば強制的に回収する「貸しはがし」と並んで用いられる。いずれも景気減速に歩調を合わせて顕著になるが、不良債権のリスクを回避したい銀行側は、自己資本比率を確保するための正当な商行為と位置づけている。しかし、経営が安定している企業や資本力のない中小企業に対しても、一方的に融資を拒否しようとする無慈悲な「貸し渋り」も頻繁に行われており、公平な経済活動や健全な金融システムを不安定にさせる元凶として、しばしば批判にさらされてきた。とりわけバブル崩壊後の1990年代半ばの日本では、巨額の不良債権を抱えた大手銀行が強引な資金回収に出たことから、資金繰りの悪化による企業の連鎖倒産があいつぎ、大きな社会問題になった。
金融危機による不況が深刻化している2008年以降は、世界各国でクレジット・クランチ(金不信による「貸し渋り」「貸しはがし」)が拡大している。09年初頭に誕生した米・オバマ新政権は、景気回復を最優先課題に挙げ、就任早々「貸し渋り」防止に巨額の公的資金を充てる金融救済策を打ち出した。日本でも、再び「貸し渋り」による倒産が急増しており、09年3月に金融庁は企業への融資促進を目的にした「企業金融円滑化策」を発表。4~6月には、不当な「貸し渋り」を抑えようと、銀行への立ち入り検査を実施する。対象となるのは、メガバンク(9行)と「貸し渋り」の苦情が多い地銀を含めた計30行程度の予定。なお、これに先立つ08年末、政府は「改正金融機能強化法」を制定し、金融機関向けの12兆円もの公的資金を準備した。だが申請したのは3行のみで、その額も計1210億円程度にとどまっている(09年3月時点)。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2009年)

貸し渋り

金融機関による貸し出し態度が極めて厳しく、民間の借り手が資金調達に困難を覚える状態。貸し渋りとは、企業の財務や経営状況の良しあしによらず、金融機関が新規融資や継続融資を渋る状態をいう。貸し剥がしとは、融資先企業が契約の約定通りに債務履行しているにもかかわらず、約定期間中に、金融機関から追加担保や融資返済を迫られる状態で、貸し渋りよりも融資態度は厳しい。金融機関は不良債権処理対策として債権回収や選別融資を行うが、他方、企業は資金繰りの面で経営が困難になる。特に銀行借入以外に資金調達の道を持たない中小・零細企業は運転資金や設備投資資金の確保が困難になり、資金繰りに支障を来す。日本の場合、この状況の強弱を定量的にとらえるのは難しいが、定性判断には、日銀短観にある「金融機関の貸し出し態度」が参考になる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

貸し剥(は)がし

貸し剥(は)がし

貸し渋り」のページをご覧ください。

クレジット・クランチ

クレジット・クランチ

貸し渋り」のページをご覧ください。

公的資金

公的資金

政府財政資金を指し、政府系金融機関や事業団、地方自治体による融資、出資、助成金などの形で実施される。1990年代後半に深刻化した金融システム危機に対応するために、政府は銀行に公的資金を注入、銀行が発行する優先株や劣後債の引き受け、劣後ローンなどに投入し、銀行の資本増強を図った。98年3月から2003年6月までに、金融機能安定化法に基づく1兆8156億円、早期健全化法に基づく8兆6053億円、預金保険法(危機対応)に基づく1兆9600億円の総額12兆3809億円が注入された。その後は、三菱東京フィナンシャル・グループ、住友信託銀行、横浜銀行、関西さわやか銀行が完済するなど返済も進み、返済額は8兆8617億円(07年8月公表分まで)。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

経済成長率

経済成長率

国内総生産(GDP)などで測った一国の経済規模が一定期間に変化した率。時価評価名目GDPを用いた名目経済成長率と物価変動の影響を除いた実質GDPを用いた実質経済成長率があり、景気あるいはマクロ経済の最も重要な指標。単に経済成長率という場合は実質経済成長率を指すことが多い。経済成長率などから日本の経済発展過程を、戦後10年の「復興期」、2桁成長を続けた1960年代の「高度成長期」、石油危機以降70年代後半からの「安定成長期」、バブル崩壊後の「長期低迷期」などに分けることもある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

国内総生産

国内総生産

一定期間に国内領土に居住する経済主体が生み出した、総付加価値額。ここでの「国内」の概念は当該国の経済主体(=生産活動関連主体)を対象とする概念で、例えば、経済主体には日本で活動する外国企業子会社は含まれるが日本企業の海外支店は含まない。国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)を支出面(=需要)からとらえたものを国内総支出(GDE:Gross Domestic Expenditure)という。GDEは民間最終支出、政府最終支出、国内総資本形成(民間設備投資、住宅投資、公的固定資本形成、在庫投資)、財貨・サービスの純輸出から成る。またGDPに海外からの純所得を加えたものが国民総生産(GNP:Gross National Product)であるが、2000年から国民経済計算に採用された93SNAではGNPに代わり、国民総所得(GNI:Gross National Income)が用いられることになった。GNIはGDPを分配面(=所得)からとらえたものである。概念的には三面等価の原則により、GNIとGDPとGDEは一致する。これらはフローの概念であるが、ストック面からとらえたものに国富(National Wealth)がある。国富とは、国民経済計算の貸借対照表勘定における国全体の正味資産(期末資産―期末負債=Net Worth)をいい、実物資産(=非金融資産)に対外純資産を加えたものに等しい。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

GDP

GDP

国内総生産」のページをご覧ください。

成長率のゲタ

成長率のゲタ

年平均の経済水準と該当年の最終四半期の経済水準との格差のこと。該当年の各四半期の経済水準をそれぞれa(1)、a^2、a^3、a^4とすると、その年の経済水準Aは、A=(a(1)+a^2+a^3+a^4)÷4で計算されるが、成長率のゲタは(a^4÷A-1)×100をいう。これは、ゲタが1%あればその後の4四半期の成長率がゼロであっても、翌年の成長率は1%になることを意味する。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

内需

内需

内需は国内需要外需は海外需要(=財貨・サービスの純輸出)の。国内需要は民間最終消費支出(個人消費)、民間住宅投資、民間企業設備投資、民間在庫投資から成る民間需要と政府最終消費支出、公的固定資本形成(公共投資)、公的在庫投資からなる公的需要との合計である。国内総生産(GDP)は内需と外需との合計であるが、それぞれが経済成長(GDPの増加率)にどれだけ貢献したかを測る尺度が寄与度である。GDP増加率=内需寄与度+外需寄与度=内需増加額÷前期のGDP+外需増加額÷前期のGDP。国民経済計算(=国民経済計算体系)上の財貨・サービスの純輸出と国際収支表の経常収支は概念的には等しい。上記の式から、一定の経済成長率を保ち、国際収支の黒字を減らすには、内需主導の経済成長を実現する必要があることが分かる。なお外需とは商品輸出のみを指すこともある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

外需

外需

内需」のページをご覧ください。

国民経済計算体系

国民経済計算体系

1968年、国連によって国民経済計算(68SNA新SNA)が提唱された。それまでの国民所得統計(旧SNA)では、もっぱら生産、投資、消費といったフローのマクロ的把握を目的としていた。これに対し、68SNAでは、国民所得統計産業連関表、資金循環表、国際収支統計、国民貸借対照表が加わり、ストックも含み、一貫した基準に従った国民経済の全体的把握が可能になった。また、財貨・サービスの生産、輸出入、在庫変動等から2000以上の品目の総供給量を推計、需要(消費や投資)項目別に流通段階ごとに把握するコモディティ法(コモ法)を採用したことで、より生産活動を精密に推計できるようになった。さらに93年には、経済構造の変化に対応し、より精密な統計体系を求め、国連により68SNAが改定された(93SNA)。日本も国連の勧告に従い、2000年から93SNAに移行。93SNAの特徴は、(1)主体系の刷新(キャピタル・ゲイン・ロスの内訳明示など)、(2)概念の詳細化・明確化及び拡張(コンピューター・ソフトウエア支出を中間消費でなく投資に計上、GNPをGNIに概念変更など)、(3)サテライト勘定を導入し、社会的な関心事項についての追加的な情報を提供、など。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

93SNA

93SNA

国民経済計算体系」のページをご覧ください。

設備投資

設備投資

企業が行う工場や事務所等の建物建設、機械・器具の購入、ソフトウエア開発などに資金を投入すること。その目的は生産設備の新設、生産能力の増強、陳腐化した設備の更新・補強合理化省エネ省力化、情報化などである。企業は設備を用い財・サービスを生産することから、企業の成長には不可欠なものであり、企業の景況感も敏感に反映する。日本の設備投資は国内総生産の13〜15%程度を占め、個人消費とともに景気の重要な経済指標の1つ。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

不良債権

不良債権

回収不能な元本・利息もしくは延滞した貸金などの債権のこと。金融庁は、破綻先債権、延滞債権、3カ月以上延滞債権、貸出条件緩和債権をリスク管理債権と定義している。また金融再生法に基づく資産査定では、破産更正債権及びこれらに準ずる債権、危険債権、要管理債権を金融再生法開示債権(=不良債権)としている。2007年3月末の預金取扱機関のリスク管理債権は18兆3540億円(前年比約1.9兆円減)。金融再生法開示債権は17兆7290億円(前年比約1.8兆円減)。1997年には不良債権が金融機関の経営を圧迫し、倒産はないと信じられていた大手金融機関も破綻、金融危機の懸念さえ生じ、不良債権処理がバブル崩壊後の最重要課題となった。金融機関の自己査定の甘さも指摘されたが、景気が悪化すれば不良債権が増える、さらにその増加が景気回復の足かせになる、という悪循環が続き、処理は遅れた。処理が急速に進んだのは03年以降。なお不良債権処理には、企業が保有する債権が回収不能または回収不能見込みとなった時に、該当債権相当額を貸借対照表から直接引き落とす会計処理(直接償却=オフバランス化)と、損失が生じた場合に備えあらかじめ引当金を積んでおく処理法(間接償却)がある。直接償却の方法には破産法・会社更生法・民事再生法により行う法的処理と債権放棄による私的処理とがある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

マイナス金利

マイナス金利

金利がマイナスになること。通常は預金・貸し金の利子あるいは利息である金利(名目金利ということもある)がマイナスになることはないが、超低金利時には短期金利が極めてまれに瞬間的にマイナスになることもある。名目金利から物価上昇分を引いた実質金利では、インフレが高進する時にはしばしば起こりうる。逆に、物価が下落(デフレ)している場合は、ゼロ金利であっても実質金利はプラスになる。「ゼロ金利政策がとられていた日本だが、デフレのため実質金利は高い。高実質金利は企業の経済活動に多大な影響を及ぼし、ひいては日本経済回復の遅れにつながる。経済回復には実質金利を下げる対策が望まれ、それにはある程度の物価上昇が必要」というのが、インフレ・ターゲット論者の根拠の1つになっている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

ESPフォーキャスト調査

ESPフォーキャスト調査

内閣府所管の団体、経済企画協会が実施するアンケート調査。国内38人の民間エコノミストに主要な経済指標(経済成長率、消費者物価、失業率など16項目)の予想を聞き、それを集計コンセンサスとして、毎月15日前後に公表される。第1回の公表は2004年5月。同調査導入の検討にあたった小峰隆夫法政大学教授は「この調査の最大の意義は、民間のコンセンサス、つまり経済の先行きのイメージを毎月極めて明瞭に把握できること」とし、政策的にも活用されることを期待し、マーケットにも有益な情報を提供するものと判断している。なお、この調査のモデルは、米国で広く活用されているブルーチップ社のエコノミスト予測集計。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

産業再生法

産業再生法

経営資源の効率的な活用を通じて生産性の向上を実現し、産業の活力再生を速やかに実現することを目的に、2003年4月に施行された法律。正式名称は「改正産業活力再生特別措置法」。事業者が実施する事業再構築、共同事業再編、経営資源再活用、事業革新設備導入を支援する。再建を図る事業者は所管官庁の認定を受ければ、設備廃棄の除却損の繰越期間延長、登録税や不動産取得税軽減、日本政策銀行の低利融資などの支援が得られることになった。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

中小企業再生支援協議会

中小企業再生支援協議会

産業再生法に基づき、経営不振に陥った中小企業の再生を支援するために、各都道府県に設置された組織。事業は政府から委託された商工会議所などが行う。多様性、地域性といった中小企業の特性を踏まえ、対象企業の財務や事業の見直しなどに関し相談を受け付け、専門家が助言や再生計画策定支援を行う。産業再生機構の中小企業版ともいえるが、産業再生機構のように、不振企業向け債権を金融機関から買い取る機能はない。福井県から始まった全国47都道府県の協議会は、2007年7月までに累計11443社からの相談に応じ、うち1374社の再生計画策定が完了した。結果、9万人近くの雇用が確保されるなど着実に成果をあげている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

構造改革特別区

構造改革特別区

2002年4月に経済財政諮問会議がまとめた中間報告書を受け、7月に構造改革特区推進本部が発足、12月には構造改革特別区域法(特区法)が公布された。03年4月の第1弾認定後、07年7月までに累計963件の構造改革特区が認定された。なお、その他に特例が全国化され取り消しになったものが563計画ある。特区の狙いは、民間地方自治体NPOなどからの発案をもとに、限定した特定の地域で、農業、医療、教育などの分野において規制緩和廃止をし、構造改革を進めること。特区で成功すれば全国レベルの規制改革に拡大する。03年7月に設置された特区評価委員会(八代尚宏委員長)の評価を受け、特区を全国に拡大する、廃止するといった判断がなされる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

構造改革特区

構造改革特区

小泉内閣構造改革の1つとして、市区町村やその一部など、地域を限定して実験的に規制を緩和する構造改革特区が構想された。2002年に内閣に設けられた構造改革特別区域推進本部が、地方自治体民間企業、個人から提案を募集し、規制を所管する省庁と協議し、特例措置を決める。06年7月までに9次の募集と11回の認定が行われ、特区の数は630となった。全国に規制緩和の対象を広げるよう提言を行う評価委員会は、06年2月までに、110項目の規制緩和について全国展開すべきとの意見書を出した。また、05年4月には地域再生法施行された。地方自治体地域再生計画を申請し、内閣の地域再生本部が認定する。06年6月までに、4次にわたる募集と3回の認定で696の計画が認定された。町おこしを目的とした地域再生基盤強化交付金や、投資への税優遇策などで地域再生を資金面から支援する。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

構造改革特区

構造改革特別区」のページをご覧ください。

IT戦略本部

IT戦略本部

「真に豊かで活力のある経済の実現のためには、IT革命に、日本として戦略的かつ重点的に取り組むことが重要である。IT革命の恩恵を全国民が享受し、かつ国際競争力のある『IT立国』の形成を目指し、官民の力を結集して、戦略的かつ重点的に検討を行う」ために、2000年7月、情報通信技術戦略本部(本部長:首相)/IT戦略会議(議長:出井伸之ソニー会長〈当時〉)が設置された。同年11月27日、同会議はIT基本戦略を打ち出し、5年以内に少なくとも3000万世帯が高速インターネットアクセス網で、1000万世帯が超高速インターネットアクセス網で、常時接続可能な環境を整備することなどを目標に掲げた。また同月29日にはIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が成立。この法を根拠に、01年1月、首相を本部長とする高度情報通信ネットワーク社会推進本部(IT戦略本部)が設置される。同本部は、e‐Japan戦略を打ち出し、超高速ネットワークインフラ整備、電子商取引のルールと環境整備などの目標を掲げた。さらに、03年7月にはe‐Japan戦略IIとして、7分野(医療、食、生活、中小企業金融、就労・労働、行政サービス)における先導的取り組みを提案した。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

日本21世紀ビジョン

日本21世紀ビジョン

政府経済財政諮問会議の専門調査会により、2005年4月に報告された将来像“日本が目指すべき2030年"。日本が改革を怠り、地球規模でのグローバル化や情報化が大きく進むと見込まれる時代の潮流に乗り遅れれば、危機が顕在化し、衰退の道をたどる。そこで、時代の潮流を生かして、(1)生産性の向上と所得循環の好循環を作り、(2)グローバル化を最大限に生かし、(3)国民が選ぶ「」の価値を提供する仕組みを築く、という3つの戦略を採れば、(1)開かれた文化創造国家、(2)「時持ち」が楽しむ「健康寿命80歳」、(3)豊かな「公」・小さな「」、という新しい躍動の時代を実現できる、としている。また、10年代初頭まで徹底的な革新を実施し、特に05〜06年度には構造改革を飛躍的に進めるべく集中的改革の必要性を指摘。なお改革の先に実現する30年の経済の姿――歳出抑制のケースと国民負担増を記した経済成長率や財政バランス、労働生産性、産業・就業構造など――も盛り込まれた。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

PFI

PFI

民間資金等を活用した社会資本整備」のことで、民間企業が主導し、その資金調達経営管理等のノウハウを活用する新たな社会資本整備手法である。英国では1992年からPFI手法が導入され、有料道路、橋、病院、矯正施設等の建設・運営、社会保険、防衛など多様な分野において実績を重ね、公共事業の15%を占めるほどになっている。日本でのPFI導入の検討は97年1月に、財政再建策の一部として橋本内閣で行われた。さらに同年11月の第2次緊急経済対策の中では、具体的な事業を含め「日本版PFI」の推進が示された。PFI事業を推進するための基本法として、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が99年9月に施行された。PFIの対象となる事業は、道路、鉄道、空港、公園、上下水道等の公共施設、庁舎、宿舎などの公用施設、教育文化施設、廃棄物処理施設、医療施設、駐車場、地下街等の公益的施設といった「公共施設」の「建設、維持管理、運営又はこれらに係る企画」であり、非常に広範囲にわたる。主体となる民間事業者に対しては一定の支援措置が設けられている。2000年から地方自治体でPFI事業を導入する動きが具体化してきた。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

PFI

公共施設の整備に民間の資金や技術力、経営能力を活用する手法。英国で開発された手法で、建設だけでなく、設計、資金調達から管理運営まで包括的に民間が主導し、政府はこれらの民間サービスを購入する。1999年のPFI法成立後、公民館やスポーツ施設、都市再開発など地方自治体レベルで約150件のPFIが実施されている(2005年8月現在)。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

市場化テスト

市場化テスト

中立・公正な競争により、公共サービスの質の維持向上と経費削減を目指すとして、公共サービス改革法(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)が2006年7月に施行された。市場化テストとは英国で一般化された用語で、国の行政機関等または地方自治体が自ら実施する公共サービスの提供について、官と民が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れたものが、そのサービスの提供を担う仕組み。PFIや指定管理者制度が公の施設の管理運営などを対象とするのに対して、市場化テストでは行政事業全般を対象とする。現在、地方自治体が実施する業務では、窓口業務が市場化テストの対象と想定されている。戸籍謄本等、外国人登録原票の写し等、納税証明書、戸籍の附票の写し、住民票の写し等、印鑑登録証明書の交付請求の受付及びその引き渡し等、公務員が行うのが当然とされていた領域でも民間の創意工夫を活用することで、「簡素で効率的な」政府を実現することが目的だが、自治体や外郭団体の職員の雇用がどうなるのか、実施によって知り得た情報が漏洩しないかという課題も生じる。自治体には、官民競争入札等の公正な実施の監理等を行う審議会その他の合議制の機関が置かれる。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

市場化テスト

小泉政権の下で「民間にできることは民間で」なる市場経済重視の動きが一段と強まった。政府は英・サッチャー政権時代の強制競争入札制度に似た「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」を2006年5月に制定した。これは公共機関が担ってきたサービスの実施を官民の競争入札にかけ、コストの削減を図ろうとするものである。07年度に対象分野とされたのは、ハローワーク関連事業、国民年金保険料徴収業務、統計調査業務などであったが、08年度には国立病院の未収金公営住宅の滞納家賃の徴収、上下水道の管理など22業務が段階的に加えられ、49業務となる予定。これらの中には、自治体が実施している業務も多いが、政府は自治体に市場化テストの導入を促すとしている。政府はこれによって公的支出を削減できるばかりか、新たな市場を開拓できるとしている。だが、先行した英国などでは、民間落札業者によるサービスの低下や従業員の労働条件の悪化などが問題視された。業務分野の選定や入札仕様書の作成などに多くの課題を残しているのも事実である。

(新藤宗幸 千葉大学法経学部教授 / 2008年)

市場化テスト

「官」が独占してきた公共サービスを「官」と「民」が対等な立場で競争入札し、価格・質の両面で最も優れた者が、そのサービスの提供を担っていく官民競争入札制度。(1)公共サービスの向上、(2)公共サービスの効率化・コスト削減、(3)民間ビジネス機会の拡大、が目的で、究極の行財政改革・規制緩和とのもある。2005年3月に閣議決定した「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」に盛り込まれた。試行導入されるモデル事業には、(1)公共職業安定所関連(キャリア交流プラザ事業、若年者版キャリア交流プラザ事業など)、(2)社会保険庁関連(年金電話相談センター事業、国民年金保険料の収納事業など)、(3)行刑施設関連事業(刑務所の施設警備など)の3分野8事業が選定された。こうした試行的導入期間を経て、06年5月には公共サービス改革法が成立(同年7月施行)し、本格的な競争入札が始まった。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

倒産関連法

倒産関連法

倒産処理のための法律のこと。倒産処理は、私的整理と法的整理に分類される。法制化された倒産処理(法的整理)は、清算型の破産と特別清算再建型の会社更生、会社整理、和議があったが、2000年4月に和議に代わり民事再生法が施行された。清算型とは債務者の全資産を換価し、負債弁済に充当することを目的にした手続き。再建型は、窮地に陥った会社が再建の見込みがある場合、債権者や株主利害を調整しながら、債務者の資産をもとに事業を存続させて、収益を上げ、その収益を負債の弁済に充てることを目的にする手続き。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

破産

破産

清算型の倒産処理。破産(破産法に基づく)は、個人・法人・団体のすべてに適用され、申し立てがあると、裁判所は破産原因を検討・判断する。その結果で、破産宣告が行われ、破産管財人が選任される。破産手続き終了まで、破産者の財産の管理処分権限は管財人だけが握る。管財人は財産を調査・評価・換価し、配当(弁済)する。債権者集会が開かれ、破産終結決定により破産手続きは終了。破産では機械的に配当(案分配当)が決められるのに対し、特別清算(根拠法は特別清算法)では関係者の意思を尊重し、公平な見地から弾力的な処理も可能となる。特別清算では清算人が処理のイニシアチブをとることができるほか、手続きが破産より簡便なため迅速な処理が可能、協定案成立で反対の債権者も拘束できる、債権者の同意を得ることで配当に格差を設けることができる、などのメリットがある。その半面、清算中の株式会社しか利用できないなどのデメリットもある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

特別清算

特別清算

破産」のページをご覧ください。

会社更生

会社更生

1952年に、米国の制度にならって導入された、会社更生法を根拠法とする再建型の倒産手続き。窮地にあるが再建の望みのある株式会社(株式会社のみに適用される)の利害関係者の利害を調整しつつ、その事業の維持更生を図るための制度。手続きは会社や債権者・株主の申し立てで始まり、更生手続き開始決定までは保全管理人が選定され、財産や事業継続のための各種保全がなされることが多い。裁判所の開始決定と同時に、更生管財人が選定され、管財人に会社財産の管理処分権・事業経営の権限が専属する。管財人は、会社資産の評価や会社に対する権利をもとに、更生計画案を作成する。更生計画案は関係者集会において法定多数で可決され、裁判所で更生計画案が受理されれば、効力が発生する。その後、裁判所の監督下で債務弁済などが行われるが、計画遂行の見込みが確実になった段階で、更生は終結する。申し立てから開始決定まで2カ月以上、決定から更生計画案提出まで約1年かかるとされており、迅速性が問題視される。半面、更生計画案決定後は、債権・担保権・租税債権行使などにも制約が加わり、計画を強力かつ円滑に遂行できる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

民事再生手続き

民事再生手続き

2000年4月1日に施行された、民事再生法(Civil Rehabilitation Law)に基づきなされる、再建型の倒産手続き。主に中小企業が利用しやすい再建型倒産手続きとして検討されたが、あらゆる法人・個人に適用されることになった。(1)債務者等に経営権を残すことを原則としながら、債権者保護のために経営権を奪うこともありうる、(2)担保権は原則行使自由としながらも、一定制約を課すことも可能、(3)営業譲渡や減資が行いやすい、(4)債権確定手続きの簡略化(簡易再生)、(5)管財人などの設置が任意、などの特徴がある。柔軟性に富んだ手続きといわれ、施行以降、民事再生手続きは急増し、00年7月には「そごう」にも適用された。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

産業再生機構

産業再生機構

2003年4月、支援による企業再生と不良債権処理の促進による信用秩序維持を目的に、5年間の時限組織として、資本金約500億円で設立された政府関与の株式会社。金融機関の保有する経営不振企業の債権や株式を買い取り、当該企業の経営の立て直しを支援するのが業務。支援企業の債権や株式をスポンサー企業に売却するか支援企業の債務完済をもって支援は終了し、機構は解散する。機構は債券買い取り期限の05年3月までに、41件の支援を決めた。当時は本来市場から退場すべき企業まで支援したとの批判や、再建に失敗した場合には国民負担になるとの懸念もあった。しかし機構は全ての支援を終え、07年3月に解散した。機構の清算結果は、国民負担を回避し、株主への配分や国庫納付、納税を実現した。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

規制改革・競争政策協議

規制改革・競争政策協議

2001年6月、日米首脳会談で同意し、創設された協議。対話を通じ、持続可能な成長のために各種の政策分野で協調することが目的。次官級経済対話と官民会議が毎年開催される他、規制改革・競争政策協議、財政金融対話、投資協議、貿易フォーラムが設置された。1997年から4年間続いた日米規制緩和協議に代わり設けられた。なお、過去の代表的な日米経済協議は「市場分野別協議(MOSS)」(85年)や「日米構造問題協議(SII)」(89年)で、貿易不均衡是正のために、日本に市場開放を求めた。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

規制改革・競争政策対話

規制改革・競争政策対話

規制改革・競争政策協議」のページをご覧ください。

成長のための日米パートナーシップ

成長のための日米パートナーシップ

規制改革・競争政策協議」のページをご覧ください。

対外純資産

対外純資産

日本が海外に保有する債権(対外資産)から海外に対する債務(対外負債)を差し引いたもの。2003年9月から財務省日本銀行が四半期ごとに公表することにした「対外債務統計」の中に、「対外資産負債残高(年末)」がある。残高は資産・負債別に「直接投資」「金融派生商品」「証券投資」「その他投資」及び「外貨準備(資産のみ)」に区分され、為替・価格変動に伴う価値の増減や項目間の分類替えも反映される。06年末の日本の対外純資産は215兆810億円で、世界の最高水準

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

政府開発援助

政府開発援助

発展途上国の開発支援を目的として、政府資金で行われる資金援助・技術協力。Official Development Assistance の略。対象は、平和構築、貧困解消、医療・衛生改善、教育・人材育成、法整備など多方面に及ぶ。支援の流れは、対象国への「直接援助」と国連の諸機関や国際金融機関などを通しての「多国間援助」の二つに分けられ、形態は「無償資金協力(贈与)」「有償資金協力(貸与)」「技術協力」の三つに分けられる。
これまで日本は、1954年のビルマ(現ミャンマー)を皮切りに、主に東・東南アジア地域を対象に60年以上にわたり約5000億ドルを支援してきた。当初は、第二次世界大戦の賠償・準賠償の名目で行われ、戦後補償としての意味合いが強かった。日本も戦後の6年間、米国からガリオア資金、エロア資金として総額18億ドルの資金援助を受けている。その後、日本のODA拠出額は経済成長と共に右肩上がりに増え、80年代末には世界1位になった。
しかし、無償資金協力が中心の欧米と異なり、日本のODAは有償資金協力が大部分を占め、しかも円借款を前提としたインフラ整備に重きを置いていたため、日本企業のひも付き支援という批判の声も出た。こうした点を受け、政府はアフリカや中南米への支援を増やすと共に、専門家派遣や研修員の受け入れを含むソフト面の技術協力を強化するなど質的な転換も図った。2003年には、国際協力機構(JICA)を独立行政法人として発足させ、「現場主義」「人間の安全保障」「効果・効率性、迅速性」の3点を強化した。JICAを統括する外務省は「平成30年度開発協力重点方針」で、国際社会の平和と安定、持続可能な開発目標(SDGs)の達成、人間の安全保障(テロ支援対策)などを前面に打ち出している。ただし、拠出額は1990年代後半をピークに減少しており、2016年は米国、ドイツ、英国に次ぐ4位に後退している。
日本は中国にも、日中平和友好条約の発効翌年の1979年から約40年間にわたり、円借款を含めて総額約3兆6500億円の援助を行ってきた。2018年の案件を最後に終了したが、習近平(シー・チンピン)国家主席は中国の経済成長を支えた巨額の支援を高く評価し、中国の国内メディアも日本の貢献を積極的に報じた。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2018年)

政府開発援助

開発途上国の経済・社会の発展や福祉の向上を支援するために、政府が行う資金や技術面での援助。日本の援助は、(1)最近では中南米、アフリカ、旧共産圏向けも活発化してきたが、主に中国やインドネシアなどのアジア向けが中心、(2)従来は建設投資などいわゆる「箱物」中心だったが、経済政策支援などソフト面での支援も取り入れだした、(3)借款が多く、グラント・エレメント(援助総額に占める贈与比率)が低い、(4)国の経済規模(国民所得)に比べ援助額が低い、といった点が特徴。日本は世界最大の援助大国だったが、国内の財政事情悪化で援助予算(ドルベース)は逓減、2001年には米国に抜かれた。そこで、国力にふさわしい責任を果たし、国際社会の信頼を得るために新たな課題に取り組むとし、03年8月に「新ODA大綱」を決めた。重点課題は、(1)テロなどの不安定要因を取り除くためにも貧困を削減、(2)貿易・投資・人的交流を活性化し、途上国の持続的成長を支援、(3)温暖化やテロ、国際組織犯罪などの地球規模の問題への取り組み、(4)平和の構築。なお、政府一般会計ODA予算(円ベース)は1997年度をピークに漸減。2006年度以降の5年間も年2〜4%の削減方針(「骨太の方針2006」)。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

ODA

ODA

政府開発援助」のページをご覧ください。

ODA

政府開発援助」のページをご覧ください。

ファンダメンタルズ

ファンダメンタルズ

国際経済を安定させるために必要となる条件で、各国経済成長率、物価上昇率、国際収支などのマクロ的経済指標(経済の基礎的条件)をいう。為替レート変動相場制に移行して以来、これらの諸条件の各国間の格差を反映し、相対的な通貨価格(為替レート)が変動するようになった。各国間の基礎的条件の均衡が崩れる時に、為替レートの変動が大きくなり、国際経済の不安定さが増すことから、「為替レートの決定要因」として重視されている。1978年、ボンサミットでのカーター米大統領の発言から一般化。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

円高

円高

(安)とは、円の他国通貨に対する価値が高まる(低下する)こと。1973年に変動相場制に移行した後は、円に対する各国通貨は、経済成長率やインフレ率などの経済情勢に応じて価値が変動するようになった。85〜88年の大幅な円高は、日本の経常収支黒字、比較的高い経済成長率、低物価上昇率に加え、各国協調によるドル高是正のために起きた。円高の結果、輸出型産業が打撃を受け、日本では円高不況となる一方で、交易条件の改善により中間取引段階では利潤も発生した。また輸入物価の下落により国内物価の安定は続き、87〜90年度には内需主導型経済成長が実現した。その後、93年7月には1ドル=100円台、95年4月には80円割れとたびたび円高に見舞われたが、不況下の円高は景気回復を遅らせる一因になった。逆に2001年後半から02年前半の円安時には、円安効果として輸出増加や企業収益の改善がもたらされた。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

円安

円安

円高」のページをご覧ください。

市場開放政策

市場開放政策

経済政策において、雇用の確保等の立場から、特定の産業に優遇措置をとったり、特定の品目輸入規制を設けたりすることがある。これらは産業保護政策と呼ばれる。これに対し、保護や規制を撤廃し自由競争を尊重する立場が市場開放政策である。1980年代後半頃から増大した日本の巨額の貿易黒字は、産業保護政策をとっていた日本の輸入構造に起因する部分も大きいとの認識から、日本に対する諸外国の市場開放圧力は強まった。その代表ともいえる農産物は、88年に牛肉オレンジ、93年にコメなどが全面的に輸入自由化された半面、中国産農産物に対するセーフガード(緊急輸入制限)暫定発動の動きもあった(2001年)。他方、市場開放の要求はサービス分野にも拡大し、金融市場も「日本版金融ビッグバン」により、ほぼ全面開放された。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

日本商工会議所

日本商工会議所

1922年に商業会議所連合会を改編して誕生。54年に商工会議所法に基づき特別認可法人として改編された。全国の主要都市の商工会議所を会員とし、その意見を調整し代表する中央機関。主な事業内容は政府国会への建議と要望、異業種間交流や地域の活性化を推進するための調査研究、中小企業振興のための経営相談、各種技能検定など。会頭は岡村正・東芝会長。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

日商

日商

日本商工会議所」のページをご覧ください。

経済同友会

経済同友会

1946年、日本経済の再建のため、若手経営者を中心につくられた経営者団体。企業経営者及び経済団体役員が、個人の資格で加入するのが特徴。国内外の問題に対して国民経済的立場から意見を発表する。代表幹事は桜井正光・リコー会長。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

日銀政策委員会

日銀政策委員会

日銀政策委員会は、日本銀行内に置かれた日銀政策の意思決定機関。金融政策決定会合は日銀政策委員が金融政策を決定する会議で、原則毎月2回開催される。(1)公定歩合、(2)準備預金制度の準備率、(3)金融市場調節の方針、(4)金融政策判断の基礎となる経済・金融情勢、などを討議する。どちらの会議も運営や組織はほぼ共通しており、会議における決定内容は直ちに公表される。委員は総裁、副総裁2人、審議委員6人の計9人で組織され、会議の議長互選。会議は議長が出席しかつ委員の3分の2以上の出席で成立し、議案は出席委員の過半数をもって決定される。政府からは財務大臣及び経済政策担当大臣(または指名された代理)が必要に応じ出席、議案の提出や意見を述べることはできるが、議決権はない。1997年の日本銀行法改正により、委員会の権限は大幅に強化され、独立性の確保と透明性の向上を目指して運営されている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

日銀政策審議委員会

日銀政策審議委員会

日銀政策委員会」のページをご覧ください。

金融政策決定会合

金融政策決定会合

日銀政策委員会」のページをご覧ください。

日本経済団体連合会

日本経済団体連合会

2002年5月28日、経済・産業政策を主軸に活動した経団連(経済団体連合会、「財界の総本山」とも呼ばれた)と、労使関係・賃金問題を担当した日経連(日本経営者団体連盟、通称「財界の労務部」)が統合、設立された総合経済団体、社団法人。設立総会では、「両者が培ってきた経験とネットワークの統合により、政策提言能力と実行力を一層高め、労働問題を含め経済界が直面する諸問題の迅速かつ着実な解決を目指す」とし、(1)経営改革を進める、(2)新たな事業、雇用機会を創造する、(3)国・地方を通じた簡素で効率的な政府を実現する、(4)地球環境問題の解決に取り組む、(5)対外経済政策を戦略的に推進する、(6)政治と経済界の新たな関係を確立することを決議した。役員は御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)、ほか副会長15人など。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

日本経団連

日本経団連

日本経済団体連合会」のページをご覧ください。

景気変動

景気変動

経済活動には波があり、経済は規則的に拡張と縮小あるいは回復→好況後退不況→回復を繰り返していることが、過去のデータを分析した結果、明らかにされた。景気循環とは、この繰り返しの状況をいう。各種の循環(波動)は発見した学者の名前を取って呼ばれるが、最長のものはコンドラチェフの波といい、周期は50〜60年。波動の原因は戦争という説もあるが、技術革新とも関連付けられている。次の長期波動は米国の国民所得の分析から得られた周期20年前後のクズネッツの波である。さらにその後、リッグルマンは建築活動を分析し、周期17〜18年の波動(建築循環)を発見した。周期10年程度の中期波動はジュグラーの波で、設備投資の変動によって引き起こされることから設備循環ともいわれる。最短の波は在庫変動(在庫循環)で、周期40カ月程度のキチンの波である。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

景気循環

景気循環

景気変動」のページをご覧ください。

在庫調整

在庫調整

企業が景気変動に対応して、手持ちの在庫量を調整すること。企業は生産にあたっての原材料や仕掛品や製品(生産者在庫)、流通段階での商品(流通在庫)を在庫に持つ。企業は自らの生産・販売計画に応じて在庫を保有するが、現実の売り上げが計画を下回る場合には在庫が過剰(意図せざる在庫)になり、在庫減らし(=在庫調整)が必要になる。在庫調整は出荷を増やすか、生産を減らすかで行われ、その結果、経済は縮小局面入りの可能性がある。近年POSシステムなどによる在庫管理技術が進み、在庫変動の振幅は小さくなった。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

ストック調整

ストック調整

企業の資本(建築物・生産設備)や在庫、家計耐久消費財などのストック量を適正な水準に修正していくこと。具体的には資本ストック調整や在庫調整といわれ、景気循環の原因になると考えられている。例えば、景気が上昇局面にあり、将来需要の増加が見込まれれば、企業は需要増に対応し、生産設備を増やし、供給力の増強を図る。しかし後退期を迎え、期待ほど需要が伸びなくなると、ストックが過剰になり、ストックの調整が始まる。バブル期に行われた設備投資で増加した資本ストックは、バブル崩壊と共に過剰感が増し、ストック調整に長時間要することになった。1999年版「経済白書」で、バブル崩壊後の長期化した不況の原因として分析された「3つの過剰」の1つ「設備過剰」は、資本ストックの過剰を指す。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

景気指標

景気指標

経済統計の中で、景気の動きを敏感に示すデータやそれらの合成で作成された指標。景気に先駆けて動意を示す先行指標、景気と同時に動く一致指標、景気にれて動き出す遅行指標がある。代表的な指標は内閣府が毎月作成・公表する景気動向指数(DI:Diffusion Index)。DIはNBER(全米経済分析研究所)で研究・開発されたものにならっており、通貨供給量(M2+CD)などの12系列から成る先行指数、鉱工業生産指数など11系列から成る一致指数、完全失業率などの7系列から成る遅行指数から成り立つ。それぞれの系列は、3カ月前に比べて好転した(プラス)か悪化した(マイナス)かで算出され、指標に占めるプラス系列の割合を割り出し、それが50%を超えたかどうかで景気の良しあしを判断する。ただしDIの動きでは景気の拡張・後退は判断できるが、その強さや速さは測れない。そこで各指標の変化の度合いをも加味し、作成されたのが景気総合指数(CI:Composite Index)。なおDIは、1960年8月から公表されており、おおむね景気が一循環するごとにその採用系列の見直し・改訂がなされ、精度の維持・向上が図られている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

景気予測

景気予測

数カ月から2年程度の先行きを予測する短期経済予測をいうことが多い。一般に経済予測の手法としては計量経済モデルによる方法と段階的接近法がある。段階的接近法は消費・民間設備投資・住宅投資等といった各項目を予測し、それを積み上げ、GDPなどの全体を計算し、その結果を基に各項目を見直し、再度全体像を描く。この作業を一定の姿に収れんするまで繰り返し行う予測手法である。他方、計量モデルは因果関係を持つ経済行動の関係を、過去の統計を用い定量化した関係式の連立体系。その体系に新しいデータや政策変数などの外生変数の前提条件を与えて行う手法が計量モデル予測である。なお、毎年12月に発表される政府経済見通しは、内閣府を中心に他省庁との意見調整によって作成され閣議で決定される次年度についての経済予測であり、次年度の予算作成に用いられる。同時に、政府の経済運営の指針となるため、一種の政策目標としての性格が強い。特に財政政策は税収見通しや公共投資額の決定という点で、政府経済見通しを基礎としている。民間の行う経済予測とは性格を異にする点に、注意しなければならない。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

景気基準日付

景気基準日付

景気が後退局面から拡張局面に変わる時を景気の谷あるいは景気の(trough)、拡張局面から後退局面に変わる時を景気の山(peak)という。景気基準日付とは山と谷が確定された日付のこと。景気動向指数研究会が景気動向指数の中期的な動きを確認、その他の経済指標も考慮し、学術的見地からの検討を加え、判定する。第13循環は、1999年1月(谷)から2000年11月(山)までの拡張期21カ月、それから02年1月(谷)までの後退期14カ月で、全循環は36カ月。第13循環の拡張期22カ月は第8循環の拡張期(1975年3月から77年1月まで)と並び最短である。07年7月現在は第14循環の拡張期に位置し、06年11月には戦後最長の「いざなぎ景気(57カ月)」を超えた。なお、景気動向指数研究会の前身は、旧経済企画庁調査局長の諮問委員会として発足した景気基準日付検討委員会である。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

日銀短観

日銀短観

日本銀行が年に4回(2月、5月、8月、11月)行う企業へのアンケート調査結果をまとめた企業短期経済観測調査の通称。上場企業を対象にした主要企業短期経済観測調査とそれに中堅企業・中小企業を加えた全国企業短期経済観測調査から成る。調査内容は企業の業況判断、製品需給・在庫・価格判断、売上・収益計画、設備投資計画、雇用、企業金融など。景気動向を判断するうえで、有用な資料とされる。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

短観

短観

日銀短観」のページをご覧ください。

QE

QE

GDP推計の速報値で、経済情勢を判断する重要な指標の1つである。四半期ごとに、当該四半期終了2カ月半後に内閣府が公表する。早期に発表されたデータや支出面の限られたデータに基づき推計されるために、より多面にわたるデータで計算される確報値とは大きく異なることもある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

四半期国民所得統計速報

四半期国民所得統計速報

QE」のページをご覧ください。

景気ウオッチャー調査

景気ウオッチャー調査

既存統計による景気動向把握を補完する目的で、経済企画庁(現・内閣府)が2000年1月から開始したヒアリング調査。全国2050人の景気ウオッチャーの景気判断(今月の景気はよいか悪いか、3カ月前に比べ景気はよくなっているか悪くなっているか、など)に基づき作成される。景気ウオッチャーとは当局から委嘱された百貨店の売り場主任、ホテルのスタッフ、タクシー運転手など、景気に敏感な現場で働く人々。調査結果は毎月翌月の8日頃に発表される。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

インフレーション

インフレーション

物価が上昇している状態。特に継続的に上昇し続けたり、上昇率が加速している状況をいう。インフレの原因により、デマンドプル・インフレ(demand‐pull inflation)とコストプッシュ・インフレ(cost‐push inflation)に分けられる。デマンドプル・インフレは総需要が総供給を超過することで生じる物価上昇で需要インフレ(または売り手インフレ)ともいう。この場合は、景気の状況はおおむね良好であり、インフレを抑えるために、財政支出の抑制や金融引き締めなどの総需要抑制策がとられる。要因となった需要により、消費インフレ、投資インフレ、財政インフレということもある。特定の限定された物や部門の需給が隘路(あいろ)となって物価上昇を引き起こす場合を、ボトルネック・インフレという。コストプッシュ・インフレは生産や販売に関わる費用が上昇し、その上昇が製品に転嫁されることで発生する物価上昇をいう。賃金上昇がもたらす賃金インフレ、円安や原燃料価格の上昇による輸入コストがもたらすインフレが代表的である。この場合のインフレは、政策対応が難しく、抑制に時間がかかることが多い。また物価上昇の度合いなどにより、クリーピング・インフレ(物価の下方硬直性で継続的に2〜3%の上昇が続く、忍び寄るインフレ)、ギャロップ・インフレ(年率数%ないしは数十%の物価騰貴、駆け足インフレ)、ハイパー・インフレ(超インフレの状況で、天文学的な貨幣価値の下落を引き起こす)などともいわれる。また、インフレの原因が国内要因にある場合の国内インフレ(ホームメード・インフレ)と、海外からもたらされる場合の輸入インフレとに区別することもある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

インフレ

インフレ

インフレーション」のページをご覧ください。

資産インフレ

資産インフレ

地価株価、貴金属などの資産価格が、上昇する状況を資産インフレという。投機により資産インフレが高進、適正価格から大きくかけ離れたときに生じるのがバブル(泡)であり、一般に「資産価格と適正価格との乖離(かいり)分」とされる。バブルは投機熱が収まると弾け、姿はもと(適正価格)に戻る。1985年のプラザ合意後の急激な円高の下で、金融は超緩和となり、これによる潤沢な資金はより有利な投資先を求め、土地や株に向けられた。結果、地価や株価は急騰し、85年初から89年末にかけて、それぞれ2.9倍(東京圏商業地の公示価格)、3.4倍(日経平均)となった。資産価格の急騰を反映し、資産格差(「資産を持てる者」と「持たざる者」の富の格差)も話題となった。当時の経済状況をバブル経済とも呼ぶ。地価高騰に対処すべく大蔵省(現・財務省)は90年3月に「土地関連融資の抑制」(銀行局長通達)を発出、金融機関に土地融資関連の厳正化を要請した。通達では具体的に、(1)不動産向けの融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑制する総量規制と、(2)不動産業、建設業、ノンバンクの3業種向け融資実績の報告を、金融機関に求めた。この総量規制実施には批判もあったが、バブル崩壊の引き金になったとする見解も多い。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

バブル経済

バブル経済

資産インフレ」のページをご覧ください。

インフレ・ヘッジ

インフレ・ヘッジ

物価上昇(インフレ)による保有資産の目減り(減価)を回避する手段。具体的には、一般に現金や預貯金公社債などはインフレに弱く、不動産や株式、金などは長期的にはインフレに伴って値上がりするのでインフレに強いとされるが、そうしたインフレに抵抗力があるとされる資産に投資することをいう。しかし実際はインフレの原因や状況によっては、資産価格の上昇がインフレを吸収できないことも多い。例えば、オイルショック以前の米国のインフレはコストプッシュによるものであった。そのため、コスト上昇が企業収益を圧迫し、株価も不振を強いられたため、必ずしもインフレを吸収できなかった。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

インフレ・ターゲット

インフレ・ターゲット

物価下落と不況のデフレ・スパイラルを断ち切るために、一定の物価上昇率を目標とし、その目標を達成するまで金融を緩和するというのが、日本のインフレ目標(インフレ・ターゲット)。英国やオーストラリアなどでもインフレ目標を導入しているが、いずれもインフレ抑制のためで、デフレ対応として導入している国はない。日本で論議されているインフレ目標値は、消費者物価上昇率で0〜4%。導入主張派は政府や自民党内(「日銀法改正研究会」)にも多いが、小泉首相は否定的であった。肯定派は、インフレ目標値の導入でインフレ期待が起き、買い急ぎや設備投資の前倒し(将来値上がりする可能性があれば、手当てを急ぐ行動)が起こることを期待している。日銀は否定的な立場を貫いている。過去の経験からすると、インフレになるまで貨幣供給量を増やし続ければ、デフレからは脱却が可能だろうが、一度発生したインフレを抑えることは難しい。インフレ目標を導入し、人為的にインフレを起こした場合に、物価だけが上昇し景気が回復しない(失業率が下がらない)、というスタグフレーション(stagflation)を心配する見方もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

デフレーション

デフレーション

インフレとは逆に、物価下落する状況がデフレで、その要因は需給関係の悪化(不況)であることが多い。また物価下落と景気後退(リセッション=需要減退)が相互に繰り返される状態をデフレ・スパイラルという。すなわち、物価が下落しているにもかかわらず、消費や投資などの需要が回復せず、物価下落→売上減少・所得減少→需要減少→物価下落の悪循環に陥った状況をいう。日本では1997年後半から、物価の低下傾向を伴う不況が本格化、デフレ傾向が強まり、さらに98年にはデフレ・スパイラル危機の懸念にさらされた。この懸念を払拭し、景気を回復軌道に乗せるために、政府は98年に、二度の経済対策(4月と11月)を打ち出す一方、99年2月にはゼロ金利政策を実施。政策は奏功し、99年春から夏にかけては日本経済が最悪の状態から脱却できたと認識されるようになったが、それは一時的なものであった。2001年に再び景況が悪化するにつれ、デフレ傾向は強まりを見せた。02年初めには景気は好転。景気が拡張するに伴いバブルの遺産である「3つの過剰」は解消されたが、07年10月1日現在、政府はデフレ脱却という判断をしていない。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

デフレ

デフレ

デフレーション」のページをご覧ください。

デフレ・スパイラル

デフレ・スパイラル

デフレーション」のページをご覧ください。

消費者物価指数

消費者物価指数

代表的な物価指数の1つで、消費者が購入する商品やサービス価格を総合した物価指数。基準時の全国消費者世帯の消費支出でウエート付けされ、総務省統計局がラスパイレス方式で算出し公表する。5年ごとに採用品目やウエートが改定され基準時も変更される(2006年8月発表分から基準年を00年から05年に変更)。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

CPI

CPI

大量破壊兵器拡散対抗構想」のページをご覧ください。

CPI

消費者物価指数」のページをご覧ください。

企業物価指数

企業物価指数

企業間で取引される商品の価格を反映した物価指数で、従来の卸売物価指数に相当。2003年1月発表の00年基準の指数から採用され、日本銀行がラスパイレス方式で算出し公表する。公表日は、速報値が翌月の第8営業日で、確報値は翌々月の同日。国内企業物価指数(910品目)、輸出物価指数(222品目)、輸入物価指数(293品目)から成る。基準改定は5年ごと。また、携帯電話、電子計算機、集積回路など価格変動の激しい商品に対応し、毎年ウエートを更新する「連鎖方式による国内企業物価指数(連鎖指数)」も参考指数として公表される.

