<3> あ * あいそうっ 意味人や世の中の物事などにあき 愛想が尽きる れて愛情や好意などが全くなくなり、 嫌になってしまう。用法文型「ダレダレはダレナニ に愛想が尽きる」。「あいそがつきる」とも言う。「愛想が 尽きた」と過去形で使うことが多い。「江戸」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七八九)「二十三にも成ッ て親を養す所か自分の居所立所にさえ迷惑てるんだなん ぼ何だッて愛想が尽きらア」②正宗白鳥『微光』(一九一〇) 「この世に愛想が尽きたのかい」③石坂洋次郎『光る海』 (一九三一六三)「愛想がつきるような行状ぶりを聞かされ、 口先では嘆いたり罵ったりしたが」 類句「愛想もこそも尽き(果て)る」は「愛想が尽き る」を強調した言い方。 外国語 英語では become disguste with 愛想を尽かす 意味人や世の中の物事などにあき れて嫌になり、見限る。用法文 型「ダレダレはダレナニに愛想を尽かす」。「あいそをつ かす」とも言う。「愛想を尽かした」と過去形で使うこと が多い。受身形が可能。江戸 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「叔母ですら愛想を尽かすに、親なればこそ子なればこそ、ふがいないといッて愚痴をもこぼさず」②『朝日新聞』(二九七・四・七朝)「家庭の主婦が政治にアイソをつかすのも無理がない」③『朝日新聞』(二九六・六・二七朝)「母親は飲んだくれの夫にあいそをつかして家出していた」④源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)「いちばんおとなしいと思っていた由利子すら、愛想をつかして、自分から去って行ってしまった」⑤平岩弓枝『風子』(二九五十七)「いつまでもうだつの上らない中山に愛想をつかして、赤ん坊をおいたまま、男とかけおち同様に金沢を出てしまった」⑥高杉良『会社蘇生』(二九七)「ライル社が小川商会に愛想を尽かす可能性も大きいですから」 開いた口が塞がらない 意味人の行為のひどさ、 ばかばかしさ、厚かまし <4> さなどに驚きあきれて、ものが言えない。非難の気持ち を表す。用法文型「ダレナニには開いた口がふさが らない」。「開いた口がふさがらない」と言い切る形が多 い。(江戸) 用例①「滑稽新聞」二号(九二)「サモ自慢げに吹聴を して居るとは、是亦開いた口が閉がらない」②「朝日新 聞」(九五・七・四朝)「それが寺内に住む狂った青年僧徒の 放火というのだから、あいた口がふさがらない」③開高 健「パニック」(九五七)「俊介はばからしさのあまり、あ いた口のふさがらないような気がした」④「朝日新聞」 (九七九・二〇・三王朝)「鉄建公団の更迭幹部に四千万円を超え る退職金が支払われるという。盗人に追い銭、私たち 庶民は全くあきれかえって開いた口がふさがらない」⑤ 「朝日新聞」(九八〇・六・五朝)「そのずうずうしさにはあいた 口がふさがらない」 類句「呆れて物が言えない」「呆気に取られる」「泡を食 う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷や す」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食っ たよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 あいづち 相槌を打つ 意味もと鍛冶で交互に槌を打ち合う 意。そこから転じて、対話で相手の言 うことにうなずいたり、調子を合わせたり、賛同を示し たり、話を促進したりする言葉をはさむ。「合槌」と書く のは誤り。用法文型「ダレダレがダレナニに相槌を 打つ」。用例⑤の「下手な」のように「相槌」を修飾する ことは可能。命令・意志表現が可能。「江戸」 用例①幸田露伴『不安』(一九〇)「この真面目で道理のある言葉に皆々口を揃えて『左様だ、左様だ』と相槌を打って」②谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九八二九)「ひどく熱心に人形芝居を賛美するもんだから、つい老人を喜ばすつもりで合槌を打ってしまったんだ」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「まったく、そうでありますなア。」と、打てば響くように合槌を打ったのは」④稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九二)「全くそのとおりだ」と、相槌を打っていた」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「それに下手な相槌を打とうものなら、江梨香がこう言っていた」というウワサが、たちまち流れる 外国語 英語では chime in <5> あいて 相手にとって不足はない 意味相手の力も相当 なもので、戦ったり 競ったりする相手として十分である。互角に戦える相手 である。用法文型「ダレダレは相手にとって不足は ない」 用例①尾崎紅葉『二人女房』(二八九二)「どうだ合手に取って不足は無かろう」②江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九四)「明智小五郎なら相手にとって不足はない。あいつと一騎打ちの勝負をするのかと思うと」 外国語 英語では be a good match for あいか 意味以前と少しも変わらずいつ 相も変わらず ものように。同じことを単調に繰り 返していることを、どちらかというと否定的にとらえた 言い方。用法文型「相も変わらず~」。副詞的に使用 江戸 用例①椎名麟三『美しい女』(一九五五)「相も変らず民青の高性能スピーカーが横っぱしから雑音を流していました」②朝日新聞(一九五七・七・三朝)「各官庁の職員駐車場は、相も変わらず職員用の車でいっぱいである」 阿吽の呼吸 二人以上が一緒にある物事をする時の お互いの微妙な調子の合い具合。一方に応じる他方の 微妙な息。用法名詞句としてさまざまに用いられる 相撲の立ち合いで「阿吽の呼吸で立った」などと使われ ることがある。江戸 用例①三島由紀夫『潮騒』(九五四)「鳥の羽毛をつけた しなりのよい竹竿を使って行われるこの漁は、阿吽の呼 吸を要した」②内田康夫『鬼首殺人事件』(九九三)「なるほ ど、阿吽の呼吸というやつですか」③森村誠一『誇りあ る被害者』(九九六)「何十年の熟練夫婦がようやく到達で きるような阿吽の呼吸を」④佐川芳枝『寿司屋のかみさ んお客さま控帳』(三〇三)「いいシマアジですねえ」する と夫も、『ありがとうございます』と満足げに庖丁を置く 阿吽の呼吸という感じである」 類句「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「呼吸が合う」 「調子が合う」「肌が合う」「歩調が合う」 あかご てひね 意味大した力を用いず、たや 赤子の手を捻る すく人をやっつける、かたづけ るたとえ。相手の力量が大きく劣る場合に言う。自分 <6> の力を誇示したり人を立てたりする時に使う。用法 用例①のように「赤子の手をひねるよう」とたとえたり ②のように「赤子の手をひねるよりも」と比べたりする 言い方が多い。 用例①林二九太「へのへのもへじ」(九三)「争議団な んて、群衆心理をちょいと利用すりゃア、赤子の手を捻 るように単純なもんですがね」②菊田一夫『君の名は』 (九三一五)「君達を組み伏せようと思えば、赤子の手を ひねるよりも易しからうといってるんだ」 類句「赤子の手をねじる」とも言う。「お茶の子さいさ い」「お安い御用」「世話がない」「屁の河童」「外国語 英語では like child's play *中国語では成句「易如反 掌」(手のひらを返すように容易である) あかたにん 意味まったく無縁・無関係の間柄の人 赤の他人 親族でも何でもないと相手を突き放す強 い語感。用法文型「ダレダレは赤の他人」。名詞句と してさまざまに用いられる。江戸 用例①二葉亭四迷『浮雲』(八八七八九)「縁を断ッてしま えば赤の他人、他人に遠慮も糸瓜もいらぬ事だ」②源氏 鶏太『若い仲間』(九五九六)「赤の他人として歩いている 二人の人生が』③『朝日新聞』(九三四・五朝)「入院中の 息子と、五カ月間寝食をいっしょにしながら、顔の包帯 をとったらアカの他人だった」④内田康夫『志摩半島殺 人事件』(九八)「それこそ、赤の他人のあんたに話す必 要はありませんがな」 類句「縁もゆかりもない」「見ず知らずの」外国語 英語ではa total (or complete) stranger あきものい 意味人の服装・行為など 呆れて物が言えない のひどさ・はなはだしさを 非難・軽蔑して言う言葉。用法文型「ダレナニに (は)あきれてものが言えない」。「あきれてものも言えな い」とも言う。用例③のように過去形もある。 用例①石坂洋次郎『暁の合唱』(九九四二)「御礼でも言うどころか、ケロリとしてえげつない食べ物の話である。呆れて物も言えないと叱りたいところだが」②朝日新聞(九六四三朝)「一片の反省もなくシャーシャーと言ってのける心臓には、あきれてものも言えない」③源氏鶏太『夢を失わず』(九六〇)「わしの財産をめあてに、飲んでまわってるのだ、あいつめはもうもう、あきれてモノがいえなかった」④朝日新聞(九六〇四九朝)「その <7> みみっちい公私混同には、本当にあきれてものがいえな い」⑤高杉良『人事権!』(一九三)「一人で久保田興業に乗 り込むとは、呆れてものが言えませんよ」 類句「開いた口が塞がらない」「呆気に取られる」「泡を 食う」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」 「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白 黒させる」「目を丸くする」 あくぬ 意味人の性質や趣味・芸などに 灰汁が抜ける 癖・嫌味がなく、さっぱりと洗練さ あか れたものになる。垢抜ける。用法文型「ダレダレは 灰汁が抜ける」。「灰汁の抜けた~」という言い方や用例 ①のような否定形もある。江戸 用例①久保田万太郎『末枯』(二九七)「上方風の下らない 灰汁のぬけない白痴おどしの芸の高座に」②佐々木味津 三『旗本退屈男 第八話』(二九九三)「もう九十近い瘦躯 鶴のごとき灰汁の抜けた老体なのでした」③「彼はすっ かり灰汁が抜けてまるくなった」 類句「垢が抜ける」「渋皮が剥ける」 悪態を突く あくたい 意味口汚くののしる。目の前の人に 悪口を言う。「あくたい」は「あくたも くた」の変化した「あくたいもくたい」の略。「あくた」は ごみ、つまらないもの。用法文型「ダレダレがダレダ レに悪態をつく」。用例①の「いつもの」のように「悪 態」を修飾することは可能。江戸 用例①近松秋江『霜凍る宵』(九三)『貴様ひとりで、勝手にさっさっとうせえ。内の娘はそんな処へ出て往く用はない。』といって、又いつもの悪態を吐く』②中里介山『大菩薩峠』(九三三)『ばかにしてやがら、大尽がどうしたと言うんだい、鰯八がどうしたんだい』と言って悪態をつくものもありました』③「親に悪態をつくどうしようもない息子」 外国語 英語では use abusive language あぐら 意味(1)鼻が顔の真ん中に大きくど 胡座をかく かっとすわっている。(2)人・組織など が自らの地位・権力・特権・栄光・人気などにいい気に なって努力や反省などをしない。ずうずうしく構えて いることを批判して言う。正座に対して作法に合わない 座り方から転じたもの。用法文型(1)「鼻があぐらを <8> かく」(2)「ダレダレが十二十二(の上)にあぐらをかく」。 命令形はない。 用例(1)①石坂洋次郎『人生』(二五七)「鼻の先が大きく円く顔のまん中に胡坐をかいているので『八十さん』と呼ばれるのだが」(2)②石坂洋次郎『あじさいの歌』(二五八)「彼女の絶対服従(内容的にはカラッポに近いものだったろうが)の上に胡坐をかいて生きていた伝造」③「朝日新聞』(二九五七・七・三王朝)「政権の座にアグラをかき、権力を悪用したわいろが横行し」④「朝日新聞』(二九〇・四・三王朝)「権威のうえにあぐらをかいて」⑤「朝日新聞」(二九〇・六・三王朝)「オリンピックの栄光にあぐらをかくことをきらい」⑥内田康夫「博多殺人事件」(二九二)「保守性の上にあぐらをかいていた油断のもたらした結果であった」 外国語英語ではrest on one’s laurels 揚げ足を取る ああしと 意味相手の言い損ないや言葉尻、 さざい 些細な欠点をとらえて、非難したり 言いがかりをつけたり皮肉ったりする。用法文型 「ダレダレがダレダレの揚げ足を取る」。用例②③のよう に受身形がある。③の「下手な」のように「揚げ足」を修 飾することがまれにある。〈江戸 飾することがまれにある「江 用例①谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九六二九)「揚げ足を 取ったりするようなことはめったにないんだ」②生方敏 郎『東京初上り』(一九六八)「現代の宗教家は揚足を取られ るのが恐さに黙々としているのか」③山崎豊子『白い巨 塔』(一九六三六五)「下手な揚げ足をとられぬように、うまく やりますから」④『朝日新聞』(一九六九・九・二朝)「実現性の ある政策は何一つ示さず、あげ足ばかり取っているよう では、政権の座はおろか、党の躍進も実現しはしない」 ⑤『朝日新聞』(一九六〇・二・三朝)「この前文について揚げ 足をとることは容易であるが」 類句「けちをつける」「難癖をつける」「外国語」英語 では trip someone up. ; take up someone on a slip of the tongue あくは 意味「挙げ句」は本来、連歌・連 挙げ句の果て 句の最後の七・七の句(なお、最初の 五・七・五を発句と言う)。ある人があれこれしたあと、最 後に。あげく。用法この句の後ろに悪い事柄(マイナ ス評価)が来て、相手を批判的に述べることが多い。「揚 げ句の果てに」「揚げ句の果ては」「揚げ句の果てが」と <9> も言う。江戸 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「その違和感は日ましに強くなるばかりだった。そして、あげくの果てが、信子は死ぬのではないかしらという不吉な予感にとりつかれたりするのだった」②『朝日新聞』(一九九七・七・八朝)「順子が何とか欽一に海に連れて行ってもらおうとあの手この手、揚げ句の果ては秋野親子まで駆り出す始末」③『朝日新聞』(一九八〇・五・三朝)「断れば露骨にドアを音高く閉じ、あげくのはてに近所にあることないことふれ歩く」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「警察の事情聴取に疲れ、あげくのはて、バッタとナデシコの幸せを見送る羽目になって」 類句「つまるところ」「とどのつまり」 外国語 英語 では to top it all (off) 明けても暮れても 意味同じことが毎日毎日い つでも繰り返されるさま。ま た、人などが同じことを毎日毎日いつでも繰り返すさ ま。用法文型「明けても暮れても~」。副詞的に使用 後ろの述語を修飾する。江戸 用例 ①伊藤左千夫『野菊の花』(一き)「民子が明けて もくれてもくよくよして」②角田喜久雄『蛇男』(一九五) 「毎日、明けても暮れても、どんよりと沈んだ鉛色の空 がおおいかぶさっていた」③『朝日新聞』(一九五・二〇・一六朝) 「イーデン氏の前夫人は、夫が政治に夢中で、明けても 暮れても政治の話ばかりなのはやりきれないといって」 ④『朝日新聞』(一九〇・三・二七朝)「警察犬やX線を使って のチェックを明けても暮れても受けた」 類句「昼夜をおかず」「寝ても覚めても」「年がら年中」 外国語英語では day in and day out あご お顎が落ちる う」「あごが落ちるほどおいしい」などと使う 意味非常においしいことのたとえ。 用法文型「ナニナニはあごが落ちそ などと使う。 用例①「ホテルの料理はあごが落ちそう」②「この フォアグラ、あごが落ちるほどおいしい」 類句「ほおが落ちる」「ほっぺたが落ちる」 あごひぁ 顎が干上がる 意味飢えて口の中が渇ききってし まうことから、生計の道を失って食 べるのに困る。用法文型「ダレダレはあごが干上が る」。「一家のあごが干上がる」のように「一家の」などが <10> あご」を修飾することがある。〔江戸〕 「あっ」なんて「春泥」(たべ)「といってるうち 用例①久保田万太郎『春泥』②井上ひさし『日本亭主 に顎の干上るのを知らねえな」②井上ひさし『日本亭主 図鑑』(一九五)「抗議の声が殺到すると自分の評判がさがる やがてはそれが顎の干上がるのにつながる」 類句「口が干上がる」「暮らしが立たなくなる」「飯が食 えなくなる」外国語英語では starve to death あごつか 意味地位が上の人が威張って高慢な態 顎で使う 度で命令して人にやらせる。用法文 型「ダレダレはダレダレをあごで使う」。受身形で使わ れることが多い。 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五十五)「彼からアゴで 使われているのである」②「人をあごで使うような奴と は一緒にいたくない」 類句「あごで指図する」「あごの先で使う」 英国語では order someone around 分ではどうにもならなくなり投げ出す。 意味(1)疲れるとあごが前に出ることか 顎を出す こんぱい ら、ひどく疲れる。疲労困憊する。(2)自 用法文型 ダレダレはあごを出す〔江戸〕 用例(1)「ランニングの練習でわずか半時間であごを出してしまった」(2)「次々に起きる問題の処理の多さにあごを出す」 外国語 英語では be done in 意味恐怖や危険などで体が動けなく なるさま。転じて、恐怖や不安、心配 ちゅうちょ イ重を起こすのに躊躇してしまうさま。 などで次の行動を起こすのに躊躇してしまうさま 用法文型「ダレダレは足がすくむ」「足がすくむような ナニナニ」。用例①のように「足も」と強調して言うこと がある。 用例①柳田邦男『空白の天気図』(一九五)その日観測 当番だった三浦は、足もすくむような大揺れの中で測器 を調整しながら正確な観測を続けたのである」②朝日 新聞』(三〇五・二・三夕)「映画にテレビドラマにと引っ張 りだこである。にもかかわらず、『新しい役に出会う度 目の前に高い壁が現れて足がすくむ』という」 類句「身がすくむ」 <11> 足が地に着く (2)考えや計画・行動などが現実離れしていない。 用法文型「ダレナニは足が地に着く」。「足が地に着 かない」という否定形でよく使われる。肯定形は「足が 地に着いている」と言うことが多い。「地に足が着く」とも 用例(1)「宝くじが大当たりして興奮のあまり、足が 地に着かない」②姉小路祐『化野学園の犯罪』(三〇三)「と うとう最後まで足が地につかない教育実習になってしも たな」③朝日新聞(三〇四・九・言朝)「単位を取るために 試験勉強をしている学生生活は、何か地に足がついて いないかのような感覚でした」(2)④浜尾四郎『殺人鬼』 (一単)「大学に入学する時分には、だいぶん足が地につ いて文科をよけて法科へ行くものが殖えて来た」 外国語 英語では $ ^{1} $は sit still $ ^{2} $は have one's feet on the ground 意味「あし」は逃亡した足取りの意で、 足が付く 犯罪者の足取りがわかる。悪事などを証 明する糸口が見つかる。犯罪が露見する。用法文型 「ダレナニは足がつく」「ナニナニから足がつく」「江戸」 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九三)「原 稿書いて送ったりしたら、足がついちゃうものね」② 森村誠一『夢の虐殺』(九四)「現金以外のものはいらな い。物は足がつきやすいからな」③梓林太郎『死神山脈』 (九九)「人を殺して逃げる人間が、すぐに足のつくよう な証拠を置いて行くはずがない」④「足跡から足がつく」 足が出る あしで 意味予算・収入を越える出費がある。 これで足りる、またはもうかるつもりで やったのに実際は不足していたり損をしていたりする こと。赤字になる。用法文型「ナニナニは足が出る」 「ナニナニに足が出る」。用例②のように金額が「足」を 修飾することがある。 用例①内田百閒『居候匆々』(九三七)「会費に脚が出 て、五十銭ずつ追加を取られた」②山崎豊子『白い巨塔』 (九三一六五)「ざっと百二一、三十万円の足が出」 外国語英語では run over the budget 足が速い 意味(1)食べ物が腐りやすい。(2)商品の 売れ行きがよい。「足が早い」とも書く。 用法文型「ナニナニは足が速い」 <12> 用例(1)①「夏は足が速いから早く食べてしまわないと いけない」(2)②「この服は足が速いから大量に仕入れて も大丈夫だ」 類句(2)「羽が生えて飛ぶよう」がある。これは非常に 売れ行きがよいさま。 あしぼう 意味長時間立ったり歩いたりして 足が棒になる 疲れ、足が棒のようにこわばる。 用法文型「ダレダレは足が棒になる」(江戸) 用例一日中立ちっぱなしで、足が棒になった 類句「足が擂り粉木になっこ る 足並みが揃う 意味ある事柄についてペースまた は方向や考え・行動が同じになる。 「ダレナニの足並みがそろう」。否定形がある。 用法文型「ダレナニは(ダレナニと)足並みがそろう」 用例①朝日新聞(一九八○・二・三王朝)三党は必ずしも足並みがそろっていない②方針について彼らの足並みがそろった 類句「歩調が合う」 外国語 英語では fall in and pull together *韓国語では「皆을(足を)いるかけ(並べ 足並みを揃える あしなみそろ 意味ある事柄について同じ ペースで、または同じ方向(考 え・方針)へ同じ(統一的な)行動をとる。用法文型「ダ レナニが(ダレナニと)足並みをそろえる」。用例①③の 「乱れた」「要求の」のように「足並み」を修飾することが 可能。命令・意志表現は可能。 用例①「朝日新聞」(一九九六·六·八朝)「いったん乱れた足並みをそろえ『審議拒否』に走った」②「朝日新聞」(一九〇·五·二朝)「社公民が組み替え動議提出で完全に足並みをそろえ」③「朝日新聞」(一九一·一·八朝)「労働四団体は、この春闘で賃金の10%アップで要求の足並みをそろえるという」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「もともとは電車の中吊り広告の扱いが主体だった会社だが三十年前ごろからテレビの普及と足並みを揃えるようにして急成長を遂げた」 類句「歩調を合わせる」 (or pace) with 外国語英語では keep step <13> 味も素っ気もない 意味人や言葉(返事・文章) 事柄について趣や潤い・おも しろみに欠け、つまらないさま、愛想がなく冷淡なさま 無味乾燥。用法文型「ダレナニは味もそっけもない」 「味もそっけもないダレナニ」 ①中勘助『銀の匙』(一九三一五)「私はなによりきらいな学課は修身であった。(略)味もそっけもないものばかりであった」②『朝日新聞』(一九五二・二・一八朝)「蒸留水のように清純無垢でボウフラもいない代わりに味も素っ気もない」③石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六十五)「標準語というのは、味もそっけもない言葉ですよ」④朝日新聞』(一九六七・四・三王朝)「味もそっけもない発表だった」⑤直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九六〇)「あの人は味も素っ気もない、冷淡な人」⑥藤堂明保『女へんの漢字』(一九八二)「堅苦しい儒家の経典のことだから、味もそっけもない書き方をしているにすぎないが」 頬句「芸がない」「砂を噛むよう」 外国語英語では pull and dry; dry as dust *中国語では成句「枯燥无 味」(無味乾燥である。「枯燥」は乾燥。「干燥无味」ともいう) 足下から鳥が立つよう 意味 身近に思いがけな いことが突然起きるたと え。またやりそうだと思っていなかったことを急にどん どんやり出すことのたとえ。あわてて物事を始めるたと え。 用法文型足もとから鳥が立つような「足もと から鳥が立つように「足もとから鳥が立つようで」「足 許・足元」とも書く。 室町 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(二八九七九八)「いや、もう急 おもいつきあしもとた の思着で、脚下から鳥の起つような騒をして、十二時 三十分の汽車で」②浜尾四郎『殺人鬼』(二九三)「時に足 元から鳥が立つようでちょっと急だが、僕はこれから 関西の方に、二、三日旅行して来るよ」③「朝日新聞」 (一九九・七・二四朝)「建築現場を見て回っては、足もとから 鳥が立つように、有無をいわさず引っ越しに取りかかっ たという」 類句「足もとから鳥が飛び立つよう」(永井荷風『新橋夜話』名花〈九三〉「或る場合には足元から鳥の飛び立つように、『ねえ、あなた、後生だからどうかして下さいな。』といって」「降って湧いた」 <14> 足下に火が付く あしもとひっ 意味危険・脅かすこと・困っ たことが身に迫るたとえ。それ ゆえにあわてふためく、落ち着いていられないさまを表 す。用法文型「ダレダレの足もとに火がつく」。用例 ①のように「足もとに」と「火が」の間に語句を挿入可能 「足許・足元」とも書く。 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五三五三)「あなたの足許に、すでに火がついています。あわてなさい」②源氏鶏太「天下泰平」(一九五四五五)「岡崎は、足許に火が点いたような狼狽を禁じ得なかった」③野坂昭如「てろてろ」(一九七二)「あの足元に火のついた如き騒乱状態」④高杉良「会社蘇生」(一九八七)「小川商会の倒産の影響で、オリンピア釣具の株も急降下しているため、担保の積み増しを銀行から要求されることは必至である。まさに足もとに火がつき」 類句「お尻に火がつく」「焦眉の急」「尻に火がつく」 外国語英語では find the fire in one's own backyard *中国語では成句「火烧眉毛」(眉に火がつく。「火烧」は 火がつく)*韓国語では「豊きふ(足の甲に)豊ふ(火が) 豊ふ(つく)」 あしもとおよ 意味相手が非常にすぐれて 足下にも及ばない いて、とてもかなわない。比 べものにならない。用法文型「ダレナニはダレナニ には足もとにも及ばない」「ダレナニはダレナニの足も とにも及ばない」。用例③のように人以外のこともある が、多くは人について言う。「足許・足元」とも書く。「室 町」 用例①源氏鶏太「実は熟したり」(一九五八五九)「素晴らしい美男子だったそうじゃアないか」(略)「そうよ。お兄さんなんか、足許にも及ばない」②舟橋聖一「ある女の遠景」(一九六二)「紋哉のそれの、女心をしめつけるような柔らかな魅力には、足もとにも及ばないものであった」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「恐ろしい怪談であって、おそらく今までの怪談などは足もとにも及ばぬほどの怖さであって、日本一、世界一の怪談だという」④朝日新聞(一九六○・三・三朝)「王などは長島の足元にも及ばない」 類句「足下にも寄れない」「足下へも寄りつけない」「雲 泥の差」「及びもつかない」「けたが違う」「太刀打ちできな い」「月とすっぽん」「天と地」「歯が立たない」「外国語 英語では be nowhere near as good as *中国語では <15> 成句「望尘莫及」(前を行く人馬の立てる砂塵が見えるだけ でとても追いつけない、はるかに遅れているたとえ。「莫及」 は及ばない。「望尘不及」ともいう)*韓国語では「皆引吾 そば(かかとにも)ロススに(及ばない) 足下にも寄れない 意味「足もとにも及ばない」 に同じ。用法文型「ダレ ナニは足もとにも寄れない」。用例②のように「足もと」 を修飾することは可能。「足もとへも寄れない」とも言う 「足許・足元」とも書く。「江戸」 用例①源氏鶏太『自由学校』(五〇)「料理の工夫にし ろ、家計のヤリクリにしろ、普通の奥さんでは、足許に も寄れない腕前の持主なのである」②半村良『どぶどろ』 (九七)「お前もお節介じゃ相当なもんだが、行儀となる とおこんさんの足もとへも寄れねえな」 あしもとみ 意味相手に対し、相手の弱みや困っ 足下を見る ている事情につけこんで自分に有利な ようにする。用法文型「ダレダレが(ダレダレの)足 もとを見る」。用例③のように受身形がある。「足許・足 元」とも書く。江戸 用例①谷崎潤一郎『夢食う虫』(二九)「先は足許を見 やがったのか二百ドルが、鋤一文も負からない、…とぬ かすんだ」②『朝日新聞』(一九九・二〇・一五朝)「その足元を見 るかのように次々に条件をつける坪内社長」③『週刊朝 日』(一九八〇・九・四)「女性の中には足もとを見られて入籍し てもらえないままというケースが多い」 類句「足もとにつけこむ」「弱みにつけこむ」外国語 英語では see someone coming あしあら 意味泥だらけ、ほこりまみれの足を洗 足を洗う うことから転じて、人が長い間行ってき た、または深い関係を持っていた好ましくない職業・事 柄・生活を断って離れてよい状態になる。好ましくない 事柄は必ずしも社会的評価によるものではなく、話者 の評価による。心理的にきっぱりと離れてという意識が 強い時には、一般的には好ましくないとは考えられない ことにも使う。用法文型「ダレダレが十二二から (の)足を洗う」(室町) 用例①久保田万太郎『末枯』(九八「芸人の足を綺麗 さっぱ 薩張り洗うことにした」②井伏鱒二『駅前旅館』(九五六 毛)「於菊という妓は甲府若松町の花柳界からもう足を <16> 洗って、長野か松本か、ともかく信州の方へ行ってしまったと言うんでございます」③『朝日新聞』(一九0・四・三0朝)「浜田氏が若いころ一度は暴力団の幹部で、足を洗って政治の世界に入ったことはよく知られている」④『産経新聞』(一九0・二0・六夕)「競技生活からキッパリと足を洗い、静かなサラリーマン生活に入っている」⑤島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(一九0四)「俺は即刻この仕事から足を洗うよ」⑥本所次郎『閨閥』(三0四)「鹿野信元が日経連専務理事から足を洗って、フヨウ放送の専務として実権を握っていた」 類句「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」外国語 英語では wash one’s hands of(直訳すれば「手を洗う」) *中国語では成句「洗手不干」(悪事から手を引く。直訳す ると「手を洗って(悪事を)やめる」。「不干」はしない、やめる) *韓国語では「皿(足を)効け(洗う)」 味を占める 意味一度経験した良い思い、うまく 利益を得たことを忘れられず、また同 じことを期待する。用法文型「十二十二で味を占め る」(江戸) 類句二匹目のどじょうを狙う」外国語英語では get a taste of success 用例「株で味を占めて、大金をつぎ込んだ」 あしと 意味歩いたり走ったりするのをやめ 足を止める て、立ち止まる。用法文型「ダレダ が足を止める」 用例①福永武彦『忘却の河』(九四)「気がつかない振りをして行き過ぎようとしたが、お電話ですよ、と言われて足をとめた」②辻邦生『北の岬』(九〇)「彼が足を止めるのは、全員に休息を命じたり、落伍者を激励するために声をかけたりするときだけだった」③半村良『どぶどろ』(九七)「松之助が呼んだので順庵が足をとめて振り返ると」 足を延ばす 意味徒歩や交通の手段を使って予定 していた所からさらにもう少し先まで 行く。用法文型「ダレダレがドコドコまで足をのば す」。命令・意志表現が可能。「伸ばす」とも書く。「江戸 用例①源氏鶏太『天下泰平』(九五四五)「いっそ、この まま、心斎橋まで、足をのばそうか」②高橋和巳「悲の 器」(九三)「茂のいる北海道へは、仙台で学会のあった年、 <17> ついでに足を延ばして行ってみたが③中上健次『鳳仙 花』(二九〇)「川沿いに川奥の方まで足をのばして仕入れ なくとも」 外国語 英語では go a little farther 足を運ぶ 意味ある目的のために、ある場所まで 自分自身で出向く。用法文型「ダレ ダレがドコドコへ(に・まで)足を運ぶ」。命令・意志表 現が可能。一回の行為の時もあるが、繰り返しの行為の ことが多い。そのため用例②のように頻度を表す言葉が 修飾することがある。江戸 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「教授室(足を運んだ」②平岩弓枝『風子』(一九七五十七)「有楽町にある渡航所へ二度ほど足を運んで」③岩城捷介『免職警官』(三〇三)「立石恵美は構内を横切り、三号館に向かって足を運んだ」 外国語 英語では go; visit; call on *韓国語では 「昔 을(足を) 帯ワロ(うつす)」 足を引っ張る 意味ある人の行為や事柄が他の人 (集団・チーム)の行為・地位やある 事柄の実現などを妨害する。人の出世や成功の邪魔をす る。物事の進行を妨げる。意図的にする場合と結果的 にそうなる場合とがある。用法文型「ダレナニがダ レナニの足を引っ張る」。用例④のように受身形がある ②⑤のように「足を引っ張り合う」という形でも使われ る。 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(九五)「屁理屈なんかでわたしたちの運動の足を引っぱらないで」②朝日新聞(九〇・二・九朝)「党内で足の引っ張り合いばかり目立った大平政権末期」③「朝日新聞(九〇・二・八朝)「いまカーター氏の足を引っぱれば自動車問題などにはね返りかねない」④「朝日新聞(九〇・二・七朝)「公明党は創価学会内部の問題に足を引っぱられ」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(九三)「他人の作品のアラを探し、徹底的に叩きつぶしあい、足を引っ張りあう場に変容した」「外国語英語では try to get in someone's way *中国語では慣用句「拖后腿」(後足を引っ張る。「拖」は引っ張る。「后腿」は後足) 足を棒にする 意味何かを探したり頼んだりするために、足が疲れて棒のようになる <18> ほど、あちこち歩き回ること。 用法文型「足を棒に して~する」。 用例①辻邦生『北の岬』(九0)「足を棒にして、靴を すりへらして、やっと臨時の職を見つけても」②森村誠 一『エネミイ』(三00)「足を棒にして聞き込みに歩いた 捜査員たちの疲労と喧噪が」 類句「足を擂り粉木にする」という表現もあるが、今 はあまり使わない。 足を向けて寝られない 意味恩を施してくれた 人に対してありがたく思 い、感謝を忘れずにいることのたとえ。 用法文型「ダ レダレはダレダレに(方へ)足を向けて寝られない」 「用例①『朝日新聞』(九五・七・三朝)「政治的生命を助け てもらった佐藤前自由党幹事長も、吉田さんの方へは足 を向けて寝られぬといっているそうだ」②高杉良『人事 権!』(九三)「木村専務と大井部長のお宅の方角には足 を向けて寝られません」 あ くだ 当たって砕けろ 意味負けてもいい、うまくい かなくてもいい、成功しなくて もいいから思いきって人や事に当たれ。自分にも他人に も言う。用法独立した一文を形成しているので、単 独で用いることができるが、「当たって砕けろだ」「当たっ て砕けろと」「当たって砕けろで」など引用文的にも用い られる。「当たって砕けよ」とも言う。(江戸) 用例①佐々木味津三『右門捕物帖生首の進物』(二九六 三)「当たって砕けろと思って」②坂口安吾『ジロリの 女」(二卻八)「こっちもママヨ、当って砕けろと、悪度胸 をきめて」③大沢在昌『闇先案内人』(三〇二)「どうしま す』北見は葛原の顔を見た。『当たって砕けろですか』 類句「一か八か」「のるかそるか」 あたまあ 頭が上がらない 意味相手に負い目や恩義など を感じたり力負けしていたりし て、対等に接することができない。用法文型「ダレ ダレはダレダレに(対して)頭が上がらない」。「頭が上が らぬ」とも言う。江戸 用例①石坂洋次郎『女同士』(五二)「先生は奥様に頭が上がらないようだ。奥様はわがままで、先生を尻にしいている」②源氏鶏太『緑に匂う花』(九五二五三)「妻に対して、まるきり頭の上がらぬ存在となっていたとして <19> も」③「朝日新聞」(二九五・二〇・三朝)「朝永氏は藤岡氏に “あたまがあがらぬ”というほどの仲だったそうだが」④ 『言語生活』三二八号(二九九)「ぜったい頭が上がらなく て、ことばづかいなんかでもおのずから違ってくるわけ で」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(二九三)「菊代に対しては 頭が上がらない」 外国語英語では can't compete with *韓国語では 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 「ヨリカ(頭が)」 あたまかく 頃隠して尻隠さず 意味キジが草むらに頭だけ 隠して尾を出していることに 気づかないことから、転じて悪事などを隠したつもりで いるが、隠しきれないでいることに気づいていないこと をあざけって言う言葉。用法文型「ダレダレは頭隠 して尻隠さず」(江戸) 用例①三遊亭円朝『真景累ケ淵』(二六九)「一つ長屋に 居て斯んな事をするのは頭隠して尻隠さず、葛籠を置い て行くから直ぐに知れて仕舞うんだ」②石坂洋次郎『山 と川のある町』(二九五)「いくら四角ばった窮屈な様式の 中にはめこもうとしたって、頭隠して尻隠さずで、抑え きれるはずのものではないのだ」③高杉良『首魁の宴』 (二九八)「藤岡君あたりに知られてるようじゃ、わたしも ヤキが回ったな。頭隠して尻隠さずじゃ、しょうがない よ」 外国語 英語では an ostrich policy あたまさ 意味相手の行い・努力・人柄などに 頭が下がる 心から感心して敬服する。用法文 型「ダレナニには頭が下がる(思い)」。用例②④のよう に「思い」が後ろに来ることが多い。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「ポープさんの気 前のいいのには頭が下ったよ」②山崎豊子『白い巨塔』 (一九六三六五)「そうまでおっしゃる先生のお気持は、返す 返す頭が下る思いですが」③『朝日新聞』(一九六○六七朝) 「全く頭が下がるような努力を重ねている」④『朝日新 聞』(一九六○七三朝)『生徒たちは、教育の空白をとりも どそうと真剣である』ということには、頭の下がる思い である」⑤『朝日新聞』(一九六○八三六朝)「一つのことを追 求する鶴田さんのファイトには頭が下がった」⑥『報知 新聞』(一九六一九·八)「ヒザの故障で幕下まで陷落しながら 大関をねらうところまで浮上してきた精神力には頭が下 がる」 <20> 類句二目を置く外国語韓国語では「ヨリカ頭 が) 今ぼスに(下がる) 頭に来る (2)病気などで頭が正常でなくなる。用法文型「ダレ ダレが頭に来る」。用例①のように「頭に来た」と感情的 に言うことがある。 用例①①有吉佐和子「恍惚の人」(二九三)「葬儀屋に今 電話をしたら、今日は土曜日で、明日は日曜日だから、 明後日の朝にしてくださいって言うじゃない?頭にき たわ」②「朝日新聞」(二九九五・言朝)「私たちの日常には これだけバカにされ、侮辱されても、アタマにきて酒を あおり、寝てしまうことしかできない」③「朝日新聞」 (一九九九・九・二〇朝)「こんどは警官が頭に来た」④「朝日新聞」 (一九九九・三・八朝)「近ごろの世の中は、見るにつけ、聞く につけ、頭にくることばかりである」⑤植松黎『ポケッ ト・ジョーク4』(一九〇)「サードのみごとなファインプ レーを見損なってしまうというようなことが再三再四起 こり、とうとう彼は頭に来てしまった」 類句(1)「頭から湯気を立てる」「怒り心頭に発する」「色 をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくりかえる」「烈火のごとく」外国語英語では(1)はget mad at 頭を抱える 困り果てる。 用法 文型 「ダレダレが頭をかかえる」 用例①柳田邦男『空白の天気図』(九五)「役所というところはいろいろ手続きがやかましいので、実現するかどうかはわからないと、菊池先生も頭をかかえておられるようですが」②藤本義一『サイカクがやって来た』(九六)『それを外から一目で見てわかる方法を知っているのか』というと、彼はさあっと頭をかかえたものだった」 類句「頭を痛める」「頭を悩ます」(外国語)英語では have someone tearing his hair (out) あ 当たらず触らず 意味だれにもどこにも差し障りがないようなどっちつかずの態度・発言のさま。用法文型「当たらず触らずのナ <21> 二十二」と後ろに名詞(「返事」「態度」など)を伴うことが 多い。「当たらず触らずに~する」と後ろの述語を修飾す ることもある。 用例①伊藤整『典子の生き方』(一九四)「マダムも満子も 典子には当たらず触らずの態度をとるようになった」② 舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「当らず触らずに返事 を濁らしてしまった」③「当たらず触らずのことしか言 わない」 類句「当たり障りのない」 mittal あ さわ 意味発言などがだれにもど 当たり障りのない こにも差し障りのない。平凡 な、問題を起こさないようなというニュアンス。 用法文型「当たり障りのないナニナニ」。ナニナニに 「こと」や「話」など発話行為に関する言葉が来る。 用例①内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「当たり障り のない質問をいくつかした」②高杉良『指名解雇』(一九七) 「当たり障りのない話をしながら」③清水一行『ITの踊 り』(三〇四)「ベッドの上では、当たり障りのない返事を するに越したことはない」 類句「当たらず触らず」 外国語 英語では noncom- あつけと 意味言動やできごとを見聞き 呆気に取られる して、その意外性や突然性に、 ある短い時間驚きあきれる。価値評価を含んだ言葉では ない。呆然とする。用法文型「ダレダレがダレナニ にあっけにとられる」。用例①⑥のように「あっけにと られたよう」と言うことがある。「江戸」 用例①芥川龍之介『地獄変』(九八)「良秀は机の向う で半ば呆気にとられたような顔をして」②山崎豊子『白 い巨塔』(九六三六五)「メリヤスを商っている信平の商売の ことを聞いた。信平は、一瞬、呆気に取られ」③『週刊 朝日』(九七九・九・四)「相手は裸の代議士を見て、アッケに とられる」④『朝日新聞』(九八〇・二・三王朝)「泥だらけの顔 で手足から血を流して帰って来た私を、両親はただあっ けに取られて見るばかりであった」⑤内田康夫『若狭殺 人事件』(九九三)「浅見はあっけに取られた」⑥大沢在昌 『悪夢狩り』(九九四)「なんだと…』男はあっけにとられ たようにいった」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰す」「腰を抜かす」 <22> 「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食らったよう」「目 を白黒させる」「目を丸くする」「外国語」英語では be amazed ; be taken aback ; be taken by surprise いま あっと言う間に 意味あることがきわめて短い 時間のうちに起きたりできたり するさま。一瞬に。またたくまに。用法文型「あっ という間に~する」。副詞的に使用。 用例①「朝日新聞」(一九三二五朝)「並びなき権勢者も あっという間に死体だ」②「朝日新聞」(一九二三四朝) 「一部の代議員たちから『説明省略、議事進行』という動 議が出され、あっという間に成立してしまったのであ る」 類句「間髪を入れず」「時を移さず」(外国語)英語では in an instant; before one knows it あはず 当てが外れる 意味頼みにしていたことや予想・ 予定が見込み違いに終わる。 法文型「ダレダレは当てが外れる」(江戸) 用例①都筑道夫『脅迫者によろしく』(九九)「牧原さんが退屈しのぎのつもりで、ついて来るんだとする と、大いにあてが外れると思いますが ②朝日新聞 (一九七九・五・九朝)『差しに来たら突き放して押す作戦』の麒 麟児は、すっかりアテが外れ」 類句 「当てが違う」「すかを食う」「見込みがはずれる」 あとあじわる 意味ある行為の結果、関係する人々 後味が悪い の心がさっぱりせず、嫌な気分、重い 気分になるさま。用法文型「ナニナニは後味が悪い」 「後味の悪いナニナニ」 用例①太宰治『パンドラの筐』(二五五)「実に妙に胸苦 しくていけないものだ。はなはだ後味のわるい」②折口 信夫『春永話』(二五五)「京のつましい生活を衝いている 極めて無遠慮な、後味のわるい口上だが」③源氏鶏太 『鬼の居ぬ間』(二五五)「南平には、後味の悪い思いであ たが」 類句「後口が悪い」 外国語英語では a nasty after- taste 意味京都の祇園祭のクライマックスの 後の祭り 七月一七日の山鉾巡行の後の祭りを指し、 精彩を欠くことから転じて、あることに失敗してあとで <23> 悔やんだりぼやいたり、またあることが起きてから何かをしてももう遅い、むだである。用法文型「ダレダレがナニナニしても(ナニナニしたが)後の祭り」「室町」用例①江戸川乱歩「悪魔の紋章」(九三七三六)「あとで病死と聞いたときには、おれは泣いてお上を恨んだが、もうあとの祭りだ」②石坂洋次郎「山と川のある町」(九五六)「敬助は、いない相手に向って、精いっぱいの抗議をしたが、あとの祭りで、どうにもならないものを感じさせられた」③「朝日新聞」(九七九九九九朝)「輪島は「立ち合いに失敗した。むこう(栃赤城)のいいように相撲を取られたよ」とぼやいたが、もうあとの祭り」④「朝日新聞」(九八〇・二〇・三九朝)「自民党政治をいまさら責めてみても後の祭り」⑤内田康夫「若狭殺人事件」(九九三)「叔母は慌てふためいて、引き留めにかかったが、あとの祭りである」 類句「遅きに失する」「遅きに過ぎる」。両者とも「ナ ニナニがー」の文型をとる文章語。外国語英語では The damage is done *中国語では慣用句「马后炮」(手 遅れのたとえ。中国将棋で「马」の後に「炮」のコマを控えた 手のことから) あとのやま意味当面の問題がなん 後は野となれ山となれ とか片づけば、また間に 合わせれば後は困ったことになろうとどうなろうとかま わないという気持ち。また自分にはもう関係がないので 以後どうなろうとかまわないという投げやりな、無責任 な気持ちが含まれる。用法単独で使用することが多 い。〔江戸〕 用例①『滑稽新聞』一五号(一九二)『三十六計辿げるに 如かず、(略)跡は野となれ山となれヂヤ』②菊池寛『M 侯爵と写真師』(一九四)「先方は撮ったが最後『後は野と なれ山となれ』です』③『朝日新聞』(一九九・七・三朝)「あ とは野となれ山となれといった無責任な態度がみられた のではないだろうか』④ビートたけし『たけしくん、ハ イ!』(一九八四)「わあ、また怒られるってさ。そんでけっ きよくは、あとは野となれ山となれって気になるだけな んだよな」 女国語 英語 とは What happens afterwards is of no concern to me 後を引く 意味あることが終わった後も、その影 響が心理的・肉体的に残る。悪い影響が <24> 残る場合に言う。 用法文型「ナニナニが後を引く」 江戸 用例 石坂洋次郎『光る海』(一九三六三)「美枝子なら軽 くさばいてしまうそういう衝撃的な行為も、葉山和子に とっては、大きな悩みのタネになって、あとをひくだろ うとも、チラッと考えたりしたのだった」 * 類句「糸を引く」「尾を引く」「影を落とす」 穴があったら入りたい あな はい 意味自分のしたことで 非常に恥ずかしく思い、 その場にいられない気持ちを言う言葉。用法「穴が あったら入りたいナニナニ」。ナニナニには「気持ち」 「心境」など心理を表す言葉が来る。用例①④のように 単独でも用いられる。 用例①里見弴『多情仏心』(九三三三)「己を恥じる気持ち『穴があればはいりたい』と云うやつだが」②源氏鶏太『三等重役』(九五五三)「あたしは穴があったら、入りたいくらいでしたわ」③『報知新聞』(九六九·九·八)「稲葉修氏(元法相)ら四人はきっと穴があったらはいりたい心境だったに違いない」④稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(九八二)「クラスにざわめきが起こる。穴があっ たら入りたいとは、こういう時のことだろう⑤高杉良 「人事権!」(九三)「穴があったら入りたい心境です」 類句「穴にでも入りたい」とも言う。「合わせる顔がな い」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」 「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 外国語 英語では I wish I could sink through the floor 穴にでも入りたい 意味「穴があったら入りた い」に同じ。用法「穴があっ たら入りたい」に同じ。「穴へも入りたい」とも言う。江 戸 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(八七〇一)今更 に面目なく穴へも入たき心地にて差し俯伏ば」②『朝日 新聞』(一九一三五朝)「信じる教える殉じる人を思うと穴 にでも入りたい心境である」 あなあ 穴の開くほど 意味目の前のものの一点をじっと 見つめるさま。用法文型「ダレ ダレはダレナニを穴の開くほど~する」。「~する」には 「見つめる」「凝視する」などの語をとり、その前に修飾 語や目的語が来ることが多い。「穴が開くほど」とも言う <25> 江戸 用例①永井荷風『うでくらべ』(二九二)「駒代は穴のあくほどじっと見詰めていられる気味の悪さ」②江戸川乱歩『石榴』(二九四)「私はギョッとして穴のあくほどその指紋を見つめはじめました」③檀一雄『青春放浪』(二九六)「男は私の顔を穴のあくように見つめていたが」④平岩弓枝『風子』(二九五十七)「あらためて千代も玉子も穴のあくほど写真を眺めたのだが」⑤木谷恭介『京都木津川殺人事件』(二九八)「交換した名刺を穴があくほどみつめていたが」 穴を開ける 意味(1)会社や店などの帳簿をごまか して金を使い込み、返済できなくなり 会社や店などに金銭上の損失を生じさせたりする。(2)予 定していたことに空白を生じさせたり、人数に欠員を生 じさせたりする。用法文型「ダレダレが十二十二に 穴を開ける」。用例①の「大きな」のように「穴」を修飾 することが可能。(江戸) 用例 (1) ① 出納係が帳簿に大きな穴を開けて行方をく らました (2) ② 急病で連載に穴を開けた あの手この手 てて意味手を尽くすいろいろな方法・ 手段。用法名詞句としてさまざ まに用いられるが、用例①③のように「あの手この手の ナニナニ」や、②のように「あの手この手を使う(用い る)」などと言うことが多い。④のように「で」を伴って 方法・手段を表すことがある。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「船尾教授の立 場を利用したあの術、この術の工作が行なわれ」②「朝 日新聞」(一九六〇・五・三朝)「この日は不振の島谷を七番に 下げるなど、あの手この手を使ったが」③「朝日新聞」 (一九六〇・六・三朝)「あの手この手の選挙運動に踊らされるこ となく」④「朝日新聞」(一九六〇・二〇・六朝)「あの手この手で 勢力拡大を目指す」 類句 「色を替え品を替え」手を替え品を替え」 外国語 英語では the whole bag of tricks ; every pos- sible means あぶ はし わた 意味あえて危険を承知で何か 危ない橋を渡る をする。法律に触れるようなこ とをする。用法文型「ダレダレが危ない橋を渡る」。 「危ない橋を渡って~する」と言うことが多い。用例① <26> の「少々の」のように「危ない橋」を修飾することは可能 用例①山崎豊子『白い巨塔』(九三六五)「少々の危ない 橋を渡っても、またとない手術は強引にやってのけ」② 高杉良『濁流』(九六)「危ない橋を渡るのはもうやめて もらいたいわ」③大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「や りとりを見守っていた今泉がいった。『危ない橋を渡ら れているように見えますが』 類句「綱渡りをする」「虎の尾を踏む」 外国語 英語 では walk on thin ice あぶはちと 意味一度にあれもこれもと欲張ると 虻蜂取らず どちらも手に入れることができず、失 敗すること。用法「虻蜂取らずになる」「虻蜂取らず に終わる」ということが多い。江戸 用例 徳川夢声『問答有用』大野伴睦(一九五二五八)「まあい わゆるアブハチ取らずになっちゃって」 類句「二兎を追う者は一兎をも得ず」外国語英語で は fall between two stools *中国語では成句「鸡飞蛋 打」(ニワトリに逃げられた上に卵も割れてしまう。「鸡」は ニワトリ。「蛋」は卵) あぶらのき 意味生涯で仕事や業などがもっ 脂が乗り切る ともよくでき、充実している。年 齢的・時期的に言う。用法文型「ダレダレは脂が乗 り切っている」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「五十を二つ三つ出ていたが、油の乗りきった壮年教授の感じが」②『京都新聞』(二九九・五・三朝)「いまの北の湖は脂が乗り切っており」③『朝日新聞』(一九0・二0・三朝)「三歳若い井本は、いま脂が乗り切っている時期で」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(二九九)「葛西は三十八歳、脂が乗りきったーという表現がぴったりのイキのいい捜査主任だが」 外国語 英語では in one’s prime あぶらの 意味魚など脂が乗っていると 脂が乗る ところから、仕事や業などがよくで 充実する。用法文型「ダレダレは十二十二に脂が乗 る」。「脂が乗っている」「脂が乗った」の形が多い。「江戸 用例①源氏鶏太『英語屋さん』(五二)「おかみさ かえ んは未亡人になってから、却って身体に脂がのり、 三十七、八歳であろうが、何ともいえぬ色気がにじみ出 <27> るようなところがあった」②『朝日新聞』(一九五二・六・二九朝) 「脂がのったところで二人とも急死してしまった」③平 岩弓枝『風子』(一九七五十七)「いわば、仕事にも遊びにも脂 の乗ってくる世代でもある」④『朝日新聞』(一九八一・二〇・三六 朝)「我が国有数の企業集団にのしあがった東急グルー プの総帥としてもっとも脂が乗っているところだから だ」 外国語 英語と warm up to one's work あぶらう 意味仕事や用事の途中で怠けて、ある 油を売る 所に立ち止まって無駄話などをしたり、 勝手なことをしたりする。語源は諸説ある。江戸時代、 髪油を売る商人が話しこみながら売ったからとも、油売 りが客の器に油を入れるのに時間がかかったからともい う。用法文型「ダレダレがドコドコで油を売る」。非 難の言葉として「こんな所で油を売っていないで」と言 う。江戸 用例①小杉天外『魔風恋風』(一九三)「先刻からお前さん、何処で油を売ってたのさ?」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一五三)「若原君は浦島さんのところへ油を売りにいたのである」③池田弥三郎『銀座十二章』(一九〇)「それに しても、『油を売る』という語なども、いつか半死語となってしまって、『サボる』などという語が、これにとって替った」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「喫茶店で油を売ってすごすこともできなかった」 類句「道草を食う」(外国語)英語では shoot the breeze あぶらしぼ油を絞る 意味大豆・ごまなどから油をしぼり取 ることから、相手がした行為について、 時間をかけて言葉で厳しく相手を叱ったり責めたりする 用法「ダレダレに油をしぼられる」と受身形で使うこ とが多い。用例②④⑤のように「さんざん」や「こって り」のような副詞が「油を絞る」を修飾することが多い。 用例①葉山嘉樹『海に生くる人々』(た三六)「せいぜい あばれて、警察で油をしぼられるがいいさ」②江戸川乱 歩『妖虫』(た三一言)「彼は余り尊敬できないような刑事 たちから、乱暴な言葉でさんざんに油をしぼられたこと を」③石坂洋次郎『丘は花ざかり』(た三二)「入社試験で社 長にあぶらをしぼられましたよ」④源氏鶏太『緑に匂う 花』(た三一言)「お義父さんに散散、油をしぼられたよ」 ⑤筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(た三三)「さんざ油を <28> しぼられたものである」 * 類句「雷を落とす」 外国語英語では rake someone over the coals 油を注ぐような 言うさま。用法文型「ナニナニに油を注ぐような」 用例石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五一年)「兄さん はよく思ってるはずがない私の気持に、油をそそぐよう なことを仰有らないと思いますけど」 類句「火に油を注ぐ」「火を付ける」外国語中国語では成句「火上加油」(火に油を注ぐ。「火上浇油」ともいう。「加も「浇も注ぐ) あましるす 甘い汁を吸う 意味自分は大した苦労もせず、地 位や立場を利用して利益を得る。 用法文型「ダレダレが甘い汁を吸う」 用例①中上健次『鳳仙花』(一九○)『甘い汁吸うとるんじゃさか』と口の中でつぶやく男をみつめた」②内田康夫『秋田殺人事件』(三〇三)「県の幹部もまた、業者を操って、甘い汁を吸うつもりになっていたといえないことも ない 類句「甘い汁をすする」(高杉良『濁流』(九六)「いい気に なって甘い汁をすすっていると危ない)「うまい汁を吸う」 「私腹を肥やす」「腹を肥やす」「懐を肥やす」「外国語 中国語では慣用句「占便宜」(得るべきでない利益をわがも のにする、うまい汁を吸う。「占」は得る。「便宜」は利益、得 あみは 意味鳥や魚を捕るために網を張ること 網を張る から転じて、目当ての人、犯人などを捕 まえようと準備を整えて待ち構える。用法文型「ダ レダレがドコドコで(に)網を張る」。命令・意志表現が 可能。(江戸) 用例①サトウハチロー『エンコの六』(九八)「煙草屋 でアミを張っていた、大野木の将棋の角みたいな顔が、 待ってましたとばかり、六さんを迎えた」②三島由紀夫 『盗賊』(九八)「女の来そうな場所に網を張って現われた が」③源氏鶏太『男と女の世の中』(九八)「多分、今夜は ここへ来はるやろ思うて、網を張ってましてん」④森村 誠一『人間の十字架』(九八)「その日その時刻にPホテ ルに網を張っていれば、男の正体を突き止められる」 と 類句「爪を研ぐ」手ぐすねを引く」 <29> 雨が降ろうが槍が降ろうが 意味どんなことが 起ころうともする、 何が何でもするという強い決意を表す。用法文型 「雨が降ろうが槍が降ろうが~する」。修飾句として述 語にかかっていく。「雨が降ろうと槍が降ろうと」「雨が 降っても槍が降っても」とも言う。 用例①宮本百合子『宵』(九三)「雨が降ろうが槍が降 ろうが、こっちで一声、病気だと云いさえすれば、忽ち 馳せ参じて」②高杉良『首魁の宴』(九九八)「雨が降ろうが 槍が降ろうが、集合しろというのだから、念が入ってい る」 類句石にかじりついても「否が応でも「否でも応で も「有無を言わせず「是が非でも「何が何でも「何と しても「火が降っても槍が降っても「理が非でも」 ありとおりゆる 意味考えられるすべての。あ らゆる」を強めた言い方。 用法文型「ありとあらゆる十二十二」。次に来る名詞 を修飾する。「室町」 角度から事態の尻大な複雑さを検討した結果 ①開高健流亡記(一九五九)彼はありとあらゆる ②朝日 新聞」(九九・七・四朝)「小はアリから大はナマスまで、あ りとあらゆる物を持ち帰った」 類句「余すところなく」一から十まで「細大漏らさず」 何から何まで」 かお 意味とんでもない失敗・過 合わせる顔がない ち・申し訳ないことなどをし て、恐縮し、または恥ずかしくて、まともにその人の顔 が見られない、その人の前に出られない。用法文型 「ダレダレに合わせる顔がない」。「合わす顔がない」とも 言う。 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(九六)「私共一同誠に 申訳がなく、あなたに合せる顔がないのです」②井上 ひさし『日本亭主図鑑』(九五)「面従腹背、面目、面子 人に合わせるカオがない、などなど、男は他人とのつき あいをまず自分の『カオ』と他人の『カオ』との関係でと らえようとする」③『朝日新聞』(九九・七・三朝)「近所の人 にあわせる顔がない」④高杉良『首魁の宴』(九九八)「産業 経済社の落第生です。だいたい主幹に合わせる顔がない 立場なんです」 類句「穴があったら入りたい」「顔から火が出る」「顔向 <30> けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 あわ さわ 意味突然問題や危険が迫ってき 慌てず騒がず てもあわてたり騒いだりしない。 用法文型「ダレダレは慌てず騒がず~する」 用例①太宰治『家庭の幸福』(二九八)『たからくじ』二枚 のうち、一枚が千円の当りくじだったが、もともと落ち ついた人なので、あわてず騒がず、家族の者たちにもま た同僚にも告げ知らせず」②『朝日新聞』(一九九五・三朝) 「五回無死で井上に打たれ、クリーンアップを迎える正 念場もあわてずさわがず、三人を六球で仕留めた」③ 「父は地震が起きても少しも慌てず騒がず、落ちついた ものだ」 泡を食う あわ く 意味意外なことに出会って驚きあわて る。用法文型「ダレダレが泡を食う」 「ダレダレが泡を食ってする」。用例②④のように「泡 を食ったような(に)」と言うことがある。「江戸」 用例①横溝正史『広告面の女』(九三八)「あなたは子爵に会ったんですね。それでそんなに泡を食って逃げてき たんですね」②『朝日新聞』(九九九・九・二朝)「アワを食ったように左上手からの投げ」③『相撲界』(九〇・二)「いきなり”オイ、オレとやるんじゃないのか”っていうんだものこっちはアワ食っちゃって」④藤田宜永『転々』(九九)「泡を食ったような顔をして、福原を見た」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「こっちが泡くって会社作るやり方を教えてやったくらいだ」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言え ない」「呆気に取られる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷 やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を 食らったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 氾を吹かせる 意味相手を驚きあわてさせる。面 食らわせる。用法文型「ダレダ レがダレダレに泡を吹かせる」。「泡を吹かす」とも言う。 江戸 用例「今度会ったら、あいつに泡を吹かせてやる」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表を突く」「裏 をかく」「度肝を抜く」「鼻を明かす」「一泡食わせる」「一 泡吹かせる」 <31> 暗礁に乗り上げる あんしょうの 意味船が暗礁に乗り上げて 進めなくなることから、物事 が困難・障害にぶつかって進行しなくなる、行き詰まる。 用法文型「ナニナニが暗礁に乗り上げる」 用例①石橋湛山「湛山回想」(一九七三)「事件は全く暗礁に乗り上げた」②「朝日新聞」(一九七九・五・九朝)「衆院大蔵委員会理事懇談会という裏舞台で続いていた折衝が、完全に暗礁に乗り上げた」③東野圭吾「探偵ガリレオ」(一九九八)「製造法については、そこで暗礁に乗り上げたわけか」④森村誠一「エネミイ」(三〇〇)「捜査は早くも暗礁に乗り上げた」 類句「動きがとれない」「進退これきわまる」「にっちも さっちもいかない」「抜き差しならない」 外国語 英語 では come to a deadlock あんじよう 意味好ましくない予想の通り。用法 文型「案の定~する(~だ」。副詞として 用例①「朝日新聞」(一九九・八・一九朝)「案の定、この回 先頭の福本に1—3から四球」②「言語生活」三三一号 (一九七九)「私は内心、この対談はモノにならないと思った。 外国語 中国語では成句「不出所料」(予想した範囲を出ない、思った通り。「料」は推測する、予想する) 案の定、活字にならなかったが」③楯垣美晴「フィンラ ンド語は猫の言葉』(一九八二)「私にはまず無理だろうと思っ て読んでみたら、案の定、何の事だかさっぱりわからな い」④森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「案の定、山路が異見 をさし挟んだ」 <32> * い * いい気なものだ 意味他人の気持ちも知らない で、自分一人で得意になってい るさま、のんきなさまを非難して言う言葉。用法文 型「~とはいい気なものだ」。口頭語では「いい気なもん だ」とも言う。 用例①長谷川時雨『旧聞日本橋』(九三五)「その水で 益をそそぎ、その流れで手拭をしぼって頭や胸を拭く、 三尺へだたれば清しなんて、いい気なものだ」②太宰治 『もの思う葦』(九三五)「所謂『老大家』たちが、国語の乱 脈をなげいているらしい。キザである。いい気なものだ 国語の乱脈は、国の乱脈から始まっているのに目をふさ いでいる」③木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(三〇〇) 「捜査で知った若宗匠のプロフィールは『いい気なもの だ』としか思えなかったが」④「後一ヶ月で入試という のに、テレビゲームとはいい気なものだ」 類句「いい気になる」 いい気になる 意味得意気になる。うぬぼれる。 相手を批判的に言うことが多い。 用法文型「ダレダレはいい気になる」。用例①のよう に禁止の用法がある。 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「あんまり、 いい気になるな)と、千枝の脚を蹴飛ばしてやりたいく らいだったが」②「俺もちょっとばかり名が売れたばか りにいい気になって大きな口を利いた」 類句「いい気なものだ」 いい線を行く 意味成績・能力・容貌・関係など が相当いいところまで達している。 しし総を行く が相当いいところまで達している。 用法文型「ダレナニはいい線を行く」。口頭語では「い い線行ってる」と言うことが多い。「かなり」「結構」など 程度を表す副詞がこの句を修飾することがある。 用例①『言語生活』三一六号(二九六)「彼らはかなりいい線を行ってるとぼくは思いますけどね」②若林真紀『この恋が実らなくても』(一九九〇)「あ、わたしたちねえ、金魚すくいと亀すくいなら、結構イイ線いってたんだよォ」③宗田理『マミーよ永遠に』(三〇三)「まどか先生、かなりいい線いってるし、みんながちやほやしてるんで <33> 娯妬してるんじゃないかな」 外国語 英語では be on the right track いい面の皮 つらかわ 意味他人の失敗や損失・不幸または 自分の損失をあざけって言う言葉。と んだ迷惑だ。大変な恥さらしだ。多くは快く思っていな い他人について言う。用法文型「ダレダレはいい面 の皮〔江戸〕 用例①坪内逍遙『当世書生気質』(二八五八六)「須河八 い、面の皮だ」②岡本一平『ヘぼ胡瓜』(九三)「こんな頼 母しからぬ恋の相手にされる娘こそい、面の皮だ」③源 氏鶏太『鬼の居ぬ間』(九五五)「そのために当り散らされ た社員たちこそ、いい面の皮」 類句「ざまを見ろ」「それ見たことか」 とし いい年をして 意味分別のある大人ならそんなこ とはしないのにという非難の言葉。 用法文型「いい年をして~」~に非難の言葉が来る。 江戸 用例①高見順『如何なる星の下に』(九四)「いい年を して、十六七の娘と一緒に踊ってもいられませんわ」② 森村誠一『東京空港殺人事件』(二老)『若い部下たちに 知られると、『いい齢をして』と笑われそうなので隠して いた』③『朝日新聞』(二九九・九・一九朝)『いい年をしてモノ ズキなやつだ』④岡野玲子『ファンシイダンス①』(二九九) 「イイトシしてなんちゅうエゴイストだ!」 類句これを下品に言うと「いい年こいて」になる。 外国語英語では too old to いかしんとうはっ 意味「心頭」は心、心中の意。 怒り心頭に発する 心の底から怒りが激しくこみ 上げる。用法文型「ダレダレは怒り心頭に発する」。 用例④のように「怒り心頭」と略することがある。 用例①石坂洋次郎『何処へ』(二五七)「夫人は怒り心頭に発した」②坂口安吾『山の神殺人』(二五三)「平作は怒り心頭に発してお加久を呪ったのである」③槌田満文『文学にみる広告風物誌』(二九八)「編集を担当した『鏡花全集』の広告文案を勝手に直され、怒り心頭に発した体験を」④「朝日新聞』(二九九・四・三六朝)「今年はとくに怒り心頭の状態だね」⑤東野圭吾『美しき凶器』(二九三)「黒星続きで、とうとう怒り心頭に発したんだろう」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「色をなす」 <34> 堪忍袋の緒が切れる「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹 に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくりか える」「烈火の如く」「外国語」中国語では成句「怒从心 起」(怒りが心からこみ上げる。「从」はから。「起」は発する。 「怒从心生」ともいう いあ 行き当たりばったり 意味計画や方針を立てず、 その時の成り行きに任せる さま。 用法述語に用いるほかに、「いきあたりばった りの」「いきあたりばったりに」と使う。〔江戸〕 用例①大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦 争』(三〇三)「長期的計画性もなく、行きあたりバッタリの、 泥縄式の政策をとろうとしているにすぎません」②「彼 のやり方は行き当たりばったりで、いいかげんだ」 類句「成り行きまかせ」 外国語 英語では haphazard いうまめぬ 意味陰でよくないことを考 生き馬の目を抜く えて、することがすばしこく、 ずる賢いさま。また人を出し抜こうとする、油断のなら ないさま。用法文型「ダレダレは生き馬の目を抜く」。 「生き馬の目を抜くような」と言うことがある。「江戸」 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六八)「生き馬の眼 をぬく戦後の船場のどまん中で」②内田康夫『歌わない 笛』(一九九八)「藤田さんは生き馬の目を抜くって評判です よ」 類句「抜かりがない」「抜け目がない」「油断も隙もない」 外国語 英語では cutthroat いきあ 意味何人かで事を行う時にまるでひと 息が合う りで息をしているかのように呼吸が合う 気持ちがぴったり合う。互いの気持ちがよく通じ合っ た親密な間柄に言う。用法文型「ダレダレはダレダ レと息が合う」「ダレダレの息が合う」。多くは用例②の ように双方(両者)について言う。「息の合ったダレナニ」 と言う形が多い。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「すべて事前に 打合わされ、整理されている息の合ったやり取りであっ た」②『朝日新聞』(一九五六・六・八朝)「十年目にして、やっと 両者の息は合ってきたようだ」 類句「阿吽の呼吸」「馬が合う」「気が合う」「呼吸が合う」 肌が合う」「歩調が合う」 <35> 意味有力者の影響・支配や支援が及 息が掛かる ぶ。また立場・地位が上の人に世話に なったり大切にされたりする。用法文型「ダレダレ はダレダレの息がかかる」。「ダレダレの息が(の)かかっ た~」という形が多い。(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「船尾教授の 息のかかった人物だと聞いていますが」②「朝日新聞」 (一九七九・二・三朝)「ホメイニ師の息のかかったムーラや特 使」③森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「H市では、警察署も 堂本の息がかかっていると見なければならない」④大沢 在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「鹿報会の息がかかった 業者を専門店に入れてやる」 意味(1)呼吸が苦しく息切れがするこ 息が切れる とから転じて、苦しくて途中で物事が 続けられなくなる。(2)息が止まる。死ぬ。絶命する。 用法文型「ダレダレは息が切れる」(江戸) 用例(1)①中上健次『鳳仙花』(九○)「息が切れ、喉に 詰まったしおはゆい水が笛のような音を立て」②「長期 に渡る任務なので息が切れないかと心配する」(2)③「お じいさんはついに息が切れ、天国へ行った」 類句(1)「息切れがする」(2)「息を引き取る」「帰らぬ人 となる」「鬼籍に入る」「世を去る」 いきつ 意味呼吸ができなくなる意味から転 息が詰まる じて、激しい緊張や感情のために息苦 しくなる、重苦しく窮屈になる。用法文型「ダレダ レは息が詰まる」。用例①②③のように「息が詰まるよ うな」「息が詰まりそう」と比喻的に言うことが多い。「鎌 倉 用例①石坂洋次郎『光る海』(二九三六三)「はじめてそれに気づいた雪子は、グッと息がつまるような思いがした」②三浦綾子『塩狩峠』(二九八)「それが美しい女性だといっそう息がつまるような妙な気持になる」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(二九三)「いわゆる良妻賢母型の奥さんだと、息がつまりそうになっていやだという男性もいるし」④中上健次『鳳仙花』(二九〇)「秘密を言い当てられたように思い、息が詰まった」 類句気が詰まる 息が長い 意味ひとつのことや活動が何年にもわ たって長く続くさま。また商品が何年に <36> もわたって長く売られているさま。 用法文型「ダレ ナニは息が長い」 用例①石坂洋次郎『光る海』(二六二六三)「ぼくの生活法 のモットーは(地味で、息が長く——)ということなんだ」 ②『朝日新聞』(二九三・一・二六朝)「関取誕生も同時になった 二人の息の長い勝負が期待される」③「これは息の長い 商品だ。もう発売以来30年になる」 類句「息が続く」 外国語 英語では of long standing いき 意味非常に急いで走って息を荒くす 息せき切る る。用法文型「息せき切って~す る」 用例①吉屋信子『あの道この道』(九言十三)二人が息せき切って、その響を追って走り出したのは」②関楠生『わんぱくジョーク』(九二)「薬局のお手伝いが、息せき切ってお客のあとを追っかけた」 いきねと 意味(1)人を殺す。(2)二度と活 息の根を止める 動できないように徹底的にやっ つける。用法文型「ダレダレがダレナニの息の根を 止める」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身 形がある。〔江戸〕 用例(1)①江戸川乱歩『白髪鬼』(九三三)「わしの帰郷の最大目的は、過去の妻瑠璃子の息の根をとめることであったのだもの」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(九三)「息の根を止めたと思っていた荒尾がその後もしばらく生きていたため」(2)③幸徳秋水「社会主義と国体」(九三)「其人、若くば其主義、若くば其議論は、全く息の根を止められたと同様である」④三島由紀夫『禁色』(九三一三)「表現という行為は、現実にまたがって、そいつに止めを刺し、その息の根を止める行為だ」⑤朝日新聞』(九三九・二・三朝)「阪急の息の根を止めた山口への期待」 類句(1)「引導を渡す」「止めを刺す」「亡き者にする」(2) 「止めを刺す」 いきこ 意味息を抑えてじっとしている。注 息を凝らす 意して、あるいは緊張して何かに見入っ たりする時のさま。用法文型「ダレダレが息を凝ら す」「息をこらして~する」「江戸」 用例①福永武彦「忘却の河」(二六四)「確かに息を凝 らして鳩の動きを見詰めながら」②中上健次「鳳仙花」 <37> (二丸)「龍造は物音がしたというように路地の茶畑の方 を見て息をこらし」 類句 * 息を殺す」「息を詰める」「固唾を呑む」 いきころ 意味存在に気づかれないように、息を 息を殺す 抑えて物音を立てないでいる。また、非 常に緊迫した状況で、息を抑えているさま。用法文 型「ダレダレは息を殺して~する」(江戸) 用例①江戸川乱歩「人でなしの恋」(二六)「私は息を殺して、一段一段と音のせぬように注意しながら、やっとのことで梯子の上まで登り」②浜尾四郎『彼が殺したか』(二九九)「あわてて夜着を引っかついで床の中にもぐりこみ暫く息を殺して居たのです」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「室内はすべての動きが止まったように静まりかえり、三人の介者は息を殺すように財前の第一刀を待ち」④三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「信夫のかくれていた物置の中に、ふじ子がはいって来て、二人で息をころしてかくれたその時のことが」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「息を殺してひそんでいることは間違いない」 類句「息を凝らす」「息を詰める」「固唾を呑む」 外国語 英語では hold one's breath いきぬ 意味仕事・勉強や根をつめてやってい 息を抜く る途中で気分を変えるためにちょっと休 。用法文型「ダレダレが息を抜く」 用例①野間宏『真空地帯』(一九五三)「自分が全身の力をしぼって、みなが息をぬいているときでも、たえず気をくぱりながら動いていなければならないので」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「いいのよ、わたしだってすこしは息を抜かなくちゃ。いつも呉さんは御勉強でたいへんね」類句「息を吐く」「一息入れる」 いきの 意味予想もしていなかった恐ろしいこ 息を飲む とや困ったことに出会ったり、非常に美 しいものを見たりした時に、ひどく驚いたり感動したり して、一瞬声も出ない状態になる。「息を呑む」とも書く。 用法文型「ダレダレが息を飲む」。用例②⑤のように 「はっと」や「あっと」「思わず」などが「息を飲む」を修 飾することが多い。 用例①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇三)二人の見物は、 息をのんで耳をすました」②井上靖『闘牛』(一九四九)「津上 <38> は何気なく言ったのだが、さき子は、はっとして息をの んだ」③山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「裁判長の言葉 は鋭さを帯び、法廷は息を呑むように緊迫した」④朝 日新聞」(九四・二・四朝)「バッターボックスに立ち、獲 物をねらうヒヨウのような精悍さをみると、満場が息を のむ」⑤朝日新聞」(九一・二・九朝)「はっと息をのむほ どの美人が多い」 類句「声を飲む」「はっとする」「目を白黒させる」 外国語英語では場面が主語になって、take one's breath away いきひと 意味呼吸が止まって人が死ぬ。多 息を引き取る くはその死に立ち会う人がいる。直 接「死ぬ」ということを避けた丁寧な表現。用法文型 「ダレダレが息を引き取る」。まれに大きなペットや飼育 していた大きな動物などに使うことがある。用例③④の 「安らかに」「静かに」のように、穏やかな死に方に言う ことが多い。「江戸」 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(九六)「跡の肥立ちが 非常に悪く遂に六月十九日に息を引き取った」②浜尾 四郎『殺人鬼』(九三)「蘆田病院から千代が今息を引き 取ったという報告があった」③星新一『ボッコちゃん』 (九七二)「彼のうなずくのを見て、安らかに息を引きとっ た」④朝日新聞』(九九・七・三朝)「海ちゃんは四年前、 父が海外に旅立った直後、静かに息を引きとった」 * きせき * 類句「息が切れる」「帰らぬ人となる」「鬼籍に入る」「世 を去る」「外国語」英語では breathe one's last いきふかえ 意味呼吸が止まっていた者が再び 息を吹き返す 呼吸をし始めることから転じても うだめと思われた状態に陥っていた人・会社・組織など が再び盛り返す。また意識が戻る。用法文型「ダレ ダレが息を吹き返す」(江戸) 用例①辻邦生『北の岬』(九七)「あたしが息をふきか えしたのは階下の居間のソファの上だった」②「倒産寸 前だった会社が息を吹き返した」 類句「気がつく」 外国語 英語では come to life 異彩を放つ いさいはな 意味「異彩」は周囲と違った目立っ た色彩のことから、人・事物が他とは 違って目立ってすぐれている、際立っている。用法 文型「ダレナニが異彩を放つ」「ドコドコに異彩を放つ」 <39> 「ダレダレの中で異彩を放つ」。文末では「~ている」形で用いられることが多い。 用例①東野圭吾「宿命」(一九九〇)「すごいのは勉強だけではなかった。どんなスポーツをやらせても、いつも無難にこなすのだった。(略)これだけ異彩を放つ瓜生だが」②森村誠一「人間の十字架」(一九九三)「高山の新たな名物として断然異彩を放っている」③高杉良『濁流』(一九九六)「チョゴリ風の純白ドレスに数珠状のネックレス。ドブネズミ一色に近いパーティ会場だけに、異彩を放っている」④岩城捷介『免職警官』(三〇三)「知的でユーモアに長け、酒が強く、スラリと長身の男黒崎祐司は、花輪が知る数多い男達の中で紛れもなく異彩を放っていた」 類句「精彩を放つ」「目に立つ」 外国語英語では outshine いざ知らず 意味あることを挙げて、それについ てはどうであるかわからないが。本来 は「いさ知らず」で、副詞「いさ」と感動詞「いざ」を混 同したもの。用法文型「ダレナニはいざ知らず」「ダ レナニならいざ知らず」。この句の後に来ることを強調 して言う。「室町」 用例①井上靖『氷壁』(一九六1五)「ザイルをアイゼンで踏むというようなことは、初歩者ならいざ知らず、玄人の場合はどうも考えられない」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六)「大きな汽船はいざ知らず、航海中の船は相当に騒々しいものだ」③朝日新聞』(一九七九・七・四朝)「敗戦直後、五等国時代の日本ならいざ知らず」④「言語』(一九一・八)「他の言語はいざ知らず、ことフランス語に関するかぎり、とても手ごわいものだと覚悟していただくために」 いざという時 とき 意味危険・決断などの重大な局面 に直面した時。用法文型「いざ というときには・の~」 用例①『朝日新聞』(一九七九・七・二朝)「乱用は混乱を招きかねない。あくまで、いざという時に使う」②『朝日新聞』(一九七九・七・四朝)「専門家なら、いざという時の消火用水不足の怖ろしさはわかっていたはずだ」 類句「いざという段」「さあという時」(外国語)英語では in a pinch;in case of emergency <40> 意味(1)わざと人を困らせたり陥れた 意地が悪い り不愉快にさせたりするさま。人の性 質が悪い。(2)物事の都合・具合がちょうど悪くなるさま 用法文型(1)「ダレナニは意地が悪い」「意地の悪いダレ ナニ」とも言う。(2)「意地の悪いことに~」「意地悪く~」 「室町」 用例(1)①源氏鶏太『男と女の世の中』(九六三)『そんな に意地の悪いことをいうなよ』『あなたこそ、意地悪で してよ』②三浦綾子『塩狩峠』(九六八)「その口調に、妙 に意地の悪いものを感じて」(2)③星新一『ボッコちゃん』 (九七)「いじの悪いことに、頭はさらに冴えてきて」 石に囓りついても 意味目的達成のためにはど んなに苦しくても我慢してや り抜くさま。用法文型「石にかじりついてもする」 用例①坂口安吾「魔の退屈」(九六)「本当の現実は「石 に囓りついても」生きられる性質のものであったかどう か」②源氏鶏太「見事な娘」(九五十五)「石にかじりつい ても、妹に金の無心をいってよこせないはずだ」③高杉 良「首魁の宴」(九八)「石に囓りついても吉田をなんと かしろ」 類句「雨が降ろうが槍が降ろうが」「否が応でも」「否でも応でも」「有無を言わせず」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても槍が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても槍が降っても槍が降っても槍が降っても」「理が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降って 意味周囲に反対されたり自分に不利 意地になる な状況になったりして、かえってそれ に逆らって自分の意見や行動をかたくなに押し通そうと する。用法文型「ダレダレが意地になる」。「意地に なってする」と言うことが多い。 用例行くことを反対されると意地になっても行って やろうと思う 類句「意地に掛かる」「意地を通す」「意地を張る」片 意地を張る」「我を張る」 石橋を叩いて渡る 意味用心の上に用心を重ね て慎重に物事を行うたとえ。 絶対に失敗や危険がないように気をつけすぎるほど気を つけて行う。用法文型「ダレダレは石橋をたたいて 渡る人」。さらに慎重なさまは「石橋をたたいても渡ら ない」と言う。江戸 <41> 用例①内田魯庵『社会百面相』(二九三)「お父さんは極 堅いのがお好きで石橋を叩いて渡る方だから」②山崎豊 子『白い巨塔』(一九三一五)「石橋を叩いても渡らぬほどの 臆病な性格であったが」 類句「駄目を押す」「念には念を入れる」「念を入れる」 「念を押す」外国語英語ではlook before one leaps 意地を張る いじは 意味人に逆らっても、あくまでもか たくなに自分の思い・考えを押し通そ うとする。相手を批判的に言う言葉。用法文型「ダ レグレが意地を張る」。用例②の「つまらぬ」のように 「意地」を修飾することが可能。(江戸) 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二九六)「なにも、意地 を張らなくたってよいのに」②高橋和巳『悲の器』(一九六三) 「いや、面倒だから、風呂に入るまではこのままでいい」 と私はつまらぬ意地をはった」 類句「意地に掛かる」「意地になる」「意地を通す」「片 意地を張る」 痛い所を突かれる 意味触れられたくないこと、 弱点などを相手から言われる。 用法文型「ダレダレは痛いところを突かれる」。「ダレ ダレが痛い所を突く」という能動形もある。 用例高杉良首魁の宴(二丸八(略)都銀で出版した ところがありますか。たとえばコスモ銀行はどうです か痛いところを突かれて、杉野は顔をしかめた」 痛い目に会う 意味自らが行った行為や相手の行 為から、辛く苦い経験や思いをさせ られる。用法文型「ダレダレが痛い目に会う」 用例①朝日新聞(た三・三六朝)外人補強では痛い 目にあったのが阪神②「市場拡大を図って海外進出し たが、痛い目にあって撤退した」 類句「痛い目を見る」「苦汁をなめる」(生活の上で苦し い経験をする)「苦杯をなめる」(試合などで負けて辛い経験 をする)外国語英語ではget burned 痛くも痒くもない 意味何をされようと、どう いうことになろうと、少しも 苦痛を感じない、全く影響がない、全く平気である。非 難・妨害などされてもという場合によく使われる。 用法文型「~ても痛くもかゆくもない」 <42> 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「お前さんが御免 になったってならなくッたッてこッちにやア痛くも痒 くも何ともない事たから」②『朝日新聞』(九四七・二・四朝) 「五十円では何ら制裁の意味をなさず、犯人は痛くもか ゆくも感じない」③大下宇陀児『虚像』(九五五)「最愛の娘 のお婿さんのために、それっぽっちのお金を損したって 痛くも痒くもないんじゃない」④『朝日新聞』(九六四・三・九 朝)「そんなものを盗まれたって、日本の六、七割のオー トバイをつくる私の会社としては痛くもかゆくもない」 類句「びくともしない」「平気の平左」「ものともしない」 外国語英語では couldn't care less (about) いた 痛くもない腹を探られる はら さぐ 意味 悪いこと、やま しいことがないのに、 他人の邪推や誤解からあれこれと疑われる。 用法 文型「ダレダレはダレダレに痛くもない腹を探られる」 常に受身形で用いられ、不愉快・迷惑というニュアンス を伴う。「痛くない腹を探られる」とも。「江戸」 用例 ① 徳田秋声『仮装人物』(九五三六)「葉子に感づか れて、痛くもない腹を探られるのも厭だったし」② 源氏 鶏太『三等重役』(九五二五三)「お互いにうっかり文句を 言って、痛くもない腹を探られるのは、面白くありませんからな」③石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「遺産の問題で、痛くない腹を探られるようなことがないでしょうから」④朝日新聞(一九六○四・五朝)「痛くもない腹をさぐられたくないなら、もっと核心に突っ込む迫力を示してほしい」⑤高杉良『人事権!』(一九九三)「会長が痛くもない腹をさぐられて、N証券に金玉握られてるなんて勘繰られるだけ損なんじゃないのか」 外国語英語ではbe suspected unjustly いたかゆ 意味一方をとれば他方に差し障りがあ 痛し痒し り、どちらにも決めかねる、あるいはど ちらにしても良い面と悪い面があって決めかねるさま。 またどう転んでも都合の悪い結果になるさま。用法 文型「ナニナニは痛し痒し」(江戸) 用例①獅子文六『青春怪談』(九五)「息子の緊縮主義 を賞められるのは、痛しカユしであるが」②「朝日新 聞』(九一五三朝)「強気に激励した同コーチだが、腹 のうちは痛しかゆしだったに違いない」③「朝日新聞」 (九一九三九朝)「痛しかゆし靖国維持募金」 類句「あちらを立てればこちらが立たず」 外国語英 <43> おじさ be a mixed blessing 英語では become natural to one 板に付く 意味役者が経験を積んで、演技が舞台 にしっくりとはまることから転じて、一 般に、経験を積んだり時間を経たりして、仕事・動作・ 服装などがいかにもしっくり合ったものになる。 用法文型「ダレダレはナニナニが板に付く」。文末で は多く「~ている」形で用いられ、用例②のように否定 形も「~ていない」となることが多い。 用例①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(九言)「潤一青年の山川 健作氏はお芝居がすっかり板について」②『朝日新聞』 (一盃七・二・一五朝)「実社会から絶縁された生活だけに知識 がイタについていなかったわけだ」③木村荘八『現代風 俗帖』(九三)「何気なくアロハを引かけても、いわゆる 『板に付く』までには、そこまで面相や体格均衡が洋化 しているとは云えない」④『朝日新聞』(九一・四・三朝)「や や横手からの投法が板につき、課題の制球力がついたの が大きい」⑤木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』 (一九五)「こちらでの暮らしがながいのか、そんな仕種も ぬけぬけとしたお世辞も、板についていた」 類句「様になる」「堂に入る」「年季が入る」 いた 意味心遣い・もてなし・サー 至れり尽くせり ビスなどが十分行き届いて、申 し分ないさま。用法文型「ナニナニは至れり尽くせ り」「至れり尽くせりのナニナニ」「室町」 用例①江戸川乱歩『恐怖王』(二三二三)「夏子のもてなしは、至れり尽くせりであった」②「朝日新聞」(二三六・五朝)「サービスの点では至れりつくせりなのに」③沢村貞子「貝のうた」(二六九)「今のように男女の性について、至れり尽くせりの解説をしてくれる本もなく」④「朝日新聞」(二九〇・七・五朝)「全く快適な住まいで、管理は至れり尽くせりであったという」⑤「朝日新聞」(二九一・四・三朝)「この国の社会保障は、日本人の目から見ると至れり尽くせりで」 類句「痒い所に手が届く」外国語中国語では成句 「无微不至」(すべての点で行き届いている、至れり尽くせり) いちばち 意味成功するかどうか運を天に任せて か八か 思いきってやってみる。うまくいくかど うかわからないが、勝負に出る。語源は賭博で、「一か <44> 罰か」(一かしくじりか)の意からとも、「丁か半か」の「丁」 「半」の字の上部をとったものともいう。用法文型 「一か八か~する」「一か八かの十二十二(賭け・勝負など)」 〔江戸〕 用例①尾崎紅葉『続金色夜叉』(八九八)「これでも女子 にしても極未練の無い方で、手短に一か八か決して了う 側なのでご御座います』②『朝日新聞』(九五○・六・七朝)「中 盤以後のことはその時になって考えようと、一か八かの ドカ貧主義で行った』③林房雄『息子の縁談』(九五四)「私 は一か八か、行けるところまで行ってみます』④『朝日 新聞』(九八三・五・一九朝)「広岡監督にとってもイチかバチか の賭けだった』⑤大沢在昌『悪夢狩り』(九九四)「牧原は 一か八かの攻撃にでた」 類句「当たって砕けろ」「のるかそるか」 外国語英 語では all or nothing いちじゅう 意味あることについて何から何ま 一から十まで ですべて、あらゆることにわたって すべてのことを強調して言う。用法文型「一から 十まで~」。副詞句として後ろの述語を修飾する。「安土 桃山」 用例①大沢在昌『天使の牙』(一九九七)「一から十まで腹 の立つ女だ」②「彼のことなら一から十まで知っている」 ③「家のことは一から十まで人任せだ」 類句「余すところなく」「ありとあらゆる」「細大漏らさ ず」「何から何まで」 意味一言も返す言葉がない。全く弁 解のしようがない。相手に言われたり しても認めるほかはないさまに言う。 用法 文型「ダレダレはナニナニに一言もない」「ダレダ レは~と言われて一言もない」「江戸」 用例①岡本綺堂『半七捕物帳 仮面』(一九一十三)「その ままに見過ごすとは何事であるかと、自分に重役方から さんざん叱られた。そう云われると、まったく一言もな い」②有島武郎『片信』(一九三)「自己の心情の矛盾に対し て、平らかなりえない心持ちの動くべきではないかとの 氏の詰問には一言もない」 類句「一敗地に塗れる」「ぐうの音も出ない」「ひとこと もない」「外国語」英語では There is nothing one can say (in one's defense) *中国語では成句「无话可说」 (言う言葉がない、返す言葉がない。「无」はない。「話」は言葉) <45> いちじばんじ意味ある人・組織などがやっている 一事が万事 ことの一つを見るだけで、その人・組 織の他のすべてのことも推量できること。あまり好まし くないことに言う。用法文型「一事が万事~」。後ろ に述語が来る。江戸 用例①織田作之助『聴雨』(九四三)「一事が万事、坂田 の対局には大なり小なりこのような大向うを唸らせる奇 手が現われた」②『朝日新聞』(三〇五・二・五朝)「外車に乗る ような高額所得者のリストが欲しかったのだ。一事が万 事だろう。新しい仕事に対するやる気は、みるみるうち にしぼんだ」③「一事が万事この調子で、先行きが心配」 一日千秋の思い 意味「千秋」は千年のこと。 一日が千年のように長く感じら れるということから、待ちこがれる思い。用法文型 「一日千秋の思いで待つ」。「一日千秋の思い」とも言う。 用例源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五三三)一日千秋 の思いで山村が東京で待っているだろう」 類句「今か今かと」「今や遅しと」「首を長くして待つ」 外国語中国語では成句一日三秋 一日の長 意味少し年上ということから忙して あることに関して知識・経験・技術な どが他よりも少し優れていること。出典は中国の『論 語』先進。用法文型「ダレダレはナニナニに一日の長 がある」「ダレダレに一日の長がある」 用例①佐藤春夫『わんぱく時代』(一九五八)「チームワークとしてはやはり一日の長のある新宮の子供たちの方が幾分すぐれているであろう」②「やはりベテランに一日の長がある」 外国語 英語ぐさ have been at it a little longer (than) いちなんさ 一難去ってまた一難 意味災難がどうやら去っ たと思ったら、また別の災 難がやって来ること。用法独立して使用が可。 用例江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三三)「一難去ってまた一難、追っ手を防ぐためにしめたドアが、かえってわれとわが身をとじこめる落とし戸となってしまった」 類句「前門の虎後門の狼」 外国語 英語では It's been one disaster after another <46> 意味とにかくまずそれが大切・肝 一はも二はも 要であると思い、また行動するさま 用法文型「一にも二にも」「一にも~二にも」と いう場合がある。副詞句として述語にかかっていく。 above someone 用例①徳永直『太陽のない街』(九六二九)「一にも二にも吾々の連盟を大きくすることが肝要だってんだ」②朝日新聞』(九九・二・三朝)「効果をあげるためには、一にも二にも合理性に立脚しなければならない」③池田弥三郎『郷愁の日本語』(九〇)「大学に進んで、国文科へはいってからは、一にも二にも折口先生であったから、先生の言いつけだけはよくまもった」 類句「いの一番」「何はさておき」「何を置いても」 いちまいうえ 一枚上 意味能力や技量が上である。用法文 型「ダレダレはナニナニではダレダレより 一枚上」。強調して「一枚も二枚も上」と言うことがある 用例「朝日新聞」(一九九六・三六朝)「打球の速さ、パワー ではやはり一枚上である」 類句「一枚上手」内田康夫『三州吉良殺人事件』(九二)「その点に関しては、警察より僕のほうが一枚も一枚も上手のつもりです」「役者が一枚上」外国語英語ではbe a cut いちまいか 一枚噛む 意味ある事柄に何らかの形で何人かの 一人として参画する。その中である役割 を担う。良いことにも悪いことにも使用。用法文型 「ダレダレがナニナニに一枚噛む」。用例①のような否定 形がある。 用例①森村誠一『新幹線殺人事件』(九0)「星村俊弥 はこの事件に一枚かんでいないのだろうか?』②「朝日 新聞」(九0・七・二朝)「全漁連(漁協の中央組織)の設立に 一枚かむ」③広山義慶『極悪ゆさぶり編』(九四)「ハイエ ナが一枚噛んでくれたら、鬼に金棒ですわ」 外国語英語では be a cut above someone いちまつふあん 意味ほんの少しの不安。用法 一抹の不安 文型「一抹の不安を抱く」「一抹の不 安がある」 用例①『朝日新聞』(一九○六・六・六朝)「疑問であり、なお 一抹の不安をかくしきれない」②梓林太郎『立山雷鳥沢 殺人事件』(一九九)「押しも押されもしない俳優でも、い つも一抹の不安を抱いているということです」 <47> 外国語 英語では a touch of anxiety 一目置く 意味相手の力量・知識・人格などが優 れていることを認め、敬意を持つ。 用法文型「ダレダレがダレダレに一目置く」。一目を置く」とも言う。用例②③⑤のように受身形でも使われる。⑥のように強調して「一目も二目も置く」とも言う。 江戸 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五三五三)「とても偉い技師でね。所長も副所長も、山村さんにだけは一目おいてるんだって噂です」②沢村貞子「貝のうた」(一九九)「常連の留置人たちから、一目おかれているらしい」③「朝日新聞」(一九八二・三朝)「プロからも『質量ともにプロ級』と一目置かれるほどの作家なのだ」④池田弥三郎『郷愁の日本語』(一九八二)「古書や古画の蒐蔵でも一家をなしていた人で、そういうことについては、叔父も一目を置くくらいの学識があった」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「中学でも高校でも、なみいる男子学生を押し退けて首席を貫いた。(略)男子学生に一目を置かれる状態には変わりはなかった」⑥本所次郎『閨閥』(三〇四)「磯貝親子は一目も二目も置かれる存在となっていた」 類句「頭か下がる」 外国語 英語では give someone due respect いちに 意味ある提示された事柄に対して、 一も二もなく ためらったり反対したりせずすぐに。 また、とやかく言わずにすぐに。すぐさま。用法文 型「一も二もなく~する」。副詞的に使い、後ろの「~す る」を修飾する。 用例①末広鉄腸『雪中梅』(八六)「藤井は一も二もなく承知したもの、」②尾崎紅葉『金色夜叉』(八九七九八)「こう一も二も無く奇麗にお謝絶を受けては、私実に面目無くて」③中勘助『銀の匙』(九三二五)「そうなるとこちらは一も二もなく降参してひたあやまりにあやまってしまう」④里見淳『多情仏心』(九三三三)「その場の気合で一も二もなく鈴江に軍配をあげ」⑤山崎豊子『白い巨塔』(九三五五)「敢えて自分の貴重な一票を捨てて退席した東の姿に、一も二もなく、参ってしまったわけですよ」⑥稲垣浩『日本映画の若き日々』(九六六)「一も二もなく断られてしまった」 外国語 英語では readily ; without hesitation <48> いちよくにな 一翼を担う 意味何人か、または複数の組織で やっている仕事や役割の大事な一部を 受け持つ、引き受ける。用法文型「ダレダレはナ ニナニの一翼を担う」。用例③の「重大な」のように 「一翼」を修飾することがある。 用例①「朝日新聞」(一丸六・二〇・三六朝)「世界九カ国にまじって、科学日本もその一翼をになうわけだ」②「朝日新聞」(一九〇・八・五朝)「日本は(略)中国とともに反ソ包囲網の一翼をになった」③「朝日新聞」(一九〇・三・四朝)「自動車は(略)そのふん囲気をかもし出す上での重大な一翼を担い始めたかに見えるのである」④高杉良「首魁の宴」(一九九八「稲村氏と言えば、経済四囲体の一翼を担う日商工の会長である」* 類句「双肩に担う」「一役買う」 いつかん お 意味 (1)活動写真で弁士が一巻の上 一巻の終わり せりふ 映の終わりに言う台詞から転じて、 続いてきた物事の結末がついてしまうこと。望みが全く なくなること。だめになること。(2)人が死ぬこと。俗っ ぽい感じ。用法文型「ダレナニも一巻の終わり」「~ たら一巻の終わり」 用例(1)①木村荘八『東京今昔帖』(九五三)「客席が畳から椅子場になったのは良いとしても『席亭』というコトバがそこの亭主たるニンゲンを呼ぶ名ではなく、建築物であるヨセそのものの名に受取られるに至って、よく云う『一巻の終り』だ」②山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「今度、なり損うたら、一巻の終りや」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九七三)「会社の総務部へ電話をかけられたら一巻の終りである」④『朝日新聞』(九八一・三・六朝)「今日は、攻めても攻められても一巻の終わりである」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「わっとこられたら、俺らでも一巻の終わりだ」(2)⑥「強盗も警官に撃たれて、一巻の終わり」 外国語 英語では It's curtains いっし 一糸まとわず 意味一枚の衣服も着ていないさま。 素っ裸のさま。用法文型「ダレ ダレは一糸まとわずする」「一糸まとわぬダレダレ」。 「一糸もまとわず」とも言う。 用例①川端康成『浅草紅団』(一九三〇)「靴下をはいただけ、 あとは一糸まとわぬ人魚の群──が、女学生の運動会の マス・ゲエムの写真」②野坂昭如『てろてろ』(一九三二)「一糸 <49> まとわず酷寒の候に酔いつぶれて、風邪もひかぬし 高杉良「首魁の宴」(一九九)「一糸まとわぬ綾が眼前にい る」 外国語 英語では starknaked *中国語では成句「一 丝不挂」(一糸まとわず) いっしみだ 一糸乱れず 意味行進や運営・団結などが秩序正 しく整然としているさま。用法文 型「ダレダレは一糸乱れず~する」「一糸乱れぬナニナ ニ 用例①「朝日新聞」(一九九六・三朝)「スーパー反対」派の一糸乱れぬ統制ぶりで週四回のデモを続けている」②「朝日新聞」(一九九九・九・一九朝)「全体としては整然と一糸乱れぬ群舞になっている」③「朝日新聞」(一九〇・三・二四朝)「構成員同士の横のつながりで目的に向かって事を運営する段になると、一糸乱れずというわけにはいかない」 外国語英語では in perfect order いつしょうふ 一笑に付す 意味相手の言ったことに対して、 笑って問題にしない、取り上げない、 馬鹿にして相手にしない。用法文型「ダレダレはナ 二十二を~と一笑に付す」。用例③④のように受身形がある。 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(九三)「この絵巻物を当局者に参考材料として見せましても、頭から一笑に付しているのでございます」②源氏鶏太『青い果実』(九五五)「勤めに出ることを、テイサイが悪いから、と反対する親たちの言葉を、それこそ、時代遅れだわ、と一笑に附したほどの娘たちなのである」③朝日新聞』(九九六三朝)「こんなことを言うと、男尊女卑と一笑に付されるだろうが」④朝日新聞』(九三・言朝)「素人考えと一笑に付されてしまうかもしれないが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(九三)「細野にかぎって…』と多くの会員は一笑に付したが」 外国語 英語では laugh (a thing) off *中国語では成句「付之一笑」(一笑に付す) 意味相手の攻撃・論難に力や言葉 で相手に反撃・反論してやり返す。 やられた相手を負かす。大勢をくつがえすほどの反撃で はないが、少しは相手をやっつけたというニュアンス。 「一矢報いる」とも言う。用法文型「ダレダレはダレ <50> ナニに一矢を報いる 用例①源氏鶏太『目録さん』(九五)「これで僕たちが目録さんに対して、一矢を酬いることが出来るし」②「朝日新聞」(九九・三・一朝)「国民大衆が役人天国に一矢をむくいたように見えた今回の総選挙」③直塚玲子「欧米人が沈黙するとき」(九〇)「外国人に説明すれば、彼らの一方的な日本人批判に、一矢をむくいることができるであろう」④「朝日新聞」(九一・九・八朝)「五戦全敗の若乃花に五年ぶりの対戦で一矢を報い、全勝を守った」⑤森村誠一「エネミイ」(三〇〇)「せめて妻を盗んでいる津田に一矢報いてやらなければ」 類句「逆ねじを食わせる」(攻撃や非難を受けた人が逆に 相手に反撃・反論を加える) いつせきとう 意味水面に石を投げて波紋を生じ 一石を投じる させることから、世間にそれでいい のか、またこうあるべきではないかなどと問題を投げか けて反響を巻き起こす。用法文型「ダレナニはナニ ナニに一石を投じる」。用例②のような「一石」と「投じ る」の間に語句を挿入するのはまれ。 用例 ① 朝日新聞 (一九七九·四·三六朝) 全電通勞組が個別 調停の主張を貫いたことは公企体の賃金のあり方に一石 を投じた」②『朝日新聞』(一九○・三・二九朝)「そのための一石 を日商総会の発言で投じたといわれている」③『朝日新 聞』(一九○・二○・三六朝)「この日の発言は、党内の憲法論議 に一石を投じそうだ」④高杉良『人事権!』(一九三)「一石 投じるのもおもしろいと思うが」 類句「波紋を投じる」「波紋を投げる」「波紋を広 げる」「物議をかもす」外国語英語では create a common いつせんかく 一線を画す 意味線を引いてはっきり境界をつけ ることから、人が態度をはっきりさせ て、主義主張や立場などが他者と同類ではないと区別を つける。また、ある物事が他の物事と質がはっきり違っ て同類とはみなせない。用法文型「ダレナニはダレ ナニと(は)一線を画す」。用例①のように受身形がある ①の「厳然たる」のように「一線」を修飾することが可能 用例①石川淳『葦手』(九五)「文章にあっては霊は霊 蠢は蠢と厳然たる一線が画されていて」②朝日新聞 (一九九・二・二〇朝)「公判と法務大臣(の権限)は一線を画す 関係にあるが」③「朝日新聞」(九〇・七・二朝)「総理大臣 <51> の選考は、単なる党内調整レベルとは、一線を画すべき ものである」④『朝日新聞』(一九三三・三朝)「新保守を掲 げ中道とは一線を画してきた新自クの新しい姿勢を示す ものと受けとれるが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三三 「趣味や意見や気の合う相手とは一線を画す」 外国語英語では draw a line (between) いつとうちぬ 意味「一頭地」は「一頭」と同じで 一頭地を抜く 他の人より頭ひとつ抜き出ているこ とから転じて、人またその人のもつ能力・勢力などが他 の人より目立って一段と優れている。出典は『宋史』蘇 しょく 軾伝。用法文型「ダレナニはダレナニの中で一頭地 を抜く」 用例①獅子文六『青春怪談』(九四)一等から三等までの全部の男性の乗客と、比較してみても、おそらく、彼が一頭地を抜くであろう』②内田康夫『三州吉良殺人事件』(九二)父親とはまるで異質の、積極果敢な性格は、百人あまりの社員の中で、一頭地を抜く存在として期待された』③森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「四人の若頭補佐中、津田の勢力が一頭地を抜いている」 う。「群を抜く」外国語英語では be by far the best; outshine others *中国語では成句「出人头地」(人に抜 きん出る、一頭地を抜く) 類句 一頭地をいだす 一頭地をぬきんず とも言 いっぱいく 一杯食う 意味うまく人にだまされる。相手のた くらみにひっかかる。「一杯喰う」とも書 く。用法文型「ダレダレが一杯食う」。多くは自分の ことについて使用。使役形「一杯食わせる」はうまくだ ますという意味。江戸 用例 ①高杉良『会社蘇生』(九七)「サンライト工機 にしても、小川商会のお先棒を担いでコスモス・グルー プに一杯くわせたようなものでしょう」②「だまされな いぞと思っていたのに、また一杯食った」 類句「一杯食わされる」 いっぱいく 一杯食わされる 意味うまく人にだまされる。 相手のたくらみにひっかかる。 「一杯喰わされる」とも書く。 用法文型「ダレダレが ダレダレに一杯食わされる」。 誰に一杯食わされたかを 明示する時に使用することが多い。「まんまと」などが 「一杯食わされる」を修飾できる。「一杯食わす」という <52> 能動形も使われる。〔江戸〕 用例①獅子文六『自由学校』(一九五〇)「みごと、一パイ 食わされたわ」②源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「うまう まと、左門に、一杯、食わされたような気がした」③朝 日新聞』(一九六〇・九・三朝)「増位山には、どうやら多くの人 がいっぱいくわされたようである」④藤田宜永『転々』 (一九九九)「こまっしゃくれた少年にまんまと一杯食わされ」 類句「一杯食う」「術中に陥る」「手に乗る」「外国語 英語では put one over on someone いっぱいちまみ 一敗地に塗れる 意味喧嘩・勝負・事業などで 再び立ち上がれないほどひどい 負け方をする。徹底的に打ち負かされる。出典は『史 記』高祖本紀。「一敗、地にまみれる」と読む。用法 文型「ダレダレが一敗地にまみれる」 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九三)「支倉の策戦が破 れて、一敗地に塗れたものと云わねばならぬ」②源氏鶏 太『天下泰平』(九五四五)「岡崎と争って、一敗地にま みれることになったら」③姉小路祐『刑事長越権捜査』 (九三)「たとえ一敗地にまみれようとも、捲土重来は必 ずできる」 いちごん 類句「一言もない」「ぐうの音も出ない」「ひとこともな い」外国語中国語では成句「一敗涂地」(一敗地にまみ れる) 居ても立っても居られない 意味心配事やうれ しいことなどのため に、心が落ち着かず、そわそわしてじっとしていられな い。多くは心配事に言う。用法文型「ダレダレは居 ても立ってもいられない」 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一九六)「あなたにアう して帰られては私等は居ても起ってもいられません」② 三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「(もしもこのまま父が死んで しまったら…)そう思っただけで、いても立ってもいら れなかった」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三) 「逆児というのは出産の時、足から出てくる。だから 大変生みにくい。失敗する率も多いという。だから居 ても立っても居られぬほど心配だった」④『朝日新聞』 (一九九·二·二七朝)「試験前夜、『いてもたってもいられなく なって』⑤森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「心配で 心配で、居ても立ってもいられなかったの」 類句「矢も楯もたまらない」外国語英語ではbe <53> quite impatient *中国語では成句「坐立不安」(居ても立ってもいられない、気がかりでじっとしていられない) 類句(1)「糸を操る」(2)「後を引く」「尾を引く」「影を落とす」(1)英国語(1)英語ではpull wires いとひ意味(1)操り人形を糸を引いて動かすよ糸を引くうに、陰でこっそり人を操って自分の思い通りに動かす。(2)影響・余波が後まで長く続く。用法文型(1)「ダレダレが糸を引く」。「裏で」「背後で「陰で」などが「糸を引く」を修飾することが多い。(2)「ナニナニが糸を引く」。用例⑤の「後悔の」のように「糸」を修飾して、どんな影響かを明示する。(江戸用例(1)①源氏鶏太「鬼の居ぬ間」(九五五)「このユウカイ事件の裏で、あんたが、糸を引いているに違いない」②山崎豊子「白い巨塔」(九六三六五)「菊川候補のうしろから東都大学の船尾が糸をひいているとすると、こりゃあちょっと問題ですな」③森村誠一「エネミイ」(三〇〇)「どうやら背後で卑弥呼が糸を引いている気配では」④広山義慶「私刑警察激弾!」(三〇二)「陰で糸を引いてるのは松尾田さんですよ」(2)⑤石坂洋次郎「光る海」(九六三六三「もしあなたが、一時的な情熱にひかれて、長く後悔の糸をひくかも知れない冒険を、おたがいの良識でやめることにしたら」 イニシアチブを取る と 意味英語 take the initiative の訳語。ある人(組織)が多数の人(組織)の先に立って物事全体を進め導く。また主導権を握る。用法文型「ダレダレがナニナニのイニシアチブを取る」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身形がある。③のように「イニシアチブを」と「取る」の間に語句を挿入することができる。⑤の「積極的な」のように「イニシアチブ」を修飾することが可能。 用例①倉田百三『青春をいかに生きるか』(一九六八)すべての事態にイニシアチブをとって反応する主我的指導性が萎えて行く傾向がある』②『朝日新聞』(一九四七・五・八朝)「アメリカの値下げ運動は、消費者がイニシアチブをとった』③『朝日新聞』(一九五六・八・九朝)「日本降伏のイニシアティブをソ連にとられたくないばっかりに』④石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇-六二)「その幼馴染と君との長い交際では、どっちがイニシアチブをとっていたのだい?』⑤『朝日新聞』(一九六三・五・三朝)「六月の第二回国連 <54> 軍縮特別総会では被爆国の首相として核兵器廃絶のため に積極的なイニシアチブをとるよう申し入れることを 申し合わせた」 * いちばん 意味「いろは」順の一番先であるとこ いの一番 げそくふだ ろから、または下足札の最初が「いの一」 であったところから。ある人が何かする時、一番初め。 また何人かいる中で何かをする時、一番初め。まっさき 用法文型「いの一番に~する」 用例①夏目漱石「模倣と独立」(九三)「この学校が出来て最も新らしい所へいの一番に乗り込んだ者は私」②岡本一平『マッチの棒』(九五)「俺が貴様の画をイの一番に買ってやるって言ったとさ」③石坂洋次郎『あいつと私』(九六〇六二)「黒川三郎がイの一番に手を上げた」④北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(九六〇)「私はY氏にイの一番に銃器店に連れていってもらって」⑤森村誠一『誇りある被害者』(九六六)「翌朝出勤した大上は、いの一番に件のスクラップ帳を繰った」 類句「一にも二にも」「何はさておき」「何を置いても」 命からがら 意味何とか命だけは失わずにやっと のことで逃げ出すさま。自分の命を守 るために取る物も取りあえず、あわててかろうじて逃げ 出すさま。用法文型「命からがら~する」。副詞とし て「逃げ出す」「逃げ帰る」「脱出する」などの動詞を修飾 することが多い。(江戸) 「用例①向田邦子「字のない葉書」『家庭画報』(二九六・七) 「ところが三月十日の東京大空襲で、家こそ焼け残っ たものの、命からがらの目に逢い」②『朝日新聞』 (二九九・七・五朝)「命からがらボートで逃げてくる人だと見 て」③内田康夫『若狭殺人事件』(二九三)「引揚者はほとん どが着の身着のまま、生命からがら—という人が多く」 外国語英語では escape with bare life 命の洗濯 意味日頃の苦労や煩わしさから解放されて、心がすっきりするほど、また命が延びるほど休息を楽しむこと、気晴らしをすること。 用法「命の洗濯をする」と言うことが多い。江戸 用例野呂邦暢「草のつるぎ」(一九三一志)「せいぜい札幌 にでも出て命の洗濯せえよ」 外国語英語ではrecreate oneself <55> いばらみち 意味英語a thorny pathの訳語。苦難の 茨の道 多い人生。困難な道を歩んできた人生。ま た比喩的に困難な道。用法文型「ナニナニはいばら の道だ」「ダレダレはいばらの道を~する」。「~する」に は「歩く」「歩む」など「道」と結びつく動詞が来る。 用例①長谷川時雨『近代美人伝』(三六三)「美しい女優 たちは、自分たちの前にたって、 ひらいた女の足許に平伏して」②石坂洋次郎『光る海』 (二九三「三三」「先駆者は常にイバラの道を歩くのだ」③朝 日新聞』(二九五・七・七朝)「大統領がどこまで国民を引っ 張っていけるか。その賭けはいばらの道であるに違いな い」④朝日新聞』(二九五・二〇・二五朝)「日本の社会制度では それがないとイバラの道です」 外国語 英語では a thorny path いひよう 意味相手が思ってもみなかったこと 意表を突く をして驚きあわてさせる。用法文 型「ダレダレはダレダレの意表を突く」。「意表を突 く(ような)十二十二」。用例④のように受身形がある。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「優れた外科医 なら当然、持っていなければならぬ人の意表をつくよ うな豊かな想像力がないように見受けられます ②新田 次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「それはまことに突飛 であり、徳島大尉の意表を突く質問であった」③内田康 夫『博多殺人事件』(一九二)「意表を衝くような電撃策戦 で」④志村けん『変なおじさん』(二九八)「『意表を突かれた そう来たか』とびっくりする笑い」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「裏をかく」「度 肝を抜く」「一泡食わせる」「一泡吹かせる」 外国語(英語では catch someone off balance ; take by surprise 今か今かと 意味物事の実現をまだかまだかと期 待して待つさま。用法文型「ダレ ダレが十二十二を今か今かと待つ」。「待つ」などの述語 にかかっていく。奈良 用例①宮本百合子『貧しい人々の群』(二九六)「三人の 男の子が炉辺に集って、自分等の食物が煮えるのを、今 か今かと、待ちくたびれている」②夢野久作『白髪小僧』 (二九三)「村同士の人々も皆その婚礼の日が来るのを楽し みにして今か今かと待ちかねていましたが」③「戦争の ない社会を今か今かと待ちわびる」 <56> 類句「一日千秋の思い」「今や遅しと」「首を長くして待 っ」 今や遅しと 意味物事の実現を何と遅いことかと いらいらして待ちかねているさま。もっ と早く実現して欲しいと待つさま。用法文型「ダレ ダレはナニナニを今や遅しと待つ」「室町」 用例①菊池寛『忠直卿行状記』(九八)「攻擊の令の下 るのを今や遅しと待っていた」②海野十三『三角形の恐 怖』(九七)「細田氏の姿が現われるのを今や遅しと待っ ていました」③「観衆はランナーが現れるのを今や遅し と待っている」 類句「一日千秋の思い」「今か今かと」「首を長くして待つ」 外国語英語ではbe raring to いもこあら 意味サトイモを桶に入れて 芋の子を洗うよう かき回して洗うようにある 空間が大勢の人で混雑しているさまのたとえ。人出の多 さに言うことが多い。用法文型「いもの子を洗うよ うなナニナニ」「ドコドコはいもの子を洗うようだ」 用例①「朝日新聞」(たぞ・三・五朝)「うららかな動物 園の、それもできれば芋の子を洗うような雑踏の中』② 『朝日新聞』(一九一・七・二四朝)「イモの子を洗うような満員 の民間プールに行きました」 類句「いもを洗うよう」とも言う。「上を下への大騒ぎ」 「押し合いへし合い」「押すな押すな」「蜂の巣をつついた よう」 いもあら 芋を洗うよう 意味「いもの子を洗うよう」に同 じ。用法文型「いもを洗うよう なナニナニ」「ドコドコはいもを洗うようだ」 用例①瀬戸内晴美『女徳』(九三)「観光シーズンで、土、 日は、芋を洗うようだというこのあたりも」②『朝日新 聞』(九一三九朝)「遠泳(三・八キロ)は『イモを洗うよ うな』スタートから始まり」 いやが上にも 意味すでにそうであるのに、ます ます。良いことにも悪いことにも使 用。用法文型「いやが上にも~」。副詞的に「盛り上 がる」などの述語を修飾する。 用例①朝日新聞(一九九七・二〇朝)五花街の総見など もあって、いやが上にも古都歳末の気分が盛り上がる」 <57> ②「朝日新聞」(一九0・10・一九朝)「あの戦争の悲惨さをな まの形でスポーツの場に再現することは、今回の国体を いやが上にも暗い暗いイメージに包み込んでしまった」 けんせい ③東野圭吾『卒業』(一九六)「牽制のやりあいで、いやが うえにも緊迫感が盛り上がる」④姉小路祐『走る密室』 (一九四)「朝日は、いやがうえにも緊張を覚えた」 嫌気が差す 意味何かを続ける気がなくなったり、 悲観的な気分になったりする。嫌だと 思う。嫌になる。用法文型「ダレダレはダレナニに 嫌気が差す」。「いやきがさす」とも言う。 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(九三)「自分の役割に嫌気がさしていたのである」②野坂昭如『てろてろ』(九三)「腐敗しきった議会民主主義、官庁汚職、重税にいや気のさした国民も」③「飲んだら暴力をふるう夫に嫌気が差して家を飛び出した」 いやおう 意味承知でも不承知でも、好むと 否でも応でも 好まないとにかかわらず、何として も。義務的あるいは強制的、むりやりにあることをしな ければならない、あるいはさせられるさま。用法「否 でも応でも」の後ろに「ねばならない」や「てもらう」の ような言葉が来ることが多い。自分または相手について 言う。「室町」 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(二四)「寿代さ んの問題も今は猶予がならぬ。否でも応でも今日は最後 の話をつけて来なければならぬ」②夏目漱石『私の個人 主義』(二五)「否でも応でも此所へ顔を出さなければ済 まない事になりました」③江戸川乱歩『吸血鬼』(二三〇 三)「風船につかまった賊は、いやでも応でも、一尺ずつ 一尺ずつ、敵の手中に、たぐり寄せられて行った」④夢 野久作『ドグラ・マグラ』(二三五)「彼奴、若林は嫌でも 応でもその著述の中に、この遺言書を組み込まなければ 研究発表の筋が立たなくなるわけだ」 類句「否が応でも」とも言う。「雨が降ろうが槍が降ろうが「有無を言わせず」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 外国語 英語では whether one likes it or not 嫌と言うほど 意味もうそれ以上はいらないというほど、嫌になるほどいっぱい。また、嫌になるほど程度がはなはだしく。用法文型「嫌 <58> と言うほど~する」。用例④のように受身形が述語になることがある。「室町」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(九六)「罪なら、今ま でも、いやというほどつくっていらっしゃるじゃありま せんか?」②『朝日新聞』(九六・二・八朝)「私たち老人は 戦争ばかりをいやと言うほど経験して来ました」③『朝 日新聞』(九六・二・五朝)「北の湖のキャリアをいやという ほど見せつけ」④「その話はいやと言うほど聞かされた」 意味次々に絶え間なく人(物)が現れるさま。ひっ another 人(物)力現れるさまひこ きりなしに人が出入りするさま。用法文型「ダレナ ニが入れ替わり立ち替わり~する」。副詞的に述語「現 れる」「来る」「入る」などを修飾する。 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(九六〇)「妖怪変化のたぐいばかり入れ替わり立ち替わり現われるのよりはマシかも知れぬ」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(九九八)「入れ替わり立ち替わり役人を接待していた」③「家に若い男女が入れ替わり立ち替わり入っていった」 類句引きも切らず外国語英語ではone after 色を失う 意味思いがけないことに対する驚きや 恐怖などで顔が真っ青になる。用法 文型「ダレダレが色を失う」鎌倉 用例①三島由紀夫『禁色』(二五二五三)「お姑さま、と 女は言った。南未亡人は色を失って、女を見上げた」② 三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「客車が暴走し、誰もが色を 失い」 類句「顔色を失う」「血の気が引く」 外国語英語で は turn pale 色を付ける 意味商売で相手のためにいくらか値 引きしたり多めに盛ったり景品をつけ たりする。またお金を少し余分に出してやる。いずれも 相手の事情を考えて相手が喜ぶようにちょっと増やした り減らしたりする。用法文型「ダレダレが十二二 に色を付ける」(室町) 用例①高杉良『人事権!』(一九三)『六十五万円です。 わたくし共に持たせていただきます』当たりまえやがな なんぼ色つけるのや』②「お得意さまですから、値段に <59> 色を付けてあります③予算回答に色を付けておこう 外国語 英語では make it more attractive いろ 色をなす 意味怒って顔色を変える。激怒するさ ま。その際、目つきも鋭くなり、頬もふ るえることがある。用法文型「ダレダレはダレナニ に色をなして怒る」〔平安〕 用例①東野圭吾「仮面山荘殺人事件」(一九九)「日頃穏やかな伸彦にしては珍しく色をなしていると高之は思った」②高杉良「指名解雇」(一九九七)「佐々木は色をなした」③「彼は大臣の答弁に色をなして怒った」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発 する」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」 「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」「烈火の如 く」外国語英語では turn red (with anger) い 言わぬが花 意味あからさまに、またははっきり と言わなければ、相手の興味や期待を 壊さないで済んだり差し障りが生じたりしないから、そ のほうがいいということ。用法文型「ナニナニは言 わぬが花」(江戸) 用例源氏鶏太『若い仲間』(一九五九六〇)『どういうお方でしょうか。』『まア、それは、いわぬが花であろうな。』 外国語英語では It's better left unsaid けっ 意味思い切って意志を定める、決心 意を決する する。決意する。用法文型「ダレ ダレは意を決してする」 用例①中上健次「鳳仙花」(一九○)「フサが意を決 し、龍造に会いに警察に行ったのは」②「朝日新聞」 (三〇五・三・三六朝)「以前、有名な温泉に行ったら、男湯の 源泉が『混浴可』でした。意を決して入ると、数人の男 性が女性を見ようとして浴槽の外に座っていました」 類句「腹を固める」「腹を決める」「腹をくくる」「ほぞを固める」 異を立てる 意味人の意見・考えに反対して別の 意見・考えを主張する。異議を唱える。 用法文型「ダレダレは十二十二に異を立てる」 用例①朝日新聞(一九五七・二・五朝)異を立てたらあと がこわいのだろうが②『言語生活』三一〇号(一九七七)「ま た異を立てることになっちゃいますが」 <60> 異を唱える 意味「異を立てる」に同じ。用法 文型「ダレダレはナニナニに異を唱え る」 用例「彼はライバルの意見に異を唱えた」 いんがふく 意味やむを得ない事情をよく説明 因果を含める して言い聞かせ納得させる、あきら めさせる。相手がいやなことはわかるが、どうしても こうしなければならないと言い聞かせる。用法文型 「ダレダレはダレダレに因果を含める」。「因果を含めて あきらめさせる」ということが多い。用例②のように受 身形がある。〔江戸〕 用例①源氏鶏太『颱風さん』(一五二)「うまく因果をふくめてあの持て余し者を首にしちまい給え」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「主治医の先生からとても難しい手術だからと、因果をふくめられておりましたのに」③高杉良『人事権!』(一九三二)「室長から因果を含めて話していただけませんか」 いんどうわた 意味(1)仏教で死者を葬る際に悟りを 引導を渡す 開いて仏のもとへ行けるように経を唱 えて導く意から転じて、物事の決着をつけるために最終 的な宣告をしてあきらめさせる。(2)相手がまもなく絶命 するようなことをする。用法文型「ダレダレがダレ ダレに引導を渡す」(江戸) 用例(1)①源氏鶏太『青空娘』(一九五六—五七)「要するに、有難迷惑なのよ。そのうち、きっぱり、引導をわたしてやるわー(2)②「心臓を突き刺して引導を渡してやる」 類句(2)「息の根を止める」「止めを刺す」「亡き者にする」外国語(1)英語では give someone the (final) word いんよう 意味人の行為や物事が、ある時はひそ 陰に陽に かに、ある時は公然と行われるさま、影 響するさま。用法文型「陰に陽に~」。副詞的に使用 し、後ろの述語を修飾する。 用例①石坂洋次郎『青い山脈』(一盃も)「この事件で、 陰に陽に生徒をあおって来た田中教師が」②『朝日新聞』 (一九七・七・四朝)「いずれも陰に陽に、広告業者が活躍し ての成果だった」③『朝日新聞』(一九七・九・三朝)「こんな <61> 環境が子どもの人格形成に陰に陽に影響を与えます④ 「朝日新聞」(一九三・一・六朝)「人事問題が陰に陽に絡んでく るのは間違いなさそう」⑤本所次郎『閨閥』(三〇四)「とく に陰に陽に小林中の舎弟的な恩恵を受けたからである」 *かげひなた 類句「陰になり日向になり」(外国語)英語では every chance one gets あわてふためくさま。 用法文型「ドコドコは上を下 への大騒ぎ」。ドコドコは「家中「町中」などある地域・ 場所を限定する言葉。「江戸」 用例源氏鶏太『三等重役』(一五一五三)「この記事が、全 市の話題になったことはいうまでも無いが、殊に、南海 産業では上を下への大騒ぎであった」 類句「いもの子を洗うよう」「いもを洗うよう」「押し合 いへし合い」「押すな押すなの」「蜂の巣をつついたよう」 憂き身をやつす 意味やせ細るほどあることに熱 中する、夢中になる、専念する。 たんでき 耽溺する。相手を批判するニュアンス。用法文型 「ダレダレがダレナニに憂き身をやつす」。ナニは道楽・ 恋・研究など。「江戸」 <62> 用例源氏鶏太『三等重役』(五五一五三)「プロ野球みたい に加島君の引き抜きに憂き身をやつしているとは、実に 情け無いことです」 類句「うつつを抜かす」「血道を上げる」「熱を上げる」「熱を入れる」「外国語」英語では devote oneself to ; be absorbed in 有卦に入る うけい 意味「有卦」とは陰陽道で、幸運の意 有卦に入ると七年間幸運が続くという ことから、転じて、幸運に恵まれて調子づく。また単に 調子に乗る。用法文型「ダレダレが有卦に入る」「江 戸 用例石坂洋次郎『何処へ』(九畳)清水氏は有卦に入った時の特徴として、口の先に泡を沸かせ」 類句「付きが回る」「芽が出る」 外国語 英語では enjoy a run of (good) luck うごたけのこ意味雨の後にはタケノコが次々と 雨後の 生えるように、同じような物事が次々 に出現することのたとえ。その物事をあまり肯定的(プ ラス評価)にとらえていない。用法「ナニナニが雨後 の筍のように(如く)とたとえに使用。 用例①角田喜久雄『高木家の惨劇』(九七)「終戦後雨 後の竹の子の如く続出した喫茶兼酒場の一つ」②「朝日 新聞』(九五三・五・九朝)「ボスども待ッテマシタとばかり雨 後のタケノコの如く自然発生」して」③「朝日新聞」 (九0・三・三九朝)「昨今雨後のタケノコのような観のある 文化教室の」④「朝日新聞」(九一・三三朝)「雨後のタケ ノコのように成長中の米予備校産業」 外国語 英語では like mushrooms after a rain *中国語では成句「雨后春笋」(雨後の筍。直訳すれば「雨後の春の筍」) 後ろ髪を引かれる 意味ある所から離れる時、 そこにいる人や事柄などが気 がかりで未練が残って去りがたいさま。用法文型 「ダレダレは後ろ髪を引かれる(思い)」(室町) 用例①二葉亭四迷『其面影』(九六)「心は後髪を引かれるように思いながら」②徳田秋声『仮装人物』(九三十三)「潔くここを引き揚げたい気持もしながら、やっぱり思い切りが悪く、後髪を引かれるのであった」③朝日新聞(九三・三・三・朝)「妻や子ども、赤ん坊をもち、後 <63> ろ髪を引かれながら、黙々と戦場に行かされた無数の老 兵がいる」④『朝日新聞』(一九九・二・六朝)「共働きの女 性だって、子供に後ろ髪をひかれる思いで、さして生 きがいにもならない外に出ていく」⑤高杉良『指名解雇』 (一九九)「EDSの仕事が面白くなってきたところなので、 いまリタイアするのは、うしろ髪を引かれる思いです」 外国語英語では with painful reluctance 後ろ指を指される 陰で他人(世間の人々一般)から非難される。用法文 型「ダレダレがダレナニに後ろ指を指される」。用例② のように「ダレナニから」ということもある。「後ろ指を 指す」は、背後から非難する、陰で悪口を言う意。「室町」 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(二八九七九八)「人に後指を 差されず、罪も作らず、怨も受けずに」②『朝日新聞』 (二九〇・二・五朝)「政治を浄化し、世間から後ろ指をささ れない決意」③『朝日新聞』(二九一・三・三朝)「人に後ろ指を さされるようなことがあっては。母に申し訳ないと」④ 内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(二九九七)「この分なら街 を歩いても、後ろ指を指される心配はしなくてすみそう 類句「陰口を利かれる」「陰口をたたかれる」 外国語 英語では make people talk だ 薄紙を剥ぐよう 意味薄紙を一枚一枚はいでい くように、物事が少しずつはっ きりしてくること。特に病状が少しずつ良くなっていく ことのたとえ。用法文型「薄紙を剥ぐようにする」 「~する」には「良くなる」などの語句が来る。「江戸」 用例西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(100)「毎日一杯 ずつ飲んでいたら、文字通り、薄紙を剥ぐように、日ご とに、身体が軽くなって、こうして、退院できたんです」 類句「薄紙をはがすよう」とも言う。 うだっあ 意味「うだつ」とは梁の上に 梲が上がらない むなぎ 立てて棟木を支える柱「うだ ち」のことで、棟木に押さえられているように見えると ころから、上から押さえつけられてさっぱり出世しない 生活が向上しない、目立たずぱっとしない。用法文 型「ダレダレはうだつが上がらない」「うだつの上がらな いダレナニ」。「さっぱり」「あまり」のように程度を表す <64> 副詞が「うだつが上がらない」を修飾することが多い。 用例①篠田鑛三『明治百話』(三馬、一九、馬 琴、京伝を真似ていたのでは、ねっからウダツがあがら ない」②源氏鶏太『三等重役』(二五二五三)「近ごろの青菜 君は、良人としても、さっぱりウダツがあがらないらし い」③沢村貞子『貝のうた』(二九六九)「帝劇ではさっぱりう だつが上がらず」④夏目志郎『説得上手の会話術』(二九二) 「うだつのあがらない一生で終わってしまいます」⑤内 田康夫『坊っちゃん殺人事件』(二九九七)「ちっぽけな薬屋 などという、あまりうだつの上がらない家に」 外国語英語では never get 21 うつつぬ 意味好ましくないくだらない・非生 現を抜かす 産的)と思う人・物事に心を奪われて、 夢中になる。人を批判的に言うニュアンス。用法文 型「ダレダレがダレナニにうつつを抜かす」。ナニは用 例④⑤のようにギャンブルやゲームなど好ましくないと 思うこと。〔江戸〕 用例①内田百閒『贋作吾輩は猫である』(一九四九)「羅迷 なぞがうつつを抜かすマネキン娘だ」②稲垣浩『日本映 画の若き日々』(一九七八)「私は浅草金竜館のオペラファン となた。田谷力三、清水金太郎、清水静子、安藤文子、 木村時子などにうつつを抜かして通いつめることとなっ たのも」③『朝日新聞』(一九三・三・三朝)「それにうつつを 抜かしている体質につくづく情けなくなった」④内田康 夫『若狭殺人事件』(一九三)「パチンコやファミコンゲー ムにうつつを抜かすよりは、いくらかましかな」⑤森村 誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九三)「ギャンブルにう つつを抜かして金に詰まっていた私は」 類句「憂き身をやつす」「血道を上げる」「熱を上げる」 「熱を入れる」「外国語」英語では be addicted to 腕が上がる 意味人が手でする技術・武芸などが 以前より上達する。腕前が上がる。 はナニナニの腕が上がる」 用法 文型「ダレダレは十二十二の腕が上がる」 用例①夏目漱石『文芸委員は何をするか』(一九二)果 して日本の画家があの位の刺激に挑発されて人工的に向 上したとすれば、彼らは文部省の御蔭で腕が上がると同 時に」②高杉良『人事権!』(一九三)「月に一度か二度で腕 が上がるはずがない」 類句「手が上がる」 <65> うでた 腕が立つ 意味技術・技量・腕前がすぐれている 用法文型「ダレダレは腕が立つ」「腕 (の)立つダレダレ」 用例高杉良『会社蘇生』(一九七)会社更生法に慣れた、 しかも腕の立つ公認会計士を選定するのは」 うでな 意味自分の腕前や腕力・能力に自信が 腕が鳴る あり、それを早く見せたくて、発揮した くて、むずむずする。用法文型「ダレダレは腕が鳴 る」 用例①佐々木味津三『続旗本退屈男』(一九三九三)「今朝など、腕が鳴ってならぬと申していたゆえ、望みにまかせて、腕ならしさせてつかわそうぞ」②「対戦相手が決まり、今から腕が鳴る」 腕に覚えがある 意味以前身に着けた技術・能 力や腕力に、自信がある。 用法 文型 ダレダレは十二二なら腕に覚えがある 江戸 し ② 柔道なら腕に覚えがある 用例①有島武郎『かんかん虫』(九二)「イフヒムは見 た通りの裸一貫だろう。何一つ腕に覚えがあるじゃな うでよか 意味料理など腕前を十分発 腕に縒りを掛ける 揮しようとして張り切る。技 術を尽くす。用法文型「ダレダレが腕によりをかけ てする」。命令・意志表現は可能。「江戸」 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五十三)「賄頭 たる者は、もっと腕にヨリをかけて貰いたい」②獅子 文六「青春怪談」(一九五四)「あたしも、腕にヨリをかけて 商売をするところを」③高杉良「会社蘇生」(一九八七)「志保 子と沙織が腕によりをかけた心づくしのテリーヌ」④東 野圭吾「仮面山荘殺人事件」(一九九〇)「俺の親友は和風ス テーキを所望している。腕によりをかけて焼いてやって くれ」 類句「腕を振るう」 ひび 意味一方が何かを言えばすぐに理解 しての確な返事をしたり反応を示した りするさま。 用法「打てば響くような答え」「打てば 響くように答える」などと言うことが多い。「室町」 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五三三)「まっ <66> たく、そうでありますなア。と、打てば響くように合槌を打ったのは」②『朝日新聞』(二九九・六・三朝)「(略)と書いたら、打てば響くように第二信が舞い込んだ」③夏目志郎『説得上手の会話術』(二九二)「打てば響くような話し方がよいと思い込んでいる人は」④関楠生『わんぱくジョーク』(一九二)「ミルクホールででぶのクルトが文句を言った。『この牛乳は水っぽいぜ』打てば響くようにウエートレスが答えた」⑤森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「打てば響くように住人が答えた」 類句「気心が知れる」「心が通う」「ツーカーの仲」 * ツーと言えばカー うでふ 意味料理など持っている技術や能 腕を振るう 力・手腕を思いのままに発揮する。 用法文型「ダレダレが十二十二に腕をふるう」。用例 ③のように可能動詞形がある。 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「会員の熱望する家庭料理は栄子さんが腕を揮ってつくってくれる」②東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「さあ、そうと決まったら腕をふるってもらおうか。料理長はあんただな?」③『朝日新聞』(三〇五三三三朝)「EXPO70の後に国 家的規模で腕を振るえる程のプロジェクトは生まれな かった④「彼が会社再建に大いに腕をふるった」 類句「腕によりを掛ける」 外国語 中国語では成句 「大显身手」(大いに腕を振るう。「显」は発揮する。「身手」は 技量、腕前) うでみが 意味仕事の能力、職人の技術や武芸な 腕を磨く どを一層すぐれたものにするために習練 する、鍛える。用法文型「ダレダレが腕を磨く」。命 令・意志表現は可能。 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九三三六)「美人女給の 一人として、生活のスタアトを切って以来、ずっと一本 立で腕を磨いて来ただけに」②高田保『第2ブラリひょ うたん』(一九五〇)「芸術家なら芸を磨くというところだが、 職人ならウデを磨くとなるわけか」 頃句「宛こ磨きをかける一 類句「腕に磨きをかける」 うめたかめ 意味鵜や鷹が獲物を鋭い目つきで 鵜の目鷹の目 ねらうように、人が一生懸命に何か を探し見つけ出そうとする目つきや態度。用法文型 「ダレダレが鵜の目鷹の目でダレナニを探す」「室町」 <67> 用例①『滑稽界』一八号(一九九)「鵜の目鷹の目で対手を探すのだそうで」②尾崎士郎『空想部落』(一九三五)「次々とアンナンからやってくる刺客は鵜の目鷹の目でおれの居どころを探そうとしてあせっているんだからな」③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九五)「鵜の目鷹の目で掘り出しものをさがしたコレクターたちは」④姉小路祐『汚職捜査』(三〇〇)「この区の湾岸開発もなかなかのものですよ。建設業界は、鵜の目鷹の目で狙っています」 類句血眼になる外国語英語ではwith sharp eyes 旨い汁を吸う 益を得る。用法文型「ダレダレがうまい汁を吸う」 用例①獅子文六てんやわんや(九四八四九)鬼塚先生 は私を通じて、うまいことをする計画だったらしい。事 実、大分うまい汁も吸ったようである」②武田泰淳「風 媒花」(九五三「自分の掌を血に染めないで、うまい汁を 吸う奴らを憎みますよ」③木谷恭介「京都木津川殺人事 件」(九九八「江藤と組んで美味い汁を吸ってきたんやな いか④うまい汁を吸おうと狙っている奴がいる 類句「甘い汁を吸う」「甘い汁をすする」「私腹を肥やす」 「腹を肥やす」「懐を肥やす」「外国語」中国語では慣用 句「占便宜」(得るべきでない利益をわがものにする、うま い汁を吸う。「占」は得る。「便宜」は利益、得 馬が合う 意味人が馬と呼吸が合ってうまく乗り こなすように、相手と気が合い、うまく やっていける。用法文型「ダレダレはダレダレと馬 が合う」「ダレダレとダレダレ(と)は馬が合う」。用例② ⑥のように否定形もよく使われる。「江戸」 用例①獅子文六「自由学校」(一九五〇)「彼女には少し保守的な男の方が、ウマが合うと、思われた」②「朝日新聞」(一九〇・二〇・三王朝)「トルーマン大統領は、かねてからマッカーサー元帥とウマが合わないと感じていたが」③直塚玲子「欧米人が沈黙するとき」(一九〇)「ナンシーさんとわたしは、とてもウマが合うのですよ」④「京都新聞」(一九〇・三・三夕)「こんな二人の女が、なぜか妙にウマが合い、親しい友だち関係をもっている」⑤内田康夫「若狭殺人事件」(一九三)「叔母は(略)江梨香とウマが合いそうな気がした」⑥和気義一「銀行マンの掟」(一九四) <68> 「うちの支店長は、ガソリンスタンドの店主とウマが合 わなくてネ。この前もちょっとしたことでケンカになり そうだったんだ」 類句「阿吽の呼吸」「息が合う」「気が合う」「呼吸が合 う」「肌が合う」「歩調が合う」「外国語英語では on well with 海に千年山に千年 意味海に千年、山に千年住 んだ蛇は竜になるという俗説 から、さまざまな経験を積んで、世の中の裏も表も知り 尽くした、したたかな者、ずる賢い者。「海千山千」とも 言う。用法文型「ダレダレは海に千年山に千年」「江 戸 用例近松秋江『霜凍る宵』(二九三)「多年情海の波瀾を 凌いで来た、海に千年山に千年ともいうべき、その女主 人と差し向いに坐っていると」 類句「煮ても焼いても食えない」「一癖も二癖もある」 「一筋縄ではいかない」 海のものとも山のものとも やま 意味人・計画・物 などの正体・本質・ 将来性が現状では判断できず、これから先、どうなるか 見当がつかないことのたとえ。