<3> あいたくち **愛想が尽きる** (意味)人や世の中の物事などにあきれて愛情や好意などが全くなくなり、嫌になってしまう。 (用法)文型「ダレダレはダレナニに愛想が尽きる」。「あいそがつきる」とも言う。「愛想が尽きた」と過去形で使うことが多い。〔江戸〕 (用例)①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―八九)「二十三にも成ッて親を養す所か自分の居所立所にさえ迷惑てるんだなんぼ何だッて愛想が尽きらア」 ②正宗白鳥『微光』(一九一〇)「この世に愛想が尽きたのかい」 ③石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「愛想がつきるような行状ぶりを聞かされ、口先では嘆いたり罵ったりしたが」 (類句)「愛想もこそも尽き(果て)る」は「愛想が尽きる」を強調した言い方。 (外国語)英語では become disgusted with **愛想を尽かす** (意味)人や世の中の物事などにあきれて嫌になり、見限る。 (用法)文型「ダレダレはダレナニに愛想を尽かす」。「あいそをつかす」とも言う。「愛想を尽かした」と過去形で使うことが多い。受身形が可能。〔江戸〕 (用例)①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―八九)「叔母ですら愛想を尽かすに、親なればこそ子なればこそ、ふがいないといッて愚痴をもこぼさず」 ②『朝日新聞』(一九五七・四・七朝)「家庭の主婦が政治にアイソをつかすのも無理がない」 ③『朝日新聞』(一九五八・六・一七朝)「母親は飲んだくれの夫にあいそをつかして家出していた」 ④源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六二)「いちばんおとなしいと思っていた由利子すら、愛想をつかして、自分から去って行ってしまった」 ⑤平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「いつまでもうだつの上らない中山に愛想をつかして、赤ん坊をおいたまま、男とかけおち同様に金沢を出てしまった」 ⑥高杉良『会社蘇生』(一九八七)「ライル社が小川商会に愛想を尽かす可能性も大きいですから」 **開いた口が塞がらない** (意味)人の行為のひどさ、ばかばかしさ、厚かましさなどに驚きあきれて、ものが言えない。非難の気持ちを表す。 (用法)文型「ダレナニには開いた口がふさがらない」。「開いた口がふさがらない」と言い切る形が多い。〔江戸〕 (用例)①『滑稽新聞』二号(一九〇一)「サモ自慢げに吹聴をして居るとは、是亦開いた口が閉がらない」 ②『朝日新聞』(一九五〇・七・四朝)「それが寺内に住む狂った青年僧徒の放火というのだから、あいた口がふさがらない」 ③開高健『パニック』(一九五七)「俊介はばからしさのあまり、あいた口のふさがらないような気がした」 ④『朝日新聞』(一九七九・一〇・二七朝)「鉄建公団の更迭幹部に四千万円を超える退職金が支払われるという。盗人に追い銭、私たち庶民は全くあきれかえって開いた口がふさがらない」 ⑤『朝日新聞』(一九八〇・六・五朝)「そのずうずうしさにはあいた口がふさがらない」 (類句)「呆れて物が言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 <4> **相槌を打つ** (意味)もと鍛冶で交互に槌を打ち合う意。そこから転じて、対話で相手の言うことにうなずいたり、調子を合わせたり、賛同を示したり、話を促進したりする言葉をはさむ。「合槌」と書くのは誤り。 (用法)文型「ダレダレがダレナニに相槌を打つ」。用例⑤の「下手な」のように「相槌」を修飾することは可能。命令・意志表現が可能。〔江戸〕 (用例)①幸田露伴『不安』(一九〇〇)「この真面目で道理の,ある言葉に皆々口を揃えて『左様だ、左様だ』と相槌を打って」 ②谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九二八―二九)「ひどく熱心に人形芝居を賛美するもんだから、つい老人を喜ばすつもりで合槌を打ってしまったんだ」 ③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「『まったく、そうでありますなア。』と、打てば響くように合槌を打ったのは」 ④稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九八一)「『全くそのとおりだ』と、相槌を打っていた」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「それに下手な相槌を打とうものなら、江梨香がこう言っていた―というウワサが、たちまち流れる」 (外国語)英語では chime in <5> **相手にとって不足はない** (意味)相手の力も相当競ったりする相手として十分である。互角に戦える相手である。 (用法)文型「ダレダレは相手にとって不足はない」 (用例)①尾崎紅葉『二人女房』(一八九一)「どうだ合手に取って不足は無かろう」 ②江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九三四)「明智小五郎なら相手にとって不足はない。あいつと一騎打ちの勝負をするのかと思うと」 (外国語)英語では be a good match for **相も変わらず** (意味)以前と少しも変わらず。いつものように。同じことを単調に繰り返していることを、どちらかというと否定的にとらえた言い方。 (用法)文型「相も変わらず〜」。副詞的に使用。〔江戸〕 (用例)①椎名麟三『美しい女』(一九五五)「相も変らず民青の高性能スピーカーが横っぱしから雑音を流していました」 ②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「各官庁の職員駐車場は、相も変わらず職員用の車でいっぱいである」 **阿吽の呼吸** (意味)「阿吽」とは吐く息と吸う息。二人以上が一緒にある物事をする時のお互いの微妙な調子の合い具合。一方に応じる他方の微妙な息。 (用法)名詞句としてさまざまに用いられる。相撲の立ち合いで「阿吽の呼吸で立った」などと使われることがある。〔江戸〕 (用例)①三島由紀夫『潮騒』(一九五四)「鳥の羽毛をつけたしなりのよい竹竿を使って行われるこの漁は、阿吽の呼吸を要した」 ②内田康夫『鬼首殺人事件』(一九九三)「なるほど、阿吽の呼吸というやつですか」 ③森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「何十年の熟練夫婦がようやく到達できるような阿吽の呼吸を」 ④佐川芳枝『寿司屋のかみさんお客さま控帳』(二〇〇一)「『いいシマアジですねえ』すると夫も、『ありがとうございます』と満足げに庖丁を置く。阿吽の呼吸という感じである」 (類句)「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「呼吸が合う」「調子が合う」「肌が合う」「歩調が合う」 **赤子の手を捻る** (意味)大した力を用いず、たやすく人をやっつける、かたづけるたとえ。相手の力量が大きく劣る場合に言う。自分の力を誇示したり人を立てたりする時に使う。 (用法)用例①のように「赤子の手をひねるよう」とたとえたり、②のように「赤子の手をひねるよりも」と比べたりする言い方が多い。 (用例)①林不忘『へのへのもへじ』(一九二七)「争議団なんて、群衆心理をちょいと利用すりゃア、赤子の手を捻るように単純なもんですがね」 ②菊田一夫『君の名は』(一九五二―五四)「君達を組み伏せようと思えば、赤子の手をひねるよりも易しかろうといってるんだ」 (類句)「赤子の手をねじる」とも言う。「お茶の子さいさい」「お安い御用」「世話がない」「屁の河童」 (外国語)英語では like child's play *中国語では成句「易如反掌」(手のひらを返すように容易である) <6> **赤の他人** (意味)まったく無縁・無関係の間柄の人。親族でも何でもないと相手を突き放す強い語感。 (用法)文型「ダレダレは赤の他人」。名詞句としてさまざまに用いられる。〔江戸〕 (用例)①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―八九)「縁を断ッてしまえば赤の他人、他人に遠慮も糸瓜もいらぬ事だ」 ②源氏鶏太『若い仲間』(一九五九―六〇)「赤の他人として歩いている二人の人生が」 ③『朝日新聞』(一九七三・四・一五朝)「入院中の息子と、五ヵ月間寝食をいっしょにしながら、顔の包帯をとったらアカの他人だった」 ④内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八八)「それこそ、赤の他人のあんたに話す必要はありませんがな」 (類句)「縁もゆかりもない」「見ず知らずの」 (外国語)英語では a total (or complete) stranger **呆れて物が言えない** (意味)人の服装・行為などのひどさ・はなはだしさを非難・軽蔑して言う言葉。 (用法)文型「ダレナニに(は)あきれてものが言えない」。「あきれてものも言えない」とも言う。用例③のように過去形もある。 (用例)①石坂洋次郎『暁の合唱』(一九三九―四一)「御礼でも言うどころか、ケロリとしてえげつない食べ物の話である。呆れて物も言えないと叱りたいところだが」 ②『朝日新聞』(一九五六・四・三朝)「一片の反省もなくシャーシャーと言ってのける心臓には、あきれてものも言えない」 ③源氏鶏太『夢を失わず』(一九六〇)「(わしの財産をめあてに、飲んでまわってるのだ、あいつめは)もうもう、あきれて、モノがいえなかった」 ④『朝日新聞』(一九八〇・四・九朝)「そのみみっちい公私混同には、本当にあきれてものがいえない」 ⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「一人で久保田興業に乗り込むとは、呆れてものが言えませんよ」 (類句)「開いた口が塞がらない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 <7> **灰汁が抜ける** (意味)人の性質や趣味・芸などに癖・嫌味がなく、さっぱりと洗練されたものになる。垢抜ける。 (用法)文型「ダレダレは灰汁が抜ける」。「灰汁の抜けた〜」という言い方や用例①のような否定形もある。〔江戸〕 (用例)①久保田万太郎『末枯』(一九二七)「上方風の下らない、灰汁のぬけない白痴おどしの芸の高座に」 ②佐々木味津三『旗本退屈男 第八話』(一九二九―三〇)「もう九十近い痩躯鶴のごとき灰汁の抜けた老体なのでした」 ③「彼はすっかり灰汁が抜けてまるくなった」 (類句)「垢が抜ける」「渋皮が剥ける」 **悪態を突く** (意味)口汚くののしる。目の前の人に悪口を言う。「あくたい」は「あくたもくた」の変化した「あくたいもくたい」の略。「あくた」はごみ、つまらないもの。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに悪態をつく」。用例①の「いつもの」のように「悪態」を修飾することは可能。〔江戸〕 (用例)①近松秋江『霜凍る宵』(一九一三)「『貴様ひとりで、勝手にさっさっとうせえ。内の娘はそんな処へ出て往く用はない。」といって、又いつもの悪態を吐く」 ②中里介山『大菩薩峠』(一九一三―四一)「『ばかにしてやがら、大尽がどうしたと言うんだい、餾八がどうしたんだい』と言って悪態をつくものもありました」 ③「親に悪態をつくどうしようもない息子」 (外国語)英語では use abusive language **胡座をかく** (意味)①鼻が顔の真ん中に大きくどかっとすわっている。②人・組織などが自らの地位・権力・特権・栄光・人気などにいい気になって努力や反省などをしない。ずうずうしく構えていることを批判して言う。正座に対して作法に合わない座り方から転じたもの。 (用法)文型(1)「鼻があぐらをかく」(2)「ダレダレがナニナニ(の上)にあぐらをかく」。命令形はない。 (用例)①石坂洋次郎『人生』(一九四七)「鼻の先が大きく円く顔のまん中に胡坐をかいているので『ハナさん』と呼ばれるのだが」 ②石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八―五九)「彼女の絶対服従(内容的にはカラッポに近いものだったろうが)の上に胡坐をかいて生きていた伝造」 ③『朝日新聞』(一九七九・七・二七朝)「政権の座にアグラをかき、権力を悪用したわいろが横行し」 ④『朝日新聞』(一九八〇・四・二八朝)「権威のうえにあぐらをかいて」 ⑤『朝日新聞』(一九八〇・六・二五朝)「オリンピックの栄光にあぐらをかくことをきらい」 ⑥内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「保守性の上にあぐらをかいていた油断のもたらした結果であった」 (外国語)英語では rest on one's laurels <8> かく」⑵「ダレダレがナニナニ(の上[うえ])にあぐらをかく」。命令形[めいれいけい]はない。 用例[ようれい]⑴①石坂洋次郎[いしざかようじろう]『人生[じんせい]』(一九四七[いち きゅう よん なな])「鼻[はな]の先[さき]が大[おお]きく円[まる]く顔[かお]のまん中[なか]に胡坐[あぐら]をかいているので『ハナさん』と呼ばれているのだが」⑵②石坂洋次郎[いしざかようじろう]『あじさいの歌[うた]』(一九五八[いち きゅう ご はち]―五九[ご きゅう])「彼女[かのじょ]の絶対服従[ぜったいふくじゅう](内容[ないよう]的[てき]にはカラッポに近[ちか]いものだったろうが)の上[うえ]に胡坐[あぐら]をかいて生[い]きていた伝造[でんぞう]」③『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九七九[いち きゅう なな きゅう]・七[なな]・二七朝[に なな ちょう])「政権[せいけん]の座[ざ]にアグラをかき、権力[けんりょく]を悪用[あくよう]したわいろが横行[おうこう]し」④『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九八〇[いち きゅう はち れい]・四[よん]・二八朝[に はち ちょう])「権威[けんい]のうえにあぐらをかいて」⑤『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九八〇[いち きゅう はち れい]・六[ろく]・二五朝[に ご ちょう])「オリンピックの栄光[えいこう]にあぐらをかくことをきらい」⑥内田康夫[うちだやすお]『博多殺人事件[はかたさつじんじけん]』(一九九一[いち きゅう きゅう いち])「保守性[ほしゅせい]の上[うえ]にあぐらをかいていた油断[ゆだん]のもたらした結果[けっか]であった」 外国語[がいこくご]英語[えいご]では rest on one's laurels あげあしを **揚[あ]げ足[あし]を取[と]る** 意味[いみ]相手[あいて]の言[い]い損[そ]ないや言葉尻[ことばじり]、些細[ささい]な欠点[けってん]をとらえて、非難[ひなん]したり言[い]いがかりをつけたり皮肉[ひにく]ったりする。用法[ようほう]文型[ぶんけい]「ダレダレがダレダレの揚[あ]げ足[あし]を取[と]る」。用例[ようれい]②③のように受身形[うけみけい]がある。③の「下手[へた]な」のように「揚[あ]げ足[あし]」を修飾[しゅうしょく]することがまれにある。〔江戸[えど]〕 用例[ようれい]①谷崎潤一郎[たにざきじゅんいちろう]『蓼[たで]食[く]う虫[むし]』(一九二八[いち きゅう に はち]―二九[に きゅう])「揚[あ]げ足[あし]を取[と]ったりするようなことはめったにないんだ」②生方敏郎[うぶかたとしろう]『東京初上[とうきょうはつあ]り』(一九三六[いち きゅう さん ろく])「現代[げんだい]の宗教家[しゅうきょうか]は揚足[あげあし]を取[と]られるのが恐[こわ]さに黙々[もくもく]としているのか」③山崎豊子[やまざきとよこ]『白[しろ]い巨塔[きょとう]』(一九六三[いち きゅう ろく さん]―六五[ろく ご])「下手[へた]な揚[あ]げ足[あし]をとられぬように、うまくやりますから」④『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九七九[いち きゅう なな きゅう]・九[きゅう]・一二朝[いち に ちょう])「実現性[じつげんせい]のある政策[せいさく]は何一[なにひと]つ示[しめ]さず、あげ足[あし]ばかり取[と]っているようでは、政権[せいけん]の座[ざ]はおろか、党[とう]の躍進[やくしん]も実現[じつげん]しはしない」⑤『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九八〇[いち きゅう はち れい]・二[に]・二〇朝[に れい ちょう])「この前文[ぜんぶん]について揚[あ]げ足[あし]をとることは容易[ようい]であるが」 類句[るいぎ]「げちをつける」「難癖[なんくせ]をつける」外国語[がいこくご]英語[えいご]では trip someone up.; take up someone on a slip of the tongue **挙[あ]げ句[く]の果[は]て** 意味[いみ]「挙[あ]げ句[く]」は本来[ほんらい]、連歌[れんが]・連句[れんく]の最後[さいご]の七[しち]・七[しち]の句[く](なお、最初[さいしょ]の五[ご]・七[しち]・五[ご]を発句[ほっく]と言[い]う)。ある人[ひと]があれこれしたあと、最後[さいご]に。あげく。用法[ようほう]この句[く]の後[うし]ろに悪[わる]い事柄[ことがら](マイナス評価[ひょうか])が来[き]て、相手[あいて]を批判的[ひはんてき]に述[の]べることが多[おお]い。「揚[あ]げ句[く]の果[は]てに」「揚[あ]げ句[く]の果[は]ては」「揚[あ]げ句[く]の果[は]てが」と <9> **明けても暮れても** (意味)同じことが毎日毎日いつでも繰り返されるさま。また、人などが同じことを毎日毎日いつでも繰り返すさま。 (用法)文型「明けても暮れても〜」。副詞的に使用。後ろの述語を修飾する。〔江戸〕 (用例)①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「民子が明けてもくれてもくよくよして」 ②角田喜久雄『蛇男』(一九三五)「毎日、明けても暮れても、どんよりと沈んだ鉛色の空がおおいかぶさっていた」 ③『朝日新聞』(一九五五・一〇・二六朝)「イーデン氏の前夫人は、夫が政治に夢中で、明けても暮れても政治の話ばかりなのはやりきれないといって」 ④『朝日新聞』(一九八〇・三・二七朝)「警察犬やX線を使ってのチェックを明けても暮れても受けた」 (類句)「昼夜をおかず」「寝ても覚めても」「年がら年中」 (外国語)英語では day in and day out **顎が落ちる** (意味)非常においしいことのたとえ。 (用法)文型「ナニナニはあごが落ちそう」「あごが落ちるほどおいしい」などと使う。 (用例)①「ホテルの料理はあごが落ちそう」 ②「このフォアグラ、あごが落ちるほどおいしい」 (類句)「ほおが落ちる」「ほっぺたが落ちる」 **顎が干上がる** (意味)飢えて口の中が渇ききってしまうことから、生計の道を失って食べるのに困る。 (用法)文型「ダレダレはあごが干上がる」。「一家のあごが干上がる」のように「一家の」などが「あご」を修飾することがある。〔江戸〕 (用例)①久保田万太郎『春泥』(一九一八)「といってるうちに顎の干上るのを知らねえな」 ②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「抗議の声が殺到すると自分の評判がさがる、やがてはそれが顎の干上がるのにつながる」 (類句)「口が干上がる」「暮らしが立たなくなる」「飯が食えなくなる」 (外国語)英語では starve to death <10> **顎で使う** (意味)地位が上の人が威張って高慢な態度で命令して人にやらせる。 (用法)文型「ダレダレはダレダレをあごで使う」。受身形で使われることが多い。 (用例)①源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「彼からアゴで使われているのである」 ②「人をあごで使うような奴とは一緒にいたくない」 (類句)「あごで指図する」「あごの先で使う」 (外国語)英語では order someone around **顎を出す** (意味)①疲れるとあごが前に出ることから、ひどく疲れる。疲労困憊する。②自分ではどうにもならなくなり投げ出す。 (用法)文型「ダレダレはあごを出す」〔江戸〕 (用例)①「ランニングの練習でわずか半時間であごを出してしまった」 ②「次々に起きる問題の処理の多さにあごを出す」 (外国語)英語では be done in **足がすくむ** (意味)恐怖や危険などで体が動けなくなるさま。転じて、恐怖や不安、心配などで次の行動を起こすのに躊躇してしまうさま。 (用法)文型「ダレダレは足がすくむ」「足がすくむようなナニナニ」。用例①のように「足も」と強調して言うことがある。 (用例)①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「その日観測当番だった三浦は、足もすくむような大揺れの中で測器を調整しながら正確な観測を続けたのである」 ②『朝日新聞』(二〇〇五・二・三五夕)「映画にテレビドラマにと引っ張りだこである。にもかかわらず、『新しい役に出会う度、目の前に高い壁が現れて足がすくむ』という」 (類句)「身がすくむ」 <11> **足が地に着く** (意味)①何かに心が奪われたり気持ちがうわずったりせず、落ち着いている。②考えや計画・行動などが現実離れしていない。 (用法)文型「ダレナニは足が地に着く」。「足が地に着かない」という否定形でよく使われる。肯定形は「足が地に着いている」と言うことが多い。「地に足が着く」とも。 (用例)①「宝くじが大当たりして興奮のあまり、足が地に着かない」 ②姉小路祐『化野学園の犯罪』(二〇〇一)「とうとう最後まで足が地につかない教育実習になってしもたな」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・九・三朝)「単位を取るために試験勉強をしている学生生活は、何か地に足がついていないかのような感覚でした」 ②浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「大学に入学する時分には、だいぶん足が地について文科をよけて法科へ行くものが殖えて来た」 (外国語)英語では(1)は sit still (2)は have one's feet on the ground **足が付く** (意味)「あし」は逃亡した足取りの意で、犯罪者の足取りがわかる。悪事などを証明する糸口が見つかる。犯罪が露見する。 (用法)文型「ダレナニは足がつく」「ナニナニから足がつく」〔江戸〕 (用例)①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「原稿書いて送ったりしたら、足がついちゃうものね」 ②森村誠一『夢の虐殺』(一九七五)「現金以外のものはいらない。物は足がつきやすいからな」 ③梓林太郎『死神山脈』(一九九〇)「人を殺して逃げる人間が、すぐに足のつくような証拠を置いて行くはずがない」 ④「足跡から足がつく」 **足が出る** (意味)予算・収入を越える出費がある。これで足りる、またはもうかるつもりでやったのに実際は不足していたり損をしていたりすること。赤字になる。 (用法)文型「ナニナニは足が出る」「ナニナニに足が出る」。用例②のように金額が「足」を修飾することがある。 (用例)①内田百閒『居候匆々』(一九一七)「会費に脚が出て、五十銭ずつ追加を取られた」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「ざっと百二、三十万円の足が出」 (外国語)英語では run over the budget **足が速い** (意味)①食べ物が腐りやすい。②商品の売れ行きがよい。「足が早い」とも書く。 (用法)文型「ナニナニは足が速い」 (用例)①「夏は足が速いから早く食べてしまわないといけない」 ②「この服は足が速いから大量に仕入れても大丈夫だ」 (類句)②「羽が生えて飛ぶよう」がある。これは非常に売れ行きがよいさま。 <12> **足が棒になる** (意味)長時間立ったり歩いたりして疲れ、足が棒のようにこわばる。 (用法)文型「ダレダレは足が棒になる」〔江戸〕 (用例)「一日中立ちっぱなしで、足が棒になった」 (類句)「足が擂り粉木になる」 **足並みが揃う** (意味)ある事柄についてペースまたは方向や考え・行動が同じになる。 (用法)文型「ダレナニは(ダレナニと)足並みがそろう」「ダレナニの足並みがそろう」。否定形がある。 (用例)①『朝日新聞』(一九九〇・二・二三朝)「三党は必ずしも足並みがそろっていない」 ②「方針について彼らの足並みがそろった」 (類句)「歩調が合う」 (外国語)英語では fall in and pull together *韓国語では「발을(足を) 나란히하다(並べる)」 **足並みを揃える** (意味)ある事柄について同じペースで、または同じ方向(考え・方針)へ同じ(統一的な)行動をとる。 (用法)文型「ダレナニが(ダレナニと)足並みをそろえる」。用例①③の「乱れた」「要求の」のように「足並み」を修飾することが可能。命令・意志表現は可能。 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・六・六朝)「いったん乱れた足並みをそろえ『審議拒否』に走った」 ②『朝日新聞』(一九八〇・五・一〇朝)「社公民が組み替え動議提出で完全に足並みをそろえ」 ③『朝日新聞』(一九八一・一・六朝)「労働四団体は、この春闘で賃金の10%アップで要求の足並みをそろえるという」 ④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「もともとは電車の中吊り広告の扱いが主体だった会社だが、三十年前ごろからテレビの普及と足並みを揃えるようにして急成長を遂げた」 (類句)「歩調を合わせる」 (外国語)英語では keep step (or pace) with <13> **味も素っ気もない** (意味)人や言葉(返事・文章)・事柄について趣や潤い・おもしろみに欠け、つまらないさま、愛想がなく冷淡なさま。無味乾燥。 (用法)文型「ダレナニは味もそっけもない」「味もそっけもないダレナニ」 (用例)①中勘助『銀の匙』(一九一三―一五)「私はなによりきらいな学課は修身であった。(略)味もそっけもないものばかりであった」 ②『朝日新聞』(一九五一・二・六朝)「蒸留水のように清純無垢でボウフラもいない代わりに味も素っ気もない」 ③石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六―五七)「標準語というのは、味もそっけもない言葉ですよ」 ④『朝日新聞』(一九七七・四・三〇朝)「味もそっけもない発表だった」 ⑤直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九八〇)「あの人は味も素っ気もない、冷淡な人」 ⑥藤堂明保『女へんの漢字』(一九八一)「堅苦しい儒家の経典のことだから、味もそっけもない書き方をしているにすぎないが」 (類句)「芸がない」「砂を噛むよう」 (外国語)英語では dull and dry; dry as dust *中国語では成句「枯燥无味」(無味乾燥である。「枯燥」は乾燥。「干燥无味」ともいう) **足下から鳥が立つよう** (意味)身近に思いがけないことが突然起きるたとえ。またやりそうだと思っていなかったことを急にどんどんやり出すことのたとえ。あわてて物事を始めるたとえ。 (用法)文型「足もとから鳥が立つような」「足もとから鳥が立つように」「足もとから鳥が立つようで」。「足許・足元」とも書く。〔室町〕 (用例)①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七―九八)「いや、もう急の思着で、脚下から鳥の起つような騒をして、十二時三十分の汽車で」 ②浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「時に足元から鳥が立つようでちょっと急だが、僕はこれから関西の方に、二、三日旅行して来るよ」 ③『朝日新聞』(一九七九・七・二四朝)「建築現場を見て回っては、足もとから鳥が立つように、有無をいわさず引っ越しに取りかかったという」 (類句)「足もとから鳥が飛び立つよう」(永井荷風『新橋夜話』名花〈一九一三〉「或る場合には足元から鳥の飛び立つように、『ねえ、あなた、後生だからどうかして下さいな。』といって」)「降って湧いた」 <14> **足下[あしもと]に火[ひ]が付[つ]く** 意味[いみ]危険[きけん]・脅[おびや]かすこと・困[こま]ったことが身[み]に迫[せま]るたとえ。それゆえにあわてふためく、落[お]ち着[つ]いていられないさまを表[あらわ]す。用法[ようほう]文型[ぶんけい]「ダレダレの足[あし]もとに火[ひ]がつく」。用例[ようれい]②のように「足[あし]もとに」と「火[ひ]が」の間[あいだ]に語句[ごく]を挿入[そうにゅう]可能[かのう]。「足許[あしもと]・足元[あしもと]」とも書[か]く。 用例[ようれい]①源氏鶏太[げんじけいた]『坊[ぼ]っちゃん社員[しゃいん]』(一九五二[いち きゅう ご に]―五三[ご さん])「あなた[あなた]の足許[あしもと]に、すでに火[ひ]がついています。あわてなさい」②源氏鶏太[げんじけいた]『天下泰平[てんかたいへい]』(一九五四[いち きゅう ご よん]―五五[ご ご])「岡崎[おかざき]は、足許[あしもと]に火[ひ]が点[つ]いたような狼狽[ろうばい]を禁[きん]じ得[え]なかった」③野坂昭如[のさかあきゆき]『てろてろ』(一九七一[いち きゅう なな いち])「あの足元[あしもと]に火[ひ]のついた如[ごと]き騒乱状態[そうらんじょうたい]」④高杉良[たかすぎりょう]『会社蘇生[かいしゃそせい]』(一九八七[いち きゅう はち なな])「小川商会[おがわしょうかい]の倒産[とうさん]の影響[えいきょう]で、オリンピア釣具[つりぐ]の株[かぶ]も急降下[きゅうこうか]しているため、担保[たんぽ]の積[つ]み増[ま]しを銀行[ぎんこう]から要求[ようきゅう]されることは必至[ひっし]である。まさに足[あし]もとに火[ひ]がつき」 類句[るいぎ]「お尻[しり]に火[ひ]がつく」「焦眉[しょうび]の急[きゅう]」「尻[しり]に火[ひ]がつく」外国語[がいこくご]英語[えいご]では find the fire in one's own backyard *中国語[ちゅうごくご]では成句[せいく]「火烧眉毛[かしょうびもう]」(眉[まゆ]に火[ひ]がつく。「火烧[かしょう]」は火[ひ]がつく) *韓国語[かんこくご]では「발등에 (足[あし]の甲[こう]に) 불이 (火[ひ]が) 붙다(つく)」 あしもとに **足下[あしもと]にも及[およ]ばない** 意味[いみ]相手[あいて]が非常[ひじょう]にすぐれていて、とてもかなわない。比[くら]べものにならない。用法[ようほう]文型[ぶんけい]「ダレナニはダレナニには足[あし]もとにも及[およ]ばない」「ダレナニはダレナニの足[あし]もとにも及[およ]ばない」。用例[ようれい]③のように人以外[ひといがい]のこともあるが、多[おお]くは人[ひと]について言[い]う。「足許[あしもと]・足元[あしもと]」とも書[か]く。〔室町[むろまち]〕 用例[ようれい]①源氏鶏太[げんじけいた]『実[み]は熟[じゅく]したり』(一九五八[いち きゅう ご はち]―五九[ご きゅう])「『素晴[すば]らしい美男子[びだんし]だったそうじゃアないか』(略[りゃく])『そうよ。お兄[にい]さんなんか、足許[あしもと]にも及[およ]ばない』」②舟橋聖一[ふなはしせいいち]『ある女[おんな]の遠景[えんけい]』(一九六一[いち きゅう ろく いち])「紋哉[もんさい]のそれの、女心[おんなごころ]をしめつけるような柔[やわ]らかな魅力[みりょく]には、足[あし]もとにも及[およ]ばないものであった」③筒井康隆[つついやすたか]『狂気[きょうき]の沙汰[さた]も金次第[かねしだい]』(一九七三[いち きゅう なな さん])「恐[おそ]ろしい怪談[かいだん]であって、おそらく今[いま]までの怪談[かいだん]などは足[あし]もとにも及[およ]ばぬほどの怖[こわ]さであって、日本一[にっぽんいち]、世界一[せかいいち]の怪談[かいだん]だという」④『朝日新聞[あさひしんぶん]』(一九八〇[いち きゅう はち れい]・三[さん]・三朝[さんちょう])「王[おう]などは長島[ながしま]の足元[あしもと]にも及[およ]ばない」 類句[るいぎ]「足下[あしもと]にも寄[よ]れない」「足下[あしもと]へも寄[よ]りつけない」「雲泥[うんでい]の差[さ]」「及[およ]びもつかない」「けたが違[ちが]う」「太刀打[たちうち]ちできない」「月[つき]とすっぽん」「天[てん]と地[ち]」「歯[は]が立[た]たない」外国語[がいこくご]英語[えいご]では be nowhere near as good as *中国語[ちゅうごくご]では <15> **足下にも寄れない** (意味)「足もとにも及ばない」に同じ。 (用法)文型「ダレナニは足もとにも寄れない」。用例②のように「足もと」を修飾することは可能。「足もとへも寄れない」とも言う。「足許・足元」とも書く。〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『自由学校』(一九五〇)「料理の工夫にしろ、家計のヤリクリにしろ、普通の奥さんでは、足許にも寄れない腕前の持主なのである」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「お前もお節介じゃ相当なもんだが、行儀となるとおこんさんの足もとへも寄れねえな」 **足下を見る** (意味)相手に対し、相手の弱みや困っている事情につけこんで自分に有利なようにする。 (用法)文型「ダレダレが(ダレダレの)足もとを見る」。用例③のように受身形がある。「足許・足元」とも書く。〔江戸〕 (用例)①谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九二九)「先は足許を見やがったのか二百ドルが、鐚一文も負からない、・・・とぬかすんだ」 ②『朝日新聞』(一九七九・一〇・一五朝)「その足元を見るかのように次々に条件をつける坪内社長」 ③『週刊朝日』(一九九〇・九・一四)「女性の中には足もとを見られて入籍してもらえないままというケースが多い」 (類句)「足もとにつけこむ」「弱みにつけこむ」 (外国語)英語では see someone coming **足を洗う** (意味)泥だらけ、ほこりまみれの足を洗うことから転じて、人が長い間行ってきた、または深い関係を持っていた好ましくない職業・事柄・生活を断って離れてよい状態になる。好ましくない事柄は必ずしも社会的評価によるものではなく、話者の評価による。心理的にきっぱりと離れてという意識が強い時には、一般的には好ましくないとは考えられないことにも使う。 (用法)文型「ダレダレがナニナニから(の)足を洗う」〔室町〕 (用例)①久保田万太郎『末枯』(一九二八)「芸人の足を綺麗薩張り洗うことにした」 ②井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六―五七)「於菊という妓は甲府若松町の花柳界からもう足を洗って、長野か松本か、ともかく信州の方へ行ってしまったと言うんでございます」 ③『朝日新聞』(一九八〇・四・一〇朝)「浜田氏が若いころ一度は暴力団の幹部で、足を洗って政治の世界に入ったことはよく知られている」 ④『産経新聞』(一九九〇・一〇・六夕)「競技生活からキッパリと足を洗い、静かなサラリーマン生活に入っている」 ⑤島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(一九八四)「俺は即刻この仕事から足を洗うよ」 ⑥本所次郎『閨閥』(二〇〇円)「鹿野信元が日経連専務理事から足を洗って、フヨウ放送の専務として実権を握っていた」 (類句)「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」 (外国語)英語では wash one's hands of (直訳すれば「手を洗う」) *中国語では成句「洗手不干」(悪事から手を引く。直訳すると「手を洗って(悪事を)やめる」。「不干」はしない、やめる) *韓国語では「발을 (足を) 씻다(洗う)」 <16> 洗って、長野か松本か、ともかく信州の方へ行ってしまったと言うんでございます」③『朝日新聞』(一九八〇・四・110朝)「浜田氏が若いころ一度は暴力団の幹部で、足を洗って政治の世界に入ったことはよく知られている」④『産経新聞』(10・10・六夕)「競技生活からキッパリと足を洗い、静かなサラリーマン生活に入っている」⑤島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(一九六四)「俺は即刻この仕事から足を洗うよ」⑥本所次郎『閨閥』(1100円)「鹿野信元が日経連専務理事から足を洗って、フヨウ放送の専務として実権を握っていた」 類句「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」(外国語)英語では wash one's hands of (直訳すれば「手を洗う」) *中国語では成句「洗手不干」(悪事から手を引く。直訳すると「手を洗って(悪事を)やめる」。「不干」はしない、やめる) *韓国語では「발을 (足を) 씻다(洗う)」 **味を占める** 意味一度経験した良い思い、うまく利益を得たことを忘れられず、また同じことを期待する。用法文型「ナニナニで味を占める」〔江戸〕 用例「株で味を占めて、大金をつぎ込んだ」 類句「二匹目のどじょうを狙う」(外国語)英語では get a taste of success **足を止める** 意味歩いたり走ったりするのをやめて、立ち止まる。用法文型「ダレダレが足を止める」 用例①福永武彦『忘却の河』(一九空)「気がつかない振りをして行き過ぎようとしたが、お電話ですよ、と言われて足をとめた」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「彼が足を止めるのは、全員に休息を命じたり、落伍者を激励するために声をかけたりするときだけだった」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「松之助が呼んだので順庵が足をとめて振り返ると」 **足を延ばす** 意味徒歩や交通の手段を使って予定していた所からさらにもう少し先まで行く。用法文型「ダレダレがドコドコまで足をのばす」。命令・意志表現が可能。「伸ばす」とも書く。〔江戸〕 用例④源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「いっそ、このまま、心斎橋まで、足をのばそうか」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「茂のいる北海道へは、仙台で学会のあった年、 <17> **足を運ぶ** (意味)ある目的のために、ある場所まで自分自身で出向く。 (用法)文型「ダレダレがドコドコへ(に・まで)足を運ぶ」。命令・意志表現が可能。一回の行為の時もあるが、繰り返しの行為のことが多い。そのため用例②のように頻度を表す言葉が修飾することがある。〔江戸〕 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「教授室へ足を運んだ」 ②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「有楽町にある渡航所へ二度ほど足を運んで」 ③岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「立石恵美は構内を横切り、三号館に向かって足を運んだ」 (外国語)英語では go; visit; call on *韓国語では「발을 (足を) 옮기다(うつす)」 **足を引っ張る** (意味)ある人の行為や事柄が他の人(集団・チーム)の行為・地位やある事柄の実現などを妨害する。人の出世や成功の邪魔をする。物事の進行を妨げる。意図的にする場合と結果的にそうなる場合とがある。 (用法)文型「ダレナニがダレナニの足を引っ張る」。用例④のように受身形がある。②⑤のように「足を引っ張り合う」という形でも使われる。 (用例)①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「屁理屈なんかでわたしたちの運動の足を引っぱらないで」 ②『朝日新聞』(一九八〇・一一・九朝)「党内で足の引っ張り合いばかり目立った大平政権末期」 ③『朝日新聞』(一九八〇・一一・一八朝)「いまカーター氏の足を引っぱれば自動車問題などにはね返りかねない」 ④『朝日新聞』(一九八二・二・二七朝)「公明党は創価学会内部の問題に足を引っぱられ」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「他人の作品のアラを探し、徹底的に叩きつぶしあい、足を引っ張りあう場に変容した」 (外国語)英語では try to get in someone's way *中国語では慣用句「拖后腿」(後足を引っ張る。「拖」は引っ張る。「后腿」は後足) **足を棒にする** (意味)何かを探したり頼んだりするために、足が疲れて棒のようになるほど、あちこち歩き回ること。 (用法)文型「足を棒にして〜する」。 (用例)①辻邦生『北の岬』(一九七〇)「足を棒にして、靴をすりへらして、やっと臨時の職を見つけても」 ②森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「足を棒にして聞き込みに歩いた捜査員たちの疲労と喧噪が」 (類句)「足を擂り粉木にする」という表現もあるが、今はあまり使わない。 <18> **足を向けて寝られない** (意味)恩を施してくれた人に対してありがたく思い、感謝を忘れずにいることのたとえ。 (用法)文型「ダレダレはダレダレに(方へ)足を向けて寝られない」 (用例)①『朝日新聞』(一九七五・七・三朝)「政治的生命を助けてもらった佐藤前自由党幹事長も、吉田さんの方へは足を向けて寝られぬといっているそうだ」 ②高杉良『人事権!』(一九九二)「木村専務と大井部長のお宅の方角には足を向けて寝られません」 **当たって砕けろ** (意味)負けてもいい、うまくいかなくてもいい、成功しなくてもいいから思いきって人や事に当たれ。自分にも他人にも言う。 (用法)独立した一文を形成しているので、単独で用いることができるが、「当たって砕けろだ」「当たって砕けろと」「当たって砕けろで」など引用文的にも用いられる。「当たって砕けよ」とも言う。〔江戸〕 (用例)①佐々木味津三『右門捕物帖 生首の進物』(一九二七―三一)「当たって砕けろと思って」 ②坂口安吾『ジロリの女』(一九四八)「こっちもママヨ、当って砕けろと、悪度胸をきめて」 ③大沢在昌『闇先案内人』(二〇〇一)「『どうします』北見は葛原の顔を見た。『当たって砕けろですか』」 (類句)「一か八か」「のるかそるか」 **頭が上がらない** (意味)相手に負い目や恩義などを感じたり力負けしていたりして、対等に接することができない。 (用法)文型「ダレダレはダレダレに(対して)頭が上がらない」。「頭が上がらぬ」とも言う。〔江戸〕 (用例)①石坂洋次郎『女同士』(一九五一)「先生は奥様に頭が上がらないようだ。奥様はわがままで、先生を尻にしている」 ②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「妻に対して、まるきり頭の上がらぬ存在となっていたとしても」 ③『朝日新聞』(一九七五・一〇・三朝)「朝永氏は藤岡氏に“あたまがあがらぬ』というほどの仲だったそうだが」 ④『言語生活』三三八号(一九七九)「ぜったい頭が上がらなくて、ことばづかいなんかでもおのずから違ってくるわけで」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「菊代に対しては頭が上がらない」 (外国語)英語では can't compete with *韓国語では「머리가 (頭が)들리기않다 (上がらない)」 <19> **頭隠して尻隠さず** (意味)キジが草むらに頭だけ隠して尾を出していることに気づかないことから、転じて悪事などを隠したつもりでいるが、隠しきれないでいることに気づいていないことをあざけって言う言葉。 (用法)文型「ダレダレは頭隠して尻隠さず」〔江戸〕 (用例)①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八六九)「一つ長屋に居て斯んな事をするのは頭隠して尻隠さず、葛籠を置いて行くから直ぐに知れて仕舞うんだ」 ②石坂洋次郎『山と川のある町』(一九五六)「いくら四角ばった窮屈な様式の中にはめこもうとしたって、頭隠して尻隠さずで、抑えきれるはずのものではないのだ」 ③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「藤岡君あたりに知られてるようじゃ、わたしもヤキが回ったな。頭隠して尻隠さずじゃ、しょうがないよ」 (外国語)英語では an ostrich policy **頭が下がる** (意味)相手の行い・努力・人柄などに心から感心して敬服する。 (用法)文型「ダレナニには頭が下がる(思い)」。用例②④のように「思い」が後ろに来ることが多い。 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「ポープさんの気前のいいのには頭が下ったよ」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「そうまでおっしゃる先生のお気持は、返す返す頭が下る思いですが」 ③『朝日新聞』(一九八〇・六・七朝)「全く頭が下がるような努力を重ねている」 ④『朝日新聞』(一九八〇・七・一〇朝)「『生徒たちは、教育の空白をとりもどそうと真剣である』ということには、頭の下がる思いである」 ⑤『朝日新聞』(一九八〇・八・元朝)「一つのことを追求する鶴田さんのファイトには頭が下がった」 ⑥『報知新聞』(一九八一・九・一人)「ヒザの故障で幕下まで陥落しながら、大関をねらうところまで浮上してきた精神力には頭が下がる」 (類句)「一目を置く」 (外国語)韓国語では「머리가(頭が) 숙여지다 (下がる)」 <20> **頭に来る** (意味)①自分または他者の行為と、そのもたらす結果によって感情を害して怒る。②病気などで頭が正常でなくなる。 (用法)文型「ダレダレが頭に来る」。用例①のように「頭に来た」と感情的に言うことがある。 (用例)①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「葬儀屋に今電話をしたら、今日は土曜日で、明日は日曜日だから、明後日の朝にしてくださいって言うじゃない? 頭にきたわ」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「私たちの日常には、これだけバカにされ、侮辱されても、アタマにきて酒をあおり、寝てしまうことしかできない」 ③『朝日新聞』(一九七九・九・一〇朝)「こんどは警官が頭に来た」 ④『朝日新聞』(一九七九・三・八朝)「近ごろの世の中は、見るにつけ、聞くにつけ、頭にくることばかりである」 ⑤植松黎『ポケット・ジョーク4』(一九八〇)「サードのみごとなファインプレーを見損なってしまうというようなことが再三再四起こり、とうとう彼は頭に来てしまった」 (類句)①「頭から湯気を立てる」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくりかえる」「烈火のごとく」 (外国語)英語では(1)は get mad at **頭を抱える** (意味)困ったことや悩みごとがあって、どうすればよいかわからず考え込む。困り果てる。 (用法)文型「ダレダレが頭をかかえる」 (用例)①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「役所というところはいろいろ手続きがやかましいので、実現するかどうかはわからないと、菊池先生も頭をかかえておられるようですが」 ②藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八)「『それを外から一目で見てわかる方法を知っているのか』というと、彼はさあッと頭をかかえたものだった」 (類句)「頭を痛める」「頭を悩ます」 (外国語)英語では have someone tearing his hair (out) **当たらず触らず** (意味)だれにもどこにも差し障りがないようなどっちつかずの態度・発言のさま。 (用法)文型「当たらず触らずのナニナニ」と後ろに名詞(「返事」「態度」など)を伴うことが多い。「当たらず触らずに〜する」と後ろの述語を修飾することもある。 (用例)①伊藤整『典子の生き方』(一九四〇)「マダムも満子も、典子には当たらず触らずの態度をとるようになった」 ②舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「当らず触らずに返事を濁らしてしまった」 ③「当たらず触らずのことしか言わない」 (類句)「当たり障りのない」 <21> **当たり障りのない** (意味)発言などがだれにもどこにも差し障りのない。平凡な、問題を起こさないようなというニュアンス。 (用法)文型「当たり障りのないナニナニ」。ナニナニに「こと」や「話」など発話行為に関する言葉が来る。 (用例)①内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「当たり障りのない質問をいくつかした」 ②高杉良『指名解雇』(一九九七)「当たり障りのない話をしながら」 ③清水一行『ITの踊り』(二〇〇円)「ベッドの上では、当たり障りのない返事をするに越したことはない」 (類句)「当たらず触らず」 (外国語)英語では noncommittal **呆気に取られる** (意味)言動やできごとを見聞きして、その意外性や突然性に、ある短い時間驚きあきれる。価値評価を含んだ言葉ではない。呆然とする。 (用法)文型「ダレダレがダレナニにあっけにとられる」。用例①⑥のように「あっけにとられたよう」と言うことがある。〔江戸〕 (用例)①芥川龍之介『地獄変』(一九一八)「良秀は机の向うで半ば呆気にとられたような顔をして」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「メリヤスを商っている信平の商売のことを聞いた。信平は、一瞬、呆気に取られ」 ③『週刊朝日』(一九七九・九・一四)「相手は裸の代議士を見て、アッケにとられる」 ④『朝日新聞』(一九八〇・二・七朝)「泥だらけの顔で手足から血を流して帰って来た私を、両親はただあっけに取られて見るばかりであった」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「浅見はあっけに取られた」 ⑥大沢在昌『悪夢狩り』(一九九四)「『なんだと・・・』男はあっけにとられたようにいった」 (類句)「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰す」「腰を抜かす」「一の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食らったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 (外国語)英語では be amazed; be taken aback; be taken by surprise <22> **あっと言う間に** (意味)あることがきわめて短い時間のうちに起きたりできたりするさま。一瞬に。またたくまに。 (用法)文型「あっという間に〜する」。副詞的に使用。 (用例)①『朝日新聞』(一九六三・二・五朝)「並びなき権勢者もあっという間に死体だ」 ②『朝日新聞』(一九八一・三・四朝)「一部の代議員たちから『説明省略、議事進行』という動議が出され、あっという間に成立してしまったのである」 (類句)「間髪を入れず」「時を移さず」 (外国語)英語では in an instant; before one knows it **当てが外れる** (意味)頼みにしていたことや予想・予定が見込み違いに終わる。 (用法)文型「ダレダレは当てが外れる」〔江戸〕 (用例)①都筑道夫『脅迫者によろしく』(一九七九)「牧原さんが退屈しのぎのつもりで、ついて来るんだとすると、大いにあてが外れると思いますが」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・九朝)「『差しに来たら突き放して押す作戦』の麒麟児は、すっかりアテが外れ」 (類句)「当てが違う」「すかを食う」「見込みがはずれる」 **後味が悪い** (意味)ある行為の結果、関係する人々の心がさっぱりせず、嫌な気分、重い気分になるさま。 (用法)文型「ナニナニは後味が悪い」「後味の悪いナニナニ」 (用例)①太宰治『パンドラの筐』(一九四五)「実に妙に胸苦しくていけないものだ。はなはだ後味のわるい」 ②折口信夫『春永話』(一九四九)「京のつましい生活を衝いている、極めて無遠慮な、後味のわるい口上だが」 ③源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「南平には、後味の悪い思いであったが」 (類句)「後口が悪い」 (外国語)英語では a nasty after-taste **後の祭り** (意味)京都の祇園祭のクライマックスの七月一七日の山鉾巡行の後の祭りを指し、精彩を欠くことから転じて、あることに失敗してあとで悔やんだりぼやいたり、またあることが起きてから何かをしてももう遅い、むだである。 (用法)文型「ダレダレがナニナニしても(ナニナニしたが)後の祭り」〔室町〕 (用例)①江戸川乱歩『悪魔の紋章』(一九三七―三八)「あとで病死と聞いたときには、おれは泣いてお上を恨んだが、もうあとの祭りだ」 ②石坂洋次郎『山と川のある町』(一九五六)「敬助は、いない相手に向って、精いっぱいの抗議をしたが、あとの祭りで、どうにもならないものを感じさせられた」 ③『朝日新聞』(一九七九・九・一九朝)「輪島は『立ち合いに失敗した。むこう(栃赤城)のいいように相撲を取られたよ」とぼやいたが、もうあとの祭り」 ④『朝日新聞』(一九八〇・一〇・二七朝)「自民党政治をいまさら責めてみても後の祭り」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「叔母は慌てふためいて、引き留めにかかったが、あとの祭りである」 (類句)「遅きに失する」「遅きに過ぎる」。両者とも「ナニナニが―」の文型をとる文章語。 (外国語)英語では The damage is done *中国語では慣用句「马后炮」(手遅れのたとえ。中国将棋で「马」の後に「炮」のコマを控えた手のことから) <23> 悔やんだりぼやいたり、またあることが起きてから何かをしてももう遅い、むだである。 用法 文型「ダレダレがナニナニしても(ナニナニしたが)後の祭り」〔室町〕 用例 江戸川乱歩『悪魔の紋章』(一九三七―三元)「あとで病死と聞いたときには、おれは泣いてお上を恨んだが、もうあとの祭りだ」②石坂洋次郎『山と川のある町』(一九五六)「敬助は、いない相手に向って、精いっぱいの抗議をしたが、あとの祭りで、どうにもならないものを感じさせられた」③『朝日新聞』(一九七九・九・一九朝)「輪島は『立ち会いに失敗した。むこう(栃赤城)のいいように相撲を取られたよ」とぼやいたが、もうあとの祭り」④『朝日新聞』(一九六〇・10・二元朝)「自民党政治をいまさら責めてみても後の祭り」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「叔母は慌てふためいて、引き留めにかかったが、あとの祭りである」 類句 「遅きに失する」「遅きに過ぎる」。両者とも「ナニナニが―」の文型をとる文章語。 外国語 英語では The damage is done 中国語では慣用句「马后炮」(手遅れのたとえ。中国将棋で「马」の後に「炮」のコマを控えた手のことから) **後は野となれ山となれ** 意味 当面の問題がなんとか片づけば、また間に合わせれば後は困ったことになろうとどうなろうとかまわないという気持ち。また自分にはもう関係がないので以後どうなろうとかまわないという投げやりな、無責任な気持ちが含まれる。 用法 単独で使用することが多い。〔江戸〕 用例 ④『滑稽新聞』一五号(101)「三十六計逃げるに如かず、(略)跡は野となれ山となれヂャ」②菊池寛『M侯爵と写真師』(一九듦)「先方は撮ったが最後『後は野となれ山となれ』です」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「あとは野となれ山となれといった無責任な態度がみられたのではないだろうか」④ビートたけし『たけしくん、ハイー』(一九六四)「わぁ、また怒られるってさ。そんでけっきょくは、あとは野となれ山となれって気になるだけなんだよな」 外国語 英語では What happens afterwards is of no concern to me **後を引く** 意味 あることが終わった後も、その影響が心理的・肉体的に残る。悪い影響が <24> **穴があったら入りたい** (意味)自分のしたことで非常に恥ずかしく思い、その場にいられない気持ちを言う言葉。 (用法)「穴があったら入りたいナニナニ」。ナニナニには「気持ち」「心境」など心理を表す言葉が来る。用例①④のように単独でも用いられる。 (用例)①里見弴『多情仏心』(一九二二―二三)「己を恥じる気持ち『穴があればはいりたい』と云うやつだが」 ②源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「あたしは穴があったら、入りたいくらいでしたわ」 ③『報知新聞』(一九六一・九・二八)「稲葉修氏(元法相)ら四人はきっと穴があったらはいりたい心境だったに違いない」 ④稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九八一)「クラスにざわめきが起こる。穴があったら入りたいとは、こういう時のことだろう」 ⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「穴があったら入りたい心境です」 (類句)「穴にでも入りたい」とも言う。「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 (外国語)英語では I wish I could sink through the floor **穴にでも入りたい** (意味)「穴があったら入りたい」に同じ。 (用法)「穴があったら入りたい」に同じ。「穴へも入りたい」とも言う。〔江戸〕 (用例)①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(一八七〇―七六)「今更に面目なく穴へも入たき心地にて差し俯伏ば」 ②『朝日新聞』(一九六一・三・五朝)「信じる教える殉じる人を思うと穴にでも入りたい心境である」 **穴の開くほど** (意味)目の前のものの一点をじっと見つめるさま。 (用法)文型「ダレダレはダレナニを穴の開くほど〜する」。「〜する」には「見つめる」「凝視する」などの語をとり、その前に修飾語や目的語が来ることが多い。「穴が開くほど」とも言う。〔江戸〕 (用例)①永井荷風『うでくらべ』(一九一八)「駒代は穴のあくほどじっと見詰めていられる気味の悪さ」 ②江戸川乱歩『石榴』(一九三四)「私はギョッとして穴のあくほどその指紋を見つめはじめました」 ③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「男は私の顔を穴のあくように見つめていたが」 ④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「あらためて千代も玉子も穴のあくほど写真を眺めたのだが」 ⑤木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「交換した名刺を穴があくほどみつめていたが」 <25> **穴を開ける** (意味)①会社や店などの帳簿をごまかして金を使い込み、返済できなくなり会社や店などに金銭上の損失を生じさせたりする。②予定していたことに空白を生じさせたり、人数に欠員を生じさせたりする。 (用法)文型「ダレダレがナニナニに穴を開ける」。用例①の「大きな」のように「穴」を修飾することが可能。〔江戸〕 (用例)①「出納係が帳簿に大きな穴を開けて行方をくらました」 ②「急病で連載に穴を開けた」 **あの手この手** (意味)手を尽くすいろいろな方法・手段。 (用法)名詞句としてさまざまに用いられるが、用例①③のように「あの手この手のナニナニ」や、②のように「あの手この手を使う(用いる)」などと言うことが多い。④のように「で」を伴って方法・手段を表すことがある。 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「船尾教授の立場を利用したあの術、この術の工作が行なわれ」 ②『朝日新聞』(一九八〇・五・三朝)「この日は不振の島谷を七番に下げるなど、あの手この手を使ったが」 ③『朝日新聞』(一九八〇・六・三朝)「あの手この手の選挙運動に踊らされることなく」 ④『朝日新聞』(一九八〇・一〇・六朝)「あの手この手で勢力拡大を目指す」 (類句)「色を替え品を替え」「手を替え品を替え」 (外国語)英語では the whole bag of tricks; every possible means **危ない橋を渡る** (意味)あえて危険を承知で何かをする。法律に触れるようなことをする。 (用法)文型「ダレダレが危ない橋を渡る」。「危ない橋を渡って〜する」と言うことが多い。用例①の「少々の」のように「危ない橋」を修飾することは可能。 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「少々の危ない橋を渡っても、またとない手術は強引にやってのけ」 ②高杉良『濁流』(一九九六)「危ない橋を渡るのはもうやめてもらいたいわ」 ③大沢在昌『灰夜 新宿鮫Ⅷ』(二〇〇一)「やりとりを見守っていた今泉がいった。『危ない橋を渡られているように見えますが』」 (類句)「綱渡りをする」「虎の尾を踏む」 (外国語)英語では walk on thin ice <26> **虻蜂取らず** (意味)一度にあれもこれもと欲張るとどちらも手に入れることができず、失敗すること。 (用法)「虻蜂取らずになる」「虻蜂取らずに終わる」ということが多い。〔江戸〕 (用例)徳川夢声『問答有用』大野伴睦(一九五一―五五)「まあいわゆるアブハチ取らずになっちゃって」 (類句)「二兎を追う者は一兎をも得ず」 (外国語)英語では fall between two stools *中国語では成句「鸡飞蛋打」(ニワトリに逃げられた上に卵も割れてしまう。「鸡」はニワトリ。「蛋」は卵) **脂が乗り切る** (意味)生涯で仕事や業などがもっともよくでき、充実している。年齢的・時期的に言う。 (用法)文型「ダレダレは脂が乗り切っている」 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「五十を二つ三つ出ていたが、油の乗りきった壮年教授の感じが」 ②『京都新聞』(一九七九・五・二朝)「いまの北の湖は脂が乗り切っており」 ③『朝日新聞』(一九八〇・一〇・三朝)「三歳若い井本は、いま脂が乗り切っている時期で」 ④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「葛西は三十八歳、脂が乗りきった――という表現がぴったりのイキのいい捜査主任だが」 (外国語)英語では in one's prime **脂が乗る** (意味)魚など脂が乗っているとおいしいところから、仕事や業などがよくでき、充実する。 (用法)文型「ダレダレはナニナニに脂が乗る」。「脂が乗っている」「脂が乗った」の形が多い。〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『英語屋さん』(一九五一)「おかみさんは未亡人になってから、却って身体に脂がのり、三十七、八歳であろうが、何ともいえぬ色気がにじみ出るようなところがあった」 ②『朝日新聞』(一九五一・六・二九朝)「脂がのったところで二人とも急死してしまった」 ③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「いわば、仕事にも遊びにも脂の乗ってくる世代でもある」 ④『朝日新聞』(一九八一・一〇・一天朝)「我が国有数の企業集団にのしあがった東急グループの総帥としてもっとも脂が乗っているところだからだ」 (外国語)英語では warm up to one's work <27> **油を売る** (意味)仕事や用事の途中で怠けて、ある所に立ち止まって無駄話などをしたり、勝手なことをしたりする。語源は諸説ある。江戸時代、髪油を売る商人が話しこみながら売ったからとも、油売りが客の器に油を入れるのに時間がかかったからともいう。 (用法)文型「ダレダレがドコドコで油を売る」。非難の言葉として「こんな所で油を売っていないで」と言う。〔江戸〕 (用例)①小杉天外『魔風恋風』(一九〇三)「先刻からお前さん、何処で油を売ってたのさ?」 ②源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「若原君は浦島さんのところへ油を売りにいったのである」 ③池田弥三郎『銀座十二章』(一九八〇)「それにしても、『油を売る』という語なども、いつか半死語となってしまって、『サボる』などという語が、これにとって替った」 ④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「喫茶店で油を売ってすごすこともできなかった」 (類句)「道草を食う」 (外国語)英語では shoot the breeze **油を絞る** (意味)大豆・ごまなどから油をしぼり取ることから、相手がした行為について、時間をかけて言葉で厳しく相手を叱ったり責めたりする。 (用法)「ダレダレに油をしぼられる」と受身形で使うことが多い。用例②④⑤のように「さんざん」や「こってり」のような副詞が「油を絞る」を修飾することが多い。 (用例)①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九二六)「せいぜいあばれて、警察で油をしぼられるがいいさ」 ②江戸川乱歩『妖虫』(一九三六―三七)「彼は余り尊敬できないような刑事たちから、乱暴な言葉でさんざんに油をしぼられたことを」 ③石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九四二)「入社試験で社長にあぶらをしぼられましたよ」 ④源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「お義父さんに散散、油をしぼられたよ」 ⑤筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「さんざ油をしぼられたものである」 (類句)「雷を落とす」 (外国語)英語では rake someone over the coals <28> **油を注ぐような** (意味)ある人が持っている気持ちをさらにあおるようなことを言うさま。 (用法)文型「ナニナニに油を注ぐような」 (用例)石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六―五七)「兄さんはよく思ってるはずがない私の気持に、油をそそぐようなことを仰有らないと思いますけど」 (類句)「火に油を注ぐ」「火を付ける」 (外国語)中国語では成句「火上加油」(火に油を注ぐ。「火上浇油」ともいう。「加」も「浇」も注ぐ) **甘い汁を吸う** (意味)自分は大した苦労もせず、地位や立場を利用して利益を得る。 (用法)文型「ダレダレが甘い汁を吸う」 (用例)①中上健次『鳳仙花』(一九七〇)「『甘い汁吸うとるんじゃさか』と口の中でつぶやく男をみつめた」 ②内田康夫『秋田殺人事件』(二〇〇二)「県の幹部もまた、業者を操って、甘い汁を吸うつもりになっていたといえないこともない」 (類句)「甘い汁をすする」(高杉良『濁流』〈一九九六〉「いい気になって甘い汁をすすっていると危ない」)「うまい汁を吸う」「私腹を肥やす」「腹を肥やす」「懐を肥やす」 (外国語)中国語では慣用句「占便宜」(得るべきでない利益をわがものにする、うまい汁を吸う。「占」は得る。「便宜」は利益、得) **網を張る** (意味)鳥や魚を捕るために網を張ることから転じて、目当ての人、犯人などを捕まえようと準備を整えて待ち構える。 (用法)文型「ダレダレがドコドコで(に)網を張る」。命令・意志表現が可能。〔江戸〕 (用例)①サトウハチロー『エンコの六』(一九二八)「煙草屋でアミを張っていた、大野木の将棋の角みたいな顔が、待ってましたとばかり、六さんを迎えた」 ②三島由紀夫『盗賊』(一九四八)「女の来そうな場所に網を張って現われたが」 ③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六二)「多分、今夜は、ここへ来はるやろ思うて、網を張ってましてん」 ④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「その日その時刻にPホテルに網を張っていれば、男の正体を突き止められる」 (類句)「爪を研ぐ」「手ぐすねを引く」 <29> **雨が降ろうが槍が降ろうが** (意味)どんなことが起ころうともする、何が何でもするという強い決意を表す。 (用法)文型「雨が降ろうが槍が降ろうが〜する」。修飾句として述語にかかっていく。「雨が降ろうと槍が降ろうと」「雨が降っても槍が降っても」とも言う。 (用例)①宮本百合子『宵』(一九二三)「雨が降ろうが槍が降ろうが、こっちで一声、病気だと云いさえすれば、忽ち馳せ参じて」 ②高杉良『首魁の宴』(一九九六)「雨が降ろうが槍が降ろうが、集合しろというのだから、念が入っている」 (類句)「石にかじりついても」「否が応でも」「否でも応でも」「有無を言わせず」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 **ありとあらゆる** (意味)考えられるすべての。「あらゆる」を強めた言い方。 (用法)文型「ありとあらゆるナニナニ」。次に来る名詞を修飾する。〔室町〕 (用例)①開高健『流亡記』(一九五九)「彼はありとあらゆる角度から事態の厖大な複雑さを検討した結果」 ②『朝日新聞』(一九九〇・七・一四)「小はアリから大はナマズまで、ありとあらゆる物を持ち帰った」 (類句)「余すところなく」「一から十まで」「細大漏らさず」「何から何まで」 **合わせる顔がない** (意味)とんでもない失敗・過ち・申し訳ないことなどをして、恐縮し、または恥ずかしくて、まともにその人の顔が見られない、その人の前に出られない。 (用法)文型「ダレダレに合わせる顔がない」。「合わす顔がない」とも言う。 (用例)①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「私共一同誠に申訳がなく、あなたに合せる顔がないのです」 ②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「面従腹背、面目、面子、人に合わせるカオがない、などなど、男は他人とのつきあいをまず自分の『カオ』と他人の『カオ』との関係でとらえようとする」 ③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「近所の人にあわせる顔がない」 ④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「産業経済社の落第生です。だいたい主幹に合わせる顔がない立場なんです」 (類句)「穴があったら入りたい」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 <30> **慌てず騒がず** (意味)突然、問題や危険が迫ってきてもあわてたり騒いだりしない。 (用法)文型「ダレダレは慌てず騒がず〜する」 (用例)①太宰治『家庭の幸福』(一九四八)「『たからくじ』二枚のうち、一枚が千円の当りくじだったが、もともと落ちついた人なので、あわてず騒がず、家族の者たちにもまた同僚にも告げ知らせず」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「五回無死で井上に打たれ、クリーンアップを迎える正念場もあわてずさわがず、三人を六球で仕留めた」 ③「父は地震が起きても少しも慌てず騒がず、落ちついたものだ」 **泡を食う** (意味)意外なことに出会って驚きあわてる。 (用法)文型「ダレダレが泡を食う」「ダレダレが泡を食って〜する」。用例②④のように「泡を食ったような(に)」と言うことがある。〔江戸〕 (用例)①横溝正史『広告面の女』(一九六一)「あなたは子爵に会ったんですね。それでそんなに泡を食って逃げてきたんですね」 ②『朝日新聞』(一九七九・九・二朝)「アワを食ったように左上手からの投げ」 ③『相撲界』(一九八〇・二)「いきなり〝オイ、オレとやるんじゃないのか〟、っていうんだものこっちはアワ食っちゃって」 ④藤田宜永『転々』(一九九九)「泡を食ったような顔をして、福原を見た」 ⑤大沢在昌『心では重すぎる』(二〇〇〇)「こっちが泡くって会社作るやり方を教えてやったくらいだ」 (類句)「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「呆気に取られる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食らったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 **泡を吹かせる** (意味)相手を驚きあわてさせる。面食らわせる。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに泡を吹かせる」。「泡を吹かす」とも言う。〔江戸〕 (用例)「今度会ったら、あいつに泡を吹かせてやる」 (類句)「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表を突く」「裏をかく」「度肝を抜く」「鼻を明かす」「一泡食わせる」「一泡吹かせる」 <31> **暗礁に乗り上げる** (意味)船が暗礁に乗り上げて進めなくなることから、物事が困難・障害にぶつかって進行しなくなる、行き詰まる。 (用法)文型「ナニナニが暗礁に乗り上げる」 (用例)①石橋湛山『湛山回想』(一九五三)「事件は全く暗礁に乗り上げた」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・九朝)「衆院大蔵委員会理事懇談会という裏舞台で続いていた折衝が、完全に暗礁に乗り上げた」 ③東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「製造法については、そこで暗礁に乗り上げたわけか」 ④森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「捜査は早くも暗礁に乗り上げた」 (類句)「動きがとれない」「進退これきわまる」「にっちもさっちもいかない」「抜き差しならない」 (外国語)英語では come to a deadlock **案の定** (意味)好ましくない予想の通り。 (用法)文型「案の定〜する(~だ)」。副詞として使用。〔江戸〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・八・一九朝)「案の定、この回先頭の福本に1―3から四球」 ②『言語生活』三三一号(一九七九)「私は内心、この対談はモノにならないと思った。案の定、活字にならなかったが」 ③稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九八一)「私にはまず無理だろうと思って読んでみたら、案の定、何の事だかさっぱりわからない」 ④森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「案の定、山路が異見をさし挟んだ」 (外国語)中国語では成句「不出所料」(予想した範囲を出ない、思った通り。「料」は推測する、予想する) <32> **いい気なものだ** (意味)他人の気持ちも知らないで、自分一人で得意になっているさま、のんきなさまを非難して言う言葉。 (用法)文型「〜とはいい気なものだ」。口頭語では「いい気なもんだ」とも言う。 (用例)①長谷川時雨『旧聞日本橋』(一九三五)「その水で盃をそそぎ、その流れで手拭をしぼって頭や胸を拭く、三尺へだたれば清しなんて、いい気なものだ」 ②太宰治『もの思う葦』(一九四五)「所謂『老大家』たちが、国語の乱脈をなげいているらしい。キザである。いい気なものだ。国語の乱脈は、国の乱脈から始まっているのに目をふさいている」 ③木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(二〇〇〇)「捜査で知った若宗匠のプロフィールは、いい気なものだ、としか思えなかったが」 ④「後一ヶ月で入試というのに、テレビゲームとはいい気なものだ」 (類句)「いい気になる」 **いい気になる** (意味)得意気になる。うぬぼれる。相手を批判的に言うことが多い。 (用法)文型「ダレダレはいい気になる」。用例①のように禁止の用法がある。 (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六二)「(あんまり、いい気になるな)と、千枝の脚を蹴飛ばしてやりたいくらいだったが」 ②「俺もちょっとばかり名が売れたばかりにいい気になって大きな口を利いた」 (類句)「いい気なものだ」 **いい線を行く** (意味)成績・能力・容貌・関係などが相当いいところまで達している。 (用法)文型「ダレナニはいい線を行く」。口頭語では「いい線行ってる」と言うことが多い。「かなり」「結構」など程度を表す副詞がこの句を修飾することがある。 (用例)①『言語生活』三一六号(一九七六)「彼らはかなりいい線を行ってるとぼくは思いますけどね」 ②若林真紀『この恋が実らなくても』(一九九〇)「あ、わたしたちねぇえ、金魚すくいと亀すくいなら、結構イイ線いってたんだよォ」 ③宗田理『マミーよ永遠に』(二〇〇三)「まどか先生、かなりいい線いってるし、みんながちやほやしてるんで <33> も嫉妬してるんじゃないかな」 外国語 英語では be on the right track **いい面の皮** 意味 他人の失敗や損失・不幸または自分の損失をあざけって言う言葉。とんだ迷惑だ。大変な恥さらしだ。多くは快く思っていない他人について言う。用法 文型「ダレダレはいい面の皮」〔江戸〕 用例 ①坪内逍遙『当世書生気質』(一八八五)「須河八い、面の皮だ」②岡本一平『へぼ胡瓜』(一九三)「こんな頼母しからぬ恋の相手にされる娘こそい、面の皮だ」③源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「そのために当り散らされた社員たちこそ、いい面の皮」 類句 「ざまを見ろ」「ぞれ見たことか」 **いい年をして** 意味 分別のある大人ならそんなことはしないのにという非難の言葉。用法 文型「いい年をして~」。~に非難の言葉が来る。〔江戸〕 用例 ①高見順『如何なる星の下に』(一九四〇)「いい年をして、十六七の娘と一緒に踊ってもいられませんわ」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七七) 「若い部下たちに知られると、『いい齢をして』と笑われそうなので隠していた」③『朝日新聞』(一九七九・九・一九朝)「いい年をしてモノズキなやつだ」④岡野玲子『ファンシィダンス』(一九八九)「イイトシしてなんちゅうエゴイストだー」 類句 これを下品に言うと「いい年こいて」になる。 外国語 英語では too old to **怒り心頭に発する** 意味 「心頭」は心、心中の意。心の底から怒りが激しくこみ上げる。用法 文型「ダレダレは怒り心頭に発する」。用例④のように「怒り心頭」と略することがある。 用例 ①石坂洋次郎『何処へ』(一九四七)「夫人は怒り心頭に発した」②坂口安吾『山の神殺人』(一九四八)「平作は怒り心頭に発してお加久を呪ったのである」③槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九七六)「編集を担当した『鏡花全集』の広告文案を勝手に直され、怒り心頭に発した体験を」④『朝日新聞』(一九七九・四・二六朝)「今年はとくに怒り心頭の状態だね」⑤東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「黒星続きで、とうとう怒り心頭に発したんだろう」 類句 「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「色をなす」 <34> 「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくりかえる」「烈火の如く」外国語 中国語では成句「怒从心起」(怒りが心からこみ上げる。「从」はから。「起」は発する。「怒从心生」ともいう) **行き当たりばったり** 意味 計画や方針を立てず、その時の成り行きに任せるさま。用法 述語に用いるほかに、「いきあたりばったりの」「いきあたりばったりに」と使う。〔江戸〕 用例 ①大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦争』(二〇〇一)「長期的計画性もなく、行きあたりバッタリの、泥縄式の政策をとろうとしているにすぎません」②「彼のやり方は行き当たりばったりで、いいかげんだ」 類句 「成り行きまかせ」外国語 英語では haphazard **生き馬の目を抜く** 意味 陰でよくないことを考えて、することがすばしこく、ずる賢いさま。また人を出し抜こうとする、油断のならないさま。用法 文型「ダレダレは生き馬の目を抜く」。「生き馬の目を抜くような」と言うことがある。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七-六八)「生き馬の眼をぬく戦後の船場のどまん中で」②内田康夫『歌わない笛』(一九九〇)「藤田さんは生き馬の目を抜くって評判ですよ」 類句 「抜かりがない」「抜け目がない」「油断も隙もない」 外国語 英語では cutthroat **息が合う** 意味 何人かで事を行う時にまるでひとりで息をしているかのように呼吸が合う、気持ちがぴったり合う。互いの気持ちがよく通じ合った親密な間柄に言う。用法 文型「ダレダレはダレダレと息が合う」「ダレダレの息が合う」。多くは用例②のように双方(両者)について言う。「息の合ったダレナニ」と言う形が多い。 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「すべて事前に打合わされ、整理されている息の合ったやり取りであった」②『朝日新聞』(一九七九・六・八朝)「十年目にして、やっと両者の息は合ってきたようだ」 類句 「阿吽の呼吸」「馬が合う」「気が合う」「呼吸が合う」「肌が合う」「歩調が合う」 <35> **息が掛かる** 意味 有力者の影響・支配や支援が及ぶ。また立場・地位が上の人に世話になったり大切にされたりする。用法 文型「ダレダレはダレダレの息がかかる」。「ダレダレの息が(の)かかった~」という形が多い。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「船尾教授の息のかかった人物だと聞いていますが」②『朝日新聞』(一九七九・二・二三朝)「ホメイニ師の息のかかったムーラや特使」③森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「H市では、警察署も堂本の息がかかっていると見なければならない」④大沢在昌『灰夜 新宿鮫VIII』(二〇〇一)「鹿報会の息がかかった業者を専門店に入れてやる」 **息が切れる** 意味 (1)呼吸が苦しく息切れがすることから転じて、苦しくて途中で物事が続けられなくなる。(2)息が止まる。死ぬ。絶命する。用法 文型「ダレダレは息が切れる」〔江戸〕 用例 ①中上健次『鳳仙花』(一九七六)「息が切れ、喉に詰まったしおはゆい水が笛のような音を立て」②「長期に渡る任務なので息が切れないかと心配する」(2)③「おじいさんはついに息が切れ、天国へ行った」 類句 (1) 「息切れがする」 (2) 「息を引き取る」「帰らぬ人となる」「鬼籍に入る」「世を去る」 **息が詰まる** 意味 呼吸ができなくなる意味から転じて、激しい緊張や感情のために息苦しくなる、重苦しく窮屈になる。用法 文型「ダレダレは息が詰まる」。用例①②③のように「息が詰まるような」「息が詰まりそう」と比喩的に言うことが多い。〔鎌倉〕 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「はじめてそれに気づいた雪子は、グッと息がつまるような思いがした」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六六)「それが美しい女性だと、いっそう息がつまるような妙な気持になる」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「いわゆる良妻賢母型の奥さんだと、息がつまりそうになっていやだという男性もいるし」④中上健次『鳳仙花』(一九七六)「秘密を言い当てられたように思い、息が詰まった」 類句 「気が詰まる」 **息が長い** 意味 ひとつのことや活動が何年にもわたって長く続くさま。また商品が何年に <36> もわたって長く売られているさま。用法 文型「ダレナニは息が長い」 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「ぼくの生活法のモットーは(地味で、息が長く――)ということなんだ」②『朝日新聞』(一九六二・二・六朝)「関取誕生も同時になった二人の息の長い勝負が期待される」③「これは息の長い商品だ。もう発売以来30年になる」 類句 「息が続く」外国語 英語では of long standing **息せき切る** 意味 非常に急いで走って息を荒くする。用法 文型「息せき切って~する」 用例 ①吉屋信子『あの道この道』(一九四一-四五)「二人が息せき切って、その響を追って走り出したのは」②関楠生『わんぱくジョーク』(一九八一)「薬局のお手伝いが、息せき切ってお客のあとを追っかけた」 **息の根を止める** 意味 (1)人を殺す。(2)二度と活動できないように徹底的にやっつける。用法 文型「ダレダレがダレナニの息の根を止める」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身形がある。〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一-三二)「わしの帰郷の最大目的は、過去の妻瑠璃子の息の根をとめることであったのだもの」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「息の根を止めたと思っていた荒尾がその後もしばらく生きていたため」③幸徳秋水「社会主義と国体」(一九〇一)「其人、若くば其主義、若くば其議論は、全く息の根を止められたと同様である」④三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「表現という行為は、現実にまたがって、そいつに止めを刺し、その息の根を止める行為だ」⑤『朝日新聞』(一九七九・一〇・五朝)「阪急の息の根を止めた山口への期待」 類句 (1) 「引導を渡す」「止めを刺す」「亡き者にする」(2)「止めを刺す」 **息を凝らす** 意味 息を抑えてじっとしている。注意して、あるいは緊張して何かに見入ったりする時のさま。用法 文型「ダレダレが息を凝らす」「息をこらして~する」〔江戸〕 用例 ①福永武彦『忘却の河』(一九四五)「確かに息を凝らして鳩の動きを見詰めながら」②中上健次『鳳仙花』 <37> (一九七六)「龍造は物音がしたというように路地の茶畑の方を見て息をこらし」 類句 「息を殺す」「息を詰める」「固唾を呑む」 **息を殺す** 意味 存在に気づかれないように、息を抑えて物音を立てないでいる。また、非常に緊迫した状況で、息を抑えているさま。用法 文型「ダレダレは息を殺して~する」〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九二六)「私は息を殺して、一段一段と音のせぬように注意しながら、やっとのことで梯子の上まで登り」②浜尾四郎『彼が殺したか』(一九三五)「あわてて夜着を引っかついで床の中にもぐりこみ暫く息を殺して居たのです」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「室内はすべての動きが止まったように静まりかえり、三人の介者は息を殺すように財前の第一刀を待ち」④三浦綾子『塩狩峠』(一九六六) 「信夫のかくれていた物置の中に、ふじ子がはいって来て、二人で息をころしてかくれたその時のことが」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「息を殺してひそんでいることは間違いない」 類句 「息を凝らす」「息を詰める」「固唾を呑む」 外国語 英語では hold one's breath **息を抜く** 意味 仕事・勉強や根をつめてやっている途中で気分を変えるためにちょっと休む。用法 文型「ダレダレが息を抜く」 用例 ①野間宏『真空地帯』(一九五二)「自分が全身の力をしぼって、みなが息をぬいているときでも、たえず気をくばりながら動いていなければならないので」②福永武彦『忘却の河』(一九四五)「いいのよ、わたしだってすこしは息を抜かなくちゃ。いつも呉さんは御勉強でたいへんね」 類句 「息を吐く」「一息入れる」 **息を飲む** 意味 予想もしていなかった恐ろしいことや困ったことに出会ったり、非常に美しいものを見たりした時に、ひどく驚いたり感動したりして、一瞬声も出ない状態になる。「息を呑む」とも書く。用法 文型「ダレダレが息を飲む」。用例②⑤のように「はっと」や「あっと」「思わず」などが「息を飲む」を修飾することが多い。 用例 ①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「二人の見物は、息をのんで耳をすました」②井上靖『闘牛』(一九四九)「津上 <38> は何気なく言ったのだが、さき子は、はっとして息をのんだ」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「裁判長の言葉は鋭さを帯び、法廷は息を呑むように緊迫した」④『朝日新聞』(一九七九・一〇・一四朝)「バッターボックスに立ち、獲物をねらうヒョウのような精悍さをみると、満場が息をのむ」⑤『朝日新聞』(一九八一・二・二九朝)「はっと息をのむほどの美人が多い」 類句 「声を飲む」「はっとする」「目を白黒させる」 外国語 英語では場面が主語になって、take one's breath away **息を引き取る** 意味 呼吸が止まって人が死ぬ。多くはその死に立ち会う人がいる。直接「死ぬ」ということを避けた丁寧な表現。用法 文型「ダレダレが息を引き取る」。まれに大きなペットや飼育していた大きな動物などに使うことがある。用例③④の「安らかに」「静かに」のように、穏やかな死に方に言うことが多い。〔江戸〕 用例 ①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「跡の肥立ちが非常に悪く遂に六月十九日に息を引き取った」②浜尾四郎『殺人鬼』(一九三二)「蘆田病院から千代が今息を引き取ったという報告があった」③星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「彼のうなずくのを見て、安らかに息を引きとった」④『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「海ちゃんは四年前、父が海外に旅立った直後、静かに息を引きとった」 類句 「息が切れる」「帰らぬ人となる」「鬼籍に入る」「世を去る」外国語 英語では breathe one's last **息を吹き返す** 意味 呼吸が止まっていた者が再び呼吸をし始めることから転じて、もうだめと思われた状態に陥っていた人・会社・組織などが再び盛り返す。また意識が戻る。用法 文型「ダレダレが息を吹き返す」〔江戸〕 用例 ①辻邦生『北の岬』(一九七〇) 「あたしが息をふきかえしたのは階下の居間のソファの上だった」②「倒産寸前だった会社が息を吹き返した」 類句 「気がつく」外国語 英語では come to life **異彩を放つ** 意味 「異彩」は周囲と違った目立った色彩のことから、人・事物が他とは違って目立ってすぐれている、際立っている。用法 文型「ダレナニが異彩を放つ」「ドコドコに異彩を放つ」 <39> 「ダレダレの中で異彩を放つ」。文末では「〜ている」形で用いられることが多い。 用例 ①東野圭吾『宿命』(一九九〇)「すごいのは勉強だけではなかった。どんなスポーツをやらせても、いつも無難にこなすのだった。(略)これだけ異彩を放つ瓜生だが」②森村誠一『人間の十字架』(一九九四)「高山の新たな名物として断然異彩を放っている」③高杉良『濁流』(一九九六)「チョゴリ風の純白ドレスに数珠状のネックレス。ドブネズミ一色に近いパーティ会場だけに、異彩を放っている」④岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「知的でユーモアに長け、酒が強く、スラリと長身の男黒崎祐司は、花輪が知る数多い男達の中で紛れもなく異彩を放っていた」 類句 「精彩を放つ」「目に立つ」外国語 英語では outshine **いざ知らず** 意味 あることを挙げて、それについてはどうであるかわからないが。本来は「いさ知らず」で、副詞「いさ」と感動詞「いざ」を混同したもの。用法 文型「ダレナニはいざ知らず」「ダレナニならいざ知らず」。この旬の後に来ることを強調して言う。〔室町〕 用例 ①井上靖『氷壁』(一九五六-五七)「ザイルをアイゼンで踏むというようなことは、初歩者ならいざ知らず、玄人の場合はどうも考えられない」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇) 「大きな汽船はいざ知らず、航海中の船は相当に騒々しいものだ」③『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「敗戦直後、五等国時代の日本ならいざ知らず」④『言語』(一九八一・八)「他の言語はいざ知らず、ことフランス語に関するかぎり、とても手ごわいものだと覚悟していただくために」 **いざという時** 意味 危険・決断などの重大な局面に直面した時。用法 文型「いざというときに(は・の)~」 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・七・二朝)「乱用は混乱を招きかねない。あくまで、いざという時に使う」②『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「専門家なら、いざという時の消火用水不足の怖ろしさはわかっていたはずだ」 類句 「いざという段」「さあという時」外国語 英語では in a pinch; in case of emergency <40> **意地が悪い** 意味 (1)わざと人を困らせたり陥れたり不愉快にさせたりするさま。人の性質が悪い。(2)物事の都合・具合がちょうど悪くなるさま。用法 文型 (1)「ダレナニは意地が悪い」「意地の悪いダレナニ」とも言う。(2)「意地の悪いことに~」「意地悪く~」〔室町〕 用例 (1)①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「『そんなに意地の悪いことをいうなよ』『あなたこそ、意地悪でしてよ』」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六六)「その口調に、妙に意地の悪いものを感じて」(2)③星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「いじの悪いことに、頭はさらに冴えてきて」 **石に囓りついても** 意味 目的達成のためにはどんなに苦しくても我慢してやり抜くさま。用法 文型「石にかじりついても~する」。 用例 ①坂口安吾『魔の退屈』(一九四六)「本当の現実は『石に囓りついても』生きられる性質のものであったかどう②源氏鶏太『見事な娘』(一九五四-五五) 「石にかじりついても、妹に金の無心をいってよこせないはずだ」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「石に囓りついても吉田をなんとかしろ」 類句 「雨が降ろうが槍が降ろうが」「否が応でも」「否でも応でも」「有無を言わせず」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 外国語 英語では no matter what one has to do **意地になる** 意味 周囲に反対されたり自分に不利な状況になったりして、かえってそれに逆らって自分の意見や行動をかたくなに押し通そうとする。用法 文型「ダレダレが意地になる」。「意地になって~する」と言うことが多い。 用例 「行くことを反対されると意地になっても行ってやろうと思う」 類句 「意地に掛かる」「意地を通す」「意地を張る」「片意地を張る」「我を張る」 **石橋を叩いて渡る** 意味 用心の上に用心を重ねて慎重に物事を行うたとえ。絶対に失敗や危険がないように気をつけすぎるほど気をつけて行う。用法 文型「ダレダレは石橋をたたいて渡る人」。さらに慎重なさまは「石橋をたたいても渡らない」と言う。〔江戸〕 <41> 用例 ①内田魯庵『社会百面相』(一九〇二)「お父さんは極堅いのがお好きで石橋を叩いて渡る方だから」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「石橋を叩いても渡らぬほどの臆病な性格であったが」 類句 「駄目を押す」「念には念を入れる」「念を入れる」「念を押す」外国語 英語では look before one leaps **意地を張る** 意味 人に逆らっても、あくまでもかたくなに自分の思い・考えを押し通そうとする。相手を批判的に言う言葉。用法 文型「ダレダレが意地を張る」。用例②の「つまらぬ」のように「意地」を修飾することが可能。〔江戸〕 用例 ①黒岩重吾『背徳のメス』(一九七〇)「なにも、意地を張らなくたってよいのに」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「『いや、面倒だから、風呂に入るまではこのままでいい』と私はつまらぬ意地をはった」 類句 「意地に掛かる」「意地になる」「意地を通す」「片意地を張る」 **痛い所を突かれる** 意味 触れられたくないこと、弱点などを相手から言われる。用法 文型「ダレダレは痛いところを突かれる」。「ダレダレが痛い所を突く」という能動形もある。 用例 高杉良『首魁の宴』(一九九六)「『(略)都銀で出版したところがありますか。たとえばコスモ銀行はどうですか』痛いところを突かれて、杉野は顔をしかめた」 **痛い目に会う** 意味 自らが行った行為や相手の行為から、辛く苦い経験や思いをさせられる。用法 文型「ダレダレが痛い目に会う」 用例 ①『朝日新聞』(一九六二・二・二三朝)「外人補強では痛い目にあったのが阪神」②「市場拡大を図って海外進出したが、痛い目にあって撤退した」 類句 「痛い目を見る」「苦汁をなめる」(生活の上で苦しい経験をする)「苦杯をなめる」(試合などで負けて辛い経験をする) 外国語 英語では get burned **痛くも痒くもない** 意味 何をされようと、どういうことになろうと、少しも苦痛を感じない、全く影響がない、全く平気である。非難・妨害などされてもという場合によく使われる。用法 文型「〜ても痛くもかゆくもない」 <42> 用例 ①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七-八九)「お前さんが御免になッたッてならなくッたッてこッちにやア痛くも痒くも何ともない事たから」②『朝日新聞』(一九四七・一二・一四朝)「五十円では何ら制裁の意味をなさず、犯人は痛くもかゆくも感じない」③大下宇陀児『虚像』(一九五五)「最愛の娘のお婿さんのために、それっぽっちのお金を損したって、痛くも痒くもないんじゃない」④『朝日新聞』(一九六四・三・一九朝)「そんなものを盗まれたって、日本の六、七割のオートバイをつくる私の会社としては痛くもかゆくもない」 類句 「びくともしない」「平気の平左」「ものともしない」 外国語 英語では couldn't care less (about) **痛くもない腹を探られる** 意味 悪いこと、やましいことがないのに、他人の邪推や誤解からあれこれと疑われる。用法 文型「ダレダレはダレダレに痛くもない腹を探られる」。常に受身形で用いられ、不愉快・迷惑というニュアンスを伴う。「痛くない腹を探られる」とも。〔江戸〕 用例 ①徳田秋声『仮装人物』(一九一五-二六)「葉子に感づかれて、痛くもない腹を探られるのも厭だったし」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「お互いにうっかり文句を言って、痛くもない腹を探られるのは、面白くありませんからな」③石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「遺産の問題で、痛くない腹を探られるようなことがないでしょうから」④『朝日新聞』(一九七〇・四・一五朝)「痛くもない腹をさぐられたくないなら、もっと核心に突っ込む迫力を示してほしい」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「会長が痛くもない腹をさぐられて、N証券に金玉握られてるなんて勘繰られるだけ損なんじゃないのか」 外国語 英語では be suspected unjustly **痛し痒し** 意味 一方をとれば他方に差し障りがあり、どちらにも決めかねる、あるいはどちらにしても良い面と悪い面があって決めかねるさま。またどう転んでも都合の悪い結果になるさま。用法 文型「ナニナニは痛し痒し」〔江戸〕 用例 ①獅子文六『青春怪談』(一九五四)「息子の緊縮主義を賞められるのは、痛しカユしであるが」②『朝日新聞』(一九六一・五・二〇朝)「強気に激励した同コーチだが、腹のうちは痛しかゆしだったに違いない」③『朝日新聞』(一九六一・九・二三朝)「痛しかゆし靖国維持募金」 類句 「あちらを立てればこちらが立たず」外国語 英語 <43> **板に付く** 意味役者が経験を積んで、演技が舞台にしっくりとはまることから転じて、一般に、経験を積んだり時間を経たりして、仕事・動作・服装などがいかにもしっくり合ったものになる。用法文型「ダレダレはナニナニが板に付く」。文末では多く「〜ている」形で用いられ、用例②のように否定形も「〜ていない」となることが多い。用例 江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一言)「潤一青年の山川健作氏はお芝居がすっかり板について」②『朝日新聞』(一九七・10・1五朝)「実社会から絶縁された生活だけに知識がイタについていなかったわけだ」③木村荘八『現代風俗帖』(一)「何気なくアロハを引かけても、いわゆる『板に付く』までには、そこまで面相や体格均衡が洋化しているとは云えない」④『朝日新聞』(一九九一・四・六朝)「やや横手からの投法が板につき、課題の制球力がついたのが大きい」⑤木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「こちらでの暮らしがながいのか、そんな仕種もぬけぬけとしたお世辞も、板についていた」類句「様になる」「堂に入る」「年季が入る」 **至れり尽くせり** 意味心遣い・もてなし・サービスなどが十分行き届いて、申し分ないさま。用法文型「ナニナニは至れり尽くせり」「至れり尽くせりのナニナニ」〔室町〕用例④江戸川乱歩『恐怖王』(一九一―三)「夏子のもてなしは、至れり尽くせりであった」②『朝日新聞』(一九六二・六・二五朝)「サービスの点では至れりつくせりなのに」③沢村貞子『貝のうた』(一次九)「今のように男女の性について、至れり尽くせりの解説をしてくれる本もなく」④『朝日新聞』(一九〇・七・五朝)「全く快適な住まいで、管理は至れり尽くせりであったという」⑤『朝日新聞』(一九一・四・三朝)「この国の社会保障は、日本人の目から見ると至れり尽くせりで」類句「痒い所に手が届く」外国語 中国語では成句「无微不至」(すべての点で行き届いている、至れり尽くせり) **一か八か** 意味 成功するかどうか運を天に任せて思いきってやってみる。うまくいくかどうかわからないが、勝負に出る。語源は賭博で、「一か <44> 罰か」(一かしくじりか)の意からとも、「丁か半か」の「丁」「半」の字の上部をとったものともいう。用法 文型「一か八か~する」「一か八かのナニナニ(賭け・勝負など)」〔江戸〕 用例 ①尾崎紅葉『続金色夜叉』(一八九八)「これでも女子にしても極未練の無い方で、手短に一か八か決して了う側なのでご御座います」②『朝日新聞』(一九七〇・六・一七朝)「中盤以後のことはその時になって考えようと、一か八かのドカ貧主義で行った」③林房雄『息子の縁談』(一九五四)「私は一か八か、行けるところまで行ってみます」④『朝日新聞』(一九八二・五・二九朝)「広岡監督にとってもイチかバチかの賭けだった」⑤大沢在昌『悪夢狩り』(一九八五)「牧原は一か八かの攻撃にでた」 類句 「当たって砕けろ」「のるかそるか」外国語 英語では all or nothing **一から十まで** 意味 あることについて何から何まですべて、あらゆることにわたって。すべてのことを強調して言う。用法 文型「一から十まで~」。副詞句として後ろの述語を修飾する。〔安土桃山〕 用例 ①大沢在昌『天使の牙』(一九九七)「一から十まで腹の立つ女だ」②「彼のことなら一から十まで知っている」③「家のことは一から十まで人任せだ」 類句 「余すところなく」「ありとあらゆる」「細大漏らさず」「何から何まで」 **一言もない** 意味 一言も返す言葉がない。全く弁解のしようがない。相手に言われたり責められたりしても認めるほかはないさまに言う。 用法 文型「ダレダレはナニナニに一言もない」「ダレダレは~と言われて一言もない」〔江戸〕 用例 ①岡本綺堂『半七捕物帳 仮面』(一九一七-三六)「そのままに見過ごすとは何事であるかと、自分に重役方からさんざん叱られた。そう云われると、まったく一言もない」②有島武郎『片信』(一九一三)「自己の心情の矛盾に対して、平らかなりえない心持ちの動くべきではないかとの氏の詰問には一言もない」 類句 「一敗地に塗れる」「ぐうの音も出ない」「ひとこともない」外国語 英語では There is nothing one can say (in one's defense) *中国語では成句「无话可说」(言う言葉がない、返す言葉がない。「无」はない。「话」は言葉) <45> **一事が万事** 意味 ある人・組織などがやっていることの一つを見るだけで、その人・組織の他のすべてのことも推量できること。あまり好ましくないことに言う。用法 文型「一事が万事~」。後ろに述語が来る。〔江戸〕 用例 ①織田作之助『聴雨』(一九四三)「一事が万事、坂田の対局には大なり小なりこのような大向うを唸らせる奇手が現われた」②『朝日新聞』(二〇〇五・二・五朝)「外車に乗るような高額所得者のリストが欲しかったのだ。一事が万事だろう。新しい仕事に対するやる気は、みるみるうちにしぼんだ」③「一事が万事この調子で、先行きが心配」 **一日千秋の思い** 意味 「千秋」は千年のこと。一日が千年のように長く感じられるということから、待ちこがれる思い。用法 文型「一日千秋の思いで待つ」。「一日千秋の思い」とも言う。 用例 源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二-五三)「一日千秋の思いで山村が東京で待っているだろう」 類句 「今か今かと」「今や遅しと」「首を長くして待つ」 外国語 中国語では成句「一日三秋」 **一日の長** 意味 少し年上ということから転して、あることに関して知識・経験・技術などが他よりも少し優れていること。出典は中国の『論語』先進。用法 文型「ダレダレはナニナニに一日の長がある」「ダレダレに一日の長がある」 用例 ①佐藤春夫『わんぱく時代』(一九五七)「チームワークとしてはやはり一日の長のある新宮の子供たちの方が幾分すぐれているであろう」②「やはりベテランに一日の長がある」 外国語 英語では have been at it a little longer (than) **一難去ってまた一難** 意味 災難がどうやら去ったと思ったら、また別の災難がやって来ること。用法 独立して使用が可。 用例 ①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇-三一)「一難去ってまた一難、追っ手を防ぐためにしめたドアが、かえってわれとわが身をとじこめる落とし戸となってしまった」 類句 「前門の虎後門の狼」外国語 英語では It's been one disaster after another <46> **一にも二にも** 意味 とにかくまずそれが大切・肝要であると思い、また行動するさま。 用法 文型「一にも二にも~」。「一にも〜二にも~」という場合がある。副詞句として述語にかかっていく。 用例 ①徳永直『太陽のない街』(一九二九)「一にも二にも吾々の連盟を大きくすることが肝要だってんだ」②『朝日新聞』(一九七九・一一・二面朝)「効果をあげるためには、一にも二にも合理性に立脚しなければならない」③池田弥三郎『郷愁の日本語』(一九七〇) 「大学に進んで、国文科へはいってからは、一にも二にも折口先生であったから、先生の言いつけだけはよくまもった」 類句 「いの一番」「何はさておき」「何を置いても」 **一枚上** 意味 能力や技量が上である。用法 文型「ダレダレはナニナニではダレダレより一枚上」。強調して「一枚も二枚も上」と言うことがある。 用例 『朝日新聞』(一九七九・六・二天朝)「打球の速さ、パワーではやはり一枚上である」 類句 「一枚上手」(内田康夫『三州吉良殺人事件』〈一九九一〉「その点に関しては、警察より僕のほうが一枚も二枚も上手のつもりです」) 「役者が一枚上」外国語 英語では be a cut above someone **一枚噛む** 意味 ある事柄に何らかの形で何人かの一人として参画する。その中である役割を担う。良いことにも悪いことにも使用。用法 文型「ダレダレがナニナニに一枚噛む」。用例①のような否定形がある。 用例 ①森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「星村俊弥はこの事件に一枚かんでいないのだろうか?」②『朝日新聞』(一九六〇・七・二朝)「全漁連(漁協の中央組織)の設立に一枚かむ」③広山義慶『極悪ゆさぶり編』(一九九五)「ハイエナが一枚噛んでくれたら、鬼に金棒ですわ」 外国語 英語では be a cut above someone **一抹の不安** 意味 ほんの少しの不安。用法 文型「一抹の不安を抱く」「一抹の不安がある」 用例 ①『朝日新聞』(一九七〇・六・三朝)「疑問であり、なお一抹の不安をかくしきれない」②梓林太郎『立山雷鳥沢殺人事件』(一九九九)「押しも押されもしない俳優でも、いつも一抹の不安を抱いているということです」 <47> 外国語 英語では a touch of anxiety **一目置く** 意味 相手の力量・知識・人格などが優れていることを認め、敬意を持つ。 用法 文型「ダレダレがダレダレに一目置く」。「一目を置く」とも言う。用例②③⑤のように受身形でも使われる。⑥のように強調して「一目も二目も置く」とも言う。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二-五三)「偉い技師でね。所長も副所長も、山村さんにだけは一目おいてるんだって噂です」②沢村貞子『貝のうた』(一九六九)「常連の留置人たちから、一目おかれているらしい」③『朝日新聞』(一九八一・二・三朝)「プロからも『質量ともにプロ級』と一目置かれるほどの作家なのだ」④池田弥三郎『郷愁の日本語』(一九七一)「古書や古画の蒐蔵でも一家をなしていた人で、そういうことについては、叔父も一目を置くくらいの学識があった」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「中学でも高校でも、なみいる男子学生を押し退けて首席を貫いた。(略)男子学生に一目を置かれる状態には変わりはなかった」⑥本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「磯貝親子は一目も二目も置かれる存在となっていた」 類句 「頭が下がる」外国語 英語では give someone due respect **一も二もなく** 意味 ある提示された事柄に対して、ためらったり反対したりせずすぐに。また、とやかく言わずにすぐに。すぐさま。用法 文型「一も二もなく〜する」。副詞的に使い、後ろの「〜する」を修飾する。 用例 ①末広鉄腸『雪中梅』(一八八六)「藤井は一も二もなく承知したもの、」②尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七-九八)「こう一も二も無く奇麗にお謝絶を受けては、私実に面目無くて」③中勘助『銀の匙』(一九一三-一五)「そうなるとこちらは一も二もなく降参してひたあやまりにあやまってしまう」④里見弴『多情仏心』(一九二二-二三)「その場の気合で、一も二もなく鈴江に軍配をあげ」⑤山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「敢えて自分の貴重な一票を捨てて退席した東の姿に、一も二もなく、参ってしまったわけですよ」⑥稲垣浩『日本映画の若き日々』(一九七六)「一も二もなく断られてしまった」 外国語 英語では readily; without hesitation <48> **一翼を担う** 意味 何人か、または複数の組織でやっている仕事や役割の大事な一部を受け持つ、引き受ける。用法 文型「ダレダレはナニナニの一翼を担う」。用例③の「重大な」のように「一翼」を修飾することがある。 用例 ①『朝日新聞』(一九六〇・一〇・二三朝)「世界九カ国にまじって、科学日本』もその一翼をになうわけだ」②『朝日新聞』(一九八〇・八・五朝)「日本は(略)中国とともに反ソ包囲網の一翼をになった」③『朝日新聞』(一九八〇・三・二四朝)「自動車は(略)そのふん囲気をかもし出す上での重大な一翼を担い始めたかに見えるのである」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「稲村氏と言えば、経済四団体の一翼を担う日商工の会長である」 類句 「双肩に担う」「一役買う」 **一巻の終わり** 意味 (1)活動写真で弁士が一巻の上映の終わりに言う台詞から転じて、続いてきた物事の結末がついてしまうこと。望みが全くなくなること。だめになること。(2)人が死ぬこと。俗っぽい感じ。用法 文型「ダレナニも一巻の終わり」「〜たら一巻の終わり」 用例 (1)①木村荘八『東京今昔帖』(一九五三)「客席が畳から椅子場になったのは良いとしても『席亭』というコトバがそこの亭主たるニンゲンを呼ぶ名ではなく、建築物であるヨセそのものの名に受取られるに至って、よく云う『一巻の終り』だ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「今度、なり損うたら、一巻の終りや」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「会社の総務部へ電話をかけられたら一巻の終りである」④『朝日新聞』(一九八一・二・六朝)「今日は、攻めても攻められても一巻の終わりである」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(二〇〇〇) 「わっとこられたら、俺らでも一巻の終わりだ」(2)⑥「強盗も警官に撃たれて、一巻の終わり」 外国語 英語では It's curtains **一糸まとわず** 意味 一枚の衣服も着ていないさま。素っ裸のさま。用法 文型「ダレダレは一糸まとわず~する」「一糸まとわぬダレダレ」。「一糸もまとわず」とも言う。 用例 ①川端康成『浅草紅団』(一九三〇) 「靴下をはいただけ、あとは一糸まとわぬ人魚の群――が、女学生の運動会のマス・ゲエムの写真」②野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「一糸 <49> まとわず酷寒の候に酔いつぶれて、風邪もひかぬし」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「一糸まとわぬ綾が眼前にいる」 外国語 英語では starknaked *中国語では成句「一丝不挂」(一糸まとわず) **一糸乱れず** 意味 行進や運営・団結などが秩序正しく整然としているさま。用法 文型「ダレダレは一糸乱れず~する」「一糸乱れぬナニナニ」 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「『スーパー反対』派の一糸乱れぬ統制ぶりで週四回のデモを続けている」②『朝日新聞』(一九七九・九・一九朝)「全体としては整然と一糸乱れぬ群舞になっている」③『朝日新聞』(一九八〇・三・四朝)「構成員同士の横のつながりで目的に向かって事を運営する段になると、一糸乱れずというわけにはいかない」 外国語 英語では in perfect order **一笑に付す** 意味 相手の言ったことに対して、笑って問題にしない、取り上げない、馬鹿にして相手にしない。用法 文型「ダレダレはナニナニを〜と一笑に付す」。用例(3)(4)のように受身形がある。 用例 ①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「この絵巻物を当局者に参考材料として見せましても、頭から一笑に付しているのでございます」②源氏鶏太『青い果実』(一九五一-五五)「勤めに出ることを、テイサイが悪いから、と反対する親たちの言葉を、それこそ、時代遅れだわ、と一笑に附したほどの娘たちなのである」③『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「こんなことを言うと、男尊女卑と一笑に付されるだろうが」④『朝日新聞』(一九八二・二・二〇朝)「素人考えと一笑に付されてしまうかもしれないが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「『細野にかぎって…』と、多くの会員は一笑に付したが」 外国語 英語では laugh (a thing) off *中国語では成句「付之一笑」(一笑に付す) **一矢を報いる** 意味 相手の攻撃・論難に力や言葉で相手に反撃・反論してやり返す。やられた相手を負かす。大勢をくつがえすほどの反撃ではないが、少しは相手をやっつけたというニュアンス。「一矢報いる」とも言う。用法 文型「ダレダレはダレ <50> ナニに一矢を報いる」 用例 ①源氏鶏太『目録さん』(一九五〇)「これで僕たちが目録さんに対して、一矢を酬いることが出来るし」②『朝日新聞』(一九七九・三・二朝)「国民大衆が役人天国に一矢をむくいたように見えた今回の総選挙」③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九八〇)「外国人に説明すれば、彼らの一方的な日本人批判に、一矢をむくいることができるであろう」④『朝日新聞』(一九八一・九・一八朝)「五戦全敗の若乃花に五年ぶりの対戦で一矢を報い、全勝を守った」⑤森村誠一 『エネミイ』(二〇〇〇) 「せめて妻を盗んでいる津田に一矢報いてやらなければ」 類句 「逆ねじを食わせる」(攻撃や非難を受けた人が逆に相手に反撃・反論を加える) **一石を投じる** 意味 水面に石を投げて波紋を生じさせることから、世間にそれでいいのか、またこうあるべきではないかなどと問題を投げかけて反響を巻き起こす。用法 文型「ダレナニはナニナニに一石を投じる」。用例②のような「一石」と「投じる」の間に語句を挿入するのはまれ。 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・四・二天朝)「全電通労組が個別調停の主張を貫いたことは公企体の賃金のあり方に一石を投じた」②『朝日新聞』(一九八〇・三・二九朝)「そのための一石を日商総会の発言で投じたといわれている」③『朝日新聞』(一九八〇・一〇・二天朝)「この日の発言は、党内の憲法論議に一石を投じそうだ」④高杉良『人事権!』(一九九二)「一石投じるのもおもしろいと思うが」 類句 「波紋を投じる」「波紋を投げる」「波紋を広げる」「物議をかもす」外国語 英語では create a commotion **一線を画す** 意味 線を引いてはっきり境界をつけることから、人が態度をはっきりさせて、主義主張や立場などが他者と同類ではないと区別をつける。また、ある物事が他の物事と質がはっきり違って同類とはみなせない。用法 文型「ダレナニはダレナニと(は)一線を画す」。用例①のように受身形がある。①の「厳然たる」のように「一線」を修飾することが可能。 用例 ①石川淳『葦手』(一九三五)「文章にあっては霊は霊、蠢は蠢と厳然たる一線が画されていて」②『朝日新聞』(一九七九・一二・一〇朝)「公判と法務大臣(の権限)は一線を画す関係にあるが」③『朝日新聞』(一九八〇・七・二朝)「総理大臣 <51> の選考は、単なる党内調整レベルとは、一線を画すべきものである」④『朝日新聞』(一九九二・二・二〇朝)「新保守を掲げ中道とは一線を画してきた新自クの新しい姿勢を示すものと受けとれるが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「趣味や意見や気の合う相手とは一線を画す」 外国語 英語では draw a line (between) **一頭地を抜く** 意味 「一頭地」は「一頭」と同じで、他の人より頭ひとつ抜き出ていることから転じて、人またその人のもつ能力・勢力などが他の人より目立って一段と優れている。出典は『宋史』蘇軾伝。用法 文型「ダレナニはダレナニの中で一頭地を抜く」 用例 ①獅子文六『青春怪談』(一九五四)「一等から三等までの全部の男性の乗客と、比較してみても、おそらく、彼が一頭地を抜くであろう」②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「父親とはまるで異質の、積極果敢な性格は、百人あまりの社員の中で、一頭地を抜く存在として期待された」③森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「四人の若頭補佐中、津田の勢力が一頭地を抜いている」 類句 「一頭地をいだす」「一頭地をぬきんず」とも言う。「群を抜く」 外国語 英語では be by far the best ; outshine others *中国語では成句「出人头地」(人に抜きん出る、一頭地を抜く) **一杯食う** 意味 うまく人にだまされる。相手のたくらみにひっかかる。「一杯喰う」とも書く。 用法 文型「ダレダレが一杯食う」。多くは自分のことについて使用。使役形「一杯食わせる」はうまく人をだますという意味。〔江戸〕 用例 ①高杉良『会社蘇生』(一九七七)「サンライト工機にしても、小川商会のお先棒を担いでコスモス・グループに一杯くわせたようなものでしょう」②「だまされないぞと思っていたのに、また一杯食った」 類句 「一杯食わされる」 **一杯食わされる** 意味 うまく人にだまされる。相手のたくらみにひっかかる。「一杯喰わされる」とも書く。用法 文型「ダレダレがダレダレに一杯食わされる」。誰に一杯食わされたかを明示する時に使用することが多い。「まんまと」などが「一杯食わされる」を修飾できる。「一杯食わす」という <52> 能動形も使われる。〔江戸〕 用例 ①獅子文六『自由学校』(一九五〇)「みごと、一パイ食わされたわ」②源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「うまうまと、左門に、一杯、食わされたような気がした」③『朝日新聞』(一九六〇・九・二五朝)「増位山には、どうやら多くの人がいっぱいくわされたようである」④藤田宜永『転々』(一九九九)「こまっしゃくれた少年にまんまと一杯食わされ」 類句 「一杯食う」「術中に陥る」「手に乗る」外国語 英語では put one over on someone **一敗地に塗れる** 意味 喧嘩・勝負・事業などで再び立ち上がれないほどひどい負け方をする。徹底的に打ち負かされる。出典は『史記』高祖本紀。「一敗、地にまみれる」と読む。用法 文型「ダレダレが一敗地にまみれる」 用例 ①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「支倉の策戦が破れて、一敗地に塗れたものと云わねばならぬ」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四-五五)「岡崎と争って、一敗地にまみれることになったら」③姉小路祐『刑事長越権捜査』(一九九四)「たとえ一敗地にまみれようとも、捲土重来は必ずできる」 類句 「一言もない」「ぐうの音も出ない」「ひとこともない」外国語 中国語では成句「一败涂地」(一敗地にまみれる) **居ても立っても居られない** 意味 心配事やうれしいことなどのために、心が落ち着かず、そわそわしてじっとしていられない。多くは心配事に言う。用法 文型「ダレダレは居ても立ってもいられない」 用例 ①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「あなたにアうして帰られては私等は居ても起ってもいられません」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六六)「(もしもこのまま父が死んでしまったら…)そう思っただけで、いても立ってもいられなかった」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「逆児というのは出産の時、足から出てくる。だから大変生みにくい。失敗する率も多いという。だから居ても立っても居られぬほど心配だった」④『朝日新聞』(一九七九・二・二七朝)「試験前夜、『いてもたってもいられなくなって』」⑤森村誠一 『誇りある被害者』(一九九六)「心配で心配で、居ても立ってもいられなかったの」 類句 「矢も楯もたまらない」外国語 英語では be <53> quite impatient *中国語では成句「坐立不安」(居ても立ってもいられない、気がかりでじっとしていられない) **糸を引く** 意味 (1)操り人形を糸を引いて動かすように、陰でこっそり人を操って自分の思い通りに動かす。(2)影響・余波が後まで長く続く。 用法 文型(1)「ダレダレが糸を引く」。「裏で」「背後で」「陰で」などが「糸を引く」を修飾することが多い。(2)「ナニナニが糸を引く」。用例⑤の「後悔の」のように「糸」を修飾して、どんな影響かを明示する。〔江戸〕 用例 (1)①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「このユウカイ事件の裏で、あんたが、糸を引いているに違いない」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「菊川候補のうしろから東都大学の船尾が糸をひいているとすると、こりゃあ、ちょっと問題ですな」③森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「どうやら背後で卑弥呼が糸を引いている気配では」④広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「陰で糸を引いてるのは松尾田さんですよ」(2)⑤石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「もしあなたが、一時的な情熱にひかれて、長く後悔の糸をひくかも知れない冒険を、おたがいの良識でやめることにしたら」 類句 (1)「糸を操る」(2)「後を引く」「尾を引く」「影を落とす」外国語 (1)英語では pull wires **イニシアチブを取る** 意味 英語 take the initiative の訳語。ある人(組織)が多数の人(組織)の先に立って物事全体を進め導く。また主導権を握る。用法 文型「ダレダレがナニナニのイニシアチブを取る」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身形がある。③のように「イニシアチブを」と「取る」の間に語句を挿入することができる。⑤の「積極的な」のように「イニシアチブ」を修飾することが可能。 用例 ①倉田百三『青春をいかに生きるか』(一九一八)「すべての事態にイニシアチブをとって反応する主我的指導性が萎えて行く傾向がある」②『朝日新聞』(一九四七・五・八朝)「アメリカの値下げ運動は、消費者がイニシアチブをとった」③『朝日新聞』(一九五六・八・九朝)「日本降伏のイニシアティブをソ連にとられたくないばっかりに」④石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇-六二)「その幼馴染と君との長い交際では、どっちがイニシアチブをとっていたのだい?」⑤『朝日新聞』(一九六二・五・二三朝)「『六月の第二回国連 <54> 軍縮特別総会では被爆国の首相として核兵器廃絶のために積極的なイニシアチブをとるよう』申し入れることを申し合わせた」 類句 「イニシアチブを握る」とも言う。「音頭を取る」「舵を取る」「采配を振る」 **いの一番** 意味 「いろは」順の一番先であるところから、または下足札の最初が「いの一」であったところから。ある人が何かする時、一番初め。また何人かいる中で何かをする時、一番初め。まっさき。用法 文型「いの一番に~する」 用例 ①夏目漱石「模倣と独立」(一九一三)「この学校が出来て最も新らしい所へいの一番に乗り込んだ者は私」②岡本一平『マッチの棒』(一九一五)「俺が貴様の画をイの一番に買ってやるって言ったとさ」③石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇-六二)「黒川三郎がイの一番に手を上げた」④北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「私はY氏にイの一番に銃器店に連れていってもらって」⑤ 森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「翌朝出勤した大上は、いの一番に件のスクラップ帳を繰った」 類句 「一にも二にも」「何はさておき」「何を置いても」 **命からがら** 意味 何とか命だけは失わずにやっとのことで逃げ出すさま。自分の命を守るために取る物も取りあえず、あわててかろうじて逃げ出すさま。用法 文型「命からがら~する」。副詞として「逃げ出す」「逃げ帰る」「脱出する」などの動詞を修飾することが多い。〔江戸〕 用例 ①向田邦子「字のない葉書」『家庭画報』(一九七六・七)「ところが三月十日の東京大空襲で、家こそ焼け残ったものの、命からがらの目に逢い」②『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「命からがらボートで逃げてくる人だと見て」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「引揚者はほとんどが着の身着のまま、生命からがら―という人が多く」 外国語 英語では escape with bare life **命の洗濯** 意味 日頃の苦労や煩わしさから解放されて、心がすっきりするほど、また命が延びるほど休息を楽しむこと、気晴らしをすること。用法 「命の洗濯をする」と言うことが多い。〔江戸〕 用例 ①野呂邦暢『草のつるぎ』(一九七三-七四)「せいぜい札幌にでも出て命の洗濯せえよ」 外国語 英語では recreate oneself <55> **茨の道** 意味 英語 a thorny path の訳語。苦難の多い人生。困難な道を歩んできた人生。また比喩的に困難な道。用法 文型「ナニナニはいばらの道だ」「ダレダレはいばらの道を~する」。「~する」には「歩く」「歩む」など「道」と結びつく動詞が来る。 用例 ①長谷川時雨『近代美人伝』(一九一六)「美しい女優たちは、自分たちの前にたって、荊の道を死ぬまで切りひらいた女の足許に平伏して」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「先駆者は常にイバラの道を歩くのだ」③『朝日新聞』(一九七九・七・一七朝)「大統領がどこまで国民を引っ張っていけるか。その賭けはいばらの道であるに違いない」④『朝日新聞』(一九七九・一〇・一五朝)「日本の社会制度ではそれがないとイバラの道です」 外国語 英語では a thorny path **意表を突く** 意味 相手が思ってもみなかったことして驚きあわてさせる。用法 文型「ダレダレはダレダレの意表を突く」。「意表を突く(ような)ナニナニ」。用例④のように受身形がある。 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「優れた外科医なら当然、持っていなければならぬ人の意表をつくような豊かな想像力がないように見受けられます」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「それはまことに突飛であり、徳島大尉の意表を突く質問であった」③内田康夫『博多殺人事件』(一九八一)「意表を衝くような電撃策戦で」④志村けん『変なおじさん』(一九九六)「『意表を突かれた、そう来たか』とびっくりする笑い」 類句 「あっと言わせる」「一杯食わす」「裏をかく」「度肝を抜く」「一泡食わせる」「一泡吹かせる」 外国語 英語では catch someone off balance; take by surprise **今か今かと** 意味 物事の実現をまだかまだかと期待して待つさま。用法 文型「ダレダレがナニナニを今か今かと待つ」。「待つ」などの述語にかかっていく。〔奈良〕 用例 ①宮本百合子『貧しい人々の群』(一九二六)「三人の男の子が炉辺に集って、自分等の食物が煮えるのを、今か今かと、待ちくたびれている」②夢野久作『白髪小僧』(一九三二)「村同士の人々も皆その婚礼の日が来るのを楽しみにして今か今かと待ちかねていましたが」③「戦争のない社会を今か今かと待ちわびる」 <56> 類句 「一日千秋の思い」「今や遅しと」「首を長くして待つ」 **今や遅しと** 意味 物事の実現を何と遅いことかといらいらして待ちかねているさま。もっと早く実現して欲しいと待つさま。用法 文型「ダレダレはナニナニを今や遅しと待つ」〔室町〕 用例 ①菊池寛『忠直卿行状記』(一九一八)「攻撃の令の下るのを今や遅しと待っていた」②海野十三『三角形の恐怖』(一九四七)「細田氏の姿が現われるのを今や遅しと待っていました」③「観衆はランナーが現れるのを今や遅しと待っている」 類句 「一日千秋の思い」「今か今かと」「首を長くして待つ」外国語 英語では be raring to **芋の子を洗うよう** 意味 サトイモを桶に入れてかき回して洗うように、ある空間が大勢の人で混雑しているさまのたとえ。人出の多さに言うことが多い。用法 文型「いもの子を洗うようなナニナニ」「ドコドコはいもの子を洗うようだ」 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・三・五朝)「うららかな動物園の、それもできれば芋の子を洗うような雑踏の中」②『朝日新聞』(一九八一・七・四朝)「イモの子を洗うような満員の民間プールに行きました」 類句 「いもを洗うよう」とも言う。「上を下への大騒ぎ」「押し合いへし合い」「押すな押すな」「蜂の巣をつついたよう」 **芋を洗うよう** 意味 「いもの子を洗うよう」に同じ。用法 文型「いもを洗うようなナニナニ」「ドコドコはいもを洗うようだ」 用例 ①瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「観光シーズンで、土、日は、芋を洗うようだというこのあたりも」②『朝日新聞』(一九八一・二・二九朝)「遠泳(三・八キロ)は『イモを洗うような』スタートから始まり」 **いやが上にも** 意味 すでにそうであるのに、ますます。良いことにも悪いことにも使用。用法 文型「いやが上にも~」。副詞的に「盛り上がる」などの述語を修飾する。 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・七・一〇朝)「五花街の総見などあって、いやが上にも古都歳末の気分が盛り上がる」 <57> ②『朝日新聞』(一九八〇・一〇・一九朝)「あの戦争の悲惨さをなまの形でスポーツの場に再現することは、今回の国体をいやが上にも暗い暗いイメージに包み込んでしまった」③東野圭吾『卒業』(一九八六)「牽制のやりあいで、いやがうえにも緊迫感が盛り上がる」④姉小路祐『走る密室』(一九八七)「朝日は、いやがうえにも緊張を覚えた」 **嫌気が差す** 意味 何かを続ける気がなくなったり、悲観的な気分になったりする。嫌だと思う。嫌になる。用法 文型「ダレダレはダレナニに嫌気が差す」。「いやきがさす」とも言う。 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五三)「自分の役割に嫌気がさしていたのである」②野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「腐敗しきった議会民主主義、官庁汚職、重税にいや気のさした国民も」③「飲んだら暴力をふるう夫に嫌気が差して家を飛び出した」 **否でも応でも** 意味 承知でも不承知でも、好むと好まないとにかかわらず、何としても。義務的あるいは強制的、むりやりにあることをしなければならない、あるいはさせられるさま。用法 「否でも応でも」の後ろに「ねばならない」や「てもらう」のような言葉が来ることが多い。自分または相手について言う。〔室町〕 用例 ①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九〇四)「寿代さんの問題も今は猶予がならぬ。否でも応でも今日は最後の話をつけて来なければならぬ」②夏目漱石『私の個人主義』(一九一五)「否でも応でも此所へ顔を出さなければ済まない事になりました」③江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「風船につかまった賊は、いやでも応でも、一尺ずつ、一尺ずつ、敵の手中に、たぐり寄せられて行った」④夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「彼奴、若林は嫌でも応でもその著述の中に、この遺言書を組み込まなければ研究発表の筋が立たなくなるわけだ」 類句 「否が応でも」とも言う。「雨が降ろうが槍が降ろうが」「有無を言わせず」「是が非でも」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 外国語 英語では whether one likes it or not **嫌と言うほど** 意味 もうそれ以上はいらないというほど、嫌になるほどいっぱい。また、嫌になるほど程度がはなはだしく。用法 文型「嫌 <58> と言うほど~する」。用例④のように受身形が述語になることがある。〔室町〕 用例 ①黒岩重吾『背徳のメス』(一九七〇)「罪なら、今までも、いやというほどつくっていらっしゃるじゃありませんか?」②『朝日新聞』(一九八〇・二・六朝)「私たち老人は戦争ばかりをいやと言うほど経験して来ました」③『朝日新聞』(一九八二・二・二五朝)「北の湖のキャリアをいやというほど見せつけ」④「その話はいやと言うほど聞かされた」 **入れ替わり立ち替わり** 意味 次々に絶え間なく人(物)が現れるさま。ひっきりなしに人が出入りするさま。用法 文型「ダレナニが入れ替わり立ち替わり~する」。副詞的に述語「現れる」「来る」「入る」などを修飾する。 用例 ①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「妖怪変化のたぐいばかり入れ替わり立ち替わり現われるのよりはマシかも知れぬ」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「入れ替わり立ち替わり役人を接待していた」③「家に若い男女が入れ替わり立ち替わり入っていった」 類句 「引きも切らず」外国語 英語では one after another **色を失う** 意味 思いがけないことに対する驚きや恐怖などで顔が真っ青になる。用法 文型「ダレダレが色を失う」〔鎌倉〕 用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三) 「お姉さま、と女は言った。南未亡人は色を失って、女を見上げた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六六)「客車が暴走し、誰もが色を失い」 類句 「顔色を失う」「血の気が引く」外国語 英語では turn pale **色を付ける** 意味 商売で相手のためにいくらか値引きしたり多めに盛ったり景品をつけたりする。またお金を少し余分に出してやる。いずれも相手の事情を考えて相手が喜ぶようにちょっと増やしたり減らしたりする。用法 文型「ダレダレがナニナニに色を付ける」〔室町〕 用例 ①高杉良『人事権!』(一九九二)「『六十五万円です。わたくし共に持たせていただきます』『当たりまえやがな。なんぼ色つけるのや』」②「お得意さまですから、値段に <59> 色を付けてあります」③「予算回答に色を付けておこう」 外国語 英語では make it more attractive **色をなす** 意味 怒って顔色を変える。激怒するさま。その際、目つきも鋭くなり、頬もふるえることがある。用法 文型「ダレダレはダレナニに色をなして怒る」〔平安〕 用例 ①東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「日頃穏やかな伸彦にしては珍しく色をなしていると高之は思った」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「佐々木は色をなした」③「彼は大臣の答弁に色をなして怒った」 類句 「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」「烈火の如く」外国語 英語では turn red (with anger) **言わぬが花** 意味 あからさまに、またははっきりと言わなければ、相手の興味や期待を壊さないで済んだり差し障りが生じたりしないから、そのほうがいいということ。用法 文型「ナニナニは言わぬが花」〔江戸〕 用例 源氏鶏太「若い仲間』(一九五九-六〇) 「『どういうお方でしょうか。』『まア、それは、いわぬが花であろうな。」」 外国語 英語では It's better left unsaid **意を決する** 意味 思い切って意志を定める、決心する。決意する。用法 文型「ダレダレは意を決して~する」 用例 ①中上健次『鳳仙花』(一九七六) 「フサが意を決し、龍造に会いに警察に行ったのは」②『朝日新聞』(二〇〇五・二・二六朝)「以前、有名な温泉に行ったら、男湯の源泉が『混浴可』でした。意を決して入ると、数人の男性が女性を見ようとして浴槽の外に座っていました」 類句 「腹を固める」「腹を決める」「腹をくくる」「ほぞを固める」 **異を立てる** 意味 人の意見・考えに反対して別の意見・考えを主張する。異議を唱える。用法 文型「ダレダレはナニナニに異を立てる」 用例 ①『朝日新聞』(一九五七・一二・五朝)「異を立てたらあとがこわいのだろうが」②『言語生活』三一〇号(一九七七)「また異を立てることになっちゃいますが」 日本語慣用句辞典 鬼が出るか 蛇が出るか 米川明彦・大谷伊都子●編 東京堂出版 日本語慣用句辞典 鬼の目にも涙 米川明彦 大谷伊都子 編 東京堂出版 米川明彦・大谷伊都子 編 日本語 慣用句辞典 鬼の霍乱 東京堂出版 <60> <208> **水泡に帰す** 意味 努力した行為の結果がまったくむだになってしまう。 用法 文型「ナニナニが水泡に帰す」。ナニナニは「努力」「苦労」など。 用例 ①志賀直哉『邦子』(一九二七)「それをまた邦子に話した事ですべて水泡に帰してしまった」 ②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「今日までの努力が、すべて、水泡に帰するのだ」 ③広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「これまでの苦労が水泡に帰す」 類句 *棒に振る *水の泡 *無駄骨を折る *元の木阿弥 *元も子もない 外国語 英語では come to naught **涼しい顔** 意味 自分に関係していることなのに、何も知らないような、何も関係していないような、平気な顔をしていること。他人事のような顔。 用法 文型「ダレダレは涼しい顔(をする)」〔江戸〕 用例 ①木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「涼しい顔でこたえた」 ②高杉良『首魁の宴』(一九九六)「なにごともなかったように涼しい顔をしている綾のしたたかさに」 類句 *知らぬ顔の半兵衛 *知らぬ存ぜぬ *しらを切る *素知らぬ顔 *何食わぬ顔 外国語 英語では look unconcerned **雀の涙** 意味 金額や量がほんのわずかのたとえ。 用法 文型「スズメの涙ほど」 用例 ①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「本給の安いぼくなどはどうせ雀の涙ほどしか貰えず」 ②『朝日新聞』(一九七九・一一・二五朝)「中央からの農業への投資が(略)末端の農民には〝スズメの涙〟ほどしか届かぬ状況」 ③『朝日新聞』(一九八〇・八・三朝)「米価はスズメの涙ほどしか値上がりせず」 類句 *蚊の涙 *つめのあかほど 外国語 英語では a mere particle いをとなえる」 **異を唱える** 意味 「異を立てる」に同じ。 用法 文型「ダレダレはナニナニに異を唱える」 用例 「彼はライバルの意見に異を唱えた」 類句 *異を唱える **因果を含める** 意味 やむを得ない事情をよく説明して言い聞かせ納得させる、あきらめさせる。相手がいやなことはわかるが、どうしてもこうしなければならないと言い聞かせる。 用法 文型「ダレダレはダレダレに因果を含める」。「因果を含めてあきらめさせる」ということが多い。用例②のように受身形がある。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『颱風さん』(一九五一)「うまく因果をふくめてあの持て余し者を首にしちまい給え」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「主治医の先生からとても難しい手術だからと、因果をふくめられておりましたのに」 ③高杉良『人事権!』(一九九二)「室長から因果を含めて話していただけませんか」 **引導を渡す** 意味 (1)仏教で死者を葬る際に悟りを開いて仏のもとへ行けるように経を唱えて導く意から転じて、物事の決着をつけるために最終的な宣告をしてあきらめさせる。(2)相手がまもなく絶命するようなことをする。 用法 文型「ダレダレがダレダレに引導を渡す」〔江戸〕 用例 (1)①源氏鶏太『青空娘』(一九五六―五七)「要するに、有難迷惑なのよ。そのうち、きっぱり、引導をわたしてやるわ」 (2)②「心臓を突き刺して引導を渡してやる」 類句 (1)②*息の根を止める *止めを刺す *亡き者にする 外国語 (1)英語では give someone the (final) word **陰に陽に** 意味 人の行為や物事が、ある時はひそかに、ある時は公然と行われるさま、影響するさま。 用法 文型「陰に陽に〜」。副詞的に使用し、後ろの述語を修飾する。 用例 ①石坂洋次郎『青い山脈』(一九四七)「この事件で、陰に陽に生徒をあおって来た田中教師が」 ②『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「いずれも陰に陽に、広告業者が活躍しての成果だった」 ③『朝日新聞』(一九七九・九・三朝)「こんな <61> 環境が子どもの人格形成に陰に陽に影響を与えます」 ④『朝日新聞』(一九八二・二・六朝)「人事問題が陰に陽に絡んでくるのは間違いなさそう」 ⑤本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「とくに陰に陽に小林中の舎弟的な恩恵を受けたからである」 類句 *陰になり日向になり 外国語 英語では every chance one gets **上を下への大騒ぎ** 意味 ある所の人々がひどく混乱して大騒ぎになるさま。あわてふためくさま。 用法 文型「ドコドコは上を下への大騒ぎ」。ドコドコは「家中」「町中」などある地域・場所を限定する言葉。〔江戸〕 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「この記事が、全市の一話題になったことはいうまでも無いが、殊に、南海産業では上を下への大騒ぎであった」 類句 *いもの子を洗うよう *いもを洗うよう *押し合いへし合い *押すな押すなの *蜂の巣をつついたよう **憂き身をやつす** 意味 やせ細るほどあることに熱中する、夢中になる、専念する。耽溺する。相手を批判するニュアンス。 用法 文型「ダレダレがダレナニに憂き身をやつす」。ナニは道楽・恋・研究など。〔江戸〕 <62> 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「プロ野球みたいに加島君の引き抜きに憂き身をやつしているとは、実に、情け無いことです」 類句 *うつつを抜かす *血道を上げる *熱を上げる *熱を入れる 外国語 英語では devote oneself to ; be absorbed in **有卦に入る** 意味 「有卦」とは陰陽道で、幸運の意。有卦に入ると七年間幸運が続くということから、転じて、幸運に恵まれて調子づく。また単に調子に乗る。 用法 文型「ダレダレが有卦に入る」〔江戸〕 用例 石坂洋次郎『何処へ』(一九四七)「清水氏は有卦に入った時の特徴として、口の先に泡を沸かせ」 類句 *付きが回る *芽が出る 外国語 英語では enjoy a run of (good) luck **雨後の筍** 意味 雨の後にはタケノコが次々と生えるように、同じような物事が次々に出現することのたとえ。その物事をあまり肯定的(プラス評価)にとらえていない。 用法 「ナニナニが雨後の筍のように(如く)」とたとえに使用。 用例 ①角田喜久雄『高木家の惨劇』(一九四七)「終戦後雨後の竹の子の如く続出した喫茶兼酒場の一つ」 ②『朝日新聞』(一九五三・五・九朝)「ボスども待ッテマシタとばかり雨後のタケノコの如く、自然発生して」 ③『朝日新聞』(一九六〇・二・二九朝)「昨今雨後のタケノコのような観のある文化教室の」 ④『朝日新聞』(一九六一・一・三朝)「雨後のタケノコのように成長中の米予備校産業」 外国語 英語では like mushrooms after a rain 中国語では成句「雨后春笋」(雨後の筍。直訳すれば「雨後の春の筍」) **後ろ髪を引かれる** 意味 ある所から離れる時、そこにいる人や事柄などが気がかりで未練が残って去りがたいさま。 用法 文型「ダレダレは後ろ髪を引かれる(思い)」〔室町〕 用例 ①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「心は後髪を引かれるように思いながら」 ②徳田秋声『仮装人物』(一九三五―三六)「潔くここを引き揚げたい気持もしながら、やっぱり思い切りが悪く、後髪を引かれるのであった」 ③『朝日新聞』(一九五三・三・二朝)「妻や子ども、赤ん坊をもち、後 <63> ろ髪を引かれながら、黙々と戦場に行かされた無数の老兵がいる」 ④『朝日新聞』(一九七九・二・二六朝)「共働きの女性だって、子供に後ろ髪をひかれる思いで、さして生きがいにもならない外に出ていく」 ⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「EDSの仕事が面白くなってきたところなので、いまリタイアするのは、うしろ髪を引かれる思いです」 外国語 英語では with painful reluctance **後ろ指を指される** 意味 背後から指をさされて非難される、悪口を言われる。陰で他人(世間の人々一般)から非難される。 用法 文型「ダレダレがダレナニに後ろ指を指される」。用例②のように「ダレナニから」ということもある。「後ろ指を指す」は、背後から非難する、陰で悪口を言う意。〔室町〕 用例 ①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七―九八)「人に後指を差されず、罪も作らず、怨も受けずに」 ②『朝日新聞』(一九六〇・二・五朝)「政治を浄化し、世間から後ろ指をさされない決意」 ③『朝日新聞』(一九八一・三・三朝)「人に後ろ指をさされるようなことがあっては。母に申し訳ないと」 ④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「この分なら街を歩いても、後ろ指を指される心配はしなくてすみそうだ」 類句 *陰口を利かれる *陰口をたたかれる 外国語 英語では make people talk **薄紙を剥ぐよう** 意味 薄紙を一枚一枚はいでいくように、物事が少しずつはっきりしてくること。特に病状が少しずつ良くなっていくことのたとえ。 用法 文型「薄紙を剥ぐように〜する」。