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

CGPI

CGPI

企業物価指数」のページをご覧ください。

物価指数の算出方式

物価指数の算出方式

物価指数や生産指数などの総合指数を計算する代表的な算出方式にパーシェ方式(Paasche formula)とラスパイレス方式(Laspeyres formula)がある。ラスパイレス方式での指数は、価格変動に基準時点の固定数量でウエート付けし、計算する。計算方法は比較的容易だが、固定ウエートを用いるために経済構造の変化をうまく反映できなくなるきらいがある。この方式で算出されている消費者物価指数や企業物価指数では、5年ごとに採用品目やウエートを改定し、この欠点を補っている。一方、パーシェ方式でのウエートは比較時の金額で行われるために経済構造の変化をよりよく反映するが、比較時における数量も把握しなければならず、算出に要する作業量が増える。このため利用頻度は多くない。国民経済計算で使われるデフレーターはパーシェ方式の考え方に基づく。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

デフレーター

デフレーター

国民所得統計の名目値(時価表示)を実質値(不変価格表示)に換算するのに用いられる物価指数で、パーシェ型指数で計算される。一般的に、GDPデフレーターが用いられることが多い。GDPデフレーターは、消費や投資など需要項目ごとに実質値を求め、その合計(=実質GDP)で名目GDPを除したもの。例えば、需要項目が2つの品目から成り立つと仮定し、それぞれの品目の名目値をX1、X2、それぞれのデフレーターをP1、P2とすると、この需要項目の名目値(X)はX1+X2、実質値(XR)はX1/P1+X2/P2となる。全体のデフレーター(P)はX/XRで計算され、P1とP2から直接的に求められるのではない。このことから、全体のデフレーターをインプリシット(暗示的)・デフレーターということもある。全般的な物価水準を表すGDPデフレーターは、1998年度以降マイナスを続けており、デフレ経済の象徴の1つ。なお、国内の物価水準の判断には、GDPデフレーターよりも、原油や一次産品価格など価格の変動が激しい輸出入物価の影響を除いた国内需要デフレーターの方が適当な指標であるとする見方もある。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

内外価格差

内外価格差

同一の・サービスにおける国内価格と円換算した海外価格との格差。海外価格は、為替市場で決定された通貨の交換レートで換算される。従って、円高が進むと円建ての海外価格は下落し、内外価格差は拡大する。1985年のプラザ合意後の急速な円高以降注目されるようになった。経済企画庁(現・内閣府)では88年から生計費の内外価格差調査を実施。同調査によると、88〜98年までの調査期間で、東京とニューヨークとの価格差が最大となったのは、年平均の為替レートが最も円高(1ドル=94円)となった95年で、東京の生計費はニューヨークの1.52倍。その後、円安を反映して、98年には1.08倍まで格差は縮小した。経済企画庁の「物価レポート'99」では、「内外価格差の是正には、規制緩和により、国内の競争を促進することで、国内価格を引き下げ、購買力平価を改善していくことが重要である」としている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

国際商品価格指数

国際商品価格指数

国際的に流通し需給関係(特に供給要因)で価格が大きく変動する商品の価格動向を、総合的に表すために開発された価格指数。対象商品は穀物畜産物非鉄金属など。英国のロイター通信社が開発したロイター指数米国のCRB指数(コモディティー・リサーチ・ビューロー社による先物価格指数)が有名。また、日本での国内価格動向については、一般的に日本経済新聞社の日経商品指数が利用されている。

(本庄真 大和総研監査役 / 2007年)

デフレ脱却

デフレ脱却

景気は、2006年7月には戦後最長の「いざなぎ景気(57カ月)」を超え、現在(07年10月)も引き続き拡大基調にある。実質経済成長率が03年度以降プラスを続ける一方、デフレーター(物価)は下落傾向が続いている。経済はデフレ状態が続いているということだ。結果、06年度の経済規模(名目GDP)は510兆3064億円で10年前(1997年度)の水準(513兆3064億円)には達していない。 06年3月の参議院予算委員会で政府はデフレ脱却の定義と判断を示した。これによれば「デフレ脱却とは、継続的に物価が下落していく状況を抜け、再度そのような状況に陥らないと見通せること」と定義し、「経済・財政政策、経済分析を担当する内閣府が、関係省庁と相談の上、足元の物価動向だけではなく、いろいろな指標、経済情勢等から総合的に判断する」とした。 この基準を踏まえた議論の中、06年央には、06年1-3月期(速報値)の実質GDPが5期連続のプラス、国内需要デフレーターが前年比プラスになったことから、民間エコノミストの間では「デフレ脱却は射程圏、06年内にも」とする見方も出ていた。「デフレ脱却宣言を小泉首相退任の花道」とする見方も有力だった。しかし最終的にそうした政治的判断は避けられ、次期政権以降に委ねられた。 小泉首相を引き継いだ安倍首相は健康問題を理由に辞任、07年9月に福田内閣が立ち上がった。衆・参両議院でのねじれ国会で政策運営に混迷さが増す中、07年後半の経済指標には景況感の悪化も見え出した(例えば、景気ウオッチャー調査)。原油価格や農産物価格は高騰・高止まりし、国内の製品価格にも影響が出始めた。物価は上昇、景気は悪化という最悪シナリオの可能性はあるのだろうか。デフレ脱却をせずに戦後最長の景気拡大は終わるのだろうか。

(本庄真 大和総研監査役 / 2008年)

アジア通貨協力

アジア通貨協力

元来、アジアの通貨協定は二国間で締結されていたが、2004年5月のASEAN+3財務相会議で、日本の谷垣財務相が、通貨危機に備えて、多国間で介入資金を融通する仕組みを提唱した。これは1997年の通貨危機に際して浮上したアジア通貨基金(AMF)構想にも通じる。当時は、危機に直面した諸国から日本の積極的な役割に期待が高まったが、米国がこの構想に反対し、中国も冷淡であった。しかし00年のチェンマイ・イニシアチブで二国間通貨スワップを整備することが合意され、その後、外貨融通枠の倍増や、意思決定手続きの簡素化なども取り組まれてきた。日本にとってアジア諸国との貿易は全体の半分近くを占めるので、域内の為替安定は重要性を増している。中国は、東南アジアとの自由貿易協定交渉に熱意を見せているので、国際金融協調にも前向きになってきている。アジア債券市場を育成する試みもこの通貨協力の一環であり、すでに日中韓とASEAN諸国の間で動き出している。また06年5月のASEAN+3財務相会議では、新たに地域通貨単位の創設を検討することも合意された。とはいえ欧州でユーロが誕生した経過に比べると、アジアの通貨協力にはまだ多くの経済的、政治的な障害が残されている。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

経済連携協定

経済連携協定

外国との間において、貿易の自由化のみならず経済関係全般の広い分野にわたり連携を強化することを目的とした協定。略称はEPA。財・サービス貿易の自由化のみならず、資本や人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど、国際取引を円滑に行うとともに、市場制度など経済制度の調和をはかり、経済活動の一体化のための取り組みを含む。
EPAは締約国間において、貿易に関わる関税やサービス貿易の障壁などを削減もしくは撤廃し、貿易を自由化することを目的とした自由貿易協定(FTA)の内容に加えて、国際間投資や労働力の移動、政府調達や経済協力などについて、広く経済全般の連携を深め、相互関係の発展を目指す。このため、EPA/FTAと並べて表記されることもあるが、EPAはFTAを内包する概念といえる。日本は、シンガポールメキシコなど各国と個別にEPAを締結し、これとは別に東南アジア諸国連合(ASEAN)との包括的経済連携協定も結んでいる。2012年4月までには、13カ国・地域とのEPAが発効。2013年現在、10カ国・地域と交渉が行われている。なお、輸出入を行う際の関税は世界貿易機関(WTO)で定められた加盟国共通の関税率(MFN税率)が適用される。しかし、EPA締結国間では、原産地規則などの条件を満たす産品については、MFN税率よりも低い特恵関税の適用を受けられる。
環太平洋経済連携協定(TPP)もEPAの一つであり、日本政府は交渉参加を表明している。また、欧州連合(EU)との間では、協定の範囲や目標などを定める「スコーピング」の作業を終え、13年10月の第3回EPA交渉会合では、チーズやワインなど加工食品に日本がかける輸入関税を撤廃する見返りとして、自動車部品の輸入関税を直ちに撤廃するという案がEU側から示された。これを受ければ痛手となる農業などの生産者団体と、自動車関連など輸出産業とは利害が相克する。TPP交渉及び日・EUのEPA交渉は貿易高が巨額であり、内容も相互に影響する。今後これらについて、国内での対応と調整も大きな課題となっている。

(金谷俊秀 ライター / 2013年)

経済連携協定

自由貿易協定(FTA)が財・サービス貿易の自由化を目指すのに対し、経済連携協定は、FTAを軸にしながら、より広範な分野での連携に狙いがある。具体的には、人(労働力)やカネ(資本)などの移動に関しても制限を撤廃し、併せて知的財産権や競争政策に関するルール作りや、経済制度の調和、紛争処理手続きなども視野に入れている。中国や韓国がASEAN諸国とのFTA交渉で先行しているのに対し、日本は立ち遅れ感が否めず、経済界から不満が募っていた。その最大の原因は、日本国内に農産物の輸入自由化への抵抗が強いことである。そこで日本政府は、単なるFTAではなく、相互に対等な立場で連携する意味を込めたEPAで、交渉の立ち遅れを取り戻そうとしてきた。EPAは、看護師、介護士など特殊技能を持った労働力の移動や、相手国への農業技術協力を促進することも含むので、FTAよりも相互に受け入れやすいということもある。日本は2002年11月のシンガポール、05年4月のメキシコに続き、同年末にはフィリピンマレーシア、タイとも、EPAの基本合意に達した。さらに経済産業省は06年に入って、オーストラリア、インド、中国、韓国とASEAN10カ国にまで枠組みを広げた「東アジアEPA」構想や、アジア版OECD(経済協力開発機構)を提唱している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

経済連携協定

自由貿易協定」のページをご覧ください。

経済連携協定

自由貿易協定」のページをご覧ください。

EPA

EPA

外国との間において、貿易の自由化のみならず経済関係全般の広い分野にわたり連携を強化することを目的とした協定略称はEPA。財・サービス貿易の自由化のみならず、資本や人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど、国際取引を円滑に行うとともに、市場制度など経済制度の調和をはかり、経済活動の一体化のための取り組みを含む。
EPAは締約国間において、貿易に関わる関税やサービス貿易の障壁などを削減もしくは撤廃し、貿易を自由化することを目的とした自由貿易協定(FTA)の内容に加えて、国際間投資や労働力の移動、政府調達や経済協力などについて、広く経済全般の連携を深め、相互関係の発展を目指す。このため、EPA/FTAと並べて表記されることもあるが、EPAはFTAを内包する概念といえる。日本は、シンガポールメキシコなど各国と個別にEPAを締結し、これとは別に東南アジア諸国連合(ASEAN)との包括的経済連携協定も結んでいる。2012年4月までには、13カ国・地域とのEPAが発効。2013年現在、10カ国・地域と交渉が行われている。なお、輸出入を行う際の関税は世界貿易機関(WTO)で定められた加盟国共通の関税率(MFN税率)が適用される。しかし、EPA締結国間では、原産地規則などの条件を満たす産品については、MFN税率よりも低い特恵関税の適用を受けられる。
環太平洋経済連携協定(TPP)もEPAの一つであり、日本政府は交渉参加を表明している。また、欧州連合(EU)との間では、協定の範囲や目標などを定める「スコーピング」の作業を終え、13年10月の第3回EPA交渉会合では、チーズやワインなど加工食品に日本がかける輸入関税を撤廃する見返りとして、自動車部品の輸入関税を直ちに撤廃するという案がEU側から示された。これを受ければ痛手となる農業などの生産者団体と、自動車関連など輸出産業とは利害が相克する。TPP交渉及び日・EUのEPA交渉は貿易高が巨額であり、内容も相互に影響する。今後これらについて、国内での対応と調整も大きな課題となっている。

(金谷俊秀 ライター / 2013年)

EPA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

EPA

経済連携協定」のページをご覧ください。

EPA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

国際資本移動

国際資本移動

資本移動に制限がなければ、国際的な貯蓄の過不足は調整される。その結果、資本不足の国は経済開発が促進され、資本余剰国には投資収をもたらす。1970年代後半から、NICSNIESと呼ばれた諸国は積極的に外資を導入して、輸出志向型の工業化を進めた。資本移動は、直接投資や株式、債券などへの証券投資から、短期の預金や貿易金融など様々な形をとる。借り入れ国にとっては、短期資本は「逃げ足」が早く、経済安定を脅かす要因になりがちであり、直接投資など長期投資受け入れの方が有利であるが、70年代までは多国籍企業に対する警戒感が強かった。97年のアジア通貨危機では、改めて短期資本移動規制に注目が集まった。具体的には、税率や預金準備率を操作して取引費用を高くする間接的手法と、取引そのものを直接制限する方法とがある。チリが91年から導入した間接的手法にはIMFや各国の監督当局も好意的な反応を示したが、マレーシアが98年9月に導入した直接的規制には否定的な意見が強かった。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

国際金融取引の自由化

国際金融取引の自由化

1944年のIMF協定では、経常取引に関して為替取引の自由化を目標にしていたが、資本取引にまで適用することは見送られていた。ところが80年代に国際資本取引に対する為替管理が相次いで撤廃され、この措置が「自由化」を制度的に保障することになった。英国は79年に居住者の為替管理を撤廃し、日本は80年の外国為替管理法の改正で「原則禁止」から「原則自由」になった。こうした変化はブレトン・ウッズ体制、それに続くスミソニアン体制のような固定相場制が崩れ、資本移動規制する必要性がなくなったことに基本的な原因がある。73年の変動相場制への移行からやや時間がかかったのは、その間に2度の石油危機があったことによる。ただ、変動相場制に移行したといっても、しばしば相場を一定水準に安定させること(管理変動相場制)が図られ、外国為替市場への介入と併せて、国際金融取引に規制が課せられることも少なくない。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

構造調整政策

構造調整政策

途上国がIMFや世界銀行から金融支援を受ける前提として要求される政策勧告。マクロ経済を安定させ、国営企業の民営化、金融の自由化、規制緩和などを通じて市場機能を整備することを内容とする。1980年代に中南米債務危機をきっかけにして広く採用された。70年代初頭に固定相場制が崩れると、IMFにとってブレトン・ウッズ体制を監視する役割はなくなった。さらに先進諸国の通貨当局が民間市場でも容易に資金調達できるようになると、IMFは途上国への融資にいっそう傾斜するようになった。そうなると、世界銀行の機能と区別があいまいになるので、IMFは独自性を発揮するために、政策勧告に重点を置くようになった。従来からIMFが短期融資を行う際に要求する条件(コンディショナリティー)はあったが、それよりもミクロ次元の政策に重点がある。90年代に頻発した途上国の通貨危機東欧の移行経済諸国の再建に、しばしば適用されている。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

ワシントン・コンセンサス

ワシントン・コンセンサス

新古典派経済学の理論共通基盤として、米政府やIMF、世界銀行などの国際機関が発展途上国へ勧告する政策の総称。構造調整政策もその1つである。米財務省や上記の国際機関、さらに著名なシンクタンクが米国の首都にあることから名付けられた。市場原理を重視するところに特徴がある。貿易、投資の自由化、公的部門の民営化、政府介入を極小化すること、通貨危機に対しては財政緊縮、金融引き締めを提言する。クリントン政権のルービンなど米国政府の財務長官に金融界出身者が多いことから、米系金融機関の利益を図る路線になりやすいともいわれる。アジア通貨危機では、各国に緊縮政策などを求めたIMFの勧告がかえって社会的混乱を助長したとの批判が強まった。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

通貨危機

通貨危機

1997〜98年に東アジアを襲った通貨危機が有名であるが、同じような状況が94〜95年のメキシコに、また92〜93年には通貨統合を目指していた西欧諸国にも発生した。さらにさかのぼると、ブレトン・ウッズ体制下のポンドフランの相次ぐ切り下げも同じ性格を持つ。固定相場制の維持に不信が生じると、通貨切り下げを予想した資本逃避が増加し、通貨当局は外貨準備急減に直面する。そこで現実に、切り下げに追い込まれるという経過をたどる。アジアやメキシコの通貨危機は、対ドル為替相場の固定化が背景にあった。固定相場の水準実勢よりも高すぎると起こりやすいが、必ずしもマクロ経済状況から説明できない時にも起こる。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

サミット

サミット

第1回はジスカールデスタン仏大統領の提唱で、1975年にパリ郊外のランブイエで開かれた。当初は米、英、仏、西独、イタリアに日本を加えた6カ国であったが、第2回からカナダ、第3回からEC委員会、97年以降はロシアも参加するようになった。第1回は石油危機後の世界経済の安定が課題であったように、初期には経済政策の協調が中心的な議題であった。ソ連の崩壊後はロシアを交えて「政治サミット」の性格が強まり、地域紛争問題も大きな比重を占めるようになった。しかし国連に代わる大国の首脳外交には批判があり、年1回の限られた時間では緊急事態に対応できないという限界も指摘される。2002年のサミットでは、ロシアが正式に対等な立場で参加を認められ、06年のサンクトペテルブルク・サミットでは初めて議長国を務めた。なお、米、英、仏、独、イタリア、日本、カナダにロシアを加えた8カ国をG8と呼ぶ。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

主要国首脳会議

主要国首脳会議

サミット」のページをご覧ください。

G7

G7

米国英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7カ国の財務相、中央銀行総裁が、年に数回集まり、為替相場やマクロ経済状況を討議する会議。起源は1973年4月ともいわれるが、同年9月のIMFナイロビ総会時から、カナダ、イタリアを除く5カ国(G5)が定期的に会合を持つようになったというもある。現行のメンバーは86年から定着した。85年9月にドル安誘導を図ったプラザ合意や、その後、87年2月にドル安に歯止めをかける狙いを持ったルーブル合意で、存在が注目を集めるようになった。IMFのような国際機関とは独自に、国際政策協調を討議し実行するので、会議に招かれない諸国からは、あまり好意的には見られていない。その点では、サミットに対する批判にも通じる。2005年以降は、人民元改革、原油高の影響などが話題に上っている。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議

主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議

G7」のページをご覧ください。

債務削減

債務削減

2005年6月のG8財務相会議で、アフリカ諸国など18カ国の国際機関向け債務を全額(約400億ドル)免除することで一致した。同年9月の世界銀行・IMFの合同開発委員会では、免除の総額が470億ドルに増額された。05年サミットの議長国であるイギリスは、「アフリカ支援」を目玉とし、アメリカの協力を取り付けた上で、100%の債務免除を主張した。日本、ドイツ、フランスは免除が債務国の「モラルハザード」を招くとして、慎重な姿勢をとってきたが、最終的には合意した。債務削減額の70%はG8が負担し、日本の負担額は米、英に次いで3番目に多い6000億円以上になる見通し。またイギリスは、主として対アフリカ支援を円滑にするために、国際開発資金調達制度(IFF:International Financing Facility)の創設を他国に呼びかけている。従来、先進諸国はパリクラブ(主要債権国会議)で債務の繰り延べを認めてきたが、1980年代後半から一部免除の方式が広がり、90年代後半からは削減率も拡大した。しかし国際機関分の全額免除は画期的である。日本は、アフリカ諸国向けのODAを今後3年間で倍増する計画を固めている。だが財政再建の圧力があることに加えて、アジアよりも疎遠なアフリカ地域へのODA増額には世論の支持はやや弱い。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

BRICs

BRICs

ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の頭文字をつなげた造語。4カ国は合計で世界人口の4割、国土面積の3割を占め、近年、急激な経済成長をとげている。2003年に米証券会社ゴールドマン・サックスがレポートで、急成長する「新興市場」という観点からこの語を用いて「2039年にはBRICsの経済規模は米日仏英伊の合計を抜く」と予測し、広く使われるようになった。もちろん4カ国にはそれぞれ構造的な問題があり、成長が単線的に持続するのか、予断を許さないが、BRICsの重要性は次の点にある。(1)長らく米欧日が主導してきた国際経済政策は、BRICs抜きでは機能しなくなり、G7サミットはロシアを加えG8となったのに加え、G8は、ここ数年BRICsおよび南アフリカ、メキシコなどを招き、協調によって政策の実効性を確保しようとしている。(2)BRICsは国際政治面でも影響力を増しており、ブラジルは南米で、インドは南アジアで、ロシアはユーラシアで、中国は東アジアで、それぞれ地域大国として重きをなし、欧米の優位、特に米国の一極支配からの自立性を高めようとしている。そこには多国間協調の必要が増すというプラス面があるが、他方、例えばパキスタンが地域大国インドに対抗して核兵器を開発するなど、核拡散、テロリストへの近代兵器や大量破壊兵器の拡散というマイナス面がある。(3)BRICsは4カ国に限らず1つの世界的潮流を示す点でも重要である。それは、米国の一極支配が行き詰まり、国際政治が多元化する傾向の代表例だからである。BRICs4カ国が構成する国際組織はないが、ロ中が基軸の上海協力機構にインドなどがオブザーバー参加するなど、BRICs相互間で連携を強め、米国を牽制する動きも模索されている。また南米でも、ベネズエラなどが自立的地域協力を追求している。(4)BRICsの経済的台頭は、米欧日に限らず、世界の飛躍的に多くの人々が豊かさを享受する時代の到来を示す。だが他方で、資源と環境面での制約は一層厳しくなる。例えば中国とインドのエネルギー需要が急増し、原油価格高騰の一因となっている。以上のようにBRICsは米欧日の先進国中心の世界経済秩序の多極化・多元化傾向と、地球的問題の拡散・深刻化という、世界的潮流を示している。

(遠藤誠治 成蹊大学教授 / 坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2008年)

BRICs

中国と、それに続いて成長軌道に乗った新興諸国を一括した呼称。ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)の頭文字を並べた新語で、米証券会社のゴールドマン・サックス社が2003年10月に投資家向けのリポートに使ったことから広まったといわれている。その点では、「新興市場」という言葉の起源と類似している。同リポートでは、この4カ国は02年の名目GDPを合計しても、米国の4分の1に過ぎないが、39年までに先進6カ国(米、日、独、仏、英、伊)の合計を上回るとした。インドはIT技術の強みを生かし、米企業からの業務委託を伸ばしてきた。ロシアは経済の好調を背景に、中国に続いてWTO加盟を目指している。しかし中国については、経済過熱からバブルの発生を指摘する声も少なからずあり、北京オリンピック、上海の万国博が終わった後に、安定成長に移行するかどうかは予断を許さない。また、インドでは、中国と同じように、経済成長から取り残された階層への対処が課題となっている。ロシアやブラジルは、アジア通貨危機の直後に、対外債務累積から通貨金融危機を経験したことがあり、楽観論に対して警戒論もある。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

ダボス会議

ダボス会議

世界経済フォーラムが毎年1月にスイス東部の保養地ダボスで開催する年次総会。同フォーラムはスイスの実業家で大学教授でもあったクラウス・シュワブの提唱で1971年に発足した。各国の競争力を指数化して公表し、グローバル化に対応した経営環境を推奨している。ダボス会議は世界を代表する政治家や実業家が一堂に会して討議するため、注目を集めてきた。2002年の第31回会議は、米国の同時多発テロ後の世界経済をテーマに、ニューヨークでの異例の開催となった。04年の会議では、米国に主導された世界経済の回復に楽観論が強くなったが、05年の会議では、貧困対策が議論焦点となり従来とは様変わりした。06年には中国が高成長を維持できるかどうかに関心が集中した。同年6月に東京で「アジア版」が開催されたのも、この関心が影響している。ダボス会議に対抗して、06年1月にベネズエラで「世界社会フォーラム」も開催され、グローバル化や戦争に反対する団体が集まった。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

北米自由貿易協定

北米自由貿易協定

米国カナダメキシコの3カ国間で締結された自由貿易協定。1989年に発効した米加自由貿易協定(USA‐Canada Free Trade Agreement)に、94年にメキシコが参加して現行の形となった。EU統合の進展、東アジアの経済発展に脅威を感じたクリントン米政権がメキシコ加盟に対する国内の根強い反対を押し切って成立させた。一方、メキシコでは累積債務問題をとりあえず解消させたサリナス大統領(当時)が、対外開放政策によって成長軌道の定着を望んでいた。この協定をきっかけに米国からメキシコへの投資が伸び、またメキシコから米国、カナダへの輸出が伸びた。米国とメキシコの国境地帯に設けられた輸出保税加工区(マキラドーラ)にアジア諸国や米国企業の工場が集中していたが、2000年11月に保税制度は廃止された。なお、米国は00年10月にヨルダン自由貿易協定を締結したのを始め、03年には6カ国目となるチリと合意、さらに04年5月に入って中米6カ国とCAFTA(中米自由貿易協定)を締結したが発効時期は未定。またメキシコは独自に00年7月、EUとの自由貿易協定を発効させた。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

北米自由貿易協定

1992年に北米地域の米国とカナダ、メキシコの3カ国が合意した自由貿易の協定。94年1月発足。人口約4億、国内総生産(GDP)の合計約14兆4000万ドルの市場形成。米国はこれを母体として南北アメリカ全域に自由貿易地域を拡大する方針。とはいえメキシコでは、米国の企業や製品が大量に流入し農業など国内経済を圧迫している、との不満がある。

(伊藤千尋 朝日新聞記者 / 2007年)

NAFTA

NAFTA

北米自由貿易協定」のページをご覧ください。

NAFTA

北米自由貿易協定」のページをご覧ください。

南米南部共同市場

南米南部共同市場

南米に共同市場を形成しようと1991年、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの4カ国がパラグアイのアスンシオンで調印、結成した。94年12月には4カ国首脳がブラジルのオーロプレットに集まり最終議定書に調印。これにより95年1月、域内関税の原則撤廃と域外共通関税を実施する関税同盟が発足。2006年7月にはベネズエラが正式加盟し、人口約2億6500万、国内総生産(GDP)の合計約1兆1400億ドルの自由貿易圏へと拡大した。チリボリビアペルーエクアドルコロンビアが準加盟国となった。03年にはアンデス・グループ(アンデス共同体)との間で、自由貿易協定を締結した。これで南米10カ国を網羅する自由貿易圏が生まれることになった。一方で、欧州連合(EU)とのFTA交渉は難航した。アルゼンチンの金融危機や加盟国間の不和も目立つが、米国を中心としたFTAAに対抗、南米独自の発言力の確保を狙う。04年7月にはメキシコも加盟の手続きに入り、05年5月には中東の湾岸諸国と自由貿易協定の締結に向けて交渉開始で合意するなど、南米の域外に拡大する勢いだ。07年5月にはメルコスール議会が発足し、政治統合への一歩を踏み出した。6月の首脳会議では加盟国内の格差の克服を目指す共同声明を採択した。

(伊藤千尋 朝日新聞記者 / 2008年)

南米南部共同市場

ブラジルとアルゼンチンが進めた構想に、ウルグアイ、パラグアイが加わり、アスンシオン条約(1991年3月)で基礎が据えられた。対外共通関税により域内で財、サービス、労働力の自由市場を目指す。95年1月に発足し、その後チリ、ボリビア、ペルー、ベネズエラ、エクアドル、コロンビアが準加盟国となった(ベネズエラは2006年7月に正式加盟)。発足当初はアルゼンチン、ブラジルがそれぞれ対ドル為替相場を安定させていたので、相互に貿易が順調に伸びた。しかし統合協定は為替相場の安定措置を含まないので、99年のブラジル通貨危機や、アルゼンチン経済危機などで通貨が切り下げられると、域内取引が混乱した。またブラジル、アルゼンチンの間で加盟国を拡大するか、統合を強化するかをめぐって意見が対立している。メルコスールはEUと自由貿易協定の交渉を開始し、2004年10月までに合意を目指していたが、具体的な進展はない。ブラジルは、ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、べネズエラが結成しているアンデス共同体(CAN)とメルコスールを連携させて、南米を包括した自由貿易地域を目指している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

メルコスール

メルコスール

南米南部共同市場」のページをご覧ください。

メルコスール

南米南部共同市場」のページをご覧ください。

米州自由貿易地域

米州自由貿易地域

南北アメリカ全域にまたがる自由貿易地域。1994年にキューバを除く米州34カ国の首脳が集まりマイアミで開催された第1回米州サミットさい、クリントン米大統領が提唱した。実現すれば総人口約8億、経済規模13兆ドル、推定貿易額3兆ドルの世界最大の自由貿易圏となる。90年にブッシュ(父)米大統領が「北はアラスカから南はフエゴ島まで」と提唱した米州活性化構想(EAI)が元にある。2001年の第3回米州サミットで、05年までに設立交渉を完了する方針を確認した。欧州や日本に対抗し西半球を網羅する経済ブロックの形成を狙ったものだ。その先鞭としてNAFTAが発足し、04年にはCAFTAも調印された。さらに米国はチリやコロンビアペルーと2国間の自由貿易協定の締結を進めた。しかし、ブラジルを中心とした南米諸国は米国主導の経済統合に反発し、メルコスールや南米国家共同体の形で南米独自の経済圏の創設に向かっている。このため、05年交渉完了の計画は頓挫した。

(伊藤千尋 朝日新聞記者 / 2007年)

米州自由貿易地域

NAFTAの自由貿易圏を南米、カリブ海諸国(キューバを除く)にまで拡大させる構想。起源は1990年に米国が中南米支援策として自由貿易地域を提唱したことにある。2001年4月にカナダのケベックで開かれた米州サミットで、05年末までにFTAAを創設することに合意した。実現すれば加盟34カ国、人口が8億人、GDPで12兆ドルという規模に達する。しかし、WTO(世界貿易機関)の多角主義と対立しかねない点に根強い懸念がある。ブッシュ大統領は、02年8月に一括交渉権限(ファストトラック)法が議会を通過したことで、FTAAの早期実現に意欲的であったが、アルゼンチンの経済危機が周辺諸国に波及したことにより、ブラジルはメルコスールを拠点として南米に独自の貿易圏を優先させる方針をとった。予定された発効期限は実現せず06年8月現在、交渉は中断している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

FTAA

FTAA

米州自由貿易地域」のページをご覧ください。

FTAA

米州自由貿易地域」のページをご覧ください。

ASEAN自由貿易地域

ASEAN自由貿易地域

1991年にタイのアナン首相(当時)が提唱し、92年1月のASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議で合意された自由貿易地域。もともとASEANは、ベトナム戦争下の67年に共産主義勢力の浸透を防ぐ目的で結成された(原加盟国:インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ、84年にブルネイも加盟)。これら諸国の中でNIESとして台頭したシンガポールに続き、80年代にタイ、インドネシア、マレーシアが経済発展を遂げた。その結果、べトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアも加盟に傾き、参加国の増大と並行して、自由貿易地域を形成する動きが現れた。93年から域内関税を順次引き下げ、2003年からタイなどの先行6カ国は原則5%以下にした。後に加盟したベトナムは03年、ラオスとミャンマーは05年にこの路線を引き継ぎ、カンボジアは07年を目標としている。1995年12月には、金融、通信、観光、海運などサービス取引についても自由化に合意した。投資は域内の自由化から始め、域外からの投資は原加盟国は2010年、新規加盟国は15年までに自由化する予定。シンガポールやタイが域外の諸国とも自由貿易協定に積極的に取り組んでいるのに対し、マレーシアはやや立ち遅れていたが、04年1月から日本とのEPA交渉に入った。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

ASEAN自由貿易地域

AFTAは、ASEAN域内の関税・非関税障壁撤廃による自由貿易圏作りを目指すべく、1992年に合意された。具体的には、93年1月から15年間で域内貿易への関税を5%以下にすることを目標とした。一般にAFTA設立の理由は次の3つであるとされる。すなわち、(1)ASEAN域内における水平分業体制を強化し、ASEAN諸国の地場産業の国際競争力を高めること、(2)市場規模を拡大し、スケールメリットを確保し、外資を呼び込むこと、そして(3)世界的な自由貿易体制への準備を進めることである。関税の引き下げについては共通有効特恵関税(CEFT)協定に基づいて行うことになった。

(片山裕 神戸大学教授 / 2007年)

AFTA

AFTA

ASEAN自由貿易地域」のページをご覧ください。

AFTA

ASEAN自由貿易地域」のページをご覧ください。

ASEAN+3

ASEAN+3

ASEAN諸国に日本、中国、韓国の3カ国を加えた地域的な経済協力の枠組み。1990年にマレーシアのマハティール首相(当時)が提唱した東アジア経済圏(EAEG)が現在のASEAN+3にほぼ相当。米国の強い反対でEAEGは実現しなかったが、現在の枠組みができてきたのは、アジア通貨危機を経て米国の警戒感が後退したことが背景にある。2000年5月にはタイのチェンマイで、通貨危機に陥った場合には互いに必要な外貨を供給する、通貨スワップが合意された。これは、1998年秋に日本が提起した二国間ベースの金融支援(新宮澤構想)を多国間に拡大したもの。2000年5月のヤンゴン会議では、電子商取引への共通ルール導入や情報通信の技術協力に合意した。また自由貿易地域を形成する可能性も、検討される予定。しかし中国は東アジアで日本の影響力が強まることに警戒的であり、日中間の主導権争いが高じると、協力体制がうまく機能しないこともありうる。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

最適通貨圏

最適通貨圏

R.マンデル(1999年度ノーベル経済学賞受賞)は、「同一通貨を使用する地域がどのような条件を満たせば最適な規模になるか」を明示した。この最適通貨圏の議論が、欧州の通貨統合の将来を判定するのに使えるというので注目を集めた。同一通貨の流通する範囲は広ければ広いほど、両替費用や為替リスクがなくなるので経済的には便利である。しかし他方で、通貨主権を失うと、独自の為替政策や金融政策を行使する余地がなくなるという短所がある。マンデルは、石油危機のような外的ショックが発生してもその影響が一様に表れること、もしくは、特定の製品価格が値崩れするといった地域的に偏った外的ショックが生じても、労働力の移動が円滑に進むことを、単一通貨圏としてふさわしい条件とした。また、スタンフォード大学教授のマッキノンは、これらの条件の他に、対外依存度が大きく、経済規模が小さい諸国は、独自の為替政策の効果が限定されるので、通貨統合を進めた方が有利になることを指摘した。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

ニューエコノミー

ニューエコノミー

IT(情報技術)とグローバル化の進展により、米国経済で景気循環が消滅し、インフレなき成長が持続するというから生まれた概念。情報化には生産性を向上させると同時に、過剰在庫を減らす効果がある。また、グローバル化は最小費用で原材料部品や資金の調達を可能にするので、好景気が続いてもインフレが生じないとされた。米国のGDP成長率は1991年にマイナス0.5%を記録した後、同年第2四半期から9年近くにわたり戦後最長の景気拡大を迎えた。92年から99年の間の平均成長率は3.6%、インフレ率(GDPデフレーター)は2.0%であった。これを反映して、ニューヨーク株価やナスダック指数は驚異的な伸びを示した。しかし2000年後半から顕在化した米国経済の減速で、景気循環が消滅するとの楽観説は事実上、否定された。その一方で、生産性の向上は統計的にさほど目立たないことが「謎」とされていた。しかし01年1月に大統領経済諮問委員会が、1973〜75年の生産性上昇率が年平均1.4%だったのに対し、95〜2000年の上昇率が3.1%と発表したことから、確かに生産性を伸ばす効果が持続しているとの説が有力になった。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

「世界の工場」中国

「世界の工場」中国

2001年11月のWTO加盟に象徴される中国の対外開放策は、日本や周辺諸国にとって貿易や投資機会を増やすことになった。先進諸国の企業進出が相次ぎ、鉄鋼、家電(冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機)、電子情報機器(DVD、携帯電話、パソコン)などでは世界一の生産高を記録している。中国の優位は組立加工を含む労働集約型の産業に顕著で、その製品輸出は世界的なデフレ圧力の一因になっている。これに関連して中国脅威論も出ているが、中国の鉄鋼、石油化学、自動車などにはまだ非効率な生産方法が残っている。中国政府はこれらの部門への外資参加を制限し、合弁企業しか認めていない。また国有企業の整理や不良債権を抱えた銀行の改革が、これからの課題である。さらに自由化に伴い、国内の貧富の格差が開くと社会不安要因になりうるので、中国脅威論はやや一面的である。人民元は、現在においても中国人と外国人との間の取引が制限され、為替管理の状態にある。アジア通貨危機の時に、人民元の切り下げを回避できたのも、為替管理によるところが大きかった。ただし、中国では多くの分野で改革と自由化が進行しているので、人民元の取引自由化が課題となり、米国では、対中貿易赤字の増大を理由にして、人民元の切り上げを求める声が強まっていた。こうした動きに応じて、05年7月、中国政府は、為替相場の変動幅拡大を発表した。ただ、結果的に切り上げは小幅にとどまったので、いずれ再切り上げは避けられないとの意見が多い。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

EU財政安定成長協定

EU財政安定成長協定

ユーロ圏は、金融政策が欧州中央銀行(ECB)によって一律に決定されるのに対し、財政政策各国主権に委ねられている。しかし各国の財政規律が緩むと、ユーロの安定を阻害しかねないので、包括的な財政協定によって赤字幅をGDPの3%以内に収めることを義務付けてきた。EU最大の経済規模を誇るドイツは、旧東ドイツ地域の停滞に加えて、経済構造の硬直性から高い失業率に悩まされてきた。フランス、イタリアも、失業問題に悩む点では同様であり、財政による景気刺激策には期待が大きい。この現実を追認して2005年3月には、国際支援や年金改革に伴う支出を協定の枠から外す方向で合意が得られた。これに対し、ECBはこの弾力化条項がユーロの為替相場に悪影響を及ぼすとの懸念を表明した。イタリアは、05年以降も赤字が3%以内に収まる見通しが立たず、欧州委員会から是正措置を勧告されている。またドイツ政府も、07年まで6年連続して赤字が3%の枠に収まらないとの見通しを公表した。このように、弾力化しても財政協定が実効性をもつか疑問は残るが、ドイツのメルケル連立政権は増税路線を表明している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

SGP

SGP

EU財政安定成長協定」のページをご覧ください。

新興市場地域

新興市場地域

必ずしも地理的な概念ではなく、成長可能性を秘めた地域といった意味。NIESとして注目を集めた諸国に続いて、1980年代に急成長したASEAN諸国や中国沿岸部、場合によっては、ロシア、東欧の移行経済諸国も含まれる。80年代初頭の債務危機からラテン・アメリカ諸国が回復するにつれて、改めて海外から資金を集めるために、この名称が使われた。NIESやNICSという名称が「工業化」に着目しているのに対し、機関投資家の関心を引くことに重点がある。90年代に相次いだ通貨・金融危機で一時の人気は衰えたが、アジア経済の回復が進むにつれて再び脚光を浴びつつある。とりわけ、中国とインドが対外経済政策を自由化し、経済成長率が高まったことから注目を集めている。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

エマージング・マーケット

エマージング・マーケット

新興市場地域」のページをご覧ください。

雁行(がんこう)型発展

雁行(がんこう)型発展

工業化には発展段階があり、労働集約的な軽工業部門から、装置産業である重化学工業、そして技術集約的なハイテク産業へと順を追って進む。日本が先導役になり、NIES、ASEAN諸国が順に「離陸」したように、この変化が東アジア域内で国ごとに順送りに生じたことを、一群が飛ぶ様子に見立てて、この名がついた。一橋大学の赤松要教授(当時)の命名による。しかし近年では、中国が軽工業からハイテク産業まで包括的な工業化を実現したように、このような発展パターンが必ずしも一国内で時期を追って表れるわけではないとの指摘もある。中国は今世紀に入って、鉄鋼セメント石炭化学肥料、テレビなどで世界一の生産国となり、さらに電気・半導体や自動車生産などで、外国からの直接投資が急増している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

移行経済

移行経済

1980年代末から社会主義政権が崩壊した結果、市場経済を導入した東欧やロシアの状態を指す。しかし、広い意味では、社会主義的政権を維持しながら、漸進的に市場経済化を目指す、東アジアの中国やベトナムも含まれる。国有企業は民間企業に比べて非効率なので、一挙に市場の圧力にさらされると存立の基盤を失う。ロシアでは国有企業を一掃すると雇用問題が激化するので、政府は救済支出を拡大、その結果、財政赤字や通貨増発が止まらずインフレが激化した。一方、中国は70年代末から「社会主義的市場経済」を目標とし、ベトナムはドイ・モイ(刷新)政策を86年から始めた。ASEAN諸国が外資導入をてこにして輸出工業化に成功したことに刺激されて、べトナムもその条件整備に着手した。2000年には証券取引所を開設し、集権的管理体制を後退させ国営企業の民営化、個人経営を奨励している。中国はWTO加盟をきっかけに経済改革の加速を目指し、ロシアも同じ方向を追求している。ただし中国の路線では、市場経済と社会主義政権の維持がいつまで両立するか、という疑問も残る。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

反グローバリズム

反グローバリズム

グローバル化は、一般に、世界的に情報、人やモノ、資本などが容易に、頻繁に移動することを意味する。一方、反グローバリズムとは、そうした傾向が多国籍企業による発展途上国の搾取や、通貨金融危機の発生、環境破壊を招くとする批判や運動である。最近では「スローフード」の提唱のように、文化や生活様式までも見直す動きが出ている。グローバル化は、情報通信革命をきっかけに加速されたが、制度的には、ブレトン・ウッズ体制が崩壊し、国際金融取引が大幅に自由化されたことが転機になった。もう1つの要因は冷戦の終結である。社会主義的管理体制が信頼を失墜させ、市場メカニズムへの評価がますます高まったことから、自由化政策が世界的に普及した。しかし、1999年にシアトルで開催されたWTO総会は、NGOなどの抗議行動で中止に追い込まれ、その後も、IMF総会やサミットの会場では、反グローバリズムのデモが頻発している。こうした動きの他に、NGOからの具体的な政策として、トービン税(外国為替取引に低率で課す税)を導入し、その収入を発展途上国への援助に充てることも提唱されている。しかしその一方で世界銀行などでは、中国やインドが自由化政策によって経済成長を遂げたように、グローバル化は世界の貧困解消につながるとする見方も有力である。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

反グローバリズム

地球規模で市場メカニズムを浸透させる経済のグローバル化は、強者と弱者の格差を拡げ、環境破壊をもたらすので反対する、という考え方と運動。担い手は環境・開発などのNGO、原発・遺伝子組み換えへの反対運動、学生・労組・農業団体など幅広い。これらの反グローバル派は、1990年代以降、国際会議の開催地に結集、例えば99年秋、シアトルの世界貿易機関(WTO)閣僚会議をデモで包囲。それに対し同年のサミットが重債務国の債務削減を決定したのは、運動の成果。また世界社会フォーラムが毎年南で開かれ、多くのNGO・市民が参加。反グローバリズムの中の地球市民の運動は、グローバル化の全面的拒絶より、国際組織の民主化や特定の政策変更などを目標とし、市民社会の価値観や倫理を訴える役割を担ってきた。他方この運動には、アメリカ文化・多国籍企業の浸透、グローバル化に埋没する自国エリートなどへの反発や不満など、既存秩序の外に周辺化された人々のポピュリスト的エネルギーのはけ口という側面もある。その極端な例が銀行・マクドナルドなどへの襲撃。極左から極右までが「反グローバリズム」の行動に流れ込み、グローバル化は、左からは社会的格差を広げ、右からは国民国家を掘り崩すとされ、両極から挟撃されている。

(坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授 / 2007年)

反グローバリズム

反グローバリゼーション」のページをご覧ください。

逆資産効果

逆資産効果

株式や土地などの資産価格が急速に下落すると、消費が減少して、景気後退を招くこと。「逆」という言い方をするのは、バブル期の日本のように資産価格が上がり、消費が刺激される時と対照的な表れ方をするからである。「消費を決定する要因は何か」という点をめぐっては、経済学者の間で必ずしも意見が一致しているわけではないが、経済企画庁(現・内閣府)は、1991年から93年にかけて資産価格の下落が、家計の消費を年平均0.8%程度減少させたと推計したことがある。この影響は、個人金融資産の中で株式や投資信託の占める比重が日本よりも大きい米国では、さらに大きくなる。米国の連邦準備制度理事会(FRB)も金利政策運用にあたってこの効果を注視している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

クローニー資本主義

クローニー資本主義

縁故や家族関係が大きな意味を持つ経済体制のこと。狭義では、権力者の親族や取り巻きが一体となり利権をあさる傾向を指す。「クローニー」は「仲間内」と訳されることもある。新古典派の経済学者や国際機関から、アジア通貨危機を誘発した構造的な背景として批判された。狭義の用法ではインドネシアのスハルト、フィリピンのマルコス政権などがよく引き合いに出されるが、欧米では韓国の財閥、日本の「政・財・官」の癒着を同一視することもある。クローニー資本主義は東アジアの社会経済システムに長い間組み込まれてきたので、通貨危機前の奇跡的な経済発展の時期にも支配的な体制であった。したがってそれが危機の直接的な原因だったとは断定できないはずであるが、この体制の改革が危機打開の条件であるとの見解が、欧米では根強い。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

カジノ資本主義

カジノ資本主義

1980年代から、投機的な国際金融取引が短期の利得を目指して、活発になったことを指して、英国の国際政治経済学者、S.ストレンジが命名した。国際資本移動が自由化されて、その取引規模が膨大になったこと、為替相場や金利、金融資産価格が必ずしも実体経済を反映しない形で激しく変動するようになったことが背景にある。90年代は、欧州や東アジアの通貨危機を誘発したヘッジファンドや、デリバティブの理論を開発したノーベル経済学賞受賞者が経営に携わったLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の経営破たんなど話題に事欠かなかった。金利、為替相場の変動を利用して投機や利鞘(りざや)を狙った行為は資本主義に付き物であるが、近年はその取引範囲も及ぼす影響も、グローバル化してきた。98年10月のG7ではヘッジファンドの活動が、99年のケルン・サミットでは「オフショア金融センター」が、それぞれ監視の対象とされた.

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

地政学的リスク

地政学的リスク

一般的にはテロや戦争、さらには財政破綻などから生じるリスクを意味するが、とりわけ投資家の立場からみた不確実性を指す。この言葉は、2003年2月、04年4月のG7声明でも言及されていたが、02年9月に米連邦準備制度理事会が使用したことから始まるといわれる。01年の同時多発テロが発生した直後にニューヨークの株価が急落し、世界経済の停滞を招いたことが背景になった。イラク戦争の推移や石油価格の動向、さらには中国の内政も広い意味では、このリスク要因に含められる。投資家にとって最終的な判断材料になるのは経済の実体(ファンダメンタルズ)であるが、突発的、大規模な事件が発生すると、先行き不安から経済活動もしばしば沈滞する。株価が急落することで表れる逆資産効果は、経済的な因果関係がより強い。米国は、テロ資金の流れを規制することに重大な関心をもっているが、他方でイラク戦争が世界の安全につながったとの建前を崩せないので、地政学的リスクを強調することにはジレンマがある。かつては「有事に強いドル」といわれたが、米国の「双子の赤字」が大きくなっているので、為替相場の見通しに関しても、不確実性は増えている。また、05年4月に拡大した中国の反日デモも、大きなリスク要因として意識された。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

サブプライムローン

サブプライムローン

米国の信用力の低い低所得者向けの住宅ローン。審査が緩い代わりに金利は高いので、住宅ローン全体の中では目立たない存在だったが、2000年ごろから住宅価格が上昇するにつれて利用者が増え、それまでは住宅ローン市場全体の10%以下だったのが、06年から07年にかけては13〜15%を占めるまでに成長した。当初の金利は低めに設定し、数年後からは高金利になる仕組みがないので、住宅価格の上昇で住宅の担保価値が上がれば、より低い金利のローンに切り替えることができたからだ。 しかし、利上げや住宅ブームの沈静化によって住宅価格が05年をピークに急速に値下がりを始めると、主に低所得者層からの返済延滞や債務不履行の問題が浮上した。金融機関はハイリスクながら高い収益を狙えるので、1990年代以降に大手も相次いでこの市場に参入していたため、住宅ローンの焦げ付きが増えるにつれて、金融問題に発展した。 さらに、米国では、こうした住宅債権を証券化して、金融機関やヘッジファンドなどに販売する動きが広がり、それを世界各国の投資会社や銀行などが購入して運用していたため、ヘッジファンドの破綻(はたん)や欧州の銀行の経営危機、米国銀行大手の巨額の損失やトップの辞任、株価の急落などが次々に起きた。 サブプライムの焦げ付きは、今のところサブプライム全体1兆3000億ドルの15%程度と見られているが、今後、設定された金利が上昇期に入る人たちが増えることから、不良債権は更に増えると見られる。また、住宅価格の下落が原因であることから、サブプライムだけでなく、より有利な金利で借りている人たちの焦げ付きも増えている。当初、サブプライム問題は限定的との見方も多かったが、07年後半からは、世界の金融市場を揺るがす深刻な問題との認識が深まってきた。 米国では住宅の資産価値が上昇するにつれて高まっていた信用力を利用して個人消費も拡大していたが、住宅価格の下落による逆資産効果で、個人消費も鈍ってきた。このため、米国の経済成長そのものも減速するとの見方が広まっている。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

円キャリー取引

円キャリー取引

キャリートレード」のページをご覧ください。

ヘッジファンド

ヘッジファンド

富裕層や機関投資家から資金を集め、ハイリスクハイリターンの運用をする投資組織のこと。通常の相場観に反して「逆張り」をすることで、高い収益を狙う傾向があることから、相場が思わぬ方向に動いたときのリスクヘッジ(危険回避)になるといわれている。 その一方、さまざまな金融技術を使って、元手の数倍規模で運用するため、相場の少しの変動で大きな損失が生じる可能性もあり、国際的な金融不安につながる要因にもなると指摘されている。 ヘッジファンドは、各国の法律や規制をできるだけ避けるために、ケイマン諸島などの租税回避地に設立されることが多く、各国の金融当局もその実態をつかむのが難しくなっている。このため、G7(主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議)などでは、欧州諸国を中心に、ヘッジファンドの規制や監督の強化を求める声が出ているが、米国はこれに反対している。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

ヘッジファンド

株価指標の動きとは無関係に、相場の下落局面などでもいろいろな手法を駆使して絶対的にプラスとなる運用成績を目指す運用法人を指す。ハイリスク・ハイリターンの手法を取るため、運用に失敗する例も多い。かつては一部の富裕層が大口の資金を運用する手段であったが、最近では、年金基金が運用成績を上げるために組み込んだり、個人が小口運用に用いたりするようにもなった。全世界で1万を超えるヘッジファンドが総額1兆ドル以上を運用していると見られているが、ほとんどのファンドは内容を非公開にしているため、実態は不明な点が多い。日本の市場においても、積極的な運用で大きな影響力を発揮することがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

国家資産基金

国家資産基金

外貨準備など国の資産を、投資収益に注目して運用することを目的に設立された政府系ファンドの総称。世界全体では数兆ドルの規模になっていると見られる。 SWFには、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビ首長国が石油収入で運用しているADIA、ノルウェーが石油収入で運用しているガバメント・ペンション・ファンド・グローバル(政府年金基金)、シンガポールの外貨準備の運用を目的としたGIC、ロシアの安定化基金などがある。 中東やノルウェーなどの産油国では早くからあったが、外貨準備で世界一になった中国が2007年に中国投資有限責任公司の設立を決め、同年5月には米国のプライベート・エクイティ・ファンド最大手のブラックストーンに30億ドルを投資することを明らかにしたことで、注目を集めるようになった。その後、サブプライムローンで損失を受けた米シティグループにADIAが75億ドル、スイスUBSにGICが100億ドル、米モルガン・スタンレーに中国投資有限責任公司が50億ドルの出資を決めた。 これまで各国の外貨準備は、主に米国の短期国債で運用されてきたが、石油価格の高騰の恩恵を受けた産油国や、中国などの一部の発展途上国は、蓄積した外貨準備を、SWFを通じて、米国の国債以外の証券や、ユーロなどドル以外の資産に投資しているものと見られる。 各国のドルによる外貨準備は、ドルが基軸通貨である条件の1つに数えられてきたが、SWFの動きは、外貨準備でのドル離れを示すことになった。中国に次ぐ外貨準備を持つ日本は、SWFを作れば、ドル安を加速するなどとして、設立には消極的だ。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

実効為替レート

実効為替レート

ある国の通貨の価値が他の国々の多通貨に対して、どれだけ上昇しているのか、下落しているのかを示す指標。ドルが基軸通貨になっているため、例えば円がドルに対して上昇すれば、円高といわれるが、ユーロなどに対して下落していれば、必ずしも円高とはいえず、世界との貿易でも円高の影響を受けるとはいえない。 そこで、通貨の価値を総合的に把握するための指標として、実効為替レートが使われることになる。名目実効為替レートは、ある通貨の他の諸通貨に対する為替相場の変化率を貿易量などの比率を使って加重平均して算出する。そしてこの名目実効為替レートの変化率からインフレによる通貨価値の下落分を差し引いて加重平均したものを実質実効為替レートと呼ぶ。 円の実効為替レートは、日本銀行が米ドル、ユーロ、中国人民元、韓国ウォンなど主要15通貨を対象として、毎月公表している。2007年の為替相場は、世界的なドル安のなかで、円がドルに対して相対的に安い水準を推移したことから、6月には、実質実効為替レートが22年ぶりの円安になった。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

新興国投信

新興国投信

中南米や中東欧、アジアなどの新興市場国が発行する債券や株式で資金を運用する投資信託のことで、世界的な過剰流動性を背景に、その規模が拡大している。日本でも外貨運用の一部として広がりつつある。代表的な対象国はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)で、その後に続く国としてVISTA(ベトナムインドネシア南アフリカトルコアルゼンチン)などがあり、そのすそ野は広がっている。 こうした国々の経済成長の速さが投資家をひきつけているが、新興国の金融市場は欧米に比べて規模が小さく、相場が乱高下するリスクがあるうえ、政治的な変化で市場が混乱する可能性もある。日本の投資家にとっては、円高になった場合の為替リスクも背負うことになる。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

穀物価格の上昇

穀物価格の上昇

石油価格の高騰からバイオ燃料の需要が増え、原料のトウモロコシサトウキビなどの穀物価格が上昇した。バイオ燃料の需要が増えた背景には、2005年夏に米国を襲ったハリケーンカトリーナ」の被害で、石油価格が上昇し、石油の将来の安定供給や枯渇への不安が高まり、石油の代替燃料としてバイオ燃料が注目されたことがある。 ブッシュ米大統領は07年1月の一般教書で、原油の中東依存度を引き下げるために、「2017年までにガソリン消費量を20%削減する」という目標を打ち出し、バイオエタノールなど代替燃料の促進を打ち出した。これがトウモロコシなどの価格上昇に拍車を掛けた。また、米国の農家が大豆小麦作付けを次々と高値で売れるトウモロコシに切り替えたため、大豆と小麦の供給が減少に転じ、これらの作物価格も高騰することになった。 燃料と食料とが同じ作物を奪い合う現象が起きているわけで、中国などでは、食料確保の理由からバイオエタノールの生産を抑制することにした。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

資源価格の高騰

資源価格の高騰

原油や鉄鉱石、石炭、レアメタルなどの資源の国際価格が高騰する現象が2007年ごろから顕著になった。原油価格で見ると、指標の1つであるWTI価格が04年の1バレル40ドル前後から07年後半には1バレル100ドル寸前になるなど価格は急騰した。このため、世界的にインフレの懸念が強まったが、特に米国ではガソリン価格の高騰による景気鈍化が心配されるようになった。 資源価格の高騰の背景にはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興諸国の急速な経済成長を背景に、資源消費が急増したことがある。こうした世界的な資源の需給バランスの変化に加えて、ヘッジファンドなど投機マネーがドルの下落に対抗して商品市場へ流入したことにより、価格上昇に拍車が掛かっている。 資源価格の高騰につられるように、トウモロコシ、大豆などの食料価格も高騰した。この背景には、米国やブラジルなどでサトウキビやトウモロコシからエタノール燃料を作る動きが盛んになり、輸出市場に回る穀物価格が上昇したことがある。 エタノールは、地球温暖化対策で、化石燃料を使わない燃料として注目されている。地球温暖化問題がエネルギー資源と食料資源との連関を強めさせたともいえる。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

一次産品価格の高騰

一次産品価格の高騰

一次産品とは、自然栽培・採取した食料、鉱工業、燃料など未加工の原料品。国際原油価格は2006年も高水準の市況推移で7月14日にはWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油の先物価格が1バレル当たり77ドル超の史上最高値を記録した。これは05年の平均価格50ドルから5割も上昇、01年の25ドルに比べると3倍にもなる。世界の総原油貿易量は1日約5000万バレルであり05年の貿易額は毎日30億ドル、1年間で1兆950億ドルとなり、世界貿易額10兆ドルの約1割を占めている。さらに、銅、亜鉛、アルミニウム、ニッケルなど非鉄金属の市況も相次いで最高値をつけ高止まり傾向で推移している。一次産品はコモディティともいわれ、固有の需給要因で値動きする。01年以降、世界経済全般の拡大が続き、中でも中国やインドを始め発展途上国の原材料需要が旺盛となり、原油や天然ガス、鉄鋼原料(鉄鉱石、原料炭)など資源価格全般の価格水準の上昇が見られる。一次産品価格高騰の影響はガソリン、石油化学、電子部品材料から徐々に最終製品へ価格転嫁・浸透していくが06年8月現在、その動きは一部にとどまっている。なお、一次産品価格高騰への対応として、20前後の一次産品を組み込む総合的な国際商品指数に連動する投資ファンドの開発・販売などの動きがある。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

日本の相殺関税発動

日本の相殺関税発動

相殺関税とは、相手国の補助金付きの輸出品から自国産業が損害を受けるのを防ぐため、補助金相当額を相殺する目的で課する割増関税。WTO(世界貿易機関)でも認められた権利だが、日本がこれまで発動したことはなかった。しかし、2006年1月、日本政府は韓国の半導体メーカー、ハイニックス社製のDRAM(随時書き込み読み出しメモリー)に対して27.2%の相殺関税を発動した。これは、同社が韓国の政府系金融機関から低利融資を受けて輸出価格を不当に引き下げたとの判断に基づく。ただし、ハイニックス社はDRAMを米国や台湾でも生産もしくは生産委託しているため、日本向けの輸出を韓国以外の国・地域に切り替えることで相殺関税を回避でき、実質的な影響はほとんどないと見られている。この日本の相殺関税発動に対して韓国政府は同年3月、補助金協定に違反するとしてWTOに提訴した。なお、米国と欧州連合(EU)も同じ韓国製半導体の問題で03年に相殺関税を発動、韓国は米、EUをWTOに提訴したが、いずれも実質敗訴に終わっている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

模倣品・海賊版拡散防止条約

模倣品・海賊版拡散防止条約

日本政府の知的財産戦略本部が2005年6月に決定した「知的財産推進計画2005」の中で示された知的財産権保護に関する条約。同年7月のグレンイーグルズ・サミットにおいても、この案に基づいた多国間の新条約を小泉首相が提唱した。また日米欧の主要国は、06年7月のサンクトペテルブルク・サミットでも知的財産権の執行に関連する国際的な法的枠組みを強化する可能性についての研究を行うことで合意した。知的財産権保護の多国間の取り決めにはWTOにおけるTRIPS協定があり、模倣品や海賊版の輸入を禁じているが、再犯の防止策や輸出に関する国際的な取り決めはない。海賊版の映像・音楽ソフトやゲームソフトの販売は、国際犯罪組織などの資金源となっているとの指摘もあり、生産者の利益だけでなく、人々の健康や安全を守るという位置付けもある。日本企業が深刻な被害を受けている中国など途上国批准が条約の実効性を左右すると考えられている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

日中貿易

日中貿易

中国経済の急速な成長により日中貿易が大幅に拡大している。2004年の総額は日米貿易のそれを上回り、中国は戦後初めて日本の最大の貿易相手国となった。マイカーマイホーム、携帯電話の普及、08年の北京オリンピック、10年の上海万博を目指した都市インフラ建設、鉄鋼・自動車・電力などの生産能力拡大などを背景に、中国の05年の実質経済成長率は9.9%を記録した。鉄鋼・合成樹脂などの素材、自動車部品・半導体電子部品、建設機械などの旺盛な需要が、タンカーコンテナ船などの海運も含めて日本企業の輸出拡大につながっている。中国の高度成長がどのように続いていくかは過熱状態緩和成否にもよるが、「世界の生産工場」から「世界の消費市場」へ展開していく過程で、中国は引き続き日本企業にとっての収益拡大機会を提供していくことになろう。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