否定的なニュアンス。人 の場合は、年少者(若者)にいうことが多い。用法文 型「ダレナニは海のものとも山のものともつかない(知 れない・分からない)」 用例①「朝日新聞」(一九八〇・八・三朝)「まだ二年生、というより新人みたいなもんだ。海のものとも山のものとも、これからですよ」②「毎日新聞」(一九八三・一・三朝)「ゴルキエはまだ29才海のものとも山のものとも分からぬ彼を」③内田康夫「鬼首殺人事件」(一九九三)「彼女たちが海のものとも山のものとも知れないようなころから」④原田宗典「買った買った買った」(一九九五)「青学時代のぼくが海のものとも山のものともつかないのに、いつもシコシコ原稿を書いていたという話題になった時」 類句「得体の知れない」「つかみどころがない」「とらえ どころがない」外国語英語では be quite uncertain うむい 意味相手の意向を確かめず、 有無を言わせず 承知不承知に関係なくむりや り自分の思い通りにするさま。強引なさま。用法文 型「ダレダレは有無を言わせず~する」「有無を言わせぬ <69> ナニナニ」。「有無を言わさぬ」とも言う。用例①④⑤のように「言い方」「口調」を修飾することもある。「江戸」用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九三六五)「有無を云わさぬ云い方をすると」②「朝日新聞」(一九九七・七・六朝)「あとは振りまわして体を入れかえ、ウムをいわせず寄り切った」③「朝日新聞」(一九九七・七・四朝)「足もとから鳥が立つように、有無をいわさず引っ越しに取りかかったという」④東野圭吾「仮面山荘殺人事件」(一九九)「助かるためだ。さっき親父にもいわれただろう、青臭い意見は聞きたくない」有無をいわさぬ口調だった」⑤森村誠一「棟居刑事の砂漠の暗礁」(一九九七)「牛尾は有無を言わせぬ口調で言った」 類句「雨が降ろうが槍が降ろうが」「否が応でも」「否で も応でも」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火 が降ろうが槍が降ろうが」「理が非でも」「外国語」英語 では willy-nilly *中国語では成句「不由分説」(言い訳 をさせず。「分説」は言い訳をする、弁解する) 心底から憎む。 心底から憎む。 うらこつずいてつ 意味人から受けた仕打ちゅ えにその人を非常に深く憎む。 用法文型「ダレダレは恨み骨髄に徹 する。略して「恨み骨髄」とも言う。 類句「恨み骨髓に入る」(《史記》秦本紀) 外国語英 語では hate someone's guts *中国語では成句「恨人骨 髓」(恨み骨髓に徹する。「人」は徹する。「恨之人骨」ともいう) 用例源氏鶏太『天下泰平』(一九五四五五)「こっちは、あいつの口車に乗ったばかりに、ボーナスはへらされる、昇給が遅れる。女房には、嫌味を聞かされる。いうなれば、怨み骨髄だよ」 うら 意味自分の言動が原因で他人に恨ま 恨みを買う れる。用法文型「ダレダレはダレ ダレから(の)恨みを買う」 用例①吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「いたずらに 馬鹿者のうらみを買うは愚かである」②高杉良『人事 権!』(一九九三)「別に恨みを買うような憶えはないと思う けどな」③「彼から恨みを買うような覚えはない」 外国語英語では invite someone's rancor うらめ 意味「裏目」はさいころの裏の目の 裏目に出る こと。よかれと思ってしたことが逆の 結果になってしまう。 用法文型「ナニナニが裏目に出 <70> る 用例①高橋三千綱「天使を誘惑」(一九七八「高級品のイメージを高めるためという上層部の意見でおもちゃ売場をなくし、ゴルフやテニス用品売場をもうけ、呉服売場を拡張したのだが、裏目に出て、客足はなおさら遠のいた」②「朝日新聞」(一九七九・五・三朝)「長島監督の継投策がことごとく裏目に出た」③東野圭吾「美しき凶器」(一九九三「彼にとってはそれが裏目に出たのかもしれないけど」④高杉良「人事権!」(一九九三「気を利かせたつもりが裏目に出てしまった」 外国語英語ではbackfire *中国語では成句「适得其反」(ちょうど反対の結果になる。「适」はちょうど) うら 裏をかく 意味相手の予想に反することをしたり 相手の計略の反対に出たりして、相手を 出し抜く、はぐらかす、だます。用法文型「ダレダ レがダレナニの裏をかく」。用例②のように「ばかり」を 挿入することができる。①③④のように受身形がある。 〔江戸〕 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九三)「又裏を掻かれた のだ」②野間宏『真空地帯』(九五三)「林中尉のやり方は陰 けんで、小細工だらけで、ひとのうらばかりをかくやり 方だった」③源氏鶏太『娘の中の娘』(一五八)「道介のこ の計算は、見事に裏をかかれた」④高杉良『人事権!』 (一九三)「河原女史に裏をかかれるとは夢にも思いません でした」 類句「あっと言わせる」「泡を吹かせる」「一杯食わす」 「意表を突く」「度肝を抜く」「鼻を明かす」「一泡食わせる」 「一泡吹かせる」「外国語」英語では outsmart 売り言葉に買い言葉 ことばかことば 意味相手からの暴言や喧 嘩腰の言葉に対して、負け ずに暴言や喧嘩腰の言葉でもって言い返すこと。言い合 いの中で双方とも感情的になって衝動的に言ってしまう こと。用法文型「売り言葉に買い言葉で~」の形が多 い。(江戸) 用例①『滑稽新聞』一号(二九二)「先方の悪口に対して 相当の口答をすれば所謂売り言葉に買い言葉」②源氏鶏 太『三等重役』(一九五二—五三)「そのあとは、売り言葉に買い 言葉で、最後には、お前なんか離縁だ、この家から出 て行け、と怒鳴った」③宇井無愁『豚マンの唄』(一九五三) 『(略)あんたがいなくたって平気よ。ちっとも困らない <71> わよ。』売言葉に買言葉で、『結構ですな。まあがんばって下さい。じゃ、ぼくはさよならしましょう、永久にね。』④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「売り言葉に買い言葉ではあったが」 外国語 英語では it for tat うりふた 瓜二つ 意味瓜を縦に二つに割ったように、顔か たち・姿や性格などが非常によく似ている こと。 用法文型「ダレダレはダレダレと瓜二つ」 用例①与謝野晶子『激動の中を行く』(一九一九)「顔さえも個別的の特色を備えて真実の意味にて瓜二つというものはないのに」②江戸川乱歩『妖虫』(一九三一三)「おお、似ている。いや、そっくりだ。瓜二つだ」③朝日新聞(一九〇・二・三朝)「筋肉の盛りあがり、肩幅の広さ、体形、ちょっときかぬ気の顔だち、ウリ二つである」④東野圭吾『宿命』(一九九〇)「二人は二卵性双生児で、ふつうの双子のように瓜二つというわけではなかった」 類句「他人の空似」 外国語 英語では be as alike as two peas in a pod *中国語では成句「一模一样」(そっ くり同じであるさま) うれひめいあ 意味悲鳴を上げるほどう 嬉しい悲鳴を上げる れしいことが重なり、忙し く大変なことになる。用法文型「ダレダレがうれし い悲鳴を上げる」 用例①「朝日新聞」(一九九七・七・三朝)「この調子だと、 さ来年には新工場をつくらないと注文をこなしきれな い」と、湯上さんはうれしい悲鳴をあげている」②「朝 日新聞」(一九八〇・三・三王朝)「まるで家が占領されたみたい」 と「家」の職員たちはうれしい悲鳴をあげている」③高 杉良『人事権!』(一九九三)「家内が嬉しい悲鳴をあげてた」 *ね 類句「音を上げる」「悲鳴を上げる」(外国語)英語で は trouble one can enjoy うわさ 噂をすれば影 意味ある人の噂をすると、思いが けなく、偶然その人が現れるものだ。 用法文型「うわさをすれば影(とやら)で」(江戸) (用例)①国木田独歩『運命』(一九六)「噂をすれば影とや らで、ひょっくり自分が現われたなら」②佐藤春夫『都 会の憂鬱』(一九三)「噂をすれば影と思うと」③石坂洋次 郎『光る海』(一九三六三)「『野坂次郎さんが、久美子さん を訪ねておいでになりました』「うわさをすれば影(略)」 <72> 類句「噂をすれば影が差す」の略。 外国語英語では Speak of the devil *中国語では諺「说曹操、曹操就到」 (曹操の噂をすれば曹操が来る、噂をすれば影がさす。「说」 は話す、噂をする。「到」は来る。「说到曹操、曹操就到」など ともいう うんちくかたむ 意味蓄えた深い知識をありったけ 蘊蓄を傾ける 発揮し、人に語る。用法文型「ダ レダレがうんちくを傾ける」 用例朝日新聞(一九九・七・四朝)勤め先で同僚たちに うんちくを傾けるようなことはない」 雲泥の差 うんでい さ 意味「雲」は天、「泥」は地。両者の質・ 力・できなどが非常に大きくかけはなれ て違いがあるさま。一方が大変よい時あるいは悪い時に 言うことが多い。用法文型「ダレナニとダレナニと は雲泥の差がある」 用例①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九三一五三)「あの集金ま わりの時とは、気持の上に、雲泥の差があった」②朝 日新聞』(一九一・九・三元朝)「経済的にも栄養的にも、スー パーに並んでいるそれとは、雲泥の差がある」 * うんともすんとも 合わせ。相手が一言も言わないさま。全く応答・返事 (音声・手紙など)がないさま。用法文型「ダレダレ はうんともすんとも言わない」。後ろに打ち消しを伴う。 (江戸) 用例①三遊亭円朝『真景累ケ淵』(八六九)「お園はウンともスンとも云わないから」②舟橋聖一『悉皆屋康吉』(一四一四)「たゞジッとその方へ視線を投じたまゞ、うんともすんともいわなかった」③石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五三)「ウンともスンとも音さたがありませんな」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「チャイムボタンの電源を切ってあって、呼んでも叩いても、うんともすんとも応答してくれない」⑤中村うさぎ『だって、買っちゃったんだもん』(三〇〇)「パソコンはそれっきり、ウンともスンとも言わなくなってしまった」 <73> $ ^{*} $ 元 $ ^{*} $ えたいし 意味「得体」は正体。人や物 得体の知れない 事の素性・動き・力などが分か らず、不気味・異様である。用法文型「ダレナニは 得体の知れないダレナニ」。「得体の知れぬ」「得体が知れ ない」とも言う。 用例①太宰治『人間失格』(二卲)「自分ははたから見て甚だ得態の知れない存在だったはずなのに」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「それこそその得体の知れない力に押しつぶされ」③朝日新聞(一九六〇・三・三王朝)「いまだ『えたいの知れぬ存在』である」④森村誠一『誇りある被害者』(一九六六)「なにをしているのか得体の知れない男だったが」⑤姉小路祐「合併裏頭取」(三〇二)「東洋銀行の動きに得体の知れないものを感じているからだ」 類句「海のものとも山のものとも」「つかみどころがない」とらえどころがない」外国語英語ではstrange;mysterious 悦に入る 意味思い通りになったり、自分の趣味 の物を眺めたりなどして満足して心の中 で喜ぶ。にたりとする。用法文型「ダレダレは悦に 入る」。「ひとり悦に入る」という言い方が多い。「鎌倉」 用例①火野葦平「土と兵隊」(九三)「素朴な村人達は 我々を大いに歓迎してくれた。(略)我々は大いに悦に 入った訳ではあるが」②源氏鶏太「目録さん」(九五)「大 槻におごったのは俺だけだろうと悦に入っていた部長」 ③槻田満文「文学にみる広告風物誌」(九六)「デパート で一日六円もかせぐ女房のマネキンぶりを、外交員の松 下はこっそり観察しにいってはひとり悦にいっていた」 ④「言語生活」三二〇号(九七)「あれはおそらく本人も 悦に入って書いてたと思いますよ」⑤本所次郎「閨閥 (三〇四)「春樹は独り悦に入り」 *えつぼ 頃可「矢豈ここ人の一 類句笑壺に入る えっぽい 意味「悦に入る」に同じ。少し古く 笑壺に入る さい表現で、「悦に入る」が一般的。 用法文型「ダレダレは笑壺に入る」。用例①のように 多数の人に言うのはまれで、「ひとり笑壺に入る」と言う ことが多い。「鎌倉」 <74> 用例①正岡子規『筆まかせ』(一八七)「はじめより順々 に封を開きければ標題を見て予想せしものとは打てか わりし品物のみなれば皆々笑壺に入りにける」②黒岩涙 香『無惨』(一八九)「谷間田は笑壺に入り『フム恐れ入たか (略)』③徳富蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)「可笑し い文字の遊戲に独笑壺に入った」 えかもち 意味立派に見えても実際は何の役 絵に描いた餅 にも立たないことのたとえ。また実 がべい 現の見込みがないことのたとえ。画餅。用法文型 「ナニナニは画に描いた餅」(江戸) 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記(完結編)』(一九五) はらん 「どんなに波瀾に富んだ生活の物語であろうと、それが 他人のものであるかぎり、絵に描いた餅のようなもので ある」②『朝日新聞』(一九七・七・七朝)「実現には障害も多く、 ニクソン大統領の『エネルギー自立計画』同様、絵にか いたモチになりはせぬかという心配が先に立つ」③『朝 日新聞』(一九一・九・三六朝)「過去の実績はともかく、現役大 リーガーの金看板は絵にかいたモチでしかなかった」④ 内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「これがうまくゆくか 画に描いた餅に終わるか、いまはまさに、せめぎあいの 真っ只中というわけですな ⑤本所次郎『閨閥』(三〇四) 「実現性はどうなんだ」『絵に描いた餅ですよ』 類句「机上の空論」「砂上の楼閣」「畳の上の水練」 外国語 英語では like wax fruit 絵に描いたよう 意味典型的であるさまをた とえて言う言葉。用法文型 ダレナニはダレナニを絵に描いたよう」 用例①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「ほんと、 あの二人は精神主義より実利主義を絵に描いたような人 たちですよ」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「副社長のほう は全く逆で、石部金吉を絵に描いたような堅物ときてい る」 えい 意味言葉では何とも言い表せない。 得も言われぬ すばらしいこと・良いことに使う。 用法文型「得も言われぬナニナニ」 用例①大下宇陀児『虚像』(一九五五)「口もとに、得も言われぬやさしさのあるのも特徴だったろう」②五木寛之『風に吹かれて』(一九五〇)「こういうギリギリの瀬戸際に半ば破滅的な気持で怠けるのは、得もいわれぬ快楽なの <75> だ」③『朝日新聞』(一九七・五・三朝)「彼らは欧米スポーツ と異質の日本独特のものに、えもいわれぬ味わい深さを 感じとっているのだろう」 えりただ 襟を正す 意味衣服の乱れを正す意から転じて、 心を引き締めて、また反省して物事に当 たる。用法文型「ダレダレが襟を正す」。用例①のよ うな使役形がある。 用例①『朝日新聞』(一九六·一·三朝)「これに関する故人 の遺志はまさに襟を正させるものがある」②『朝日新聞』 (一九七九·五·八朝)「党幹部に『エリを正そう』という決意」③ 「朝日新聞」(一九七九·九·一〇朝)「政府はエリをただして経費 削減を図れ」 類句「姿勢を正す」(体の姿勢の乱れを正す意から転じて *ふんどし 態度・行為を反省して改める)「褌を締め直す」外国語 英語では shape up えんしたちからも 意味人目につかないところで 縁の下の力持ち 人・組織などを苦労して支えて いる人。用法文型「ダレダレは縁の下の力持ち」「江 戸 用例①「朝日新聞」(一九五六・五・一九朝)「あとの者は縁の下の力持ちになる」②「朝日新聞」(一九五八・八・一八朝)「労組はもっぱら『縁の下の力持ち』に徹し」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九五〇)「彼等こそ縁の下の力持ちだ。フジ役をしたり、電話をかけたり、ベランダから飛びおりた私を助けあげたりね」④内田康夫『博多殺人事件』(一九二「博多の呉服商のイメージを脱却できずにいた天野屋をとにもかくにも九州きっての近代型デパートにまで急成長させた『縁の下の力持ち』が」 外国語 英語では an unsung hero えん 意味全くの見ず知らずで何 縁もゆかりもない の関係もない。人がある人と 何のつながりも関係もない。用法文型「ダレダレは ダレダレと(は)縁もゆかりもない」「江戸」 用例①「朝日新聞」(一九九・二・三朝)「二人にとって烽火生産大隊は縁もゆかりもなく、訪れたこともなかった」②藤田宜永『転々』(一九九九)「私の夫とは縁もゆかりもない人です」③谷川涼太郎『京都嵯峨野花の殺人』(三〇三)「およそ華とは縁もゆかりもない八坂圭一郎を茶席に呼んでいる」④岩城捷介『免職警官』(三〇三)「あなたとは縁 <76> * お * おうか 意味肉体的・精神的・物質 追い討ちを掛ける 的に打撃を受けて弱っている 相手にさらに打撃を加える。相手の弱みにつけこんでさ らにやりこめる。用法文型「ダレナニがダレナニに 追い打ちをかける」 用例①「朝日新聞」(一九九・五・三朝)(略)と打ち出して役人の反発をかったばかりだが、全然気にしないで追い打ちをかけるところが」②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「浅見が追い撃ちをかけるように訊くと、紳士はいっそう険しい顔になった」③姉小路祐「合併裏頭取」(三〇二)「そのビルは流れからはずれるようになった。それに追い討ちをかけたのが、大学ラグビー部員による少女暴行事件だ」 外国語 英語では attack the routed enemy <77> お 置いてきぼりを食う く 意味置き去りにされる。 用法文型「ダレダレが置 いてきぼりを食う」 用例源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「酒場ラッ キイで、おいてきぼりを食って以来」 類句「置いてけぼりを食う」が元の形。江戸本所七不 思議の一つで、そこにあった池で釣りをすると、池の中 から「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえてくると いうところから。 おうてか 意味将棋で敵の王将を攻め取る 王手が掛かる 一手の段階に来たことから転じて、 もう一歩で物事が成就する段階にあること。用法文 型「ナニナニに王手がかかる」 用例「優勝に王手がかかる」 おうてか 意味将棋で敵の王将を攻め取る 王手を掛ける 一手を打つ意から転じて、物事を成 就する一歩手前まで来る。またその最後の攻撃の手を打 つ。用法文型「ダレダレがダレナニに王手をかける」 用例①のように受身形がある。 用例①「朝口新聞」(二若亮・(・三六朝)「王子をかけられたからといって、ハッパをかける必要はない」②「朝日新聞」(一九八〇・八・三九朝)「800盗塁にあと一つと王手をかけながら、ロッテ戦の二試合は雨でお流れ」③「朝日新聞」(一九八一・六・三九朝)「優勝〈王手をかけたが」④森村誠一「誇りある被害者」(一九九六)「ついに犯人に王手をかけたのである」⑤津村秀介「京都銀閣寺の死線」(三〇〇)「和夫のアリバイを崩して、ストレートに、和夫に王手をかけたかったのですがね」 おおすく意味ある物事が、多い少ない 多かれ少なかれ の差はあっても存在することを 言う。用法文型「多かれ少なかれ~」。副詞的に後ろ の述語を修飾する。 用例①『朝日新聞』(一九四・二〇・四朝)「世の中が複雑になると、だれもが多かれ少なかれ、閉塞された心理状態にある」②田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九九)「ヨーロッパの国語は、多かれ少なかれ、同じ機能を持っているといってよいだろう」③『朝日新聞』(一九〇・四・九朝)「一般の企業でも多かれ少なかれ、公私混同がないとはいえない」④大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「刺激的 <78> な人生を好む人というのは、多かれ少なかれ、そうした 事象を自分に惹きつけるものです」 類句「大なり小なり」(外国語)英語では more or less おお せわ 意味他人からの助け・世話や言葉 大きなお世話 などを無用として、拒否してのの しって言う言葉。余計なお節介。してほしくない世話。 用法文型「ナニナニは大きなお世話」(江戸) 用例①若林真紀『この恋が実らなくても』(一九九〇)『ブラウス、キツいんじゃないの?背中がピチピチだゾ』どこまでもカワイクないヤツ。『大きなお世話よ!ほっといてくれない?』②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)『それこそ大きなおせわというものです』③東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)『慣れない土地だから、雨の日は運転を控えたほうがいいとかいってくる。まるで老人扱いだ。大きなお世話ってもんだよ」 外国語 英語では Mind your own business *中国語 では成句「多管闲事」(余計なおせっかいをする。「多管」は 不必要に立ち入る。「闲事」は自分に関係のないこと) 大きな顔をする 意味いばって偉そうな顔をす る。横柄な顔をする。また、そ のような態度を取る。そういう人を非難して言う言葉。 用法文型「ダレダレが大きな顔をする」。用例③のよ うに禁止形がある。江戸 用例①都筑道夫「脅迫者によろしく」(九九)「大きな顔をして、あすこに納まりかえっているわけじゃないんですよ」②高杉良『濁流』(一九九六)「開設されて間もない支局の若造支局長が大きな顔をして運転手付の専用車を乗り回しているが」③「それくらいのことで大きな顔をするな」④「あの野郎、大きな顔をしてのさばり歩いている」 類句「大きな面をする」は「大きな顔をする」をさらに ぶべつ 侮蔑した言い方。「幅を利かせる」「羽振りを利かせる」 外国語 英語では give oneself airs おおくちき 意味偉そうなこと言う。自分 大きな口を利く のもっている力以上のことがで きるかのように言う。非難して言う言葉。用法文型 「ダレダレが大きな口を利く」。用例のように可能形があ る。 <79> 用例山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「他の執筆者の人 達の人選にまで口を挟むとは、何時の間にそんな大きな 口をきけるようになったのかね」 類句「大きな口を叩く」は「大きな口を利く」よりも侮 蔑した言い方。「大口を叩く」外国語中国語では慣用 句「说大话」(大きなことを言う、ほらを吹く。「说」は言う 「大话」は大きな話、ほら おおぐちたた 意味「大きな口を利く」に同じ。 大口を叩く 用法文型「ダレダレが大口を叩く」。 用例②のように可能形がある。「おおくちをたたく」とも 江戸 用例①「朝日新聞」(一九三・一四朝)「なんだか勝てるような気がしてきた。必ず三十戦までには倒して見せる」と大口をたたくありさま」②高杉良「濁流」(一九六)「いくら酒の上とはいえ、わずか四カ月かそこらで、これだけ大口を叩けるようになったのだから」 類句「大きな口を叩く」とも言う。外国語英語では brag *中国語では慣用句「说大话」(大きなことを言う、 ほらを吹く。「说」は言う。「大话」は大きな話、ほら おおでふ 意味周囲に遠慮することなく、 大手を振る と大いばりで行動する。用法文型 「ダレナニが大手を振って歩く」と言うことが多い。江 戸 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三六三)「老兵は消えていく。おとうさん、私たちが大手をふって生きられた時代はもう過ぎ去ったようです」②『朝日新聞』(一九九・七・四朝)「エネルギー開発最優先論は大手を振って歩き出す」③姉小路祐『走る密室』(一九四)「刑事責任は問われないままに終わった。(略)そのあとは大手を振って娑婆に出ている」 類句「胸を張る」 外国語 英語では walk with one's head held high おおぶね の 意味信頼できるものに身を任せて 大船に乗る すっかり安心するためとえ。用法文 型「大船に乗ったよう」「大船に乗ったつもり(気持ち)」 などと言う。江戸 用例①林二九太「へのへのもへじ」(一九五三)「百も承知、二百も合点。まア、大舟に乗った気で、いろよ」②藤原審爾『みんなの見ている前で』(一九五五)「なんとか身の立 <80> つようにしてやるから、大船にのった気で、打身がなお るまで、ゆっくり養生しねえ」③山崎豊子『白い巨塔』 (一九六三六五)「先生にお引き受け戴いたら、もう大船に乗っ たようなもんですわ」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九三 「気にしないで、大船に乗ったつもりでいてよ」 類句「親船に乗る」 外国語 英語では be as good as home おおみえき 意味歌舞伎で見得(大仰な表情・ 大見得を切る 動作)を演じることから転じて、人 前で大げさな言動で相手を圧倒するように自信のほどを 言う。用法文型「ダレダレが大見得を切る」 用例 ①内田康夫『三州吉良殺人事件』(二九二)『むろ ん、事件を解決して、犯人を捕まえるつもりです』浅見 は大見得を切った」②「みんなの前で大見得を切った以 上、引き下がれない」 類句見得を切る外国語英語ではput on an im- prcessive show おおむうな 意向味「大向こう」は劇場 大向こうを唸らせる の立ち見席のこと。目の肥 えた客が多いと言われた。その客を「うまい」とうなら せることから、一般に、ある事柄に対して多くの人々を 感心させる。また芸に限らず、大衆の喜ぶようなことを して評判を取る。用法文型「ダレナニは大向こうを うならせる」 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(三三)昨夜の事件は、実に早く、素晴らしくものの見事にやってのけて、大向うをうならせたかも知れないが』②『朝日新聞』(二九九六・三朝)「大向こうをうならせるような二三の協定をひそかに目指していた」③高杉良『首魁の宴』(二九九八)「杉野が曽根田や武井と一緒にゴルフをするのは大向うをうならせるための手段であり計算ずくなのだ」 外国語 英語では bring down the gallery おおめだま 意味失敗・過ち・してはならない 大目玉を食う ことをして、地位や年齢などが上の 人にひどく叱られる。用法文型「ダレダレがダレダ レの(から)大目玉を食う」 用例①夢野久作『山羊髯編輯長』(九四)「後家のお近 婆さんだけは大目玉を喰っただけで無罪放免をされた」 ②「父の大切な皿を割って、父の大目玉を食った」 <81> 類句「大目玉を食らう」「大目玉を頂戴する」とも言う。 お目玉を食う「雷が落ちる」 おおめみ 意味本当はよくないが、まあこれで 大目に見る もいいということにしておく。寛大に 見る、扱う。厳しくとがめだてない。用法文型「ダ レダレがダレナニを大目に見る」。命令・意志表現は可能 用例②のように受身形がある。江戸 用例①山口瞳『結婚します』(一九六五)「そういう所で遊ぶのは奥さんも大目に見てはりますわ」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五五)「古代ギリシャの婦人は劇場に入るのを禁じられていた(略)が、ハンドバッグを持つことは大目に見られていた」③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「手紙のひそかなやりとりなどを大目に見て見ぬふりをしている」④斎藤栄『日美子の公園探偵』(三〇二)「日美子は顔をしかめたが、あたりに乳幼児の姿がなかったので、大目に見ることにした」 類句「見て見ぬ振り」「目をつぶる」「外国語」英語では give someone a break かぶ うぱ 意味ある人の得意とすることを、別 お株を奪う の人が同じように、あるいはそれ以上 にうまくやってのける。それによって評判を取る。 用法文型「ダレダレがダレナニのお株を奪う」。用例 ③のように「お株を」と「奪う」の間に語句を挿入できる が、①のように長いものはまれである。④のように受身 形がある。命令・意志表現は可能。 用例①井上靖『氷壁』(一九五六一五)「饒舌のお株を、いつの間にか相手から自分が奪っている格好であった」②池島信平『雑誌記者』(一九五八)「『文芸春秋』のお株を奪ったような新雑誌が生まれたが」③『朝日新聞』(一九〇・三・二朝)「理詰めの相撲を売り物にしている三重ノ海のお株を完全に奪ってしまった」④『朝日新聞』(一九〇・四・三朝)「防衛を出さないと民社党あたりにお株を奪われる」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「デカのお株を奪おうというわけですか」 外国語 英語でさ beat someone at his own game きゅうす お灸を据える 意味もぐさに火をつけて治療する ことから転じて、相手をこらしめる ために厳しく戒めたり罰を与えたりする。用法文型 <82> 「ダレダレがダレダレにお灸を据える」。用例①②のよう に「お灸」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。 ①のように受身形がある。「灸を据える」とも言う。 用例①『滑稽新聞』一三号(一九二)「縦令警察へ引張られて三日のお灸を据えられた処で」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「いやみなお灸をすえて、江梨香が平謝りに謝れば許すつもりだったのかもしれない」③高杉良『人事権!』(一九三)「いい気になり過ぎてるからちょっとお灸をすえてやってもいいんじゃないかとわしはかねがね思っとったに過ぎん」 類句「焼きを入れる」 外国語 英語では put the fear of God in someone 国語では成句「屋上架屋」(屋上に屋を架す) おくじようおくかさ 意味屋根の上に更に屋根を重 屋上屋を重ねる ねるということから、既にある のに、同じようなことを重ねてむだをするたとえ。 用法文型「ナニナニは屋上屋を重ねる」。「屋上屋を重 ねるような」と言うことが多い。 用例 朝日新聞(一九〇・九・五朝)新たに閣僚会議を設けても屋上屋を重ねるだけ」 類句 屋下に屋を架す 屋上屋を架す 外国語中 屋上屋を架す 意味一屋上屋を重ねる」に同じ。 用法文型「ナニナニは屋上屋 です」。「屋上屋を架すような」と言うことが多い。 例網島梁川「国民性と文学」(八九)「之を以て今の 家に擬するは屋上屋を架するの愚を演ずるものにあら さるか」 おくばものはさ 意味言うべきこと、言い 奥歯に物が挟まった たいことをすべて言ってし まわず、心の中に何かを隠しているさま。または遠慮し ているようで、率直でない、明確でない物言いのさま。 用法文型「奥歯に物がはさまったような言い方(調子。 表現)。「奥歯に物がはさまったように言う」とも言う。 「何(だ)か」がこの句を修飾することが多い。「江戸」 用例①江戸川乱歩『盗難』(一九五)「そりゃあいやな言 い方でしたよ。なんだか変に奥歯に物がはさまったよ うな調子で」②篠田鑛造『明治百話』(一九三)「山田美妙 だけは、何だか奥歯に物がはさまっていた」③源氏鶏太 『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「何か、奥歯に物のはさまっ <83> たようないいかたであった④『朝日新聞』(一九0・七・四 朝)「奥歯にモノがはさまった表現ながら、敗北の一因 を分析しているが」⑤『朝日新聞』(一九0・10・10朝)「な にか奥歯に物がはさまっているような、はがゆさを感じ る」⑥木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九五 「奥歯にものがはさまったようにいった」 類句「持って回った」外国語英語では mealy- mouthed おくびだ 意味「おくび」とはげっぷ 噂気にも出さない のこと。ある物事、思ってい ること、したことなどを隠して少しも口にもそぶりにも 出さない。用法文型「ダレダレは十二十二をおくび にも出さない」「ナニナニをおくびにも出さず」「江戸 用例①夢野久作『殺人リレー』(九言)「新高さんはソ ンナ事をオクビにも出さないんですけどね」②山崎豊子 『白い巨塔』(九三六五)「石橋を叩いても渡らぬほどの臆 病な性格であったが、そんな気振は唖にも出さず」③直 塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(九0)「常々夫から仕 事の出来の悪い上役だと聞かされていても、そんなこと はおくびにも出さずに、丁重に型通りの挨拶をする」④ 朝日新聞』(一九一九三朝)「胸の内は自力優勝の望みが ないもどかしさでいっぱいに違いないだろうが、おくび にも出さぬあたりさすが」⑤内田康夫『御堂筋殺人事件』 (一九九)「そんなことはおくびにも出さなかった」 外国語 英語づき never give the slightest indication おくめん 意味恥を知らず、図々しくも。気後 臆面もなく れする様子もなく。非難する言葉。 用法文型「ダレダレは臆面もなく~する」 「用例」朝日新聞(一九七九・七・二七朝)「彼は議員辞職後も臆 面もなく次期総選挙に立候補すると意思表示した」 外国語英語では boldly ; impudently おくと 意味競争で遅れる意味から転じて、 後れを取る 物事の進展が他より遅れる。能力・技 量などが相手より劣ったり負けたりする。「遅れを取る」 とも書く。用法文型「ダレダレはダレダレに後れを とる」「室町」 用例①朝日新聞(二九九七·八朝)ついつい世間に後 れをとるようなことになって②朝日新聞(二九○六・三 朝二十九日現在で七本と、同僚の新人岡田(八本)に <84> も後れを取る始末だ」③『日本経済新聞』(一九八○・二・九朝) 「現地の信頼をつなげず、ライバルの欧米諸国に後れを とってしまう」 外国語 英語では fall behind お先棒を担ぐ 意味「お先棒」とは、二人で担ぐ 駕籠の前の方を担ぐ人のこと。軽々 しく人の手先になって、心にもないお世辞を言ったり、 その通りだと相槌を打ったりして軽はずみに振る舞う。 その人のために先走って動く。そういう行為を非難する 言葉。用法文型「ダレダレがダレナニのお先棒を担 ぐ」。「先棒を担ぐ」とも言う。 用例①『朝日新聞』(一九八○・三・一九朝)「一票につられて地方のお先棒をかつぐのはやめてほしい」②『朝日新聞』(一九一・二・一六朝)「第三セクターは国鉄のローカル線赤字を地元で負担するのに等しいのに、岩手県がお先棒をかつぐことはない」③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「サンライト工機にしても、小川商会のお先棒を担いでコスモス・グループに一杯くわせたようなものでしょう」④「軍国主義のお先棒を担いだ人たち」 類句「提灯を持つ」 お里が知れる 意味言葉遣いや立ち居振る舞いを 見れば、その人の生まれ育ちや環 境・経歴が分かる。多くは上品ぶっている者をあざける ような否定的なニュアンスで使用。用法文型「~す るとお里が知れる」(江戸) 用例①坪内逍遙『当世書生気質』(一八八五八六)「遊ばせ言葉を吐くといえども、一目瞭然、お里がしれ、其心ざまも見らるるならずや」②「食事のマナーを見ると、お里が知れる」 外国語 英語では reveal one's upbringing おあ 押し合いへし合い 意味「へす」は押すの意。 狭い場所に大勢の人が入り乱 れて混雑する。用法文型「ダレダレが押し合いへし 合いする」。ダレダレは複数の人。「江戸」 用例①角田喜久雄『高木家の惨劇』(九四七)「駅へつく 度に、乗り降りの客で、一時は押し合いへし合いしなけ ればならなかった」②開高健『流亡記』(一九五九)「せまい畦 道をわれさきにと逃げるために私たちはおしあい、へし あいし」③内田康夫『博多殺人事件』(一九九二)「売場に戻ろ うとする女店員たちが押しあいへしあい、鏡とにらめっ <85> こで化粧を直している最中だった 類句「芋の子を洗うよう」「芋を洗うよう」「上を下への 大騒ぎ」「押すな押すな」「蜂の巣をつついたよう」 押しの一手 意味目標達成のために強引に押し進 むこと。ただひたすら押して押して押 しまくるという攻勢一点張りの態度。用法文型「ダ レダレが押しの一手でする」 ①高見順『故旧忘れ得べき』(たき)「ここからは もう押しの一手だという気持を足の運びに出しているみ たいな大股でプラットフォームをのツしのツしと歩くの だった」②源氏鶏太『一寸の虫』(九五)「嫌われようが、 敬遠されようが、押しの一手で、何んとでもして、もう いちど、会社勤めがしたいのである」 外国語 英語づき with dogged persistence お 押しも押されもしない 意味誰が見ても実力が あって他をしのぎ、堂々 としてゆるぎのないさま。 用法文型「ダレダレは押 しも押されもしないダレナニ」。「ダレナニ」にどういう 人物かを表す言葉が来る。「江戸」 ①里見弴『桐畑』(二三)「岩本の名は、現文壇に押しも押されもしない新進の中堅となっていた」②朝日新聞(一九九・七・三朝)「押しも押されもしない超一流の横綱に成長した」③池田弥三郎『郷愁の日本語』(二九二「わたしの家は、同業の中では、押しも押されもしない東京で一といって二とくだらない店になっていた」④内田康夫『志摩半島殺人事件』(二九八)「あの先生も、ウチあたりで連載が始まれば、押しも押されもしない大作家の仲間入りということだったろうにねえ」 1 類句「押しも押されるせぬ」とも言う。 外国語 英語 では unchallenged 押しも押されもせぬ 意味「押しも押されもし ない」に同じ。用法文 型「ダレダレは押しも押されもせぬダレナニ」。「ダレナ ニ」にどういう人物かを表す言葉が来る。「江戸」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「財前助教授と もなれば、いくら教授の女房役とはいえ、もはや学外で は、押しも押されもせぬ食道外科の大家だから」②『朝 日新聞』(一九一・九・一朝)「押しも押されもせぬ今の人気に つながったのは」③姉小路祐『走る密室』(一九四)「稲尾は、 <86> 野武士集団西鉄ライオンズの、押しも押されもせぬ鉄腕 エースだった」 お尻に火が付く 意味「尻に火が付く」に同じ。 「お」をつけて丁寧に言ったも 用法前に状況を表す言葉が来る。 用例 朝日新聞(一九八○・七・七朝)「最下位中日との差は これで4ゲーム、おシリに火がついてきた」 お尻を叩く 意味「尻を叩く」に同じ。「お」をつけて丁寧に言ったもの。用法文型 「ダレダレがダレダレのお尻を叩く」 用例朝日新聞(一九九・八・四朝)母親が勉強、勉強と、 こどものおしりをたたいているとき」 お 押すな押すなの 意味店や劇場などに人々が先 を争って大勢詰めかけて大盛 況・大騒ぎのさま。用法文型「ドコナニは押すな押 すなの大盛況(大騒ぎ)」 用例①朝日新聞(一九三・一・四朝)どの店も、K君のような試験対策委員や若者らで押すな押すなの盛況だ ②斎藤栄『鎌倉湘南殺人ワールド』(一九六)「次々に人並 みが押し寄せて、時間によっては、大船駅が押すな押す なの騒動になることも珍しくなくなっていた」③高杉良 『首魁の宴』(一九九八)「杉野良治書道展』は押すな押すな の大盛況で」 類句「芋の子を洗うよう」「芋を洗うよう」「上を下への 大騒ぎ」「押し合いへし合い」「蜂の巣をつついたよう」 おそ はや 意味時期が遅い早いの差はあって 遅かれ早かれ もいずれは。やがては。早晚。 用法文型「遅かれ早かれ~する」。副詞的に後ろの述語を修飾する。〔江戸〕 用例①里見弴『多情仏心』(一九三三)「こんなことをしているうちは、おそかれ早かれ、どこからか信之の耳に入ることも」②志賀直哉『晚秋』(一九三六)「今は遅かれ早かれ埒のあく問題だったから」③『朝日新聞』(一九五七・二・五朝)「遅かれ早かれ結局は競争者にけおとされ」④大沢在昌『悪夢狩り』(一九四)「遅かれ早かれ、マスコミが嗅ぎつけるさ」⑤吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四徳間文庫版)「ちゃんとした年ごろのお嬢さんと結婚する道を遅かれ早かれ選ぶのは間違いないわ」 <87> おだを上げる 意味「おだ」は「お題目」の略。南 無妙法蓮華経を唱えることから転じ て、得意になって勝手なことを盛んに言う。また、気 の合う何人かが集まって盛んに談笑する。用法文型 「ダレダレがおだを上げる」 ①久生十蘭『魔都』(一三七三六)「よせばいいのにあ の馬鹿野郎は、無礼だの、失礼だのとオダをあげるもん だから」②角田喜久雄『怪奇を抱く壁』(一九四六)「真昼間か らこれ見よがしにウイスキーのコップを並べてオダをあ げている闇屋風の二人」③石坂洋次郎『石中先生行状記』 お化け大会の巻(一九四九-吾)「お化けが煙草を吹かしてオ ダをあげてちゃ困るよ」 類句「気炎を上げる」「気炎を吐く」「気勢を上げる」「メートルを上げる」 お茶の子さいさい ちゃこ 意味「お茶の子」はお茶菓 子。腹のたしにならぬもの。 俗謡のはやしことば「のんこのさいさい」のもじり。人 が容易にできること。たやすいこと。「おちゃのこ」とも 言う。 用法 文型 ナニナニ ぐらい はお茶の子さい さい」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八八七八九)「況んや叔母の意 見に負く位の事は朝飯前の仕事、お茶の子さいさいとも 思わない」②坂口安吾『心霊殺人事件』(一九五四)「暗闇で怪 奇現象を見せるぐらいお茶の子さいさいというものだ」 ③花井愛子『ふたり時間』(一九八九)「百合だって8年キャ リアの社会人トークでの対応ぐらいお茶の子サイサイ だ」 類句「赤子の手をひねる」「お安い御用」「世話がない」 * かっぽ 「屁の河童」 外国語 英語では a very easy job お茶を濁す 意味茶道の作法を知らぬ者が適当に 茶を立ててつくろうことから、いい加 減な発言ややり方によって、その場を適当にごまかしつ くろう。用法文型「ダレダレが~して(で)お茶を濁 す」。~に手段・処置・行為などが入る。「江戸」 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(一八ちーち)「その階梯にとりつきて大略お茶を濁すものなり」②夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「表面は焼いたふりをして、実は焼かずに元の穴へ納めて、巻物の供養を大々的にやっ <88> たりしてお茶を濁しておいた」③池島信平『雑誌記者』 (一五八)「まことに曖昧モコとした返事をして、お茶を濁 している」④「朝日新聞」(一九九・三・五朝)「それをいいか げんにお茶を濁していたのでは、それこそただの政権亡 者のそしりを免れない」⑤「朝日新聞」(一九八〇・五・三朝)「決 して実のある話はしないで、雑談でお茶を濁している」 ⑥内田康夫「イーハトーブの幽霊」(一九九九)「笠野は仕事 に張りを失った。(略)その場凌ぎでお茶を濁してきた」 外国語英語ではpussyfoot おっす 意味妙に気取っている。よく見せよ 乙に澄ます うとすましたりもったいぶったりする。 用法文型「ダレダレが乙に澄ます」 用例①内田百閒「漱石山房の元旦」(一九三九)「謡は乙に 澄ましているからいやだ」②源氏鶏太「実は熟したり」 (一九五八—五九)「乙に澄まし込んだ高級食堂よりも」③野坂昭 如『てろてろ』(一九七二)「龍子はモデル上がりのデザイナー で、うわべ乙に済まして、ポーズばかりつくっていると」 類句「乙に澄まし込む」とも言う。「格好をつける」 おとこみようりっ 意味男に生まれて最高に幸せ 男冥利に尽きる である。用法文型「~て男 冥利に尽きる」。「男の冥利に尽きる」とも言う。〔江戸〕 用例①志賀直哉「邦子」(九三)「男の冥利に尽きる話 だ」②源氏鶏太「実は熟したり」(九五八)「あたしみた いないい女から、こんなふうにいわれて、男冥利につ きる、と思わないの?③森村誠一『新幹線殺人事件』 (九五)「男冥利に尽きるような進展はないだろうが」④ 高杉良『人事権!』(九三)「この話どう思う。男冥利に 尽きるとは思わないか」 おなあなむじな 意味違うように見えて実は同類の者 同じ穴の絡 であること。同類の悪党。悪者につい 言う。用法文型「ダレダレも同じ穴のむじな」 用例①与謝野晶子「選挙に対する婦人の希望」(一九一七) 「一朝政権を握れば憲政会自身がまた官僚主義者たるこ とにおいて同じ穴の貍であることを掩蔽し」②源氏鶏 太「坊っちゃん社員」(一九五三五三)「三人とも、同じ穴の ムジナですからね」③「朝日新聞」(一九一三三三朝)「少し は骨があるのではと見えた福田首相も同じ穴のムジナ だ」④大藪春彦『ザ・刑事』(一九八五)「荒木だっておなじ穴 <89> の絡じゃないか ⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』 (三〇〇)「こいつ、同じ穴の絡だったのね」 類句「一つ穴の狢」とも言う。 外国語英語では birds of a feather *中国語では成句「一丘之貉」(同じ穴の狢) おなかまめしく 意味親しい仲間として一緒 同じ釜の飯を食う に生活したり同じ職場で働い たりする。「同じ釜の飯を喰う」とも書く。用法文型 「同じ釜の飯を食ったダレダレ」「ダレダレはダレダレと 同じ釜の飯を食った仲間」。多くは過去形で使用。 (用例)①和田傳『鰯雲』(一九五七)「同じ釜の飯を食いながらセッセと貯めこんでいるその根性も忌々しいのである」②朝日新聞』(一九八〇・五・一七朝)「同じカマのメシを食ってきた自民党の同僚までが足を引っぱるとはね」③山川静夫『私のNHK物語』(一九五)「それは、同じ釜の飯を喰った同期生十六人の別れの時でもあった」④南英男『地獄遊戲』(三〇三)「おれたち、同じ釜の飯を喰った仲じゃないか」 類句「一つ釜の飯を食う」とも言う。 外国語英語で は live under the same roof 鬼が出るか蛇が出るか 意味何が起こるかまったく予想がつかないこと 多くは恐ろしいことに言う。 用法文型「鬼が出るか 蛇が出るか」独立した一文として用いられる。 (用例)①谷恒生『闇呪』(三〇〇)「鬼が出るか蛇が出るか 楽しみなことさ」②内田康夫『秋田殺人事件』(三〇三)「で もまあ、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみにして行ってみ ますわ」③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「合併事務局の 全員が会議室に招集された。鬼が出るか蛇が出るか」 鬼に金棒 おにかなぼう 意味鬼は何も持っていなくても強いの に、金棒を持てばさらに強くなる。その ようにただでさえ強いのに、それを手にすればさらに強 くなり、だれもかなわなくなることのたとえ。また人が 既に備え持っているすばらしいものに加えて、新たにそ れにふさわしいものを持って、一層人より抜きん出るた とえ。用法文型「~れば鬼に金棒」。述語として用い られる。江戸 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五十五)「独身で、男 ぶりが悪くなく、気性もさっぱりしている上に、金が あるときているから、まさに、鬼に金棒、どこへ行っ <90> ても、杉さん杉さんで、大もてである」②『朝日新聞』(二弁二・三・五朝)「そんな巨体の上にわざがうまく、小わざまでマスターされて鬼に金棒である」③『相撲界』復刊一号(二九〇・八)「身長一メートル八七センチに対して、体重は一〇三キロは、あと二〇キロ増えてもいい。実現すれば“鬼に金棒”となる」④『朝日新聞』(二九二・五・三朝)「いま池田コーチの指導でフォークボールを練習中。マスターできればオニに金棒か」⑤広山義慶『極悪ゆさぶり編』(二九四)「ハイエナが一枚噛んでくれたら、鬼に金棒ですわ」 類句「弁慶に薙刀」 (外国語) 英語では the strength of Samson *中国語では成句「如虎添翼」(トラに翼を添え たよう) 鬼の居ぬ間の洗濯 い人がいない間にくつろぐこと、息抜きをすること。 「鬼の居ぬ間に洗濯」とも言う。 「鬼のいない間に洗濯」とも言う。 いませんたく意味主人や監督者など気を 使わなくてはならない人や恐 用法単独で述語として使われる。「鬼の居ぬ間に洗濯 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鬼のいぬ間の 洗濯で、要領よく大いに休養させて貰うことだよ」②高 杉良『首魁の宴』(一九八)「奥さんがいなくてもそうなの あなたは真面目だから、鬼の居ぬ間の洗濯なんて、考え ない人なんだ」③山口香『蜜欲秘書課長』(三〇三)「『きよ うは会社には帰ってこないと言っていました』『それは ちょうどいい…鬼のいぬまの洗濯をしようか?』 類句「鬼のいない内に洗濯」とも言う。 外国語英語 どは When the cat's away the mice will play おにかくらん 意味「霍乱」は日射病(熱中症)、暑気 鬼の霍乱 あたり、または激しい下痢・吐き気を伴 う急性胃肠病のこと。日頃元気で病気などしそうにない 人が、思いがけなく病気になることのたとえ。用法 文型「ダレダレが鬼の霍乱」。「まるで」「まさに」などが 「鬼の霍乱」を修飾することが多い。「江戸」 用例源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「桑原さんが、どうした間違いからか、十数年振りで風邪をひき、たった五日間だけ会社を休んだ。社員たちは欣喜雀躍して、『ああ、まさに鬼のかくらんである』と、噂し合い」 鬼の首でも取ったように 意味この上もないすばらしい手柄、大きな <91> 手柄を立てたように得意になっているさま。冷やかし の言葉。用法文型「鬼の首でも取ったように~する」 用例③のように「鬼の首でも取ったような」とも言う。 〔江戸〕 用例①上司小剣『兵隊の宿』(一九五)「田舎の新聞へ 偶に自分の名が出ると、鬼の首でも取ったようにして、 持って来て見せびらかす旦那の仕業が」②浜尾四郎『殺 人鬼』(二三)「私は鬼の首でも取ったようにこの自分な がらすばらしいと思われるロジックにかじりついた」③ 沢村貞子『貝のうた』(二六九)「大事にしまっておいた古 い錦絵の若女形を指して、父は鬼の首でも取ったような 勢いだった」④『朝日新聞』(二九九・五・三朝)「野党のみな さんも、汚職発覚のたびに鬼の首でも取ったように騒ぎ たてるだけ」⑤高杉良『人事権!』(二九三)「とにかく軽挙 妄動しないでくれ。まして鬼の首でも取ったように言い ふらすのはよくないぞ」 類句「鬼の首を取ったよう」とも言う。 外国語 英語 では as if one were a conquering hero 鬼の目にも涙 意味無慈悲・冷酷な人でもときに は情に打たれて涙を流すこともある というたとえ 用例「厳しいコーチももらい泣きした。鬼の目にも涙 だ」 おはうか 意味鷹の尾と羽が傷んだ姿か 尾羽打ち枯らす ら、羽振りのよかった人が落ち ぶれてみすぼらしい姿になる。零落する。用法文型 「ダレダレが尾羽打ち枯らす」(江戸) 用例①横溝正史『薔薇王』(一九三九)「かりにも子爵家の 縁者につながるからには、たとい尾羽打ち枯らしたとし ても、もっと毅然たる風格こそ望ましいではないか」② 田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(三〇三)「学位を とるどころか、尾羽打ち枯らし着の身着のままの帰国 だ」 類句 「見る影もない」「身を落とす」「身を沈める」 お鉢が回る 意味ご飯を盛る順番が回ってくるこ とから転じて、何かの役や仕事の順番 が自分の所に回ってくる。用法文型「ダレダレにお 鉢が回る(回ってくる)」。用例⑥のように「お鉢」の前に どんな役・仕事かを表す言葉が来ることがある。「江戸」 <92> 用例①角田喜久雄『発狂』(二九三)「結局、辰公にお鉢が廻って目出度し目出度し」②横溝正史『薔薇王』(二九九)「こんどはあたしにお鉢が回ってくる番ね」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「こんな金集めは、医局長とは名ばかり、医局雑務係の佃君や、古参助手の僕たちにばかりお鉢が廻って来るから、いやになっちまうよ」④朝日新聞(一九四・三・三朝)「双方に期待をもたせながら、結局、どちらにもお鉢がまわってこなかった」⑤朝日新聞(一九〇・三・三朝)「衆望というより順ぐりですよ。またくえらい時にオハチが回ってきた」⑥清水一行『ITの踊り』(三〇四)「次の人事では取締役のお鉢が回ってくると」 おひれ 尾鰭が付く 意味事実以外のことが種々付け加 わって話がおおげさになる。用法 文型「ナニナニに尾ひれがつく」。ナニナニは「話」など。 江戸 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「口から口へと 噂されているうちに、何時の間にか尾鰭がつき、柳原は 英雄扱いにされていた」②『言語生活』三一三号(九七七) 「女子高校生が何気なく言った話に尾ひれがついて広 がった」③『朝日新聞』(一九九六・六・三六朝)「三人姉妹で、い ま出ているのは百メートルを十二秒で走る末っ子だ」な どと、だんだん尾ひれがついて」 外国語 英語では get blown up おひれ 意味事実以外のことを種々付け加 尾鰭を付ける えて話をおおげさにする。用法 文型「ダレダレがナニナニに尾ひれをつける」。用例① のように受身形がある。「室町」 用例①野間宏「真空地帯」(一九五三)「木谷のうわさは無責任にもいよいよ尾ひれをつけられ」②舟橋聖一「ある女の遠景」(一九六二)「彼は昨夜見た維子の発作騒ぎを、尾鰭をつけて話すだろう」③「話に尾ひれをつけて言う」外国語英語ではexaggerate*中国語では成句「添枝加叶」(話に枝を添え葉を加える。「叶」は葉。「添油加醋」とも言う) つ 意味相手が気を悪くしたり オブラートに包む 刺激を受けたりしないように 元んきよく 婉曲的な表現をする。「オブラート」はドイツ語Oblate。 用法文型「ダレダレがナニナニをオブラートに包む」。 <93> ナニナニは表現に関する言葉。 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「ホントウ に解放された青天井の人間になれ……と言う宣言を、 アラキ キリスト 新生のまま民衆にタタキつけたのが基督で、オブラー ほう トに包んで投り出したのが孔子で」②東野圭吾『卒業』 (一九六)「気持ちのいい男だが、言葉をオブラートに包も うとしない」 類句「オブラートにくるむ」とも言う。 お神輿を上げる みこしあ 意味「みこし」と「腰」をかけ た洒落。なかなか帰りそうにな かった人が腰を上げて、そこから帰る。用法文型 「ダレダレがおみこしを上げる」。「みこしを上げる」とも 江戸 つきませんね」 ぷり一時間。何時お神輿をあげる気か、さっぱり見当が 用例角田喜久雄『高木家の惨劇』(一九四七)「それからたっ 類句重い腰を上げる腰を上げるみこしを上げる お目に掛かる 意味目上の人にお会いする。ある 状況に出会う。また人・物に出会う ことをからかい気味に言うことがある。用法文型 「ダレダレがダレナニにお目にかかる」。用例⑤のような 「お目にかかれない」と可能打ち消し形がある。「室町」 用例①『朝日新聞』(一九五六・七・三朝)「マナスル登山隊の 一行が天皇陛下にお目にかかった時の写真を見て」②開 高健『パニック』(一九五七)「この優美な残酷さには山で何 度もお目にかかったことがある」③山崎豊子『白い巨塔』 (一九六三-六五)「今夜中に先生にお目にかかりたい用件があ りますので」④『朝日新聞』(一九六四・二〇・一四朝)「『巨人ぎら い』の話を聞いても、『長島ぎらい』の人にお目にかかっ たことはない」⑤『朝日新聞』(一九六九・七・三朝)「もうかって いる公共交通にはお目にかかれなかった」 お目に掛ける 意味目上の人にお見せする。また 人に見せる。用法文型「ダレダ レがダレダレにダレナニをお目にかける」。命令・意志 表現は可能。「安土桃山」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「信ずるに 値するいくつかの統計をお目にかけよう」②平岩弓枝 『風子』(一九五七)「手妻をお目にかけましょうか」 <94> 重い腰を上げる 意味なかなか行動を起こそう 重い腰を上げる としない人 いやいやながら 取りかかる。 用法文型「ダレダレが重い腰を上げる」 「ようやく」「やっと」のような副詞が「重い腰を上げる」 を修飾することが多い。 用例①「朝日新聞」(一九七九・七・五朝)「会社も『安全は何を おいても優先されるべき課題』とようやく重い腰を上げ たかに見えた」②「朝日新聞」(一九二三・三・七朝)「やっと重 い腰を上げる気になったのだろうと感じました」 類句「おみこしを上げる」「腰を上げる」「みこしを上げる」 おも 思いも掛けない 意味ある出来事についてそん なことが起きるなど思ってもみ ない。予期しない。またあることを考えもつかない。 用法文型「ダレダレは~とは(なんて)思いもかけない」 思いもかけない十二二「思いもかけぬ十二二二平 安 用例田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(二九七)何 か、思いもかけぬどえらいことが、国や、国民のゆくす えに待っているにちがいない 類句思いも付かない思いも寄らない 思いも付かない 意味あることを考えもつかない。用法文型「ダレダレは ~とは(なんて・など)思いもつかない」「思いもつかない いナニナニ」「思いもつかぬナニナニ」とも言う。「江戸 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九三一六五)「財前は、執刀 を誇示することなど思いもつかぬほどに」②大江健三郎 「ピンチランナー調書」(一九六六)「若い連中には思いもつか ない、おれたちの経験に立って」 類句思いも掛けない思いも寄らない おもよ 思いも寄らない 意味「思いも掛けない」に同 じ。用法文型「ダレダレは ~とは(なんて・など)思いも寄らない」〔平安〕 用例①開高健『パニック』(一九五七)「これほどの大事件になろうとは、まったく思いもよらなかった」②井伏鱒二『黒い雨』(一九五十六)「川向う一面に灼熱色の火焰が天に舞いあがっていた。近寄ることなど思いもよらなかった」③高杉良『人事権!』(一九三)「手塩にかけて育ててき <95> た宮本を本社から放逐するつもりになっているとは、思 いもよらなかった」 as one wanted おもつぼ 意味人・状況がある人の思惑・企ての通 思う壺 りであること。用法文型「ダレナニが ダレダレの思うつぼ」「思うつぼにはまる」(江戸) 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「あの時なまじこっちかた手出しをしてはますます向こうの思う坪に陥って玩弄されるばかりだシ」②角田喜久雄『発狂』(二九三)「総ては順調に進んで行った、悉く思う壺だった」③内田百閒『百鬼園随筆』(二九三)「うっかりその御招待を辞退すれば、おぞくも大人の思う壺に嵌まり」④朝日新聞(二九九・八・三朝)「内閣の不信任案が突きつけられるかもしれないが、これこそ政府・自民党の思うツボ」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(二九八)「それをすれば警察の思うつぼであることが分かっているからだ」⑥大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「キレたら、飼い主様の思うツボだ」 類句「図に当たる」「壺にはまる」「願ったり叶ったり」 「的に当たる」「外国語」英語では人が主語の場合、play into someone’s hands 物事が主語の場合、turn out just おやかたひまる意味親方は国家ということで、国の 親方日の丸組織・団体に所属するものが、国が やっているのでいくらでもお金はある、食いっぱぐれが ない、なんとかなるという安易な姿勢で業務を行ってい ることを皮肉って言う言葉。用法文型「ダレナニは 親方日の丸」 (用例)①「朝日新聞」(一九九·二·三四朝)「官公庁の職員はやれボーナス、やれべア…と親方日の丸」②「朝日新聞」(一九〇·九·五朝)「国民の国鉄といわれる。しかし、裏を返せば親方日の丸でもある」③「朝日新聞」(一九〇·三·三朝)「ムダな行政機構、親方日の丸意識のぬけない数多い公務員がいる現状では」④「朝日新聞」(一九三·三·一七朝)「何事にもスローモーションのお役所が親方日の丸の下にあぐらをかいていては」⑤龍一京「交番巡査の誇り」(三〇四)「親方日の丸で、失業する心配がない者に」 やすごよう 意味人から何かを頼まれた時に簡単 お安い御用 にできると請け負う時の言葉用法 文型「ナニナニはお安い御用」(江戸) <96> 用例①横溝正史『嵐の道化師』(一九三九)『そうだってね で、三津木君、ぼくはひとつ、きみから事件の顛末を訊 きたいのだがね。(略)『ああ、いいとも、お安い御用だ』 ②梓林太郎『立山雷鳥沢殺人事件』(一九九九)『あした劔へ 連れて行ってくれませんか』春子は男にいった。彼はお 易いご用だというように応じた』③大沢在昌『心では重 すぎる』(三〇〇)『ありがとうございます。お願いできま すか』『お安い御用です(略)』 類句「赤子の手を捻る」「お茶の子さいさい」「世話がない」「屁の河童」「外国語」英語ではNo problem おやすねかじ意味子が独立して生活できず(せ 親の脛を囓る ず)、経済的に親に頼る。用法文 型「ダレダレが親のすねをかじる」。用例⑤のような ママの~」はまれ。③④⑤のように「親のすねを」と かじる」の間に語句を挿入することは可能。「江戸」 用例①浜尾四郎『死者の権利』(一九九)「親の脛を囓っていながら学業をよそに、狭斜な巷を放歌してゆく蕩児です」②久保田万太郎『花冷え』(一九三八)「親の脛を囓って出た大学じゃアねえ、苦学して、汗みずく流して、自力で卒業した大学だ」③石坂洋次郎『青い山脈』(一九四七)「親 のスネを無反省にかじっているぼくは」④源氏鶏太『夢を失わず』(一九六〇)「学生時代、親のスネを遠慮なしにかじっていたころには」⑤石坂洋次郎『光る海』(一九六一六三)「私、むちゃな仕事はしないつもりだから、いままで通り、ママの脛をときどきかじらせてもらうだろうけど」 外国語英語ではsponge off おやななひかり 意味「親の光は七光」の略。親の名 親の七光 声・威光のおかげで子はいろいろ恩 恵を受けること。用法名詞句としてさまざまに用い られる。江戸 用例①「朝日新聞」(一九一・二〇・三六朝)「親の七光りに頼らないとやっていけない、ただの二代目社長ではなかったのである」②東野圭吾『宿命』(一九〇)「親の七光だけをあてにする男よりはマシかもしれんがね」 外国語 英語でき ride on one's father's coattails おやぶね の 意味「大船に乗る」に同じ。用法 親船に乗る 文型「親船に乗ったような(気持ち)」 江戸 用例①夏目漱石「現代日本の開化」(九二)「牧君は自 <97> 分の方は伸ばせばいくらでも伸びると気丈な返事をして くれたので、忽ち親船に乗ったような心持になって」② 源氏鶏太『三等重役』(一五二五三)『ベストワンをですな よろしい、たしかに引き受けました』では、親船に乗っ た気イでおりますぞ、桑原さん』 およ 及びも付かない 意味いくらがんばってもとて もかなわない。能力・技量に差 がありすぎて、とてもかなわない。用法文型「ダレ ナニはダレナニに及びもつかない」 用例①『言語生活』三一三号(一九七)「そういうものには及びもつかないですね」②「逆立ちしても彼の力には及びもつかない」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「足もとへも寄りつけない」「雲泥の差」「けたが違う」「太刀打ちできない」「月とすっぽん」「天と地」「歯が立たない」 おがみっ 意味書画・刀剣などの鑑定保 折り紙を付ける 証書を付けることから転じて、 人・物について、その人格・価値・技術などがすぐれて いると保証する。用法文型「ダレダレがダレナニに とと折り紙を付ける」。「~の折り紙を付ける」と言うこ ともある。用例①のように受身形がある。 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記第三部』無銭旅行 の巻(一九五)「彼は数学の頭脳では全校一という折紙がつ けられていた」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一五三)『いや いや、もうわしの出る幕じゃない。君で十分である。す でに、君は立派な社長である』と、折り紙をつけてくれ たのであった」③佐野洋『推理小説実習』(一九五九)「仙崎は、 彼の部下のうち、最も有能な者の一人だ、と折り紙をつ けた」 類句「太鼓判を押す」 外国語 中国語では慣用句「打 包票」(保証書を発行する意から、保証する。「打」は発行する。 「包票」は保証書。「打保票」とも言う) おひ 意味ある経験や事柄・心理が後々の状 尾を引く 態・動向にまで長く影響を及ぼす。多く は否定的なニュアンスである。用法文型「ナニナニ が尾を引く」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三一五)「医学部長選挙 以来、気まずい思いが尾を引いている則内院長をたて て」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「小学校 <98> 時代のあの記憶は今も尾を引き、ぼくは蛔虫恐怖症である」③「朝日新聞」(一九九・七・二七朝)「後味の悪さが尾をひく」④「朝日新聞」(一九九・七・三朝)「対立はいまも尾を引き自治体でも新基準の取り扱い方がまとまっていないときだけに」⑤内田康夫「坊っちゃん殺人事件」(一九九七)「最初マドンナとの密会をカムフラージュする目的ーとばかり思い込んでいたのが、いつまでも尾を引いてしまったとしか説明がつかない」 類句「後を引く」「糸を引く」「影を落とす」 おふ 意味犬が尾を振るように、権力者や上 尾を振る 司などに気に入られようとする。用法 文型「ダレダレがダレダレに尾を振る」(江戸) 用例織田作之助「青春の逆説」(一四二)「主人に尾を振 るのがいやなためか」 米ごま kつぽ 三ぐる一 、 类句「胡麻をト 類句「胡麻をする」「尻尾を振る」 おんどと 音頭を取る 意味物事をするに当たって人前に 立ってかけ声をかける。人の先頭に 立って物事を始め導く。首唱者となる。用法文型 「ダレダレがナニナニの音頭をとる」。命令・意志表現は 可能。 江戸 用例①「朝日新聞」(一九四七・五・八朝)「フランスの値下げ運動は、政府が音頭をとった」②黒岩重吾「背徳のメス」(一九六〇)「あんたが音頭を取って、給料値上げ運動をやってくれませんか」③「朝日新聞」(一九七九・七・三朝)「準公職者の区長が音頭をとって、全区民に後援会活動を呼びかけたのですから」④田辺保「なぜ外国語を学ぶか」(一九七九)「教室で先生が音頭をとって、反復練習をする」*類句「イニシアチブをとる」「舵をとる」「采配を振る」(外国語)英語では call the tune おんなくさ 女の腐った 意味ぐずぐずしていて態度や意志が はっきりしない男をあざけって言う言 葉。用法文型「ダレダレは女の腐ったような」江戸 用例内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八)「ヤクザな んて、男っぽいとかなんとか言ってるけれど、女の腐っ たのみたいに執念深いもんだねえ」 おんき 恩に着せる 意味相手のためにした行為をことさ ら相手にありがたがらせるような態度 をとる。 用法文型「ダレダレが十二十二を恩に着せ <99> る」。受身形がある。〔江戸〕 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一九六)「かわいがった のを恩に着せるではないが」②大下宇陀児『虚像』(一九五五) 「それはなんだか、恩に着せたような言分に聞えた」③ 『朝日新聞』(一九六一・六・一朝)「核のかさで恩に着せるが」 外国語英語では expect something in return おんき 意味ありがたいことをしてもらった 恩に着る ことや受けた恩を感謝し覚えておく。 用法文型「ダレダレがダレダレに十二十二を恩に着 る」。「恩に着る」と単独で使用することが多い。用例⑤ のような命令形もある。①②のように人に依頼をする時 によく使用。「室町」 ①坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「あとで、会わして下さい。恩にきますよ」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五三)「坊やが誘導して、うちで二次会ということにしてよ。恩に着るわ」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五三五三)「ナナはきっとあんたに恩にきますな」④稲垣浩『日本映画の若き日々』(一九七六)「べつに恩に着てもらえるほどのことを言ったわけではなかったが」⑤大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅲ』(三〇二)「恩に着ろとはいわないが、 あんたがこうして俺と話せているのは、俺が体を張った おかげなんだ」 おんぶに抱つこ 意味子どもをおんぶすると今 度は抱つこと甘えることから、 いい気になって何でも人の好意に頼ることを非難して言 う言葉。用法文型「おんぶに抱つこで」 抱つこで、高額な研究費を要求してくる」 用例「優秀な学生を送り出す大学は企業におんぶに 外国語 中国語では成句「得寸进尺」(一寸進むと一尺進みたくなる、一を得て二を望む) おんあだかえ 意味受けた恩を感謝するどころか 恩を仇で返す かえって害を加える。用法文型 「ダレダレが恩を仇で返す」。用例③のように受身形がある。 用例①「朝日新聞」(一九九八・六朝)「三食昼寝付きの 恩をあだで返す結果となったが」②高杉良「首魁の宴」 (一九八)「いま僕に辞められたら、会社も少しは困るで しょう。恩を仇で返すようなことはできません」③西村 京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(三〇〇)「恩を仇で、返され <100> たんだ。漁に行ってる間に、おれの家に忍び込んで、金を盗みやがった」 外国語 英語では return evil for good *中国語では 成句「恩将仇报」(恩を仇で報いる、恩を仇で返す。「报」 は報いる。「以怨报德」ともいう) か * かいぬて 意味親しく世話・面倒 飼い犬に手を噛まわ を見てやっている者(部 下・手下など)に裏切られて、ひどい仕打ちを受ける。 用法文型「ダレダレが飼い犬に手を噛まれる」(江戸 用例①谷崎潤一郎「ぜ」(九八言)「飼い犬に手工咬ま れるとはこの事ッちゃし」②江戸川乱歩「妖虫」(九三 言)「手下のやつらにはもっと気を配らんといかんね。 飼い犬に手をかまれるということもある」③源氏鶏太 「鬼の居ぬ間」(九五)「彼にすれば、飼犬に手を噛まれ たような思いがするのである」④朝日新聞(九〇・五・ 朝)「内部職員が告発という行為に出たことを、飼い犬 に手をかまれたと受け取って」⑤内田康夫「博多殺人事 件」(九二)「やつに裏切られるなどとは、考えてもみん ことですよ。飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのこ とだ」 *しよ 貝可「皆負いぞずふとりー」 類句 背負い投げを食う 煮え湯を飲まされる <101> 外国語 英語では bite the hand that feeds one かえひと 意味人が死んでしまう。「死 帰らぬ人となる ぬ」の敬意を含んだ上品な婉 きよく 曲的表現。用法文型「ダレダレが帰らぬ人となる」 用例内田康夫「志摩半島殺人事件」(一九八)「それっきり、 野村は文字どおり帰らぬ人となったのである」 * * きせき 類句「息が切れる」「息を引き取る」「鬼籍に入る」「骨 になる」「世を去る」 かお 顔が売れる 意味人が活動などによって世間に広 く知られる。有名になる。悪いことに 関しては使わない。用法文型「ダレダレは顔が売れ る」「江戸」 用例①朝日新聞(一九九・二・三朝)顔が売れるよう になった芸能人は②あのタレントはまだ顔が売れて いない」 類句「顔が広い」「名が高い」「名が通る」 間に信頼・安心感があって、(無理な)頼み事をしても聞 いてもらえる。用法文型「ダレダレはダレナニに顔 が利く」。用例①の「吉井の」のように「顔」を修飾する ことが可能。〔江戸〕 顔が利く 意味力があったり、有名であったり、 知り合いであったりなどして、相手との 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二三七)「薩摩の 蔵役人という吉井の顔がきいて、すぐ雇えた」②「朝日 新聞」(一九三・七・六朝)「『顔のきく』方々をトップに、切符 獲得の熱病が全国的にひろがったらしい」③山崎豊子 「白い巨塔」(一九三十六五)「われわれ同窓会の中で、財界人 に顔のきく連中」 類句「幅が利く」「物を言う」 外国語英語では have contacts *韓国語では「呂ぎぐ(顔が)ちかけ(通じる)」 かおそろ 顔が揃う 意味ある場所に集まる予定の人がすべ て集まる。主だった人が全員出席する。 用法文型「ダレナニの顔がそろう」「ドコドコに顔がそ ろう」「 用例①「全員の顔がそろうことは珍しい」②「顔がそ ろったところで宴会を始めましょうか」 類句「役者が揃う」 <102> 意味人の体面・名誉が保たれる。 用法文型「ダレダレはダレナニに(対 て)顔が立つ」「ダレダレの顔が立つ」「江戸」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二三)「彼が来れば多く の客に対してジャッキーの顔も立つのであった」②直塚 玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九八〇)「そうすれば、相 手の追及の手をかわすことができるし、相手の顔も立 こ」 類句「面目が立つ」「面目を施す」 外国語韓国語で は「呂ぎぃ(顔が)서다(立つ)」 かおつぶ 意味人の名誉が傷つく。世間に対す 顔が潰れる る面目が失われる。用法文型「ダ レダレの顔が潰れる」(江戸) 用例高杉良『人事権!』(一九三)「田端さんの顔が潰れるようなことはないのと違いますか」 類句「面目が潰れる」外国語韓国語では「呂吉」 (顔が)号外皿(?に)ぼけ(なる)「号外皿」とは、「号」 を入れる鉢。「号」とは、そばや緑豆などで作るゼリー状の食 べ物) かおひろ 意味世間に顔・名前が広く知られてい 顔が広い る広い範囲のいろいろな方面の人と面 識がある。知人が各方面に多くいる。用法文型「ダ レダレはドコドコに顔が広い」。用例①⑤のように「お 顔」と敬語を使うことが可能。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「東さんは、大阪の財界人にお顔が広いから」②『朝日新聞』(一九九七・七・四朝)「顔の広い広告代理店に」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「年若いが結構顔が広いらしく勝一郎は川原町の中でも何度も声かけられたし」④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「どれだけ顔が広いのか知らないが、まさかその企業の社員全員が知り合いというわけでもないだろ」⑤本所次郎『閨閥』(三〇四)「さすが先生のお顔は広い」 類句「顔が売れる」「名が高い」「名が通る」 英国語では know a lot of people *韓国語では「ぜき」 (顔が) 詰け(広い) かお ひで 意味ひどく恥ずかしい思いを 顔から火が出る して顔を赤くする。用法文 「ダレダレは顔から火が出る思い」「ダレダレは顔から 火が出るほど恥ずかしい」。「顔から火が出た」と言い切 <103> ることもある。 (用例)①石坂洋次郎『光る海』(一九三十六三)「デパートの特選品売場でそんなことをいわれて、顔から火が出る思いがしたろうね」②『朝日新聞』(一九〇・二・三朝)「今、思い出しても顔から火が出るほど恥ずかしく」③『朝日新聞』(一九一・二〇・三朝)「ポルノ本ということ?『ハイッ』と顔から火のでる思いで答えたのに」④藤田宜永『転々』(一九九)「自動ドアの横にいた従業員が、僕の手許をじろりと見た。顔から火が出る思いがした」 類句「穴があったら入りたい」「合わせる顔がない」「顔 向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目が ない」「面目次第もない」 顔に書いてある 意味人の気持ちや思いが表情 にありありと現れている。 用法文型「ダレダレの顔に書いてある」。「ちゃんと」が句を修飾することが多い。 用例①高杉良『首魁の宴』(一九九八)「この程度なら、よ しとしなければ、と二人の顔に書いてある」②「彼女の ことが好きだとちゃんと顔に書いてある」 外国語 英語では be written all over one's face かおどろぬ 意味人の体面・名誉を傷つける。 顔に泥を塗る 世間に対して顔が向けられないよう な恥ずかしい思いをさせる。用法文型「ダレダレが ダレダレの顔に泥を塗る」。受身形がある。「江戸」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「色狂いして親の顔に泥を塗ってもしようがない所を」②源氏鶏太『三等重役』(一五二五三)「お前たちは、寄ってたかって、南海産業の社長たるわしの顔に泥を塗ろうとしとる」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五五)「自分の行動がだれかのカオに泥を塗っていやしないだろうか、あるいは他人によって自分のカオに泥を塗られてはいやしないか」④朝日新聞』(一九〇・六・六朝)「主人の顔に泥をぬり、主家の金をくすねるような横着な奉公人を」⑤高杉良『首魁の宴』(一九九八)「大麻を吸うとは、なんて莫迦なやつなんだ。親の顔に泥を塗りおって」 類句「顔を汚す」「顔を潰す」(外国語)英語では make someone lose face *韓国語では「얼굴에(顔に)흙탕질을(泥塗りを)かけ(する)」 顔を貸す 意味飲食・話し合い・喧嘩などのため に頼まれて一時、外で人とつきあう、外 <104> で人と会う。 用法文型「顔を貸してくれ」など命令 形・依頼形が多い。〔江戸〕 用例 木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「ちょっと顔を貸してほしいんじゃ」 顔を揃える 意味「顔が揃う」に同じ。用法文 型「ダレダレが顔をそろえる」 用例①菊池寛『蘭学事始』(一九三)「六人の顔が揃うと、 打ち連れ立って骨ケ原に向った」②山崎豊子『白い巨塔』 (一九三一五)「定刻の二時に、(略)各委員は全部、顔を揃 えていたが」 加おだ 意味(1)集まりなどに出席する。ある常 顔を出す 連客が店を訪れる。訪問して顔を見せる 訪れて挨拶する。(2)順位を付けた一覧に名前が上がる。 (3)ある物の一部分が見えている。用法文型(1)(2)「ダ レダレがドコドコへ(に)顔を出す」。(1)の意では命令・ 意志表現が可能。(3)「ナニナニが顔を出す」(江戸) 用例(1)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「花街の小 唄や長唄の会へは必ず顔を出し」②三浦綾子『塩狩峠』 (一九六八)「わたしが戦争にいっている間、ちょくちょく美 沙のところに顔を出してくれたそうですね」③東野圭吾 『卒業』(一九六)「ここへは変わらず顔を出しているらしい から思いすごしのようだな」②④筒井康隆『狂気の沙汰 も金次第』(一九三)「長者番付に顔を出している作家」③ ⑤「つくしが顔を出している」 類句(1)「顔を見せる」(外国語)(1)英語では put in an appearance *韓国語では「끝글을(顔を)끝끝(出す)」 かおた 顔を立てる 意味相手の体面・名誉が保たれるよ うにする。用法文型「ダレダレが ダレダレの顔を立てる」(江戸) 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「わざわざ、やって来たんですから、何とか、顔を立ててくださいよ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「ここは一つ、鵜飼医学部長の代理である私の顔もたてて下さいよ」③『朝日新聞』(一九三二・三王朝)「全員引き取って、高橋さんの顔を立てた」④深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九三二「岩崎の顔を立てて、名だか迷だか分からない推理を聞いてやってもよい」 外国語 英語では show deference to <105> 加おつぶ 意味相手に恥をかかせる、相手の体面 顔を潰す を損なうようなことをする。用法文 型「ダレダレがダレダレの顔を潰す」。用例③のように 受身形がある。〔江戸〕 用例①「朝日新聞」(一九七九・七・三朝)「顔をつぶすのもどうかと思い、防衛問題の権威者としていろいろお話を聞くということで」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「いつまでもそうやって、その日暮らしをしているわけにはいかないだろう。教授の顔をつぶす気か?」③高杉良『人事権!』(一九九三)「少なくとも五パーセントでなければ、顔を潰されたと思うでしょうねえ」 顔句「顔に泥を塗る一顔を汚す一 かぎにぎ 意味人またはあることが事件・問題な 鍵を握る どを解決したり、物事を実現したり、あ るいは勝敗を分けたりする重要な手がかりを持つ。 用法「ダレナニがナニナニのかぎを握る」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「その辺がこの 裁判の勝敗の鍵を握るような気がする」②『朝日新聞』 (一九七九・五・八朝)「事件のカギを握る日商の島田常務が自殺 した」③『朝日新聞』(一九七九・五・三〇朝)「大平首相がリーダー シップを発揮して国民を説得できるかどうか、が計画実 現の一つのカギを握っている」④『スポニチ』(一丸・六・七) 「ヤングマンニ人の精進が今後のペナントのカギを握 るともいえそうだ」⑤「朝日新聞」(一九九・二・一七朝)「国際 電信電話会社(KDD)疑惑のカギを握る人物」 外国語 英語では hold the key かくせい かん 隔世の感 意味物事の変化や進歩で世の中がすっ かり移り変わってしまったという感慨。 用法文型「隔世の感がある」 用例田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)今日の進 歩した翻訳技術からくらべると、隔世の感がある」 類句「今昔の感」 外国語 中国語では成句「隔世之 感」(隔世の感。「恍如隔世」〈さながら隔世の感がある〉とも 言う) 加げうす 影が薄い 意味人が元気なくその場にいてもわ からないほど目立たない印象が薄い。 人が地味で目立たない。用法文型「ダレダレは影が 薄い」。「影が薄くなる」とも言う。江戸 用例①朝日新聞(一単・一・二朝)「すでに『下野外遊』 <106> の印象が深く、影が薄かった」②「朝日新聞」(一九七九・七・一六朝)「片手間に走る本屋や文房具店が増え、専門店の影が薄くなっている」③斎藤栄「日美子の公園探偵」(三〇二「日美子は小宮山健一郎の姿に──俗に影が薄いという妖しいムードを感じていたのだ」 類句「ぱっとしない」 掛け替えのない 意味他に代わりになるものがないほど非常に大切である。 用法文型「かけがえのないダレナニ」。人について言 うことが多い。〔江戸〕 用例①五木寛之『風に吹かれて』(九吉)「それはやはり私たちにとってかけがえのない自由な夏休みだったのである」②『朝日新聞』(一九八六・六・五朝)「かけがえのない本物の芸人は」③「命はかけがえのないもので大切にしなければならない」④「かけがえのない人を亡くし涙を流す」 加げ さ 意味悪い兆しが現れる。不吉な感じが 影が差す する。用法「ナニナニに影が差す」 用例朝日新聞(一九九・七・四朝)会社人間の支えであっ た『年功序列』制に影がさしてきたのだ」 類句「雲行きが怪しい」 加げぐち き 意味「陰口を叩く」に同じ。用法 陰口を利く 文型「ダレダレが陰口をきく」。用例 ②の「いろいろな」のように「陰口」を修飾することは可 能。 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「鳶が鷹を産んだようなもんだ、と陰口をきくものがあるかもしれない」②開高健『パニック』(一九五七)「仲間はいろいろなかげ口をきいたが俊介は気にかけなかった」 加げぐちたた 意味その人のいない所でその人の悪 陰口を叩く 口を言う。用法文型「ダレダレが ダレダレの陰口をたたく」「~と陰口をたたく」。用例① ②③のように受身形がある。 用例①井上靖『氷壁』(一九五六五)「常磐は社員からは 万年支社長と陰口をたたかれていた」②「朝日新聞」 (一九九六八朝)「周囲からは『患者のデモよけの防衛囲 い』などとカゲロをたたかれてきた」③「朝日新聞」 (一九一九三朝)「自民党内で皮肉まじりにこんなカゲロ <107> がたたかれる」④高杉良『濁流』(一九六)「スギリョー」 の涙は計算ずくで、演技に過ぎない、と陰口を叩く者も 社内にはいるが」⑤「部下が課長の陰口をたたく」 類句「陰口を叩く」は「陰口を利く」よりも侮った表現。「後ろ指を指す」「外国語」英語ではbackbite;speak ill of someone behind his back ひなた 意味人の知らないところ 陰になり日向になり でも人の前でも、その人を いろいろとかばったり助けたりするさま。用法文型 「陰になり日向になり~する」。副詞的に後ろの述語を修 飾する。江戸 用例①藤原審爾『死にたがる子』(一九七八)「木内をうけ入れた部長は、陰になり日なたになり、彼の面倒をみていたが」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「陰になり日なたになり、私たちのすることをじっと見守っていた父が」 *いんよう 類句「陰に陽に」(外国語)英語では both openly and secretly かげかたち 影も形もない 意味そこにあった(はずの)物、 いた(はずの)人があとかたもなく 消え、存在しない。 用法 文型「ダレナニが影も形も ない」「ダレナニが影も形もなく~する」「室町」 用例①甲賀三郎『蜘蛛』(一九三〇)「ドアの外にはたしかにあるべきはずの踊り場も階段も、影も形もなく消え失せているのだった」②江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇三)「悲鳴を聞きつけて、ドアをひらいてみると、被害者はこの通り倒れていて、犯人は影も形もなかったというのです」③三浦哲郎『結婚』(一九三七)「中に入っていた二十数人の人間が、文字通り影も形もなく消えてなくなったという話」 類句「影も形もなくなる」「影も形も見えない」 外国語 英語では disappear without a trace *中国語 では成句「无影无踪」(影も形もない、跡かたもない) かげかたち 意味そこにあった(はずの) 影も形もなくなる 物、いた(はずの)人があと かたもなく消えてなくなる。あとかたもなくなる。 用法文型「ダレナニが影も形もなくなる」 用例①坂口安吾『南京虫殺人事件』(一九五三)ピアノすら売り払ったらしく、影も形もなくなっているのだ」②星新一『ボッコちゃん』(二九二)二千光年の距離を越え <108> てきた銀色のロケットは、すでにかげも形もなくなって いた」③大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「『月長石』 はもはや影も形もなくなっていた」 類句「影も形もない」 かげお 意味ある事柄が好ましくない影響を 影を落とす 与えて現れる。用法文型「ナニナ ニがナニナニに影を落とす」。用例①②④のように「微 妙な」「複雑な」「濃い」や「暗い」などが「影」を修飾で きる。 用例①「朝日新聞」(一九九六・六・七朝)「元号」は、国民生活の各分野に微妙なカゲをおとしそうだ」②「朝日新聞」(一九〇・四・三王朝)「大平、河本両氏先行という事態は、中曾根派の総選挙へ向けた戦略に複雑なカゲを落としている」③「朝日新聞」(一九一・一・三王朝)「資本主義社会が持つ弊害がここにも影を落としていることは」④「彼女の残像は依然として彼の心に濃い影を落としている」 類句「影を投じる」「影を投げかける」とも言う。「あとを引く」「糸を引く」「尾を引く」 かげとう 影を投じる 意味「影を落とす」に同じ。用法 文型「ナニナニがナニナニに影を投じ る」。用例のように「微妙な」「複雑な」や「暗い」などが 「影」を修飾できる。 景気の先行きに微妙な影を投じている」 「用例」「朝日新聞」(一九九・六・八朝)「産業界には『石油』は かげな 意味「影を落とす」に同じ。 影を投げかける 用法文型「ナニナニがナニナ 二に影を投げかける」。用例①③のように「暗い」「微妙 な」や「複雑な」などが「影」を修飾できる。 用例①「朝日新聞」(一九九六・一九朝)「今後の飛鳥保存 に暗い影を投げかけているといえる」②「朝日新聞」 (一九一・四・一八朝)「それは人類の未来に大きな影を投げか けるものとなる」③「朝日新聞」(一九二・三・三朝)「これが ソ連の国防政策に微妙な影を投げかけているように思え た」 風上にも置けない 意味風上に置くと臭くてた まらないということから、品 性や行動が卑しく、ひどくて、同じ仲間としてはつき <109> あっていられないという非難と軽蔑の言葉。「風上にも 置けぬ」とも言う。用法文型「ダレダレはナニナニの 風上にも置けない」「江戸」 用例高杉良『首魁の宴』(一九九八)「杉野はOBをしても ペナルティなしで打ち直すし、パットはグリーンにオン すれば、どんなに遠くてもOK、カウントはアバウト。 およそゴルファーの風上にも置けない」 外国語 英語では not worthy of being called~ かさか 意味優勢なのに乗じて、勢いに乗って攻めかかる。また、相手の弱みにつけ込んだり、自分の有利な立場を利用したりして相手を押さえつけるような高圧的な態度を取ったり言ったりする。 用法文型「ダレダレがかさにかかる」。「かさにかかって言う」ということが多い。「鎌倉」 用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九三七)「石子は支倉がひ るむ色を見せたので、嵩にか、って云ったが」②久保田 万太郎『春泥』(一九三八)「嵩にか、ってそんな、ぐずぐず 立派そうなことはほざいたって」③内田百閒『贋作吾輩 は猫である』(一九四九)「人が歳を取ったと云えば、嵩にか かって来る検校だ」④源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二 類句「上手に出る」「笠に着る」 外国語英語では pile it on 「(略)あらかじめいっとくが、俺は、平林組の若いもんだ。』はじめから、かさにかかったいい方をしてくる」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「名本が嵩にかかって断じた」 かさき 意味 権力・力あるもの・多数などを後 笠に着る ろ盾に大きな態度を取る、いばり散らす。 または自分のしてやったことを恩に着せ勝手に振る舞う。 用法文型「ダレダレはダレナニを笠に着て~する」「室 町 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五)「あいつめ、大 友工業をカサにきて、威張ってるよ」②山崎豊子『続白 い巨塔』(一九六七六八)「権力を笠に着てものを云う人間」③ 『朝日新聞』(一九八一・三・四朝)「自民党の数をかさに着た専 制に歯止めをかけるために」④高杉良『濁流』(一九六六)「広 報の対応も、大丸野を笠に着て横柄で強圧的だった」⑤ 姉小路祐『合併裏頭取』(三〇二)「国会議員であることを 笠に着て、露骨に『儲けさせろ』と求めてくる者が少な くない」 <110> かぜ たよ 意味ある人についてどこからともなく 風の便り 伝え聞く噂・消息。風聞。用法文型 風の便りに聞く」鎌倉 用例①渡辺温『或る母の話』(二九九)「風の便りに、あ の人がどうやらアメリカで結婚したらしいと云う噂を聞 きました」②田中英光『オリンポスの果実』(一九四〇)「あな たは、九州で女学校の体操教師をしていると、近頃風の 便りにききました」③姉小路祐『走る密室』(一九四四)「玉名 温泉で働いているってのは、風のたよりに聞いたけど」 かたっ 意味きっちり決着がつく。物事の処理 片が付く が終わる。物事の結論がはっきりつく。 あやふやな問題の始末がきっちりつく。転じて、(親から 見て)子が結婚するという意にもなる。用法文型「ダ レナニはかたがつく」「ナニナニにかたがつく」「ナニナ 二のかたがつく」(江戸) 用例①谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九二八二九)「君が来なければ容易にわれわれはカタが付かない、そこへ君がカタをつけに来たと」②石坂洋次郎『光る海』(一九三一三)「そ のほうが、早く子どものカタがついて結構ですな」③星 新一『ボッコちゃん』(二九二)「わけのわからない研究と やらは、いったい、いつになったら片がつくの」④朝 日新聞』(二九九・五・六朝)「法的にはカタがついても、国 民へのカタはついていない」⑤「言語生活」三三一号 (一九九)「来年の三月までには、すっかりそれの片がつく という意味ですか」 * 類句「けりがつくー かたずの 意味「かたず」は緊張したときに口 固唾を呑む にたまるつばのこと。ことの成り行き がどうなるかと緊張してじっと見守る。用法文型 「ダレダレがかたずをのむ」。後ろに「見守る」などの見 ることに関係した動詞や「聞く」などが来る。用例②④ ⑤のように「かたずをのむように」と言うことがある 〔鎌倉〕 用例①泉鏡花『草迷宮』(一九八)『お、お、』と、法師 は目を睜って固唾を呑む』②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三 「六五」「固唾を呑むように黒板に見入っていた教授たちの 間に、騒めきが起った』③『朝日新聞』(一九八○・八・三朝)「日 本だけでなく、米国や西欧諸国もカタズをのんで見守っ <111> ている」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)二人の聴衆 は、固唾を飲むように、瞳を凝らして浅見の口許を見つ めている」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇) 「固唾を呑むようにして待っている一同の前で、彼女は オペラを歌いだした」 類句「息を凝らす」「息を詰める」 かたかぜき 意味人が肩をそびやかして力を誇 肩で風を切る 示したり、うまくいって得意そうに したりして大いばりで歩く。またそのようにふるまう。 用法文型「ダレダレが肩で風を切る」(江戸) 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五三三)「平林 組の連中は、肩で風を切るように、町中を闊歩する」② 高杉良『濁流』(一九六)「肩で風を切って歩いてる編集の 連中がうらやましいよ」③大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』 (三〇二)「東京じゃ肩で風を切ってるかもしれんが、こっ ちじゃあんたのことを恐がる者はいない」④本所次郎 『閨閥』(三〇四)「代表権を持った春樹は、肩で風を切るよ うになった」 外国語 英語では strut along 肩の荷が下りる が下りる 意味負担になっていた責任や 義務がなくなりほっとする、気 持ちが楽になる。用法文型「ダレダレは肩の荷が下 りる」。「肩の荷が下りた思い(気)」などと言う。 (用例)①開高健『巨人と玩具』(二五七)「そのことのために私たちの肩の荷がおりることはなにひとつとしてなかったけれど」②山崎豊子『白い巨塔』(二六三十六五)「これで僕もほっとしたよ、(略)心配していたが、肩の荷が降りたよ」③太田蘭三『殺意の朝日連峰』(二九六)「釣部は、山岳推理小説の長編を脱稿した。(略)肩の荷がおりたおもいがする」④高杉良『人事権!』(二九三)「やっと肩の荷が降りました」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四)「事務局から外れ、秋葉は肩の荷が下りた気がしたが」 類句「肩が軽くなる」(外国語)英語では take a load off one's mind *韓国語では「어ヨ의(肩の)召을(荷を)望け(減らす)」 かたにお 意味背負っていた責任・義務 肩の荷を下ろす を果たして、解放されてほっと する。用法文型「ダレダレが肩の荷を下ろす」。命 令・意志表現は可能。 <112> 用例①野坂昭如『てろてろ』(二七二)『ついにやった、 人を殺した』罪悪感はなくて、ようやく肩の荷を下ろ した安堵感だけ」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』 (一九三)「亜紀子の腰が落ちついたのを見て、彼は肩の荷 を降ろした気分になっていたのである」③広山義慶『私 刑警察激弾!』(三〇二)「その緊張感を五人のメンバーと 共有できたことで、梅津は肩の荷を降ろしていた」 * 類句「重荷を下ろす」「肩の荷が下りる」 かたひじは 意味弱いところを見せまいとからい 肩肘を張る ばりしたり、必要以上に気負ったりし て堅苦しい態度を取る。用法文型「ダレダレが肩ひ じを張る」。用例②③④のように「肩ひじをはらず」と否 定形で用いられることも多い。「江戸」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「肩ひじ張った男は肩で風を切る」②田辺保『なぜ外国語を学ぶか」(一九九)「異人、外人、外国人に接しても、びくつかず、また肩ひじを張らず、一対一の独立した人間として、対することができる土台は」③『朝日新聞』(三〇五・二・三五夕)「肩ひじ張らず、自分らしい感じの女性を見るとステキだなって思います」④「そう肩肘を張らずに、もっとリ ラックスして 類句「虚勢を張る」 かたぼう 片棒を担ぐ 意味駕籠の棒の一方を担ぐことから 転じて、悪事に協力する。荷担する。 用法文型「ダレダレがナニナニの片棒を担ぐ」。ナニ ナニは好ましくないこと、悪事を表す言葉。「江戸」 用例①久生十蘭「魔都」(二九三七三六)「頼むと云えば王様殺しの片棒ぐらい担いでやらないもんでもない」②森村誠一「新幹線殺人事件」(二九七六)「殺人の片棒をかつがされたと知って愕然となった」③「朝日新聞」(二九七九八三三朝)「新聞はそんな連中の金もうけの片棒をかつぐ必要はひとつもないのである」④「朝日新聞」(二九八〇四三朝)「郵政大臣がなぜ、土地ころがしの片棒をかつぐようなまねをしたのか」⑤内田康夫「博多殺人事件」(二九九二)「下手をすると、恐喝の片棒を担ぐ結果にもなりかねませんからね」 類句「後棒を担ぐ」「ぐるになる」 外国語英語では be a partner <113> 加たみせま意味周りの人・世間に対して顔向け 肩身が狭いできない、引け目を感じ、恥ずかしい 世間体をはばかる気持ちであるさま。用法文型「ダ レダレは肩身が狭い」「肩身の狭い思いをする」「平安」 用例①夏目漱石『彼岸過迄』(九三)「彼は何れにして も甚だ肩身の狭い思をした」②源氏鶏太『緑に匂う花』 (九五三五三)「そう云う結婚生活が、妻にとって、どんな に肩身のせまい思いなものか、お考えになったことがあ りまして?」③平岩弓枝『風子』(九五三七)「昔は旦那様 がいないってんで、肩身がせまかったけど」④朝日新 聞」(九六三三三朝)「その都度仕事を休んでいては、職場 に対して肩身の狭い思いをし」⑤内田康夫『博多殺人事 件」(九九二)「ただでさえ肩身の狭い居候が」⑥姉小路祐 『合併裏頭取』(三〇二)「マイナスをした人間は肩身が狭い」 類句「穴があったら入りたい」「合わせる顔がない」「顔 から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「立つ 瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」「外国語英 語では can't walk with one's head held high *韓国語 では「みみみ(肩が)音辛引旨け(縮まる)」 身が広い 意味世間に対して面目が立ち、誇ら しげに感じる。用法文型「ダレダ 肩身が広い」「肩身の広い思い」「江戸」 (用例)①織田作之助『夫婦善哉』(一九四○)「間もなく働き口を見つけたので、蝶子は早速おきんに報告した。それで肩身が広くなったというほどではなかったが」②石坂洋次郎『石中先生行状記第三部』馬車物語の巻(一九五○)「石中さんは有名になってしまって、わしら同窓生も肩身のひろい思いですや」③山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七-六八)「野田薬局の一家から国立大学のえらい先生が出て貰えたら肩身が広い」 類句「鼻が高い」「鼻を高くする」 外国語英語では feel proud かたい 意味本気になって力添えをする。ひ 肩を入れる いきにして応援する。肩入れをする。 用法文型「ダレダレがダレナニに肩を入れる」。用例 ②のように敬語表現ができる。「南北朝」 用例①夏目漱石「私の個人主義」(一九五)「勿論悪い会 でも何でもありません。当時の校長の木下広次さんなど は大分肩を入れていた様子でした」②山崎豊子『白い巨 <114> 塔』(一九六三六五)「医学部長がどうしてまた、そんなにまで して、財前君に肩をお入れなのですか?」 類句「肩を貸す」「肩を持つ」「手を貸す」「手を差し伸 べる」「一肌脱ぐ」 かたお 肩を落とす 意味肩の力が抜けて両腕がだらりと 垂れ下がることから転じて、落胆して なだれる。用法文型「ダレダレが肩を落とす」 用例①城山三郎「毎日が日曜日」(一九五)「すっかり意欲を失い、肩を落として、帰って行くのであった」②「朝日新聞」(一九七九・二〇・八朝)「運動員はガックリと肩を落とした」③「朝日新聞」(一九七九・二〇・五朝)「あれを本墨打にされればもう終わりと肩を落としてた」④高杉良「会社蘇生」(一九七七「小川は林立するマイクの前で肩を落として、うなだれていることが多く」 類句「気が抜ける」「気を落とす」「力を落とす」 外国語韓国語では「어ヨ를(肩を) 멀어 뜨리다(落とす)」 肩を貸す 意味人を手助けしたり協力したりする。 用法文型「ダレダレがダレダレに肩を 貸す」。命令・意志表現は可能。「室町」 用例「頭を下げて頼んでいるのだから、少しぐらい肩を貸してもいいのではないかー 類句「肩を入れる」「肩を持つ」「助け船を出す」「力を 貸す」「手を貸す」「手を差し伸べる」「一肌脱ぐ」 片を付ける 意味(1)きっちり決着をつける。物事 の処理を終わらす。物事の結論をはっ きりつける。あやふやな問題の始末をきっちりつける。 (2)転じて、結婚してけじめをつける。用法文型「ダ レダレがかたをつける」。命令・意志表現は可能。「江戸」 用例(1)①谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九八二九)「君が来な ければ容易にわれわれはカタが付かない、そこへ君がカ タをつけに来たと」②武田泰淳『風媒花』(一九五三)「それを 責任を以て、自分でカタをつけられる人間じゃなくちゃ 話にならんよ」③朝日新聞(一九九七・七・三朝)「本選挙で すっきりカタをつけるべきだ」(2)④高橋三千綱『天使を 誘惑』(一九七八)「おまえもいい加減、恵子さんとのこと方 をつけなくちゃ駄目だぞ」 類句 (1)「けりをつける」「終止符を打つ」「ピリオドを打つ」 外国語 (1)英語では have it out <115> かたなら 肩を並べる 意味相手と対等の位置に立つ。実 力・勢力・地位・技量などがほぼ等し くなる。比肩する。用法文型「ダレダレがダレダレ と(に)肩を並べる」「平安」 (用例)①『朝日新聞』(一九六七・七・二九朝)「日本の寿命の伸び率は大きいので、ノルウェーなどの三国につづくデンマーク、スイスなどとやがて肩をならべそうだという」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「なんでもかんでも男女平等を唱え、そんなにまで男と肩を並べたいのなら」③『朝日新聞』(一九九・七・二九朝)「いまや一人当たり国民総生産では米国と肩を並べる日本は」④『朝日新聞』(一九八二・一・五朝)「瀬古はこれで福岡国際マラソンに三連覇を達成したが(略)日本選手としてはほかに肩を並べるもののない記録となった」 外国語 英語では be on a par with *韓国語では「 弾訾(肩を)山弾かけ(並べる)」 かたも 意味一方の味方になって何かと助ける 肩を持つ ひいきする、賛成する。用法文型 「ダレダレがダレダレの肩を持つ」(江戸) 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「そのまた悪い文 三の肩を持ってサ、私に食ってかかった者があると思し 召せ」②源氏鶏太『英語屋さん』(二五二)「君は今日の交渉 の際、明らかに敵国のカタをもっていたのではないか」 ③井上靖『氷壁』(二五六五七)「自分は社長より多少、あの 世話のやける山登りの青年の方の肩を持ちたいだけなの である」④『朝日新聞』(二九〇・三・五朝)「今度の判決は結 果的に加害者にくみし、被害者を突き放し、権力の肩を もつ裁判だったのではなかろうか」⑤西村京太郎『伊勢 志摩殺意の旅』(三〇〇)「どうやら、デスクが、連中に、洗 脳されてしまったらしいのだ。向うの肩を持っている」 * 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「外国語」英語では take sides with かちゅうくりひろ 意味猿が猫をおだてて火中の 火中の栗を拾う 栗を拾わせて、猫が火傷をした というラ・フォンテーヌの寓話から。他人の利益のため に危険をおかすたとえ。用法文型「ダレダレが火中 の栗を拾う」 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五四五)「たかが、これ くらいの問題で、火中の栗を拾うような真似をしてはい かん」②『朝日新聞』(一九八三・五・三朝)「大勢に逆らうリス <116> クをかけるか、大幅延長であえて火中の栗を拾うか」③ 高杉良『指名解雇』(一九九七)『おっしゃるとおりです、も う我慢できません。あした、荒垣部長と対決します』ま 待ってくれ。それこそ、木下は火中の栗を拾うことにな るぞ(略)』 外国語 中国語では成句「火中取栗」(火中の栗を拾う) がってんい 合点が行く 意味「合点」はもと、和歌や俳諧の 批評で良いと思うものにつけた印や、 何かを決める回状に賛成の印を自分の名前につけること を意味した。転じて物事の事情や相手の言うことが理解 できる、納得できる。用法文型「ダレダレはナニナ ニに合点が行く」。「合点が行かない」と否定形で言うこ とが多い。「がてんがいく」とも言う。「室町」 用例①平岩弓枝『風子』(一九五一年)「どうしてこんなにも東五郎に気持がひっかかるのか、風子には合点の行かないことであった」②半村良『どぶどろ』(一九七一年)「あ、成程』源助は合点が行ったようであった」③朝日新聞(一九七九年・七・四朝)「それを失言だの、妄言だのと言っていじめるのは、合点がいかない」④金田一春彦他『変わる日本語』(一九八二年)「どうして魚へんがつくのかが、私に はちょっと合点がいかなかった」⑤高杉良『会社蘇生』 (一九七)「宮野は、合点がいった」 外国語 英語では make sense 活を入れる 意味柔道などで気絶した人の息を吹 き返させることから転じて、人に強い 言葉で刺激を与えて元気づける、気力を奮い起こさせる またあることが元気でない人に刺激を与えて元気づける 用法文型「ダレナニがダレダレに活を入れる」。命 令・意志表現は可能。 用例①源氏鶏太『見事な娘』(一九五四五)「早速、見舞に行って、活を入れてやりましょう」②柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「この豆台風事件は気象台の職員に活を入れ、虚脱状態をようやく吹き飛ばした」③朝日新聞』(一九五七・七・三朝)「社会党を突き放すことで活を入れるショック療法だった」 類句「尻をたたく」「発破をかける」 かどた 意味相手に何かを言ったりしたりして、 角が立つ 相手との関係が穏やかでなくなる、物事 が荒立つ。用法文型「~すると角が立つ」「江戸」 <117> 用例①菊田一夫『君の名は』(一九五二五)「感情的になったって、角が立つばかりだからね」②「言語生活」三二八号(一九七九)「若い課長が来て年寄の部下を使う場合『福田くん』じゃちょっと角が立つから」③「朝日新聞」(一九八二・二三朝)「選挙前に返すとカドが立つ」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「智にはたらけば角が立つ」を地でいっているようなものだから」⑤高杉良「人事権!」(一九九三)「例のもの受け取ることにしたよ。きみは不満だろうが、返すのは角が立つ」 類句「波風が立つ」 外国語英語では create bitter feelings 角が取れる 意味年を取ったり人生経験をいろいろ積んだり、また苦労したりして人柄が穏やかになる。まるくなる。用法文型「ダレダレは角が取れる」(江戸) 用例 朝日新聞 一九九·二·三朝 浪人中の苦労でカド がとれ、ひと回り人間が大きくなった」 金に糸目を付けない 意味「糸目」は凧を制御 するためにつける数本の糸。 糸目をつけなければ制御できないことから、金を惜しま ず、いくらかかってもよいと考え、必要なだけ出して物 事に当たるさま。用法文型「ダレダレは金に糸目を つけない」「金に糸目をつけぬダレナニ」「江戸」 「用例」①「朝日新聞」(一九四七・三・三王朝)「金に糸目をつけ ぬ新興商人の間にはかえって豪華をきそうきらいがない でもない」②獅子文六『青春怪談』(一九五四)「気前がよ過ぎ て、人にオゴるのに、金に糸目をつけないから」③『朝 日新聞』(一九三・七・三王朝)「この録音設備は、専門家にとっ ては金に糸目をつけぬ夢のような仕事だったといわれ る」④「朝日新聞」(一九一・二〇・三王朝)「カネに糸目をつけな かった」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「もし金に 糸目をつけない、というのなら外国から養女をもらうし かないだろうな」 類句「湯水のように」 外国語 英語では Money is no object かな 蚊の鳴くような 意味話す声がかすかで弱々し いさまのたとえ。用法「蚊の 鳴くような声」と言うことが多い。「蚊が鳴くような」と も言う。〔鎌倉〕 <118> 用例①中勘助『妹の死』(二六八「ぽつりぽつりと蚊の 鳴くような声でいいだすのであった」②久生十蘭『魔都』 (二九七三)「蚊の鳴くような声で、『知りません』③石坂 洋次郎『何処へ』(二九四七)「婦人患者は蚊が鳴くような呟 きを洩らして」④源氏鶏太『三等重役』(二五二五三)「蚊の 鳴くような声でいったのであった」⑤金田一春彦他『変 わる日本語』(二九二)「語尾がはっきりしない、蚊の鳴く ような声を出していたのでは仕事にもならない」 加ぶあ 意味人が何かをして、その人の評価 株が上がる が上がる、評判がよくなる。用法 文型「ダレダレは株が上がる」「ダレダレの株が上がる」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「僕の会長とし ての株が上りましたよ」②高杉良「人事権!」(一九九三)「き みが頑張ってくれたお陰で、秘書室株が上がったよ」 外国語英語では one's stock goes up かぶとぬ 兜を脱ぐ 意味相手の力量を認め降参する。勝 負・競争・論争などで相手に負けて降参 する。いやいやではなく、相手の力量を素直に認めて軽 い敬意を持つ。用法文型「ダレダレがダレナニに兜 を脱ぐ「室町」 用例①二葉亭四迷『其面影』(一九六)「兜を脱いで降参 したら」②里見弴『多情仏心』(二九三工三)「三好の前に兜 をぬがなければならない事件が起りかけているような口 吻を洩したのは」③獅子文六『自由学校』(九五)「彼女は 少しも、二人にカブトを脱ぐ気持はなかった」④槌田満 文『文学にみる広告風物誌』(九七六)「予想できなかった ラジオの宣伝力の大きさに、多加はカブトをぬがざるを 得なかったのである」⑤『朝日新聞』(九七九・二・二六朝)「負 けは負け』とあっさりカブトを脱ぐところが、また北の 湖のカラリとした性格をあらわしている」⑥『朝日新聞』 (九二・五・四朝)「あまりのすばらしい竹刀さばきに、敗れ た大村も『相手の力が上でした』とカブトをぬいだほど」 類句「軍門に下る」「シャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」 「手を上げる」「旗を巻く」 かまか 意味相手が思わず本当のこと、こち 鎌を掛ける らが知りたいことなどを漏らしてしま うように、巧みに話しかける。用法文型「ダレダレ がダレダレに鎌をかける」。命令・意志表現は可能。用 例④のように受身形がある。(江戸) <119> 用例①黒岩涙香『血の文字』(二八九三)「知ぬ事は有ます まい、貴方がたが鎌を掛たから夫を幸いに益々知らぬ振 をするのです」②浜尾四郎『殺人鬼』(二九三)「検事は周囲 の状勢から何かを推察してカマをかけているのかしら」 ③宇井無愁『豚マンの唄』(二九三)「家内はこの写真をぼ くにみせる前に、それとなくカマをかけた』④「朝日新 聞』(一九七九・七・一九朝)「カマをかけられ、ついしゃべらされ たこともたびたびあった」⑤内田康夫『志摩半島殺人事 件』(一九八八)「浅見がカマをかけても、容易に乗ってこな い」 類句「探りを入れる」「腹を探る」「水を向ける」 外国語 英語では trick someone into (confessing かみなり お 意味目上の人に大きな声でがみが 雷が落ちる み言われる、怒鳴りつけられ叱られ る。 用法文型「ダレダレの雷が落ちる」(江戸) ①源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八—五九)「雷が落ちないようにしてくれな」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「油を売っていると旦那の雷が落ちるんですよ」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「恐怖のおふくろさんのカミナリが落ちるかもしれない」 類句「大目玉を食う」「大目玉を食らう」「大目玉を頂戴する」「お目玉を食う」 かみなり お 意味目上の人が大きな声でがみが 雷を落とす み言う、怒鳴りつけ叱る。用法 文型「ダレダレがダレダレに雷を落とす」。用例②③の ように受身形がある。 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「東君が、珍しく、 外来で雷を落としたという話じゃないですか」②田辺聖 子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「あたまから雷 をおとされたり」③高杉良『人事権!』(一九九三)「専務から、 おまえの日頃の努力が足りないからだとカミナリを落と されますし」 類句油を絞る かもねぎしょく 意味鴨が向こうからネ 鴨が葱を背負って来る ギを背負ってやって来た ら鴨鍋がすぐにできるように、利用されるものがさらに 望ましいものを持ってくることのたとえ。また事態が自 分に望ましいように展開し、物事がますます好都合に行 くたとえ。用法文型「鴨が葱を背負って来たような」。 <120> 単独でも使用する。用例③の「日本人の」のように「鴨」を修飾することが可能。 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「何、それは鴨が葱を背負って、のこのこやってくるようなもんだから」②斎藤栄『産婦人科医のメス』(一九七六)「いいカモを捜していたわけでしょう。そこへカモがネギを背負って来たということになります」③中村うさぎ『だって、欲しいんだもん!』(一九九九)「日本人のカモがネギしょって来よったでえ!」 かゆところてとど 意味細かいところまで他者 痒い所に手が届く に対して心配りが行き届いて いる。相手がしてほしいと思っていることを察してよく 世話をしてくれる。用法文型「かゆい所に手が届く よう」。「かゆい所へ手が届く」「かゆい所に手の届く」と も言う。〔江戸〕 用例①嘉村礒多『崖の下』(二九八)「万事万端、痒いところに手の届くようにしてくれた思い遣りも」②大下宇陀児『悪女』(一九三七)「それはそれは痒いところへ手の届くほどの介抱ぶりで」③石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇六二)「痒い所に手が届くよう懇切に御教授由し上げたい と存じます④高杉良『人事権!』(一九三)「常務時代から 十七年も仕えてて、ま、痒い所に手が届くみたいな存在 だからねえ」 類句「至れり尽くせり」 外国語 英語では leave nothing to be desired か 借りてきた猫 くしているさまのたとえ。 意味普段と違ってとてもおとなし 文型「ダレダレは借りてきた猫のよう」 用例①五木寛之『風に吹かれて』(一ぎ)「四十歳前後 の他の日本人乗客は、借りてきた猫のようにかしこまっ ていた」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「石山社長の前では 借りてきた猫みたいにおとなしくて」③吉村達也『鎌倉 の琴』殺人事件』(三〇四徳間文庫版)「出るとこ出たら『借 りてきたネコ』状態になれるあの二重キャラは」 外国語 英語 ぐは meek as a lamb (or kitten) かきやまにぎ 意味つまらないもの、何 枯れ木も山の賑わい の役に立たないものでも、 ないよりはましというたとえ。自分を謙遜して言う。間 違って逆の意味に解釈する人がいる。用法単独で使 <121> 用。 江戸 用例①井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六一五毛)「どうだねマダム、あんたも一つ、応募してみないかね。枯れ木も山の賑わいだ」②石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇一六二)「枯れ木も山のにぎわいといった程度の消極的な心境だけど」 がお 意味強情を張って、自分の考えを無理 我を折る にでも通そうとすることをやめ、人の意 見や考えに譲歩する。用法文型「ダレダレは我を折 る」「室町」 用例「ここらで我を折って受け入れることにしよう」 類句「角を折る」 がは 我を張る 意味人が何と言おうと自分の意見・ 考えを押し通そうとする。用法文型 「ダレダレは十二に我を張る」(江戸) 用例「つまらぬことに我を張って父と喧嘩になった」 類句「我を立てる」「我を通す」とも言う。「意地を張る」 かんきわ 意味非常に感激する。堪えきれないほ 感極まる ど感動する。用法文型「ダレダレは 感極まって~する 何べんも向井の肩をたたいたりした」②「感きわまって 涙を流す」 かんこどりな 意味「閑古鳥」はカッコウの異名 閑古鳥が鳴く カッコウの鳴き声がもの寂しいこと から、店を開けているのに客が来ず、ひっそりと寂しいさま。 用法文型「ナニドコは閑古鳥が鳴いている」 江戸 用例①高杉良「濁流」(一九六)「映画館はガラガラで閑 古鳥が鳴いている」②内田康夫「イーハトーブの幽霊」 (一九九)「お客の絶対量は限られたものである。相変わら ず閑古鳥が鳴いている日が多く」③「店は閑古鳥が鳴い ている」 ふく 意味親が堅い物を噛んで柔らかく 噛んで含める して子どもの口に含ませるように、 相手によく理解できるように易しく丁寧に説明したり言 い聞かせたりする。用法文型「ダレダレがダレダレ に噛んで含めるようにする」。「~する」に「言う」「話 <122> す」などの発話行為を表す言葉が来る。〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九九六・六・一九朝)「初老の米国婦人は日本人に対して、ゆっくりと、かんでふくめるように英語を話す」②『朝日新聞』(一九八一・六・六朝)「『かんでふくめる』話ぶりとまでいかなくても、つとめてゆっくりと話そうではありませんか」③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「噛んで含めるように、総合商社と専門商社の仕組みの相異点を説明したあとで」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「宮之原は噛んでふくめるようにいった」 かんにんぶくろ お き 意味ある人・ことについ 堪忍袋の緒が切れる て我慢してきた怒りが堪え きれず爆発する。用法文型「ダレダレは堪忍袋の緒 が切れる」。過去形がよく使われる。「江戸」 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(二八吉1六)「馬鹿 だの豚尾だの野呂間だのとモウ此上は堪忍袋の緒が切れ た」②井伏鱒二『丑寅爺さん』(一九五〇)「勝手にさらせ。わ しは、牛を連れて近村の村巡りに出る。即刻、出て行っ てやる。堪忍袋の緒がきれた」③源氏鶏太『坊っちゃん 社員』(一九五二五三)「もはや、堪忍袋の緒が切れた」④石坂 洋次郎『あじさいの歌』(一九五八—五九)「何事にも限度という ものがある。いく子の場合にも、堪忍袋の緒がきれる時 がやって来た」 * かんはつい 意味髪の毛一本さえも入る隙間も 間髪を入れず ない程の意からある言動・できご とに続いて間を置かずにすぐにそれに応じるさま。出典 は中国の古典『文選』の「間不容髪」の読み下しから。「間 髪を入れず」と読む。「カンパツ」と言うのは誤り。 用法文型「ダレダレは間髪を入れずする」「室町」 用例①斎藤緑雨『かくれんぼ』(八九二)「間、髪を容れ ざる働きに」②井伏鱒二『駅前旅館』(九五六五七)「魚を釣 るとき浮子が水に引きこまれたら、間髪を入れずに合 せるようないきさつでございます」③源氏鶏太『男と 女の世の中』(九三)『鈴江さん、多数決ですよ』間髪 <123> き * を入れないで、浩介が、『それで、話が決りました』④ 『朝日新聞』(一九八○・八・二朝)「レストランでイスに着くと 間髪をいれずウエートレスがやってきた」⑤「相撲界」 (一九八○・二)「再開となるや間髪を入れず右下手投げを添 えながら左上手から捻って琴若を鮮やかに横転させた」 類句「あっと言う間に」「時を移さず」 かんばんな 意味世の中に対して専門・得意の分 看板が泣く 野として掲げていること、また世間の 評判が高い事柄が実際と隔たりが大きく、その名で唱え ることがはばかられる。用法文型「ナニナニの看板 が泣く」 用例①朝日新聞(一九七六・六・二七朝)「物価の美濃部の 看板が泣く②こんな商品を出しては老舗の看板が泣 く 類句名が泣く きえんあ 気災を上げる 意味酔ったり議論したりしている 時に、威勢のいいことを得意気にま たは熱っぽく言う。 用法文型「ダレダレが気炎を上 げる」 用例「仲間が集まっては酒を飲み、盛んに気炎を上げている」 類句「おだを上げる」「気炎を吐く」「気勢を上げる」「メートルを上げる」 気が重い 意味心に負担や心配を抱いて気持ちが 沈む。物事をするのにあまり気が進まな い。 用法文型「ダレダレは~するのが気が重い」「江 戸 用例①吉行淳之介『技巧的生活』(一九六四)「呼び出し電話なので、頼むのが気が重いんだ」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「あんなやさしい子が、どうしてそんなことを <124> したのかと思うと、どうも気が重くて」③平岩弓枝『風子』(一九五十七)「池永の待っている六本木の店へ行くのがその夜の風子には、どうにも気が重くてやり切れなかった」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「主幹に挨拶しなくちゃいけないかねえ。気が重いよ」 類句「気が沈む」「気が進まない」「気が引ける」「心が 重い」 気が軽い 急味心に負担や心配がなく軽やかであ るさま。 用法「気が軽くなる」と言う ことが多い。 江戸 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「浩太郎は ずもう さっきからの自分の緊張と一人角力を思い出して、笑い たくなった。気が軽くもなった」②倉橋由美子『霊魂』 (一九五)「それをきいてKは多少気が軽くなるようだった」 類句「心が軽い」 気が利く 意味(1)細かなところまで注意や配慮が 行き届き、臨機応変な対応ができる。(2) 服などがしゃれている。おつである。用法文型(1) 「ダレダレは気が利く」「気が(の)利くダレダレ」。用例 ①のように否定形でもよく使う。(2)「気が(の)利いたナニナニ」(江戸) 用例(1)①志賀直哉『転生』(二九四)「ある所に気の利かない細君を持った一人の男があった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)「国立大学の教授で、そんな交渉の出来る気のきいた奴はいませんわな」③渡辺淳一『北都物語』(一九四)「よく気の利くママのいる小料理屋」④平岩弓枝『風子』(一九五十七)「あたしは芸者で気のきいたことはいえないが」(2)⑤田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七)「焼出されのくせに気の利いた服、着とる」 類句(1)「気が回る」 気が気でない 意味 悪い事態を予想して非常に気 がかりになって落ち着かない。 用法文型「ダレダレは~と気が気で(は)ない」。「気が 気でない」の前に用例④⑤のように理由を述べる条件節 が来ることが多い。〔江戸〕 用例①佐藤春夫『都会の憂鬱』(三)「秋帆はこのご ろ気が気ではないのだそうです」②甲賀三郎『支倉事件』 (三)下手な事をやられて、変に勘違いをされたり、 しま 依怙地になられては困って終う。石子刑事は、気が気で <125> はなかった」③井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六-五七)「こちらはお客を迎えに出て、いまに汽車が着くという場合でございますから、気が気ではない」④石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八-五九)「父が、河田さんにどんな失礼なことを申し上げるかと思うと、気が気でなかったものですから」⑤朝日新聞(一九六二・二・六朝)「私の週末の楽しみが、奪われるのではないかと気が気でない」⑥木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「わたしはいつ、あらわれるか、もうあらわれるだろうと、気が気ではなかったのですが」 外国語 英語では be beside oneself *中国語では成句 「坐立不安」(居ても立ってもいられない、気がかりでじっと していられない) 気が知れない 意味相手がどういうつもりなのか わからない相手の考えが理解でき ない批判的に言う言葉。用法文型「ダレダレはダ レダレの気が知れない」「ダレダレは~か気が知れない」 ~は疑問に思うことが来る。「江戸」 用例①平岩弓枝『風子』(一九五一年)『うちのおかあさ んだって…』『本当かい』気が知れないな、と治夫は笑い 出した」②丸谷オ一「男のポケット(一九六)一体どうい ふわけで新聞の一面なんてものを、ああ丁寧に読むのか しら。気が知れないね」③内田康夫『三州吉良殺人事件』 (一九二)「ハワイなんかに出掛けて行く連中の気が知れな いわねえ」 類句「理解に苦しむ」 気が進まない 意味自分から進んでやる気になら ない。気乗りしない。用法文型 「ダレダレは~は気が進まない」。用例②のように丁寧語 が使用できる。 用例①高橋和巳『悲の器』(一九三)「病室へおもむくのは気が進まなかった」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「僕だって、あの女をお義母さんと呼ぶのは、あんまり気がすすみませんから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)「私は大学関係の方々との縁談は気がすすまないのでございます」④高杉良『会社蘇生』(一九七)「わたしとしては、外資は気がすすまないのですが」 類句「気が重い」「気が乗らない」「気が引ける」 外国語英語ではbe unwilling to do <126> 気が済む たことなどを自らまたは他人が処理してなくし、満足し て気持ちが収まる。用法文型「ダレダレは気が済む」 「ダレダレの気が済む」。否定形でもよく使う。〔江戸〕 用例①源氏鶏太「男と女の世の中」(九三)「泣いたこ とで気がすんだのか、それとも、最後まで、浩介がそば にいてくれたことで満足したのか」②石坂洋次郎「光る 海」(九三六三)「お前はすべてに自意識過剰だよ。自分の 身のまわりの不幸は、みんな自分の責任だと信じこまな ければ気がすまない人間なんだ」③山崎豊子「白い巨塔」 (九三六五)「私は下手の横好きで、地唄から小唄、長唄 俳句、お茶と何でも、一通りは囓らんと気のすまん方で して」④向田邦子「寺内貫太郎一家」(九三)「殴って気が 済むんなら、さあ殴ってくれよ」 〔外国語〕英語では feel satisfied 気が付く 意味(1)あることについて他人から教え られず、そのことに考えが及ぶ。考えつ く。気づく。(2)細かなところによく注意が行き届く。(3) 失神や眠りなどから正気に戻る。意識を取り戻す。(4)あ ることに没頭して、ふとそこから周囲に目をやり、どう いう状況か知る。用法文型(1)(2)「ダレダレはダレナ ニに気がつく」「ダレダレは~と気がつく」。用例②のよ うに否定形がある。③のように、程度の大きいことを示 す副詞とともに用いられる。(3)「ダレダレは気がつく」 (4)「気がつくと~する」「室町」 用例(1)①源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)「ビールがなくなっていることに気がついて」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(二九六)「おれが今まで気がつかなかった『親方』への畏怖と敬愛のよってきたるところを」(2)③福永武彦『忘却の河』(二九四)「君はよく気がつくひとですね」(3)④丸谷オー『男のポケット』(二九六)「眼の前にパツと火花が散つて、人事不省になったんです。気がついたら、医者がそばにゐました」⑤島尾敏雄『死の棘』(二九六)「つい眠りこんでしまった。気がつくと妻がしきりに呼んでいた」(4)⑥三浦綾子『塩狩峠』(二九六)「この小説を信夫は一気に読み終った。気がつくと、すでに日は落ちて」 類句(2)「気が利く」「気が回る」「気を配る」(3)「息を吹き返す」(4)「我に返る」 <127> きつよ 気が強い 意味(1)後ろ盾があって安心であるさま (2)気性が激しく弱音を吐いたりくじけた りしない。勝ち気である。用法文型「ダレダレは気 が強い」(江戸) (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「軍資金 に不足なら、父親に貰えばいいのだから、その点、気が 強い」(2)②平岩弓枝『風子』(一九五十七)「稽古の荒っぽさ は抜群で、ただでさえ気が強くて口の悪い千代だから」 ③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七)「可愛 い顔立ちに似ず、気は強いらしい」 類句(2)「鼻っ柱が強い」「向こう意気が強い」 気が遠くなる 意味意識が薄れ遠のく。またそれ ほど数値や程度がはなはだしいさま 用法文型「ダレダレは気が遠くなる」「気が遠くなるよ うなナニナニ」「室町」 用例①江戸川乱歩『人でなしの恋』(二三六)「その中にはさまって、車に乗る時の心持というものは、(略)ほんとうにもう、気が遠くなるようでございましたっけ」②星新一『ボッコちゃん』(二三二)「気の遠くなるような額の使い込みをやった」③田辺聖子『欲しがりません勝つ までは』(一九七)「あの、美しい淑女の園では、運動場十周 なんていう気の遠くなるような拷問は」④津本陽『深重 の海』(一九七)「頭の後ろをしたたかに打ち、気が遠くなっ た」 類句「常軌を逸する」「突拍子もない」とてつもない 「途方もない」外国語英語では faint away ; swoon 気が抜ける 意味(1)物事が中断したり緊張をなく すようなことが起きたりして、張り合 いがなくなる。やる気を失う。拍子抜けする。ぼんやり する。魂が体から抜ける。(2)ビールなどの酒類や炭酸飲 料などの味・香りなどがなくなる。用法文型(1)「ダ レダレは気が抜ける」。「気が抜けたよう」と言うことが 多い。(2)「気の抜けたナニナニ」「江戸」 用例(1)①平岩弓枝『風子』(一九五十七)「にやっと笑っている風子をみると、千代も玉子も気が抜けて、『今の若い子はわからないねえ』②柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「船舶練習部での仕事は真剣勝負そのものだったから、こう暇になると気が抜けたようだよ」(2)③高橋三千綱『天使を誘惑』(一九五)「自分が一本の、気の抜けた炭酸ソーダになったように思えた」 <128> 類句 (1)「肩を落とす」「気を落とす」「力を落とす」 気が引ける 意味あることをするのにためらいを 感じる。用法文型「ダレダレは~ ける」(江戸) 用例①三浦哲郎『結婚』(一九七)「私は、深いゆかりもない家の前でなれなれしくカメラにおさまるのは気がひけて」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「招待されていながら悪口を書くのは気がひけるが」③渡辺淳一『北都物語』(一九四)「絵梨子を連れて産婦人科の病院へ行くのに、明るすぎる陽射しの下では気がひける」 類句「気が重い」「気が沈む」「気が進まない」「心が重い」 類句「気が重い」「気が沈む」「気が進まない」「心が重い」 き 聞きしに勝る 意味話・噂・評判で聞いていた以 上にすぐれている、または程度がは なはだしい。用法文型「ダレナニは聞きしにまさる」 「聞きしにまさるダレナニ」 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三)「すでにもう秋川駿 三の訊問を開始しているものと見える。まことに、聞 きしにまさる斂腕さではある」②姉小路祐『走る密室』 (一九四)「聞きしにまさる横紙破りですね」③高杉良『首 魁の宴」(一九九八)「購読の押しつけも、聞きしにまさるものがあるようだ」 外国語 英語では much~ than one had heard きみみた 意味人の話・内緒話や物音な 聞き耳を立てる どを聞こうとして注意を集中す る。多くは前もって聞こえてきて、それをよく聞こうと して聞く。用法文型「ダレダレがナニナニに聞き耳 を立てる」「室町」 用例①川端康成『伊豆の踊子』(二九六)「聞耳を立てる気にもならない程に、私は親しい気持になっているのだった」②三島由紀夫『禁色』(二五二五三)「ふと一人の少年が言った言葉に、彼女は聴耳を立てた」③源氏鶏太『男と女の世の中』(二九六三)「そういう三人の対話を、咲子は、台所から聞き耳を立てているようだった」④平岩弓枝『風子』(二九五十七)「そういう話の時は必ず廊下まで来て聞き耳を立てている荒堀玉子が」⑤姉小路祐『走る密室』(二九四)「玄関口に進んだ尾崎は、聞き耳を立てた明かりのついた二階の部屋からロック音楽が聞こえてくる」 類句 * 耳を傾ける 「耳を凝らす」 「耳を澄ます」 「耳を <129> そばだてる きみも 意味相手の忠告・勧め・意 聞く耳を持たない 見を聞き入れない、受け入れ ようとしない。用法文型「ダレダレは聞く耳を持た ない」(江戸) ①朝日新聞(一九九五・五・五朝)店で母親にいい おもちゃを勧めても、聞く耳を持たないことが多い② 森村誠一「人間の十字架」(一九九三)「アルバイトはアルバ イトなりに責任があると言って聞かせても、聞く耳をも たない」③内田康夫「歌わない笛」(一九九八)「いったんホ シと目したら、いくら反論しようと聞く耳を持たない」 ④龍一京「交番巡査の誇り」(三〇四)「いくら話しても 菊田は聞く耳をもたない」 きこいきお 意味虎に乗ったら降りようにも降り 騎虎の勢い られないことから、物事の勢いがつい て行きがかり上、途中で止めようにも止められないこと 出典は中国の『隋書』。用法文型「ダレダレは騎虎の 勢い」(江戸) 用例①三島由紀夫『禁色』(二五二一五三)「小心な福次郎の 類句「飛ぶ鳥を落とす」「破竹の勢い」「日の出の勢い」 外国語中国語では成句「騎虎难下」(虎に乗って走るし かない、途中で下りられない) 騎虎の勢いは、すでに半ば衰えていたのである」②源氏 鶏太『天下泰平』(一九五四—五五)「こうなったら、最早、騎虎 の勢いである」 机上の空論 意味理屈ではそうなるというだけで 実際には役に立たない理論・考えや計 用法文型「ナニナニは机上の空論」 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(三三)「彼女のクリミノロギーは結局机上の空論の外を出ない」②倉田百三「学生と教養」(三六)「象牙の塔に閉じこもって、現実の世相を知らないものの机上の空論であるとしてかえり見ない向きもある」 類句「絵に描いた餅」「砂上の楼閣」「畳の上の水練」 外国語 英語では an armchair theory *中国語では 成句「紙上谈兵」(紙の上で兵法を論ずる。「谈」は論ずる) 機先を制する きせんせい 意味相手より先にことをしかけて 相手の気勢をそいだり相手の計画の <130> 実行を抑えたり、相手より有利な立場に立ったりする。 用法文型「ダレダレがダレダレの機先を制する」。用 例③④のように受身形がある。 用例①獅子文六『自由学校』(一九五〇)「ランデ・ヴウというやつは、やはり機先を制した方が、勝ちだといいますな。つまり、待たせた方がね」②菊田一夫『君の名は』第四部(一九五四)「はじめは、いきなり真知子に会って『お迎えにきたのですよ』と、柔らかく、にこやかにいて、おそらくは、強ばった表情で出迎えるであろう真知子の機先を制するつもりだった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一五)「ぐずぐずしていると、東教授の移入教授工作に機先を制せられてしまう」④内田康夫『歌わない笛』(一九九八)「いきなり機先を制せられ度肝を抜かれた感じだが」 類句「先手を打つ」「先手を取る」 外国語 英語では forestall ; get ahead of 切っても切れない 意味関係が密接であるさま。 用法文型「ダレナニはダレ ナニと切っても切れない関係」(江戸) 用例①夢野久作「ドグラ・マグラ」(た三五)「その骨相 と生活の中には、蒙古、印度、馬来、猶太、拉甸、アイヌ、 スラブ等の各民族の風采と性格が、切っても切れない因 果関係をもって結ばれ合いつつ」②田辺保『なぜ外国語 を学ぶか』(一九九)「フランス語やフランスと、自分を切っ ても切れない関係に引き入れてしまうのだ」③『朝日新 聞』(一九九・八・三朝)「西尾末広民社党委員長と切っても切 れない間柄」④『朝日新聞』(一九〇・三・三朝)「これら伝統 美と切っても切れない関係にあるシルクロード美術」⑤ 森村誠一『誇りある被害者』(一九六)「安光建設とは切っ ても切れない関係だろう」 きつねたぬきぱあ 意味狐と狸は人を化かす 狐と狸の化かし合い ということから、ずるがし こい者同士がだまし合うことのたとえ。用法文型 「ダレダレとダレダレは狐と狸の化かし合い」「ナニナニ は狐と狸の化かし合い」 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五四五)聞いていて、 聖子は、バカらしくなっていた。それこそ、キツネとタ ヌキのばかしあい、というものであろう」②高見順『都 に夜のある如く』(一九五四五)「男と女の仲は、狐と狸の化 しあいみたいなものなんだろうね」③舟橋聖一『ある女 <131> の遠景』(二六二)「みんな何云ってるんだか、わからないわ…狐と狸の化かし合いよ」 きつね 狐につままれたよう 意味 狐に化かされたよう に、思いがけないことが起 きて、何が何だか訳が分からず、ぼうっとしているさま 用法文型「ダレダレは狐につままれたよう」「狐につ ままれたようなナニナニ」。ナニナニには「顔」「気持ち」 などが入る。「江戸」 用例①徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」(一九四)「彼は狐 つまま に誑れた様な変な顔をして居る同級を」②泉鏡花「若菜 つま のうち」(一九三)「女の子は、半分気味の悪そうに狐に魅 まれでもしたように掌に受けると」③甲賀三郎「青服の つま 男」(一九三九)「流石の警部も狐に撮まれたような顔をしな がら」④城山三郎「毎日が日曜日」(一九五)「沖は思わず、 声をあげた。狐につままれた気がする」⑤「朝日新聞」 (一九〇・二・六朝)「キツネにつままれたようで。はやらな い演歌で賞をもらうなんて」 外国語英語ではbe baffled 木で鼻を括る さはなく 意味相手の言葉に対してそっけな い、無愛想な態度で、ろくに返事も せず相手をあしらうさま。元来は「木で鼻をこくる」と 言ったのが、誤用されて「木で鼻をくくる」になった。 用法文型「木で鼻をくくったような十二ナニ」「木で鼻 をくくったように~する」。ナニナニと~には挨拶・返 事などの発話行為の言葉が来る。「江戸」 用例①甲賀三郎『支倉事件』(二九三)「支倉の奴は木で鼻を縛ったような挨拶をしやがったが」②獅子文六『青春怪談』(一九五四)「木で鼻をククったように、蝶子は無愛想だったが」③石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五五)「木で鼻をくくったような返事ばかりしますからね」④朝日新聞(一九三・三王朝)「中には、木で鼻をくくったような客扱いしか出来ない宿舎もある」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「ただいま理事長は不在でございます』と木で鼻をくくったように答えた」 類句「けんもほろろ」「取り付く島もない」「にべもない」 「鼻であしらう」「外国語」英語では blunt 気に入る 意味自分の好みや望む条件にかなって 満足できる。用法文型「ダレダレは <132> ダレナニを(が)気に入る」。用例①のような受身形、③ のような敬語表現「お気に入られる」や、④のような否 定表現がある。「室町」 用例①大岡昇平『俘虜記』(一九五三)二人共常に勤勉に任務を果たそうという善意に溢れ、棟長班長の気に入られようと務めていたが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(二六三)「香代子は、港由利子を気に入り、自分の娘にしてもいい、と思ったのであろう」③山崎豊子『白い巨塔』(二六三一六五)「画廊で私が教授にお目にかかり、あの絵を大そうお気に入られたようにご覧になっておられましたので」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「ぼくが週刊誌に書いたことが気に入らないというのである」⑤平岩弓枝『風子』(一九五一七)「なにもかも気に入っている」⑥森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「矢沢は一目でその店の雰囲気が気に入った」 類句 眼鏡にかなう 外国語 英語では be pleased with 気に掛かる 意味心配事や疑問などが心にひっか かって離れない。用法文型「ダレ ダレはダレナニが気にかかる」。用例①のように否定形 がある。〈室町〉 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「夫人の失踪が気にかからぬことを、青年は自分の心の冷たさのせいにしていたが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「別に気にかかるようなことをしていたわけではないんだから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「実は、病理の大河内先生がこうした噂をどう取っていらっしゃるかということが、一番、僕の気にかかることなんだ」④中上健次『鳳仙花』(一九三)「吉広がその粗末な小屋に入り何をやっているのか気にかかったが」 類句「気になる」「心にかかる」 外国語 英語では be anxious きか 意味あることを心に留めて忘れない 気に掛ける あることが先行きどうなるかと心配す る。用法文型「ダレダレがダレナニを気にかける」。 人を対象とする時は「ダレダレのことを気にかける」と 言うことが多い。命令・意志表現は可能。否定表現も多 い。「室町」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二吾)「私はおよそつま らないことを気にかけない性格が」②島尾敏雄『死の棘』 <133> (一九六〇)「ますをへだてた乗客を気にかけるふうでもなく」 ③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「あたし、別に気 にかけているわけではありません」④三浦綾子『塩狩峠』 (一九六八)「君という男は、十歳の時にお坊様になる約束を したことを二十過ぎても気にかけている正直者だからね え」⑤星新一『ボッコちゃん』(一九七二)「この行為の残酷さ を気にかけるどころではなかった」 類句「気にする」「心にかける」「心に留める」 気に食わない 意味人や物事が自分の考え・思惑 や好みに反し、嫌だ、好きになれな い。用法文型「ダレダレはダレナニが気に食わない」 江戸 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「今度の医学部長の決済が、気に喰わないからだよ」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「その夜のぼくの司会ぶりが気にくわないという男からであった」③中上健次『鳳仙花』(一九〇)「その手をみせびらかしている事が気に食わなかった」④朝日新聞(一九一三三朝)「気にくわぬことがあるといっては、教師を殴ったり、職員室に押しかけたりするような」 類句気に入らない虫が好かない 気にする 意味ある事柄を根拠にそれが自分ある いは他人に不利益になると思い煩う、心 配する。