「〜する」には「良くなる」などの語句が来る。〔江戸〕 用例 西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(二〇〇〇)「每日一杯ずつ飲んでいたら、文字通り、薄紙を剥ぐように、日ごとに、身体が軽くなって、こうして、退院できたんです」 類句 薄紙をはがすよう」とも言う。 **うだつが上がらない** 意味 「うだつ」とは梁の上に立てて棟木を支える柱「うだち」のことで、棟木に押さえられているように見えるところから、上から押さえつけられてさっぱり出世しない、生活が向上しない、目立たずぱっとしない。 用法 文型「ダレダレはうだつが上がらない」「うだつの上がらないダレナニ」。「さっぱり」「あまり」のように程度を表す <64> 副詞が「うだつが上がらない」を修飾することが多い。 用例 ①篠田鑛三『明治百話』(一九一三)「三馬、一九、馬琴、京伝を真似ていたのでは、ねっからウダツがあがらない」 ②源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「近ごろの青菜君は、良人としても、さっぱりウダツがあがらないらしい」 ③沢村貞子『貝のうた』(一九七九)「帝劇ではさっぱりうだつが上がらず」 ④夏目志郎『説得上手の会話術』(一九九一)「うだつのあがらない一生で終わってしまいます」 ⑤内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「ちっぽけな薬屋などという、あまりうだつの上がらない家に」 外国語 英語では never get ahead **うつつを抜かす** 意味 好ましくない(くだらない・非生産的)と思う人・物事に心を奪われて、夢中になる。人を批判的に言うニュアンス。 用法 文型「ダレダレがダレナニにうつつを抜かす」。ナニは用例④⑤のようにギャンブルやゲームなど好ましくないと思うこと。〔江戸〕 用例 ①内田百閒『贋作吾輩は猫である』(一九五〇)「羅漢なぞがうつつを抜かすマネキン娘だ」 ②稲垣浩『日本映画の若き日々』(一九七八)「私は浅草金竜館のオペラファンとなった。田谷力三、清水金太郎、清水静子、安藤文子、木村時子などにうつつを抜かして通いつめることとなったのも」 ③『朝日新聞』(一九八二・二・二〇朝)「それにうつつを抜かしている体質につくづく情けなくなった」 ④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「パチンコやファミコンゲームにうつつを抜かすよりは、いくらかましかな」 ⑤森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「ギャンブルにうつつを抜かして金に詰まっていた私は」 類句 *憂き身をやつす *血道を上げる *熱を上げる *熱を入れる 外国語 英語では be addicted to **腕が上がる** 意味 人が手でする技術・武芸などが以前より上達する。腕前が上がる。 用法 文型「ダレダレはナニナニの腕が上がる」 用例 ①夏目漱石『文芸委員は何をするか』(一九一二)「果して日本の画家があの位の刺激に挑発されて人工的に向上したとすれば、彼らは文部省の御蔭で腕が上がると同時に」 ②高杉良『人事権!』(一九九二)「月に一度か二度で腕が上がるはずがない」 類句 *手が上がる <65> **腕が立つ** 意味 技術・技量・腕前がすぐれている。 用法 文型「ダレダレは腕が立つ」「腕が(の)立つダレダレ」 用例 高杉良『会社蘇生』(一九八七)「会社更生法に慣れた、しかも腕の立つ公認会計士を選定するのは」 **腕が鳴る** 意味 自分の腕前や腕力・能力に自信があり、それを早く見せたくて、発揮したくて、むずむずする。 用法 文型「ダレダレは腕が鳴る」 用例 ①佐々木味津三『続旗本退屈男』(一九二九―三〇)「今朝など、腕が鳴ってならぬと申していたゆえ、望みにまかせて、腕ならしさせてつかわそうぞ」 ②「対戦相手が決まり、今から腕が鳴る」 **腕に覚えがある** 意味 以前身に着けた技術・能力や腕力に、自信がある。 用法 文型「ダレダレはナニナニなら腕に覚えがある」〔江戸〕 用例 ①有島武郎『かんかん虫』(一九一〇)「イフヒムは見た通りの裸一貫だろう。何一つ腕に覚えがあるじゃないか」 ②「柔道なら腕に覚えがある」 **腕に縒りを掛ける** 意味 料理など腕前を十分発揮しようとして張り切る。技術を尽くす。 用法 文型「ダレダレが腕によりをかけて〜する」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「賄頭たる者は、もっと腕にヨリをかけて貰いたい」 ②獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「あたしも、腕にヨリをかけて、商売をするところを」 ③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「志保子と沙織が腕によりをかけた心づくしのテリーヌ」 ④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「俺の親友は和風ステーキを所望している。腕によりをかけて焼いてやってくれ」 類句 *腕を振るう **打てば響く** 意味 一方が何かを言えばすぐに理解して的確な返事をしたり反応を示したりするさま。 用法 「打てば響くような答え」「打てば響くように答える」などと言うことが多い。〔室町〕 用例 ①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「『まっ <66> たく、そうでありますなア。』と、打てば響くように合槌を打ったのは」 ②『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「(略)と書いたら、打てば響くように第二信が舞い込んだ」 ③夏目志郎『説得上手の会話術』(一九九一)「打てば響くような話し方がよいと思い込んでいる人は」 ④関楠生『わんぱくジョーク』(一九九一)「ミルクホールででぶのクルトが文句を言った。『この牛乳は水っぽいぜ』打てば響くようにウエートレスが答えた」 ⑤森村誠一『エネミイ』(二〇〇二)「打てば響くように住人が答えた」 類句 *気心が知れる *心が通う *ツーカーの仲 *ツーと言えばカー **腕を振るう** 意味 料理など持っている技術や能力・手腕を思いのままに発揮する。 用法 文型「ダレダレがナニナニに腕をふるう」。用例③のように可能動詞形がある。 用例 ①源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「会員の熱望する家庭料理は栄子さんが腕を揮ってつくってくれる」 ②東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「さあ、そうと決まったら腕をふるってもらおうか。料理長はあんただな?」 ③『朝日新聞』(二〇〇五・三・三朝)「EXPO'70の後に国家的規模で腕を振るえる程のプロジェクトは生まれなかった」 ④「彼が会社再建に大いに腕をふるった」 類句 *腕によりを掛ける 外国語 中国語では成句「大显身手」(大いに腕を振るう。「显」は発揮する。「身手」は技量、腕前) **腕を磨く** 意味 仕事の能力、職人の技術や武芸などを一層すぐれたものにするために習練する、鍛える。 用法 文型「ダレダレが腕を磨く」。命令・意志表現は可能。 用例 ①徳田秋声『仮装人物』(一九三五―三六)「美人女給の一人として、生活のスタアトを切って以来、ずっと一本立で腕を磨いて来ただけに」 ②高田保『第2ブラリひょうたん』(一九五〇)「芸術家なら芸を磨くというところだが、職人ならウデを磨くとなるわけか」 類句 *腕に磨きをかける **鵜の目鷹の目** 意味 鵜や鷹が獲物を鋭い目つきでねらうように、人が一生懸命に何かを探し見つけ出そうとする目つきや態度。 用法 文型「ダレダレが鵜の目鷹の目でダレナニを探す」〔室町〕 <67> 用例 ①『滑稽界』一八号(一九〇九)「鵜の目鷹の目で対手を探すのだそうで」 ②尾崎士郎『空想部落』(一九四五)「次々とアンナンからやってくる刺客は鵜の目鷹の目でおれの居どころを探そうとしてあせっているんだからな」 ③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九五)「鵜の目鷹の目で掘り出しものをさがしたコレクターたちは」 ④姉小路祐『汚職捜査』(二〇〇〇)「この区の湾岸開発もなかなかのものですよ。建設業界は、鵜の目鷹の目で狙っています」 類句 *血眼になる 外国語 英語では with sharp eyes **旨い汁を吸う** 意味 自分は大した苦労もせず、地位や立場を利用して他人の働きで利益を得る。 用法 文型「ダレダレがうまい汁を吸う」 用例 ①獅子文六『てんやわんや』(一九四八―四九)「鬼塚先生は私を通じて、うまいことをする計画だったらしい。事実、大分うまい汁も吸ったようである」 ②武田泰淳『風媒花』(一九五二)「自分の掌を血に染めないで、うまい汁を吸う奴らを憎みますよ」 ③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「江藤と組んで美味い汁を吸ってきたんやないか」 ④「うまい汁を吸おうと狙っている奴がいる」 類句 *甘い汁を吸う *甘い汁をすする *私腹を肥やす *腹を肥やす *懐を肥やす 外国語 中国語では慣用句「占便宜」(得るべきでない利益をわがものにする、うまい汁を吸う。「占」は得る。「便宜」は利益、得) **馬が合う** 意味 人が馬と呼吸が合ってうまく乗りこなすように、相手と気が合い、うまくやっていける。 用法 文型「ダレダレはダレダレと馬が合う」「ダレダレとダレダレ(と)は馬が合う」。用例②⑥のように否定形もよく使われる。〔江戸〕 用例 ①獅子文六『自由学校』(一九五一)「彼女には少し保守的な男の方が、ウマが合うと、思われた」 ②『朝日新聞』(一九六〇・一〇・二五朝)「トルーマン大統領は、かねてからマッカーサー元帥とウマが合わないと感じていたが」 ③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九九〇)「ナンシーさんとわたしは、とてもウマが合うのですよ」 ④『京都新聞』(一九九〇・三・三夕)「こんな二人の女が、なぜか妙にウマが合い、親しい友だち関係をもっている」 ⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「叔母は(略)江梨香とウマが合いそうな気がした」 ⑥和気義一『銀行マンの掟』(一九九四) <68> 「うちの支店長は、ガソリンスタンドの店主とウマが合わなくてネ。この前もちょっとしたことでケンカになりそうだったんだ」 類句 *阿吽の呼吸 *息が合う *気が合う *呼吸が合う *肌が合う *歩調が合う 外国語 英語では get on well with **海に千年山に千年** 意味 海に千年、山に千年住んだ蛇は竜になるという俗説から、さまざまな経験を積んで、世の中の裏も表も知り尽くした、したたかな者、ずる賢い者。「海千山千」とも言う。 用法 文型「ダレダレは海に千年山に千年」〔江戸〕 用例 近松秋江『霜凍る宵』(一九一三)「多年情海の波瀾を凌いで来た、海に千年山に千年ともいうべき、その女主人と差し向いに坐っていると」 類句 *煮ても焼いても食えない *一癖も二癖もある *一筋縄ではいかない **海のものとも山のものとも** 意味 人・計画・物などの正体・本質・将来性が現状では判断できず、これから先、どうなるか見当がつかないことのたとえ。否定的なニュアンス。人の場合は、年少者(若者)にいうことが多い。 用法 文型「ダレナニは海のものとも山のものともつかない(知らない・分からない)」 用例 ①『朝日新聞』(一九八〇・八・三朝)「まだ二年生、というより新人みたいなもんだ。海のものとも山のものとも、これからですよ」 ②『毎日新聞』(一九八二・二・三朝)「ゴルキエはまだ29才 海のものとも山のものとも分からぬ彼を」 ③内田康夫『鬼首殺人事件』(一九九五)「彼女たちが海のものとも山のものとも知れないようなころから」 ④原田宗典『買った買った買った』(一九九五)「青学時代のぼくが、海のものとも山のものともつかないのに、いつもシコシコ原稿を書いていたという話題になった時」 類句 *得体の知れない *つかみどころがない *とらえどころがない 外国語 英語では be quite uncertain **有無を言わせず** 意味 相手の意向を確かめず、承知不承知に関係なく、むりやり自分の思い通りにするさま。強引なさま。 用法 文型「ダレダレは有無を言わせず〜する」「有無を言わせぬ <69> ナニナニ」。「有無を言わさぬ」とも言う。用例①④⑤のように「言い方」「口調」を修飾することもある。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「有無を云わさぬ云い方をすると」 ②『朝日新聞』(一九七九・七・一六朝)「あとは振りまわして体を入れかえ、ウムをいわせず寄り切った」 ③『朝日新聞』(一九七九・七・四朝)「足もとから鳥が立つように、有無をいわさず引っ越しに取りかかったという」 ④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「『助かるためだ。さっき親父にもいわれただろう、青臭い意見は聞きたくない』有無をいわさぬ口調だった」 ⑤森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「牛尾は有無を言わせぬ口調で言った」 類句 *雨が降ろうが槍が降ろうが *否が応でも *否でも応でも *是が非でも *何が何でも *何としても *火が降ろうが槍が降ろうが *理が非でも 外国語 英語では willy-nilly 中国語では成句「不由分说」(言い訳をさせず。「分说」は言い訳をする、弁解する) **恨み骨髄に徹する** 意味 人から受けた仕打ちゅえにその人を非常に深く憎む。心底から憎む。 用法 文型「ダレダレは恨み骨髄に徹する」。略して「恨み骨髄」とも言う。 用例 源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「こっちは、あいつの口車に乗ったばかりに、ボーナスはへらされる、昇給が遅れる。女房には、嫌味を聞かされる。いうなれば、怨み骨髄だよ」 類句 恨み骨髄に入る(『史記』秦本紀) 外国語 英語では hate someone's guts 中国語では成句「恨入骨髓」(恨み骨髄に徹する。「人」は徹する。「恨之入骨」ともいう) **恨みを買う** 意味 自分の言動が原因で他人に恨まれる。 用法 文型「ダレダレはダレダレから(の)恨みを買う」 用例 ①吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「いたずらに馬鹿者のうらみを買うは愚かである」 ②高杉良『人事権!』(一九九六)「別に恨みを買うような憶えはないと思うけどな」 ③「彼から恨みを買うような覚えはない」 外国語 英語では invite someone's rancor **裏目に出る** 意味 「裏目」はさいころの裏の目のこと。よかれと思ってしたことが逆の結果になってしまう。 用法 文型「ナニナニが裏目に出 <70> る」 用例 ①高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「高級品のイメージを高めるためという上層部の意見でおもちゃ売場をなくし、ゴルフやテニス用品売場をもうけ、呉服売場を拡張したのだが、裏目に出て、客足はなおさら遠のいた」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「長島監督の継投策がことごとく裏目に出た」 ③東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「彼にとってはそれが裏目に出たのかもしれないけど」 ④高杉良『人事権!』(一九九二)「気を利かせたつもりが裏目に出てしまった」 外国語 英語では backfire 中国語では成句「适得其反」(ちょうど反対の結果になる。「适」はちょうど) **裏をかく** 意味 相手の予想に反することをしたり相手の計略の反対に出たりして、相手を出し抜く、はぐらかす、だます。 用法 文型「ダレダレがダレナニの裏をかく」。用例②のように「ばかり」を挿入することができる。②③④のように受身形がある。〔江戸〕 用例 ①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「又裏を掻かれたのだ」 ②野間宏『真空地帯』(一九五二)「林中尉のやり方は陰けんで、小細工だらけで、ひとのうらばかりをかくやり方だった」 ③源氏鶏太『娘の中の娘』(一九五八)「道介のこの計算は、見事に裏をかかれた」 ④高杉良『人事権!』(一九九二)「河原女史に裏をかかれるとは夢にも思いませんでした」 類句 *あっと言わせる *泡を吹かせる *一杯食わす *意表を突く *度肝を抜く *鼻を明かす *一泡食わせる *一泡吹かせる 外国語 英語では outsmart **売り言葉に買い言葉** 意味 相手からの暴言や喧嘩腰の言葉に対して、負けずに暴言や喧嘩腰の言葉でもって言い返すこと。言い合いの中で双方とも感情的になって衝動的に言ってしまうこと。 用法 文型「売り言葉に買い言葉で〜」の形が多い。〔江戸〕 用例 ①『滑稽新聞』一号(一九〇一)「先方の悪口に対して相当の口答をすれば所謂売り言葉に買い言葉」 ②源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「そのあとは、売り言葉に買い言葉で、最後には、お前なんか離縁だ、この家から出て行け、と怒鳴った」 ③宇井無愁『豚マンの唄』(一九五二)「『(略)あんたがいなくたって平気よ。ちっとも困らない <71> わよ。』売言葉に買言葉で、『結構ですな。まあがんばって下さい。じゃ、ぼくはさよならしましょう、永久にね。』」 ④清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「売り言葉に買い言葉ではあったが」 外国語 英語では tit for tat **瓜二つ** 意味 瓜を縦に二つに割ったように、顔かたち・姿や性格などが非常によく似ていること。 用法 文型「ダレダレはダレダレと瓜二つ」 用例 ①与謝野晶子『激動の中を行く』(一九一九)「顔さえも個別的の特色を備えて真実の意味にて瓜二つというものはないのに」 ②江戸川乱歩『妖虫』(一九三三―三四)「おお、似ている。いや、そっくりだ。瓜二つだ」 ③『朝日新聞』(一九六〇・二・二三朝)「筋肉の盛りあがり、肩幅の広さ、体形、ちょっときかぬ気の顔だち、ウリ二つである」 ④東野圭吾『宿命』(一九九〇)「二人は二卵性双生児で、ふつうの双子のように瓜二つというわけではなかった」 類句 *他人の空似 外国語 英語では be as alike as two peas in a pod 中国語では成句「一模一样」(そっくり同じであるさま) **嬉しい悲鳴を上げる** 意味 悲鳴を上げるほどうれしいことが重なり、忙しく大変なことになる。 用法 文型「ダレダレがうれしい悲鳴を上げる」 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「『この調子だと、さ来年には新工場をつくらないと注文をこなしきれない』と、湯上さんはうれしい悲鳴をあげている」 ②『朝日新聞』(一九八〇・三・七朝)「『まるで家が占領されたみたい』と『家』の職員たちはうれしい悲鳴をあげている」 ③高杉良『人事権!』(一九九二)「家内が嬉しい悲鳴をあげてた」 類句 *音を上げる *悲鳴を上げる 外国語 英語では trouble one can enjoy **噂をすれば影** 意味 ある人の噂をすると、思いがけなく、偶然その人が現れるものだ。 用法 文型「うわさをすれば影(とやら)で」〔江戸〕 用例 ①国木田独歩『運命』(一九〇六)「噂をすれば影とやらで、ひょっくり自分が現われたなら」 ②佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九一三)「噂をすれば影と思うと」 ③石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「『野坂次郎さんが、久美子さんを訪ねておいでになりました』『うわさをすれば影(略)』」 <72> 類句 「噂をすれば影が差す」の略。 外国語 英語では Speak of the devil 中国語では諺「说曹操、曹操就到」(曹操の噂をすれば曹操が来る、噂をすれば影がさす。「说」は話す、噂をする。「到」は来る。「说到曹操、曹操就到」などともいう) **蘊蓄を傾ける** 意味 蓄えた深い知識をありったけ発揮し、人に語る。 用法 文型「ダレダレがうんちくを傾ける」 用例 『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「勤め先で同僚たちにうんちくを傾けるようなことはない」 **雲泥の差** 意味 「雲」は天、「泥」は地。両者の質・力・できなどが非常に大きくかけはなれて違いがあるさま。一方が大変よい時あるいは悪い時に言うことが多い。 用法 文型「ダレナニとダレナニとは雲泥の差がある」 用例 ①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「あの集金まわりの時とは、気持の上に、雲泥の差があった」 ②『朝日新聞』(一九八一・九・元朝)「経済的にも栄養的にも、スーパーに並んでいるそれとは、雲泥の差がある」 類句 「雲泥の開き」とも言う。 *足もとにも及ばない *足もとにも寄れない *及びもつかない *桁が違う *月とすっぽん *天と地 *歯が立たない 外国語 中国語では成句「天壤之別」(天地の差。「別」は差) **うんともすんとも** 意味 「うん」は肯定・承諾の返事で、「すん」はその語呂合わせ。相手が一言も言わないさま。全く応答・返事(音声・手紙など)がないさま。 用法 文型「ダレダレはうんともすんとも言わない」。後ろに打ち消しを伴う。〔江戸〕 用例 ①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八六九)「お園はウンともスンとも云わないから」 ②舟橋聖一『悉皆屋康吉』(一九五一―五二)「た、ジッとその方へ視線を投じたま、、うんともすんともいわなかった」 ③石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五二)「ウンともスンとも音さたがありませんな」 ④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「チャイムボタンの電源を切ってあって、呼んでも叩いても、うんともすんとも応答してくれない」 ⑤中村うさぎ『だって、買っちゃったんだもん』(二〇〇〇)「パソコンはそれっきり、ウンともスンとも言わなくなってしまった」 <73> **えたいの知れない** 意味 「得体」は正体。人や物事の素性・動き・力などが分からず、不気味・異様である。 用法 文型「ダレナニは得体の知れないダレナニ」。「得体の知れぬ」「得体が知れない」とも言う。 用例 ①太宰治『人間失格』(一九四八)「自分ははたから見て甚だ得態の知れない存在だったはずなのに」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「それこそ、その得体の知れない力に押しつぶされ」 ③『朝日新聞』(一九八〇・二・二三宝朝)「いまだ『えたいの知れぬ存在』である」 ④森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「なにをしているのか得体の知れない男だったが」 ⑤姉小路祐『合併裏頭取』(二〇〇一)「東洋銀行の動きに得体の知れないものを感じているからだ」 類句 *海のものとも山のものとも *つかみどころがない *とらえどころがない 外国語 英語では strange; mysterious **悦に入る** 意味 思い通りになったり、自分の趣味の物を眺めたりなどして満足して心の中で喜ぶ。にたりとする。 用法 文型「ダレダレは悦に入る」。「ひとり悦に入る」という言い方が多い。〔鎌倉〕 用例 ①火野葦平『土と兵隊』(一九三八)「素朴な村人達は我々を大いに歓迎してくれた。(略)我々は大いに悦に入った訳ではあるが」 ②源氏鶏太『目録さん』(一九五〇)「大槻におごったのは俺だけだろうと悦に入っていた部長」 ③槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九七六)「デパートで一日六円もかせぐ女房のマネキンぶりを、外交員の松下はこっそり観察しにいってはひとり悦にいっていた」 ④『言語生活』三二〇号(一九七九)「あれはおそらく本人も悦に入って書いてたと思いますよ」 ⑤本所次郎「閨閥」(二〇〇四)「春樹は独り悦に入り」 類句 *笑壺に入る **笑壺に入る** 意味 「悦に入る」に同じ。少し古くさい表現で、「悦に入る」が一般的。 用法 文型「ダレダレは笑壺に入る」。用例①のように多数の人に言うのはまれで、「ひとり笑壺に入る」と言うことが多い。〔鎌倉〕 <74> 用例 ①正岡子規『筆まかせ』(一八九七)「はじめより順々に封を開きければ標題を見て予想せしものとは打てかわりし品物のみなれば皆々笑壺に入りにける」 ②黒岩涙香『無惨』(一八八九)「谷間田は笑壺に入り『フム恐れ入たか(略)』」 ③徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九〇四)「可笑しい文字の遊戯に独笑壺に入った」 **絵に描いた餅** 意味 立派に見えても実際は何の役にも立たないことのたとえ。また実現の見込みがないことのたとえ。画餅。 用法 文型「ナニナニは画に描いた餅」〔江戸〕 用例 ①石坂洋次郎『石中先生行状記(完結編)』(一九四五)「どんなに波瀾に富んだ生活の物語であろうと、それが他人のものであるかぎり、絵に描いた餅のようなものである」 ②『朝日新聞』(一九七九・七・一七朝)「実現には障害も多く、ニクソン大統領の『エネルギー自立計画』同様、絵にかいたモチになりはせぬかという心配が先に立つ」 ③『朝日新聞』(一九八一・九・天朝)「過去の実績はともかく、現役大リーガーの金看板は絵にかいたモチでしかなかった」 ④内田康夫「博多殺人事件』(一九九一)「これがうまくゆくか、画に描いた餅に終わるか、いまはまさに、せめぎあいの真っ只中というわけですな」 ⑤本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「『実現性はどうなんだ』『絵に描いた餅ですよ』」 類句 *机上の空論 *砂上の楼閣 *畳の上の水練 外国語 英語では like wax fruit **絵に描いたよう** 意味 典型的であるさまをたとえて言う言葉。 用法 文型「ダレナニはダレナニを絵に描いたよう」 用例 ①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「ほんと、あの二人は精神主義より実利主義を絵に描いたような人たちですよ」 ②高杉良『指名解雇』(一九九七)「副社長のほうは全く逆で、石部金吉を絵に描いたような堅物ときている」 **得も言われぬ** 意味 言葉では何とも言い表せない。すばらしいこと・良いことに使う。 用法 文型「得も言われぬナニナニ」 用例 ①大下宇陀児『虚像』(一九五五)「口もとに、得も言われぬやさしさのあるのも特徴だったろう」 ②五木寛之『風に吹かれて』(一九七〇)「こういうギリギリの瀬戸際に半ば破滅的な気持で怠けるのは、得もいわれぬ快楽なの <75> だ」 ③『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「彼らは欧米スポーツと異質の日本独特のものに、えもいわれぬ味わい深さを感じとっているのだろう」 **襟を正す** 意味 衣服の乱れを正す意から転じて、心を引き締めて、また反省して物事に当たる。 用法 文型「ダレダレが襟を正す」。用例①のような使役形がある。 用例 ①『朝日新聞』(一九四六・二・玉朝)「これに関する故人の遺志はまさに襟を正させるものがある」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・八朝)「党幹部に『エリを正そう』という決意」 ③『朝日新聞』(一九七九・九・一〇朝)「政府はエリをただして経費削減を図れ」 類句 *姿勢を正す(体の姿勢の乱れを正す意から転じて、態度・行為を反省して改める) *褌を締め直す 外国語 英語では shape up **縁の下の力持ち** 意味 人目につかないところで、人・組織などを苦労して支えている人。 用法 文型「ダレダレは縁の下の力持ち」〔江戸〕 用例 ①『朝日新聞』(一九五天・五・二九朝)「あとの者は縁の下の力持ちになる」 ②『朝日新聞』(一九七九・へ・一八朝)「労組はもっぱら『縁の下の力持ち』に徹し」 ③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「彼等こそ縁の下の力持ちだ。フジ役をしたり、電話をかけたり、ベランダから飛びおりた私を助けあげたりね」 ④内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「博多の呉服商のイメージを脱却できずにいた天野屋を、とにもかくにも九州きっての近代型デパートにまで急成長させた『縁の下の力持ち』が」 外国語 英語では an unsung hero **縁もゆかりもない** 意味 全くの見ず知らずで何の関係もない。人がある人と何のつながりも関係もない。 用法 文型「ダレダレはダレダレと(は)縁もゆかりもない」〔江戸〕 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・二・二〇朝)「二人にとって烽火生産大隊は縁もゆかりもなく、訪れたこともなかった」 ②藤田宜永『転々』(一九九九)「私の夫とは縁もゆかりもない人です」 ③谷川涼太郎『京都嵯峨野花の殺人』(二〇〇一)「およそ華とは縁もゆかりもない八坂圭一郎を茶席に呼んでいる」 ④岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「あなたとは縁 <76> も所縁もない見ず知らずの子よ」 類句 *赤の他人 *見ず知らずの 外国語 英語では be a perfect stranger; have nothing to do with **追い討ちを掛ける** 意味 肉体的・精神的・物質的に打撃を受けて弱っている相手にさらに打撃を加える。相手の弱みにつけこんでさらにやりこめる。 用法 文型「ダレナニがダレナニに追い打ちをかける」 用例 ①『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「(略)と打ち出して役人の反発をかったばかりだが、全然気にしないで追い打ちをかけるところが」 ②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「浅見が追い撃ちをかけるように訊くと、紳士はいっそう険しい顔になった」 ③姉小路祐『合併裏頭取』(二〇〇一)「そのビルは流れからはずれるようになった。それに追い討ちをかけたのが、大学ラグビー部員による少女暴行事件だ」 外国語 英語では attack the routed enemy <77> **置いてきぼりを食う** 意味 置き去りにされる。 用法 文型「ダレダレが置いてきぼりを食う」 用例 源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「酒場ラッキイで、おいてきぼりを食って以来」 類句 「置いてけぼりを食う」が元の形。江戸本所七不思議の一つで、そこにあった池で釣りをすると、池の中から「置いてけ、置いてけ」という声が聞こえてくるというところから。 **王手が掛かる** 意味 将棋で敵の王将を攻め取る一手の段階に来たことから転じて、もう一歩で物事が成就する段階にあること。 用法 文型「ナニナニに王手がかかる」 用例 「優勝に王手がかかる」 **王手を掛ける** 意味 将棋で敵の王将を攻め取る一手を打つ意から転じて、物事を成就する一歩手前まで来る。またその最後の攻撃の手を打つ。 用法 文型「ダレダレがダレナニに王手をかける」。用例①のように受身形がある。 用例 ①『朝日新聞』(一九五九・(一制)「王手をかけられたからといって、ハッパをかける必要はない」 ②『朝日新聞』(一九六〇・八・二元朝)「800盗塁にあと一つと王手をかけながら、ロッテ戦の二試合は雨でお流れ」 ③『朝日新聞』(一九八一・六・二元朝)「優勝へ王手をかけたが」 ④森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「ついに犯人に王手をかけたのである」 ⑤津村秀介『京都銀閣寺の死線』(二〇〇〇)「和夫のアリバイを崩して、ストレートに、和夫に王手をかけたかったのですがね」 **多かれ少なかれ** 意味 ある物事が、多い少ないの差はあっても存在することを言う。 用法 文型「多かれ少なかれ〜」。副詞的に後ろの述語を修飾する。 用例 ①『朝日新聞』(一九五〇・一〇・一四朝)「世の中が複雑になると、だれもが多かれ少なかれ、閉塞された心理状態にある」 ②田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)「ヨーロッパの国語は、多かれ少なかれ、同じ機能を持っているといってよいだろう」 ③『朝日新聞』(一九八〇・四・九朝)「一般の企業でも多かれ少なかれ、公私混同がないとはいえない」 ④大沢在昌『心では重すぎる』(二〇〇〇)「刺激的 <78> な人生を好む人というのは、多かれ少なかれ、そうした事象を自分に惹きつけるものです」 類句 *犬なり小なり 外国語 英語では more or less **大きなお世話** 意味 他人からの助け・世話や言葉などを無用として、拒否してののしって言う言葉。余計なお節介。してほしくない世話。 用法 文型「ナニナニは大きなお世話」〔江戸〕 用例 ①若林真紀『この恋が実らなくても』(一九九〇)「『ブラウス、キツいんじゃないの?背中がピチピチだゾ』どこまでもカワイクないヤツ。『大きなお世話よ!ほっといてくれない?』」 ②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「それこそ大きなおせわというものです」 ③東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「慣れない土地だから、雨の日は運転を控えたほうがいいとかいってくる。まるで老人扱いだ。大きなお世話ってもんだよ」 外国語 英語では Mind your own business 中国語では成句「多管闲事」(余計なおせっかいをする。「多管」は不必要に立ち入る。「闲事」は自分に関係のないこと) **大きな顔をする** 意味 いばって偉そうな顔をする。横柄な顔をする。また、そのような態度を取る。そういう人を非難して言う言葉。 用法 文型「ダレダレが大きな顔をする」。用例③のように禁止形がある。〔江戸〕 用例 ①都筑道夫『脅迫者によろしく』(一九七九)「大きな顔をして、あすこに納まりかえっているわけじゃないんですよ」 ②高杉良『濁流』(一九九六)「開設されて間もない支局の若造支局長が大きな顔をして運転手付の専用車を乗り回しているが」 ③「それくらいのことで大きな顔をするな」 ④「あの野郎、大きな顔をしてのさばり歩いている」 類句 大きな面をする」は「大きな顔をする」をさらに侮蔑した言い方。*幅を利かせる *羽振りを利かせる 外国語 英語では give oneself airs **大きな口を利く** 意味 偉そうなこと言う。自分のもっている力以上のことができるかのように言う。非難して言う言葉。 用法 文型「ダレダレが大きな口を利く」。用例のように可能形がある。 <79> 用例 山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「他の執筆者の人達の人選にまで口を挟むとは、何時の間にそんな大きな口をきけるようになったのかね」 類句 「大きな口を叩く」は「大きな口を利く」よりも侮蔑した言い方。「大口を叩く」 外国語 中国語では慣用句「说大话」(大きなことを言う、ほらを吹く。「说」は言う。「大话」は大きな話、ほら) **大口を叩く** 意味 「大きな口を利く」に同じ。 用法 文型「ダレダレが大口を叩く」。用例②のように可能形がある。「おおくちをたたく」とも。〔江戸〕 用例 ①『朝日新聞』(一九六二・二・二四朝)「『なんだか勝てるような気がしてきた。必ず三十戦までには倒して見せる』と大口をたたくありさま」 ②高杉良『濁流』(一九九六)「いくら酒の上とはいえ、わずか四カ月かそこらで、これだけ大口を叩けるようになったのだから」 類句 「大きな口を叩く」とも言う。 外国語 英語では brag 中国語では慣用句「说大话」(大きなことを言う、ほらを吹く。「说」は言う。「大话」は大きな話、ほら) **大手を振る** 意味 周囲に遠慮することなく、堂々と大いばりで行動する。 用法 文型「ダレナニが大手を振って歩く」と言うことが多い。〔江戸〕 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「老兵は消えていく。おとうさん、私たちが大手をふって生きられた時代はもう過ぎ去ったようです」 ②『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「エネルギー開発最優先論は大手を振って歩き出す」 ③姉小路祐『走る密室』(一九九四)「刑事責任は問われないままに終わった。(略)そのあとは大手を振って娑婆に出ている」 類句 *胸を張る 外国語 英語では walk with one's head held high **大船に乗る** 意味 信頼できるものに身を任せてすっかり安心するたとえ。 用法 文型「大船に乗ったよう」「大船に乗ったつもり(気持ち)」などと言う。〔江戸〕 用例 ①林不忘『へのへのもへじ』(一九二五)「百も承知、二百も合点。まア、大舟に乗った気で、いろよ」 ②藤原審爾『みんなの見ている前で』(一九五七)「なんとか身の立 <80> つようにしてやるから、大船にのった気で、打身がなおるまで、ゆっくり養生しねえ」 ③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「先生にお引き受け戴いたら、もう大船に乗ったようなもんですわ」 ④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「気にしないで、大船に乗ったつもりでいてよ」 類句 *親船に乗る 外国語 英語では be as good as home **大見得を切る** 意味 歌舞伎で見得(大仰な表情・動作)を演じることから転じて、人前で大げさな言動で相手を圧倒するように自信のほどを言う。 用法 文型「ダレダレが大見得を切る」 用例 ①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「『むろん、事件を解決して、犯人を捕まえるつもりです」浅見は大見得を切った」 ②「みんなの前で大見得を切った以上、引き下がれない」 類句 *見得を切る 外国語 英語では put on an impressive show **大向こうを唸らせる** 意味 「大向こう」は劇場の立ち見席のこと。目の肥えた客が多いと言われた。その客を「うまい」とうならせることから、一般に、ある事柄に対して多くの人々を感心させる。また芸に限らず、大衆の喜ぶようなことをして評判を取る。 用法 文型「ダレナニは大向こうをうならせる」 用例 ①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「昨夜の事件は、実に早く、素晴らしくものの見事にやってのけて、大向うをうならせたかも知れないが」 ②『朝日新聞』(一九七九・六・一三朝)「大向こうをうならせるような二、三の協定をひそかに目指していた」 ③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「杉野が曽根田や武井と一緒にゴルフをするのは大向うをうならせるための手段であり計算ずくなのだ」 外国語 英語では bring down the gallery **大目玉を食う** 意味 失敗・過ち・してはならないことをして、地位や年齢などが上の人にひどく叱られる。 用法 文型「ダレダレがダレダレの(から)大目玉を食う」 用例 ①夢野久作『山羊髯編輯長』(一九三四)「後家のお近婆さんだけは大目玉を喰っただけで無罪放免をされた」 ②「父の大切な皿を割って、父の大目玉を食った」 <81> 類句「大目玉を食らう」「大目玉を頂戴する」とも言う。「お目玉を食う」「雷が落ちる」 **大目に見る** 意味 本当はよくないが、まあこれでもいいということにしておく。寛大に見る、扱う。厳しくとがめだてない。 用法文型「ダレダレがダレナニを大目に見る」。命令・意志表現は可能。用例②のように受身形がある。〔江戸〕 用例①山口瞳『結婚します』(一九六五)「そういう所で遊ぶのは奥さんも大目に見てはりますわ」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「古代ギリシャの婦人は劇場に入るのを禁じられていた(略)が、ハンドバッグを持つことは大目に見られていた」③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「手紙のひそかなやりとりなどを大目に見て見ぬふりをしている」④斎藤栄『日美子の公園探偵』(11001)「日美子は顔をしかめたが、あたりに乳幼児の姿がなかったので、大目に見ることにした」 類句「見て見ぬ振り」「目をつぶる」外国語 英語では give someone a break **お株を奪う** 意味ある人の得意とすることを、別の人が同じように、あるいはそれ以上にうまくやってのける。それによって評判を取る。 用法文型「ダレダレがダレナニのお株を奪う」。用例③のように「お株を」と「奪う」の間に語句を挿入できるが、①のように長いものはまれである。④のように受身形がある。命令・意志表現は可能。 用例①井上靖『氷壁』(一九五六—五七)「饒舌のお株を、いつの間にか相手から自分が奪っている格好であった」②池島信平『雑誌記者』(一九六)「『文芸春秋』のお株を奪ったような新雑誌が生まれたが」③『朝日新聞』(一九八〇・三・11朝)「理詰めの相撲を売り物にしている三重ノ海のお株を完全に奪ってしまった」④『朝日新聞』(一六〇・四・二三朝)「防衛を出さないと民社党あたりにお株を奪われる」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「デカのお株を奪おうというわけですか」 外国語英語では beat someone at his own game **お灸を据える** (意味)もぐさに火をつけて治療することから転じて、相手をこらしめるために厳しく戒めたり罰を与えたりする。 用法文型「ダレダレがダレダレにお灸を据える」。用例①②のように「お灸」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。①のように受身形がある。「灸を据える」とも言う。 用例①『滑稽新聞』一三号(1201)「縦令警察へ引張られて三日のお灸を据えられた処で」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「いやみなお灸をすえて、江梨香が平謝りに謝れば許すつもりだったのかもしれない」③高杉良『人事権!』(一九九二) 「いい気になり過ぎてるからちょっとお灸をすえてやってもいいんじゃないかとわしはかねがね思っとったに過ぎん」 類句「焼きを入れる」外国語 英語では put the fear of God in someone <82> 「ダレダレがダレダレにお灸を据える」。用例①②のように「お灸」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。①のように受身形がある。「灸を据える」とも言う。 用例 ④『滑稽新聞』一三号(1201)「縦令警察へ引張られて三日のお灸を据えられた処で」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「いやみなお灸をすえて、江梨香が平謝りに謝れば許すつもりだったのかもしれない」③高杉良『人事権!』(一九九二) 「いい気になり過ぎてるからちょっとお灸をすえてやってもいいんじゃないかとわしはかねがね思っとったに過ぎん」 類句 「焼きを入れる」 外国語 英語では put the fear of God in someone **屋上屋を重ねる** 意味 屋根の上に更に屋根を重ねるということから、既にあるのに、同じようなことを重ねてむだをするたとえ。 用法 文型「ナニナニは屋上屋を重ねる」。「屋上屋を重ねるような」と言うことが多い。 用例 『朝日新聞』(一九六〇・九・五朝)「新たに閣僚会議を設けても屋上屋を重ねるだけ」 類句 「屋下に屋を架す」「屋上屋を架す」 外国語 中国語では成句「屋上架屋」(屋上に屋を架す) **屋上屋を架す** 意味 「屋上屋を重ねる」に同じ。 用法 文型「ナニナニは屋上屋を架す」。「屋上屋を架すような」と言うことが多い。 用例 網島梁川『国民性と文学』(六六)「之を以て今の作家に擬するは屋上屋を架するの愚を演ずるものにあらざるか」 **奥歯に物が挟まった** 意味 言うべきこと、言いたいことをすべて言ってしまわず、心の中に何かを隠しているさま。または遠慮しているようで、率直でない、明確でない物言いのさま。 用法 文型「奥歯に物がはさまったような言い方(調子。表現)」。「奥歯に物がはさまったように言う」とも言う。「何(だ)か」がこの句を修飾することが多い。〔江戸〕 用例 ④江戸川乱歩『盗難』(一九五)「そりゃあいやな言い方でしたよ。なんだか変に奥歯に物がはさまったような調子で」②篠田鑽造『明治百話』(11)「山田美妙だけは、何だか奥歯に物がはさまっていた」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九ェニー)「何か、奥歯に物のはさまっ <83> **愛気にも出さない** 意味「おくび」とはげっぷのこと。ある物事、思っていること、したことなどを隠して少しも口にもそぶりにも出さない。 用法文型「ダレダレはナニナニをおくびにも出さない」「ナニナニをおくびにも出さず」〔江戸〕 用例①夢野久作『殺人リレー』(一九듦)「新高さんはソンナ事をオクビにも出さないんですけどね」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六金)「石橋を叩いても渡らぬほどの臆病な性格であったが、そんな気振は愛にも出さず」③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一六0)「常々夫から仕事の出来の悪い上役だと聞かされていても、そんなことはおくびにも出さずに、丁重に型通りの挨拶をする」④『朝日新聞』(一九一・九・三朝) 「胸の内は自力優勝の望みがないもどかしさでいっぱいに違いないだろうが、おくびにも出さぬあたりさすが」⑤内田康夫『御堂筋殺人事件』(一九九〇)「そんなことはおくびにも出さなかった」 外国語 英語では never give the slightest indication **臆面もなく** (意味) 恥を知らず、図々しくも。気後れする様子もなく。非難する言葉。 用法文型「ダレダレは臆面もなく~する」 用例)『朝日新聞』(一九七九・七・二七朝)「彼は議員辞職後も臆面もなく次期総選挙に立候補すると意思表示した」 (外国語 英語では boldly; impudently **後れを取る** 意味競争で遅れる意味から転じて、物事の進展が他より遅れる。能力・技量などが相手より劣ったり負けたりする。「遅れを取る」とも書く。 用法文型「ダレダレはダレダレに後れをとる」〔室町〕 用例①『朝日新聞』(一九七九・七・一八朝)「ついつい世間に後れをとるようなことになって」②『朝日新聞』(一九八〇・六・三〇朝)「二十九日現在で七本と、同僚の新人岡田(八本)にも後れを取る始末だ」③『日本経済新聞』(一九六〇・二・九朝)「現地の信頼をつなげず、ライバルの欧米諸国に後れをとってしまう」 (外国語 英語では fall behind <84> **お先棒を担ぐ** 意味「お先棒」とは、二人で担ぐ駕籠の前の方を担ぐ人のこと。軽々しく人の手先になって、心にもないお世辞を言ったり、その通りだと相槌を打ったりして軽はずみに振る舞う。その人のために先走って動く。そういう行為を非難する言葉。 用法文型「ダレダレがダレナニのお先棒を担ぐ」。「先棒を担ぐ」とも言う。 用例①『朝日新聞』(一九六〇・三・一九朝)「一票につられて地方のお先棒をかつぐのはやめてほしい」②『朝日新聞』(一六一・二・二六朝)「第三セクターは国鉄のローカル線赤字を地元で負担するのに等しいのに、岩手県がお先棒をかつぐことはない」③高杉良『会社蘇生』(一九七)「サンライト工機にしても、小川商会のお先棒を担いでコスモス・グループに一杯くわせたようなものでしょう」④「軍国主義のお先棒を担いだ人たち」 類句「提灯を持つ」 **お里が知れる** 意味言葉遣いや立ち居振る舞いを見れば、その人の生まれ育ちや環境・経歴が分かる。多くは上品ぶっている者をあざけるような否定的なニュアンスで使用。 用法文型「~するとお里が知れる」〔江戸〕 用例①坪内逍遙『当世書生気質』(一八八五八六)「遊ばせ言葉を吐くといえども、一目瞭然、お里がしれ、其心ざまも見らるるならずや」②「食事のマナーを見ると、お里が知れる」 (外国語 英語では reveal one's upbringing **押し合いへし合い** 意味「へす」は押すの意。狭い場所に大勢の人が入り乱れて混雑する。 用法文型「ダレダレが押し合いへし合いする」。ダレダレは複数の人。〔江戸〕 用例①角田喜久雄『高木家の惨劇』(一盗七)「駅へつく度に、乗り降りの客で、一時は押し合いへし合いしなければならなかった」②開高健『流亡記』(一九)「せまい畦道をわれさきにと逃げるために私たちはおしあい、へしあいし」③内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「売場に戻ろうとする女店員たちが押しあいへしあい、鏡とにらめっこで化粧を直している最中だった」 <85> 類句「芋の子を洗うよう」「芋を洗うよう」「上を下への大騒ぎ」「押すな押すな」「蜂の巣をつついたよう」 **押しの一手** 意味目標達成のために強引に押し進むこと。ただひたすら押して押して押しまくるという攻勢一点張りの態度。 用法文型「ダレダレが押しの一手で~する」 用例①高見順『故旧忘れ得べき』(一九六)「ここからはもう押しの一手だという気持を足の運びに出しているみたいな大股でプラットフォームをのッしのッしと歩くのだった」②源氏鶏太『一寸の虫』(10) 「嫌われようが、敬遠されようが、押しの一手で、何んとでもして、もういちど、会社勤めがしたいのである」 (外国語) 英語では with dogged persistence **押しも押されもしない** (意味)誰が見ても実力があって他をしのぎ、堂々としてゆるぎのないさま。 用法文型「ダレダレは押しも押されもしないダレナニ」。「ダレナニ」にどういう人物かを表す言葉が来る。〔江戸〕 用例①里見弴『桐畑』(10)「岩本の名は、現文壇に押しも押されもしない新進の中堅となっていた」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「押しも押されもしない超一流の横綱に成長した」③池田弥三郎『郷愁の日本語』(一九一)「わたしの家は、同業の中では、押しも押されもしない、東京で一といって二とくだらない店になっていた」④内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「あの先生も、ウチあたりで連載が始まれば、押しも押されもしない大作家の仲間入りということだったろうにねえ」 類句「押しも押されもせぬ」とも言う。外国語 英語では unchallenged **押しも押されもせぬ** 意味「押しも押されもしない」に同じ。 用法文型「ダレダレは押しも押されもせぬダレナニ」。「ダレナニ」にどういう人物かを表す言葉が来る。〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「財前助教授ともなれば、いくら教授の女房役とはいえ、もはや学外では、押しも押されもせぬ食道外科の大家だから」②『朝日新聞』(一九六一・九・二朝)「押しも押されもせぬ今の人気につながったのは」③姉小路祐『走る密室』(一九盗)「稲尾は、野武士集団西鉄ライオンズの、押しも押されもせぬ鉄腕エースだった」 <86> **お尻に火が付く** 意味「尻に火が付く」に同じ。「お」をつけて丁寧に言ったもの。 用法前に状況を表す言葉が来る。 用例『朝日新聞』(一九六〇・七・二七朝)「最下位中日との差はこれで4ゲーム、おシリに火がついてきた」 **お尻を叩く** 意味「尻を叩く」に同じ。「お」をつけて丁寧に言ったもの。 用法文型「ダレダレがダレダレのお尻を叩く」 用例『朝日新聞』(一九七九・八・一四朝)「母親が勉強、勉強と、こどものおしりをたたいているとき」 **押すな押すな** (意味)店や劇場などに人々が先を争って大勢詰めかけて大盛況・大騒ぎのさま。 用法文型「ドコナニは押すな押すなの大盛況(大騒ぎ)」 用例①『朝日新聞』(一九六二・二・三四朝)「どの店も、K君のような試験対策委員や若者らで押すな押すなの盛況だ」②斎藤栄『鎌倉湘南殺人ワールド』(一九九六)「次々に人並みが押し寄せて、時間によっては、大船駅が押すな押すなの騒動になることも珍しくなくなっていた」③高杉良『首魁の宴』(一九六)「〝杉野良治書道展』は押すな押すなの大盛況で」 類句「芋の子を洗うよう」「芋を洗うよう」「上を下への大騒ぎ」「押し合いへし合い」「蜂の巣をつついたよう」 **遅かれ早かれ** 意味時期が遅い早いの差はあってもいずれは。やがては。早晚。 用法文型「遅かれ早かれ~する」。副詞的に後ろの述語を修飾する。〔江戸〕 用例①里見弴『多情仏心』(一九三三三)「こんなことをしているうちは、おそかれ早かれ、どこからか信之の耳に入ることも」②志賀直哉『晩秋』(一九天)「今は遅かれ早かれ埒のあく問題だったから」③『朝日新聞』(一九至七・一一・五朝)「遅かれ早かれ結局は競争者にけおとされ」④大沢在昌『悪夢狩り』(一九盗)「遅かれ早かれ、マスコミが嗅ぎつけるさ」⑤吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(100g徳間文庫版)「ちゃんとした年ごろのお嬢さんと結婚する道を、遅かれ早かれ選ぶのは間違いないわ」 <87> (外国語 英語では sooner or later **おだを上げる** 意味「おだ」は「お題目」の略。南無妙法蓮華経を唱えることから転じて、得意になって勝手なことを盛んに言う。また、気の合う何人かが集まって盛んに談笑する。 用法文型「ダレダレがおだを上げる」 用例①久生十蘭「魔都』(一九七―三人) 「よせばいいのにあの馬鹿野郎は、無礼だの、失礼だのとオダをあげるもんだから」②角田喜久雄『怪奇を抱く壁』(一盗六)「真昼間からこれ見よがしにウイスキーのコップを並べてオダをあげている闇屋風の二人」③石坂洋次郎『石中先生行状記』お化け大会の巻(一九四九―五○)「お化けが煙草を吹かしてオダをあげてちゃ困るよ」 類句「気炎を上げる」「気炎を吐く」「気勢を上げる」「メートルを上げる」 **お茶の子さいさい** 意味「お茶の子」はお茶菓子。腹のたしにならぬもの。俗謡のはやしことば「のんこのさいさい」のもじり。人が容易にできること。たやすいこと。「おちゃのこ」とも言う。(用法)文型「ナニナニ(ぐらい)はお茶の子さいさい」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―人九)「況んや叔母の意見に負く位の事は朝飯前の仕事、お茶の子さいさいとも思わない」②坂口安吾『心霊殺人事件』(一九蓋)「暗闇で怪奇現象を見せるぐらいお茶の子さいさいというものだ」③花井愛子『ふたり時間』(一六九)「百合だって8年キャリアの社会人トークでの対応ぐらいお茶の子サイサイだ」 類句「赤子の手をひねる」「お安い御用」「世話がない」「屁の河童」(外国語 英語では a very easy job **お茶を濁す** (意味)茶道の作法を知らぬ者が適当に茶を立ててつくろうことから、いい加減な発言ややり方によって、その場を適当にごまかしつくろう。 用法文型「ダレダレが〜して(で)お茶を濁す」。~に手段・処置・行為などが入る。〔江戸〕 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(八七0-七六)「その階梯にとりつきて大略お茶を濁すものなり」②夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九金)「表面は焼いたふりをして、実は焼かずに元の穴へ納めて、巻物の供養を大々的にやったりしてお茶を濁しておいた」③池島信平『雑誌記者』(一人)「まことに曖昧モコとした返事をして、お茶を濁している」④『朝日新聞』(一九七九・三・五朝)「それをいいかげんにお茶を濁していたのでは、それこそただの政権亡者のそしりを免れない」⑤『朝日新聞』(一九六〇・五・110朝)「決して実のある話はしないで、雑談でお茶を濁している」⑥内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「笠野は仕事に張りを失った。(略)その場凌ぎでお茶を濁してきた」 (外国語 英語では pussyfoot <88> **乙に澄ます** 意味妙に気取っている。よく見せようとすましたりもったいぶったりする。 用法文型「ダレダレが乙に澄ます」 用例①内田百間「漱石山房の元旦」(一些九)「謡は乙に澄ましているからいやだ」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八一五九)「乙に澄まし込んだ高級食堂よりも」③野坂昭如『てろてろ』(一九七二)「龍子はモデル上がりのデザイナーで、うわべ乙に済まして、ポーズばかりつくっていると」 類句「乙に澄まし込む」とも言う。「格好をつける」 **男冥利に尽きる** 意味 男に生まれて最高に幸せである。 用法文型「~て男冥利に尽きる」。「男の冥利に尽きる」とも言う。〔江戸〕 用例①志賀直哉『邦子』(一九二七)「男の冥利に尽きる話だ」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九八五九)「あたしみたいないい女から、こんなふうにいわれて、男冥利につきる、と思わないの?」③森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「男冥利に尽きるような進展はないだろうが」④高杉良『人事権!』(一九九二)「この話どう思う。男冥利に尽きるとは思わないか」 **同じ穴の狢** 意味違うように見えて実は同類の者であること。同類の悪党。悪者について言う。 用法文型「ダレダレも同じ穴のむじな」 用例①与謝野晶子「選挙に対する婦人の希望」(一九一七)「一朝政権を握れば憲政会自身がまた官僚主義者たるこことにおいて同じ穴の狸であることを掩蔽し」②源氏鷄太『坊っちゃん社員』(一九ェニー五三)「三人とも、同じ穴のムジナですからね」③『朝日新聞』(一九一・三・三朝)「少しは骨があるのではと見えた福田首相も同じ穴のムジナだ」④大藪春彦『ザ・刑事』(一九六五)「荒木だっておなじ穴の狢じゃないか」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「こいつ、同じ穴の狢だったのね」 (類句「一つ穴の狢」とも言う。外国語英語では birds of a feather *中国語では成句「一丘之貉」(同じ穴の狢) <89> **同じ釜の飯を食う** 意味親しい仲間として一緒に生活したり同じ職場で働いたりする。「同じ釜の飯を喰う」とも書く。 用法文型「同じ釜の飯を食ったダレダレ」「ダレダレはダレダレと同じ釜の飯を食った仲間」。多くは過去形で使用。 用例①和田傳『鰯雲』(一九五七)「同じ釜の飯を食いながらセッセと貯めこんでいるその根性も忌々しいのである」②『朝日新聞』(一九六〇・五・二七朝)「同じカマのメシを食ってきた自民党の同僚までが足を引っぱるとはね」③山川静夫『私のNHK物語』(一九九겊)「それは、同じ釜の飯を喰った同期生十六人の別れの時でもあった」④南英男『地獄遊戯』(1100三)「おれたち、同じ釜の飯を喰った仲じゃないか」 類句「一つ釜の飯を食う」とも言う。外国語 英語では live under the same roof **鬼が出るか蛇が出るか** (意味)何が起こるかまったく予想がつかないこと。多くは恐ろしいことに言う。 用法文型「鬼が出るか蛇が出るか」。独立した一文として用いられる。 用例①谷恒生『闇呪』(11000)「鬼が出るか蛇が出るか楽しみなことさ」②内田康夫『秋田殺人事件』(11001)「でもまあ、鬼が出るか蛇が出るか、楽しみにして行ってみますわ」③清水一行『ITの踊り』(100m)「合併事務局の全員が会議室に招集された。鬼が出るか蛇が出るか」 **鬼に金棒** 意味鬼は何も持っていなくても強いのに、金棒を持てばさらに強くなる。そのようにただでさえ強いのに、それを手にすればさらに強くなり、だれもかなわなくなることのたとえ。また人が既に備え持っているすばらしいものに加えて、新たにそれにふさわしいものを持って、一層人より抜きん出るたとえ。 用法文型「~れば鬼に金棒」。述語として用いられる。〔江戸〕 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九盃-歪)「独身で、男ぶりが悪くなく、気性もさっぱりしている上に、金があるときているから、まさに、鬼に金棒、どこへ行っても、杉さん杉さんで、大もてである」②『朝日新聞』(一尖一・三・五朝)「そんな巨体の上にわざがうまく、小わざまでマスターされて鬼に金棒である」③『相撲界』復刊一号(一六〇・八)「身長一メートル八七センチに対して、体重は一○三キロは、あと二○キロ増えてもいい。実現すれば「鬼に金棒』となる」④『朝日新聞』(一九六二・五・三朝)「いま池田コーチの指導でフォークボールを練習中。マスターできればオニに金棒か」⑤広山義慶『極悪ゆさぶり編』(一九九迄)「ハイエナが一枚噛んでくれたら、鬼に金棒ですわ」 <90> ても、杉さん杉さんで、大もてである」②『朝日新聞』(一尖一・三・五朝)「そんな巨体の上にわざがうまく、小わざまでマスターされて鬼に金棒である」③『相撲界』復刊一号(一六〇・八)「身長一メートル八七センチに対して、体重は一○三キロは、あと二○キロ増えてもいい。実現すれば「鬼に金棒』となる」④『朝日新聞』(一九六二・五・三朝)「いま池田コーチの指導でフォークボールを練習中。マスターできればオニに金棒か」⑤広山義慶『極悪ゆさぶり編』(一九九迄)「ハイエナが一枚噛んでくれたら、鬼に金棒ですわ」 類句 「弁慶に薙刀」 外国語 英語では the strength of Samson 中国語では成句「如虎添翼」(トラに翼を添えたよう) **鬼の居ぬ間の洗濯** 意味 主人や監督者など気を使わなくてはならない人や恐い人がいない間にくつろぐこと、息抜きをすること。 用法 単独で述語として使われる。「鬼の居ぬ間に洗濯」「鬼のいない間に洗濯」とも言う。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「鬼のいぬ間の洗濯で、要領よく大いに休養させて貰うことだよ」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「奥さんがいなくてもそうなの。あなたは真面目だから、鬼の居ぬ間の洗濯なんて、考えない人なんだ」③山口香『蜜欲秘書課長』(100三)「『きょうは会社には帰ってこないと言っていました』『それはちょうどいい・・・鬼のいぬまの洗濯をしようか?』」 類句 「鬼のいない内に洗濯」とも言う。 外国語 英語では When the cat's away the mice will play **鬼の霍乱** 意味 「霍乱」は日射病(熱中症)、暑気あたり、または激しい下痢・吐き気を伴う急性胃腸病のこと。日頃元気で病気などしそうにない人が、思いがけなく病気になることのたとえ。 用法文型「ダレダレが鬼の霍乱」。「まるで」「まさに」などが「鬼の霍乱」を修飾することが多い。〔江戸〕 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五三)「桑原さんが、どうした間違いからか、十数年振りで風邪をひき、たった五日間だけ会社を休んだ。社員たちは欣喜雀躍して、『ああ、まさに鬼のかくらんである』と、噂し合い」 **鬼の首でも取ったように** 意味 この上もないすばらしい手柄、大きな <91> 手柄を立てたように得意になっているさま。冷やかしの言葉。 用法 文型「鬼の首でも取ったように~する」。用例③のように「鬼の首でも取ったような」とも言う。〔江戸〕 用例 ④上司小剣『兵隊の宿』(一九二五)「田舎の新聞へ偶に自分の名が出ると、鬼の首でも取ったようにして、持って来て見せびらかす旦那の仕業が」②浜尾四郎『殺人鬼』(一一)「私は鬼の首でも取ったようにこの自分ながらすばらしいと思われるロジックにかじりついた」③沢村貞子『貝のうた』(一宍九)「大事にしまっておいた古い錦絵の若女形を指して、父は鬼の首でも取ったような勢いだった」④『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「野党のみなさんも、汚職発覚のたびに鬼の首でも取ったように騒ぎたてるだけ」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「とにかく軽挙妄動しないでくれ。まして鬼の首でも取ったように言いふらすのはよくないぞ」 類句 「鬼の首を取ったよう」とも言う。 外国語 英語では as if one were a conquering hero **鬼の目にも涙** 意味 無慈悲・冷酷な人でもときには情に打たれて涙を流すこともあるというたとえ。 用法 単独で使用。〔室町〕 用例 「厳しいコーチももらい泣きした。鬼の目にも涙だ」 **尾羽打ち枯らす** 意味 鷹の尾と羽が傷んだ姿から、羽振りのよかった人が落ちぶれてみすぼらしい姿になる。零落する。 用法 文型「ダレダレが尾羽打ち枯らす」〔江戸〕 用例 ①横溝正史『薔薇王』(一九)「かりにも子爵家の縁者につながるからには、たとい尾羽打ち枯らしたとしても、もっと毅然たる風格こそ望ましいではないか」田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(11001)「学位をとるどころか、尾羽打ち枯らし着の身着のままの帰国だ」 類句 「見る影もない」「身を落とす」「身を沈める」 **お鉢が回る** 意味 ご飯を盛る順番が回ってくることから転じて、何かの役や仕事の順番が自分の所に回ってくる。 用法 文型「ダレダレにお鉢が回る(回ってくる)」。用例⑥のように「お鉢」の前にどんな役・仕事かを表す言葉が来ることがある。〔江戸〕 <92> **尾鰭が付く** (意味)事実以外のことが種々付け加わって話がおおげさになる。 用法文型「ナニナニに尾ひれがつく」。ナニナニは「話」など。(〔江戸〕用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「口から口へと噂されているうちに、何時の間にか尾鰭がつき、柳原は英雄扱いにされていた」②『言語生活』三一三号(一九七七)「女子高校生が何気なく言った話に尾ひれがついて広がった」③『朝日新聞』(一九七九・六・二天朝)「『三人姉妹で、いま出ているのは百メートルを十二秒で走る末っ子だ』などと、だんだん尾ひれがついて」 外国語 英語では get blown up **尾鰭を付ける** (意味)事実以外のことを種々付け加えて話をおおげさにする。 用法文型「ダレダレがナニナニに尾ひれをつける」。用例①のように受身形がある。〔室町〕 用例①野間宏『真空地帯』(一二)「木谷のうわさは無責任にもいよいよ尾ひれをつけられ」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一杂一)「彼は昨夜見た維子の発作騒ぎを、尾鰭をつけて話すだろう」③「話に尾ひれをつけて言う」 外国語 英語では exaggerate *中国語では成句「添枝加叶」(話に枝を添え葉を加える。「叶」は葉。「添油加醋」とも言う) **オブラートに包む** (意味) 相手が気を悪くしたり刺激を受けたりしないように婉曲的な表現をする。「オブラート」はドイツ語 Oblate。 用法文型「ダレダレがナニナニをオブラートに包む」。ナニナニは表現に関する言葉。 <93> 用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九五) 「ホントウに解放された青天井の人間になれ……………と言う宣言を、新生のまま民衆にタタキつけたのが基督で、オブラートに包んで投り出したのが孔子で」②東野圭吾『卒業』(一六六)「気持ちのいい男だが、言葉をオブラートに包もうとしない」 類句「オブラートにくるむ」とも言う。 **お神輿を上げる** 意味「みこし」と「腰」をかけた洒落。なかなか帰りそうになかった人が腰を上げて、そこから帰る。 用法文型「ダレダレがおみこしを上げる」。「みこしを上げる」とも。〔江戸〕 (用例 角田喜久雄『高木家の惨劇』(1盗七)「それからたっぷり一時間。何時お神輿をあげる気か、さっぱり見当がつきませんね」 類句「重い腰を上げる」「腰を上げる」「みこしを上げる」 **お目に掛かる** (意味) 目上の人にお会いする。ある状況に出会う。また人・物に出会うことをからかい気味に言うことがある。 用法文型「ダレダレがダレナニにお目にかかる」。用例⑤のような「お目にかかれない」と可能打ち消し形がある。〔室町〕 用例①『朝日新聞』(一九奀・七・三朝)「マナスル登山隊の一行が天皇陛下にお目にかかった時の写真を見て」②開高健『パニック』(一九五七)「この優美な残酷さには山で何度ももお目にかかったことがある」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「今夜中に先生にお目にかかりたい用件がありますので」④『朝日新聞』(一九七四・10・1回朝)「『巨人ぎらい』の話を聞いても、『長島ぎらい』の人にお目にかかったことはない」⑤『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「もうかっている公共交通にはお目にかかれなかった」 **お目に掛ける** (意味) 目上の人にお見せする。また人に見せる。 用法文型「ダレダレがダレダレにダレナニをお目にかける」。命令・意志表現は可能。〔安土桃山〕 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「信ずるに値するいくつかの統計をお目にかけよう」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「手妻をお目にかけましょうか」 <94> **重い腰を上げる** 意味なかなか行動を起こそうとしない人・組織などがやっと動き出す。あまり気が進まないことに、いやいやながら取りかかる。 用法文型「ダレダレが重い腰を上げる」。「ようやく」「やっと」のような副詞が「重い腰を上げる」を修飾することが多い。 用例①『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「会社も『安全は何をおいても優先されるべき課題』とようやく重い腰を上げたかに見えた」②『朝日新聞』(一九二・三・一七朝)「やっと重い腰を上げる気になったのだろうと感じました」 類句「おみこしを上げる」「腰を上げる」「みこしを上げる」 **思いも掛けない** 意味ある出来事についてそんなことが起きるなど思ってもみない。予期しない。またあることを考えもつかない。 用法文型「ダレダレは〜とは(なんて)思いもかけない」「思いもかけないナニナニ」「思いもかけぬナニナニ」〔平安〕 (用例田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「何か、思いもかけぬどえらいことが、国や、国民のゆくすえに待っているにちがいない」 類句「思いも付かない」「思いも寄らない」 **思いも付かない** 意味あることを考えもつかない。 用法文型「ダレダレは~とは(なんて・など)思いもつかない」「思いもつかないナニナニ」「思いもつかぬナニナニ」とも言う。〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「財前は、執刀を誇示することなど思いもつかぬほどに」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「若い連中には思いもつかない、おれたちの経験に立って」 類句「思いも掛けない」「思いも寄らない」 **思いも寄らない** 意味「思いも掛けない」に同じ。 用法文型「ダレダレは~とは(なんて・など)思いも寄らない」〔平安〕 用例①開高健『パニック』(一九七)「これほどの大事件になろうとは、まったく思いもよらなかった」②井伏鱒二『黒い雨』(一九六五—六六)「川向う一面に灼熱色の火焔が天に舞いあがっていた。近寄ることなど思いもよらなかった」③高杉良『人事権!』(一九九二)「手塩にかけて育ててきた宮本を本社から放逐するつもりになっているとは、思いもよらなかった」 <95> **思う壺** 意味人・状況がある人の思惑・企ての通りであること。 用法文型「ダレナニがダレダレの思うつぼ」「思うつぼにはまる」〔江戸〕 (用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七八九)「あの時なまじこっちかた手出しをしてはますます向こうの思う坪に陥って玩弄されるばかりだシ」②角田喜久雄『発狂』(一九六七)「総ては順調に進んで行った、悉く思う壺だった」③内田百閒『百鬼園随筆』(一九三三)「うっかりその御招待を辞退すれば、おぞくも大人の思う壺に嵌まり」④『朝日新聞』(一九七九・へ・三朝)「内閣の不信任案が突きつけられるかもしれないが、これこそ政府・自民党の思うツボ」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「それをすれば警察の思うつぼであることが分かっているからだ」⑥大沢在昌『心では重すぎる』(11000) 「キレたら、飼い主様の思うツボだ」 類句「図に当たる」「壺にはまる」「願ったり叶ったり」「的に当たる」外国語 英語では人が主語の場合、play into someone's hands 物事が主語の場合、turn out just as one wanted **親方日の丸** (意味) 親方は国家ということで、国の組織・団体に所属するものが、国がやっているのでいくらでもお金はある、食いっぱぐれがない、なんとかなるという安易な姿勢で業務を行っていることを皮肉って言う言葉。 用法文型「ダレナニは親方日の丸」 (用例①『朝日新聞』(一九七九・一一・画朝)「官公庁の職員はやれボーナス、やれベア・・・と親方日の丸」②『朝日新聞』(一九六〇・九・五朝)「国民の国鉄といわれる。しかし、裏を返せば親方日の丸でもある」③『朝日新聞』(一九〇・三・三朝)「ムダな行政機構、親方日の丸意識のぬけない数多い公務員がいる現状では」④『朝日新聞』(一九二・三・二七朝)「何事にもスローモーションのお役所が親方日の丸の下にあぐらをかいていては」⑤龍一京『交番 巡査の誇り』(100回)「親方日の丸で、失業する心配がない者に」 **お安い御用** (意味)人から何かを頼まれた時に、簡単にできると請け負う時の言葉。 用法文型「ナニナニはお安い御用」〔江戸〕 <96> 用例①横溝正史『嵐の道化師』(一九)「『そうだってね。ぼくはひとつ、きみから事件の顛末を訳きたいのだがね。(略)』『ああ、いいとも、お安い御用だ』」②梓林太郎『立山雷鳥沢殺人事件』(一九九九)「『あした劔へ連れて行ってくれませんか』春子は男にいった。彼はお易いご用だというように応じた」③大沢在昌『心では重すぎる』(11000)「『ありがとうございます。お願いできますか』『お安い御用です(略)』」 類句「赤子の手を捻る」「お茶の子さいさい」「世話がない」「屁の河童」外国語 英語では No problem **親の脛を囓る** 意味子が独立して生活できず(せず)、経済的に親に頼る。 用法文型「ダレダレが親のすねをかじる」。用例⑤のような「ママの~」はまれ。③④⑤のように「親のすねを」と「かじる」の間に語句を挿入することは可能。〔江戸〕 用例①浜尾四郎『死者の権利』(一九二九)「親の脛を囓っていながら学業をよそに、狭斜な巷を放歌してゆく蕩児です」②久保田万太郎『花冷え』(一九八)「親の脛を囓って出た大学じゃアねえ、苦学して、汗みずく流して、自力で卒業した大学だ」③石坂洋次郎『青い山脈』(一盗七)「親のスネを無反省にかじっているぼくは」④源氏鶏太『夢を失わず』(10)「学生時代、親のスネを遠慮なしにかじっていたころには」⑤石坂洋次郎『光る海』(一九六二ー六三)「私、むちゃな仕事はしないつもりだから、いままで通り、ママの脛をときどきかじらせてもらうだろうけど」 (外国語 英語では sponge off **親の七光** 意味「親の光は七光」の略。親の名声・威光のおかげで子はいろいろ恩恵を受けること。 用法名詞句としてさまざまに用いられる。〔江戸〕 (用例①『朝日新聞』(一六一・10・天朝)「親の七光りに頼らないとやっていけない、ただの二代目社長ではなかったのである」②東野圭吾『宿命』(一九九〇)「親の七光だけをあてにする男よりはマシかもしれんがね」 (外国語 英語では ride on one's father's coattails **親船に乗る** 意味「大船に乗る」に同じ。 用法文型「親船に乗ったような(気持ち)」〔江戸〕 (用例①夏目漱石「現代日本の開化」(一九二)「牧君は自分の方は伸ばせばいくらでも伸びると気丈な返事をしてくれたので、忽ち親船に乗ったような心持になって」②源氏鶏太『三等重役』(一盗1-二)「『ベストワンをですな。よろしい、たしかに引き受けました』『では、親船に乗った気イでおりますぞ、桑原さん』」 <97> **及びも付かない** 意味いくらがんばってもとてもかなわない。能力・技量に差がありすぎて、とてもかなわない。 用法文型「ダレナニはダレナニに及びもつかない」 用例①『言語生活』三一三号(一七七)「そういうものには及びもつかないですね」②「逆立ちしても彼の力には及びもつかない」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「足もとへも寄りつけない」「雲泥の差」「げたが違う」「太刀打ちできない」「月とすっぽん」「天と地」「歯が立たない」 **折り紙を付ける** 意味書画・刀剣などの鑑定保証書を付けることから転じて、人・物について、その人格・価値・技術などがすぐれていると保証する。 用法文型「ダレダレがダレナニに~と折り紙を付ける」。「~の折り紙を付ける」と言うこともある。用例①のように受身形がある。 用例①石坂洋次郎『石中先生行状記第三部』無錢旅行の巻(一)「彼は数学の頭脳では全校一という折紙がつけられていた」②源氏鶏太『三等重役』(一九莹一-五二)「『いやいや、もうわしの出る幕じゃない。君で十分である。すでに、君は立派な社長である』と、折り紙をつけてくれたのであった」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「仙崎は、彼の部下のうち、最も有能な者の一人だ、と折り紙をつけた」 類句「太鼓判を押す」外国語 中国語では慣用句「打包票」(保証書を発行する意から、保証する。「打」は発行する。「包票」は保証書。「打保票」とも言う) **尾を引く** (意味ある経験や事柄・心理が後々の状態・動向にまで長く影響を及ぼす。多くは否定的なニュアンスである。 用法文型「ナニナニが尾を引く」 (用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「医学部長選挙以来、気まずい思いが尾を引いている則内院長をたてて」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「小学校時代のあの記憶は今も尾を引き、ぼくは蛔虫恐怖症である」③『朝日新聞』(一九七九・七・一七朝)「後味の悪さが尾をひく」④『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「対立はいまも尾を引き、自治体でも新基準の取り扱い方がまとまっていないときだけに」⑤内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「最初、マドンナとの密会をカムフラージュする目的――とばかり思い込んでいたのが、いつまでも尾を引いてしまったとしか説明がつかない」 <98> 類句「後を引く」「糸を引く」「影を落とす」 **尾を振る** 意味犬が尾を振るように、権力者や上司などに気に入られようとする。 用法文型「ダレダレがダレダレに尾を振る」〔江戸〕 用例)織田作之助『青春の逆説』(一盗一)「主人に尾を振るのがいやなためか」 類句「胡麻をする」「尻尾を振る」 **音頭を取る** 意味物事をするに当たって人前に立ってかけ声をかける。人の先頭に立って物事を始め導く。首唱者となる。 用法文型「ダレダレがナニナニの音頭をとる」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 (用例①『朝日新聞』(一九七・五・八朝)「フランスの値下げ運動は、政府が音頭をとった」②黒岩重吾『背徳のメス』(120)「あんたが音頭を取って、給料値上げ運動をやってくれませんか」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「〝準公職者」の区長が音頭をとって、全区民に後援会活動を呼びかけたのですから」④田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)「教室で先生が音頭をとって、反復練習をする」 類句「イニシアチブをとる」「舵をとる」「采配を振る」外国語英語では call the tune **女の腐った** 意味ぐずぐずしていて態度や意志がはっきりしない男をあざけって言う言葉。 用法文型「ダレダレは女の腐ったような」〔江戸〕 用例①内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「ヤクザなんて、男っぽいとかなんとか言ってるけれど、女の腐ったのみたいに執念深いもんだねえ」 **恩に着せる** (意味)相手のためにした行為をことさら相手にありがたがらせるような態度をとる。 用法文型「ダレダレがナニナニを恩に着せる」。受身形がある。〔江戸〕 <99> 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(10枚) 「かわいがったのを恩に着せるではないが」②大下宇陀児『虚像』(一九五五)「それはなんだか、恩に着せたような言分に聞えた」③『朝日新聞』(一六一・六・一朝)「核のかさで恩に着せるが」 (外国語 英語では expect something in return **恩に着る** 意味ありがたいことをしてもらったことや受けた恩を感謝し覚えておく。 用法文型「ダレダレがダレダレにナニナニを恩に着る」。「恩に着る」と単独で使用することが多い。用例⑤のような命令形もある。①②のように人に依頼をする時によく使用。〔室町〕 用例①坂口安吾『投手殺人事件』(10)「あとで、会わして下さい。恩にきますよ」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一二)「坊やが誘導して、うちで二次会ということにしてよ。恩に着るわ」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二十五≦)「ナナはきっとあんたに恩にきますな」④稲垣浩『日本映画の若き日々』(一九七六)「べつに恩に着てもらえるほどのことを言ったわけではなかったが」⑤大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「恩に着ろとはいわないが、あんたがこうして俺と話せているのは、俺が体を張ったおかげなんだ」 **おんぶに抱っこ** (意味) 子どもをおんぶすると今度は抱っこと甘えることから、いい気になって何でも人の好意に頼ることを非難して言う言葉。 用法文型「おんぶに抱っこで」 (用例)「優秀な学生を送り出す大学は企業におんぶに抱っこで、高額な研究費を要求してくる」 (外国語 中国語では成句「得寸进尺」(一寸進むと一尺進みたくなる、一を得て二を望む) **恩を仇で返す** 意味受けた恩を感謝するどころか、かえって害を加える。 用法文型「ダレダレが恩を仇で返す」。用例③のように受身形がある。 用例①『朝日新聞』(一九七九・八・一六朝)「三食昼寝付きの恩をあだで返す結果となったが」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「いま僕に辞められたら、会社も少しは困るでしょう。恩を仇で返すようなことはできません」③西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(11000)「恩を仇で、返されたんだ。漁に行ってる間に、おれの家に忍び込んで、金を盗みやがった」 <100> 外国語 英語では return evil for good *中国語では成句「恩将仇报」(恩を仇で報いる、恩を仇で返す。「报」は報いる。「以怨报德」ともいう) **飼い犬に手を噛まれる** 意味親しく世話・面倒を見てやっている者(部下・手下など)に裏切られて、ひどい仕打ちを受ける。 用法文型「ダレダレが飼い犬に手を噛まれる」〔江戸〕 用例①谷崎潤一郎『卍』(一九六―三〇)「飼い犬に手工咬まれるとはこの事ッちゃし」②江戸川乱歩『妖虫』(一九三-듦)「手下のやつらにはもっと気を配らんといかんね。飼い犬に手をかまれるということもある」③源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九霊)「彼にすれば、飼犬に手を噛まれたような思いがするのである」④『朝日新聞』(一九八〇・五・二朝)「内部職員が告発という行為に出たことを、飼い犬に手をかまれたと受け取って」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「やつに裏切られるなどとは、考えてもみんことですよ。飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこのことだ」 類句「背負い投げを食う」「煮え湯を飲まされる」 <101> (外国語 英語では bite the hand that feeds one **帰らぬ人となる** 意味人が死んでしまう。「死ぬ」の敬意を含んだ上品な婉曲的表現。 (用法文型「ダレダレが帰らぬ人となる」 (用例)内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「それっきり、野村は文字どおり帰らぬ人となったのである」 類句「息が切れる」「息を引き取る」「鬼籍に入る」「骨になる」「世を去る」 **顔が売れる** 意味人が活動などによって世間に広く知られる。有名になる。悪いことに関しては使わない。 用法文型「ダレダレは顔が売れる」〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九七九・二・三朝)「顔が売れるようになった芸能人は」②「あのタレントはまだ顔が売れていない」 (類句「顔が広い」「名が高い」「名が通る」 **顔が利く** 意味力があったり、有名であったり、知り合いであったりなどして、相手との間に信頼・安心感があって、(無理な)頼み事をしても聞いてもらえる。 用法文型「ダレダレはダレナニに顔が利く」。用例①の「吉井の」のように「顔」を修飾することが可能。〔江戸〕 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一六七)「薩摩の蔵役人という吉井の顔がきいて、すぐ雇えた」②『朝日新聞』(一九六三・七・六朝)「『顔のきく』方々をトップに、切符獲得の熱病が全国的にひろがったらしい」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「われわれ同窓会の中で、財界人に顔のきく連中」 類句「幅が利く」「物を言う」外国語英語では have contacts *韓国語では「얼굴이 (顔が) 통하다 (通じる)」 **顔が揃う** (意味ある場所に集まる予定の人がすべて集まる。主だった人が全員出席する。 (用法)文型「ダレナニの顔がそろう」「ドコドコに顔がそろう」〔江戸〕 用例①「全員の顔がそろうことは珍しい」②「顔がそろったところで宴会を始めましょうか」 類句「役者が揃う」 <102> **顔が立つ** 意味人の体面・名誉が保たれる。 用法文型「ダレダレはダレナニに(対して)顔が立つ」「ダレダレの顔が立つ」〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九至1-≦)「彼が来れば多くの客に対してジャッキーの顔も立つのであった」②直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(10) 「そうすれば、相手の追及の手をかわすことができるし、相手の顔も立つ」 類句「面目が立つ」「面目を施す」外国語 韓国語では「얼굴이(顔が)서다(立つ)」 **顔が潰れる** 意味人の名誉が傷つく。世間に対する面目が失われる。 用法文型「ダレダレの顔が潰れる」〔江戸〕 用例高杉良『人事権!』(一九九二)「田端さんの顔が潰れるようなことはないのと違いますか」 類句「面目が潰れる」外国語 韓国語では「얼굴이(顔が) 묵사발이 (?に) 되다(なる)」(「묵사발」とは、「묵」を入れる鉢。「묵」とは、そばや緑豆などで作るゼリー状の食べ物) **顔が広い** (意味) 世間に顔・名前が広く知られている。広い範囲のいろいろな方面の人と面識がある。知人が各方面に多くいる。 用法文型「ダレダレはドコドコに顔が広い」。用例①⑤のように「お顔」と敬語を使うことが可能。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「東さんは、大阪の財界人にお顔が広いから」②『朝日新聞』(一九売・七・一四朝)「顔の広い広告代理店に」③中上健次『鳳仙花』(一六〇)「年若いが結構顔が広いらしく勝一郎は川原町の中でも何度も声かけられたし」④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(10)「どれだけ顔が広いのか知らないが、まさかその企業の社員全員が知り合いというわけでもないだろ」⑤本所次郎『閨閥』(100回)「さすが先生のお顔は広い」 類句「顔が売れる」「名が高い」「名が通る」(外国語英語では know a lot of people *韓国語では「얼굴이(顔が) 넓다(広い)」 **顔から火が出る** 意味 ひどく恥ずかしい思いをして顔を赤くする。 用法文型「ダレダレは顔から火が出る思い」「ダレダレは顔から火が出るほど恥ずかしい」。「顔から火が出た」と言い切ることもある。 <103> (用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二ー六三)「デパートの特選品売場でそんなことをいわれて、顔から火が出る思いがしたろうね」②『朝日新聞』(一六〇・二・三朝)「今、思い出しても顔から火が出るほど恥ずかしく」③『朝日新聞』(一九一・10・二三朝)「ポルノ本ということ?『ハイッ』と顔から火のでる思いで答えたのに」④藤田宜永『転々』(一九九九)「自動ドアの横にいた従業員が、僕の手許をじろりと見た。顔から火が出る思いがした」 類句「穴があったら入りたい」「合わせる顔がない」「顔向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 **顔に泥を塗る** 意味人の体面・名誉を傷つける。世間に対して顔が向けられないような恥ずかしい思いをさせる。 用法文型「ダレダレがダレダレの顔に泥を塗る」。受身形がある。〔江戸〕 (用例①二葉亭四迷『浮雲』(八八七八九)「色狂いして親の顔に泥を塗ッてもしようがない所を」②源氏鶏太『三等重役』(一九盜一-五三)「お前たちは、寄ってたかって、南海産業の社長たるわしの顔に泥を塗ろうとしとる」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「自分の行動がだれかのカオに泥を塗っていやしないだろうか、あるいは他人によって自分のカオに泥を塗られてはいやしないか」④『朝日新聞』(一六〇・六・六朝)「主人の顔に泥をぬり、主家の金をくすねるような横着な奉公人を」⑤高杉良『首魁の宴』(一九八)「大麻を吸うとは、なんて莫迦なやつなんだ。親の顔に泥を塗りおって」 類句「顔を汚す」「顔を潰す」「外国語 英語では make someone lose face *韓国語では「얼굴에(顔に) 흙탕칠을 (泥塗りを)하다 (する)」 **顔に書いてある** 意味人の気持ちや思いが表情にありありと現れている。 (用法)文型「ダレダレの顔に書いてある」。「ちゃんと」が句を修飾することが多い。 用例①高杉良『首魁の宴』(一九九六)「この程度なら、よしとしなければ、と二人の顔に書いてある」②「彼女のことが好きだとちゃんと顔に書いてある」 外国語 英語では be written all over one's face **顔を貸す** 意味 飲食・話し合い・喧嘩などのために頼まれて一時、外で人とつきあう、外で人と会う。 <104> 用法文型「顔を貸してくれ」など命令形・依頼形が多い。〔江戸〕 用例①木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九六)「ちょっと顔を貸してほしいんじゃ」 **顔を揃える** 意味「顔が揃う」に同じ。 用法文型「ダレダレが顔をそろえる」 用例①菊池寛『蘭学事始』(一九三)「六人の顔が揃うと、打ち連れ立って骨ケ原に向った」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「定刻の二時に、(略)各委員は全部、顔を揃えていたが」 **顔を出す** (意味)(11)集まりなどに出席する。ある常連客が店を訪れる。訪問して顔を見せる。訪れて挨拶する。12順位を付けた一覧に名前が上がる。(13)ある物の一部分が見えている。 用法文型(11)122) 「ダレダレがドコドコへ(に)顔を出す」。(1)の意では命令・意志表現が可能。133)「ナニナニが顔を出す」〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「花街の小唄や長唄の会へは必ず顔を出し」②三浦綾子『塩狩峠』(一六八)「わたしが戦争にいっている間、ちょくちょく美沙のところに顔を出してくれたそうですね」③東野圭吾『卒業』(一九六六)「ここへは変わらず顔を出しているらしいから思いすごしのようだな」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「長者番付に顔を出している作家」(13)⑤「つくしが顔を出している」 類句 (11)「顔を見せる」外国語 (1)英語では put in an appearance *韓国語では「얼굴을(顔を)내밀다(出す)」 **顔を立てる** (意味) 相手の体面・名誉が保たれるようにする。 用法文型「ダレダレがダレダレの顔を立てる」〔江戸〕 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「わざわざ、やって来たんですから、何とか、顔を立ててくださいよ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「ここは一つ、鵜飼医学部長の代理である私の顔もたてて下さいよ」③『朝日新聞』(一九二・二・三七朝)「全員引き取って、高橋さんの顔を立てた」④深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「岩崎の顔を立てて、名だか迷だか分からない推理を聞いてやってもよい」 外国語 英語では show deference to <105> **顔を潰す** 意味相手に恥をかかせる、相手の体面を損なうようなことをする。 用法文型「ダレダレがダレダレの顔を潰す」。用例③のように受身形がある。〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「顔をつぶすのもどうかと思い、防衛問題の権威者としていろいろお話を聞くということで」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九六八七)「いつまでもそうやって、その日暮らしをしているわけにはいかないだろう。教授の顔をつぶす気か?」③高杉良『人事権!』(一九九二)「少なくとも五パーセントでなければ、顔を潰されたと思うでしょうねえ」 類句「顔に泥を塗る」「顔を汚す」 **鍵を握る** 意味人またはあることが事件・問題などを解決したり、物事を実現したり、あるいは勝敗を分けたりする重要な手がかりを持つ。 用法 「ダレナニがナニナニのかぎを握る」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「その辺がこの裁判の勝敗の鍵を握るような気がする」②『朝日新聞』(一九七九・五・六朝)「事件のカギを握る日商の島田常務が自殺した」③『朝日新聞』(一九七九・五・三〇朝)「大平首相がリーダーシップを発揮して国民を説得できるかどうか、が計画実現の一つのカギを握っている」④『スポニチ』(一九七九・六・七)「ヤングマン』二人の精進が今後のペナントのカギを握るともいえそうだ」⑤『朝日新聞』(一九七九・二二・二七朝)「国際電信電話会社(KDD)疑惑のカギを握る人物」 外国語 英語では hold the key **隔世の感** 意味物事の変化や進歩で世の中がすっかり移り変わってしまったという感慨。 用法文型「隔世の感がある」 用例)田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)「今日の進歩した翻訳技術からくらべると、隔世の感がある」 類句「今昔の感」外国語 中国語では成句「隔世之感」(隔世の感。「恍如隔世」〈さながら隔世の感がある〉とも言う) **影が薄い** 意味人が元気なく、その場にいてもわからないほど目立たない、印象が薄い。人が地味で目立たない。 用法文型「ダレダレは影が薄い」。「影が薄くなる」とも言う。〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九強セ・二・二朝)「すでに下野外遊,の印象が深く、影が薄かった」②『朝日新聞』(一九七九・七・一六朝)「片手間に走る本屋や文房具店が増え、専門店の影が薄くなっている」③斎藤栄『日美子の公園探偵』(11001)「日美子は小宮山健一郎の姿に――俗に影が薄いという妖しいムードを感じていたのだ」 <106> 類句「ぱっとしない」 **掛け替えのない** 意味他に代わりになるものがないほど非常に大切である。 用法文型「かけがえのないダレナニ」。人について言うことが多い。〔江戸〕 (2)用例①五木寛之『風に吹かれて』(10)「それはやはり私たちにとってかけがえのない自由な夏休みだったのである」②『朝日新聞』(一六〇・六・一五朝)「かけがえのない本物の芸人は」③「命はかけがえのないもので大切にしなければならない」④「かけがえのない人を亡くし涙を流す」 **影が差す** 意味悪い兆しが現れる。不吉な感じがする。 用法「ナニナニに影が差す」 用例『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「会社人間の支えであった『年功序列』制に影がさしてきたのだ」 類句「雲行きが怪しい」 **陰口を利く** 意味「陰口を叩く」に同じ。 用法文型「ダレダレが陰口をきく」。用例②の「いろいろな」のように「陰口」を修飾することは可能。 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九五一―三)「鳶が鷹を産んだようなもんだ、と陰口をきくものがあるかもしれない」②開高健『パニック』(一九五七)「仲間はいろいろなかげ口をきいたが俊介は気にかけなかった」 **陰口を叩く** 意味その人のいない所でその人の悪口を言う。 用法文型「ダレダレがダレダレの陰口をたたく」「〜と陰口をたたく」。用例①②③のように受身形がある。 用例①井上靖『氷壁』(一九五六-五七)「常磐は社員からは万年支社長と陰口をたたかれていた」 ②『朝日新聞』(一九七九・六・八朝)「周囲からは『患者のデモよけの防衛囲い』などとカゲロをたたかれてきた」③『朝日新聞』(一六一・九・三朝)「自民党内で皮肉まじりにこんなカゲロがたたかれる」④高杉良『濁流』(一九九六)「〝スギリョー』の涙は計算ずくで、演技に過ぎない、と陰口を叩く者も社内にはいるが」⑤「部下が課長の陰口をたたく」 <107> 類句「陰口を叩く」は「陰口を利く」よりも侮った表現。「後ろ指を指す」〔外国語英語では backbite; speak ill of someone behind his back **陰になり日向になり** (意味)人の知らないところでも人の前でも、その人をいろいろとかばったり助けたりするさま。 用法文型「陰になり日向になり~する」。副詞的に後ろの述語を修飾する。〔江戸〕 (用例㉡藤原審爾『死にたがる子』(一老人)「木内をうけ入れた部長は、陰になり日なたになり、彼の面倒をみていたが」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「陰になり日なたになり、私たちのすることをじっと見守っていた父が」 (類句「陰に陽に」外国語 英語では both openly and secretly **影も形もない** 意味そこにあった(はずの)物、いた(はずの)人があとかたもなく消え、存在しない。 用法文型「ダレナニが影も形もない」「ダレナニが影も形もなく〜する」〔室町〕 用例①甲賀三郎『蜘蛛』(10) 「ドアの外にはたしかにあるべきはずの踊り場も階段も、影も形もなく消え失せているのだった」②江戸川乱歩『吸血鬼』(10-三1)「悲鳴を聞きつけて、ドアをひらいてみると、被害者はこの通り倒れていて、犯人は影も形もなかったというのです」③三浦哲郎『結婚』(一六七)「中に入っていた二十数人の人間が、文字通り影も形もなく消えてなくなったという話」 類句「影も形もなくなる」「影も形も見えない」 外国語 英語では disappear without a trace *中国語では成句「无影无踪」(影も形もない、跡かたもない) **影も形もなくなる** 意味そこにあった(はずの)物、いた(はずの)人があとかたもなく消えてなくなる。あとかたもなくなる。 (用法)文型「ダレナニが影も形もなくなる」 用例①坂口安吾『南京虫殺人事件』(1≦)「ピアノすら売り払ったらしく、影も形もなくなっているのだ」②星新一『ボッコちゃん』(一老一)「二千光年の距離を越えてきた銀色のロケットは、すでにかげも形もなくなっていた」③大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(1001)「『月長石』はもはや影も形もなくなっていた」 <108> 類句「影も形もない」 **影を落とす** (意味)ある事柄が好ましくない影響を与えて現れる。 用法文型「ナニナニがナニナニに影を落とす」。用例①②④のように「微妙な」「複雑な」「濃い」や「暗い」などが「影」を修飾できる。 用例①『朝日新聞』(一九七九・六・七朝)「『元号』は、国民生活の各分野に微妙なカゲをおとしそうだ」②『朝日新聞』(1九八〇・四・三五朝)「大平、河本両氏先行という事態は、中曽根派の総選挙へ向けた戦略に複雑なカゲを落としている」③『朝日新聞』(一六一・一・二玉朝)「資本主義社会が持つ弊害がここにも影を落としていることは」④「彼女の残像は依然として彼の心に濃い影を落としている」 類句「影を投じる」「影を投げかける」とも言う。「あとを引く」「糸を引く」「尾を引く」 **影を投じる** 意味「影を落とす」に同じ。 (用法)文型「ナニナニがナニナニに影を投じる」。用例のように「微妙な」「複雑な」や「暗い」などが「影」を修飾できる。 用例『朝日新聞』(一九七九・六・八朝)「産業界には『石油』は景気の先行きに微妙な影を投じている」 **影を投げかける** 意味「影を落とす」に同じ。 用法文型「ナニナニがナニナニに影を投げかける」。用例①③のように「暗い」「微妙な」や「複雑な」などが「影」を修飾できる。 用例①『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「今後の飛鳥保存に暗い影を投げかけているといえる」②『朝日新聞』(一九八一・四・六朝)「それは人類の未来に大きな影を投げかけるものとなる」③『朝日新聞』(一九九二・二・三三朝)「これがソ連の国防政策に微妙な影を投げかけているように思えた」 **風上にも置けない** 意味) 風上に置くと臭くてたまらないということから、品性や行動が卑しく、ひどくて、同じ仲間としてはつきあっていられないという非難と軽蔑の言葉。「風上にも置けぬ」とも言う。 <109> 用法文型「ダレダレはナニナニの風上にも置けない」〔江戸〕 (用例)高杉良『首魁の宴』(一九九六)「杉野はOBをしてもペナルティなしで打ち直すし、パットはグリーンにオンすれば、どんなに遠くてもOK、カウントはアバウト。およそゴルファーの風上にも置けない」 外国語 英語では not worthy of being called ~ **嵩に掛かる** 意味優勢なのに乗じて、勢いに乗って攻めかかる。また、相手の弱みにつけ込んだり、自分の有利な立場を利用したりして相手を押さえつけるような高圧的な態度を取ったり言ったりする。 用法文型「ダレダレがかさにかかる」。「かさにかかって言う」ということが多い。〔鎌倉〕 用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九七)「石子は支倉がひるむ色を見せたので、嵩にか、って云ったが」②久保田万太郎『春泥』(一九八)「嵩にか、ってそんな、ぐずぐず立派そうなことはほざいたって」③内田百閒『贋作吾輩は猫である』(一盗九)「人が歳を取ったと云えば、嵩にかかって来る検校だ」④源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九二―五三)「『(略)あらかじめいっとくが、俺は、平林組の若いもんだ。』はじめから、かさにかかったいい方をしてくる」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「名本が嵩にかかって断じた」 類句「上手に出る」「笠に着る」外国語英語では pile it on **笠に着る** 意味権力・力あるもの・多数などを後ろ盾に大きな態度を取る、いばり散らす。または自分のしてやったことを恩に着せ勝手に振る舞う。 用法文型「ダレダレはダレナニを笠に着て~する」〔室町〕 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九盗歪)「あいつめ、大友工業をカサにきて、威張ってるよ」②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七一六六)「権力を笠に着てものを云う人間」③『朝日新聞』(一六一・三・二四朝)「自民党の数をかさに着た専制に歯止めをかけるために」④高杉良『濁流』(一九九六)「広報の対応も、大丸野を笠に着て横柄で強圧的だった」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(11001)「国会議員であることを笠に着て、露骨に『儲けさせろ』と求めてくる者が少なくない」 <110> 類句「上手に出る」「かさに掛かる」 **風の便り** 意味ある人についてどこからともなく伝え聞く噂・消息。風聞。(用法文型「風の便りに聞く」〔鎌倉〕 用例①渡辺温『或る母の話』(一九二九)「風の便りに、あの人がどうやらアメリカで結婚したらしいと云う噂を聞きました」②田中英光『オリンポスの果実』(一盗0)「あなたは、九州で女学校の体操教師をしていると、近頃風の便りにききました」③姉小路祐『走る密室』(一九盗)「玉名温泉で働いているってのは、風のたよりに聞いたけど」 **片が付く** 意味きっちり決着がつく。物事の処理が終わる。物事の結論がはっきりつく。あやふやな問題の始末がきっちりつく。転じて、(親から見て)子が結婚するという意にもなる。 用法文型「ダレナニはかたがつく」「ナニナニにかたがつく」「ナニナこのかたがつく」〔江戸〕 用例①谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九八二九)「君が来なければ容易にわれわれはカタが付かない、そこへ君がカタをつけに来たと」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「そのほうが、早く子どものカタがついて結構ですな」③星新一『ボッコちゃん』(一九一)「わけのわからない研究とやらは、いったい、いつになったら片がつくの」④朝日新聞』(一九七九・五・一六朝)「法的にはカタがついても、国民へのカタはついていない」⑤『言語生活』三三一号(一九七九)「来年の三月までには、すっかりそれの片がつくという意味ですか」 類句「けりがつく」 **固唾を呑む** 意味「かたず」は緊張したときに口にたまるつばのこと。ことの成り行きがどうなるかと緊張してじっと見守る。 用法文型「ダレダレがかたずをのむ」。後ろに「見守る」などの見ることに関係した動詞や「聞く」などが来る。用例②④⑤のように「かたずをのむように~」と言うことがある。〔鎌倉〕 用例①泉鏡花『草迷宮』(10人)「『お、お、、』と、法師は目を除って固唾を呑む」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三「金)「固唾を呑むように黒板に見入っていた教授たちの間に、騒めきが起った」③『朝日新聞』(一九六〇・八・三朝)「日本だけでなく、米国や西欧諸国もカタズをのんで見守っ <111> かたのにを かた * ている」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「二人の聴衆は、固唾を飲むように、瞳を凝らして浅見の口許を見つめている」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「固唾を呑むようにして待っている一同の前で、彼女はオペラを歌いだした」(1 類句「息を凝らす」「息を詰める」 **肩で風を切る** 意味 人が肩をそびやかして力を誇示したり、うまくいって得意そうにしたりして大いばりで歩く。またそのようにふるまう。 用法文型「ダレダレが肩で風を切る」〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九ェニー)「平林組の連中は、肩で風を切るように、町中を闊歩する」 ②高杉良『濁流』(一九九六)「肩で風を切って歩いてる編集の連中がうらやましいよ」 ③大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(1001)「東京じゃ肩で風を切ってるかもしれんが、こっちじゃあんたのことを恐がる者はいない」 ④本所次郎『閨閥』(1100円)「代表権を持った春樹は、肩で風を切るようになった」 外国語 英語では strut along **肩の荷が下りる** 意味 負担になっていた責任や義務がなくなりほっとする、気持ちが楽になる。 用法文型「ダレダレは肩の荷が下りる」。「肩の荷が下りた思い(気)」などと言う。 用例 ①開高健『巨人と玩具』(一九七)「そのことのために私たちの肩の荷がおりることはなにひとつとしてなかったけれど」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「これで僕もほっとしたよ、(略)心配していたが、肩の荷が降りたよ」 ③太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一六六)「釣部は、山岳推理小説の長編を脱稿した。(略)肩の荷がおりたおもいがする」 ④高杉良『人事権!』(一九九二)「やっと肩の荷が降りました」 ⑤清水一行『ITの踊り』(二00四)「事務局から外れ、秋葉は肩の荷が下りた気がしたが」 類句「肩が軽くなる」 外国語 英語では take a load off one's mind *韓国語では「어캐의 (肩の) 짐을 (荷を) 덜다(減らす)」 **肩の荷を下ろす** (意味)背負っていた責任・義務を果たして、解放されてほっとする。 用法文型「ダレダレが肩の荷を下ろす」。命令・意志表現は可能。 <112> かたひじを 用例①野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「『ついにやった、人を殺した』罪悪感はなくて、ようやく肩の荷を下ろした安堵感だけ」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「亜紀子の腰が落ちついたのを見て、彼は肩の荷を降ろした気分になっていたのである」③広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「その緊張感を五人のメンバーと共有できたことで、梅津は肩の荷を降ろしていた」 類句「重荷を下ろす」「肩の荷が下りる」 **肩肘を張る** 意味 弱いところを見せまいとからいばりしたり、必要以上に気負ったりして堅苦しい態度を取る。 用法文型「ダレダレが肩ひじを張る」。用例②③④のように「肩ひじをはらず」と否定形で用いられることも多い。〔江戸〕 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「肩ひじ張った男は肩で風を切る」②田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)「異人、外人、外国人に接しても、びくつかず、また肩ひじを張らず、一対一の独立した人間として、対することができる土台は」③『朝日新聞』(1100五・二・二五夕)「肩ひじ張らず、自分らしい感じの女性を見るとステキだなって思います」④「そう肩肘を張らずに、もっとリラックスして」 類句「虚勢を張る」 **片棒を担ぐ** (意味)駕籠の棒の一方を担ぐことから転じて、悪事に協力する。荷担する。 用法文型「ダレダレがナニナニの片棒を担ぐ」。ナニナニは好ましくないこと、悪事を表す言葉。〔江戸〕 用例①久生十蘭『魔都』(一九三七―売)「頼むと云えば王様殺しの片棒ぐらい担いでやらないもんでもない」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「殺人の片棒をかつがされたと知って愕然となった」③『朝日新聞』(一九七九・八・二三朝)「新聞はそんな連中の金もうけの片棒をかつぐ必要は、ひとつもないのである」④『朝日新聞』(一九六〇・四・三朝)「郵政大臣がなぜ、土地ころがしの片棒をかつぐようなまねをしたのか」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「下手をすると、恐喝の片棒を担ぐ結果にもなりかねませんからね」 (類句「後棒を担ぐ」「ぐるになる」(外国語)英語では be a partner <113> かたをいれ **肩身が狭い** (意味)周りの人・世間に対して顔向けできない、引け目を感じ、恥ずかしい。世間体をはばかる気持ちであるさま。 用法文型「ダレダレは肩身が狭い」「肩身の狭い思いをする」〔平安〕 用例 ④夏目漱石『彼岸過迄』(一九三)「彼は何れにしても甚だ肩身の狭い思をした」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「そう云う結婚生活が、妻にとって、どんなに肩身のせまい思いなものか、お考えになったことがありまして?」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「昔は旦那様がいないってんで、肩身がせまかったけど」④『朝日新聞』(一九一・三・三朝)「その都度仕事を休んでいては、職場に対して肩身の狭い思いをし」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「ただでさえ肩身の狭い居候が」⑥姉小路祐『合併裏頭取』(1001)「マイナスをした人間は肩身が狭い」 類句「穴があったら入りたい」「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」「面目がない」「面目次第もない」 外国語 英語では can't walk with one's head held high *韓国語では「어캐가(肩が) 움추러들다 (縮まる)」 **肩身が広い** 意味 世間に対して面目が立ち、誇らしげに感じる。 用法文型「ダレダレは肩身が広い」「肩身の広い思い」〔江戸〕 用例①織田作之助『夫婦善哉』(一盗○)「間もなく働き口を見つけたので、蝶子は早速おきんに報告した。それで肩身が広くなったというほどではなかったが」②石坂洋次郎『石中先生行状記第三部』馬車物語の巻(10)「石中さんは有名になってしまって、わしら同窓生も肩身のひろい思いですや」③山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七一六八)「野田薬局の一家から国立大学のえらい先生が出て貰えたら肩身が広い」 類句「鼻が高い」「鼻を高くする」 外国語 英語では feel proud **肩を入れる** 意味 本気になって力添えをする。ひいきにして応援する。肩入れをする。 用法文型「ダレダレがダレナニに肩を入れる」。用例②のように敬語表現ができる。〔南北朝〕 用例 ④夏目漱石「私の個人主義」(一九二五)「勿論悪い会でも何でもありません。当時の校長の木下広次さんなどは大分肩を入れていた様子でした」②山崎豊子『白い巨 <114> 塔』(一九六三一六五)「医学部長がどうしてまた、そんなにまでして、財前君に肩をお入れなのですか?」 類句 「肩を貸す」「肩を持つ」「手を貸す」「手を差し伸べる」「一肌脱ぐ」 **肩を落とす** 意味 肩の力が抜けて両腕がだらりと垂れ下がることから転じて、落胆してうなだれる。 用法 文型「ダレダレが肩を落とす」 用例 ④城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「すっかり意欲を失い、肩を落として、帰って行くのであった」②『朝日新聞』(一九七九・10人朝)「運動員はガックリと肩を落とした」③『朝日新聞』(一九七九・10・一五朝)「あれを本塁打にされればもう終わりと肩を落としてた」④高杉良『会社蘇生』(一六七)「小川は林立するマイクの前で肩を落として、うなだれていることが多く」 類句 「気が抜ける」「気を落とす」「力を落とす」 外国語 韓国語では「어캐를(肩を)멀어뜨리다(落とす)」 **肩を貸す** 意味 人を手助けしたり協力したりする。 用法 文型「ダレダレがダレダレに肩を貸す」。命令・意志表現は可能。〔室町〕 用例 「頭を下げて頼んでいるのだから、少しぐらい肩を貸してもいいのではないか」 類句 「肩を入れる」「肩を持つ」「助け船を出す」「がを貸す」「手を貸す」「手を差し伸べる」「一肌脱ぐ」 **片を付ける** 意味 (1)きっちり決着をつける。物事の処理を終わらす。物事の結論をはっきりつける。あやふやな問題の始末をきっちりつける。 (2)転じて、結婚してけじめをつける。 用法 文型「ダレダレがかたをつける」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例 ④谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九八二九)「君が来なければ容易にわれわれはカタが付かない、そこへ君がカタをつけに来たと」②武田泰淳『風媒花』(一九二)「それを責任を以て、自分でカタをつけられる人間じゃなくちゃ話にならんよ」3『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「本選挙ですっきりカタをつけるべきだ」②④高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「おまえもいい加減、恵子さんとのこと方をつけなくちゃ駄目だぞ」 類句 (1)「げりをつける」「終止符を打つ」「ピリオドを打つ」 外国語 (1) 英語では have it out <115> かちゅうの **肩を並べる** 意味 相手と対等の位置に立つ。実力·勢力·地位・技量などがほぼ等しくなる。比肩する。 用法文型「ダレダレがダレダレと(に)肩を並べる」〔平安〕 (用例④『朝日新聞』(一九六七・七・二九朝)「日本の寿命の伸び率は大きいので、ノルウェーなどの三国につづくデンマーク、スイスなどとやがて肩をならべそうだという」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「なんでもかんでも男女平等を唱え、そんなにまで男と肩を並べたいのなら」③『朝日新聞』(一九七九・七・二七朝)「いまや一人当たり国民総生産では米国と肩を並べる日本は」④『朝日新聞』(一六一・一・五朝)「瀬古はこれで福岡国際マラソンに三連覇を達成したが(略)日本選手としてはほかに肩を並べるもののない記録となった」 (外国語) 英語では be on a par with *韓国語では「어캐를 (肩を) 나란히하다 (並べる)」 **肩を持つ** (意味)一方の味方になって何かと助ける、ひいきする、賛成する。 用法文型「ダレダレがダレダレの肩を持つ」〔江戸〕 用例二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―人九)「そのまた悪い文三の肩を持ッてサ、私に食ッてかかッた者があると思し召せ」②源氏鶏太『英語屋さん』(1盗一)「君は今日の交渉の際、明らかに敵国のカタをもっていたのではないか」③井上靖『氷壁』(一九五天-五七)「自分は社長より多少、あの世話のやける山登りの青年の方の肩を持ちたいだけなのである」④『朝日新聞』(一六〇・三・五朝)「今度の判決は結果的に加害者にくみし、被害者を突き放し、権力の肩をもつ裁判だったのではなかろうか」⑤西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(11000)「どうやら、デスクが、連中に、洗脳されてしまったらしいのだ。向うの肩を持っている」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」 外国語 英語では take sides with **火中の栗を拾う** (意味)猿が猫をおだてて火中の栗を拾わせて、猫が火傷をしたというラ・フォンテーヌの寓話から。他人の利益のために危険をおかすたとえ。 用法文型「ダレダレが火中の栗を拾う」 用例④源氏鶏太『天下泰平』(一九西―五五)「たかが、これくらいの問題で、火中の栗を拾うような真似をしてはいかん」②『朝日新聞』(一九六二・五・三朝)「大勢に逆らうリス <116> がってんが クをかけるか、大幅延長であえて火中の栗を拾うか」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「『おっしゃるとおりです、もう我慢できません。あした、荒垣部長と対決します』『ま、待ってくれ。それこそ、木下は火中の栗を拾うことになるぞ(略)』」 外国語 中国語では成句「火中取栗」(火中の栗を拾う) **合点が行く** 意味「合点」はもと、和歌や俳諧の批評で良いと思うものにつけた印や、何かを決める回状に賛成の印を自分の名前につけることを意味した。転じて物事の事情や相手の言うことが理解できる、納得できる。 用法文型「ダレダレはナニナニに合点が行く」。「合点が行かない」と否定形で言うことが多い。「がてんがいく」とも言う。〔室町〕 用例①平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「どうしてこんなにも東五郎に気持がひっかかるのか、風子には合点の行かないことであった」②半村良『どぶどろ』(一老七)「『あ、成程』源助は合点が行ったようであった」③『朝日新聞』(一九七九・七・二四朝)「それを失言だの、妄言だのと言っていじめるのは、合点がいかない」④金田一春彦他『変わる日本語』(一六一)「どうして魚へんがつくのかが、私にはちょっと合点がいかなかった」⑤高杉良『会社蘇生』(一六七)「宮野は、合点がいった」 類句「得心が行く」 外国語 英語では make sense **活を入れる** 意味柔道などで気絶した人の息を吹き返させることから転じて、人に強い言葉で刺激を与えて元気づける、気力を奮い起こさせる。またあることが元気でない人に刺激を与えて元気づける。 用法文型「ダレナニがダレダレに活を入れる」。命令・意志表現は可能。 用例㉡源氏鶏太『見事な娘』(一九五四—五至)「早速、見舞に行って、活を入れてやりましょう」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「この豆台風事件は気象台の職員に活を入れ、虚脱状態をようやく吹き飛ばした」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「社会党を突き放すことで活を入れるショック療法だった」 類句「尻をたたく」「発破をかける」 **角が立つ** (意味) 相手に何かを言ったりしたりして、相手との関係が穏やかでなくなる、物事が荒立つ。 用法文型「~すると角が立つ」〔江戸〕 <117> かのなくよ 用例菊田一夫『君の名は』(一九五二―西)「感情的になったって、角が立つばかりだからね」②『言語生活』三二八号(一老九)「若い課長が来て年寄の部下を使う場合、『福田くん』じゃちょっと角が立つから」③『朝日新聞』(一九六一・二・三朝)「選挙前に返すとカドが立つ」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「『智にはたらけば角が立つ』を地でいっているようなものだから」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「例のもの受け取ることにしたよ。きみは不満だろうが、返すのは角が立つ」 類句「波風が立つ」 外国語英語では create bitter feelings **角が取れる** (意味)年を取ったり人生経験をいろいろ積んだり、また苦労したりして人柄が穏やかになる。まるくなる。 用法文型「ダレダレは角が取れる」〔江戸〕 用例『朝日新聞』(一九七九・二・二0朝)「浪人中の苦労でカドがとれ、ひと回り人間が大きくなった」 **金に糸目を付けない** (意味)「糸目」は凧を制御するためにつける数本の糸。糸目をつけなければ制御できないことから、金を惜しまず、いくらかかってもよいと考え、必要なだけ出して物事に当たるさま。 用法文型「ダレダレは金に糸目をつけない」「金に糸目をつけぬダレナニ」〔江戸〕 用例④『朝日新聞』(一九迦七・二三・二七朝)「金に糸目をつけぬ新興商人の間にはかえって豪華をきそうきらいがないでもない」②獅子文六『青春怪談』(一九語)「気前がよ過ぎて、人にオゴるのに、金に糸目をつけないから」③「朝日新聞』(一九七三・七・モ朝)「この録音設備は、専門家にとっては金に糸目をつけぬ夢のような仕事だったといわれる」④『朝日新聞』(一九六一・10・二九朝)「カネに糸目をつけなかった」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(11000)「もし金に糸目をつけない、というのなら外国から養女をもらうしかないだろうな」 類句「湯水のように」 外国語 英語では Money is no object **蚊の鳴くような** (意味)話す声がかすかで弱々しいさまのたとえ。 用法「蚊の鳴くような声」と言うことが多い。「蚊が鳴くような」とも言う。〔鎌倉〕 <118> かぶがあが 用例①中勘助『妹の死』(一九六)「ぽつりぽつりと蚊の鳴くような声でいいだすのであった」②久生十蘭『魔都』(一九三七―売)「蚊の鳴くような声で、『知りません』」③石坂洋次郎『何処へ』(一盗七)「婦人患者は蚊が鳴くような呟きを洩らして」④源氏鶏太『三等重役』(一九玺一-三)「蚊の鳴くような声でいったのであった」⑤金田一春彦他『変わる日本語』(一九一)「語尾がはっきりしない、蚊の鳴くような声を出していたのでは仕事にもならない」 **株が上がる** (意味)人が何かをして、その人の評価が上がる、評判がよくなる。 用法文型「ダレダレは株が上がる」「ダレダレの株が上がる」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「僕の会長としての株が上りましたよ」②高杉良『人事権!』(一九九二)「きみが頑張ってくれたお陰で、秘書室株が上がったよ」 外国語 英語では one's stock goes up **兜を脱ぐ** (意味)相手の力量を認め降参する。勝負・競争・論争などで相手に負けて降参する。いやいやではなく、相手の力量を素直に認めて軽い敬意を持つ。 用法文型「ダレダレがダレナニに兜を脱ぐ」〔室町〕 用例二葉亭四迷『其面影』(10六)「兜を脱いで降参したら」②里見弴『多情仏心』(一九三三三三)「三好の前に兜をぬがなければならない事件が起りかけているような口吻を洩したのは」③獅子文六『自由学校』(10)「彼女は、少しも、二人にカブトを脱ぐ気持はなかった」④槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九六)「予想できなかったラジオの宣伝力の大きさに、多加はカブトをぬがざるを得なかったのである」⑤『朝日新聞』(一九七九・二二・二六朝)「『負けは負け』とあっさりカブトを脱ぐところが、また北の湖のカラリとした性格をあらわしている」⑥『朝日新聞』(一九八二・五・四朝)「あまりのすばらしい竹刀さばきに、敗れた大村も『相手の力が上でした』とカブトをぬいだほど」 類句「軍門に下る」「ジャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」「手を上げる」「旗を巻く」 **鎌を掛ける** (意味)相手が思わず本当のこと、こちらが知りたいことなどを漏らしてしまうように、巧みに話しかける。 用法文型「ダレダレがダレダレに鎌をかける」。命令・意志表現は可能。用例④のように受身形がある。〔江戸〕 <119> かもがねぎ 用例①黒岩涙香『血の文字』(一八二)「知ぬ事は有ますまい、貴方がたが鎌を掛たから夫を幸いに益々知らぬ振をするのです」②浜尾四郎『殺人鬼』(一些一)「検事は周囲の状勢から何かを推察してカマをかけているのかしら」③宇井無愁『豚マンの唄』(一九二)「家内はこの写真をぼくにみせる前に、それとなくカマをかけた」④『朝日新聞』(一九七九・七・一九朝)「カマをかけられ、ついしゃべらされたこともたびたびあった」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六六)「浅見がカマをかけても、容易に乗ってこない」 類句「探りを入れる」「腹を探る」「水を向ける」 外国語 英語では trick someone into (confessing) **雷が落ちる** (意味)目上の人に大きな声でがみがみ言われる、怒鳴りつけられ叱られる。 用法文型「ダレダレの雷が落ちる」〔江戸〕 用例源氏鶏太『実は熟したり』(一九宝人―五九)「雷が落ちないようにしてくれな」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「油を売っていると旦那の雷が落ちるんですよ」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「恐怖のおふくろさんのカミナリが落ちるかもしれない」 類句「大目玉を食う」「大目玉を食らう」「大目玉を頂戴する」「お目玉を食う」 **雷を落とす** (意味)目上の人が大きな声でがみがみ言う、怒鳴りつけ叱る。 用法文型「ダレダレがダレダレに雷を落とす」。用例②③のように受身形がある。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「東君が、珍しく、外来で雷を落としたという話じゃないですか」②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「あたまから雷をおとされたり」③高杉良『人事権!』(一九九二)「専務から、おまえの日頃の努力が足りないからだとカミナリを落とされますし」 類句「油を絞る」 **鴨が葱を背負って来る** (意味)鴨が向こうからネギを背負ってやって来たら鴨鍋がすぐにできるように、利用されるものがさらに望ましいものを持ってくることのたとえ。また事態が自分に望ましいように展開し、物事がますます好都合に行くたとえ。 用法文型「鴨が葱を背負って来たような」。 <120> かゆいとこ 単独でも使用する。用例③の「日本人の」のように「鴨」を修飾することが可能。 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九五一―二)「何、それは鴨が葱を背負って、のこのこやってくるようなもんだから」②斎藤栄『産婦人科医のメス』(一九七六)「いいカモを捜していたわけでしょう。そこへカモがネギを背負って来たということになります」③中村うさぎ『だって、欲しいんだもん!』(一九九)「日本人のカモがネギしょって来よったでぇ!」 **痒い所に手が届く** (意味)細かいところまで他者に対して心配りが行き届いている。相手がしてほしいと思っていることを察してよく世話をしてくれる。 用法文型「かゆい所に手が届くよう」。「かゆい所へ手が届く」「かゆい所に手の届く」とも言う。〔江戸〕 用例④嘉村議多『崖の下』(一九六)「万事万端、痒いところに手の届くようにしてくれた思い遣りも」②大下宇陀児『悪女』(一些七)「それはそれは痒いところへ手の届くほどの介抱ぶりで」③石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇―二)「痒い所に手が届くよう懇切に御教授申し上げたいと存じます」④高杉良『人事権!』(一九九二)「常務時代から十七年も仕えてて、ま、痒い所に手が届くみたいな存在だからねえ」 類句「至れり尽くせり」 外国語英語では leave nothing to be desired **借りてきた猫** (意味)普段と違ってとてもおとなしくしているさまのたとえ。 用法文型「ダレダレは借りてきた猫のよう」 用例五木寛之『風に吹かれて』(10)「四十歳前後の他の日本人乗客は、借りてきた猫のようにかしこまっていた」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「石山社長の前では借りてきた猫みたいにおとなしくて」③吉村達也『「鎌倉の琴」殺人事件』(1100w徳間文庫版)「出るとこ出たら『借りてきたネコ』状態になれるあの二重キャラは」 (外国語) 英語では meek as a lamb (or kitten) **枯れ木も山の賑わい** (意味)つまらないもの、何の役に立たないものでも、ないよりはましというたとえ。自分を謙遜して言う。間違って逆の意味に解釈する人がいる。 用法単独で使 <121> "| かんでふく 用。〔江戸〕 用例④井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六―五七)「どうだねマダム、あんたも一つ、応募してみないかね。枯れ木も山の賑わいだ」②石坂洋次郎『あいつと私』(一九六○-六二)「枯れ木も山のにぎわいといった程度の消極的な心境だけど」 **我を折る** (意味)強情を張って、自分の考えを無理にでも通そうとすることをやめ、人の意見や考えに譲歩する。 用法文型「ダレダレは我を折る」〔室町〕 用例「ここらで我を折って受け入れることにしよう」 類句「角を折る」 **我を張る** (意味)人が何と言おうと自分の意見・考えを押し通そうとする。 用法文型「ダレダレはナニナニに我を張る」〔江戸〕 用例「つまらぬことに我を張って父と喧嘩になった」 類句「我を立てる」「我を通す」とも言う。「意地を張る」 **感極まる** (意味)非常に感激する。堪えきれないほど感動する。 用法文型「ダレダレは感極まって~する」 (用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「感きわまって、何べんも向井の肩をたたいたりした」②「感きわまって涙を流す」 **閑古鳥が鳴く** (意味)「閑古鳥」はカッコウの異名。カッコウの鳴き声がもの寂しいことから、店を開けているのに客が来ず、ひっそりと寂しいさま。 用法文型「ナニドコは閑古鳥が鳴いている」〔江戸〕 (用例④高杉良『濁流』(一九九六)「映画館はガラガラで閑古鳥が鳴いている」②内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「お客の絶対量は限られたものである。相変わらず閑古鳥が鳴いている日が多く」③「店は閑古鳥が鳴いている」 **噛んで含める** (意味)親が堅い物を噛んで柔らかくして子どもの口に含ませるように、相手によく理解できるように易しく丁寧に説明したり言い聞かせたりする。 用法文型「ダレダレがダレダレに噛んで含めるように~する」。「~する」に「言う」「話 <122> かんにんぶ す」などの発話行為を表す言葉が来る。〔江戸〕 用例④『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「初老の米国婦人は日本人に対して、ゆっくりと、かんでふくめるように英語を話す」②『朝日新聞』(一九一・六・六朝)「『かんでふくめる』話ぶりとまでいかなくても、つとめてゆっくりと話そうではありませんか」③高杉良『会社蘇生』(一六七)「噛んで含めるように、総合商社と専門商社の仕組みの相異点を説明したあとで」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「宮之原は噛んでふくめるようにいった」 **堪忍袋の緒が切れる** (意味)ある人、ことについて我慢してきた怒りが堪えきれず爆発する。 用法文型「ダレダレは堪忍袋の緒が切れる」。過去形がよく使われる。〔江戸〕 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(1八七0-六)「馬鹿だの豚尾だの野呂間だのとモウ此上は堪忍袋の緒が切れた」②井伏鱒二『丑寅爺さん』(一九盗0)「勝手にさらせ。わしは、牛を連れて近村の村巡りに出る。即刻、出て行ってやる。堪忍袋の緒がきれた」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九二-三)「もはや、堪忍袋の緒が切れた」④石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八一五九)「何事にも限度というものがある。いく子の場合にも、堪忍袋の緒がきれる時がやって来た」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」「烈火の如く」 外国語英語では run out of patience *中国語では成句「忍无可忍」(忍ぶに忍べない、これ以上我慢できない) **間髪を入れず** (意味)髪の毛一本さえも入る隙間もない程の意から、ある言動・できごとに続いて間を置かずにすぐにそれに応じるさま。出典は中国の古典『文選』の「間不容髪」の読み下しから。「間、髪を入れず」と読む。「カンパツ」と言うのは誤り。 用法文型「ダレダレは間髪を入れず~する」〔室町〕 用例斎藤緑雨『かくれんぼ』(八九一)「間、髪を容れざる働きに」②井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六-五七)「魚を釣るとき浮子が水に引きこまれたら、間髪を入れずに合わせるようないきさつでございます」③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「『鈴江さん、多数決ですよ』間髪 <123> きがおもい を入れないで、浩介が、『それで、話が決りました』」④『朝日新聞』(一六〇・八・二朝)「レストランでイスに着くと間髪をいれずウエートレスがやってきた」 5 『相撲界』(一六〇・11)「再開となるや間髪を入れず右下手投げを添えながら左上手から捻って琴若を鮮やかに横転させた」 類句「あっと言う間に」「時を移さず」 **看板が泣く** (意味)世の中に対して専門・得意の分野として掲げていること、また世間の評判が高い事柄が実際と隔たりが大きく、その名で唱えることがはばかられる。 用法文型「ナニナニの看板が泣く」 用例④『朝日新聞』(一九七九・六・二七朝)「〝物価の美濃部』の看板が泣く」②「こんな商品を出しては老舗の看板が泣く」 類句「名が泣く」 *き* **気炎を上げる** (意味)酔ったり議論したりしている時に、威勢のいいことを得意気にまたは熱っぽく言う。 用法文型「ダレダレが気炎を上げる」 (用例)「仲間が集まっては酒を飲み、盛んに気炎を上げている」 類句「おだを上げる」「気炎を吐く」「気勢を上げる」「メートルを上げる」 **気が重い** (意味)心に負担や心配を抱いて気持ちが沈む。物事をするのにあまり気が進まない。 用法文型「ダレダレは〜するのが気が重い」〔江戸〕 用例④吉行淳之介『技巧的生活』(一盗)「呼び出し電話なので、頼むのが気が重いんだ」②三浦綾子『塩狩峠』(一杂八)「あんなやさしい子が、どうしてそんなことを <124> きがかるい したのかと思うと、どうも気が重くて」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「池永の待っている六本木の店へ行くのが、その夜の風子には、どうにも気が重くてやり切れなかった」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「主幹に挨拶しなくちゃいけないかねえ。気が重いよ」 類句「気が沈む」「気が進まない」「気が引ける」「心が重い」 **気が軽い** (意味)心に負担や心配がなく軽やかであるさま。 用法「気が軽くなる」と言うことが多い。〔江戸〕 用例④源氏鶏太『男と女の世の中』(一二)「浩太郎は、さっきからの自分の緊張と一人角力を思い出して、笑いたくなった。気が軽くもなった」②倉橋由美子『霊魂』(10)「それをきいてKは多少気が軽くなるようだった」 (類句「心が軽い」 **気が利く** (意味)(11)細かなところまで注意や配慮が行き届き、臨機応変な対応ができる。 22服などがしゃれている。おつである。 用法文型(1)「ダレダレは気が利く」「気が(の)利くダレダレ」。用例①のように否定形でもよく使う。(2)「気が(の)利いたナニナニ」〔江戸〕 用例 志賀直哉『転生』(一九九面)「ある所に気の利かない細君を持った一人の男があった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「国立大学の教授で、そんな交渉の出来る気のきいた奴はいませんわな」③渡辺淳一『北都物語』(一九塩)「よく気の利くママのいる小料理屋」④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「あたしは芸者で気のきいたことはいえないが」22⑤田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「焼出されのくせに気の利いた服、着とる」 類句 (1)「気が回る」 **気が気でない** (意味)悪い事態を予想して非常に気がかりになって落ち着かない。 用法文型「ダレダレは~と気が気で(は)ない」。「気が気でない」の前に用例④⑤のように理由を述べる条件節が来ることが多い。〔江戸〕 用例②佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九三)「秋帆はこのごろ気が気ではないのだそうです」②甲賀三郎『支倉事件』(一九七)「下手な事をやられて、変に勘違いをされたり、依怙地になられては困って終う。石子刑事は、気が気で <125> きがすすま はなかった」③井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六-五七)「こちらはお客を迎えに出て、いまに汽車が着くという場合でございますから、気が気ではない」④石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五人―死)「父が、河田さんにどんな失礼なことを申し上げるかと思うと、気が気でなかったものですから」⑤『朝日新聞』(一六一・二・六朝)「私の週末の楽しみが、奪われるのではないかと気が気でない」◎木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「わたしはいつ、あらわれるか、もうあらわれるだろうと、気が気ではなかったのですが」 (外国語 英語では be beside oneself *中国語では成句「坐立不安」(居ても立ってもいられない、気がかりでじっとしていられない) **気が知れない** (意味)相手がどういうつもりなのかわからない。相手の考えが理解できない。批判的に言う言葉。 用法文型「ダレダレはダレダレの気が知れない」「ダレダレは〜か気が知れない」。~は疑問に思うことが来る。〔江戸〕 用例平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「『うちのおかあさんだって・・・』『本当かい』気が知れないな、と治夫は笑い出した」②丸谷才一『男のポケット』(一九芸)「一体どういふわけで新聞の一面なんてものを、ああ丁寧に読むのかしら。気が知れないね」③内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九一)「ハワイなんかに出掛けて行く連中の気が知れないわねえ」 類句「理解に苦しむ」 **気が進まない** (意味)自分から進んでやる気にならない。気乗りしない。 用法文型「ダレダレは〜は気が進まない」。用例②のように丁寧語が使用できる。 用例④高橋和巳『悲の器』(一九三)「病室へおもむくのは気が進まなかった」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一二)「僕だって、あの女をお義母さんと呼ぶのは、あんまり気がすすみませんから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―空)「私は大学関係の方々との縁談は気がすすまないのでございます」④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「わたくしとしては、外資は気がすすまないのですが」 類句「気が重い」「気が乗らない」「気が引ける」 (外国語 英語では be unwilling to do <126> きがすむ **気が済む** (意味)不快に腹立たしく思っていたこと、気になっていたこと、したいと思っていたことなどを自らまたは他人が処理してなくし、満足して気持ちが収まる。 用法文型「ダレダレは気が済む」「ダレダレの気が済む」。否定形でもよく使う。〔江戸〕 用例源氏鶏太『男と女の世の中』(一二)「泣いたことで気がすんだのか、それとも、最後まで、浩介がそばにいてくれたことで満足したのか」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「お前はすべてに自意識過剰だよ。自分の身のまわりの不幸は、みんな自分の責任だと信じこまなければ気がすまない人間なんだ」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「私は下手の横好きで、地唄から小唄、長唄、俳句、お茶と何でも、一通りは囓らんと気のすまん方でして」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「殴って気が済むんなら、さあ殴ってくれよ」 (外国語 英語では feel satisfied **気が付く** (意味)(11)あることについて他人から教えられず、そのことに考えが及ぶ。考えつく。気づく。細かなところによく注意が行き届く。33失神や眠りなどから正気に戻る。意識を取り戻す。④あることに没頭して、ふとそこから周囲に目をやり、どういう状況か知る。 用法文型11)122)「ダレダレはダレナニに気がつく」「ダレダレは~と気がつく」。用例②のように否定形がある。③のように、程度の大きいことを示す副詞とともに用いられる。33)「ダレダレは気がつく」。④「気がつくと〜~する」〔室町〕 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「ビールがなくなっていることに気がついて」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九六)「おれが今まで気がつかなかった『親方』への畏怖と敬愛のよってきたるところを」 (12)③福永武彦『忘却の河』(一盗)「君はよく気がつくひとですね」③④丸谷才一『男のポケット』(一九大)「眼の前にパツと火花が散つて、人事不省になつたんです。気がついたら、医者がそばにゐました」⑤島尾敏雄『死の棘』(10)「つい眠りこんでしまった。気がつくと妻がしきりに呼んでいた」④⑥三浦綾子『塩狩峠』(一六人)「この小説を信夫は一気に読み終った。気がつくと、すでに日は落ちて」 類句 (12)「気が利く」「気が回る」「気を配る」③「息を吹き返す」④「我に返る」 <127> きがぬける **気が強い** (意味)(11)後ろ盾があって安心であるさま。(122)気性が激しく弱音を吐いたりくじけたりしない。勝ち気である。 用法文型「ダレダレは気が強い」〔江戸〕 用例 (1源氏鶏太『男と女の世の中』(一九二)「軍資金に不足なら、父親に貰えばいいのだから、その点、気が強い」②②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「稽古の荒っぽさは抜群で、ただでさえ気が強くて口の悪い千代だから」③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「可愛い顔立ちに似ず、気は強いらしい」 (類句 (102)「鼻っ柱が強い」「向こう意気が強い」 **気が遠くなる** (意味)意識が薄れ遠のく。またそれほど数値や程度がはなはだしいさま。 用法文型「ダレダレは気が遠くなる」「気が遠くなるようなナニナニ」〔室町〕 用例 江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九二六)「その中にはさまって、車に乗る時の心持というものは、(略)ほんとうにもう、気が遠くなるようでございましたっけ」②星新一『ボッコちゃん』(一老一)「気の遠くなるような額の使い込みをやった」③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一七七)「あの、美しい淑女の園では、運動場十周なんていう気の遠くなるような拷問は」④津本陽『深重の海』(一九七六)「頭の後ろをしたたかに打ち、気が遠くなった」 類句「常軌を逸する」「突拍子もない」「とてつもない」「途方もない」 (外国語 英語では faint away; swoon **気が抜ける** (意味)(1)物事が中断したり緊張をなくすようなことが起きたりして、張り合いがなくなる。やる気を失う。拍子抜けする。ぼんやりする。魂が体から抜ける。②ビールなどの酒類や炭酸飲料などの味・香りなどがなくなる。 用法文型(10)「ダレダレは気が抜ける」。「気が抜けたよう」と言うことが多い。(2)「気の抜けたナニナニ」〔江戸〕 用例①平岩弓枝『風子』(一九七五ー七七)「にやっと笑っている風子をみると、千代も玉子も気が抜けて、『今の若い子はわからないねえ』」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「船舶練習部での仕事は真剣勝負そのものだったから、こう暇になると気が抜けたようだよ」12③高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「自分が一本の、気の抜けた炭酸ソーダになったように思えた」 <128> きがひける 類句 (11)「肩を落とす」「気を落とす」「力を落とす」 **気が引ける** (意味)あることをするのにためらいを感じる。 用法文型「ダレダレは~するのは気が引ける」〔江戸〕 用例三浦哲郎『結婚』(一九六七)「私は、深いゆかりもない家の前でなれなれしくカメラにおさまるのは気がひけて」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「招待されていながら悪口を書くのは気がひけるが」③渡辺淳一『北都物語』(一九塩)「絵梨子を連れて産婦人科の病院へ行くのに、明るすぎる陽射しの下では気がひける」 類句「気が重い」「気が沈む」「気が進まない」「心が重い」 **聞きしに勝る** (意味)話・噂・評判で聞いていた以上にすぐれている、または程度がはなはだしい。 用法文型「ダレナニは聞きしにまさる」「聞きしにまさるダレナニ」 用例④浜尾四郎『殺人鬼』(一九一)「すでにもう秋川駿三の訊問を開始しているものと見える。まことに、聞きしにまさる敏腕さではある」②姉小路祐『走る密室』(一九盗)「聞きしにまさる横紙破りですね」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「購読の押しつけも、聞きしにまさるものがあるようだ」 外国語 英語では much ~ than one had heard **聞き耳を立てる** (意味)人の話・内緒話や物音などを聞こうとして注意を集中する。多くは前もって聞こえてきて、それをよく聞こうとして聞く。 用法文型「ダレダレがナニナニに聞き耳を立てる」〔室町〕 用例④川端康成『伊豆の踊子』(一天)「聞耳を立てる気にもならない程に、私は親しい気持になっているのだった」②三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「ふと一人の少年が言った言葉に、彼女は聴耳を立てた」③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「そういう三人の対話を、咲子は、台所から聞き耳を立てているようだった」④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「そういう話の時は必ず廊下まで来て聞き耳を立てている荒堀玉子が」⑤姉小路祐『走る密室』(一九盗)「玄関口に進んだ尾崎は、聞き耳を立てた。明かりのついた二階の部屋からロック音楽が聞こえてくる」 類句「耳を傾ける」「耳を凝らす」「耳を澄ます」「耳を <129> きせんをせ そばだてる」 **聞く耳を持たない** (意味)相手の忠告・勧め・意見を聞き入れない、受け入れようとしない。 