通商摩擦

通商摩擦

最初は、個別商品の集中豪雨的な輸出から起きることが多い。その後、相手国で、失業問題や地域不況などの社会問題に発展して発生する二国間摩擦のこと。当初は2、3の品目(日本の例では、繊維鉄鋼など)にすぎなかった輸出ラッシュが、やがて広範囲の商品群(テレビ、自動車、半導体など)に広がり、恒常的な貿易不均衡となって通商摩擦が激化経済摩擦となる。輸入国側は輸出国側に輸出抑制を迫るが、市場原理に反した貿易抑制は、かえって経済合理性を損なうので、むしろ自国産品の買い付け増大による不均衡改善を輸出国側に要求することとなる。こうして問題は、輸出国側の市場開放、輸入拡大といった輸入体制・制度の問題に転化し、市場の開放をめぐっての論議に進展する。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易インバランス

貿易インバランス

通商摩擦主因対外不均衡(インバランス)である。不均衡を測る物差しで、通常用いられているのは、通関貿易じり(輸出超過額、または輸入超過額)、国際収支ベースの貿易収支及び経常収支、それに経常収支の対GDP比率など。経常収支の対GDP比率は、国の経済規模と対比する形でインバランスを測る点では最も合理的であるが、一般には通関貿易じりか国際収支ベースの貿易収支の方が理解しやすい。日本の貿易インバランスを通関貿易じり(ドル建て)で見てみると、1994年には1209億ドルの輸出超過と空前の規模となり、その後はおおむね縮小傾向にある。2005年は原油入着価格の高騰で791億ドルに縮小した。日本に対してインバランスが大きいのは米国中近東である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

非関税措置

非関税措置

非関税障壁(NTB:non‐tariff barriers)ともいう。輸入阻害をもたらす制度、措置、慣行などで、関税以外のものの総称。大別すれば、(1)国内産業の保護を目的とした直接的な輸入数量制限措置、(2)輸入にかかわる諸手続きなどが複雑であったり、迅速性を欠いていたり、恣意的な運用がされたりする場合(関税評価制度、EUの原産地規則など)、(3)衛生、健康上の理由、など。貿易を阻害する意図は持たないが、貿易に影響を及ぼす措置(基準認証制度、検疫制度)で、アクセスする側からすれば、自国にない制度や慣行はNTMと決め付けがちである。日本の場合、流通機構への参入の困難性や、国内メーカーと販売店における系列取引なども貿易障壁と指摘される。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

NTM

NTM

非関税措置」のページをご覧ください。

企業内国際分業

企業内国際分業

多国籍企業は、世界市場の変動各国の比較優位構造を考慮しつつ、研究開発、生産工程、資本調達流通経路などの最適配置、ならびに人的物的資源、資金などの最適配分を行う。この結果、本国親会社と海外子会社、あるいは海外子会社間の国際分業に基づく企業内の国際貿易が増大した。WTO推計では多国籍企業による企業内貿易は、世界貿易の3分の1を占めている。近年は、商品の企画・開発・販売は企業内に残し、部品製造・製品組立・物流を各々専門の企業に任せるアウトソーシング型水平分業への移行も進んでいる。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

企業内貿易

企業内貿易

企業内国際分業」のページをご覧ください。

輸出自主規制

輸出自主規制

輸入国側の輸入制限措置の発動を回避するため、輸出国側の政府または団体が、「自主的」に輸出数量、価格などを制限すること。ガット第19条(セーフガード条項)では市場攪乱に対する一時的な輸入制限措置の発動を認めているが、輸出国側に対抗措置を認めていることもあり、輸入国側もその発動を嫌って輸出国側に自主規制を要請してくる場合が多い。日本の輸出自主規制は、輸出入取引法に基づく規制のほか、輸出貿易管理令などを前提とした行政指導で行う場合もあり、繊維、カラーテレビ、鉄鋼、工作機械、自動車といった事例がある。輸出自主規制は、長く続くと産業の自由な競争を妨げるなど、必ずしも輸入国側の産業再生に役立っていないという批判もある。なお、WTOでは、輸出自主規制等の灰色措置が禁止された。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易依存度

貿易依存度

一国の国内総生産(GDP)または国民所得に対する輸出入額の比率(輸出依存度、輸入依存度)をいう。一般にGDPの小さい国ほど、貿易依存度は大きい。これは、GDPが小さい国の場合、自国市場だけで全ての産業を自給自足的に成立させることは難しく、国外市場への輸出もしくは国外供給地からの輸入に頼らざるを得ないためである。戦後の世界貿易は世界経済の伸びを上回って拡大しており、世界的に貿易依存度は高まってきているといえる。日本の2005年の輸出入依存度は、それぞれ11.8%、10.3%である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

安全保障貿易管理

安全保障貿易管理

国際的な平和及び安全の維持を目的として武器、戦略物質、原子力関連、ハイテク機器などを対象とする輸出規制。武器、兵器に関する輸出管理は各国ともそれぞれに行ってはいるが、その内容は不透明であり、実際には、かなりの量の兵器貿易が行われているのが現実である。ただし、大量殺りくの危険性の大きい核兵器、生物兵器、化学兵器、及びこれらの運搬手段としてのミサイルについては、以前から国際的合意に基づく拡散防止=輸出管理強化の必要性が認識されており、国際的努力も進められていた。これらの大量破壊兵器に対する輸出規制を、不拡散型輸出管理と呼んでいる。冷戦終結後の湾岸戦争以来、この問題への国際的関心は一段と高まり、1991年のロンドン・サミットにおいては「通常兵器の移転、及び核兵器、生物兵器、化学兵器の不拡散に関する宣言」が採択された。96年には、オランダで通常兵器及び汎用品・技術に関する輸出管理のためのワッセナー協約が発足した(本部はウィーン)。なお日本では2002年4月から、全ての品目(食料品、木材を除く)、全ての地域(米英などキャッチオール規制実施の25カ国を除く)を対象に、大量破壊兵器の製造に利用される恐れがないかを、輸出企業が自己審査する新しい輸出管理制度が導入・実施されている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

カウンターパーチェス

カウンターパーチェス

輸出の見返りとして義務付けられた、相手国産品の買い付けのこと。外貨不足に悩む国では、海外から機械設備などを輸入する際、外貨がないため、輸出国側に自国産品を買い取ってもらい、それによって代金決済をすることがある。輸出した貨物と全く関係性を持たない相手国産品の買い付けを求められることもあるし、輸出した技術・プラント・機械から生産された製品の買い取りを義務付けられることもある。通常は前者をカウンターパーチェスと呼び、後者生産物分与方式(PS方式=production sharing)あるいは、買い戻し方式(buy back)という。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易決済通貨

貿易決済通貨

貿易取引において、どの通貨による決済とするかは当事者間の合意による。世界貿易で最も多く使用されている通貨は米ドルで、ユーロ、英ポンドがそれに続く。財務省によれば、2005年下期の日本の貿易取引では、輸出決済の50%が米ドル、38%が日本円、輸入では72%が米ドル、22%が日本円で、依然として米ドルの使用が多い。対アジア貿易については円使用比率が、対米・対欧貿易に比べて高いものの、日本は貿易における自国通貨建ての決済比率が欧米諸国に比べて低い。要因として、輸出先としての米国依存度が高く、輸入においてはドル決済が主体である原油食料鉱産物など国際一次産品の比率が高い貿易構造などが挙げられる。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

自由貿易協定

自由貿易協定

EPAは日本が提唱する協定で、特定の国や地域の間で関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃するFTAに加えて、投資規制の撤廃や知的財産制度の調和など幅広い分野で共通ルールを定めるもの。すでに発効しているのが、シンガポール(2002年11月)、メキシコ(05年4月)とのEPA。マレーシアとは05年12月、フィリピンとは06年9月にそれぞれEPAに署名。タイとは交渉中で、大筋合意している。インドネシアなどは交渉中である。韓国との間では03年10月の日韓首脳会談(バンコク)での交渉開始の合意後、交渉がなされたが、04年11月以来中断している。2カ国間のEPAに加えて、ASEANと05年4月から交渉を開始し、05年12月の日本・ASEAN首脳会議で、4月から開始された交渉を2年以内に終える努力をすることで一致した。また06年8月、日本は中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インド・ASEAN諸国の合計16カ国による経済連携協定構想(東アジアEPA構想)を、ASEAN経済相会合で示した。EUやNAFTAなどの規模をもつ地域主義づくりの第一歩といえる。しかし、ASEANと10年までに自由貿易地域を創設することにしている中国と比べ、遅れをとっている。

(高橋進 東京大学大学院法学政治学研究科教授 / 2007年)

自由貿易協定

自由貿易協定(FTA)とは、特定国の間でモノの関税・貿易制限措置ならびにサービス貿易の障壁を原則撤廃する協定。経済連携協定(EPA)とは、FTAに加えて、投資協定、知的財産権、労働市場の開放、紛争仲介、競争政策等、締約国間の経済制度の調和や経済活動の一体化のための広範囲な取り組みを含む協定。FTA/EPAでは、規模の経済、競争条件の改善等による経済効率の向上だけでなく、政治・外交的な結びつきも強化される効果が期待される。世界的にFTA/EPAの締結例が増えているなか、日本も2002年に発効したシンガポールとのEPA締結に続き、05年4月にはメキシコ、06年7月にはマレーシアとのEPAが発効した。また韓国との間でEPAの締結交渉を進めているほか、ASEANとも05年4月より交渉を開始した。アジアを含めた途上国の関税率はいまだに高く、日本にとってこれらの国々と結ぶFTA/EPAの意義は大きい。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

自由貿易協定

特定の国や地域が貿易などの規制を排除し、経済活動の活性化に向けて締結する協定。関税撤廃だけでなく、投資、サービス、知的財産権での政策協調策が盛り込まれるケースが多い。特に東南アジア諸国と域外との間でFTA締結の動きが加速している。攻勢が目立つのは中国で、2005年7月にはASEANとの間で合意されていた物品のFTAが発効した。約7000品目について段階的に関税を引き下げる予定で、東南アジアに対する中国の存在感がさらに高まることが予想される。日本とASEAN諸国との間で進められているFTA交渉は単なる自由貿易協定ではなく、投資や人の移動、知的財産保護をめぐるルール作りなども含むため、経済連携協定(EPA)と呼ばれる。07年11月のASEAN経済相会議で日本とASEANとの間のEPA交渉が妥結した。

(片山裕 神戸大学教授 / 2008年)

FTA

FTA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

FTA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

FTA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

経済連携協定

経済連携協定

外国との間において、貿易の自由化のみならず経済関係全般の広い分野にわたり連携を強化することを目的とした協定。略称はEPA。財・サービス貿易の自由化のみならず、資本や人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど、国際取引を円滑に行うとともに、市場制度など経済制度の調和をはかり、経済活動の一体化のための取り組みを含む。
EPAは締約国間において、貿易に関わる関税やサービス貿易の障壁などを削減もしくは撤廃し、貿易を自由化することを目的とした自由貿易協定(FTA)の内容に加えて、国際間投資や労働力の移動、政府調達や経済協力などについて、広く経済全般の連携を深め、相互関係の発展を目指す。このため、EPA/FTAと並べて表記されることもあるが、EPAはFTAを内包する概念といえる。日本は、シンガポールメキシコなど各国と個別にEPAを締結し、これとは別に東南アジア諸国連合(ASEAN)との包括的経済連携協定も結んでいる。2012年4月までには、13カ国・地域とのEPAが発効。2013年現在、10カ国・地域と交渉が行われている。なお、輸出入を行う際の関税は世界貿易機関(WTO)で定められた加盟国共通の関税率(MFN税率)が適用される。しかし、EPA締結国間では、原産地規則などの条件を満たす産品については、MFN税率よりも低い特恵関税の適用を受けられる。
環太平洋経済連携協定(TPP)もEPAの一つであり、日本政府は交渉参加を表明している。また、欧州連合(EU)との間では、協定の範囲や目標などを定める「スコーピング」の作業を終え、13年10月の第3回EPA交渉会合では、チーズやワインなど加工食品に日本がかける輸入関税を撤廃する見返りとして、自動車部品の輸入関税を直ちに撤廃するという案がEU側から示された。これを受ければ痛手となる農業などの生産者団体と、自動車関連など輸出産業とは利害が相克する。TPP交渉及び日・EUのEPA交渉は貿易高が巨額であり、内容も相互に影響する。今後これらについて、国内での対応と調整も大きな課題となっている。

(金谷俊秀 ライター / 2013年)

経済連携協定

自由貿易協定(FTA)が財・サービス貿易の自由化を目指すのに対し、経済連携協定は、FTAを軸にしながら、より広範な分野での連携に狙いがある。具体的には、人(労働力)やカネ(資本)などの移動に関しても制限を撤廃し、併せて知的財産権や競争政策に関するルール作りや、経済制度の調和、紛争処理手続きなども視野に入れている。中国や韓国がASEAN諸国とのFTA交渉で先行しているのに対し、日本は立ち遅れ感が否めず、経済界から不満が募っていた。その最大の原因は、日本国内に農産物の輸入自由化への抵抗が強いことである。そこで日本政府は、単なるFTAではなく、相互に対等な立場で連携する意味を込めたEPAで、交渉の立ち遅れを取り戻そうとしてきた。EPAは、看護師、介護士など特殊技能を持った労働力の移動や、相手国への農業技術協力を促進することも含むので、FTAよりも相互に受け入れやすいということもある。日本は2002年11月のシンガポール、05年4月のメキシコに続き、同年末にはフィリピンマレーシア、タイとも、EPAの基本合意に達した。さらに経済産業省は06年に入って、オーストラリア、インド、中国、韓国とASEAN10カ国にまで枠組みを広げた「東アジアEPA」構想や、アジア版OECD(経済協力開発機構)を提唱している。

(石見徹 東京大学教授 / 2007年)

経済連携協定

自由貿易協定」のページをご覧ください。

経済連携協定

自由貿易協定」のページをご覧ください。

EPA

EPA

外国との間において、貿易の自由化のみならず経済関係全般の広い分野にわたり連携を強化することを目的とした協定略称はEPA。財・サービス貿易の自由化のみならず、資本や人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど、国際取引を円滑に行うとともに、市場制度など経済制度の調和をはかり、経済活動の一体化のための取り組みを含む。
EPAは締約国間において、貿易に関わる関税やサービス貿易の障壁などを削減もしくは撤廃し、貿易を自由化することを目的とした自由貿易協定(FTA)の内容に加えて、国際間投資や労働力の移動、政府調達や経済協力などについて、広く経済全般の連携を深め、相互関係の発展を目指す。このため、EPA/FTAと並べて表記されることもあるが、EPAはFTAを内包する概念といえる。日本は、シンガポールメキシコなど各国と個別にEPAを締結し、これとは別に東南アジア諸国連合(ASEAN)との包括的経済連携協定も結んでいる。2012年4月までには、13カ国・地域とのEPAが発効。2013年現在、10カ国・地域と交渉が行われている。なお、輸出入を行う際の関税は世界貿易機関(WTO)で定められた加盟国共通の関税率(MFN税率)が適用される。しかし、EPA締結国間では、原産地規則などの条件を満たす産品については、MFN税率よりも低い特恵関税の適用を受けられる。
環太平洋経済連携協定(TPP)もEPAの一つであり、日本政府は交渉参加を表明している。また、欧州連合(EU)との間では、協定の範囲や目標などを定める「スコーピング」の作業を終え、13年10月の第3回EPA交渉会合では、チーズやワインなど加工食品に日本がかける輸入関税を撤廃する見返りとして、自動車部品の輸入関税を直ちに撤廃するという案がEU側から示された。これを受ければ痛手となる農業などの生産者団体と、自動車関連など輸出産業とは利害が相克する。TPP交渉及び日・EUのEPA交渉は貿易高が巨額であり、内容も相互に影響する。今後これらについて、国内での対応と調整も大きな課題となっている。

(金谷俊秀 ライター / 2013年)

EPA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

EPA

経済連携協定」のページをご覧ください。

EPA

自由貿易協定」のページをご覧ください。

GATT

GATT

ガットは自由貿易の推進、世界貿易の拡大を目指す国際条約であり、IMF(国際通貨基金)・世界銀行と共に戦後の国際経済体制を支える重要なとして1948年1月に発足した。ガットの基本原則は、(1)関税・課徴金以外の輸出入障壁の廃止、(2)関税の軽減、(3)無差別待遇の確保、であるが、現実的運用のための多くの例外規定も設けられた。過去8回の大規模関税交渉で、加盟国間の関税率は大幅に引き下げられ、67年に妥結したケネディラウンド、79年に妥結した東京ラウンドでは、鉱工業製品についてそれぞれ平均30%以上、94年に妥結したウルグアイ・ラウンドでも40%近い関税引き下げが合意された。ガットは、95年1月に発足したWTO(世界貿易機関)に引き継がれた。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

ガット

ガット

GATT」のページをご覧ください。

関税貿易一般協定

関税貿易一般協定

GATT」のページをご覧ください。

WTO

WTO

ガットの多角的交渉として1994年に終結したウルグアイ・ラウンドで合意され、各国の批准を経て95年1月に発足した、貿易に関する国際機関。WTO体制の大きな特徴として、(1)モノの貿易ルールだけでなく、サービス貿易、知的財産権などの広範な分野における国際的ルールの確立、(2)農業分野における関税化、輸出補助金の削減などの自由化の促進、(3)紛争解決手続きの大幅な強化、などが挙げられる。また、アンチ・ダンピング協定に関しても、その恣意的運用を避ける方向を打ち出した。さらに、セーフガード発動などの規定がより現実的になり、輸出自主規制などの灰色措置が禁止された。このように、WTO合意は包括的かつ画期的なものであり、95年以降、新たなルールが国際貿易に適用されたと評価することができる。2005年12月のサウジアラビア加盟により、06年7月現在、149の国・地域がメンバーである。また01年11月、ドーハ(カタール)での第4回WTO閣僚会議で新たな多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)を開始する宣言が採択され、02年2月1日の貿易交渉委員会でドーハ・ラウンドがスタートした。当初、交渉期間は3年間、05年1月1日までの終了を目標としていた。交渉対象はウルグアイ・ラウンドで既決であった農業とサービスに加えて、非農産品(鉱工業品と林水産品)市場アクセス、ルール(アンチ・ダンピング協定、補助金協定、地域貿易協定)、TRIPS協定、貿易と環境、紛争解決了解の改正、貿易と発展、の8分野。ドーハ・ラウンドを巡る状況は、中国のWTO加盟、農業問題での対立、増加するアンチ・ダンピングやセーフガードの発動、FTA(自由貿易協定)の増加傾向など、諸問題が目白押しであり、06年中の交渉終結が目指されていた。しかし、交渉の溝が埋まらず06年7月下旬に全体交渉は凍結となった。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

WTO

世界観光機関」のページをご覧ください。

世界貿易機関

世界貿易機関

WTO」のページをご覧ください。

WTOの紛争解決手続き

WTOの紛争解決手続き

WTO紛争解決手続きはガットの二国間協議、パネル(小委員会)設置を基礎としつつ、それらより格段に強化されている。WTOでは、賛成する国が一国でもあれば、すなわち全加盟国が反対しない限り、パネル設置や対抗措置発動等が決定され(ネガティブ・コンセンサス方式)、最長18カ月とする時間的枠組みと共に、手続きの自動性、迅速性を保証する。その半面、紛争解決手続きの信頼性を保証するため二審制が導入され、パネル報告に不満を持つ当事国は、上級委員会に審査要請ができる。また、モノ、サービス、知的財産権のいずれの分野に対しても適用され、対抗措置も原則として紛争案件と同じ分野内で発動することとされている。その措置が有効でないと判断される時は、異なる分野において対抗措置を発動する(クロス・リタリエーション)可能性にも道を開いた。また、WTO協定に関する紛争は、この紛争解決手続きを利用しなければならない点を明文化し、一方的措置の発動に対する抑止力を高めている。1995年から2006年6月までにWTOに通報された紛争件数は、346件にのぼる。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

国際収支

国際収支

国際収支とは、一定期間内の一国全体の対外経済取引を要約して示したものであり、経常収支(current balance)と資本収支(balance of capital account)に大別される。経常収支はさらに、商品の輸出入を示す貿易収支(trade balance)、運賃、保険料、旅行などのサービス収支、送金など対価を伴わない取引である移転収支、投資収益など所得収支、に分けられる。日本の国際収支構造は大きな変遷を遂げてきた。1950〜60年代前半には、景気の上昇のたびに国際収支が赤字となり景気拡大の制約要因となっていた。60年代後半には、貿易収支、経常収支の黒字基調と資本収支の赤字基調が定着したものの、70年代には石油価格の高騰によって経常収支は大幅な赤字に転じた。80年代に入ると、経常収支は大幅な黒字になると同時に、世界最大の資本供給国(資本収支は赤字)として国際経済に登場するようになる。なお、2005年には、初めて所得収支の黒字幅が貿易黒字を上回った。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

サービス貿易

サービス貿易

従来運輸、通信、海上保険金融などの分野では、モノの貿易と関連して、ある国のサービスを他の国が利用するという形でサービス貿易が行われていたが、近年では、移動させにくいサービスを相手国内で営業する形で提供することも多い。弁護士、会計士、保険、証券などの海外進出がその例である。米国ではこのサービス貿易についての自由化、内国民待遇供与などを強く提唱している。生産と結びついた技術提供、コンサルティングなどは、それによって生産されたモノと不可分の形をとるし、労働力の移動もサービス貿易に含めるべきとの主張もあり、サービスの多様性と相まって今なおサービス貿易の定義は固まっていない。その概念を明確にするため、WTOのサービス協定(GATS:General Agreement on Trade in Services)では、金融、海運、基本電気通信を除くサービスにかかわる150以上の業種を対象に、最恵国待遇、内国民待遇の原則が明示された。WTOによれば2005年の世界のサービス貿易額は2兆4150億ドルで、商品貿易の約4分の1の規模

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

セーフガード条項

セーフガード条項

セーフガード(SG)とは、特定産品の輸入急増が国内産業に重大な損害を与えないよう、当該業界の要請を受けて政府が被害状況を調査し、重大な影響があったと証明される時には当該品目の輸入を制限すること。WTOセーフガード協定で認められているセーフガードには次の2種類がある。(1)一般セーフガードは野菜や鉱工業品が対象、(2)農業に関する特別セーフガードはコメなど関税化品目が対象で、日本でもかつて生糸小麦粉発動したことがある。セーフガード条項はその発動の要件が厳しく、また発動に際してその関係国は対抗措置を取りうるとされていることもあって、実際にはあまり活用されていなかった。しかし1995年に、この条項が改善されたことにより、近年は先進国、途上国にかかわらず、セーフガード発動の増加が著しい

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

緊急輸入制限条項

緊急輸入制限条項

セーフガード条項」のページをご覧ください。

貿易関連投資措置協定

貿易関連投資措置協定

WTOにおける、貿易を制限する可能性がある国際投資関連措置の禁止等についての協定。世界的に海外直接投資が増加しているが、投資受け入れ国の中には外国からの進出企業(生産企業)に対し、部品の一定比率以上の現地調達を義務付けるローカルコンテントの要求(local content requirements)や、生産量の一定割合以上の輸出を義務付けるなどの制限を課すところも多い。こうした措置は貿易を規制し、歪めるので、これを回避するために、本協定ではローカルコンテントの要求や、輸出入均衡の要求が明示的に禁止されることになった。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

TRIM

TRIM

貿易関連投資措置協定」のページをご覧ください。

原産地規則

原産地規則

貿易商品の原産地がどこの国であるのか、「商品の国籍」を判定するためのルール。ただし、企業活動のグローバル化や水平分業の進展に伴い、複数国の原料・部品を使用し複数国で加工して完成品が出来上がるというケースが増え、「商品の国籍」を1カ国に特定することが難しくなっている。現実には、EUの市場統合や、北米自由貿易協定などの地域統合が進むにつれ、その商品が域内原産なのか域外原産なのかの区別の重要性が増してきたこと、さらには、アンチ・ダンピング関税と関連して、ダンピングと認定された国の原産か、第三国で生産されたかが重要な問題となった。WTOでは、ローカルコンテント(現地調達率)の要求はガット違反の措置として禁止されたが、原産地規則の国際的統一は、WTOの今後の課題である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

アンチ・ダンピング関税

アンチ・ダンピング関税

ダンピングとは、ある商品の輸出向け販売価格が、その商品の国内販売価格を下回る状態のこと。1997年以降、米国は日本などの鉄鋼輸出に対し、米国鉄鋼メーカーの提訴に基づき13件のアンチ・ダンピング調査を開始した。米国のアンチ・ダンピング調査は、ITC(米国際貿易委員会)が外国企業によるダンピングで国内企業が被害にあったかどうかを認定、商務省がダンピング・マージン、すなわち、どの程度安売りをしてきたかを認定する。これまでに熱延鋼板など10件でアンチ・ダンピング(AD)関税賦課されている。アンチ・ダンピングは運用のされ方によっては保護主義的な措置となる。WTOの「アンチ・ダンピング協定」では、アンチ・ダンピングの運用手続きがより明確化され、法整備が行われた発展途上国によるアンチ・ダンピング提訴が増えている。日本は93年2月、国内では初めてのケースとして、中国製フェロシリコマンガン(鉄鋼副原料)に対するAD関税の課を行った(98年1月終了)。続いて、95年8月にパキスタンからの綿糸流入について(2000年7月終了)、また02年7月に韓国・台湾からのポリエステル短繊維についてもAD関税の賦課を行った。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

包括通商法

包括通商法

1988年8月に成立した米国の88年包括通商・競争力法の略称。国内産業の保護、外国の不公正貿易慣行への対応の強化などのほか、米国経済の競争力の回復に資するため、いろいろな分野での包括的な対応措置を設けているのが特徴。米国の通商法の流れの中では保護貿易的色彩が強められると同時に、通商交渉の大統領権限を制限し議会権限を強化する傾向が強まってきているが、包括通商法もこの延長線上に誕生した。特に重要な項目としては、外国市場へのアクセス改善を目的とした74年の通商法301条の改正やスーパー301条(Super 301)の新設、輸入からの国内産業保護を目的とするアンチ・ダンピング関税、相殺関税の改正や通商法201条の改正、知的財産権保護を目的とした関税法337条の改正、対米投資規制や東芝制裁条項、などがある。通常の301条が個々の産業の障壁を対象としているのに対し、スーパー301条は相手国の組織的な貿易慣行の除去を目的として、相手国そのものを対象としている点に特徴があった。当初は2年間だけの時限立法であったが、その後、延長・失効・復活をたどり、2002年に失効。米国の通商代表部(USTR)は、「外国の貿易障壁に関する年次報告」を作成、不公正な貿易障壁・慣行を設けている国及びその具体的項目を特定している。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

米中経済摩擦

米中経済摩擦

現在の米中間の経済摩擦は、繊維製品を中心とする貿易摩擦、海賊版の取り締まりなどの知的財産権の侵害問題、人民元改革の問題など多岐にわたっている。繊維製品に関しては、2005年1月から多国間繊維取り決め(MFA)が撤廃され、中国からの繊維製品輸入が急増していることも摩擦拡大の大きな要因となっており、同年5月、米国は中国製繊維・衣料品7品目への緊急輸入制限(セーフガード)発動を決めた。また、知的財産権の侵害に関しては、海賊版や類似商品の横行で米企業が大きな被害を受けているのに対し、中国政府の対策が不十分としてWTOへの提訴視野に入れた対応を模索している。さらに、米国政府は中国が人民元を不当に安い水準でドルに実質的に固定しているとし、人民元を上昇させるべきだとする対中圧力を強めた。中国政府は、05年7月に人民元の対米ドルレートを2.1%切り上げると共に、通貨バスケット制に移行した。日米間がそうであったように、現在、米中間で多くの経済摩擦を抱えるようになったのは、両国経済間の相互依存がより強まった1つの証しともいえる。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

APEC

APEC

1989年の創設以来、アジア太平洋地域の経済発展のため、貿易・投資の自由化、円滑化、そして技術協力を三本柱として活動してきた会議。メンバーは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、日本、韓国、中国、台湾、香港、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ロシアである。94年11月、インドネシア・ボゴールでの宣言で、先進加盟国は2010年、途上国は2020年を期限とする貿易・投資の自由化を打ち出した。1995年11月のAPEC大阪会議ではボゴール宣言実施のための行動指針作りの検討が行われ、自由化の対象は関税、非関税措置、サービス、投資、通関手続き、基準認証など13分野にわたり、各国の自主性に委ねる個別行動計画のすり合わせに合意した。さらに96年11月のフィリピン・マニラ会議では「APECはビジネスだ」(ラモス大統領)を合言葉に、自由化に向けた民間との協力が強調され、インフラ整備などの連携が合意された。なお、06年のAPEC首脳会議は、11月にベトナム・ハノイで開催される。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

アジア太平洋経済協力

アジア太平洋経済協力

APEC」のページをご覧ください。

国際商品協定

国際商品協定

各一次産品の過度な価格変動の防止と需給調整、構造調整などを目的として生産国、消費国双方が協力し合う商品別の国際協定。国連貿易開発会議(UNCTAD)の一次産品総合計画では、バナナ、ボーキサイト綿花綿糸硬質繊維鉄鉱石マンガン食肉燐鉱石、茶などを含む18品目について国際商品協定の締結を支援しているが、これまでにコーヒー、ココア、天然ゴム、砂糖、ジュート、熱帯木材、オリーブ油、錫(すず)の8品目の国際協定が結ばれた。このうち、市場に出回る商品を調節するための緩衝在庫、輸出割り当てといった価格安定化措置を持つものは、2001年の国際天然ゴム協定の失効を最後に姿を消している。このほか、総合計画には含まれない国際穀物協定がある。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

フード・マイレージ

フード・マイレージ

輸入食料に関わる環境負荷数値化するため、1994年に英国で提唱された食料の生産地から消費地までの距離に着目した「フード・マイルズ(Food Miles)」の考え方をに、農林水産政策研究所が算出した数値。食料品目別に相手国別輸入量と、食料の輸出国の輸出港から日本の輸入港までの海上輸送距離を掛け合わせ算出し累積したもので、航空会社のマイレージ・プランになぞらえて命名された。2001年の日本のフード・マイレージは9000億トン・キロメートル(t・km)で、国内全貨物輸送量の1.6倍に相当。諸外国と比較しても韓国・米国の約3倍、英国・ドイツの約5倍、フランスの約9倍である。日本のフード・マイレージの7割は穀物大豆が占めており、それも米国、カナダ豪州などの遠隔地からの輸入に依存しているのが特徴。輸送構造的に、地球環境に相当程度の二酸化炭素排出での負荷があると指摘されている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

フェアトレード

フェアトレード

コーヒーなどの換金作物や伝統的な技術で生産された途上国の産品を、生産者から直接、適正な価格で購入し、先進国市場で販売する仕組みのこと。もともとは1960年代に欧州で始まった。途上国でフェアトレード(FT)製品を生産している団体はほとんどが非営利で、より多くの賃金を生産者に払うことで人々が貧困より抜け出せることを意図している。与えられるだけの援助とは異なり、自らより良い製品を開発して販売するといったように、途上国生産者の自立を支援するという側面が強い。また、環境や労働条件にも配慮し、環境破壊をしない持続的な生産技術や原料を使うことを原則としている。97年に発足した国際フェアトレードラベル機構は、フェアトレードの国際規格を策定し、生産業者や販売業者を認証している。フェアトレード設定商品は、コーヒーを始めココア、茶、米、砂糖バナナマンゴーパイナップルブドウなどに広がっている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易と環境

貿易と環境

1992年の環境と開発に関する国連会議(地球サミット)を機に、地球温暖化防止や生物多様性保護など、環境を守る様々な条約や国際的枠組みができた。しかしその一方で、環境問題と貿易問題との調整が新たな問題として浮上。例えば、モントリオール議定書バーゼル条約ワシントン条約など、貿易規制を伴う多国間環境協定は、WTO(世界貿易機関)の無差別原則に違反する可能性がある。また各国独自の環境保護規定が自由貿易を妨げているとして、WTOに訴えられる事例も出てきた。環境保護を重視する立場からは、自由貿易が汚染の増大を誘発し、環境を破壊しているという主張がある。これに対して、自由貿易を重視する立場は、環境保護を隠れみのにして保護貿易を行うことを警戒する。この対立は、環境保護を重視する傾向のある先進国側と、環境保護規定が自国の経済発展の足かせになることを懸念する途上国側との間で起こることが多い。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易とセキュリティー

貿易とセキュリティー

2001年9月11日の米国同時多発テロ契機に、米国を始め貿易の安全確保に対する取り組みが強化されてきた。米国ではテロ対策として、02年にまず、米国向け海上コンテナに大量破壊兵器を隠し米国内で爆発させる等のテロを防ぐための安全対策が実施された。米国向けコンテナを船積みする外国のに米国の税関職員を常駐させ、コンテナ貨物の事前チェックを行っている。次に、船会社に対して米国向け海上貨物情報を船積み24時間前までに提出する義務を課している。さらに航空貨物、陸上貨物についても同様または早期の情報提出を規定した。04年3月以降はすべて電子ファイルでの情報提出に切り替えられている。また、東南アジアにおいて海賊行為が多発。凶悪・組織化しており、05年には276件に上り日本の海上輸送への脅威となっている。マラッカ海峡での低速航行や取り締まりの地形的困難性、地域政情不安などが背景に挙げられる。これに対して関係各国間会議による海賊対策連携強化、地域協力で様々な取り組みが行われているが、引き続き困難な課題である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易保険制度

貿易保険制度

貿易商品の輸送途中の危険(海難火災など)は民間海上保険によってカバーされるが、輸出相手の倒産によって代金回収が不能になったり、貿易相手国政府外貨事情の悪化から外貨支払いを停止したり、戦争内乱等で決済ができなくなったりといった多様な危険については、事故発生確率の算定も困難であり、民間の保険会社ではカバーしきれない。これらについて日本では、政府が保険事業を行ってきた。これが貿易保険制度で、貿易一般保険、輸出手形保険、前払輸入保険、海外投資保険、海外事業資金貸付保険などがある。貿易保険制度は1950年に設立され、旧通産省が運営してきたが、2001年4月に独立行政法人日本貿易保険となった。05年には規制緩和に伴い民間損害保険会社の貿易保険参入が相次いでいる。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

移転価格税制

移転価格税制

企業が、実質的な支配下にある海外の関連企業との取引に際して、恣意的な価格決定を行い、国内の課税所得が減少した場合には、第三者との間で成立するであろう、通常の価格(立企業間価格)で取引が行われたものとみなして課税する仕組み。各国とも、企業の多国籍化に伴う内外関連企業間での国際取引の増加や、取引形態の複雑化等を背景に、恣意的な価格操作による非正常な所得移動を防止するため、国際的な課税ルールに基づいた移転価格税制が必要となり、米、英、独、、中国などでこの税制が実施されている。日本でも、1986年度から導入された。最近では、本社・海外子会社の両国税務当局間で、移転価格の算定方法などについて事前に確認を得るAPA(advance pricing agreement :事前確認制度)を採用する企業も出ている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

タックス・ヘイブン税制

タックス・ヘイブン税制

企業活動の国際化に伴い、いわゆるタックス・ヘイブン(所得税、法人税などの租税が、ゼロまたは大幅に軽減される国や地域)に子会社等を設立し、租税回避行為を図る企業が出てきたため、これを排除し税負担の公正を確保するという趣旨から1978年度に創設された税制。国内の企業が、法人所得の非課税・軽課税国に名目だけの子会社等を設立し、ここに利益を留保させている場合には、その海外子会社の留保所得を、親会社である国内の企業の所得に合算して課税する。ただし、非課税・軽課税国に所在している子会社でも、独立企業としての実体を備え、かつその地で事業活動を行うことについて十分な経済合理性があると認められるなど、一定の要件を満たしている場合にはこの制度は適用されない。また、一定地域に限定して輸入や輸出関税の賦課を撤廃または制限したり、規制の撤廃により、他国の企業に進出のインセンティブを与え誘致する国の特定領域を自由貿易地域(フリートレードゾーン=FTZ)という。最近の注目は、中東のアラブ首長国連邦のドバイにある法人税免除のジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)である。日本の大手家電メーカーを始め製造業約60社が進出して欧州への輸出基地として活況を呈している。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

貿易手続き電子化

貿易手続き電子化

荷為替信用状や船積み書類の発行接受など一連の貿易手続きの電子化、ペーパーレス化を実現するために、国際的な合意や標準化の実務ルール作り、電子化した船積み書類などに関する権利義務関係など法制度の見直し、通関情報システムなど行政手続きとのリンクなどが検討されてきた。なかでも欧州で始まり世界標準に向かってグローバルな貿易EDI(電子データ交換)を目指しているのがBOLEROである。米国、欧州、日本などの銀行間で運営されている国際電子金融決済機構SWIFTを利用して、ロンドンに本部を置くBolero.netが先行して商業化している。輸出業者が船荷証券やインボイス(荷物送り状)など貿易取引に関わる書類を電子データ処理し、輸入者や自社の海外現地法人、運送業者、通関業者、銀行等に電送することで、契約から決済までインターネットを利用して内容の照合や必要な認証など、貿易取引の膨大な情報のやりとりを迅速に処理する。また同時多発テロ以後、米国のテロ対策強化で、米国電子通関システム使用による輸入貨物の税関への事前申告が義務づけられ、貿易手続きの電子化がさらに促進されている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

最恵国待遇

最恵国待遇

自由貿易の無差別原則で最も重要なものは、最恵国待遇と内国民待遇である。最恵国待遇とは通商、関税、航海などをめぐる二国間取り決めに際し、当事国が他の第三国に対して与えているか、あるいは将来与える利益、待遇(低率の関税や船舶の入出港の自由など)のうち、より不利にならない待遇を相手国に与えること。ガットの第1条では「輸出入についていずれかの国の産品に与える最も有利な待遇を、他の全ての締約国の同種の産品に対して即時かつ無条件に与える」と規定しており、ガット締約国には最恵国待遇が自動的に適用される。最恵国待遇の適用対象は、ガットにおいては関税、輸出入規則、内国税規則、例外的に認められる数量割り当てや関税割り当てなどであるが、WTO体制では運輸、観光、通信、金融、保険、知的財産権などのサービス分野についても適用される。なお、最恵国待遇原則に対して、地域統合(ガット24条)と発展途上国に関する一般特恵の例外規定がある。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

MFN

MFN

最恵国待遇」のページをご覧ください。

内国民待遇

内国民待遇

外国商品や外国船舶あるいは外国人の自国内における租税財産権、事業活動などについて、自国商品や自国民に与えるより不利にはならない待遇を与えるルールで、通常は二国間の通商航海条約相互主義に基づき規定されている。ガットの第3条では「いったん輸入されて自国領域に入った他の締約国の産品は同種の国内産品と同じ取り扱いを与えられる」としており、輸入品に対する内国税の高い課税や国内での販売、購入、輸送分配、使用に関する法令上の不利な取り扱いを禁止している。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

関税

関税

輸入品に対して通関時に徴収される税。関税の目的は、財政収入に充てることを第一義とする財政関税と、国内産業保護・育成を主目的とする保護関税の2つに分けられる。今日でも発展途上国においては関税は財政収入の重要な部分を占めている。関税率は、ガットにおける多国間交渉によって大きく下がり、特に日本の関税負担率(関税収入額の総輸入額に対する比率)は、2005年度は1.7%で先進国の中でも最も低い国の1つとなっている。関税には輸入品の価格を課税標準とする従価税と、輸入品の数量(重量、容積など)を標準として課税する従量税、および両者を組み合わせた複合税がある。従価税は輸入価格が変動しても関税負担の程度が変わらない、インフレの下でも安定した関税収入が得られる、などの特徴がある。一方、従量税は課税標準の決定が容易なこと、輸入品の価格が下がっても関税額は変動せず、国内産業保護の目的に合致するなどの特徴がある。世界的に見ると従価税を主とする国が多く、日本の関税もCIF(運賃・保険料込み値段)価格を課税標準とする従価税が基本となっている。また関税率は、国内の法律によって定められている国定税率と、外国との条約中の規定による協定税率とに大別できる。日本の場合、国定税率は関税定率法による基本税率と、関税暫定措置法による暫定税率、さらには発展途上国からの輸入品を対象とする特恵税率の3つに分けられる。これらの税率は、原則として特恵税率、協定税率、暫定税率、基本税率の順に優先して適用され、これが実行関税率となる。なお、協定税率は暫定税率、または基本税率よりも低い場合に限り適用される。なお、発展途上国の輸出を促進する目的で、先進国が途上国からの輸入品に対して、一方的に低い関税率を供与する一般特恵関税制度(GSP:generalized system of preferences)もある。特恵関税はガットの無差別待遇の原則に反するが、一般特恵関税制度は、その趣旨から例外的に承認されている。日本の場合、鉱工業製品に関しては、例外品目を除き、原則として特恵税率は無税である。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

通関士

通関士

通関業務に関する専門的知識、経験を有するスペシャリストのことで、財務省認定の貿易関連唯一の国家資格でもある。輸出入貨物の通関手続きは専門的な知識を必要とするため、専門家に依頼する方が効率的な場合が多い。この手続きを輸出入者に代行する仕事を通関業という。通関士は税関書類の審査など、通関業者もとで通関業務に従事する。近年国家試験の人気も高く、女性の資格取得者も増えている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2007年)

日本産農産物輸出促進

日本産農産物輸出促進

日本の農業は、これまで国際競争力の弱い産業と見なされ、国内農業をいかに保護するかに政策の重点がおかれてきた。しかし、WTO(世界貿易機関)での農産物貿易自由化の流れや経済連携協定(EPA)の締結など、農業市場への開放圧力は次第に高まりつつある。そうした中で、日本産の農産物を積極的に海外に輸出しようとする機運が出てきている。日本の農林水産物・食品の輸出額は、米国、アジア向けを中心に2006年で3739億円と5年前に比べ5割の増加となっている。こうした動きの背景には、健康面や安全性から日本食に対する世界的な人気の高まりがある。さらに近年、周辺アジア諸国の所得向上で、価格は高くてもおいしい食材を求める傾向が強まり、高級食材としての日本の農産物の需要が拡大している点が挙げられる。実際、アジア向けの輸出の伸びは顕著で、既に農産物輸出の7割を占めている。品目的にはリンゴ、緑茶などの輸出が多いが、象徴的な案件として、07年7月には中国の富裕層に向けたコメの輸出が4年ぶりに再開された。政府は、13年までに農林水産物の輸出額を1兆円規模とするとの目標を示しており、国内での生産体制、海外での広報活動など、その実現に向けた取り組みが行われている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 2008年)

拡大する日本の経常黒字

拡大する日本の経常黒字

日本の経常収支は2006年には19兆8500億ドルの黒字と過去最大になり、07年に入ってからも拡大傾向が続いている。国際収支としての経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支、経常移転収支から成るが、従来は貿易収支の黒字がサービス収支や経常移転収支の赤字を大きく上回っていた。しかし、05年以降は景気回復や原油価格の上昇で輸入額が増え、貿易黒字はむしろ減少気味である。近年の質的変化は2つある。第1は、所得収支の主要な要素である投資収益収支の黒字拡大である。日本の対外資産増大に伴い海外からの利子・配当受け取りが拡大していることと、低い国内金利で対外支払いが抑制されている影響が大きい。この結果、06年の所得収支黒字は13兆7000億ドルと、貿易黒字の9兆5000億ドルを大きく上回り、日本の経常黒字を支える主要な柱となってきた。第2は、サービス収支赤字の縮小である。項目別に見ると旅行収支赤字の縮小と特許等使用料の黒字幅拡大が大きい。こうしたサービス収支の変化は、日本企業の多国籍化、技術力の向上などの構造的な要因によるものだが、現状の円安により海外旅行が抑制されている側面もある。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 2008年)

米中貿易摩擦

米中貿易摩擦

米国の貿易統計によれば、2006年の対中国貿易赤字は2300億ドルに達し、同国の貿易赤字の28%を占めるに至っている。これを背景に両国の間で貿易摩擦が強まっている。1990年代までは日米間での貿易摩擦が恒常化していたが、米中間では中国市場の開放度が問題になることが少ない反面、知的所有権問題や通貨面(人民元切り上げ)での圧力に結びつきやすい。2007年に入ってからは、中国製の玩具や食品の安全性に対する懸念が広まり、問題をさらに複雑にしている。中国も輸出品に対する実質的な増税措置(付加価値税の一種である「増値税」の還付額を減額もしくは廃止)や鋼材・自動車輸出の許可制への移行、輸出企業への低利融資の廃止などの輸出抑制策を打ち出しているが、必ずしも功を奏していない。米国内でも国際政治上、中国の協力を必要とする行政府が比較的寛容なスタンスなのに対して、地元選挙民を意識した議会では対中強硬姿勢がとられる傾向がある。近年では世界貿易機関(WTO)の場でも模倣品・海賊版対策を不服として米国の対中提訴が相次いでいるのに対し、中国も紙製品に対する反ダンピング関税の仮決定などを不服として逆に米国を提訴するなどの動きが出てきている。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 2008年)

米韓自由貿易協定

米韓自由貿易協定

2007年6月、米国と韓国は自由貿易協定署名した。協定の主たる内容には、農畜産物、自動車、繊維の自由化に加えて、法律サービス、会計サービスなどの段階的市場開放も含まれる。交渉の焦点となったのは自動車と農畜産物だが、自動車では輸入関税の相互撤廃に合意した。また韓国は、コメは自由化の対象外としたものの、現行40%の牛肉の輸入関税を15年で撤廃するとした他、オレンジ、リンゴ豚肉など多くの農畜産物で5〜20年後の関税撤廃に合意した。ただし、署名にはこぎつけたものの、協定発効の鍵を握る米国議会では民主党を中心に異論が広がっており、いつ承認されるかは不透明である。特に最大の焦点となった自動車に関しては、米国の対韓輸出が数千台にすぎないのに対して、韓国の対米輸出は70万台以上あり、米国側の利益は限定的ではないかと懸念している。一方、韓国側の自動車企業も、米製日本車の輸入増大を警戒するなど、必ずしも手放しで喜んではいない。韓国は米国との自由貿易協定に続いてEUとも自由貿易協定交渉を開始するなど積極的で、日韓を始めとする日本の自由貿易協定交渉にも影響を与える可能性がある。

(永田雅啓 埼玉大学教授 / 2008年)

米中戦略経済対話

米中戦略経済対話

中国経済の台頭と米中貿易経済関係の高まりを背景に、米中貿易不均衡の拡大が続いている。2006年米国の対中貿易赤字は2325億ドルを記録し、米国議会を中心に中国人民元の切り上げ要求も強まっている。米中戦略経済対話は、06年9月20日に米国ブッシュ大統領と胡錦濤中国国家主席の間で設立合意された、両国最高級閣僚レベルによる米中経済関係の現在と将来についての「建設的」討議の場であり、年2回開催される。第1回は06年12月14〜15日ポールソン財務長官と呉儀副首相を共同議長に両国経済関係閣僚一同により北京で行われ、「中国発展経路と経済開発戦略」について議論された。両国は中国の経済が貿易不均衡を是正しつつ持続的成長軌道に乗りグローバル経済に貢献していく必要性や、サービス分野の競争と投資の自由化について話し合うワーキンググループの設置などで合意した。続く第2回は07年5月22〜23日、「イノベーションと貿易投資の自由化促進」をテーマにワシントンで開催され、米中間の航空旅客便数を増加すること、中国株の外国人保有上限の引き上げることなどで合意した。しかし、最大の焦点である人民元の切り上げ加速化、米国の対中貿易赤字削減についての具体的合意には至らなかった。

(松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2008年)

FTAブーム

FTAブーム

世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドが難航する中で、二国間、広域地域、特定地域での自由貿易協定(FTA)の交渉、締結が増加中である。多国間と二国間(地域内)の貿易自由化は相互に補完的と見られるが、ガット第24条に基づき締約国に通報されたFTAは2006年から07年10月現在までで42あり、WTO発足の1995年以降の累計は240となった。WTO加盟国で何らかのFTAに加盟していないのはモンゴルのみ。東アジア域内では現在までに15が発効しており、日本については発効4、締結3、大筋合意1、交渉中はASEANを始め7である。ラミーWTO事務局長は、2010年までに欧州からアジア、中南米に広がり400に増えるものと予想している。なお、FTAはWTO交渉よりも自由化分野の選択、労働移動の自由化などでの柔軟性が高い一方、原産地規則など多様な取り決めが交錯したり、協定外の国に対しては関税上の不利益などで自由化のスピードが遅れるなどの批判も出ている。

(松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2008年)

米国コンテナ全量検査法

米国コンテナ全量検査法

2007年7月に米国議会を通過し8月にブッシュ大統領が署名したテロ対策強化、国土安全保障省にかかわる法律で、米国向けのすべての海上コンテナ航空貨物を対象に、貨物に放射性物質が含まれていないか、積み地港で船積み前にX線による非破壊検査を義務付けるもので、12年7月以降検査を受けていないコンテナは米国内に持ち込めないことになる。貨物の全量検査については米国内外の運輸業界で実効性への疑問や米国港湾での滞船状況が悪化するなどと反対されており、また、具体的な検査方法、機器、費用負担などが規定されていないため、今後施行細則が詰められることになる。なお合わせて、国土安全保障省は06年に「安全貨物戦略」、07年7月に「国際サプライチェーン・セキュリティー強化戦略」を打ち出して、港湾がテロ攻撃された場合いかにして米国内の貨物輸送システムを回復するか、外国港湾と連携した輸入貨物の安全確保の強化などを進めている。

(松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2008年)

世界貿易の現在

世界貿易の現在

WTO(世界貿易機関)によれば2005年の世界貿易額(輸出)は初めて10兆ドルを超えた。数量ベースの前年比伸び率は04年の9%増より低い6%増だったが、原油を始め一次産品価格の高騰で輸出価格は7%上昇した。国別輸出国のトップは3年連続でドイツで、輸入及び輸出の総額では米国が引き続き世界最大である。 また、産油国である中東、ロシア、アフリカの輸出額増加が顕著で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の世界貿易に占めるシェアも12%に拡大するなど、発展途上国の躍進が目立っている。特に、中国の貿易拡大は目覚ましく05年には輸出・輸入額共に世界第3位となり、貿易総額でも日本を抜いた。貿易黒字は1000億ドルを上回り、対米黒字もさらに増加して2000億ドル超となった。 05年度の日本の所得収支黒字は初めて貿易黒字を上回った。貿易黒字が縮小したこともあるが、近年の海外投資収益(ネット)の増加傾向が一層高まったことで、製造業を中心とした貿易立国を補完する「投資立国」要素の成長が見える。また、日本経済の回復が進むなかで「新・日本輸出商品」が台頭している。デジタル家電では薄型テレビ、液晶パネルの大増産、デジタルカメラでは薄型複合化や一眼レフ化、乗用車ではハイブリッド車需要の活況、ステンレス鋼板や油井管など高級鋼材へのシフト、炭素繊維複合材料の航空機や電子機器向け供給など、量と質両面で企業の海外展開が活発である。

(松尾寛 (株)三井物産戦略研究所副所長 / 2008年)

量的緩和解除

量的緩和解除

量的緩和とは、金融市場調節における主たる操作目標を、金利でなく資金量とすることである。中央銀行は普通は主たる操作目標を金利に置くことが多いが、デフレ期、インフレ期などには、量的緩和・量的引き締めを図ることがある。日銀政策委員会は2001年3月19日の金融政策決定会合で、操作目標を従来の「無担保コール翌日物(短期金利)」から「日本銀行当座預金残高(資金量)」へと変更、同残高目標を5兆円程度(以前は4兆円強)として、金融機関への資金供給を増やし、消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に0%以上となるまで継続することとした。これが日本では今まで例のなかった、量的緩和政策の始まりであった。その後、量的緩和政策はデフレの長期化に伴い、06年まで続き、日銀当座預金残高の目標値は最大時で30〜35兆円(2004年1月20日〜06年3月8日)に達した。しかし06年3月9日、日本銀行は、金融政策決定会合において金融市場調節の操作目標を日銀当座預金残高から無担保コール翌日物(短期金利)に変更した上で、その金利がおおむね0%で推移するよう促すと発表した。ただし日本銀行は、この時点では、量的緩和政策は解除するが、景気の過度の急速な冷え込みを懸念し、ゼロ金利政策は継続の方針をとった。こうした状態は、日本銀行が7月14日にゼロ金利政策も解除するまで続いた。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

ゼロ金利解除

ゼロ金利解除

日本銀行は2006年7月14日の金融政策決定会合で、ゼロ金利政策の解除を決定した。日本銀行は01年3月に量的緩和政策を導入したが、それ以来、実質的に短期金利を0%に抑え込んできた。ITバブル崩壊による景気後退や持続するデフレ状態に対処するため、量的緩和措置と併せて、非常時の金融政策をとってきたのである。しかし、05年になると金融機関の不良債権問題も峠を越し、消費者物価指数は05年11月から06年5月まで、7カ月連続でプラスに浮上した。このように、経済の非常局面が去ったために、金融政策も本来あるべき通常の姿に戻したといえる。ゼロ金利政策は、短期金利を0%に固定するので、金利を操作して金融調節を行う通常の金融政策を実行不可能にする。デフレという特殊な状況には適しているが、金融政策の選択肢を縛るものであり、恒常的にとりうる措置ではない。日本銀行は、デフレ局面は過去のものとなったと考え、ゼロ金利を解除した。具体的には、短期金利(無担保コール翌日物)の誘導目標を、これまでの0%から0.25%に引き上げた。同時に政策金利である公定歩合を、0.1%から0.4%にまで引き上げた。今後さらに、好調な設備投資などを背景に、06年内の再利上げを予想する声も高い。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

郵政民営化

郵政民営化

郵便、郵便貯金、簡易生命保険の、いわゆる郵政3事業は、2003年4月に発足した日本郵政公社が郵政事業庁から引き継いだ。しかし、小泉内閣公社ではまだ十分でないと考え、07年4月からさらに新しい体制に移行する内容の「郵政民営化法案」を作成し、05年度通常国会に提出した。同法案は一度、参議院で否決されたが、その後05年9月に行われた総選挙で自民党が大勝したことを受けて、同年10月に成立した。同法では、これまで日本郵政公社が営んできた機能を4機能(窓口ネットワーク会社、郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社)に分け、それぞれ株式会社とする。国は4事業会社を子会社とする、純粋持ち株会社を設立する。このうち、郵便貯金銀行(商号「ゆうちょ銀行」)及び郵便保険会社(商号「かんぽ生命保険」)は17年10月までに保有全株式を処分し、民有民営を実現する(ただし、その後の買い戻しは可とする)。移行後の業務は、民間金融機関と同様、銀行法等の一般に適用される金融機関法令に基づき行うこととされる。06年7月11日には、郵政事業4社の社長人事も発表された。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融商品取引法