用法文型「ダレダレがダレナニを気にする」。 用例③のように否定形がある。④のように禁止形がある。 「室町」 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(二六三)「自分の女 社長にあたえる初印象を気にしていたのである」②山崎 豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「時間を気にしていた様子だ が」③平岩弓枝『風子』(一九五七七)「女はたいして気にし ない様子でいわれた通りにした」④中上健次『鳳仙花』 (一九六〇)「勝一郎がフサに気にするなというように見てか ら」 類句気にかける外国語英語ではworry about 木に竹を接ぐよう 意味 木に竹を接いでも合わ ないように、物事の釣り合い がとれず、不自然なことのたとえ。また前後の理屈・筋 道が通らないことのたとえ。 用法「木に竹をつぐよう なナニナニ」。「木に竹をついだよう」とも言う。 <134> 用例①石坂洋次郎『何処へ』(盜も)「いきなり西洋風 の恋愛をここで実現しようととしても、木に竹を継ぐよ うなもので、出来ることではありませんですな」②「木 に竹をつぐような説明」 気になる 意味ある人や事柄・出来事などに少し 心が奪われ関心が行く。またはそれを心 配に思う。用法文型「ダレダレはダレナニが気にな る」。人を対象とする時は「ダレダレのことが気になる」 と言うことが多い。用例③のように否定形がある。江戸 用例①北杜夫「どくとるマンボウ航海記」(一九六〇)「船 に乗ることになったとき、やはり気になったのは船酔 いのことである」②平岩弓枝『風子』(一九五十七)「『風子 がどうかしたの』帯をときながら、訊ねたのは、千代に しても気になったからで」③吉村昭『ポーツマスの旗』 (一九七九)「妻の方が背が高かったが、留学中、背の高い 女の中で過したかれには気にならなかった」④朝日新 聞』(一九三・三朝)「キッシンジャーをそんなに待たして ええのかと他人事ながら気になったよ」⑤内田康夫『若 狭殺人事件』(一九三)「ちょっと気になることがあってさ 目が覚めちゃったから」 類句「気にかかる」「心にかかる」 きお 意味気づかいする必要がないとい 気の置けない う意から、人に遠慮する必要がなく 心から打ち解けることができる。人間関係について言う 場合が多い。なお、誤って気が許せない、油断ならない と解釈する人が多い。「気が置けない」とも言う。 用法文型「気の置けないダレダレ」 用例①江戸川乱歩『何者』(二九九)「主客一同浴衣がけの気のおけぬ宴会であった」②徳田秋声『仮装人物』(一九五三)「気のおけない怡しいサロンとなることも考えられないことではなかった」③獅子文六『青春怪談』(一九五四)「少女時代からの古馴染であって、気が置けない」④『朝日新聞』(一九六一・九・三朝)「同行者も気のおけない人たちばかり」⑤津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九九)「堀内が、こうした気のおけない酒場を選ぶのは」⑥姉小路祐『汚職捜査』(三〇〇)「ゴルフにつきあわせるなど気のおけない間柄だと思っていたが」 着の身着のまま 意味今着ている衣服のほかは何一つ着るものを持っていない <135> さま。また、ある衣服を着たままで取り替えないさま。 用法文型「ダレダレは着の身着のまま」。述語として 用いられる。 用例①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(九四)「着のみ着のままじゃ変だからね」②伊藤整『典子の生き方』(九四)「下着類や手まわりのものを多少持ち出したきりで、典子はほとんど着のみ着のままであった」③大岡昇平『俘虜記』(九五)「着のみ着のままの露営生活には丁度手頃な陽気である」④朝日新聞(九五六・六・三朝)「ソ連からの帰国者たちは、着のみ着のままの貧しい姿だったという」⑤朝日新聞(九七四・三・三六朝)「横井さんは着のみ着のまま米軍と住民の銃に追われて逃げ回る毎日だった」⑥内田康夫『若狭殺人事件』(九九三)「引揚者はほとんどが着の身着のまま、生命からがらという人が多く」 類句「着た切り雀」(着の身着のまま」の人も指す) 外国語 英語では with the shirt on one’s back きびすかえ 意味「きびす」とはかかとのこと。引 踵を返す き返す。来た道を歩いたり走ったりして 戻る。用法文型「ダレダレがきびすを返す」。「くびす を返す」とも言う。 用例①三島由紀夫『愛の渇き』(九五)「阪急終点の百 貨店で買い物をすませて、そこから踵を返して、また電 車に乗ってかえるだけである」②源氏鶏太『三等重役』 (九五一五)「いうなり、青子さんは踵を返して、もう我 慢がならなくなったように、やがて、バタバタと走って いってしまった」③山崎豊子『白い巨塔』(九六一六五)「く るりと踵をかえして教授室へ足を向けた」④広山義慶 『私刑警察激弾!』(九〇二)「宮園は頭をあげてから踵を返 した」 類句「きびすをめぐらす」とも言う。 きびすせつ 意味あることが次々と続けて起こる。 踵を接する 用法文型「ナニナニがきびすを接し てする」。「くびすを接する」とも言う。「江戸」 の近代的思潮が踵を接して登場した」 用例高橋和巳『悲の器』(三六三)「刑法学の領域には二つ 外国語 中国語では成句「接踵而至」(きびすを接して来 る。「接踵而来」ともいう 肝が据わる 意味度胸があり、何があっても、動 揺せず落ち着いている。用法文型 <136> ダレダレは肝が据わる 用例①東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(二九○)「さすが ろうばいおび にいざとなると肝が座っているのか、伸彦は狼狽や怯え を感じさせない口調でいった」②岩城捷介『免職警官』 (三0三)「肝が据わってることだ」 類句「肝が太い」「腰が据わる」「神経が太い」「度胸が 据わる」「腹が据わる」 ほもつぶ 意味非常に驚く。用法文型ダ 肝が潰れる レダレは肝が潰れる」。「肝が潰れる ような思い」と言うことが多い。「鎌倉」 用例①石坂洋次郎『光る海』(九三六三)「ママはもうお 前が倒れた時、どうなるかと思って、きもがつぶれる思 いでしたよ」②山崎豊子『白い巨塔』(九三六五)「そんな 危ない瀬戸際の時に、岩田君と鍋島君のおかげで、私は 肝のつぶれるような思いをさせられたよ」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言え ない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰 す」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食っ たよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」「外国語韓 国語では「ぜん(肝が)ひユふぎ(縮む)」 ほ 肝が太い 意味度胸があってものに動じないさ ま。ずぶとい。用法文型「ダレダレ は肝が太い」平安 用例「あいつは肝が太い」 類句「肝が据わる」「肝っ玉が太い」「神経が太い」「度胸が据わる」「腹が据わる」「外国語」韓国語では「ぞ」(肝が)ヨ(大きい) 旰に銘じる 意味教訓的な事柄、重要な事実、忠告、指摘などを心に刻むようにしか り覚えておく。またそれに合致するような言動をすべき であるというニュアンスが含まれる。用法文型「ダ レダレがナニナニを(と)肝に銘じる」「ダレダレがナニ ナニを~と肝に銘じる」。命令・意志表現は可能。「平安」 用例①源氏鶏太『三等重役』(九五一五三)「わしは奈良さ んの大恩は忘れてはならん、と肝に銘じとるのである」 ②石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(九五六五七)「夢中でお前 の名前を呼んだのは、ふだんから、さあという時たより になるのは、雄吉よりもお前だということが、幼いなが ら肝に銘じていたからですよ」③「朝日新聞」(九九五·六 朝)「検察はこの点をキモに銘じて不正摘発の姿勢と体 <137> 制を強化してほしい④朝日新聞(一九八五・三朝)「しない、させないカンニング」を肝に銘じようではありませんか⑤朝日新聞(一九一・四・三六朝)「あのとき国民は戦争は二度とごめんだ、と肝に銘じたはずである」 類句「心に刻む」「心に留める」「胸に刻む」外国語 英語では人が主語の場合 take something to heart *中 国語では成句「刻骨铭心」(心に深く刻む。「刻骨」は骨身に 刻む。「铭心刻骨」「镂骨铭心」などとも言う。「镂」は刻む) 肝を消す 意味非常に驚く。用法文型「ダレ ダレが肝を消す」(安土桃山) 用例①永井荷風『監獄署の裏』(一九九)「恐しい真赤な 生血の滴りに肝を消した私は」②徳冨蘆花「黒い眼と茶 色の目」(一九四)「尖々しい肝癪声に膽を消し」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言え ない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を潰す」「腰を 抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」 「目を白黒させる」「目を丸くする」 肝を潰す 意味非常に驚く。用法文型「ダレ ダレがナニナニに肝を潰す」平安 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(二八七〇一六)「肝を潰した顔色にて」②三島由紀夫『仮面の告白』(一九四九)「とにかく奇妙奇天烈な幻影で、横で見ている身は毎度のことながら肝をつぶすのだ」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「大きな生スッポンを前にして、みんな途方にくれるだけである。『大家の奥さんのところへでも、暑中見舞に持ってゆくか?』『よせよせ。肝をつぶすのが関の山だ』④『朝日新聞』(一九〇・五・三朝)「テヘラン市民は頭上の戦闘機のごう音に肝をつぶして窓を開け、ベランダに飛び出た」⑤高杉良『濁流』(一九九六)「一億円と聞いて肝を潰した」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言え ない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を冷 やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を 食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 外国語 英語では be frightened 一般的。 意味「どぎもを抜く」に同じ。 用法 文型「ダレダレが肝を抜く」。受身形が 肝を抜く 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「藪から棒で、 <138> わたしは肝を抜かれた ②『朝日新聞』(一九八〇・二〇・一五朝) 「観客は肝を抜かれた」 意味危険を感じて驚き、ぞっとする 肝を冷やす 用法文型「ダレダレが肝を冷やす」。 「肝」を修飾することが可能。用例③のような使役形が ある。〔南北朝〕 用例①内田百間『百鬼園随筆』(九三)「首縊りの件を 聞かされて、私は膽を冷やした」②源氏鶏太『颱風さん』 (一五二)「一升瓶をいきなり京太を目がけて投げつけた。 京太は肝を冷やし」③石坂洋次郎『光る海』(九三一六三) 「その子供たちが、私のきもをひやさせるようなことを 平気で言うほど成長して」④山崎豊子『白い巨塔』(九三 「六五)「君が医学部長になる時だって、鼻先一つで危うな り、肝を冷やしたことがあったやないか」⑤朝日新聞 (一九一・九・三朝)「それでは、あと一人」のつもりが、代打 川藤に力のない球を2点本墨打を浴び、肝を冷やした」 「頬句「背筋が寒くなる」「鳥肌が立つ」「身の毛がよだつ」 「外国語」英語では be scared half to death きやつこうあ 脚光を浴びる 意味「脚光」は舞台の俳優など を下から照らす照明。広く世間に 注目され大いにもてはやされる。用法文型「ダレナ 二が脚光を浴びる」。用例①②⑤のように「脚光」を修飾 できる。①のような受身形や②のような敬語形もある。 用例①「朝日新聞」(一九五四・七朝)「チャーチルが、もう一度巨頭会談で世界の舞台の脚光を浴びられなかったのが」②山崎豊子「白い巨塔」(一九三六五)「財前助教授は(略)時代の脚光を浴びられ、食道・胃吻合術の若き権威として」③「相撲界」(一九〇・二)「最近の琴千歳は昨年秋場所新十両優勝して、一躍脚光を浴びたときほどの厳しい動きが見あたらない」④「朝日新聞」(一九一・二〇・三四朝)「初の東京六大学主将選手」として、常に脚光を浴びてきた」⑤「朝日新聞」(一九〇・二・三六朝)「華やかな脚光を浴びるON」⑥内田康夫「志摩半島殺人事件」(一九八「世の中で脚光を浴びるようになったいま」 類句「スポットライトを浴びる」「フットライトを浴びる」 外国語 英語で人が主語の場合は come into the limelight <139> 九死に一生を得る 意味死ぬほどの非常に危険 な目に会ってかろうじて命が 助かる。用法文型「ダレダレが九死に一生を得る」。 用例⑤のように述語を略することがある。「江戸」 用例①伊藤永之介『村のナイト・クラブ』(九五三)「敗戦から一年後に、食糧のとぼしい南洋のサイパン島から、九死に一生を得て帰って来た当時の朝治は」②『朝日新聞』(九七九・七・三九朝)「被爆して九死に一生を得ながらも」③『朝日新聞』(九八〇・二〇・二六朝)「空母『瑞鶴』が南方で撃沈され、九死に一生を得た」④『朝日新聞』(九八・三・三・三〇朝)「生後間もなく難病にかかり、九死に一生得て天命を授かっただけに」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「九死に一生という奴だ、塚本くんの診断によれば、あと一週間もすれば元に戻るそうだ」 外国語 英語では have a narrow escape from death *中国語では成句「九死一生」(九死に一生を得る) 意味中国の古典『春秋左氏伝』の故 牛耳を執る 事によるもので、中国の古代の諸侯が 集まって盟約を結ぶとき、盟主となる人が牛の耳を切り 取り、みんなでその血をすすり誓ったという。転じて、 同盟の盟主となる。組織・団体の実権を握って思うまま に支配する。牛耳る。用法文型「ダレダレがナニナ 二の牛耳を執る」(江戸) 用例①植村正久「エフ・デキ・マオリスについて」 (一九九)「フヒリップス・ブルックスは時代思想の牛耳 を取ったものである」②徳富蘆花「黒い眼と茶色の目」 (一九四)「卒業生の町尾琴次郎さんが、英語神学生、第 一寮々長として、生徒仲間の牛耳を執て居た」 類句「牛耳を握る」とも言う。 外国語中国語では成 句「执牛耳」(牛耳を執る) の一策」 窮余の一策 意味苦し紛れに思いついた一策、一 手段。用法文型「ナニナニは窮余 用例江戸川乱歩「吸血鬼」(一九三三)「窮余の一策、と うとう風船の縄をよじのぼるような芸当を思いついたの だ」 外国語 英語では the last resort きようきんひら 胸襟を開く 意味打ち解けて心中を隠すことな く、ありのまま打ち明ける。 <140> 用法 文型「ダレダレが胸襟を開く」「胸襟を開いて~す る」 用例①泉鏡花『春昼』(一九六)「余り世帯気がありそう もない処は、大いに胸襟を開いてしかるべく②源氏鶏 太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「今夜は、大いに胸襟を 開いて、飲み、唄い、且、語り合いたいのであります」 類句「肝胆を開く」「底を割る」「腹を割る」「外国語 英語では drop all pretence 教鞭を執る 意味教職に従事する。学校などで 教師になって教える。用法文型 「ダレダレはドコドコで教鞭を執る」 用例「朝日新聞」(一九七九・七・五朝)「テヘラン大学、工科大 学などで教べんをとってきた」 外国語英語では teach at school 清水の舞台から飛び降りる 意味京都の清水寺 の舞台から飛び降り たら死んでしまう。飛び降りるなどとはよほどの決心が なければできない。そのように全く自信もなく、結果は どうなってもいいと、思い切って決断して何かをするため とえ。 用法文型「清水の舞台から飛び降りるつもり (気など)「清水の舞台から飛び降りるよう」 用例①林二九太「へのへのもへじ」(九五三)「じゃア、まア、清水の舞台から飛び降りる気で申しますが」②深谷忠記「萩・津和野殺人ライン」(九九三)「清水の舞台から飛び降りる決意を固めたように緊張した顔をして」③高杉良「人事権!」(九九三)「相沢は清水の舞台から飛び降りるような心境で、生唾を呑み込んだ」 意味それをやりだしたら際限がない。 きりがない 用法「~れば(たら・と)きりがない」 鎌倉 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「煙草を一本ずつやっても、あとからあとから手がでてきてキリがない」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「上を見れば、キリがないし」③『言語生活』三一四号(一九七七)「例を挙げればきりがない」④『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「そんなことをいちいち聞いていたらキリがない」 外国語 英語では There is no limit (or end) to <141> 軌を一にする 意味「軌」は車輪の通った跡。同 じ生き方・考え方・やり方である。 なナニナニと軌を一にする」 用例『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「大統領の一連の動き がねらったものと軌を一にする」 類句「揆を一にする」(大岡昇平『俘虜記』〈一九五三〉「それは丁度彼等が山へ入ってから、わが分隊長ほど断乎部下を見棄てることが出来なかったのと揆を一にしている」とも言う。 きお 意味自分の思うように行かず、がっ 気を落とす かりする。元気をなくす。用法文 型「ダレダレが気を落とす」(江戸) 用例福永武彦「忘却の河」(一九四)「もっと元気を出し て頂戴、そんなに気をおとすものじゃありませんわ」 類句「肩を落とす」「気が抜ける」「力を落とす」 気を配る 意味周囲の人や状況に注意をして、手 落ちがないようにあれこれと心を使う、 注意を払う。 用法文型「ダレダレがダレナニに気を 配る」。命令・意志表現は可能。「江戸」 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(二去三一巻)「机のスタンド の明かりの下で、ページを繰る音にも気を配りながら ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「それとなく各テーブ ルを見て廻り、パーティの進行状況に気を配っている と」③渡辺淳一『北都物語』(一九四)「変に見られないかと あたりに気を配るが」 類句「気を使う」「心を配る」 外国語 英語では take pains 気を付ける 意味ある事柄に注意を働かせる。 用法文型「ダレダレがダレナニに気 をつける」。「~しないように気をつける」ということが 多い。「気をつけて」と別れの挨拶にも使用。用例④⑤ のように命令・意志形がある。①のように敬語形がある。 〔江戸〕 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九八)「くれぐれも暑さあたり、水あたりのないようお体にお気をつけてください」②渡辺淳一『北都物語』(一九四)「この七回のうち、塔野は子供が産まれないように、気をつけたことは一度もなかった」③平岩弓枝『風子』(一九五十七)「むこうへ行ったら恥をかきますから、気をつけて話さなくちゃいけませんよ」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「以後、気 <142> をつけろ!⑤これからもっと気をつけようっと」 類句「気を配る」「気を使う」 外国語英語ではbe carreful;take care 気を引く 意味相手に関心を持たせるようにする 用法文型「ダレダレはダレダレの気を 引く」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身形 がある。(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鵜飼の気を惹くような云い方をすると」②福永武彦「忘却の河」(一九六四)「もう少しお化粧でもしたらどうだろうかとか、お花かお茶でも習ったらどうだろうかとか、誰々さんは気に入らないとか、まあうるさいことは言わないが娘の気を引いてみる」③安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「ブリキ製のシャープペンシルに気をひかれた」 類句「水を向ける」 きみもりみ 意味細かいことのみ見て、 木を見て森を見ず 全体を見ていないたとえ。 用法独立した一文として使用。例文のように全体で体 言を修飾する場合もある。 用例 森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「狭窄した視野で聞 き込みをつづけていると、木を見て森を見ぬミスを犯し やすい」 外国語 英語では can't see the forest for the trees * 中国語では諺「見树不見林」(木を見て森を見ず。「林」は森。 「只见树木、不见森林」とも言う) 金魚の糞 きんぎよふん 意味人や物事が列のように長く連なっ ているさま。また、主体性をもって自分 で行動せず常に人の後にくつついて離れないさま。から かいの言葉。用法文型「ダレナニは金魚の糞のよう にくつつくくっついて歩く」「江戸」 用例①大沢在昌『悪夢狩り』(一九四)「さっきの小僧が いつも金魚のフンみたいにくっついて歩いている」②内 田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九)「その後ろに金魚 の糞のようにくっついて、スポーツシャツの軽装でうろ うろしているのは、報道関係の人間にちがいない」 外国語 英語では a tagalong 琴線に触れる 意味 琴の糸に触れると音が鳴るよ うに、心があることに深く感動して <143> 共鳴する。 用法 文型「ナニナニがダレナニの琴線に 触れる」。 用例①のような使い方はまれ。 用例①「朝日新聞」(一九九七・七・四朝)「いずれもアジアの平和の琴線にふれる問題である」②高杉良「人事権!」(一九三)「宮本常務の話も相沢の琴線に触れた」③「朝日新聞」(三〇五・三・三夕)「口を開けたり跳ねたりと自在に戦う大蛇とガマに対し、電飾の目を点滅させ、ただのたうつナメクジなど、できすぎのCGや装置に慣れた現代人の「琴線」に触れる場面も多いが」 類句「心を打つ」「胸を打つ」 外国語 英語では touch one's heartstrings * く * 食うか食われるかの 意味相手を倒すか自分が 倒されるかの緊迫した状況、 命がけの闘い、真剣勝負。 用法文型「ナニナニは食 うか食われるかのナニナニ」 用例①直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九八〇)私 にとっては、食うか食われるかの真剣勝負だった」② 「自然界は食うか食われるかの生存競争の激しい世界」 ぐうぜん いつち 意味ある事柄が偶然、一致すること、 偶然の一致 起きること。用法文型「ナニナニ は偶然の一致」 用例①江戸川乱歩「吸血鬼」(一九三〇三)「彼が宿についたちょうどその日に突発したのだ。偶然の一致には違いない」②源氏鶏太「青い果実」(一九五四五)「あたしんとこでも、同じことがあったのよ。偶然の一致かしら?」 <144> ぐうの音も出ない 意味相手に非を指摘された り詰問されたりして徹底的に 打ちのめされて、あるいは相手の言動に恐れ入って一言 も言い訳も反論もできない。用法文型「ダレダレは ぐうの音も出ない」 用例①坂口安吾『私は海をだきしめたい』(二五七)「今 に何かにひどい目にヤツツケられて、叩きのめされて、 甘ったるいウヌボレのグウの音も出なくなるまで」② 石坂洋次郎『光る海』(二五三六三)「息子にとっちめられ てグーの音もでないじゃありませんか」③『朝日新聞』 (二五四六二五朝)「おやじはぐうの音も出なかったそうだ」 ④『朝日新聞』(二五九七七五朝)「新人投手に好き勝手なこ とをいわれても、グウの音も出ない巨人だったのであ る」⑤南里征典『欲望の狩人』(二五三)「宮村恒平は額から 脂汗をたらたら流し、ぐうの音も出なくなった」 類句 「一言もない」「一敗地にまみれる」「ひとこともな い」 く 意味満足に食事もできないほど貧 食うや食わず しいさま。用法文型「ダレダレ は食うや食わずで」「食うや食わずのダレナニ」(江戸) 用例①中野重治『空想家とシナリオ』(一九三九)「特に貧乏で、食うや食わず、水のみ百姓の最下級、乞食に毛の生えたような境遇であった」②『言語生活』三四七号(一九三〇)「北海道辺の食うや食わずのおばあさんがみんな書けるんですね」③田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(三〇三)「食うや食わずの生活を送ることになるが」 せきひん 類句「赤貧洗うが如し」 くぎ 釘を打つ 意味「釘を刺す」に同じ。用法文型 「ダレダレがダレナニに釘を打つ」。命 令・意志表現は可能。用例①のように受身形がある。② のように「一本釘を打つ」と言うことがある。江戸 用例①二葉亭四迷『浮雲』(八八七八九)『びったり釘を打たれてぐっともいえず文三はただ口惜しそうに叔母の顔を視つめるばかり』②源氏鶏太『緑に匂う花』(九五十三)『こら、その代り、うんと勉強するんだぞ。変な騒動にまき込まれたりなんかしたら承知しないぞ。』と、次郎が一本、釘を打った』③山崎豊子『白い巨塔』(九三六五)『(略)どこまでも君が表だってやってくれなくては困る』ぐいと釘を打つように云い」 <145> くぎさ 意味中世の建築用語から生まれた。建 釘を刺す 物は釘を使わず、材木にほぞ穴を開けて、 そこにもう一方の材木をはめ込む形で造られていたが、 後に念のために釘で止めた。これから転じて後日のた めに、まちがいのないよう相手に念を押したり、反対さ れないように相手を強く牽制したりする。用法文型 「ダレダレがダレダレに釘を刺す」。命令・意志表現は可 能。用例①のように「一本釘を刺す」と言うことがある。 ②の「戒めの」のように「釘」を修飾できる。④のように 受身形がある。「江戸」 用例①井上靖『氷壁』(一九五六—五七)一本釘をさしておくといった気持だった」②『朝日新聞』(一九五三・三)国会でもその点に厳重な戒めの釘をさした」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「何時もの東に似合わず、ぴしりと釘をさし」④『朝日新聞』(一九六一・七・三朝)「『勝負は製品化だ』とトップからもクギをさされた」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九六八)「『相手は娘っ子ですからね、あまり強引な取材はしないでくださいよ」編集長がクギを刺すと」⑥広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「五月くんに対しては、魅力的な女性である必要はない」梅津は陽性すぎる智子にも釘を刺した」 類句「釘を打つ」とも言う。「くさびを刺す」だめを押す「念を押す」外国語英語では make something perfectly clear くさめしく 意味囚人として刑務所に入る。服 臭い飯を食う 役する。拘留される。用法文型 「ダレダレが臭い飯を食う」。用例②のように使役受身形 がある。 用例①大下宇陀児『虚像』(一九五五)「前科があり、臭い 飯を食ってきているし」②内田康夫『志摩半島殺人事件』 (一九八)「公務執行妨害の現行犯逮捕で、それこそ臭い飯 を食わされる羽目になる」 くさものふた 意味悪臭がもれないように 臭い物に蓋をする ふたをするように、世間に知 られると困る、所属する組織内の悪い事柄を一時しの ぎに隠す。用法文型「ダレダレが臭い物に蓋をする」 用例①のように命令・意志表現は可能。③のように後半 部を省略して用いられることもある。〔江戸〕 用例①与謝野晶子「新婦人協会の請願運動」(一九二〇) 「殺風景な花柳病などを問題としたく思いません。一概 <146> に臭い物に蓋をせよと言うのではなく」②『朝日新聞』(九○・五・三朝)「その知られたくない暗部を、ただ臭いものにふたをするといった方法で隠匿しておくだけではいつまでたっても改善されない」③『朝日新聞』(九一・三王朝)「従来、くさい物にふた的に処理されがちだった中学生などの校内暴力が、ひろくマスコミにとりあげられ」④内田康夫『鬼首殺人事件』(九三)「臭いものに蓋をするように、捜査を規制しなければならないというのは」⑤大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(九二)「捜査は大きくねじれる可能性があった。徹底して臭いものに蓋をするか」 外国語英語では put a lid on くさき 草木も靡く 意味人・会社・組織などの勢力が盛 んで、多くの人がこぞってそれに従う 用法文型「ダレナニに(へ)草木もなびく」「平安」 用例①「朝日新聞」(九0三・八朝)「すべての学生が、 大学へ大学へと草木もなびいてしまったのだ」②高杉良 「人事権!」(九三)「名門私立高校へ草木もなびくような 時勢に」③「草木もなびくほどの実力者」 類句「飛ぶ鳥を落とす」 楔を打ち込む くさびうこ 意味「くさび」は木や鉄の鋭角 三角形で、木や石を割るときなどに すき間に差し込んで裂け目を広げるのに使う道具。敵陣 に攻め込み、勢力を二分する。仲を裂くために間に入っ て邪魔をする。自分の勢力を拡大するための足がかりを 相手の勢力の中に作る。用法文型「ダレダレがダレ ナニにくさびを打ち込む」。用例①のように受身形があ る。③のように命令・意志表現は可能。 用例①『朝日新聞』(一九五九三朝)「無敵を誇る坂田の 牙城にくさびが打ちこまれた」②『朝日新聞』(一九○三六 朝)「自民、民社の党首会談は(略)野党間にくさびを打 ち込んだ」③『朝日新聞』(一九三三三朝)「米・西欧関係 にクサビを打ちこもうとの狙いがあるかも知れないが」 外国語英語では drive a wedge between くだま 意味糸繰り車に糸を巻きつける時、 管を巻く ブーブー音が鳴ることから、酒に酔って つまらないことをいつまでもくどくどと話し続ける。 用法文型「ダレダレが管を巻く」。用例③のように 「管」を修飾することは可能。江戸 用例①徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」(九四)「礼拝堂 <147> に溢るる私立学校の生徒に向って、“intellectual faculty”が如何の“Moral faculty”が恁のと管を捲く様な演説をした」②甲賀三郎『支倉事件』(九三)「な、何だと、俺の方から突当ったと。人を馬鹿にするねえ。俺は酔っているんじゃねえぞ」尚も管を巻くのを」③石川淳『葦手』(九三五)「くどくどわけの判らぬ管を巻きはじめたというのは酔のまわって来た証拠でもあろうが」④石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(九五六一五)「酔っぱらった板前の清吉が蟹のような平べったい顔を歪めて、いつものクダをまき出した」⑤山崎豊子『続白い巨塔』(九六七一六)「まあまあ、そう管を巻かず」 外国語 英語では blather くちおも 意味性格として、またはある事情であ 口が重い まりしゃべらないさま。寡黙。無口であ る。用法文型「ダレダレは口が重い」(江戸) 用例①「朝日新聞」(一九五七・一・二王朝)「口が重く話し下手で」②三浦綾子「塩狩峠」(一九六八)「吉川の家は、すぐ五、六町の所にあると聞いたが、近づくにつれ信夫の口は重くなった」③「朝日新聞」(一九八〇・九・九朝)「カンは戻って居るが、人工芝だから…」と腰を気づかい、口が重い」 ④『相撲界』(一九八○・二)「もともと口が重い鳳凰、まして 体の故障はいいたがらないが」 外国語韓国語では「ふふ(口が)早召け(重い)」 口が堅い 意味言ってはならないことは言わない さま。秘密を守るさま。また、そういう 性質。用法文型「ダレダレは口が堅い」 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二五三)「あたくしは絶対 に口が固いから、あたくしにだけは本当のことをお打明 けなさいな」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五五)「口の 堅い男は尊敬され、容易に口を割る男は軽んじられる」 類句反対は「口が軽い」外国語英語では can keep a secret くちかる 意味軽薄で、言ってはならないことや 口が軽い 言わなくてもいいことを言ってしまうさ ま。また、そういう性質。用法文型「ダレダレは口 が軽い」(江戸) 用例田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七) 『口が軽い』ということは、その人の人格を落とし、卑 しくさせます」 <148> 類句反対は「口が堅い」 外国語韓国語では「ふふ (口が)外ぎ(軽い)」 くちくさ 意味どんなことがあっても決して 口が腐っても 話さない、言えないという強い気持 ちを表す言葉。用法文型「口が腐っても言わない(言 いたくない・言えない) 用例源氏鶏太『随行さん』(一九五〇)「いよいよ口が腐っても、社長夫人のことはいいたくなくなってくるのであ る」 類句「口が裂けても」とも言う。 くち さ 意味「口が腐っても」に同じ。 口が裂けても 用法文型「口が裂けても言わない 言いたくない・言えない」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一丸二)「口がさけても、五聯隊の遭難を見たなんて言うんじゃあねえぞ」②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「もちろん家ではこんなこと、口が裂けても言いませんよ」③木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九五)「君のまえで口が裂けてもいえない言葉だが」 外国語韓国語では「압이(口が)젖어져도(裂けても)」 くちす 意味同じことを繰り返 口が酸っぱくなるほど しいやになるほど言うさ ま。多くは忠告など相手のためを思って言う。用法 文型「ダレダレは口が酸っぱくなるほど言う」(室町) 用例①小杉天外「魔風恋風」(一九三)「止めた処じゃありませんよ、口の酸っぱくなる程…」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「寒中装備については、かねてから陸軍省に対して口が酸っぱくなるほど改善を言いつづけて来たが」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九三)「騙してなんかいないと口が酸っぱくなるほどさっきから繰り返しているじゃないか」④田中光二「南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「わしは、口がすっぱくなるほどそういうとったんやが」 類句「口を酸っぱくして」 外国語韓国語では「ぷ」 (口が)川丘尋(酸っぱくなるほど) くちすべ 意味言ってはならないことや余計なこ 口が滑る とをついうっかり言ってしまう。用法 文型「ダレダレは口が滑る」「口が滑って~する」~は <149> 発話行為の言葉。〔江戸〕 用例「口が滑ってぽろりと漏らしてしまった」 外国語韓国語では「呂(口が)ぃやか(滑る) くちへ 意味相手がどんなことを言ってき 口が減らない ても気後れせず、理屈をつけて言い 返したり負け惜しみを言ったりする。用法文型「ダ レダレは口が減らない」(江戸) 用例①丸谷オ一『男のポケット』(九六)「大磯の爺さん、一瞬ぐつと詰つたが、そこは何しろ口がへらないから」②高杉良『濁流』(九六)「吉田は童顔に似合わず一丁前の口をきく。口は減らないし可愛くないが」③「口の減らないやつだ」 類句「減らず口をたたく」 くち さき 口から先に生まれる 意味一時も黙ることなく しゃべる人、おしゃべりな 人、口が達者な人のたとえ。少し軽蔑したニュアンス。 用法文型「ダレダレは口から先に生まれる」「室町 用例「まあよくしゃべること。口から先に生まれたの だろう」 外国語 英語では be born with a big mouth *韓国 語では「ゝゝ(口だけが)筈아ぶけ(生きている)」 くちぐるまの 意味巧みな言葉で相手をだます、 口車に乗せる 相手を思うままに扱う。用法文 型「ダレダレがダレダレを口車に乗せる」。多く受身形 で用いられる。江戸 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)「書くことが好きで誇りの娘は、口車にのせられて宿屋の代筆ま でするのか」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鵜飼は、財前の口車に乗せられているように見せかけながら」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「あしらうばかりでなく、だれかと口裏を合わせて、その相手を口車にのせる」④中上健次『鳳仙花』(一九〇)「郁男が男の口車に乗せられていくようで」 類句「一杯食わす」「口三味線に乗せる」「ぺてんにかけ る」 くちぐるまの 意味相手の巧みな言葉やおだてにま 口車に乗る んまとだまされる、思うままに扱われ る。用法文型「ダレダレがダレダレの口車に乗る」 <150> 江戸 用例①武田泰淳『風媒花』(一九三)「俺は毛沢東やQの 口ぐるまに乗って、日本の再武装をあきらめたりはしな いぞ」②高杉良『人事権!』(一九三)「おまえの口車に乗っ ばか たわしが莫迦だったよ」 意味(1)ある事柄・単語・言葉を声に出 口にする して言う。話題にする。その際、話し方 は問題にならない。また内容はまとまっていなくてもよ い。(2)食べる。飲む。飲み食いする。用法文型「ダ レダレがナニナニを口にする」。命令・意志表現は可能 否定形がある。 用例(1)①倉橋由美子『長い夢路』(一九六八)『お母さんが』というべきときにもけっしてそのことばを口にしない」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「余計なことは絶対に口にしないという」③平岩弓枝『風子』(一九五十七)「自分の気持を素直に口にした」④朝日新聞』(一九五九・二・三朝)「だれも口にする構造的腐敗とか政・官・財の癒着とかは」⑤朝日新聞』(一九八三・一・六朝)「レーガン政権が欧州での限定核戦争の可能性を口にするような米ソ緊張の中で」(2)⑥新田次郎『八甲田山死の彷徨』 (二九二)「行軍中は休憩中といえども絶対に酒を口にして はならない」⑦津本陽『深重の海』(一九七八)「家族の心づく しの馳走を口にしても」 類句(1)「口に出す」(2)「口に入れる」 くちばしきいろ 意味ひなのくちばしが黄色いこと 嘴が黄色い から、まだ年が若く、世の中の経験 が浅いさま、未熟なさまをあざけって言う言葉。若い人 の意見をあざけって言う。用法文型「ダレダレはく ちばしが黄色い」「くちばしの黄色いダレダレ」「江戸」 用例①森村誠一『東京空港殺人事件』(二九二)「彼らに とってくちばしの黄色い評論家の一人や二人、黙らせ るぐらいたやすいことであったにちがいない」②高杉良 な 「濁流」(一九九六)「嘴の黄色い若造記者に舐められてたまる かと」 類句「尻が青い」(外国語)英語では be wet behind the ears くちぼしい 意味他人の話の途中に口をはさむ 隣を入れる ことから、自分と関係ないことに干 渉して横合いからあれこれと言う。用法文型「ダレ <151> ダレがナニナニにくちばしを入れる」(江戸) 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七八九)『そんな事おっしゃるがむだよ』トお政が横合いから嘴を容れた』②檀一雄『青春放浪』(一九五六)『どうせこの二人は金が無えんだよ。なあ、そうだろう?』仲の脇から磯部が嘴を入れた』③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一五)「医学部の教授のポストや、選挙についても、嘴を入れる』④朝日新聞(一九三・一・二朝)「一軍司令官が他国の予算内容にくちばしを入れ『さらに努力を』といい」 類句「くちばしをはさむ」とも言う。「口を出す」「口を はさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」 「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」「外国語 英語では interrupt くちはつちようてはつちよう 意味「口も八丁手も八丁」に 口八丁手八丁 同じ。用法文型「ダレダレ は口八丁手八丁」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「その母親に説き伏せられてしまう父親もだらしがないが、いまの女親はどちらも口八丁手八丁で」②『朝日新聞』(一九一・九・五朝)「口八丁手八丁で、自動車問題では外 務省とわたりあった田中六助通産相③「朝日新聞」 (一九二・三・一朝)「口八丁手八丁のシフトが必ずしも問題 解決の妙薬とは限らない」 類句「手八丁口八丁」とも言う。 くちびき 意味「口火」は火縄銃や火薬などに 口火を切る 点火するための火。転じて、ある物事 (論議・攻撃など)をある集団の中で最初に始める、きっ かけを作る。また、単に最初に発言する。用法文型 「ダレナニがナニナニの口火を切る」。命令・意志表現は 可能。 用例①石坂洋次郎『暁の合唱』(一九九四二)「自分が口火を切った出来事もどうやら意外な結果に辿りついたようであるし」②『朝日新聞』(一九九八九朝)「小林進氏が『来年八月で私は議員歴二十五年表彰なのに…』と口火を切った」③『朝日新聞』(一九九八九朝)「この夏の増税論議の口火を切ったのは大平首相自身だった」④『スポニチ』(一九九九六七)「高橋攻略の口火を切り」⑤東野圭吾『宿命』(一九九〇)「そうなると、客ではなく瓜生家の者ですかね」ここでも渡辺が口火をきった」⑥森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「四本が質問の口火を切った」 <152> くちはつちょうてはつちよう意味言うことも達者なら 口も八丁手も八丁 やることも達者。完全なほ め言葉ではなく、少し信頼が置けない軽い人というニュ アンスがある。用法文型「ダレダレは口も八丁手も 八丁」。「江戸」 用例石坂洋次郎『丘は花ざかり』(三)「なにしろ小 母さまは、若いに似合わず、口も八丁、手も八丁で、に ぎやかな人だからですって」 類句「口八丁手八丁」とも言う。「手八丁口八丁」 くちき意味(1)だれかの前である程度まとまったことを話す。しゃべる。用例①~④のように話し方や内容が問題にされる。(2)ことがうまくいくように両者の仲介をする。用法文型(1)「ダレダレが口を利く」。①~④のように「口」を修飾できる。否定形がある。(2)「ダレダレがダレダレに口を利く」(平安)用例(1)①志賀直哉「邦子」(二三)「私は前に立派な口を利いていたにかかわらず」②北條民雄「癩院記録」(二三六)「男たちは一様に軽蔑したような口を利くが」③ 源氏鶏太『見事な娘』(一九五1五)「兄に対しては、父に向 かって、今頃、息子の結婚に反対するなんて、あまりに も封建的です、と立派な口をきいて行ったのだから」④ 平岩弓枝『風子』(一九五1七)「わざとそんな口をきいたか と思うと」②⑤青島幸男『青島の意地悪議員』(一九三)「鉄 鋼業界筋にアタリをつけて、A社とB社をくっつける話 に口をきいてやり」 類句(2)「口添えをする」 くちき 意味(1)何人かが集まって話すことに 口を切る なっている時、最初に発言する。(2)はじ めてそのふた・栓・封などを切って開ける。用法文 型(1)「ダレダレが口を切る」。(2)「ダレダレがナニナニの 口を切る」(室町) 用例(1)①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三)「突然口を切った のは林田だった」②江戸川乱歩「悪魔の紋章」(一九三七—三八) 「中村係長が感にたえたように口をきった」③三島由紀 夫「潮騒」(一九五四)「自分の微笑を訝られぬうちに、千代 子は口を切った」④島尾敏雄「死の棘」(一九六〇)「いつま でもこうしてもなんだから、どこかに出かけようか」と 先に口を切ってしまった」⑤山崎豊子「白い巨塔」(一九三 <153> 「財前は、慎重に口を切った」(2)⑥「密閉したびんの口を切る」 くちす 意味忠告など同じことを何 口を酸っぱくして 度も繰り返し言い聞かせて。 相手が自分の言うことにあまり良い反応を示さない場合 に言うことが多い。用法文型「ダレダレが口を酸っ ぱくしてくする」(室町) 用例①「朝日新聞」(一九0・10・三朝)「一市民である私が、いくら口を酸っぱくして憲法を読みましょうといっても」②吉村達也「横濱の風」殺人事件(三〇四徳間文庫版)(略)と、口を酸っぱくして夫の考えを甘すぎると非難した」 類句 口が酸っぱくなるほど 外国語 英語では come is blue in the face くちすべ 意味言ってはならないことや余計 口を滑らせる なことをついうっかり言ってしまう。 用法文型「ダレダレが口を滑らせる」(江戸) 用例東野圭吾「美しき凶器」(九三)「有介が、何かの くちそろ 意味(1)複数の人がほぼ同時に同じ意 口を揃える 見を述べる。(2)前もって打ち合わせを して話を一致させる。用法文型(1)「ダレダレが口を そろえる」。「口をそろえて言う」形が多い。(2)「ダレダ レとダレダレは口をそろえる」「安土桃山」 用例(1)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「葛西派、菊川派両派が共同戦線を張るように口を揃えて云った」②平岩弓枝『風子』(一九五十七)「とても自信がないからと口を揃えて辞退する」③朝日新聞(一九八一・四・三朝)「口をそろえて、考えられないことだと言う」(2)④「容疑者は共犯者と前もって口をそろえていた」 類句(1)「声をそろえる」(2)「口裏を合わせる」「口を合わせる」外国語中国語では「异口同声」(異口同音) *韓国語では「ふぎ(口を)口(そろえる)」 くちだ 意味「口を挟む」に同じ。用法文型 口を出す 「ダレダレがナニナニに口を出す」。命 令・意志表現は可能。用例②のように否定形がある。江 <154> 戸 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六)「ひどいのよ。あた しのお化粧にまでクチをだすんだもん」②山崎豊子『白 い巨塔』(一九三一五)「それなら、初めから口を出さない方 がいい」③渡辺淳一『北都物語』(一九四)「二人のやりとり をきいていた上村が、横から口を出した」 くちはさ 意味他人が話している途中に割り込ん 口を挟む で話す。また他人のすることにあれこれ と干渉して言う。用法文型「ダレダレがナニナニに 口を挟む」。命令・意志表現は可能。 用例①開高健『裸の王様』(一九五七)「そうそう放任ばかりしてられないと思って、つい口をはさみますと」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一五)「東は、鵜飼の手前、応えるべき言葉に迷っていると、横合いから鵜飼が、口を挟んだ」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ぼくは彼の話の途中で口をはさんだ」④平岩弓枝『風子』(一九七五七)「恥ずかしそうに、ひかえていた玉子が口をはさんだ」⑤龍一京『交番巡査の誇り』(三〇四)「横から宮脇が口を挟む」 類句 「くちばしを入れる」「口を出す」「茶々を入れる」 半畳を入れる水をかける水を差す野次を飛ばす 横槍を入れる くちわ 意味言いたくなくて隠していたことを 口を割る 相手からの圧力によって仕方なく白状す る。 用法文型「ダレダレが口を割る」。用例②~④の ように否定形がある。 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三)「やっとさっき口を割るようになったので」②『朝日新聞』(一九九・二〇・八朝)「松野は使途については口を割らなかった」③『朝日新聞』(一九〇・二〇・三朝)「これからも使う手なので内容はいえない」とがんとして口を割らなかったが」④大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅲ』(三〇二)「破壊工作員である李は、逮捕されても決して口を割らないだろう」 類句「泥を吐く」 悪にも付かない 意味ばかばかしくて話にもな らない。くだらない。用法 「愚にもつかぬナニナニ」と言うことが多い。〔江戸 用例①小酒井不木『恋愛曲線』(九三六)「このような愚 にもつかぬ想像をめぐらせながら」②久生十蘭『予言 <155> (一盃も)「愚にもつかぬことを口走るので」③源氏鶏太 「一寸の虫」(二五〇)「例の愚にもつかぬ長話をやられると」 ④井上靖『氷壁』(一九五六-五毛)「愚にもつかぬ会合を終わっ たあとの疲れが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「早 朝会議用の愚にもつかないような書類を三十部もコピー させられたりする」 類句「たかが知れる」「取るに足りない」「話にならない」「物の数ではない」「問題にならない」 悪の骨頂 こつちよう 意味「骨頂」は最上の意。もっとも 馬鹿げていること。用法文型「ナ ニナニよきつ 頂」 二十二は愚の骨頂 用例①徳冨蘆花『黒潮』(九三)「世間の眼からは、恐らく愚の骨頂、度す可からざる頑固、済ふ可からざるの失敗である」②里見弴『桐畑』(九二)「亭主たるものが、己の自由な感情まで縛られているに至っては、愚の骨頂だね」③「朝日新聞」(九九·八·三朝)「それを使わないのは愚の骨頂、かちかちの頭のタヌキである」④「朝日新聞」(九九·九·三朝)「就職率だけしか注目せず、それによって大学を選ぶとは愚の骨頂である」⑤清水一行「I Tの踊り」(三〇四)「パチンコメーカーのカルチャーと合 併させるなど、愚の骨頂である 外国語 英語では the height of stupidity *中国語で は成句「愚不可及」(この上なく愚かである。「不可及」は及 ばない) 首が飛ぶ 意味 免職になる。解雇される。 用法 文型「ダレダレの首が飛ぶ」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「クビが飛 んだり、クビにしたり」②『朝日新聞』(一九〇・二・九朝)「法 相のクビはとんでいただろうに」 類句「首になる」 外国語韓国語では「号」(首が) 아가다(飛ぶ) 首が回らない 意味 借金が多くてやりくりがつか ない、どうにもならない。 用法 文型「ダレダレは借金で首が回らない」。用例④のよう な「借金に」はまれ。「江戸」 用例①「滑稽新聞」一七号(一九二)「借金で首が廻らぬ どころでなく」②篠田鑛造『明治百話』(一九三)「喜代治さ んは借金で首が廻らず」③甲賀三郎『情況証拠』(一九三) <156> 「高利貸から少からぬ金を借りて、首が廻らぬ状態だった」④「朝日新聞」(一九五二・二〇・二八朝)「道楽者のエジプト王イスメルが借金に首が回らなくなって」⑤平岩弓枝『風子』(一九七五-七七)「借金で首がまわらなくなっているのは」 外国語 英語では be up to one's neck 首にする 意味免職にする。解雇する。用法文 型「ダレダレはダレダレを首にする」。 意志表現は可能。受身形も可能。〔江戸〕 用例①源氏鶏太「男と女の世の中」(一九三)「浩太郎は あんな咲子は、今日のうちにも鹹にしたいのであった」 ②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「敬語をひと つも知らないウエイトレスやボーイを全部クビにしてし まうわけだ」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「クビ が飛んだり、クビにしたり」 * 類句「首を切る」 首の皮一枚 くびかわいちまい 意味首を切られて首の皮一枚でかろ うじてつながっていることから、かろ うじて踏みとどまっていること。わずかな望みが残って いること。用法文型「ダレダレは首の皮一枚で~す る「首の皮一枚のダレナニ」 用例「朝日新聞」(一九〇・二〇・三朝)「西武が首の皮一枚の 土壇場に追い込まれた」 首を切る 意味免職にする。解雇する。馘首する。 用法文型「ダレダレがダレダレの首を 切る」。命令・意志表現は可能。用例②④のような受身 形がある。〔江戸〕 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「気に 食わない部下は片っぱしから首を切る」②『朝日新聞』 (一九七九・七・二朝)「今回の事件を口実に首を切られたのか も知れない」③『報知新聞』(一九八・九・一八)「一度も一軍で プレーしないままにクビを切るわけにはいかんだろう」 ④安岡章太郎『僕の昭和史Ⅰ』(一九八四)「僕は『不景気』と いう言葉や、『クビを切られる』という言い方を、この頃 から聞き憶えた」 類句「首にする」 外国語韓国語では「号(首を) ミ(切る) 首を突っ込む 意味あることに興味を持ってかか わったり、抜き差しならないことに <157> 深入りしたり、仲間になったりする。用法文型「ダ レダレがナニナニに首を突っ込む」。命令・意志表現は 可能。 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「家計簿にまで好 んで首をつっこむ息子を見ると」②佐野洋『推理小説実 習』(一九七九)「こんどの問題にも、余り首を突込みたくな い」③吉村達也『鎌倉の琴』殺人事件』(三〇四徳間文庫 版)「猟奇犯罪の研究などに首を突っ込むだろうか」 類句「足を入れる」 首を長くして待つ 意味人や返事、またあるこ との実現を今か今かと待ちわ びる。用法文型「ダレダレは十二十二を首を長くし て待つ」。用例④のように語句を挿入できる。 ①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七—九八)「頸を長くして 待つてお在だのに、早く帰って来ないと云う法が有るも のですか」②江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「首を長く して待っていると、わしの計画はみごと図にあたって」 ③獅子文六『青春怪談』(一九五四)「道玄坂の喫茶店あたり で、昨夜のお嬢さんが、首を長くして、待ってらっしゃ るんでしょう?④源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「首を 長くして、いい返事を待っているのだ」⑤朝日新聞 (一九一・九・三朝)「外務、通産両省からの返事を首を長く して待っていた」 類句「一日千秋の思い」「今か今かと」「今や遅しと」「指 折り数える」「外国語」英語では be looking forward to *中国語では成句「翘首以待」(首を長くして待つ) くも うえ 意味庶民の手が届かないはるか上の所 雲の上 別世界。人や話などについて言う。用法 文型「ダレナニは雲の上の人(存在)」 用例①「朝日新聞」(一九九八・八・一朝)「退職後の年金制度 も民間企業や農家から見れば、まことに雲の上の存在で ある」②「朝日新聞」(一九八〇・七・九朝)「輪島さんはわれわれ のヒーローだ。雲の上の人で、勝つのが夢だった」 くもこち 意味クモの子が入って 蜘蛛の子を散らすよう いる袋を破ると、中のク モの子が四方八方に散っていくことから、大勢の者が 一斉にちりぢりに逃げ出すさまのたとえ。用法文型 「ダレダレがクモの子を散らすように逃げる」。ダレダレ は複数。用例③は例外的な用法。「鎌倉」 <158> 用例①石坂洋次郎『青い山脈』(九四七)「この奇襲で、 ギャングたちは『わッ!』『きゃッ!』と思い思いの悲 鳴をあげて、クモの子を散らすように逃げ出した」②源 氏鶏太『明日は日曜日』(九五三五三)「会社の帰りに駅か ら降りたところで、雨に降られた。(略)通行の人人は、 クモの子を散らすように走りはじめた」③『朝日新聞』 (九七九・七・三朝)「子どもたちはクモの子を散らすように 水面いっぱいに広がり楽しそうな様子です」④金田一春 彦他『変わる日本語』(九八二)『蜘蛛の子を散らすように 逃げ去った』なんてクモの子が逃げ去るところをごらん になった方いますか」 くもつか 意味話が漠然としていてつかみど 雲を掴むよう ころのないさま、とりとめのないさ まのたとえ。用法文型「雲をつかむような話」「江戸」 用例①江戸川乱歩「妖虫」(一九三三言)「余りに雲を掴む ような拠りどころのない話だからと、不賛成であった し」②池島信平「雑誌記者」(一九五八)「王雲清嬢といっただ けでは雲を掴むような話であったが」③源氏鶏太「夢を 失わず」(一九六〇)「まるで雲をつかむような話になるので すが」④内田康夫「博多殺人事件」(一九九二)「はじめは雲を 掴むような話だったのですが、だんだん煮詰まってくる につれて、だいたいのことはわかってきました」 外国語 英語では vague ; visionary 雲を衝く 意味非常に背が高いさまのたとえ。男 性について言う。用法文型「ダレダ は雲をつくばかりの(ような)大男」(江戸) 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「首領の名は朱凌渓といって、関羽ひげをはやした雲つくばかりの大男であった」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「雲をつくような大男でも現れて」③「朝日新聞」(一九六〇・九・三朝)「身長1メートル90以上でコンパスの大きい北欧の雲をつく大男たち」④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「デリック・M・ヒルズは雲をつくような大男である」 外国語 英語では towering;giant くるまりようりん 車の両輪 意味車の両輪は二つそろって初めて 進むことができるように、一方を欠い ては成り立たない密接な関係のたとえ。用法文型 「ダレナニとダレナニは車の両輪」「室町」 <159> 用例朝日新聞(二九九七五朝)「都政にあって議会と知 事はいうまでもなく車の両輪である」 くろやまひと 黒山の人だから 意味人が大勢群がり集まって 山のように見えるさまから、一 箇所に大勢の人が群がっていること。用法文型「ド コドコは黒山の人だかり」 用例江戸川乱歩白髪鬼(二三三)公園は黒山の人 だかりであった」 外国語 英語では a large crowd of people ぐんばい あ 意味相撲で勝った方に行司の軍配 軍配が上がる が上がることから、競技・商売・論 争などで一方が勝ちと判定される。また勝つ、勝る。 用法文型「ナニナニはダレナニに軍配が上がる」。用 例①のように「軍配が」と「上がる」の間に語句を挿入で きる。 「用例」①佐々木味津三『右門捕物帖 妻恋坂の怪』(一九六三)「敬公を相手の相撲なら、このくれえゆるゆるとしきっても、軍配はこっちに上がるよ」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七二)「第四エンジンの争奪戦は、結局 千代田重工業に軍配が上がった ③「長年の係争は原告 に軍配が上がった」 ぐんばいあ 意味相撲で勝った方に行司が軍配 軍配を上げる を上げることから、競技・商売・論 争などで審判や第三者が一方に勝ちや優勢の判定を下す。 用法文型「ダレダレがダレナニに軍配を上げる」 用例林不忘『寛永相合傘』(三毛)またしても安斎十郎 兵衛嘉兼のほうへ軍配をあげたものだ」 ぐんもんくだ 意味戦い・試合に負けて敵・相手に 軍門に降る 降参、服従する。用法文型「ダレ ダレはダレダレの軍門に降る」(南北朝) 用例①森村誠一『エネミイ』(三00)「関東門伝会の軍 門に降り」②清水一行『ITの踊り』(三0四)「パンドラが カルチャーの軍門に下るのを、黙って見ていていいのか と」 類句 兜を脱ぐ」「シャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」手 を上げる」「旗を巻く」 外国語 英語では surrender <160> ぐんぬ 意味大勢の中で力・能力・成績・容姿・ 群を抜く 金額・技術などがずば抜けてすぐれてい る。 用法文型「ダレナニは群を抜く」「室町」 用例①大下宇陀児「風」(九三六)「新しい学校でも、弥一の成績は、群を抜いていた」②山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「研究費の寄附、特別診療に対する謝礼その他についても、大阪の財界人のそれは、群を抜いていた」③星新一『ボッコちゃん』(九七二)「昼夜における仕事ぶりが群を抜いている」④「強さは群を抜いている」 * け * 類句 「一頭地を抜く」 外国語 中国語では成句 「出类 拔萃」 (衆を抜く、群を抜く、抜群である) けがこうみよう 怪我の功名 意味何気なくしたことや失敗がか えって思いがけなく良い結果になる こと。用法文型「ナニナニは怪我の功名となる」江 戸 用例①永井荷風「矢立のちび筆」(一九四)「この弱点は 忽ち怪我の功名となりぬ」②源氏鶏太「明日は日曜日」 (一九五二五三)「成功の部類よ。ケガの功名というところよ」 ③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「駆けつけ る途中、階段を踏み外して足を挫いてしまいました。そ れが文字通り怪我の功名となって、警察の容疑を免れま したが」 外国語 英語では a chance success ; a lucky hit *中国語では成句「歪打正着」(間違った方向に打ったが、ちゃんと的に当たる。まぐれ当たりをする) <161> けは 毛が生えたような 意味たいしたことがないも のを基準に、それよりもほん のわずかまさっているさま。用法文型「ダレナニは ダレナニに毛が生えたような十二二」。用例③⑤のよ うに「ような」の代わりに「程度」「くらい」を使うこと がある。「毛の生えたような」とも言う。江戸 用例①中野重治『空想家とシナリオ』(二九九)「特に貧乏で、食うや食わず、水のみ百姓の最下級、乞食に毛の生えたような境遇であった」②源氏鶏太『緑に匂う花』(二九五二五三)「町工場にちょっと毛の生えたような会社」③津村秀介『京都着19時12分の死者』(二九九)「チンピラにもが生えた程度の存在」④大沢在昌『心では重すぎる』(二九〇)「学生向けのアパートにもが生えたようなとこだったな」⑤いかりや長介『だめだこりゃ』(二〇〇二)「親父はまだガキに毛のはえたくらいの年齢だったが」⑥青木るえか『主婦でスミマセン』(二〇〇三)「国道沿いのファミレスにもが生えたような和食屋」 外国語 英語では only a little bit better than 逆鱗に触れる 意味中国の古典『韓非子』説難に ある故事で、龍のあごの下にある逆 さに生えた一枚の鱗に人が触れると、龍が怒って人を殺 すということから、天子・帝王の怒りを買う。上司・目 上や組織のトップなどの人をひどく怒らせる。用法 文型「ダレナニがダレダレの逆鱗に触れる」(江戸) 用例①西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(三〇〇)「誰 かのご機嫌を損じたんだと思います。逆鱗に触れたと いった方がいいかも知れません」②森村誠一『棟居刑事 の「人間の海』(三〇〇)「山上社長の逆鱗に触れませんか ね」③大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「支店で起こし た騒ぎは、うちのお偉方の逆鱗にふれてる」④本所次郎 「閨閥」(三〇四)「地元の特産品を置こうとした役員が、房 子の逆鱗に触れた」 外国語 英語では incur someone's wrath げす かんぐ 意味心の卑しい者はとかく邪推す 下司の勘繰り るものだということ。「げす」は「下 衆」「下種」「下主」とも書く。用法文型「ナニナニは下 司の勘繰り」 用例①内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「それは僕の 下司の勘繰りだと思います』②高杉良『人事権!』(一九三) 「わたしのつまらん絵と結びつける人がいたとしたら、 <162> 下種の勘繰りとしか言いようがないですね 外国語 英語では a petty-minded suspicion けたちが 意味規模や程度、実力などに格段の差 桁が違う がある。用法文型「ダレナニとダレ ナニとは桁が違う」 * げたあず 意味面倒なまたは困難な事柄の 下駄を預かる 処理・解決や身の振り方などを相手 から一任される。用法文型「ダレダレがダレダレか ら下駄を預かる」。「下駄を」と「預かる」の間に語句を挿 入できる。 用例 大沢在昌『灰夜 新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「そのための ゲタをあんたが預かっている」 げたあず 意味面倒な、または困難な事柄の 下駄を預ける 処理・解決や身の振り方などを相手 に一任する。用法文型「ダレダレがダレダレに下駄 を預ける」。命令・意志表現は可能。用例④のような受 身形がある。①のように「下駄を」と「預ける」の間に語 句を挿入できる。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六ー五モ)「その希みがとげられるように働きかけるのは、当然なことだからだ。ところが、その民夫は、ゲタを母親にあずけっぱなしで、一向、話にのってくる様子が見えないのである」②『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「公電問題の処理は日本側でうまくやってほしいとゲタをあずけてきたかっこうだ」③中上健次『鳳仙花』(一九〇)「女はまるでフサに何もかも下駄をあずけたというように顔を手でおおったままフサの後に従いて来」④『朝日新聞』(一九一・二〇・三四朝)「ゲタをあずけられた十一市協自体が」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「語尾にまた、こっちに訊いているような言葉を付け加える。細野はいつもそうやって、相手 <163> にゲタを預けるような言い方をする 外国語 英語では shove everything off onto someone げたは 意味成績の点数や数量を水増 下駄を履かせる しして実際よりよく見せる細工 をする。用法文型「ダレダレが十二十二に下駄をは かせる」。命令・意志表現は可能。 用例①朝日新聞(一九〇・三・二朝)「試験は一応受けて くれ。あとはまかせてもらえばゲタをはかせる」②「成 績にかなり下駄をはかせて卒業させた」 外国語英語ではpad someone's grade げたは 下駄を履く 意味物事が無事終わり、帰る支度を する。用法文型「下駄をはくまで ない」(江戸) 用例高杉良『指名解雇』(一九九七)「田宮は、ゲタを履く きぐ までわからない、と危惧しながら」 けちが付く 意味縁起の悪いことが起こる。良く ないことが起こったために物事がうま くいかなくなる。 用法文型「ナニナニにけちがつく」 江戸 「用例①岡本綺堂『半七捕物帳春の雪解』(一九一七三六) 「安政の大地震のときに、抱えの遊女を穴倉へ閉じ込め て置いて、みんな焼き殺してしまったとかいうので、そ れから兎角にけちがついて」②舟橋聖一『ある女の遠景』 (一九六二)「せっかくの旅立ちに、ケチがついたみたい」③ 「離婚が彼の人生のけちのつき始め」 けちを付ける 意味相手の欠点をあげて悪く言い 立てる。縁起でもないことを言って 相手の気を悪くする。けなす。用法文型「ダレダレ がダレナニにけちをつける」。命令・意志表現は可能。 用例②のように受身形がある。〔江戸〕 ①井上靖『氷壁』(一九五六一五七)「佐倉製鋼に対してけちをつけることになるのはやむを得ないことだった」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九五〇)「自分の捜査にけちをつけられたような気がしたのにちがいない」③平岩弓枝『風子』(一九五一七)「幸せになれるんなら、けちはつけないものだわよ」④『言語生活』三三一号(一九五九)「これは良くないなんてケチをつける」 類句「揚げ足を取る」「難癖をつける」 外国語英語 <164> けむま 意味おおげさなこと、訳のわからない 煙に巻く こと、相手の知らないこと、信じがたい ことなどを言ったり、一方的にまくし立てたりして、相 手をとまどわせる、訳がわからなくする。用法文型 「ダレダレがダレダレを煙に巻く」。用例①③のように受 身形がある。⑤のような命令形や、意志表現も可能。江 戸 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(八吉一六)「煙 に巻れて酒肴を新規に命令」②徳永直『太陽のない街』 (二九八)「相手を煙に巻くのが、この市会議員の官吏を相 手に今日の資産を造ったと云われる彼の得意とするや り口であった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「例の 調子で、まあ、ええがな、ええがなと煙に巻かれて、そ のままになってるんだ」④槌田満文『文学にみる広告風 物誌』(一九七八)「迷亭は独特の話術でみんなを煙にまく」 ⑤『朝日新聞』(一九八○・九・五朝)「うるさい奥さんは、むず かしくいって煙に巻け」⑥広山義慶『私刑警察激弾!』 (三〇二)「そんなことを呟き宮園を煙に巻いたような気が する」 けりが付く 意味和歌・俳句などが過去・詠嘆の 「けり」という助動詞で終わることが 多いことから、物事・できごとに決着がつぐ。紛糾して いたことが解決する。用法文型「ナニナニにけりが つく」 用例①尾崎士郎「人生劇場青春篇」(九三)吉良常 が杉源をやったことはちゃんと法律でケリがついている んじゃないか」②中野重治「空想家とシナリオ」(九三九 「それは、役場だけでは埒があかぬということになり、 領事館かどこかへも出かけねばならぬということになっ て一と先ずケリがついた」③「朝日新聞」(九九六三朝) 「二人の市長が一歩も譲らず、四十四年には徹夜の調整 でやっとケリがついた」④「朝日新聞」(九九七七朝)「提 訴されてからケリがつくまでの期間がだいぶ長くなって きていること」⑤「朝日新聞」(九九四三王朝)「野村の代 打逆転本墨打で乱戦にケリがついた」 「類句「片が付く」 <165> けりを付ける 意味和歌・俳句などが過去・詠 嘆の「けり」という助動詞で終わる ことが多いことから、物事・できごとに決着をつける。 紛糾していたことを終わらせる。用法文型「ダレナ ニがナニナニにけりをつける」。命令・意志表現は可能。 用例①石坂洋次郎『若い人』(九三三毛)「大きな屁で もひって話にケリをつけるのがふさわしいかと思う」② 朝日新聞』(九九・七・四朝)「連続二墨打で2点目を加え 熱戦にケリをつけた」③朝日新聞』(九九・二〇・三朝)「事 件のケリをつけるため」④スポニチ』(九三・一・八)「悪い 事は昨年でケリをつけ、新しい気分で割り切って望む」 類句「片を付ける」「終止符を打つ」「ピリオドを打つ」 けんえんなか 意味非常に仲が悪い間柄用法文 犬猿の仲 型「ダレダレとダレダレは犬猿の仲」「二 人は犬猿の仲」 用例①源氏鶏太『青い果実』(九五十五)「あの二人は、昔から、犬猿の仲なんですよ」②『朝日新聞』(九九・七・二王朝)「立正佼成会といえば、公明党と密接な関係にある創価学会とは犬猿の仲のはず」③『朝日新聞』(九九・七・二王朝)「厚生省と犬猿の仲にあった医師会」④広山義慶『私 刑警察激弾!」(三〇二)「警察庁と神奈川県警は犬猿の仲 にある」 頬句「氷炭相容れず」「水と油」外国語英語では fight like cats and dogs けんとう 意味おおよそこんなところだろうと 見当が付く 見込みがつく。予想・予測・推測・見 通しができる。用法文型「ダレダレは~と(か)見 当がつく」。用例①②のように「見当がつかない」「見当 もつかない」と否定形がよく使われる。③の「多分…… ぐらいの」のように「見当」を修飾することは可能。 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(九六〇)「それがどこであるのか皆目見当もつかないが」②平岩弓枝『風子』(九五七七)「どんな男か、風子には見当もつかなかったが」③『言語生活』三二〇号(九七六)「多分こうなるだろう、ぐらいの見当しかついていない」 類句「めどが立つ」「めどがつく」「目鼻がつく」「目安がつく」 見当を付ける 意味おおよそこんなところだろう と見込みをつける。予想・予測・推 <166> 測する。用法文型「ダレダレが~と見当をつける」。 「見当」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。 用例丸谷オー『男のポケット』(九六)「これは作者の 名前だろうと見当をつけても」 類句「当たりをつける」 犬馬の労 意味犬や馬が主人のために働くように 人が主君や他人のために力を尽くし、心 を尽くして働くことをへりくだって言う。用法文型 「犬馬の労を取る」(江戸) 用例①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九三一五三)「臨子に、好きな人が出来たら、一所懸命に犬馬の労をとるからな」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「そうするために、葉山君に犬馬の労を頼んでいるわけだよ」③高杉良『濁流』(一九六)「池山ごときヤクザのために『犬馬の労を取る』も変な話だが」 外国語 中国語では成句「犬马之勞」(犬馬の労。「犬马之 力」とも言う) 意味とげとげしいさまを表すけ きじ んけんに雉の鳴き声けんけんほ ろろ」が重ね合わされたものか。相手の頼みや相談などを無愛想にとげとげしく拒絶するさま。用法文型「けんもほろろに~する」「けんもほろろのナニナニ」。 「~する」の部分は受身形になることが多い。「安土桃山」用例①「団々珍聞」六九三号(二八九)「雉子なす妻とふ夜半の返事にもケンもホロロの挨拶ぞうき」②舟橋聖一『悉皆屋康吉』(一盃一四五)「剣もホロロの挨拶であったが」③林房雄「息子の縁談」(一九盃)「病院には、二度行って二度とも、剣もホロロにことわられた」④山崎豊子「続白い巨塔」(一九六七六八)「けんもほろろに追い帰されたのだった」⑤藤田宜永「転々」(一九九九)「敷金を返してくれと頼んだが、部屋を綺麗に片づけてからだ、とけんもほろろに断られた」 類句「木で鼻をくくる」「取り付く島もない」「にべもない」「鼻であしらう」 <167> * 11 * こうかくあわと 意味激しく議論する。つばを 口角泡を飛ばす 飛ばさんばかりに熱心に話す。 用法文型「ダレダレが口角泡を飛ばして~する」~ は多くは「議論」などの語。 用例①内田百閒「百鬼園随筆」(一九三)「口角泡を飛ばして、激論を戦わす」②獅子文六「青春怪談」(一九五四)「男性の親友同士だって、時には、口角アワを飛ばすから」③沢村貞子「貝のうた」(一九六九)「口角泡を飛ばして言いあった」④外山滋比古「日本語の素顔」(一九八二)「破裂音と云えば、口角アワを飛ばすドイツ語を思い合わせる」 類句「丁々発止」外国語英語では engage in a heated discussion *韓国語では「ふふふ(口に)スぎぎ(泡 を) 豈け (含む)」 幸か不幸か 意味そのことが結果として良いか悪 いか断定できないが一般的には悪い ことを良いと考えていることを婉曲的に表している。 用法文型「幸か不幸か~」。副詞的に使用。 ①夏目漱石「私の個人主義」(一九五)「幸か不幸か 病気に罹りまして」②角田喜久雄『発狂』(一九三)「所が、 幸か不幸か、両脚を失った秋山は三日目に正気に戻った のであった」③『朝日新聞』(一九六・六・七朝)「今度の大戦 の幕切れには、幸か不幸か、原子爆弾が出現した」④「言 語生活』三四七号(一九八)「わたしは幸か不幸か、そうい う能力がありませんでしたから文章を書きませんでした けれども」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「幸か不幸 か、どこも満員だという」 外国語 英語では fortunately or unfortunately こうこ うれ 意味自分がやり残したり、いなく 後顧の憂い なったりして後に起きる状況などにつ いての心配。用法「後顧の憂いなく」と言うことが多 い。 用例①志賀直哉『邦子』(一九三七)「そういう後顧の憂い があればおれはすぐ為事ができなくなる」②源氏鶏太 『坊っちゃん社員』(一九三一五三)「この際、断固、馘首し て、後顧の憂いなからしむる必要があります」③山崎豊 <168> 子『白い巨塔』(一九三一六五)「これで後顧の憂いなく、安心して退官出来ますよ」④高杉良『会社蘇生』(一九七)「後顧の憂いがないというわけですね」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「梅津が後顧の憂いなく仕事に打ちこめるのも、安心して家庭を委せられる妻がいるからであるう」 外国語 英語では anxiety about the future *中国語 では成句「后願之忧」(後顧の憂い) こうなと 意味手柄を立てたりすぐれ 功なり名を遂げる た業績をあげたりして、名 誉・名声を得る。栄達を極める。出典は中国の古典『老 子』。用法文型「ダレダレが功なり名を遂げる」「室 町 用例①長谷川時雨『近代美人伝』(三三)「貞奴に惜しむのは功なり名遂げてという念をおこさずに、何処までも芸術と討死の覚悟のなかった事である」②高杉良『人事権!』(九三)「サラリーマンとして功成り名を遂げたとは考えられないだろうか」 類句「名を得る」「名を成す」 外国語中国語では成 句「功成名遂」(功成り名を遂げる。「功成名就」とも言う) こうら 意味人が長い年月・経験を積む。年 甲羅を経る 功を積んで老練になる。世間ずれして 厚かましくなる。用法文型「ダレダレが甲羅を経る」 江戸 用例永井荷風『妾宅』(九三)「先生のお妾も要するに 世間並の眼を以て見れば、少しばかり甲羅を経たるこの 種類の安物たるに過ぎないのである」 類句「甲羅が生える」とも言う。 こうそう 意味「奏功」を訓読みしたもので、 功を奏する 本来、手柄を主君に奏上する意。転じ てある行為が良い結果を生み、成功する、期待通りの成 果を収める。また効き目がある。うまくいく。効果が現 れる。用法文型「ナニナニが功を奏する」 用例①幸徳秋水「社会主義と国体」(九三)「此卑劣 な手段は往々にして功を奏し」②山崎豊子「白い巨塔」 (九六三六五)「お二人の裏面工作が見事に功を奏したから ですよ」③「朝日新聞」(九九四三六朝)「国鉄労使のなり ふりかまわぬ政治力が功を奏した格好だ」④「朝日新聞」 (九九六五朝)「看護婦数人がチームを組んでKちゃんと 親しく接触したのが功を奏し、体の発育がよくなっただ <169> けでなく⑤東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「彼の この行動が功を奏して、朋美は助かった」 ごうに 意味他者や相手の態度や考えにいら 業を煮やす いらしてどなりそうになる。物事が思 うように運ばずいらだつ。用法文型「ダレダレがナ ニナニに業を煮やす」(江戸) 用例①尾崎紅葉「金色夜叉」(二八九七九八)「蒲田はなかな もだ にや かいな か下に貫一の悶ゆるにも劣らず、独り業を沸して、効無 じただら き地韉を踏みてぞいたる」②里見弴『多情仏心』(二九三 三)「冷淡きわまる態度に業を煮やして」③「朝日新聞」 (一九五・二・四朝)「既成政党の意気地ない有り様に業を煮 やして」④新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「雪に埋 まった死体は容易に発見できなかった。業を煮やした家 族は、自分達で捜索すると言って」⑤内田康夫「歌わな い笛」(一九九八)「最後は業を煮やして『あんたが殺ったん じゃなんか?』と言った」 外国語(英語)は become irritated at (or by) 声が掛かる 意味 (1)話しかけられる。呼びかけられる。何か一緒にしようと誘われる。 (2)声援を送られる。用法文型「ダレダレはダレダレから声がかかる」「ダレダレにダレダレの声がかかる」。用例③の「出演の」のように「声」を修飾することは可能用例(1)①倉橋由美子『長い夢路』(二六八)「まり子に、『お姉さま』と声がかかった」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二七二)「『なにを愚図ついておるか、さっさと歩け』再び徳島大尉の声が掛かった」③丸谷オ一『男のポケット』(二七六)「物価でしくじってからは出演の声がかからなくなり」 類句「お声がかかる」(特に目上の人から誘われたり、取り持ちや紹介を受ける) こえあ 意味(1)大きな声を出す。感情の高ま 声を上げる りや驚きなどのため思わず出してしま う声に用いる。(2)不満に思っていたことを改善してほ しい、こうしてほしいと要求をする。(3)弱音を吐く。 用法文型(1)「ダレダレが声を上げる」。「すっとんきよ うな」「驚きの」など「声」を修飾できる。(2)「ダレダレ がナニナニの声を上げる」。命令・意志表現は可能。(3) 「ダレダレが~と声を上げる」「平安」 用例(1)①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「背後を振り返っ <170> て栗谷清子は若い驚きの声をあげた」②三浦綾子『塩狩峠』(二六八)『まあ』菊と待子が声を上げた」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「不覚にも声を上げて彼女を呼び求めることがあった」④平岩弓枝『風子』(二九五七)「風子はとうとう声をあげて泣き出した」②⑤「社員一同が会社の方針反対の声を上げた」③⑥「もうこれ以上はできないと声を上げた」 類句 (1)「声を立てる」(2)「声を出す」(3)「音を上げる」 こえか 意味(1)人に話しかける。人に呼びか 声を掛ける ける。何か一緒にしようと人を誘う。 (2)声援を送る。用法文型「ダレダレがダレダレに声 をかける」。命令・意志表現は可能。受身形がある。「室 町」 用例(1)①川端康成『伊豆の踊子』(九六)「『今晚は』と 声を掛けた」②平岩弓枝『風子』(九五十七)「『どなたです か』背後から声をかけた」③『京都新聞』(九九五三朝) 「『ポストなら外にありますよ』と声を掛けると」④朝 日新聞』(九一三三朝)「学内ではすれ違う学生一人ひと りに、気さくに声をかけた」(2)⑤「選手に『気合いだ』と 声をかける」 類句(1)「口をかける」 こえた 意味大きな声を出す。泣いたり笑っ 声を立てる たりする時などの声のさま。用法 文型「ダレダレが声を立てる」「ダレダレが声を立ててく する」。「声を立てる」は泣き声や笑い声など感情的な音 声を出す時に用いることが多いので、命令・意志表現は あまりそぐわない。〔平安〕 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一九六)「母はもうおい おいおいおい声を立てて泣いている」②高橋和巳『悲の 器』(一九三)「人が声をたてて笑い」③高橋三千綱『天使を 誘惑』(一九七八)「恵子は声をたてずに笑った」 類句「声を上げる」 こきようにしきかざ 意味名を挙げて誇らしく故郷 故郷に錦を飾る に帰る。立身出世して里帰りす る。用法文型「ダレダレが故郷に錦を飾る」。「故郷へ 錦を飾る」とも言う。江戸 用例①「朝日新聞」(九六・一・一朝)「東洋通の第一人者 として故郷ヴェニスに錦を飾ったマルコ・ポーロによつ て②稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」(九六)「故 <171> 郷に錦を飾ることになるのだろうか」③森村誠一『棟居 刑事の「人間の海」(三〇〇)「いまに大歌手になって、故 郷に錦を飾ると大見得を切った手前」 類句「錦を飾る」 外国語英語では return home loaded with honors *中国語では成句「衣錦还乡」(錦 を着て故郷に帰る。「还乡」は故郷に帰る。「衣錦荣归」とも言 う この歳仮にする 意味人を軽く見て侮る。用法文 型「ダレダレがダレダレをこけにする」。用例のように受身形でもよく用いられる。「江戸」 用例「朝日新聞」(三〇五・三・三六朝)「先日もウスイから「藤巻健史の部下というより、藤巻幸夫さんの知人といった ほうが、感心される」とコケにされたばかり」 類句「馬鹿にする」 こけんかか 意味「沾券」とは土地・家屋の権 沾券に関わる 利証、売り渡し証文。その人の体面 や品位にさしつかえる、落とすことになる。用法文 型「ナニナニはダレダレの沾券にかかわる」 用例①坂口安吾死と影(一蛍)「高級な下宿だからネ、 先生のコケンにかかわるといけねえから、このキモノを きてくるんだ」②源氏鶏太『三等重役』(一五一五三)「社長 の沾券にかかわる失態を演じたような面白くない気持が してきた」 類句「傷がつく」「器量を下げる」「立場がない」 外国語 英語では beneath one's dignity 心が躍る こころ おど 意味喜びや期待で心がわくわくする。 うきうきする。用法文型「ダレダレ は心が躍る」「ダレダレの心が踊る」 用例柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「気象観測データや天気予報を一般に公表できるようになったのである。藤原の心は躍った」 類句「心を躍らせる」とも言う。「心が弾む」「胸が躍る」 「胸が弾む」 通う 心が通う 意味お互いの気持ちが通じ合う。 用法文型「ダレダレはダレダレと心が 用例福永武彦「忘却の河」(一九四)「その間の時間を飛び越してこうして心が通うというのはなぜだろうか」 <172> 類句「打てば響く」「気心が知れる」「心が通じる」 「ツーカーの仲」「ツーと言えばカー」 こころはず心が弾む 意味 心が躍る に同じ。 用法 文型 ダレダレは心が弾む 用例織田作之助『土曜夫人』(九六)『今夜こそこの 女をどこかへ連れて行って…』という想いに心も弾むの だった」 心に掛かる こころか 意味ある人・ことが心配になる。あ る人・ことが意識にひっかかって忘れ ることができない。用法文型「ダレダレはダレナニ が心にかかる」〔平安〕 用例三浦綾子『塩狩峠』(一九六)「生れて初めて見合い をした相手だったから、ひとり住まいの信夫にとって、 それだけでも美沙は刺激的な、そして心にかかる存在で あったかもしれない」 類句 気にかかる 気にする 気になる 心に掛ける 意味ある人・ことを心配する。意識 して忘れないようにする。用法文 型「ダレダレがダレナニを心にかける」。命令・意志表 現は可能。〔平安〕 用例辻邦生『北の岬』(一丸)「私あなたがそんなふ うに心に掛けてくださったことが嬉しいんです」 類句「気にかける」「気にする」「心に留める」 心を打つ 意味あることが人の心を感動させる 用法文型「ナニナニがダレダレの心を 打つ」。「心を打たれる」という受身形もよく使用される。 用例①野間宏『真空地帯』(二五三)「曾田はその記事を 忘れることができなかった。それは深く彼の心を打った のである」②辻邦生『北の岬』(二九五)「私はなお鳴りどよ む大都会の生命感に、何度か心を打たれ、残忍なドラマ でもみるように、その巨大な傷ついた身体を黒々と横た える町々を眺めたものだった」③田辺聖子『欲しがりま せん勝つまでは』(二九七)「キリストのいうことすること みなよくわかって心を打たれる」 * 頬句「琴線に触れる」「胸を打つ」 心を奪う 意味注意・関心を奪って夢中にさせる。 心をとりこにする。用法文型「ダレ <173> ナニがダレダレの心を奪う「ダレダレはダレナニに心 を奪われる」。受身形がよく使用される。「安土桃山」 用例①野間宏『真空地帯』(一九三二)「彼は不思議にも眼 の前にいる木谷の実在物よりも、このときには過去の木 谷に心をうばわれていた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三 六五)「メスの動きに心を奪われていた」③筒井康隆『狂 気の沙汰も金次第』(一九三三)「目さきの取引に心を奪われ て基本的なことを忘れてしまうのである」 心を鬼にする こころおに 意味かわいそうだと思う気持ちを 振り捨て、相手のためを考え、あえ て厳しい態度で当たる。用法文型「ダレダレは心を 鬼にしてする」。命令・意志表現は可能。「江戸」 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)『せっかく ですが、お断りします』浩太郎は、心を鬼にして、断乎 たる口調でいって」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』 (一九三)「犯人は心を鬼にして、現場を離れて車で自宅近 くまで戻り」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「綾さんの魅力 には勝てませんよ。心を鬼にしなければ、治子が怖ろし い、とか思っても、やっぱり来てしまうんだから」 外国語英語では harden one's heart 心を傾ける こころかたむ 意味(1)愛情や情熱をもってあること に心を集中して行う。(2)気をそそられ、 心を寄せる。 用法文型「ダレダレがダレナニに心を 傾ける」。命令・意志表現は可能。「室町」 用例(1)①「ここ何年も花の栽培に心を傾けてきた」(2) ②「つい美しさにひかれて彼女に心を傾けてしまった」 類句(1)「心を入れる」「心を打ち込む」「心血をそそぐ」 「全身全霊を打ち込む」 心を砕く こころくだ 意味いろいろと考え、気を使って苦心 する。用法文型「ダレダレがナニナ 二に心を砕く」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例①仲良くやっていけるように心を砕いてきた② 「教育に日夜、心を砕く」 * 類句「骨を折る」 こころくぼ 意味相手を思いやり、いろいろと配慮 心を配る する。間違いが起きないように気を使う。 用法文型「ダレダレがダレナニに心を配る」。命令。 意志表現は可能。「室町」 用例①野坂昭如『てろてろ』(一丸二)「温度の調節と、 <174> 食物にさえ心をくばるなら、まず半年は生存する 『新共同訳聖書』ヘブライ13章17節(一九二)「あなたがた の魂のために心を配っています」 類句気を配る 二しおっ 意味(1)人がある場所に定着する。 腰が落ち着く 人がある環境に慣れ落ち着く。(2)人 が動揺しないでしっかりしている。用法文型(1)「ダ レダレはドコドコに腰が落ち着く」「ドコドコにダレダ レの腰が落ち着く」。用例①のように否定形がある。(2) 「ダレダレは腰が落ちつく」「ダレダレの腰が落ち着く」 〔江戸〕 用例(1)①「朝日新聞」(一九九七・七・一九朝)「腰が落ち着かない新自由ク議員からのアプローチもある」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九三)「亜紀子の腰が落ちついたのを見て」(2)③「事件後、三年が経ち、腰が落ちついた」 こしおも 腰が重い 意味無精で、まめに動いたり出かけた りしない。転じて、なかなか行動を起こ そうとしない。なかなかその気にならない。用法文 型「ダレダレは腰が重い」「ダレダレの腰は重い」 用例①井上靖『氷壁』(一九五六五)『おれの方から行く』 魚津が答えると、『珍しいことだな、腰の重い君が。 —何か用事かい』②『朝日新聞』(一九九五・五・五朝)「政府の 腰は重い」③『朝日新聞』(一九八〇・七・四朝)「参院側の腰は 重く、論議にもなかなか火がつかない」④『朝日新聞』 (一九〇・三・二八朝)「一般消費税反対中央連絡会も『現行税 制による空前の大増税』には腰が重い」 類句「尻が重い」 外国語英語では have lead in one's parts こしくだ 意味途中で物事をやり遂げる気力を 腰が砕ける 失う。強気の態度が崩れる。腰砕けに なる。用法文型「ダレダレは腰が砕ける」 用例高杉良「人事権!」(一九九二「石井のことだから腰 が砕けてしまう恐れもある」 ここす 意味他のことに気をそらしたり手を 腰が据わる 出したりせず、一つのことにしっかり 持続して取り組む。用法文型「ダレダレは腰が据わ る」。否定形でよく使われる。 <175> の姿勢に強い不信感をもったのも当然である」 「朝日新聞」(一九一・三・三朝)「腰のすわらない首相 こしぬ 意味驚きや恐怖のために足腰が立た 腰が抜ける なくなる。用法文型「ダレダレは 腰が抜ける」。用例①②のように「腰が抜けそう」、③の ように「腰が抜けるほど~」といった形でその程度のは なはだしさを誇張する。〔江戸〕 用例①高橋三千綱「天使を誘惑」(一九六)「ぼくも、初めて見たときは腰が抜けそうになった」②「朝日新聞」(一九九・八・三朝)「もしこれが命とりになっていたらと思うと、腰がぬけそうでした」③稲垣美晴「フィンランド語は猫の言葉」(一九二)「私は腰がぬけるほど驚いた」 こしひく 意味人に対して態度が謙虚でいばらず、 腰が低い 愛想がよく、丁寧なさま。用法文型 「ダレダレは腰が低い」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二六〇)「植に対して安 井は、ますます腰が低かった。狡猾な安井は、植が自分 にとって大切な人間であることを、よく知っているよう だった」②『朝日新聞』(二九九・六・三朝)「腰の低い山下長 官が③朝日新聞(一九一・三・三朝)「ニコニコと腰が低く、 学内ではすれ違う学生一人ひとりに、気さくに声をかけ た」 類句「頭が低い」 外国語韓国語では「引き(腰を) 音かけ(曲げる)」 こしひ 意味何かをするのに自信がなく、お 腰が引ける どおどして中途半端な態度でいるさま。 転じて、ある事柄に対してどのように対処してよいか わからず、はっきりしない態度をとっているさま。 用法文型「ダレダレはナニナニに腰が引ける」 用例①高杉良『人事権!』(一九三)「田中は腰が引けて いる」②西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(三〇〇)「市役所 も、宗教問題には、腰が引けてしまっていますから」 こしあ 意味座っていた姿勢から立ち上がる。 腰を上げる 転じて今まで何もしなかった者がこと に取りかかる。行動に移る。用法文型「ダレダレが 腰を上げる」。命令・意志表現は可能。 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)「安保闘争の時も彼は腰を上げようとせずに」②佐野洋『推理小説実習』 <176> (一九七九)「『そうですね。じゃあ、わたしも行ってみます」 と、板倉は腰を上げた」③東野圭吾『美しき凶器』(一九九三) 「質問項目がなくなったらしく、刑事たちは腰を上げた」 * 類句「おみこしを上げる」「重い腰を上げる」「尻を上げる」 * 「みこしを上げる」 こしお 意味他人の話の途中で邪魔をしてやめ 腰を折る させてしまう。用法文型「ダレダレ が話の腰を折る」。受身形がある。「江戸」 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「(略)と言いかけると、 医師ははなしの腰を折って、『あとは婦長と相談してく れたまえ』②石坂洋次郎『光る海』(一九六二六三)「話の腰を 折らないでおくれ」③大江健三郎『ピンチランナー調書』 (一九六)「おれは『親方』に話の腰を折られたがね」 こしす 意味(1)じっくり落ち着いてあること 腰を据える に取り組む。(2)ある場所に長く住み続 ける。用法文型(1)「ダレダレが腰を据えて~する」(2) 「ダレダレがドコドコに腰を据える」。命令・意志表現は 可能。(江戸) 用例 (1)①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「当分腰を据 えて、この仕事をやって貰いたい」②平岩弓枝『風子』(一九五十七)「この辺で結婚させてやったほうが、腰をすえて、むこうで仕事が出来るのではないかと」③朝日新聞』(一九一・一九朝)「いまこそ腰をすえて海外から学ぶべきではないのか」②④城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「それに、かんじんの住井が、いつ行っても、釣りに出かけていて会えない。すでに精進湖に半分は腰をすえた生活のようであった」 類句 (1)「尻を据える」「みこしを据える」(2)「尻が暖ま る」「尻を据える」「みこしを据える」 こしぬ 意味驚きや恐怖のために足腰が立た 腰を抜かす なくなる。非常に驚く。用法文型 「ダレダレが腰を抜かす」。用例②③のように「腰を抜か さんばかり」とたとえることも多い。「室町」 用例①源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八—五九)「危く、五郎と二人で、自動車無理心中をするところだった、といってやったら、腰を抜かすかもわからない」②朝日新聞(一九七九・七・三朝)「陶器商に見せたところ、腰を抜かさんばかり」③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九八〇)「寝たきり老人が入浴するところを見せてもらった時は、腰 <177> をぬかさんばかりに驚いた④外山滋比古『日本語の素 顔』(二九二)昔の人なら、腰を抜かすだろう⑤大沢在 昌『悪夢狩り』(二九四)「腰を抜かしそうなほど怯えてい た東河台の生徒の顔を思い浮かべた」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言え ない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰 す」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目 を白黒させる」「目を丸くする」 ごたくなら 意味「ごたく」は「ご託宣」の略で 御託を並べる 神仏のお告げ。身勝手なことをごた ごたと偉そうに言い立てる。用法文型「ダレダレが ごたくを並べる」。用例①③のように「勝手な」などが 「ごたく」を修飾できる。〔江戸〕 用例①舟橋聖一『悉皆屋康吉』(二四一四五)「勝手な御託をならべていた伊助爺も」②林二九太「へのへのもへじ」(二五三)「鰻がいいの、洋食がいいのと、すったもんだとゴタクを並べ出したが」③内田康夫『若狭殺人事件』(二九三)「内田は勝手なゴタクを並べると、こっちの返事も無視して、さっさと電話を切った」④重松清『かっぽん屋』(三〇三)「ごちゃごちゃゴタク並べてんじゃねーぞ」 御多分に漏れず 意味世間一般によくあるのと 御多分に漏れず 同様に。他の多くと同じように あまりプラス評価には使わない。「御多聞」「御他聞」と 書くのは誤り。用法文型「ダレナニもごたぶんに漏 れず~」。副詞的に使用。 用例①『滑稽界』八号(九八)「聴けば是も御多分には 漏れず夜逃同様下宿を引払って故郷の福井へ飛んで了っ た相だ」②浜尾四郎『殺人鬼』(三)「藤枝も私も御多 分に漏れず、イプセンを論じ、ストリンドベルグを語り ロマン・ローランの小説を徹夜して読むかたわら」③山 崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「この選挙の票数という奴 は、どの世界でも水もので、医学界だってご多分に洩れ ずさ」④高杉良『会社蘇生』(九七)「ご多分に漏れず一流 大学については青田買いまがいのこともやってきた が」 骨肉の争い 意味親子・兄弟のような血のつなが りのある者、関係の深い者どうしの醜 い争い。用法文型「ダレダレが骨肉の争いをする」 「ナニナニは骨肉の争い」 用例①朝日新聞(一九九六三朝)骨肉の争いは <178> 住民の融和、地域の発展を阻害する」②『朝日新聞』 (二九○・五・一九朝)「いかに骨肉の争いとはいえ、互いの政 権のうま味を手放したのでは元も子もない」③『朝日新 聞』(二九○・二○・三朝)「選挙運動によって骨肉の争いにな るのを避ける」 類句骨肉相食む血で血を洗う 後手に回る 意味相手に先手をとられて受け身に なる、主導権を握られる。すばやく行 われるべき対策や手当などが後回しになり後れがちにな る。用法文型「ダレナニがダレナニの後手に回る」 用例①「朝日新聞」(九九・七・七朝)「トンネル内の防 災施設や運行規制など、何事も後手に回っている現状 で」②「朝日新聞」(九九・七・三朝)「魁輝ののどわ押しに あって後手にまわった若乃花」③東野圭吾「美しき凶器」 (九九三)「あとはパトロール強化と、日浦の車を手配する 程度か。くそっ、後手に回ったな」 類句「後れをとる」「後手をひく」 どうけいいた ご同慶の至り 意味よそのことながら、相手と同 じように自分もうれしいことである。 相手の慶事を祝う言葉。 用法文型「ナニナニはご同 慶の至り」 用例朝日新聞(一九六六・三朝)金権腐敗の疑惑議員 と同じことをしても、握りつぶしてくれることになった からご同慶の至りといいたいのである」 事が事 ことこと 意味そのことが取り扱いにくい、問題を 含む、重大であること。用法文型一事 が事だけに(だから) 用例①森村誠一『東京空港殺人事件』(二七二)事情を 打ち明けて協力を頼むわけにはいかない。それにコトが コトである」②「事が事だけに慎重を期する」③「事が事 だから、そうは簡単に行くまい」 外国語英語では under the circumstances 事ごこに至って 意味今となっては手の施しよ うのない事態、差し迫った事態、 どうにも打開しようもない事態になって。用法後ろ に否定的な言葉が続く。 用例「事ここに至っては死ぬのを待つしかない」 類句「事ここに及んで」とも言う。 <179> 事と次第によっては 意味事柄や物事の成り行 きによって当初の予定とは 違ったことになる可能性がある。用法「事と次第に よっては~する」。「事と次第では」とも言う。 (用例)①佐々木味津三『続旗本退屈男』(一九三九三)「奉行 所の役人共に聞き訊ねた上で、事と次第によらばこの主 水之介が料ってつかわすのじゃ」②木谷恭介『京都石塀 小路殺人事件』(三〇〇)「ことと次第によっては最匠流を でると知った途端」③「事と次第によっては社長と会長 が会見に臨むこともある」 こと 事なきを得る 意味危ういところで、大したことに ならず無事に済む、助かる。用法 文型「事なきを得る」「事なきを得て~」 用例「事なきを得てほっとする」 外国語英語では save the day こと 事によると 意味もしかすると。用法文型 「事によると~」。「事によったら」「事 によれば」とも言う。「江戸」 用例事によるとふたりはできているかもしれない こと 事もあろうに 意味他にいろいろあるのにことさ らに。その状況では起きてはまずい ことになる時などに言うことが多い。用法文型「事 もあろうに~」 用例①織田作之助『大阪発見』(一四〇)「ぶぶ漬の運ば れて来るのを待っていると、やがて、お待ちどうさんと 前へ据えられた途端、あッ、思わず顔が赧くなって、こ ともあろうにそれはお櫃ではないか」②「入社式の日、 事もあろうに寝坊して遅刻した」 類句「あろうことか」よりによって 事もなく 意味容易に。用法文型「事もなく する」副詞的に使用。 用例 新記録を事もなく達成した 類句「苦もなく」「手もなく」「訳もなく」 こと 事もなげに 意味何も問題がないかのように平気 で。何とも思わず。言ったりしたりす るさまに使用。 用法文型「事もなげに~」。副詞的に 使用。 用例尾崎紅葉多情多恨(八九六)「継聘を?妻です <180> か!』と柳之助は顔の色を変える。お種は故と事も無げに『そうでございます』 外国語 英語です as if it were nothing ごます 意味自分の利益のために他人、特に 胡麻を擂る 上司・上役などにへつらう、追従する。 ご機嫌を取る。 用法文型「ダレダレがダレダレに胡 麻をする」(江戸) 用例①石坂洋次郎『山と川のある町』(一九五六)「親父が P・T・Aのボスだし、ゴマをすってるのさ」②平岩弓 枝『風子』(一九五十七)「『別に……お師匠さんって、すば らしい人だと思ってます』ぐまするなよ」③高杉良『人 事権!』(一九三)「相澤はゴマを擂ったつもりはない」④ 「先生にごまをする生徒」 類句「尾を振る」「尻尾を振る」 外国語 英語では flatter ; curry favor (with) *中国語では慣用句「拍马 屁」(おべっかを使う。「拍」は叩く、「马屁」は馬の尻。「溜须 拍马」とも言う) こみみはさ 小耳に挟む 意味噂話の一部を偶然にちらりと 聞く。聞くともなしに聞く。自然と ちょっと聞こえてくる。 用法文型「ダレダレがナニ ナニを小耳に挟む」(江戸) 用例①丸谷才一『男のポケット』(一九七六)「数年前、小 耳にはさんだ噂があるからだ」②藤原審爾『死にたがる 子』(一九七八)「ちょっと小耳にはさんだんだがね」③高杉 良『指名解雇』(一九七七)「ウチの人事部長が小耳に挟んだ と」 類句「耳に入れる」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」 耳に挟む」「耳に触れる」 外国語 英語では happen to hear 御免蒙る ごめんこうむ 意味勘弁してほしい。拒否・拒絶を表 す言葉。用法文型「ナニナニは御免 蒙る」。「御免蒙りたい」と言う形が多い。 用例『朝日新聞』(一九一六・一朝)「民族を滅亡に導くよう な危険きわまりないカサなど、国民はゴメンこうむりた い」 これ見よがしに 意味これを見よと言わんばか りに得意そうに見せつけるさま。 用法文型これ見よがしにする副詞的に使用。 <181> * さ * 用例①角田喜久雄『怪奇を抱く壁』(一丸六)「真昼間か らこれ見よがしにウイスキーのコップを並べてオダをあ げている闇屋風の二人」②三島由紀夫『盗賊』(一九四八)「教 訓を与える立場にある女の寂しさをこれ見よがしに、息 子にすねて見せもしたのだった」③源氏鶏太『緑に匂う 花』(一九五二五三)「ダンス・パーティには女のひとは、僕た ち老人を敬遠して、若い男とばかり、いかにも愉しそう に、さよう、これ見よがしに踊って」 細大漏らさず 意味細かいことも大きいこともす べて。用法文型「細大漏らさず する」。副詞的に使用。 用例源氏鶏太『天下泰平』(一九五四五五)もし、岡崎に関 する情報が入ったら、細大もらさずに、僕に知らせてく れたまえ」 類句「余すところなく」「ありとあらゆる」「一から十まで」「何から何まで」 さいはいふ 意味「采配」は昔、戦場で大将が指 采配を振る 揮をするために用いた、柄にふさを付 した道具。人の上に立って指図して運営に当たる。物 事の指揮をとる。用法文型「ダレダレが(ナニナニに) 采配を振る」。ナニナニは集合体がある秩序をもって行 動する必要がある事柄。「江戸」 用例 ①甲賀三郎『黄鳥の嘆き』(一九三五)「葬儀委員長と <182> いう格で、相変らず何くれと采配を振っていた」②井上靖『氷壁』(一九六一五)「二人は仕事全般に眼を通し、その采配を振らなければならなかった」③津本陽『深重の海』(一九七八)「覚吾のように感情の起伏が激しく、直感のひらめくままに采配を振る男は、信じるには器量が軽すぎる」 類句「采配をふるう」とも言う。「イニシアチブを取る」 かじ 「音頭を取る」「舵を握る」 外国語 英語では have the command さいはいふる 意味「采配を振る」に同じ。用法 文型「ダレダレが(ナニナニに)采配を 揮う」 用例①源氏鶏太『随行さん』(一九五〇)「戦時中この室で 傲然と采配を揮っていた前社長に較べたら」②中上健次 『鳳仙花』(一九〇)「兄の幸一郎が夜に行われる法事の采配 を振るうのに忙しいし」 さいふひもし 意味無駄な金を使わないよ 財布の紐を締める うに倹約する。出費を切りつ める。用法文型「ダレダレが財布の紐を締める」 用例「家計をあずかる主婦は財布のひもを締めている ためか、売れ行きがよくない」 類句「財布の口を締める」とも言う。 外国語英語で は tighten one's purse strings 意味 金銭の出し入れの権限を 握る。 用法 文型「ダレダレ が財布の紐を握る」 用例①東直己「古傷」(三〇四)「祖父が財布の紐をしっ かり握っているからなの」②「妻が財布の紐をしっかり 握っているので、家計は安定している」 外国語 英語づき hold the purse strings 意味人より先になろうと争い進む。 先を争う 用法文型「ダレダレが先を争うよう レダレが先を争ってくする」「室町」 に~する」「ダレダレが先を争って~する」「室町」 用例①『朝日新聞』(一九九六・三朝)「七年前の九月に母が、六年前の五月に父が、それぞれ先を争うようにして死に」②「開店と同時に先を争ってバーゲン会場になだれ込んだ」 類句「先陣を争う」「我先に」 外国語 中国語では成 <183> 句「争先懇后」(遅れまいと先を争う。「恐后」は遅れるのを恐れる) 探りを入れる 意味相手に気づかれないように相 手の動靜を調べる。自分が知りたい ことを、それと相手に気づかれないように聞き出そうと する。用法文型「ダレダレが探りを入れる」。命令・ 意志表現は可能。江戸 ①坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「熱力ンをつけてもらって、前の旅館に大男が泊まっていないかサグリを入れるが」②藤原審爾『死にたがる子』(一九七八)「わたしには、あなたがどんな人物だかわからない。あなたの言葉をそのまま信じるわけにはいかない。色々とさぐりを入れますよ」 類句「鎌を掛ける」「腹を探る」 外国語 英語では someone out さじな 意味薬を調合する匙を投げ出すとい 匙を投げる うことで、医者が患者を見放すことか ら転じて、なんとかしようと努力してやった行為や処置 に見込みがないと知り、あきらめて放棄する。用法 文型「ダレダレがダレナニに匙を投げる」。受身形があ る。〔江戸〕 「用例①久米正雄『学生時代』(一九二七)『私はあくまで弟が匙を投げて『この次までに考えて見ましょう』とか云うだろうと多寡を括って待った』②里見弴『多情仏心』(一九三二三)『お医者様がみんな匙を投げちまってからだって、不思議に助かったなんて話も』③『朝日新聞』(一九五四・七朝)『連盟でも陛下に段位を送る免状の文案にはサジを投げていたようだ』④『相撲界』復刊二号(一九〇)『こんな状態では出場して一勝できれば上出来』とサジを投げた』⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「親もさじを投げていた重次が現れると」 類句「お手上げ」「見切りをつける」 外国語英語で は give up on さぼよ 鯖を読む 意味魚市場でサバはくさりやすいため 早口で数えて数をごまかしたことから、 目分の都合のいいように数をごまかす。また実際より もいいように言って相手をごまかす。用法文型「ダ レダレがさばを読む」。用例①の「大きな」のように「さ ば」を修飾することは可能。〔江戸〕 <184> 用例①夢野久作『爆弾太平記』(一九三)「ここの火薬庫 の主任が、一生一代の大きなサバを読んで渡すことがあ るそうで」②獅子文六『娘と私』(一九五三-五六)「『いいえ… あたし、心臓が、少し悪いもんですから…』(略)『へえ どこも悪くないなんて、サバを読んだね』③朝日新 聞』(一九一・七・二朝)「日米双方ともかなりサバをよんだ目 標を掲げている」④森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「年齢を 八歳もサバを読んでいた」 外国語英語ではfudge 様になる 意味何かをするしぐさや結果の状態が 一応整って見るに耐えるさまになる、そ れにふさわしい格好になる。用法文型「ナニナニが さまになる」。「さまにならない」という否定形が多い。 用例①野坂昭如「てろてろ」(一丸二)「猟銃じゃさまに ならないわねえ」②「ものまねもだんだんさまになって きた」 類句「板に付く」 * し * しがか 意味取り上げるほどのこと 歯牙にも掛けない でもないので無視して問題に しない、相手にしない。用法文型「ダレダレはダレ ナニを歯牙にもかけない」「歯牙にもかけずくする」 用例①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九三六)「彼が、ほとんど、歯牙にもかけなかった、低級な人間の中に」②石坂洋次郎『若い人』(一九三三毛)「何でもない偶然事だと歯牙にもかけない表面をよそおっていたが」③源氏鶏太『随行さん』(一九五〇)「歯牙にもかけてくれなかった社長と違って」④『朝日新聞』(一九五八・三朝)「田中派幹部は世間からどんな非難を受けようと歯牙にもかけずにやろうと公言し」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三三)「彼らは内田の『駄作』などは歯牙にもかけない」 類句「眼中にない」「等閑に付す」「取るに足りない」 「はなもひっかけない」「屁とも思わない」「見向きもしな い」「目じゃない」「目もくれない」「物の数ではない」「問 <185> 外国語 英語では take no notice しきいたか 意味相手に不義理なことをしたり迷 敷居が高い 惑なことをしたりして、相手の家に行 きにくい。またその人に会いにくい。用法文型「ド コドコは敷居が高い」(江戸) 用例泉鏡花『婦系図』(九七)「余所ながら真砂町の様 子を、と想うと、元来お蔦あるために、何となく疵持足、 思いなしで敷居が高い。で何となく遠のいて」 外国語 英語づけ feel self-conscious about visiting 死者に鞭打つ 意味死んだ人の生前のことを取 り上げて悪口を言う。出典は中国の 『史記』伍子胥伝。 用法文型「死者に鞭打つ(ような) ナニナニ」 用例①森村誠一『東京空港殺人事件』(九七)「いまは 死者にむち打つようなことは言いたくありません」②内 田康夫『若狭殺人事件』(九三)「死者にムチ打つことは 躊躇われた」 類句 「屍に鞭打つ」「死屍に鞭打つ」とも言う。 意味(1)不愉快や不満の意を表して舌 1貴を打二 を鳴らす。現在では使用しない。(2)食 べている物が非常においしいので思わず舌を鳴らす。非 常においしい物を味わい楽しむ。「したづつみ」と誤って 言うことがある。用法文型(1)「ダレダレが舌鼓を打 つ」(2)「ダレダレが十二十二に舌鼓を打つ」(江戸 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「脱ぎすてた服を畳みかけてみて、舌鼓を撃ちながらそのまま押し入れへへし込んでしまう」②宇野浩二『苦の世界』(二九八三)「私は舌鼓をうって引きかえして」②③里見弴『多情仏心』(二九三三)「山海の珍味ででもあるように、舌鼓をうって食べるのを見ては」④『朝日新聞』(一九四三・四朝)「鶯がさえずりだす前の地鳴きは、『チャッ、チャッ』と舌つづみを打つように聞こえる」⑤金田一春彦他『変わる日本語』(一九二)「ヒラメの刺身とクワイの煮ころがしで舌鼓を打って」 類句「舌鼓を鳴らす」とも言う。 外国語英語では smack one's lips 下にも置かない 意味 下座に付かせない意から 転じて、人(特に客)に非常に気 <186> を使って丁寧に大切にもてなすさま。 (用法)文型「ダ レダレはダレダレを下にも置かない」「下にも置かない ナニナニ」。ナニナニには「もてなし」「扱い」など。「下 へも置かない」とも言う。 用例①永井荷風『つゆのあとさき』(一巻二)「万事思切って歯の浮くような事をする男であるが、相応に金をつかうので女給連は寄ってたかって下にも置かないようにしている」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九五〇)「いままでは、蝶よ花よと下へも置かぬ扱いをしていた各テレビ局が、いっせいに背を向けた」③「下にも置かないもてなしを受ける」 外国語 英語でさ treat someone like a king 舌の根も乾かぬうちに 意味今言い終わったば かりなのに、すぐにそれ 意味今言い終わったば かりなのに、すぐにそれ のを非難する言葉。 と矛盾すること 逆のことを言うのを 用法文型「舌の根も乾かぬうちに~する」。用例④の 「忠誠を誓った」のように「舌の根」を修飾することが可 能。「舌の根も乾かないうちから」とも言う。 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「いままで死に たいと言っていたヤツが、その舌の根の乾かないうちか ら、今度はそんな図々しいことを言い出す』②『朝日新聞』(一九七九・八・二六朝)「その舌の根も乾かぬうちに『巨人のときに気合がはいる』とつい本音をはく』③『朝日新聞』(一九〇・七・二六朝)「その舌の根もかわかぬ今の時期に』④大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦争』(三〇三)「忠誠を誓った舌の根も乾かぬうちにアメリカを火を噴かんばかりに激しくののしるのでおどろいた」 類句「言う口の下から」「声の下から」(外国語)英語では no sooner were the words out of one's mouth than したま 意味すばらしいできばえや圧倒するよ 舌を巻く うな状況・心意気・能力などに非常に驚 き感心する。出典は中国の『漢書』。用法文型「ダレ ダレがナニナニに舌を巻く」。用例②のような使役受身 形がある。「鎌倉」 用例①甲賀三郎『琥珀のパイプ』(た四)「検事は青年 記者の明解なる判断に舌を巻きながら」②夢野久作『爆 弾太平記』(た三)「来島の働きぶりには吾輩イヨイヨ舌 を巻かされたもんだよ」③源氏鶏太『天下泰平』(た四 五)「大吉は、女の大胆さに、ひそかに、舌を巻いている」 <187> ④【朝日新聞】(一九九五・三九朝)「気迫に舌を巻いた」⑤【朝日新聞】(一九八○・五・二九朝)「その安打を打つ技は、王にさえ『うまい』と舌をまかせたほどである」⑥梓林太郎『死神山脈』(一九九九)『刑事さんは、そこまでお調べになっておいでですか』と、舌を巻くような表情をした」 外国語 英語では be amazed by じだんだふ 意味「地団駄」は「地蹈鞴(足で踏 地団駄を踏む んで空気を送るふいご)の転。差し 迫った要求を相手に訴えるために何回も地面・床を強く 踏む、ばたばたさせる。転じて思い通りにならない、ま たは取り返しのつかないことに対する悔しさやもどかし さを表す。用法文型「ダレダレが地団駄を踏む」。用 例⑤のように意志表現は可能。(江戸) 用例①二葉亭四迷『其面影』(九六)思うようにな らぬ焦燥さは地輔を踏むばかりである」②徳永直『太 陽のない街』(九八)「彼女は髪を振り乱し、跣足のま まで地団駄を踏みながら喚めき立てた」③石坂洋次郎 『若い人』(九三一毛)「後ろで戸田らがほんとに地団駄 踏んでいるのを聞き流して」④三島由紀夫「仮面の告 白」(九九)「私は居たたまれなかった。地団太を踏ん だ。それでももう一日私は辛抱した」⑤源氏鶏太『見事な娘』(九五十五)「あの三万円は、久美に、騙取されたのか、と桐子は、地団駄を踏みたいほど、口惜しかった」⑥内田康夫『歌わない笛』(九九八)「(彼女はここで何を見たのだ——)と地団駄を踏んでも、問題は解決しない」類句「歯ぎしりをする」(外国語)英語では stamp one's feet in frustration *中国語では成句「捶胸頓足」(胸をたたき地団駄を踏む。「捶」はたたく。「頓足」は地団駄を踏む。「頓足捶胸」ともいう) しつしょうか 意味愚かな言動つまらぬ行為で人 失笑を買う に笑われる。用法文型「ダレナニ がダレダレの失笑を買う」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(九五)「奥さん や子どもや会社の同僚や下役の失笑や冷笑を買いな がら、黙々とくだらぬもの集めに熱中し」②『朝日新 聞』(九0・二0・三朝)「西尾末広氏が『書記長個人』な る迷言をはいて、世の失笑を買った」③『朝日新聞』 (九0・二0・三朝)「見えすいたスクイズプレーなどの攻撃 作戦が失笑を買った」 類句「冷笑を買う」 <188> 十把一絡げ 意味いろいろな種類の人・物を区別 せず、いっしょくたにすること。個々 を取り上げるほど価値のないものをひとまとめに扱うこ と。用法文型「十把一絡げに「十把一絡げの ナニナニ」 用例①池島信平『雑誌記者』(一九五八)「戦争遂行上、邪魔になる総合雑誌の編集者をまず十把一からげにブタ箱に入れ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)「夜店のバナナ売りみたいに十把一からげの評価とは阿呆らし過ぎる」③『朝日新聞』(一九一・七・三朝)「それが『戦争』をも十把ひとからげに、ひとつの『悲惨』例としてとらえさせてしまっていると思える」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「杉野が、頭が上がらないのはこの二人だけで、あとは十把ひとからげ、自分より遥かに格下の財界人ばかりということになる」 外国語 英語では lump together しっぽだ 意味 狐や狸が化けても尻尾を出して 見破られることから、悪事やごまかし などがばれて正体を現す。犯人・悪人について言うこと が多い。用法文型「ダレダレが尻尾を出す」(江戸) 用例①佐藤春夫『都会の憂鬱』(九三)「巧にそれが包み遂げられるようなことの出来るわけはなく直ぐにも尻尾を出してしまうだろう』②『朝日新聞』(一九九六・六・三朝)「これまで仮面をかぶっていた悪人が、とうとうしっぽを出したというのではなかろう』③島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(九八四)「警察に自らの犯行を報せてくるほどに改悛しているのなら、いつかはシッポを出すとも思われた』④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「最初からきな臭い野郎だとおもっていたが、とうとう尻尾を出しやがったな」 類句「底が割れる」「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれ る」「ぼろを出す」「メッキが剥げる」「外国語」英語では show the coven hoof しっぽつか 意味「しっぽをつかむ」に同 尻尾を掴まえる じ。用法文型「ダレダレが ダレダレの尻尾をつかまえる」。命令・意志表現は可能 受身形がある。 用例 石坂洋次郎『光る海』(一九三一三)「しっぽをつか まえられた時はママに謝るんだけど」 類句「しっぽを捕らえる」とも言う。 <189> 意味相子の悪事・ごまかし・隠し 尻尾を掴む 事・弱点などの証拠を握る。用法 文型「ダレダレがダレダレの尻尾をつかむ」。命令・意 志表現は可能。用例③の「妙な」のように「しっぽ」を修 飾することは可能。②③のように受身形がある。 用例①甲賀三郎「支倉事件」(一九三七)「君の話では奴 なかなか 却々用心して尻尾を掴ませないと云う事だったが」②武 田泰淳「風媒花」(一九五三)「いよいよ本性暴露か。まずい 事を言い出したな。ホラ、軍地に尻尾を掴まれた」③山 崎豊子「白い巨塔」(一九三一五)「女のことなどで妙な尻尾 を掴まれて窮地に追い込まれんように気をつけと云う てるのや」④東野圭吾『卒業」(一九六)「逆に警戒されて、 しっぽを掴みにくくなるだろう」 類句「しっぽをつかまえる」「しっぽを捕らえる」とも言う。 外国語 英語では catch a person tripping しつぽふ 意味飼い犬が飼い主にしっぽを振って餌をもらうように、人が権力者にこびへつらって取り入る。また、喜んで従って行く。 用法文型「ダレダレがダレダレにしっぽを振る」「江戸」 用例①源氏鶏太「青い果实」(一九五四十五)「今、こっちから尻ッポを振っていったら、それこそ、一生、その男性の前で、尻ッポを振っていなければなりません」②森村誠一「人間溶解」(一九四)「熱海へ一泊とでも言って誘えば、シッポを降って尾いて来るわよ」③田中光二「南紀白浜磯釣り殺人事件」(三〇三)「警察づとめのあいだも上司にしっぽをふるようなまねはしなかった」 *ごま 類句「尾を振る」「胡麻をする」 しっぽま 意味負け犬がしっぽを後足に巻き込 尻尾を巻く んで逃げ出すように、戦わずして降参 する。あっさり降参して逃げる。用法文型「ダレダ レがしっぽを巻いて逃げる」。「逃げる」以外に「帰る」 も使える。「江戸」 「ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない」 ありません」②内田康夫「坊っちゃん殺人事件」(一九九七) 君子危うきに近寄らずと尻尾を巻いて逃げ出すわけでは ①内田康夫「三州吉良殺人事件」(一九九二)「決して 類句「後ろを見せる」 外国語 英語では run off with one's tail between one's legs <190> しなんわぎ 意味ある物事を成し遂げることが極 至難の業 めて難しいこと。「至難の技」とも書 く。用法文型「ナニナニは至難の業」 用例①檀一雄『青春放浪』(一九五六)「二十三单位の経済のウンオウを一朝にして極めることはどう考えても至難のワザである」②『朝日新聞』(一九八〇・三・四朝)「ケガが多い格闘技で、皆勤を続けるのは至難のワザ」③『朝日新聞』(一九八〇・七・八朝)「俳優が据えつけられっ放しのカメラの前で長時間言葉なしに演技をするのは至難の技であろうが」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九二)「これだけのことを博多の街の中で人知れず行なうなんて、至難のわざです」 外国語 英語では a Herculean task しのぎけず 意味「しのぎ」は刀の刃と峰との中間 鎬を削る の小高く盛りあがっている部分。その鎬 が削れるほど刀で激しく斬り合うことから、競技・議 論・選挙・仕事などで相手に勝とうと努力しながら激 しく争う。用法文型「ダレダレが(ダレダレと)ナニ ナニで(またはナニナニに)しのぎを削る」。「ナニナニで」 は用例④のように争う場・範囲・領域を表し、「ナニナ 二には⑤のように争う対象を指す。南北朝 二に」は⑤のように争う対象を指す「南北東、用例①福沢諭吉『福翁自伝』(八九九)「党派には保守党と自由党と徒党のようなものがあって、双方負けず劣らず鎬を削って争うているという」②「朝日新聞」(九六・四・二朝)「人類は何年もの永きにわたって、お互いに鎬を削って来たのである」③「スポニチ」(九九・九・三五)「2位阪神から5位大洋まで2ゲーム差でしのぎを削るAクラス争い」④「朝日新聞」(九九・七・二四朝)「体操、陸上など五競技で各国選手がしのぎをけずった」⑤「朝日新聞」(九九・二・五朝)「独自の調査取材に日夜しのぎを削っているのです」⑥森村誠一「エネミイ」(三〇〇)「関東門伝会と同じエリアでしのぎを削っている相隣同志会」 類句「づばぜり合いを演じる」「火花を散らす」(外国語) 英語 to be at each other's throats または to highlight tooth and nail 四の五の言う 意味面倒なこと、文句をあれこれ と言い立てる。つべこべ言う。 用法否定形や禁止形「四の五の言うな」の形が多い。 用例⑤のように受身形がある。〔江戸〕 <191> 巣『鎌倉湘南殺人ワールド』(一九九六)「こんなことを今さら、四の五の言っても始まらないのである」③島田荘司『鈴蘭事件』(一九九九)「てめえ、もう四の五の言わねえ」④魚柄仁之助『儲かる古道具屋裏話』(三〇二)「てめえこそ落として困ってやがんだから、四の五の言わずに受け取れってんだい」⑤吉村達也『横濱の風』殺人事件(三〇四徳間文庫版)「私はな、重箱の隅をつつくような連中にあとから四の五の言われたくないから」 類句滑ったの転んだの不平を鳴らす 自腹を切る 意味自分が出さなくてもいい費用 を自分が出して支払う。用法文型 ダレダレが自腹を切る」(江戸) 用例①獅子文六『青春怪談』(一九五四)「中年初老の客といえども、自腹を切る者は少なく、いわゆる社用族が多い」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四—五五)「私はさきに新橋で飲んだと書いたが、それは、友人の、さる会社の重役に招かれてのことであって、自腹を切っての遊びではない」③源氏鶏太『夢を失わず』(一九六〇)「ただし、五万 円は、会社の損にする。わしの自腹を切るわけにはいか ん」④高橋和巳『悲の器』(一九三)「費用も自腹を切らぬか ぎり、どこからも援助されはしない」 類句「懐を痛める」「身銭を切る」「外国語」英語では pay out of one's own pocket しびき 痺れが切れる 意味「しびれを切らす」に同じ。 用法文型「ダレダレはしびれが切 れる」(江戸) 用例朝日新聞(一九七九八三朝)やがてしびれが切れる と英雄待望論にファシズムにと傾斜してゆくかも知れな い」 しび 痺れを切らす 意味長時間座ると足がしびれると ころから転じて、いつまでも待たさ れて我慢ができなくなり、いらいらする。用法文型 「ダレダレがしびれを切らす」 用例①「朝日新聞」(一九九・四・三六朝)「ただ私鉄を待っていたが、もうしびれを切らした、ということだろう」 ②中上健次『鳳仙花』(一九〇)「『ええ話ってなに?』フサがしびれをきらして吉広に訊ねると」③「朝日新聞」 <192> (一九三・一・三朝)「しびれを切らした電力庁の担当者」④内 田康夫『歌わない笛』(一九九)『いいから、始めましょう かな』痺れを切らし岡野が仲居に合図をした時」⑤広山 義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)『局長、なんとか言って ください』宮園はしびれを切らしたように身を乗り出し た」 類句「しびれが切れる」とも言う。 外国語 英語では get itchy waiting (for) 渋皮が剥ける 意味女性が垢抜けしてきれいになる。洗練された美人になる。 用法文型「ダレダレは渋皮がむける」。「渋皮のむけた ダレダレ」の形が多い。〔江戸〕 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九五三)「渋皮のむけた 二十二三の女中」②源氏鶏太『颱風さん』(一九五二)「ちょっ と渋皮のむけた女であった」③坂口安吾『山の神殺人』 (一九五三)「ちょっと渋皮のむけた女。なにかと噂のたえな い人物である」④「渋皮がむけ、いい女になった」 ※あく 類句「垢が抜ける」「灰汁が抜ける」 私腹を肥やす レダレが私腹を肥やす 意味公的な地位や職を利用して自 分の利益を図る。用法文型「ダ 用例清水一行『ITの踊り』(三〇四)「トップが不正な 手段で私腹を肥やしていないかどうか」 * 類句「甘い汁を吸う」「甘い汁をする」「旨い汁を吸う」 「懐を肥やす」「外国語」英語では line one's own pocket (s) 始末に負えない 意味施す方法がなく、扱いを 持て余す。処理できない。 用法 文型「ダレナニは始末に負えない」(江戸) 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六) 「十八歳というのはなんという始末におえぬ年齢かね」② 「部屋の散らがりようは始末に負えない」 一音屋の貴い 類句「力に余る」手に余る「手に負えない」手を焼く しまっ 意味 良くない物事を処理して終わ 始末を付ける らせる。 用法 文型 「ダレダレは ダレナニの始末をつける」 用例 ①庄野潤三「プールサイド小景」(九五四)「車がも <193> しこのまま動かなければ、どう始末をつけるのか?② けんかの始末をつける 類句片を付けるけりを付ける 意味多くの人の注意や関心を引く。 用法文型「ダレナニがダレダレの耳 を引く」。ダレダレは「人」「社会」「世間」など。 用例①福田英子『妾の半生涯』(一九四)「悔ある堕落の 化身を母として、明らさまに世の耳目を惹かせんは、子 の行末の為め」②宮本百合子『若き世代への恋愛論』 (二三三)「偶然に社会の耳目をひいた恋愛事件」③「彼の 服装は多くの人の耳目を引いた」 類句「耳目を集める」とも言う。「脚光を浴びる」「人目を引く」外国語英語では attract public attention 癩に障る 意味気に入らないことを見聞したり体 験したりして不愉快に感じ、むしゃく しゃする。用法文型「ダレダレはダレナニが癩に障 る」「ダレナニがダレダレの癩に障る」 用例①内田百閒『百鬼園随筆』(三三)忌ま忌ましい。 癪に触る」②北條民雄『癪院受胎』(三三)「そういうと ころで妹の大きな腹を見たものですから、すっかり癪に障ってしまったのです」③源氏鶏太『青い果実』(九五四五)「(さては、ずっと昔から、そうだ、十年も前から、あんな風に、ゴミをこっちへよこしては、溜飲を下げていたんだな!)と、癪にさわって、よーし、そうはさせるものかとばかりに、以来、泉屋でも朝の掃除を、主人自らがするようになったのである」④北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(九六〇)「シャクにさわったから本当の値段の十倍の数字を言ってやったら」 類句気に障る 意味「シャッポ」はフランス シャッポを脱ぐ 語で帽子のこと。相手の力量に 及ばないことを認めて、軽い敬意をもって降参する。脱 帽する。用法文型「ダレダレはダレナニにシャッポ を脱ぐ」。用例③のように使役受身形がある。 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(九五)「反射交感組織にシャッポを脱いで」②宇井無愁『豚マンの唄』(九五)「あれにはぼくも完全にシャッポをぬいじゃったね」③徳川夢声『いろは交友録』(九五)「結局、演出家である彼に、私はシャッポをぬがされることになる」④ <194> 『朝日新聞』(一九○九三朝)「スポーツ好きの米国人は強 い者には無条件でシャッポを脱ぐようなところがある」 ⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「これにはさすがの 平岡会長もシャッポを脱いだ」 * *かぶと 類句「兜を脱ぐ」「軍門に下る」「白旗を上げる」「手を 上げる」「旗を巻く」「外国語」英語では take one’s hat off to しゃかま 意味刀を斜めに構えて身構えるとい 斜に構える うことから、改まって身構える。また 気取ったり、まともに対処せず皮肉やからかいの態度を とったりする。用法文型「ダレダレが斜に構える」 江戸 用例『言語生活』三一一号(九七)「労働の生活とか社 会生活から斜に構えて」 しゅうしふ 終止符を打つ 意味続いてきた物事に決着をつけ て終わりにする。用法文型「ダ レダレはナニナニに終止符を打つ」。命令・意志表現は 可能。用例④⑤のように受身形がある。 用例①今東光『悪童』(九五七)「私は、この恋愛に終止 符を打って好いのだと強いて思い詰めた」②石坂洋次 郎『あじさいの歌』(一九五五九)「藤助は、クヨクヨした考 え方に終止符をうつために、乾いた声でそう呟いた」③ 『朝日新聞』(一九五八・二〇朝)「彼は冷戦構造に終止符を打 つことで、自分自身の政治生命に終止符を打つ道を懸 命に歩みつづけたのである」④『朝日新聞』(一九一四・二五 朝)「国民の英知と反省によって、ごみ公害に一日も早 く終止符を打たれることを望む」⑤内田康夫『志摩半島 殺人事件』(一九八八)「そういう形で終止符が打たれることに 何の抵抗も感じないかもしれない」⑥森村誠一『エネミ イ』(三〇〇)「自分の手で私の人生に終止符を打つ」 類句片を付けるけりを付けるピリオドを打つ じゅうばこすみ 重箱の隅をつつく 意味どうでもいいこと、非 常に細かいことにまで口うる さく問題にして言う。用法文型「重箱の隅をつつく ようー 用例①『朝日新聞』(一九三六三六朝)「重箱のすみをつつ くように、微細な点にまで、教科書調査官の指示を受け た」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九三「あれこれ、重箱 の隅をつつくような、いやみで素直でない攻撃が突き刺 <195> さった」③広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「さながら警察官の不行跡を、重箱の隅を突つくようにしてあげつらう小学生の反省会のような態であった」④吉村達也「横濱の風」殺人事件』(三〇四徳間文庫版)「私はな、重箱の隅をつくような連中に、あとから四の五の言われたくないから」 類句重箱の隅をほじくるとも言う。 重箱の隅をほじくる 重箱の隅をつつ 意味「重箱の隅をつつ く」に同じ。 用法文型 「重箱の隅をほじくるよう」 用例①「朝日新聞」(一九一三三朝)「自民党も日教組もお互いに相手の欠点、それも重箱のすみをほじくるように見つけて非難し合う」②金田一春彦他『変わる日本語』(一九二)「あまり重箱の隅をほじくるようにやっていきますと、言葉そのものの不完全さが出てくるだけです」 しゅうびひら 意味心配事がなくなり安心する、 愁眉を開く ほっとする。用法文型「ダレダレ は愁眉を開く」平安 用例①「朝日新聞」(一九九・二〇・一九朝)「もともとそのことで悩む必要もないと思われます。まずは愁眉を開いて下さい」②「朝日新聞」(一九〇・六・二四朝)「新自クは二一けたに議席をふやし、しゅう眉を開いた」 類句「枕を高くする」「胸のつかえが下りる」「胸をなで 下ろす」「外国語」英語では feel relieved しゅうけつ 意味勝敗に決着をつける。優劣を 雌雄を決する 決める。出典は中国の古典「史記」 項羽本紀。用法文型「ダレダレはダレダレと雌雄を 決する」「平安」 用例①黒岩涙香『幽霊塔』(一九二)「余は是だけで既に 気が遠くなり雌雄を決するなどは扱て置いて」②佐々木 味津三『続旗本退屈男』(一九三九三)「茲に緩急、二様の飛 び道具同士が、はしなくも命を的に優劣雌雄を決するこ とに立到りましたが」 外国語英語では have a showdown *中国語では慣 用句「決雌雄」(雌雄を決する。「一決雌雄」「決一雌雄」とも いう) <196> 春秋に富む 意味「春秋」は年月のこと。年が 若く、将来性がある。用法文型 「ダレダレは春秋に富む」(平安) 用例「春秋に富んだ青年」 しよなく 意味信じていた相手、期待 背負い投げを食う していた相手にいよいよというところで裏切られてひどい目に会う。用法文型 「ダレダレはダレダレに(から)背負い投げを食う」。「せ おい投げを食う」とも言う。 用例①有島武郎『星座』(九三二三)「渡瀬は背負い投げ を喰ったように思った」②源氏鶏太『青い果実』(一九五四 五)「美也子は、またしても、次郎から、背負い投げを 喰ったような気がした」 類句 「飼い犬に手を噛まれる」「煮え湯を飲まされる」 しよな 意味自分のことを信じて 背負い投げを食わす いる相手、期待している相 手にいよいよというところで裏切ってひどい目に会わせ る。用法文型「ダレダレがダレダレに背負い投げを 食わす」。受身形が多い。「しょいなげを食わせる」「せお い投げを食わす」とも言う。 用例①有島武郎『或る女』(一九一九)「それを訊くと葉子はみごと期待に背負い投げをくわされて」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四五)『若くないから大丈夫なの』『僕が若くないから?』すてんと背負い投げを食わされたおもいだった」 じようき いつ 意味一般に受け入れられているこ 常軌を逸する とや世間の常識からかなりはずれた 言動をする非難の言葉。用法文型「ダレナニは常 軌を逸する」 用例①高橋和巳「悲の器」(一九六三)「最初泣いているの しかと思った米山みきが、不意に常軌を逸した嗄れ声で笑 いはじめた」②山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「そのパ トロン氏の常軌を逸した喜び方には、いささか辟易させ られるよ」 じようだんやすやすい 意味相手の言い分、言 冗談も休み休み言え 葉が自分の意や事実に著 しく反している時に、とんでもないと否定し、たしなめ る言葉。用法独立した句として単独で用いる。 <197> 用例南英男『地獄遊戲』(三00三)「冗談も休み休み言いな。 おれは進藤とは一面識もねえんだぜ」 類句「馬鹿も休み休み言え」「馬鹿を言え」 しようあ 意味物事がその人の生まれつきの性質 性に合う や好みにぴったり合う。用法文型 「ナニナニが性に合う」。否定形は「性に合わない」「江 戸 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「できることといえば、結局、いまの看病生活の延長のようなことしかない。それが、気楽だし、程よく性に合っている」②丸谷オー『男のポケット』(九九)『ヘルス』とか『壮快』とかいふ類の、いはゆる健康雑誌は性に合はない③中上健次『鳳仙花』(九八○)「内儀さんも旦那さんも、着物ばっかし着んとたまには洋服着たらどうや、倉に入れ込んでる自転車を使たらどうやと言うけど、ハイカラは性に合わん」 しようびきゆう 意味眉が焦げるほど火が近づくという 焦眉の急 ことから、差し迫った危険。差し迫った 急務。緊急を要すること。用法文型「ナニナニが焦 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(二九七九八)「一は焦眉の急 に迫り」②『朝日新聞』(二九○七三朝)「報告書は、世界 の国々に日本文化をより広く深く知らせることは日本の 存立にとって焦眉の急だと力説している」③『朝日新聞』 (二九三・三朝)「その再建が焦眉の急となった」 類句「足もとに火が付く」「お尻に火が付く」「尻に火が 付く」外国語中国語では成句「燃眉之急」(眉を燃や すほど事態が緊迫しているさま。焦眉の急 しよくし うご 意味出典は中国の古典「春秋左氏 食指が動く 伝」で、鄭の子公の食指(人差し指)が 動くのを見て、ご馳走にありつける前触れと言ったこと から、食べようという気が起きる。人・物を欲しがる気 持ちが起きる。何かをしてみようと気持ちが起きる。 用法文型「ダレダレはダレナニに食指が動く」「ダレナ ニにダレダレの食指が動く」。否定形がある。「江戸 用例①野坂昭如「てろてろ」(九七二)「フライパンの 中身にも食指動かぬから」②高橋三千綱「天使を誘惑」 (九七八「姿も顔立ちもいい静世に、ぼくの食指が動いた のは当然だ」③丸谷オ一「男のポケット」(九七九「何しろ、 <198> 刺身の場合には刷毛で天ぷら油を塗るのが秘伝だといふ から、これぢやあ食指が動きませんよ」④高杉良『会社 蘇生』(一九七)「筒井君としては小川商会のスポーツ用品 には食指が動いていたからまんざらでもなかったと思う が」 類句「のどが鳴る」「よだれが出る」「よだれを垂らす」 「よだれを流す」 意味人・物を得ようと欲する何 かをしようと欲する。用法文型 二に食指を動かす〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「伊勢子とそっ くりになったお前に、食指をうごかす」②高杉良『会社 蘇生』(一九六七)「ウチの大阪の担当記者が、サンバードが 食指を動かしてるんじゃないかって言ってるんですけど ねぇ」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「ライバルの広 告会社が食指を動かしても不思議はないのです」 類句「のどを鳴らす」「よだれを垂らす」 知らず知らずのうちに 意味自分ではそうしようと思っていないのに、事態 が推移するさま。無意識のうちに。気づかないうちに。 用法文型「知らず知らずのうちに~」。副詞的に使用。 用例①「朝日新聞」(一九八・一・二六朝)「傍若無人のこれら の言動は、知らず知らずのうちに多くの人々の心を傷つ け」②「朝日新聞」(一九九・七・二七朝)「世の中にはそういう 影響が知らず知らずのうちに広がっていくと思う」③直 塚玲子「欧米人が沈黙するとき」(一九二)「そこに住む人々 の思考や行動は、しらずしらずのうちに、その枠組みに はめこまれてしまう」 外国語 中国語では成句「不知不觉」(知らず知らず、知らぬ間に) 知らぬ顔の半兵衛 かおはんべえ意味知っているのに知らな い振りをすること。またその 人。用法文型「ダレダレは知らぬ顔の半兵衛(をきめ こむ)「江戸」 用例①久生十蘭『魔都』(一九三七-三六)「夜の明けないうち に、あたしは山木さんのところへ、ロナルドは踏絵さん のところへ帰って知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいる 手筈なの」②『朝日新聞』(一九三・四・四朝)「公害をまき散 らした企業は太りに太り、許容した行政当局は知らぬ顔 <199> の半兵衛である」③広瀬久美子『お局さまのひとりごと』 (一九九七)「最後は、知らぬ顔の半兵衛で通す」 * 類句「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」「涼しい顔」「そ知 らぬ顔」「何食わぬ顔」 知らぬが仏 意味知らないでいれば心騒ぐことな く仏のように穏やかでいられること から、当人だけが知らないで、穏やかでいるのをあざ けって言う言葉。用法独立した句として用いられる 用例②のように句全体で名詞を修飾することもある。江 戸 「用例①永井荷風『つゆのあとさき』(一九三)「君江は知らぬが仏とはよく言ったものだと笑いたくなるのをじっと耐えて」②林二九太『へのへのもへじ』(一九五三)「津田塾出身の京子嬢に、便所の中で試験の答案をすっかり教わったとは、知らぬが仏の高橋専務」③山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六)「いやあ、知らぬが仏、お気の毒さまさ」④「朝日新聞」(一九七九・七・二四朝)「私はその気持ちは理解できますが、知らぬが仏、という言葉もありますし」「外国語英語ではIgnorance is bliss*中国語では諺「眼不見、心不煩」(見なければ心を悩ませることもない) 知らぬ存ぜぬ 意味相手に何を聞かれても知らな い、自分とは関係がないと拒絶する さま。用法「知らぬ存ぜぬの一点張り」「知らぬ存ぜぬ で通す」と言うことが多い。 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六八)「まさかこれ以上、まだ知らぬ存ぜぬとはおっしゃれないでしょう」②森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「末次と星野に問い合わせても、知らぬ存ぜぬの一点張りで、なんの成果もなかった」③「質問に知らぬ存ぜぬで通す」 類句「知らぬ顔の半兵衛」「しらを切る」「涼しい顔」 「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」 しらはやた 意味神が人身御供として求め 白羽の矢が立つ た少女の家の屋根には白羽の矢 が立てられたという俗信から、多くの人の中から犠牲者 として選び出される。