用法文型「ダレダレは聞く耳を持たない」〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「店で母親に、いいおもちゃを勧めても、聞く耳を持たないことが多い」②森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「アルバイトはアルバイトなりに責任があると言って聞かせても、聞く耳をもたない」③内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「いったんホシと目したら、いくら反論しようと聞く耳を持たない」④龍一京『交番 巡査の誇り』(1100円)「いくら話しても、菊田は聞く耳をもたない」 **騎虎の勢い** (意味)虎に乗ったら降りようにも降りられないことから、物事の勢いがついて行きがかり上、途中で止めようにも止められないこと。出典は中国の『隋書』。 用法文型「ダレダレは騎虎の勢い」〔江戸〕 (用例三島由紀夫『禁色』(一盗1-≦)「小心な福次郎の騎虎の勢いは、すでに半ば衰えていたのである」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「こうなったら、最早、騎虎の勢いである」 類句「飛ぶ鳥を落とす」「破竹の勢い」「日の出の勢い」 (外国語 中国語では成句「骑虎难下」(虎に乗って走るしかない、途中で下りられない) **机上の空論** (意味)理屈ではそうなるというだけで、実際には役に立たない理論・考えや計画。 用法文型「ナニナニは机上の空論」 用例①浜尾四郎『殺人鬼』(一些一)「彼女のクリミノロギーは結局机上の空論の外を出ない」②倉田百三「学生と教養」(一九天)「象牙の塔に閉じこもって、現実の世相を知らないものの机上の空論であるとしてかえり見ない向きもある」 類句「絵に描いた餅」「砂上の楼閣」「畳の上の水練」 外国語 英語では an armchair theory *中国語では成句「纸上谈兵」(紙の上で兵法を論ずる。「淡」は論ずる) **機先を制する** (意味)相手より先にことをしかけて相手の気勢をそいだり相手の計画の <130> きってもき 実行を抑えたり、相手より有利な立場に立ったりする。 用法文型「ダレダレがダレダレの機先を制する」。用例③④のように受身形がある。 用例獅子文六『自由学校』(一九〇)「ランデ・ヴウというやつは、やはり機先を制した方が、勝ちだといいいますな。つまり、待たせた方がね」②菊田一夫『君の名は』第四部(一九語)「はじめは、いきなり真知子に会って、『お迎えにきたのですよ』と、柔らかく、にこやかにいって、おそらくは、強ばった表情で出迎えるであろう真知子の機先を制するつもりだった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「ぐずぐずしていると、東教授の移入教授工作に機先を制せられてしまう」④内田康夫『歌わない笛』(一九九八)「いきなり機先を制せられ度肝を抜かれた感じだが」 類句「先手を打つ」「先手を取る」 (外国語英語では forestall; get ahead of **切っても切れない** (意味)関係が密接であるさま。 用法文型「ダレナニはダレナニと切っても切れない関係」〔江戸〕 用例④夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九金)「その骨相と生活の中には、蒙古、印度、馬来、猶太、拉甸、アイヌ、スラブ等の各民族の風采と性格が、切っても切れない因果関係をもって結ばれ合いつつ」②田辺保『なぜ外国語を学ぶか』(一九七九)「フランス語やフランスと、自分を切っても切れない関係に引き入れてしまうのだ」③『朝日新聞』(一九七九・八・二三朝)「西尾末広民社党委員長と切っても切れない間柄」④『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「これら伝統美と切っても切れない関係にあるシルクロード美術」⑤森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「安光建設とは切っても切れない関係だろう」 **狐と狸の化かし合い** (意味)狐と狸は人を化かすということから、ずるがしこい者同士がだまし合うことのたとえ。 用法文型「ダレダレとダレダレは狐と狸の化かし合い」「ナニナニは狐と狸の化かし合い」 用例源氏鶏太『天下泰平』(一九五西—翌)「聞いていて、聖子は、バカらしくなっていた。それこそ、キツネとタヌキのばかしあい、というものであろう」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四―五五)「男と女の仲は、狐と狸の化しあいみたいなものなんだろうね」③舟橋聖一『ある女 <131> きにいる の遠景』(一九六一)「みんな何云ってるんだか、わからないわ…狐と狸の化かし合いよ」 **狐につままれたよう** (意味)狐に化かされたように、思いがけないことが起きて、何が何だか訳が分からず、ぼうっとしているさま。 用法文型「ダレダレは狐につままれたよう」「狐につままれたようなナニナニ」。ナニナニには「顔」「気持ち」などが入る。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「彼は狐に訪れた様な変な顔をして居る同級を」②泉鏡花『若菜のうち』(一九三)「女の子は、半分気味の悪そうに狐に魅まれでもしたように掌に受けると」③甲賀三郎『青服の男』(一売)「流石の警部も狐に撮まれたような顔をしながら」④城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「沖は思わず、声をあげた。狐につままれた気がする」⑤『朝日新聞』(一九六〇・一二・六朝)「キツネにつままれたようで。はやらな ^^ い演歌で賞をもらうなんて」 外国語 英語では be baffled **木で鼻を括る** (意味)相手の言葉に対してそっけない、無愛想な態度で、ろくに返事もせず相手をあしらうさま。元来は「木で鼻をこくる」と言ったのが、誤用されて「木で鼻をくくる」になった。 用法文型「木で鼻をくくったようなナニナニ」「木で鼻をくくったように~する」。ナニナニと~には挨拶・返事などの発話行為の言葉が来る。〔江戸〕 (用例④ 甲賀三郎『支倉事件』(一些七)「支倉の奴は木で鼻を縛ったような挨拶をしやがったが」②獅子文六『青春怪談』(一九盔)「木で鼻をククったように、蝶子は無愛想だったが」③石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六一五七)「木で鼻をくくったような返事ばかりしますからね」④『朝日新聞』(一六二・二・三朝)「中には、木で鼻をくくったような客扱いしか出来ない宿舎もある」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「『ただいま理事長は不在でございます』と木で鼻をくくったように答えた」 類句「けんもほろろ」「取り付く島もない」「にべもない」「鼻であしらう」 外国語 英語では blunt **気に入る** (意味)自分の好みや望む条件にかなって満足できる。 用法文型「ダレダレは <132> きにかかる ダレナニを(が)気に入る」。用例①のような受身形、③のような敬語表現「お気に入られる」や、④のような否定表現がある。〔室町〕 用例大岡昇平『俘虜記』(一二)「二人共常に勤勉に任務を果たそうという善意に溢れ、棟長班長の気に入られようと務めていたが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六三)「香代子は、港由利子を気に入り、自分の娘にしてもいい、と思ったのであろう」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「画廊で私が教授にお目にかかり、あの絵を大そうお気に入られたようにご覧になっておられましたので」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ぼくが週刊誌に書いたことが気に入らないというのである」⑤平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「なにもかも気に入っている」 ◎森村誠一 『エネミイ』(11000)「矢沢は一目でその店の雰囲気が気に入った」 類句『眼鏡にかなう」 外国語 英語では be pleased with **気に掛かる** (意味)心配事や疑問などが心にひっかかって離れない。 用法文型「ダレダレはダレナニが気にかかる」。用例①のように否定形がある。〔室町〕 用例 三島由紀夫『禁色』(一九盗一-≦)「夫人の失踪が気にかからぬことを、青年は自分の心の冷たさのせいにしていたが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一二)「別に気にかかるようなことをしていたわけではないんだから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「実は、病理の大河内先生がこうした噂をどう取っていらっしゃるかということが、一番、僕の気にかかることなんだ」④中上健次『鳳仙花』(120)「吉広がその粗末な小屋に入り何をやっているのか気にかかったが」 類句「気になる」「心にかかる」 外国語 英語では be anxious **気に掛ける** (意味)あることを心に留めて忘れない。あることが先行きどうなるかと心配する。 用法文型「ダレダレがダレナニを気にかける」。人を対象とする時は「ダレダレのことを気にかける」と言うことが多い。命令・意志表現は可能。否定表現も多い。〔室町〕 用例三島由紀夫『禁色』(一盜一―≦)「私はおよそつまらないことを気にかけない性格が」②島尾敏雄『死の棘』 <133> きにたけを <(120)「ますをへだてた乗客を気にかけるふうでもなく」③源氏鶏太『男と女の世の中』(一三)「あたし、別に気にかけているわけではありません」④三浦綾子『塩狩峠』(一六八)「君という男は、十歳の時にお坊様になる約束をしたことを二十過ぎても気にかけている正直者だからねえ」⑤星新一『ボッコちゃん』(一九二)「この行為の残酷さを気にかけるどころではなかった」 類句「気にする」「心にかける」「心に留める」 **気に食わない** (意味)人や物事が自分の考え・思惑や好みに反し、嫌だ、好きになれない。 用法文型「ダレダレはダレナニが気に食わない」〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「今度の医学部長の決済が、気に喰わないからだよ」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「その夜のぼくの司会ぶりが気にくわないという男からであった」③中上健次『鳳仙花』(10)「その手をみせびらかしている事が気に食わなかった」④『朝日新聞』(一六一・三・三朝)「気にくわぬことがあるといっては、教師を殴ったり、職員室に押しかけたりするような」 類句「気に入らない」「虫が好かない」 **気にする** (意味)ある事柄を根拠にそれが自分あるいは他人に不利益になると思い煩う、心配する。 用法文型「ダレダレがダレナニを気にする」。用例③のように否定形がある。④のように禁止形がある。〔室町〕 用例源氏鶏太『男と女の世の中』(一三)「自分の女社長にあたえる初印象を気にしていたのである」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「時間を気にしていた様子だが」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「女はたいして気にしない様子でいわれた通りにした」④中上健次『鳳仙花』(一六〇)「勝一郎がフサに気にするなというように見てから」 類句「気にかける」 外国語 英語では worry about **木に竹を接ぐよう** (意味)木に竹を接いでも合わないように、物事の釣り合いがとれず、不自然なことのたとえ。また前後の理屈・筋道が通らないことのたとえ。 用法「木に竹をつぐようなナニナニ」。「木に竹をついだよう」とも言う。 <134> きになる 用例 石坂洋次郎『何処へ』(一盗七)「いきなり西洋風の恋愛をここで実現しようととしても、木に竹を継ぐようなもので、出来ることではありませんですな」②「木に竹をつぐような説明」 **気になる** (意味)ある人や事柄・出来事などに少し心が奪われ関心が行く。またはそれを心配に思う。 用法文型「ダレダレはダレナニが気になる」。人を対象とする時は「ダレダレのことが気になる」と言うことが多い。用例③のように否定形がある。〔江戸〕 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一깆0)「船に乗ることになったとき、やはり気になったのは船酔いのことである」②平岩弓枝『風子』(一九七五-七七)「『風子がどうかしたの』帯をときながら、訊ねたのは、千代にしても気になったからで」③吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「妻の方が背が高かったが、留学中、背の高い女の中で過したかれには気にならなかった」④『朝日新聞』(一九六二・二・三朝)「キッシンジャーをそんなに待たしてええのかと他人事ながら気になったよ」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「ちょっと気になることがあってさ。目が覚めちゃったから」 類句「気にかかる」「心にかかる」 **気の置けない** (意味)気づかいする必要がないという意から、人に遠慮する必要がなく、心から打ち解けることができる。人間関係について言う場合が多い。なお、誤って気が許せない、油断ならないと解釈する人が多い。「気が置けない」とも言う。 (用法) 文型「気の置けないダレダレ」 用例 江戸川乱歩『何者』(一九二九)「主客一同浴衣がけの気のおけぬ宴会であった」②徳田秋声『仮装人物』(一九三五―美)「気のおけない怡しいサロンとなることも考えられないことではなかった」③獅子文六『青春怪談』(一九語)「少女時代からの古馴染であって、気が置けない」④『朝日新聞』(一九六一・九・三朝)「同行者も気のおけない人たちばかり」⑤津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九六九)「堀内が、こうした気のおけない酒場を選ぶのは」⑥姉小路祐『汚職捜査』(11000)「ゴルフにつきあわせるなど気のおけない間柄だと思っていたが」 **着の身着のまま** (意味)今着ている衣服のほかは何一つ着るものを持っていない <135> きもがすわ さま。また、ある衣服を着たままで取り替えないさま。 用法文型「ダレダレは着の身着のまま」。述語として用いられる。 用例 江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九言)「着のみ着のままじゃ変だからね」②伊藤整『典子の生き方』(一四〇)「下着類や手まわりのものを多少持ち出したきりで、典子は、ほとんど着のみ着のままであった」③大岡昇平『俘虜記』(一九二)「着のみ着のままの露営生活には丁度手頃な陽気である」④『朝日新聞』(一九五六・六・三朝)「ソ連からの帰国者たちは、着のみ着のままの貧しい姿だったという」⑤『朝日新聞』(一九七塩・二・二六朝)「横井さんは着のみ着のまま、米軍と住民の銃に追われて逃げ回る毎日だった」◎内田康夫『若狭殺人事件』(一九九九二)「引揚者はほとんどが着の身着のまま、生命からがら―という人が多く」 (類句「着た切り雀」(「着の身着のまま」の人も指す) 外国語 英語では with the shirt on one's back **踵を返す** (意味)「きびす」とはかかとのこと。引き返す。来た道を歩いたり走ったりして戻る。 用法文型「ダレダレがきびすを返す」。「くびすを返す」とも言う。 用例三島由紀夫『愛の渇き』(10)「阪急終点の百貨店で買い物をすませて、そこから踵を返して、また電車に乗ってかえるだけである」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一―三)「いうなり、青子さんは踵を返して、もう我慢がならなくなったように、やがて、バタバタと走っていってしまった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「くるりと踵をかえして教授室へ足を向けた」④広山義慶『私刑警察激弾!』(1001)「宮園は頭をあげてから踵を返した」 類句「きびすをめぐらす」とも言う。 **踵を接する** (意味)あることが次々と続けて起こる。 用法文型「ナニナニがきびすを接して~する」。「くびすを接する」とも言う。〔江戸〕 (用例) 高橋和巳『悲の器』(一二)「刑法学の領域には二つの近代的思潮が踵を接して登場した」 (外国語 中国語では成句「接踵而至」(きびすを接して来る。「接踵而来」ともいう) **肝が据わる** (意味)度胸があり、何があっても、動揺せず落ち着いている。 用法文型 <136> きもがつぶ 「ダレダレは肝が据わる」 用例 東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「さすがにいざとなると肝が座っているのか、伸彦は狼狽や怯えを感じさせない口調でいった」②岩城捷介『免職警官』(100三)「肝が据わってることだ」 類句「肝が太い」「腰が据わる」「神経が太い」「度胸が据わる」「腹が据わる」 **肝が潰れる** (意味)非常に驚く。 用法文型「ダレダレは肝が潰れる」。「肝が潰れる(ような)思い」と言うことが多い。〔鎌倉〕 用例 石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「ママはもうお前が倒れた時、どうなるかと思って、きもがつぶれる思いでしたよ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「そんな危ない瀬戸際の時に、岩田君と鍋島君のおかげで、私は肝のつぶれるような思いをさせられたよ」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰す」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 〔外国語 韓国語では「간이 (肝が)오그라들다 (縮む)」 **肝が太い** (意味)度胸があって、ものに動じないさま。ずぶとい。 用法文型「ダレダレは肝が太い」〔平安〕 用例「あいつは肝が太い」 類句「肝が据わる」「肝っ玉が太い」「神経が太い」「度胸が据わる」「腹が据わる」 (外国語) 韓国語では「간이(肝が)크다(大きい)」 **肝に銘じる** (意味)教訓的な事柄、重要な事実、忠告、指摘などを心に刻むようにしっかり覚えておく。またそれに合致するような言動をすべきであるというニュアンスが含まれる。 用法文型「ダレダレがナニナニを(と)肝に銘じる」「ダレダレがナニナニを〜と肝に銘じる」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例④源氏鶏太『三等重役』(一九五一―三)「わしは奈良さんの大恩は忘れてはならん、と肝に銘じとるのである」②石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六―五七)「夢中でお前の名前を呼んだのは、ふだんから、さあという時たよりになるのは、雄吉よりもお前だということが、幼いながら肝に銘じていたからですよ」③『朝日新聞』(一九七九・五・一六朝)「検察はこの点をキモに銘じて不正摘発の姿勢と体 <137> きもをぬく 制を強化してほしい」④『朝日新聞』(一九九〇・五・三朝)「『しない、させないカンニング』を肝に銘じようではありませんか」⑤『朝日新聞』(一九六一・四・六朝)「あのとき国民は戦争は二度とごめんだ、と肝に銘じたはずである」 (類句「心に刻む」「心に留める」「胸に刻む」 (外国語英語では人が主語の場合 take something to heart *中国語では成句「刻骨铭心」(心に深く刻む。「刻骨」は骨身に刻む。「銘心刻骨」「镂骨铭心」などとも言う。「镂」は刻む) **肝を消す** (意味)非常に驚く。 用法文型「ダレダレが肝を消す」〔安土桃山〕 用例永井荷風『監獄署の裏』(10九)「恐しい真赤な生血の滴りに肝を消した私は」②徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「尖々しい肝癪声に膽を消し」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を潰す」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 **肝を潰す** (意味)非常に驚く。 用法文型「ダレダレがナニナニに肝を潰す」〔平安〕 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(一八七〇-七六)「肝を潰した顔色にて」②三島由紀夫『仮面の告白』(一九九)「とにかく奇妙奇天烈な幻影で、横で見ている身は毎度のことながら肝をつぶすのだ」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「大きな生スッポンを前にして、みんな途方にくれるだけである。『大家の奥さんのところへでも、暑中見舞に持ってゆくか?』『よせよせ。肝をつぶすのが関の山だ』」④『朝日新聞』(一九六〇・五・三朝)「テヘラン市民は頭上の戦闘機のごう音に肝をつぶして窓を開け、ベランダに飛び出た」⑤高杉良『濁流』(一九九六)「一億円と聞いて肝を潰した」 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 外国語 英語では be frightened **肝を抜く** (意味)「どぎもを抜く」に同じ。 用法文型「ダレダレが肝を抜く」。受身形が一般的。 用例④舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「藪から棒で、 <138> きもをひや わたしは肝を抜かれた」②『朝日新聞』(一九〇・10・1五朝)「観客は肝を抜かれた」 **肝を冷やす** (意味)危険を感じて驚き、ぞっとする。用法文型「ダレダレが肝を冷やす」。「肝」を修飾することが可能。用例③のような使役形がある。〔南北朝〕 用例④内田百間『百鬼園随筆』(一九三)「首縊りの件を聞かされて、私は膽を冷やした」②源氏鶏太『颱風さん』(一莹一)「一升瓶をいきなり京太を目がけて投げつけた。京太は肝を冷やし」③石坂洋次郎『光る海』(一九六二一六三)「その子供たちが、私のきもをひやさせるようなことを平気で言うほど成長して」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「君が医学部長になる時だって、鼻先一つで危うなり、肝を冷やしたことがあったやないか」⑤『朝日新聞』(一久・九・三朝)「『それでは、あと一人』のつもりが、代打川藤に力のない球を2点本塁打を浴び、肝を冷やした」 類句「背筋が寒くなる」「鳥肌が立つ」「身の毛がよだつ」 (外国語 英語では be scared half to death **脚光を浴びる** (意味)「脚光」は舞台の俳優などを下から照らす照明。広く世間に注目され大いにもてはやされる。 用法文型「ダレナニが脚光を浴びる」。用例①②⑤のように「脚光」を修飾できる。①のような受身形や②のような敬語形もある。 用例①『朝日新聞』(一九霊・四・七朝) 「チャーチルが、もう一度巨頭会談で世界の舞台の脚光を浴びられなかったのが」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「財前助教授は(略)時代の脚光を浴びられ、食道・胃吻合術の若き権威として」③『相撲界』(10・11)「最近の琴千歳は昨年秋場所新十両優勝して、一躍脚光を浴びたときほどの厳しい動きが見あたらない」④『朝日新聞』(一九一・10・西朝)「『初の東京六大学主将選手』として、常に脚光を浴びてきた」⑤『朝日新聞』(一六〇・二・二六朝)「華やかな脚光を浴びるON」◎内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「世の中で脚光を浴びるようになったいま」 類句「スポットライトを浴びる」「フットライトを浴びる」 外国語英語で人が主語の場合は come into the limelight <139> きょうきん **九死に一生を得る** (意味)死ぬほどの非常に危険な目に会ってかろうじて命が助かる。 用法文型「ダレダレが九死に一生を得る」。用例⑤のように述語を略することがある。〔江戸〕 用例①伊藤永之介『村のナイト・クラブ』(一九二)「敗戦から一年後に、食糧のとぼしい南洋のサイパン島から、九死に一生を得て帰って来た当時の朝治は」②『朝日新聞』(一九七九・七・二九朝)「被爆して九死に一生を得ながらも」③『朝日新聞』(一九六〇・10・1六朝)「空母『瑞鶴』が南方で撃沈され、九死に一生を得た」④『朝日新聞』(一六一・三・10朝)「生後間もなく難病にかかり、九死に一生得て天命を授かっただけに」◎広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「九死に一生という奴だ、塚本くんの診断によれば、あと一週間もすれば元に戻るそうだ」 (外国語 英語では have a narrow escape from death *中国語では成句「九死一生」(九死に一生を得る) **牛耳を執る** (意味)中国の古典『春秋左氏伝』の故事によるもので、中国の古代の諸侯が集まって盟約を結ぶとき、盟主となる人が牛の耳を切り取り、みんなでその血をすすり誓ったという。転じて、同盟の盟主となる。組織・団体の実権を握って思うままに支配する。牛耳る。 用法文型「ダレダレがナニナこの牛耳を執る」〔江戸〕 用例①植村正久「エフ・デヰ・マオリスについて」(一九〇九)「フヒリップス・ブルックスは時代思想の牛耳を取ったものである」②徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「卒業生の町尾琴次郎さんが、英語神学生、第一寮々長として、生徒仲間の牛耳を執て居た」 (類句「牛耳を握る」とも言う。 外国語 中国語では成句「执牛耳」(牛耳を執る) **窮余の一策** (意味)苦し紛れに思いついた一策、一手段。 用法文型「ナニナニは窮余の一策」 (用例)江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三○-三三)「窮余の一策、とうとう風船の縄をよじのぼるような芸当を思いついたのだ」 外国語 英語では the last resort **胸襟を開く** (意味)打ち解けて心中を隠すことなく、ありのまま打ち明ける。 <140> きょうべん 用法文型「ダレダレが胸襟を開く」「胸襟を開いて〜する」 用例㉡泉鏡花『春昼』(一九〇六)「余り世帯気がありそうもない処は、大いに胸襟を開いてしかるべく」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九強ニ―≦)「今夜は、大いに胸襟を開いて、飲み、唄い、且、語り合いたいのであります」 類句「肝胆を開く」「底を割る」「腹を割る」 (外国語英語では drop all pretence **教鞭を執る** (意味)教職に従事する。学校などで教師になって教える。 用法文型「ダレダレはドコドコで教鞭を執る」 用例『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「テヘラン大学、工科大学などで教べんをとってきた」 (外国語 英語では teach at school **清水の舞台から飛び降りる** (意味)京都の清水寺の舞台から飛び降りたら死んでしまう。飛び降りるなどとはよほどの決心がなければできない。そのように全く自信もなく、結果はどうなってもいいと、思い切って決断して何かをするたとえ。 用法文型「清水の舞台から飛び降りるつもり(気など)」「清水の舞台から飛び降りるよう」〔鎌倉〕 用例 林二九太『へのへのもへじ』(一九二)「じゃア、まア、清水の舞台から飛び降りる気で申しますが」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「清水の舞台から飛び降りる決意を固めたように緊張した顔をして」③高杉良『人事権!』(一九九六)「相沢は清水の舞台から飛び降りるような心境で、生唾を呑み込んだ」 **きりがない** (意味)それをやりだしたら際限がない。用法「〜れば(たら・と)きりがない」〔鎌倉〕 用例④北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(120)「煙草を一本ずつやっても、あとからあとから手がでてきてキリがない」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九三)「上を見れば、キリがないし」③『言語生活』三一四号(一九七七)「例を挙げればきりがない」④『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「そんなことをいちいち聞いていたらキリがない」 (外国語 英語では There is no limit (or end) to <141> **軌を一にする** 意味「軌」は車輪の通った跡。同じ生き方・考え方・やり方である。 用法文型「ナニナニはナニナニと軌を一にする」 用例『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「大統領の一連の動きがねらったものと軌を一にする」 類句「揆を一にする」(大岡昇平『俘虜記』〈一九五三〉「それは丁度彼等が山へ入ってから、わが分隊長ほど断乎部下を見捨てることが出来なかったのと揆を一にしている」)とも言う。 **気を落とす** 意味 自分の思うように行かず、がっかりする。元気をなくす。用法文型「ダレダレが気を落とす」〔江戸〕 用例福永武彦『忘却の河』(一九六四)「もっと元気を出して頂戴、そんなに気をおとすものじゃありませんわ」 類句「肩を落とす」「気が抜ける」「力を落とす」 **気を配る** 意味周囲の人や状況に注意をして、手落ちがないようにあれこれと心を使う、注意を払う。用法文型「ダレダレがダレナニに気を配る」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「机のスタンドの明かりの下で、ページを繰る音にも気を配りながら」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「それとなく各テーブルを見て廻り、パーティの進行状況に気を配っていると」③渡辺淳一『北都物語』(一九七四)「変に見られないかとあたりに気を配るが」 類句「気を使う」「心を配る」外国語英語では take pains **気を付ける** 意味ある事柄に注意を働かせる。 用法文型「ダレダレがダレナニに気をつける」。「~しないように気をつける」ということが多い。「気をつけて」と別れの挨拶にも使用。用例④⑤のように命令・意志形がある。①のように敬語形がある。〔江戸〕 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「くれぐれも暑さあたり、水あたりのないようお体にお気をつけてください」②渡辺淳一『北都物語』(一九七四)「この七回のうち、塔野は子供が産まれないように、気をつけたことは一度もなかった」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「むこうへ行ったら恥をかきますから、気をつけて話さなくちゃいけませんよ」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「以後、気 <142> をつけろ!」⑤「これからもっと気をつけようっと」 類句「気を配る」「気を使う」外国語 英語では be careful; take care **気を引く** 意味相手に関心を持たせるようにする。用法文型「ダレダレはダレダレの気を引く」。命令・意志表現は可能。用例③のように受身形がある。〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鵜飼の気を惹くような云い方をすると」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「もう少しお化粧でもしたらどうだろうかとか、お花かお茶でも習ったらどうだろうかとか、誰々さんは気に入らないとか、まあうるさいことは言わないが娘の気を引いてみる」③安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)「ブリキ製のシャープペンシルに気をひかれた」 類句「水を向ける」 **木を見て森を見ず** 意味細かいことのみ見て、全体を見ていないたとえ。用法独立した一文として使用。例文のように全体で体言を修飾する場合もある。用例森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「狭窄した視野で聞き込みをつづけていると、木を見て森を見ぬミスを犯しやすい」 外国語 英語では can't see the forest for the trees 中国語では諺「见树不见林」(木を見て森を見ず。「林」は森。「只见树木、不见森林」とも言う) **金魚の糞** 意味人や物事が列のように長く連なっているさま。また、主体性をもって自分で行動せず常に人の後にくっついて離れないさま。からかいの言葉。用法文型「ダレナニは金魚の糞のようにくっつく(くっついて歩く)」〔江戸〕 用例①大沢在昌『悪夢狩り』(一九九四)「さっきの小僧がいつも金魚のフンみたいにくっついて歩いている」②内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「その後ろに金魚の糞のようにくっついて、スポーツシャツの軽装でうろうろしているのは、報道関係の人間にちがいない」 外国語 英語では a tagalong **琴線に触れる** 意味琴の糸に触れると音が鳴るように、心があることに深く感動して <143> 共鳴する。用法文型「ナニナニがダレナニの琴線に触れる」。用例①のような使い方はまれ。用例①『朝日新聞』(一九七九・七・二四朝)「いずれもアジアの平和の琴線にふれる問題である」②高杉良『人事権!』(一九九二)「宮本常務の話も相沢の琴線に触れた」③『朝日新聞』(二〇〇五・三・三夕)「口を開けたり跳ねたりと自在に戦う大蛇とガマに対し、電飾の目を点滅させ、ただのたうつナメクジなど、できすぎのCGや装置に慣れた現代人の琴線に触れる場面も多いが」 類句「心を打つ」「胸を打つ」外国語 英語では touch one's heartstrings **食うか食われるかの** 意味相手を倒すか自分が倒されるかの緊迫した状況、命がけの闘い、真剣勝負。用法文型「ナニナニは食うか食われるかのナニナニ」 用例①直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(二〇〇〇)「私にとっては、食うか食われるかの真剣勝負だった」②「自然界は食うか食われるかの生存競争の激しい世界」 **偶然の一致** 意味ある事柄が偶然、一致すること、起きること。用法文型「ナニナニは偶然の一致」 用例①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「彼が宿についたちょうどその日に突発したのだ。偶然の一致には違いない」②源氏鶏太『青い果実』(一九五四―五五)「あたしんとこでも、同じことがあったのよ。偶然の一致かしら?」 <144> **ぐうの音も出ない** 意味相手に非を指摘されたり詰問されたりして徹底的に打ちのめされて、あるいは相手の言動に恐れ入って一言も言い訳も反論もできない。用法文型「ダレダレはぐうの音も出ない」 用例①坂口安吾『私は海をだきしめたい』(一九四七)「今に何かにひどい目にヤッツケられて、叩きのめされて、甘ったるいウヌボレのグウの音も出なくなるまで」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「息子にとっちめられてグーの音もでないじゃありませんか」③『朝日新聞』(一九七四・六・二九朝)「おやじはぐうの音も出なかったそうだ」④『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「新人投手に好き勝手なことをいわれても、グウの音も出ない巨人だったのである」⑤南里征典『欲望の狩人』(一九九二)「宮村恒平は額から脂汗をたらたら流し、ぐうの音も出なくなった」 類句「一言もない」「一敗地にまみれる」「ひとこともない」 **食うや食わず** 意味満足に食事もできないほど貧しいさま。用法文型「ダレダレは食うや食わずで」「食うや食わずのダレナニ」〔江戸〕 用例①中野重治『空想家とシナリオ』(一九三九)「特に貧乏で、食うや食わず、水のみ百姓の最下級、乞食に毛の生えたような境遇であった」②『言語生活』三四七号(一九七六)「北海道辺の食うや食わずのおばあさんがみんな書けるんですね」③田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(二〇〇二)「食うや食わずの生活を送ることになるが」 類句「赤貧洗うが如し」 **釘を打つ** 意味「釘を刺す」に同じ。用法文型「ダレダレがダレナニに釘を打つ」。命令・意志表現は可能。用例①のように受身形がある。②のように「一本釘を打つ」と言うことがある。〔江戸〕 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―八九)「びッたり釘を打たれてぐッともいえず文三はただ口惜しそうに叔母の顔を視つめるばかり」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「『こら、その代り、うんと勉強するんだぞ。変な騒動にまき込まれたりなんかしたら承知しないぞ。』と、次郎が一本、釘を打った」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「『(略)どこまでも君が表だってやってくれなくては困る』ぐいと釘を打つように云い」 <145> **釘を刺す** 意味中世の建築用語から生まれた。建物は釘を使わず、材木にほぞ穴を開けて、そこにもう一方の材木をはめ込む形で造られていたが、後に念のために釘で止めた。これから転じて後日のために、まちがいのないよう相手に念を押したり、反対されないように相手を強く牽制したりする。用法文型「ダレダレがダレダレに釘を刺す」。命令・意志表現は可能。用例①のように「一本釘を刺す」と言うことがある。②の「戒めの」のように「釘」を修飾できる。④のように受身形がある。〔江戸〕 用例①井上靖『氷壁』(一九五六-五七)「一本釘をさしておくといった気持だった」②『朝日新聞』(一九七〇・二・三)「国会でもその点に厳重な戒めの釘をさした」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「何時もの東に似合わず、ぴしりと釘をさし」④『朝日新聞』(一九八一・七・三朝)「『勝負は製品化だ』とトップからもクギをさされた」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八八)「『相手は娘っ子ですからね、あまり強引な取材はしないでくださいよ』編集長がクギを刺すと」⑥広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「『五月くんに対しては、魅力的な女性である必要はない』梅津は陽性すぎる智子にも釘を刺した」 類句「釘を打つ」とも言う。「くさびを刺す」「だめを押す」「念を押す」外国語 英語では make something perfectly clear **臭い飯を食う** 意味囚人として刑務所に入る。服役する。拘留される。用法文型「ダレダレが臭い飯を食う」。用例②のように使役受身形がある。用例①大下宇陀児『虚像』(一九五二)「前科があり、臭い飯を食ってきているし」②内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八八)「公務執行妨害の現行犯逮捕で、それこそ臭い飯を食わされる羽目になる」 **臭い物に蓋をする** 意味悪臭がもれないようにふたをするように、世間に知られると困る、所属する組織内の悪い事柄を一時しのぎに隠す。用法文型「ダレダレが臭い物に蓋をする」。用例①のように命令・意志表現は可能。③のように後半部を省略して用いられることもある。〔江戸〕 用例①与謝野晶子「新婦人協会の請願運動」(一九二〇)「殺風景な花柳病などを問題としたく思いません。一概 <146> に臭い物に蓋をせよと言うのではなく」②『朝日新聞』(一九六〇・五・三朝)「その知られたくない暗部を、ただ臭いものにふたをするといった方法で隠匿しておくだけではいつまでたっても改善されない」③『朝日新聞』(一九九一・二・一〇朝)「従来、くさい物にふた的に処理されがちだった中学生などの校内暴力が、ひろくマスコミにとりあげられ」④内田康夫『鬼首殺人事件』(一九九三)「臭いものに蓋をするように、捜査を規制しなければならないというのは」⑤大沢在昌『灰夜 新宿鮫IV』(二〇〇一)「捜査は大きくねじれる可能性があった。徹底して臭いものに蓋をするか」 外国語 英語では put a lid on **草木も靡く** 意味人・会社・組織などの勢力が盛んで、多くの人がこぞってそれに従う。用法文型「ダレナニに(へ)草木もなびく」〔平安〕 用例①『朝日新聞』(一九六〇・三・八朝)「すべての学生が、大学へ大学へと草木もなびいてしまったのだ」②高杉良『人事権!』(一九九二)「名門私立高校へ草木もなびくような時勢に」③「草木もなびくほどの実力者」 類句「飛ぶ鳥を落とす」 **楔を打ち込む** 意味「くさび」は木や鉄の鋭角三角形で、木や石を割るときなどにすき間に差し込んで裂け目を広げるのに使う道具。敵陣に攻め込み、勢力を二分する。仲を裂くために間に入って邪魔をする。自分の勢力を拡大するための足がかりを相手の勢力の中に作る。用法文型「ダレダレがダレナニにくさびを打ち込む」。用例①のように受身形がある。③のように命令・意志表現は可能。用例①『朝日新聞』(一九六五・九・三朝)「無敵を誇る坂田の牙城にくさびが打ちこまれた」②『朝日新聞』(一九八〇・三・八朝)「自民、民社の党首会談は(略)野党間にくさびを打ち込んだ」③『朝日新聞』(一九八二・二・三朝)「米・西欧関係にクサビを打ちこもうとの狙いがあるかも知れないが」 外国語 英語では drive a wedge between **管を巻く** 意味糸繰り車に糸を巻きつける時、ブーブー音が鳴ることから、酒に酔ってつまらないことをいつまでもくどくどと話し続ける。用法文型「ダレダレが管を巻く」。用例③のように「管」を修飾することは可能。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九〇四)「礼拝堂 <147> に溢るる私立学校の生徒に向って、“intellectual faculty”が如何の“Moral faculty”が恁のと管を捲く様な演説をした」②甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「『な、何だと、俺の方から突当ったと。人を馬鹿にするねえ。俺は酔っているんじゃねえぞ』尚も管を巻くのを」③石川淳『葦手』(一九三五)「くどくどわけの判らぬ管を巻きはじめたというのは酔のまわって来た証拠でもあろうが」④石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六―五七)「酔っぱらった板前の清吉が蟹のような平べったい顔を歪めて、いつものクダをまき出した」⑤山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―六八)「まあ、まあ、そう管を巻かず」 外国語 英語では blather **口が重い** 意味性格として、またはある事情であまりしゃべらないさま。寡黙。無口である。用法文型「ダレダレは口が重い」〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九七二・九・七朝)「口が重く話し下手で」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「吉川の家は、すぐ五、六町の所にあると聞いたが、近づくにつれ信夫の口は重くなった」③『朝日新聞』(一九八〇・九・九朝)「『カンは戻って居るが、人工芝だから…』と腰を気づかい、口が重い」④『相撲界』(一九六〇・一二)「もともと口が重い鳳凰、まして体の故障はいいたがらないが」 外国語 韓国語では「입이(口が) 무겁다(重い)」 **口が堅い** 意味言ってはならないことは言わないさま。秘密を守るさま。また、そういう性質。用法文型「ダレダレは口が堅い」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「あたくしは絶対に口が固いから、あたくしにだけは本当のことをお打明けなさいな」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「口の堅い男は尊敬され、容易に口を割る男は軽んじられる」 類句反対は「口が軽い」外国語 英語では can keep a secret **口が軽い** 意味軽薄で、言ってはならないことや言わなくてもいいことを言ってしまうさま。また、そういう性質。用法文型「ダレダレは口が軽い」〔江戸〕 用例①田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「『口が軽い』ということは、その人の人格を落とし、卑しくさせます」 <148> 類句反対は「口が堅い」外国語 韓国語では「입이(口が) 가볍다(軽い)」 **口が腐っても** 意味どんなことがあっても決して話さない、言えないという強い気持ちを表す言葉。用法文型「口が腐っても言わない(言いたくない・言えない)」 用例①源氏鶏太『随行さん』(一九五〇)「いよいよ口が腐っても、社長夫人のことはいいたくなくなってくるのである」 類句「口が裂けても」とも言う。 **口が裂けても** 意味「口が腐っても」に同じ。用法文型「口が裂けても言わない(言いたくない・言えない)」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「口がさけても、五聯隊の遭難を見たなんて言うんじゃあねえぞ」②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「もちろん家ではこんなこと、口が裂けても言いませんよ」③木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「君のまえで口が裂けてもいえない言葉だが」 外国語 韓国語では「입이(口が) 찢어져도 (裂けても)」 **口が酸っぱくなるほど** 意味 同じことを繰り返しいやになるほど言うさま。多くは忠告など相手のためを思って言う。用法文型「ダレダレは口が酸っぱくなるほど言う」〔室町〕 用例①小杉天外『魔風恋風』(一九〇三)「止めた処じゃありませんよ、口の酸っぱくなる程…」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「寒中装備については、かねてから陸軍省に対して口が酸っぱくなるほど改善を言いつづけて来たが」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「騙してなんかいないと口が酸っぱくなるほどさっきから繰り返しているじゃないか」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇二)「わしは、口がすっぱくなるほどそういうとったんやが」 類句「口を酸っぱくして」外国語 韓国語では「입이(口が) 시도록(酸っぱくなるほど)」 **口が滑る** 意味言ってはならないことや余計なことをついうっかり言ってしまう。用法文型「ダレダレは口が滑る」「口が滑って~する」。~は <149> 発話行為の言葉。〔江戸〕 用例「口が滑ってぽろりと漏らしてしまった」 外国語 韓国語では「입이(口が) 빗나가다 (滑る)」 **口が減らない** 意味相手がどんなことを言ってきても気後れせず、理屈をつけて言い返したり負け惜しみを言ったりする。用法文型「ダレダレは口が減らない」〔江戸〕 用例①丸谷才一『男のポケット』(一九六〇)「大磯の爺さん、一瞬ぐつと詰つたが、そこは何しろ口がへらないから」②高杉良『濁流』(一九九六)「吉田は童顔に似合わず一丁前の口をきく。口は減らないし可愛くないが」③「口の減らないやつだ」 類句「減らず口をたたく」 **口から先に生まれる** 意味一時も黙ることなくしゃべる人、おしゃべりな人、口が達者な人のたとえ。少し軽蔑したニュアンス。用法文型「ダレダレは口から先に生まれる」〔室町〕 用例「まあよくしゃべること。口から先に生まれたのだろう」 外国語英語では be born with a big mouth *韓国語では「입만(口だけが) 살아있다 (生きている)」 **口車に乗せる** 意味巧みな言葉で相手をだます、相手を思うままに扱う。用法文型「ダレダレがダレダレを口車に乗せる」。多く受身形で用いられる。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九〇四)「書くことが好きで誇りの娘は、口車にのせられて宿屋の代筆までするのか」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「鵜飼は、財前の口車に乗せられているように見せかけながら」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「あしらうばかりでなく、だれかと口裏を合わせて、その相手を口車にのせる」④中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「郁男が男の口車に乗せられていくようで」 類句「一杯食わす」「口三味線に乗せる」「ぺてんにかける」 **口車に乗る** 意味相手の巧みな言葉やおだてにまんまとだまされる、思うままに扱われる。用法文型「ダレダレがダレダレの口車に乗る」 <150> 〔江戸〕 用例①武田泰淳『風媒花』(一九五二)「俺は毛沢東やQの口ぐるまに乗って、日本の再武装をあきらめたりはしないぞ」②高杉良『人事権!』(一九九二)「おまえの口車に乗ったわしが莫迦だったよ」 **口にする** 意味 ①ある事柄・単語・言葉を声に出して言う。話題にする。その際、話し方は問題にならない。また内容はまとまっていなくてもよい。②食べる。飲む。飲み食いする。用法文型「ダレダレがナニナニを口にする」。命令・意志表現は可能。否定形がある。用例 (1)①倉橋由美子『長い夢路』(一九六八)「『お母さんが』というべきときにもけっしてそのことばを口にしない」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「余計なことは絶対に口にしないという」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「自分の気持を素直に口にした」④『朝日新聞』(一九七九・一一・二三朝)「だれも口にする構造的腐敗とか政・官・財の癒着とかは」⑤『朝日新聞』(一九八二・二・二六朝)「レーガン政権が欧州での限定核戦争の可能性を口にするような米ソ緊張の中で」 (2)⑥新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「行軍中は休憩中といえども絶対に酒を口にしてはならない」⑦津本陽『深重の海』(一九八六)「家族の心づくしの馳走を口にしても」 類句 (1)「口に出す」 (2)「口に入れる」 **嘴が黄色い** 意味ひなのくちばしが黄色いことから、まだ年が若く、世の中の経験が浅いさま、未熟なさまをあざけって言う言葉。若い人の意見をあざけって言う。用法文型「ダレダレはくちばしが黄色い」「くちばしの黄色いダレダレ」〔江戸〕 用例①森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七一)「彼らにとってくちばしの黄色い評論家の一人や二人、黙らせるぐらいたやすいことであったにちがいない」②高杉良『濁流』(一九九六)「嘴の黄色い若造記者に舐められてたまるかと」 類句「尻が青い」外国語 英語では be wet behind the ears **嘴を入れる** 意味他人の話の途中に口をはさむことから、自分と関係ないことに干渉して横合いからあれこれと言う。用法文型「ダレ <151> ダレがナニナニにくちばしを入れる」〔江戸〕 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―八九)「『そんな事おっしゃるがむだよ』トお政が横合いから嘴を容れた」②檀一雄『青春放浪』(一九五四)「『どうせこの二人は金が無えんだよ。なあ、そうだろう?』仲の脇から磯部が嘴を入れた」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「医学部の教授のポストや、選挙についても、嘴を入れる」④『朝日新聞』(一九九二・二・一〇朝)「一軍司令官が他国の予算内容にくちばしを入れ『さらに努力を』といい」 類句「くちばしをはさむ」とも言う。「口を出す」「口をはさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」外国語英語では interrupt **口八丁手八丁** 意味「口も八丁手も八丁」に同じ。用法文型「ダレダレは口八丁手八丁」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「その母親に説き伏せられてしまう父親もだらしがないが、いまの女親はどちらも口八丁手八丁で」②『朝日新聞』(一九八一・九・二五朝)「口八丁手八丁で、自動車問題では外務省とわたりあった田中六助通産相」③『朝日新聞』(一九八一・三・二朝)「口八丁手八丁のシフトが必ずしも問題解決の妙薬とは限らない」 類句「手八丁口八丁」とも言う。 **口火を切る** 意味「口火」は火縄銃や火薬などに点火するための火。転じて、ある物事(論議・攻撃など)をある集団の中で最初に始める、きっかけを作る。また、単に最初に発言する。用法文型「ダレナニがナニナニの口火を切る」。命令・意志表現は可能。用例①石坂洋次郎『暁の合唱』(一九三九―四二)「自分が口火を切った出来事もどうやら意外な結果に辿りついたようであるし」②『朝日新聞』(一九七九・八・九朝)「小林進氏が『来年八月で私は議員歴二十五年表彰なのに…』と口火を切った」③『朝日新聞』(一九七九・八・二〇朝)「この夏の増税論議の口火を切ったのは大平首相自身だった」④『スポニチ』(一九七九・六・七)「高橋攻略の口火を切り」⑤東野圭吾『宿命』(一九九〇)「『そうなると、客ではなく瓜生家の者ですかね』ここでも渡辺が口火をきった」⑥森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「四本が質問の口火を切った」 <152> 類句「口を切る」「火蓋を切る」 **口も八丁手も八丁** 意味言うことも達者なら、やることも達者。完全なほめ言葉ではなく、少し信頼が置けない軽い人というニュアンスがある。用法文型「ダレダレは口も八丁手も八丁」。〔江戸〕 用例石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五二)「なにしろ小母さまは、若いに似合わず、口も八丁、手も八丁で、にぎやかな人だからですって」 類句「口八丁手八丁」とも言う。「手八丁口八丁」 **口を利く** 意味(1)だれかの前である程度まとまったことを話す。しゃべる。用例①~④のように話し方や内容が問題にされる。(2)ことがうまくいくように両者の仲介をする。用法文型(1)「ダレダレが口を利く」。①~④のように「口」を修飾できる。否定形がある。(2)「ダレダレがダレダレに口を利く」〔平安〕 用例(1)①志賀直哉『邦子』(一九二七)「私は前に立派な口を利いていたにかかわらず」②北條民雄『癩院記録』(一九三六)「男たちは一様に軽蔑したような口を利くが」③源氏鶏太『見事な娘』(一九五四―五五)「兄に対しては、父に向かって、今頃、息子の結婚に反対するなんて、あまりにも封建的です、と立派な口をきいて行ったのだから」④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「わざとそんな口をきいたかと思うと」(2)⑤青島幸男『青島の意地悪議員』(一九八二)「鉄鋼業界筋にアタリをつけて、A社とB社をくっつける話に口をきいてやり」 類句(2)「口添えをする」 **口を切る** 意味(1)何人かが集まって話すことになっている時、最初に発言する。(2)はじめてそのふた・栓・封などを切って開ける。用法文型(1)「ダレダレが口を切る」。(2)「ダレダレがナニナニの口を切る」〔室町〕 用例(1)①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「突然口を切ったのは林田だった」②江戸川乱歩『悪魔の紋章』(一九三七―三八)「中村係長が感にたえたように口をきった」③三島由紀夫『潮騒』(一九五四)「自分の微笑を訝られぬうちに、千代子は口を切った」④島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「『いつまでもこうしてもなんだから、どこかに出かけようか』と先に口を切ってしまった」⑤山崎豊子『白い巨塔』(一九六三 <153> ―六五)「財前は、慎重に口を切った」(2)⑥「密閉したびんの口を切る」 類句(1)「口火を切る」 **口を酸っぱくして** 意味忠告など同じことを何度も繰り返し言い聞かせて。相手が自分の言うことにあまり良い反応を示さない場合に言うことが多い。用法文型「ダレダレが口を酸っぱくして~する」〔室町〕 用例①『朝日新聞』(一九八〇・一〇・三朝)「一市民である私が、いくら口を酸っぱくして憲法を読みましょうといっても」②吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇三徳間文庫版)「(略)と、口を酸っぱくして夫の考えを甘すぎると非難した」 類句「口が酸っぱくなるほど」外国語 英語では till one is blue in the face **口を滑らせる** 意味言ってはならないことや余計なことをついうっかり言ってしまう。用法文型「ダレダレが口を滑らせる」〔江戸〕 用例東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「有介が、何かの拍子に口を滑らせてしまったのかもしれない」 類句「口が滑る」 **口を揃える** 意味(1)複数の人がほぼ同時に同じ意見を述べる。(2)前もって打ち合わせをして話を一致させる。用法文型(1)「ダレダレが口をそろえる」。「口をそろえて言う」形が多い。(2)「ダレダレとダレダレは口をそろえる」〔安土桃山〕 用例(1)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「葛西派、菊川派両派が共同戦線を張るように口を揃えて云った」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「とても自信がないからと口を揃えて辞退する」③『朝日新聞』(一九八一・四・三朝)「口をそろえて、考えられないことだと言う」(2)④「容疑者は共犯者と前もって口をそろえていた」 類句(1)「声をそろえる」「口裏を合わせる」「口を合わせる」外国語 中国語では「异口同声」(異口同音) *韓国語では「입을(口を)모으다(そろえる)」 **口を出す** 意味「口を挟む」に同じ。用法文型「ダレダレがナニナニに口を出す」。命令・意志表現は可能。用例②のように否定形がある。〔江 <154> 戸〕 用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「ひどいのよ。あたしのお化粧にまでクチをだすんだもん」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「それなら、初めから口を出さない方がいい」③渡辺淳一『北都物語』(一九七四)「二人のやりとりをきいていた上村が、横から口を出した」 **口を挟む** 意味 他人が話している途中に割り込んで話す。また他人のすることにあれこれと干渉して言う。用法文型「ダレダレがナニナニに口を挟む」。命令・意志表現は可能。用例①開高健『裸の王様』(一九五七)「そうそう放任ばかりしてられないと思って、つい口をはさみますと」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「東は、鵜飼の手前、応えるべき言葉に迷っていると、横合いから鵜飼が、口を挟んだ」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ぼくは彼の話の途中で口をはさんだ」④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「恥ずかしそうに、ひかえていた玉子が口をはさんだ」⑤龍一京『交番 巡査の誇り』(二〇〇四)「横から宮脇が口を挟む」 類句「くちばしを入れる」「口を出す」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」 **口を割る** 意味言いたくなくて隠していたことを相手からの圧力によって仕方なく白状する。用法文型「ダレダレが口を割る」。用例②~④のように否定形がある。用例①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「やっとさっき口を割るようになったので」②『朝日新聞』(一九七九・一〇・八朝)「松野は使途については口を割らなかった」③『朝日新聞』(一九八〇・一〇・三朝)「『これからも使う手なので内容はいえない』とがんとして口を割らなかったが」④大沢在昌『灰夜 新宿鮫IV』(二〇〇一)「破壊工作員である李は、逮捕されても決して口を割らないだろう」 類句「泥を吐く」 **愚にも付かない** 意味ばかばかしくて話にもならない。くだらない。用法「愚にもつかぬナニナニ」と言うことが多い。〔江戸〕 用例①小酒井不木『恋愛曲線』(一九二六)「このような愚にもつかぬ想像をめぐらせながら」②久生十蘭『予言』 <155> (一九四七)「愚にもつかぬことを口走るので」③源氏鶏太『一寸の虫』(一九五〇)「例の愚にもつかぬ長話をやられると」④井上靖『氷壁』(一九五六―五七)「愚にもつかぬ会合を終わったあとの疲れが」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「早朝会議用の愚にもつかないような書類を三十部もコピーさせられたりする」 類句「たかが知れる」「取るに足りない」「話にならない」「物の数ではない」「問題にならない」 **愚の骨頂** 意味「骨頂」は最上の意。もっとも馬鹿げていること。用法文型「ナニナニは愚の骨頂」 用例①徳冨蘆花『黒潮』(一九〇三)「世間の眼からは、恐らく愚の骨頂、度す可からざる頑固、済ふ可からざるの失敗である」②里見弴『桐畑』(一九二〇)「亭主たるものが、己の自由な感情まで縛られているに至っては、愚の骨頂だね」③『朝日新聞』(一九七九・八・二三朝)「それを使わないのは愚の骨頂、かちかちの頭のタヌキである」④『朝日新聞』(一九八一・九・二七朝)「就職率だけしか注目せず、それによって大学を選ぶとは愚の骨頂である」⑤清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「パチンコメーカーのカルチャーと合併させるなど、愚の骨頂である」 外国語英語では the height of stupidity 中国語では成句「愚不可及」(この上なく愚かである。「不可及」は及ばない) **首が飛ぶ** 意味 免職になる。解雇される。用法文型「ダレダレの首が飛ぶ」 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「クビが飛んだり、クビにしたり」②『朝日新聞』(一九八〇・二・九朝)「法相のクビはとんでいただろうに」 類句「首になる」外国語 韓国語では「목이 (首が) 날아가다(飛ぶ)」 **首が回らない** 意味借金が多くてやりくりがつかない、どうにもならない。用法文型「ダレダレは借金で首が回らない」。用例④のような「借金に」はまれ。〔江戸〕 用例①『滑稽新聞』一七号(一九〇一)「借金で首が廻らぬどころでなく」②篠田鑛造『明治百話』(一九二一)「喜代治さんは借金で首が廻らず」③甲賀三郎『情況証拠』(一九三三) <156> 「高利貸から少からぬ金を借りて、首が廻らぬ状態だった」④『朝日新聞』(一九七一・一〇・六朝)「道楽者のエジプト王イスメルが借金に首が回らなくなって」⑤平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「借金で首がまわらなくなっているのは」 外国語 英語では be up to one's neck **首にする** 意味免職にする。解雇する。用法文型「ダレダレはダレダレを首にする」。命令・意志表現は可能。受身形も可能。〔江戸〕 用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「浩太郎は、あんな咲子は、今日のうちにも誠にしたいのであった」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「敬語をひとつも知らないウェイトレスやボーイを全部クビにしてしまうわけだ」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「クビが飛んだり、クビにしたり」 類句「首を切る」 **首の皮一枚** 意味首を切られて首の皮一枚でかろうじてつながっていることから、かろうじて踏みとどまっていること。わずかな望みが残っていること。用法文型「ダレダレは首の皮一枚で〜する」「首の皮一枚のダレナニ」 用例『朝日新聞』(一九八〇・一〇・三朝)「西武が首の皮一枚の土壇場に追い込まれた」 **首を切る** 意味免職にする。解雇する。馘首する。用法文型「ダレダレがダレダレの首を切る」。命令・意志表現は可能。用例②④のような受身形がある。〔江戸〕 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「気に食わない部下は片っぱしから首を切る」②『朝日新聞』(一九七九・七・一二朝)「今回の事件を口実に首を切られたのかも知れない」③『報知新聞』(一九八一・九・一八)「一度も一軍でプレーしないままにクビを切るわけにはいかんだろう」④安岡章太郎『僕の昭和史I』(一九八四)「僕は『不景気』という言葉や、『クビを切られる』という言い方を、この頃から聞き憶えた」 類句「首にする」外国語 韓国語では「목을 (首を) 자르다(切る)」 **首を突っ込む** 意味あることに興味を持ってかかわったり、抜き差しならないことに <157> 深入りしたり、仲間になったりする。用法文型「ダレダレがナニナニに首を突っ込む」。命令・意志表現は可能。用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「家計簿にまで好んで首をつっこむ息子を見ると」②佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「こんどの問題にも、余り首を突込みたくない」③吉村達也『「鎌倉の琴」殺人事件』(二〇〇四徳間文庫版)「猟奇犯罪の研究などに首を突っ込むだろうか」 類句「足を入れる」 **首を長くして待つ** 意味人や返事、またあることの実現を今か今かと待ちわびる。用法文型「ダレダレはナニナニを首を長くして待つ」。用例④のように語句を挿入できる。用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七―九八)「頸を長くして待つてお在だのに、早く帰って来ないと云う法が有るものですか」②江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一―三二)「首を長くして待っていると、わしの計画はみごと図にあたって」③獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「道玄坂の喫茶店あたりで、昨夜のお嬢さんが、首を長くして、待ってらっしゃるんでしょう?」④源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「首を長くして、いい返事を待っているのだ」⑤『朝日新聞』(一九八一・九・二三朝)「外務、通産両省からの返事を首を長くして待っていた」 類句「一日千秋の思い」「今か今かと」「今や遅しと」「指折り数える」外国語 英語では be looking forward to *中国語では成句「翘首以待」(首を長くして待つ) **雲の上** 意味庶民の手が届かないはるか上の所、別世界。人や話などについて言う。用法文型「ダレナニは雲の上の人(存在)」 用例①『朝日新聞』(一九七九八・二朝)「退職後の年金制度も民間企業や農家から見れば、まことに雲の上の存在である」②『朝日新聞』(一九八〇・一・九朝)「輪島さんはわれわれのヒーローだ。雲の上の人で、勝つのが夢だった」 **蜘蛛の子を散らすよう** 意味 クモの子が入っている袋を破ると、中のクモの子が四方八方に散っていくことから、大勢の者が一斉にちりぢりに逃げ出すさまのたとえ。用法文型「ダレダレがクモの子を散らすように逃げる」。ダレダレは複数。用例③は例外的な用法。〔鎌倉〕 <158> **雲を掴むよう** 意味話が漠然としていてつかみどころのないさま、とりとめのないさまのたとえ。用法文型「雲をつかむような話」〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『妖虫』(一九三四)「余りに雲を掴むような拠りどころのない話だからと、不賛成であったし」②池島信平『雑誌記者』(一九五四)「王雲清嬢といっただけでは雲を掴むような話であったが」③源氏鶏太『夢を失わず』(一九五〇)「まるで雲をつかむような話になるのですが」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「はじめは雲を掴むような話だったのですが、だんだん煮詰まってくるにつれて、だいたいのことはわかってきました」 外国語 英語では vague; visionary **雲を衝く** 意味非常に背が高いさまのたとえ。男性について言う。用法文型「ダレダレは雲をつくばかりの(ような)大男」〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一-三二)「首領の名は朱凌渓といって、関羽ひげをはやした雲つくばかりの大男であった」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「雲をつくような大男でも現れて」③『朝日新聞』(一九八〇・九・三朝)「身長1メートル90以上でコンパスの大きい北欧の雲をつく大男たち」④高杉良『会社蘇生』(一九八七)「デリック・M・ヒルズは雲をつくような大男である」 外国語 英語では towering; giant **車の両輪** 意味車の両輪は二つそろって初めて進むことができるように、一方を欠いては成り立たない密接な関係のたとえ。用法文型「ダレナニとダレナニは車の両輪」〔室町〕 <159> 用例『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「都政にあって議会と知事は、いうまでもなく『車の両輪』である」 **黒山の人だかり** 意味人が大勢群がり集まって山のように見えるさまから、一箇所に大勢の人が群がっていること。用法文型「ドコドコは黒山の人だかり」 用例江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一―三二)「公園は黒山の人だかりであった」 外国語英語では a large crowd of people **軍配が上がる** 意味相撲で勝った方に行司の軍配が上がることから、競技・商売・論争などで一方が勝ちと判定される。また勝つ、勝る。用法文型「ナニナニはダレナニに軍配が上がる」。用例①のように「軍配が」と「上がる」の間に語句を挿入できる。用例①佐々木味津三『右門捕物帖 妻恋坂の怪』(一九二八―三〇)「敬公を相手の相撲なら、このくれえゆるゆるとしきっても、軍配はこっちに上がるよ」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七一)「第四エンジンの争奪戦は、結局千代田重工業に軍配が上がった」③「長年の係争は原告に軍配が上がった」 **軍配を上げる** 意味相撲で勝った方に行司が軍配を上げることから、競技・商売・論争などで審判や第三者が一方に勝ちや優勢の判定を下す。用法文型「ダレダレがダレナニに軍配を上げる」 用例林不忘『寛永相合傘』(一九二七)「またしても安斎十郎兵衛嘉兼のほうへ軍配をあげたものだ」 **軍門に降る** 意味戦い・試合に負けて敵・相手に降参、服従する。用法文型「ダレダレはダレダレの軍門に降る」〔南北朝〕 用例①森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「関東門伝会の軍門に降り」②清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「パンドラがカルチャーの軍門に下るのを、黙って見ていていいのかと」 類句「兜を脱ぐ」「ジャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」「手を上げる」「旗を巻く」外国語 英語では surrender <160> **群を抜く** 意味大勢の中で力・能力・成績・容姿・金額・技術などがずば抜けてすぐれている。用法文型「ダレナニは群を抜く」〔室町〕 用例①大下宇陀児『風』(一九五六)「新しい学校でも、弥一の成績は、群を抜いていた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「研究費の寄附、特別診療に対する謝礼その他についても、大阪の財界人のそれは、群を抜いていた」③星新一『ボッコちゃん』(一九七一)「昼夜における仕事ぶりが群を抜いている」④「強さは群を抜いている」 類句「一頭地を抜く」外国語 中国語では成句「出类拔萃」(衆を抜く、群を抜く、抜群である) **怪我の功名** 意味何気なくしたことや失敗がかえって思いがけなく良い結果になること。用法文型「ナニナニは怪我の功名となる」〔江戸〕 用例①永井荷風「矢立のちび筆」(一九一四)「この弱点は忽ち怪我の功名となりぬ」②源氏鶏太『明日は日曜日』(一九五二―五三)「成功の部類よ。ケガの功名というところよ」③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「駆けつける途中、階段を踏み外して足を挫いてしまいました。それが文字通り怪我の功名となって、警察の容疑を免れましたが」 外国語 英語では a chance success; a lucky hit 中国語では成句「歪打正着」(間違った方向に打ったが、ちゃんと的に当たる。まぐれ当たりをする) <161> **毛が生えたような** 意味たいしたことがないものを基準に、それよりもほんのわずかまさっているさま。用法文型「ダレナニはダレナニに毛が生えたようなナニナニ」。用例③⑤のように「ような」の代わりに「程度」「くらい」を使うことがある。「毛の生えたような」とも言う。〔江戸〕 用例①中野重治『空想家とシナリオ』(一九三九)「特に貧乏で、食うや食わず、水のみ百姓の最下級、乞食に毛の生えたような境遇であった」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二-五三)「町工場にちょっと毛の生えたような会社」③津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九九〇)「チンピラに毛が生えた程度の存在」④大沢在昌『心では重すぎる』(二〇〇〇)「学生向けのアパートに毛が生えたようなとこだったな」⑤いかりや長介『だめだこりゃ』(二〇〇一)「親父はまだガキに毛のはえたくらいの年齢だったが」⑥青木るえか『主婦でスミマセン』(二〇〇三)「国道沿いのファミレスに毛が生えたような和食屋」 外国語 英語では only a little bit better than **逆鱗に触れる** 意味 中国の古典『韓非子』説難にある故事で、龍のあごの下にある逆さに生えた一枚の鱗に人が触れると、龍が怒って人を殺すということから、天子・帝王の怒りを買う。上司・目上や組織のトップなどの人をひどく怒らせる。用法文型「ダレナニがダレダレの逆鱗に触れる」〔江戸〕 用例①西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(二〇〇〇)「誰かのご機嫌を損じたんだと思います。逆鱗に触れたといった方がいいかも知れません」②森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「山上社長の逆鱗に触れませんかね」③大沢在昌『灰夜 新宿鮫IV』(二〇〇一)「支店で起こした騒ぎは、うちのお偉方の逆鱗にふれてる」④本所次郎「閨閥」(二〇〇四)「地元の特産品を置こうとした役員が、房子の逆鱗に触れた」 外国語 英語では incur someone's wrath **下司の勘繰り** 意味心の卑しい者はとかく邪推するものだということ。「げす」は「下衆」「下種」「下主」とも書く。用法文型「ナニナニは下司の勘繰り」 用例①内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「それは僕の下司の勘繰りだと思います」②高杉良『人事権!』(一九九二)「わたしのつまらん絵と結びつける人がいたとしたら、 <162> 下種の勘繰りとしか言いようがないですね」 外国語 英語では a petty-minded suspicion **桁が違う** 意味規模や程度、実力などに格段の差がある。用法文型「ダレナニとダレナニとは桁が違う」 用例①佐々木味津三『右門捕物帖 袈裟切り太夫』(一九二八―三〇)「だんなの博学は、おいらの博学と見ちゃまた桁が違わあ」②宮本百合子『ものわかりよさ』(一九四〇)「女の場合、御馳走の程度も男仲間のいわゆる饗応とは桁がちがい」③「資産ではA社とB社とではけたが違う」④「彼は遊び方もけたが違う。一晩に何十万円も使う」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「雲泥の差」「及びもつかない」「月とすっぽん」「天と地」「歯が立たない」 **下駄を預かる** 意味面倒な、または困難な事柄の処理・解決や身の振り方などを相手から一任される。用法文型「ダレダレがダレダレから下駄を預かる」。「下駄を」と「預かる」の間に語句を挿入できる。用例大沢在昌『灰夜 新宿鮫IV』(二〇〇一)「そのためのゲタをあんたが預かっている」 **下駄を預ける** 意味面倒な、または困難な事柄の処理・解決や身の振り方などを相手に一任する。用法文型「ダレダレがダレダレに下駄を預ける」。命令・意志表現は可能。用例④のような受身形がある。①のように「下駄を」と「預ける」の間に語句を挿入できる。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六―五七)「その希みがとげられるように働きかけるのは、当然なことだからだ。ところが、その民夫は、ゲタを母親にあずけっぱなしで、一向、話にのってくる様子が見えないのである」②『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「公電問題の処理は日本側でうまくやってほしいとゲタをあずけてきたかっこうだ」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「女はまるでフサに何もかも下駄をあずけたというように顔を手でおおったままフサの後に従いて来」④『朝日新聞』(一九八一・一〇・四朝)「ゲタをあずけられた十一市協自体が」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「語尾にまた、こっちに訊いているような言葉を付け加える。細野はいつもそうやって、相手 <163> にゲタを預けるような言い方をする」 外国語 英語では shove everything off onto someone **下駄を履かせる** 意味成績の点数や数量を水増しして実際よりよく見せる細工をする。用法文型「ダレダレがナニナニに下駄をはかせる」。命令・意志表現は可能。用例①『朝日新聞』(一九八〇・三・二朝)「試験は一応受けてくれ。あとはまかせてもらえばゲタをはかせる」②「成績にかなり下駄をはかせて卒業させた」 外国語 英語では pad someone's grade **下駄を履く** 意味物事が無事終わり、帰る支度をする。用法文型「下駄をはくまで~ない」〔江戸〕 用例高杉良『指名解雇』(一九九七)「田宮は、ゲタを履くまでわからない、と危惧しながら」 **けちが付く** 意味縁起の悪いことが起こる。良くないことが起こったために物事がうまくいかなくなる。用法文型「ナニナニにけちがつく」〔江戸〕 用例①岡本綺堂『半七捕物帳 春の雪解』(一九一七―三六)「安政の大地震のときに、抱えの遊女を穴倉へ閉じ込めて置いて、みんな焼き殺してしまったとかいうので、それから兎角にけちがついて」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「せっかくの旅立ちに、ケチがついたみたい」③「離婚が彼の人生のけちのつき始め」 **けちを付ける** 意味相手の欠点をあげて悪く言い立てる。縁起でもないことを言って相手の気を悪くする。けなす。用法文型「ダレダレがダレナニにけちをつける」。命令・意志表現は可能。用例②のように受身形がある。〔江戸〕 用例①井上靖『氷壁』(一九五六—五七)「佐倉製鋼に対してけちをつけることになるのはやむを得ないことだった」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「自分の捜査にけちをつけられたような気がしたのにちがいない」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「幸せになれるんなら、けちはつけないものだわよ」④『言語生活』三三三号(一九七九)「これは良くないなんてケチをつける」 類句「揚げ足を取る」「難癖をつける」外国語 英語 <164> では find fault with **煙に巻く** 意味 おおげさなこと、訳のわからないこと、相手の知らないこと、信じがたいことなどを言ったり、一方的にまくし立てたりして、相手をとまどわせる、訳がわからなくする。用法文型「ダレダレがダレダレを煙に巻く」。用例①③のように受身形がある。⑤のような命令形や、意志表現も可能。〔江戸〕 用例①仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(一八七〇-七六)「煙に巻れて酒肴を新規に命令」②徳永直『太陽のない街』(一九二九)「相手を煙に巻くのが、この市会議員の官吏を相手に今日の資産を造ったと云われる彼の得意とするやり口であった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「例の調子で、まあ、ええがな、ええがなと煙に巻かれて、そのままになってるんだ」④槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九七六)「迷亭は独特の話術でみんなを煙にまく」⑤『朝日新聞』(一九八〇・九・一五朝)「うるさい奥さんは、むずかしくいって煙に巻け」⑥広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「そんなことを呟き宮園を煙に巻いたような気がする」 類句「煙幕を張る」 **けりが付く** 意味和歌・俳句などが過去・詠嘆の「けり」という助動詞で終わることが多いことから、物事・できごとに決着がつく。紛糾していたことが解決する。用法文型「ナニナニにけりがつく」 用例①尾崎士郎『人生劇場 青春篇』(一九三六)「吉良常が杉源をやったことはちゃんと法律でケリがついているんじゃないか」②中野重治『空想家とシナリオ』(一九三九)「それは、役場だけでは埒があかぬということになり、領事館かどこかへも出かけねばならぬということになって一と先ずケリがついた」③『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「二人の市長が一歩も譲らず、四十四年には徹夜の調整でやっとケリがついた」④『朝日新聞』(一九七九・七・一〇朝)「提訴されてからケリがつくまでの期間がだいぶ長くなってきていること」⑤『朝日新聞』(一九八〇・四・二七朝)「野村の代打逆転本塁打で乱戦にケリがついた」 類句「片が付く」 <165> **けりを付ける** 意味和歌・俳句などが過去・詠嘆の「けり」という助動詞で終わることが多いことから、物事・できごとに決着をつける。紛糾していたことを終わらせる。用法文型「ダレナニがナニナニにけりをつける」。命令・意志表現は可能。用例①石坂洋次郎『若い人』(一九三三―四七)「大きな屁でもひって話にケリをつけるのがふさわしいかと思う」②『朝日新聞』(一九七九・七・四朝)「連続二塁打で2点目を加え、熱戦にケリをつけた」③『朝日新聞』(一九七九・一〇・二五朝)「事件のケリをつけるため」④『スポニチ』(一九八二・二・八)「悪い事は昨年でケリをつけ、新しい気分で割り切って望む」 類句「片を付ける」「終止符を打つ」「ピリオドを打つ」 **犬猿の仲** 意味非常に仲が悪い間柄。用法文型「ダレダレとダレダレは犬猿の仲」「二人は犬猿の仲」 用例①源氏鶏太『青い果実』(一九五四―五五)「あの二人は、昔から、犬猿の仲なんですよ」②『朝日新聞』(一九七九・七・二〇朝)「立正佼成会といえば、公明党と密接な関係にある創価学会とは犬猿の仲のはず」③『朝日新聞』(一九八〇・七・一一朝)「厚生省と犬猿の仲にあった医師会」④広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「警察庁と神奈川県警は犬猿の仲にある」 類句「氷炭相容れず」「水と油」外国語英語では fight like cats and dogs **見当が付く** 意味おおよそこんなところだろうと見込みがつく。予想・予測・推測・見通しができる。用法文型「ダレダレは~と(~か)見当がつく」。用例①②のように「見当がつかない」「見当もつかない」と否定形がよく使われる。③の「多分………………ぐらいの」のように「見当」を修飾することは可能。用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「それがどこであるのか皆目見当もつかないが」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「どんな男か、風子には見当もつかなかったが」③『言語生活』三三〇号(一九七九)「多分こうなるだろう、ぐらいの見当しかついていない」 類句「めどが立つ」「めどがつく」「目鼻がつく」「目安がつく」 **見当を付ける** 意味おおよそこんなところだろうと見込みをつける。予想・予測・推 <166> 測する。用法文型「ダレダレが~と見当をつける」。「見当」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。用例丸谷才一『男のポケット』(一九七六)「これは作者の名前だろうと見当をつけても」 類句「当たりをつける」 **犬馬の労** 意味犬や馬が主人のために働くように、人が主君や他人のために力を尽くし、心を尽くして働くことをへりくだって言う。用法文型「犬馬の労を取る」〔江戸〕 用例①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「蕗子に、好きな人が出来たら、一所懸命に犬馬の労をとるからな」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「そうするために、葉山君に犬馬の労を頼んでいるわけだよ」③高杉良『濁流』(一九九六)「池山ごときヤクザのために『犬馬の労を取る』も変な話だが」 外国語 中国語では成句「犬马之劳」(犬馬の労。「犬马之力」とも言う) **けんもほろろ** 意味とげとげしいさまを表す「けんけん」に雉の鳴き声「けんけんほろろ」が重ね合わされたものか。相手の頼みや相談などを無愛想にとげとげしく拒絶するさま。用法文型「けんもほろろに~する」「けんもほろろのナニナニ」。「~する」の部分は受身形になることが多い。〔安土桃山〕 用例①『団々珍聞』六九三号(一八八九)「雉子なす妻とふ夜半の返事にもケンもホロロの挨拶ぞうき」②舟橋聖一『悉皆屋康吉』(一九四一-四四)「剣もホロロの挨拶であったが」③林房雄『息子の縁談』(一九五〇)「病院には、二度行って二度とも、剣もホロロにことわられた」④山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―六八)「けんもほろろに追い帰されたのだった」⑤藤田宜永『転々』(一九九九)「敷金を返してくれ、と頼んだが、部屋を綺麗に片づけてからだ、とけんもほろろに断られた」 類句「木で鼻をくくる」「取り付く島もない」「にべもない」「鼻であしらう」 <167> **口角泡を飛ばす** 意味激しく議論する。つばを飛ばさんばかりに熱心に話す。用法文型「ダレダレが口角泡を飛ばして~する」。~は多くは「議論」などの語。用例①内田百閒『百鬼園随筆』(一九三三)「口角泡を飛ばして、激論を戦わす」②獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「男性の親友同士だって、時には、口角アワを飛ばすから」③沢村貞子『貝のうた』(一九七九)「口角泡を飛ばして言いあった」④外山滋比古『日本語の素顔』(一九七一)「破裂音と云えば、口角アワを飛ばすドイツ語を思い合わせる」 類句「丁々発止」外国語英語では engage in a heated discussion 韓国語では「입에(口に) 거품을(泡を)물다 (含む)」 **幸か不幸か** 意味そのことが結果として良いか悪いか断定できないが。一般的には悪いことを良いと考えていることを婉曲的に表している。用法文型「幸か不幸か~」。副詞的に使用。用例①夏目漱石「私の個人主義」(一九一五)「幸か不幸か病気に罹りまして」②角田喜久雄『発狂』(一九二七)「所が、幸か不幸か、両脚を失った秋山は三日目に正気に戻ったのであった」③『朝日新聞』(一九四六・六・一七朝)「今度の大戦の幕切れには、幸か不幸か、原子爆弾が出現した」④『言語生活』三四七号(一九七六)「わたしは幸か不幸か、そういう能力がありませんでしたから文章を書きませんでしたけれども」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「幸か不幸か、どこも満員だという」 外国語英語では fortunately or unfortunately **後顧の憂い** 意味自分がやり残したり、いなくなったりして後に起きる状況などについての心配。用法「後顧の憂いなく」と言うことが多い。用例①志賀直哉『邦子』(一九二七)「そういう後顧の憂いがあればおれはすぐ為事ができなくなる」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「この際、断固、馘首して、後顧の憂いなからしむる必要があります」③山崎豊 <168> 子『白い巨塔』(一九六三―六五)「これで後顧の憂いなく、安心して退官出来ますよ」④高杉良『会社蘇生』(一九八七)「後顧の憂いがないというわけですね」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「梅津が後顧の憂いなく仕事に打ちこめるのも、安心して家庭を委せられる妻がいるからであろう」 外国語 英語では anxiety about the future 中国語では成句「后顾之忧」(後顧の憂い) **功なり名を遂げる** 意味手柄を立てたりすぐれた業績をあげたりして、名誉・名声を得る。栄達を極める。出典は中国の古典『老子』。用法文型「ダレダレが功なり名を遂げる」〔室町〕 用例①長谷川時雨『近代美人伝』(一九一三)「貞奴に惜しむのは功なり名遂げてという念をおこさずに、何処までも芸術と討死の覚悟のなかった事である」②高杉良『人事権!』(一九九二)「サラリーマンとして功成り名を遂げたとは考えられないだろうか」 類句「名を得る」「名を成す」外国語 中国語では成句「功成名遂」(功成り名を遂げる。「功成名就」とも言う) **甲羅を経る** 意味人が長い年月・経験を積む。年功を積んで老練になる。世間ずれして厚かましくなる。用法文型「ダレダレが甲羅を経る」〔江戸〕 用例永井荷風『妾宅』(一九一三)「先生のお妾も要するに世間並の眼を以て見れば、少しばかり甲羅を経たるこの種類の安物たるに過ぎないのである」 類句「甲羅が生える」とも言う。 **功を奏する** 意味「奏功」を訓読みしたもので、本来、手柄を主君に奏上する意。転じてある行為が良い結果を生み、成功する、期待通りの成果を収める。また効き目がある。うまくいく。効果が現れる。用法文型「ナニナニが功を奏する」 用例①幸徳秋水「社会主義と国体」(一九〇二)「此卑劣な手段は往々にして功を奏し」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「お二人の裏面工作が見事に功を奏したからですよ」③『朝日新聞』(一九七九・四・二六朝)「国鉄労使のなりふりかまわぬ政治力が功を奏した格好だ」④『朝日新聞』(一九七九・六・五朝)「看護婦数人がチームを組んでKちゃんと親しく接触したのが功を奏し、体の発育がよくなっただ <169> けでなく」⑤東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「彼のこの行動が功を奏して、朋美は助かった」 **業を煮やす** 意味 他者や相手の態度や考えにいらいらしてどなりそうになる。物事が思うように運ばずいらだつ。用法文型「ダレダレがナニナニに業を煮やす」〔江戸〕 用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七―九八)「蒲田はなかなか下に貫一の悶ゆるにも劣らず、独り業を沸して、効無き地鞴を踏みてぞいたる」②里見弴『多情仏心』(一九二二-二三)「冷淡きわまる態度に業を煮やして」③『朝日新聞』(一九四五・一一・一四朝)「既成政党の意気地ない有り様に業を煮やして」④新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「雪に埋まった死体は容易に発見できなかった。業を煮やした家族は、自分達で捜索すると言って」⑤内田康夫『歌わない笛』(一九八六)「最後は業を煮やして『あんたが殺ったんじゃなんか?』と言った」 外国語英語では become irritated at (or by) **声が掛かる** 意味 (1)話しかけられる。呼びかけられる。何か一緒にしようと誘われる。(2)声援を送られる。用法文型「ダレダレはダレダレから声がかかる」「ダレダレにダレダレの声がかかる」。用例③の「出演の」のように「声」を修飾することは可能。用例(1)①倉橋由美子『長い夢路』(一九六八)「まり子に、「お姉さま』と声がかかった」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「『なにを愚図ついておるか、さっさと歩け』再び徳島大尉の声が掛かった」(2)③丸谷才一『男のポケット』(一九七六)「物価でしくじってからは出演の声がかからなくなり」 類句「お声がかかる」(特に目上の人から誘われたり、取り持ちや紹介を受ける) **声を上げる** 意味 (1)大きな声を出す。感情の高まりや驚きなどのため思わず出してしまう声に用いる。(2)不満に思っていたことを改善してほしい、こうしてほしいと要求をする。(3)弱音を吐く。用法文型(1)「ダレダレが声を上げる」。「すっとんきょうな」「驚きの」など「声」を修飾できる。(2)「ダレダレがナニナニの声を上げる」。命令・意志表現は可能。(3)「ダレダレが~と声を上げる」〔平安〕 用例(1)①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「背後を振り返っ <170> て栗谷清子は若い驚きの声をあげた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「『まあ』菊と待子が声を上げた」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「不覚にも声を上げて彼女を呼び求めることがあった」④平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「風子はとうとう声をあげて泣き出した」(2)⑤「社員一同が会社の方針反対の声を上げた」(3)⑥「もうこれ以上はできないと声を上げた」 類句(1)「声を立てる」「声を出す」③「音を上げる」 **声を掛ける** 意味 (1)人に話しかける。人に呼びかける。何か一緒にしようと人を誘う。(2)声援を送る。 用法文型「ダレダレがダレダレに声をかける」。命令・意志表現は可能。受身形がある。〔室町〕 用例(1)①川端康成『伊豆の踊子』(一九二六)「『今晩は』と声を掛けた」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「『どなたですか』背後から声をかけた」③『京都新聞』(一九七九・五・二朝)「『ポストなら外にありますよ』と声を掛けると」④『朝日新聞』(一九八一・二・三朝)「学内ではすれ違う学生一人ひとりに、気さくに声をかけた」(2)⑤「選手に『気合いだ』と声をかける」 類句(1)「口をかける」 **声を立てる** 意味 大きな声を出す。泣いたり笑ったりする時などの声のさま。用法文型「ダレダレが声を立てる」「ダレダレが声を立てて~する」。「声を立てる」は泣き声や笑い声など感情的な音声を出す時に用いることが多いので、命令・意志表現はあまりそぐわない。〔平安〕 用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「母はもうおいおいおいおい声を立てて泣いている」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「人が声をたてて笑い」③高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「恵子は声をたてずに笑った」 類句「声を上げる」 **故郷に錦を飾る** 意味名を挙げて誇らしく故郷に帰る。立身出世して里帰りする。用法文型「ダレダレが故郷に錦を飾る」。「故郷へ錦を飾る」とも言う。〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(一九八〇・二・二朝)「東洋通の第一人者として故郷ヴェニスに錦を飾ったマルコ・ポーロによって」②稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九九一)「故 <171> 郷に錦を飾ることになるのだろうか」③森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(1000)「いまに大歌手になって、故郷に錦を飾ると大見得を切った手前」 (類句「錦を飾る」〔外国語英語では return home loaded with honors *中国語では成句「衣锦还乡」(錦を着て故郷に帰る。「还乡」は故郷に帰る。「衣锦荣归」とも言う) **虚仮にする** 意味人を軽く見て侮る。用法文型「ダレダレがダレダレをこけにする」。用例のように受身形でもよく用いられる。〔江戸〕 (用例)『朝日新聞』(100五・二・二六朝)「先日もウスイから『藤巻健史の部下というより、藤巻幸夫さんの知人といったほうが、感心される』とコケにされたばかり」 類句「馬鹿にする」 **沽券に関わる** 意味「沽券」とは土地・家屋の権利証、売り渡し証文。その人の体面や品位にさしつかえる、落とすことになる。用法文型「ナニナニはダレダレの沽券にかかわる」 (用例)④坂口安吾『死と影』(一盗人)「高級な下宿だからネ、先生のコケンにかかわるといけねえから、このキモノをきてくるんだ」②源氏鶏太『三等重役』(一九盗一―五二)「社長の沽券にかかわる失態を演じたような面白くない気持がしてきた」 類句「傷がつく」「器量を下げる」「立場がない」 (外国語 英語では beneath one's dignity **心が躍る** 意味喜びや期待で心がわくわくする。うきうきする。用法文型「ダレダレは心が躍る」「ダレダレの心が踊る」 (用例)柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「気象観測データや天気予報を一般に公表できるようになったのである。藤原の心は躍った」 (類句「心を躍らせる」とも言う。「心が弾む」「胸が躍る」「胸が弾む」 **心が通う** 意味お互いの気持ちが通じ合う。用法文型「ダレダレはダレダレと心が通う」 用例)福永武彦『忘却の河』(一九益)「その間の時間を飛び越してこうして心が通うというのはなぜだろうか」 <172> 類句「打てば響く」「気心が知れる」「心が通じる」「ツーカーの仲」「ツーと言えばカー」 **心が弾む** 意味「心が躍る」に同じ。(用法)文型「ダレダレは心が弾む」 (用例)織田作之助『土曜夫人』(一盘六)「『今夜こそこの女をどこかへ連れて行って・・・』という想いに心も弾むのだった」 **心に掛かる** 意味ある人・ことが心配になる。ある人・ことが意識にひっかかって忘れることができない。用法文型「ダレダレはダレナニが心にかかる」〔平安〕 (用例)三浦綾子『塩狩峠』(一杂人)「生れて初めて見合いをした相手だったから、ひとり住まいの信夫にとって、それだけでも美沙は刺激的な、そして心にかかる存在であったかもしれない」 類句「気にかかる」「気にする」「気になる」 **心に掛ける** 意味ある人・ことを心配する。意識して忘れないようにする。用法文型「ダレダレがダレナニを心にかける」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 (用例)辻邦生『北の岬』(10)「私、あなたがそんなふうに心に掛けてくださったことが嬉しいんです」 類句「気にかける」「気にする」「心に留める」 **心を打つ** 意味あることが人の心を感動させる。用法文型「ナニナニがダレダレの心を打つ」。「心を打たれる」という受身形もよく使用される。 (用例)①野間宏『真空地帯』(一二)「會田はその記事を忘れることができなかった。それは深く彼の心を打ったのである」②辻邦生『北の岬』(10)「私はなお鳴りどよむ大都会の生命感に、何度か心を打たれ、残忍なドラマでもみるように、その巨大な傷ついた身体を黒々と横たえる町々を眺めたものだった」③田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「キリストのいうことすること、みなよくわかって心を打たれる」 類句『琴線に触れる」「胸を打つ」 **心を奪う** 意味注意・関心を奪って夢中にさせる。心をとりこにする。用法文型「ダレナニがダレダレの心を奪う」「ダレダレはダレナニに心を奪われる」。 <173> 受身形がよく使用される。〔安土桃山〕 (用例)①野間宏『真空地帯』(一二)「彼は不思議にも眼の前にいる木谷の実在物よりも、このときには過去の木谷に心をうばわれていた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三「六金)「メスの動きに心を奪われていた」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「目さきの取引に心を奪われて基本的なことを忘れてしまうのである」 **心を鬼にする** 意味かわいそうだと思う気持ちを振り捨て、相手のためを考え、あえて厳しい態度で当たる。用法文型「ダレダレは心を鬼にして~する」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(1三)「『せっかくですが、お断りします』浩太郎は、心を鬼にして、断乎たる口調でいって」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「犯人は心を鬼にして、現場を離れて車で自宅近くまで戻り」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「綾さんの魅力には勝てませんよ。心を鬼にしなければ、治子が怖ろしい、とか思っても、やっぱり来てしまうんだから」 外国語 英語では harden one's heart **心を傾ける** 意味(1)愛情や情熱をもってあることに心を集中して行う。(2)気をそそられ、心を寄せる。用法文型「ダレダレがダレナニに心を傾ける」。命令・意志表現は可能。〔室町〕 (用例)(1)①「ここ何年も花の栽培に心を傾けてきた」②「つい美しさにひかれて彼女に心を傾けてしまった」 類句(1)「心を入れる」「心を打ち込む」「心血をそそぐ」「全身全霊を打ち込む」 **心を砕く** 意味いろいろと考え、気を使って苦心する。用法文型「ダレダレがナニナニに心を砕く」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 (用例)①「仲良くやっていけるように心を砕いてきた」②「教育に日夜、心を砕く」 類句「骨を折る」 **心を配る** 意味相手を思いやり、いろいろと配慮する。間違いが起きないように気を使う。用法文型「ダレダレがダレナニに心を配る」。命令・意志表現は可能。〔室町〕 (用例)①野坂昭如『てろてろ』(一老一)「温度の調節と、食物にさえ心をくばるなら、まず半年は生存する」②『新共同訳聖書』ヘブライ13章11節(一九一)「あなたがたの魂のために心を配っています」 <174> 類句「気を配る」 **腰が落ち着く** 意味(1)人がある場所に定着する。人がある環境に慣れ落ち着く。(2)人が動揺しないでしっかりしている。用法文型(1)「ダレダレはドコドコに腰が落ち着く」「ドコドコにダレダレの腰が落ち着く」。用例①のように否定形がある。(2)「ダレダレは腰が落ちつく」「ダレダレの腰が落ち着く」〔江戸〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・七・一九朝)「腰が落ち着かない新自由ク議員からのアプローチもある」②深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「亜紀子の腰がち着いたのを見て」(2)③「事件後、三年が経ち、腰が落ち着いた」 **腰が重い** 意味無精で、まめに動いたり出かけたりしない。転じて、なかなか行動を起こそうとしない。なかなかその気にならない。用法文型「ダレダレは腰が重い」「ダレダレの腰は重い」 (用例)①井上靖『氷壁』(一九五六—五毛)「『おれの方から行く』魚津が答えると、『珍しいことだな、腰の重い君が。――何か用事かい』」②『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「政府の腰は重い」③『朝日新聞』(一九六〇・・四朝)「参院側の腰は重く、論議にもなかなか火がつかない」④『朝日新聞』(一九六〇・三・八朝)「一般消費稅反対中央連絡会も『現行税制による空前の大増税』には腰が重い」 類句「尻が重い」外国語英語では have lead in one's pants **腰が砕ける** 意味途中で物事をやり遂げる気力を失う。強気の態度が崩れる。腰砕けになる。用法文型「ダレダレは腰が砕ける」 (用例)高杉良『人事権!』(一九九二)「石井のことだから腰が砕けてしまう恐れもある」 **腰が据わる** 意味他のことに気をそらしたり手を出したりせず、一つのことにしっかり持続して取り組む。用法文型「ダレダレは腰が据わる」。否定形でよく使われる。 (用例)『朝日新聞』(一九一・三・三三朝)「腰のすわらない首相の姿勢に強い不信感をもったのも当然である」 <175> **腰が抜ける** 意味驚きや恐怖のために足腰が立たなくなる。用法文型「ダレダレは腰が抜ける」。用例①②のように「腰が抜けそう」、③のように「腰が抜けるほど~」といった形でその程度のはなはだしさを誇張する。〔江戸〕 (用例)①高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七六)「ぼくも、初めて見たときは腰が抜けそうになった」②『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「もしこれが命とりになっていたらと思うと、腰がぬけそうでした」③稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一六一)「私は腰がぬけるほど驚いた」 **腰が低い** 意味人に対して態度が謙虚でいばらず、愛想がよく、丁寧なさま。用法文型「ダレダレは腰が低い」 (用例)①黒岩重吾『背徳のメス』(10)「植に対して安井は、ますます腰が低かった。狡猾な安井は、植が自分にとって大切な人間であることを、よく知っているようだった」②『朝日新聞』(一九七九・六・三朝)「腰の低い山下長官が」③『朝日新聞』(一九一・二・三朝)「ニコニコと腰が低く、学内ではすれ違う学生一人ひとりに、気さくに声をかけた」 類句「頭が低い」外国語 韓国語では「허리를 (腰を) 굽히다 (曲げる)」 **腰が引ける** 意味何かをするのに自信がなく、おどおどして中途半端な態度でいるさま。転じて、ある事柄に対してどのように対処してよいかわからず、はっきりしない態度をとっているさま。用法文型「ダレダレはナニナニに腰が引ける」 (用例)①高杉良『人事権!』(一九九二)「田中は腰が引けている」②西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(1000)「市役所も、宗教問題には、腰が引けてしまっていますから」 **腰を上げる** 意味座っていた姿勢から立ち上がる。転じて今まで何もしなかった者がことに取りかかる。行動に移る。用法文型「ダレダレが腰を上げる」。命令・意志表現は可能。 (用例)①福永武彦『忘却の河』(一九盔)「安保闘争の時も彼は腰を上げようとせずに」②佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「『そうですね。じゃあ、わたしも行ってみます』と、板倉は腰を上げた」③東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「質問項目がなくなったらしく、刑事たちは腰を上げた」 <176> 類句「おみこしを上げる」「重い腰を上げる」「尻を上げる」「みこしを上げる」 **腰を折る** 意味 他人の話の途中で邪魔をしてやめさせてしまう。用法文型「ダレダレが話の腰を折る」。受身形がある。〔江戸〕 (用例)①島尾敏雄『死の棘』(10)「(略)と言いかけると、医師ははなしの腰を折って、『あとは婦長と相談してくれたまえ』」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「話の腰を折らないでおくれ」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「おれは『親方』に話の腰を折られたがね」 **腰を据える** 意味 (1)じっくり落ち着いてあることに取り組む。(2)ある場所に長く住み続ける。用法文型(1)「ダレダレが腰を据えて~する」(2)「ダレダレがドコドコに腰を据える」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九盗霊)「当分腰を据えて、この仕事をやって貰いたい」②平岩弓枝『風子』(一九七五ー七七)「この辺で結婚させてやったほうが、腰をすえて、むこうで仕事が出来るのではないかと」③『朝日新聞』(一六一・一・九朝)「いまこそ腰をすえて海外から学ぶべきではないのか」②④城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「それに、かんじんの住井が、いつ行っても、釣りに出かけていて会えない。すでに精進湖に半分は腰をすえた生活のようであった」 類句(1)「尻を据える」「みこしを据える」(2)「尻が暖まる」「尻を据える」「みこしを据える」 **腰を抜かす** 意味驚きや恐怖のために足腰が立たなくなる。非常に驚く。用法文型「ダレダレが腰を抜かす」。用例②③のように「腰を抜かさんばかり」とたとえることも多い。〔室町〕 (用例)①源氏鶏太『実は熟したり』(一九五人―売)「危く、五郎と二人で、自動車無理心中をするところだった、といってやったら、腰を抜かすかもわからない」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「陶器商に見せたところ、腰を抜かさんばかり」③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一六0)「寝たきり老人が入浴するところを見せてもらった時は、腰をぬかさんばかりに驚いた」④外山滋比古「日本語の素顔』(一六一)「昔の人なら、腰を抜かすだろう」⑤大沢在昌『悪夢狩り』(一九盗)「腰を抜かしそうなほど怯えていた東河台の生徒の顔を思い浮かべた」 <177> 類句「開いた口がふさがらない」「あきれてものが言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「肝を消す」「肝を潰す」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 **御託を並べる** 意味「ごたく」は「ご託宣」の略で神仏のお告げ。身勝手なことをごたごたと偉そうに言い立てる。用法文型「ダレダレがごたくを並べる」。用例①③のように「勝手な」などが「ごたく」を修飾できる。〔江戸〕 (用例)①舟橋聖一『悉皆屋康吉』(一迦一四五)「勝手な御託をならべていた伊助爺も」②林二九太『へのへのもへじ』(一九二)「鰻がいいの、洋食がいいのと、すったもんだとゴタクを並べ出したが」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「内田は勝手なゴタクを並べると、こっちの返事も無視して、さっさと電話を切った」④重松清『かっぽん屋』(11001)「ごちゃごちゃゴタク並べてんじゃねーぞ」 **御多分に漏れず** 意味 世間一般によくあるのと同様に。他の多くと同じように。あまりプラス評価には使わない。「御多聞」「御他聞」と書くのは誤り。用法文型「ダレナニもごたぶんに漏れず~」。副詞的に使用。 (用例)①『滑稽界』八号(10人)「聴けば是も御多分には漏れず夜逃同様下宿を引払って故郷の福井へ飛んで了った相だ」②浜尾四郎『殺人鬼』(一九一)「藤枝も私も御多分に漏れず、イプセンを論じ、ストリンドベルグを語り、ロマン・ローランの小説を徹夜して読むかたわら」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「この選挙の票数という奴は、どの世界でも水もので、医学界だってご多分に洩れずさ」④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「ご多分に漏れず一流大学については、青田買い、まがいのこともやってきたが」 **骨肉の争い** 意味親子・兄弟のような血のつながりのある者、関係の深い者どうしの醜い争い。用法文型「ダレダレが骨肉の争いをする」「ナニナニは骨肉の争い」 (用例)『朝日新聞』(一九七売・六・二〇朝)「骨肉の争いは住民の融和、地域の発展を阻害する」②『朝日新聞』(一九六〇・五・一九朝)「いかに骨肉の争いとはいえ、互いの政権のうま味を手放したのでは元も子もない」③『朝日新聞』(一九0・10・三朝)「選挙運動によって骨肉の争いになるのを避ける」 <178> 類句「骨肉相食む」「血で血を洗う」 **後手に回る** 意味相手に先手をとられて受け身になる、主導権を握られる。すばやく行われるべき対策や手当などが後回しになり後れがちになる。用法文型「ダレナニがダレナニの後手に回る」 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・七・二七朝)「トンネル内の防災施設や運行規制など、何事も後手に回っている現状で」②『朝日新聞』(一六〇・七・三朝)「魁輝ののどわ押しにあって後手にまわった若乃花」③東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「あとはパトロール強化と、日浦の車を手配する程度か。くそっ、後手に回ったな」 類句「後れをとる」「後手をひく」 **ご同慶の至り** 意味よそのことながら、相手と同じように自分もうれしいことである。相手の慶事を祝う言葉。用法文型「ナニナニはご同慶の至り」 (用例)『朝日新聞』(一九六〇・六・三〇朝)「金権腐敗の疑惑議員と同じことをしても、握りつぶしてくれることになったからご同慶の至りといいたいのである」 **事が事** 意味そのことが取り扱いにくい、問題を含む、重大であること。用法文型「事が事だけに(だから)」 (用例)①森村誠一『東京空港殺人事件』(一九二)「事情を打ち明けて協力を頼むわけにはいかない。それにコトがコトである」②「事が事だけに慎重を期する」③「事が事だから、そうは簡単に行くまい」 外国語 英語では under the circumstances **事ここに至って** 意味今となっては手の施しようのない事態、差し迫った事態、どうにも打開しようもない事態になって。(用法)後ろに否定的な言葉が続く。 (用例)「事ここに至っては死ぬのを待つしかない」 類句「事ここに及んで」とも言う。 <179> **事と次第によっては** 意味事柄や物事の成り行きによって当初の予定とは違ったことになる可能性がある。用法「事と次第によっては~する」。「事と次第では」とも言う。 (用例)①佐々木味津三『続旗本退屈男』(一九二九—三三)「奉行所の役人共に聞き訊ねた上で、事と次第によらばこの主水之介が料ってつかわすのじゃ」②木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(11000)「ことと次第によっては最匠流をでると知った途端」③「事と次第によっては社長と会長が会見に臨むこともある」 **事なきを得る** 意味危ういところで、大したことにならず無事に済む、助かる。用法文型「事なきを得る」「事なきを得て~」 〔用例〕「事なきを得てほっとする」 外国語 英語では save the day **事によると** 意味もしかすると。用法文型「事によると~」。「事によったら」「事によれば」とも言う。〔江戸〕 (用例)「事によるとふたりはできているかもしれない」 **事もあろうに** 意味他にいろいろあるのにことさらに。その状況では起きてはまずいことになる時などに言うことが多い。用法文型「事もあろうに~」 (用例)①織田作之助『大阪発見』(1盗0)「ぶぶ漬の運ばれて来るのを待っていると、やがて、お待ちどうさんと前へ据えられた途端、あッ、思わず顔が赧くなって、こともあろうにそれはお櫃ではないか」②「入社式の日、事もあろうに寝坊して遅刻した」 類句「あろうことか」「よりによって」 **事もなく** 意味 容易に。用法文型「事もなく~する」。副詞的に使用。 (用例)「新記録を事もなく達成した」 類句「苦もなく」「手もなく」「訳もなく」 **事もなげに** 意味何も問題がないかのように平気で。何とも思わず。言ったりしたりするさまに使用。用法文型「事もなげに~」。副詞的に使用。 (用例)尾崎紅葉『多情多恨』(八九六)「『継聘を? 妻ですか!』と柳之助は顔の色を変える。お種は故と事も無げに『そうでございます』」 <180> 外国語 英語では as if it were nothing **胡麻を擂る** 意味自分の利益のために他人、特に上司・上役などにへつらう、追従する。ご機嫌を取る。用法文型「ダレダレがダレダレに胡麻をする」〔江戸〕 (用例)①石坂洋次郎『山と川のある町』(一六)「親父がP・T・Aのボスだし、ゴマをすってるのさ」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七)「『別に……………お師匠さんって、すばらしい人だと思ってます』『ごまするなよ』」③高杉良『人事権!』(一九九二)「相澤はゴマを擂ったつもりはない」④「先生にごまをする生徒」 類句「尾を振る」「尻尾を振る」外国語英語では flatter; curry favor (with) *中国語では慣用句「拍马屁」(おべっかを使う。「拍」は叩く、「马屁」は馬の尻。「溜须拍马」とも言う) **小耳に挟む** 意味噂、話の一部を偶然にちらりと聞く。聞くともなしに聞く。自然とちょっと聞こえてくる。用法文型「ダレダレがナニナニを小耳に挟む」〔江戸〕 (用例)①丸谷才一『男のポケット』(一九六)「数年前、小耳にはさんだ噂があるからだ」②藤原審爾『死にたがる子』(一九老人)「ちょっと小耳にはさんだんだがね」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「ウチの人事部長が小耳に挟んだうわさ」 類句「耳に入れる」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」外国語英語では happen to hear **御免蒙る** 意味勘弁してほしい。拒否・拒絶を表す言葉。用法文型「ナニナニは御免蒙る」。「御免蒙りたい」と言う形が多い。 (用例)『朝日新聞』(一九六一・六・二朝)「民族を滅亡に導くような危険きわまりないカサなど、国民はゴメンこうむりたいい」 **これ見よがしに** 意味これを見よと言わんばかりに得意そうに見せつけるさま。用法文型「これ見よがしに~する」。副詞的に使用。 (用例)①角田喜久雄『怪奇を抱く壁』(一盗六)「真昼間からこれ見よがしにウイスキーのコップを並べてオダをあげている闇屋風の二人」②三島由紀夫『盗賊』(一盗人)「教訓を与える立場にある女の寂しさをこれ見よがしに、息子にすねて見せもしたのだった」③源氏鶏太『緑に匂う花』(一九ェニー≦)「ダンス・パーティには女のひとは、僕たち老人を敬遠して、若い男とばかり、いかにも愉しそうに、さよう、これ見よがしに踊って」 <181> 用例①角田喜久雄『怪奇を抱く壁』(一盗六)「真昼間からこれ見よがしにウイスキーのコップを並べてオダをあげている闇屋風の二人」②三島由紀夫『盗賊』(一盗人)「教訓を与える立場にある女の寂しさをこれ見よがしに、息子にすねて見せもしたのだった」③源氏鶏太『緑に匂う花』(一九ェニー≦)「ダンス・パーティには女のひとは、僕たち老人を敬遠して、若い男とばかり、いかにも愉しそうに、さよう、これ見よがしに踊って」 **さ** **細大漏らさず** 意味 細かいことも大きいこともすべて。 用法 文型「細大漏らさず〜する」。副詞的に使用。 用例 源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「もし、岡崎に関する情報が入ったら、細大もらさずに、僕に知らせてくれたまえ」 類句 「余すところなく」「ありとあらゆる」「一から十まで」「何から何まで」 **采配を振る** 意味 「采配」は昔、戦場で大将が指揮をするために用いた、柄にふさを付した道具。人の上に立って指図して運営に当たる。物事の指揮をとる。 用法 文型「ダレダレが(ナニナニに)采配を振る」。ナニナニは集合体がある秩序をもって行動する必要がある事柄。〔江戸〕 用例 甲賀三郎『黄鳥の嘆き』(一九金)「葬儀委員長と <182> 類句「采配をふるう」とも言う。「イニシアチブを取る」「音頭を取る」「舵を握る」外国語 英語では have the command **采配を揮う** 意味「采配を振る」に同じ。用法文型「ダレダレが(ナニナニに)采配を揮う」 (用例)①源氏鶏太『随行さん』(一九겊0)「戦時中この室で傲然と采配を揮っていた前社長に較べたら」②中上健次『鳳仙花』(10)「兄の幸一郎が夜に行われる法事の采配を振るうのに忙しいし」 **財布の紐を締める** 意味 無駄な金を使わないように倹約する。出費を切りつめる。用法文型「ダレダレが財布の紐を締める」 (用例)「家計をあずかる主婦は財布のひもを締めているためか、売れ行きがよくない」 類句「財布の口を締める」とも言う。(外国語)英語では tighten one's purse strings **財布の紐を握る** 意味 金銭の出し入れの権限を握る。用法文型「ダレダレが財布の紐を握る」 (用例)①東直己『古傷』(100個)「祖父が財布の紐をしっかり握っているからなの」②「妻が財布の紐をしっかり握っているので、家計は安定している」 外国語 英語では hold the purse strings **先を争う** 意味人より先になろうと争い進む。用法文型「ダレダレが先を争うように~する」「ダレダレが先を争って~する」〔室町〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・六・二0朝)「七年前の九月に母が、六年前の五月に父が、それぞれ先を争うようにして死に」②「開店と同時に先を争ってバーゲン会場になだれ込んだ」 類句「先陣を争う」「我先に」(外国語 中国語では成句「争先恐后」(遅れまいと先を争う。「恐后」は遅れるのを恐れる) <183> **探りを入れる** 意味相手に気づかれないように相手の動静を調べる。自分が知りたいことを、それと相手に気づかれないように聞き出そうとする。(用法)文型「ダレダレが探りを入れる」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 (用例)①坂口安吾『投手殺人事件』(10)「熱カンをつけてもらって、前の旅館に大男が泊まっていないかサグリを入れるが」②藤原審爾『死にたがる子』(一九六)「わたしには、あなたがどんな人物だかわからない。あなたの言葉をそのまま信じるわけにはいかない。色々とさぐりを入れますよ」 類句「鎌を掛ける」「腹を探る」外国語 英語では feel someone out **匙を投げる** 意味 薬を調合する匙を投げ出すということで、医者が患者を見放すことから転じて、なんとかしようと努力してやった行為や処置に見込みがないと知り、あきらめて放棄する。用法文型「ダレダレがダレナニに匙を投げる」。受身形がある。〔江戸〕 (用例)①久米正雄『学生時代』(一九二七)「私はあくまで弟が匙を投げて『この次までに考えて見ましょう』とか云うだろうと多寡を括って待った」②里見弴『多情仏心』(一九三―三)「お医者様がみんな匙を投げちまってからだって、不思議に助かったなんて話も」③『朝日新聞』(一九갚五・四・二七朝)「連盟でも陛下に段位を送る免状の文案にはサジを投げていたようだ」④『相撲界』復刊二号(一六○)「『こんな状態では出場して一勝できれば上出来』とサジを投げた」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(11000)「親もさじを投げていた重次が現れると」 類句「お手上げ」「見切りをつける」外国語 英語では give up on **鯖を読む** 意味魚市場でサバはくさりやすいため早口で数えて数をごまかしたことから、自分の都合のいいように数をごまかす。また実際よりもいいように言って相手をごまかす。用法文型「ダレダレがさばを読む」。用例①の「大きな」のように「さば」を修飾することは可能。〔江戸〕 (用例)①夢野久作『爆弾太平記』(一九三)「ここの火薬庫の主任が、一生一代の大きなサバを読んで渡すことがあるそうで」②獅子文六『娘と私』(一九五三―五兵)「『いいえ・・・あたし、心臓が、少し悪いもんですから…』(略)『へえ、どこも悪くないなんて、サバを読んだね』」③『朝日新聞』(一九一・七・二朝)「日米双方ともかなりサバをよんだ目標を掲げている」④森村誠一『エネミイ』(1000)「年齢を八歳もサバを読んでいた」 <184> 外国語 英語では fudge **様になる** 意味何かをするしぐさや結果の状態が一応整って見るに耐えるさまになる、それにふさわしい格好になる。用法文型「ナニナニがさまになる」。「さまにならない」という否定形が多い。 (用例)①野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「猟銃じゃさまにならないわねえ」②「ものまねもだんだんさまになってきた」 類句「板に付く」 **し** **歯牙にも掛けない** 意味取り上げるほどのことでもないので無視して問題にしない、相手にしない。用法文型「ダレダレはダレナニを歯牙にもかけない」「歯牙にもかけず~する」 (用例)①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九天)「彼が、ほとんど、歯牙にもかけなかった、低級な人間の中に」②石坂洋次郎『若い人』(一九三三―三毛)「何でもない偶然事だと歯牙にもかけない表面をよそおっていたが」③源氏鶏太『随行さん』(一莹0)「歯牙にもかけてくれなかった社長と違って」④『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「田中派幹部は、世間からどんな非難を受けようと歯牙にもかけずにやろうと公言し」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「彼らは内田の『駄作』などは歯牙にもかけない」 類句「眼中にない」「等閑に付す」「取るに足りない」「はなもひっかけない」「屈とも思わない」「見向きもしない」「目じゃない」「目もくれない」「物の数ではない」「問題にならない」 <185> 外国語 英語では take no notice **敷居が高い** 意味相手に不義理なことをしたり迷惑なことをしたりして、相手の家に行きにくい。またその人に会いにくい。用法文型「ドコドコは敷居が高い」〔江戸〕 (用例)泉鏡花『婦系図』(10七)「余所ながら真砂町の様子を、と想うと、元来お蔦あるために、何となく疵持ち、思いなしで敷居が高い。で何となく遠のいて」 外国語 英語では feel self-conscious about visiting **死者に鞭打つ** 意味死んだ人の生前のことを取り上げて悪口を言う。出典は中国の『史記』伍子胥伝。用法文型「死者に鞭打つ(ような)ナニナニ」 (用例)①森村誠一『東京空港殺人事件』(一老一)「いまは、死者にむち打つようなことは言いたくありません」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九九二)「死者にムチ打つことは躊躇われた」 類句「屍に鞭打つ」「死屍に鞭打つ」とも言う。 **舌鼓を打つ** 意味 (1)不愉快や不満の意を表して舌を鳴らす。現在では使用しない。(2)食べている物が非常においしいので思わず舌を鳴らす。非常においしい物を味わい楽しむ。「したづつみ」と誤って言うことがある。用法文型(1)「ダレダレが舌鼓を打つ」(2)「ダレダレがナニナニに舌鼓を打つ」〔江戸〕 (用例)(1)①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七―人九)「脱ぎすてた服を畳みかけてみて、舌鼓を撃ちながらそのまま押し入れへへし込んでしまう」②宇野浩二『苦の世界』(一九一八一三)「私は舌鼓をうって引きかえして」(2)③里見弴『多情仏心』(一九三三二三)「山海の珍味ででもあるように、舌鼓をうって食べるのを見ては」④『朝日新聞』(一九塩・三・二四朝)「鶯がさえずりだす前の地鳴きは、『チャッ、チャッ』と舌つづみを打つように聞こえる」⑤金田一春彦他『変わる日本語』(一六一)「ヒラメの刺身とクワイの煮ころがしで舌鼓を打って」 類句「舌鼓を鳴らす」とも言う。外国語 英語では smack one's lips **下にも置かない** 意味下座に付かせない意から転じて、人(特に客)に非常に気を使って丁寧に大切にもてなすさま。 <186> 用法文型「ダレダレはダレダレを下にも置かない」「下にも置かないナニナニ」。ナニナニには「もてなし」「扱い」など。「下へも置かない」とも言う。 (用例)①永井荷風『つゆのあとさき』(一九一)「万事思切って歯の浮くような事をする男であるが、相応に金をつかうので女給連は寄ってたかって下にも置かないようにしている」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「いままでは、蝶よ花よと下へも置かぬ扱いをしていた各テレビ局が、いっせいに背を向けた」③「下にも置かないもてなしを受ける」 外国語 英語では treat someone like a king **舌の根も乾かぬうちに** 意味今言い終わったばかりなのに、すぐにそれと矛盾すること、逆のことを言うのを非難する言葉。用法文型「舌の根も乾かぬうちに~する」。「忠誠を誓った」のように「舌の根」を修飾することが可能。「舌の根も乾かないうちから」とも言う。 (用例)①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-三)「いままで死にたいと言っていたヤツが、その舌の根の乾かないうちから、今度はそんな図々しいことを言い出す」②『朝日新聞』(一九七九・八・二六朝)「その舌の根も乾かぬうちに『巨人のときに気合がはいる』とつい本音をはく」③『朝日新聞』(一九六〇・七・一六朝)「その舌の根もかわかぬ今の時期に」④大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦争』(11001)「忠誠を誓った舌の根も乾かぬうちにアメリカを火を噴かんばかりに激しくののしるのでおどろいた」 類句「言う口の下から」「声の下から」(外国語) 英語では no sooner were the words out of one's mouth than **舌を巻く** 意味 すばらしいできばえや圧倒するような状況・心意気・能力などに非常に驚き感心する。出典は中国の『漢書』。用法文型「ダレダレがナニナニに舌を巻く」。用例②のような使役受身形がある。〔鎌倉〕 (用例)①甲賀三郎『琥珀のパイプ』(一九四)「検事は青年記者の明解なる判断に舌を巻きながら」②夢野久作『爆弾太平記』(一九三)「来島の働きぶりには吾輩イヨイヨ舌を巻かされたもんだよ」③源氏鶏太『天下泰平』(一九五四1歪)「大吉は、女の大胆さに、ひそかに、舌を巻いている」④『朝日新聞』(一九七九・五・二元朝)「気迫に舌を巻いた」⑤『朝日新聞』(一九六〇・五・二元朝)「その安打を打つ技は、王にさえ『うまい』と舌をまかせたほどである」⑥梓林太郎『死神山脈』(一九九九)「『刑事さんは、そこまでお調べになっておいでですか』と、舌を巻くような表情をした」 <187> 外国語 英語では be amazed by **地団駄を踏む** 意味「地団駄」は「地蹈鞴(足で踏んで空気を送るふいご)の転。差し迫った要求を相手に訴えるために何回も地面・床を強く踏む、ばたばたさせる。転じて思い通りにならない、または取り返しのつかないことに対する悔しさやもどかしさを表す。用法文型「ダレダレが地団駄を踏む」。用例⑤のように意志表現は可能。〔江戸〕 (用例)①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「思うようにならぬ焦燥さは地鞴を踏むばかりである」②徳永直『太陽のない街』(一九六)「彼女は髪を振り乱し、跣足のままで地団駄を踏みながら喚めき立てた」③石坂洋次郎『若い人』(一九三―モ)「後ろで戸田らがほんとに地団駄踏んでいるのを聞き流して」④三島由紀夫『仮面の告白』(一盗九)「私は居たたまれなかった。地団太を踏んだ。それでももう一日私は辛抱した」⑤源氏鶏太『見事な娘』(一九四―五五)「あの三万円は、久美に、騙取されたのか、と桐子は、地団駄を踏みたいほど、口惜しかった」⑥内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「(彼女はここで何を見たのだ――)と地団駄を踏んでも、問題は解決しない」 類句「歯ぎしりをする」外国語 英語では stamp one's feet in frustration *中国語では成句「捶胸顿足」(胸をたたき地団駄を踏む。「捶」はたたく。「顿足」は地団駄を踏む。「顿足捶胸」ともいう) **失笑を買う** 意味愚かな言動、つまらぬ行為で人に笑われる。用法文型「ダレナニがダレダレの失笑を買う」 (用例)①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「奥さんや子どもや会社の同僚や下役の失笑や冷笑を買いながら、黙々とくだらぬもの集めに熱中し」②『朝日新聞』(10・10・1三朝)「西尾末広氏が『書記長個人』なる迷言をはいて、世の失笑を買った」③『朝日新聞』(10・10・三朝)「見えすいたスクイズプレーなどの攻撃作戦が失笑を買った」 類句「冷笑を買う」 <188> **十把一絡げ** 意味いろいろな種類の人・物を区別せず、いっしょくたにすること。個々を取り上げるほど価値のないものをひとまとめに扱うこと。用法文型「十把一絡げに~する」「十把一絡げのナニナニ」 (用例)①池島信平『雑誌記者』(一人)「戦争遂行上、邪魔になる総合雑誌の編集者をまず十把一からげにブタ箱に入れ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「夜店のバナナ売りみたいに十把一からげの評価とは阿呆らし過ぎる」③『朝日新聞』(一九六一・・三〇朝)「それが『戦争』をも十把ひとからげに、ひとつの『悲惨」例としてとらえさせてしまっていると思える」④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「杉野が、頭が上がらないのはこの二人だけで、あとは十把ひとからげ、自分より遙かに格下の財界人ばかりということになる」 外国語 英語では lump together **尻尾を出す** 意味 狐や狸が化けても尻尾を出して見破られることから、悪事やごまかしなどがばれて正体を現す。犯人・悪人について言うことが多い。用法文型「ダレダレが尻尾を出す」〔江戸〕 (用例)①佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九三)「巧にそれが包み遂げられるようなことの出来るわけはなく直ぐにも尻尾を出してしまうだろう」②『朝日新聞』(一九七九・六・二0朝)「これまで仮面をかぶっていた悪人が、とうとうしっぽを出したというのではなかろう」③島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(一九六四)「警察に自らの犯行を報せてくるほどに改唆しているのなら、いつかはシッポを出すとも思われた」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「最初からきな臭い野郎だとおもっていたが、とうとう尻尾を出しやがったな」 類句「底が割れる」「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれる」「ぼろを出す」「メッキが剥げる」外国語 英語では show the cloven hoof **尻尾を掴まえる** 意味「しっぽをつかむ」に同じ。用法文型「ダレダレがダレダレの尻尾をつかまえる」。命令・意志表現は可能。受身形がある。 (用例)石坂洋次郎『光る海』(一杂ニー三)「しっぽをつかまえられた時はママに謝るんだけど」 類句「しっぽを捕らえる」とも言う。 <189> **尻尾を掴む** 意味相手の悪事・ごまかし・隠し事・弱点などの証拠を握る。用法文型「ダレダレがダレダレの尻尾をつかむ」。命令·意志表現は可能。用例③の「妙な」のように「しっぽ」を修飾することは可能。②③のように受身形がある。 (用例)①甲賀三郎『支倉事件』(一九七)「君の話では奴却々用心して尻尾を掴ませないと云う事だったが」②武田泰淳『風媒花』(一九一)「いよいよ本性暴露か。まずい事を言い出したな。ホラ、軍地に尻尾を掴まれた」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「女のことなどで妙な尻尾を掴まれて窮地に追い込まれんように気をつけと云うてるのや」④東野圭吾『卒業』(一六六)「逆に警戒されて、しっぽを掴みにくくなるだろう」 類句「しっぽをつかまえる」「しっぽを捕らえる」とも言う。外国語 英語では catch a person tripping **尻尾を振る** 意味飼い犬が飼い主にしっぽを振って餌をもらうように、人が権力者にこびへつらって取り入る。また、喜んで従って行く。用法文型「ダレダレがダレダレにしっぽを振る」〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『青い果実』(一九五四―五五)「今、こっちから尻ッポを振っていったら、それこそ、一生、その男性の前で、尻ッポを振っていなければなりません」②森村誠一『人間溶解』(一九塩)「熱海へ一泊とでも言って誘えば、シッポを降って尾いて来るわよ」③田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(1001)「警察づとめのあいだも上司にしっぽをふるようなまねはしなかった」 類句「尾を振る」「胡麻をする」 **尻尾を巻く** 意味負け犬がしっぽを後足に巻き込んで逃げ出すように、戦わずして降参する。あっさり降参して逃げる。用法文型「ダレダレがしっぽを巻いて逃げる」。「逃げる」以外に「帰る」も使える。〔江戸〕 (用例)①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九一)「決して、君子危うきに近寄らずと尻尾を巻いて逃げ出すわけではありません」②内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない」 類句「後ろを見せる」外国語 英語では run off with one's tail between one's legs <190> **至難の業** 意味ある物事を成し遂げることが極めて難しいこと。「至難の技」とも書く。用法文型「ナニナニは至難の業」 (用例)①檀一雄『青春放浪』(一九盗六)「二十三単位の経済のウンオウを一朝にして極めることはどう考えても至難のワザである」②『朝日新聞』(一九〇・三・一四朝)「ケガが多い格闘技で、皆勤を続けるのは至難のワザ」③『朝日新聞』(一九六〇・七・六朝)「俳優が据えつけられっ放しのカメラの前で長時間言葉なしに演技をするのは至難の技であろうが」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「これだけのことを博多の街の中で人知れず行なうなんて、至難のわざです」 外国語 英語では a Herculean task **鎬を削る** 意味「しのぎ」は刀の刃と峰との中間の小高く盛りあがっている部分。その鎬が削れるほど刀で激しく斬り合うことから、競技・議論・選挙・仕事などで相手に勝とうと努力しながら激しく争う。用法文型「ダレダレが(ダレダレと)ナニナニで(またはナニナニに)しのぎを削る」。「ナニナニで」は用例④のように争う場・範囲・領域を表し、「ナニナニに」は⑤のように争う対象を指す。〔南北朝〕 (用例)①福沢諭吉『福翁自伝』(八九)「党派には保守党と自由党と徒党のようなものがあって、双方負けず劣らず鎬を削って争うているという」②『朝日新聞』(一六・四・二朝)「人類は何年もの永きにわたって、お互いに鎬を削って来たのである」③『スポニチ』(一九七九・九・二五)「2位阪神から5位大洋まで2ゲーム差でしのぎを削るAクラス争い」④『朝日新聞』(一九七九・七・二四朝)「体操、陸上など五競技で各国選手がしのぎをけずった」⑤『朝日新聞』(一六〇・10・二五朝)「独自の調査取材に日夜しのぎを削っているのです」⑥森村誠一『エネミイ』(11000)「関東門伝会と同じエリアでしのぎを削っている相隣同志会」 類句「つばぜり合いを演じる」「火花を散らす」外国語 英語 to be at each other's throats または to tight tooth and nail **四の五の言う** 意味面倒なこと、文句をあれこれと言い立てる。つべこべ言う。用法否定形や禁止形「四の五の言うな」の形が多い。用例⑤のように受身形がある。〔江戸〕 (用例)(0)林二九太『へのへのもへじ』(一九二)「茂平君は四の五の云わせず、グッと海保君の腕を掴むと」②斎藤栄『鎌倉湘南殺人ワールド』(一九九六)「こんなことを今さら、四の五の言っても始まらないのである」③島田荘司『鈴蘭事件』(一九九九)「てめえ、もう四の五の言わねぇ」④魚柄仁之助『儲かる古道具屋裏話』(11001)「てめえこそ落として困ってやがんだから、四の五の言わずに受け取れってんだい」⑤吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(1100円徳間文庫版)「私はな、重箱の隅をつつくような連中に、あとから四の五の言われたくないから」 <191> 類句「滑ったの転んだの」「不平を鳴らす」 **自腹を切る** 意味 自分が出さなくてもいい費用を自分が出して支払う。用法文型「ダレダレが自腹を切る」〔江戸〕 (用例)①獅子文六『青春怪談』(一九語)「中年初老の客といえども、自腹を切る者は少なく、いわゆる社用族が多い」②高見順『都に夜のある如く』(一九西-歪)「私はさきに、新橋で飲んだと書いたが、それは、友人の、さる会社の重役に招かれてのことであって、自腹を切っての遊びではない」③源氏鶏太『夢を失わず』(10)「ただし、五万円は、会社の損にする。わしの自腹を切るわけにはいかん」④高橋和巳『悲の器』(一九六三)「費用も自腹を切らぬかぎり、どこからも援助されはしない」 類句「懐を痛める」「身銭を切る」外国語英語では pay out of one's own pocket **痺れが切れる** 意味「しびれを切らす」に同じ。用法文型「ダレダレはしびれが切れる」〔江戸〕 〔用例〕『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「やがてしびれが切れると英雄待望論にファシズムにと傾斜してゆくかも知れない」 **痺れを切らす** 意味長時間座ると足がしびれるところから転じて、いつまでも待たされて我慢ができなくなり、いらいらする。用法文型「ダレダレがしびれを切らす」 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・四・天朝)「ただ私鉄を待っていたが、もうしびれを切らした、ということだろう」②中上健次『鳳仙花』(一六○)「『ええ話ってなに?』フサがしびれをきらして吉広に訊ねると」③『朝日新聞』(一九九二・二・三朝)「しびれを切らした電力庁の担当者」④内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「『いいから、始めましょうかな』痺れを切らし岡野が仲居に合図をした時」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(1001)「『局長、なんとか言ってください』宮園はしびれを切らしたように身を乗り出した」 <192> 類句「しびれが切れる」とも言う。外国語 英語では get itchy waiting (for) **渋皮が剥ける** 意味 女性が垢抜けしてきれいになる。洗練された美人になる。用法文型「ダレダレは渋皮がむける」。「渋皮のむけたダレダレ」の形が多い。〔江戸〕 (用例)①徳田秋声『仮装人物』(一九五—天)「渋皮のむけた二十二三の女中」②源氏鶏太『颱風さん』(一盗一)「ちょっと渋皮のむけた女であった」③坂口安吾『山の神殺人』(一)「ちょッと渋皮のむけた女。なにかと噂のたえない人物である」④「渋皮がむけ、いい女になった」 類句「垢が抜ける」「灰汁が抜ける」 **私腹を肥やす** 意味公的な地位や職を利用して自分の利益を図る。用法文型「ダレダレが私腹を肥やす」 (用例)清水一行『ITの踊り』(1100円)「トップが不正な手段で私腹を肥やしていないかどうか」 類句「甘い汁を吸う」「甘い汁をすする」「旨い汁を吸う」「懐を肥やす」外国語 英語では line one's own pocket **始末に負えない** 意味施す方法がなく、扱いを持て余す。処理できない。用法文型「ダレナニは始末に負えない」〔江戸〕 (用例)①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「十八歳というのはなんという始末におえぬ年齢かね」②「部屋の散らがりようは始末に負えない」 類句「力に余る」「手に余る」「手に負えない」「手を焼く」 **始末を付ける** 意味良くない物事を処理して終わらせる。用法文型「ダレダレはダレナニの始末をつける」 (用例)①庄野潤三『プールサイド小景』(一九蓋)「車がもしこのまま動かなければ、どう始末をつけるのか?」②「けんかの始末をつける」 <193> 類句「片を付ける」「げりを付ける」 **耳目を引く** 意味多くの人の注意や関心を引く。用法文型「ダレナニがダレダレの耳目を引く」。ダレダレは「人」「社会」「世間」など。 (用例)①福田英子『妾の半生涯』(一九〇四)「悔ある堕落の化身を母として、明らさまに世の耳目を惹かせんは、子の行末の為め」②宮本百合子『若き世代への恋愛論』(一九七)「偶然に社会の耳目をひいた恋愛事件」③「彼の服装は多くの人の耳目を引いた」 類句「耳目を集める」とも言う。「脚光を浴びる」「人目を引く」外国語 英語では attract public attention **癪に障る** 意味気に入らないことを見聞したり体験したりして不愉快に感じ、むしゃくしゃする。用法文型「ダレダレはダレナニが癪に障る」「ダレナニがダレダレの癪に障る」 (用例)①内田百閒『百鬼園随筆』(一九三)「忌ま忌ましい。癪に触る」②北條民雄『癩院受胎』(一九天)「そういうところで妹の大きな腹を見たものですから、すっかり癪に障ってしまったのです」③源氏鶏太『青い果実』(一九五四―歪)「(さては、ずっと昔から、そうだ、十年も前から、あんな風に、ゴミをこっちへよこしては、溜飲を下げていたんだな!)と、癪にさわって、よーし、そうはさせるものか、とばかりに、以来、泉屋でも朝の掃除を、主人自らがするようになったのである」④北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六○)「シャクにさわったから本当の値段の十倍の数字を言ってやったら」 類句「気に障る」 **シャッポを脱ぐ** 意味「シャッポ」はフランス語で帽子のこと。相手の力量に及ばないことを認めて、軽い敬意をもって降参する。脱帽する。用法文型「ダレダレはダレナニにシャッポを脱ぐ」。用例③のように使役受身形がある。 (用例)①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「反射交感組織にシャッポを脱いで」②宇井無愁『豚マンの唄』(一二)「あれにはぼくも完全にシャッポをぬいじゃったね」③徳川夢声『いろは交友録』(一九三)「結局、演出家である彼に、私はシャッポをぬがされることになる」④『朝日新聞』(一九六〇・九・三朝)「スポーツ好きの米国人は強い者には無条件でシャッポを脱ぐようなところがある」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「これにはさすがの平岡会長もシャッポを脱いだ」 <194> 類句『兜を脱ぐ」「軍門に下る」「白旗を上げる」「手を上げる」「旗を巻く」外国語 英語では take one's hat off to **斜に構える** 意味刀を斜めに構えて身構えるということから、改まって身構える。また気取ったり、まともに対処せず皮肉やからかいの態度をとったりする。用法文型「ダレダレが斜に構える」〔江戸〕 (用例)『言語生活』三一一号(一九七七)「労働の生活とか社会生活から斜に構えて」 **終止符を打つ** 意味続いてきた物事に決着をつけて終わりにする。用法文型「ダレダレはナニナニに終止符を打つ」。命令・意志表現は可能。用例④⑤のように受身形がある。 (用例)①今東光『悪童』(一갚七)「私は、この恋愛に終止符を打って好いのだと強いて思い詰めた」②石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八―五九)「藤助は、クヨクヨした考え方に終止符をうつために、乾いた声でそう呟いた」③『朝日新聞』(一九塩・八・10朝)「彼は冷戦構造に終止符を打つことで、自分自身の政治生命に終止符を打つ道を懸命に歩みつづけたのである」④『朝日新聞』(一六一・四・二五朝)「国民の英知と反省によって、ごみ公害に一日も早く終止符を打たれることを望む」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六八)「そういう形で終止符が打たれることに、何の抵抗も感じないかもしれない」⑥森村誠一『エネミイ』(11000)「自分の手で私の人生に終止符を打つ」 類句「片を付ける」「げりを付ける」「ピリオドを打つ」 **重箱の隅をつつく** 意味どうでもいいこと、非常に細かいことにまで口うるさく問題にして言う。用法文型「重箱の隅をつつくよう」 (用例)①『朝日新聞』(一九六二・六・三六朝)「重箱のすみをつつくように、微細な点にまで、教科書調査官の指示を受けた」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「あれこれ、重箱の隅をつつくような、いやみで素直でない攻撃が突き刺さった」③広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「さながら警察官の不行跡を、重箱の隅を突つくようにしてあげつらう小学生の反省会のような態であった」④吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(100m徳間文庫版)「私はな、重箱の隅をつつくような連中に、あとから四の五の言われたくないから」 <195> 類句「重箱の隅をほじくる」とも言う。 **重箱の隅をほじくる** 意味「重箱の隅をつつく」に同じ。用法文型「重箱の隅をほじくるよう」 (用例)①『朝日新聞』(一六一・三・二0朝)「自民党も日教組もお互いに相手の欠点、それも重箱のすみをほじくるように見つけて非難し合う」②金田一春彦他『変わる日本語』(一六一)「あまり重箱の隅をほじくるようにやっていきますと、言葉そのものの不完全さが出てくるだけです」 **愁眉を開く** 意味心配事がなくなり安心する、ほっとする。用法文型「ダレダレは愁眉を開く」〔平安〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七売・10・一九朝)「もともとそのことで悩む必要もないと思われます。