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象に、投資家保護ルールの徹底と利便性の向上や、金融市場の透明化、国際化を促す目的で制定された法律。2007年9月30日に全面施行された。それまで、金融商品を巡っては株式や投資信託などは証券取引法、商品ファンドは商品ファンド法などと別々の法律で規制していたが、証取法の名称を変え、関連法律を改正・統合して、1つの法律で横断的に規制できるようにした。従来の証取法と比べて、信託の受益権や多様なデリバティブ取引なども対象とするなど規制範囲を拡大。さらに、集団投資スキームの持ち分も規制対象に含め、これまで野放しだった投資ファンドは販売、運用会社の名称や所在地などを金融庁に登録・届け出をしなければならなくなった。大型ファンドは有価証券報告書の提出も求められる。これは、ファンドを介在させて自社株売却益を違法に売り上げに計上したなどとして、堀江貴文被告が証取法違反の罪に問われたライブドア事件の影響が大きい。金融商品ごとにばらばらだった販売や勧誘のルールも金商法により統一され、顧客の知識や経験、財産状況、投資目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないなど、業者に厳しい投資家保護策が課せられた。金商法は1986年にスタートした「金融ビッグバン」の総仕上げとなる。政府は、個人が安心して投資できる環境を整えることで「貯蓄から投資へ」の流れが進むと期待している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象として、投資者保護ルールの徹底、利用者利便の向上、市場機能の確保、国際化への対応を目的に制定された法律。投資サービス法とも呼ばれている。2006年6月に、従来の証券取引法を改正する形で成立・公布された。主要部分の施行は、07年7月が有力視されている。金融商品取引法は、幅広い金融商品を横断的に規制するため、従来の証券取引法と比べて、信託の受益権、抵当証券、集団投資スキーム持ち分、各種デリバティブ取引などに規制対象が拡大された。特に、集団投資スキーム持ち分が規制対象とされたことから、各種の投資ファンドの募集・販売・運用などに対して、金融商品取引法に基づく開示規制、販売・勧誘規制、運用規制、登録・届け出義務が課される意義は大きい。他方、預金、保険、商品取引所法に基づく商品先物については、金融商品取引法の適用対象とはなっていない。そのほか、上場会社に対する四半期報告書・内部統制報告書制度の導入(08年4月以後開始する事業年度から適用)、公開買い付け制度・大量保有報告書制度の見直し、相場操縦・インサイダー取引規制違反等に対する罰則強化なども盛り込まれている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融商品取引法

証券取引法などこれまで複数の法律で規制されてきた金融商品の販売や投資関連サービスおよび有価証券の発行や流通に関わる法人などについて、機能が同じものには同じ規則・規制を適用し、また投資家保護のために販売、勧誘、投資助言などを包括的に規制するための法律。2006年6月に成立、07年9月30日施行された。この法律により、商品ごとに縦割りであった規制が、リスク性のある金融商品については横断的な規制となる。その他にも、企業の内部統制に関わる部分が「日本版SOX法(企業改革法)」とも言われるように、内部統制の適正化、四半期報告制度の導入、投資ファンドの規制、株式公開買い付け(TOB)制度の見直しなど、非常に多岐にわたる内容を包括的に網羅している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

政府系金融機関改革

政府系金融機関改革

2005年11月29日に経済財政諮問会議は「政策金融改革の基本方針」をとりまとめ、同日、政府と与党は同方針に4項目を加えた「政策金融改革について」に合意した。これらは同年12月24日に「行政改革の重要方針」として閣議決定された。基本方針等では、政府系金融機関の抜本的な改革を行い、08年度から新体制に移行するとしている。具体的には、政策金融の機能を、(1)中小零細企業・個人の資金調達支援、(2)国策上重要な海外資源確保、国際競争力確保に不可欠な金融、(3)円借款、の3つの機能に限定し、それ以外は撤退するとしている。06年6月現在の組織変更案は以下のとおり。日本政策投資銀行、商工組合中央金庫は、政府金融としては撤退し、08年10月から5〜7年かけて完全民営化する。公営企業金融公庫は08年度に廃止し、資本市場などを活用した仕組みに移行する。国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、沖縄振興開発金融公庫は、一部の機能は廃止した上で、08年10月、1つの新政策金融機関(特殊会社)に統合する。国際協力銀行については、上記(3)の円借款機能は国際協力機構(JICA)に、また(2)の機能は新政策金融機関に統合する。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融市場

金融市場

金融取引が行われる市場。狭義では、市場型取引の市場。市場型取引とは、金融機関を始めとした企業や家計など不特定多数の経済主体による競り合いを通じて、価格(金利)などの取引条件が決定される取引をいう。市場型取引の市場は、通常、満期までの期間が短期(1年未満)か長期(1年以上)かにより、短期金融市場と長期金融市場とに分けられる。前者マネーマーケット後者資本市場と呼ばれることもある。短期金融市場は、コール市場・手形市場など、参加者が金融機関に限定されたインターバンク市場と、現先(将来の売り戻し〈または買い戻し〉をあらかじめ約束した債券等の取引)市場・CD市場・CP市場など、事業法人などの非金融機関も参加しうるオープン市場に分けられる。長期金融市場には、公社債市場、株式市場などがあり、それぞれ発行市場と流通市場から成る。市場型取引の市場に対し、相対(あいたい)型取引の市場とは、企業や家計などの経済主体が、特定の金融機関と1対1で取引条件を決定する取引をいう。貸出取引や預貯金取引がこれにあたる。なお、広義の金融市場から証券市場(資本市場)を除いたものを金融市場と呼ぶこともある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

インターバンク市場

インターバンク市場

金融機関間において短期資金貸借が行われる市場のこと。市場参加者は金融機関に限られる。金融機関の日常の営業活動から生ずる短期資金の過不足の調整機能がある。金融機関間の資金偏在調整や、日銀による市中金利水準誘導等の場でもある。インターバンク市場にはコール市場手形(売買)市場がある。コール市場とは、翌営業日が期日決済日となるオーバーナイト物(翌日物)を中心とするごく短期の資金取引の市場。長い間、有担保での取引が主流であったが、1985年7月に無担保コール市場が開設され、90年代には有担保コール市場の取引規模を上回るほどに成長した。しかし、99年以降のゼロ金利政策や2001年以降の量的緩和政策の影響を受け、残高が急減した。手形市場とは、企業が振り出した優良な商業手形等の手形や公社債等を担保として、銀行が振り出した為替手形を取引する市場。71年に長期の資金取引を有担保コール市場から移す形で開設されたが、近年の取引は限定的。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

コマーシャル・ペーパー

コマーシャル・ペーパー

企業が短期資金を調達するために発行する、無担保証券。米国で誕生。市場形成されたのは1920年代で、80年代にはユーロ市場等でも発達。日本では87年に約束手形として第1号が発行され、93年に証券取引法上の有価証券に加えられた。当初、償還期限、最低額面金額、発行適格企業、発行形態等、多くの規制があったが、CP市場の定着、自由な証券市場への要請から次第に規制緩和が進んだ。例えば、98年6月には銀行等にもCP発行が解禁された。しかし海外に比べ、企業の日常的な短期資金調達手段として十分に定着していないといわれていた。その一因として、CPの券面作成コストや受け渡しリスク等が指摘され、2002年4月、CPのペーパーレス化・電子化を実現する法律が施行され、従来の約束手形方式と合わせ、両方式によるCPの発行が可能となった。05年の税制改正で、約束手形方式で発行されるCPに対する印紙税の軽減措置が廃止されたこともあり、電子CPが主流となっている。なお、企業の保有資産を担保として発行される資産担保CPもある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

CP

CP

コマーシャル・ペーパー」のページをご覧ください。

直接金融

直接金融

資金余剰主体から資金不足主体への資金供給が、銀行等を介在せず、直接行われること。一般に、企業等が株式や債券等を発行し、投資者が証券市場を通じてそれを直接購入することで実現される資金供給をいう。一方、銀行等が預金等の形で資金を集め、融資等の形で貸し付ける資金供給形態を間接金融と呼ぶ。なお、最終的なリスク負担責任の所在(資金提供者か銀行か)によって直接金融と間接金融に区分する考え方もある。日本では長年、間接金融が支配的で、直接金融は副次的な地位にあった。こうした金融構造は戦後の復興に必要だったと評価される半面、証券市場の発達、企業の資金調達コストの低下、自己責任意識の成長を阻害したとも指摘される。1990年代後半以降は、企業の財務リストラに伴う借入金の返済の進行などから、間接金融の割合が低下しつつある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

短期金利

短期金利

短期金利とは短期の資金貸借に適用される金利。具体的には、コールレート、CDレート、現先レート、手形割引率、短期プライムレート等。長期金利とは長期の資金貸借に適用される金利。具体的には長期国債事業債等の利回り長期プライムレート等。両者区分は、1年以内のものを短期、1年超のものを長期とするのが一般的である。一般に長期金利は短期金利よりも高めに設定されるが、経済動向等によっては逆転現象が起こることもある。また、特に短期(長期)貸出金利といった場合は、民間金融機関による貸出金利を指す。なお、プライムレートとは、一般に、短期・長期貸出金利のうち、最も信用力のある企業に対する最優遇貸出金利のこと。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

長期金利

長期金利

短期金利」のページをご覧ください。

公定歩合

公定歩合

日本銀行から民間金融機関に対して信用供与(貸し出し)を行う際に適用される基準金利。貸し出しは、手形割引(商業手形その他の手形の再割引)や手形貸し付け(国債や手形等を担保とした貸し付け)等で行われるが、一般に前者の商業手形割引率を指す。公定歩合の決定・変更は、日銀政策委員会の専決事項(日本銀行法第15条)。公定歩合の変更は金融機関の資金調達コストに直接影響し、各金融機関の貸出金利にも影響し、企業の投資や家計の消費を刺激・抑制するコスト効果や、金融政策の基本的スタンスの変更として受け止められるアナウンスメント効果があるとされてきた。しかし、1994年の金利自由化で預貯金金利との制度的な連動性がなくなり、96年には金融調節の手段には用いないとされ、政策金利としての地位は低下した。ただし2001年3月にはロンバート型貸し出し制度(あらかじめ明確に定めた条件のもと、金融機関からの借り入れ申し込みを受けて受動的に実行する貸付制度)が開始され、公定歩合にはコールレートの変動の上限を画するという新しい機能が付与されている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融調節

金融調節

日本銀行金融市場全体の資金の過不足を調節すること。日本銀行が資金の供給・吸収を通じて金利水準やマネーサプライに影響を及ぼす。手段としては、金融機関への信用供与(貸し出し)と、市場での売買取引(オペレーション)がある。現在は、後者が主である。貸し出しには、金融機関が割り引いた手形を日本銀行が再割引する手形割引と、手形・債券等を担保に金融機関が日本銀行に約束手形を振り出す手形貸し付けがある。貸し出しの実施は、資金需給を緩和させ、金利低下や融資増大が期待できる。逆に貸し出しの回収は、資金需給を逼迫(ひっぱく)させ、金利上昇や融資縮小が期待できる。オペレーションにおいては、日本銀行は直接市場に参加し、手形・国債・CP等の取引(売買・現先取引等による)を通じて資金供給・吸収を行う。市場からの手形等の買い取り(買いオペレーション)は、市場に資金を供給し、資金需給を緩和させ、金利低下が期待できる。逆に、市場への手形等の売却(売りオペレーション)は、市場から資金を吸収し、資金需給を逼迫させ、金利上昇が期待できる。なお、一般にオープン市場でのオペレーションを、公開市場操作と呼ぶ。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

準備預金制度

準備預金制度

銀行等に対して受け入れている預金等の一定割合(準備率)以上の金額を、強制的に日本銀行に預け入れさせる制度のこと。本来は、預金者保護の観点から、銀行等に対して預金の払い出しなどに備えた積み立てを求める趣旨だったといわれているが、今日では、日本銀行による通貨調節手段と考えられている。すなわち、銀行等は準備率の引き上げによって預金等のうち運用可能な資金量が制限されることとなる。そこで日本銀行は、準備率を上下させることを通じて銀行等の信用創造機能に影響を与え、市場での資金需給を調整することが期待できる。日本では「準備預金制度に関する法律」に基づき、1957年に導入された。準備率は金融機関の種類、債務の種別、金額等に応じて、日本銀行が定めている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

マネーサプライ

マネーサプライ

日本銀行と市中金融機関から供給され、国内の民間非金融部門が保有する通貨量。日本では4つのマネーサプライ指標が作成・公表されている。現金通貨と預金通貨(要求払い預金)の合計であるM1、これに準通貨(定期預金等)及びCD(譲渡性預金)を加えたM2+CD、さらに郵便局・農漁協・信用組合等の預貯金、全国銀行の信託勘定を加えたM3+CD、そして債券現先・金融債・国債・投資信託・外債等を加えた広義流動性である。マネーサプライが重要視されるのは、実体経済物価の動向と密接な関係を持っていると考えられるためである。一般に、経済活動に用いられる通貨を幅広く網羅し、速報性もあるM2+CDが利用されるが、近年ではM2+CDがカバーしていない金融商品との間での資金シフトが見られ、広義流動性等と併せて分析する必要性が高まっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

マネタリーベース

マネタリーベース

中央銀行等の通貨性の負債を合計したもの。「中央銀行通貨」「ベースマネー」「ハイパワードマネー」などとも呼ばれる。日本銀行の場合、「日本銀行券発行高」「通貨流通高」「日銀当座預金」の合計額として算定している。通貨の供給に関係する点では、マネーサプライとも似ている。しかし、マネーサプライが、金融部門全体から経済に対して供給される通貨を意味するのに対して、マネタリーベースの統計は、中央銀行が、通貨の発行、金融市場調節などを通じて、どれだけの通貨を供給したかを示す数値であるという違いがある。具体的には、マネーサプライ統計には含まれない日銀当座預金や金融部門の保有現金なども、マネタリーベースには含まれる。ただし、金融部門の保有現金が増加すれば、それを裏づけとして民間銀行から市場に対する資金供給も増加することも期待される。そうした点を踏まえて、マネタリーベースとマネーサプライの関係を指摘する者もいる。日本銀行では、マネタリーベースを月次ベースでインターネットのウェブサイトなどを通じて公表している。2006年7月のマネタリーベース(平均残高、季節調整済み)は、90兆9257億円となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

為替の市場介入

為替の市場介入

正式名称は「外国為替平衡操作」。自国通貨の外国為替相場を安定させるため、中央銀行や財務省等の通貨当局が実施する外国為替の売買のこと。日本では外為法や日銀法等の規定に基づき、日本銀行財務大臣の指示に従って介入実務を行っている。為替の市場介入には、政府短期証券で調達した円資金を売却してドルを買い入れる「ドル買い円売り」と、政府の保有するドル資金を市場で売却して円を買い入れる「ドル売り円買い」がある。いずれも政府の外国為替資金特別会計の資金を用いて実施される。最近では、2003年年初から04年3月半ばにかけ、日本政府・日銀は35兆778億円ものドル買い円売り介入を実施した例がある。当時、日本はデフレ脱却を強く意識していた。さらに円高が加わり、貿易収支が悪化することはぜひとも避けなければならなかった。また、円売り介入をすれば市場に流動性が供給されるので、その面からの景気浮揚効果も期待された。しかし、04年の3月16日以降、06年8月現在まで円売りドル買い介入は実施されていない。国内外からの介入に対する批判や、景気の底入れ感が強まってきたことが理由と思われる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金利裁定取引

金利裁定取引

外国為替取引において、為替の直物相場・先物相場間のスプレッド(金利差)と二国間の短期金利の差との関係に生じた不均衡を利用し、短期資金の移動により利ざやを狙う取引を指す。近年では、より広くとらえ、主として金融機関等がその資金の運用において利子収益の増加を図るため、様々な市場の金利差を利用して、相対的に低金利の市場で資金を調達、相対的に高金利の市場で資金を運用することにより効率的な金融取引を目指す行為全般を指すことが多い。具体的には、長期物と短期物、現物と先物等の金利差を利用するケースがある。異なる市場における同時点の金利差又は価格差からの利益を狙うものであるため、予測不確実性は低い。金利裁定取引には各市場の金利に連動性を持たせ、最終的に一定の水準に収れんさせる機能があるとも考えられている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

公社債のペーパーレス化

公社債のペーパーレス化

公社債の発行においても、流通においても、券面が存在せず、振替口座簿上の記録のみで権利移転などを可能とすること。権利の移転などに際して券面の引き渡しが必要とされる場合、証券決済の安全性や効率性に問題がある。そのため日本でも、券面の発行されない電子CP(CP参照)を可能とする「短期社債等の振替に関する法律」が2002年4月に施行。同法は03年1月に「社債等の振替に関する法律」と改められ、CPに加えて、社債、国債地方債などについてもペーパーレス化の対象とする法改正が行われた。これを受けて、証券保管振替機構において実務・システム対応などの準備が進められ、06年1月に公社債のペーパーレス化がスタート。ペーパーレス化された公社債は券面が発行されないので、その権利関係は、原則として、振替機関や口座管理機関の振替口座簿上の記録によって定まる。譲渡や質入れ等についても、口座への記録が効力発生要件となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

電子認証業務

電子認証業務

インターネット等を介して送受信される電子情報について行われる電子署名(作成者を示す目的で行う暗号化等の措置)が、本人のものであることなどを証明する業務。インターネット等を利用して電子取引を行う場合、悪意ある第三者による「なりすまし」や、情報の改ざん等があり得る。そこで、相手が本物であることを証明する業務を行う第三者が必要とされる。具体的な方法としては公開鍵暗号方式(情報作成者は秘密により情報を暗号化し、情報受信者は公開鍵により情報を復号する方式)等が利用されている。2001年4月に施行された「電子署名及び認証業務に関する法律」では、一定基準を充たす(電子)認証業務については、認証業者の申請(任意)に基づいて国が認定を行う特定認証業務制度を設けている。06年8月現在、19件の(電子)認証業務が特定認証業務の認定を受けている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

認証業務

認証業務

電子認証業務」のページをご覧ください。

ネット・バンキング

ネット・バンキング

顧客がインターネットを通じて金融機関のシステムにアクセスし、各種金融サービスの提供を受けること。パソコンやウェブ・ブラウザー搭載の携帯電話端末を利用してインターネットに接続すれば、金融機関の店舗に出向かなくても、残高照会や振込振替等を行うことができる。日本では1990年代半ばから始まり、本格化したのは90年代末。当初は各種情報の提供が中心であったが、今日では残高照会、各種資料請求、振込・振替等の資金移動、各種相談受け付けなどのサービスが行われている。定期預金外貨預金投資信託等の取引サービスを提供しているケースもある。2000年10月にはネット・バンキングに特化したネット専業銀行出現(ジャパンネット銀行)。その後、ソニー銀行、イーバンク銀行も参入している。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

コンビニ銀行

コンビニ銀行

銀行がコンビニエンスストアATM(現金自動出入機)を設置すること、あるいは支店等を設けず専らコンビニエンスストアへのATM設置を通じた業務展開を行っている銀行のこと。1999年頃から本格化した。当初は既存銀行とコンビニエンスストアとが個別に提携を行うケース(@B∧NK)や、複数の既存銀行、コンビニエンスストア、システム会社等が合弁で共同ATM運営会社を立ち上げるケース(イーネット)が中心で、既存銀行による営業網拡充の一環としての色彩が強かった。しかし2001年、異業種からの銀行業参入の流れの中で、イトーヨーカ堂セブンイレブンを出資者とするアイワイバンク銀行(現セブン銀行)が設立され、コンビニエンスストアへのATM設置を業務展開の中核に据えた本格的なコンビニ銀行が出現した。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

確定拠出年金

確定拠出年金

拠出金とその運用結果に応じて、給付額が事後的に決定される年金制度。2001年10月から日本にも導入されており、制度のモデルである米国の401(k)プランにちなみ、日本版401(k)とも呼ばれる。企業にとっては、柔軟な年金プランを設定できる、年金資産の積み立て不足が発生する心配がない、などのメリットがある。従業員にとっては、転職の際も口座ごと持ち運ぶことができる、自分で運用指図ができる、などの利点がある。確定拠出年金には、企業型年金と個人型年金とがある。前者厚生年金保険等の被保険者(60歳未満)である企業の従業員を対象とし、事業主のみが拠出を行える。後者は自営業者等を対象とし、加入者のみが拠出を行える。企業型年金を実施していない企業の従業員は、個人型年金への加入資格を有する。06年6月末現在で企業型年金の加入者数は約197万人、個人型の加入者数は約6.9万人。税法上、事業主拠出金には損金算入が認められ、加入者拠出金には所得控除が認められる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

確定拠出年金

企業年金の1つ。企業や個人が一定の掛け金を負担し、退職後に年金として受け取る。確定拠出とは掛け金が確定しているという意味。確定拠出年金は、加入者自身が自己責任で運用方法を選び、その実績次第で年金の額が決まる。運用がうまくいけば多額の年金を受け取るが、失敗すると損失を穴埋めする仕組みはない。転職しても転職先の企業で続けられる。2001年10月から始まり、米国の確定拠出年金(401k=税法401条k項にあるため)にちなんで日本版401kともいう。企業が従業員のために毎月、一定の掛け金を払う「企業型」と、この制度を導入しない企業の従業員や自営業者が自分で掛け金を払い込む「個人型」の2種類がある。掛け金は所得控除の対象だが、上限がある。

(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)

プライベート・バンキング

プライベート・バンキング

個人顧客のうち富裕層を対象に資産の運用管理サービスを総合的に提供する業務。個々の顧客との契約に基づき、預金、貸し付け、為替決済に加え、不動産等の有効活用や株式、投資信託を含んだ各種金融商品による資産運用税務のアドバイス、遺言執行、総合的な資産管理など多様なサービスを提供する。欧州、特にスイスで古くから発達し、現在は米大手銀行等も世界的に業務展開している。スイスでは財務コンサルタント的な色彩が強いが、米国では資産運用型が中心。日本の金融機関は、業態ごとの業務規制が厳しく、単独でこのような総合的なサービスはできなかったが、日本版ビッグバンの進展による商品の多様化、業務規制の緩和等を背景に同業務に進出する金融機関も増えている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

ホールセール・バンキング

ホールセール・バンキング

ホールセール・バンキング(卸売銀行業務)とは、金融機関が大企業、政府、機関投資家などを相手に大口預金・貸し付け業務、為替取引等の金融業務を取り扱うこと。銀行業務だけでなく、証券引き受け業務、M&Aの仲介、証券化、デリバティブ自己売買等を含んだ投資銀行業務を指す場合もある。一方、リテール・バンキング(小売銀行業務)とは、個人や中小企業を対象にした小口の預金・貸し出し、為替取引などの金融業務。従来、広範な支店網を必要とする相対(あいたい)取引中心の業務とされてきたが、インターネットやIT(情報技術)の発達により、ネット・バンキングやコンビニ銀行も出現し、今後大きく変化する可能性もある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

リテール・バンキング

リテール・バンキング

ホールセール・バンキング」のページをご覧ください。

リレーションシップ・バンキング

リレーションシップ・バンキング

金融機関が、借り手である顧客との間で親密な関係を継続して維持することにより、外部では通常入手しにくい借り手の信用情報などを入手し、その情報をに貸し出し等の金融サービスを提供するビジネスモデル。貸し出し時の審査コスト等の軽減早期の事業再生支援が可能になるといったメリットが得られる。2002年10月の金融再生プログラムで、とりわけ中小・地域金融機関(地方銀行、第二地方銀行、信用金庫信用組合)を中心に、検討の必要性が盛り込まれた。05年3月公表の新アクションプログラムでは、具体的な取り組みとして、地域企業の創業・新事業支援機能等の強化、取引先企業の経営相談等の強化、早期事業再生に向けた取り組みなどを挙げ、地域密着型金融の一層の推進を目指している。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

コミットメント・ライン契約

コミットメント・ライン契約

金融機関が顧客に対して、一定期間にわたり一定の融資枠を設定・維持することをあらかじめ合意し、融資枠内であれば顧客の要請に基づき融資を実行することを確約する契約。金融機関は契約の見返りとして一定の手数料(コミットメントフィー)を徴収する。借り手側は必要な額だけいつでも融資を受けられ借入金を圧縮できる。一方、貸し手側は手数料収入が増加すると共に取引先企業の囲い込みにつながる。従来、コミットメント・フィーはみなし利息に該当し、利息制限法及び出資法に抵触する恐れがあったが、1999年3月に「特定融資枠契約に関する法律」が施行されたことで利用が可能となった。現在は、会社法上の大会社、資本金の額が3億円を超える株式会社、監査証明を受けなければならない会社等に適用対象が拡大されている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

特定融資枠契約

特定融資枠契約

コミットメント・ライン契約」のページをご覧ください。

ストラクチャード・ファイナンス

ストラクチャード・ファイナンス

資産を証券化する等の「仕組み(structure)」を利用し、市場リスク、信用リスク等をコントロールする金融技術。例えば、企業資産の証券化を行う場合、企業のバランスシートから資産を切り出す(オフバランス化)が、これにより当該企業の信用力から独立した、資産そのものの信用力を評価することが可能となる。格付けを取得すれば信用リスクの客観性を高めることができ、企業本来の信用力よりも上位の格付けを得ることも可能である。その結果、流動性が高まり、信用リスクを移転しやすくなる。企業の資金調達手段の多様化、オフバランス化によるバランスシートの圧縮、ROE(株主資本利益率)や自己資本比率の改善等の利点がある。証券化の他にも、流動化、仕組みなど手法は様々であり、プロジェクト・ファイナンスや不動産の証券化もストラクチャード・ファイナンスの一例である。かつては金融機関等が一体的に金融仲介サービスを提供してきたが、ストラクチャード・ファイナンスの普及に伴って市場を通じた資金調達が活発化し、金融仲介サービスがアンバンドリング(unbundling=機能分化)してきている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

仕組み金融

仕組み金融

ストラクチャード・ファイナンス」のページをご覧ください。

CLO

CLO

金融機関等が保有するローンや社債などを特定目的会社(SPC)や信託などを利用して流動化・証券化する仕組み、またはその際に発行される証券のこと。流動化・証券化の対象となるのが、ローンである場合をCLO(ローン担保証券)、社債である場合をCBO(社債担保証券)と呼ぶ。CLO/CBOの具体的な仕組みは、まず特定目的会社や信託などを設定し、そこに金融機関等が保有するローンや社債などを売却。その特定目的会社や信託などが、出資証券受益証券の形で小口化して販売することとなる。また、金融機関等との間で、対象となるローンや社債などのリスクを保証するクレジット・デリバティブ契約を結ぶ場合もある(シンセティックCLO/CBO)。この場合は、ローンや社債などが直接売却される訳ではないが、債務者が破綻などした場合に、あらかじめ契約に基づいて定められた支払金を金融機関等が受け取ることができる仕組みであるため、実質的にローンや社債などが売却されたのと同様の経済的効果が期待できる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

CBO

CBO

CLO」のページをご覧ください。

クレジット・デリバティブ

クレジット・デリバティブ

貸付債権や社債等の信用リスクの売買を目的とする金融派生商品。信用リスクを移転したい者が買い手となり、信用リスクへの投資を望む者が売り手となる。形態は様々だが、「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」、「トータル・リターン・スワップ(TRS)」が代表的。CDSは、貸付債権の債務者・社債発行法人の経営破綻などの「クレジット・イベント」時に発生する損害額と、一定のプレミアム(保険料に近い)を売買する。TRSはLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)などの市場金利や参照資産の評価損等と、参照資産から発生する利息や評価益等を売買する。ヘッジしたい信用リスクに応じて取引内容を柔軟に設定できる、参照資産そのものの移動を伴わないため、債務者や社債発行法人等に影響を与えずに信用リスクを移転できるという長所がある。他方、個々に取引内容を設定するため、契約内容の整理・交渉に苦慮するとの短所があったが、ISDA(国際スワップデリバティブズ協会)から契約書のひな形と用語定義集が発表され、契約書の標準化が進んだ。それに伴い市場規模も拡大している。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

シンジケート・ローン

シンジケート・ローン

複数の金融機関(銀行等)がシンジケート団を組織し、同一の契約書、同一の条件で協調融資を行うこと。銀行等が企業等に貸し出しを行うという意味では、伝統的な融資(ローン)と変わらない。ただ、複数の金融機関が同一の契約書、同一の条件で融資を行うため、(1)金利等の条件が市場原理に基づいて決定される、(2)同一条件での融資のため、事後的な債権売買が容易となる、という特徴があるといわれている。そのため、シンジケート・ローンが普及すれば、参加した金融機関同士はもとより、機関投資家なども含めたローン債権売買の活性化につながると期待されている。現在、日本ローン債権市場協会(JSLA)・日本銀行・金融機関などの関係者は、ローン債権取引の標準契約書の制定貸付債権の譲渡価格算定ツール作成、ローン債権のマーケット・メイクの試みなどローン債権流通市場を作る努力を進めている。シンジケート・ローンの組成実績は2005年には約25兆円に達している。しかし、組成されたローン債権が実際に売買によって流通しているケースは、まだ限定的である。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融先物取引

金融先物取引

将来の一定時点に特定の商品を売買することとして、現時点で価格と数量を契約しておく取引を先物取引という。金融先物取引は、取引対象商品が金融商品であり、架空の国債(標準物)を取引対象とする債券先物、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価を取引対象とする株価指数先物のほか、金利先物や通貨先物等がある。期日前の転売や、買い戻しといった反対売買による決済も可能。債券や株式の価格変動または金利変動等のリスクヘッジに利用されるほか、現物・先物間の価格差に着目した裁定取引(アービトラージ)、将来の価格変動を予想して行う投機取引(スペキュレーション)にも利用される。1972年にシカゴ・マーカンタイル取引所が国際通貨市場を開設したのが始まりで、日本では85年に東京証券取引所で長期国債の債券先物取引を開始、89年に東京金融先物取引所(TIFFE、2005年4月よりTFX)が創設され、金利、通貨の先物取引が始まった。なお、従来、金融先物取引は複数の法律に分かれて規定されていたが、06年6月7日に証券取引法等の一部を改正する法律が成立し、金融商品取引法で一体的に規定されることとなった(公布日から1年6カ月以内の政令指定日に施行)。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

スワップ取引

スワップ取引

金利または通貨等の異なるキャッシュフローを一定期間交換する取引。当事者間の合意による相対(あいたい)取引である。同一通貨間で金利(固定金利と変動金利を交換する形態と、種類の異なる変動金利間で交換を行う形態がある)を交換する金利スワップ、異種通貨間で金利・元本を交換する通貨スワップ、異種通貨間で金利を交換するクーポンスワップ株価指数と金利等を交換するエクイティ・スワップ等がある。1981年に世界銀行とIBMの間で行われた通貨スワップが始まりとされ、資金調達コストの削減や調達資金の金利変動リスクを回避する目的等で利用されている。例えば、将来的な金利の低下を見込む固定金利建てローンの利用者は、より低金利で設定された変動金利建てローンの金利と交換し、金利負担の軽減を図ることになる(金利スワップ)。また、広義には、直物為替及び先物為替反対売買同額だけ行う取引(チェンジ・オーバー)も指す。直物為替とは現時点での通貨の交換であり、先物為替とは将来のある時点での通貨の交換である。自己の外国為替持ち高の調整や資金の過不足の調整等に用いられる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

オプション取引

オプション取引

株式・債券通貨特定商品を、将来一定時点(または一定期間中)にあらかじめ決められた価格で買う権利または売る権利を売買する取引。買う権利をコール・オプション、売る権利をプット・オプションと呼ぶ。オプションの買い手は、売り手に対してオプション料(プレミアム)を支払う。買い手は権利行使により、権利行使価格で商品を入手し(引き渡し)、オプションを行使されたはそれを履行する義務を負う。オプションの満期日にのみ権利行使が認められるオプションを「ヨーロピアン・タイプ」、満期日前であれば常に権利行使が可能なオプションを「アメリカン・タイプ」という。満期日までに権利行使及び反対売買のいずれも行わなかった場合、権利は消滅する。オプションの買い手は、オプション料さえ支払えば無限に利益を得る機会がある一方で、それ以上の損失を被ることはない。逆に売り手は、オプション料を受け取る代わりに無限のリスクを負う。(1)価格変動に伴うリスクを限定しつつ、利益を得るチャンスも残せる、(2)コールプット及び原証券の組み合わせで様々な投資戦略が可能となる等の利点がある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

本人確認法

本人確認法

テロ資金供与やマネー・ロンダリングの防止を目的に、テロ資金対策関連法の1つとして制定された法律。預金口座開設等、顧客との間で継続的取引関係が開始した時や、200万円超の大口現金取引を行う際に、運転免許証等の公的証明書による本人確認や、記録の作成・保存等が金融機関に義務付けられた。その後、他人名義の預金口座等を悪用した架空請求や振り込め詐欺等の犯罪が社会問題化したため、「預金口座等の不正利用防止法」に改められた(正式名称は「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」。2004年12月30日施行)。具体的には、(1)他人名義の預金口座等から引き出し等を行うこと、(2)第三者に引き出し等を行わせるために他人名義の預金口座等の通帳やカード等を譲り受けること、(3)悪用されることを知って、もしくは正当な理由なくこれらを譲り渡すこと、(4)勧誘・広告によって(1)〜(3)の行為を行わせること、等に関する罰則規定が追加された(通常50万円以下の罰金。「業」として行った者は2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はその併科)。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

信託法・信託業法改正

信託法・信託業法改正

信託法は信託の基本的な概念や法的な枠組み、信託業法は信託を業として行う場合の法律関係を定めている。信託会社の乱立防止や悪質業者への対処を目的に、いずれも1922年に制定された。43年には、信託兼営法が定められ、信託業務は実質的に金融機関が担うこととされてきた。しかし、これらの法律では、多様化する利用者のニーズに対応しきれなくなってきた。そこで、2004年12月に信託業法が改正され、信託財産の制限が撤廃され知的財産の信託等が可能となった。更に一般的な免許制の信託会社の他に登録制の管理型信託会社を設けるなど、信託業務の担い手を金融機関以外にも拡大。信託契約代理店や信託受益権販売業者など信託を利用するための窓口も拡大された。06年3月には信託法の改正法案、信託業法の再改正法案が通常国会に提出された。改正信託法案では、信託契約の設計の自由度を拡大する一方で、受益者の権利行使に関するルールも整備している。「事業の信託」や委託者自らが受託者となり自分の財産を信託する「自己信託(信託宣言)」も認めている。再改正信託業法案は、事業を自己信託し不特定多数から資金調達する場合は、信託業として規制する、などを内容としている。いずれの法案も06年9月現在、継続審議となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

銀行代理店

銀行代理店

銀行のために、(1)預金または定期積金等の受け入れ、(2)資金の貸し付けまたは手形の割引、(3)為替取引、を内容とする契約の締結の代理または媒介のいずれかを行う営業を指す。2005年の銀行法改正(06年4月1日から施行)で、規制のため参入が容易でなかった状態から、販売チャネルを多様化し、銀行代理店の担い手が拡大するよう見直しが行われた。改正前は、銀行代理店は銀行の100%子会社等に限定され、銀行代理業以外の業務の兼営が禁止されていたが、改正法では、銀行との出資関係を不要とし、他業の兼営も可能となった。ただし、銀行代理店を営むためには金融庁の許可が必要とされ、銀行代理業を営むのに必要な財産的基礎、人的構成を有する等の条件を満たす必要がある。銀行代理業を営む際には、顧客の財産と自己の財産を分別保管しなければならない。事業用資金の貸し付けは、審査に関与しない規格化された貸し付け商品(1000万円を上限とする)のみ認められる。銀行代理店を指導する「所属銀行」が必ず定められ、銀行代理店が顧客に与えた損害を賠償する責任も負う。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

銀行代理仲介業

銀行代理仲介業

銀行代理店」のページをご覧ください。

金融再生プログラム

金融再生プログラム

金融庁が2002年10月30日に発表した、不良債権問題解決を通じた金融システム・経済再生のプログラム。04年度末には主要行の不良債権比率を、02年度末(8.4%)の半分程度に低下させ、市場から信頼され構造改革を支えるような金融システムの構築を目指した。個別銀行が資本不足等に陥った場合には、システミックリスク(ある金融機関が決済不能となった場合に、それが決済システムを通じて連鎖的に波及するリスク)回避のため日銀の特別融資を始めとする万全の措置を講ずるが、他方、当該特別支援金融機関に対しては経営陣の経営責任を問うなど、経営監視を強める。特別支援金融機関に至る前の通常の具体的な金融行政面では、(1)資産査定の厳格化、(2)自己資本の充実、(3)ガバナンスの強化、の3点を強化した。(1)では、引き当てに関するDCF的手法(DCF:discounted cash flow)の採用がうたわれ、不良債権に比して過小の引当金しか積まない従来の慣行が厳しく批判された。(2)では、実際には赤字が続いてキャッシュフローを生まないのに、過大に計上されていた繰り延べ税金資産の合理性の確認を厳しく行う方向が示された。(3)では、政府の保有する優先株の普通株転換のガイドライン作成が明記された。経営健全化計画未達の公的資金注入行に対しては業務改善命令を発出でき、業務改善計画も未達の場合は、優先株を普通株に転換して国が議決権を行使できるという流れが作られた。03年5月には、りそな銀行が実質国有化に追い込まれた。04年度末の主要行の不良債権比率は2.9%となり、プログラムの目標はほぼ達成された。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融改革プログラム

金融改革プログラム

「金融重点強化プログラム」(2004年11月公表)をベースとして、金融庁が04年12月24日に公表した金融行政の指針。「重点強化期間」である06年度までに実行すべき改革の道筋を示し、最終的には「金融サービス立国」の実現を目指すとしている。02年に策定された「金融再生プログラム」が、主要行の不良債権問題からの脱却に代表される「金融システムの安定」を重視したものとすれば、「金融改革プログラム」は「金融システムの活力」を重視したものと位置付けることができる。金融サービス立国を実現する上での視点として、(1)利用者ニーズの重視と利用者保護ルールの徹底、(2)ITの戦略的活用等による金融機関の競争力の強化及び金融市場インフラの整備、(3)国際的に開かれた金融システムの構築と金融行政の国際化、(4)地域経済への貢献、(5)信頼される金融行政の確立、の5つを提示。具体的な施策としては、「投資サービス法(仮称。06年6月、金融商品取引法として成立)」の制定、金融コングロマリット化に対応した金融法制の整備、バーゼルII(新しい自己資本比率規制)導入を踏まえた主要行のリスク管理の高度化、会計基準の国際的な収れんに向けた積極対応などを盛り込んでいる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

銀行の株式保有制限

銀行の株式保有制限

銀行は本来、元利確実とする預金業務を行っている。預金で集めた資金を株式で運用することは、株式の価格変動リスクを考えれば妥当ではない。しかし従来、日本の銀行は、株式持ち合いの中心的役割を果たし、少なからぬ株価リスクにさらされてきた。1990年以降の下げ相場の中で、銀行の株式大量保有は危機的状況を呈するに至った。2002年1月4日に施行された銀行等株式保有制限法は、銀行の株式保有をTier1自己資本(自己資本比率規制参照)の枠内に制限することを定めた。銀行の株式大量保有を前提とする戦後の日本の金融体質は、間接金融にとっても、直接金融にとっても好ましいものではなかった。間接金融面では、銀行が過大な株価変動リスクを負っていた。直接金融面では、株式の持ち合い先との同額出資の場合に端的に示される資本金の水ぶくれ、議決権の無償取得効果によって、個人投資家を資本市場から追う役割を果たした。同法の制定により、本格的に旧来の誤りを正す努力が始まった。銀行が株式保有を自己資本の枠内に収めるべき期限は当初、04年9月中間期末までだったが、03年7月の同法改正により2年間延長され、06年9月中間期末までとされた。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

自己資本比率規制

自己資本比率規制

国際的に活動する銀行等に、信用リスク等を加味して一定以上の自己資本比率を求める国際的統一基準。累積債務問題等のリスクの増大等を背景に、国際銀行システムの健全性と安全性の強化を図ると共に、国際業務に携わる銀行間の競争上の不平等を軽減することが求められた。そこで、国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会の報告書「自己資本測定と基準に関する国際的統一化」に基づき、1988年に自己資本比率(BIS)規制が合意された。この合意の内容は、日本でも国内法として取り入れられた。現在、銀行法等の法令に基づき、信用リスクにマーケット・リスクを加味して、次のような規制がなされている。分母をリスク・アセット(資産の種類ごとにリスク率を乗じたものの合計)と、マーケット・リスクに12.5を乗じたものとの合計とし、分子を資本金・資本準備金等から算出されるTier1、劣後債・劣後ローンや有価証券評価益等から算出されるTier2、短期劣後債務から算出されるTier3の合計とし、その割合が8%以上であることが求められる。それは単体ベースのみならず、子会社を含めた連結ベースにおいても要求される。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

BIS規制

BIS規制

自己資本比率規制」のページをご覧ください。

BISマーケット・リスク規制

BISマーケット・リスク規制

国際業務を営む民間銀行に対して定められた自己資本比率規制に、マーケット・リスクに対応するため、BISが追加した規制。1997年末(日本では98年1月)から適用が開始された。90年代に入ってから金利自由化が進むと共に、デリバティブ市場が急速に拡大した。そのため、信用リスクだけでなく、マーケット・リスクにより銀行の健全経営が脅かされる可能性が増えたことを背景に、マーケット・リスクに対応した自己資本の維持が求められるようになった。ここでのマーケット・リスクとは、金利、株価為替等、市場価格の変動によってオンバランス、オフバランス双方のポジション損失が発生するリスクをいう。その測定には、銀行が内部管理に用いているVARの方法等が認められている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

BIS第2次規制

BIS第2次規制

BISマーケット・リスク規制」のページをご覧ください。

バーゼルII

バーゼルII

国際決済銀行(BIS)のバーゼル銀行監督委員会が2004年6月に公表した、新しい自己資本比率規制(新BIS規制)。日本では06年3月に規則化された。新規制では、信用リスクの計算方法を精緻化した。債権(債券を含む)に乗じるリスク率を、債務者の格付けや規模などに応じて、0〜150%に細分化している(標準的手法)ほか、銀行の内部格付けに基づきリスク率を算出する内部格付け手法の選択も認めている。またリテール(個人や中小企業)向けの債権には、軽減措置が設けられている。株式には、標準的手法では現行と同じ100%のリスク率が適用されるが、内部格付け手法では、リスク率の下限は200%(売却予定がなければ100%)となる。さらに事務事故や不正行為等による、オペレーショナル・リスクにも、新たに所要自己資本を割り当てている。加えて、銀行に8%以上の自己資本比率の維持を求める(第1の柱)だけでなく、銀行自身が適切な自己資本戦略を設定し、監督当局が検証するプロセスの導入(第2の柱)、自己資本のディスクロージャーによる市場規律の導入(第3の柱)も盛り込まれている。日本では、原則的に07年3月末から適用されるが、先進的な手法でリスクを計測している銀行の場合は、08年3月末から適用される。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

アウトライアー規制

アウトライアー規制

バーゼルIIでは、銀行に対して、規制上の自己資本比率でカバーしていないリスクへの対応を第2の柱として求めている。その一環として、銀行にバンキング勘定の金利リスク管理体制の整備を要求している。具体的には、(1)上下200ベーシスポイント(BP〈1BP=0.01%〉)の平行移動による金利ショック、または、(2)保有期間1年(240営業日)、観測期間最低5年として上下1%の確率で発生する金利変動により、バンキング勘定の金利関連資産・負債やデリバティブ取引等に、Tier1自己資本とTier2自己資本の合計の20%を超える経済価値の低下が発生する銀行を「アウトライアー銀行」と定義している。その上で、監督当局にはアウトライアー銀行に対して特に注意を払うよう求めている。日本では、アウトライアー銀行は2007年4月から早期警戒制度の対象とされる。アウトライアー銀行に該当した場合、当局がヒアリングを行い、必要に応じ報告徴求、業務改善命令を実施する。日本の場合、国債を多額に保有している銀行が多く、アウトライアー銀行が多数出ることが懸念されていたが、金利関連負債に、銀行に長期に滞留している流動性預金(コア預金)を含めることで影響の緩和が図られている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

早期是正措置

早期是正措置

不良債権等を調整した実質的な自己資本比率が一定水準を下回った金融機関に対し、監督当局が適時、適切な是正指導を発動する措置。1996年の金融機関健全性確保法による銀行法改正を契機とし、98年4月から導入。自己資本比率に基づき早期に経営改善指導を行うことで、金融機関経営の健全性確保と経営破綻の未然防止を図る。是正措置は4段階。海外に拠点を有する金融機関(国際基準適用行)は自己資本比率が8%未満、国内でのみ営業を行っている金融機関(国内基準適用行)は4%未満の場合には、経営改善計画の提出及び実行の命令が出される。以下、自己資本比率が低下するにつれて、自己資本充実計画の提出・実行、配当・役員賞与の禁止・抑制等の措置、あるいは大幅な業務縮小や業務停止命令が出される。更に、自己資本比率が悪化していない金融機関に対する予防的措置として、早期警戒制度も導入されている。また、2004年8月から金融機能強化法が施行されている。これにより、金融機関等は、08年3月末まで、経営強化計画を提出して預金保険機構に公的資金の注入を申請できる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

銀行の国有化

銀行の国有化

銀行が発行した株式の議決権を、国が50%超保有すること。日本長期信用銀行や日本債券信用銀行のように、破綻処理の過程で銀行の全ての株式を預金保険機構が取得する場合が挙げられる。さらに、金融危機が予想される場合に、破綻を予防するため、預金保険法に基づく公的資金の注入で預金保険機構が銀行の議決権付きの株式を取得する「実質国有化」もある。2003年6月のりそな銀行への資本注入が、これに該当し、国が議決権の7割超を保有することになった。その他、公的資金の注入により取得した優先株式を普通株式に転換することにより、国が銀行の議決権を取得する場合がある。1998年3月に金融機能安定化法に基づいて1.8兆円、99年3月〜2002年3月には金融機能早期健全化法に基づいて、8.6兆円の公的資金が銀行等に注入された。このうち7.6兆円が優先株だが、これらの優先株は、無配が確定した時点で議決権が復活する。さらに、著しい過小資本(自己資本比率が国際基準適用行で4%未満、国内基準適用行で2%未満)に陥った場合の他、2期連続で無配、収益が大幅に悪化、利益や過小資本(自己資本比率が国際基準適用行で8%未満、国内基準適用行で4%未満)が改善しないなどの場合や転換期限が来た場合は、転換権が行使され、普通株に転換される。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

不良債権のオフバランス化

不良債権のオフバランス化

銀行等の金融機関が、不良債権貸借対照表から除去すること。不良債権の貸借対照表計上額を貸倒引当金の計上(いわゆる間接償却)によらず直接減額する直接償却と、売却などにより不良債権を処分する方法とがある。直接償却は破産清算や法的整理の対象債務者向けの破綻先債権や、これに準ずる実質破綻先債権が対象。2002年10月の金融再生プログラムでは、主要行の不良債権比率を05年3月期までに4%程度に下げることを目標にオフバランス化が推進された。一方で、不良債権処理促進のため、整理回収機構(1999年設立。破綻金融機関の営業譲り受け、資本増強金融機関の劣後債の引き受け等を行う)の機能強化、デット・エクイティ・スワップや企業再生ファンドの活用促進、産業再生機構の設立などの対策も講じられた。その結果、主要行の不良債権比率は、06年3月期に1.8%まで低下。なお現在は中小地域金融機関に軸足が移っている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

DIPファイナンス

DIPファイナンス

再建型倒産手続きである会社更生法や民事再生法の申し立てを行った企業に対して、当面の営業に欠かせない運転資金等を融資すること。再建企業向け融資とも呼ばれる。再建企業に対し安定的に資金を供給することで、対外的な信用力を向上させ、再建計画の円滑な履行を可能とするのが目的。金融機関にとっては、通常の融資よりも大きなリスクを負うこととなるが、そのだけ通常よりも高い収益を期待できる。日本では、2001年4月の緊急経済対策にDIPファイナンスの円滑化が盛り込まれたこともあり、日本政策投資銀行を中心に供給が増えた。当初、実施例が少なかった民間金融機関の中にも、近年は積極的に取り組むところもある。私的整理を行う企業への融資等を指す場合もある。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

デット・デット・スワップ

デット・デット・スワップ

債権者が既存の債権を、別の条件の債権に変更すること。特に、金融機関が既存の貸付金を、他の債権よりも劣後する劣後ローンに変更することを指し示すことが多い。貸出先中小企業等の再建一環として行われている。実質的に貸出先中小企業等の過剰債務の状態が解消され、信用力が高まり、再建の可能性が高まることなどが期待されて実施されている。劣後ローンであれば約定期限経過後に元本回収が可能となるので、金融機関としては、株式のキャピタルゲイン(値上がりなどによる利得)を期待しづらい場合が多い中小企業等においては、デット・エクイティ・スワップより行いやすい。なお金融庁の「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」では、一定要件の下に貸付金を劣後ローンに変更した場合、金融機関の自己査定における債務者区分等の判断において、劣後ローンを資本とみなすことができる、とされている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

デット・エクイティ・スワップ

デット・エクイティ・スワップ

借入金などの債務(負債)を出資(資本)に変更すること。いわゆる債務の株式化。債権者側から見れば、債権(資産)を株式(資産)に交換することになる。過剰債務に悩む企業の再建計画等の一環として、利用されることが多い。債務者は、債務を株式化することで元本を返済する必要がなくなり、利払いも不要になる。そのため、負債の圧縮や現金支出の削減につながり、余剰資金を会社再建に活用することができる。一方、債権者は、債権が株式に変わることで利息収入を失うものの、会社再建が成功すれば株式の値上がり益や配当収入を期待できる。しかし、債務者が会社再建に失敗し、株価が下落してしまうと、債権者側に含み損が発生してしまい損失処理を遅らせかねない、という問題も残る。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

劣後債

劣後債

劣後債とは、当該債券への元利金の支払いを、一般債権(無担保債権を含む)への支払い後に行う劣後特約条項を付して発行される債券。従来、金融債の発行と類似するため、銀行の劣後債発行は認められていなかった。しかし、自己資本比率(BIS)規制上は自己資本として取り扱われることから、1990年7月の海外現地法人による劣後保証債発行を皮切りに認められるようになった。同種の劣後性債務である劣後ローンも、90年6月に解禁されている。優先株とは、利益の配当残余財産分配において、普通株に対し、優先的地位を認められた株式。議決権を制限することや、償還条項や普通株式への転換条項を付すこともある。銀行の場合、自己資本比率規制上の自己資本算入において、劣後性債務に比べて有利に取り扱われる。98年3月には金融システム安定化関連二法に基づき1.8兆円、99年3月から2002年3月までには金融機能早期健全化法に基づき8.6兆円の公的資金が、資本増強のため銀行等に劣後債、劣後ローン、優先株の形で注入された。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

優先株

優先株

劣後債」のページをご覧ください。

ソルベンシー・マージン

ソルベンシー・マージン

保険会社の経営の健全性を判断するための指標。銀行や証券会社の自己資本比率に相当する。責任準備金(将来の保険金等の支払いに備えるための積立金)を超えて保有する保険会社の支払い余力を示し、保険会社の資本勘定一定の準備金、株式含み益の90%、土地含み益の85%等の合計額を、一定の算式に従って計算されるリスク相当額の2分の1で除して算出する。1996年4月から本格的に導入。98年度からは、ソルベンシー・マージン比率が200%を下回った保険会社に対しては、その比率に応じて早期是正措置が発動されることになった。具体的には第1区分(100%以上200%未満)、第2区分(0%以上100%未満)には区分に応じた是正命令、第3区分(0%未満)には業務停止命令が適用される。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

ALM

ALM

資産負債の構成、例えば銀行であれば、全ての預金や貸し出しの金利・期間を把握し、将来公定歩合等の変動を予測し、それを踏まえた上で、リスクの最小化と収益の極大化を図るリスク管理の手法。1970年代に米国で普及したが、金利自由化による金利変動の影響やデリバティブ取引の拡大によるマーケット・リスクの増大を背景に、日本でも金融機関を中心にその重要性が高まっている。ALMが管理するリスクにはマーケット・リスク、流動性リスク、信用リスク等がある。日本の銀行の場合、ALMはバンキング勘定の金利リスク管理を中心に用いられてきた。しかし、近年では、大手行を中心に、トレーディング、バンキング両勘定のマーケット・リスク、信用リスク等を一括管理する統合リスク管理の導入に取り組み始めている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

資産負債総合管理

資産負債総合管理

ALM」のページをご覧ください。

バリュー・アット・リスク

バリュー・アット・リスク

過去における為替・金利・価格変動のデータに基づき、特定の期間中に、ある一定確率(信頼水準)で保有資産ポートフォリオに発生し得る最大損失額を、統計的に予測してリスク量として認識する手法デリバティブ取引拡大時価会計導入などにより、金融機関のポートフォリオ全体のリスク管理の必要性が増したことに伴って注目されている。設定する確率によりは変動するが、ポートフォリオ全体のリスク量を1つに集約して把握でき、損失額で表示されるため、期待収益や自己資本額と比較してリスク量の妥当性を容易に判断できる、等の長所を有する。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

VaR @@@LINK=VAR VAR

VAR

バリュー・アット・リスク」のページをご覧ください。

VaR

バリュー・アット・リスク」のページをご覧ください。

VAR

ビデオ・アシスタント・レフェリー」のページをご覧ください。

VaR @@@LINK=VAR VAR

VAR

バリュー・アット・リスク」のページをご覧ください。

VaR

バリュー・アット・リスク」のページをご覧ください。

VAR

ビデオ・アシスタント・レフェリー」のページをご覧ください。

予定利率(生保の)

予定利率(生保の)

生命保険会社が契約者に約束する最低運用利回り保険会社は契約者から徴収した保険料予定利率により運用することを前提としており、予定利率に応じて保険料を割り引いている。予定利率を上回る運用利回りが実現された場合、予定利率を上回る配当として契約者に支払われる。バブル崩壊後の超低金利の影響で、実際の利回りが予定利率を下回る逆ざやの状態となっていたが、2006年に入り、国内大手生命保険会社ので予定利率を引き上げる動きが広がり始めている。05年夏以降、積極的な株主配当の実施株価上昇により、運用環境が改善していることなどが主な要因となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

ペイオフ全面解禁

ペイオフ全面解禁

預金全額保護の特例が1996年から段階的に終了し、預金者保護の範囲が限定されたこと。ペイオフ本格実施ともいう。ペイオフとは、金融機関が破綻した際に、1金融機関1預金者当たり、定期預金や利息付き普通預金等の元本1000万円までとその利息額を「保険金」として預金保険機構が支払う制度のこと。ペイオフが解禁される以前は、金融機関が破綻しても預金の全額が保護されていた。しかし、2002年4月から定期預金等は全額保護の対象外となり(ペイオフ一部解禁)、さらに05年4月から普通預金等も全額保護の対象外となった。もっとも、無利息、要求払いなどの要件を満たす決済用預金は全額保護の対象となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