または一般に多くの人の中から ある役割のために選ばれる。用法文型「ダレダレに 白羽の矢が立つ」。用例①のように受身形がある。②の ように「白羽の矢」と「立つ」の間に語句が挿入できる。 〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太 坊っちゃん社員 (一九五二五三) 最後の <200> 手段は、やっぱり、腕ツ節の強い太郎が一番の適役である、と白羽の矢が立てられた」②舟橋聖一『ある女の遠景』(二九二)「いいお婿さんをきめて上げると云い出しまして(略)白羽の矢が、森名君に立ちました」③朝日新聞』(一九八〇・二〇・七朝)「穴吹氏に白羽の矢が立った理由は」 外国語 英語では be singled out しらはやた 白羽の矢を立てる 意味神が人身御供として求 めた少女の家の屋根には白羽 の矢が立てられたという俗信から、多くの人の中から犠 牲者として選び出す。または一般に多くの人の中からあ る役割のために選ぶ。用法文型「ダレダレがダレダ レに白羽の矢を立てる」。命令・意志表現は可能。用例 ②の「赤狩りの」のように「白羽の矢」を修飾することは 可能。②④⑤のように受身形がある。 用例①浜尾四郎『死者の権利』(一九三九)「健吉氏夫妻は、少しでも早く嫁を貰おうというので前から方々物色していたのですが、夏休中にとうとう或る法学博士の令嬢に白羽の矢を立てました」②『朝日新聞』(一九三三・七・三朝)「マッカーシー上院議員から、いつ赤狩りの白羽の矢を立てられるかもわからぬとあって」③槌田満文『文学に みる広告風物誌』(一九七八)「PR誌編集の後継者を急いで 捜すハメになり、新人作家の西藤元彦に白羽の矢を立て た」④「朝日新聞」(一九八〇・五・三九朝)「建設省は白羽の矢を 立てられた井上氏が同じく七月、異例の『道路畑からの 出馬』に踏み切った」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四) 「それが吉原から白羽の矢を立てられた理由だろうなと 思った」 しらき 意味知ていても知らないと言う。多 白を切る くは自己を守るためにする。しらばくれ る。用法文型「ダレダレはしらを切る」。命令・意志 表現は可能。江戸 用例①角田喜久雄『死体昇天』(一九九)「時子との、ひよんな交渉から、それを固執せざるを得なくなった彼は、この上は何処迄もしらを切るより仕方がないと思った」②獅子文六『てんやわんや』(一九八四九)「私の、シラを切る術ぐらいは、心得ているから」③源氏鶏太『実は熟したり』(一九八五九)「鳥子は、あくまで、白を切った」④津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九九)「初めはシラを切るかもしれないぞ」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「仙石さんが片田さんを怒鳴りつけた事実につい <201> で、あくまでも白をきる以上、われわれとしてはその点 に疑惑をいだかざるを得ない」 しりがかる 類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「涼しい顔」 「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」 外国語 英語では pretend not to know しりうま 意味二人で馬に乗る時、後ろに乗る 尻馬に乗る 意から転じて、無批判に他人の言動に 同調して行動する、軽はずみな行動をする。用法文 型「ダレダレはダレナニの尻馬に乗る」(鎌倉) ①夏目漱石「私の個人主義」(一九五)「近頃流行る ベルグソンでもオイケンでもみんな向うの人がとやか くいうので、日本人もその尻馬に乗って騒ぐのです」② 「朝日新聞」(一九三・九・二朝)「おまけに犯人の尻馬に乗っ て、他人にいやがらせをやる低級な層までいては」③ 「朝日新聞」(一九三・九・八朝)「同行の一人も尻馬にのってま た一句」④外山滋比古『日本語の素顔」(一九二)「三十年前 には、俳句第二芸術論の尻馬に乗って、もう俳句なんか 古い、と言ったことなど忘れたかのようである」⑤森村 誠一『棟居刑事の「人間の海」(三〇〇)「(略)また新し い目的が生まれたような気がするよ」近藤が言った。『お れは新しい生きがいができたような気がするぜ」富田が 近藤の尻馬に乗った」 類句「太鼓を持つ」 しりあたた 尻が暖まる 意味満足して同じ場所に長く滞在・ 居住・勤務する。用法文型「ダレ タレは尻が暖まる」(江戸) 用例 転勤ばかりで、 尻が暖まる暇もない 頃可 要之居 類句「腰を据える」 しりおも 意味無精や慎重でなかなか物事に取り 尻が重い かかろうとしない、行動しようとしない。 立ち振る舞いが不活発であるさま。用法文型「ダレ ダレは尻が重い」〔江戸〕 用例「役所は尻が重いので、計画が全然進まない」 類句「腰が重い」外国語英語ではlazy;indolen *韓国語では「ぬぬい(尻が)早召(重い)」 しりかる 意味(1)立ち振る舞いが活発であるさま。 尻が軽い (2)軽率に行動しがちなさま。特に女性の 浮気っぽいさま。用法文型「ダレダレは尻が軽い」 <202> 用例(1)「彼は尻が軽いから、何でもはいはいと言ってこなしてしまう」(2)「尻が軽い女とはつき合うな」 類句(1)「腰が軽い」 しりなが 意味他人の家を訪問して話し込んだり 尻が長い して長居をするさま。用法文型「ダ レダレは尻が長い」(江戸) 用例「訪問客の尻が長いのは困ったものだ」 外国語英語では stay too long しりし 意味家庭内で妻が夫より力を持ち、夫 尻に敷く をないがしろにして、自分の思うままに 振る舞う。用法文型「ダレダレがダレダレを尻に敷 く「妻(女房)が夫(亭主)を尻に敷く」。受身形がある。「室 町」 用例①永井荷風『ひかげの花』(一九四)「女は男を軽じて尻に敷くか」②坂口安吾『古都』(一九四三)「亭主は尻に敷かれている」③石坂洋次郎『青い山脈』(一九四七)「そういう名の女は、動物的な勢いが強いから、結婚でもすれば亭主をしりに敷くことになる」④源氏鶏太『坊っちゃん社 員」(一九三一五三)「番太の女房は、流石に平常から、亭主を 尻に敷いているだけあった、度胸満点である」⑤高杉良 『指名解雇』(一九九七)「女房に四の五の言わせるほど尻に敷 かれてないから」 類句「尻の下に敷く」とも言う。 外国語英語では dominate しりひっ 意味しなければならないこと、身 尻に火が付く に危険が及ぶようなことなど、事態 が差し迫ってあわてる。用法文型「ダレダレの尻に 火がつく」。「お尻に火が付く」とも言う。江戸 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「関連の中小企業に押し込もうにも、中小企業自体がいま尻に火がついているから、平に御容赦というわけだ」②「朝日新聞」(一九一六・一九朝)「この日負けるようだとしりに火がつくところだっただけに価値のある一勝である」③大沢在昌「灰夜新宿鮫Ⅲ」(三〇二)「奴の尻には火がついている」*しょうび類句「足もとに火が付く」「焦眉の急」「外国語中国語では成句「火焼眉毛」(眉に火がつく、焦眉の急)*韓国語では「ぬぬ」(尻に)豊(火が)豊(付く) <203> しり 氾の穴が小さい 意味臆病で度量が狭い。下品 な言葉。用法文型「ダレダ レは尻の穴が小さい」 用例源氏鶏太『三等重役』(一五二五三)「このわしがいか にも尻の穴の小さい男のように誤解されるであろうが」 類句「けつの穴が小さい」とも言う。 しりめか 意味ちらっと見て、馬鹿にしたよ 尻目に掛ける うな態度、まともに相手をする気が ない態度をとる。軽視する。無視する。用法文型 「ダレダレはダレナニを尻目に掛ける」 (用例)①浜尾四郎『悪魔の弟子』(一九九)「私は、驚いている露子を尻目にかけて、ねまきを着かえるやいなや、ゆうべ露子が買って来たエーアシップを袂に投げこむと」②平山蘆江『東京おぼえ帳』(一九五三)「出してある晩食の膳を尻目にかけ其儘散歩と称してぶらりと築地の待合秋月の客となったが」 類句「こけにする」「馬鹿にする」 しりす 尻を据える 意味何かを落ち着いて専心するため に、その場所にとどまる。じっくり落 ち着いて物事に取り組む。 用法文型「ダレダレが尻 を据える」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例山のような書類を前にして尻を据えて仕事をす る 類句「腰を据える」「みこしを据える」 しりたた 尻を叩く 意味叱咤激励する。用法文型「ダ レダレはダレダレの尻を叩く」。命令・ 意志表現は可能。用例①④のように受身形がある。「お 尻を叩く」とも言う。 用例①源氏鶏太「一寸の虫」(二五〇)「女房から、ガミガミ尻を叩かれ」②「朝日新聞」(二九五・五・二五朝)「共産党の神谷信之助氏は税務当局のしりをたたいた」③「朝日新聞」(二九五・八・三朝)「小成に安んじないで、もっとがんばることが大事です」と委員長はシリもたたく」④「朝日新聞」(二九〇・九・六朝)「上司からは『君が範を示せば部下は自然とついてくるものだ」としりをたたかれる」⑤内田康夫「坊っちゃん殺人事件」(二九五)「須美子はむしろぼくがいつまでももたたしているのが焦れったくてしようがないらしく、何かというと尻を叩くようなことを言う」 <204> 類句「活を入れる」「発破を掛ける」 しりぬぐ 意味他人の失敗の後始末をする。尻拭 尻を拭う いをする。用法文型「ダレダレがダ レナニの尻を拭う」(江戸) 用例①「上司の失敗を押しつけられた部下は上司の尻 をぬぐう羽目になった」②「友人の借金の尻をぬぐう」 外国語中国語では慣用句「擦屁股」(尻を拭う。「屁股」 は尻) しりまく 意味居直って反抗的な態度をとる。急 尻を捲る に態度を変え、隠していた本性を現して 相手につっかかる。用法文型「ダレダレは尻をまく る」。受身形がある。 用例島田一男伊豆・熱海特命捜査官(一九五)すみ れに尻を捲られては珠美との結婚が壊れるかもしれな いって心配がある」 類句「けつをまくる」 尻を持ち込む 意味やっかいな後始末・処理・責 任を他人に押しつける。用法文 型ダレダレはダレダレに尻を持ち込む 用例井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)もしもこっ ちに尻を持ち込んでくるようなことがあったら」 外国語 英語では drop one's mess in someone's lap しろめみ 白い目で見る 意味冷淡な目あるいは憎しみや反 感を含んだ態度で人を見る。白眼視 する。用法文型「ダレダレがダレダレを白い目で見 る」。「ダレダレから白い目で見られる」と受身形がよく 使われる。 用例①池島信平『雑誌記者』(二五八)「社内の革新派諸 氏からは白い眼で見られ」②筒井康隆『狂気の沙汰も金 次第』(二九三)「ヒロインは、とんでもない不良娘だということになってしまい、学校はもちろん、その町全体の 大人たちからも白い眼で見られるようになる」③『朝日 新聞』(二九〇・四・三王朝)「私は当分の間、近所から白い目で 見られるだろう」④『朝日新聞』(二九〇・二・三王朝)「車いす で外へ出るとみんなが白い目で見る」⑤梓林太郎『死神 山脈』(二九九)「彼女に、彼が殺人事件にいささかでもか らんでいるのではないかと白い目で見られたくないのだ ろう」⑥本所次郎『閨閥』(三〇四)「世間から白い目で見ら <205> れるのを嫌さに 外国語 英語では look askance at 神経が太い 意味少しのことではびくびくしない。 大胆で、ずぶとい。用法文型「ダ レダレは神経が太い」 「用例田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(三〇三) 「まったく釣り師というのはしぶといと千々岩は思った。 神経が太いというべきか。人死にが出ようとなんだろう と連れる磯にはあがる」 類句「肝が据わる」「肝が太い」「度胸が据わる」「腹が 据わる」 外国語 英語では be bold 神経を尖らせる 意味人がわずかな刺激にも反 応する、過度に反応する。また 物事を過度に気にかける。神経質になる。用法文型 「ダレダレがナニナニに神経を尖らせる」 用例①小出楢重「楢重随筆」(二三七)「自分の身体の構造について随分、日夜神経を尖らして研究しているものだ」②「朝日新聞」(一九九七・七・五朝)「全農大阪支所では、実験栽培地域を極秘にするなど神経をとがらせている」③ 「朝日新聞」(一九九・七・四朝)「総裁派閥大平派の幹部連が 前民社党委員長・春日一幸の動きに神経をとがらせてい ることも事実だ」④大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二) 「公安が神経を尖らせているのは、覚せい剤以外に、北 の活動をうかがわせる何かが、この街にあるからではな いか」 文型「ダレダレはナニナニに心血を注ぐ 心血を注ぐ しんけつ そそ 意味全精力を傾けてことを行う。全 身全霊を込めてことを行う。用法 用例朝日新聞(一九○六三五朝)「辞典づくりに専念す るために教職をやめ、生活を切りつめながら心血を注い できた」 人口に膾炙する 意味「膾」はなます、「炙」は あぶり肉のことで、ともにだれ の口にもおいしいと感じられるところから、詩・名句・ 名言などが世間に広く話題・評判となってもてはやされ、 知れ渡る。用法文型「ナニナニは人口に膾炙する」 江戸 用例 永井荷風『矢はずぐさ』(一九二六)「(宿昔 青雲の志。 <206> 蹉跎す白髪の年。誰か知る明鏡の裏。形影自ら相憐 む)とはこれ人口に膾炙する唐詩なり」 外国語英語ではbe well known *中国語では成句 「脇炙人口」(人口に膾炙する) 人後に落ちない 意味行為・心情・能力などが 人にひけをとらない。用法 文型「ダレナニは人後に落ちない」。用例①や③のよう な変形がある。 用例①倉田百三「学生と生活」(九三七)「シンプソン夫人への誠実を賞賛するにおいて私は決して人後に落ちるものではないが」②獅子文六『青春怪談』(九五)「バレー仲間の嫉妬排擠は、もの凄いものであって、彼女も、断じて人後に落ちない」③『朝日新聞』(九七九・六・三朝)「最大の権限を持つ職にある者は、人間としての優しさは人後に落ちてはならないと思う」④内田康夫『若狭殺人事件』(九三)「好奇心ということなら人後に落ちない浅見だから」 しんさんな 辛酸を嘗める 意味非常に辛い目、苦しい目に会 う。用法文型「ダレダレが辛酸 をなめる た 用例朝日新聞(一九0・三・三朝)たびたび辛酸をなめ 類句「塗炭の苦しみ」外国語英語では go through hardships *中国語では成句「饱经风霜」(つぶさに辛酸 をなめる。「饱经」はつぶさになめる。「风霜」は辛酸) 心臓が強い 意味人前や大舞台などで、恥ずかし がったり弱気になったりせず、平然と しゅうちしん している。また羞恥心がなく、少しも悪びれる様子がな い。 用法文型「ダレダレは心臓が強い」 用例①宮本百合子『二人いるとき』(一九三八)『とにかく お兄様は心臓がつよいわよ』何処か突かかるような云い かたをした』②海野十三『海底都市』(九四七)「ぜひ一度見 て、おどろかされたいと思っていたところだ。だがね、 僕は生まれつき心臓がつよいから、ちょっとや、そっと のことでは、おどろかない人間だからねえ」 類句 心臓に毛が生えている」「面の皮が厚い」 心臓に毛が生えている 意味普通の神経では考えられないほど恥知らず <207> で厚かましい 用法 文型 ダレダレは心臓に毛が生 えている」 用例源氏鶏太『英語屋さん』(一九五二)「単なる通訳と雖も心臓にもが生えていなければ、こちらの意志を十二分に相手にわからせることはできないものだ」 類句「心臓が強い」「面の皮が厚い」 進退これ谷まる きわ 意味進むことも退くこともで きないということから、どうに もならない窮地に追い込まれること。出典は中国の古典 『詩経』大雅。用法独立した句としてさまざまに使用 する。過去形がある。平安 ちもいかない」「抜き差しならない」 外国語英語では be stymied *中国語では成句「进退維谷」(進退これき わまる。「进退两难」ともいう 用例夏目漱石自転車日記(一九三)いえあの辺の 道路は実に閑静なものですよとすぐ通せん坊をされる ただ 進退これきわまるとは啻に自転車の上のみにてはあらざ りけり」 類句「進退きわまる」(尾崎紅葉「多情多恨」(八九六)「柳之 きわま 助は進退谷って」「進退ここにきわまる」(牧野信一「ゼー ロン」「二九三」「私の脚には忽ち重い鎖がつながれてしまった きわ 私は擂鉢のふちでどっちを向いても真に進退ここに谷まった 感があった」とも言う。「動きがとれない」「にっちもさっ <208> す * すいほう き 意味努力した行為の結果がまった 水泡に帰す くむだになってしまう。用法文型 「ナニナニが水泡に帰す」。ナニナニは「努力」「苦労」など。 用例①志賀直哉『邦子』(一九三七)「それをまた邦子に話 した事ですべて水泡に帰してしまった」②源氏鶏太『天 下泰平』(一九五四五五)「今日までの努力が、すべて、水泡に 帰するのだ」③広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二)「これ までの苦労が水泡に帰す」 類句「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木 阿弥」「元も子もない」「外国語英語では come to naugh すず かお 意味自分に関係していることなのに、 涼しい顔 何も知らないような、何も関係していな いような、平気な顔をしていること。他人事のような顔。 用法文型「ダレダーい汚しい顔(をする)」(江戸 用例①木谷恭介「京都木津川殺人事件」(一九九八)「涼し い顔でこたえた」②高杉良「首魁の宴」(一九九八)「なにご ともなかったように涼しい顔をしている綾のしたたかさ に一 類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」 「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」「外国語英語ではlook uncoopered 省の涙なみだ 意味金額や量がほんのわずかのたとえ。 用法文型「スズメの涙ほど」 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「本給 の安いぼくなどはどうせ雀の涙ほどしか貰えず」②「朝 日新聞」(一九五・二・三王朝)「中央からの農業への投資が(略) 末端の農民にはスズメの涙ほどしか届かぬ状況」③ 「朝日新聞」(一九八○・八・三朝)「米価はスズメの涙ほどしか 値上がりせず」 類句「蚊の涙」「つめのあかほど」 外国語 英語では a mere particle <209> スタートを切る 意味「スタート」は英語 start 速さを競う競技などで出発する 物事を開始する。新しいことを始める。用法文型「ダ レナニはスタートを切る」。命令・意志表現は可能。用 例①③④⑤の「早大選手生活の」「華々しい」「人生への 再」「快調な」のように「スタート」を修飾することがで きる。 用例①飛田穂洲『野球生活の思い出』(三六)「早大選 手生活のスタートを切った」②鏑木清方「初めの志望」 (三二)「人間の一生が倍あるのだったら、これからス タートを切り直すのですが」③稲垣浩『日本映画の若き 日々』(三九六)「六人のスター(略)たちは、日本キネマ を土台として華々しいスタートを切った」④朝日新聞 (三九一・四・三朝)「自らの力で人生への再スタートを切っ た青年の記事」⑤朝日新聞(三九一・九・三朝)「この倉本 (略)まず快調なスタートを切った」 * 類句「ふたが開く「幕が開く「幕を開ける」 す 擦った揉んだ 意味意見が食い違い争うさま。意 見がまとまらず、さんざんもめるさ ま。議論が紛糾するさま。用法名詞とサ変動詞 「すったもんだする」の用法がある。 「用例①『滑稽新聞』一七号(二〇二)「米国に行く前から 摩った揉んだと内輪イサカイがありさうに見へた政友 会」②「すったもんだのあげく別れた」③「すったもんだ してやっと妥協点を見出した」 外国語 英語づき much wrangling and ado すもの 捨てた物ではない 意味役に立つところがまだ ある。見込みがまだある。い いところがある。用法文型「ダレナニは捨てたもの ではない」(江戸) 〔用例〕①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「へえーっ、 ほんとですか?だったら私もまんざら捨てたもんじゃ ありませんね」②「彼もまだ捨てたものではない。まだ ひと花を咲かせる」③「その意見はまんざら捨てたもの ではない」 類句「まんざらではない」 すなか 砂を噛むよう 意味食べ物が砂をかむように味気 がないさま。物事が無味乾燥でつま らない、情趣がない、興味がそがれるさまのたとえ。 <210> 用法文型「ナニナニは砂を噛むような~」。用例①の ように「ような」がないこともある。〔江戸〕 用例①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二五三)「食慾が感じ られず、どちらも、せっかくのオムレツも、砂を噛む思 いである」②森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七) 「パートナーを買った後、砂を噛むような侘びしさを味 わうくらいなら」 類句味も素っ気もない 当たる一江戸 意味計画・計略・予想が思い通りに なる。用法文型「ナニナニが図に 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「首を長くし て待っていると、わしの計画はみごと図にあたって」② 『朝日新聞』(一九六○・九・九朝)「小林の先発を読んでライトル を三番にしたのが図に当たった」 類句「思うつぼ」「つぼにはまる」「願ったり叶ったり」 「的に当たる」 ぎの 意味自分の思い通りにことが運んでい い気になる。つけあがる。批判する言 葉。 用法文型「ダレダレが図に乗る」。用例②のよう に禁止形がある。〔江戸〕 用例①二葉亭四迷『其面影』(一九六)『だからさ』、と 図に乗って(略)声高に此処まで言って」②石坂洋次郎 『光る海』(一九六一六三)「図に乗るな」③中上健次『鳳仙花』 (一九六)「マツが黙りこくっているのは自分が図に乗りす ぎたからだと言うように」④『朝日新聞』(一九六○・三・七朝) 「先生はしぶしぶ謝った。図に乗った生徒は、A先生に 土下座までさせ」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(三〇二) 「図に乗った番犬はもはや使い物にならない」 類句「調子に乗る」 外国語 英語では push a good thing (too far) すねきずも 意味過去に人に知られたくないや 脛に疵を持つ ましいこと、隠している悪事、犯罪 歴などがある。用法文型「ダレダレは脛に疵を持つ」。 用例③⑤のように「脛に疵を持つ身」と言うことが多い。 ①のように語順を入れ替えて、名詞句としても使える。 江戸 用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九三七)「ではきゃつ脛に 持つ疵で早くも悟ったのだね」②源氏鶏太『見事な娘』 <211> (一九五四—五五)「いわば、スネにキズを持つ桐子は、胸を、 ドキンとさせた」③井上靖『氷壁』(一九五六—五五)「さすがに 脛に傷持つ身で不安な気持だった」④森村誠一『エネミ イ』(三〇〇)「脛に疵を持っていなければ、刑事たちに不 意を打たれても動ずることはないはずである」⑤岩城捷 介『免職警官』(三〇〇三)「どうやら脛に傷持つ身らしいな」 外国語 英語では with a shady past すみお 意味思っていたよりもその人がす 隅に置けない ぐれていて侮れない。また、世間の 表裏に通じていて油断ならない。用法文型「ダレダ レは隅に置けない」(江戸) 〔用例〕①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九四)「あなたは、そんなことまで、注意していらっしゃるのですか、隅におけませんね」②横光利一『家族会議』(一九五)「自分に求婚した仁礼のとり澄した顔を眺めながら、『なかなか隅に置けないわ』と、そっと感心するのだった」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「まア、あんた、相乗りなんて言葉を知ってるの?隅に置けないわね」④獅子文六『青春怪談』(一九五四)「あの令嬢芸妓は、玄人同様の取引をしたことになる。スミに置けないというのは、この ことであろうか⑤田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事 件』(三〇三)「あたしもともと順子さんというのは、隅に 置けない女性だと思っていたわ」 外国語 英語ぐは There's more to one than meets the eye <212> * せ * せいで 意味一生懸命に励むさま。熱心に働く 精が出る さま。用法文型「ダレダレは精が出 の一江戸 用例①佐々木味津三「右門捕物帖お蘭しごきの秘 密」(一九八三)「精が出るな、景気はどうかい」②太宰治 「トカトントン」(九四七)「このごろはお前もいいと見えて なかなか貯金にも精が出るのう」 類句「額に汗する」 せいこく 正鵠を射る 意味「正鵠」は弓の的中心の黒点 転じて物事の要点・急所。物事の核心 をつく。物事の急所・要点を言い当てる。用法文型 「ダレダレが正鵠を射る」。誤って「正鵠を得る」とも言 う。 用例①三島由紀夫『愛の渇き』(一九五○)「冷静な判断、 正鵠を射た判断、情理を兼ねそなえた判断」②「正鵠を 射た意見 頬句「急所を突く」「つぼにはまる」「当を得る」「的を射る」 意味度量が大きく、善も悪も受け入れる。相手をあるがままに受け入 「ダレダレは清濁あわせのむ」 清濁併せ呑む れる。用法文型「ダレダレは清濁」 用例①『朝日新聞』(一九一・二・一朝)「あまり結構ごとでは政治は出来ん。清濁合わせ飲むぐらいの実行力のある者に、日本を引っ張ってもらった方がよい」②高杉良『人事権!』(一九三)「清濁あわせのめんようでは大成しない」 類句「懷が深い」 外国語英語ではbe broad-minded せいてんへきれき 青天の霹靂 意味青空に突然雷が鳴り響く意から 転じて、まったく予想もしなかった出 来事・事件。また、それから受ける衝撃。出典は中国の 詩人陸游の詩で、筆の勢いの激しさを表したとえ。 用法文型「十二二十二は青天の霹靂」 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(九三五)「青天の霹靂…とでも形容しようか。何とも言いようのない奇妙な <213> 鷲きに打たれたわたしは②中勘助「遺品」(一九六)「禍は 青天の霹靂のごとくに落ちかかった」③大下宇陀児「虚 像」(一九五五)「『ええ、それは田代ですの。あたくしは、田 代守と結婚いたしました」「えっ!」青天の霹靂というの がこれだろう」④森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七)「青 天の霹靂ともいうべきニュースが伝わったのは」⑤高杉 良『人事権!』(一九三)「ひどく驚いてねえ。青天の霹靂 とか、敵前逃亡とかいろいろ言われたが」 類句「寝耳に水」 外国語 英語では a bolt out of the blue *中国語では成句「青天霹雳」(青天の霹靂。「晴天 霹雳」ともいう) せいこんつは 意味物事を成し遂げよう 精も根も尽き果てる とする精力も根気も使い果 たす。体力も気力も使い果たす。したがって精神的にも 肉体的にもこれ以上できない限界に達してふらふらの状 態である。用法文型「ダレダレは精も根も尽き果て る」。用例③のように「精」を修飾したり、「精も根も」と 「尽き果てる」の間に語句を挿入できる。 用例①有島武郎『或る女』(二九九)「葉子は(略)精も根 も尽き果ててそのままソファの上にぶっ倒れた」②源氏 鶏太『鏡』(二五七五八)『私は、精も根もつき果てたような 思いだった』③石坂洋次郎『光る海』(二五二六三)「私には それをとめる精もコンも、長い間の母と妻のもつれには さまれてつき果ててしまっていたんだ』④『朝日新聞』 (二九〇・二〇四朝)「よろめく東尾、精も根も尽き果てたよ うだ」 類句「精根尽き果てる」とも言う(内田康夫『三州吉良殺 人事件』〈一九二〉「そのうちに、こっちはもう精根尽き果てて、 どうでもいいっていう気分になってくるにちがいない」。 外国語 中国語では成句「筋疲力尽」(非常に疲れる。力 が尽き果てる。「精疲力竭」とも言う せいだ 意味仕事・作業・勉強などに一生懸 精を出す 命励む。用法文型「ダレダレはナ 一ナニに精を出す」。命令・意志表現は可能。「室町」 「用例」①「朝日新聞」(二九九・六・八朝)「ジャガイモ、カボチャづくりに精を出したのである」②稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(二九二)「まるで翻訳業を職業とするかのごとく毎日毎日精を出した」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(二九三)「ホテルの仕事に精を出すようになった」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(二九九)「子 <214> どもたちは『花巻囃子』の小太鼓合奏の練習に精を出す 類句心を傾ける力瘤を入れる力を入れる力 を込める力を注ぐ ぜひ 意味あることの実現・実行を強く望 が非でもしなければならない」「是が非でもしたい」。 下に願望や決意を表す言葉が来る。副詞的に述語を修飾 する。(江戸) 用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一九四)「私は…是が非でも相手を見つける」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五三)「是が非でも、決議に賛成させなければならない」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「こうなったら、是が非でも卒業しなければ」④井上靖『氷壁』(一九五六-五毛)「こんどこそ是が非でも、征服しなければならない」⑤山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「わしの出来んかった名誉欲を、女婿のあんたに是が非でも果して貰いたい」⑥朝日新聞』(一九六一・九・三王朝)「是が非でも勝ちたい試合だったろうが」 類句「雨が降ろうが槍が降ろうが」「石にかじりついて も」「否が応でも」「否でも応でも」「有無を言わせず」「何 が何でも「何としても「火が降っても槍が降っても「理 が非でも」「外国語」*中国語では成句「无论如何」(何 が何でも) 塭を切る 意味水をせき止める堰を破って水が どっと流れ出るように、抑えられていた 人々やもの(不満・涙など)が一気にあふれ出る。 用法文型「ダレナニが堰を切って「ダレナニが 堰を切ったようにする」 用例①石坂洋次郎『丘は花ざかり』(九五三)「母親は、 たれにも訴えられない日頃の不平を(略)せきを切った ようにしゃべり出した」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』 (九五三三)「涙の玉が、すっと頬を流れた。あとは堰を 切ったように、涙がとめどもなく溢れてくる」③福永武 彦『忘却の河』(九四)「彼の中で今まで堪えに堪えて来 たものが一時に堰を切って溢れ出したものか、彼は喋り 始めていた」④『朝日新聞』(九〇·三·一八朝)「五年ぶりの 自由な賃上げ交渉で、セキを切ったように高率妥結が続 く」⑤向田邦子『寺内貫太郎一家』(九三)「抑えていた ウップンが、セキを切って爆発した」⑥「開店前に並ん でいた大勢の人々がせきを切ったようにどっと流れ込ん <215> できた 外国語 英語では as if a dam had burst 背筋が寒くなる 背筋がくなる 二に背筋が寒くなる」「背筋が寒くなるような思い(気)」 用例①石坂洋次郎『光る海』(二九三六三)「学校で、男女 の学生が一緒になって、そんな問題を論じ合っているの かい。おかあさんは、背筋が寒くなるような気がします よ」②「朝日新聞」(二九七九・五・三朝)「地響きをたてていき おいよく道路を掘りかえしている様子を見ていて、ふと 背筋が寒くなることがある」③「朝日新聞」(二九九・二・一五 朝)「こんなことではと背筋の寒くなる思いである」④高 杉良『人事権!』(二九三)「相沢は、久保田、矢野を含め て七人のヤクザがたむろしていたのには背筋が寒くなっ た」 類句「背筋が凍る」「背筋に寒いものが走る」とも言う。 *音も * * 「肝を冷やす」「鳥肌が立つ」「身の毛がよだつ」 背に腹は代えられない 意味差し迫った事情や 重要事のためには他を犠 牲にすることもやむを得ない。用法独立した句として単独で使用。「背に腹は代えられぬ」とも言う。「室町」用例①尾崎紅葉『続々金色夜叉』(九三)「又考えて、背に腹は替えられないから、これは不如富山に訳を話して、それだけのお金をどうにでも借りるように為ようかとも思って見まして」②「朝日新聞」(九三・三・三朝)「こうした女たちも初めは生活苦から背に腹はかえられず転落したのだろうが」③「朝日新聞」(九三・三・三朝)「背に腹はかえられないということか、自分たちの生活を維持できるなら、戦争でだれが傷つき殺されようと平気でいられるのだろうか」④大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦争』(三〇三)「背に腹は代えられん。この苦境を梃子に、原子力に踏み出すしかない」 外国語 英語では have no other choice 世話がない 意味 (1)あきれてどうしようもない。 (2)扱いが簡単で手がかからない。 (用法)文型(1)「~れば(たら)世話がない」。~に「世話がない」と判断される内容が来る。(2)「~する世話がない」。~に「世話」のかかる事柄が来る。(江戸) 用例 (1) ①石坂洋次郎 光る海 (一九三一三) 「脛を蹴っと <216> ばされて、お熱を挙げていりゃあ世話がないや」②高杉 良『人事権!』(一九九三)「三百万円ぽっちケチったために 恥をかかされてたら世話がないとも」③「そんな暢気な ことを言って世話がないよ」②④「マンションの一階に スーパーがあるから、買い物に出る世話がなくて楽だ」 類句②「赤子の手を捻る」「お茶の子さいさい」「お安 い御用」「屁の河童」 せわ世話が焼ける 意味面倒、世話を見てやる必要が 大いにあり、手数がかかる。 用法文型「ダレナニは世話が焼ける」世話の焼ける ダレナニ」(江戸) 用例①永井荷風『新橋夜話名花』(九三)「芸者はあ の位のところが一番世話が焼けなくって」②源氏鶏太 『男と女の世の中』(九三)「とにかく、世話の焼ける親父 だよ」③星新一『ボッコちゃん』(九三)「まったく、せわ のやけるやつだな」④高杉良『人事権!』(九三)「だって 子供がいるだろう。世話が焼けるのが二人も」 類句 手がかかる 手が焼ける 手間がかかる 世話を焼かす 世話を焼かす 意味人に余計な手数をかけさせる 用法文型ダレダレはダレダレに 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一五三)「怠けもの。君は まったく世話を焼かせるよ」②「さんざっぱら人に世話 を焼かしておいて、礼も言わない」 類句面倒をかける 世話を焼く 意味人のために進んで面倒を見た り力添えをしたりする。用法文型 「ダレダレがダレナニの世話を焼く」。用例①のように 「お世話」と言うことがある。②のように受身形がある。 ①の「いらぬ」のように「世話」を修飾することがある。 〔江戸〕 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(九六)「此母が年甲斐もなく親だてらにいらぬお世話を焼いて」②有島武郎『星座』(九三三)「俺れは世話を焼くのも嫌いだ。世話をやかれるのも嫌いだ」③石坂洋次郎『光る海』(九三三)「矢崎の小父さまの身のまわりの世話をやいたり」④大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「入ったばかりのメンバーや『脱走』の可能性があるメンバーと同室になっ <217> て世話を焼くのが、堀の役目だ」 類句「手をかける」「面倒を見る 世む 背を向ける 意味(1)無関心な態度を取る。(2)逆 らって従わない。用法文型「ダレ ダレがダレナニに背を向ける」 (用例) (1)①大江健三郎『ピンチランナー調書』(二九七六)「原 発への抗議をつづける市民運動に背を向けることはでき ないわけだ」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「社交に 背をむけたかれの大使としての評判はきわめて悪く」(2) ③「忠告に背を向ける」 類句 (2)「盾を突く」「反旗を翻す」「弓を引く」 外国語 (1)英語では turn one’s back on せんけん めい 意味物事が起こる前にそれを見抜く見 先見の明 識。将来のことを見通す聡明さ。出典は ようひようでん 中国の『後漢書』楊彪伝。用法文型「ダレダレ(に) は先見の明がある(ない)」。名詞句としてさまざまに用 いられる。「江戸」 用例①三島由紀夫『愛の渇き』(一九五〇)「都会の奴等に は先見の明がなかったからまずい配給物で我慢したり 高い闇米を買わねばならないので」②源氏鶏太『英語屋さん』(一九五二)「首にならなかったのは、重役に先見の明があったからでなく」③『朝日新聞』(一九五二・二〇三朝)「マックアーサー元帥は『当時あれほど私は反対したのに』と述べて先見の明を誇ろうとした」④『朝日新聞』(一九五九・八・五朝)「外相は政治家のカンで将来の目標を先取りしただけ。何年か後に会議が実現したとき、先見の明といいたいのだろう」⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「先見の明があったということになるかもしれないじゃないの」 類句「目先が利く」(先のことを見通して損をしないよう にうまく処理すること) 外国語 中国語では成句「先見 之明」(先見の明) せんて 先手を打つ 意味囲碁や将棋で相手より先に手を 打つ意から転じて、相手より優位に立 つために先んじてことを行う。また予測される事態に備 えて策を講じる。用法文型「ダレダレが先手を打つ」 江戸 用例①浜尾四郎『死者の権利』(一九三九)「ずるい土田八郎 氏は、早くも私の気もちを察して先手を打って逃げてし <218> まったのだった」②開高健『パニック』(九五七)「とぼけるつもりだな、と思った彼はつづけて口早に先手を打った」③山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「鵜飼たちの胸のうちにある疑惑を見すかし、先手を打つような機敏さで野坂は、上衣の内ポケットから金包みらしい封筒を出し」④朝日新聞(九六〇·四·二朝)「何かあると先手を打って辞職して勘弁してもらおう」⑤朝日新聞(九六〇·六·三六朝)「ソ連はけしからん」という共同宣言が出るのを見越して、先手をうったのだろう」⑥田中光二「南紀白浜磯釣り殺人事件」(九〇三)「千々岩は押されるまえに先手を打った」 類句「機先を制する」「先手を取る」 せんとうき 意味先頭に立つ。ほかのだれより 先頭を切る も先に行う。用法文型「ダレグレ が先頭を切る」「先頭を切って~する」。用例②の「先進 主要国の」のように「先頭」を修飾することがある。 用例①『京都新聞』(九九五三朝)「先頭を切ってベンチから引き揚げてきた柴田」②『朝日新聞』(九九七七七朝)「米大統領が、先進主要国の先頭を切って具体的措置を打ち出した」③『朝日新聞』(九九二八朝)「午後から の守備練習も先頭を切ってがん張った」 類句「尖端を切る」「トップを切る」 千慮の一失 意味出典は中国の古典『史記』淮陰 侯伝で、知者でも多くの考えの中には 一つぐらいは考え違いや失敗もあること。十分注意して も思わぬ失敗があること。用法文型「ナニナニは千 慮の一失」鎌倉 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(九五十三)「私と したことがまさに、千慮の一失でしたわい」②森村誠 一『終着駅』(一九九九)「これほど綿密に計画を立てたあな たがセロテープを剥がし残したのは、千慮の一失という べきですね」(鎌倉) 類句「河童の川流れ」「上手の手から水が漏る」 外国語 英語では a slip of a wise man *中国語では 成句「千慮一失」(千慮の一失) <219> * そ * そうごうくず 相好を崩す 意味喜びや笑いが自然にわき上がり、 にこにこした顔になる。用法文型 ダレダレがダレナニに相好を崩す」 用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一四〇)「校長は自分の円熟した知恵を示す機会を、相好を崩して歓迎した」②獅子文六『てんやわんや』(一四八四九)「こういう話が面白いらしく、子供のように、相好を崩してるのである」③源氏鶏太『三等重役』(一九五一五三)「藤山さんは、とたんに相好を崩して、『やッ、それは至極愉快ですな』④高見順『都に夜のある如く』(一九五四五五)「全く可愛い』と玉置が言って、忽ち相好を崩すのには」⑤東野圭吾『学生街の殺人』(一九六七)「時田は目を細めて、そうか。そうだよなあ』と相好を崩した」 類句「顔をほころばせる」「目を細くする」 英国語では grin from ear to ear そうだんの 相談に乗る 意味相手からどうしたらよいかと話 しかけられ、それに応じる。用法 文型「ダレダレがダレナニの相談に乗る」。命令・意志 表現は可能。江戸 用例①岡本綺堂『半七捕物帳廻り燈籠』(一九一七三六) 「これが堅気の素人なら、なんとか相談に乗ることもあ るが」②中里介山『大菩薩峠小名路の巻』(一九三三五)「彼 等の相談に乗る隙」③「後輩の悩みの相談に乗ってやる」 そうば き 相場が決まる 意味世間一般の評価や考えがこん なものと決まっている、だれでも何 事でも似たようなところだ。 用法「ダレナニは~と相 場が決まっている」という形が多い。 用例①有島武郎『星座』(一九三一三)「もう然し俺しは死 ぬものと略相場がきまった」②「ギャンブルは家庭をこ わすものだと相場が決まっている」 そうは問屋が卸さない とんやおろ 意味相手の思い通りに するわけにはいかない。 そうは簡単に思い通りにはならない。 用法相手がこ うなってほしい、なればいいと思っている内容を述べ、 <220> その後に「そうは問屋が卸さない」と続くことが多い。 用例①源氏鶏太『鏡の中の顔』(一九五四)「中には、あの 女房が、もし死んだら、こんどは…、と考えた重役も いるかも知れない。しかし、そうは問屋が卸さぬだろ う」②和田傳『鰯雲』(一九五七)「ーふーん。さぞ借りに行き てえだろうになあ…ーそうは問屋がおろさないよ」③ 『朝日新聞』(一九一三・六朝)「自衛隊では員数不足だから徴 兵制で、といってもそうは問屋がおろさない」④大藪春 彦『ザ・刑事』(一九五五)「貴様は親和会を潰したときのよ うにうまく立廻ろうとしたんだろうが、そうは問屋がお ろさん」 底が割れる 意味うそ、心に隠していること、真 意、話の行き着くところなどが相手に 見破られる。用法文型「底が割れるような十二二」 用例①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「行雄の 態度から推して、簡単に底が割れるようなアリバイ工作 だとは考えられなかった」②高杉良「首魁の宴」(一九八) 「それにしても、俺が復帰したがってるなんて、よく言 うぜ。簡単に底が割れるようなことなのに」 類句 * しっぽを出す「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれ る「ぼろが出る」「メッキが剥げる」 底を突く 意味(1)蓄えていた物、持っていた物を 使い果たしなくなる。払底する。(2)相場 が下がり切り、底値になる。用法文型「ナニナニが 底を突く」 用例(1)筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「商品が底をつくというのは」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「食べるものが底をつく」(2)③「株価が底をついた」(1)英語ではhit bottom 底を割る そこわ 意味(1)本当の気持ちを言う。本心を打ち明ける。(2)相場で底値よりもさらに下がる。 用法文型(1)「ダレダレが底を割る」。「底を割って話す」という形が多い。(2)「ナニナニが底を割る」 用例(1)①夏目漱石『こころ』(一九四)「そう断言しておきながら、ちっともそこに落ち付いていられなかった。底を割ると、かえってその逆を考えていた」②牧逸馬『浴槽の花嫁』(九三)「ブラドンはたくみにクロスレイ夫人はじめ下宿の人々を瞞着して、底を割ることなく」(2)③「株価が底を割った」 <221> 類句 (1) 冊冊を開く 胸襟を開く 腹を割る 素知らぬ顔 意味知っているのに知らない振り をすること。知らん顔。用法文型 「ダレダレはそ知らぬ顔で「ダレダレがそ知らぬ顔を する」(江戸) 用例 城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「警官が笛を吹 いたが、車はそのまま、そ知らぬ顔で走り去った」 類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」 「涼しい顔」「何食わぬ顔」 ぞっとしない 意味人の言動や服装・考えなどに ついて、あまり感心しない。いい感 情が持てない。「ぞっとする」の反語的な表現か。やや 俗っぽい言い方。用法文型「ナニナニはぞっとしな い」(江戸) 用例「彼女の服装はぞっとしない」 外国語 英語では not hit me right 袖にする 意味自分に好意を寄せている人、利益 のために近づいて来る人、またその誘い、 自分にとって有益と思われることなどをすげなく断った り見捨てたりする。用法文型「ダレダレはダレナニ を袖にする」。用例②のように受身形がある。「室町」 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二三毛)「谷村も 藩庁が精忠組をまるで袖にしているのを憤慨していた」 ②高杉良『人事権!』(一九三)「わたしは会長から袖にさ れる運命にあったんだよ」 外国語 英語づき give someone the brush-off その手に乗らない 意味相手の計略・術中に 引っかからない。用法「そ の手には乗らない」とも言う。 から、その手には乗らない」 ①「もうその手に乗らないぞ」②「ばかじゃない 類句「その手は食わない」とも言う。 外国語英語で は That trick won't work on me そばづえ 意味喧嘩をしている傍にいたら殴り 側杖を食う 合っている杖で打たれることがある意 から、自分に関係のないことで災難を受ける。「そばづ え」は「傍杖」とも書く。用法文型「ダレダレはダレ <222> ナニの側杖を食う」(江戸) 用例①室生犀星『女ひと』(一九五五)「すくなくとも追悼 文を断ったのは山川朝子と言う個人にたいして、ふいに 私の意地悪がはたらいていたとしか思われない、芙美子 さんは傍杖を食ったかたちなのである」②森村誠一『エ ネミイ』(三〇〇)「幼稚園児が傍杖を食ったのは五年前の ことです」③「交通事故の側杖を食ってけがをした」 類句「とばっちりを食う」「火の粉がふりかかる」「巻き添えを食う」 そあ 意味刀の反りが鞘に合わない 反りが合わない 意から転じて、相手と考え方や 気質などが違ってしっくりといかない、協調できない。 用法文型「ダレダレはダレダレと反りが合わない」室 町 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「お前のママさんとそりが合わなかったせいだね」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「梅津も癖のある男だから、稲村とはソリが合わないのだろうぐらいにしか思わなかったが」③梓林太郎『死神山脈』(一九九九)「日比野のお母さんと反りが合わなかったということです」 類句「性が合わない」「虫が好かない」 外国語 英語で は not see eye to eye み それ見たことが 意味忠告や助言を聞き入れず 失敗した相手に軽蔑・非難の気 持ちを込めてあざける言葉。用法単独で使用する。 江戸 用例①佐々木味津三『旗本退屈男第六話』(一九二九三二) あざわら 「それ見たことか小気味がいいわと言うように、嘲笑い ながら」②岡本綺堂『半七捕物帳 夜叉神堂』(一九二七三六) 「役人の方では、それ見たことか、一体そんな不用心な 物を飾って置くから悪いのだと叱り付ける」 類句「それみろ」とも言う。「いい面の皮」「ざまを見ろ」 外国語 英語では I told you so そろ 意味同類のものがよくそろったも 揃いも揃って のだと詠嘆と強調の気持ちを込めて 言う言葉。マイナス評価、悪い事柄について言う。 用法文型「そろいもそろって~」。副詞的に使用。江 戸 用例①大下宇陀児『情獄』(九三)「浩一郎の母親の潤 <223> !」前い又井神浩太郎とこの僕とが、揃いも揃って、非業の最後を遂げるのだ」②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六八)「揃いも揃って全く見当はずれの診断ばかりだ」③鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「私にその道を教えてくれた恩師達は、揃いも揃って極悪非道な人物で」 類句「みんながみんな」 外国語 英語では each and every one そろばんあ 算盤が合う 意味 計算が合う。採算が取れる。つ じつまが合う。用法文型「ナニナ 二は算盤が合う」。用例②のように否定形がある。〔江戸〕 用例①半村良『どぶどろ』(一丸も)「人殺しでも何でも 算盤さえ合ったら平気でやってのけられるんだ」②森村 誠一『人間の十字架』(一九九三)「ヤクザも計算が上手になり 素人とのけんかなどで殺しをしてもソロバンが合わない ことを知っている」 そろばんはじ 算盤を弾く 意味計算する。お金に限らず、物事 の損得を考え判断する。用法文型 「ダレダレが算盤を弾く」。用例①②の「どんな」「腹の」 のように「算盤」を修飾することが可能。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「結婚についてどんな算盤を弾いていたか知りませんが」②鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「この浮浪者を見た時に屠殺場で働かせようと、自分自身でも腹のソロバンをはじいて思いたったのである」③『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「全校機械化すると年二千五百万円の金が浮くと、ソロバンをはじいた」④『朝日新聞』(一九八〇・四・三朝)「党内にも『防衛問題を強く出しすぎると、婦人票が逃げる』と冷静にソロバンをはじく声は少なくない」 外国語 中国語では慣用句「打算盘」(算盤をはじく。「打」ははじく) <224> た * 対岸の火災かさい 意味「対岸の火事」に同じ。用法 文型「ナニナニは対岸の火災」 用例①「朝日新聞」(一九三・七・三朝)「ことに米国の真似をしたがる国では対岸の火災とばかりはいえぬ」②「朝日新聞」(一九五・二〇・七朝)「台湾海峡の紛争は対岸の火災ではない」③「朝日新聞」(一九八〇・二・六朝)「対岸の火災や他人ごとでは絶対にあり得ない」 「外观火」は火事を見る 「外国語」中国語では成句「隔岸观火」(対岸の火事を見る。 たいがん かじ 意味自分にはかかわりがなく危険 対岸の火事 も苦痛も及ぶ心配がない事件・出来事 のたとえ。用法文型「ナニナニは対岸の火事」 用例①朝日新聞(一九九六・五朝)ロッキードだ、グ ラマンだ、と政治家の疑惑が連日マスコミをにぎわせて いますが、これを『対岸の火事』とばかり見物をしてい る人々」②『朝日新聞』(一九〇・二〇・一朝)「他国の種族、部族、民族の間の闘争を、対岸の火事のように傍観している」③『朝日新聞』(一九三・三・九朝)「対岸の火事的発想ではすまされない」④内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「大規模な衝突があった。そのニュースに遭遇して、ノンポリの浅見といえども、文字どおり、対岸の火事とばかりに無関心ではいられない気分であった」 類句「対岸の火災」とも言う。「高みの見物」外国語 中国語では成句「隔岸观火」(対岸の火事を見る。「观火」は 火事を見る) たいこぼんお 意味ある人の能力・信用や、ある 太鼓判を押す 物の品質・性能などについて、絶対 に大丈夫だと保証する。用法文型「ダレダレが~と 太鼓判を押す」。命令・意志表現は可能。 用例①石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五三)「君が太鼓判を押すならそのとおりだろう」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五三)「僕が太鼓判を押しているから、人物の方は信頼するが」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「逸見先生が卓をたたいて太鼓判を押してくれたが」④朝日新聞』(一九五七・四・六朝)「カナダ政府はノーマン大使を『良心 <225> 的な公僕」として太鼓判を押して信託し」⑤「朝日新聞」 (一九0・二・三朝)「いま世界のマラソンランナーで、瀬 古ほどのスピードと安定したフォームを持つ選手は他に いないだろう」と、大先輩の織田幹雄氏も太鼓判を押す」 「類句「折り紙を付ける」「外国語」英語では(really) put one's seal of approval on *中国語では慣用句「打 包票」(保証書を発行する意から、保証する。「打」は発行する。 「包票」は保証書。「打保票」とも言う) 大事を取る だいじと 意味重大事に至らないように用心 する、慎重に行動する。用法文型 「ダレダレは大事を取る」「大事を取って~する」「江戸 用例「明日は試合だから、今日は大事を取って軽めに 練習する」 外国語 英語では play (it) safe だいしょう 意味多いか少ないかはともかく、 大なり小なり 程度に差はあっても。大小にかかわ らず。用法「大なり小なり~する」。副詞的に使用。 〔江戸〕 用例①北杜夫どくとるマンボウ航海記(一九六〇)留 学生にはたいてい大なり小なり憂鬱症にとりつかれる時 期があるらしい」②本所次郎『閨閥』(三〇四)「東京本社 の社員たちは、大なり小なり水口成人の息がかかっている」 類句「多かれ少なかれ」 たか 高が知れる 意味元来、たいした領地を持たない 武士を指していた。転じて人や物事の 程度・力量・価値などがたいしたことはない、せいぜい そんなところだ。用法文型「ダレナニは高が知れる」 「高が知れている」と言うことが多い。江戸 用例①獅子文六『てんやわんや』(一盅八四九)「片田舎の金持はタカの知れたものらしく」②檀一雄『青春放浪」(一九五六)「坪井の月給だって、タカが知れている」③北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六)「それこそ多寡の知れたボートくらいにしか見えないのである」④朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「産休で先生がかわったぐらいで成績がおちるような子は、これまた将来たかがしれているじゃないか」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「交通費といっても高が知れてるだろうけどね」 類句「愚にもつかない」「取るに足りない」「話にならな <226> い」「物の数でもない」「問題にならない」 外国語 英語 では nothing great たがゆる 意味「たが」は桶や樽の外側を堅く締 箍が緩む めつける輪。 (1)緊張が緩んで締まりがな くなる、だらけた状態になる。 (2)年を取って気力や思 考力などが鈍る。 用法文型「ダレダレはたが緩む」 江戸 用例(1)①福永武彦『忘却の河』(一九六四)「連中だって昔は若かったんだが、封建的道德とか社会的身分とかに縛られて、見合い結婚なんかをして、すっかり箍がゆるんじまってるんだ」(2)②「80歳を過ぎ、たががゆるんで、家にいるばかりだ」 類句(1)「ねじが緩む」(2)「がたが来る」「焼きが回る」 たかね はな 意味あこがれて遠くから眺めているば 高根の花 かりで、自分のものにすることができな い高価な物や美人などのたとえ。「高嶺の花」とも書く。 用法文型「ダレナニは高根の花」〔江戸〕 用例①有島武郎『星座』(一九三二三)「あれは高嶺の花です」②朝日新聞(一九四六・三・三朝)「都会の能楽、歌舞伎、 映画、音楽会の類は依然として高根の花である」③「朝 日新聞」(一九七九・二・三朝)「分譲価格は軒並み高く(略)庶 民にとっては高根の花」④「朝日新聞」(一九一・四・三朝)「報 道されるべ・ア額、基本給、すべて高根の花とみる人た ち」 類句「垂涎の的」外国語英語では beyond one's reach *中国語では成句「可望而不可即」(遠くから眺めるだけで近寄れない。「望」は眺める。「可望而不可及」ともいう) たか けんぶつ 意味「高み」は高い所。高い所から 高みの見物 眺めるように、事の圏外にいて傍観す ること。 用法名詞句としてさまざまに用いられる。 用例①内田康夫『秋田殺人事件』(三〇三)「ふん、高み の見物を決め込もうというわけか。フリーの人間は気楽 でいいな」②「党内の派閥争いだ。では高みの見物とし ようか」 類句「対岸の火事」 外国語 中国語では成句「作壁上 观」(壁の上から眺める、高見の見物をする。「观」は眺める) <227> たからもぐさ 意味役に立つもの、才能などを 宝の持ち腐れ 持っていながら、それを活用しない でいること、十分生かし切れないでいること。用法 文型「ナニナニは宝の持ち腐れ」 用例高杉良『会社蘇生』(一九七)「エジプトやシリアに 置いとく限り宝の持ち腐れじゃないか」 外国語英語では a waste of talent 高を括る くく くく 意味あることを軽く評価し安易に考え る。この程度だろうと低く予測をする。 他人事のように真剣に考えない。用法文型「ダレダ レが~と高をくくる」(江戸) 用例①有島武郎『或る女』(二九九)「古藤なんぞに自分の秘密がなんであばかれてたまるものかと多寡をくくりつつも」②久保田万太郎『春泥』(二九八)「いざとなればまたどうにかなるだろう。──かれはくくるつもりもなく多寡をくくった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六十六五)「その尻車に乗って行きさえすれば、万事うまく行くとたかをくくっていたことが」④朝日新聞』(一九〇・五・六朝)「オモチャのピストルだろうと、たかをくくっていた行員らは」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「弁慶 をただ一人と見て高をくくっていたグループは」 類句「甘く見る」「なめてかかる」「のんでかかる」 外国語英語では take something lightly 竹を割ったよう うに、気性がまっすぐでさっぱ りしているさまのたとえ。物事にこだわらず一本気であ るさま。用法文型「ダレダレは竹を割ったように~」 「竹を割ったようなナニナニ」(江戸) 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九七)「真すぐな竹を割ったような気性の人で」②柳田邦男『空白の天気図』(九五)「菅原の竹を割ったような気持ちのよい返答を聞いて」③龍一京『交番巡査の誇り』(三〇四)「父親は竹を割ったようにさっぱりした性格だった」 外国語 英語では refreshingly frank たす ぶね だ 意味人が困っている時に言葉や行 助け船を出す 為で力を貸す、助ける。用法文 型「ダレダレがダレナニに助け船を出す」 用例①「朝日新聞」(九九六三朝)「ブレジネフ書記長 は(略)と発言して、信心深いカーター大統領に助け船 <228> を出した」②中上健次『鳳仙花』(一九〇)「古座言葉で嫁 に救け舟を出した」③東野圭吾『学生街の殺人』(一九七) 「『沙緒里ちゃん』と光平が助け船を出した」④内田康夫 「イーハトーブの幽霊』(一九九)「つまり、こういうこと でしょう」葛西警視が助け船を出した」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「力を貸す」 手を貸す」「手を差し伸べる」「一肌脱ぐ」 たぜいぶぜい 多勢に無勢 意味大勢の相手に向かって少人数で はかなわないこと。用法文型「多 勢に無勢だ」。単独で使用する。〔鎌倉〕 用例①大杉栄『鎖工場』(二九四)「主人の数は少ない。 俺達の数は多い。多勢に無勢だ」②夢野久作『S岬西洋 婦人絞殺事件』(一九三五)「何しろ多勢に無勢ですから敵い ません」 外国語英語ではbe outnumbered *中国語では成句 「寡不敌众」(数が少ない方は多い方にかなわない、衆寡敵せ ず。「不敌」はかなわない。「众」は衆) 叩けば埃が出る 意味どんな人でもその人を細 かく調べれば、欠点や良くない 点が出てくるものだ。うわべを取り繕っている人でも人 に知られたくない弱点などを持っているものだ。用法 文型「ダレダレは叩けば埃が出る」 用例佐々木味津三『旗本退屈男第七話』(一九二九三二 「それみい、叩けばまだまだ埃が出る筈」 だだこ 駄々を捏ねる 意味幼児が足をばたばたさせてわ がままを言う。幼児などが甘えて言 うことをきかず、わがままを通そうとする。また幼児に 限らず比喩的にも使う。用法文型「ダレダレが~と だだをこねる」(江戸) 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)「今少し 家に居たいと駄々を捏ね出したので」②甲賀三郎『青服 の男』(一九三九)「向うへ行って、卓一さんが駄々を捏ねま してね」③中上健次『鳳仙花』(一九〇)「駄々をこねるよう に『足が痛なってくるんよ』と言って泣き出した」④森 村誠一『エネミイ』(三〇〇)「そんな駄々をこねて、ぼく を困らせないでくれよ」 外国語 英語では be unreasonable <229> 立つ瀬がない 意味周りの人の言動によって、自 分の立場・面目がなく、困る。 用法文型「ダレダレは~れて、立つ瀬がない」「~ないと、立つ瀬がない」「ダレダレの立つ瀬がない」。用例②のように「立つ瀬がなくなる」と言える。 用例①源氏鶏太『三等重役』(二五二五三)「家では敬遠されるし、会社では、昨日今日入った女にバカにされ、立つ瀬がありませんわ」②『朝日新聞』(二五七・二〇・二朝)「こういう道ならぬことをされては、歩く人の立つ瀬がなくなる」③『朝日新聞』(二九九・二〇・二六朝)「『略』プレーオフの時のほうがずっと緊張したし、勝ったうれしさも大きかった』といわれては、広島打線も立つ瀬がない」④高杉良『人事権!』(二九三)「少なくとも相沢にぜひもらいがかかったことにしないと、相沢の立つ瀬がないものねえ」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四)「早く決着をつけてくれないと、方々から攻められる秋葉は立つ瀬がない」 類句「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「面目がない」「面目次第もない」 た 立て板に水 意味よどむことなくすらすらとさわ やかに説明・演説などをするさまのた とえ。 用法文型「立て板に水のように~する」「立て 板に水を流すように~する」「室町」 「用例①石坂洋次郎『石中先生行状記第二部』(二九四九五○) 「村井君は、紙芝居の説明ではタテ板に水を流すように 雄弁だが」②獅子文六『青春怪談』(二九五四)「ペラペラと、 よく動く口であるが、そのくせ、立板に水というわけで はない」③『朝日新聞』(二九九八三朝)「日本の人たちは 立て板に水みたいに、むずかしい技術用語や数字を並べ る」④『朝日新聞』(二九九·二○二七朝)「立て板に水を流すよ うな演説」 外国語 中国語では成句「口若悬河」(滝が流れるように とうとう 滔々と話す。「悬河」は滝。「口如悬河」とも言う たてと 意味ある人・事柄を、相手の追及から 盾に取る 自分を守る口実・言い訳の手段とする。 また言いがかりをつける手段にする。「楯に取る」とも書 く。 用法文型「ダレダレはダレナニを盾に取って する」。用例⑤のように受身形がある。〔江戸 (用例)①川端康成『伊豆の踊子』(二九六)「私は学校を楯 に取って承知しなかった」②沢村貞子「貝のうた」(二九九) 「だれにしろ、どんな要求にしろ──芝居にとってはい <230> ちばん大切な観客をタテにとるこのやり方は、卑怯といわれてもしかたがない」③『朝日新聞』(一九七九・二・一八朝)「人質を盾に取って自国の主張を相手国に認めさせようというものである」④『朝日新聞』(一九一・四・三六朝)「国は総定員法のわくをタテにとって」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「家族を楯に取られると、とたんに弱くなる」 類句「盾にする」外国語 英語では use something as an excuse 縦の物を横にもしない 意味自分ではちょっと したことでも体を動かさ たいだ 無精者、怠惰であることをいう。 ず、人にやらせる。 用法文型「ダレダレは縦の物を横にもしない」(江戸) 用例①有吉佐和子「恍惚の人」(九三)「自分は縦の ものを横にもせず老妻を追い使った揚句に」②鈴木健 二「ビッグマン愚行録」(九七)「家にいたら夕テのもの をヨコにもしない超不精者だし」 類句「横の物を縦にもしない」とも言う。 たてっ 意味目上の者に反抗する。たてつく。 盾を突く 用法文型「ダレダレがダレダレに盾を 突く」。用例②「つまらぬ」のように「盾」を修飾できる 「楯を突く」とも書く。「鎌倉」 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』(一卲九)「重吉奴はことごとくおらにタテをつくようになったのでごぜえます」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「鵜飼教授につまらぬ楯をついて、そんなところへ放り出されたりしたらどうするのだ」③岩城捷介『免職警官』(三〇三)「しばしば上層部に盾を突くこともあったとな」 類句 背を向ける 反旗を翻す 弓を引く たなあ 意味自分のこと、自分に都合の悪い 棚に上げる ことは問題にせずにおく。用法文 型「ダレナニがダレナニを棚に上げて~する」。「自分の ナニナニを棚に上げて」という形が多い。「室町」 用例①徳冨蘆花『黒潮』(九三)「吾事は棚にあげて、 しゃべ 人の悪い噂ばかり喋舌ってあるく者もありますからね」 ②源氏鶏太『天下泰平』(九五五)「岡崎は、自分の過去 をタナにあげて」③『朝日新聞』(九九・二〇・二七朝)「その言 い分をタナにあげて、人のギックリ腰につけこむ料簡が <231> 二クらしい④朝日新聞(一九八〇・四・六朝)「自らの無策をたなにあげて、友好、同盟諸国の対米協調をいうのはお門違いである」⑤内田康夫「若狭殺人事件」(一九九三)「有名な涸沼も知らない自分の無知を棚に上げて、こっちの田舎くささを憐れんでいるつもりの相手」⑥大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「手前の勝手を棚にあげて、社に報告しちまったんだ」 類句「棚上げにする」「不問に付す」 たにんそらに 意味赤の他人であるが、容貌がそっ 他人の空似 くりのこと。用法「ダレダレは他 人の空似だ」。名詞句として用いる。江戸 用例①斎藤栄『神戸天童殺人事件』(一九四)「男が柏木そっくりだったのが、とても興味深かった。他人の空似というのは、このことでしょうね」②森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「矢沢が淑子と見まちがえた女性は他人の空似であった」③「他人のそら似とはよく言ったもので、本当にそっくりだった」 類句「瓜二つ」 外国語 英語では a chance resem- balance 他人の裈で相撲を取る 意味「人のふんどしで相撲を取る」に同じ。 用法文型「ダレダレは他人のふんどしで相撲を取る」 用例①武田泰淳「風媒花」(一九三)「その評論家が他人 のふんどしで相撲をとるどころか、他人の皮をかぶっ て、他人の舌で喋りまくってるような気がしたんだ」② 源氏鶏太『天下泰平』(一九五五)「他人のフンドシでスモ ウを取ろうなんて、そんなケチな料簡を捨てろ」③藤本 義一『サイカクがやって来た』(一九五八)「他人の裨で相撲 をとっている奴は、表面的には儲かっているように見え るが、その実は、あっという間に大損してしまうのである」 たばか 意味大勢の人が一緒になっ 束になって掛かる てひとりの人を攻める。特に 強い人に向かって行く時に言う。用法文型「ダレダ レが束になって掛かる」。ダレダレは複数の人。 用例①高杉良『会社蘇生』(一九八七)「われわれが束になってかかっても、ひとたまりもありませんよ」②「相手になってやる。束になってかかって来い」③「束になってかかってもかないっこない」 <232> 意味ある人が非常に優れていているが、 惜しいことにわずかに欠点があること。 法 文型 「ダレダレは十二二が玉に瑕」〔平安〕 というのだ 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(一九五二吾)「いい女だけど、ちょっと、口の軽いのが玉にキズだね」②半村良「どぶどろ」(一九七七)「俺たち蘭方をやる者には大恩人さもっとも医書の翻訳の数が少ないのが玉に瑕だがね」③東野圭吾「卒業」(一九六六)「やる気はなんとか。実力がないのが玉にキズですが」 外国語 中国語では成句「白璧微瑕」(白玉にかすかなきず。「美中不足」とも言う) たまこしの 意味「玉の輿」は昔の身分の高い 玉の輿に乗る 人が乗るりっぱな、人がかついで運 ぶ乗り物。一般庶民、普通の女性が地位や財産のある男 性と結婚して富貴の身の上となる。用法文型「ダレ ダレが玉の輿に乗る」(江戸) 用例藤本義一『サイカクがやって来た』(一丸だ)『七十億 か百億をもった男の二号になったのを、玉の輿に乗った 矯めつ眇めつ すが た 見る意「眇める」は片方の目を細く して見る意。人・物をいろいろな方向・方面からよく見 し品定めするさま。用法文型「ダレダレがダレナニを ためつすがめつ眺める(見る)。副詞的に使用。「室町」 用例①三島由紀夫「盗賊」(二卻八)「藤村夫人はマンテ ルピースに飾られた投入れの秋草を根気よく直してはた めつすがめつしながら」②開高健「巨人と玩具」(二五五) 貧乏や孤独や小さな虚栄やわびしい歓楽など、そのい すれについても彼はためつすがめつ吟味して」③内田康 大「若狭殺人事件」(二九三)「樹村昌平はためつすがめつ 浅見を眺めて、「かっこいいひとですなあ」と感嘆したよ つに言った」④田中光二「南紀白浜 磯釣り殺人事件」 (三〇三)「千々岩も名刺を返した。雑賀は受け取って、た めつすがめつ眺めた」 類句「と見こう見」 外国語 英語では scrumize carefully <233> 駄目を押す 意味「駄目」とは本来、囲碁でどち らにも属さない目のこと。その目をふ さぐ行為を「駄目を押す」。転じて念を入れてもう一度 確かめる。また、試合などで勝利が確実なことがわかっ ても、さらにそれを決定的にする。用法文型「ダレ ダレが駄目を押す」(江戸) 用例①川端康成『伊豆の踊子』(二九六)「傍の女に幾度も駄目を押してから私に言った」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五十五)「『じゃア、今は、絶対に白紙なんだな。』杉村としては、珍しいくらいに、しつっこく、ダメを押してくる」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「『ほんとに行ってくれる?』と駄目を押すと」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三五)「だめを押すように云うと」⑤朝日新聞(一九〇四三朝)「七回は代打柴田の好打でダメを押した」 類句「駄目押しをする」とも言う。「石橋を叩いて渡 る」「念には念を入れる」「念を入れる」「念を押す」 外国語英語では make doubly sure たもとわ 意味意見などの食い違いから、仲 袂を分かつ 間・友として交わってきた関係、行動 を共にしてきた関係を断つ。また単に人と別れる。 「用法」文型「ダレダレはダレナニと袂を分かつ」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二七二)「ここ で、諸君等と袂を分つことになるが」②『朝日新聞』 (二九八○・五・二八朝)「タモトを分かって選挙で国民の信を問 うのが、わかりやすく」③『朝日新聞』(二九八○・二・三九朝) 「民社党は(略)名実ともに社公両党と袂を分かった」④ 高杉良『首魁の宴』(二九八)「主幹は『聖真霊の教』と袂を 分かったが」 類句「足を洗う」「足を抜く」「手を切る」外国語英 語では split with たんかき 咲呵を切る 意味威勢よく、歯切れ良い言葉でま くしたてる。言いたい放題言ってのけ る。威勢よく相手をののしる。用法文型「ダレダレ が咲呵を切る」(江戸) 用例①源氏鶏太『随行さん』(九五)「たまりかねてぼん助が啖呵を切った。『じれったいわねえ。あんた、そんな風では出世ができないわよ。せめて旅に出たら、もっと粋になりなさい。粋に』②石坂洋次郎『光る海』(九三一六三)「お前、タンカをきってやれよ。ぼくが恋愛をしないのは、ぼくを夢中にさせるような女にまだお <234> 目にかからないからだって」③稲垣浩『日本映画の若い日々』(一九七八)『わからんならわからんとはっきり言ったらどうなんだ。買いたくないなら、買って貰わんでもええワイ』とタンカを切って、重いフィルムをかついで本社を出た』④朝日新聞』(一九八二・三・九朝)「外務省を相手に『自動車産業は通産相の所管。対米交渉の責任は、当然わが省が』と、タンカを切る田中氏」 だんちよう 断腸の思い 意味あることをする時に腸がちぎれ るように感じるはなはだしい苦しみ、 辛さを伴った悲しみ。用法文型「ダレナニは断腸の 思い」「断腸の思いで~する」「江戸」 用例①内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八)「野村君 のことを話すのは、正直、断腸の思いが伴いましてなあ」 ②高杉良『人事権!』(一九三)「わたしも断腸の思いなん だ」 類句「血の涙」「塗炭の苦しみ」「腸がちぎれる」「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」「胸が塞がる」「胸に迫る」 類句 端を開く 用法文型「ナニナニはナニナニに端を発する」(江戸) 用例牧野信一「ゼロン」(三)昔、大力サムソン が驢馬の顎骨を引き抜いた要領に端を発する模範的アッ パー・カットの一撃を喰わした」 端を発する 意味物事がそこから始まる。またそ れが原因で争いや議論などが起きる。 <235> * ち * ちかよ 意味(1)人が生きている。(2)対処・判断 血が通う などが事務的ではなく、人間的な心のあ たたかみ、思いやりがある。用法文型(1)「血が(の) 通った人間」(2)「血が(の)通った十二二」。(1)(2)とも 修飾する形で用いられることが多く、用例③の用法はま れである。 用例(1)①「朝日新聞」(三〇四·九·三四夕)「その中で彼がこだわってきたのは、『登場人物一人ひとりが血の通った人間であること』②『朝日新聞』(三〇四·二〇·一夕)「バックにいる人たちも含めて、血の通った人間にする。すると作品全体に、一つの生命が宿る」(2)③三島由紀夫『禁色』(二五二一三)「先生の仰言るような肉感より、僕が手紙を読んだときの感動のほうが、ずっと血が通っているような気がするんです」④「朝日新聞」(二九六三·五·二六朝)「こういう行き方こそ、血の通った政治、と即断していただきたくないことです」⑤「朝日新聞」(二九一·三·七朝)「先生の 血の通った助言を得ることで日々の悩みも彼女なりに解消しようと努めているのがよくわかる」 外国語韓国語では「ヨガ(血が)ちかけ(通う)」 ちさわ 意味あることを見たり聞いたりして、 血が騒ぐ 内に持っているものが表面化し、やりた くてうずうずし、または興奮して落ち着かない様子。 用法文型「ダレダレは(ダレナニの)血が騒ぐ」。用例 ①③のように「ダレナニ」のところに素質が入ることが 多い。 用例①「朝日新聞」(二九一・九・一九朝)「七十歳の老作家にいままた革命家の血が騒ぎ出したのだろうか」②木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(二九九六)「亜紀は若いから血が騒いだのでしょうが」③「夕刊フジ」(三〇四・三・二六)「松井も『メキシカンの血が騒いじゃったのかもね。大丈夫かな」と気が気でないが、オープン戦打率・174の松井だけに、ガルシアから『お前こそ大丈夫か』と逆に突っ込み返されるかも!?」④「朝日新聞」(三〇四・九・一八朝)「磯野家の先祖は、おはぎを38個食べて大評判をとった傑物。血が騒ぐとはこのことをさすのだろう」 <236> ちつな 血が繋がる 意味血縁関係にある。用法文型 「ダレダレはダレダレと血がつながる」 「血が(の)つながったダレダレ」 用例 朝日新聞 (三〇四・七・四朝) 父とは血がつながって いないんです」 類句血を引く血を分けた外国語韓国語では 「ぞ(同じ)ヨ(血が)ふ(流れる)」 ちからはい 意味身体的に何かをしようとする時に 力が入る 筋肉がかたくなり、それに向けた態勢に 入る。転じて、何かをする時に特に熱意がこもる。 用法文型「ナニナニに力が入る」 用例①東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九〇)「ハンドルを握る手に力が入った」②『朝日新聞』(三〇四・九・二タ)「最初にファンになった馬は、名前が同じ『レイナワルツ』。応援にも力が入り、『実況中に声が入る』と注意されたほど」③『朝日新聞』(三〇四・二〇・四タ)「純愛路線に続いてヒットするかどうかが観光も左右するだけに、『人生を幸福にするのは愛と健康』とPRにも力が入った」④『朝日新聞』(三〇四・二〇・三朝)「グワァー、グワァーとカエルの大きな鳴き声が聞こえてくると、ますますペダ 類句「力がこもる」 ルをこぐ足に力が入った」 ちからい 意味身体的な力を込める、加える。 力を入れる 転じて、いろいろある中で、特別重要 と思われることや関心事に精力や労力を注ぐ。用法 文型「ダレダレが十二に力を入れる」。「ナニナニ」 には「力を入れる」対象をとる。意志・命令表現は可能 平安 用例①野間宏「真空地帯」(一九五三)「大住軍曹は曾田一等兵のうしろにたって、両肩に手をおいてぐっと力を入れた」②三浦綾子「塩狩峠」(一九六八)「信夫はその時から、読書に力を入れようと決心した」③筒井康隆「狂気の沙汰も金次第」(一九七三)「ぼくのすぐ下の弟が恋愛結婚で、学生時代から相手は決まっているようなものだったため、母親としてはぼくの見合に力を入れたのであろう」④「朝日新聞」(三〇四・八・三朝)「最近は弁当類などの個食対応に力を入れるスーパーとの競争も激しい」 類句「心を傾ける」「精を出す」「力瘤を入れる」「力を 込める」「力を注ぐ」。反対は「力を抜く」「朝日新聞」 〈三〇四・九・三夕〉「岡本綺堂の『影を踏まれた女』を読む最中、 <237> 力を抜きながらもしっかりと舞台に立てている自分に気づいた」 意味がっかりしたり不幸な目に遭ったりして気力を失ってしまう。 用法 文型「ダレダレが力を落とす」(南北朝) 用例①徳冨蘆花『不如帰』(八九八)「父はひどく力を落 としまして後妻もとらなかったのですから、子供ながら 私がいろいろ家事をやってましたね」②「彼女は入賞を 目指していたのに、事故で試合にも出られず、力を落と している」 類句 「肩を落とす」「気が抜ける」「気を落とす」 ちからか 意味やりとげるのがむずかしいことを 力を貸す 手助けしてやる。用法文型「ダレダ レがダレナニに力を貸す」。意志・命令表現は可能。 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)「それを教えに来 た代りにというわけじゃないが、平さんも宇三郎さん たちに力を貸してやってほしいんだ」②『4年の科学』 (三〇三・八)「魔界ではきみたちのはがきを教科書に勉強中 ゼロたちの成長のために力をかしてくれ!」③「朝日新 聞』(三〇四・七・六夕)「ロブションさんはAFP通信に『アランとのもめ事は過去の話。今度は彼も力を貸してくれた』④朝日新聞』(三〇四・三・三夕)「スチュアートはヘミングウェイがユーモア作品を書くには不向きであると即座に判断し、この作品の雑誌掲載に力を貸すことはしなかった」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け船を 出す」「手を貸す」「手を差し伸べる」 ちわ 血が沸く 意味感情が高ぶる。興奮して、やる気 がみなぎる。用法文型「ダレダレは 血が沸く」 用例 決戦を前に選手は血が沸く思いをした 類句血が騒ぐ血沸き肉躍る外国語韓国語で は「ヨガ(血が)会(沸く)」 ちちあら 意味(1)相手の暴力に対し、暴力で 血で血を洗う もってやり返すという激しい争いを する。(2)血族同士が利害関係から激しく争う。用法 文型「血で血を洗うナニナニ」。修飾する形が多く、「ナ ニナニ」には「争い」「抗争」「闘争」などの語が来る。江 <238> 巨 用例(1)①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二九三)「必ず追手がかかり、欲せぬ所ながら、血で血を洗う争いをすることになる」②『朝日新聞』(二九五・五・三朝)「彼のまわりの急進主義者たちはヤケになり、喧嘩に明け暮れし、血で血を洗うような日々をくり返していた」③『朝日新聞』(二九一・二〇・三朝)「血で血を洗う闘争の続く中東に、また新たなテロが発生した」④岩城捷介『免職警官』(三〇三)「十年前、大阪の暴力団結城組と新宿の国吉一家との間で血で血を洗う抗争が吹き荒れていた」(2)⑤二葉亭四迷『其面影』(二九六)「唯一人の妹ですから、私だって何も血で血を洗うような事は仕たくありませんけど」⑥「遺産相続を巡って血で血を洗う争いが身内に起きた」 類句 (2)「骨肉相食む」「骨肉の争い」 外国語 中国語 では成句「以血洗血」(血で血を洗う) *韓国語では「可 足(血で) 呂尋スけ(まだらになる) ちなみだあせけつしょう 意味血が出るような非常な 血と涙と汗の結晶 苦心と努力の末に得た成果。 用法文型「ナニナニは血と涙と汗の結晶」 用例徳冨蘆花『寄生木』(九九)「篠原良平なる一生命 の地上に留めた血と涙と汗の結晶は此寄生木である」 たま 類句「血と汗の結晶」とも言う。「結晶」の代わりに「賜 もの 物」とも言う。「血のにじむような」 ちにく 意味経験や知識などが、う 血となり肉となる わべだけのものではなく、将 来何かの時に役に立つものとして、自分の内部にしっか りと取り入れられ蓄積されている。用法文型「ナニ ナニがダレナニの血となり肉となる」 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九三)「つまりぼくは、経済、家庭、スポーツ、麻雀、競馬といった欄はまったく読まず、広告もほとんど一部しか見ないのであるが、こういったものの中にも、ぼくの血となり肉となるべき情報が含まれている可能性だってあるわけである」②『朝日新聞』(三〇四・四・六朝)「久米さんがあいさつした。『始まったころはパソコンも携帯電話もなかった。18年も続くとは思わなかった。血となり肉となりました」 類句「肥やしになる」「血や肉になる」(朝日新聞 〈三〇〇四・七・三夕〉「自分の血や肉になっているスコットランド <239> の歴史の息吹を伝えたかった。私は帰属意識が強いんだと思 う」外国語韓国語では「ヨガ(血と)ヨガ(なり)笠ぐ (肉と)ヨガ(なる)」 地に落ちる 意味権威・威力・信頼・名声などが 何かをきっかけにして衰え失われる。 用法文型「ナニナニが地に落ちる」 (用例)①「朝日新聞」(一九九・五・三朝)「この言葉は、ロッキード事件からダグラス・グラマン事件にかけて、政治家の信頼感が地に落ちた日本の場合にも、そっくりそのまま当てはまる」②「朝日新聞」(三〇四・八・四朝)「派閥の権威も結束力も地に落ちていた」③「朝日新聞」(三〇四・九・三朝)「作り手としての矜持も情熱も捨てている。数々の名作を生んだ月9も地に落ちた」④「先生や父親の権威も地に落ちて久しい」 類句文語では「地に墜つ」と言う。 ちけおお 意味活力がみなぎっているさま。 血の気が多い また、活発で興奮しやすく、すぐ過 激な行動に出るさま。用法文型「ダレダレは血の気 が多い」(江戸) 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一塩二)「胸毛に白いものがまじっているような男に、まだ血の気の多い自分がどうして本気で血道をあげることが出来るだろうか」②中上健次『鳳仙花』(一九〇)「娘は幸一郎の性器に手をのばしいきり立ったそれが当然だというようにしごき、『やっぱし血の気が多いんよ。好きなんやねえ』と言い」類句「血気盛ん」 ちけひ 意味病気・心配・悲しみ・恐怖な 血の気が引く どから、顔の血色がなくなり、青ざ める。用法文型「ダレダレの顔から血の気が引く」 「血の気の引いた顔」 ①津本陽『深重の海』(一九七八)『弥太夫は顔から血の気が引くように感じ、一瞬視野が暗くなった』②森村誠一『人間の十字架』(一九三)『顔から血の気が引いている』③吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四)『その良和が母親を殺したとなると、川崎弘恵の教育理念を支えてきたものが根底から崩れることになる。血の気が引いた』④朝日新聞』(三〇四・九・八朝)『代わりに出た看護師と思われる女性から『亡くなられました』と教えられ、『血の気が引き、凍りつくような寒さを感じた』と振り返っ <240> たー 類句「血の気が失せる」(森村誠一「人間の十字架」〈一九三〉 「篠沢の表情から血の気が失せていった」「血の気を失う」 (森村誠一『東京空港殺人事件』〈一九三〉「いまのいままでお だやかな空の旅を楽しんでいた乗客たちは、たちまち血の 気を失い、悲鳴をあげる」(外国語)英語では the blood drains from one's face *韓国語では「ふりふり(血の気が) 外しけ(なくなる)」 ちにじ 血の滲むような 意味自分の身を痛めるほど辛 く、苦しいことに耐えて、何事 かに継続的に努力し、一生懸命打ち込むことをたとえて 言う。用法文型「血のにじむような十二二」。十二 ナニは「努力」が多い。 用例①「朝日新聞」(一九一·一·七朝)「小さい時からのテストの練習と、血のにじむような勉強の成果であろう」 ②「朝日新聞」(一九一·二〇·三朝)「検察当局が、血のにじむような努力をされていることに対し、敬意を表する」 ③「朝日新聞」(一九一·三·三朝)「民間企業は血のにじむ思いで定員を減らし、配置がえをして生き抜いている」 ④「朝日新聞」(三〇四·七·五朝)「違うのは『私は、八年間 にわたり、血のにじむような努力をしてきた』という練 習量の違いだ」⑤『朝日新聞』(三〇四・二〇・二四朝)「世界の ひのき舞台に出ていくその裏には、我々の想像がつかな いほど過酷で、血のにじむような努力があったと思いま す」 類句血の出るような外国語韓国語ではヨナ 血の)ヤぐ(出るような) ちめぐわる 意味状況から相手の言おうと 血の巡りが悪い していることや物事を察する頭 の働きが悪い。用法文型「ダレダレは血の巡りが悪 い」 用例東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九八)「時折、自分がひどく血の巡りの悪い人間のように思えることがあるのだった」 類句「頭の回転が悪い」 外国語 英語では be slow on the uptake ちあらそ 意味同じ血族であるから、同じよ 血は争えない うな性向や特徴があることは否定で きない。用法単独で使用することが多い。 <241> 用例①武田泰淳『風媒花』(一塩三)「三田村は危険な男だよ。目が放せない。やっぱり血は争えないもんだよ」 ②『朝日新聞』(一九一・二〇・三六朝)「東亜航空と合併させた強引な手法は、かって『強盗慶太』と異名を取った父親のイメージと重なって、煮え湯を飲まされた連中の間では『血は争えないものだ』と、いまもって評判が悪い」 ちみちあ 意味「血道」は血管のこと。異 血道を上げる 性・趣味・道楽、また自分の利益に なることなどに、異常に熱中する。用法文型「ダレ ダレがダレナニに血道を上げる」。用例①「なけなしの」 のように「血道」を修飾することはまれ。「江戸」 用例①石坂洋次郎『麦死なず』(一九三六)「貴様がなけな しの血道を挙げて上せあがっている出来事というのは」 ②獅子文六『娘と私』(一九五三-五六)「私は、いい気になって 野球に血道をあげていた」③舟橋聖一『ある女の遠景』 (一九二)「胸毛に白いものがまじっているような男に、ま だ血の気の多い自分がどうして本気で血道をあげること が出来るだろうか」④井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五五) 「なかにはどうしても解せない物体に血道をあげてい る男たちがいる」⑤槌田満文『文学にみる広告風物誌』 (一九六)「内田魯庵が『天狗煙草の岩谷は広告が化けた人 間だ』と評したほど、岩谷は宣伝に血道をあげた」 * 類句「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「熱を上げる」 * 「熱を入れる」 ちなみだ 意味人間的なあたたかさが全くな 血も涙もない く、冷酷非情なさま。用法文型 「ダレナニは血も涙もない」「血も涙もないダレナニ」。 ナニは行為を指す。逆に「血も涙もある」と言うことが ある。 用例①坂口安吾『心霊殺人事件』(九五四)「高利貸の後 閑仙七です。血も涙もないので名高い父ですが」②山崎 豊子『続白い巨塔』(九六七六)「大企業の元売なら法律に 詳しい弁護士を連れて乗り込み、それこそ血も涙もない 取立てだすわ」③「朝日新聞」(九六九・九・六朝)「多くの日本 人がソ連という国を心の底で信頼しえないのは、終戦時 のソ連の示した血も涙もないやり方による」④筒井康隆 『狂気の沙汰も金次第』(九七三)「残虐非道、貪虐兇穢眼 をおおうばかりの血も涙もない、畜生にも劣る殺人鬼」 ⑤高杉良『指名解雇』(九九七)「エンパイアともあろう企 業が年末のこの時期に、そんな血も涙もないことをやろ <242> うとしてるんですよ 類句「情け容赦もない」 外国語英語では cold- blooded *韓国語では「立丘(血も)と量丘(涙も)」 (ない) ちゃちゃい 意味「茶々」は邪魔のこと。冗談 茶々を入れる や冷やかしを言って、相手の話を邪 魔したりさえぎったりする。用法文型「ダレダレが ナニナニに茶々を入れる」。ナニナニは話など。用例② 「皮肉の」のように「茶々」を修飾することは多くない 江戸 用例①夏目漱石『吾輩は猫である』(一九五)「苦沙弥さ あいにく んに、よく伺おうと思って上ったら、生憎迷亭が来て いて茶々を入れて何が何だか分らなくしてしまったっ て」②有島武郎『或る女』(一九九)「そうかと思うとじっ と田川の群れの会話に耳を傾けていて、遠くのほうから 突然皮肉の茶々を入れる事もあった」③新田次郎『八甲 田山死の彷徨』(一九七)「参謀長の中林大佐が言葉を挟ん だ。師団長の長広舌に対して、茶々を入れたのである」 ④『朝日新聞』(三〇四・七・五夕)「司会の角淳一さんが『おば ちゃんというのは、大阪にしかいないんですよ』と茶々 を入れても、『貴重なので大切にしたいと思います』と余 裕の受け答え」 類句「くちばしを入れる」口をはさむ半畳を入れる 水をかける水を差す野次を飛ばす横槍を入れる 外国語英語では chip in (with something funny) ちゅうう 意味ある計画や構想、やるべきことな 宙に浮く どがなされず中途半端の状態でとまって いる。用法文型「ナニナニが宙に浮く」 用例①『朝日新聞』(一九三·二·八朝)「中山前長官が退任 前に表明した学術会議改革のための第三者機関設置も宙 に浮いたままだ」②『朝日新聞』(三〇四·九·二朝)「会社が 払っていた事故の遺族への補償金は宙に浮いた」③『朝 日新聞』(三〇四·九·二朝)「中止の2試合を除く日程を終え 三冠王をほぼ手中にしたものの、代替試合の扱いが決ま らず、タイトルは宙に浮いていた」 類句「宙に迷う」 注目を集める 意味「注目を浴びる」に同じ。 用法文型「ダレナニが(ナニナ 二で)注目を集める」。自動詞形は「ダレナニに注目が集 <243> まる 用例①『朝日新聞』(三〇〇四・四・四朝)「東京ではここ数年六本木ヒルズやら青山のプラダやら、おしゃれ建築が増殖中。『散歩』も和み系の遊びとして注目を集め、流行最先端の人はこぞって繰り出している」②『朝日新聞』(三〇〇四・八・三六朝)「数年して、渋谷系といわれたピチカート・ファイブやオリジナル・ラブが注目を集めだす。僕のやりたかった音楽をこの人たちはやすやすと形にしている」③『朝日新聞』(三〇〇四・九・三夕)「女性誌のモデルでデビューし、洋服のデザインも手がける雅姫さん。最近は好きなものを大切にするスローな暮らしぶりで注目を集めている」 外国語 中国語では成句「引人注目」(人の注目を引く) ちゅうもくあ 意味人物・物・考えなどが期待・ 注目を浴びる 賞賛・あこがれなどの意味を込め て、多くの人々に見られ関心を持たれている。用法 文型「ダレナニが(ナニナニで)注目を浴びる」 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「あばれ出したいほどかゆいのだが、お客様として注目を浴びているのだから、じっと、がまんしている他はない」②朝日 類句「注目を集める」 外国語 中国語では成句 「引人 注目」(人の注目を引く) 新聞』(三〇四・七・三夕)「今は五輪に出場することで注目を浴びてますが、今度はメダルですよね」③「朝日新聞」(三〇四・九・二朝)「デビュー作で注目を浴びた翌年」④「朝日新聞」(三〇四・二〇・三朝)「性能の良さで注目を浴びていたのが今はなじみある『ボビン』形式」 ちゅうと 意味人が空中を飛んでいく。転じて、 宙を飛ぶ 飛ぶように速く走る。用法文型「ダ レダレが宙を飛ぶように「ダレダレが宙を飛ん でする」 用例①泉鏡花「高野聖」(九〇)「件の小坊主はそのま ま後飛びにまた宙を飛んで、今まで法衣をかけて置い た、枝の尖へ長い手で釣し下ったと思うと、くるりと釣 瓶覆に上へ乗って」②有島武郎『或る女』(九九)「発車を 知らせる二番目の鈴が、霧とまではいえない九月の朝の 煙った空気に包まれて聞こえて来た。葉子は平気でそれ を聞いたが、車夫は宙を飛んだ」③津本陽『深重の海』 (一九七八)「弥太夫は宙を飛んで走った」 類句「宙をかける」とも言う。 <244> ちょうしの 意味(1)何かのはずみで勢いがついて、 調子に乗る 普段よりも行き過ぎた言動をする。お だてられたりして、いい気になって軽はずみなことをす る。(2)何かのはずみで勢いがついて、物事がどんどんう まく進む。用法文型(1)「ダレダレが調子に乗る」「ダ レダレが調子に乗ってくする」。用例②のように皮肉を こめて「お調子に乗る」と言う場合もある。(2)「ナニナ ニが調子に乗る」(江戸) 用例(1)①「朝日新聞」(二九九八三朝)「調子に乗って値上げすればたちまち消費者に離反される」②森茉莉『恋人たちの森』(二九三)「すぐお調子に乗る奴だ。それがねらわれる原因だ』③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「ちょっと調子に乗り過ぎたかなと悔やんでも、千鶴の攻撃はやみそうにない』④吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四)「同情で抱いてあげてるのに、あまり調子に乗らないでもらえますか』⑤『朝日新聞』(三〇四·九一九朝)「少し添削して送ると、『さすが師匠』とおだててくれるので、ますます調子に乗っている」(2)⑥「事業が調子に乗り、やっとくつろぐ時間ができた」 類句 (1)「図に乗る」(2)「流れに乗る」「波に乗る」 ちょうちんも 意味提灯をもって先導することが 提灯を持つ ら転じて、人の手先となってその人 の宣伝をして回ったり、ほめて回ったりする。用法 文型「ダレダレがダレナニの提灯を持つ」 用例「あんなくだらない議員の提灯を持つとは、情け ない」 類句「お先棒を担ぐ ちょうはな蝶よ花よ 意味 良家で、子ども特に女子を非常に かわいがって大事に育てるさま。 用法文型「ダレダレがダレダレを蝶よ花よと育てる」 「ダレダレは蝶よ花よと育てられる」。用例④のような子 育てと違う例はまれ。〔江戸〕 用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(二八七)「蝶 よ花よと手の窪て生育し一人ッ子は生憎病身で面付を 見れば幽霊の如く」②樋口一葉『たけくらべ』(二八九五) 「十六七の頃までは蝶よ花よと育てられ」③吉屋信子『あ の道この道』(一九四一三)「大丸家で蝶よ花よと何不自由 なく愛され尊ばれ育つべきその赤ちゃんは」④森村誠 一『新幹線殺人事件』(一九四〇)「こうなると現金なもので いままでは、蝶よ花よと下へも置かぬ扱いをしていた各 <245> テレビ局が、いっせいに背を向けた」 類句「目の中へ入れても痛くない」 外国語英語では be brought up like a princess ちょっとやそっと 意味「ちょっと」を強調し た言い方で、打ち消しを伴っ て、簡単にはいかないさま、かなりの程度であるさま。 用法文型「ちょっとやそっとでは~ない」「ちょっとや そっとの~ではない」 用例①高杉良『人事権!』(九三)「会長から商品券を もらったんですけど、それがちょっとやそっとの額じゃ ないんです」②「ちょっとやそっとでは了解してもらえ そうにない」 類句「ちっとやそっと」とも言う。 ちわにくおど 意味戦いや試合またその話や映 血湧き肉躍る 画などを見たり聞いたり読んだりし てじっとしていられなくなるくらい感情が高ぶった り全身が興奮したりするまた全身に力や勇気がみな ぎる。観戦者や当事者の心について言う。用法文型 「血わき肉躍る(といった)ナニナニ」 用例①「滑稽新聞」六六号(九四)「至誠国家を思う者、誰か血湧き肉躍って奮起鋭進せざらんや」②五木寛之「風に吹かれて」(九〇)「よく当る、ということと同時に、血湧き肉躍るといった楽しみ、すでに新聞紙上からは失われてしまった原始的な文章機能が、ここにはある」③野坂昭如『てろてろ』(九二)「老人は、ビンが、自分の手にかけた男の、詳細な記事にいっこう関心払わぬことを不思議に思わぬらしく、むしろ血湧き肉躍るといった風にこれまでの経過を報告し」④朝日新聞(九九・七・二朝)「聴いているうちに「血わき、肉躍る」感じになり、思わずからだが動き出す」 血を引く 意味 先祖・親の血筋・特徴を引き継いで いる。 用法 文型「ダレダレはダレナ 二の血を引く」 用例①本所次郎『閨閥』(三〇四)「平成七年の参院選で 東京地方区で当選する。これだけは父親の血を引いてい たのかも知れない」②「彼は武家の血を引いている」 類句血がつながる血を分けた外国語韓国語 では(血を)いのぜ(受け継ぐ) <246> ちわ 血を分けた 意味親子兄弟などの血縁関係にあ る。用法文型「血を分けたダレダ レ(江戸) 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「じぶんの血を分けた孫がそばにいても、ひとつでもやろうとしないんですからね」②『4年の科学』(三〇三・八)「実は…今までだまっていたが、お前はわたしと血を分けた親子なのだよ」③『朝日新聞』(三〇四・二・三夕)「従順でない愛人(濱田マリ=好演)まで暴力で征服するずぶとい神経の男が、やがて血を分けた息子にまで見捨てられ」 類句「血がつながる」「血を引く」 外国語韓国語で 「血を分ける」は「ヨ訔(血を)」 ヤヤ(分ける) * つ * ツーと言えばカー 意味一方が「ツー」と言え ば、他方がすかさず「カー」 と答えるように、互いに気心が通じ合っているさま。 ツーカー。用法文型「ツーと言えばカーだ」「ツーと 言えばカーのダレナニ」。ダレナニは人・人間関係を表す 言葉「仲」など)が来る。 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(三)「新聞記者なんても のはひどく敏感でツーと云えばカーだからね」②石坂洋 次郎『丘は花ざかり』(九五三)「ツーと言えばカーと答え てくれる女同士の相手がいないのが、たまらなく寂し かったの」③高見順『都に夜のある如く』(九五四五五)「ツー と言えばカーと言ったところはあったが」 類句打てば響く気心が知れる心が通う心が通じる <247> 付かず離れず 意味人・組織に対して、あまり親 しすぎることもなく、かといってそ れほど疎遠でもなく、適度な関係を保っている様子。不 即不離。用法文型「つかず離れずの十二十二」。十二 ナニは「付き合い」「関係」などの言葉。 (用例)①森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「白崎とは数年前、競馬場で知り合いました。それ以後、つかず離れずのつき合いをしていましたが」②『朝日新聞』(三〇四・三・三朝)「血縁はなくても家族であるような、それでいてつかず離れずの人間関係のありようはないだろうかと考えてみました」③『朝日新聞』(三〇五・一・三朝)「一緒に住むだけが家族じゃない。『つかず、はなれず。それがちょうどいいの』 外国語 英語では maintain a cautious distance from *中国語では成句「不即不离」(不即不離) つかどころ 意味人の性質や物事の意味などが 掴み所がない 漠然としていてどんなものなのか、 どんな人間なのか判断しようにもよくわからない。 用法文型「つかみどころがないダレナニ」「ダレナニは つかみどころがない」 用例①萩原朔太郎「海」(二九六)「しかしながら海は、 一の広茫とした眺めにすぎない。無限に、つかみどころ がなく、単調で飽きっぽい景色を見る」②高橋和巳『悲 の器』(二九三)「茫漠と、つかみどころのない悲哀が私の 胸にくすぶり」 類句「海のものとも山のものとも」「得体の知れない」 「とらえどころがない」 外国語 英語では sort of vague つきすつぽん 意味月もスッポンも丸いが、全く違うと 月と氅 ころから、二つのものの能力や価値がかけ 離れて違っていることのたとえ。用法文型「ダレナ ことダレナニは月とスッポン(ほどの違い)「江戸」 用例①石坂洋次郎『闘犬図』(一九六)「どうだ、俺のやることは余裕があって上品で貧乏人達とは月とスッポンほどちがうだろう、と言わんばかりだ」②源氏鶏太「明日は日曜日」(一九五二一五三)「あの夜の宗田さんの態度は、桜井さんのだらしなさにくらべたら、月とスッポンほどの差があったんですもの」③木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(三〇〇)「階級は松永とおんなじやけど、あんなんとは月とスッポン、釣鐘に提灯じゃ」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「雲 <248> 泥の差」「及びもつかない」「けたが違う」「天と地」「歯が 立たない」(外国語)英語では as different as night and day *中国語では成句「天壌之別」(天地の差。「別」は差) つじつまあ 意味「辻」は裁縫で縫い目が十文字 辻褄が合う に合うところ、「褄」は着物の裾の左 右が合う所。話に食い違いがなく、筋道が通っている。 物事の関係が矛盾しない。用法文型「ナニナニはつ じつまが合う」「ナニナニはつじつまが合わない」。特に 主語をとらず、全体で述部を表すことが多い。否定形が 一般的。用例⑤のように「つじつま」を修飾することは 可能。「江戸」 用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九三七)「理路も時に辻複が合わない事はあるが」②三島由紀夫『禁色』(一九五一五三)「悠一は辻複の合わない口実であったが、妻の病室へ大事な忘れ物をしたと言った」③松本清張『点と線』(一九五八五九)「佐山を呼び出したのは、お時か亮子か。もろん、はじめはお時とばかり思いこんでいましたが、お時では、どうも辻複が合わなくなりました」④朝日新聞』(一九一三三朝)「そういう地道な努力をせずに、反感をあおるようなことをするのでは、つじつまが合わな い⑤話のつじつまが合う つじつまあ 意味話に食い違いがなく、筋 辻褄を合わせる 道が通るようにする。物事のや り繰りをして矛盾がないようにする。ごまかす場合に使 うことが多い。「つじつまを合わす」とも言う。用法 文型「ダレダレがつじつまを合わせる」。用例②のよう に「つじつま」を修飾することは可能。命令・意志表現 は可能。 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六)「その夜は何ごともなく、妻は自分のことばにつじつまを合わせ」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「警察によってととのえられた据膳に、ちらりと箸をつけてみて、前後の辻つまをあわすこといがいに、検事のする仕事はなかったのである」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「実際に使うた注射でも査定に通らんのは、その価格に見合うほかの診療名目や薬の名をつけて辻褄を合わすのや」④柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「相手の話に食い違いがあったときに無理につじつまを合わせようとしてはならない」 類句 筋を通す <249> つちっ 意味相撲で負けて土俵に倒れると体に 土が付く 土がつくことから、力士が相撲で負ける 特に勝って当たり前の横綱や勝ち続けてきた力士がその 場所で初めて負けた時に言うことが多い。転じて一般に 勝負に負ける。用法文型「ダレダレに土がつく」。受 身形が可能。 用例①朝日新聞(三〇四・二・三王朝)「先場所は横綱昇進 後最多の6敗を喫した。土を付けられたのは栃乃洋、岩 木山、雅山、若の里、そして千代大海と魁皇」②「連勝 の横綱に土が付いた」 つぼぜあ えん 意味「つぱぜり合い」は 鍔迫り合いを演じる お互いが、刀の鍔を打ち合 わせ押し合うこと。ほぼ同等の力を持つ者同士が激しく 競争する。多くは二者間について言うが、用例②のよ うに三者の場合もある。用法文型「ダレダレが(ダレ ダレと)つぱぜり合いを演じる」。②「激しい」のように 「つぱぜり合い」を修飾することが可能。 用例①「朝日新聞」(一九〇・七・二〇朝)「最多勝争いは、つばぜり合いを演じている」②「朝日新聞」(一九一・六・三六朝)「一方のイースタンリーグは、首位西武と二位巨人、三位 ロッテが上位グループを形づくって激しいつばぜり合い を演じている」③『朝日新聞』(一九一・九・三朝)「昨年は伊 勢の二勝一敗、ことしもタッチの差でつばぜり合いを演 じてきただけに『二人の対決』が見られないのはちょっ とさびしい」 類句「しのぎを削る」「火花を散らす」 唖を付けるっ 味人に食べられないように食べ物に自分のつばをつけておくことから、人・物などについて、人の手に渡らないように、先に何らかのかかわりあいを作っておく。自分の所有物であることを示すためにあることをする。用法文型「ダレダレがダレナニにつばをつける」。命令・意志表現は可能用例①開高健『巨人と玩具』(二五七)『この子はまだどこも手をつけていないのかい?』合田は待ってましたとばかりに私から受けとった封筒の中身を大テーブルにぶちまけた。『私がつばをつけましたんや』彼はそういって杏子を発見したいきさつや春川のスタジオでやったカメラ・リハーサルのことなどを説明し」②森村誠一『新幹線殺人事件』(二五七)『美村派』と見られるタレントの安貞工作と、緑川派の切りくずし。中立には少しでも早くつ <250> ばをつける必要があった」③『朝日新聞』(一九一三・三・三朝) 「ソ連も宝探しにツバをつけておこうというのでしょうか」 類句「先鞭をつける」 外国語英語では have dibs on つぶそろ 意味人・物が集まった中で、質のい 粒が揃う いレベルのものがそろう。用法文型 「ダレナニは粒がそろう」。用例③「代表チームの」のよ うに「粒」を修飾することは可能。「江戸」 用例①森鴎外「杯」(一九二〇「年は皆十二二位に見える。 きようだいにしては、余り粒が揃っている。皆美しく、 稍々なまめかしい。お友達であろう」②松本清張『点と 線』(一九五八「この界隈では一流とはいえないが、それ だけ肩が張らなくて落ちつくという。しかし座敷に出る 女中は、さすがに粒が揃っていた」③「代表チームの粒 がそろっているのでメダルが期待できる」 潰しが利く 意味金属製品は溶かしてもまた再生 が利くところから転じて、ある職業 をやめて別の職業に代わってもやっていける。用法 文型「ダレナニはつぶしが利く」。用例①のように否定 形がある。 用例①椎名麟三『美しい女』(一九五五)「交通労働省というものは、どこへもって行っても、あまり潰しが利かないらしいのである」②高杉良『人事権!』(一九九三)「わたしは若い頃公認会計士の資格を取ってるから、つぶしが利くほうなんだ」 外国語 英語では have a marketable skill つぼはま 意味「つぼ」は急所・要点のこと。(1) 壺に嵌る 物事が見込み通りになる。(2)人が物事の 要点・急所をしっかり押さえて言う。用法(1)文型 「ナニナニが壺にはまる」(2)「壺にはまったナニナニ」。 ナニナニは「指摘」「意見」などの発話行為。「江戸」 用例(1)「新事業が壺にはまり大成功」(2)「彼の壺にはまった指摘にうなずく」 類句(1)「思うつぼ」「図に当たる」「的に当たる」(2)「急 *せいこく * 所を突く」「正鵠を射る」「当を得る」「的を射る」 つむじま 意味「つむじ」は、人の頭髪で渦 旋毛を曲げる を巻いたようになって生えていると <251> ころ。それが中央にない人は性格が悪いと言われることから、何らかの原因で気分を害して、わざと相手に逆らったり意地悪なことをしたり、ひねくれた行動をとる用法文型「ダレダレがつむじを曲げる」。用例②④のように「つむじを曲げられる」と受身形がある。 用例①坂口安吾『居酒屋の聖人』(九四)「この時とばかり俺のうちの糞便を汲んでくれなどと頼もうものなら、たちまちつむじを曲げて、いずれ四、五日のうちに、などと拗ねて手に負えなくなる」②山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「うっかりそんなことをして、ここで大河内教授に旋毛を曲げられてしまったら、菊川君はどうしょうもなくなってしまう、いいかね」③平岩弓枝『風子』(九五七)「最初はなにがなんだかわからないでいた芸者達も、やがて先方の希望が通訳されると、まず、立三味線の八千代がつむじをまげてしまった」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「女性からうまく話を聞き出すのはむずかしい。いったんつむじを曲げられるとテコでも口を開かなくなることがある」 類句「へそを曲げる」 つめひとも 意味ろうそくを手に入れることが 爪に火を点す できずに代わりにつめに火をともす ことから、非常に貧しい、また倹約して切りつめた生活 をする。また非常にけちで物惜しみするためとえ。「つめ に火をとぼす」とも言う。用法文型「ダレダレは爪に 火をともして「する」「ダレダレは爪に火をともすよう にする」「爪に火をともす(ような)ナニナニ」「室町」 用例①夏目漱石「道草」(二九五)「島田は吝嗇な男であっ た。妻の御常は島田よりもなお吝嗇であった。「爪に火 を点すってえのは、あの事だね」②嘉村磯多『秋立つま で』(二九三)「山葵とか筍とか果樹の類を栽培して爪に火 を点すようにして厘毛を積んでいる吾家の、しかも近年 頓に傾きかけた老父の苦衷を察して」③角田喜久雄『高 木家の惨劇』(二五七)「彼の、爪に火をとぼすような蓄財 法と同じく」④「週刊朝日百科世界一〇〇都市創刊 2号」(三〇二)「オーヴェルニュ人は、ひたすら身を粉に して働き、爪に火を点して倹約することで有名だ」 外国語英語では scrimp and save 爪の垢でも煎じて飲む 意味行いがよくないと 思われる人がすぐれた人 <252> にあやかるようにする。用法文型「ダレダレにダレ ダレの爪の垢でも煎じて飲ませたい」「ダレダレはダレ ダレの爪の垢でも煎じて飲むがいい」。他者について言 う。 用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一四〇)「僕の家内は女でもそんな卑しい心はもって居らなかった。貴女にはあれの爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいほどだ」②源氏鶏太『夢を失わず』(一六〇)「偉いな。君のツメのアカでもせんじて、喜多君に飲ましてやりたいくらいだ」③高杉良『濁流』(一九六講談社文庫版)「少しは副社長を見習ったらどう。爪の垢でも煎じて飲ませてもらえよ」 外国語 英語では take a lesson from someone 爪の垢ほど 意味ほんのわずかな量のたとえま た取るに足りないもののたとえ。 用法文型「爪の垢ほども(~)ない」。多くは後ろに否 定を伴う。用例①のような肯定形は現代ではまれ。「江 戸 用例①夏目漱石『虞美人草』(一九七)「爪の垢ほど先を 制せられても、取り返しをつけようと意思を働かせない 人は、教育の力では翻えす事の出来ぬ宿命論者である」 ②太宰治『お伽草紙』(一九四五)「それだけを気にしてわく わくして、そうして妙に客を警戒して、ひとりでからま わりして、実意なんてものは爪の垢ほども持ってやしな いんだ」③鈴木健二『ビックマン愚行録』(一九七)「およそ 社会主義国などというのは、くそまじめのこちんこちん の国で、女の色気はつめのあかほどもないと信じていた のに」 類句「蚊の涙」「雀の涙」 外国語 中国語では成句 「一星半点」(ごくわずか) つばらき 意味「詰め腹」は、強制さ 詰め腹を切らせる れて切腹すること。事件・不 祥事などの責任を、本人の意に反して無理に取らせる。 用法文型「ダレダレがダレダレに詰め腹を切らせる」 後ろのダレダレには責任を負う人物・組織などが来る。 用例③のように受身形がある。江戸 用例①菊田一夫『君の名は』第二部(一九五二五)「後宮春樹に詰め腹を切らせた形の勝則にすれば、寝覚めの悪い話だった」②『朝日新聞』(一九五九・七・三六朝)「大平首相はじめ自民党執行部が、なかば強制的に詰め腹を切らせた形で」③『朝日新聞』(一九八〇・二〇・三朝)「勝つためには、と、 <253> あさりツメ腹を切られたミスター・ジャイアンツ つらかわあつ 意味恥知らずで厚かましい。ずう 面の皮が厚い こうがんむち ずうしい。厚顔無恥。鉄面皮である。 用法文型「ダレダレは面の皮が厚い」「室町」 用例「あんな面の皮の厚い奴は見たことがない」 類句「心臓が強い」「心臓にもが生えている」外国語 英語では thick-skinned *韓国語では「まんぎ(顔の 皮が)旨(厚い) 鶴の一声 意味有無を言わせず物事を決定する権 力・影響力のある人の一言。またそれで あることがすんなりと決まったり実現したりすること。 用法文型「ダレダレの鶴の一声で~する」。その後に 決まったり実現したりする内容が来る。江戸 用例①林二九太『へのへのもへじ』(一九五三)『そんなこと訊くの、前野さんらしくないわよッ』鶴の一声を残すと、彼女はそのままサッサと出かけてしまったので」②井上靖『氷壁』(一九五六一五七)「(常磐は)ここでぴたりと語調を変えると、『岐阜へは行って来給え。休暇は五日。六日 目には社へ出てもらいたい』鶴の一声で、休暇は五日となった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三十六五)「どなたかが手を廻されて、廻り廻って、運輸大臣の佐藤万治さんの鶴の一声で、土壇場で駄目になってしまって」④朝日新聞』(一九〇・五・三九朝)「田中元首相から『今回は女性候補の〇〇をやってくれ』といわれた。ツルの一声で十万票は移った」⑤高杉良『人事権!』(一九三)「石井会長が創業者なら、そのくらいはツルの一声でなんとでもなるんだろうが」 外国語 英語では One's word is law <254> * て* テープを切る 意味「テープ」は英語 tape。競走 でゴールのテープを切ることから、 人が競走で一番、一着になる。用法文型「ダレダレ がテープを切る」。用例③のように否定形が可能。①の ように可能形がある。 用例①谷脇素文『川柳漫画いのちの洗濯』(九言)「華やかにテープが切れる新記録」②石坂洋次郎『美しい暦』(九四○)「相川ヨシ子は、一年生をおぶって走る親子競走で堂々テープを切った」③山内リエ『葦のうた』(九四九)「他所へ行ってはかつて一度もテープを切ったことのないちっぽけな選手に過ぎなかったのです」 てあ 意味(1)技量・技術が向上する。(2)字 手が上がる を書くことが上手になる。(3)酒量が多 くなる。用法(1)文型「ダレダレはナニナニの手が上 がる」。(2)(3)「ダレダレは手が上がる」「室町」 用例(1)①徳田秋声『あらくれ』(一九一五)「お島はそう言って、またハンドルに掴まった。朝はやく、彼女は独でそこへ乗出して行くほど、手があがって来た」②「三味線の手が上がる」(2)③「書道を始めて三年、かなり手が上がった」(3)④「以前より手が上がって一升瓶をかるく飲み干した」 類句 (1) 「腕が上がる」(3) メートルが上がる」 てあ 意味自分の仕事などやるべきことを 手が空く やってしまい、他のことをしたり、他を 手伝ったりする時間や余裕がある。用法文型「ダレ ダレは手があく」。「仕事の手があく」などのように「手」 を修飾することが可能。 用例①野間宏『真空地帯』(一九五三)「自分、手があいて おりますですから、四年兵殿、他にすることがありまし たらその方をやって下さい。これは自分がやっておきま すから」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—五)「次の診察日 に来て貰え、それでいけなければ、手の空いている誰か に廻すように」③柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「すぐ 病院へ行って手当てを受けなければいかん。これは福原 君よりひどいぞ。誰か手の空いている者が連れて行って <255> くれ』④『朝日新聞』(三〇四・八・六朝)「不定期だと、雨など で中止になるとそれっきり。毎週開かれるとわかってい れば、手があいたときに気軽にでかける」 類句「体があく」「手がすく」 てうしまわ意味昔、罪人が後手に縛られ 手が後ろに回る たことから、罪を犯して、逮捕 される。用法文型「(ダレダレの)手が後ろに回る」 用例①三浦綾子『塩狩峠』(九六八)「あの虎雄が、その 後どんなことに会って、手がうしろに回るようなことに なったのかと、その日一日心が落ち着かなかった」②野 坂昭如『てろてろ』(九七二)「怖いとすれば何に対して恐 れるのか、殺人発覚して手の後ろにまわることか」 類句「お縄になる」外国語英語ではbe put behind bars てか 意味面倒を見たり世話をするのに、 手が掛かる 時間や労力がかかる。やっかいだとい うニュアンス。用法文型「ダレナニは手がかかる」 「ナニナニするのに手がかかる」「手のかかるダレナニ」 ダレナニには「手がかかる」対象が来る。用例④のよう に否定形がある。〔江戸〕 用例①山本道子『ベティさんの庭』(一九三十二)「マイクは冷淡で尊大で無精者で、とにかく日本の亭主たちのように自分勝手で我が儘で、三人の息子たちより手のかかる大きな赤ん坊になってしまった」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三三)「最近、妻の実家では、その三十頭ほどの牛を全部処分してしまった。牛は手がかかる上、早朝から起きて牛の世話をするような若い人手がないためだそうである」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三三)「したがって夫婦仲は極めて円満のようだ。手が掛かるのは貫太郎だけではない」④朝日新聞(三〇四・九・一七朝)「両親は情緒的な働きかけが十分ではなく、おとなしく手のかからない子として問題性を見過ごしてきた」 類句「世話が焼ける」手が焼ける「手間がかかる」(朝日新聞《三〇四·八·六朝》(フリーマーケットは)上手に生かせば、そんなに手間はかかりません) てこ 意味人が手で作ったものの細工・技 手が込む 巧・やり方などが細かいところまで念入 りに作業をしたあとが見られる複雑さを持つ。用法 文型「手の込んだナニナニ」「ナニナニは手が込んでい <256> る」。前者のように修飾する形で用いられることが多い。 〔江戸〕 用例①山本道子『ベティさんの庭』(一九三十二三)「スリッパの底はフェルトで、爪先の部分はストロヤーンの複雑な模様編で、その縁を手のこんだ刺繍で飾ってあった」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六六)「その問いかけに手のこんだユーモアでもひそんでいるように」③中上健次『鳳仙花』(一九六〇)「フサが手のこんだいやがらせを言うと」 てかせあしかせ 意味手かせ・足かせは手・足にはめて 手枷足枷 束縛する刑具。転じて、ある行動をしよ うとする際の束縛や制限。用法文型「ダレナニが手 かせ足かせとなる」「手かせ足かせをはめる」「手かせ足 かせをはめられる」「室町」 用例①『朝日新聞』(一九一・二〇・一朝)「おまけに外務省か らは『発言はくれぐれも慎重に』と手かせ足かせをはめ られる」②『朝日新聞』(一九一・三・三九朝)「大蔵省にとって 手かせ足かせとなっていた国民生活への公共サービスの 切り詰めが着実に実行されているからです」 てっ 意味何かが極端な状態ひ 手が付けられない どい状態になって、まわりの 者がそれを制御・処置・解決などをすることができない その手段・方法がない。用法文型「ダレナニは手がつ けられない」。常に否定形で用いられる。「室町」 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)「小学生の頃の香 まま 代子は、甘えっ子で、我が儘で、怒り出すと手がつけら れなかった」②三浦綾子『塩狩峠』(一九八)「トセがいき り立つと手のつけられなくなる人間であることを知って いたからだ」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三)「親 方、自分の不注意であんたの足、駄目にしたって判った ときや、気狂いみてえになってさ、店中の石引っくりか えして、手がつけられなかったよ」④森村誠一『人間の 十字架』(一九三)「それに対して親が少しでも意見がまー いことを言おうものなら、手がつけられないほど荒れ狂 うーう「たの勢いが強くて手がつけられない」 類句「手に余る」手に負えない手のつけようがない 外国語英語では out of control *韓国語では「全言 手が」望今外欲口(つけられない) <257> て 手が出ない 意味欲しい対象が自分の能力や財力 よりはるかに上で、どうすることもで きない。逆に、あまりにひどくて欲しいと思えない。 用法文型「ダレダレはダレナニに手が出ない」(江戸) 用例①柳田邦男「空白の天気図」(九五)「いかに飢え ているとはいえ、とても苦くて二度と手が出ぬ代物だっ た」②「朝日新聞」(三〇四・三・四朝)「シリア、トルコ経由 でマレーシアに行くことを考えたが、闇の仲介業者に渡 す費用は3千弗。月収170弗では手が出ない」 類句手が届かない手に負えない手も足も出ない てとど意味手を伸ばして、対象に触れること 手が届くができるという意味から、(1)物事や人が 自分の能力・勢力の及ぶところにある。もう少しで、あ る段階やレベルに達する。(2)ある区切りの年齢などに 達する。(3)世話などが細かいところまで行き届く。 用法文型「ダレダレがダレナニに手が届く」。「ダレナ ニの手の届くナニナニ」のように修飾の形で用いられる ことも多い。用例①②④のように否定形がある。「江戸 用例(1)①辻邦生『北の岬』(一き)「私は、そんな話を ききながら、いまほどマリ・テレーズが私の手の届かな い彼方にいることを思い知らされたことはなかった」②我孫子武丸『0の殺人』(二九九)「ホテルのレストランというだけでも手の届かない存在であるのに」③「朝日新聞」(三〇四・八・一朝)「自分自身が本当に書きたい世界にはまだ手が届いていないというもどかしさをひきずりつづけていた」④「朝日新聞」(三〇四・二〇・二六朝)「そもそも『担保はあるねん!』と胸張ろうにも、いまだにイラクの石油収入には、イラク政府の手は届かない」②⑤半村良『どぶどろ』(一九七)「清吉は子供の頃からこの店へ奉公してもう四十に手が届く年になり」⑥東直己『古傷』(三〇四)「一人前の五十に手が届く男が」③⑦「妻の手が届く看病に改めて感謝する」 外国語韓国語では「ぞ(手が)미치(届く)」 手がない 意味 施す手段・方法がない。 用法 文型「~より(ほか)手がない」「江戸」 用例①高橋和巳『悲の器』(一九三)「担当事件に熱を入れない弁護士の論説、裁判所の温情をねがうより手のない極悪人つきの官選弁護人の口調は、期せずして教会調になる」②津本陽『深重の海』(一九六)「立派な考案は無けら、やっぱり下から追うて行く外に、手はなかろか」③ <258> 中上健次『鳳仙花』(一九〇)「どんなにしてもうちが出来 る事はこんな事しか出来ん。何にも他に手工ないんよ」 ④「事態を打開しようにも他に打つ手がなく、途方にく れるばかりだ」 ての 意味思わず手を伸ばして何かをしよ 手が伸びる うとする。転じて、行動・捜査範囲が そこまで達する。用法文型「ダレナニの手が(ドコド コに)伸びる」 用例①松本清張『点と線』(一九五八—五九)「佐山は課長補佐として実務に通じており、捜査の手が伸びる寸前でした」②「朝日新聞」(三〇四・七・一九朝)「こう暑いと、つい冷房のスイッチに手がのびる」③「朝日新聞」(三〇五・一・五夕)「捜査の手が周辺に伸びないようにしていたらしい」 類句「手が出る」 てはい 意味(1)警察などの捜査が入る。(2)文章 手が入る などが完成される過程で他人の訂正・加 筆が施される。用法文型(1)「ナニドコに手が入る」(2) 「ナニナニにダレダレの手が入る」(江戸) 用例 (1) ① 麻薬密売組織に警察の手が入る (2) ② 作 文に親の手が入る 類句(2)「手が加わる」「筆が入る」 外国語韓国語で は「全이(手が)ヒス(伸び届く)」 てはな 意味(1)携わっていた、関係していた 手が離れる 仕事などがし終わったり区切りがつい たりして、それと無関係になる。(2)親から見て、子ど もが成長して世話する必要がなくなる。用法文型(1) 「ナニナニの手が離れる」(2)「ダレダレから手が離れる」 用例(1)①「編集の手が離れて印刷に回っている」(2)② 「子供が高学年になり、やっと手が離れ楽になった」 てふさ 意味あることで忙しくして他のこと 手が塞がる ができない。頼まれたことを断る口実 に使うことが多い。用法文型「ダレダレは(ナニナニ で)手がふさがる」(江戸) 用例①高浜虚子『俳諧師』(九八)「貴方お茶を入れて 持って行って下さいな。今お常は使いにやったし、一寸 私たちも手が塞がっていますから」②「あいにく妻が寝 込んで手がふさがっているので、お断りします」 類句「手が離せない」 <259> てまわ 意味手配が十分行き届かない。そ 手が回らない こまでできる余裕がないというニュ アンス。用法文型「ダレダレはダレナニドコに(まで) 手が回らない」。「ダレナニの手が回らない」という形で 「手」を修飾することは可能。「江戸」 用例①高橋和巳『悲の器』(九三)「家の中はかろうじて片づいていても、庭や生垣にまでは手が廻らなかった」②星新一『ボッコちゃん』(九二)「本物そっくりの肌ざわりで、見わけがつかなかった。むしろ、見たところでは、そのへんの本物以上にちがいない。だが、頭はからっぽに近かった。彼もそこまでは手がまわらない」③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(九五)「京都までは手がまわらなかったようです」④朝日新聞(三〇四・七・二四夕)「SLはさびやすく、掃除や塗り替えが欠かせないのだが、財政難で自治体も手が回らない」⑤朝日新聞(三〇四・二・九朝)「電気や水道などはようやく復旧してきたが、雪対策には手が回らないのが実情だ」外国語韓国語では「そり(手が)そり(回らない)」 意味相手がいろいろと助けを必要と 手が焼ける するので手数がかかってやっかいであ る。またその人を扱うのに苦労する。世話がかかる。 用法文型「ダレダレは手が焼ける」 用例「子どもがまだ小さいので手が焼ける」 類句「世話が焼ける」「手が掛かる」「手間がかかる」 そうだん 意味実現できそうにない無理な頼 できない相談 み事。まとまるはずのない無理な相 談。 用法文型「ナニナニはできない相談」「江戸」 (用例)①高杉良『会社蘇生』(一九七)「筆頭株主のオーナー 社長を排斥することはできない相談であった」②内田康 夫『若狭殺人事件』(一九九三)「そんなことはできない相談 だな』③姉小路祐『走る密室』(一九九四)「増本は提案した。 『そいつはできない相談だ(略)』 外国語 英語では a tall order てき もの 意味「さる者」とは「さある者」の縮 敵もさる者 約でさすがな者。敵も強く、なかなか な者と実力を認めるニュアンス。用法単独で使用。 「敵もさる者、ひっかく者」と言うこともある。 <260> 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三0-三)「敵もさるもの、投げ倒されると同時に、長いからだをローラーのように、クルクルところがって、次にくる敵のおさえこみに空をうたせた」②「敵もさる者、簡単には捕まらない」 手薬煉を引く 意味「手ぐすね」とはくすね(松脂 を油で煮て練り混ぜた物)を手にとっ て弓の弦に塗ること。転じて、十分準備して機会や敵な どが来るのを今か今かと待ち構える。用法文型「ダ レダレが手ぐすねを引いて待つ」。用例①②③のように 「を」は略されることがある。南北朝 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八七八九)「さきほどより痛 癪の皆を釣り上げて手ぐすね引いて待っていた母親の お政は」②尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七九八)「紳士の憎き 面の皮を引き剥かん、と手薬煉引いて待ちかけたり」③ 舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「泉中氏の政治生命が 危いというんだ。反対党が手ぐすねひいて待っている」 ④『毎日新聞』(一九三・三朝)「野党各党が手ぐすねをひ いている所得税減税要求にどう対処するか」⑤木谷恭介 『京都木津川殺人事件』(一九八)「そこは闇のなかに深く かくされていて、魚津たち捜査員がちかづくこともでき ない場所で、和服の似合う凄い美女が手ぐすねを引いて 待ち構えている」 類句「網を張る」爪を研ぐ」 外国語英語では champ at the bit 梃子でも動かない 意味どんと構えてどんな にしてもその場から動かない。 また、どんなことがあっても意志・信念を変えない。堅 い決意を表す。用法文型「ダレダレは(~したら)て こでも動かない」(江戸) 用例①久保田万太郎『続末枯』(二九八)「自分でこうといい出したらテコでもうごかない鈴むらさんの相手になって」②源氏鶏太『三等重役』(二五二五三)「いったん気が向いたら、トコトンまで積極的に世話をするが、しかし、いったん気が向かなくなったら最後、たちまちそっぽを向いて、テコでも動かんといった女の美点と欠点を」③山崎豊子『続白い巨塔』(二九七六八)「安田太一という五十四、五歳の患者は、診察が終っても、裸の体のまま、梃でも動かぬ様子で坐り込んでいる」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(二九八)「鳴海はぎくっとした顔になり、『いまはでられへんのです。事務所へどうぞ』梃子でも <261> うごかない態度でいった bring up with tender loving care てしお 意味「手塩」は好みの味付け用に 手塩に掛ける 膳に置かれた塩のこと。自分の手で いろいろ世話をして大事に育てあげる。用法文型 「ダレダレがダレナニを手塩にかける」「手塩にかけて育 てたダレナニ」。ダレナニには、人のほかに、組織・計 画なども来る。江戸 用例①久保田万太郎『春泥』(九六)「子役のむかしから手塩にかけて、あれだけの立派な役者にしたことを思えば」②有吉佐和子『恍惚の人』(九三)「敏の幼い頃、昭子に代って手塩にかけてくれた姑が今いないというのが淋しかった」③城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「手塩にかけた大きな事業計画が、いま陽の目を見るべく、確実にレールの上を走っている」④森村誠一『誇りある被害者』(九六)「同時に先占者は手塩にかけて培った彼女を、最も美しく熟れた時期に他の男へ引き渡したことを櫛田が嫉妬する以上に悔しがっているにちがいないとおもった」⑤朝日新聞(九四・七・七朝)「堀氏が手塩にかけた旧江の島水族館の経営を引き継いだが」 類句「手に掛ける」「手を掛ける」 外国語英語では てだまと 意味「手玉」はお手玉のこと。相手 手玉に取る を自分の意のままに扱い、もてあそぶ。 用法文型「ダレダレがダレダレを手玉に取る」。命 令・意志表現は可能。用例④のように可能動詞形がある。 受身形が可能。(江戸) 用例①徳田秋声『仮装人物』(三五三六)「男を手玉に取るような工合には行かない」②源氏鶏太『実は熟したり」(一九五八五九)「おいおい、あんまり、僕を手玉に取るなよ」③『朝日新聞』(一九五三三・三・朝)「情報で武装した官僚たちは、外から政治家を手玉にとるだけではない」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「考えることが苦手な二十二歳の女の子に、わるがしこい行政官僚を手玉にとれるかな」⑤『朝日新聞』(三〇四・八・三夕)「この作品は、金持ち2人を手玉にとり、威張った主人をとっちめるスカパンのペテン師ぶりが見どころだ」 外国語 英語では run rings around someone ふ 意味「轍」は車輪の跡、わだち。車の輪 轍を踏む が通った跡をまた通ることから転じて、 <262> 前人がおかした失敗を後の人が繰り返す。用法文型 「ダレダレが(ダレナニの)轍を踏む」。ダレナニには「前 回」「昔」のような過去を示す語句や、過去の失敗をした 人などが入る。 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「そう云って、伊勢叔母さまを迷わしたことは知っているわ……子供心にも……あたしは、叔母さまの轍は踏まないの」②『朝日新聞』(一九七九・九・二〇朝)「三重ノ海にとって、多くの先輩のテツを踏む要素は十分にあったわけだが」③森村誠一『誇りある被害者』(一九六)「清子は彼女を開発した男と馴れ合いの癒着をしかけたのかもしれない。それに懲りて同じ轍を踏むまいしているのではないだろうか」④『朝日新聞』(三〇四・四・三五朝)「最後に言いたいことは、今の報道関係者や識者、それに野党の人たちまでが、昔の轍を踏みつつあるのではないかということだ」 類句「前車の轍を踏む」とも言う。「二の舞を演じる」 外国語 英語では fall into the same rut (as) *中国 語では成句「重蹈覆辙」(覆轍を踏む。「重蹈」は再び踏む) 意味 懇切丁寧に教えたり指導した り世話したりするさま。 用法文 型「手取り足取り~する」。副詞句として述語を修飾す る形で用いられることが多い。用例②のように「手を取 り足を取り」と「を」格が入る場合もある。「室町」 用例①「朝日新聞」(二九九・五・三朝)「手とり足とり 親切に教示してくれるタイプである」②「日経新聞」 (二九〇・二〇・三)「議員活動を手をとり足をとって教えてく れるのは派閥しかない」③高杉良『濁流』(二九六講談社文 庫版)「手取り足取り教えていただいて」④「朝日新聞」 (二〇〇四・六・四朝)「手取り足取り教えるのは簡単です」 類句「手を取る」外国語英語では take someone by the hand and teach him step by step てあせにぎ 意味緊迫した場面などを見て、ど 手に汗を握る ういう展開になるのかとはらはらど きどきする。用法文型「手に汗を握る十二十二」手 に汗を握ってする」。助詞「を」は略されることが多い。 安土桃山 用例①太宰治『右大臣実朝』(九四三)「破り棄てなさる など、それまで一度も無かった事でございましたので、 お傍の私たちはその度毎に、ひやりとして、手に汗を握 る思いが致しました」②高杉良『濁流』(九六講談社文庫 <263> 版)「主役俳優の熱演に、固唾を呑み、手に汗を握った のを憶えている」③『朝日新聞』(三〇四・八・四夕)「本作は 役どころとストーリーラインが明瞭で、美容院で気がつ くと連載誌を手に汗握って読んでいた」④「手に汗握る シーソーゲーム」 外国語英語では be on the edge of one's seat *韓 国語では「손에(手に)땀을(汗を)귀다(握る)」 てあま 意味人や仕事などが自分で対処、処理 手に余る できる限度を越えている。用法文型 ダレナニがダレナニの手に余る鎌倉 ①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「家の広いことは日々の生活には快いはずだが、今の私には手に余る」②有吉佐和子『恍惚の人』(一九三)「敏、あんなにママが頼んだのに、どうして老人ホームのことパパに言ってくれなかったの?もうママの手には余るのよ、お爺ちゃんは」③朝日新聞(三〇四・二〇・四夕)「私の考えでは、あの頃われわれが考えた進歩や発展は現在見ることができない。そしてそれは当然だという気が(気も)する。それを世界のこととして言うのはむろん私の手に余るから、一種抽象的な論として言うと」 類句「始末に負えない」「力に余る」「手に負えない」 手の下しようがない」「手を焼く」 外国語 英語では be too much for someone to handle てい 意味自分のものにする、所有にする。 手に入れる 用法文型「ダレダレがダレナニを手 に入れる」。ダレナニには、人・具体物・抽象物などあ らゆるものが入る。命令・意志表現は可能。「室町」 用例①三島由紀夫『禁色』(二五二五)「戦後ジャッキーは逸早く大磯の邸を手に入れると、馴染の外人を住まわせて経営の才をふるった」②舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「現に私の妹は、君に殺されたも同様の自殺をとげたのに、まだ懲りないで、こんどは維子を手に入れたではないか」③丸谷オー『男のポケット』(二九九)「出不精なたちで、あまり旅行はしない。切符を手に入れたり、宿屋の手配をしたり(してもらったり)の面倒を考へると、もう厭になるのだ」④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(二九〇)「人間というのは、どうしても手に入れたいもののためなら、時には異常者としか思えない行動にだって出るものなんです」⑤朝日新聞(三〇四・二・三六朝)「長田監督が(略)優勝を手に入れた」 <264> 類句「手にする」 外国語韓国語では「そん(手に)」 口(入れる) てお 意味人や仕事・状況などが自分の 手に負えない 能力を超えていて扱いかねる。 用法文型「ダレナニがダレナニの手に負えない」「江 戸 用例①安部公房「壁」(一九二)「時間はもはや手に負えないものではなく、自由自在に調節できる実に便利な道具なのさ」②「朝日新聞」(一九〇・三・九朝)「素人の手に負えない技術を要する製品の購入に当たっては」③「朝日新聞」(三〇四・九・四夕)「泣く親に『どうしてこんな体に生んだんだ」とやつあたりして手に負えないくらいグレました」 類句「力に余る」「手が付けられない」「手が出ない」「手に余る」「手の下しようがない」「手を焼く」 外国語韓国語では「(手に)召告(堪当が)吴하 (できない)「堪当」とは、よく忍耐し得ること) てお 意味(多く戦いや争いに負けたり、意 手に落ちる に反して)相手の支配下に置かれたり、 相手の所有するところとなる。用法文型「ダレナニ がダレナニの手に落ちる」「室町」 用例①三浦哲郎『結婚』(一九七)「すでに私たちは、六月の末に、郷里の島が激戦の末に敵の手に落ちてしまったことを知らされていた」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「その日の午後三時三十分、ロシア軍の軍使が日本軍陣地を訪れて降伏を申し出、旅順は日本側の手に落ちた」③吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「暗号表がロシアの手に落ちているかどうかは確認できなかった」 外国語韓国語では「今冬에(手中に) 멀어지다(陥る)」 てか 意味(1)他者から取り扱われる。(2)殺 手に掛かる される。用法文型「ダレナニがダ レナニの手にかかる」(鎌倉) 用例(1)①津本陽『深重の海』(一九七)「鮪はゴンドに比べると値が張るが、二間を越す大物でも、仲買いの手に掛かれば三、四円の浜値で仕切られる」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「解読専門家の手にかかれば、容易に機密電報の内容を察知されるにちがいなかった」(2)③「首相は暗殺者の手にかかって死んだ」 <265> てか 意味(1)自分で行う、 手に掛ける をする。手がける。(2)自分の手で殺す。 用法文型(1)「ダレダレがナニナニを手にかける」「ダレ ナニを手にかけて育てる」(2)「ダレダレがダレダレを手 にかける」「平安」 用例 (1) ① 自分が手にかけてきた仕事は最後まで見届 ける ② 我が子を手にかけて殺す怖ろしい親がいる 類句 世話を焼く 手塩に掛ける 手を掛ける 面 倒を見る て 意味手に持つ。受け取る。自分の所有 手にする にする。用法文型「ダレダレがナニ ナニを手にする」。命令・意志表現は可能。 (用例)①黒岩重吾『背徳のメス』(一九六0)「患者たちは手にした一枚のタオルを見て、クリスマスが来たことを確認した」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「彼女は道具を手にして部屋へはいって来ると」③『朝日新聞』(三〇四・七・三六朝)「レコード店で澤野レーベルのCDを手にしている人を見たときなどは」④『朝日新聞』(三〇四・九・四朝)「あなたは大人で、仕事を持ち、健康でもある。まずは自分が手にしているものをちゃんと評価してあげませんか」 類句「手に入れる」 てっ 意味他のことに気をとられること 手に付かない があったり、調子が悪かったりで、 今やるべきことに集中できない。用法文型「ダレダ レはナニナニが手につかない」(江戸) ①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「何かいつも頭がお おわれているような感じなんだ。勉強など手につかな くってねえ」②渡辺淳一『北都物語』(一九四)「みな一旦、 それぞれの机に戻ったが、御神酒が入ったせいか、仕事 は手につかない」③『ドラえもんの小学生らくらく勉強 法』(一九六六)「また体調もととのえないと根気がなくなり、 勉強が手につかない」 類句「足が地に着かない」「手がつかない」外国語 韓国語では「そん(手に)蒼きスパ(つかない)」 ててと 意味愛し合う男女が一緒にど 手に手を取って こかへ行くさま。用法文型 「ダレダレはダレダレと手に手を取って~する」二人は 手に手を取って~する「室町」 用例里見弴桐畑(二九二)岩本と園枝とは、手に手 <266> をとって亜米利加さんがいへ駆落をして了った 類句「手を取り合う」外国語韓国語では「そん(手 に)そ(手を)訂(取って)」 てと 意味まるで自分の手の中にあるよ 手に取るよう うに、またすぐ近くにいるかのよう に、状況や心などが細かなところまではっきり分かっ たり見えたり聞こえたりするさま。用法文型「ダレ ダレはナニナニが手に取るように~する」。「~する」に は「分かる」「見える」「聞こえる」などが来ることが多い 「江戸」 用例①山本道子『ベティさんの庭』(一九七十三)「そのひとつひとつの家の中の様子が、奈可子にはどれも手にとるように見えた」②柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「それを見ると、気象というものがわずか一日という短い時間の間にも、いかに多彩な変化をするかが、手にとるようにわかるから」③高杉良『人事権!』(一九九三)「洋子には石井の気持ちが手に取るようにわかる」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「二十年余の夫婦生活によって青柳には彼女の心のありようが手に取るようにわかる」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「浅見はそのとき の『犯人』の心の動きが、手に取るように分かるような 気がした」 ての 意味相手の策略にうまくひっかかる。 手に乗る 用法文型「ダレダレがダレダレの手に 乗る」。「その手に乗らない」と否定形で用いられること が多い。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二—吾)「松村が俺の謀事を見抜いて、その手に乗らなかったのにちがいない」②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「何かというと、『みんなで年寄りをいじめるのよ』と哀れっぽく持ちかけてはブウたれているけれど、その手に乗ると、向こうずねをかっぱらわれるのがオチで」③吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四)「おれが完全に油断していると見込んで土壇場で真相を刑事に告げて、おれの逮捕に踏み切らせるつもりなんだ。