まずは愁眉を開いて下さい」②『朝日新聞』(一九〇・六・西朝)「新自クは二けたに議席をふやし、しゅう眉を開いた」 類句「枕を高くする」「胸のつかえが下りる」「胸をなで下ろす」外国語 英語では feel relieved **雌雄を決する** 意味勝敗に決着をつける。優劣を決める。出典は中国の古典『史記』項羽本紀。〔用法〕文型「ダレダレはダレダレと雌雄を決する」〔平安〕 (用例)①黒岩涙香『幽霊塔』(101)「余は是だけで既に気が遠くなり雌雄を決するなどは扱て置いて」②佐々木味津三『続旗本退屈男』(一九二九—三)「茲に緩急、二様の飛び道具同士が、はしなくも命を的に優劣雌雄を決することに立到りましたが」 外国語 英語では have a showdown *中国語では慣用句「決雌雄」(雌雄を決する。「一決雌雄」「決一雌雄」ともいう) <196> **春秋に富む** 意味「春秋」は年月のこと。年が若く、将来性がある。用法文型「ダレダレは春秋に富む」〔平安〕 (用例)「春秋に富んだ青年」 **背負い投げを食う** 意味信じていた相手、期待していた相手にいよいよというところで裏切られてひどい目に会う。用法文型「ダレダレはダレダレに(から)背負い投げを食う」。「せおい投げを食う」とも言う。 (用例)①有島武郎『星座』(一九三-二三)「渡瀬は背負い投げを喰ったように思った」②源氏鶏太『青い果実』(一九盃1歪)「美也子は、またしても、次郎から、背負い投げを喰ったような気がした」 類句「飼い犬に手を噛まれる」「煮え湯を飲まされる」 **背負い投げを食わす** 意味自分のことを信じている相手、期待している相手にいよいよというところで裏切ってひどい目に会わせる。用法文型「ダレダレがダレダレに背負い投げを食わす」。受身形が多い。「しょいなげを食わせる」「せおい投げを食わす」とも言う。 (用例)①有島武郎『或る女』(一九一九)「それを訊くと葉子はみごと期待に背負い投げをくわされて」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四―五五)「『若くないから大丈夫なの』『僕が若くないから?』すてんと背負い投げを食わされたおもいだった」 **常軌を逸する** 意味一般に受け入れられていることや世間の常識からかなりはずれた言動をする。非難の言葉。用法文型「ダレナニは常軌を逸する」 (用例)①高橋和巳『悲の器』(一二)「最初泣いているのかと思った米山みきが、不意に常軌を逸した嗄れ声で笑いはじめた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「そのパトロン氏の常軌を逸した喜び方には、いささか辟易させられるよ」 **冗談も休み休み言え** 意味相手の言い分、言葉が自分の意や事実に著しく反している時に、とんでもないと否定し、たしなめる言葉。用法 独立した句として単独で用いる。 (用例)①南英男『地獄遊戯』(100M)「冗談も休み休み言いな。おれは進藤とは一面識もねえんだぜ」 <197> 類句「馬鹿も休み休み言え」「馬鹿を言え」 **性に合う** 意味物事がその人の生まれつきの性質や好みにぴったり合う。用法文型「ナニナニが性に合う」。否定形は「性に合わない」〔江戸〕 (用例)①城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「できることといえば、結局、いまの看病生活の延長のようなことしかない。それが、気楽だし、程よく性に合っている」②丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「『ヘルス』とか『壮快』とかいふ類の、いはゆる健康雑誌は性に合はない」③中上健次『鳳仙花』(一六0)「内儀さんも旦那さんも、着物ばっかし着んとたまには洋服着たらどうや、倉に入れ込んである自転車を使たらどうやと言うけど、ハイカラは性に合わん」 **焦眉の急** 意味眉が焦げるほど火が近づくということから、差し迫った危険。差し迫った急務。緊急を要すること。用法文型「ナニナニが焦眉の急」 (用例)①尾崎紅葉『金色夜叉』(八九七―九六)「一は焦眉の急に迫り」②『朝日新聞』(一九六〇・七・三朝)「報告書は、世界の国々に日本文化をより広く深く知らせることは日本の存立にとって焦眉の急だと力説している」③『朝日新聞』(一九八二・二・三朝)「その再建が焦眉の急となった」 類句「足もとに火が付く」「お尻に火が付く」「尻に火が付く」(外国語 中国語では成句「燃眉之急」(眉を燃やすほど事態が緊迫しているさま。焦眉の急) **食指が動く** 意味出典は中国の古典『春秋左氏伝』で、鄭の子公の食指(人差し指)が動くのを見て、ご馳走にありつける前触れと言ったことから、食べようという気が起きる。人・物を欲しがる気持ちが起きる。何かをしてみようと気持ちが起きる。用法文型「ダレダレはダレナニに食指が動く」「ダレナニにダレダレの食指が動く」。否定形がある。〔江戸〕 (用例)①野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「フライパンの中身にも食指動かぬから」②高橋三千綱『天使を誘惑』(一九六)「姿も顔立ちもいい静世に、ぼくの食指が動いたのは当然だ」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「何しろ、刺身の場合には刷毛で天ぷら油を塗るのが秘伝だといふから、これぢやあ食指が動きませんよ」④高杉良『会社蘇生』(一九七)「筒井君としては小川商会のスポーツ用品には食指が動いていたからまんざらでもなかったと思うが」 <198> 類句「のどが鳴る」「よだれが出る」「よだれを垂らす」「よだれを流す」 **食指を動かす** 意味人・物を得ようと欲する。何かをしようと欲する。用法文型「ダレダレがダレナニに食指を動かす」〔江戸〕 (用例)①舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「伊勢子とそっくりになったお前に、食指をうごかす」②高杉良『会社蘇生』(一九六七)「ウチの大阪の担当記者が、サンバードが食指を動かしてるんじゃないかって言ってるんですけどねぇ」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「ライバルの広告会社が食指を動かしても不思議はないのです」 類句「のどを鳴らす」「よだれを垂らす」 **知らず知らずのうちに** 意味自分ではそうしようと思っていないのに、事態が推移するさま。無意識のうちに。気づかないうちに。用法文型「知らず知らずのうちに~」。副詞的に使用。 (用例)①『朝日新聞』(一人・二・元朝)「傍若無人のこれらの言動は、知らず知らずのうちに多くの人々の心を傷つけ」②『朝日新聞』(一九七九・七・ニモ朝)「世の中にはそういう影響が知らず知らずのうちに広がっていくと思う」③直塚玲子『欧米人が沈黙するとき』(一九一)「そこに住む人々の思考や行動は、しらずしらずのうちに、その枠組みにはめこまれてしまう」 外国語 中国語では成句「不知不觉」(知らず知らず、知らぬ間に) **知らぬ顔の半兵衛** 意味知っているのに知らない振りをすること。またその人。用法文型「ダレダレは知らぬ顔の半兵衛(をきめこむ)」〔江戸〕 (用例)①久生十蘭『魔都』(一九三七―三八)「夜の明けないうちに、あたしは山木さんのところへ、ロナルドは踏絵さんのところへ帰って知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいる手筈なの」②『朝日新聞』(一九六二・四・四朝)「公害をまき散らした企業は太りに太り、許容した行政当局は知らぬ顔の半兵衛である」③広瀬久美子『お局さまのひとりごと」(一九九七)「最後は、知らぬ顔の半兵衛で通す」 <199> 類句「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」「涼しい顔」「ぞ知らぬ顔」「何食わぬ顔」 **知らぬが仏** 意味知らないでいれば心騒ぐことなく、仏のように穏やかでいられることから、当人だけが知らないで、穏やかでいるのをあざけって言う言葉。用法独立した句として用いられる。用例②のように句全体で名詞を修飾することもある。〔江戸〕 (用例)①永井荷風『つゆのあとさき』(一些一)「君江は知らぬが仏とはよく言ったものだと笑いたくなるのをじっと耐えて」②林二九太『へのへのもへじ』(一二)「津田塾出身の京子嬢に、便所の中で試験の答案をすっかり教わったとは、知らぬが仏の高橋專務」③山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七一六八六)「いやあ、知らぬが仏、お気の毒さまさ」④『朝日新聞』(一九七九・七・二四朝)「私はその気持ちは理解できますが、知らぬが仏、という言葉もありますし」 外国語 英語では Ignorance is bliss *中国語では諺「眼不见、心不烦」(見なければ心を悩ませることもない) **知らぬ存ぜぬ** 意味 相手に何を聞かれても知らない、自分とは関係がないと拒絶するさま。(用法)「知らぬ存ぜぬの一点張り」「知らぬ存ぜぬで通す」と言うことが多い。 (用例)①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―六)「まさかこれ以上、まだ知らぬ存ぜぬとはおっしゃれないでしょう」②森村誠一『エネミイ』(11000)「末次と星野に問い合わせても、知らぬ存ぜぬの一点張りで、なんの成果もなかった」③「質問に知らぬ存ぜぬで通す」 類句「知らぬ顔の半兵衛」「しらを切る」「涼しい顔」「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」 **白羽の矢が立つ** 意味 神が人身御供として求めた少女の家の屋根には白羽の矢が立てられたという俗信から、多くの人の中から犠牲者として選び出される。または一般に多くの人の中からある役割のために選ばれる。用法文型「ダレダレに白羽の矢が立つ」。用例①のように受身形がある。②のように「白羽の矢」と「立つ」の間に語句が挿入できる。〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二-三)「最後の手段は、やっぱり、腕ッ節の強い太郎が一番の適役である、と白羽の矢が立てられた」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「いいお婿さんをきめて上げると云い出しまして(略)白羽の矢が、森名君に立ちました」③『朝日新聞』(10・10・七朝)「穴吹氏に白羽の矢が立った理由は」 <200> 外国語 英語では be singled out **白羽の矢を立てる** 意味神が人身御供として求めた少女の家の屋根には白羽の矢が立てられたという俗信から、多くの人の中から犠牲者として選び出す。または一般に多くの人の中からある役割のために選ぶ。用法文型「ダレダレがダレダレに白羽の矢を立てる」。命令・意志表現は可能。用例②の「赤狩りの」のように「白羽の矢」を修飾することは可能。②④⑤のように受身形がある。 (用例)①浜尾四郎『死者の権利』(一九三九)「健吉氏夫妻は、少しでも早く嫁を貰おうというので前から方々物色していたのですが、夏休中にとうとう或る法学博士の令嬢に白羽の矢を立てました」②『朝日新聞』(一九五三・七・三朝)「マッカーシー上院議員から、いつ赤狩りの白羽の矢を立てられるかもわからぬとあって」③槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一老人)「PR誌編集の後継者を急いで捜すハメになり、新人作家の西藤元彦に白羽の矢を立てた」④『朝日新聞』(一九六〇・五・三元朝)「建設省は白羽の矢を立てられた井上氏が同じく七月、異例の『道路畑からの出馬』に踏み切った」⑤清水一行『ITの踊り』(100回)「それが吉原から白羽の矢を立てられた理由だろうなと思った」 **白を切る** 意味知っていても知らないと言う。多くは自己を守るためにする。しらばくれる。用法文型「ダレダレはしらを切る」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 (用例)①角田喜久雄『死体昇天』(一九元)「時子との、ひょんな交渉から、それを固執せざるを得なくなった彼は、この上は何処迄もしらを切るより仕方がないと思った」②獅子文六『てんやわんや』(一盗人―四晩)「私の、シラを切る術ぐらいは、心得ているから」③源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八―五売)「鳥子は、あくまで、白を切った」④津村秀介『京都着19時12分の死者』(一六九)「初めはシラを切るかもしれないぞ」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「仙石さんが片田さんを怒鳴りつけた事実について」 <201> て、あくまでも白をきる以上、われわれとしてはその点に疑惑をいだかざるを得ない」 **知らぬ顔の半兵衛**「知らぬ存ぜぬ」「涼しい顔」「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」外国語 英語では pretend not to know **尻馬に乗る** 意味二人で馬に乗る時、後ろに乗る意から転じて、無批判に他人の言動に同調して行動する、軽はずみな行動をする。用法文型「ダレダレはダレナニの尻馬に乗る」〔鎌倉〕用例①夏目漱石「私の個人主義」(一九二五)「近頃流行るベルグソンでもオイケンでもみんな向うの人がとやかくいうので、日本人もその尻馬に乗って騒ぐのです」②『朝日新聞』(一九六三・九・二朝)「おまけに犯人の尻馬に乗って、他人にいやがらせをやる低級な層までいては」③『朝日新聞』(一九三・九・八朝)「同行の一人も尻馬にのってまた一句」④外山滋比古『日本語の素顔』(一九一)「三十年前には、俳句第二芸術論の尻馬に乗って、もう俳句なんか古い、と言ったことなど忘れたかのようである」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(1000)「『(略)また新しい目的が生まれたような気がするよ』近藤が言った。『おれは新しい生きがいができたような気がするぜ』富田が近藤の尻馬に乗った」類句「太鼓を持つ」 **尻が暖まる** (意味)満足して同じ場所に長く滞在・居住・勤務する。用法文型「ダレは尻が暖まる」〔江戸〕用例「転勤ばかりで、尻が暖まる暇もない」類句「腰を据える」 **尻が重い** 意味 無精や慎重でなかなか物事に取りかかろうとしない、行動しようとしない。立ち振る舞いが不活発であるさま。用法文型「ダレダレは尻が重い」〔江戸〕用例「役所は尻が重いので、計画が全然進まない」類句「腰が重い」外国語 英語では lazy; indolent *韓国語では「엉덩이가 (尻が) 무겁다(重い)」 **尻が軽い** 意味①立ち振る舞いが活発であるさま。②軽率に行動しがちなさま。特に女性の浮気っぽいさま。用法文型「ダレダレは尻が軽い」 <202> 〔江戸〕用例①「彼は尻が軽いから、何でもはいはいと言ってこなしてしまう」②②「尻が軽い女とはつき合うな」類句①「腰が軽い」 **尻が長い** 意味 他人の家を訪問して話し込んだりして長居をするさま。用法文型「ダレダレは尻が長い」〔江戸〕用例「訪問客の尻が長いのは困ったものだ」外国語 英語では stay too long **尻に敷く** 意味 家庭内で妻が夫より力を持ち、夫をないがしろにして、自分の思うままに振る舞う。用法文型「ダレダレがダレダレを尻に敷く」「妻(女房)が夫(亭主)を尻に敷く」。受身形がある。〔室町〕用例①永井荷風『ひかげの花』(一九四)「女は男を軽んじて尻に敷くか」②坂口安吾『古都』(一二)「亭主は尻に敷かれている」③石坂洋次郎『青い山脈』(一盗七)「そういう名の女は、動物的な勢いが強いから、結婚でもすれば亭主をしりに敷くことになる」④源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「番太の女房は、流石に平常から、亭主を尻に敷いているだけあった、度胸満点である」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「女房に四の五の言わせるほど尻に敷かれてないから」類句「尻の下に敷く」とも言う。外国語英語では dominate **尻に火が付く** (意味)しなければならないこと、身に危険が及ぶようなことなど、事態が差し迫ってあわてる。用法文型「ダレダレの尻に火がつく」。「お尻に火が付く」とも言う。〔江戸〕用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「関連の中小企業に押し込もうにも、中小企業自体がいま尻に火がついてるから、平に御容赦というわけだ」②『朝日新聞』(一九六一・六・二九朝)「この日負けるようだとしりに火がつくところだっただけに価値のある一勝である」③大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「奴の尻には火がついている」類句「足もとに火が付く」「焦眉の急」外国語 中国語では成句「火烧眉毛」(眉に火がつく、焦眉の急) *韓国語では「엉덩이에 (尻に) 불이 (火が)붙다(付く)」 <203> **尻の穴が小さい** 意味臆病で度量が狭い。下品な言葉。用法文型「ダレダレは尻の穴が小さい」用例源氏鶏太『三等重役』(一盗一―三)「このわしがいかにも尻の穴の小さい男のように誤解されるであろうが」類句「けつの穴が小さい」とも言う。 **尻目に掛ける** 意味ちらっと見て、馬鹿にしたような態度、まともに相手をする気がない態度をとる。軽視する。無視する。用法文型「ダレダレはダレナニを尻目に掛ける」用例①浜尾四郎『悪魔の弟子』(一九二九)「私は、驚いている露子を尻目にかけて、ねまきを着かえるやいなや、ゆうべ露子が買って来たエーアシップを袂に投げこむと」②平山蘆江『東京おぼえ帳』(一九二) 「出してある晩食の膳を尻目にかけ其儘散歩と称してぶらりと築地の待合秋月の客となったが」類句「こけにする」「馬鹿にする」 **尻を据える** 意味) 何かを落ち着いて専心するために、その場所にとどまる。じっくり落ち着いて物事に取り組む。用法文型「ダレダレが尻を据える」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例「山のような書類を前にして尻を据えて仕事をする」類句「腰を据える」「みこしを据える」 **尻を叩く** 意味叱咤激励する。用法文型「ダレダレはダレダレの尻を叩く」。命令・意志表現は可能。用例①④のように受身形がある。「お尻を叩く」とも言う。用例①源氏鶏太『一寸の虫』(10)「女房から、ガミガミ尻を叩かれ」②『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「共産党の神谷信之助氏は税務当局のしりをたたいた」③『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「『小成に安んじないで、もっとがんばることが大事です』と委員長はシリもたたく」④『朝日新聞』(一九六〇・九・六朝)「上司からは『君が範を示せば部下は自然とついてくるものだ」としりをたたかれる」⑤内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「須美子はむしろぼくがいつまでももたもたしているのが焦れったくてしようがないらしく、何かというと尻を叩くようなことを言う」 <204> 類句「活を入れる」「発破を掛ける」 **尻を拭う** 意味他人の失敗の後始末をする。尻拭いをする。用法文型「ダレダレがダレナニの尻を拭う」〔江戸〕用例①「上司の失敗を押しつけられた部下は上司の尻をぬぐう羽目になった」②「友人の借金の尻をぬぐう」外国語 中国語では慣用句「擦屁股」(尻を拭う。「屁股」は尻) **尻を捲る** 意味居直って反抗的な態度をとる。急に態度を変え、隠していた本性を現して相手につっかかる。用法文型「ダレダレは尻をまくる」。受身形がある。用例島田一男『伊豆・熱海特命捜査官』(一九九겊)「すみれに尻を捲られては珠美との結婚が壊れるかもしれないって心配がある」類句「けつをまくる」 **尻を持ち込む** 意味やっかいな後始末・処理・責任を他人に押しつける。用法文型「ダレダレはダレダレに尻を持ち込む」用例井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「もしもこっちに尻を持ち込んでくるようなことがあったら」外国語 英語では drop one's mess in someone's lap **白い目で見る** 意味冷淡な目あるいは憎しみや反感を含んだ態度で人を見る。白眼視する。用法文型「ダレダレがダレダレを白い目で見る」。「ダレダレから白い目で見られる」と受身形がよく使われる。用例①池島信平『雑誌記者』(一人)「社内の革新派諸氏からは白い眼で見られ」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ヒロインは、とんでもない不良娘だということになってしまい、学校はもちろん、その町全体の大人たちからも白い眼で見られるようになる」③『朝日新聞』(一九六〇・四・三七朝)「私は当分の間、近所から白い目で見られるだろう」④『朝日新聞』(一六〇・二・元朝)「車いすで外へ出るとみんなが白い目で見る」⑤梓林太郎『死神山脈』(一九九九)「彼女に、彼が殺人事件にいささかでもからんでいるのではないかと白い目で見られたくないのだろう」⑥本所次郎『閨閥』(100g)「世間から白い目で見られるのを嫌さに」 <205> 外国語 英語では look askance at **神経が太い** (意味)少しのことではびくびくしない。大胆で、ずぶとい。用法文型「ダレダレは神経が太い」用例)田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(110011)「まったく釣り師というのはしぶといと千々岩は思った。神経が太いというべきか。人死にが出ようとなんだろうと連れる磯にはあがる」類句「肝が据わる」「肝が太い」「度胸が据わる」「腹が据わる」外国語 英語では be bold **神経を尖らせる** 意味人がわずかな刺激にも反応する、過度に反応する。また物事を過度に気にかける。神経質になる。用法文型「ダレダレがナニナニに神経を尖らせる」用例①小出楢重『楢重随筆』(一六七)「自分の身体の構造について随分、日夜神経を尖らして研究しているものだ」②『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「全農大阪支所では、実験栽培地域を極秘にするなど神経をとがらせている」③『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「総裁派閥大平派の幹部連が前民社党委員長・春日一幸の動きに神経をとがらせていることも事実だ」④大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「公安が神経を尖らせているのは、覚せい剤以外に、北の活動をうかがわせる何かが、この街にあるからではないか」 **心血を注ぐ** (意味)全精力を傾けてことを行う。全身全霊を込めてことを行う。用法文型「ダレダレはナニナニに心血を注ぐ」用例)『朝日新聞』(一九六〇・六・金朝)「辞典づくりに専念するために教職をやめ、生活を切りつめながら心血を注いできた」 **人口に膾炙する** (意味「膾」はなます、「炙」はあぶり肉のことで、ともにだれの口にもおいしいと感じられるところから、詩・名句・名言などが世間に広く話題・評判となってもてはやされ、知れ渡る。用法文型「ナニナニは人口に膾炙する」〔江戸〕用例永井荷風『矢はずぐさ』(一九六六)「(宿昔 青雲の志。蹉跎す 白髪の年。誰か知る明鏡の裏。形影自ら相憐む)とはこれ人口に膾炙する唐詩なり」 <206> 外国語 英語では be well known *中国語では成句「脍炙人口」(人口に膾炙する) **人後に落ちない** 意味行為・心情・能力などが人にひけをとらない。用法文型「ダレナニは人後に落ちない」。用例①や③のような変形がある。用例①倉田百三「学生と生活」(一七)「シンプソン夫人への誠実を賞賛するにおいて私は決して人後に落ちるものではないが」②獅子文六『青春怪談』(一九吾)「バレー仲間の嫉妬排擠は、もの凄いものであって、彼女も、断じて人後に落ちない」③『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「最大の権限を持つ職にある者は、人間としての優しさは人後に落ちてはならないと思う」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「好奇心ということなら人後に落ちない浅見だから」 **辛酸を嘗める** 意味非常に辛い目、苦しい目に会う。用法文型「ダレダレが辛酸をなめる」用例『朝日新聞』(一六〇・三・三朝)「たびたび辛酸をなめた」類句「塗炭の苦しみ」外国語 英語では go through hardships *中国語では成句「饱经风霜」(つぶさに辛酸をなめる。「饱经」はつぶさになめる。「风霜」は辛酸) **心臓が強い** (意味) 人前や大舞台などで、恥ずかしがったり弱気になったりせず、平然としている。また羞恥心がなく、少しも悪びれる様子がない。用法文型「ダレダレは心臓が強い」用例①宮本百合子『二人いるとき』(一九売)「『とにかくお兄様は心臓がつよいわよ』何処か突かかるような云いかたをした」②海野十三『海底都市』(一盎七)「ぜひ一度見て、おどろかされたいと思っていたところだ。だがね、僕は生まれつき心臓がつよいから、ちょっとや、そっとのことでは、おどろかない人間だからねえ」類句「心臓に毛が生えている」「面の皮が厚い」 **心臓に毛が生えている** (意味) 普通の神経では考えられないほど恥知らずで厚かましい。 <207> で厚かましい。用法文型「ダレダレは心臓に毛が生えている」用例源氏鶏太『英語屋さん』(一盗一)「単なる通訳と雖も、心臓に毛が生えていなければ、こちらの意志を十二分に相手にわからせることはできないものだ」類句「心臓が強い」「面の皮が厚い」 **進退これ谷まる** 意味進むことも退くこともできないということから、どうにもならない窮地に追い込まれること。出典は中国の古典『詩経』大雅。用法 独立した句としてさまざまに使用する。過去形がある。〔平安〕用例 夏目漱石『自転車日記』(10三)「『いえ、あの辺の道路は実に閑静なものですよ』とすぐ通せん坊をされる、進退これきわまるとは啻に自転車の上のみにてはあらざりけり」類句「進退きわまる」(尾崎紅葉『多情多恨』(八六)「柳之助は進退谷って」) 「進退ここにきわまる」(牧野信一『ゼーロン』〈一〉「私の脚には忽ち重い鎖がつながれてしまった。私は擂鉢のふちでどっちを向いても真に進退ここに谷まった感があった」)とも言う。「動きがとれない」「にっちもさっ ちもいかない」「抜き差しならない」外国語 英語では be stymied *中国語では成句「进退维谷」(進退これきわまる。「进退两难」ともいう) <208> **水泡に帰す** 意味努力した行為の結果がまったくむだになってしまう。用法文型「ナニナニが水泡に帰す」。ナニナニは「努力」「苦労」など。用例①志賀直哉『邦子』(一九七)「それをまた邦子に話した事ですべて水泡に帰してしまった」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「今日までの努力が、すべて、水泡に帰するのだ」③広山義慶『私刑警察激弾!』(1001)「これまでの苦労が水泡に帰す」類句「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木阿弥」「元も子もない」外国語 英語では come to naught **涼しい顔** 意味自分に関係していることなのに、何も知らないような、何も関係していないような、平気な顔をしていること。他人事のような顔。 **涼しい顔** 用法文型「ダレダレは涼しい顔(をする)」〔江戸〕用例 木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「涼しい顔でこたえた」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「なにごともなかったように涼しい顔をしている綾のしたたかさに」類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」「そ知らぬ顔」「何食わぬ顔」外国語 英語では look unconcerned **雀の涙** 意味金額や量がほんのわずかのたとえ。用法文型「スズメの涙ほど」用例㉡筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「本給の安いぼくなどはどうせ雀の涙ほどしか貰えず」②『朝日新聞』(一九七九・一一・二五朝)「中央からの農業への投資が(略)末端の農民には、スズメの涙』ほどしか届かぬ状況」③『朝日新聞』(一六〇・八・三朝)「米価はスズメの涙ほどしか値上がりせず」類句「蚊の涙」「つめのあかほど」外国語英語では a mere particle <209> **スタートを切る** 意味 「スタート」は英語 start。速さを競う競技などで出発する。物事を開始する。新しいことを始める。 用法 文型「ダレナニはスタートを切る」。命令・意志表現は可能。用例②③④⑤の「早大選手生活の」「華々しい」「人生への再」「快調な」のように「スタート」を修飾することができる。 用例 ①飛田穂洲『野球生活の思い出』(一九八)「早大選手生活のスタートを切った」②鏑木清方「初めの志望」(一)「人間の一生が倍あるのだったら、これからスタートを切り直すのですが」③稲垣浩『日本映画の若き日々』(一老売)「六人のスター(略)たちは、日本キネマを土台として華々しいスタートを切った」④『朝日新聞』(一九六一・四・10朝)「自らの力で人生への再スタートを切った青年の記事」⑤『朝日新聞』(一九六一・九・二五朝)「この倉本(略)まず快調なスタートを切った」 類句 「ふたが開く」「幕が開く」「幕を開ける」 **擦った揉んだ** 意味 意見が食い違い争うさま。意見がまとまらず、さんざんもめるさま。議論が紛糾するさま。 用法 名詞とサ変動詞「すったもんだする」の用法がある。 用例 『滑稽新聞』一七号(101) 「米国に行く前から摩った揉んだと内輪イサカイがありさうに見へた政友会」②「すったもんだのあげく別れた」③「すったもんだしてやっと妥協点を見出した」 外国語 英語では much wrangling and ado **捨てた物ではない** 意味 役に立つところがまだある。見込みがまだある。いいところがある。 用法 文型「ダレナニは捨てたものではない」〔江戸〕 用例 ④内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九一)「へえーっ、ほんとですか? だったら私もまんざら捨てたもんじゃありませんね」②「彼もまだ捨てたものではない。まだひと花を咲かせる」③「その意見はまんざら捨てたものではない」 類句 「まんざらではない」 **砂を噛むよう** 意味 食べ物が砂をかむように味気がないさま。物事が無味乾燥でつまらない、情趣がない、興味がそがれるさまのたとえ。 <210> 用法 文型「ナニナニは砂を噛むような〜」。用例①のように「ような」がないこともある。〔江戸〕 用例 ④源氏鶏太『緑に匂う花』(一九強ニー五三)「食慾が感じられず、どちらも、せっかくのオムレツも、砂を噛む思いである」②森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「パートナーを買った後、砂を噛むような侘びしさを味わうくらいなら」 類句 「味も素っ気もない」 **図に当たる** 意味 計画・計略・予想が思い通りになる。 用法 文型「ナニナニが図に当たる」〔江戸〕 用例 ④江戸川乱歩『白髪鬼』(1≧―三)「首を長くして待っていると、わしの計画はみごと図にあたって」②『朝日新聞』(一六〇・九・九朝)「小林の先発を読んでライトルを三番にしたのが図に当たった」 類句 「思うつぼ」「つぼにはまる」「願ったり叶ったり」「的に当たる」 **図に乗る** 意味 自分の思い通りにことが運んでいい気になる。つけあがる。批判する言葉。 用法 文型「ダレダレが図に乗る」。用例②のように禁止形がある。〔江戸〕 用例 ④二葉亭四迷『其面影』(10K)「『だからさ』、と図に乗って(略)声高に此処まで言って」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二-三)「図に乗るな」③中上健次『鳳仙花』(一六0)「マツが黙りこくっているのは自分が図に乗りすぎたからだと言うように」④『朝日新聞』(一九六〇・三・七朝)「先生はしぶしぶ謝った。図に乗った生徒は、A先生に土下座までさせ」⑤広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「図に乗った番犬はもはや使い物にならない」 類句 「調子に乗る」 外国語 英語では push a good thing (too far) **脛に疵を持つ** 意味 過去に人に知られたくないやましいこと、隠している悪事、犯罪歴などがある。 用法 文型「ダレダレは脛に疵を持つ」。用例③⑤のように「脛に疵を持つ身」と言うことが多い。①のように語順を入れ替えて、名詞句としても使える。〔江戸〕 用例 ①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「ではきゃつ脛に持つ疵で早くも悟ったのだね」②源氏鶏太『見事な娘』 <211> (一九五四―五五)「いわば、スネにキズを持つ桐子は、胸を、ドキンとさせた」③井上靖『氷壁』(一九五六―五七)「さすがに脛に傷持つ身で不安な気持だった」④森村誠一『エネミイ』(11000)「脛に疵を持っていなければ、刑事たちに不意を打たれても動ずることはないはずである」◎岩城捷介『免職警官』(1100三)「どうやら脛に傷持つ身らしいな」 外国語 英語では with a shady past **隅に置けない** 意味 思っていたよりもその人がすぐれていて侮れない。また、世間の表裏に通じていて油断ならない。 用法 文型「ダレダレは隅に置けない」〔江戸〕 用例 江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九画)「あなたは、そんなことまで、注意していらっしゃるのですか、隅におけませんね」②横光利一『家族会議』(一九五)「自分に求婚した仁礼のとり澄した顔を眺めながら、『なかなか隅に置けないわ』と、そっと感心するのだった」③源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九強二―三)「まア、あんた、相乗りなんて言葉を知ってるの? 隅に置けないわね」④獅子文六『青春怪談』(一九西)「あの令嬢芸妓は、玄人同様の取引をしたことになる。スミに置けないというのは、このことであろうか」⑤田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(11001)「あたしもともと順子さんというのは、隅に置けない女性だと思っていたわ」 外国語 英語では There's more to one than meets the eye <212> **砂を噛むよう** 意味食べ物が砂をかむように味気がないさま。物事が無味乾燥でつまらない、情趣がない、興味がそがれるさまのたとえ。用法文型「ナニナニは砂を噛むような~」。用例①のように「ような」がないこともある。〔江戸〕用例①源氏鶏太『緑に匂う花』(一九強ニー五三)「食慾が感じられず、どちらも、せっかくのオムレツも、砂を噛む思いである」②森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「パートナーを買った後、砂を噛むような侘びしさを味わうくらいなら」類句「味も素っ気もない」 * * * **精が出る** 意味一生懸命に励むさま。熱心に働くさま。用法文型「ダレダレは精が出る」〔江戸〕用例①佐々木味津三『右門捕物帖 お蘭しごきの秘密』(一九六―三)「精が出るな、景気はどうかい」②太宰治『トカトントン』(一盗七)「このごろはお前もいいと見えて、なかなか貯金にも精が出るのう」類句「額に汗する」 **正鵠を射る** 意味「正鵠」は弓の的の中心の黒点。転じて物事の要点・急所。物事の核心をつく。物事の急所・要点を言い当てる。用法文型「ダレダレが正鵠を射る」。誤って「正鵠を得る」とも言う。用例①三島由紀夫『愛の渇き』(一갚0)「冷静な判断、正鵠を射た判断、情理を兼ねそなえた判断」②「正鵠を射た意見」類句「急所を突く」「つぼにはまる」「当を得る」「的を射る」 **清濁併せ呑む** 意味度量が大きく、善も悪も受け入れる。相手をあるがままに受け入れる。用法文型「ダレダレは清濁あわせのむ」用例①『朝日新聞』(一六一・二・二朝)「あまり結構ごとでは政治は出来ん。清濁合わせ飲むぐらいの実行力のある者に、日本を引っ張ってもらった方がよい」②高杉良『人事権!』(一九九二)「清濁あわせのめんようでは大成しない」類句「懐が深い」外国語 英語では be broad-minded **青天の霹靂** (意味) 青空に突然雷が鳴り響く意から転じて、まったく予想もしなかった出来事・事件。また、それから受ける衝撃。出典は中国の詩人陸游の詩で、筆の勢いの激しさを表したたとえ。用法文型「ナニナニは青天の霹靂」用例①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九五)「青天の霹靂…とでも形容しようか。何とも言いようのない奇妙な驚きに打たれたわたしは」②中勘助『遺品』(一六)「禍は青天の霹靂のごとくに落ちかかった」③大下宇陀児『虚像』(一九五五)「『ええ、それは田代ですの。あたくしは、田代守と結婚いたしました』『えっ!』青天の霹靂というのがこれだろう」④森村誠一『新幹線殺人事件』(10)「青天の霹靂ともいうべきニュースが伝わったのは」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「ひどく驚いてねえ。青天の霹靂とか、敵前逃亡とかいろいろ言われたが」類句「寝耳に水」外国語英語では a bolt out of the blue *中国語では成句「青天霹雳」(青天の霹靂。「晴天霹雳」ともいう) <213> **精も根も尽き果てる** 意味) 物事を成し遂げようとする精力も根気も使い果たす。体力も気力も使い果たす。したがって精神的にも肉体的にもこれ以上できない限界に達してふらふらの状態である。用法文型「ダレダレは精も根も尽き果てる」。用例③のように「精」を修飾したり、「精も根も」と「尽き果てる」の間に語句を挿入できる。用例①有島武郎『或る女』(一九二九)「葉子は(略)精も根も尽き果ててそのままソファの上にぶっ倒れた」②源氏鶏太『鏡』(一九五七一五人) 「私は、精も根もつき果てたような思いだった」③石坂洋次郎『光る海』(一九二―空)「私にはそれをとめる精もコンも、長い間の母と妻のもつれにはさまれてつき果ててしまっていたんだ」④『朝日新聞』(一六0・10・四朝)「よろめく東尾、精も根も尽き果てたようだ」類句「精根尽き果てる」とも言う(内田康夫『三州吉良殺人事件』〈一九九一〉「そのうちに、こっちはもう精根尽き果てて、どうでもいいっていう気分になってくるにちがいない」)。外国語 中国語では成句「筋疲力尽」(非常に疲れる。力が尽き果てる。「精疲力竭」とも言う) **精を出す** 意味仕事・作業・勉強などに一生懸命励む。用法文型「ダレダレはナニナニに精を出す」。命令・意志表現は可能。〔室町〕用例①『朝日新聞』(一九七九・六・八朝)「ジャガイモ、カボチャづくりに精を出したのである」②稲垣美晴『フィンランド語は猫の言葉』(一九一)「まるで翻訳業を職業とするかのごとく毎日毎日精を出した」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「ホテルの仕事に精を出すようになった」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「子どもたちは『花巻囃子』の小太鼓合奏の練習に精を出す」類句「心を傾ける」「力瘤を入れる」「力を入れる」「力を込める」「力を注ぐ」 <214> **是が非でも** 意味あることの実現・実行を強く望む言葉。是非とも。用法文型「是が非でも~しなければならない」「是が非でも〜たい」。下に願望や決意を表す言葉が来る。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一盗0)「私は…是が非でも相手を見つける」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二-≦)「是が非でも、決議に賛成させなければならない」③檀一雄『青春放浪』(一九六)「こうなったら、是が非でも卒業しなければ」④井上靖『氷壁』(一九五六ー五七)「こんどこそ是が非でも、征服しなければならない」⑤山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「わしの出来んかった名誉欲を、女婿のあんたに是が非でも果して貰いたい」⑥『朝日新聞』(一六一・九・二七朝)「是が非でも勝ちたい試合だったろうが」類句「雨が降ろうが槍が降ろうが」「石にかじりついても」「否が応でも」「否でも応でも」「有無を言わせず」「何が何でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」外国語*中国語では成句「无论如何」(何が何でも) **堰を切る** (意味)水をせき止める堰を破って水がどっと流れ出るように、抑えられていた人々やもの(不満・涙など)が一気にあふれ出る。用法文型「ダレナニが堰を切って〜する」「ダレナニが堰を切ったように~する」用例①石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一二)「母親は、だれにも訴えられない日頃の不平を(略)せきを切ったようにしゃべり出した」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九強二―≦)「涙の玉が、すっと頬を流れた。あとは堰を切ったように、涙がとめどもなく溢れてくる」③福永武彦『忘却の河』(一九六面)「彼の中で今まで堪えに堪えて来たものが一時に堰を切って溢れ出したものか、彼は喋り始めていた」④『朝日新聞』(一六〇・三・八朝)「五年ぶりの自由な賃上げ交渉で、セキを切ったように高率妥結が続く」⑤向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「抑えていたウップンが、セキを切って爆発した」⑥「開店前に並んでいた大勢の人々がせきを切ったようにどっと流れ込んできた」外国語英語では as if a dam had burst <215> **背筋が寒くなる** 【意味怖ろしさにぞっとする。用法文型「ダレダレはナニナニに背筋が寒くなる」「背筋が寒くなるような思い(気)」用例①石坂洋次郎『光る海』(一九二―三)「学校で、男女の学生が一緒になって、そんな問題を論じ合っているのかい。おかあさんは、背筋が寒くなるような気がしますよ」②『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「地響きをたてていきおいよく道路を掘りかえしている様子を見ていて、ふと背筋が寒くなることがある」③『朝日新聞』(一九七九・一・一五朝)「こんなことではと背筋の寒くなる思いである」④高杉良『人事権!』(一九二)「相沢は、久保田、矢野を含めて七人のヤクザがたむろしていたのには背筋が寒くなった」類句「背筋が凍る」「背筋に寒いものが走る」とも言う。「肝を冷やす」「鳥肌が立つ」「身の毛がよだつ」 **背に腹は代えられない** 意味)差し迫った事情や重要事のためには他を犠牲にすることもやむを得ない。用法独立した句として単独で使用。「背に腹は代えられぬ」とも言う。〔室町〕用例①尾崎紅葉『続々金色夜叉』(一九〇三)「又考えて、背に腹は替えられないから、これは不如富山に訳を話して、それだけのお金をどうにでも借りるように為ようかとも思って見まして」②『朝日新聞』(一九二・三・三朝)「こうした女たちも初めは生活苦から背に腹はかえられず転落したのだろうが」③『朝日新聞』(一九六〇・三・三五朝)「背に腹はかえられないということか、自分たちの生活を維持できるなら、戦争でだれが傷つき殺されようと平気でいられるのだろうか」④大下英治『エンロンが弾いた新エネルギー戦争』(11001)「背に腹は代えられん。この苦境を梃子に、原子力に踏み出すしかない」外国語 英語では have no other choice **世話がない** 意味 (11)あきれてどうしようもない。(2)扱いが簡単で手がかからない。(用法)文型(10)「~れば(たら)世話がない」。~に「世話がない」と判断される内容が来る。(12)「~する世話がない」。~に「世話」のかかる事柄が来る。〔江戸〕(用例11石坂洋次郎『光る海』(一九六二十三)「脛を蹴っとばされて、お熱を挙げていりゃあ世話がないや」②高杉良『人事権!』(一九二)「三百万円ぽっちケチったために恥をかかされてたら世話がないとも」③「そんな暢気なことを言って世話がないよ」④「マンションの一階にスーパーがあるから、買い物に出る世話がなくて楽だ」類句 (12)「赤子の手を捻る」「お茶の子さいさい」「お安い御用」「屁の河童」 <216> **世話が焼ける** 意味面倒、世話を見てやる必要が大いにあり、手数がかかる。用法文型「ダレナニは世話が焼ける」「世話の焼けるダレナニ」〔江戸〕用例①永井荷風『新橋夜話 名花』(一九三)「芸者はあの位のところが一番世話が焼けなくって」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一三)「とにかく、世話の焼ける親父だよ」③星新一『ボッコちゃん』(一九七一)「まったく、世話のやけるやつだな」④高杉良『人事権!』(一九九二)「だって子供がいるだろう。世話が焼けるのが二人も」類句「手がかかる」「手が焼ける」「手間がかかる」 **世話を焼かす** 意味 人に余計な手数をかけさせる。用法文型「ダレダレはダレダレに世話を焼かす」〔室町〕用例①三島由紀夫『禁色』(1盗1-五三)「怠けもの。君はまったく世話を焼かせるよ」②「さんざっぱら人に世話を焼かしておいて、礼も言わない」類句「面倒をかける」 **世話を焼く** 意味人のために進んで面倒を見たり力添えをしたりする。用法文型「ダレダレがダレナニの世話を焼く」。用例①のように「お世話」と言うことがある。②のように受身形がある。①の「いらぬ」のように「世話」を修飾することがある。〔江戸〕用例①伊藤左千夫『野菊の花』(10六)「此母が年甲斐もなく親だてらにいらぬお世話を焼いて」②有島武郎『星座』(一九三-二三)「俺れは世話を焼くのも嫌いだ。世話をやかれるのも嫌いだ」③石坂洋次郎『光る海』(一九六二「≦)「矢崎の小父さまの身のまわりの世話をやいたり」④大沢在昌『心では重すぎる』(11000) 「入ったばかりのメンバーや“脱走』の可能性があるメンバーと同室になって世話を焼くのが、堀の役目だ」 <217> 類句「手をかける」「面倒を見る」 **背を向ける** 意味(11)無関心な態度を取る。2逆らって従わない。用法文型「ダレダレがダレナニに背を向ける」用例 (11①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九矢)「原発への抗議をつづける市民運動に背を向けることはできないわけだ」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「社交に背をむけたかれの大使としての評判はきわめて悪く」12③「忠告に背を向ける」類句 (12)「盾を突く」「反旗を翻す」「弓を引く」外国語 (1)英語では turn one's back on **先見の明** (意味) 物事が起こる前にそれを見抜く見識。将来のことを見通す聡明さ。出典は中国の『後漢書』楊彪伝。用法文型「ダレダレ(に)は先見の明がある(ない)」。名詞句としてさまざまに用いられる。〔江戸〕用例①三島由紀夫『愛の渇き』(10)「都会の奴等には先見の明がなかったからまずい配給物で我慢したり高い闇米を買わねばならないので」②源氏鶏太『英語屋さん』(一九겊一) 「首にならなかったのは、重役に先見の明があったからでなく」③『朝日新聞』(一九翌・10・三朝)「マックアーサー元帥は『当時あれほど私は反対したのに』と述べて先見の明を誇ろうとした」④『朝日新聞』(一九七九・八・五朝)「外相は政治家のカンで将来の目標を先取りしただけ。何年か後に会議が実現したとき、先見の明といいたいのだろう」⑤高杉良『会社蘇生』(一六七)「先見の明があったということになるかもしれないじゃないの」類句「目先が利く」(先のことを見通して損をしないようにうまく処理すること)外国語 中国語では成句「先见之明」(先見の明) **先手を打つ** (意味) 囲碁や将棋で相手より先に手を打つ意から転じて、相手より優位に立つために先んじてことを行う。また予測される事態に備えて策を講じる。用法文型「ダレダレが先手を打つ」〔江戸〕用例①浜尾四郎『死者の権利』(一九二五)「ずるい土田八郎氏は、早くも私の気もちを察して先手を打って逃げてしまったのだった」②開高健『パニック』(一九五七)「とぼけるつもりだな、と思った彼はつづけて口早に先手を打った」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「鵜飼たちの胸のうちにある疑惑を見すかし、先手を打つような機敏さで、野坂は、上衣の内ポケットから金包みらしい封筒を出し」④『朝日新聞』(一九六〇・四・二朝)「何かあると先手を打って辞職して勘弁してもらおう」⑤『朝日新聞』(一九八〇・六・二六朝)「『ソ連はけしからん』という共同宣言が出るのを見越して、先手をうったのだろう」⑥田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001) 「千々岩は押されるまえに先手を打った」 <218> 類句「機先を制する」「先手を取る」 **先頭を切る** 意味先頭に立つ。ほかのだれよりも先に行う。用法文型「ダレダレが先頭を切る」「先頭を切って~する」。用例②の「先進主要国の」のように「先頭」を修飾することがある。用例①『京都新聞』(一九七九・五・三朝)「先頭を切ってベンチから引き揚げてきた柴田」②『朝日新聞』(一九七九・七・一七朝)「米大統領が、先進主要国の先頭を切って具体的措置を打ち出した」③『朝日新聞』(一六一・二・六朝)「午後からの守備練習も先頭を切ってがん張った」類句「尖端を切る」「トップを切る」 **千慮の一失** 意味 出典は中国の古典『史記』淮陰侯伝で、知者でも多くの考えの中には一つぐらいは考え違いや失敗もあること。十分注意しても思わぬ失敗があること。用法文型「ナニナニは千慮の一失」〔鎌倉〕用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「私としたことがまさに、千慮の一失でしたわい」②森村誠一『終着駅』(一九六九)「これほど綿密に計画を立てたあなたがセロテープを剥がし残したのは、千慮の一失というべきですね」「鎌倉〕類句「河童の川流れ」「上手の手から水が漏る」外国語 英語では a slip of a wise man *中国語では成句「千虑一失」(千慮の一失) <219> **相好を崩す** 意味喜びや笑いが自然にわき上がり、にこにこした顔になる。用法文型「ダレダレがダレナニに相好を崩す」用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一盗0)「校長は自分の円熟した知恵を示す機会を、相好を崩して歓迎した」②獅子文六『てんやわんや』(一九四八―四九)「こういう話が面白いらしく、子供のように、相好を崩してるのである」③源氏鶏太『三等重役』(一九一‐三)「藤山さんは、とたんに相好を崩して、『やッ、それは至極愉快ですな』」④高見順『都に夜のある如く』(一九五四―五五)「『全く可愛い』と玉置が言って、忽ち相好を崩すのには」⑤東野圭吾『学生街の殺人』(一九六七)「時田は目を細めて、『そうか。そうだよなあ」と相好を崩した」類句「顔をほころばせる」「目を細くする」外国語 英語では grin from ear to ear **相談に乗る** 意味相手からどうしたらよいかと話しかけられ、それに応じる。用法文型「ダレダレがダレナニの相談に乗る」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例①岡本綺堂『半七捕物帳 廻り燈籠』(一九六七一三六)「これが堅気の素人なら、なんとか相談に乗ることもあるが」②中里介山『大菩薩峠 小名路の巻』(一九二三―三金)「彼等の相談に乗る隙」③「後輩の悩みの相談に乗ってやる」 **相場が決まる** (意味)世間一般の評価や考えがこんなものと決まっている、だれでも何事でも似たようなところだ。用法 「ダレナニは~と相場が決まっている」という形が多い。用例①有島武郎『星座』(一九三三)「もう然し俺しは死ぬものと略相場がきまった」②「ギャンブルは家庭をこわすものだと相場が決まっている」 **そうは問屋が卸さない** 意味相手の思い通りにするわけにはいかない。そうは簡単に思い通りにはならない。用法相手がこうなってほしい、なればいいと思っている内容を述べ、その後に「そうは問屋が卸さない」と続くことが多い。用例①源氏鶏太『鏡の中の顔』(一九盔)「中には、あの女房が、もし死んだら、こんどは…、と考えた重役もいるかも知れない。しかし、そうは問屋が卸さぬだろう」②和田傳『鰯雲』(一九五七)「―ふーん。さぞ借りに行きてえだろうになあ・・・ ―そうは問屋がおろさないよ」③『朝日新聞』(一六一・二・六朝)「自衛隊では員数不足だから徴兵制で、といってもそうは問屋がおろさない」④大藪春彦『ザ・刑事』(一六五)「貴様は親和会を潰したときのようにうまく立廻ろうとしたんだろうが、そうは問屋がおろさん」 <220> **底が割れる** 意味うそ、心に隠していること、真意、話の行き着くところなどが相手に見破られる。用法文型「底が割れるようなナニナニ」用例①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九一)「行雄の態度から推して、簡単に底が割れるようなアリバイ工作だとは考えられなかった」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「それにしても、俺が復帰したがってるなんて、よく言うぜ。簡単に底が割れるようなことなのに」類句「しっぽを出す」「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれる」「ぼろが出る」「メッキが剥げる」 **底を突く** 意味 (1)蓄えていた物、持っていた物を使い果たしなくなる。払底する。(2)相場が下がり切り、底値になる。用法文型「ナニナニが底を突く」用例 11筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「商品が底をつくというのは」②中上健次『鳳仙花』(10)「食べるものが底をつく」22③「株価が底をついた」外国語 (1)英語では hit bottom **底を割る** (意味) (1)本当の気持ちを言う。本心を打ち明ける。2相場で底値よりもさらに下がる。用法文型(1)「ダレダレが底を割る」。「底を割って話す」という形が多い。(2)「ナニナニが底を割る」用例11) 夏目漱石『こころ』(一九六四)「そう断言しておきながら、ちっともそこに落ち付いていられなかった。底を割ると、かえってその逆を考えていた」②牧逸馬『浴槽の花嫁』(一九〇) 「ブラドンはたくみにクロスレイ夫人はじめ下宿の人々を瞞着して、底を割ることなく」(2)③「株価が底を割った」 <221> **素知らぬ顔** 意味知っているのに知らない振りをすること。知らん顔。用法文型「ダレダレはそ知らぬ顔で~」「ダレダレがそ知らぬ顔をする」〔江戸〕用例 城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「警官が笛を吹いたが、車はそのまま、そ知らぬ顔で走り去った」類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」「涼しい顔」「何食わぬ顔」 **ぞっとしない** (意味)人の言動や服装・考えなどについて、あまり感心しない。いい感情が持てない。「ぞっとする」の反語的な表現か。やや俗っぽい言い方。用法文型「ナニナニはぞっとしない」〔江戸〕用例「彼女の服装はぞっとしない」外国語 英語では not hit me right **袖にする** (意味)自分に好意を寄せている人、利益のために近づいて来る人、またその誘い、自分にとって有益と思われることなどをすげなく断ったり見捨てたりする。用法文型「ダレダレはダレナニを袖にする」。用例②のように受身形がある。〔室町〕用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「谷村も、藩庁が精忠組をまるで袖にしているのを憤慨していた」②高杉良『人事権!』(一九九二)「わたしは会長から袖にされる運命にあったんだよ」外国語英語では give someone the brush-off **その手に乗らない** 意味相手の計略・術中に引っかからない。用法「その手には乗らない」とも言う。用例①「もうその手に乗らないぞ」②「ばかじゃないから、その手には乗らない」類句「その手は食わない」とも言う。外国語 英語では That trick won't work on me **側杖を食う** (意味) 喧嘩をしている傍にいたら殴り合っている杖で打たれることがある意から、自分に関係のないことで災難を受ける。「そばづえ」は「傍杖」とも書く。用法文型「ダレダレはダレナニの側杖を食う」〔江戸〕用例①室生犀星『女ひと』(1翌)「すくなくとも追悼文を断ったのは山川朝子と言う個人にたいして、ふいに私の意地悪がはたらいていたとしか思われない、芙美子さんは傍杖を食ったかたちなのである」②森村誠一『エネミイ』(1000)「幼稚園児が傍杖を食ったのは五年前のことです」③「交通事故の側杖を食ってけがをした」類句「とばっちりを食う」「火の粉がふりかかる」「巻き添えを食う」 **反りが合わない** 意味刀の反りが鞘に合わない意から転じて、相手と考え方や気質などが違ってしっくりといかない、協調できない。用法文型「ダレダレはダレダレと反りが合わない」〔室町〕用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「お前のママさんとそりが合わなかったせいだね」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「梅津も癖のある男だから、稲村とはソリが合わないのだろうぐらいにしか思わなかったが」③梓林太郎『死神山脈』(一九九九)「日比野のお母さんと反りが合わなかったということです」類句「性が合わない」「虫が好かない」外国語 英語では not see eye to eye <222> ナニの側杖を食う」〔江戸〕 用例 ②室生犀星『女ひと』(1翌)「すくなくとも追悼文を断ったのは山川朝子と言う個人にたいして、ふいに私の意地悪がはたらいていたとしか思われない、芙美子さんは傍杖を食ったかたちなのである」②森村誠一『エネミイ』(1000)「幼稚園児が傍杖を食ったのは五年前のことです」③「交通事故の側杖を食ってけがをした」 類句 「とばっちりを食う」「火の粉がふりかかる」「巻き添えを食う」 **反りが合わない** 意味 刀の反りが鞘に合わない意から転じて、相手と考え方や気質などが違ってしっくりといかない、協調できない。 用法 文型「ダレダレはダレダレと反りが合わない」〔室町〕 用例 石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「お前のママさんとそりが合わなかったせいだね」②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「梅津も癖のある男だから、稲村とはソリが合わないのだろうぐらいにしか思わなかったが」③梓林太郎『死神山脈』(一九九九)「日比野のお母さんと反りが合わなかったということです」 類句 「性が合わない」「虫が好かない」 外国語 英語では not see eye to eye **それ見たことか** 意味 忠告や助言を聞き入れず失敗した相手に軽蔑・非難の気持ちを込めてあざける言葉。 用法 単独で使用する。〔江戸〕 用例 ④佐々木味津三『旗本退屈男第六話』(一九二九一三一)「それ見たことか小気味がいいわと言うように、嘲笑いながら」②岡本綺堂『半七捕物帳 夜叉神堂』(一九一七—三六)「役人の方では、それ見たことか、一体そんな不用心な物を飾って置くから悪いのだと叱り付ける」 類句 「それみろ」とも言う。「いい面の皮」「ざまを見ろ」 外国語 英語では I told you so **揃いも揃って** 意味 同類のものがよくそろったものだと詠嘆と強調の気持ちを込めて言う言葉。マイナス評価、悪い事柄について言う。 用法 文型「そろいもそろって〜」。副詞的に使用。〔江戸〕 用例 ④大下宇陀児『情獄』(10)「浩一郎の母親の潤 <223> **算盤が合う** (意味)計算が合う。採算が取れる。つじつまが合う。用法文型「ナニナニは算盤が合う」。用例②のように否定形がある。〔江戸〕用例①半村良『どぶどろ』(一九七七)「人殺しでも何でも算盤さえ合ったら平気でやってのけられるんだ」②森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「ヤクザも計算が上手になり、素人とのけんかなどで殺しをしてもソロバンが合わないことを知っている」 **算盤を弾く** 意味計算する。お金に限らず、物事の損得を考え判断する。用法文型「ダレダレが算盤を弾く」。用例①②の「どんな」「腹の」のように「算盤」を修飾することが可能。〔江戸〕用例①石坂洋次郎『光る海』(一九三‐宣)「結婚についてどんな算盤を弾いていたか知りませんが」②鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「この浮浪者を見た時に、屠殺場で働かせようと、自分自身でも腹のソロバンをはじいて思いたったのである」③『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「全校機械化すると年二千五百万円の金が浮くと、ソロバンをはじいた」④『朝日新聞』(一九六〇・四・二三朝)「党内にも『防衛問題を強く出しすぎると、婦人票が逃げる』と冷静にソロバンをはじく声は少なくない」外国語 中国語では慣用句「打算盘」(算盤をはじく。「打」ははじく) <224> **高みの見物** 意味「高み」は高い所。高い所から眺めるように、事の圏外にいて傍観すること。用法 名詞句としてさまざまに用いられる。用例①内田康夫『秋田殺人事件』(11001)「ふん、高みの見物を決め込もうというわけか。フリーの人間は気楽でいいな」②「党内の派閥争いだ。では高みの見物としようか」類句「対岸の火事」外国語 中国語では成句「作壁上观」(壁の上から眺める、高見の見物をする。「观」は眺める) **対岸の火災** 意味「対岸の火事」に同じ。用法文型「ナニナニは対岸の火災」用例①『朝日新聞』(一九霊・・三朝)「ことに米国の真似をしたがる国では対岸の火災とばかりはいえぬ」②『朝日新聞』(一九八・10・七朝) 「台湾海峡の紛争は対岸の火災ではない」③『朝日新聞』(一六〇・二・六朝)「対岸の火災や他人ごとでは絶対にあり得ない」外国語 中国語では成句「隔岸观火」(対岸の火事を見る。「观火」は火事を見る) **対岸の火事** 意味 自分にはかかわりがなく、危険も苦痛も及ぶ心配がない事件・出来事のたとえ。用法文型「ナニナニは対岸の火事」用例①『朝日新聞』(一九七九・六・五朝)「ロッキードだ、グラマンだ、と政治家の疑惑が連日マスコミをにぎわせていますが、これを『対岸の火事』とばかり見物をしている人々」②『朝日新聞』(120・10・1朝)「他国の種族、部族、民族の間の闘争を、対岸の火事のように傍観している」③『朝日新聞』(一九六二・二・九朝)「対岸の火事的発想ではすまされない」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「大規模な衝突があった。そのニュースに遭遇して、ノンポリの浅見といえども、文字どおり、対岸の火事とばかりに無関心ではいられない気分であった」類句「対岸の火災」とも言う。「高みの見物」外国語中国語では成句「隔岸观火」(対岸の火事を見る。「观火」は火事を見る) **太鼓判を押す** 意味ある人の能力・信用や、ある物の品質・性能などについて、絶対に大丈夫だと保証する。用法文型「ダレダレが~と太鼓判を押す」。命令・意志表現は可能。用例①石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一二)「君が太鼓判を押すならそのとおりだろう」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九強二十三)「僕が太鼓判を押しているから、人物の方は信頼するが」③檀一雄『青春放浪』(一九六)「逸見先生が卓をたたいて太鼓判を押してくれたが」④『朝日新聞』(一九七・四・六朝)「カナダ政府はノーマン大使を『良心的な公僕』として太鼓判を押して信託し」⑤『朝日新聞』(一九六〇・二・三朝)「『いま世界のマラソンランナーで、瀬古ほどのスピードと安定したフォームを持つ選手は他にいないだろう』と、大先輩の織田幹雄氏も太鼓判を押す」 <225> 類句「折り紙を付ける」外国語 英語では(really)put one's seal of approval on *中国語では慣用句「打包票」(保証書を発行する意から、保証する。「打」は発行する。「包票」は保証書。「打保票」とも言う) **大事を取る** 意味重大事に至らないように用心する、慎重に行動する。用法文型「ダレダレは大事を取る」「大事を取って〜する」〔江戸〕用例「明日は試合だから、今日は大事を取って軽めに練習する」外国語 英語では play (it) safe **大なり小なり** (意味)多いか少ないかはともかく、程度に差はあっても。大小にかかわらず。用法「大なり小なり~する」。副詞的に使用。〔江戸〕用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「留学生にはたいてい大なり小なり憂鬱症にとりつかれる時期があるらしい」②本所次郎『閨閥』(二00四)「東京本社の社員たちは、大なり小なり水口成人の息がかかっている」類句「多かれ少なかれ」 **高が知れる** 意味元来、たいした領地を持たない武士を指していた。転じて人や物事の程度·力量・価値などがたいしたことはない、せいぜいそんなところだ。用法文型「ダレナニは高が知れる」。「高が知れている」と言うことが多い。〔江戸〕用例①獅子文六『てんやわんや』(一九盗人―四九)「片田舎の金持はタカの知れたものらしく」②檀一雄『青春放浪』(一九六)「坪井の月給だって、タカが知れている」③北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(120)「それこそ多寡の知れたボートくらいにしか見えないのである」④『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「産休で先生がかわったぐらいで成績がおちるような子は、これまた将来たかがしれているじゃないか」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「交通費といっても高が知れてるだろうけどね」類句「愚にもつかない」「取るに足りない」「話にならない」「物の数でもない」「問題にならない」外国語 英語では nothing great <226> **箍が緩む** 意味「たが」は桶や樽の外側を堅く締める輪。(1)緊張が緩んで締まりがなくなる、だらけた状態になる。12年を取って気力や思考力などが鈍る。用法文型「ダレダレはたがが緩む」〔江戸〕用例①福永武彦『忘却の河』(一九六面)「連中だって昔は若かったんだが、封建的道徳とか社会的身分とかに縛られて、見合い結婚なんかをして、すっかり箍がゆるんじまってるんだ」12②「80歳を過ぎ、たががゆるんで、家にいるばかりだ」類句 (1)「ねじが緩む」「がたが来る」「焼きが回る」 **高根の花** 意味あこがれて遠くから眺めているばかりで、自分のものにすることができない高価な物や美人などのたとえ。「高嶺の花」とも書く。用法文型「ダレナニは高根の花」〔江戸〕用例①有島武郎『星座』(一九二-三)「あれは高嶺の花です」②『朝日新聞』(一盗六・三・二0朝)「都会の能楽、歌舞伎、映画、音楽会の類は依然として高根の花である」③『朝日新聞』(一九七九・二・三朝)「分譲価格は軒並み高く(略)庶民にとっては高根の花」④『朝日新聞』(一九一・四・三朝)「報道されるべ・ア額、基本給、すべて高根の花とみる人たち」類句「垂涎の的」外国語 英語では be beyond one's reach *中国語では成句「可望而不可即」(遠くから眺めるだけで近寄れない。「望」は眺める。「可望而不可及」ともいう) <227> **高を括る** 意味あることを軽く評価し安易に考える。この程度だろうと低く予測をする。他人事のように真剣に考えない。用法文型「ダレダレが~と高をくくる」〔江戸〕用例①有島武郎『或る女』(一九二九)「古藤なんぞに自分の秘密がなんであばかれてたまるものかと多寡をくくりつつも」②久保田万太郎『春泥』(一九八) 「いざとなればまたどうにかなるだろう。――――かれはくくるつもりもなく多寡をくくった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「その尻車に乗って行きさえすれば、万事うまく行くとたかをくくっていたことが」④『朝日新聞』(一九六〇・五・六朝)「オモチャのピストルだろうと、たかをくくっていた行員らは」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「弁慶をただ一人と見て高をくくっていたグループは」類句「甘く見る」「なめてかかる」「のんでかかる」外国語 英語では take something lightly **竹を割ったよう** (意味)竹がまっすぐに割れるように、気性がまっすぐでさっぱりしているさまのたとえ。物事にこだわらず一本気であるさま。用法文型「ダレダレは竹を割ったように~」「竹を割ったようなナニナニ」〔江戸〕用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「真っすぐな竹を割ったような気性の人で」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「菅原の竹を割ったような気持ちのよい返答を聞いて」③龍一京『交番 巡査の誇り』(100回)「父親は竹を割ったようにさっぱりした性格だった」外国語 英語では refreshingly frank **助け船を出す** (意味)人が困っている時に言葉や行為で力を貸す、助ける。用法文型「ダレダレがダレナニに助け船を出す」用例①『朝日新聞』(一九七九・六・110朝)「ブレジネフ書記長は(略)と発言して、信心深いカーター大統領に助け船を出した」②中上健次『鳳仙花』(120)「古座言葉で嫁に救け舟を出した」③東野圭吾『学生街の殺人』(一九七)「『沙緒里ちゃん』と光平が助け船を出した」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「『つまり、こういうことでしょう』葛西警視が助け船を出した」類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「力を貸す」「手を貸す」「手を差し伸べる」「一肌脱ぐ」 <228> **多勢に無勢** 意味大勢の相手に向かって少人数ではかなわないこと。用法文型「多勢に無勢だ」。単独で使用する。〔鎌倉〕用例①大杉栄『鎖工場』(一九二四)「主人の数は少ない。俺達の数は多い。多勢に無勢だ」②夢野久作『S岬西洋婦人絞殺事件』(一九五)「何しろ多勢に無勢ですから敵いません」外国語 英語では be outnumbered *中国語では成句「寡不敌众」(数が少ない方は多い方にかなわない、衆寡敵せず。「不敌」はかなわない。「众」は衆) **叩けば埃が出る** 意味どんな人でもその人を細かく調べれば、欠点や良くない点が出てくるものだ。うわべを取り繕っている人でも人に知られたくない弱点などを持っているものだ。用法文型「ダレダレは叩けば埃が出る」用例佐々木味津三『旗本退屈男 第七話』(一九二九—三二)「それみい、叩けばまだまだ埃が出る筈」 **駄々を捏ねる** (意味) 幼児が足をばたばたさせてわがままを言う。幼児などが甘えて言うことをきかず、わがままを通そうとする。また幼児に限らず比喩的にも使う。用法文型「ダレダレが~とだだをこねる」〔江戸〕用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「今少し家に居たいと駄々を捏ね出したので」②甲賀三郎『青服の男』(一九九)「向うへ行って、卓一さんが駄々を捏ねましてね」③中上健次『鳳仙花』(一六0) 「駄々をこねるように『足が痛なってくるんよ』と言って泣き出した」④森村誠一『エネミイ』(11000)「そんな駄々をこねて、ぼくを困らせないでくれよ」外国語 英語では be unreasonable <229> **立つ瀬がない** 意味 周りの人の言動によって、自分の立場・面目がなく、困る。 用法 文型「ダレダレは~れて、立つ瀬がない」「~ないと、立つ瀬がない」「ダレダレの立つ瀬がない」。用例②のように「立つ瀬がなくなる」と言える。 用例 ④源氏鶏太『三等重役』(一九盗一―三)「家では敬遠されるし、会社では、昨日今日入った女にバカにされ、立つ瀬がありませんわ」②『朝日新聞』(一九五七・10・二朝)「こういう道ならぬことをされては、歩く人の立つ瀬がなくなる」③『朝日新聞』(一九七九・10・元朝)「『(略)プレーオフの時のほうがずっと緊張したし、勝ったうれしさも大きかった』といわれては、広島打線も立つ瀬がない」④高杉良『人事権!』(一九二)「少なくとも相沢にぜひもらいがかかったことにしないと、相沢の立つ瀬がないものねえ」⑤清水一行『ITの踊り』(二00四)「早く決着をつけてくれないと、方々から攻められる秋葉は立つ瀬がない」 類句 「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「面目がない」「面目次第もない」 **立て板に水** 意味 よどむことなくすらすらとさわやかに説明・演説などをするさまのたとえ。 用法 文型「立て板に水のように~する」「立て板に水を流すように~する」〔室町〕 用例 石坂洋次郎『石中先生行状記第二部』(一九四九一五○)「村井君は、紙芝居の説明ではタテ板に水を流すように雄弁だが」②獅子文六『青春怪談』(一九五四)「ペラペラと、よく動く口であるが、そのくせ、立板に水というわけではない」③『朝日新聞』(一九七九・八・二三朝)「日本の人たちは、立て板に水みたいに、むずかしい技術用語や数字を並べる」④『朝日新聞』(一九七九・10・一七朝)「立て板に水を流すような演説」 外国語 中国語では成句「口若悬河」(滝が流れるようにとうとうと話す。「悬河」は滝。「口如悬河」とも言う) **盾に取る** 意味 ある人・事柄を、相手の追及から自分を守る口実・言い訳の手段とする。また言いがかりをつける手段にする。「楯に取る」とも書く。 用法 文型「ダレダレはダレナニを盾に取って~する」。用例⑤のように受身形がある。〔江戸〕 用例 ④川端康成『伊豆の踊子』(一九天)「私は学校を楯に取って承知しなかった」②沢村貞子『貝のうた』(一九六九)「だれにしろ、どんな要求にしろ――芝居にとっては、 <230> 類句「盾にする」外国語 英語では use something as an excuse **縦の物を横にもしない** 意味 自分ではちょとしたことでも体を動かさず、人にやらせる。無精者、怠惰であることをいう。(用法)文型「ダレダレは縦の物を横にもしない」〔江戸〕用例①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七三)「自分は縦のものを横にもせず老妻を追い使った揚句に」②鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「家にいたらタテのものをヨコにもしない超不精者だし」類句「横の物を縦にもしない」とも言う。 **盾を突く** 意味 目上の者に反抗する。たてつく。用法文型「ダレダレがダレダレに盾を突く」。用例②「つまらぬ」のように「盾」を修飾できる。「楯を突く」とも書く。〔鎌倉〕用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』(一盎九)「重吉奴はことごとくおらにタテをつくようになったのでごぜえます」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「鵜飼教授につまらぬ楯をついて、そんなところへ放り出されたりしたらどうするのだ」③岩城捷介『免職警官』(100M)「しばしば上層部に盾を突くこともあったとな」類句「背を向ける」「反旗を翻す」「弓を引く」 **棚に上げる** 意味自分のこと、自分に都合の悪いことは問題にせずにおく。用法文型「ダレナニがダレナニを棚に上げて~する」。「自分のナニナニを棚に上げて」という形が多い。〔室町〕用例①徳冨蘆花『黒潮』(120三)「吾事は棚にあげて、人の悪い噂ばかり喋舌ってあるく者もありますからね」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四—五五)「岡崎は、自分の過去をタナにあげて」③『朝日新聞』(一九七九・10・1七朝)「その言い分をタナにあげて、人のギックリ腰につけこむ料簡が立つ瀬がない。用法文型「ダレダレは~れて、立つ瀬がない」「~ないと、立つ瀬がない」「ダレダレの立つ瀬がない」。用例②のように「立つ瀬がなくなる」と言える。用例①源氏鶏太『三等重役』(一九盗一―三)「家では敬遠されるし、会社では、昨日今日入った女にバカにされ、立つ瀬がありませんわ」②『朝日新聞』(一九五七・10・二朝)「こういう道ならぬことをされては、歩く人の立つ瀬がなくなる」③『朝日新聞』(一九七九・10・元朝)「『(略)プレーオフの時のほうがずっと緊張したし、勝ったうれしさも大きかった』といわれては、広島打線も立つ瀬がない」④高杉良『人事権!』(一九二)「少なくとも相沢にぜひもらいがかかったことにしないと、相沢の立つ瀬がないものねえ」⑤清水一行『ITの踊り』(二00四)「早く決着をつけてくれないと、方々から攻められる秋葉は立つ瀬がない」類句「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「面目がない」「面目次第もない」 <231> ニクらしい」④『朝日新聞』(一六〇・四・一六朝)「自らの無策をたなにあげて、友好、同盟諸国の対米協調をいうのはお門違いである」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「有名な涸沼も知らない自分の無知を棚に上げて、こっちの田舎くささを憐れんでいるつもりの相手」◎大沢在昌『心では重すぎる』(1000)「手前の勝手を棚にあげて、社に報告しちまったんだ」 類句 「棚上げにする」「不問に付す」 **他人の空似** 意味 赤の他人であるが、容貌がそっくりのこと。 用法 「ダレダレは他人の空似だ」。名詞句として用いる。〔江戸〕 用例 斎藤栄『神戸天童殺人事件』(一九九盗)「男が柏木そっくりだったのが、とても興味深かった。他人の空似というのは、このことでしょうね」②森村誠一『エネミイ』(11000)「矢沢が淑子と見まちがえた女性は他人の空似であった」③「他人のそら似とはよく言ったもので、本当にそっくりだった」 類句 「瓜二つ」 外国語 英語では a chance resemblance **他人の褌で相撲を取る** 意味 「人のふんどしで相撲を取る」に同じ。 用法 文型「ダレダレは他人のふんどしで相撲を取る」 用例 ④武田泰淳『風媒花』(一盗二)「その評論家が他人のふんどしで相撲をとるどころか、他人の皮をかぶって、他人の舌で喋りまくってるような気がしたんだ」②源氏鶏太『天下泰平』(一九西—五五)「他人のフンドシでスモウを取ろうなんて、そんなケチな料簡を捨てろ」③藤本『サイカクがやって来た』(一九七ㄟ)「他人の褌で相撲をとっている奴は、表面的には儲かっているように見えるが、その実は、あっという間に大損してしまうのである」 **束になって掛かる** 意味 大勢の人が一緒になってひとりの人を攻める。特に強い人に向かって行く時に言う。 用法 文型「ダレダレが束になって掛かる」。ダレダレは複数の人。 用例 ④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「われわれが束になってかかっても、ひとたまりもありませんよ」②「相手になってやる。束になってかかって来い」③「束になってかかってもかないっこない」 <232> **玉に瑕** 意味ある人が非常に優れていているが、惜しいことにわずかに欠点があること。用法文型「ダレダレはナニナニが玉に瑕」〔平安〕用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九ェニー≦)「いい女だけど、ちょっと、口の軽いのが玉にキズだね」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「俺たち蘭方をやる者には大恩人さ。もっとも医書の翻訳の数が少ないのが玉に瑕だがね」③東野圭吾『卒業』(一九六)「やる気はなんとか。実力が無いのが玉にキズですが」外国語 中国語では成句「白璧微瑕」(白玉にかすかなきず。「美中不足」とも言う) **玉の輿に乗る** 意味「玉の輿」は昔の身分の高い人が乗るりっぱな、人がかついで運ぶ乗り物。一般庶民、普通の女性が地位や財産のある男性と結婚して富貴の身の上となる。用法文型「ダレダレが玉の輿に乗る」〔江戸〕用例藤本義一『サイカクがやって来た』(一九六)「七十億か百億をもった男の二号になったのを、玉の輿に乗ったというのだ」 **矯めつ眇めつ** 意味「矯める」は目をすえてじっと見る意、「眇める」は片方の目を細くして見る意。人・物をいろいろな方向・方面からよく見て品定めするさま。用法文型「ダレダレがダレナニをためつすがめつ眺める(見る)」。副詞的に使用。〔室町〕用例①三島由紀夫『盗賊』(一盗人)「藤村夫人はマンテルピースに飾られた投入れの秋草を根気よく直してはためつすがめつしながら」②開高健『巨人と玩具』(一九五七)「貧乏や孤独や小さな虚栄やわびしい歓楽など、そのいずれについても彼はためつすがめつ吟味して」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「樹村昌平はためつすがめつ浅見を眺めて、『かっこいいひとですなあ』と感嘆したように言った」④田中光二『南紀白浜 磯釣り殺人事件』(11001) 「千々岩も名刺を返した。雑賀は受け取って、ためつすがめつ眺めた」類句「と見こう見」外国語英語では scrutinize carefully <233> **駄目を押す** 意味「駄目」とは本来、囲碁でどちらにも属さない目のこと。その目をふさぐ行為を「駄目を押す」。転じて念を入れてもう一度確かめる。また、試合などで勝利が確実なことがわかっても、さらにそれを決定的にする。用法文型「ダレダレが駄目を押す」〔江戸〕用例①川端康成『伊豆の踊子』(一九二六)「傍の女に幾度も駄目を押してから私に言った」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四—五五)「『じゃア、今は、絶対に白紙なんだな。』杉村としては、珍しいくらいに、しつっこく、ダメを押してくる」③檀一雄『青春放浪』(一九五六)「『ほんとに行ってくれる?』と駄目を押すと」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「だめを押すように云うと」⑤『朝日新聞』(一九八〇・四・二三朝)「七回は代打柴田の好打でダメを押した」 **袂を分かつ** 意味意見などの食い違いから、仲間・友として交わってきた関係、行動を共にしてきた関係を断つ。また単に人と別れる。用法文型「ダレダレはダレナニと袂を分かつ」用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「ここで、諸君等と袂を分つことになるが」②『朝日新聞』(一九八〇・五・六朝)「タモトを分かって選挙で国民の信を問うのが、わかりやすく」③『朝日新聞』(一九八〇・二・二九朝)「民社党は(略)名実ともに社公両党と袂を分かった」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「主幹は〝聖真霊の教』と袂を分かったが」 類句「駄目押しをする」とも言う。「石橋を叩いて渡る」「念には念を入れる」「念を入れる」「念を押す」外国語英語では make doubly sure 類句「足を洗う」「足を抜く」「手を切る」外国語英語では split with **啖呵を切る** 意味威勢よく、歯切れ良い言葉でまくしたてる。言いたい放題言ってのける。威勢よく相手をののしる。用法文型「ダレダレが啖呵を切る」〔江戸〕用例①源氏鶏太『随行さん』(一九五七)「たまりかねてぽん助が啖呵を切った。『じれったいわねえ。あんた、そんな風では出世ができないわよ。せめて旅に出たら、もっと粋になりなさい。粋に』」②石坂洋次郎『光る海』(一九六二—六三)「お前、タンカをきってやれよ。ぼくが恋愛をしないのは、ぼくを夢中にさせるような女にまだお <234> 目にかからないからだって」③稲垣浩『日本映画の若い日々』(一九七八)「『わからんならわからんとはっきり言ったらどうなんだ。買いたくないなら、買って貰わんでもええワイ』とタンカを切って、重いフィルムをかついで本社を出た」④『朝日新聞』(一九八一・三・九朝)「外務省を相手に『自動車産業は通産相の所管。対米交渉の責任は、当然、わが省が』と、タンカを切る田中氏」 **断腸の思い** 意味あることをする時に腸がちぎれるように感じるはなはだしい苦しみ、辛さを伴った悲しみ。用法文型「ダレナニは断腸の思い」「断腸の思いで〜する」〔江戸〕用例①内田康夫『志摩半島殺人事件』(一九八八)「野村君のことを話すのは、正直、断腸の思いが伴いましてなあ」②高杉良『人事権!』(一九九二)「わたしも断腸の思いなんだ」 類句「血の涙」「塗炭の苦しみ」「腸がちぎれる」「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」「胸が塞がる」「胸に迫る」 **端を発する** 意味物事がそこから始まる。またそれが原因で争いや議論などが起きる。用法文型「ナニナニはナニナニに端を発する」〔江戸〕用例牧野信一『ゼーロン』(一九二一)「昔、大力サムソンが驢馬の顎骨を引き抜いた要領に端を発する模範的アッパー・カットの一撃を喰わした」 類句「端を開く」 <235> **血が通う** 意味(1)人が生きている。(2)対処・判断などが事務的ではなく、人間的な心のあたたかみ、思いやりがある。用法文型(1)「血が(の)通った人間」(2)「血が(の)通ったナニナニ」。(1)(2)とも修飾する形で用いられることが多く、用例③の用法はまれである。用例①『朝日新聞』(二〇〇四・九・四夕)「その中で彼がこだわってきたのは、『登場人物一人ひとりが血の通った人間であること』」②『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・一夕)「バックにいる人たちも含めて、血の通った人間にする。すると作品全体に、一つの生命が宿る」(2)③三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「先生の仰言るような肉感より、僕が手紙を読んだときの感動のほうが、ずっと血が通っているような気がするんです」④『朝日新聞』(一九八三・五・六朝)「こういう行き方こそ、血の通った政治、と即断していただきたくないことです」⑤『朝日新聞』(一九八一・三・七朝)「先生の血の通った助言を得ることで日々の悩みも彼女なりに解消しようと努めているのがよくわかる」 外国語韓国語では「피가(血が) 통하다(通う)」 **血が騒ぐ** 意味あることを見たり聞いたりして、内に持っているものが表面化し、やりたくてうずうずし、または興奮して落ち着かない様子。用法文型「ダレダレは(ダレナニの)血が騒ぐ」。用例②③のように「ダレナニ」のところに素質が入ることが多い。用例①『朝日新聞』(一九七一・九・一九朝)「七十歳の老作家に、いままた革命家の血が騒ぎ出したのだろうか」②木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(一九九六)「亜紀は若いから血が騒いだのでしょうが」③『夕刊フジ』(二〇〇四・三・一六)「松井も『メキシカンの血が騒いじゃったのかもね。大丈夫かな』と気が気でないが、オープン戦打率・174の松井だけに、ガルシアから『お前こそ大丈夫か』と逆に突っ込み返されるかも???」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・一八朝)「磯野家の先祖は、おはぎを38個食べて大評判をとった傑物。血が騒ぐとはこのことをさすのだろう」 類句「血が沸く」「血湧き肉躍る」 <236> **血が繋がる** 意味血縁関係にある。用法文型「ダレダレはダレダレと血がつながる」「血が(の)つながったダレダレ」用例『朝日新聞』(二〇〇四・七・四朝)「父とは血がつながっていないんです」 ルをこぐ足に力が入った」 類句「血を引く」「血を分けた」外国語韓国語では「같은(同じ)피가(血が)흐르다(流れる)」 類句「力がこもる」 **力が入る** 意味身体的に何かをしようとする時に、筋肉がかたくなり、それに向けた態勢に入る。転じて、何かをする時に特に熱意がこもる。〔平安〕用法文型「ナニナニに力が入る」用例①東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「ハンドルを握る手に力が入った」②『朝日新聞』(二〇〇四・九・二夕)「最初にファンになった馬は、名前が同じ『レイナワルツ』。応援にも力が入り、『実況中に声が入る』と注意されたほど」③『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・四夕)「純愛路線に続いてヒットするかどうかが観光も左右するだけに、『人生を幸福にするのは愛と健康』とPRにも力が入った」④『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・三朝)「グワァー、グワァーとカエルの大きな鳴き声が聞こえてくると、ますますペダ **力を入れる** 意味身体的な力を込める、加える。転じて、いろいろある中で、特別重要と思われることや関心事に精力や労力を注ぐ。用法文型「ダレダレがナニナニに力を入れる」。「ナニナニ」には「力を入れる」対象をとる。意志・命令表現は可能。〔平安〕用例①野間宏『真空地帯』(一九五二)「大住軍曹は會田一等兵のうしろにたって、両肩に手をおいてぐっと力を入れた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「信夫はその時から、読書に力を入れようと決心した」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ぼくのすぐ下の弟が恋愛結婚で、学生時代から相手は決まっているようなものだったため、母親としてはぼくの見合に力を入れたのであろう」④『朝日新聞』(二〇〇四・八・三朝)「最近は弁当類などの個食対応に力を入れるスーパーとの競争も激しい」 類句「心を傾ける」「精を出す」「力瘤を入れる」「力を込める」「力を注ぐ」。反対は「力を抜く」(『朝日新聞』〈二〇〇四・九・二三夕〉「岡本綺堂の『影を踏まれた女』を読む最中、 <237> 力を抜きながらもしっかりと舞台に立てている自分に気づいた」) **力を落とす** 意味がっかりしたり不幸な目に遭ったりして気力を失ってしまう。用法文型「ダレダレが力を落とす」〔南北朝〕用例①徳冨蘆花『不如帰』(一八九九)「父はひどく力を落としまして後妻もとらなかったのですから、子供ながら私がいろいろ家事をやってましたね」②「彼女は入賞を目指していたのに、事故で試合にも出られず、力を落としている」 聞』(二〇〇四・七・二七夕)「ロブションさんはAFP通信に『アランとのもめ事は過去の話。今度は彼も力を貸してくれた』」④『朝日新聞』(二〇〇四・三・二三夕)「スチュアートはヘミングウェイがユーモア作品を書くには不向きであると即座に判断し、この作品の雑誌掲載に力を貸すことはしなかった」 類句「肩を落とす」「気が抜ける」「気を落とす」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け船を出す」「手を貸す」「手を差し伸べる」 **力を貸す** 意味やりとげるのがむずかしいことを手助けしてやる。用法文型「ダレダレがダレナニに力を貸す」。意志・命令表現は可能。用例①半村良『どぶどろ』(一九七二)「それを教えに来た代りにというわけじゃないが、平さんも宇三郎さんたちに力を貸してやってほしいんだ」②『4年の科学』(二〇〇一・八)「魔界ではきみたちのはがきを教科書に勉強中。ゼロたちの成長のために力をかしてくれー」③『朝日新 **血が沸く** 意味感情が高ぶる。興奮して、やる気がみなぎる。用法文型「ダレダレは血が沸く」用例「決戦を前に選手は血が沸く思いをした」 類句「血が騒ぐ」「血沸き肉躍る」外国語韓国語では「피가(血が)솟다(沸く)」 **血で血を洗う** 意味(1)相手の暴力に対し、暴力でもってやり返すという激しい争いをする。(2)血族同士が利害関係から激しく争う。用法文型「血で血を洗うナニナニ」。修飾する形が多く、「ナニナニ」には「争い」「抗争」「闘争」などの語が来る。〔江戸〕 <238> 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九二七)「必ず追手がかかり、欲せぬ所ながら、血で血を洗う争いをすることになる」②『朝日新聞』(一九七五・五・二〇朝)「彼のまわりの急進主義者たちはヤケになり、喧嘩に明け暮れし、血で血を洗うような日々をくり返していた」③『朝日新聞』(一九九一・一〇・一三朝)「血で血を洗う闘争の続く中東に、また新たなテロが発生した」④岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「十年前、大阪の暴力団結城組と新宿の国吉一家との間で血で血を洗う抗争が吹き荒れていた」(2)⑤二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「唯一人の妹ですから、私だって何も血で血を洗うような事は仕たくありませんけど」⑥「遺産相続を巡って血で血を洗う争いが身内に起きた」 用例徳冨蘆花『寄生木』(一九〇九)「篠原良平なる一生命の地上に留めた血と涙と汗の結晶は此寄生木である」 類句「骨肉相食む」「骨肉の争い」外国語中国語では成句「以血洗血」(血で血を洗う) *韓国語では「피로(血で) 얼룩지다(まだらになる)」 類句「血と汗の結晶」とも言う。「結晶」の代わりに「賜物」とも言う。「血のにじむような」 **血と涙と汗の結晶** 意味血が出るような非常な苦心と努力の末に得た成果。用法文型「ナニナニは血と涙と汗の結晶」 **血となり肉となる** 意味経験や知識などが、うわべだけのものではなく、将来何かの時に役に立つものとして、自分の内部にしっかりと取り入れられ蓄積されている。用法文型「ナニナニがダレナニの血となり肉となる」用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「つまりぼくは、経済、家庭、スポーツ、麻雀、競馬といった欄はまったく読まず、広告もほとんど一部しか見ないのであるが、こういったものの中にも、ぼくの血となり肉となるべき情報が含まれている可能性だってあるわけである」②『朝日新聞』(二〇〇四・四・六朝)「久米さんがあいさつした。『始まったころはパソコンも携帯電話もなかった。18年も続くとは思わなかった。血となり肉となりました』」 類句「肥やしになる」「血や肉になる」(『朝日新聞』〈二〇〇四・七・三夕〉「自分の血や肉になっているスコットランド <239> の歴史の息吹を伝えたかった。私は帰属意識が強いんだと思う」)外国語韓国語では「피가(血と)되고(なり)살이(肉と)되다(なる)」 **地に落ちる** 意味権威・威力・信頼・名声などが何かをきっかけにして衰え失われる。用法文型「ナニナニが地に落ちる」用例①『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「この言葉は、ロッキード事件からダグラス・グラマン事件にかけて、政治家の信頼感が地に落ちた日本の場合にも、そっくりそのまま当てはまる」②『朝日新聞』(二〇〇四・八・四朝)「派閥の権威も結束力も地に落ちていた」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・一二朝)「作り手としての矜持も情熱も捨てている。数々の名作を生んだ月9も地に落ちた」④「先生や父親の権威も地に落ちて久しい」 類句「血気盛ん」 類句文語では「地に墜つ」と言う。 **血の気が多い** 意味活力がみなぎっているさま。また、活発で興奮しやすく、すぐ過激な行動に出るさま。用法文型「ダレダレは血の気が多い」〔江戸〕用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「胸毛に白いものがまじっているような男に、まだ血の気の多い自分がどうして本気で血道をあげることが出来るだろうか」②中上健次『鳳仙花』(一九七六)「娘は幸一郎の性器に手をのばしいきり立ったそれが当然だというようにしごき、『やっぱし血の気が多いんよ。好きなんやねえ』と言い」 **血の気が引く** 意味病気・心配・悲しみ・恐怖などから、顔の血色がなくなり、青ざめる。用法文型「ダレダレの顔から血の気が引く」「血の気の引いた顔」用例①津本陽『深重の海』(一九八六)「弥太夫は顔から血の気が引くように感じ、一瞬視野が暗くなった」②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「顔から血の気が引いている」③吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇四)「その良和が母親を殺したとなると、川崎弘恵の教育理念を支えてきたものが根底から崩れることになる。血の気が引いた」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・八朝)「代わりに出た看護師と思われる女性から『亡くなられました』と教えられ、『血の気が引き、凍りつくような寒さを感じた」と振り返っ <240> た」 にわたり、血のにじむような努力をしてきた』という練習量の違いだ」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・二〇朝)「世界のひのき舞台に出ていくその裏には、我々の想像がつかないほど過酷で、血のにじむような努力があったと思います」 類句「血の気が失せる」(森村誠一『人間の十字架』〈一九九三〉「篠沢の表情から血の気が失せていった」)「血の気を失う」(森村誠一『東京空港殺人事件』〈一九七一〉「いまのいままでおだやかな空の旅を楽しんでいた乗客たちは、たちまち血の気を失い、悲鳴をあげる」)外国語英語では the blood drains from one's face *韓国語では「핏기가(血の気が)가시다(なくなる)」 類句「血の出るような」外国語韓国語では「피가(血の)나는(出るような)」 **血の滲むような** 意味自分の身を痛めるほど辛く、苦しいことに耐えて、何事かに継続的に努力し、一生懸命打ち込むことをたとえて言う。用法文型「血のにじむようなナニナニ」。ナニナニは「努力」が多い。用例①『朝日新聞』(一九八一・一・二七朝)「小さい時からのテストの練習と、血のにじむような勉強の成果であろう」②『朝日新聞』(一九八一・一〇・一三朝)「検察当局が、血のにじむような努力をされていることに対し、敬意を表する」③『朝日新聞』(一九九一・三・二三朝)「民間企業は血のにじむ思いで定員を減らし、配置がえをして生き抜いている」④『朝日新聞』(二〇〇四・七・二五朝)「違うのは『私は、八年間 **血の巡りが悪い** 意味状況から相手の言おうとしていることや物事を察する頭の働きが悪い。用法文型「ダレダレは血の巡りが悪い」用例東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「時折、自分がひどく血の巡りの悪い人間のように思えることがあるのだった」 類句「頭の回転が悪い」外国語英語では be slow on the uptake **血は争えない** 意味同じ血族であるから、同じような性向や特徴があることは否定できない。用法単独で使用することが多い。 <241> 用例①武田泰淳『風媒花』(一九五二)「三田村は危険な男だよ。目が放せない。やっぱり血は争えないもんだよ」②『朝日新聞』(一九九一・一〇・一六朝)「東亜航空と合併させた強引な手法は、かって『強盗慶太』と異名を取った父親のイメージと重なって、煮え湯を飲まされた連中の間では『血は争えないものだ』と、いまもって評判が悪い」 (一九五六)「内田魯庵が『天狗煙草の岩谷は広告が化けた人間だ』と評したほど、岩谷は宣伝に血道をあげた」 **血道を上げる** 意味「血道」は血管のこと。異性・趣味・道楽、また自分の利益になることなどに、異常に熱中する。用法文型「ダレダレがダレナニに血道を上げる」。用例①「なけなしの」のように「血道」を修飾することはまれ。〔江戸〕用例①石坂洋次郎『麦死なず』(一九五六)「貴様がなけなしの血道を挙げて上せあがっている出来事というのは」②獅子文六『娘と私』(一九五三—五六)「私は、いい気になって、野球に血道をあげていた」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「胸毛に白いものがまじっているような男に、まだ血の気の多い自分がどうして本気で血道をあげることが出来るだろうか」④井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「なかにはどうしても解せない物体に血道をあげている男たちがいる」⑤槌田満文『文学にみる広告風物誌』 類句「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「熱を上げる」「熱を入れる」 **血も涙もない** 意味人間的なあたたかさが全くなく、冷酷非情なさま。用法文型「ダレナニは血も涙もない」「血も涙もないダレナニ」。ナニは行為を指す。逆に「血も涙もある」と言うことがある。用例①坂口安吾『心霊殺人事件』(一九四九)「高利貸の後閑仙七です。血も涙もないので名高い父ですが」②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六八—六九)「大企業の元売なら法律に詳しい弁護士を連れて乗り込み、それこそ血も涙もない取立てだすわ」③『朝日新聞』(一九八九・九・六朝)「多くの日本人がソ連という国を心の底で信頼しえないのは、終戦時のソ連の示した血も涙もないやり方による」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「残虐非道、貪虐兇穢、眼をおおうばかりの血も涙もない、畜生にも劣る殺人鬼」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「エンパイアともあろう企業が年末のこの時期に、そんな血も涙もないことをやろ <242> うとしてるんですよ」 類句 「情け容赦もない」 外国語 英語では cold-blooded 韓国語では「피도(血も) 눈물도 (涙も)없다(ない)」 **茶々を入れる** 意味 「茶々」は邪魔のこと。冗談や冷やかしを言って、相手の話を邪魔したりさえぎったりする。 用法 文型「ダレダレがナニナニに茶々を入れる」。ナニナニは話など。用例②「皮肉の」のように「茶々」を修飾することは多くない。〔江戸〕 用例 ④夏目漱石『吾輩は猫である』(一九〇五)「苦沙弥さんに、よく伺おうと思って上ったら、生憎迷亭が来ていて茶々を入れて何が何だか分らなくしてしまったって」②有島武郎『或る女』(一九二九)「そうかと思うとじっと田川の群れの会話に耳を傾けていて、遠くのほうから突然皮肉の茶々を入れる事もあった」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一老一)「参謀長の中林大佐が言葉を挟んだ。師団長の長広舌に対して、茶々を入れたのである」④『朝日新聞』(二00四・七・五夕)「司会の角淳一さんが『おばちゃんというのは、大阪にしかいないんですよ』と茶々を入れても、『貴重なので大切にしたいと思います』と余裕の受け答え」 類句 「くちばしを入れる」「口をはさむ」「半畳を入れる」「水をかける」「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」 外国語 英語では chip in (with something fuuny) **宙に浮く** 意味 ある計画や構想、やるべきことなどがなされず中途半端の状態でとまっている。 用法 文型「ナニナニが宙に浮く」 用例 ②『朝日新聞』(一九六二・二・二六朝)「中山前長官が退任前に表明した学術会議改革のための第三者機関設置も宙に浮いたままだ」②『朝日新聞』(100m・九・二朝)「会社が払っていた事故の遺族への補償金は宙に浮いた」③『朝日新聞』(二00四・九・元朝)「中止の2試合を除く日程を終え、三冠王をほぼ手中にしたものの、代替試合の扱いが決まらず、タイトルは宙に浮いていた」 類句 「宙に迷う」 **注目を集める** 意味 「注目を浴びる」に同じ。 用法 文型「ダレナニが(ナニナニで)注目を集める」。自動詞形は「ダレナニに注目が集 <243> まる」 新聞』(二〇〇四・七・七夕)「今は五輪に出場することで注目を浴びてますが、今度はメダルですよね」③『朝日新聞』(二〇〇三・九・二二朝)「デビュー作で注目を浴びた翌年」④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・二〇朝)「性能の良さで注目を浴びていたのが今はなじみある『ボビン』形式」 用例①『朝日新聞』(二〇〇四・四・四朝)「東京ではここ数年、六本木ヒルズやら青山のプラダやら、おしゃれ建築が増殖中。『散歩』も和み系の遊びとして注目を集め、流行最先端の人はこぞって繰り出している」②『朝日新聞』(二〇〇四・八・二七朝)「数年して、渋谷系といわれたピチカート・ファイブやオリジナル・ラブが注目を集めだす。僕のやりたかった音楽をこの人たちはやすやすと形にしている」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・一三夕)「女性誌のモデルでデビューし、洋服のデザインも手がける雅姫さん。最近は好きなものを大切にするスローな暮らしぶりで注目を集めている」 類句「注目を集める」外国語中国語では成句「引人注目」(人の注目を引く) 外国語中国語では成句「引人注目」(人の注目を引く) **注目を浴びる** 意味人物・物・考えなどが期待・賞賛・あこがれなどの意味を込めて、多くの人々に見られ関心を持たれている。用法文型「ダレナニが(ナニナニで)注目を浴びる」用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九七六)「あばれ出したいほどかゆいのだが、お客様として注目を浴びているのだから、じっと、がまんしている他はない」②『朝日 **宙を飛ぶ** 意味人が空中を飛んでいく。転じて、飛ぶように速く走る。用法文型「ダレダレが宙を飛ぶように〜する」「ダレダレが宙を飛んで〜する」用例①泉鏡花『高野聖』(一九〇〇)「件の小坊主はそのまま後飛びにまた宙を飛んで、今まで法衣をかけて置いた、枝の尖へ長い手で釣し下ったと思うと、くるりと釣瓶覆に上へ乗って」②有島武郎『或る女』(一九一九)「発車を知らせる二番目の鈴が、霧とまではいえない九月の朝の、煙った空気に包まれて聞こえて来た。葉子は平気でそれを聞いたが、車夫は宙を飛んだ」③津本陽『深重の海』(一九八六)「弥太夫は宙を飛んで走った」 類句「宙をかける」とも言う。 <244> **調子に乗る** 意味(1)何かのはずみで勢いがついて、普段よりも行き過ぎた言動をする。おだてられたりして、いい気になって軽はずみなことをする。(2)何かのはずみで勢いがついて、物事がどんどんうまく進む。用法文型(1)「ダレダレが調子に乗る」「ダレダレが調子に乗って〜する」。用例②のように皮肉をこめて「お調子に乗る」と言う場合もある。(2)「ナニナニが調子に乗る」〔江戸〕用例①『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「調子に乗って値上げすればたちまち消費者に離反される」②森茉莉『恋人たちの森』(一九六二)「すぐお調子に乗る奴だ。それがねらわれる原因だ」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「ちょっと調子に乗り過ぎたかなと悔やんでも、千鶴の攻撃はやみそうにない」④吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇四)「同情で抱いてあげてるのに、あまり調子に乗らないでもらえますか」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・二九朝)「少し添削して送ると、『さすが師匠』とおだててくれるので、ますます調子に乗っている」(2)⑥「事業が調子に乗り、やっとくつろぐ時間ができた」 **提灯を持つ** 意味提灯をもって先導することから転じて、人の手先となってその人の宣伝をして回ったり、ほめて回ったりする。用法文型「ダレダレがダレナニの提灯を持つ」用例「あんなくだらない議員の提灯を持つとは、情けない」 類句(1)「図に乗る」(2)「流れに乗る」「波に乗る」 類句「お先棒を担ぐ」 **蝶よ花よ** 意味良家で、子ども特に女子を非常に、かわいがって大事に育てるさま。用法文型「ダレダレがダレダレを蝶よ花よと育てる」「ダレダレは蝶よ花よと育てられる」。用例④のような子育てと違う例はまれ。〔江戸〕用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(一八九七)「蝶よ花よと手の窪に生育し一人ッ子は生憎病身で面付を見れば幽霊の如く」②樋口一葉『たけくらべ』(一八九五)「十六七の頃までは蝶よ花よと育てられ」③吉屋信子『あの道この道』(一九四一—四四)「大丸家で蝶よ花よと何不自由なく愛され尊ばれ育つべきその赤ちゃんは」④森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七九)「こうなると現金なもので、いままでは、蝶よ花よと下へも置かぬ扱いをしていた各 <245> テレビ局が、いっせいに背を向けた」 類句 「目の中へ入れても痛くない」 外国語 英語では be brought up like a princess **ちょっとやそっと** 意味 「ちょっと」を強調した言い方で、打ち消しを伴って、簡単にはいかないさま、かなりの程度であるさま。 用法 文型「ちょっとやそっとでは〜ない」「ちょっとやそっとの〜ではない」 用例 ①高杉良『人事権!』(一九九二)「会長から商品券をもらったんですけど、それがちょっとやそっとの額じゃないんです」②「ちょっとやそっとでは了解してもらえそうにない」 類句 「ちっとやそっと」とも言う。 **血湧き肉躍る** 意味 戦いや試合、またその話や映画などを見たり聞いたり読んだりして、じっとしていられなくなるくらい、感情が高ぶったり全身が興奮したりする。また全身に力や勇気がみなぎる。観戦者や当事者の心について言う。 用法 文型「血わき肉躍る(といった) ナニナニ」 用例 ④『滑稽新聞』六六号(10個)「至誠国家を思う者、誰か血湧き肉躍ッて奮起鋭進せざらんや」②五木寛之『風に吹かれて』(一九七〇)「よく当る、ということと同時に、血湧き肉躍るといった楽しみ、すでに新聞紙上からは失われてしまった原始的な文章機能が、ここにはある」③野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「老人は、ビンが、自分の手にかけた男の、詳細な記事にいっこう関心払わぬことを不思議に思わぬらしく、むしろ血湧き肉躍るといった風にこれまでの経過を報告し」④『朝日新聞』(一九七九・七・一一朝)「聴いているうちに『血わき、肉躍る』感じになり、思わずからだが動き出す」 類句 「血が騒ぐ」「血が沸く」 **血を引く** 意味 先祖・親の血筋・特徴を引き継いでいる。 用法 文型「ダレダレはダレナこの血を引く」 用例 ④本所次郎『閨閥』(100円)「平成七年の参院選で東京地方区で当選する。これだけは父親の血を引いていたのかも知れない」②「彼は武家の血を引いている」 類句 「血がつながる」「血を分けた」 外国語 韓国語では「피를(血を) 이어받다 (受け継ぐ)」 <246> **血を分けた** 意味親子・兄弟などの血縁関係にある。用法文型「血を分けたダレダレ」〔江戸〕用例①島尾敏雄『死の棘』(一九七六)「じぶんの血を分けた孫がそばにいても、ひとつでもやろうとしないんですからね」②『4年の科学』(二〇〇二・八)「実は・・・今までだまっていたが、お前はわたしと血を分けた親子なのだよ」③『朝日新聞』(二〇〇四・二・四夕)「従順でない愛人(濱田マリ=好演)まで暴力で征服するずぶとい神経の男が、やがて血を分けた息子にまで見捨てられ」 類句「血がつながる」「血を引く」外国語韓国語で「血を分ける」は「피를(血を)나누다(分ける)」 **ツーと言えばカー** 意味一方が「ツー」と言えば、他方がすかさず「カー」と答えるように、互いに気心が通じ合っているさま。ツーカー。用法文型「ツーと言えばカーだ」「ツーと言えばカーのダレナニ」。ダレナニは人・人間関係を表す言葉(「仲」など)が来る。用例①浜尾四郎『殺人鬼』(一九三一)「新聞記者なんてものはひどく敏感でツーと云えばカーだからね」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九五二)「ツーと言えばカーと答えてくれる女同士の相手がいないのが、たまらなく寂しかったの」③高見順『都に夜のある如く』(一九五四-五五)「ツーと言えばカーと言ったところはあったが」 類句「打てば響く」「気心が知れる」「心が通う」「心が通じる」 <247> **付かず離れず** 意味人・組織に対して、あまり親しすぎることもなく、かといってそれほど疎遠でもなく、適度な関係を保っている様子。不即不離。用法文型「つかず離れずのナニナニ」。ナニナニは「付き合い」「関係」などの言葉。用例①森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「白崎とは数年前、競馬場で知り合いました。それ以後、つかず離れずのつき合いをしていましたが」②『朝日新聞』(二〇〇四・三・三朝)「血縁はなくても家族であるような、それでいてつかず離れずの人間関係のありようはないだろうかと考えてみました」③『朝日新聞』(二〇〇五・一・三朝)「一緒に住むだけが家族じゃない。『つかず、はなれず。それがちょうどいいの」」 用例①萩原朔太郎『海』(一九二六)「しかしながら海は、一の広茫とした眺めにすぎない。無限に、つかみどころがなく、単調で飽きっぽい景色を見る」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「茫漠と、つかみどころのない悲哀が私の胸にくすぶり」 外国語英語では maintain a cautious distance from *中国語では成句「不即不离」(不即不離) 類句「海のものとも山のものとも」「得体の知れない」「とらえどころがない」外国語英語では sort of vague **掴み所がない** 意味人の性質や物事の意味などが漠然としていてどんなものなのか、どんな人間なのか判断しようにもよくわからない。用法文型「つかみどころがないダレナニ」「ダレナニはつかみどころがない」 **月と鼈** 意味月もスッポンも丸いが、全く違うところから、二つのものの能力や価値がかけ離れて違っていることのたとえ。用法文型「ダレナニとダレナニは月とスッポン(ほどの違い)」〔江戸〕用例①石坂洋次郎『闘犬図』(一九四八)「どうだ、俺のやることは余裕があって上品で貧乏人達とは月とスッポンほどちがうだろう、と言わんばかりだ」②源氏鶏太『明日は日曜日』(一九五二—五三)「あの夜の宗田さんの態度は、桜井さんのだらしなさにくらべたら、月とスッポンほどの差があったんですもの」③木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(二〇〇〇)「階級は松永とおんなじやけど、あんなんとは月とスッポン、釣鐘に提灯じゃ」 類句「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「雲 <248> 泥の差」「及びもつかない」「げたが違う」「天と地」「歯が立たない」外国語英語では as different as night and day *中国語では成句「天壤之别」(天地の差。「别」は差) い」⑤「話のつじつまが合う」 **辻褄が合う** 意味「辻」は裁縫で縫い目が十文字に合うところ、「褄」は着物の裾の左右が合う所。話に食い違いがなく、筋道が通っている。物事の関係が矛盾しない。用法文型「ナニナニはつじつまが合う」「ナニナニはつじつまが合わない」。特に主語をとらず、全体で述部を表すことが多い。否定形が一般的。用例⑤のように「つじつま」を修飾することは可能。〔江戸〕用例①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「理路も時に辻褄が合わない事はあるが」②三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「悠一は辻褄の合わない口実であったが、妻の病室へ大事な忘れ物をしたと言った」③松本清張『点と線』(一九五八)「佐山を呼び出したのは、お時か亮子か。むろん、はじめはお時とばかり思いこんでいましたが、お時では、どうも辻褄が合わなくなりました」④『朝日新聞』(一九九一・三・二朝)「そういう地道な努力をせずに、反感をあおるようなことをするのでは、つじつまが合わな **辻褄を合わせる** 意味話に食い違いがなく、筋道が通るようにする。物事のやり繰りをして矛盾がないようにする。ごまかす場合に使うことが多い。「つじつまを合わす」とも言う。用法文型「ダレダレがつじつまを合わせる」。用例②のように「つじつま」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。用例①島尾敏雄『死の棘』(一九六〇)「その夜は何ごともなく、妻は自分のことばにつじつまを合わせ」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「警察によってととのえられた据膳に、ちらりと箸をつけてみて、前後の辻つまをあわすことがいに、検事のする仕事はなかったのである」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「実際に使うた注射でも査定に通らんのは、その価格に見合うほかの診療名目や薬の名をつけて辻褄を合わすのや」④柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「相手の話に食い違いがあったときに無理につじつまを合わせようとしてはならない」 類句「筋を通す」 <249> **土が付く** 意味相撲で負けて土俵に倒れると体に土がつくことから、力士が相撲で負ける。特に勝って当たり前の横綱や勝ち続けてきた力士がその場所で初めて負けた時に言うことが多い。転じて一般に勝負に負ける。用法文型「ダレダレに土がつく」。受身形が可能。用例①『朝日新聞』(二〇〇四・二・二七朝)「先場所は横綱昇進後最多の6敗を喫した。土を付けられたのは栃乃洋、岩木山、雅山、若の里、そして千代大海と魁皇」②「連勝の横綱に土が付いた」 ロッテが上位グループを形づくって激しいつばぜり合いを演じている」③『朝日新聞』(一九八一・九・三朝)「昨年は伊勢の二勝一敗、ことしもタッチの差でつばぜり合いを演じてきただけに『二人の対決』が見られないのはちょっとさびしい」 類句「しのぎを削る」「火花を散らす」 **鍔迫り合いを演じる** 意味「つばぜり合い」は、お互いが、刀の鍔を打ち合わせ押し合うこと。ほぼ同等の力を持つ者同士が激しく争う。多くは二者間について言うが、用例②のように三者の場合もある。用法文型「ダレダレが(ダレダレと)つばぜり合いを演じる」。②「激しい」のように「つばぜり合い」を修飾することが可能。用例①『朝日新聞』(一九八〇・七・一〇朝)「最多勝争いは、つばぜり合いを演じている」②『朝日新聞』(一九八一・六・二六朝)「一方のイースタンリーグは、首位西武と二位巨人、三位 **唾を付ける** 意味人に食べられないように食べ物に自分のつばをつけておくことから、人・物などについて、人の手に渡らないように、先に何らかのかかわりあいを作っておく。自分の所有物であることを示すためにあることをする。用法文型「ダレダレがダレナニにつばをつける」。命令・意志表現は可能。用例①開高健『巨人と玩具』(一九五七)「『この子はまだどこも手をつけていないのかい?』合田は待ってましたとばかりに私から受けとった封筒の中身を大テーブルにぶちまけた。『私がつばをつけましたんや』彼はそういって杏子を発見したいきさつや春川のスタジオでやったカメラ・リハーサルのことなどを説明し」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七九)「〝美村派』と見られるタレントの安貞工作と、緑川派の切りくずし。中立には少しでも早くつ <250> ばをつける必要があった」③『朝日新聞』(一九六一・三・三朝)「ソ連も宝探しにツバをつけておこうというのでしょうか」 類句 「先鞭をつける」 外国語 英語では have dibs on **粒が揃う** 意味 人・物が集まった中で、質のいいレベルのものがそろう。 用法) 文型「ダレナニは粒がそろう」。用例③「代表チームの」のように「粒」を修飾することは可能。〔江戸〕 用例 ㉡森鴎外『杯』(110)「年は皆十一二位に見える。きょうだいにしては、余り粒が揃っている。皆美しく、稍々なまめかしい。お友達であろう」②松本清張『点と線』(一九五八一五九)「この界隈では一流とはいえないが、それだけ肩が張らなくて落ちつくという。しかし座敷に出る女中は、さすがに粒が揃っていた」③「代表チームの粒がそろっているのでメダルが期待できる」 **潰しが利く** 意味 金属製品は溶かしてもまた再生が利くところから、転じて、ある職業をやめて別の職業に代わってもやっていける。 用法文型「ダレナニはつぶしが利く」。用例①のように否定形がある。 用例 ④椎名麟三『美しい女』(一九五五)「交通労働省というものは、どこへもって行っても、あまり潰しが利かないらしいのである」②高杉良『人事権!』(一九九二)「わたしは若い頃公認会計士の資格を取ってるから、つぶしが利くほうなんだ」 外国語 英語では have a marketable skill **壺に嵌る** 意味 「つぼ」は急所・要点のこと。(1)物事が見込み通りになる。12人が物事の要点・急所をしっかり押さえて言う。 用法 (1)文型「ナニナニが壺にはまる」(2)「壺にはまったナニナニ」。ナニナニは「指摘」「意見」などの発話行為。〔江戸〕 用例 11④「新事業が壺にはまり大成功」12②「彼の壺にはまった指摘にうなずく」 類句 (1) 「思うつぼ」「図に当たる」「的に当たる」(120)「急所を突く」「正鵠を射る」「当を得る」「的を射る」 **旋毛を曲げる** 意味 「つむじ」は、人の頭髪で渦を巻いたようになって生えていると <251> ころ。それが中央にない人は性格が悪いと言われることから、何らかの原因で気分を害して、わざと相手に逆らったり意地悪なことをしたり、ひねくれた行動をとる。用法文型「ダレダレがつむじを曲げる」。用例②④のように「つむじを曲げられる」と受身形がある。用例①坂口安吾『居酒屋の聖人』(一九四二)「この時とばかり俺のうちの糞便を汲んでくれなどと頼もうものなら、たちまちつむじを曲げて、いずれ四、五日のうちに、などと拗ねて手に負えなくなる」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「うっかりそんなことをして、ここで大河内教授に旋毛を曲げられてしまったら、菊川君はどうしようもなくなってしまう、いいかね」③平岩弓枝『風子』(一九七五—七七)「最初はなにがなんだかわからないでいた芸者達も、やがて先方の希望が通訳されると、まず、立三味線の八千代がつむじをまげてしまった」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇一)「女性からうまく話を聞き出すのはむずかしい。いったんつむじを曲げられるとテコでも口を開かなくなることがある」 **爪に火を点す** 意味ろうそくを手に入れることができずに代わりにつめに火をともすことから、非常に貧しい、また倹約して切りつめた生活をする。また非常にけちで物惜しみするたとえ。「つめに火をとぼす」とも言う。用法文型「ダレダレは爪に火をともして〜する」「ダレダレは爪に火をともすように〜する」「爪に火をともす(ような)ナニナニ」〔室町〕用例①夏目漱石『道草』(一九一五)「島田は吝嗇な男であった。妻の御常は島田よりもなお吝嗇であった。『爪に火を点すってえのは、あの事だね』」②嘉村礒多『秋立つまで』(一九三〇)「山葵とか筍とか果樹の類を栽培して爪に火を点すようにして厘毛を積んでいる吾家の、しかも近年頓に傾きかけた老父の苦衷を察して」③角田喜久雄『高木家の惨劇』(一九四七)「彼の、爪に火をとばすような蓄財法と同じく」④『週刊朝日百科 世界一〇〇都市 創刊2号』(二〇〇一)「オーヴェルニュ人は、ひたすら身を粉にして働き、爪に火を点して倹約することで有名だ」 類句「へそを曲げる」 外国語英語では scrimp and save **爪の垢でも煎じて飲む** 意味行いがよくないと思われる人がすぐれた人 <252> にあやかるようにする。用法文型「ダレダレにダレダレの爪の垢でも煎じて飲ませたい」「ダレダレはダレダレの爪の垢でも煎じて飲むがいい」。他者について言う。用例①石坂洋次郎『美しい暦』(一九五二)「僕の家内は女でもそんな卑しい心はもって居らなかった。貴女にはあれの爪の垢でも煎じて飲ましてやりたいほどだ」②源氏鶏太『夢を失わず』(一九五六)「偉いな。君のツメのアカでもせんじて、喜多君に飲ましてやりたいくらいだ」③高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「少しは副社長を見習ったらどう。爪の垢でも煎じて飲ませてもらえよ」 ②太宰治『お伽草紙』(一九四五)「それだけを気にしてわくわくして、そうして妙に客を警戒して、ひとりでからまわりして、実意なんてものは爪の垢ほども持ってやしないんだ」③鈴木健二『ビックマン愚行録』(一九七七)「およそ社会主義国などというのは、くそまじめのこちんこちんの国で、女の色気はつめのあかほどもないと信じていたのに」 外国語英語では take a lesson from someone 類句「蚊の涙」「雀の涙」外国語中国語では成句「一星半点」(ごくわずか) **爪の垢ほど** 意味ほんのわずかな量のたとえ。また取るに足りないもののたとえ。用法文型「爪の垢ほども(〜)ない」。多くは後ろに否定を伴う。用例①のような肯定形は現代ではまれ。〔江戸〕用例①夏目漱石『虞美人草』(一九〇七)「爪の垢ほど先を制せられても、取り返しをつけようと意思を働かせない人は、教育の力では翻えす事の出来ぬ宿命論者である」 **詰め腹を切らせる** 意味「詰め腹」は、強制されて切腹すること。事件・不祥事などの責任を、本人の意に反して無理に取らせる。用法文型「ダレダレがダレダレに詰め腹を切らせる」。後ろのダレダレには責任を負う人物・組織などが来る。用例③のように受身形がある。〔江戸〕用例①菊田一夫『君の名は』第二部(一九五二-五三)「後宮春樹に詰め腹を切らせた形の勝則にすれば、寝覚めの悪い話だった」②『朝日新聞』(一九七九・七・二六朝)「大平首相はじめ自民党執行部が、なかば強制的に詰め腹を切らせた形で」③『朝日新聞』(一九八〇・一〇・二三朝)「勝つためには、と、 <253> あっさりツメ腹を切らされた『ミスター・ジャイアンツ』」 **面の皮が厚い** 意味 恥知らずで厚かましい。ずうずうしい。厚顔無恥。鉄面皮である。 用法 文型「ダレダレは面の皮が厚い」〔室町〕 用例 「あんな面の皮の厚い奴は見たことがない」 類句 「心臓が強い」「心臓に毛が生えている」 外国語 英語では thick-skinned 韓国語では「낯가죽이 (顔の皮が) 두껍다(厚い)」 **鶴の一声** 意味 有無を言わせず物事を決定する権力・影響力のある人の一言。またそれであることがすんなりと決まったり実現したりすること。 用法 文型「(ダレダレの)鶴の一声で~する」。その後に決まったり実現したりする内容が来る。〔江戸〕 用例 ④林二九太『へのへのもへじ』(一九二)「『そんなこと訊くの、前野さんらしくないわよッ』鶴の一声を残すと、彼女はそのままサッサと出かけてしまったので」②『氷壁』(一九五六-五七)「(常磐は)ここでぴたりと語調を変えると、『岐阜へは行って来給え。休暇は五日。六日目には社へ出てもらいたい』鶴の一声で、休暇は五日となった」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「どなたかが手を廻されて、廻り廻って、運輸大臣の佐藤万治さんの鶴の一声で、土壇場で駄目になってしまって」④『朝日新聞』(一九六〇・五・二元朝)「田中元首相から『今回は女性候補の○○をやってくれ』といわれた。ツルの一声で十万票は移った」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「石井会長が創業者なら、そのくらいはツルの一声でなんとでもなるんだろうが」 外国語 英語では One's word is law <254> **テープを切る** 意味「テープ」は英語tape。競走でゴールのテープを切ることから、人が競走で一番、一着になる。用法文型「ダレダレがテープを切る」。用例③のように否定形が可能。①のように可能形がある。用例①谷脇素文『川柳漫画いのちの洗濯』(一九七〇)「華やかにテープが切れる新記録」②石坂洋次郎『美しい暦』(一九五二)「相川ヨシ子は、一年生をおぶって走る親子競走で堂々テープを切った」③山内リエ『葦のうた』(一九四九)「他所へ行ってはかつて一度もテープを切ったことのないちっぽけな選手に過ぎなかったのです」 用例①徳田秋声『あらくれ』(一九一五)「お島はそう言って、またハンドルに掴まった。朝はやく、彼女は独でそこへ乗出して行くほど、手があがって来た」②「三味線の手が上がる」(2)③「書道を始めて三年、かなり手が上がった」(3)④「以前より手が上がって一升瓶をかるく飲み干した」 **手が上がる** 意味(1)技量・技術が向上する。(2)字を書くことが上手になる。(3)酒量が多くなる。用法(1)文型「ダレダレはナニナニの手が上がる」。(2)(3)「ダレダレは手が上がる」〔室町〕 類句(1)「腕が上がる」(3)「メートルが上がる」 **手が空く** 意味自分の仕事などやるべきことをやってしまい、他のことをしたり、他を手伝ったりする時間や余裕がある。用法文型「ダレダレは手があく」。「仕事の手があく」などのように「手」を修飾することが可能。用例①野間宏『真空地帯』(一九五二)「自分、手があいておりますですから、四年兵殿、他にすることがありましたらその方をやって下さい。これは自分がやっておきますから」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「次の診察日に来て貰え、それでいけなければ、手の空いている誰かに廻すように」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「すぐ病院へ行って手当てを受けなければいかん。これは福原君よりひどいぞ。誰か手の空いている者が連れて行って <255> くれ」④『朝日新聞』(二00四八・六朝)「不定期だと、雨などで中止になるとそれっきり。毎週開かれるとわかっていれば、手があいたときに気軽にでかける」 類句 「体があく」「手がすく」 **手が後ろに回る** 意味 昔、罪人が後手に縛られたことから、罪を犯して、逮捕される。 用法 文型「(ダレダレの)手が後ろに回る」 用例 ④三浦綾子『塩狩峠』(一九六へ)「あの虎雄が、その後どんなことに会って、手がうしろに回るようなことになったのかと、その日一日心が落ち着かなかった」②野坂昭如『てろてろ』(一老一)「怖いとすれば何に対して恐れるのか、殺人発覚して手の後ろにまわることか」 類句 「お縄になる」 外国語 英語では be put behind bars **手が掛かる** 意味 面倒を見たり世話をするのに、時間や労力がかかる。やっかいだというニュアンス。 用法 文型「ダレナニは手がかかる」「ナニナニするのに手がかかる」「手のかかるダレナニ」。ダレナニには「手がかかる」対象が来る。用例④のように否定形がある。〔江戸〕 用例 ○山本道子『ベティさんの庭』(一九セニー七三)「マイクは冷淡で尊大で無精者で、とにかく日本の亭主たちのように自分勝手で我が儘で、三人の息子たちより手のかかる大きな赤ん坊になってしまった」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「最近、妻の実家では、その三十頭ほどの牛を全部処分してしまった。牛は手がかかる上、早朝から起きて牛の世話をするような若い人手がないためだそうである」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「したがって夫婦仲は極めて円満のようだ。手が掛かるのは貫太郎だけではない」④『朝日新聞』(100m・九・一七朝)「両親は情緒的な働きかけが十分ではなく、おとなしく手のかからない子として問題性を見過ごしてきた」 類句 「世話が焼ける」「手が焼ける」「手間がかかる」(『朝日新聞』〈二00四八・六朝〉「(フリーマーケットは)上手に生かせば、そんなに手間はかかりません」) **手が込む** 意味 人が手で作ったものの細工・技巧・やり方などが細かいところまで念入りに作業をしたあとが見られる複雑さを持つ。 用法 文型「手の込んだナニナニ」「ナニナニは手が込んでい <256> る」。前者のように修飾する形で用いられることが多い。〔江戸〕用例①山本道子『ベティさんの庭』(一九七二—七三)「スリッパの底はフェルトで、爪先の部分はストロヤーンの複雑な模様編で、その縁を手のこんだ刺繍で飾ってあった」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「その問いかけに手のこんだユーモアでもひそんでいるように」③中上健次『鳳仙花』(一九七六)「フサが手のこんだいやがらせを言うと」 **手枷足枷** 意味手かせ・足かせは手・足にはめて束縛する刑具。転じて、ある行動をしようとする際の束縛や制限。用法文型「ダレナニが手かせ足かせとなる」「手かせ足かせをはめる」「手かせ足かせをはめられる」〔室町〕用例①『朝日新聞』(一九九一・一〇・二朝)「おまけに外務省からは『発言はくれぐれも慎重に』と手かせ足かせをはめられる」②『朝日新聞』(一九八一・三・二七朝)「大蔵省にとって手かせ足かせとなっていた国民生活への公共サービスの切り詰めが着実に実行されているからです」 **手が付けられない** 意味何かが極端な状態、ひどい状態になって、まわりの者がそれを制御・処置・解決などをすることができない。その手段・方法がない。用法文型「ダレナニは手がつけられない」。常に否定形で用いられる。〔室町〕用例①福永武彦『忘却の河』(一九四九)「小学生の頃の香代子は、甘えっ子で、我が儘で、怒り出すと手がつけられなかった」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「トセがいきり立つと手のつけられなくなる人間であることを知っていたからだ」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「親方、自分の不注意であんたの足、駄目にしたって判ったときゃ、気狂いみてえになってさ、店中の石引っくりかえして、手がつけられなかったよ」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「それに対して親が少しでも意見がましいことを言おうものなら、手がつけられないほど荒れ狂う」⑤「火の勢いが強くて手がつけられない」 類句「手に余る」「手に負えない」「手のつけようがない」外国語英語では out of control *韓国語では「손을(手が)댈수가 없다(つけられない)」 <257> **手が出ない** 意味欲しい対象が自分の能力や財力よりはるかに上で、どうすることもできない。逆に、あまりにひどくて欲しいと思えない。用法文型「ダレダレはダレナニに手が出ない」〔江戸〕用例①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「いかに飢えているとはいえ、とても苦くて二度と手が出ぬ代物だった」②『朝日新聞』(二〇〇四・二・四朝)「シリア、トルコ経由でマレーシアに行くことを考えたが、闇の仲介業者に渡す費用は3千弗。月収170弗では手が出ない」 い彼方にいることを思い知らされたことはなかった」②我孫子武丸『0の殺人』(一九八九)「ホテルのレストランというだけでも手の届かない存在であるのに」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・一朝)「自分自身が本当に書きたい世界にはまだ手が届いていないというもどかしさをひきずりつづけていた」④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・六朝)「そもそも『担保はあるねん!」と胸張ろうにも、いまだにイラクの石油収入には、イラク政府の手は届かない」(2)⑤半村良『どぶどろ』(一九七七)「清吉は子供の頃からこの店へ奉公してもう四十に手が届く年になり」⑥東直己『古傷』(二〇〇四)「一人前の五十に手が届く男が」③(3)「妻の手が届く看病に改めて感謝する」 類句「手が届かない」「手に負えない」「手も足も出ない」 **手が届く** 意味手を伸ばして、対象に触れることができるという意味から、(1)物事や人が自分の能力・勢力の及ぶところにある。もう少しで、ある段階やレベルに達する。(2)ある区切りの年齢などに達する。(3)世話などが細かいところまで行き届く。用法文型「ダレダレがダレナニに手が届く」。「ダレナニの手の届くナニナニ」のように修飾の形で用いられることも多い。用例①②④のように否定形がある。〔江戸〕用例①辻邦生『北の岬』(一九七〇)「私は、そんな話を聞きながら、いまほどマリ・テレーズが私の手の届かな 外国語韓国語では「손이(手が)미치다(届く)」 **手がない** 意味施す手段・方法がない。用法文型「〜より(ほか)手がない」〔江戸〕用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「担当事件に熱を入れない弁護士の論説、裁判所の温情をねがうより手のいない極悪人つきの官選弁護人の口調は、期せずして教会調になる」②津本陽『深重の海』(一九七六)「立派な考案は無けら、やっぱり下から追うて行く外に、手はなかろか」③ <258> 中上健次『鳳仙花』(一九七六)「どんなにしてもうちが出来る事はこんな事しか出来ん。何にも他に手工ないんよ」④「事態を打開しようにも他に打つ手がなく、途方にくれるばかりだ」 文に親の手が入る」 **手が伸びる** 意味思わず手を伸ばして何かをしようとする。転じて、行動・捜査範囲がそこまで達する。用法文型「ダレナニの手が(ドコドコに)伸びる」用例①松本清張『点と線』(一九五八—五九)「佐山は課長補佐として実務に通じており、捜査の手が伸びる寸前でした」②『朝日新聞』(二〇〇四・七・二九朝)「こう暑いと、つい冷房のスイッチに手がのびる」③『朝日新聞』(二〇〇五・一・五夕)「捜査の手が周辺に伸びないようにしていたらしい」 類句(2)「手が加わる」「筆が入る」外国語韓国語では「손이(手が)뻗치다(伸び届く)」 **手が離れる** 意味(1)携わっていた、関係していた仕事などがし終わったり区切りがついたりして、それと無関係になる。(2)親から見て、子どもが成長して世話する必要がなくなる。用法文型(1)「ナニナニの手が離れる」(2)「ダレダレから手が離れる」用例(1)「編集の手が離れて印刷に回っている」(2)②「子供が高学年になり、やっと手が離れ楽になった」 類句「手が出る」 **手が入る** 意味(1)警察などの捜査が入る。(2)文章などが完成される過程で他人の訂正・加筆が施される。用法文型(1)「ナニドコに手が入る」(2)「ナニナニにダレダレの手が入る」〔江戸〕用例(1)①「麻薬密売組織に警察の手が入る」(2)②「作 **手が塞がる** 意味あることで忙しくして他のことができない。頼まれたことを断る口実に使うことが多い。用法文型「ダレダレは(ナニナニで)手がふさがる」〔江戸〕用例①高浜虚子『俳諧師』(一九〇八)「貴方お茶を入れて持って行って下さいな。今お常は使いにやったし、一寸私たちも手が塞がっていますから」②「あいにく妻が寝込んで手がふさがっているので、お断りします」 類句「手が離せない」 <259> **手が回らない** 意味手配が十分行き届かない。そこまでできる余裕がないというニュアンス。用法文型「ダレダレはダレナニドコに(まで)手が回らない」。「ダレナニの手が回らない」という形で「手」を修飾することは可能。〔江戸〕用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「家の中はかろうじて片づいていても、庭や生垣にまでは手が廻らなかった」②星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「本物そっくりの肌ざわりで、見わけがつかなかった。むしろ、見たところでは、そのへんの本物以上にちがいない。だが、頭はからっぽに近かった。彼もそこまでは手がまわらない」③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九五)「京都までは手がまわらなかったようです」④『朝日新聞』(二〇〇四・七・二四夕)「SLはさびやすく、掃除や塗り替えが欠かせないのだが、財政難で自治体も手が回らない」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・一・九朝)「電気や水道などはようやく復旧してきたが、雪対策には手が回らないのが実情だ」 **手が焼ける** 意味相手がいろいろと助けを必要とするので手数がかかってやっかいである。またその人を扱うのに苦労する。世話がかかる。用法文型「ダレダレは手が焼ける」用例「子どもがまだ小さいので手が焼ける」 外国語韓国語では「손이(手が)돌아가지않다(回らない)」 類句「世話が焼ける」「手が掛かる」「手間がかかる」 **できない相談** 意味実現できそうにない無理な頼み事。まとまるはずのない無理な相談。用法文型「ナニナニはできない相談」〔江戸〕用例①高杉良『会社蘇生』(一九八七)「筆頭株主のオーナー社長を排斥することはできない相談であった」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「そんなことはできない相談だな」③姉小路祐『走る密室』(一九九九)「増本は提案した。『そいつはできない相談だ(略)』」 外国語英語では a tall order **敵もさる者** 意味「さる者」とは「さある者」の縮約でさすがな者。敵も強く、なかなか な者と実力を認めるニュアンス。用法単独で使用。「敵もさる者、ひっかく者」と言うこともある。 <260> 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇-三一)「敵もさるもの、投げ倒されると同時に、長いからだをローラーのように、クルクルところがって、次にくる敵のおさえこみに空をうたせた」②「敵もさる者、簡単には捕まらない」 ない場所で、和服の似合う凄い美女が手ぐすねを引いて待ち構えている」 **手薬煉を引く** 意味「手ぐすね」とはくすね(松脂を油で煮て練り混ぜた物)を手にとって弓の弦に塗ること。転じて、十分準備して機会や敵などが来るのを今か今かと待ち構える。用法文型「ダレダレが手ぐすねを引いて待つ」。用例①②③のように「を」は略されることがある。〔南北朝〕用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七-八九)「さきほどより癇癪の種を釣り上げて手ぐすね引いて待っていた母親のお政は」②尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七—九八)「紳士の憎き面の皮を引き剥がん、と手薬煉引いて待ちかけたり」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「泉中氏の政治生命が、危いというんだ。反対党が手ぐすねひいて待っている」④『毎日新聞』(一九八二・二・三朝)「野党各党が手ぐすねをひいている所得税減税要求にどう対処するか」⑤木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「そこは闇のなかに深くかくされていて、魚津たち捜査員がちかづくこともでき 類句「網を張る」「爪を研ぐ」外国語英語では champ at the bit **梃子でも動かない** 意味どんと構えて、どんなにしてもその場から動かない。また、どんなことがあっても意志・信念を変えない。堅い決意を表す。用法文型「ダレダレは(~したら)てこでも動かない」〔江戸〕用例①久保田万太郎『続末枯』(一九一八)「自分でこうといい出したらテコでもうごかない鈴むらさんの相手になって」②源氏鶏太『三等重役』(一九四九—五一)「いったん気が向いたら、トコトンまで積極的に世話をするが、しかし、いったん気が向かなくなったら最後、たちまちそっぽを向いて、テコでも動かんといった女の美点と欠点を」③山崎豊子『続白い巨塔』(一九六八-六九)「安田太一という五十四、五歳の患者は、診察が終っても、裸の体のまま、艇でも動かぬ様子で坐り込んでいる」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「鳴海はぎくっとした顔になり、『いまはでられへんのです。事務所へどうぞ』梃子でも <261> てつをふむ うごかない態度でいった」 **手塩に掛ける** 意味「手塩」は好みの味付け用に膳に置かれた塩のこと。自分の手でいろいろ世話をして大事に育てあげる。用法文型「ダレダレがダレナニを手塩にかける」「手塩にかけて育てたダレナニ」。ダレナニには、人のほかに、組織・計画なども来る。〔江戸〕 用例①久保田万太郎『春泥』(一九八)「子役のむかしから手塩にかけて、あれだけの立派な役者にしたことを思えば」②有吉佐和子『恍惚の人』(一九七三)「敏の幼い頃、昭子に代って手塩にかけてくれた姑が今いないというのが淋しかった」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七宝)「手塩にかけた大きな事業計画が、いま陽の目を見るべく、確実にレールの上を走っている」④森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「同時に先占者は手塩にかけて培った彼女を、最も美しく熟れた時期に他の男へ引き渡したことを、櫛田が嫉妬する以上に悔しがっているにちがいないとおもった」⑤『朝日新聞』(1100円・七・一七朝)「堀氏が手塩にかけた旧江の島水族館の経営を引き継いだが」 類句「手に掛ける」「手を掛ける」外国語 英語ではbring up with tender loving care **手玉に取る** 意味「手玉」はお手玉のこと。相手を自分の意のままに扱い、もてあそぶ。用法文型「ダレダレがダレダレを手玉に取る」。命令・意志表現は可能。用例④のように可能動詞形がある。受身形が可能。〔江戸〕 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九五―天)「男を手玉に取るような工合には行かない」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九五八一五九)「おいおい、あんまり、僕を手玉に取るなよ」③『朝日新聞』(一九七九・三・二朝)「情報で武装した官僚たちは、外から政治家を手玉にとるだけではない」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「考えることが苦手な二十二歳の女の子に、わるがしこい行政官僚を手玉にとれるかな」⑤『朝日新聞』(100個・八・三夕)「この作品は、金持ち2人を手玉にとり、威張った主人をとっちめるスカパンのペテン師ぶりが見どころだ」 外国語 英語では run rings around someone **轍を踏む** 意味「轍」は車輪の跡、わだち。車の輪が通った跡をまた通ることから転じて、 <262> 前人がおかした失敗を後の人が繰り返す。用法文型「ダレダレが(ダレナニの)轍を踏む」。ダレナニには「前回」「昔」のような過去を示す語句や、過去の失敗をした人などが入る。用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「そう云って、伊勢叔母さまを迷わしたことは知っているわ………………子供心にも………………あたしは、叔母さまの轍は踏まないの」②『朝日新聞』(一九七九・九・一〇朝)「三重ノ海にとって、多くの先輩のテツを踏む要素は十分にあったわけだが」③森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「清子は彼女を開発した男と馴れ合いの癒着をしかけたのかもしれない。それに懲りて同じ轍を踏むまいしているのではないだろうか」④『朝日新聞』(二〇〇三・四・二五朝)「最後に言いたいことは、今の報道関係者や識者、それに野党の人たちまでが、昔の轍を踏みつつあるのではないかということだ」 型「手取り足取り〜する」。副詞句として述語を修飾する形で用いられることが多い。用例②のように「手を取り足を取り」と「を」格が入る場合もある。〔室町〕用例①『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「手とり足とり親切に教示してくれるタイプである」②『日経新聞』(一九八〇・一〇・二七)「議員活動を手をとり足をとって教えてくれるのは派閥しかない」③高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「手取り足取り教えていただいて」④『朝日新聞』(二〇〇四・六・四朝)「手取り足取り教えるのは簡単です」 類句「前車の轍を踏む」とも言う。「二の舞を演じる」外国語英語では fall into the same rut (as) *中国語では成句「重蹈覆辙」(覆轍を踏む。「重蹈」は再び踏む) 類句「手を取る」外国語英語では take someone by the hand and teach him step by step **手取り足取り** 意味懇切丁寧に教えたり指導したり世話したりするさま。用法文 **手に汗を握る** 意味緊迫した場面などを見て、どういう展開になるのかとはらはらどきどきする。用法文型「手に汗を握るナニナニ」「手に汗を握って〜する」。助詞「を」は略されることが多い。〔安土桃山〕用例①太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「破り棄てなさるなど、それまで一度も無かった事でございましたので、お傍の私たちはその度毎に、ひやりとして、手に汗を握る思いが致しました」②高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫 <263> てにいれる 版)「主役俳優の熱演に、固唾を呑み、手に汗を握ったのを憶えている」③『朝日新聞』(1100円・八・四夕)「本作は役どころとストーリーラインが明瞭で、美容院で気がつくと連載誌を手に汗握って読んでいた」④「手に汗握るシーソーゲーム」 外国語 英語では be on the edge of one's seat *韓国語では「손에 (手に) 땀을 (汗を) 쥐다 (握る)」 類句「始末に負えない」「力に余る」「手に負えない」「手の下しようがない」「手を焼く」外国語 英語ではbe too much for someone to handle **手に入れる** 意味自分のものにする、所有にする。用法文型「ダレダレがダレナニを手に入れる」。ダレナニには、人・具体物・抽象物などあらゆるものが入る。命令・意志表現は可能。〔室町〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九盗一―五三)「戦後ジャッキーは逸早く大磯の邸を手に入れると、馴染の外人を住まわせて経営の才をふるった」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一杂一)「現に私の妹は、君に殺されたも同様の自殺をとげたのに、まだ懲りないで、こんどは維子を手に入れたではないか」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「出不精なたちで、あまり旅行はしない。切符を手に入れたり、宿屋の手配をしたり(してもらったり)の面倒を考へると、もう厭になるのだ」④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(10)「人間というのは、どうしても手に入れたいもののためなら、時には異常者としか思えない行動にだって出るものなんです」⑤『朝日新聞』(二00四・二・二元朝)「長田監督が(略)優勝を手に入れた」 **手に余る** 意味人や仕事などが自分で対処、処理できる限度を越えている。用法文型「ダレナニがダレナニの手に余る」〔鎌倉〕 用例①島尾敏雄『死の棘』(10)「家の広いことは日々の生活には快いはずだが、今の私には手に余る」②有吉佐和子『恍惚の人』(一九三)「敏、あんなにママが頼んだのに、どうして老人ホームのことパパに言ってくれなかったの? もうママの手には余るのよ、お爺ちゃんは」③『朝日新聞』(二00㎜・10・二四夕)「私の考えでは、あの頃われわれが考えた進歩や発展は現在見ることができない。そしてそれは当然だという気が(気も)する。それを世界のこととして言うのはむろん私の手に余るから、一種抽象的な論として言うと」 <264> てにおえな て 類句「手にする」(外国語 韓国語では「슨에(手に) 넣다(入れる)」 **手に負えない** 意味人や仕事・状況などが自分の能力を超えていて扱いかねる。