貸金業法の改正

貸金業法の改正

2006年12月20日に、「貸金業規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、改正貸金業法)が公布された。 改正貸金業法は、多重債務問題の解決と貸金業の健全化に関する措置を包括的に規定しており、個々の規制が強化されただけでなく、貸金業者に対し「業務の健全な運営を確保するための措置」が義務付けられ、業務改善命令が規定されるなど、資金需要者等の利益の保護を図るために十分な体制の確保を求めることとしている。 具体的には、次の3点が内容の中心となっている。 (1)上限金利の引き下げ(年利29.2%→15〜20%)(2)返済能力を越える借入れ(総借入が年収の1/3超の借入は原則禁止)(3)貸金業者の業務の適正化のための参入規制・行為規制の強化 これを受け、「貸金業の規制等に関する法律施行令の一部を改正する政令」等の関係政令・内閣府令を整備し、2007年11月7日に公布した。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

電子記録債権法の成立

電子記録債権法の成立

電子記録債権とは、金額、支払期日、債権者・債務者・債権の譲受人の氏名、などの情報を登録原簿に登録することによってのみ、その発生や譲渡がなされる金銭債権である。従来指名債権手形債権とは別の新しい金銭債権である。ごく大雑把には、手形を電子化(ペーパーレス化)したものといえるだろう。磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿への情報電子記録を債権の発生、譲渡等の効力要件とし、その権利内容が当該記録原簿の記録によって定まる電子記録債権についての規定を整備している。取引の安全を確保するため、別段の記録をしない限り、手形と同様、電子記録債権の譲渡に善意取得や人的抗弁切断の効力が認められる。 電子記録債権法は2007年6月20日に成立し、同年6月27日に公布された。08年12月までに施行される予定となっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

金融商品の広告規制

金融商品の広告規制

2006年6月7日、金融商品取引法(金商法)が成立した。07年8月3日から15日にかけて金商法に関する政省令(この中に、広告等の規制も含まれている)が、その細則として定められた。以上の法令はいずれも、07年9月30日から全面施行されている。 金商法では、金融商品取引業者等は広告等をする時には一定の表示を行わなければならず、誇大広告をしてはならないものとされている。 具体的には郵便、信書便、ファクス、電子メール、ビラ・パンフレット配布、その他の方法で、多数の者に対して、同様の内容で情報を提供する場合には、上記の規制が課される。ただし、目論見書、アナリスト・リポート、一定の条件を満たすノベルティーグッズ(メモ帳、ボールペン、貯金箱等)の配布は規制の対象から除かれている。 表示方法についても規制があり、第一に、明瞭かつ正確に表示しなければならないこととされている。また、金利・通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標の変動を直接の原因として損失が生じる恐れがある場合には、当該指標と、その変動により損失が生じる恐れがある旨及びその理由を他の事項の文字・数字のうち最大のものと比べて著しく異ならない大きさで表示することとされている。 さらに、金融商品取引業者等は、広告等をするときは商号、名称または氏名、金融商品取引業者である旨、登録番号等を表示しなければならない事とされている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

特定投資家

特定投資家

機関投資家を中心としたいわゆるプロ投資家のことである。具体的には、適格機関投資家、国、日本銀行、上場会社(アマ選択も可)、一定の条件を満たす個人などが含まれる。これに対して個人投資家を中心としたいわゆるアマ投資家のことを金融審議会などでは一般投資家と呼んでいた。 金融商品取引法では、金融商品・サービスに対する規制の在り方として、横断化と柔軟化をキーワードとしていた。このうち横断化については、幅広い商品・サービスをカバーするため、集団投資スキームという包括的な規定を定めている。 他方、柔軟化については、顧客をプロとアマに区分し、区分に応じて規制内容を柔軟に変化させることとしている。 つまり、金融商品・サービスがアマ投資家向けに提供される場合には、さまざまな規制が必要とされる。しかし、プロ投資家向けに提供される場合には、取引コストの削減・取引の円滑化を優先させて規制を緩やかにするのである。 適格機関投資家も、金融商品取引法上のプロ投資家という意味である。ただし、特定投資家といえば、(業者の)販売・勧誘規制上のプロ投資家を指すのに対し、適格機関投資家といえば、(発行体の)発行・開示規制上のプロ投資家を指すことになっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

適合性原則

適合性原則

適合性原則とは顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行ってはならないという規制のことである。こうした勧誘は投資家保護の意識に欠けるし、現実に投資家に損害を及ぼす可能性もあるからである。これは金融商品取引法の第40条が根拠条文になっており、そこでは顧客属性に照らして、不適切な商品・取引については、(いかに説明を尽くしたとしても)そもそも販売・勧誘を行ってはならない、という行為規制だと説明されている(いわゆる狭義の適合性原則)。安全な投資を望んでいる人に、リスクの大きな商品の勧誘をすることが、この規制の対象となる行為の典型的な例である。 また金融商品取引法の下では、販売・勧誘してもいい商品であっても、顧客属性に照らしてその顧客に理解してもらえるだけの説明をせずに販売してはならない、と定められており、これも適合性原則(いわゆる広義の適合性原則)と呼ばれている。 金融商品取引業者等に行き過ぎがあった場合などに、すぐに適切な対応をとれるようにするためにも、適合性原則をよく理解しておくことが必要といえる。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

学校債

学校債

学校法人等が割り当てにより発行する、その学校法人等を債務者とする金銭債権(指名債権でないものに限る)であって、一定の事項を表示する証券証書をいう。 従来の証券取引法が金融商品取引法と改められて、従来は有価証券とされていなかったさまざまな商品が、今後は有価証券と認められるようになった。学校債もその一類型である。金融商品取引法第2条1項では有価証券を列挙しているが、その中の21号では流通性その他の事情を勘案して、公益または投資者保護を確保することが、必要なものとして政令で定める証券・証書と定められている。学校債はこの類型であると解されている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

保険の窓販

保険の窓販

保険の窓口販売を略して、このように呼ぶ。保険募集を行う者については日本では登録制とされており、登録拒否要件に該当しない限り、保険募集人となることが認められているが、銀行等については、過去においては保険募集をその業務とすることは認められていなかった。 しかし、近年、規制緩和の流れの中で、銀行等にも保険募集を業務とすることが、徐々に認められてきた。これがいわゆる保険の窓販解禁といわれるものである。以下、21世紀に入ってからの銀行等の保険の窓販の解禁を簡単に列挙してみる。 2001年4月1日、住宅ローン関連信用生命保険、長期火災保険、債務返済支援保険、海外旅行障害保険、の窓販が解禁。 02年10月1日、個人年金保険、財形保険、年金払積立傷害保険、財形傷害保険の窓販が解禁。 05年12月22日、一時払終身保険、一時払養老保険、保険期間10年以下の平準払養老保険(法人契約を除く)、貯蓄性の生存保険、積立傷害保険、個人向賠償保険等、積立火災保険等の窓販が解禁。 07年12月22日、定期保険、平準払終身保険、長期平準払養老保険、医療・介護保険、自動車保険、団体火災保険等、事業関連保険、団体傷害保険等の窓販が解禁。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

サブプライム問題

サブプライム問題

米国のモーゲージ市場においては、プライム、ニアー・プライム、サブプライムと商品は三分されている。このサブプライムに分類される商品の価格が著しく下落し、流動性が低下、調達していた消費者の破産が大幅に増加し、投資資産の財務の悪化から、金融機関の損失計上が続発した問題である。米国では多数の破産者も発生した。 格付け機関が、格付けに当たって、自らの利益を得るために、実際よりも高い格付けを与えてしまった可能性があると考えられている。つまり、格付け機関の利益相反が原因の一つかも知れないと考えられている。2007年2月ごろから、ヨーロッパで金融機関の変調がささやかれ始めた。同年5月ごろになると、米国での破産者急増が明らかになり、第3四半期決算で、シティバンク、メリル・リンチなど米国を代表する金融機関に多額の被害が出たことが明らかになり、問題の深刻さが認識されるようになった。以降、米国の金融機関は、産油国、アジア諸国などから多額の出資を仰ぐようになっている。 サブプライム問題がきっかけとなって、これまでの米国一極集中の資金の流れが変わる可能性があるとの意見が出始めている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

会計基準のコンバージェンス

会計基準のコンバージェンス

日本語では会計基準の収斂(しゅうれん)、会計基準の共通化などと表現される。会計基準が一語一句同じになることではなく、相互に受け入れられる程度に内容が接近していると双方が認めれば、コンバージェンスは達成されたものと考えられている。 会計基準のコンバージェンスは本来は相互に異なる会計基準のセットの間で成立するものであるが、内容の異なる会計基準の組がいくつもあるというのでは不自由である。現在はEU、米国、日本がコンバージェンスを実現する最終努力をしており、将来、コンバージェンスに参加しようとする国(地域)は、この3国(3地域)の会計基準、すなわち、国際財務報告基準、米国会計基準、日本会計基準とコンバージェンスをしていくことになると思われる。 EU、米国、日本は2008年中にコンバージェンスを実現することになっている。もっとも、05年、07年の2度にわたり、いまだ会計基準の収斂が十分でなかったため、最終的なコンバージェンスが延期になったことがある。最近の国際会議の動向からしても、08年には3国(地域)の会計基準のコンバージェンスは実現するものと思われる。将来的には中国、ロシアなどの諸国もコンバージェンス参加の意向を示しており、実現すれば、全く一字一句同一ではないまでも、参加国の財務諸表は、相互に比較可能な会計基準で作られていくことになる。そうなれば資本の国際的移動のためには大きな前進となると考えられている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

プライベート・エクイティ・ファンド

プライベート・エクイティ・ファンド

プライベート・エクイティファンドとは、主として非公開株式で運用する、ファンド形態の投資商品である。1966年ごろから、米国でヘッジ・ファンドが誕生したが、それと同じころに、プライベート・エクイティ・ファンドも誕生したのではないかと考えられている。 もっとも、プライベート・エクイティ・ファンドとヘッジ・ファンドは内容的には大きく異なっており、プライベート・エクイティ・ファンドは少数の銘柄に対して長期的かつ集中的に投資し、まとまった利益を得ようとするところに、本来の狙いがある。 また、投資期間は「10年にわたることも珍しくは無い」といわれている。長期投資を覚悟して投資する投資商品なのである。プライベート・エクイティ・ファンドにおいては過半数の持ち分を取得することもまれではない。 ちなみにヘッジ・ファンドといえば短期の投資商品であり、レバレッジを効かせた取引の多用、ショート・セリングを通じた、ヘッジの多用が二大特色となっている。これに対してプライベート・エクイティ・ファンドは多額の資金により、特定銘柄の大量の持ち分を取得すること、基本的に長期投資を覚悟した投資であること、が大きな特徴となっている。 近年、ヘッジ・ファンドとプライベート・エクイティ・ファンドの性格を兼ね備えたような投資戦略をとるファンドも見られるようにはなっている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2008年)

金融商品取引法

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象に、投資家保護ルールの徹底と利便性の向上や、金融市場の透明化、国際化を促す目的で制定された法律。2007年9月30日に全面施行された。それまで、金融商品を巡っては株式や投資信託などは証券取引法、商品ファンドは商品ファンド法などと別々の法律で規制していたが、証取法の名称を変え、関連法律を改正・統合して、1つの法律で横断的に規制できるようにした。従来の証取法と比べて、信託の受益権や多様なデリバティブ取引なども対象とするなど規制範囲を拡大。さらに、集団投資スキームの持ち分も規制対象に含め、これまで野放しだった投資ファンドは販売、運用会社の名称や所在地などを金融庁に登録・届け出をしなければならなくなった。大型ファンドは有価証券報告書の提出も求められる。これは、ファンドを介在させて自社株売却益を違法に売り上げに計上したなどとして、堀江貴文被告が証取法違反の罪に問われたライブドア事件の影響が大きい。金融商品ごとにばらばらだった販売や勧誘のルールも金商法により統一され、顧客の知識や経験、財産状況、投資目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないなど、業者に厳しい投資家保護策が課せられた。金商法は1986年にスタートした「金融ビッグバン」の総仕上げとなる。政府は、個人が安心して投資できる環境を整えることで「貯蓄から投資へ」の流れが進むと期待している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象として、投資者保護ルールの徹底、利用者利便の向上、市場機能の確保、国際化への対応を目的に制定された法律。投資サービス法とも呼ばれている。2006年6月に、従来の証券取引法を改正する形で成立・公布された。主要部分の施行は、07年7月が有力視されている。金融商品取引法は、幅広い金融商品を横断的に規制するため、従来の証券取引法と比べて、信託の受益権、抵当証券、集団投資スキーム持ち分、各種デリバティブ取引などに規制対象が拡大された。特に、集団投資スキーム持ち分が規制対象とされたことから、各種の投資ファンドの募集・販売・運用などに対して、金融商品取引法に基づく開示規制、販売・勧誘規制、運用規制、登録・届け出義務が課される意義は大きい。他方、預金、保険、商品取引所法に基づく商品先物については、金融商品取引法の適用対象とはなっていない。そのほか、上場会社に対する四半期報告書・内部統制報告書制度の導入(08年4月以後開始する事業年度から適用)、公開買い付け制度・大量保有報告書制度の見直し、相場操縦・インサイダー取引規制違反等に対する罰則強化なども盛り込まれている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融商品取引法

証券取引法などこれまで複数の法律で規制されてきた金融商品の販売や投資関連サービスおよび有価証券の発行や流通に関わる法人などについて、機能が同じものには同じ規則・規制を適用し、また投資家保護のために販売、勧誘、投資助言などを包括的に規制するための法律。2006年6月に成立、07年9月30日施行された。この法律により、商品ごとに縦割りであった規制が、リスク性のある金融商品については横断的な規制となる。その他にも、企業の内部統制に関わる部分が「日本版SOX法(企業改革法)」とも言われるように、内部統制の適正化、四半期報告制度の導入、投資ファンドの規制、株式公開買い付け(TOB)制度の見直しなど、非常に多岐にわたる内容を包括的に網羅している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

サブプライムローン問題

サブプライムローン問題

サブプライムローンとは、クレジットカードで延滞を繰り返すなど信用力の低い個人や低所得者層を対象にした高金利の住宅ローン。優遇金利の「プライム」より信用力が落ちるという意味でサブプライムと呼ばれる。米国で住宅ブームを背景に2004年ごろから住宅ローン専門会社などが貸し付けを増やした。融資残高は1兆3000億ドル(推定)で住宅ローン全体の1割を占める。低所得者層でも借りやすいよう、当初の2〜3年間は低い固定金利が適用され、その後は金利が大幅に上がる仕組みが主流。住宅価格が上昇している間は担保価値は高まり、ローンの借り換えなどが可能になるため、貸し倒れなどは少なかったが、住宅価格の上昇が止まり、金利が上昇したことから、返済不能に陥るケースが相次いだ。当初は「サブプライムローンから発生する損失はせいぜい1000億ドル規模」と楽観視されていた。しかし、証券会社が複数のサブプライムローンを担保にした証券(RMBS)を作り、さらにRMBSを裏付けにした債務担保証券(CDO)を生成。世界中の金融機関やヘッジファンドなどに売っていたため、元々の焦げ付きのリスクを誰がどれだけ抱えているかが見えなくなり、投資家は疑心暗鬼に陥った。07年3月に米住宅金融大手の経営危機が表面化。その後、CDOに投資していたヘッジファンドに問題が飛び火した。7月に格付け会社がRMBSの大量格下げに踏み切ると、信用リスク懸念が一気に広がった。8月にはドイツの中堅銀行の巨額損失が明らかになり、仏最大手銀行のBNPパリバ傘下の3つのファンドも解約凍結に追い込まれた。9月にはサブプライムショックの余波で英国の中堅銀行の資金繰りが問題視され、同国としては約140年ぶりの預金の取り付け騒ぎが起きた。米シティグループをはじめ欧米の主要金融機関は巨額のサブプライム関連の損失を計上したが、混乱は収まっていない。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

新貸金業規制法

新貸金業規制法

多重債務の社会問題化を受けて、貸金業への規制を強化し、「借りすぎ」に歯止めをかける狙いで作られた法律。2006年12月に成立、07年12月から段階的に施行される。目玉は「灰色(グレイゾーン)金利」の廃止。旧貸金業規制法では、貸金業者がお金を貸す際の上限金利は2つあった。違反すれば刑事罰を伴う出資法(年29.2%)と利息制限法(年15〜20%)で、その間が灰色金利と呼ばれた。灰色金利で貸し付けても、借り手が任意で利息を支払っているといった条件を満たせば有効とされる「みなし弁済規定」があったが、これを撤廃。10年6月までに出資法の上限金利を年20%まで引き下げる。利息制限法の上限金利は据え置くが、出資法での上限との間の貸し出しは行政処分の対象となる。他に、過剰貸し付け防止策として「総量規制」を導入。貸金業者からの総借入残高が原則年収の3分の1以内とした。業者には指定信用情報機関への登録と、貸し付け時に借り手の借入残高の確認を義務付けた。金融庁によると、消費者金融の利用者は約1400万人、残高は約14.2兆円に上る。このうち、5件以上の借り入れがあるのは約230万人で、平均債務残高は約230万円に上った。消費者金融会社は灰色金利での貸し付けで高収益を上げてきたが、06年1月に最高裁判所が灰色金利を実質的に無効とする判決を出したことから、貸金業者の規制強化の機運が高まった。同時に、債務者からの過払い金の返還請求が殺到。経営環境は一気に厳しくなり、業界3位のプロミスと7位の三洋信販が経営統合を決定する一方、中堅のクレディアが経営に行き詰まるなど業界の再編・淘汰(とうた)の動きが加速している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

円キャリートレード

円キャリートレード

低金利通貨の円の売り持ち高(short position)、高金利通貨(ドル、ユーロ、英国ポンド、オーストラリアドルなど)の買い持ち高(long position)からなる投機的な外為持ち高の総称。持ち高の損益は2通貨の金利差益と直物為替相場の変動損益からなる。為替相場が円安に変動すれば、金利差益と為替益の双方を得ることができる。一方、金利差益以上に円高になればネットで損失が生じる。 為替先物取引、上場通貨先物、外為証拠金取引などのオフバランス取引で行う場合と、現物の円資金を借りて高金利通貨建ての資産に投資するオンバランス取引で行う場合とに大別される。1990年代後半にヘッジファンドがオフバランス取引で円キャリートレードの持ち高を拡大し、円安要因になった。2004年以降の円安でも内外で円キャリートレードの持ち高が拡大し、円安要因として注目されるようになった。ただし、円売り持ち高が大きく積み上がった後は、持ち高調整として円の買い戻しが生じ、しばしば急激な円高を引き起こすので、為替相場の波乱要因として金融当局は警戒している。

(竹中正治 (財)国際通貨研究所経済調査部長 / 2008年)

円キャリートレード

キャリートレード」のページをご覧ください。

公認会計士法の改正

公認会計士法の改正

企業の粉飾会計や不明朗な経理処理が相次いだのを受けて、政府は1948年制定の公認会計士法の大がかりな見直しに踏み切った。改正法では、監査法人の責任を見直して課徴金制度を新設。粉飾を重大な過失で見逃した場合は監査報酬の全額、故意ならその1.5倍の納付を金融庁が命じる。また、監査法人が経営者とのなれ合いを断ち、独立性を高めるために、「独立した立場で業務を行わなければならない」との規定を設け、大手監査法人が上場会社の監査を担当する「主任会計士」の交代制を継続7年・禁止2年から5年・5年に厳格化した。会計士の再就職を禁じる範囲を現行の監査先企業だけでなく、そのグループ企業にまで拡大した。さらに、監査の質を管理する体制の強化策を義務付けた。2008年4月に施行予定だ。公認会計士法はまず1966年に改正され、5人以上の公認会計士が法人をつくり、監査証明に共同で当たる監査法人制度が創設された。組織力で企業に対する立場を強め、監査の質を高める狙いだった。2003年にも、企業とのなれ合いを防ぐために監査法人内での交代制などが導入された。しかし、企業側に都合のいい監査を要求されるケースは後を絶たず、カネボウ、ライブドアなど公認会計士が深く関与した粉飾決算事件が次々と表面化し、法改正の機運が高まった。06年5月、カネボウを監査していた中央青山監査法人は金融庁から2カ月の業務停止命令を受け、同年9月にみすず監査法人に名称変更して出直しを図ったものの、日興コーディアルグループ、三洋電機と、監査先の大企業の不正決算が発覚。07年7月に解散に追い込まれた。日本の公認会計士は約2万3000人。米国(33万5000人)や英国(32万6000人)に比べて少なく、会計士の育成も急務となっている。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

証券取引所の再編

証券取引所の再編

世界各地で証券取引所の経営統合の動きが相次いでいる。世界最大の米ニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEグループと欧州の複数の証券取引所を運営する「ユーロネクスト」は2007年4月に、合併し、「NYSEユーロネクスト」に生まれ変わった。ロンドン証券取引所(LSE)とミラノ証券取引所も07年10月に経営統合し、上場企業の時価総額で東京証券取引所を上回る世界第3位の規模となった。新興企業向けの米ナスダック市場を運営するナスダック・ストック・マーケットはLSEに買収をしかけたものの、失敗。買い集めたLSE株を手放し、スウェーデンに本拠を置く北欧の取引所連合「OMX」との経営統合にかじを切り替えた。こうした合従連衡の背景にあるのが取引所間の競争の激化。取引所は本来、国内の企業や投資家の注文をスムーズに処理する単純なビジネス。しかし、投資資金の国際化が広がり、巨額の資金を動かす投資家を呼び込むには、大量の売買注文を短時間に素早く処理するシステムを備えているかどうかがポイントとなった。巨額のシステム開発費の負担を減らし、資金調達の方法を広げるには再編・株式会社化の流れが避けられなくなった。出遅れていた東京証券取引所も、NYSEやLSEなどと矢継ぎ早に業務提携に踏み切り、シンガポール取引所への出資も決めた。また、将来の国内外の経営統合に柔軟に対応できるよう持ち株会社制に移行。07年11月に持ち株会社の「東京証券取引所グループ」が市場運営を担う会社と、上場審査や株取引が適切かどうかを判断する自主規制法人を傘下におく体制になった。09年までの株式上場を目指している。国内でも、ジャスダック証券取引所の7割超の株を保有する日本証券業協会が、東証マザーズや大証ヘラクレスなどを含めた国内新興市場の再編を検討している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

証券取引所の再編

2006年6月、ニューヨーク証券取引所と欧州のユーロネクスト証券取引所が合併し、月間取引高2兆ドルを超える世界最大の証券取引所が誕生した。 国際的な証券取引所の買収や合併はこれだけではない。もともとユーロネクストそのものが、パリ、アムステルダム、ブリュッセルの各証券取引所の合併によって誕生している。決裂に終わったものの、ドイツ証券取引所との合併協議に入ったこともあった。また、米国のナスダックはロンドン証券取引所に買収案を提示し拒否されたものの、筆頭株主になっている。 このような欧米証券取引所の再編の背景には、資本市場のグローバル化と共に証券市場間の競争が激化したことが挙げられる。米国ではSOX法施行に伴う規制強化を嫌う企業間で、欧州市場への上場を検討する例も出始めた。各国の取引所は、より緩い規制、有利な条件を競っている。また、取引所は電子証券取引ネットワーク(ECN:Electronic Communications Network)との競争にもさらされるようになった。この結果、規模が大きく流動性に富む市場を目指して国境を越えた再編が実現したのである。 証券取引所が閉ざされた存在であれば、統合や合併は困難であるが、近年、世界の主な取引所は会員組織から株式会社に転換している。このため、合併や買収が極めて容易になったことも、再編が進んだ大きな理由だろう。 日本でも、東京、大阪の両取引所は株式会社化され、大阪証券取引所は株式を公開している。欧州と米国を結ぶ証券取引所が出現した以上、24時間取引体制を構築するにはアジアにも拠点が必要になる。日本の証券取引所がその一翼を担うのか、あるいは他国の拠点にその地位を奪われ、規模の大きな地域取引所にとどまるのか。次の一手が注目される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ファンド

ファンド

機関投資家や富裕層から集めた資金運用する投資のプロたち。企業に投資してリストラなどを進めて企業価値を高め、最終的に売却益を得る「プライベート・エクイティー・ファンド(PEファンド)」や、デリバティブ取引を駆使して相場が上昇局面でも下落局面でも利益確保を狙う「ヘッジファンド」などがある。PEは非上場株の意味。ファンドの先進国は米国。1980年代、米国では異業種のビジネスを組み合わせて事業リスクを分散させる多角化経営がもてはやされたが、行き詰まり、事業の選択と集中の動きが起きた。その時に活躍したのがPEファンドで、その後の長期的な好景気に多大な貢献を果たしたと評価されている。日本では99年に無名同然だった米系ファンドのリップルウッド・ホールディングスが経営破綻した旧日本長期信用銀行を買収し、注目度が一気に高まった。90年代後半になると、国内のPEファンドも次々と生まれた。97年の独占禁止法の改正で、金融投資を目的とした純粋持ち株会社が解禁されたからで、そのころからファンドがらみの企業買収は急増した。近年は欧米では世界的な過剰流動性を背景にリスクマネーがファンドに流れ込んで巨大ファンドが出現。企業の合併・買収(M&A)も兆円単位の規模にまで膨らんでいた。日本向けに立ち上げられたPEファンドの総額は一時は内外資合わせて4兆円に上るともいわれた。しかし、サブプライムローン問題で様相が一変。投資家のマネーのリスク回避傾向が強まり、ファンドが思うように資金調達できなくなっている。一方、日本では2000年代に入ると、経営者に資産の効率活用や株主還元を突きつけるアクティビスト(活動家)と呼ばれるファンドの動きが活発になる。その代表が米系のスティール・パートナーズや村上ファンドだが、スティールはブルドックソースの買収に失敗するなど思うような成果は上げられず、村上ファンドも代表のインサイダー取引容疑で市場から退場した。ただ、物言わぬ株主に甘えてきた経営者に緊張感をもたらした、との指摘もある。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

サーベイランス

サーベイランス

一般には対象の様子を監視することをいうが、国際金融の分野では、特にIMFがその規約第4条を根拠に加盟国の通貨政策、金融財政政策等について年1回モニターを行いその結果を理事会に報告することを指す。アジア通貨危機以降、金融システムについても行われている。サーベイランスは直接IMFによる融資との結びつきはないものの、加盟国は通常これに全面的に協力する。なお、近年欧州や東アジア等の地域のサーベイランスや、さらには、グローバルな多国間サーベイランスの必要性が認識されている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

交換性

交換性

ある通貨が他の通貨と交換が可能であること。IMFは加盟国に対し経常勘定取引について交換性を求めており、かつては米ドルが金に交換可能であったことと併せ自由貿易体制を支えていた。米ドルの金との交換性はブレトン・ウッズ体制崩壊で失われたが、新興国経済の成長と相まって経常勘定に加え資本勘定取引の交換性を求める動きが強まった。しかし、アジア通貨危機以降、資本コントロールを段階的に自由化すべきとの考え方も力を得ており、IMFも慎重である。なお、東アジアで今後地域金融協力を進めて行く上で、域内の各通貨が徐々に交換性を持つ必要がある。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ブレトン・ウッズ体制

ブレトン・ウッズ体制

保護貿易、競争的為替相場切り下げなどが第2次世界大戦の遠因になったとの反省から、国際貿易の自由化と経済成長、雇用促進を目的として創設されたIMF世界銀行GATT(WTO前身)を軸とする第2次大戦後の国際経済体制。固定為替相場制を基礎とするIMF中心の国際通貨体制を指して使われることも多い。1944年7月、米国のニューハンプシャー州ブレトン・ウッズにおいて調印されたIMF協定によって、(1)各国は共通尺度としての金、または44年7月現在の量目・純分を持つ米ドルで、その通貨の平価を表示し、為替相場の変動を平価の上下各1%以内に抑えること、(2)平価は基礎的不均衡がある場合にしか変更が認められないこと、などが定められた。この体制は、IMFが加盟国に短期的国際収支赤字のファイナンス資金を貸し出すこと、米国がドルを公定価格でいつでも金と交換すると約束することによって支えられていたが、71年8月にニクソン米大統領がドルの金交換性を停止し(ニクソン・ショック)、終わりを告げた。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

スミソニアン体制

スミソニアン体制

ブレトン・ウッズ体制の崩壊後、金交換性のない米ドルを中心とした国際通貨体制の構築が試みられ、同年12月にワシントンのスミソニアン博物館で開かれた10カ国蔵相会議で新体制について合意した。これをスミソニアン体制と呼ぶ。スミソニアン体制では変動幅は中心相場の上下各1%から上下各2.25%に拡大された。同時に、ドルの切り下げ(金価格の引き上げ)と各国通貨の調整(ドルに対する切り上げ)が実施された。円も16.88%切り上げられ、1ドル=308円となった。その後もドルに対する信認は容易には回復せず、73年2月には日本が変動為替相場制に移行し、3月にはEC諸国も同じく移行、スミソニアン体制は完全に崩壊した。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

プラザ合意

プラザ合意

1985年9月22日、行き過ぎたドル高の是正を目的としてニューヨークのプラザ・ホテルでG5(米国英国、旧西独、フランス、日本の5カ国蔵相会議)が開催され、(1)主要通貨の米ドルに対する秩序ある上昇が望ましいこと、(2)為替相場は対外不均衡調整のための役割を果たす必要があること、(3)5カ国はそうした調整を促進するために一層緊密に協力する用意があること、などで合意した。背景には、レーガン政権の小さな政府、強いドル政策の下で80年代初頭からドル高が続き、国際収支の不均衡が拡大する中で、米国内において保護主義の動きが強まったことがある。合意後、各国は協調して為替市場に介入、ドルは円、マルクなどの主要通貨に対し下落傾向をたどった。ドル相場の大幅な下落は国際収支の不均衡是正にある程度役立ったが、逆に米国内に深刻なインフレ懸念を生むなどの弊害をもたらし、為替相場安定を目指すルーブル合意につながった。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ルーブル合意

ルーブル合意

1987年2月22日、パリルーブル宮殿で開催されたG7は、プラザ合意契機に加速していたドル安歯止めをかけるため、「為替相場現行水準の周辺に安定させる」ことで合意した。プラザ合意以後の各国による協調介入の結果、1ドル=240円台であったドル相場はほぼ一本調子で下落し、87年2月には150円台に到達していた。そこで今度は各国が過度のドル安に対する懸念を共有したことからルーブル合意となったが、大幅な国際収支不均衡を是正するためにはドル相場の一層の下落が必要との見方があり、ブラック・マンデー(暗黒の月曜日)と呼ばれる米株式市場の暴落が生じたことなどから、合意後もドル相場の下落は続いた。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

IMF

IMF

1944年のブレトン・ウッズ協定に基づき、46年3月に設立された国際通貨・金融の協力機構(本部:ワシントン)。加盟国(2006年7月現在、184カ国)は、割当額に応じて金や自国通貨などを出資する一方、国際収支が赤字になった場合などに、割当額に応じて外貨を引き出すことができる。加盟国は当初、自国通貨の平価を設定し、これを維持するために為替市場へ介入する義務、あるいは経常的な国際取引を自由化する義務を負っていた。しかし、78年のIMF協定第2次改正において、変動為替相場制の浸透を背景に、為替市場への介入義務は廃された。また、IMFは80年代には累積債務国の救済、90年代には東欧並びに旧ソ連諸国の市場経済への移行支援や、94年のメキシコ、97年のアジア通貨危機に見舞われた諸国の経済支援に主導的な役割を果たしてきた。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

国際通貨基金

国際通貨基金

IMF」のページをご覧ください。

IMF融資制度

IMF融資制度

IMF設立初期の融資制度は、国際収支の悪化した加盟国が、自国通貨を対価に為替相場の安定化に必要な外貨を引き出せる制度、並びに、一定の期間内にいつでも合意された資金の引き出しができるスタンド・バイ取極(とりきめ)よりなっていた。これらに加え、近年、対象国の国際収支悪化の程度や態様に応じ、経済構造要因による困難を救済する拡大信用供与(EFF)、一時的な輸出の落ち込みや穀物輸入価格の上昇による収支悪化を救済する輸出変動補償融資(CFF)、急激な市場の信認喪失により巨額かつ短期の支援が必要な国を救済する補完的準備融資(SRF)などが設けられた。また、低所得国を対象に、貧困削減・成長ファシリティー(PRGF)、重債務貧困国(HIPC)イニシアチブも設定された。1962年には、IMFと先進10カ国(米国、英国、旧西独、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、スウェーデン、カナダ、日本)の間でGAB(一般借入取極、General Arrangements to Borrow)が締結された(84年には当時IMF非加盟国のスイスも参加)。当初は、GAB参加国がIMFから融資を受ける場合、IMFの資金を補充するために60億ドルの範囲内でIMFが他の参加国から借り入れを行うものであった。その後、発展途上国の累積債務問題が顕在化し、83年にGABは10カ国以外の国々への貸し出しの場合でも利用できるようになり、IMFの借り入れ枠も170億SDRに拡大された。94年のメキシコ通貨危機に際しては、さらに資金基盤の拡充が合意され、98年11月に25カ国が参加してNAB(新規借入取極、New Arrangements to Borrow)が発効し、IMFの借り入れ枠はGABと合わせて340億SDRと倍増した。NABは、同年12月、ブラジル向けの融資の際に初めて発動された。IMFは幅広い機能を持つに至っているが、活動の透明性や世界銀行など他の国際金融機関との機能の重複が指摘され、融資制度のあり方を含めて改革が検討されている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

SDR

SDR

IMFによって創出・配分された準備資産。外貨準備不足を来した国は、IMFの指定する国にSDRを引き渡すことによって被指定国から交換可能通貨を引き出すことができる。国際流動性の不足に対応するため、金、ドルなどの準備資産を補完する目的で1969年のIMF協定改正により創出された。SDRは出資額に応じて加盟国に配分され、その価値は当初、金を基準としていたが、74年からは主要16カ国の通貨の加重平均によるバスケット方式に改められ、また81年からは、米ドル、旧西独マルク、円、仏フラン、英ポンドの5大通貨を内容とするバスケット方式に変更された(99年1月のユーロ誕生以降、独マルクと仏フランはユーロに収束)。SDRの構成通貨及び構成割合は5年ごとに見直されるが、2006年1月の見直し後のバスケットは「0.632ドル+0.410ユーロ+18.4円+0.0903ポンド」となっている。また、金利はバスケット構成通貨国の市場金利の加重平均によって決められている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

特別引き出し権

特別引き出し権

SDR」のページをご覧ください。

BIS

BIS

1930年5月、共同出資によりスイスバーゼルに設立された各国中央銀行のための国際銀行。日本はサンフランシスコ講和条約に基づきいったん非加盟となったが、70年に復帰した。加盟行は2006年6月末現在55行。加盟国中央銀行のために、預金の受け入れ、金・為替の売買、代理行為や受託業務を行うだけでなく、国際金融の統計資料の公表なども行う。また、国際金融問題についての各国中央銀行間の討議機関でもあり、88年7月にBISの下部組織であるバーゼル銀行監督委員会において、国際業務を行う銀行に必要な自己資本比率を8%以上とする国際的統一規制が合意され(いわゆるBIS規制、実施は92年末)、96年1月には市場リスクが規制対象に含まれた(97年末実施)。99年6月には、融資先の格付けに応じてより細かくリスク・ウエート(risk weight)を定め、オペレーショナルリスクも含むより包括的な内容を持つ新BIS規制(バーゼルII)が提案された。2004年6月に最終案がまとまり、06年末から段階的に導入される。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

国際決済銀行

国際決済銀行

BIS」のページをご覧ください。

基軸通貨

基軸通貨

一般に次の条件を兼ね備えた国際通貨を指す。(1)国際間の貿易資本取引に広く使用される決済通貨であること、(2)各国通貨の価値基準となる基準通貨であること、(3)通貨当局が対外準備資産として保有する準備通貨であること。こうした基軸通貨としての機能を果たすには、(a)通貨価値の安定、(b)高度に発達した為替市場と金融・資本市場の存在、(c)対外取引規制がないこと、などが必要とされている。歴史的には、英ポンドや米ドルが基軸通貨と呼ばれてきた。第2次世界大戦後は、米国がIMF体制の下で各国中央銀行に対して米ドルの金兌換を約束したことや強大な経済力や軍事力を背景に、米ドルが名実共に基軸通貨となった。欧州単一通貨ユーロが将来的にドルと並ぶ基軸通貨に成長する可能性を持つが、現時点ではドルの基軸通貨としての地位は揺らいでいない。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

外貨準備高

外貨準備高

輸入代金や借入金返済などの対外支払い、為替相場調整のための外国為替市場への介入などを目的として通貨当局が保有する、直ちに利用可能で、かつ通貨当局の管理下にある対外資産。主として当局の外国為替市場への介入、運用資産の金利SDR配分などにより増減する。なお、外貨準備統計は財務省から毎月発表されているが、IMFの新公表基準に基づき、2000年4月からは内訳(外貨、IMFリザーブポジション、SDR、金、その他等にけて)も発表されている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

固定為替相場制

固定為替相場制

通貨当局があらかじめ発表した為替相場で、自国通貨を外国通貨などに固定する為替相場制度。米ドルなどの単一通貨に固定する単一通貨固定制と、SDR通貨バスケットなど複数通貨により合成されたものに固定する通貨バスケット制がある。固定相場制のメリットとして、為替相場を安定させインフレ的金融政策を抑制する点が挙げられる。一方、実体経済が悪化したり外貨準備不足のため固定相場制を維持できないと投機家に判断されると投機攻撃を受け、実際に維持できなくなる場合があるのが弱点。ブレトン・ウッズ体制の固定為替相場制は、1973年第1四半期に主要国が変動為替相場制に移行したため事実上崩壊、IMF協定第2次改正(78年)によって各国は自由に為替相場制度を選択できるようになった。固定相場制を採用する国は、90年代に入って減少傾向にある。もっとも、カレンシーボード制(currency‐board system)と呼ばれる、ドルやユーロなどの準備通貨保有見合いに自国の現金通貨を発行し、この交換比率を固定する制度はいくつかの国で引き続き採用されている。カレンシーボード制のメリットとしては、準備通貨の裏付けをもとに自国通貨の交換性を保証しており、その無制限な乱発ができないためマクロ経済運営上の規律が働くこと、及び経常収支赤字化→準備通貨減少→通貨発行量減少→金利上昇→デフレ→経常収支黒字化、といった自動調節プロセスが働き、自国通貨への信認も高まることが挙げられる。しかし、交換比率を固定し裏付けとした準備通貨の発行国の金融政策に左右されるため、自主的な金融政策をとることができず、国内金融危機に際して最後の貸手機能を果たすことができない。カレンシーボード制は、香港(1983年)、エストニア(92年)、リトアニア(94年)、ブルガリア(97年)などで採用されている。91年に採用したアルゼンチンは、2001年に経済破たんから急激な資金流出に見舞われたため02年2月、カレンシーボード制を廃止、変動相場制に移行した。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

変動為替相場制

変動為替相場制

為替相場が自由に変動し、外国為替市場における需給関係によって決定される為替相場制度。国際収支の不均衡が為替相場の変動によって自動的に調整される、といわれる。デメリットとしては、円ドル相場が中長期的に大きく変動したように、実際の為替相場が均衡為替相場から中長期的に乖離する場合があること(為替相場のミスアラインメント)が挙げられる。変動為替相場制といっても、通貨当局が全く介入を行わず、市場実勢にまかせることはほとんどなく、相場の行き過ぎを是正するために当局が市場に介入するケースが多い。1971年8月の米ドルの金交換性停止によりブレトン・ウッズ体制が崩壊し、73年3月から主要国のほとんどが変動為替相場制に移行したが、78年4月、IMF協定の第2次改正で変動為替相場制が正式に認知された。変動相場制を採用する国は、90年代に入り増加傾向にある。複数の通貨によって構成されるバスケットに対して為替相場を固定するものを通貨バスケット制(currency basket system)と呼ぶ。経済関係の深い国々との経済関係を適切に反映するような通貨バスケット制を採用することにより、他国通貨の為替相場変動の影響を極小化することができる。具体的には、自国通貨と複数の他国通貨との名目為替相場を一定の割合(例えば貿易比率)で加重平均して実効為替相場を算出し、それを安定化させる政策をとる。近年、東アジアではアジア通貨危機の経験から、事実上のドルペッグ制(自国通貨を米ドルに連動させる制度)が持つ問題点に対する認識が深まり、通貨バスケット制を採用すべきとの意見が有力。もっとも、先進国主要通貨間の為替相場の変動が基本的に小さくないことから、通貨バスケット制を選択する場合でも、為替バンド制(目標相場圏内で為替相場の変動を認める制度)などを併用した弾力的な制度運営を行うことが望ましいとされる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

人民元切り上げ

人民元切り上げ

2010年6月21日、中国人民銀行(中央銀行)は「人民元相場の弾力性を強化する」という声明を発表。同日、為替市場も中国当局の実質「人民元の切り上げ容認」に即座に反応し、前週より0.45%高い1米ドル=6.7958元まで上昇した。翌日、同銀行は一転して「相場に影響を与える大幅な切り上げは行わない」と牽制(けんせい)したが、その後も小幅ながらゆるやかに上昇している。ただし、人民元は当局の政治的な介入によって変動する管理相場であることに変わりなく、米国をはじめ諸外国の不信感は消えていない。
1985年以降、人民元の為替取引は公定相場との二重為替相場制の下で行われていた。94年に公定相場が廃止され、98年以降は1米ドル=8.28元で固定されてきたが、この間も安い元を武器に、中国の輸出産業は成長し続けた。一方、対中貿易赤字に苦しむ欧米諸国は、元相場の固定は実態にそぐわず人民元は過小評価されていると、中国に人民元切り上げの圧力をかけ続けた。これを受けて、2005年に中国当局は、市場の需給に基づく管理フロート制に移行し、人民元を約2%切り上げたのである。しかし、金融危機の拡大で輸出企業の業績悪化を恐れた中国当局は、再び為替市場への介入を強め、08年7月からは元売りドル買いによって対米ドル相場を固定するという政策を続けていた。
今回の弾力化声明は、G20サミット(6月26~27日開催)の直前であり、人民元切り上げを求める欧米諸国の強圧をかわそうとするねらいがあったと見られている。また、米国議会のなかで「中国を為替操作国に認定すべき」という声が高まっていたことも背景にあると見られる。為替操作国認定は回避できたものの、切り上げ幅は小さく、今後も欧米諸国の圧力は続く見通し。実際、国際経済の回復が後押しをしているというものの、切り上げ発表の6月、中国の輸出額は単月としては過去最高の約12兆2千億円に達している。

(大迫秀樹  フリー編集者 / 2010年)

人民元切り上げ

中国人民銀行は、2005年7月21日に、人民元を市場の需給に基づき通貨バスケット制を参考に調整した管理フロート制に移行すると発表し翌日、人民元の為替相場は1米ドル=8.28元から同8.11元に約2%切り上げられた。人民元市場相場の前日仲値比変動幅は、対米ドルで上下0.3%以内とし、新たに米ドル以外の通貨に対しては仲値比上下1.5%以内とした。人民元の外国為替取引については、1985年以降、外貨調整センターが設けられ、公定相場と「限定的ながら需給が反映された相場」との二重為替相場制が取られてきたが、94年初に、このうち公定相場が廃止されて為替相場が一本化された。特に98年以降はほぼ1米ドル=8.28元で固定されていた。94年4月には上海に外貨取引センターが設置され、複数主要都市に置かれたセンターとオンラインでつながり人民元の為替取引が行われている。ただし、実需を伴った取引のみが許されており、会員である金融機関は常に同センターを相手として取引を行う。これまで意図的に人民元安に固定して中国の国際競争力を高めてきたとの批判が米国を中心に強く、中国はこれに反発しつつ今回小幅な切り上げを行った。引き続き切り上げを督促するような相場展開が続こうが、中国としては、資本取引の自由化等、WTO加盟に伴う自由化措置を段階的に進め小刻みの切り上げを誘導していこう。なお、マレーシアも同日にそれまでの米ドルへの固定相場制から管理フロート制に移行した。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ダラライゼーション

ダラライゼーション

米ドル圏にある国が自国通貨の使用を断念し、米ドルを法定通貨とすること。パナマは、1903年独立と共に米ドルを法定通貨とした。ドル化のメリットとしては、為替リスクがなく通貨価値が安定し、物価金利など経済全体の安定化につながることが挙げられる。一方、デメリットとしては、米国の金融政策に左右されるため自主的な金融政策が取れないこと、国内金融危機に際して最後の貸手機能を果たせないこと、自国通貨を放棄するためシニョレージ(通貨発行益)を失うと共に、外的ショックに見舞われたり改革が期待通りに進まない場合でも、それ以前の制度への変更がほとんど不可能であること、などが挙げられる。中南米諸国ではドル化を採用する国が増加している。経済危機打開を目的としたエクアドル(2000年)、国内金利低下を目的としたエルサルバドル(00年)、自国通貨と米ドル双方の使用を認める二重通貨制のグアテマラ(01年)と続くが、各国とも米国との了解を得ない一方的なドル化であり、米国当局は基本的に慎重に対処すべきとしている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ドル化

ドル化

ダラライゼーション」のページをご覧ください。

シニョレージ

シニョレージ

貨幣発行により、発行者(中央銀行等)が得る、通貨の額面と発行コストの差額及びその資金運用益。政府歳入をシニョレージに依存すると、過剰に貨幣が供給されインフレーションにつながる。さらに政府債務である国債の実質価値が低下し、インフレ税として民間部門から政府にの移転(政府の実質債務の減少)が起こる。また、発展途上国の場合、自国通貨を放棄ドルを流通させれば、米国の金融政策を導入し国内経済の安定化を期待できるが、シニョレージの喪失ドル化導入の当初コストは相当大きい。なお、ユーロ(欧州単一通貨)のように通貨統合を行う際には各国通貨当局は、通貨主権の放棄に伴い、シニョレージを放棄するが、通貨同盟下の統一的中央銀行には、それまでの各国中央銀行に代わり獲得するシニョレージを加盟国にどのように配分するかの問題が生じる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

通貨発行益

通貨発行益

シニョレージ」のページをご覧ください。

アジア通貨危機

アジア通貨危機

1997年7月のタイ・バーツの変動相場制移行に端を発し、インドネシア、韓国など東アジア諸国に波及した通貨危機。80年代後半以降、東アジア諸国は高い経済成長率を実現し、これに伴い海外から短期資本が大量に流入した。タイ・バーツは、実質的な対米ドル固定相場制を採用していたため、数度にわたり通貨投機の標的となったが、変動相場制への移行による事実上の通貨切り下げを行った。この影響が周辺諸国に瞬く間に伝播し、多くの東アジア諸国の通貨が大幅に減価した。外資の大量かつ急激な流出や為替下落による自国通貨で見た対外債務の急激な増加、金融システムの混乱による急激な信用収縮と不良債権の増加などが発生し、深刻な景気後退をもたらした。危機対応を契機に、改めて、最適な通貨制度の採用、国内金融制度の整備・充実、それらと整合的なマクロ経済政策の必要性が認識されることとなった。この点、IMFが当初、緊縮的な諸施策を導入したことで危機を深刻化させた面も指摘されている。短期間に危機がアジア各国に波及し深刻な影響を与えたことから、IMFを補完する地域金融協力体制の必要性も認識された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

金融安定化フォーラム

金融安定化フォーラム

1999年2月のG7・中央銀行総裁会議において、ドイツ連銀のティートマイヤー総裁(当時)がG7の要請を受けて提案し設置が決定されたフォーラム金融市場の監督及びサーベイランス(監視)に関する情報交換や国際協力の強化を通じ、国際金融システムの安定を図ることが目的。主要国の金融当局及び国際金融機関の関係者がメンバー。高レバレッジ機関(ヘッジファンドなど投機的な取引を行う機関)、資本移動、オフショア金融センターの3つの作業部会が設置され、2000年3月の第3回会合で各作業部会から最終報告書が提出された。報告書では、高レバレッジ機関及びその取引相手によるリスク管理の改善とディスクロージャーの強化、急激な資本移動により発生するリスクに対する監視・管理体制の充実、オフショア金融センターの規制・監督・情報開示などに関する国際基準遵守、及びIMFにおける各種基準遵守状況の評価などについて提言を行った。今後も提言の実施状況についてはレビューが行われる予定。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

新宮澤構想

新宮澤構想

1998年10月のアジア蔵相・中央銀行総裁会議において、宮澤蔵相(当時)により提唱された二国間協力ベースでの日本による資金支援スキーム。通貨危機に見舞われたアジア諸国の復興支援と国際金融資本市場の安定化を図るためのもので、経済回復のための中長期の資金支援として150億ドル、経済改革推進過程で発生する短期資金需要の備えとして150億ドルの計300億ドルが用意された。99年5月には、より市場との関係を重視した支援に注力した第2ステージが公表され、アジア諸国が発行する公債に対する国際協力銀行の保証など民間資金活用のための支援策が表明されると共に、域内の債券市場整備育成を関係各国間の検討課題とすることなどが提案された。二国間支援は比較的迅速な実行が可能であり、対象国の外貨繰りを支援した他、構造改革や輸出産業支援等に貢献したものもあり、一般的に対象国での評価は高い。2005年5月末時点で、インドネシア、韓国、マレーシアフィリピンタイに対し、総資金枠208.5億ドル、保証22.6億ドルの援助表明がされている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

チェンマイ・イニシアチブ

チェンマイ・イニシアチブ

2000年5月にタイのチェンマイにおいて開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)+日中韓蔵相会議で成立した、東アジアにおける経済危機発生時の自助・支援のための地域金融協力への合意。内容は、(1)域内の資本フローに関するデータ及び情報の交換をASEAN+3(日本、中国、韓国)の枠組みで促進する、(2)ASEAN5カ国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア)間に既に存在するASEANスワップ協定を全ASEAN加盟国を含み得るよう拡大する、(3)流動性供給のため、域内二国間のスワップ及びレポ取極のネットワークを締結する、からなる。(2)については同年11月に総額10億ドルで実現し、また(3)については日本は、韓国、マレーシア、タイをはじめ7カ国の間でスワップ取極を締結してきた。06年5月4日現在ではネットワークの総額は750億米ドル相当で16件の二国間協定が結ばれている。05年5月のASEAN+3財務大臣会合では「その有効性を強化する方策を検討するために」見直しを行い、また、(1)チェンマイ・イニシアチブの枠組みへの域内経済サーベイランスの統合と強化、(2)スワップ発動プロセスの明確化と集団的意思決定メカニズムの確立、(3)スワップ規模の大幅な拡大、(4)スワップ引出しメカニズムの改善を行うことで合意している。チェンマイ・イニシアチブは、IMFを中心とする既存の国際的支援制度を補完する地域的な枠組みとしての地位を着実に固めている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

アジア債券市場イニシアチブ

アジア債券市場イニシアチブ

東アジアにおける域内共通の債券市場構築や各国債券市場の発展を目的として、関係国当局を中心に様々な検討がなされてきているが、特にASEAN+3財務大臣会合の下で本格的な検討が行われている。これをアジア債券市場イニシアチブと呼ぶ。各国企業が米ドル建ての短期調達に依存していたことがアジア通貨危機の一因と理解され、域内の高水準の貯蓄を域内の投資に活用する必要性が認識されている。参加国の外貨準備の一部を拠出し合って域内発行の債券を購入するアイデア(ABF:Asian Bond Fund)も具体化し、2003年6月にはタイ、韓国等7カ国が総額10億ドルの基金を設立することで合意した。アジア債券市場育成については6つのワーキンググループを設けて検討が進められてきたが、さらに05年にはワーキンググループの見直しを行い全体を統括するフォーカルグループが設置された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

アジア通貨基金

アジア通貨基金

1997年7月のタイ・バーツ切り下げを契機に始まったアジア通貨危機勃発直後に、日本政府から提案された構想。再びアジア地域で通貨危機が発生した場合に備えて、速やかに緊急支援を行える枠組みを設けるという趣旨であったが、米国などの反対にあって頓挫した。IMFと機能が重複すること、IMFよりも緩やかな条件で融資が行われるとモラルハザードを引き起こす懸念があること、などが指摘された。しかし、ロシアブラジルにまで通貨危機波及、IMFだけでは迅速に危機を解決しえない状況が発生し、IMFを補完する地域金融協力の枠組みの必要性が再認識された。2000年5月に、チェンマイ・イニシアチブ合意されたが、こうした認識の変化を踏まえIMFとの補完性を重視しつつ具体的な合意を見たものである。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

AMF

AMF

アジア通貨基金」のページをご覧ください。

不良債権処理(アジアの)

不良債権処理(アジアの)

通貨危機の際、東アジア各国では深刻な不良債権問題が生じた。銀行部門の総貸出残高に対する不良債権の比率は、タイ8.2%(2006年6月末)、フィリピン7.4%(同5月末)、インドネシア8.8%(同5月末)、マレーシア5.4%(同7月末)、韓国1.2%(同3月末)となっている。資産管理会社(AMC:asset management company)への売却等により処理は進んだが、国によってその度合いは違う。タイやマレーシアなどでは、会計基準上、返済猶予・金利減免などを合意した貸付債権正常債権として認識されるため、金融機関が引当負担の軽減を図るために、融資条件の緩和に安易に応じる傾向があるともいわれる。債権放棄・売却といった根本的な処理が必要であるが、この点、韓国資産管理公社が、直接回収競売の他、資産担保証券(ABS)発行を手がけたのが注目される。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

アジア債券基金

アジア債券基金

アジア債券市場イニシアチブと並ぶアジア債券市場振興の取り組みで、EMEAP(東アジア・オセアニア中央銀行役員会議)の参加国が外貨準備の一部をプールし、ドル建てのアジアの国債あるいは政府機関発行債券に投資するファンド(基金)。2003年6月に発表され、当初のファンドの規模は10億米ドル。ついで、各国通貨建ての国債などを購入するABF2が04年12月にスタートしたが、その規模は20億米ドル。アジア諸国の外貨準備は既に全世界の外貨準備の過半を占めているが、多くが米国他の先進国の国債等に投資されており、その一部がアジアに還流することになる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ABF

ABF

アジア債券基金」のページをご覧ください。

資本逃避

資本逃避

国際情勢の緊迫や国内の政治・経済情勢の不安定化、税制の強化などによって生じる資産価値減少や流動性の低下などのリスクを回避するために、国内に滞留していた資金が国外のより安全な地域へと移動すること。1980年代のラテン・アメリカ、90年代初期のロシアなどが挙げられる。ロシアの場合は、国内の政治的不安から、居住者が民間資金の一部を海外へ移したためといわれるが、不正な手段で取得したを国内当局の手が届かないところへ移動させた部分も大きい。アジア通貨危機では、インドネシアの富裕華僑が、保有外貨をシンガポールなどのオフショア・センターに移した。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