くそっ、そんな手に乗るか」 類句 一杯食う 一杯食わされる 術中に陥る てはい 手に入る 意味自分のもの・所有になる 用法文型「ダレナニが(ダレダレの)手 に入る」 <267> 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「舶来物が安く手に入る店なので」②辻邦生『北の岬』(一九五)「そうだ、マリアナの情報はそうして手に入ったものなのだ」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「作家というものはすべて講演ができるものであると頭から思いこんでいるようなふしがある。……喋りたいことを喋らせてもらった上、金まで手に入るのだ」④日下秀憲『ポケットモンスタースペシャル2』(一九八)「これでミュウツーが完成し…、何者をも消滅させられる力が我らの手に入るっ!!」 類句「掌中に収める」手に入れる」外国語韓国語 では「全(手に)言(入る)」 手に渡る 用例①太宰治『新釈諸国噺』(九四)川底に朽ちたる 銭は国のまる損。人の手に渡りし金は、世のまわり持 ち」②『朝日新聞』(三〇四・三・七朝)「本がみんなの手に渡 るまでにはいろんな形でお金がかかるの」 意味 別の人の所有になる。 用法 文 型「ダレナニがダレダレの手に渡る」 てくだ 手の下しようがない 意味処置をしようにもできない。用法文型「ナーナニは手の下しようがない」 用例柳田邦男『空白の天気図』(九五)藤原の指揮で 当直の十数人が消火作業に当たったが、火の勢いは手の 下しようもなかった」 類句「始末に負えない」「力に余る」「手が付けられない」「手に余る」「手に負えない」「手も足も出ない」 てのひらかえ 意味何かをきっかけにして、急 掌を返すよう に露骨に今までとは正反対の言動 をとるさまのたとえ。用法文型「ダレダレはてのひ らを返すように~する」。「てのひらを返したように」と 「た」形をとる場合もある。 用例①野間宏『真空地帯』(九五三)「検察官はこの日を 境として全く手の平をかえしたように木谷の陳述をつ がえすという態度にでてきていたのである」②山崎豊子 『白い巨塔』(九六三六五)「いくらわれわれの支持する葛西 君が振り落されたからといって、その翌日、すぐに掌を 返すように財前君を支持するような気持にはなれないで すよ」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(九九八)「は、は <268> い。ただいま、ご用意いたします』杉山は手のひらを返 したように卑屈になり、地域課の部屋を飛びだして行っ た」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九)「現に、あ の席上では口汚く罵ったではないか。それを掌を返すよ うに絶賛するなんていうのは、どうも怪しい」 類句 手の裏を返すようとも言う。手を返す 手の舞い足の踏む所を知らず り出すさま。非常にうれしくたまらないさま。出典は中国の古典『詩経』。用法文型「ダレダレは手の舞い足の踏むところを知らず」(江戸) 用例押川春浪「警戒すべき日本」(一九二〇)「日本は一躍 して世界一等国の班に列せり。余輩は手の舞い足の踏む ところを知らざりき」 外国語 中国語では成句「手舞足蹈」(手は舞い、足は踊る) てはつちようくちはつちよう 意味手先も口先も器用である。 手八丁口八丁 用法文型「ダレダレは手八丁口 八丁」(江戸) 用例 武田泰淳『風媒花』(一五三)「手八丁口八丁のこの マルクス青年をやっつけるのは」 類句「口八丁手八丁」「口も八丁手も八丁」とも言う。 出鼻を挫く 意味相手が勢い込んで話そうとする 事柄、何かをやろうとしている事柄を 邪魔して、意気込んでいた気持ちを失わせる。また相 手が調子に乗ってきた時に邪魔をしてだめにする。 用法文型「ダレナニはダレナニに出鼻をくじかれる」。 受身形で用いられることが多いが、用例⑤のように能動 形もある。「ではなくじく」とも言う。〔江戸〕 用例①高橋和巳『悲の器』(一九三)「事柄が進展するに せよ、その出鼻をくじかれて挫折するにせよ、私には 耳をふさぎたい衝動が何よりも強かったのだから」②森 村誠一『東京空港殺人事件』(一九三)「それは変だと思い ます』(略)『変?』山路が出鼻を挫かれたような顔をし た」③『京都新聞』(一九九・五・三朝)「初日、二日目の連休 は、雨が降るなどあいにくの空模様だったせいで、行楽 の足も出鼻をくじかれた形になった」④吉村達也『横濱 の風』殺人事件』(三〇四)「よりによって、大事な決意を 秘めて行った場所に、若い男ふたりがいた。それで出鼻 <269> をくじかれ、二度と死ぬ勇気が湧いてこなかったのだ ⑤『朝日新聞』(三〇四・四・一七朝)「相手の出ばなくじくた め、しゃべりで圧倒する術を身につけたのだ」 ではな 類句「出鼻を折る」「出端を叩く」とも言う。外国語 英語では kill someone's enthusiasm てあしで 意味自分の能力ではどうする 手も足も出ない こともできない。講じる手段が なく困り果てる。また動きを封じられて、何もできなく なる。用法文型「ダレダレはダレナニに手も足も出 ない」。用例③のように「出せない」と可能動詞がある。 江戸 (用例)①江戸川乱歩「吸血鬼」(一九三三)「さすがの恒川警部も、この妖術使いにかかっては、ほとんど手も足も出ないありさまであった」②「朝日新聞」(一九一・九・三王朝)「自民党の多数の力に手も足も出ないかっこうの野党」③東野圭吾『卒業』(一九六)「確認済みだよ。だからこうして見ているだけで、手も足も出せないでいる」④内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「経済的な知識のまるでない僕なんかには、チンプンカンプンで手も足も出ません」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「三人 組が扼した凶器の前に、人質たちは手も足も出ない」 類句「力に余る」「手が付けられない」「手が出ない」 「手に余る」「手に負えない」「手を焼く」 外国語 英語 では can't get to first base *中国語では成句「一筹莫展」(少しの方策も発揮できない) て 意味簡単に。たやすく。用法文型 手もなく 「手もなく~する」。副詞的に述語を修飾 する。「室町」 用例 原民喜『心願の国』(一五二)「この弾みのある、軽い、 やさしい、たくみな、天使たちの誘惑には手もなく僕は 負けてしまいそうなのだ」 類句苦もなく事もなく訳もなく でまく 出る幕ではない 意味演劇で、その役者が出る 場面ではないということから、 転じて人が出しゃばって口出ししたり、手出ししたりし て余計なことをすべきではない。自分または他者を戒め る言葉。用法文型「ダレダレの出る幕ではない」。「ダ レダレの出る幕じゃない」とも。「江戸」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「それにうちの <270> 大学には、私などよりずっと先輩のお歴々の先生方がたくさんいらっしゃるから、まだまだ私の出る幕ではありませんよ」②五木寛之『風に吹かれて』(一九五〇)「そうね。もう英雄の出る幕じゃないのよ」③我孫子武丸『0の殺人』(一九九)「俺達殺人班の出る幕じゃない」 出る幕はない 意味出ていって活動・活躍する場 がない。用法文型「ダレダレの 出る幕がない」とも言う。 用例①『朝日新聞』(一九八○・三・三朝)「英国では十八歳になれば、もう親の出る幕はないときいております」②内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「いずれにしても、かりにそっちの動機による犯行だとすれば、浅見の出る幕はない」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「あなたが自力で再就職先を探せるんなら、僕の出る幕はないが」 てあ 意味(1)候補として名乗り出る。(2)暴 手を上げる 力をふるう。(3)閉口して途中で投げ出 す。降参する。(4)技量を上達させる。用法文型(1) 「ダレダレが手を上げる」。命令・意志表現は可能。(2) 「ダレダレがダレダレに手を上げる」。(3)「ダレダレが手 を上げる」(4)「ダレダレがナニナニの手を上げる」 (用例)(1)①「朝日新聞」(三〇四・九・二四朝)「ライブドアが早い段階で手をあげ、それがきっかけになって球界の縮小が避けられたことを忘れてはならない」(2)②向田邦子『字のない葉書』(二九六)「癇癪を起こして母や子供達に手を上げる父の姿はどこにもなく」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九三)「さしもの彼も、今度ばかりは亜紀子のあまりの身勝手さに怒りを爆発させた。初めて手を上げた」(3)④「こんな難しい問題は手を上げるしかない」(4)⑤「酒の方も手を上げる一 類句 (1)「名乗りを上げる」(2)「手を出す」(3)「お手上 げ」「かぶとを脱ぐ」「軍門に降る」「シャッポを脱ぐ」「白 旗を上げる」「旗を巻く」(4)「腕を上げる」「外国語」韓 国語では「全音(手を)言(上げる)」 てあ 意味願いが叶うように祈る。また、 手を合わせる それから転じて、懇願したり感謝し たりする。用法文型「ダレダレが(ダレナニに)手を 合わせる」(鎌倉) 用例①向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「口ではあ んなことを言っているが、『どうか長男が合格しますよ <271> うに」と、腹の中で手を合わせているにちがいないのよ ②『朝日新聞』(三〇四・三・三四朝)「男性は毎日の朝食の時、 被害者の土師淳君(当時11)、山下彩花さん(同10)を思っ て手をあわせ、冥福を祈っているという」 てい 意味一応できあがっているものを、 手を入れる さらによくなるように整えたり直した りする。用法文型「ダレダレが十二十二に手を入れ る」。命令・意志表現は可能。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二一五三)「机上の燈の下でその未完の原稿を読み返していた。彼はところどころに赤鉛筆で手を入れた」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九九)「小村は、電文の内容を口述し、山座がまとめた電文に手を入れ、本多電信主任に発信を命じた」 類句「朱を入れる」「手を加える」「筆を入れる」「筆を加える」 外国語韓国語では「全音(手を)旦(見る)」 て 手を打つ 意味 (1)事前にまたは発生した問題を解 決するために適当な手段や方策を講じる (2)提示された事柄に合意する。契約が成立する。 (3)文型(1)「ダレダレが手を打つ」。用例②⑤のよう に「手」を修飾することが可能。命令・意志表現は可能 ①のように「手の打ちようがない」で、何の手段や方法 もなく、なすすべがないという意味になる。否定形が可 能。③のように「打つ手」と倒置が可能。 (2)「~で手を 打つ」。「~で」に具体的な値段や「そのへんで」などが来 る。 用例(1)①開高健『パニック』(一九五七)「日を追うにしたがって災厄が土のしたでいよいよ広範囲なものにひろがってゆくことが手にとるようにわかったが、俊介としてはなにひとつ手の打ちようがなかった」②半村良『どぶどろ』(一九七)「敬助は我慢に我慢を重ね、最後のどたん場へ来て、まったく見事な手を打ってみせたのです」③藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七)「江戸時代初期に、幕府の打った手に、大名統制策というのがある」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九)「スパイをされてることをちゃんと見抜いて、その明日香さんにも加倉井にも気づかれへんように、きっちり手を打つんとちがいますか」⑤朝日新聞(三〇四・二〇・三朝)「警察としても何とか捕らえようと必死になって、色々な手を打っているのだろうとは思いますが」(2)⑥「そのへんで互いに手を打とう」⑦「五千円で手を打った」 <272> 外国語(英語では) take the necessary measures (2) shake (hands) on it *韓国語では「全言(手を)丛口 (使う) てかしなか 意味自分の目的を達成させ 手を替え品を替え るため、あれこれいろいろな 方法を試みるさま。用法文型「ダレダレが手を替え 品を替え(て)する」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八七八九)「それよりも手を替え品を替え種々にして仕官の道をさがすが」②嘉村磯多『業苦』(一九六八)「ではお菓子を呉れてあげるから、どれ絵本を呉れてあげるからと手を替え品を替えて機嫌をとります」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「このように、手を変え、品を変えて攻められた場合、神経に異常を来さない方が、不思議である」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「矢代は手をかえ、品をかえて悠にアタックしてきた」 類句「色を替え品を替え」とも言う。「あの手この手」 外国語中国語では成句「千方百计」(あらゆる手段を尽 くす) てか 意味(1)手間と時間をかけて十分に面 手を掛ける 倒を見る。(2)手出しをする。危害を加 える。用法文型「ダレダレがダレナニ(すること)に 手をかける」 用例(1)三島由紀夫『禁色』(一九五一五三)「実によく仕込 まれた犬、或る習慣の力にすぎない智慧の集積、そうい う印象が彼女の生来の美しさをさえ、何か丹念に手をか けて作られた植物の美しさのように見せた」②山本道子 『ベティさんの庭』(一九七二七三)「手をかけさえすれば、胡 瓜や茄子は家族だけで食べるには充分過ぎるほどの実を つけた」(2)③『朝日新聞』(三〇四・二〇三朝)「長男は将来を 悲観して、両親に手をかけた」④『朝日新聞』(三〇五・一・六 朝)「なぜ7歳の女の子に手をかけたのか」 類句 (1)「世話を焼く」手塩に掛ける手間をかける 面倒を見る てか 意味仕事やお年寄り・障害者などを手 手を貸す 助けする。手伝う。用法文型「ダレ ダレがダレナニに手を貸す」。命令・意志表現は可能。江 戸 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「悠一はあたかも <273> 妻が、彼の心の奥底の衝動を見抜いていて、それに手を貸そうとしているかのような奇怪な想像に襲われたが」②三浦哲郎『結婚』(二六七)「こんな力仕事になると、父親はそばで見学しながら文句ばかり並べていて、ちっとも手を貸してくれないものだと心得ているふうな口振りである」③半村良『どぶどろ』(二九七)「普通ならば目の不自由な者に俺たち目あきが手を貸してやるところでしょう」④朝日新聞(三〇四・二・六朝)「銀行が国債を買っていれば、国の尻拭いに手を貸す行為ともいえる」⑤「段差があって上れない車椅子の人に手を貸す」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け舟を 出す」「力を貸す」「手を差し伸べる」「外国語」韓国語で は「全을(手を)ぎにけ(貸す)」 てか 意味手助けをしてもらう。手伝って 手を借りる もらう。 用法文型「ダレダレがダ レナニの手を借りる」。ダレナニは援助する側。命令・ 意志表現は可能。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九二一五三)「俊輔自身は生来 の無趣味から、皿や料理にもつかしい好みがあるわけで はなかったが、懇望にほだされて、人を招くときは彼の 手を借りるならわしである」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「さらに暗号表を手にしたロシア側ではアンセルの手を借りることなく解読作業を行っていた」③『朝日新聞』(三〇四・二・一九夕)「こんな時こそ手を借りたいのだが……』。新潟県中越地震の被災地を思って、ぐっと言葉をのみ込んでしまう」 外国語韓国語では「全音(手を)ぎ(借りる)」 てき 意味今まで関わっていたものとの関係 手を切る 特に男女関係や好ましくない関係を断ち 切る。用法文型「ダレナニがダレナニと手を切る」。 後ろのダレナニには、今まで関わっていた対象が来る。 用例④のように使役形が可能。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)「寿代さ んと手を切った」②三島由紀夫『禁色』(一九五一吾)「今後 一切、私とは手を切ってもらいたい。私の方も未練は決 して見せない」③源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五一吾)「太 郎が路子と早く手を切った方がいいのではないか」④森 茉莉『恋人たちの森』(一九三)「ギランが、学校をサボっ て愚連隊の仲間に入っていたレオを仲間と会い手を切ら せ」 <274> 類句「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」外国語 韓国語では「全音(手を)号(切る)」 てくだ 意味人に任せずに、自分が直接ことを 手を下す 行う。用法文型「ダレダレが手を下 す」。命令・意志表現は可能。(鎌倉) 用例①大岡昇平『俘虜記』(九四八)「これは例えば、自分が他人を殺すと想像して感じる嫌悪と、他人が他人を殺すと想像して感じる嫌悪が全く等しいのを見ても明らかである。この際自分が手を下すという因子は必ずしも決定的ではない」②『朝日新聞』(九〇・四・二七朝)「自ら正面切って手を下すのはためられる事情があった」③森村誠一『人間の十字架』(九三)「会長が命令したり、手を下したりされたわけではありませんよ」 てこまぬ 意味本来は腕組みをする意。転じて、 手を拱く 何かすべきことやできることがあるのに、 何らかの理由でぐずぐずして何もしないで傍観する。出 典は中国の古典『戦国策』。用法文型「ダレナニが手 をこまぬいて~する」。用例①のようにナニが来ること はまれ。「手をこまねく」とも言う。江戸 用例①高橋和巳『悲の器』(九六三)「それらの犯罪が、 予知される場合もなお手をこまねいて傍観せねばならぬ 現行警職法は」②柳田邦男『空白の天気図』(九五)「消 火の方法もなく手をこまねいて見ているだけだった」③ 『朝日新聞』(三〇四・二〇四朝)「和歌山県教委は『手をこま ぬいてはいられない』と平山教授を教員向け講師として 招いている」 外国語 英語では with one’s arms folded *中国語では成句「袖手旁观」(手を袖の中に入れて傍観する) てさの 意味困って自分ではどうする 手を差し伸べる こともできない状態にいる者に 対して、援助をする。手助けを申し出る。用法文型 「ダレナニが(ナニナニの)手を差し伸べる」。用例②③④ 「人間らしい」「救済の」「救いの」のように「手」を修飾 することは可能。命令・意志・受身表現は可能。 用例①高橋和巳『悲の器』(九三)「人の堕落は、その 断崖からの転落であり、みずからの心の中の陷穽ゆえに、 他者が手をさしのべるべき手段はない」②森村誠一『新 幹線殺人事件』(九五)「その彼に初めて人間らしい手を さし伸べたのが、美村紀久子であった」③朝日新聞 <275> (三〇四・二〇・二〇朝)「国家は、市場の横暴にタガをはめ、社 会福祉や生活扶助などで手厚い救済の手を差し伸べる必 要があるというのだ」④『朝日新聞』(三〇四・二・三六朝)「か ねて持論としてきた『13勝以上が目安』という昇進条件 を下げて救いの手をさしのべた」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け舟を 出す」「力を貸す」「手を貸す」「外国語」韓国語では「全 (手を)唄(差し伸べる) てそ 意味自分が実際にある行為を行った 手を染める り、仕事・事業・活動などに関わった りするようになる。良いことにも悪いことにも言うが、 悪いことに言うことが多い。用法文型「ダレダレが ナニナニに手を染める」。ナニナニには関わりをもつ対 象が来る。 用例①半村良『どぶどろ』(二九七)「それにもともと武家の間には、直接金銭のことに手をそめるのを嫌うならわしがあったろう」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「もう政治に手を染めるのもいやになった齢になって、やっと自分のやる事がわかったと喜んでいると言った」③東野圭吾『美しき凶器』(一九三)「仙堂君はドーピングに手を染 めていたらしいと④朝日新聞(三〇四・九・四夕)「島の 再開発に手を染めようとする元教え子」 類句「手を出す」「手をつける」 てだ 意味(1)自分から働きかけてかかわり合 手を出す いを持つ。(2)性愛の対象として、(本来関 係を持つべきではない)人に自分から働きかけて関係を持 つ。特に女性と関係を持とうとする。(3)他人のものを盗 む。(4)暴力を振るう。用法文型「ダレダレがダレナ 二に手を出す」。ダレナニに働きかけの対象をとる。命 令・意志表現は可能。 「用例」(1)①吉村昭『ポーツマスの旗』(二九九)「寛は家運の挽回をはかって木材の伐採・販売に手を出したが」②朝日新聞』(三〇四・二〇三朝)「グランド社の会員には、複数のマルチ商法に手を出していた人が目立つ」(2)③三浦綾子『塩狩峠』(二九六)「人妻に手を出しても、未婚の乙女に手を出しても、これは法律にふれることになると信夫は思う」④星新一『ボッコちゃん』(二九二)「いくら人類愛、郷土愛、民族愛にもえていたって、かつて自分のワイフに手を出した男を助けるバカなどあるものか」⑤龍一京『交番』(三〇四)「警察官なら他人の女房に手を出し <276> ていいのか」(3)⑥三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「人の月給 に手を出すより罪は重いぜ」⑦柳田邦男『空白の天気図』 (二九五)「ある日、江波山の高射砲隊の倉庫の備品に手を 出そうとした若い隊員がいた」(4)⑧「先に手を出した方 が負けだ」 類句(1)「手を染める」「手をつける」(2)「手をつける」(3)「手をつける」(4)「手を上げる」外国語韓国語では「全音(手を)中口(つける)」 てっ 意味よい結果になるように方法を考 手を尽くす えてできるかぎり努力して対処する。 用法文型「グレグレが手を尽くす」「グレグレが手を尽 くしてする」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例①松本清張『点と線』(一九五八五九)「いろいろと手をつくしましたが、なにぶん以前のことではあるし、宿帳には偽名が多く、また、記帳を出さないふとどきな旅館もあるので、現在のところ手がかりがありません」②辻邦生『北の岬』(一九五〇)「最後まで手をつくしてラウルの生命をまもりぬかなければならない」③『朝日新聞』(三〇四・八・七朝)「八方手をつくしてオーナーをさがした」類句「最善を尽くす」 てっ 意味(1)何かにとりかかる。着手する。 手を着ける (2)本来使うべきでないお金を使う。使 い込む。(3)供されたものを食べ始める。(4)身分的に上位 の男性が下位の女性と関係を結ぶ。用法文型「ダレ ダレがダレナニに手をつける」。「手を付ける」とも書く。 用例(1)①柳田邦男『空白の天気図』(二九五)「吉田の話 だと、市役所は職員がほとんど集まらないため、災害復 旧にどこから手をつけてよいかわからないでいるようす だったという」②『朝日新聞』(三〇四・八・六夕)「演劇はす でにほかの都市が手をつけていたが、コンテンポラリー ダンスを取り上げるところはまだ無く、差別化が図れる と考えた」(2)③平岩弓枝『風子』(一九五十七)「無駄遣いを しない風子のことで、新橋で働いた二年の間に、貯金が 三百万ほど出来ている。これだけは手をつけないように して、いつか嫁入りの時に持たせてやりたいと思い」(3) ④山本道子『ベティさんの庭』(二九七十三)「硝子のテーブ ルには洋酒の用意がされてあるのに、高志はそれに手を つけていなかった」⑤『朝日新聞』(三〇四・九・九夕)「魚料 理には手をつけないことに気づいた料理人が」(4)⑥筒井 康隆『狂気の沙汰も金次第』(二九七三)「旦那が女中に手を つけるのは、あれはやはりエプロン姿に性的魅力を感じ <277> たためではないだろうか ⑦内田康夫『博多殺人事件』 (一九二)「女好きの利兵衛が早晚、手をつけるであろうこ とは、周辺の者は誰もが予測していた」 類句(1)「手を染める」「手を出す」(4)「手を出す」 外国語韓国語では「全音(手を)中口(つける)」 てと 意味相手の手を自分の手の中に収める 手を取る ということから、懇切丁寧に教える。用 例②③のように受身形になると、人手をとられるという 意になる。用法文型「ダレダレが手を取って~する」 「ダレナニがダレナニに手を取られる」。受身形が多い。 平安 用例①島崎藤村『夜明け前』(二九九)「勅使下向上なって、慶喜公は将軍の後見に、越前公は政事総裁にと、手を取るように言って教えられて、ようやくいくらか目がさめましたろうさ」②瀬戸内春美『女徳』(二九六三)「奥のさわぎに手をとられるのか、亮子たちの部屋は、料理だけが次々に運ばれてきて、誰もよりつかない」③朝日新聞(三〇五・一・一五朝)「弟が生まれると親は弟に手をとられることが多くなり、祖父母に甘えることが多かったですね」 類句手取り足取り てにぎ 意味(1)共通の目的のために協力して事 手を握る に当たる。同盟を結ぶ。(2)仲直りをする。 用法文型「ダレダレがダレダレと手を握る」。命令。 意志表現は可能。 (用例)①朝日新聞(三〇四・九・一九朝)「東宝の、松竹か らの長二郎引き抜き騒ぎが背景で、のちの大映社長、永 田雅一の犯人教唆がいわれた。しかし後年、長二郎改め 長谷川一夫と永田は手を握る」(2)②「ここらで両者は手 を握って過去は水に流そう」 類句(1)「手を結ぶ」 外国語韓国語では「全을(手を) 殻(取る)」 てぬ 意味やるべきことをきちんとやらず、 手を抜く いい加減にやる。手間や労力を惜しんで 適当にする。用法文型「ダレダレが(十二十二の)手 を抜く」。否定形・命令・意志表現は可能。「江戸」 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「仕 事の手を抜くことはできない」②城山三郎『毎日が日 曜日』(一九五)「自然条件以上にこわいのは、人間の側 <278> が、手を抜き、意欲を失うことであった」③「朝日新聞」(三〇四・二〇・一夕)「謝礼のあるなしで手を抜く医師などあり得ないなど、その回答は明快だ」④「朝日新聞」(三〇四・九・三王朝)「自分の中の『老い』に対しても決して手を抜かない。昔話をせず、いつも『明日』だけを見ている」 類句「骨を惜しむ」(外国語)英語では cut corners *韓国語では「全을(手を)剛口(抜く)」 てぬ 意味自分では直接何も苦労せず。 手を濡らさず 多くは自分の利益につながることに 言う。用法文型「ダレダレはダレダレの手を濡らさ ずする」。「手も濡らさず」とも言う。「室町」 用例「あいつは少しも自分の手を濡らさず、うまい汁を吸おうとしている」 ての 意味手を伸ばして何かを行うことか 手を伸ばす ら転じて、今までしなかったことを新 たにやってみる。行動範囲を今まで以上に広げて進出 する。本業以外の仕事や他人の範囲にまで進出する。 用法文型「ダレダレがダレナニに(ナニナニの)手を伸 ばす。命令・意志表現は可能。江戸 はっ 用例 辻邦生『北の岬』(一九五)「私はその不安を癒そう として、図書館にこもり、長い読書をした。心理学の本 を開いたり哲学を読みあさったり、民俗学にまで手をの ばしたりした」 類句「手を広げる」 てはな 意味自分が今やっていることから離れ 手を離す て他のことをする。用法文型「ダレ ダレがダレナニから手を離す」。用例①のように可能動 詞がある。③のように可能動詞の否定形が可能。命令・ 意志表現は可能。 用例①野間宏「真空地帯」(一九五三)「曾田は今日は昼飯の時間までに予定しただけの仕事をやりおえ、ようやく仕事から手がはなせるときがきても」②野間宏「真空地帯」(一九五三)「勿論その頃はまだ家に人でがあったので家事の責任を母親が一日も手をはなさずもたなければならないというようなことはなかったわけである」③山崎豊子「白い巨塔」(一九三一六五)「何?出発前の多忙さで手が離せない」 外国語韓国語では「(手を)叫(離す)」 <279> てひ 意味かかわることをやめる。従事して 手を引く いたことをやめ、身を引く。用法文 型「ダレダレがダレナニから手を引く」。命令・意志表 現は可能。用例①のように可能動詞がある。②のように 受身形が可能。〔江戸〕 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「あれこそは青年のあらゆる美の持主であり、人生の日向の住人であり、(略)女を愛し女に愛されるように生まれついた男だ。あれなら安心して手を引ける」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一六二)「維子は拒むくせに、こうして男にあっさり手を退かれてしまうと、寂しくて物足りなかった」③津本陽『深重の海』(一九六八)「弥平は、いまさら鯨方から手を引き残存の諸道具を売払っても、僅少な金額しか戻ってこないことを、理解していた」④東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「今年になって、それに関する研究からすべて手を引いた」⑤「朝日新聞』(三〇四・二〇・五夕)「女たちが男たちから手を引いてしまうことに気がついていない」 類句「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」 「身を引く」「外国語」英語では back out *韓国語で は「全을(手を)刪け(引く)」 手を広げる 意味 行動範囲を今までより広げて活 動する。仕事の規模を大きくする。 用法文型「ダレナニがナニナニに手を広げる」(江戸 用例①「朝日新聞」(三〇四・九・三七夕)「霞が関の官僚から 三重県知事選に立候補した村尾信尚さん(48)が敗れて から1年半になる。今は関西学院大学教授の職の傍ら、 市民活動にも手を広げる」②「朝日新聞」(三〇四・三・三王朝) 「甘い需要予測で事業を始め、途中でさらに手を広げる」 類句「手を伸ばす」 てまわ意味(1)目的を達成するために、うまく手を回すことが運ぶように表だたないような形で関係者に挨拶したり頼んだりして事前の対処をする、手段を講じる。(2)手を尽くして探る。用法文型「ダレダレがダレナニに手を回す」。命令・意志表現は可能。用例(1)①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「どなたかが手を廻されて、廻り廻って、運輸大臣の佐藤万治さんの鶴の一声で、土壇場で駄目になってしまって」②吉村昭「ポーツマスの旗」(一九九)「ドイツに多数入りこんでいるロシア高等警察探偵吏が、ドイツ警察の便宜をうけて電信局内に手をまわし、公使館の受発信の電文の写しを <280> 取得している形跡があることをつかんだ」(2)③松本清張 『点と線』(一九五八—五九)「石田部長は進行している省内の汚 職事件に神経をとがらせているときだから、慎重にした 方がいいというのが主任の意見だった。わかったよ、と 言ったのは、ほかから手をまわして調べた結果の意味 だった」 類句(1)手を打つ「渡りをつける」 てむす 意味ある事柄を進めて行くために、相 手を結ぶ 手と協力関係を結ぶ。用法文型「ダ レダレがダレダレと手を結ぶ」。命令・意志表現は可能。 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(九七)「京都政 界は薩摩と会津が手を結んで、リードすることになった が」②吉村昭『ポーツマスの旗』(九九)「日本も、世界屈 指の軍事大国であるイギリスと手をむすぶことによって 地勢上、日本の安全をおびやかす清国、韓国へのロシア の軍事的進出を牽制しようとする意図をいだいていた」 ③内田康夫『歌わない笛』(九九)「室口氏が倉敷の総合 芸術大学構想の推進者であることはご存じのことと思い ます。それに対して笹倉氏は津山音楽大学の後援者。こ の二人が裏で手を結び」④広山義慶『私刑警察激弾!』 (三〇二)「貝島元大蔵大臣と、霞が関にクモの巣のように 情報網を張りめぐらせたといわれる竹上元総理が手を結 べば、いかなるメカニズムも組み立てられるでしょう」 類句「手を握る」外国語韓国語では「全音(手を)舎 (取る) てや 意味扱ったり対処したりするのにて 手を焼く こずる、困る、苦労する。用法文型 「ダレダレがダレナニに手を焼く」。用例④⑤のように 「手を焼かせる」と使役形で使うこともある。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「仲人の夫婦がこの大人しい子供っぽい新夫婦の世話に手を焼いていた」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八五九)「あれには、わしも、手を焼いている」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「事務局に、あんな電話をかけて来るとなると、相当な女だから、ことによると君も手を焼いているんじゃないかな?」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九二)「おそらく仙石のことだ、ノラリクラリと曖昧な供述をして、刑事の手を焼かせているにちがいない」⑤朝日新聞(三〇四・二・九朝)「これがワアワア騒いでみんなの手を焼かせた義母なのかしらと、変貌ぶりに驚いた」 <281> 類句「始末に負えない」「力に余る」「手がつけられない」「手に余る」「手に負えない」「手の下しようがない」 意味今やっている作業や仕事などを 手を休める 一時的にやめて、休憩する。用法 文型「ダレダレが(十二ナニの)手を休める」。用例①の ように否定形が可能。 〔用例〕①黒岩重吾『背徳のメス』(二六〇)「詰所の中では 信子一人が、手を休めず黙々とカルテをめくっていた」 ②柳田邦男『空白の天気図』(二九五)「仕事の手を休める と説明を加えた一 類句「手を止める」「一息つく」外国語韓国語では 「全을(手を)分け(休める)」 伝家の宝刀 意味本来は、代々その家に伝わる大 切な刀の意で、それから転じて、普段 は隠しておいて、ここぞという大事なときに使う手段・ 事柄。用法文型「伝家の宝刀を抜く」。また名詞句と して、さまざまに用いられる。江戸 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)『離婚訴訟は、面倒なのだ。今それをやれば、反対党の好餌となる』伝 家の宝刀が出た。それを云われりゃ、女はグウの音も出 ません』②『朝日新聞』(九九・三・六朝)「背負投げを伝 家の宝刀として来た藤猪選手』③『朝日新聞』(九〇・七・三 朝)「愛のムチが伝家の宝刀ではなく、日常茶飯になっ ている世界にはどこかゆがみがある」④『朝日新聞』 (三〇四・二〇・三朝)「このため、従業員側にあるストという 伝家の宝刀は、すっかりさび付いてしまったのだ」 類句「奥の手」 天にも昇る 意味自分の身にはとてもありえない ようなことが起こって非常にうれしい 様子、うきうきした気持ちのたとえ。用法文型「天 にも昇る(ような)気・気持ち・心地」。後ろの名詞を修 飾する形で用いられることが多い。用例②のような「天 へも」はまれ。「室町」 「用例」①太宰治『新釈諸国噺』(二四)「才兵衛はただもう天にも昇る思いで、うれしくてたまらず」②福永武彦『忘却の河』(九児)「あの人が親切に一緒に来ないかと言ってくれた時は天へも昇るような気がした」③高杉良『会社蘇生』(九七)「念願の小川商会に採用が内定して天にも昇る心地になっていた」④我孫子武丸『0の殺人』 <282> * と * 天秤に掛ける 意味(1)二つのうち、どちらかを選ばなければならない時、両者のプラス面・マイナス面、優劣・損得をあれこれ比較し考慮する。(2)対立しているどちらが有利になっても、自分に有利になるように両者に関係をつけておく。用法文型ダレダレがダレナニとダレナニを天秤にかける」 用例(1)①高杉良『会社蘇生』(一九八七)「西北とシアーズを天秤にかけている」②『YANASE LIFE』(三〇四年一二三月号)「しんどいしツラいのは当然なんだけど、天秤にかけたとき、楽しいが勝ってないと上達しないし前に進まないと思います」(2)③「二人を天秤にかけて、どちらにも贈り物を贈っている」 類句(1)「はかりにかける」(2)「両天秤にかける」 外国語 英語では weigh the advantages of 何奴も此奴も 言う俗語。 用法文型「どいつもこいつも~だ」「江戸」 用例①石坂洋次郎「光る海」(一九三一六三)「ママの生んだ 子はどいつもこいつも抜け目がないや」②大沢在昌「心 では重すぎる」(三〇〇)「いっしょですね。どいつもこい つも」 かぜふまわ 意味どのような成り どういう風の吹き回しか 行きでこのようになっ たのか。物事の成り行きの意外さを言う表現。用法 文型「~とはどういう風の吹き回しか」「どういう風の 吹き回しか、~」 用例①樋口一葉『別れ霜』(八九三)「お珍らしやお高さ ま今日の御入来は如何いう風の吹きまわしか」②内田康 夫『博多殺人事件』(一九九二)「大島さんが当社にいらっしゃ <283> るとは、どういう風の吹き回しかな?③高杉良『指名 解雇』(一九九七)「メーカーの採用担当課長風情に身銭を切っ て奢ってくれる教授は例外中の例外だ。どういう風の吹 き回しだろう」 外国語 英語づきは What brought this on? とうかくあらわ 意味人よりひときわすぐれた才能・ 頭角を現す 技芸が目立って出てくる。出典は中国 の古典『韓愈』柳子厚墓誌銘。用法文型「ダレダレが 頭角を現す」 用例①佐藤春夫「わんぱく時代」(一九五八)「満十歳にちかくなって高等小学校へ入るようになってから、やっと少しは頭角をあらわしはじめた」②「朝日新聞」(一九一・三六朝)「千代の富士が奮起し、頭角を現したのはちょうどそのころからである」③東野圭吾「仮面山荘殺人事件」(一九九〇)「朋美は幼い頃からバレリーナを目指していたということだった。そして最近では、所属するバレエ団でも頭角を現してきたらしい」④吉村達也「横濱の風」殺人事件」(三〇〇四)「そして、新天地でもみるみる頭角を現して、いまや営業部長のポストに就いていた」 外国語英語では stand out (above) *中国語では慣用句「露头角」(頭角を現す。「露」は現す、「头角」は頭角) とうた 意味「とう」はフキやアブラナなどの 薹が立つ 花茎のことで、花期に花茎が伸びて固く て食べられなくなることから、転じて人が盛りの年齢 を過ぎてしまう。男女の結婚の時期についても言う。 用法文型「ダレダレはとうが立つ」(江戸) 「用例」①高杉良『人事権!』(一九三)「洋子はとうが立つ 年齢だが」②森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(一九九) 「二十七歳はホストとしては薹が立っている」③木谷恭 介『京都小町塚殺人事件』(三〇三)「年齢は四十八か九、 ちょっとトウが立ってるけど、ダンディなフェミニスト で」 峠を越す 意味気候の厳しい時期、人・組織など の最も大変な忙しい時期、あるいは最も 難しい・危機的時期を過ぎて先の見通しがつくようにな る。また、人気や人の最も盛んな時期を過ぎて衰え始め る。 用法文型「ダレナニが峠を越す」 用例①朝日新聞(一九五七・八・八朝)「暑さもこれで峠を <284> 越しこれからの暑さは残暑ということになる」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「もっとも私の病気は肺炎の一歩手前でどうやら食い止められ、美佐子が飛行機を使って割に早く駆けつけた時には、もう峠を越していた」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「気象台では暴風雨が峠を越してからも、臨時観測が続けられた」④『朝日新聞』(一九七九・七・三王朝)「歌謡曲『岸壁の母』をヒットさせた二葉百合子も、興行的には峠を越した感じ」⑤西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(三〇〇)「入院患者の多くが、快方に向かって、家に帰っております。峠は、越したと、私は考えています」 類句「峠を越える」とも言う(『朝日新聞』(三〇四・三・二朝〉「不良債権問題は峠を越えたということでしょうか」) 外国語仕事などの場合はget(be) over the hump病気の場合はpass the crisis、人気や人生の場合はhave peaked の ふ い 意味「堂に升りて室に入る」の略で、 堂に入る 学問・技芸がよく身について深奥を極め ている。また、すっかり慣れて心得ている。技術や、態 度・様子などがそのものにふさわしく、ベテランの域に 達している。用法文型「ナニナニが堂に入っている」。 文末では「~ている」形で用いられることが多い。修飾 する場合は「堂に入ったナニナニ」と「~た」形も可。 用例①源氏鶏太『青空娘』(一九五六十五)「彼の運転振りは、すっかり、堂に入っていて、すこしの危なげもなかった」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「チャンはその仕事が好きだし、その仕事にかけては誰にもひけをとらない。抱き方も、堂に入っている」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「瀬川の司会ぶりは堂に入っている。どこへ出しても通用するよ」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「圧倒的な声量で歌った『フィガロの結婚』のアリアの一つはプロのオペラ歌手が真っ青になるほどの堂に入った歌いぶりであった」⑤朝日新聞(三〇四・二〇三朝)「身だしなみがこざっぱりとし(アヤコ義姉さんありがとう)、英会話も堂に入っていた」 類句「板に付く」「様になる」「年季が入る」 当を得るとうえ 意味発言ややり方などがその状況で もっともふさわしく適切である。 用法文型「当を得たナニナニ」。文末では「ナニナニは当を得ていた」と「テイル」形で用いられる。 <285> 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「これは現在の登山術でいうところの極地法であり、最も当を得た手段であった」②森村誠一『東京空港殺人事件』(二九二)「その小室由紀子とかいう美人は、生活に困るのかね?』那須警部が当を得た質問をした」③『朝日新聞』(一九九六・六・三王朝)「これらはいずれも当を得たことで、テレビづけや電力消費の悪習を是正する好機といえないことはない」 類句「急所を突く」「正鵠を射る」「つぼにはまる」「的 を射る」。反対は「当を失する」 意味予想もつかないような(すごい ことをしてひどくびっくりさせる。 用法文型「ダレダレはダレダレの度肝を抜く」。受身 形「ダレダレは(ダレナニに)度肝を抜かれる」がよく使 われる。〔江戸〕 用例①野間宏『真空地帯』(一九五三)「准尉の荒々しい声は二人の身体をすくませたが、隊長もまたその声によってどぎもをぬかれたようだった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—五)「幸先のええ滑り出しやと喜んでいたのも束の間で、今日の大河内さんの証言にはど肝をぬかれ ましたわ」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「徳 島大尉の叱咤は案内人の度肝を抜いた」④「朝日新聞」 (二九〇・七・三朝)「九連続三振という快投を見せてファン のド肝を抜いたのは記憶に生々しい」⑤内田康夫『博多 殺人事件』(二九二)「総額二千六百億円の『レインボードー ム計画』は、九州財界人の度肝を抜いた」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表をつく 「裏をかく」「一泡食わせる」「一泡吹かせる」 「外国語 英語では blow someone's mind くすり 意味他の人に与える影 毒にも薬にもならない 響が特に良くも悪くもな い。有害でもないが、役にも立たない。あってもなく てもどうでもいい場合に言う。用法文型「ダレナニ は毒にも薬にもならない」。常に否定形で用いられるが 用例⑤のように意図して肯定形で用いられる場合もまれ にある。「毒にも薬にもならぬ」とも言う。「江戸」 用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(八七)「一寸 合の手に月と亀と云う根も葉もなく毒にも薬にもなら ぬ事を一席弁してお笑い草と致しましょう」②夏目漱 石『道草』(九五)「毒にも薬にもならない世間話を何 <286> 時までも続けて動かなかった」③石坂洋次郎『光る海』 (一九六二六三)「毒にも薬にもならない作品をたくさん書いて 平凡な家庭で長生きするよりはずうっとましな生活だと 思うの」④高杉良『人事権!』(一九九三)「悪く言えば毒にも 薬にもならない存在だが」⑤「朝日新聞」(三〇四・七・三八夕) 「助っ人?不安材料?ムーア監督過激さ、毒にも薬 にも」 類句「可もなく不可もない」 外国語 英語では blah り、そこでトグロを巻いていましたか」 意味蛇が渦巻き状に巻いてじっと とぐろを巻く していることから、転じて数人が特 に用もなく、ある場所に集まって長時間雑談などをして 腰を据えて動かずにいる。その行動を批判的に言った表 現。多くは不良少年少女やチンピラなどの行為を指す。 用法文型「ダレダレがとぐろを巻く」 用例①大下宇陀児『風』(九三六)「ついこないだまで、大阪の方へ行ってとぐろを捲いていたんだが」②石坂洋次郎『山のかなたに』(一九四九)「マサ公こと村田政吉ほか十人ばかりの血桜団員は、機械体操の飛板に腰を下ろして、おおっぴらで煙草を吸いながらトグロを巻いていた」③津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九九九)「やっぱ 毎を食らわば皿まで 意味いったん罪を犯して しまったからには処罰され ることには変わりはないのだから、とことん罪を重ねて しまおうということ。用法単独で使用。助詞「を」を 略することもある。 用例①大下宇陀児『虚像』(一九五五)「毒くらわば皿まで、 といった感じね。だいじょうぶ?」②高杉良『首魁の宴』 (一九九八)「どんな顔をしたっていいわ。毒を食らわば皿ま でよ」 意味悪・悪行を懲らしめ抑 毒を以て毒を制す えるには他の悪・悪行を利用 する。用法文型「毒をもって毒を制す」「毒をもって 毒を制すナニナニ」。ナニナニは「策戦」や「やり方」な ど手段方法に関する言葉が多い。 用例①源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八五九)「僕は、日 向さんを信頼して、いっておいた方がいい、と決心した んです。いわば、毒を以て、毒を制する策戦です」②大 沢在昌『悪夢狩り』(一九五四)「君たちの国には、毒をもっ <287> て毒を制す、ということわざがあるそうだが て毒を制す 外国語 英語では fight fire with fire *中国語では成 句「以毒攻毒」(毒をもって毒を制す) とこっ 意味睡眠を取るために寝床に入る。病 床に就く 気などのために寝込む。用法文型「ダ レダレが床につく」 用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「宮地博士はかるい 脳出血で一度床についた」②津本陽『深重の海』(一九七八) 「新屋敷の弥太夫の家では、裏庭に向いた奥の居間に、 孫才次が床についていた。数日前から右股に瘍ができ て」 類句「床に入る」「床に臥す」 うまほねわ 意味どういう どこの馬の骨とも分からない 素姓かわからず 信用できない人のことをののして言う言葉。用法 文型「どこの馬の骨ともわからないダレダレ」。修飾す る形で用いられることが多い。「どこの馬の骨とも知れ ぬ」「どこの馬の骨だか分からない」「どこの馬の骨か分 からない」とも言う。 用例①江戸川乱歩『鬼』(三三三)「どこの馬の骨だかわからない、渡り者のあばずれ娘」②森村誠一『新幹線殺人事件』(九)「そんな貴重な時間を、どこの馬の骨ともわからぬ道連れに奪われたくはありませんからね」③『朝日新聞』(九一·二·三九朝)「なるほど、クレジット会社にしてみれば、どこの馬の骨ともわからない者に信用貸しなどできないのでしょう」④東野圭吾『宿命』(九)「それにどこの馬の骨ともわからないような女の子じゃ、行恵さんだって困るでしょう」⑤岩城捷介『免職警官』(三〇三)「どこの馬の骨かわからない相手に、自殺を遂げた同僚の女性について、あれこれ打ち明けてはくれないだろう」⑥本所次郎『閨閥』(三〇四)「失礼だが、加藤となると、どこの馬の骨とも知れぬ」 ふかぜ 意味周囲の状況や忠告などを、自分 どこ吹く風 に関わりのないことであるかのように、 関心をもたず気にかけない様子。用法文型「ナニナ 二(など)もどこ吹く風で~」 用例①岩城捷介『免職警官』(三〇三)「おれはいまだに 容疑者として捜査線上に浮かび上がりもせず、街中を 大手を振って歩いているし、捜査が及ぶ心配などご吹 <288> く風で、のうのうと暮らしている」②清水一行『ITの 踊り』(三〇四)「ほとんどのメンバーが会議に無関心、と いうよりどこ吹く風という表情だった」③『朝日新聞』 (三〇四・二〇・三朝)「6年前、参院東京選挙区で70万票を得 て初当選したとき、こんな句を詠んだ。『嵐とてどこ 吹く風よオレの道』 外国語 英語では (completely) indifferent *中国語 では成句「东风吹马耳」(東風が馬の耳を吹く、馬耳東風に 聞き流す。「马耳东风」とも言う) どこもかしこも 意味どの場所もすべてとい う意の強調表現。用法文型 どこもかしこもくだ」(室町) 用例①内田康夫『博多殺人事件』(一九九二)「車を停めて 死体を投げ捨てるのには、どこもかしこも適しているよ うには思える」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八) 「木津川流域の谷がどこもかしこも産廃処分場だという のは事実であった」 類句「あちらもこちらも」「どこもかも」 としがい 意味もう少し若いならともかく、 年甲斐もない そんな年に似つかわしくない。年齢 のわりに思慮・分別に欠けるさま。自分の年齢を考えな いで、振る舞うことを批判的に言う言葉。自分にも他者 にも言う。用法文型「ダレダレが年甲斐もなく~す る」(江戸) 用例①伊藤左千夫『野菊の墓』(一九六)「此母が年甲斐もなく親だてらにいらぬお世話を焼いて」②源氏鶏太 『男と女の世の中』(一九六三)「寧ろ、こだわっているのは浩 太郎の方で、それこそ、とみ子から見れば年甲斐もない ということになりそうである」③城山三郎『毎日が日曜 日』(一九五)「半年ぶりの本社づとめ。鳩羽色十二階建の ビルに入るとき、沖は年がいもなく、胸のときめくのを 感じた」 外国語 英語では unbecoming to one's age どじを踏む 意味不注意から間の抜けた失敗をす る。俗語。用法文型「ダレダレが どじを踏む」。用例④「とんでもない」のように「ドジ」 を修飾することは可能。江戸 用例①徳永直『太陽のない街』(二九八)「友人の秘書な <289> ればこそ、注意したのだろうがハテそんなドジをふんだ覚えはないつもりだが」②矢野目源一『戦後風俗史』(二五三)「部下がドヂをふむのを加虐的興味を以て眺めて密かに快哉を叫ぶ」③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(二九七)「白崎がドジを踏んで、警報ベルを鳴らしてしまったので、佐久間が現場へ駆けつけてしまいました」④大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「少しでも眠っておかないと、とんでもないドジを踏みそうな気がする」⑤岩城捷介『免職警官』(三〇三)「もとはといえば、あいつがドジ踏んだからよ」 とかひか 意味「取り替え引き替え」 取っ替え引っ替え の転。いろいろと次々に替え るさま。用法文型「ダレナニをとっかえひっかえ (う)する」 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「初めのダンナに死なれてから、とっかえひっかえ、八人ぐらいのダンナ」②「衣装を取っ替え引っ替えして舞台をこなす」 外国語 英語では one after another ころ 意味二通り、またはそれ以 どっちに転んでも 上の結果が予想される時、ど んな結果になっても。たいして差がないことを言う。 「どっちへ転んでも」とも言う。用法文型「どっちに 転んでもくだ」 用例内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)どっちに転ん でも刑事課のやっていることだ」 外国語英語では either way どっちもどっち 意味両者とも同程度に良くな く、そう違いはない。用法 文型「ナニナニはどっちもどっち」(江戸) 用例①高杉良「指名解雇」(一九九七)「あんな男を一課 長にした荒垣さんの目は節穴としか言いようがないな。 どっちもどっちだけど」②「見通しの甘さはどっちも どっちで責任は免れない」 類句どんぐりの背比べ「似たり寄ったり」 取って付けたよう 意味よそから持ってきて くっつけたように、言動など が不自然で、わざとらしい様子。 用法文型「取って <290> つけたようなナニナニ「取ってつけたようにする」 用例①井伏鱒二『黒い雨』(九五六)「取って附けたよ うに厳しい語調で僕に云った」②「とってつけたような お世辞を言う」 とつぴようし 意味常識ではまったく予想もつか 突拍子もない ないような。普通では考えられない 言動をとるさま。用法文型「突拍子もないダレナニ」 ダレナニを修飾する形が多い。(江戸) 用例①夏目漱石「文芸と道徳」(二九二)「突拍子もない 偉い人間すなわち模範的な忠臣孝子その他が世の中には 現にいるという観念がどこかにあったに違ない」②城山 三郎『毎日が日曜日』(一九五)『でも、そういったら、病 院では行かせてくれないもの』『相変らず、突拍子もな いやつだ』 類句「気が遠くなる」「常軌を逸する」「とてつもない」 「途方もない」外国語英語ではHabbergasing トップを切る 意味「トップ」は英語の top。一番 になる。また、数多い中で、最初に 何かを始める。用法文型「ダレナニがナニナニの トップを切る 用例①川端康成『浅草紅団』(二九九三)「花屋敷の電光 ニュウスは、一九三〇年の夏の、『断然トップを切った』 のだ」②『中央公論』(二九三・三)「去年の秋反対運動の トップを切った先輩検事連は微苦笑している」③高田保 『第2ブラリひようたん』(二九五)「新しいモードといえば 極めて少数の人がそれで飾り立ててそのトップを切るこ とだろう」④『朝日新聞』(二九三・三)朝)「ロッキード事 件判決の年」のトップを切って開かれた十九日の参院決 算委員会で」⑤高杉良『指名解雇』(二九七)「木下一人が トップを切って課長になった」 類句「イニシアチブを取る」尖端を切る「先頭を切る」 とてつ 意味「とてつ」とは道理、筋道の意。 途轍もない 筋道が通らない、また、常識では考え られないほど程度がはなはだしいさま、並はずれている こと。用法文型「とてつもないナニナニ」「とてつも なく~」(江戸) 用例①有島武郎『或る女』(二九九)「葉子が時々途轍もなくわかりきった事を少女みたいな無邪気さでいう」②有島武郎『或る女』(二九九)「何をするもんですか。人間 <291> に何ができるもんですか。……もう春も末になりましたね』途轍もない言葉をしいてくっ付けて木部はそのよく光る目で葉子を見た』③丸谷オ一『男のポケット』(一九七九)「このあひだ、とてつもなく高い原稿料をもらひました」④『朝日新聞』(三〇四・三・六朝)「毎日とてつもない量をとらないといけないものなど、首をひねりたくなるような情報もあります」 類句「気が遠くなる」「常軌を逸する」「突拍子もない」 「途方もない」 とどのつまり 魚の最終の名前。途中の段階ではい ろいろあるものの、最終的には、結局のところは。当人 の期待や予想とは違ってあまり望ましくないところに落 ちつく時に用いられることが多い。途中の段階のごたご たのわりには、落ちつくところに落ちついたという感じ で用いられることが多い。用法文型「とどのつまり (は)~する」「とどのつまり~だ」「江戸」 用例①正宗白鳥『入り江のほとり』(一九一五)「とどのつ まり、こう解決をつけて、最早彼れの身の上を誰も問題 にはしなくなった」②谷崎潤一郎『痴人の愛』(一九一六)「ナ オミは此方へ帰って来る。トドの詰まりはそうなるのだろうが、その間の苦労と云うものは?③山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「要は、君の云うその大切な学問研究も、とどのつまりは、教授の絶大な権力によって賄われているわけじゃないか」④鈴木健二『ピックマン愚行録』(一九七)「そうこうしているうちに、次の戦争をおっぱじめてしまうから、余計にわからなくなり、とどのつまりは、歴史とは何かまでを問い詰める結果になる」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「とどのつまり、彼は何と言ったか」 類句「挙げ句の果て」「つまるところ」 外国語英語 では in the end 止めを刺す とどさ 意味(1)人を殺す時、生き返ることがないように致命的な一撃を加える。転じて、完全に最後の一撃を加えることで、二度ともとにもどれない状態に相手を陥れる。また再起できないように徹底的に打ちのめす。(2)多くの同類の中で、これにまさるものはない。最高だ。用法文型(1)「ダレナニがダレナニにとどめをさす」。受身形・命令・意志表現が可能。(2)「ナニナニはダレナニにとどめをさす」 <292> 用例①①徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」(九四)「これ とどめ で敬二が東京行の企はいよいよ十々滅を刺された姿に なって」②山崎豊子「白い巨塔」(九三六五)「さらに財前 派の止めを刺すために、あれほど卑屈な思いを我慢し て、東都大学の船尾教授の大阪入りを迎えて」③佐野洋 『推理小説実習』(九九)「被害者が一度ぐったりしたあと ネクタイをさらに首にひと巻きして、いわば、とどめを 刺した」④朝日新聞」(九一五·二朝)「右ノドワ攻めか ら両差しとなられ、大きく振りまわされたあと左手投 げでトドメを刺された」⑤森村誠一「棟居刑事の砂漠の 暗礁」(九七)「……白崎さんの死体と金沢さんの写真 にガラス粉を移すことのできる人物は、あなた以外にい ません」牛尾は止めを刺すように言った」(2)⑥筒井康隆 『狂気の沙汰も金次第』(九三)「小説は筒井康隆にとどめ をさす。他に小説はいらない」 類句(1)「息の根を止める」「引導を渡す」「亡き者にす る」外国語英語では finish someone off とかく 意味いろいろと問題はある(あっ 兎にも角にも た)が。用法文型「とにもかくに も~する(した)「平安」 用例①大下宇陀児『情獄』(九三○)「兎にも角にも、そ れで刀自のことが一段落付いて了うと」②内田康夫『秋 田殺人事件』(三〇三)「とにもかくにも選び出した二十一人 が多いというべきか、それとも少ないのか、浅見にはよ く分からなかった」③「とにもかくにもこの方法でいこ う」 類句「何はともあれ」 つらさ 意味相手に迷惑をかけておきなが どの面下げて ら、またやって来る相手の非常に恥 知らずの厚かましい態度・行為をののしる言葉。また、 自分の行動が恥ずかしい時にも使用。用法文型「ど の面下げて~する」。「どの面下げて来た」と言うことが 多い。江戸 用例①細木原青起『晴れ後曇り』(二九九)「ドの面下げて来たの」②中村うさぎ『家族狂』(二九七)「担当編集者に向かって、どのツラ下げて言えばいいんだ?」③高杉良『指名解雇』(二九七)「皆さんに合わせる顔がありません。どの面下げて来たのかと言われても仕方がないと思ってます」 類句面の皮が厚い 外国語韓国語では「早々何 <293> の」は労の(面で)」 怒髪天を衝く 意味髪の毛が逆立って天をつかん ばかりの激しく怒る形相。用法 用例①夏目漱石「教育と文芸」(九二)「意気天を衝く 怒髪天をつく。炳として日月云々という如き、こうい う詞を古人は盛に用いた」②柳田邦男『空白の天気図』 (九五)「藤原の怒りは、まさに怒髪天を衝く勢いであつ た」③高杉良『指名解雇』(九七)「木下が聞いたら怒髪天 を衝くことになるかもねえ」④「朝日新聞」(三〇四・七・三 朝)「ライオンのビューティケア事業本部の山本記也さ んは昨年6月の会議で、事業本部長たちから、怒髪天を つかんばかりにハッパをかけられた」 類句「怒髪冠を衝く」とも言う。「頭から湯気を立て る」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍 袋の緒が切れる」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫 が治まらない」「腸が煮えくりかえる」「烈火の如く」 外国語中国語では成句「怒发沖冠」(怒髪冠を衝く。「沖 は衝く) 飛ぶ鳥を落とす 飛ぶ鳥を落とす 意味空高く飛ぶ鳥も驚いて、 落ちてしまうほど、権勢・威勢 の盛んなさまのたとえ。不可能なことがないほど、勢い に乗ってやり遂げるさまのたとえ。用法文型「ダレ ナニは飛ぶ鳥を落とす勢い」「飛ぶ鳥を落とす勢いのダ レナニ」。「飛ぶ鳥も落とす」とも言う。「江戸」 「用例①德富蘆花『黑潮』(九三)「此は当代の日本に飛ぶ鳥を落す藤沢伯爵である」②木下尚江『火の柱』(九四)「当時海軍で飛ぶ鳥落とす松島を立腹させちゃ大変だから」③本所次郎『閨閥』(三〇四)「信元はフヨウ放送の会長であり、いまや飛ぶ鳥をも落とす勢いの経団連会長の植村甲午郎に相談した」④吉村達也『鎌倉の琴』殺人事件』(三〇四)「スキャンダルの主が、飛ぶ鳥を落とす勢いのミュージシャンが所属する事務所の社長だったため」⑤「朝日新聞』(三〇四・九三朝)「当時、横浜にできた地方局ラジオ関東は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの若々しいラジオ局だった」 類句「騎虎の勢い」「破竹の勢い」「日の出の勢い」 とほうく 意味「途方」は進むべき方向のこ 途方に暮れる と。どうすればいいのか、どうやっ <294> て事態を解決していいかわからず困り果てる。用法 文型「ダレダレが途方に暮れる」「室町」 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五三「吾)「太郎は、途方に暮れる思いで、寮に帰った」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九〇)「部屋に戻るとここも雑多な転落物で収拾がつかない。私は途方にくれて、下の段に寝ているサード・オフィサーを覗きこんでみた」③「朝日新聞」(一九四・六・二朝)「不幸な子をかかえ、治療費の余裕もなく、途方にくれたままの家庭が、もっとありはしないか」④森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「櫛田は途方に暮れた体の彼女を見かねて、声をかけた」⑤「朝日新聞」(三〇四・九・三夕)「フランスでは何でもないことが、ロンドンでは全然うまく行かず、途方に暮れてしまう」 外国語 英語では be at one's wits' end とほう 意味「途方」は進むべき方向のこと。 途方もない 常識や道理に外れていたりかけ離れて いたり、あきれるほど程度がはなはだしい。用法文 型「途方もないダレナニ」。ダレナニを修飾する形が多 い。〔江戸〕 用例①北杜夫どくとるマンボウ航海記(一九六〇)海 にもぐるには途方もない圧力と闘わねばならない ② 黒岩重吾『背徳のメス』(一九六)「ガス中毒事件以来、信 子は時々、途方もない失策をおかした」③朝日新聞 (一九九・六・一九朝)「それに経済的にも、途方もない軍事費 はだせないところにきている」④西村京太郎『伊勢志摩 殺意の旅』(三〇〇)「途方もない考えですね」 類句「気が遠くなる」「常軌を逸する」「突拍子もない」 とてつもない」 外国語 英語では Whopping とど 意味物事や動作・行為が延々と続き、 止め処ない 終わりになることがない。用法文 型「とめどなくする」「とめどないナニナニ」「ナニナ ニはとめどがない」。「とめどがない」「とめどもない」と も言う。(江戸) 用例①平岩弓枝『風子』(一九五十七)「泣くまいと思うと、逆に涙はあとからあとからとめどがなかった」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五五)「舟崎老人は、話好きというより、話相手に飢えている感じがあった。いったん口を開くと、とめどなくしゃべり出す」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七七)「もう脈うっているペニスを抜き出して、麻生野の広い腹の上に、そいつがとめども <295> なく精液をおくり出すのを感じとっているのみさ 虎の威を借る狐 意味出典は中国の古典『戦国 策』楚策で、虎が狐を捕らえた 時、狐は「私を食べれば天帝の命に逆らうことになる、 うそだと思うなら私の後ろについて来なさい」と言う。 そこで出かけると獣はみな虎を見て逃げ出したが、虎は それに気づかず、狐を恐れているものと思い込んだ。そ こから、権力者の威勢をかりて威張る小人物のたとえ。 用法文型「ダレダレは虎の威を借る狐」(江戸) 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「あいつめ、大 友興業をカサにきて、威張ってるよ。要するに、虎の威 を借るキツネなんだ」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「佐々 木は荒垣という虎の威を借る狐だから、始末が悪いかも なぁ」 「假」は借る 「外国語」中国語では成句「狐假虎威」(虎の威を借る狐。 取り返しが付かない 意味すでに望ましくない ことが起こってしまい、そ れをつぐなったり元通りにしたりすることができなくな る。 (用法)文型「~すると(~してからでは)、取り返し が付かない」「取り返しの付かないナニナニ」 ①城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「沖は、眠れなかった。息子をとりかえしのつかぬ不具の身にした。父親として、代れるものなら代ってみたい」②朝日新聞(一九〇・五・九・朝)「男と女が至近距離にいると、つい親しくなり、取り返しのつかないことになりやすい」③龍一京『交番』(三〇四)「何かあってからでは、取り返しがつきません。あとの責任は俺が取りますから」④朝日新聞(三〇四・二・六朝)「完全に正しい将来予測は出来ないが、何もしないと取り返しのつかないことになるのは目に見えている」 とっしま 取り付く島がない 意味相手に相談や頼みごと をしようとしても、またかか わりを持とうとしても、冷たくあしらわれてそのきっか けもつかめない様子。「とりつく暇がない」と言うのは誤 り。用法文型「ダレダレは取りつく島がない」「取り つく島がないナニナニ」。「取りつく島もない」「取りつく 島のない」とも言う。「江戸」 用例 ①尾崎紅葉『続金色夜叉』(八九八)「取附く島もあ <296> らず思悩める宮を委きて、貫一は早くも独り座を起たん とす」②『朝日新聞』(九五六・八・九朝)「モスクワの交渉も 向こう様は日本に有無も言わせぬ調子で、とりつく島も ない様子だが」③井上靖『氷壁』(九五六・五毛)「小坂の件で、 社内もごたごたしているのか、電話はすぐ向うから切れ た。全く取りつく島のない感じだった」④井伏鱒二『黒 い雨』(九五六・六)『それは昨日お答えしたように、絶対 に駄目です。我々の管轄外に属するのですからね』昨 日と同じく取りつく島もない」⑤森村誠一『棟居刑事の 砂漠の暗礁』(九五七)「母親の声はあくまでも素っ気ない 取りつくしまもなく電話は一方的に切られた」 類句「木で鼻をくくる」「けんもほろろ」「にべもない」 「鼻であしらう」「外国語」英語では wouldn't (even) give someone the time of day とりはだた 意味恐怖や寒さなどから、毛をむし 鳥肌が立つ り取った鶏の皮のように皮膚にぶつぶ つができる。最近は強い感動を受けた時にも使う。 用法文型「ダレダレは鳥肌が立つ」「鳥肌が立つ十二ナ ニ」「南北朝」 用例①木谷恭介『京都小町塚殺人事件』(三〇三)「鳥肌 の立つ戦慄が背筋を走った」②内田康夫『秋田殺人事件』 (三〇三)「鳥肌が立つような感動とはこういうことを言う のだろう」 類句「肝を冷やす」「背筋が凍る」「背筋が寒くなる」「背筋に寒いものが走る」「身の毛がよだつ」「外国語」英語では get (the) goose pimples となお意味前に述べてきたことは、すな 取りも直さず わち次の述べることを意味する、あ るいは次に述べることにつながるという意味。言い換え 説明、注釈を表す。用法文型「ナニナニは取りも直 さず~。後ろの述語を修飾することが多い。「江戸」 用例①大岡昇平『俘虜記』(盜八)「日本の勝利は取り も直さず彼等の帰還後の生活を絶望的なものにするこ かか とを意味したにも拘わらず」②石川達三『青春の蹉跌』 (二六八)「彼の悔恨も絶望も、その本質は、自分が出世栄 達の道を失ったことについての悔恨であり、とりも直さ ず彼のエゴイズムそのものであった」 類句「端的に言えば」 <297> 取るに足りない 意味取り上げてことさら言い 立てるほどの価値もない、大し たことのない、つまらない。用法文型「ダレナニは 取るに足りない」。「取るに足りないダレナニ」と修飾す る形で用いられることが多い。「取るに足らない」とも言 う。江戸 りない。「道」は言う、取り上げる 用例①佐藤春夫『都会の憂鬱』(九三)「彼のとるに足りないそれらのさまざまな考のなかで」②城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「そうした不幸にくらべれば、いまの沖の挫折など、とるに足りぬことではないのか」③『朝日新聞』(九五・五・九朝)「十万人の単位で難民を受け入れている米国の人権感覚からすれば、まだまだとるに足らない数字に思えたかもしれない」④内田康夫『若狭殺人事件』(九三)「つまらない、取るに足らないことですよ」⑤高杉良『指名解雇』(九五)「木下の質問など取るに足らないことのように思えるが」 類句「眼中にない」「愚にもつかない」「たかが知れる」 「等閑に付す」「話にならない」「屁とも思わない」「見向 きもしない」「目じゃない」「目もくれない」「物の数で はない」「問題にならない」「外国語」英語では for the birds *中国語では成句「微不足道」(小さくて取るに足 一 とものと 取る物も取りあえず 意味急を要することがで き、十分な準備もせずあわ てて。大急ぎで。用法文型「ダレダレが取るものも 取りあえずする」「~する」には「駆けつける」などが 来る。南北朝 用例①角田喜久雄『死体昇天』(九九)「彼は取るものも取りあえず上野駅へ駈け附けた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「これは奥様、夜分に恐縮でございますがせめてお玄関先でなりと、鵜飼先生にご挨拶とお謝びを申し上げたく、取るものも取りあえず、参上致しました次第でございます」③森村誠一『人間の十字架』(九三)「町野は取るものも取りあえず××病院へ飛んで行った」④斎藤栄『日美子の公園探偵』(三〇二)「日美子は、取るものもとりあえず、死亡している大野木の遺体確認に駆けつけた」 泥を被る 意味 不利益な結果になろうとも、その 責任を全部負う。みんなで負うべき責任 を、自分一人ですべて負う。また他人の行為で迷惑を被 <298> る。 用法文型「ダレナニが泥をかぶる」。命令・意志 表現は可能。 用例①『朝日新聞』(九九六三朝)「(政治家の刑事責任 が問えなかったことで)検察は一時的にはドロをかぶる かもしれない」②『朝日新聞』(九0五二朝)「田中派に はただでさえ『大平派に代わってドロをかぶる役目ばか り』という思いが強い」 類句「責めを負う」 外国語 英語では take the blame for 混を塗る 意味人に恥をかかせたり名誉を損なう ようなことしたりする。用法文型「ダ レナニに泥を塗る」(江戸) 用例①夢野久作『S岬西洋婦人絞殺事件』(九五)「そ んな事をして娘や養子の一生涯に泥を塗るのが、どんな に馬鹿馬鹿しい、算盤に合わない話かわからないほど」 ②「家名に泥を塗る行為」 類句「顔に泥を塗る」 泥を吐く 意味調べられたり問い詰められたりし て自分の悪事を白状する。用法文型 「ダレダレが泥を吐く」。用例①のように使役形が可能。 ②のように否定形が可能。③のように使役受身形がある。 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五十五)「この男と岡崎 との関係だけでも、泥を吐かせてやらなければならな い」②大下宇陀児『虚像』(一九五五)「やつは、頑強に否認し やがってね。どうしても泥を吐かねえ」③井伏鱒二『駅 前旅館』(一九五十五)「同業の春木屋の番頭に見つかって、 とうとう泥を吐かされるという次第になりました」 類句 口を割る 外国語 英語では come clean 度を失う 意味非常にあわてて、どうしてよいか わからない状態になる。あわてふためく。 用法文型「ダレダレが度を失う」 用例①津本陽『深重の海』(二九七八)「こりゃ何でじゃ、 なんでこんなとこで潮がよれるんじゃ、と近太夫は度を 失った」②安岡章太郎『海辺の光景』(二九七八)「部屋は不意 にまたざわめきたち、看護婦たちは度を失ったように医 者のあとを追った」③森茉莉『恋人たちの森』(一九二二)「ギ ランがその手を捉え、(略)マッチをすり、片手で銜えた 葉巻に点すと、レオの掌をおし開こうとする。度を失っ たレオは、身を捩り、手を外そうとしながら」 <299> 用法文型「ダレナニが度を過ごす」。「度を過ごしたダ レナニ」のように修飾する形で用いられることも多い。 用例①夏目漱石『吾輩は猫である』(九五)「もう晩飯の時刻だ。運動もいいが度を過ごすと行かぬ者で、からだ全体が何となく緊りがない、ぐたぐたの感がある」②高橋和巳『悲の器』(九三)「齢は私よりずっと上だが、かつて主人の子息として仕えた記憶のゆえか、ときおり、口調は敬語になり、また度を過してざっくばらんにもなった」 類句「度が過ぎる」(辻邦生『北の岬』(二九五)「でもそのうち、 あたしの我儘は度がすぎると言って、いろいろ小言を並べる ようになった」「度を越す」(『朝日新聞』(二〇〇四・三・二王朝)「今 の両国関係は、歴史教科書の歪曲が度を越したり」) 外国語英語では go overboard も含めて、ドングリの背比べ 団栗の背比べ 意味みな同程度に平凡で抜きん出 たものがなく優劣のつけようがな いたとえ。用法文型「ダレナニはドングリの背比べ」 用例内田康夫『若狭殺人事件』(二九三)「あとはおれの 類句「どっちもどっち」「似たり寄ったり」外国語英 語では there's not much to choose from *中国語で は成句「半斤八两」(似たり寄ったり。旧制の一斤は十六両 で「半斤」は「八两」にあたることから) 飛んで火に入る夏の虫 意味自ら災いの中に飛 び込んで身を滅ぼすこと のたとえ。あざける言葉。用法単独で使用。用例の ように句の途中に「愚な」のように修飾語が入るのはま れ。鎌倉 用例嘉村礙多『業苦』(三八)「飛んで灯に入る愚な夏 の虫に似て、彼の父は財産も必要としないで石に囓りつ いても千登世を養う決心だった」 外国語 中国語では成句「飞蛾投火」(ガが火に入る。「飞蛾扑火」とも言う) とんびたか 意味平凡な親が優れた子を生むた 鳶が鷹を産む とえ。用法文型「とんびがたか をうむ」「とんびがたかをうんだよう」。「とびがたかをう む」とも言う。江戸 <300> 用例①「滑稽界」二号(九七)「世俗鳶が鷹を生むだと 謂う語を克く耳にする、説明を要する迄もない、鳶が 自己の実質以上超越した鷹を生むだのを具体的に述べ たので」②吉屋信子『あの道この道』(九四三五)「鳶が鷹 を生んだとはあのことだ。あの酒呑みの困者の龍作さ んにあんな綺麗な出来のいい女の子が持てるなどとは」 ③石坂洋次郎「憎いもの」(九五二)「娘はわしらと違って、 背も高く、きりようも十人並みという訳でして、…ま あ、鳶が鷹を生んだというか」④源氏鶏太『三等重役』 (九五二五三)「こんな名代子さんを見て、鳶が鷹を産んだ ようなもんだ、と陰口をきくものがあるかもしれない」 ⑤高杉良「人事権!」(九九三)「トンビがタカを生んだと 言ったら言い過ぎになるかな」 とんびあぶらあさら 意味大切なものを急に 蔦に油揚げを攫われる 横合いから奪われること のたとえ。用法文型「とんびに油あげをさらわれた よう」。略して「とんびにあぶらあげ」とも言う。江戸 用例①源氏鶏太「青い果実」(一九五十五)「青年たちは、 まるで、トンビにアブラアゲをさらわれたような顔で、 それを見送っていた」②高杉良「人事権!」(一九三)「わ たしはベニスの赤い家をもらいそこねた口なんです。 トンビにあぶらあげみたいなことになってしまい、口惜 しい気持ちです」③姉小路祐『走る密室』(一九四)「せっ かく若い女房をもらって喜んで仕事に精を出していたら、 まるでトンビに油揚げみたいに、ガキに女房を寝取られ たってことだろ」 <301> *な* そでふ 意味着物の袖に財布を入れ ない袖は振れない ていたが、その財布を入れる 袖がないということから、特に金銭面について、あれば 何とかしたいのだが、ないのだからどうしようもない。 人から金銭の工面を頼まれても金銭がない場合に言うこ とが多い。用法文型「無い袖は振れない」(江戸) ①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(八六九)「いくら振ろうとしても無い袖は振れぬという譬の通りで、返せぬというものを無理に取ろうという道理はあるまい」②「朝日新聞』(一九七九・七・一九朝)「どこの自治体も財政難に陥っており、いくらがんばっても無いそではふれない」③高杉良『人事権!』(一九九三)「白石さんにいくら頭を下げられても、無い袖は振れません」 外国語英語では You can't get blood out of a stone *中国語では諺「巧妇难为无米之炊」(いくら器用な嫁でも米がなければご飯を炊くことはできない) 用例①吉屋信子『あの道この道』(一九四一三)『私、落第する筈ないと初めから思っていたのよ』と、さっき泣いた鳥が笑った」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五三三)「おや、さっき泣いた鴉が、もう、笑っている」 泣いた烏がもう笑った 意味今まで泣いていた 子がもう笑っている。子 供の機嫌の変わりやすさをたとえて言う。用法文型 「さっき泣いた烏がもう笑った」。用例①のように「も う」を略すこともある。文末は「笑っている」も使用。 ちえしぼ 意味大した知恵がないのに無 ない知恵を絞る 理して一生懸命あれこれ考える 用法文型「ダレダレがない知恵を絞って考える」「江 戸 用例高杉良『人事権!』(一九九三)「ひと晩、ない知恵を しぼって考えますが」 ながめみ 意味人や物事を現況だけで判断せ 長い目で見る ず、長期的な視野に立って判断する、 気長に見守る。用法文型「長い目で見て~する」「長 い目で見れば~する」「江戸」 <302> 用例①高橋和巳『悲の器』(九三)「たとえその席が 与えられても、長い目で見て、そうするのがかならず 君の幸せになるかどうかはわからないと思うよ」②朝 日新聞(二九一三六朝)「一年や二年の浪人は長い目で見 れば尊い人生経験かも知れない」③高杉良『会社蘇生』 (二九七)「でも永い目で見たらわかりませんよ」④森村誠 一「人間の十字架」(九三)「いま心と身体の成長がアン バランスで苛立っているのよ。もう少し長い目で見て ちょうだい」⑤朝日新聞(三〇四・二〇・三朝)「熟練した技 術を持つ多くの外国人労働者が、長く滞日して親日家に なるということは、長い目で見れば、ソフトな形での安 全保障にもつながるはずだ」 外国語 英語では take a long range view *韓国語では「そそ」(長い目で)見る) なと 意味目立った活躍もなく、その存 鳴かず飛ばず 在が忘れられたようになっているさ ま。自嘲的または侮蔑的に言う。出典は中国の古典「呂 氏春秋」「史記」。用法文型「ダレダレは鳴かず飛ばず だ」 用例①獅子文六『青春怪談』(九五)彼女は、失脚以 来の数年間を、鳴かず飛ばずに、暮らしてきたが」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四五五)「自分たちの処世の秘訣は、鳴かず飛ばず」③『朝日新聞』(一九〇・七・三六朝)「前半戦は鳴かず飛ばずだった巨人軍の中畑が、小林から価値ある3ランを奪った」④本所次郎『閨閥』(三〇四)「『三匹の侍』のディレクターの五社英雄のその後は、鳴かず飛ばずだったが、昭和五十五年退職を余儀なくされる」⑤「朝日新聞』(三〇四・二〇・九朝)「だが、それ以前は鳴かず飛ばずで、舞台俳優としてはついに芽が出なかった」 名が通る 意味有名で、その名前が世間に知れ渡 る。良いことに言う。用法文型「ダ レダレはナニナニとして名が通っている」。用例②のよ うに「名の通ったナニナニ」と修飾することが多い。 用例①国木田独歩『武蔵野』(二)「見たまえ、そこ うずくま に片眼の犬が蹲っている。この犬の名の通っているかぎ りがすなわちこの町外れの領分である」②平岩弓枝『風 子』(一九五十七)「それが、今、来日している黒人の演奏家 で世界的に名の通ったジャズメンであった」 類句「顔が売れる」「名が高い」 <303> 流れを汲む 意味ある流派の伝統・手法を代々受け継いでいる。ある系統に属する。 用法文型「ダレダレはダレナニの流れを汲む」(鎌倉) 用例①芥川龍之介「おしの」(一九三)「またそう云う臆 病ものの流れを汲んだあなたとなれば、世にない夫の 位牌の手前も倅の病は見せられません」②「朝日新聞」 (三〇四・二〇・六朝)「マタギの流れをくむ一部の住民は不満 を募らせる」 泣きっ面に蜂 意味困っている時に更に困ったこ とが起きること。不運・不幸が重な ること。「なきつらにはち」とも言う。用法文型「ダ レナニは泣きっ面に蜂」 用例①葉山嘉樹『移動する村落』(一九三〇)「花田一家は その中でも『泣きっ面に蜂』の状態にあった』②源氏鶏 太『天下泰平』(一九五四五五)「本尊の東洋電機を乗っ取られ たら、それこそ、泣きッ面にハチである」 * たた 類句「踏んだり蹴ったり」「弱り目に崇り目」 外国語 中国語では成句「雪上加霜」(雪の上に霜がおりる) ななみだ 意味涙を流して泣くくらいつらい思い 泣きの涙 をすること。悲嘆にくれること。用法 文型「泣きの涙で~する」(江戸) (用例)①国木田独歩『あの時分』(二九六)「ばアさん、泣 きの涙かなんかでかあいい男を新橋まで送ったのは」② 太宰治『花火』(二九四三)「帰る時には、党の費用だといって、 十円、二十円を請求する。泣きの涙で手渡してやると」 なしつぶて 意味「つぶて」は小石を投げること。ま 梨の礫 た投げられた小石。「梨」に「無し」をかけ たもので、手紙を出しても何も返事が返ってこないこと 何の音信もないこと。用法全体で体言的に用いられ る。〔江戸〕 別れる時に、僕の住所と電話番号をメモして、東京へ帰ったら連絡してくれと頼んだのに、とうとう、いつまで経っても梨のつぶてなんです」②『朝日新聞』(一九九・二・三朝)「今回のイランの米大使館占拠事件で、安保理議長、総会議長の声明が出ても、まったくなしのつぶてで、いまさらのように無力感が支配している」③「朝日新聞」(三〇四・六・五朝)「おとなを相手にした小説を書 <304> くようになり、文芸誌主宰の新人賞に投稿した。なしの つぶてだった」 外国語英語では have not heard a word (from some- one) *中国語では成句「石沉大海」(石が海に沈む) 何が何でも 何 意味(1)何があろうと絶対に。ある事 柄に対する強い意志や決意を表す。(2) いくらなんでも。後ろに否定的判断を表す言葉が来る。 用法文型(1)「ダレダレは何が何でも~する」「ダレダレ は何が何でも~だ」「ダレダレは何が何でも~しなけれ ば」(2)「何が何でも~だ」「江戸」 用例(1)①宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』(未詳)「ゴーシュがやっと二寸ばかり窓をあけたとき、かっこうは起きあがって何が何でもこんどこそというようにじっと窓の向こうの東のそらをみつめて、あらん限りの力をこめた風でぱっと飛びたちました」②太宰治『津軽』(二九四)「この子をつかまえたからには、もう安心。大丈夫たけに逢える。もう何が何でもこの子に縋つて、離れなけれやいいのだ」③内田康夫『若狭殺人事件』(二九三)「細野は何が何でも産んでほしいと強要した」④木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(二九六)「こうなったら何がなんでも、 検挙しなければ腹の虫がおさまらない」(2)⑤「何が何で もそれはやりすぎだ」 類句 (1)「雨が降ろうが槍が降ろうが」「石にかじりつい ても」「否が応でも」「否でも応でも」「是が非でも」「何 としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 外国語英語では no matter what *中国語では成句 「无论如何」(何が何でも) 何かにつけて 意味何かあるたびに。さまざまな ことに関して。機会があるたびに。 ある言動やある事態の頻度が高いさまを表す。用法 文型「ダレナニが何かにつけて~する」「ダレナニが何か につけて~だ」 用例①夏目漱石「坊ちゃん」(ただ清が何か むやみ につけて、あなたはお可哀想だ、不仕合だと無暗に云う ものだから、それじゃ可哀想で不仕合せなんだろうと 思った」②芥川龍之介『偷盗』(九七)「親のせんぎはとも かく、あのからだじゃ何かにつけて不便だろう」③有島 武郎『或る女』(九九)「田川博士までが夫人の意を迎え て、何かにつけて事務長の室に繁く出入りするばかりか 事務長はたいていの夜は田川夫妻の部屋に呼び迎えられ <305> たー 類句「ことあるごとに」 なに 何くれとなく 意味これと特定することではなく、 漠然と全体的にあれこれと。細かな ことにいろいろ気を配っているさまに使う。用法文 型「ダレダレが何くれとなく~する」 ①夏目漱石「門」(一九二)「安井は郷里の事、東京の事、学校の講義の事、何くれとなく話した。けれども御米の事については一言も口にしなかった」②島崎藤村「夜明け前」(二九)「本陣間屋庄屋の雑務を何くれとなく手伝ってもらうには、持って来いという人だ」③安岡章太郎「海辺の光景」(二九八)「ひとの好い二年兵で、何くれとなく面倒をみてくれるが」 類句「あれやこれや」「なんやかやと」 何食わぬ顔 意味自分の思い・考えや関係・行為 を人に知られたくないため、人の前で はわざと何も関係ないと平然と振る舞うこと。たいてい はあまり良くないことについて用いられる。用法文 型「ダレダレは何食わぬ顔で~する」(江戸) 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「他の四人が運動をしたかどうか、みんな何食わぬ顔をしているから、太郎には察しがつかない」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「相手に投票を確約しておきながら、票を入れず、その相手が落選したとなると、何食わぬ顔で残念会へ出席し」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「Aは朝の早い母親が寝込んだ深夜に家を出て、犯行のあとは何食わぬ顔で家に戻っていたため」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「エレベーターを上り下りして、殺人を実行して、フィアンセの前になに食わぬ顔をして戻って食事をつづけることができますかね」⑤龍一京『交番』(三〇四)「ボールペンを置いた男は、宮脇の様子を窺いながら、何食わぬ顔をして上着のポケットに手を突っ込んだ」 類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを 切る」「涼しい顔」「そ知らぬ顔」 外国語 英語では (completely) innocent look 何はさて置き 意味他のことは捨て置いて、真っ 先に。ある一つのことに取り組む時 に言う。用法文型「なにはさておき、~する」 用例小出楢重「楢重随筆」(九三)「何はさておき、 <306> ちょっと巡回して来ないと気がすまないのだ 類句「一にも二にも」「いの一番」「何を置いても 何はともあれ 意味いろいろあるけれどそれはと りあえず問題にせず、とにかく。 用法文型「何はともあれ~する」(江戸) 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(九六)「足 はつかれていないにしてもさ。そのおれが、なにはとも あれ元気を出してファースト・ベースへ駈けて行く」② 内田康夫『博多殺人事件』(九二)「何はともあれ、隈原 はそれをいいことに、気儘な捜査をすることにした」 類句「とにもかくにも」外国語英語ではin any case 何はなくとも 意味他のものはなくてもこの 一つあれば十分である、さしあたっ て間に合う、他は必要ない。用法文型「何はなくと も~」 用例 德田秋声『新世帯』(九八)何はなくとも、春初 めだから、お酒を一口」 何を置いても 意味他のことはさし置いて、まず 一番に。行動を起こすに当たって、 優先順位の最初に来るものをあげる時に使う表現。 用法文型「ダレダレが何をおいても~する」 用例①芥川龍之介『羅生門』(九五)「そこで、下人は何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら」②夏目漱石『明暗』(九六)「明日は何をおいても、まず病院へ見舞に行かなければならないと考えた」③有島武郎『或る女』(九九)「もし貞世が退院するようになったらそして退院するに決まっているが自分は何をおいても木村に手紙を書く」 類句「一にも二にも」「いの一番」「何はさておき」 なのあ 意味自ら進んで競争などに参 名乗りを上げる 加したり立候補したりすること を表明する。ある態度なり意志なりを、多くの人にア ピールする形で表明する。用法文型「ダレダレがナ ニナニに名乗りをあげる」。命令・意志表現は可能。 用例①獅子文六『青春怪談』(一九五)「早くも、五番目 <307> 氏が、名乗りをあげた」②『朝日新聞』(九四・九三)「成功には何百人が生みの親だと名乗りをあげるが、失敗すると母親が一人も出てこない」③『朝日新聞』(九九・七・二)「理事長が願う『大関候補』に再び名乗りをあげそうな勢いだ」④原ゆたか『かいけつゾロリつかまる!!』(九四)「ゾロリをつかまえられるのは、おれたちしかいない」と、ふたりのけいぶがなのりをあげたのです」⑤「朝日新聞」(九四・九三夕)「新規参入に名乗りをあげた人々は男を上げた」 類句「手を上げる」 なまきさ 意味愛し合っている男女・夫婦を無 生木を裂く 理やり別れさせるたとえ。用法文 型「ダレダレが生木を裂く(ような)」(江戸) 「周りの人間が生木を裂くようなまねをしてがまんがな な人が寄ってたかって、生木を裂くんですからね」② 「用例①永井荷風『新橋夜話』(九三)「あなた見たよう らない」 波風が立つ 意味平穏無事なところに、争いごと が起きて平穏な生活・状態が乱される。 用法文型「ドコドコに波風が立つ」 用例①三浦哲郎『結婚』(二六七)「稼ぎがよければよいで、 酒と女、思わぬ波風が立つことになるかもしれない」② 清水一行『ITの踊り』(三〇四)「もっとも未練より本音 では波風立たず別れられたという安堵感の方が、強かっ たのかもしれなかった」 類句 「角が立つ」 外国語 英語では make waves なみかぜた 意味平穏無事なところに、わざわ 波風を立てる ざ争いの原因やきっかけとなるもの を持ち込む。用法文型「ダレナニがドコドコに波風 を立てる」。用例①のように「波風を」と「立てる」の間 に語句を挿入できる。否定形が可能。 用例①藤本義一『サイカクがやって来た』(九六)ト ルコ嬢は、あなたの家庭に波風を絶対たてませんから ね」②高杉良『指名解雇』(九七)どうか波風を立てるよ うなことはしないでください」③清水一行『ITの踊り』 (三〇四)「柔らかい女性の肌の感触に、いつも浸っていた かった。そのため余計な波風を立てず、両手に花の状況 を愉しみたかった」 <308> 涙を呑む 意味つらくて泣きたい気持ち、悔しさ、 無念をぐっと我慢する。用法文型 が涙をのむ「涙をのんで~する」「江戸」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二六〇)「われわれ医者はな、初めから権威には弱いんや。あんたの勝ち目はない。ここはやっぱり涙を呑んで旗を巻いた方がいいと思うな」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「諸君はどのようにも染り得、どちらへでも進めるゆえに、いま去られる送別の感傷ではなく、教授者たるわれわれもひそかに涙をのむのであります」③『朝日新聞』(一九一三・三・八朝)「みんなただ黙々と一銭五厘の赤紙一枚の召集令状に従って、涙をのんで愛する夫、兄弟、わが子を兵隊に差し出した」類句「唇を噛む」「歯を食いしばる」「外国語」英語では choke back tears of frustration 波に乗る 意味世の中のある情勢や流れにうまく 適合して勢いがつき、物事が調子よく 進む。また、周囲に関係なく調子が出る。用法文型 「ダレナニが(ナニナニの)波に乗る」。命令・意志表現は 可能。用例②のように可能動詞の否定形も可能。 用例①「明日新聞」(一九九・二つ・三つ朝)「この勝利の波に 用例①朝日新聞(一九九・10・三朝)この勝利の波に 乗って、一日も早く来夏の参院選への取り組みを徹底し よう」②「朝日新聞」(一九〇・二・三朝)「ここ二場所では前 半戦で不覚を取るなどいまひとつ波に乗れないためだ」 ③「朝日新聞」(一九三・一・三朝)「やがて、高度成長の波に 乗った。当たれば当たるほど夫は事業にのめり込んだ」 * 類句「調子に乗る」「流れに乗る」 かま 意味あることを成し遂げるた なりふり構わず めに熱中するあまり、服装・態 度におかまいなく、また他人の目や人からどう思われ るかなどを気にせず一生懸命になるさま。用法文型 「ダレダレがなりふりかまわずする」。「なりふりかま わぬダレダレ」のように修飾することが可能。常に否定 形で用いられるが、意図して用例③のような表現をとる 例もある。 用例①「朝日新聞」(一九九・四・三六朝)「国鉄労使のなりふりかまわぬ政治力が功を奏した格好だ」②「朝日新聞」(一九九・七・五朝)「同省は米のだぶつき解消になりふり構わずといった格好だ」③「毎日新聞」(一九三・一・三朝)「これが横綱の取り口か、というものが何番もあった。若乃花にいわせれば、それはなりふりかまうどころではな <309> かったのであろう 類句「恥も外聞もない」「見榮も外聞もない」 外国語 英語では without regard for appearances 鳴りを潜める 意味音を立てず静かにしている。 転じて、目立った活動をしないでお となくしている。 用法文型「ダレナニが鳴りを潜 める」(南北朝) (用例)①島崎藤村『夜明け前』(二九)「寺の門前を急ぐ 人の足音も絶えた。物音一つしなかった。何もかも鳴り をひそめて、静まりかえったようになった」②『朝日新 聞』(三〇四・九・二朝)「受注企業はひたすら中国の反対派の 声を恐れて、記者会見も行わずに鳴りを潜めるだけでは 問題の解決にならない」 類句「鳴りを静める」 外国語 英語では keep a low profile なあ 意味あることを成し遂げてよい評判 名を上げる を得て、知られるようになる。用法 文型「ダレダレは~して名を上げる」「平安」 い物依存症』をルポして名をあげ、最近は顔と胸の美容 外科手術の体験記が注目された」 用例 朝日新聞(三〇四・10・六朝)「中村さんは自らの買 類句「名を成す」 な名を売る 意味自分の名を世間に広く知れ渡るようにさまざまな働きかけをする。 用法文型「ダレナニが(ナニナニとして)名を売る」。「名 を売っている」の「ている」形で世間に評判になってい る意。命令・意志表現は可能。「江戸」 ①德富蘆花『不如帰』(二八九)「ラッパを吹き鼓を鳴らして名を売ることをせざれば、知らざる者は名をだに聞かざれど、知れる者はその包むとすれどおのずから身にあふるる光を浴びて、ながくその人を忘るるあたわずというなり」②『朝日新聞』(三〇四・九・三夕)「女はセクシュアリティや数奇な生い立ちによって、男は暴力と狂気によって、名を売る」 なな 意味その道で、すぐれた業績をあげる 名を成す ことによって、世間に認められ、有名に なる。用法文型「ダレナニが(ナニナニとして)名を成 す」「室町」 <310> 用例①森鴎外『舞姫』(二八九)「官長の覚え殊なりしかば、 洋行して一課の事務を取り調べよとの命を受け、我名を 成さんも、我家を興さんも、今ぞとおもう心の勇み立ち て」②芥川龍之介『地獄変』(二九八)「いや実際当時の風評 に、良秀が画道で名を成したのは、福徳の大神に祈誓を かけたからで」③中島敦『山月記』(二九四二)「自分は元来詩 人として名を成す積りでいた」④藤本義一『サイカクが やって来た』(二九六八)「本居宣長などは過保護ママの養育 のために名を成したと考えてみるのも面白い」 類句「功なり名を遂げる」「名を上げる」「名を得る」 なんくせ 難癖を付ける 意味人や物の大したことではない 落ち度や欠点を見つけて文句を言い、 非難する。用法文型「ダレダレがダレナニに難癖を つける」(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「われわれ個人 病院は、……大学病院のように至れり、尽せりのことは 出来ん、したがって設備の上でも、医師の陣容の上でも、 患者の方が難癖をつけようと思えば、なんとでもつけら れるのや」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「かたぎの暮らし をするフサに難癖をつけてくると思って腹が立ち」③清 水一行『ITの踊り』(三〇四)『……そこで紅一点の佐藤君を、あなたは上司の力をかさに慰み者にした。明らかなセクハラです』『冗談じゃない。あなたは難癖をつけるんですか』 類句「揚げ足を取る」「けちをつける」(外国語)英語 ではlash out at someone なんしよくしめ 意味ある行動をとることに対して、 難色を示す 否定的で賛成しかねる態度を示す。承 知しかねることを言外ににおわす。用法文型「ダレ ダレがナニナニに難色を示す」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二七二)「編成外 れん の形で大隊本部が随行することに、聯隊長としていさ さか難色を示した」②『朝日新聞』(三〇四・六・三夕)「中曾 根元首相は、83年のサミットで、対ソ連ミサイル欧州 配備に難色を示す仏大統領を自分が説き伏せたことが ロン・ヤス関係の契機になったと回想」③『朝日新聞』 (三〇四・二〇・八朝)「関空の需要回復の遅れから予算化に難 色を示す財務省との予算折衝を控え」 <311> 何でもかんでも 意味「なんでも」の強調で、 どのようなものでもすべて。 用例①川端康成『浅草紅団』(二九九三)「なんでもか んでもグロテスクだよ」②井上ひさし『日本亭主図鑑』 (一九五)「なんでもかんでも男女平等になって世の中が ひっくりかえれば、勤めに出るのは女房たちである」 る 用法文型「何でもかんでも~だ」「何でもかんでも~す 何としても 意味(1)どのようにしても。どのような手段を使っても。強い意志を示す。 (2)何と言っても。ある事柄を強調して言う。用法文 型(1)「ダレナニが何としても~する」(2)「何としても~だ」。「何としてでも」とも言う。 (用例)①太宰治『お伽草紙』(一盞五)「色気のほかにい まはむらむら慾気さえ出て来て、いよいよこれは何とし てもこの女にくっついて一生はなれぬ事だ、とひそかに 覚悟のほぞを固めて」②日下秀憲『ポケットモンスター スペシャル2』(一九九八)「ミュウをつかまえるためにはあ のディスクが必要なんだ!何としてもあのガキどもを さがし出して」②③太宰治『右大臣実朝』(一盞三)「私たち にはそれが何としても無念で 類句「何が何でも」 何のかんの 意味あれこれといろいろ。ああだこ うだ。用法文型「ダレダレが何の かんの(と)する」。「する」には「言う」が多いが、 その他に相手に対して何らかの働きかけをする動作が来 る。それは働きかけられる側にとって迷惑であるという ニュアンスがある。「なんのかの」とも言う。「安土桃山」 用例①夏目漱石『虞美人草』(たも)「何のかのと云って 一分でも余計動かずにいようと云う算段だな。怪しから ん男だ」②泉鏡花『婦系図』(たも)「今来た、あの母親も 何のかのって云っているからな、もう彼家へは行かない 方が可いぜ」③夏目漱石『彼岸過迄』(た三)「君だの僕だ のが何のかのと要らぬ世話を焼くのはかえって当人達の ために好くあるまい」④木谷恭介『京都小町塚殺人事件』 (三〇三)「毎月のローンもなんのかんのといいながら温奈 がほとんど負担している」 類句「何やかや」 <312> 何のその 意味ある事柄について大したことない と軽視したり反発したりして何かを行う 時に言う言葉。用法文型「ナニナニも(など)何のそ の」(江戸) 用例「障害も何のその。力を合わせればやれる」 類句「たかがしれている」「どうということはない に * 煮え湯を飲まされる 意味信用していた人間に 裏切られてひどい目にあわ される。用法文型「ダレダレがダレダレに煮え湯を 飲まされる」。受身形で用いられることが多いが、用例 ①のように「煮え湯を飲ませる」という使役形や③のよ うに「煮え湯を飲む」という能動形がある。江戸 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「私に煮え湯を 呑ませた女房のやつに復讐をしてやったまでです」②司 馬遼太郎『梟の城』(一九五九)「師匠の下柘植次郎左衛門には、 過去において重蔵は煮え湯をのまされた記憶が多かっ た」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「君がどんな妨害 行為をしても、維子はますます、それにさからうことに なる。実際、煮え湯を呑むのは、お父さんやお母さんな んだ」④朝日新聞』(一九八一・二〇・三朝)「東亜航空と合併さ せた強引な手法は、かって『強盗慶太』と異名を取った 父親のイメージと重なって、煮え湯を飲まされた連中の <313> 間では血は争えないものだといまもて評判が悪い 類句「飼い犬に手を噛まれる」「背負い投げを食う」 外国語英語ではbe burned badly 苦虫を噛み潰したよう 意味顔をゆがめて非常 に不愉快そうな様子をす ることを、苦いものを噛んだ時の顔にたとえて言う。 用法文型「苦虫を噛み潰したような顔」。「よう」を省 くこともある。用例④のような例はことば遊びでまれ。 江戸 「用例①里見弴『多情仏心』(九三)「踊りが始まるからなどと女中が伝えて来ても、苦虫を噛みつぶしたような顔をして決して書斎から出て行こうとはしなかった」 ②『朝日新聞』(九五・七・三朝)「吉田さんは、気に入った人との差しの話では愛想がいいが、民衆に対しては苦虫をかみつぶした顔しかない」③有吉佐和子『恍惚の人』(九三)「茂造は、いつでも苦虫をかみ潰したような顔をして、文句ばかり言っていたのだ」④岩城捷介『免職警官』(三〇三)「電話線の向こうの顔が想像出来た。苦虫を三匹ほど噛み潰した顔」⑤本所次郎『閨閥』(三〇四)「鹿野 が壇上で苦虫を噛みつぶした顔をつくったのを出席し た社員の誰もが目にした」 外国語 英語では a sour face 西も東も分からない 意味見ず知らずの土地に 置かれたり物事が初めてで あたりして、何も分からずとまどう様子。用法文 型「ダレダレが西も東も分からない」。用例②のように 「西も東も」と「分からない」の間に語句を挿入できる。 用例①太宰治『十二月八日』(九四)「主人は、どういうものだか地理の知識は皆無なのである。西も東も、わからないのではないか、とさえ思われる時がある」②源氏鶏太『もう手遅れ会』(九五三)「西も東もよくわからぬ新入社員時代に」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九三)「新しい水槽に移ってまだ西も東もわからない金魚のお嬢さんは、おどろいて逃げまわるのだが何しろ敵は多数である」 類句西も東も知らないとも言う にそくわらじは 二足の草鞋を履く 意味もと博徒が十手持ちの 仕事を兼ねたことから転じて、 <314> 同時に二つの異なる職業・任務を兼ねる。用法文型 「ダレダレが(ナニナニとナニナニの)二足のわらじをは く」。「二足のわらじ」と略すこともある。 用例①『朝日新聞』(一九八二・二・七朝)「この高仁、打撃も捨てがたいとあって現在二足のワラジをはいての練習中だ」②『朝日新聞』(一九八三・三・一八朝)「同協会からは現役選手とコーチの二足のワラジは認めないとして拒否された」③『朝日新聞』(三〇四・二・二九夕)「『学問は一番疲れない労働』が持論で、同大を70歳の定年でやめるまで二足のわらじをはき続けた」 類句「二足のわらじをこなす」(『朝日新聞』(三〇四・二・三九夕)「早大の同級生だったプロデューサーに『日本を舞台に西部劇をつくったらどうか』と持ちかけると、『では、君が原作を書け』。議員と二足のわらじをこなした」(外国語)英語では have one's fingers in two pies 似たり寄ったり 意味どれも平凡でたいした違 いがなく、よく似ていることの 強調表現。否定的なニュアンス。用法文型「ダレナ ニは似たり寄ったりだ」「ダレナニドコと似たり寄った りだ」。用例③のように「似たり寄ったりのダレナニド コ」と用いられることもある。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩「一人二役」(九五)「翌朝の模様は、前の時と似たり寄ったりで」②山崎豊子「白い巨塔」(一九六三一五)「他の学部では、公明正大な教授選挙が行われてるとでも云いたいのかい、冗談じゃないよ、どこだって似たり寄ったりだ」③「朝日新聞」(一九七九・八・一七朝)「おそらく全国の有名無名の山々も似たり寄ったりの状況であろう」④高杉良「首魁の宴」(一九九八)「杉野礼讃、杉野ヨイショのスピーチは政界人も財界人も似たり寄ったりだ」⑤岩城捷介「免職警官」(三〇三)「栄町にはホストクラブはあまりないんだが、どこも似たり寄ったりだ」 類句「どっちもどっち」「どんぐりの背比べ」外国語 中国語では成句「半斤八兩」(似たり寄ったり。旧制の一斤 は十六両で、「半斤」は「八両」にあたることから) 二進も三進も行かない 意味「にっちもさっち も」は、もとそろばんの 割り算から出た言葉で計算のやりくりのこと。転じて、 物事が行き詰まり苦しい立場や境遇に追い込まれて、身 動きの取れない状態を表す。用法文型「にっちも さっちもいかない」「にっちもさっちもいかなくなる」。 <315> 常に否定形をとる。独立した文として用いられるが、用 例②のように後ろの名詞を修飾することが可能。用例① のように訛って「にっちんもさっちんも」とも言う。江 戸 用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(八七)「サア大変はちまきを腹へメなければならぬ様な場合に為て二進も三進も行ぬ所から」②森村誠一『東京空港殺人事件』(九七二)「それに反して『空港』は、捜査が膠着して、にっちもさっちも行かないところに追いつめられていた」③朝日新聞』(九六〇・三・三朝)「五輪は政治の介入、巨大化、商業主義などにほんろうされ、にっちもさっちもいかなくなっている」④大沢在昌『無間人形新宿鮫Ⅳ』(九九四)「貸し倒れの状態で、にっちもさっちもいかんらしい」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(三〇二)「そして、秋場は『もうにっちもさっちもいかない。何もかも洗いざらい司法当局に打ち明けて、裁きを受けたほうがいいと思う』と口にするようになる」 類句「暗礁に乗り上げる」「動きがとれない」「進退これ きわまる」「抜き差しならない」 外国語 英語では in a deadlock 煮て食おうと焼いて食おうと 意味人がある 人を自分の好き なように扱うことを表す時、また自分をやけ気味に相手 に委ねる時に言う言葉。用法文型「煮て食おうと焼 いて食おうと~」(江戸) 用例①大下宇陀児「瓜」(一九三六)「俺の子なら、よろしい。 煮て食おうと焼いて食おうと勝手にするぞ」②「煮て食 おうと焼いて食おうと、お好きなように」 似て非なる 意味外見はよく似ているが、内実は 全く違う、偽物、まがい物である。出 典は中国の古典『孟子』。用法文型「ダレナニはダレ ナニと似て非なるもの」「室町」 ①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「ほんのわずかでも余裕があるようでは、その人間は、文学者として、似テ非ナル鼻持ちならない存在になってしまいますわ」②『朝日新聞』(一九九九・九・三朝)「戦前に力を振るった駐在武官とは、似て非なる存在」③『朝日新聞』(三〇四・九・五朝)「逆にわれわれの人生は、与えられた環境の中で人間関係を築くほかないのだから、なるほど映画とは現実に似て非なるものである」④『朝日新聞』(三〇四・九・一八朝)「今 <316> 回の原油価格上昇は、供給不安から起きた過去2度のオ イルショックとは似て非なるものだ」 類句「似ても似つかない」 似ても似つかない 意味全く似ていないこと。 似ていないことの強調表現。 用法文型「ダレナニはダレナニと似ても似つかない」 「似ても似つかないダレナニ」。「似ても似つかぬ」とも言 う。江戸 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(二六〇)「駅の食堂では、むしろ何か周知のものをと思って、ウイナー・シュニッツエルを日本の豚カツのつもりで注文すると、似ても似つかぬものが出てきた」②『朝日新聞』(二九九・五・三朝)「一、二カ月して似ても似つかぬ同姓異名の口座に振り込んだというはがきが来」③森村誠一『人間の十字架』(二九三)「わが子を、悪魔が乗っ取り、似ても似つかぬ悪魔の子に改造してしまったのだ」④『朝日新聞』(三〇四・九・三夕)「いまの郵貯改革は、かつて考えていたものとは似ても似つかない方向に進んでいるとしか思えない」 類句「似て非なる」 煮ても焼いても食えない 意味相手がしたたか で、また癖・個性が強 くて扱いにくい、施す手段がなくて手に負えない。 用法文型「ダレダレは煮ても焼いても食えない」「江 戸 用例①源氏鶏太「明日は日曜日」(九五十三)「実際、が んこおやじだ!煮ても焼いても食えぬとは、あんなお やじに違いない」②木谷恭介「京都石塀小路殺人事件」 やさ (三〇〇)「虫も殺さへんようにみえる優男どすが、これが 煮ても焼いても食えんえげつない男どす」 類句「海に千年山に千年」「一癖も二癖もある」「一筋 縄ではいかない」外国語英語ではa tough bird(to cook) 二の足を踏む 意味一歩目は踏み出したが、二歩 目はためらっていることから、ある 行為をしたいと思いながら、それを妨げる原因があり、 どうしようか迷い、なかなか思い切って物事を進められ ない、実行できない様子。躊躇する。用法文型「ダ レダレが十二十二に二の足を踏む」。用例③のように使 役形が可能。江戸 <317> 用例①二葉亭四迷『其面影』(九六)「二の足を踏む父や兄を強いて納得させて、無二無三に養子に来てしまったのが即ちこの小野家」②三島由紀夫『禁色』(九五一五三)「もし松村が警戒して二の足を踏むようだったら、河田と一緒に来たことのない酒場だ、ぐらいの嘘はついてもいい」③城山三郎『毎日が日曜日』(九五五)「こういう話をしても、養豚業者たちは、やはり、浮かぬ顔をし続けた彼等に二の足をふませる第三の問題は、立地条件、いいかえれば、公害問題である」④朝日新聞』(九六〇・五・一朝)「米国工場進出をしても、数年後に米国の小型車が出回ると競争に勝てず採算がとれないと、二の足を踏んでいる」⑤朝日新聞』(九四・六・三朝)「最近の男性は子供や妻を養うよりも、自分のやりたいことに稼いだお金を使いたいと、結婚に二の足を踏んでいるようだ」 外国語 英語では have second thoughts *中国語では成句「犹豫不決」(ためらって決しかねる) 二の句が継げない 意味相手の非常識な、ある いは意外な言動にあきれたり、 驚いたりして、それに対して言う言葉が出て来ない。 用法文型「ダレダレは二の句が継げない」(江戸) 「用例①二葉亭四迷『其面影』(一九六)『やあ!』と言っ たぎり葉村も二の句が継げず、呆れてその見窄らしい 風体を眺めていたが」②源氏鶏太『娘の中の娘』(九五八) 「『わしは、詫びて貰いたくない。そのかわり、許し もせぬ。』桂子は、二の句がつげなかった」③『朝日新 聞』(一九七九・三・八朝)「小学校四年生の娘が『ぜいたくや な。カンボジアのことをかんがえてごらん』。私たちは 二の句がつげませんでした」④森村誠一『人間の十字架』 (一九九三)「青柳は唖然として二の句が継げなくなった」⑤ 内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(九九七)「いやみなほど の驚くべき謙虚さで、ぼくは二の句が継げなかった」 類句「二の句がつづかない」とも言う。「開いた口がふ さがらない」「呆れて物が言えない」「呆気に取られる」 「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」 「肝を冷やす」「腰を抜かす」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」 「目を白黒させる」「目を丸くする」「外国語」英語では be struck dumb *中国語では成句「无言以对」(答える 言葉がない) 二の次意味すべきことや重要度からいうと一番目一番大事なことではないこと。後回し。 <318> 用法 文型「ダレナニは二の次だ」「ダレダレはダレナニ を二の次に(う)する」「江戸」 用例①開高健『パニック』(九五七)「イタチというのはいい考えですよ。あれはネズミとみれば片っぱしから殺してしまいますからね。食う食わんは二のつぎとして、とにかく見つけ次第に殺してしまうんです」②有吉佐和子『恍惚の人』(九三)「茂造は自分から息子を恋しがって訪ねて来るということはなかった。自分の病弱にかまけて、息子も娘も二の次、三の次であった日常が、まず自分から遠いものから忘れていったのであろう」③朝日新聞』(九九・六・一九朝)「自民党の体質は経済至上主義で人の安全は二の次に考えているように思える」④朝日新聞』(三〇四・九・三九夕)「旅行では、趣味の美術館巡りと、テープカッター台探しに明け暮れる。観光は当然、二の次」 外国語 英語では of secondary importance 二の舞 意味「二の舞」は舞楽で「案摩」の舞の次 にそれをまねて演じる滑稽な舞いの意。転 じて、他人と、あるいは前回の自分と同じような失敗を 繰り返してよくない結果になること。用法文型「ダ レナニはダレナニの二の舞に(と)なる」「ダレナニはダ レナニの二の舞を演じる/する」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「維子……私はね、お前が伊勢子の二の舞をしてもらいたくないから、訊くのだ」②平岩弓枝『風子』(二九五十七)「崎津が近づいて風子の唇へ唇をあてた。それだけのつもりが、抱き合っている中にやはり昨日の二の舞になった」③朝日新聞』(二九五九・二・二六朝)「北の湖自身は否定するが、心のすみのどこかに、名古屋場所の二の舞いを演じては、の気持ちがあったのかもしれない」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(二九九八)「ビデオやポスターはたしかにどぎついが、何もしないでいると、わたしたちがマメシンクイガの二の舞をみるかもしれない」 類句 「轍を踏む」 外国語 中国語では成句 「重蹈覆 轍」(覆轍を踏む。「重蹈」は再び踏む) にべ 膠もない 意味「にべ」は愛敬・愛想の意。相手 の言ったことに対して、何のためらいも 愛想なく拒否、否定するさま。そっけない。用法文 型「ダレダレは(~と)にべもなく~する」「ダレダレは (~と)にべもない」。「~する」には、「断る」「はねつける」 <319> など拒絶を表す言葉が来る。江戸 * ぬ * 「用例①久保田万太郎『末枯』(二九二)「法事なら此方で勝手にするから。──と膠もなく返事をした」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「それにしてもチーフ・オフィサーは私の進言を実にニべもなくはねつけたのである」③三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)『いやですよ、わたし』三堀が返事するより先に美沙はにべもなく断わった」④朝日新聞』(一九八二・三・一朝)「かたことの英語でかけあっても『フランス語が話せなければダメだ』と、ニべもなく追い返されること三たび」⑤森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「『当館では来館者の名前は記録していません』ニべもない答えが返ってきた」 類句「にべもしゃしゃりもない」とも言う。「木で鼻を くくる」「けんもほろろ」「取り付く島がない」「鼻であし らう」 波 あしさ あし 意味相手に気づかれないように、 抜き足差し足 そっと爪先を立てて忍び歩きする様 子。用法文型「ダレダレが抜き足差し足でする」 江戸 (用例)①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇三)「二人はぬき足さし足、その窓のそとへしのび寄った」②横溝正史『広告面の女』(一九三八)「そっとドアを締めると、抜き足、差し足、自分の部屋へ帰ってきたのである」③開高健『裸の王様』(一九五七)「彼はぬれた手でいらだたしげに額の毛をはらい、ぬき足さし足で池にもどっていった」 類句「抜き足差し足忍び足」(外国語)英語では tiptoe (stealthily)*中国語では成句「蹑手蹑脚」(足音を忍ばせて歩くさま)、「轻手轻脚」(手足の動作に気を配って音を立てないようにするさま) <320> ぬさ 意味抜くことも差すことも 抜き差しならない できないということから、物 事の対処のしようがない、動きがとれずどうしようもな いさま。用法文型「抜き差しならない状態」。「抜き 差しのならない」とも言う。江戸 用例 梶井基次郎『のんきな患者』(九三)「たとえ吉田 は漠然とそれを感じることができても、身体も心も抜き 差しのならない自分の状態であってみればなおのことそ の迷妄を捨て切ってしまうこともできず」 類句「暗礁に乗り上げる」「進退これきわまる」「にっち もさっちもいかない」 ぬぬ 意味拔いたり抜かれたりと同 抜きつ抜かれつ 等の力を持つ者同士が激しく競 争する様子。用法文型「ダレナニがダレナニと(ダレ ナニとダレナニが)抜きつ抜かれつ~する」。用例①②の ように「抜きつ抜かれつのナニナニ」と後ろの名詞を修 飾することが可能。 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二六三)「君と葉山和 子は、抜きつ抜かれつの女流秀才だったことはたしか だよ」②『朝日新聞』(一九六六・三朝)「しばらくは山本浩 田代、衣笠、王の四人が抜きつ抜かれつの接戦を繰り返 しても」③『朝日新聞』(三〇四・二・三朝)「東京から来た60 歳のKさんという男性と2日間、抜きつ抜かれつ旅をと もにした」 類句デッドヒートを演じる 故め 意味自分の利益になることに敏感 抜け目がない で、失敗なくうまくふるまう。手抜 かりなくする。用法文型「ダレナニはナニナニに抜 け目がない」。「抜け目ない」とも言う。 用例①太宰治『グッド・バイ』(二卲八)「抜け目なく四方 八方を飛び歩いて、しこたま、もうけた」②辻邦生『北 の岬』(二九〇)「なにせ奴さんたち、抜け目がありません でね。……まだ若い雌ですよ。年とったのは絶対かかり ません」 類句 生き馬の目を抜く「抜かりがない」「油断も隙も ない」 外国語 英語では not miss a trick ぬすっとたけだけ 盗人猛々しい 意味盗みや悪事をしていながら平 気でずうずうしくしていたり、さら に脅したりすることをののしって言う言葉。用法文 <321> 型「盗人猛々しいとはこのことだ」。「ぬすびとたけだけしい」とも言う。〔江戸〕 用例高杉良『会社蘇生』(一九八七)「鉄面皮にもほどがある。 盗人猛々しいとはこのことだ」 *つら 「口つそぐ直い 類句面の皮が厚い るという展開も異色」 外国語 英語では falsely accuse someone 濡れ衣を着せる 意味本当は犯人ではないもの を犯人であるかのようにしたて る。無実の罪を負わせる。用法文型「ダレダレがダ レナニに(ナニナニの)濡れ衣を着せる」「ダレナニがナ ニナニの濡れ衣を着せられる」。受身形で用いられるこ とが多い。「平安」 ①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五)「いったい、何の証拠があって、私に、そんな濡れ衣を着せるんですか」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「あの娘の親は金の力でもって事実をねじ曲げ、こっちへ濡れ衣を着せたというわけだ」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九八)「五百年間、吸われてきてそれほど害がなかったんですから……。煙草も花粉とおなじで、濡れ衣着せられてるんじゃないですか」④朝日新聞(三〇四・七・一八朝)「第1話でいきなり主人公がチカンの濡れ衣を着せられ <322> ね * ねがえ 寝返りを打つ 意味 (1)寝たままで体の向きを変え る。(2)味方を裏切って敵方につく。 用法文型「ダレダレが寝返りを打つ」(2)の意味の場合、用例③のように受身形がある。 用例(1)①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「俊輔は今のみちたりた気持をどう表現してよいかわからなかったので、もう一度寝返りを打った」②星新一『ボッコちゃん』(一九七二)「不眠症の苦しさは、経験者でないとわからない……数をかぞえたり、枕をとりかえてみたり、寝がえりをうったり、便所へ立ったり、ありとあらゆることを試みる」(2)③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「ある時間が経過すると、親たちは、あっさり寝返りをうたれてしまうのである」④里見弴「戦争と私」(一九七〇)「急にロシアが寝返りを打って、ポカポカッと満州へ攻め込んで来たね」 ねが かな 意味自分が希望していた通 願ったり叶ったり りにことが運ぶさま。用法 又型「ナニナニは願ったり叶ったりだ」(江戸) 用例①広津柳浪『河内屋』(八九六)「本統に有難いじゃないか。願ったり達ったりと云うのは此事なんだよ」 ②高杉良『指名解雇』(一九九七)「荒垣さんから離れられて願ったり叶ったりだよ」③原ゆたか『かいけつゾロリのきょうふの宝さがし』(一九九九)「『あさになると、このどうくつへ、たんけんたいがはいってくる。そいつらをぜんいんおどかしてもらいたいんだ』『それはもう、ねがったりかなったり。われわれのこわがらせかたが、どれほどじょうたつしたのか、ちょうどためしてみたかったところですよ』④朝日新聞(三〇四・三・四朝)「新聞社に就職すれば、ちゃんとお給料をいただいて、文章も書けるわけだから、これは願ったり叶ったりだと思ったんです」 類句「思うつぼ」「図に当たる」「つぼにはまる」的に 当たる」外国語英語では It's like a wish come true 願ってもない 意味願ってもかなわないようなこ とが運良く現実になって、非常に望 <323> ましい、ありがたい。 用法 文型「願ってもないナニ ナニ」。後ろの名詞を修飾することが可能。〔江戸〕 「用例」①佐野洋『推理小説実習』(九九)「河田には、もう未練はありませんでした。ですから、村井さんが引きとってくれ、しかも借金を返してくれるというのは、願ってもないことだったのです」②『朝日新聞』(九九・七・二朝)「『右を差されてはいかん』と、左は押しつけ。願ってもない体勢になって一気に押し出した」③「朝日新聞」(九九・八・二朝)「打順が主軸に回る願ってもない好機を迎えた」 外国語英語では couldn't ask for a better *中国語 では成句「求之不得」(求めても得られない) ねこてか 意味何の役にも立たない猫 猫の手も借りたい の手助けでも欲しいくらい忙 しい様子。用法文型「猫の手も借りたいほど(くらい) 忙しい」「猫の手も借りたいほどの(くらいの)忙しさ」。 比喻表現として用いられることが多い。江戸 用例①佐藤春夫『わんぱく時代』(九五)「猫の手も借りたいほどの暮に」②柳田邦男『空白の天気図』(九五)「人手が足りなくて、猫の手も借りたいくらいなのだ」 ③中上健次『鳳仙花』(二九○)「確かに祭りの次の日の今日、猫の手も借りたいほど忙しかったが」④高杉良『会社蘇生』(二九七)「先生は猫の手も借りたいくらいに忙しいのと違いますか」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(三〇二)「捜査二課は目が回るほど忙しくなった。千菜美は本来なら事件関係者だったが、猫の手も借りたい状態では、捜査から外れろという声は起きなかった」 類句「席の暖まる暇もない」「盆と正月が一緒に来たよ う」「目が回る」 ねこひたい 意味土地や庭が猫の額のように非常に狭 猫の額 いことのたとえ。用法文型「猫の額の ような(みたいな・ほどの)ナニナニ」(江戸) 用例①田中英光『桜』(二四三)「こんな山の猫の額みた いな土地では」②『朝日新聞』(二九五・二五朝)「猫の額の ような狭い沖縄の土地が」③森村誠一『人間の十字架』 (二九三)「建坪三十坪、猫の額のような庭がついたマッチ 箱のような家だったが、彼が一人で住むには広すぎた」 ねこめ 意味猫の瞳の大きさが明暗で変化 猫の目のよう するように、方針や順番や物事がこ <324> ろころと変化し、固定しないことのたとえ。マイナス評価として用いられることが多い。用法文型「猫の目のように~する」。「~する」には「変わる」「変化する」などの動詞が来る。用例②のように「のように」を省略して「ネコの目」だけで表現することもある。 用例①『朝日新聞』(一九七九・七・三六朝)「まるでネコの目のように変わる農政に、反発することもできず」②『朝日新聞』(一九一・九・三六朝)「近藤監督が掲げた『攻撃野球』はいびつなネコの目打線に変わってしまった」③『朝日新聞』(一九三・四・五朝)「阪神も猫の目のように変わる投手陣に的が絞れなかったようだ」④『朝日新聞』(三〇四・三・二朝)「精神性疾患による休職者が目立って増え始めたのは、教育改革の施策が猫の目のように変わった00年ごろから」 ねこしゃくし 意味誰も彼もみんな。状況や違いを 猫も杓子も 考えず、みんながまねをして同じよう な言動をとることへの批判的なニュアンスがある。語源 は諸説あり不明。用法文型「猫も杓子も~する」江 戸 用例①德富蘆花『思出の記』(一九〇〇二)「時は明治 十五年、猫も杓子も政社政党組織に熱中する時節」②獅 子文六『自由学校』(五五)「猫もシャクシも、自由とか 解放とかを、口にしている」③丸谷オ一『男のポケット』 (二九九)「猫も杓子も実存主義で、これが判らなければ何 一つ判らないとみんなが考へたのである」④朝日新聞 (二九〇・二・三朝)「今もなお、ネコもしゃくしも大学へ殺 到する現状を目にするとき」 類句「右へならえ」外国語英語では everybody and his brother *中国語では成句「张三李四」(猫も杓子も。「张三」と「李四」は仮に付けられた名前。不特定の人を指す) ねこかぶ 意味ある人の前では本性を隠して、お 猫を被る となしそうにする。また、知りながら知 らない振りをする。用法文型「ダレダレが猫をか ぶっている」 用例①内田魯庵「くれの廿八日」(八九)「近ごろの女 教師や女学生が油断なるもんかネ、(略)彼様いう生意気 な耶蘇ツ臭い人が猫を被ってるもんで」②佐藤春夫『わ んぱく時代』(一九五)「今でこそ新しい学校へ来たばかりで ネコをかぶっているが、今に正体を現わすに違いない」 ③舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「脩吉さん、案外お <325> となく帰ったけれど、あれは猫をかぶっているのだろうね」④中上健次『鳳仙花』(一九六〇)「乱暴な龍造がフサの前ではネコを被っていると思え、おかしくなってくる」⑤大沢在昌『悪夢狩り』(一九四)「あいつは大人だからネコをかぶっているんですよ」 外国語 英語では put on ねこお 寝た子を起こす 意味せっかく収まっていた事 柄に手を出したり、忘れかけた 嫌な事柄を思い出させたりして、再び面倒なことを引き 起こすたとえ。用法文型「寝た子を起こすようなナ ニナニ」 用例①高杉良「首魁の宴」(一九八)「寝た子を起こすことになりかねない」②「寝た子を起こすようなまねはやめろ」 類句「藪をつついて蛇を出す」 ねっ 熱が冷める 意味何かに夢中になっていた気持 ちがなくなってしまう。用法文型 「ダレナニは熱が冷める」「ダレナニの熱が冷める」 用例①石坂洋次郎「光る海」(一九六一六三)「社交的な、既 製品的な愛情で夫婦生活に入り、すぐに熱がさめて、 あとは惰性で家庭生活を営んでいく」②『朝日新聞』 (三〇四・二・三王朝)「社長がやろうとしていることは実現し ないと思う。社員の熱が冷めています」 ねっはい 熱が入る 意味あることを熱心に取り組んでいる さま。 用法文型「ナニナニに熱が入 用例①「朝日新聞」(三〇四・九・四夕)「話に熱が入ってくると目が鋭い」②「朝日小学生新聞」(三〇四・二・三)「受験をひかえ、塾に通う小学生たちの勉強にも熱が入ります」 熱に浮かされる 意味高熱が出て、うわごとを 言う。転じて、物事に熱中して 分別を失う。用法文型「ダレダレが熱に浮かされて ~する」「熱に浮かされたよう(みたい)」(江戸) 用例①高橋和巳『悲の器』(二六三)「富田がその失踪の 前に、熱にうかされたように書いた一連の論文は、従来 の論文体からはなはだしく逸脱した、ほとんど文学的な アフォリズムの集積であったために」②山崎豊子『続白 <326> い巨塔』(一九六十六)「うちの父いうたら、もう柳原さんの ことになったら、熱に浮かされたみたいですのんよ」 熱を上げる あ 意味何かに熱中して夢中になる。短 期間でのぼせあがるようなニュアンス を持つ。特に異性に対して恋心を抱き、夢中になること をいう場合が多い。その場合は「お熱を上げる」とも。 用法文型「ダレダレがダレナニに熱を上げる」 用例①高橋和巳『悲の器』(九三)「わたくしばかりが初恋みたいに熱をあげて先生のことを思って」②城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「十万頭養豚という事業計画に熱をあげている」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(九三)「当然、稔も、亜紀子が石橋に熱を上げているのには気づいていた」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「だけど、マックスには結局振られてしまった」「あれは向こうが勝手に熱を上げていただけだ」⑤朝日新聞』(三〇四・九・三朝)「冬のソナタ」に熱をあげたり、日韓にもう垣根はないと思い込んだりしている日本人にとっては、狐につままれたような感じではあるまいか」「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「血道を上げる」「熱を入れる」 熱を入れる 用法文型「ダレダレがダレナニに熱を入れる」 意味ある期間継続してじっくりと真 剣に取り組む。意欲的に取り組む。 用例①高橋和巳『悲の器』(一九三)「担当事件に熱を入 れない弁護士の論説」②田辺聖子『欲しがりません勝つ までは』(一九七)「自分がヒロインなればこそ、熱を入れ て書きつづける気がおこるのであって」 類句「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「血道を上げる」「熱を上げる」 ね 寝ても覚めても 意味寝ている時も起きている 時も、常に。ある一つのことが 頭から離れず、いつもそのことを考えている様子。 四六時中。用法文型「ダレダレが寝ても覚めても~ する」(室町) 用例①「朝日新聞」(一九九・七・六朝)「寝てもさめても(体操が)頭から離れず、暇さえあれば一、二、三……」②「朝日新聞」(一九九・八・一九朝)「昨年末の蔵相就任以来「寝ても覚めても、国債が気になり通し」③高杉良「人事権!」(一九九二)「このひと月ほどの間、相沢は寝ても覚めても「石井三郎展」にのめり込んできた」④「朝日新聞」 <327> (三〇四・一〇・九朝)「寝ても覚めても金策を考えていた」 類句「明けても暮れても」「昼夜をおかず」「年がら年 中」 外国語英語ではnight and day 根に持つ 意味受けた仕打ちや屈辱などに対する 恨みを心の中にずっと持ち続ける。 のように受身形がある。〔江戸〕 用法文型「ダレダレがナニナニを根に持つ」。用例④ (用例)①大岡昇平『俘虜記』(二九八)「逃亡中足首が化膿して歩行困難となって以来、怒鳴られ通しだったのを、特に根に持っていた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「そのことを昨夜からずっと根に持っていた三堀は、信夫が不愉快でならなかった」③『朝日新聞』(一九八〇・二・二朝)「どうやらそれを根に持って、このいやがらせになったものと思われます」④本所次郎『閨閥』(三〇四)「いつぞやの鹿野の『若返り』方針に反対し苦言を呈したことが根にもたれている、と下田は解釈した」 類句「恨み骨髄に徹す」 外国語 英語では hold a grudge (against) ねほはほ 根掘り葉掘り 意味「葉掘り」は「根掘り」の語呂 合わせ。少しずつしつこく何から何 まで、細かいところまで相手から聞き出そうとする様子 用法文型「ダレダレはナニナニを根ほり葉ほり~す る」。「~する」には「尋ねる」「聞く」などの動詞が来る ことが多い。「江戸」 用例①小杉天外『魔風恋風』(一九三)「若し根掘り葉掘り聞かれた日には、飛だ耻辱を曝さなければならなかった」②里見弴『多情仏心』(九三)「根掘り葉掘り、執拗く尋ねてみようともせずに」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「維子は父の部屋で、泉中とのことを、根ほり葉ほり追及された」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「いやどうも、お話ししにくいことを根掘り葉掘りうかがってしまって、申し訳ありませんでした」⑤朝日新聞(三〇四・七・三朝)「見学を申し出ても門前払いされたり、逆に根掘り葉掘り素性を聞かれたり」外国語中国語では成句「刨根问底」(根掘り葉掘り問いただす。「盘根问底」「盘根究底」などとも言う) ねみみみず 寝耳に水 意味もともと寝ている時に水音が聞こ えてくることを意味したが、のちに本当 <328> に耳に水が入ってくると解釈した。転じて、全く予想し ていなかったこと、突然の出来事を知らされてびっくり するさま。用法文型「ナニナニは寝耳に水だ」「寝耳 に水のナニナニ」「江戸」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「どうしてっ く、全く寝耳に水で、当惑している」②『朝日新聞』 (一九〇・二・四朝)「彼から話を聞いたベン氏にとっても寝 耳に水の情報だった」③東野圭吾『宿命』(九九〇)「このや りとりを横で聞いていて、美佐子は寝耳に水の思いだっ た」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「突然なんの前触 れもなく、両社の合併が記者発表された。マックスとの 交渉が中断し、社内にカルチャーとの噂が広がりはじめ ていたが、大半の社員には寝耳に水だった」⑤本所次郎 『閨閥』(三〇四)「突如フヨウテレビ内に組合が結成された (略)寝耳に水の鹿野は、ただちに管理職以上の辞表を とりまとめて全体会議に臨み」 類句「青天の霹靂」外国語中国語では成句「青天霹靂」(青天の霹靂。「晴天霹雳」とも言う) 根も葉もない 意味事実であるという何の根拠もない。用法文型「ナニナニは根 も葉もない」「根も葉もない十二ナニ」。ナニナニは「噂」 「話」「こと」など。後ろのナニナニを修飾する形で用い られることが多い。(江戸) 用例①三島由紀夫『禁色』(二五一五)「なんですか、下らない。こんな根も葉もない下劣な手紙なんか」②山崎豊子『白い巨塔』(二九三六五)「誰かねえ、そんな唐突な、根も葉もないことを口にするのは」③『朝日新聞』(二九〇六六朝)「戒厳軍が同氏を逮捕して以来、金大中氏はあれをした、これをしたとわれわれから見れば根も葉もない罪をなすりつけようとしていた」④内田康夫『博多殺人事件』(二九二)「落書きが不倫だけを暴露するものなら、根も葉もないことと笑ってすませられたのだが」⑤深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(二九三)「そうしたたぶん根も葉もない噂を立てられているのを、宮武も聞いている」 外国語英語ではbe completely unfounded ねあ 意味苦しいこと、つらいこと、いや 音を上げる なことなどに耐えられなくなり、意気 地のないことを言う。その結果としてそこから逃避した り、解決策をさぐったりする段階へと進む。用法文 <329> 型「ダレナニはナニナニに音を上げる」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「まあ、やってごらんなさい。とにかくこの道の猛者連がみんなてこずって音を上げてるんだから」②開高健『パニック』(一九五七)「その事件の複雑さには検察庁も新聞も音をあげてしまい」③朝日新聞(一九二三三朝)「練習や上下関係が厳格なのは当たり前なのに、毎年一人は音をあげてやめる部員がいる」④清水一行『ITの踊り』(三〇〇四)「こんなに歩くのは久しぶりですから。でも、まだまだ大丈夫です」とうに音を上げていたが、恭子の前で弱音を吐くわけにはいかなかった」⑤朝日新聞(三〇〇四・九・三朝)「前田容疑者の知人の女性が、吉山運転手の借金返済の督促に音を上げ、京都府警九条署に相談を持ちかけている」「声を上げる」「弱音を吐く」「外国語」英語ではhave had it ねお 根を下ろす 意味新たな物事が中途半端ではなく、 深くしっかりとしたものとしてある場 所に定着する、受け入れられて確かな地位を占める。 用法文型「ダレナニがナニドコに根を下ろす」 用例①石灰羊次郎「光る毎一(一九三二三「ぼ、ころは、 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一三)「ぼくたちは、 結婚は愛情の始発駅であり、そこから、二人で、工夫と思いやりと根気とで、生活に深く根を下ろした愛情を育て上げていくべきだと考えています」②瀬戸内晴美『女徳』(一九三)「逢えなくなって、はじめて、自分の音宗への恋が、こんなに深く強く、自分の中に根をおろしていたのかと、気づいたようなものだ」③「新思想が民衆に根を下ろす」 類句根を生やす根を張る外国語英語では take root 根を張る 意味ある場所にどっしりと落ち着いて 生きていくことのたとえ。用法文型 ダレナニがドコドコに根を張る」 (用例)①石坂洋次郎(一九三一六三)「ぼくらのように地面に深く根をはり、それに苔が生えたような、かたい甲羅をきた夫婦になると」②朝日新聞(三〇四・一〇・三朝)「できれば、どこにも根を張らず、生涯、愚かで身軽な漂泊者でいたい」③朝日新聞(三〇四・二・九朝)「街に根を張り、普通の人が「晴れの日」にいく場所として選ばれたい」*類句「根を下ろす」「根を生やす」 <330> 念が入る 意味物事を注意深く細かいところまで 丁寧に落ち度なく行っている様子。皮肉 で言うことが多い。用法文型「ナニナニは念が入る」 「念の入ったナニナニ」「室町」 用例①三島由紀夫『禁色』(二五二五三)「母親は悠一の教 育方をくれぐれも信孝に頼み込んだ。この依頼はすこし 念が入りすぎていたので、はたできく耳にはおかしくき こえるくらいであった」②松本清張『点と線』(一九五八五九) 「署にかえった死体は、綿密に検査された。それは衣類 を一枚ずつ剥ぐたびに写真に撮るという念の入った方法 である」③「まあ何とも念の入ったことで、恐れ入る」 * 類句「微に入り細をうがつ」 ねんねんじゅう 意味「年が年中」の転で、一年中ずっ 年が5年中 と。どのような時でもいつも。「年中」 の強調表現。用法文型「ダレナニは年が5年中~す る」。副詞句として用いられる。〔江戸〕 用例①高杉良首魁の宴(二九八書き入れ時は二月 に限らず年がら年中とも言えるが②岩城捷介免職警 官(三0三)一年がら年中、お堅い学術論文なんかを読ん でたらめ でると、まるで出鱈目な嘘っぱちを書いてみたくなった のち 類句「明けても暮れても」昼夜をおかず」「寝ても覚め ても」外国語中国語では慣用句「一年到头」(年の初 めから終わりまで、一年中) ねんきはい 意味長年積んできた経験からある 年季が入る 事柄に熟練している。また物が長年使 われている。用法文型「ダレナニは年季が入ってい る」「年季の入ったナニナニ」。文末は「ている」形で用 いられる。 用例①半村良『どぶどろ』(九七)「岩瀬家の下僕として十年以上も年季が入っているから手伝って邪魔になろう筈はなく」②東野圭吾『学生街の殺人』(九七)「漆黒のピアノだ。元々はぴかぴかとした光沢を有していたのだろうが、今はところどころつや消しのようになっているよくわからないが、光平には相当年季が入っていそうに見えた」 類句「板につく」「様になる」「堂に入る」 ねんぐおさどき 意味悪事をしてきたことに対して 年貢の納め時 その報いや罰を受ける時期。犯罪者 <331> について言う。また、してきたこと、踏みとどまって やってきたことにあきらめをつけて、次の段階に移行す べき時期。結婚について言うことが多い。用法文型 「ダレナニは年貢の納め時だ」。用例②のように、「年貢 を納める」と動詞形でも用いられる。 用例①島崎藤村『夜明け前』(二九五)『どうもまだわたしも、お年貢の納め時が来ないと見えますよ。』と言いながら、吉左衛門は梯子段の下まで寿平次を送りに降りた」②内田康夫『博多殺人事件』(二九二)「老人は疲れたように頷いて、『加地よ、こん人の言うたごと、年貢ば納めんか』と言った」③高杉良『濁流』(一九六講談社文庫版)「もう潮どきだろう。年貢の納めどきと言ってもいい」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)『結婚するつもりなのか』『わたしも年貢の納めどきかなって、思っている』 外国語 英語では The game is about over (up) ねんねんい 意味注意の上にも注意を重 念には念を入れる ね、慎重にする。「念を入れ る」をさらに強調した表現。用法文型「念には念を入 れてする「念には念を入れよ」。命令形がある。江戸 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九毛)「彼は念には念を 入れると云う用心から②源氏鶏太『男と女の世の中』 (二六三)「しかし、念には念を入れた方が」 類句「念の上にも念を入れる」とも言う。「石橋を叩い て渡る」「駄目を押す」「念を入れる」「念を押す」 ねん 念のため 意味間違いがないか、事実はどうかな ど、さらに確認するため。また一層確実 にするため。 用法文型「ダレダレが念のために~す る」(江戸) 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)「念のために聞いておきたいのだが、君の目にうつった夏木君って、魅力があるかね」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「私は形式的な学長宛ての進退伺いの文章を毛筆で書き、さらにもう一度、念のために新聞をひらいてみた」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「念のためにいえばね、どの大学であれ構内に入って行くことは、尾行しているわが警察の力をあてにできなくなることだから」 外国語 英語では just to be sure 念を入れる 意味物事を注意深く細かいところま で丁寧に落ち度なく行う。用法文 <332> 型「ダレダレはナニナニに念を入れる」「ダレダレは念を入れてする」。命令・意志表現は可能。「安土桃山」 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(九三毛)「孟子に、人を登庸するのは最も念を入れるべきで」②夢野久作『ドグラ・マグラ』(九三五)「念を入れすぎるくらい念を入れて仕上げた仕事ですから」③松本清張『点と線』(九五八五九)「そのときは、なんにも考えずに聞いてしまったが、これはもう一度、念を入れて聞きなおさねばならないな、と思った」④山崎豊子『白い巨塔』(九六三十六五)「胸部への癌の転移があるか、どうかを調べるために、胸部エックス線写真を撮らせたわけだ、その結果が、左肺結核の古い病巣と認められたのだから、これ以上、念を入れる必要などない」 類句「石橋を叩いて渡る」「駄目を押す」「念には念を入 れる」「念を押す」 ねんお 意味それでまちがいないのかを再度確 念を押す 認する。用法文型「ダレダレがダレ ダレに(~と)念を押す」。命令・意志表現は可能。用例 ③「愚かな」のように「念」を修飾することが可能。①⑤ のように受身形が可能。 用例①永井荷風『新橋夜話』(九三)「私の地ならわざわざ手合せしないで済むからって…昨日も電話で念を押されてるんですよ」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(九五三)「うそを言った訳じゃないから怒らないでくれよ」「念を押さなくてもいいんですよ(略)」③松本清張『点と線』(一九五九)「確かに、その男は安田辰郎に間違いなかったでしょうね、と愚かな念を押したくらいであった」④朝日新聞(一九一三・三六朝)「その実現に努力したのは、我々だったのだよ、と竹下氏はやんわり念を押したのである」⑤本所次郎『閨閥』(三〇四)「鹿野社長のことですか」と訊きましたところ、そうだ、殺せ」と念を押されたのです 類句「石橋を叩いて渡る」「駄目を押す」「念には念を入 れる」「念を入れる」 <333> 喉から手が出るほど いことのたとえ。 用法文型「ダレナニはのどから手 が出るほどほしい」。 用例④のように「のどから手が出 るくらい」とも言う。 