用法文型「ダレナニがダレナニの手に負えない」〔江戸〕 用例①安部公房『壁』(一莹一)「時間はもはや手に負えないものではなく、自由自在に調節できる実に便利な道具なのさ」②『朝日新聞』(一六〇・三・九朝)「素人の手に負えない技術を要する製品の購入に当たっては」③『朝日新聞』(1100円・九・四夕)「泣く親に『どうしてこんな体に生んだんだ』とやつあたりして手に負えないくらいグレました」 類句「力に余る」「手が付けられない」「手が出ない」「手に余る」「手の下しようがない」「手を焼く」 外国語 韓国語では「손에 (手に) 감당을 (堪当が)못하다(できない)」(「堪当」とは、よく忍耐し得ること) **手に落ちる** 意味(多く戦いや争いに負けたり、意に反して)相手の支配下に置かれたり、相手の所有するところとなる。用法文型「ダレナニがダレナニの手に落ちる」〔室町〕 用例①三浦哲郎『結婚』(一次七)「すでに私たちは、六月の末に、郷里の島が激戦の末に敵の手に落ちてしまったことを知らされていた」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一七九)「その日の午後三時三十分、ロシア軍の軍使が日本軍陣地を訪れて降伏を申し出、旅順は日本側の手に落ちた」③吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「暗号表がロシアの手に落ちているかどうかは確認できなかった」 外国語 韓国語では「수중에(手中に) 멀어지다 (陥る)」 **手に掛かる** 意味 (1)他者から取り扱われる。(2)殺される。用法文型「ダレナニがダレナニの手にかかる」〔鎌倉〕 用例 (1)①津本陽『深重の海』(一九老人)「鮪はゴンドに比べると値が張るが、二間を越す大物でも、仲買いの手に掛かれば三、四円の浜値で仕切られる」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「解読専門家の手にかかれば、容易に機密電報の内容を察知されるにちがいなかった」(2)③「首相は暗殺者の手にかかって死んだ」 <265> てにてをと **手に掛ける** 意味(11)自分で行う、扱う、よく世話をする。手がける。自分の手で殺す。用法文型(1)「ダレダレがナニナニを手にかける」「ダレナニを手にかけて育てる」(2)「ダレダレがダレダレを手にかける」〔平安〕 用例(1)①「自分が手にかけてきた仕事は最後まで見届ける」(2)②「我が子を手にかけて殺す怖ろしい親がいる」 類句「世話を焼く」「手塩に掛ける」「手を掛ける」「面倒を見る」 **手にする** 意味手に持つ。受け取る。自分の所有にする。用法文型「ダレダレがナニナニを手にする」。命令・意志表現は可能。 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(10) 「患者たちは手にした一枚のタオルを見て、クリスマスが来たことを確認した」②福永武彦『忘却の河』(一九六面)「彼女は道具を手にして部屋へはいって来ると」③『朝日新聞』(1100m・七・二天朝)「レコード店で澤野レーベルのCDを手にしている人を見たときなどは」④『朝日新聞』(二00四・九・四朝)「あなたは大人で、仕事を持ち、健康でもある。まずは自分が手にしているものをちゃんと評価してあげませんか」 類句「手に入れる」 **手に付かない** 意味他のことに気をとられることがあったり、調子が悪かったりで、今やるべきことに集中できない。用法文型「ダレダレはナニナニが手につかない」〔江戸〕 用例①三浦綾子『塩狩峠』(1尖^)「何かいつも頭がおおわれているような感じなんだ。勉強など手につかなくってねえ」②渡辺淳一『北都物語』(一九塩)「みな一旦、それぞれの机に戻ったが、御神酒が入ったせいか、仕事は手につかない」③『ドラえもんの小学生らくらく勉強法』(一九六)「また体調もととのえないと根気がなくなり、勉強が手につかない」 類句「足が地に着かない」「手がつかない」(外国語)韓国語では「손에 (手に) 잡히지않다(つかない)」 **手に手を取って** 意味愛し合う男女が一緒にどこかへ行くさま。用法文型「ダレダレはダレダレと手に手を取って~する」「二人は手に手を取って~する」〔室町〕 用例①里見弴『桐畑』(110)「岩本と園枝とは、手に手 <266> てにとるよ をとって亜米利加さんがいへ駆落をして了った」 類句「手を取り合う」外国語 韓国語では「손에(手に) 손을 (手を) 잡고(取って)」 **手に取るよう** 意味まるで自分の手の中にあるように、またすぐ近くにいるかのように、状況や心などが細かなところまではっきり分かったり見えたり聞こえたりするさま。用法文型「ダレダレはナニナニが手に取るように~する」。「~する」には「分かる」「見える」「聞こえる」などが来ることが多い。〔江戸〕 用例①山本道子『ベティさんの庭』(一九七二ー三)「そのひとつひとつの家の中の様子が、奈可子にはどれも手にとるように見えた」②柳田邦男『空白の天気図』(一九五)「それを見ると、気象というものがわずか一日という短い時間の間にも、いかに多彩な変化をするかが、手にとるようにわかるから」③高杉良『人事権!』(一九九二)「洋子には石井の気持ちが手に取るようにわかる」④森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「二十年余の夫婦生活によって青柳には彼女の心のありようが手に取るようにわかる」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「浅見はそのときの『犯人」の心の動きが、手に取るように分かるような気がした」 **手に乗る** 意味相手の策略にうまくひっかかる。用法文型「ダレダレがダレダレの手に乗る」。「その手に乗らない」と否定形で用いられることが多い。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九莹一―五≦)「松村が俺の謀事を見抜いて、その手に乗らなかったのにちがいない」②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九三)「何かというと、『みんなで年寄りをいじめるのよ」と哀れっぽく持ちかけてはブウたれているけれど、その手に乗ると、向こうずねをかっぱらわれるのがオチで」③吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(1100円)「おれが完全に油断していると見込んで、土壇場で真相を刑事に告げて、おれの逮捕に踏み切らせるつもりなんだ。くそっ、そんな手に乗るか」 類句「一杯食う」「一杯食わされる」「術中に陥る」 **手に入る** 意味自分のもの・所有になる。用法文型「ダレナニが(ダレダレの)手に入る」 <267> てのひらを 用例①三島由紀夫『禁色』(一盗――≦)「舶来物が安く手に入る店なので」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「そうだ、マリアナの情報はそうして手に入ったものなのだ」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「作家というものはすべて講演ができるものであると頭から思いこんでいるようなふしがある。・・・・・・喋りたいことを喋らせてもらった上、金まで手に入るのだ」④日下秀憲『ポケットモンスター スペシャル2』(一九九六)「これでミュウツーが完成し・・・、何者をも消滅させられる力が我らの手に入るっ=」 類句「掌中に収める」「手に入れる」外国語 韓国語では「손에(手に) 들어오다 (入る)」 **手に渡る** 意味別の人の所有になる。用法文型「ダレナニがダレダレの手に渡る」 用例①太宰治『新釈諸国噺』(一盗)「川底に朽ちたる銭は国のまる損。人の手に渡りし金は、世のまわり持ち」②『朝日新聞』(1100㎝・二三・七朝)「本がみんなの手に渡るまでにはいろんな形でお金がかかるの」 **手の下しようがない** 意味処置をしようにもできない。用法文型「ナニナニは手の下しようがない」 用例柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「藤原の指揮で当直の十数人が消火作業に当たったが、火の勢いは手の下しようもなかった」 類句「始末に負えない」「力に余る」「手が付けられない」「手に余る」「手に負えない」「手も足も出ない」 **掌を返すよう** 意味何かをきっかけにして、急に露骨に今までとは正反対の言動をとるさまのたとえ。用法文型「ダレダレはてのひらを返すように~する」。「てのひらを返したように」と「た」形をとる場合もある。 用例①野間宏『真空地帯』(一九二)「検察官はこの日を境として全く手の平をかえしたように木谷の陳述をくつがえすという態度にでてきていたのである」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「いくらわれわれの支持する葛西君が振り落されたからといって、その翌日、すぐに掌を返すように財前君を支持するような気持にはなれないですよ」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「は、は <268> てのまいあ ただいま、ご用意いたします』杉山は手のひらを返したように卑屈になり、地域課の部屋を飛びだして行った」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「現に、あの席上では口汚く罵ったではないか。それを掌を返すように絶賛するなんていうのは、どうも怪しい」 類句「手の裏を返すよう」とも言う。「手を返す」 **手の舞い足の踏む所を知らず** 意味非常にうれしくて体が踊り出すさま。非常にうれしくたまらないさま。出典は中国の古典『詩経』。用法文型「ダレダレは手の舞い足の踏むところを知らず」〔江戸〕 用例①押川春浪「警戒すべき日本」(110)「日本は一躍して世界一等国の班に列せり。余輩は手の舞い足の踏むところを知らざりき」 外国語 中国語では成句「手舞足蹈」(手は舞い、足は踊る) **手八丁口八丁** 意味手先も口先も器用である。用法文型「ダレダレは手八丁口八丁」〔江戸〕 用例①武田泰淳『風媒花』(一九強二)「手八丁口八丁のこのマルクス青年をやっつけるのは」 類句「口八丁手八丁」「口も八丁手も八丁」とも言う。 **出鼻を挫く** 意味相手が勢い込んで話そうとする事柄、何かをやろうとしている事柄を邪魔して、意気込んでいた気持ちを失わせる。また相手が調子に乗ってきた時に邪魔をしてだめにする。用法文型「ダレナニはダレナニに出鼻をくじかれる」。受身形で用いられることが多いが、用例⑤のように能動形もある。「ではなをくじく」とも言う。〔江戸〕 用例①高橋和巳『悲の器』(一二)「事柄が進展するにせよ、その出鼻をくじかれて挫折するにせよ、私には耳をふさぎたい衝動が何よりも強かったのだから」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一老一)「『それは変だと思います』(略)『変?』山路が出鼻を挫かれたような顔をした」③『京都新聞』(一九七九・五・三朝)「初日、二日目の連休は、雨が降るなどあいにくの空模様だったせいで、行楽の足も出鼻をくじかれた形になった」④吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(1100円)「よりによって、大事な決意を秘めて行った場所に、若い男ふたりがいた。それで出鼻 <269> でるまくで をくじかれ、二度と死ぬ勇気が湧いてこなかったのだ」⑤『朝日新聞』(1100円・四・一七朝)「相手の出ばなをくじくため、しゃべりで圧倒する術を身につけたのだ」 類句「出鼻を折る」「出端を叩く」とも言う。外国語)英語では kill someone's enthusiasm **手も足も出ない** 意味自分の能力ではどうすることもできない。講じる手段がなく困り果てる。また動きを封じられて、何もできなくなる。用法文型「ダレダレはダレナニに手も足も出ない」。用例③のように「出せない」と可能動詞がある。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九≧0-三)「さすがの恒川警部も、この妖術使いにかかっては、ほとんど手も足も出ないありさまであった」②『朝日新聞』(一九一・九・二五朝)「自民党の多数の力に手も足も出ないかっこうの野党」③東野圭吾『卒業』(一九六六)「確認済みだよ。だからこうして見ているだけで、手も足も出せないでいる」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「経済的な知識のまるでなく僕なんかには、チンプンカンプンで手も足も出ません」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「11三人が組が扼した凶器の前に、人質たちは手も足も出ない」 類句「力に余る」「手が付けられない」「手が出ない」「手に余る」「手に負えない」「手を焼く」(外国語 英語では can't get to first base * 中国語では成句「一筹莫展」(少しの方策も発揮できない) **手もなく** 意味簡単に。たやすく。用法文型「手もなく~する」。副詞的に述語を修飾する。〔室町〕 用例原民喜『心願の国』(一莹一)「この弾みのある、軽い、やさしい、たくみな、天使たちの誘惑には手もなく僕は負けてしまいそうなのだ」 類句「苦もなく」「事もなく」「訳もなく」 **出る幕ではない** 意味演劇で、その役者が出る場面ではないということから、転じて人が出しゃばって口出ししたり、手出ししたりして余計なことをすべきではない。自分または他者を戒める言葉。用法文型「ダレダレの出る幕ではない」。「ダレダレの出る幕じゃない」とも。〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「それにうちの <270> でるまくは 大学には、私などよりずっと先輩のお歴々の先生方がたくさんいらっしゃるから、まだまだ私の出る幕ではありませんよ」②五木寛之『風に吹かれて』(10)「そうね。もう英雄の出る幕じゃないのよ」③我孫子武丸『0の殺人』(一九九)「俺達殺人班の出る幕じゃない」 **出る幕はない** 意味出ていって活動・活躍する場がない。用法文型「ダレダレの出る幕はない」。「出る幕がない」とも言う。 用例①『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「英国では十八歳になれば、もう親の出る幕はないときいております」②内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「いずれにしても、かりにそっちの動機による犯行だとすれば、浅見の出る幕はない」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「あなたが自力で再就職先を探せるんなら、僕の出る幕はないが」 **手を上げる** 意味 (1)候補として名乗り出る。(2)暴力をふるう。(3)閉口して途中で投げ出す。降参する。(4)技量を上達させる。用法文型(1)「ダレダレが手を上げる」。命令・意志表現は可能。(2)「ダレダレがダレダレに手を上げる」。(3)「ダレダレが手を上げる」。(4)「ダレダレがナニナニの手を上げる」 用例(1)①『朝日新聞』(100m・九・二區朝)「ライブドアが早い段階で手をあげ、それがきっかけになって球界の縮小が避けられたことを忘れてはならない」(2)②向田邦子『字のない葉書』(一九六)「癇癪を起こして母や子供達に手を上げる父の姿はどこにもなく」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「さしもの彼も、今度ばかりは亜紀子のあまりの身勝手さに怒りを爆発させた。初めて手を上げた」(3)④「こんな難しい問題は手を上げるしかない」(4)⑤「酒の方も手を上げる」 類句 (1)「名乗りを上げる」 (2) 「手を出す」(3)「お手上げ」「がぶとを脱ぐ」「軍門に降る」「ジャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」「旗を巻く」(4)「腕を上げる」(外国語) 韓国語では「손을 (手を) 들다 (上げる)」 **手を合わせる** 意味願いが叶うように祈る。また、それから転じて、懇願したり感謝したりする。用法文型「ダレダレが(ダレナニに)手を合わせる」〔鎌倉〕 用例①向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「口ではあんなことを言っているが、『どうか長男が合格しますよ <271> てをうつ うに」と、腹の中で手を合わせているにちがいないのよ」②『朝日新聞』(100四・三・画朝)「男性は毎日の朝食の時、被害者の土師淳君(当時11)、山下彩花さん(同10)を思って手をあわせ、冥福を祈っているという」 **手を入れる** 意味一応できあがっているものを、さらによくなるように整えたり直したりする。用法文型「ダレダレがナニナニに手を入れる」。命令・意志表現は可能。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九갚1-吾)「机上の燈の下で、その未完の原稿を読み返していた。彼はところどころに赤鉛筆で手を入れた」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「小村は、電文の内容を口述し、山座がまとめた電文に手を入れ、本多電信主任に発信を命じた」 類句「朱を入れる」「手を加える」「筆を入れる」「筆を加える」(外国語 韓国語では「손을 (手を)보다(見る)」 **手を打つ** 意味(1)事前にまたは発生した問題を解決するために適当な手段や方策を講じる。(2)提示された事柄に合意する。契約が成立する。 用法文型(1)「ダレダレが手を打つ」。用例②⑤のように「手」を修飾することが可能。命令・意志表現は可能。①のように「手の打ちようがない」で、何の手段や方法もなく、なすすべがないという意味になる。否定形が可能。③のように「打つ手」と倒置が可能。(2)「~で手を打つ」。「〜で」に具体的な値段や「そのへんで」などが来る。 用例(1)①開高健『パニック』(一盗七)「日を追うにしたがって災厄が土のしたでいよいよ広範囲なものにひろがってゆくことが手にとるようにわかったが、俊介としてはなにひとつ手の打ちようがなかった」②半村良『どぶどろ』(一七)「敬助は我慢に我慢を重ね、最後のどたん場へ来て、まったく見事な手を打ってみせたのです」③藤本義一『サイカクがやって来た』(一売)「江戸時代初期に、幕府の打った手に、大名統制策というのがある」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「スパイをされてることをちゃんと見抜いて、その明日香さんにも加倉井にも気づかれへんように、きっちり手を打つんとちがいますか」⑤『朝日新聞』(1100円・10・1三朝)「警察としても何とか捕らえようと必死になって、色々な手を打っているのだろうとは思いますが」(2)⑥「そのへんで互いに手を打とう」「五千円で手を打った」 <272> てをかえし 外国語 英語では(1) take the necessary measures (2) shake (hands) on it *韓国語では「손을 (手を)쓰다(使う)」 **手を替え品を替え** 意味自分の目的を達成させるため、あれこれいろいろな方法を試みるさま。用法文型「ダレダレが手を替え品を替え(て)~する」 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七-八九)「それよりも手を替え品を替え種々にして仕官の道をさがすが」②嘉村礒多『業苦』(一九六)「ではお菓子を呉れてあげるから、どれ絵本を呉れてあげるからと手を替え品を替えて機嫌をとります」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「このように、手を変え、品を変えて攻められた場合、神経に異常を来さない方が、不思議である」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九盗)「矢代は手をかえ、品をかえて、悠にアタックしてきた」 類句「色を替え品を替え」とも言う。「あの手この手」 外国語 中国語では成句「千方百计」(あらゆる手段を尽くす) **手を掛ける** 意味 (1)手間と時間をかけて十分に面倒を見る。(2)手出しをする。危害を加える。用法文型「ダレダレがダレナニ(すること)に手をかける」 用例(1)①三島由紀夫『禁色』(一盜--≦)「実によく仕込まれた犬、或る習慣の力にすぎない智慧の集積、そういう印象が彼女の生来の美しさをさえ、何か丹念に手をかけて作られた植物の美しさのように見せた」②山本道子『ベティさんの庭』(一九七二-三)「手をかけさえすれば、胡瓜や茄子は家族だけで食べるには充分過ぎるほどの実をつけた」(2)③『朝日新聞』(100円・10・110朝)「長男は将来を悲観して、両親に手をかけた」④『朝日新聞』(1100ェ・一・六朝)「なぜ7歳の女の子に手をかけたのか」 類句 (1)「世話を焼く」「手塩に掛ける」「手間をかける」「面倒を見る」 **手を貸す** 意味仕事やお年寄り・障害者などを手助けする。手伝う。用法文型「ダレダレがダレナニに手を貸す」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一盗1-≦)「悠一はあたかも <273> てをきる 妻が、彼の心の奥底の衝動を見抜いていて、それに手を貸そうとしているかのような奇怪な想像に襲われたが」②三浦哲郎『結婚』(一六七)「こんな力仕事になると、父親はそばで見学しながら文句ばかり並べていて、ちっとも手を貸してくれないものだと心得ているふうな口振りである」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「普通ならば目の不自由な者に俺たち目あきが手を貸してやるところでしょう」④『朝日新聞』(100四・二・六朝)「銀行が国債を買っていれば、国の尻拭いに手を貸す行為ともいえる」⑤「段差があって上れない車椅子の人に手を貸す」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け舟を出す」「力を貸す」「手を差し伸べる」外国語 韓国語では「손을 (手を) 빌리다(貸す)」 **手を借りる** 意味手助けをしてもらう。手伝ってもらう。用法文型「ダレダレがダレナニの手を借りる」。ダレナニは援助する側。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九盗一-≦)「俊輔自身は生来の無趣味から、皿や料理にむつかしい好みがあるわけではなかったが、懇望にほだされて、人を招くときは彼の手を借りるならわしである」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「さらに暗号表を手にしたロシア側ではアンセルの手を借りることなく解読作業を行っていた」③『朝日新聞』(1100m・11・二九夕)「『こんな時こそ手を借りたいのだが……………』。新潟県中越地震の被災地を思って、ぐっと言葉をのみ込んでしまう」 外国語 韓国語では「손을 (手を) 빌다 (借りる)」 **手を切る** 意味今まで関わっていたものとの関係、特に男女関係や好ましくない関係を断ち切る。用法文型「ダレナニがダレナニと手を切る」。後ろのダレナニには、今まで関わっていた対象が来る。用例④のように使役形が可能。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九二四)「寿代さんと手を切った」②三島由紀夫『禁色』(一九玺1-五三)「今後一切、私とは手を切ってもらいたい。私の方も未練は決して見せない」③源氏鶏太『緑に匂う花』(一九盗二―五三)「太郎が路子と早く手を切った方がいいのではないか」④森茉莉『恋人たちの森』(一穴二) 「ギランが、学校をサボって愚連隊の仲間に入っていたレオを仲間と会い手を切らせ」 <274> てをくだす 類句「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」外国語 韓国語では「손을 (手を) 끊다 (切る)」 **手を下す** 意味人に任せずに、自分が直接ことを行う。用法文型「ダレダレが手を下す」。命令・意志表現は可能。〔鎌倉〕 用例①大岡昇平『俘虜記』(1盗人)「これは例えば、自分が他人を殺すと想像して感じる嫌悪と、他人が他人を殺すと想像して感じる嫌悪が全く等しいのを見ても明らかである。この際自分が手を下すという因子は必ずしも決定的ではない」②『朝日新聞』(一六〇・四・二七朝)「自ら正面切って手を下すのはためらわれる事情があった」③森村誠一『人間の十字架』(一九≦)「会長が命令したり、手を下したりされたわけではありませんよ」 **手を拱く** 意味本来は腕組みをする意。転じて、何かすべきことやできることがあるのに、何らかの理由でぐずぐずして何もしないで傍観する。出典は中国の古典『戦国策』。用法文型「ダレナニが手をこまねいて~する」。用例①のようにナニが来ることはまれ。「手をこまねく」とも言う。〔江戸〕 用例①高橋和巳『悲の器』(1尖三)「それらの犯罪が、予知される場合もなお手をこまねいて傍観せねばならぬ現行警職法は」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「消火の方法もなく手をこまねいて見ているだけだった」③『朝日新聞』(1100円・10・西朝)「和歌山県教委は『手をこまぬいてはいられない』と平山教授を教員向け講師として招いている」 外国語 英語では with one's arms folded *中国語では成句「袖手旁观」(手を袖の中に入れて傍観する) **手を差し伸べる** 意味困って自分ではどうすることもできない状態にいる者に対して、援助をする。手助けを申し出る。用法文型「ダレナニが(ナニナニの)手を差し伸べる」。用例②③④「人間らしい」「救済の」「救いの」のように「手」を修飾することは可能。命令・意志・受身表現は可能。 用例①高橋和巳『悲の器』(一二)「人の堕落は、その断崖からの転落であり、みずからの心の中の陥穽ゆえに、他者が手をさしのべるべき手段はない」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇) 「その彼に初めて人間らしい手をさし伸べたのが、美村紀久子であった」③『朝日新聞』 <275> てをだす (1100㎜・10・10朝)「国家は、市場の横暴にタガをはめ、社会福祉や生活扶助などで手厚い救済の手を差し伸べる必要があるというのだ」④『朝日新聞』(1100円・11・天朝)「かねて持論としてきた『13勝以上が目安』という昇進条件を下げて救いの手をさしのべた」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け舟を出す」「力を貸す」「手を貸す」外国語 韓国語では「손을 (手を)뻗치다(差し伸べる)」 **手を染める** 意味自分が実際にある行為を行ったり、仕事・事業・活動などに関わったりするようになる。良いことにも悪いことにも言うが、悪いことに言うことが多い。用法文型「ダレダレがナニナニに手を染める」。ナニナニには関わりをもつ対象が来る。 用例①半村良『どぶどろ』(一九七七)「それにもともと武家の間には、直接金銭のことに手をそめるのを嫌うならわしがあったろう」②中上健次『鳳仙花』(120)「もう政治に手を染めるのもいやになった齢になって、やっと自分のやる事がわかったと喜んでいると言った」③東野圭吾『美しき凶器』(一九三)「仙堂君はドーピングに手を染めていたらしいと」④『朝日新聞』(1100四・九・二四夕)「島の再開発に手を染めようとする元教え子」 類句「手を出す」「手をつける」 **手を出す** 意味(1)自分から働きかけてかかわり合いを持つ。(2)性愛の対象として、(本来関係を持つべきではない)人に自分から働きかけて関係を持つ。特に女性と関係を持とうとする。(3)他人のものを盗む。(4)暴力を振るう。用法文型「ダレダレがダレナニに手を出す」。ダレナニに働きかけの対象をとる。命令・意志表現は可能。 用例(1)①吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「寛は家運の挽回をはかって木材の伐採・販売に手を出したが」②『朝日新聞』(100m・10・三朝)「グランド社の会員には、複数のマルチ商法に手を出していた人が目立つ」(2)③三浦綾子『塩狩峠』(一六人) 「人妻に手を出しても、未婚の乙女に手を出しても、これは法律にふれることになると信夫は思う」④星新一『ボッコちゃん』(一九七二)「いくら人類愛、郷土愛、民族愛にもえていたって、かつて自分のワイフに手を出した男を助けるバカなどあるものか」⑤龍一京『交番』(1100円)「警察官なら他人の女房に手出し <276> てをつくす ていいのか」③⑥三浦綾子『塩狩峠』(一ㄊㄟ)「人の月給に手を出すより罪は重いぜ」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「ある日、江波山の高射砲隊の倉庫の備品に手を出そうとした若い隊員がいた」④⑧「先に手を出した方が負けだ」 類句 「11)「手を染める」「手をつける」(12)「手をつける」133 「手をつける」④「手を上げる」外国語 韓国語では「손을 (手を)대다(つける)」 **手を尽くす** 意味よい結果になるように方法を考えてできるかぎり努力して対処する。用法文型「ダレダレが手を尽くす」「ダレダレが手を尽くして~する」。命令・意志表現は可能。〔平安〕 用例①松本清張『点と線』(一九五八―五九)「いろいろと手をつくしましたが、なにぶん以前のことではあるし、宿帳には偽名が多く、また、記帳を出さないふとどきな旅館もあるので、現在のところ手がかりがありません」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「最後まで手をつくしてラウルの生命をまもりぬかなければならない」③『朝日新聞』(二00四・八・七朝)「八方手をつくしてオーナーをさがした」 類句「最善を尽くす」 **手を着ける** 意味 (1)何かにとりかかる。着手する。(2)本来使うべきでないお金を使う。使い込む。(3)供されたものを食べ始める。(4)身分的に上位の男性が下位の女性と関係を結ぶ。用法文型「ダレダレがダレナニに手をつける」。「手を付ける」とも書く。 用例(1)①柳田邦男『空白の天気図』(一九塩)「吉田の話だと、市役所は職員がほとんど集まらないため、災害復旧にどこから手をつけてよいかわからないでいるようすだったという」(2)②『朝日新聞』(100円・八・六夕)「演劇はすでにほかの都市が手をつけていたが、コンテンポラリーダンスを取り上げるところはまだ無く、差別化が図れると考えた」②③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「無駄遣いをしない風子のことで、新橋で働いた二年の間に、貯金が三百万ほど出来ている。これだけは手をつけないようにして、いつか嫁入りの時に持たせてやりたいと思い」(3)④山本道子『ベティさんの庭』(一九七二一七三)「硝子のテーブルには洋酒の用意がされてあるのに、高志はそれに手をつけていなかった」⑤『朝日新聞』(1100円・九・九夕)「魚料理には手をつけないことに気づいた料理人が」④⑥筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「旦那が女中に手をつけるのは、あれはやはりエプロン姿に性的魅力を感じ <277> てをぬく たためではないだろうか」②内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「女好きの利兵衛が早晩、手をつけるであろうことは、周辺の者は誰もが予測していた」 類句 (1)「手を染める」「手を出す」(4)「手を出す」 外国語 韓国語では「손을 (手を)대다(つける)」 **手を取る** 意味相手の手を自分の手の中に収めるということから、懇切丁寧に教える。用例②③のように受身形になると、人手をとられるという意になる。用法文型「ダレダレが手を取って~する」「ダレナニがダレナニに手を取られる」。受身形が多い。〔平安〕 用例①島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「勅使下向となって、慶喜公は将軍の後見に、越前公は政事総裁にと、手を取るように言って教えられて、ようやくいくらか目がさめましたろうさ」②瀬戸内春美『女徳』(一九六三)「奥のさわぎに手をとられるのか、亮子たちの部屋は、料理だけが次々に運ばれてきて、誰もよりつかない」③『朝日新聞』(100五・二・一五朝)「弟が生まれると親は弟に手をとられることが多くなり、祖父母に甘えることが多かったですね」 類句「手取り足取り」 **手を握る** 意味(1)共通の目的のために協力して事に当たる。同盟を結ぶ。(2)仲直りをする。用法文型「ダレダレがダレダレと手を握る」。命令。意志表現は可能。 用例(1)①『朝日新聞』(100・九・一九朝)「東宝の、松竹からの長二郎引き抜き騒ぎが背景で、のちの大映社長、永田雅一の犯人教唆がいわれた。しかし後年、長二郎改め長谷川一夫と永田は手を握る」(2)②「ここらで両者は手を握って過去は水に流そう」 類句 (1)「手を結ぶ」外国語 韓国語では「손을 (手を)잡다 (取る)」 **手を抜く** 意味やるべきことをきちんとやらず、いい加減にやる。手間や労力を惜しんで適当にする。用法文型「ダレダレが(ナニナニの)手を抜く」。否定形・命令·意志表現は可能。〔江戸〕 用例①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九≦)「仕事の手を抜くことはできない」②城山三郎『毎日が日曜日』(一莹)「自然条件以上にこわいのは、人間の側 <278> てをぬらさ が、手を抜き、意欲を失うことであった」③『朝日新聞』(1100㎜・10・1夕)「謝礼のあるなしで手を抜く医師などあり得ないなど、その回答は明快だ」④『朝日新聞』(二00四・九・七朝)「自分の中の『老い』に対しても決して手を抜かない。昔話をせず、いつも『明日』だけを見ている」 類句「骨を惜しむ」外国語 英語では cut corners *韓国語では「손을 (手を)빼다 (抜く)」 **手を濡らさず** 意味自分では直接何も苦労せず。多くは自分の利益につながることに言う。用法文型「ダレダレはダレダレの手を濡らさず~する」。「手も濡らさず」とも言う。〔室町〕 用例「あいつは少しも自分の手を濡らさず、うまい汁を吸おうとしている」 **手を伸ばす** 意味手を伸ばして何かを行うことから転じて、今までしなかったことを新たにやってみる。行動範囲を今まで以上に広げて進出する。本業以外の仕事や他人の範囲にまで進出する。用法文型「ダレダレがダレナニに(ナニナニの)手を伸ばす」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①辻邦生『北の岬』(120)「私はその不安を癒そうとして、図書館にこもり、長い読書をした。心理学の本を開いたり哲学を読みあさったり、民俗学にまで手をのばしたりした」 類句「手を広げる」 **手を離す** 意味自分が今やっていることから離れて他のことをする。用法文型「ダレダレがダレナニから手を離す」。用例①のように可能動詞がある。③のように可能動詞の否定形が可能。命令・意志表現は可能。 用例①野間宏『真空地帯』(一九二)「會田は今日は昼飯の時間までに予定しただけの仕事をやりおえ、ようやく仕事から手がはなせるときがきても」②野間宏『真空地帯』(一二)「勿論その頃はまだ家に人でがあったので家事の責任を母親が一日も手をはなさずもたなければならないというようなことはなかったわけである」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「何?出発前の多忙さで手が離せない」 外国語 韓国語では「손을(手を) 메다 (離す)」 <279> てをまわす **手を引く** 意味かかわることをやめる。従事していたことをやめ、身を引く。用法文型「ダレダレがダレナニから手を引く」。命令・意志表現は可能。用例①のように可能動詞がある。②のように受身形が可能。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(一九盗一-≦)「あれこそは青年のあらゆる美の持主であり、人生の日向の住人であり、(略)女を愛し女に愛されるように生まれついた男だ。あれなら安心して手を引ける」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「維子は拒むくせに、こうして男にあっさり手を退かれてしまうと、寂しくて物足りなかった」③津本陽『深重の海』(一九七人)「弥平は、いまさら鯨方から手を引き、残存の諸道具を売払っても、僅少な金額しか戻ってこないことを、理解していた」④東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九六)「今年になって、それに関する研究からすべて手を引いた」⑤『朝日新聞』(100m・10・五夕) 「女たちが男たちから手を引いてしまうことに気がついていない」 類句「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」「身を引く」外国語 英語では back out *韓国語では「손을(手を) 빼다 (引く)」 **手を広げる** 意味行動範囲を今までより広げて活動する。仕事の規模を大きくする。 用法文型「ダレナニがナニナニに手を広げる」〔江戸〕 用例①『朝日新聞』(1100円・九・三七夕)「霞が関の官僚から三重県知事選に立候補した村尾信尚さん(48)が敗れてから1年半になる。今は関西学院大学教授の職の傍ら、市民活動にも手を広げる」②『朝日新聞』(二00四・三・三三朝)「甘い需要予測で事業を始め、途中でさらに手を広げる」 類句「手を伸ばす」 **手を回す** 意味(1)目的を達成するために、うまくことが運ぶように表だたないような形で関係者に挨拶したり頼んだりして事前の対処をする、手段を講じる。(2)手を尽くして探る。用法文型「ダレダレがダレナニに手を回す」。命令・意志表現は可能。 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「どなたかが手を廻されて、廻り廻って、運輸大臣の佐藤万治さんの鶴の一声で、土壇場で駄目になってしまって」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「ドイツに多数入りこんでいるロシア高等警察探偵吏が、ドイツ警察の便宜をうけて電信局内に手をまわし、公使館の受発信の電文の写しを <280> てをむすぶ 取得している形跡があることをつかんだ」(2)③松本清張『点と線』(一九五八―五九)「石田部長は進行している省内の汚職事件に神経をとがらせているときだから、慎重にした方がいいというのが主任の意見だった。わかったよ、と言ったのは、ほかから手をまわして調べた結果の意味だった」 類句 (1) 「手を打つ」「渡りをつける」 **手を結ぶ** 意味ある事柄を進めて行くために、相手と協力関係を結ぶ。用法文型「ダレダレがダレダレと手を結ぶ」。命令・意志表現は可能。 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九三七)「京都政界は薩摩と会津が手を結んで、リードすることになったが」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「日本も、世界屈指の軍事大国であるイギリスと手をむすぶことによって、地勢上、日本の安全をおびやかす清国、韓国へのロシアの軍事的進出を牽制しようとする意図をいだいていた」③内田康夫『歌わない笛』(一九六)「室口氏が倉敷の総合芸術大学構想の推進者であることはご存じのことと思います。それに対して笹倉氏は津山音楽大学の後援者。この二人が裏で手を結び」④広山義慶『私刑警察激弾!』(11001)「貝島元大蔵大臣と、霞が関にクモの巣のように情報網を張りめぐらせたといわれる竹上元総理が手を結べば、いかなるメカニズムも組み立てられるでしょう」 類句「手を握る」(外国語 韓国語では「손을 (手を) 잡다(取る)」 **手を焼く** 意味扱ったり対処したりするのにてこずる、困る、苦労する。用法文型「ダレダレがダレナニに手を焼く」。用例④⑤のように「手を焼かせる」と使役形で使うこともある。〔江戸〕 用例①三島由紀夫『禁色』(1盗一-≦)「仲人の夫婦がこの大人しい子供っぽい新夫婦の世話に手を焼いていた」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九人―五)「あれには、わしも、手を焼いている」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「事務局に、あんな電話をかけて来るとなると、相当な女だから、ことによると君も手を焼いているんじゃないかな?」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「おそらく仙石のことだ、ノラリクラリと曖昧な供述をして、刑事の手を焼かせているにちがいない」⑤『朝日新聞』(100㎝・二・九朝)「これがワアワア騒いでみんなの手を焼かせた義母なのかしらと、変貌ぶりに驚いた」 <281> てんにもの 類句「始末に負えない」「力に余る」「ヂがつけられない」「手に余る」「手に負えない」「手の下しようがない」 **手を休める** 意味今やっている作業や仕事などを一時的にやめて、休憩する。用法文型「ダレダレが(ナニナニの)手を休める」。用例①のように否定形が可能。 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(120)「詰所の中では信子一人が、手を休めず黙々とカルテをめくっていた」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「仕事の手を休めると説明を加えた」 類句「手を止める」「一息つく」外国語 韓国語では「손을 (手を) 쉬다(休める)」 **伝家の宝刀** 意味本来は、代々その家に伝わる大切な刀の意で、それから転じて、普段は隠しておいて、ここぞという大事なときに使う手段・事柄。用法文型「伝家の宝刀を抜く」。また名詞句として、さまざまに用いられる。〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(1尖1)「『離婚訴訟は、面倒なのだ。今それをやれば、反対党の好餌となる』『伝家の宝刀が出た。それを云われりゃ、女はグウの音も出ません』」②『朝日新聞』(一九七九・三・二六朝)「背負投げを伝家の宝刀として来た藤猪選手」③『朝日新聞』(一九八〇・七・二五朝)「愛のムチが伝家の宝刀ではなく、日常茶飯になっている世界にはどこかゆがみがある」 ④『朝日新聞』(1100円・10・三朝)「このため、従業員側にあるストという伝家の宝刀は、すっかりさび付いてしまったのだ」 類句「奥の手」 **天にも昇る** 意味自分の身にはとてもありえないようなことが起こって非常にうれしい様子、うきうきした気持ちのたとえ。用法文型「天にも昇る(ような)気・気持ち・心地」。後ろの名詞を修飾する形で用いられることが多い。用例②のような「天へも」はまれ。〔室町〕 用例①太宰治『新釈諸国噺』(一四)「才兵衛はただもう天にも昇る思いで、うれしくてたまらず」②福永武彦『忘却の河』(一九四)「あの人が親切に一緒に来ないかと言ってくれた時は天へも昇るような気がした」③高杉良『会社蘇生』(一六七)「念願の小川商会に採用が内定して天にも昇る心地になっていた」④我孫子武丸『0の殺人』 <282> てんびんに (一六九)「恭三は天にも昇るような思いだった。沙由理さんはこの俺を頼りにしてくれているのだ」 **天秤に掛ける** 意味 (1)二つのうち、どちらかを選ばなければならない時、両者のプラス面・マイナス面、優劣・損得をあれこれ比較し考慮する。(2)対立しているどちらが有利になっても、自分に有利になるように両者に関係をつけておく。用法文型「ダレダレがダレナニとダレナニを天秤にかける」 用例(1)①高杉良『会社蘇生』(一九六七)「西北とシアーズを天秤にかけている」②『YANASE LIFE』(1100四年一二-三月号)「しんどいしツラいのは当然なんだけど、天秤にかけたとき、楽しいが勝ってないと上達しないし前に進まないと思います」(2)③「二人を天秤にかけて、どちらにも贈り物を贈っている」 類句 (1)「はかりにかける」(2)「両天秤にかける」 外国語 英語では weigh the advantages of *と* **何奴も此奴も** 意味だれもみんな同じように。後ろに良くないことを伴ってなじって言う俗語。用法文型「どいつもこいつも〜だ」〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-三)「ママの生んだ子はどいつもこいつも抜け目がないや」②大沢在昌『心では重すぎる』(11000)「いっしょですね。どいつもこいつも」 **どういう風の吹き回しか** 意味どのような成り行きでこのようになったのか。物事の成り行きの意外さを言う表現。用法文型「~とはどういう風の吹き回しか」「どういう風の吹き回しか、~」 用例①樋口一葉『別れ霜』(六九二)「お珍らしやお高さま今日の御入来は如何いう風の吹きまわしか」②内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「大島さんが当社にいらっしゃ <283> とうげをこ るとは、どういう風の吹き回しかな?」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「メーカーの採用担当課長風情に身銭を切って奢ってくれる教授は例外中の例外だ。どういう風の吹き回しだろう」 外国語英語では What brought this on? **頭角を現す** 意味人よりひときわすぐれた才能・技芸が目立って出てくる。出典は中国の古典『韓愈』柳子厚墓誌銘。用法文型「ダレダレが頭角を現す」 用例①佐藤春夫『わんぱく時代』(一九六)「満十歳にちかくなって高等小学校へ入るようになってから、やっと少しは頭角をあらわしはじめた」②『朝日新聞』(一六一・一・雲朝)「千代の富士が奮起し、頭角を現したのは、ちょうどそのころからである」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「朋美は幼い頃からバレリーナを目指していたということだった。そして最近では、所属するバレエ団でも頭角を現してきたらしい」④吉村達也『「橫濱の風」殺人事件』(1100円)「そして、新天地でもみるみる頭角を現して、いまや営業部長のポストに就いていた」 類句「異彩を放つ」「一頭地を抜く」「群を抜く」 外国語 英語では stand out (above) *中国語では慣用句「露头角」(頭角を現す。「露」は現す、「头角」は頭角) **薹が立つ** 意味「とう」はフキやアブラナなどの花茎のことで、花期に花茎が伸びて固くて食べられなくなることから、転じて人が盛りの年齢を過ぎてしまう。男女の結婚の時期についても言う。用法文型「ダレダレはとうが立つ」〔江戸〕 用例①高杉良『人事権!』(一九九二)「洋子はとうが立つ年齢だが」②森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(一九九九)「二十七歳はホストとしては薹が立っている」③木谷恭介『京都小町塚殺人事件』(1001)「年齢は四十八か九、ちょっとトウが立ってるけど、ダンディなフェミニストで」 **峠を越す** 意味気候の厳しい時期、人・組織などの最も大変な忙しい時期、あるいは最も難しい・危機的時期を過ぎて先の見通しがつくようになる。また、人気や人の最も盛んな時期を過ぎて衰え始める。用法文型「ダレナニが峠を越す」 用例①『朝日新聞』(一九七八・八朝)「暑さもこれで峠を <284> どうにいる 越しこれからの暑さは残暑ということになる」②福永武彦『忘却の河』(一九面)「もっとも私の病気は肺炎の一歩手前でどうやら食い止められ、美佐子が飛行機を使って割に早く駆けつけた時には、もう峠を越していた」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「気象台では暴風雨が峠を越してからも、臨時観測が続けられた」④『朝日新聞』(一九七九・七・二五朝)「歌謡曲『岸壁の母』をヒットさせた二葉百合子も、興行的には峠を越した感じ」⑤西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(1000)「入院患者の多くが、快方に向かって、家に帰っております。峠は、越したと、私は、考えています」 類句「峠を越える」とも言う(『朝日新聞』〈二00四・三・11朝〉「不良債権問題は峠を越えたということでしょうか」) 外国語 仕事などの場合は get (be) over the hump、病気の場合は pass the crisis、人気や人生の場合は have peaked **堂に入る** 意味「堂に升りて室に入る」の略で、学問・技芸がよく身について深奥を極めている。また、すっかり慣れて心得ている。技術や、態度・様子などがそのものにふさわしく、ベテランの域に達している。用法文型「ナニナニが堂に入っている」。文末では「〜ている」形で用いられることが多い。修飾する場合は「堂に入ったナニナニ」と「~た」形も可。 用例①源氏鶏太『青空娘』(一九五六-モ)「彼の運転振りは、すっかり、堂に入っていて、すこしの危なげもなかった」②三浦哲郎『結婚』(一六七)「チャンはその仕事が好きだし、その仕事にかけては誰にもひけをとらない。抱き方も、堂に入っている」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「瀬川の司会ぶりは堂に入っている。どこへ出しても通用するよ」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「圧倒的な声量で歌った『フィガロの結婚』のアリアの一つは、プロのオペラ歌手が真っ青になるほどの堂に入った歌いぶりであった」⑤『朝日新聞』(100・10・三朝)「身だしなみがこざっぱりとし(アヤコ義姉さんありがとう)、英会話も堂に入っていた」 類句 「板に付く」「様になる」「年季が入る」 **当を得る** 意味発言ややり方などがその状況でもっともふさわしく適切である。 用法文型「当を得たナニナニ」。文末では「ナニナニは当を得ていた」と「〜テイル」形で用いられる。 <285> どくにもく 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一老一)「これは現在の登山術でいうところの極地法であり、最も当を得た手段であった」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一老一)「『その小室由紀子とかいう美人は、生活に困るのかね?』那須警部が当を得た質問をした」③『朝日新聞』(一九七九・六・二七朝)「これらはいずれも当を得たことで、テレビづけや電力消費の悪習を是正する好機といえないことはない」 類句「急所を突く」「正鵠を射る」「つぼにはまる」「的を射る」。反対は「当を失する」 **度肝を抜く** 意味予想もつかないような(すごい)ことをしてひどくびっくりさせる。用法文型「ダレダレはダレダレの度肝を抜く」。受身形「ダレダレは(ダレナニに)度肝を抜かれる」がよく使われる。〔江戸〕 用例①野間宏『真空地帯』(一九二)「准尉の荒々しい声は二人の身体をすくませたが、隊長もまたその声によってどぎもをぬかれたようだった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「幸先のええ滑り出しやと喜んでいたのも束の間で、今日の大河内さんの証言にはど肝をぬかれましたわ」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「徳島大尉の叱咤は案内人の度肝を抜いた」④『朝日新聞」(一九六〇・七・三三朝)「九連続三振という快投を見せてファンのド肝を抜いたのは記憶に生々しい」⑤内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「総額二千六百億円の『レインボードーム計画』は、九州財界人の度肝を抜いた」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表をつく」「裏をかく」「一泡食わせる」「一泡吹かせる」(外国語 英語では blow someone's mind **毒にも薬にもならない** 意味他の人に与える影響が特に良くも悪くもない。有害でもないが、役にも立たない。あってもなくてもどうでもいい場合に言う。用法文型「ダレナニは毒にも薬にもならない」。常に否定形で用いられるが、用例⑤のように意図して肯定形で用いられる場合もまれにある。「毒にも薬にもならぬ」とも言う。〔江戸〕 用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(一八八七)「一寸合の手に月と亀と云う根も葉もなく毒にも薬にもならぬ事を一席弁してお笑い草と致しましょう」②夏目漱石『道草』(一九一五)「毒にも薬にもならない世間話を何 <286> とぐろをま 時までも続けて動かなかった」③石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「毒にも薬にもならない作品をたくさん書いて、平凡な家庭で長生きするよりはずうっとましな生活だと思うの」④高杉良『人事権!』(一九九二)「悪く言えば毒にも薬にもならない存在だが」⑤『朝日新聞』(100㎝・七・元夕)「助っ人? 不安材料?ムーア監督 過激さ、毒にも薬にも」 類句「可もなく不可もない」外国語 英語では blah **とぐろを巻く** 意味蛇が渦巻き状に巻いてじっとしていることから、転じて数人が特に用もなく、ある場所に集まって長時間雑談などをして、腰を据えて動かずにいる。その行動を批判的に言った表現。多くは不良少年少女やチンピラなどの行為を指す。用法文型「ダレダレがとぐろを巻く」 用例①大下宇陀児『風』(一九美)「ついこないだまで、大阪の方へ行ってとぐろを巻いていたんだが」②石坂洋『山のかなたに』(一九)「マサ公こと村田政吉ほか十人ばかりの血桜団員は、機械体操の飛板に腰を下ろして、おおっぴらで煙草を吸いながらトグロを巻いていた」③津村秀介『京都着10時12分の死者』(一六九)「やっぱり、そこでトグロを巻いていましたか」 **毒を食らわば皿まで** 意味いったん罪を犯してしまったからには処罰されることには変わりはないのだから、とことん罪を重ねてしまおうということ。用法単独で使用。助詞「を」を略することもある。 用例①大下宇陀児『虚像』(一九翌)「毒くらわば皿まで、といった感じね。だいじょうぶ?」②高杉良『首魁の宴』(一九六)「どんな顔をしたっていいわ。毒を食らわば皿までよ」 **毒を以て毒を制す** 意味悪・悪行を懲らしめ抑えるには他の悪・悪行を利用する。用法文型「毒をもって毒を制す」「毒をもって毒を制すナニナニ」。ナニナニは「策戦」や「やり方」など手段方法に関する言葉が多い。 用例①源氏鶏太『実は熟したり』(一九八―売)「僕は、日向さんを信頼して、いっておいた方がいい、と決心したんです。いわば、毒を以て、毒を制する策戦です」②大沢在昌『悪夢狩り』(一九盗)「君たちの国には、毒をもっ <287> どこふくか て毒を制す、ということわざがあるそうだが」 外国語 英語では fight fire with fire *中国語では成句「以毒攻毒」(毒をもって毒を制す) **床に就く** 意味睡眠を取るために寝床に入る。病気などのために寝込む。用法文型「ダレダレが床につく」 用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「宮地博士はかるい脳出血で一度床についた」②津本陽『深重の海』(一九七人八)「新屋敷の弥太夫の家では、裏庭に向いた奥の居間に、孫才次が床についていた。数日前から右股に瘍ができて」 類句「床に入る」「床に臥す」 **どこの馬の骨とも分からない** 意味どういう素姓かわからず信用できない人のことをののしって言う言葉。用法文型「どこの馬の骨ともわからないダレダレ」。修飾する形で用いられることが多い。「どこの馬の骨とも知れぬ」「どこの馬の骨だか分からない」「どこの馬の骨か分からない」とも言う。 用例①江戸川乱歩『鬼』(一些一―三)「どこの馬の骨だかわからない、渡り者のあばずれ娘」②森村誠一『新幹線殺人事件』(10)「そんな貴重な時間を、どこの馬の骨ともわからぬ道連れに奪われたくはありませんからね」③『朝日新聞』(一九一・二・二九朝)「なるほど、クレジット会社にしてみれば、どこの馬の骨ともわからない者に信用貸しなどできないのでしょう」④東野圭吾『宿命』(一九九○)「それにどこの馬の骨ともわからないような女の子じゃ、行恵さんだって困るでしょう」⑤岩城捷介『免職警官』(100三)「どこの馬の骨かわからない相手に、自殺を遂げた同僚の女性について、あれこれ打ち明けてはくれないだろう」⑥本所次郎『閨閥』(1100円)「失礼だが、加藤となると、どこの馬の骨とも知れぬ」 **どこ吹く風** 意味周囲の状況や忠告などを、自分に関わりのないことであるかのように、関心をもたず気にかけない様子。用法文型「ナニナニ(など)もどこ吹く風で~」 用例①岩城捷介『免職警官』(100) 「おれはいまだに容疑者として捜査線上に浮かび上がりもせず、街中を大手を振って歩いているし、捜査が及ぶ心配などどこ吹 <288> どこもかし く風で、のうのうと暮らしている」②清水一行『ITの踊り』(100回)「ほとんどのメンバーが会議に無関心、というよりどこ吹く風という表情だった」③『朝日新聞』(1100㎜・10・三朝)「6年前、参院東京選挙区で70万票を得て初当選したとき、こんな句を詠んだ。『嵐とて どこ吹く風よ オレの道』」 外国語英語では (completely) indifferent *中国語では成句「东风吹马耳」(東風が馬の耳を吹く、馬耳東風に聞き流す。「马耳东风」とも言う) **どこもかしこも** 意味どの場所もすべてという意の強調表現。用法文型「どこもかしこも〜だ」〔室町〕 用例①内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「車を停めて死体を投げ捨てるのには、どこもかしこも適しているようには思える」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「木津川流域の谷がどこもかしこも産廃処分場だというのは事実であった」 類句「あちらもこちらも」「どこもかも」 **年甲斐もない** 意味もう少し若いならともかく、そんな年に似つかわしくない。年齢のわりに思慮・分別に欠けるさま。自分の年齢を考えないで、振る舞うことを批判的に言う言葉。自分にも他者にも言う。用法文型「ダレダレが年甲斐もなく〜する」〔江戸〕 用例①伊藤左千夫『野菊の墓』(10六)「此母が年甲斐もなく親だてらにいらぬお世話を焼いて」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一杂二)「寧ろ、こだわっているのは浩太郎の方で、それこそ、とみ子から見れば年甲斐もないということになりそうである」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九塩)「半年ぶりの本社づとめ。鳩羽色十二階建のビルに入るとき、沖は年がいもなく、胸のときめくのを感じた」 外国語 英語では unbecoming to one's age **どじを踏む** 意味不注意から間の抜けた失敗をする。俗語。用法文型「ダレダレがどじを踏む」。用例④「とんでもない」のように「ドジ」を修飾することは可能。〔江戸〕 用例①徳永直『太陽のない街』(一九八)「友人の秘書な <289> とってつけ ればこそ、注意したのだろうがハテそんなドジをふんだ覚えはないつもりだが」②矢野目源一『戦後風俗史』(一九二)「部下がドヂをふむのを加虐的興味を以て眺めて密かに快哉を叫ぶ」③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「白崎がドジを踏んで、警報ベルを鳴らしてしまったので、佐久間が現場へ駆けつけてしまいました」④大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「少しでも眠っておかないと、とんでもないドジを踏みそうな気がする」⑤岩城捷介『免職警官』(100三)「もとはといえば、あいつがドジ踏んだからよ」 **取っ替え引っ替え** 意味「取り替え引き替え」の転。いろいろと次々に替えるさま。用法文型「ダレナニをとっかえひっかえ(~)する」 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九二-三)「初めのダンナに死なれてから、とっかえひっかえ、八人ぐらいのダンナ」②「衣装を取っ替え引っ替えして舞台をこなす」 外国語 英語では one after another **どっちに転んでも** 意味二通り、またはそれ以上の結果が予想される時、どんな結果になっても。たいして差がないことを言う。「どっちへ転んでも」とも言う。用法文型「どっちに転んでも〜だ」 用例内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「どっちに転んでも刑事課のやっていることだ」 外国語 英語では either way **どっちもどっち** 意味両者とも同程度に良くなく、そう違いはない。用法文型「ナニナニはどっちもどっち」〔江戸〕 用例①高杉良『指名解雇』(一九九七)「あんな男を一課長にした荒垣さんの目は節穴としか言いようがないな。どっちもどっちだけど」②「見通しの甘さはどっちもどっちで責任は免れない」 類句「どんぐりの背比べ」「似たり寄ったり」 **取って付けたよう** 意味よそから持ってきてくっつけたように、言動などが不自然で、わざとらしい様子。用法文型「取って <290> とっぴょう つけたようなナニナニ」「取ってつけたように~する」 用例①井伏鱒二『黒い雨』(一九六五一六六)「取って附けたように厳しい語調で僕に云った」②「とってつけたようなお世辞を言う」 **突拍子もない** 意味常識ではまったく予想もつかないような。普通では考えられない言動をとるさま。用法文型「突拍子もないダレナニ」。ダレナニを修飾する形が多い。〔江戸〕 用例①夏目漱石「文芸と道徳」(一九二)「突拍子もない偉い人間すなわち模範的な忠臣孝子その他が世の中には現にいるという観念がどこかにあったに違ない」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「『でも、そういったら、病院では行かせてくれないもの』『相変らず、突拍子もないやつだ』」 類句「気が遠くなる」「常軌を逸する」「とてつもない」「途方もない」外国語 英語では flabbergasting **トップを切る** 意味「トップ」は英語のtop。一番になる。また、数多い中で、最初に何かを始める。用法文型「ダレナニがナニナニのトップを切る」 用例①川端康成『浅草紅団』(一九二九—三0)「花屋敷の電光ニュウスは、一九三○年の夏の、『断然トップを切った』のだ」②『中央公論』(10・1三) 「去年の秋反対運動のトップを切った先輩検事連は微苦笑している」③高田保『第2ブラリひょうたん』(10) 「新しいモードといえば、極めて少数の人がそれで飾り立ててそのトップを切るこどだろう」④『朝日新聞』(一九六二・二・二0朝)「『ロッキード事件判決の年』のトップを切って開かれた十九日の参院決算委員会で」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下一人がトップを切って課長になった」 類句「イニシアチブを取る」「尖端を切る」「先頭を切る」 **途轍もない** 意味「とてつ」とは道理、筋道の意。筋道が通らない、また、常識では考えられないほど程度がはなはだしいさま、並はずれていること。用法文型「とてつもないナニナニ」「とてつもなく~」〔江戸〕 用例①有島武郎『或る女』(一九二九)「葉子が時々途轍もなくわかりきった事を少女みたいな無邪気さでいう」②有島武郎『或る女』(一九一九)「『何をするもんですか。人間 <291> に何ができるもんですか。・・・・・・もう春も末になりましたね』途轍もない言葉をしいてくっ付けて木部はそのよく光る目で葉子を見た」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「このあひだ、とてつもなく高い原稿料をもらひました」④『朝日新聞』(一九八四・三・六朝)「毎日とてつもない量をとらないといけないものなど、首をひねりたくなるような情報もあります」 **類句**「気が遠くなる」「常軌を逸する」「突拍子もない」「途方もない」 **とどのつまり** 意味「とど」は「ボラ」という出世魚の最終の名前。途中の段階ではいろいろあるものの、最終的には、結局のところは。当人の期待や予想とは違ってあまり望ましくないところに落ち着く時に用いられることが多い。途中の段階のごたごたのわりには、落ちつくところに落ちついたという感じで用いられることが多い。 用法文型「とどのつまり(は)〜する」「とどのつまり〜だ」〔江戸〕 用例①正宗白鳥『入り江のほとり』(一九一五)「とどのつまり、こう解決をつけて、最早彼れの身の上を誰も問題にはしなくなった」②谷崎潤一郎『痴人の愛』(一九二四)「ナオミは此方へ帰って来る。トドの詰まりはそうなるのだろうが、その間の苦労と云うものは?」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「要は、君の云うその大切な学問、研究も、とどのつまりは、教授の絶大な権力によって賄われているわけじゃないか」④鈴木健二『ピックマン愚行録』(一九七七)「そうこうしているうちに、次の戦争をおっぱじめてしまうから、余計にわからなくなり、とどのつまりは、歴史とは何かまでを問い詰める結果になる」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「とどのつまり、彼は何と言ったか」 類句「挙げ句の果て」「つまるところ」 外国語 英語では in the end **止めを刺す** 意味 (1)人を殺す時、生き返ることがないように致命的な一撃を加える。転じて、完全に最後の一撃を加えることで、二度ともとにもどれない状態に相手を陥れる。また再起できないように徹底的に打ちのめす。(2)多くの同類の中で、これにまさるものはない。最高だ。 用法文型(1)「ダレナニがダレナニにとどめをさす」。受身形・命令·意志表現が可能。(2)「ナニナニはダレナニにとどめをさす」 <292> とにもかく 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「これで敬二が東京行の企はいよいよ十々滅を刺された姿になって」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「さらに財前派の止めを刺すために、あれほど卑屈な思いを我慢して、東都大学の船尾教授の大阪入りを迎えて」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「被害者が一度ぐったりしたあと、ネクタイをさらに首にひと巻きして、いわば、とどめを刺した」④『朝日新聞』(一九一・五・二朝)「右ノドワ攻めから両差しとなられ、大きく振りまわされたあと左下手投げでトドメを刺された」⑤森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「『……………白崎さんの死体と金沢さんの写真にガラス粉を移すことのできる人物は、あなた以外にいません』牛尾は止めを刺すように言った」(2)⑥筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「小説は筒井康隆にとどめをさす。他に小説はいらない」 類句 (1)「息の根を止める」「引導を渡す」「亡き者にずる」外国語英語では finish someone off **兎にも角にも** 意味いろいろと問題はある(あった)が。用法文型「とにもかくにも~する(した)」〔平安〕 用例①大下宇陀児『情獄』(10) 「兎にも角にも、それで刀自のことが一段落付いて了うと」②内田康夫『秋田殺人事件』(1001) 「とにもかくにも選び出した二十人が多いというべきか、それとも少ないのか、浅見にはよく分からなかった」③「とにもかくにもこの方法でいこう」 類句「何はともあれ」 **どの面下げて** 意味相手に迷惑をかけておきながら、またやって来る相手の非常に恥知らずの厚かましい態度・行為をののしる言葉。また、自分の行動が恥ずかしい時にも使用。用法文型「どの面下げて~する」。「どの面下げて来た」と言うことが多い。〔江戸〕 用例①細木原青起『晴れ後曇り』(一九二九)「ドの面下げて来たの」②中村うさぎ『家族狂』(一九九七)「担当編集者に向かって、どのツラ下げて言えばいいんだ?」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「皆さんに合わせる顔がありません。どの面下げて来たのかと言われても仕方がないと思ってます」 類句「面の皮が厚い」外国語 韓国語では「무슨(何 <293> の) 낯짝으로(面で)」 **怒髪天を衝く** 意味髪の毛が逆立って天をつかんばかりの激しく怒る形相。 用法文型「ダレダレは怒髪天をつくほど(ばかり)〜」 用例①夏目漱石「教育と文芸」(一九〇七)「意気天を衝く。怒髪天をつく。炳として日月云々という如き、こういう詞を古人は盛に用いた」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「藤原の怒りは、まさに怒髪天を衝く勢いであった」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下が聞いたら怒髪天を衝くことになるかもねぇ」④『朝日新聞』(二〇〇三・七・三一朝)「ライオンのビューティケア事業本部の山本記也さんは昨年6月の会議で、事業本部長たちから、怒髪天をつかんばかりにハッパをかけられた」 類句「怒髪冠を衝く」とも言う。「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくりかえる」「烈火の如く」 外国語 中国語では成句「怒发冲冠」(怒髪冠を衝く。「沖」は衝く) **飛ぶ鳥を落とす** 意味空高く飛ぶ鳥も驚いて、落ちてしまうほど、権勢・威勢の盛んなさまのたとえ。不可能なことがないほど、勢いに乗ってやり遂げるさまのたとえ。 用法文型「ダレナニは飛ぶ鳥を落とす勢い」「飛ぶ鳥を落とす勢いのダレナニ」。「飛ぶ鳥も落とす」とも言う。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒潮』(一九〇三)「此は当代の日本に飛ぶ鳥を落す藤沢伯爵である」②木下尚江『火の柱』(一九〇四)「当時海軍で飛ぶ鳥落とす松島を立腹させちゃ大変だから」③本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「信元はフヨウ放送の会長であり、いまや飛ぶ鳥をも落とす勢いの経団連会長の植村甲午郎に相談した」④吉村達也『「鎌倉の琴」殺人事件』(二〇〇〇)「スキャンダルの主が、飛ぶ鳥を落とす勢いのミュージシャンが所属する事務所の社長だったため」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・二〇朝)「当時、横浜にできた地方局、ラジオ関東は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの若々しいラジオ局だった」 類句「騎虎の勢い」「破竹の勢い」「日の出の勢い」 **途方に暮れる** 意味「途方」は進むべき方向のこと。どうすればいいのか、どうやっ <294> て事態を解決していいかわからず困り果てる。 用法文型「ダレダレが途方に暮れる」〔室町〕 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「太郎は、途方に暮れる思いで、寮に帰った」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「部屋に戻るとここも雑多な転落物で収拾がつかない。私は途方にくれて、下の段に寝ているサード・オフィサーを覗きこんでみた」③『朝日新聞』(一九八四・六・二朝)「不幸な子をかかえ、治療費の余裕もなく、途方にくれたままの家庭が、もっとありはしないか」④森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「櫛田は途方に暮れた体の彼女を見かねて、声をかけた」⑤『朝日新聞』(二〇〇三・九・三夕)「フランスでは何でもないことが、ロンドンでは全然うまく行かず、途方に暮れてしまう」 外国語 英語では be at one's wits' end **途方もない** 意味「途方」は進むべき方向のこと。常識や道理に外れていたりかけ離れていたり、あきれるほど程度がはなはだしい。 用法文型「途方もないダレナニ」。ダレナニを修飾する形が多い。〔江戸〕 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「海にもぐるには途方もない圧力と闘わねばならない」②黒岩重吾『背徳のメス』(一九七〇)「ガス中毒事件以来、信子は時々、途方もない失策をおかした」③『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「それに経済的にも、途方もない軍事費はだせないところにきている」④西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(二〇〇〇)「途方もない考えですね」 類句「気が遠くなる」「常軌を逸する」「突拍子もない」「とてつもない」 外国語 英語では whopping **止め処ない** 意味物事や動作・行為が延々と続き、終わりになることがない。 用法文型「とめどなく~する」「とめどないナニナニ」「ナニナニはとめどがない」。「とめどがない」「とめどもない」とも言う。〔江戸〕 用例①平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「泣くまいと思うと、逆に涙はあとからあとからとめどがなかった」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「舟崎老人は、話好きというより、話相手に飢えている感じがあった。いったん口を開くと、とめどなくしゃべり出す」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「もう脈うっているペニスを抜き出して、麻生野の広い腹の上に、そいつがとめども <295> なく精液をおくり出すのを感じとっているのみさ」 **虎の威を借る狐** 意味出典は中国の古典『戦国策』楚策で、虎が狐を捕らえた時、狐は「私を食べれば天帝の命に逆らうことになる、うそだと思うなら私の後ろについて来なさい」と言う。そこで出かけると獣はみな虎を見て逃げ出したが、虎はそれに気づかず、狐を恐れているものと思い込んだ。そこから、権力者の威勢をかりて威張る小人物のたとえ。 用法文型「ダレダレは虎の威を借る狐」〔江戸〕 用例①源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「あいつめ、大友興業をカサにきて、威張ってるよ。要するに、虎の威を借るキツネなんだ」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「佐々木は荒垣という虎の威を借る狐だから、始末が悪いかもなぁ」 外国語 中国語では成句「狐假虎威」(虎の威を借る狐。「假」は借る) **取り返しが付かない** 意味すでに望ましくないことが起こってしまい、それをつぐなったり元通りにしたりすることができなくなる。 用法文型「~すると(~してからでは)、取り返しが付かない」「取り返しの付かないナニナニ」 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「沖は、眠れなかった。息子をとりかえしのつかぬ不具の身にした。父親として、代れるものなら代ってみたい」②『朝日新聞』(一九八〇・五・九朝)「男と女が至近距離にいると、つい親しくなり、取り返しのつかないことになりやすい」③龍一京『交番』(二〇〇四)「何かあってからでは、取り返しがつきません。あとの責任は俺が取りますから」④『朝日新聞』(二〇〇四・二・一六朝)「完全に正しい将来予測は出来ないが、何もしないと取り返しのつかないことになるのは目に見えている」 **取り付く島がない** 意味相手に相談や頼みごとをしようとしても、またかかわりを持とうとしても、冷たくあしらわれてそのきっかけもつかめない様子。「とりつく暇がない」と言うのは誤り。 用法文型「ダレダレは取りつく島がない」「取りつく島がないナニナニ」。「取りつく島もない」「取りつく島のない」とも言う。〔江戸〕 用例①尾崎紅葉『続金色夜叉』(一八九九)「取附く島もあ <296> らず思悩める宮を委きて、貫一は早くも独り座を起たんとす」②『朝日新聞』(一九五六・八・九朝)「モスクワの交渉も向こう様は日本に有無も言わせぬ調子で、とりつく島もない様子だが」③井上靖『氷壁』(一九五六-五七)「小坂の件で、社内もごたごたしているのか、電話はすぐ向うから切れた。全く取りつく島のない感じだった」④井伏鱒二『黒い雨』(一九六五―六六)「『それは昨日お答えしたように、絶対に駄目です。我々の管轄外に属するのですからね』昨日と同じく取りつく島もない」⑤森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「母親の声はあくまでも素っ気ない。取りつくしまもなく電話は一方的に切られた」 類句「がで鼻をくくる」「げんもほろろ」「にべもない」「鼻であしらう」 外国語英語では wouldn't(even) give someone the time of day **鳥肌が立つ** 意味恐怖や寒さなどから、毛をむしり取った鶏の皮のように皮膚にぶつぶつができる。最近は強い感動を受けた時にも使う。 用法文型「ダレダレは鳥肌が立つ」「鳥肌が立つナニナニ」〔南北朝〕 用例①木谷恭介『京都小町塚殺人事件』(二〇〇一)「鳥肌の立つ戦慄が背筋を走った」②内田康夫『秋田殺人事件』(二〇〇一)「鳥肌が立つような感動とはこういうことを言うのだろう」 類句「肝を冷やす」「背筋が凍る」「背筋が寒くなる」「背筋に寒いものが走る」「身の毛がよだつ」 外国語 英語では get (the) goose pimples **取りも直さず** 意味前に述べてきたことは、すなわち次の述べることを意味する、あるいは次に述べることにつながるという意味。言い換え、説明、注釈を表す。 用法文型「ナニナニは取りも直さず~」。後ろの述語を修飾することが多い。〔江戸〕 用例①大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「日本の勝利は取りも直さず彼等の帰還後の生活を絶望的なものにすることを意味したにも拘わらず」②石川達三『青春の蹉跌』(一九六八)「彼の悔恨も絶望も、その本質は、自分が出世栄達の道を失ったことについての悔恨であり、とりも直さず彼のエゴイズムそのものであった」 類句「端的に言えば」 <297> **取るに足りない** 意味取り上げてことさら言い立てるほどの価値もない、大したことのない、つまらない。 用法文型「ダレナニは取るに足りない」。「取るに足りないダレナニ」と修飾する形で用いられることが多い。「取るに足らない」とも言う。〔江戸〕 用例①佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九一三)「彼のとるに足りないそれらのさまざまな考のなかで」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「そうした不幸にくらべれば、いまの沖の挫折など、とるに足りぬことではないのか」③『朝日新聞』(一九七九・五・九朝)「十万人の単位で難民を受け入れている米国の人権感覚からすれば、まだまだとるに足らない数字に思えたかもしれない」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「つまらない、取るに足らないことですよ」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下の質問など取るに足らないことのように思えるが」 類句「眼中にない」「愚にもつかない」「たかが知れる」「等閑に付す」「話にならない」「屈とも思わない」「見向きもしない」「目じゃない」「目もくれない」「物の数ではない」「問題にならない」 外国語 英語では for the birds *中国語では成句「微不足道」(小さくて取るに足りない。「道」は言う、取り上げる) **取る物も取りあえず** 意味急を要することができ、十分な準備もせずあわてて。大急ぎで。 用法文型「ダレダレが取るものも取りあえず~する」「~する」には「駆けつける」などが来る。〔南北朝〕 用例①角田喜久雄『死体昇天』(一九四九)「彼は取るものも取りあえず上野駅へ駈け附けた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「これは奥様、夜分に恐縮でございますが、せめてお玄関先でなりと、鵜飼先生にご挨拶とお謝びを申し上げたく、取るものも取りあえず、参上致しました次第でございます」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「町野は取るものも取りあえず××病院へ飛んで行った」④斎藤栄『日美子の公園探偵』(二〇〇一)「日美子は、取るものもとりあえず、死亡している大野木の遺体確認に駆けつけた」 **泥を被る** 意味不利益な結果になろうとも、その責任を全部負う。みんなで負うべき責任を、自分一人ですべて負う。また他人の行為で迷惑を被 <298> る。 用法文型「ダレナニが泥をかぶる」。命令・意志表現は可能。 用例①『朝日新聞』(一九七九・六・二三朝)「(政治家の刑事責任が問えなかったことで)検察は一時的にはドロをかぶるかもしれない」②『朝日新聞』(一九八〇・五・二朝)「田中派にはただでさえ『大平派に代わってドロをかぶる役目ばかり』という思いが強い」 類句「責めを負う」 外国語 英語では take the blame for **泥を塗る** 意味人に恥をかかせたり名誉を損なうようなことしたりする。 用法文型「ダレナニに泥を塗る」〔江戸〕 用例①夢野久作『S岬西洋婦人絞殺事件』(一九三五)「そんな事をして娘や養子の一生涯に泥を塗るのが、どんなに馬鹿馬鹿しい、算盤に合わない話かわからないほど」②「家名に泥を塗る行為」 類句「顔に泥を塗る」 **泥を吐く** 意味調べられたり問い詰められたりして自分の悪事を白状する。 用法文型「ダレダレが泥を吐く」。用例①のように使役形が可能。②のように否定形が可能。③のように使役受身形がある。 用例①源氏鶏太『天下泰平』(一九五四~五五)「この男と岡崎との関係だけでも、泥を吐かせてやらなければならない」②大下宇陀児『虚像』(一九五五)「やつは、頑強に否認しやがってね。どうしても泥を吐かねえ」③井伏鱒二『駅前旅館』(一九五六-五七)「同業の春木屋の番頭に見つかって、とうとう泥を吐かされるという次第になりました」 類句「口を割る」 外国語 英語では come clean **度を失う** 意味非常にあわてて、どうしてよいかわからない状態になる。あわてふためく。 用法文型「ダレダレが度を失う」 用例①津本陽『深重の海』(一九七八)「こりゃ何でじゃ、なんでこんなとこで潮がよれるんじゃ、と近太夫は度を失った」②安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)「部屋は不意にまたざわめきたち、看護婦たちは度を失ったように医者のあとを追った」③森茉莉『恋人たちの森』(一九六二)「ギランがその手を捉え、(略)マッチをすり、片手で銜えた葉巻に点すと、レオの掌をおし開こうとする。度を失ったレオは、身を捩り、手を外そうとしながら」 <299> **度を過ごす** 意味普通の程度をこえて、あるいは必要以上に物事を行う、極端になる。 用法文型「ダレナニが度を過ごす」。「度を過ごしたダレナニ」のように修飾する形で用いられることも多い。 用例①夏目漱石『吾輩は猫である』(一九〇五)「もう晩飯の時刻だ。運動もいいが度を過ごすと行かぬ者で、からだ全体が何となく緊りがない、ぐたぐたの感がある」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「齢は私よりずっと上だが、かつて主人の子息として仕えた記憶のゆえか、ときおり、口調は敬語になり、また度を過してざっくばらんにもなった」 類句「度が過ぎる」(辻邦生『北の岬』〈一九七〇〉「でもそのうち、あたしの我儘は度がすぎると言って、いろいろ小言を並べるようになった」) 「度を越す」(『朝日新聞』〈二〇〇四・三・二三朝〉「今の両国関係は、歴史教科書の歪曲が度を越したり」) 外国語 英語では go overboard **団栗の背比べ** 意味みな同程度に平凡で抜きん出たものがなく、優劣のつけようがないたとえ。 用法文型「ダレナニはドングリの背比べ」 用例内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「あとはおれのも含めて、ドングリの背比べ」 類句「どっちもどっち」「似たり寄ったり」 外国語 英語では there's not much to choose from *中国語では成句「半斤八两」(似たり寄ったり。旧制の一斤は十六両で「半斤」は「八两」にあたることから) **飛んで火に入る夏の虫** 意味自ら災いの中に飛び込んで身を滅ぼすことのたとえ。あざける言葉。 用法単独で使用。用例のように句の途中に「愚な」のように修飾語が入るのはまれ。〔鎌倉〕 用例嘉村礒多『業苦』(一九二八)「飛んで灯に入る愚な夏の虫に似て、彼の父は財産も必要としないで石に囓りついても千登世を養う決心だった」 外国語 中国語では成句「飞蛾投火」(ガが火に入る。「飞蛾扑火」とも言う) **鳶が鷹を産む** 意味平凡な親が優れた子を生むたとえ。 用法文型「とんびがたかをうむ」「とんびがたかをうんだよう」。「とびがたかをうむ」とも言う。〔江戸〕 <300> 用例①『滑稽界』二号(一九〇七)「世俗鳶が鷹を生むだと謂う語を克く耳にする、説明を要する迄もない、鳶が自己の実質以上超越した鷹を生むだのを具体的に述べたので」②吉屋信子『あの道この道』(一九四一―四九)「鳶が鷹を生んだとはあのことだ。あの酒呑みの困者の龍作さんにあんな綺麗な出来のいい女の子が持てるなどとは」③石坂洋次郎『憎いもの』(一九五一)「娘はわしらと違って、背も高く、きりょうも十人並みという訳でして、…まあ、鳶が鷹を生んだというか」④源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「こんな名代子さんを見て、鳶が鷹を産んだようなもんだ、と陰口をきくものがあるかもしれない」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「トンビがタカを生んだと言ったら言い過ぎになるかな」 **鳶に油揚げを攫われる** 意味大切なものを急に横合いから奪われることのたとえ。 用法文型「とんびに油あげをさらわれたよう」。略して「とんびにあぶらあげ」とも言う。〔江戸〕 用例①源氏鶏太『青い果実』(一九五四―五五)「青年たちは、まるで、トンビにアブラアゲをさらわれたような顔で、それを見送っていた」②高杉良『人事権!』(一九九二)「わたしは、ベニスの赤い家』をもらいそこねた口なんです。トンビにあぶらあげみたいなことになってしまい、口惜しい気持ちです」③姉小路祐『走る密室』(一九九六)「せっかく若い女房をもらって喜んで仕事に精を出していたら、まるでトンビに油揚げみたいに、ガキに女房を寝取られたってことだろ」 <301> **ない袖は振れない** 意味昔物の袖に財布を入れていたが、その財布を入れる袖がないということから、特に金銭面について、あれば何とかしたいのだが、ないのだからどうしようもない。人から金銭の工面を頼まれても金銭がない場合に言うことが多い。 用法文型「無い袖は振れない」〔江戸〕 用例①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八六九)「いくら振ろうとしても無い袖は振れぬという譬の通りで、返せぬというものを無理に取ろうという道理はあるまい」②『朝日新聞』(一九七九・七・一九朝)「どこの自治体も財政難に陥っており、いくらがんばっても無いそではふれない」③高杉良『人事権!』(一九九二)「白石さんにいくら頭を下げられても、無い袖は振れません」 外国語 英語では You can't get blood out of a stone *中国語では諺「巧妇难为无米之炊」(いくら器用な嫁でも米がなければご飯を炊くことはできない) **泣いた鳥がもう笑った** 意味今まで泣いていた子がもう笑っている。子供の機嫌の変わりやすさをたとえて言う。 用法文型「さっき泣いた鳥がもう笑った」。用例①のように「もう」を略すこともある。文末は「笑っている」も使用。 用例①吉屋信子『あの道この道』(一九四一—四五)「『私、落第する筈ないと初めから思っていたのよ』と、さっき泣いた鳥が笑った」②源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五二―五三)「おや、さっき泣いた鴉が、もう、笑っている」 **ない知恵を絞る** 意味大した知恵がないのに無理して一生懸命あれこれ考える。 用法文型「ダレダレがない知恵を絞って考える」〔江戸〕 用例高杉良『人事権!』(一九九二) 「ひと晩、ない知恵をしぼって考えますが」 **長い目で見る** 意味人や物事を現況だけで判断せず、長期的な視野に立って判断する、気長に見守る。 用法文型「長い目で見て~する」「長い目で見れば~する」〔江戸〕 <302> 用例①高橋和巳『悲の器』(一九六二)「たとえ、その席が与えられても、長い目で見て、そうするのがかならず君の幸せになるかどうかはわからないと思うよ」②『朝日新聞』(一九七一・三・六朝)「一年や二年の浪人は長い目で見れば尊い人生経験かも知れない」③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「でも永い目で見たらわかりませんよ」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「いま心と身体の成長がアンバランスで苛立っているのよ。もう少し長い目で見てちょうだい」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・二三朝)「熟練した技術を持つ多くの外国人労働者が、長く滞日して親日家になるということは、長い目で見れば、ソフトな形での安全保障にもつながるはずだ」 外国語 英語では take a long range view *韓国語では「긴눈으로(長い目で)보다 (見る)」 **鳴かず飛ばず** 意味目立った活躍もなく、その存在が忘れられたようになっているさま。自嘲的または侮蔑的に言う。出典は中国の古典『呂氏春秋』『史記』。 用法文型「ダレダレは鳴かず飛ばずだ」 用例①獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「彼女は、失脚以来の数年間を、鳴かず飛ばずに、暮らしてきたが」②高見順『都に夜のある如く』(一九五四―五五)「自分たちの処世の秘訣は、鳴かず飛ばず」③『朝日新聞』(一九八〇・七・二六朝)「前半戦は鳴かず飛ばずだった巨人軍の中畑が、小林から価値ある3ランを奪った」④本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「『十三人の侍』のディレクターの五社英雄のその後は、鳴かず飛ばずだったが、昭和五十五年退職を余儀なくされる」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・九朝)「だが、それ以前は鳴かず飛ばずで、舞台俳優としてはついに芽が出なかった」 **名が通る** 意味有名で、その名前が世間に知れ渡る。良いことに言う。 用法文型「ダレダレはナニナニとして名が通っている」。用例②のように「名の通ったナニナニ」と修飾することが多い。 用例①国木田独歩『武蔵野』(一九〇一)「見たまえ、そこに片眼の犬が蹲っている。この犬の名の通っているかぎりがすなわちこの町外れの領分である」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「それが、今、来日している黒人の演奏家で世界的に名の通ったジャズメンであった」 類句「顔が売れる」「名が高い」 <303> **流れを汲む** 意味ある流派の伝統・手法を代々受け継いでいる。ある系統に属する。 用法文型「ダレダレはダレナニの流れを汲む」「鎌倉〕 用例①芥川龍之介『おしの』(一九二〇)「またそう云う臆病ものの流れを汲んだあなたとなれば、世にない夫の位牌の手前も体の病は見せられません」②『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・六朝)「マタギの流れをくむ一部の住民は不満を募らせる」 **泣きっ面に蜂** 意味困っている時に更に困ったことが起きること。不運・不幸が重なること。「なきつらにはち」とも言う。 用法文型「ダレナニは泣きっ面に蜂」 用例①葉山嘉樹『移動する村落』(一九二六)「花田一家は、その中でも『泣きっ面に蜂』の状態にあった」②源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「本尊の東洋電機を乗っ取られたら、それこそ、泣きッ面にハチである」 類句「踏んだり蹴ったり」「弱り目に祟り目」 外国語中国語では成句「雪上加霜」(雪の上に霜がおりる) **泣きの涙** 意味涙を流して泣くくらいつらい思いをすること。悲嘆にくれること。 用法文型「泣きの涙で~する」〔江戸〕 用例①国木田独歩『あの時分』(一九〇六)「ばアさん、泣きの涙かなんかでかあいい男を新橋まで送ったのは」②太宰治『花火』(一九四二)「帰る時には、党の費用だといって、十円、二十円を請求する。泣きの涙で手渡してやると」 **梨の礫** 意味「つぶて」は小石を投げること。また投げられた小石。「梨」に「無し」をかけたもので、手紙を出しても何も返事が返ってこないこと。何の音信もないこと。 用法全体で体言的に用いられる。〔江戸〕 用例①平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「実は、ハワイで別れる時に、僕の住所と電話番号をメモして、東京へ帰ったら連絡してくれと頼んだのに、とうとう、いつまで経っても梨のつぶてなんです」②『朝日新聞』(一九七九・一二・二三朝)「今回のイランの米大使館占拠事件で、安保理議長、総会議長の声明が出ても、まったくなしのつぶてで、いまさらのように無力感が支配している」③『朝日新聞』(二〇〇四・六・五朝)「おとなを相手にした小説を書 <304> くようになり、文芸誌主宰の新人賞に投稿した。なしのつぶてだった」 外国語 英語では have not heard a word (from someone) *中国語では成句「石沉大海」(石が海に沈む) **何が何でも** 意味 (1)何があろうと絶対に。ある事柄に対する強い意志や決意を表す。(2)いくらなんでも。後ろに否定的判断を表す言葉が来る。 用法文型(1)「ダレダレは何が何でも~する」「ダレダレは何が何でも〜だ」「ダレダレは何が何でも~しなければ」「何が何でも〜だ」〔江戸〕 用例①宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』(未詳)「ゴーシュがやっと二寸ばかり窓をあけたとき、かっこうは起きあがって何が何でもこんどこそというようにじっと窓の向こうの東のそらをみつめて、あらん限りの力をこめた風でぱっと飛びたちました」②太宰治『津軽』(一九四四)「この子をつかまえたからには、もう安心。大丈夫たけに逢える。もう何が何でもこの子に縋つて、離れなけれやいいのだ」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「細野は何が何でも産んでほしいと強要した」④木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(一九九六) 「こうなったら何がなんでも、検挙しなければ腹の虫がおさまらない」②⑤「何が何でもそれはやりすぎだ」 類句 (1)「雨が降ろうが槍が降ろうが」「石にかじりついても」「否が応でも」「否でも応でも」「是が非でも」「何としても」「火が降っても槍が降っても」「理が非でも」 外国語英語では no matter what *中国語では成句「无论如何」(何が何でも) **何かにつけて** 意味何かあるたびに。さまざまなことに関して。機会があるたびに。ある言動やある事態の頻度が高いさまを表す。 用法文型「ダレナニが何かにつけて~する」「ダレナニが何かにつけて〜だ」 用例①夏目漱石『坊っちゃん』(一九〇六) 「ただ清が何かにつけて、あなたはお可哀想だ、不仕合だと無暗に云うものだから、それじゃ可哀想で不仕合せなんだろうと思った」②芥川龍之介『偸盗』(一九一七)「親のせんぎはともかく、あのからだじゃ何かにつけて不便だろう」③有島武郎『或る女』(一九一九)「田川博士までが夫人の意を迎えて、何かにつけて事務長の室に繁く出入りするばかりか、事務長はたいていの夜は田川夫妻の部屋に呼び迎えられ <305> た」 類句「ことあるごとに」 **何くれとなく** 意味これと特定することではなく、漠然と全体的にあれこれと。細かなことにいろいろ気を配っているさまに使う。 用法文型「ダレダレが何くれとなく〜する」 用例①夏目漱石『門』(一九一〇)「安井は郷里の事、東京の事、学校の講義の事、何くれとなく話した。けれども、御米の事については一言も口にしなかった」②島崎藤村『夜明け前』(一九三五)「本陣問屋庄屋の雑務を何くれとなく手伝ってもらうには、持って来いという人だ」③安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)「ひとの好い二年兵で、何くれとなく面倒をみてくれるが」 類句「あれやこれや」「なんやかやと」 **何食わぬ顔** 意味自分の思い・考えや関係・行為を人に知られたくないため、人の前ではわざと何も関係ないと平然と振る舞うこと。たいていはあまり良くないことについて用いられる。 用法文型「ダレダレは何食わぬ顔で~する」〔江戸〕 用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「他の四人が運動をしたかどうか、みんな何食わぬ顔をしているから、太郎には察しがつかない」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「相手に投票を確約しておきながら、票を入れず、その相手が落選したとなると、何食わぬ顔で残念会へ出席し」③『朝日新聞』(一九七九・七・一三朝)「Aは朝の早い母親が寝込んだ深夜に家を出て、犯行のあとは何食わぬ顔で家に戻っていたため」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「エレベーターを上り下りして、殺人を実行して、フィアンセの前になに食わぬ顔をして戻って食事をつづけることができますかね」⑤龍一京『交番』(二〇〇四)「ボールペンを置いた男は、宮脇の様子を窺いながら、何食わぬ顔をして上着のポケットに手を突っ込んだ」 類句「知らぬ顔の半兵衛」「知らぬ存ぜぬ」「しらを切る」「涼しい顔」「そ知らぬ顔」 外国語 英語では a (completely) innocent look **何はさて置き** 意味他のことは捨て置いて、真っ先に。ある一つのことに取り組む時に言う。 用法文型「なにはさておき、~する」 用例小出楢重『楢重随筆』(一九二七)「何はさておき、 <306> **何はともあれ** 意味いろいろあるけれどそれはとりあえず問題にせず、とにかく。 用法文型「何はともあれ~する」〔江戸〕 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「足はつかれていないにしてもさ。そのおれが、なにはともあれ元気を出してファースト・ベースへ駆けて行く」②内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「何はともあれ、隈原はそれをいいことに、気儘な捜査をすることにした」 類句「とにもかくにも」 外国語英語では in any case **何はなくとも** 意味他のものはなくても、この一つあれば十分である、さしあたって間に合う、他は必要ない。 用法文型「何はなくとも~」 用例徳田秋声『新世帯』(一九〇八)「何はなくとも、春初めだから、お酒を一口」 **何を置いても** 意味他のことはさし置いて、まず一番に。行動を起こすに当たって、優先順位の最初に来るものをあげる時に使う表現。 用法文型「ダレダレが何をおいても~する」 用例①芥川龍之介『羅生門』(一九一五)「そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして―――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら」②夏目漱石『明暗』(一九一六)「明日は何をおいても、まず病院へ見舞に行かなければならないと考えた」③有島武郎『或る女』(一九一九)「もし貞世が退院するようになったら――そして退院するに決まっているが―――自分は何をおいても木村に手紙を書く」 類句「一にも二にも」「いの一番」「何はさておき」 **名乗りを上げる** 意味自ら進んで競争などに参加したり立候補したりすることを表明する。ある態度なり意志なりを、多くの人にアピールする形で表明する。 用法文型「ダレダレがナニナニに名乗りをあげる」。命令・意志表現は可能。 用例①獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「早くも、五番目 <307> 氏が、名乗りをあげた」②『朝日新聞』(一九七五・九・二三)「成功には何百人が生みの親だと名乗りをあげるが、失敗すると母親が一人も出てこない」③『朝日新聞』(一九七九・七・一〇)「理事長が願う『大関候補』に再び名乗りをあげそうな勢いだ」④原ゆたか『かいけつゾロリつかまる!!』(一九九四)「『ゾロリをつかまえられるのは、おれたちしかいない』と、ふたりのけいぶがなのりをあげたのです」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・二五夕)「新規参入に名乗りをあげた人々は男を上げた」 類句「手を上げる」 **生木を裂く** 意味愛し合っている男女・夫婦を無理やり別れさせるたとえ。 用法文型「ダレダレが生木を裂く(ような)」〔江戸〕 用例①永井荷風『新橋夜話』(一九一三) 「あなた見たような人が寄ってたかって、生木を裂くんですからね」②「周りの人間が生木を裂くようなまねをしてがまんがならない」 **波風が立つ** 意味平穏無事なところに、争いごとが起きて平穏な生活・状態が乱される。 用法文型「ドコドコに波風が立つ」 用例①三浦哲郎『結婚』(一九六七)「稼ぎがよければよいで、酒と女、思わぬ波風が立つことになるかもしれない」②清水一行『ITの踊り』(二〇〇三) 「もっとも未練より本音では波風立たず別れられたという安堵感の方が、強かったのかもしれなかった」 類句「角が立つ」 外国語 英語では make waves **波風を立てる** 意味平穏無事なところに、わざわざ争いの原因やきっかけとなるものを持ち込む。 用法文型「ダレナニがドコドコに波風を立てる」。用例①のように「波風を」と「立てる」の間に語句を挿入できる。否定形が可能。 用例①藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八)「トルコ嬢は、あなたの家庭に波風を絶対たてませんからね」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「どうか波風を立てるようなことはしないでください」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇三) 「柔らかい女性の肌の感触に、いつも浸っていたかった。そのため余計な波風を立てず、両手に花の状況を愉しみたかった」 <308> **涙を呑む** 意味つらくて泣きたい気持ち、悔しさ、無念をぐっと我慢する。 用法文型「ダレダレが涙をのむ」「涙をのんで~する」〔〔江戸〕 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(一九七〇)「われわれ医者はな、初めから権威には弱いんや。あんたの勝ち目はない。ここはやっぱり涙を呑んで旗を巻いた方がいいと思うな」②高橋和巳『悲の器』(一九六二)「諸君はどのようにも染り得、どちらへでも進めるゆえに、いま去られる送別の感傷ではなく、教授者たるわれわれもひそかに涙をのむのであります」③『朝日新聞』(一九七一・三・六朝)「みんなただ黙々と一銭五厘の赤紙一枚の召集令状に従って、涙をのんで愛する夫、兄弟、わが子を兵隊に差し出した」 類句「唇を噛む」「歯を食いしばる」 外国語英語では choke back tears of frustration **波に乗る** 意味世の中のある情勢や流れにうまく適合して勢いがつき、物事が調子よく進む。また、周囲に関係なく調子が出る。 用法文型「ダレナニが(ナニナニの)波に乗る」。命令・意志表現は可能。用例②のように可能動詞の否定形も可能。 用例①『朝日新聞』(一九七九・一〇・三〇朝)「この勝利の波に乗って、一日も早く来夏の参院選への取り組みを徹底しよう」②『朝日新聞』(一九八〇・一一・一〇朝)「ここ二場所では前半戦で不覚を取るなどいまひとつ波に乗れないためだ」③『朝日新聞』(一九九二・二・三朝)「やがて、高度成長の波に乗った。当たれば当たるほど夫は事業にのめり込んだ」 類句「調子に乗る」「流れに乗る」 **なりふり構わず** 意味あることを成し遂げるために熱中するあまり、服装・態度におかまいなく、また他人の目や人からどう思われるかなどを気にせず一生懸命になるさま。 用法文型「ダレダレがなりふりかまわず~する」。「なりふりかまわぬダレダレ」のように修飾することが可能。常に否定形で用いられるが、意図して用例③のような表現をとる例もある。 用例①『朝日新聞』(一九七九・四・二六朝)「国鉄労使のなりふりかまわぬ政治力が功を奏した格好だ」②『朝日新聞』(一九七九・七・一五朝)「同省は米のだぶつき解消になりふり構わずといった格好だ」(3)『毎日新聞』(一九八三・二・二三朝)「これが横綱の取り口か、というものが何番もあった。若乃花にいわせれば、それはなりふりかまうどころではな <309> かったのであろう」 類句「恥も外聞もない」「見栄も外聞もない」 外国語英語では without regard for appearances **鳴りを潜める** 意味音を立てず静かにしている。転じて、目立った活動をしないでおとなしくしている。 用法文型「ダレナニが鳴りを潜める」〔南北朝〕 用例①島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「寺の門前を急ぐ人の足音も絶えた。物音一つしなかった。何もかも鳴りをひそめて、静まりかえったようになった」②『朝日新聞』(二〇〇四・九・一二朝)「受注企業はひたすら中国の反対派の声を恐れて、記者会見も行わずに鳴りを潜めるだけでは問題の解決にならない」 類句「鳴りを静める」 外国語英語では keep a low profile **名を上げる** 意味あることを成し遂げてよい評判を得て、知られるようになる。 用法文型「ダレダ레は~して名を上げる」〔平安〕 用例『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・六朝)「中村さんは自らの『買い物依存症』をルポして名をあげ、最近は顔と胸の美容外科手術の体験記が注目された」 類句「名を成す」 **名を売る** 意味自分の名を世間に広く知れ渡るようにさまざまな働きかけをする。 用法文型「ダレナニが(ナニナニとして)名を売る」。「名を売っている」の「ている」形で世間に評判になっている意。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『不如帰』(一八九九)「ラッパを吹き鼓を鳴らして名を売ることをせざれば、知らざる者は名をだに聞かざれど、知れる者はその包むとすれどおのずから身にあふるる光を浴びて、ながくその人を忘るるあたわずというなり」②『朝日新聞』(二〇〇四・九・二七夕)「女はセクシュアリティや数奇な生い立ちによって、男は暴力と狂気によって、名を売る」 **名を成す** 意味その道で、すぐれた業績をあげることによって、世間に認められ、有名になる。 用法文型「ダレナニが(ナニナニとして)名を成す」〔室町〕 <310> 用例①森鴎外『舞姫』(一八九〇)「官長の覚え殊なりしかば、洋行して一課の事務を取り調べよとの命を受け、我名を成さんも、我家を興さんも、今ぞとおもう心の勇み立ちて」②芥川龍之介『地獄変』(一九一八)「いや実際当時の風評に、良秀が画道で名を成したのは、福徳の大神に祈誓をかけたからで」③中島敦『山月記』(一九四二)「自分は元来詩人として名を成す積りでいた」④藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七六)「本居宣長などは過保護ママの養育のために名を成したと考えてみるのも面白い」 類句「功なり名を遂げる」「名を上げる」「名を得る」 **難癖を付ける** 意味人や物の大したことではない落ち度や欠点を見つけて文句を言い、非難する。 用法文型「ダレダレがダレナニに難癖をつける」〔江戸〕 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「われわれ個人病院は、……………大学病院のように至れり、尽せりのことは出来ん、したがって設備の上でも、医師の陣容の上でも、患者の方が難癖をつけようと思えば、なんとでもつけられるのや」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「かたぎの暮らしをするフサに難癖をつけてくると思って腹が立ち」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇三)「『……………そこで紅一点の佐藤君を、あなたは上司の力をかさに慰み者にした。明らかなセクハラです』『冗談じゃない。あなたは難癖をつけるんですか』」 類句「揚げ足を取る」「げちをつける」 外国語 英語では lash out at someone **難色を示す** 意味ある行動をとることに対して、否定的で賛成しかねる態度を示す。承知しかねることを言外ににおわす。 用法文型「ダレダレがナニナニに難色を示す」 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「編成外の形で大隊本部が随行することに、聯隊長としていささか難色を示した」②『朝日新聞』(二〇〇四・六・二三夕)「中曽根元首相は、83年のサミットで、対ソ連ミサイル欧州配備に難色を示す仏大統領を自分が説き伏せたことがロン・ヤス関係の契機になったと回想」③『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・八朝)「関空の需要回復の遅れから予算化に難色を示す財務省との予算折衝を控え」 <311> **何でもかんでも** 意味「なんでも」の強調で、どのようなものでもすべて。 用法文型「何でもかんでも〜だ」「何でもかんでも〜する」 用例①川端康成『浅草紅団』(一九二九-三〇)「なんでもかんでもグロテスクだよ」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「なんでもかんでも男女平等になって世の中がひっくりかえれば、勤めに出るのは女房たちである」 **何としても** 意味(1)どのようにしても。どのような手段を使っても。強い意志を示す。(2)何と言っても。ある事柄を強調して言う。 用法文型(1)「ダレナニが何としても〜する」(2)「何としても~だ」。「何としてでも」とも言う。 用例(1)①太宰治『お伽草紙』(一九四五)「色気のほかにいまはむらむら慾気さえ出て来て、いよいよこれは何としてもこの女にくっついて一生はなれぬ事だ、とひそかに覚悟のほぞを固めて」②日下秀憲『ポケットモンスタースペシャル2』(一九九八) 「ミュウをつかまえるためにはあのディスクが必要なんだ! 何としてもあのガキどもをさがし出して」②③太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「私たちにはそれが何としても無念で」 類句「何が何でも」 **何のかんの** 意味あれこれといろいろ。ああだこうだ。 用法文型「ダレダレが何のかんの(と)~する」。「~する」には「言う」が多いが、その他に相手に対して何らかの働きかけをする動作が来る。それは働きかけられる側にとって迷惑であるというニュアンスがある。「なんのかの」とも言う。〔安土桃山〕 用例①夏目漱石『虞美人草』(一九〇七)「何のかのと云って、一分でも余計動かずにいようと云う算段だな。怪しからん男だ」②泉鏡花『婦系図』(一九〇七)「今来た、あの母親も、何のかのって云っているからな、もう彼家へは行かない方が可いぜ」③夏目漱石『彼岸過迄』(一九一二)「君だの僕だのが何のかのと要らぬ世話を焼くのはかえって当人達のために好くあるまい」④木谷恭介『京都小町塚殺人事件』(二〇〇一)「毎月のローンもなんのかんのといいながら温奈がほとんど負担している」 類句「何やかや」 <312> **何のその** 意味ある事柄について大したことないと軽視したり反発したりして何かを行う時に言う言葉。 用法文型「ナニナニも(など)何のその」〔江戸〕 用例「障害も何のその。力を合わせればやれる」 類句「たかがしれている」「どうということはない」 **煮え湯を飲まされる** 意味信用していた人間に裏切られてひどい目にあわされる。 用法文型「ダレダレがダレダレに煮え湯を飲まされる」。受身形で用いられることが多いが、用例①のように「煮え湯を飲ませる」という使役形や③のように「煮え湯を飲む」という能動形がある。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一―三二)「私に煮え湯を呑ませた女房のやつに復讐をしてやったまでです」②司馬遼太郎『梟の城』(一九五九)「師匠の下柘植次郎左衛門には、過去において重蔵は煮え湯をのまされた記憶が多かった」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「君がどんな妨害行為をしても、維子はますます、それにさからうことになる。実際、煮え湯を呑むのは、お父さんやお母さんなんだ」④『朝日新聞』(一九七一・一〇・天朝)「東亜航空と合併させた強引な手法は、かって『強盗慶太』と異名を取った父親のイメージと重なって、煮え湯を飲まされた連中の <313> 間では『血は争えないものだ』と、いまもって評判が悪い」 類句「飼い犬に手を噛まれる」「背負い投げを食う」 外国語 英語では be burned badly **苦虫を噛み潰したよう** 意味顔をゆがめて非常に不愉快そうな様子をすることを、苦いものを噛んだ時の顔にたとえて言う。 用法文型「苦虫を噛み潰したような顔」。「よう」を省くこともある。用例④のような例はことば遊びでまれ。〔江戸〕 用例①里見弴『多情仏心』(一九二三)「踊りが始まるからなどと女中が伝えて来ても、苦虫を噛みつぶしたような顔をして決して書斎から出て行こうとはしなかった」②『朝日新聞』(一九五六・七・二三朝)「吉田さんは、気に入った人との差しの話では愛想がいいが、民衆に対しては苦虫をかみつぶした顔しかない」③有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「茂造は、いつでも苦虫をかみ潰したような顔をして、文句ばかり言っていたのだ」④岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「電話線の向こうの顔が想像出来た。苦虫を三匹ほど噛み潰した顔」⑤本所次郎『閨閥」(二〇〇四)「鹿野が壇上で苦虫を噛みつぶした顔をつくったのを、出席した社員の誰もが目にした」 外国語 英語では a sour face **西も東も分からない** 意味見ず知らずの土地に置かれたり物事が初めてであったりして、何も分からずとまどう様子。 用法文型「ダレダレが西も東も分からない」。用例②のように「西も東も」と「分からない」の間に語句を挿入できる。 用例①太宰治『十二月八日』(一九四二)「主人は、どういうものだか地理の知識は皆無なのである。西も東も、わからないのではないか、とさえ思われる時がある」②源氏鶏太『もう手遅れ会』(一九五三)「西も東もよくわからぬ新入社員時代に」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「新しい水槽に移ってまだ西も東もわからない金魚のお嬢さんは、おどろいて逃げまわるのだが何しろ敵は多数である」 類句「西も東も知らない」とも言う。 **二足の草鞋を履く** 意味もと博徒が十手持ちの仕事を兼ねたことから転じて、 <314> 同時に二つの異なる職業・任務を兼ねる。 用法文型「ダレダレが(ナニナニとナニナニの)二足のわらじをはく」。「二足のわらじ」と略すこともある。 用例①『朝日新聞』(一九六一・三・七朝)「この高仁、打撃も捨てがたいとあって現在二足のワラジをはいての練習中だ」②『朝日新聞』(一九八二・二・六朝)「同協会からは現役選手とコーチの二足のワラジは認めないとして拒否された」③『朝日新聞』(二〇〇四・二・二九夕)「『学問は一番疲れない労働』が持論で、同大を70歳の定年でやめるまで二足のわらじをはき続けた」 類句「二足のわらじをこなす」(『朝日新聞』〈二〇〇四・一一・二九夕〉「早大の同級生だったプロデューサーに『日本を舞台に西部劇をつくったらどうか』と持ちかけると、『では、君が原作を書け』。議員と二足のわらじをこなした」) 外国語 英語では have one's fingers in two pies **似たり寄ったり** 意味どれも平凡でたいした違いがなく、よく似ていることの強調表現。否定的なニュアンス。 用法文型「ダレナニは似たり寄ったりだ」「ダレナニドコと似たり寄ったりだ」。用例③のように「似たり寄ったりのダレナニドコ」と用いられることもある。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『一人二役』(一九二五)「翌朝の模様は、前の時と似たり寄ったりで」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「他の学部では、公明正大な教授選挙が行われてるとでも云いたいのかい、冗談じゃないよ、どこだって似たり寄ったりだ」③『朝日新聞』(一九七九・八・二七朝)「おそらく全国の有名無名の山々も似たり寄ったりの状況であろう」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「杉野礼讃、杉野ヨイショのスピーチは政界人も財界人も似たり寄ったりだ」⑤岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「栄町にはホストクラブはあまりないんだが、どこも似たり寄ったりだ」 類句「どっちもどっち」「どんぐりの背比べ」 外国語中国語では成句「半斤八两」(似たり寄ったり。旧制の一斤は十六両で、「半斤」は「八两」にあたることから) **二進も三進も行かない** 意味「にっちもさっちも」は、もとそろばんの割り算から出た言葉で計算のやりくりのこと。転じて、物事が行き詰まり苦しい立場や境遇に追い込まれて、身動きの取れない状態を表す。 用法文型「にっちもさっちもいかない」「にっちもさっちもいかなくなる」。 <315> 常に否定形をとる。独立した文として用いられるが、用例②のように後ろの名詞を修飾することが可能。用例①のように訛って「にっちんもさっちんも」とも言う。〔江戸〕 用例①骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』(一八八七)「サア大変はちまきを腹へメなければならぬ様な場合に為て二進も三進も行ぬ所から」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七一)「それに反して『空港』は、捜査が膠着して、にっちもさっちも行かないところに追いつめられていた」③『朝日新聞』(一九八〇・三・二〇朝)「五輪は政治の介入、巨大化、商業主義などにほんろうされ、にっちもさっちもいかなくなっている」④大沢在昌『無間人形 新宿鮫Ⅳ』(一九九三)「貸し倒れの状態で、にっちもさっちもいかんらしい」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(二〇〇一)「そして、秋場は『もうにっちもさっちもいかない。何もかも洗いざらい司法当局に打ち明けて、裁きを受けたほうがいいと思う』と口にするようになる」 類句「暗礁に乗り上げる」「動きがとれない」「進退これきわまる」「抜き差しならない」 外国語 英語では in a deadlock **煮て食おうと焼いて食おうと** 意味人がある人を自分の好きなように扱うことを表す時、また自分をやけ気味に相手に委ねる時に言う言葉。 用法文型「煮て食おうと焼いて食おうと~」〔江戸〕 用例①大下宇陀児『風』(一九二六)「俺の子なら、よろしい。煮て食おうと焼いて食おうと勝手にするぞ」②「煮て食おうと焼いて食おうと、お好きなように」 **似て非なる** 意味外見はよく似ているが、内実は全く違う、偽物、まがい物である。出典は中国の古典『孟子』。 用法文型「ダレナニはダレナニと似て非なるもの」〔室町〕 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「ほんのわずかでも余裕があるようでは、その人間は、文学者として、似テ非ナル鼻持ちならない存在になってしまいますわ」②『朝日新聞』(一九七九・九・二三朝)「戦前に力を振るった駐在武官とは、似て非なる存在」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・五朝)「逆にわれわれの人生は、与えられた環境の中で人間関係を築くほかないのだから、なるほど映画とは現実に似て非なるものである」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・六朝)「今 <316> 回の原油価格上昇は、供給不安から起きた過去2度のオイルショックとは似て非なるものだ」 類句「似ても似つかない」 **似ても似つかない** 意味全く似ていないこと。似ていないことの強調表現。 用法文型「ダレナニはダレナニと似ても似つかない」「似ても似つかないダレナニ」。「似ても似つかぬ」とも言う。〔江戸〕 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「駅の食堂では、むしろ何か周知のものをと思って、ウイナー・シュニッツェルを日本の豚カツのつもりで注文すると、似ても似つかぬものが出てきた」②『朝日新聞』(一九七九・五・二三朝)「一、二ヵ月して似ても似つかぬ同姓異名の口座に振り込んだというはがきが来」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「わが子を、悪魔が乗っ取り、似ても似つかぬ悪魔の子に改造してしまったのだ」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・二二タ)「いまの郵貯改革は、かつて考えていたものとは似ても似つかない方向に進んでいるとしか思えない」 類句「似て非なる」 **煮ても焼いても食えない** 意味相手がしたたかで、また癖・個性が強くて扱いにくい、施す手段がなくて手に負えない。 用法文型「ダレダレは煮ても焼いても食えない」〔江戸〕 用例①源氏鶏太『明日は日曜日』(一九五二―五三)「実際、がんこおやじだ! 煮ても焼いても食えぬとは、あんなおやじに違いない」②木谷恭介『京都石塀小路殺人事件』(二〇〇〇)「虫も殺さへんようにみえる優男どすが、これが煮ても焼いても食えんえげつない男どす」 類句「海に千年山に千年」「一癖も二癖もある」「一筋縄ではいかない」 外国語 英語では a tough bird (to cook) **二の足を踏む** 意味一歩目は踏み出したが、二歩目はためらっていることから、ある行為をしたいと思いながら、それを妨げる原因があり、どうしようか迷い、なかなか思い切って物事を進められない、実行できない様子。躊躇する。 用法文型「ダレダレがナニナニに二の足を踏む」。用例③のように使役形が可能。〔江戸〕 <317> 用例①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「二の足を踏む父や兄を強いて納得させて、無二無三に養子に来てしまったのが即ちこの小野家」②三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「もし松村が警戒して二の足を踏むようだったら、河田と一緒に来たことのない酒場だ、ぐらいの嘘はついてもいい」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「こういう話をしても、養豚業者たちは、やはり、浮かぬ顔をし続けた。彼等に二の足をふませる第三の問題は、立地条件、いいかえれば、公害問題である」④『朝日新聞』(一九八〇・五・二朝)「米国工場進出をしても、数年後に米国の小型車が出回ると競争に勝てず採算がとれないと、二の足を踏んでいる」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・六・二三朝)「最近の男性は子供や妻を養うよりも、自分のやりたいことに稼いだお金を使いたいと、結婚に二の足を踏んでいるようだ」 外国語 英語では have second thoughts *中国語では成句「犹豫不決」(ためらって決しかねる) **二の句が継げない** 意味相手の非常識な、あるいは意外な言動にあきれたり、驚いたりして、それに対して言う言葉が出て来ない。 用法文型「ダレダレは二の句が継げない」〔江戸〕 用例①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「『やあ!』と言ったぎり葉村も二の句が継げず、呆れてその見窄らしい風体を眺めていたが」②源氏鶏太『娘の中の娘』(一九五八)「『わしは、詫びて貰いたくない。そのかわり、許しもせぬ。」桂子は、二の句がつげなかった」③『朝日新聞』(一九七九・三・二八朝)「小学校四年生の娘が『ぜいたくやな。カンボジアのことをかんがえてごらん』。私たちは二の句がつげませんでした」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「青柳は唖然として二の句が継げなくなった」⑤内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「いやみなほどの驚くべき謙虚さで、ぼくは二の句が継げなかった」 類句「二の句がつづかない」とも言う。「開いた口がふさがらない」「呆れて物が言えない」「呆気に取られる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を丸くする」 外国語 英語では be struck dumb *中国語では成句「无言以对」(答える言葉がない) **二の次** 意味すべきことや重要度からいうと二番目。一番大事なことではないこと。後回し。 <318> 用法文型「ダレナニは二の次だ」「ダレダレはダレナニを二の次に(~)する」〔江戸〕 用例①開高健『パニック』(一九五七)「イタチというのはいい考えですよ。あれはネズミとみれば片っぱしから殺してしまいますからね。食う食わんは二のつぎとして、とにかく見つけ次第に殺してしまうんです」②有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「茂造は自分から息子を恋しがって訪ねて来るということはなかった。自分の病弱にかまけて、息子も娘も二の次、三の次であった日常が、まず自分から遠いものから忘れていったのであろう」③『朝日新聞』(一九七九・六・二九朝)「自民党の体質は経済至上主義で、人の安全は二の次に考えているように思える」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・二七夕)「旅行では、趣味の美術館巡りと、テープカッター台探しに明け暮れる。観光は当然、二の次」 外国語 英語では of secondary importance **二の舞** 意味「二の舞」は舞楽で「案摩」の舞の次にそれをまねて演じる滑稽な舞いの意。転じて、他人と、あるいは前回の自分と同じような失敗を繰り返してよくない結果になること。 用法文型「ダレナニはダレナニの二の舞に(と)なる」「ダレナニはダレナニの二の舞を演じる/する」 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「維子……………私はね、お前が伊勢子の二の舞をしてもらいたくないから、訊くのだ」②平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「崎津が近づいて風子の唇へ唇をあてた。それだけのつもりが、抱き合っている中にやはり昨日の二の舞になった」③『朝日新聞』(一九七九・一一・二六朝)「北の湖自身は否定するが、心のすみのどこかに、名古屋場所の二の舞いを演じては、の気持ちがあったのかもしれない」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「ビデオやポスターはたしかにどぎついが、何もしないでいると、わたしたちがマメシンクイガの二の舞をみるかもしれない」 類句「轍を踏む」 外国語 中国語では成句「重蹈覆轍」(覆轍を踏む。「重蹈」は再び踏む) **膠もない** 意味「にべ」は愛敬・愛想の意。相手の言ったことに対して、何のためらいも愛想なく拒否、否定するさま。そっけない。 用法文型「ダレダレは(~と)にべもなく~する」「ダレダレは(~と)にべもない」。「~する」には、「断る」「はねつける」 <319> など拒絶を表す言葉が来る。〔江戸〕 用例①久保田万太郎『末枯』(一九一七)「法事なら此方で勝手にするから。――――と膠もなく返事をした」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「それにしてもチーフ・オフィサーは私の進言を実にニべもなくはねつけたのである」③三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「『いやですよ、わたし』三堀が返事するより先に美沙はにべもなく断わった」④『朝日新聞』(一九七一・三・二朝)「かたことの英語でかけあっても『フランス語が話せなければダメだ』と、ニべもなく追い返されること三たび」⑤森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「『当館では来館者の名前は記録していません』こべもない答えが返ってきた」 類句「にべもしゃしゃりもない」とも言う。「ボで鼻をくくる」「げんもほろろ」「取り付く島がない」「鼻であしらう」 **抜き足差し足** 意味相手に気づかれないように、そっと爪先を立てて忍び歩きする様子。 用法文型「ダレダレが抜き足差し足で~する」〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「二人はぬき足さし足、その窓のそとへしのび寄った」②横溝正史『広告面の女』(一九六〇) 「そっとドアを締めると、抜き足、差し足、自分の部屋へ帰ってきたのである」③開高健『裸の王様』(一九五七)「彼はぬれた手でいらだたしげに額の毛をはらい、ぬき足さし足で池にもどっていった」 類句「抜き足差し足忍び足」 外国語 英語では tiptoe (stealthily) *中国語では成句「蹑手蹑脚」(足音を忍ばせて歩くさま)、「轻手轻脚」(手足の動作に気を配って音を立てないようにするさま) <320> **抜き差しならない** 意味抜くことも差すこともできないということから、物事の対処のしようがない、動きがとれずどうしようもないさま。 用法文型「抜き差しならない状態」。「抜き差しのならない」とも言う。〔江戸〕 用例梶井基次郎『のんきな患者』(一九二五)「たとえ吉田は漠然とそれを感じることができても、身体も心も抜き差しのならない自分の状態であってみればなおのことその迷妄を捨て切ってしまうこともできず」 類句「暗礁に乗り上げる」「進退これきわまる」「にっちもさっちもいかない」 **抜きつ抜かれつ** 意味抜いたり抜かれたりと同等の力を持つ者同士が激しく競争する様子。 用法文型「ダレナニがダレナニと(ダレナニとダレナニが)抜きつ抜かれつ~する」。用例①②のように「抜きつ抜かれつのナニナニ」と後ろの名詞を修飾することが可能。 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「君と葉山和子は、抜きつ抜かれつの女流秀才だったことはたしかだよ」②『朝日新聞』(一九八〇・六・二三朝)「しばらくは山本浩、田代、衣笠、王の四人が抜きつ抜かれつの接戦を繰り返しても」③『朝日新聞』(二〇〇三・一一・一〇朝)「東京から来た60歳のKさんという男性と2日間、抜きつ抜かれつ旅をともにした」 類句「デッドヒートを演じる」 **抜け目がない** 意味自分の利益になることに敏感で、失敗なくうまくふるまう。手抜かりなくする。 用法文型「ダレナニはナニナニに抜け目がない」。「抜け目ない」とも言う。 用例①太宰治『グッド・バイ』(一九四八)「抜け目なく四方八方を飛び歩いて、しこたま、もうけた」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「なにせ奴さんたち、抜け目がありませんでね。・・・・・・まだ若い雌ですよ。年とったのは絶対かかりません」 類句「生き馬の目を抜く」「抜かりがない」「油断も隙もない」 外国語 英語では not miss a trick **盗人猛々しい** 意味盗みや悪事をしていながら平気でずうずうしくしていたり、さらに脅したりすることをののしって言う言葉。 用法文 <321> 型「盗人猛々しいとはこのことだ」。「ぬすびとたけだけしい」とも言う。〔江戸〕 用例 高杉良『会社蘇生』(一六七)「鉄面皮にもほどがある。盗人猛々しいとはこのことだ」 類句 「面の皮が厚い」 **濡れ衣を着せる** 意味 本当は犯人ではないものを犯人であるかのようにしたてる。無実の罪を負わせる。 用法 文型「ダレダレがダレナニに(ナニナニの)濡れ衣を着せる」「ダレナニがナニナニの濡れ衣を着せられる」。受身形で用いられることが多い。〔平安〕 用例 源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五五)「いったい、何の証拠があって、私に、そんな濡れ衣を着せるんですか」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「あの娘の親は金の力でもって事実をねじ曲げ、こっちへ濡れ衣を着せたというわけだ」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「五百年間、吸われてきてそれほど害がなかったんですから……………。煙草も花粉とおなじで、濡れ衣着せられてるんじゃないですか」④『朝日新聞』(二00四・七・一八朝)「第1話でいきなり主人公がチカンの濡れ衣を着せられるという展開も異色」 外国語 英語では falsely accuse someone <322> **寝返りを打つ** 意味 (1)寝たままで体の向きを変える。(2)味方を裏切って敵方につく。 用法文型「ダレダレが寝返りを打つ」。(2)の意味の場合、用例③のように受身形がある。 用例①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「俊輔は今のみちたりた気持をどう表現してよいかわからなかったので、もう一度寝返りを打った」②星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「不眠症の苦しさは、経験者でないとわからない。……………数をかぞえたり、枕をとりかえてみたり、寝がえりをうったり、便所へ立ったり、ありとあらゆることを試みる」12③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「ある時間が経過すると、親たちは、あっさり寝返りをうたれてしまうのである」④里見弴「戦争と私」(一九五〇)「急にロシアが寝返りを打って、ポカポカッと満州へ攻め込んで来たね」 **願ったり叶ったり** 意味自分が希望していた通りにことが運ぶさま。 用法文型「ナニナニは願ったり叶ったりだ」〔江戸〕 用例①広津柳浪『河内屋』(一八九六)「本統に有難いじゃないか。願ったり達ったりと云うのは此事なんだよ」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「荒垣さんから離れられて、願ったり叶ったりだよ」③原ゆたか『かいけつゾロリのきょうふの宝さがし』(一九九八)「『あさになると、このどうくつへ、たんけんたいがはいってくる。そいつらをぜんいんおどかしてもらいたいんだ』『それはもう、ねがったりかなったり。われわれのこわがらせかたが、どれほどじょうたつしたのか、ちょうどためしてみたかったところですよ』」④『朝日新聞』(二〇〇四・二・四朝)「新聞社に就職すれば、ちゃんとお給料をいただいて、文章も書けるわけだから、これは願ったり叶ったりだと思ったんです」 類句「思うつぼ」「図に当たる」「つぼにはまる」「的に当たる」 外国語 英語では It's like a wish come true **願ってもない** 意味願ってもかなわないようなことが運良く現実になって、非常に望 <323> **猫の手も借りたい** 意味 何の役にも立たない猫の手助けでも欲しいくらい忙しい様子。 (用法)文型「猫の手も借りたいほど(くらい)忙しい」「猫の手も借りたいほどの(くらいの)忙しさ」。比喩表現として用いられることが多い。〔江戸〕 (用例)①佐藤春夫『わんぱく時代』(一人)「猫の手も借りたいほどの暮に」②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「人手が足りなくて、猫の手も借りたいくらいなのだ」③中上健次『鳳仙花』(一六0)「確かに祭りの次の日の今日、猫の手も借りたいほど忙しかったが」④高杉良『会社蘇生』(一六七)「先生は猫の手も借りたいくらいに忙しいのと違いますか」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(1001)「捜査二課は目が回るほど忙しくなった。千菜美は本来なら事件関係者だったが、猫の手も借りたい状態では、捜査から外れろという声は起きなかった」 (類句)「席の暖まる暇もない」「盆と正月が一緒に来たよう」「目が回る」 **猫の額** 意味 土地や庭が猫の額のように非常に狭いことのたとえ。 (用法)文型「猫の額のような(みたいな・ほどの)ナニナニ」〔江戸〕 (用例)①田中英光『桜』(一二)「こんな山の猫の額みたいな土地では」②『朝日新聞』(一九五五・一・一五朝)「猫の額のような狭い沖縄の土地が」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「建坪三十坪、猫の額のような庭がついたマッチ箱のような家だったが、彼が一人で住むには広すぎた」 **猫の目のよう** 意味 猫の瞳の大きさが明暗で変化するように、方針や順番や物事がこ <324> ろころと変化し、固定しないことのたとえ。マイナス評価として用いられることが多い。 (用法)文型「猫の目のように~する」。「~する」には「変わる」「変化する」などの動詞が来る。用例②のように「のように」を省略して「ネコの目」だけで表現することもある。 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・七・二天朝)「まるでネコの目のように変わる農政に、反発することもできず」②『朝日新聞』(一九六一・九・二天朝)「近藤監督が掲げた『攻撃野球』は、いびつなネコの目打線に変わってしまった」③『朝日新聞』(一九六二・四・五朝)「阪神も猫の目のように変わる投手陣に的が絞れなかったようだ」④『朝日新聞』(100g・111・11朝)「精神性疾患による休職者が目立って増え始めたのは、教育改革の施策が猫の目のように変わった100年ごろから」 **猫も杓子も** 意味 誰も彼もみんな。状況や違いを考えず、みんながまねをして同じような言動をとることへの批判的なニュアンスがある。語源は諸説あり不明。 (用法)文型「猫も杓子も~する」〔江戸〕 (用例)①徳冨蘆花『思出の記』(1200-01)「時は明治十五年、猫も杓子も政社政党組織に熱中する時節」②獅子文六『自由学校』(一九○)「猫もシャクシも、自由とか、解放とかを、口にしている」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「猫も杓子も実存主義で、これが判らなければ何一つ判らないとみんなが考へたのである」④『朝日新聞』(一九六〇・二・天朝)「今もなお、ネコもしゃくしも大学へ殺到する現状を目にするとき」 (類句)「右へならえ」 (外国語)英語では everybody and his brother *中国語では成句「张三李四」(猫も杓子も。「张三」と「李四」は仮に付けられた名前。不特定の人を指す) **猫を被る** 意味 ある人の前では本性を隠して、おとなしそうにする。また、知りながら知らない振りをする。 (用法)文型「ダレダレが猫をかぶっている」 (用例)①内田魯庵『くれの廿八日』(〈久)「近ごろの女教師や女学生が油断なるもんかネ、(略)彼様いう生意気な耶蘇ッ臭い人が猫を被ッてるもんで」②佐藤春夫『わんぱく時代』(一九八)「今でこそ新しい学校へ来たばかりで、ネコをかぶっているが、今に正体を現わすに違いない」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一尖一)「脩吉さん、案外お <325> となしく帰ったけれど、あれは猫をかぶっているのだろうね」④中上健次『鳳仙花』(120)「乱暴な龍造がフサの前ではネコを被っていると思え、おかしくなってくる」⑤大沢在昌『悪夢狩り』(一九盗)「あいつは大人だからネコをかぶっているんですよ」 (外国語)英語では put on **寝た子を起こす** 意味 せっかく収まっていた事柄に手を出したり、忘れかけた嫌な事柄を思い出させたりして、再び面倒なことを引き起こすたとえ。 (用法)文型「寝た子を起こすようなナニナニ」 (用例)①高杉良『首魁の宴』(一九九六)「寝た子を起こすことになりかねない」②「寝た子を起こすようなまねはやめろ」 (類句)「藪をつついて蛇を出す」 **熱が冷める** 意味 何かに夢中になっていた気持ちがなくなってしまう。 (用法)文型「ダレナニは熱が冷める」「ダレナニの熱が冷める」 (用例)①石坂洋次郎『光る海』(1杂二-三)「社交的な、既製品的な愛情で夫婦生活に入り、すぐに熱がさめて、あとは惰性で家庭生活を営んでいく」②『朝日新聞』(二00四・二・二七朝)「社長がやろうとしていることは実現しないと思う。社員の熱が冷めています」 **熱が入る** 意味 あることを熱心に取り組んでいるさま。 (用法)文型「ナニナニに熱が入る」 (用例)①『朝日新聞』(100・九・四夕)「話に熱が入ってくると目が鋭い」②『朝日小学生新聞』(二00四・二・二1)「受験をひかえ、塾に通う小学生たちの勉強にも熱が入ります」 **熱に浮かされる** 意味 高熱が出て、うわごとを言う。転じて、物事に熱中して分別を失う。 (用法)文型「ダレダレが熱に浮かされて~する」「熱に浮かされたよう(みたい)」〔江戸〕 (用例)①高橋和巳『悲の器』(一尖三)「富田がその失踪の前に、熱にうかされたように書いた一連の論文は、従来の論文体からはなはだしく逸脱した、ほとんど文学的なアフォリズムの集積であったために」②山崎豊子『続白 <326> い巨塔』(一九六七-六人) 「うちの父いうたら、もう柳原さんのことになったら、熱に浮かされたみたいですのんよ」 **熱を上げる** 意味 何かに熱中して夢中になる。短期間でのぼせあがるようなニュアンスを持つ。特に異性に対して恋心を抱き、夢中になることをいう場合が多い。その場合は「お熱を上げる」とも。 (用法)文型「ダレダレがダレナニに熱を上げる」 (用例)①高橋和巳『悲の器』(一二)「わたくしばかりが初恋みたいに熱をあげて先生のことを思って」②城山三郎『毎日が日曜日』(一五)「十万頭養豚という事業計画に熱をあげている」③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「当然、稔も、亜紀子が石橋に熱を上げているのには気づいていた」④清水一行『ITの踊り』(100回)「『だけど、マックスには結局振られてしまった』『あれは向こうが勝手に熱を上げていただけだ』」⑤『朝日新聞』(100円・九・三朝)「『冬のソナタ』に熱をあげたり、日韓にもう垣根はないと思い込んだりしている日本人にとっては、狐につままれたような感じではあるまいか」 (類句)「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「血道を上げる」「熱を入れる」 **熱を入れる** 意味 ある期間継続してじっくりと真剣に取り組む。意欲的に取り組む。 (用法)文型「ダレダレがダレナニに熱を入れる」 (用例)①高橋和巳『悲の器』(一二)「担当事件に熱を入れない弁護士の論説」②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「自分がヒロインなればこそ、熱を入れて書きつづける気がおこるのであって」 (類句)「憂き身をやつす」「うつつを抜かす」「血道を上げる」「熱を上げる」 **寝ても覚めても** 意味 寝ている時も起きている時も、常に。ある一つのことが頭から離れず、いつもそのことを考えている様子。四六時中。 (用法)文型「ダレダレが寝ても覚めても~する」〔室町〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・七・一六朝)「寝てもさめても(体操が)頭から離れず、暇さえあれば一、二、三………………」②『朝日新聞』(一九七九・人・一九朝)「昨年末の蔵相就任以来『寝ても覚めても、国債が気になり通し』」③高杉良『人事権!』(一九九二)「このひと月ほどの間、相沢は寝ても覚めても〝石井三郎展』にのめり込んできた」④『朝日新聞』 <327> (1100・10・九朝)「寝ても覚めても金策を考えていた」 (類句)「明けても暮れても」「昼夜をおかず」「年がら年中」 (外国語)英語では night and day **根に持つ** 意味 受けた仕打ちや屈辱などに対する恨みを心の中にずっと持ち続ける。 (用法)文型「ダレダレがナニナニを根に持つ」。用例④のように受身形がある。〔江戸〕 (用例)①大岡昇平『俘虜記』(一盗人)「逃亡中足首が化膿して歩行困難となって以来、怒鳴られ通しだったのを、特に根に持っていた」②三浦綾子『塩狩峠』(一ㄊㄟ)「そのことを昨夜からずっと根に持っていた三堀は、信夫が不愉快でならなかった」③『朝日新聞』(一九〇・二・二朝)「どうやらそれを根に持って、このいやがらせになったものと思われます」④本所次郎『閨閥』(1100円)「いつぞやの鹿野の『若返り』方針に反対し苦言を呈したことが根にもたれている、と下田は解釈した」 (類句)「恨み骨髄に徹す」 (外国語)英語では hold a grudge (against) **根掘り葉掘り** 意味 「葉掘り」は「根掘り」の語呂合わせ。少しずつしつこく何から何まで、細かいところまで相手から聞き出そうとする様子。 (用法)文型「ダレダレはナニナニを根ほり葉ほり〜する」。「〜する」には「尋ねる」「聞く」などの動詞が来ることが多い。〔江戸〕 (用例)①小杉天外『魔風恋風』(120三)「若し根掘り葉掘り聞かれた日には、飛だ耻辱を曝さなければならなかッた」②里見弴『多情仏心』(一九三三)「根掘り葉掘り、執拗く尋ねてみようともせずに」③舟橋聖一『ある女の遠景』(一尖一)「維子は父の部屋で、泉中とのことを、根ほり葉ほり追及された」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(110011)「いやどうも、お話ししにくいことを根掘り葉掘りうかがってしまって、申し訳ありませんでした」⑤『朝日新聞』(二00四・七・三三朝)「見学を申し出ても門前払いされたり、逆に根掘り葉掘り素性を聞かれたり」 (外国語)中国語では成句「刨根问底」(根掘り葉掘り問いただす。「盘根问底」「盘根究底」などとも言う) **寝耳に水** 意味 もともと寝ている時に水音が聞こえてくることを意味したが、のちに本当 <328> に耳に水が入ってくると解釈した。転じて、全く予想していなかったこと、突然の出来事を知らされてびっくりするさま。 (用法)文型「ナニナニは寝耳に水だ」「寝耳に水のナニナニ」〔江戸〕 (用例)①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「どうしてって、全く寝耳に水で、当惑している」②『朝日新聞』(一六〇・二・二四朝)「彼から話を聞いたベン氏にとっても寝耳に水の情報だった」③東野圭吾『宿命』(一九九〇)「このやりとりを横で聞いていて、美佐子は寝耳に水の思いだった」④清水一行『ITの踊り』(二00四)「突然なんの前触れもなく、両社の合併が記者発表された。マックスとの交渉が中断し、社内にカルチャーとの噂が広がりはじめていたが、大半の社員には寝耳に水だった」⑤本所次郎『閨閥』(100回)「突如フヨウテレビ内に組合が結成された。(略)寝耳に水の鹿野は、ただちに管理職以上の辞表をとりまとめて全体会議に臨み」 (類句)「青天の霹靂」 (外国語)中国語では成句「青天霹雳」(青天の霹靂。「晴天霹雳」とも言う) **根も葉もない** 意味 事実であるという何の根拠もない。 (用法)文型「ナニナニは根も葉もない」「根も葉もないナニナニ」。ナニナニは「噂」「話」「こと」など。後ろのナニナニを修飾する形で用いられることが多い。〔江戸〕 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一九莹一-≦)「なんですか、下らない。こんな根も葉もない下劣な手紙なんか」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「誰かねえ、そんな唐突な、根も葉もないことを口にするのは」③『朝日新聞』(一六〇・六・六朝)「戒厳軍が同氏を逮捕して以来、金大中氏はあれをした、これをしたとわれわれから見れば根も葉もない罪をなすりつけようとしていた」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「落書きが不倫だけを暴露するものなら、根も葉もないことと笑ってすませられたのだが」⑤深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「そうした、たぶん根も葉もない噂を立てられているのを、宮武も聞いている」 (外国語)英語では be completely unfounded **音を上げる** 意味 苦しいこと、つらいこと、いやなことなどに耐えられなくなり、意気地のないことを言う。その結果としてそこから逃避したり、解決策をさぐったりする段階へと進む。 (用法)文 <329> 型「ダレナニはナニナニに音を上げる」 用例 三島由紀夫『禁色』(一莹一-五三)「まあ、やってごらんなさい。とにかくこの道の猛者連がみんなてこずって音を上げてるんだから」②開高健『パニック』(一九五七)「その事件の複雑さには検察庁も新聞も音をあげてしまい」③『朝日新聞』(一九一・二・三朝)「練習や上下関係が厳格なのは当たり前なのに、毎年一人は音をあげてやめる部員がいる」④清水一行『ITの踊り』(二00四)「『こんなに歩くのは久しぶりですから。でも、まだまだ大丈夫です』とうに音を上げていたが、恭子の前で弱音を吐くわけにはいかなかった」⑤『朝日新聞』(1100円・九・三朝)「前田容疑者の知人の女性が、吉山運転手の借金返済の督促に音を上げ、京都府警九条署に相談を持ちかけている」 類句 「声を上げる」「弱音を吐く」 外国語 英語では have had it **根を下ろす** 意味 新たな物事が中途半端ではなく、深くしっかりとしたものとしてある場所に定着する、受け入れられて確かな地位を占める。 用法 文型「ダレナニがナニドコに根を下ろす」 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「ぼくたちは、結婚は愛情の始発駅であり、そこから、二人で、工夫と思いやりと根気とで、生活に深く根を下ろした愛情を育て上げていくべきだと考えています」②瀬戸内晴美『女徳』(一六三)「逢えなくなって、はじめて、自分の音宗への恋が、こんなに深く強く、自分の中に根をおろしていたのかと、気づいたようなものだ」③「新思想が民衆に根を下ろす」 類句 「根を生やす」「根を張る」 外国語 英語では take root **根を張る** 意味 ある場所にどっしりと落ち着いて生きていくことのたとえ。 用法 文型「ダレナニがドコドコに根を張る」 用例 石坂洋次郎(一尖二-三)「ぼくらのように地面に深く根をはり、それに苔が生えたような、かたい甲羅をきた夫婦になると」②『朝日新聞』(100円・10・三朝)「できれば、どこにも根を張らず、生涯、愚かで身軽な漂泊者でいたい」③『朝日新聞』(1100個・二・九朝)「街に根を張り、普通の人が『晴れの日』にいく場所として選ばれたい」 類句 「根を下ろす」「根を生やす」 <330> **念が入る** 意味 物事を注意深く細かいところまで丁寧に落ち度なく行っている様子。皮肉で言うことが多い。 (用法)文型「ナニナニは念が入る」「念の入ったナニナニ」〔室町〕 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一九莹一-≦)「母親は悠一の教育方をくれぐれも信孝に頼み込んだ。この依頼はすこし念が入りすぎていたので、はたできく耳にはおかしくきこえるくらいであった」②松本清張『点と線』(一九八一五九)「署にかえった死体は、綿密に検査された。それは衣類を一枚ずつ剥ぐたびに写真に撮るという念の入った方法である」③「まあ何とも念の入ったことで、恐れ入る」 (類句)「微に入り細をうがつ」 **年がら年中** 意味 「年が年中」の転で、一年中ずっと。どのような時でもいつも。「年中」の強調表現。 (用法)文型「ダレナニは年がら年中~する」。副詞句として用いられる。〔江戸〕 (用例)①高杉良『首魁の宴』(一九九六)「書き入れ時は二月に限らず年がら年中とも言えるが」②岩城捷介『免職警官』(1100三)「年がら年中、お堅い学術論文なんかを読んでると、まるで出鱈目な嘘っぱちを書いてみたくなったのさ」 (類句)「明けても暮れても」「昼夜をおかず」「寝ても覚めても」 (外国語)中国語では慣用句「一年到头」(年の初めから終わりまで、一年中) **年季が入る** 意味 長年積んできた経験から、ある事柄に熟練している。また物が長年使われている。 (用法)文型「ダレナニは年季が入っている」「年季の入ったナニナニ」。文末は「ている」形で用いられる。 (用例)①半村良『どぶどろ』(一九七七)「岩瀬家の下僕として十年以上も年季が入っているから手伝って邪魔になろう筈はなく」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九七)「漆黒のピアノだ。元々はぴかぴかとした光沢を有していたのだろうが、今はところどころつや消しのようになっている。よくわからないが、光平には相当年季が入っていそうに見えた」 (類句)「板につく」「様になる」「堂に入る」 **年貢の納め時** 意味 悪事をしてきたことに対してその報いや罰を受ける時期。犯罪者 <331> について言う。また、してきたこと、踏みとどまってやってきたことにあきらめをつけて、次の段階に移行すべき時期。結婚について言うことが多い。 (用法)文型「ダレナニは年貢の納め時だ」。用例②のように、「年貢を納める」と動詞形でも用いられる。 (用例)①島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「『どうもまだわたしも、お年貢の納め時が来ないと見えますよ。』と言いながら、吉左衛門は梯子段の下まで寿平次を送りに降りた」②内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「老人は疲れたように頷いて、『加地よ、こん人の言うたごと、年貢ば納めんか』と言った」③高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「もう潮どきだろう。年貢の納めどきと言ってもいい」④清水一行『ITの踊り』(100円) 「『結婚するつもりなのか』『わたしも年貢の納めどきかなって、思っている』」 (外国語)英語では The game is about over (up) **念には念を入れる** 意味 注意の上にも注意を重ね、慎重にする。「念を入れる」をさらに強調した表現。 (用法)文型「念には念を入れて~する」「念には念を入れよ」。命令形がある。〔江戸〕 (用例)①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「彼は念には念を入れると云う用心から」②源氏鶏太『男と女の世の中」(一二)「しかし、念には念を入れた方が」 (類句)「念の上にも念を入れる」とも言う。「石橋を叩いて渡る」「駄目を押す」「念を入れる」「念を押す」 **念のため** 意味 間違いがないか、事実はどうかなど、さらに確認するため。また一層確実にするため。 (用法)文型「ダレダレが念のために〜する」〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九二)「念のために聞いておきたいのだが、君の目にうつった夏木君って、魅力があるかね」②高橋和巳『悲の器』(一九六二)「私は形式的な学長宛ての進退伺いの文章を毛筆で書き、さらにもう一度、念のために新聞をひらいてみた」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「念のためにいえばね、どの大学であれ構内に入って行くことは、尾行しているわが警察の力をあてにできなくなることだから」 (外国語)英語では just to be sure **念を入れる** 意味 物事を注意深く細かいところまで丁寧に落ち度なく行う。 (用法)文 <332> 型「ダレダレはナニナニに念を入れる」「ダレダレは念を入れて~する」。命令・意志表現は可能。〔安土桃山〕 (用例)①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一些七)「孟子に、人を登庸するのは最も念を入れるべきで」②夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九ェ)「念を入れすぎるくらい念を入れて仕上げた仕事ですから」③松本清張『点と線』(一九五八一五九)「そのときは、なんにも考えずに聞いてしまったが、これはもう一度、念を入れて聞きなおさねばならないな、と思った」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「胸部への癌の転移があるか、どうかを調べるために、胸部エックス線写真を撮らせたわけだ、その結果が、左肺結核の古い病巣と認められたのだから、これ以上、念を入れる必要などない」 (類句)「石橋を叩いて渡る」「駄目を押す」「念には念を入れる」「念を押す」 **念を押す** 意味 それでまちがいないのかを再度確認する。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに(~と)念を押す」。命令・意志表現は可能。用例③「愚かな」のように「念」を修飾することが可能。①⑤のように受身形が可能。 (用例)①永井荷風『新橋夜話』(一九三)「私の地ならわざわざ手合せしないで済むからって・・・昨日も電話で念を押されてるんですよ」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一九二)「『うそを言った訳じゃないから怒らないでくれよ』『念を押さなくてもいいんですよ(略)』」③松本清張『点と線』(一九八五九)「確かに、その男は安田辰郎に間違いなかったでしょうね、と愚かな念を押したくらいであった」④『朝日新聞』(一九一・三・天朝)「その実現に努力したのは、我々だったのだよ、と竹下氏はやんわり念を押したのである」⑤本所次郎「閨閥』(1100円)「『鹿野社長のことですか』と訊きましたところ、『そうだ、殺せ』と念を押されたのです』」 (類句)「石橋を叩いて渡る」「駄目を押す」「念には念を入れる」「念を入れる」 <333> **の** **喉から手が出るほど** 意味 ある人・物を非常に欲しくて欲しくてたまらないことのたとえ。 用法 文型「ダレナニはのどから手が出るほどほしい」。用例④のように「のどから手が出るくらい」とも言う。 用例 ④織田作之助『夫婦善哉』(一盗0) 「衣裳の裾なども恥ずかしいほど擦り切れて、咽喉から手の出るほど新しいのが欲しかった」②源氏鶏太『青空娘』(一九五六—五七)「咽喉から、手が出るほど、ほしい金なのである」③柳田邦男『空白の天気図』(一九老金)「気象台にとって喉から手が出るほど欲しい物品が山ほどあり」④『朝日新聞』(一六一・三・四朝)「市側は『いま建築工事は少なく、のどから手が出るくらい欲しいはず』」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下なら喉から手が出るほど欲しい人材だ」 外国語 英語では want something so badly one can taste it **のべつ幕なし** 意味 芝居で幕を引かずに休みなく演じることから転じて、物事が休む間もなくいつまでも続くさま。 用法 文型「ダレナニがのべつ幕なしに~する」 用例 『朝日新聞』(一九七九・八・一九朝)「『あなたはしあわせな環境ですね』と幼時からそれこそのべつまくなしに言われ」 類句 「ひっきりなしに」 **乗りかかった船** 意味 一度船に乗ってしまったら、岸に着くまでは途中で降りられないことから、ある事柄にすでに関わり合いになってしまいやめることができないさま。やめずにこのままさらに関わっていこうという前向きな気持ちを表す。 用法 文型「乗りかかった船だ」。単独で独立した文になる。〔江戸〕 用例 ④永井荷風『新橋夜話』(一九三)「こうなったらもう乗りかかった船です。意地ずくにでも無理を通さなければ承知が出来ません」②源氏鶏太『明日は日曜日』(一九五二―≦)「乗りかかった船である。『まア、いいや。それも、今夜はぼくが引き受けよう。』」③高杉良「濁流』 <334> **伸るか反るか** 意味 うまくいくか失敗するかわからないが、運を天に任せ思い切ってやってみる。 (用法)文型「のるかそるか、~する」。また用例④⑤のように「のるかそるかのナニナニ」という形もある。〔江戸〕 (用例)①徳田秋声『あらくれ』(一九二五)「乗るか反るか、お上さんはここで最後の運を試すんだよ」②葛西善蔵『愚痴とクダと嫌味』(一九二五)「水守君も来年はひとつ、のるかそるかで元気に創作をやると言っているが」③井上靖『氷壁』(一九五六—五毛)「第一次マナスル遠征隊が引き揚げたのに対して、そういう批判がありますね。乗るか反るか、やってみるところがなければいけなかったと」④槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九六)「消灯寸前に追い込まれたアズマ・シネマにとっては、のるかそるかの活動写真『大岡政談』大会の宣伝に、二人をやとうのが精いっぱいだったのだ」⑤『朝日新聞』(1六〇・三・10朝)「国がのるかそるかのとき、国に加担するのは当たりまえではないでしょうか」 (類句)「当たって砕けろ」「一か八か」 **暖簾を分ける** 意味 商店などで、奉公人に本家とは別に独立して同じ屋号の店を持たせる。その際、資金を援助したり、得意先なども分け与える。のれん分けをする。 (用法)文型「ダレダレがダレダレにのれんを分ける」「ダレダレからのれんを分けてもらう」 (用例)①尾崎紅葉『金色夜叉』(八九七九八)「やがては、暖簾を分けて屹としたる後見は為てくれんと、鰐淵は常に疎ならず彼が身を念いぬ」②三浦哲郎『結婚』(一六七)「店の主人に死なれて、いずれは暖簾を分けて貰う話が、それどころではなく、自分で親暖簾を背負って立たねばならなくなったが」 <335> **烽火が上がる** 意味 何かに反対の立場を掲げ、ある大きな事柄のきっかけとなる行動が起きる。 (用法)文型「ナニナニののろしが上がる」 (用例)『朝日新聞』(一九六二・二・四朝) 「ロッキード裁判の進行するなかで自民党員の中から田中元首相批判ののろしのあがることを期待するものである」 **烽火を上げる** 意味 昔、非常時の合図にのろしを上げたことから、何かに反対の立場を掲げ、ある大きな事柄のきっかけとなる行動を起こす。 (用法)文型「ダレダレがナニナニののろしを上げる」 (用例)『朝日新聞』(一九六〇・五・三朝)「先生がもう十歳若ければ、新党のノロシをあげたかもしれん」 **背水の陣** 意味 「背水」は水を背にすること。川や海などに陣をとると、これ以上退却できないことから、決死の覚悟をして相手に挑んでいく態勢をいう。出典は中国の古典『史記』。 (用法)文型「ダレダレは背水の陣(を敷く)」「ダレダレは背水の陣で~する」〔南北朝〕 (用例)①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「敬二は背水の陣を敷いて協志社に帰った」②有島武郎『星座』(一九三‐三)「何もかも素直に投げ出して、背水の陣を布いたらしく見える彼女を思うと」③『朝日新聞」(一九七九・七・二七朝)「韓国は北との戦いで背水の陣だ」④『朝日新聞』(1100五・二・朝)「主力の引退が近づいているなか、今期は背水の陣で臨んだ」 (外国語)英語では fight with one's back to the wall *中国語では成句「背水为阵」(背水の陣。「背水一战」〔背水の陣を敷いて一戦を交える〕とも言う) <336> **掃いて捨てるほど** 意味 人・物が非常に多くいる、あるさま。その人・物をあまり評価していないニュアンス。 用法 文型「ダレナニは掃いて捨てるほどいる(ある)」 用例 高杉良『指名解雇』(一九九七)「社内結婚の先輩は掃いて捨てるほどいる」 類句 「腐るほど」「枚挙にいとまがない」 **場数を踏む** 意味 現場に身を置いて何度も経験し、場慣れする。 用法 文型「ダレダレが場数を踏む」。用例②のように「場数を踏める」という可能動詞形がある。〔江戸〕 用例 ④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「生保会社は都銀にくらべると場数をふんでないというか、こういう場合の対応能力が落ちますからねぇ」②『朝日新聞』(100円・九・六夕)「場数をふめるほど時代劇の仕事がなく、志半ばで撮影所を去る若手が多いことに胸を痛めている」③『朝日新聞』(二00四・三・玉夕)「『結局は基礎とイマジネーション。ギターを弾く力は毎日のトレーニングで上がっていくけれど、それをどうやってクリエイティビティーにまで高めるかですね』答えは、やはり『場数を踏む」ことだと考えている」 外国語 英語では get a lot of practical experience **歯が立たない** 意味 相手が強すぎたり、物事が難しすぎたりして、自分の能力では全く対抗できない。 用法 文型「ダレナニがダレナニに歯が立たない」。否定形で用いられる。用例④のように「歯が立つとは思えない」のように、後ろに打ち消しを伴う形がある。 用例 ①福永武彦『忘却の河』(一九面)「人気もあるし、あたしたちみんな先生のファンなの。お講義は難しすぎて歯が立たないけど」②井伏鱒二『黒い雨』(一九六五一六六)「すべてが八方塞がりの状態にあって、我々としてはどうにも歯が立たないことを説明した」③『朝日新聞』(一九六一・九・三朝)「ロッテ投手も工夫はしているのだが、門田の技とパンチの前にはどうにも歯がたたない」④東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「あの拓馬を殺すような怪物だ。とても歯が立つとは思えない」⑤清水一行『ITの踊り』(100m)「一転大河内のとぼけた薄笑いに、とても歯が立たない相手だと秋葉は悟った」 類句 「足もとにも及ばない」「足もとにも寄れない」「雲 <337> 泥の差」「及びもつかない」「太刀打ちできない」「月とすっぽん」「天と地」 外国語 英語では be over someone's head **馬鹿にならない** 意味 金額や仕事など物事が大したことがないものとして無視したり軽く扱ったりするには限度を超えている。大変だというニュアンス。 用法 文型「ナニナニは馬鹿にならない」。否定形で用いる。 用例 ㉡森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(10九)「なに。己もあまり強くはない。女の腕というものは馬鹿にならないものだそうだ」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「一つの雑誌を出すための雑用も馬鹿にならないから」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「じゃ、切るぞ。電話代がバカにならないからな」④『朝日新聞』(1100ェ・一・二朝)「自衛隊の派遣費用だけでも馬鹿にならない金額でしょう」 類句 「馬鹿にできない」 外国語 英語では be nothing to sneeze at **馬鹿になる** 意味 本来の機能が衰え失われて役に立たなくなる。特にねじについて言うことが多い。 用法 文型「ナニナニが馬鹿になる」 用例 ④「ねじが馬鹿になる」②「スイッチが馬鹿になって電気がつかない」 **歯が抜けたよう** 意味 櫛の歯が抜けたように、本来あるべきもの、占めるべきものが抜け、数が少なくてまばらで寂しい様子のたとえ。 用法 文型「ナニドコは歯が抜けたよう」。「歯の抜けたよう」とも言う。 用例 ④源氏鶏太『天下泰平』(一九五四―五五)「毎日、ここから見て来たモノが、急になくなると、何んだか、歯がぬけたようで、淋しいもんですよ」②『朝日新聞』(1100回・九・一六夕)「ほかの階も櫛の歯が抜けたように空き店舗がある」 類句 「櫛の歯が抜けたよう」とも言う。 **馬鹿も休み休み言え** 意味 馬鹿なこと、つまらぬことを言うのはいい加減にしろ。怒ってたしなめる言葉。 用法 文型「馬鹿も休み休み言え」。「言え」の代わりに用例②③のように敬語形も使われる。 <338> 用例 ④生方敏郎『東京初上り』(一九六)「何言ってるんだろう。この人は? バカも休み休み仰言いよ」②坂口安吾『私は海をだきしめていたい』(一盗七)「夫婦は一心同体だなんて、馬鹿も休み休み言うがいいや」③石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八―五九)「バカもやすみやすみ云い給え」 類句 「冗談も休み休み言え」「馬鹿を言え」 **馬鹿を言え** 意味 相手の言うことを間違っている、おかしいと否定する時に言う喧嘩腰の言葉。目下の者や反対者に向かって言う。 用法 単独で使用。〔江戸〕 用例 岡本綺堂『箕輪心中』(一九六六)「馬鹿を言え、そんな気楽な沙汰かい」②海野十三『赤耀館事件の真相』(一九二九)「馬鹿を言え、貴様から礼儀だの修身だのというものを聞こうとは思わんよ」 類句 「冗談も休み休み言え」「馬鹿も休み休み言え」 **馬鹿を見る** 意味 自分のしたことが、結局意味がなく無益になったり、自分に損になったりして、つまらない目に会う。 用法 文型「ダレダレが馬鹿を見る」。用例④のように否定形がある。また②のように「馬鹿を見たよう」と言うこともある。 用例 ④坂口安吾『心霊殺人事件』(一九盗) 「こういう人間に限って急場の行動迅速で、雲を霞と三千里、昨日の敵は今日の友、めったにバカを見ることがないのであろう」②源氏鶏太『実は熟したり』(一九人―売)「何んだか、バカを見たような、損をしたような気がする」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「つまり記者自身が最高のコメンテーターであるという立場で発言しているのである。コメントを求められた方は馬鹿をみる」④『朝日新聞』(一九一・三・三朝)「税金逃れの手段を持たない大多数のサラリーマンや正直な申告者がバカをみないよう、申告制度の改善を急ぐべきである」 外国語 英語では feel like a fool **馬脚を現す** 意味 取り繕って隠していた本当の姿(本性や実力など)が何かの拍子にわかってしまう。本当の姿が、見かけよりマイナス評価になる場合に用いられる。 用法 文型「ダレナニが馬脚を現す」。用例①のように否定形がある。〔江戸〕 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九盗一―三)「秘書の役目は、 <339> 社長が外に馬脚を現わさないように、うまく手綱をしめたりゆるめたりしていくことなんだ」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「やっと他家から養子をもらって殿様が出来たと思ったら、なんとこれが一橋家の五男坊さ。つまり体よく乗っ取られたわけだ。馬脚をあらわすとはこの事さ」③『朝日新聞』(100円・10・10朝)「この本に列挙されるサンプルも、ことごとく本人はリコウぶったつもりで馬脚を現した自爆例といえる」 類句 「しっぽを出す」「底が割れる」「化けの皮がはがれる」「ぼろが出る」「メッキがはげる」 外国語 英語では give oneself away 中国語では慣用句「露马脚」(馬脚を現す。「露」は現す) **歯切れがいい** 意味 物の言い方がテキパキして内容も明解である。単に滑舌の問題ではなく、話の内容についての話者自身の確信や自信の有無が、話し方に影響を与えている場合に用いる。 用法 文型「ダレナニは歯切れがいい」 用例 ④大岡昇平『俘虜記』(一盗人)「彼の江戸弁はなかなか歯切れがよかった」②『朝日新聞』(一九七九・七・一四朝)「歯切れのよい現政権批判とは打って変わったもの悲しい表情である」③『朝日新聞』(1100m・九・四夕)「とたんに歯切れのいい返事がある。ふくらみをもった、やわらかい、甘いような、とてもいい声だった」 類句 反対は「歯切れが悪い」 外国語 英語では crisp and clear **白紙に戻す** 意味 それまでの事柄を、すべてそれがなかった前の状態に戻す。 用法 文型「ダレナニがナニナニを白紙に戻す」。命令・意志表現は可能。用例①のように可能動詞の否定形がある。 用例 ④高橋和巳『悲の器』(一二) 「無駄にした時間だけなら取りもどせても、起ってしまった事態は、いや構成された犯罪は、そのままでは白紙にもどせない」②「契約を白紙に戻し、初めからやり直す」 類句 「白紙に返す」「白紙にする」とも言う。 外国語 英語では take something back to the (old) drawing board **白紙に戻る** 意味 それまでの事柄が、すべてそれがなかった前の状態になる。 用法 文型「ナニナニが白紙に戻る」 <340> **白紙に戻る** 意味 「白紙」とは、何も書いていない紙のことで、一度決まった事柄や計画などが、すべてなかった元の状態に戻ること。用法文型「ナニナニが白紙に戻る」。用例『朝日新聞』(二〇〇四・九・二〇朝)「合併協議は見直しを迫られ、白紙に戻る公算が大きくなった」類句「白紙に返る」「白紙になる」とも言う。 **拍車が掛かる** 意味「拍車」は、馬に乗る時に靴のかかとにつける金具で、それを馬の体に当てることによって速く走らせることから、ある事柄が、何らかの原因でさらに勢いを増す。用法文型「ナニナニに拍車がかかる」。用例①「一層の」のように「拍車」を修飾することは可能。用例①『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「公明党が『九日衆院解散説』に踏み出したことで、野党側の総選挙への動きに一層の拍車がかかることになった」②『朝日新聞』(二〇一〇・一〇・一九朝)「共産党、統一労組懇が独自の反安保集会を開くなど、大衆運動の混迷にも拍車がかかった」 **拍車を掛ける** 意味「拍車」は、馬に乗る時に靴のかかとにつける金具で、それを馬の体に当てることによって速く走らせることから、物事の進行を一層速める。物事の勢いを一段と強める。用法文型「ダレナニがナニナニに拍車をかける」。用例②「一層の」のように「拍車」を修飾することは可能。用例①徳田秋声『仮装人物』(一九三五—三六)「間もなく大晦日の夜更の出来事が起った。それが一層彼等の行動に拍車をかけたであろうが」②『朝日新聞』(一九六〇・三・六朝)「わが国特有の学歴主義は、戦後の教育の機会均等とあいまって、親たちの進学熱に一層の拍車をかけているが」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「おやじの叱言を無視して、里子に茶碗を突き出した周平に、貫太郎の怒りが爆発した。ネズミ騒動の不快さも拍車をかけていた」④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「ところが、その混乱にいっそう拍車をかけるように、波戸狸が『いかがでしょうか、浅見さん』と、思いがけないことを言い出した」⑤『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・二四朝)「他の大手スーパーに比べて借金はなお重く、店舗改装や出店が思うようにできず、販売力の低下に拍車をかけた」外国語 英語では spur ~ on **薄氷を踏む** 意味薄い氷の上に乗っているといつ割れるかわからないことから、当事者が非常に危ない状態に身を置いたり、それを見ている第三者が冷や冷やしたりするさまのたとえ。出典は中国の <341> **箔を付ける** 意味 「箔」は金属を叩いて薄く伸ばした物。以前なかったものが権威·威厳を備えたり値打ちに重みをつけたりする。 (用法)文型「ダレナニがナニナニに箔をつける」〔江戸〕 (用例)①大仏次郎『帰郷』(一盗人)「先生のだから頂いて、社のスタートに箔をつけたいのです。つまり先生のお力で、社が最初から認められるようにして頂きたいのです」②森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「以前はホステス出身というと色眼鏡で見られがちだったのですが、最近は銀座の一流クラブで働いた経歴は箔をつけるようです」 (類句)自動詞形は「箔がつく」 (外国語)英語では add luster to **化けの皮が剥がれる** 意味 何かがきっかけで、隠し繕っていた正体が現れる。 (用法)文型「ダレナニの化けの皮がはがれる」。「化けの皮がはげる」とも言う。用例③のように否定形がある。 (用例)①江戸川乱歩『双生児』(一九四)「これは指紋から、ばけの皮がはげやしないかという心配のために青くなってしまいました」②辻邦生『北の岬』(一七0)「もうよそうじゃないか、こんな夫婦ごっこは。たまらんじゃないか。お互いに信じてもいない出まかせを言って、気休めを言って、一日のばしに、ばけの皮のはがれるのを待つなんてことは」③高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「いつ刑事被告人にならないとも限らない。バケの皮が剥がれないうちに、産業経済社は、取り屋』から脱却しなけ <342> れば大変なことになる」 (類句)「しっぽを出す」「底が割れる」「馬脚を現す」「ぼろが出る」「メッキがはげる」 **化けの皮を剥がす** 意味 隠し繕っている正体をあばく。 (用法)文型「ダレナニがダレナニの化けの皮をはがす」。用例③のように可能動詞「はがせる」がある。「化けの皮をはぐ」とも言う。〔江戸〕 (用例)①松本清張『点と線』(一九五八一五九)「よし、安田の化けの皮をはがしてやるぞ」②内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「その東大出が好かんたい、エリート面しよっと、刑事を岡っ引きみたいにばかにしよるとがな。ああいうやつの化けの皮を剥がして、ムショに叩き込んでやりたいな」③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「狸の作品が、じつは何者かの手による代作だと知って、水沼老人は欣喜雀躍したのだ。これで化けの皮を剥がせる」 (外国語)英語では rip away someone's mask **箸にも棒にも掛からない** 意味 細い小さな箸にも太い大きな棒にもひっかからないということから、人などが劣悪で欠点がひどくて救いようがない、取り扱う方法がない。 (用法)文型「ダレナニは箸にも棒にも掛からない」「箸にも棒にも掛からないダレナニ」〔江戸〕 (用例)①里見弴『多情仏心』(一九三)「箸にも棒にもかからない道楽者だった鈴江の父親も」②坂口安吾『山の神殺人』(一九≦)「勘当なんてことをしたら、箸にも棒にもかからない悪党が一人生まれるばかりでさ」③『朝日新聞』(一九八・七・二0朝) 「箸にも棒にもかからぬアル中、酒乱者ゆえの父殺し、夫殺し」④高杉良『会社蘇生』(一六七)「小川商会なんて箸にも棒にもかからないボロ商社を」⑤内田康夫『志摩半島殺人事件』(一六六)「もし箸にも棒にもかからないと思われるなら、竹林さんの胸のうちにしまっておいてもらうだけでもいいのですが」 (類句)「どうしようもない」 (外国語)英語では a hopeless case *中国語では成句「不可救药」(薬ではもはや治らない。「无可救药」とも言う) **恥の上塗り** 意味 恥をかいた上にさらに恥をかくこと。不名誉を重ねること。 (用法)文型「ナニナニは恥の上塗り」 <343> **恥の上塗り** (用例)①高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「恥の上塗りをまぬがれたのは、不幸中の幸いだった」②「恥の上塗りになるようなことは止めろ」 (外国語)英語では a double disgrace **恥も外聞もない** 意味 恥ずかしいとか人がどう思うとか気にしない。地位や名誉などを忘れ、物事にがむしゃらに取り組む姿勢を言う。 (用法)文型「ダレダレは恥も外聞もない」「ダレダレは恥も外聞もなく~する」 (用例)高見順『都に夜のある如く』(一九五四―五五)「私は、恥も外聞もない狂乱的陶酔に自分も浸りたいと思いながら」 (類句)「なりふり構わず」「見栄も外聞もない」 **恥をかく** 意味 人前で失敗・敗北をしたり無知をさらけ出したりして、恥ずかしい思いをする、面目を失う。 (用法)文型「ダレダレが恥をかく」。「恥をかかせる」のように使役形でも用いられる。用例④のように否定形がある。〔鎌倉〕 (用例)①『朝日新聞』(一九七一・七・二六朝)「結納を取りかわすといっても、各地各様の面倒な約束ごとが多い。それを知らずに恥をかきたくない」②丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「わたしはモーラ的な、テイネイな調べが苦手なたちでありまして、断言すると恥をかくことになるもしれないが」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一六三)「オレは、友達に恥かかす奴よか、エロ写真集めてる男のほうがよっぽど好きだよ」④『朝日新聞』(1100円・10・六朝)「老いては子に従え、老後恥をかかずに済むには初心に帰るべし」 (類句)「赤恥をかく」「大恥をかく」(『4年の科学』〈二00二・10〉「署長は大はじをかき、頭をかきました」) **バスに乗り遅れる** 意味 時代の流れ・流行・風潮に取り残される。 (用法)文型「ダレナニがバスに乗り遅れる」 (用例)①田中英光『野狐』(一盗九)「多くの流行作家が世に出た後では私は、所謂、バスにのりおくれた形で、持込の原稿もなかなか売れなかった」②石坂洋次郎『丘は花ざかり』(一二)「私の場合、そんなふうで、何物も生み出さない異性との交際には、しだいに興味を失って、しまいにはかえって煩わしくなり、そんなことより <344> も、ひとりでうまい料理をつくったり、お酒を飲んだりしてるほうが、かえって楽しく感じられるようになったの。・・・私はつまり、バスに乗りおくれてしまったのね」 (外国語)英語では miss the boat **旗色が悪い** 意味 試合・論争・勝負などにおいて劣勢の立場にある。 (用法)文型「ダレダレは(の)旗色が悪い」。用例②のように「旗色が」と「悪い」の間に語句を挿入できる。 (用例)①舟橋聖一『ある女の遠景』(一尖一)「それを云われると、脩吉は痛いので、どうやら、旗色が悪くなった」②『朝日新聞』(1100円・10・三朝)「それがいまや唯物論者に取込まれ、脳科学者が真剣に取り組むテーマになった。物心二元論者の旗色はすこぶる悪い」 (類句)反対は「旗色がいい」 **肌が合う** 意味 相手の考え方や性格などと合い、うまくつきあってゆける。また物事が自分の嗜好とよく合う。 (用法)文型「ダレナニはダレナニとこと(に)肌が合う」。否定形「肌が合わない」が多い。〔江戸〕 (用例)①向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九六三)「おやじは、うちへ引き取るったって来やしませんよ。山の手育ちの家内とは、まるっきり肌が合わないんですよ」②田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001)「いったん上京して大学予備門に入ったが、ともかく学校というものに肌があわず、はやばやと落第したからである」③龍一京『交番』(1100円)「警察と聞いただけで虫酸が走るほど、嫌いだった。これまで、警察官とは肌が合わないと思っていた」④『朝日新聞』(100m・10・三朝)「自然科学系では突飛な仮説が実験で証明されると、それまでの前提や論理が崩れるため論理の脆弱性が身に染みている。したがって、言語と論理のみに頼る哲学とは必ずしも肌が合うわけではない」 (類句)「阿吽の呼吸」「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「調子が合う」「肌に合う」「歩調が合う」 **肌に合う** 意味 好みに合ったり、相性が一致し、うまくやってゆける。 (用法)文型「ダレナニがダレダレの肌に合う」。否定形「肌に合わない」が多い。 (用例)①高杉良『指名解雇』(一九九七)「EDSはわたし <345> の肌に合っているような気がします」②『朝日新聞』(1100四・七・西朝)「先輩の命令には絶対服従というしきたりが、肌にあわなかった」③『朝日新聞』(二00四・九・三夕)「出会いは小学3年生の頃、家族で行った沖縄。ホテルのプールで流れていた、カチャーシーとよばれる速いテンポの曲。なんとなく肌にあったという」④『朝日新聞』(1100m・11・110朝)「すぐさまシステム開発会社に転職したものの、企業風土が肌に合わず、2年足らずで退社した」 (類句)「息が合う」「馬が合う」「気が合う」「調子が合う」「肌が合う」「歩調が合う」 **肌身離さず** 意味 常に身に着けて大切に持っているさま。 (用法)文型「ダレダレはナニナニを肌身離さず持つ」〔室町〕 (用例)①島崎藤村『旧主人』(10二)「肌身離さず御持なすった写真が有ました」②田山花袋『帰国』(一九二六)「老婦は一つの位牌を肌身離さずに持っていた」③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九겊)「翔は昨日から肌身はなさずといった感じで持ち歩いている都市地図をひらいた」 **旗を巻く** 意味 軍旗を下ろして巻いて収めることから、降伏する、降参する。戦争などの武力の闘いよりむしろ商戦・論戦などに用いることが多い。 (用法)文型「ダレダレは旗を巻く」〔安土桃山〕 (用例)高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「主幹はまだ旗を巻く気はないからな」 (類句)「がぶとを脱ぐ」「軍門に降る」「ジャッポを脱ぐ」「白旗を上げる」「手を上げる」「手を引く」 **破竹の勢い** 意味 竹はひと節割れ目を入れるとあとは簡単に次々と割れていくところから、戦いなどで、止めることができない猛烈な勢いで進むこと。「破竹」の出典は中国の古典『晋書』。 (用法)文型「ダレナニは破竹の勢いだ」「ダレナニは破竹の勢いで~する」。「~する」は「勝ち進む」「進撃する」などの言葉が来る。〔平安〕 (用例)①中里介山『大菩薩峠』農奴の巻(一九二三―雲)「甲賀郡西部方面から押し出した農民は(略)破竹の勢いで東海道を西上し」②「彼は破竹の勢いで勝ち進んだ」 (類句)「騎虎の勢い」「飛ぶ鳥を落とす」「日の出の勢い」 (外国語)中国語では成句「勢如破竹」(破竹の勢い) <346> **蜂の巣をつついたよう** 意味 ハチの巣をつつくとハチがいっせいにわんわんと飛び出してくるところから、多くの人々があちらへ行ったりこちらへ行ったり大騒ぎして混乱しているたとえ。 (用法)文型「蜂の巣をつついたような騒ぎ」「ナニナニは蜂の巣をつついたようだ」 (用例)①石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇-六二)「教室の中は、蜂の巣をつっついたような騒ぎになった」②夏目志郎『説得上手の会話術』(一六一)「五十人の参加者がいた場合、自分を除いて四十九人の人と三分間で握手をしてください、というのです。会場内はそれこそ、ハチの巣をつついたような状態となります」③『朝日新聞』(一九六一・一・10朝)「学内がハチの巣をつついたような騒ぎになった」④内田康夫『秋田殺人事件』(1001)「県議会は蜂の巣をつついたような騒ぎになり」 (類句)「上を下への大騒ぎ」 (外国語)英語では be(like) a madhouse **ばつが悪い** 意味 「ばつ」はその場の具合の意。恥ずかしかったりみっともなかったりして、その場の人に顔を合わせられない感じである。 (用法)文型「ダレダレはばつが悪い」「ばつが(の)悪い顔」。内面の心理を表すので、一人称以外で用いられる時は、「~そう」や「~よう」など推量の表現を伴う。 (用例)①野間宏『真空地帯』(一九五三)「彼等の真面目な顔は一つ一つばつが悪そうで、また取りかえしのつかぬことをした顔のようにつらそうだった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「財前が捉えた瞬間的な造影剤の通過異常を、医局員たちは捉えられなかったらしい。ばつが悪そうに顔を俯ける医局員達の様子を、ぐるりと見渡すと、財前は、にやりと白い歯を見せた」③三浦哲郎『結婚』(一六七)「約束のしるしに女たちとわれもわれもと指切りをして、いまだにそれきりになっているのが、なにか約束違反をしているようでバツが悪かったのだ」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「残った二人はバツの悪い顔を見交わして、肩を竦めあった」⑤『朝日新聞』(1100円・八・七朝)「さすがに上司を『君』で呼ぶわけにいかず、かといって、『さん』に戻すのもバツが悪かった」 (類句)「きまりが悪い」 **発破を掛ける** 意味 「発破」は工事や鉱山の作業などで、火薬をしかけて岩などをく <347> ずすこと。転じて、がんばってやる気が出るように強い口調で気合いを入れたり煽動したり励ましたりして奮い立たせる。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに(~と)発破をかける」。命令・意志表現は可能。用例②⑤のように受身形もよく用いられる。 (用例)①『朝日新聞』(一九七九・八・一六朝)「社会党と総評の選挙協力委員会はさる十日『労働者の居住地を中心に徹底した口コミ運動を展開する』とハッパをかけた」②高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「『一万枚で引き下がるとは何事だ』と瀬川副社長にハッパをかけられた田宮が」③清水一行『ITの踊り』(100回)「現場の打ち合わせは遅々として進んでいなかったが、吉原や平井が東山にはっぱをかけたのが効いたのか、それで作業が急に動き出した」④本所次郎『閨閥』(100円) 「ただ社員にハッパをかけるのが私の役目です」⑤『朝日新聞』(二00四・七・三朝)「ライオンのビューティケア事業本部の山本記也さんは昨年6月の会議で、事業本部長たちから、怒髪天をつかんばかりにハッパをかけられた」 (類句)「お尻をたたく」「活を入れる」「尻をたたく」 (外国語)英語では fire someone up **鳩が豆鉄砲を食らったよう** 意味 あまりの突然のことに驚き、目を見張ったりきょとんとしたりするさま。 (用法)文型「ダレダレは鳩が豆鉄砲を食らったように~する」「ダレダレは鳩が豆鉄砲を食らったような顔」「豆鉄砲を食らった鳩のよう」。「よう」の代わりに「みたい」もある。「鳩が豆鉄砲を食ったよう」とも言う。 (用例)①林不忘『へのへのもへじ』(一九二)「いよいよ呼ばれる原因が分からないので、茂平次君は鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに眼をパチクリさせながら」②坂口安吾『南京虫殺人事件』(一九三)「令嬢は鳩が豆鉄砲くらったように目をパチパチさせたが」 (類句)「開いた口がふさがらない」「呆れて物が言えない」「呆気にとられる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「目を白黒させる」「目を丸くする」 **バトンを渡す** 意味 「バトン」は英語 baton。リレー競技で次の走者にバトンを渡すことから、次の者、後継者、後任者に仕事・地位・責任などを引き渡す。 (用法)文型「ダレダレがダレダレにバトンを渡す」 <348> はないきがバトンを渡す」用例①石坂洋次郎『石中先生行状記』(一九四八—四九)「実体に触れてないある新しさが、世代の青年男女の性格に芽生えてきていることは確かなようだ。そして、その意味では、自分など、もうバトンを渡し終った部類に属する人間なのかも知れない」②横山隆一『でんすけ随筆』(一九五五)「どうだろう、このさい、フクちゃんにバトンを渡しては、という気分があった」 **鼻息が荒い** 意味非常に強気で、あることをしようと意気込みが激しいさま。用法文型「ダレダレは(〜と)鼻息が荒い」「ダレダレの鼻息は荒い」〔江戸〕用例①武田泰淳『風媒花』(一九五二)「鼻いきの荒い彼等は国際派をしゃにむにやっつけるために」②『朝日新聞』(一九六〇・七・九朝)「長老クラスも刺激されたかっこうで『この際はベテランによる実務型の人事で』とハナ息は荒い」③『朝日新聞』(一九六〇・九・二七朝)「その急成長に支えられて『追いつけ追いこせ』とパ・リーグ関係者の鼻息は荒い」④『朝日新聞』(一九六二・二・三朝)「今後は『月に五百台は売りたい』と鼻息は荒い」 **鼻が高い** 意味自分または自分に関係する人・ことで自慢できることがあって、得意になっているさま、誇らしく思うさま。用法文型「ダレダレは鼻が高い」「ダレダレとして鼻が高い」〔江戸〕用例①岩田豊雄『海軍』(一九二五)「海軍大臣賞といえば、おれまで、鼻が高いぞ」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「お前もすっかり一人前になったものだ。世間の評判も大変いいよ。おかげでわたしも鼻が高い」③『朝日新聞』(一九六〇・二・八朝)「係長より課長の方が格好が良い。年ごろからいっても、子どもは中学生か高校生。子供心にも鼻が高くなるだろうし」④内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「クラスでイジメがあったとき、愛が止めさせたんですって。親としては鼻が高いですよ」⑤『朝日新聞』(二〇〇五・一〇・天朝)「手塩にかけた子と同じ。引き合いが多くて鼻が高い」(編者注:完全養殖のクロマグロの話)類句「肩身が広い」「鼻を高くする」外国語 韓国語では「콧대가(鼻っ柱が)높다(高い)」 **鼻薬を嗅がせる** 意味便宜を図ってもらうために、少し賄賂を渡す。用法 <349> **鼻毛を抜く** 意味 相手を甘く見て、だましたり出し抜いたりする。女性が男性について言うことが多い。 (用法)文型「ダレダレがダレダレの鼻毛を抜く」「ダレダレがダレダレに鼻毛を抜かれる」。受身形が多い。〔室町〕 (用例)永井荷風『あめりか物語』(10人)「お前達見た様に、アメリカ三界の女郎に鼻毛を抜かれて汗水たらした金を取られる奴の気が知れないね」 (類句)「鼻を明かす」 **鼻毛を読まれる** 意味 男性が惚れた女性に見くびられ、いいように扱われる。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに鼻毛を読まれる」〔江戸〕 (用例)①永井荷風『新橋夜話』(一九三)「此様女に引掛って馬鹿な金をつかった事を無念に思うものの、そんな事に未練を残していた日には、まだこの上どれだけ鼻毛を読まれるか知れないと気づいたので」②舟橋聖一『雪夫人絵図』(一盗人-吾)「旦那様も旦那様。どうして、あんな女に、鼻毛をよまれているんでしょう」 (類句)「鼻毛を抜かれる」 **話にならない** 意味 あまりにもひどすぎて話題としてまともに取り上げる気にならない、あきれて物も言えない。 (用法)文型「~では話にならない」〔江戸〕 (用例)①源氏鶏太『男と女の世の中』(一二)「さっきから成子は、一度も階下へ降りてこないのである。浩介としては、どういう女か、見ておきたいのであった。でなかったら、お話にならない」②矢玉四郎『あしたぶたの日ぶたじかん』(一九五)「ぶたまつりなんて、いつからできたんだろう。母さんにきいてみても、てんで話にならない」 (類句)「愚にもつかない」「たかが知れる」「取るに足りない」「物の数でもない」「問題にならない」 (外国語)英語では not be worth talking about <350> **話に花が咲く** 意味 次々といろいろな話題が提供され、楽しく盛り上がって会話が続く。 (用法)文型「話に花が咲く」。また用例①のように「話に花を咲かせる」という形もある。「話」を修飾する言葉が前に来ることが多い。「話」の代わりに「思い出話」「談義」など話の内容を表す表現が来ることもある。 (用例)①中勘助『銀の匙』(一九二三一五)「おおぜいがひとつところにかたまってききかじりのうわさを種にすさまじい戦争談に花を咲かせたときに」②阿川弘之『春の城』(一二)「耕二たちの仲間は始終誰彼の家に集って、戦争の話に花を咲かせた」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「一しきりその話に花が咲いたあとで」④『報知新聞』(一九六一・九・六朝)「東京場所の五日目には各委員が顔をそろえ、和気あいあいと相撲談義に花を咲かせるのだが」⑤『朝日新聞』(1100円・10・1夕)「昔話に花が咲いた後は、病気のこと、妻の愚痴になりました」 (類句)「話が弾む」 **話の腰を折る** 意味 相手が調子に乗って話をしている最中に他者が言葉でその話をさえぎったり、あるいは外部に起こったある事柄が話を中断させたりする。 (用法)文型「ダレダレが話の腰を折る」「ダレダレが(ダレナニに)話の腰を折られる」。受身形で用いられることが多い。〔江戸〕 (用例)①永井荷風『ひかげの花』(一九言)「中島は話の腰を折られ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「用件を切り出しかけたまま、話の腰を折られた財前五郎は肝腎の話がお預けになった落ち着かぬ気持で」③『朝日新聞』(1100回・二・二三朝)「『むずかしい話はやめましょ』と、途中で話の腰を折られてしまった。もう少し講釈をさせてもらいたかったのだが」 **鼻っ柱が強い** 意味 相手に負けないという気持ち、張り合う気持ちが強く、少々のことではくじけない、自分の主張を曲げたりしない。 (用法)文型「ダレダレは鼻っ柱が強い」。「鼻っぱしが強い」 <351> はなにかけ い」とも言う。 **鼻っ柱が強い** 用例①菊田一夫『君の名は』(一九五二―西)「綾は鼻っ柱が強いし、意地も強い」 ②『朝日新聞』(一九六二・二・三朝)「磯田君も負けず劣らず鼻っ柱が強いから」 ③田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001)「女はじろりとふたりをみた。鼻っ柱の強そうな女だ」 類句「気が強い」「向こう意気が強い」 外国語 英語では hard-nosed *韓国語では「콧대가(鼻っ柱が)세다(強い)」 **鼻であしらう** (意味) 相手を軽く見て、無礼な、冷たい、無愛想な態度で応対する。 用法文型「ダレダレがダレナニを鼻であしらう」。受身形が可能。〔江戸〕 用例①有島武郎『或る女』(一九二九)「どこに行っても取りあいもせず、鼻であしらい、鼻であしらわれ慣れた葉子には、何か真味な力で打ちくだかれるなり、打ちくだくなりして見たかった」 ②太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「私どもには、名人気取りの職人が、威勢のいい時には客の註文も鼻であしらい」 ③源氏鶏太『男と女の世の中』(一九六二)「『ふん』夏木は鼻であしらってから二人の女の方をジロジロと見た」 類句「鼻先であしらう」「鼻の先であしらう」とも言う。「木で鼻をくくる」「げんもほろろ」「取り付く島もない」「にべもない」 外国語 英語では turn up one's nose at **鼻に掛ける** (意味)自分のある事柄の優秀さを自慢して得意げに振る舞う。その様子が他人から見て不快に感じられる場合に用いる。 用法文型「ダレダレはナニナニを鼻にかける」。ナニナニは「才能」「美しさ」「家柄」など。用例⑤のように否定形がある。〔江戸〕 用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八七)「すこぶる知恵才覚があってまたよく知恵才覚を鼻にかける」 ②佐藤春夫『都会の憂鬱』(一九三)「僕もその時は、秋帆の奴は自分の出世を鼻にかけている俗な奴だと思っていたのです」 ③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「財前というのは、ちょっとばかりの才能を鼻にかけ、若輩のくせに思い上って、のさばり過ぎている」 ④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九査)「むしろ、矢代が名声を鼻にかけた軽薄なドン・ファンのように感じられ」 ⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「つゆほども美形を鼻にかけない」 <352> **鼻に付く** 意味 (1)強い臭い、嫌な臭いが鼻を刺激し、なかなかとれず不快である。(2)人・物事の同じようなことが繰り返し行われて、飽き飽きし、嫌になる。わざとらしくて嫌味を感じる。 (用法)文型「ダレナニが鼻につく」〔江戸〕 (用例)①(1)津本陽『深重の海』(一九六)「沖に出るほど、潮の香が鼻につき胸苦しく」②安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「ニスと何か刺戟性の強い臭いが鼻についた」(2)③徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「お婆さんは最初きさ代さんきさ代さんと囃して居たが、此頃では最早鼻について来たと見えて、あのきさ代がきさ代がと蔭口にも毒づいて居た」④源氏鶏太『緑に匂う花』(一九五ニー五三)「達枝のこっちを見くだすような素振りは鼻について、しぜんに寄りつき難いのである」⑤槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九七八)「前半はともかく、半ばあたりからは広告の連続がいささか鼻につくことはいなめない」⑥『朝日新聞』(一九六〇・八・三朝)「自信に満ちた受け答えが、時として鼻につく感をもたれることも、気掛かりな点である」⑦高杉良「指名解雇』(一九九七)「仕事のできる人なんでしょうけど、なんだか自信満々で、鼻につくわねぇ」 (類句)(1)「鼻を刺す」「鼻を突く」(2)「鼻持ちならない」 (外国語)(2)英語では stick in one's craw **鼻の下が長い** 意味 男性が女性に迷いやすい。好色である。 (用法)文型「ダレダレは鼻の下が長い」〔江戸〕 (用例)正宗白鳥『生まざりしならば』(一九三)「鼻の下の長い赭っ面の、口の中の臭そうな男に」 **鼻の下を長くする** 意味 男性が女性にでれでれしてだらしなく、言うがままになる様子。 (用法)文型「ダレダレがダレダレに鼻の下を長くする」 (用例)①骨皮道人『滑稽独演説』(六六七)「助平先生は鼻の下を長くして」②小杉天外『魔風恋風』(一九〇三)「俺が萩原て云えば、何でも鼻の下を長くしていると思って」 (類句)「鼻の下を伸ばす」とも言う。「鼻毛を伸ばす」 **鼻の下を伸ばす** 意味 「鼻の下を長くする」に同じ。 (用法)文型「ダレダレ <353> はなをあか がダレダレに鼻の下を伸ばす」〔江戸〕 **鼻の下を伸ばす** 用例①向田邦子『寺内貫太郎一家』(一六三)「さっきお涼さんに鼻の下を伸した貫太郎が、今度は周平の浴衣姿に目を細めていた」 ②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九八七)「『枕探しにやられた』『鼻の下を伸ばすからだよ。はっははは………………』」 ③『朝日新聞』(100㎝・二・二七朝)「鼻の下を伸ばしようがない間柄だからこそ、後ろめたさもなく長続きするのだ」 **鼻持ちならない** (意味)臭くて我慢できない意から転じて、人の様子や言動がいやみったらしくて、不快である。 用法文型「ダレナニは鼻持ちならない」「鼻持ちならないダレナニ」。「鼻持ちならぬ」とも言う。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『光る海』(一九二―空)「ほんのわずかでも余裕があるようでは、その人間は、文学者として、似テ非ナル鼻持ちならない存在になってしまいますわ」 ②『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「署員の尊大な特権意識も鼻もちならぬものでした」 ③『朝日新聞』(一六〇・三・八朝)「本の中で人生の岐路に立って悩む主人公の姿は、僕にはきざで鼻持ちならぬ男でした」 ④森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「自己本位で鼻もちならない気位の高さに目を瞑れば、性的な魅力は水準以上である」 類句「鼻につく」「ヘドが出る」「虫酸が走る」「胸糞が悪い」 外国語 英語では stink **洟も引っかけない** (意味)「洟」は鼻から出る液。鼻水。軽蔑する相手には洟をかけるが、それさえもしないということから、見下して相手にしない、全く無視する、関係を持とうとしない。 用法文型「ダレダレはダレダレにははなもひっかけない」 用例高杉良『指名解雇』(一九九七)「ウチ辺りの中小企業なんか洟もひっかけてくれないと思って」 類句「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」「屁とも思わない」「目じゃない」「目もくれない」 **鼻を明かす** (意味)優位に立つ相手を出し抜きあっ‼と言わせ、優位に立つ。ぎゃふんと言わせる。 用法文型「ダレダレがダレダレの鼻を明かす」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(10-三三)「おれはあ <354> はなをおる いつの鼻をあかしてやろうと決心したのだ」 ②井伏鱒二『黒い雨』(一九六五―六六)「庄吉さんは『わしゃあ、池本屋の小母はんの鼻を明かしてやりたい一心に、喧嘩腰でこの案を考えついた』と云った」 ③東野圭吾『学生街の殺人』(一九七)「まさか、警察の鼻をあかそうなんて、子供じみたことを考えているんじゃないでしょうね」 ④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001)「それどころか今日こそは大物をあげておまんらの鼻をあかしちゃると張り切っておったそうで」 ⑤『朝日小学生新聞』(1100四・三・二元)「この帳簿の誤りを見つけだして会計委員会の顧問の安藤先生の鼻を明かしてやるのだと思うとワクワクしますね」 類句「あっと言わせる」「一杯食わす」「意表を突く」「裏をかく」「度肝を抜く」「鼻を折る」「一泡吹かせる」 **鼻を折る** (意味)高慢な鼻をへし折る意で、おごり高ぶっている人をこらしめて恥をかかせる。 用法文型「ダレナニがダレダレの鼻を折る」。用例②③のように受身形がある。意志形が可能。〔江戸〕 用例①夢野久作『鼻の表現』(一天)「相手方の高慢チキな鼻の表現が引くり返って『アッケラカン』と空虚になった鼻の表現を期待した言葉であります。『鼻を折る』とか『折られる』とかいうのもこれと同様の意味で」 ②「あの高慢ちきな奴の鼻を折ってやろう」 ③「鼻を折られてしゅんとなる」 類句「鼻っ柱を折る」「鼻っ柱をへし折る」とも言う。「鼻を明かす」 外国語 韓国語では「코를(鼻を) 납작하게(ぺちゃんこに) 하다(する)」 **花を咲かせる** (意味)(1)「話に花を咲かせる」ということで、「話に花が咲く」に同じ。 (2)人が作った物、育てたある人などが後になって栄える、よい結果が生じて、成功する。努力して名を上げる。 用法文型(1)「ダレダレがナニナニに花を咲かせる」 (2)「ダレナニが花を咲かせる」 用例①「昔話に花を咲かせる」 (2)②『朝日新聞』(10・10・二天朝)「勲章制度というものは、明治維新になって外国から導入されたもので、それが軍国主義時代に花を咲かせ、戦後に持ち越されたものと聞く」 ③『朝日新聞』(一九一・10・一九朝)「結果はバント失敗だったが、あえて西本で押し通し、守りを重視したのが花を咲かせた」 ④『朝日新聞』(1100円・九・ニ三夕)「小劇場演劇出身者は <355> はなをなら 雑草。アスファルトのすき間から伸びようと一生懸命だが、その後にどんな花を咲かせるのかという野心がいない」 類句(2)「花開く」(『朝日新聞』〈1100個・二・九夕〉「バイオリンとピアノが一緒になって初めて音楽として花開く曲」)「実を結ぶ」 **鼻を高くする** (意味)自分または自分にかかわる人・物事で自慢に思い、誇らしげにする。 用法文型「ダレダレは鼻を高くする」「ダレナニはダレダレの鼻を高くする」〔江戸〕 用例①徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「『人民之友』も中々の好評で、号を逐うて人気が加わると云う風評は、敬二の鼻を高くした」 ②坂口安吾『投手殺人事件』(10)「細巻もバッテキの甲斐があったといささか鼻を高くしていた矢先であったから」 ③半村良『どぶどろ』(一九七七)「この町屋敷は江戸開府以来のもので、お前などもここへ出入りするだけで、世間に鼻を高くしていられようと言うもんだ」 **鼻を突く** (意味)強い臭いが鼻を刺激する。不快感を伴う場合に用いられる。 用法文型「ナニナニが鼻を突く」 用例①福永武彦『忘却の河』(一九六四)「もう秋の初めのころのように厭な臭いが鼻を突くこともなかったが」 ②藤本義一『サイカクがやって来た』(一九六)「中に入ると、陽気なラテンのリズムが鳴り、異臭が鼻を衝いた」 ③津本陽『深重の海』(一老人)「乾いた血溜りが、鼻をつく腐敗臭を放っている」 類句「鼻につく」「鼻を刺す」 **鼻を鳴らす** (意味)(1)相手を軽蔑し馬鹿にする時にふんと鼻から息を出す動作。 (2)相手に甘えてすり寄っていく時の鼻にかかった声を出す動作。 用法文型(1)「ダレダレがふんと鼻を鳴らす」「ダレダレが鼻を鳴らす」〔江戸〕 用例(1)①東野圭吾『学生街の殺人』(一六七)「持参してきた雑誌を彼に見せた。彼は興味深そうに目を通したあと、ふんと鼻を鳴らした」 ②『4年の科学』(1100二・九)「イックの言葉に、いじわる仮面がふんと鼻をならした」 (2)③「女が男に鼻を鳴らして身を寄せてきた」 <356> はなをもた **花を持たせる** (意味)事実とは違っていても表面上で、相手が自分よりもすばらしい者かのように相手を立てる。相手を喜ばせるために、勝利や名誉・功績などを譲り、相手を立てる。 用法文型「ダレダレがダレダレに花を持たせる」。命令・意志表現が可能。〔室町〕 用例①樋口一葉『うもれ木』(八二)「洋刃の厄介も御身分がら如何や、何と私しに、此処の花をもたせては下さらぬかと」 ②高見順『都に夜のある如く』(一九西―—五五)「ひょっとすると玉置が、私にハナを持たせたのかもしれない」 ③『朝日新聞』(一六〇・五・二朝)「野党にも花を持たせなければという国会対策上の配慮があったというのが一般的な見方」 ④高杉良『人事権!』(一九九二)「岩間が課長のきみに花を持たせようと気を遣ってるんなら」 ⑤東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「わざわざ上京してきた刑事に花を持たせようということかもしれない」 外国語 英語では make someone look good **歯に衣着せぬ** (意味)人に遠慮せず自分の思ったことを率直に言う、ずけずけ言うさま。 用法文型「歯に衣着せぬナニナニ」。また「ダレダレは歯に衣着せず~する」。ナニナニには「意見」「発言」など発話行動を表す語句が来る。用例①②のように「歯に衣を着せぬ(ず)」と「を」を挿入することがある。〔室町〕 用例①五木寛之『風に吹かれて』(一九七○)「その店は、主人の歯に衣を着せぬ八方破れの毒舌で有名だった」 ②『朝日新聞』(一九〇・三・10朝)「歯に衣を着せず、率直に紙面批評を書くのが、私のこれにこたえる義務だと考えている」 ③『朝日新聞』(一九六一・10・二五朝)「タンザニアのニエレレ大統領は、レーガン米大統領を相手に歯にきぬ着せぬ先進国批判を展開したという」 ④高杉良『人事権!』(一九九二)「歯に衣着せず言いたいことを言った」 ⑤『朝日新聞』(100個・八・四朝)「クリック博士は研究に関しては歯にきぬきせずに率直に意見を言っていた」 外国語 中国語では成句「直言不讳」(直言してはばからない、ありのままを言って遠慮しない) **羽を伸ばす** (意味)普段の義務・束縛や抑圧された状態などから逃れ、解放され、自由にのびのびと振る舞う。 用法文型「ダレダレが羽を伸ばす」。命令・意志表現は可能。用例④のように可能動詞がある。 <357> はばがきく 用例①源氏鶏太『鏡の中の顔』(一九語)「久し振りで一人になって羽根をのばしているのかも知れない」 ②福永武彦『忘却の河』(一九盔)「あなただってたまには羽を伸ばしたっていいでしょう」 ③森村誠一『東京空港殺人事件』(一老一)「久しぶりにうるさい妻の目から離れて、金髪美人を取り囲まれて、せいぜい羽をのばしていらっしゃいよ」 ④清水一行『ITの踊り』(100回)「今日は母の調子がよさそうなので、安心して羽を伸ばせるんです」 ⑤『朝日新聞』(100m・10・三朝)「今日は、おばあちゃんをみててあげるから、たまには羽を伸ばしておいで」 類句「命の洗濯」「鬼の居ぬ間の洗濯」 **歯の浮くような** (意味)明らかに心からでなく、何らかの効果を意識してのわざとらしいほめ言葉が用いられた時の、不快な気持ちを形容する言葉。 用法文型「歯の浮くようなナニナニ」。ナニナニは「賛辞」「お世辞」など。「歯が浮くような」とも言う。 用例①源氏鶏太『三等重役』(一九겊1-三)「今頃になって、歯の浮くようなお世辞はよせ」 ②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「これらの男性の婦人問題啓蒙家の語り口は、女蕩しの手口と酷似している。みせかけの理解と歯の浮くようなおだてあげ、この二本立てだ」 ③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「このように歯の浮くような、中身のない美辞麗句を並べたて」 ④西村京太郎『伊勢志摩殺意の旅』(11000)「それは、歯の浮くような、賛辞にあふれたものだった」 ⑤本所次郎『閨閥』(100回)「とよ子は、鹿野の歯の浮くような賛辞を当然と受けとめた」 **歯の根が合わない** (意味)寒さや恐怖などからがたがたふるえるさま。 用法独立して一文を構成する。「歯の根が合わぬ」とも言う。〔江戸〕 用例瀬戸内晴美『女徳』(一≦)「とにかく、ウイスキーをあけましょうよ。こう寒くっちゃ、歯の根もあわないわ」 外国語 英語では one's teeth chatter **幅が利く** (意味)ある分野・場所・社会・集団の中でその人の存在が認められて自由に振る舞うことができる、勢力がある。 用法文型「ダレダレがダレダ <358> はばをきか レはドコドコに幅が利く」〔江戸〕 用例①徳田秋声『爛』(一九二三)「私もっと、あの社会で幅が利くんだと思っていたら」 ②「俺もこの辺じゃ幅が利くから」 類句「顔が利く」「物を言う」 **幅を利かせる** (意味)ある分野・場所・社会・集団の中でその人・物・事柄の存在を認めさせ偉そうに振る舞う、勢力をふるう。 用法文型「ダレナニがドコドコで(に)幅を利かせる」。「幅を利かす」とも言う。〔江戸〕 用例①谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(一九三三―言)「またローマ字論などが幅を利かすことも出来まいし」 ②大岡昇平『俘虜記』(一盗八)「彼は昔自分が世話した俘虜達が、彼より先に収容所に来たばかりに幅を利かせているのが、面白くなかったらしい」 ③『朝日新聞』(一九七九・五・三言朝)「街には半そでの軽快な夏姿が幅を利かせ南国では初泳ぎ組も見られた」 ④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「いずれの地域にも幅をきかす主役がいて、異人種は入りにくい」 類句「大きな顔をする」「羽振りを利かせる」 **羽目を外す** (意味)「はめ」は「はみ」とも言い、馬の口にはめるくつわの部分。酔っ払ったり調子に乗ったりして、限度を越えて普段はしないような極端なことをする。一般的には良くないとされていることをする時に用いる。 用法文型「ダレダレが羽目を外す」〔江戸〕 用例①城山三郎『毎日が日曜日』(一九五)「今夜は、おれ、少し羽目をはずしてもいい。のみ歩きたいんだ」 ②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「もちろん飲みすぎて羽目をはずしたために、今日は元気に欠けるところがあり、気恥かしく思っている弟が」 ③『朝日新聞』(1100回・九・三朝)「日頃の憂さを晴らそうと羽目を外し過ぎないように要注意」 ④『朝日新聞』(1100四・三・三七夕)「俗世界では仮装パーティーで、ハメを外し、自分を忘れる時間をもつことになる」 類句「たがをはずす」「度を過ごす」 外国語英語では let loose **波紋を投げる** (意味)何事もなかったところ、平静なところにある事柄がさまざまな影響を与え、大きな問題へと広がって行く。周囲に動揺を <359> はらがくろ はやはなし 与える。 用法文型「ダレナニがダレナニドコに波紋を投げる」 用例①『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「富塚総評事務局長の『社会党との新たな協力関係の提言』が政界、労働界に波紋を投げている」 ②森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「金沢が提供した復元写真は捜査本部に波紋を投げかけた気配である」 類句「波紋を投じる」とも言う。「波紋を投げる」「波紋を投じる」は「波紋が生じる」と「一石を投じる」との混同から生まれた。「波紋を広げる」(『朝日新聞』〈二00五・二・111朝〉「イラクに記者を派遣しないよう求めたシラク仏大統領の要請が、仏メディアに波紋を広げている」)「物議をかもす」 **早い話が** (意味)長い説明を省いて要点を簡潔に言えば、手短に言えば。要するに。話を手短に済ませたい時に切り出す言葉。 用法文型「早い話が、~」。文頭に使われ、後続の文全体にかかっていく。〔江戸〕 用例①森鴎外『青年』(一九二)「早い話が、あの店の上さんだって、若しあの二人に対して物を言うことになったら、旦那様奥様と云っただろう」 ②芥川龍之介『戲作三昧』(一九二七)「曲亭先生の、著作堂主人のと、大きなことを言ったって、馬琴なんぞの書くものは、みんなありゃ焼き直しでげす。早い話が八犬伝は、手もなく水滸伝の引き写しじゃげえせんか」 類句「一口で言えば」「一口に言って」 外国語 英語では to make a long story short **腹が決まる** (意味)決意がはっきり固まる。覚悟が決まる。 用法文型「ダレダレは腹が決まる」「ダレナニの腹が決まる」 用例①三島由紀夫『禁色』(一九盗一-≦)「良人が止めても止めないでも同じことである。彼女自身の肚は決っている」 ②『朝日新聞』(1100個・九・六朝)「才ある監督に自由に撮らせるのが企画の趣旨でした。事故後の苦労も念頭にあったし、腹は決まっていましたから」 類句「肝が据わる」「肝が太い」「度胸が据わる」「腹が据わる」 **腹が黒い** (意味)意地が悪くて心の中で良くないことを考えたり悪いことをたくらんでいる。腹黒い。 用法文型「ダレダレは腹が黒い」「腹の黒い <360> はらがすわ ダレダレ」 用例山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七一六六)「前の佃にしても、今度の安西にしても、茶坊主の腹の黒い、クロスケみたいな奴が、医局長面をしてのし歩くんだ」 外国語 韓国語では「뱃속이(腹の中が)검다(黒い)」 **腹が据わる** (意味)何かが起きても動じない。いざという時の覚悟ができていて、どっしりと構えている様子。覚悟が決まる。 用法文型「ダレダレは腹が据わる」「腹が(の)据わったダレダレ」。「肚が据わる」とも書く。 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一九六六)「思っていることを、ぐっと腹の中におしこんでこそ、はじめて、ほんとうに肚のすわった男になれるのですよ」 ②有吉佐和子『恍惚の人』(一九三)「なんだか、やっと肚が坐ったって感じね」 ③『朝日新聞』(一九七九・10・一四朝)「いくらかは腹の座った親のつもりでいた私も、あの子が薬を飲んだことにはすっかり動転し」 ④太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九八七)「赤田は肚がすわっている。何度か事情聴取をしたんだが、いつも動ずる気配を見せないからな」 ⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「N証券のシェアを高めることはウチのためになる、で押せばいいものを、まったく肚が据わっとらん」 類句「肝が据わる」「肝が太い」「神経が太い」「度胸が据わる」「腹が決まる」 **腹が立つ** (意味)怒りの感情が生じる。怒る。 用法文型「ダレダレはダレナニに腹が立つ」〔鎌倉〕 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(10)「そのうち、伊津子は、ひどく植に腹がたってきた」 ②有吉佐和子『恍惚の人』(一九七三)「自分の親だというのに、世話はみんな妻に押しつけてしまう気かと昭子は腹が立った」 ③渡辺淳一『北都物語』(一九塩)「塔野自身にしたところで、たまに美人と昼飯を一緒にしようと思っただけで、それ以上の野心があったわけではない。もし自分をそんなふうに見て、警戒しているとしたら腹が立つ」 ④『朝日新聞』(一九七九・五・三〇朝)「私もこのところ灰色政治家に対して腹の立つことはなはだしく」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「癪にさわる」「怒髪天を衝く」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」 <361> はらにすえ 「腸が煮えくり返る」「むかっ腹を立てる」「烈火の如く」 **腹が太い** (意味)度量が大きく、小さなことにこだわらない。太っ腹である。 用法文型「ダレダレは腹が太い」 用例「社長は腹が太いところを見せようと、部下の失敗にも雷を落とさず、まあいいと言った」 類句「腹が大きい」とも言う。「懐が深い」 **腹が捩れる** (意味)「腹の皮がよじれる」に同じ。 用法文型「ダレダレは腹がよじれるほど~」「腹がよじれるようなナニナニ」。~には「笑う」「おかしい」などが来る。ナニナニに「おかしさ」などが来る。 用例①星新一『ボッコちゃん』(一老一)「いままでむずかしい顔つきで、もっともらしい説明をしてきた所長が、急に口をとがらせて高いなき声を出し、妙な手つきをはじめたのだ。まったく腹がよじれるようなおかしさだった」 ②高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七人)「腹が捩れるほどおかしかったが」 **腹に一物** (意味)心の中に何か悪だくみを隠し持っていること。 用法文型「腹に一物あるダレナニ」 用例①坂口安吾『影のない犯人』(一≦)「なんとなく腹に一モツある人相だ」 ②池島信平『雑誌記者』(一九五八)「戦場に立てば、ずいぶん立派な人達が、腹に一物ある民間人と親しく接する地位に置かれると、アッと驚くほど早くイヤらしくなるのである」 類句「胸に一物」 外国語 英語では have something up one's sleeve **腹に据えかねる** (意味)他者の言動や物事の動向などに関して我慢の限界を越えていて怒りが抑えられない。 用法文型「ダレダレは(ナニナニを)腹に据えかねる」〔室町〕 用例①三浦綾子『塩狩峠』(一人)「まして夫が沢のかくれ家に泊ったことも知らずにいた。そのすべてを知った時、さすがのエミヤも腹に据えかねて、ついに怒った」 ②『朝日新聞』(一九七九・六・二0朝)「首相は、ストラウス氏の交渉のやり方を、ハラにすえかねていたのだろう」 ③深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「愛する娘とは <362> はらのかわ 、その我儘にも限度がある。加津夫としても、今度の問題では腹にすえかねていた」 ④清水一行『ITの踊り』(1100円)「それにしても、どう考えても腹にすえかねるのは、マックスとの合併交渉を途中で打ちきり、格下のカルチャーの傘下に入ろうとしていることだった」 ⑤『朝日新聞』(100g・八・四朝)「騒音対策に文句は言えない。しかし、関空重視の国の姿勢は腹に据えかねる」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」「むかっ腹を立てる」「烈火の如く」 外国語 英語では can't stomach **腹の皮が捩れる** (意味)腹をねじまげて笑いころげることから、おかしくてたまらない様子。抱腹絶倒する。 用法文型「ダレダレは腹の皮がよじれるほど~」「腹の皮がよじれるようなナニナニ」。「~」に「笑う」「おかしい」などが来る。ナニナニに「おかしさ」などが来る。用例のように「よじきれる」と言うことがある。 用例夢野久作『笑う唖女』(一九三五)「アハハハ・・・もうわかったわかった。もう止めてくれ給え伝六君。腹の皮が捩じ切れる。アハハハハ」 類句「腹がよじれる」とも言う。 **腹の虫が治まらない** (意味)他者の言動や物事の動向などに関してどうにも納得できず、怒りの感情が起き、それがいつまでも続いてなかなか平常にもどらないさま。 用法文型「ダレダレは腹の虫がおさまらない」「ダレダレの腹の虫がおさまらない」。「腹の虫がおさまる」と肯定形で言うこともあるが、否定形で用いられることが一般的。 用例①源氏鶏太『英語屋さん』(一盗一)「どうにもムカムカしてきて、一度は自分の卓越非凡な実力の程をしめして、相手をあれよと瞠目させてやらないことには、茂木さんの腹の虫がおさまらないようである」 ②『朝日新聞』(一九六〇・四・三七朝)「外務省の高島事務次官も記者会見で『首脳会談では、いいことばかりは言えない』と腹の虫がおさまらない様子だ」 ③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九七)「しかし、ああまで言われては、腹の虫が納まらない」 ④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「弥生は腹の虫がおさまらないらしく、ついに東都信用 <363> はらわたが 金庫の本店に電話をかけた」 ⑤大沢在昌『心では重すぎる』(11000)「錦織が泣きわめいて許しを乞うたとする。それじゃ俺の腹の虫はおさまらない」 類句「腹の虫が承知しない」とも言う。「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腸が煮えくり返る」「烈火の如く」 外国語英語では not soothe someone's feelings **腸が腐る** (意味)人の精神がすっかり堕落する。 用法文型「ダレダレははらわたが腐る」「はらわたが(の)腐ったダレダレ」 用例樋口一葉『にごりえ』(一八九空)「腸が腐った人は子の可愛さも分りはすまい」 類句「腹が腐る」 **腸が煮え繰り返る** (意味)他者の言動や物事の動向などに関して激しい怒りの感情がふつふつと起こってきてどうにもおさまらない様子。 用法文型「ダレダレはダレナニにはらわたが煮えくり返る」「はらわたが煮えくり返る思い」。「はらわたが煮え返る」とも言う。 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一些一-三)「あの立派な洋服も、どうせ瑠璃子がこしらえてやったものにきまっている。と思うと、わしは今さらのように、はらわたが煮えかえった」 ②三浦綾子『塩狩峠』(1杂八)「何かはわからないながら、どうも腹わたの煮えくりかえるような、いつまでも腹にずしんとこたえる小説ですね」 ③『朝日新聞』(1六〇・二・三朝)「朴賢一君をとりまく生徒と教師たちの差別行為の陰惨さに腹わたが煮えくりかえる思いだが」 ④大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「あんたの腸が煮えくりかえっているのはわかる。鹿報会は、結局利用されただけで、弟さんまで殺されたのだからな」 ⑤『朝日新聞』(二00四・二二・二六朝)「政府に対して、はらわたが煮えくりかえっている。本物かどうか確認は必要だが、北朝鮮のペースに乗ってこんな結果を持ち帰るぐらいなら、帰ってくるなと言いたい」 類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「烈火の如く」 外国語英語では make someone's blood boil <364> はらをいた **腹を痛める** (意味)女性が産みの苦しみを味わって子を産む。 用法文型「ダレダレが腹を痛めて産んだダレダレ」「腹を痛めたダレダレ」 用例「腹を痛めた我が子」 **腹を固める** (意味)あることをしようと決心する。覚悟する。 用法文型「ダレダレが~と(の・に)腹を固める」。用例③「最終的な」のように「腹」を修飾することは可能。命令・意志表現は可能。 用例①『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「すでに『松野氏に限って喚問』のハラを固めている執行部は」 ②『朝日新聞』(一九六〇・五・二三朝)「内閣不信任案に同調するというような行動はよほど腹を固めないとできない」 ③『朝日新聞』(一九六一・三・六朝)「一気に予算案の採決まで突っ走ると最終的なハラを固めたわけではなかったようだ」 類句「意を決する」「腹を決める」「腹をくくる」「腹を据える」「ほぞを固める」 **腹を決める** (意味)「腹を固める」に同じ。ただし「腹を固める」のほうが強い決心を表す。 用法文型「ダレダレが~と(~の・~することに)腹を決める」。命令・意志表現は可能。 用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九三七)「堀と海江田との報告を聞いて、久光は西郷処分の腹をきめた」 ②津本陽『深重の海』(一九六)「太地へ帰って、交渉の結果を皆にどう知らせるか、彼は繰りかえし考え、事実を伏せることに、腹をきめていた」 ③『朝日新聞』(一九六〇・三・一九朝)「今場所の貴乃花は『負け越せば引退」とハラを決めて土俵にあがった」 ④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「まあ、そうなったらそうなったで仕方がないと腹を決めた。ナニも逃げ隠れする理由はないのである」 ⑤岩城捷介『免職警官』(1100三)「花輪は椅子に沈んで思案を続けたが、有効な答えは出なかった。やがて腹を決め、〈ローザ〉に電話を入れた」 **腹を括る** (意味)どうなっても動じないという覚悟のもとに強い決意をする。 用法文型「ダレダレが腹をくくる」。命令・意志表現は可能。 用例①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七一六八)「今度は、学術会議選の近畿地区一万八千人の有権者が対象で、いうてみたら学者の参院選みたいなもんやから、票読みはよっぽど腹を括ってやらんといかん」 ②内田康夫『博 <365> はらをすえ 多殺人事件』(一九九一)「浅見を信用する方向で腹をくくったとはいえ、なおも躊躇うものがないわけではないのだろう」 ③龍一京『交番』(1100円)「菊田を逃がすためなら、何でもしてやると腹を括っていた」 ④『朝日新聞』(1100円・四・四朝)「拙劣な記事やデタラメや人権侵害があったとしても、と福田和也は書く。『しかし、そういう一切合切を、とりあえず認める、と言うことでデモクラシーは、成り立っているのです』。書き手の知性と腹の括りようが伝わってくる」 類句「意を決する」「腹を固める」「腹を決める」「腹を据える」「ほぞを固める」 外国語 英語では prepare oneself for the worst **腹を肥やす** (意味)「私腹を肥やす」に同じ。 用法文型「ダレダレは腹を肥やす」〔江戸〕 用例内田魯庵『社会百面相』(10二)「伯父さんが他に損を掛けて自分の腹を肥した例でもあるかい」 **腹を探る** (意味)相手が何を考えているか、どう思っているかを、直接的な方法でなく、それとなく知ろうとする。 用法文型「ダレダレがダレダレの腹を探る」〔江戸〕 用例①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「『ハラ』もカオに劣らずわたしたち男子の重要な思考道具だ。相手の腹を探り、腹を読み、相手の腹の内に見当がつけば」 類句「鎌を掛ける」「探りを入れる」 **腹を据える** (意味)いざという時の覚悟を決め、どっしりと身構えて物事に対処する。 用法文型「ダレダレが腹を据える」「ダレダレが~と腹を据える」 用例①野間宏『真空地帯』(一九二)「もっとも木谷はまだ中堀中尉をたのみにしていないわけではなかったので、廊下を通って行く足音に期待をいだいたが、彼はもう腹をすえていたのである」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―空)「自分の顔によく似た国立大学医学部長という肩書を持つこのインテリ海坊主は、相当なしたたか者だと、腹を据えた」 ③津本陽『深重の海』(一九六)「大方の男たちは、『命まで取りに来もせなよ』と、腹をすえているようであった」 ④『朝日新聞』(1100四・三・四朝)「80年当時、1週間に1隻ずつ船を売却し、100隻以上を売り払っ <366> はらをたて た。合理化は腹をすえて進めたが、いたたまれなくなる出来事に見舞われました」 類句「意を決する」「腹を固める」「腹を決める」「腹をくくる」「ほぞを固める」 **腹を立てる** (意味)不愉快にさせられた対象(自分も含む)に怒りの気持ちを表す。怒る。 用法文型「ダレダレがダレナニに腹を立てる」〔平安〕 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(一)「こんなことで腹を立てていては、貧民病院の医者は勤まらなかった」 ②三浦綾子『塩狩峠』(一九六)「母をわがもの顔に独占している待子に腹をたてた」 ③『朝日新聞』(一九七九・五・九朝)「メンツをつぶされた形の外相は強硬な姿勢を崩さない米国のやり口に相当腹を立てていた」 ④『朝日新聞』(一九七九・六・八)「一番罪が軽いはずの自分がなんで残されるのかと腹を立て、独房に本を投げつけたこともあった」 類句「頭に来る」「癪に障る」「むかっ腹を立てる」 **腹を読む** (意味)相手が心の中で何を考えているかを相手の言動から察する。直接的に聞くのではなく推測する。 用法文型「ダレダレがダレダレの腹を読む」。受身形が可能。可能動詞形がある。 用例①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一老一)「大隊長の門間少佐の腹は読めないだろう」 ②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「『ハラ』もカオに劣らずわたしたち男子の重要な思考道具だ。相手の腹を探り、腹を読み、相手の腹の内に見当がつけば」 **腹を割る** (意味)心に思っていることを隠さず、すっかりさらけだして話す。本心を打ち明ける。 用法文型「ダレダレが腹を割って~する」。「~する」には「話す」「話し合う」などが来る。 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(一杂0)「わしも先日話し合って、君の気持はだいたい分った。だから今日は腹を割って話そうじゃないか」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「いわば、一生他人の飯を食いつづけて、肚を割って話すということも、普通の人にくらべたら」 ③『朝日新聞』(一九七九・六・二七朝)「大平首相とカーター大統領は『お互いに自国の南の方で、かつ農民の出身』(大統領)ということもあって、ハラを割って話し合ったようだ」 ④『朝日新聞』(二00四・一一・二元朝)「信頼できる人に出会って、自分をさらけ出すことができなければ、腹を割った仲にはなれ <367> はをくいし ないですよね」 類句「肝胆を開く」「胸襟を開く」「底を割る」 外国語英語では have a heart-to-heart talk **馬力を掛ける** (意味)今まで以上に気合を入れて精力的に仕事などに励む。 用法文型「ダレダレが馬力をかけて~する」。命令・意志表現は可能。 用例①飛田穂洲『野球生活の思い出』(一九八)「この人が馬力をかけて細大もらさず試合の報道をした」 ②獅子文六『青春怪談』(一九語)「そんなに、お強いの・・・。じゃア、馬力をかけて、お酌しますわ」 **針の筵** (意味)周囲に批判的な人がいたり、周囲から苦しめられたりして少しも心が安まらない、つらい場所・環境・状態。また自分が失敗をおかして、周囲の人に対して心苦しく思っている状態。出典は中国の古典『晋書』。 用法文型「ナニナニは針のむしろ」「ダレダレは針のむしろに座るよう」〔江戸〕 用例①高杉良『人事権!』(一九九二)「会長に嫌われてることを察してるとしたら、逆に針の筵かもしれない」 ②姉小路祐『刑事長越権捜査』(一九九≦)「針のムシロに座っているくらいなら、寒くてもマイカーの中にいるほうがましですよ」 外国語 英語では a bed of nails **腫れ物に触るよう** (意味)気むずかしい人など相手の気分を害さないように、遠慮しながら恐る恐る接することのたとえ。 用法文型「ダレダレが腫れ物に触るように~する」〔江戸〕 用例①嘉村議多『業苦』(一九六)「圭一郎は今も衝動的に腫物に触るような気持に襲われて開封くことを躊躇した」 ②源氏鶏太『男と女の世の中』(一姿兰)「もし、そんなことをしたら、たちまち、辞めさせてくれといい出すに違いないのである。当分の間は、腫れ物に触るようにそっとしておかなければならないのだ」 外国語 英語では treat someone with kid gloves **歯を食いしばる** (意味)悔しさ・精神的肉体的苦痛・怒りなどに必死に耐えてがんばる。 用法文型「ダレダレが歯を食いしばって~する」〔平安〕 <368> はんきをひ 用例①野間宏『真空地帯』(一九三二)「初年兵の責任者として自分をよんでなぐりつけ、自分はじっさいしゃくでしゃくで、しかし歯をくいしばってなにくそ、いまにみろと心のうちで思ってるしかありません」 ②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「おそらく父は、母が震災で哀れな死にかたをしたあと、わたしがかたづくまではと思って歯をくいしばって生きてきたにちがいない」 ③『朝日新聞』(1100円・八・五朝)「歯をくいしばってラリーをつづける愛ちゃん」 ④『朝日新聞』(100㎝・二・六朝)「小さいときから脊椎カリエスで寝たきりだった姉は、18歳まで生きられないと言われながら7歳の今も生きている。歯をくいしばって生きてきたと思う」 外国語 英語では grit one's teeth **反旗を翻す** (意味)これまで自分が従っていた勢力に対して、反逆する。謀反を起こす。 用法文型「ダレダレがダレナニに反旗を翻す」 用例①森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「青柳に反旗を翻しただけに留まらず、彼を辱めたのである」 ②『朝日新聞』(100個・九・二朝)「旧スラムの住民は、フセイン政権時代繰り返し政府に反旗を翻した」 類句「背を向ける」「盾を突く」「弓を引く」 **万事休す** (意味)出典は中国の古典『宋史』。荊南の王の従誨は子の保勗を熱愛したので、ねたんだ者が怒ってにらんでも、この子はにこっと笑った。荊南の人はこれを見て「万事休す」と言ったことから、もうどうにもしようがない、方法・望みがない様子。お手上げ。「休す」は止む意。 用法文型「ナニナニは万事休す」。多くは独立した文として用いられる。「休した」という過去形もある。〔江戸〕 用例①石坂洋次郎『山のかなたに』(一九)「ズルズル、ズルズルと、闘う集団はしだいに講堂の建物に近づいた。そこまで行ってしまえば、万事休すである」 ②『朝日新聞』(一久・10・三朝)「『さあ!』という場面なのに、久保寺、河埜が連続三振に倒れ、香川遊ゴロで万事休す」 ③森村誠一『人間の十字架』(一九九≦)「つまり相互乗り入れの安全保障だ。どちらかが崩れたら、万事休すである」 ④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「『あっ、あんた、小田川の女性殺しの犯人やないか!』と怒鳴る声がした。声の主を見て、ぼくは(万事休す)と思った」 類句「打つ手がない」 外国語 英語では There is no <369> はんでおし way out *中国語では成句「万事俱休」(万事休す。「倶」はすべて) **半畳を入れる** (意味)昔、芝居で役者の演技に不満がある時、観客が敷いていた半畳のござを舞台に投げ入れたところから、転じて、他人の言動をからかったり、野次ったり、まぜっかえしたりする。 用法文型「ダレダレが半畳を入れる」〔江戸〕 用例①久保田万太郎『ゆく年』(一九五)「感心しちゃアいけねえ。(半畳を入れる)」 ②江戸川乱歩『黄金仮面』(1九三○-三三)「『ああ、あいつが入水自殺をしたというわけですか。君はその死骸を探しているのですか』所長がまたしても半畳を入れる」 ③井伏鱒二『集金旅行』(一九三五)「こんな艶聞を聞かされる場合、私たちは勝手にしろと半畳を入れるのが常識である」 ④火野葦平『土と兵隊』(一九八)「上官の熱演がおかしければ笑い、面白ければ半畳を入れ」 ⑤今東光『悪童』(一九五七)「『おい、東ちゃん、そこらでまたベティちゃんが出て来るんやないやか』と四郎が、すかさず半畳を入れた」 類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「水を差す」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」 **判で押したよう** (意味)紙に押した印章が同じであるように、同一人物または同種の人々・集団がいつも決まり切った、同じような言動をすることのたとえ。 用法文型「ダレダレは判で押したように~する」「判で押したようなナニナニ」 用例①長谷川如是閑「国家の進化と愛国的精神」(10)「今の日本の役人の取っているオルソドックスの見地は、その編纂にかかる国定教科書の類を見ると直ちに了解される。それは必ず、判で押したように、国家に尽すために学問をしなければならない」 ②角田喜久雄『高木家の惨劇』(一盗七)「『斎藤文助は来ているかね?』答えは、判で押したよう。『今日はまだ来ませんよ』」 ③『朝日新聞』(一九美・人・一朝)「今度の興安丸帰国者のうち三百二十八人の釈放戦犯は、判で押したように同じことを言うと報ぜられている」 ④有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「これまでは判で押したように午後一時前後に排便していたのが、どうして真夜中にこういうことになったのだろう」 ⑤清水一行『ITの踊り』(100回)「会長の好みのタイプは、判で押したようにプロポーション抜群な細身の美肌だそうだから」 <370> ひいきのひ *ひ* **贔屓の引き倒し** (意味)ひいきしすぎてかえって相手に迷惑をかけたり不利を与えること。 用法文型「ひいきの引き倒しになる」〔江戸〕 用例高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「贔屓の引き倒しを絵にかいたような結果に終わった」 **火が消えたよう** (意味)活気がなくなり急に寂しくなることのたとえ。また、活動していたものがやみ、ひっそりするたとえ。 用法文型「ナニドコは火が消えたように~する」「ナニドコは火が消えたようだ」。「火の消えたよう」とも言う。用例②のように「よう」を略すこともある。 用例①内田魯庵『くれの廿八日』(六六)「座敷も庖厨も寂寞閑として八十何坪のだだッ広い家が恰も火の消えた様である」 ②徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九一四)「葬式のあとの様な、火の消えた寂寞が家を領して居る」 ③福永武彦『忘却の河』(一九盔)「今まで出張で留守をしていたのとちがって、夫が出征してしまうとうちのなかは火の消えたようだった」 ④中上健次『鳳仙花』(一六〇)「材木が暴落し町は火が消えたようになっている」 ⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「典型的な地方都市である花巻の街は、午後八時を過ぎると、文字どおり火が消えたように寂しくなる」 **火が付いたよう** (意味)(1)人が何かを急に激しく盛んにすることのたとえ。あわただしいさま。 (2)赤ちゃんなどが急に激しく泣き叫ぶさま。 用法文型(1)「ダレダレは火がついたように~する」。「火がついたように泣く」がよく使われる。「火のついたよう」とも言う。 用例(1)①半村良『どぶどろ』(一九七七)「若い頃の遊びをしそこなった叶屋小六は、四十の終わり、五十近くなってから、それこそ火がついたように遊び出し」 (2)②吉屋信子『あの道この道』(一九四―金)「千鶴子は肩をゆすり、首を振り、わッと激しく火のついたように、赤ちゃんみたいに泣き出してしまった」 ③原民喜『夏の花』(一盗七) <371> びくともし 「今も『兵隊さん、兵隊さん、助けてよう、兵隊さん』と火のついたように泣喚く声がする」 ④檀一雄『青春放浪』(一九五六)「『ギャッ』という彼女の声、つづいて火のついたような泣声がはじまった」 ⑤中上健次『鳳仙花』(一九〇)「芳子をそそのかしていた郁男は素早く土間から外に飛び出し、火がついたように芳子は声をあげて泣く」 **火が付く** (意味)(1)ある事柄の影響で騒動・事件になる。 (2)ある事柄の勢いが急に盛んになったり高まったりする。 用法文型(1)「ダレナニは火がつく」「ナニナニに火がつく」 用例(1)①松本清張『点と線』(一九ㄟ~売)「××省は汚職事件で火がついていますからね」 (2)②海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一六七)「堀を出府させたことでいくらか鎮まっていた壮士らの興奮には、また火がついた」 ③『朝日新聞』(1100円・九・三朝)「域内最大の経済規模であるドイツをはじめ、高い失業率が足かせになって、消費に火が付かないためだ」 ④『朝日新聞』(100㎜・10・四夕)「9月20日、大阪市内で観光説明会を開き、『冬のソナタ』で火がついたブームの再燃に期待を込めた」 ⑤『朝日新聞』(1100回・二・二六夕)「アトランタで私は金を一つとったんだけど、カイは金三つ。悔しくて、それで負けん気に火がついちゃった」 **引きも切らず** (意味)次々と絶え間なく続くさま。 用法文型「ダレナニが引きも切らず~する」 用例①永井荷風『うでくらべ』(一九一六一七)「お遺物の水菓子鮓のたぐいが引かえ取りかえ引きも切らず運ばれる有様」 ②「客が引きも切らず押し寄せてくる」 類句「入れ替わり立ち替わり」 **びくともしない** (意味)そこにいる人や、そこにある物が外からの力を加えても、また加えなくても全く動かない。また、外部からの働きかけにも全く心が動じない。 用法文型「ダレナニはびくともしない」〔江戸〕 用例源氏鶏太『男と女の世の中』(一九二)「『バカッ』浩太郎は、とうとう怒鳴りつけてしまった。が、成子はビクともしないで、『どうせ、あたしは、ばかな女です』」 類句「痛くも痒くもない」「平気の平左」「ものともしない」 <372> ひけをとる **引けを取る** (意味)能力・器量や作り出したものなどについて他より劣る、負ける。 用法文型「ダレナニはダレナニに引けを取る」。「引けを取らない」という否定形で用いられることが多い。〔江戸〕 用例①野間宏『真空地帯』(一九二)「彼は小学校のときには、上級学校を志望して特別勉強をしていたものたちなどにもひけをとるなどということは全くなかったのだ」 ②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「長距離を長時間かかって、のんびり泳ぎ続けることなら、誰にもひけをとらないと思っている」 ③『朝日新聞』(一九七九・八・一六朝)「わが国の社会保障は制度的にはすでに、西欧諸国にヒケをとらない水準になったわけだ」 ④『朝日新聞』(10・11・一七朝)「女子マラソンが、男子にひけを取らないばかりか、ある面では男子をしのぐ魅力を持つことは」 ⑤『朝日新聞』(100・八・三朝)「その(小松砂丘の)画才は、長谷川等伯にも棟方志功にもひけをとらぬものだと私は思う」 **膝を打つ** (意味)自分の膝を手のひらでぼんと叩く意で、何かを思いついたり感心したりした時の動作。 用法「ダレダレが膝を打つ」〔江戸〕 用例①永井荷風『新橋夜話』(一九三)「ははア。それで判った。と京さんは膝を打った」 ②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九三)「ぼくは腹立ちを押えてウーンと考えこみ、さては随筆というものは『心象と物象との交わるところに生じる文で』あったか、これはよい勉強をしたと、ぽんと膝を打ち」 類句「ひざを叩く」(井上ひさし『日本亭主図鑑』〈一九七五〉「わたしは『主婦の嫌いなテレビタレント』という項目に、ケーシー高峰、林家三平、(略)大橋巨泉などの名前が並んでいるのを見て「ははーん、やっぱり』と膝を叩いた」) 外国語 英語では snap one's fingers **膝を乗り出す** (意味)相手の話などに興味をひかれ、体を前に乗り出す。またそれに積極的にかかわろうとする態度、乗り気になっている態度を示す。 用法文型「ダレダレが膝を乗り出す」 用例①有島武郎『或る女』(一九二九)「そういって折り入って相談でもするように正井は煙草盆を押しのけて膝を乗り出すのだった」 ②島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「半蔵らは珍客を取り囲いて一緒にその日の夕方を送った。正香 <373> ひっこみが というものが一枚加わると、三人は膝を乗り出して、あとからあとからといろいろな話を引き出される」 類句「ひざを進める」 **膝を交える** (意味)お互いのひざが交わるぐらい近い距離にいることから、少人数でお互いに親しく打ち解けて話し合う。 用法文型「ダレダレがひざを交えて~する」「ダレダレはダレダレとひざを交えて~する」。「~する」に「話す」「話し合う」「語り合う」などの言葉が来る。〔平安〕 用例『朝日新聞』(一九七九・六・三朝)「首脳たちがヒザを交えて親しく話し合うことで信頼感もわこうし」 **額に汗する** (意味)汗を流して一生懸命に働く。 用法文型「額に汗して〜する」。「~する」に「働く」などが来る。〔江戸〕 用例「朝早くから夜遅くまで額に汗して働いて稼いだお金」 類句「精が出る」 **額を集める** (意味)複数の人が寄り集まって相談する、知恵を出し合う。 用法文型「ダレダレが額を集める」「額を集めて~する」〔江戸〕 用例島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「吉左衛門は味噌納屋の二階から、金兵衛は上の伏見屋の仮住居から、いずれも仮の会所の方に集まった。その時、吉左衛門は旧い友だちを見て、『金兵衛さん、馬籠の宿でも御通行筋の絵図面を差し出せとありますよ。』と言って、互いに額を集めた」 **引っ込みが付かない** (意味)「引っ込み」はもと、歌舞伎で役者が退場する時の芸のこと。その芸がうまくないと格好がつかないことから転じて、行きがかり上、主張を取り下げたり身を引いたりすることがしにくい。 用法文型「いまさら引っ込みが付かない」 用例「絶対大丈夫だと言った手前、いまさら引っ込みが付かない」 外国語 英語では can't back out <374> ひつぜつに **筆舌に尽くしがたい** (意味)その時の感情・状況・状態などが言葉や文章では表現できないほどである。良いことにも悪いことにも言える。 用法文型「ナニナニは筆舌に尽くしがたい」〔江戸〕 用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「こんなふうに生きながら呑まれることがどんなものかはとても筆舌につくしがたい」 ②石坂洋次郎『光る海』(一九六二―三)「あの時のうれしさは筆舌につくしがたいものだったわ」 ③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「小浜の『ホテル』は、予想したとおり―――というより、予想を上回る、筆舌に尽くしがたい、ひどいものだった」 ④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「カテーテルを外すときの痛みは筆舌に尽くし難い」 類句「言語に絶する」 **一泡吹かせる** (意味)予想できないようなことをして相手をあわてさせびっくりさせる。それによって優位に立とうとする。 用法文型「ダレダレがダレダレに一泡吹かせる」。命令・意志表現が可能。「一泡も二泡も吹かせる」という強調表現がある。「ひとあわふかす」とも言う。〔江戸〕 用例①幸田露伴『付焼刃』(10五)「一卜泡も二夕泡も噴かせて遣るから今見ろという気で」 ②『朝日新聞』(一九六〇・七・三三朝)「同監督としても江川にひとあわ吹かせたかったのだろう」 ③内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「心中、県警本部の連中にひと泡吹かせてやる気ではいる」 ④広山義慶『私刑警察 激弾!』(1001)「その事件が亮平の仕業だと、さすがの梅津局長も気づいていまい。いずれ打ち明けて一泡吹かせてやりたい」 ⑤清水一行『ITの踊り』(100回)「カウボーイ時代の発想で、自分が一番正しいんだと、物事を押し付けてくるアメリカに一泡吹かせるには、パンドラとアラジンの合併は不可欠なんだよ」 類句「あっと言わせる」「泡を吹かせる」「一杯食わす」「意表を突く」「裏をかく」「度肝を抜く」「一泡食わせる」(木谷恭介『京都木津川殺人事件』〈一九九六〉「江藤興産を相手にまわして、ひと泡食わせたるいうて、アイリスへはいり込んだんじゃ」) **一息突く** (意味)今やっていることを途中でやめ、あるいは終えて、ちょっとくつろいで休 <375> ひとかわむ 憩する。また、あるまとまとった仕事がかたづき、一段落する。 用法文型「ダレダレが一息つく」 用例①野間宏『真空地帯』(一二)「将校室も今週一週間はつかえなくなり、いままで毎夜一息ついていたのにそれもできないのです」 ②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「三人が満腹して一息ついた時に」 ③龍一京『交番』(1100円)「指輪事件と酔っ払いとのやりとりも片付き、やっと一息ついた」 ④『朝日新聞』(1100四・九・二朝)「外資系のシステム開発会社に勤めるYさんが、上司にそう告げられたのは、春に始動した大型プロジェクトが軌道に乗り、ほっと一息をついたタイミングだった」 類句「一息入れる」も同じ。「手を止める」「手を休める」 **人がいい** (意味)「人」は人柄、人となりのこと。人と争ったり他人を疑ったりすることがなく、だまされやすく、自分に不利益になるようなことも受け入れてしまう性格である。マイナス評価的に使われることが多い。 用法文型「ダレダレは人がいい」「人のいいダレダレ」。「人がよい」とも言う。〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一次一)「人のいい父は、猛弥の云う通りを信じるだろう」 ②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「それでも小父さんが根が人のいいことは間違いないし、わたしをどうとかしようという気じゃなかったことも、勿論私にはよく分ってる」 ③半村良『どぶどろ』(一九七七)「今の野郎は人が好いばっかりで糞の役にも立ちゃしねえ」 ④安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「ひとの好い二年兵で、何くれとなく面倒をみてくれるが、気がつくと時々私物の包みから一つ二つ小さなものを盗んで行く」 類句反対は「人が悪い」 外国語 英語では soft-hearted **一皮剥く** (意味)人前で取り繕っているうわべの飾りをはぐ。虚飾を取り除く。それによって本当の姿(醜い姿)が見えるということ。 用法文型「ダレナニも一皮むけば~」「一皮むくと~」 用例①石坂洋次郎『麦死なず』(一九六)「一と皮むけばとんでもない正体を暴露するかも知れないぞ」 ②『朝日新聞』(一九塩・10・三朝)「作詞者は『ヤクザだって、警察官だって、ひと皮むけばみんな同じだ』といっているそうだ」 ③『朝日新聞』(1100円・10・三夕)「英国臭をプンプンさせて分別ある大人としてふるまいつつ、一皮むくと若さ <376> ひとかわむ への嫉妬と愛する女性を失うことへの恐怖に身をよじる男を演じるケインがうまい」 類句「一皮めくる」とも言う(『朝日新聞』〈一次一・二・二九朝〉「いまのところ『挙党態勢』の下に静まっている党内各派も一皮めくれば、こうした衝撃に直面して党がゆらいだ場合にどう出るかの思惑が、水面下で火花を散らし始めている」)。 **一皮剥ける** (意味)生き物が脱皮するように、何かをきっかけに容姿・性格・能力などが以前と比べ良くなる。 用法文型「ダレダレが一皮むける」。強調して「一皮も二皮もむける」と言うことがある。〔江戸〕 用例①中上健次『鳳仙花』(一六〇)「佐倉から舟町の旅館に移って、フサは一皮も二皮もむけて娘らしくなったと誰彼なしに言われた」 ②『朝日新聞』(一九六二・五・七夕)「かのハワード・カーティス君が完全に一皮むけたのは、昭和五十一年の春、フィアンセのかず代さんが日本から来たころからではなかったか」 ③『朝日新聞』(100回・11・11夕)「実力はいま一つだが、この夏、北欧の小さなツアー!を回って一皮むけたようだ」 **人が悪い** (意味)相手に与えるべき、あるいは与えてもかまわない情報を与えなかったり、人が困っているのを見て楽しんだり、ふざけてだましたりするような性格である。 用法文型「ダレダレは人が悪い」「人の悪いダレダレ」〔江戸〕 用例①舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「こんな人の悪い食えない男は、自分の恋人なんかである筈がない」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「それにしても、東君は人が悪いよ、この間、ここで二人で飲んだ時、まだ何処へ行くかきめてないと云いながら、あんたもなかなかの狸ですな」 類句反対は「人がいい」 **人間きが悪い** (意味)あまり事情をよく知らない人が聞いたら、誤解を受けて良くない。 用法単独で一文を構成する。「人聞きが悪いナニナニ」のように修飾することが可能。 用例①有島武郎『生れ出づる悩み』(一九一八)「婆様だ!??人聞きの悪い事べ言わねえもんだ。人様が笑うでねえか」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・二九朝)「人聞きの悪いことは割合あっさり話しても、本当に損になることは話さな <377> ひとたまり かった」 **一口に言って** (意味)短く簡潔に言うと。要するに。 用法文型「一口に言って〜だ」 用例①『朝日新聞』(一九六・六・二朝)「ひと口にいって油との戦いに勝ち目はない」 ②『朝日新聞』(一九七九・八・九朝)「その時の印象は、一口にいって温厚なヒューマニストという感じでした」 ③『朝日新聞』(一九六〇・七・九朝)「一口に言って、不正摘発的なスタンスでの報道である」 類句「一口で言えば」(『毎日新聞』〈一次二・二・三朝〉「一口でいえば、財政再建路線を突っ走ってきた首相や蔵相は減税要求に応えなければならず」)「早い話が」 **一筋縄では行かない** (意味)普通のやり方では人また物事を自分の思うとおりに扱うのが難しい。相当したたかである。 用法文型「ダレナニは一筋縄ではいかない」「一筋縄ではいかないダレナニ」。「一筋縄ではいかぬ」とも言う。〔江戸〕 用例①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九〇-三1)「一筋縄で行かぬ曲者のことだ。これまでもあったように、死んだと見せかけて、そのじつ世界のどこかのすみで、またまたま大じかけな悪だくみを計画していまいものでもないのである」 ②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一盗二―吾)「大男は愛想よくいったが、どうして、眼の玉の動きは、一筋縄ではいかぬ人物なること、明瞭であった」 ③森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「ゴルフ焼けか、浅黒く日焼けした面皮は、一筋縄ではいかぬしたたかさを秘めているようである」 ④内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「ことによると、もう一歩で事件は解決するのかもしれません。しかし、世の中は複雑ですからね、なかなか一筋縄ではいきません」 ⑤田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(110011)「こいつは弁が立つうえに警察事情にも通じている。たしかに一筋縄ではいかないやつだ」 類句「海に千年山に千年」「煮ても焼いても食えない」「一癖も二癖もある」 **一たまりもない** (意味)他からの攻撃に対して少しの間も持ちこたえられず、すぐにやられてしまう。 用法文型「ダレナニはひとたまりもない」「ひとたまりもなく~する」〔江戸〕 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「作用子の革命党派とは対立セクトの連中に『誤爆』される <378> ひとつかま とすれば、鍵のかからぬ玄関ではひとたまりもないなと気にかかってきたので!」 ②原ゆたか『かいけつゾロリのきょうふのゆうえんち』(一九一)「あんなするどいはでかまれたら、ひとたまりもないよ」 ③「大攻勢にひとたまりもなく敗れ去った」 **一つ釜の飯を食う** (意味)「同じ釜の飯を食う」に同じ。 用法文型「ダレが一つ釜の飯を食う」 用例①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九二六)「『一つ釜の飯を食ってるんだから』と水夫たちは思って、我慢しているのだった」 ②『朝日新聞』(一次一・四・画朝)「そうした有権者の二面性は単一民族の、いわゆるひとつかまの飯を食うという仲間意識がそうさせるのだろうか」 **人の褌で相撲を取る** (意味)他人のものを利用して自分の利益を図る。 用法文型「ダレダレは人のふんどしで相撲を取る」〔江戸〕 用例①坪内逍遙『当世書生気質』(一六八五人六)「人の犢鼻揮で角牴をとりゃアしまいし」 ②木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(一九九六)「官僚というのはいつも姑息です。ひとの褌で相撲を取る」 類句「他人のふんどしで相撲をとる」とも言う。 外国語 英語では take risks with other people's money **一旗揚げる** (意味)出世して地位や財産を得るために、意気込みをもって何か新しい事業などを始める、新しい道を切り開くような行動を起こす。 用法文型「ダレダレが一旗揚げる」。命令・意志表現は可能。用例④のように強調して「一旗も二旗も揚げる」と言うことがある。 用例①徳田秋声『仮装人物』(一九五―美)「一旗揚げるつもりで上海へ走るところであった」 ②源氏鶏太『夢を失わず』(一)「男の働き盛りなのだ。ここらで、一旗上げないことには、これからの一生、まるで、お母さんに飼われて生きてゆくようなことになる」 ③安岡章太郎『海辺の光景』(一九六)「『きっと一と旗、上げて見せる』などと細君にも約束し、母堂にも威張っておいたのに、いざ医院をひらいてみると誰も患者はやってこない」 ④中上健次『鳳仙花』(10)「朝鮮や満州に行けば一旗も二旗もあげられる」 ⑤高杉良『会社蘇生』(一六七)「小川商 <379> ひとめにつ 会のスポーツ用品部をそっくり受け継いで、ひと旗あげたいと考えたとしても不思議ではない」 外国語 英語では make it big **一肌脱ぐ** (意味)人のためにまた、ある目的のために本気になって何か役に立つことをする、助力する。 用法文型「ダレダレがダレナニのために一肌脱ぐ」。命令・意志表現は可能。用例④のように強調して「一肌も二肌も脱ぐ」と言うことがある。 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九一―三)「わしは敏清のためにも一と肌脱ぎますよ」 ②源氏鶏太『男と女の世の中』(一三)「親父のために一肌ぬいで下さいませんか」 ③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「この際、先生も、財前教授の実現に一肌脱いで下さい、先生が一肌脱いで下されば、もう力強いものですから」 ④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六金)「次期学長を狙い、着々と足固めをしてるらしいな、その時は、君から頼まれんでも、一肌も二肌も脱ぐことを、僕は決して忘れていないんだよ」 ⑤(1100円)「のちの総理の岸信介も、当時の商工次官として、水口のために一肌脱いだ」 類句「肩を入れる」「肩を貸す」「肩を持つ」「助け船を出す」「力を貸す」「手を貸す」「手を差しのべる」 外国語英語では lend a helping hand **人目に付く** (意味)目立って、人の注目を引く。 用法文型「ダレナニが人目につく」 用例①黒岩重吾『背徳のメス』(10)「院内の人たちは酔い潰れて、眠るはずですし、人眼につく危険が少ないからです」 ②福永武彦『忘却の河』(一九盔)「この方法もそろそろ人目につくようになったな、とその時彼は考えたものだ。人目についたところで何の疚しいこともない」 ③山本道子『ベティさんの庭』(一九七二-三)「あの人目につくほど疲労のいろに隈どられていた夫の様子が、瓔子には見えなかったのだろうか」 ④『朝日新聞』(1100回・一一・二九朝)「絵麻が殺されたほこらのある庭には彼女の足跡しかなく、明日香が殺された露天風呂へは、人目につく遊技場を通らなければならない」 類句「人目に立つ」(山崎豊子『白い巨塔』〈一九六三-六金〉「鵜飼医学部長が、直接、岩田、鍋島と会うことは人目にたつ怖れがあったから」)「目につく」 外国語 韓国語では「남눈에 (人目に)뜨이다(見える)」 <380> ひとめをし **人目を忍ぶ** (意味)人に見られないように気をつけて何かをする。また隠れてつきあう。 用法文型「ダレダレが人目を忍んで~する」「人目を忍ぶナニナニ」〔安土桃山〕 用例①大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「それは結局、われわれの子供らの親が、個人の家庭でひとめをしのんでやらねばならなぬ訓練でしょう」 ②「彼女とは人目を忍ぶ仲になってしまった」 類句「人目を避ける」「人目をはばかる」「目を盗む」 外国語 韓国語では「남눈을(人目を)피하다 (避ける)」 **人目を憚る** (意味)後ろめたいことがあって、人に見られると困るので見られないように気を配る。 用法文型「ダレダレが人目をはばかる」。「人目もはばからず~する」と否定形で用いられると、普通の人なら人目を気にするような行為を、全く気にせずに行うというニュアンスになる。〔江戸〕 用例①森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「秀子と親密な関係の者でなければ撮れない、人目を憚る写真である」 ②『朝日新聞』(1100m・九・六朝)「人目をはばからず、声を荒げた姿に涙が流れ、子を受けとめる勇気と力を与えてもらった」 ③『朝日新聞』(二00四・九・一四朝)「物語は、被曝し人目をはばかるように被災船で暮らすぶんじいが主人公」 ④『朝日新聞』(100円・11・一九夕)「人目もはばからず涙をポロポロと流し始めたのです」 類句「人目を避ける」「人目を忍ぶ」「目を盗む」 外国語韓国語では「남눈을 (人目を)꺼리다(はばかる)」 **人目を引く** (意味)目立っているので人が思わず見てしまう。人の目を引きつける。 用法文型「ダレナニが人目を引く」 用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「財前杏子は、自分の容姿と贅沢な衣装が充分、人目をひいていることを意識し」 ②中上健次『鳳仙花』(120)「古いたたずまいの町に妙に人目を引くハイカラなものがある」 類句「人目に立つ」「人目につく」「目を引く」 外国語韓国語では「남눈을(人目を)끌다 (引く)」 **一役買う** (意味)自分から進んである役目や役割を引き受ける。また、結果として何かの役に立つことになる。 用法文型「ダレナニがナニナニに一役買う」。「一役買っている」という形で使われるこ <381> とが多い。使役・受身・意志表現が可能。 (用例)①尾崎士郎『人生劇場 青春篇』(一九金)「高見は君を連絡係にして一役買おうとしているんだから」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―≦)「矢崎ひとりを誠にするため、自分も一役買わされていることを思い出して」③松本清張『点と線』(一九八一五九)「そうそう、石田部長のため一役買い、安田辰郎の片棒をかついだ佐々木喜太郎という事務官は、課長になりましたよ」④『朝日新聞』(一九六一・五・二七朝)「二敗のこの両力士は不振の隆の里の肩がわりとして土俵上の盛り上げに一役買っている」⑤『朝日新聞』(二00四・九・朝)「夫で作家の大崎善生さんとのコミュニケーションにも、パソコンが一役買っている」 (類句)「一翼を担う」「双肩に担う」 (外国語) 英語では play a role **人を食う** 意味 相手を軽くみたり、小馬鹿にしたり、相手の存在を意に介さないかのように振る舞う。 (用法) 文型「人を食ったダレナニ」「人を食ったようなナニナニ」と言うことが多い。〔江戸〕 (用例) ①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「大隈は人を食った大胆な性質だが」②江戸川乱歩『恐怖王』(一九一―三)「賊の余りといえば人を喰った冗談に、あっけにとられて」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「みる人にとっては人をくったようなとも受けとれる態度であった」④『朝日新聞』(一次一・二・七朝)「『建築申請どおりだと、お客が入りきれないことが予想されたので』と、人を食った施工主側の言葉に」⑤『朝日新聞』(二00四・二・七朝)「タイトルからしてすでに人を食った本作は、松尾と漫画家・河井克夫のユニット『チーム紅卍』によるエッセーとコミックの二本立てで、世のおかしげなもの、あやしげなものを見事にキャッチする」 (類句)「馬鹿にする」 **火に油を注ぐ** 意味 勢いが盛んになっているものにさらに勢いや激しさをつけさせることをする。状況をさらに悪化させる。自分の意に反してそうなる時に用いられることが多い。 (用法) 文型「ダレナニが火に油を注ぐ」「火に油を注ぐ(ような)ナニナニ」。用例②④「批判の」「欲望の」のように「火」を修飾することが可能。 (用例) ④『朝日新聞』(一九六〇・七・六朝)「二番手の今井は火に油を注いだ格好で、マニエルの2本塁打などで六回 <382> びにいりさ 表までに12点の大差を許した」 ②『朝日新聞』(一九八二・二・四朝)「ここでダダをこねれば批判の火に油を注ぐようなもの」 ③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「火に油を注ぐ結果をまねくこともあり得る」 ④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「1二人の目の色を先読みした弥生が、彼らの欲望の火に油を注ぐようなことを言った」 ⑤『朝日新聞』(1100四・二三・三朝)「議会内から強い批判が出ていただけに、署名問題は火に油を注いだ形になった」 類句「油を注ぐような」「火を付ける」 外国語英語では add fuel to the fire *中国語では成句「火上浇油」(火に油を注ぐ。「浇」は注ぐ。「火上加油」、「火上添油」とも言う) **微に入り細を穿つ** (意味)話や書いたものなど言葉による表現が非常に細かいところまで詳しいさま。 用法文型「微に入り細を穿って~する」「微に入り細を穿ったナニナニ」 用例①江戸川乱歩『心理試験』(一九二五)「到底普通人の考え及ぶこともできないほど、微に入り細をうがった分析並びに総合の結果」 ②織田作之助『世相』(一盗六)「石田と二人で情痴の限りを尽した待合での数日を述べている件りは、必要以上に微に入り細をうがち」 ③辻邦生『北の岬』(10)「ちょうど言葉で夫人や夫人の持ち物を愛撫しているように、微に入り細を穿って話しつづけるのだった」 ④『朝日新聞』(一九七九・六・三七朝)「各紙とも、微に入り細をうがった記事が、これでもか、これでもかという風に続いていた」 類句「微に入り細に入り」「微に入り細にわたる」とも言う。 外国語 中国語では成句「细腻人微」(きめ細かである、念入りである) **非の打ち所がない** (意味)非難すべき点が一つもなく、完璧な様子。 用法文型「ダレナニ(に)は非の打ちどころがない」「非の打ちどころが(の)ないダレナニ」。用例①のように「非」を修飾することが可能。また①は「一点も非の打ちどころがない」とも言える。「非の打ちどころもない」「非の打ちどころのない」とも言う。 用例①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九一―三)「今まで世間に誰一人瑠璃子をほめぬ人はなく、一点の非のうちどころもない女だと信じていたのに」 ②石坂洋次郎『陽のあたる坂道』(一九五六ーモ)「倉本先生は雄吉兄さんが、非のうち <383> どころのない青年だと信じていらっしゃるわ」③『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「優勝された箕島高、第二位の池田高の第一回から決勝戦にいたるまでの活躍は実に立派なもので、非の打ちどころのないものと」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一六三)「里子の友達に対するきんの物腰は、非の打ちどころもない見事さだった」⑤『朝日新聞』(1100回・10・八夕)「正義感に満ち、非のうちどころのない人物など、この世にいない」 (外国語) 中国語では成句「无可非议」(非難すべきところがない) **火の海** 意味 火が広い範囲にわたって燃えている状態。 (用法) 文型「ナニドコが火の海だ(になる)」 (用例) ①『朝日新聞』(一九七九・人・三朝)「そのうち頭の大型トラックのホロが燃え出し、一面火の海になった」②『小学社会6年上』(1100円、大阪書籍)「高熱を出して燃えながら落ちてくる焼夷弾によって、町は火の海になりました」 **火の車** 意味 元来、仏教で亡者を乗せる火の燃えている地獄の車のこと。転じて、家計や組織の経済状態が非常に苦しく、お金のやりくりに苦労している状態。 (用法) 文型「ナニナニは火の車(だ)」。ナニナニは「台所」「財政」など。〔江戸〕 (用例) ①『朝日新聞』(一九七九・九・三朝)「その救済に年間約五億円かかり、組合財政は火の車」②『朝日新聞』(一九六〇・人・三朝)「財界などへの〝借金”は、約百三十億円にふくれあがった。おかげで、いまや台所は火の車」③高杉良『会社蘇生』(一六七)「その台所は火の車と思わざるを得なかった」④本所次郎『閨閥』(100m)「赤字の国鉄スワローズを買収、ニッポン・アトムズと改称したが、経営は火の車、短期間で手放さざるをえなかった」 (外国語) 英語では be hard up **日の出の勢い** 意味 朝日が昇るように、盛んな勢い。 (用法) 文型「ダレナニは日の出の勢い」 (用例) ①「IT関連会社は日の出の勢いで急成長を遂げている」 (類句)「騎虎の勢い」「飛ぶ鳥を落とす」「破竹の勢い」 <384> **日の目を見る** 意味 これまで人に知られずにうずもれていた物事や不遇の者が、世に出て知られるようになったり、認められたりする。 (用法) 文型「ダレナニが日の目を見る」。用例③④のように否定形でも多く用いられる。物事について言うことが多い。「陽の目を見る」とも書く。 (用例) ①江戸川乱歩『妖虫』(一九三」言)「こんな所へ落ち込んだら、誰かが助けてくれぬ限り、二度と日の目を見ることはできないかもしれぬ」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七霊)「手塩にかけた大きな事業計画が、いま陽の目を見るべく、確実にレールの上を走っている」③『朝日新聞』(一九一・10・玉朝)「お役所の縦割り行政の中でこの提案は湯気みたいに雲散霧消、マイタウン構想懇談会まで日の目を見なかった」④東野圭吾『宿命』(一九九〇)「これだけ画期的な発見であるにもかかわらず、この報告書は殆ど陽の目を見ることがなかった」⑤『朝日新聞』(1100㎜・10・四朝)「内容は何でもいいですという編集方針のお陰で、トマソンなどという何でもない物件をめぐる探索が、日の目を見ることになったのだ」 (類句)「日の目を浴びる」とも言う。「世に出る」 (外国語) 英語では see the light of day **火花が散る** 意味 刀で斬り合う時、刀がぶつかって火花が飛び散るように、互いが対立して、激しく争う様子。 (用法) 文型「ダレナニ(の間)に火花が散る」。ダレナニは対立するもの同士で、複数になる。用例②「新規参入を巡る」のように「火花」を修飾することが可能。 (用例) ①『朝日新聞』(一九七九・八・三朝)「総選挙とその後の首班指名、組閣、党人事へ向けてこんな見方が飛びかい、早くも火花が散り始めている」②『朝日新聞』(1100m・10・1六朝)「参入条件の緩和や公正な競争を求める新規組に対し、既存組も真っ向から反論。限られた公共資産である電波の世界で、新規参入を巡る火花が散った」③『朝日新聞』(1100㎜・10・九朝)「竿を持って対する時、メダカと餌と自分との間に火花が散る」 (外国語) 英語では set sparks flying **火花を散らす** 意味 刀で斬り合う時、刀がぶつかって火花が飛び散るように、互いが対立して、激しく争う。 (用法) 文型「ダレナニが火花を散らす」「ダレダレとダレダレが火花を散らす」。ダレナニは対立するもの同士で、複数になる。用例②「論 <385> 議の」のように「火花」を修飾することが可能。〔室町〕 (用例) ①『朝日新聞』(一九至二・二・二〇朝)「米ソのスパイ戦が日本国内でも火花を散らしていることは想像に難くない」②『朝日新聞』(一九七九・セ・10朝)「労働組合の中にはさまざまな潮流、考え方があり、それらが職場の中で論議の火花を散らして政党支持、政治への対応をどうするかを決めることが必要である」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「役員応接室で荒垣と前川が火花を散らしていた」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001)「いい場所を確保したくて、船に乗ったときから火花を散らす雰囲気といえばいいのかしら?」⑤『朝日新聞』(100m・10・1四朝)「低金利を売りものにした住宅ローンが相次いで登場し、金融機関が顧客の取り込みに火花を散らしています」 (類句)「しのぎを削る」「つばぜり合いを演じる」 **ひびが入る** 意味 できあがったものやうまくいっていたお互いの関係などが、何らかの理由によって少し損なわれる。 (用法) 文型「ナニナニにひびが入る」。用例②「多少の」のように「ひび」を修飾することは可能。 (用例) ①高橋和巳『悲の器』(一九三)「原稿完成が約束より遅れがちになるというのは、出版界では常識だろうから、別段この企画じたいにひびがはいるということもなかったかもしれない」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「京都支店の廃止問題で和地社長との間に多少のひびがはいるとしても、まだまだ発言力は大きい」③「友情にひびが入る」 **火蓋を切る** 意味 「火ぶた」は火縄銃の火薬をつめる火皿のふたのことで、その火ぶたを開いて火をつけることを「火ぶたを切る」と言った。転じて、競争・戦い・試合などが開始される。 (用法) 文型「ダレナニが(ナニナニの)火ぶたを切る」。用例②「質問の」のように「火ぶた」を修飾することは可能。③のように受身形が可能。〔江戸〕 (用例) ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一尖一)「ふだんは泉中の前では、碌に喋べれない脩吉も、一旦火蓋を切ったとなれば、度胸がついたのか、ペラペラやりだし」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「茶をいれようとするのを抑えた四本刑事は、質問の火ぶたを切った」③『朝日新聞』(一九七九・ハ・三朝)「来年の米大統領選挙に向けて早くも火ぶたが切られた選挙運動で」④『朝日新聞』(一九八〇・五・一九朝)「総選挙戦は十九日の衆院解散で事実上の火ぶたを切る」 <386> (類句)「火蓋を切って落とす」(柳田邦男『空白の天気図』〈一九七五〉「太平洋戦争の火蓋は切って落とされたのである」)とも言う。「口火を切る」「口を切る」 (外国語) 英語では kick off **悲鳴を上げる** 意味 恐怖・苦痛・驚きなどのために思わず叫び声を出す。転じて自分の能力の限界を越えることに遭遇して、物事がうまく運ばず、困ったり泣き言を言ったりする。また、心身の限界を越えて異常を来す。 (用法) 文型「ダレナニがナニナニに悲鳴をあげる」 (用例) ①黒岩重吾『背徳のメス』(10)「信子は真青になって悲鳴をあげた」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「若い人が、親切に網棚に上げてくれようとしては、悲鳴をあげるんだよ」③大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「剃刀の手ごたえに自分でも恐怖した妻は、ガラス戸に音高くぶつかりながら、痛イヨウ!と悲鳴をあげることはなかった」④「住民は大量のゴミに悲鳴を上げる」⑤「長年痛んでいたひざがついに悲鳴を上げた」 (類句)「嬉しい悲鳴を上げる」「音を上げる」 **百も承知** 意味 他人から教えてもらうまでもなく、自分でよく知っているという意味の強調表現。 (用法) 文型「ダレダレはナニナニを百も承知(している)」「百も承知で~する」「ナニナニは百も承知」。言葉遊び的に「百も承知二百も合点」と言う。〔江戸〕 (用例) ①横光利一『機械』(10)「実は私は自分が悪いと云うことを百も承知しているのだが」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「江戸期と昭和期を一緒くたにして論じるのが滑稽な曲芸であることは百も承知二百も合点しているが」③『朝日新聞』(一九六〇・五・110朝)「自民反主流派は自分たちがキャスティングボードを握っていることを、百も承知だったはずだ」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「秘書連中は口が固いからね。だいたい、そんなことぐらい、きみは百も承知だろう」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(1001)「今、われわれが特殊法人の横領疑惑の捜査で多忙を極めているのは百も承知だろう」 (外国語) 英語では be well aware <387> **氷山の一角** 意味 氷山は海面に出ている部分は全体の七分の一程度で、隠れている部分の方が多いことから、ある事柄のごく一部分だけが世間に知られているが、実はまだ多くの部分が隠されていることのたとえ。良くない事柄について用いる。 (用法) 文型「ナニナニは氷山の一角」。述語として、あるいはその一部を担う形(「氷山の一角に過ぎない」)で用いられる。用例③「巨大な」のように「氷山」を修飾することは可能。 (用例) ①開高健『パニック』(一九五七)「大きな犯罪のつねとして、おそらくそれは氷山の一角にすぎないのだろう」②『朝日新聞』(一九七九・七・10朝)「訴訟に持ち込まれる事件はごく一部で、いわば『氷山の一角』である」③『朝日新聞』(一九七九・10・二元朝)「この夏、世間を騒がした『留学ツアー』のトラブルなどは、巨大な氷山の一角にすぎない」④『朝日新聞』(一六〇・三・六朝)「報道されるのは、ほとんどが警察が動いたもので、氷山の一角に過ぎないといわれる」 (外国語) 英語では the tip of the iceberg **ピリオドを打つ** 意味 「ピリオド」は英語 periodで英文の末尾につける符号。終止符。そこから、今まで続けてきた、あるいは続いてきた物事(紛争・生活・歴史など)に区切り・決着をつけて終わりにする。 (用法) 文型「ダレナニがナニナニにピリオドを打つ」。用例⑤のように受身形もある。 (用例) ①久生十蘭『魔都』(一九三七-三元)「この騒動にピリオドを打ったように、けたたましく卓上電話のベルが鳴りだした」②『相撲界』(10・三)「力士生活二十年にピリオドを打ったその引退表明は『悲運の横綱』といわれた横綱らしい劇的な幕切れだった」③『朝日新聞』(一九八二・二・八朝)「塚原光男選手が十七日、日本体操協会の海外派遣人事を不服として、選手生活にピリオドを打つことを表明した」④高杉良『指名解雇』(一九九七)「この問題にピリオドを打つためのけじめと考えれば」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「私が生涯を託した使命感も、定年によってピリオドを打たれた」 (類句)「片をつける」「げりをつける」「終止符を打つ」 **火を付ける** 意味 (1)騒ぎや争いのきっかけを作る。(2)元気・恋心・怒りなどを起こさせるようなことを言ったりしたりする。 (用法) 文型「ダレナニがダレナニに火をつける」 <388> (用例) ①『朝日新聞』(二00四・人・四朝)「関空、伊丹のどちらかに肩入れすれば地域の南北対立に火を付けかねないとの懸念がある」②『朝日新聞』(100円・10・三0朝)「120周年を迎え、人口12万人の山里が静かに燃えている、と聞こえてきた。記念の映画『草の乱』が火を付けた」③『朝日新聞』(二00四・11・10夕)「関大は昔から素朴で『こつこつ型』。私が就任したからには、情熱にボッと火をつけます」④『朝日新聞』(1100円・二・六朝)「4年前。のんびり屋の魁皇に火をつけたのは、ともに大関候補として期待されながら、足踏みを続けてきた武双山だった」 (類句) (2)「油を注ぐような」「火に油を注ぐ」 **火を見るよりも明らか** 意味 物事の道理がはっきりしていて、疑いの余地もなく、非常に明らかだという意。現在の状況について言う場合と、将来のことについて予測する場合がある。 (用法) 文型「ナニナニは火を見るよりも明らかだ」 (用例) ①『朝日新聞』(1迄翌・10・三朝)「このまま放置したならば国土の荒廃は火を見るよりも明らかであって」②源氏鶏太『三等重役』(一九盗1-三)「僕の出世の妨げになることは火を見るより明らかです」③内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「エイコウの究極の狙いが天神商業圏の制圧にあることは火を見るよりも明らかだ」④高杉良『会社蘇生』(一九六七)「否応なしに会社破産の途を選択せざるを得なくなることは火を見るよりも明らかであった」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(11001)「だから、そこを出ていけということならば、それ相当の立ち退き料を支払えという形で、圧力をかけてくることが火を見るよりも明らかだった」 (外国語) 中国語では成句「明若观火」(火を見るよりも明らかである。「洞若观火」とも言う) **ピンからキリまで** 意味 「ピン」はポルトガル語 pinta(点)でカルタの1、「きり」は「切り」で終わりの意。初めから終わりまで。また、たくさん種類があるものには最上のものから最低のものまで、いろいろなレベルがあるということ。 (用法) 「ピンからキリまで~」のように副詞的に用いられたり、「ナニナニはピンからキリまでだ」のように述語として用いられたりする。〔江戸〕 <389> (用例) ①角田喜久雄『発狂』(一七)「素晴らしい出来栄えだ。ぴんからきりまで、こううまく行き過ぎては、神様の思召しの程も空恐ろしいて」②林芙美子『放浪記』(10)「恥かしいも糞もあったものではない。ピンからキリまである東京だもの」③夢野久作『爆弾太平記』(一九三)「どんなに美味い汁を吸うてござるかという証拠をピンからキリまで見てまわりました」④『朝日新聞』(一人・三・三朝)「人相の品位にもピンからキリまでバラエティーが多い」⑤舟橋聖一『ある女の遠景』(一杂一)「豊川稲荷へお詣りしてきたの。聞きしにまさる盛んなものでした。稲荷さんにもピンからキリまであるものと思ったわ」⑥内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「ばかだな、公務員といったってピンからキリまでだ」 (外国語) 英語では run the whole gamut **顰蹙を買う** 意味 「顰蹙」とは眉をひそめること。人にいやがられることや良識に反することなどをして非難を受ける。またそれらの行為者が非難を受ける。 (用法) 文型「ダレナニがダレダレの(から)ひんしゅくを買う」。「ダレダレの(から)」には非難する主体が来る。 (用例) ①源氏鶏太『英語屋さん』(1莹一)「亜米利加は決して負けないであろうと厭がらせのような宣伝をしてまわったため、ますます社内の顰蹙を買った」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「堂上の顰蹙を買いながらも、この情事がしばらく続き、人々は見て見ぬ振りをしなければならなかった」③『朝日新聞』(一九六〇・五・六朝)「本人の知らぬ間に自民党員にされている、でたらめな入党問題が、世間のひんしゅくを買っているが」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「合理的な根拠はないんだよ。こんなことを言うと科学捜査主義の連中から顰蹙を買うがね」 (類句)「反発を買う」「眉をくもらせる」「眉をひそめる」「眉を寄せる」 (外国語) 英語では be frowned upon **ピンと来る** 意味 説明されることなく、その状況の裏に隠されているものを即座に理解する、感じ取る。 (用法) 文型「ナニナニがダレダレにピンと来る」。「ピンと来た」と過去形が多い。用例⑤のように否定形もある。 (用例) ①獅子文六『てんやわんや』(一盗人―四九)「私たちを負かしたアメリカが、自主と自由の国であること―――それが私にピンときた」 <390> ②武田泰淳『風媒花』(一九二)「一目みれば同類はピンと来ますからね」③石坂洋次郎『光る海』(一九二六三)「奥さまはそういう加害経験の所有者だから、ぼくの顔の膏薬をみて、すぐピンと来たとおっしゃいました」④五木寛之『風に吹かれて』(一九七〇)「ある作家から、『きみはセンチュウ派か、センゴ派か』と、きかれた。ピンときたので、『センチュウ派です』と、答えた」⑤『朝日新聞』(二00四・11・四夕)「『117世紀イタリアのジェノバで記録した低金利の記録を塗りかえた』と聞かされてもピンと来なかったが、全財産持ち歩き派の出現には驚いた」 **貧乏籤を引く** 意味 不本意ながら最も損な役回りが当たる。 (用法) 文型「ダレダレが貧乏くじを引く」 (用例) ①志賀直哉『邦子』(一九二七)「一番貧乏籤をひいたのはなんといっても邦子だった」②斎藤栄『日美子の公園探偵』(11001)「ここで、貧乏クジをひいたのが、パークアイを気取った大野木老人だった」 (外国語) 英語では be left holding the bag **不意を食う** 意味 相手から思いもよらない言動に出られてびっくりする。 (用法) 文型「ダレダレが不意を食う」 (用例) 芥川龍之介『百合』(一九三)「金三も不意を食ったせいか、いつもは滅多に負けた事のないのが、この時はべたりと尻餅をついた」 (類句)「不意を食らう」とも言う。「不意を打たれる」 **不意を突く** 意味 相手が予想しない突然の行動を取る。奇襲する。 (用法) 文型「ダレナニがダレナニの不意をつく」「ダレナニがダレナニに不意をつかれる」。受身形で用いられることが多い。 (用例) ①辻邦生『北の岬』(120)「おれたちゲリラ活動はあくまで敵の不意をつくこと、こちらの敏速な機動性によって敵の攻撃目標を混乱させることにある」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「単一の方向性をもった異常じゃないから、新しいのに会うたびに不意をつかれるよ」③吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「予想外の小村の発言に不意をつかれたウイッチは」 <391> (類句) 「不意を打つ」(開高健『パニック』〈一盗七〉「なぜこんな卑屈な取引場に登場したのか、ふいを打たれた俊介にはしばらく見当がつかなかった」) **風雲急を告げる** 意味 嵐になる前の風と雲の動きが急であることから、社会情勢が大きく変わるような、大事件が起きそうな緊迫した不穏な状況になる。 (用法) 文型「ナニナニは風雲急を告げる」 (用例) 木下尚江『火の柱』(一九〇四)「日露両国の間、風雲転た急を告ぐるに連れて」 **風前の灯火** 意味 風に吹かれる灯火が今にも消えそうであることから、危機に瀕して今にもその存在(人・物事)が消えてなくなりそう、滅びる寸前である。 (用法) 文型「ダレナニが風前のともしびだ」。述語句として用いられることが多い。〔平安〕 (用例) ①源氏鶏太『明日は日曜日』(一盗二-三)「彼女の生命は、今や危機にさらされている。そうだ、いうなれば風前のともしびなのである」②『相撲界』復刊二号(一九六〇・九)「不滅、と思われていた大鵬の32回優勝が、この北の湖によって、〝風前のともしび”である」③『朝日新聞』(一九六〇・二・六朝)「ただでさえ消えかけている米ソ緊張緩和は、まさに風前の灯となった」④『朝日新聞』(1100円・11・元朝)「東京と長崎を結ぶ『さくら』も廃止される方針で、東京駅発のブルートレインは風前のともしびになる」 (外国語) 英語では hang by a thread *中国語では成句「风中之烛」(風前の灯火。「烛」はろうそく) **不覚を取る** 意味 つい油断をして負けるはずがない相手に負ける。 (用法) 文型「ダレが不覚をとる」〔南北朝〕 (用例) ①源氏鶏太『颱風さん』(一盗一)「冗談じゃアない。誰が慰謝料なんか払うもんかね。こないだは酒を飲んでたんで不覚をとったが、こんどは負けないよ」②『朝日新聞』(二00四・九・三朝)「主人公・大島は、職場でも、強者”の評価を得た。だが恋人の裏切りにあい、チンピラ相手のけんかでは不覚をとる」 <392> (外国語) 英語では blunder **袋の鼠** 意味 袋の中の捕まえられたネズミのように、捕らえられて逃げ場を失った状態、窮地に追いこまれて脱出できない状態のたとえ。 (用法) 文型「ダレナニは袋のねずみだ」〔江戸〕 (用例) ①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九≧0-三三)「袋の鼠と思いこんでいた獲物が、どうして切り破ったのか、窓の鉄格子を抜けだして」②大沢在昌『天使の牙』(一九九七)「道を封鎖しちまいます。でてく車がいなけりゃ袋のネズミですから」 (類句)「袋の中のねずみ」とも言う。 (外国語) 英語では be trapped like a rat *中国語では成句「瓮中之鱉」(かめの中のスッポン) **吹けば飛ぶよう** 意味 地位・身分などがきわめて低いさま、力・財産などがきわめて貧弱なさま。存在が取るに足りないつまらぬ、軽いもののたとえ。 (用法) 文型「ダレナニは吹けば飛ぶよう」「吹けば飛ぶようなダレナニ」 (用例) ①高杉良『会社蘇生』(一六七)「吹けば飛ぶような存在に過ぎんのに」②東直己『古傷』(100円)「私如きの忙しさ、都合など、折部部長の御大切な御用件の前では、なにほどのこともございません。吹けば飛ぶようなもので御座居ますから」 **不幸中の幸い** 意味 不幸な、あるいは悪い出来事ではあるが、もっと不幸な、あるいは悪い状況を考えると、まだ運が良い、救われる点があるという意。不幸なことが起こった時に、慰めるために使われることがある。 (用法) 文型「ナニナニは不幸中の幸いだ」。名詞句としてさまざまに用いられる。 (用例) ①内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「ただ、不幸中の幸いというべきか、二大勢力の一方の雄である京西グループが、当面、進出を見合わせる方針に転換したという情報があった」②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「不幸中の幸いにも、彼女の打撲は大したことはなかった」③高杉良『濁流』(一九九六講談社文庫版)「恥の上塗りをまぬがれたのは、不幸中の幸いだった」④龍一京『交番』(1100円)「腕の傷は三針縫ったが、不幸中の幸い、動脈などは傷ついていなかった」⑤『朝日新聞』(二00四・11・11朝)「昨年9月、6歳の時に幼稚園で事故に遭った息子はけがこそすれ、『不幸中の幸い』続きで、今は日常生活に支障はない」 <393> (外国語) 英語では be lucky it wasn't worse **蓋が開く** 意味 興行の初日が始まる。物事が実際に始まる。 (用法) 文型「ナニナニのふたが開く」 (用例) 「正月興行のふたが開く」 (類句)「スタートを切る」「幕が開く」「幕を開ける」 **二股を掛ける** 意味 同時に異なる二つの対象(物事・異性)それぞれにかかわり、どちらになってもいいように利益を考えて、あるいはどちらともうまくいくように働きかける。「二股かける」とも言う。 (用法) 文型「ダレダレは二股をかける」 (用例) ①田中英光『愛と青春と生活』(一盗七)「私は、色魔みたいにはじめから暁子や八重を二股かけてもてあそぶつもりなぞはなかった」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「鵜飼教授は恐いし、千載一遇の手術はやりたいしで、さんざん考えたあげく、二股をかけて欲張ったのが、まずいことになって」③東野圭吾『学生街の殺人』(一六七)「あたし、別に二股かけてなんかいないよ。そりゃあ松木ちゃんとは寝たこともあるし、武宮にはBぐらいやらせてあげたけどさ」 (外国語) 中国語では慣用句「脚踏两只船」(二隻の船に足をかける。「脚踩两只船」とも言う) **二目とは見られない** 意味 余りにも悲惨だったり醜かったりしてまともに見られない、見るに耐えない。 (用法) 文型「ダレナニは二目とは見られない」〔江戸〕 (用例) 甲賀三郎『支倉事件』(一九七)「ブク(に脹れた二た目とは見られない娘の屍体を埋めた事があります」 **蓋を開ける** 意味 興行を開始する。物事を実際に開始する。新しいことが行われる。また、始まってその現状や結果がわかる状態になる。 (用法) 文型「ナニナニがふたを開ける」「ナニナニのふたを開ける」。「ふたを開けると~」という形で、予想と反する結果になるという場合に用いられることが多い。 (用例) ①『朝日新聞』(一九六・二・三朝)「予測できない形勢といわれたが、ふたをあけてみると、屋良氏は終始リードをつづけた」 <394> ②『朝日新聞』(一九六〇・五・一六朝)「超スロー出世記録を更新した神幸だが、フタを開けたら五連勝」③金田一春彦他『変わる日本語』(一九一)「さぞかし日本でも人気を集めるだろうと思われていたのですが、フタをあけてみますと、さほどではなかった」④清水一行『ITの踊り』(二00四)「蓋を開けるまでわからんが、新社長から声をかけていただいたよ。取締役って経営者だからねエ」 (類句)「幕を開ける」 **物議を醸す** 意味 人の言動や物事・出来事が世間を騒がせて論議を引き起こす。 (用法) 文型「ダレナニは(~して)物議をかもす」。 (用例) ①五木寛之『風に吹かれて』(一九七〇)「『原爆で殺すな キッスで殺せ!』というコピーをかかげて、不真面目だと物議をかもしたのも私たちの仲間だった」②『朝日新聞』(一九七九・六・六朝)「浜田氏といえば、強烈なヤジを飛ばして物議をかもしたこともある」③内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「殉国七士について、よほどあちこちで物議を醸していたらしい」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「『週刊潮流』が書いたら、物議をかもすことになるねぇ」⑤『朝日新聞』(二00四・七・元夕)「ムーア氏の登場は民主党にとって強力な援軍だが、一方で不安のネタでもある。ブッシュ批判をめぐる不規則発言でもあれば、物議をかもしかねないからだ」 (類句)「一石を投じる」「波紋を投じる」「波紋を投げる」「波紋を広げる」 **降って湧いた** 意味 天から降って来たり地から湧いて来たりすることから転じて、話・事件・出来事・問題などが突然の形で起こる、現れる、始まるたとえ。驚きの気持ちを表す。 (用法) 文型「ふってわいた(ような)ナニナニ」〔室町〕 (用例) ①源氏鶏太『颱風さん』(一莹一)「思いかけず降ってわいた難題に、途方にくれた」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「その森影さんも今回のふってわいた大役に、当初ややあわて気味」③中上健次『鳳仙花』(一九六〇)「フサは突然ふってわいたような出来事に」④『朝日新聞』(一九六〇・七・五朝)「突然ふってわいた事態に、教職員の多くはとまどいを感じている」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「身近なところに降って湧いたようなナマの殺人事件を」 <395> 類句「足もとから鳥が立つ」 **フットライトを浴びる** 意味「フットライト」は英語 footlights。「脚光を浴びる」に同じ。用法文型「ダレダレがフットライトを浴びる」用例①中川一政『我思古人』(一九五七)「自分は前途にぱっとフットライトを浴びた。あまり華やかで自分は、はにかまないではゐられない」②池島信平『雑誌記者』(一九五八)「編集長もフットライトを浴びる時代が来たね」 **筆が立つ** 意味文章を書くのがうまい。文章を書く才能がある。用法文型「ダレダレは筆が立つ」用例丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「どつちも、厭になるくらゐうまい。女がこれだけ筆が立つんぢや、有髯の男子たるもの一体どうしたらよからうか」外国語 英語では write well **筆を入れる** 意味文章や書画を添削する。用法文型「ダレダレがナニナニに筆を入れる」用例①夢野久作『スランプ』(一九二五)「その書きかけの文章が不愉快で不愉快で、筆を入れる勇気も何もないくらい詰まらないものに見えて来るのです」類句「朱を入れる」「手を入れる」「手を加える」「筆を加える」 **筆を擱く** 意味文章を書き終える。また書くのを止める。擱筆する。用法文型「ダレダレが筆をおく」用例①尾崎紅葉『多情多恨』(一八九六)「旋て筆を擱いて、こそこそと巻収めて、状袋に入れて、上書をした」②寺田寅彦『自然界の縞模様』(一九二九)「このほかにもまだいろいろあるであろうがあまりにも予定の紙数を超過するからまずこのへんで筆をおく事とする」 **筆を折る** 意味文章を書くのを途中で止める。また文筆活動を止める。用法文型「ダレダレが筆を折る」用例①有島武郎『星座』(一九一三)「筆を折つて世と共に濁波を挙げて笑い且つ生きんとしたること」②横光利 <396> (類句)「筆を断つ」「ペンを折る」 **筆を加える** 意味 すでに書かれた文章や書画などを、さらによいものにするために書き加えて修正する。 (用法) 文型「ダレダレがナニナニに筆を加える」。用例①②「拙い」「私の」のように」「筆」を修飾することが可能。命令・意志表現は可能。 (用例) ①中島敦『悟浄歎異』(一二)「一幅の完全な名画の上にさらに拙い筆を加えるのを愧じる気持からである」②太宰治『人間失格』(一盗人)「下手に私の筆を加えるよりは、これはこのまま、どこかの雑誌社にたのんで発表してもらったほうが、なお、有意義な事のように思われた」 (類句)「朱を加える」「手を入れる」「手を加える」「筆を入れる」 **筆を断つ** 意味 文筆活動を止める。 (用法) 文型「ダレダレが筆を断つ」〔江戸〕 (用例) 「昨年来筆を断っている」 (類句)「筆を折る」「ペンを折る」 **筆を執る** 意味 文章や絵画などを書き始める。 (用法) 文型「ダレダレが筆を執る」〔平安〕 (用例) 森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(一九〇九)「金井君は初め筆を取ったとき、結婚するまでの事を書く積であった」 **筆を運ぶ** 意味 文章や書画などを書き進めている。 (用法) 文型「ダレダレが筆を運ぶ」。命令・意志表現は可能。 (用例) ①芥川龍之介『戯作三昧』(一九六七)「経験上、その何であるかを知っていた馬琴は、注意に注意をして、筆を運んで行った」②太宰治『玩具』(一九五)「私は姿勢の完璧からだんだん離れていっているように見せつけながら、いつまたそれに返っていっても怪我のないように用心に用心を重ねながら筆を運んで来たのである」 <397> (類句)「筆を走らせる」 **筆を走らせる** 意味 文章や絵すらさら書く、文章を早く進める。 (用法) 文型「ダレダレが筆を走らせる」〔平安〕 (用例) 寺田寅彦『伊香保』(一九二)「はじめは、いくらか系統的な記述の形式をとろうと思ったが、(後略)自由の思いのままに筆を走らせることにした」 (類句)「筆を駆る」 **筆を擱く** 意味 毛筆で文章や絵を書く。揮毫する。 (用法) 文型「ダレダレが筆をふるう」 (用例) 「師走に筆をふるって作品を三点書き上げた」 **懐が暖かい** 意味 その時点で所持金がたくさんある。 (用法) 文型「ダレダレは懐が暖かい」〔江戸〕 (用例) 「給料をもらったばかりだから懐が暖かい」 (類句) 反対は「懐が寂しい」「懐が寒い」 **懐が寂しい** 意味 その時点で所持金が少しである。 (用法) 文型「ダレダレは懐が寂しい」 (用例) 「月次はいつも懐が寂しい」 (類句) 「懐が寒い」 反対は「懐が暖かい」 **懐が寒い** 意味 「懐が寂しい」に同じ。 (用法) 文型「ダレダレは懐が寒い」 (用例) 司馬遼太郎『宛先不明』(一九五九)「懐が寒くなると、それが郊外に住う二人の男に奇妙な焦燥と血の昏さを齎す、上司、それに外で気を使うようになった」 **懐を肥やす** 意味 不正な手段・方法で私利私欲、財産を増やす。 (用法) 文型「ダレダレが懐を肥やす」 (用例) ①内田康夫『「社会部」朝日新聞の内部を抉る』(一九八)「普通、社会部の記者がコレラの発生で懐を肥やす、というのも、倫安問題だった」②甲賀三郎「ニッケルの安息」〔一五五〕「普通の人間だったら、どうせいくら稼いだって、他人の懐を肥やすわけですもの」 (類句)「甘い汁を吸う」「うまい汁を吸う」「私腹を肥やす」 <398> **腑に落ちる** 意味 「腑」ははらわたの意。理解でき、納得がいく。 (用法) 文型「ダレダレはナニナニが腑に落ちる」「ダレダレはナニナニが腑に落ちない」。現在は否定形で用いることが多い。 (用例) ①里見弴『多情仏心』(一九三)「そう云われてみれば、いかにもそれが動かないところだ、と肇て腑には落ちたがそれは気振りにも見せずに」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「一時、微熱状態になっただけで、再び発熱、呼吸困難、それに咳、痰が頻発し、腑に落ちない症状です」③木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「その話は警察からききました。そのときも腑に落ちなかったのですが、草森は矢代くんを避けていましたがね」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「金沢から説明を受けて、いちおう納得したが、まだすんなりとは腑に落ちない」⑤『朝日新聞』(二00四・人・二元朝)「ここまで読み進んで、やっとタイトルの『超』の意味が腑に落ちた」 (類句)「合点がいく」 **船を漕ぐ** 意味 舟の櫓をこぐ時のように、座った状態で身体を前後に揺らして居眠りをする。 (用法) 文型「ダレダレが船をこぐ」。「船をこいでいる」という形で用いられることが多い。〔江戸〕 (用例) ①『滑稽新聞』二〇号(101)「座睡シテ未ダ充分不覚ニ至ラザル時ニ当リテハ身体飘摇、頭部ヲ前方二下ゲテハ又上ゲ、上ゲテハ又下グ、俗ニ之ヲ船ヲ漕グト称ス」②伊藤永之介『警察日記』(一九二)「田子巡査がひとり事務卓にもたれて、コックリコックリ舟を漕いでいた」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「この雨ではさすがにひまらしく、店番の若い二人がいまにも舟を漕ぎそうな様子だった」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「疋田と丸尾は弥生にガスを抜かれて、船を漕ぎ始めている」 **ブレーキが掛かる** 意味 「ブレーキ」は英語 brake。ある物事の進行が抑えられる。 (用法) 文型「ダレナニにブレーキがかかる」 (用例) ①『朝日新聞』(100個・人・四朝)「国内線が関空から伊丹に移る『伊丹シフト』にブレーキがかかりそうだ」②『朝日新聞』(1100円・11・三朝)「40人学級より教員が必要となる少人数学級や習熟度別指導にブレーキがかかり、給与の低い非常勤の教諭がさらに増えることになりかねない」 <399> (類句)「歯止めがかかる」 **ブレーキを掛ける** 意味 「ブレーキ」は英語 brake。ある物事の進行を抑える。 (用法) 文型「ダレナニがダレナニにブレーキをかける」。命令や意志表現は可能。 (用例) ①角田喜久雄『高木家の惨劇』(一盗七)「大沢のとめどもない舌のこりにブレーキをかけるように、電話のベルがけたたましく鳴った」②宇井無愁『豚マンの唄』(一九二)「この堂々めぐりにブレーキをかける人間は、結局塩谷よりほかにない」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「その愛情に自分でブレーキをかけなければならない男と女の関係が、どんなにつらく苦しいものか」④『朝日新聞』(一次・二・三元朝)「鈴木首相だって、改めて新体制の第一の基盤に据えた擬陽性改革に、いまさらブレーキをかけるようなことはできない」⑤『朝日新聞』(1100m・10・1四夕)「監査法人の通告、高木社長を支えた経済産業省の揺らぎが迷走にブレーキをかけた」 (類句)「歯止めをかける」 **踏んだり蹴ったり** 意味 ひどい目にあっているところへさらにひどい目にあう。 (用法) 文型「ダレナニは踏んだりけったり(だ)」。述語句として用いられることが多いが「踏んだり蹴ったりのナニナニ」と言うこともできる。〔江戸〕 (用例) ①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―穴)「うちの場合は、もっと踏んだり、蹴ったりや、昔から取引して儲けさして貰うてるわけでなし、…………絶対に迷惑をかけんという約束ではじめて取引して、びた一文金を貰うてない先に倒産やなど、詐欺やないか」②『朝日新聞』(一九八〇・五・三朝)「それに公共料金、物価値上がりではわれわれ国民は踏んだりけったりではないか」③内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「おまけに千恵子に妙な誤解を与えることになって踏んだり蹴ったりではないか」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「法外な高値で買収した物件を何分の一かの安値で売却したんですから、踏んだり蹴ったりですよ」⑤『朝日新聞』(100・・三朝)「結局買い替えたが、この大きな出費は痛かった。それにしても何度も警察と連絡を取ったり、行ったりで踏んだりけったりだった」 (類句)「泣きっ面に蜂」「弱り目に祟り目」 (外国語) 英語では a real beating <400> **褌を締め直す** 意味 緩みかかっている気を、しっかりと引き締め直して事に当たるたとえ。 (用法) 文型「ダレダレが褌を締め直す」。命令·意志表現は可能。 (用例) ①『朝日新聞』(一九七九・10・九朝)「『フンドシを締め直せ』『裸になったつもりで取り組め』と反省を迫った」②『朝日新聞』(一九六一・五・二二朝)「六月にはメキシコ公演にいくそうだが、外国で変な土俵踊りをやらないよう、ふんどしを締め直せ」③『朝日新聞』(100四・六・四朝)「西川氏を含めて3人の質問者を残したまま、採決が強行された。『(西川氏)まだ、時間があると思っていた。ふんどしを締め直そうとトイレに行き、戻ったらワーッとなっていた』」 (類句)「揮のひもを締め直す」(源氏鶏太『三等重役』〈一九五一―二〉「いっぺん揮の紐をしめ直してからいかねばなるまい」)「揮をしめる」(吉村達也『「横濱の風」殺人事件』〈1100四〉「我々はそうとうフンドシを締めて事にあたる必要が出てくると思うんですよ」)「揮をしめてかかる」とも言う。「襟を正す」「姿勢を正す」 (外国語) 英語では roll up one's sleeves (and get to work) **平気の平左** 意味 「平気の平左衛門」の略。まるっきり平気で動じないことを「平左衛門」という人に擬した強調表現。 (用法) 文型「ダレダレは平気の平左だ」 (用例) ①里見弴『安城家の兄弟』(一一)「本来いえば平気の平左ですまし込んでいればい、のだけれど」②夢野久作『犬神博士』(一≧1-三)「往還ばたや、空地の野天でやるときは、トテモ思いきった猥雑な文句を、平気の平佐でイヤアホーと放送する」 (類句)「平気の平左衛門」(骨皮道人『拍手喝采滑稽独演説』〈一八七〉「可愛想な様なれども其御主人は却って平気の平左右衛門て苦海の中に楽郷を求め」)「痛くも痒くもない」「びくともしない」「ものともしない」 **べそをかく** 意味 子供などが泣く。泣き出しそうな顔をする。 (用法) 文型「ダレダレがべそをかく」〔江戸〕 <401> (用例) ①大岡昇平『俘虜記』(一盗人)「彼はべそをかいたような顔をして、脚絆も巻かずに壁に向いて寝てしまった」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「おかみさんは、べそをかいたような顔になった」③『朝日新聞』(1100円・八・五朝)「ボールを受けそこね、べそをかきながらお母さんのところへ逃げてくる愛ちゃん」 (類句)「泣きべそをかく」 **臍を曲げる** 意味 機嫌を損ねて、すなおに聞かない、頑固になる、依怙地になる態度を示す。 (用法) 文型「ダレダレがへそを曲げる」。用例④のように受身形がある。 (用例) ①丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「わたしはすっかりヘソを曲げて、勝手にしろ、と心のなかでつぶやいたんです」②斎藤栄『日美子の公園探偵』(11001)「もしかすると、わたしが、甘木さんと一緒に行動していることで、犯人がヘソを曲げたのかもしれませんな」③内田康夫『秋田殺人事件』(1001)「議員連中が臍を曲げると、あなたの立場までが苦しいことになりますぞ」④『朝日新聞』(二00四・三・二朝)「西川に新しい企画を説明するのが遅れて、へそを曲げられてしまった」 (類句)「つむじを曲げる」 **下手をする** 意味 物事の近い将来を悪く想定する。ひょっとするとうまくいかないことを述べる時に冒頭で使う。 (用法) 文型「下手をすると~」。助詞「を」を略すことがある。 (用例) ①高杉良『会社蘇生』(一六七)「ヘタをすると有能な人材が皆んな辞めちゃうんじゃないですか」②「下手すると受験した大学すべて落ちるかもしれない」 (外国語) 英語では if one is unlucky **ペテンに掛ける** 意味 作為を施して人をうまくདませる。 (用法) 文型「ダレダレはダレダレをペテンにかける」。受身形が可能。 (用例) ①夏目漱石『私の個人主義』(一九二五)「元来国と国とは辞令はいくら八釜しくっても、徳義心はそんなにありゃしません。さぎをやる、誤魔化しをやる、ペテンに掛ける」②久保田万太郎『春泥』(一九八)「人をペテンにかけるような、そんな」③江戸川乱歩『恐怖王』(一九二-三)「もしわしをペテンにかけて娘を渡さないようなことがあれば」 <402> ④石坂洋次郎『女の道』(一盗一)「わしなどはいまの婆様を嫁に貰う時、ペテンにかけてね。その時の月給は五十円しか貰ってなかったんだが、それじゃ嫁に来てくれまいと思って、仲人に六十円だと掛値を言ったんだ」 (類句)「口車に乗せる」「わなにかける」 **屁とも思わない** 意味 相手にするのもばかばかしい。つまらぬこととして問題にもしない。大したことではなく、何の負担にもならないさま。何でもない。何とも思わない。 (用法) 文型「ダレダレはダレナニを屁とも思わない」〔江戸〕 (用例) 夏目漱石『明暗』(一九二六)「僕は君の軽蔑なんか屁とも思っちゃいないよ」 (類句)「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」「取るに足りない」「はなもひっかけない」「屁でもない」(『道化の華』〈一〉「そんなことは、なんでもないよ。葉ちやんにとつては、屁でもないことさ」)「見向きもしない」「目じゃない」「目もくれない」「物の数ではない」「問題にならない」 **屁の河童** 意味 「河童の屁」が元。これは「木っ端の火」が転訛したもの。木っ端は火がつきやすいことから、転じて非常に容易であるさま、取るに足りないこと。「河童の屁」とも言う。俗語。 (用法) 文型「ナニナニは屁の河童」 (用例) 源氏鶏太『明日は日曜日』(一九盗ニ―≦)「雷なんか、まるで、へのカッパだわ、といわんばかりの陽気さでゆうゆう闊歩してくるのである」 (類句)「お茶の子さいさい」「お安い御用」「苦もなく」「事もなく」「手もなく」「訳はない」 (外国語) 英語では not give a damn **減らず口を叩く** 意味 悔しがって強がりや負け惜しみを言う。 (用法) 文型「ダレダレが減らず口をたたく」 (用例) ①内田百間『百鬼園随筆』(一九三)「小生とても、初のうちは、減らず口を叩いて立ち向うけれど」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七宝)「『祝いにきたのに、相変らずのへらず口だな』『へらず口でもたたきたくなるさ』」③中上健次『鳳仙花』(一六〇)「『えらかったねえ』とフサが言うと、蒲団に入り直しながら『母さんにはじめてほめられた』とへらず口をたたく」 <403> (類句)「減らず口を利く」とも言う。「口が減らない」 **変哲もない** 意味 特に取り立てて言うべきほどのこともない平凡なさま。 (用法) 文型「ダレナニは何の変哲もない」。「何の変哲もないナニナニ」という形で用いられることが多い。〔江戸〕 (用例) ①高橋和巳『悲の器』(一九三)「妻は喰い入るように、水の流れを見た。川は何の変哲もなく流れている」②『6年の科学』(二00四・九)「何のへんてつもないフィルムケースが・・・・・・」③『朝日新聞』(1100五・二・三朝)「日常がすべてであるような時代の特徴は、むしろ特徴がないことです。何が大切かが見えにくい。坦々として、ありふれていて、何の変哲もないとしか見えない」 **棒に振る** 意味 それまでの努力や苦心、またその結果、一生・地位・仕事・予定・機会・過ごす時間などをあることですっかり無駄にしてしまう。 (用法) 文型「ダレダレがナニナニを棒に振る」。ナニナニには失う対象、無駄にする対象が来る。〔江戸〕 (用例) ①獅子文六『青春怪談』(一九四)「そのバカバカしい夢のために、みすみす、女の一生を棒に振ることを、顧みない」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一尖一)「伊勢子は、泉中のために、一生を棒に振ったことは、お前だって知っているだろう」③『朝日新聞』(一九六〇・七・一八朝)「『養老院へ行くのは我利我利亡者』と放言して、労相のイスを棒に振ってから八年余」④内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「片田はそんなつまらんことで、一生を棒に振るような愚か者ではないはずです」⑤清水一行『ITの踊り』(1100円)「千鶴のために、恭子に会えるせっかくのチャンスを棒に振る気はなかった」 <404> 類句「水泡に帰す」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木阿弥」「元も子もない」 **這々の体** 意味ひどい目にあって、やっとのことである場所から這うようにして退散する様子。あわてふためいてかろうじて逃げ出すさま。用法文型「ダレダレがほうほうの体で〜する」。「〜する」には「逃げる」「立ち去る」など、元いた場所から移動する意を表す動詞が来る。〔江戸〕用例①檀一雄『青春放浪』(一九五六)「ホウホウの体で、奥さんは逃げるようにして帰ってゆく」②大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「ほうほうの態でかれらは夏のシーズンだけ開いているホテルへ救助をもとめた」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「荒垣はほうほうの体で退散した」④清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「秋葉は気の抜けた返事をして、ほうほうの体で社長室から退散した」外国語 英語では scramble to get away **吠え面をかく** 意味相手がえらそうなことを言っているのに対して、後で困って泣くようなことになると相手をあざけって言う言葉。用法文型「ダレダレがほえづらをかく」。「ほえづらをかくな(よ)」と言うことが多い。〔江戸〕用例東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「大きくでやがったな。よし、乗った。吠え面かくなよ」 **墓穴を掘る** 意味自分のした行為によって、思いもかけず自分の不利になったり自分の失敗・破滅につながってしまう。自分が良かれと思ってしたことがそうなる時に使われることが多い。用法文型「ダレナニが墓穴を掘る」。「自ら墓穴を掘る」と言うことが多い。用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「そんな卑劣なことをしたら、自ら墓穴を掘るようなものじゃありませんか」②佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「それは、他の者が鍵を持ち出す機会は全くなかった、と証明するようなものであり、自ら墓穴を掘る行為になりかねない」③『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「北井さんの葬儀に色メガネをかけて出席するなど苦心の〝偽装工作〟が、かえって墓穴を掘った」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「犯罪は犯人にとって最もプライベートな時間であるはずだ。それなのに携帯電話によって自分から <405> ⑤大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(11001)「古山さんの家族に接触する気ならやめた方がいい。さっきもいったように、県警が監視を張りつけている。墓穴を掘るだけだ」 (類句)「自分の首をしめる」 (外国語) 英語では dig one's own grave *中国語では成句「自掘坟墓」(自ら墓穴を掘る) **反故にする** 意味 既に使ったり書き損じたりして不用となった紙を「反故」ということから、不用な物として捨ててしまう。転じて、約束したり決めたりしたことを実行に移さず無視したり、それに反したことをする。またそれを無効なものにする。 (用法) 文型「ダレナニがナニナニを反故にする」〔江戸〕 (用例) 高野悦子『二十歳の原点』(一九七二)「全共闘の大衆団交にも応ぜず、自らが行なった自己批判書も次々と破り、解体宣言も反故にしようとしている」 **臍を固める** 意味 「ほぞ」とは「へそ」のこと。へそのある腹に力を入れて固くすることから、転じて固く決心する。覚悟を決める。 (用法) 文型「ダレダレはほぞを固める」 (用例) ①小島鳥水『槍ヶ嶽探険記』(一九〇三)「余は断々乎として槍ヶ嶽を征すべく決心の臍を堅めつ」②獅子文六『自由学校』(10)「五百助は、まだ、帰ってこない。いつかは帰ってくるという確信は、揺がないが、当分はダメであると、駒子も、ホゾを固めずにはいられなくなった」③高杉良『人事権!』(一九二)「相沢はホゾを固めた」 (類句)「ほぞを決める」とも言う。「意を決する」「腹を固める」「腹を決める」「腹を据える」 **臍を噛む** 意味 「ほぞ」とは「へそ」のこと。へそを噛もうと思っても噛めないことから、もうすでにどうにもならないことについて悔やむ。後悔してもどうにもならない。出典は中国の古典『春秋左氏伝』。楚の文王が鄧を通りかかった時、鄧の祁侯が文王を招きもてなした。その際、三人が祁侯に文王を殺すように進言したが、聞き入れられなかった。そこで三人が「あとでほぞをかむことになる」と言ったことによる。 (用法) 文型「ダレダレがほぞをかむ」「ほぞをかむ思い(気持ち)」〔平安〕 <406> (用例) ①檀一雄『青春放浪』(一九雲)「私達も当日かぎりにも月給日であったと知ったなら、臍を噛んだって、借金になぞ行きはしなかったろう」②『朝日新聞』(一九八二・四・三朝)「せっかく日本で芽が出ても育て方がまずく、外国で根づく。ほぞをかむ思いを何度もした」③内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「よほど何か伝えたいことがあったのだろうと、後になってほぞを噛むような気持がしたのだが」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「田宮は、なんて俺はこうも阿呆なんだ、とホゾを噛む思いだった」⑤森村誠一『エネミイ』(11000)「捜査陣は臍を噛んだが、すでに報道自粛を解除した後である」 (類句)「唇を噛む」「歯ぎしりをする」 **ほとぼりが冷める** 意味 「ほとぼり」は余熱のこと。高ぶった感情や興奮がおさまる。また事件などが起きて後、世間の注目がおさまる。 (用法) 文型「(ナニナニの)ほとぼりが冷める」〔江戸〕 (用例) ①黒岩涙香『無惨』(一八八九)「余温の冷るまで当分博賭も止るかも知れぬ」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九ェニー≦)「親娘が、東京の太郎の家へ逃げる。郷里へ送った家財道具は、ほとぼりが冷める頃に、取り寄せる」③水木マリ『だましたなんて、いわないで』(一九九≦)「ほとぼりがさめたころに、もう一度、ご両親と話しあってみればいいんじゃないの」④浅田次郎『極道放浪記②』(一九盗)「そろそろホトボリもさめた頃だろう」⑤藤田宜永『転々』(一九九九)「『あいつは事情を知ってる。今日の仕事が終わったら、逃げ出せ』(略)『ほとぼりが冷めるまでだ』」 (外国語) 英語では the excitement dies down **骨がある** 意味 自分の信念を曲げないしっかりしたものを持っている。 (用法) 文型「ダレダレは骨がある」。「骨のあるダレダレ」とも言う。〔江戸〕 (用例) ①田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(11001)「石神は、いかにも和歌山県人らしく、小回りはきかないがホネのある男である」②『朝日新聞』(1100㎝・二二・二六朝)「バルニエ仏外相は、次の米国務長官に指名されたライス米大統領補佐官について『どんなに控えめに言っても、骨のある女性だ』と16日の地元ラジオで語った」 (類句)「気骨がある」「芯が通る」 (外国語) 韓国語では「뼈가 (骨が)있다(ある)」 <407> **骨が折れる** 意味 何かをするのに非常に苦労をする。 (用法) 文型「ナニナニに骨が折れる」「~するのに骨が折れる」。ナニナニの部分には「骨が折れる」原因が来る。「骨の折れるナニナニ」とも言う。〔室町〕 (用例) ①江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九二天)「仲人に立ったかたは、私の方よりは、かえって先方のご本人を説きふせるのに骨が折れたほどだと申すのでございます」②徳田秋声『仮装人物』(一九五―三美)「カクテル一杯を呑むのに骨が折れるくらいなのに」③藤本義一『サイカクがやって来た』(一九六)「M君には、この駄洒落が通じず、説明するのに骨が折れた」④『朝日新聞』(一六〇・三・一朝)「国民の前に投げ出された問題も、それに対する答えの選択肢も、共通のものはむしろ探すのに骨が折れる」⑤姉小路祐『合併裏頭取』(1001)「夜になっているせいもあって、探すのには少し骨が折れたが、どうにか下元の表札を見つけることができた」 **骨身に応える** 意味 辛さや苦痛などを自分の身体や精神の奥にまで強く感じる。 (用法) 文型「ダレダレはナニナニが骨身にこたえる」〔江戸〕 (用例) 瀬戸内晴美『女徳』(一九三)「妾時代に男の嫉妬には骨身にこたえているだけに、たみは、男が嫉妬らしい言辞をみせると、極端に嫌悪した」 (類句)「骨身にしみる」「身にしみる」 **骨身に沁みる** 意味 教訓や喜び・苦痛などを自分の身体や精神の奥にまでしみ通るほど強く感じる。 (用法) 文型「ダレダレはナニナニが骨身にしみる」〔江戸〕 (用例) ①藤本義一『サイカクがやって来た』(一九老人)「いくら映画会社の名をいっても信用してくれない先生もいた。おれは、これが骨身に沁みているのである」②姉小路祐『走る密室』(一九盗)「今回の事件は、ちょっと骨身に染みました。世間の水が厳しいということも、少しはわかったような気がします」 (類句)「骨身にこたえる」「身にしみる」とも言う。 (外国語) 英語では hit home *韓国語では「뼈에(骨に)사무치다 (しみる)」 <408> **骨身を惜しまず** 意味 体を動かして働くことを厭わない、苦労を厭わず一生懸命働く、尽力する。 (用法) 文型「ダレダレが骨身を惜しまず~する」。助詞「を」を略することもある。 (用例) 山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―金)「あなたは浪速大学出身でありながら、東都大学出身の菊川を公平に評価して下さり、菊川のために骨身を惜しまず、ご尽力なさって」 (類句)「骨を惜しまず」とも言う。 **骨身を削る** 意味 何かを成し遂げるために、自分の身体がやせ細るほど苦労に苦労をかさね努力する。 (用法) 文型「ダレダレが骨身を削って~する」「骨身を削る思い」 (用例) ①『朝日新聞』(一次・二・三朝)「さて、私はというと、この一年、大学生活を送ってみて、大学なんて骨身を削って勉強してまで行く価値のある所だろうかと疑問に思うようになっていた」②『朝日新聞』(一六一・四・二九朝)「彼らを“変身”させるために、骨身を削って指導した二人の先生の存在があった」③『朝日新聞』(二00五・七・一七朝)「舞台やテレビのために毎週、新ネタつくりに骨身を削る」 (類句)「身を削る」とも言う。「身を粉にする」 (外国語) 英語では break one's back *韓国語では「뼈골이 (骨髄が)빠지다 (抜ける)」 **骨を埋める** 意味 死ぬまである場所に住んで暮らす。転じて、ある組織などに入ってそれに自分の人生のすべてをささげる。 (用法) 文型「ダレダレがナニドコに骨を埋める」。ナニドコには「骨を埋める」対象や場所などが来る。「骨を埋める覚悟で」と言うことがある。 (用例) ①本所次郎『閨閥』(100回)「『私のフヨウテレビの籍は……………?』『抜いてもらう。杜の都に骨を埋めてもらう覚悟で行ってもらいたいんだ』」②『朝日新聞』(1100四・九・九夕)「その時は『まさか京都に住むとは思わなかった』というが、京都の大学を選び、いまや『骨をうずめたい』と言うまでに」 (類句)「終の栖にする」 (外国語) 韓国語では「뼈를(骨を)묻다(埋める)」 <409> **骨を折る** 意味 何かをするのに非常に苦労する。 (用法) 文型「ダレダレが(~に)骨を折る」〔鎌倉〕 (用例) ㉡徳冨蘆花『黒い眼と茶色の目』(一九六四)「敬二は地文学の英語暗誦と、それから専ら代数に骨を折った」②海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一当モ)「おれは勅を奉じて同志を募り、攘夷倒幕をしようと骨を折っているのだ」③三島由紀夫『禁色』(一九갚1-≦) 「手提から出した煙草の一箱を黙って青年のポケットに入れてやる夫人の仕種を、俊輔は見ないふりをするのに骨を折った」④福永武彦『忘却の河』(一九盗)「己は大学生で(略)それで胸が悪くなったものだから何とか釈放されたが、きっと親父なんかがいろいろ骨を折ってくれたんだろう」⑤『朝日新聞』(一九七塩・二・三朝)「今も残念至極なのは、子供なりに骨を折っておぼえた日本史の皇紀である」 (類句)「心を砕く」 **法螺を吹く** 意味 山伏などが合図のためにホラ貝を吹き鳴らして大きな音を立てることから、転じて、事実よりも誇張して大げさに話す。でたらめなことを言う。大言壮語する。 (用法) 文型「ダレダレがほらを吹く」。用例②のように可能動詞形がある。〔江戸〕 (用例) ①夏目漱石『現代日本の開化』(一九二)「西洋の新しい説などを生齧りにして法螺を吹くのは論外として」②石坂洋次郎『若い人』(一九七)「つい昨今の出来事をよくもあんなに法螺が吹けたものだと興ざめて腹が立った」③高橋和巳『悲の器』(一九六三)「書類に縛りつづけられる事務員たちが、夜食のとどくのを待つ間、指先のタコをなでつつかってなホラをふく」④『朝日新聞』(1100円・10・1三夕)「阿波の大ばなしといって、法螺を吹きあって奇抜をきそう習俗が阿波の国にあったという」 (類句)「法螺を飛ばす」とも言う。「駄法螺を吹く」(井上ひさし『日本亭主図鑑』〈一九七五〉「いつも駄法螺を吹いているわけではない」)は「法蝶を吹く」をよりさげすんだ言い方。「大風呂敷を広げる」「らっぱを吹く」 **襤褸が出る** 意味 取り繕って隠していたことがばれて、欠点・短所・失敗の跡など良くないことが現れ出てくる。 (用法) 文型「(ナニナニの)ぼろが出る」〔江戸〕 (用例) 内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「まあ、片田ほどの人物が、そんな、いずれはボロが出るに決まっている犯罪に参画するような愚行はしないと思うけれど」 <410> (類句)「足がつく」「馬脚を現す」「化けの皮が剥がれる」「メッキが剥げる」 **襤褸を出す** 意味 取り繕って隠していたことがばれて、欠点・短所・失敗の跡など良くないことを現す。 (用法) 文型「ダレナニがぼろを出す」否定形がある。 (用例) ①『滑稽新聞』四六号(一九〇三)「此社会で近頃ボロを出したのは知事や視学官、学校教師、裁判官など」②高橋和巳『悲の器』(一九三)「尊敬の代償に、ある程度の犠牲はやむをえないだろうし、すくなくともボロを出さんようにせにゃならんわけでしょう」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「『計算をしなくてすむ』を裏から見れば無計画に買物をしても、ぼろを出さずにすむということになる」④『朝日新聞』(一九二・二・三朝)「『決してボロは出すまい』母も子どもも、身構え暮らしてきた」 (類句)「しっぽを出す」「馬脚を現す」 **本腰を入れる** 意味 ある事柄に対し本気になって真剣に取り組む。 (用法) 文型「ダレダレがナニナニに本腰を入れる」。命令・意志表現が可能。 (用例) 『朝日新聞』(100m・二・一八夕)「落語に本腰を入れて2年に過ぎない鶴瓶の挑戦」 (類句)「本腰を据える」とも言う。 (外国語) 英語では put everything one has got into <411> **枚挙に遑がない** 意味 一つ一つあげていけないほど数が多い。「枚挙に暇がない」とも書く。 (用法) 文型「ダレナニは枚挙にいとまがない」 (用例) ①『朝日新聞』(100円・11・10夕)「世界中でさまざまな記念行事が開催され、関連の出版物も枚挙に暇がない」②『朝日新聞』(1100五・二・二五朝)「やせていた間中、ありとあらゆる言葉の攻撃を受けた。(略) 『まあー細い』『あんな細い脚でよく歩けるわね』などと枚挙にいとまがない」③「会社を首になった人は枚挙にいとまがない」 (類句)「腐るほど」「掃いて捨てるほど」 (外国語) 中国語では成句「不胜枚举」(枚挙に堪えない、枚挙にいとまがない。「不胜」は堪えない) **魔が差す** 意味 悪魔が心に入り込むことから、転じて、普段ならするはずがない悪いことを、ついふらふらとする心・考えを起こす。 (用法) 文型「ダレダレは魔がさす」〔江戸〕 (用例) ①源氏鶏太『夢を失わず』(120)「世の中には、絶対に間違いのない娘ってあるものではない。魔がさす、ということもあり得る」②三浦綾子『塩狩峠』(一人)「たしかに三堀君は、あの時魔がさしたのだと思うのです。しかしおそらく今度二度と、こんなことをしないだろうと思います」③『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「謝礼を仲介し、模範解答付き入試問題を見せた責任は大きい。魔がさしたとしかいいようがない」④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「もしも金額が数億ではなく数十億円の巨額であったりすれば、フッと魔がさすことだってなきにしもあらずだ」⑤龍一京『交番』(1100円)「宮脇は人の気持ちなど、どう変わるかわからないと思っていた。『魔が差すことはありますからね』」 (外国語) 英語では be possessed by an uncontrollable urge **間が抜ける** 意味 音曲の拍子が抜けることから、転じて(1)ぼうっとしていて、締まりがない。ばかのように見える。(2)物事の大切なとこ <412> ろを忘れたり時機を逸したりする。用法文型「ダレナニは間が抜けている」「間が抜けたダレナニ」。文末では「間が抜けている」が用いられる。「間の抜けたダレナニ」とも言う。〔江戸〕用例 ① 石川淳『葦手』(一九五)「あんなシャモ一羽まだ絞められねえた、しおらし過ぎて間が抜けてらあ」② 大江健三郎『ピンチランナー調書』(一九七六)「またその上に大きさも大きいが、なにより間がぬけた目鼻立ちの獅子のカシラを据えつけた山車」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「平吉はわざと間の抜けた表情で首に手を当ててみせた」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・一七朝)「きっとこの国では、間の抜けた殿様を演じるコメディアンであり続けるのだろう」⑤「一ヶ月遅れの誕生日カードなんて間が抜けている」 **曲がりなりにも** 意味 不十分ではありながら、一応それなりに。一応形になるさまを言う。用法文型「まがりなりにも~する」。述語を修飾する。〔江戸〕用例 ① 『朝日新聞』(一九七九・六・三朝)「曲がりなりにもこうした努力を通じて、石油危機のさ中には五百億ドルともいわれた産油国の経常収支黒字は、昨七八年下期にはゼロに近くなり」②『朝日新聞』(一九七九・二・二三朝)「今回の騒ぎのように曲がりなりにも分裂だけは避けるという求心力が働く」 類句「どうにかこうにか」 外国語 英語では after all **間が悪い** 意味 (1)タイミングが悪い。巡り合わせが悪い。運が悪い。(2)何となく気恥ずかしい。 用法 「ダレナニは間が悪い」「間が悪いことに~」 用例 ① 津本陽『深重の海』(一九八六)「一昨日はまた、太地の旦那の持山で、掛谷たら楠木谷たらち云う処の、一等杉ばっかり十万本も焼けて、何ち云う間の悪りいことよのう」②「間が悪いことに今電車が出たところだ」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「間が悪そうに、志津が居ずまいを直し、千代も風子も一瞬、ぽかんとした」 類句 (2)「きまりが悪い」「ばつが悪い」 外国語 英語では awkward **幕が開く** 意味 芝居で幕が開いて始まることから転じて、催し・事件・出来事など物事が始まる。 <413> 用法文型「ナニナニの幕が開く」 用例「二〇〇五年度の公式戦の幕が開く」 類句「スタートを切る」「ふたが開く」「幕を開ける」 **幕が下りる** 意味 芝居の終わりに幕が下りることから転じて、ある出来事や争い・事件などが終わりになる、結末がつく。用法文型「ナニナニは幕が下りる」「ナニナニに幕が下りる」「ナニナニの幕が下りる」 用例 ① 『朝日新聞』(一九八〇・三・二〇朝)「クレムリン名物だったフルシチョフ、ブルガーニン〝アベック道中』にもついに幕が下りた」②『朝日新聞』(一九七九・五・一〇朝)「航空機疑惑事件の幕が下りた」③『朝日新聞』(一九七九・七・一六朝)「エジプト大使館占拠事件は十五日朝、ゲリラたちがあっけなく降伏して幕が下りた」④『朝日新聞』(一九七九・八・一七朝)「死闘はこうして引き分け再試合寸前で幕が下りた」 類句「幕が閉じる」「幕を閉じる」「幕を引く」 **幕が切って落とされる** 意味 歌舞伎で引き幕を開けたのちも後ろに幕があり、音楽を聴かせたあとに、その幕を一気に落としたことから転じて、行事・催し物がはなばなしく始められる。用法文型「ナニナニは幕が切って落とされる」「ナニナニの幕が切って落とされる」 用例 ① 源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「かくて、南海産業の講和記念大運動会も幕は切って落とされた」②東野圭吾『卒業』(一九八六)「『乾杯』、そして『メリークリスマス』。ついに幕は切って落とされた」③「今、博覧会の幕が切って落とされようとしている」 **枕を高くする** 意味 何の心配もなく安心してぐっすりと眠ることができるさま。危険や心配事がなく、安心できるさま。用法文型「ダレダレが枕を高くして眠る(寝る)」〔平安〕 用例 ① 島崎藤村『新生』(一九一九)「お前は隣室の高瀬にまで隠そうとしていることが有るだろう。お前はそれで枕を高くしてお前の寝台に眠ることが出来るのか」②源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五)「わしには、君のような部下がいることは、一日といえども、枕を高くして眠ることが出来ん、という心境である」③内田康夫『秋田殺人事件』(二〇〇一) 「あなたが危険な証拠品を持ってい <414> るかぎり、連中は枕を高くして眠れないはずです」 類句「愁眉を開く」「胸のつかえが下りる」「胸を撫で下ろす」 **幕を開ける** 意味 催し・事件・出来事などが始まる。用法文型「ナニナニの幕を開ける」「ナニナニが幕を開ける」 用例 ① 『朝日新聞』(一九七九・七・一〇朝)「今度の新データ網建設は、デジタル通信時代』の幕をあける役目をになうことになる」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「ここから、君の読書生活が幕をあける」③『5年の科学』(二〇〇三・八)「ターミネーター3 人類とマシーンの壮絶な戦いが幕をあける!」④『朝日新聞』(二〇〇四・三・二〇)「クリスマス、お年玉商戦での『携帯型ゲーム機・冬の陣』が幕を開ける」 類句「スタートを切る」「ふたを開ける」「幕が開く」 **幕を閉じる** 意味 幕が閉じて芝居が終わることから転じて、ある一定期間続いていた催し・事件・出来事・生涯などが終わりになる、または終わりにする。物事の結末をつける。用法文型「ダレナニがナニナニの幕を閉じる」 用例 ① 『朝日新聞』(一九六七・一〇・三朝)「政界の巨人は歴史的使命を終え、同じ型の政治家、チャーチル、アデナウアー氏らにつづいて、生涯の幕をとじたのである」②『朝日新聞』(二〇〇四・九・二七夕)「私と戸川昌子は、一九九〇年いっぱいをもって幕を閉じたシャンソニエ『銀巴里』について、またシャンソンについて、おのが人生について語りあいそして歌った」③『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・三朝)「政治家として奮闘した日々は、7月12日未明に幕を閉じた」④『朝日新聞』(二〇〇三・一二・一〇夕)「渡し船は、昔は東京でも大活躍した。でも、44年、隅田川で最後の『佃の渡し』が江戸期以来の幕を閉じて、東京では消えたんです」 類句「幕が閉じる」「幕を下ろす」「幕を引く」 **幕を引く** 意味 ある一定期間続いていた物事を終わりにする。用法文型「ダレナニがナニナニに幕を引く」「ダレナニがナニナニの幕を引く」。用例②のように受身形がある。④のように可能動詞形がある。用例 ① 『朝日新聞』(一九六一・二・二七朝)「二人の力士生命に幕を引くときがきたらしい」②高杉良『濁流』(一九九六講談 <415> 社文庫版)「青山建設が保有株式を東亜興業へ放出して、幕が引かれた」③木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「あと一歩踏み込めば、その構図をさらけだすことができるというのに、そちらには目をつぶって、かっとなって明日香を殺したジュンを、指名手配することで事件の幕を引くしかないのだ」④『朝日新聞』(二〇〇四・二三・二朝)「苦し紛れの弁明に『とても幕は引けない』といった声は与党内からも上がった」 類句「幕を閉じる」「幕を下ろす」 **負けず劣らず** 意味 お互いに同じようなレベルで、優劣がつけがたいさま。用法文型「負けず劣らず〜だ」。修飾句として述語を修飾する。用例④のように「負けず劣らずのナニナニ」の形で修飾する用法もある。〔江戸〕 用例 ① 里見弴『多情仏心』(一九二三)「駄弁になれば、どっちも負けず劣らず他愛のない応酬を続けながら」②江戸川乱歩『石榴』(一九三四)「谷村のほうでも、琴野のほうでも、負けず劣らず『元祖狢饅頭』という大きな金看板を飾って、眼と鼻のあいだで元祖争いをつづけていたのでした」③森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「彼女もいつの間にか、負けず劣らず刺激的なネグリジェに着替えている」④東野圭吾『宿命』(一九九〇)「ところが凍結された後も、密かに自分が再開させることを考えていたらしい。親子とも負けず劣らずの変人だよ」 類句「甲乙つけがたい」「勝るとも劣らない」 **勝るとも劣らない** 意味 勝ることはあっても劣ることはないという意で、成績や力や容姿など比較するものと同等あるいはそれ以上である。用法文型「ダレナニは(ダレナニに)まさるとも劣らない」「まさるとも劣らぬダレナニ」。述語としても用いられるが、後ろの言葉を修飾することが多い。用例 ① 源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五二)「今や、歴代社長に勝るとも、劣らぬ名実共に立派な社長になることが出来た」②石坂洋次郎『石中先生行状記』(一九四六)「召使いの女どもが、貴方様のことを、昔の光君に勝るとも劣らない美男子だと噂しておりましたので」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「それに第一、徳島大学の葛西教授は、(略)外科的治療などの研究で業績を上げ、他の四人の実力に比べて勝るとも劣らないことは、誰の目にも明らかでしょう」④『朝日新聞』(一九六〇・七・九朝)「一万メートル <416> で勝ったことは、日本記録にまさるとも劣らぬ大きい意義をはらんでいる」類句「甲乙つけがたい」「負けず劣らず」外国語中国語では成句「有过之无不及」(過ぎることはあっても及ばないことはない、勝るとも劣らない。「过」は過ぎる。「有过之而无不及」とも言う) **間尺に合わない** 意味「間尺」は計算、寸法の意。損得計算すると損になる。したことに見合うだけの利益がない。用法文型「ナニナニは間尺に合わない」〔江戸〕用例①内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「外からかかってきた電話のせいで、いちいち怒られていたのでは、間尺に合わない」②高杉良『人事権!』(一九九二)「N証券に一〇パーセントもシェア・アップするのは過剰反応だよ。いや間尺に合わん」類句「割に合わない」 **股に掛ける** 意味非常に広い地域にわたって活躍する、活動する。用法文型「ダレダレがドコドコを股にかけて〜する」〔江戸〕用例①芥川龍之介『鼠小僧次郎吉』(一九二〇)「かう見えても、この御兄さんはな、日本中を股にかけた、ちつとは面の売れている胡麻の蠅だ」②谷崎潤一郎『蓼食う虫』(一九二八—二九)「そういう出店を上海や香港あたりにも持って、日本とシナとを股にかけてときどき往ったり来たりしながら、ひとしきりはかなり手広くやっていたのに」③『朝日新聞』(二〇〇五・一・一五朝)「夏は地元で働き、冬場は全国を股にかけて出稼ぎをしていた」 **真っ赤な嘘** 意味全くの嘘だという意の強調表現。用法文型「ナニナニは真っ赤な嘘だ」用例①坂口安吾『ぐうたら戦記』(一九五七)「私は竹村消防へ速達をだした。あと二か月で小説は完成する。金を送れ。それは大嘘であった。マッカな嘘である」②金田一春彦他『変わる日本語』(一九八一)「ハンカチーフの下を略してハンカチというのだとお思いになっているのでしょう。それはまっかな嘘です」③『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・六朝)「出版流通に詳しい、ライターの永江朗さんは『読書離れは真っ赤なうそ。「新刊書店離れ」に過ぎない』という」 <417> 外国語 英語では an out-and-out lie **的を射る** 意味 大事なところ・正しいところをきっちり言い当てる。「的を得る」というのは間違い。用法文型「ダレナニは的を射る」 用例 ① 中上健次『鳳仙花』(一九八〇) 「新宮が妙に恐ろしいところだというフサの子供心は、その当時を考えれば的を射ていた」②「的を射た発言」 類句「正鵠を射る」「当を得る」 **眦を決する** 意味「まなじり」は「目尻」のこと。怒りや固い決意をこめて大きく目を見開く。用法文型「ダレダレがまなじりを決して~する」〔平安〕用例 ① 太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「仲兼さまはそのお叱りのお言葉をそのまま宗政さまにお伝え申しましたところが、宗政さまは、きりりと眺を決し、おそれながら、たわけたお言葉、かの法師を生虜り召連れまいるは最も易き事なりしかど」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「木下は十時前に出社するなり、眺を決して部長室に入った」 類句「目をむく」 **間に合う** 意味 (1)時間に遅れないですむ。(2)十分ではないが、取りあえずの方策・手当てとしてこと足りる。用法 (1)文型「ダレダレが(ナニナニに)間に合う」。否定形もよく使われる。(2)文型「ダレダレがダレナニで間に合う」。「ダレナニで」には取りあえずの手当てとなる対象が来る。「ダレナニをダレナニで間に合わせる」という他動詞形でも使われる。用例 ① 三浦綾子『塩狩峠』(一九六八) 「渡欧からむろん葬式に間に合いはしない。まあ、間に合わなくても、親孝行だと思って、十日ほど休むことにして親子三人で出てきたのさ」②渡辺淳一『北都物語』(一九八四)「偶然肺炎で寝込み、おかげで船に間に合わず内地に残ることになってしまった」③内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「なんとか間に合ってほっとしたら、何のことはない、津山線もやはり雪のせいでダイヤが乱れているのだそうだ」④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・六朝)「とくに最終報告書がどう扱われるかをチェックする新たな機関の設置を求め、来年度の政府予算の概算要求に間に合うように当時の坂口厚労相に申し入れた」⑤福永武彦『忘却の河』(一九六四)「夕食は <418> 一同が中華亭から取り寄せる焼飯やラーメンで間に合わされた」⑥筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「座付役者といえば、いつも読むたびに感心してしまうのは文士劇の台本である。こればかりは既製の戯曲で間に合わせるわけにはいかない」⑦丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「煮る手間を惜しんで、お豆腐で間に合はせるなんて、怠慢ぢゃありませんか」 類句 (2)「役に立つ」「用が足りる」 **真に受ける** 意味 相手の言動をそのまま本当だと信じる。用法文型「ダレダレがナニナニを真に受ける」〔江戸〕 用例 ① 石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「私の言うことをみんな真に受けて考えこんだりするの」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「スター病に取り憑かれた両親が、レコード会社にはいるには数百万の金がかかると言われたのを真に受けて」③我孫子武丸『0の殺人』(一九八九)「三十近くも年の離れた男のプロポーズを真に受けるほど姉さんは馬鹿じゃないよ」④姉小路祐『合併裏頭取』(二〇〇一)「太平洋銀行時代の私は、バカでした。上司の言うことを真に受けてしまって」 外国語 英語では take something seriously **目の当たりにする** 意味 間近に見たり体験したりする。用法文型「ダレダレがダレナニを目の当たりにする」 用例 ① 津本陽『深重の海』(一九八六)「彼がはじめて鯨を目のあたりにしたのは八歳の春であった」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「彼女の死を目のあたりにし、涙まで流したにもかかわらず」③『朝日新聞』(二〇〇四・七・三三朝)「経済不況で賃金は上がらず、リストラも目の当たりにする」④龍一京『交番』(二〇〇五)「人の喜びや悲しみを目の当たりに出来る」 外国語 韓国語では「눈앞에 (目の前に) 대하다 (対する)」 **眉を曇らせる** 意味 心配で眉を寄せて浮かぬ顔をする。用法文型「ダレダレが眉をくもらせる」。「眉をくもらす」とも言う。用例 夏目漱石『彼岸過迄』(一九一二)「年寄の眉を曇らすのがただ情ない許で」 類句「反発を買う」「顰蹙を買う」「眉をひそめる」「眉を寄せる」 <419> **眉を顰める** 意味 眉のあたりに皺を寄せる意で、心配事や他人の行為に対する嫌悪・不快などで顔をしかめる。用法文型「ダレダレがナニナニに眉をひそめる」〔平安〕 用例 ① 夏目漱石『道草』(一九一五)「彼は眉を顰めながら下女の振り落して行った針を取り上げた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「(略)たまにはよそさまのお嬢さま方のように、きれいに着飾って出かけていらっしゃいよ、陰気くさくていけないわと眉を顰めるように云い」③三浦哲郎『結婚』(一九六七)「またか、とトヨの方では、眉を顰める。みんなに罵られ、邪魔者扱いにされているのを哀れんで、いちど親切気をみせたのがいけなかった」④『朝日新聞』(一九八〇・三・一九朝)「レディーファーストの米国からやってきた婦人観光客がたまたまこの光景を目撃し、『ソ連は何と野蛮な国か』とマユをひそめた」⑤『朝日新聞』(二〇〇三・九・五朝)「マナーが悪いと眉をひそめる世間にケンカを売る気合いに衰えはない」 類句「反発を買う」「顰蹙を買う」「眉をくもらせる」「眉を寄せる」 **万が一** 意味 万の中の一つ、つまり非常に低い確率で何かが起こった場合を仮定して用いられる。多くは好ましくないことに言う。万一。用法文型「万が一のナニナニ」「万が一に~する」「万が一を~する」「万が一〜したら」「万が一〜しても」〔平安〕用例 ① 『朝日新聞』(一九七九・七・二朝) 「なにかいいことをやろうとしても『万が一の事故の場合の責任は』とあんくせをつけられ」②佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「仮りに万が一、柳井が、川辺のアリバイ証言は嘘だったと認めたとしても」③龍一京『交番』(二〇〇五)「患者の中には、病に絶望した親子が無理心中を計ったという例もある。万が一にも、そんなことがあってはならない」④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・一五夕)「特に高齢者核家族で多いのは、先に介護が必要になった夫のことが急務になって介護計画を立て、元気な妻の万が一を視野に入れなかったために『こんなはずじゃなかった』となるケースです」 外国語 英語では if by some chance **まんじりともしない** 意味 心配や不安などのため、一晩中眠れないで起きている様子。一睡もせず。用法文型「ダレダレがま <420> んじりともせず~する」 用例 ① 夏目漱石『行人』(一九一三)「けれども室の入口で嫂と相並んで立ちながら、昨夕まんじりともしなかったと自白しているような彼の赤くて鋭い眼つきを見た時は、少し驚かされた」②有島武郎『或る女』(一九一九)「葉子はふらふらと船にゆり上げゆり下げられながら、まんじりともせずに、黒い波の峰と波の谷とがかわるがわる目の前に現われるのを見つめていた」③鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「一晩中、これまた初めて乗った国際線の飛行機の中で、前途の不安におびえながら、まんじりともせず」 外国語 英語では spend a sleepless night **満を持す** 意味 弓を十分引いて、そのままの姿勢を保つ意から転じて、十分に準備を整えて、機会が来るのを待つ。出典は中国の古典『史記』。用法文型「ダレダレが満を持して〜する」 用例 ① 源氏鶏太『颱風さん』(一九五一)「満を持しながら虎視眈々というところですか?」②『朝日新聞』(一九八〇・五・三朝)「連休前半に出控えた家族連れらが、満を持したように遠出をはじめたらしく、三日はさらに拍車がかかりそう」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「〝Lディスク』はエンパイアが満を持して放った世紀の新商品だった」④『朝日新聞』(二〇〇四・二・三朝)「その二人が、満を持して挑むのがロック・ミュージカル『SHIROH』です」 <421> **ミイラ取りがミイラになる** 意味 人を連れ戻しに行った本人自身が帰ってこなくなってしまう。また相手を取り込みに、また説得しに行った人が逆に相手に取り込まれてしまう。用法 単独でも用いられるが、用例②④のように修飾句としてもよく用いられる。〔江戸〕用例 ① 仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』(一八七〇)「此暖団に長く在やァミイラ取がミイラに成様な者で仕舞にやァ黒ン坊に成だろう」②海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「久光はミイラとりがミイラになるおそれがあるとて、許さない」③源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「浦島さんはここで落城しては、まさにミイラ取りがミイラになるも同然と」④『朝日新聞』(一九八一・七・二朝)「こうした『既得利益者』を味方にすることが、ミイラ取りがミイラになる危険性をかかえていることも見逃せない」⑤高杉良『首魁の宴』(一九九六)「『スギリョーと会ってきたよ』『ミイラ取りがミイラになったなんてことはないんでしょうね』」 **見得を切る** 意味 役者が舞台である行動や感情の高ぶりなどを観客に示すため、静止して大きなポーズをとることから転じて、相手に対して少し偉そうに、または反発してやる気、自信のある言動をする。用法文型「ダレダレが見得を切る」〔江戸〕用例 ① 源氏鶏太『颱風さん』(一九五一)「『冗談じゃアない。誰が慰謝料なんか払うもんかね。こないだは酒を飲んでたんで不覚をとったが、こんどは負けないよ。おお、ぜったいに負けるもんか。』と、武田は見えを切って、ぐっと酒を飲んだ」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「私が思うには、いま新生会や軍部をむこうにまわして真向から見得を切るようなことは避けたいと思っている」③『朝日新聞』(一九八一・二・一〇朝)「首相らは『身近な行政は地方へ』『中央は企画官庁に脱皮』とミエを切っていたが」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「イワさんは見得を切るようなかっこをして、ドンと胸を叩いてよろけた」⑤高杉良『人事権!』(一九九二)「こんなえらそうに見得を切って大丈夫だろうかと」 <422> 類句「大見得を切る」 **見栄を張る** 意味 人によく見られようと、うわべを飾ったり外見を取り繕ったりする。用法文型「ダレダレが見栄を張る」「見栄を張って〜する」。否定形がある。用例 五木寛之『風に吹かれて』(一九八〇)「見栄をはらず、卑屈にならず、しかも要求することは堂々と要求する」 外国語 英語では put up a (good) front **磨きが掛かる** 意味 技術・芸・能力・才能などが習練や経験を重ねて研ぎ澄まされ、さらにすぐれたものになる。用法文型「ダレダレはナニナニに磨きがかかる」 用例 ① 我孫子武丸『0の殺人』(一九八九)「佐々木はそううそぶく。もともと何でも斜に構えたがる男だったが、公安に配属されてさらに磨きがかかったようだった」②「芸に磨きがかかる」 **磨きを掛ける** 意味 技術・芸・能力・才能などを習練や経験を重ねて研ぎ澄ませ、さらにすぐれたものにする。用法文型「ダレダレがナニナニに磨きをかける」。命令・意志表現は可能。受身表現も多く使われる。〔江戸〕用例 ① 有島武郎『カインの末裔』(一九一七)「その娘は二、三年前から函館に出て松川の家に奉公していたのだ。父に似て細面の彼女は函館の生活に磨きをかけられて、この辺では際立って垢抜けがしていた」②有島武郎『或る女』(一九一九)「木部の愛情は骨にしみるほど知り抜きながら、鈍っていた葉子の批判力はまた磨きをかけられた」 **身が入る** 意味 勉学や仕事などに集中して一生懸命取り組む。否定形「身が入らない」はほかに気を取られることがあって、一生懸命になれない意。用法文型「ダレダレはナニナニに身が入る」。否定形で用いられることが多い。用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「試験が近づいていたので、悠一は経済学にかじりついていたが、昨年の試験に比べて、身の入らないことは呆れるばかりであった」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「そうなれば欲が出て、商売にも本気で身が入り、西海屋はビクともしなくなっ <423> てしまったんですよ」③高杉良『人事権!』(一九九二)「案外わたしがいないほうが勉強に身が入るなんて言い出すかもしれないわよ」④『朝日新聞』(二〇〇五・九・一九朝)「朝食については、『とらないと午前中にボーっとして学業に身が入らない』」 **身が引き締まる** 意味 自分に課せられた役目や使命などの重大さを知り、緊張する。用法文型「ダレダレは身が引き締まる」「ダレダレは身が引き締まる思い」。他動詞形は「身を引き締める」 用例 ① 『朝日新聞』(二〇〇四・八・七朝)「厳島神社での宮島狂言は、演者として身の引き締まる舞台。波や風、ふいに響く予想の出来ない音など自然の中にあって、それを味方に引き込んでいく力が必要です」②『朝日新聞』(二〇〇回・二・二六夕)「久しぶりの定席は、懐かしく、身が引き締まる思い」 外国語英語では have a sobering effect on **身が持たない** 意味 しなければならないことがありすぎて、体力が続かない。健康が維持できない。用法文型「ダレダレは(の)身が持たない」 用例 筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「どちらかにはっきり決めてやって貰わないとご亭主の身がもたない」 **右から左** 意味 (1)手に入ったものが自分のものにならず、そのまま出ていって他人の手に渡ってしまうさま。(2)欲しいものが直ちに、簡単に手に入るさま。(3)その場その場でうまく処理できるさま。用法文型「ダレナニが右から左に(へ)~する」〔江戸〕 用例 (1)①森鴎外『高瀬舟』(一九一六)「喜助は爲事をして給料を取っても、右から左へ人手に渡して亡くしてしまうと云った」②太宰治『ヴィヨンの妻』(一九四七)「売り上げの金はすぐ右から左へ仕入れに注ぎ込んでしまわなければならないんです」(2)③島崎藤村『夜明け前』(一九二九)「いかんせん、この尾州藩の救いは右から左へとすぐ受け取れるものでなかったし、村民は救いの手を目の前に見ながら飢えねばならなかった」④檀一雄『青春放浪』(一九五六)「我々の表札と同じ文字の『郷』男爵のせがれでもあったなら右から左、四百五十円だっておやすい事だろう」⑤森 <424> 村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「あなたは持っていなくても、お金持ちのお父様に言えば右から左に払ってくれるわよ」(3)⑥「山のような仕事も右から左にやってのける」 類句「左から右に」とも言う。 **右に出る者がない** 意味 古代中国で右が上席であったことから、ある事柄に関して、その人よりも優れた者はいない。その人が一番である。用法文型「~にかけてはダレダレの右に出る者がない」「〜でダレダレの右に出る者がない」「~たらダレダレの右に出る者がない」。「〜」に比べる事柄・動作に関する言葉が来る。「右に出る者がいない」とも言う。〔江戸〕用例 ① 津本陽『深重の海』(一九八六)「困難な手さばきを要する大剣の技にかけては玉太夫の右に出る者はいない」②『朝日新聞』(一九八〇・二・六朝)「もともと力と技は現在の力士の中で右に出る者はいない」③『朝日新聞』(一九八二・二・四朝)「数の多さで北の湖の右に出る者はいない」④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「通称向い獅子のイワさんである。(略)向い獅子を彫らせたらこの男の右に出る者はいない」 類句「並ぶ者がない」 外国語 英語では Nobody can come close to someone 中国語では成句「无出其右」(その右に出る者がない) **見切りを付ける** 意味 ある事柄についてもうだめだとあきらめ、見捨てる。見限る。用法文型「ダレダレはダレナニに見切りをつける」。命令・意志表現は可能。用例 ① 山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「鵜飼医学部長は、あなたが来年、定年退官だから、そろそろ見切りをつけて、則内病院長に近付こうとしていらっしゃるのかもしれませんわ」②『朝日新聞』(二〇〇三・九・二七夕)「石川県出身の男性(55)は、体力のいる空き缶拾いに見切りをつけ」③『朝日新聞』(二〇〇四・二二・四夕)「だれもが金庫代わりと割り切って預金を続けていると思い込んでいた。しかし、メガバンクですら経営が危うくなる時代である。見切りをつけて、肌身離さず持とうという人があちこちにいるのだろう」 類句「お手上げ」「匙を投げる」 <425> **神輿を上げる** 意味「みこし」に「腰」をかけて、(1)座っていた人が腰を上げる。(2)物事にとりかかる。 用法文型(1)「ダレダレがみこしを上げる」「ダレダレがナニナニにみこしを上げる」〔江戸〕 用例 (1)①「やっと客がみこしを上げて帰ってくれる」 (2)②「党本部が改革にみこしを上げた」 類句「お神輿をあげる」とも言う。「重い腰を上げる」「腰を上げる」「尻を上げる」 **神輿を据える** 意味「みこし」に「腰」をかけて、どっしり座り込んで長居する。用法文型「ダレダレがみこしを据える」〔江戸〕用例「田舎の伯父さんがやって来て、みこしを据えて動こうとしない」 類句「腰を据える」「尻を据える」 **水入らず** 意味 他人が入り込まず親しい者だけで親密にする様子。用法文型「ダレダレが水入らずで(に)~する」〔江戸〕用例 ① 有島武郎『生れ出づる悩み』(一九一八)「水入らずの家族五人が、囲炉裏の火にまっかに顔を照らし合いながらさし向かいになる」②有島武郎『或る女』(一九一九)「三人は楽しく昼飯の卓についた。そして夕方まで水入らずにゆっくり暮らした」③石川達三『青春の蹉跌』(一九六八)「おそらくは不幸の中で死んだ母と娘と、この部屋の中で、二人きりの水入らずで暮したかった」 外国語 英語では all by oneself **見ず知らずの** 意味 全く知らない他人ということを強調する言い方。用法文型「見ず知らずのダレダレ」。後ろに来る言葉を修飾する。〔室町〕用例 ① 佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「マンションでのひとり住いなら、当然、訪問者に対しては気を使うはずであり、見ず知らずの者に、ドアを開けるとは考えられない」②『朝日新聞』(一九八〇・二・二五朝)「見ず知らずの党員が出現するのはうれしいが、こういう人たちが本当に党活動の輪に入ってくるとは思えません」③斎藤栄『日美子の公園探偵』(二〇〇一)「見ず知らずの女達に殺されたのが」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・二四夕)「顧問の米田忠雄教諭(六〇)は『見ず知らずの人から応援のメールが届く。 <426> 期待に応えようと、みんな必死です』」 類句「赤の他人」 **水と油** 意味 水と油が混ざり合わないように、お互いが反発しあい、決してうまく調和しないたとえ。用法文型「ダレナニとダレナニは水と油だ」「ダレナニとダレナニは水と油のよう」〔江戸〕用例 ① 夏目漱石『吾輩は猫である』(一九〇五)「水と油のように夫婦の間には截然たるしきりがあって」②内田康夫『三州吉良殺人事件』(一九九一)「お祖父さんと彼らとは、性格的には水と油みたいな関係だったのですか?」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「主幹と山下は水と油ですからねぇ」④『朝日新聞』(二〇〇四・三・三朝)「身辺雑記と大長編、水と油のようだが、文章がいいからつい読まされてしまううちに」 類句「犬猿の仲」「氷炭相容れず」 外国語 英語では like oil and water **水に流す** 意味 相手の過去の失敗や間違い、いざこざ、不愉快なことなどをなかったものとする。用法文型「ダレナニはナニナニを水に流す」。記憶としては残っているが、意図的に消し去る意なので、命令や意志表現は可能。用例⑤のように「水に流せる」と可能動詞形がある。用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「もし又、お怒りになったんなら、あやまりますから、水に流しておくんなさい」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「たしかに時という奴は、どんないざこざもやがて水に流してくれるさ」③高杉良『首魁の宴』(一九九六)「今夜ですべて水に流すからな」④吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇五)「そんなおちゃらけた弁解で、自分がやったことを水に流そうとしたって、それじゃ済まないわ」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・七・一五夕)「日本側が『過去は水に流せなくても、未来は私たちが変える』と言えば」 類句「水にする」とも言う。 外国語 英語では forgive and forget **水の泡** 意味 今まで苦労してやってきたこと、努力がすべて無駄になってしまうこと。用法文型「ナニナニが水の泡」「ナニナニが水の泡に(と)なる」〔江戸〕用例 ① 石川淳『葦手』(一九三五)「これじゃ今までの苦労 <427> が水の泡じゃないの」②三島由紀夫『愛の渇き』(一九五〇)「そんなことをしたら、何もかも水の泡になってしまってよ」③司馬遼太郎『梟の城』(一九五九)「ここで女に騒がれては、折角の仕事も水の泡になる」④『朝日新聞』(一九八〇・二・二七朝)「これまでの各国の努力が水の泡になるだけでなく、最悪の場合には『海の無法時代』が出現しないとも限らない」⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「万一、西北グループからスポンサーになることを断られたら、いままでの努力は水の泡になりかねない」 類句「水泡に帰す」「棒に振る」「無駄骨を折る」「元の木阿弥」「元も子もない」 外国語 英語では go down the drain **水も滴る** 意味 若々しく色香のある魅力的な女性または男性の美しさの形容。用法文型「水もしたたるダレナニ」「水もしたたるよう」。「水のしたたる」とも言う。〔江戸〕用例 ① 石坂洋次郎『石中先生行状記』エロ・ショーの巻(一九六八)「水も滴るとか言いますが、全くその通りで、上品な中にも何とも言えない色気があって」②『朝日新聞』(一九八一・八・三朝)「梅蘭芳はいくつになっても舞台姿は水もしたたる美しさだった」 **水も漏らさぬ** 意味 (1)計画・準備などにおいて、少しの手抜かりもなく完璧なさま、特に警戒が厳重なさまに用いることが多い。(2)人間関係、特に男女間について関係が緊密なさま。用法文型「水も漏らさぬナニナニ」。後ろの言葉を修飾する。用例 (1)①江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇-三一)「波越氏と二人の部下が、三方から、ジロジロとするどい疑惑の視線をあびせかけるという、水ももらさぬ警戒ぶりだ」②『朝日新聞』(一九七一・七・三朝)「沿道の群衆一人ずつに身元を確認する水ももらさぬ警備となった」③木谷恭介『みちのく滝桜殺人事件』(一九九六)「水も洩らさぬ捜査網を敷いた警察」(2)④三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「この他所の女と自分の良人との、水も洩らさぬ連繫は何事なのか」⑤森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「熟練した夫婦や恋人のように水も漏らさぬような一体感を達成していながら」 類句 (1)「蟻の這い出る隙もない」 外国語 英語では airtight 中国語では成句「滴水不漏」(一滴の水も漏れない) <428> **水を開ける** 意味 ボートレースや水泳などで相手に差をつけることから転じて、能力・順位・業績などの点で、競争相手との間に差をつけて勝っている状態。用法文型「ダレナニがダレナニに水をあける」。「かなり」「大きく」など、程度のはなはだしい意を表す修飾語を伴って用いられることが多い。用例②③のように受身形が可能。用例 ① 『朝日新聞』(一九八〇・四・三朝)「トップの日本マクドナルド(藤田田社長)とロッテリア(重光武雄社長)が三位以下にかなり水をあけている」②『朝日新聞』(一九八一・一〇・一六朝)「パがセに人気で大きく水をあけられたのは、もとはといえば、川上元監督に率いられた巨人に九連敗と大敗したからだ」③『朝日新聞』(一九八二・二・三朝)「大陸間核ミサイルや潜水艦核ミサイルなど、戦略兵器の分野で、米国に大きく水をあけられていたのをやっと追いついたと思ったら」 外国語 英語では open up a lead (over) **水を打ったよう** 意味 大勢の人がいながら、しいんと静まり返っているさま。用法文型「ダレナニが水を打ったように静まり返る」「水を打ったような静けさ」用例 ① 江戸川乱歩『妖虫』(一九三四―三五)「誰も物言う者はなかった。水を打ったようにシーンとしずまり返っている」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「水を打ったような静けさの中で、鵜飼の太い声が響き」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「聴衆は全員、水を打つたやうに静まり返つて聞き惚れ」④東野圭吾『卒業』(一九八六)「水を打ったようなしずけさの中、蹲踞して立ち上がる」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「会場は水を打ったように静まり返り」 外国語 英語では so quiet you could hear a pin drop **水を差す** 意味 関係がうまくいっている時に、また気運が高まっている時に、それを邪魔するような言動をする。その結果、関係などが悪くなる。用法文型「ダレナニがダレナニに水を差す」「水を差すようなナニナニ」。用例④⑤のように受身形は可能。〔江戸〕用例 ① 筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「『暗いSFばかり書いて、ピンクの未来ブームに水をさす』といわれたSFが」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五) <429> 「せっかくのご苦労に水を差すようであるが、記事に挿入された八葉の写真を拝見するかぎり、整形後よりも整形をなさる前の方がはるかに美しかった」③『朝日新聞』(一九八〇・九・八朝)「死刑判決が日本世論の対韓批判をかきたて、せっかくの修復ムードに水を差すことになりはしまいか」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「スギリョーは、旅行をだしにして、治子を懐柔しようとしているのだ。それに水を差されたら、頭に血をのぼらせるだろう」⑤田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇一)「みんな楽しみで釣りしちょるというのに、そう水を差されても」 類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「野次を飛ばす」「横槍を入れる」 外国語 英語では throw cold water on 中国語では慣用句「泼冷水」(水をかける。「冷水」は水) **水を向ける** 意味 相手の様子を探るため、また、こちらが知りたい、尋ねたいことを相手が話し始めるようにするために何かを話しかけたり質問したりする。用法文型「ダレダレがダレダレに~と水を向ける」。用例③⑤のように受身形は可能。〔江戸〕用例 ① 『朝日新聞』(一九八〇・四・三朝)「『好投した時には、打線が打ってくれないね』と水を向けると、『だが、逆転本塁打を打たれたのは僕ですから』」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「『(略)部長からなにか聞いてる?』佐々木がさりげなく水を向けてきた」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「『たしか、小林さんは金野さんに会って、……………こられたのでしたね?』と言った。とつぜん水を向けられて、古林は慌てたが」④清水一行『ITの踊り』(二〇〇五) 「うまく水を向けて、平井と仕手筋絡みを喋らせることはできないか」⑤『朝日新聞』(二〇〇五・一二・三朝)「白星を上積み。三賞受賞が濃厚だねと水を向けられ、『そう? いつ話し合うの?』。選考方法に興味津々」 類句「探りを入れる」「腹を探る」 **身銭を切る** 意味 自分の金で支払う。本来は自分が出す必要のない金だが、それを払うことで何らかのメリットや満足を得ると判断し、自分から進んでそうする場合に使う。用法文型「ダレダレが身銭を切って〜する」 用例 ① 城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「わたしなんか、ロンドンの気象庁に知人をつくりましてね、身銭を切って人形を買って、クリスマス・プレゼントに送ったりし <430> てるんです」②藤本義一『サイカクがやって来た』(一九七八)「大体、金を払って(身銭を切って)観た作品に、出来が悪いといって、『木戸銭返せェ』といった客が殺到したのが上方であったわけだ」③『朝日新聞』(一九七九・一〇・三朝)「どうしても商売を決めようとする時は、個人が身銭を切って営業活動することもある」④高杉良『指名解雇』(一九九七)「メーカーの採用担当課長風情に身銭を切って奢ってくれる教授は例外中の例外だ」 類句「自腹を切る」「懐を痛める」 **味噌も糞も一緒** 意味 本来性質や価値が全く異なる物事をその違いを無視して、ひとまとめに扱うこと。善悪・優劣などを区別せず、同一視すること。用法文型「ダレダレは味噌も糞も一緒にする」「味噌も糞も一緒にしたナニナニ」 用例「監督のみそもくそも一緒にした選手の扱いは我慢がならなかった」 **味噌を付ける** 意味 失敗して、恥をかき面目を失ったり信用を失ったりする。用法文型「ダレダレがナニナニで味噌をつける」〔江戸〕用例 ① 角田喜久雄『高木家の惨劇』(一九四七)「これで、貴方はミソをつけるでしょう。貴方のやり方では、絶対に犯人はあがりません」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「彼は、何でも以前に『慢性胃炎の外科的治療の研究』でみそをつけ、学会の評判はよくないとかいうことを聞き及んだのですが」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「沖自身がトップの肌にふれて、いろいろ教わったことはあったが、トップのおぼえがよくなるというようなことは、なかった。大文字の一件では、むしろ、ミソをつけさえした」 **道草を食う** 意味 まっすぐに帰らないで、途中で寄り道をしたりして時間を費やす。あることの途中で別のことをし始め時間を費やす。用法文型「ダレダレが道草を食う」。用例①「長い」のように「道草」を修飾することが可能。①のように「道草を食べる」はまれ。〔平安〕用例 ① 尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七―九八)「随分先から長い道草を食べましたから」②檀一雄『青春放浪』(一九五六)「姉さん。ほら、こんなところで道草を食っていらっ <431> しゃる」③佐藤春夫『わんぱく時代』(一九五八)「彼等はこうして道草を食いながら学校に近づきつつ」④津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九八九)「京都の市街地で道草を食うことは少なかった」⑤『朝日新聞』(二〇〇三・三・三朝)「子どもが下校途中に道草を食ったことや」 類句「油を売る」 **身に余る** 意味 本人の身分・地位・価値・能力などにふさわしい程度を越えていて、もったいないほどである。過分である。ほめ言葉や表彰に対してお礼を述べる際によく使われる。用法文型「ナニナニが(ダレナニの)身に余る」「身に余るナニナニ」。後ろの言葉を修飾することが多い。〔平安〕用例 ① 芥川龍之介『邪宗門』(一九一八)「その代りまた、詩歌管絃の道に長じてさえ居りますれば、無位無官の侍でも、身に余るような御褒美を受けた事がございます」②太宰治『右大臣実朝』(一九四三)「『身に余る面目。義盛づれの老骨を、―――』と言いかけて」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「只今は、身にあまる餞のお言葉を戴き、ただただ恐縮致しております」④「身に余る光栄です」 外国語 英語では an undeserved honor **身に覚えがある** 意味 あることをしたという記憶がある。主体にとって良くないことについて使われることが多い。思い当たる節がある。用法文型「ダレダレは身に覚えがある」〔江戸〕用例 ① 丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「たいてい、一生懸命頑張つて書いたあげく、それを手にして訪ねて来た人から、ぶつぶつ文句を言はれることになる。誰だつて身に覚えがあるでせう」②梓林太郎『立山雷鳥沢殺人事件』(一九九九) 「恨まれているとしたら、彼女には身に覚えがあるような気がするのだが」 **身に覚えがない** 意味 あることをしたという記憶がない。主体にとって良くないことについて使われることが多い。思い当たる節がない。用法文型「ダレダレは身に覚えがない」 用例 ① 佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「全然、身に覚えがないことで、せっかくの就職がだめになったりしたら」②龍一京『交番』(二〇〇五)「身に覚えがねえとは言わせねえぜ。汚ねえことしやがるじゃねえか」③『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・一〇朝)「これら40項目のどれにも身に覚えがないとシラを切れる人は、おそらく『頭がいい人』ではあ <432> るまい」 **身に染みる** 意味 恐ろしさやありがたさや実状などを自分の身体を通して実感する、深く心に感じる。「身に沁みる」とも書く。用法文型「ナニナニが身にしみる」「ダレダレがナニナニを身にしみて~する」〔平安〕用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「恋をするとわれわれは人間がこうも無防禦なものであるかが身にしみて、今までそれと知らずに暮してきた日常生活に戦慄するのである」②野間宏『真空地帯』(一九五二)「古いすでに体験のある兵隊はその恐ろしさを十分身にしみて感じていた」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「殊に睡眠に適してゐたのは秋の終りのころで、あれはやはり、もののあはれが身にしみて、どうしても眠るしかなかつたのだらうか」④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「いまその恐ろしさが身に沁みてわかりましたわ」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・一〇夕)「森自身、かつて戦地慰問先の将校と淡い思い出があり、ひとしお身にしみる作品なのだ」 類句「骨身に染みる」 **身に付く** 意味 ある技術・能力・才能・態度などが習練して、あるいは自然に自分のものになる。用法文型「ナニナニが(ダレダレの)身につく」〔江戸〕用例 ① 三浦哲郎『結婚』(一九六七)「口では拒むようなことをいいながら躯を押しつけてくる媚が身についている女だろうか」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「こういうひとり遊びによって想像力、創造力、あるいはまた人を楽しませることのできる能力が身についたのだとぼくは思っているから」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「さふいふ勉強をしてゐるうちに、帝王学にも似た主人学が身についてくるのだ」④『朝日新聞』(二〇〇四・七・一七朝)「本当にいいものを自分で選べる『目利き』になれ。ブランドを身につけるのではなく、ブランドが身につく人間になろう」 外国語 韓国語では「몸에(身に)배다 (染みる)」 **身に付ける** 意味 ある技術・能力・才能·態度などを自分のものにする、備える。用法文型「ダレダレがナニナニを身につける」。命令・意志表現は可能。 <433> 用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「康子は、悠一の旅のあいだに、新たに住まなければならなくなった世界の処世術を身に着けた」②黒岩重吾『背徳のメス』(一九六〇)「洗練された都会の雰囲気を最高度に身につけている真理子を、植は尊敬もし、愛していた」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「この第二次活字世代の連中も、そういう能力を身につけているのかもしれない」 外国語 韓国語では「몸에(身に)의히다 (慣らす)」 **身につまされる** 意味 他人の失敗・不幸・苦しみなど良くないことを、まるで自分のことであるかのように共感してしみじみと受けとめてしまう。用法文型「ダレダレはナニナニが身につまされる」。受身形で用いられる。〔江戸〕用例 ① 『朝日新聞』(一九七九・五・二六朝)「不安を訴えた四月二十五日付投稿に『人ごとではない』『身につまされる』とおたよりをいただいた」②内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「この中で浅見は、『アラユルコトヲジブンヲカンジョウニ入レズニ』という部分と、『ミンナニデクノボートヨバレ』という部分が、なんとなく身につまされるような気がしてならない」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・三夕)「綱渡りのような資金繰りは、住宅ローンを組んだことのある読者ならずとも身につまされるに違いない」 外国語 英語では hit close to home **身になる** 意味 相手の立場や境遇に自分をおいてみる。用法文型「ダレダレがダレダレの身になって~する」。命令・意志表現は可能。用例 ① 福永武彦『忘却の河』(一九六四)「お母さんの身になってあげたら、お父さんだってそんな無責任なおっしゃりかたは出来ないと思うんだけど」②『朝日新聞』(二〇〇三・一一・一朝)「親切で人柄もよく、患者の身になって治療してくれると大評判」③「少しはこっちの身にもなってくれよ」 類句「立場に立つ」 **身の置き所がない** 意味 人に迷惑をかけたり恥ずかしかったりして、その場にいられない。用法文型「ダレダレは身の置き所がない」。「身の置き所のない」とも言う。〔平安〕用例 ① 菊池寛『勲章を貰う話』(一九二八)「彼は、再び、深い悔恨に浸っていた。どうしても、この世に身の置 <434> き所のないような、深い深い悔恨に浸っていた」②若杉鳥子『古鏡』(一九五八)「お房さんのその妹の最後の言葉が、私に始めて、全く身の置き所のない彼女であったということを、ほんとに知らしめた」 外国語 中国語では成句「无地自容」(恥ずかしくて身の置き所がない) 韓国語では「몸둘바가(身の置き所が)없다(ない)」 **身の毛がよだつ** 意味 恐怖心、気味の悪さなどのために、体中の毛が立つようなぞっとするさま。用法文型「身の毛がよだつ(ような)ナニナニ」。ナニナニは「思い」など。修飾句として用いられることが多い。「身の毛もよだつ」とも言う。〔鎌倉〕用例 ① 江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一―三二)「実に今思いだしても身の毛もよだつ怖ろしいことを考えついた」②源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五三)「前に立っただけで、もう、身の毛がよだつような、実に、怖ろしい社長であった」③獅子文六『青春怪談』(一九五〇)「何という、怖ろしい世の中になったかと、身の毛がヨダつ思いがするのである」④『朝日新聞』(一九八〇・七・二六朝)「『戦車を知ろう』とか、『自衛隊員と語る夕べ』『武器、兵器の解説』などの案があるというのを本紙で読み、身の毛がよだつ思いをしました」⑤岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「リカルドは無表情で女の片耳を削ぎ、乳首を切り落とし、血まみれでのたうち回る女の腹にナイフを突き立て、そのまま陰部まで切り裂いた。その身の毛もよだつ光景が脳裏に焼き付いている」 類句「肝を冷やす」「背筋が凍る」「背筋が寒くなる」「背筋に寒いものが走る」「鳥肌が立つ」 外国語 英語では one's hair stands on end 韓国語では「몸이(身が)오싹하다 (ぞくぞくする)」 **耳が痛い** 意味 相手の言うことが自分の欠点や弱点を指摘していて、聞いているのがつらい。用法文型「ダレダレは耳が痛い」「耳が痛いナニナニ」〔室町〕用例 ① 徳田秋声『仮装人物』(一九一五―一六)「『(略)醜いものね、あんなお婆さんが若い燕なんかもっているのは。私熟々厭だと思いますわ。』庸三は苦笑して、『耳が痛いね。』」②『朝日新聞』(一九八〇・二・二朝)「耳の痛い説教で、たしかに日本の経済という巨人は長い箸を使って、 <435> せっせと自分の口だけに運んでいたので」③『朝日新聞』(一九八〇・三・三朝)「今春、念願の高校へ入学する皆さんへ耳の痛いことを申しますからよく聞いて下さい」④『朝日新聞』(二〇〇三・九・一〇夕)「『(略)着たいスーツのためにやせたっていう人の話聞くと、そうでなきゃって』耳が痛い」 外国語 英語では make one's ears burn 韓国語では「귀가(耳が) 아프다 (痛い)」 **耳が肥える** 意味 音楽やいい話を聞く経験を積んで聞く力が高まり、その善し悪しを識別する能力がすぐれる。用法文型「ダレダレは耳が肥えている」〔江戸〕用例「音楽家一家に生まれた彼女は耳が肥えている」 **耳が遠い** 意味 聴覚が鈍くて聞こえにくい。用法文型「ダレダレは耳が遠い」〔室町〕用例 ① 大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「彼は附近海面で単独に沈められた軽巡洋艦の砲手で耳が遠い」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「さっきから、何度もお声をかけていますのに、退官なさると、そんなに急に耳まで遠くおなりになるのですか」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「その若い衆の父親は耳が遠いらしく二度三度ききかえし」 外国語 英語では be hard of hearing 韓国語では「귀가(耳が)멀다(遠い)」 **耳が早い** 意味 噂や情報・ニュースなどを聞きつけるのが早い。耳ざとい。用法文型「ダレダレは耳が早い」。用例のように敬語形がある。〔室町〕用例 小杉天外『魔風恋風』(一九〇三)「まア、お耳の速いには驚きましたねえ」 **耳に入れる** 意味 (1)あることがらを聞く、聞き入れる。(2)他人にある情報を伝える。用法文型 (1)「ダレダレがナニナニを耳に入れる」。(2)「ダレダレがナニナニをダレダレの耳に入れる」。意志や命令表現は可能。用例④のように「耳に」と「入れる」との間に語句を挿入できる。⑤のように敬語形も可能。〔南北朝〕用例 (1)①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「気丈な未亡 <436> 人は、周囲のすすめを耳にも入れずに、亡夫の位牌を護って、東京の家に踏みとどまった」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「女はベッドで動けなくても、半日もすれば部屋の誰某のことはのこらずに耳に入れてしまうものらしい」(2)③野間宏『真空地帯』(一九五二)「なぜこの俺はこのような事実をはっきりと知ったにもかかわらず、なおそれを木谷の耳に入れるのをおそれていたか」④瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「たみの耳には出来るだけいれまいとしたけれど」⑤「うわさを先生のお耳に入れる」 類句 (1)「が耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」 **耳にする** 意味 聞く。音や言葉が自然に耳に入ってくる。たまたま聞く。用法文型「ダレダレがナニナニを耳にする」 用例 ① 黒岩重吾『背徳のメス』(一九六〇)「同僚の医師は植の結婚話を耳にした時」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「世間の噂に詳しい小間物屋なら、とうにそういうことを耳にしているのだろうと思った」③佐野洋『推理小説実習』(一九七九)「その尾行者のひとりが、たまたま、弁護士会館の入口で、土田が同じくらいの年配の弁護士と会談を交わしているのを耳にしたのだった」④『朝日新聞』(一九八〇・九・三〇)「耳にしたこの言葉は、私の心に小さな道しるべとなって残りました」⑤『朝日新聞』(二〇〇〇・一〇・一三朝)「欧米では、勉強は学校、人格形成は教会、しつけは家庭が原則であるとよく耳にする」 類句「小耳に挟む」「耳に入れる」「耳に届く」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」 **耳にたこができる** 意味 あることを何回も何回もいやになるほど聞かされる。うんざりするほど同じことを聞かされる。用法文型「ダレダレはナニナニを(ナニナニと)耳にタコができるほど~する」。ナニナニには聞く内容が来る。「~する」には「聞かされる」などが来る。〔江戸〕用例 ① 生方敏郎『明治大正見聞史』(一九二六)「隣人を愛せよというのは(略)基督教国の人々は、日曜学校へ通う時分から耳にたこが出来るほど聞かされている筈だ」②石坂洋次郎『石中先生行状記』馬車物語の巻(一九四七)「日本はこれから若い者が先立ちで、民主主義つものに変る、という話を、耳さタコができるほど聞かされてな」③井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「男女は平等であり同 <437> 権である、ということを、わたしたちはこれまで口がすっぱくなるほど言い、また、耳にたこができるほど聞いてきた」④『朝日新聞』(一九六一・四・二九朝)「たばこは胃腸、心臓、肺などのためによくないと、耳にタコができるほど聞いている」⑤大沢在昌『心では重すぎる』(二〇〇〇)「その話は、僕らも水飼さんからそれこそ耳にタコができるほど聞かされていました」 類句「耳につく」 外国語 英語では be sick and tired of hearing 韓国語では「귀에 (耳に) 못이 (たこが) 박히다(できる)」 **耳に付く** 意味 (1)ある音・声が精神に刺激を与えるように聞こえて来る。それが耳に残り気になる、忘れられない。(2)同じことを何度も聞かされてあきる。用法文型「ナニナニが耳につく」〔平安〕用例 (1)①松本清張『点と線』(一九五八―五九)「前に腰かけた二人が、東北弁でうるさく話しあっていたので、それが耳について神経が休まらなかったのだ」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「おれが目ざめたのは飛行機の爆音がたえず耳についていて離れなかったからである」③津本陽『深重の海』(一九七八)「風が落ち低い掛声と櫓のきしみが耳についてきた」④安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「まるで嵐の中で草木のザワメキが不思議な微妙さで耳につくように聞こえてくるのだ」(2)⑤「自慢話も耳についてきた」 類句 (2)「耳にたこができる」 **耳に届く** 意味 ある距離を隔てて音声が聞こえる。また、ある情報などが伝わってくる。用法文型「ナニナニがダレダレの耳に届く」。否定形がある。用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「やがて接岸作業の鋭い呼笛が、夜気をつんざいて、不安な鳥の叫びのように彼女の耳に届いた」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「兄や姉も多かったのだが、生きているか死んでいるか、要するに私が故郷を離れてから後の消息は私の耳には届かなかったし」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「そういう噂は小六と宇三郎の耳には届かなかったようである」④清水一行『ITの踊り』(二〇〇五)「梶田は地声が太かったから、メンバー全員の耳に届き、座が一瞬静かになった」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に入る」「耳に挟む」「耳に触れる」 <438> **耳に入る** 意味 ある音・声が自然と聞こえてくる。また、ある噂・情報などがこちらに伝わる。「耳に入らない」と否定形で使うと、なんらかの原因で聞こえない状態になっている意になる。用法文型「ナニナニがダレダレの耳に入る」 用例 ① 野間宏『真空地帯』(一九五二)「會田が木谷にすべてのことを話したということはきっと准尉の耳にはいってしまうにちがいないのだ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「専らの噂? そんなことがどうしてお前たちの耳にまで入るのかね」③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「止める家族の声も、もうミヨ子の耳には入らない」④清水一行『ITの踊り』(二〇〇回)「秋葉は直接の交渉担当としては、指名されてもいなかったから、カルチャーとの会議には出なかったが、それでも交渉の経過は逐一耳に入ってきた」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・一六朝)「これは出ているタレントの責任ではまったくないのだが、『うざい』とか『しつこい』とか、耳に入ってくるのはそんな評判ばかりだ」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に挟む」「耳に触れる」 外国語 韓国語では「귀에 (耳に) 들어오다(入る)」 **耳に挟む** 意味 聞こうという気もなく、ちらっともれ聞く。ふと耳に入る。用法文型「ダレダレがナニナニを耳にはさむ」〔安土桃山〕用例 大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「学生の頃野尻湖で耳に挟んだ土地の人の話を憶えていた」 類句「小耳に挟む」「耳にする」「耳に届く」「耳に入る」「耳に触れる」 **耳を疑う** 意味 自分が予想もしなかったことを聞いて信じられない。用法文型「ダレダレがナニナニに(自分の)耳を疑う」 用例 ① 山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「全く思いもかけない則内病院長夫人が指名されたのであった。自分の耳を疑う様に鵜飼夫人の方を見上げると」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八) 「『えっ? 和倉さんが……………』信夫は耳を疑った」③『YANASE LIFE』(二〇〇四・一二-三月号)「温厚実直な国務長官として今も活躍する男の趣味がよもやサンデーメカニック、すなわち日曜自動車修理だったとは誰もが耳を疑う」④『朝日新聞』(二〇〇回・一〇・一回朝)「上越新幹線の『とき』が脱線したとの報には、一瞬耳を疑った」 <439> 外国語 韓国語では「귀를(耳を) 의심하다 (疑う)」 **耳を貸す** 意味 相手の主張や意見・忠告などを聞いてやる。相談に乗る。用法文型「ダレダレがダレナニに耳を貸す」。否定形で用いられることが多い。用例③のように命令形にすると、「今から私の言うことをこっそりと聞く態勢になりなさい」という意味になる。〔江戸〕用例 ① 三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「母の忠告にも康子の哀訴にも耳を貸さない」②開高健『裸の王様』(一九五七)「いつもぼくは彼の悪口を聞きながして、まともには耳をかさないことにしていた」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「『そうそうおのぶさん、ちょっと耳をかして』平吉はそう言っておのぶさんに近寄ると、掌を扇にしてささやいた」④『朝日新聞』(一九七九・六・五朝)「もう一度、ちゃんとした先生に鑑定し直してほしい。そう何度訴えても、裁判官は耳を貸してくれなかった」⑤深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「亜紀子さんはそんなあなたの言葉に耳を貸さなかったわけですね」 類句「耳を傾ける」 **耳を傾ける** 意味 相手が言っていることを謙虚に聞こうとする。または聞こえてくる音を注意してよく聞く。用法文型「ダレダレがナニナニに耳を傾ける」。ナニナニには「声」「意見」「主張」といった言語活動を表す語が来る。命令・意志表現は可能。〔平安〕用例 ① 半村良『どぶどろ』(一九七七)「どうやら沼田はその工藤平助という医師の言い分に耳を傾けたらしい」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「二人は、熱っぽい口調で意見を交し、随行員たちは緊張した表情で耳をかたむけた」③『朝日新聞』(一九八一・三・三朝)「この動きは末端の組合員の声に耳を傾けない大労組幹部間の主導権争いではないか、との思いがしてならない」④『朝日新聞』(二〇〇回・九・一六朝)「世論の反対は大きかったのに、政府は耳を傾けなかった」 類句「聞き耳を立てる」「耳を貸す」「耳を凝らす」「耳を澄ます」「耳をそばだてる」 外国語 韓国語では「귀를 (耳を) 기울이다 (傾ける)」 **耳を澄ます** 意味 ある音・声や人の話などに神経を集中させて聞こうとする。用法 <440> 文型「ダレダレがナニナニに耳を澄ます」。命令・意志表現は可能。〔鎌倉〕用例 ① 野間宏『真空地帯』(一九五二)「木谷は両足は毛布のなかにつっこんだまま耳をすまして騒音のなかをつたわってくる彼らの話をきいたが」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「彼は妻の母がお勝手でかたことやっている物音に耳を澄ませた」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇五)「梶田は地声が太かったから、メンバー全員の耳に届き、座が一瞬静かになった。だれもが耳を澄ませてさり気なく梶田をうかがっていた」④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・三朝)「個室に入っては、洗面台に並んでは、隣に立つ女性たちの評判に耳を澄ます」 類句「聞き耳を立てる」「耳を傾ける」「耳を凝らす」「耳をそばだてる」「耳を立てる」(野間宏『真空地帯』〈一九五二〉「ひとが自分の名を口にするのをきくほど恐ろしいことがあろうか。木谷はぎくっとして耳をたてたが」) 外国語 韓国語では「귀를 (耳を) 밝히다(明るくする)」 **耳を欹てる** 意味 ある音・声や人の話などを聞こうとしてその方向に注意を集中させる。用法文型「ダレダレがナニナニに耳をそばだてる」〔鎌倉〕用例 ① 山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―六八)「傍聴人は、財前の過失がどの時点で下されるのか、耳を欹てた」②津本陽『深重の海』(一九七八)「誰もが、往還を走る足音や叫び声に、耳をそばだてていた」③内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「聡子は『何なのよ』と迷惑そうに、しかし興味は隠せずに、耳を欹てた」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・一〇朝)「さりげなく、こちらから名前を呼びかけてみたり、飼い主さんが話し掛けるのに耳をそばだてたり」 類句「聞き耳をたてる」「耳を澄ます」「耳を立てる」「耳を凝らす」 外国語 英語では prick up one's ears 韓国語では「귀를(耳を)곤두세우다 (そばだてる)」 **耳を揃える** 意味 お金を必要なだけきっちり用意する。用法文型「ダレダレが(ナニナニを)耳をそろえて~する」。「~する」は「返す」「払う」などが来る。〔江戸〕用例 ① 坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「君たちに必要な三百万、耳をそろえようというのだが」②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六七―六八)「ほんとに来月の五日までだけ待っておくれやす、必ず耳を揃えてお払い致します」③ <441> 森村誠一『誇りある被害者』(一九九六)「だったら、おとなしく一億円、耳を揃えて払うのね。それできれいさっぱりあなたと別れてあげるわ」 外国語 英語では pay back something in a lump sum **身も蓋もない** 意味 言動が何の小細工もなく、露骨すぎるさま。ある事柄について何の趣も含みもなくなってしまうことに対しての否定的な表現。用法文型「~しては身も蓋もない」「身も蓋もないナニナニ」用例 ① 泉鏡花『婦系図』(一九〇七)「然う云っ了えば、身も蓋もない」②久保田万太郎『春泥』(一九一六)「三浦のようにいってしまっちゃア身も蓋もねえ」③三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「彼は身も蓋もない無邪気さが媚態に役立つことを知っていた」④『朝日新聞』(一九八〇・二・一〇朝)「それをああ冷酷に割り切っていってしまっては、ミもフタもない話で、人間としても味気なさすぎる」⑤高杉良『指名解雇』(一九九七)「指名解雇と言ってしまうと身も蓋もない」 外国語 英語では brutally frank **身も世もない** 意味 自分の身も世の中もどうでもいいというありさまで、悲しんだり絶望したりするさま。または常軌を逸したさま。用法文型「身も世もないナニナニ」用例 ① 伊藤左千夫『野菊の墓』(一九〇六)「民子は身も世もあらぬさまでいきなりお増の膝へすがりついて泣き泣き」②江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九二六)「夫たちのさまざまの睦言を立ち聞きしては、どのように、身も世もあらぬ思いをしたことでございましょう」③源氏鶏太『三等重役』(一九五一―五三)「若原君は浦島さんの席の前に腰をかけて、もはや、身も世もあらぬようすである」④辻邦生『北の岬』(一九七〇)「(雌狐は)何か痛みをこらえるように声を落して早く鳴くかと思うと、狂ったように絶叫し、身も世もあらぬというふうに鳴いた」⑤安岡章太郎『海辺の光景』(一九七六)「父の吸い方は、まったく身も世もないという感じで、吸っている間は話しかけられても返辞もできないほどなのだ」 類句「身も世もあらぬ」とも言う。 **脈がある** 意味 脈拍があるから、まだ生きているということから転じて、達成しそうな見 <442> みゃくがな **脈がある** 意味 まだ望みがある。まだ希望が持てる。 用法 文型「脈がある」。単独で一文を構成する。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「そのいい方には、妙に優しいところがあるから、僕は、脈があるような気がしているんだよ」 ②「電話ではその気はなさそうだが、まだ脈がある」 外国語 英語では not dead yet **脈がない** 意味 脈拍がなくなり、命が絶えるということから転じて、達成しそうな見込みがない。望みがない。希望が持てない。 用法 文型「脈がない」。単独で一文を構成する。用例のように「脈なし」という言い方もある。〔江戸〕 用例 山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「あの人とて、いずれは誰かに定めて投票するんだから、今日の態度だけで菊川支持の脈無しとは限らないよ」 **見様見まね** 意味 人のやっていることを観察し、まねて同じようにやること。 用法 文型「ダレダレがナニナニを見よう見まねで〜する」〔江戸〕 用例 ①堀辰雄『幼年時代』(一九五一-五六)「幼い私はその牛に向って、いつもおとなの人が私に向って言ったり、したりするような事を、すっかり見よう見真似で繰り返しながら」 ②『朝日新聞』(一九七九・五・九朝)「父親や自宅の教室に通ってくるお弟子さんたちのを見よう見まねで吹くうちに、童謡ぐらいのメロディなら吹けるようになった」 ③『5年の科学』(二〇〇三・七)「これまでクロールや平泳ぎを見よう見まねで泳いでいたが、もっとうまくなりたいと願う5年生」 ④『6年の科学』(二〇〇三・八)「レイチェルは先生にならって、見よう見まねで岩石をはがし、2つに割ってみました」 外国語 英語では by watching someone's example **見る影もない** 意味 姿や様子が非常に醜く哀れで、みすぼらしいさま。そうではなかったかつての姿と引き比べて言う場合が多い。 用法 文型「ダレナニは見る影もない」「見る影もないダレナニ」「ダレナニは見る影もなく〜だ」〔江戸〕 用例 ①石川達三『青春の蹉跌』(一九六六)「彼の妻は多分すばらしい美人であっただろう。しかし今は見る影もない姿だった」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・一・二一夕)「きえは商家 <443> に嫁いでいたが、健康的な明るさを失い、見る影もなくなっていた」 類句 「尾羽打ち枯らす」「身を落とす」「身を沈める」 外国語 英語では a mere shadow of one's former self **見るに忍びない** 意味 人のひどい状態、不幸、気の毒なさま、哀れなさまなどを見ていられない。 用法 文型「ナニナニは見るに忍びない」〔室町〕 用例 「津波で一瞬にして家族も家も失った子供の姿は見るに忍びない」 類句 「見る影もない」「見るに耐えない」「目も当てられない」 **見るに見かねて** 意味 人のひどい状態などをじっと見ていられないので何かをするさま。 用法 文型「ダレダレはダレナニを見るに見かねて〜する」 用例 江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「三谷は、恋人が日一日と憔悴していくようすを、見るに見かねて、ある日、とうとう窮余の一策を案じ出した」 外国語 英語では can't stand watching **見る目がない** 意味 人の実力・価値や物の真贋などを見分ける力がない。 用法 文型「ダレダレはダレナニを見る目がない」。肯定形「見る目がある」も使われる。 用例 内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「私って、よっぽど人を見る目がないんですよ」 **身を入れる** 意味 何事かに一生懸命集中して取り組む。 用法 文型「ダレダレがナニナニに身を入れて〜する」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕 用例 ①福永武彦『忘却の河』(一九六四)「父はまるで根をうしないもう商売のほうにも身を入れてすることがなくなった」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「それよりも、気にするんなら商売に身を入れたほうがいい」 ③向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「おい、女だぞ。オレは初めに女だっていったじゃないか。人のはなし、身入れて聞けよ」 ④『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・三夕)「記者団から『法相としての勉強をしているのか』と質問されると、『身を入れ <444> て勉強しています。寝ずにやっています』と応じた」 類句 「本腰を入れる」「身を打ち込む」 外国語 英語では put oneself into **身を落とす** 意味 身分・境遇などが今までより悪くなり、不幸な境遇に陥る。芸者・娼婦などになる。落ちぶれる。 用法 文型「ダレダレがダレナニに身を落とす」〔江戸〕 用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「英ちゃん、入れあげて身を落とすんじゃないよ。ちょんの間でいくつやったの」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・二六朝)「先輩に『米国では銀行より証券会社の方がステータスが高い』と聞いて決断したが、周囲には『そこまで身を落として』と同情されたそうだ」 類句 「尾羽打ち枯らす」「見る影もない」「身を沈める」 **身を固める** 意味 (1)その場や目的にふさわしい姿・格好を整える。身支度を整える。 (2)結婚して家庭を持つ。 用法 文型 (1)「ダレダレがナニナニに身を固める」 (2)「ダレダレが身を固める」 用例 ①『おもしろくてやくにたつ子どもの伝記15 福沢諭吉』(一九九六)「武士のなかには、『戦争だ』と、よろいかぶとに身をかためてかけつけた者もいました」 ②篠田節子「讃歌」『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・四朝)「一部の隙もない化粧をし、DNKYのスーツに身を固めた五十代の椿坂の、人工的で威圧的な若さとは対照的に、枯れた風情に不思議な清潔感が漂う」 (2)③「そろそろ俺も身を固めようかな」 外国語 (1)(2)英語では settle down **身を切られる** 意味 辛さや苦しさ、悲しさなどが、非常に強く感じられることのたとえ。 用法 文型「身を切られる(ような)思い」「ダレダレは身を切られるほど辛い」〔江戸〕 用例 ①坂口安吾『居酒屋の聖人』(一九四二)「総理大臣の気焔をきいているのが、身を切られる思いで、つらかったのである」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「僕がそんな卑劣な行為をしたという噂のままで、教授選に臨むのは、身を切られるほど辛い」 ③福永武彦『忘却の河』(一九六四)「私はあらためて、そそり立つ断崖の高さを身を切られるような思いで見上げていた」 ④『朝日新聞』(一九八二・二・二〇朝)「ブルドーザーで固め、コンクリート <445> を打つのを見るのは、身を切られる思いだ」 ⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・二〇朝)「たとえばドイツ文学者の全集は身内同然で『別れるのは文字通り身を切られるような辛さ』だった」 **身を削る** 意味 体がやせ細るほど、自分自身を犠牲にするほど、苦労する、心配する、一生懸命に何かに打ち込む。 用法 文型「ダレナニが身を削る」「ダレダレは身を削る思いで〜する」〔江戸〕 用例 ①『新しい国語 六下』(二〇〇四、東京書籍)「宗教に学んでも、自然のふところにとびこんでも、賢治の激しい思いをとげることはできなかった。それならば、せめて童話の中で自分の夢を実現したいと、身をけずる思いで作品を書き続けた」 ②『朝日新聞』(二〇〇五・二・三朝)「TBS系『ウルトラマンネクサス』で、身を削るようにしてウルトラマンに変身する謎の男・姫矢准を演じている」 ③『朝日新聞』(二〇〇五・二・二五朝)「長引く不況の中、民間企業は身を削り、血を流して、リストラを続けてきた」 類句 「骨身を削る」「身を粉にする」 **身を粉にする** 意味 自分の体を粉々にするくらい、苦労を厭わず一生懸命に体を使って努める、尽くす、働く。粉骨砕身する。 用法 文型「ダレダレが身を粉にして〜する」〔鎌倉〕 用例 ①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七-八九)「貧苦にめげない煮焚の業の片手間に一枚三厘のシャツを縫けて、身を粉にしてかせぐに追い付く貧乏もないか」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「敬助は、まるで藤吉の使った分だけ、自分が余計に働くのだというような具合で、それこそ身を粉にして働きまくっていました」 ③『朝日新聞』(一九八一・三・三朝)「母は朝は豆腐作りをし、昼間は土木作業へ、夜は旅館の女中をして、それこそ身を粉にして働きました」 ④大沢在昌『灰夜 新宿鮫Ⅷ』(二〇〇一)「奉職して四十余年、まさに身を粉にして働きましたからな」 類句 「骨身を削る」「身を削る」 外国語 英語では work oneself to the bone **身を立てる** 意味 (1)一人前の仕事をし、それで生活していく。 (2)成功して出世する。 用法 文型「ダレダレがナニナニで身を立てる」。命令や意志表現は可能。〔平安〕 <446> 用例 (1)①大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「彼は小学校しか出ていなかったが、戦時中事務員の需要が増えるのを見て算盤によって身を立てることに決め」 ②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「ぼくはその頃からすでに小説で身を立てようと決めていたため」 ③平岩弓枝『風子』(一九七五-七七)「芸者が芸で身を立てるなら、やっぱり売れる土地へ行かないと」 ④『朝日新聞』(二〇〇四・三・二三朝)「夢はついえた。失意のどん底。どう身を立てていけばいいのか」 (2)⑤「先代は裸一貫で身を立てた」 類句 「生計を立てる」 **身を引く** 意味 自分が今かかわっていること・立場・地位などから退く。世間との交渉から身を退ける。 用法 「ダレダレが(ナニナニから)身を引く」。命令や意志表現は可能。〔江戸〕 用例 ①瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「あの人はあなたを愛していない。身をひいてくれって、ぺらぺらまくしたてるのよ」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「これ以上自分がいたら叶屋はなくなってしまう。だから身を引こうと思うので、叶屋を残したいと思う人がいたら適当な処置を考えてほしい」 ③『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・一四朝)「都内のホテルで13日夜に開かれた記者会見で、堤氏は『経営の第一線から身を引くこととしました』と謝罪文を淡々と読み上げた」 ④『朝日新聞』(二〇〇四・二・六夕)「活動から身を引こうかと思うこともあるが、思い直す」 類句 「足を洗う」「足を抜く」「袂を分かつ」「手を切る」「手を引く」 外国語 英語では back off *韓国語では「몸을(身を)빼다(引く)」 **身を潜める** 意味 人の目に触れないように姿を隠しおとなしくしている。 用法 文型「ダレダレがドコドコに身をひそめる」 用例 ①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「幸い奈良にまろの知るべがある故、そこへしばらく身をひそめていただこう思うのやが」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・九・一二朝)「一連の騒動をマスコミはセンセーショナルに騒ぎ立て、井筒は逃れるように温泉宿に身を潜めたこともある」 類句 「影を潜める」「身を隠す」 外国語 韓国語では「몸을(身を)감추다(ひそめる)」 **身を翻す** 意味 体をくるっと反対の向きに変える。 用法 文型「ダレダレが身を翻 <447> す」〔南北朝〕 用例 ①内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「抗議しようとする聡子に、『じゃあ、また明日、連絡します』と言い置くと、身を翻して大股で歩きだした」 ②『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・九朝)「低く落ち着いた声色で、俺の後ろに立つな、という。身を翻した声の主に拳銃を突きつけられた相手は、なす術もない」 類句 「踵を返す」 **身を任せる** 意味 感情や流れや人の意のままに自分をゆだねる。用例③のように、女性が性行為の対象として自分の体を男性にあずけることをいう場合にも言う。 用法 文型「ダレダレがダレナニに身を任せる」〔平安〕 用例 ①半村良『どぶどろ』(一九七七)「どこかのそっくり返った野郎に身をまかせ、そのかわりに伊三郎の奴を楽にしてやろうとしてたんだ」 ②津本陽『深重の海』(一九七八)「いまだに戻ってこない遭難者の家族たちはすべてたやすく怒りに身を任せるようになっていた」 ③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「男に身をまかせてもなにもない、フサは独りで笑い、男になど頼らず子供らを一人で育てあげるといまさらながら決心したのだった」 ④『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・九朝)「人づき合いは池より川。流れに身を任せたり逆らったりしながら、できるだけ多くの人と出会った方がいい」 ⑤『朝日新聞』(二〇〇四・三・三朝)「誰でも『自分の住むべき場所が、どこかに用意されているのではないか』という『妄想』に身を委せたいと思うことがあるはずだ」 類句 「身をゆだねる」 外国語 韓国語では「몸을(身を)맡기다(任せる)」 **実を結ぶ** 意味 いろいろと努力したり苦労したりしたことで、その結果が良いものとして現れる。 用法 文型「ナニナニが実を結ぶ」 用例 ①『朝日新聞』(二〇〇三・七・二夕)「これまでの試行錯誤が今回、実を結んだ実感があるという」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・九・一八夕)「首都カブールでは、穴だらけだった道路がきれいに舗装され、学校の再建も進んでいた。世界の支援はそれなりに実を結びつつある」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・四夕)「『名前は我が子への最大のプレゼント』という親の思いがやっと実を結んだ」 ④『朝日新聞』(二〇〇五・三・三朝)「ひたむきに練習してきたのが実を結ん <448> だのだと、自分のことのようにうれしく感じます」 外国語 英語では bear fruit **身をもって** 意味 知識として知っているだけではなく、自分が体験したこととして。自分の体で。 用法 文型「ダレダレが身をもって〜する」。副詞句として述語を修飾する形で用いられる。「〜する」には「知る」「体験する」「実感する」などが来る。 用例 ①『朝日新聞』(二〇〇四・九・二朝)「安い焼酎で体を温めた日々を『中国の農村の事情を身をもって知ることができた』と振り返る」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・三朝)「公衆トイレを設置する場所の性格を見極める必要性を身をもって知った」 ③『朝日新聞』(二〇〇三・一〇・三朝)「おまけに私や親から与えられるばかりだった本を自分で選ぶ楽しさも身をもって知ったようだ」 ④『朝日新聞』(二〇〇四・一〇・三〇夕)「サタワル島では電気も水道もなかったおかげで、満月の夜の明るさ、星空の美しさ、水の貴重さを身をもって実感できた」 **身を寄せる** 意味 一時的に他人の家に住まわせてもらい、世話になる。 用法 文型「ダレダレがドコドコに身を寄せる」〔平安〕 用例 ①中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「マツが夕張で身を寄せたのは夕張一の料亭だった」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・九・一二夕)「この寺に、軍部の政治介入を批判した『粛軍演説』で知られる政治家、故斎藤隆夫も一時身を寄せていたと聞いた」 ③『朝日新聞』(二〇〇五・二・二九朝)「家族はバラバラに親類に身を寄せ、宇田川さんはショックで立ち直れない母と2人、古い一軒家を借りて暮らし始めた」 ④『朝日新聞』(二〇〇三・二・二〇夕)「付さんは敗戦後の45年秋に母に連れられ、馬車の修理屋をしていた中国人のもとに身を寄せた」 外国語 韓国語では「몸을(身を)붙이다(つける)」 **みんながみんな** 意味 「すべての人が」という意の強調表現。 用法 文型「みんながみんな〜する」「みんながみんな〜だ」 用例 島崎藤村『嵐』(一九二六)「お前はお前、次郎ちゃんは次郎ちゃんでいい。広い芸術の世界だもの――みんながみんな、そう同じような道を踏まなくてもいい」 類句 「そろいもそろって」 <449> む **昔取った杵柄** 意味 今はやめているが、かつて(若い頃)鍛えた腕前・技量や心得などがあること。一般にはいい意味に使うが、用例①のように否定的に使うこともある。 用法 ①のように「昔取った杵柄が出る」のように言うこともあるが、多くは②③のように使われる。〔江戸〕 用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「時子の前身はあれでしょう。いくら、看板のいい家にしろ、矢張り、昔取った杵柄が出て、時々困りますわ」 ②高杉良『人事権!』(一九九二)「僕は昔取った杵柄で、学生時代のアパート暮らしで鍛えてるからな」 ③「板前をやめたとはいえ、昔取った杵柄、さすがに料理の腕はいい」 外国語 英語では One never loses one's touch **虫がいい** 意味 「虫」は人の体の中にいて、気分や感情などを左右すると考えられているもの。自分の都合ばかり考えて、他人のことを顧みない身勝手なさまを非難して言う言葉。 用法 文型「ダレナニは虫がいい」「虫のいいナニナニ」。ナニナニには「話」「考え」などが入ることが多い。「虫がよい」とも言う。〔江戸〕 用例 ①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「立花さんから藤枝先生に言って頂けたら有りがたいんですけど、私からはちょっと虫がいいかなって思って、言いにくいんです」 ②槌田満文『文学にみる広告風物誌』(一九八六)「西藤が出してきた条件は、週一回二時間だけの出勤、編集長としての責任は負わず、月給は最低手取り五万円、ほかに編集機密費月十万円というムシのいいものだった」 ③『朝日新聞』(一九八〇・七・八朝)「インフレも不況も困る、賃上げは大幅に、そんな虫のいい話が実現できる政策があったらお目にかかりたい」 ④東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「『おいおい』とジンは笑いを含ませた声でいった。『それはムシのいい考えというものだぜ。人殺しの罪まで俺たちに着せようってのか』」 ⑤森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(一九九九)「トウイと結婚し、平沢から資金を出してもらって二人でその店を経営する。こんな虫のいい夢を描いた」 <450> 論」 類句 「虫が良すぎる」 外国語 英語では take a lot for granted **虫が治まらない** 意味 「虫」は人の体の中にいて気分や感情などを左右すると考えられているもの。怒りや癇癪が治まらない。感情的に納得できない。 用法 文型「ダレダレは虫が治まらない」〔江戸〕 用例 ①夢野久作『ドグラ・マグラ』(一九三五)「常識を超越していないと虫がおさまらない性分でね」 ②『朝日新聞』(一九八〇・五・一六朝)「欠席の引き金になったのは、一部にせよ、『主流ペースでは虫がおさまらない』といった感情論」 類句 「腹の虫が治まらない」とも言う。 **虫が知らせる** 意味 なんとなく自分にかかわる、多くは良くないことが起こることを予感する。 用法 用例①〜③のように「虫が知らせたのか」と過去形で使うことが多い。「虫が知らす」とも言う。〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「小林少年は、虫が知らせたのか、昼間の賊の脅迫状や、明智が出がけに注意して行ったことが、気になってしようがなかった」 ②獅子文六『てんやわんや』(一九四八-四九)「その晩の話であるが、虫が知らせたというのか、私は、いつまでも眠れなかった」 ③源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「あたし、虫が知らせたとでもいうのか、急に、あなたと一緒に行がしたくなりましたから、飛行機で飛んできたんですわ」 ④舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「それこそ虫が知らすのか、たしかに三郎丸たちの存在を気にして、一度着席したのに、また立って行ったとしか思われない」 ⑤瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「何となく、虫がしらせるのですが、そんな思いの中をくぐってきた女というものは、そういう経験の人を肌で感じとってしまいます」 類句 名詞句は「虫の知らせ」 **虫が好かない** 意味 「虫」は人の体の中にいて気分や感情などを左右すると考えられているもの。これといった理由はないが、何となく気に入らない、好きになれない、生理的に厭だ。 用法 文型「ダレナニは虫が好かない」。多くは人について言う。用例①のように「虫が好く」という肯定形は例外的な用 <451> 法。〔江戸〕 用例 ①小出楢重『楢重雑筆』(一九四七)「むしがすかぬという言葉がある。何もそんなに厭がる必要のないものでもどうもむしがすかぬとなると堪らなく厭になるもので、またむしがすくと、変なものにでも妙に愛着を覚えるものだ」 ②広津和郎『若き日』(一九三〇)「黒川に対して何となく虫の好かないような気分をその頃から持っていた」 ③武田泰淳『風媒花』(一九五三)「俺は生れつき、大衆って奴は虫が好かないし」 ④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「『冗談じゃない、虫が好かないんだ、徹頭徹尾——』吐き捨てるように云った」 類句 「気に入らない」「気に食わない」「性が合わない」「肌が合わない」 外国語 英語では just can't take to **虫が付く** 意味 害虫がつくと物を痛めるところから、若い未婚の女性に好ましくない男、愛人ができる。多くは親・保護者が言う言葉。また未亡人に愛人ができる。 用法 文型「ダレダレに虫が付く」。用例①のように否定形がある。①②「妙な」「こんな」のように「虫」を修飾することが可能。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「妙な虫がつかぬうちに、結婚させてやりたいと思っているんです」 ②東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「『お嬢さんにこんな虫がついていたとは知らなかったな』と独り言にしては大きな声でいった」 類句 「悪い虫が付く」とも言う。 **虫が良すぎる** 意味 あまりにも自分の都合のいいことばかり考えて、他人のことを顧みない身勝手なさまを非難して言う言葉。 用法 文型「ダレナニは虫が良すぎる」。「虫の良すぎるナニナニ」とも言う。〔江戸〕 用例 ①岩野泡鳴『発展』(一九一二-一三)「千代子の前だからツて、こちらを下すんだようにそんな体裁のいいことを云うのは許さない。余り虫がよ過ぎる!」 ②源氏鶏太『見事な娘』(一九五四-五五)「兄貴の金をせびっておいて、それで、いい顔をしようなんて、虫がよすぎるぞ」 ③舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「すぐ又、ほかの人と結婚なんぞ出来ませんって…それでは、虫がよすぎるの」 ④半村良『どぶどろ』(一九七七)「小まさと世帯が持てなくてもかまわない。それは虫のよすぎる夢だ」 ⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「それはちょっと虫がよすぎるでしょう」 <452> 類句 「虫がいい」 **虫酸が走る** 意味 「虫酸」とは胃病などでむかむかした時に胃から口中に逆流して来る酸性の液。ある人の行為を受けたり見たり聞いたりして、ひどく不快でたまらない気持ちになる。人を忌み嫌うさまに言う。 用法 文型「ダレナニは虫酸が走る」「虫酸が走るほど~だ」〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『吸血鬼』(一九三〇-三一)「あたしを愛してはいたのですけれど、そうされればされるほど、虫酸が走るほどいやで、いやで、しかたがなかったのです」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「あんなもったいぶった学者面をしている奴は、虫酸がはしるほど好かん」 ③木谷恭介『長崎キリシタン街道殺人事件』(一九九五)「翔に話しかけるとき、必要以上にからだを近づけ、小声で話すのがくせで、その度に翔は虫酸がはしるのを感じる」 ④龍一京『交番』(二〇〇四)「警察と聞いただけで虫酸が走るほど、嫌いだった。これまで、警察官とは肌が合わないと思っていた」 類句 「鼻につく」「鼻持ちならない」「ヘドが出る」「胸糞が悪い」 外国語 英語では give someone the creeps **虫の息** 意味 弱り果てて今にも絶えそうな息。今にも死にそうな状態のことに言う。 用法 文型「ダレダレは虫の息」。名詞句としてさまざまに用いられる。〔室町〕 用例 ①北條民雄『癩院受胎』(一九三六)「空から照りつける太陽熱と、自分の体内から盛り上がって来る高熱とに、老人はほとんど虫の息になって」 ②源氏鶏太『鬼の居ぬ間』(一九五三)「発作は、ちょっと、おさまったらしい。マダムは、虫の息を続けている」 ③内田康夫『イーハトーヴの幽霊』(一九九九)「夫人と力を合わせて瀬川に虫の息の郡池を捨てた」 外国語 英語では be at death's door **虫の居所が悪い** 意味 「虫」は人の体の中にいて気分や感情などを左右すると考えられているもの。ひどく機嫌が悪く、普段ならなんでもないのに、ちょっとしたことにも腹を立てるさま。 用法 文型「ダレダレは虫の居所が悪い」〔江戸〕 用例 ①正宗白鳥『生まざりしならば』(一九一三)「あの時は私の虫の居所が悪かったの」 ②志賀直哉『転生』(一九二四)「彼の機嫌のいい時はそれでもよかった。しかしいった <453> ん虫の居どころが悪いとなると、自分でも苦しくなるほど、彼には叱言の種が目の前に押し寄せて来た」 ③『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「あるとき、虫のいどころが悪く、夫にあたりました」 ④向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「虫の居所が悪いのか、今朝のきんはいやにミヨ子にからむ」 外国語 英語では be in a bad mood **虫の知らせ** 意味 なんとなく自分にかかわる、多くは良くないことが起こることを予感すること。 用法 名詞句としてさまざまに用いられる。〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『人でなしの恋』(一九二六)「ついそこへ参ったというのは、理屈では説明のできない、何かの感応があったのでございましょうか。俗にいう虫の知らせでもあったのでございましょうか」 ②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「答えた瞬間、江梨香は背筋がぞーっと寒くなった。虫の知らせ――などというのではない」 ③木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「宮之原の部屋のまえで、悠はちょっと躊躇したが、なにか虫の知らせのようなものを感じた」 ④広山義慶『私刑警察激弾!』(二〇〇一)「心身ともに衰えを感じて、仕事から足を洗う決心をしていたのは、これが原因だったのかもしれない。虫の知らせという奴だ」 類句 動詞句は「虫が知らせる」 外国語 英語では a premonition **虫も殺さぬ** 意味 殺生などできないような非常にやさしく穏やかな顔のさま。実はひどいことをするというような場合に使うことが多い。 用法 文型「ダレダレは虫も殺さぬ(殺さない)ような顔をして」〔江戸〕 用例 ①甲賀三郎『支倉事件』(一九三七)「奥さん見たいに虫も殺さない顔をしていたって当にはならないけれど」 ②源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「あの女は虫も殺さぬ顔をしているが、たいへんな女に違いない」 ③『朝日新聞』(一九五三・七・三朝)「彼らの写真を見ると、どれもこれも虫も殺さぬような美青年ぞろいだが」 ④森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「あの人、虫も殺さないような顔をしていながら、怖いところがあるのよ」 ⑤清水一行『ITの踊り』(二〇〇三)「やはり虫も殺さない、あの穏やかな顔が曲者だった」 <454> 外国語 英語では wouldn't hurt a fly **無駄足を踏む** 意味 せっかく出かけて行ったのに、かいがないこと。徒労に終わる。 用法 文型「ダレダレは無駄足を踏む」。用例のような使役形・過去形がある。 用例 松本清張『点と線』(一九五七-五八)「『むだ足踏ませたな』と、ねぎらうように、あらためて三原を見あげて言った」 類句 「無駄足を運ぶ」とも言う。 **無駄口を叩く** 意味 くだらない、無駄なことをあれこれおしゃべりすることを少し非難して言う。 用法 文型「ダレダレはダレダレに無駄口をたたく」〔江戸〕 用例 ①内田魯庵『くれの廿八日』(一八九八)「珍らしく庖厨へ来て久助爺さんに無益口を叩き」 ②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「行軍中は無駄口を叩いてはならないこと」 類句 「無駄口を利く」 外国語 英語では chatter idly **無駄骨を折る** 意味 無益な努力をする。苦労したことが何の役にも立たず、徒労に終わる。 用法 文型「ダレダレは無駄骨を折る」。用例②③「この種の」「とんだ」のように「無駄骨」を修飾できる。〔江戸〕 用例 ①森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(一九〇九)「東京へ出てから少しの間独逸語を遣ったのを無駄骨を折ったように思ったが、後になってから大分益に立った」 ②安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)「昨日出てきたばかりの場所へ、また戻らなければならないのだ。(略)この種の無駄骨を折ることに狎れっ子になっている」 ③「とんだ無駄骨を折った」 類句 「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「元の木阿弥」「元も子もない」 外国語 英語では waste one's efforts **無駄飯を食う** 意味 仕事もせず、何の役にも立たず無駄に日を送る。 用法 文型「ダレダレは無駄飯を食う」 用例 内田魯庵『社会百面相』(一九〇一)「外国で泡抹銭を費消って、帰朝てから暢気に無駄飯を喰って駄峒喝を吹く先生の」 <455> 外国語 中国語では慣用句「吃闲饭」(無駄飯を食う。「吃」は食う) **胸糞が悪い** 意味 他人の行為を見聞したり、他人から迷惑を受けたりして不愉快である、いまいましくて腹立たしいさま。 用法 文型「ダレナニは胸糞が悪い」〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「あの東教授というのは、何となしに胸糞の悪い奴やな」 ②半村良『どぶどろ』(一九七七)「浜吉はそんな菊造を見ると胸糞が悪くなって、手酌でたて続けに飲った」 類句 「鼻につく」「鼻持ちならない」「ヘドが出る」「虫酸が走る」 **無二の親友** 意味 またとない親友。かけがえのない親友。 用法 文型「ダレダレは無二の親友」 用例 ①江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一-三二)「わしは(略)彼らの歓心を得て、無二の親友となることが何よりも必要であった」 ②太宰治『人間失格』(一九四八)「あわよくば、彼と無二の親友になってしまいたいものだ」 類句 「無二の友」「無二の仲良し」とも言う。「刎頸の友」 **胸が熱くなる** 意味 感動・歓喜などで心が興奮を覚える。 用法 文型「ダレダレは胸が熱くなる」。用例③のように「胸が」と「熱くなる」の間に語句を挿入できる。 用例 ①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「西郷にたいする大久保の友情の厚さに、胸が熱くなったのだ」 ②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「田宮も往時を思い出して胸が熱くなった」 ③『朝日新聞』(二〇〇五・八・六朝)「配送用のワゴンを運転する年配男性に『仕事していると1日が早いだろ? だから今日を大切にするんだよ』と言われ、胸がジーンと熱くなった」 **胸が痛む** 意味 ある様子や自分の行動に悲しみ・つらさなどを感じる。心痛する。 用法 文型「ダレダレは胸が痛む」。ダレダレは話し手。〔江戸〕 用例 ①大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「サンホセには以前彼等がつくった高い無電塔があるにも拘らず、必要に応じて無造作に新設する彼等の贅沢を見て私の胸は痛んだ」 ②『朝日新聞』(二〇〇三・九・一四朝)「『僕、大きくなったら <456> 食べられるん?』と、悲しげな顔で聞いてきます。つらくて胸が痛みます」 類句 「心が痛む」 外国語 韓国語では「가슴이(胸が)아프다(痛む)」 **胸が一杯になる** 意味 感動・悲哀・喜びなどで心が満たされる。そのために物も言えないくらいになる。 用法 文型「ダレダレはナニナニで胸がいっぱいになる」。単に「胸がいっぱい」とも言う。 用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「やはり維子は、父のために弁護したかった。同時に胸がいっぱいになった。泉中に悪しざまに云われると、世にも父が哀れに思われてならないのである」 ②「悲しみで胸がいっぱいになった」 ③「夢がかなう時が間近に迫って胸がいっぱいになる」 類句 「胸がつまる」「胸がふくらむ」「胸に迫る」 外国語 英語では get a lump in one's throat *韓国語では「가슴이(胸が)벅차다(いっぱいだ)」 **胸が躍る** 意味 期待・喜びなどで興奮し心がわくわく、うきうきする。 用法 文型「ダレダレは胸が躍る」〔室町〕 用例 ①近松秋江『黒髪』(一九一三)「もう身は京都に近づいていることが思われて、ひとりでに胸は躍ってくるのであった」 ②海野十三『幽霊船の秘密』(一九四〇)「あと舷側まで、ほんの一伸びだ。おそれているわけではないが、胸が躍る」 ③「長年の夢であったアメリカ留学が目前に迫り、胸が躍る」 類句 「心が躍る」「心が弾む」「胸が弾む」 **胸が潰れる** 意味 心配・悲しみなどで胸が締め付けられるように感じる。またひどく驚く。 用法 文型「ダレダレはナニナニで胸がつぶれる」「ナニナニで胸がつぶれる(ような)ナニナニ」。「ナニナニで」は「胸がつぶれる」原因となる事柄が来る。〔平安〕 用例 ①『朝日新聞』(一九八二・二・二〇朝)「胸のつぶれるような思いで私は家路へ急ぎました」 ②「大声に胸がつぶれるかと思った」 ③「母が死んだ悲しみで胸がつぶれるような気がした」 類句 「胸がふさがる」 外国語 韓国語では「가슴이 <457> (胸が)미어지다(破ける)」 **胸が詰まる** 意味 悲哀・恥ずかしさ・喜び・感動などが胸にこみあげてきていっぱいになる。そのために物も言えなくなる。 用法 文型「ダレダレはナニナニに胸がつまる」 用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「雪子は、自分の肉体のことがもち出された瞬間から、胸がつまって物が言えなくなった」 ②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「さして以前と変ったふうのないミツを見て、十五で古座から新宮に来て西も東も分らなかったとフサは思い、胸つまり涙ぐんで」 類句 「胸がいっぱいになる」「胸がふくらむ」「胸がふさがる」「胸に迫る」 外国語 韓国語では「가슴이(胸が)막히다(つまる)」 **胸が張り裂ける** 意味 ひどい悲しみ・苦しみ・憎しみ・悔しさなどで胸が裂けるような苦しみを感じる。 用法 文型「ダレダレは胸が張り裂けるよう」「胸が張り裂けんばかり」〔江戸〕 用例 「交通事故で幼い子を失った親は胸が張り裂けるような悲しみに嘆き沈んだ」 類句 「胸が裂ける」とも言う。 外国語 韓国語では「가슴이(胸が)찢어지다(張り裂ける)」 **胸が膨らむ** 意味 喜び・希望・期待などで心が満ち、いっぱいになる。 用法 文型「ダレダレはナニナニに胸がふくらむ」 用例 「新入生は希望に胸がふくらむ」 類句 「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」 **胸が塞がる** 意味 心配・悲しみなどで胸がいっぱいになり、暗い気持ちになる。 用法 文型「ダレダレはナニナニに胸がふさがる思い」「胸がふさがるような気がする」〔江戸〕 用例 ①大沢在昌『天使の牙』(一九九七)「切なさがありありとその横顔にはあらわれていた。金村はそれを見つめ、胸が塞がるのを感じた」 ②「友の死亡通知に胸がふさがる思いがした」 類句 「断腸の思い」「腸がちぎれる」「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」「胸に迫る」 <458> **胸に一物** 意味 ある人に対して心の中にわだかまりがあること。また心の中に計画・企てを隠し抱いていること。何かひそかに心に期するところがあること。 用法 文型「ダレダレは胸に一物ありそう」「胸に一物を持つ」〔江戸〕 用例 源氏鶏太『三等重役』(一九五一-五二)「藤山さんの態度は、何か胸に一もつある如く、素ッ気なかった」 類句 「腹に一物」 **胸に刻む** 意味 感動を受けたこと、大切なことを深く心に留めて忘れない。 用法 文型「ダレダレはナニナニを胸に刻む」。命令・意志表現は可能。 用例 「恩師の言葉をしっかりと胸に刻む」 類句 「肝に銘じる」「心に留める」 外国語 韓国語では「가슴에(胸に)새기다(刻む)」 **胸に迫る** 意味 あることでいろいろな思いがわき起こって心に満ち、いっぱいになる。 用法 文型「ナニナニが胸に迫る」。ナニナニは感じ・感情を表す言葉。〔江戸〕 用例 ①芥川龍之介『水の三日』(一九六〇)「この笑い声を聞いていると、ものとなく悲しい感じが胸に迫る」 ②「結婚式の朝、父は娘の『長い間お世話になりました』と言う言葉を聞いて、万感胸に迫り、言葉に詰まった」 類句 「胸がいっぱいになる」「胸がつまる」「胸がふさがる」 外国語 韓国語では「가슴에(胸に)오가다(行き来する)」 **胸に畳む** 意味 見聞きしたことなどを心の中に秘め、表に出さない、人に話さない。 用法 文型「ダレダレはナニナニを胸に畳む」〔江戸〕 用例 「ここでのことは胸に畳んでおこう」 類句 「胸三寸に畳む(納める)」「胸に納める」とも言う。 **胸に手を当てる** 意味 心を静めるために胸に両手を当てることからじっくり思案する。自分に思い当たることがないかよく考える。 用法 文型「胸に手を当てて考える」 用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「よく胸に手を当てて考えてごらん」 ②高杉良『濁流』(一九九六)「自分の胸に手を当てて考えてみろ」 <459> 類句 「胸に手を置く」とも言う。 **胸に火が付く** 意味 あることがきっかけで燃えるような激しい思いになる。 用法 文型「ダレダレは胸に火がつく」 用例 海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九六七)「西郷の胸に火がつき、顔は真赤になり、小山のようなからだはふるえ出した」 類句 「心に火がつく」 **胸に火を付ける** 意味 恋心や怒りなど激しい感情を起こさせる。 用法 文型「ダレナニがダレダレの胸に火をつける」 用例 木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「笑って、とりあわなかった。それが矢代の胸に火をつけたのだろうか。矢代は手をかえ、品をかえて、悠にアタックしてきた」 類句 「心に火をつける」 **胸のつかえが下りる** 意味 前から気になっていること・心配事・悩み・わだかまりなどが、あることによってなくなり、晴れやかな気分になる。 用法 文型「胸のつかえが下りたよう」 用例 半村良『どぶどろ』(一九七七)「それを聞き、それを見て、平吉はなんとなく胸のつかえがおりたような気持になった」 類句 「愁眉を開く」「胸をなで下ろす」 **胸を痛める** 意味 ある様子や自分の行動に悲しみ・つらさなどを感じつつひどく心配する、心を悩ませる。 用法 文型「ダレダレはナニナニに胸を痛める」「ナニナニがダレダレの胸を痛める」。ナニナニは原因。用例④「小さな」のように「胸」を修飾できる。〔江戸〕 用例 ①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「とりわけ木村助教授の胸を痛めたのは、堀重太郎の遭難だった」 ②高杉良『会社蘇生』(一九八七)「二人に申し訳ないことをした、という思いで、白井は胸を痛めていた」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・九・六夕)「場数をふめるほど時代劇の仕事がなく、志半ばで撮影所を去る若手が多いことに胸を痛めている」 ④「幼稚園の娘も小さな胸を痛めていた」 類句 「心を痛める」 <460> **胸を打つ** 意味 感銘を与える。感動させる。感動などで心を揺り動かす。 用法 文型「ナニナニがダレダレの胸を打つ」「ダレダレはナニナニに胸を打たれる」。受身形がよく使われる。 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「浩太郎は、はじめて聞く英子の過去の歴史に、何んとなく胸をうたれていた」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「唐木博士の鑑定は、さすがにりっぱね、傍聴していて、胸を搏たれたわ」 ③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「神田大尉が絶望と共に放った声は、折から吹雪がおさまって静かになった疎林の中で、隊員全部の胸を打った」 ④『朝日新聞』(一九八一・一〇・三朝)「二人の姿からは真の教育を教えられ、師弟愛の美しさに胸を打たれた」 ⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「高木君は、井口君の熱意と誠実さに、胸を打たれて」 類句 「琴線に触れる」「心を打つ」 **胸を躍らせる** 意味 期待・喜びなどで興奮し、心をわくわく、うきうきさせる。 用法 文型「ダレダレは胸を躍らせる」「胸を躍らせて〜する」。「胸を躍らす」とも言う。〔江戸〕 用例 ①星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「なにやら重大な用件のようだった。三郎は胸をおどらせながら聞いた」 ②大江健三郎『ピンチランナー白書』(一九七六)「僕はまったく胸をおどらせてその全体性を信じた」 類句 「心を躍らせる」「胸を弾ませる」 **胸を貸す** 意味 相撲で上位の者が下位の者に稽古をつけてやる。一般に実力が上の者が下の者に練習相手になってやる。 用法 文型「ダレダレはダレダレに胸を貸す」〔江戸〕 用例 ①里見弴『今年竹』(一九一九-二〇)「相撲で稽古台っていうだろう。あの、ペイペイに胸を貸してドスンドスンぶつかせる奴のことを」 ②『朝日新聞』(一九七九・一〇・一六朝)「その要因は阪急に『胸を貸す』という、やや安易な気持ちがどこかにあったこと」 外国語 英語では give someone a workout **胸を借りる** 意味 相撲で下位の者が上位の者に稽古をつけてもらう。一般に実力が下の者が上の者に練習相手になって稽古をつけてもらう。 用法 文型「ダレダレはダレダレに胸を借りる」「胸を借 <461> りるつもりで〜する」 用例 ①『朝日新聞』(一九八一・七・四朝)「ウチは広島を目標に胸を借りるつもりでやってきた」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・七・三朝)「7レーンの朝原宣治と5レーンの末続慎吾の一騎打ちはコンマ10秒差の10秒10で末続に軍配が上がった。『胸を借りるつもりだった』と冷静に感想を語った末続に対し」 外国語 英語では be given a workout **胸を焦がす** 意味 異性に恋いこがれる。 用法 文型「ダレダレはダレダレに胸を焦がす」〔平安〕 用例 ①近松秋江『黒髪』(一九一三)「時とすると堪え難い想像心に描いて、殆ど居ても起ってもいられないような愛着と、嫉妬と、不安のために胸を焦がすようなこともあったが」 ②「中学生の頃、テニス部のキャプテンに胸を焦がした」 類句 「身を焦がす」「胸をときめかす」 **胸を衝く** 意味 突然の出来事にはっと驚く。また、出来事に急に思い当たることがあって、気がかりになる。 用法 文型「ナニナニがダレダレの胸をつく」「ナニナニに胸をつかれる」。受身形が多い。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「佐枝子の言葉をそんなにも注意深く聞いてくれていたことに対する愕きが、佐枝子の胸を衝いたのだった」 ②山崎豊子『続白い巨塔』(一九六八-六九)「子供を妊っている君子は、佐々木よし江の三人の子供の話が出ると、胸を衝かれた様子で」 ③辻邦生『北の岬』(一九七〇)「ただそこに老婦人の生涯をかけた思いが託されていると思うと、やはり私は胸をつかれた」 ④中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「フサは胸を衝かれる想いがして眼をこらした」 外国語 韓国語では「가슴을(胸を)찌르다(つく)」 **胸を潰す** 意味 心配・悲しみなどで胸が締め付けられるくらい思い悩む。またひどく驚く。 用法 文型「ダレダレは胸をつぶす」「ナニナニはダレダレの胸をつぶす」〔平安〕 用例 原民喜『鎮魂歌』(一九四九)「面白そうに笑いあっている人間の声の下から、ジーンと胸を潰すものがひびいて来た」 <462> **胸を撫で下ろす** 意味 心配していたことがなくなり、安堵する。問題も起こらず思い通りにことが運び安心する。 用法 文型「ダレダレは胸を撫で下ろす」。「ほっと」などが「胸を撫で下ろす」を修飾することが多い。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「浩介は、(たすかった)と、胸を撫でおろした」 ②石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「(ああ、おれの結婚式でなくてよかった!)と、ホッと胸をなで下ろしていたのであった」 ③『朝日新聞』(一九八〇・九・六朝)「韓民統問題がはずされてホッと胸をなでおろした面はあるようだ」 ④高杉良『濁流』(一九九六)「杉野はひそかに胸を撫でおろすと同時に先見性を誇ったものだ」 類句 「愁眉を開く」「枕を高くする」「胸のつかえが下りる」 外国語 英語では heave a sigh of relief **胸を張る** 意味 あることについて自信に満ちた態度を取る。堂々とした態度を取る。 用法 文型「ダレダレは〜と胸を張る」。用例⑤のような可能動詞形がある。 用例 ①半村良『どぶどろ』(一九七七)「『ええ、そうですとも』平吉はことさら胸を張って見せる」 ②『朝日新聞』(一九七九・六・二七朝)「『医療水準の向上などが原因」と胸を張って〝世界一』をPRした」 ③『朝日新聞』(一九八〇・一〇・一九朝)「社会党幹部は『これでスジを通した。こんな立派な協定を結んだのは、わが党だけ』と一時は胸を張った」 ④『朝日新聞』(一九八〇・三・六朝)「私の家庭は大丈夫だ、と胸を張って言いきる自信はない」 ⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・二五朝)「肩身の狭い思いをしているが、温泉と認められれば胸を張れるから」 類句 「大手を振る」 外国語 韓国語では「가슴을(胸を)펴다(張る)」 **胸を膨らませる** 意味 ある事柄への期待・希望や喜びで胸がいっぱいのさま。 用法 文型「ダレダレはナニナニに胸をふくらませる」。「胸を膨らます」とも言う。 用例 ①津本陽『深重の海』(一九七八)「彼は理由のない期待に胸をふくらます」 ②『朝日新聞』(一九八〇・一〇・三朝)「小学六年の私の娘も近づく旅行に期待で日ごとに胸をふくらませている」 ③「希望に胸をふくらませる」 外国語 韓国語では「가슴이(胸が)부풀다(ふくらむ)」 <463> **無用の長物** 意味 あっても役に立たず、かえって邪魔になるもの。 用法 文型「ダレナニは無用の長物」。一般には物について言い、用例②のように人について言うのはまれ。