短期資本移動規制

短期資本移動規制

国際間の短期資本の移動を規制すること。国際間の資本移動は、資金の最適配分を通じて、投資家には投資機会を、受け入れ国には経済成長の機会を提供することにつながるため、原則自由が望ましいと考えられてきた。しかしアジア通貨危機では、短期間に大量の資本が国外へ流出して為替相場を急落させ、その国の経済に甚大な影響を与える事例が見られたため、規制導入の是非や具体的な対応策が議論されている。第1は、国内銀行の対外債務への上限設定、外貨建て債務への準備預金賦課、無利子強制預託、課税などにより流入を抑える方法で、強制預託の成功例としてはチリの例がある。第2は資本の流出を中断させる方法。海外投資家からは激しい反発を招くほか、抜け道などで規制の実効性が薄れる問題もある。1998年9月のマレーシアによる規制強化は、激しい議論を呼び起こした。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

新債務原則

新債務原則

ワシントンの国際金融協会(IIF:Institute for International Finance)が2005年3月末に発表したもの。正式名称は「新興市場における安定した資本フローと公平な債務リストラのための原則」。IIFのメンバーは60数カ国の300を超える民間の大手金融機関であるが、2年間かけて民間の貸し手とソブリン(政府あるいは中央銀行)の借り手の意見を集約し、新債務原則をまとめた。今後、途上国へのファイナンスにあたって準拠すべき慣行となることを目指しており、情報の開示、貸し手と借り手の緊密な対話などをカバーしている。もっとも、新債務原則自体に拘束力はない。02年にIMFがソブリン債務再編メカニズム(SDRM:Sovereign Debt Restructuring Management)についての提案を行ったが、大手民間金融機関の反対にあって頓挫した。一方、03年にはアルゼンチン政府による一方的な債務再編が開始されるなど、国際的に混乱が見られた。新興市場への民間部門の資金は年間3000億ドルを超える規模に達しており、安定的な資金フローが継続することが必要である。通貨危機発生後の個別対応では結局リスクに過敏な投資家は新興市場への投資に慎重になってしまう。その意味で新債務原則が今後どのように定着していくか、目を離せない。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

直接投資

直接投資

国際資本移動の一形態。他国での子会社設立や子会社への金銭貸付経営参加を目的とした企業株式取得(国際収支統計上は10%以上)などを含む。金融的収益獲得の目的で行われる間接投資と並ぶ概念。直接投資は、受け入れ国に資本形成技術経営資源移転をもたらす。進出動機によって、生産条件指向型(低賃金国への工場設置など)、資源開発型、市場密着型、貿易摩擦回避型、グローバル・ネットワーク構築型、などに分かれる。直接投資が垂直統合態をとる場合は、効率性の向上や市場支配力の拡大といった利点があるが、立地論上は集積効果も強調される。プラザ合意以降、日本企業は1980年代後半から90年代前半にかけて、ASEAN諸国を中心に短期間に大規模な直接投資を行ったが、近年ではWTOに加盟した中国への進出が急増している。ユーロ導入後は、欧米大企業間のM&A関係の直接投資が活発化している。新興市場では、ラテン・アメリカと東アジアが直接投資受け入れの大部分を占める。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ユーロ

ユーロ

EUの単一通貨の通貨単位のこと。基本通貨単位であるユーロの他、補助単位としてセント(1ユーロ=100?)がある。2006年8月現在、EU25カ国のうち、12カ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スペイン、ポルトガル、オーストリア、アイルランド、フィンランド、ギリシャ)が参加しているが、07年1月からスロベニアが、04年拡大で加盟した旧社会主義国として初めて加わる。これら諸国はドルに対抗するユーロ圏を形成。欧州の単一通貨統合は部分的に19世紀にフランス・金フランを中心に実現したことがある。ユーロは1999年1月に参加国間で銀行取引など非現金取引が開始され、02年1月に紙幣・硬貨の一般流通が開始された。ユーロは、欧州中央銀行(ECB)と各国中央銀行によって管理されている。また、統一通貨参加基準(経済収斂基準)として、インフレ率が基準値未満であること、財政赤字と債務残高の対GDP比がそれぞれ3%と60%以下であること、為替相場が最低2年間は安定して推移していること、長期金利が基準値未満であること、中央銀行が独立していることが提示された。その後、為替が大きく変動する時期もあったが、変動幅を上下15%に拡大して欧州通貨制度(EMS)は安定した。欧州通貨機構(EMI)は各国が参加要件をクリアするのを監督し、ユーロ導入にあわせて1999年からECBとなった。

(渡邊啓貴 駐仏日本大使館公使 / 2007年)

ユーロ

マーストリヒト条約(欧州連合条約)で規定された経済通貨同盟(EMU:Economic and Monetary Union)参加国に導入された欧州単一通貨名称で、1995年12月のマドリード欧州理事会で合意された。99年1月1日からドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、オーストリア、フィンランドの11カ国(2001年1月1日からはギリシャも)に導入され、法定通貨となった。ユーロを導入しようとするEU加盟国は一定の経済収れん条件(物価、長期金利、為替相場、財政赤字と債務残高)を満たすことが要求される。導入国では欧州中央銀行(ECB)がEU諸国の各国中央銀行と共に欧州中央銀行制度(ESCB)を構成し、単一金融政策を策定・運営する。02年1月からはユーロ紙幣・硬貨の流通が始まり、2カ月の二重流通期間を経て各国通貨は回収された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

欧州単一通貨

欧州単一通貨

ユーロ」のページをご覧ください。

欧州中央銀行

欧州中央銀行

ユーロ圏の単一金融政策を担う中央銀行欧州連合条約(マーストリヒト条約)によって、欧州通貨機構(EMI、欧州経済通貨同盟(EMU)の単一通貨ユーロの導入を準備)を引き継ぎ、1998年6月ブリュッセル欧州理事会において設立が決定された。本部ドイツフランクフルト。ユーロ圏の金融政策は、ECBが一元的に意思決定し、各国中央銀行が自国の公開市場操作等を実施する。物貨安定の維持を目標とするECBはユーロ未加盟国の中央銀行を含めた各国中央銀行とあわせて欧州中央銀行制度(ESCB:the European System of Central Banks)を構成し、ともに高い独立性を有している。その意思決定は、各国政府、欧州委員会などEU機関に直接影響を受けない。ECBの最高意思決定機関は、総裁、理事、EMU加盟国の中央銀行総裁で構成される政策理事会である。非ユーロ圏の中央銀行総裁も含む一般理事会はユーロ圏と非ユーロ圏との協調の場である。ECB初代総裁はオランダドイセンベルク。現在の総裁はジャン=クロード・トリシェ(前フランス中央銀行総裁)。

(渡邊啓貴 駐仏日本大使館公使 / 2007年)

欧州中央銀行

ECBは欧州単一通貨ユーロを導入したユーロ圏の中央銀行であり、1998年6月に欧州通貨機構(EMI:European Monetary Institute)を継承し、フランクフルトに設立された。最高意思決定機関である政策委員会(Governing Council)、金融政策を執行し、ECBの日常業務の管理運営等を行う役員会(Executive Board)及び諮問機関的な一般委員会(General Council)の3つの機関を有し、圏内の物価安定を最終目標としている。ESCBはECBとEU加盟各国中央銀行とで構成されるが、現在は過渡的にECBとユーロ参加国中央銀行からなるユーロシステムがユーロ圏の金融政策を一元的に運営する。ESCBの基本的業務は、(1)域内の金融政策の策定と実施、(2)外国為替操作、(3)加盟国の外貨準備保有と運用、(4)支払い決済システムの円滑な運営、など。ESCBは、EU、各国政府、その他いかなる機関からも、独立性が確保されている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

ECB

ECB

欧州中央銀行」のページをご覧ください。

ECB

欧州中央銀行」のページをご覧ください。

欧州中央銀行制度

欧州中央銀行制度

欧州中央銀行」のページをご覧ください。

ESCB

ESCB

欧州中央銀行」のページをご覧ください。

外国為替市場

外国為替市場

異なった通貨(例えば円とドル)の売買を行う市場。(1)外国為替を取り扱う銀行、(2)政府あるいは中央銀行、(3)外国為替銀行顧客が外国為替市場の参加である。(1)、(2)が構成する狭義の外国為替市場をインターバンク(為替)市場と呼ぶ。インターバンク市場は、さらにブローカー(仲介者)を経由して行われるブローカー市場と、銀行で直接取引を行う直接市場(ダイレクトマーケット)に分かれる。世界の3大外国為替市場としては、ロンドンニューヨーク、東京が挙げられるが、いずれも電話線その他の通信回線、コンピューターを通じて為替相場が建つオープンマーケットで、ブローカーや通信社のモニターシステムによって世界中に伝えられて取引が行われている。近年、一部の銀行で、店頭や電話以外にも、インターネットを通して顧客と外国為替取引を行うサービスを提供している。また、ブローカーも人手を介さない電子ブローキングが主流となっている。なお、日本では外国為替公認銀行以外が外国為替業務を営むことは長らく禁じられてきたが、1998年4月に施行された新外為法によりこれが解禁され、(3)の顧客が狭義・広義の外国為替市場に直接参加することが可能となった。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

オフショア・センター

オフショア・センター

非居住者からの資金調達及び非居住者に対する資金運用、いわゆる外‐外取引を金融規制税制などの面で優遇することによって、より自由かつ活発に行わせる市場。1960年代に米国の利子平衡税の導入などでユーロ市場が拡大し、金融機関の間の競争が激化、より自由で低コストの地域を求めて子会社・支店を設置する動きが相次いだこと、及び各国当局側においても国際金融取引における各国市場の地位向上を目指して積極的に対応したことなどから、各地にオフショア・センターが出現した。ロンドンや香港のように、国内取引に対する規制が緩やかであったことから自然発生的に成立したもの(外‐外取引と国内取引との差別がないため、内外一体型といわれる)、ニューヨークIBFや東京オフショア市場(JOM:Japan Offshore Market)のように、外‐外取引は原則自由だが国内取引との間に遮断措置(国内取引と分離した特別な勘定を設ける)を講じたもの(内外分離型)、税制上の優遇措置により、国際金融取引の記帳のみが行われるタックスヘイブン型、の3つがある。金融安定化フォーラムはオフショア・センターを国際金融の波乱要因として、国際基準遵守状況の適切な評価などの必要性を説いている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

為替市場介入

為替市場介入

通貨当局(多くの場合中央銀行)が為替市場に何らかの影響を与えようと、自ら市場で外国通貨の売買を行うこと。主要通貨については外為市場全体の取引規模が大きいため、中央銀行の取引自体は市場の為替需給にほとんど影響を与えないが、介入によって当局の為替水準に対する見方を明確にし、市場の予想形成を通し相場に影響を与え得る(アナウンスメント効果)。日本では、政府の外貨資産を管理する外国為替資金特別会計による円売り・外貨買い、あるいは外貨売り・円買いという形態で行われる。一国のみが行う介入を単独介入、関係国が協力して行うものを協調介入と呼ぶ。他国通貨当局に依頼をして行う介入を委託介入と呼ぶ。なお、介入は自国通貨の流動性に影響を与えるが、中央銀行による流動性の調整によってこの影響を極小化する場合、これを不胎化介入と呼ぶ。外国通貨買い(=自国通貨売り)の介入を行うと自国通貨の流動性が増大するが、短期国債の発行によりこれを吸収すれば不胎化介入となり、吸収しない場合は非不胎化介入となる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

円の国際化

円の国際化

国際間の貿易・資本取引や各国の対外準備などに、円が広く使われるようになること。円建て取引にかかわる規制を緩和・撤廃し、国際標準に合わせることがその推進に不可欠であるが、国際取引における円の利用度合いは頭打ちとなっている。1997年のアジア通貨危機は、アジア諸国の通貨が実質上、米ドルにリンクしていたことが背景の1つと考えられ、アジア地域において円の役割を高めようという動きがある。日本政府も特に98年以降、円の国際化推進策として、内外資本取引及び外為業務の自由化、国債政府短期証券の取引慣行の見直しや税制改革などを行っている。2003年には、非居住者による起債手続きが見直された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

マネー・ロンダリング

マネー・ロンダリング

犯罪などで得た「汚れた資金」をあたかも正当な取引で得た「きれいな資金」であるかのように見せかける(洗浄する)こと。例えば、麻薬密売人が密売代金を偽名で開設した銀行口座に隠したり、いろいろな銀行の口座を転々と移動させて、出所を分からなくする、などがある。国際的な資金移動の活発化と共に犯罪による収益も国境を越えた動きをするようになり、世界の主要国が共同して対策を取っている。対策としては、第一に、金融機関が口座開設や大口送金の依頼を受けるに当たって、「顧客の本人確認」を行うことを励行している。2001年9月の米同時多発テロを契機に、テロ資金の根絶に向け、主要国で構成される金融活動作業部会(FATF、本部パリ)が国際的な対策強化に取り組んでいる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

資金洗浄

資金洗浄

マネー・ロンダリング」のページをご覧ください。

東アジアの共通通貨

東アジアの共通通貨

東アジアの地域統合を進める上で、地域共通の通貨を使用することは重要な目標である。政治体制、宗教民族等も異なる東アジアではその実現は容易でなく20〜30年程度後になるという意見が多いが、アジア通貨危機をきっかけに域内金融協力の機運は徐々に高まっている。自国通貨が米ドルにペッグ(釘付け、リンク)していたことが通貨危機の一因であり、この点、まず複数の通貨バスケット指数を作り自国通貨の動きをモニターすることが考えられる。次に、各国通貨がまず個別通貨バスケット制に移行し、次いで共通通貨バスケット制に移行することが考えられる。例えば、貿易、資本取引で使用する米ドル、ユーロ、日本円の割合を見てこのバスケットの構成通貨を考えることになる。もっとも、日本円、豪州ドル等の一部の通貨を除き、人民元を始めほとんどの東アジア各国通貨には実質的に為替管理が残っていることから、そのままバスケットの構成通貨とすることは難しい。中国人民元は日本円や韓国ウォンと並んで大きな役割を果たそうが、交換性を持つことが条件となる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

為替リスク

為替リスク

外貨建資産(負債)の保有者が為替相場の下落(上昇)によって損失を被る(利益を得る)危険性。例えば、1ドル=125円の為替相場で米ドル現金を購入し、後で米ドル現金を売却した時に、為替相場が1ドル=115円に下落していれば、1ドル当たり10円の損失を被ることになる。実際上、為替リスクは米ドル、ユーロといった通貨ごとに、それぞれの外貨建てで表示された資産(負債)額が、同じ外貨建ての負債(資産)額を上回っている差額について、為替リスクが存在する。したがって、各通貨ごとに資産と負債が同額ならば、これを相殺してネットで考えると(外貨)保有額はゼロとなり、為替リスクは生じない。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

直物為替取引

直物為替取引

為替売買契約が成立してから対価の支払いが2営業日以内に実行されるものなど、対価の受け渡しが直ちに行われるもの。直物為替取引、為替アウトライト・フォワード取引、為替スワップ取引は、現在も外国為替市場取引で圧倒的なシェアを占めている。BISの3年ごとの調査によって全世界の為替の取引量を見ると、3つの取引形態を合わせ、2004年実施の調査では1日平均約1兆8800億ドルである。このうち、直物為替取引が約6210億ドル、為替アウトライト・フォワード取引が約2080億ドル、為替スワップ取引が約9440億ドルである。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

スポット為替取引

スポット為替取引

直物為替取引」のページをご覧ください。

為替先物取引

為替先物取引

為替アウトライト・フォワード取引(foreign exchange outright forward transaction)は、売り切りあるいは買い切りの形で1回の通貨の交換を行う取引で、取引日から3営業日以降のあらかじめ合意された受渡期日に決済、受け渡しを行う。アウトライト(outright)とは「1回限りの」という意味で、売り取引と買い取引を同時に行う為替スワップ取引と区別するためにこの呼称が使われる。インターバンク取引では、直物為替取引や為替スワップ取引と比べ、取引量は少ない。この取引は売り・買いいずれかの単独取引であり為替持高に影響するため、持高調整の手段として用いられる。為替スワップ取引(foreign exchange swap transaction)は、直物為替の売りまたは買いと同時に、同額のアウトライト・フォワードの買いまたは売りを交差的に行う取引である。買いあるいは売りを単独で行う為替アウトライト・フォワード取引に対比される。直物為替を買ってアウトライト・フォワード為替を売る場合を直買先売(じきがいさきうり)、その反対を直売先買(じきうりさきがい)と呼んでいる。また期限の異なる売買を組み合わせた先先(さきさき)スワップも、為替スワップ取引の一種。取引量はアウトライト・フォワード取引に比べてはるかに多く、2004年のBISの調査では為替スワップ取引はアウトライト・フォワード取引の5倍弱に達しているが、これは、一般に為替スワップ取引が、資金の過不足の調整、さらには資金の調達運用手段として、また先物予約締結を必要とする原取引契約が延長された際に、そのカバー予約を行うために利用されることと関係している。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

NDF

NDF

広義での外国為替先物取引の一種。約定為替相場と参照相場(reference rate。当事者間であらかじめどの参照相場を用いるか合意しておくもの。国内為替市場での特定時点での当該通貨の対ドル直物相場とすることが多い)の差及び想定元本により計算した差額を、米ドル等の主要通貨に換算して、その受け渡しを行う取引。為替アウトライト・フォワード取引、為替スワップ取引と同様の経済効果を持ち、為替リスクのヘッジあるいは投機手段として用いられる。通常の為替アウトライト・フォワード取引では、実際に期日に当該通貨ペアの受け渡しを行うが、NDFでは元本部分の受け渡しを行わず、約定相場/参照相場の差額部分の受け渡しのみを行う。当該通貨について強力な為替管理が敷かれ、非居住者が当該通貨をオフショアで自由に移動できない場合や、当該通貨のオフショア為替市場が厚みに欠ける場合等に利用される。1990年代に入って中南米通貨で盛んに用いられ、通貨危機前後よりアジア諸国通貨でも利用が広がった。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

外国為替証拠金取引

外国為替証拠金取引

取扱業者にあらかじめ預けた証拠金(マージン・マネー)の、例えば約10〜20倍程度の元本で外国為替取引の売買を行う取引。日本では、1998年の外為ビッグバンで解禁され、外国為替ブローカー、商品先物取扱会社、証券会社等に加え、専業業者の参入が相次いだ。少額の証拠金で高いリターンの運用が可能だが、当然これに伴うリスクも高い。実際に高齢者を中心に悪質業者による被害が多数発生して大きな問題となった。改正金融先物取引法が2005年7月に施行され、外国為替証拠金取引が金融先物取引として新しく規制対象に加えられ、これを扱う金融先物取引業者の登録が義務づけられた。また、断定的判断の提供に加え、勧誘を要請していない顧客への勧誘等が禁止された。しかし、リスクの高い取引形態であることに変わりはない。近年、外国為替証拠金取引で高金利通貨買い・円売りの円キャリートレードを行うことが日本の個人投資家層でブームとなり、円安要因の1つとして注目されるようになった。ただし、円売り持ち高が積み上がった後、円買い戻しの動きで急激に円高に相場が振れることがしばしば起こり、損失を被る投資家も増えている。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 竹中正治 (財)国際通貨研究所経済調査部長 / 2008年)

実効為替相場

実効為替相場

ある国の通貨の価値が他の国々の通貨に対して、平均してどれだけ変化しているかを示す指標為替相場は、2通貨の価値の相対関係を示すものであり、ある通貨のその他複数通貨との価値関係を総合的にとらえるためには、別の特別な指標が必要である。そこで、1国の通貨の他の諸通貨に対する為替相場の変化率を、貿易量などの比率を使って加重平均して指数化した名目実効為替相場が考案された。名目実効為替相場の変化率からインフレによる通貨価値の下落分を差し引き、同様に加重平均したものが実質実効為替相場。実質実効為替相場の変化はその国の輸出競争力の変化を表す、といわれる。実効為替相場は、ある年度を基準としてその年度に対する各年変化率で表示され、IMFなどが各国の実効相場の推移を発表している。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

外国為替決済リスク

外国為替決済リスク

時差による外国為替取引の決済リスク(外国為替取引において、売却通貨を相手銀行に支払った後、相手銀行が支払い不能に陥り、対価である外貨資金を受け取れなくなるリスク)。ヘルシュタット・リスクともいう。近年、BIS(国際決済銀行)が中心となり、個々の金融機関、同業界団体、各国中央銀行に対し、同リスク削減対策を求めている。早くから取られていたリスク削減手法としてネッティング(相殺)があり、これには相対ベースで行うバイラテラル・ネッティングと、3者以上の複数当事者がネッティング機構との間で行うマルチラテラル・ネッティングの2種類がある。米欧の主要民間銀行のグループ(G20)はCLS(Continuous Linked Settlement:二通貨同時決済)のコンセプトを打ち出した。CLS銀行が2002年9月、稼働を開始し、現在米ドル、ユーロ、円をはじめ15通貨を対象に個々の通貨ペアの取引をリンクさせた連続的な決済を行いマルチラテラル・ネッティングを行っているが、外国為替市場の流動性も大きく高まったといわれる。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

円キャリートレード

円キャリートレード

低金利通貨の円の売り持ち高(short position)、高金利通貨(ドル、ユーロ、英国ポンド、オーストラリアドルなど)の買い持ち高(long position)からなる投機的な外為持ち高の総称。持ち高の損益は2通貨の金利差益と直物為替相場の変動損益からなる。為替相場が円安に変動すれば、金利差益と為替益の双方を得ることができる。一方、金利差益以上に円高になればネットで損失が生じる。 為替先物取引、上場通貨先物、外為証拠金取引などのオフバランス取引で行う場合と、現物の円資金を借りて高金利通貨建ての資産に投資するオンバランス取引で行う場合とに大別される。1990年代後半にヘッジファンドがオフバランス取引で円キャリートレードの持ち高を拡大し、円安要因になった。2004年以降の円安でも内外で円キャリートレードの持ち高が拡大し、円安要因として注目されるようになった。ただし、円売り持ち高が大きく積み上がった後は、持ち高調整として円の買い戻しが生じ、しばしば急激な円高を引き起こすので、為替相場の波乱要因として金融当局は警戒している。

(竹中正治 (財)国際通貨研究所経済調査部長 / 2008年)

円キャリートレード

キャリートレード」のページをご覧ください。

円売りキャリートレード

円売りキャリートレード

円キャリートレード」のページをご覧ください。

投資ファンド

投資ファンド

投資家から集めた資金を目的に沿った対象に投資し、配当や収益を分配する仕組み。会社、投資組合、パートナーシップなどの形態を取る。企業の株式を取得し、株式公開や株価を上げて第三者への売却利益を目指すプライベート・エクイティ・ファンド、資金調達で行き詰まった事業や企業の再生を目指す企業再生ファンドなどが注目を集めている。また、村上ファンドが目指したような、経営に積極的に関与して収益の拡大や資産の有効活用を目指すアクティブファンドの例も出ている。これまでは海外のファンドが日本企業の再生に投資する例が多かったが、国内でも積極的な投資活動を手がけるファンドが組成される例が増えている。さらに、産油国などを中心に外国政府が傘下政府系ファンド(SWF, Sovereign Wealth Fund)を組成する動きも活発化しており、米国財務省は2007年現在、1.5兆〜2.5兆ドルの政府系ファンドが投資活動を行っていると推計している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

金融商品取引法

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象に、投資家保護ルールの徹底と利便性の向上や、金融市場の透明化、国際化を促す目的で制定された法律。2007年9月30日に全面施行された。それまで、金融商品を巡っては株式や投資信託などは証券取引法、商品ファンドは商品ファンド法などと別々の法律で規制していたが、証取法の名称を変え、関連法律を改正・統合して、1つの法律で横断的に規制できるようにした。従来の証取法と比べて、信託の受益権や多様なデリバティブ取引なども対象とするなど規制範囲を拡大。さらに、集団投資スキームの持ち分も規制対象に含め、これまで野放しだった投資ファンドは販売、運用会社の名称や所在地などを金融庁に登録・届け出をしなければならなくなった。大型ファンドは有価証券報告書の提出も求められる。これは、ファンドを介在させて自社株売却益を違法に売り上げに計上したなどとして、堀江貴文被告が証取法違反の罪に問われたライブドア事件の影響が大きい。金融商品ごとにばらばらだった販売や勧誘のルールも金商法により統一され、顧客の知識や経験、財産状況、投資目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないなど、業者に厳しい投資家保護策が課せられた。金商法は1986年にスタートした「金融ビッグバン」の総仕上げとなる。政府は、個人が安心して投資できる環境を整えることで「貯蓄から投資へ」の流れが進むと期待している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

金融商品取引法

幅広い金融商品を対象として、投資者保護ルールの徹底、利用者利便の向上、市場機能の確保、国際化への対応を目的に制定された法律。投資サービス法とも呼ばれている。2006年6月に、従来の証券取引法を改正する形で成立・公布された。主要部分の施行は、07年7月が有力視されている。金融商品取引法は、幅広い金融商品を横断的に規制するため、従来の証券取引法と比べて、信託の受益権、抵当証券、集団投資スキーム持ち分、各種デリバティブ取引などに規制対象が拡大された。特に、集団投資スキーム持ち分が規制対象とされたことから、各種の投資ファンドの募集・販売・運用などに対して、金融商品取引法に基づく開示規制、販売・勧誘規制、運用規制、登録・届け出義務が課される意義は大きい。他方、預金、保険、商品取引所法に基づく商品先物については、金融商品取引法の適用対象とはなっていない。そのほか、上場会社に対する四半期報告書・内部統制報告書制度の導入(08年4月以後開始する事業年度から適用)、公開買い付け制度・大量保有報告書制度の見直し、相場操縦・インサイダー取引規制違反等に対する罰則強化なども盛り込まれている。

(吉川満 (株)大和総研常務理事 / 2007年)

金融商品取引法

証券取引法などこれまで複数の法律で規制されてきた金融商品の販売や投資関連サービスおよび有価証券の発行や流通に関わる法人などについて、機能が同じものには同じ規則・規制を適用し、また投資家保護のために販売、勧誘、投資助言などを包括的に規制するための法律。2006年6月に成立、07年9月30日施行された。この法律により、商品ごとに縦割りであった規制が、リスク性のある金融商品については横断的な規制となる。その他にも、企業の内部統制に関わる部分が「日本版SOX法(企業改革法)」とも言われるように、内部統制の適正化、四半期報告制度の導入、投資ファンドの規制、株式公開買い付け(TOB)制度の見直しなど、非常に多岐にわたる内容を包括的に網羅している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

外国人投資家

外国人投資家

日本の証券市場に投資する外国籍の投資家の総称。一部個人も含むが、中心は海外の年金基金投資信託、保険会社、ヘッジファンドなどの法人である。日本の証券市場では売買シェアが高く、極めて大きな影響力を持っている。2007年の東京証券取引所第一部では、売買代金の63.3%を外国人投資家が占めた。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

浮動株

浮動株

発行済み株式のうち、経営陣、関係会社、金融機関などの安定株主に保有されて市場で売買が行われない株式を除いた、実際に市場で取引されている株式。浮動株が少ないと、わずかな取引によって株価が乱高下することがある。東京証券取引所では東証株価指数(TOPIX)の算出にあたり、発行済み株式数ではなく浮動株の割合で修正した指数を提供している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

デイトレーディング

デイトレーディング

株式などの売買を1日のうちに完結させて利益確定を目指す、超短期取引の投資手法。日計り商いともいう。手数料の安いネット取引を活用することで、わずかな株価変動でも利益を出すことが可能となったことから、株式の短期取引を専業とする個人投資家が脚光を浴びるようになった。こうした投資家をデイトレーダーと呼ぶ。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

株主資本配当率

株主資本配当率

年間配当金総額の株主資本に対する割合。配当水準を測る指標としては、純利益に対する配当額の割合を示す配当性向が用いられることが多い。しかし、純利益は年度間の変動が大きいことから、金額的に安定した株主資本を基準にすることで、投資家に長期的に安定した配当水準を示すことを目的として用いられる。経営目標として具体的な数値を示す企業も出てきている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

DOE

DOE

株主資本配当率」のページをご覧ください。

SMA

SMA

投資家から委託された資金を、個々の投資家の運用ニーズを反映して専門運用会社が運用する口座ラップ口座の改良版ともいえる仕組みで、運用手法、商品、管理などについて、よりオーダーメード的なきめ細かい資産運用管理サービスを提供することを特徴とする。米国では資産家に人気が高く、資産残高は過去10年間で約3.5倍に増加している。日本でも証券会社中心にいろいろな金融機関の取り組みが増えており、ラップ口座に変わって普及の兆しを見せている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

証券取引所

証券取引所

大量の株式や債券などの証券流通が公正かつ効率的に行われるよう、一定の基準を満たした証券の取引を行う場所。上場有価証券売買の取引所への集中義務は1998年に撤廃された。日本には東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、JASDAQの6カ所があり、東京、大阪は株式会社化、大阪証券取引所株式は大証ヘラクレス市場に上場されている。ここ数年、国内ではシステムの不調による事故が発生したことから、複数の市場でシステムを補完する仕組みづくりが試みられている。国際的には、投資家の利便性をより高めるために国境を越えた取引所統合の時代に入っている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

新興市場

新興市場

取引所の上場基準を緩和し、成長性はあると見られるが実績が十分ではないベンチャー企業などに、株式上場による資金調達の場を提供するために創設された株式市場業績株価の変動リスクが大きな中小型成長銘柄で構成されていることから、投資家保護のために定期的な説明会を開催するなど、情報開示義務が強化されているが多い。東証マザーズ(2008年11月現在、上場198社)、大証ヘラクレス(同173社)、名古屋セントレックス(同32社)、福岡Q‐Board(同10社)、札幌アンビシャス(同11社)の市場がある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

グリーンシート市場

グリーンシート市場

一定条件を満たした株式未公開企業が、株式発行流通を行うことができる市場。1997年より日本証券業協会が管理、運営している。会社内容説明書の発行と、公認会計士による監査が義務付けられている。2008年2月現在、指定銘柄は80。この市場に関する公表媒体にグリーンが用いられることからグリーンシート市場と呼ばれている。米国では、同様の市場のことをピンクシート市場と呼んでいる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

証券取引等監視委員会

証券取引等監視委員会

個人投資家の保護のため、市場における公正な取引を実現するために金融庁に設置された委員会。1992年の設置時には旧大蔵省に置かれたが、2001年から金融庁に属する。委員会という名称だが、組織としての位置付けは「審議会等」である。インサイダー取引や相場操縦、証券会社役職員など市場仲介者の法令違反、有価証券発行体である企業等の虚偽の開示などについて検査、捜査、告発、摘発を行う。なお、米国のSEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)と異なり、独自で行政処分を行うことや開示内容を監督することはできない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

インサイダー取引

インサイダー取引

上場企業の役員、社員、その他の関係者が、公表されていない会社の重要な事実に基づいて行う証券の取引。村上ファンドの村上世彰代表が主張したように偶然情報を取得した場合、またマスコミに勤務する社員が公開される前の記事原稿から情報を取得したような場合でも、利益を得たかかにかかわらず証券取引を行えばインサイダー取引となる。違反行為には5年以下の懲役または500万円以下の罰金(法人は5億円以下)もしくはその両方という厳しい罰則が定められている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

証券会社

証券会社

株式会社と投資家、あるいは投資家と投資家を結びつけ、証券の発行と流通を円滑に機能させる役割を担う会社。証券会社の業務は証券取引法で規制されてきたが、金融商品取引法の施行により法律上は金融商品取引業者に分類されることになった。証券会社という呼称は引き続き使用することができる。主な業務は、引受・売出、募集・売出の取り扱い、委託売買、自己売買である。免許制度は廃止され、一定基準を満たせば金融庁長官への登録により開業することができる。なお、証券仲介業者は証券会社に証券の売買などを取り次ぐだけで、口座管理や金銭授受に関しては証券会社が行っている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

証券アナリスト

証券アナリスト

企業、証券、市場などの分析結果に基づいて、投資家への公正な投資判断や助言を行う職業。通常は、株式、債券などの個別有価証券や、チャートなどに基づいたテクニカル分析など、個々のアナリストが専門領域を持つ。資格は必要としないが、日本では日本証券アナリスト協会が知識や分析能力に関する検定試験を実施しており、2007年8月末現在の会員数は法人、個人を合わせて21854。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

証券化

証券化

有価証券を利用して資産を流動化すること。日本では不動産投資信託(REIT)など不動産の流動化が中心だが、ローン債権などキャッシュフローを生み出す資産を裏付けとして、証券として組み替えて売却することも可能。資産の保有者は流動化することで資産を圧縮し、資産を効率化することができる。また、資産が小口に分散されることで、多くの投資家に広範な運用対象を提供することが可能となる。一方で仕組みが複雑なことから、米国のサブプライムローンから組成されたCDOのように、金融市場に混乱を引き起こす例もでてきている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

機関投資家

機関投資家

顧客や構成員から拠出された資金の管理・運用を行う法人投資家で、生命保険会社、損害保険会社信託銀行投資顧問会社年金基金年金信託などが代表的。運用する資産が大きく、また1回当たりの売買額も大きいことから、市場への影響力が強い。一般に規模が大きく長期的な投資を行う法人投資家を指し、ヘッジファンドなどの短期的な法人投資家は含めないことが多い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

風説の流布

風説の流布

株価を意図的に上げるまたは下げる目的のため、市場または個別銘柄に関する虚偽の情報を流すこと。金融商品取引法で禁止されており、罰金や懲役刑が定められている。最近ではインターネットの普及により誰でも容易に風説の流布が可能になったことが問題とされている。なお、株価に影響を与えないとされる場合には、虚偽の情報でも金融商品取引法でいう風説の流布とはみなされない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

株式

株式

株式会社へ出資したことによる議決権、利益配当の請求権、解散時の残余財産分配請求権などの権利の総称を表す。これまではこうした権利が株券に明示されていたため、株券そのものを株式と呼んでいた。しかし、2009年までに株券が不発行となることから、権利そのものを株式と呼ぶ傾向が強まると見られる。普通株式には出資割合に比例した議決権があり、経営に対する責任は出資の範囲内にとどまる。原則として譲渡可能。上場株式の売買単位を単元と呼ぶ。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

日経平均株価

日経平均株価

日本の株式の水準を示す、東京証券取引所第1部225銘柄の平均株価。単位は円。構成銘柄は時価総額分布の変化などにより、適宜入れ替えられている。現在の形になったのは1985年5月からである。ダウ・ジョーンズ方式により増資による株数増加を修正しており、長期の変動を知ることができる。先物は大阪証券取引所、SGX(Singapore Exchange:シンガポール取引所)、CME(Chicago Merchantile Exchange:シカゴ・マーカンタイル取引所)に上場されている。日本で平均株価という場合には、日経平均株価を指す。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

東証株価指数

東証株価指数

東京証券取引所第1部上場の全銘柄を対象とした株価指数。増資による株数増加を調整した全銘柄の時価総額(株価×発行済株式数)を、基準時である1968年1月4日の時価総額と比較して指数化したもの。上場株式の価値を資産規模の変化でとらえる点に特徴がある。通常使用される全銘柄の指数のほか、第2部指数、時価総額の規模で分類した規模別指数、業種別指数などがある。算出にあたっては、浮動株基準が導入され、実際に市場で取引されている浮動株の割合で修正された株価が用いられている。また、従来の計算基準による指数も旧東証株価指数として継続されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

TOPIX

TOPIX

東証株価指数」のページをご覧ください。

トピックス

トピックス

東証株価指数」のページをご覧ください。

ニューヨーク・ダウ

ニューヨーク・ダウ

米国を代表する企業30社の株価水準を示す平均株価。正式名称は、ダウ・ジョーンズ工業株30種平均。1896年に12社の平均株価で始まり、1928年から30社となった。増資による株数を修正するダウ・ジョーンズ方式により、連続性を保ちながら継続されている。構成銘柄随時入れ替えが行われており、その変遷を見ると米国を代表する産業推移を知ることができる。発足当時から現在まで採用されている銘柄はGE(ゼネラル・エレクトリック)1社である。採用銘柄が限られていることから、運輸株20種、公共株15種、総合65種平均などが併せて発表されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

証券取引所の再編

証券取引所の再編

世界各地で証券取引所の経営統合の動きが相次いでいる。世界最大の米ニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEグループと欧州の複数の証券取引所を運営する「ユーロネクスト」は2007年4月に、合併し、「NYSEユーロネクスト」に生まれ変わった。ロンドン証券取引所(LSE)とミラノ証券取引所も07年10月に経営統合し、上場企業の時価総額で東京証券取引所を上回る世界第3位の規模となった。新興企業向けの米ナスダック市場を運営するナスダック・ストック・マーケットはLSEに買収をしかけたものの、失敗。買い集めたLSE株を手放し、スウェーデンに本拠を置く北欧の取引所連合「OMX」との経営統合にかじを切り替えた。こうした合従連衡の背景にあるのが取引所間の競争の激化。取引所は本来、国内の企業や投資家の注文をスムーズに処理する単純なビジネス。しかし、投資資金の国際化が広がり、巨額の資金を動かす投資家を呼び込むには、大量の売買注文を短時間に素早く処理するシステムを備えているかどうかがポイントとなった。巨額のシステム開発費の負担を減らし、資金調達の方法を広げるには再編・株式会社化の流れが避けられなくなった。出遅れていた東京証券取引所も、NYSEやLSEなどと矢継ぎ早に業務提携に踏み切り、シンガポール取引所への出資も決めた。また、将来の国内外の経営統合に柔軟に対応できるよう持ち株会社制に移行。07年11月に持ち株会社の「東京証券取引所グループ」が市場運営を担う会社と、上場審査や株取引が適切かどうかを判断する自主規制法人を傘下におく体制になった。09年までの株式上場を目指している。国内でも、ジャスダック証券取引所の7割超の株を保有する日本証券業協会が、東証マザーズや大証ヘラクレスなどを含めた国内新興市場の再編を検討している。

(織田一 朝日新聞記者 / 2008年)

証券取引所の再編

2006年6月、ニューヨーク証券取引所と欧州のユーロネクスト証券取引所が合併し、月間取引高2兆ドルを超える世界最大の証券取引所が誕生した。 国際的な証券取引所の買収や合併はこれだけではない。もともとユーロネクストそのものが、パリ、アムステルダム、ブリュッセルの各証券取引所の合併によって誕生している。決裂に終わったものの、ドイツ証券取引所との合併協議に入ったこともあった。また、米国のナスダックはロンドン証券取引所に買収案を提示し拒否されたものの、筆頭株主になっている。 このような欧米証券取引所の再編の背景には、資本市場のグローバル化と共に証券市場間の競争が激化したことが挙げられる。米国ではSOX法施行に伴う規制強化を嫌う企業間で、欧州市場への上場を検討する例も出始めた。各国の取引所は、より緩い規制、有利な条件を競っている。また、取引所は電子証券取引ネットワーク(ECN:Electronic Communications Network)との競争にもさらされるようになった。この結果、規模が大きく流動性に富む市場を目指して国境を越えた再編が実現したのである。 証券取引所が閉ざされた存在であれば、統合や合併は困難であるが、近年、世界の主な取引所は会員組織から株式会社に転換している。このため、合併や買収が極めて容易になったことも、再編が進んだ大きな理由だろう。 日本でも、東京、大阪の両取引所は株式会社化され、大阪証券取引所は株式を公開している。欧州と米国を結ぶ証券取引所が出現した以上、24時間取引体制を構築するにはアジアにも拠点が必要になる。日本の証券取引所がその一翼を担うのか、あるいは他国の拠点にその地位を奪われ、規模の大きな地域取引所にとどまるのか。次の一手が注目される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

新興国市場

新興国市場

経済発展の初期にあって成長率が高いアジア、東欧ラテン・アメリカなどの国々の証券市場を指す。代表的なものは、BRICsと呼ばれるブラジルロシアインド、中国の市場。いずれも高い経済成長率を誇り、世界中から投資資金を集めた。しかし、規模や制度面などから見るとまだ全体的に未熟な段階の市場が多い。また国内に十分な投資家層が育っておらず、規模が比較的小さい市場も多い。このため、海外からの資金の流入流出で大きく株価が変動するリスクがあり、先進国の経済動向や金融情勢に影響を受けやすいという脆弱(ぜいじゃく)さが指摘されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

SQ

SQ

株価先物指数取引、株価指数オプション取引の最終取引日に決済が行われる際の価格を算出するための特別清算指数。機関投資家などは、オプション取引(売買権利の取引)や先物取引(将来の取引の契約)と現物取引(証券と現金の授受)を同時に行い、その価格差で利益を売る裁定取引を行う。この際、オプションや先物は期限が決められており、期限がきた段階で特別清算指数によって決済を行う。株価先物取引は3月、6月、9月、12月の第2金曜日、オプション取引は毎月第2金曜日。SQ算出日にはわずかな時間帯に大量の売り買いが交錯することから、この日が近づくと思惑によって市場が乱高下することもある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

立会外取引

立会外取引

証券取引所の立会時間外に行う取引のこと。時間外取引とも呼ばれる。日本においては、特に東京証券取引所の立会時間外(午前8時20分から午前9時、午前11時から午後0時30分および午後3時から午後4時30分)に電子取引ネットワークシステムであるToSTNeTを使って行う取引のことを指す。取引の種類は単一銘柄取引、バスケット対当取引(15銘柄以上でかつ売買代金1億円以上の株式)および終値取引がある。なお、従来、立会外取引は公開買い付けの対象外とされていたが、2005年の証券取引法改正により、買い付け後の株券等所有割合が3分の1を超える場合には、公開買い付けによらなければならない、とされた。金融商品取引法でも同じ規制内容となっている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

監理ポスト

監理ポスト

証券取引所において上場有価証券が上場廃止基準に該当する恐れがある場合、投資家がその事実を認識したうえで取引ができるように、監理ポストに置いて取引を継続する。割当期間は、廃止基準に該当するかどうかが明確になるまでで、一律に定められているわけではない。廃止基準に該当しないことが明確になれば通常の取引に戻される。廃止基準に該当することが明確になった場合には整理ポストに割り当て、1カ月の売買を可能とした後で上場を廃止する。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

整理ポスト

整理ポスト

監理ポスト」のページをご覧ください。

株式分割

株式分割

すでに発行されている株式を細分化し、増加分を既存の株主に持ち株数に比例して配分する。株主資本総額には変化がないので、1株当たりの株主資産は減少するが、既存株主には株数が増えるので持ち分には変化はない。株価が高くなった場合に、単位当たりの取引額を下げる目的で行われることが多い。大幅な分割直後に一時的に株券が不足することで株価が乱高下する例が相次ぎ、東証では1対5を超える分割の自粛を要請。今後は投資単位を5万円から50万円の範囲に収める方向で検討している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

偽計取引

偽計取引

株式価格を意図的に変動させる目的をもって虚偽の情報やうわさを流し、株式などの証券取引を行うこと。投資家だけでなく、発行会社が意図的に行ったもある。多くの投資家の不利益を招くことから、金融商品取引法第158条では、暴行や脅迫に基づく取引と共に不公正な取引として禁止されている。罰則は5年以下の懲役または500万円以下(法人は5億円以下)の罰金と重い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

成り行き注文

成り行き注文

株式の注文に際し、価格を指定せず市場の実勢での取引を指定するのが成り行き注文。売買価格を指定するのが指し値注文。成り行き注文は指し値注文に優先するため売買が成立する可能性は高いが、必ずしも想定した価格で売買できるとは限らない。一方、指し値注文は、同じ価格の反対注文がないと成立しない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

指し値注文

指し値注文

成り行き注文」のページをご覧ください。

信用取引

信用取引

投資家が委託保証金(約定代金の一定割合)を担保として証券会社から資金を借りて株式を買う、あるいは株式を借りて売ること。株価が予想通りに変動すれば得る利益は大きいが、逆に動いた場合には大きな損失が出る。予想と逆に動いた場合には、担保の積み増し(追証)を求められることがある。一般に市場が下がり過ぎたと見られる状況では信用買いが増加し、上がり過ぎと見られる状況では、信用売り(空売り)が増加することで需給バランスを安定化させる機能も期待されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

ファンダメンタルズ分析

ファンダメンタルズ分析

経済指標や投資対象の財務諸表を使って企業価値を推計し、実際の株価と比較することで投資の妥当性を分析する手法。長期的には株価は企業価値と一致するとの前提に立つ。具体的には、開示された資料から1株当たり純資産やROE(株主資本利益率)などの収益指標を算出し、これに1株当たりの予想利益、キャッシュフローなどの推計を加えて、これらと実際の株価を比べる株価収益率株価純資産倍率などによって株価の割高や割安を判断することが多い。売買のタイミングを計るテクニカル分析とは相互補完的な意味合いがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

テクニカル分析

テクニカル分析

チャート市場での取引高の統計などを用い、変動パターン経験則から株価変動や売買タイミングなどを予測する分析手法。市場価格は全ての情報や条件を織り込んだ結果との前提に立つ。代表的なものはチャート分析で、株式だけでなく為替商品市況など、市場性のあるいろいろな分野で使われている。ただし、チャートの分析や用いる指標には、分析をする個々人の考え方や経験に基づくものが多く、理論化や一般化は難しい面がある。このため、投資対象の経済価値に注目するファンダメンタルズ分析と併用することが多い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

株主資本利益率

株主資本利益率

企業の収益力を判断する基本的な指標の1つ。株主資本でどれだけの利益を上げられたかを見る。単位は%。計算過程で、収益マージン(純利益÷売上高)、財務レバレッジ(総資産÷株主資本)、売上高回転率(売上高÷総資産)に分解することで、企業の特徴や問題点を知ることができる。同業他社との比較などで低すぎる場合には収益力が劣ることが分かるが、中小型企業や新興企業では資本が脆弱(ぜいじゃく)なために高くなることもある。経営目標としてROEの水準を掲げる企業も出ており、成長可能性の判断基準としても用いられる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

ROE

ROE

株主資本利益率」のページをご覧ください。

株価収益率

株価収益率

株価を企業の収益力と比較することで、株価水準を判断する基本的な指標の1つ。単位は倍で、1株利益(通常は予想値を用いる)の何倍までの株価となっているかを判断の材料とする。ただし、絶対的な判断の水準があるわけではなく、市場平均や同業他社との比較、あるいは過去の水準との比較などが判断材料となる。算出方法が簡単なこともあって、最も広範に使われる指標の1つである。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

PER

PER

株価収益率」のページをご覧ください。

株価純資産倍率

株価純資産倍率

株価が1株当たり純資産(BPS)の何倍まで評価されているか、を見ることで株価水準を判断する指標。解散価値である会社の純資産と株価を比較する点に特徴がある。この倍率が1倍未満ということは、会社を解散して資産を分配した方が高い価値を得られることになり、株価は極めて割安といえる。ただし、公開間もない企業などでは資本が十分でないことから高くなることがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

PBR

PBR

株価純資産倍率」のページをご覧ください。

EV/EBITDA倍率

EV/EBITDA倍率

企業の経済的価値(純有利子負債時価総額の和)とEBITDA(利払い、税、償却前の利益)とを比較して、倍数で表した指標。買収にあたってその費用を何年間で賄えるかを見るために使われることが多く、買収倍率などと呼ばれることもある。株価判断に用いられる場合には、国によって制度が異なる税や償却が除かれることから、自動車、エレクトロニクスなど国際的な広がりを持つ産業において異なる国の企業の株価を比較する際などに用いられることが多い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

株価レーティング

株価レーティング

利益キャッシュフローの成長性、市場動向などを総合的に判断し、その企業の予想株価ベンチマーク(市場を代表する指数平均株価)との相対的なパフォーマンス記号などで表したもの。一部には、いろいろな手法で推計した理論株価との乖離(かいり)を示す例もある。株価レーティングはあくまで6カ月程度の短期間の相対的な株価変動予想であり、債券格付けのように企業の財務内容などを評価するものではない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

国債

国債

国が財政上の理由から資金を調達するために発行する債券。目的別に分類すると、社会資本整備のための建設国債、歳入不足を補うための特例国債(赤字国債)、既存国債の借り換えのための借換国債、財政の一時的な不足を補う政府短期証券などがある。償還期間は最短3カ月の政府短期証券から最長30年の超長期債まで。発行残高は2007年9月末現在で675兆円、GDP比1.3倍に達した。こうした財政事情を反映して国際的にはAA-(ダブルエーマイナス。S&P〈スタンダード&プアーズ〉社による格付け)と厳しい格付け評価を受けたが、08年2月現在AA(ダブルエー)まで回復している。なお、個人の資産運用対象として10年変動金利、5年固定金利の個人向け国債が発行され、人気を集めている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

公募地方債

公募地方債

不特定多数の投資家を対象に市場で発行される地方公共団体債券単独で発行するほか、複数の地方公共団体が共同で発行するもある。2006年度に発行された約11兆5900億円の地方債のうち、51%に当たる約5兆8400億円が公募、残りは金融機関などが縁故債として引き受けた。かつては発行体の信用力にはないとされてきたが、02年度以降、10年債について発行条件に差がつくようになった。このため発行体である地方公共団体は投資家へのIR活動などに積極的な姿勢を見せるようになっている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

普通社債

普通社債

事業会社が設備投資運転資金を調達するために発行する債券事業債とも呼ばれるが、この場合には電力会社の社債を電力債、その他の企業が発行するものを一般事業債として区別することがある。担保付きと無担保のほか、発行体である企業が格付けを取得し、信用力に応じた金利が設定されている。償還まで保有することが前提とされていることから流動性は低く、中途換金すると売却損が出ることがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

新株予約権付社債

新株予約権付社債

社債のうち、一定の条件下で発行会社の株式を取得する権利が付与されたもの。2002年の商法改正以前はワラント債と呼ばれた。新株予約権(会社に新株を発行させるか、自己株式を移転させる権利)が行使された際に、払い込みに代えて全額が償還されるものは転換社債型新株予約権付社債となった。社債の一形態であるが、社債部分は確定利付き、新株予約権は株価との価格連動という性格を持つ。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

仕組債(しくみさい)

仕組債(しくみさい)

デリバティブ(金融派生商品)などを使い、通常の債券が持つ信用リスクやそれ以外のリスクを取ることで超過リターンを追求する債券。代表的なものにフローター債、CMS連動債、日経平均リンク債クレジットリンク債、他社株転換社債(EB)などがある。基本的に運用主体のニーズに合わせて利回りや償還期間を決めるなどオーダーメードであることが多く、またハイリスクであることから運用には高度な金融知識が必要である。低金利による法人の運用難を背景に市場を広げている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

私募債

私募債

50人未満の特定の投資家を対象に企業などが発行する債券。適格機関投資家だけを対象とする場合には50人以上でも私募扱いとなる。また、株式会社が縁故者などを対象に発行する場合には、いくつかの条件を満たせば、少人数私募債として金融機関からの借り入れより有利な条件で資金調達することができる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

ジャンク債

ジャンク債

債券格付け投資不適格とされた債券格付けではBBB(トリプルビー)未満。ハイイールドとも呼ばれる。償還利払いが不能となるデフォルト・リスクは高いが、一方で高い利回りを期待することができる。1980年代にはM&Aのための手段として使われたが、償還不能となる例が続出して発行は減少した。日本では96年以降、適債基準が撤廃されたことで、格付けの低い中南米や東欧円建て外債の起債が行われた。日本国内の社債などでは、発行後に投資不適格となった例はあるが、最初からジャンク債として発行された例はない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

修正条項付き転換社債

修正条項付き転換社債

転換価格(株式に転換できる株価水準)を、一定期間ごとに見直す条項の付いた転換社債。株価が下落した時に、転換価格を引き下げて、より多数の株式を割り当てる下方修正条項付きが多い。既存株主にとっては、発行済み株式が増えることで、株主の権利が希薄化される問題がある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

デフォルト

デフォルト

債券の利払い、償還が不可能となること。債務不履行社債などでは企業倒産が直接的な要因となるが、発展途上国などでは金融情勢の変化などでデフォルトが起こることがある。デフォルト・リスクの度合いは債券格付けで示され、BB(ダブルビー)以下の格付けでは、リスクが高まる傾向にある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

デュレーション

デュレーション

債券に投資した額の平均回収期間。金利が1%変化した時の債券価格の変動を示す指標として使われる。クーポン付きの社債では、計算上、償還期間より短い期間で投資資金を回収することができる。この計算上の期間がデュレーションで、短いほど高利回りで金利変動の影響も小さくなる。ただし、ジャンク債ではデュレーションが短くなるため、債券の格付けなどとは無関係である。デュレーションを投資期間に一致させることで金利変動リスクを回避するイミュニゼーションなど債券ポートフォリオのリスク管理に用いられることが多い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

格付け

格付け

投資対象としての債券について、元本償還と利払いの確実性の度合いを簡単な記号で示したもの。発行する会社が有償で格付け会社に依頼する。格付け会社は、市場やマクロ経済動向、業務内容、財務状況などを総合的に判断して格付けを行う。例えば、スタンダード&プアーズ(S&P)社の例では、元本償還と利払いが最も確実とみられる債券をAAA(トリプルエー)、以下最も不確実と見られるDまで10段階で評価し、それぞれに強弱を示す+または-の記号が付く。BB(ダブルビー)以下はデフォルト・リスクの高い投資不適格とされる。一般に、その国で最も格付けの高い債券は国債だが、日本では国債の格付けが下げられたことで、これを上回る格付けの事業会社が多数ある。なお、国債の格付けは格付け会社が独自の分析と判断で行うため、「勝手格付け」と呼ばれる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

債券格付け

債券格付け

格付け」のページをご覧ください。

リターン

リターン

リターンとは期待される収益リスクとはその収益が実現されない可能性。一般に、最もリスクの低い投資対象は国債で、元本償還と利払いがほぼ確実な無リスク資産とされる。しかし、同時に期待リターンも最も低い。逆にリスクの高い投資では、失敗すれば全額を失うこともある。このように、リターンとリスクには正の相関関係があり、高いリターンを期待すれば、同時に高いリスクも許容しなければならない。高いリスクを許容することで、安全な資産に上乗せされる期待リターンをリスクプレミアムという。この無リスク資産とリスクプレミアム、さらに個々の資産に固有のリスクとの関係を数式化したのが、現代投資理論(MPT:modern portfolio theory)。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

リスク

リスク

リターン」のページをご覧ください。

ポートフォリオ

ポートフォリオ

本来の意味は財産目録、あるいは資産一覧。投資では全体リスクを低減するために対象を分散する。この異なるリターンとリスクを持ついくつかの資産の組み合わせをポートフォリオと呼ぶ。機関投資家運用する複数の株式あるいは債券を組み合わせたものや、個人が運用する場合の株式、債券、不動産生命保険などを組み合わせたものなど、目的と資産に合わせた組成が可能。長期の運用では特に、適切に分散されたポートフォリオを構成することが重要となる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