用例①織田作之助『夫婦善哉』(二九四)「衣裳の裾なども恥ずかしいほど擦り切れて、咽喉から手の出るほど新しいのが欲しかった」②源氏鶏太『青空娘』(一九五五)「咽喉から、手が出るほど、ほしい金なのである」③柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「気象台にとって喉から手が出るほど欲しい物品が山ほどあり」④朝日新聞(一九六一三·四朝)「市側は『いま建築工事は少なく、業者はのどから手が出るくらい欲しいはず』⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下なら喉から手が出るほど欲しい人材だ」外国語英語ではwant something so badly one can taste it のべつ幕なし 意味 芝居で幕を引かずに休みなく 演じることから転じて、物事が休む 間もなくいつまでも続くさま。 用法 文型「ダレナニ がのべつ幕なしに~する」 用例朝日新聞(一九九八・一九朝)『あなたはしあわせな 環境ですね』と幼時からそれこそのべつまくなしに言わ れ」 類句「ひっきりなしに」 の 乗りかかった船 意味一度船に乗ってしまった ら、岸に着くまでは途中で降り られないことから、ある事柄にすでに関わり合いになっ てしまいやめることができないさま。やめずにこのまま さらに関わっていこうという前向きな気持ちを表す。 用法文型「乗りかかった船だ」。単独で独立した文になる。〔江戸〕 (用例)①永井荷風『新橋夜話』(一九三)「こうなったらもう乗りかかった船です。意地ずくにでも無理を通さなければ承知が出来ません」②源氏鶏太『明日は日曜日』(一九三一五三)「乗りかかった船である。『まア、いいや。それも、今夜はぼくが引き受けよう。』③高杉良『濁流』 <334> (二九六講談社文庫版)「乗りかかった船と思って、ひと肌 脱いでくださいよ」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』 (一九九七)「金沢は興味をそそられた。乗りかかった船であ る。このまま見過ごしにできないような気がした」⑤斎 藤栄『日美子の公園探偵』(三〇二)「乗りかかった船だから トコトン言わせてみたかったのだ」 外国語 英語 どさ as long as one has come this far 伸るか反るか 意味うまくいくか失敗するかわか らないが、運を天に任せ思い切って やってみる。用法文型「のるかそるか、~する」。ま た用例④⑤のように「のるかそるかのナニナニ」という 形もある。江戸 用例①徳田秋声『あらくれ』(一九一五)「乗るか反るか、 お上さんはここで最後の運を試すんだよ」②葛西善蔵 『愚痴とクダと嫌味』(一九三五)「水守君も来年はひとつ、の るかそるかで元気に創作をやると言っているが」③井上 靖『氷壁』(一九五六一五)「第一次マナスル遠征隊が引き揚げ たのに対して、そういう批判がありますね。乗るか反る か、やってみるところがなければいけなかったと」④槌 田満文『文学にみる広告風物誌』(一九七八)「消灯寸前に追 い込まれたアズマ・シネマにとっては、のるかそるかの 活動写真『大岡政談』大会の宣伝に、二人をやとうのが 精いっぱいだったのだ」⑤『朝日新聞』(一九〇・三・二〇朝) 「国がのるかそるかのとき、国に加担するのは当たりま えではないでしょうか」 * * ばち 頃句「当たって滓ナろ一か八か一 類句「当たって砕けろ」「一か八か」 暖簾を分ける 意味商店などで、奉公人に本家と は別に独立して同じ屋号の店を持た せる。その際、資金を援助したり、得意先なども分け与 える。のれん分けをする。用法文型「ダレダレがダ レダレにのれんを分ける」「ダレダレからのれんを分け てもらう」 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七九八)「やがては、暖 簾を分けて屹としたる後見は為てくれんと、鰐淵は常に 疎ならず彼が身を念いぬ」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「店 の主人に死なれて、いずれは暖簾を分けて貰う話が、そ れどころではなく、自分で親暖簾を背負って立たねばな らなくなったが」 <335> *は* のろしあ 烽火が上がる 意味何かに反対の立場を掲げ、あ る大きな事柄のきっかけとなる行動 が起きる。用法文型「ナニナニののろしが上がる」 用例朝日新聞(一九三三四朝)ロッキード裁判の進 行するなかで自民党員の中から田中元首相批判ののろし のあがることを期待するものである」 のろしあ 意味昔、非常時の合図にのろしを 烽火を上げる 上げたことから、何かに反対の立場 を掲げ、ある大きな事柄のきっかけとなる行動を起こす 用法文型「ダレダレが十二二ののろしを上げる」 用例「朝日新聞」(一九八○・五・三朝)「先生がもう十歳若け れば、新党のノロシをあげたかもしれん」 背水の陣 意味「背水」は水を背にすること。川 や海などに陣をとると、これ以上退却で きないことから、決死の覚悟をして相手に挑んでいく態 勢をいう。出典は中国の古典『史記』。用法文型「ダ レダレは背水の陣(を敷く)」「ダレダレは背水の陣で~ する」「南北朝」 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)「敬二は背水の陣を敷いて協志社に帰った」②有島武郎『星座』(一九三二三)「何もかも素直に投げ出して、背水の陣を布いたらしく見える彼女を思うと」③「朝日新聞」(一九七九・七・三王朝)「韓国は北との戦いで背水の陣だ」④「朝日新聞」(三〇五・一・四朝)「主力の引退が近づいているなか、今期は背水の陣で臨んだ」 外国語英語では fight with one's back to the wall * 中国語では成句「背水为阵」(背水の陣。「背水一战」「背水 の陣を敷いて一戦を交える」とも言う) <336> はす 意味人・物が非常に多くい 掃いて捨てるほど る、あるさま。その人・物を あまり評価していないニュアンス。用法文型「ダレ ナニは掃いて捨てるほどいる(ある)」 用例高杉良『指名解雇』(一九七)社内結婚の先輩は掃いて捨てるほどいる」 類句「腐るほど」「枚举にいとまがない」 ばかずふ 意味現場に身を置いて何度も経験し 場数を踏む 場慣れする。用法文型「ダレダレ が場数を踏む」。用例②のように「場数を踏める」という 可能動詞形がある。江戸 用例①高杉良『会社蘇生』(一九七)生保会社は都銀にくらべると場数をふんでないというか、こういう場合の対応能力が落ちますからねぇ②『朝日新聞』(三〇四・九六夕)「場数をふめるほど時代劇の仕事がなく、志半ばで撮影所を去る若手が多いことに胸を痛めている」③『朝日新聞』(三〇四・三・五夕)「結局は基礎とイマジネーション。ギターを弾く力は毎日のトレーニングで上がっていくけれど、それをどうやってクリエイティビティーにまで高めるかですね」答えは、やはり『場数を踏む』こと だと考えている 外国語 英語では get a lot of practical experience はた 意味相手が強すぎたり、物事が難 歯が立たない しすぎたりして、自分の能力では全 く対抗できない。用法文型「ダレナニがダレナニに 歯が立たない」。否定形で用いられる。用例④のように 「歯が立つとは思えない」のように、後ろに打ち消しを 伴う形がある。 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)「人気もあるし、 あたしたちみんな先生のファンなの。お講義は難しす ぎて歯が立たないけど」②井伏鱒二『黒い雨』(一九五十六) 「すべてが八方塞がりの状態にあって、我々としては どうにも歯が立たないことを説明した」③『朝日新聞』 (一九一・九・三朝)「ロッテ投手も工夫はしているのだが、門 田の技とパンチの前にはどうにも歯がたたない」④東野 圭吾『美しき凶器』(一九三)「あの拓馬を殺すような怪物だ とても歯が立つとは思えない」⑤清水一行『ITの踊り』 (三〇四)「一転大河内のとぼけた薄笑いに、とても歯が立 たない相手だと秋葉は悟った」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「雲 <337> 泥の差」「及びもつかない」「太刀打ちできない」「月とすっ ぽん」「天と地」 外国語 英語では be over someone's head 馬鹿にならない 意味金額や仕事など物事が大 したことがないものとして無視 したり軽く扱ったりするには限度を超えている。大変だ というニュアンス。 用法文型「ナニナニは馬鹿にな らない」。否定形で用いる。 用例①森鴎外『牛タ・セクスアリス』(一九九)「なに。 己もあまり強くはない。女の腕というものは馬鹿になら ないものだそうだ」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「一つ の雑誌を出すための雑用も馬鹿にならないから」③城山 三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「じゃ、切るぞ。電話代が バカにならないからな」④朝日新聞』(三〇五・一・二朝)「自 衛隊の派遣費用だけでも馬鹿にならない金額でしょう」 類句「馬鹿にできない」(外国語)英語では be nothing to sneeze at 馬鹿になる 意味本来の機能が衰え失われて役に 立たなくなる。特にねじについて言う ことが多い。 用法文型「ナニナニが馬鹿になる」 用例①「ねじが馬鹿になる」②「スイッチが馬鹿に なって電気がつかない」 はぬ 意味櫛の歯が抜けたように、 歯が抜けたよう 本来あるべきもの、占めるべき ものが抜け、数が少なくてまばらで寂しい様子のたとえ 用法文型「ナニドコは歯が抜けたよう」。「歯の抜けた よう」とも言う。 (用例)①源氏鶏太『天下泰平』(一九五十五)「毎日、ここから見て来たモノが、急になくなると、何んだか、歯がぬけたようで、淋しいもんですよ」②『朝日新聞』(三〇四・九・一六夕)「ほかの階も櫛の歯が抜けたように空き店舗がある」 類句「櫛の歯が抜けたよう」とも言う。 馬鹿も休み休み言え 意味馬鹿なこと、つまら ぬことを言うのはいい加減 にしろ。怒ってたしなめる言葉。用法文型「馬鹿も 休み休み言え」。「言え」の代わりに用例①③のように敬 語形も使われる。 <338> 用例①生方敏郎『東京初上り』(一九六八)「何言ってるんだろう。この人は?バカも休み休み仰言いよ」②坂口安吾『私は海をだきしめていたい』(一九四七)「夫婦は一心同体だなんて、馬鹿も休み休み言うがいいや」③石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八-五九)「バカもやすみやすみ云い給え」 類句 冗談も休み休み言え 馬鹿を言え 馬鹿を言え 意味相手の言うことを間違っている おかしいと否定する時に言う喧嘩腰の 言葉。目下の者や反対者に向かって言う。用法単独 で使用。(江戸) 用例①岡本綺堂『箕輪心中』(一九二六)「馬鹿を言え、そ んな気楽な沙汰かい」②海野十三『赤耀館事件の真相』 (一九二九)「馬鹿を言え、貴様から礼儀だの修身だのという ものを聞こうとは思わんよ」 類句 冗談も休み休み言え 馬鹿も休み休み言え 馬鹿を見る 意味自分のしたことが、結局意味が なく無益になったり、自分に損になっ たりして、つまらない目に会う。用法文型「ダレダ レが馬鹿を見る」。用例④のように否定形がある。また ②のように「馬鹿を見たよう」と言うこともある。 用例①坂口安吾『心霊殺人事件』(九五四)「こういう人間に限って急場の行動迅速で、雲を霞と三千里、昨日の敵は今日の友、めったにバカを見ることがないのであろう」②源氏鶏太『実は熟したり』(九五八)「何んだか、バカを見たような、損をしたような気がする」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九五三)「つまり記者自身が最高のコメンテーターであるという立場で発言しているのである。コメントを求められた方は馬鹿をみる」④朝日新聞』(九五一・三・三朝)「税金逃れの手段を持たない大多数のサラリーマンや正直な申告者がバカをみないよう、申告制度の改善を急ぐべきである」 外国語英語では feel like a fool ばきやくあらわ 意味取り繕って隠していた本当の姿 馬脚を現す (本性や実力など)が何かの拍子にわかっ てしまう。本当の姿が、見かけよりマイナス評価になる 場合に用いられる。用法文型「ダレナニが馬脚を現 す」。用例①のように否定形がある。江戸 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「秘書の役目は、 <339> 社長が外に馬脚を現わさないように、うまく手綱をしめ たりゆるめたりしていくことなんだ」②半村良『どぶど ろ』(一九七)「やっと他家から養子をもらって殿様が出来 たと思ったら、なんとこれが一橋家の五男坊さ。つまり 体よく乗っ取られたわけだ。馬脚をあらわすとはこの事 さ」③『朝日新聞』(三〇四・二〇・二〇朝)「この本に列挙される サンプルも、ことごとく本人はリコウぶったつもりで馬 脚を現した自爆例といえる」 類句「しっぽを出す」「底が割れる」「化けの皮がはがれる」「ぼろが出る」「メッキがはげる」「外国語」英語では give oneself away *中国語では慣用句「露马脚」(馬脚 を現す。「露」は現す) はぎ 菌切れがいい 意味物の言い方がテキパキして内 容も明解である。単に滑舌の問題で はなく、話の内容についての話者自身の確信や自信の有無 が、話し方に影響を与えている場合に用いる。用法 文型「ダレナニは歯切れがいい」 用例①大岡昇平『俘虜記』(九四八)「彼の江戸弁はなかなか歯切れがよかった」②朝日新聞(一九九七・七・四朝)「歯切れのよい現政権批判とは打って変わったもの悲しい表 情である」③『朝日新聞』(三〇四・九・四夕)「とたんに歯切れ のいい返事がある。ふくらみをもった、やわらかい、甘 いような、とてもいい声だった」 類句反対は「歯切れが悪い」(外国語)英語では crisp and clear はくしもど 意味それまでの事柄を、すべてそれ 白紙に戻す がなかった前の状態に戻す。用法 文型「ダレナニがナニナニを白紙に戻す」。命令・意志 表現は可能。用例①のように可能動詞の否定形がある。 用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「無駄にした時間だ けなら取りもどせても、起ってしまった事態は、いや 構成された犯罪は、そのままでは白紙にもどせない」② 「契約を白紙に戻し、初めからやり直す」 類句「白紙に返す」「白紙にする」とも言う。外国語 英語では take something back to the (old) drawing board 白紙に戻る 意味それまでの事柄が、すべてそれ がなかった前の状態になる。用法 文型「ナニナニが白紙に戻る」 <340> 用例 朝日新聞(三〇四九三朝)「合併協議は見直しを 迫られ、白紙に戻る公算が大きくなった」 類句「白紙に返る」「白紙になる」とも言う。 はくしゃか 意味「拍車」は、馬に乗る時に靴 拍車が掛かる のかかとにつける金具で、それを馬 の体に当てることによって速く走らせることから、ある 事柄が、何らかの原因でさらに勢いを増す。用法文 型「ナニナニに拍車がかかる」。用例①「一層の」のよう に「拍車」を修飾することは可能。 用例①『朝日新聞』(九七九・七・三朝)「公明党が『九日衆院解散説』に踏み出したことで、野党側の総選挙への動きに一層の拍車がかかることになった」②『朝日新聞』(九O・二O・一九朝)「共産党、統一労組懇が独自の反安保集会を開くなど、大衆運動の混迷にも拍車がかかった」 はくしゃか 意味「拍車」は、馬に乗る時に靴 拍車を掛ける のかかとにつける金具で、それを馬 の体に当てることによって速く走らせることから、物事 の進行を一層速める。物事の勢いを一段と強める。 用法文型「ダレナニがナニナニに拍車をかける」。用 例②「一層の」のように「拍車」を修飾することは可能。 用例①徳田秋声「仮装人物」(九五十三)「間もなく大晦日の夜更の出来事が起った。それが一層彼等の行動に拍車をかけたであろうが」②「朝日新聞」(九八・三・六朝)「わが国特有の学歴主義は、戦後の教育の機会均等とあいまって、親たちの進学熱に一層の拍車をかけているが」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(九八三)「おやじの叱言を無視して、里子に茶碗を突き出した周平に、貫太郎の怒りが爆発した。ネズミ騒動の不快さも拍車をかけていた」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(九九七)「ところがその混乱にいっそう拍車をかけるように、波戸狸が『いかがでしょうか、浅見さん』と、思いがけないことを言い出した」⑤「朝日新聞」(九四・二・四朝)「他の大手スーパーに比べて借金はなお重く、店舗改装や出店が思うようにできず、販売力の低下に拍車をかけた」 外国語英語ではspur~on 溝氷を踏む 意味薄い氷の上に乗っているといつ 割れるかわからないことから、当事者 が非常に危ない状態に身を置いたり、それを見ている第 三者が冷や冷やしたりするさまのたとえ。出典は中国の <341> 古典『詩経』の「深淵を臨んで薄氷を履むがごとし」。 用法文型「薄氷を踏む十二十二」「薄氷を踏むよう」。 十二十二は「思い」など。後ろの十二十二を修飾することが多い。〔平安〕 「用例」①井伏鱒二「駅前旅館」(一九五六-五七)「田様、何でございましょう。隠し芸の御所望でございますか」薄氷を踏む思いで伺うと」②「朝日新聞」(一九七九・10・三朝)「相変わらず薄氷を踏む需給バランスが続いていることには変わりはない」③「朝日新聞」(一九八〇・10・三朝)「具志堅の内容は採点表以上に薄氷を踏む勝利と見られた」④「朝日新聞」(一九八二・四・五朝)「渡嘉敷勝男が薄氷を踏む思いで初防衛」 外国語 中国語では成句「如履薄冰」(薄氷を履むが如し) 箔を付ける 意味「箔」は金属を叩いて薄く伸ば した物。以前なかったものが権威・威 厳を備えたり値打ちに重みをつけたりする。用法文 型「ダレナニがナニナニに箔をつける」(江戸) 用例①大仏次郎『帰郷』(二ふぺ)「先生のだから頂いて、 社のスタートに箔をつけたいのです。つまり先生のお 力で、社が最初から認められるようにして頂きたいので 類句自動詞形は「箔がつく」外国語英語ではadd luster to す」②森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「以前はホステス出身というと色眼鏡で見られがちだったのですが、最近は銀座の一流クラブで働いた経歴は箔をつけるようです」 化けの皮が剥がれる 意味何かがきっかけで、 隠し繕っていた正体が現れ る。 用法文型「ダレナニの化けの皮がはがれる」。「化 けの皮がはげる」とも言う。用例③のように否定形があ る。 (用例)①江戸川乱歩『双生児』(二九四)「これは指紋からばけの皮がはげやしないかという心配のために青くなってしまいました」②辻邦生『北の岬』(一九五〇)「もうよそうじゃないか、こんな夫婦ごっこは。たまらんじゃないか。お互いに信じてもいない出まかせを言って、気休めを言って、一日のばしに、ばけの皮のはがれるのを待つなんてことは」③高杉良『濁流』(一九六講談社文庫版)「いつ刑事被告人にならないとも限らない。バケの皮が剥がれないうちに、産業経済社は『取り屋』から脱却しなけ <342> れは大変なことになる * 類句「しっぽを出す」「底が割れる」「馬脚を現す」「ぼ * ろが出る」「メッキがはげる」 化けの皮を剥がす 意味隠し繕っている正体を あばく。用法文型「ダレ ナニがダレナニの化けの皮をはがす」。用例③のように 可能動詞「はがせる」がある。「化けの皮をはぐ」とも言 う。江戸 用例①松本清張『点と線』(一九五八—五九)「よし、安田の化けの皮をはがしてやるぞ」②内田康夫『博多殺人事件』(二九二)「その東大出が好かんたい、エリート面しよっと刑事を岡っ引きみたいにばかにしよるとがな。ああいうやつの化けの皮を剥がして、ムショに叩き込んでやりたいな」③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「狸の作品が、じつは何者かの手による代作だと知って、水沼老人は欣喜雀躍したのだ。これで化けの皮を剥がせる」 外国語 英語では rip away someone's mask 箸にも棒にも掛からない 意味細い小さな箸にも も太い大きな棒にも ひっかからないということから、人などが劣悪で欠点 がひどくて救いようがない、取り扱う方法がない。 用法文型「ダレナニは箸にも棒にも掛からない」「箸に も棒にも掛からないダレナニ」「江戸」 用例①里見弴『多情仏心』(九三)「箸にも棒にもかからない道楽者だった鈴江の父親も」②坂口安吾「山の神殺人」(九五三)「勘当なんてことをしたら、箸にも棒にもかからない悪党が一人生まれるばかりでさ」③「朝日新聞」(九五八・七・三朝)「箸にも棒にもかからぬアル中、酒乱者ゆえの父殺し、夫殺し」④高杉良「会社蘇生」(九七)「小川商会なんて箸にも棒にもかからないボロ商社を」⑤内田康夫「志摩半島殺人事件」(九八)「もし箸にも棒にもかからないと思われるなら、竹林さんの胸のうちにしまっておいてもらうだけでもいいのですが」 類句「どうしようもない」 外国語英語では a hope- less case *中国語では成句「不可救药」(薬ではもはや 治らない。「无可救药」とも言う) 文型「ナニナニは恥の上塗り」 訳の上塗り 意味恥をかいた上にさらに恥をかく こと。不名誉を重ねること。用法 <343> 用例①高杉良「濁流」(一九六講談社文庫版)「恥の上塗りをまぬがれたのは、不幸中の幸いだった」②「恥の上塗りになるようなことは止めろ」 外国語 英語では a double disgrace はじ がいぶん 意味恥ずかしいとか人がどう 恥も外聞もない 思うとか気にしない。地位や名 誉などを忘れ、物事にがむしゃらに取り組む姿勢を言う 用法文型「ダレダレは恥も外聞もない」「ダレダレは恥 も外聞もなくする」 用例高見順『都に夜のある如く』(九五十五)私は、恥 も外聞もない狂乱的陶醉に自分も浸りたいと思いなが ら」 類句なりふり構わず見栄も外聞もない はじ 訳をかく 意味人前で失敗・敗北をしたり無知を さらけ出したりして、恥ずかしい思いを する、面目を失う。用法文型「ダレダレが恥をかく」 「恥をかかせる」のように使役形でも用いられる。用例 ④のように否定形がある。〔鎌倉〕 用例①朝日新聞(一九七一・七・六朝)「結納を取りかわす といっても、各地各様の面倒な約束ごとが多い。それを知らずに恥をかきたくない」②丸谷オー『男のポケット』(一九七九)「わたしはモーラ的な、テイネイな調べが苦手なたちでありまして、断言すると恥をかくことになるもしれないが」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「オレは、友達に恥かかす奴よか、エロ写真集めてる男のほうがよっぽど好きだよ」④朝日新聞(三〇四・二〇・六朝)「老いては子に従え、老後恥をかかずに済むには初心に帰るべし」 類句「赤恥をかく」「大恥をかく」(4年の科学」 〈三〇三・二〉「署長は大はじをかき、頭をかきました」 バスに乗り遅れる 意味時代の流れ・流行・風 潮に取り残される。用法 文型「ダレナニがバスに乗り遅れる」 (用例)①田中英光『野狐』(二卻九)「多くの流行作家が世に出た後では私は、所謂、バスにのりおくれた形で、持込の原稿もなかなか売れなかった」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九三)「私の場合、そんなふうで、何物も生み出さない異性との交際には、しだいに興味を失って、しまいにはかえって煩わしくなり、そんなことより <344> も、ひとりでうまい料理をつくったり、お酒を飲んだり してるほうが、かえって楽しく感じられるようになった の。…私はつまり、バスに乗りおくれてしまったのね」 外国語 英語では miss the boat はたいろわる 意味試合・論争・勝負などにおいて 旗色が悪い 劣勢の立場にある。用法文型「ダ レグレは(の)旗色が悪い」。用例②のように「旗色が」 と「悪い」の間に語句を挿入できる。 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「それを云わ れると、脩吉は痛いので、どうやら、旗色が悪くなった」 ②『朝日新聞』(三〇四・二〇・三朝)「それがいまや唯物論者に 取り込まれ、脳科学者が真剣に取り組むテーマになった 物心二元論者の旗色はすこぶる悪い」 類句反対は「旗色がいい」 意味相手の考え方や性格などと合い、 肌が合う うまくつきあってゆける。また物事が自 分の嗜好とよく合う。用法文型「ダレナニはダレナ ニと(に)肌が合う」。否定形「肌が合わない」が多い。江 戸 用例①向田邦子『寺内貫太郎一家』(九三)「おやじはうちへ引き取るったって来やしませんよ。山の手育ちの家内とは、まるっきり肌が合わないんですよ」②田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「いったん上京して大学予備門に入ったが、ともかく学校というものに肌があわず、はやばやと落第したからである」③龍一京『交番』(三〇四)「警察と聞いただけで虫酸が走るほど、嫌いだった。これまで、警察官とは肌が合わないと思っていた」④『朝日新聞』(三〇四・二〇三朝)「自然科学系では突飛な仮説が実験で証明されると、それまでの前提や論理が崩れるため論理の脆弱性が身に染みている。したがって、言語と論理のみに頼る哲学とは必ずしも肌が合うわけではない」 類句「阿吽の呼吸」「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「調子が合う」「肌に合う」「歩調が合う」 はだあ 意味好みに合ったり、相性が一致し、 肌に合う うまくやってゆける。用法文型「ダ レナニがダレダレの肌に合う」。否定形「肌に合わない」 が多い。 用例 ①高杉良「指名解雇」(一九九七)「EDSはわたし <345> の肌に合っているような気がします」②「朝日新聞」 (三〇四・七・四朝)「先輩の命令には絶対服従というしきた りが、肌にあわなかった」③「朝日新聞」(三〇四・九・三夕) 「出会いは小学3年生の頃、家族で行った沖縄。ホテル のプールで流れていた、カチャーシーとよばれる速いテ ンポの曲。なんとなく肌にあったという」④「朝日新聞」 (三〇四・二・三朝)「すぐさまシステム開発会社に転職した ものの、企業風土が肌に合わず、2年足らずで退社した」 類句「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「調子が合う」 「肌が合う」「歩調が合う」 はだみはな 意味常に身に着けて大切に持って 肌身離さず いるさま。用法文型「ダレダレは ナニナニを肌身離さず持つ」(室町) 「用例」①島崎藤村『旧主人』(一九三)「肌身離さず御持なすった写真が有ました」②田山花袋『帰国』(一九二六)「老婦は一つの位牌を肌身離さずに持っていた」③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九五)「翔は昨日から肌身はなさずといった感じで持ち歩いている都市地図をひらいた」 はた ま 意味軍旗を下ろして巻いて収めること 旗を巻く から、降伏する、降参する。戦争などの 武力の闘いよりむしろ商戦・論戦などに用いることが多 い。 用法文型「ダレダレは旗を巻く」「安土桃山」 用例高杉良「濁流」(一九六講談社文庫版)「主幹はまだ 旗を巻く気はないからな」 類句「かぶとを脱ぐ」「軍門に降る」「シャッポを脱ぐ」 「白旗を上げる」「手を上げる」「手を引く」 破竹の勢い 意味竹はひと節割れ目を入れるとあ とは簡単に次々と割れていくところか ら、戦いなどで、止めることができない猛烈な勢いで進 むこと。「破竹」の出典は中国の古典『晋書』。用法文 型「ダレナニは破竹の勢いだ」「ダレナニは破竹の勢いで ~する」。「~する」は「勝ち進む」「進撃する」などの言 葉が来る。「平安」 用例①中里介山『大菩薩峠』農奴の巻(一九三三五)「甲賀 郡西部方面から押し出した農民は(略)破竹の勢いで東 海道を西上し」②「彼は破竹の勢いで勝ち進んだ」 類句「騎虎の勢い」「飛ぶ鳥を落とす」「日の出の勢い」 外国語中国語では成句「勢如破竹」(破竹の勢い) <346> 意味ハチの巣をつつく 蜂の巣をつついたよう とハチがいっせいにわん わんと飛び出してくるところから、多くの人々があちら へ行ったりこちらへ行ったり大騒ぎして混乱しているた とえ。用法文型「蜂の巣をつついたような騒ぎ」「ナ ニナニは蜂の巣をつついたようだ」 用例①石坂洋次郎『あいつと私』(二六〇六二)「教室の中は、蜂の巣をつっついたような騒ぎになった」②夏目志郎『説得上手の会話術』(二九二)「五十人の参加者がいた場合、自分を除いて四十九人の人と三分間で握手をしてください、というのです。会場内はそれこそ、八チの巣をつついたような状態となります」③「朝日新聞」(二九二・二〇朝)「学内が八チの巣をつついたような騒ぎになった」④内田康夫『秋田殺人事件』(三〇三)「県議会は蜂の巣をつついたような騒ぎになり」 類句「上を下への大騒ぎ」(外国語)英語では be (like) a madhouse わる 意味「ばつ」はその場の具合の意。 ばつが悪い 恥ずかしかったりみっともなかったり して、その場の人に顔を合わせられない感じである。 用法文型「ダレダレはばつが悪い」「ばつが(の)悪い 顔」。内面の心理を表すので、一人称以外で用いられる 時は、「~そう」や「~よう」など推量の表現を伴う。 用例①野間宏『真空地帯』(九五三)「彼等の真面目な顔は一つ一つばつが悪そうで、また取りかえしのつかぬことをした顔のようにつらそうだった」②山崎豊子『白い巨塔』(九三六五)「財前が捉えた瞬間的な造影剤の通過異常を、医局員たちは捉えられなかったらしい。ばつが悪そうに顔を俯ける医局員達の様子を、ぐるりと見渡すと、財前は、にやりと白い歯を見せた」③三浦哲郎『結婚』(九六七)「約束のしるしに女たちとわれもわれもと指切りをして、いまだにそれきりになっているのが、なにか約束違反をしているようでバツが悪かったのだ」④内田康夫『博多殺人事件』(九九二)「残った二人はバツの悪い顔を見交わして、肩を竦めあった」⑤『朝日新聞』(三〇四・八・七朝)「さすがに上司を『君』で呼ぶわけにいかず、かといって、『さん』に戻すのもバツが悪かった」 類句「きまりが悪い」 発破を掛ける意味「発破」は工事や鉱山の作業などで、火薬をしかけて岩などをく <347> ずすこと。転じて、がんばってやる気が出るように強い 口調で気合いを入れたり煽動したり励ましたりして奮い 立たせる。用法文型「ダレダレがダレダレに(~と) 発破をかける」。命令・意志表現は可能。用例②⑤のよ うに受身形もよく用いられる。 「用例」①「朝日新聞」(一九九八・八・八朝)「社会党と総評の選挙協力委員会はさる十日『労働者の居住地を中心に徹底した口コミ運動を展開する』とハッパをかけた」②高杉良『濁流』(一九六講談社文庫版)「一万枚で引き下がるとは何事だ』と瀬川副社長にハッパをかけられた田宮が③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「現場の打ち合わせは遅々として進んでいなかったが、吉原や平井が東山にはっぱをかけたのが効いたのか、それで作業が急に動き出した」④本所次郎『閨閥』(三〇四)「ただ社員にハッパをかけるのが私の役目です」⑤「朝日新聞」(三〇四・七・三朝)「ライオンのビューティケア事業本部の山本記也さんは昨年6月の会議で、事業本部長たちから、怒髪天をつかんばかりにハッパをかけられた」 類句「お尻をたたく」「活を入れる」「尻をたたく」 外国語 英語では Presosoeoeup 鳩が豆鉄砲を食らったよう 意味あまりの突然 のことに驚き、目を 見張ったりきょとんとしたりするさま。 用法文型 「ダレダレは鳩が豆鉄砲を食らったように~する」「ダレ ダレは鳩が豆鉄砲を食らったような顔「豆鉄砲を食らっ た鳩のよう」。「よう」の代わりに「みたい」もある。「鳩 が豆鉄砲を食ったよう」とも言う。 用例①林二九太「へのへのもへじ」(五三)「いよいよ 呼ばれる原因が分からないので、茂平次君は鳩が豆鉄砲 を喰らったみたいに眼をパチクリさせながら」②坂口安 吾『南京虫殺人事件』(九五三)「令嬢は鳩が豆鉄砲くらっ たように目をパチパチさせたが」 類句「開いた口がふさがらない」「呆れて物が言えない」 「呆気にとられる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を 消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が 継げない」「目を白黒させる」「目を丸くする」 バトンを渡す わた 意味「バトン」は英語baton。リ レー競技で次の走者にバトンを渡す ことから、次の者、後継者、後任者に仕事・地位・責任 などを引き渡す。用法文型「ダレダレがダレダレに <348> バトンを渡す 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』(一盅八-四九)「実体に触れてないある新しさが、世代の青年男女の性格に芽生えてきていることは確かなようだ。そして、その意味では、自分など、もうバトンを渡し終った部類に属する人間なのかも知れない」②横山隆一『でんすけ随筆』(一九五五)「どうだろう、このさい、フクちゃんにバトンを渡しては、という気分があった」 はないきあら 鼻息が荒い 意味非常に強気であることをしよ うと意気込みが激しいさま。用法 文型「ダレダレは(~と)鼻息が荒い」「ダレダレの鼻息 は荒い」「江戸」 用例①武田泰淳『風媒花』(一九三)「鼻いきの荒い彼等は国際派をしゃにむにやっつけるために」②『朝日新聞』(一九八〇・七・九朝)「長老クラスも刺激されたかっこうで『この際はベテランによる実務型の人事で』とハナ息は荒い」③『朝日新聞』(一九八〇・九・三王朝)「その急成長に支えられて『追いつけ追いこせ』とパ・リーグ関係者の鼻息は荒い」④『朝日新聞』(一九八三・一・三朝)「今後は『月に五百台は売りたい』と鼻息は荒い」 はなたか 意味自分または自分に関係する人・こ 鼻が高い とで自慢できることがあって得意にな っているさま、誇らしく思うさま。用法文型「ダレ ダレは鼻が高い」「ダレダレとして鼻が高い」「江戸 用例①岩田豊雄『海軍』(九四三)「海軍大臣賞といえば、おれまで、鼻が高いぞ」②半村良『どぶどろ』(九七七)「お前もすっかり一人前になったものだ。世間の評判も大変いいよ。おかげでわたしも鼻が高い」③『朝日新聞』(一九〇・二・八朝)「係長より課長の方が格好が良い。年ごろからいっても、子どもは中学生か高校生。子供心にも鼻が高くなるだろうし」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「クラスでイジメがあったとき、愛が止めさせたんですって。親としては鼻が高いですよ」⑤朝日新聞』(三〇四・二〇・三六朝)「手塩にかけた子と同じ。引き合いが多くて鼻が高い」(編者注:完全養殖のクロマグロの話) 類句「肩身が広い」「鼻を高くする」 外国語韓国語 では「灵卭外(鼻柱が)ぎ卭(高い)」 鼻薬を嗅がせる 意味便宜を図ってもらうため に、少し賄賂を渡す。用法 <349> 文型「ダレダレがダレダレに鼻薬をかがせる」 用例①坂口安吾『山の神殺人』(一九五三)「お加久に鼻グスリをかがせ、不二男を思うようにあやつらせて」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五五)「相手の鼻息をうかがう。うかがった結果、われに利あらずと察すれば、鼻薬をかがせる」 類句「鼻薬を利かす」とも言う(内田康夫『秋田殺人事 件』(三〇三)「その中には、鵜殿に鼻薬を利かされ汚染されて いた連中が少なくない」。 鼻毛を抜く 意味相手を甘く見て、だましたり出 し抜いたりする。女性が男性について 言うことが多い。 用法文型「ダレダレがダレダレの 鼻毛を抜く」「ダレダレがダレダレに鼻毛を抜かれる」。 受身形が多い。「室町」 用例永井荷風『あめりか物語』(一九八)「お前達見た様に、 アメリカ三界の女郎に鼻毛を抜かれて汗水たらした金を 取られる奴の気が知れないね」 類句「鼻を明かす」 鼻毛を読まれる 意味男性が惚れた女性に見く びられ、いいように扱われる。 用法文型「ダレダレがダレダレに鼻毛を読まれる」江 戸 用例①永井荷風『新橋夜話』(一九三)「此様女に引掛って馬鹿な金をつかった事を無念に思うものの、そんな事に未練を残していた日には、まだこの上どれだけ鼻毛を読まれるか知れないと気づいたので」②舟橋聖一『雪夫人絵図』(一九四八五)「旦那様も旦那様。どうして、あんな女に、鼻毛をよまれているんでしょう」 類句「鼻毛を抜かれる」 はなし 話にならない 意味あまりにもひどすぎて話題と してまともに取り上げる気にならな い、あきれて物も言えない。用法文型「~では話に ならない」(江戸) (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(二六三)「さっきから成子は、一度も階下へ降りてこないのである。浩介としては、どういう女か、見ておきたいのであった。でなかったら、お話にならない」②矢玉四郎『あしたぶたの日ぶたじかん』(二九五)「ぶたまつりなんて、いつからで <350> きたんだろう。母さんにきいてみても、てんで話にならない」 類句「愚にもつかない」「たかが知れる」「取るに足りない」「物の数でもない」「問題にならない」「外国語」英語では not be worth talking about はなしはなさ 意味次々といろいろな話題が提供 話に花が咲く され、楽しく盛り上がって会話が続 く。用法文型「話に花が咲く」。また用例①のように 「話に花を咲かせる」という形もある。「話」を修飾する 言葉が前に来ることが多い。「話」の代わりに「思い出話」 「談義」など話の内容を表す表現が来ることもある。 用例①中勘助『銀の匙』(一九三一五)「おおぜいがひとつ ところにかたまってききかじりのうわさを種にすさまじ い戦争談に花を咲かせたときに」②阿川弘之『春の城』 (一九三)「耕二たちの仲間は始終誰彼の家に集って、戦争 の話に花を咲かせた」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九) 「一しきりその話に花が咲いたあとで」④『報知新聞』 (一九一・九・八朝)「東京場所の五日目には各委員が顔をそ ろえ、和気あいあいと相撲談義に花を咲かせるのだが」 ⑤『朝日新聞』(三〇四・二〇・一夕)「昔話に花が咲いた後は、 病気のこと、妻の愚痴になりました 類句「話が弾む」 はなしこしお 意味相手が調子に乗って話をして 話の腰を折る いる最中に他者が言葉でその話をさ えぎったり、あるいは外部に起こったある事柄が話を中 断させたりする。用法文型「ダレダレが話の腰を折 る」「ダレダレが(ダレナニに)話の腰を折られる」。受身 形で用いられることが多い。「江戸」 用例①永井荷風『ひかげの花』(一九四)「中島は話の腰を折られ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「用件を切り出しかけたまま、話の腰を折られた財前五郎は肝腎の話がお預けになった落ち着かぬ気持で」③「朝日新聞」(三〇四・二・三朝)「むずかしい話はやめましょ」と、途中で話の腰を折られてしまった。もう少し講釈をさせてもらいたかったのだが」 はなぱしらつよ 意味相手に負けないという気持ち、 鼻つ柱が強い 張り合う気持ちが強く、少々のこと ではくじけない、自分の主張を曲げたりしない。 用法 文型「ダレダレは鼻っ柱が強い」。「鼻っぱしが強 <351> い「とも言う。 用例①菊田一夫『君の名は』(一九五十五)「綾は鼻っ柱が強いし、意地も強い」②『朝日新聞』(一九三・三朝)「磁田君も負けず劣らず鼻っ柱が強いから」③田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「女はじろりとふたりをみた。鼻っ柱の強そうな女だ」 類句「気が強い」「向こう意気が強い」 外国語英語 では hard-nosed *韓国語では「ぇヨ外(鼻っ柱が) ヨ(強い)」 鼻であしらう 意味相手を軽く見て、無礼な、冷 たい、無愛想な態度で応対する。 用法文型「ダレダレがダレナニを鼻であしらう」。受 身形が可能。江戸 ①有島武郎『或る女』(一九一九)「どこに行っても取りあいもせず、鼻であしらい、鼻であしらわれ慣れた葉子には、何か真味な力で打ちくだかれるなり、打ちくだくなりして見たかった」②太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「私どもには、名人気取りの職人が、威勢のいい時には客の註文も鼻であしらい」③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「ふん』夏木は鼻であしらってから二人の女の方 をジロジロと見た 類句「鼻先であしらう」「鼻の先であしらう」とも言う。 「木で鼻をくくる」「けんもほろろ」「取り付く島もない」 「にべもない」「外国語」英語では turn up one's nose at はなか 意味自分のある事柄の優秀さを自慢 鼻に掛ける して得意げに振る舞う。その様子が他 人から見て不快に感じられる場合に用いる。用法文 型「ダレダレはナニナニを鼻にかける」。ナニナニは「オ 能」「美しさ」「家柄」など。用例⑤のように否定形がある。 (江戸) 〔用例〕①二葉亭四迷『浮雲』(二八七)「すこぶる知恵才覚があってまたよく知恵才覚を鼻にかける」②佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九三)「僕もその時は、秋帆の奴は自分の出世を鼻にかけている俗な奴だと思っていたのです」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三十五)「財前というのは、ちょっとばかりの才能を鼻にかけ、若輩のくせに思い上って、のさばり過ぎている」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九五)「むしろ、矢代が名声を鼻にかけた軽薄なドン・ファンのように感じられ」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「つゆほども美形を鼻にかけない」 1 <352> はな 鼻に付く 意味 (1)強い臭い、嫌な臭いが鼻を刺激 し、なかなかとれず不快である。(2)人・ 物事の同じようなことが繰り返し行われて、飽き飽きし 嫌になる。わざとらしくて嫌味を感じる。用法文型 「ダレナニが鼻につく」(江戸) 用例(1)①津本陽『深重の海』(九七)「沖に出るほど、潮の香が鼻につき胸苦しく」②安岡章太郎『海辺の光景」(九八)「ニスと何か刺戟性の強い臭いが鼻についた」(2)③徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(九四)「お婆さんは最初きさ代さんきさ代さんと囃して居たが、此頃では最早鼻について来たと見えて、あのきさ代がきさ代がと蔭口にも毒づいて居た」④源氏鶏太『緑に匂う花』(九五三五三)「達枝のこっちを見くだすような素振りは鼻について、しぜんに寄りつき難いのである」⑤槌田満文『文学にみる広告風物誌』(九六)「前半はともかく、半ばあたりからは広告の連続がいささか鼻につくことはいなめない」⑥朝日新聞』(九八・三朝)「自信に満ちた受け答えが時として鼻につく感をもたれることも、気掛かりな点である」⑦高杉良『指名解雇』(九九七)「仕事のできる人なん でしょうけど、なんだか自信満々で、鼻につくわねぇ 類句(1)「鼻を刺す」「鼻を突く」(2)「鼻持ちならない」 外国語(2)英語では stick in one's craw はなしたなが 意味男性が女性に迷いやすい。好 鼻の下が長い 色である。用法文型「ダレダレ は鼻の下が長い」(江戸) 用例正宗白鳥「生まざりしならば」(九三)「鼻の下の あか 長い赭っ面の、口の中の臭そうな男に」 はなしたなが 鼻の下を長くする 意味男性が女性にでれでれ してだらしなく、言うがまま になる様子。用法文型「ダレダレがダレダレに鼻の 下を長くする」 用例①骨皮道人『滑稽独演説』(一八七)「助平先生は鼻 の下を長くして」②小杉天外『魔風恋風』(一九三)「俺が萩 原て云えば、何でも鼻の下を長くしていると思って」 類句「鼻の下を伸ばす」とも言う。「鼻毛を伸ばす」 鼻の下を伸ばす 意味「鼻の下を長くする」に 同じ。用法文型「ダレダレ <353> がダレダレに鼻の下を伸ばす〔江戸〕 用例①向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「さっきお涼さんに鼻の下を伸した貫太郎が、今度は周平の浴衣姿に目を細めていた」②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九八七)「『枕探しにやられた』『鼻の下を伸ばすからだよ。はっははは……』③『朝日新聞』(三〇四・二・七朝)「鼻の下を伸ばしようがない間柄だからこそ、後ろめたさもなく長続きするのだ」 はなも 鼻持ちならない 意味臭くて我慢できない意か ら転じて、人の様子や言動がい やみったらしくて、不快である。用法文型「ダレナ ニは鼻持ちならない」「鼻持ちならないダレナニ」。「鼻持 ちならぬ」とも言う。「江戸」 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三六三)「ほんのわずか でも余裕があるようでは、その人間は、文学者として、 似テ非ナル鼻持ちならない存在になってしまいますわ」 ②『朝日新聞』(一九八〇・三・三朝)「署員の尊大な特権意識も 鼻もちならぬものでした」③『朝日新聞』(一九八〇・三・八朝) 「本の中で人生の岐路に立って悩む主人公の姿は、僕に はきざで鼻持ちならぬ男でした」④森村誠一『人間の 十字架』(一九三)「自己本位で鼻もちならない気位の高さ に目を瞑れば、性的な魅力は水準以上である」 * *むしず *むなくそ 類句「鼻につく」「ヘドが出る」「虫酸が走る」「胸糞が 悪い」「外国語英語では stink 涼も引っかけない 意味「涼」は鼻から出る液 鼻水。軽蔑する相手には涼を かけるが、それさえもしないということから、見下して 相手にしない、全く無視する、関係を持とうとしない。 用法文型「ダレダレはダレダレにははなもひっかけな い 用例高杉良『指名解雇』(一九九七)ウチ辺りの中小企業 なんか洟もひっかけてくれないと思って」 類句「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」 * 「屁とも思わない」「目じゃない」「目もくれない」 はなあ 意味優位に立つ相手を出し抜きあっ 鼻を明かす と言わせ、優位に立つ。ぎゃふんと言 わせる。用法文型「ダレダレがダレダレの鼻を明か す」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三二)「おれはあ <354> いつの鼻をあかしてやろうと決心したのだ」②井伏鱒 二『黒い雨』(一九六五六)「庄吉さんは『わしゃあ、池本屋 の小母はんの鼻を明かしてやりたい一心に、喧嘩腰で この案を考えついた』と云った」③東野圭吾『学生街の 殺人』(一九六七)「まさか、警察の鼻をあかそうなんて、子 供じみたことを考えているんじゃないでしょうね」④田 中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「それどころ か今日こそは大物をあげておまんらの鼻をあかしちゃ ると張り切っておったそうで」⑤『朝日小学生新聞』 (三〇四・三・三九)「この帳簿の誤りを見つけだして会計委員 会の顧問の安藤先生の鼻を明かしてやるのだと思うとワ クワクしますね」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表を突く」 「裏をかく」「度肝を抜く」「鼻を折る」「一泡吹かせる」 はなお 意味高慢な鼻をへし折る意で、おごり 鼻を折る 高ぶっている人をこらしめて恥をかかせ る。用法文型「ダレナニがダレダレの鼻を折る」。用 例①③のように受身形がある。意志形が可能。〔江戸〕 用例①夢野久作「鼻の表現」(三六)「相手方の高慢チ キな鼻の表現が引くり返って「アッケラカン」と空虚に なった鼻の表現を期待した言葉であります。『鼻を折る』とか『折られる』とかいうのもこれと同様の意味で」②「あの高慢ちきな奴の鼻を折ってやろう」③「鼻を折られてしゅんとなる」 類句「鼻っ柱を折る」「鼻っ柱をへし折る」とも言う。 「鼻を明かす」外国語韓国語では「ヨぎ(鼻を)甘苻か (やんこに)かけ(する) 花を咲かせる (2)人が作った物、育てたある人などが後になって栄える よい結果が生じて、成功する。努力して名を上げる。 意味(1)「話に花を咲かせる」ということで、「話に花が咲く」に同じ。 「ダレナニが花を咲かせる」 「用法」文型(1)「ダレダレがナニナニに花を咲かせる」(2) 用例(1)「昔話に花を咲かせる」(2)「朝日新聞」(1)「昔話に花を咲かせる」(2) <355> 雑草。アスファルトのすき間から伸びようと一生懸命だ が、その後にどんな花を咲かせるのかという野心がな い」 類句 (2)「花開く」(「朝日新聞」〈三〇四・二・九夕〉「バイオリン とピアノが一緒になって初めて音楽として花開く曲」「実を 結ぶ」 はなたか 鼻を高くする 意味自分または自分にかかわる 人・物事で自慢に思い、誇らしげに する。用法文型「ダレダレは鼻を高くする」「ダレナ ニはダレダレの鼻を高くする」(江戸) ①德富蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九四)『人民之友』も中々の好評で、号を逐うて人気が加わると云う風評は、敬二の鼻を高くした』②坂口安吾『投手殺人事件』(一九五)「細巻もバッテキの甲斐があったといささか鼻を高くしていた矢先であったから』③半村良『どぶどろ』(一九七)「この町屋敷は江戸開府以来のもので、お前などもここへ出入りするだけで、世間に鼻を高くしていられようと言うもんだ」 鼻を突く 意味強い臭いが鼻を刺激する。不快感 を伴う場合に用いられる。用法文型 「ナニナニが鼻を突く」 用例①福永武彦「忘却の河」(一九六四)「もう秋の初めの ころのように厭な臭いが鼻を突くこともなかったが」② 藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八)「中に入ると、 陽気なラテンのリズムが鳴り、異臭が鼻を衝いた」③津 本陽『深重の海』(一九七八)「乾いた血溜りが、鼻をつく腐 敗臭を放っている」 類句「鼻につく」「鼻を刺す」 はなな 鼻を鳴らす 意味(1)相手を軽蔑し馬鹿にする時に ふんと鼻から息を出す動作。(2)相手に 甘えてすり寄っていく時の鼻にかかった声を出す動作。 用法文型(1)「ダレダレがふんと鼻を鳴らす」(2)「ダレ ダレが鼻を鳴らす」(江戸) (用例) (1)①東野圭吾『学生街の殺人』(一九七)「持参して きた雑誌を彼に見せた。彼は興味深そうに目を通した あと、ふんと鼻を鳴らした」②『4年の科学』(三〇三・九 「イックの言葉に、いじわる仮面がふんと鼻をならした」 (2)③「女が男に鼻を鳴らして身を寄せてきた」 <356> 花を持たせる 意味事実とは違っていても表面上 で、相手が自分よりもすばらしい者 かのように相手を立てる。相手を喜ばせるために、勝利 や名誉・功績などを譲り、相手を立てる。用法文型 「ダレダレがダレダレに花を持たせる」。命令・意志表現 が可能。室町 用例①樋口一葉『うもれ木』(八九三)「洋刃の厄介も御身分がら如何や、何と私しに、此処の花をもたせては下さらぬかと」②高見順『都に夜のある如く』(一九五十五)「ひょっとすると玉置が、私に八十を持たせたのかもしれない」③『朝日新聞』(一九六五・五・二朝)「野党にも花を持たせなければという国会対策上の配慮があったというのが一般的な見方」④高杉良『人事権!』(一九九三)「岩間が課長のきみに花を持たせようと気を遣ってるんなら」⑤東野圭吾『美しき凶器』(一九九三)「わざわざ上京してきた刑事に花を持たせようということかもしれない」 外国語英語では make someone look good はきぬき 意味人に遠慮せず自分の思ったこ 歯に衣着せぬ とを率直に言う、ずけずけ言うさま。 用法文型「歯に衣着せぬナニナニ」。また「ダレダレは 歯に衣着せずする」。ナニナニには「意見」「発言」など発話行動を表す語句が来る。用例①②のように「歯に衣を着せぬ(ず)」と「を」を挿入することがある。「室町」用例①五木寛之「風に吹かれて」(九七)「その店は、主人の歯に衣を着せぬ八方破れの毒舌で有名だった」②「朝日新聞」(九〇・三・二〇朝)「歯に衣を着せず、率直に紙面批評を書くのが、私のこれにこたえる義務だと考えている」③「朝日新聞」(九一・二〇・三王朝)「タンザニアのニエレレ大統領は、レーガン米大統領を相手に歯にきぬ着せぬ先進国批判を展開したという」④高杉良「人事権!」(九三)「歯に衣着せず言いたいことを言った」⑤「朝日新聞」(九四・八・四朝)「クリック博士は研究に関しては歯にきぬきせずに率直に意見を言っていた」 外国語 中国語では成句「直言不讳」(直言してはばから ない、ありのままを言って遠慮しない) はねの 意味普段の義務・束縛や抑圧された 羽を伸ばす 状態などから逃れ、解放され、自由に のびのびと振る舞う。用法文型「ダレダレが羽を伸 ばす」。命令・意志表現は可能。用例④のように可能動 詞がある。 <357> ①源氏鶏太『鏡の中の顔』(二五四)「久し振りで一人になって羽根をのばしているのかも知れない」②福永武彦『忘却の河』(二九四)「あなただってたまには羽を伸ばしたっていいでしょう」③森村誠一『東京空港殺人事件』(二九二)「久しぶりにうるさい妻の目から離れて、金髪美人に取り囲まれて、せいぜい羽をのばしていらっしゃいよ」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「今日は母の調子がよさそうなので、安心して羽を伸ばせるんです」⑤朝日新聞(三〇四・二〇三朝)「今日は、おばあちゃんをみててあげるから、たまには羽を伸ばしておいで」 類句「命の洗濯」「鬼の居ぬ間の洗濯」 は 歯の浮くような 意味明らかに心からでなく、 何らかの効果を意識してのわざ とらしいほめ言葉が用いられた時の、不快な気持ちを 形容する言葉。用法文型「歯の浮くような十二二」 ナニナニは「賛辞」「お世辞」など。「歯が浮くような」と も言う。 き 用例①源氏鶏太『三等重役』(一五二五三)「今頃になって、 は 歯の浮くようなお世辞はよせ」②井上ひさし『日本亭主 図鑑』(一九五)「これらの男性の婦人問題啓蒙家の語り口 は、女蕩しの手口と酷似している。みせかけの理解と歯の浮くようなおだてあげ、この二本立てだ」③内田康夫「イーハトーブの幽霊」(一九九九)「このように歯の浮くような、中身のない美辞麗句を並べたて」④西村京太郎「伊勢志摩殺意の旅」(三〇〇)「それは、歯の浮くような、賛辞にあふれたものだった」⑤本所次郎「閨閥」(三〇四)「とよ子は、鹿野の歯の浮くような賛辞を当然と受けとめた」 歯の根が合わない 意味寒さや恐怖などからが たがたふるえるさま。 一 用法 独立して一文を構成する。「歯の根が合わぬ」とも 言う。〔江戸〕 用例瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「とにかく、ウイスキー をあけましょうよ。こう寒くっちゃ、歯の根もあわない わ」 外国語 英語では one's teeth chatter はばき 幅が利く 意味ある分野・場所・社会・集団の中 でその人の存在が認められて自由に振る 舞うことができる、勢力がある。用法文型「ダレダ <358> 用例①徳田秋声『爛』(一九三)「私もっと、あの社会で 幅が利くんだと思っていたら」②「俺もこの辺じゃ幅が 利くから」 類句「顔が利く」「物を言う」 はばき 意味ある分野・場所・社会・集団 幅を利かせる の中でその人・物・事柄の存在を認 めさせ偉そうに振る舞う、勢力をふるう。用法文型 「ダレナニがドロドコで(に)幅を利かせる」。「幅を利か す」とも言う。江戸 用例①谷崎潤一郎「陰翳礼讃」(一九三三四)「またローマ字論などが幅を利かすことも出来まいし」②大岡昇平「俘虜記」(九八)「彼は昔自分が世話した俘虜達が、彼より先に収容所に来たばかりに幅を利かせているのが、面白くなかったらしい」③「朝日新聞」(一九七九・五・三朝)「街には半そでの軽快な夏姿が幅を利かせ南国では初泳ぎ組も見られた」④森村誠一「棟居刑事の砂漠の暗礁」(一九九七)「いずれの地域にも幅をきかす主役がいて、異人種は入りにくい」 類句「大きな顔をする」「羽振りを利かせる」 はめはず 意味「はめ」は「はみ」とも言い、馬 羽目を外す の口にはめるくつわの部分。酔っ払っ たり調子に乗ったりして、限度を越えて普段はしないよ うな極端なことをする。一般的には良くないとされてい ることをする時に用いる。用法文型「ダレダレが羽 目を外す」(江戸) 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「今夜は、おれ、少し羽目をはずしてもいい。のみ歩きたいんだ」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「もちろん飲みすぎて羽目をはずしたために、今日は元気に欠けるところがあり、気恥かしく思っている弟が」③『朝日新聞』(三〇四・九・三朝)「日頃の憂さを晴らそうと羽目を外し過ぎないように要注意」④『朝日新聞』(三〇四・三・三七夕)「俗世界では仮装パーティーで、ハメを外し、自分を忘れる時間をもつことになる」 類句「たがをはずす」「度を過ごす」 外国語英語で は let loose 波紋を投げる 意味何事もなかったところ、平静 なところにある事柄がさまざまな影 響を与え、大きな問題へと広がって行く。周囲に動揺を <359> 与える。 用法 文型「ダレナニがダレナニドコに波紋 を投げる」 の「社会党との新たな協力関係の提言」が政界、労働界に波紋を投げている」②森村誠一「棟居刑事の砂漠の暗礁」(一九九七)「金沢が提供した復元写真は捜査本部に波紋を投げかけた気配である」 類句「波紋を投じる」とも言う。「波紋を投げる」「波紋を投じる」は「波紋が生じる」と「一石を投じる」との混同から生まれた。「波紋を広げる」(「朝日新聞」三〇五・一・三朝」「イラクに記者を派遣しないよう求めたシラク仏大統領の要請が、仏メディアに波紋を広げている」「物議をかもす」 はやはなし 意味長い説明を省いて要点を簡潔に言 早い話が えば、手短に言えば。要するに。話を手 短に済ませたい時に切り出す言葉。用法文型「早い 話が、~」。文頭に使われ、後続の文全体にかかってい く。江戸 用例①森鴟外『青年』(九二)「早い話が、あの店の上 さんだって、若しあの二人に対して物を言うことになっ たら、旦那様奥様と云っただろう」②芥川龍之介『戯作 類句 「一ロで言えば」 「一ロに言って」 「外国語」 英語 では to make a long story short 三昧』(二九二)「曲亭先生の、著作堂主人のと、大きなことを言ったって、馬琴なんぞの書くものは、みんなありゃ焼き直しでげす。早い話が八犬伝は、手もなく水滸伝の引き写しじゃげえせんか」 はら き 腹が決まる 意味決意がはっきり固まる。覚悟 が決まる。用法文型「ダレダレは 腹が決まる」「ダレナニの腹が決まる」 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一五二五三)「良人が止めても 止めないでも同じことである。彼女自身の肚は決ってい る」②『朝日新聞』(三〇四・九・一八朝)「才ある監督に自由に 撮らせるのが企画の趣旨でした。事故後の苦労も念頭に あったし、腹は決まっていましたから」 類句「肝が据わる」「肝が太い」「度胸が据わる」「腹が 据わる」 腹が黒い 意味意地が悪くて心の中で良くないこ とを考えたり悪いことをたくらんでいる。 腹黒い。 用法文型「ダレダレは腹が黒い」「腹の黒い <360> ダレダレ 用例山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六八)「前の佃にして も、今度の安西にしても、茶坊主の腹の黒い、クロスケ みたいな奴が、医局長面をしてのし歩くんだ」 外国語韓国語では「明ヶ(腹の中が)召(黒い)」 はらす 意味何かが起きても動じない。いざ 腹が据わる という時の覚悟ができていて、どっし りと構えている様子。覚悟が決まる。用法文型「ダ レダレは腹が据わる「腹が(の)据わったダレダレ」。「肚 が据わる」とも書く。 用例①三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「思っていることを、 ぐっと腹の中におしこんでこそ、はじめて、ほんとう に肚のすわった男になれるのですよ」②有吉佐和子『恍 惚の人』(二九三)「なんだか、やっと肚が坐ったって感じ ね」③『朝日新聞』(二九五・二〇・四朝)「いくらかは腹の座っ た親のつもりでいた私も、あの子が薬を飲んだことには すっかり動転し」④太田蘭三『殺意の朝日連峰』(二九七) 「赤田は肚がすわっている。何度か事情聴取をしたんだ が、いつも動ずる気配を見せないからな」⑤高杉良『人 事権!』(二九三)「N証券のシェアを高めることはウチの ためになる、で押せばいいものを、まったく肚が据わっ とらん」 類句「肝が据わる」「肝が太い」「神経が太い」「度胸が 据わる」「腹が決まる」 腹が立つ 意味怒りの感情が生じる。怒る。 立つ〔鎌倉〕 用法文型ダレダレはダレナニに腹が 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二六〇)「そのうち、伊 津子は、ひどく植に腹がたってきた」②有吉佐和子『恍 惚の人』(二九三)「自分の親だというのに、世話はみんな 妻に押しつけてしまう気かと昭子は腹が立った」③渡辺 淳一『北都物語』(二九四)「塔野自身にしたところで、た まに美人と昼飯を一緒にしようと思っただけで、それ以 上の野心があったわけではない。もし自分をそんなふう に見て、警戒しているとしたら腹が立つ」④朝日新聞 (二九九・五・三朝)「私もこのところ灰色政治家に対して腹 の立つことはなはだしく」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発 する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「癪にさわる」 「怒髪天を衝く」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」 <361> 米はらわた 「腸が煮えくり返る」「むかっ腹を立てる」「烈火の如く」 はらふと 腹が太い 意味度量が大きく、小さなことにこだ わらない。太っ腹である。用法文型 ダレダレは腹が太い」 用例「社長は腹が太いところを見せようと、部下の失 敗にも雷を落とさず、まあいいと言った」 類句「腹が大きい」とも言う。「懐が深い」 はらよじ 腹が捩れる 意味「腹の皮がよじれる」に同じ。 用法文型「ダレダレは腹がよじれる ほど「腹がよじれるようなナニナニ」。「には「笑う」 「おかしい」などが来る。ナニナニに「おかしさ」などが 来る。 (用例)①星新一『ボッコちゃん』(二丸二)「いままでむずかしい顔つきで、もっともらしい説明をしてきた所長が、急に口をとがらせて高いなき声を出し、妙な手つきをはじめたのだ。まったく腹がよじれるようなおかしさだった」②高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七八)「腹が捩れるほどおかしかったが」 はらいちもつ 腹に一物 意味心の中に何か悪だくみを隠し持っ ていること。用法文型「腹に一物あ るダレナニ」 (用例)①坂口安吾『影のない犯人』(一九五三)「なんとなく 腹に一モツある人相だ」②池島信平『雑誌記者』(一九五八) 「戦場に立てば、ずいぶん立派な人達が、腹に一物ある 民間人と親しく接する地位に置かれると、アッと驚くほ ど早くイヤらしくなるのである」 類句胸に一物外国語英語づは have something up one's sleeve はらす 腹に据えかねる 意味他者の言動や物事の動向 などに関して我慢の限界を越え ていて怒りが抑えられない。用法文型「ダレダレは (ナニナニを)腹に据えかねる一室町 〔用例〕①三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「まして夫が沢のかくれ家に泊ったことも知らずにいた。そのすべてを知った時、さすがのエミヤも腹に据えかねて、ついに怒った」②『朝日新聞』(一九九・六・三朝)「首相は、ストラウス氏の交渉のやり方を、ハラにすえかねていたのだろう」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九三)「愛する娘とは <362> いえ、その我儘にも限度がある。加津夫としても、今度 の問題では腹にすえかねていた」④清水一行『ITの踊 り』(三〇四)「それにしても、どう考えても腹にすえかね るのは、マックスとの合併交渉を途中で打ちきり、格下 のカルチャーの傘下に入ろうとしていることだった」⑤ 『朝日新聞』(三〇四・八・四朝)「騒音対策に文句は言えない。 しかし、関空重視の国の姿勢は腹に据えかねる」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発 する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」 「腹が立つ」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」 「むかっ腹を立てる」「烈火の如く」「外国語」英語では can't stomach はらかわよじ 意味腹をねじまげて笑いころ 腹の皮が捩れる げることから、おかしくてたま らない様子。抱腹絶倒する。用法文型「ダレダレは 腹の皮がよじれるほど~「腹の皮がよじれるようなナ ニナニ」。「~」に「笑う」「おかしい」などが来る。ナニ ナニに「おかしさ」などが来る。用例のように「よじき れる」と言うことがある。 用例 夢野久作笑う唖女(九き)アハハハ…もうわ かったわかった。もう止めてくれ給え伝六君。腹の皮が 捩じ切れる。アハハハハ」 類句「腹がよじれる」とも言う。 はらむしおさ 意味他者の言動や物事の 腹の虫が治まらない 動向などに関してどうにも 納得できず、怒りの感情が起き、それがいつまでも続い てなかなか平常にもどらないさま。用法文型「ダレ ダレは腹の虫がおさまらない」「ダレダレの腹の虫がお さまらない」。「腹の虫がおさまる」と肯定形で言うこと もあるが、否定形で用いられることが一般的。 用例①源氏鶏太『英語屋さん』(一五二)「どうにもムカムカしてきて、一度は自分の卓越非凡な実力の程をしめして、相手をあれよと瞠目させてやらないことには、茂木さんの腹の虫がおさまらないようである」②「朝日新聞」(一九八〇・四・三王朝)「外務省の高島事務次官も記者会見で『首脳会談では、いいことばかりは言えない』と腹の虫がおさまらない様子だ」③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「しかし、ああまで言われては、腹の虫が納まらない」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「弥生は腹の虫がおさまらないらしく、ついに東都信用 <363> 金庫の本店に電話をかけた」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「錦織が泣きわめいて許しを乞うたとする。それじゃ俺の腹の虫はおさまらない一 類句「腹の虫が承知しない」とも言う。「頭から湯気を 立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪 忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据 えかねる」「腸が煮えくり返る」「烈火の如く」(外国語 英語では not soothe someone's feelings くさ 意味人の精神がすっかり堕落する。 腸が腐る 用法文型「ダレダレははらわたが腐 る」「はらわたが(の)腐ったダレダレ」 用例樋口一葉「にごりえ」(八九五)「腸が腐った人は子 の可愛さも分りはすまい」 類句「腹が腐る」 はらわたにくかえ 意味他者の言動や物事の動 腸が煮え繰り返る 向などに関して激しい怒りの 感情がふつふつと起こってきてどうにもおさまらない様 子。用法文型「ダレダレはダレナニにはらわたが煮 えくり返る」「はらわたが煮えくり返る思い」「はらわた が煮え返る」とも言う。 (用例)①江戸川乱歩『白髪鬼』(三三三)「あの立派な洋服も、どうせ瑠璃子がこしらえてやったものにきまっている。と思うと、わしは今さらのように、はらわたが煮えかえった」②三浦綾子『塩狩峠』(三六八)「何かはわからないながら、どうも腹わたの煮えくりかえるような、いつまでも腹にずしんとこたえる小説ですね」③『朝日新聞』(三九〇・二・三朝)「朴賢一君をとりまく生徒と教師たちの差別行為の陰惨さに腹わたが煮えくりかえる思いだが」④大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「あんたの腸が煮えくりかえっているのはわかる。鹿報会は、結局利用されただけで、弟さんまで殺されたのだからな」⑤『朝日新聞』(三〇四・二・六朝)「政府に対して、はらわたが煮えくりかえっている。本物かどうか確認は必要だが、北朝鮮のペースに乗ってこんな結果を持ち帰るぐらいなら、帰ってくるなと言いたい」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に 発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝 く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらな い」「烈火の如く」「外国語英語では make someone's blood boil <364> はらいた 腹を痛める 意味女性が産みの苦しみを味わって 子を産む。用法文型「ダレダレが 腹を痛めて産んだダレダレ」「腹を痛めたダレダレ」 用例「腹を痛めた我が子」 はらかた 腹を固める 意味あることをしようと決心する。 覚悟する。用法文型「ダレダレが ~と(の・に)腹を固める」。用例③「最終的な」のよう に「腹」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能 用例①「朝日新聞」(一九七九・五・一五朝)「すでに『松野氏に 限って喚問』のハラを固めている執行部は」②「朝日新 聞」(一九八〇・五・一三朝)「内閣不信任案に同調するというよう な行動はよほど腹を固めないとできない」③「朝日新聞」 (一九一・三・六朝)「一気に予算案の採決まで突っ走ると最終 的なハラを固めたわけではなかったようだ」 類句「意を決する」「腹を決める」「腹をくくる」「腹を 据える」「ほぞを固める」 はらき 腹を決める 意味「腹を固める」に同じ。ただし 「腹を固める」のほうが強い決心を表 す。用法文型「ダレダレが~と(~の・~することに) 腹を決める」。命令・意志表現は可能。 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(三毛)「堀と海江田との報告を聞いて、久光は西郷処分の腹をきめた」②津本陽『深重の海』(九七)「太地へ帰って、交渉の結果を皆にどう知らせるか、彼は繰りかえし考え、事実を伏せることに、腹をきめていた」③『朝日新聞』(九〇・三・一九朝)「今場所の貴乃花は『負け越せば引退』とハラを決めて土俵にあがった」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(九七)「まあ、そうなったらそうなったで仕方がないと腹を決めた。十二も逃げ隠れする理由はないのである」⑤岩城捷介『免職警官』(三〇三)「花輪は椅子に沈んで思案を続けたが、有効な答えは出なかった。やがて腹を決め、〈ローザ〉に電話を入れた」 腹を括る 意味どうなっても動じないという覚悟 のもとに強い決意をする。用法文型 をくくる。命令・意志表現は可能。 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(二六七六八)「今度は、学術会議選の近畿地区一万八千人の有権者が対象で、いうてみたら学者の参院選みたいなもんやから、票読みはよっぽど腹を括ってやらんといかん」②内田康夫『博 <365> 多殺人事件』(一九二)「浅見を信用する方向で腹をくくっためら たとはいえ、なおも躊躇うものがないわけではないのだろう」③龍一京『交番』(三〇四)「菊田を逃がすためなら、何でもしてやると腹を括っていた」④「朝日新聞」(三〇四・四・四朝)「拙劣な記事やデタラメや人権侵害があったとしても、と福田和也は書く。しかし、そういう一切合切を、とりあえず認める、と言うことでデモクラシーは、成り立っているのです』。書き手の知性と腹の括りようが伝わってくる」 類句「意を決する」「腹を固める」「腹を決める」「腹を 据える」「ほぞを固める」「外国語」英語では prepare oneself for the worst はらこ 意味「私腹を肥やす」に同じ。 腹を肥やす 用法文型「ダレダレは腹を肥やす」 江戸 用例内田魯庵社会百面相(一九三)伯父さんが他に 損を掛けて自分の腹を肥した例でもあるかい」 はらさぐ 意味相手が何を考えているか、どう 腹を探る 思っているかを、直接的な方法でなく、 それとなく知ろうとする。 用法文型「ダレダレがダ レダレの腹を探る」〔江戸〕 用例井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)『ハラ』もカ 才に劣らずわたしたち男子の重要な思考道具だ。相手の 腹を探り、腹を読み、相手の腹の内に見当がつけば」 類句「鎌を掛ける」「探りを入れる」 はらす 意味いざという時の覚悟を決め、 腹を据える どっしりと身構えて物事に対処する。 用法文型「ダレダレが腹を据える」「ダレダレが~と 腹を据える」 ①野間宏『真空地帯』(一九五三)「もっとも木谷はまだ中堀中尉をたのみにしていないわけではなかったので、廊下を通って行く足音に期待をいだいたが、彼はもう腹をすえていたのである」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「自分の顔によく似た国立大学医学部長という肩書を持つこのインテリ海坊主は、相当なしたたか者だと、腹を据えた」③津本陽『深重の海』(一九七六)「大方の男たちは、『命まで取りに来もせなよ』と、腹をすえているようであった」④朝日新聞(三〇四・三・四朝)「89年当時、1週間に1隻ずつ船を売却し、100隻以上を売り払っ <366> た。合理化は腹をすえて進めたが、いたたまれなくなる 出来事に見舞われました」 類句「意を決する」「腹を固める」「腹を決める」「腹を くくる」「ほぞを固める」 腹を立てる 意味不愉快にさせられた対象(自分 も含む)に怒りの気持ちを表す。怒る。 用法文型「ダレダレがダレナニに腹を立てる」〔平安〕 用例①黒岩重吾「背徳のメス」(一九六〇)「こんなことで 腹を立てていては、貧民病院の医者は勤まらなかった」 ②三浦綾子「塩狩峠」(一九六八)「母をわがもの顔に独占し ている待子に腹をたてた」③「朝日新聞」(一九九五・五・九朝) 「メンツをつぶされた形の外相は強硬な姿勢を崩さな い米国のやり口に相当腹を立てていた」④「朝日新聞」 (一九九六・六・八)「一番罪が軽いはずの自分がなんで残される のかと腹を立て、独房に本を投げつけたこともあった」 * *しやく 類句「頭に来る」「癪に障る」「むかっ腹を立てる」 はらよ 意味相手が心の中で何を考えているか 腹を読む を相手の言動から察する。直接的に聞く のではなく推測する。用法文型「ダレダレがダレダ レの腹を読む」。受身形が可能。可能動詞形がある。 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「大隊長 の門間少佐の腹は読めないだろう」②井上ひさし『日本 亭主図鑑』(一九五)『ハラ』もカオに劣らずわたしたち男 子の重要な思考道具だ。相手の腹を探り、腹を読み、相 手の腹の内に見当がつけば」 はらわ 意味心に思っていることを隠さず、 腹を割る すっかりさらけだして話す。本心を打ち 明ける。用法文型「ダレダレが腹を割って~する」。 「~する」には「話す」「話し合う」などが来る。 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(一九六〇)「わしも先日話し合って、君の気持はだいたい分った。だから今日は腹を割って話そうじゃないか」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「いわば、一生他人の飯を食いつづけて、肚を割って話すということも、普通の人にくらべたら」③朝日新聞(一九七九・六・三王朝)「大平首相とカーター大統領は『お互いに自国の南の方で、かつ農民の出身』(大統領)ということもあって、ハラを割って話し合ったようだ」④朝日新聞(三〇四・二・三王朝)「信頼できる人に出会って、自分をさらけ出すことができなければ、腹を割った仲にはなれ <367> ないですよね 類句「肝胆を開く」「胸襟を開く」「底を割る」「外国語 英語では have a heart-to-heart talk 馬力を掛ける 意味今まで以上に気合を入れて精 力的に仕事などに励む。用法文 型「ダレダレが馬力をかけて~する」。命令・意志表現 は可能。 用例①飛田穂洲『野球生活の思い出』(二九八)「この人 が馬力をかけて細大もらさず試合の報道をした」②獅子 文六『青春怪談』(一九五)「そんなに、お強いの…。じゃア、 馬力をかけて、お酌しますわ」 はりむしろ 意味周囲に批判的な人がいたり、周囲か 針の筵 ら苦しめられたりして少しも心が安まらな い、つらい場所・環境・状態。また自分が失敗をおかし て、周囲の人に対して心苦しく思っている状態。出典は 中国の古典『晋書』。用法文型「ナニナニは針のむし ろ」「ダレダレは針のむしろに座るよう」「江戸」 用例①高杉良「人事権!」(一九三)「会長に嫌われてることを察してるとしたら、逆に針の筵かもしれない」② 姉小路祐『刑事長越権捜査』(一九三)「針のムシロに座っ ているくらいなら、寒くてもマイカーの中にいるほうが ましですよ」 外国語 英語では a bed of nails はものさわ 意味気むずかしい人など相 腫れ物に触るよう 手の気分を害さないように、 遠慮しながら恐る恐る接することのたとえ。用法文型 「ダレダレが腫れ物に触るように~する」(江戸) ①嘉村礙多「業苦」(二九八)「圭一郎は今も衝動的 に腫物に触るような気持に襲われて開封くことを躊躇し たが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「もし、そん なことをしたら、たちまち、辞めさせてくれといい出す に違いないのである。当分の間は、腫れ物に触るように そっとしておかなければならないのだ」 外国語 英語では treat someone with kid gloves は 歯を食いしばる 意味悔しさ・精神的肉体的苦 痛・怒りなどに必死に耐えてが んばる。用法文型「ダレダレが歯を食いしばって~ する」〔平安〕 <368> 用例①野間宏『真空地帯』(二五三)「初年兵の責任者として自分をよんでなくりつけ、自分はじっさいしゃくでしゃくで、しかし歯をくいしばってなにくそ、いまにみろと心のうちで思ってるしかありません」②福永武彦『忘却の河』(二九四)「おそらく父は、母が震災で哀れな死にかたをしたあと、わたしがかたづくまではと思って歯をくいしばって生きてきたにちがいない」③朝日新聞』(三〇四·八·五朝)「歯をくいしばってラリーをつづける愛ちゃん」④朝日新聞』(三〇四·二·六朝)「小さいときから脊椎カリエスで寝たきりだった姉は、18歳まで生きられないと言われながら67歳の今も生きている。歯をくいしばって生きてきたと思う」 外国語 英語づき grit one’s teeth はんきひるがえ 意味これまで自分が従っていた勢 反旗を翻す 力に対して、反逆する。謀反を起こ す。用法文型「ダレダレがダレナニに反旗を翻す」 用例①森村誠一「人間の十字架」(九三「青柳に反旗 を翻しただけに留まらず、彼を辱めたのである」②朝 日新聞(三〇四・九二朝)「旧スラムの住民は、フセイン政 権時代繰り返し政府に反旗を翻した」 類句「背を向ける」「盾を突く」「弓を引く」 ばんじきゅう 意味出典は中国の古典『宋史』。荆南 万事休す じゅうかい ほうきょく の王の従誨は子の保勗を熱愛したので、 ねたんだ者が怒ってにらんでも、この子はにこっと笑っ た。荆南の人はこれを見て「万事休す」と言ったことか ら、もうどうにもしようがない、方法・望みがない様子 お手上げ。「休す」は止む意。用法文型「ナニナニは 万事休す」。多くは独立した文として用いられる。「休し た」という過去形もある。「江戸」 用例①石坂洋次郎『山のかなたに』(二卲九)「ズルズル、ズルズルと、闘う集団はしだいに講堂の建物に近づいた。そこまで行ってしまえば、万事休すである」②朝日新聞』(二九二・二〇三朝)「『さあ!』という場面なのに、久保寺、河埜が連続三振に倒れ、香川遊ゴロで万事休す」③森村誠一『人間の十字架』(二九三)「つまり相互乗り入れの安全保障だ。どちらかが崩れたら、万事休すである」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(二九九)「あっ、あんた、小田川の女性殺しの犯人やないか!」と怒鳴る声がした。声の主を見て、ぼくは(万事休す)と思った」 類句「打つ手がない」外国語英語ではThere is no <369> way out *中国語では成句「万事俱休」(万事休す。「俱」はすべて) はんじようい 意味昔、芝居で役者の演技に不満 半畳を入れる がある時、観客が敷いていた半畳の ござを舞台に投げ入れたところから、転じて、他人の言 動をからかったり、野次ったり、まぜっかえしたりする 用法文型「ダレダレが半畳を入れる」(江戸) 用例①久保田万太郎「ゆく年」(三九)「感心しちゃ アいけねえ。(半畳を入れる)②江戸川乱歩「黄金仮面」 (三)「ああ、あいつが入水自殺をしたというわけ ですか。君はその死骸を探しているのですか」所長がま たしても半畳を入れる」③井伏鱒二「集金旅行」(三五) 「こんな艶聞を聞かされる場合、私たちは勝手にしろと 半畳を入れるのが常識である」④火野葦平「土と兵隊」 (三六)「上官の熱演がおかしければ笑い、面白ければ 半畳を入れ」⑤今東光「悪童」(三五七)「おい、東ちゃん そこらでまたベティちゃんが出て来るんやないやか」と 四郎が、すかさず半畳を入れた」 類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」 はんお 意味紙に押した印章が同じで 判で押したよう あるように、同一人物または同 種の人々・集団がいつも決まり切った、同じような言動 をすることのたとえ。用法文型「ダレダレは判で押 したようにする」「判で押したようなナニナニ (用例)①長谷川如是閑「国家の進化と愛国的精神」(二三)「今の日本の役人の取っているオルソドックスの見地は、その編纂にかかる国定教科書の類を見ると直ちに了解される。それは必ず、判で押したように、国家に尽すために学問をしなければならない」②角田喜久雄『高木家の惨劇』(二四七)『斎藤文助は来ているかね?』答えは、判で押したよう。『今日はまだ来ませんよ』③『朝日新聞』(二九五八・八・一朝)「今度の興安丸帰国者のうち三百二十八人の釈放戦犯は、判で押したように同じことを言うと報ぜられている」④有吉佐和子『恍惚の人』(二九三)「これまでは判で押したように午後一時前後に排便していたのが、どうして真夜中にこういうことになったのだろう」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四)「会長の好みのタイプは、判で押したようにプロポーション抜群な細身の美肌だそうだから」 <370> ひ * ひいきひだお 意味ひいきしすぎてかえって 最圓の引き倒し 相手に迷惑をかけたり不利を与 えたりすること。用法文型「ひいきの引き倒しにな る」(江戸) 用例高杉良「濁流」(一九六講談社文庫版)「贔屓の引き 倒しを絵にかいたような結果に終わった」 ひき 意味活気がなくなり急に寂し 火が消えたよう くなることのたとえ。また、活 動していたものがやみ、ひっそりするためとえ。用法 文型「ナニドコは火が消えたように~する」「ナニドコは 火が消えたようだ」。「火の消えたよう」とも言う。用例 ②のように「よう」を略すこともある。 用例①内田魯庵「くれの廿八日」(二八九)「座敷も庖厨 ひつそりかん も寂寞閑として八十何坪のだだッ広い家が恰も火の消え た様である」②徳冨蘆花「黒い眼と茶色の目」(二九四)「葬 式のあとの様な、火の消えた寂寞が家を領して居る」③ 福永武彦『忘却の河』(一九四)「今まで出張で留守をして いたのとちがって、夫が出征してしまうとうちのなかは 火の消えたようだった」④中上健次『鳳仙花』(一九〇)「材 木が暴落し町は火が消えたようになっている」⑤内田康 夫『イーハトーブの幽霊』(一九九)「典型的な地方都市で ある花巻の街は、午後八時を過ぎると、文字どおり火が 消えたように寂しくなる」 ひっ 意味(1)人が何かを急に激しく 火が付いたよう 盛んにすることのたとえ。あわ ただしいさま。(2)赤ちゃんなどが急に激しく泣き叫ぶさ ま。用法文型(1)「ダレダレは火がついたように~す る」。(2)「火がついたように泣く」がよく使われる。「火 のついたよう」とも言う。 用例(1)①半村良『どぶどろ』(一九七)「若い頃の遊びを しそこなった叶屋小六は、四十の終わり、五十近くなっ てから、それこそ火がついたように遊び出し」(2)②吉屋 信子『あの道この道』(一九四一三)「千鶴子は肩をゆすり、 首を振り、わッと激しく火のついたように、赤ちゃんみ たいに泣き出してしまった」③原民喜『夏の花』(一九四七) <371> 「今も『兵隊さん、兵隊さん、助けてよう、兵隊さん』と 火のついたように泣喚く声がする」④檀一雄『青春放浪』 (一九五六)「『ギャッ』という彼女の声、つづいて火のついた ような泣声がはじまった」⑤中上健次『鳳仙花』(一九六〇) 「芳子をそそのかしていた郁男は素早く土間から外に飛 び出し、火がついたように芳子は声をあげて泣く」 火が付く 意味 (1)ある事柄の影響で騒動・事件に なる。 (2)ある事柄の勢いが急に盛んに なったり高まったりする。 用法 文型(1)「ダレナニは 火がつく」(2)「ナニナニに火がつく」 (用例)①松本清張『点と線』(一九五八-五九)「××省は汚職事件で火がついていますからね」②②海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九三七)「堀を出府させたことでいくらか鎮まっていた壮士らの興奮には、また火がついた」③朝日新聞』(三〇四・九・三朝)「域内最大の経済規模であるドイツをはじめ、高い失業率が足かせになって、消費に火が付かないためだ」④朝日新聞』(三〇四・二・四夕)「9月29日、大阪市内で観光説明会を開き、『冬のソナタ』で火がついたブームの再燃に期待を込めた」⑤朝日新聞』(三〇四・二・六夕)「アトランタで私は金を二つとったんだ けど、カイは金三つ。悔しくて、それで負けん気に火がついちゃった」 意味次々と絶え間なく続くさま。 用法文型「ダレナニが引きも切ら 用例①永井荷風『うでくらべ』(一九一六一七)「お遣物の水 菓子鮓のたぐいが引かえ取りかえ引きも切らず運ばれる 有様」②「客が引きも切らず押し寄せてくる」 類句「入れ替わり立ち替わり」 びくともしない ある物が外からの力を加えても また加えなくても全く動かない。また、外部からの働き かけにも全く心が動じない。用法文型「ダレナニは びくともしない」(江戸) 用例源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)『バカッ』浩 太郎は、とうとう怒鳴りつけてしまった。が、成子はビ クともしないで、『どうせ、あたしは、ばかな女です』 類句「痛くも痒くもない」「平気の平左」「ものともしな い」 <372> 引けを取る 意味能力・器量や作り出したものなどについて他より劣る、負ける。 用法文型「ダレナニはダレナニに引けを取る」。「引けを取らない」という否定形で用いられることが多い。「江戸 用例①野間宏『真空地帯』(九五三)「彼は小学校のときには、上級学校を志望して特別勉強をしていたものたちなどにもひけをとるなどということは全くなかったのだ」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九七三)「長距離を長時間かかって、のんびり泳ぎ続けることなら、誰にもひけをとらないと思っている」③朝日新聞』(九九・八・二六朝)「わが国の社会保障は制度的にはすでに、西欧諸国にヒケをとらない水準になったわけだ」④朝日新聞』(九〇・二・七朝)「女子マラソンが、男子にひけを取らないばかりか、ある面では男子をしのぐ魅力を持つことは」⑤朝日新聞』(九〇四・八・三朝)「その(小松砂丘の)画才は、長谷川等伯にも棟方志功にもひけをとらぬものだと私は思う」 ひざ う 意味自分の膝を手のひらでぽんと叩く 膝を打つ 意で、何かを思いついたり感心したりし た時の動作。用法「ダレダレが膝を打つ」〔江戸〕 用例①永井荷風『新橋夜話』(一九三「ははア。それで 判った。と京さんは膝を打った」②筒井康隆『狂気の沙 汰も金次第』(一九三「ぼくは腹立ちを押えてウーンと考 えこみ、さては随筆というものは『心象と物象との交わ るところに生じる文で』あったか、これはよい勉強をし たと、ぽんと膝を打ち」 類句「ひざを叩く」(井上ひさし『日本亭主図鑑』〈一九五〉「わたしは『主婦の嫌いなテレビタレント』という項目に、ケーシー高峰、林家三平、(略)大橋巨泉などの名前が並んでいるのを見て『ははーん、やっぱり』と膝を叩いた」(外国語) 英語では snap one's fingers ひざのだ 意味相手の話などに興味をひかれ、 膝を乗り出す 体を前に乗り出す。またそれに積極 的にかかわろうとする態度、乗り気になっている態度を 示す。用法文型「ダレダレが膝を乗り出す」 用例①有島武郎『或る女』(一九一九)「そういって折り入って相談でもするように正井は煙草盆を押しのけて膝を乗り出すのだった」②島崎藤村『夜明け前』(二九九)「半蔵らは珍客を取り囲いて一緒にその日の夕方を送った。正香 <373> というものが一枚加わると、三人は膝を乗り出して、あ とからあとからといろいろな話を引き出される」 類句「ひざを進める」 ひざまじ 意味お互いのひざが交わるぐらい近 膝を交える い距離にいることから、少人数でお互 いに親しく打ち解けて話し合う。用法文型「ダレダ レがひざを交えて「ダレダレはダレダレとひざ を交えて「する」。「する」に「話す」「話し合う」「語り 合う」などの言葉が来る。「平安」 用例 朝日新聞 (一九九六三朝)首脳たちがヒザを交 えて親しく話し合うことで信頼感もわこうし ひたいあせ 意味汗を流して一生懸命に働く。 額に汗する 用法文型「額に汗してする」。「~ する」に「働く」などが来る。「江戸」 用例「朝早くから夜遅くまで額に汗して働いて稼いだ お金」 類句「精が出る」 ひたいあつ 意味複数の人が寄り集まって相談す 額を集める る、知恵を出し合う。用法文型「ダ レダレが額を集める」「額を集めてくする」(江戸) (用例)島崎藤村『夜明け前』(一九九)「吉左衛門は味噌納 屋の二階から、金兵衛は上の伏見屋の仮住居から、いず れも仮の会所の方に集まった。その時、吉左衛門は旧い 友だちを見て、『金兵衛さん、馬籠の宿でも御通行筋の 絵図面を差し出せとありますよ。』と言って、互いに額 を集めた」 ひこっ 意味「引っ込み」はもと 引っ込みが付かない 歌舞伎で役者が退場する時 の芸のこと。その芸がうまくないと格好がつかないこと から転じて、行きがかり上、主張を取り下げたり身を 引いたりすることがしにくい。用法文型「いまさら 引っ込みが付かない」 用例「絶対大丈夫だと言った手前、いまさら引っ込み が付かない」 外国語 英語では Can't back out <374> ひつぜっっ 意味その時の感情・状 筆舌に尽くしがたい 況・状態などが言葉や文章 では表現できないほどである。良いことにも悪いことに も言える。用法文型「ナニナニは筆舌に尽くしがた い」(江戸) 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「こんなふうに生きながら呑まれることがどんなものかはとても筆舌につくしがたい」②石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「あの時のうれしさは筆舌につくしがたいものだったわ」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「小浜の『ホテル』は、予想したとおりーというより、予想を上回る、筆舌に尽くしがたい、ひどいものだった」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「カテーテルを外すときの痛みは筆舌に尽くし難い」 類句「言語に絶する」 ひとあわふ 一泡吹かせる 意味予想できないようなことをし て相手をあわてさせびっくりさせる。 それによって優位に立とうとする。用法文型「ダレ ダレがダレダレに一泡吹かせる」。命令・意志表現が可 能。「一泡も二泡も吹かせる」という強調表現がある。「ひ とあわふかす」とも言う。〔江戸〕 用例①幸田露伴『付焼刃』(一九五)「一卜泡も二夕泡 も噴かせて遣るから今見ろという気で」②『朝日新聞』 (一九○・七・三朝)「同監督としても江川にひとあわ吹かせ たかったのだろう」③内田康夫『博多殺人事件』(一九二) 「心中、県警本部の連中にひと泡吹かせてやる気ではい る」④広山義慶『私刑警察 激弾!』(三〇二)「その事件 が亮平の仕業だと、さすがの梅津局長も気づいていまい いずれ打ち明けて一泡吹かせてやりたい」⑤清水一行 『ITの踊り』(三〇四)「カウボーイ時代の発想で、自分 が一番正しいんだと、物事を押し付けてくるアメリカに 一泡吹かせるには、パンドラとアラジンの合併は不可欠 なんだよ」 類句「あっと言わせる」「泡を吹かせる」「一杯食わす」 「意表を突く」「裏をかく」「度肝を抜く」「一泡食わせる」 (木谷恭介『京都木津川殺人事件』〈一九八〉「江藤興産を相手に まわして、ひと泡食わせたるいうて、アイリスへはいり込ん どったんじゃ」 ひといきつ 一息突く 意味 今やっていることを途中でやめ、 あるいは終えて、ちょっとくつろいで休 <375> 惡する。また、あるまとまとった仕事がかたづき、一段 落する。用法文型「ダレダレが一息つく」 (用例)①野間宏『真空地带』(一九五三)「将校室も今週一週間はつかえなくなり、いままで毎夜一息ついていたのにそれもできないのです」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「三人が満腹して一息ついた時に」③龍一京『交番』(三〇四)「指輪事件と酔っ払いとのやりとりも片付きやっと一息ついた」④朝日新聞』(三〇四・九・二朝)「外資系のシステム開発会社に勤めるYさんが、上司にそう告げられたのは、春に始動した大型プロジェクトが軌道に乗り、ほっと一息をついたタイミングだった」 類句「一息入れる」も同じ。「手を止める」「手を休める」 ひと 人がいい 意味「人」は人柄、人となりのこと。 人と争ったり他人を疑ったりすることが なく、だまされやすく、自分に不利益になるようなこと も受け入れてしまう性格である。マイナス評価的に使 われることが多い。用法文型「ダレダレは人がいい」 「人のいいダレダレ」。「人がよい」とも言う。「江戸」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「人のいい父は、猛弥の云う通りを信じるだろう」②福永武彦「忘却の河」 (一九四)「それでも小父さんが根が人のいいことは間違いないし、わたしをどうとかしようという気じゃなかったことも、勿論私にはよく分ってる」③半村良『どぶどろ』(一九七)「今の野郎は人が好いばっかりで糞の役にも立ちゃしねえ」④安岡章太郎『海辺の光景』(一九七)「ひとの好い二年兵で、何くれとなく面倒をみてくれるが、気がつくと時々私物の包みから一つ二つ小さなものを盗んで行く」 類句反対は「人が悪い」 外国語英語では soft-heart- ed ひとかわむ 意味人前で取り繕っているうわべの飾 一皮剥く りをはぐ。虚飾を取り除く。それによっ て本当の姿(醜い姿)が見えるということ。用法文型 「ダレナニも一皮むけば~」「一皮むくと~」 (用例)①石坂洋次郎『麦死なず』(たき)「一と皮むけばとんでもない正体を暴露するかも知れないぞ」②朝日新聞』(一九ぎ・二・三朝)「作詞者は『ヤクザだって、警察官だって、ひと皮むけばみんな同じだ』といっているそうだ」③朝日新聞』(三〇四・二〇・三夕)「英国臭をプンプンさせて分別ある大人としてふるまいつつ、一皮むくと若さ <376> への嫉妬と愛する女性を失うことへの恐怖に身をよじる 男を演じるケインがうまい」 類句「一皮めくる」とも言う(朝日新聞《一九一・二・三朝》 「いまのところ『挙党態勢』の下に静まっている党内各派も 一皮めくれば、こうした衝撃に直面して党がゆらいだ場合に どう出るかの思惑が、水面下で火花を散らし始めている」。 ひとかわむ 意味生き物が脱皮するように、何か 一皮剥ける をきっかけに容姿・性格・能力などが 以前と比べ良くなる。用法文型「ダレダレが一皮む ける」。強調して「一皮も二皮もむける」と言うことがあ る。「江戸」 用例①中上健次『鳳仙花』(一九〇)「佐倉から舟町の旅館に移って、フサは一皮も二皮もむけて娘らしくなったと誰彼なしに言われた」②『朝日新聞』(一九三・五・七夕)「そのハワード・カーティス君が完全に一皮むけたのは、昭和五十一年の春、フィアンセのかず代さんが日本から来たころからではなかったか」③『朝日新聞』(三〇四・二・三タ)「実力はいま一つだが、この夏、北欧の小さなツアーを回って一皮むけたようだ」 ひとわる 人が悪い 意味相手に与えるべきあるいは与え てもかまわない情報を与えなかったり、 人が困っているのを見て楽しんだり、ふざけてだました りするような性格である。用法文型「ダレダレは人 が悪い」「人の悪いダレダレ」「江戸」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一弁二)「こんな人の悪い食えない男は、自分の恋人なんかである筈がない」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「それにしても、東君は人が悪いよ、この間、ここで二人で飲んだ時、まだ何処へ行くかきめてないと云いながら、あんたもなかなかの狸ですな」 類句反対は「人がいい」 ひとぎわる 人聞きが悪い 意味あまり事情をよく知らない人 が聞いたら、誤解を受けて良くない。 用法単独で一文を構成する。「人聞きが悪い十二二」 のように修飾することが可能。 用例①有島武郎『生れ出づる悩み』(一九一八)「婆様だ!? 人聞きの悪い事べ言わねえもんだ。人様が笑うでねえ か」②『朝日新聞』(一九九五・五・二九朝)「人聞きの悪いことは 割合あっさり話しても、本当に損になることは話さな <377> かった ひとくちーロに言って 意味短く簡潔に言うと。要するに。 用法文型「一口に言ってくだ」 「用例①朝日新聞」(一九六八・六・二朝)「ひと口にいって油 との戦いに勝ち目はない」②「朝日新聞」(一九七九・八・九朝) 「その時の印象は、一口にいって温厚なヒューマニスト という感じでした」③「朝日新聞」(一九八〇・七・九朝)「一口に 言って、不正摘発的なスタンスでの報道である」 類句「一口で言えば」(『毎日新聞』〈九三・三朝〉「一口 でいえば、財政再建路線を突っ走ってきた首相や蔵相は減税 要求に応えなければならず)「早い話が」 ひとすじなわ 一筋縄では行かない 意味普通のやり方では人 また物事を自分の思うとお りに扱うのが難しい。相当したたかである。用法文 型「ダレナニは一筋縄ではいかない」「一筋縄ではいかな いダレナニ」。「一筋縄ではいかぬ」とも言う。「江戸」 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇三)「一筋縄で行 かぬ曲者のことだ。これまでもあったように、死んだと 見せかけて、そのじつ世界のどこかのすみで、またま た大じかけな悪だくみを計画していまいものでもないの である」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(二五三三)「大男 は愛想よくいったが、どうして、眼の玉の動きは、一筋 縄ではいかぬ人物なること、明瞭であった」③森村誠 一『誇りある被害者』(二九六)「ゴルフ焼けか、浅黒く日 焼けした面皮は、一筋縄ではいかぬしたたかさを秘め ているようである」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』 (二九七)「ことによると、もう一歩で事件は解決するのか もしれません。しかし、世の中は複雑ですからね、なか なか一筋縄ではいきません」⑤田中光二「南紀白浜磯釣 り殺人事件』(三〇三)「こいつは弁が立つうえに警察事情 にも通じている。たしかに一筋縄ではいかないやつだ」 「一癖も二癖もある」 ひと 一たまりもない 意味他からの攻撃に対して少 しの間も持ちこたえられず、す ぐにやられてしまう。 用法文型「ダレナニはひとた まりもない」「ひとたまりもなくする」「江戸」 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「作 用子の革命党派とは対立セクトの連中に『誤爆』される <378> とすれば、鍵のかからぬ玄関ではひとたまりもないなと 気にかかってきたので!」②原ゆたか『かいけつゾロリ のきょうふのゆうえんち』(一九二)「あんなするどいはで かまれたら、ひとたまりもないよ」③「大攻勢にひとた まりもなく敗れ去った」 ひとかまめしく 意味「同じ釜の飯を食う」 一つ釜の飯を食う に同じ。用法文型「ダレ ダレが一つ釜の飯を食う」 用例①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九六)『一つ釜の飯を食ってるんだから』と水夫たちは思って、我慢しているのだった』②『朝日新聞』(一九一・四・四四朝)「そうした有権者の二面性は単一民族の、いわゆるひとつかまの飯を食うという仲間意識がそうさせるのだろうか」 ひとふんどしすもうと 意味他人のものを利用 人の裈で相撲を取る して自分の利益を図る。 用法文型「ダレダレは人のふんどしで相撲を取る」江 戸 用例①坪内逍遙『当世書生気質』(一八八五八六)「人の フンドシスモウ 犢鼻褌で角牴をとりゃアしまいし」②木谷恭介『みちの く滝桜殺人事件』(一九九六)「官僚というのはいつも姑息です。ひとの褌で相撲を取る」 類句「他人のふんどしで相撲をとる」とも言う。 類句 他人のふんとして相撲をとる」と 外国語 英語では take risks with other people's money ひとはたあ 一旗揚げる 意味出世して地位や財産を得るため に、意気込みをもって何か新しい事業 などを始める、新しい道を切り開くような行動を起こす 用法文型「ダレダレが一旗揚げる」。命令・意志表現 は可能。用例④のように強調して「一旗も二旗も揚げ る」と言うことがある。 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九三弄三六)「一旗揚げるつ もりで上海へ走るところであった」②源氏鶏太『夢を失 わず』(一九六〇)「男の働き盛りなのだ。ここらで、一旗上 げないことには、これからの一生、まるで、お母さん に飼われて生きてゆくようなことになる」③安岡章太郎 『海辺の光景』(一九七六)「『きっと一と旗、上げて見せる』 などと細君にも約束し、母堂にも威張っておいたのに、 いざ医院をひらいてみると誰も患者はやってこない」④ 中上健次『鳳仙花』(一九〇)「朝鮮や満州に行けば一旗も 二旗もあげられる」⑤高杉良『会社蘇生』(一九七七)「小川商 <379> 会のスポーツ用品部をそっくり受け継いで、ひと旗あげ たいと考えたとしても不思議ではない」 外国語 英語では make it big ひとはだ 奴 一肌脱ぐ 人形ぐ 意味人のためにまたある目的のために本気になって何か役に立つことをする 助力する。用法文型「ダレダレがダレナニのために一肌脱ぐ」。命令・意志表現は可能。用例④のように強調して「一肌も二肌も脱ぐ」と言うことがある。用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(九三三)「わしは敏清のためにも一と肌脱ぎますよ」②源氏鶏太『男と女の世の中』(九三三)「親父のために一肌ぬいで下さいませんか」③山崎豊子『白い巨塔』(九三三六五)「この際、先生も、財前教授の実現に一肌脱いで下さい、先生が一肌脱いで下されば、もう力強いものですから」④山崎豊子『白い巨塔』(九三三六五)「次期学長を狙い、着々と足固めをはじめてるらしいな、その時は、君から頼まれんでも、一肌も二肌も脱ぐことを、僕は決して忘れていないんだよ」⑤本所次郎『閨閥』(九三四)「のちの総理の岸信介も、当時の商工次官として、水口のために一肌脱いだ」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け船を出 す」「力を貸す」「手を貸す」「手を差しのべる」 英国語では lend a helping hand 人目に付く 用法文型「ダレナニが人目につく は酔い潰れて、眠るはずですし、人眼につく危険が少 ないからです」②福永武彦『忘却の河』(一九四)「この方 法もそろそろ人目につくようになったな、とその時彼は 考えたものだ。人目についたところで何の疚しいこと もない」③山本道子『ベティさんの庭』(一九三一七)「あの 人目につくほど疲労のいろに隈どられていた夫の様子 が、瓔子には見えなかったのだろうか」④朝日新聞 (三〇四・二・三九朝)「絵麻が殺されたほこらのある庭には彼 女の足跡しかなく、明日香が殺された露天風呂へは、人 目につく遊技場を通らなければならない」 類句「人目に立つ」(山崎豊子『白い巨塔』〈九六三六五〉「鵜飼医学部長が、直接、岩田、鍋島と会うことは人目にたつ 怖れがあったから」「目につく」外国語韓国語では 「甘そぞ(人目に)」に(見える) <380> ひとめ 人目を忍ぶ 意味人に見られないように気をつけ て何かをする。また隠れてつきあう。 用法文型「ダレダレが人目を忍んでする」「人目を忍 ぶナニナニ」「安土桃山」 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「それは結局、われわれの子供らの親が、個人の家庭でひとめをしのんでやらねばならなぬ訓練でしょう」②「彼女とは人目を忍ぶ仲になってしまった」 類句「人目を避ける」「人目をはばかる」「目を盗む」 外国語韓国語では「甘とぐぐ(人目を)づかけ(避ける)」 ひとめはばか 意味後ろめたいことがあって、人に 人目を憚る 見られると困るので見られないように 気を配る。用法文型「ダレダレが人目をはばかる」。 「人目もはばからず~する」と否定形で用いられると、 普通の人なら人目を気にするような行為を、全く気にせ ずに行うというニュアンスになる。江戸 用例①森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「秀子と親密な関係の者でなければ撮れない、人目を憚る写真である」②『朝日新聞』(三〇四・九・六朝)「人目をはばからず、声を荒げた姿に涙が流れ、子を受けとめる勇気と力 を与えてもらった」③『朝日新聞』(三〇四・九・四朝)「物語は、 被曝し人目をはばかるように被災船で暮らすぶんじいが 主人公」④『朝日新聞』(三〇四・二・一九夕)「人目もはばから ず涙をポロポロと流し始めたのです」 類句「人目を避ける」「人目を忍ぶ」「目を盗む」外国語 韓国語では「甘と言(人目を)みふ(はばかる)」 意味目立っているので人が思わず見てしまう。人の目を引きつける。 用法 文型「ダレナニが人目を引く」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「財前杏子は、 自分の容姿と贅沢な衣装が充分、人目をひいていること を意識し」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「古いたたずまい の町に妙に人目を引くハイカラなものがある」 類句「人目に立つ」「人目につく」「目を引く」 韓国語では「甘と言(人目を)ぎけ(引く)」 ひとやくか 意味自分から進んである役目や役割を 一役買う 引き受ける。また、結果として何かの役 に立つことになる。用法文型「ダレナニがナニナニ に一役買う」。「一役買っている」という形で使われるこ <381> とが多い。使役・受身・意志表現が可能。 用例①尾崎士郎『人生劇場青春篇』(九五)「高見は君を連絡係にして一役買おうとしているんだから」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(九五三五三)「矢崎ひとりを馘にするため、自分も一役買わされていることを思い出して」③松本清張『点と線』(九五八五九)「そうそう、石田部長のため一役買い、安田辰郎の片棒をかついだ佐々木喜太郎という事務官は、課長になりましたよ」④朝日新聞(九一五·五·七朝)「二敗のこの両力士は不振の隆の里の肩がわりとして土俵上の盛り上げに一役買っている」⑤朝日新聞(九四·九四朝)「夫で作家の大崎善生さんとのコミュニケーションにも、パソコンが一役買っている」類句「一翼を担う」「双肩に担う」「外国語」英語ではplay a role ひとく 意味相手を軽くみたり、小馬鹿にした 人を食う り、相手の存在を意に介さないかのよう に振る舞う。用法文型「人を食ったダレナニ」「人を 食ったようなナニナニ」と言うことが多い。「江戸 用例①海音寺潮五郎『西鄉と大久保』(九毛)「大隈は人を食った大胆な性質だが」②江戸川乱歩『恐怖王』 (二三一三)「賊の余りといえば人を喰った冗談に、あっけにとられて」③平岩弓枝『風子』(二九五十七)「みる人にとっては人をくったようなとも受けとれる態度であった」④「朝日新聞」(二九一・二・七朝)「『建築申請どおりだとお客が入りきれないことが予想されたので』と、人を食った施工主側の言葉に」⑤「朝日新聞」(三〇四・二・七朝)「タイトルからしてすでに人を食った本作は、松尾と漫画家・河井克夫のユニット『チーム紅弐』によるエッセーとコミックの二本立てで、世のおかしげなもの、あやしげなものを見事にキャッチする」 類句「馬鹿にする」 ひあぶらそそ 意味勢いが盛んになっているもの 火に油を注ぐ にさらに勢いや激しさをつけさせる ことをする。状況をさらに悪化させる。自分の意に反 してそうなる時に用いられることが多い。用法文型 「ダレナニが火に油を注ぐ」「火に油を注ぐ(ような)ナニ ナニ」。用例②④「批判の」「欲望の」のように「火」を修 飾することが可能。 用例①朝日新聞(一九八○・七・八朝)二番手の今井は火 に油を注いだ格好で、マニエルの2本墨打などで六回 <382> 表までに12点の大差を許した」②『朝日新聞』(一九二・四朝)「ここでダダをこねれば批判の火に油を注ぐようなもの」③高杉良『首魁の宴』(一九九)「火に油を注ぐ結果をまねくこともあり得る」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「二人の目の色を先読みした弥生が、彼らの欲望の火に油を注ぐようなことを言った」⑤朝日新聞』(三〇四・三・三朝)「議会内から強い批判が出ていただけに、署名問題は火に油を注いだ形になった」 類句「油を注ぐような」「火を付ける」(外国語)英語 では add fuel to the fire *中国語では成句「火上浇油」 (火に油を注ぐ。「浇」は注ぐ。「火上加油」、「火上添油」とも言 う) びいさいうが 意味話や書いたものなど言 微に入り細を穿つ 葉による表現が非常に細かい ところまで詳しいさま。用法文型「微に入り細を 穿ってする」「微に入り細を穿ったナニナニ」 用例①江戸川乱歩『心理試験』(九三)「到底普通人の 考え及ぶこともできないほど、微に入り細をうがった分 析並びに総合の結果」②織田作之助『世相』(九四六)「石田 と二人で情痴の限りを尽した待合での数日を述べている 件りは、必要以上に微に入り細をうがち」③辻邦生『北 の岬』(一九五)「ちょうど言葉で夫人や夫人の持ち物を愛 撫しているように、微に入り細を穿って話しつづけるの だった」④『朝日新聞』(一九五・六・三王朝)「各紙とも、微に 入り細をうがった記事が、これでもか、これでもかとい う風に続いていた」 類句「微に入り細に入り」「微に入り細にわたる」とも 言う。 外国語 中国語では成句「细腻人微」(きめ細かで ある、念入りである) ひ 非の打ち所がない 意味 非難すべき点が一つも かんぺき なく、 完璧な様子。 用法 文型「ダレナニ(に)は非の打ちどころがない」「非の打 ちどころが(の)ないダレナニ」。用例①のように「非」 を修飾することが可能。また①は「一点も非の打ちどこ ろがない」とも言える。「非の打ちどころもない」「非の 打ちどころのない」とも言う。 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「今まで世間に 誰一人瑠璃子をほめぬ人はなく、一点の非のうちどころ もない女だと信じていたのに」②石坂洋次郎『陽のあた る坂道』(一九六一五)「倉本先生は雄吉兄さんが、非のうち <383> どころのない青年だと信じていらっしゃるわ」③『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「優勝された箕島高、第二位の池田高の第一回から決勝戦にいたるまでの活躍は実に立派なもので、非の打ちどころのないものと」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「里子の友達に対するきんの物腰は、非の打ちどころもない見事さだった」⑤『朝日新聞』(三〇四・二〇・八夕)「正義感に満ち、非のうちどころのない人物など、この世にいない」 がない 外国語 中国語では成句「无可非议」(非難すべきところ ひうみ 意味火が広い範囲にわたって燃えている 火の海 状態。用法文型「ナニドコが火の海だ (になる) 用例①『朝日新聞』(一九九八二朝)「そのうち頭の大型 トラックのホロが燃え出し、一面火の海になった」② 『小学社会6年上』(三〇四、大阪書籍)「高熱を出して燃え ながら落ちてくる焼夷弾によって、町は火の海になりま した」 ひくるま 意味元来、仏教で亡者を乗せる火の燃え 火の車 ている地獄の車のこと。転じて、家計や組 織の経済状態が非常に苦しく、お金のやりくりに苦労し ている状態。用法文型「ナニナニは火の車(だ」。ナ ニナニは「台所」「財政」など。(江戸) 用例①「朝日新聞」(一九九九・九・三朝)「その救済に年間約五億円かかり、組合財政は火の車」②「朝日新聞」(一九〇・八・三朝)「財界などへの『借金』は、約百三十億円にふくれあがった。おかげで、いまや台所は火の車」③高杉良『会社蘇生』(一九七)「その台所は火の車と思わざるを得なかった」④本所次郎『閨閥』(三〇四)「赤字の国鉄スワローズを買収、ニッポン・アトムズと改称したが、経営は火の車、短期間で手放さざるをえなかった」 ひでいきお 意味朝日が昇るように盛んな勢 日の出の勢い い。 用法文型「ダレナニは日の 出の勢い」 いる 用例「IT関連会社は日の出の勢いで急成長を遂げて 類句「騎虎の勢い」「飛ぶ鳥を落とす」「破竹の勢い」 <384> ひめみ 意味これまで人に知られずにうず 日の目を見る もれていた物事や不遇の者が、世に 山て知られるようになったり、認められたりする。 用法文型「ダレナニが日の目を見る」。用例①③④のように否定形でも多く用いられる。物事について言うことが多い。「陽の目を見る」とも書く。 用例①江戸川乱歩『妖虫』(三三三四)「こんな所へ落ち込んだら、誰かが助けてくれぬ限り、二度と日の目を見ることはできないかもしれぬ」②城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「手塩にかけた大きな事業計画が、いま陽の目を見るべく、確実にレールの上を走っている」③朝日新聞』(九一・二〇・三王朝)「お役所の縦割り行政の中でこの提案は湯気みたいに雲散霧消、マイタウン構想懇談会まで日の目を見なかった」④東野圭吾『宿命』(九〇)「これだけ画期的な発見であるにもかかわらず、この報告書は殆ど陽の目を見ることがなかった」⑤朝日新聞』(三〇四・二〇・三王朝)「内容は何でもいいですという編集方針のお陰で、トマソンなどという何でもない物件をめぐる探索が、日の目を見ることになったのだ」 類句「日の目を浴びる」とも言う。「世に出る 外国語 英語では see the light of day ひばなち 意味刀で斬り合う時、刀がぶつかっ 火花が散る て火花が飛び散るように、互いが対立 して、激しく争う様子。用法文型「ダレナニ(の間) に火花が散る」。ダレナニは対立するもの同士で、複数 になる。用例②「新規参入を巡る」のように「火花」を修 飾することが可能。 用例①「朝日新聞」(一九九八三朝)「総選挙とその後の首班指名、組閣、党人事へ向けてこんな見方が飛びかい、早くも火花が散り始めている」②「朝日新聞」(三〇四・二〇・二六朝)「参入条件の緩和や公正な競争を求める新規組に対し、既存組も真っ向から反論。限られた公共資産である電波の世界で、新規参入を巡る火花が散った」③「朝日新聞」(三〇四・二〇・九朝)「竿を持って対する時メダカと餌と自分との間に火花が散る」 外国語英語では set sparks flying ひばなち 意味刀で斬り合う時、刀がぶつ 火花を散らす かって火花が飛び散るように、互い が対立して、激しく争う。用法文型「ダレナニが火 花を散らす」「ダレダレとダレダレが火花を散らす」。ダ レナニは対立するもの同士で、複数になる。用例②「論 <385> 議の」のように「火花」を修飾することが可能。「室町」 用例①「朝日新聞」(一九五三・三・三〇朝)「米ソのスパイ戦 が日本国内でも火花を散らしていることは想像に難くな い」②「朝日新聞」(一九五九・七・二〇朝)「労働組合の中にはさ まざまな潮流、考え方があり、それらが職場の中で論議 の火花を散らして政党支持、政治への対応をどうするか を決めることが必要である」③高杉良『指名解雇』(一九五七) 「役員応接室で荒垣と前川が火花を散らしていた」④田 中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「いい場所を 確保したくて、船に乗ったときから火花を散らす雰囲気 といえばいいのかしら?」⑤「朝日新聞』(三〇四・二〇・一四朝) 「低金利を売りものにした住宅ローンが相次いで登場し、 金融機関が顧客の取り込みに火花を散らしています」 * 類句「しのぎを削る」「つばぜり合いを演じる」 ひびが入る はい 意味できあがったものやうまくいっ ていたお互いの関係などが、何らかの 理由によって少し損なわれる。用法文型「ナニナニ にひびが入る」。用例②「多少の」のように「ひび」を修 飾することは可能。 用例 ①高橋和巳『悲の器』(二九三)「原稿完成が約束よ り遅れがちになるというのは、出版界では常識だろうか ら、別段この企画じたいにひびがはいるということもな かったかもしれない」②城山三郎『毎日が日曜日』(二九五) 「京都支店の廃止問題で和地社長との間に多少のひびが はいるとしても、まだまだ発言力は大きい」③「友情に ひびが入る」 ひぶたき 意味「火ぶた」は火縄銃の火薬をつ 火蓋を切る める火皿のふたのことで、その火ぶた を開いて火をつけることを「火ぶたを切る」と言った。 転じて、競争・戦い・試合などが開始される。用法 文型「ダレナニが(ナニナニの)火ぶたを切る」。用例② 「質問の」のように「火ぶた」を修飾することは可能。③ のように受身形が可能。〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「ふだんは泉 中の前では、碌に喋べれない脩吉も、一旦火蓋を切っ たとなれば、度胸がついたのか、ペラペラやりだし」② 森村誠一『新幹線殺人事件』(一九五〇)「茶をいれようとす るのを抑えた四本刑事は、質問の火ぶたを切った」③ 『朝日新聞』(一九五八・三朝)「来年の米大統領選挙に向け て早くも火ぶたが切られた選挙運動で」④「朝日新聞」 <386> (二九○五·一九朝)「総選挙戦は十九日の衆院解散で事実上 の火ぶたを切る」 類句「火蓋を切って落とす」(柳田邦男『空白の天気図』 〈九五〉「太平洋戦争の火蓋は切って落とされたのである」と も言う。「口火を切る」「口を切る」外国語英語では kick off ひめいあ 意味恐怖・苦痛・驚きなどのため 悲鳴を上げる に思わず叫び声を出す。転じて自分 の能力の限界を越えることに遭遇して、物事がうまく運 ばず、困ったり泣き言を言ったりする。また、心身の限 界を越えて異常を来す。用法文型「ダレナニがナニ ナニに悲鳴をあげる」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二九六)「信子は真青になって悲鳴をあげた」②城山三郎『毎日が日曜日』(二九五)「若い人が、親切に網棚に上げてくれようとしては、悲鳴をあげるんだよ」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(二九七)「剃刀の手ごたえに自分でも恐怖した妻は、ガラス戸に音高くぶつかりながら、ア、痛イヨウ!と悲鳴をあげることはなかった」④「住民は大量のゴミに悲鳴を上げる」⑤「長年痛んでいたひざがついに悲鳴を上げた」 類句「嬉しい悲鳴を上げる」「音を上げる」 百も承知 意味他人から教えてもらうまでもなく 自分でよく知っているという意味の強調 表現。用法文型「ダレダレは十二ナニを百も承知(し ている)「百も承知で~する」「ナニナニは百も承知」。 言葉遊び的に「百も承知二百も合点」と言う。江戸 用例①横光利一『機械』(九三〇)「実は私は自分が悪いと云うことを百も承知しているのだが」②井上ひさし「日本亭主図鑑」(九五)「江戸期と昭和期を一緒くたにして論じるのが滑稽な曲芸であることは百も承知二百も合点しているが」③「朝日新聞」(九〇・五・三朝)「自民反主流派は自分たちがキャスティングボードを握っていることを、百も承知だったはずだ」④内田康夫『博多殺人事件』(九二)「秘書連中は口が固いからね。だいたい、そんなことぐらい、きみは百も承知だろう」⑤姉小路祐「合併裏頭取」(九三〇)「今、われわれが特殊法人の横領疑惑の捜査で多忙を極めているのは百も承知だろう」 外国語 英語では be well aware <387> ひようざんいっかく意味氷山は海面に出ている部分は 氷山の一角 全体の七分の一程度で、隠れている 部分の方が多いことから、ある事柄のごく一部分だけが 世間に知られているが、実はまだ多くの部分が隠され ていることのたとえ。良くない事柄について用いる。 用法文型「ナニナニは氷山の一角」。述語として、あ るいはその一部を担う形「氷山の一角に過ぎない」で用 いられる。用例③「巨大な」のように「氷山」を修飾する ことは可能。 用例①開高健『パニック』(一九五七)「大きな犯罪のつねとして、おそらくそれは氷山の一角にすぎないのだろう」②「朝日新聞」(一九五七・七・二〇朝)「訴訟に持ち込まれる事件はごく一部で、いわば『氷山の一角』である」③「朝日新聞」(一九五七・二〇・三王朝)「この夏、世間を騒がした『留学ツアー』のトラブルなどは、巨大な氷山の一角にすぎない」④「朝日新聞」(一九五七・三・六朝)「報道されるのはほとんどが警察が動いたもので、氷山の一角に過ぎないといわれる」 外国語 英語では the tip of the iceberg ピリオドを打つ 意味「ピリオド」は英語 period で英文の末尾につける符号。終 止符。そこから、今まで続けてきた、あるいは続いてき た物事(紛争・生活・歴史など)に区切り・決着をつけて 終わりにする。用法文型「ダレナニがナニナニにピ リオドを打つ」。用例⑤のように受身形もある。 用例①久生十蘭『魔都』(九三七三六)「この騒動にピリオドを打ったように、けたたましく卓上電話のベルが鳴りだした」②『相撲界』(九六〇・三)「力士生活二十年にピリオドを打ったその引退表明は『悲運の横綱』といわれた横綱らしい劇的な幕切れだった」③『朝日新聞』(九六三・三・八朝)「塚原光男選手が十七日、日本体操協会の海外派遣人事を不服として、選手生活にピリオドを打つことを表明した」④高杉良『指名解雇』(九九七)「この問題にピリオドを打つためのけじめと考えれば」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「私が生涯を託した使命感も、定年によってピリオドを打たれた」 類句片をつけるけりをつける終止符を打つ 火を付ける 意味(1)騒ぎや争いのきっかけを作る。 (2)元気・恋心・怒りなどを起こさせる <388> ようなことを言ったりしたりする。 用法文型「ダレ ナニがダレナニに火をつける」 用例(1)①「朝日新聞」(三〇四·八·四朝)「関空、伊丹のどちらかに肩入れすれば地域の南北対立に火を付けかねないとの懸念がある」(2)②「朝日新聞」(三〇四·二〇·三朝)「120周年を迎え、人口12万人の山里が静かに燃えている、と聞こえてきた。記念の映画『草の乱』が火を付けた」③「朝日新聞」(三〇四·二·二夕)「関大は昔から素朴で「こつこつ型」。私が就任したからには、情熱にボッと火をつけます」④「朝日新聞」(三〇四·二·二八朝)「4年前のんびり屋の魁皇に火をつけたのは、ともに大関候補として期待されながら、足踏みを続けてきた武双山だった」 類句 (2)油を注ぐような「火に油を注ぐ」 ひみ あき 意味物事の道理がはっ 火を見るよりも明らか きりしていて、疑いの余 地もなく、非常に明らかだという意。現在の状況につい て言う場合と、将来のことについて予測する場合がある 用法文型「ナニナニは火を見るよりも明らかだ」 用例①朝日新聞(一品·10·三朝)このまま放置し たならば国土の荒廃は火を見るよりも明らかであって ②源氏鶏太『三等重役』(一五二五三)「僕の出世の妨げにな ることは火を見るより明らかです」③内田康夫『博多殺 人事件』(一九二)「エイコウの究極の狙いが天神商業圏の 制圧にあることは火を見るよりも明らかだ」④高杉良 『会社蘇生』(一九七)「否応なしに会社破産の途を選択せざ るを得なくなることは火を見るよりも明らかであった」 ⑤姉小路祐『合併裏頭取』(三〇二)「だから、そこを出て いけということならば、それ相当の立ち退き料を支払え という形で、圧力をかけてくることが火を見るよりも明 らかだった」 外国語 中国語では成句「明若观火」(火を見るよりも明 らかである。「洞若观火」とも言う) ピンからキリまで 「きり」は「切り」で終わりの意。初めから終わりまで。 また、たくさん種類があるものには最上のものから最低 のものまで、いろいろなレベルがあるということ。 用法「ピンからキリまで~」のように副詞的に用いられたり、「ナニナニはピンからキリまでだ」のように述語 <389> として用いられたりする。〔江戸〕 用例①角田喜久雄『発狂』(二三毛)「素晴らしい出来栄えだ。ぴんからきりまで、こううまく行き過ぎては、神様の思召しの程も空恐ろしいて」②林芙美子『放浪記』(二三三)「恥かしいも糞もあったものではない。ピンからキリまである東京だもの」③夢野久作『爆弾太平記』(二三三)「どんなに美味い汁を吸うてござるかという証拠をピンからキリまで見てまわりました」④『朝日新聞』(二四八・三・三朝)「人相の品位にもピンからキリまでバラエティーが多い」⑤舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「豊川稲荷へお詣りしてきたの。聞きしにまさる盛んなものでした。稲荷さんにもピンからキリまであるものと思ったわ」⑥内田康夫『イーハトーブの幽霊』(二九九九)「ばかだな、公務員といったってピンからキリまでだ」 外国語 英語では run the whole gamut ひんしゅくか 聳蹙を買う 意味「聳蹙」とは眉をひそめること。 人にいやがられることや良識に反する ことなどをして非難を受ける。またそれらの行為者が非 難を受ける。用法文型「ダレナニがダレダレの(から) ひんしゅくを買う」。「ダレダレの(から)には非難する 主体が来る。 用例①源氏鶏太『英語屋さん』(二五二)「亜米利加は決して負けないであろうと厭がらせのような宣伝をしてまわったため、ますます社内の顰蹙を買った」②舟橋聖一『ある女の遠景』(二九六二)「堂上の顰蹙を買いながらもこの情事がしばらく続き、人々は見て見ぬ振りをしなければならなかった」③「朝日新聞」(二九〇・五・八朝)「本人の知らぬ間に自民党員にされている、でたらめな入党問題が、世間のひんしゅくを買っているが」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(二九九七)「合理的な根拠はないんだよ。こんなことを言うと科学捜査主義の連中から顰蹙を買うがね」 類句「反発を買う」「眉をくもらせる」「眉をひそめる」 「眉を寄せる」「外国語」英語では be fromed upon ピンと来る 意味説明されることなく、その状況 の裏に隠されているものを即座に理解 する、感じ取る。用法文型「ナニナニがダレダレに ピンと来る」。「ピンと来た」と過去形が多い。用例⑤の ように否定形もある。 用例①獅子文六『てんやわんや』(一九四八—四九)「私たちを <390> 負かしたアメリカが、自主と自由の国であること──それが私にピンときた」②武田泰淳『風媒花』(一九五三)「一目みれば同類はピンと来ますからね」③石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「奥さまはそういう加害経験の所有者だから、ぼくの顔の膏薬をみて、すぐピンと来たとおっしゃいました」④五木寛之『風に吹かれて』(一九七〇)「ある作家から、『きみはセンチュウ派か、センゴ派か』と、きかれた。ピンときたので、『センチュウ派です』と、答えた」⑤「朝日新聞』(三〇四・二・四夕)「『17世紀イタリアのジェノバで記録した低金利の記録を塗りかえた」と聞かされてもピンと来なかったが、全財産持ち歩き派の出現には驚いた」 * ふ * びんぼうくじ 貧乏籤を引く 意味不本意ながら最も損な役回り が当たる。用法文型「ダレダレ が貧乏くじを引く」 用例①志賀直哉『邦子』(一九三七)一番貧乏籤をひいた のはなんといっても邦子だった」②斎藤栄『日美子の公 園探偵』(三〇二)「ここで、貧乏クジをひいたのが、パー クアイを気取った大野木老人だった」 外国語英語では be left holding the bag ふいく 意味相手から思いもよらない言動に 不意を食う 出られてびっくりする。用法文型 ダレダレが不意を食う」 用例芥川龍之介『百合』(九三)「金三も不意を食った せいか、いつもは滅多に負けた事のないのが、この時は べたりと尻餅をついた」 類句「不意を食らう」とも言う。「不意を打たれる」 ふいっ 意味相手が予想しない突然の行動を 不意を突く 取る。奇襲する。用法文型「ダレ ナニがダレナニの不意をつく」「ダレナニがダレナニに 不意をつかれる」。受身形で用いられることが多い。 用例①辻邦生『北の岬』(一丸ち)「おれたちゲリラ活動はあくまで敵の不意をつくこと、こちらの敏速な機動性によって敵の攻撃目標を混乱させることにある」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「単一の方向性を <391> もった異常じゃないから、新しいのに会うたびに不意をつかれるよ」③吉村昭『ポーツマスの旗』(二丸)「予想外の小村の発言に不意をつかれたウイッチは」 類句「不意を打つ」(開高健『パニック』〈九五七〉「なぜこんな卑屈な取引場に登場したのか、ふいを打たれた俊介にはしばらく見当がつかなかった) ふううんきゅうっ 意味嵐になる前の風と雲の動 風雲急を告げる きが急であることから、社会情 勢が大きく変わるような、大事件が起きそうな緊迫した 不穏な状況になる。用法文型「ナニナニは風雲急を 告げる」 用例 木下尚江 火の柱 (一九四)日露両国の間、風雲 うた 転た急を告ぐるに連れて」 ふうぜんともしび意味風に吹かれる灯火が今にも消え 風前の灯火 そうであることから危機に瀕して今 にもその存在(人・物事)が消えてなくなりそう、滅びる 寸前である。用法文型「ダレナニが風前のともしび だ」。述語句として用いられることが多い。「平安 用例①源氏鶏太「明日は日曜日」(一五二一三)「彼女の 生命は、今や危機にさらされている。そうだ、いうなれば風前のともしびなのである」②『相撲界』復刊二号(二九〇・九)「不滅」と思われていた大鵬の32回優勝が、この北の湖によって、風前のともしびである」③『朝日新聞』(二九〇・二・六朝)「ただでさえ消えかけている米ソ緊張緩和は、まさに風前の灯となった」④『朝日新聞』(三〇四・二・三六朝)「東京と長崎を結ぶ『さくら』も廃止される方針で、東京駅発のブルートレインは風前のともしびになる」 外国語 英語では hang by a thread *中国語では成 句「风中之烛」(風前の灯火。「烛」はろうそく) ふかくと 意味つい油断をして負けるはずがな 不覚を取る い相手に負ける。用法文型「ダレ ダレが不覚をとる」(南北朝) 用例①源氏鶏太『颱風さん』(一五二)「冗談じゃアない 誰が慰謝料なんか払うもんかね。こないだは酒を飲んで たんで不覚をとったが、こんどは負けないよ」②「朝日 新聞』(三〇四・九・三朝)「主人公・大島は、職場でも『強者』 の評価を得た。だが恋人の裏切りにあい、チンピラ相手 のけんかでは不覚をとる」 <392> 外国語英語ではblunder ふくろねずみ 意味袋の中の捕まえられたネズミのよ 袋の鼠 うに、捕らえられて逃げ場を失った状態、 窮地に追いこまれて脱出できない状態のたとえ。用法 文型「ダレナニは袋のねずみだ」(江戸) 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇三)「袋の鼠と思いこんでいた獲物が、どうして切り破ったのか、窓の鉄格子を抜けだして」②大沢在昌「天使の牙」(一九九七)「道を封鎖しちまいます。でてく車がいなけりゃ袋のネズミですから」 類句「袋の中のねずみ」とも言う。 外国語英語では be trapped like a rat *中国語では成句「瓮中之鳖」か めの中のスッポン ふと 意味地位・身分などがきわめ 吹けば飛ぶよう て低いさま、力・財産などがき わめて貧弱なさま。存在が取るに足りないつまらぬ、軽 いもののたとえ。用法文型「ダレナニは吹けば飛ぶ よう」「吹けば飛ぶようなダレナニ」 用例①高杉良「会社蘇生」(一九七)「吹けば飛ぶような 存在に過ぎんのに」②東直己『古傷』(三〇四)「私如きの 忙しさ、都合など、折部部長の御大切な御用件の前では、 なにほどのこともございません。吹けば飛ぶようなもの で御座居ますから」 ふこうちゅうさいわ 意味不幸な、あるいは悪い出来事 不幸中の幸い ではあるが、もっと不幸な、あるい は悪い状況を考えると、まだ運が良い、救われる点があ るという意。不幸なことが起こった時に、慰めるために 使われることがある。用法文型「ナニナニは不幸中 の幸いだ」。名詞句としてさまざまに用いられる。 用例①内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「ただ不幸中の幸いというべきか、二大勢力の一方の雄である京西グループが、当面、進出を見合わせる方針に転換したという情報があった」②森村誠一『人間の十字架』(一九三)「不幸中の幸いにも、彼女の打撲は大したことはなかった」③高杉良『濁流』(一九六講談社文庫版)「恥の上塗りをまぬがれたのは、不幸中の幸いだった」④龍一京『交番』(三〇四)「腕の傷は三針縫ったが、不幸中の幸い、動脈などは傷ついていなかった」⑤朝日新聞(三〇四・二・二朝)「昨年9月、6歳の時に幼稚園で事故に遭った息子は大 <393> けがこそすれ、『不幸中の幸い』続きで、今は日常生活に 支障はない」 外国語 英語では be lucky it wasn't worse たが開くー あ (意味)興行の初日が始まる。物事が実際 蓋が開く に始まる。用法文型「ナニナニのふ 用例正月興行のふたが開く 類句 スタートを切る 幕が開く 幕を開ける ふたまたか 意味同時に異なる二つの対象(物 二股を掛ける 事・異性)それぞれにかかわり、ど ちらになってもいいように利益を考えて、あるいはどち らともうまくいくように働きかける。「二股かける」とも 言う。用法文型「ダレダレは二股をかける」 用例①田中英光『愛と青春と生活』(一九四七)「私は、色 魔みたいにはじめから暁子や八重を二股かけてもてあ そぶつもりなぞはなかった」②山崎豊子『白い巨塔』 (一九六三六五)「鵜飼教授は恐いし、千載一遇の手術はやり たいしで、さんざん考えたあげく、二股をかけて欲張っ たのが、まずいことになって」③東野圭吾『学生街の殺 人』(一九七)「あたし、別に二股かけてなんかいないよ。 そりゃあ松木ちゃんとは寝たこともあるし、武宮にはB ぐらいやらせてあげたけどさ」 外国語 中国語では慣用句「脚踏两只船」(二隻の船に足をかける。「脚踩两只船」とも言う) ふためみ 意味余りにも悲惨だった 二目とは見られない り醜かったりしてまともに 見られない、見るに耐えない。用法文型「ダレナニ は二目とは見られない」(江戸) 用例甲賀三郎『支倉事件』(九三)「ブクくに脹れた 二た目とは見られない娘の屍体を埋めた事があります」 ふたあ 意味興行を開始する。物事を実際に 蓋を開ける 開始する。新しいことが行われる。ま た、始まってその現状や結果がわかる状態になる。 用法文型「ナニナニがふたを開ける」「ナニナニのふたを開ける」。「ふたを開けると~」という形で、予想と反する結果になるという場合に用いられることが多い。 用例①「朝日新聞」(一九六二・三朝)「予測できない形勢といわれたが、ふたをあけてみると、屋良氏は終始 <394> リードをつづけた」②『朝日新聞』(一九〇・五・六朝)「超スロー出世記録を更新した神幸だが、フタを開けたら五連勝」③金田一春彦他『変わる日本語』(一九二)「さぞかし日本でも人気を集めるだろうと思われていたのですが、フタをあけてみますと、さほどではなかった」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「蓋を開けるまでわからんが、新社長から声をかけていただいたよ。取締役って経営者だからねェ」 類句「幕を開ける」 意味人の言動や物事・出来事が世間 を騒がせて論議を引き起こす。 用法 文型「ダレナニは(~して)物議をかもす」。 用例①五木寛之『風に吹かれて』(九七)『原爆で殺すなキッスで殺せ!』というコピーをかかげて、不真面目だと物議をかもしたのも私たちの仲間だった』②朝日新聞』(九九六八朝)「浜田氏といえば、強烈なヤジを飛ばして物議をかもしたこともある」③内田康夫『三州吉良殺人事件』(九九二)「殉国七士について、よほどあちこちで物議を醸していたらしい」④高杉良『首魁の宴』(九九八「週刊潮流」が書いたら、物議をかもすことに なるねえ⑤朝日新聞(三〇四・七・二六夕)ムーア氏の登 場は民主党にとって強力な援軍だが、一方で不安のネタ でもある。ブッシュ批判をめぐる不規則発言でもあれば、 物議をかもしかねないからだ」 類句「一石を投じる」「波紋を投じる」「波紋を投げる」「波紋を広げる」 ふわ 意味天から降って来たり地から 降って湧いた 湧いて来たりすることから転じて、 話・事件・出来事・問題などが突然の形で起こる、現れ る、始まるたとえ。驚きの気持ちを表す。用法文型 「ふってわいた(ような)ナニナニ」「室町」 用例①源氏鶏太『颱風さん』(二五二)「思いかけず 降ってわいた難題に、途方にくれた」②「朝日新聞」 (二九七九・七・三朝)「その森影さんも今回のふってわいた大 役に、当初ややあわて気味」③中上健次『鳳仙花』(二九〇) 「フサは突然ふってわいたような出来事に」④「朝日新 聞」(二九〇・七・五朝)「突然ふってわいた事態に、教職員の 多くはとまどいを感じている」⑤内田康夫『若狭殺人事 件』(二九三)「身近なところに降って湧いたようなナマの 殺人事件を」 <395> 類句「足もとから鳥が立つ」 フットライトを浴びる あ 意味「フットライト」 は英語 footlights。「脚光 を浴びる」に同じ。 用法文型「ダレダレがフットライ トを浴びる」 用例①中川一政『我思古人』(一九四七)「自分は前途にぱっとフットライトを浴びた。あまり華やかで自分は、はにかまないではるられない」②池島信平『雑誌記者』(一九五八)「編集長もフットライトを浴びる時代が来たね」 筆が立つ 意味文章を書くのがうまい。文章を書 く才能がある。用法文型「ダレダレ は筆が立つ」 用例丸谷オ一『男のポケット』(九九)どつちも、厭 になるくらるうまい。女がこれだけ筆が立つんぢや、有 髯の男子たるもの一体どうしたらよからうか」 外国語 英語では write well 筆を入れる 意味文章や書画を添削する用法 文型「ダレダレがナニナニに筆を入れ る 用例夢野久作『スランプ』(たぎ)「その書きかけの文 章が不愉快で不愉快で、筆を入れる勇気も何もないくら い詰まらないものに見えて来るのです」 類句「朱を入れる」「手を入れる」「手を加える」「筆を加える」 ふでお 意味文章を書き終える。また書くのを 筆を擱く 止める。擱筆する。用法文型「ダレ ダレが筆をおく」 用例①尾崎紅葉『多情多恨』(八九六)「旋て筆を擱いて、こそこそと巻収めて、状袋に入れて、上書をした」②寺田寅彦『自然界の縞模様』(九三)「このほかにもまだいろいろあるであろうがあまりにも予定の紙数を超過するからまずこのへんで筆をおく事とする」 ふでお 意味文章を書くのを途中で止める。ま 筆を折る た文筆活動を止める。用法文型「ダ レダレが筆を折る」 用例①有島武郎『星座』(九三)「筆を折って世と共に 濁波を挙げて笑い且つ生きんとしたること」②横光利 <396> 一『純粋小説論』(一九三五)「もうこの上、日本から日本人としての純粋小説が現れなければ、むしろ作家は筆を折るに如くはあるまい」③『朝日新聞』(三〇五・五・七朝)「いまこの思い出の数語を書き記していると、ふと威圧されるものを感じ、わたしは筆を折らざるをえなくなりました」 類句「筆を断つ」「ペンを折る」 筆を加える 意味すでに書かれた文章や書画など を、さらによいものにするために書き 加えて修正する。用法文型「ダレダレがナニナニに 筆を加える」。用例①②「拙い」「私の」のように「筆」 を修飾することが可能。命令・意志表現は可能。 用例①中島敦「悟浄歎異」(九四三)「一幅の完全な名画 の上にさらに拙い筆を加えるのを愧じる気持からであ る」②太宰治『人間失格』(九四八)「下手に私の筆を加える よりは、これはこのまま、どこかの雑誌社にたのんで発 表してもらったほうが、なお、有意義な事のように思わ れた」 類句「朱を加える」「手を入れる」「手を加える」「筆を入れる」 意味文筆活動を止める用法文型 「ダレダレが筆を断つ」(江戸) 用例「昨年来筆を断っている」 類句「筆を折る」「ペンを折る」 ふでと 筆を取る 意味文章や絵画などを書き始める。 用法文型「ダレダレが筆を取る」「平 用例森鴎外『キタ・セクスアリス』(一九九)金井君は 初め筆を取ったとき、結婚するまでの事を書く積であつ た」 ふではこ 筆を運ぶ 意味文章や書画などを書き進めている。 用法文型「ダレダレが筆を運ぶ」。命 令・意志表現は可能。 用例①芥川龍之介『戯作三昧』(一九七)「経験上、その何であるかを知っていた馬琴は、注意に注意をして、筆を運んで行った」②太宰治『玩具』(一九三五)「私は姿勢の完璧からだんだん離れていっているように見せつけながら、いつまたそれに返っていっても怪我のないように用心に用心を重ねながら筆を運んで来たのである」 <397> 筆を走らせる 意味文章や絵をすらすら書き進め る。 用法文型「ダレダレが筆を 走らせる」平安 用例寺田寅彦『俳諧の本質的概論』(九三)「はじめはいくらか系統的な叙述の形式を取ろうと企てたが(略)むしろ自由に思いのままに筆を走らせることにした」 類句「筆を運ぶ」 筆を揮う 意味毛筆で文章や絵を書く。揮毫する。 用法文型「ダレダレが筆をふるう」 用例「師匠は筆をふるって作品を一気に書き上げた」 ふところあたた 懐が暖かい 意味その時点で所持金がたくさん あり、かつ自由に使えるお金がたく さんある。用法文型「ダレダレは懐が暖かい」(江戸) 用例「給料をもらったばかりだから懐が暖かい」 類句反対は「懐が寂しい」「懐が寒い」 意味その時点で所持金が少しである。自由に使えるお金が少しである。 用例「月末はいつも懐が寂しい 類句「懐が寒い」。反対は「懐が暖かい 意味「懐が寂しい」に同じ。用法文型「ダレダレは懐が寒い」 用例国木田独歩『郊外』(九〇)「懐が寒くなると血が皆な頭へ上て、それで気が狂うんだろうよ」 ふところこ 意味不正な手段・方法で利益を得 懐を肥やす 財産を殖やす。用法文型「ダレ ダレは懐を肥やす」「ダレダレの懐を肥やす」 用例①内田魯庵『社会百面相』(一九三)「之というのも ちゅうあんこそく 偷安姑息の政治家共が己れの懐を肥すに汲々としてい るからだ」②甲賀三郎『ニッケルの文鎮』(一九三)「普通の 人間だったら、どうせいくら稼いだって、他人の懐を肥 やすだけですもの」 類句「甘い汁を吸う」「甘い汁をすする」「うまい汁を吸う」「私腹を肥やす」「腹を肥やす」 <398> ふお 意味「腑」ははらわたの意。理解で 腑に落ちる き、納得がいく。用法文型「ダレ ダレはナニナニが腑に落ちる」「ダレダレはナニナニが 腑に落ちない」。現在は否定形で用いることが多い。 用例①里見弴『多情仏心』(九三)「そう云われてみればいかにもそれが動かないところだと肇て腑には落ちたがそれは気振りにも見せずに」②山崎豊子白い巨塔(九三六五)「一時、微熱状態になっただけで、再び発熱、呼吸困難、それに咳、痰が頻発し、腑に落ちない症状です」③木谷恭介富良野ラベンダーの丘殺人事件(九五)「その話は警察からききました。そのときも腑に落ちなかったのですが、草森は矢代くんを避けていましたがね」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(九七)「金沢から説明を受けて、いちおう納得したが、まだすんなりとは腑に落ちない」⑤朝日新聞(三〇四·八·三九朝)「ここまで読み進んで、やっとタイトルの「超」の意味が腑に落ちた」 ふねこ 船を漕ぐ 意味舟の櫓をこぐ時のように座った 状態で身体を前後に揺らして居眠りをす る。 用法 文型「ダレダレが船をこぐ」。「船をこいでい る」という形で用いられることが多い。〔江戸〕 用例①『滑稽新聞』二〇号(一九二)「座睡シテ未ダ充分不覚二至ラザル時ニ当リテハ身体飄揺、頭部ヲ前方ニ下ゲテハ又上ゲ、上ゲテハ又下グ、俗ニ之ヲ船ヲ漕グト称ス」②伊藤永之介『警察日記』(一九五三)「田子巡査がひとり事務卓にもたれて、コックリコックリ舟を漕いでいた」③半村良『どぶどろ』(一九七)「この雨ではさすがにひまらしく、店番の若い二人がいまにも舟を漕ぎそうな様子だった」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「疋田と丸尾は弥生にガスを抜かれて、船を漕ぎ始めている」 ブレーキが掛かる 意味「ブレーキ」は英語 brake。