〔江戸〕 用例 ①小林秀雄『様々なる意匠』(一九二九)「恐らくあらゆる学術中の月たらず美学というものが、少くとも芸術家にとっては無用の長物である所以がある」 ②源氏鶏太『英語屋さん』(一九五一)「普通ならもはや英語屋なんか無用の長物として、首になるべきであったかもしれない」 ③『朝日新聞』(二〇〇五・八・五朝)「冷戦が終わり、もはや核兵器は無用の長物でしかない」 外国語 英語では a white elephant *め* **メートルが上がる** 意味 「メートル」はフランス語で、メーター(計測器)のこと。(1)盛んに気炎・気勢が上がる。 (2)酒を飲んで威勢・機嫌が良くなる。 (3)その場で酒を飲む量が更に増す。 用法 文型「ダレダレはメートルが上がる」。用例③のように「メートルが」と「上がる」の間に語句を挿入できる。 用例 (1)①葛西善蔵『酔狸州七席七題』(一九二四)「狸州のメートルやや上る」 ②生方敏郎『明治大正見聞史』(一九二六)「こんなにメートルの上ったのは、必ずしも七博士ばかりのことではない。誰も皆一般に人々の鼻息が荒くなっていた」 (2)(3)③森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「しばらく献酬がつづいて、座が盛り上がってきた。(略)一同のメートルがだいぶ上がってきた」 (3)④津村秀介『京都着19時12分の死者』(一九八九)「『アルコールはいける方ですか』『嫌いじゃありません。旅の解放感に浸ると、ついメートル <464> も上がります』」 類句 (1)(3)「手が上がる」 **メートルを上げる** 意味 「メートル」はフランス語で、メーター(計測器)のこと。(1)盛んに気炎・気勢を上げる。 (2)酒を飲んで気炎を吐く。酒を飲んで気勢を上げる。 (3)酒を盛んに飲む。 用法 文型「ダレダレはメートルを上げる」 用例 (1)①出口競『校歌ロオマンス』(一九二六)「三高の生徒は吉田町の寵児である。ミルクホオルでメエトルを上げる」 (2)②石坂洋次郎『何処へ』(一九四七)「才太郎が酌をする度に、勢いでグビリグビリ無理な呑み方をしながら、学校改革論や町の封建気風論で、さかんにメートルを挙げた」 ③谷崎潤一郎『青春物語』(一九三二-三三)「二人はすっかり意気投合して好い気持でメートルを上げた。しまいに木村はヘドをはいた」 (3)④和田信賢『放送ばなし』(一九四六)「ついそれがメートルを上げ過ぎてしまって、御多分に漏れず飲み過ぎ二日酔い」 ⑤舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六二)「時子はぐいぐいメートルをあげ、襟替えしたばかりの、飲みざかりの若い妓が、面白がってお酌するのにまかせたので」 類句 (1)「おだを上げる」「気炎を上げる」「気炎を吐く」「気勢を上げる」 **目が利く** 意味 物の価値・善し悪し・真贋を見分ける能力が優れている。鑑識眼がある。 用法 文型「ダレダレはナニナニに目が利く」〔室町〕 用例 ①佐々木味津三『右門捕物帖』毒を抱く女(一九八三)「三宅の平七、なかなかに目が利くのです」 ②「骨董品の収集が趣味の祖父は中でも陶器に目が利く」 類句 「目が肥える」「目が高い」 外国語 英語では have a sharp eye for **目が眩む** 意味 目がくらくらする、まぶしくて目が見えないことから転じて、ある人・物に心が奪われて正しい判断ができなくなる。 用法 文型「ダレダレはダレナニに目がくらむ」〔江戸〕 用例 ①三浦哲郎『結婚』(一九六七)「彼は菊枝に目が眩んで矢も楯も堪らず、彼等から菊枝を奪ってしまった」 ②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「お前はな、学生だぞ。浪人中の分際で、こんなものに目がくらんで勉強をおろそかに」 <465> 外国語 英語では be dazzled *韓国語では「눈이(目が)어두워지다(暗くなる)」 **目が肥える** 意味 良い物や本物を数多く見て、人・物を鑑識・鑑別・鑑賞する力が十分備わる。 用法 文型「ダレダレはダレナニに目が肥える」「目の肥えたダレダレ」〔室町〕 用例 ①『朝日新聞』(一九五一・六・六朝)「戦後派の、目にモノ見せてやろうとの腹いせやハッタリだけでは、すでに目の肥えた世間は動かない」 ②石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「女も中年の人は目が肥えているな」 ③『朝日新聞』(一九七九・七・一五朝)「宝石には目の肥えている中国女性がころりとだまされたことが話題になった」 ④都筑道夫『脅迫者によろしく』(一九七九)「あんたも目が肥えているだろうから、あってりゃあわかるはずだ。ありゃあ、男を狂わせる女だよ」 類句 「目が利く」「目が高い」 **目が覚める** 意味 眠りから覚めることから転じて、あることがきっかけで、心の迷いや過ちに気づいて、正しい方・本来の姿へ立ち返る、向く。 用法 文型「ダレダレは目が覚める」。用例③のように否定形がある。〔江戸〕 用例 ①東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「目が覚めるときがきた。ドーピングの悪影響が表面化してきたのだ。(略)あれはもうやめたほうがいい、あれは悪魔の薬だ、と」 ②「ギャンブルにうつつを抜かし、家族を顧みずにいたが、妻の病気でやっと目が覚めた。これからはまじめに働くよ」 ③「まだ目が覚めないのか。このままなら、人生が台なしになるぞ」 外国語 韓国語では「눈을(目を)뜨다(さます)」 **目が覚めるような** 意味 眠気が覚めるような。際立つ白さや美しさ、物事・行為の見事さなどを形容する言葉。 用法 文型「目が覚めるようなナニナニ」。「目の覚めるような」とも言う。 用例 ①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「その緑の中でしとどに濡れた泰山木の花が、目のさめるような白さで咲いていた」 ②植松黎『ポケットジョーク4』(一九八〇)「つづく打者がライトに目のさめるようなヒットを放った」 ③「目が覚めるような美しさ」 類句 「物の見事に」 外国語 韓国語では「눈이(目が) <466> 번쩍(ぱっと)뜨일듯한(開くような)」 **目頭が熱くなる** 意味 見たり聞いたりして感動して涙が出そうになる、涙が浮かぶ。 用法 文型「ダレダレはナニナニに目頭が熱くなる」「〜すると目頭が熱くなる」 用例 ①高杉良『人事権!』(一九九二)「『お気を遣っていただいて…』相沢は目頭が熱くなって絶句した」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・七・七夕)「ある日、朝子さんは『練習』から帰った広瀬さんのユニホームが、きちんとたたまれてバッグに収まっているのにはっとした。息子は服をたためない。野球部員の心遣いに目頭が熱くなった」 ③「その話を聞くと目頭が熱くなる」 類句 「目頭を熱くする」 外国語 英語では one's eyes fill with tears *韓国語では「눈시울이(目頭が)뜨거워지다(熱くなる)」 **目頭を熱くする** 意味 「目頭が熱くなる」に同じ。 用法 文型「ダレダレはナニナニに目頭を熱くする」 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「(可哀そうだわ)と、いわれたときには、ちょっと目頭を熱くしたことはたしかであった」 ②高杉良『首魁の宴』(一九九八)「大山も、もらい泣きで目頭を熱くしている」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・九・一四朝)「私は心の底から健闘をたたえ、そのすばらしさに目頭を熱くした」 **目が据わる** 意味 酔ったり怒ったりして目が一点を見つめたまま動かない。恐い表情を言う。 用法 文型「ダレダレは目が据わる」〔江戸〕 用例 ①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「三堀は、かなり酔いが回っていて、目がすわっていた」 ②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「体操の和泉先生がいちばん恐ろしいのだった。三十二、三の、男のようないかつい、化粧げもなく、目の据わった先生である」 ③高杉良『濁流』(一九九六)「初めのうちは憑かれたように眼が据わっていたが」 ④『朝日新聞』(二〇〇四・九・三朝)「知人はビール1杯で真っ赤になり、テンションが上がります。でも2杯目で口数が減り、目は据わって正直怖いです」 **目が高い** 意味 人・物を鑑識・鑑別・鑑賞する力が優れている。良いものを選択できるこ <467> とをほめて言う場合が多い。 用法 文型「ダレダレは目が高い」。用例③④のように敬語形「お目が高い」がある。〔江戸〕 用例 ①横光利一『家族会議』(一九三五)「あんたは眼が高い」 ②石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「私にピッタリだわね。伯父さんも目が高いわ」 ③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「へええ、この絵でおますか、さすがお目が高うおます、この絵は、ここに並んでいる作品の中でも、特に傑出したものでおまして」 ④高杉良『首魁の宴』(一九九八)「さすが大山さんと田宮さんはお目が高いわ」 類句 「目が利く」「目が肥える」 外国語 韓国語では「눈이(目が)높다(高い)」 **芽が出る** 意味 草木の芽が出るから転じて、幸運・好機が巡ってきて成功のきっかけができる。「目が出る」とも書く。 用法 文型「ダレダレは芽が出る」。否定形がある。〔江戸〕 用例 ①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二-五三)「さっぱり芽のでない彼に、パチンコ玉を三十個ほど気前よくくれて」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・七・二六朝)「いい音楽を作りながら芽が出なかった人たちに、陽の当たる場所に立ってもらいたいんです」 類句 「有卦に入る」「付きが回る」 **目が点になる** 意味 漫画でびっくりした表情から、ひどくびっくりする。また、そのさま。 用法 文型「ダレダレは目が点になる」。略して「目が点」とも言う。 用例 ①関口誠人『青春ちゃん』(一九八八)「カメ吉の目が点になっていたのは言うまでもない」 ②横田濱夫『はみ出し銀行マンの乱闘日記』(一九九二)「これをみたPさんとその同僚の看護婦は、もう目が点になってしまった」 ③スチュワーデス・ネット『スチュワーデスの内緒話②』(一九九九)「その瞬間、目が点になりました」 類句 「目を白黒させる」「目を丸くする」 **目が届く** 意味 注意・監視・監督などがすみずみまで行き渡る。 用法 文型「ダレダレはダレナニに目が届く」「ダレダレの目が届く」。否定形が多い。 用例 ①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「そんな眼が届かないところに土地を買って値上りを待ってい <468> るやつの方が悪いわけである」 ②柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「市内では危ないからやはり敵の目の届かない田舎がよいだろうという意見が多かった」 ③『朝日新聞』(一九七九・五・八朝)「目の届くかぎり草の原と山並みである」 外国語 韓国語では「눈이(目が)미치다(届く)」 **目が飛び出る** 意味 (1)値段が非常に高くて驚くたとえ。一般にあっと驚くこと。 (2)ひどく叱られるたとえ。 用法 文型「目が飛び出るほど〜」 用例 (1)①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「請求書を見たときは不慣れな昭子は眼が飛び出るかと思った」 (2)②「目が飛び出るほど叱られた」 類句 「目玉が飛び出る」「目の玉が飛び出る」とも言う。 外国語 韓国語では「눈알이(目玉が)튀어나올(飛び出る)만큼(ほど)」 **目が留まる** 意味 多くの人・物を見る中で、ある人・物に注意・関心が向く。 用法 文型「ダレダレはダレナニに目が留まる」。用例①のように「目が」と「留まる」の間に語句が挿入できる。〔江戸〕 用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「悠一の目がたまたま新来の客にとまった」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「全国公募の候補者を選考して行くうちに、学問的業績、人物ともに抜群の菊川候補に眼が止まり」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・八・元朝)「冬季用の営業所で新聞を見ていた浦谷剛人・営業本部長は、非営利組織(NPO)『アオダモ資源育成の会』発足の記事に目が止まった」 類句 「目につく」「目にとまる」 外国語 韓国語では「눈이(目が)멎다(留まる)」 **目がない** 意味 (1)ある人・物が思慮・分別がなくなるほど好きである。それが種類に関係なく、どれでも好きなさま。 (2)物事を的確に判断できない。成り行きを正しく見極められない。洞察力・識別力に欠ける。 (3)何かになる可能性がない。 用法 文型 (1)「ダレダレはダレナニに目がない」「ダレダレは〜する目がない」「ダレダレはナニナニになる目がない」。ナニナニは役職など。〔江戸〕 用例 (1)①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「私、甘い物に目がないほうですし」 ②丸谷才一『男のポケット』 <469> (一九六矢)「豆腐は大の好物で、夏なら冷奴、冬なら湯豆腐、目がないのだが」 ③田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇一)「その石神はじつは釣りに目がないのだという」 ④『朝日新聞』(二〇〇三・八・七朝)「子どもはきれいなものに目がない。きれいなものを見ると、すぐにさわりたくなる」 (2)⑤「彼は瞬時に偽物を見分ける目がない」 (3)⑥「彼は所長になる目がなくなった」 **眼鏡が狂う** 意味 人・物の評価・判断を誤る。 用法 文型「ダレダレは眼鏡が狂う」 用例 「人事部長の眼鏡が狂ったのか、今度入ってきた奴は相当の食わせ者だ」 **眼鏡に叶う** 意味 目上の人の判断・評価に適合し気に入られ、認められる。 用法 文型「ダレナニがダレダレの眼鏡にかなう」。用例③のように敬語形「おめがねにかなう」がある。 用例 ①山崎豊子『続白い巨塔』(一九六八-六九)「なるほど、そこまで伺わせて戴いたら、柳原さんが、いかに財前教授のめがねに叶うて、将来があるかが解って安心でおます」 ②高杉良『人事権!』(一九九二)「きみの眼鏡にかなったほどの男なんだから同期で一、二を争う人材に育ってくれるだろう」 ③本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「先生のおめがねに叶った絵であることは事実でしょう」 外国語 英語では pass the test **目が離せない** 意味 不測の事態に備えて常に注意・監視をしなければならない。また、とても注目すべき存在で強く関心を持って見る。 用法 文型「ダレナニは目が離せない」「ダレナニから目が離せない」 用例 ①『朝日新聞』(二〇〇四・八・四夕)「八〇年代から他の人とはまったく独自の随筆などを発表されていて、片時も目が離せない存在だった」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・九・一九朝)「消え入りかけた物語を紡ぎ直す真摯な取材行は、人知れず小さなチャスラフスカ像を穿つ彫り師のようで、最後の最後まで目が離せなかった」 ③「容疑者が何をしでかすかわからない。だから彼から目が離せない」 外国語 英語では can't take one's eyes off **目が光る** 意味 監視の目が厳しいさま。 用法 文型「ダレダレの目が光る」 <470> 用例 ①葉山嘉樹『海に生くる人々』(一九二六)「そのうちに、そこへ絶えず集まる者には、たとえばぼくらなどにも、時々警察の目が光るようになって」 ②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「何分にも、基礎には大河内教授という大御所の眼が光っていますからね」 ③「カンニングをしないか先生の目が光る」 外国語 韓国語では「눈을(目を)번뜩이다(光らせる)」 **目が回る** 意味 非常に忙しいたとえ。 用法 文型「ダレダレは目が回る」「目が回るような忙しさ」。「目の回るような」とも言う。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「先生こそお珍しいですね、何時も眼の廻るようなご多忙さだと伺っておりますのに」 ②姉小路祐『合併裏頭取』(二〇〇一)「捜査二課は目が回るほど忙しくなった。千菜美は本来なら事件関係者だったが、猫の手も借りたい状態では、捜査から外れろという声は起きなかった」 ③清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「新聞記者がわんさか押し掛けてきてな、その対応だけで眼が回る」 類句 「席の暖まる暇もない」「猫の手も借りたい」「盆と正月が一緒に来たよう」 外国語 英語では one's head spins *韓国語では「눈이(目が)돌다(まわる)」 **目から鱗が落ちる** 意味 新約聖書の「使徒の働き」に出てくるパウロに起きたできごと(天からの光で目が見えなくなり、祈ってもらったとき、目からうろこのようなものが落ちて見えるようになった)から、あることがきっかけで、今まで分からなかった、見えなかった実態や物事の本質が急に理解できるようになる、見えるようになる。 用法 文型「目からうろこが落ちた」「目からうろこが落ちる思い」。略して「目からうろこ」とも言う。 用例 ①岸本葉子『やっと居場所がみつかった』(二〇〇三)「その話を聞いた時、私は目からウロコが落ちるように思った」 ②『朝日新聞』(二〇〇四・六・二朝)「このドラマで、くだけた言葉にもちゃんと手話表現があり、『こんな風に表現するんだ』と、目からうろこの連続だった」 ③『朝日新聞』(二〇〇四・九・九朝)「お金をためる方法について書かれた本を読んで、目から鱗が落ちました。節約というとケチくさいイメージを持っていましたが、実際は『無駄を省く』ことだと知ったのです」 外国語 英語では see the light <471> **目から鼻に抜ける** 意味 非常に賢いさま。聡明で物事を理解するのがはやいさま。また、することが敏捷で抜け目がないさま。 用法 文型「ダレダレは目から鼻に抜けるよう」〔江戸〕 用例 ①甲賀三郎『情況証拠』(一九三〇)「眼から鼻に抜けるような敏捷な男で」 ②伊藤永之介『村のナイト・クラブ』(一九五二)「『興行師』と言われて眼から鼻にぬけるような際どいブローカーもやっている喜代志は」 ③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「商社というのは、目から鼻へ抜けるというか、機敏でなくちゃいかん」 ④『朝日新聞』(一九八〇・九・四朝)「当時の律氏は、はつらつと、貴公子然としており、人の気をそらさぬ、目から鼻に抜けた男だった」 類句 「抜け目がない」 **目から火が出る** 意味 頭や顔を強く打ち付けた時の光が飛び交うような感じのさま。 用法 文型「目から火が出る」〔江戸〕 用例 ①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八九〇)「拳固を振り上げてコツコツ撲ったから痛いの痛くないのって、眼から火の出るようでございます」 ②「出会い頭に顔と顔をぶつけ合い、目から火が出た」 類句 「目から火花が出る」とも言う。 **目くじらを立てる** 意味 「目くじら」とは目の端のこと。他人のそれほど大したことではないと思われるような言動を取り上げて目をつり上げて怒り、非難、攻撃する。 用法 文型「ダレダレはナニナニに目くじらを立てる」「目くじらを立てて〜する」。用例②のように否定形がある。〔江戸〕 用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「じゃあ、今後に残される問題なら、何も今、めくじらをたてて見ても仕方がないじゃないか、話を進めよう」 ②『朝日新聞』(一九八一・二・二九朝)「『そんなに目くじらを立てないでもよかろうが」といいながら、三人はしぶしぶ空いていた前の席に移った」 ③大沢在昌『灰夜 新宿鮫Ⅷ』(二〇〇一)「それに機械の部品に化けたからといって、警察が目くじら立てるもんじゃねえだろう」 ④清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「『裏金の調達も含めて、アラジンが全部知ったらどうするかな』『めくじらを立ててくるのは間違いないでしょうね。………………』」 類句 「難癖をつける」「目角を立てる」「目に角を立てる」 <472> **目糞鼻糞を笑う** 意味 汚い目糞(目やに)が自分のことを棚に上げて鼻糞を汚いと笑うように、自分の欠点には気づかないで他人の欠点をあざ笑うことのたとえ。用法 文型「目糞鼻糞を笑う」。単独で使用する。用例 ①林真理子『女のことわざ辞典』(一九八六)「ことわざ好きの母親は、こんな言葉を知っていた。『目クソ、鼻クソを笑う』」②原田宗典『東京困惑日記』(一九九一)「目糞鼻糞を笑うとは、まさにこのことである」③柴門ふみ『サイモン印』(一九九三)「その虫の良さ加減は目クソ鼻クソを笑うじゃないか」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「山岡が言った目糞鼻糞を笑うが現実のものとなったのだから」外国語 英語では be like the pot calling the kettle black*中国語では諺「禿子笑和尚」(はげが坊主を笑う) **目じゃない** 意味 相手・物を見下して問題にしない、何とも思わない。用法 文型「ダレナニなど(なんて)目じゃない」用例 ①野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「『それを誘拐したら、どれくらいお金出すかな。身代金ていうの』『誘拐?』『そうよ。それこそ三億くらいめじゃないんじゃない?」』②『朝日新聞』(二〇〇五・九・八朝)「日本のアニメは世界一。米国なんて目じゃない。中国人も大好きだよ」類句 「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」「取るに足りない」「はなもひっかけない」「屈とも思わない」「見向きもしない」「目もくれない」「物の数ではない」「問題にならない」 **メスが入る** 意味 「メス」はオランダ語で手術や解剖用の小刀。問題の根本や、これまで隠されていた良くない部分を取り除き解決するために、捜査が入る。用法 文型「ダレナニにダレダレのメスが入る」。ダレナニは会社・組織やそこでの疑惑など。ダレダレは捜査機関。用例 ①『朝日新聞』(一九七九・二・一五朝)「国際電信電話会社(KDD)の疑惑に十四日、ついに検察のメスが入ることになった」②『朝日新聞』(一九九一・五・二六朝)「原発の事故をめぐって捜査当局のメスが入るのは、初めてのことだった」③『朝日新聞』(一九九一・七・一〇朝)「政財界の腐敗に東京地検特捜部のメスが入った五年前」 <473> **メスを入れる** 意味 「メス」はオランダ語で手術や解剖用の小刀。問題の根本や、これまで隠されていたよくない部分を取り除き解決するために、思い切った改善の手段を取る。用法 文型「ダレダレはダレナニにメスを入れる」。ダレナニは会社や制度・組織など。命令・意志表現は可能。受身形がある。用例 ①井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「これからはまた別のやり方で、現在われわれ亭主どもの置かれている悲劇的な状況にメスを入れて行くことにしよう」②『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「自民党の金権・腐敗構造にメスを入れ、政治浄化と再発防止に全力で取り組むことにあるはずだ」③『朝日新聞』(一九七九・九・三朝)「大蔵省の役人が、最も腐りきっている、という構造にメスを入れることが先決だろう」④『朝日新聞』(一九七九・九・三朝)「この際、技術的な側面だけでなく、同社の体制や体質にも徹底的にメスを入れる必要があろう」類句 「膿を出す」 **目玉の黒い内** 意味「目の黒い内」に同じ。用法 文型「ダレダレの目玉の黒い内」用例 源氏鶏太『颱風さん』(一九五一)「俺の眼玉の黒いうちはダメだ」類句 「目の玉の黒い内」とも言う。 **メッキが剥げる** 意味「メッキ」は「鍍金」の転。人の上辺の飾り・取り繕っていた体裁などが崩れて本性や悪い中身が現れる。用法 文型「ダレナニはメッキがはげる」用例 ①長与善郎『一つの今日』(一九五五)「妻の久枝が買い被るようなキリスト教的な道徳観はもうすっかり鍍が剥げ」②石坂洋次郎『あじさいの歌』(一九五八―五九)「貴方は、そんな中途半端なものがいない、ほんとの独身者だと思ってましたよ。少しメッキが剥げましたな」類句 「地が出る」「地金が出る」「しっぽを出す」「底が割れる」「馬脚を現す」「化けの皮がはがれる」「ぼろが出る」 **目途が立つ** 意味 物事を達成するための将来の見通しがつく、手がかりが明確になる。比較的むずかしいことの見込みについて言う。用法 文型「ナニナニのめどが立つ」「ナニナニにめどが立つ」。 <474> 否定形がある。用例 ①阿川弘之『春の城』(一九五二)「解読のめどは殆ど立たなかった」②井上ひさし『日本亭主図鑑』(一九七五)「右の答えはあるいは正解ではないかもしれないが、それでもあるめどは立つだろう」③『朝日新聞』(一九八二・二・四朝)「自民党は予算成立を優先させる立場から、予算成立のめどが立つまでは無理な動きを控えるものとみられ」④『朝日新聞』(二〇〇三・四・八朝)「園内に動物科学資料館を建設する計画を立てた。八八年に着工し、今年完成するはずだった。しかし、市財政の悪化から見送られ、建設のめどは立っていない」類句 「見当がつく」「目途が付く」「目鼻がつく」「目安がつく」外国語 英語では see the light at the end of the tunnel **目途が付く** 意味「目途が立つ」に同じ。用法 文型「ナニナニのめどがつく」「ナニナニにめどがつく」。否定形がある。用例⑤のように「めどが」と「つく」との間に語句を挿入できる。用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「長いあいだ頭におおいかぶさっていた心配ごとに一応のメドがついたので、見たこともない安らいだ表情をしているように思われた」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「せっかく綿実処理のめどがついたところだというのに」③『朝日新聞』(一九七九・七・五朝)「裁判は難航を続け、いまなお結審のめどさえついていない」④『朝日新聞』(一九八〇・二・七朝)「八五年から日本は年間五十億立方メートルの天然ガスの供給を受けるメドがついた」⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「再建を支援するスポンサーのメドもほぼつきましたので」 **目と鼻** 意味「目と鼻の先」に同じ。用法 文型「ドコドコはドコドコと目と鼻」用例 舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「大将は目と鼻の名古屋で講演しなはる」 **目と鼻の先** 意味 ふたつの場所の距離が非常に近いこと。すぐそこ。近所。多くは屋外の場所・建物に言う。用法 文型「ドコドコはドコドコと目と鼻の先」用例 ①鈴木健二『ビックマン愚行録』(一九七七)「高橋は私が生まれ育った場所とはほんの目と鼻の先で、こども <475> の頃は遊びに行けたところなのである」②『朝日新聞』(一九八一・四・四朝)「目と鼻の先にある幼稚園は入園を拒み」③内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「浅見たちが発掘調査をしていた現場は、つい目と鼻の先であった」④本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「医務室の医師はフヨウテレビと目と鼻の先の、東京女子医大に一室を確保した」類句 「目と鼻の間」とも言う。「目と鼻」外国語 a stone's throw **目途を付ける** 意味 物事の将来の見通しをつける。比較的むずかしいことの見込みについて言う。用法 文型「ダレダレはナニナニのめどをつける」「ナニナニにめどをつける」。命令・意志表現は可能。用例 ①津本陽『深重の海』(一九七六)「金策の目途をつけた」②『朝日新聞』(一九七九・六・二〇朝)「第三次戦略兵器制限交渉(SALT)の進め方についてメドをつけておくことも大きな得点だったはずだ」類句 「目鼻をつける」 **目に会う** 意味 あることを体験する。多くの場合、悪い、辛い、苦しい体験などに言う。文型「ダレダレが~目にあう」。~には「痛い」「苦しい」「大変な」「つらい」「とんでもない」「ひどい」など、「目」を修飾するマイナス評価の言葉が入る。用例①⑤のように使役形がある。③のように否定形がある。〔鎌倉〕用例 ①松本清張『点と線』(一九五七―五八)「これからという前途のある弟を、そんな目にあわせた相手の女が、私は憎くてなりません」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「君も僕に何時までも、くっ附いていると、飛んだ目に合うよ」③平岩弓枝『風子』(一九七五―七七)「千代が風子にうるさく世話を焼いたのは、勝丸のようなめに遭わないため」④『朝日新聞』(一九七九・五・一五朝)「沖縄本島南部に工場用地を持ちながら進出を見あわせていた松下電機産業が進出断念を伝えるという皮肉な目に遭ってしまった」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・七・一四朝)「親集団とのつき合いができない私が長女を悲しい目に遭わせているのではと、自分を責めたり」 <476> **目に余る** 意味 行為の程度や状態があまりにひどすぎて黙って見過ごすことはできないほどである。用法 文型「ナニナニは目に余る」「ナニナニは目に余るものがある」〔鎌倉〕用例 ①高橋和巳『悲の器』(一九六二)「最近の暴力団、右翼団体、非行青少年、および一部破壊主義的学生団体の暴力犯、集団的な暴力的違法行為には目にあまるものがあり」②『朝日新聞』(一九八〇・五・三〇朝)「自民政権の目にあまり専横と金権腐敗に対する国民の怒り」③東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「ここ数年のこの街の落ちぶれようは目に余るものであったし」④本所次郎『閨閥」(二〇〇四)「評論家の大宅壮一が『むかし陸軍、いま総評』といったように、左翼を代表する総評の横暴は目に余るものがあった」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・八・七朝)「いまの子ども向けファッションは、目に余るショッキングな色とか、品のない色とかが横行している」外国語 英語では be too much to tolerate *韓国語では「눈에(目に) 거슬리다 (逆らう)」 **目に入れても痛くない** 意味「目の中へ入れても痛くない」に同じ。用法 文型「ダレダレは目に入れても痛くない」〔江戸〕用例 ①嘉村礒多『業苦』(一九二八)「敏雄はお父さまにとって眼に入れても痛くないたった一粒の孫ですもの」②海野十三『二〇〇〇年戦争』(一九三六)「眼に入れても痛くないほど可愛がっているトマト姫のことだから」外国語 英語では be the apple of someone's eye **目に浮かぶ** 意味 現在目の前にはないものの姿や様子が目に見えるように再現・想像できる。用法 文型「ダレナニが(ダレダレの)目に浮かぶ」〔江戸〕用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「見学室のガラス窓に爬虫類のように貼りついていた東の不気味な顔が、財前の眼にうかんだ」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「いつも寝ていて、何年も外を見ることのないふじ子には、ありふれたタンポポ一本にも、いろいろな風景が目に浮かぶらしかった」③筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「弘子ちゃんと久美子ちゃんが、紙に包んだマッチ箱を教壇の机に置いた時のはずかしそうな様子は、いまでもまざまざと眼に浮かぶ」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・二〇朝)「軟らかいほほ笑みを振りまきながら、元気にお遍路の旅を <477> 続ける母の姿が目に浮かぶ」類句 「目に見えるよう」外国語 英語ではcan (just) picture *韓国語では「눈에(目に) 떠오르다 (浮かぶ)」 **目に角を立てる** 意味 目をつり上げた怒った表情をする。用法 文型「ダレダレは目に角を立てる」〔室町〕用例 ①甲賀三郎『支倉事件』(一九二七)「『何を云うんだい』おかみは忽ち目に角立てた」②内田百閒『百鬼園随筆』(一九三三)「こんなこと書くと、きつと目に角をたてる人がある」③『朝日新聞』(一九七九・八・二四朝)「ことさら目に角立てんでもいいでしょう」類句 「目角を立てる」とも言う。「目くじらを立てる」「目を三角にする」外国語 韓国語では「눈에 (目に) 모를(角を) 세우다 (立てる)」 **目にする** 意味 自分の意志とは無関係に目撃する。目に見える。テレビや映画などを見ることには使わない。用法 文型「ダレダレがダレナニを目にする」用例 ①中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「それはこの古座に住む者の誰も眼にした事のない風景だった」②森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「雅子の電話を受けて、頼子は藤村の家へ駆けつけました。そこで目にしたのは、あなたが息を吹き返した藤村に止めを刺している場面です」③『朝日新聞』(二〇〇三・七・一四朝)「ぼくたちがいま目にしているのはその歴史的なトレンドでしかないのかもしれない」類句 「目につく」「目に留まる」「目に入る」「目に触れる」 **目に付く** 意味 人・物・事柄が目立って見える。また、ふと目に見える。用法 文型「ダレナニが目につく」。否定形がある。〔江戸〕用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二―六三)「庭の緑のくさむらの中で、若いカップルが抱き合って横になっているのが目についた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「とかく手近にいる者は、欠点が眼につくものだから」③安岡章太郎『海辺の光景』(一九五九)「さっきは眼につかなかった患者が大ぜいで医者を取りまいて、口ぐちに云っている」④『朝日新聞』(二〇〇三・七・二三夕)「様々な理由から、国籍を変えるアスリートが目につく」類句 「目にする」「目に留まる」「目に入る」「目に触れる」 <478> **目に留まる** 意味 いろいろ見えているものがある中で、特にある人・物に関心・注意が引かれる、印象に残る。用法 文型「ダレナニが目に留まる」「ダレナニがダレダレの目に留まる」。用例②のように否定形がある。用例 ①大岡昇平『俘虜記』(一九五二)「竜の模様は『ブラック・ドラゴン』の先入主を持つ収容所長の目に留り」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「よほど充実したシートでないと、求人者の目にとまらないわけですよ」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「上半身を熱で焼かれ、黒く火脹れした顔に目玉だけをギョロギョロさせている男が目に止まった」④『朝日新聞』(二〇〇円・九・一六朝)「琳派の嫡子然とした作品より、私の目に留まったのは寂しげな菱田春草の『落葉』だった」類句 「目にする」「目につく」「目に入る」「目に触れる」外国語 英語では catch someone's eye *韓国語では「눈에 (目に) 멎다(留まる)」 **目に留める** 意味 ある人・物を関心・注意をもってじっと見る。用法 文型「ダレダレがダレナニを目にとめる」用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「老作家は戻ってくる悠一の姿を目にとめるなり、帰りを急いだのである」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「案内を目にとめたようであった」③津本陽『深重の海』(一九七六)「ゆきが、揺れている提灯の紋を目に留めて、水の浦の先生やとささやいた」類句 「目をつける」「目を留める」 **目に入る** 意味 自分の意志とは無関係に自然に視野に入り、見える。用法 文型「ダレナニがダレダレの目に入る」。用例①のように否定形がある。〔江戸〕用例 ①島尾敏雄『死の棘』(一九七七)「私はもう乗客の存在が目にはいらない」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「指のあいだから血の筋が何本となく甲の方へ走っているのが、彼の目に入っていた」③城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「駅へ出ようとしたとき、ひとつの標識が目に入った」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・一〇朝)「先輩教師の机の上の学級通信が目に入った」類句 「目にする」「目につく」「目に留まる」「目に触れる」外国語 韓国語では「눈에(目に) 들어오다 (入る)」 <479> **目に触れる** 意味 ふと目に見える。ある物が見える所にある。用法 文型「ダレナニがダレダレの目に触れる」。用例④のように否定形がある。〔室町〕用例 ①城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「目にふれる物すべてをけなされたとしても」②『朝日新聞』(二〇〇四・七・二九夕)「晩年のネルーダは、目に触れるものすべて、自在に詩に歌った。タマネギやレモン、ワインやパンも彼の詩心をそそった」③『朝日新聞』(二〇〇四・七・二九夕)「多くの人の目に触れていくということによって、上記AとBは徐々に浸食されていくということも考えられる」④「危険な物は小さな子どもの目に触れない所にかたづける」類句 「目にする」「目につく」「目に留まる」「目に入る」外国語 韓国語では「눈에(目に) 접하다 (接する)」 **目に見えて** 意味 外から見てはっきりわかるくらいに、変化がある様子。用法 文型「ダレナニは目に見えて~する」。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕用例 ①福永武彦『忘却の河』(一九五四)「美佐子は眼に見えて明るくなったようだ」②安岡章太郎『海辺の光景』(一九七三)「三時ごろから母の呼吸が目にみえて弱りはじめ③『朝日新聞』(二〇〇三・七・三朝)「この数年ですよ、緑を戻す植林と、工場の排ガス、排水規制が進んだのは。直島も目に見えて緑になりました」類句 「見る見るうちに」 **目に見えている** 意味 将来ある状況になることがはっきり予想・予測できる。多くの場合、悪い結果に言う。用法 文型「ナニナニは目に見えている」用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「うっかり下手な行動を取れば、忽ち東教授の鶴の一声で地方の病院へ追いやられてしまうことは眼に見えている」②『朝日新聞』(一九七三・三・八朝)「六パーセントやそこらの利子をもらっても、損をすることは目に見えている」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「先の苦労が目に見えているよ」④『朝日新聞』(一九八二・二・二朝)「通常国会の予算審議でこれまで以上に鈴木内閣を追及するのは目にみえている」⑤内田康夫『歌わない笛』(一九九六)「ノコノコと尋ねて行けば、ケンもホロロに弾き飛ばされるのは目に見えている」 <480> 類句 「火を見るより明らか」外国語 英語では be a foregone conclusion **目に見えるよう** 意味 その時の姿や様子が目の前に再現・想像できるようである。用法 文型「ナニナニが目に見えるよう」用例 ①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八) 「わたしにはこのタンポポを摘んでくださった時の貴方の姿が、目に見えるように想像できるのよ」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「『恩を仇で返す者は犬畜生にも劣ります』伝左衛門がそう言うのが目に見えるようだった」類句 「目に浮かぶ」 **目にも留まらぬ** 意味 動きが目で確認できないくらい速いさま。用法 文型「目にも留まらぬナニナニ」。ナニナニには速さに関係した語が来ることが多い。用例 ①森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「目にもとまらぬまわし蹴りを延髄に受けて悶絶した」②「目にも止まらぬ早業」 **目に物見せる** 意味 ある人や世間一般に思い知らせてやる。ギャフンと言わせる。痛い目に合わせる。用法 文型「目にもの見せてやる」「目にもの見せてくれる」。「目にものを見せる」とも言う。〔室町〕用例 ①『朝日新聞』(一九五四・六・六朝)「戦後派の、目にモノ見せてやろうとの腹いせやハッタリだけでは、すでに目の肥えた世間は動かない」②源氏鶏太『三等重役』(一九五三)「わしはこんどこそ、世間一般的な弱腰社長やない証拠を、組合に対して、目にモノを見せてやる所存である」③椋鳩十『大空に生きる』(一九七五)「無礼なやつだ、目にものみせてくれるぞ、といわぬばかりに、はげしいいきおいで、わかいワシめがけて、おそいかかっていった」 **目の色が変わる** 意味 目つきが変わる。驚き・怒り・熱中などのさまに言う。用法 文型「ダレダレの目の色が変わる」〔江戸〕用例 大岡昇平『俘虜記』(一九五二)「最初冗談かと思って聞き流していたが、しつこく繰り返すので、顔を見ると眼の色が変っているのでぞっとした、と亘はいってい <481> る」外国語 韓国語では「눈빛이(目の光が)달라지다 (変わる)」 **目の色を変える** 意味 目つきを変える。驚き・怒り・熱中などのさまに言う。用法 文型「ダレダレが目の色を変える」「ダレダレが目の色を変えて~する」〔江戸〕用例 ①源氏鶏太『夢を失わず』(一九五〇)「なんだ、千万円ぐらいで、そんなに目の色を変えるな」②『朝日新聞』(一九六五・四・二朝)「すこしでも割のいい地位や就職の好条件を、みんなが目の色をかえて追い求める風潮の中で」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「フランスの田舎では、女たちはみんな、アラン・ドロンと聞いただけで目の色を変へるのださうだ」④『朝日新聞』(一九八一・三・三朝)「関脇の隆の里、琴風、そして前頭筆頭に上がった朝汐が、目の色を変えてけいこに励んでいる」⑤東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「鑑識が目の色を変えて調べたけれど」 **目の上の瘤** 意味 自分よりも地位や力が上で、自分の活動や地位に何かと目障りで邪魔な存在のたとえ。また単に邪魔な存在。用法 文型「ダレダレは目の上のこぶ」〔室町〕用例 ①樋口一葉『闇桜』(一八九二)「かく対等の地位に至れば目の上の瘤うるさく成りて」②大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(二〇〇一)「嫌うってほどじゃないけど、目の上のコブだと思っている人はたくさんいると思う」③本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「『考えておく』と答えたものの、友川は目の上のコブになった」類句 「目の上のたんこぶ」とも言う。外国語 英語では a constant hindrance *中国語では成句「眼中钉、肉中刺」(目の中の釘、肉の中のとげ。目の上のたんこぶ)*韓国語では「눈의 (目の)가시(とげ)」 **目の敵にする** 意味 憎むべき敵と見て何かと嫌悪する。敵視する。用法 文型「ダレダレはダレナニを目の敵にする」。用例③のように受身形がある。「目の敵とする」とも言う。用例 ①三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「ヤソ、ヤソと母がキリスト教徒を目の仇にすることが、貞行には合点が行かなかった」②高橋三千綱『天使を誘惑』(一九七八)「何だってあいつはあれほどおまえを目の敵にしたのかな」③ <482> 『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「反対派のジャクソン議員(民主)などは、カーター政権だけでなく、モスクワからも主戦論者として目のかたきにされているようだ」④『朝日新聞』(一九八一・七・一四朝)「改憲強硬論者たちは、現日本国憲法は米占領軍の押しつけだとして、第九条を目の敵として改憲を叫び続けている」外国語 英語では always treat someone like an enemy*韓国語では「눈의(目の)가시치럼(とげのように)여기다(思う)」 **目の黒い内** 意味 人が生きているうち。多くは自分のことに言う。用法 文型「ダレダレの目の黒い内は(に)」。「目の黒い内に~する」と「目の黒い内は〜させない」という使い方が多い。〔江戸〕用例 ①『朝日新聞』(一九五〇・二・二九朝)「スターリンが目の黒いうちはソ連が戦争をしかけることはあるまい」②『朝日新聞』(一九五四・七・三朝)「七十九歳の老チャーチルは自分の目の黒いうちに(いや青いうちに) 英国が戦争にまきこまれぬ態勢を築き上げねば死んでも死にきれぬ気持ちで」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「『われわれの目の黒いうちはそんなことは絶対許さない』とこわいお達し」④深谷忠記『萩・津和野殺人ライン』(一九九二)「自分の目の黒いうちは安泰でも、自分が死んだ後、傾いたり潰れたりしたら困る」⑤清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「吉原は自分の眼が黒いうちに、なんとか実現させたいと、秋葉に特命を与えたときにそれを宣言した」類句 「目玉の黒い内」「目の玉の黒い内」とも言う。外国語 英語では as long as one is alive *韓国語では「눈에(目に) 흙이 (土が) 들어가기 (入る) 전(前)」 **目の玉の黒い内** 意味「目の黒い内」に同じ。用法 文型「ダレダレの目の玉の黒い内は(に)」用例 源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二―五三)「不肖平林の眼の玉の黒いうちは、子分どもに、勝手な真似は絶対にさせませんぞ」類句 「目玉の黒い内」とも言う。 **目の毒** 意味 見ると欲しくなったり害になったりするので、見ない方がよいもの。用法 文型「ナニナニはダレダレに(は)目の毒」〔室町〕用例 ①丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「婦人雑誌に <483> 載つてゐる料理の写真はじつにうまさうで、食欲をそそることおびただしい。つい今しがた晩飯をすませたばかりなのに、この鴨のオレンジ煮を一刻も早く食べたい、つけあはせの野菜も食べたい、なんて気持になる。すくなくとも、一瞬、なる。ああいふのはやはり目の毒と言ふべきであらう」②「ポルノ雑誌は子どもに目の毒だ」 **目の中へ入れても痛くない** 意味 親や祖父母などが子どもや孫などを非常にかわいく思うさま。寵愛するさま。用法 文型「ダレダレがダレダレを目の中へ入れても痛くないほど可愛がる」「目の中へ入れても痛くない(ほどの)ダレダレ」。「目の中に入れても痛くない」とも言う。用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「父は妹の伊勢子を、眼の中へ入れても痛くないほど、可愛がっていた」②『朝日新聞』(一九六〇・五・六朝)「幸子さんは(略)二子山親方がチョンマゲを結わせていたりして育てた文字通り目の中に入れても痛くないほどの〝秘蔵っ子』」類句 「目に入れても痛くない」とも言う。「蝶よ花よ」 **目端が利く** 意味 機転が利く。臨機応変にうまく処理する。先のことがよく見通せる。用法 文型「ダレダレは目端が利く」「目端が(の)利くダレダレ」〔江戸〕用例 ①久保田万太郎『大寺学校』(一九三七)「目端のきく校長ならいまのうちから用心してかかります」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「葉山君ほど眼はしのきく人が解らんかね」③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「会社にとってほんとうに役立つ人は、目端が利いた人ではありません。会社のゆくすえを真剣に考えて、辛抱強くやっていく人です」類句 「先見の明」「目先が利く」 **目鼻が付く** 意味 物事が進み、ほぼできあがり、おおよその見通しや結果の予想や筋道がつく。用法 文型「ナニナニに目鼻がつく」「ナニナニの目鼻がつく」。用例①③「一つの」「あらかたの」のように「目鼻」を修飾できる。④のように否定形がある。〔江戸〕用例 ①徳田秋声『仮装人物』(一九三五―三六)「この崩れかかって来た恋愛に、何か一つの目鼻がつき」②源氏鶏太 <484> 『見事な娘』(一九四九―五五)「やっと九十万円だけは、何んとか、目鼻がついた」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「三日間のうちにあらかたの目鼻がつくようでないと、事件捜査は長引く」④「なかなか仕事の目鼻がつかない」類句 「めどが立つ」「めどがつく」「目星がつく」 **目鼻を付ける** 意味 物事を進めてほぼできあがり、おおよその見通しや結果の予想や筋道をつける。用法 文型「ダレダレはナニナニに目鼻をつける」「ダレダレはナニナニの目鼻をつける」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例 田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇一)「白浜を起点にして活動することになるだろうが、最低四、五日はかかるだろう、まあ一週間以内に目鼻をつけるつもりだが」類句 「めどをつける」「目星をつける」外国語 英語では complete all but the finishing touches **目星が付く** 意味 捜したり何かをしたりして、おおよその見当や見通しがつく。多くは犯人など、人について言う。用法 文型「ダレナニの目星がつく」。用例①のように「目星が」と「つく」との間に語句が挿入できる。用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「野坂教授が推している菊川でもなく、俺でもなく、第三の候補者という奴の目星は、ほぼ、ついてるんだ」②出久根達郎「かわうその祭り」『朝日新聞』(二〇〇四・五・二三夕)「清掃局の人が怒っていた。だけど犯人の目星がつかないから、それっきりさ」類句 「めどが立つ」「めどがつく」「目鼻がつく」 **目星を付ける** 意味 捜したり何かをしたりする時、おおよそこうだろうと見当や見通しをつける。多くは犯人など人について言う。用法 文型「ダレダレがダレナニに目星をつける」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例 近藤りきを『漫画漫文世相百態』(一九三〇)「目星をつけた星が三十分以内に流れて思った星とならんだら、その恋は確実となるが」類句 「めどをつける」「目鼻をつける」外国語 英語では make an educated guess *韓国語では「눈독을 <485> (貪欲な目つきを)들이다 (入れる)」 **目も当てられない** 意味 あまりにも悲惨だったり状況がひどかったりして、まともに見ていられない。用法 文型「~するようでは(なら・たら)目も当てられない」「ナニナニは目も当てられない」〔鎌倉〕用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「そんなことになるんだったら、目も当てられないからね。すべて水泡に帰すからね」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「菊川氏、いるかな、もし出張中だったら目もあてられない」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「大野浦あたりは、無数の山崩れと土石流で、いまだに目も当てられない状態です」④『朝日小学生新聞』(二〇〇四・九・一八)「受験を数カ月後に控えて、家族の意思統一はできているでしょうか。本番直前、本番中にごたごたするようでは目も当てられません」類句 「目をおおう」外国語 英語では too terrible to look at *中国語では成句「惨不忍睹」(惨めたらしくて見るに忍びない。「睹」は見る) *韓国語では「눈뜨고(目を開けて) 볼수가(見ることが)없다(できない)」 **目も綾** 意味 まばゆいばかりに美しく立派なさま。用法 文型「目も綾なナニナニ」「目も綾に~する」〔平安〕用例 ①「目も綾な舞台衣裳で登場」②「目も綾に色とりどりに紅葉する」 **目もくれない** 意味 人・物事に少しも関心・興味を示さない。見向きもしない。用法 文型「ダレダレはダレナニに目もくれない」「ダレダレはダレナニに目もくれず~する」用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「彼は福次郎に目もくれずに戸口へ歩いた」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「小説なんか目もくれないような堅物に見えるけれど」③『朝日新聞』(一九七九・六・二九朝)「世俗的な立身出世に目もくれず老人医療に尽力されていた尼子氏」類句 「眼中にない」「歯牙にもかけない」「等閑に付す」「見向きもしない」 **目を疑う** 意味 思ってもみなかったことを見て驚き、信じられない感じがする。用法 文型「ダレダレは(我が・自分の)目を疑う」 <486> 用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「彼が何の反発も示さずに素直な笑顔のままこれに応えているのを見て、老作家はわが目を疑った」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「病院前でタクシーを下りたとき、沖は目を疑った。病院の入口で、忍がにこにこ笑って、手を振っているではないか」③東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「男は彼女を見て、自分の目を疑うように瞬きした」類句 「耳を疑う」外国語 英語では can't believe one's eyes *韓国語では「눈을(目を) 의심하다 (疑心する[疑う])」 **目を奪われる** 意味 人・自然・物のあまりの美しさ、鮮やかさ、立派さなどに見とれる。用法 文型「ダレダレはダレナニに目を奪われる」。「ダレナニがダレダレの目を奪う」という形もある。用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「年と共にみのり豊かに盈溢した肉体の美しさにつかのま俊輔は目をうばわれたが」②津本陽『深重の海』(一九七六)「洋服を着た男女が多いことに、弥太夫は眼を奪われる」③森茉莉『恋人たちの森』(一九六二)「ジインパンツの足で、フロアを横切ったレオの、ナルシスのような上目遣いの横顔に眼を奪われたギランが」④『朝日新聞』(二〇〇四・九・八朝)「山腹から落ちる滝の壮観さに目を奪われた」類句 「釘付けになる」「目をひかれる」 **目を覆う** 意味 あまりのひどさに手で目をおおい見ないようにする。用法 文型「ナニナニは目をおおうばかり」「目をおおうナニナニ」用例 ①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「残虐非道、貪虐兇穢眼をおおうばかりの血も涙もない、畜生にも劣る殺人鬼」②『朝日新聞』(二〇〇三・四・四朝)「ひどいことになっている。『週刊文春』3月25日号を出版禁止にした東京地裁にも呆れるばかりだが、マスコミ関係者の反応もまた目を覆うばかりだ」③「思わず目をおおう凄惨な事故現場」類句 「目も当てられない」外国語 韓国語では「눈을(目を) 가리다 (覆う)」 **目を落とす** 意味 視線を下の方へ向ける。用法 文型「ダレダレがダレナニに目を落とす」用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「『野坂君は、 <487> いやに遅いですね』今津が眼を落としたまま云うと」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「信夫はばかにされたような気がして、聖書から目を上げた。(略)信夫は再び聖書に目をおとした」③太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九七〇)「グラスに目を落として、蟹沢が刑事らしく、はじめてギョロッと目を光らせた」④岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「鬼頭はテーブルに目を落とした」類句 「目を伏せる」 **目を掛ける** 意味 成長株であるとか気に入ったとかの理由で、ある人を特別に可愛がってあれこれと面倒を見る、世話をしてやる。ひいきにする。用法 文型「ダレダレがダレダレに目をかける」。命令・意志表現は可能。用例②のように受身形がある。〔室町〕用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「僕と財前又一君とはまた医師会におけるツーツーカーカーの仲だから、できることなら、財前君の娘婿に眼をかけてやってほしいと頼んでるだけだよ」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「佐々木軍曹は門間少佐に特に眼を掛けられていたこともあって」③東野圭吾『卒業』(一九八六)「金井さんも目をかけて下さってるみたいですよ」④森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「彼女を妹のように可愛がったのが、当時のナンバーワン路子さんでした。たまたま同郷ということで、特に目をかけていたようです」外国語 英語では favor **目を掠める** 意味 人に見つからないようにこっそりする。人のすきをねらってちょっとした悪事を働く。用法 文型「ダレダレがダレダレの目をかすめて~する」〔江戸〕用例 ①野間宏『真空地帯』(一九五二)「その品物を衛門歩哨の眼をかすめて外にもちだすのにじつに苦労するとうのである」②福永武彦『忘却の河』(一九五四)「敵の眼を掠めて洞窟の中に逃げ込んだまま」類句 「目を盗む」外国語*韓国語では「눈을 (目を) 속이다 (だます)」 **目を配る** 意味 見落としがないように、広い範囲や細かいところまで注意して見る、注意を行き届かせる。用法 文型「ダレダレはダレナニド <488> コに目を配る」。ドコは「周囲」「あたり」などがよく使われる。命令・意志表現は可能。〔平安〕用例 ①大岡昇平『俘虜記』(一九五二)「絶えず首を廻してあたりに眼を配っていた」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「神田大尉は、常に周囲に眼を配っていたから」③『朝日新聞』(二〇〇四・七・三三夕)「代理人との交渉能力や、若手にも目を配る視野の広さが評価されている」④『朝日新聞』(二〇〇四・八・六夕)「JCDNのように全国に目を配るNPO法人ができ」 **目を晦ます** 意味 姿を隠して見つからないようにする。人目をごまかして正体を見せないようにする。用法 文型「ダレダレはダレダレの目をくらます」。命令・意志表現は可能。用例②のように受身形がある。〔江戸〕用例 ①吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「かれは、常に単独で行動し、探偵の眼をくらますことにつとめていた」②森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「『美千代、目を醒ましてくれ。おまえは目を晦まされているのだ』『私は目を晦まされてなんかいないわ。私、もうあなたを愛していないの。これまでの私が目を晦まされていたの。』」 **目を凝らす** 意味 はっきり見極めるため、また確認するためにじっと見つめる。凝視する。用法 文型「ダレダレは目を凝らす」「目を凝らして~する」。「~する」は「見つめる」など。用例 ①舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「N男が立っているのではないかと、目を凝らしたが」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「おやじは、目をこらすようにして、笹上を見つめる」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「それが誰なのかフサは分らず暗がりにまぎれてしまった女の顔を確かめようと眼をこらしてみつめていると」④龍一京『交番』(二〇〇四)「千草の宅から、子供の手を引いて出てきた田坂の姿を見かけた宮脇は、じっと目を凝らした」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・三朝)「目をこらし読んでいくと、作品の輪郭が少しずつ明確になってくる」類句 「瞳を凝らす」「目を注ぐ」外国語 英語では look hard *韓国語では「눈을 (目が) 뚫어지제 (通されるように)보다(見る)」 <489> **目を覚ます** 意味 眠りから覚めることから転じて、あることがきっかけで、心の迷いや過ちに気づいて、正しい方や本来の姿へ立ち返る、向く。また、気づかなかった自分の性格などを自覚する。用法 文型「ダレダレが目を覚ます」。命令形がある。〔江戸〕用例 ①森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「『美千代、目を醒ましてくれ。おまえは目を晦まされているのだ』」②「こんな親泣かせのことばかりしていてもだめだと、やっと目を覚ました」③「お前はだまされているんだ。目を覚ませ」類句 「夢が覚める」 **目を皿のようにする** 意味 目を大きく見開く。物を捜したり見分けたり、また驚いたりする時の表情。用法 文型「ダレダレは目を皿のようにして~する」。「~する」には「見る」「捜す」などの言葉が来る。用例 ①源氏鶏太『見事な娘』(一九四九―五五)「桐子は、眼を皿のようにして、降りてくる人人を見ていた」②石坂洋次郎『あいつと私』(一九六〇-六二)「お二人とも、目を皿のようにして眺めていたのをたしかに見たんだから」③山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「ましてや、君たちが、どんなに眼を皿のようにしても、影も形も解らなかったはずだから、悲観することはないさ」④有吉佐和子『恍惚の人』(一九七二)「荻窪からずっと目を皿のようにしていたのよ。見落としてしまったかと心配になってたところだったわ」類句 「目を皿にする」とも言う。 **目を三角にする** 意味 怒って恐い目つきをする、にらむ。用法 文型「ダレダレが目を三角にする」「ダレダレが目を三角にして~する」用例 ①内田康夫『博多殺人事件』(一九九一)「川井真知子が鼻の頭に皺を寄せ、目を三角にして聡子を睨んだ」②『朝日新聞』(二〇〇三・九・九朝)「男の子2人が目を三角にして『死ね』『お前こそ』と叫び合っていた」類句 「目くじらを立てる」「目に角を立てる」「目をつり上げる」「目をむく」 <490> **目を白黒させる** 意味 予想外の出来事に驚き、どう対処してよいかわからず、あわてふためくさま。また、体の痛みに苦しんで目をぐるぐる動かす。用法 文型「ダレダレはナニナニに目を白黒させる」〔江戸〕用例 ①筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「こんなお勘定で眼を白黒させるくらいなら、最初から銀座へなんか、こなけりゃいいのよ」②『朝日新聞』(一九九〇・七・一〇朝)「自民党内で鈴木氏が急浮上――一本化した急転回に各省庁とも目を白黒」③高杉良『人事権!』(一九九二)「出し抜けにドスの利いた男の声に変わったので、河原洋子は眼を白黒させた」④『朝日新聞』(二〇〇四・六・三朝)「起ちあがれないほどの激痛に、目を白黒させて狼狽する。腰痛が出たのは二十年ぶりだ」類句 「目を白黒する」とも言う。「開いた口がふさがらない」「あきれて物が言えない」「呆気にとられる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を丸くする」 **目を注ぐ** 意味 目をそちらに向ける。また、注意して見る。用法 文型「ダレダレはダレナニに目を注ぐ」。命令・意志表現は可能。用例③のように「目を」と「注ぐ」との間に語句を挿入できる。用例 ①原民喜『永遠のみどり』(一九五一)「今、鉄筋の残骸を見上げ、その円屋根のあたりに目を注ぐと」②野間宏『真空地帯』(一九五二)「じっと曽田の方に眼をそそいだが」③「彼に目を一瞬注いだ」類句 「目を向ける」 **目をそらす** 意味 見つめていた目を他に向ける。視線を外す。用法 文型「ダレダレはダレナニから目をそらす」。命令・意志表現は可能。用例 ①岩城捷介『免職警官』(二〇〇三)「『ああ、いいとも。おれはな、この取材を申し込まれた時、あんたならいいと思った。あんたならな』彼女はねばりつく視線から目をそらせた」②『朝日新聞』(二〇〇四・七・四朝)「思春期の問題に真剣に向かい合うと、大人は自分自身の問題から目をそらすことができなくなります」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・七朝)「帰って来た彼を彼女は問いつめた。『ああ、友達だよ、友達。いいじゃないか写真くらい』と、彼は <491> 目をそらしながら言った」類句 「目を背ける」(城山三郎『毎日が日曜日』〈一九七五〉「いま門前に占い師がいたが、わたしは目をそむけて、通り抜けてきた」) 「目を離す」 **目を付ける** 意味 何かをねらって、また、ある目的のために気をつけて見る。注意して、関心をもって見る。特別な関心を寄せる。用法 文型「ダレダレがダレナニに目をつける」。命令・意志表現は可能。〔平安〕用例 ①東野圭吾『探偵ガリレオ』(一九九八)「僕があの工場に目をつけるに至った経過も話そう」②『朝日新聞』(二〇〇四・七・二六朝)「まず目をつけたのはペチュニアの青色遺伝子」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・一六朝)「中身がわからない限り突っつかないカラスの特性に目をつけ、カラスには中身が見えないように特殊な加工をしてある」④「いいところに目をつけた。これで大儲けができる」類句 「目に留める」「目を留める」外国語 英語では keep one's eye on *韓国語では「눈독을 (貪欲な目つきを) 들이다 (入れる)」 **目を瞑る** 意味 過失・欠点や人が行う悪いことなどを見ていながら、見ない振りをする。それに気づいていても、とがめない。黙認する。用法 文型「ダレダレはナニナニに目をつぶる」。命令・意志表現は可能。「目をつむる」とも言う。用例 ①『朝日新聞』(一九八〇・六・七朝)「この社会的な不公平に目をつぶる政府の無神経さは絶望的だ」②向田邦子『寺内貫太郎一家』(一九七三)「娘が初めて人に惚れたのなら、多少のことは目をつぶって許したいよ」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「それに自己本位で鼻もちならない気位の高さに目を瞑れば、性的な魅力は水準以上である」④木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九八)「あと一歩踏み込めば、その構図をさらけだすことができるというのに、そちらには目をつぶって、かっとなって明日香を殺したジュンを、指名手配することで事件の幕を引くしかないのだ」類句 「犬目に見る」「見て見ぬ振り」外国語 英語では wink at *韓国語では「눈을 (目を) 감다(つぶる)」 **目を通す** 意味 書類・本など全体をおおまかに読む、見る。一通り見る。用法 文型「ダ <492> レダレはナニナニに目を通す」。命令・意志表現は可能。用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「カルテを受け取った医者は、機械的な表情と速さで記述事項に眼を通し」②福永武彦『忘却の河』(一九五四)「彼女はその頁にざっと眼を通しているうちに」③『朝日新聞』(一九九二・二・三朝)「部下が作成した分厚い報告書類に目を通す」外国語 韓国語では「눈을 (目を) 훑어보다 (通してみる)」 **目を留める** 意味 注意深く見る。注目する。心をとめて見る。用法 文型「ダレダレはダレナニに目を留める」。命令・意志表現は可能。〔平安〕用例 ①北原白秋『抒情小曲集 おもひで』(一九二一)「南町の私の家を差覗く人は(略)銘酒を満たした五つの朱塗りの樽と、同じ色の桝のいくつかに目を留めるであろう」②大岡昇平『俘虜記』(一九五二)「彼は私のインテリ臭い様子に目を留めたらしく」類句 「目に留める」「目をつける」 **目を盗む** 意味 人に見つからないようにこっそり行う。用法 文型「ダレダレはダレダレの目を盗んで~する」〔江戸〕用例 ①半村良『どぶどろ』(一九七七)「松之助はそういう父親の目を盗んで渡辺順庵という医者のもとへ通っているのだ」②鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「ばあさんの目を盗んで、こっそり一人で海へ入った」③『朝日新聞』(二〇〇四・七・二九夕)「母親が寝室に置いていたこの詩集を、『子どもが読んではいけません」と厳しく言い渡されたけれど、母親の目を盗んでこっそり読んだのだ、と語っていた」類句 「目をかすめる」外国語 韓国語では「눈을 (目を) 훔치다 (盗む)」 **目を離す** 意味 見ていたものから視線を一時的によそに移す。油断して警戒を怠る。用法 文型「ダレダレはダレナニから目を離す」。命令・意志表現は可能。禁止形・否定形がある。〔室町〕用例 ①新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「寸刻たりとも眼を離すな」②森茉莉『恋人たちの森』(一九六二)「見ていた新聞から眼を放し」③森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「当分あの両人から目を離さないようにしましょう」類句 「目をそらす」外国語 韓国語では「눈을 (目を) <493> 떼다(離す)」 **目を光らす** 意味 眼光鋭く見る。また、悪いことができないように厳重に見張る。監視する。用法 文型「ダレダレは目を光らす」。命令·意志表現は可能。用例①「細い」のように「目」を修飾できる。「目を光らせる」とも言う。〔江戸〕用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「金縁眼鏡の下から、細い眼を光らせ、鵜飼の言葉尻を押さえるように云った」②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九七〇)「グラスに目を落として、蟹沢が刑事らしく、はじめてギョロッと目を光らせた」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「あの人、社員のお目付役なの。社内不倫とかセクハラとか、厳しく眼をひからせているわ」外国語 英語では watch (carefully) **目を引く** 意味 人の目を引きつける。また、注意を向けさせる。用法 文型「ダレナニはダレダレの目を引く」。命令・意志表現は可能。用例③のように「目を」と「引く」との間に語句を挿入できる。用例 ①『朝日新聞』(二〇〇三・七・二〇朝)「まず、配色で遊んでみよう。黒地にピンクのロゴの組み合わせは、ぱっと目を引くこと間違いなし」②『朝日新聞』(二〇〇四・八・五夕)「柔軟性や技もずばぬけているが、フロアに立つだけで華やか。誰よりも輝き、目を引く」③『朝日新聞』(二〇〇四・九・一七夕)「いい大人が道端にしゃがんで、悲痛な表情でガチャガチャをやっている姿は、人々の目をかなり引いたことだろう」類句 「人目を引く」「目を奪う」外国語 韓国語では「눈을 (目を) 끌다(引く)」 **目を開く** 意味 今まで知らなかった事実や真理に気づいたり悟ったりして新しい境地を見出す。用法 文型「ダレダレはナニナニに目を開く」。用例②のように受身形がある。〔江戸〕用例 ①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九二七)「われわれとしては、久光様が現今の時勢に目をひらきなさるようつとめることは、最も必要なことであろうと」②『朝日新聞』(二〇〇四・八・二九朝)「じつは、末期癌の患者が多く集まるこの病院では、ベッド数に対する死亡率はかなり高いのだった。そこを公平に見極めたことで、かえって著者は帯津医師の思想の意義にいっそう目を開かれてい <494> る」外国語 韓国語では「눈을(目を)뜨다(開く)」 **目を細くする** 意味「目を細める」に同じ。用法 文型「ダレダレは目を細くする」用例 源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五三)「成子は、嬉しそうに目を細くした」 **目を細める** 意味 うれしくて、または見るものがかわいらしくて思わず笑みを浮かべる。用法 文型「ダレダレは目を細める」〔江戸〕用例 ①星新一『ボッコちゃん』(一九六二)「エヌ氏はダイヤルを回して金庫をあけると、なかには金貨がたくさんあった。強盗は目を細めた」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「おこんの几帳面な性格を高く買ってくれて、質屋の女房はそうでなければいけないと目を細めたし」③『朝日新聞』(二〇〇四・七・七夕)「そんなときはペットも休憩タイムで、うさんごろは地面のクローバーに夢中。文鳥たちは水浴び。カモメは日光浴。みんな目を細めてよろこんでいるなあ」類句 「目を細くする」とも言う。「顔をほころばせる」「相好をくずす」外国語 英語では one's eyes light up **目を丸くする** 意味 驚いて目を大きく見開く。用法 文型「ダレダレは目を丸くする」用例 ①東野圭吾『宿命』(一九九〇)「空っぽの引き出しを見て、彼女は目を丸くした」②森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「『なんだと』丸尾が目を丸くした」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・三〇朝)「大学院生ら2人が詰めて、翻訳作業を助けた。深夜まで執筆が続くことがあった。病院長は、『まるで大学研究室のようだ」と目を丸くした」類句 「開いた口がふさがらない」「あきれて物が言えない」「呆気にとられる」「泡を食う」「聞いてあきれる」「肝を消す」「肝を潰す」「肝を冷やす」「腰を抜かす」「二の句が継げない」「鳩が豆鉄砲を食ったよう」「目を白黒させる」「目を見張る」「目をむく」 **目を回す** 意味 あまりの忙しさに驚きうろたえる。また、単にひどく驚く。用法 文型「ダ <495> レダレが目を回す」〔江戸〕用例 ①「食事時の食堂の忙しさに目を回す」②「値段を聞いて目を回す」類句 「目が回る」 **目を見張る** 意味 感心した驚きで目を大きく見開く。用法 文型「ダレダレがダレナニに目を見張る」〔平安〕用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「恭子はこの青年の中に宿る正真正銘の純潔さに目をみはった」②三浦哲郎『結婚』(一九六七)「郷子は肝をつぶしたのか、きょとんと目をみはっている」③『朝日新聞』(一九七九・五・一六朝)「岡田特派員は、アメリカ大統領の記者会見の緊張したやりとりに『目を見はった』と書いている」④東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「その実力の向上ぶりは、まさに目を見張るものがあります」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・八・七朝)「飼い主も、まるで魔法をかけられたようにお利口になった愛犬の姿に目を見張っていた」類句 「目を丸くする」「目をむく」 **目を剥く** 意味 怒ったり驚いたりして目を大きく見開く。用法 文型「ダレダレはダレナニに目をむく」〔江戸〕用例 ①松本清張『点と線』(一九五七―五九)「巡査は起きぬけの事件に、びっくりしたように目をむいた」②田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「教育ママの母も、目をむいて怒るにちがいない」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「誰かが寝ているらしく、毛布が盛り上がっている。同時に彼は目を剥いた。ベッドの上が血で真っ赤に染まっていたからだ」④『朝日新聞』(二〇〇四・八・三夕)「子供の頃、父親が持っていたレコードでレクオーナという名のキューバの作曲家の音楽をよく聴いていたので、その中から何曲か弾くと、『なぜそんな曲を知ってるんだ?』と2人が目をむいた」類句 「目を丸くする」「目を見張る」 **目を向ける** 意味 1視線をそちらの方に向ける。また、対象に対して何らかの感情や判断をもって見る。(2)ある事柄に対して注意や関心を向ける。用法 文型「ダレダレはダレナニドコに(ダレナニの)目を向ける」。命令・意志表現は可能。用例③「非難 <496> の」のように「目」を修飾できる。⑥のように「目を」と「向ける」との間に語句が挿入できる。使役形・否定形がある。用例 ①野間宏『真空地帯』(一九五二)「木谷は再び窓の方に眼を向けた」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「彼女は私のほうに、明るい、柔和なその眼をむけて」③新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「わけも知らずに嚮導将校に非難の目を向けた」12④舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「ほかの男に目を向けるわけにはいかない」⑤半村良『どぶどろ』(一九七七)「俺だって、左内坂で嫌なことに目を向けないでいれば」⑥『朝日新聞』(二〇〇四・八・七・朝)「日本や中国などアジア諸国には、まだ巨大な観光需要が眠っていると考えている。その人々の目を我々の担当地区に向けさせたい」類句 「目をやる」外国語 韓国語では「눈을 (目を) 돌리다(向ける)」 **目を遣る** 意味 視線をそちらの方に向ける。用法 文型「ダレダレはダレナニドコに目をやる」。用例②「疲れた」のように「目」を修飾できる。②のように「目を」と「やる」の間に語句を挿入できる。〔室町〕用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三―六五)「財前が来た時に置き忘れて帰った医学雑誌の方へ目を遣り」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六八)「信夫はがっかりして、見るともなく、疲れた目を庭にやった」③東野圭吾『卒業』(一九八六)「加賀は扉の壊れた鳩時計に目をやった」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「悠はあふれ出てくる香りをいっぱいに吸い込みながら、佐古へ目をやった」⑤『朝日新聞』(二〇〇四・九・七夕)「廊下を挟んで向かいの部屋の宴会が盛り上がっているのでふと目をやると」類句 「目を向ける」 **メンツが立つ** 意味「メンツ」は中国語で体面のこと。世間に対し評判を落とさずに体面が保たれる。用法 文型「ダレダレはメンツが立つ」「ダレダレのメンツが立つ」。否定形がある。用例 井上靖『氷壁』(一九五六—五七)「これで佐倉製鋼の方はメンツが立つ。立たせておけばいい」類句 「顔が立つ」「面目が立つ」外国語 英語では save face <497> **面目が立つ** 意味「メンツが立つ」に同じ。用法 文型「ダレダレは面目が立つ」「ダレダレの面目が立つ」。否定形がある。用例 「娘の盛大な結婚式を挙げ、親の面目が立った」外国語 英語では save face **面目がない** 意味 失敗・過失・迷惑などで世間に対して恥ずかしくて顔向けできない。用法 文型「ダレダレに面目がない」。「面目ない」とも言う。〔室町〕用例 ①「迷惑をかけてばかりで世間に面目がない」②「このたびはとんだ失敗をしでかし、まったく面目がない」類句 強調して「面目次第もない」と言う。「穴があったら入りたい」「合わせる顔がない」「顔から火が出る」「顔向けができない」「立場がない」「立つ瀬がない」外国語 英語では lose face **面目丸潰れ** 意味 体面・名誉がひどく損なわれること。用法 文型「ダレダレは面目まるつぶれ」「ダレダレの面目まるつぶれ」用例 「全面的に意見を否定されては社長の面目まるつぶれだ」 **面目を施す** 意味 あることでその人が今まで以上に名誉を得たり評価を高めたりする。また、なんとか体面を傷つけずに済む。用法 文型「ダレダレは面目を施す」〔鎌倉〕用例 「日本代表として入賞し、面目を施した」類句 「面目を立てる」 <498> *も* **申し分がない** 意味 欠点がなく、文句のつけようがない。満足できるさま。用法 文型「ダレナニはダレナニとして申し分がない」「申し分のないダレナニ」〔江戸〕用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「勿論、香代子が男を知らぬ女であってくれたら、申し分がないのだが」②源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五三)「先ずは、二号としては、申し分のない女であろう」③『朝日新聞』(一九七九・六・二六朝)「これで三試合とも先取点をあげ、しかも二回までには必ずリードする試合展開としては申し分のないもの」外国語 英語では can't ask for anything more **モーションを掛ける** 意味 元来「モーション」は英語で野球の投球モーションをさしていた。転じて異性の気を引くように働きかける。用法 文型「ダレダレはダレダレにモーションを掛ける」。命令・意志表現は可能。用例④のように受身形がある。用例 ①谷崎潤一郎『痴人の愛』(一九二四―二五)「浜田、お前綺羅子にモーションをかけたのかい?」②獅子文六『青春売場日記』(一九五七)「こうなると、クレオパトラも、女の意地だ。此方からモーションをかけて、断られて、そのまま引込むような女ではない」③矢野目源一『戦後風俗史』(一九五二)「これではいくらモーションをかけて見たところで、到底恋人になる脈はないのである」④長与善郎『一つの今日』(一九五五)「炬燵の下でいとも荒っぽいモーションをかけられても別に反応を示さなかったCは」類句 「気を引く」「水を向ける」外国語 英語では make a pass at **持ちつ持たれつ** 意味 互いに助けたり助けられたりするさま。用法 文型「ダレダレとダレダレは持ちつ持たれつ(の関係)」用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「われわれの後輩にあんたのような人がいてくれると心強い、ともかく、お互いに持ちつ持たれつで、行きましょうや」②田辺保 <499> 『なぜ外国語を学ぶのか』(一九七九)「同じアパートの同じ階の役人どうしでも、特別の必要がなければ、たがいの私生活に介入しようとせず、古い日本の長屋ふうの持ちつ持たれつの関係にはいることをきらう」③『朝日新聞』(一九八一・三・二五朝)「自民党の国会議員と官僚とは『もちつもたれつ』の関係にある」④大沢在昌『灰夜』(二〇〇一)「店の周辺で駐車違反の取締りをされたり、店内でトラブルが発生して一一〇番しても、『非協力的な店』だという理由で、警官が駆けつけるのが遅くなることすらある。いわば持ちつ持たれつの関係を強要されるのだ」⑤本所次郎『閨閥』(二〇〇四)「その活動費は、新聞販売の上がりが主なものだった。そんないきさつから、ニッポン新聞と磯貝は、持ちつ持たれつの仲だったのである」外国語 英語では give and take **勿怪の幸** 意味「もっけ」は「物怪」で、意外なこと、思いがけないことの意。思いがけない幸運。用法 文型「ナニナニはもっけの幸い」「ナニナニをもっけの幸いと〜する」〔江戸〕用例 ㉡徳冨蘆花『黒潮』(一九〇三)「晋が土屋伯の機関新聞と偶然縁を結んだのは、勿怪の幸である」②坂口安吾『投手殺人事件』(一九五〇)「このデクノボーのバカの一念で大鹿の隠れ家が分ったら、モッケの幸い、と内々ホクソ笑んで」③獅子文六『自由学校』(一九五〇)「祭りバヤシが、小さい太鼓二つ、大太鼓一つ、笛、鉦で、ちょうど、五人でできるのを、モッケの幸いにして、皆さんに、おすめしたんですよ」④『朝日新聞』(一九七九・六・二七朝)「米国が『各国別輸入抑制目標の設定』をいってきたことは、その意味でもっけの幸いだ」⑤森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「喜一郎の委嘱は、松江にとって勿怪の幸いであった」外国語 英語では a stroke of luck **勿体を付ける** 意味 いかにも重要なように仰々しく見せる、言う。ことさら重々しく気取った態度を取る。いかめしく物々しく振る舞う。用法 文型「ダレダレはもったいをつける」〔江戸〕用例 ①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「『といっても、今の今、即答は無理ですよ、それに、他の連中が何と云いますか、その辺のところがねえ』もったいをつけ、思案するように云うと」②東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「『ええ、それがね』刑事はもったいをつけるように言葉 <500> を切り、それからおもむろにいった」③高杉良『指名解雇』(一九九七)「そんなに勿体をつけないで早く教えてくださいよ」外国語 中国語では慣用句「卖关子」(もったいをつける。講談師が山場に来ると間を置いて聞き手の注意を引きつけることを「卖关子」と言う) **持って回った** 意味 変に遠回しなさま。用法 文型「持って回った言い方(やり方)」〔江戸〕用例 ①高杉良『人事権!』(一九九二)「大井さんはご想像にまかせるなんて持って回った言いかたをしてたが」②「そんな持って回った言い方をせずに、もっとストレートに言ってくれ」類句 「奥歯に物が挟まった」 **元の木阿弥** 意味 せっかく苦労したり努力したりして築いたこと、作り上げたことなどが何かの原因ですっかりだめになったり、無駄になったりして以前の状態に戻ってしまうこと。大和郡山の城主筒井順昭が亡くなった時、跡継ぎがまだ幼かったため、敵の侵略を恐れて、順昭の声に似ている盲人木阿弥を順昭に仕立て、生きているように偽った。その後、跡継ぎが成長して木阿弥は元に戻ったという故事から。用法 文型「元の木阿弥になる」「元の木阿弥だ」〔室町〕用例 ①二葉亭四迷『平凡』(一九〇七)「半襟二掛ばかりの効能じゃ三日と持たない。直消えて又元の木阿弥になる」②坂口安吾『選挙殺人事件』(一九五一)「このへんではモウケ頭の方だ。しかし、この立候補でモトのモクアミになるんじゃないかと近所の取沙汰であった」③『朝日新聞』(一九八一・一〇・二九朝)「力でセを圧倒したのに、今度の四連敗で元のもくあみだ」④田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇二)「だから代々の本部長が事件の起きるたびに綱紀粛正を誓ってもむだなのである。市民の方もそんなことは信用していない。すぐに元の木阿弥となってしまう」類句 「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元も子もない」外国語 英語では be right back where one started from **元も子もない** 意味 本来「元」は元金、「子」は利子の意味。あることをしている時に、 <501> 本来の目的が達成できなくなって結果として得ようとしていたものを失い、努力も何もかも無駄になる。用法 文型「~したら(~てしまっては)元も子もない(元も子もなくなる)」〔江戸〕用例 ①広津和郎『風雨強かるべし』(一九二三―二四)「ここで銀子と同じに腹を立てて、一切を投げ出してしまっては、元も子もなくなる事を知っていた」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「個人経営の医院は、なんぼ千客万来の患者があっても、月末の保険点数の計算が下手やったら、元も子もない」③『朝日新聞』(一九八〇・五・一九朝)「互いに政権のうま味を手放したのでは元も子もない」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九三)「殺してしまっては元も子もないことになる」⑤田中光二『南紀白浜磯釣り殺人事件』(二〇〇二)「重くて図体のでかいランクルはコーナリングが苦手だ。ここで事故を起こせば元も子もない」類句 「水泡に帰す」「棒に振る」「水の泡」「無駄骨を折る」「元の木阿弥」 **物心が付く** 意味 幼年期以降、世の中の物事が少し分かってくる。用法 文型「物心がつくナニナニ」。ナニナニには「時」「ころ」など時を表す語がくる。「物心つく」と助詞を省くことが多い。用例 ①石坂洋次郎『光る海』(一九六二-六三)「四つ五つといえば、子供としてのもの心がつく時分なのですが」②城山三郎『毎日が日曜日』(一九七五)「出生のときにも、笹上は海外に居たし、物心つくまで、ほとんど別居生活であった」③中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「フサが生れて物心つくころにはもう波乃は他所へ紡績に行っていたし」外国語 英語では understand things **物にする** 意味 (1)ねらった物・異性などを自分の所有物にする。思い通りにことを運んで目的を達成する。(2)技術・語学などを習得して役立たせる。用法 文型「ダレダレはダレナニをものにする」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例 (1)①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「あの女は気に入った男と見ると、一週間のうちに物にしてしまうという噂の主だ」②野坂昭如『てろてろ』(一九七一)「自分で勝手に特定の女をものにすると決めこんで」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・三朝)「若手芸人の世界は今、とても熱い。若さを武器に、チャンスをものにしていってほしい」2④「韓国語をものにして通訳している」 <502> いに、その塀を乗り越えて」②半村良『どぶどろ』(一九七七)「金座や銀座を取り潰して通貨を大公儀がじかに扱うようになればどうなるだろう。各種の座の運上金など物の数ではなくなるのだ」 **物になる** 意味 (1)ねらった物・異性が自分のものになる。(2)人・仕事・技術などがどうやら役に立つようになる。技術・語学などを習得する。一人前になる。 用法 文型(1)「ダレナニがダレダレのものになる」「ダレナニがものになる」。否定形がある。〔室町〕 用例 (1)「彼女が自分のものになった」(2)「練習の成果が上がり、ようやくものになってきた」(3)「いろいろ実験したが、なかなかものにならない」④「彼女は将来、ものになる」 類句 (1)「手に入れる」 外国語 英語では(2) amount to something **物の数ではない** 意味 まったく問題にするに値しない、意に介することなどない。対象を馬鹿にし否定する言葉。 用法 文型「ダレナニなど物の数ではない」〔安土桃山〕 用例 ①源氏鶏太『青い果実』(一九西—五至)「青年たちにとって、そんな塀なんか、モノの数でなかった。思い思 類句 「愚にもつかない」「たかが知れる」「取るに足りない」「話にならない」「屈とも思わない」「目じゃない」「問題にならない」 **物の見事に** 意味 実に見事に。非常に手際よく鮮やかに。必ずしも良い意味ばかりに使うとは限らない。 用法 文型「物の見事に~する」。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕 用例 ①幸田露伴『五重塔』(一八九一—九二)「ただ我一人で物の見事に千年壊れぬ名物を万人の眼に残したい」②菊池寛『忠直卿行状記』(一九六八)「彼の少年時代からの感情生活は、右近の一言によって、物の見事に破産してしまっていた」③「屈強な男を物の見事に一発でやっつけてしまった」④「物の見事に転んでしまった」 類句 「目が覚めるような」 <503> **物は相談** 意味 一人で考えていても良い考えが浮かばない時、また困った時、だれかに相談すればうまく行くこともあるということ。相手の気持ちを探って相談を持ちかける時の言葉。 用法 文型「物は相談だが~」〔江戸〕 用例 ①芥川龍之介『三つの宝』(一九二三)「では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか?」②織田作之助『夫婦善哉』(一九四〇)「蝶子を呼び、物は相談やが駆落ちせえへんか」③「物は相談ですが、今度の企画を当社と一緒にしませんか」 **物は試し** 意味 物事は実際に一度やってみなければその成否は分からない。とにかく一度やってみるとよい。 用法 文型「物は試し、〜」。〜に試してみるべき事柄が来る。〔江戸〕 用例 ①芥川龍之介『青年と死』(一九一六)「物は試しですからまあやって見るのですね」②岡本綺堂『半七捕物帳』(一九一七—三七)「物は試しだ、魚を持たずに一度帰ってみろ」③「ものは試し。一度試験を受けてみたら」 外国語 英語では you can't tell unless you try **物を言う** 意味 ある物事が役に立つ、効果・威力がある。 用法 文型「ナニナニが物を言う」。ナニナニは力・金・経験・顔など。〔江戸〕 用例 ①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九三四)「お札が物をいって、運転手はたちまち承諾した」②『朝日新聞』(一九七九・七・一九朝)「カネがものいう自民党でもまれ育った政治家が」③『朝日新聞』(一九六〇・五・一九朝)「今回の総選挙は日ごろの組織力量がものをいう」④『朝日新聞』(一九六一・二・四朝)「同じ顔合わせが重なると、やはり経験が物を言う」 類句 「顔が利く」「幅が利く」 外国語 英語では (money) talk(s) **物を言わせる** 意味 自己の持つものを用いてそのものの力を十分発揮させる。 用法 文型「ダレダレがナニナニに物を言わせる」。ナニナニは力・金・経験・顔など。「物を言わす」とも言う。 用例 ①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「浩太郎は、口調を強くした。父親としての権威に、モノをいわせたつもりであった」②三浦綾子『塩狩峠』(一九六四)「新しい二軒は金にものをいわせての派手な営業ぶりで」③『朝日新聞』(一九八〇・三・七朝)「小佐野側は豊富な資金力と情報力にモノをいわせ、入手不可能だったはずの『クラッター日記』を入手」 <504> **諸手を挙げる** 意味 無条件に、また積極的に、喜んで賛成する。 用法 文型「ダレダレはナニナニに諸手を挙げて~する」。〜は「賛成」「歓迎」など。「両手・双手」とも書く。 用例 ①石川啄木『初めて見たる小樽』(一九〇七)「いわば天下を家として随所に青山あるを信ずる北海人の気魄を、双手を挙げて讃美する者である」②夢野久作『爆弾太平記』(一九三三)「賛成だ。吾輩双手を挙げて賛成する」③「オリンピック誘致に諸手を挙げて賛成という訳にはいかない」 **諸肌を脱ぐ** 意味 衣服の上半身を脱ぐ意から転じて、全力を尽くして物事に取り組む。 用法 文型「ダレダレはナニナニに諸肌を脱ぐ」。命令・意志表現は可能。「両肌」とも書く。 用例 ①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「神戸海洋気象台の経験者としてこの際新しい海洋気象台の創設に諸肌を脱げ、というのが宇田に対する藤原の指示であった」②「新会社設立に諸肌を脱いで協力する」 類句 「ベストを尽くす」 **諸刃の剣** 意味 相手を傷つけると同時に自分も傷つく恐れがあるたとえ。当事者にとって、有利になる点と不利になる点が同時に存在するたとえ。また一方で有益だが、他方では危険でもあるというたとえ。 用法 文型「ナニナニはナニナニには両刃の剣」「両刃」とも書く。〔江戸〕 用例 ①『朝日新聞』(一九八〇・四・一四朝)「石油禁輸は両刃の剣でもあり、イラン経済にとって致命的な打撃となる」②『朝日新聞』(一九八一・二・二五朝)「世界が相互依存度を強めている現在、経済制裁はしばしば『両刃の剣』といった意味あいを持つ」 類句 「りょうばの剣」は俗な読み方。 外国語 英語では a double-edged sword **門を叩く** 意味 入門を請う。弟子にしてもらいたいと頼む。また、入門する。 用法 文型「ダレダレがダレナニの門を叩く」。命令・意志表現は可能。 <505> 用例 ①『朝日新聞』(二〇〇四・八・七朝)「強豪実業団から誘いの声もなく、自ら名門指導者・小出義雄監督の門をたたき、可能性をつないだ」②「一八歳の時、空手道場の門を叩いた」 **焼きが回る** 意味 刃物に焼きを入れすぎると切れ味が悪くなるように、年月がたち過ぎて腕の働きが鈍くなったり衰えたりする。 用法 文型「ダレダレは焼きが回る」〔江戸〕 用例 ①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八六九)「其の言う事を理と勘定のようによく、君もおっぽど焼きが廻っておる」②夏目漱石『道草』(一九一五)「君は自分の不埒を掩蔽するじゃないか」と兄が九分半の冗談で僕を窘めている、こんな時に若い頃の記憶を借りて来たのでは、折角の器械が焼きが回ったと同然だ」③「近頃は焼きが回って、物忘れがひどくなった」④「朝の間に聞いた連絡が思い出せない。僕もヤキが回ったな」⑤浅田次郎『霞町物語』(一九九五)「マルサワもヤキが回ったんじゃないですか」 類句 「なたが焼ける」「歯が浮く」 外国語 英語では be past one's prime **矢面に立つ** 意味 敵の矢が飛んでくる正面に立つ意から転じて、非難・攻撃・質問などを集中して受ける立場に身を置く。 用法 文型「ダレダレがナニナニの矢面に立つ」。ナニナニは非難・攻撃・質問やマスコミなど。受身形がある。〔鎌倉〕 用例 ①柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「被災者たちはもっぱら警報の不適切さを責め立てた。とりわけ大阪支台が矢面に立たされ、時の支台長平野烈介は窮地に追いこまれた」②『毎日新聞』(一九九二・二・三朝)「『こんど国会はご苦労だが君が矢面に立つことになる』と言われて」③高杉良『首魁の宴』(一九九八)「イトセンの加山、藤岡がマスコミ攻撃の矢面に立たされた中で」 外国語 英語では bear the brunt of <506> て頭や腕の働きが鈍くなったり衰えたりする。用法文型「ダレダレは焼きが回る」〔江戸〕用例①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「僕の言う事を理想と聞くようじゃ、君もよっぽど焼が廻ってる」②夏目漱石『道草』(一九一五)「『焼が廻ってるなら構わないじゃないか』と兄が冗談半分に彼の矛盾を指摘する」③江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇—三一)「明智君、僕らがこんなに早くお迎えにきたのを、不思議がっているよだね。さすがの名探偵も少し焼きが廻ったぜ」④『朝日新聞』(一九五六・二・六朝)「さすがの器量人もヤキが回った感が強い」⑤浅田次郎『極道放浪記②』(一九九五)「マルボウもヤキが回ったんじゃないですかい」類句「がたが来る」「たがが緩む」外国語 英語では get slow (in one's old age) **焼き餅を焼く** 意味「やく」に「餅を焼く」と嫉妬する意の「やく」をかけたもので、嫉妬する。妬む。特に自分が好きな異性が自分と同性の人と仲良くすることに嫉妬する。用法文型「ダレダレがダレダレにやきもちを焼く」。受身形がある。〔江戸〕用例①源氏鶏太『坊っちゃん社員』(一九五二—五六)「たかが若僧に、所長ともあろう者が、ヤキモチを焼いているかのように誤解される恐れがあった」②太田蘭三『殺意の朝日連峰』(一九八七)「艶子は死んじゃっているんだもの、ヤキモチ焼いてもしょうがないわ」③森村誠一『人間の十字架』(一九九五)「あなた、奥様が焼き餅をやいているかもしれないとおもったんでしょう。焼き餅をやかれるようなことはなにもしてらっしゃらないくせに」④高杉良『首魁の宴』(一九九六)「焼き餅やかれるのも悪い気はしないけど」類句「角を出す」は特に女性が嫉妬することをいう。 **焼きを入れる** 意味刃物を焼いて鍛えることから転じて、人に制裁を加える、リンチする。また、たるんだ者を引き締めるために厳しく懲らしめる。やくざや不良などの言葉。用法文型「ダレダレがダレダレに焼きを入れる」。用例①のような命令・意志表現は可能。④のように受身形がある。用例①徳永直『飛行機小僧』(一九三七)「この野郎、旋盤一つ弄れねえ癖しやがって…ヤキをいれろ」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一九六一)「お前が逃げようとしたら、彼はヤキを入れる」③大沢在昌『悪夢狩り』(一九九五)「あん <507> たに焼きを入れるためさ。カタギにやくざが小突き回されたとあっちゃ、末代までの恥だからな」④宗田理『ぼくらの特命教師』(二〇〇三)「教室から出ていったら、きっとヤキを入れられます」類句「お灸を据える」外国語 英語では teach someone a lesson **役者が一枚上** 意味芝居の看板や番付で上位の者の名が上にあることから、人物・能力・駆け引きなどがある人と比べて一段とすぐれていること。用法文型「ダレダレはダレダレより役者が一枚上」「ダレダレの方が役者が一枚上」用例江戸川乱歩『白髪鬼』(一九三一—三二)「川村は瑠璃子を喜ばせる術にかけては、たしかにわしよりも役者が一枚上であった」類句単に「役者が上」(源氏鶏太『天下泰平』〈一九五四—五五〉「生存競争の激しい今の世に、ボンヤリしていたら、そうなっても、それは自業自得だ。岡崎副社長の方が、遙かに役者が上であった」)とも言う。強調して「役者が一枚も二枚も上」と言うことがある。「一枚上」外国語英語では outclass someone **役に立つ** 意味人・物があること、ある目的に有効に働く。役立つ。用法文型「ダレナニがナニナニに役に立つ」「ダレナニがダレナニの役に立つ」。用例②③のように敬語形「お役に立つ」がある。否定形がある。〔室町〕用例①源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「あたし、何かのお役に立って上げられるかもわかりません」②星新一『ボッコちゃん』(一九六一)「こんな薬がなにかの役に立つのですか」③半村良『どぶどろ』(一九七七)「榎さんのお若いころ、立派なお侍になってお上のお役に立ちたいと、そんな風に意気込んだことはありませんでしたか」④『朝日新聞』(一九八一・三・四朝)「せっかく努力して集めた情報も受け手が聞き流せば何の役にも立たない」⑤大沢在昌『悪夢狩り』(一九九五)「いったい何の役に立つの?」類句「間に合う」「用が足りる」 **役に立てる** 意味人・物をあること、ある目的に有効に働かせる。役立てる。用法文型「ダレダレがダレナニを役に立てる」。命令・意志表現は可能。用例筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「それを <508> 性的興奮を高めるため役に立てている人だっている」 **焼け石に水** 意味焼けた石に少しばかりの水をかけたところで冷めないことから、わずかな援助・努力や少しの物では効果が少しもないことのたとえ。用法文型「ナニナニでは焼け石に水」〔室町〕用例①小杉天外『魔風恋風』(一九〇三)「何うせ此様な物が有った処で、所謂焼石に水だ」②高杉良『会社蘇生』(一九八七)「昨年から今年にかけて講じてきた資金対策は会社の運命を先送りしただけで、結果的にすべて焼石に水に終わったが」外国語 英語では a drop in the bucket *中国語では成句「杯水车薪」(一杯の水で一車の薪の火を消す) **自棄になる** 意味自分の思った通りにならなかったことから、何もかもどうでもいいという態度になる。用法文型「ダレダレがやけになる」「やけになって〜する」〔江戸〕用例①東野圭吾『学生街の殺人』(一九八七)「今日は塩を送ったんだ。ヤケになる必要はないね」②吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇四)「『死ねばいいのよね――波子がそう言った』『ヤケになったわけね』」類句「やけっぱちになる」とも言う。「やけのやんぱち」「やけを起こす」外国語 中国語では成句「自暴自弃」(自暴自棄になる) **自棄のやん八** 意味「やけ」の「や」と同音で始まる語を重ねたもので、人名風にしたもの。自暴自棄。やけっぱち。俗っぽい語感。用法文型「ダレダレがやけのやんぱち」〔江戸〕用例①林不忘『へのへのもへじ』(一九二七)「今日は自棄のヤン八だ」②坂口安吾『心霊殺人事件』(一九五四)「どこどなく天真ランマンなのである。ヤケのヤンパチの底をついているにしても」③島田一男『特報社会部記者』(一九六一)「大将いよいよやけのヤンパチで」④「もうこうなったらやけのやんぱちで、どうにでもなれ」類句「やけになる」「やけを起こす」 **自棄を起こす** 意味自暴自棄になる。用法文型「ダレダレがやけを起こす」〔江戸〕用例「やけを起こして、朝から酒を飲んでいる」 <509> 類句「やけになる」「やけのやんぱち」外国語 中国語では成句「自暴自弃」(自暴自棄になる) **安かろう悪かろう** 意味安い物に品質の良い物はないこと。用法文型「ナニナニは安かろう悪かろう」〔江戸〕用例「露店の品物は安かろう悪かろうで、買ったら損することが多い」外国語 英語では You get what you pay for *中国語では慣用句「便宜没好货」(安物に良い物はない。「便宜」は安い。「没」はない) **痩せても枯れても** 意味どんなに落ちぶれても、衰えたとしても。元はれっきとしたものという気概を示す言葉。用法文型「ダレダレは痩せても枯れても〜」「痩せても枯れてもダレダレ」〔江戸〕用例①三遊亭円朝『真景累ヶ淵』(一八六九)「痩せても枯れても天下の直参が」②林不忘『へのへのもへじ』(一九二七)「どっこい、前野茂平次、痩せても枯れても、尤も、あんまり痩せてはいないが、降伏するどころか、ジャジャ馬をあべこべに蹴飛ばして」③大下宇陀児『虛像』(一九五五)「痩せても枯れても男一匹、あたしを困らせるようなことは、絶対しないのだといって見得を切り」類句「腐っても鯛」 **痩せの大食い** 意味痩せている人が案外大食いであること。用法文型「ダレダレは痩せの大食い」用例「あんなの細いのによく食べる。いわゆる痩せの大食いだ」 **躍起になる** 意味何とかしようと焦ってむきになる。用法文型「ダレダレがナニナニに躍起になる」「躍起になって〜する」用例①田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(一九七七)「次々とほころびはじめた日本のあとしまつに躍起になってるらしい」②『言語生活』三〇号(一九七八)「こちらは、文章の個別的な特色をつかもうと思ってやっきになっても」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「わたしが躍起になって、どんなに辛い仕事であるかを説明し」類句「むきになる」外国語 英語では be all out <510> **矢でも鉄砲でも飛んで来い** 意味「矢でも鉄砲でも持って来い」に同じ。用法文型「こうなったら矢でも鉄砲でも飛んで来い」用例北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「私は船に強いのである。私はこうなったらヤでもテッポウでも飛んでこいという気になったが」 **矢でも鉄砲でも持って来い** 意味どんな手段でもかかって来いと、腹を据えて、あるいは半ばやけになって言う言葉。用法文型「こうなったら矢でも鉄砲でも持って来い」用例①尾崎紅葉『金色夜叉』(一八九七—九八)「こうなれば無証拠だから、矢でも鉄砲でも持って来いだ」②上司小剣『石川五右衛門の生立』(一九二〇)「文吾の小さな度胸は、もうスッカリ据わってしまった。矢でも鉄砲でも持って来いという気になった」③源氏鶏太『三等重役』(一九五一—五二)「こうなったら、矢でも鉄砲でも持ってこいであるな」④高杉良『濁流』(一九九六)「こうなったら破れかぶれだ。矢でも鉄砲でも持ってこい」類句「矢でも鉄砲でも飛んで来い」「矢でも鉄砲でも降って来い」とも言う。 **矢の催促** 意味はやくするようにしきりに続けざまに要求・催促すること。用法文型「ダレダレが矢の催促をする」「ダレダレから矢の催促」〔江戸〕用例①坂口安吾『能面の秘密』(一九五五)「なかなか買い手がウンといわなかったのですが矢の催促です」②『朝日新聞』(一九七九・六・二〇朝)「摂食中枢は『腹へった』の矢の催促を送り」③高杉良『人事権!』(一九九二)「友達から矢の催促ということもある」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「日本から帰って来いと矢の催促? 赤坂フレグランスがいってきたのですか…………」外国語 英語では keep bugging someone **藪から棒** 意味タケノコ泥棒を追い払うために、藪から棒を突き出すことから転じて、なんの前触れもなく、または関連もなくあることを言ったりしたりするさま。用法文型「ダレダレが藪から棒に〜する」。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七—八九)「なんだネこの娘 <511> は、藪から棒に」②石坂洋次郎『若い人』(一九三三—三七)「江波さんから先生をお慕いしていると藪から棒に打ち明けられた時」③源氏鶏太『三等重役』(一九五一—五二)「『あなたに恋人がありますか?』『あら。藪から棒にとてもデリケートで、青春的なご質問ですのね(略)』」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「私に相談したいこと? 藪から棒に一体、何でしょう」⑤高杉良『会社蘇生』(一九八七)「藪から棒に二十億円用立ててくれと言われても」外国語 英語では out of the blue **山を掛ける** 意味勘を働かせて、ある事柄を予想する。試験の出題について言うことが多い。用法文型「ダレダレが山を掛ける」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例「期末試験で山をかけたがはずれた」類句「山を張る」とも言う。外国語 英語では make a calculated guess **止むに止まれず** 意味やめようとしてもやめられない。どうしようもない。用法文型「止むに止まれず〜する」「止むに止まれぬニナニ」用例①「止むに止まれず盗んで、つかまった」②「止むに止まれぬ事情で欠席する」外国語 英語では be compelled by forces beyond one's control **止むを得ず** 意味好ましいことではないが、仕方なく。不本意ながら。用法文型「やむを得ず〜する」。副詞的に述語を修飾。用例①大岡昇平『俘虜記』(一九四八)「不寝番が近づいて来て私を呼ぶ。止むを得ず起きて行く」②吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「腸チフスの疑いがあると診断して数週間の絶対安静を告げたので、やむを得ず小村は、翌日の出発を断念した」③森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「止むを得ず大企業があまり目を向けないような企業メリットの少ない、小さな品にかろうじて活路を見いだしている」外国語 英語では have no choice but to **止むを得ない** 意味好ましいことではないが、そうなるのは仕方がない。そうするよ <512> りほかに方法がない。やむかたない。用法文型「ナニナニはやむを得ない」「やむを得ないナニナニ」用例①海音寺潮五郎『西郷と大久保』(一九四九)「大目的のためにはやむを得ないと一度決心すれば、それの出来る人である」②森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七二)「大塚さんのやったことは、あの状況ではやむを得なかったと思います」③吉村昭『ポーツマスの旗』(一九七九)「かれは、小村に、やむを得ない場合には戦争をも辞さないという覚悟をおもちなのですか、と問い」④『朝日新聞』(一九六二・三・三朝)「結局、市場の閉鎖性と受け止められてもやむを得ない」⑤「やむを得ない事情で休む」類句「仕方がない」 **矢も盾もたまらない** 意味思い詰めた気持ちを制止しきれず、あることをしたくてじっとしていられないさま。用法文型「ダレダレは矢も盾もたまらず〜する」「矢も盾もたまらなく〜する」〔江戸〕用例①二葉亭四迷『浮雲』(一八八七—八九)「サァそうなるとお勢は矢も楯もたまらず、急に入塾がしたくなる」②石坂洋次郎『若い人』(一九三三—三七)「間崎は矢も楯もたまらず無性に哀しくなった」③『朝日新聞』(一九六一・二・三朝)「思慮分別のない狂信的な少年を、矢も盾もたまらなくテロに走らせるような催眠術にかけるのは、わけのないことだろう」④源氏鶏太『男と女の世の中』(一九五二)「信濃さんに、会いとうなりましたら、もう矢も楯もたまらんようになって」⑤内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「ふいに一関の風景が脳裏に蘇った。とたんに、矢も盾もたまらなく、郷里に帰りたくなった」類句「居ても立ってもいられない」外国語 英語では have an uncontrollable urge **槍玉に挙がる** 意味多くの中から選ばれて特に非難・攻撃の対象になる。用法文型「ダレナニがナニナニのやり玉に挙がる」用例①広山義慶『私刑警察 激弾!』(二〇〇二)「警察不祥事が続発してキャリア官僚がマスコミの槍玉に挙がったときも、打つ手は早かった」②『朝日新聞』(二〇〇四・五・二朝)「23年10月の徳島県議会では、県男女共同参画会議委員の大沢真理・東大教授(50)がやり玉に挙がった。『参画会議は左に偏っている。特に大沢という人は問題だ』」類句「袋だたきにあう」 <513> **槍玉に挙げる** 意味もと、槍で突き刺すこと。転じて多くの中から選んで特に非難・攻撃の対象として責める。用法文型「ダレダレはダレナニをナニナニのやり玉に挙げる」。受身形でもよく用いられる。〔江戸〕用例①内田魯庵『くれの廿八日』(一八九六)「お前達が槍玉に上げられる」②内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「いつも『対角線』の読書会で槍玉にあげられるような、駄作ばかり書いている男だ」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・四朝)「うっ屈したナショナリズムのはけ口として、日本はやり玉にあげられやすい状況にある」外国語 英語では single out someone for criticism **有終の美を飾る** 意味最後まで物事をやり通して立派な成績・成果を上げる。一線を退く時などに言うことが多い。用法文型「ダレダレが有終の美を飾る」用例①北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「更に有終の美を飾ってやろうと、サード・オフィサー、コステロ氏と三人で夜の街に出向いて行ったのだが」②『朝日新聞』(一九七九・六・二〇朝)「第二に病弱のブレジネフ書記長の有終の美を飾る成果とすること」③『朝日新聞』(一九九一・三・七朝)「この大会を最後に大会から身を引くクレーカー(東独)は得意の段違い平行棒で楊艶麗(中国)と優勝を分け合い、有終の美を飾った」 **油断も隙もない** 意味ある人に対して、少しも油断することができない。だから要注意ということ。用法文型「ダレダレは油断も <514> 隙もない」用例①有吉佐和子『恍惚の人』(一九七三)「私たち交代で番をしてたんですけど、本当に油断も隙もないんですよ」②高杉良『会社蘇生』(一九八七)「なにかをつかんでるとしたら、油断もすきもない大変な敏腕記者といえる」③内田康夫『イーハトーブの幽霊』(一九九九)「『ほう、よく調べてありますなあ、さすがは警察だ、油断も隙もない』金野は目を見張った」類句「油断も隙もならない」(石坂洋次郎『石中先生行状記』青銅時代の巻〈一九四八〉「小説家というものは、小説を書くためには、なんでも構わず利用する、油断もスキもならない動物です」)とも言う。 **指一本も指させない** 意味人から非難・干渉・嘲笑などはさせない。人から非難・干渉・嘲笑など受けるようなところはまったくない。強い決意・表明の言葉。用法文型「ナニナニについてダレダレに指一本も指させない」。用例①のように「指一本も」と「ささせない」の間に語句を挿入できる。用例①芥川龍之介『三つの宝』(一九二三)「わたしがここにいる限りは、指一本も王女にはささせません」②「この件についてだれにも指一本も差させない」③「世間から指一本もささせないようにする」 **指をくわえる** 意味 うらやましく見ながら手も出せないでいる。手に入れたいが何ともできずむなしく見ている。用法文型「ダレダレはナニナニを指をくわえて見る」用例森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(二〇〇〇)「こんな上等な食べごろのおねえちゃんが包装紙を解いて、むきむきの観音様をきらきらさせながら手招きしているのを、指をくわえて見送るようなら男をやめた方がいいね」外国語英語では look enviously at **湯水のように** 意味お金を惜しげもなく乱費するさま。非難の言葉。用法文型「ダレダレは金を湯水のように使う」。「湯水の如く」とも言う。〔江戸〕用例①『朝日新聞』(一九七九・三・七朝)「一歩外国に来てしまうとまるで湯水のようにドル札を使いまくります」② <515> 『朝日新聞』(一九八〇・二・二三朝)「日本は古来水に恵まれ、冗費のたとえを湯水の如くというほど、その豊かさになれてきた」③『朝日新聞』(一九九一・一〇・二朝)「これまで招致のために巨大な税金を湯水のように使って……………行政の責任はどうなるんだ」という声もあちこちで。類句「金に糸目をつけない」外国語 英語では spend money like water *中国語では成句「挥金如土」(金を湯水のように使う。直訳すれば金を土のように使う) **弓を引く** 意味反抗する。反逆する。人に背く。特に恩人や目上の人に対して言う。用法文型「ダレダレがダレダレに弓を引く」〔鎌倉〕用例①佐々木味津三『右門捕物帖』(一九二八—三八)「のれんを分けてもらった子飼いの番頭が、ご本家へ弓を引くようなまねをするはずがねえ」②大沢在昌『砂の狩人』(二〇〇一—〇二)「この中国人とうちは、たった今、取引関係を結んだ。この連中にチャカを向けるのは、芳正会に向けるのと同じだ。うちに弓を引くのか」③「部下が上司に弓を引く」類句「背を向ける」「盾を突く」「反旗を翻す」 **用が足りる** 意味仕事や用件を処理するのに役立つ。用法文型「ダレナニで用が足りる」〔江戸〕用例三島霜川『青い顔』(一九〇七)「下婢で用が足りる位なら、世間の男は誰だッてうるさい妻なんか持ちはしない」類句「間に合う」「役に立つ」 **用を足す** 意味①仕事・用件などを済ませる。②大小便を済ませる。用法文型「ダレダレが用を足す」。用例②のように可能動詞形がある。〔江戸〕用例1)①堺利彦『貧を記す』(一八九八)「古き原稿紙の裏を用いて用を足すと」②高橋和巳『悲の器』(一九六三)「上京しているのなら、直接、彼のほうから訪問すれば用はたせるはずだった」2)③北條民雄『いのちの初夜』(一九三六) <516> 「小便までが凍ってしまうようで、なかなか出ず、焦りながら用を足すと」④筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「学校の便所は汚いので、小便以外に用を足したことはなかったのだが」 **良かれ悪しかれ** 意味良くても悪くても、いずれにしても。用法文型「ダレナニは良かれ悪しかれ〜する」。副詞的に述語を修飾する。用例①尾崎士郎『人生劇場 青春篇』(一九三五)「西野博士のためにということを標榜して起った運動が善かれ悪かれ西野博士に影響しないとしたら嘘でありましょう」②『朝日新聞』(一九七九・七・一二朝)「田中、三木、福田三内閣とも、よかれ悪しかれそれぞれの『理想』に挑戦し」③『朝日新聞』(一九七九・七・三朝)「最初に教わった先生の発音には良かれあしかれ一生ついてまわるほど影響されます」 **欲の皮が突っ張る** 意味欲が強い。非常に欲張りである。用法文型「ダレダレは欲の皮がつっぱる」。用例①のように「欲の皮が」と「つっぱる」の間に語句を挿入できる。用例①原ゆたか『かいけつゾロリの大金もち』(一九九八)「おさつのヤマはおもしろいように大きくなっていき、ゾロリたちのよくのかわも、どんどんとつっぱります」②「欲の皮が突っ張っているから、金儲けの話を聞くとすぐ身を乗り出す」類句「欲の皮が張る」とも言う。 **欲を言えば** 意味人・物事に対し、今の状態でも一応満足できるが、更に望むならば。用法文型「欲を言えば〜だ」用例①伊藤左千夫『浜菊』(一九〇八)「欲を云えば際限がない」②芥川龍之介『好色』(一九一三)「もう少し欲を云えば、顔もあれじゃ寂しすぎる」③「彼は品行方正で申し分がないが、欲を言えばもう少し背が欲しい」類句「欲を言うと」とも言う。 **横車を押す** 意味車を横に押して動かすのは無理であるように、無理なこと、理不尽なことを強いて押し通す。用法文型「ダレダレが横車を押す」〔江戸〕 <517> 用例①野間宏『真空地帯』(一九五二)「それ故に大住軍曹が中隊にあってしばしば横車をおし乱暴をはたらき、そして自分の特異な存在を人々にみとめさせてきたことなどは全くかえりみられなかったから」②『朝日新聞』(一九八一・三・二朝)「重要案件の成否を握っている〝権限〟をかさにきて、横車を押す体質である」類句「横紙破り」 **横の物を縦にもしない** 意味ちょっとしたことでも面倒くさがってしない。非常に無精なこと。非難の言葉。用法文型「ダレダレは横の物を縦にもしない」〔江戸〕用例「夫は怠け者で、横の物を縦にもしない。本当に呆れる」類句「縦の物を横にもしない」とも言う。外国語英語では won't lift a finger **横槍が入る** 意味交戦している両軍の側面から別の一隊が槍で突きかかることから転じて、話や仕事の途中で第三者に口出しされる。用法文型「ダレダレからダレナニに横槍が入る」用例『朝日新聞』(一九七九・六・三朝)「苦労していったん合意した京王閣の補償金交渉に対して、共産党からも横ヤリが入ったのは心外であった」 **横槍を入れる** 意味交戦している両軍の側面から別の一隊が槍で突きかかることから転じて、第三者が、話や仕事の横から口出しして、邪魔をする。用法文型「ダレダレがダレナニに横槍を入れる」。命令・意志表現は可能。用例①「妙な」のように「横槍」を修飾することが可能。〔江戸〕用例①山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「労働省にも顔のきく人だから、せっかく内定しているあなたの近畿労災病院長の椅子に妙な横槍を入れるかもしれないし」②『朝日新聞』(一九八〇・二・四朝)「日本の余剰米の輸出に横ヤリを入れるなど、まったく横暴といわざるを得ない」③内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「『べつにそんな連中に褒めてもらわなくてもいいよ』『あなた』と菊代が横槍を入れた」④広山義慶『私刑警察 激弾!』(二〇〇二)「奴は石杖頼母に横槍を入れる風圧の源を調査しているとか」類句「くちばしを入れる」「口をはさむ」「茶々を入れる」「半畳を入れる」「水をかける」「水を差す」「野次を飛ばす」 <518> **涎を垂らす** 意味おいしい食べ物を見て食べたくなるさまから転じて、ひどく欲しがるさま、うらやむさま。用法文型「ダレダレがよだれを垂らして〜する」。「〜する」には「見る」「眺める」などが来る。用例①岡本綺堂『半七捕物帳』菊人形の昔(一九一七—二六)「おれもああいう馬に西洋鞍を置いて一度乗り廻してみたいと、よだれを垂らしながら眺めているほかはありません」②「ヨーロッパの高級家具をよだれを垂らして見る」類句「よだれが出る」「よだれを流す」とも言う。「食指が動く」「のどが鳴る」外国語 英語では drool **予断を許さない** 意味「予断」は前もって判断すること。どうなるか予測することが難しい。危ない状況が迫っているがそれがいつ来るか判断できない時に使う。用法文型「〜かどうか予断を許さない」用例①中里介山『大菩薩峠』山科の巻(一九二二—二六)「それからどうなりますか、容易に予断を許しません」②辻邦生『北の岬』(一九七〇)「だが、いつ飛行機が現われるか予断をゆるさなかった。海上で捕捉されればおれたちは壊滅的な打撃をうけなければならぬ」外国語 英語では One can't tell **寄ってたかって** 意味大勢が集まって何事かをするさま。特に一人をいじめたり、ひどい目に合わせたりする時に言う。用法文型「ダレダレがダレダレを寄ってたかって〜する」。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕用例①源氏鶏太『一寸の虫』(一九五〇)「よくも、寄ってたかって、か弱い女ひとりを、ひどい目にあわせたな」②北杜夫『どくとるマンボウ航海記』(一九六〇)「彼らは有能な専門家たちだから、寄ってたかって直る病気は治してしまう」③内田康夫『坊っちゃん殺人事件』(一九九七)「生意気な素人探偵を寄ってたかってやり込めるつもりかもしれない」④森村誠一『エネミイ』(二〇〇〇)「事件発生後寄ってたかってもみ消した学校当局」 **余念がない** 意味他のことは考えず、そのことにのみ没頭するさま。用法文型「ダレダレはナニナニに余念がない」〔平安〕 <519> 用例①松本清張『点と線』(一九五七—五八)「針を動かすのに余念がない様子だった」②福永武彦『忘却の河』(一九六四)「効果や照明などのメンバーはそれぞれ研究に余念がなかった」類句「脇目も振らず」 **夜の目も寝ずに** 意味夜、眠ることもせず。用法文型「夜の目も寝ずに〜する」。「夜の目も寝ないで」とも言う。〔室町〕用例鈴木健二『ビッグマン愚行録』(一九七七)「翌日から三日三晩、夜の目も寝ずにポーカーの組み合せを調べたら」類句「夜を徹する」 **呼び声が高い** 意味将来、ある地位・役職につく候補者として有力だとうわさされる。用法文型「ダレダレはダレナニの呼び声が高い」「ダレダレはダレナニに呼び声が高い」用例①佐々木味津三『右門捕物帖』毒色のくちびる(一九三六—三七)「土俵に姿を現わしたものは、これぞお局群に呼び声高い江戸錦四郎太夫でありました」②「彼は次期社長の呼び声が高い」 **夜も日も明けない** 意味それがなければ少しの間も過ごせない。それに愛着を持ったり執着したりしているさまの強調表現。用法文型「ダレナニがなければ夜も日も明けない」〔室町〕用例国木田独歩『運命』(一九〇六)「日清戦争、連戦連勝、軍隊万歳、軍人でなければ夜も日も明けぬお目出度いこととなって」 **よりによって** 意味ほかにふさわしいものを選ぶ余地があったのに、不適切なものを選んだことを非難する言葉。また、大変な時、大切な時にあることが起きることを非難する言葉。用法文型「よりによって〜する」。副詞的に述語を修飾する。〔江戸〕用例①江戸川乱歩『黒蜥蜴』(一九三四)「女賊『黒トカゲ』は、選りに選って、この大歓楽境のまただ中、衆人環視の塔上を、身代金授受の場所と定めたのであった」②森村誠一『新幹線殺人事件』(一九七〇)「通話相手を何故選り <520> に選ってキクプロと仲の悪いプロデューサーにしたのか?」③東野圭吾『仮面山荘殺人事件』(一九九〇)「よりによってこんな時に、どうして人殺しなんて考えやがる」④木谷恭介『富良野ラベンダーの丘殺人事件』(一九九五)「よりによってライバル会社の契約社員を派遣する必要などあるわけがない」⑤吉村達也『「横濱の風」殺人事件』(二〇〇四)「ともかく、おれたちはそこで神に召されようと思った。だが………………人がいた。よりによって、大事な決意を秘めて行った場所に、若い男ふたりがいた」類句「あろうことか」「事もあろうに」外国語 英語では of all **縒りを戻す** 意味もとは仲が良かったのに何かのきっかけで仲が悪くなったのが、またもと通りの仲良しになる。特に男女間に言うことが多い。用法文型「ダレダレがダレダレとよりを戻す」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例①『朝日新聞』(一九七九・五・三朝)「一時冷却化していた米ソ関係も、先のSALTの基本合意をきっかけによりを戻す傾向を見せている」②中上健次『鳳仙花』(一九八〇)「顔を見るのも厭だという理由で別れてないとしても、会ってすぐヨリをもどす事などあり得ないと思った」類句「元の鞘に収まる」外国語 英語では patch things up *中国語では成句「言归于好」(良い関係に戻る、仲直りをする。「归」は戻る。「好」は仲がよい) **寄ると触ると** 意味人々が寄り集まるたびにあることが話題にされることを言う。用法文型「よるとさわるとナニナニで持ち切り」。ナニナニは「話」「話題」「うわさ」など。〔江戸〕用例①内田魯庵『くれの廿八日』(一八九六)「何でも尋常事でないと、寄ると触ると此話題で持切っていたが」②江戸川乱歩『黄金仮面』(一九三〇—三一)「よるとさわるとその噂で持ちきりだ」③三島由紀夫『仮面の告白』(一九四九)「昭和二十年の春ともなればもう反戦論は寄るとさわると囁かれていたので」④山崎豊子『白い巨塔』(一九六三—六五)「教室員はもちろん、インターンや看護婦に至るまで、寄るとさわると、教授選の話で持ちきりです」 **夜となく昼となく** 意味夜昼の区別なく常に。用法文型「夜となく昼となく〜」。副詞的に述語を修飾する。 <521> 用例①坂口安吾『石の思い』(一九四七)「そのころは母に持病があって膀胱結石というもので時々夜となく昼となく呻り通している」②『朝日新聞』(一九七九・六・八朝)「若い看護婦さんもベテランも、夜となく昼となくどんなことにもイヤな顔一つみせず」類句「昼夜わかたず」「夜を日に継ぐ」 **弱音を吐く** 意味困難などに耐えられず、弱々しい調子で意気地のないことを言う。用法文型「ダレダレが弱音を吐く」用例①高橋和巳『悲の器』(一九六三)「独り住いは、弱音ははきたくないが、たしかに不便だった」②筒井康隆『狂気の沙汰も金次第』(一九七三)「義父は『もう、やめたい』などと、弱音を吐いているが」③清水一行『ITの踊り』(二〇〇四)「『こんなに歩くのは久しぶりですから。でも、まだまだ大丈夫です』とうに音を上げていたが、恭子の前で弱音を吐くわけにはいかなかった」類句「声を上げる」「音を上げる」外国語 英語では whine **弱り目に祟り目** 意味困っている時に更に重ねて災難に遭うこと。不運に不運が重なること。用法単独で使用。〔江戸〕用例①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「失意で意気の阻喪してる時にゃ、俗にいう弱り目に祟り目だ、僅かの刺激にも直ぐ感じて、深くじゃないが、病的にだね、生活の苦痛を感じて来る」②織田作之助『アド・バルーン』(一九四六)「亭主の顔みイみイ、おっさんどないしてくれまんネいうて、千度泣いたると、亭主も弱り目にたたり目で、到頭俺を背負うて、親父のとこイ連れて行きよった」類句「泣きっ面に蜂」「踏んだり蹴ったり」外国語英語では things go from bad to worse *中国語では成句「祸不单行」(災いは重なるものだ) **世を去る** 意味人が死ぬ。ある人がこの世からいなくなる。文章語的な言葉。用法文型「ダレダレが世を去る」〔平安〕用例①伊藤左千夫『野菊の花』(一九〇六)「民子は余儀なき結婚をして遂に世を去り」②「祖父の世を去る日が近づいた」類句「息を引き取る」「帰らぬ人となる」「鬼籍に入る」 <522> 「骨になる」 **夜を日に継ぐ** 意味昼夜の別なく物事を続ける。昼夜兼行で行う。用法文型「夜を日に継いで〜する」。受身形がある。〔平安〕用例①平出修『逆徒』(一九三三)「夜を日に継ぐ厳しい訊問を続けられ」②「救出作業が夜を日に継いで行われた」類句「昼夜わかたず」「夜となく昼となく」外国語中国語では成句「夜以继日」(夜を日に継ぐ) *ら行* **烙印を押される** 意味「烙印」とは焼き印のことで、昔、犯罪者に刑罰として押したところから、ぬぐい去ることができない汚名を受ける。用法文型「ダレダレがダレダレにダレナニの烙印を押される」。「烙印を押す」という能動形もある。用例①甲賀三郎『血液型殺人事件』(一九三四)「妻は不貞の烙印を押されるのです」②「犯罪者という烙印を押されてこれからは生きて行かねばならない」類句「レッテルを貼られる」外国語英語では be branded **埒が明く** 意味「埒」とは馬場の周りの柵のこと。柵が明くことから転じて、物事がうまくはかどる。用法文型「ナニナニで埒が明く」「〜しても埒が明かない」。否定形がよく使われる。〔江戸〕用例①二葉亭四迷『其面影』(一九〇六)「九兵衛さんでは <523> 埒が明かなかったので、葉村が頼まれて双方の間に入ることに成ったが」②志賀直哉『晩秋』(一九二天)「今は遅かれ早かれ埒のあく問題だったから」③和田傳『鰯雲』(一九五七)「用件のことでラチのあく返事は得られなかったが」④内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「この付近で話を聞いても埒があきそうになかった」⑤大沢在昌『灰夜 新宿鮫皿』(1001)「『ふざけたこといってんなよ』男の声が荒くなった。『お前みたいなチンピラじゃ、らちがあかない。もっと上の人間だせ』鮫島はいった」類句「決着がつく」外国語 英語では「埒が明く」は get somewhere、「埒が明かない」は get nowhere **埒もない** 意味筋道が立っていなくて、わけのわからない。どうでもよくて取るに足りない。用法文型「埒もないこと」〔江戸〕用例④牧野信一『ゼーロン』(一九一)「ゼーロンは飽くまでも腑抜けたように白々しく埒もない有様であった」②林芙美子『大島行』(一九三)「大島と云えば、此頃はすっかり自殺者で有名になってしまったのですが、全く埒もない事です」③「埒もないことを言う」類句「とりとめのない」「他愛のない」 **喇叭を吹く** 意味「ぼらを吹く」に同じ。用法)文型「ダレダレがラッパを吹く」用例「あいつはいつもラッパを吹いてばかりいる」類句「大風呂敷を広げる」「ほらを飛ばす」「ぼらを吹く」 **立錐の余地もない** 意味錐を立てるほどのわずかの隙間もないくらい人が大勢集まっているさま。用法文型「ドコドコは立錐の余地もない」。「立錐の余地がない」とも言う。用例 江戸川乱歩『黄金仮面』(一九〇-三1)「立錐の余地なき満員である」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三一六五)「ロッカーは廊下にまではみ出している。そんな医局であったから五十人余りの医局員が入ると、立錐の余地もなくなるのであったが」③『朝日新聞』(一九七九・六・一九朝)「調印式場に集まった報道陣の数はすごかったな。『立錐の余地がない』とはこういうことだ」 **溜飲が下がる** 意味「溜飲」とは消化不良で出る胃からのすっぱい液。わだかまっていた恨み・不平・不満などがあることで消えて胸がすかっとする。せいせいする。用法文型「ダレダ <524> レは溜飲が下がる」「ダレダレの溜飲が下がる」「溜飲が下がる思い」〔江戸〕用例 石坂洋次郎『石中先生行状記』(一人―四九)「それが一等に当選した。変名だから賞品は貰えなかったが、いささか溜飲がさがる思いがした」②舟橋聖一『ある女の遠景』(一六一)「電話の中で、彼は呶鳴り狂った。それを聞くだけでも、私は溜飲がさがるのだ」③森村誠一『棟居刑事の砂漠の暗礁』(一九九七)「低速の車などは十分に追い越せる。自動車を追い抜くと、溜飲が下がった」類句「気味がいい」「胸がすく」 **溜飲を下げる** 意味「溜飲」とは消化不良で出る胃からのすっぱい液。わだかまっていた恨み・不平・不満などをあることで解消して気分をすっきりさせる。用法文型「ダレダレが溜飲を下げる」「ダレダレの溜飲を下げる」用例 石坂洋次郎『若い人』(一九三―七)「貴方へ話すのなら後の祟りもないことですから一つ聞き手になって、僕の溜飲を下げさせてくれませんか」②坂口安吾『正午の殺人』(一≦)「有名な画家を選んでモデルになる遊びを覚え、最高の女体鑑賞家と申すべき大家どもをナデ斬りにして溜飲を下げていたのであるが」③源氏鶏太『青い果実』(一九五四―五五)「さては、ずっと昔から、そうだ、十年も前から、あんな風に、ゴミをこっちへよこしては、溜飲を下げていたんだな!」④森村誠一『棟居刑事の悪夢の塔』(一九九九)「鈴木が溜飲を下げたように言った」 **両手に花** 意味二つの良いこと、美しいもの、名誉、価値あるものを同時に自分のものにする。特に男性が二人の女性に挟まれている場合に言う。用法文型「ダレダレは両手に花」〔江戸〕用例源氏鶏太『実は熟したり』(一九五人―五九)「『しのぶさん、ずるいわよ』『あら、どうしてよ』『だって、自分ばかり両手に花で、いい気になっているんですもの』」外国語 英語では be doubly blessed **累が及ぶ** 意味災難などが他に及んで巻き添えになる。また、悪影響を被る。用法文型「ダレナニに累が及ぶ」用例高杉良『人事権!』(一九九二)「それどころか相沢自身に累が及ぶ」 <525> **累を及ぼす** 意味災難などによって他のものを巻き添えにする。また、悪影響を与える。用法文型「ナニナニがダレナニに累を及ぼす」。用例③のように「累を」と「及ぼす」の間に語句を挿入することができる。用例④森鴎外『じいさんばあさん』(一九二五)「二人は富裕とは見えない。しかし不自由はせぬらしく、又久右衛門に累を及ぼすような事もないらしい」②宮本百合子『中国に於ける二人のアメリカ婦人』(一当七)「彼等は盲目的であったが、そのために善良かつ悪意のなかったことに累を及ぼす筈がない」③三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「一家を襲った不幸の根ざしがどれほど深いものであろうと、それは母子の間で解決すべき問題であって、累を康子に及ぼしてはならなかった」 **例によって例の如し** 意味いつもと同じで取り立てて変わった様子がない。用法文型「例によって例の如く~する」。副詞的に述語を修飾することが多い。用例④夢野久作『スランプ』(一九金)「午睡をしてから眼を醒ましますと、例によって例の如く、今までとは打って変った軽快さで、スラスラと原稿が書けるものと思い込んで」②ニコライ・ゴーゴリ作、平井肇訳『外套』(一九六)「また例によって例のごとく、ペテルブルグの家々の裏ばしごにはかならずつきものの、あの眼を刺すようなアルコール性の臭気のしみこんだ階段であったが」③「彼は例によって例の如く、7時に起き、8時に家を出て、近くの喫茶店で食事を済ませ、出勤する」 **烈火の如く** 意味激しく燃える火のようにひどく怒るさま。用法文型「ダレダレは烈火の如く怒る」用例㉡穂積陳重『法窓夜話』(一九六六)「親王はこれを聴いて烈火の如く怒り」②太宰治『人間失格』(一盗人)「もしもこれらの実体が、マルキシズムの真の信奉者に見破られたら、堀木も自分も、烈火の如く怒られ」③野坂昭如『てろてろ』(一九一)「俺は烈火の如く怒るやろか」類句「頭から湯気を立てる」「頭に来る」「怒り心頭に発する」「色をなす」「堪忍袋の緒が切れる」「怒髪天を衝く」「腹が立つ」「腹に据えかねる」「腹の虫が治まらない」「腸が煮えくり返る」外国語 英語では fly into a rage <526> **レッテルを貼る** 意味 「レッテル」はオランダ語でラベルのこと。人や物に対して、一方的にある特定の判断・評価を下す。多くの場合、マイナスの評価である。用法文型「ダレダレがダレナニにダレナニのレッテルを貼る」。用例②⑤のように受身形がある。後者のダレナニは判断・評価の言葉。用例 石坂洋次郎『暁の合唱』(一九三九―四一)「僕は人間に商標を張ることは不得手だし、興味もないよ」②獅子文六『てんやわんや』(一九四人―四九)「日陰者のレッテルを貼られ」③『朝日新聞』(一九西・二・六朝)「吉田さん個人としては、悪い政治家、とレッテルをはった鳩山さんにむざむざと政権を取られたくはなかったのだろうが、」④『朝日新聞』(一九七一・二・10朝)「互いに相手を異端視してレッテルを張りあうのは、日本の左翼にも共通する体質のひとつだ」⑤内田康夫『若狭殺人事件』(一九九二)「江梨香は『勉強のひと』というレッテルを貼られつづけてきた」類句「烙印を押す」外国語 中国語では慣用句「贴标签」(レッテルを貼る。「标签」はレッテル) **老骨に鞭打つ** 意味老人自らがへりくだって言う言葉で、自分の老いた身を励まして物事に当たる。用法文型「ダレダレは老骨にむち打って~する」用例「この度は老骨にむち打ってまとめ役を買って出た」 **路頭に迷う** 意味生計の手段を失ったり住むところを失ったりしてひどく困窮する。用法文型「ダレダレが路頭に迷う」。用例②のように使役形がある。〔江戸〕用例①野坂昭如『てろてろ』(一老一)「殺す前に、ふと男の家族を思いやり、年齢からみてさだめし一家の大黒柱であろう。遺族が路頭に迷うのではないかと、気がかりだったが」②高杉良『指名解雇』(一九九七)「俺は妻子を路頭に迷わせるようなことはしないつもりだが」外国語 英語では end up in the streets **呂律が回らない** 意味「呂律」とは言葉を発音する時の調子。酔ったり病気をしたりして舌が思うように動かず、言葉がはっきりしない。用法文型「ダレダレはろれつが回らない」〔江戸〕用例④里見弴『安城家の兄弟』(一些一)「そろそろ呂律 <527> のまわらなくなりだした巻舌で、頻と何か話しかけるのを」②尾崎一雄『美しい墓地からの眺め』(一盗人)「中風とみえて、ロレツが廻らぬから、何のことかさっぱり判らぬ」③獅子文六『自由学校』(一九〇)「ビールから日本酒と、何本、カラにしたか、覚えはなかった。高山は、とうに、ロレツが回らなくなり、自分の商売のブローカーの話やら、家庭のグチやら、しきりに並べ立てたが、半分は、意味が通じなかった」④藤原審爾『罪な女』(一九二)「とても気持よく酔えただの、呂律の廻らぬ声で言っていた」類句「舌がもつれる」外国語英語では slur one's words **論を俟たない** 意味論ずるまでもなく、当然のことである。用法文型「ナニナニは論をまたない」〔江戸〕用例④長谷川時雨『旧聞日本橋』(一九霊)「一体二弦琴の響は一間へだてた方が丸味をおびてよいものだが、しかし、それは弾手の耳と、趣味の深さ、浅さによるは論をまたない」②宮本百合子『しかし昔はかえらない』(10)「志賀直哉と吉川英治を国民大衆の討議にかけれは、後者が選ばれること論をまたない」③「税金を払う べきかどうかは論をまたない」類句「言をまたない」「自明の理」 <528> **我が意を得たり** 意味物事がまさに自分の思っ(考えた)た通りになった。用法文型「ダレダレが我が意を得たりと~」用例森村誠一『新幹線殺人事件』(10)「石原が我が意を得たりというようにうなずいた」②高杉良『会社蘇生』(一九七)「宮野が関本記者の夜討ちの話をすると、菊池はわが意を得たりという顔をした」③斎藤栄『日美子の公園探偵』(11001)「わが意をえたりとばかりに、桂香は、その長い睫の下からじっと日美子を見て」 **若気の至り** 意味若さにまかせて無分別な行動に及んでしまうことを後悔して言う言葉。用法文型「ナニナニは若気の至り」「ダレダレは若気の至りで~する」〔江戸〕用例④織田作之助『世相』(一盘六)「『風俗壊乱』の文士らしく若気の至りの放蕩無頼を気取って」②「若気の至りで、ついかっとなって人を殴り怪我をさせてしまった」 **脇目も振らず** 意味よそ見もせず。他のことに関心を向けず、一つのことに専念するさま。用法文型「ダレダレはわき目もふらず(に)~する」〔江戸〕用例①原民喜『夏の花』(一九)「夜業の机には大人たちがせっせと算盤を弾いたり、帳簿を繰って、一しきり傍目も振らない事務がつづいているが」②源氏鶏太『見事な娘』(一九西-歪)「美しい娘が、わき目もふらずに、人を、ぐんぐんと追い抜いて行く姿は」③『朝日新聞』(一九八一・五・四朝)「父は理容師を五十年間、脇目も振らずに働いていたが」類句「馬車馬のよう」「余念がない」外国語 韓国語では「한눈도(片目も) 팔지않다(よそみをしない)」 **訳はない** 意味簡単である。手間がかからない。訳ない。用法文型「ナニナニは訳はない」。「訳もない」とも言う。用例森村誠一『東京空港殺人事件』(一九七二)「一社がわ <529> かれば、もう一社から誘導して聞きだすのは、わけはなかった」類句「お茶の子さいさい」「お安い御用」「苦もなく」「事もなく」「手もなく」「屁の河童」 **渡りに船** 意味困っている時、何かをしようと思っていた時に、ちょうど良い具合に好都合な話が持ち上がったり、好都合なことが起こったりすること。用法文型「ナニナニは渡りに船」。ナニナニは相手からの話、申し出など。〔平安〕用例④三島由紀夫『禁色』(一九莹一-兰)「この男が、世田谷の稔の伯父の家を訪れて、稔を養子にもらいたいという申出をした。この申出は渡りに船であった」②高杉良『人事権!』(一九六)「母に話したら、子供たちの面倒をみるから大阪に行きなさいって言ってくれたの。母も兄のところが気づまりなんじゃないかしら。むしろ渡りに船っていう感じだったわ」③森村誠一『棟居刑事の「人間の海」』(11000)「弁慶の申し出は、松江とかおりにとって渡りに船であった」類句「願ったり叶ったり」 **渡りを付ける** 意味両者の間がうまくいくように、また交渉・話し合いができるように橋渡しをする。用法文型「ダレダレがダレドコに渡りをつける」。命令・意志表現は可能。〔江戸〕用例④坂口安吾『投手殺人事件』(10)「上野光子が、関西方面で、フリーの女スカウトの看板をあげてるんです。どこの球団にも所属せず、顔を利用して、ワタリをつけるというわけです」②三島由紀夫『禁色』(一九五一―五三)「長野管区防衛司令長官にわたりをつけ、月に一回、軍の豊富な食糧を運ばせた」類句「仲に立つ」「橋を渡す」 **罠に掛かる** 意味欺かれて相手の計略にひっかかる。用法文型「ダレダレがダレダレの罠にかかる」。用例②「何かの」のように「罠」を「ダレダレの」以外の語が修飾することも可能。「罠に」と「かかる」との間に語句を挿入できる。〔江戸〕用例㉡森本薫『華々しき一族』(一九金)「僕は、あなたの罠にかかるのは厭ですよ」②森茉莉『恋人たちの森』(一六二)「その時夫人はギドウと歩いてくるのが、フウド・センタアの青年だと瞬間悟り、何かの罠にかかった <530> のを、知った」③「敵の罠にまんまとかかった」 類句「術中に陥る」「手に乗る」「罠にはまる」 **罠に掛ける** 意味 欺いて、策略を用いて相手を陥れる。用法文型「ダレダレがダレダレを罠にかける」。命令・意志表現は可能。「罠に」と「かける」との間に語句を挿入できる。〔江戸〕 (用例)①松本清張『点と線』(一九五八)「利用する下心から目をかけてやるとしたら、罠にかけるようなものだ」②都筑道夫『脅迫者によろしく』(一九七九)「ほんと、罠にかけたつもりで、得意になって、ついて来たわね」 類句「一杯食わす」「ペテンにかける」「罠にはめる」「罠をかける」 **藁にもすがる** 意味 せっぱつまって、頼りになりそうにないものにまで頼り、助けを求めていくさま。用法文型「わらにもすがる思い(気持ち)」「わらにもすがりたい(思い・気持ち)」 (用例)①石坂洋次郎『光る海』(一九六一-六三)「姉が慣れない会社の仕事やなんかでノイローゼ気味で、わらでもすがりたい気持で、寝言で孝雄さんに呼びかけたのかも知れないわ」②『朝日新聞』(一九八六・二・二七朝)「ワラにもすがりたい時に助けてくれるのが税金、万一の時にはお返しがあるもの、と思っていたから」③高杉良『会社蘇生』(一九八七)「藁にもすがる思いで、上田を訪ねて来たのである」④森村誠一『人間の十字架』(一九九三)「捜査員はわらにもすがる気持で張込みをかけていた」 類句「わらをもつかむ」とも言う。 **藁をも掴む** 意味「わらにもすがる」に同じ。用法文型「わらをもつかむ思い(気持ち)」 (用例)①『朝日新聞』(一九九〇・三・二〇朝)「大学入試にあえぎ、わらをもつかむ思いの一部の受験生やその親」②木谷恭介『京都木津川殺人事件』(一九九六)「とにかく、被害者が誰なのか特定しないことには始まらないし、メノウのイヤリングとセラミックのブローチだけが頼りだから、藁をもつかむ思いで確認にはしったが」 **割りに合う** 意味 かかる労力や苦労と得るものとを比較して、利益の方が多く、苦労するだけの価値はある。用法文型「ナニナニは割りに合う」「ナニナニは割りに合わない」。否定形が多い。「割りが合う」「割りの合う」とも言う。〔江戸〕 <531> (用例)①伊藤左千夫『野菊の墓』(一九〇六)「世間体はよいけど、手間許り掛って割に合わないといつも母が言ってる畑だ」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三-六五)「助教授などというものは、……医局内の雑務を一手に引き受け、教授の縁の下の力持ちを努める割の合わないポストであった」③『朝日新聞』(二〇〇四・八・元朝)「実際、不法投棄は割の合う仕事ではありません。利益がなくなるまで価格は下がり続けます」 **割りを食う** 意味 損をする。不利益を被る。損な立場に置かれる。用法文型「ダレダレが割りを食う」〔江戸〕 (用例)①半村良『どぶどろ』(一九七七)「およしよ、あんないい男と一緒に遊んで歩くのは。割を食うよ」②内田康夫『博多殺人事件』(一九八二)「どちらかといえば被害者側だけが割りを食った恰好で、この処置については社員の評判がよくなかった」③高杉良『人事権!』(一九九二)「部長、副部長、課長の管理職が割りを食うのは仕方がない」 類句「割りに合わない」 **我関せず** 意味 周りの出来事にまったく関心を示さず、自分に関係がないという態度を取るさま。用法文型「ダレダレは我関せずで」 (用例)①中里介山『大菩薩峠』肝吹の巻(一九一三-四一)「覆面のお銀様は冷々として、人鳥いずれが勝とうとも、負けようとも、われ関せずといったよう」②「彼は近所の事件にも我関せずで、趣味に没頭していた」 (外国語)中国語では成句「事不关己」(自分に関係のないことだと無関心なさま) **我に返る** 意味 ぼんやりしていたり、何かに心を奪われていた状態から本心に返る、本来の自分に気がつく。用法文型「ダレダレが我に返る」〔江戸〕 (用例)①三島由紀夫『禁色』(一九五一-五三)「この新たな衝撃で、気も失わんばかりであった。やっと我に返って、こう訊いた」②新田次郎『八甲田山死の彷徨』(一九七一)「大原伍長は、その一言ではっとわれにかえった」③柳田邦男『空白の天気図』(一九七五)「放心状態から我にかえった人々のうちで」④東野圭吾『美しき凶器』(一九九二)「『おい、どうしたんだ』後ろから声をかけられて我に返った」 <532> われもわれ 類句「気がつく」 **我も我も** 意味 他人に後れをとらないように大勢の人が一斉に先を争って何かを求めるさま。我先に。 用法 文型「我も我もと~する」〔平安〕 用例 ①海野十三『宇宙の迷子』(一盗七)「世界中の人々がこの宇宙探検熱にとりつかれ、われもわれもと探検に出かけるようになった」②「女性ファンが我も我もとサインを求めてやってきた」 類句「先を争う」 外国語 中国語では成句「争先恐后」(遅れまいと先を争う。「恐后」は遅れるのを恐れる) **割れるよう** 意味 (1)頭痛の激しいさま。(2)音や声が非常に大きいさま。 用法 文型(1)「頭が割れるよう」(2)「割れるようなナニナニ」。ナニナニは「拍手」「歓声」など、大勢の出す音声。 用例 ①「頭が割れるように痛い」②安部公房『壁』(一盗一)「どっと割れるような笑いが場内をゆすりました」③「見事な演技に会場に割れるような拍手と歓声が起きた」 類句 (2)「割れんばかりの」とも言う。 **我を忘れる** 意味 物事に夢中になって自分を失う。正常な意識を失う。 用法 文型「ダレダレは我を忘れる」「ダレダレは我を忘れて~する」〔南北朝〕 用例 ①三島由紀夫『禁色』(一九盗一-≦)「苦痛のあまり我を忘れた妻の顔が」②瀬戸内晴美『女徳』(一九六三)「妖精に抱かれているような、甘い陶酔が亮子にふと、われを忘れさせていた」③丸谷才一『男のポケット』(一九七九)「その情景のきびしい感じは、われを忘れて専心する労働者の感じである」 **輪を掛ける** 意味 程度が更にはなはだしいさま。良いことにも悪いことにも使う。 用法 文型「ダレナニはダレナニに輪を掛けて~」「ダレナニに輪を掛けたダレナニ」〔江戸〕 用例 ①久保田万太郎『春泥』(一九六)「もっといまより以前のほうが輪をかけてよけい酔った」②山崎豊子『白い巨塔』(一九六三六五)「乾は蝶ネクタイをゆるめ、『そりゃあ、(略)僕は東教授に同情するよ』財前嫌いに輪をかけた云い方をすると」③『朝日新聞』(一九六〇・三・三朝)「それにしても、輪をかけて情けないのは、不正入学をした受験生」 <533> ④内田康夫『博多殺人事件』(一九一)「がぜん浅見は緊張した。その緊張に輪をかけたようなヒステリックな声で、聡子が言った」⑤高杉良『濁流』(一九六)「隣の席に主幹に輪をかけて凄い人が座ってますから」