アクティブ運用

アクティブ運用

アクティブ運用とは個別証券の分析などに基づいてTOPIXなど市場の平均を超えるリターンを追求する運用手法。市場や経済の動きから個々の証券を選択するトップダウンや、個々の証券を吟味して銘柄を選択するボトムアップなどの方法がある。証券の選別や管理のコストが必要になる。このため、コストに見合ったリターンが期待できない場合には、市場の平均的なリターンを追求するパッシブ運用が用いられる。この場合には、基準となるTOPIXなどのインデックスと同じ構成のポートフォリオを選択する。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

パッシブ運用

パッシブ運用

アクティブ運用」のページをご覧ください。

ラップ口座

ラップ口座

資産運用、管理などを金融機関に一任する制度。資産残高に応じて手数料が決まり、基本的に富裕層が対象。1999年から証券会社が投資顧問業務を兼任することが可能となってスタートしたが、2004年の証券取引法改正で規制緩和が進み、本格的な普及期を迎えた。米国では投資信託だけで構成するラップ口座など多彩な商品が紹介されている。最近ではより高度で個々の投資家の目的や方針に合わせて運用管理するSMAなども注目されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

投資信託

投資信託

多数の投資家から委託された資金を運用し、収益を投資家に還元する仕組み。日本では契約型のユニット・トラストが中心であったが、1998年から会社型(投資会社が株式を発行し、投資家が株主となる形式)も導入された。英国インベストメント・トラストや米国のミューチュアル・トラストは会社型が中心。また、日本では公社債型を除く投信の97%までが、あらかじめ決められた信託財産の範囲で随時買付けと売却が自由な追加型(オープン型)。2007年12月末の投資信託運用残高は119兆5859億円。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

株価指数連動型投信

株価指数連動型投信

運用成績日経平均株価TOPIXなどインデックス(市場の指標)に連動するよう設計された上場投資信託。連動する株価または指数の全銘柄で構成されたもの、電機及び銀行の銘柄に連動しているものと、2007年11月に上場した韓国総合株価指数に連動しているものがある。ETFに投資することで、少額でもインデックスを構成する全銘柄に投資するのと同じ成果を得ることができる。2008年2月現在、東京証券取引所に13銘柄が上場されており、個別株式と同じように売買および信用取引・貸借取引が可能。通常の投資信託は毎日の終値で価格が決まるのに対し、ETFは取引時間内に決まる価格で随時取引される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ETF

ETF

株価指数連動型投信」のページをご覧ください。

不動産投資信託

不動産投資信託

投資家から集めた資金で不動産を運用し、賃貸料、売却益などの収益を分配する投資信託。一般にはREIT(リート)と呼ばれるが、日本では不動産保有者と運用者を分けるなどの規制があるため、区別してJ‐REITと呼ぶ。証券取引所に上場され、株式と同じように売買することが可能。米国では1世紀以上の歴史があるが、日本では2001年9月に第1号が上場され、2008年2月現在東証に41銘柄が上場されている。当初は優良オフィスビル中心の運用だったことから利回りに大きな差は生じなかったが、現在は住宅や商業施設など運用対象が多彩になり、銘柄ごとの利回りや価格に差が生じるようになった。07年からは海外不動産も運用対象として組み入れ可能。空室率上昇や賃貸料の下落など、不動産に特有のリスクを伴う。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

REIT

REIT

不動産投資信託」のページをご覧ください。

ファンド・オブ・ファンズ

ファンド・オブ・ファンズ

複数の運用手段の異なる投資信託を組み込んで組成した投資信託。ベンチャーファンドヘッジファンドを組み込むものや、投資対象、リスク水準で投資対象を分類するものなど多彩な組み合わせがある。少額でも多数の運用手段で運用することができる。仕組みが分かりにくいという批判もあるが、長期投資の観点からは運用コストを下げることが可能である。リスクの水準によって高リスク型、低リスク型などに分類することもあり、確定拠出年金の運用手段などに使われる。日本では1999年7月から設定、販売が可能となった。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

社会的責任投資

社会的責任投資

従来、株主価値の最大化という観点から財務分析が進められ、投資基準が作成されてきた。しかし、企業が社会的存在としての性格を強めていることから、株主以外のステークホルダー(利害関係者)の利益に関心が向けられている。つまり、株主価値から見た財務指標によって投資を行うだけでは十分ではなく、投資対象とされる企業ではコンプライアンス(法令順守)に沿いかつ企業の社会的責任(CSR:Coporate Social Responsibilty)に十分配慮した企業行動をとっているかどうかが問われる。換言すれば、企業の環境配慮行動、倫理的・社会的行動をスクリーニングの基準とする投資が求められているのである。実際、こうした投資基準に従って投資される信託商品も開発されている。日本でも、エコファンドや社会的責任投資への関心が高まってきているとはいえ、実際にはエコファンドがほとんどで、その投資規模もまだ決して大きくはない。こうしたなかで、資産運用会社ドミニ・ソーシャル・インベストメントを運営するSRIの先駆者エイミー・ドミニ(Amy Domini)の活躍には目覚ましいものがある。彼女の作成したSRI株価指数「ドミニ400」による投資実績は好結果を示し、今では米国でのSRI投資残高は2兆ドルを超えるまでになっており、企業変革の担い手という観点からも無視し得ない存在となっている。

(高橋宏幸 中央大学教授 / 2008年)

社会的責任投資

投資対象を選択する際に、投資基準としてこれまでの企業の成長性や財務の健全性などに加え、環境、人権、社会問題などへの経営の取り組みも投資基準として考慮する投資の考え方。投資対象をスクリーニングして社会的責任を果たしていない企業を排除するや、環境問題に積極的な行動を取る企業を選択するなどの運営方針がある。多くの米国の企業年金などがこの考えを取り入れているほか、社会的責任(CSR)への貢献を銘柄選択に取り入れた投資信託も多数組成されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

SRI

SRI

社会的責任投資」のページをご覧ください。

SRI

社会的責任投資」のページをご覧ください。

オルタナティブ投資

オルタナティブ投資

株式、債券など伝統的な投資対象への投資に対し、金融派生商品ベンチャーキャピタル不動産などに対する投資の総称代替投資とも呼ばれる。代表例はヘッジファンドへの投資。株式や債券が、基本的には市場全体の動きを示す指標などとの比較で運用成果を測るのに対し、オルタナティブ投資は、市場リスクとは連動しない絶対的なリターンあるいは値上がり追求を目的とする。このため、固有のリスクはあるものの、市場低迷時などに高いリターンを実現することを目的として、ポートフォリオの一部に組み込まれる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ヘッジファンド

ヘッジファンド

富裕層や機関投資家から資金を集め、ハイリスクハイリターンの運用をする投資組織のこと。通常の相場観に反して「逆張り」をすることで、高い収益を狙う傾向があることから、相場が思わぬ方向に動いたときのリスクヘッジ(危険回避)になるといわれている。 その一方、さまざまな金融技術を使って、元手の数倍規模で運用するため、相場の少しの変動で大きな損失が生じる可能性もあり、国際的な金融不安につながる要因にもなると指摘されている。 ヘッジファンドは、各国の法律や規制をできるだけ避けるために、ケイマン諸島などの租税回避地に設立されることが多く、各国の金融当局もその実態をつかむのが難しくなっている。このため、G7(主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議)などでは、欧州諸国を中心に、ヘッジファンドの規制や監督の強化を求める声が出ているが、米国はこれに反対している。

(高成田享 朝日新聞記者 / 2008年)

ヘッジファンド

株価指標の動きとは無関係に、相場の下落局面などでもいろいろな手法を駆使して絶対的にプラスとなる運用成績を目指す運用法人を指す。ハイリスク・ハイリターンの手法を取るため、運用に失敗する例も多い。かつては一部の富裕層が大口の資金を運用する手段であったが、最近では、年金基金が運用成績を上げるために組み込んだり、個人が小口運用に用いたりするようにもなった。全世界で1万を超えるヘッジファンドが総額1兆ドル以上を運用していると見られているが、ほとんどのファンドは内容を非公開にしているため、実態は不明な点が多い。日本の市場においても、積極的な運用で大きな影響力を発揮することがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

デリバティブ

デリバティブ

株式、為替などの原資産の動きに依存して価格が変動する商品あるいは取引。代表的なものは、オプション、スワップ、先物取引など。財務諸表には時価評価額および評価差額が計上されるが、リスクの高さに鑑みて注記で取引内容やリスク相当額が開示される。もともとは価格変動リスク軽減や決済コスト削減などの目的で開発されたが、少ない資金で多額の原資産を取引したのと同じレバレッジ効果が得られることから、投機的な目的で使われることも多い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

金融派生商品

金融派生商品

デリバティブ」のページをご覧ください。

資産担保証券

資産担保証券

企業が保有する債権や不動産などの資産を本体から分離し、その資産から生じるキャッシュフローを原資として発行される証券。証券化商品の代表的な例。企業は資産の流動化が可能となり、投資家は企業の信用力とは無関係に、対象資産の信用力に対して投資することが可能となる。売掛債権、リース債権、自動車ローンなど、基本的にキャッシュフローを生み出す債権であれば資産担保証券を組成することが可能。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ABS

ABS

資産担保証券」のページをご覧ください。

投資顧問会社

投資顧問会社

顧客から預かった資産運用し、運用手数料と運用益の一部を報酬として受け取る会社。投資一任業者として内閣総理大臣への登録と許可が必要。なお、一任勘定による運用は行わず、投資情報提供だけを業務とする会社でも投資顧問を名乗る例もある。この場合は、内閣総理大臣への登録だけで業を営むことが可能である。投資顧問会社は個々に特徴を持っており、ヘッジファンドのようにハイリスク・ハイリターン投資を得意とする会社もあれば、年金運用のようなリスク限定の長期運用を行う会社もある。運用対象は証券にとどまらず、不動産や通貨など広範な対象を扱う。個人でも運用を依頼することは可能だが、運用単位は最低でも億円単位なので、一部の超富裕層向けのプライベート・バンキングに限られる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

配当利回り

配当利回り

配当利回りとは、株価に対する配当の割合。配当の割合が比較的高く株価変動が小さい株式について、預金金利などとの比較で投資判断に用いる。配当性向とは、当期純利益に対する配当の割合。経営者が株主還元指標として公約するケースもある。いずれも配当水準を投資判断材料にするための代表的な指標。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

配当性向

配当性向

配当利回り」のページをご覧ください。

投資銀行

投資銀行

証券引き受けによる資金調達およびコンサルティングなどの付随業務を行う金融機関。銀行の名は冠しているが、実際には証券による資金調達業務が中心。もともとのルーツは英国のマーチャントバンク。米国では銀行と証券の業務規制撤廃後大きく伸びたが、一方で銀行業務や投資家との利益相反がいろいろな問題を引き起こしており、現在は他の業務との厳密な分離隔離のための施策としてファイヤーウォール構築が求められている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

株式公開

株式公開

企業が証券取引所において第三者による自社株式売買を可能とすること。株式上場ともいう。主な目的は資金の調達だが、創業者利益の顕在化や、企業の知度や信用度の向上を目的とする場合もある。既存の保有株式を売却するか、新株を発行することで流通株式を確保する。公開にあたっては、投資家保護と市場の健全性維持のため、取引所の定めた上場基準を満たす必要がある。また、公開後は合理的な市場価格形成のため、定期的な情報開示の義務を負う。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

IPO

IPO

株式公開」のページをご覧ください。

IPO

子会社上場」のページをご覧ください。

上場基準

上場基準

証券取引所で自由な取引の対象とするために満たすべき基準。取引が円滑に行われるように、(1)株式の発行量、企業の純資産などに関する規模基準、(2)流動性を確保できるように流通する浮動株数などを定めた証券分布基準、(3)純資産や純利益に関する経営基準、などから構成される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

上場廃止基準

上場廃止基準

株式の上場が取り消しとなる基準上場株式の75%から90%以上が少数株主に保有される、株主数が大幅に減少する、など流通性に問題が生じている場合や、時価総額が10億円未満となる、取引が成立しない、など上場されている意義が失われたと見なされる根拠となる。この他、債務超過有価証券報告書への虚偽記載など、企業の存続が問われる場合にも適用される。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

IR

IR

株主に対して的確な経営情報を提供するための活動の総称。具体的には、決算や事業に関する説明会の開催、年次報告書など資料の作成、ホームページ上の情報開示など。対象は投資家や証券アナリストが中心だったが、現在では個人投資家向けのIR活動も増えている。株主総会広義のIR活動と位置づける例も増えている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

インベスター・リレーションズ

インベスター・リレーションズ

IR」のページをご覧ください。

第三者割当増資

第三者割当増資

発行会社と特定の関係のある相手先を指定し、新株引受権を与えて株式を発行すること。業務上の関係強化を図る場合や、経営状態の悪化から通常の増資ができない場合に行われる。株式数が増えることで既存株主には不利になるため、時価を下回る特に有利な条件で発行しようとする場合には、株主総会の特別決議が必要となる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

金庫株

金庫株

発行会社による目的を定めない自社株の保有。2001年までは株式償却及びストックオプションへの対応に限って認められていたが、以後は配当可能利益の範囲なら目的を特定せずに株主総会の決議で保有が可能となった。株価維持や敵対的買収への対抗手段としても用いられる。金庫株の購入は、価格や数量の決定方法について定めたセーフハーバールール(自社株購入が株価操作と見なされないために守るべき規則)にのっとって行われる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

ストックオプション

ストックオプション

あらかじめ決められた期間と価格(行使価格)で自社株式を購入することができる権利。行使価格と市場価格の差が個人の収益となる。日本では新株予約権を使い、行使時には企業が金庫株を放出するか、新株を発行する。日本でも株価に対応した報酬制度として導入が進んだ。しかし、米国で経営者が行使目的で株価操縦を行う例が出たことに加え、関連費用が人件費とされたため、低コストのインセンティブ策という考え方は見直しを余儀なくされている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

自社株購入権

自社株購入権

ストックオプション」のページをご覧ください。

株式交換

株式交換

企業買収において、買収企業と被買収企業の株式を交換する方法。上場子会社を完全子会社化する場合にも用いられる。株式の取得や売却が必要ないため、買収コストを大幅に引き下げることができる。日本では1999年10月の商法改正から可能となった。また、2006年の会社法改正で、07年5月以降、海外企業の日本法人によるいわゆる三角合併による買収も可能になった。このため、今後は海外企業が株式交換で日本企業のM&Aに乗り出すが増えると見られている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

株主代表訴訟

株主代表訴訟

不正行為によって会社に不利益を与えた取締役に対し、株主が起こす訴訟。1993年の商法改正で、提訴にかかる費用が一律8200円となり、以後、案件が急増した。6カ月以上の株主ならば誰でも行うことができる。敗訴した場合に取締役が負うべき賠償額の上限は、代表取締役報酬の6年分、社内取締役が4年分となっている。評価は分かれるものの、経営責任を明確化するという点では評価されるべき制度といえる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

種類株式

種類株式

普通株式と議決権が異なる株式。普通株式の株主には平等に議決権が与えられるが、種類株式はこの例外となる。2002年4月の商法改正で発行が可能となった。例として、特定部門の業績に連動するトラッキングストック、配当を優先的に受けられる代わり議決権に制限のある優先株、残余財産分配順位の低い劣後債、拒否権の付いた黄金株などがある。種類株式の発行により、議決権の制約を受けない資本政策が可能となる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

黄金株

黄金株

原則として1株だけ発行される拒否権付き株式。普通株式を買い占められた場合でも、黄金株を保有する株主は合併に対する拒否権を行使できる。このため、敵対的買収への対抗手段とされる。2006年施行の新会社法では種類株式としての発行を可能としている。東京証券取引所は当初、黄金株発行企業の上場を禁止する方針だったが、発行後6カ月以内に取り消すことを条件に、上場企業に対しても発行に同意した。国際的には株主の権利平等の原則に反することから、米国ではニューヨークを始め主な証券取引所が発行を禁止、EUも各国の取引所に発行禁止を求めている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2007年)

日経225ミニ

日経225ミニ

大阪証券取引所に上場されている日経平均先物商品の1つ。取引単位は日経平均株価の100倍。先物であるため、現物株では禁止されている差金取引(売買価格から利益損失を確定し差額だけを決済する)が可能。これまでの日経平均先物との主な違いは、取引単位が10分の1になったこと、値段の刻みが半分の5円になったことなど。株式と同様に1日の価格変動を制限する更新値(気配値段の切り上げ/切り下げ幅)と制限値幅(ストップ高/ストップ安)が設けられている。これまでの先物の10分の1という少ない証拠金で取引ができることから、デイトレーダーにも人気が出ている。しかし、先物であるため日経平均株価が予想とは異なる方向に動いた場合には大きな損失を計上することになるハイリスク・ハイリターン商品。2007年10月第3週の取引高(自己・委託合計)は約4兆4754億円。取引主体は個人投資家が43%、外国人投資家が54%だった。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

物価連動国債

物価連動国債

元本の償還額が償還日の物価に連動する国債。物価の基準としては全国消費者物価指数が用いられる。利率は一定であるため、インフレ時には元本及び利払い額が目減りするリスクが避けられるが、物価が下落した場合には償還額も減少する。譲渡制限があり、購入者は国内外の機関投資家などに限られている。個人では購入できないため、個人向けにはこの国債を組み込んだ投資信託商品が販売されている。英国では1981年、米国では97年に販売が開始され、いずれも短期間で大きく発行残高が増えている。日本では2004年3月から発行されているが、譲渡制限、デフレ時の償還差損のリスク、特殊な会計処理の必要性などが忌避され、07年度の発行予定額は3兆円で、全体の2%強。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

TIPS @@@LINK=Tips Tips

TIPS

物価連動国債」のページをご覧ください。

預託証書

預託証書

企業が他国の株式市場に上場する際、株式の現物を上場する代わりに現地の銀行などに株式を預託し、この所有権を証書としたものを売買する仕組み。株式と同じように売買され、配当を受け取る権利や議決権なども株式と同じ。投資家にとっては自国市場への上場であるため時差による株価の変動リスク回避や為替決済の手間などを避けることができる。米国へ上場する企業が使うADR(米国預託証書)が最も一般的だが、日本でも海外、特にアジア企業の上場を誘致するために日本預託証書(JDR)の法制度整備を進めている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

DR

DR

預託証書」のページをご覧ください。

CDO

CDO

資産担保証券債券やローン債権などの資産を担保として発行される証券化商品の1つ。債券やローン債権などの所有者がこれをSPV(特別目的事業体)に譲渡し、この資産の信託受益権等で資金調達を行う仕組み。優先権のあるシニア債あるいはメザニン債と呼ばれる部分については高い格付けがなされ、機関投資家が活発に投資している。劣後する部分はリスクが高くなる代わりに利回りも高くなる。しかし、資産が担保であるため、これが毀損(きそん)した場合には、高格付け部分も簡単にデフォルトを起こすリスクがある。2007年に米国で起こったサブプライムローン問題では、担保となっていたローン債権が破綻(はたん)したことから、高格付けとして運用されていたCDOも毀損し、世界中の多くの金融機関が巨額の損失を計上する結果となった。1980年代以降、機関投資家の運用対象としてもてはやされてきたが、担保資産の不透明さや流動性の低さなどのリスクが改めて認識されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ハイブリッド証券

ハイブリッド証券

債券と株式の両方性格を持った証券。優先株、劣後債永久債優先出資証券などがある。商品によっては、利息配当支払いの繰り延べが可能であり、また株式とは異なるために発行に伴う株式の希薄化も避けることができる。さらに債券と異なり、返済義務がないことも特徴である。このため、株式と債券のメリットを併せ持つ証券として、発行する会社にとっては高い財務の柔軟性を持って資金調達することが可能となる。日本の大手銀行は自己資本規制をクリアするために資本充実が課題となっていたことから、数々のハイブリッド証券を発行している。これらのハイブリッド証券についてはその特性、詳細、算入限度などが金融庁によって明確に定められている。一般事業会社が発行する場合には、格付け会社がその証券の性質が資本と負債のどちらに近いか、を基準格付けを判断することがある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

PTS

PTS

私設取引システム。日本版ビッグバンの結果、証券の売買を取引所に集中する義務が撤廃された。このため、証券会社が自ら設置したコンピューターのネットワーク上での証券売買が可能となった。このネットワークあるいはシステムのことをPTSと呼ぶ。2001年にマネックスナイター、06年9月にオークション方式のkabu.comPTS、07年8月にジャパンネクストPTSが開設された。いずれも夜間取引。夜間に取引ができるメリットはあるが、07年10月時点ではまだ参加者も限られており、通常の取引所における取引に大きな影響を与えるには至っていない。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

中国株

中国株

現在、最も成長が期待されている市場の1つである中国株式市場だが、国内の上海、シンセン両市場と開放経済体制を残す香港市場では構造が異なっている。上海、シンセン両市場の上場株式にはA株、B株の2種類があり、A株は中国国内の投資家と一部の外国証券会社のみの取引に制限されている。B株には外国人投資家が投資することが可能である。このため、A株とB株で異なる動きをすることがあるので注意が必要である。香港市場にはH株とレッドチップがあり、こちらは上場した企業の登記上の国によって区別されている。H株は中国本土で登記され香港市場に上場した中国企業、レッドチップは香港を含む海外で登記された中国企業で香港市場に上場した企業。この他に、香港企業及び外国企業が香港株として上場されている。中国本土の取引所がこうした複雑な体制をとっているのは、外国人が人民元を保有できないというようにする為替管理のため。中国経済の規模は年々拡大しており、今後為替管理が緩和されればこうした複雑な仕組みも解消に向かう可能性がある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ノーロード投信

ノーロード投信

販売手数料が無料の投資信託。ただし、運用や管理の対価としての信託報酬は支払う必要がある。インターネットを用いたり運用会社が直接販売したりすることでコストを抑え、販売手数料を無料とするが多い。米国では約6割の投資信託がノーロードとなっている。これは確定拠出型年金などで運用する際に、手数料コストを抑えて運用成果を上げることが重視されているためと考えられる。日本でも着実に残高を増やしており、今後確定拠出型年金残高が増加すれば米国と同じく残高が大きく増加すると予想されている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

転換価格修正条項付き転換社債

転換価格修正条項付き転換社債

転換社債型新株予約権付き社債のうち、発行後一定期間を経過するとその時の株式の時価によって転換価格が変わる条項が付いたもの。転換価格には下限が設定される場合とされない場合がある。株価下落した場合には、転換価格も下方に修正され、転換される株式数は増加する。このため希薄化が起こり、1株当たりの価値が減少することになるためにさらなる下落を招くことがある。この場合、既存株主は希薄化による価値の減少と株価下落の二重の損失を被ることになる。一方、引き受け側は株価下落局面で転換した上で空売りすればさらなる株価下落によって多額の利益を得ることができる。当初は資金調達力が劣るが潜在的な成長可能性を持つ新興企業が、将来の利益成長による株価上昇期待を前提に発行することが多かった。しかし、結果的には株価下落に拍車を掛ける例が多く、投資家からの批判も強い。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

MSCB

MSCB

転換価格修正条項付き転換社債」のページをご覧ください。

メザニン債

メザニン債

証券化商品の中で、信用力が高いが利回りの低いシニア債と信用力は低いが高利回りの劣後債(ジュニア債)の中間に位置する債券。債券やローン債権などから組成される証券化商品は、通常、信用力の度合いで格付けの異なる種類の債券が発行される。メザニン債はその中間に位置する中程度の利回りと格付けを持つもので、機関投資家などを中心に大きな需要がある。ただ、原資産が毀損(きそん)すると順位が高いシニア債の後でなければ利払い償還が受けられない。このため2007年に米国でサブプライムローン破綻(はたん)した際には、メザニン債の中にも行き詰まる例が続出しており、リスク面での不透明さが浮き彫りになった。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

東京市場(2006年)

東京市場(2006年)

2005年には景気回復基調に支えられて活況を呈した株式市場だが、06年に入るとすぐにライブドアショックに見舞われた。新興市場の中核的な銘柄の1つであったライブドア・堀江貴文前社長の逮捕を契機に、中小型株市場では株価が下落する銘柄が相次いだ。これがネット投資家を中心とした個人投資家に大きな打撃を与えることになった。 海外では、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ懸念から利上げを継続し、これが米国の景気にも影を落とし始めた。日本では、ゼロ金利政策が解除され、年内の追加利上げの可能性が取りざたされている。欧州でも、インフレ懸念から金融は引き締め傾向にあり、世界的に金融緩和による過剰流動性に支えられた株式の活況が終わりつつあると言えそうだ。 日本では、着実な景気回復が続いている。株価は05年のような需給に支えられた相場から、好調な企業業績を反映する相場に移行しつつある。このため、日経平均株価などの指標では一進一退に見えるが、着実に業績が拡大する企業の株式には評価が集まる傾向が顕著になっている。もう1つの注目材料は、王子製紙による北越製紙へのTOBなど、これまでにないM&Aの高まりであろう。日本企業は再生への長いトンネルを抜けて、新たな成長策を模索する段階に入ったと考えられる。これからは、個々の企業の価値に注目する「賢い投資家」の時代と言えそうだ。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

少数株主持分

少数株主持分

連結会計において、子会社自己資本うち親会社が保有していない部分財務諸表では、純資産一部として開示されるが、株主資本(資本金および準備金)には含まれない。米国では少数株主持分を非支配持分として株主資本に含めようとする動きが出ている。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ドル・コスト平均法

ドル・コスト平均法

株式などの金融商品長期にわたって一定額ずつ買い付けていくことで価格変動リスクを分散する投資手法。投資額が一定であるため、株式の場合には株価が高いときには少ない株数を、逆に下がったときには多くの株数を購入するため、平均購入コストが安定する。ただし、購入コストを下げる、リスクを低減するなどの効果はない。従業員持株会を通じた自社株購入株式累積投資など、長期の資産形成に適している。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ブルーチップ

ブルーチップ

収益性、成長性、財務安定性などを兼ね備えた優良企業の株式米国株式市場で使われる呼称だが、日本を含め他の市場でも優良企業の株式をブルーチップと呼ぶことがある。ダウ工業株30種平均などに採用されているなどの条件があるわけではなく、あくまで優良で客観的に高い評価を得ている一部の銘柄に限られる。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

ユーロ債

ユーロ債

自国以外の金融機関に預けられた通貨や非居住者に保有される通貨をユーロマネーと呼び、この市場で発行される債券をユーロ債と呼ぶ。規制が緩く発行条件を比較的自由に設定できることや、源泉課税の対象にならないなどのメリットがあり、起債例は増えている。なお、欧州共通通貨のユーロ(Euro)と区別するため、通常はユーロ円債、ユーロドル債など対象となる通貨を明示する。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

デュアル・カレンシー債

デュアル・カレンシー債

払い込みと利払いは円で、償還はドルなどの外貨で行われる債券。逆に、払い込みと償還が円で、利払いが外貨で行われる債券は、リバース・デュアル・カレンシー債(逆デュアル債)と呼ばれる。為替リスクが伴うが、比較的高い利回りの債券を発行することができる。一部にはオプションを組み合わせて、為替変動が一定幅を超えた場合には利払いや償還の条件が異なってくる商品もある。

(熊井泰明 証券アナリスト / 2008年)

人手不足時代

人手不足時代

2007年、団塊世代(1947〜49年生まれ)が60歳という定年年齢に達し、退職期を迎えることになった。この大量退職者をめぐりさまざまな問題が予想され、「2007年問題」ともいわれてきた。これまで、企業は厳しいリストラを実施し、過剰雇用減らしに努めてきた。しかし状況は急転し、団塊世代の大量退職で深刻な人手不足や技能空洞化が生まれるのではないかと懸念されている。企業社会の根幹を支えてきた熟練の持ち主が短い期間に多数退職することは、世代間での熟練の継承にも問題が起こりかねない。2005年ごろからの景気の回復に伴い新卒採用ラッシュも始まっているが、人口減少時代への突入がもたらす深刻な人手不足の到来は避けがたい。すでに2005年末くらいから企業の雇用不足感は次第に高まっている。余暇重視などの労働観の変化を伴う高齢社会のあり方と併せて、企業は定年制度の見直しや女子労働者の積極採用などを含め、将来を見据えた雇用プランを描く必要に迫られている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

2007年問題

2007年問題

人手不足時代」のページをご覧ください。

労働契約法

労働契約法

労働者と会社とが結ぶ雇用契約の基本ルールを定める法律。現代社会では労働関係も契約関係であり、当事者(労働者と使用者)の合意・契約によって権利・義務が定まると考えられる。日本では、個々の労働者と企業が結ぶ雇用契約は、労働基準法が最低限の基準を定めている。これを踏まえて、労働組合などが経営者と交渉して決める労働協約や就業規則に基づき契約が結ばれる。しかし、労働契約上の権利や義務を幅広く規定した法律はなく、労働者個人と会社が争う場合、裁判所の判例の蓄積だけが解決のよりどころとなっていた。近年、労働者個人と会社が対立する事例が増え、労働基準法とは別の民事上のルールとして法制化を求める声が高まってきた。 就業形態の多様化も急速に進んでおり、転籍や雇用条件などの雇用ルールを明文化することなどが求められてきた。労働契約法案では、労働契約の原則として、パートや派遣といった就業形態であっても「待遇について均衡が図られるようにする」との趣旨を政府案に加えることで合意した。民主党は対案で「均等待遇の確保」を求めていたが、自民党が「使用者側の反発が強い」と難色を示し、「均等」より弱い「均衡」の表現で一致した。また、ワーク・ライフ・バランスの実現に向け、「仕事と生活の調和の確保」の文言も加えられた。難航をきわめた法案であったが、ようやく2007年の国会で成立することになった。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

間接差別

間接差別

表面的には中立的な慣行や基準だが、実質的に性差別につながる行為や慣行。欧米では直接差別と共に原則禁止とされ、状況に応じて判断される。日本でも男女雇用機会均等法の改正に含まれた(2006年6月15日制定、07年4月1日施行)。改正案の特徴は間接差別の適用を、省令で次の3件に「限定列挙」したこと。(1)募集・採用で身長、体重や体力要件を課す、(2)総合職の採用で全国転勤を要件とする、(3)昇進の際に転勤経験を要件とする。なお、同改正では「5年後の見直し」「間接差別は省令で規定するもの以外にも存在しうる」などの付帯決議が付いた。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

フリーター

フリーター

フリーアルバイターの略称といわれる和製造語だが、職業とも生き方ともいえない不透明な名称。情報不足、期待と現実のギャップなどフリーターとなる背景も多岐にわたっている。一般には高校や大学卒業後、臨時のアルバイトなどで収入を得ている若者を指している。一度フリーターになると、なかなか脱却が困難なこともあって、今後、10〜20歳代だけでなく30〜40歳代の中高年フリーターが増加することも懸念されている。進学や定職に就くことに積極的な意味を見いだせない若者の増加は、雇用の将来、そして教育現場にも重大な課題を突きつけている。厚生年金などの適用外で働く者も多く、老後保障も憂慮されている。教育現場における能力開発、適切な進路指導、募集時期の分散、雇用職業情報・相談サービスの充実など多面的な対策が必要である。具体的な取り組みとして、多くの都道府県で、情報収集から適職診断、研修、職場体験・紹介まで、必要とされる就職促進サービスを1カ所で受けられるジョブカフェが設けられている。総務省統計局「労働力調査」の定義に基づく統計上のフリーターの数は、2003年には217万人まで増加したが、その後減少傾向をたどり06年では推計187万人近いとみられる(「平成19年版労働経済白書」)。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

ニート

ニート

イギリスの内閣府が作成したBridging the Gapという調査報告書で使われたことに由来し、Not in Education, Employment, or Trainingの略称である。統計上は、「職に就いておらず、学校等の教育機関に所属せず、就労に向けた活動をしていない15〜34歳の未婚の者」をいう。いわゆる「フリーター」や「失業者」と「ニート」の相違点として、フリーターはアルバイトやパートタイム労働者として不安定ながらも生計を立てている。また、失業者は失職をしているが、調査期間の間に求職活動をしている。これに対して、ニートは就労に向けた教育・雇用・職業訓練等のいずれにも参加せず、無職の状態を継続している。厚生労働省によると、2006年時点で15〜34歳層のうち、約62万人が「若年無業者」としてニートの概念に近いとされている(「平成19年版労働経済白書」)。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

NEET

NEET

ニート」のページをご覧ください。

失業

失業

働く意思と能力がありながら就業の機会が得られない状態。失業の原因について、理論上は自発的失業と非自発的失業の区分が重要である。自発的失業は労働者自らの意思で失業あるいは次の職を求めて失業している状態。非自発的失業は、事業不振、解雇など、自らの意思に関係ない理由で失職し、職探しを余儀なくされている状態を指す。ただし、離職の動機に労働者自身の意思が介在したのか否かは、かなり判定が難しい。日本を含めて先進諸国で大きな社会経済問題となっているのは、若年者の高い失業率と企業の事業不振などに伴うリストラ失業。若年者の失業率が高い理由としては、能力に比べて賃金などのコストが高い、熟練度が低く即戦力を必要とする企業側の要求に対応していない、企業が過剰労働力を抱えるため新規採用を手控える、などが挙げられる。同時に、労働歴の初期には自分に最も適した職業機会を探索するため労働移動も多く、ある部分は健全な適職探しの反映でもある。他方、リストラ失業(米国ではダウンサイジングという)は、事業基盤再構築の過程で余剰になった従業員の解雇、希望退職などの形で削減する動きとして目立っており、人件費の高い中高年の失業者増加の原因となっている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

雇用調整

雇用調整

主として不況期に企業内に発生した過剰雇用を、様々な方法で調整すること。その方法は国や産業によって異なる。日本では、残業規制、配置転換、出向・転籍、新規採用や中途採用の削減あるいは中止、退職者不補充(自然減耗)、パートタイム労働者や臨時・季節労働者などの再契約停止・解雇、一時帰休、希望退職者募集、解雇などの手段が、状況に応じて採用されている。景気変動などで事業活動の縮小を余儀なくされ、従業員を休業、教育訓練、出向などをさせる事業主に対し、賃金などの負担の一部を国が助成する雇用調整助成金も準備されている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

有期雇用契約

有期雇用契約

企業と労働者が期間を定めて労働契約を結ぶこと。2003年の改正労働基準法第14条の規定では、労働契約は原則として最長3年(高度の専門的知識などを持つ者や満60歳以上の労働者については最長5年)とされている。契約期間の満了を理由とする雇い止めは解雇には該当しないが、判例では、労働契約が更新を重ね、あたかも期間に定めのない契約と実質的に異ならない状況の場合や、仕事の内容が臨時的なものではなく、ある程度雇用契約が継続するとの期待の下で契約が更新反復された場合には、解雇ルール類推・適用する傾向がある。期間途中の解約は、やむを得ない事由がない限り認められない。有期雇用は、就業形態の選択肢を増やし、労働移動を円滑化するのが狙い。有期雇用契約下にある従業員は、パートタイマー臨時雇いなどが多く、役員を除く雇用者に占めるパートタイマー、派遣社員など非正規の従業員の比率は、06年(10-12月)で33.0%(「平成19年版労働経済白書」)。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

有期労働契約

有期労働契約

有期雇用契約」のページをご覧ください。

終身雇用制

終身雇用制

企業が従業員入社から定年までの長期間について雇用する制度。長期(勤続)雇用慣行という表現の方が妥当終身雇用は使用者と従業員間の暗黙了解と、それを維持したいという期待の上に成立している慣行といえる。この意味の長期・安定雇用は日本に限った制度ではない。西欧先進諸国にも見いだされ、内部労働市場の基本的編成原理であるともいえる。第一次石油危機以降、とりわけバブル崩壊後、長期雇用の基盤はかなり侵食され変容しているが、この制度自体が消滅、崩壊するわけではない。企業が賃金コストの高い基幹労働者層の部分をできる限りスリム化する一方で、パートタイム労働者や派遣労働者などの調整が容易な労働者層で入れ替え、賃金コスト引き下げと柔軟な雇用体系を目指す方向が、今日の特徴といえる。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

長期勤続雇用

長期勤続雇用

終身雇用制」のページをご覧ください。

解雇ルール

解雇ルール

これまで日本では、実定法上は期間の定めのない労働契約について解約の自由が規定されている(民法627条1項)にもかかわらず、裁判例は解雇が「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の乱用として無効となる」との解雇権乱用法理を確立し、解雇権を厳しく制約してきた。これは解雇をできる限り回避し、安定雇用を重視するという従来の日本型雇用システムを背景に形成されてきた。ただしこれはあくまで正規従業員に関する法理であり、有期雇用の非正規従業員については、契約期間満了による契約の自動終了が原則とされてきた。他方、長期雇用制度の維持のため、裁判例は労働契約の解釈上、労働条件の決定に関する使用者の裁量権を幅広く是認してきた。配転、出向、時間外労働などに関する包括的人事権・命令権の承認が典型である。言い換えると、日本の企業組織の対外的な弾力性は制限が厳しく硬直的でも、内部的弾力性は相対的に大きいといえる。2004年1月施行の労働基準法改正では、従来の判例法による解雇ルール(「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇権の行使は無効」)が明文化(第18条の2)された。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

解雇権乱用法理

解雇権乱用法理

解雇ルール」のページをご覧ください。

雇用創出

雇用創出

新しい仕事の機会を生み出すこと。労働市場では企業活動の盛衰に伴い、雇用機会の創出と消失が絶え間なく進行している。1980年代初めまで、各国政府の雇用対策は失業の抑止あるいは失業者の救済という事後的な対応に重点が置かれてきた。しかしながら、経済的停滞打開、資金の有効な活用という観点からも、企業化支援、事業拡大などで新たな雇用を生み出す積極的な施策の方が、より建設的で重要であるという認識が先進諸国の政策担当者などの間に高まった。その結果、雇用政策の根本的な見直しが進み、より効率的であり、効果も期待される雇用創出政策への方向転換が始まった。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

ジョブ・クリエーション

ジョブ・クリエーション

雇用創出」のページをご覧ください。

インターンシップ

インターンシップ

インターンは一般的には、一定の区域内に閉じ込めること、あるいは医学研修生を意味し、インターンシップは、企業などにおける見習いまたは研修を意味する。日本では近年、大学生や高校生が在学中に自らの学習内容や将来の進路などに関連した就業体験を行うこともインターンシップと呼ぶ。高校、特に専門高校では、これまでも各科目の実習の一部として取り組まれてきたが、理科教育及び産業教育審議会(当時)は1998年7月の答申で、これをさらに幅広く推進することを提言。文部科学省はこれを踏まえて、普通科、総合学科でもできる限り多くの生徒がインターンシップを体験するための施策を進めている。2003年4月から実施された新高等学校学習指導要領でも、就業体験の機会の確保について配慮することとしている。

(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)

インターンシップ

大学生などが自らの専攻、将来のキャリア・プランに関連して、在学中に一定期間、企業その他で就業体験を積むための実習制度。欧米では、かなりの実績を持つ。実際の職場経験をすることで、職業意識を深め自らの適性を知ることにも役立つと考えられ、学校から就労段階への円滑な移行にも寄与するとして日本でも急速に関心が高まっている。(1)正規の教育課程として位置づけ、単位を取得できる授業科目としているもの、(2)授業科目ではないが、大学などの活動と位置づけているもの、(3)大学とは無関係に企業が実施するインターンに学生が参加するもの、という3つのパターンがある。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

裁量労働制度

裁量労働制度

仕事の遂行方法や手段、時間配分を使用者が具体的に指示することが困難な業務について、労働基準法によりその遂行を労働者本人に委ねる制度。業務の性質上、労働者の裁量に委ねることが適当な業務について、労使協定締結・届け出を要件に、実際の労働時間にかかわらず労使協定で定めた時間数を、労働したものとみなす(みなし労働時間制度)。1987年の労働基準法改正により、弾力的労働時間制の1つとして導入された。実際に労働する時間数にかかわらず、その質や成果によって賃金を定めることを可能とする制度で、その点で能力主義型雇用制度に属している。2004年1月施行の改正法により、企業全体の事業戦略の策定などの企画業務型裁量労働制については導入要件が緩和され、新商品・技術の研究開発など専門業務型裁量労働制についても、健康・福祉確保や苦情処理措置などを労使協定に盛り込むことが義務づけられた。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

ホワイトカラー・エグゼンプション

ホワイトカラー・エグゼンプション

働いた時間に関係なく、成果に対して賃金が支払われる仕組み。2014年5月28日の安倍首相を議長とする産業競争力会議で提案され、労働規制を所管する厚生労働省も導入の方針を固め、新成長戦略の目玉として6月に閣議決定された。
従来の働き方としては、1日の労働時間を原則8時間までとする一般的なものと、弁護士など特定の職種に限って労使で想定した労働時間をもとに賃金を定める裁量労働制がある。いずれの場合も深夜・休日手当は支給されるが、残業代に関しては裁量労働制ではあらかじめ賃金に含まれているとみなす。07年1月にも、第1次安倍政権は労働時間法制の緩和として年収900万円以上の労働者を対象に「ホワイトカラー・エグゼンプション」(一定の類型業務に就く労働者について労働時間規制の適用除外とする)が検討されている。この時は、「過労死を招く」などの強い反発を受けて国会提出は断念している。
今回の「残業代ゼロ」制度は、労働時間の長さと関係なく成果で賃金を決めるというもの。14年4月に産業競争力会議で民間議員から提案された。当初は長時間労働を招くと慎重だった厚生労働省が、生産性向上に役立つとする産業界の要請を受け入れた形で対案を作成。対象となるのは「世界レベルの高度専門職」で年収が数千万円以上の人とした。しかし、産業競争力会議民間議員案では中核・専門的職種の「幹部候補」で、年収の条件は外すとしている。田村憲久厚生労働相は「低所得の人が対象になることはあり得ない」と述べ、甘利明経済再生相もこれに合意している。ただし、具体的な年収水準については、アベノミクスで所得が増加することを勘案してから検討するとして明言を避けた。制度導入によって、幅広い働き手が残業代を支払われることなく、長時間労働を強いられるのではという懸念が広がり反発が強まっている。

(金谷俊秀  ライター / 2014年)

労働者派遣

労働者派遣

1980年代以降、正社員の採用を手控え、代わって企業の必要に応じて労働者を派遣する仕組みが拡大した。労働者派遣の特徴は、「実際に就労関係にある当事者と、雇用関係にある当事者が異なる」点にある。また、派遣するのは労働力であって、「特定の労働者」ではないということも特徴である。自社常用労働者のみを派遣する特定労働者派遣事業と、それ以外の主として登録スタッフをそのつど採用し、派遣する一般労働者派遣事業の2種類がある。前者には届け出制、後者には許可制が採用されている。85年の労働者派遣事業法制定(86年7月施行)以降、人材派遣市場は、派遣事業に関わる売上高に反映されるように波動を伴いつつも拡大してきた。その後、業務の効率化のために人材派遣の自由化を望む企業の声が強まり、2004年3月施行の改正法では、条件付きだが派遣期間上限の延長(1年から3年に)や、専門性の高い26業務について期間制限の撤廃、製造業務への派遣解禁、などが盛り込まれた。また、一定の条件下で、企業が正社員に切り替えることが可能となった。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

人材派遣

人材派遣

労働者派遣」のページをご覧ください。

業務請負

業務請負

他者から仕事を請け負うこと。民法では「請負」を「仕事の完成約束としてその仕事の結果に対して報酬を受け取る契約である」(第3編第2章第9節)と定義している。2003年に労働者派遣事業法が改正され(04年3月施行)、規制緩和もとでの原則自由化によって、それまで認められていなかった製造業への人材派遣も可能になった。その結果、業務請負業と労働者(人材)派遣業との境界線が、不分明になってきた。企業が事実上、労働者の派遣を受けているのに、形式的に「請負」と偽って、労働者の使用に伴う様々な責任を免れようとする「偽装請負」と呼ばれる実態も広がっている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

パートタイム労働者

パートタイム労働者

通常の労働時間(フルタイム)を働く労働者と比較して、短い時間(パートタイム)雇用される労働者。パートタイム労働者の数は調査の定義によって異なる。総務省の「労働力調査」で、平均週就業時間が35時間未満の雇用者(非農林業)は、2005年で1266万人(うち女子は882万人)、雇用者に占める短時間雇用者比率は24.0%。この比率は1970年には6.7%であった。女子の比率が高いことが特徴であり、短時間雇用者全体の69.7%に達している。パートタイム労働者の中には、労働時間数は週35時間以上で、フルタイム労働者とほとんど同じ仕事をしている者もいる。正社員との労働条件の格差は大きく、厚生労働省は2003年10月、短時間労働者について、就業実態、通常の労働者との均衡などを考慮して待遇すべきである(均衡待遇)ことなどの一連の措置を、「改正パートタイム労働指針」として施行した。社会保険制度の適用拡大も重要課題である。07年5月には、パートタイム労働法(正式名称:「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)の改正(「改正パート労働法」)が可決・成立し、08年4月1日から施行されることとなった。 今回の主な改正点は、(1)短時間労働者の通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保(2)通常の労働者への転換の推進を図ること(3)雇い入れに際して雇用条件の明文化の3点である。しかし、その実効性については(1)フルタイムで働く場合は対象外であること(2)対象者が限定的で、基準があいまいであること、などの問題点が指摘されている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

契約社員

契約社員

いわゆる正社員とは別の労働条件の下に、給与額や雇用期間などについて個別労働契約を結んで働く常勤社員のこと。会社によって、専門職として一定の雇用期間を定める契約もとに働く社員のことであったり、期間の定めをせずに非常勤経験を生かして働く人、また、定年後も引き続き勤める嘱託契約の人を指したりする。公募で募集される場合は、雇用期間に定めがある契約が一般的。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

テスト雇用

テスト雇用

テスト(トライアル)雇用とは、常用雇用に移る前に有期雇用(3カ月程度)で勤務し、その間に労働者としての能力の判定職場への順応性などをテストし、労使の条件が合致すれば本採用に移行する雇用制度。テスト雇用の期間は、労働者の職場、仕事への適性などを評価する一種試用期間とみられる。これと類似の制度が2000年に導入された紹介予定派遣であり、派遣先における直接雇用(正社員移行)を前提に契約、最長6カ月の派遣期間中に本人の能力・適性などを見極めた上で、企業と社員が合意すれば正社員となる。若年者(30歳未満)や中高年者(45〜60歳)の雇用促進の手段として注目される。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

トライアル雇用

トライアル雇用

テスト雇用」のページをご覧ください。

紹介予定派遣

紹介予定派遣

テスト雇用」のページをご覧ください。

職種別賃金

職種別賃金

企業のを超えて職種ごとに設定された労働市場で横断的な賃金。産業別、職業別労働組合などが一般的な欧米諸国では普通に見られる形態だが、日本では一部の職業・職種を除きあまり一般的ではなかった。しかし、電機連合自動車総連などは、「製品組み立て」「機械加工」「システムエンジニア(SE)」など、職種ごとに賃金水準の改善と産業内で横断的な「職種別賃金決定方式」の確立に向け運動を展開している。国際競争力が争点となり、ベースアップが困難となった状況で、今後、職種別賃金を重視した方向を転換させていくことが予想される。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

職業紹介制度

職業紹介制度

労働市場のどこに仕事の機会があり、どんな人材がいるかという情報を提供し、その間の需給調整を図るシステム。日本では長らく公共職業安定所(ハローワーク)など、公的職業紹介システムが優位であったが、規制緩和の一環として、民間の職業紹介事業者や地方自治体なども事業を行うことができるようになった。2001年8月からは、民間職業紹介事業者、求人情報提供事業者、経済団体、公共職業安定所などが保有する求人・求職情報に、求職者などがインターネットによってアクセスできる「しごと情報ネット」なども生まれた。しかし、インターネット上の求人・求職システム自体が内在する情報氾濫、個人情報漏洩、求人側と求職側の情報の非対称性など、深刻な問題も拡大している。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

労働力人口

労働力人口

15歳以上の人口労働参加率を掛けたもの。日本の労働力人口は1960年代の後半に5000万人を超え、98年に6793万人となった後は減少し始めていたが、2006年には6657万人となり前年より7万人増加した。男女別に見ると、男性は前年と比較して3万人減少、女性は9万人もの増加が記録された。変動パターンを年率ベースで見ると、60〜80年には年率1.3%で増加したが、80年代には1.1%、90年代に入ると0.8%となり、増加ぺースが鈍化している。これは主として長期的出生低下に加え、若年での労働参加率の低下による影響だ。さらに、バブル経済の崩壊やリストラの影響で労働需要が減少したが、近年の景気回復や女性の職場進出によって98年以降連続的に減少傾向にあったが、05年、06年と増加傾向を示している。労働力の中での就業者(失業者を除いた数)も増加し、産業別構成が変化している。50年には50%近くの人が第1次産業に就業していたが、06年ではわずか4.3%まで低下、75年以降、就業の半数以上が第3次産業に従事している。第2次産業は75年の34.1%をピークに近年減少傾向にある。これら就業者の平均年齢は確実に上昇し、その上昇ぶりが産業間で著しい相違を見せている。産業計では、73年から06年で34.9歳から41.0歳へ6.1歳も上昇、鉱業が全期間を通じて最も高くなっており、製造業においても労働力の高齢化が急速に進行している。また、06年には労働力人口の中の完全失業者数は275万人、失業率は4.1%で、前年に比べ失業者数は14万人の減少、失業率も0.3ポイント低下。年齢別で見ると15〜24歳が最も高く、次いで25〜34歳となっている。特に、男性の15〜24歳は8.8%と高く、次いで25〜34歳が5.2%となっている。

(小川直宏 日本大学教授 / 2008年)

労働力人口

労働力は、一国における働く意思能力を持つ人々が供給できる労働サービスの総量人数表示したもの。統計調査上の概念として、「労働力調査」(総務省統計局)では、15歳以上の人口のうち就業者(休業者も含む)と失業者の合計を指す。具体的には、労働力調査期間である毎月末の1週間に就業、休業あるいは求職中であった15歳以上の人口。15歳以上で働く意思や能力のない者、病弱者学生専業主婦などは非労働力人口とされる。2006年の日本の労働力人口(年平均値)は、6657万人。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

失業率

失業率

失業者数を労働力人口で除した数値。日本では完全失業率ともいわれ、労働力人口に占める完全失業者割合を示す。なお、この「完全」の文字には今では特別な意味はない。完全失業定義は、総務省統計局によると「仕事がなくて少しも仕事をしなかった者のうち就業が可能でこれを希望し、かつ仕事を探していた者及び仕事があれば、すぐ就ける状態で過去に行った求職活動の結果を待っている者」となっている。若年者層(15〜24歳)で、平均値よりも高くなっている。2006年の完全失業率(年平均、季節調整済み)は、年齢合計では4.1%だが、15〜24歳層は8.0%となっている(総務省統計局「労働力調査」)。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

有効求人倍率

有効求人倍率

有効求人数を有効求職者数で除した。「有効」の意味は、求人・求職の申し込みは有効期限(通常2カ月)があるのでその効力が存続しているものと、各月の新規求人・求職者数とを区別するため。この数値が1より大きいか小さいかで、労働市場需要超過、供給超過の状態を知ることができる。完全失業率と並んで労働市場の代表的需給指標。各月の新規求人・求職数を用いた新規求人倍率もよく使われる。ただし統計対象は公共職業安定所(ハローワーク)を通じた求人・求職に限られ、新規学卒者に関する求人・求職は含まれない。2006年10〜12月期でパートタイム労働者1.48倍、新規学卒者とパートタイム労働者を除く一般労働者で0.95倍と02年以降、上昇傾向にある(厚生労働省「職業安定業務統計」)。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

移民

移民

「移民(労働者)」「外国人労働者」の定義は、かなり多様である。国連人口部は「移民」を「出生あるいは市民権のある国の外に12カ月以上いる人」と定義している。この中には、難民、難民(亡命)庇護(ひご)申請者、外国人留学生その他の長期の滞在者、正式の入国手続きをしていない外国人、合法的な移民、オーストラリア、カナダ、米国などに多い帰化した外国生まれの市民などを含んでいる。定義によっては、農業や建設業などに見られる労働者のように、12カ月以内の短期の滞在者を含める場合もある。いずれにせよ、移民は定住を目的としての受け入れ国への一方的な移動を意味しない。短期、長期、永住、非永住を問わず、雇用を目的として国境を越えて移動する人を含んでいる。外国人労働者の問題は単に就労の次元にとどまらず、地域、教育、社会保障、国籍付与、政治参加の問題を含めた社会的次元の問題として考えなければならない。難しい問題の1つは、不法就労者(多くは不法残留者)の存在である。在留期限が切れても就労を目的に居座り不法残留している者、観光査証などで入国し就労する資格外活動などの「資格外活動がらみ」が多く、この両者を合わせた不法就労事犯の増加が入管法違反事件の最大部分を占めている。日本で働く外国人労働者は一般永住者を除き、日系人を含む合法的就労者、更に推定される不法残留者などを加えると90万人近くになると推定される。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

移民労働者

移民労働者

移民」のページをご覧ください。

外国人労働者

外国人労働者

移民」のページをご覧ください。

外国人研修・技能実習制度

外国人研修・技能実習制度

先進国としての日本が発展途上国の経済発展に人的面で寄与しうる方策の1つとして、発展途上国へ技能または知識の移転を図り、経済発展を担う人づくりに協力する広義の研修制度。1993年4月1日から実施。発展途上国などから来日する外国人が、技術・技能などの実践的錬成に相当の期間を要する職種について、一定期間の研修を受ける。その後、技能について所定の評価を得た者は、研修を受けた機関(企業など)と同一の機関で雇用関係の下での実習(在留資格「特定活動」)を認められ、日本人と同等の待遇を受けつつ、帰国後は本人の就業及び母国の経済社会の発展に役立つ技能を修得することを目指す。滞在期間は研修期間を合わせて3年以内に限定。研修成果などの評価、修得技能の認定、技能実習修了認定証発行などの業務は国際研修協力機構が行う。しかし現実には、不熟練労働分野への外国人労働者受け入れ禁止の政府方針の下で、安いコストで外国人労働者を雇用したいという産業側の要求に応えてできた折衷的制度であるために、運用面でも透明度を欠き、悪用される例が極めて多い。そのため制度の抜本的改革急務となっている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

雇用空洞化

雇用空洞化

大きな賃金格差など、国際的な比較生産費格差の優劣背景生産拠点の海外立地化が進み、製品の国内供給が輸入依存型に転換することで、一国の製造業の基幹的部分が衰退することを産業空洞化という。派生的に当該産業の失業者が増加するなど雇用空洞化進行することが多い。日本では1980年代後半から円高の進行によって、鉄鋼、自動車、電機などの輸出依存型基幹産業が中国など海外での現地生産を拡大した。しかし、最近、技術水準などの点で強い国際競争力を持つ産業・企業の中には、日本国内の生産拠点を充実・確保しようとする展開が見られる。さらに、IT技術の発達に伴い、インターネット上で仕事を海外に発注したり、コールセンターを設置する形態も増加している。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