ある物事の進行が抑 えられる。用法文型「ダレナニにブレーキがかかる」 用例①「朝日新聞」(三〇四・八・四朝)「国内線が関空から 伊丹に移る「伊丹シフト」にブレーキがかかりそうだ」 ②「朝日新聞」(三〇四・二・三朝)「40人学級より教員が必 要となる少人数学級や習熟度別指導にブレーキがかかり、 給与の低い非常勤の教諭がさらに増えることになりかね <399> 類句「歯止めがかかる」 ブレーキを掛ける 意味「ブレーキ」は英語 brake。ある物事の進行を抑 える。用法文型「ダレナニがダレナニにブレーキを かける」。命令や意志表現は可能。 用例①角田喜久雄『高木家の惨劇』(四七)「大沢のと めどもない舌の辺りにブレーキをかけるように、電話の ベルがけたたましく鳴った」②宇井無愁『豚マンの唄』 (九五三)「この堂々めぐりにブレーキをかける人間は、結 局塩谷よりほかにない」③平岩弓枝『風子』(九五五七七) 「その愛情に自分でブレーキをかけなければならない男 と女の関係が、どんなにつらく苦しいものか」④朝 日新聞』(九一・二・三九朝)「鈴木首相だって、改めて新 体制の第一の基盤に据えた擬陽性改革に、いまさらブ レーキをかけるようなことはできない」⑤朝日新聞 (三〇四・二〇・四夕)「監査法人の通告、高木社長を支えた経 済産業省の揺らぎが迷走にブレーキをかけた」 類句「歯止めをかける」 ふ 踏んだり蹴ったり 意味ひどい目にあっている ところへさらにひどい目にあ う。用法文型「ダレナニは踏んだりけったり(だ)」。 述語句として用いられることが多いが「踏んだり蹴った りのナニナニ」と言うこともできる。「江戸」 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六十六)「うちの場合 は、もっと踏んだり、蹴ったりや、昔から取引して儲 けさして貰うてるわけでなし、……絶対に迷惑をかけ んという約束ではじめて取引して、びた一文金を貰う てない先に倒産やなど、詐欺やないか」②「朝日新聞」 (一九六○・五・三朝)「それに公共料金、物価値上がりではわれ われ国民は踏んだりけったりではないか」③内田康夫 『歌わない笛』(一九九八)「おまけに千恵子に妙な誤解を与え ることになって踏んだり蹴ったりではないか」④高杉良 『首魁の宴』(一九九八)「法外な高値で買収した物件を何分の 一かの安値で売却したんですから、踏んだり蹴ったりで すよ」⑤「朝日新聞』(三〇四・九・三朝)「結局買い替えたが、 この大きな出費は痛かった。それにしても何度も警察と 連絡を取ったり、行ったりで踏んだりけったりだった」 類句「泣きっ面に蜂」「弱り目に祟り目」「外国語」英 語ではa real beating <400> ふんどしなお意味緩みかかっている気を、 裈を締め直す しっかりと引き締め直して事に当 たるたとえ。用法文型「ダレダレが裈を締め直す」。 命令・意志表現は可能。 用例①「朝日新聞」(一九七九・10・九朝)「フンドシを締め直せ」『裸になったつもりで取り組め』と反省を迫った ②「朝日新聞」(一九八・五・二朝)「六月にはメキシコ公演にいくそうだが、外国で変な土俵踊りをやらないよう、ふんどしを締め直せ」③「朝日新聞」(三〇四・六・四朝)「西川氏を含めて3人の質問者を残したまま、採決が強行された 『(西川氏)まだ、時間があると思っていた。ふんどしを締め直そうとトイレに行き、戻ったらワーツとなっていた』 * * 類句「褌のひもを締め直す」(源氏鶏太『三等重役』 〈一九五二五三〉「いっぺん褌の紐をしめ直してからいかねばなるま い)「褌をしめる」(吉村達也『横濱の風』殺人事件》〈三〇四〉 「我々はそうとうフンドシを締めて事にあたる必要が出てく ると思うんですよ」「褌をしめてかかる」とも言う。「襟 を正す」「姿勢を正す」(外国語)英語では roll up one's sleeves (and get to work) へいきへいざ 意味「平気の平左衛門」の略。ま 平気の平左 るっきり平気で動じないことを「平左 衛門」という人に擬した強調表現。用法文型「ダレダ レは平気の平左だ」 用例①里見弴『安城家の兄弟』(二三二)「本来いえば平気の平左ですまし込んでいればい、のだけれど」②夢野久作『犬神博士』(二三二三)「往還ばたや、空地の野天でやるときは、トテモ思いきった猥雑な文句を、平気の平佐でイヤアホーと放送する」 類句「平気の平左衛門」(骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説」 〈二八七〉「可愛想な様なれども其御主人は却って平気の平左右 * かゆ 衛門て苦海の中に楽郷を求め」「痛くも痒くもない」「びく ともしない」「ものともしない」 べそをかく 意味子供などが泣く。泣き出しそう な顔をする。用法文型「ダレダレ <401> がべそをかく」(江戸) 類句「泣きべそをかく」 用例①大岡昇平『俘虜記』(一盃八)「彼はべそをかいたような顔をして、脚絆も巻かずに壁に向いて寝てしまった」②半村良『どぶどろ』(一九七)「おかみさんは、べそをかいたような顔になった」③朝日新聞(三〇四・八・五朝)「ボールを受けそこね、べそをかきながらお母さんのところへ逃げてくる愛ちゃん」 へそま 意味機嫌を損ねて、すなおに聞かな 臍を曲げる い、頑固になる、依怙地になる態度を 示す。用法文型「ダレダレがへそを曲げる」。用例④ のように受身形がある。 ①丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「わたしはすつかりヘソを曲げて、勝手にしろ、と心のなかでつぶやいたんです」②斎藤栄『日美子の公園探偵』(三〇二)「もしかすると、わたしが、甘木さんと一緒に行動していることで、犯人がヘソを曲げたのかもしれませんな」③内田康夫『秋田殺人事件』(三〇三)「議員連中が臍を曲げるとあなたの立場までが苦しいことになりますぞ」④朝日新聞』(三〇四・三・二朝)「西川に新しい企画を説明するの が遅れて、へそを曲げられてしまった」 類句「つむじを曲げる」 下手をする へた 意味物事の近い将来を悪く想定する。 ひょっとするとうまくいかないことを 述べる時に冒頭で使う。用法文型下手をすると~。 助詞「を」を略すことがある。 用例①高杉良『会社蘇生』(一九七)「ヘタをすると有能 な人材が皆んな辞めちゃうんじゃないですか」②「下手 すると受験した大学すべて落ちるかもしれない」 外国語 英語では if one is unlucky ペテンに掛ける 意味作為を施して人をうまく だます。用法文型「ダレダ レはダレダレをペテンにかける」。受身形が可能。 用例①夏目漱石『私の個人主義』(一九一五)「元来国と国 やかま とは辞令はいくら八釜しくっても、徳義心はそんなにあ りやしません。さぎをやる、誤魔化しをやる、ペテンに 掛ける」②久保田万太郎『春泥』(一九二八)「人をペテンにか けるような、そんな」③江戸川乱歩『恐怖王』(一九三一三) 「もしわしをペテンにかけて娘を渡さないようなことが <402> あれば④石坂洋次郎『女の道』(二卲二)「わしなどはい まの婆様を嫁に貰う時、ペテンにかけてね。その時の月 給は五十円しか貰ってなかったんだが、それじゃ嫁に来 てくれまいと思って、仲人に六十円だと掛値を言ったん だ」 類句「口車に乗せる」「わなにかける」 ヘおも 意味相手にするのもばかばか 屁とも思わない しい。つまらぬこととして問題 にもしない。大したことではなく、何の負担にもなら ないさま。何でもない。何とも思わない。用法文型 「ダレダレはダレナニを屁とも思わない」(江戸) 用例 夏目漱石 「明暗」(九六)「僕は君の軽蔑なんか屁 とも思っちゃいないよ」 類句「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」「取るに足りない」「はなもひっかけない」「屁でもない」(太宰治『道化の華』〈九五〉「そんなことは、なんでもないよ。葉ちゃんにとつては、屁でもないことさ」「見向きもしない」「目じゃない」「目もくれない」「物の数ではない」「問題にならない」 ヘかっぱ 意味「河童の屁」が元。これは「木っ端 屁の河童 てんか の火」が転訛したもの。木っ端は火がつ きやすいことから、転じて非常に容易であるさま、取る に足りないこと。「河童の屁」とも言う。俗語。用法 文型「ナニナニは屁の河童」 用例源氏鶏太『明日は日曜日』(一九三一五三)「雷なんか、 まるで、へのカッパだわ、といわんばかりの陽気さでゆ うゆう闊歩してくるのである」 類句「お茶の子さいさい」「お安い御用」「苦もなく」「事 もなく」「手もなく」「訳はない」「外国語」英語では not give a pamm 減らず口を叩く 意味悔しがって強がりや負け惜しみを言う。用法文型 ダレダレが減らず口をたたく」 用例①内田百閒『百鬼園随筆』(九三)「小生とても、初のうちは、減らず口を叩いて立ち向うけれど」②城山三郎『毎日が日曜日』(九五)『祝いにきたのに、相変らずのへらず口だな』へらず口でもたたきたくなるさ』③中上健次『鳳仙花』(九〇)『えらかったねえ』とフサが言うと、蒲団に入り直しながら『母さんにはじめてほ <403> 類句減らず口を利くとも言う。口が減らない ほ * へんてっ 変哲もない 意味特に取り立てて言うべきほどの こともない平凡なさま。用法文型 ダレナニは何の変哲もない」。「何の変哲もないナニナ ニ」という形で用いられることが多い。「江戸」 用例①高橋和巳『悲の器』(一九三)「妻は喰い入るように、水の流れを見た。川は何の変哲もなく流れている」 ②『6年の科学』(三〇四・九)「何のへんてつもないフィルムケースが……」③『朝日新聞』(三〇五・一・三朝)「日常がすべてであるような時代の特徴は、むしろ特徴がないことです。何が大切かが見えにくい。坦々として、ありふれていて、何の変哲もないとしか見えない」 棲に振る 意味それまでの努力や苦心、またその 結果、一生・地位・仕事・予定・機会・ 過ごす時間などをあることですっかり無駄にしてしまう 用法文型「ダレダレがナニナニを棒に振る」。ナニナ 二には失う対象、無駄にする対象が来る。「江戸」 用例①獅子文六『青春怪談』(九五四)「そのバカバカしい夢のために、みすみす、女の一生を棒に振ることを、顧みない」②舟橋聖一『ある女の遠景』(九六二)「伊勢子は、泉中のために、一生を棒に振ったことは、お前だって知っているだろう」③朝日新聞(九八〇・七・八朝)「『養老院へ行くのは我利我利亡者』と放言して、労相のイスを棒に振ってから八年余」④内田康夫『博多殺人事件』(九九二)「片田はそんなつまらんことで、一生を棒に振るような愚か者ではないはずです」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四)「千鶴のために、恭子に会えるせっかくのチャンスを棒に振る気はなかった」 <404> 類句「水泡に帰す」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木 阿弥」「元も子もない」 ほうほうてい 意味ひどい目にあって、やっとのこと 這々の体 である場所から這うようにして退散する 涙子。あわてふためいてかろうじて逃げ出すさま。 用法文型「ダレダレがほうほうの体で~する」。「~する」には「逃げる」「立ち去る」など、元いた場所から移動する意を表す動詞が来る。「江戸」 用例①檀一雄「青春放浪」(一九五六)「ホウホウの体で、奥さんは逃げるようにして帰ってゆく」②大江健三郎「ピンチランナー調書」(一九六六)「ほうほうの態でかれらは夏のシーズンだけ開いているホテルへ救助をもとめた」③高杉良「指名解雇」(一九九七)「荒垣はほうほうの体で退散した」④清水一行「ITの踊り」(三〇四)「秋葉は気の抜けた返事をして、ほうほうの体で社長室から退散した」(外国語)英語では scramble to get away 味相手がえらそうなことを言っ 用法文型「ダレダレがほえづらをかく」「ほえづらをかくな(よ)」と言うことが多い。「江戸」 用例東野圭吾「学生街の殺人」(一九八七)「大きくでやがったな。よし、乗った。吠え面かくなよ」 ばけつ ほ 意味自分のした行為によって、思い 墓穴を掘る もかけず自分の不利になったり自分の 失敗・破滅につながったりしてしまう。自分が良かれと 思ってしたことがそうなる時に使われることが多い。 用法文型「ダレナニが墓穴を掘る」。「自ら墓穴を掘る」と言うことが多い。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「そんな卑劣なことをしたら、自ら墓穴を掘るようなものじゃありませんか」②佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「それは、他の者が鍵を持ち出す機会は全くなかった、と証明するようなものであり、自ら墓穴を掘る行為になりかねない」③『朝日新聞』(一九八〇・三・三朝)「北井さんの葬儀に色メガネをかけて出席するなど苦心の『偽装工作』が、かえって墓穴を掘った」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「犯罪は犯人にとって最もプライベートな時間であるはずだ。それなのに携帯電話によって自分から <405> 墓穴を掘ってしまった⑤大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』 (三〇二)「古山さんの家族に接触する気ならやめた方がい い。さっきもいったように、県警が監視を張りつけてい る。墓穴を掘るだけだ」 類句「自分の首をしめる」外国語英語ではdig one’s own grave *中国語では成句「自掘坟墓」(自ら墓穴を 掘る) 反故にする 意味既に使ったり書き損じたりして 不用となった紙を「反故」ということ から、不用な物として捨ててしまう。転じて、約束した り決めたりしたことを実行に移さず無視したり、それに 反したことをする。またそれを無効なものにする。 用法文型「ダレナニがナニナニを反故にする」(江戸 用例高野悦子『二十歳の原点』(九二)「全共闘の大衆 団交にも応ぜず、自らが行なった自己批判書も次々と破 り、解体宣言も反故にしようとしている」 ぼぞかた 意味「ほぞ」とは「へそ」のこと。へ 臍を固める そのある腹に力を入れて固くすること から、転じて固く決心する。覚悟を決める。用法文 型「ダレダレはほぞを固める」 用例①小島烏水『槍ヶ嶽探險記』(九三)「余は断々乎として槍ヶ嶽を征すべく決心の臍を堅めつ」②獅子文六『自由学校』(九五)「五百助は、まだ、帰ってこないいつかは帰ってくるという確信は、揺がないが、当分はダメであると、駒子も、ホゾを固めずにはいられなくなった」③高杉良『人事権!』(九三)「相沢はホゾを固めた」 類句「ほぞを決める」とも言う。「意を決する」「腹を固 める」「腹を決める」「腹を据える」 「あとでほぞをかむことになる」と言ったことによる。 うに進言したが、聞き入れられなかった。そこで三人が を招きもてなした。その際、三人が祁侯に文王を殺すよ 伝」。楚の文王が鄧を通りかかった時、鄧の祁侯が文王 してもどうにもならない。出典は中国の古典『春秋左氏 もうすでにどうにもならないことについて悔やむ。後悔 を噛もうと思っても噛めないことから、 「意味」「ほぞ」とは「へそ」のこと。へそ 臍を噛む ほぞか 「あとでほぞをかむことになる」と言ったことによる。 用法文型ダレダレがほぞをかむほぞをかむ思い (気持ち)平安 <406> 用例①檀一雄『青春放浪』(一九五六)「私達も当日がかりにも月給日であったと知ったなら、臍を噛んだって、借金になぞ行きはしなかったろう』②『朝日新聞』(一九二・四・三朝)「せっかく日本で芽が出ても育て方がまずく、外国で根づく。ほぞをかむ思いを何度もした」③内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「よほど何か伝えたいことがあったのだろうと、後になってほぞを噛むような気持がしたのだが」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「田宮は、なんて俺はこうも阿呆なんだ、とホゾを噛む思いだった」⑤森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「捜査陣は臍を噛んだが、すでに報道自粛を解除した後である」 類句「唇を噛む」「歯ぎしりをする」 ほとぼりが冷める 意味「ほとぼり」は余熱の こと。高ぶった感情や興奮が おさまる。また事件などが起きて後、世間の注目がおさ まる。用法文型「(ナニナニの)ほとぼりが冷める」「江 戸 用例①黒岩涙香「無惨」(一八九)「余温の冷るまで当分 博賭も止るかも知れぬ」②源氏鶏太「坊っちゃん社員」 (一九三一吾)「親娘が、東京の太郎の家へ逃げる。郷里へ 送った家財道具は、ほとぼりが冷める頃に、取り寄せる」 ③水木マリ『だましたなんて、いわないで』(一九三)「ほ とぼりがさめたころに、もう一度、ご両親と話しあって みればいいんじゃないの」④浅田次郎『極道放浪記①』 (一九四)「そろそろホトボリもさめた頃だろう」⑤藤田宜 永『転々』(一九九)「あいつは事情を知ってる。今日の仕 事が終わったら、逃げ出せ」(略)『ほとぼりが冷めるま でだ』 外国語 英語では the excitement dies down ほね 骨がある 意味自分の信念を曲げないしっかりし たものを持っている。用法文型「ダ レダレは骨がある」。「骨のあるダレダレ」とも言う。「江 戸 用例①田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「石神は、いかにも和歌山県人らしく、小回りはきかないがホネのある男である」②『朝日新聞』(三〇四・二・一八朝)「バルニエ仏外相は、次の米国務長官に指名されたライス米大統領補佐官について『どんなに控えめに言っても、骨のある女性だ』と16日の地元ラジオで語った」 類句 「気骨がある」 「芯が通る」 外国語 韓国語では <407> 「明か(骨が)ぴぜ(ある)」 ほねお 意味何かをするのに非常に苦労をす 骨が折れる る。用法文型「ナニナニに骨が折 れる」「~するのに骨が折れる」。ナニナニの部分には 「骨が折れる」原因が来る。「骨の折れるナニナニ」とも 言う。「室町」 用例①江戸川乱歩「人でなしの恋」(二九六)「仲人に立ったかたは、私の方よりは、かえって先方のご本人を説きふせるのに骨が折れたほどだと申すのでございます」②徳田秋声「仮装人物」(二九五十三)「カクテル一杯を呑むのに骨が折れるくらいなのに」③藤本義一「サイカクがやって来た」(二九八)「M君には、この駄洒落が通じず説明するのに骨が折れた」④「朝日新聞」(二九八〇・三・一朝)「国民の前に投げ出された問題も、それに対する答えの選択肢も、共通のものはむしろ探すのに骨が折れる」⑤姉小路祐「合併裏頭取」(三〇二)「夜になっているせいもあって、探すのには少し骨が折れたが、どうにか下元の表札を見つけることができた」 意味辛さや苦痛などを自分の身体 や精神の奥にまで強く感じる。 用法文型「ダレダレは十二ことが骨身にこたえる」江 戸 用例瀬戸内晴美「女徳」(一九三)「妾時代に男の嫉妬に は骨身にこたえているだけに、たみは、男が嫉妬らしい 言辞をみせると、極端に嫌悪した」 * 類句「骨身にしみる」「身にしみる」 身体に汚れる 身体や精神の奥にまでしみ通るほ 意味教訓や喜び・苦痛などを自分 ど強く感じる。用法文型「ダレダレは十二ことが骨 身にしみる」(江戸) 用例①藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八)いくら映画会社の名をいっても信用してくれない先生もいた。おれは、これが骨身に沁みているのである」②姉小路祐『走る密室』(一九四)「今回の事件は、ちょっと骨身に染みました。世間の水が厳しいということも、少しはわかったような気がします」 類句「骨身にこたえる」「身にしみる」とも言う。 外国語 英語では hit home *韓国語では「睥睨(骨に) <408> 사무처다(しみる) ほねみ お 骨身を惜しまず 意味体を動かして働くことを 厭わない、苦労を厭わず一生懸 命働く、尽力する。用法文型「ダレダレが骨身を惜 しまずする」。助詞「を」を略することもある。 用例山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)あなたは浪速大 学出身でありながら、東都大学出身の菊川を公平に評価 して下さり、菊川のために骨身を惜しまず、ご尽力な さって」 類句骨を惜しまずとも言う。 活ねみけず 骨身を削る 意味何かを成し遂げるために、自分 の身体がやせ細るほど苦労に苦労をか さね努力する。用法文型「ダレダレが骨身を削って する骨身を削る思い」 用例①朝日新聞(一九一三三朝)「さて、私はというと、 この一年、大学生活を送ってみて、大学なんて骨身を 削って勉強してまで行く価値のある所だろうかと疑問に 思うようになっていた」②朝日新聞(一九一四九朝)「彼 らを「変身」させるために、骨身を削って指導した二人 の先生の存在があった」③「朝日新聞」(三〇五・七・一七朝)「舞台やテレビのために毎週、新ネタつくりに骨身を削る」 * 類句「身を削る」とも言う。「身を粉にする」外国語 英語では break one’s back *韓国語では「囲吾」(骨 髄が) 囲耳口(抜ける) ほねうず 意味死ぬまである場所に住んで暮ら 骨を埋める す。転じて、ある組織などに入ってそ れに自分の人生のすべてをささげる。用法文型「ダ レダレがナニドコに骨を埋める」。ナニドコには「骨を 埋める」対象や場所などが来る。「骨を埋める覚悟で」と 言うことがある。 用例①本所次郎『閨閥』(三〇四)『私のフヨウテレビの籍は……?』『抜いてもらう。杜の都に骨を埋めてもらう覚悟で行ってもらいたいんだ』②『朝日新聞』(三〇四・九・九夕)「その時は『まさか京都に住むとは思わなかった』というが、京都の大学を選び、いまや『骨をうずめたい』と言うまでに」 類句「終の栖にする」 外国語韓国語では「明言(骨 を)号口(埋める)」 <409> 鎌倉 意味何かをするのに非常に苦労する。 用法文型「ダレダレが(~に)骨を折る 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(九四)「敬二は地文学の英語暗誦と、それから専ら代数に骨を折った」②海音寺潮五郎『西郷と大久保』(九三)「おれは勅を奉じて同志を募り、攘夷倒幕をしようと骨を折っているのだ」③三島由紀夫『禁色』(九五三)「手提から出した煙草の一箱を黙って青年のポケットに入れてやる夫人の仕種を、俊輔は見ないふりをするのに骨を折った」④福永武彦『忘却の河』(九六四)「己は大学生で(略)それで胸が悪くなったものだから何とか釈放されたが、きっと親父なんかがいろいろ骨を折ってくれたんだろう」⑤朝日新聞』(九四三三朝)「今も残念至極なのは、子供なりに骨を折っておぼえた日本史の皇紀である」 類句心を砕く 法螺を吹く 意味山伏などが合図のためにホラ貝 を吹き鳴らして大きな音を立てること から、転じて、事実よりも誇張して大げさに話す。でた らめなことを言う。大言壮語する。用法文型「ダレ ダレがほらを吹く」。用例②のように可能動詞形がある。 江戸 用例①夏目漱石『現代日本の開化』(九二)西洋の新 らしい説などを生齧りにして法螺を吹くのは論外とし て」②石坂洋次郎『若い人』(九三)「つい昨今の出来事 をよくもあんなに法螺が吹けたものだと興ざめて腹が 立った」③高橋和巳『悲の器』(九三)「書類に縛りつづ けられる事務員たちが、夜食のとどくのを待つ間、指先 のタコをなでつつかってなホラをふく」④『朝日新聞』 (三〇四・二〇・三夕)「阿波の大ばなしといって、法螺を吹 きあって奇抜をきそう習俗が阿波の国にあったという」 類句「法螺を飛ばす」とも言う。「駄法螺を吹く」(井上 ひさし『日本亭主図鑑』(九五)「いつも駄法螺を吹いているわ けではない」は「法螺を吹く」をよりさげすんだ言い方 「大風呂敷を広げる」「らっぱを吹く」 ぼろで 意味取り繕って隠していたことがば 複ば出る れて、欠点・短所・失敗の跡など良く ないことが現れ出てくる。用法文型「(ナニナニの)ぼ ろが出る」(江戸) 用例内田康夫『博多殺人事件』(一九二)『まあ、片田ほ <410> どの人物が、そんな、いずれはボロが出るに決まってい る犯罪に参画するような愚行はしないと思うけれど」 * *はきやく * は 類句「足がつく」「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれる」 * 「メッキが剥げる」 ぼろだ 意味取り繕って隠していたことがば 檻棲を出す れて、欠点・短所・失敗の跡など良く ないことを現す。 用法文型「ダレナニがぼろを出す」 否定形がある。 用例①『滑稽新聞』四六号(一九三)『此社会で近頃ボロを出したのは知事や視学官、学校教師、裁判官など』②高橋和巳『悲の器』(一九三)『尊敬の代償に、ある程度の犠牲はやむをえないだろうし、すくなくともボロを出さんようにせにやならんわけでしょう』③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)『計算をしなくてすむ』を裏から見れば無計画に買物をしても、ぼろを出さずにすむということになる』④『朝日新聞』(一九三・一・三朝)『決してボロは出すまい』母も子どもも、身構え暮らしてきた』 類句「しっぽを出す」「馬脚を現す」 ほんごし い 意味ある事柄に対し本気になって 本腰を入れる 真剣に取り組む。用法文型「ダ レダレがナニナニに本腰を入れる」。命令・意志表現が 可能。 用例 朝日新聞 (三〇四・二・八夕) 落語に本腰を入れて 2年に過ぎない鶴瓶の挑戦」 類句「本腰を据える」とも言う。 外国語 英語では put everything one has got into <411> *ま* まいきよ いとま 枚挙に遑がない 意味一つ一つあげていけない ほど数が多い。「枚挙に暇がな い」とも書く。用法文型「ダレナニは枚挙にいとまが ない」 用例①「朝日新聞」(三〇四・二・二〇夕)「世界中でさまざまな記念行事が開催され、関連の出版物も枚挙に暇がない」②「朝日新聞」(三〇五・一・二五朝)「やせていた間中、ありとあらゆる言葉の攻撃を受けた。(略)『まあー細い』『あんな細い脚でよく歩けるわね』などと枚挙にいとまがない」③「会社を首になった人は枚挙にいとまがない」 類句「腐るほど」「掃いて捨てるほど」(外国語)中国 語では成句「不胜枚举」(枚举に堪えない、枚举にいとまが ない。「不胜」は堪えない) 魔が差す 意味悪魔が心に入り込むことから転 じて、普段ならするはずがない悪いこと を、ついふらふらとする心・考えを起こす。用法文 型「ダレダレは魔がさす」(江戸) 用例①源氏鶏太『夢を失わず』(二六〇)「世の中には、絶対に間違いのない娘ってあるものではない。魔がさすということもあり得る」②三浦綾子『塩狩峠』(二六八)「たしかに三堀君は、あの時魔がさしたのだと思うのです。しかしおそらく今度二度と、こんなことをしないだろうと思います」③『朝日新聞』(二九〇・三・三朝)「謝礼を仲介し、模範解答付き入試問題を見せた責任は大きい。魔がさしたとしかいいようがない」④内田康夫『博多殺人事件』(二九二)「もしも金額が数億ではなく数十億円の巨額であったりすれば、フツと魔がさすことだってなきにしもあらずだ」⑤龍一京『交番』(三〇四)「宮脇は人の気持ちなど、どう変わるかわからないと思っていた。『魔が差すことはありますからね』 外国語 英語では be possessed by an uncontrollable urge まぬ 意味音曲の拍子が抜けるということ 間が抜ける から、転じて(1)ぼうっとしていて、締 まりがない。ばかのように見える。(2)物事の大切なとこ <412> ろを忘れたり時機を逸したりする。用法文型「ダレ ナニは間が抜けている」「間が抜けたダレナニ」。文末で は「間が抜けている」が用いられる。「間の抜けたダレナ ニ」とも言う。「江戸」 用例(1)①石川淳『葦手』(一九三五)「あんなシャモ一羽まだ絞められねえた、しおらし過ぎて間が抜けてらあ」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六六)「またその上に大きさも大きいが、なにより間がぬけた目鼻立ちの獅子のカシラを据えつけた山車」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「平吉はわざと間の抜けた表情で首に手を当ててみせた」④朝日新聞(三〇四・九・二七朝)「きっとこの国では間の抜けた殿様を演じるコメディアンであり続けるのだろう」(2)⑤「一ヶ月遅れの誕生日カードなんて間が抜けている」 ま曲がりなりにも意味不十分ではありながら、一応それなりに。一応形になるさまを言う。用法文型「まがりなりにも~する」。述語を修飾する。江戸 用例①朝日新聞(一九九六三朝)曲がりなりにもこうした努力を通じて、石油危機のさ中には五百億ドルと もいわれた産油国の経常収支黒字は、昨七八年下期には ゼロに近くなり」②「朝日新聞」(一九九・二・三朝)「今回の 騒ぎのように曲がりなりにも分裂だけは避けるという求 心力が働く」 類句 どうにかこうにか 外国語 英語では after all まわる 意味(1)タイミングが悪い。巡り合わせ 間が悪い が悪い。運が悪い。(2)何となく気恥ずか しい。用法「ダレナニは間が悪い」「間が悪いことに ~ 用例(1)①津本陽『深重の海』(一九七八)「一昨日はまた、太地の旦那の持山で、掛谷たら楠木谷たらち云う処の、一等杉ばっかり十万本も焼けて、何ち云う間の悪りいことよのう」②「間が悪いことに今電車が出たところだ」(2)③平岩弓枝『風子』(一九七五十七)「間が悪そうに、志津が居ずまいを直し、千代も風子も一瞬、ぽかんとした」(2)「きまりが悪い」「ばつが悪い」「外国語」英語ではawkward 意味 芝居で幕が開いて始まることから 幕が開く 転じて、催し・事件・出来事など物事が <413> 始まる。 用例「二〇〇五年度の公式戦の幕が開く」 類句「スタートを切る」「ふたが開く」「幕を開ける 意味芝居の終わりに幕が下りること 幕が下りる から転じて、ある出来事や争い・事件 などが終わりになる、結末がつく。用法文型「ナニ ナニは幕が下りる」「ナニナニに幕が下りる」「ナニナニ の幕が下りる」 用例①『朝日新聞』(九五・三・三九朝)「クレムリン名物 だったフルシチョフ、ブルガーニンアベック道中”に もついに幕が下りた」②『朝日新聞』(九五・五・三九朝)「航 空機疑惑事件の幕が下りた」③『朝日新聞』(九五・七・六 朝)「エジプト大使館占拠事件は十五日朝、ゲリラた ちがあっけなく降伏して幕が下りた」④『朝日新聞』 (九五・八・二七朝)「死闘はこうして引き分け再試合寸前で 幕が下りた」 類句「幕が閉じる」「幕を閉じる」「幕を引く」 幕が切って落とされる意味歌舞伎で引き幕を開けたのちも後ろに幕が あり、音楽を聴かせたあとに、その幕を一気に落とした ことから転じて、行事・催し物がはなばなしく始めら れる。用法文型「ナニナニは幕が切って落とされる」 「ナニナニの幕が切って落とされる」 用例①源氏鶏太『三等重役』(五五五三)「かくて、南海産業の講和記念大運動会も幕は切って落とされた」②東野圭吾『卒業』(九六六)「『乾杯』、そして『メリークリスマス』。ついに幕は切って落とされた」③「今、博覧会の幕が切って落とされようとしている」 まくらたか 意味何の心配もなく安心してぐっ 枕を高くする すりと眠ることができるさま。危険 や心配事がなく、安心できるさま。用法文型「ダレ ダレが枕を高くして眠る(寝る)」「平安」 用例①島崎藤村『新生』(二九九)「お前は隣室の高瀬に まで隠そうとしていることが有るだろう。お前はそれで 枕を高くしてお前の寝台に眠ることが出来るのか」②源 氏鶏太『坊っちゃん社員』(二九五十三)「わしには、君のよ うな部下がいることは、一日といえども、枕を高くして 眠ることが出来ん、という心境である」③内田康夫『秋 田殺人事件』(三〇三)「あなたが危険な証拠品を持ってい <414> るかぎり、連中は枕を高くして眠れないはずです」 *しゅうび 類句「愁眉を開く」「胸のつかえが下りる」「胸を撫で下 ろす」 まくあ 意味催し・事件・出来事などが始ま 幕を開ける る。用法文型「ナニナニの幕を開 ける」「ナニナニが幕を開ける」 用例①「朝日新聞」(一九九・七・二〇朝)「今度の新データ網建設は“デジタル通信時代”の幕をあける役目をになうことになる」②「朝日新聞」(一九九・七・三朝)「ここから君の読書生活が幕をあける」③「5年の科学」(三〇三・八「ターミネーター3人類とマシーンの壮絶な戦いが幕をあける!」④「朝日新聞」(三〇四・三・三夕)「クリスマスお年玉商戦での「携帯型ゲーム機・冬の陣」が幕を開ける」 類句 スタートを切る ふたを開ける 幕が開く 暮を閉じる 意味幕が閉じて芝居が終わることか ら転じて、ある一定期間続いていた催 し・事件・出来事・生涯などが終わりになる、または終 わりにする。物事の結末をつける。用法文型「ダレ ナニがナニナニの幕を閉じる 用例①「朝日新聞」(二六七・二〇三朝)「政界の巨人は歴史的使命を終え、同じ型の政治家、チャーチル、アデナウアー氏らにつづいて、生涯の幕をとじたのである」②「朝日新聞」(三〇四・九・三七夕)「私と戸川昌子は、一九九〇年いっぱいをもって幕を閉じたシャンソニエ『銀巴里』について、またシャンソンについて、おのが人生について語りあいそして歌った」③「朝日新聞」(三〇四・二〇三朝)「政治家として奮闘した日々は、7月12日未明に幕を閉じた」④「朝日新聞」(三〇四・三・二〇夕)「渡し船は、昔は東京でも大活躍した。でも、64年、隅田川で最後の『佃の渡し』が江戸期以来の幕を閉じて、東京では消えたんです」 意味ある一定期間続いていた物事を終 幕を引く わりにする。用法文型「ダレナニが ナニナニに幕を引く」「ダレナニがナニナニの幕を引く」 用例②のように受身形がある。④のように可能動詞形が ある。 用例①朝日新聞(一九一·二七朝)二人の力士生命に幕を引くときがきたらしい②高杉良「濁流」一九六講談 <415> 社文庫版)「青山建設が保有株式を東亜興業へ放出して 幕が引かれた」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(二丸八 「あと一歩踏み込めば、その構図をさらけだすことがで きるというのに、そちらには目をつぶって、かっとなっ て明日香を殺したジュンを、指名手配することで事件の 幕を引くしかないのだ」④『朝日新聞』(三〇四・三・朝)「苦 し紛れの弁明に『とても幕は引けない』といった声は与 党内からも上がった」 類句「幕を閉じる」「幕を下ろす」 まおと 意味お互いに同じようなレベルで 負けず劣らず 優劣がつけがたいさま。用法文 型「負けず劣らず~だ」。修飾句として述語を修飾する。 用例④のように「負けず劣らずのナニナニ」の形で修飾 する用法もある。江戸 用例①里見弴『多情仏心』(九三)「駄弁になれば、どっちも負けず劣らず他愛のない応酬を続けながら」②江戸川乱歩『石榴』(九四)「谷村のほうでも、琴野のほうでも負けず劣らず『元祖狢饅頭』という大きな金看板を飾って、眼と鼻のあいだで元祖争いをつづけていたのでした」③森村誠一『新幹線殺人事件』(九五)「彼女もいつの 間にか、負けず劣らず刺激的なネグリジェに着替えてい る」④東野圭吾『宿命』(二九○)「ところが凍結された後も、 密かに自分が再開させることを考えていたらしい。親子 とも負けず劣らずの変人だよ」 類句「甲乙つけがたい」「勝るとも劣らない」 まさおと意味勝ることはあっても劣勝るとも劣らないることはないという意で、成績や力や容姿など比較するものと同等あるいはそれ以上である。用法文型「ダレナニは(ダレナニに)まさるとも劣らない」「まさるとも劣らぬダレナニ」。述語としても用いられるが、後ろの言葉を修飾することが多い。用例①源氏鶏太『三等重役』(二五二五)「今や、歴代社長に勝るとも、劣らぬ名実共に立派な社長になることが出来た」②石坂洋次郎『石中先生行状記』(九五四)「召使いの女どもが、貴方様のことを、昔の光君に勝るとも劣らない美男子だと噂しておりましたので」③山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「それに第一、徳島大学の葛西教授は(略)外科的治療などの研究で業績を上げ、他の四人の実力に比べて勝るとも劣らないことは、誰の目にも明らかでしょう」④朝日新聞(九八・七・九朝)「一万メートル <416> で勝ったことは、日本記録にまさるとも劣らぬ大きい意 義をはらんでいる」 類句「甲乙つけがたい」「負けず劣らず」外国語中 国語では成句「有过之无不及」(過ぎることはあっても及ば ないことはない、勝るとも劣らない。「过」は過ぎる。「有过之 而无不及」とも言う ましやくあ 意味「間尺」は計算、寸法の意 間尺に合わない 損得計算すると損になる。した ことに見合うだけの利益がない。用法文型「ナニナ 二は間尺に合わない」(江戸) 用例①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九二)「外から かかってきた電話のせいで、いちいち怒られていたので は、間尺に合わない」②高杉良『人事権!』(一九三)「N証 券に一〇パーセントもシェア。アップするのは過剰反応 だよ。いや間尺に合わん」 類句「割に合わない」 また か 意味非常に広い地域にわたって活躍 股に掛ける する、活動する。用法文型「ダレ ダレがドコドコを股にかけてする」(江戸) 用例①芥川龍之介『鼠小僧次郎吉』(二三)「かう見えても、この御兄さんはな、日本中を股にかけた、ちっとは面の売れている胡麻の蠅だ」②谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九六二一元)「そういう出店を上海や香港あたりにも持って、日本とシナとを股にかけてときどき往ったり来たりしながら、ひとしきりはかなり手広くやっていたのに」③『朝日新聞』(三〇五・一・五朝)「夏は地元で働き、冬場は全国を股にかけて出稼ぎをしていた」 真っ赤な嘘 意味全くの嘘だという意の強調表現。 用法文型「ナニナニは真っ赤な嘘 た 用例①坂口安吾「ぐうたら戦記」(九四七)「私は竹村消防へ速達をだした。あと二か月で小説は完成する。金を送れ。それは大嘘であった。マッカな嘘である」②金田一春彦他『変わる日本語』(一九二)「ハンカチーフの下を略してハンカチというのだとお思いになっているのでしょう。それはまっかな嘘です」③「朝日新聞」(三〇四・二〇・六朝)「出版流通に詳しい、ライターの永江朗さんは『読書離れは真っ赤なうそ。「新刊書店離れ」に過ぎない』という」 <417> まと い 意味大事なところ・正しいところを 的を射る きっちり言い当てる。「的を得る」という のは間違い。用法文型「ダレナニは的を射る」 用例①中上健次「鳳仙花」(一九〇)「新宮が妙に恐ろし いところだというフサの子供心は、その当時を考えれば 的を射ていた」②「的を射た発言」 *せいこく *とう 類句「正鵠を射る」「当を得る」 まなじりけっ 意味「まなじり」は「目尻」のこと。 眥を決する 怒りや固い決意をこめて大きく目を 見開く。用法文型「ダレダレがまなじりを決して~ する」「平安 用例①太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「仲兼さまはその お叱りのお言葉をそのまま宗政さまにお伝え申しました ところが、宗政さまは、きりりと眺を決し、おそれなが ら、たわけたお言葉、かの法師を生虜り召連れまいるは 最も易き事なりしかど」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「木 下は十時前に出社するなり、眦を決して部長室に入っ た」 まあ 意味(1)時間に遅れないですむ。(2)十分 間に合う ではないが、取りあえずの方策・手当て としてこと足りる。用法(1)文型「ダレダレが(ナニナ ニに)間に合う」。否定形もよく使われる。(2)文型「ダレ ダレがダレナニで間に合う」。「ダレナニで」には取りあ えずの手当てとなる対象が来る。「ダレナニをダレナニ で間に合わせる」という他動詞形でも使われる。 用例(1)①三浦綾子『塩狩峠』(一九八)「渡欧からむろん葬式に間に合いはしない。まあ、間に合わなくても、親孝行だと思って、十日ほど休むことにして親子三人で出てきたのさ」②渡辺淳一『北都物語』(一九四)「偶然肺炎で寝込み、おかげで船に間に合わず内地に残ることになってしまった」③内田康夫『歌わない笛』(一九八)「なんとか間に合ってほっとしたら、何のことはない、津山線もやはり雪のせいでダイヤが乱れているのだそうだ」④朝日新聞』(三〇四・二〇・六朝)「とくに最終報告書がどう扱われるかをチェックする新たな機関の設置を求め、来年度の政府予算の概算要求に間に合うように当時の坂口厚労相に申し入れた」(2)⑤福永武彦『忘却の河』(一九四)「夕食は <418> 一同が中華亭から取り寄せる焼飯やラーメンで間に合わ された」⑥筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(二九三)「座 付役者といえば、いつも読むたびに感心してしまうのは 文士劇の台本である。こればかりは既製の戯曲で間に合 わせるわけにはいかない」⑦丸谷オ一『男のポケット』 (二九九)「煮る手間を惜しんで、お豆腐で間に合はせるな んて、怠慢ぢゃありませんか」 * 類句(2)「役に立つ」「用が足りる」 真に受ける 意味相手の言動をそのまま本当だと 信じる。用法文型「ダレダレがナ ーナニを真に受ける」(江戸) 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「私の言うことをみんな真に受けて考えこんだりするの」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七)「スタ病に取り憑かれた両親が、レコード会社にはいるには数百万の金がかかると言われたのを真に受けて」③我孫子武丸『0の殺人』(一九九)「三十近くも年の離れた男のプロポーズを真に受けるほど姉さんは馬鹿じゃないよ」④姉小路祐「合併裏頭取』(三〇二)「太平洋銀行時代の私は、バカでした。上司の言うことを真に受けてしまって」 外国語 英語では take something seriously まあ 意味間近に見たり体験した 目の当たりにする りする。用法文型「ダレ ダレがダレナニを目の当たりにする」 用例①津本陽『深重の海』(九八)「彼がはじめて鯨を目のあたりにしたのは八歳の春であった」②東野圭吾『学生街の殺人』(九七)「彼女の死を目のあたりにし、涙まで流したにもかかわらず」③朝日新聞(三〇四・七・三朝)「経済不況で賃金は上がらず、リストラも目の当たりにする」④龍一京『交番』(三〇四)「人の喜びや悲しみを目の当たりに出来る」 外国語韓国語では「ふみみみ(目の前に)中かけ(対する)」 まゆくも 眉を曇らせる 意味心配で眉を寄せて浮かぬ顔を する。用法文型「ダレダレが眉 をくもらせる」。「眉をくもらす」とも言う。 用例夏目漱石『彼岸過迄』(一九三)「年寄の眉を曇らす ばかり のがただ情ない許で」 類句「反発を買う」「顰蹙を買う」「眉をひそめる」「眉を寄せる」 <419> まゆひそ 眉を聾める 意味眉のあたりに皺を寄せる意で、 心配事や他人の行為に対する嫌悪・不 快などで顔をしかめる。用法文型「ダレダレがナニ ナニに眉をひそめる」〔平安〕 用例①夏目漱石「道草」(二九五)「彼は眉を顰めながら 下女の振り落して行った針を取り上げた」②山崎豊子 「白い巨塔」(一九六三十五)「(略)たまにはよそさまのお嬢さ ま方のように、きれいに着飾って出かけていらっしゃ いよ、陰気くさくていけないわと眉を顰めるように云 い」③三浦哲郎『結婚』(一九六七)「またか、とトヨの方では 眉を顰める。みんなに罵られ、邪魔者扱いにされてい るのを哀れんで、いちど親切気をみせたのがいけなかっ た」④朝日新聞」(一九六○・三・一九朝)「レディーファースト の米国からやってきた婦人観光客がたまたまこの光景を 目撃し、「ソ連は何と野蛮な国か」とマユをひそめた」⑤ 「朝日新聞」(三〇四・九・五朝)「マナーが悪いと眉をひそめる 世間にケンカを売る気合いに衰えはない」 *ひんしゅく * 類句「反発を買う」「顰蹙を買う」「眉をくもらせる」「眉 類句反発を買う「顰蹙を買う」眉をくもらせる「眉 を寄せる」 まんいち意味万の中の一つ、つまり非常に低い確 万が一 率で何かが起こった場合を仮定して用いら れる。多くは好ましくないことに言う。万一。用法 文型「万が一のナニナニ」「万が一に~する」「万が一を ~する」「万が一~したら」「万が一~しても」「平安 用例①【朝日新聞】(一九九・七・二朝)「なにかいいことをやろうとしても『万が一の事故の場合の責任は』となんくせをつけられ」②佐野洋『推理小説実習』(一九九)「仮りに万が一、柳井が、川辺のアリバイ証言は嘘だったと認めたとしても」③龍一京『交番』(三〇四)「患者の中には、病に絶望した親子が無理心中を計ったという例もある。万が一にも、そんなことがあってはならない」④朝日新聞(三〇四・二〇・一五夕)「特に高齢者核家族で多いのは、先に介護が必要になった夫のことが急務になって介護計画を立て、元気な妻の万が一を視野に入れなかったために『こんなはずじゃなかった』となるケースです」 外国語 英語では if by some chance 意味心配や不安などのた め、一晩中眠れないで起き 用法文型「ダレダレがま まんじりともしない ている様子。一睡もせず。 <420> んじりともせず~する 用例①夏目漱石『行人』(二九三)「けれども室の入口で嫂と相並んで立ちながら、昨夕まんじりともしなかったと自白しているような彼の赤くて鋭い眼つきを見た時は、少し驚かされた」②有島武郎『或る女』(一九一九)「葉子はふらふらと船にゆり上げゆり下げられながら、まんじりともせずに、黒い波の峰と波の谷とがかわるがわる目の前に現われるのを見つめていた」③鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七)「一晩中、これまた初めて乗った国際線の飛行機の中で、前途の不安におびえながら、まんじりともせず」 外国語 英語では spend a sleepless night まんじ 意味弓を十分引いて、そのままの姿勢 満を持す を保つ意から転じて、十分に準備を整え て、機会が来るのを待つ。出典は中国の古典『史記』。 用法文型「ダレダレが満を持してする」 がかかりそう」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「Lディスクはエンパイアが満を持して放った世紀の新商品だった」④朝日新聞(三〇四・二・三朝)「その二人が、満を持して挑むのがロック・ミュージカル『SHIROH』です」 用例①源氏鶏太『颱風さん』(一五二)「満を持しな がら虎視眈々というところですか?』②『朝日新聞』 (一九八五・三朝)「連休前半に出控えた家族連れらが、満を 持したように遠出をはじめたらしく、三日はさらに拍車 <421> * み * ミイラ取りがミイラになる に行った本人自身が 帰ってこなくなってしまう。また相手を取り込みに、ま た説得しに行った人が逆に相手に取り込まれてしまう。 用法単独でも用いられるが、用例②④のように修飾句 としてもよく用いられる。〔江戸〕 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(八吉)「此暖 団に長く在やアミイラ取がミイラに成様な者で仕舞に やア黒ン坊に成だろう」②海音寺潮五郎『西郷と大久保』 (一九三)「久光はミイラとりがミイラになるおそれがある とて、許さない」③源氏鶏太『三等重役』(九五一五三)「浦 島さんはここで落城しては、まさにミイラ取りがミイ ラになるも同然と」④『朝日新聞』(九一七・一朝)「こう した『既得利益者』を味方にすることが、ミイラ取りが ミイラになる危険性をかかえていることも見逃せない」 ⑤高杉良『首魁の宴』(九九八)「スギリョーと会ってきた よ『ミイラ取りがミイラになったなんてことはないんでしょうね』 みえき 意味役者が舞台である行動や感情の 見得を切る 高ぶりなどを観客に示すため、静止し て大きなポーズをとることから転じて、相手に対して少 し偉そうに、または反発してやる気、自信のある言動を する。用法文型「ダレダレが見得を切る」「江戸」 用例①源氏鶏太『颱風さん』(二五二)「冗談じゃアない。誰が慰謝料なんか払うもんかね。こないだは酒を飲んでたんで不覚をとったが、こんどは負けないよ。おお、ぜったいに負けるもんか。』と、武田は見えを切ってぐっと酒を飲んだ」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「私が思うには、いま新生会や軍部をむこうにまわして真向から見得を切るようなことは避けたいと思っている」③朝日新聞』(二九二・二・三六朝)「首相らは『身近な行政は地方へ』『中央は企画官庁に脱皮』とミエを切っていたが」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三)「イワさんは見得を切るようなかっこをして、ドンと胸を叩いてよろけた」⑤高杉良『人事権!』(一九三)「こんなえらそうに見得を切って大丈夫だろうかと」 <422> 類句「大見得を切る」 みえは 意味人によく見られようと、うわべ 見栄を張る を飾ったり外見を取り繕ったりする。 用法文型「ダレダレが見栄を張る」「見栄を張って~す る」。否定形がある。 用例五木寛之『風に吹かれて』(二九)「見栄をはらず、 卑屈にならず、しかも要求することは堂々と要求する」 外国語英語では put up a (good) front みが 磨きが掛かる 意味技術・芸・能力・才能などが 習練や経験を重ねて研ぎ澄まされ、 さらにすぐれたものになる。用法文型「ダレダレは ナニナニに磨きがかかる」 用例①我孫子武丸『0の殺人』(九九)佐々木はそう うそぶく。もともと何でも斜に構えたがる男だったが、 公安に配属されてさらに磨きがかかったようだった」② 「芸に磨きがかかる」 磨きを掛ける 意味技術・芸・能力・才能などを 習練や経験を重ねて研ぎ澄ませ、さ らにすぐれたものにする。用法文型「ダレダレがナ ニナニに磨きをかける」。命令・意志表現は可能。受身 表現も多く使われる。(江戸) 用例①有島武郎『カインの末裔』(二九七)「その娘は 二、三年前から函館に出て松川の家に奉公していたの だ。父に似て細面の彼女は函館の生活に磨きをかけられ て、この辺では際立って垢抜けがしていた」②有島武郎 『或る女』(二九九)「木部の愛情は骨にしみるほど知り抜き ながら、鈍っていた葉子の批判力はまた磨きをかけられ た」 みはい 意味勉学や仕事などに集中して一生懸 身が入る 命取り組む。否定形「身が入らない」は ほかに気を取られることがあって、一生懸命になれない 意。用法文型「ダレダレは十二十二に身が入る」。否 定形で用いられることが多い。 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「試験が近づいていたので、悠一は経済学にかじりついていたが、昨年の試験に比べて、身の入らないことは呆れるばかりであった」②半村良『どぶどろ』(一九七)「そうなれば欲が出て、商売にも本気で身が入り、西海屋はビクともしなくなっ <423> てしまったんですよ」③高杉良『人事権!』(一九三)「案外 わたしがいないほうが勉強に身が入るなんて言い出すか もしれないわよ」④『朝日新聞』(三〇四・九・一九朝)「朝食に ついては、『とらないと午前中にボーっとして学業に身 が入らない』 みひし 意味自分に課せられた役目や 身が引き締まる 使命などの重大さを知り、緊張 する。用法文型「ダレダレは身が引き締まる」「ダレ ダレは身が引き締まる思い」。他動詞形は「身を引き締 める」 用例①「朝日新聞」(三〇四·八·七朝)「厳島神社での宮島 狂言は、演者として身の引き締まる舞台。波や風、ふ いに響く予想の出来ない音など自然の中にあって、それ を味方に引き込んでいく力が必要です」②「朝日新聞」 (三〇四·二·二六夕)「久しぶりの定席は、懐かしく、身が引 き締まる思い」 外国語 英語では have a sobering effect on 意味しなければならないことがあ りすぎて、体力が続かない。健康が 維持できない。 用法 文型 「ダレダレは(の)身が持た ない」 用例筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)どちら かにはっきり決めてやって貰わないとご亭主の身がもた ない」 みぎひだり 意味(1)手に入ったものが自分のものに 右から左 ならず、そのまま出ていって他人の手に 渡ってしまうさま。(2)欲しいものが直ちに、簡単に手に 入るさま。(3)その場その場でうまく処理できるさま。 用法文型「ダレナニが右から左に(へ)~する」(江戸) 用例(1)①森鴎外「高瀬舟」(二九六)「喜助は爲事をして 給料を取っても、右から左へ人手に渡して亡くしてしま うと云った」②太宰治「ヴィヨンの妻」(九四七)「売り上げ の金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んでしまわなけれ ばならないんです」②③島崎藤村「夜明け前」(九九九九九九 <424> 村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「あなたは持っていなくても、お金持ちのお父様に言えば右から左に払ってくれるわよ」(3)⑥「山のような仕事も右から左にやってのける」 類句「左から右に」とも言う。 みぎ でもの 右に出る者がない 意味 古代中国で右が上席で あったことから、ある事柄に 関して、その人よりも優れた者はいない。その人が一番 である。用法文型「~にかけてはダレダレの右に出 る者がない」「~でダレダレの右に出る者がない」「~た らダレダレの右に出る者がない」。「~」に比べる事柄・ 動作に関する言葉が来る。「右に出る者がいない」とも言 う。江戸 用例①津本陽『深重の海』(一九六)「困難な手さばきを要する大剣の技にかけては玉太夫の右に出る者はいない」②『朝日新聞』(一九六・二・八朝)「もともと力と技は現在の力士の中で右に出る者はいない」③『朝日新聞』(一九六・二・四朝)「数の多さで北の湖の右に出る者はいない」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「通称向い獅子のイワさんである。(略)向い獅子を彫らせたらこの男の 右に出る者はいない」 類句「並ぶ者がない」 外国語 英語では 「無出其右」 come close to someone *中国語では成句「無出其右」 (その右に出る者がない) みき 意味ある事柄についてもうだ 見切りを付ける めだとあきらめ、見捨てる。見 限る。用法文型「ダレダレはダレナニに見切りをつ ける」。命令・意志表現は可能。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鵜飼医学部長は、あなたが来年、定年退官だから、そろそろ見切りをつけて、則内病院長に近付こうとしていらっしゃるのかもしれませんわ」②『朝日新聞』(三〇四・九・二七夕)「石川県出身の男性(65)は、体力のいる空き缶拾いに見切りをつけ」③『朝日新聞』(三〇四・二・四夕)「だれもが金庫代わりと割り切って預金を続けていると思い込んでいた。しかし、メガバンクですら経営が危うくなる時代である。見切りをつけて、肌身離さず持とうという人があちこちにいるのだろう」 *さじ 「顔句」「お手上ず」「匙を投げる」 <425> みこしあ 意味「みこし」に「腰」をかけて、 神輿を上げる (1)座っていた人が腰を上げる。(2)物 事にとりかかる。 用法文型(1)「ダレダレがみこしを 上げる」(2)「ダレダレがナニナニにみこしを上げる」「江 戸 (2)②「党本部が改革にみこしを上げた」 (1)①「やっと客がみこしを上げて帰ってくれる」 類句「お神輿をあげる」とも言う。「重い腰を上げる」 「腰を上げる」「尻を上げる」 意味「みこし」に「腰」をかけて、 どっしり座り込んで長居する。 用法文型「ダレダレがみこしを据える」(江戸) 用例「田舎の伯父さんがやって来て、みこしを据えて 動こうとしない」 類句「腰を据える」「尻を据える」 水入らず 意味他人が入り込まず親しい者だけで 親密にする様子。用法文型「ダレダ レが水入らずで(に~する」「江戸」 用例①有島武郎『生れ出づる悩み』(一九一八)「水入らず の家族五人が、囲炉裏の火にまっかに顔を照らし合い ながらさし向かいになる」②有島武郎『或る女』(一九一九) 「三人は楽しく昼飯の卓についた。そして夕方まで水 入らずにゆっくり暮らした」③石川達三『青春の蹉跌』 (一九六八「おそらくは不幸の中で死んだ母と娘と、この部 屋の中で、二人きりの水入らずで暮したかった」 外国語 英語では all by oneself 見ず知らずの 意味全く知らない他人というこ とを強調する言い方。用法文型 「見ず知らずのダレダレ」。後ろに来る言葉を修飾する。 「室町」 用例①佐野洋『推理小説実習』(一九九)「マンションでのひとり住いなら、当然、訪問者に対しては気を使うはずであり、見ず知らずの者に、ドアを開けるとは考えられない」②『朝日新聞』(一九〇・ニ・三朝)「見ず知らずの党員が出現するのはうれしいが、こういう人たちが本当に党活動の輪に入ってくるとは思えません」③斎藤栄『日美子の公園探偵』(三〇二)「見ず知らずの女達に殺されたのが」④『朝日新聞』(三〇四・九・三夕)「顧問の米田忠雄教諭(四)は『見ず知らずの人から応援のメールが届く。 <426> 水と油 意味水と油が混ざり合わないように、お 互いが反発しあい、決してうまく調和しな いたとえ。用法文型「ダレナニとダレナニは水と油 だ」「ダレナニとダレナニは水と油のよう」(江戸 用例①夏目漱石『吾輩は猫である』(九五)「水と油の ように夫婦の間には截然たるしきりがあって」②内田康 夫『三州吉良殺人事件』(九二)「お祖父さんと彼らとは 性格的には水と油みたいな関係だったのですか?」③高 杉良『首魁の宴』(九八)「主幹と山下は水と油ですから ねえ」④朝日新聞(三〇四・三・三朝)「身辺雑記と大長編 水と油のようだが、文章がいいからつい読まされてしま ううちに」 類句「犬猿の仲」氷炭相容れず」外国語英語では like oil and water 水に流す 意味相手の過去の失敗や間違い、いざ こざ、不愉快なことなどをなかったもの とする。用法文型「ダレナニはナニナニを水に流す」。 記憶としては残っているが、意図的に消し去る意なので、 命令や意志表現は可能。用例⑤のように「水に流せる」 と可能動詞形がある。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「もし又、お怒りになったんなら、あやまりますから、水に流しておくんなさい」②半村良『どぶどろ』(一九七)「たしかに時という奴は、どんないざこざもやがて水に流してくれるさ」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「今夜ですべて水に流すからな」④吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四)「そんなおちゃらけた弁解で、自分がやったことを水に流そうとしたって、それじゃ済まないわ」⑤朝日新聞(三〇四・七・五夕)「日本側が『過去は水に流せなくても、未来は私たちが変える』と言えば」 類句「水にする」とも言う。 外国語英語では for- give and forget みずあわ 水の泡 意味今まで苦労してやってきたこと、努 力がすべて無駄になってしまうこと。 用法文型「十二十二が水の泡」「十二十二が水の泡に となる」(江戸 用例①石川淳『葦手』(一九五)「これじゃ今までの苦労 <427> が水の泡じゃないの」②三島由紀夫『愛の渇き』(九五〇) 「そんなことをしたら、何もかも水の泡になってしまっ てよ」③司馬遼太郎『梟の城』(九五九)「ここで女に騒 がれては、折角の仕事も水の泡になる」④朝日新聞』 (九〇・三・三王朝)「これまでの各国の努力が水の泡になる だけでなく、最悪の場合には『海の無法時代』が出現し ないとも限らない」⑤高杉良『会社蘇生』(九六七)「万一、 西北グループからスポンサーになることを断られたら、 いままでの努力は水の泡になりかねない」 水もしたたる美しさだった」 類句「水泡に帰す」「棒に振る」「無駄骨を折る」「元の 木阿弥」「元も子もない」「外国語」英語では go down the drain 水も滴る 意味若々しく色香のある魅力的な女性 または男性の美しさの形容。用法文 型「水もしたたるダレナニ」「水もしたたるよう」。「水の したたる」とも言う。(江戸) 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』エロ・ショーの 巻(二九八)「水も滴るとか言いますが、全くその通りで、 上品な中にも何とも言えない色気があって」②『朝日新 聞』(二九一八・三朝)「梅蘭芳はいくつになっても舞台姿は 水も漏らさぬ 意味(1)計画・準備などにおいて、少しの手抜かりもなく完璧なさま、 特に警戒が厳重なさまに用いることが多い。(2)人間関 係、特に男女間について関係が緊密なさま。用法文 型「水も漏らさぬ十二十二」。後ろの言葉を修飾する。 用例(1)①江戸川乱歩『黄金仮面』(九三)「波越氏と二人の部下が、三方から、ジロジロとするどい疑惑の視線をあびせかけるという、水ももらさぬ警戒ぶりだ」②朝日新聞(九一七・言朝)「沿道の群衆一人ずつに身元を確認する水ももらさぬ警備となった」③木谷恭介「みちのく滝桜殺人事件」(九六)「水も洩らさぬ捜査網を敷いた警察」(2)④三島由紀夫『禁色』(九五一五)「この他所の女と自分の良人との、水も洩らさぬ連繋は何事なのか」⑤森村誠一『誇りある被害者』(九六)「熟練した夫婦や恋人のように水も漏らさぬような一体感を達成していながら」 類句 (1) 「蟻の這い出る隙もない」 外国語 英語では airtight *中国語では成句「滴水不漏」(一滴の水も漏れ ない) <428> みずあ 意味ボートレースや水泳などで相手 水を開ける に差をつけることから転じて、能力・ 順位・業績などの点で、競争相手との間に差をつけて 勝っている状態。用法文型「ダレナニがダレナニに 水をあける」。「かなり」「大きく」など、程度のはなはだ しい意を表す修飾語を伴って用いられることが多い。用 例②③のように受身形が可能。 用例①「朝日新聞」(一九八〇・四・三朝)「トップの日本マ クドナルド(藤田田社長)とロッテリア(重光武雄社長) が三位以下にかなり水をあけている」②「朝日新聞」 (一九一・二〇・三六朝)「パがセに人気で大きく水をあけられた のは、もとはといえば、川上元監督に率いられた巨人に 九連敗と大敗したからだ」③「朝日新聞」(一九三・三・三朝) 「大陸間核ミサイルや潜水艦核ミサイルなど、戦略兵器 の分野で、米国に大きく水をあけられていたのをやっと 追いついたと思ったら」 外国語 英語では open up a lead (over) 水を打ったよう 意味大勢の人がいながら、し いんと静まり返っているさま。 用法文型「ダレナニが水を打ったように静まり返る」 「水を打ったような静けさ」 用例①江戸川乱歩「妖虫」(一九三一言)「誰も物言う者はなかった。水を打ったようにシーンとしずまり返っている」②山崎豊子「白い巨塔」(一九三一五)「水を打ったような静けさの中で、鵜飼の太い声が響き」③丸谷オー「男のポケット」(一九九)「聴衆は全員、水を打ったやうに静まり返って聞き惚れ」④東野圭吾「卒業」(一九六)「水を打ったようなしずけさの中、蹲踞して立ち上がる」⑤内田康夫「イーハトーブの幽霊」(一九九)「会場は水を打ったように静まり返り」 外国語 英語では so quiet you could hear a pin drop 水を差す 意味関係がうまくいっている時に、ま た気運が高まっている時に、それを邪魔 するような言動をする。その結果、関係などが悪くなる 用法文型「ダレナニがダレナニに水を差す」「水を差す ようなナニナニ」。用例④⑤のように受身形は可能。「江 戸 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)『暗い SFばかり書いて、ピンクの未来ブームに水をさす』と いわれたSFが」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五) <429> 「せっかくのご苦労に水を差すようであるが、記事に挿入された八葉の写真を拝見するかぎり、整形後よりも整形をなさる前の方がはるかに美しかった」③『朝日新聞』(一九〇・九・八朝)「死刑判決が日本世論の対韓批判をかきたて、せっかくの修復ムードに水を差すことになりはしまいか」④高杉良『首魁の宴』(一九八)「スギリヨーは、旅行をだしにして、治子を懐柔しようとしているのだ。それに水を差されたら、頭に血をのぼらせるだろう」⑤田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「みんな楽しみで釣りしちょるというのに、そう水を差されても」 類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」「外国語」英語では throw cold water on *中国語では慣用句「泼冷水」(水をかける。「冷水」は水) みずむ 意味相手の様子を探るため、また、 水を向ける こちらが知りたい、尋ねたいことを相 手が話し始めるようにするために何かを話しかけたり質 問したりする。用法文型「ダレダレがダレダレに~ と水を向ける」。用例③⑤のように受身形は可能。江戸 用例①「朝日新聞」(一九○四三朝)「好投した時には、 打線が打ってくれないね』と水を向けると、『だが、逆転本墨打を打たれたのは僕ですから』②高杉良『指名解雇』(一九九七)『(略)部長からなにか聞いてる?』佐々木がさりげなく水を向けてきた」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)『たしか、小林さんは金野さんに会って……こられたのでしたね?』と言った。とつぜん水を向けられて、古林は慌てたが」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「うまく水を向けて、平井と仕手筋絡みを喋らせることはできないか」⑤朝日新聞(三〇四・二・三六朝)「白星を上積み。三賞受賞が濃厚だねと水を向けられ、『そう?いつ話し合うの?』。選考方法に興味津々」 類句「探りを入れる」「腹を探る」 みぜにき 意味自分の金で支払う。本来は自分 身銭を切る が出す必要のない金だが、それを払う ことで何らかのメリットや満足を得ると判断し、自分か ら進んでそうする場合に使う。用法文型「ダレダレ が身銭を切ってする」 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(九五)「わたしなんか、ロンドンの気象庁に知人をつくりましてね、身銭を切って人形を買って、クリスマス・プレゼントに送ったりし <430> てるんです」②藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八 「大体、金を払って(身銭を切って)観た作品に、出来が 悪いといって、『木戸銭返せエ』といった客が殺到したの が上方であったわけだ」③『朝日新聞』(一九七九・二〇三朝)「ど うしても商売を決めようとする時は、個人が身銭を切っ て営業活動することもある」④高杉良『指名解雇』(一九七七 「メーカーの採用担当課長風情に身銭を切って奢ってく れる教授は例外中の例外だ」 類句「自腹を切る」「懐を痛める」 味噌も糞も一緒 みそくそいつしよ 意味本来性質や価値が全く異 なる物事をその違いを無視して ひとまとめに扱うこと。善悪・優劣などを区別せず、同 一視すること。用法文型「ダレダレは味噌も糞も 一緒にする」「味噌も糞も一緒にしたナニナニ」 用例「監督のみそもくそも一緒にした選手の扱いは我 慢がならなかった」 味噌を付ける 意味失敗して、恥をかき面目を 失ったり信用を失ったりする。 用法文型「ダレダレが十二十二で味噌をつける」「江 用例①角田喜久雄『高木家の惨劇』(九七)「これで、貴方はミソをつけるでしょう。貴方のやり方では、絶対に犯人はあがりません」②山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「彼は、何でも以前に『慢性胃炎の外科的治療の研究』でみそをつけ、学会の評判はよくないとかいうことを聞き及んだのですが」③城山三郎『毎日が日曜日』(九七五)「沖自身がトップの肌にふれて、いろいろ教わったことはあったが、トップのおぼえがよくなるというようなことは、なかった。大文字の一件では、むしろ、ミソをつけさえした」 みちくさ く 意味まっすぐに帰らないで、途中で 道草を食う 寄り道をしたりして時間を費やす。あ ることの途中で別のことをし始め時間を費やす。用法 文型「ダレダレが道草を食う」。用例①「長い」のように 「道草」を修飾することが可能。①のように「道草を食べ る」はまれ。〔平安〕 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(八九七九八)「随分先から長 い道草を食べましたから」②檀一雄『青春放浪』(九五六 「姉さん。ほら、こんなところで道草を食っていらっ <431> しゃる」③佐藤春夫『わんぱく時代』(一五八)「彼等はこうして道草を食いながら学校に近づきつつ」④津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九九)「京都の市街地で道草を食うことは少なかった」⑤「朝日新聞」(三〇四・三・三朝)「子どもが下校途中に道草を食ったことや」 類句「油を売る」 みあま 身に余る 意味本人の身分・地位・価値・能力な どにふさわしい程度を越えていて、もっ たいないほどである。過分である。ほめ言葉や表彰に対 してお礼を述べる際によく使われる。用法文型「ナ ニナニが(ダレナニの)身に余る」「身に余るナニナニ」。 後ろの言葉を修飾することが多い。「平安」 用例①芥川龍之介『邪宗門』(一九一八)「その代りまた、詩歌管絃の道に長じてさえ居りますれば、無位無官の侍でも、身に余るような御褒美を受けた事がございます」②太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「『身に余る面目。義盛づれの老骨を、』と言いかけて」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「只今は、身にあまる餞のお言葉を戴き、ただただ恐縮致しております」④「身に余る光栄です」 外国語英語では an undeserved honor 身に覚えがある 身に覚えがある 意味あることをしたという記 憶がある。主体にとって良くな いことについて使われることが多い。思い当たる節があ る。用法文型「ダレダレは身に覚えがある」(江戸) 用例①丸谷オー『男のポケット』(一九七九)「たいてい、 一生懸命頑張って書いたあげく、それを手にして訪ねて 来た人から、ぶつぶつ文句を言はれることになる。誰だ つて身に覚えがあるでせう」②梓林太郎『立山雷鳥沢殺 人事件』(一九九九)「恨まれているとしたら、彼女には身に 覚えがあるような気がするのだが」 みおぼ 身に覚えがない 意味あることをしたという記 憶がない。主体にとって良くな いことについて使われることが多い。思い当たる節がな い。用法文型「ダレダレは身に覚えがない」 ①佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「全然、身に覚えがないことで、せっかくの就職がだめになったりしたら」②龍一京『交番』(三〇四)「身に覚えがねえとは言わせねえぜ。汚ねえことしやがるじゃねえか」③朝日新聞(三〇四・二〇・二〇朝)「これら40項目のどれにも身に覚えがないとシラを切れる人は、おそらく『頭がいい人』ではあ <432> るまい みし 意味恐ろしさやありがたさや実状な 身に染みる どを自分の身体を通して実感する、深 く心に感じる。「身に沁みる」とも書く。用法文型「ナ ニナニが身にしみる」「ダレダレがナニナニを身にしみ てする」「平安」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一吾)「恋をするとわれわれは人間がこうも無防禦なものであるかが身にしみて今までそれと知らずに暮してきた日常生活に戦慄するのである」②野間宏『真空地帯』(一九五三)「古いすでに体験のある兵隊はその恐ろしさを十分身にしみて感じていた」③丸谷オー『男のポケット』(一九七九)「殊に睡眠に適してるたのは秋の終りのころで、あれはやはり、もののあはれが身にしみて、どうしても眠るしかなかったのだらうか」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「いまその恐ろしさが身に沁みてわかりましたわ」⑤朝日新聞(三〇四・九・二タ)「森自身、かつて戦地慰問先の将校と淡い思い出があり、ひとしお身にしみる作品なのだ」 類句「骨身に染みる」 みっ 意味ある技術・能力・才能・態度など 身に付く が習練して、あるいは自然に自分のもの になる。用法文型「ナニナニが(ダレダレの)身につ く」(江戸) 用例①三浦哲郎『結婚』(二六七)「口では拒むようなことをいいながら躯を押しつけてくる媚が身についている女だろうか」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(二九三)「こういうひとり遊びによって想像力、創造力、あるいはまた人を楽しませることのできる能力が身についたのだとぼくは思っているから」③丸谷オ一『男のポケット』(一九九)「さふいふ勉強をしてるうちに、帝王学にも似た主人学が身についてくるのだ」④朝日新聞(三〇四・七・七朝)「本当にいいものを自分で選べる『目利き』になれ。ブランドを身につけるのではなく、ブランドが身につく人間になろう」 外国語韓国語では「呂の(身に)明け(染みる)」 身に付ける 意味ある技術・能力・才能・態度などを自分のものにする、備える。 用法文型「ダレダレが十二十二を身につける」。命令・ 意志表現は可能。 <433> 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「康子は、悠一の旅のあいだに、新たに住まなければならなくなった世界の処世術を身に着けた」②黒岩重吾『背徳のメス』(一九六〇)「洗練された都会の雰囲気を最高度に身につけている真理子を、植は尊敬もし、愛していた」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「この第二次活字世代の連中も、そういう能力を身につけているのかもしれない」「外国語韓国語では「呂刈(身に)の引け(慣らす)」 み 身につまされる 意味他人の失敗・不幸・苦し みなど良くないことを、まるで 自分のことであるかのように共感してしみじみと受けと めてしまう。用法文型「ダレダレはナニナニが身に つまされる」。受身形で用いられる。〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九九五・六朝)不安を訴えた四月二十五日付投稿に『人ごとではない』『身につまされる』とおたよりをいただいた』②内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「この中で浅見は、『アラユルコトヲジブンヲカンジヨウニ入レズニ』という部分と、『ミンナニデクノボートヨバレ』という部分が、なんとなく身につまされるような気がしてならない』③『朝日新聞』(三〇四・九三 夕「綱渡りのような資金繰りは、住宅ローンを組んだ ことのある読者ならずとも身につまされるに違いない」 外国語英語ではhit close to home 身になる 意味相手の立場や境遇に自分をおいて みる。用法文型「ダレダレがダレダ の身になって~する」。命令・意志表現は可能。 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)「お母さんの身になってあげたら、お父さんだってそんな無責任なおっしゃりかたは出来ないと思うんだけど」②『朝日新聞』(三〇四・二・一朝)「親切で人柄もよく、患者の身になって治療してくれると大評判」③「少しはこっちの身にもなってくれよ」 類句「立場に立つ」 みおどころ 意味人に迷惑をかけたり恥 身の置き所がない ずかしかったりして、その場 にいられない。用法文型「ダレダレは身の置き所が ない」。「身の置き所のない」とも言う。「平安」 用例①菊池寛『勲章を貰う話』(九八「彼は、再び、 深い悔恨に浸っていた。どうしても、この世に身の置 <434> き所のないような、深い深い悔恨に浸っていた」②若杉 鳥子『古鏡』(一九三八)「お房さんのその妹の最後の言葉が 私に始めて、全く身の置き所のない彼女であったという ことを、ほんとに知らしめた」 外国語中国語では成句「无地自容」(恥ずかしくて身の置き所がない)*韓国語では「呂旨叶(身の置き所が)」 みけ 意味恐怖心、気味の悪さなど 身の毛がよだつ のために、体中の毛が立つよう なぞっとするさま。用法文型「身の毛がよだつ(よう な)ナニナニ」。ナニナニは「思い」など。修飾句として 用いられることが多い。「身の毛もよだつ」とも言う。「鎌 倉 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「実に今思いだしても身の毛もよだつ怖ろしいことを考えついた」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一五三)「前に立っただけで、もう、身の毛がよだつような、実に、怖ろしい社長であった」③獅子文六『青春怪談』(一九五四)「何という、怖ろしい世の中になったかと、身の毛がヨダつ思いがするのである」④朝日新聞』(一九六○・七・三六朝)「『戦車を知ろう』とか、 「自衛隊員と語る夕べ」『武器、兵器の解説』などの案が あるというのを本紙で読み、身の毛がよだつ思いをしま した」⑤岩城捷介『免職警官』(三〇三)「リカルドは無表情 で女の片耳を削ぎ、乳首を切り落とし、血まみれでのた うち回る女の腹にナイフを突き立て、そのまま陰部まで 切り裂いた。その身の毛もよだつ光景が脳裏に焼き付い ている」 類句「肝を冷やす」「背筋が凍る」「背筋が寒くなる」「背筋に寒いものが走る」「鳥肌が立つ」「外国語」英語では one's hair stands on end *韓国語では「呂」(身が) 児かけ(ぞくぞくする) みみいた 意味相手の言うことが自分の欠点や弱 耳が痛い 点を指摘していて、聞いているのがつら い。用法文型「ダレダレは耳が痛い」「耳が痛いナニ ナニ」「室町」 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九三三六)『(略)醜い ものね、あんなお婆さんが若い燕なんかもっているの は。私熟々厭だと思いますわ。庸三は苦笑して、『耳が 痛いね。』②『朝日新聞』(一九四・一・二朝)『耳の痛い説教 で、たしかに日本の経済という巨人は長い箸を使って、 <435> せっせと自分の口だけに運んでいたので』③朝日新聞 (二九○三三朝)「今春、念願の高校へ入学する皆さんへ 耳の痛いことを申しますからよく聞いて下さい」④朝 日新聞』(三〇四九・六夕)「(略)着たいスーツのためにや せたっていう人の話聞くと、そうでなきゃって」耳が痛 い」 外国語 英語では make one's ears burn *韓国語では 「ヨナ(耳が)아프」(痛い)」 みみこ 意味音楽やいい話を聞く経験を積ん 耳が肥える で、聞く力が高まり、その善し悪しを 識別する能力がすぐれる。用法文型「ダレダレは耳 が肥えている」(江戸) 用例「音楽家一家に生まれた彼女は耳が肥えている」 みみとお 耳が遠い 意味聴覚が鈍くて聞こえにくい。 用法文型ダレダレは耳が遠い室 町 用例①大岡昇平『俘虜記』(二卲八)「彼は附近海面で単 独に沈められた軽巡洋艦の砲手で耳が遠い」②山崎豊子 『白い巨塔』(一九三一六五)「さっきから、何度もお声をかけ ていますのに、退官なさると、そんなに急に耳まで遠く おなりになるのですか」③中上健次『鳳仙花』(一九〇)「そ の若い衆の父親は耳が遠いらしく二度三度ききかえし」 外国語英語ではbe hard of hearing *韓国語では 「孔外(耳が)望け(遠い)」 みみはや 意味噂や情報・ニュースなどを聞きつ 耳が早い けるのが早い。耳ざとい。用法文型 「ダレダレは耳が早い」。用例のように敬語形がある。室 町 用例小杉天外『魔風恋風』(九三)まア、お耳の速い には驚きましたねえ」 みみい 耳に入れる 意味(1)あることがらを聞く、聞き入 れる。(2)他人にある情報を伝える。 用法文型(1)「ダレダレが十二十二を耳に入れる」(2) 「ダレダレが十二十二をダレダレの耳に入れる」意志や 命令表現は可能。用例④のように「耳に」と「入れる」と の間に語句を挿入できる。⑤のように敬語形も可能。南 北朝 用例(1)①三島由紀夫『禁色』(一九五二—吾)「気丈な未亡 <436> 人は、周囲のすすめを耳にも入れずに、亡夫の位牌を護って、東京の家に踏みとどまった」②三浦哲郎『結婚』(二六七)「女はベッドで動けなくても、半日もすれば部屋の誰某のことはのこらずに耳に入れてしまうものらしい」②③野間宏『真空地帯』(二九五)「なぜこの俺はこのような事実をはっきりと知ったにもかかわらず、なおそれを木谷の耳に入れるのをおそれていたか」④瀬戸内晴美『女徳』(二九三)「たみの耳には出来るだけいれまいとしたけれど」⑤「うわさを先生のお耳に入れる」 類句(1)「小耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」 みみ 耳にする 意味聞く。音や言葉が自然に耳に入っ てくる。たまたま聞く。用法文型 ダレダレがナニナニを耳にする」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(二六〇)「同僚の医師は植の結婚話を耳にした時」②半村良『どぶどろ』(二九七)「世間の噂に詳しい小間物屋なら、とうにそういうことを耳にしているのだろうと思った」③佐野洋『推理小説実習』(二九九)「その尾行者のひとりが、たまたま、弁護士会館の入口で、土田が同じくらいの年配の弁護士と会 話を交わしているのを耳にしたのだった④朝日新聞 (一九0・九・三)「耳にしたこの言葉は、私の心に小さな道 しるべとなって残りました」⑤朝日新聞(一九0・二・三 朝)「欧米では、勉強は学校、人格形成は教会、しつけ は家庭が原則であるとよく耳にする」 類句「小耳に挟む」「耳に入れる」「耳に届く」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」 みみ 耳にたこができる 意味あることを何回も何回 もいやになるほど聞かされる。 うんざりするほど同じことを聞かされる。 用法文型 「ダレダレはナニナニを(ナニナニと)耳にタコができる ほど~する」。ナニナニには聞く内容が来る。「~する」 には「聞かされる」などが来る。〔江戸〕 用例①生方敏郎『明治大正見聞史』(二九六)「隣人を愛 せよというのは(略)基督教国の人々は、日曜学校へ通 う時分から耳にたこが出来るほど聞かされている筈だ」 ②石坂洋次郎『石中先生行状記』馬車物語の巻(二九七)「日 本はこれから若い者が先立ちで、民主主義つものに変る という話を、耳さタコができるほど聞かされてな」③井 上ひさし『日本亭主図鑑』(一九五)「男女は平等であり同 <437> 権である、ということを、わたしたちはこれまで口が すっぱくなるほど言い、また、耳にたこができるほど聞 いてきた」④『朝日新聞』(二九一・四・一九朝)「たばこは胃腸 心臓、肺などのためによくないと、耳にタコができるほ ど聞いている」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(三〇〇)「そ の話は、僕らも水飼さんからそれこそ耳にタコができる ほど聞かされていました」 類句「耳につく」外国語英語では be sick and tired of hearing *韓国語では「귀에(耳に)吴이(たこが)や하다(できる)」 みみっ 意味(1)ある音・声が精神に刺激を与え 耳に付く るように聞こえて来る。それが耳に残り 気になる、忘れられない。(2)同じことを何度も聞かされ てあきる。用法文型「ナニナニが耳につく」(平安) 用例(1)①松本清張『点と線』(二五)「前に腰かけた 二人が、東北弁でうるさく話しあっていたので、それが 耳について神経が休まらなかったのだ」②辻邦生「北の 岬」(二九)「おれが目ざめたのは飛行機の爆音がたえず 耳についていて離れなかったからである」③津本陽深 重の海」(二九)「風が落ち低い掛声と櫓のきしみが耳に ついてきた④安岡章太郎『海辺の光景』(九七)「まるで 嵐の中で草木のザワメキが不思議な微妙さで耳につくよ うに聞こえてくるのだ」②⑤「自慢話も耳についてきた」 類句②「耳にたこができる」 耳に届くみみとど 意味ある距離を隔てて音声が聞こえる。 また、ある情報などが伝わってくる。 用法文型「ナニナニがダレダレの耳に届く」。否定形 がある。 用例①三島由紀夫『禁色』(二五二五三)「やがて接岸作業 の鋭い呼笛が、夜気をつんざいて、不安な鳥の叫びのよ うに彼女の耳に届いた」②福永武彦『忘却の河』(二六四) 「兄や姉も多かったのだが、生きているか死んでいるか、 要するに私が故郷を離れてから後の消息は私の耳には届 かなかったし」③半村良『どぶどろ』(二九七)「そういう噂 は小六と宇三郎の耳には届かなかったようである」④清 水一行『ITの踊り』(三〇〇四)「梶田は地声が太かったから メンバー全員の耳に届き、座が一瞬静かになった」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に入る」「耳に挟む」 「耳に触れる」 <438> みみはい 意味ある音・声が自然と聞こえてくる 耳に入る また、ある噂・情報などがこちらに伝わ る。「耳に入らない」と否定形で使うと、なんらかの原因 で聞こえない状態になっている意になる。用法文型 「ナニナニがダレダレの耳に入る」 用例①野間宏『真空地帯』(九五三)「曾田が木谷にすべてのことを話したということはきっと准尉の耳にはいってしまうにちがいないのだ」②山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「専らの噂?そんなことがどうしてお前たちの耳にまで入るのかね」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(九六三)「止める家族の声も、もうミヨ子の耳には入らない」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「秋葉は直接の交渉担当としては、指名されてもいなかったから、カルチャーとの会議には出なかったが、それでも交渉の経過は逐一耳に入ってきた」⑤朝日新聞(三〇四・九・六朝)「これは出ているタレントの責任ではまたくないのだが、「うざい」とか『しつこい』とか、耳に入ってくるのはそんな評判ばかりだ」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に挟む」 「耳に触れる」外国語韓国語では「(耳に)言 ○(入る) 耳に挟む 意味聞こうという気もなくちらっと ー抜む もれ聞く。ふと耳に入る。用法文型 「ダレダレがナニナニを耳にはさむ」「安土桃山」 用例大岡昇平「俘虜記」(一盜)「学生の頃野尻湖で耳 に挟んだ土地の人の話を憶えていた」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」 「耳に触れる」 みみうたが 意味自分が予想もしなかったことを聞 耳を疑う いて信じられない。用法文型「ダレ ダレがナニナニに(自分の)耳を疑う」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「全く思いもかけない則内病院長夫人が指名されたのであった。自分の耳を疑う様に鵜飼夫人の方を見上げると」②三浦綾子「塩狩峠」(一九六八)「えっ?和倉さんが……」信夫は耳を疑った」③「YANASE LIFE」(三〇四・二一三月号)「温厚実直な国務長官として今も活躍する男の趣味がよもやサンデーメカニック、すなわち日曜自動車修理だったとは誰もが耳を疑う」④「朝日新聞」(三〇四・二〇三四朝)「上越新幹線の「とき」が脱線したとの報には、一瞬耳を疑った」 <439> みみか 意味相手の主張や意見・忠告などを 耳を貸す 聞いてやる。相談に乗る。用法文型 「ダレダレがダレナニに耳を貸す」。否定形で用いられる ことが多い。用例③のように命令形にすると、「今から 私の言うことをこっそりと聞く態勢になりなさい」という 意味になる。江戸 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「母の忠告にも康子の哀訴にも耳を貸さない」②開高健『裸の王様』(一五七)「いつもぼくは彼の悪口を聞きながして、まともには耳をかさないことにしていた」③半村良『どぶどろ』(一五七)「『そうそうおのぶさん、ちょっと耳をかして』平吉はそう言っておのぶさんに近寄ると、掌を扇にしてささやいた」④朝日新聞(一九七九・六・五朝)「もう一度、ちゃんとした先生に鑑定し直してほしい。そう何度訴えても、裁判官は耳を貸してくれなかった」⑤深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九三)「亜紀子さんはそんなあなたの言葉に耳を貸さなかったわけですね」 類句「耳を傾ける」 みみかたむ 意味相手が言っていることを謙虚に 耳を傾ける 聞こうとする。または聞こえてくる音 を注意してよく聞く。用法文型「ダレダレがナニナ ニに耳を傾ける」。ナニナニには「声」「意見」「主張」と いった言語活動を表す語が来る。命令・意志表現は可能 平安 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)「どうやら沼田はその工藤平助という医師の言い分に耳を傾けたらしい」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七)「二人は熱っぽい口調で意見を交し、随行員たちは緊張した表情で耳をかたむけた」③朝日新聞(一九一三三朝)「この動きは末端の組合員の声に耳を傾けない大労組幹部間の主導権争いではないか、との思いがしてならない」④朝日新聞(一九四九六朝)「世論の反対は大きかったのに、政府は耳を傾けなかった」 類句「聞き耳を立てる」「耳を貸す」「耳を凝らす」「耳を澄ます」「耳をそばだてる」「外国語韓国語では「孔 豊(耳を)フ(傾ける) みみす 耳を澄ます 意味ある音・声や人の話などに神経 を集中させて聞こうとする。用法 <440> 文型「ダレダレがナニナニに耳を澄ます」。命令・意志 表現は可能。「鎌倉」 用例①野間宏『真空地带』(一九五三)「木谷は両足は毛布のなかにつっこんだまま耳をすまして騒音のなかをつたわってくる彼らの話をきいたが」②福永武彦『忘却の河』(一九四)「彼は妻の母がお勝手でかたことやっている物音に耳を澄ませた」③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「梶田は地声が太かったから、メンバー全員の耳に届き、座が一瞬静かになった。だれもが耳を澄ませてさり気なく梶田をうかがっていた」④朝日新聞(三〇四・二〇三朝)「個室に入っては、洗面台に並んでは、隣に立つ女性たちの評判に耳を澄ます」 類句「聞き耳を立てる」「耳を傾ける」「耳を凝らす」 耳をそばだてる「耳を立てる」(野間宏『真空地帯』〈一九三二〉 ひとが自分の名を口にするのをきくほど恐ろしいことがあ ろうか。木谷はぎくっとして耳をたてたが」(外国語)韓 国語では「引言(耳を)皆司口(明るくする)」 みみそぼだ 耳を欲てる 意味ある音・声や人の話などを聞こ うとしてその方向に注意を集中させる。 用法文型「ダレダレがナニナニに耳をそばだてる」鎌 倉 用例①山崎豊子「続白い巨塔」(一九七六)「傍聴人は、 財前の過失がどの時点で下されるのか、耳を歓てた」② 津本陽「深重の海」(一九七八)「誰もが、往還を走る足音や 叫び声に、耳をそばだてていた」③内田康夫「博多殺人 事件」(一九九二)「聡子は「何なのよ」と迷惑そうに、しかし 興味は隠せずに、耳を歓てた」④「朝日新聞」(三〇四・九・二 朝)「さりげなく、こちらから名前を呼びかけてみたり 飼い主さんが話し掛けるのに耳をそばだてたり」 類句「聞き耳をたてる」「耳を澄ます」「耳を立てる」「耳を凝らす」「外国語」英語では prick up one's ears *韓国語では「ヂ를(耳を)ぞぐりぞぞ(そばだてる)」 みみそろ 耳を揃える 意味お金を必要なだけきっちり用意 する。用法文型「ダレダレが(ナニ 十二を)耳をそろえてする」。「する」は「返す」「払う」 などが来る。江戸 用例①坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「君たちに必要な三百万、耳をそろえようというのだが」②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七-六八)「ほんとに来月の五日までだけ待っておくれやす、必ず耳を揃えてお払い致します」③ <441> 森村誠一『誇りある被害者』(一九六)「だったら、おとな しく一億円、耳を揃えて払うのね。それできれいさっぱ りあなたと別れてあげるわ」 外国語(英語)は pay back something in a lump sum みふた 意味言動が何の小細工もなく、露 身も蓋もない 骨すぎるさま。ある事柄について何 の趣も含みもなくなってしまうことに対しての否定的な 表現。用法文型「~しては身も蓋もない」「身も蓋も ない十二十二」 用例①泉鏡花『婦系図』(一九七)「然う云っちま も蓋もない」②久保田万太郎『春泥』(一九八)「三浦のよう にいってしまっちゃア身も蓋もねえ」③三島由紀夫『禁 色』(一九五二五三)「彼は身も蓋もない無邪気さが媚態に役立 つことを知っていた」④『朝日新聞』(一九五八・二・二〇朝)「そ れをああ冷酷に割り切っていってしまっては、ミもフ タもない話で、人間としても味気なさすぎる」⑤高杉良 『指名解雇』(一九九七)「指名解雇と言ってしまうと身も蓋も ない」 外国語 英語では brutally frank 身も世もない 意味自分の身も世の中もどうでも いいというありさまで、悲しんだり ま。または常軌を逸したさま。 用法文型「身も世もない十二二」 用例①伊藤左千夫『野菊の墓』(一九六)「民子は身も世もあらぬさまでいきなりお増の膝へすがりついて泣き泣き」②江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九六)「夫たちのさまざまの睦言を立ち聞きしては、どのように、身も世もあらぬ思いをしたことでございましょう」③源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「若原君は浦島さんの席の前に腰をかけて、もはや、身も世もあらぬようすである」④辻邦生『北の岬』(一九五〇)「(雌狐は)何か痛みをこらえるように声を落して早く鳴くかと思うと、狂ったように絶叫し、身も世もあらぬというふうに鳴いた」⑤安岡章太郎『海辺の光景』(一九六)「父の吸い方は、まったく身も世もないという感じで、吸っている間は話しかけられても返辞もできないほどなのだ」 類句「身も世もあらぬ」とも言う。 みやく脈がある 意味 脈拍があるから、まだ生きている ということから転じて、達成しそうな見 <442> 込みがある。まだ望みがある。まだ希望が持てる。 用法文型「脈がある」。単独で一文を構成する。〔江戸〕 用例①源氏鶏太「男と女の世の中」(一九六三)「そのいい 方には、妙に優しいところがあるから、僕は、脈がある ような気がしているんだよ」②「電話ではその気はなさ そうだが、まだ脈がある」 外国語 英語では not dead yet みやく 脈がない 意味 脈拍がなくなり、命が絶えるとい うことから転じて、達成しそうな見込み がない。望みがない。希望が持てない。用法文型 「脈がない」。単独で一文を構成する。用例のように「脈 なし」という言い方もある。「江戸」 用例山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「あの人とて、い ずれは誰かに定めて投票するんだから、今日の態度だけ で菊川支持の脈無しとは限らないよ」 みようみ 意味人のやっていることを観察し、 見様見まね まねて同じようにやること。 用法 文型「ダレダレがナニナニを見よう見まねで~する」「江 戸 用例①堀辰雄『幼年時代』(一九六一三九)「幼い私はその牛に向って、いつもおとなの人が私に向って言ったり、したりするような事を、すっかり見よう見真似で繰り返しながら」②『朝日新聞』(一九九五・五・九朝)「父親や自宅の教室に通ってくるお弟子さんたちのを見よう見まねで吹くうちに、童謡ぐらいのメロディなら吹けるようになった」③『5年の科学』(三〇三・七)「これまでクロールや平泳ぎを見よう見まねで泳いでいたが、もっとうまくなりたいと願う5年生」④『6年の科学』(三〇四・八)「レイチェルは先生にならって、見よう見まねで岩石をはがし、2つに割ってみました」 外国語 英語ぐさ by watching someone's example みかげ 意味姿や様子が非常に醜く哀れで 見る影もない みすぼらしいさまそうではなかっ たかつての姿と引き比べて言う場合が多い。用法文 型「ダレナニは見る影もない」「見る影もないダレナニ」 「ダレナニは見る影もなくくだ」「江戸」 用例①石川達三『青春の蹉跌』(一九六八)「彼の妻は多分すばらしい美人であっただろう。しかし今は見る影もない姿だった」②『朝日新聞』(三〇四・二・二夕)「きえは商家 <443> に嫁いでいたが、健康的な明るさを失い、見る影もなく なっていた」 類句「尾羽打ち枯らす」「身を落とす」「身を沈める」 外国語 英語では a mere shadow of one's former self 見るに忍びない 意味人のひどい状態、不幸、 気の毒なさま、哀れなさまなど を見ていられない。 用法文型「ナニナニは見るに忍 びない」「室町」 用例「津波で一瞬にして家族も家も失った子供の姿は 見るに忍びない」 類句「見る影もない」「見るに耐えない」「目も当てられない」 みみ 意味人のひどい状態などを 見るに見かねて じっと見ていられないので何か をするさま。 用法文型「ダレダレはダレナニを見る に見かねてする」 用例江戸川乱歩「吸血鬼」(三谷は、恋人が 日一日と憔悴していくようすを、見るに見かねて、ある 日、とうとう窮余の一策を案じ出した」 外国語 英語では can't stand watching みめ 意味人の実力・価値や物の真贋な 見る目がない どを見分ける力がない。用法文 型「ダレダレはダレナニを見る目がない」。肯定形「見る 目がある」も使われる。 用例内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「私って、よっ ぽど人を見る目がないんですよ」 みい 意味何事かに一生懸命集中して取り 身を入れる 組む。用法文型「ダレダレがナニ ナニに身を入れてする」。命令・意志表現は可能。江 戸 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)「父はまるで根をうしないもう商売のほうにも身を入れてすることがなくなった」②半村良『どぶどろ』(一九七)「それよりも、気にするんなら商売に身を入れたほうがいい」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三)「おい、女だぞ。オレは初めに女だっていったじゃないか。人のはなし、身入れて聞けよ」④朝日新聞(三〇四・二〇三夕)「記者団から『法相としての勉強をしているのか』と質問されると、『身を入れ <444> て勉強しています。寝ずにやっています』と応じた」 類句「本腰を入れる」「身を打ち込む」 外国語 英語 では put oneself into みお 意味身分・境遇などが今までより悪 身を落とす くなり、不幸な境遇に陥る。芸者・娼 婦などになる。落ちぶれる。用法文型「ダレダレが ダレナニに身を落とす」(江戸) 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「英ちゃん、入れあげて身を落とすんじゃないよ。ちょんの間でいくつやったの」②『朝日新聞』(三〇四・二〇・二六朝)「先輩に『米国では銀行より証券会社の方がステータスが高い』と聞いて決断したが、周囲には『そこまで身を落として』と同情されたそうだ」 類句尾羽打ち枯らす見る影もない身を沈める みかた 意味(1)その場や目的にふさわしい 身を固める 姿・格好を整える。身支度を整える。 (2)結婚して家庭を持つ。用法文型(1)「ダレダレがナ ニナニに身を固める」(2)「ダレダレが身を固める」 用例(1)①「おもしろくてやくにたつ子どもの伝記15 福沢諭吉』(一九九八)「武士のなかには、『戦争だ』と、よろいかぶとに身をかためてかけつけた者もいました」②篠田節子「讃歌」『朝日新聞』(三〇四・二〇・四朝)「一部の隙もない化粧をし、DNKYのスーツに身を固めた五十代の椿坂の、人工的で威圧的な若さとは対照的に、枯れた風情に不思議な清潔感が漂う」②③「そろそろ俺も身を固めようかな」 外国語(1)(2)英語ではsettle down みき 意味辛さや苦しさ、悲しさなどが、 身を切られる 非常に強く感じられることのたとえ。 用法文型「身を切られる(ような)思い」「ダレダレは 身を切られるほど辛い」(江戸) 用例①坂口安吾「居酒屋の聖人」(一九四二)「総理大臣 の気焰をきいているのが、身を切られる思いで、つら かったのである」②山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「僕 がそんな卑劣な行為をしたという噂のままで、教授選 に臨むのは、身を切られるほど辛い」③福永武彦「忘却 の河」(一九六四)「私はあらためて、そそり立つ断崖の高さ を身を切られるような思いで見上げていた」④「朝日新 聞」(一九三二三朝)「ブルドーザーで固め、コンクリート <445> を打つのを見るのは、身を切られる思いだ」⑤「朝日新聞」(三〇四・九・三朝)「たとえばドイツ文学者の全集は身内同然で「別れるのは文字通り身を切られるような辛さ」だった」 みけず 意味体がやせ細るほど、自分自身を犠 身を削る 牲にするほど、苦労する、心配する、一 生懸命に何かに打ち込む。用法文型「ダレナニが身 を削る」「ダレダレは身を削る思いで~する」「江戸」 用例①『新しい国語 六下』(三〇四、東京書籍)「宗教に学んでも、自然のふところにとびこんでも、賢治の激しい思いをとげることはできなかった。それならば、せめて童話の中で自分の夢を実現したいと、身をけずる思いで作品を書き続けた」②『朝日新聞』(三〇五・一・三朝)「TBS系『ウルトラマンネクサス』で、身を削るようにしてウルトラマンに変身する謎の男・姫矢准を演じている」③『朝日新聞』(三〇五・一・三朝)「長引く不況の中、民間企業は身を削り、血を流して、リストラを続けてきた」* 類句「骨身を削る」「身を粉にする」 みこ 意味自分の体を粉々にするくらい 身を粉にする 苦労を厭わず一生懸命に体を使って 努める、尽くす、働く。粉骨碎身する。用法文型「ダ レダレが身を粉にしてくする」(鎌倉) 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八七八九)「貧苦にめげない煮焚の業の片手間に一枚三厘のシャツを縫けて、身を粉にしてかせぐに追い付く貧乏もないか」②半村良『どぶどろ』(二九七)「敬助は、まるで藤吉の使った分だけ、自分が余計に働くのだというような具合で、それこそ身を粉にして働きまくっていました」③「朝日新聞」(二九一・三・三朝)「母は朝は豆腐作りをし、昼間は土木作業へ、夜は旅館の女中をして、それこそ身を粉にして働きました」④大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「奉職して四十余年、まさに身を粉にして働きましたからな」 類句「骨身を削る」「身を削る」 外国語 英語では work oneself to the bone みた 意味(1)一人前の仕事をし、それで生 身を立てる 活していく。(2)成功して出世する。 用法文型「ダレダレがナニナニで身を立てる」。命令 や意志表現は可能。〔平安〕 <446> 用例(1)①大岡昇平『俘虜記』(九八)「彼は小学校しか出ていなかったが、戦時中事務員の需要が増えるのを見て算盤によって身を立てることに決め」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九三)「ぼくはその頃からすでに小説で身を立てようと決めていたため」③平岩弓枝『風子』(九五七)「芸者が芸で身を立てるなら、やっぱり売れる土地へ行かないと」④朝日新聞(三〇四・三・三朝)「夢はついえた。失意のどん底。どう身を立てていけばいいのか」(2)⑤「先代は裸一貫で身を立てた」 類句(1)「生計を立てる」 身を引く 意味自分が今かかわっていること・立 場・地位などから退く。世間との交渉か ら身を退ける。用法「ダレダレが(ナニナニから)身 を引く」。命令や意志表現は可能。「江戸」 用例①瀬戸内晴美『女徳』(一九三)「あの人はあなたを愛していない。身をひいてくれって、ぺらぺらまくしたてるのよ」②半村良『どぶどろ』(一九七)「これ以上自分がいたら叶屋はなくなってしまう。だから身を引こうと思うので、叶屋を残したいと思う人がいたら適当な処置を考えてほしい」③朝日新聞(三〇四・一〇・四朝)「都内のホ テルで13日夜に開かれた記者会見で、堤氏は『経営の第一線から身を引くこととしました』と謝罪文を淡々と読み上げた』④『朝日新聞』(三〇四・二・三六夕)「活動から身を引こうかと思うこともあるが、思い直す」 類句「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」 「手を引く」「外国語」英語では back off *韓国語で は「呂豈(身を)剛け(引く)」 身を潜める 意味人の目に触れないように姿を隠 しおとなしくしている。用法文型 ダレダレがドコドコに身をひそめる」 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九三)「幸い奈良にまろの知るべがある故、そこへしばらく身をひそめていただこう思うのやが」②『朝日新聞』(三〇四・九・二朝)「一連の騒動をマスコミはセンセーションナルに騒ぎ立て、井筒は逃れるように温泉宿に身を潜めたこともある」 類句「影を潜める」「身を隠す」 外国語韓国語では 「呂豈(身を)감추다(ひそめる)」 身を ひるがえ 意味体をくるっと反対の向きに変え る。 用法文型ダレダレが身を翻 <447> す 南北朝 用例①内田康夫『博多殺人事件』(一九九二)「抗議しようとする聡子に、『じゃあ、また明日、連絡します』と言い置くと、身を翻して大股で歩きだした」②『朝日新聞』(三〇四・二〇・九朝)「低く落ち着いた声色で、俺の後ろに立つな、という。身を翻した声の主に拳銃を突きつけられた相手は、なす術もない」 類句「踵を返す」 みまか 意味感情や流れや人の意のままに自 身を任せる 分をゆだねる。用例③のように、女性 が性行為の対象として自分の体を男性にあずけることを いう場合にも言う。用法文型「ダレダレがダレナニ に身を任せる」「平安」 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)「どこかのそっくり返った野郎に身をまかせ、そのかわりに伊三郎の奴を楽にしてやろうとしてたんだ」②津本陽『深重の海』(一九七八)「いまだに戻ってこない遭難者の家族たちはすべてたやすく怒りに身を任せるようになっていた」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「男に身をまかせてもなにもない、フサは独りで笑い、男になど頼らず子供らを一人で育て あげるといまさらながら決心したのだった」④『朝日新聞』(三〇四・二〇・九朝)「人づき合いは池より川。流れに身を任せたり逆らったりしながら、できるだけ多くの人と出会った方がいい」⑤『朝日新聞』(三〇四・三・三朝)「誰でも『自分の住むべき場所が、どこかに用意されているのではないか』という『妄想』に身を委せたいと思うことがあるはずだ」 類句「身をゆだねる」外国語韓国語では「吾(身を) 嘗だけ(任せる)」 実を結ぶ 意味いろいろと努力したり苦労したり したことで、その結果が良いものとして 現れる。用法文型「ナニナニが実を結ぶ」 用例①「朝日新聞」(三〇四・七・三六夕)「これまでの試行錯誤が今回、実を結んだ実感があるという」②「朝日新聞」(三〇四・九・一八夕)「首都カブールでは、穴だらけだった道路がきれいに舗装され、学校の再建も進んでいた。世界の支援はそれなりに実を結びつつある」③「朝日新聞」(三〇四・二〇・四夕)「名前は我が子への最大のプレゼント」という親の思いがやっと実を結んだ」④「朝日新聞」(三〇四・三・三朝)「ひたむきに練習してきたのが実を結ん <448> だのだと、自分のことのようにうれしく感じます」 外国語 英語では bear fruit み 身をもって 意味知識として知っているだけでは なく、自分が体験したこととして。自 分の体で。用法文型「ダレダレが身をもってする」 副詞句として述語を修飾する形で用いられる。「~する」 には「知る」「体験する」「実感する」などが来る。 用例①「朝日新聞」(三〇四・九・二朝)「安い焼酎で体を 温めた日々を「中国の農村の事情を身をもって知るこ とができた』と振り返る」②「朝日新聞」(三〇四・二〇三朝) 「公衆トイレを設置する場所の性格を見極める必要性を 身をもって知った」③「朝日新聞」(三〇四・二〇三朝)「お まけに私や親から与えられるばかりだった本を自分で 選ぶ楽しさも身をもって知ったようだ」④「朝日新聞」 (三〇四・二〇三夕)「サタワル島では電気も水道もなかった おかげで、満月の夜の明るさ、星空の美しさ、水の貴重 さを身をもって実感できた」 身を寄せる 意味一時的に他人の家に住ませても らい、世話になる。用法文型「ダ レダレがドコドコに身を寄せる」(平安) 用例①中上健次『鳳仙花』(一九〇)「マツが夕張で身を寄せたのは夕張一の料亭だった」②「朝日新聞」(三〇四・九・二夕)「この寺に、軍部の政治介入を批判した『肅軍演説』で知られる政治家、故斎藤隆夫も一時身を寄せていたと聞いた」③「朝日新聞」(三〇四・二・二九朝)「家族はバラバラに親類に身を寄せ、宇田川さんはショックで立ち直れない母と2人、古い一軒家を借りて暮らし始めた」④「朝日新聞」(三〇四・二・三夕)「付さんは敗戦後の45年秋に母に連れられ、馬車の修理屋をしていた中国人のもとに身を寄せた」 外国語韓国語では「呂(身を)罷の(つける)」 みんながみんな 意味「すべての人が」という意 の強調表現。用法文型「み んながみんな~する」「みんながみんな~だ」 用例島崎藤村『嵐』(九三)「お前はお前、次郎ちゃん は次郎ちゃんでいい。広い芸術の世界だものーみんな がみんな、そう同じような道を踏まなくてもいい」 類句「そろいもそろって」 <449> *む* 昔取った杵柄 (若い頃)鍛えた腕前・技量や心得な どがあること。一般にはいい意味に使うが、用例①のように否定的に使うこともある。 ①のように「昔取った杵柄が出る」のように言うこともあるが、多くは ②③のように使われる。〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「時子の前身はあれでしょう。いくら、看板のいい家にしろ、矢張り、昔取った杵柄が出て、時々困りますわ」②高杉良『人事権!』(一九九三)「僕は昔取った杵柄で、学生時代のアパート暮らしで鍛えてるからな」③「板前をやめたとはいえ、昔取った杵柄、さすがに料理の腕はいい」 外国語 英語 は One never loses one's touch むし 虫がいい 意味「虫」は人の体の中にいて、気分 や感情などを左右すると考えられている もの。自分の都合ばかり考えて、他人のことを顧みない身勝手なさまを非難して言う言葉。用法文型「ダレナニは虫がいい」「虫のいいナニナニ」。ナニナニには「話」「考え」などが入ることが多い。「虫がよい」とも言う。「江戸」 用例①有吉佐和子「恍惚の人」(九三)「立花さんから藤枝先生に言って頂けたら有りがたいんですけど、私からはちょっと虫がいいかなって思って、言いにくいんです」②槌田満文『文学にみる広告風物誌』(九六)「西藤が出してきた条件は、週一回二時間だけの出勤、編集長としての責任は負わず、月給は最低手取り五万円、ほかに編集機密費月十万円というムシのいいものだった」③朝日新聞(九六・七・八朝)「インフレも不況も困る、賃上げは大幅に、そんな虫のいい話が実現できる政策があったらお目にかかりたい」④東野圭吾「仮面山荘殺人事件」(九六)「『おいおい』とジンは笑いを含ませた声でいった。それはムシのいい考えというものだぜ。人殺しの罪まで俺たちに着せようってのか」⑤森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(九九)「トウイと結婚し、平沢から資金を出してもらって二人でその店を経営する。こんな虫のいい夢を描いた」 <450> 類句「虫が良すぎる」 外国語 英語では take a lot for granted むしおさ 意味「虫」は人の体の中にい 虫が治まらない て気分や感情などを左右すると かんしゃく 考えられているもの。怒りや癇癪が治まらない。感情的 に納得できない。用法文型「ダレダレは虫が治まら ない」(江戸) 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「常識を超越していないと虫がおさまらない性分でね」②「朝日新聞」(一九八〇・五・一八朝)「欠席の引き金になったのは、一部にせよ、『主流ペースでは虫がおさまらない』といった感情論」 類句「腹の虫が治まらない」とも言う。 むしし 意味なんとなく自分にかかわる、 虫が知らせる 多くは良くないことが起こることを 予感する。用法用例①~③のように「虫が知らせた のか」と過去形で使うことが多い。「虫が知らす」とも言 う。江戸 用例 ①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三)「小林少年は、 虫が知らせたのか、昼間の賊の脅迫状や、明智が出がけに注意して行ったことが、気になってしようがなかった」②獅子文六『てんやわんや』(二九八四九)「その晩の話であるが、虫が知らせたというのか、私は、いつまでも眠れなかった」③源氏鶏太『三等重役』(二五二五三)「あたし、虫が知らせたとでもいうのか、急に、あなたと一緒に旅行がしたくなりましたから、飛行機で飛んできたんですわ」④舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「それこそ虫が知らすのか、たしかに三郎丸たちの存在を気にして、一度着席したのに、また立って行ったとしか思われない」⑤瀬戸内晴美『女徳』(二六三)「何となく、虫がしらせるのですが、そんな思いの中をくぐってきた女というものは、そういう経験の人を肌で感じとってしまいます」 類句名詞句は「虫の知らせ」 むしす 意味「虫」は人の体の中にいて気 虫が好かない 分や感情などを左右すると考えられ ているもの。これといった理由はないが、何となく気に 入らない、好きになれない、生理的に厭だ。用法文 型「ダレナニは虫が好かない」。多くは人について言う。 用例①のように「虫が好く」という肯定形は例外的な用 <451> 法。江戸 用例①小出楢重「楢重雑筆」(九三七)「むしがすかぬという言葉がある。何もそんなに厭がる必要のないものでもどうもむしがすかぬとなると堪らなく厭になるものでまたむしがすくと、変なものにでも妙に愛着を覚えるものだ」②広津和郎『若き日』(九四〇)「黒川に対して何となく虫の好かないような気分をその頃から持っていた」③武田泰淳『風媒花』(九五三)「俺は生れつき、大衆って奴は虫が好かないし」④山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「冗談じゃない、虫が好かないんだ、徹頭徹尾──』吐き捨てるように云った」 類句「気に入らない」「気に食わない」「性が合わない」 「肌が合わない」 「外国語」英語では just can't take to むしっ 意味害虫がつくと物を痛めるところか 虫が付く ら、若い未婚の女性に好ましくない男、 愛人ができる。多くは親・保護者が言う言葉。また未亡 人に愛人ができる。用法文型「ダレダレに虫が付く」 用例①のように否定形がある。①②「妙な」「こんな」の ように「虫」を修飾することが可能。「江戸」 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)「妙な虫が つかぬうちに、結婚させてやりたいと思っているんです」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)『お嬢さんにこんな虫がついていたとは知らなかったな』と独り言にしては大きな声でいった」 顔句「悪い虫がすくとも言う。 類句「悪い虫が付く」とも言う。 むしょ 意味あまりにも自分の都合のいい 虫が良すぎる ことばかり考えて、他人のことを顧 みない身勝手なさまを非難して言う言葉。用法文型 「ダレナニは虫が良すぎる」。「虫の良すぎるナニナニ」と も言う。江戸 用例①岩野泡鳴『発展』(一九二一三)「千代子の前だから ツて、こちらを下すんだようにそんな体裁のいいこと を云うのは許さない。余り虫がよ過ぎる!」②源氏鶏太 『見事な娘』(一九五十五)「兄貴の金をせびっておいて、そ れで、いい顔をしようなんて、虫がよすぎるぞ」③舟橋 聖一『ある女の遠景』(一九二)「すぐ又、ほかの人と結婚 なんぞ出来ませんって…それでは、虫がよすぎるの」④ 半村良『どぶどろ』(一九七)「小まさと世帯が持てなくて もかまわない。それは虫のよすぎる夢だ」⑤高杉良『会 社蘇生』(一九七)「それはちょっと虫がよすぎるでしょう」 <452> むしずはし 意味「虫酸」とは胃病などでむかむ 虫酸が走る かした時に胃から口中に逆流して来る 酸性の液。ある人の行為を受けたり見たり聞いたりして ひどく不快でたまらない気持ちになる。人を忌み嫌うさ まに言う。用法文型「ダレナニは虫酸が走る」「虫酸 が走るほどくだ」「江戸」 用例①江戸川乱歩「吸血鬼」(一九三〇三)「あたしを愛してはいたのですけれど、そうされればされるほど、虫酸が走るほどいやで、いやで、しかたがなかったのです」②山崎豊子「白い巨塔」(一九三一六五)「あんなもったいぶった学者面をしている奴は、虫酸がはしるほど好かん」③木谷恭介「長崎キリシタン街道殺人事件」(一九五)「翔に話しかけるとき、必要以上にからだを近づけ、小声で話すのがくせで、その度に翔は虫酸がはしるのを感じる」④龍一京「交番」(三〇四)「警察と聞いただけで虫酸が走るほど、嫌いだった。これまで、警察官とは肌が合わないと思っていた」 類句「鼻につく」「鼻持ちならない」「ヘドが出る」「胸 糞が悪い」「外国語」英語では give someone the creeps 虫の息むしいき 意味弱り果てて今にも絶えそうな息。今 にも死にそうな状態のことに言う。 用法文型「ダレダレは虫の息」。名詞句としてさまざまに用いられる。「室町」 用例①北條民雄『癩院受胎』(一九六)「空から照りつける太陽熱と、自分の体内から盛り上がって来る高熱とに老人はほとんど虫の息になって」②源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「発作は、ちょっと、おさまったらしい。マダムは、虫の息を続けている」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「夫人と力を合わせて瀬川に虫の息の郡池を捨てた」 外国語 英語では be at death's door むしいどころわる 意味「虫」は人の体の中にい 虫の居所が悪い て気分や感情などを左右すると 考えられているもの。ひどく機嫌が悪く、普段ならなん でもないのに、ちょっとしたことにも腹を立てるさま。 用法文型「ダレダレは虫の居所が悪い」(江戸) 用例①正宗白鳥『生まざりしならば』(一九三)「あの時は私の虫の居所が悪かったの」②志賀直哉『転生』(一九四)「彼の機嫌のいい時はそれでもよかった。しかしいった <453> ん虫の居どころが悪いとなると、自分でも苦しくなるほ ど、彼には叱言の種が目の前に押し寄せて来た」③朝 日新聞』(九九六・九朝)「あるとき、虫のいどころが悪く 夫にあたりました」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(九三 「虫の居所が悪いのか、今朝のきんはいやにミヨ子にか らむ」 外国語英語ではbe in a bad mood むしし意味なんとなく自分にかかわる、多 虫の知らせくは良くないことが起こることを予感 すること。用法名詞句としてさまざまに用いられる 江戸 用例①江戸川乱歩『人でなしの恋』(九六)「ついそこ へ参ったというのは、理屈では説明のできない、何かの 感応があったのでございましょうか。俗にいう虫の知ら せでもあったのでございましょうか」②内田康夫『若狭 殺人事件』(九三)「答えた瞬間、江梨香は背筋がぞーっ と寒くなった。虫の知らせーなどというのではない」 ③木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(九五)「宮 之原の部屋のまえで、悠はちょっと躊躇したが、なにか 虫の知らせのようなものを感じた」④広山義慶『私刑警 察激弾!』(三〇二)「心身ともに衰えを感じて、仕事か ら足を洗う決心をしていたのは、これが原因だったのか もしれない。虫の知らせという奴だ一 類句動詞句は「虫が知らせる」外国語英語ではa premonition 虫も殺さぬ 意味殺生などできないような非常に やさしく穏やかな顔のさま。実はひど ことをするというような場合に使うことが多い。 用法文型「ダレダレは虫も殺さぬ(殺さない)ような顔 をして」(江戸 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九七)「奥さん見たいに 虫も殺さない顔をしていたって当にはならないけれど」 ②源氏鶏太『三等重役』(九五二五三)「あの女は虫も殺さぬ 顔をしているが、たいへんな女に違いない」③『朝日新 聞』(九五三七三朝)「彼らの写真を見ると、どれもこれ も虫も殺さぬような美青年ぞろいだが」④森村誠一『棟 居刑事の砂漠の暗礁』(九九七)「あの人、虫も殺さないよ うな顔をしていながら、怖いところがあるのよ」⑤清水 一行『ITの踊り』(九〇四)「やはり虫も殺さない、あの 穏やかな顔が曲者だった」 <454> 外国語 英語では wouldn't hurt a fly 無駄足を踏む 意味せっかく出かけて行ったのに、 かいがないこと。徒労に終わる。 用法文型「ダレダレは無駄足を踏む」。用例のような 使役形・過去形がある。 用例松本清張『点と線』(一九五八—五九)『むだ足踏ませた な』と、ねぎらうように、あらためて三原を見あげて 言った」 類句「無駄足を運ぶ」とも言う。 むだぐちたた 無駄口を叩く 意味くだらない、無駄なことをあ れこれおしゃべりすることを少し非 難して言う。用法文型「ダレダレはダレダレに無駄 口をたたく」(江戸) 用例①内田魯庵「くれの廿八日」(八九)「珍らしく庖 どこ むだ 厨へ来て久助爺さんに無益口を叩き」②新田次郎『八甲 田山死の彷徨』(一九七二)「行軍中は無駄口を叩いてはなら ないこと」 類句「無駄口を利く」 外国語 英語では chatter idly 無駄骨を折る 意味無益な努力をする。苦労した ことが何の役にも立たず、徒労に終 わる。用法文型「ダレダレは無駄骨を折る」。用例② ③「この種の」「とんだ」のように「無駄骨」を修飾でき る。江戸 用例①森鴎外『牛タ・セクスアリス』(一九九)「東京へ 出てから少しの間独逸語を遣ったのを無駄骨を折ったよ うに思ったが、後になってから大分益に立った」②安岡 章太郎『海辺の光景』(一九八)「昨日出てきたばかりの場 所へ、また戻らなければならないのだ。(略)この種の無 駄骨を折ることに狎れっ子になっている」③「とんだ無 駄骨を折った」 類句「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「元の木阿弥」 元も子もない」外国語英語ではwasateone’sefforts むだめし 意味仕事もせず、何の役にも立 無駄飯を食う たず無駄に日を送る。用法文型 ダレダレは無駄飯を食う 用例内田魯庵「社会百面相」(一九三)「外国で泡抹銭を つか かえつ のんき だぼら 費消って、帰朝てから暢気に無駄飯を喰って駄啁喝を吹 く先生の」 <455> 外国語 中国語では慣用句「吃闲饭」(無駄飯を食う。「吃 は食う) むなくそわる 意味他人の行為を見聞したり、他人 胸糞が悪い から迷惑を受けたりして不愉快である、 いまいましくて腹立たしいさま。用法文型「ダレナ 二は胸糞が悪い」(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「あの東教授と いうのは、何となしに胸糞の悪い奴やな」②半村良『ど ぶどろ』(一九七七)「浜吉はそんな菊造を見ると胸糞が悪く なって、手酌でたて続けに飲った」 類句「鼻につく」「鼻持ちならない」「ヘドが出る」「虫酸が走る」 二の親友」 無二の親友 意味またとない親友。かけがえのな い親友。用法文型「ダレダレは無 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一三)「わしは(略)彼らの歓心を得て、無二の親友となることが何よりも必要であった」②太宰治『人間失格』(九四八)「あわよくば、彼と無二の親友になってしまいたいものだ」 類句「無二の友」「無二の仲良し」とも言う。「刎頸の友」 むねあつ 意味感動・歓喜などで心が興奮を 胸が熱くなる 覚える。用法文型「ダレダレは 胸が熱くなる」。用例③のように「胸が」と「熱くなる」 の間に語句を挿入できる。 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九三七)「西郷に たいする大久保の友情の厚さに、胸が熱くなったのだ」 ②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「田宮も往時を思い出して 胸が熱くなった」③『朝日新聞』(三〇四・八・六朝)「配送用 のワゴンを運転する年配男性に『仕事していると1日が 早いだろ?だから今日を大切にするんだよ』と言われ 胸がジーンと熱くなった」 むねいた 意味ある様子や自分の行動に悲しみ・ 胸が痛む つらさなどを感じる。心痛する。用法 文型「ダレダレは胸が痛む」。ダレダレは話し手。江戸 用例①大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「サンホセには以前 彼等がつくった高い無電塔があるにも拘らず、必要に応 じて無造作に新設する彼等の贅沢を見て私の胸は痛ん だ」②朝日新聞(三〇四・九・四朝)「僕、大きくなったら <456> 食べられるん?と、悲しげな顔で聞いてきます。つらくて胸が痛みます」 類句「心が痛む」(外国語)韓国語では「外合(胸が) 叶亜(痛む) むねいつぱい 意味感動・悲哀・喜びなどで 胸が一杯になる 心が満たされる。そのために物 も言えないくらいになる。用法文型「ダレダレはナ ニナニで胸がいつぱいになる」。単に「胸がいっぱい」と も言う。 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「やはり維子は、父のために弁護したかった。同時に胸がいっぱいになった。泉中に悪しざまに云われると、世にも父が哀れに思われてならないのである」②「悲しみで胸がいっぱいになった」③「夢がかなう時が間近に迫って胸がいっぱいになる」 類句「胸がつまる」「胸がふくらむ」「胸に迫る」外国語 英語では get a lump in one's throat *韓国語では「ヵ 合い(胸が)ぅぅぅ(いっぱいだ)」 むね おど 意味期待・喜びなどで興奮し心がわく 胸が躍る わく、うきうきする。用法文型「ダ レダレは胸が躍る」「室町」 用例①近松秋江『黒髪』(一九三)「もう身は京都に近づいていることが思われて、ひとりでに胸は躍ってくるのであった」②海野十三『幽霊船の秘密』(一四〇)「あと舷側まで、ほんの一伸びだ。おそれているわけではないが胸が躍る」③「長年の夢であったアメリカ留学が目前に迫り、胸が躍る」 類句 心が躍る 心が弾む 胸が弾む むねつぶ 意味心配・悲しみなどで胸が締め付 胸が潰れる けられるように感じる。またひどく驚 く。用法文型「ダレダレは十二十二で胸がつぶれる」 「ナニナニで胸がつぶれる(ような)ナニナニ」。「ナニナ ニで」は「胸がつぶれる」原因となる事柄が来る。「平安」 用例①「朝日新聞」(一九三・一・二〇朝)「胸のつぶれるよう な思いで私は家路へ急ぎました」②「大声に胸がつぶれ るかと思った」③「母が死んだ悲しみで胸がつぶれるよ うな気がした」 類句「胸がふさがる」 外国語 韓国語では「ヵ合」 <457> むねつ 意味悲哀・恥ずかしさ・喜び・感動 胸が詰まる などが胸にこみあげてきていっぱいに なる。そのために物も言えなくなる。用法文型「ダ レダレはナニナニに胸がつまる」 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「雪子は、自分 の肉体のことがもち出された瞬間から、胸がつまって物 が言えなくなった」②中上健次『鳳仙花』(一九〇)「さして 以前と変ったふうのないミツを見て、十五で古座から新 宮に来て西も東も分らなかったとフサは思い、胸がつま り涙ぐんで」 類句「胸がいっぱいになる」「胸がふくらむ」「胸がふさがる」「胸に迫る」「外国語」韓国語では「外合」(胸が) 叫引け(つまる) むねはさ 胸が張り裂ける 意味ひどい悲しみ・苦しみ・ 憎しみ・悔しさなどで胸が裂け るような苦しみを感じる。 用法文型「ダレダレは胸 が張り裂けるよう」「胸が張り裂けんばかり」「江戸」 ような悲しみに嘆き沈んだ 用例 交通事故で幼い子を失った親は胸が張り裂ける 類句「胸が裂ける」とも言う。 外国語韓国語では 「가슴이(胸が)줏어지다(張り裂ける)」 意味喜び・希望・期待などで心が満ち いっぱいになる。用法文型「ダレ 用例「新入生は希望に胸がふくらむ」 類句「胸がいっぱいになる」「胸がつまる 胸が塞がる 意味心配・悲しみなどで胸がいっぱいになり、暗い気持ちになる。 「胸がふさがるような気がする」(江戸) 「用法」文型「ダレダレは十二十二に胸がふさがる思い」 用例①大沢在昌『天使の牙』(一九九七)「切なさがありあり」とその横顔にはあらわれていた。金村はそれを見つめ、胸が塞がるのを感じた」②「友の死亡通知に胸がふさがる思いがした」 類句「断腸の思い」「腸がちぎれる」「胸がいっぱいに なる」「胸がつまる」「胸に迫る」 <458> むねいちもつ意味ある人に対して心の中にわだかま 胸に一物りがあること。また心の中に計画・企て を隠し抱いていること。何かひそかに心に期するところ があること。用法文型「ダレダレは胸に一物ありそ う「胸に一物を持つ」「江戸」 用例源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「藤山さんの態度 は、何か胸に一もつある如く、素ッ気なかった」 類句「腹に一物」 むねきざ 意味感動を受けたこと、大切なことを 胸に刻む 深く心に留めて忘れない。用法文型 「ダレダレはナニナニを胸に刻む」。命令・意志表現は可 能。 用例 恩師の言葉をしっかりと胸に刻む 類句「肝に銘じる」「心に留める」 外国語韓国語で は「가슴에(胸に)새기다(刻む)」 むねせま 意味あることでいろいろな思いがわき 胸に迫る 起こって心に満ち、いっぱいになる。 用法文型「ナニナニが胸に迫る」。ナニナニは感じ・ 感情を表す言葉。「江戸」 類句「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」「胸がふさが る」外国語韓国語では「外合(胸に)ひ(行き来 する) 用例①芥川龍之介『水の三日』(一九二〇)「この笑い声を 聞いていると、ものとなく悲しい感じが胸に迫る」② 「結婚式の朝、父は娘の『長い間お世話になりました』と 言う言葉を聞いて、万感胸に迫り、言葉に詰まった」 むね たた 意味見聞きしたことなどを心の中に秘 胸に畳む め、表に出さない、人に話さない。 用法 文型「ダレダレは十二十二を胸に畳む」〔江戸〕 用例「ここでのことは胸に畳んでおこう」 類句「胸三寸に畳む(納める)」「胸に納める」とも言う。 むねてあ 意味心を静めるために胸に両 胸に手を当てる 手を当てることからじっくり思 案する。自分に思い当たることがないかよく考える。 用法文型「胸に手を当てて考える」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「よく胸に手を当てて考えてごらん」②高杉良『濁流』(一九九六)「自分の胸に手を当てて考えてみろ」 <459> むねひ 意味あることがきっかけで燃える 胸に火が付く ような激しい思いになる。用法 文型「ダレダレは胸に火がつく」 用例海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二九三)『西郷の胸 に火がつき、顔は真赤になり、小山のようなからだはふ るえ出した」 類句「心に火がつく」 むねひっ 意味恋心や怒りなど激しい感 胸に火を付ける 情を起こさせる。用法文型 ダレナニがダレダレの胸に火をつける」 用例木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』 (一九五)「笑って、とりあわなかった。それが矢代の胸に 火をつけたのだろうか。矢代は手をかえ、品をかえて、 悠にアタックしてきた」 類句「心に火をつける」 お 意味前から気になってい 胸のつかえが下りる ること・心配事・悩み・わ だかまりなどが、あることによってなくなり、晴れやか な気分になる。用法文型「胸のつかえが下りたよう」 用例半村良『どぶどろ』(一九七)「それを聞き、それを 見て、平吉はなんとなく胸のつかえがおりたような気持 になった」 類句「愁眉を開く」「胸をなで下ろす」 むねいた 意味ある様子や自分の行動に悲し 胸を痛める み・つらさなどを感じつつひどく心配 する、心を悩ませる。用法文型「ダレダレはナニナ 二に胸を痛める」「ナニナニがダレダレの胸を痛める」。 ナニナニは原因。用例④「小さな」のように「胸」を修飾 できる。〔江戸〕 用例①柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「とりわけ木村助教授の胸を痛めたのは、堀重太郎の遭難だった」②高杉良『会社蘇生』(一九七)「二人に申し訳ないことをした、という思いで、白井は胸を痛めていた」③『朝日新聞』(三〇四・九・六夕)「場数をふめるほど時代劇の仕事がなく、志半ばで撮影所を去る若手が多いことに胸を痛めている」④「幼稚園の娘も小さな胸を痛めていた」 類句心を痛める <460> むね 胸を打つ 意味感銘を与える。感動させる。感動 などで心を揺り動かす。用法文型 「ナニナニがダレダレの胸を打つ」「ダレダレはナニナニ に胸を打たれる」。受身形がよく使われる。 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(二九三)「浩太郎ははじめて聞く英子の過去の歴史に、何んとなく胸をうたれていた」②山崎豊子『白い巨塔』(二九三一五)「唐木博士の鑑定は、さすがにりっぱね、傍聴していて、胸を搏たれたわ」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二九二)「神田大尉が絶望と共に放った声は、折から吹雪がおさまって静かになった疎林の中で、隊員全部の胸を打った」④朝日新聞(二九八二・二〇三朝)「二人の姿からは真の教育を教えられ、師弟愛の美しさに胸を打たれた」⑤高杉良『会社蘇生』(二九八七)「高木君は、井口君の熱意と誠実さに胸を打たれて」 類句「琴線に触れる」「心を打つ」 むねおど 意味期待・喜びなどで興奮し、心 胸を躍らせる をわくわく、うきうきさせる。 用法文型「ダレダレは胸を躍らせる」「胸を躍らせて~ する」。「胸を躍らす」とも言う。「江戸」 用例①星新一『ボッコちゃん』(一九七二)「なにやら重大な用件のようだった。三郎は胸をおどらせながら聞いた」②大江健三郎『ピンチランナー白書』(一九七六)「僕はまったく胸をおどらせてその全体性を信じた」類句「心を躍らせる」「胸を弾ませる」 むねか 意味相撲で上位の者が下位の者に稽古 胸を貸す をつけてやる。一般に実力が上の者が下 の者に練習相手になってやる。用法文型「ダレダレ はダレダレに胸を貸す」〔江戸〕 用例①里見弴『今年竹』(一九一九二毛)「相撲で稽古台」というだろう。あの、ペイペイに胸を貸してドスンドスンぶつかせる奴のことを」②「朝日新聞」(一九九・二〇・一六朝)「その要因は阪急に『胸を貸す』という、やや安易な気持ちがどこかにあったこと」 外国語 英語では give someone a workout むねか 意味相撲で下位の者が上位の者に稽 胸を借りる 古をつけてもらう。一般に実力が下の 者が上の者に練習相手になって稽古をつけてもらう。 用法文型「ダレダレはダレダレに胸を借りる」「胸を借 <461> りるつもりで~する 用例①「朝日新聞」(一九一七・四朝)「ウチは広島を目標に胸を借りるつもりでやってきた」②「朝日新聞」(三〇四・七・三朝)「7レーンの朝原宣治と5レーンの末続慎吾の一騎打ちはコンマ10秒差の10秒10で末続に軍配が上がった。「胸を借りるつもりだった」と冷静に感想を語った末続に対し」 外国語 英語では be given a workout すー平安 意味異性に恋いこがれる。用法 文型「ダレダレはダレダレに胸を焦が 用例①近松秋江『黒髪』(九三)「時とすると堪え難い 想像心に描いて、殆ど居ても起ってもいられないような 愛着と、嫉妬と、不安のために胸を焦がすようなことも あったが」②「中学生の頃、テニス部のキャプテンに胸 を焦がした」 類句「身を焦がす」「胸をときめかす」 むね 意味突然の出来事にはっと驚く。また、 胸を衝く 出来事に急に思い当たることがあって、 気がかりになる。 用法 文型「ナニナニがダレダレの 胸をつく」「ナニナニに胸をつかれる」。受身形が多い。 〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「佐枝子の言葉 をそんなにも注意深く聞いてくれていたことに対する愕 きが、佐枝子の胸を衝いたのだった」②山崎豊子『続白 い巨塔』(一九六七六八)「子供を妊っている君子は、佐々木よ し江の三人の子供の話が出ると、胸を衝かれた様子で」 ③辻邦生『北の岬』(一九六)「ただそこに老婦人の生涯を かけた思いが託されていると思うと、やはり私は胸をつ かれた」④中上健次『鳳仙花』(一九六)「フサは胸を衝かれ る想いがして眼をこらした」 外国語韓国語では「가슴을(胸を) 찌르다(つく)」 むねつぶ 意味心配・悲しみなどで胸が締め付け 胸を潰す られるくらい思い悩む。またひどく驚く。 用法文型「ダレダレは胸をつぶす」「ナニナニはダレダ レの胸をつぶす」「平安」 用例 原民喜『鎮魂歌』(一九四九)「面白そうに笑いあって いる人間の声の下から、ジーンと胸を潰すものがひびい て来た」 <462> むねなお 意味心配していたことがなく 胸を撫で下ろす あんど なり、安堵する。問題も起こら ず思い通りにことが運び安心する。用法文型「ダレ ダレは胸を撫で下ろす」。「ほっと」などが「胸を撫で下 ろす」を修飾することが多い。江戸 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(九三)「浩介は、た すかった)と、胸を撫でおろした」②石坂洋次郎『光る海』 (九三二六三)「(ああ、おれの結婚式でなくてよかった!)と、 ホッと胸をなで下ろしていたのであった」③朝日新聞 (九〇・九・八朝)「韓民統問題がはずされてホッと胸をな でおろした面はあるようだ」④高杉良『濁流』(九六)「杉 野はひそかに胸を撫でおろすと同時に先見性を誇ったも のだ」 類句「愁眉を開く」「枕を高くする」「胸のつかえが下り る」外国語英語ではheave a sigh of relief 胸を張る 意味あることについて自信に満ちた態 度を取る。堂々とした態度を取る。 用法文型「ダレダレは~と胸を張る」。用例⑤のよう な可能動詞形がある。 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)『ええ、そうですと も』平吉はことさら胸を張って見せる』②『朝日新聞』 (二九九・六・二王朝)『医療水準の向上などが原因』と胸を 張って『世界一』をPRした』③『朝日新聞』(一九〇・二〇・一九 朝)「社会党幹部は『これでスジを通した。こんな立派 な協定を結んだのは、わが党だけ』と一時は胸を張っ た』④『朝日新聞』(一九〇・三・八朝)「私の家庭は大丈夫 だ、と胸を張って言いきる自信はない』⑤『朝日新聞』 (三〇四・九・二王朝)「肩身の狭い思いをしているが、温泉と 認められれば胸を張れるから」 類句「大手を振る」 外国語韓国語では「外合을胸 を) ぬけ(張る)」 むねふく 意味ある事柄への期待・希望 胸を膨らませる や喜びで胸がいっぱいのさま。 用法文型「ダレダレは十二十二に胸をふくらませる」。 「胸を膨らます」とも言う。 用例①津本陽『深重の海』(二九六)「彼は理由のない期 待に胸をふくらます」②『朝日新聞』(一九八○・二○・三朝)「小 学六年の私の娘も近づく旅行に期待で日ごとに胸をふく らませている」③「希望に胸をふくらませる」 外国語韓国語では「가슴이(胸が)早풀다(ふくらむ)」 <463> むようちようぶつ 意味あっても役に立たず、かえって 無用の長物 邪魔になるもの。用法文型「ダレ ナニは無用の長物」。一般には物について言い、用例② のように人について言うのはまれ。「江戸」 用例①小林秀雄『様々なる意匠』(一九九)「恐らくあらゆる学術中の月たらず美学というものが、少くとも芸術家にとっては無用の長物である所以がある」②源氏鶏太『英語屋さん』(一九五二)「普通ならもはや英語屋なんか無用の長物として、首になるべきであったかもしれない」③「朝日新聞」(三〇四・八・五朝)「冷戦が終わり、もはや核兵器は無用の長物でしかない」 *め* 外国語 英語では a white elephant メートルが上がる 意味「メートル」はフラン ス語で、メータ(計測器)の こと。 (1)盛んに気炎・気勢が上がる。 (2)酒を飲んで威勢・ 機嫌が良くなる。 (3)その場で酒を飲む量が更に増す。 用法文型「ダレダレはメートルが上がる」。用例①③ のように「メートルが」と「上がる」の間に語句を挿入で きる。 用例(1)①葛西善蔵『酔狸州七席七題』(二四)「狸州のメートルやや上る」②生方敏郎『明治大正見聞史』(二六)「こんなにメートルの上ったのは、必ずしも七博士ばかりのことではない。誰も皆一般に人々の鼻息が荒くなっていた」(2)③森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「しばらく献酬がつづいて、座が盛り上がってきた。(略)一同のメートルがだいぶ上がってきた」(3)④津村秀介『京都着19時12分の死者』(二九九)「『アルコールはいける方ですか』「嫌いじゃありません。旅の解放感に浸ると、ついメートル <464> メートルを上げる あ 意味「メートル」はフラン ス語で、メータ(計測器)の こと。 (1)盛んに気炎・気勢を上げる。 (2)酒を飲んで気炎 を吐く。酒を飲んで気勢を上げる。 (3)酒を盛んに飲む。 用法 文型「ダレダレはメートルを上げる」 用例①出口競『校歌ロオマンス』(二九六)三高の生徒は吉田町の寵児である。ミルクホオルでメエトルを上げる」②石坂洋次郎『何処へ』(二四七)「オ太郎が酌をする度に、勢いでグビリグビリ無理な呑み方をしながら、学校改革論や町の封建気風論で、さかんにメートルを挙げた」③谷崎潤一郎『青春物語』(二三三)「二人はすっかり意気投合して好い気持でメートルを上げた。しまいに木村はヘドをはいた」③④和田信賢『放送ばなし』(二四六)「ついそれがメートルを上げ過ぎてしまって、御多分に漏れず飲み過ぎ二日酔い」⑤舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「時子はぐいぐいメートルをあげ、襟替えしたばかりの、飲みざかりの若い妓が、面白がってお酌するのにまかせたので」 類句 $ ^{*} $ (1)「おだを上げる」「気炎を上げる」「気炎を吐く」 「気勢を上げる」 めき 意味物の価値・善し悪し・真贋を見分 目が利く ける能力が優れている。鑑識眼がある。 用法文型「ダレダレはナニナニに目が利く」「室町」 用例①佐々木味津三『右門捕物帖』毒を抱く女(二三八三三三三宅の平七、なかなかに目が利くのです)②骨董品の収集が趣味の祖父は中でも陶器に目が利く 類句「目が肥える」「目が高い」 外国語英語では have a sharp eye for めくら 意味目がくらくらする、まぶしくて目 目が眩む が見えないことから転じて、ある人・物 に心が奪われて正しい判断ができなくなる。用法文 型「ダレダレはダレナニに目がくらむ」(江戸) 用例①三浦哲郎『結婚』(一九六七)「彼は菊枝に目が眩んで矢も楯も堪らず、彼等から菊枝を奪ってしまった」②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九八三)「お前はな、学生だぞ浪人中の分際で、こんなものに目がくらんで勉強をおろそかに」 <465> 外国語 英語では be dazzled *韓国語では「忘い(目が) (ふりふり) (暗くなる)」 めこ 意味良い物や本物を数多く見て、 目が肥える 人・物を鑑識・鑑別・鑑賞する力が十分 備わる。用法文型「ダレダレはダレナニに目が肥え る「目の肥えたダレダレ」「室町」 用例①『朝日新聞』(二五二六八朝)「戦後派の、目にモノ見せてやろうとの腹いせやハッタリだけでは、すでに目の肥えた世間は動かない」②石坂洋次郎『光る海』(二五二六三)「女も中年の人は目が肥えているな」③『朝日新聞』(二五二六七・五朝)「宝石には目の肥えている中国女性がころりとだまされたことが話題になった」④都筑道夫『脅迫者によろしく』(二五九)「あんたも目が肥えているだろうから、あってりゃあわかるはずだ。ありゃあ、男を狂わせる女だよ」 類句「目が利く」「目が高い」 め さ 意味眠りから覚めることから転じて、 目が覚める あることがきっかけで、心の迷いや過 ちに気づいて、正しい方・本来の姿へ立ち返る、向く。 用法文型「ダレダレは目が覚める」。用例③のように 否定形がある。〔江戸〕 用例①東野圭吾『美しき凶器』(一九三)「目が覚めると きがきた。ドーピングの悪影響が表面化してきたのだ。 (略)あれはもうやめたほうがいい、あれは悪魔の薬だ、 と」②「ギャンブルにうつつを抜かし、家族を顧みずに いたが、妻の病気でやっと目が覚めた。これからはまじ めに働くよ」③「まだ目が覚めないのか。このままなら、 人生が台なしになるぞ」 外国語韓国語では「ぞ(目を)」 め さ 意味眠気が覚めるような。 