雇用輸出

雇用輸出

雇用空洞化」のページをご覧ください。

ワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランス

ワーク・ライフ・バランスとは、ワーク(仕事)とライフ(仕事以外の生活)を調和させ、性別・年齢を問わず、誰もが働きやすい仕組みをつくることである。1980年代米国企業のワーキングマザー向けのワーク・ファミリー・バランス(仕事と家庭の調和)施策などが世界的に広がり、日本でも少子化対策の育児支援として、政府の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議や、男女共同参画の視点、さらには企業の人材確保のための福利厚生やCSR(企業の社会的責任)など多様な側面で注目されてきた。2007年版国民生活白書で「つながりが築く豊かな国民生活」が取りあげられ、同年12月には働き方の改革を促す「ワーク・ライフ・バランス憲章」と、具体的な数値目標を示した「行動指針」が策定された。「行動指針」では、17年に達成すべき目標として(1)週労働時間60時間以上の雇用者の割合を半減、(2)年次有給休暇の完全取得、(3)男性の育児休業取得率を10%に、など14項目が挙げられた。ワーク・ライフ・バランスの実現には、官民一体の取り組みが求められ、その費用はコストではなく「明日への投資」であると強調されている。すべての人の人間らしい暮らし確保のために多面的な意義を持つワーク・ライフ・バランスは、活力ある、持続可能な制度の在り方を考えるキーワードといえる。

(上村協子 東京家政学院大学教授 / 2008年)

ワーク・ライフ・バランス

1980年代以降、欧米諸国を中心に女性の社会進出、家族形態の多様化、男女労働者の意識の変化、少子高齢化などの変化を背景に、働く人々の意識が、「仕事と家庭(家族)」のバランス、さらには「仕事と(個人の)生活―ワーク・ライフ」のバランスを求める方向へ展開している。優秀な人材を確保するためにも、働く人々の希望を重視し、環境整備を図ることが望ましいと考える企業も増えてきた。ワーク・ライフ・バランスは、これまでの「ファミリー・フレンドリー」施策よりも、広い展望に立った施策である。性別や年齢に関係なく、労働者の仕事と生活全般のバランスを支援するという考え方であり、この「生活」には子育てや家庭生活だけでなく、地域活動や趣味・学習などあらゆる活動が含まれる。こうした仕事と生活の両方が充実した働き方を実現させる取り組み方は、公共政策として国・地方自治体が中心となっているヨーロッパ型と、企業経営上のメリットという観点から企業主導で実施されているアメリカ型に大別される。日本にこうした考えが根付くためには、政府、企業、労働者が現状を見直し、人間的な仕事と生活のあり方を十分考えることが必要である。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

ワーク・ライフ・バランス

仕事とプライベートな生活を調和させるためになされる様々な施策。1980年代末に英米で使われ始めた。この言葉は、企業経営の文脈では、労働者の生産性を高めるために労働者の私生活の充実に配慮するという意味で使われる。残業を少なくしたり、育児休業や企業内保育園の設置など子どもを持っても働きやすい職場環境を提供すれば、労働者の士気が高まることが強調される。一方、政府などの労働政策家族政策の文脈で使用されるときは、働く人の心身の健康を守り、家庭生活を充実させるために実施される様々な施策が「ワーク・ライフ・バランス」の意味となる。特に日本では、正社員の長時間労働やサービス残業、過労死などが社会問題となり、また、少子化の深刻化などによって、仕事と家庭のバランスがとれていない状況にあるとの指摘が強かった。そこで、2006年ごろから、少子化対策や男女共同参画の推進のための切り札として期待され、政府や自治体が政策的にも推進するようになった。

(山田昌弘 東京学芸大学教授 / 2008年)

地域雇用開発

地域雇用開発

経済活動のグローバル化の展開は、地域間の産業の盛衰、雇用機会の格差を生んだ。地元に雇用機会がないなどの理由で、県外へ就職する人も増えている。こうした地域間格差の縮小や解消を図るために、「地域雇用開発促進法」(1988年)に基づき5年に1回「地域雇用開発計画」が策定され、(1)雇用機会増大計画、(2)能力開発就職促進計画、(3)求職活動援助計画、(4)高度技能活用雇用安定計画の4計画がある。「地域」の主体的な取り組みを「国」がバックアップする方式であり、規定プロセスと条件を充足すれば、国から財政支援などが得られる。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

労働組合

労働組合

労働組合の古典的定義は、英国の優れた労働運動研究者であったウエッブ夫妻による「賃金労働者が、その労働生活の諸条件を維持または改善するための恒常的な団体」である。この定義は日本の労働組合法第2条を始めとして、各国の労働法制に受け継がれている。労働組合の組織形態としては、いくつかの類型がある。職業(能)別組合は同一職業の労働者で、徒弟修業を終了した熟練工の組合。近年は管理職組合のような専門性の高いプロフェッショナルズの組合も生まれている。産業別組合は同一産業で働く労働者を職種の別なく組織する組合。20世紀の大量生産工業の成立と共に発展した。日本では、産業別組合を単産(産業別単一組合)と呼ぶが、その実態は企業別組合が組織ごとに加盟する産業別の連合体組織といった方がよい。一般組合は、職業、産業、熟練のいかんを問わず、働く労働者の組織。歴史的には、職能別組織に加入を認められなかった不熟練労働者組織として成立。企業別組合は、組合員資格を企業あるいは事業所の従業員のみに限定する。一般に従業員であれば工員、職員の区別なく(ただし、通常正規従業員のみ)組織する工職混合組合である。この組織形態は日本で最も普遍的に見られ、単位組合の9割までが企業別組織である。労働組合は全体として退潮傾向にあり、厚生労働省「労働組合基礎調査」(毎年6月末現在)によると、2006年の推定組織率は18.2%と76年以降減少を続けている。過去最高は1959年の55.8%。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

ユニオン・ショップ

ユニオン・ショップ

企業採用時には組合員でなくとも雇用され、一定期間を過ぎた後には組合に加入する義務を課し、加入しない者は使用者から解雇される制度。未組織労働者が安い賃金で働くことを防止する、組織強制の1つである。日本の企業別組合は、ほとんどこの条項を採用している。しかし、日本のユニオン・ショップ条項では、組合を脱退したり、組合から除名された場合に、使用者はその労働者を解雇しなくともよいという抜け道を設けていることが多く、尻抜けユニオンと呼ばれる。組織強制の主なものとして、他には次のものがある。クローズド・ショップ(closed shop)は組合員であることを当初から雇い入れの条件とする。他方、オープン・ショップ(open shop)は職場に組合が存在しない状態あるいは組合が存在しても、組合員であることが雇い入れあるいは雇用継続の条件ではない。ユニオン・ショップ協定については、憲法13条に由来する個人の自由や自己決定の養成、憲法27条が保障する労働権の侵害にあたるとして適法でないとの議論もある。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

春季生活闘争

春季生活闘争

一般には、毎年3月頃から産業別統一要求を掲げ、あらかじめ設定された闘争日程に従い労働組合が展開する賃金闘争をいう。1954年に、炭労私鉄総連、合化労連、電産、紙パ労連の5単産(産業別単一組合)で「共闘会議」が設立され、55年に全国金属、化学同盟、電機労連の3単産が加わり、「八単産共闘会議」が結成されたのが始まり。その後、パターンセッター(先導役)となる産業は変転したが、全産業でほぼ1年の賃上げ相場が形成されるため、春闘は日本の賃金交渉の基本的パターンを形成してきた。しかし近年、企業間格差の拡大、労働組合の組織率低下などで、形骸化が進行している。今後は「賃金改善」という毎年の改定を必ずしも必要としない方式への移行の可能性も高い。87年末に発足した連合は、「春闘」を「春季生活闘争」と呼び名を変え、日経連(当時、現・日本経団連)は「春季労使交渉」と呼び変えたが十分定着していない。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

春季労使交渉

春季労使交渉

春季生活闘争」のページをご覧ください。

春闘

春闘

春季生活闘争」のページをご覧ください。

チェックオフ

チェックオフ

組合費の徴収労働組合が直接には行わず、使用者が代わって給与から徴収し、組合に渡す制度。使用者による組合に対する事実上の便宜供与の1つ。これらの便宜供与は組合事務所の供与、組合役員給与の一部ないし全部の会社負担などと併せて、戦後における占領軍や行政当局の労働組合の保護育成政策や、爆発的な労働運動過程で組合が勝ちとった権利である。使用者側も企業別組合であるために、そうした便宜供与を比較的安易に認めてきたところがある。ただし、その内容、権利関係などが労働協約などで明確にされていない場合には、労使癒着、組合の自主性喪失などの問題にもつながりかねない。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

団体交渉

団体交渉

労働条件についての労働組合と使用者(またはその団体)の間の交渉。労働者個人と使用者との交渉に代わり、労働組合が組合員の利益を代表して使用者と交渉、協定を結ぶという意味で、集団的取引である。団体交渉は労働組合の主要な機能であり、労働組合法で労働者の団体交渉権として保障されている。通常は賃金、労働時間、休日、休暇、付加給付、安全衛生などが対象となる。投資、財務、人事事項など経営者の専決事項は原則として対象とならないが、合理化、人員整理など労働条件に関する限りでは、団体交渉事項となりうる。団体交渉で合意、決定された事項は、労働協約として明記の上、その後の労使関係を律するルールとなる。時に団体交渉との境界線が不分明になるが、労働組合(あるいは従業員代表)が使用者と企業経営上の諸問題、とりわけ労働者の雇用・労働条件や生活上の利害関係に直接・間接に影響する諸問題について、情報や意見を交換する常設的機関、あるいは制度として労使協議がある。企業や事業所レベルで設置されるが、産業別労使会議と呼ばれる産業・業種レベルの労使協議機関もある。この制度自体についての法的規定はなく、労使の自主的な制度である。経営協議会、労使協議会などの名称で呼ばれ、労働協約に通常、その旨規定されていることが多い。日本では労働組合の組織されていない企業、事業所でも労使協議機関が存在する場合が多い。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

団交

団交

団体交渉」のページをご覧ください。

労使協議

労使協議

団体交渉」のページをご覧ください。

個別労働紛争解決制度

個別労働紛争解決制度

企業組織の再編や人事労務管理の個別化などに伴い、労働関係に関する事項についての個々の労働者と事業主との間の紛争(個別労働関係紛争)が増加している。そのため、2001年10月、当事者間の紛争を迅速に解決するため、地方労働局に調停機能を持たせることなどを内容とする「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行された。紛争の実情に即した迅速かつ適正な解決を図るため、都道府県労働局長の助言・指導制度、紛争調整委員会によるあっせん制度の創設などにより、総合的な個別労働関係紛争処理システムの整備を目指している。06年4月からの労働審判制度の導入も、その対応の1つ。紛争増加の背景には、労働組合に頼れず、個人での紛争解決を迫られるパートタイマーや派遣労働者の増加などがあり、内容は解雇、労働条件の引き下げ、いじめ・嫌がらせ退職勧奨などが多い。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

連合

連合

日本労働組合総連合会の。日本最大の労働組合のナショナルセンター(労働組合の全国的連絡協議組織)。組合員は2007年6月現在、約65万人。1989年11月発足。自由にして民主的な労働運動の伝統を継承し、「力と政策」を備え、労働条件の改善や国民生活の向上を実現することを綱領に掲げる。労働政策分野に限らず、広く各種の審議会における活動を通し、国の政策形成にも発言力を行使。しかし、組織基盤については伸び悩みが目立つ。国際自由労連(ICFTU : International Confederation of Free Trade Unions)に一括加盟。連合以外の労組ナショナルセンターとしては、共産党色の強い全労連(全国労働組合総連合、約70万9000人)のほか、同じく左派系の全労協(全国労働組合連絡協議会、約14万7000人)がある。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

ワークシェアリング

ワークシェアリング

従業員1人当たりの労働時間を減少することで、雇用水準を維持する政策手法厚生労働省の分類では、(1)多様就業対応型、(2)雇用創出型、(3)雇用維持型(中高年対策)、(4)雇用維持型(緊急対応)、の4タイプ。2002年に日本の政労使間で検討されたのは、(1)と(4)の2タイプ。前者は、勤務時間や日数の弾力化、フルタイムのパートタイム化などの手法により、現在の労働者と潜在的な労働者との間で仕事を分かち合い、社会全体で雇用機会を創出することが目的。後者は、一時的な景気の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として従業員1人当たりの所定内労働時間を短縮し、多くの雇用を維持する目的で実施。雇用されている従業員間で、仕事を分かち合う形になる。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法

2007年から本格化する「団塊世代」の多数退職を目前にして、06年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行された。高齢者が年金支給開始まで働き続けられる環境整備が目的である。企業は年金支給開始年齢の引き上げに合わせて、13年までに(1)定年年齢を65歳まで延長する、(2)60歳以上の継続雇用制度を導入する、(3)定年制の廃止、のいずれかを選択することが義務づけられている。日本は高齢者層の就労意欲も高いことを考えると、この改正の方向に沿って適切な選択がなされることが望ましい。職種別賃金への転換も含めて、賃金・雇用制度などの柔軟な対応が必要になる。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

雇用保険

雇用保険

失業等給付と雇用3事業を主な事業内容とする制度。その基盤となる雇用保険法(1974年制定、75年施行)は、それまでの失業保険法を拡充したものである。それによって失業者に対する失業給付を中心としつつも、職業の安定のために失業の回避や雇用機会の増大・雇用構造の改善、労働者の能力の開発・向上、福祉の増進を図る(雇用保険3事業)総合的な保険制度を目指している。現行の雇用保険制度は、政府管掌の強制保険制度で、労働者と事業主が負担する保険料と国庫負担が財源。2003年には悪化した雇用保険財政の立て直しのため、失業手当の大幅カットを柱とした改正雇用保険法が成立した(同年5月施行)。また正社員とパートの二本立てだった給付日数基準も一本化された。その他、早期再就職を促すための「就業促進手当」の新設、「教育訓練給付」など雇用事業に関する見直しも行われている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

労働基準法

労働基準法

改正労基法」のページをご覧ください。

最低賃金制

最低賃金制

最低賃金法に基づき、国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとされている制度。最低賃金は、最低賃金法に定められた用件をふまえ、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が上げ幅の目安を決定。この目安に基づき都道府県の審議会が地域の実情に応じた最低賃金を決める仕組み。仮に最低賃金制度より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとされる。従って、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはならない。日本の最低賃金には、審議会形式に基づく地域別最低賃金、産業別最低賃金及び労働協約の拡張方式に基づくものがある。地域別最低賃金は、都道府県内のすべての使用者及び労働者に、パートタイマー、アルバイトなど雇用形態の別なく適用される。これまで、最低賃金が生活保護の給付水準を下回る逆転現象が一部都道府県に見られたが、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」生活保護との整合性に配慮するよう明記することで、最低賃金法改正が2007年の国会で成立することになった。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

育児・介護休業法

育児・介護休業法

正式名は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」。1995年、育児休業法を大幅改正し成立。その後、仕事と家庭の両立支援対策を充実するために、2001年11月に大幅改正。更に02年4月には、事業主は、労働者が育児休業(1歳未満の子を養育するための休業)や介護休業の申し出をしたこと、又は育児休業や介護休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをすることが禁止された。介護休業とは2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする家族(配偶者のほか、父母および子、配偶者の父母などを含む)を介護するための休業(連続した3カ月以内の期間、対象家族1人につき一回が限度)。05年4月、育児・介護休業の対象労働者の拡大(一定の要件を満たす有期契約労働者)、育児休業期間の延長(子が1歳6カ月に達するまで)、介護休業の取得回数制限の緩和、子の看護休暇制度創設などを含む改正が行われ、施行された。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

時間外協定

時間外協定

労働基準法第36条では、使用所定労働時間を超えて残業させる場合には、労働組合(あるいは労働者過半数代表する者)との協定を結び、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。これが、いわゆる三六協定である。この協定の成立後、使用者が個別に具体的に申し込み、個々の労働者が承諾した場合に初めて残業の労働義務が発生する。三六協定を取り交わして、労働時間の延長、休日労働あるいは深夜労働(午後10時から午前5時)をさせた場合には、使用者は「2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める」(1993年改正)の割増賃金(法定割増率)を支払わなければならない。99年4月に施行された改正労働基準法は、三六協定に定める労働時間の延長の上限などの基準を厚生労働大臣が定めるものとし、1年360時間などの基準が設定された。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

三六協定

三六協定

時間外協定」のページをご覧ください。

フレックスタイム制

フレックスタイム制

サービス化の進展、業務の多様化などに伴い、労働時間も一律では業務形態にそぐわないことも多くなってきた。そのため労働時間もある程度自由に採択できるような要請が生まれた。フレックスタイム制は始業終業時刻を労働者自身が決定できる制度である。ただし完全に自由なわけではなく、1日のうちで必ず就業する時間(コアタイム)を定め、その前後にいつ勤務してもいいフレキシブルタイムを設定する。実施には労使協定を締結し、就業規則にそのを記載しなければならない。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法

正式名は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(1985年制定、86年4月施行)。均等法と略されることもある。募集・採用時における男女の均等取り扱い、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇などについて、女性労働者であることを理由に男性労働者と差別的に取り扱うことを禁止してきた。2007年4月1日施行予定の改正法には、(1)男女双方への性差別の禁止(均等法から差別禁止法へと転換)、(2)権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変更、退職勧奨、雇い止めなどについての性差別の禁止、(3)間接差別禁止、(4)妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、(5)ポジティブ・アクション(男女間の格差解消のための積極的取り組み)を企業が開示するにあたり国が支援、(6)セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)の対象に男性も加え、予防、解決のため具体的措置をとるよう事業主に義務づける、(7)調停の対象にセクハラも加わる、などの条項を含む。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

労働者災害補償保険法

労働者災害補償保険法

労働者の業務上の事由又は通勤による労働者の負傷疾病、障害、死亡等に必要な保険給付を行い、当該労働者の社会復帰促進、その遺族の保護、適正な労働条件の確保等を目的とする法律(1947年4月制定、同9月施行)。2005年の労災事故による死者は、1948年に統計を取り始めて以降過去最少(1514人)を記録した。業種別では建設業製造業、陸上貨物運送業などでの事故が多い。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

労災保険法

労災保険法

労働者災害補償保険法」のページをご覧ください。

労働審判制度

労働審判制度

近年の個別労働関係紛争(個々の労働者と事業主間の紛争)の増加、迅速な解決への要望などに対応するため、労働審判法(2004年4月公布、06年4月施行)が生まれた。具体的手続きは、例えばリストラ解雇や賃金カットなどの個別労働関係の権利・義務に関わる紛争について、原則3回以内の期日で、裁判官雇用労使関係に関する専門的な知識・経験を有する者が事件審理に当たる。調停により解決の見込みがある場合はそれを試み、解決に至らない場合は合議により権利・義務を踏まえて事件の内容に即した解決案を提示する。実際の労働審判の手続きは、裁判官である労働裁判官1人、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者2人で構成する労働審判委員会で行い、過半数の意見により決議される。原則として調停により解決するが、不可能な場合は労働審判を行う。調停が成立した場合は、裁判上の和解と同一の効力を有する。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

年俸制

年俸制

主として管理職、契約社員など、専門職の仕事の結果に対する報酬を、年単位で定める制度であり、成果主義の具体化の1つ。期初に設定した目標に対する達成度などを上司が評価し、その結果によって給与の絶対額が変動する能力主義型の賃金制度。通常、本人と会社側人事担当者、関係部門管理者などとの間での交渉を通じて、本人の目標、業績などをベースに年俸額が契約される。業績の評価が低ければ大幅な減額を求められたり、雇用契約が更新されないこともありうる。年俸制の望ましい運営のためには、仕事の成果に対する公正な評価とその説得性が不可欠である。日本でも大手企業を中心に、採用企業が増加しつつある。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

メンタルヘルス

メンタルヘルス

精神の健康を維持、増進する方策。長引く不況の影響もあって、リストラ成果主義の名の下で、労働条件が悪化する状況が見られる。労働時間や仕事の量が大きな負荷となり、過労死などにつながる実態従来も知られてきたが、近年は「心の病」(うつ病、心身症神経症など)の問題も増加している。労務行政研究所が2005年4月に発表した「企業のメンタルヘルス対策に関する実態調査」によると、回答した企業276社のうち52%が、最近3年間でメンタルヘルス不全者が「増加している」と回答した(調査対象は上場企業など大手約4000社)。病因として、職場の人間関係、仕事の悩み等に加えて、家庭の問題も増加している。問題の根源への対応を含め、メンタルヘルス・ケア体制の充実が緊急の課題となっている。なお、改正労働安全衛生法(05年11月公布、06年4月1日施行)には、月100時間を超える残業をした従業員から申し出があった場合、企業に医師の面接指導を義務づける制度などが導入された。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

ワーキングプア

ワーキングプア

米国、日本などの先進資本主義国で、懸命に働いても生活保護の受給水準にも満たない収入しか得られない就業者のことをいう。バブル経済崩壊後のデフレ進行の過程で、企業が実施した人件費を中心とするコスト削減が主たる要因とされる。現行賃金水準の抑制、賃金水準の高い正社員の新規採用抑制、賃金水準の低いアルバイト、パートタイム労働者、契約社員、派遣社員などの非正規従業員の増加によって、総人件費の抑制が図られた結果である。米国などではワーキングプアとは、「労働力人口のうちの貧困状態(公的な貧困ライン未満)にある者」と考えられている。この意味で、失業問題ではなく、労働問題としてとらえられている。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

偽装請負

偽装請負

労働者派遣の場合は、派遣元事業主には健康保険厚生年金保険への加入、所得税法上の源泉徴収などの義務が発生する。こうした条件を満たさず、適法な労働者派遣、職業紹介の方法によらず、形式上は請負の形態で働かせること。その背景には派遣や業務下請けによる間接雇用が増加し、労働市場の2極化が進行していることがある。2006年ごろから告発が続き、社会問題化した。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

労働ビッグバン

労働ビッグバン

2006年10月13日に経済財政諮問会議の「『創造と成長』に向けて」と題する有識者議員提出資料において初めて使われた。そこに提示された課題の1つとして、「労働市場の効率化(労働ビッグバン)」が挙げられた。その内容は、「経済全体の生産性向上のためには、貴重な労働者が低生産性分野から高生産性分野へ円滑に移動できる仕組みや人材育成年功ではなく職種によって処遇が決まる労働市場に向けての具体的施策が求められているのではないか」とされ、政府の労働改革のスローガンとなった。さらに、この問題は同年11月に有識者議員から「複線型でフェアな働き方に:労働ビッグバンと再チャレンジ支援」として提出された。当初この「表現」で想定されていた方向は、労働市場におけるさまざまな規制緩和であったが、その後の論議を経てかなり修正され、若者や女性、高齢者の就業率の向上と労働時間の短縮を提案し、ワーク・ライフ・バランスを掲げるなど、かなりマイルドなものとなった。用語自体の使用頻度も急減している。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

労働市場の潮流

労働市場の潮流

様々な格差論がジャーナリズムなどの論壇をにぎわせている。その実態は複雑である。背景には経済、技術などのグローバル化への企業の対応、政府の構造改革路線に沿っての規制緩和の動きがある。グローバルな競争に生き残りを図る企業は、変化に柔軟に対応しながらも、コスト削減と生産性向上を同時に達成することを迫られている。そのため、基幹的部分での労働力は最小限確保しつつも、雇用需要増加への対応はパートタイム労働者、派遣労働者、契約社員などの非典型(非正規)雇用に依存する方向が主流になっている。労働市場の二極化といわれる現象である。 この過程で正社員といわれる労働者と他の労働者の間に給与などの報酬、労働時間などに様々な差異が生まれ、拡大を見せている。とりわけ、労働市場で経験の浅い若年者は、失業者やフリーターとなることも多い。正社員となるか非正規社員を続けるかでは、生涯賃金で男女共に1億円以上の開きが生まれる。その結果、従来はあまり目立たなかった所得格差の拡大が見られるようになってきた。 国民の間に広がった格差拡大や長時間労働など労働環境悪化への不安や不満は、早急に解消すべき政治的課題でもある。特に若年層の間に増加した不安定雇用は放置すると、いくら働いても貧困状態から脱却できない「ワーキングプア」の定着化につながりかねない。最低賃金制の拡充などによるセーフティーネットの充実を含め、適切な就業支援策、労働条件の改善に向けての強力な施策導入が急務である。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2008年)

二極化進む雇用形態

二極化進む雇用形態

労働市場の潮流」のページをご覧ください。

歳出・歳入一体改革

歳出・歳入一体改革

財政健全化を歳出削減だけでなく、増税による歳入増加という歳出・歳入両面から同時に進めるという政策経済財政諮問会議は2004年10月に、この政策を打ち出し、07年から10年代初頭までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化を目指し、10年代半ばに、増加を続けている「債務残高の対GDP比」を減少させることを中期目標として掲げた。06年1月、小泉首相は、同年6月をめどに「歳出・歳入を一体とした財政構造改革の方向についての選択肢及び工程」を明らかにするとし、消費税に言及しながら租税体系全体の見直しをする方針を表明した。政府・与党は「経済財政諮問会議」に加えて、「財政・経済一体改革会議」を発足、06年6月26日には、11年度に基礎的財政収支の黒字化を達成するという「歳出・歳入一体改革に向けた取り組み方針」をまとめた。こうした方針は同年7月7日に出された「骨太の方針2006」、さらに07年6月19日に発表された「経済財政改革の基本方針2007」にも引き継がれている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

消費税増税問題

消費税増税問題

2012年4月時点で5パーセントである消費税増税する一連の動きに関する問題。野田佳彦内閣は、最重要課題とする消費税増税関連法案を、2012年3月に閣議決定した。野田内閣及び民主党税制調査会・一体改革調査会は消費税率を、14年4月には8パーセント、15年10月には10パーセントと、2段階で引き上げるとしている。
日本の消費税率は1989年の消費税法(竹下内閣時に成立)施行時には3パーセントであったが、97年には「福祉の充実」の名目で5パーセントに引き上げられている。民主党は2009年の衆議院総選挙において、消費税を4年間は引き上げないとの公約を掲げて圧勝した。しかしながら、政権獲得後の翌10年には消費税引き上げを示唆し始め、直後の参議院選では大敗を喫する。それにもかかわらず、野田首相は11年11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、財政再建のために消費税率を10パーセントに引き上げるとした。
国民新党は消費税引き上げをしないことを公約していた。このため、消費税増税関連法案についての閣議決定に先立ち、同党の亀井静香代表が連立政権からの離脱を表明したものの、同氏が代表を解任されて離党する結果となった。かねてより消費税の引き上げを党議決定している自民党を始め、野党にも増税に対する見解に隔たりや違いが見られ、国会各会派では意見が錯綜(さくそう)する。民主党内についても、小沢一郎民主党元代表グループなどが意図的に反発を強めているが、野田首相は「政治生命をかける」などとして増税実現に向けて強硬な姿勢を示す。衆参両院の「ねじれ国会」の状況の中で、法案の推移が注目されている(2012年4月現在)。

(金谷俊秀  ライター / 2012年)

消費税増税問題

2011年度までにプライマリー・バランスを黒字化することを目標に、歳入・歳出一体改革を進めようとすれば、必然的に消費税の増税が焦点となる。歳出・歳入一体改革を進めるため06年5月25日に初会合をした「財政・経済一体改革会議」は、5年後に予想される財政赤字額17兆円を消費税のみで相殺する場合、現行の5%から12%程度まで税率を引き上げる必要があるなどと議論していた。さらに消費税を社会保障の安定財源として増税するという主張が強まっている。07年10月17日の経済財政諮問会議では、社会保障の給付水準を維持していくためには、2025年度に消費税を11%から17%に引き上げる必要があるとの試算が示されている。07年11月20日の政府税制調査会答申でも、消費税の社会保障財源化が唱えられている。しかし、消費税は所得の少ない者ほど負担が大きくなるため、「格差社会」が議論されていることもあり、消費税増税への批判も高まっている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

二元的所得税

二元的所得税

所得を資産性所得と勤労所得との2つに分離した上で、資産性所得に比例税率を、勤労所得に累進税率をかける所得税のこと。デンマークニールセンによって提唱され、1980年代半ばから90年代初頭にかけてデンマーク、ノルウェースウェーデンフィンランドといった北欧諸国で導入された。資産性所得に比例税率というと、一見、資産性所得の課税が軽くされているように見える。しかし、租税特別措置などを整理することで資産性所得の課税ベースを拡大し、勤労所得よりも低い税率をかけることで、資産の海外への逃避を回避する意図も盛り込まれている。ただ、租税の公平という観点からすると同じ所得額であれば、資産性所得のほうが勤労所得よりも担税力があると考えるのが原則である。そのため、二元的所得税を導入している北欧諸国では、その人が所有している資産を合算して累進税率で課税する純資産税、つまり富裕税が課税されていることも忘れてはならない。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

少子化対策減税

少子化対策減税

少子化対策として、世帯の児童数に応じて所得税の減税を行うこと。国の出生率が1.25にまで落ち込んだことを受け、政府与党の少子化対策会議および自民党税調、政府税調で世帯の児童数に応じて所得税の減税を行うことが検討されている。こうした少子化対策減税では、現行の所得税が所得額から扶養児童1人当たりの定額を控除する所得控除方式を採用しているのに対し、税額から一定額を直接減額する税額控除方式に改めることが提案されている。所得控除方式では控除額を引き上げても、高所得者に有利となる一方で、出産を迷っている中産階級への動機付けに乏しいためである。しかし、税額控除方式に改めても非課税世帯や税額控除が税額を上回る場合は、効果が期待できないという問題点は生じる。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

地方自治体再建型破綻法制

地方自治体再建型破綻法制

地方自治体が地方債債務不履行に陥った場合に、企業と同様に破綻することを認める法制度のこと。総務大臣の私的諮問機関である地方分権21世紀ビジョン懇談会において、地方債の自由発行を認めると共に、3年以内に地方自治体破綻法制の整備を行うべきとの提案がなされている。地方自治体の破綻に関する法制度は世界的に見てもまれであり、米国がほぼ唯一の例である。もっとも、地方自治体の破綻を認めるといっても、企業のように清算するわけにはいかないので、地方自治体が公共サービスの供給停止に追い込まれないように、債務の一部凍結など再建手続きに関する法整備となる。しかも、提案では再建型破綻法にいたる前段階で早期是正措置を講じることになっており、そうなると現行の財政再建団体(国の指導のもとで財政再建計画を立て再建に取り組む地方自治体)と区別がつきにくい。結局、この法制度は地方債への中央政府責任の放棄と、銀行など貸し手の責任強化を狙ったものともいえる。こうした法制度が導入されると、財政力の弱い地方自治体では地方債の起債が不可能になるのではないかと懸念されている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

地方自治体破綻法制

地方自治体破綻法制

地方自治体再建型破綻法制」のページをご覧ください。

三位一体改革

三位一体改革

国が地方に支出する国庫補助負担金の廃止・縮減、地方交付税の見直し、国から地方への税源移譲を一気に行うことで、地方分権を図ると同時に、国と地方の財政赤字再建を進めようとする小泉内閣改革補助金を維持したい事業官庁と政治家、国税を確保したい財務省交付税を守りたい総務省利害がぶつかり合い調整が難航してきた。2002年の骨太の方針で打ち出され、政府から要請を受けた全国知事会が補助金削減案をまとめたり、国と地方の協議が継続して行われたりするなどの展開の後、05年11月に、政府与党の間での合意により、最終的な決着を見た。国庫補助負担金の削減は4兆7000億円、地方交付税及び臨時財政対策債は5兆1000億円の削減となり、3兆円規模の税源移譲が一応実現した。05年から議論になっていた義務教育国庫負担金制度は維持され、国庫負担の割合が2分の1から3分の1に減らされた。地方側が望んでいなかった生活保護費負担金の削減は回避されたが、地方案に盛り込まれていた公共事業関連補助金の削減には手がつけられず、児童手当の補助率引き下げなどによって数合わせをしたともいえ、地方6団体は第2期改革を求めている。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

三位一体改革

国税から地方税への税源移譲、補助金の廃止・削減、地方交付税の見直しを一体として改革し、国と地方の財政関係を分権的に改めること。日本では国と地方の歳出比率はほぼ4対6と、行政事務が地方に多く配分されているが、国税と地方税の比率は逆に6対4と、租税収入は国税に多く配分されている。こうした歳出と税収のアンバランスは、補助金や交付税等の、国から地方への財源移転によって埋め合わされている。このうち補助金は使途が限定されており、地方自治体には裁量権がない。そこで、補助金を廃止・削減し、その代わりに国税を地方に移譲した上で、地方交付税を見直すというのが三位一体改革である。しかし、平成18(2006)年度を最終年度とし、3年間かけて実施された三位一体改革では、4兆円の補助金改革と3兆円の税源移譲という数値目標は達成されたものの、地方自治体の裁量権拡大には結びつかない補助金改革が実現してしまった。しかも、3年間での地方交付税の削減は5兆円にも及び、地方分権という視点よりも国の財政再建が優先されたということができる。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

社会保障関係費

社会保障関係費

国民の生活を保障する社会保障に関連する歳出一般会計における社会保障関係費は社会保険費、社会福祉費、生活保護費、保健衛生対策費、失業対策費に分類されている。平成19(2007)年度一般会計予算では、前年度比2.8%の21兆1409億円が計上され、国債費地方交付税交付金を上回る最大の規模を占めている。同年度予算では、高齢化の進展等に伴い、経済の伸びを上回って給付と負担が増大していくことが見込まれる中で、歳出の抑制を図っていく必要から、雇用保険国庫負担縮減、生活保護の見直し等を推進する一方で、国民の安心を確保する観点から、少子化対策や医師確保対策、がん対策に重点的に対応しようとしている。費目別に見ると、生活保護費は前年度比3.1%減の1兆9820億円、社会福祉費は7.3%増の1兆6223億円、社会保険費は4.6%増の16兆8999億円、保健衛生対策費は1.4%減の4152億円、失業対策費は48.8%減の2215億円となっている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

社会保障関係費

政府予算の一般歳出に占める、医療や年金介護、生活保護など、総額20兆円を超える社会保障の経費のこと。その大部分は、厚生労働省の予算に含まれる。人口の高齢化が進むと、制度が変わらなくても、年金や医療、介護に投入する経費も増大する。この部分を高齢化の進展による自然増(当然増)という。厚労省予算編成は制度改革を行い、高齢化による自然増を削減させ、全体としての伸びを3〜4%に抑えている。例えば、2006年度の社会保障関係費は20兆5739億円で、8000億円の自然増が見込まれていたが、医療制度改革診療報酬の引き下げなどにより、3490億円を削減し、地方分権改革による削減分も含め全体として0.9%の伸びに抑えた。しかし、こうした方法での予算編成は難しくなっており、社会保障の給付と負担の全体的な見直しが必要になっている。

(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)

公共事業予算

公共事業予算

産業や生活を支える道路、港湾、下水道、住宅などの社会資本を整備するための予算。平成19(2007)年度一般会計予算の公共事業関係費は、これまでの改革を継続することとし、前年度比3.5%減の6兆9473億円に圧縮された。そのために、コスト縮減・入札改革として、一般競争入札の拡大等の取り組みや維持修繕・更新にかかるコストの縮減合理化が促進され、また道路特定財源の見直しが行われた。その一方で、(1)地域の自立・活性化、(2)成長力強化、(3)防災減災等による安全・安心の確保等の観点から、重点的な予算配分が目指された。その具体的な施策として、まちづくり交付金・地域再生交付金の拡充(3848億円)、地域の広域アクセス強化のための総合道路戦略(3059億円)、物流機能強化等重点戦略(900億円)、床下浸水・土石流被害等の緊急軽減対策(1948億円)などが挙げられる。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

地方財政計画

地方財政計画

地方公共団体全体の歳入・歳出に関する見込み。地方交付税法第7条により、内閣は翌年度の地方財政計画を国会に提出するとともに、一般に公表することを義務付けられている。平成19(2007)年度の地方財政計画は、前年度とほぼ変わらず、83兆1261億円であった。歳入の内訳は、三位一体改革を反映して、地方税は前年度比15.7%増の40兆3728億円、地方交付税は4.4%減の15兆2027億円、国庫支出金は0.3%減の10兆1739億円、地方債は10.8%減の9兆6529億円、などとなっている。これにより、地方税、地方交付税、臨時財政対策債などからなる地方一般財源は59兆2266億円となり、一般歳出に占める一般財源比率は前年度比1.5%増の68.1%となり、地方財源不足額は4兆4200億円まで低下している。また、地方債依存度も前年度の14.6%から13.0%に低下し、地方財政の健全化が進んだ。財源不足のうち、通常収支の不足4兆4200億円は、財源対策債、臨時財源対策債の発行及び特別交付金により補填(ほてん)される。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

地方財政計画

内閣は毎年度、その翌年度の地方公共団体の歳入歳出総額の見込み額に関する書類を作成し、これを国会に提出すると共に、一般に公表しなければならない(地方交付税法第7条)。この地方公共団体の歳入歳出の見込み額を一般に「地方財政計画」と呼ぶ。地方財政計画には、(1)地方交付税制度とのかかわりにおいての地方財源の保障を行う、(2)地方財政と国家財政・国民経済などとの調整を行う、(3)個々の地方公共団体の行財政運営の指針となる、という役割がある。2006年度の規模は約83兆円である。また内閣は、地方財政法第30条2の規定に基づき、地方財政の状況を明らかにして国会に報告する。国と地方の歳出純計額は04年度で約150兆円。国が40、地方が60の割合で支出を行っている。このように、地方財政の規模は大きい。特に、身近な道路・都市計画施設等の生活基盤整備の推進、小・中学校等の教育の振興、高齢者対策等の社会福祉の増進など、国民生活に密接に関連する行政分野においては、大きな部分を地方公共団体が担っている。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

財政投融資

財政投融資

政府が市場から調達した有償の資金に、租税という無償の資金を組み合わせて市場よりも低利な資金を作り出し、それを原資として、特定の政策目的を実現するために行われる出資・融資のこと。従来は、郵便貯金、厚生年金、国民年金など、政府が運用して国民に返還する資金を集め、それを旧大蔵省資金運用部に預託し、財政投融資計画に基づいて、特別会計や政府系金融機関で運用がされてきた。しかし、平成13(2001)年に市場原理を大幅に導入する改革が実施されて、資金運用部資金は廃止となり、郵便貯金や年金積立金は金融市場で自主運用されることとなった。これまで投融資を受けていた特殊法人などは、原則として金融市場で財投機関債を発行して資金調達することとなった。それでも不足する資金は、財政融資資金特別会計が発行する財投債や、特別会計余裕金及び産業投資特別会計からの融資などによって補うこととされた。平成19(07)年度の財政投融資計画の規模は、対前年度比5.6%減の14兆1622億円と前年度と同様に低水準にある。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

財政法

財政法

財政制度の枠組みや、財政運営の基本原則を定めた法律。財政は民間企業会計と異なり、民主主義に基づいて運営されなければならない。財政法は日本国憲法の第7章で定められた財政民主主義に基づいて制定されている。そのため企業会計とは相違して、歳入・歳出をすべて予算に編入することを義務づける総計予算主義や、歳出はその年度歳入によらなければならないことを定めた会計年度独立の原則などを規定している。財政運営については均衡財政を定め、財政法第4条で公債発行を原則禁止すると共に、「但し書き」で公共事業費や出資金及び貸付金について発行を認める建設公債原則を掲げている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

一般会計

一般会計

一般会計は原則として租税を財源にして、政府の一般的な収入と支出を経理する会計。特別会計は一般会計と区別して、別個に収入と支出を経理する会計。本来、財政民主主義に基づく予算原則では、統一性の原則によって、予算は1つでなければならないとされている。複数の予算が存在すると、財政操作を可能にするからである。ところが、日本の財政法では第13条で、「国の会計を分かって、一般会計及び特別会計とする」として、初めから統一性の原則を放棄している。ただし、特別会計の設置できる場合を、(1)特定の事業を実施する場合、(2)特定の資金を保有して運用する場合、(3)一般の歳入・歳出と区分して処理する必要のある場合、という3つに限っている。近年は、財政効率化の方針を受けて、特別会計も見直し、縮小が迫られている。行政改革推進法が平成18(2006)年6月2日に施行されたことを受け、同法に定められた内容を実行に移すために、「特別会計に関する法律」が平成19(07)年3月に成立した。これにより現行31ある特別会計を平成22(10)年までに17に廃止及び統合することとなった。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

特別会計

特別会計

一般会計」のページをご覧ください。

補正予算

補正予算

予算(当初予算)成立後に生じた、自然災害などの予見し難い事態に対応するために作成される予算。財政民主主義からいえば、超過支出禁止の原則に基づいて、予算計上額以上の支出はできない。しかし実際は、予見し難い事態への対応として、予備費の計上が認められている。更に予備費でも対応できないような事態が生じる場合には、追加予算を編成することが許されている。こうした予算の追加と、追加以外の予算の修正を含めて補正予算と呼んでいる。補正予算を乱用することは、財政民主主義からいえば望ましくない。しかし、現在の日本では、予見し難い事態というよりも、経済情勢の変化に対応するために、補正予算を編成することが常態化してしまっている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

暫定予算

暫定予算

会計年度が開始される前までに予算が成立しなかった場合に、予算が成立するまでの短期間に限って最小限度の必要な経費について編成される予算。財政民主主義からいえば、事前性の原則に基づき、事前に議会の議決なくして、予算を執行することはできない。しかしそうなると会計年度が始まるまでに、議会が予算を議決しなければ、予算の空白が生じ、行政機能が停止することになる。こうした予算の空白を回避する方法として、財政法では暫定予算の編成を認めている。補正予算しては当初予算が、暫定予算に対しては本予算が「対」になるが、暫定予算は本予算が成立すると、本予算に吸収されることになる。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

一般歳出

一般歳出

一般会計予算で歳出全体から、国債の元利払いと、地方交付税交付金と地方特例交付金を引いたもの。社会保障公共事業文教及び科学振興、防衛、その他の政策的経費で構成される。国の一般会計に対して、一般歳出の占める割合は平成19(2007)年度予算の56.7%で、その総額は前年度比1.3%増の46兆9784億円となっている。一般歳出のうち、その半分近く(45.0%)が社会保障関係費で占められており、平成19年度には21兆1409億円と前年度比2.8%増となっている。このうち、医療、育児支援の分野で増額が見られる一方で、生活保護、雇用保険の国庫負担削減が行われた。また、削減額の最も大きい一般歳出項目は公共事業関係費であり、地域の自立・活性化、防災減災にかかわる支出を増加させる一方で、公共事業コスト縮減・入札改革、道路特定財源の見直しを行い、総じて2542億円(3.5%)の削減となっている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

概算要求

概算要求

各省庁が政策を実施するのに必要な経費を要望書にまとめ、予算を所管する財務省に送付すること。予算編成は、予算のフレームワークをまず決めてから、予算を作成するという覆審手続きという手順を踏む。予算のフレームワークをなすこの計数を、概算という。概算要求とは正確には、予算の概略である概算を要求することになる。概算要求に基づいて概算査定が実施され、財務省原案(財務省の概算概略案)が閣議に提出される。この財務省原案に基づいて、予算の概算を決定する閣議を概算閣議という。概算要求に関しては、歳出抑制という観点から、閣議の申し合わせによる要求限度額が慣例として設けられ、これを概算要求基準(シーリング)といっていた。しかし、平成14(2002)年度予算編成からは、経済財政諮問会議の「骨太の方針」を閣議決定してから予算を編成するという手順が採られている。ただし、平成15(03)年度以降の予算編成では、6月の経済財政諮問会議の決定に先立ち、財務大臣諮問機関である財政制度等審議会が「予算編成の基本的考え方について」建議を行う慣行が財務省側から採られるようになっている。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2007年)

復活折衝

復活折衝

各省庁に内示された財務省原案に対して、各省庁が、認められなかった要求の復活を求める交渉予算フレームワークである概算を決定する概算閣議に、財務省原案が提出されるとともに、各省庁に内示される。この財務省原案に対して、概算閣議で内閣が予算の政府案を決定するまでの間に、復活折衝が展開される。復活折衝には事務官レベルで実施される事務折衝と、大臣レベルで実施される大臣折衝とがある。復活折衝に対する対応方法には、あらかじめ復活に応じる財源を明示しておく公開財源方式と、各省庁の官房調整費などに財源を隠しておく隠し財源方式とがある。平成19(2007)年度予算の復活折衝では、海上保安庁巡視船の整備、地域ICT利活用モデル構築事業、中小企業の活性化事業、漂流・漂着ゴミにかかわる国内削減方策モデル調査などの項目における復活が見られた。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

経済財政諮問会議

経済財政諮問会議

経済運営や財政運営の基本方針、さらには予算編成の方針を決めることを任務として、平成13(2001)年の省庁再編とともに、内閣府に新設された諮問会議。首相を議長に、関係閣僚学識経験者などから構成される。年末に決定されていた予算編成方針も、経済財政諮問会議の新設により、6月ごろに同会議が「骨太の方針」という予算編成の基本的な考え方を提示し、それに基づいて、平成19(07)年度であれば「平成19年度予算編成の基本方針」(平成18年12月1日閣議決定)といったように毎年度の予算編成方針が決定されるようになった。また、07年6月21日には、安倍内閣もと、「経済財政改革の基本方針2007」が閣議決定され、(1)成長力の強化、(2)21世紀型行財政システムの構築、(3)持続的で安心できる社会の実現、というシナリオを提示している。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

特定財源

特定財源

財源に対して、使途制限が設けられるものを特定財源、制限がないものを一般財源という。代表的なものとして、特定財源では揮発油税税収道路特定財源としてのみ支出が認められる例が挙げられる。一方、一般財源では、国税・地方税での直接税を中心とした税収、また地方においては国からの移転歳入である地方交付税がある。予算原則の1つであるノン・アフェクタシオンの原則に基づけば、特定の収入と特定の支出を結びつける特定財源は批判の対象となるが、現実には国税だけでも特定財源目的の租税は7税目(揮発油税、地方道路税石油ガス税自動車重量税、航空機燃料税、石油石炭税、電源開発促進税)に及ぶ。このうち、道路特定財源については平成18年度に旧本州四国連絡橋公団の債務処理などが終了したことなどを受けて、その一般財源化が議論されている。しかし、道路整備の遅れている地方からは整備はまだ終わっていないとして、一般財源化への反対が主張されている。平成19年度における道路特定財源総額は、国・地方を合わせて5兆6102億円である。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

特定財源

一般財源」のページをご覧ください。

一般財源

一般財源

地方自治体の財源を、収入の使途別に分類すると、一般財源はいかなる経費についても使用できる収入をいう。地方税、地方譲与税、地方特例交付金および地方交付税が一般財源とされる。これに対して、特定財源は一定の使途にのみ使用できる収入をいう。代表的なものは、国庫支出金、地方債である。地方自治体の財源の分類のしかたには、さらに自主財源と依存財源の区別もある。前者は自治体が自分で調達し、後者は国から与えられるものである。自主財源には、地方税・分担金・負担金、使用料、手数料、財産収入、寄付金などが含まれる。依存財源には、国庫支出金、地方譲与税、地方特例交付金、地方交付税、地方債などがあり、その額と内容は国によって左右される。ただし、地方債については2006年度以降は、国との事前協議で同意が得られなくても起債ができることになった。

(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)

一般財源

特定財源」のページをご覧ください。

国民負担率

国民負担率

国税と地方税とを合わせた租税負担の国民所得に対する比率である租税負担率と、年金や医療保険などの社会保障負担の国民所得に対する比率である社会保障負担率との合計。先進諸国では近年、国民負担率が低下する傾向にあるが、日本では平成15(2003)年度以来の増税基調と景気の回復を反映した増収により上昇している。日本の平成19(07)年度の国民負担率は、39.7%となっている。先進諸国を見ると、スウェーデンが70.2%(04年)、フランスが61.0%(04年)、ドイツが51.3%(04年)、イギリスが47.5%(04年)、アメリカが31.9%(04年)となっている。つまり、国民負担率で見ると、日本は「小さな政府」となっている。日本の租税負担率は依然として、最も高かった1990年の水準までは回復していないが、2003年以降、景気回復を受けた法人課税の増収により徐々に上昇している。一方、社会保障負担率は00年以降、微増にとどまっている。また、国民負担率に当該年度で負担されるべき財政赤字分を付加したものを潜在的国民負担率と呼んでいるが、あまり意味のある数値とはいえない。平成19年度の日本の潜在的国民負担率は43.2%。

(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 / 2008年)

超伝導

超伝導

低温の金属などで電流が抵抗なく流れる現象。電子2個(クーパー対)がボース粒子となり、その群れが全体で1つの量子状態をとる。一つながりのきれいな波で、散乱がない。巨視の量子現象であり、粒子は「個」の性質を失う。1911年、K.オネスが液体ヘリウム温度(絶対温度約4K〈ケルビン〉、絶対零度は-273.15℃)で見つけた。86年以来、超伝導状態になる温度(転移温度)が高い、銅酸化物のセラミックスが次々に発見され、液体窒素温度(約77K)を超えるものも現れた。高温超伝導という。一方、2001年には秋光純らが、従来型の金属化合物二ホウ化マグネシウムで転移温度39Kを観測したと発表した。1957年にJ.バーディーン、L.N.クーパー、J.R.シュリーファーが唱えたBCS理論では、クーパー対は結晶格子の熱振動(フォノン)が仲立ちするが、セラミックス系高温超伝導はこれでは説明できない。超伝導状態の物質は、弱い磁場の磁力線を通さない(マイスナー効果)。主に工学系で超電導の字もあてられる。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

磁束量子

磁束量子

磁力をもたらす磁束を糸状に1本、2本とばらしたときの最小単位。磁力線のイメージで思い描ける。超伝導状態の物質は弱い磁場侵入を阻む(マイスナー効果)が、第2種超伝導体と呼ばれるものでは、磁場がほどほどに強いと、ばらばらの磁束を通す。これが量子化された磁束の一例だ。このとき、それぞれの周りに超伝導電流が渦のように流れる。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

超流動

超流動

粒子の群れの粘りのない流れ。液体ヘリウムで見つかった。ヘリウム4(質量数4のHe)の原子は、スピンが整数値でボース粒子として振る舞うので、低温では多くの原子が1つの状態をとってひとつながりの波となり、粒子間の粘性が消える。粒子が個の性格を失い、巨視の量子現象が現れるのは超伝導と同じ。ヘリウム3(質量数3のHe)では原子2つが対をなしてボース粒子となり、同様の流れを見せる。この対は超伝導の電子対(クーパー対)に当する。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

超固体相

超固体相

固体なのに超流動を起こす状態。ボース粒子の性格をもつ原子が固体を形づくるとき、低温にして最も低いエネルギー状態に置くと、結晶の性格を保ったまま、摩擦なしに流動するようになる。2004年1月、米ペンシルベニア州立大グループが、ヘリウム4(質量数4のHe)を固体にして、この状態と思われる現象をみた、と発表した。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

カシミア効果

カシミア効果

真空中で、金属の板2枚をごくわずか離して平行に置いたとき、量子力学に特有の状態のゆらぎで板同士が引き合うこと。板の周りでは、電磁場の最も低いエネルギー状態がゆらぎ、仮想粒子がさまざまな波長の波として現れる。ところが、板の間では波長が制約され、その分、エネルギー密度が下がって外側から圧力を受ける。1948年にH.B.G.カシミアが予言、97年、S.K.ラモローが実験で確かめた。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

真空のエネルギー

真空のエネルギー

量子力学によると、真空中では場の最低エネルギー状態がゆらぎ、仮想粒子の対が生まれては消える。このエネルギーを指していう。宇宙誕生時のインフレーション(急膨張)の原動力ともみられている。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

超光速光伝播

超光速光伝播

光の進み方が真空中の光速c(秒速30万km)を上回る現象。L.ワンらは2000年、光パルスをセシウム原子ガスに通す実験で、パルス全体の速さ(群速度)がcを超えたと報告した。パルスは、波長の異なる成分波の重ね合わせとみてよいが、この実験では、成分波が原子の影響を受け、前方に高まりができたらしい。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

バンド理論

バンド理論

結晶中の電子の振る舞いを考える理論。原子内の電子は飛び飛びのエネルギー値をとるが、原子同士が近づくと、外側の電子のとれるエネルギー値が帯(バンド)に広がる。この帯域の電子は、金属では自由に走り回り、電気を通す。半導体絶縁体では詰まっていて動けない。や光で、電子が空白域(ギャップ)の上の伝導帯に引き上げられると流れる。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

逆空間

逆空間

結晶中を伝わる波を考える際に便利な仮想空間単位は長さの逆数結晶格子振動や電子の動きなどを波としてとらえた場合、波長に逆比例する「波数」をこの空間で表現できる。波数は運動量に比例するので、運動量空間ともいわれる。結晶は、ここで逆格子を形づくる。実空間同様に周期性をもっており、この単位がブリユアン領域。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

相転移

相転移

固体、液体、気体のような物質の状態(相)が、温度や圧力などの変化でがらりと変わること。微視の粒子世界の変容が巨視的、劇的に見える。境目の温度などを転移点という。典型例は、水が氷になったり(凝固)、氷が水になったり(融解)する現象。広く、物質の秩序が崩れて一気に無秩序になったり、無秩序から秩序が急に現れたりすることも指す。強磁性体の強磁性状態と常磁性状態、超伝導体の超伝導状態と常伝導状態の変化などがこれに当たる。宇宙がビッグバン後に冷えて1つの力が4種に分かれてきた変化も、こう呼ぶ。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

磁性

磁性

物質の磁気の現れ方。電子や原子核などがもつミニ磁石(磁気双極子)の並び方による。ふつうは、電子がもつ双極子の寄与が大きい。外から加えた磁場の方向に双極子の向きがそろうのが常磁性。磁場とは向きの双極子が現れ、その方向に磁化されるのが反磁性。外の磁場なしでも自発的に双極子が一方向にそろっているのが強磁性。これを対称性の自発的な破れという。永久磁石強磁性体。近くの双極子が逆向きになって磁気を打ち消し合うのが反強磁性。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

フォノン

フォノン

音の波の性格をもつ結晶の格子振動などを、量子力学の視点で、粒子としてとらえたもの。粒子のように互いに衝突し合ったり、電子によって吸収・放出されたりする。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

強相関電子系

強相関電子系

固体内で、電荷をもつ電子同士の斥け合いが際立つ系。遷移金属酸化物などに多い。電気を通しやすい金属が絶縁体に変わる現象や、高温超伝導なども説明できる。この効果は、従来半導体工学ではほとんど無視できた。小さな刺激が劇的な変化を誘うので、次世代の素子候補。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

近藤効果

近藤効果

金属の電気抵抗は温度が下がるにつれて小さくなるという常識に反して、磁性をもつ不純物入りの合金で、抵抗が温度低下とともにふえる現象。低温でみられる。1964年、近藤淳がこの理論を示した。それによると、低温では不純物のスピンと電気伝導を担う電子のスピンが影響し合い、電子を散乱させる。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

巨大磁気抵抗効果