目が覚めるような 際立つ白さや美しさ、物事・ 行為の見事さなどを形容する言葉。用法文型「目が 覚めるようなナニナニ」。「目の覚めるような」とも言う 用例①有吉佐和子『恍惚の人』(九三)「その緑の中で しとどに濡れた泰山木の花が、目のさめるような白さで 咲いていた」②植松黎『ポケットジョーク4』(九〇)「つ づく打者がライトに目のさめるようなヒットを放った ③「目が覚めるような美しさ」 類句「物の見事に」外国語韓国語では「ぞ(目が) <466> めがしらあつ 意味見たり聞いたりして感動 目頭が熱くなる して涙が出そうになる、涙が浮 かぶ。用法文型「ダレダレはナニナニに目頭が熱く なる」「すると目頭が熱くなる」 用例①高杉良『人事権!』(一九九二)『お気を遣っていただいて…』相沢は目頭が熱くなって絶句した』②『朝日新聞』(三〇四・七・三七夕)『ある日、朝子さんは『練習』から帰った広瀬さんのユニホームが、きちんとたたまれてバッグに収まっているのにはっとした。息子は服をたためない。野球部員の心遣いに目頭が熱くなった』③「その話を聞くと目頭が熱くなる」 類句「目頭を熱くする」 外国語 英語では one's eyes fill with tears *韓国語では「えんぎ(目頭が)」 スー(熱くなる) めがしら あつ 意味「目頭が熱くなる」に同 目頭を熱くする じ。 用法文型「ダレダレはナ ニナニに目頭を熱くする」 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「(可哀そう だわ)と、いわれたときには、ちょっと目頭を熱くした ことはたしかであった」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「大 山も、もらい泣きで目頭を熱くしている」③『朝日新聞』 (三〇四・九・四朝)「私は心の底から健闘をたたえ、そのす ばらしさに目頭を熱くした」 目が据わる 意味酔ったり怒ったりして目が一点 を見つめたまま動かない。恐い表情を 言う。 用法文型「ダレダレは目が据わる」(江戸) 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「三堀は、かなり酔いが回っていて、目がすわっていた」②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「体操の和泉先生がいちばん恐ろしいのだった。三十二、三の、男のようないかつい、化粧げもなく、目の据わった先生である」③高杉良『濁流』(一九九六)「初めのうちは憑かれたように眼が据わっていたが」④朝日新聞(三〇四・九・三朝)「知人はビール1杯で真っ赤になり、テンションが上がります。でも2杯目で口数が減り、目は据わって正直怖いです」 めたか 意味人・物を鑑識・鑑別・鑑賞する力 が優れている。良いものを選択できるこ <467> とをほめて言う場合が多い。用法文型「ダレダレは 目が高い」。用例③④のように敬語形「お目が高い」があ る。〔江戸〕 用例①横光利一『家族会議』(一九三五)「あんたは眼が高い」②石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「私にピッタリだわね。伯父さんも目が高いわ」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)「へええ、この絵でおますか、さすがお目が高うおます、この絵は、ここに並んでいる作品の中でも、特に傑出したものでおまして」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「さすが大山さんと田宮さんはお目が高いわ」*類句「目が利く」「目が肥える」「外国語韓国語では「ふふ(目が)ふふ(高い)」 芽が出る 意味草木の芽が出るから転じて幸 運・好機が巡ってきて成功のきっかけが できる。「目が出る」とも書く。用法文型「ダレダレは 芽が出る」。否定形がある。「江戸」 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二五三)「さっぱり芽のでない彼に、パチンコ玉を三十個ほど気前よくくれて」②『朝日新聞』(三〇四・七・三六朝)「いい音楽を作りながら芽が出なかった人たちに、陽の当たる場所に立って もらいたいんです 類句「有卦に入る」「付きが回る」 めてん 意味漫画でびっくりした表情から、 目が点になる ひどくびっくりする。また、そのさ ま。 用法文型「ダレダレは目が点になる」。略して 「目が点」とも言う。 用例①関口誠人『青春ちゃん』(一九八)「カメ吉の目が点になっていたのは言うまでもない」②横田濱夫『はみ出し銀行マンの乱闘日記』(一九三)「これをみたPさんとその同僚の看護婦は、もう目が点になってしまった」③スチュワーデス・ネット『スチュワーデスの内緒話②』(一九九九)「その瞬間、目が点になりました」 * 類句「目を白黒させる一「目を丸くする一 めとど 意味注意・監視・監督などがすみずみ 目が届く まで行き渡る。用法文型「ダレダレ はダレナニに目が届く」「ダレダレの目が届く」。否定形 が多い。 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)そんな眼が届かないところに土地を買って値上りを待ってい <468> るやつの方が悪いわけである」②柳田邦男『空白の天気 図』(一九七五)「市内では危ないからやはり敵の目の届かな い田舎がよいだろうという意見が多かった」③朝日新 聞』(一九七九・五・八朝)「目の届くかぎり草の原と山並みであ る」 外国語韓国語では「눈이(目が)미치다(届く)」 めとで 意味(1)値段が非常に高くて驚くた 目が飛び出る とえ。一般にあっと驚くこと。(2)ひ どく叱られるたとえ。用法文型「目が飛び出るほど ~ 用例(1)①有吉佐和子「恍惚の人」(一九七三)「請求書を見 たときは不慣れな昭子は眼が飛び出るかと思った」(2)② 「目が飛び出るほど叱られた」 類句「目玉が飛び出る」「目の玉が飛び出る」とも言う。 外国語韓国語では「ふぐぐ(目玉が)昇みしぎ(飛び出る)ふぐぐ(ほど)」 めと 意味多くの人・物を見る中で、ある 目が留まる 人・物に注意・関心が向く。用法文 型「ダレダレはダレナニに目が留まる」。用例①のよう に「目が」と「留まる」の間に語句が挿入できる。「江戸」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二—五三)「悠一の目がたま たま新来の客にとまった」②山崎豊子「白い巨塔」(一九六三 「六五)「全国公募の候補者を選考して行くうちに、学問的 業績、人物ともに抜群の菊川候補に眼が止まり」③「朝 日新聞」(三〇四·八·二六朝)「冬季用の営業所で新聞を見てい た浦谷剛人・営業本部長は、非営利組織(NPO)「アオ ダモ資源育成の会」発足の記事に目が止まった」 類句目につく目にとまる外国語韓国語では 「ふふ(目が)咲け(留まる)」 め 意味(1)ある人・物が思慮・分別がなく 目がない なるほど好きである。それが種類に関係 なく、どれでも好きなさま。(2)物事を的確に判断できな い。成り行きを正しく見極められない。洞察力・識別力 に欠ける。(3)何かになる可能性がない。用法文型(1) 「ダレダレはダレナニに目がない」(2)「ダレダレは~する 目がない」(3)「ダレダレはナニになる目がない」。ナ ニナニは役職など。(江戸) 用例(1)①石坂洋次郎『光る海』(一九三一三)「私、甘い物に目がないほうですし」②丸谷オー『男のポケット』 <469> (二九六)「豆腐は大の好物で、夏なら冷奴、冬なら湯豆腐目がないのだが」③田中光二「南紀白浜磯釣り殺人事件」(三〇三)「その石神はじつは釣りに目がないのだという」④「朝日新聞」(三〇四・八・七朝)「子どもはきれいなものに目がない。きれいなものを見ると、すぐにさわりたくなる」(2)⑤「彼は瞬時に偽物を見分ける目がない」(3)⑥「彼は所長になる目がなくなった」 めがねくる 意味人・物の評価・判断を誤る。 眼鏡が狂う 用法文型「ダレダレは眼鏡が狂う」 用例「人事部長の眼鏡が狂ったのか、今度入ってきた 奴は相当の食わせ者だ」 めがねかな 眼鏡に叶う 意味目上の人の判断・評価に適合し 気に入られ、認められる。用法文 型「ダレナニがダレダレの眼鏡にかなう」。用例③のよ うに敬語形「おめがねにかなう」がある。 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七六八)「なるほど、 そこまで伺わせて戴いたら、柳原さんが、いかに財前教 授のめがねに叶うて、将来があるかが解って安心でおま す」②高杉良『人事権!』(一九三)「きみの眼鏡にかなった ほどの男なんだから同期で一、二を争う人材に育ってく れるだろう」③本所次郎『閨閥』(三〇四)「先生のおめがね に叶った絵であることは事実でしょう」 外国語英語では pass the test めはな 意味不測の事態に備えて常に注 目が離せない 意・監視をしなければならない。ま た、とても注目すべき存在で強く関心を持って見る。 用法文型「ダレナニは目が離せない」「ダレナニから目 が離せない」 用例①「朝日新聞」(三〇四·八·四夕)「八〇年代から他の 人とはまったく独自の随筆などを発表されていて、片時 も目が離せない存在だった」②「朝日新聞」(三〇四·九·一九 朝)「消え入りかけた物語を紡ぎ直す真摯な取材行は、 人知れず小さなチャスラフスカ像を穿つ彫り師のようで、 最後の最後まで目が離せなかった」③「容疑者が何をし でかすかわからない。だから彼から目が離せない」 外国語英語では can't take one's eyes off めひか 意味監視の目が厳しいさま。用法 目が光る 文型「ダレダレの目が光る」 <470> 用例①葉山嘉樹『海に生くる人々』(二六六)「そのうち に、そこへ絶えず集まる者には、たとえばぼくらなどに も、時々警察の目が光るようになって」②山崎豊子『白 い巨塔』(一九六三一五)「何分にも、基礎には大河内教授とい う大御所の眼が光っていますからね」③「カンニングを しないか先生の目が光る」 外国語韓国語では「ぞ(目を)弔ちぎ」(光らせる) めまわ 意味非常に忙しいたとえ。用法文 目が回る 型「ダレダレは目が回る」「目が回るよう な忙しさ」。「目の回るような」とも言う。(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「先生こそお珍しいですね、何時も眼の廻るようなご多忙さだと伺っておりますのに」②姉小路祐『合併裏頭取』(三〇二)「捜査二課は目が回るほど忙しくなった。千菜美は本来なら事件関係者だったが、猫の手も借りたい状態では、捜査から外れろという声は起きなかった」③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「新聞記者がわんさか押し掛けてきてなその対応だけで眼が回る」 類句「席の暖まる暇もない」「猫の手も借りたい」「盆と 正月が一緒に来たよう」 外国語英語では one's head spins *韓国語では「눈이(目が)돌다(まわる)」 めうろこお意味新約聖書の「使徒の働目から鱗が落ちるき」に出てくるパウロに起きたできごと(天からの光で目が見えなくなり、祈ってもらったとき、目からうろこのようなものが落ちて見えるようになった)から、あることがきっかけで、今まで分からなかった、見えなかった実態や物事の本質が急に理解できるようになる、見えるようになる。用法文型「目からうろこが落ちた」「目からうろこが落ちる思い」。略して「目からうろこ」とも言う。 用例①岸本葉子『やっと居場所がみつかった』(三〇三) その話を聞いた時、私は目からウロコが落ちるように 思った」②『朝日新聞』(三〇四・六・二朝)「このドラマで、 くだけた言葉にもちゃんと手話表現があり、『こんな風 に表現するんだ』と、目からうろこの連続だった」③『朝 日新聞』(三〇四・九・九朝)「お金をためる方法について書か れた本を読んで、目から鱗が落ちました。節約というと ケチくさいイメージを持っていましたが、実際は『無駄 を省く』ことだと知ったのです」 外国語英語では see the light <471> 目から鼻に抜ける 意味非常に賢いさま。聡明 さま。また、することが敏捷で抜け目がないさま。 用法文型「ダレダレは目から鼻に抜けるよう」(江戸 用例①甲賀三郎『情況証拠』(九三)「眼から鼻に抜け るような敏捷な男で」②伊藤永之介『村のナイト・クラ ブ』(九五三)『興行師』と言われて眼から鼻にぬけるよう な際どいブローカーもやっている喜代志は」③城山三郎 『毎日が日曜日』(九五五)「商社というのは、目から鼻へ抜 けるというか、機敏でなくちゃいかん」④『朝日新聞』 (九〇・九・四朝)「当時の律氏は、はつらつと、貴公子然と しており、人の気をそらさぬ、目から鼻に抜けた男だっ た」 類句「抜け目がない」 意味頭や顔を強く打ち付けた 目から火が出る 時の光が飛び交うような感じの さま。用法文型「目から火が出る」(江戸) 用例①三遊亭円朝「真景累ヶ淵」(八六九)「拳固を振り 上げてコツコツ撲ったから痛いの痛くないのって、眼か ら火の出るようでございます」②「出会い頭に顔と顔を ぶつけ合い、目から火が出た」 類句「目から火花が出る」とも言う。 め た 目くじらを立てる 意味「目くじら」とは目の 端のこと。他人のそれほど大 したことではないと思われるような言動を取り上げて目 をつり上げて怒り、非難、攻撃する。用法文型「ダ レダレはナニナニに目くじらを立てる」「目くじらを立 ててする」。用例②のように否定形がある。江戸 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)「じゃあ、今後に残される問題なら、何も今、めくじらをたてて見ても仕方がないじゃないか、話を進めよう」②『朝日新聞』(一九一・二・二・九朝)『そんなに目くじらを立てないでもよかろうが』といいながら、三人はしぶしぶ空いていた前の席に移った」③大沢在昌『灰夜新宿鮫Ⅶ』(三〇二)「それに機械の部品に化けたからといって、警察が目くじら立てるもんじゃねえだろう」④清水一行『ITの踊り』(三〇四)「『裏金の調達も含めて、アラジンが全部知ったらどうするかな』『めくじらを立ててくるのは間違いないでしょうね。……』 類句「難癖をつける」目角を立てる「目に角を立てる」 <472> 目糞鼻糞を笑う わら 意味汚い目糞(目やに)が自 分のことを棚に上げて鼻糞を汚 いと笑うように、自分の欠点には気づかないで他人の欠 点をあざ笑うことのたとえ。用法文型「目糞鼻糞を 笑う」。単独で使用する。 用例①林真理子『女のことわざ辞典』(一九九)「ことわざ好きの母親は、こんな言葉を知っていた。『目クソ、鼻クソを笑う』②原田宗典『東京困惑日記』(一九二)「目糞鼻糞を笑うとは、まさにこのことである」③柴門ふみ『サイモン印』(一九三)「その虫の良さ加減は目クソ鼻クソを笑うじゃないか」④高杉良『首魁の宴』(一九九)「山岡が言った目糞鼻糞を笑うが現実のものとなったのだから」外国語英語ではbe like the pot calling the kettle black*中国語では諺「秃子笑和尚」(はげが坊主を笑う) 目じゃない 意味相手・物を見下して問題にしな い、何とも思わない。用法文型「ダ レナニなど(なんて)目じゃない」 用例①野坂昭如『てろてろ』(一を二)『それを誘拐したら、どれくらいお金出すかな。身代金ていうの』『誘拐?』『そうよ。それこそ三億くらいめじゃないんじゃ ない?』②『朝日新聞』(三〇四・九・八朝)「日本のアニメは 世界一。米国なんて目じゃない。中国人も大好きだよ」 *しか 類句「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」 * 「取るに足りない」「はなもひっかけない」「屁とも思わない」 * 「見向きもしない」「目もくれない」「物の数ではない」 「問題にならない」 メスが入る 意味「メス」はオランダ語で手術や 解剖用の小刀。問題の根本や、これま で隠されていた良くない部分を取り除き解決するため に、捜査が入る。用法文型「ダレナニにダレダレの メスが入る」。ダレナニは会社・組織やそこでの疑惑など ダレダレは捜査機関。 用例①「朝日新聞」(一九七九・二・二五朝)「国際電信電話会社(KDD)の疑惑に十四日、ついに検察のメスが入ることになった」②「朝日新聞」(一九八一・五・一六朝)「原発の事故をめぐって捜査当局のメスが入るのは、初めてのことだった」③「朝日新聞」(一九一・七・三王朝)「政財界の腐敗に東京地検特捜部のメスが入った五年前」 <473> 意味「メス」はオランダ語で手術 や解剖用の小刀。問題の根本や、こ れまで隠されていたよくない部分を取り除き解決するために、思い切った改善の手段を取る。用法文型「ダレダレはダレナニにメスを入れる」。ダレナニは会社や制度・組織など。命令・意志表現は可能。受身形がある用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(九五)「これからはまた別のやり方で、現在われわれ亭主どもの置かれている悲劇的な状況にメスを入れて行くことにしよう」②「朝日新聞」(九五・七・三朝)「自民党の金権・腐敗構造にメスを入れ、政治浄化と再発防止に全力で取り組むことにあるはずだ」③「朝日新聞」(九五・九・三朝)「大蔵省の役人が、最も腐りきっている、という構造にメスを入れることが先決だろう」④「朝日新聞」(九五・九・三朝)「この際、技術的な側面だけでなく、同社の体制や体質にも徹底的にメスを入れる必要があろう」 類句「膿を出す」 内 目玉の黒い内 意味「目の黒い内」に同じ。 用法文型「ダレダレの目玉の黒い 用例源氏鶏太『颱風さん』(二五二)「俺の眼玉の黒いう ちはダメだ」 類句「目の玉の黒い内」とも言う。 メッキが剥げる 意味「メッキ」は「鍍金」の転 人の上辺の飾り・取り繕ってい た体裁などが崩れて本性や悪い中身が現れる。用法 文型「ダレナニはメッキがはげる」 用例①長与善郎『一つの今日』(九五)「妻の久枝が買 い被るようなキリスト教的な道徳観はもうすっかり鍍 が剥げ」②石坂洋次郎『あじさいの歌』(九五八五九)「貴方 は、そんな中途半端なものがいない、ほんとの独身者だ と思ってましたよ。少しメッキが剥げましたな」 類句「地が出る」「地金が出る」「しっぽを出す」「底が 割れる」「馬脚を現す」「化けの皮がはがれる」「ぼろが出 る」 めどた 意味物事を達成するための将来の見 目途が立つ 通しがつく、手がかりが明確になる。 比較的むずかしいことの見込みについて言う。用法 文型「ナニナニのめどが立つ」「ナニナニにめどが立つ」。 <474> 否定形がある。 用例①阿川弘之『春の城』(一九五三)「解読のめどは殆ど 立たなかった」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「右 の答えはあるいは正解ではないかもしれないが、それで もあるめどは立つだろう」③『朝日新聞』(一九三・一・三四朝) 「自民党は予算成立を優先させる立場から、予算成立の めどが立つまでは無理な動きを控えるものとみられ」④ 「朝日新聞」(三〇四・七・八朝)「園内に動物科学資料館を建 設する計画を立てた。03年に着工し、今年完成するはず だった。しかし、市財政の悪化から見送られ、建設のめ どは立っていない」 類句「見当がつく」「目途が付く」「目鼻がつく」「目安がつく」「外国語英語では see the light at the end of the tunnel めど 意味「目途が立つ」に同じ。用法 目途が付く 文型「ナニナニのめどがつく」「ナニナ 二にめどがつく」。否定形がある。用例⑤のように「め どが」と「つく」との間に語句を挿入できる。 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)長いあいだ頭 におおいかぶさっていた心配ごとに一応のメドがついた ので、見たこともない安らいだ表情をしているように 思われた」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「せっか く綿実処理のめどがついたところだというのに」③『朝 日新聞』(一九七九・七・五朝)「裁判は難航を続け、いまなお結 審のめどさえついていない」④『朝日新聞』(一九〇・三・七 朝)「八五年から日本は年間五十億立方メートルの天然 ガスの供給を受けるメドがついた」⑤高杉良『会社蘇生』 (一九七)「再建を支援するスポンサーのメドもほぼつきま したので」 めはな 意味「目と鼻の先」に同じ。用法文型 目と鼻 「ドコドコはドコドコと目と鼻」 の名古屋で講演しなはる」 用例舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「大将は目と鼻 めはなさき 意味ふたつの場所の距離が非常に近 目と鼻の先 いこと。すぐそこ。近所。多くは屋外 の場所・建物に言う。用法文型「ドコドコはドコド コと目と鼻の先」 私が生まれ育った場所とはほんの目と鼻の先で、こども 用例①鈴木健二『ビックマン愚行録』(一九七七)「高橋は <475> の頃は遊びに行けたところなのである」②「朝日新聞」 (一九一・四・四朝)「目と鼻の先にある幼稚園は入園を拒み」 ③内田康夫「博多殺人事件」(一九二)「浅見たちが発掘調 査をしていた現場は、つい目と鼻の先であった」④本所 次郎『閨閥』(三〇四)「医務室の医師はフヨウテレビと目 と鼻の先の、東京女子医大に一室を確保した」 * 類句「目と鼻の間」とも言う。「目と鼻」「外国語」be a stone's throw めどっ 意味物事の将来の見通しをつける。 目途を付ける 比較的むずかしいことの見込みにつ いて言う。用法文型「ダレダレは十二十二のめどを つける」「ナニナニにめどをつける」。命令・意志表現は 可能。 用例①津本陽『深重の海』(一九七八)金策の目途をつけた」②『朝日新聞』(一九七九・六・三朝)『第三次戦略兵器制限交渉(SALT)の進め方についてメドをつけておくことも大きな得点だったはずだ」 類句「目鼻をつける」 目に会う 意味あることを体験する。多くの場合、 悪い、辛い、苦しい体験などに言う。 用法文型「ダレダレが~目にあう」。~には「痛い」苦しい「大変な」「つらい」「とんでもない」「ひどい」など、「目」を修飾するマイナス評価の言葉が入る。用例①⑤のように使役形がある。③のように否定形がある。「鎌倉」 用例①松本清張『点と線』(一九五八-五九)「これからという前途のある弟を、そんな目にあわせた相手の女が、私は憎くてなりません」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「君も僕に何時までも、くっ附いていると、飛んだ目に合うよ」③平岩弓枝『風子』(一九七五-七七)「千代が風子にうるさく世話を焼いたのは、勝丸のようなめに遭わないため」④「朝日新聞」(一九七九・五・二五朝)「沖縄本島南部に工場用地を持ちながら進出を見あわせていた松下電機産業が進出断念を伝えるという皮肉な目に遭ってしまった」⑤朝日新聞(三〇〇四・七・二四朝)「親集団とのつき合いができない私が長女を悲しい目に遭わせているのではと、自分を責めたり」 <476> あま 意味行為の程度や状態があまりにひど 目に余る すぎて黙って見過ごすことはできないほ どである。用法文型「十二十二は目に余る」「十二ナ 二は目に余るものがある」(鎌倉) 用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「最近の暴力団、右翼団体、非行青少年、および一部破壊主義的学生団体の暴力犯、集団的な暴力的違法行為には目にあまるものがあり」②「朝日新聞」(一九六○・五・三朝)「自民政権の目にあまる専横と金権腐敗に対する国民の怒り」③東野圭吾『学生街の殺人』(一九六七)「ここ数年のこの街の落ちぶれようは目に余るものであったし」④本所次郎『閨閥』(三〇四)「評論家の大宅壮一が『むかし陸軍、いま総評』といったように、左翼を代表する総評の横暴は目に余るものがあった」⑤「朝日新聞」(三〇四・八・七朝)「いまの子ども向けファッションは、目に余るショッキングな色とか、品のない色とかが横行している」 外国語 英語では be too much to tolerate *韓国語 では「눈에 (目に) 거슬리다 (逆らう)」 目に入れても痛くない意味「目の中へ入れても痛くない」に同じ。 外国語 英語では be the apple of someone's eye 用法文型「ダレダレは目に入れても痛くない」(江戸 用例①嘉村磯多『業苦』(九八)「敏雄はお父さまにとっ て眼に入れても痛くないたった一粒の孫ですもの」②海 野十三『二〇〇〇年戦争』(九四)「眼に入れても痛くな いほど可愛がっているトマト姫のことだから」 めう 意味現在目の前にはないものの姿や 目に浮かぶ 様子が目に見えるように再現・想像で きる。用法文型「ダレナニが(ダレダレの)目に浮か ぶ」(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(二六三六五)「見学室のガラス窓に爬虫類のように貼りついていた東の不気味な顔が、財前の眼にうかんだ」②三浦綾子『塩狩峠』(二六六)「いつも寝ていて、何年も外を見ることのないふじ子には、ありふれたタンポポ一本にも、いろいろな風景が目に浮かぶらしかった」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(二九三)「弘子ちゃんと久美子ちゃんが、紙に包んだマッチ箱を教壇の机に置いた時のはずかしそうな様子は、いまでもまざまざと眼に浮かぶ」④朝日新聞(三〇四・九・三朝)「軟らかいほほ笑みを振りまきながら、元気にお遍路の旅を <477> 続ける母の姿が目に浮かぶ 類句「目に見えるよう」外国語英語では can just picture *韓国語では「そん(目に)叫るミナ(浮かぶ)」 めかどた 意味目をつり上げた怒った表 目に角を立てる 情をする。用法文型「ダレ ダレは目に角を立てる」(室町) 用例①甲賀三郎『支倉事件』(九毛)『何を云うんだい』 たちま おかみは忽ち目に角立てた』②内田百閒『百鬼園随筆』 (九三)「こんなこと書くと、きつと目に角をたてる人が ある」③『朝日新聞』(九九・八・四朝)「ことさら目に角立 てんでもいいでしょう」 類句「目角を立てる」とも言う。「目くじらを立てる」 目を三角にする」外国語韓国語では「ざぜ(目に) 足込(角を) 세우け(立てる) 目にする 意味自分の意志とは無関係に目撃する 目に見える。テレビや映画などを見るこ とには使わない。用法文型「ダレダレがダレナニを 目にする」 用例①中上健次『鳳仙花』(一九〇)「それはこの古座に 住む者の誰も眼にした事のない風景だった」②森村誠 一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九七)「雅子の電話を受けて、 頼子は藤村の家へ駆けつけました。そこで目にしたのは、 あなたが息を吹き返した藤村に止めを刺している場面で す」③『朝日新聞』(三〇四・七・三四朝)「ぼくたちがいま目に しているのはその歴史的なトレンドでしかないのかもし れない」 類句目につく目に留まる目に入る目に触れる 意味人・物・事柄が目立って見える。 目に付く また、ふと目に見える。用法文型「ダ レナニが目につく」。否定形がある。(江戸) 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六三六三)「庭の緑のくさむらの中で、若いカップルが抱き合って横になっているのが目についた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「とかく手近にいる者は、欠点が眼につくものだから」③安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「さっきは眼につかなかった患者が大ぜいで医者を取りまいて、口ぐちに云っている」④『朝日新聞』(三〇四・七・三夕)「様々な理由から、国籍を変えるアスリートが目につく」 類句 目にする目に留まる目に入る目に触れる <478> めと 意味いろいろ見えているものがある 目に留まる 中で、特にある人・物に関心・注意が 引かれる、印象に残る。用法文型「ダレナニが目に 留まる」「ダレナニがダレダレの目に留まる」。用例②の ように否定形がある。 用例①大岡昇平『俘虜記』(一九五三)「竜の模様は『ブラック・ドラゴン』の先入主を持つ収容所長の目に留り」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五五)「よほど充実したシートでないと、求人者の目にとまらないわけですよ」③柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「上半身を熱で焼かれ黒く火脹れした顔に目玉だけをギョロギョロさせている男が目に止まった」④朝日新聞(三〇四・九・六朝)「琳派の嫡子然とした作品より、私の目に留まったのは寂しげな菱田春草の『落葉』だった」 類句「目にする」「目につく」「目に入る」「目に触れる」 外国語英語では catch someone's eye *韓国語では 「そん(目に)咲け(留まる)」 目に留める 意味ある人・物を関心・注意をもつ てじっと見る。用法文型「ダレダ レがダレナニを目にとめる」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二—吾)「老作家は戻って くる悠一の姿を目にとめるなり、帰りを急いだのであ る」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「案内を目にとめ たようであった」③津本陽『深重の海』(一九七八)「ゆきが 揺れている提灯の紋を目に留めて、水の浦の先生やとさ さやいた」 類句「目をつける」「目を留める」 めはい 意味自分の意志とは無関係に自然に視 目に入る 野に入り、見える。用法文型「ダレ ナニがダレダレの目に入る」。用例①のように否定形が ある。江戸 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「私はもう乗客の存在が目にはいらない」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「指のあいだから血の筋が何本となく甲の方へ走っているのが彼の目に入っていた」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「駅へ出ようとしたとき、ひとつの標識が目に入った」④「朝日新聞」(三〇四・九・二〇朝)「先輩教師の机の上の学級通信が目に入った」 類句「目にする」目につく「目に留まる」目に触れる」 外国語韓国語では「そん(目に)言わえて(入る)」 <479> めふ 意味ふと目に見える。ある物が見え 目に触れる る所にある。用法文型「ダレナニ がダレダレの目に触れる」。用例④のように否定形があ る。「室町」 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「目にふれる物すべてをけなされたとしても」②『朝日新聞』(三〇四・セ・三夕)「晩年のネルーダは、目に触れるものすべて、自在に詩に歌った。タマネギやレモン、ワインやパンも彼の詩心をそそった」③『朝日新聞』(三〇四・セ・三九夕)「多くの人の目に触れていくということによって、上記AとBは徐々に浸食されていくということも考えられる」④「危険な物は小さな子どもの目に触れない所にかたづける」 類句「目にする」「目につく」「目に留まる」「目に入る」 外国語韓国語では「ぞぞ(目に)習かけ(接する)」 めみ 意味外から見てはっきりわかるくら 目に見えて いに、変化がある様子。用法文型 「ダレナニは目に見えて~する」。副詞的に述語を修飾す る。江戸 用例①福永武彦『忘却の河』(一九四)『美佐子は眼に見 えて明るくなったようだ」②安岡章太郎『海辺の光景』 (一九七八)「三時ごろから母の呼吸が目にみえて弱りはじめ た」③「朝日新聞」(三〇四・七・三朝)「この数年ですよ、緑 を戻す植林と、工場の排ガス、排水規制が進んだのは。 直島も目に見えて緑になりました」 類句「見る見るうちに」 めみ 意味将来ある状況になること 目に見えている がはっきり予想・予測できる。 多くの場合、悪い結果に言う。用法文型「ナニナニ は目に見えている」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「うっかり下手 たちま な行動を取れば、忽ち東教授の鶴の一声で地方の病院 へ追いやられてしまうことは眼に見えている」②『朝日 新聞』(一九七三・三・八朝)「六パーセントやそこらの利子を もらっても、損をすることは目に見えている」③半村良 『どぶどろ』(一九七七)「先の苦労が目に見えているよ」④『朝 日新聞』(一九三・一・二朝)「通常国会の予算審議でこれま で以上に鈴木内閣を追及するのは目にみえている」⑤内 田康夫『歌わない笛』(一九九八)「ノコノコと尋ねて行けば、 ケンもホロロに弾き飛ばされるのは目に見えている」 <480> 類句「火を見るより明らか」 外国語 英語では be a foregone conclusion めみ 意味その時の姿や様子が目の 目に見えるよう 前に再現・想像できるようであ る。 用法文型「ナニナニが目に見えるよう」 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「わたしにはこのタ ンポポを摘んでくださった時の貴方の姿が、目に見える ように想像できるのよ」②半村良『どぶどろ』(一九七七)『恩 を仇で返す者は犬畜生にも劣ります』伝左衛門がそう言 うのが目に見えるようだった」 類句「目に浮かぶ」 めと 意味動きが目で確認できない 目にも留まらぬ くらい速いさま。用法文型 「目にも留まらぬナニナニ」。ナニナニには速さに関係し た語が来ることが多い。 用例①森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)目 にもとまらぬまわし蹴りを延髄に受けて悶絶した」② はやわざ 「目にも止まらぬ早業」 めものみ 意味ある人や世間一般に思い知ら 目に物見せる せてやる。ギャフンと言わせる。痛 い目に合わせる。用法文型「目にもの見せてやる」 「目にもの見せてくれる」。「目にものを見せる」とも言う。 「室町」 用例①「朝日新聞」(一九五・六・八朝)「戦後派の、目にモノ見せてやろうとの腹いせやハッタリだけでは、すでに目の肥えた世間は動かない」②源氏鶏太『三等重役』(一九五二三)「わしはこんどこそ、世間一般的な弱腰社長やない証拠を、組合に対して、目にモノを見せてやる所存である」③椋鳩十『大空に生きる』(一九五五)「無礼なやつだ、目にものみせてくれるぞ、といわぬばかりに、はげしいいきおいで、わかいワシめがけて、おそいかかっていった」 めいろか 意味目つきが変わる。驚き・ 目の色が変わる 怒り・熱中などのさまに言う。 用法文型「ダレダレの目の色が変わる」〔江戸〕 用例大岡昇平『俘虜記』(一九五三)「最初冗談かと思って 聞き流していたが、しつこく繰り返すので、顔を見る と眼の色が変っているのでぞっとした、と豆はいってい <481> る 外国語韓国語では「ぐぐぐ(目の光が)달라지」(変わる) めいろか 意味目つきを変える。驚き・ 目の色を変える 怒り・熱中などのさまに言う。 用法文型「ダレダレが目の色を変える」「ダレダレが目 の色を変えて~する」「江戸」 用例①源氏鶏太『夢を失わず』(一九六)「なんだ、千万円ぐらいで、そんなに目の色を変えるな」②『朝日新聞』(一九六五・四・三朝)「すこしでも割のいい地位や就職の好条件を、みんなが目の色をかえて追い求める風潮の中で」③丸谷オー『男のポケット』(一九七九)「フランスの田舎では、女たちはみんな、アラン・ドロンと聞いただけで目の色を変へるのだそうだ」④『朝日新聞』(一九八一・三・三朝)「関脇の隆の里、琴風、そして前頭筆頭に上がった朝汐が、目の色を変えてけいこに励んでいる」⑤東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「鑑識が目の色を変えて調べたけれど」 め うえ この 意味自分よりも地位や力が上で、自 目の上の瘤 分の活動や地位に何かと目障りで邪魔 な存在のたとえ。また単に邪魔な存在。用法文型 「ダレダレは目の上のこぶ」(室町) 用例①樋口一葉『闇桜』(二九三)かく対等の地位に至 れば目の上の瘤うるさく成りて」②大沢在昌『灰夜新 宿鮫Ⅶ』(三〇二)「嫌うってほどじゃないけど、目の上の コブだと思っている人はたくさんいると思う」③本所次 郎『閨閥』(三〇四)『考えておく』と答えたものの、友川 は目の上のコブになった」 類句「目の上のたんこぶ」とも言う。外国語英語では a constant hindrance *中国語では成句「眼中釘肉中刺」(目の中の釘、肉の中のとげ。目の上のたんこぶ)*韓国語では「ざの(目の)外(とげ)」 めかたき 意味憎むべき敵と見て何かと嫌悪 目の敵にする する。敵視する。用法文型「ダ レダレはダレナニを目の敵にする」。用例③のように受 身形がある。「目の敵とする」とも言う。 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「ヤソ、ヤソと母が キリスト教徒を目の仇にすることが、貞行には合点が行 かなかった」②高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「何だっ てあいつはあれほどおまえを目の敵にしたのかな」③ <482> 朝日新聞(一九九六・一九朝)「反対派のジャクソン議員(民主)などは、カーター政権だけでなく、モスクワからも主戦論者として目のかたきにされているようだ」④朝日新聞(一九八一・七・二四朝)「改憲強硬論者たちは、現日本国憲法は米占領軍の押しつけだとして、第九条を目の敵として改憲を叫び続けている」 外国語 英語では always treat someone like an enemy *韓国語では「忘の(目の)カスキ詰(とげのように)よ フロー(思う)」 めくろうち意味人が生きているうち。多くは目の黒い内自分のことに言う。用法文型「ダレダレの目の黒い内は(に)」。「目の黒い内に~する」と「目の黒い内は~させない」という使い方が多い。「江戸用例①「朝日新聞」(一九三・一・一九朝)「スターリンが目の黒いうちはソ連が戦争をしかけることはあるまい」②「朝日新聞」(一九五・七・三朝)「七十九歳の老チャーチルは自分の目の黒いうちに(いや青いうちに)英国が戦争にまきこまれぬ態勢を築き上げねば死んでも死にきれぬ気持ちで」③「朝日新聞」(一九七・七・三朝)「われわれの目の黒いうちはそんなことは絶対許さない」とこわいお達し④ 深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九三)「自分の目の黒いうちは安泰でも、自分が死んだ後、傾いたり潰れたりしたら困る」⑤清水一行『ITの踊り』(三〇四)「吉原は自分の眼が黒いうちに、なんとか実現させたいと、秋葉に特命を与えたときにそれを宣言した」 類句 「目玉の黒い内」「目の玉の黒い内」とも言う。 外国語 英語では as long as one is alive *韓国語で は「눈에(目に)흙이(土が)들어가기(入る)전(前)」 めたまくろうち 意味「目の黒い内」に同じ。 目の玉の黒い内 用法文型「ダレダレの目の玉 の黒い内は(に) 用例源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二三)「不肖平林 の眼の玉の黒いうちは、子分どもに、勝手な真似は絶対 にさせませんぞ」 類句「目玉の黒い内」とも言う。 めどく 意味見ると欲しくなったり害になったり 目の毒 するので、見ない方がよいもの。用法 文型「ナニナニはダレダレに(は)目の毒」「室町」 用例①丸谷才一『男のポケット』(二丸)「婦人雑誌に <483> 載ってるる料理の写真はじつにうまさうで、食欲をそ そることおびただしい。つい今しがた晩飯をすませたば かりなのに、この鴨のオレンジ煮を一刻も早く食べたい つけあはせの野菜も食べたい、なんて気持になる。すく なくとも、一瞬、なる。ああいふのはやはり目の毒と言 ふべきであらう」②「ポルノ雑誌は子どもに目の毒だ」 めなかいいた意味親や祖父母な 目の中へ入れても痛くない どが子どもや孫など ちようあい を非常にかわいく思うさま。寵愛するさま。用法文 型「ダレダレがダレダレを目の中へ入れても痛くないほ ど可愛がる」「目の中へ入れても痛くない(ほどの)ダレ ダレ」。「目の中に入れても痛くない」とも言う。 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(二六二)「父は妹の伊勢子を、眼の中へ入れても痛くないほど、可愛がっていた」②『朝日新聞』(一九八○・五・六朝)「幸子さんは(略)二子山親方がチョンマゲを結わせていたりして育てた文字通り目の中に入れても痛くないほどの『秘蔵っ子』 類句目に入れても痛くない」とも言う。「蝶よ花よ」 めはしき 意味機転が利く。臨機応変にうまく 目端が利く 処理する。先のことがよく見通せる。 用法文型「ダレダレは目端が利く」「目端が(の)利く ダレダレ」(江戸) 用例①久保田万太郎『大寺学校』(九三七)「目端のきく 校長ならいまのうちから用心してかかります」②山崎豊 子『白い巨塔』(九三六五)「葉山君ほど眼はしのきく人が 解らんかね」③高杉良『会社蘇生』(九七)「会社にとって ほんとうに役立つ人は、目端が利いた人ではありません 会社のゆくすえを真剣に考えて、辛抱強くやっていく人 です」 類句「先見の明」「目先が利く」 めはな 目鼻が付く 意味物事が進み、ほぼできあがり、 おおよその見通しや結果の予想や筋道 がつく。用法文型「ナニナニに目鼻がつく」「ナニナ この目鼻がつく」。用例①③「一つの」「あらかたの」の ように「目鼻」を修飾できる。④のように否定形がある。 〔江戸〕 用例①徳田秋声「仮装人物」(九三三)「この崩れか かって来た恋愛に、何か一つの目鼻がつき」②源氏鶏太 <484> 「見事な娘」(一九五四五)「やっと九十万円だけは、何んとか、目鼻がついた」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「三日間のうちにあらかたの目鼻がつくようでないと、事件捜査は長引く」④「なかなか仕事の目鼻がつかない」 類句「めどが立つ」「めどがつく」「日星がつく」 めはなっ 意味物事を進めてほぼできあがり、 目鼻を付ける おおよその見通しや結果の予想や筋 道をつける。用法文型「ダレダレはナニナニに目鼻 をつける」「ダレダレはナニナニの目鼻をつける」。命 令・意志表現は可能。「江戸」 用例田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)白 浜を起点にして活動することになるだろうが、最低 四、五日はかかるだろう、まあ一週間以内に目鼻をつけ るつもりだが」 類句「めどをつける」「目星をつける」 外国語 英語 では complete all but the finishing touches めぼし 意味 捜したり何かをしたりして、お 目星が付く およその見当や見通しがつく。多くは 犯人など、人について言う。 用法文型「ダレナニの 目星がつく」。用例①のように「目星が」と「つく」との 間に語句が挿入できる。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「野坂教授が推 している菊川でもなく、俺でもなく、第三の候補者という 奴の目星は、ほぼ、ついてるんだ」②出久根達郎「か わうその祭り」『朝日新聞』(三〇四・五・三夕)「清掃局の人 が怒っていた。だけど犯人の目星がつかないから、そ れっきりさ」 類句「めどが立つ」「めどがつく」「目鼻がつく」 めぼしっ 意味捜したり何かをしたりする時、 目星を付ける おおよそこうだろうと見当や見通し をつける。多くは犯人など人について言う。用法文 型「ダレダレがダレナニに目星をつける」。命令・意志 表現は可能。江戸 用例近藤りきを『漫画漫文世相百態』(一九三〇)「目星をつけた星が三十分以内に流れて思った星とならんだら、その恋は確実となるが」 類句「めどをつける」「目鼻をつける」「外国語」英語では make an educated guess *韓国語では「元気」 <485> めあ 意味あまりにも悲惨だった 目も当てられない り状況がひどかったりして、 まともに見ていられない。用法文型「~するようで は(なら・たら)目も当てられない」「ナニナニは目も当 てられない」「鎌倉」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「そんなことになるんだったら、目も当てられないからね。すべて水泡に帰すからね」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「菊川氏、いるかな、もし出張中だったら目もあてられない」③柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「大野浦あたりは、無数の山崩れと土石流で、いまだに目も当てられない状態です」④『朝日小学生新聞』(三〇四・九・一八)「受験を数か月後に控えて、家族の意思統一はできているでしょうか。本番直前、本番中にごたごたするようでは目も当てられません」 類句「目をおおう」(外国語)英語では too terrible to look at *中国語では成句「惨不忍睹」(惨めたらしくて見るに忍びない。「睹」は見る)*韓国語では「忘圧卫(目を開けて)が(見ることが)」(できない)」 めあや 意味まばゆいばかりに美しく立派なさま。 目も綾 用法文型「目も綾な十二十二」「目も綾に する」「平安 用例①「目も綾な舞台衣裳で登場」②「目も綾に色とりどりに紅葉する」 目もくれない 意味人・物事に少しも関心・興味 を示さない。見向きもしない。 用法文型「ダレダレはダレナニに目もくれない」「ダレ ダレはダレナニに目もくれずする」 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「彼は福次郎に目 もくれずに戸口へ歩いた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八) 「小説なんか目もくれないような堅物に見えるけれど」 ③『朝日新聞』(一九七九・六・三六朝)「世俗的な立身出世に目も くれず老人医療に尽力されていた尼子氏」 類句「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」 「見向きもしない」 めうたが 意味思ってもみなかったことを見て驚 目を疑う き、信じられない感じがする。用法 文型「ダレダレは(我が・自分の)目を疑う」 <486> 用例①三島由紀夫『禁色』(一五一三)「彼が何の反発も示さずに素直な笑顔のままこれに応えているのを見て、老作家はわが目を疑った」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「病院前でタクシーを下りたとき、沖は目を疑った。病院の入口で、忍がにこにこ笑って、手を振っているではないか」③東野圭吾『美しき凶器』(一九三)「男は彼女を見て、自分の目を疑うように瞬きした」 類句「耳を疑う」 外国語英語では can't believe one's eyes *韓国語では「言(目を)の심かけ(疑心する「疑う」)」 めうば 意味人・自然・物のあまりの美しさ、 目を奪われる 鮮やかさ、立派さなどに見とれる。 用法文型「ダレダレはダレナニに目を奪われる」。「ダ レナニがダレダレの目を奪う」という形もある。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一三)「年と共にみのり えいいっ 豊かに盈溢した肉体の美しさにつかのま俊輔は目をうば われたが」②津本陽『深重の海』(一九七八)「洋服を着た男女 が多いことに、弥太夫は眼を奪われる」③森茉莉『恋人 たちの森』(一九三)「ジインパンツの足で、フロアを横切っ たレオの、ナルシスのような上目遣いの横顔に眼を奪わ れたギランが④朝日新聞(三〇四・九・一八朝)「山腹から 落ちる滝の壮観さに目を奪われた」 類句「釘付けになる」「目をひかれる」 めおお 意味あまりのひどさに手で目をおおい 目を覆う 見ないようにする。用法文型「ナニ ナニは目をおおうばかり」「目をおおうナニナニ」 用例①筒井康隆「狂気の沙汰も金次第」(一九三)「残虐 きようあい 非道、貪虐兇穢眼をおおうばかりの血も涙もない、畜生 にも劣る殺人鬼」②「朝日新聞」(三〇四・四・四朝)「ひどいこ とになっている。「週刊文春」3月25日号を出版禁止に あき した東京地裁にも呆れるばかりだが、マスコミ関係者の 反応もまた目を覆うばかりだ」③「思わず目をおおう凄 惨な事故現場」 類句 目も当てられない 外国語韓国語では (目を) (わに) (わに) (わに) す 文型「ダレダレがダレナニに目を落と 目を落とす 意味視線を下の方へ向ける。用法 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九三一五)『野坂君は、 <487> いやに遅いですね』今津が眼を落としたまま云うと」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「信夫はばかにされたような気がして、聖書から目を上げた。(略)信夫は再び聖書に目をおとした」③太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九八七)「グラスに目を落として、蟹沢が刑事らしく、はじめてギョロッと目を光らせた」④岩城捷介『免職警官』(三〇三)「鬼頭はテーブルに目を落とした」 類句目を伏せる めか 意味成長株であるとか気に入ったと 目を掛ける かの理由で、ある人を特別に可愛がっ てあれこれと面倒を見る、世話をしてやる。ひいきに する。用法文型「ダレダレがダレダレに目をかける」 命令・意志表現は可能。用例②のように受身形がある。 「室町」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九三一五)「僕と財前又一君とはまた医師会におけるツーツーカーの仲だから、できることなら、財前君の娘婿に眼をかけてやってほしいと頼んでるだけだよ」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九三二)「佐々木軍曹は門間少佐に特に眼を掛けられていたこともあって」③東野圭吾『卒業』(一九八六)「金 井さんも目をかけて下さってるみたいですよ」④森村誠 一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「彼女を妹のように 可愛がったのが、当時のナンバーワン路子さんでした。 たまたま同郷ということで、特に目をかけていたようで す」 外国語 英語では favor めかす 意味人に見つからないようにこっそ 目を掠める りする。人のすきをねらってちょっと した悪事を働く。用法文型「ダレダレがダレダレの 目をかすめて~する」(江戸) 用例①野間宏『真空地帯』(一九五三)「その品物を衛門歩 しよう 哨の眼をかすめて外にもちだすのにじつに苦労するとい うのである」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「敵の眼を掠 めて洞窟の中に逃げ込んだまま」 類句「目を盗む」 外国語 *韓国語では「とき(目を) 今いけ(だます)」 めくぱ 意味見落としがないように、広い範囲 目を配る や細かいところまで注意して見る、注意 を行き届かせる。用法文型「ダレダレはダレナニド <488> コに目を配る」。ドコは「周囲」「あたり」などがよく使われる。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例①大岡昇平『俘虜記』(一五三)「絶えず首を廻して あたりに眼を配っていた」②新田次郎『八甲田山死の彷 徨』(一九七二)「神田大尉は、常に周囲に眼を配っていたか ら」③『朝日新聞』(三〇四・七・三夕)「代理人との交渉能力 や、若手にも目を配る視野の広さが評価されている」④ 『朝日新聞』(三〇四・八・六夕)「JCDNのように全国に目を 配るNPO法人ができ」 めくら 意味姿を隠して見つからないように 目を晦ます する。人目をごまかして正体を見せな いようにする。用法文型「ダレダレはダレダレの目 をくらます」。命令・意志表現は可能。用例②のように 受身形がある。江戸 用例①吉村昭『ポーツマスの旗』(一九九)「かれは、常に単独で行動し、探偵の眼をくらますことにつとめていた」②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「『美千代、目を醒ましてくれ。おまえは目を晦まされているのだ』『私は目を晦まされてなんかいないわ。私、もうあなたを愛していないの。これまでの私が目を晦まされていた の。 めこ 意味はっきり見極めるため、また確 目を凝らす 認するためにじっと見つめる。凝視す る。用法文型「ダレダレは目を凝らす」「目を凝らし てくする」。「くする」は「見つめる」など。 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「N男が立っているのではないかと、目を凝らしたが」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「おやじは、目をこらすようにして、笹上を見つめる」③中上健次『鳳仙花』(一九〇)「それが誰なのかフサは分らず暗がりにまぎれてしまった女の顔を確かめようと眼をこらしてみつめていると」④龍一京『交番』(三〇四)「千草の宅から、子供の手を引いて出てきた田坂の姿を見かけた宮脇は、じっと目を凝らした」⑤『朝日新聞』(三〇四・九・三朝)「目をこらし読んでいくと、作品の輪郭が少しずつ明確になってくる」 類句「瞳を凝らす」「目を注ぐ」 外国語英語では look hard *韓国語では「ぞ을(目が)聴어ス(通され るように)旦(見る) <489> めさ 意味眠りから覚めることから転じて 目を覚ます あることがきっかけで、心の迷いや過 ちに気づいて、正しい方や本来の姿へ立ち返る、向く。 また、気づかなかった自分の性格などを自覚する。 (江戸) 文型「ダレダレが目を覚ます」。命令形がある。 用例①森村誠一『人間の十字架』(一九九三)『美千代、目を醒ましてくれ。おまえは目を晦まされているのだ』②「こんな親泣かせのことばかりしていてもだめだと、やっと目を覚ました」③「お前はだまされているんだ。目を覚ませ」 類句「夢が覚める」 めさら 目を皿のようにする 意味目を大きく見開く。 物を捜したり見分けたり、 また驚いたりする時の表情。用法文型「ダレダレは 目を皿のようにしてする」。「~する」には「見る」「捜 す」などの言葉が来る。 用例①源氏鶏太『見事な娘』(一九五四五五)「桐子は、眼を皿のようにして、降りてくる人人を見ていた」②石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇六二)「お二人とも、目を皿のよ うにして眺めていたのをたしかに見たんだから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九三六五)「ましてや、君たちが、どんなに眼を皿のようにしても、影も形も解らなかったはずだから、悲観することはないさ」④有吉佐和子『恍惚の人』(一九三二)「荻窪からずっと目を皿のようにしていたのよ。見落としてしまったかと心配になってたところだったわ」 類句「目を皿にする」とも言う。 めさんかく 意味怒って恐い目つきをする、 目を二角にする にらむ。用法文型「ダレダ レが目を三角にする」「ダレダレが目を三角にして~す る」 用例①内田康夫『博多殺人事件』(一九二)川井真知子 が鼻の頭に皺を寄せ、目を三角にして聡子を睨んだ」② 『朝日新聞』(三〇四・九・九朝)「男の子2人が目を三角にして 『死ね』『お前こそ』と叫び合っていた」 類句「目くじらを立てる」「目に角を立てる」「目をつり 上げる」「目をむく」 <490> 目を白黒させる 意味予想外の出来事に驚き、 目を白黒させる どう対処してよいかわからず、 あわてふためくさま。また、体の痛みに苦しんで目をぐ るぐる動かす。用法文型「ダレダレは十二十二に目 を白黒させる」(江戸) 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「こんなお勘定で眼を白黒させるくらいなら、最初から銀座へなんか、こなけりゃいいのよ」②『朝日新聞』(一九〇・七・一〇朝)「自民党内で鈴木氏が急浮上──一本化した急転回に各省庁とも目を白黒」③高杉良『人事権!』(一九三)「出し抜けにドスの利いた男の声に変わったので、河原洋子は眼を白黒させた」④『朝日新聞』(三〇四・六・三朝)「起ちあがれないほどの激痛に、目を白黒させて狼狽する。腰痛が出たのは二十年ぶりだ」 * めそそ 意味目をそちらに向ける。また、注意 目を注ぐ して見る。用法文型「ダレダレはダ レナニに目を注ぐ」。命令・意志表現は可能。用例③の ように「目を」と「注ぐ」との間に語句を挿入できる。 用例①原民喜『永遠のみどり』(一五二)「今、鉄筋の残 骸を見上げ、その円屋根のあたりに目を注ぐと」②野間 宏『真空地帯』(一九五三)「じっと曽田の方に眼をそそいだ が」③「彼に目を一瞬注いだ」 類句「目を向ける」 め 意味見つめていた目を他に向ける。 目をそらす 視線を外す。用法文型「ダレダレ はダレナニから目をそらす」。命令・意志表現は可能。 ①岩城捷介『免職警官』(三〇三)『ああ、いいと も。おれはな、この取材を申し込まれた時、あんたなら いいと思った。あんたならな』彼女はねばりつく視線か ら目をそらせた」②『朝日新聞』(三〇四・七・四朝)「思春期 の問題に真剣に向かい合うと、大人は自分自身の問題か ら目をそらすことができなくなります」③『朝日新聞』 (三〇四・八・七朝)「帰って来た彼を彼女は問いつめた。『ああ 友達だよ、友達。いいじゃないか写真くらい』と、彼は <491> 目をそらしながら言った 類句「目を背ける」(城山三郎『毎日が日曜日』〈一九五〉「い ま門前に占い師がいたが、わたしは目をそむけて、通り抜け てきた」「目を離す」 めっ 意味何かをねらって、また、ある目 目を付ける 的のために気をつけて見る。注意して、 関心をもって見る。特別な関心を寄せる。用法文型 「ダレダレがダレナニに目をつける」。命令・意志表現は 可能。〔平安〕 用例①東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九八)「僕があの工場に目をつけるに至った経過も話そう」②「朝日新聞」(三〇四・七・三六朝)「まず目をつけたのはペチュニアの青色遺伝子」③「朝日新聞」(三〇四・九・三六朝)「中身がわからない限り突っつかないカラスの特性に目をつけ、カラスには中身が見えないように特殊な加工をしてある」④「いいところに目をつけた。これで大儲けができる」 類句「目に留める」「目を留める」 外国語英語では keep one's eye on *韓国語では「元号音(貪欲な目つき を)言이다(入れる)」 目を瞑るめっぷ それに気づいていても、とがめない。黙認すっ 意味過失・欠点や人が行う悪いことな どを見ていながら、見ない振りをする。 がめない。黙認する。 用法文型「ダレダレは十二十二に目をつぶる」。命令・ 意志表現は可能。「目をつむる」とも言う。 用例①『朝日新聞』(二九六・六・二王朝)「この社会的な不公平に目をつぶる政府の無神経さは絶望的だ」②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三)「娘が初めて人に惚れたのなら多少のことは目をつぶって許したいよ」③森村誠一『人間の十字架』(一九三)「それに自己本位で鼻もちならない気位の高さに目を瞑れば、性的な魅力は水準以上である」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「あと一歩踏み込めば、その構図をさらけだすことができるというのに、そちらには目をつぶって、かっとなって明日香を殺したジュンを、指名手配することで事件の幕を引くしかないのだ」 類句「大目に見る」「見て見ぬ振り」 外国語英語で はwinkat*韓国語では「ざぎ(目を)ざぎ(つぶる)」 めとお 意味書類・本など全体をおおまかに読 目を通す む、見る。一通り見る。用法文型「ダ <492> レダレはナニナニに目を通す」。命令・意志表現は可能。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「カルテを受け 取った医者は、機械的な表情と速さで記述事項に眼を通 し」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「彼女はその頁にざっ と眼を通しているうちに」③『朝日新聞』(一九六三・一・三朝) 「部下が作成した分厚い報告書類に目を通す」 外国語韓国語では「ぞ을(目を)棄어ぜた(通してみる)」 目を留める 意味注意深く見る。注目する。心を とめて見る。用法文型「ダレダレは ダレナニに目を留める」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例①北原白秋『抒情小曲集 おもひで』(九二)「南 町の私の家を差覗く人は(略)銘酒を満たした五つの朱 塗りの樽と、同じ色の桝のいくつかに目を留めるであろ う」②大岡昇平『俘虜記』(九五三)「彼は私のインテリ臭い 様子に目を留めたらしく」 * 類句「目に留める」「目をつけ め 意味人に見つからないようにこっそり 目を盗む 行う。用法文型「ダレダレはダレダ レの目を盗んで~する」(江戸) 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)「松之助はそういう父親の目を盗んで渡辺順庵という医者のもとへ通っているのだ」②鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七)「ばあさんの目を盗んで、こっそり一人で海へ入った」③朝日新聞(三〇四・七・三夕)「母親が寝室に置いていたこの詩集を、『子どもが読んではいけません』と厳しく言い渡されたけれど、母親の目を盗んでこっそり読んだのだ、と語っていた」 類句「目をかすめる」 外国語韓国語では「ぐさぐさ(目を)喜ぇぐさ(盗む)」 目を離す 意味見ていたものから視線を一時的に よそに移す。油断して警戒を怠る。 用法文型「ダレダレはダレナニから目を離す」。命令・意志表現は可能。禁止形・否定形がある。「室町」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一丸二)「寸刻たりとも眼を離すな」②森茉莉『恋人たちの森』(一九三)「見ていた新聞から眼を放し」③森村誠一『人間の十字架』(一九三)「当分あの両人から目を離さないようにしましょう」 類句 「目をそらす」 外国語 韓国語では 「とき(目を) <493> 叫(離す) めひか 意味眼光鋭く見る。また、悪いこと 目を光らす ができないように厳重に見張る。監視 する。用法文型「ダレダレは目を光らす」。命令・意 志表現は可能。用例①「細い」のように「目」を修飾でき る。「目を光らせる」とも言う。江戸 用例①山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「金縁眼鏡の下から、細い眼を光らせ、鵜飼の言葉尻を押さえるように云った」②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(九六七)「グラスに目を落として、蟹沢が刑事らしく、はじめてギョロッと目を光らせた」③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「あの人社員のお目付役なの。社内不倫とかセクハラとか、厳しく眼をひからせているわ」 外国語(英語ではwatch(carefully) 意味人の目を引きつける。また注意 目を引く を向けさせる。用法文型「ダレナニ はダレダレの目を引く」。命令・意志表現は可能。用例 ③のように「目を」と「引く」との間に語句を挿入できる 用例①「朝日新聞」(三〇四・七・三朝)「まず、配色で遊ん でみよう。黒地にピンクのロゴの組み合わせは、ぱっと目を引くこと間違いなし」②『朝日新聞』(三〇四・八・五夕)「柔軟性や技もずばぬけているが、フロアに立つだけで華やか。誰よりも輝き、目を引く」③『朝日新聞』(三〇四・九・七夕)「いい大人が道端にしゃがんで、悲痛な表情でガチャガチャをやっている姿は、人々の目をかなり引いたことだろう」 類句「人目を引く」「目を奪う」 外国語韓国語では 「とき(目を)ぎけ(引く)」 めひら 意味今まで知らなかった事実や真理に 目を開く 気づいたり悟ったりして新しい境地を見 出す。用法文型「ダレダレは十二十二に目を開く」。 用例②のように受身形がある。江戸 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二九毛)「われわれとしては、久光様が現今の時勢に目をひらきなさるようつとめることは、最も必要なことであろうと」②朝日新聞』(三〇四・八・二九朝)「じつは、末期癌の患者が多く集まるこの病院では、ベッド数に対する死亡率はかなり高いのだった。そこを公平に見極めたことで、かえって著者は帯津医師の思想の意義にいっそう目を開かれてい <494> く ( ) めほそ 目を細くする 意味「目を細める」に同じ。 用法文型「ダレダレは目を細くす る」 用例源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「成子は、嬉 しそうに目を細くした」 めほそ 意味うれしくてまたは見るものが 目を細める かわいらしくて思わず笑みを浮かべる。 用法文型「ダレダレは目を細める」(江戸) 用例①星新一『ボッコちゃん』(一九七二)「エヌ氏はダイヤルを回して金庫をあけると、なかには金貨がたくさんあった。強盗は目を細めた」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「おこんの几帳面な性格を高く買ってくれて、質屋の女房はそうでなければいけないと目を細めたし」③朝日新聞』(三〇四・七・三七夕)「そんなときはペットも休憩タイムで、うさんごろは地面のクローバーに夢中。文鳥たちは水浴び。カモメは日光浴。みんな目を細めてよろこんでいるなあ」 類句「目を細くする」とも言う。「顔をほころばせる」 「相好をくずす」 「外国語」英語では 「one's eyes light up 意味驚いて目を大きく見開く。 用法文型「ダレダレは目を丸くす 用例①東野圭吾「宿命」(一九〇)「空っぽの引き出しを 見て、彼女は目を丸くした」②森村誠一「棟居刑事の 「人間の海」(三〇〇)「なんだと」丸尾が目を丸くした」 ③「朝日新聞」(三〇四・八・三朝)「大学院生ら2人が詰め て、翻訳作業を助けた。深夜まで執筆が続くことがあっ た。病院長は、『まるで大学研究室のようだ』と目を丸く した」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれて物が言えない」「呆気にとられる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を見張る」「目をむく」 めまわ 意味あまりの忙しさに驚きうろたえる。 目を回す また、単にひどく驚く。用法文型「ダ <495> レダレが目を回す「江戸」 用例①「食事時の食堂の忙しさに目を回す」②「値段 を聞いて目を回す」 類句「目が回る」 めみは 意味感心した驚きで目を大きく見開 目を見張る く。 用法文型「ダレダレがダレナ 二に目を見張る」〔平安〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一五二一五三)「恭子はこの青年の中に宿る正真正銘の純潔さに目をみはった」②三浦哲郎『結婚』(一六七)「郷子は肝をつぶしたのか、きょとんと目をみはっている」③「朝日新聞』(一九七九・五・一六朝)「岡田特派員は、アメリカ大統領の記者会見の緊張したやりとりに『目を見はった』と書いている」④東野圭吾『美しき凶器』(一九九三)「その実力の向上ぶりは、まさに目を見張るものがあります」⑤「朝日新聞』(三〇四・八・七朝)「飼い主も、まるで魔法をかけられたようにお利口になった愛犬の姿に目を見張っていた」 めむ 意味怒ったり驚いたりして目を大きく 目を剥く 見開く。用法文型「ダレダレはダレ ナニに目をむく」(江戸) 用例①松本清張『点と線』(一九五八—五九)「巡査は起きぬけの事件に、びっくりしたように目をむいた」②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「教育ママの母も、目をむいて怒るにちがいない」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「誰かが寝ているらしく、毛布が盛り上がっている。同時に彼は目を剥いた。ベッドの上が血で真っ赤に染まっていたからだ」④朝日新聞(三〇四・八・三夕)「子供の頃、父親が持っていたレコードでレクオーナという名のキューバの作曲家の音楽をよく聴いていたので、その中から何曲か弾くと、『なぜそんな曲を知ってるんだ?』と2人が目をむいた」 類句「目を丸くする」「目を見張る」 めむ 意味(1)視線をそちらの方に向ける。 目を向ける また、対象に対して何らかの感情や判 断をもって見る。(2)ある事柄に対して注意や関心を向け る。用法文型「ダレダレはダレナニドコに(ダレナニ の)目を向ける」。命令・意志表現は可能。用例③「非難 <496> の」のように「目」を修飾できる。⑥のように「目を」と「向ける」との間に語句が挿入できる。使役形・否定形がある。 用例(1)①野間宏『真空地帯』(二五三)「木谷は再び窓の方に眼を向けた」②辻邦生『北の岬』(二五六)「彼女は私のほうに、明るい、柔和なその眼をむけて」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(二五二)「わけも知らずに嚮導将校に非難の目を向けた」(2)④舟橋聖一『ある女の遠景』(二五二)「ほかの男に目を向けるわけにはいかない」⑤半村良『どぶどろ』(二五七)「俺だって、左内坂で嫌なことに目を向けないでいれば」⑥『朝日新聞』(三〇四·八·七·朝)「日本や中国などアジア諸国には、まだ巨大な観光需要が眠っていると考えている。その人々の目を我々の担当地区に向けさせたい」 類句「目をやる」 外国語韓国語では「ざぐざ(目を)ぎ ふけ(向ける)」 めや 意味視線をそちらの方に向ける。 目を遣る 用法文型「ダレダレはダレナニドコに 目をやる」。用例②「疲れた」のように「目」を修飾でき る。②のように「目を」と「やる」の間に語句を挿入でき る。〈室町〉 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「財前が来た時に置き忘れて帰った医学雑誌の方へ目を遣り」②三浦綾子「塩狩峠」(一九六八)「信夫はがっかりして、見るともなく疲れた目を庭にやった」③東野圭吾「卒業」(一九六六)「加賀は扉の壊れた鳩時計に目をやった」④木谷恭介「富良野ラベンダーの丘殺人事件」(一九五五)「悠はあふれ出てくる香りをいっぱいに吸い込みながら、佐古へ目をやった」⑤「朝日新聞」(三〇四・九・七夕)「廊下を挟んで向かいの部屋の宴会が盛り上がっているのでふと目をやると」 類句「目を向ける」 メンツが立つ 意味「メンツ」は中国語で体面の こと。世間に対し評判を落とさずに 体面が保たれる。用法文型「ダレダレはメンツが立 つ」「ダレダレのメンツが立つ」。否定形がある。 用例井上靖『氷壁』(一九五六ー五モ)「これで佐倉製鋼の方は メンツが立つ。立たせておけばいい」 類句「顔が立つ」「面目が立つ」 外国語英語では save face <497> 面目が立つ 意味メンツが立つに同じ。 用法 文型 「ダレダレは面目が立つ」 用例「娘の盛大な結婚式を挙げ、親の面目が立った」 外国語 英語では save face めんぼく 意味失敗・過失・迷惑などで世間に 面目がない 対して恥ずかしくて顔向けできない。 用法文型「ダレダレに面目がない」。「面目ない」とも 言う。「室町」 用例①「迷惑をかけてばかりで世間に面目がない」② 「このたびはとんだ失敗をしでかし、まったく面目がない」 類句強調して「面目次第もない」と言う。「穴があった ら入りたい」「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔 向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」 外国語 英語では lose face 用例「全面的に意見を否定されては社長の面目まるつ ぶれだ」 めんぼくまるつぶ 意味体面・名誉がひどく損なわれる 面目丸潰れ こと。用法文型「ダレダレは面目 まるつぶれ」「ダレダレの面目まるつぶれ」 めんぼくほどこ 意味あることでその人が今まで以上 面目を施す に名誉を得たり評価を高めたりする。 また、なんとか体面を傷つけずに済む。用法文型「ダ レダレは面目を施す」(鎌倉) 用例 「日本代表として入賞し、面目を施した」 類句 「面目を立てる」 <498> 申し分がない 意味欠点がなく、文句のつけよう がない。満足できるさま。用法 文型「ダレナニはダレナニとして申し分がない」「申し分 のないダレナニ」「江戸」 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「勿論、香代子が男を知らぬ女であってくれたら、申し分がないのだが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「先ずは、二号としては、申し分のない女であろう」③「朝日新聞」(一九七六・六・三六朝)「これで三試合とも先取点をあげ、しかも一回までには必ずリードする試合展開としては申し分のないもの」 外国語 英語づき can't ask for anything more モーションを掛ける 意味元来モーション は英語で野球の投球モー ションをさしていた。転じて異性の気を引くように働き かける。用法文型「ダレダレはダレダレにモーションを掛ける」。命令・意志表現は可能。用例④のように受身形がある。 用例①谷崎潤一郎『痴人の愛』(九四二五)「浜田、お前綺羅子にモーションをかけたのかい?」②獅子文六『青春売場日記』(九三毛)「こうなると、クレオパトラも、女の意地だ。此方からモーションをかけて、断られて、そのまま引込むような女ではない」③矢野目源一『戦後風俗史』(九五三)「これではいくらモーションをかけて見たところで、到底恋人になる脈はないのである」④長与善郎「一つの今日」(九五五)「炬燵の下でいとも荒っぽいモーションをかけられても別に反応を示さなかったCは」 類句気を引く水を向ける外国語英語では make a pass at 持ちつ持たれつ 意味互いに助けたり助けら れたりするさま。用法文型 「ダレダレとダレダレは持ちつ持たれつ(の関係)」 用例①山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「われわれの後 輩にあんたのような人がいてくれると心強い、ともかく お互いに持ちつ持たれつで、行きましょうや」②田辺保 <499> 『なぜ外国語を学ぶのか』(二九九)「同じアパートの同じ階の役人どうしでも、特別の必要がなければ、たがいの私生活に介入しようとせず、古い日本の長屋ふうの持ちつ持たれつの関係にはいることをきらう」③『朝日新聞』(二九一・三・五朝)「自民党の国会議員と官僚とは『もちつもたれつ』の関係にある」④大沢在昌『灰夜』(三〇二)「店の周辺で駐車違反の取締りをされたり、店内でトラブルが発生して一一〇番しても、『非協力的な店』だという理由で、警官が駆けつけるのが遅くなることとすらある。いわば持ちつ持たれつの関係を強要されるのだ」⑤本所次郎『閨閥』(三〇四)「その活動費は、新聞販売の上がりが主なものだった。そんないきさつから、ニッポン新聞と磯貝は、持ちつ持たれつの仲だったのである」 外国語 英語では give and take 勿怪の幸 意味「もっけ」は「物怪」で、意外なこ と、思いがけないことの意。思いがけな い幸運。用法文型「ナニナニはもっけの幸い」「ナニ ナニをもっけの幸いと~する」(江戸) 用例①徳冨蘆花『黒潮』(三)「晋が土屋伯の機関新 聞と偶然縁を結んだのは、勿怪の幸である」②坂口安吾 『投手殺人事件』(九五〇)「このデクノボーのバカの一念で 大鹿の隠れ家が分ったら、モッケの幸い、と内々ホクソ 笑んで」③獅子文六『自由学校』(九五〇)「祭りバヤシが、 小さい太鼓二つ、大太鼓一つ、笛、鉦で、ちょうど、五人 でできるのを、モッケの幸いにして、皆さんに、おすす めしたんですよ」④『朝日新聞』(九五九・六・二王朝)「米国が 『各国別輸入抑制目標の設定』をいってきたことは、そ の意味でもつけの幸いだ」⑤森村誠一『棟居刑事の「人 間の海』(三〇〇)「喜一郎の委嘱は、松江にとって勿怪の 幸いであった」 外国語英語ではa stroke of luck 勿体を付ける 意味いかにも重要なように仰々し く見せる、言う。ことさら重々しく 気取った態度を取る。いかめしく物々しく振る舞う。 用法文型「ダレダレはもったいをつける」「江戸」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)『といっても今の今、即答は無理ですよ、それに、他の連中が何と云いますか、その辺のところがねえ』もったいをつけ、思案するように云うと」②東野圭吾『学生街の殺人』(九六七)『ええ、それがね』刑事はもったいをつけるように言葉 <500> を切り、それからおもむろにいった」③高杉良『指名解 雇』(一九九七)「そんなに勿体をつけないで早く教えてくだ さいよ」 外国語中国語では慣用句「卖关子」もったいをつける 講談師が山場に来ると間を置いて聞き手の注意を引きつける ことを「卖关子」と言う 意味変に遠回しなさま。用法 文型「持って回った言い方(やり方)」 用例①高杉良『人事権!』(一九三)「大井さんはご想像 にまかせるなんて持って回った言いかたをしてたが」② 「そんな持って回った言い方をせずに、もっとストレー トに言ってくれ」 類句「奥歯に物が挟まった」 もともくあみ 意味せっかく苦労したり努力したり 元の木阿弥 して築いたこと、作り上げたことなど が何かの原因ですっかりだめになったり、無駄になった りして以前の状態に戻ってしまうこと。大和郡山の城 主筒井順昭が亡くなった時、跡継ぎがまだ幼かったた め、敵の侵略を恐れて、順昭の声に似ている盲人木阿弥 を順昭に仕立て、生きているように偽った。その後、跡 継ぎが成長して木阿弥は元に戻ったという故事から。 用法文型「元の木阿弥になる」「元の木阿弥だ」「室町」 用例①二葉亭四迷「平凡」(九七)「半襟二掛ばかりの 効能じゃ三日と持たない。直消えて又元の木阿弥にな る」②坂口安吾「選挙殺人事件」(九五三)「このへんではモ ウケ頭の方だ。しかし、この立候補でモトのモクアミに なるんじゃないかと近所の取沙汰であった」③朝日新 聞」(九八二・二〇・三朝)「力でセを圧倒したのに、今度の四連 敗で元のもくあみだ」④田中光二「南紀白浜磯釣り殺人 事件」(三〇三)「だから代々の本部長が事件の起きるたび に綱紀粛正を誓ってもむだなのである。市民の方もそん なことは信用していない。すぐに元の木阿弥となってし まう」 類句「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元も子もない」「外国語」英語では be right back where one started from 元も子もない 意味本来「元」は元金、「子」は利 子の意味。あることをしている時に、 <501> 本来の目的が達成できなくなって結果として得ようとし ていたものを失い、努力も何もかも無駄になる。 用法文型「~したら(~てしまっては)元も子もない(元 も子もなくなる)」(江戸) 用例①広津和郎『風雨強かるべし』(一九三一誌)「ここで銀子と同じに腹を立てて、一切を投げ出してしまっては、元も子もなくなる事を知っていた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九三一六五)「個人経営の医院は、なんぼ千客万来の患者があっても、月末の保険点数の計算が下手やったら、元も子もない」③『朝日新聞』(一九〇・五・一九朝)「互いに政権のうま味を手放したのでは元も子もない」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九三)「殺してしまっては元も子もないことになる」⑤田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(三〇三)「重くて図体のでかいランクルはコーナリングが苦手だ。ここで事故を起こせば元も子もない」 類句「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木阿弥」 意味幼年期以降、世の中の物事が少 し分かってくる。用法文型「物心 がつくナニナニ」。ナニナニには「時」「ころ」など時を 表す語がくる。「物心つく」と助詞を省くことが多い。 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「四つ五つとい えば、子供としてのもの心がつく時分なのですが」②城 山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「出生のときにも、笹上 は海外に居たし、物心つくまで、ほとんど別居生活で あった」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「フサが生れて物心 つくころにはもう波乃は他所へ紡績に行っていたし」 外国語 英語では understand things 物にする 意味(1)ねらった物・異性などを自分の 所有物にする。思い通りにことを運んで 目的を達成する。(2)技術・語学などを習得して役立た せる。用法文型「ダレダレはダレナニをものにする」 命令・意志表現は可能。(江戸) 用例(1)①三島由紀夫『禁色』(二五二五)「あの女は気に入った男と見ると、一週間のうちに物にしてしまうという噂の主だ」②野坂昭如『てろてろ』(二九二)「自分で勝手に特定の女をものにすると決めこんで」③朝日新聞(三〇四・八・三朝)「若手芸人の世界は今、とても熱い。若さを武器に、チャンスをものにしていってほしい」(2)④「韓国語をものにして通訳している」 <502> 類句(1)手に入れる手にする 物になる 意味(1)ねらった物・異性が自分のものになる(2)人・仕事・技術などがどうやら役に立つようになる。技術・語学などを習得する。一人前になる。用法文型(1)「ダレナニがダレダレのものになる」(2)「ダレナニがものになる」。否定形がある。 用例(1)①「彼女が自分のものになった」(2)②「練習の成果が上がり、ようやくものになってきた」③「いろいろ実験したが、なかなかものにならない」④「彼女は将来、ものになる」 類句(1)「手に入れる」 外国語英語では(2) amount to something ものかず 意味まったく問題にするに値 物の数ではない しない、意に介することなどな い。対象を馬鹿にし否定する言葉。用法文型「ダレ ナニなど物の数ではない」「安土桃山」 用例①源氏鶏太『青い果実』(一九五四—五五)「青年たちに とって、そんな塀なんか、モノの数でなかった。思い思 いに、その塀を乗り越えて②半村良『どぶどろ』(一丸も) 「金座や銀座を取り潰して通貨を大公儀がじかに扱うよ うになればどうなるだろう。各種の座の運上金など物の 数ではなくなるのだ」 類句「愚にもつかない」「たかが知れる」「取るに足りない」「話にならない」「屁とも思わない」「目じゃない」「問題にならない」 ものみごと 意味実に見事に。非常に手際よく鮮 物の見事に やかに。必ずしも良い意味ばかりに使 うとは限らない。用法文型「物の見事に~する」。副 詞的に述語を修飾する。江戸 用例①幸田露伴『五重塔』(二八九一九三)「ただ我一人で物の見事に千年壊れぬ名物を万人の眼に残したい」②菊池寛『忠直卿行状記』(一九二八)「彼の少年時代からの感情生活は、右近の一言によって、物の見事に破産してしまっていた」③「屈強な男を物の見事に一発でやっつけてしまった」④「物の見事に転んでしまった」 類句「目が覚めるような」 <503> 物は相談 そうだん 意味一人で考えていても良い考えが浮 かばない時、また困った時、だれかに相 談すればうまく行くこともあるということ。相手の気 持ちを探って相談を持ちかける時の言葉。用法文型 「物は相談だが~」(江戸) 用例①芥川龍之介『三つの宝』(九三)「では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか?」②織田作之助『夫婦善哉』(九四)「蝶子を呼び、物は相談やが駆落ちせえへんか」③「物は相談ですが、今度の企画を当社と一緒にしませんか」 ものため 意味物事は実際に一度やってみなけれ 物は試し ばその成否は分からない。とにかく一度 やってみるとよい。用法文型「物は試し、~」。~に 試してみるべき事柄が来る。江戸 用例①芥川龍之介『青年と死』(九四)「物は試しです からまあやって見るのですね」②岡本綺堂『半七捕物帳』 (九七三六)「物は試しだ、魚を持たずに一度帰ってみろ」 ③「ものは試し。一度試験を受けてみたら」 外国語 英語では you can't tell unless you try 物を言う 意味ある物事が役に立つ、効果・威力 がある。用法文型「ナニナニが物を 言う」。ナニナニは力・金・経験・顔など。(江戸) 用例①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(九言)「お札が物をいって、 運転手はたちまち承諾した」②「朝日新聞」(九九七・七・九 朝)「カネがものいう自民党でもまれ育った政治家が」③ 「朝日新聞」(九八・五・九朝)「今回の総選挙は日ごろの組 織力量がものをいう」④「朝日新聞」(九一・三・四朝)「同じ 顔合わせが重なると、やはり経験が物を言う」 類句「顔が利く」「幅が利く」 外国語英語では (money) talk (s) 物を言わせる 意味自己の持つものを用いてそのものの力を十分発揮させる。 用法文型「ダレダレが十二十二に物を言わせる」。ナ ニナニは力・金・経験・顔など。「物を言わす」とも言う。 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(九三)「浩太郎は、 口調を強くした。父親としての権威に、モノをいわせた つもりであった」②三浦綾子『塩狩峠』(九八)「新しい 二軒は金にものをいわせての派手な営業ぶりで」③朝 日新聞』(九八・三・七朝)「小佐野側は豊富な資金力と情報 <504> カにモノをいわせ、入手不可能だったはずの『クラッ ター日記』を入手」 もろて あ 意味無条件に、また積極的に、喜 諸手を挙げる んで賛成する。用法文型「ダレ ダレはナニナニに諸手を挙げてする」。~は「賛成」 「歓迎」など。「両手・双手」とも書く。 用例①石川啄木「初めて見たる小樽」(一さも)「いわば 天下を家として随所に青山あるを信ずる北海人の気魄を 双手を挙げて讃美する者である」②夢野久作『爆弾太平 記』(一九三)「賛成だ。吾輩双手を挙げて賛成する」③「オ リンピック誘致に諸手を挙げて賛成という訳にはいかな い」 た」②「新会社設立に諸肌を脱いで協力する」 類句「ベストを尽くす」 もろはだ 意味衣服の上半身を脱ぐ意から転じ 諸肌を脱ぐ て、全力を尽くして物事に取り組む。 用法文型「ダレダレはナニナニに諸肌を脱ぐ」。命令・ 意志表現は可能。「両肌」とも書く。 用例①柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「神戸海洋気象台の経験者としてこの際新しい海洋気象台の創設に諸肌を脱げ、というのが宇田に対する藤原の指示であっ もろはつるぎ意味相手を傷つけると同時に自分も傷 諸刃の剣つく恐れがあるたとえ。当事者にとって、 有利になる点と不利になる点が同時に存在するたとえ。 また一方で有益だが、他方では危険でもあるというた とえ。用法文型「ナニナニはナニナニには両刃の剣」 「両刃」とも書く。「江戸」 用例①「朝日新聞」(一九八〇・四・二四朝)「石油禁輸は両刃の剣でもあり、イラン経済にとって致命的な打撃となる」 ②「朝日新聞」(一九八二・三・三王朝)「世界が相互依存度を強めている現在、経済制裁はしばしば「両刃の剣」といった意味あいを持つ」 類句「りょうばの剣」は俗な読み方。 外国語英語で は a double-edged sword もん たた 意味入門を請う。弟子にしてもらいた 門を叩く いと頼む。また、入門する。用法文 型「ダレダレがダレナニの門を叩く」。命令・意志表現 は可能。 <505> 用例①「朝日新聞」(三〇四・八・七朝)「強豪実業団から誘いの声もなく、自ら名門指導者・小出義雄監督の門をたたき、可能性をつないだ」②「一八歳の時、空手道場の門を叩いた」 や * やおもてた 意味敵の矢が飛んでくる正面に立つ 矢面に立つ 意から転じて、非難・攻撃・質問など を集中して受ける立場に身を置く。用法文型「ダレ ダレがナニナニの矢面に立つ」。ナニナニは非難・攻撃・ 質問やマスコミなど。受身形がある。「鎌倉」 用例①柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「被災者たちはもっぱら警報の不適切さを責め立てた。とりわけ大阪支台が矢面に立たされ、時の支台長平野烈介は窮地に追いこまれた」②『毎日新聞』(一九三・一・三朝)『こんど国会はご苦労だが君が矢面に立つことになる』と言われて③高杉良『首魁の宴』(一九八)「イトセンの加山、藤岡がマスコミ攻撃の矢面に立たされた中で」 外国語 英語では bear the brunt of やまわ 焼きが回る 意味刃物に焼きを入れすぎると切れ 味が悪くなるように、年月がたち過ぎ <506> て頭や腕の働きが鈍くなったり衰えたりする。用法 文型「ダレダレは焼きが回る」(江戸) 用例①二葉亭四迷『其面影』(二九六)「僕の言う事を理想と聞くようじゃ、君もよっぽど焼が廻ってる」②夏目漱石『道草』(一九五)「焼が廻ってるなら構わないじゃないか」と兄が冗談半分に彼の矛盾を指摘する」③江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇三)「明智君、僕らがこんなに早くお迎えにきたのを、不思議がっているよだね。さすがの名探偵も少し焼きが廻ったぜ」④朝日新聞(一九五六・二・六朝)「さすがの器量人もヤキが回った感が強い」⑤浅田次郎『極道放浪記②』(一九五)「マルボウもヤキが回ったんじゃないですかい」 類句「がたが来る」「たがが緩む」 外国語英語では get slow (in one's old age) やもちや 意味「やく」に「餅を焼く」と嫉妬 焼き餅を焼く する意の「やく」をかけたもので、 ねた 嫉妬する。妬む。特に自分が好きな異性が自分と同性の 人と仲良くすることに嫉妬する。用法文型「ダレダ レがダレダレにやきもちを焼く」。受身形がある。江戸 用例①源氏鶏太「坊っちゃん社員」(九五三五三)「たかが 若僧に、所長ともあろう者が、ヤキモチを焼いているかのように誤解される恐れがあった」②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九九七)「艶子は死んじゃっているんだものヤキモチ焼いてもしょうがないわ」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「あなた、奥様が焼き餅をやいているかもしれないとおもったんでしょう。焼き餅をやかれるようなことはなにもしてらっしゃらないくせに」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「焼き餅やかれるのも悪い気はしないけど」 類句 角を出すは特に女性が嫉妬することをいう。 焼きを入れる 意味刃物を焼いて鍛えることから 転じて、人に制裁を加える、リンチ する。また、たるんだ者を引き締めるために厳しく懲ら しめる。やくざや不良などの言葉。用法文型「ダレ ダレがダレダレに焼きを入れる」。用例①のような命令・ 意志表現は可能。④のように受身形がある。 用例①徳永直『飛行機小僧』(九三毛)「この野郎、旋盤 一つ弄れねえ癖しやがって…ヤキをいれろ」②舟橋聖 一『ある女の遠景』(二六二)「お前が逃げようとしたら、 彼はヤキを入れる」③大沢在昌『悪夢狩り』(九四)「あん <507> たに焼きを入れるためさ。カタギにやくざが小突き回さ れたとあっちゃ、末代までの恥だからな」④宗田理「ぼ くらの特命教師』(三〇三)「教室から出ていったら、きっ とヤキを入れられます」 きゆう 類句「お灸を据える」 外国語 英語では teach some- one a lesson やくしゃ いちまいうえ 意味芝居の看板や番付で上位の者 役者が一枚上 の名が上にあることから、人物・能 力・駆け引きなどがある人と比べて一段とすぐれてい ること。用法文型「ダレダレはダレダレより役者が 一枚上「ダレダレの方が役者が一枚上」 用例江戸川乱歩『白髪鬼』(一三三)川村は瑠璃子を 喜ばせる術にかけては、たしかにわしよりも役者が一枚 上であった」 類句単に「役者が上」(源氏鶏太「天下泰平」〈一九四十五〉「生存競争の激しい今の世に、ボンヤリしていたら、そうなっても、それは自業自得だ。岡崎副社長の方が、遥かに役者が上であった」とも言う。強調して「役者が一枚も二枚も上」と言うことがある。「一枚上」(外国語)英語では outclass someone 役に立つ 意味人・物があること、ある目的に有 効に働く。役立つ。用法文型「ダレ ナニがナニナニに役に立つ」「ダレナニがダレナニの役 に立つ」。用例①③のように敬語形「お役に立つ」がある。 否定形がある。「室町」 用例①源氏鶏太「男と女の世の中」(一九三)「あたし、何かのお役に立って上げられるかもわかりません」②星新一『ボッコちゃん』(一九三)「こんな薬がなにかの役に立つのですか」③半村良『どぶどろ』(一九七)「榎さんのお若いころ、立派なお侍になってお上のお役に立ちたいと、そんな風に意気込んだことはありませんでしたか」④「朝日新聞」(一九一・三・四朝)「せっかく努力して集めた情報も受け手が聞き流せば何の役にも立たない」⑤大沢在昌「悪夢狩り」(一九四)「いったい何の役に立つの?」* 類句「間に合う」「用が足りる」 役に立てる 意味人・物をあること、ある目的に 有効に働かせる。役立てる。用法 文型「ダレダレがダレナニを役に立てる」。命令・意志 表現は可能。 用例 筒井康隆 『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「それを <508> 性的興奮を高めるため役に立てている人だっている」 焼け石に水 意味焼けた石に少しばかりの水をかけたところで冷めないことから、わずかな援助・努力や少しの物では効果が少しもないことのたとえ。 用法文型「ナニナニでは焼け石に水」「室町」 用例①小杉天外「魔風恋風」(一九三「何うせ此様な物が有った処で、所謂焼石に水だ」②高杉良「会社蘇生」 (一九七「昨年から今年にかけて講じてきた資金対策は会社の運命を先送りしただけで、結果的にすべて焼石に水に終わったが」 外国語 英語では a drop in the bucket *中国語では 成句「杯水车薪」(一杯の水で一車の薪の火を消す) やけ 自棄になる 意味自分の思った通りにならなかったことから、何もかもどうでもいいという態度になる。 用法文型「ダレダレがやけになる」 「やけになって~する」「江戸」 用例①東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)今日は塩を 送ったんだ。ヤケになる必要はないね」②吉村達也『横 濱の風』殺人事件』(三〇四)『死ねばいいのよねー波子 がそう言った『ヤケになったわけね』 「やけっぱちになる」とも言う。「やけのやんぱち」 「やけを起こす」 外国語 中国語では成句 「自暴自棄になる」 類句「やけっぱちになる」とも言う。「やけのやんぱち」 (自暴自棄になる) やけ 意味「やけ」の「や」と同音で始ま 自棄のやん八 る語を重ねたもので、人名風にした もの。自暴自棄。やけっぱち。俗っぽい語感。用法 文型「ダレダレがやけのやんぱち」(江戸) 用例①林二九太「へのへのもへじ」(一九五三)今日は自 棄のヤン八だ」②坂口安吾『心霊殺人事件』(一九五四)「ど ことなく天真ランマンなのである。ヤケのヤンパチの底 をついているにしても」③島田一男『特報社会部記者』 (一九二)「大将いよいよやけのヤンパチで」④「もうこう なったらやけのやんぱちで、どうにでもなれ」 * 領句「やすこなる」「やすを記すすー 類句「やけになる」「やけを起こす」 やけお 意味自暴自棄になる用法文 自棄を起こす 型「ダレダレがやけを起こす」江 戸 用例 やけを起こして、朝から酒を飲んでいる <509> 類句「やけになる」「やけのやんぱち」 外国語 中国 語では成句「自暴自棄」(自暴自棄になる) やす わる 意味安い物に品質の良い 安かろう悪かろう 物はないこと。用法文型 「ナニナニは安かろう悪かろう」(江戸) 用例「露店の品物は安かろう悪かろうで、買ったら損 することが多い」 外国語 英語では You get what you pay for *中国語では慣用句「便宜没好货」(安物に良い物はない。「便宜」は安い。「没」はない) 痩せても枯れても 意味どんなに落ちぶれても 衰えたとしても。元はれっき としたものという気概を示す言葉。用法文型「ダレ ダレは痩せても枯れても「痩せても枯れてもダレダ レ」(江戸) 用例①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(二六九)「痩せても 枯れても天下の直参が」②林二九太「へのへのもへじ」 (一九五二)「どっこい、前野茂平次、痩せても枯れても、尤も、 あんまり痩せてはいないが、降伏するどころか、ジャ ジャ馬をあべこべに蹴飛ばして」③大下宇陀児『虚像』 (一九五)「痩せても枯れても男一匹、あたしを困らせるよ うなことは、絶対しないのだといって見得を切り」 類句「腐っても鯛」 痩せの大食い おおぐ 意味痩せている人が案外大食いで あること。用法文型「ダレダレは 痩せの大食い」 大食いだ 用例「あんなの細いのによく食べる。いわゆる痩せの やつき 躍起になる 意味何とかしようと焦ってむきにな る。 用法文型「ダレダレがナニナ 二に躍起になる」「躍起になってする」 用例①田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一丸も) 「次々とほころびはじめた日本のあとしまつに躍起に なってるらしい」②『言語生活』三〇号(一九六八)「こちらは 文章の個別的な特色をつかもうと思ってやっきになって も」③丸谷オ一『男のポケット』(一九七九)「わたしが躍起に なつて、どんなに辛い仕事であるかを説明し」 類句 むきになる 外国語 英語では be all out <510> やてつぽうとこ意味「矢でも鉄 矢でも鉄砲でも飛んで来い 砲でも持って来 い」に同じ。用法文型「こうなったら矢でも鉄砲でも 飛んで来い」 用例北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九〇)「私は 船に強いのである。私はこうなったらヤでもテッポウで も飛んでこいという気になったが」 降って来い」とも言う。 やてつぼうもこ 意味どんな手段で 矢でも鉄砲でも持って来い もかかって来いと、 服を据えて、あるいは半ばやけになって言う言葉。 用法文型「こうなったら矢でも鉄砲でも持って来い」 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(二八九七九八)「こうなれば無 証拠だから、矢でも鉄砲でも持って来いだ」②上司小剣 『石川五右衛門の生立』(二九二)「文吾の小さな度胸は、も うスッカリ据わってしまった。矢でも鉄砲でも持って 来いという気になった」③源氏鶏太『三等重役』(一五二一 吾)「こうなったら、矢でも鉄砲でも持ってこいである な」④高杉良『濁流』(一九六)「こうなったら破れかぶれだ 矢でも鉄砲でも持ってこい」 類句矢でも鉄砲でも飛んで来い矢でも鉄砲でも やさいそく 意味はやくするようにしきりに続けざ 矢の催促 まに要求・催促すること。用法文型 「ダレダレが矢の催促をする」「ダレダレから矢の催促」 「江戸」 用例①坂口安吾『能面の秘密』(一九五五)「なかなか買い手がウンといわなかったのですが矢の催促です」②「朝日新聞」(一九七九・六・三朝)「摂食中枢は『腹へった』の矢の催促を送り」③高杉良『人事権!』(一九九三)「友達から矢の催促ということもある」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「日本から帰って来いと矢の催促?赤坂フレグランスがいってきたのですか……」 外国語英語では keep bugging someone やぶ 藪から棒 意味タケノコ泥棒を追い払うために、 藪から棒を突き出すことから転じて、な んの前触れもなく、または関連もなくあることを言った りしたりするさま。 用法文型「ダレダレが藪から棒 にする」。副詞的に述語を修飾する。「江戸」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(二八八七—八九)「なんだネこの娘 <511> は、藪から棒に」②石坂洋次郎『若い人』(一九三三七)「江波さんから先生をお慕いしていると藪から棒に打ち明けられた時」③源氏鶏太『三等重役』(一九五二五三)「あなたに恋人がありますか?』『あら。藪から棒にとてもデリケートで、青春的なご質問ですのね(略)』④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「私に相談したいこと?藪から棒に一体、何でしょう」⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「藪から棒に二十億円用立ててくれと言われても」 外国語 英語では out of the blue やまか 意味勘を働かせて、ある事柄を予想 山を掛ける する。試験の出題について言うことが 多い。用法文型「ダレダレが山を掛ける」。命令・意 志表現は可能。江戸 用例一期末試験で山をかけたがはずれた 類句山を張る」とも言う。 外国語英語では make a calculated guess 止むに止まれず 意味やめようとしてもやめら れない。どうしようもない。 用法文型「止むに止まれずする」「止むに止まれぬナ 二十二 用例①「止むに止まれず盗んで、つかまった」②「止む に止まれぬ事情で欠席する」 外国語 英語では be compelled by forces beyond one's control 意味好ましいことではないが、仕方 止むを得ず なく。不本意ながら。用法文型「や むを得ずする」。副詞的に述語を修飾。 用例①大岡昇平『俘虜記』(一九三)「不寝番が近づいて 来て私を呼ぶ。止むを得ず起きて行く」②吉村昭『ポー ツマスの旗』(一九九)「腸チフスの疑いがあると診断して 数週間の絶対安静を告げたので、やむを得ず小村は、翌 日の出発を断念した」③森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「止 むを得ず大企業があまり目を向けないような企業メリッ トの少ない、小さな品にかろうじて活路を見いだしてい る」 外国語 英語では have no choice but to 止むを得ない 意味好ましいことではないが、そ うなるのは仕方がない。そうするよ <512> りほかに方法がない。やむかたない。用法文型「ナ ニナニはやむを得ない」「やむを得ないナニナニ」 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(二九九)「大目的 のためにはやむを得ないと一度決心すれば、それの出来 る人である」②森村誠一『東京空港殺人事件』(二九二)「大 塚さんのやったことは、あの状況ではやむを得なかった と思います」③吉村昭『ポーツマスの旗』(二九五)「かれ は、小村に、やむを得ない場合には戦争をも辞さないと いう覚悟をおもちなのですか、と問い」④『朝日新聞』 (二九三・三・三朝)「結局、市場の閉鎖性と受け止められて もやむを得ない」⑤「やむを得ない事情で休む」 類句「仕方がない」 やたて 意味思い詰めた気持ちを 矢も盾もたまらない 制止しきれず、あることを したくてじっとしていられないさま。用法文型「ダ レダレは矢も盾もたまらず~する」「矢も盾もたまらな く~する」(江戸) 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八七八九)「サァそうなると お勢は矢も楯もたまらず、急に入塾がしたくなる」②石 坂洋次郎『若い人』(一九三三)「間崎は矢も楯もたまらず 無性に哀しくなった』③『朝日新聞』(二六一・三・三朝)「思慮分別のない狂信的な少年を、矢も盾もたまらなくテロに走らせるような催眠術にかけるのは、わけのないことだろう」④源氏鶏太『男と女の世の中』(二六三)「信濃さんに、会いとうなりましたら、もう矢も楯もたまらんようになって」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(二九九)「ふいに一関の風景が脳裏に蘇った。とたんに、矢も盾もたまらなく、郷里に帰りたくなった」 類句「居ても立ってもいられない」 外国語 英語では have an uncontrollable urge やりだまあ 槍玉に挙がる 意味多くの中から選ばれて特に非 難・攻撃の対象になる。用法文 型「ダレナニがナニナニのやり玉に挙がる」 用例①広山義慶『私刑警察 激弾!』(三〇二)「警察不 祥事が続発してキャリア官僚がマスコミの槍玉に挙がっ たときも、打つ手は早かった」②『朝日新聞』(三〇四・五・二 朝)「03年10月の徳島県議会では、県男女共同参画会議 委員の大沢真理・東大教授(51)がやり玉に挙がった。参 画会議は左に偏っている。特に大沢という人は問題だ」 類句「袋だたきにあう」 <513> やりだまあ 槍玉に挙げる 意味もと、槍で突き刺すこと。転 じて多くの中から選んで特に非難・ 攻撃の対象として責める。用法文型「ダレダレはダ レナニをナニナニのやり玉に挙げる」。受身形でもよく 用いられる。「江戸」 * ゆ * 用例①内田魯庵「くれの廿八日」(八九)「お前達が槍玉に上げられる」②内田康夫「若狭殺人事件」(一九三)「いつも『対角線』の読書会で槍玉にあげられるような、駄作ばかり書いている男だ」③朝日新聞(三〇四・八・四朝)「うっ屈したナショナリズムのはけ口として、日本はやり玉にあげられやすい状況にある」 外国語 英語でき single out someone for criticism ゆうしゅうびかざ 意味最後まで物事をやり通し 有終の美を飾る て立派な成績・成果を上げる。 一線を退く時などに言うことが多い。用法文型「ダ レダレが有終の美を飾る」 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「更に有終の美を飾ってやろうと、サード・オフィサー、コステロ氏と三人で夜の街に出向いて行ったのだが」②「朝日新聞」(一九七九・六・三朝)「第二に病弱のブレジネフ書記長の有終の美を飾る成果とすること」③「朝日新聞」(一九一・三・七朝)「この大会を最後に大会から身を引くクレーカー(東独)は得意の段違い平行棒で楊艶麗(中国)と優勝を分け合い、有終の美を飾った」 ゆだんすき 意味ある人に対して、少しも 油断も隙もない 油断することができない。だか ら要注意ということ。 用法文型「ダレダレは油断も <514> 隙もない 用例①有吉佐和子「恍惚の人」(一九三)「私たち交代で 番をしてたんですけど、本当に油断も隙もないんです よ」②高杉良『会社蘇生』(一九七)「なにかをつかんでると したら、油断もすきもない大変な敏腕記者といえる」③ 内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九)「ほう、よく調 べてありますなあ、さすがは警察だ、油断も隙もない」 金野は目を見張った」 類句「油断も隙もならない」(石坂洋次郎『石中先生行状記』青銅時代の巻〈一九五〉「小説家というものは、小説を書くためには、なんでも構わず利用する、油断もスキもならない動物です」とも言う。 ゆびいつぽんさ 意味人から非難・干渉・ 指一本も指させない ちようしょう 嘲笑などはさせない。人 から非難・干渉・嘲笑など受けるようなところはまった くない。強い決意・表明の言葉。用法文型「ナニナ 二についてダレダレに指一本も指させない」。用例①の ように「指一本も」と「ささせない」の間に語句を挿入で きる。 用例①芥川龍之介『三つの宝』(九三)「わたしがここ にいる限りは、指一本も王女にはささせません」②「この件についてだれにも指一本も差させない」③「世間から指一本もささせないようにする」 ゆび 意味うらやましく見ながら手も出 指をくわえる せないでいる。手に入れたいが何と もできずむなしく見ている。用法文型「ダレダレは ナニナニを指をくわえて見る」 用例森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三00)「こん な上等な食べごろのおねえちゃんが包装紙を解いて、む きむきの観音様をきらきらさせながら手招きしているの を、指をくわえて見送るようなら男をやめた方がいい ね」 外国語 英語では look enviously at 湯水のように 意味お金を惜しげもなく乱費す るさま。非難の言葉。用法文型 「ダレダレは金を湯水のように使う」。「湯水の如く」とも 言う。江戸 用例①朝日新聞(一九七九・三・七朝)「一歩外国に来てしまうとまるで湯水のようにドル札を使いまくります」② <515> 朝日新聞』(一九○・二・三朝)「日本は古来水に恵まれ、冗費のたとえを湯水の如くというほど、その豊かさになれてきた」③「朝日新聞』(一九一・二○・一朝)「これまで招致のために巨大な税金を湯水のように使って……行政の責任はどうなるんだ」という声もあちこちで。 類句「金に糸目をつけない」 外国語 英語では spend money like water *中国語では成句「搾金如土」(金を 湯水のように使う。直訳すれば金を土のように使う) 戸を引く *よ* 意味反抗する。反逆する。人に背く。 特に恩人や目上の人に対して言う。 用例①佐々木味津三『右門捕物帖』(三八三)「のれんを分けてもらった子飼いの番頭が、ご本家へ弓を引くようなまねをするはずがねえ」②大沢在昌『砂の狩人』(三〇一三)「この中国人とうちは、たった今、取引関係を結んだ。この連中にチャカを向けるのは、芳正会に向けるのと同じだ。うちに弓を引くのか」③「部下が上司に弓を引く」 用法 文型「ダレダレがダレダレに弓を引く」 鎌倉 類句「背を向ける」「盾を突く」「反旗を翻す」 りるー(江戸) ようた 意味仕事や用件を処理するのに役立 用が足りる つ。用法文型「ダレナニで用が足 用例三島霜川『青い顔』(九七)「下婢で用が足りる位 なら、世間の男は誰だってうるさい妻なんか持ちはしな い」 類句「間に合う」「役に立つ」 ようた 意味(1)仕事・用件などを済ませる。(2) 用を足す 大小便を済ませる。用法文型「ダレ ダレが用を足す」。用例②のように可能動詞形がある。 江戸 用例(1)①堺利彦『貧を記す』(二八九)「古き原稿紙の裏 を用いて用を足すと」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「上京 しているのなら、直接、彼のほうから訪問すれば用はた せるはずだった」(2)③北條民雄『いのちの初夜』(一九六六) <516> 「小便までが凍ってしまうようで、なかなか出ず、焦り ながら用を足すと」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』 (二九三)「学校の便所は汚いので、小便以外に用を足した ことはなかったのだが」 よあ 意味良くても悪くてもいず 良かれ悪しかれ れにしても。用法文型「ダ レナニは良かれ悪しかれ~する」。副詞的に述語を修飾 する。 用例①尾崎士郎「人生劇場青春篇」(一九三五)「西野博士のためにということを標榜して起った運動が善かれ悪かれ西野博士に影響しないとしたら嘘でありましょう ②「朝日新聞」(一九五七・七・二朝)「田中、三木、福田三内閣とも、よかれ悪しかれそれぞれの『理想』に挑戦し」③「朝日新聞」(一九五七・七・三朝)「最初に教わった先生の発音には良かれあしかれ一生ついてまわるほど影響されます」 意味欲が強い。非常に欲張 欲の皮が突っ張る りである。用法文型「ダ レダレは欲の皮がつっぱる」。用例①のように「欲の皮 が」と「つっぱる」の間に語句を挿入できる。 用例①原ゆたか『かいけつゾロリの大金もち』(一九九八) 「おさつのヤマはおもしろいように大きくなっていき、 ゾロリたちのよくのかわも、どんどんとつっぱります」 ②「欲の皮が突っ張っているから、金儲けの話を聞くと すぐ身を乗り出す」 類句「欲の皮が張る」とも言う。 欲を言えば 意味人・物事に対し、今の状態でも 一応満足できるが、更に望むならば。 用法文型「欲を言えば~だ」 用例①伊藤左千夫『浜菊』(一九八)「欲を云えば際限がない」②芥川龍之介『好色』(一九三)「もう少し欲を云えば、顔もあれじゃ寂しすぎる」③「彼は品行方正で申し分がないが、欲を言えばもう少し背が欲しい」 類句「欲を言うと」とも言う。 よこぐるま お 意味 車を横に押して動かすのは無理 横車を押す であるように、無理なこと、理不尽な ことを強いて押し通す。用法文型「ダレダレが横車 を押す」(江戸) <517> 類句「横紙破り」 用例①野間宏『真空地帯』(二五三)「それ故に大住軍曹 が中隊にあってしばしば横車をおし乱暴をはたらき、そ して自分の特異な存在を人々にみとめさせてきたこと などは全くかえりみられなかったから」②『朝日新聞』 (一九一・三・三朝)「重要案件の成否を握っている”権限”を かさにきて、横車を押す体質である」 よこものたて 意味ちょっとしたこと 横の物を縦にもしない でも面倒くさがってしな い。非常に無精なこと。非難の言葉。用法文型「ダ レダレは横の物を縦にもしない」(江戸) 用例「夫は怠け者で、横の物を縦にもしない。本当に 呆れる」 類句「縦の物を横にもしない」とも言う。 外国語 英語では won’t lift a finger よこやりはい 横槍が入る 意味交戦している両軍の側面から別 の一隊が槍で突きかかることから転じ て話や仕事の途中で第三者に口出しされる。用法 文型「ダレダレからダレナニに横槍が入る」 用例 朝日新聞(二九九六三朝苦労していったん合 意した京王閣の補償金交渉に対して、共産党からも横ヤ リが入ったのは心外であった」 横槍を入れる 意味交戦している両軍の側面から 別の一隊が槍で突きかかることから 転じて、第三者が、話や仕事の横から口出して、邪魔 をする。用法文型「ダレダレがダレナニに横槍を入 れる」。命令・意志表現は可能。用例①「妙な」のように 「横槍」を修飾することが可能。(江戸) 用例①山崎豊子『白い巨塔』(九六三六五)「労働省にも顔 のきく人だから、せっかく内定しているあなたの近畿労 災病院長の椅子に妙な横槍を入れるかもしれないし」② 『朝日新聞』(九八○三·四朝)「日本の余剰米の輸出に横ヤ リを入れるなど、まったく横暴といわざるを得ない」③ 内田康夫『若狭殺人事件』(九九三)「べつにそんな連中に 褒めてもらわなくてもいいよ』『あなた』と菊代が横槍を 入れた』④広山義慶『私刑警察 激弾!』(三〇二)「奴は石 杖頼母に横槍を入れる風圧の源を調査しているとか」 類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「水を差す」「野次を飛ばす」 <518> よだれた 意味おいしい食べ物を見て食べたく 涎を垂らす なるさまから転じて、ひどく欲しがる さま、うらやむさま。用法文型「ダレダレがよだれ を垂らして~する」。「~する」には「見る」「眺める」な どが来る。 用例①岡本綺堂『半七捕物帳』菊人形の昔(二七十三) 「おれもああいう馬に西洋鞍を置いて一度乗り廻してみ たいと、よだれを垂らしながら眺めているほかはありま せん」②「ヨーロッパの高級家具をよだれを垂らして見 る」 類句「よだれが出る」「よだれを流す」とも言う。「食指が動く」「のどが鳴る」外国語英語ではdrool 予断を許さない 意味「予断」は前もって判断 すること。どうなるか予測する ことが難しい。危ない状況が迫っているがそれがいつ来 るか判断できない時に使う。用法文型「~かどうか 予断を許さない」 用例①中里介山『大菩薩峠』山科の巻(九三三三)「それからどうなりますか、容易に予断を許しません」②辻邦生『北の岬』(九)「だが、いつ飛行機が現われるか予 断をゆるさなかった。海上で捕捉されればおれたちは壊 滅的な打撃をうけなければならぬ」 外国語 英語では One can’t tell 寄ってたかって 意味大勢が集まって何事かを するさま。特に一人をいじめた り、ひどい目に合わせたりする時に言う。用法文型 「ダレダレがダレダレを寄ってたかって~する」。副詞的 に述語を修飾する。江戸 用例①源氏鶏太『一寸の虫』(九五〇)「よくも、寄って たかって、か弱い女ひとりを、ひどい目にあわせたな」 ②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(九六〇)「彼らは有 能な専門家たちだから、寄ってたかって直る病気は治し てしまう」③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(九九七)「生 意気な素人探偵を寄ってたかってやり込めるつもりかも しれない」④森村誠一『エネミイ』(三〇〇)「事件発生後 寄ってたかってもみ消した学校当局」 余念がない 意味他のことは考えず、そのことに のみ没頭するさま。用法文型「ダ レダレはナニナニに余念がない」(平安) <519> 用例①松本清張『点と線』(一九五八—五九)「針を動かすのに 余念がない様子だった」②福永武彦『忘却の河』(一九六四) 「効果や照明などのメンバーはそれぞれ研究に余念がな かった」 類句「脇目も振らず」 期社長の呼び声が高い よめね 意味夜、眠ることもせず。 夜の目も寝ずに 用法文型「夜の目も寝ずに~ する」。「夜の目も寝ないで」とも言う。「室町」 用例鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七)翌日から 三日三晩、夜の目も寝ずにポーカーの組み合せを調べた ら 類句夜を徹する よごえたか 意味将来ある地位・役職につく 呼び声が高い 候補者として有力だとうわされる。 用法文型「ダレダレはダレナニの呼び声が高い」「ダレ ダレはダレナニに呼び声が高い」 用例①佐々木味津三『右門捕物帖』毒色のくちびる (一九六八三)「土俵に姿を現わしたものは、これぞお局群 に呼び声高い江戸錦四郎太夫でありました」②「彼は次 よひあ 夜も日も明けない 意味それがなければ少しの 間も過ごせない。それに愛着 を持ったり執着したりしているさまの強調表現。 町 文型「ダレナニがなければ夜も日も明けない」室 用例国木田独歩『運命』(一九六)「日清戦争、連戦連勝、 軍隊万歳、軍人でなければ夜も日も明けぬお目出度いこ ととなって」 意味ほかにふさわしいものを選ぶ よりによって 余地があったのに、不適切なものを 選んだことを非難する言葉。また、大変な時、大切な時 にあることが起きることを非難する言葉。用法文型 「よりによって~する」。副詞的に述語を修飾する。「江 戸 用例①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九四)「女賊『黒トカゲ』は、選りに選って、この大歓楽境のまただ中、衆人環視の塔上を、身代金授受の場所と定めたのであった」②森村誠一『新幹線殺人事件』(九七)「通話相手を何故選り <520> に選ってキクプロと仲の悪いプロデューサーにしたのか?」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九)「よりによってこんな時に、どうして人殺しなんて考えやがる」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九五)「よりによってライバル会社の契約社員を派遣する必要などあるわけがない」⑤吉村達也『横濱の風』殺人事件』(三〇四)「ともかく、おれたちはそこで神に召されようと思った。だが……人がいた。よりによって、大事な決意を秘めて行った場所に、若い男ふたりがいた」 類句「あろうことか」「事もあろうに」「外国語」英語では 縒りを戻す 意味もとは仲が良かったのに何かの きっかけで仲が悪くなったのが、また もと通りの仲良しになる。特に男女間に言うことが多い 用法文型「ダレダレがダレダレとよりを戻す」。命令・ 意志表現は可能。「江戸」 用例①『朝日新聞』(一九九・五・三朝)「一時冷却化していた米ソ関係も、先のSALTの基本合意をきっかけによりを戻す傾向を見せている」②中上健次『鳳仙花』(一九〇)「顔を見るのも厭だという理由で別れてないとしても、 会ってすぐヨリをもどす事などあり得ないと思った」 さや 類句「元の鞘に収まる」(外国語)英語では patch things 号 *中国語では成句「言归于好」(良い関係に戻る、仲 直りをする。「归」は戻る。「好」は仲がよい) 意味人々が寄り集まるたびにある ことが話題にされることを言う。 用法文型「よるとさわるとナニナニで持ち切り」。ナニナニは「話」「話題」「うわさ」など。「江戸」 用例①内田魯庵「くれの廿八日」(八九八)「何でも尋常事でないと、寄ると触ると此話題で持切っていたが」②江戸川乱歩「黄金仮面」(一九三〇三)「よるとさわるとその噂で持ちきりだ」③三島由紀夫「仮面の告白」(一九四九)「昭和二十年の春ともなればもう反戦論は寄るとさわると囁かれていたので」④山崎豊子「白い巨塔」(一九六三六五)「教室員はもちろん、インターンや看護婦に至るまで、寄るとさわると、教授選の話で持ちきりです」 よるひる 意味夜昼の区別なく常に。 夜となく昼となく 用法文型「夜となく昼とな く~」。副詞的に述語を修飾する。 <521> 用例①坂口安吾『石の思い』(二九七)「そのころは母に 持病があって膀胱結石というもので時々夜となく昼とな く呻り通している』②『朝日新聞』(二九九六八朝)「若い看 護婦さんもベテランも、夜となく昼となくどんなことに もイヤな顔一つみせず」 類句「昼夜わかたず」「夜を日に継ぐ」 よわねは 意味困難などに耐えられず、弱々し 弱音を吐く い調子で意気地のないことを言う。 用法文型「ダレダレが弱音を吐く」 用例①高橋和巳『悲の器』(九三)「独り住いは、弱音ははきたくないが、たしかに不便だった」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(九三)「義父は『もう、やめたい』などと、弱音を吐いているが」③清水一行『ITの踊り』(三〇四)「こんなに歩くのは久しぶりですから。でも、まだまだ大丈夫です』とうに音を上げていたが、恭子の前で弱音を吐くわけにはいかなかった」 類句「声を上げる」「音を上げる」「外国語」英語ではwhine よわめたため 意味困っている時に更に重ね 弱り目に崇り目 て災難に遭うこと。不運に不運 が重なること。用法単独で使用。江戸 用例①二葉亭四迷『其面影』(一九六)「失意で意気の阻 喪してる時にゃ、俗にいう弱り目に祟り目だ、僅かの刺 激にも直ぐ感じて、深くじゃないが、病的にだね、生活 の苦痛を感じて来る」②織田作之助『アド・バルーン』 (二単主の顔みイみイ、おっさんどないしてくれま んネいうて、千度泣いたると、亭主も弱り目にたたり目 で、到頭俺を背負うて、親父のとこイ連れて行きよった」 類句「泣きっ面に蜂」「踏んだり蹴ったり」外国語 英語では things go from bad to worse *中国語では 成句「祸不単行」(災いは重なるものだ) 意味人が死ぬ。ある人がこの世からい 世を去る なくなる。文章語的な言葉。用法文 型「ダレダレが世を去る」(平安) 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(九六)「民子は余儀な き結婚をして遂に世を去り」②「祖父の世を去る日が近 づいた」 類句息を引き取る「帰らぬ人となる」鬼籍に入る <522> 「骨になる」 *ら行* 夜を日に継ぐ 意味昼夜の別なく物事を続ける。 昼夜兼行で行う。 用法文型夜 を日に継いでする。 受身形がある。 平安 用例①平出修「逆徒」(九三)「夜を日に継ぐ厳しい訊 問を続けられ」②「救出作業が夜を日に継いで行われた」 類句「昼夜わかたず」「夜となく昼となく」外国語 中国語では成句「夜以继日」(夜を日に継ぐ) ふくいん 烙印を押される 意味「烙印」とは焼き印のこ とで、昔、犯罪者に刑罰として 押したところから、ぬぐい去ることができない汚名を受 ける。用法文型「ダレダレがダレダレにダレナニの 烙印を押される」。「烙印を押す」という能動形もある。 用例①甲賀三郎『血液型殺人事件』(一九四)「妻は不貞 の烙印を押されるのです」②「犯罪者という烙印を押さ れてこれからは生きて行かねばならない」 類句「レッテルを貼られる」 外国語英語では be branded らもあ 意味「埒」とは馬場の周りの柵のこと。 埒が明く 柵が明くことから転じて、物事がうまく はかどる。用法文型「ナニナニで埒が明く」「~して も埒が明かない」。否定形がよく使われる。「江戸 用例①二葉亭四迷「其面影」(一九六)「九兵衛さんでは <523> 埒が明かなかったので、葉村が頼まれて双方の間に入る ことに成ったが」②志賀直哉『晩秋』(一九三六)「今は遅かれ 早かれ埒のあく問題だったから」③和田傳『鰯雲』(一九五七) 「用件のことでラチのあく返事は得られなかったが」④ 内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「この付近で話を聞い ても埒があきそうになかった」⑤大沢在昌『灰夜 新宿 鮫Ⅶ』(三〇二)「ふざけたこといってんなよ」男の声が荒 くなった。『お前みたいなチンピラじゃ、らちがあかない もっと上の人間だせ』鮫島はいった」 類句「決着がつく」 外国語 英語では「埒が明く」は get somewhere「埒が明かない」は get nowhere ちも 埒もない 意味筋道が立っていなくて、わけのわ からない。どうでもよくて取るに足りな い。 用法文型「埒もないこと」(江戸) 用例①牧野信一『ゼーロン』(三)「ゼーロンは飽く までも腑抜けたように白々しく埒もない有様であった」 ②林芙美子『大島行』(三)「大島と云えば、此頃はすっ かり自殺者で有名になってしまったのですが、全く埒も ない事です」③「埒もないことを言う」 類句「とりとめのない」「他愛のない」 意味「ほらを吹く」に同じ。用法文型「ダレダレがラッパを吹く」 剣叭を吹く りつすいよち 意味錐を立てるほどのわず 立錐の余地もない かの隙間もないくらい人が大 勢集まっているさま。用法文型「ドコドコは立錐の 余地もない」。「立錐の余地がない」とも言う。 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇三)「立錐の余地 なき満員である」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「ロッ カーは廊下にまではみ出している。そんな医局であった から五十人余りの医局員が入ると、立錐の余地もなくな るのであったが」③『朝日新聞』(一九七六・六・一九朝)「調印式 場に集まった報道陣の数はすごかったな。『立錐の余地 がない』とはこういうことだ」 りゆういん 溜飲が下がる 意味「溜飲」とは消化不良で出 る胃からのすっぱい液。わだか まっていた恨み・不平・不満などがあることで消えて胸 がすかっとする。せいせいする。用法文型「ダレダ <524> レは溜飲が下がる」「ダレダレの溜飲が下がる」「溜飲が 下がる思い」「江戸 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』(一九四一四九)「それが一等に当選した。変名だから賞品は貰えなかったが、いささか溜飲がさがる思いがした」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一九二)「電話の中で、彼は呶鳴り狂った。それを聞くだけでも、私は溜飲がさがるのだ」③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「低速の車などは十分に追い越せる。自動車を追い抜くと、溜飲が下がった」 類句「気味がいい」「胸がすく」 りゆういんさ 溜飲を下げる 意味「溜飲」とは消化不良で出 る胃からのすっぱい液。わだか まっていた恨み・不平・不満などをあることで解消して 気分をすっきりさせる。用法文型「ダレダレが溜飲 を下げる」「ダレダレの溜飲を下げる」 用例①石坂洋次郎『若い人』(一九三三毛)「貴方へ話すの なら後の崇りもないことですから一つ聞き手になって、 僕の溜飲を下げさせてくれませんか」②坂口安吾『正午 の殺人』(一九三三)「有名な画家を選んでモデルになる遊び を覚え、最高の女体鑑賞家と申すべき大家どもをナデ斬 りにして溜飲を下げていたのであるが③源氏鶏太「青い果実」(一九五十五)「さては、ずっと昔から、そうだ、十年も前から、あんな風に、ゴミをこっちへよこしては、溜飲を下げていたんだな!④森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(一九九)「鈴木が溜飲を下げたように言った」 りようてはな 両手に花 意味二つの良いこと、美しいもの、名 誉、価値あるものを同時に自分のものに する。特に男性が二人の女性に挟まれている場合に言う。 用法文型「ダレダレは両手に花」(江戸) 用例源氏鶏太『実は熟したり』(一九五九)『しのぶさん、 ずるいわよ』『あら、どうしてよ』『だって、自分ばかり 両手に花で、いい気になっているんですもの』 外国語 英語では be doubly blessed るいおよ 意味災難などが他に及んで巻き添えに 累が及ぶ なる。また、悪影響を被る。用法文 型「ダレナニに累が及ぶ」 用例高杉良『人事権!』(一九三)「それどころか相沢自 身に累が及ぶ」 <525> るいおよ 意味災難などによって他のものを巻 累を及ぼす き添えにする。また、悪影響を与える 用法文型「ナニナニがダレナニに累を及ぼす」。用例 ③のように「累を」と「及ぼす」の間に語句を挿入するこ とができる。 用例①森鴎外『じいさんばあさん』(一九五)二人は富裕とは見えないしかし不自由はせぬらしく、又久右衛門に累を及ぼすような事もないらしい②宮本百合子『中国に於ける二人のアメリカ婦人』(九三毛)彼等は盲目的であったがそのために善良かつ悪意のなかったことに累を及ぼす筈がない③三島由紀夫『禁色』(九五二五三)一家を襲った不幸の根ざしがどれほど深いものであろうとそれは母子の間で解決すべき問題であって、累を康子に及ぼしてはならなかった」 例によって例の如し 意味いつもと同じで取り 立てて変わった様子がない 用法文型「例によって例の如くする」。副詞的に述 語を修飾することが多い。 用例①夢野久作『スランプ』(一九三五)「午睡をしてから 眼を醒ましますと、例によって例の如く、今までとは 打って変った軽快さで、スラスラと原稿が書けるもの と思い込んで」②ニコライ・ゴーゴリ作、平井肇訳『外 套』(一九三六)「また例によって例のごとく、ペテルブルグ の家々の裏ばしごにはかならずつきものの、あの眼を刺 すようなアルコール性の臭気のしみこんだ階段であった が」③「彼は例によって例の如く、7時に起き、8時に 家を出て、近くの喫茶店で食事を済ませ、出勤する」 烈火の如く 意味激しく燃える火のようにひどく 怒るさま。 用法文型「ダレダレは 烈火の如く怒る」 用例①穗積陳重『法窓夜話』(一九一六)「親王はこれを聴いて烈火の如く怒り」②太宰治『人間失格』(一九八)「もしもこれらの実体が、マルキシズムの真の信奉者に見破られたら、堀木も自分も、烈火の如く怒られ」③野坂昭如『てろてろ』(一九七二)「俺は烈火の如く怒るやろか」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に 発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝 く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらな い」「腸が煮えくり返る」「外国語」英語では by into a rage <526> レッテルを貼る して、一方的にある特定の判断・評価を下す。多くの場合、マイナスの評価である。用法文型「ダレダレがダレナニにダレナニのレッテルを貼る」。用例②⑤のように受身形がある。後者のダレナニは判断・評価の言葉用例①石坂洋次郎『暁の合唱』(三九四二)「僕は人間に商標を張ることは不得手だし、興味もないよ」②獅子文六『てんやわんや』(九四九)「日陰者のレッテルを貼られ」③「朝日新聞」(九五四三八朝)「吉田さん個人としては“悪い政治家”とレッテルをはった鳩山さんにむざむざと政権を取られたくはなかったのだろうが」④「朝日新聞」(九七二三二朝)「互いに相手を異端視してレッテルを張りあうのは、日本の左翼にも共通する体質のひとつだ」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(九九三)「江梨香は『勉強のひと』というレッテルを貼られつづけてきた」 類句「烙印を押す」 外国語 中国語では慣用句「貼标 笠」(レッテルを貼る。「标签」はレッテル) 老骨に鞭打つ 意味老人自らがへりくだって言う 言葉で、自分の老いた身を励まして 物事に当たる。 用法文型「ダレダレは老骨にむち 打ってくする」 用例「この度は老骨にむち打ってまとめ役を買って出 た」 路頭に迷う 意味生計の手段を失ったり住むとこ ろを失ったりしてひどく困窮する。 用法文型「ダレダレが路頭に迷う」。用例②のように 使役形がある。〔江戸〕 用例①野坂昭如『てろてろ』(一を二)「殺す前に、ふと 男の家族を思いやり、年齢からみてさだめし一家の大黒 柱であろう。遺族が路頭に迷うのではないかと、気がか りだったが」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「俺は妻子を路 頭に迷わせるようなことはしないつもりだが」 外国語英語では end up in the streets るれつまわ 意味「呂律」とは言葉を発音 呂律が回らない する時の調子。酔ったり病気を したりして舌が思うように動かず、言葉がはっきりしな い。用法文型「ダレダレはろれつが回らない」「江戸 用例①里見弴「安城家の兄弟」(た三)「そろそろ呂律 <527> のまわらなくなりだした巻舌で、頻と何か話しかけるのを」②尾崎一雄『美しい墓地からの眺め』(二四八)「中風とみえて、ロレツが廻らぬから、何のことかさっぱり判らぬ」③獅子文六『自由学校』(二五五)「ビールから日本酒と、何本、カラにしたか、覚えはなかった。高山は、とうに、ロレツが回らなくなり、自分の商売のブローカーの話やら、家庭のグチやら、しきりに並べ立てたが、半分は、意味が通じなかった」④藤原審爾『罪な女』(二五三)「とても気持よく酔えただの、呂律の廻らぬ声で言っていた」類句「舌がもつれる」(外国語)英語ではslur one's words ろんま 意味論ずるまでもなく、当然のこ 論を俟たない とである。用法文型「ナニナニ は論をまたない」(江戸) ①長谷川時雨『旧聞日本橋』(一九三)一体二弦琴 の響は一間へだてた方が丸味をおびてよいものだが、し かし、それは弾手の耳と、趣味の深さ、浅さによるは 論をまたない」②宮本百合子『しかし昔はかえらない』 (一九五)「志賀直哉と吉川英治を国民大衆の討議にかけれ ば、後者が選ばれること論をまたない」③「税金を払う <528> *わ* わいえ 我が意を得たり 意味物事がまさに自分の思っ (考えた)た通りになった。 用法文型「ダレダレが我が意を得たりと~」 用例①森村誠一『新幹線殺人事件』(二九〇)「石原が我 が意を得たりというようにうなずいた」②高杉良『会社 蘇生』(一九九七)「宮野が関本記者の夜討ちの話をすると、 菊池はわが意を得たりという顔をした」③斎藤栄『日美 子の公園探偵』(三〇二)「わが意をえたりとばかりに、桂 香は、その長い睫の下からじっと日美子を見て」 わかげいた 意味 若さにまかせて無分別な行動に 若気の至り 及んでしまうことを後悔して言う言葉 用法 文型「ナニナニは若気の至り」「ダレダレは若気の 至りでする」「江戸 用例①織田作之助『世相』(一四六)『風俗壊乱』の文士 らしく若気の至りの放蕩無頼を気取って』②「若気の至 りで、ついかっとなって人を殴り怪我をさせてしまった」 わきめふ 意味よそ見もせず。他のことに関 脇目も振らず 心を向けず、一つのことに専念する さま。用法文型「ダレダレはわき目もふらず(に)~ する」(江戸) 用例①原民喜「夏の花」(一九四九)「夜業の机には大人たちがせっせと算盤を弾いたり、帳簿を繰って、一しきり 傍目も振らない事務がつづいているが」②源氏鶏太「見事な娘」(一九五四一五)「美しい娘が、わき目もふらずに、人 人を、ぐんぐんと追い抜いて行く姿は」③「朝日新聞」 (一九一・五・四朝)「父は理容師を五十年間、脇目も振らずに 働いていたが」 類句「馬車馬のよう」「余念がない」外国語韓国語 では「きぐら(片目も)豊かなけ(よそみをしない)」 わけ 意味簡単である。手間がかからない。 訳はない 訳ない。用法文型「ナニナニは訳は ない」。「訳もない」とも言う。 用例 森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七)一社がわ <529> かれば、もう一社から誘導して聞きだすのは、わけはな かった」 類句「お茶の子さいさい」「お安い御用」「苦もなく」 事もなく」「手もなく」「屁の河童」 渡りに船 わたふね 意味困っている時、何かをしようと 思っていた時に、ちょうど良い具合に好 都合な話が持ち上がったり、好都合なことが起こったり すること。用法文型「ナニナニは渡りに船」。ナニナ ニは相手からの話、申し出など。〔平安〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二三)「この男が、世田谷の稔の伯父の家を訪れて、稔を養子にもらいたいという申出をした。この申出は渡りに船であった」②高杉良『人事権!』(一九九三)「母に話したら、子供たちの面倒をみるから大阪に行きなさいって言ってくれたの。母も兄のところが気づまりなんじゃないかしら。むしろ渡りに船っていう感じだったわ」③森村誠一『棟居刑事の「人間の海』(三〇〇)「弁慶の申し出は、松江とかおりにとって渡りに船であった」 類句「願ったり叶ったり」 わた 渡りを付ける 意味両者の間がうまくいくように、 また交渉・話し合いができるように 橋渡しをする。用法文型「ダレダレがダレドコに渡 りをつける」。命令・意志表現は可能。「江戸」 用例①坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「上野光子が関西方面で、フリーの女スカウトの看板をあげてるんです。どこの球団にも所属せず、顔を利用して、ワタリをつけるというわけです」②三島由紀夫『禁色』(一九五二-五三)「長野管区防衛司令長官にわたりをつけ、月に一回、軍の豊富な食糧を運ばせた」 類句「仲に立つ」「橋を渡す」 わなか 意味欺かれて相手の計略にひっかか 罠に掛かる る。用法文型「ダレダレがダレダ レの罠にかかる」。用例②「何かの」のように「罠」を 「ダレダレの」以外の語が修飾することも可能。「罠に」 と「かかる」との間に語句を挿入できる。「江戸」 用例①森本薰『華々しき一族』(一九五)「僕は、あなたの罠にかかるのは厭ですよ」②森茉莉『恋人たちの森』(一九三)「その時夫人はギドウと歩いてくるのが、フウド・センタアの青年だと瞬間悟り、何かの罠にかかった <530> のを、知った」③「敵の罠にまんまとかかった 類句「術中に陥る」「手に乗る」「罠にはまる」 わなか 意味欺いて、策略を用いて相手を陷 罠に掛ける れる。用法文型「ダレダレがダレ ダレを罠にかける」。命令・意志表現は可能。「罠に」と 「かける」との間に語句を挿入できる。「江戸」 用例①松本清張『点と線』(一九五九)「利用する下心から目をかけてやるとしたら、罠にかけるようなものだ」②都筑道夫『脅迫者によろしく』(一九七九)「ほんと、罠にかけたつもりで、得意になって、ついて来たわね」類句「一杯食わす」「ペテンにかける」「罠にはめる」「罠をかける」 わら 藁にもすがる 意味せっぱつまって、頼りになり そうにないものにまで頼り、助けを 求めていくさま。 用法文型「わらにもすがる思い(気 持ち)」「わらにもすがりたい(思い・気持ち)」 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三一六三)「姉が慣れない 会社の仕事やなんかでノイローゼ気味で、わらでもすが りたい気持で、寝言で孝雄さんに呼びかけたのかも知 れないわ」②「朝日新聞」(一九八〇・三・三王朝)「ワラにもすがりたい時に助けてくれるのが税金、万一の時にはお返しがあるもの、と思っていたから」③高杉良『会社蘇生』(一九七)「藁にもすがる思いで、上田を訪ねて来たのである」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「捜査員はわらにもすがる気持で張込みをかけていた」 類句「わらをもつかむ」とも言う。 わらつか 意味「わらにもすがる」に同じ。 藁をも掴む 用法文型「わらをもつかむ思い気 持ち」 用例①『朝日新聞』(一九八〇・三・三朝)「大学入試にあえぎわらをもつかむ思いの一部の受験生やその親」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「とにかく、被害者が誰なのか特定しないことには始まらないし、メノウのイヤリングとセラミックのブローチだけが頼りだから、藁をもつかむ思いで確認にはしったが」 割りに合う 意味かかる労力や苦労と得るものと を比較して、利益の方が多く、苦労す るだけの価値はある。用法文型「ナニナニは割りに <531> 合う」「ナニナニは割りに合わない」。否定形が多い。「割りが合う」「割りの合う」とも言う。「江戸」 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一丸六)「世間体はよいけど、手間許り掛って割に合わないといつも母が言ってる畑だ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「助教授などというものは、……医局内の雑務を一手に引き受け、教授の縁の下の力持ちを努める割の合わないポストであった」③「朝日新聞」(三〇四・八・二六朝)「実際、不法投棄は割の合う仕事ではありません。利益がなくなるまで価格は下がり続けます」 割りを食う 意味損をする。不利益を被る。損な 立場に置かれる。用法文型「ダレ ダレが割りを食う」(江戸) 用例①半村良『どぶどろ』(一九七)「およしょ、あんないい男と一緒に遊んで歩くのは。割を食うよ」②内田康夫『博多殺人事件』(一九二)「どちらかといえば被害者側だけが割りを食った恰好で、この処置については社員の評判がよくなかった」③高杉良『人事権!』(一九三)「部長、副部長、課長の管理職が割りを食うのは仕方がない」 類句「割りに合わない」 われかん我関せず 意味周りの出来事にまったく関心を示 さず、自分に関係がないという態度を取 文型「ダレダレは我関せずで」 用例①中里介山『大菩薩峠』肝吹の巻(一九三三五)「覆面 のお銀様は冷々として、人鳥いずれが勝とうとも、負け ようとも、われ関せずといったよう」②「彼は近所の事 件にも我関せずで、趣味に没頭していた」 外国語 中国語では成句「事不关己」(自分に関係のない ことだと無関心なさま) われかえ 意味ぼんやりしていたり、何かに心を 我に返る 奪われていた状態から本心に返る、本来 の自分に気がつく。用法文型「ダレダレが我に返る」 江戸 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二—吾)「この新たな衝撃で、気も失わんばかりであった。やっと我に返って、こう訊いた」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七二)「大原伍長は、その一言ではっとわれにかえった」③柳田邦男『空白の天気図』(一九五五)「放心状態から我にかえった人々のうちで」④東野圭吾『美しき凶器』(一九九三)「おい、どうしたんだ』後ろから声をかけられて我に返った」 <532> われ我も我も 意味他人に後れをとらないように大勢 の人が一斉に先を争って何かを求めるさ 用法文型「我も我もとくする」平安 用法文型「我も我もと~する」〔平安〕 用例①海野十三『宇宙の迷子』(五七)世界中の人々 がこの宇宙探検熱にとりつかれ、われもわれもと探検に 出かけるようになった」②「女性ファンが我も我もとサ インを求めてやってきた」 類句「先を争う」 外国語 中国語では成句「争先恐 后」(遅れまいと先を争う。「恐后」は遅れるのを恐れる) 割れるよう 意味(1)頭痛の激しいさま。(2)音や声 が非常に大きいさま。用法文型(1) 「頭が割れるよう」(2)「割れるようなナニナニナナニナナニナ 用例(1)①「頭が割れるように痛い」(2)②安部公房「壁」(一五二)「どっと割れるような笑いが場内をゆすりました」③「見事な演技に会場に割れるような拍手と歓声が起きた」 類句(2)「割れんばかりの」とも言う。 北朝 レダレは我を忘れる「ダレダレは我を忘れて~する」南 正常な意識を失う。用法文型「ダ 意味物事に夢中になって自分を失う。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五二五三)「苦痛のあまり我 を忘れた妻の顔が」②瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「妖精に 抱かれているような、甘い陶醉が亮子にふと、われを忘 れさせていた」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「その 情景のきびしい感じは、われを忘れて専心する労働者の 感じである」 輪を掛ける 意味程度が更にはなはだしいさま。 良いことにも悪いことにも使う。 用法文型「ダレナニはダレナニに輪を掛けて「ダレ ナニに輪を掛けたダレナニ」(江戸) 用例①久保田万太郎『春泥』(一九六八)「もっといまより 以前のほうが輪をかけてよけい酔った」②山崎豊子『白 い巨塔』(一九六三一六五)「乾は蝶ネクタイをゆるめ、『そりゃあ (略)僕は東教授に同情するよ」財前嫌いに輪をかけた云 い方をすると」③『朝日新聞』(一九八〇・三・三朝)「それにし ても、輪をかけて情けないのは、不正入学をした受験生」 <533> ④内田康夫『博多殺人事件』(二九二)「がぜん浅見は緊張 した。その緊張に輪をかけたようなヒステリックな声で、 聡子が言った」⑤高杉良『濁流』(二九六)「隣の席に主幹に 輪をかけて凄い人が座ってますから」